{"text": "本稿の目的は、『慶應義塾家計パネル調査』を用い、非自発的理由による失職経験が所得に及ぼす影響を検証することである。我が国ではバブル崩壊以降、「失われた10年」と言われるほどの長期不況を経験し、多くの非自発的な理由による失職者を生み出した。この失職が所得をどの程度低下させるのか、そして、その低下がどの程度持続するのかといった点に関して海外では数多くの研究があるものの、国内ではあまり研究がない。他の先進国と比較して、転職市場の規模が小さく、長期雇用の傾向が強い我が国の場合、この失職による所得低下の影響が大きいと考えられるが、その実態は明らかになっていない。そこで、本稿ではPropensity Score Matching法を用い、男女別、年齢別に失職経験が所得に及ぼす影響を検証した。この分析の結果、次の3点が明らかになった。 1点目は、男女別に失職が所得に及ぼす影響の違いを検証した結果、いずれの年齢層でも男性の所得低下額の方が女性よりも大きい傾向にあった。しかし、所得低下率(%)はほとんどの場合、女性の方が男性よりも若干大きかった。2点目は、男性について分析した結果、全年齢層では失職時から失職3年後まで持続的に継続就業者よりも所得が低く、失職3年後時点でも60万円以上所得が低かった。年齢別にみると、所得低下幅が最も大きいのは41歳以上の中高齢層であり、この背景には失職による就業率の低下とそれまで蓄積した人的資本の喪失が大きな影響を及ぼすと考えられる。3点目は、女性について分析した結果、全年齢層では男性と同様に失職時から失職3年後まで持続的に継続就業者よりも所得が低く、失職3年後時点でも30万円以上所得が低かった。年齢別にみると、40歳以下の場合、少なくとも失職1年後までは所得低下が確認されるが、41歳以降の中高齢層になると失職3年目まで持続的に所得が低下する傾向にあった。 JEL Classification Number:J31,J63,J64Key Word:失職、所得低下、Propensity Score Matching法", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun189/bun189.html"} {"text": "本稿は、混合寡占市場の一例として考えられる日本のガス市場を対象として、供給区域規制による消費者余剰への効果を定量的に分析した。日本の家庭用ガス供給は主に都市ガスとLPガスの2種類に分類されるが、都市ガスに対してのみ価格と供給区域が規制されておりLPガスに対しては価格と供給区域の規制がない。そのため消費者の都市ガス需要変化に応じて政府は都市ガス供給区域を調整する必要がある。しかし、都市化により都市ガス供給が比較的容易となった大都市近郊に対して都市ガス供給区域は見直されておらず依然としてLPガスを使用せざるを得ない状況が続いている。都市ガス供給が比較的容易な地域において都市ガス需要を満たさないことは消費者余剰を損ねることになりうる。 そこで、1998年から2005年までのガス市場に関するデータを用いて、以下の2段階の分析を行った。まず、LPガスと都市ガスとの代替性を考慮したガス需要関数を推定した。その結果、都市ガスとLPガスとの間の需要の代替性が存在しガスのサービス特性がガス需要に対して重要なことがわかった。また、需要の弾力性を計算すると都市ガス供給区域内外でLPガスの自己価格弾力性に大きな違いが生じていた。次に、推定されたガス需要関数のパラメータを用いて、都市ガス供給区域外地域へ都市ガスを供給させるシミュレーションを行った。仮想的な都市ガス供給によって、都市ガス供給区域外地域世帯の38.9%はLPガスから都市ガスへ移行した。さらに、LPガス事業者間でクールノー競争を仮定すると、LPガス価格は5.8%減少し、消費者余剰は13.8%改善した。この結果は,都市ガス未供給地域に対する都市ガス供給を容易にすべきであることを示唆している。 JEL Classification: L43, L95キーワード:供給区域規制,シミュレーション分析,消費者余剰", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun189/bun189.html"} {"text": "本稿では、日本の製造企業の海外直接投資が深化するなか、海外現地の事業活動と国内の自社雇用の長期的な関係について実証分析を行う。データは、大阪府本社の中堅・中小製造企業を対象にしたアンケート調査(平成24年10月実施)の結果である。分析手法は、被説明変数になる国内雇用の状況を順序のある選択方式で企業に尋ねているため、順序プロビットモデルおよび順序ロジットモデルを採用する。 分析結果として、まず、海外拠点の雇用の拡大が自社の国内雇用の増加につながる傾向がみられたが、この傾向は、初の海外直接投資後からの年数が経過するにつれて弱まることも確認された。そして、このような経年変化は、企業の創業からの経過年数(企業年齢)を説明変数に加えても存在しつづけることが確認された。この結果より、中堅・中小製造企業において、海外拠点を初めて設置してから海外展開の経験年数を重ねるにつれて、海外と国内の雇用の補完的関係は弱まっていくことが推測される。 次に、この経年的変化がどの程度であるかを定量的に確かめるため、平均的な企業を想定した限界効果のシミュレーション分析を行った。結果として、海外雇用が増加したことによる「国内雇用の増加」を選択する確率の上昇幅は、初の海外直接投資後から10年が経った場合は25%ポイントほどになるのに対し、20年が経った場合は4~5%ポイントほどに縮小することが確認され、さらに20年を超えるとその上昇がみられなくなることが推測された。 JEL Classification Number: F14 F16 F21Key Words: 海外直接投資 国内雇用 中堅・中小製造企業", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun189/bun189.html"} {"text": "人口・世帯構造が急変し、経済社会の高齢化が進展する下で、世帯間のバラつき、またそれが世帯の経済行動に与える影響を検討することの重要性が高まっている。本稿では、そうした検討作業の基礎とすべく、我々「個票データ分析による家計行動の研究」ユニットが整備(推計)を進めてきた我が国世帯の資産保有状況に関するデータ・セットについて、その推計の概略を示すとともに、推計データが描き出した世帯資産保有の姿の一端を紹介している。 高山他(1989)が『全国消費実態調査』に用いた推計手法を『家計調査』個票に適用することで構築した世帯資産データからは、①我が国家計の保有資産価値の大きな部分を住宅・宅地資産が占めており、過去四半世紀における世帯保有資産価値の変動の大半は住宅・宅地資産価値(地価)の変動に由来していたこと、②こうした変動は特にバブル期前後の首都圏世帯において顕著(バブル期の首都圏持ち家世帯のキャピタル・ゲインは千万単位)で、バブル期には資産保有の世帯間のバラつきも最大化していたこと、③土地バブルの影響は世帯(主)の生涯を通じた資産蓄積パターンにも及んでおり、多くのコホートでバブル崩壊期に保有正味資産の目減りが見られたこと、等が読み取れた。 JEL Classification Number: D31、E21Key Words: 家計調査、個票、住宅・宅地資産、資産分布、バブル、日本", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun189/bun189.html"} {"text": "本稿は、大学4年生の正社員内定者の特徴を明らかにし、効果的な就職支援策の在り方について考察する。分析の主たる仮説として、正社員内定を決定づける要因が、学生のジョブ・サーチ活動そのもの(活動開始時期や応募先の選定基準)にあるのか、あるいは学力や人的資本等個人の特性にあるのかをミクロデータを用いて検証を行った。推計に際しては、大学の属性(文系理系、偏差値レベル、国公私立)等によって内定未獲得者の特性が異なる可能性に配慮し、サンプルを文系・理系学部別、大学区分、男女別に分け、グループごとの内定獲得要因を検証した。 分析の結果、正社員内定獲得要因は文系理系、大学区分によって大きく異なることが確認された。文系学部においては就職活動の開始時期の適切な誘導や、文系私立中高位及び国公立大学、理系私立高位校においては就職応募先の選定についてのアドバイス、さらに、文系私立低位校、公立大学においては学力促進など、大学による直接支援策に一定の効果が期待できる可能性が示唆された。一方で、理系学生については、文系に比べ、大学による支援の期待できる要素が正社員内定に及ぼす影響は総じて限定的であった。さらに、理系学生については、アルバイトなどの課外活動への熱心な取り組みが正社員内定に悪影響を及ぼす傾向も見出された。 分析を通し、大学生の就業支援策を講じる際には、それぞれの特性に適した政策立案が重要であるとの考察を得た。 JEL Classification Number: J24、I21、J20Key Words: 内定要因、ジョブ・サーチ活動、文系理系比較", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun190/bun190.html"} {"text": "本稿の目的は、『慶應義塾家計パネル調査』を用い、危険回避度が結婚のタイミングに及ぼす影響を検証することである。危険回避度が喫煙、飲酒等の行動に及ぼす影響については国内、海外で実証分析の蓄積が進んでいるが、結婚の意思決定に及ぼす影響については国内ではまだ研究例が少ない。結婚相手を探すメイトサーチモデルを理論的背景としたSchmidt(2008)とSpivey(2010)の海外の分析の結果、危険回避的であるほど結婚のタイミングが早くなることが明らかになっているが、我が国ではどのような結果になるのだろうか。この点を明らかにするために、本稿では危険回避度が結婚のタイミングに及ぼす影響を分析した。分析の結果、次の2点が明らかになった。 1点目は、観察できない個人間の異質性を考慮しても、男女とも危険回避的であるほど結婚のタイミングが早くなることがわかった。2点目は、Cox’s Proportional Hazardモデルを用いたシミュレーションや40歳、50歳時点での婚姻状態に関する分析の結果、男女とも危険回避度が結婚のタイミングだけでなく、最終的な有配偶割合にも影響を及ぼしていることがわかった。 JEL Classification Number: J11,J12,J13Key Words: 危険回避度、結婚、Cox’s Proportional Hazardモデル", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun190/bun190.html"} {"text": "これまでの外国籍児童の教育に関する分析は、いずれも一部外国人集住地域の調査客体を対象とした定性的な調査に基づいているうえ、こうした分析は、比較的滞日年数が少ない子どもらを対象にしていることが多かった。一方、近年、定住外国人が増加する中で、定住志向の強い外国人の子らが教育面でどのような問題を抱えているかを把握することは重要である。本研究では、親の国籍以外にも、親の社会階層や社会ネットワークなどが、日本で生まれ育った定住外国人の子どもらの小学校時点における学習資本形成に与える影響を明らかにするため、21世紀出生児縦断調査の個票データを用いた実証分析を行った。その結果、最小二乗法推定では、親の国籍をコントロールしてもなお、親のかかわりかたや社会ネットワークが子どもの学習資本形成に影響していることが明らかになったが、時間を通じて一定の観察不可能な要因をコントロールするため、固定効果推定を行うと、親のかかわりかたや社会ネットワークは統計的には有意でなくなることが示された。しかしこうした学習資本形成のメカニズムは、必ずしも外国人に特有なものではなく、日本人のそれとは変わらないことも示された。 JEL Classification Number: I24, J15Key Words: 定住外国人の子ども、学習時間、固定効果モデル", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun190/bun190.html"} {"text": "「短期日本経済マクロ計量モデル」は、伝統的なIS-LM-BP型の枠組みを基本としつつ、モデルの長期的な動学特性を保証する共和分関係や誤差修正メカニズム等、近年の計量経済学の発展をも取り入れた、推定パラメータ型の中規模計量モデルである。内閣府経済社会総合研究所では、1998年の第一次版公表以来、その改訂・公表を継続しており、今回の2015年版(パラメータ推計には2012年迄の四半期マクロ時系列データを活用)はその第9次モデルに相当する。 主な分析結果を幾つか紹介すると、公共投資(実質公的固定資本形成)が実質GDPに与える影響(いわゆる乗数)は、一年目で1.14程度となった。一方、減税は、その一部が貯蓄に回ってしまうことから、同じGDP1%相当の施策でも、その影響は公共投資の場合に比べて小さくなる。短期金利の1%の引き上げは、実質GDPを0.32%程押し下げる。 なお、本モデルは「価格調整を伴うケインジアン型」の短期モデルとして構築されており、そのモデル体系では表現しきれていない中長期の生産性の変化などから生じる効果はシミュレーション結果には含まれていない点に留意する必要がある。 JEL Classification Number: C5, E17Key Words: マクロ計量モデル、乗数シミュレーション", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun190/bun190.html"} {"text": "Lucas(1976)やSims(1980)に代表されるマクロ計量モデル「批判」以降、DSGEモデルやVARモデル等が伝統的なマクロ計量モデルの代替手段として開発され、広く活用されるようになっている。しかし、これらの代替モデルを政策業務で活用する場合、解決を要する課題が未だ多く残されていることも事実だろう。内閣府経済社会総合研究所では、こうした現状、及び近年各国の政府機関や中央銀行等に広まっている”Suite of Models”という概念を踏まえ、DSGE型、VAR型及び伝統的マクロ計量モデルを並行して開発・活用している。本稿では、マクロ計量モデル「批判」を概観した上で、DSGEモデル、VARモデルの特徴と実務上の限界を整理し、伝統的マクロ計量モデルの一つである「短期日本経済マクロ計量モデル」の位置づけと役割を論じた。 JEL Classification Number: C5, E17Key Words: マクロ計量モデル、DSGE(動学的確率的一般均衡) モデル、VAR(ベクトル自己回帰) モデル、Suite of Models", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun190/bun190.html"} {"text": "経済の自由化・グローバル化は経済・社会構造の急激な変化を引き起こしており、停滞の長期化の下で「格差」が日本の現状を理解する際の焦点の一つとして注目されている。本稿では、そうした議論に基礎資料を提供すべく、我々が整備(推計)を進めてきた我が国世帯の世帯年間消費支出額に関するデータセットについて、その推計の概略を示すとともに、推計データが描き出した我が国世帯の消費行動の姿の一端を紹介する。 『家計調査』個票をパネル化し、帰属家賃調整、季節性調整、調査疲れ調整、抽出率調整を加えて推計した我が国世帯の年間消費支出額データからは、世帯当たり消費は90年代前半から緩やかに減少して見えるが、これには世帯内人員数の減少が影響しており、等価消費は2000年代に入りほぼ横ばい状態にあること、世帯消費のバラつきについては、総消費ベースだと概ね横ばい状況だが、非耐久財に関する等価消費について、2000年代初頭まで拡大傾向が見られたこと、ライフステージを通じた平均消費経路はコホートによらず安定的な(50歳台ピークの)こぶ型であること、世帯間のバラつきは世帯主年齢が高まる程大きくなる傾向が存在すること、年齢別の貯蓄率パターンはコホート毎に変化していること等が読み取れた。 JEL Classification Number: D12, D30, E21Key Words: 家計調査、個票、世帯消費支出、所得・支出分布、日本", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun190/bun190.html"} {"text": "春闘で決定される定期賃金とボーナスを分割して、日本の低賃金上昇率の要因を考察した。労使交渉で重視される賃金設定の三要因(失業率など労働市場要因・インフレ率・企業収益など支払い要因)を説明変数として、98年以前とその後にデータを分割して推定した。98年以前の定期賃金は労働市場指標に敏感だが、98年以降は企業内部の労働保蔵の状況に影響されるようになった。さらにボーナスは利潤要因が重要だったが、98年以降は悪化した外部労働市場指標にも敏感となり、家計に移転されてきたレントシェアリングの分が消えた。これが賃金停滞の最大要因である。労働市場指標を重視するより、時間あたりの生産性を重視した推定式が有効となってきており、賃上げのマクロの指標として人員ベースでなく時間あたりの指標の重視が望まれる。 JEL Classification Number:E24, J52Key Words:春闘 ボーナス、賃上げ", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun191/bun191.html"} {"text": "本研究の目的は、日本の労働市場における景気変動と賃金格差の関係を検証することである。まずは、日本の労働市場の動向をとらえている集計データ(賃金構造基本統計調査と毎月勤労統計調査)から景気変動と就業形態間(一般労働者とパートタイム労働者)の賃金格差の関係を時系列に確認する。そして、データで確認できた循環的な特性を描写するモデルを構築し、日本の労働市場のファクトと整合的になるようにカリブレートする。2セクターからなる労働市場を前提とした確率的サーチ・マッチングモデルにオン・ザ・ジョブ・サーチ(On-the-job-search)を導入することでパートタイム労働者から一般労働者への転職を可能にしたモデルを採用した。シミュレーションの結果、一般労働者とパートタイム労働者間の賃金格差は「循環的」な動きをし、景気回復時には賃金格差が拡大し、景気後退期には賃金格差は縮小することがわかった。 JEL Classification Number:E24, E32, J31, J64Key Words:景気変動、賃金格差、サーチ・マッチングモデル", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun191/bun191.html"} {"text": "本研究は日本における部門間労働再配分がどの程度スムーズに行われてきたかを検証するものである。現代日本において雇用を拡大している高成長部門は、社会福祉分野に見られるようにその多くが政府の強い規制下にある。このため、伸縮的な賃金調整を通じてこれら部門へ効率的で充分な労働再配分が行われてこなかった可能性がある。本研究ではこの問題を都道府県別・職業別の有効求人倍率のダイナミクスを手掛かりに検証する。 本稿の前半では、同問題を理論的に考察するため、部門外との労働移動を考慮したサーチモデルが展開される。その結果、賃金が伸縮的に決定される場合には、部門外の労働需給のタイト化が当該部門の労働需給ひっ迫度の上昇へと長期的に波及することが示される。一方、部門内の賃金が硬直的な場合には、長期的にもそのような波及経路は遮断されてしまう。よってデータからそのような波及効果の強さを推定できれば、労働市場の統合と労働再配分の効率性の程度について類推できることになる。 以上のような考えに基づき、本稿の後半では都道府県別・職業別有効求人倍率の月次データを活用した実証分析が展開される。具体的には長期制約・短期制約を組み合わせたベクトル自己回帰(VAR)モデルの推定を通じ、部門内外の労働需給の変動に対しそれぞれの都道府県別・職業別労働需給ひっ迫度がどのように反応しているかを求める。その結果、販売や事務といった伝統型職業では全国的労働市場から個別市場への波及が起きていること、つまり理論モデルにおける伸縮賃金ケースに近いことが示される。それに対し社会福祉、看護、家庭生活支援といった成長型職業ではそうした波及からの隔離が発生していること、つまりモデルでいう硬直賃金ケースに近いことが示される。以上の結果は、現代日本で今後の成長が期待される分野で、労働再配分機能に阻害要因が存在する可能性を示唆している。 JEL Classification Number:J62、J21、E24Key Words:長期・短期制約VAR、都道府県別・職業別有効求人倍率、部門間労働再配分、サーチモデル", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun191/bun191.html"} {"text": "少子高齢化が進む中でも持続的成長を維持する手段として、一人一人の生産性を高める人的資本政策の役割に注目が集まっている。人的資本の蓄積は人生を通じて行われるもので、ライフサイクル初期の人的資本蓄積がのちの人的資本蓄積にも影響を与えることを近年の研究は強調している。これらの問題意識を背景として、本論文は主として日本における人的資本の蓄積と利用に関連する実証研究を概観する。概観の結果、ライフサイクルの様々な段階において人的資本蓄積機会の不平等が存在し、その不平等の大きさは主として家庭環境の違いに起因するが、教育政策も無視できない影響を与えることが明らかになった。また人的資本蓄積機会の不平等が所得の不平等に大きな影響を与えることも明らかになった。 JEL Classification Number:I24, I28, J24Key Words:人的資本、所得、不平等", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun191/bun191.html"} {"text": "労働市場政策としての保育所の整備は、母親の就業率を増加させる有力な手段とされてきた。たとえば、福井県では保育所の整備が特に進んでおり母親の就業率が高いことから、他県においても、保育所の整備を進めれば母親の就業率が上昇するといった議論がなされてきた。しかし、女性の就業に対する価値観や、女性の就業意欲自体も地域差が大きく、こうしたデータに現れにくい要因が保育所の整備と母親の就業率の双方に影響を与えている可能性がある。従って、保育所の整備が母親の就業率を押し上げるといった因果関係の存在は必ずしも明らかではない。本稿では、価値観や就業意欲といった観測されない要因の影響を避けるため、都道府県間の比較ではなく、都道府県内の変化に着目した。1990年から2010年までの国勢調査の公表数表を用いて、都道府県内の保育所定員率の変化が母親の就業率の変化に与える影響を考察した結果、平均的には、保育所定員率の上昇は母親の就業率に影響を与えていないことがわかった。これは、保育所の整備が進むことにより、三世代同居で見られる祖父母による保育が、保育所による保育に置き換わったためと考えられる。三世代同居比率が13.5%にまで低下した現在、保育所の整備が祖父母による保育を代替し続けるとは考えにくく、母親の就業率を上昇させる有力な手段である可能性は高いが、その効果を考察するうえでは私的保育手段との代替関係があることを明確に意識するべきだろう。 JEL Classification Number:J13, J21, J22Key Words:保育所整備、女性就業率、核家族、三世代同居", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun191/bun191.html"} {"text": "本稿では、1995年と2001年の育児休業制度の改正が女性の就業継続に及ぼした効果について、Asai(2015)を取り上げて議論する。