title
stringlengths 0
199
| text
stringlengths 3
3.18k
| id
stringlengths 23
32
| url
stringlengths 56
65
|
---|---|---|---|
半導体集積回路と一体化可能な圧電境界波デバイス | 本申請者らは、圧電性基板(LiNbO_3)とシリコン(Si)基板を接合すると、その境界にエネルギーを集中して伝搬する境界波が存在し、これにより、これまでのSAWデバイスと同等以上の性能が得られることを示している。本研究では、LiNbO_3基板とSi基板を接合する技術を開発し、それを利用して上述の境界波デバイスを実現することを目的とした。この構造実現には、非常に微細なすだれ変換子(IDT)が必要とされる。そこで、まず、電子ビーム露光法を利用した超微細電極の形成について検討した。超微細電極の作成にはリフトオフ法が有利であるが、基板が絶縁体であるため、電子ビームによるチャージアップが問題となる。そこで、水溶性の帯電防止剤を事前に塗布し、その後にリフトオフ法によりパターニングするプロセスを構築し、線幅0.2μmのIDTをAl製微細IDTを実現することができた。次に、Si/LiNbO_3構造境界波デバイスを試作した。まず、LiNbO_3上に電子ビーム露光法によりすだれ変換子(IDT)を作成した後、絶縁層としてスパッタ法によりSiO_2層を堆積し、さらにその上に電子ビーム蒸着法によりSi層を堆積した。その結果、中心周波数2.09GHz付近に境界波による応答が観測された。ただし、Si層の堆積により挿入損失が約20dB増加してしまった。次に、基板接着による境界波デバイスの作成を試みた。まず、紫外線硬化樹脂により接着したところ、中心周波数991MHzにおいて挿入損失30.8dBとなった。配線の引き回しの最適化により10dB程度が低減でき、残りの大部分は樹脂内での吸収によるものであることが判った。そこで、次に低融点ガラスによる圧着を試み、LiNbO_3とsiの接着に成功した。しかし、ガラス層が厚く、境界波の観測までには至らなかった。今後、ガラス層厚の低減を目指し、良好な特性を有する境界波デバイスの実現を目指したいと考えている。本申請者らは、圧電性基板(LiNbO_3)とシリコン(Si)基板を接合すると、その境界にエネルギーを集中して伝搬する境界波が存在し、これにより、これまでのSAWデバイスと同等以上の性能が得られることを示している。本研究では、LiNbO_3基板とSi基板を接合する技術を開発し、それを利用して上述の境界波デバイスを実現することを目的とした。この構造実現には、非常に微細なすだれ変換子(IDT)が必要とされる。そこで、まず、電子ビーム露光法を利用した超微細電極の形成について検討した。超微細電極の作成にはリフトオフ法が有利であるが、基板が絶縁体であるため、電子ビームによるチャージアップが問題となる。そこで、水溶性の帯電防止剤を事前に塗布し、その後にリフトオフ法によりパターニングするプロセスを構築し、線幅0.2μmのIDTをAl製微細IDTを実現することができた。次に、Si/LiNbO_3構造境界波デバイスを試作した。まず、LiNbO_3上に電子ビーム露光法によりすだれ変換子(IDT)を作成した後、絶縁層としてスパッタ法によりSiO_2層を堆積し、さらにその上に電子ビーム蒸着法によりSi層を堆積した。その結果、中心周波数2.09GHz付近に境界波による応答が観測された。ただし、Si層の堆積により挿入損失が約20dB増加してしまった。次に、基板接着による境界波デバイスの作成を試みた。まず、紫外線硬化樹脂により接着したところ、中心周波数991MHzにおいて挿入損失30.8dBとなった。配線の引き回しの最適化により10dB程度が低減でき、残りの大部分は樹脂内での吸収によるものであることが判った。そこで、次に低融点ガラスによる圧着を試み、LiNbO_3とsiの接着に成功した。しかし、ガラス層が厚く、境界波の観測までには至らなかった。今後、ガラス層厚の低減を目指し、良好な特性を有する境界波デバイスの実現を目指したいと考えている。本申請者らは、圧電性基板(LiNbO_3)とシリコン(Si)基板を接合すると、その境界にエネルギーを集中して伝搬する境界波が存在し、これを利用してGHz帯フィルタを構成した場合、これまでのSAWデバイスと同等もしくはそれ以上の性能が得られることを示している。本研究では、LiNbO_3基板とSi基板を低温度で接合する技術を開発し、それを利用して上述の境界波デバイスを実現することを目的としている。この構造を実現するためには、非常に微細なすだれ変換子(IDT)が必要とされる。そこで、まず、電子ビーム露光法を利用した超微細電極の形成について検討した。超微細電極の作成にはリフトオフ法が有利であるが、圧電性基板が絶縁体であるため、電子ビームによるチャージアップが問題となる。