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中途半端に引き上げた状態だが、ずり落ちてこないのでこのまま放置した智一は、ウェディングドレス姿の政代を姿見に映してみた。 |
とても綺麗な純白のウェディングドレスに包まれている政代。しっかりと化粧も出来ていて、このまま結婚式に行ってもおかしくないくらいだ。 |
「姉貴。すごく綺麗だ……」 |
姿見に映る政代の姿を見ながら、そっと呟いた智一。 |
じっと眺める――。 |
「あ、そうだ。興奮しすぎてすっかり忘れてたよ」 |
何かを思い出したかのような表情をした智一が、仕舞ってあった白いロングのウェディンググローブとティアラ、チョーカーを出してくる。 |
「これを付けないとな」 |
まず、チョーカーを首元につける。そして、ティアラを頭の上に乗せると、白いウェディンググローブを両手にはめた。とても肌触りの良いグローブ。 |
細い指が、一層細く見える。 |
「よし、これで完璧だっ!」 |
そう言いながら、もう一度姿見の前に立った智一。お腹の前に白いウェディンググローブをはめた両手をそっと重ねる。わざと政代の優しく微笑んだ表情を作る智一は、心臓が張り裂けそうな思いだった。何も言わず、じっと智一を見つめ返すウェディングドレス姿の政代。 |
「あ、姉貴……」 |
鏡の中の政代が呟く。智一がしゃべる言葉一つ一つを、姿見に映る政代が忠実に再現する。 |
「と、智一……」 |
自分の名前を言ってみた。政代が智一の事を呼んでいる。 |
「智一……わ、わたし……智一の事が……」 |
姿見に映る政代の顔が少し赤みを帯びている。 |
智一は赤面しているのだ。 |
目の前にいる政代が、自分の事を――。 |
「好きよ……」 |
言ってしまった――。 |
とうとう言わせてしまった。姉の政代に好きよと言わせたのだ。お腹に添えていた両手の指をギュッと絡ませる。 |
「智一……愛してるよ。私、智一の事、愛してる」 |
また言わせてしまった。 |
自分の言ってほしい事を次々と言わせる。 |
「私、ずっと智一の事を愛していました。だから……お願い。私と結婚してください」 |
ウェディングドレス姿の政代が、目をウルウルさせながら智一に話し掛けてくる。そして、ゆっくりと姿見に近づくと姿見の淵をもち、鏡に顔を近づける。智一の目の前に政代の顔が。そして――。 |
チュッ! |
智一は政代の唇で鏡にキスをした。それはまるで政代が智一に本当にキスしたかのような錯覚を感じさせる。 |
「姉貴っ!」 |
嬉しくて嬉しくて――。 |
智一は、自分自身をギュッと抱きしめた。姿見にはウェディングドレスごと自分を抱きしめている政代の姿が映っている。 |
「ああ……俺、今すごく幸せな気分だ……」 |
その後、政代に言ってほしかった事を全て言わせた智一は、精神的な快感に酔いしれていた。 |
「もう姉貴は俺のものだっ!誰にも渡さないっ」 |
政代の声で叫んだ智一。 |
その時――。 |
ガチャッと言う音と共に 玄関の扉が開いた音がした。 |
「あっ! や、やべぇっ! 誰かが帰ってきたっ」 |
恐らく母親だろう。父親はいつも帰りが遅いし、政代はフィアンセと一緒に結婚式場に最終打ち合わせに行っているから、かなり遅くなると言っていた。 |
急いでウェディングドレスを脱ぐ。焦れば焦るほど、背中のファスナーを下ろすことが出来ない。 |
「お、落ち着け。落ち着け俺っ!」 |
そう言いながら、先にウェディンググローブを脱いだ。 |
そしてティアラとチョーカーを外すと、深呼吸をして背中のファスナーに手をかけた。 |
ジーッという音を立てながら、ウェディングドレスのファスナーが開いてゆく。 |
「よ、よしっ」 |
ドレスが破けないように、それでも急いで脱ぎ終えた智一は、すばやくウェディングドレスをドレス掛けに戻すと、小物も元通りに仕舞った。 |
コンコンッ! と部屋のドアを叩く音。 |
「政代? 帰ってるの?」 |
母親の声だ。 |
ど、どうする? |
今から政代の全身タイツを脱いだとしても、智一は裸だ。そんな姿で政代の部屋にいるところを母親が見たら、どう思うだろうか。 |
「あ……う、うん」 |
「早かったわね。もう帰ってきたの」 |
カチャッという音と共に、部屋のドアが開く。 |
「あ……」 |
下着姿の智一、いや、政代に視線を移した母親。 |
「何? 着替えてたの?」 |
「う、うん。そ、そうよ」 |