雇用保険から給付される育休給付金の支給は1995年から開始され、基本給付金と職場復帰給付金をあわせて、出産前平均賃金の25%が支給された。この給付金は2001年に引き上げられ、出産前賃金の40%が支払われた。育休給付金引き上げの恩恵をうけるために、もともと予定していた妊娠・出産の時期を遅らせることが困難であったため、これらの制度変更は母親の就業に対して外生であるとみなせるので、その政策効果を推定することが出来る。制度改正前に出産した女性を対照群、改正後に出産した女性を処置群とし、就業構造基本調査を用いて両者を比較した結果、育休給付金が母親の就業継続を上げたという証拠は得られなかった。育休給付金の引き上げが母親の就業継続を促進しなかった要因の一つには、育児休業後の子育てと就労の両立が難しいことが挙げられる。 JEL Classification Number:J13, J21, J22Key Words:育児休業制度、育児休業給付金、女性就業率", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun191/bun191.html"} {"text": "本研究では、何歳まで働きたいかといった就業意欲について注目し、就業意欲がその後の就業継続につながっているかを厚生労働省「中高年者縦断調査」を用いて検証した。その結果以下の点がわかった。就業意欲については、専門的な職業についているほど意欲が高まる(長く働こうとする)一方で、同じ企業で20年以上勤めている人や大企業で勤めている人ほど就業意欲は低くなることが分かった。持家、住宅ローン、預貯金の効果も合わせて考えると、年金を含めた老後の生活費確保の容易さが就業意欲に影響をしている。就業意欲は実際の就業継続にも影響を与え、その効果は「仕事をしたくない」と「可能な限り仕事をしたい」の間で就業継続率に2倍くらいの大きい効果があるといえる。またこの効果は、過去の就業状況や持家、住宅ローン、預貯金などをコントロールしてもみられる。就業意欲を持っているにもかかわらず離職してしまう要因として健康の悪化が大きいことがわかった。 高齢者の労働供給を増やす施策として、年金など所得に影響を与える制度を見直すことも考えられるが、本研究からはそれだけでなく現役世代における専門性を意識するような施策が有効であると考えられる。 JEL Classification Number:J26, I10Key Words:就業意欲、高齢者の労働供給、ハザードモデル", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun191/bun191.html"} {"text": "本研究では、中高齢者を分析対象とし、家族介護による就業抑制、労働時間や本人収入の減少について、厚生労働省「中高年者縦断調査」の個票データを用い、定量的に把握した。推計では、家族介護の就業抑制効果を正確に捉えるため、2つの内生性を考慮した。2つの内生性とは、家族介護の提供と就業の同時決定および家族介護の提供と家族介護を受ける要介護者との同居の同時決定である。 分析の結果、若い出生コーホートほど家族介護を提供する割合は高くなっており、たとえば1946年度生まれと比較し、1954年度生まれでは男性で6%、女性で8%家族介護を担う確率が有意に高くなっていること、2つの内生性を考慮してもなお、親の要介護期間が1年長くなると、男女とも有意に就業確率を1%低下させること、一方就業時間・日数に関しては、親の要介護発生と親に対する実際の家族介護提供のいずれも統計的・定量的に有意な影響を確認できず、仕事を続けるか家族介護を担うかは二者択一となっており、就業時間・日数では調整できていない可能性があること、親の家族介護を担っている本人の収入は、男女とも6~8%低いこと、親が要介護になることは、親との同居開始の契機であり同時決定となっていること、などが明らかになった。 長期的な労働供給制約を勘案すると、介護休業制度の拡充以上に、長時間労働是正や介護サービス拡充など、家族介護と仕事の両立を可能とする社会政策が重要であり、それは家族介護を担っている人々の高齢期の貧困リスク低減にもつながる。 JEL Classification Number:J26Key Words:家族介護、内生性、労働供給", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun191/bun191.html"} {"text": "所得分配と経済成長に関する理論研究や実証研究は数多く存在する。理論的には、所得分配が経済成長に与える影響は正負両方の効果があり、どちらが大きいかは実証的な問題となる。既存の実証研究によると、所得分配が経済成長に与える影響の推定結果は、データや推定方法によって異なっている。そのため、本稿では、日本の1979年から2010年の都道府県別パネルデータを用い、所得分配がどのように経済成長に影響を与えたかに関する実証分析を行った。 ジニ係数等の所得分配の指標を用い、システムGMM推定及びArellano-Bond GMM推定等を行った結果、ジニ係数、第3五分位の所得シェア、所得が最も多い十分位の所得シェアと第5十分位の所得シェアの比率を用いると、所得分配が平等なことは経済成長率を高めていたことがわかった。一方、所得が最も少ない十分位の所得シェアと第5分位の所得シェアの比率は、成長率に有意な影響を与えていなかった。このように、異なる所得水準において、所得分配の平等度が経済成長に与える影響が異なるという結果は、既存研究の推定結果と整合的であり、頑健であると考えられる。 今後の研究においては、分配の平等さはどのように経済成長に影響を与えるのか、その経路について分析する必要があると考えられる。次のステップとして、例えば、教育に対する公的な支出や大学進学率、資本蓄積等を通じた経路について、推定していきたいと考えている。 JEL Classification Number: D31, O47, C23Key Words:所得分配、経済成長、パネルデータ", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun192/bun192.html"} {"text": "本稿の目的は、『慶應義塾家計パネル調査』を用い、失業が健康に及ぼす影響を検証することである。バブル崩壊以降、我が国の労働市場の需給状況は急速に悪化し、失業者が増加した。失業は、さまざまな影響を及ぼすと考えられるが、所得の大幅な低下や社会的地位の喪失によるストレスの発生によって、健康状態の悪化も引き起こした可能性がある。海外では多くの研究の蓄積があるものの、国内ではまだ研究例が少なく、明らかになっていない点も多い。そこで、本稿では失業経験が健康に及ぼす影響を分析した。先行研究と比較した際の本稿の特徴は、(1)失業と健康の逆の因果関係による影響を考慮するために、事業所閉鎖・会社倒産・その他勤め先や事業の都合による失職のみを分析に使用した、(2)健康指標として主観的健康度、主観的身体指標、主観的精神指標を使用し、さまざまな健康面に失職が及ぼす影響を検証した、(3)男女別に推計を行い、性別によって失業が健康に及ぼす影響に違いが見られるのかといった点も検証した、という3点である。分析の結果、次の2点が明らかになった。1点目は、男性では主観的健康度、主観的身体指標、主観的精神指標のほとんどの場合において、失職によって健康状態が悪化する傾向を確認できなかった。男性の場合、失職によって所得が持続的に低下し、大きな影響を受けるものの、各健康指標が悪化するまでではないと言える。2点目は、女性では主観的健康度と主観的精神指標のすべての場合において、失職によって健康状態が悪化する傾向を確認できなかった。しかし、失職2年後、失職3年後の主観的身体指標が改善する傾向があった。おそらく、この背景には失職後に運動実施割合が増加することが影響を及ぼしていると考えられる。 JEL Classification Number:J32, J63, J64Key Words:失職、健康悪化、Propensity Score Matching法", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun192/bun192.html"} {"text": "本稿の目的は、我が国のPFI事業における事業分野や事業方式の違いがVFM (Value For Money) に与える影響を、不完備契約に基づいた研究成果を踏まえて検証することにある。近年の不完備契約理論では、事業分野や事業方式の違いが民間事業者のインセンティブに異なる働きかけを行い、結果、PFIの効率性には事業分野ごとに適切な所有権の配分が必要であると指摘されている。本稿では、このような仮説を現実のデータをもとに検証し、最適な事業分野と事業方式の組み合わせについて定量的分析を行うことを目的としている。 具体的には、2014年3月までに実施方針が公表されたPFI事業のうち、VFM等のデータが入手可能な312事業を対象に分析を行った。結果、浄水場や下水道などのサービス系事業においては、施設の運営権者が施設を保有するBOT方式を採用した方が建設後に所有権を公共側に移転するBTO方式に比べてVFMが大きくなることが明らかとなった。逆に、庁舎等の箱物系事業においては、BTO方式を採用した場合の方がVFMは大きくなる。また、推定結果を用いて望ましい事業方式を選択していた場合のVFMの変化を試算したところ、適切な事業方式を選択することで400億円以上ものVFMの増加が期待できるという結果が得られた。このことは、今後PFI事業を実施するにあたって事業分野に応じて適切な事業方式を選択しなければならないことを示唆している。 JEL Classification Number: D86, H54, H57Key Words: PFI、VFM、不完備契約、BTO方式、BOT方式", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun192/bun192.html"} {"text": "近年、時として過去との断絶をもたらすような新たな情報通信技術(ICT)の台頭が目覚ましい。この種の技術にはデジタル経済(OECD 2015a)と特徴付けられる新しい形の仲介、サービス提供、消費が伴っており、私たちの働き方や生き方そのものが日々新たな意味を与えられ、変革されている。しかし、デジタル経済がこれほど広く浸透しているにもかかわらず、その効果がOECDの各種統計にほとんど表れないことを懸念する声も強まっている。ビッグデータを始めとする新たなデジタルイノベーションによって、例えばかつての電力化や1990年代のICTの波と同じように、生産性が飛躍的に向上する時代が再び来ると考えられてきた。しかし少なくとも現時点では、そのような状況は実現しておらず、多くの疑問が湧き上がっている。そうした疑問のあるものは、これらの新技術が生産性向上や経済成長を促進するに当たって果たす役割、例えば、潜在的な便益が顕在化するのにタイム・ラグがあるのかどうかや、便益を最大限引き出すための仕組みや政策手段のあり方を良く理解する必要があることに起因する疑問である。しかし、多くのものは、そしてますますそうなっているが、計測に関係する問題である。 (中略) 本論文では、デジタル経済を特徴付ける各種取引に注目して、どの程度、計測が不正確であるのかについて考察する。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun192/bun192.html"} {"text": "急速な高齢化の進展、中でも団塊世代の引退は経済社会に大きな影響を及ぼすものであり、重要な政策課題となっている。当研究所では、団塊世代の引退をはじめとした日本の高齢化に関する課題への対応策について論じるため、国内外の著名なエコノミストを招聘し、国際コンファレンスを開催した。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun192/bun192.html"} {"text": "本資料では、経済社会総合研究所の生産性ユニットが一橋大学と共同で取り組んでいるマネジメントに関する調査について紹介する。まず、第1章で生産性を分析する上でのマネジメントの重要性と本調査の基本的考え方を示す。ついで、第2章で先行研究を紹介した後、先行するアメリカでのマネジメント調査とそれを受けた日本における調査の概要を第3章で提示する。さらに、第4章で内外の研究者・実務者を集めて開催した本調査のキック=オフ・ミーティングの様子を紹介し、最後に第5章で、経済の大きな流れの中でのマネジメントのあり方についての若干の所感を述べる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun192/bun192.html"} {"text": "本稿はR&D活動と家計の出生選択を考慮した世代重複モデルを構築し、R&Dによる技術進歩と出生率の関係について分析を行った。主要な結果は以下の通りである。持続的な経済成長が不可能な領域が存在する。平均余命の上昇はR&Dの行われる領域を上昇させる一方で、人口が増加する領域を縮小させる。人口が増加する領域を上昇させるために、本稿では育児支援策を拡充させたときの効果を分析し、以下の結果を得た。家計への税負担が小さいときは平均余命が上昇したときと異なり、R&Dの行われる領域を縮小させて、人口が増加する領域を拡大させる。しかしながら、税負担が大きいときはR&Dの行われる領域と人口が増加する領域がともに縮小してしまう。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun193/bun193.html"} {"text": "日本の「失われた10年」においては、いわゆる「ゾンビ企業」の存在が産業の新陳代謝を妨げ、日本の長期停滞の原因であるとされた。しかし、「ゾンビ企業」の大半がリストラによって「復活」した2000年代半ば以降も、低金利、低成長、低インフレの状況は持続し、イノベーションの牽引役として期待された「優良企業」の設備投資も、全体としては低迷したままであった。 本稿では、2000年代半ば以降最近に至るまで、豊富な現預金もしくは借入余力を持つ日本の優良企業において、なぜ設備投資が低迷したままなのかを、そのような「保守的投資・財務行動」を喚起する3つの動機、すなわち経営者の保身(エントレンチメント)、将来の投資機会に備えた予備的貯蓄、および内部資金市場の歪みに焦点を当てつつ、世界金融危機の前後における投資行動の構造変化の可能性を念頭に置いて分析した。トービンのq型の投資関数に、3つの動機の影響を検証する諸変数を追加した投資関数の推計の結果、世界金融危機以前(2004〜08年度)には、無借金状態を維持するために投資を抑制する「疑似資金制約」の行動が確認され、その動機として経営者の保身と予備的貯蓄の両者の可能性が示唆された。世界金融危機後(2009〜13年度)には、疑似資金制約の行動は弱まったものの、輸出産業を中心とする製造業では、過去の経営危機の経験が予備的貯蓄の動機を高め投資の抑制につながる経路が残存していた。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun193/bun193.html"} {"text": "1990年代以降、20年以上にわたって、日本経済は停滞を続ける一方で、所得格差の拡大を経験してきた。安定した職は減少し、終身雇用制が消失しつつある一方で、高度な知識やスキルを必要とする職の賃金は上昇してきた。そのような所得の2極化は富の格差の増大にもつながってきた。本論文ではこれらの現象と整合的な理論モデルの構築を行った。我々のモデルでは、所得リスクの増大がGDPの減少と富の格差の増大をもたらす。そのモデルを用いて、様々な財政政策の効果を比較検討した。主要な発見は、資本に対する税率を減らすことで、GDPの上昇、富の格差の減少、そして、経済厚生の改善をもたらしうるということである。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun193/bun193.html"} {"text": "政府債務残高の水準が極めて高いにもかかわらず、なぜ国債利回りが低いままなのかは、現在の日本経済における主要なパズルの一つである。本稿は、このパズルを明らかにする理論メカニズムを示し、そのマクロ経済へのインプリケーションを考察する。 分析のカギとなるのは、ホームバイアスが強く、投資家が資産ポートフォリオの国際的なリスク分散を達成できない場合、財政リスクをヘッジする代替的な資産を保有できないという視点である。なぜなら、財政破たんが起きると、国内のいかなる資産もその収益の減少を免れないからである。 この結果、国債の利回りは財政のデフォルトリスクに対して非感応的になり、政府は多額な債務発行が可能になる。しかしながら、こうした持続可能性は、実質金利の下落という犠牲によってのみ実現する。このことは日本経済を回復させようとする政策効果を弱めてしまい、結局のところ長期停滞をもたらすことになる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun193/bun193.html"} {"text": "本稿は目下世界経済において懸念されている長期停滞の可能性を、グローバルなパースペクティブにおいて定量的に検証していくことにする。世界各国の低迷する経済成長は、その帰結として世界実質金利を低下させ、世界的な対外不均衡を持続させている可能性が高い。世界実質金利とはグローバルな自然利子率とも解釈でき、この利子率の低下は世界的な不況の長期化と物価の下落をもたらすことになる。本分析ではいくつかの手法を用いて世界実質金利を計測し、貯蓄・投資バランスの枠組みに基づいて同変数の下落要因を実証的に明らかにする。検証結果より、世界実質金利の低下傾向は、主に各国の投資低迷に起因していることが明らかにされる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun193/bun193.html"} {"text": "本稿の目的は、日本で実施された量的緩和策が銀行貸出に対し効果を持っていたか否かを実証分析することである。そのために、個別銀行の財務データを用いてパネルデータ分析を行った。分析の結果、次の点が明らかになった。まず、2000年代前半に実施された量的緩和策は銀行貸出に対し正の有意な効果を持っていた。とりわけ、時期としては2002年度、業態としては第二地方銀行、財務状況としては不良債権比率の高い銀行によく効いていた。一方、2010年に採用された包括的金融緩和策と2013年に採用された量的・質的金融緩和策の銀行貸出への効果については、一部に有意な結果が見られたものの、頑健な証拠とまでは言えなかった。以上の分析結果は、伝統的金融政策のもとで検出された“銀行貸出チャネル”が量的緩和策のもとでも存在することを示唆している。最後に、銀行貸出チャネル以外の経路として、ポートフォリオ・リバランス・チャネル、総需要の喚起を通じたチャネル、バランスシート・チャネルの3経路を取り上げ、それらの効果について議論する。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun193/bun193.html"} {"text": "過去30年間において、日本経済はバブル経済の発生と崩壊、その後の長期経済停滞、リーマンショックやユーロ危機などの国際金融危機、ゼロ金利政策の導入、量的金融緩和の開始、インフレ目標の導入など様々な事象を経験してきた。この過程の中で、日本における期待インフレ率がどのように変化してきたかを実証的に調べることは非常に重要な問題である。このような問題意識の下、本稿では、過去30年に渡る日本の期待インフレ率の変遷を平滑推移フィリップス曲線モデルにより分析した。分析の結果、期待インフレ率レジームと金融政策レジームには、強い関係が見られ、金融政策が期待インフレ率の形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、2013年初頭の日本銀行のインフレ目標の明確化とそれに付随する量的・質的緩和政策の導入は、デフレからの脱却という課題には一定の成果を上げた可能性があるが、2%のインフレ目標の達成には十分ではない可能性などが示された。ただし、2016 年早々から、日銀はマイナス金利付き量的・質的金融緩和を導入しており、その影響については、時間が経ちデータがそろうのを待って、新たな分析が行われることを期待したい。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun193/bun193.html"} {"text": "本稿では、日本の拡張的金融政策がアジアの近隣諸国に与える影響について、GVAR(Global Vector Autoregression Model)を用いて検証している。分析の結果、マネタリーベースの拡大を日本の景気刺激的な金融政策ショックと定義するならば、これは、短期的に韓国、中国、タイのGDPを押し下げる効果があることが分かった。一方で、中長期的にみると、タイのGDPにはプラス、中国のGDPには中立、韓国のGDPには若干のマイナスの影響がみられる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun193/bun193.html"} {"text": "サービス産業の生産と価格の計測にあたっては、製造業に関する計測とは異なる様々な理論的・実践的困難が伴う。こうした困難は、公共部門など一部のサービスで市場メカニズムが十分に機能していないことに起因するだけでなく、そもそもサービスの多くが無形で、その種類や質が多用であることにも起因する。例えば、非市場サービスと呼ばれる分野ではこれらの計測が難しい。政府が提供する学校教育のような公的サービスでは、市場価格データが得られないことが多い。また、医療サービスでは、価格データは存在するが、政府による規制や情報の非対称性のために、価格と消費者が得る便益の間に大きな乖離が生じている可能性が高い。市場サービスにおいても、計測はしばしば困難である。例えば商業では、商業サービスの価格にあたるマージン価格(商品1単位あたりの販売価格マイナス仕入価格)を、サービスの質が異なる可能性がある取引形態毎に把握し、この情報を使ってマージン価格指数を作成することは難しい。本論文では、日本と米国をはじめとする他の先進諸国との間で、サービス産業の生産と価格の計測方法を比較し、計測方法の違いがTFP上昇などサービス産業におけるパフォーマンス指標にどのような影響を与えているかを検討する。特に、日本で投入=産出アプローチが採用されている建設業と、デフレーターとしてマージン価格ではなく商品販売価格が使われている商業に焦点を当てて国際比較を行なう。また、日本の教育と医療について、実質生産量を直接計測するアプローチを試みる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun194/bun194.html"} {"text": "本研究は、我が国のサービス業で大きなシェアを占める小売業において、新業態の参入や参入規制の緩和が、消費者の経済厚生に与えた影響の測定を試みるものである。1990年代から2000年代にかけて、日本の小売業は二つの業態のシェア拡大という劇的な変化に直面した。一つは、大型店への規制緩和により拡大したスーパーマーケットであり、もう一つは独自のサービス品質と効率的なオペレーションを行うコンビニエンスストアである。本研究では、これらを含めた小売業内の業態間で価格やサービス品質が異なることを考慮した需要関数を推定し、消費者余剰の変化を測定した。その結果、1990年代と2000年代の消費者余剰の変化は、主に価格とサービス品質の変化によって説明され、特に価格の寄与が大きいことが明らかになった。規制緩和は、小売店の価格水準の低下を通し、消費者余剰へ影響していると考えられる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun194/bun194.html"} {"text": "本論文では、小売業を例に、サービスの質が日本のサービス産業の成長にどれだけ貢献しているのかを検証する。