そこで、水溶性の帯電防止剤を事前に塗布し、その後にリフトオフ法によるパターニングするプロセスを構築し、線幅0.2μmのIDTをAl製微細IDTを誘電体基板上に実現することができた。また、LiNbO_3基板上にSi層を堆積することによりSi/LiNbO_3構造を作成し、その構造における境界波伝搬の観測を試みた。まず、LiNbO_3上に電子ビーム露光法によりすだれ変換子(IDT)を作成した後、絶縁層としてスパッタ法によりSiO_2層を堆積し、さらにその上に電子ビーム蒸着法によりSi層を堆積した。 | KAKENHI-PROJECT-13650371 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13650371 |
半導体集積回路と一体化可能な圧電境界波デバイス | その結果、中心周波数2.09GHz付近に境界波による応答が観測された。ただし、Si層の堆積により挿入損失が約20dB増加してしまった。これは、Si堆積時に発生した不具合によりIDT電極が短絡してしまったためと考えられる。今後、プロセスをさらに検討し、低損失デバイスの実現を目指すと共に、基板の圧着に基づく境界波デバイス実現を検討して行く予定である。本申請者らは、圧電性基板(LiNbO_3)とシリコン(Si)基板を接合すると、その境界にエネルギーを集中して伝搬する境界波が存在し、これにより、これまでのSAWデバイスと同等以上の性能が得られることを示している。本研究では、LiNbO_3基板とSi基板を接合する技術を開発し、それを利用して上述の境界波デバイスを実現することを目的とした。この構造実現には、非常に微細なすだれ変換子(IDT)が必要とされる。そこで、まず、電子ビーム露光法を利用した超微細電極の形成について検討した。超微細電極の作成にはリフトオフ法が有利であるが、基板が絶縁体であるため、電子ビームによるチャージアップが問題となる。そこで、水溶性の帯電防止剤を事前に塗布し、その後にリフトオフ法によりパターニングするプロセスを構築し、線幅0.2μmのIDTをAl製微細IDTを実現することができた。次に、Si/LiNbO_3構造境界波デバイスを試作した。まず、LiNbO_3上に電子ビーム露光法によりすだれ変換子(IDT)を作成した後、絶縁層としてスパッタ法によりSiO_2層を堆積し、さらにその上に電子ビーム蒸着法によりSi層を堆積した。その結果、中心周波数2.09GHz付近に境界波による応答が観測された。ただし、Si層の堆積により挿入損失が約20dB増加してしまった。次に、基板接着による境界波デバイスの作成を試みた。まず、紫外線硬化樹脂により接着したところ、中心周波数991MHzにおいて挿入損失30.8dBとなった。配線の引き回しの最適化により10dB程度が低減でき、残りの大部分は樹脂内での吸収によるものであることが判った。そこで、次に低融点ガラスによる圧着を試み、LiNbO_3とSiの接着に成功した。しかし、ガラス層が厚く、境界波の観測までには至らなかった。今後、ガラス層厚の低減を目指し、良好な特性を有する境界波デバイスの実現を目指したいと考えている。 | KAKENHI-PROJECT-13650371 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13650371 |
ナノバイオミメティックプロセスによる小規模フッ素排水処理・資源循環パッケージ開発 | 水質汚濁防止法の排出規制において,フッ素化合物に関する暫定基準が設けられているメッキ業等の小規模事業者に対し,研究代表者が歯のう蝕(虫歯)予防にヒントを得て開発を進めてきたナノバイオミメティックプロセスを活用した1)水処理資材の開発,2)水処理効率をオンサイトで観察できる分析技術,3)水処理で発生する汚泥の再資源化,および4)水処理技術導入による効果の評価を行った。得られた主な成果は,1)リン酸カルシウムの一種であるDCPDを用いた水処理に適した資材開発,2)メッキ業など小規模事業所におけるフッ素排水処理の技術課題の抽出,3)処理水中のフッ化物イオンを簡便に測定できる技術の開発である。水質汚濁防止法の排出規制において,フッ素化合物に関する暫定基準が設けられているメッキ業等の小規模事業者に対し,研究代表者が歯のう蝕(虫歯)予防にヒントを得て開発を進めてきたナノバイオミメティックプロセスを活用した1)水処理資材の開発,2)水処理効率をオンサイトで観察できる分析技術,3)水処理で発生する汚泥の再資源化,および4)水処理技術導入による効果の評価を行った。得られた主な成果は,1)リン酸カルシウムの一種であるDCPDを用いた水処理に適した資材開発,2)メッキ業など小規模事業所におけるフッ素排水処理の技術課題の抽出,3)処理水中のフッ化物イオンを簡便に測定できる技術の開発である。【研究成果の概要】1.