具体的には、小売企業間の売上規模の違いのうち、製品多様性を含むサービスの質の違いに起因する割合はどの程度か、質を考慮した価格指数を用いると小売企業間の実質産出額の違いはどう変化するかを検討する。分析手法としては、小売企業毎の商品バーコード・レベルの購買履歴データを用いて、質のパラメーターを含む消費者需要の構造モデルを推計する。その際、ベンチマーク財を設定して質のパラメーターを標準化することで、サービスの質の貢献を製品自体の質から分離して評価する。検証の結果、小売企業間の売上規模の違いの57%は企業レベルのサービスの質、26%は製品多様性によるものであること、また、質を考慮しない従来型の価格指数では、小売企業間の実質産出額の違いは4分の1程度過少評価されることが明らかになった。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun194/bun194.html"} {"text": "研究活動は経済成長の源泉である。その研究活動を効率的に推進するため、本稿では科学研究の成果の決定要因を分析することにより、質の高い研究が生み出されるメカニズムを明らかにした。分析で取り上げた要因としては、集積の利益やネットワーク効果といった外部性、稠密性や多様性といった研究ネットワークの構造と特性、発表論文の量や質で測った共著者の属性等が挙げられる。さらに本稿は、研究の質についての新たな指標を複数導入しており、学術研究の質の評価尺度についても新たな貢献を行っている。分析結果によれば、研究活動の集積及びネットワーク効果が観察された。この外部性は当該研究者から離れると共に逓減の度合いが大きくなるが、海外の研究者との共同研究においてはその限りでない。また、ネットワークの特徴に関して、多くの論文を執筆した研究者や研究プロジェクトのリーダー経験のある研究者との共同研究は、研究者の業績の量を増加させるが、質の向上には結びついていない。研究の質を向上させるのに有効なのは、質の高い研究を行っている研究者との共同研究であることが示唆された。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun194/bun194.html"} {"text": "労働分配率は、短期的な景気循環過程において上下することに大きな問題はないが、長期的に低下することについては経済政策的にも、経済学的にも解明しなければならない問題である。実際、労働分配率は世界的に見ても長期的な低下傾向にあり、わが国でも2000年台にはほとんどの指標で低下傾向にあった。この労働分配率の動きには、賃金が伸び悩む一方で株主への配当や内部留保が増加傾向にあることから、企業の付加価値の配分方法が変化していることが影響していると考えられる。我々は、雇用量や一人あたり労務費と企業財務との関係を分析し、いくつかの定量的な結論を得た。すなわち、内部留保が増加するとともに労働分配率が低下する傾向が見られたが、メインバンクを有する企業は雇用を維持すると同時に予備的な貯蓄を行う傾向にあった。逆に、メインバンクを有しない企業は雇用とは関係なく過剰に現金を保有する傾向にあった。こうしたことが労働分配率の低下に寄与していたと考えられる。 JEL Classification Codes:G3, J4 Keywords:労働分配率、企業財務、メインバンク", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun195/bun195.html"} {"text": "本稿では、1989~2013年の賃金構造基本統計調査データを使って、景気変動と被雇用者の年収格差について分析を行った。全サンプルによる実質年収に関しては、ジニ係数、変動係数(Coefficient of Variation: CV)共に経年的に上昇してきたが、景気変動との関連では、1990年代には、景気拡張期か景気縮小期かに関わらず、ジニ係数も、CVもあまり変化していない。2000年~2010年にかけては、景気拡張期も景気縮小期も格差は拡大しているが、どちらかと言うと、景気拡張期の方が格差がより拡大している。2010年以降は、再び、ジニ係数もCVも景気変動と関わりなく安定して推移している。男性フルタイム労働者サンプルの実質賃金のジニ係数やCVからは、1990年代前半までは男性フルタイム労働者間の年収格差は縮小し、その後、徐々に格差は拡大、2007~08年をピークに格差が縮小している様子がうかがえる。以上のことは、長期トレンドとして年収格差は広がっているが、その景気変動との関連ははっきりしないことを示している。 景気拡張期と景気後退期が残業手当に与える影響は非対称である。景気が悪くて残業手当が減るという効果の方が、好況で残業手当が増えるという効果よりも大きい。また、景気変動と残業の関係について、1997年以降、労働市場の構造変化が起こったことを利用した分析によると、1997年以降、残業時間の失業率に対する感応度が全ての四分位で落ちている。つまり、1997年以降、労働市場の構造変化が起こり、雇用調整による業務量の調整が行いやすくなったために、景気後退期に、残業時間でなく雇用で調整するようになったと考えられる。その傾向は年収の低い四分位でより強いことが示された。景気循環が労働時間格差を通じて賃金に影響を与え、景気停滞期に低所得者の間で労働時間、残業手当の減少が大きい。労働時間調整が企業活動の繁閑の調整弁として使われていること、またその機能が近年弱まっていることがうかがえる。 JEL Classification Codes:D31, J31, J81 Keywords:景気変動、賃金、格差", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun195/bun195.html"} {"text": "本稿は、教育格差が生み出す所得格差の世代間連鎖メカニズムに着目し、現在の所得格差が経済成長と将来の所得格差に及ぼす影響について考察する。昨今の所得格差と経済成長の関係に関する実証分析を概観した後に、所得格差が教育投資を通じてどのように次世代の所得格差へと継承されて行くかを描写した様々なモデルを紹介する。特に、資本市場の不完全性に着目し、教育投資が私的にのみ行われる場合や、公教育と私教育が選択できる場合、さらに公教育が政治的プロセスにより内生的に選択される場合には、所得格差がどのように世代間で連鎖し、長期的な格差に結びつくのかについて見る。その中で、グローバル化やマクロ経済全体の生産構造が、世代間の所得連鎖や親による教育投資の意思決定に与える影響についても触れ、所得格差を縮小し、経済成長を促進するという観点から望ましい教育システムはどのようなものかについても考察する。最後に、経済成長を促進する上で効果的な政策についても議論する。 JEL Classification Codes:D31, D72, H42, I22, O15 Keywords:教育投資、所得格差、経済成長", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun195/bun195.html"} {"text": "本研究では、通勤時間の変化が夫婦の市場労働および家事労働の供給に与える影響を分析する。分析には、公益財団法人家計経済研究所による「消費生活に関するパネル調査」の1995年から2015年までのデータを使用する。この調査では、妻だけでなく夫の時間配分がわかる。また、市場労働時間を推定する際に重要となる勤務先の状況と、家事労働の決定を考える上で必要不可欠となる家計や世帯員の属性の双方を同時に把握できる。さらに、同一家計を追跡したパネル調査であることを利用して、観察されない個人や家族の異質性の存在を考慮できる。これらにより、通勤時間が時間配分の決定に与える純粋な影響を明らかにする。共働き世帯を対象とした分析の結果、夫と妻ともに、本人の通勤時間が長くなれば自身の市場労働時間が長くなり、家事労働時間は短くなることが示される。加えて、配偶者の通勤時間が長くなれば自分の市場労働時間を減らし、家事時間を増やすことがわかる。推計値の詳細を見ると、通勤時間の増加による配偶者の労働供給抑制効果だけでなく、妻の家事労働供給は彼女の市場労働供給と比べて非弾力的であることや、通勤時間に対する家事時間の弾力性は夫で大きいことが示される。また、夫が配偶者の通勤時間に反応して家事労働時間を変化させることは1990年代には見られておらず、2000年代に変化した日本家計の特徴であることがわかる。 JEL Classification Codes:D13, J22, R41 Keywords:家計生産、夫婦内時間配分、市場労働時間、家事労働時間、通勤時間", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun195/bun195.html"} {"text": "進学や就職という人生の大きなステップにおいて、若者が地方を出て東京に向かうという選択をするのはなぜなのだろうか。これを明らかにすべく、個票データを用いてその選択を左右する要因を分析したところ、以下のような結果が得られた。第一に、高学歴化が東京移動を後押しする要因になっていたが、若者の中でも若い世代ほど東京へ向かう傾向が低下していた。第二に、ライフステージごとに調べると、はじめて仕事をもつ段階では出身地の賃金の低さが東京行きを選択する要因であるとの結果が得られた。しかし、東京圏の大学等に既に進学している者に対象を絞ると、地方の就業機会の乏しさが東京で職を得て東京に残るという選択につながっていることがわかった。他方、地方で初職に就いたのに、現在は東京圏に居住している要因を分析すると、賃金格差や就業機会格差は統計的に有意な結果を示さなかった。第三に、近年関心を集めている若年女性の東京移動に関する分析を行い、男性対比の特徴を調べると、はじめて就職する時点では東京圏へ転出する傾向は弱いが、東京圏の大学等に進学した者に限ると女性は東京圏に留まる傾向が強かった。さらに、地方で初職を得た人の中では、女性の方がその後東京圏に移動する傾向が顕著であった。結論としては、東京一極集中是正という政策的視点に立つならば、若者がはじめて就職する時点での賃金格差や就業機会格差を縮め、若者の人的資本形成が地方において的確に評価され、若者の努力と期待が現実に実を結ぶことが望まれる。 JEL Classification Codes:R23, J61, J11 Keywords:人口移動、東京集中、居住地選択", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun195/bun195.html"} {"text": "本稿では、日本において、人口高齢化が家計貯蓄率にどのような影響をおよぼしうるのかを検証するため、日本の高齢者世帯の貯蓄行動を分析する。分析には、総務省統計局が実施している「家計調査」およびゆうちょ財団が実施している「家計と貯蓄に関する調査」からのデータを用いる。分析結果により、以下のことが示される。すなわち、(1)日本では、働いている高齢者世帯は正の貯蓄をしているものの、彼らの貯蓄率は若い世帯よりも低い。一方、退職後の高齢者世帯の貯蓄率は大きく負である、(2)退職後の高齢者世帯が資産を取り崩す傾向は年々緩やかに強まっており、この傾向は主に社会保障給付の削減によるものである、(3)退職後の高齢者世帯は、資産を取り崩してはいるが、取り崩し率は最も単純なライフ・サイクル仮説が予測しているほど高くはなく、これは主に予備的貯蓄と遺産動機の存在によるものであることが示唆される。 JEL Classification Codes:D14, D15, E21 Keywords:高齢者、貯蓄、ライフ・サイクル仮説", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun196/bun196.html"} {"text": "急速に少子高齢化が進行する日本において、いかにして経済成長を維持・促進していくかが大きな課題となっている。少子高齢社会で労働力を量的に拡大することは困難であり、長期的には、労働力の質的向上、すなわち人的資本の蓄積を促進することが望まれる。しかし、人的資本は時間の経過と共に減耗するため、高齢化が進行する中で、若年世代を対象とした教育だけでは、経済成長の維持・促進のために必要とされる人的資本の水準を実現できないかもしれない。このため、現在の日本のような超少子高齢社会では、中年・高年世代や離職した女性を対象としたリカレント教育(再教育)が重要になると考えられる。そこで、本研究では、少子高齢化が進行する経済において、リカレント教育への参加を民間の自発的な選択に委ねた場合、社会にとって最適な人的資本の水準が達成されるか否かを考察する。 この問いに答えるために、本研究では、初等教育や高等教育だけではなく、リカレント教育を通じて人的資本が蓄積される世代重複(OLG)モデルを分析する。分析の結果、死亡率のリカレント教育に及ぼす影響が高等教育とリカレント教育との間の関係によって決まることが示される。すなわち、両者に補完性がある(高等教育の水準が高いほどリカレント教育の効果が大きい)ならば死亡率の低下がリカレント教育を促進し、人的資本を向上させる。一方、両者が代替的である(高等教育の水準が高いほどリカレント教育の効果が小さい)ならば死亡率の低下がリカレント教育を抑制し、人的資本を低下させる。後者の場合、民間の自発的な選択だけでは、少子高齢社会での経済成長を維持するために十分なリカレント教育の水準を達成できない可能性があり、リカレント教育を積極的にサポートする政策が必要になるといえる。 JEL Classification Codes:J10, I25, O15 Keywords:少子高齢化、人的資本の蓄積、リカレント教育", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun196/bun196.html"} {"text": "本論では人口動態(人口減少や高齢化)の変化が景気指標に与える影響を検討する。人口減少・高齢化は、日本が先進地域で最も深刻な状況と指摘されているが、国全体の景気指標ではその影響を確認するのは難しい。都道府県ベースでみれば、秋田県や高知県のように既に20年近く前から人口の自然減が始まり、かつ高齢化が進展している地域がある一方で、大都市圏を含む地域では若年人口の流入などにより人口増を維持し高齢化率も低いところがみられる。さらに、将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所(2013))によれば、このような二極化の傾向はより明確に進展することが見込まれている。 ここでは、包括的な景気指標として都道府県別の県民経済計算(公表値)に加え、2種類の景気動向指数(試算値)をもとに、景気の変動性(ボラティリティ)、景気の趨勢的な動き(趨勢要因)、景気の変化の大きさ(循環要因、経済成長率)、の3つの面から人口動態の変化における景気指標への影響について検証する。 人口動態の変化がマクロ経済に与える影響ではプラスとマイナス要因に区分できる。地域別の景気指標をパネル分析したところ、多くの先行研究により示されている通り、人口動態(人口減少や高齢化)の変化が経済活動にマイナスの影響を与えることが改めて確認できる。他方、地域における人口動態や経済構造の違いを考慮すると、若年層を中心とする人口流入が続く大都市圏を含む地域では、人口動態のプラスの効果がより顕在化しやすい状況にある。つまり、現在の人口減少・高齢化先進地域と大都市圏を含む地域との格差がさらに広がる可能性を示していると考える。 このことは、景気判断においてマクロ的な平均値の議論で適切行えるのかを示唆している。地域の景気変動を把握する上で、どの景気指標が的確なのかを地域の社会・経済情勢から検討する必要がある。ただし、地域の社会・経済構造を表現する統計は一定程度整備されているものの、カレントな経済動向を示す信頼性の高い統計は極めて少ない。人口減少・高齢化の影響を把握する上でも、地域に関するカレントな経済統計の整備が必要である。 JEL Classification Codes:E0, E3, J10 Keywords:景気循環、人口減少、高齢化", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun196/bun196.html"} {"text": "近年、我が国では、比較的好調な企業収益との対比で国内向け投資の緩慢さが指摘されている。また、景気回復局面における設備投資の伸び悩みは世界金融危機後の回復過程にある他の先進各国でも同様に観察されている。マクロ経済動向と投資の関係の変化には様々な要因が考え得るが、世界全体で、取分け我が国において顕著に、進行している高齢化が、そうした変化の重要な背景とは考えられないだろうか。本稿では、高齢化が一国の投資率に与えている影響を分析するため、世界約160ヵ国をカバーした国際パネルデータによる回帰を行った。高齢化が投資率に作用する経路としては、貯蓄率の低下を通じる経路と期待成長率の低下を通じる経路の2つに注目した。結果は、高齢化の進行が2つの経路を通じて世界各国の投資率を低下させる方向に作用している、というものである。近年、我が国を含む少なからぬ国々で見られる投資の伸び悩みの背景の一つとして、世界的に進行する高齢化があることを示唆する結果と言えよう。 JEL Classification Codes:E21, E22, J11 Keywords:高齢化、設備投資、貯蓄率、期待成長率、国際パネルデータ", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun196/bun196.html"} {"text": "近年、我が国では、企業収益の好調が伝えられる一方、設備投資は伸び悩みが目立っている。投資が伸び悩む要因としては、国際競争の激化や産業構造のサービス化等も考え得るが、我が国で(世界に先駆けて)急速に進行している高齢化の影響も無視できないのではないだろうか。本稿では、高齢化が企業の設備投資に与えている影響を探るため、我が国企業の財務データ(上場+一部未上場)を活用した実証分析(企業内の年齢構成を考慮した設備投資関数の推計)を行った。 高齢化が企業行動に与える影響については、企業をとりまく環境の高齢化、と企業内部の高齢化、に分けて考えることができるが、本稿ではそのうちの後者、すなわち経営者や従業員の高齢化が進むことが企業の設備投資行動に与える影響に注目している。企業内部の高齢化については、企業活力の低下や意思決定の保守化等を通じた負の影響が想起されやすいが、経験やスキルの向上等を通じた正の効果が存在するかもしれない。 分析の結果、経営者の高齢化は、経営の安定等を通じある程度投資を促す面もあり、想像されるほど単純に投資を抑制するものではないことが分かったが、特に上場企業で経営者の高齢化が70歳代を超えて進む場合に投資抑制が顕著になることが確認できた。一方、従業員の高齢化については、上場企業において、人件費を増加させて収益性を悪化させる経路等で投資を抑制している可能性が高いことが分かった。 JEL Classification Codes:E22, G31, J11 Keywords:高齢化、設備投資、企業財務データ、トービンのq", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun196/bun196.html"} {"text": "本論文では、成長率の国際比較に新たに利用可能となったPenn World Table 9.0’sを用い、人口高齢化の経済成長への影響を検証している。実証モデルとして、短期及び長期における人口構成の変化の影響が推定可能となる拡張された部分調整モデルを用いている。また、データについては、1960年から2014年の期間について、5年及び10年のインターバルを設けている。ここでの分析結果は、人口高齢化は短期及び長期の双方において経済成長を妨げること、また、高齢者の労働参加は経済成長にプラスの影響を有し、これは高齢化のマイナスの効果が、高齢者のより積極的な労働参加によって軽減されうることを示唆している。興味深いことに、過去の水準だけではなく、将来における人口高齢化の水準も経済成長にマイナスの影響を持つことが明らかとなった。将来の高齢化は、将来の成長見通しへの懸念を高め、その結果、現在の経済活動にマイナスの影響を与える可能性がある。 加えて、本論文では、どの程度高齢化が韓国の将来の成長見通しに影響を与えるかを予測している。予測された成長率は、予測最終年である2034年には継続的にマイナス2.7%まで低下し、これは、日本において推計される直近のマイナス1.6%を下回っている。日本に比べ、韓国での高齢化の影響が大きくなる1つの要因として、韓国での高齢化の進展が日本に比べより急速である可能性が挙げられる。人口構成に関する見通しはより厳しく、韓国経済の将来は、日本の現在の状況よりもより悲観的かもしれない。 最後に、韓国について、人口高齢化の経済成長への顕著な影響を軽減するための、いくつかの政策オプションを提案している。韓国政府は、すでに積極的に高齢化に対応するための幅広い施策を行っている。そうした施策は、出生率を引き上げるための努力が中心となっているが、高齢者のための支援も含まれる。しかしながら、引き続き人口高齢化が急速に進展していることにみられるように、これまでのところ、こうした政策は効果的ではない。今後について、実証結果に基づくと、政府による介入が特に期待できる分野として、よりよいワークライフバランスを可能とする総合的な政策パッケージを通じて、女性の労働参加を高めることが挙げられる。 JEL Classification Codes: J10, O10, O40 Keywords:人口高齢化、人口構成の変化、経済成長、韓国", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun196/bun196.html"} {"text": "本論文では、EUの経験を踏まえ、頭脳流出・頭脳流入の効果を通じた人口移動、人的資本形成、そして一国の経済厚生の相互関係を検証し、鍵となる特徴を示している。初めに、日本や米国を含む他の主要先進国におけるパターンとの比較を通じ、EU諸国について、1980年以降の国際的人口移動の傾向を実証的に概観した。シェンゲン(Schengen)協定のもとで促進されたEU域内における労働移動を背景とした構造的な変化に加え、エラスムス(Erasmus)プログラムによる学生の移動の重要性が示された。 次に、最近の大卒のフランス人労働者による地域間の労働移動に関する調査に基づく実証結果と方法論的な視点についても報告している。この分析には、プロビットモデルを用い、選択バイアスを修正した上で、フランス国内の最近の大卒による地域間の移動の決定要因を検証している。分析結果によれば、教育水準は、直接的に、また地域間移動の高まりを通じて間接的に就職に影響を及ぼすことが示唆されるとともに、教育と労働移動の間の強固で、非線形な関係が確認された。経済厚生分析をもとに、人的資本の質が、どのように人口移動の評価に影響を与えるかを示すとともに、地域間労働移動に係る厚生効果を計算するためのアプローチを提案している。 最後に、個々に異なる能力、教育水準に関する初期レベル、また、高等教育システムの質やアクセス環境の違いが、どのように個人の国際的な教育選択やその後の職業選択を決定するかについての理論的な枠組みを提示し、国レベルの経済厚生へのインプリケーションを導いている。国内または海外で訓練を受ける、あるいは働くといった学生の決定に潜在的に影響を与える要因には、教育の質や価格、大学システムの開放性、特殊性、選択性、国際的な給与差、そして海外の労働市場へのアクセス環境などが含まれる。また、異質な個人における自己選択(self-selection)は、国の教育政策の相対的な効果とともに、頭脳流出・頭脳流入の間のバランスを決定する重要な要素となっていることが示される。 JEL Classification Codes:F22, D82, I25, I28, J24 Keywords:人的資本、頭脳流出、頭脳流入、国際的人口移動、労働市場、EU、国際的な教育選択と政策、異質な個人、自己選択", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun196/bun196.html"} {"text": "本論文では、2007年の危機前後における銀行の行動に影響を与えた要因を検証している。2001~2014年にわたる米国のMSAs(Metropolitan Statistical Areas)における銀行部門のデータを用いることで、銀行部門の信用供給(credit supply)やパフォーマンスは、他の要因をコントロールした場合、各地区レベルでの経済状況に依存することを発見した。危機以前、不動産価格指数がより高い地区の銀行では、より多くの貸出とより高い企業業績を示していた。しかし、危機以降、貸付の合計は不動産価格指数に依存しなくなる一方、不動産価格指数がより高い地区の銀行では、家計に対してより多くの貸付を行い、商業・産業部門に対してはより少ない貸付を行っていた。家計への貸付がより多い地区では、より高い不良債権比率が見られている。対照的に、商業・産業部門への貸付がより多い地区では、より低い不良債権比率が見られている。その結果、不動産価格指数がより低い地区における銀行部門では、より高いROA(総資本利益率)となっている。こうした結果は、不動産市場の回復は、必ずしも存続している銀行のパフォーマンの改善に結びついていないことを示唆している。 JEL Classification Codes: G01, G20, G21 Keywords: 信用供給、銀行パフォーマンス、不動産市場、不良債権", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun196/bun196.html"} {"text": "中国経済や企業のダイナミクスを理解する上で重要なことは、企業の輸出行動を理解することである。特に外資系企業の役割を分析することが重要である。本論文は、中国企業の輸出市場への参入・退出、生産性向上のダイナミクスに関する研究を行う。その際、国内企業と外資系企業とに分けてその特徴を分析した。使用したミクロデータは、中国の工業統計の2000年から2007年におけるパネルデータで、全ての国有企業と年間売上高500万元以上の非国有企業を対象としたものである。中国企業は生産性が低い企業も含めて2000年代の輸出ブームに乗って輸出市場に参入した企業の数は多かったものの、輸出額の少ない企業の多くはすぐに市場から退出した。その結果、中国の輸出市場は少数の大企業への集中度が高まっていた。 JEL Classification Codes:F14、O14、O30 Keywords:中国企業、輸出、生産性、パネルデータ", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun197/bun197.html"} {"text": "1970年から2005年までの35年間に日本人の健康状態は大きく改善し、世界有数の長寿国となった。この寿命の延びは経済成長の成果として語られることも多い(例えば吉川(2003))。本稿はその価値を、Murphy and Topel(2003,2006)に倣って、同期間の死亡率の低下に対する支払意思(WTP, willingness-to-pay)を試算することで定量化した。この価値は2005年時点で年間165兆円程度と、対GDP比でみて約3割に達すると試算された。 ただし、若年者及び高齢者の消費に関する仮定次第では、推計値が2割程度大きくなる。また、割引率や効用関数のパラメータの設定がこの推計値に大きく影響することから、これらの値を変化させた場合にWTPがどのように変化するかを示した。さらに人口要因がWTPに与える影響を分析し、1970年時点から人口が増加したこと、少子高齢化が進んだことが、年率換算でWTPをそれぞれ30兆円、20兆円程度増加させることを示した。2040年までを展望すると、生存率の改善の頭打ちと人口減少から年率で60兆円程度まで減少すると考えられる。 なお、死亡率の低下に要した医療費はWTPの10分の1以下であるが、寿命の延伸には医療のみならず、例えば衛生状態や食生活の改善など広範な範囲も費用と考えることも可能であることから、費用便益分析としては、この分析を第一歩として改善していく必要がある。 JEL Classification Codes:I10, D61 Keywords:寿命、支払意思額(WTP)、健康", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun197/bun197.html"} {"text": "今後予想される急速な人口減少社会の到来をふまえ、地方創生のもとで人口減少の抑制や、地域活性化にむけた議論が活発化している。本研究では、ソーシャル・キャピタル(SC)をはじめとする経済・社会的要因が、地方創生に与える影響とその波及効果に着目し、2010年の市区町村GISデータによる横断面分析をおこなった。推計では、市区町村間における空間依存性(空間自己相関)を考慮し、人口動態(転入率、転出率)および経済パフォーマンス(納税者1人あたり課税対象所得)について、空間ダービンモデルによる推計を個別におこなった。分析の結果、自治体におけるSCの水準(人口1,000人あたりNPO法人数)は、転入率および納税者1人あたり課税対象所得について、正で有意の影響が示された。また、SCが周辺の近隣自治体に与える波及効果(スピルオーバー)も、経済パフォーマンスにおいて正で有意であることが確認された。また、いずれの目的変数においても正で有意な空間自己相関が認められることから、自治体の人口動態・経済パフォーマンスの水準は、近隣自治体の影響を受けていることが示された。このことから、地方創生にむけた政策立案は自治体ごとに個別におこなうよりも、自治体間の相互関係や波及効果を考慮した、広域的な視点による検討が重要と考えられる。 JEL Classification Codes:R11; R15; R58 Keywords:空間ダービンモデル; ソーシャル・キャピタル; 地域活性化; 地方創生;波及効果", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun197/bun197.html"} {"text": "本稿の目的は、『慶應義塾家計パネル調査(KHPS)』の就業履歴から作成した回顧パネルデータを用い、夫の失業が出産に及ぼす影響を検証することである。Fixed Effect Logit分析、Random Effect Logit分析、線形確率モデルによるFixed Effect OLS、Random Effect OLSによる分析の結果、次の3点が明らかになった。1点目は、いずれの推計手法でも、夫の失業1年後に出産確率が抑制されることがわかった。この背景には失業直後の大幅な所得低下が大きな影響を及ぼしていると考えられる。しかし、長期的にはその抑制効果を確認できなかった。2点目は、いずれの推計手法でも、夫が低学歴である場合にのみ失業による出産抑制効果が観察されることがわかった。この背景には夫が低学歴層である場合ほど再就職が困難であり、失業が家計に与える負のショックが大きいためだと考えられる。3点目は、夫の失業期間が長いほど、出産確率が抑制されることがわかった。 JEL Classification Codes:J12,J13,J60 Keywords:出産、夫の失業、回顧パネルデータ", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun197/bun197.html"} {"text": "本稿は、慶應義塾大学パネル設計・解析センターが実施している「慶應義塾家計パネル調査」を用いて、結婚が家計の労働供給に与える影響について分析をおこなった。分析の結果から、個人の観察されない時間一定の効果をコントロールしたとしても、結婚は男性の労働時間に対して正の、女性の労働時間に関して負の影響を与えることが示された。この結果を踏まえ、さらに本稿では、結婚による労働時間の変化が、Becker の分業仮説と整合的であるかを確認するために、比較優位の代理変数として夫婦間の学歴差を用いて分析を行った。分析の結果、夫の学歴が妻の学歴よりも高い夫婦の方がそうでない夫婦に比べて、結婚による男性の労働時間の増加は大きいが、その差は有意ではないことが示された。一方、女性に関しては、夫の学歴が妻の学歴よりも高い夫婦の方が同学歴の夫婦に比べて、結婚による女性の労働時間の減少が大きく、その差は有意であることが示された。さらに、夫婦間の学歴差が、既婚男性の妻の労働時間や就業に与える影響についても分析をおこなった結果、夫の学歴が妻の学歴よりも高い夫婦の方が妻の学歴が夫の学歴よりも高い夫婦に比べて、妻の労働時間は少なく、就業しない傾向にあることが明らかになった。これは、学歴差の大きい夫婦ほど女性が家庭内労働に特化していることが考えられ、Becker の分業仮説と整合的である。また、これらの結果から、結婚による家計の時間配分の調整が主に妻の時間配分の変化を通じて行われていることが示唆される。 JEL Classification Codes:J12, J22 Keywords:結婚、家計の労働供給、家庭内分業", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun197/bun197.html"} {"text": "近年、経済成長率が世界的に低下しつつある中で、成長力の底上げが重要な政策課題となっている。当研究所では、低成長の要因や成長力の底上げのための対応策について論じるため、国内外の著名なエコノミストを招聘し、国際コンファレンスを開催した。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun197/bun197.html"} {"text": "実効性ある経済政策の企画・立案、及びその円滑な実施には、経済の現状や各種の政策を実施した場合にその施策が経済に与える影響(方向性、大きさ等)についての認識に係る合意形成努力が必要である。そのためには、各種論点について、国民各層間、専門家間、更に専門家と国民一般の間、等でどのような認識のバラつきがあるか(はたまたコンセンサスはどのあたりにあるか)を把握しておくことが有益だろう。 本稿では、そうした問題意識の下、内閣府経済社会総合研究所が、2016年末から2017年春にかけ、一般の男女、及び日本経済の専門家(エコノミスト)を対象に実施した「日本経済と経済政策に係る国民一般及び専門家の認識と背景に関する調査」の概略を紹介し、そのうちの主だった設問について、簡単な集計結果を報告する。 報告内容は暫定的なものであり、今後、よりフォーマルな検証が必要だが、日本経済の現状とマクロ経済政策の効果に係る専門家の認識が、少なからぬ点で、一般の回答者の認識とは体系的に乖離していること、専門家の間では、一部の例外を除き、学歴や専攻、所属機関等に関連する体系的な分断は生じておらず、ある程度の「コンセンサス」が存在していること、等が読み取れた。 JEL Classification Codes:A11, E50, E60, H50, H60 Keywords:日本経済、マクロ経済政策、エコノミストアンケート", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun197/bun197.html"} {"text": "本稿では、地方公共団体の財政の健全化に関する法律(地方財政健全化法)において定められた財政健全化4指標についてFixed effect SUR モデルを用いて、財政指標間の相互依存関係分析することで財政ルールへの抵触を回避するような調整がおこなわれていないかどうかを検証した。また、本稿では、地方財政健全化法では監視対象となっていない、行政キャッシュフロー計算書から求められる財務指標も用いて分析をおこなった。分析により、実質赤字比率と将来負担比率の間や、連結実質赤字比率と将来負担比率の間は、統計学的に有意な負の相関関係が認められた。また、地方財政健全化法の監視対象とならない、積立金等月収倍率、実質債務月収倍率、行政経常収支率との相関関係を、財政健全化4指標と合わせてみることで、財政ルールに抵触しない範囲での会計調整がおこなわれている可能性を検証した。分析結果によると、財政健全化4指標は、全国的に改善傾向にあるものの、フロー指標である実質赤字比率と連結実質赤字比率の改善は、積立金等を取り崩すことによって達成されている可能性があることが明らかになった。 JEL Classification Codes:H77, H72 Keywords:財政ルール、地方財政健全化指標、財政赤字", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun198/bun198.html"} {"text": "本稿の目的は、経済財政諮問会議等で議論が交わされている近年の地方基金残高の累増について、その要因は何なのかという問いに答えることにある。批判的な立場からは、国が借金をして地方交付税を措置する中で自治体が自らの基金に余剰資金をため込んでいるのではないかという問題提起がされ、それに対し地方側は、将来への備えとして行革等の効率化努力によって積み立ててきた結果であると主張する。果たして、それらの批判や主張に実証的根拠は見出せるのであろうか。 そこで、東京都特別区等を除く市町村のパネルデータを用いて、確率的フロンティア分析による非効率性指標を導出した上で、基金残高の増減額を被説明変数とし、自治体の「効率化努力」を表す非効率性指標の差分等を説明変数に置いた回帰分析を行う。回帰分析では、自治体における実情の違いを反映させるため、東日本大震災の被災自治体とそれ以外の自治体、財政力指数別などに応じてグループ分けしている。 分析の結果、以下の点が明らかになった。まず、基金残高の累増は、自治体の「効率化努力」が一要因であったことが認められる。ただし、東日本大震災の被災自治体においては、震災復興に係る国からの交付金等によって、効率性は低下しても基金が積み上がっている可能性がある。また、財政力指数の高いグループと低いグループを比較すると、「効率化努力」が基金増加に寄与する程度は前者の方が高く、後者については地方交付税収入が基金の増加要因になっていた。以上の結果は、国からの財政移転や自治体の「効率化努力」が複合的な要因となって地方基金の増加に作用したことを示唆するものである。 JEL Classification Codes: H72, H77, H79 Keywords: 地方基金、効率化努力、地方交付税", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun198/bun198.html"} {"text": "中長期的な労働力不足が懸念される中、女性の活躍推進が進められている。その一方で、男性を対象とした働き方改革は道半ばであり、男性の家事・育児参加や意識の変革が求められている。こうした状況に鑑みて、本稿では、夫の家事・育児時間が、妻の就業を促すか否かについて実証的に分析した。その結果、両者の関係には内生性が存在するが、夫の働き方や性別役割分業意識を考慮してもなお、夫の家事・育児が妻の就業に正で有意な影響を与えることがわかった。より具体的には、第一に、夫の家事・育児時間は、妻の就業確率に有意に正に影響していた。第二に、妻の就業には、夫の家事・育児参加、親との同居、保育園利用といった「日常的なサポート」がより重要であることがわかった。第三に、夫の家事・育児時間に対して、限定的な働き方(特に職務、勤務地限定)の選択が正に、「妻は家を守るべき」という性別役割分業意識が負に影響することが示された。これらの結果は、既婚女性の就業を促すためには、女性の育児休暇利用や保育園利用のサポートに加えて、夫の家事・育児参加も有効であり、そのためにも夫の多様な働き方の推進や役割分業意識の変革が求められることを示唆している。 JEL Classification Codes:J12, J16, J22 Keywords:既婚女性、就業、家事・育児、柔軟な働き方、性別役割分業意識", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun198/bun198.html"} {"text": "15歳時点での得意科目が及ぼすその後の労働時間、賃金への影響を、ミクロ・クロスセクション・データを用いて男女別に推計した。 出身大学のレベルや学科等の学歴、肥満度や婚姻状態、年齢、勤続年数、就業形態、勤務先組織の規模、産業等多くの要因をコントロールしても、女性は体育が得意であるとした人の労働時間は長く、また賃金も高くなる傾向がみられた。そしてやや弱いながらも、英語が得意であることも女性の賃金を高めていることが観察された。一方、男性では、得意科目が芸術であると労働時間が短くなっており、英語、社会、数学の順で、それらが得意である人の賃金は高くなっていた。 体育が得意であったことの賃金への正の効果は、女性にとって、体力があること、男性社会・競争社会に臆せず入っていける選好を持っていること、及びその相乗効果を示しているものと考えられる。また、学校教育における隠れたカリキュラムの影響や、各科目を得意とすることの意味についても考察した。 JEL Classification Codes:I24, J3, J16 Keywords:女性労働、教育、隠れたカリキュラム", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun198/bun198.html"} {"text": "政策形成の観点から、経済の状況を包括的かつ正確に把握することが重要となっている。 当研究所では、経済のデジタル化、サービス化等が進展するなかでの、計測の現状や課題、対応策等について論じることを目的として、国内外の著名なエコノミストを招聘し、国際コンファレンスおよび景気動向指数に関するセミナーを開催した。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun198/bun198.html"} {"text": "本稿では、2期間の一般均衡モデルを用いて、メインバンク制から株式市場を通じたコーポレート・ガバナンスへの変化が人的資本投資のあり方にどのような影響を与えるかを理論的に考察した。メインバンク制の下では企業の存続確率が高いため、多くの労働者が企業特殊的な人的資本形成の機会を与えられ、労働者間の所得格差も小さい。これに対して、株式市場を通じたガバナンスの下では、企業はリスクをとって高収益を追求することが求められる結果、企業特殊的な人的資本形成の機会を与えられる労働者は極めて少数となり、労働者間の所得格差は極めて大きなものとなる。また、政策含意として、(i)ガバナンスのあり方によらず、企業特殊的な人的資本形成の機会を増やす雇用補助金は常に経済厚生の改善すること、および、(ii)企業の存続確率が極端に低くない限り、企業特殊的な人的資本形成の機会を与えられた労働者から与えられなかった労働者への所得再分配も経済厚生を改善することを見出した。 JEL Classification Codes:G34, J24, J31 Keywords:コーポレート・ガバナンス、人的資本、日本的雇用慣行", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun199/bun199.html"} {"text": "本論文の主な目的は第1に、能力の代理変数や高校での経験をコントロールしたうえで、理系と大学院修了の賃金プレミアムを推定することであり、第2に学部と大学院のそれぞれの8分類の専攻の賃金プレミアムを推定することである。2014年のデータを用いて得られた結果は、能力の代理変数や高校での経験をコントロールすると、理系の賃金プレミアムは男性が3.2%と女性が11.7%であり、男性と女性の大学院の賃金プレミアムはそれぞれ17.8%と23.4%であった。女性の理系と大学院のそれぞれの賃金プレミアムは2000年と比較するとかなり上昇している。また、男性は高校生のときに生徒会活動、運動部(団体競技)をしていると理系を選択しにくく、女性は運動部(団体競技)をしていると大学院に進学しにくいが、運動部(個人競技)をしていると大学院に進学しやすい。最後に、人文科学の学部卒に対する各専攻の賃金プレミアムについては、男性は学部では医学・薬学が52.6%、福祉は21.0%、その他が14.8%、社会科学が11.9%、自然科学が11.4%という順であり、大学院では社会科学が28.1%、その他が22.6%、人文科学が18.3%、自然科学の11.4%という順であった。女性については、学部では医学・薬学が37.8%、社会科学が13.3%、自然科学が10.1%であり、大学院ではその他が77.1%、人文科学が33.2%、自然科学が23.5%、社会科学が22.0%という順であった。 JEL Classification Codes: I23, I26, J24, J31 Keywords: 人的資本、賃金プレミアム、高等教育", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun199/bun199.html"} {"text": "人的資本蓄積を進めていく上で企業内部での能力形成の重要性はかねてから主張されている。その一方で、個人の自己啓発など労働者の自主的な取り組みが必要とされている主張も出てきており、企業内部での能力形成にかける費用が減少している中で、企業内部における能力形成がどのように行われており、また効果はあると言えるのか、近年のデータを用いて改めて検証を行った。企業内部の能力形成がOJTとOff–JTに分けられることをふまえ、本稿ではOJTを仕事のアドバイスを受けたことがあるか、Off–JTを仕事から離れて研修などを受けたことがあるかと定義したうえで、それぞれが賃金率に与える効果をみる。それだけでなく、両者を一体的に行うことでどれだけ相乗効果が生まれるかを把握した。その結果、OJTとOff–JTをともに受けた場合は、受講後2年後に賃金上昇の有意な効果がみられたが、OJTだけ、またはOff–JTだけを受けた場合は賃金上昇の有意な効果がみられなかった。また、Off–JTを受講しているがOJTは受けていないサンプルのサイズが小さい点をふまえると、OJTとOff–JTの相乗効果と言える部分はOff–JTだけの効果にもある程度含まれている可能性があり、Off–JTを実施する企業はその効果が現れるようにOJTを機能させるように職場環境を整えていることが示唆される。 JEL Classification Code: J24, J31 Keywords: 能力形成、OJT、Off–JT、マッチング法", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun199/bun199.html"} {"text": "本研究では、リクルートマネジメントソリューションズ社が提供している総合適性検査(SPI3)のデータを使用して、雇用者の能力(認知能力及び非認知能力)と企業の求める性格特性や能力とのミスマッチが、入社後の上司による評価、離職及び採用の可否に与える影響を分析する。企業固定効果を考慮した計量分析により、以下のような結果が得られた。まず、上司の評価に対しては、仕事とのミスマッチが有意には影響しない。さらに、ひとたび性格特性をコントロールすると低認知能力であっても上司の評価を有意に下げることはないと確かめられた。その一方で、認知能力の低さとミスマッチという不利な状況が重なった場合は、離職は増える。しかし、非常に認知能力が高い場合はミスマッチが離職を高めることはなく、ミスマッチが存在しなければ、低認知能力であっても離職が増えることはない。また、ミスマッチが大きい人、低認知能力の人ほど、内定を得にくい傾向がある。 次に、性格特性とミスマッチとの相乗効果を見てみると、「我が強い」特性や、繊細な特性を持つ場合にミスマッチがあると、上司の評価が低い傾向がある。一方、ミスマッチがあっても謙虚で責任感の強い特性を持つ人はミスマッチの上司の評価に対する負の効果が緩和される傾向がある。また、活動意欲にあふれていたり、感情の起伏が激しい人がミスマッチに直面すると、離職確率が有意に高い傾向にあることも明らかとなった。他方で、人との和を好むような性格や内向的な人はミスマッチがあっても離職をしにくい傾向にある。加えて、ミスマッチがあっても企業側の内定を得られる性格特性の特徴とは、活動意欲があり、従順で、物事をよく考えるようなタイプである。逆に、気分にむらがある人は、ミスマッチが存在する場合に内定確率が下がる。このように、ミスマッチのネガティブな効果を緩和するような性格特性もあれば、助長してしまうような性格特性も存在する。 これらの結果は、ミスマッチの効果が一律でなく個人の性格特性に大きく依存することを示唆している。したがって、少子化による新規学卒者の労働供給減少が続く中、労働者一人一人から高い生産性を引き出すことが重要な局面にあり、仕事とのマッチングを、能力だけでなく、性格特性という次元まで掘り下げて研究することは非常に重要であると言える。 JEL Classification Codes: D22, J53, J24, J28 Keywords:マッチング、認知能力、非認知能力、離職、内定", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun199/bun199.html"} {"text": "本稿では日本の労働市場における需給ミスマッチを職種安定紹介所のデータをもとに、Sahin et al.(2014)の手法を土台に推計を行う。結果9~10%程度の新規雇用が、ミスマッチのために失われていることが明らかになった。さらに当該ミスマッチの原因を分析可能な手法として、新しい分解分析の手法を提案し、同データに応用した。結果、ミスマッチの主たる発生要因は、地域間ミスマッチではなく、特に都市部における職種間ミスマッチであることも示された。また職種間ミスマッチの様相は地域間で異なり、非大都市部に比べて大都市部では、事務的職種における過大な労働供給、および保安や建設の職種における過少供給が著しいことも明らかとなった。 JEL Classification Codes: J61, J62, J63 Keywords: ミスマッチ、マッチング関数、労働者フロー", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun199/bun199.html"} {"text": "我が国では保育所定員の拡大と育児休業、短時間就労とさまざまな公的支援が行われ、企業においても休業と短時間就労という両立支援を中心に女性の活用が進められてきた。その甲斐もあって2000年代後半から、出産後の正社員女性の定着率は高まり、その傾向は現在も続いている。しかし職場での女性の活躍は未だ極めて低調なままである。本稿では、これまでの我が国のWLB施策が女性の活躍および企業業績に与えてきた影響を概観する。その上で、両立支援の次の一手として「働き方改革」の文脈でも昨今盛んに議論されるようになっている柔軟な働き方(FWA)に注目し、FWAを、適用された従業員の仕事への意欲を高め、女性の活躍、ひいては企業業績に資するよう機能させるために必要な条件とは何かについて検証した。 企業と管理職、従業員(正社員)とをマッチさせた個票データの企業レベル、および従業員レベルの分析より、多様な働き方を包括したWLBを企業が推進し、その認識を管理職や従業員レベルにまで浸透させることや、長時間労働抑制に積極的に取り組み、公平な評価を行うことが女性活用と強い交互作用を持つことが示された。しかもそうした要因は、従業員の仕事への意欲を高め、企業業績の向上にも寄与している。特に女性においてはWLBへの高い認識を直属の上司がもつこと、および評価の公平性が、FWAを使うことのできる女性の仕事への意欲、すなわち能力発揮の度合いを高める上で大変重要な要因になっていることがわかった。 JEL Classification Codes:J81, D22 Keywords:ワーク・ライフ・バランス、柔軟な働き方、女性活躍", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun199/bun199.html"} {"text": "本稿では高齢層を対象として、遺産動機が貯蓄率に与える影響を明らかにすることに取り組んだ。まず、金融広報中央委員会の集計データで貯蓄目的の時系列変化を確認したところ、「遺産として子孫に残す」を選ぶ割合は1990年代には非常に低かったものの、2000年代半ば以降その割合が大きく上昇していた。これは、日本経済の低成長が続き今後の成長について悲観的な見方が広がったことで、子や孫の生活水準低下に対する懸念が生じたことを反映している可能性がある。つぎに、著者らが独自に行った「家族とくらしに関するアンケート」の個票データで貯蓄率関数を推定した。この推定では、回答者が自分よりも子供の暮らし向きが悪化することを予想する場合に遺産動機が貯蓄率を高めるという仮説を検証した。その結果、遺産動機を持っているだけでなく、子供の将来の暮らしが自分よりも悪くなることを予想している場合に貯蓄率が有意に高まるという、上記の仮説と整合的な結果を得た。最後に、推定結果に基づいて、遺産動機が我が国高齢世帯の平均貯蓄率に与える影響をいくつかの仮定の下で計算したところ、子供の方が自分より貧しくなると予想する世帯の割合が上昇すると、2012年から2032年にかけて平均貯蓄率は約2 %ポイント上昇するという結果が得られた。 JEL Classification Codes: D14, D15, E21 Keywords: 貯蓄、遺産動機、ライフサイクル仮説", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun200/bun200.html"} {"text": "アベノミクス期における日本の家計消費は、期待されていたほどの成長を達成していない。この消費の伸び悩みが、日本の住宅市場・住宅金融市場の制度的な要因によってどの程度説明されるのかを考察した。日本の金融市場では、政策的に長期金利を引き下げても、既存の住宅ローンについては金利がほとんど低下しないという特徴があることが分かった。そのため、米国や英国では住宅ローン金利の低下が消費の増加をもたらしたのに対し、日本では金利低下の消費刺激効果は限定的と考えられる。家計調査の個票にもとづく分析によれば、住宅ローンのある持家世帯の消費は、住宅ローンのない持家世帯や賃貸住宅世帯と比較して有意な違いはなかった。 JEL Classification Codes: D15, E21, E52, R21 Keywords: アベノミクス、消費、住宅市場、金融政策、金利パススルー", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun200/bun200.html"} {"text": "企業収益が堅調にもかかわらず、なぜ設備投資が盛り上がらないのか。本稿では、このパズルを解き明かすために、上場企業のパネルデータを用いて設備投資関数の推定を行い、世界金融危機を乗り越え企業収益の拡大が続く中、設備投資が力強さを欠く原因について考察した。得られた結果は以下の通りである。 投資機会を表すトービンのqは2012年度以降上昇傾向にあるが、企業収益の堅調な拡大に比べトービンのqは見劣りし、堅調な企業収益が今後も持続することを織り込むような成長期待を企業が抱いているわけではない。設備投資に力強さが戻ってこない背景に、こうした成長期待の回復の弱さがあるとみられる。 こうした中、不確実性の存在が設備投資の下押し圧力の一つとして指摘できる。世界金融危機直後に急拡大した不確実性は、落ち着きを取り戻してからも、設備投資へ負の影響を及ぼしている。トービンのqに対する設備投資の感応度が以前よりも低下し、不確実性の存在が設備投資の意思決定のための調整コストを押し上げた可能性がある。加えて、2000年代半ば以降に実施された大型投資は企業収益の改善には結びついておらず、こうした過去の投資の失敗経験もその後の設備投資の抑制要因になった可能性がある。 JEL Classification Codes: D22, D25, D81 Keywords: 設備投資、不確実性、トービンのq", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun200/bun200.html"} {"text": "近年活発に行われている日本企業による海外企業の大型買収は買い手である日本企業にどのような影響を与えているのか。本研究では、1999年から2015年までに実施された日本の上場企業による買収価格1000億円以上の大型海外企業事例25社37事例について、買収直後と買収後の長期に渡る事業パフォーマンスを計測した。次の3つの主要な結果が得られた。第1に、買収のアナウンスが取得企業の株価に与える影響は、初報道日の周辺においてサンプル全体で平均的に顕著な下落は観察されず、買収直後に大きく株価が下落した事例でも、その後の企業結合完了までの交渉期間を経て株価が回復する傾向が観察された。第2に、買収後の被取得企業の事業パフォーマンスについては、10事例において取得によって計上された事業ののれんに何らかの減損損失が発生していたが、減損損失累計額が取得価格の50%超であった事例は3事例に留まった。さらに、事業セグメント情報を用いて、被取得事業が含まれたセグメントの売上高及び利益率の推移を長期的に計測すると、被取得事業を含む事業セグメントは、買収完了直後の決算期から順調に売上高が増加し、同期間の既存事業セグメントや日本地域の売上高成長率を大きく上回る傾向が顕著であった。また買収後の被取得事業を含む事業セグメントの利益率は正であり、主要既存事業セグメントの利益率とほぼ同水準であった。以上の結果は、主要既存事業と日本市場の趨勢的な縮小傾向の下で、日本企業による大型の海外企業買収は、より高い成長性を追求する事業ポートフォリオの再構築において有効な経営戦略となりうることを示唆している。 JEL Classification Codes: G34, G32, G15 Keywords: 海外企業買収、買収後パフォーマンス、イベントスタディ", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun200/bun200.html"} {"text": "本稿では、日本企業の現金保有行動について、1994年から2016年の期間に亘る最大40万社からなる企業レベルの大規模パネルデータを用いて実証的に検討した。得られた結果は、以下の通りである。第一に、日本企業の現金保有比率(対総資産及び対売上高)は2000年代後半から平均的に上昇しているが、同時にそのばらつきも拡大している。第二に、こうした現金保有比率の平均的な上昇に際して、現金保有比率のキャッシュインフローに対する感応度が上昇している。また、こうした傾向は、運転資金需要が低く企業金融面で有利なポジションにあると考えられる企業でより顕著である一方、信用力の乏しい少数の販売先を顧客として抱えている企業においてもまた強く確認される。これらの結果は、近年における日本企業の現金保有比率の上昇傾向が、良好な企業業績と金融環境を背景としている一方、依然として予備的貯蓄動機に基づく現金保有行動も窺えるなど、個々の企業の異質な動機を反映したものであることを示唆している。 JEL classification: E22, G31, G32 Keywords: 現金保有、キャシュインフロー、予備的貯蓄動機", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun200/bun200.html"} {"text": "本稿ではまず日本の上場企業について以下の3つの事実を示す。1993年から2017年にかけて総資産に対する負債の比率が趨勢的に低下している一方、総資産に対する現金の比率はU字型を描き、特に2000年以降の増加が顕著であるほか、2000年以降は売上増加率のボラティリティが上昇し、最近まで高位に推移している。こうした事実を踏まえて、生産性が異なる企業が多数存在し、各企業が将来の生産性についての不確実性に直面し、また企業による債務不履行が内生的に発生するよう金融制約を取り込んだ一般均衡モデルを構築して、企業が直面する不確実性と現金保有との間における負の関係を理論的に示した。こうした不確実性と現金保有に関する負の関係は、日本の上場企業を対象にしたパネルデータ分析からも示された。 JEL Classification Codes:E44, G33, E20 Keywords:不確実性、現金保有、個別の生産性ショック、金融制約", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun200/bun200.html"} {"text": "本稿では、女性の従業員数や管理職数に関する情報開示の有無によるサンプル・セレクション・バイアスの可能性を考慮したうえで、女性活躍推進の状況と企業業績の関係を検証した。2010年から2015年の上場企業のパネルデータを用いた分析の結果、従業員女性比率(男女計の従業員数に占める女性従業員数)が高いほどROA(総資産経常利益率)やTFP(全要素生産性)で測定される企業業績が高まるといった有意な関係性は確認されなかった。また、管理職女性比率(男女計の管理職数に占める女性管理職数)と企業業績の間にも有意な関係性は観察されなかった。一方、女性管理職登用率(女性従業員数に占める女性管理職数)が高いほど企業のTFPが有意に向上することが示され、特に、女性管理職登用率については15%~20%という水準で企業の生産性が向上することが明らかになった。これらの影響は、サンプル・セレクション・バイアスに対処したときに大きくなり、女性雇用に関する情報を開示している企業のデータのみを利用した場合、その影響を過少評価する可能性があることを示唆している。これらの結果は、女性の賃金が不当に低く抑えられていることを前提としたBecker(1971)の使用者差別仮説の含意とは必ずしも一致せず、最近の日本の労働市場においては労働生産性の向上を通じて、女性活躍推進が企業業績に影響することを示唆している。 JELClassification Codes:J71, J31, L25 Keywords:女性活躍推進、使用者差別仮説、サンプル・セレクション・バイアス", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun201/bun201.html"} {"text": "本研究は、設備投資比率とTobinのqの関係を、上場している日本の製造業企業のパネルデータを用いて分析したものである。これまで多くの投資関数の推定では、説明変数としてTobinのqとad hocに変数を加えることで資金制約などの議論を行ってきた。しかし本研究の結果から、(1) qと投資比率の関係は1997年付近を境に変化していること、(2) この1997年の構造変化が今日まで続いていること、(3) qの構造変化を考慮するか否かで資金制約の推定に過誤が生じる可能性が指摘された。以上の3つの結果は、以下の政策的含意を有している。第一に、qと投資比率の関係が変化しているために、日本では近年の景気回復にもかかわらず投資が伸びていなかったことが説明できる。第二に、資金制約の推定に過誤が存在していることによって、適切な企業分析や政策評価がなされてこなかった可能性がある。qと設備投資の関係が変化した原因を追究することは今後の課題である。 JELClassification Codes:E22, E60, G31 Keywords:限界q、資金制約、設備投資、長期停滞", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun201/bun201.html"} {"text": "本稿は、東京大学「高校生の進路についての追跡調査」個票データを用い、高校3年時点に生徒本人の認識する主観的な大卒賃金プレミアムが大学進学希望に及ぼす影響について検証している。さらに、こうした主観的なプレミアムの形成要因について、大学進学に関する情報取得経路に着目し、都市・地方間の違いを検証している。 結果、次の3点が明らかになった。第1に、Beckerの理論に沿えば賃金プレミアムが高いほど進学を希望することとなるが、分析の結果、有意に大学進学希望を高めていたのは生徒の主観的な大卒賃金プレミアムであった。第2に、そうした主観的な賃金プレミアムは都市圏に比べて地方圏の生徒の方が有意に低かった。このことから、主観的な賃金プレミアムの違いが地域進学格差の一因である可能性が示唆された。ただし、その影響は、世帯年収や親の学歴など家族の経済社会属性の影響によって多くの部分が帰着されることも明らかになった。第3に、主観的なプレミアムの生成要因として情報経路に着目して推計した結果、都市圏では「塾・予備校の先生」や学校(「学校の先生」、「進路指導」)、「オープンキャンパス」、「学校のガイドブック」、「家族」など多様な情報経路が大卒賃金プレミアムを高めていたのに対して、地方圏では「学校のガイドブック」以外に有意な経路は無かった。 JELClassification Codes:D84, J24, I21, I24 Keywords:Perceived Return、賃金プレミアム、進学の地域格差、情報、Multilevel analysis", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun201/bun201.html"} {"text": "本稿では公立病院の経営指標に関する個票データを用いて、病院再編が効率性に資する影響を定量的に評価する。再編の内生性を考慮して推定を試みたところ、公立病院の再編は医業費用を2割近く下落させることが明らかになった。なかでも、特に給与費や材料費に対して効率性効果が大きく寄与していることが分かった。なお、医業費用の約半分を占める給与費において、再編によって医師や事務員の数が大きく減少している一方で、看護師や医療技術員の数は逆に増加しており、平均給与が高い医師の減少分を代替する過程で他の職種の雇用が増加している可能性が指摘された。他方で、残された医師の平均給与や平均経験年数は、再編後に上昇していた。また、再編によって病院規模の縮小が同時に生じていることも明らかになった。 JELClassification Codes:G34, I18, L11 Keywords:病院再編、効率向上効果、パネルデータ分析", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun201/bun201.html"} {"text": "当研究所では、AIをはじめとする新しい技術が労働市場を中心に経済社会に及ぼす影響を理解し、より効果的な経済政策を探るための有益な示唆を得ることを目的として、「AI、ロボティックスと労働市場」をテーマとして国内外の著名なエコノミストを招聘し、国際コンファレンスを開催した。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun201/bun201.html"} {"text": "2004 年から始まった新臨床研修制度の影響でワークライフバランスを考える若手医師が急増した。この状態が 15 年以上放置された結果、医師の地域偏在と診療科偏在が進んだ。今回の研究の目的は、どのように医師偏在が進んだかを明らかにし、その結果を踏まえて2024年開始の医師の働き方改革の影響を考察することである。 本研究では、1996年から2016年の「医師・歯科医師・薬剤師調査」の個票データを用い、診療科名称や地域区分の変更に対応するためのデータ加工を施すことにより、性別、年齢階級別、診療科別、勤務地域別、勤務場所(病院/診療所)別の医師数がどのように推移したかを算出し、過去20年の医師集団の構成の変化を明らかにした。 その結果、(1)1996年から2016年にかけて総医師数は33%増えているが、40歳以下の医師は増えておらず、主に50歳以上の医師の増加による。(2)30歳代の若手医師が過疎地での勤務を行わなくなってきていること、(3)若手男性医師が外科系の診療科を選択しなくなってきていることが顕著であること等が明らかになった。 2024 年度より始まる働き方改革で影響を受けるのは主に大学病院や地域の基幹病院で勤務する外科、救急、後期研修医である。その結果発生することが予測される事態は、(1)夜間診察してくれる医療機関の大幅な減少、(2)癌など手術や検査までの待ちの期間の大幅延長などである。この状態を回避するには、逆説的であるが、働き方改革は進めること、医療のDX化やチーム制の推進などの現場での医療の生産性を高めること、地域における外科や救急の集約化などの改革を、外科と救急を中心に急速に進める必要がある。 JELClassification Codes: I11, I14, I18 Keywords: 医師の偏在、時系列分析、働き方改革", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "地域における医師密度が現職医師の労働供給に対して与える影響は、所得効果と代替効果の相対的な大きさに依存する可能性がある。本研究では、日本の国民皆保険制度における診療報酬制度の下、医師が地域内での医師密度を代理変数とする「競争」に対してどのように反応するかについて実証的な検証を行った。結果、地域での医師密度により、専門分野の標ぼう数を減らしたり、キャリアを変更したり、あるいは、現場での診療から離れたりといった選択をして、労働力供給を抑制する傾向にあることが示唆された。こうした傾向は、とりわけ、地方での診療を行う内科医に顕著な傾向であった。 JELClassification Codes: J01, J22, I11 Keywords: 医師の労働供給、所得効果、代替効果、空間的競争、機械学習", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "本研究では、2002年から2017年までの4回の調査年ごとに約100万人を対象とした「就業構造基本調査」を用い、介護労働者の基本的な特徴、離職理由、他職種・他産業間の労働移動を明らかにし、各地域における介護労働者の適正な賃金水準を明らかにした。 その結果、主に4つの知見が得られた。まず、男性介護労働者の割合は過去15年で増加しており、2017年には20%に達し、OECD(経済協力開発機構:Organisation for Economic Co-operation and Development)加盟国の中では最も高い。また、介護労働者の勤続年数の中央値は5年ごとに約1年ずつ上昇している。しかし、60歳以上の女性介護労働者は同期間に12倍に増加しており、介護労働者の高齢化が急速に進んでいる。 第二に、男性介護労働者の離職の主な理由は「低賃金」であり、女性の場合は「高齢」が主な理由である。高齢化・退職する女性介護労働者を代替するには、男性介護労働者の供給を促進し、離職率を低下させるための賃金引き上げが必要である。 第三に、介護労働者の多くは同一業種、すなわち「医療・福祉業」の中を行き来している。しかし、「卸売・小売業」、「製造業」、「宿泊・飲食業」は、介護労働者の流出先として最も多い業種であり、介護労働者にとっての「競合産業」といえる。 最後に、高齢化が進んでいる都道府県ほど、医療・福祉業従事者比率は高いが、賃金率は低い。特に、高齢化が進んでいない地域の男性介護労働者の賃金の低さは顕著である。 JELClassification Codes: J31, J48, J62 Keywords: 介護保険、介護労働者、地域区分毎の単価、地域間賃金格差", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "人口高齢化がもたらす大きな影響の一つが医療・介護需要の増大である。予想される医療介護需要の増大に対し、社会保障の面からは給付と負担のバランスをいかにとるのかが課題となっている。また、医療や介護を一つの産業としてみた場合、医療介護産業は労働集約的な産業であり、需要の増大に応えられるだけの労働力を確保できるのかが課題となっている。医療・介護需要の増大による社会保障負担の増加で経済成長は落ちるのか。それとも、需要の増加が成長エンジンとなり、そのプラスの影響が他の産業に波及することで経済成長が促進されるのか。また、人口減少により希少な労働力が医療介護産業に集中すれば、他産業にどのような影響が及ぶのか。これらの疑問に答えるため、本稿では多部門世代重複モデル(Multi-sector OLG model)を構築し、これを用いて分析した。分析の結果、医療・介護需要の増大は成長を鈍化させることが示された。また、短期的にはB to C産業でプラスの効果が見られるが、長期的には高齢化に財政再建の効果が加わって、教育産業と不動産業、B to B産業や建設業などが負の影響を受けることが示された。最後に、政府の機械的試算では人材確保に際して他産業との間で競争となる部分が加味されていないため、本研究に比べて就業者数の見込みが高めに出ることが示された。 JELClassification Codes: C67, C68, D58, E17, H51, H55, H68, I15, J11, J20, O41 Keywords: 多部門世代重複モデル、医療・介護、産業構造、就業構造", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "本稿では、2005-2009年の厚生労働省「中高年者縦断調査」結果を用いて、孫の育児と祖母の就業やメンタルヘルスとの関係を検証した。同調査は、2005年時点で50代であった人々を対象とした全国を対象とする大規模調査である。時点間で不変の個人属性をコントロールした分析の結果、祖母が6歳未満の孫の育児を行うと、その就業確率は3.8パーセントポイント低下することが明らかになった。就業している祖母については、6歳未満の孫の育児の週当たり就業時間への影響は0.79時間の減少、週当たり就業日数への影響は0.069日の減少にとどまり、ごくわずかであった。加えて、6歳未満の孫の育児と精神的な負担との関係は有意にはみられなかった。 JELClassification Codes: J22, J14 Keywords: 育児、祖母、就業、就業時間、労働供給、メンタルヘルス", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "保育士不足が問題となっている。保育士の離職率を引き下げるため、政府は2013年から2019年にかけて保育士の処遇改善を目的とした補助金の増額を段階的に行なってきた。この加算は、民間保育所が対象となり、各保育所における保育士の平均勤続年数に紐付けて支給された。本研究では、東京都保育士実態調査を用いて、保育士の処遇改善が労働供給に及ぼす影響を検証した。第一に、処遇加算が実際に保育士の賃金に反映されているかを検証したところ、保育士の時間あたり賃金が7 %上昇していることが明らかになった。第二に、保育士の時間あたり賃金の上昇が労働供給に及ぼした影響を検証したところ、保育士の離職意向が5 %ポイント減少(処遇改善前の平均26%から19%の減少)していることが明らかになった。労働供給弾力性は2.7と非常に弾力的であり、処遇加算が離職率を引き下げた可能性を示唆している。第三に、保育士の離職率をさらに引き下げるために、今後賃金の引き上げが必要であるかを検証した。離職意向のある保育士について、留保賃金と市場賃金を比較したところ、保育士の90%で留保賃金が市場賃金を上回っていた。この結果は、保育士の賃金をさらに引き上げることで、保育士の労働供給を増やすことができる可能性を示唆している。 JELClassification Codes: J8, J21 Keywords: 保育士、労働供給、賃金、処遇改善", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "本稿では認可保育所の保育料の変化に対して未就学児のいる世帯がどのように行動を変化させるのかを検証した。保育料が市町村住民税の課税額によって不連続に決まっていることを保育料が保育所利用に与える影響の識別に利用する回帰不連続法によって、認可保育所の保育料の増加が認可保育所の利用や両親の労働供給に与える影響を推計した。保育料自体は閾値の前後で不連続に変化していることを確認したのちに、この保育料の変化が保育所の利用率や、母親の就業率、両親の労働所得に対して統計的に有意な影響を与えないことを明らかにした。 JELClassification Codes: J13, J22, H40 Keywords: 保育需要、保育費用、母親の労働供給", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "経済状況は就労世代の雇用に影響を与える。就労世代の一部は失業状態となる。私たちは将来の経済状況を完全に予測することはできない。不確実性は予備的貯蓄の動機をもたらす。たとえ、若年世代が子どもを育てる余裕があるとしても、予備的貯蓄のために子育てへの支出をしない。予備的貯蓄を減らす政策が子育て支出を増やすためには有効である。本稿は将来の不確実な所得を伴う出生率内生化モデルを設定し、壮年期と老年期における不確実性が出生率にどのような影響を与えるかを考察する。得られた結果は次の通りである。不確実性のあるモデル経済では失業給付の増加は出生率を引き上げる。しかしこの結果は不確実性のないモデル経済では得られない結果である。不確実性のあるモデルでは、出生率に与える影響の観点から所得移転政策が児童手当と同じ効果を持つ。さらに、本稿では高齢期における労働所得の不確実性は出生率を低水準に留めることを明らかにした。このことは、将来所得の不確実性の減少が出生率の増加をもたらすことを意味している。 JELClassification Codes: J14, J13, J26 Keywords: 高齢者労働、出生率、予備的貯蓄", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "日本は深刻な少子高齢化に直面している。少子高齢化は公的年金や医療、介護といった社会保障関連支出を増加させるとともに、所得税の担い手である労働者数を縮小させることから、財政赤字の拡大が懸念される。本論文では、予想される労働力不足に対する政策として外国人労働者の受け入れがマクロ経済及び財政にどのような影響を与えるかについて、定量的世代重複モデルを用いて分析を行った。外国人労働者は労働力不足を緩和して財政の負担を和らげる効果があるものの、外国人労働者の流入数に関して非常に楽観的なシナリオを仮定してもその効果は限定的で、将来の財政に対する不安を拭い去るのには十分ではない。同時に、異なるスキルをもった外国人労働者の受け入れが、日本人労働者の賃金および厚生にどのような影響を与えるかについても分析を行った。現在受け入れている外国人労働者は低スキル労働者の比率が高いため、その比率を保ったまま受入人数を増やすのであれば、高スキル労働者の賃金への影響は小さい一方、国内の低スキル労働者の賃金を押し下げる効果を持つ。しかし、財政負担の緩和効果のほうが大きいことから、高スキル労働者のみならず低スキル労働者の厚生も改善させる効果があることが示された。 JELClassification Codes: H50, H60, J11 Keywords: 人口高齢化、財政の持続可能性、外国人労働者、賃金格差、スキルプレミアム", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "日本では、高齢化と人口減少が進み、人々は将来に対する不安を抱くようになっている。人々の安心の持続性を高めるための方法を見出すために、まず日本の社会保障の持続可能性に関する基本的な事実を提示する。そして、「持続可能性」の概念を明確にした上で、システムを崩壊させる可能性があるショックに備え、ショックから回復するためのレジリエンス(強靭性)を向上させる方法について整理する。そのような枠組みに基づいて、日本の社会保障の持続可能性を高めるためには、社会保障制度の供給サイドを強化し、効率性、ゆとり、多様性、公平性を向上させることで日本社会の強靭化を図ることが鍵となることを主張する。その議論は、なぜ日本の医療、介護、保育などのケア・セクターにおいて、適切な賃金を支払い、働き方改革を推進し、多様性を高めることが、社会保障の持続可能性を高めるために重要なのかを理解しやすくする。そして最後に、社会保障の持続可能性を長期的に高めるには、やはり将来世代を育成することが重要であり、家族向けの公的支出を増やし、子育てをする家族を支援・強化することが重要であることを示唆する。この章で提示される概念的枠組みが、本号における議論を理解する上で、そして日本の社会保障改革のあり方を考える上で、役立つことを期待したい。 JELClassification Codes: I18, J11, P51 Keywords: 社会保障、持続可能性、強靱性", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun202/bun202.html"} {"text": "本論文では、待機児童問題解決の制度設計を試みる。保育士と児童の比率に関する配置基準など現実に存在する様々な制約を取り扱うため、我々は新しい「制約付きマッチング」のモデルを提案・考察する。規範的に重要と思われる公平性を満たすマッチング(公平マッチング)、特に公平マッチングのうちで全ての応募者にとって同時に最適となるマッチング(応募者最適公平マッチング)が議論の中心となる。我々の主要定理では、応募者最適公平マッチングの存在を保証するための、制約に関する必要十分条件を与え、特に保育園の制約はこの条件を満たすことを示す。 理論分析の結果をもとに、保育園制度の改善案を検討する。具体的には、応募者の保育園に対する希望順位や優先順位に関する自治体の行政データを用いて、保育園の制約のもとでの応募者最適公平マッチングのパフォーマンスを測定する。応募者最適公平マッチングでは現行の制度と比べ希望先の保育園に入れない児童が減少し、更に、より多くの応募者が、より希望順位の高い保育園へ入園できることがデータで確認された。以上の分析により、応募者最適公平マッチングメカニズムを導入することが日本の待機児童問題解消に資すると考えられる。 JELClassification Codes: C70, D47, D61, D63 Keywords: 制約付きマッチング、公平性、待機児童問題、保育園", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "本研究では障害のある人々が包摂される職場の条件を考えるために、まず日米の障害者雇用の現状と課題を概観し、「組織の利益にもつながりうる、公私にわたる相互理解と相互信頼に基づく、障害の有無を超えた普遍主義的配慮の職場内実装と、その公的サポート」が必要であることを述べた。そして事例検討と先行研究のサーヴェイを行い、普遍主義的配慮が満たすべき条件を記述した概念として「高信頼性とjust culture」「心理的安全性」「謙虚なリーダーシップ」「知識共有」を抽出した。次に、こうした概念群と整合的なプログラムの候補として当事者研究に着目した。更にこれら概念で表される文化が組織に実装されている度合いを計測するための日本語版ツールを開発した。更にフィージビリティスタディとして企業向け当事者研究導入講座を開発し提供した。受講生の声から、当事者研究への深い理解が実感とともに得られたことや、職場に当事者研究を導入することで「環境改善・組織変革」「課題解決」「関係作り」など、上記の概念と整合的な効果が期待できるというコメントが得られた。一方で、職場に当事者研究を導入しようとすると「導入前の心理的安全性を確保しにくい」「時間的・感情的余裕の確保が困難」「導入のモチベーションを高めることが困難」「機密情報や個人情報などの保護が課題」「ファシリテーションが難しい」といった障壁などが生じることが示唆された。当事者研究を導入している3つの事例を検討した結果からも同様の効果と課題が見て取れた。これらの知見から、職場に当事者研究を導入することの効果を期待できるとともに、その課題が明らかになった。その課題を乗り越えるためにも、今後は介入研究を通じた効果検証が必要であることが示唆された。 JELClassification Codes: D63, I38, J24, J28, J71, L53, M14, O15 Keywords: 障害者雇用、高信頼性組織、心理的安全性、謙虚なリーダーシップ、知識共有、当事者研究", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "障害者権利条約は、ほぼ非障害者のみを対象としてきた一般制度を非障害者・障害者を対象とした、みんなのための一般制度として再構築することを求めている。本稿では「レラバント(本質的)」と「イレラバント(非本質的)」という2つの概念を対置させることでこの問題を考察する。身分による差別や女性差別を禁止するために身分・ジェンダーを事柄の非本質としたように、障害を非本質的なものとすることが障害者差別禁止では求められる。法的な差別だけでなく、慣習的な差別も解決しなくてはならない。本稿では、歴史的・構造的な差別を受けてきた集団としての障害者の存在を事柄の本質とするアファーマティブ・アクションの位置付けも論じ、一般制度に障害者を組み入れるための特別制度の役割を考察する。具体的な事例として東京大学での在宅就労制度をとりあげ、障害者のための特別制度として導入された当該制度が一般制度に昇華されていく過程を追う。この昇華を通じて、社会全体の質もまた向上していくと結論される。 JELClassification Codes: J7, K38, Z18 Keywords: 一般制度と特別制度、レラバント(本質的)とイレラバント(非本質的)、在宅就労制度", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "本論文の目的は、臨床検査に基づく施術や政策の選択を不確実性下の意思決定問題として定式化し、ミクロ経済学における分析手法を援用することで、より適切な施術や政策の選択に資する点にある。特に乳がん検診とCOVID-19(新型コロナウイルス)のPCR検査を取り上げるが、両者には大きな違いがある。それは、COVID-19のPCR検査にはまだ十分なデータの蓄積がないので、感染(罹患)確率が不明な点である。そこで、本論文ではこの状況を、事前確率が一意に定められない環境での曖昧さ回避的主体の意思決定問題として分析する。既存の文献では、曖昧さ回避的な意思決定主体が検査結果などに基づいて確率評価をアップデートする方法が複数提唱されているが、本論文では、動学的一貫性と帰結主義という2つの条件を満足するアップデート方法をとり上げ、合理的な意思決定への道筋を明らかにする。特に、PCR検査に関して妥当と思われる感度と特異度を仮定すると、動学的一貫性を課すことで、想定すべき偽陽性の(事前)確率の範囲の上限値が、そうでない場合の6倍超大きいことを示す。 JELClassification Codes: D81, I12, I18 Keywords: 意思決定、偽陽性、曖昧さ", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "日本国内の一人当たり医療費には地域差が見られ、都道府県単位では高い県と低い県で3割程度の差がある。本稿は、この地域差を生じさせている要因について、診療者・受療者の行動をミクロ的に根拠付けるデータ-医科レセプトデータと全国消費実態調査の個票データ-を用いたパネルデータ分析によって、需要側要因、供給側要因、その他要因に分解して、それぞれの影響の程度を析出することを目的とする。分析の結果、3つの要因は、いずれかが特に強いとは言えないこと、またその他要因に含まれる数量的に測定困難だが固定効果モデルによってコントロールされる地域の固有差の影響が小さくないこと、この地域の固有差は供給側要因と相関性が高いことが導出された。また、近年利用可能となった豊富な個票データは、医療サービス市場における診療者と受療者の間に存在する情報の非対称性に起因する非効率性を緩和することに利活用できる可能性が示唆された。 JELClassification Codes: I11, I12, D8 Keywords: 医療費、情報の非対称性、Two-partモデル", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "我々は、いくつかの論文にて制約付きマッチング問題の理論を構築してきた。本論文の目的は、2つある。第一に、本稿は、これらの論文に含まれる結果を整理し直す。第二に、その整理された結果に基づき、我々は日本の研修医マッチングに関する政策提言を行う。 制約付きマッチングとは、何かしらの外生的な制約が課されたマッチング問題を指す。代表的な例としては、日本における研修医マッチングがある。ここでは、各47都道府県それぞれに、マッチできる研修医数の上限が設定された。我々の理論はこの制約を守りながら効率的に医師を病院にマッチさせるメカニズムをデザインした。我々は、この例への応用にとどまらず一般的に応用できる制約付きマッチングの理論を構築した。 JELClassification Codes: C70, D47, D61, D63 Keywords: 制約付きマッチング、研修医マッチング、効率性、マーケットデザイン", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "政府が高等教育に投じることができる資源が限られているなか、その資源を有効かつ公平に配分するためには、どのような方法で入学者を選抜すべきなのか。本研究では、明治後期から昭和初期にかけての官立高等教育(旧制高等学校・帝国大学)の入学者選抜制度の変遷に光を当て、どのような目的で選抜制度が設計され、実装されたのかを、経済学のマッチング理論の観点から考察する。さらに、当時および現在に利用可能なデータを用いて、度重なる制度改革の際に争われた論点は実証的にみてどの程度正しかったのか、当時の政策設計はどの程度エビデンスに基づいて立案されていたのかを検証する。 JELClassification Codes: D02, I23, I28, N35, O15 Keywords: 学校選択、能力主義、マッチング・アルゴリズム、教育格差、階層移動", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "本研究では、医学制度を、医学者のあいだで「共通に了解されている知識を確定させるゲームのプレイの仕方(=慣習)」と定義し、医学制度が医学研究に与える影響を考察した。 具体的には、明治時代、国外で陸海軍が脚気惨害に直面した後、脚気対策の方針を決めていた医務局長が次にどのような方針をもった人物を後継者として選んだのかを分析する。当時、脚気対策の方針としては大きく分けて2つあり、通説として白米を食べても構わないとする説(白米説)と脚気予防として白米の代わりに麦飯を与えるべきという説(麦飯説)が存在していた。この白米説と麦飯説をめぐって、陸軍と海軍で異なる医務局長人事がとられたことにより脚気対策の方針および結果が大きく異なるに至った。陸海軍の医務局長人事を歴史的・理論的に分析することで、医学制度が難病に関する知識の集約に与える影響を考察することが本分析の目的である。 以上の分析に当たり、ゲーム理論を用いる。具体的には継承ゲームと呼ばれるゲームを構築する。プレイヤーは先任者1と後継候補者2名からなり、先任者が候補者の中から後継者を選ぶ。明治期日本の陸軍および海軍では医務局の局長は後継者を実質的に指名することができ、継承ゲームがプレイされていた。このようなゲームのもとで、海軍では優秀な後継候補者が自身の情報に基づいた施策を打ち出す均衡がプレイされた。情報が正しく利用されるためには(定説を覆すには)、上司を上回って部下が優秀でなければならないことが示された。一方、陸軍では先任者に同調する均衡がプレイされた。同調均衡においては候補者の情報は失われる。日清戦争のみならず日露戦争においても麦飯を積極的に支給できなかった陸軍の脚気惨害は同調均衡がもたらしたものとみることができる。しかし、いずれの均衡でも情報の集約は起きない。継承ゲームにおいては、1人の情報しか用いられず、貴重な情報を無駄にすることとなる。このように、医学制度が難病に関する知識の集約を妨げることがありうることを示した。 JELClassification Codes: D80, I18, N30 Keywords: 日本陸海軍の脚気対策、継承ゲーム、医学制度と難病", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "本研究の目的は、公的移転と私的移転の観点から日本の再分配機能に着目して検討し、包摂、ひいては包摂的成長について考察することにある。日本の再分配機能は医療、年金に傾倒する社会保障制度を背景に、高齢層に大きく偏ることはすでに指摘されているところである。また、日本的福祉社会と評される社会保障制度にあって、家族による第一義的生活保障機能の大きさが指摘される。そこで、本稿では、年齢差のみならず、世帯構造やコーホート差に着目して、再分配機能の実態を検討する。本分析で用いたデータは厚生労働省が実施する国民生活基礎調査である。ジニ係数や相対的貧困率の算出にあたっては、総所得から社会的移転を除く当初所得と、当初所得に社会的移転を加えて社会的拠出金を差し引いた可処分所得について、世帯人員を平方根で除した等価値を用いる。 本研究の主なポイントは3つある。第1に、日本の再分配効果はライフステージの違い(具体的には年齢層の違い)によって大きく規定され、個々人が所属する世帯構造や氷河期世代と呼ばれる特定コーホートの労働市場における不利さは再分配機能の観点から十分に考慮されているわけではない。第2に、急激な人口高齢化は高齢世帯主の女性化を生み、女性世帯主比率の高さは高い貧困率と密接に関係している。女性が世帯主となるということが社会保障制度として十分想定されておらず、その想定外の状況が高い貧困率と結びつき経済的制裁を受けている。事実、母子家庭や高齢女性の一人暮らしの高い貧困率への対応が再分配の観点から十分対応されているとは言い難い。最後に、私的移転については、親や子が経済的に困窮している状況は世代を超えて私的に支援するという構図は確認されなかった。むしろ、親から子への教育を通した人的資本投資が確認され、親から子への相対的なリスク回避機能が提供されている状況が仕送りを通して垣間見られた。 以上、当初所得と再分配所得に着目した再分配の状況から見る限り、年齢のみならず、世帯構造やコーホート格差、さらにはジェンダー格差を考慮したより包摂的な対応の検討が求められる。1時点的な富める者から貧しい者への再分配という構図を超えて、教育や就労といった機会の平等という観点から再分配機能をより発展的に包摂の概念を捉えることが重要である。 JELClassification Codes: D22, D25, D81 Keywords: 高齢化、世帯変動、再分配効果、ジェンダー格差", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "「自助・共助・公助」という言葉は、社会保障や防災など社会的なリスクの負担が問題となる場面で登場する。本稿では、日本の社会保障においてこの言葉がどのように解釈されてきたかを振り返った後、付随して援用される「補完性原理」について検討する。この検討を通じて、「原則として自助、自助では解決できないときは共助、そして共助でも解決できないときにはじめて公助」と考える必然性は乏しいことを主張する。次に、「互助」または「共助」の担い手について、いくつかの調査結果を使いながら考察する。そこでは、「自助・共助・公助」論で正面から取り上げられていなかった市場が新たな「互助」や「共助」の担い手になりうる、ということを示す。その場合、市場を「自助・互助・共助・公助」の階層構造に統合することなく、冗長性をもたせた制度設計を行うことが重要である旨もあわせて指摘する。 JELClassification Codes: I30, K30, P46 Keywords: 補完性原理、法制度、市場、互助、冗長性", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "日本の障害者雇用政策は、障害者を「労働市場へと包摂」することに比重を置いてきた。そのなかで、2013年の障害者雇用促進法の改正では、差別禁止概念が導入され、「労働市場における包摂」にも変化が生じることが期待された。しかしながら、改正法の施行後も、障害者雇用における職務分離は維持ないし促進されているため、本稿は、「労働市場における包摂」をテーマに問題分析を行なった。本稿では、「社会的包摂」概念の利点を引用し、労働市場における「包摂/排除」を、「統合/分離」と「参加/疎外」に分解し、市場内の「包摂性」が最も高い状態を「統合&参加」とする枠組みを用いている。雇用分野では教育分野のように「統合」か「分離」かが大きな問題関心とならず、「統合&疎外」よりも「分離&参加」が優勢であること、その原因は、雇用率制度を中心とする法制度、学校教育における職業教育にあることを明らかにした。また、障害者に関しては非障害者との空間的、制度的近接性(「統合」)を進めると、労働によって得られる達成の程度(「参加」)が下がるというジレンマ状況が、「統合&参加」を困難にしているとの想定を起点として分析を進めたところ、むしろ、既存の仕組みを前提にした議論が「統合&疎外」と「分離&参加」の根底にあり、現在の労働政策である「働き方改革」や「合理的配慮」が、変化をもたらす可能性について本稿では論じている。 JELClassification Codes: J70, J71, J78, M14 Keywords: 障害者雇用、労働市場における包摂", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun203/bun203.html"} {"text": "本稿の目的は、新型コロナパンデミックが日本の家計に与えた影響について、就業、消費、家庭の観点から、これまでの経済学分野の実証分析が示した事実を展望することによって、現時点での整理と評価を行うことである。就業に関する研究では、労働機会や収入に対するパンデミックからの負の影響が、対人サービスや人流を伴う業種、テレワーク等柔軟な働き方の困難な職種に大きく偏って発生したことが、多様なデータと手法で示された。これらの部門には非正規雇用が多く、さらに、非正規雇用に若年層や女性が多いため、それらの階層に労働機会と収入の損失を生じさせた。家計消費に関する研究では、収入減少および感染危惧という2つの要因による消費支出の減少が分析されている。前者は、定額給付金の効果の分析を通じ、流動性制約下にある家計の消費がより収入の影響を受けやすいことを示した。後者は、高齢者層で、感染危惧から外出を伴う消費機会が減少したことを指摘した。家庭に関する研究は、テレワークや育児負担に関するものが多かった。パンデミック下で普及したテレワークは、恵まれた条件の労働者が従事する傾向があるため、働き方格差を拡大させうるが、家庭へのコミットメントを高め、家族のウェルビーイングを改善する効果もある。学校閉鎖等による家事・育児負担の増大は、特に女性の雇用やメンタルヘルスに負の影響を及ぼした。 JELClassification Codes: D10, J21, J81 Keywords: パンデミック、家計行動、格差", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun204/bun204.html"} {"text": "本稿では、新型コロナ感染症の影響が企業活動に与えた影響、企業が行った対策、政府が行った企業に対する支援策に関する先行研究の成果を取りまとめた。第1に、日本経済は諸外国に比べて回復のスピードが緩慢な中にあって、政府の支援措置の効果もあって企業の倒産数は増えていない。企業は売上の減少など実物面のショックを受けたが、金融機関を通じた資金繰り対応、休業・休職を通じた雇用面での対応を行うことでショックに対応した。コロナショック前から資金繰りが悪い企業が世界金融危機時の前よりも多く存在しており、政府が講じた支援措置の中では、民間金融機関を通じた無利子・無担保、政府系金融機関の無利子・無担保の制度の利用が最も多かった。コロナショック前の信用リスクが高い企業ほど政府系金融機関による貸出を申請しているが、ゾンビ企業の割合がコロナショック時に世界金融危機時よりも増加しているとの結果は現在までのところ報告されていない。第2に、コロナの影響が大きい宿泊業に関する支援策であるGo Toトラベルの評価について先行研究では様々な結果が報告されている。またサービス業の生産性を向上させるためには稼働率を平準化させることが重要で、そのためにも時間に関する柔軟な働き方が重要になってくることが指摘された。第3に、新しい働き方がコロナにより強制的に導入された経緯があるが、在宅勤務の実施には企業のマネジメント能力やテクノロジー、無形資産の蓄積が重要になってくること、在宅勤務の生産性は職場勤務に比べて低いものの、徐々に上がってきていることが示された。今後も感染予防の観点からも在宅勤務など新しい働き方を続けていくことが望まれている。新しい働き方に即した環境整備を企業は今後も続ける必要があろう。 JELClassification Codes: E00, E60, G20, H32 Keywords: 企業、無利子・無担保融資、ゾンビ企業、在宅勤務", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun204/bun204.html"} {"text": "新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大という形をとったパンデミックは、日本の経済社会にも多大な影響を及ぼしつつある。その影響は、感染拡大や各種規制を受けた人々の行動変容、医療供給体制、雇用、教育、家庭生活、厚生など、様々な面に幅広く、しかも深刻な形で及んでいる。それに呼応して、多くの研究が国内外で発表されつつある。本稿では、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響に関して、マクロ経済や企業行動、消費行動など狭い意味での経済活動以外の変化を行動変容として一括する。そして、行動変容に関してこれまで公表された主要な研究のうち、国内のデータに基づいて行われたものを中心にして取り上げ、得られた知見とそこから読み取れる政策的な含意を整理する。多くの研究が明らかにしているように、パンデックの影響は人々の社会経済的属性に大きく左右されており、その不平等な影響への対応が重要な政策課題となっている。 JELClassification Codes: I12, I14, I24, I31 Keywords: 行動変容、テレワーク、精神健康", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun204/bun204.html"} {"text": "本フォーラムは、経済社会総合研究所が、令和3年度の国際共同研究プロジェクトの「コロナショックから何を学ぶか」の研究成果を幅広く周知するとともに、将来の類似の危機に対する経済社会面での知的備えを深めることを目的に開催した。本稿では、本フォーラムのパネルディスカッションの概要を紹介する。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun204/bun204.html"} {"text": "本研究では、Kikuchi and Nakazono (forthcoming) に従い、インフレ期待に関して新しい計測手法を提案する。インフレ期待を変化率の見通しではなく、物価水準の見通しとして調査することで、インフレ期待の計測に関するいくつかの問題を解決できることを示す。また家計のインフレ期待形成に関する新しい知見も提示する。具体的には、コロナ禍における経済環境の変化を外生的な変化ととらえることで、家計レベルで観察された所得ショックが、物価見通しに影響を与えたことを示す。この結果は、ミクロ的なショックがマクロ的な期待形成に影響を与えうることを示唆している。 JELClassification Codes: C53, D84, E31 Keywords: 期待の不一致、期待(expectations)、期待の偏り、異質的なショック、所得ショック、インフレ、期待の丸め込み、スタグフレーション", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun204/bun204.html"} {"text": "当研究所では、「イノベーション、生産性向上に向けた企業投資」をテーマに、イノベーションの担い手である企業の投資行動等を中心にNBER 及び国内のエコノミストの参加を得て、議論を深めるため、「ESRI 国際コンファレンス2021」を開催した。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun204/bun204.html"} {"text": "本稿では、地球温暖化における緩和策に焦点を当てつつ、GX(グリーン・トランスフォメーション)に向けてわが国に求められるイノベーションとイノベーションを促すために求められる政策の考え方について、文献を選択的にサーベイしつつ論じる。まずGXに共通するイノベーションのもつ性質を説明し、イノベーション政策の必要性について検討する。同時に、研究開発において求められる視点についても、経済学の文献を踏まえて解説する。その上で、イノベーションを促進するのに必要な4つの視点を提供し、それぞれについてGXの観点から政策に求められる検討事項について触れる。特に、市場競争の観点からは、温室効果ガスの可視化の重要性、消費ベースでの温室効果ガス排出量計測の必要性、そしてエンゲージメントの重要性について指摘する。 JELClassification Codes: D85, H23, H32, L52, O33 Keywords: 温室効果ガス、イノベーション、科学、市場規模、技術機会、専有可能性、市場競争", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "適切なエネルギー環境政策を導くために、戦後日本の経済成長に伴い持続的に実現してきたエネルギー生産性の改善(energy productivity improvement: EPI)の経験から何を学ぶことができるだろうか。本稿は、マクロ的に観察されるEPIのグロス指標の内に含まれる構造変化、とくに2000年代後半からのEPI加速要因を考察しながら、政策的なインプリケーションを導くことを目的としている。本稿での測定によれば、戦後日本の持続的なEPIの実現において、政策的な推進による加速はとくに認められず、むしろ2000年代後半までの改善スピードは半世紀にわたり大きく逓減してきたことが見いだされる。そして近年のEPI加速は、エネルギー多消費的な財の海外生産シフトによって嵩上げされており、またエネルギー消費の抑制を求められた国内産業は資本生産性や労働生産性を犠牲とする反作用を伴うものとなったと評価される。エネルギー価格変化を含む評価では、2021-22年において日本経済の直面する実質単位エネルギーコストは急激に上昇し、エネルギー価格高騰への脆弱性は戦後最大レベルにまで高まっていることが示される。数十年を要するエネルギー転換において、国内での拙速な排出削減に執着せずに、移行期の経済効率を確保することが求められる。 JELClassification Codes: D24, L60, O44, P18, Q43 Keywords: エネルギー生産性の改善(EPI)、全要素生産性(TFP)、実質単位エネルギーコスト(RUEC)、実効輸入依存度(EID)", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "日本政府は温室効果ガス排出量を2030年に2013年比46%削減の目標を掲げた。そしてそれを「経済と環境の好循環」を実現して達成するとしている。しかしながら、その道筋は明確にはなっていない。本稿では、海外諸国の2030年排出削減目標と日本の目標のCO2限界削減費用を比較した。日本や主要先進国の限界削減費用は高い一方、途上国を中心に低い費用と推計される目標も多い。限界削減費用の差異により炭素リーケージのリスクが大きくなる。また、一般均衡型のエネルギー・経済モデルにより、日本の経済影響についても分析した。CO2排出削減対策への投資増大効果は推計されるものの、消費と純輸出の低減によってGDPは減少すると推計される。国境炭素調整措置の導入により、一部影響は緩和されるものの、大きな効果は期待できないことも示した。世界各国の限界削減費用に大きな差異がある現状において、「経済と環境の好循環」の実現は容易ではなく、効果的な気候変動政策の立案のために、「好循環」の実現のための条件を明確化していく必要性を指摘した。 JELClassification Codes: D58, Q43, Q54 Keywords: エネルギー経済モデル、温室効果ガス排出削減、国境炭素調整", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "環境配慮型社会において、グリーン・ビルディングに関する研究が注目されるようになってから十年以上が経過した。グリーン・ビルディングの条件を満たすためには、不動産の所有者は、その性能を具備するために、投資が要求される。グリーン・ビルディングは、不動産市場のアウトプットにおいて、投資に見合った経済価値が存在しているのかどうかといった研究は、欧米を中心ら多くの蓄積がある。本研究では、2011 年から 2022 年までの東京オフィス賃料のデータセットを構築し、ヘドニック法を用いてグリーン・ビルディングの賃料プレミアムを推計した。その結果、環境認証の付いたオフィス物件は、平均して契約賃料に対して約 1.5%のプレミアムを獲得していることが分かった。東京のオフィス市場は不均一であり、グリーン・プレミアムを同定する際には内生性の問題がある。本研究では、リノベーションの効果と合わせて、傾向スコアクラスタリングにより内生性の問題に対処した。リニューアル投資の確率に基づき、市場を層別化したうえで、セグメントごとのヘドニック・モデルを推計すると、リニューアル確率が低いと推定されたサンプル集団におけるグリーン・プレミアムは、-0.022 (0.007) と負で有意となる一方で、リニューアル確率が高いと推定されたサンプル集団では0.029 (0.014) と正で有意な結果、リニューアル確率の中間のサンプル集団では統計的に有意ではなかった。 JELClassification Codes: C21, D10, R21, R31 Keywords: グリーン・ビルディング、ヘドニック・モデル、環境認証、リニューアル、傾向スコア", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "本稿の目的は、日本経済団体連合会(経団連)が取りまとめている、気候変動問題に対する経済界の主体的取組「経団連カーボンニュートラル行動計画(CN行動計画)」の概要とこれまでの成果を紹介することである。 CN行動計画には62業種が参加しており、CN実現に向けたビジョンの策定に加え、国内事業活動からの排出抑制(第一の柱)、主体間連携の強化(第二の柱)、国際貢献の推進(第三の柱)、2050年CNに向けた革新的技術の開発(第四の柱)に取り組んでいる。 今年度のCN行動計画フォローアップ調査(2022年11月公表)では、ビジョンを策定済みの業種数は36業種、2030年度目標を見直した業種数は19業種となり、それぞれ取組みが加速していることが確認された(経団連 2022a)。 また、参加業種における2021年度のCO2排出量は、2013年度比で17.7%減少した。新型コロナウイルスの影響を注視する必要があるが、これまでの経団連の気候変動問題に関する取組みは着実な成果をあげていると考えられる。 2050年カーボンニュートラル、2030年度の温室効果ガス排出量46%削減に向けては、経済社会全体の変革である「グリーントランスフォーメーション(GX)」を推進する必要がある。経団連は、引き続き、CN行動計画を中核に、GXに向けた主体的取組みを進めていく(経団連 2022b)。国内での事業活動からの排出削減はもとより、グローバルに広がるバリューチェーンを通じた削減にも取組み、わが国、そして、地球規模でのCN実現に貢献していく所存である。 JELClassification Codes: Q01, Q55, Q57 Keywords: カーボンニュートラル行動計画、経済界の取組み、グリーントランスフォーメーション", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "パリ協定以降、気候変動対策を最優先課題として取り組んできた国々は、ロシアによるウクライナ侵攻で石油危機以来のエネルギー安全保障の課題に直面し、その重要性を再認識することとなった。気候変動対策のために導入が進められてきた再生可能エネルギーだけではガス供給不足による電力不足を十分に代替供給できない中、ウクライナ危機だけでなく複合的な理由から、日本を含む各国でエネルギー・環境政策の見直しが迫られている。例えば、欧州における原子力やLNGの役割の見直しや、自由化市場における電力需給ひっ迫の課題である。 2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、電力部門以外でのエネルギー利用への対応が重要であり、水素・アンモニアが有望視されているほか、二酸化炭素隔離などの新技術の重要性が増している。そして新たな安全保障上の脅威として、移行期の利用が続く化石燃料資源の寡占を招く危険性やクリティカルミネラルの偏在性への対応の重要性について指摘する。 JELClassification Codes: Q34、Q47、Q58 Keywords: エネルギー安全保障、電力需給ひっ迫、クリティカルミネラル", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "近年では気候変動問題において、金融部門の役割に関する議論が高まり世界的な取り組みが拡大している。本稿は、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資のパフォーマンス並びにグリーンボンドにおけるグリーニアム(普通債と比して低い利回りとなる現象)に関する定量分析のサーベイを行った。全般的なESG投資パフォーマンスに関する定量分析は数多くあり、特に、ESG(あるいはCSP(企業の社会・環境パフォーマンス))と企業の財務パフォーマンス(CFP)との関係性においては、統計的に有意な正の頑健性のある関係が存在すると主張する文献がある一方で、正の関係性以外にも、無相関並びに負の関係性もみられることから、その見方は一般化できないと主張する研究も存在する。また、統一的な見解が見いだせない理由としては、定量分析のベースとなる理論、対象地域や期間、ESG投資パフォーマンスの定義、そして、分析手法の違い等が要因であると考えられている。また、債券市場におけるグリーンボンドのグリーニアムの存在に関しても、実証的な結果は様々であり、その要因として、市場タイプ(発行市場あるいは流通市場)、債券発行体(国際機関あるいは金融機関)及び推計手法の違い等により、現段階では統一的な見解は示されていない。今後、データが蓄積されていく中で、更なる研究が望まれる。 JELClassification Codes: G12,H87,Q54 Keywords: 気候変動問題、気候ファイナンス、ESG投資、株式市場、債券市場", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "気候変動問題への対応が喫緊の課題となる中、脱炭素社会の実現に向けた取組の効果を「見える化」するため、経済活動の環境への影響を捉える統計や指標を整備することは重要な課題である。内閣府経済社会総合研究所では、脱炭素の観点から経済活動の環境への影響をGDPに反映させる指標の調査研究を開始しており、OECDの分析枠組みに基づき温室効果ガス等の排出削減努力を経済成長率にプラス評価する「汚染調整済経済成長率」や、国際基準SEEAに準拠し、日本の国民経済計算と整合的な産業分類による「大気排出勘定」の暫定的な試算を行い、2022年8月に公表した。 1990年代以降の日本の温室効果ガス等の排出量の動向をみると、二酸化炭素は景気動向を反映して増減を繰り返してきたが、近年は再生可能エネルギーの導入拡大や省エネの進展等を反映して減少している。メタンや非メタン揮発性有機化合物(NMVOC)は長期的に減少している。 OECDの分析で得られたパラメーターと日本のデータを組み合わせて試算した「汚染調整済経済成長率」は、1995~2020年の年平均で1.04%となった。実質GDP成長率0.57%に対し、温室効果ガス等の削減の効果を表す「汚染削減調整項」が0.47%ポイント押し上げた結果である。排出物の種類別には二酸化炭素削減の寄与は小さく、メタンや非メタン揮発性有機化合物の削減による寄与が高くなっている。 JELClassification Codes: E1, O4, Q5 Keywords: 経済成長、SEEA、大気排出勘定", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "本稿では、カーボンニュートラルの日本経済への影響や政策効果の見える化のための統計整備等に関する内容を明らかにすることを試みる。具体的には先ず国際基準である、環境経済勘定セントラルフレームワーク(System of Environmental-Economic Accounting: Central Framework)と環境経済勘定・生態系勘定(System of Environmental-Economic Ac-counting: Ecosystem Accounting)、また国際基準とはなっていないが、環境経済勘定を補完する環境経済勘定・応用と拡張(System of Environmental-Economic Accounting: Application and Extension)を概説する。さらに環境経済勘定の国際的な実装状況と、とくに整備が進んでいる欧州共同体環境経済勘定の概要にふれた後、環境経済勘定の気候変動に関する政策的利用の枠組みと、幾つかの国際的な事例を明らかにする。 JELClassification Codes: C82, E01, Q56 Keywords: 環境経済勘定(SEEA)、国民経済計算体系(SNA)、自然資本", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "温暖化対策が世界全体としての重要な政策課題になり、各国において今後、積極的な温暖化対策が採用されていく可能性が高い。そのような対策の考案にあたっては、様々な政策の定量的効果についての情報が重要になるため、シミュレーション分析のアプローチであるCGE分析が温暖化対策の分析において幅広く利用されるようになっている。しかし、日本ではCGE分析の利用者が少ないこともあり、温暖化対策のCGE分析についてあまり理解が進んでいない。 そこで本論文では、温暖化対策を対象とするCGE分析の理解を深めるために、CGE分析という手法を説明するとともに、最近の温暖化に関連するCGE分析の動向についてまとめている。まず、第2節でCGE分析がそもそもどのような分析手法で、どのような利点、欠点があるかを説明する。次に、第3節で、実際のCGE分析の例と著名なCGEモデルであるMITのEPPAモデルを紹介し、CGE分析でどのようなモデルが利用され、さらにそれを使ってどのようなことが分析されているかを具体的に説明している。さらに、第4節では、エネルギー、環境に関連するモデルの比較をおこなうプロジェクトを運営するEMFを紹介し、近年のモデル分析の動向について説明している。 JELClassification Codes: D58,Q40,Q54 Keywords: 応用一般均衡分析、CGE分析、温暖化対策", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "当研究所では、ポストコロナに向けて全世界的に変貌を遂げる経済社会を展望し、課題となる政策の方向性を探るとともに、ポストコロナの経済社会において重要となる政策課題について、実証分析に基づく学術的な議論を行うため、「ポストコロナの経済社会」をテーマとして国内外の著名なエコノミストを招聘し、「ESRI国際コンファレンス2022」を特別セッションである国際ラウンドテーブルを含めて2日間にわたり開催した。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun206/bun206.html"} {"text": "景気動向分析、経済予測を行う民間調査機関の重要な役割のひとつは、経済成長率、物価上昇率などについて精度の高い予測値を作成することである。民間調査機関による実質GDP成長率の予測誤差は1980年度から2022年度までの43年間の平均で1.33% (平均絶対誤差)である。実績値が予測レンジ(予測値の最大値~最小値)から外れることも少なくないが、政府経済見通しと比べれば、民間調査機関の予測誤差のほうが小さい。景気の転換点に関する判断は遅れがちだが、成長率の予測値は景気拡張期に上振れ、景気後退期に下振れる傾向がある。このため、予測値の修正方向が景気の転換点を判断する上で有益な情報となりうる。 社会経済情勢の変化に伴い、足もとの景気動向を的確に把握した上で、短期間で予測値を作成することが求められるようになっている。また、従来よりも予測期間を延長する時期が早まり、経済見通しの予測期間が長期化している。 近年は、短期間で景気が大きく変動するケースが増えたことから、足もとの景気動向をより迅速に把握する必要性が高まっており、従来のマクロ経済統計を用いた分析だけでは対応しきれなくなっている。そうした中、オルタナティブデータの有用性が高まっているが、データの制約上の問題もあり、継続的な景気分析に用いるためには課題が多い。内閣府が月次GDPを公表するようになれば、景気動向の迅速かつ的確な判断に資する可能性がある。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "長期的に見ると、景気のトレンドが低下し、在庫投資や設備投資の変動が小さくなっている。その背景には、経済のサービス化、グローバル化、DX、研究開発投資の拡大などの経済構造の変化がある。こうした中で、第16循環の山(2018年10月)付近においては、景気動向指数(一致指数)と実質GDPの動きに乖離が見られたが、その要因としては、外需の減少ペースが景気を一気に冷え込ませるような急激なものではなかったことが大きい。加えて、労働市場では、人口減少下で女性や高齢者を中心に労働市場に参入する人が増え、雇用所得環境を下支えしていた。コロナショック後は、賃上げのモメンタムが強まっている。今後、労働市場の構造変化がどのように進むのか、それが景気循環にどのような影響を与えるのか、注視していく必要がある。 こうした景気循環の特徴の変化やその背景にある経済構造の変化を踏まえると、景気循環を適切に捉えるためには、第一に、景気循環の転換点を敏感に捉える必要があることに変わりはないが、一方で、第二に、生産に過度に重点を置かず、より幅広い指標を観察すること、第三に、経済の全体的な動向を捉えるという観点から、実質GDPの動向にも留意すること、が必要となろう。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "1960年8月以降今日に至るまで、毎月継続的に公表されている景気動向指数は、基本的な構成を今日まで維持してきたが、日本経済を取り巻く環境が変貌する中で、抜本的な見直しの必要性が指摘されるようになった。内閣府経済社会総合研究所では、景気動向指数のあり方について基本に立ち返って検討を行い、その成果として、2022年7月に「景気を把握する新しい指数(一致指数)」(「新一致指数」)を公表した。「新一致指数」は、経済のサービス化、ソフト化の進展により、財とサービスの動きにデカップリングがみられるようになったことを踏まえ、経済全般に及ぶ共通的な変動を前提としたこれまでの景気の捉え方を再考し、経済活動の総体量の変動に着目することにより策定されたものである。また、幅広い指標を組み合わせること、生産・分配・支出の三面から捉えること、民間部門の自律的経済活動を捉えることも基本的な考え方とし、具体的な指標構成とそれらを合成する手法を考案した。「新一致指数」の動きをみると、現行の景気動向指数(一致指数)と概ね同じ方向に変動しているが、振幅の大きさがやや小さくなっていること、現行の景気動向指数(一致指数)と比べて実質GDPと類似した動きとなっていること等が確認できる。「新一致指数」が適切な景気の指標となり得るか否かについては、今後データを蓄積していく中で十分に吟味していくべきである。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "国内総生産(GDP)及びその需要項目別内訳の季節調整系列は、四半期別GDP速報(QE)公表の都度、全ての期間を対象に季節調整をかけ直すため、毎回、過去に遡って計数が改定されることとなる。こうした改定について、何らかの甚大な経済的ショックが起こった際、速報段階で異常値処理を行わないことで、過去の成長率がQE公表の度に連続的に改定されることがある一方で、暫定的な形で異常値処理を行うことで、過去の成長率の改定が抑制される可能性も示されている。そこで本論文では、(A)リーマン・ショックを契機とした世界的景気後退期及びその後の回復期(検証期間:2008年1-3月期~2009年7-9月期)、(B)甚大な経済的ショックによる影響があまりみられないと思われる期間(検証期間:2017年1-3月期~2018年7-9月期)の2つの期間を取り上げ、仮に年次推計を待たずに速報段階で暫定的な異常値設定をすることで、過去の計数の改定を抑えることができるかどうかの検証を行った。こうした検証を通じて、季節調整を通じた過去計数の過度な改定の抑制を実現し、速報値の正確性向上につながることが期待される。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "オルタナティブデータという言葉を新聞や雑誌で頻繁に目にするようになってきた。経済の様子を知るためのデータといえば、これまではGDPなどの政府統計や企業の財務諸表だった。株式市場で売り買いする投資家の意思決定の元になったのはこうしたデータだ。これらは「伝統的」データとよばれている。伝統的データの代替物(=オルタナティブ)という意味でオルタナティブデータとよばれるものが登場してきた。例えば、スーパーのレジで蓄積されるPOSデータや、クレジットカードの購買履歴データ、スマホの位置情報データなどだ。オルタナティブデータはパンデミック前から存在していたが、一部の金融機関や投資家が使うにとどまり、認知度はさほど高くなかった。しかし、パンデミックを機に広く使われるようになり、パンデミック後も使用が拡大を続けている。本章では、最初に、オルタナティブデータの現状と先行きを展望するとともに、その使用の拡大とともに起きる可能性のあるいくつかの課題について考察する。続いて、パンデミックを題材にとり、オルタナティブデータの使用実例として、(1)スマホの位置情報データを用いた消費者行動の変化に関する分析、(2)クレジットカードの履歴データを用いた消費者‐店舗間のネットワーク構造の変化に関する分析を紹介する。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "本稿では、テキスト情報を利用して、政府統計よりも速報性の高い景気動向指数を作成する方法と日本経済への応用例を概観する。分析手法に関しては、重要な単語の出現頻度に着目する辞書アプローチと、自然言語処理のモデルをテキストデータから学習する機械学習アプローチの2つに分類して整理する。辞書アプローチの中では、古典的なセンチメント分析が、特に計算や経済学的な解釈の容易性の観点から、現在でも十分有用性が高いと考えられる。ただし、その指数の作成過程では、マクロ経済ドメインに特化した極性辞書の利用やテキストデータの慎重な前処理作業が不可欠である。一方で、純粋な予測精度向上の観点からは、文脈を含めたテキスト情報を有効に反映できる機械学習アプローチが望ましい。今後は、新しい言語モデルの景気動向分析への応用が益々増加することが予想される。同時に言語モデルは近年急速に進化し大規模化しているため、モデルが変更された場合の過去系列の遡及推計や指数の継続性は重要な課題である。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "本稿では、景気判断実務におけるGDPナウキャストの活用を目的とし、政府の「月例経済報告」における経済動向の評価とGDPナウキャストより得られる経済動向の評価の関係性を検証する。 両者ともにリアルタイムに観察されるデータをもとにデータと整合的な評価が行われるとすれば、両者による経済動向の評価は自ずと整合的になると考えられるが、本稿での検証を通じて、限られた経験に基づく結果ではあるが、GDPナウキャストの予測値が“連続して”、“同一方向へ”、“一定程度大きく”改定されるような局面で、「月例経済報告」においても経済の現状に関する基調的な判断がGDPナウキャストの改定と整合的な形で修正される傾向が示された。こうしたことは、GDPナウキャストに大きな改定が見られる際には経済動向に関する従来の見方に変更が迫られている可能性が高いことを示唆し、景気判断を行う上での1つの材料として利用する可能性も考えられる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "筆者は、景気循環や物価変動などのマクロ経済現象を個別主体の集団運動と捉え、統計物理学の考え方や手法を援用して実証的にアプローチしている。その一環として、実際のデータ群から集団運動を検出する方法として、複素ヒルベルト主成分分析(CHPCA)法を最近開発した。CHPCA法の計算の複雑さは、実数データに基づく従来のPCA法と同程度であり、CHPCA法を使って多変量間の動的相関構造を分析することは容易である。この解析手法を用いると、景気動向基礎指標間のリード・ラグ関係を機械的に抽出することができることを示す。つまり、景気動向の先行・一致・遅行指数を構築するために必要な基礎指標の選択をより客観化できる可能性がある。加えて、CHPCA法を用いて景気ウォッチャー調査データの景気本体に対する先行性について検討した結果を報告する。景気ウォッチャー調査データは先行基礎指標として非常に有望であることがわかる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "伝統的な統計調査に比べ、高頻度で速報性の高いオルタナティブデータには、迅速な経済動向の把握や政策判断のツールとして、国内外で注目度が高まっている。本稿では、オルタナティブデータのひとつであるスーパーのPOSデータを用いて、我が国の食料品価格の動向が需要側・供給側のいずれの要因によるものかを分析した。分析の結果、コロナ禍以降は需要側の要因での変動もみられるものの、22年以降は総じて供給側の要因で価格が変動していることが示唆された。また、こうした供給側要因での価格変動が、様々な品目に波及し家計の購買行動にも影響を及ぼしていることが確認された。オルタナティブデータの整備・発展は途上段階にあり、景気判断への活用には様々な課題が残されているが、こうしたデータの活用は先進諸国に共通してみられる動きであり、我が国でも活用に向けた動きが進んでいくことが期待される。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "本稿では、欧州におけるビッグデータや非伝統的データを用いた新たな経済分析手法について、欧州委員会、欧州中央銀行、ドイツでの活用事例を取り上げて紹介する。デジタル化の進展により使用可能となったデータの活用、経済情勢が激しく変化する中でその変化を迅速に把握するための様々な取組が含まれている。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "本稿では、米国でのオルタナティブ(代替)データ及びそれを用いたナウキャスティングや様々な分析の取組について、公的機関と民間機関に分けて、それぞれの概要を紹介する。公的機関ではGDPなど景気動向全体のナウキャスティングが目立つのに対し、民間機関では人々の消費行動など、よりミクロな分析を試みている例が多い。 経済分析に代替データを使用することはまだ比較的新しい手法であるため、個人情報保護の観点からのデータの適切な取り扱いが懸念されており、今後規制が進み、データ使用に制約が生じる可能性がある。また、新型コロナウィルスによるパンデミック以降、代替データを用いた分析の精度の低下も指摘されている。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "本稿の目的は、不確実性が高まり、景気予測のニーズが増大する中で、民間のコンセンサス予測として「ESPフォーキャスト調査」がどのような意味を持っているのかを検討することである。情報通信技術(ICT)の発展は、景気に関する大量の情報を瞬時に入手して予測することを可能にした一方、景気の先行きに不確実性をもたらし、景気予測のニーズを増大させている。その中で、「ESPフォーキャスト調査」の役割として、第1に景気の先行きの参考となる基準を示すこと、第2に市場の期待形成を解明するための情報を提供すること、第3に景気のリスクや望ましい政策に関する民間エコノミストの多様な考えを紹介することが期待される。予測に不確実性はつきものだが、不確実性に関する情報として、確率の平均分布に加えて、蓄積されたデータからコンセンサス予測のバイアスの方向性や実績値が50%の確率で入る区間についての指標も開発された。景気判断に資するために、エコノミストが平均的にみる景気の転換点の確率を算出したところ、山は60%を超えて90%に近づくかどうか、谷は70%を超えるかどうかが注目点となる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "当研究所では、NBER(全米経済研究所)、外部有識者等の協力を得て、2001年より継続的にESRI国際コンファレンスを開催している。今回は長期的な課題である人口動態に焦点をあて、「人口変動と経済成長」をテーマに開催した。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun208/bun208.html"} {"text": "コロナ禍を経た日本で、デジタル化の遅れを取り戻す動きが盛んになっている。しかし、統計データの制約から IT 投資とそれに伴う人材育成や組織改革を組み合わせた包括的なデジタル化に関する定量的な分析は少ない。一方で従来型の投資ではないクラウド・サービスや生成AIなどの新たな情報サービスの利用形態も現れている。そこで本稿では、統計データの制約の下で、生産に寄与する IT 資産及び IT サービスの計測に関する新たなアプローチを試みる。またデジタル化を政府が推進する背景には、スピルオーヴァー効果の存在があるが、本稿では公的部門と情報サービス産業からのスピルオーヴァー効果に焦点をあてた推計を行う。推計の結果、これらの産業からのスピルオーヴァー効果が確認されたことから、もしスピルオーヴァー効果を重視するのであれば、政府の支援は情報サービス産業を中心にした方が望ましいと考えられる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun209/bun209.html"} {"text": "2010 年代半ばから、GAFA 等が台頭しデータの経済的な価値が注目を浴びる中、国民経済計算としてもデータの価値を正しく捕捉することが求められている。 内閣府経済社会総合研究所では、データの資本化について、将来の実装を見据えて 2022年度より基礎的な研究・検討を進め、諸外国の先行研究を参考として、データ等の産出額の暫定的な試算を行い、2023年5月に公表した。 2020 年時点の名目産出額は、データが6兆 7,500 億円、データベースが1兆 1,360 億円、データ分析が5兆3,610億円となり、直近の 10 年間で増えていることが分かった。諸外国の試算結果とおおよそ比較できるように複数の試算を行ったところ、規模、GDP成長寄与度は同程度であった。 現時点で概念及び実務上の論点が多く残っており、今後公表予定である推計ハンドブック等で国際的に統一的な指針が示されることが期待される。内閣府経済社会総合研究所としても、引き続き、積極的に国際議論へ関与していく。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun209/bun209.html"} {"text": "本稿では、組織におけるデータ利活用と組織能力との関係について、既往の研究を踏まえて理論的枠組みを提唱し、具体的な事例を観察することにより、データ資源は組織プロセスを経てはじめて経済的価値に変換することを示した。その過程には、異なる組織プロセスが見出されており、作業のデジタル化を図る組織プロセス(デジタイゼーション)、事業のデジタル化を図る組織プロセス(デジタライゼーション)から、さらに提供価値そのもののデジタル変革を試みる組織プロセスとしてのデジタルトランスフォーメーションの3つがあること、また後者になるにつれて企業変革の側面が強くなることを示した。加えて、そこで求められる組織能力としては、IT(information technology)リテラシーに関係するDI(digital innovation)組織力、部門間の調整や事業プロセス変革を行うための変革力、そして決定的な要因と思われる、DI組織力や変革力をサポートするリーダーシップが含まれる。 これらの枠組みをもとに、データの経済的価値と資産としての位置付けをどのように捉えれば良いのかについて考察を行った。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun209/bun209.html"} {"text": "本稿では、パーソナルデータの経済価値について、パーソナルデータが財として捉えられるようになった状況を踏まえ、その捉え方について検討をおこなった。 パーソナルデータの経済価値は自明なものではなく、現在ではその価値を測定する方法も確立していない。既存のアプローチには限界もあり、まずは個別サービスの分析を蓄積していくことが求められる。 また、個人のパーソナルデータに対する価値認識にはいっそうの困難性が存在する。パーソナルデータの生産コスト概念は通常の財とは異なり、プライバシーという特殊な要素に関わってくる。個人が適切に自身のパーソナルデータを提供できなければ、パーソナルデータの利活用や価値の分配の在り方が望ましいものではなくなる可能性がある。 本稿では個人の価値認識に関する調査、分析をおこない、個人のパーソナルデータ提供の可能性は情報の種類によってさまざまであり、また提供の対価の形式によっても個人の反応が異なる可能性があるという示唆を得た。さらに、個人は現在の企業の情報漏えいに対する補償対応と比較してかなり大きいコストを意識していることがわかった。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun209/bun209.html"} {"text": "本稿では、情報通信技術(ICT)投資が企業の雇用と生産性に与える因果効果について、過去の研究の動向を概観した上で実証的に検討する。実証分析に当たっては、税制がICT投資に与えた影響を計測した企業向けアンケート調査結果を利用した識別戦略によって、税制の変更に起因する外生的なICT投資の増加が、企業レベルの総従業員数、IT人材の割合、社内と外部からのIT人材の雇用数、労働生産性に与えた影響を推定する。情報処理実態調査及び企業活動基本調査の個票データを用いた推定結果によれば、税制ショックに反応したICT投資の結果、社内の非ICT人材がICT資本と補完的なICT人材として再配置されたものの、労働生産性の改善は確認されなかった。これらの結果は、ICT投資が生産性を改善するためには、補完的な生産要素である労働の質(例:ICTリテラシー)を高めるための追加的な投資が必要となることを示唆している。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun209/bun209.html"} {"text": "本稿では、2020 年度と 2021 年度に実施した JP MOPS のデータを利用して、マネジメントの在り方や組織の特徴がデジタル技術(IoT、AI、3D CAD/CAM)の利活用にどのように影響を与えるかを考察する。先行研究において、ICT 利用とマネジメント/組織との補完的な関係が指摘されており、本稿の実証分析もその流れを汲む研究である。本稿の主な分析結果は、以下の通りである。効率的にマネジメントしている事業所では、IoT、AI、3D CAD/CAM のデジタル技術を利活用する傾向が高い。本社と事業所間での権限の所在はデジタル技術の利活用に影響を与えないと考えられる一方で、組織が水平的な広がりを持ち、水平的に柔軟に対応する組織であると、デジタル技術を利活用する傾向が高い。デジタル技術の利活用の程度が高い事業所では、イノベーション改善活動が活発に行われている。マネジメントの在り方や組織の特徴がデジタル技術の利活用の重要な決定要因であり、デジタル技術の利活用はイノベーション改善活動を促すことを示唆している。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun209/bun209.html"} {"text": "本稿では、情報通信技術の導入がデジタル・トランスフォーメーション(DX)を促すメカニズムを取引費用経済学と新制度経済学の枠組みに基づいて論考し、日本が直面する課題と政府の機能・役割について考察した。デジタル化は、安定していた「企業と市場の境界」に不均衡を生み出して組織運営の見直しを迫るとともに、「情報処理機構としての市場」と「制度としての市場」に非対称的な影響を及ぼすことで、様々な「制度改革」をも促す。公的部門は、自動車産業に匹敵する規模の商取引を行っており、政府のデジタル化では、組織運営の効率性を高めて行政サービスを充実させる側面にとどまらず、商取引を通じた民間部門への外部効果を視野に入れた取り組みが欠かせない。さらに、政府の重要な機能と役割として、個々の制度問題にも増して重視すべき真の課題は、技術変化に伴う制度変化への柔軟な対応力、すなわち「制度の形成能力」にあるといえる。技術変化が加速する環境下では、変化の「時間軸」がとりわけ重要であり、次々と生起する諸課題に迅速に対処し、新しい制度を練り上げていく「ソフトなインフラ」として、専門家の層を厚くする人材育成、その柔軟な移動と適切な配置、さらには専門人材を結集して叡智を活用するマネジメント能力が政府のDXでカギを握ると考えられる。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun209/bun209.html"} {"text": "地方自治体の現場においては人口減や高齢化によって地域課題が噴出する一方で、税収減によって恒常的に予算や人員削減が迫られ、従来の住民サービスの維持が喫緊の課題である。産業分野におけるDX投資は直接的には雇用の代替効果として労働生産性の上昇に結びつくが、自治体のDX投資によって当該分野の業務効率化(人員削減)が進めばその分野に従事していた人員を住民サービスの維持・向上に回すことが可能になる。そこで、日本政府・自治体におけるDXの流れを確認した上で、地方自治体(市町村)に対して実施したDX化の効果についての定量的把握を行うことを意図して行った「自治体DX効果推計のためのアンケート」の集計結果から、地方自治体におけるDX投資の経済効果を主に業務コストの削減の側面から推計を行う。", "url": "https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun209/bun209.html"}