フッ素廃水の高度処理に適したリン酸カルシウム塩の合成および評価:リン酸カルシウムの一種であるリン酸水素カルシウム(DCPD)と水酸アパタイト(HA)の複合化がフッ素廃水処理効率向上に及ぼす因子を調査した。結果,DCPD表面にHAを粒子レベルで複合化させることにより,処理後のスラッジの粒子形状を処理前のDCPDの形状に近い形状に制御することができる知見を得た。また,水産業廃棄物とリン酸含有排水を用いてDCPDを合成する最適条件を見いだした。2.処理水の簡易分析に適したオンサイトモニタリング技術の構築:ポルフィリン系の発色試薬に阻害物質としてジルコニウムの添加量を変えると,変色が生じるフッ化物イオン濃度を容易に制御できることを見いだした。3.企業倫理に基づくビジネスモデルの構築:東京都鍍金工業組合との連携により,小規模事業所における水処理技術の現状および実際の排水サンプルを用いた上記1,2の検討を進める体制を整備した。またこれらの企業に対するインタビューにより,小規模事業所の連携による事業拡大・新規技術導入の可能性を検討した。4.アウトリーチ:2011NEW環境展やイノベーションジャパン2012にて研究内容のPRおよび社会とのコミュニケーションを持つ機会を設定した。また,海外のフッ素排水処理に対する需要を共有する機会をもち,本研究成果を国内外で実用化研究に展開する足がかりを構築した。【成果発表等】研究成果は国内外の学会発表,論文投稿に加え,研究内容を紹介するWebページを開設し,広く社会にPRするメディアを構築した。1)水処理に適した高機能リン酸カルシウム塩の合成条件の構築:フッ素排水処理の際に問題となる,生成したスラッジのろ過性を向上させることを目的に,本研究で対象としている第二リン酸カルシウム(DCPD)の粒子形状の制御を可能とする条件を構築した。具体的には,溶液のpHと濃度を制御するだけで,板状から板状粒子を花弁状に凝集させた粒子へと容易に変換することができる条件を見いだすことができた。2)処理効率を評価するオンサイトモニタリングシステムの構築:アルミニウムを共存させることにより,通常の比色法による液中フッ化物イオンの検出を容易にする条件を見いだした。3)フッ素廃水の高度処理に適したシステム作り・実証試験:実際のフッ素廃水を対象として,広く用いられているアルミニウム塩(硫酸バンド)による凝集沈殿処理とDCPDとで,水処理効率,処理の操作性について評価を行った。DCPDを用いることで,生成するスラッジ量,スラッジの沈降速度,ろ過性とも既往の硫酸バンドよりも優れた結果を得ることができ,DCPDの水処理への有用性を確認することができた。4)アウトリーチ:2013NEW環境展での研究成果のPR,全国高専等での講演等で,本研究成果をPRすることができた。5)研究成果の展開:当初の目的であるメッキ等の小規模水処理に対する対応については,種々の企業との意見交換を通して実証試験を平成24年度までに展開したが,フロン破壊処理等で発生する大規模なフッ素廃水処理への展開の可能性など,種々の可能性に向けて検討を開始した。本研究で得られた成果を海外,特にチュニジアの水環境問題に展開するため,筑波大学・入江准教授の科研費(基盤A:海外学術調査)の申請に参画,採択され平成25年度から4年間海外への展開も合わせて行うこととなった。研究2年目となる平成24年度は以下の内容で研究を行った。1)フッ素排水の高度処理に適した機能性材料の設計,未利用資源からの製造技術:実際の水処理現場との情報交換で見いだされた「スラッジの分離回収」の課題を克服するため,排水中フッ素化合物の処理を可能とするリン酸カルシウムの粒子形状を制御するための条件を構築,論文発表を行った。また,未利用資源である貝殻等を用いてリン酸カルシウムを製造する基礎知見を構築,論文発表を行った。また,リン酸カルシウムのフッ化物イオンとの反応性を向上させる,粒子表面の改良技術を確立した。2)処理効率を現場で簡便に評価できるオンサイトモニタリング技術:排水および処理 | KAKENHI-PROJECT-23310058 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23310058 |
ナノバイオミメティックプロセスによる小規模フッ素排水処理・資源循環パッケージ開発 | 水中のフッ化物イオン濃度を簡便に評価できる手法として,種々の濃度の妨害イオンを用いてフッ化物イオンをマスキングし,ある値以上で急激に発色反応を引き起こすことができる手法を開発,論文発表を行った。3)処理後に生じる副生物(スラッジ)の再資源化:スラッジの再資源化について,アパタイトが有する触媒能を活かした触媒等への展開の可能性を検討した。4)アウトリーチ・ビジネスシナリオ構築:水処理業界との意見交換の中で,フッ素およびホウ素は海域への放流が可能な地域や,フッ素等を含まない排水処理ラインを併設している小規模事業所では,適切に処理水を混合希釈することで高度処理を行うに値するビジネス的な価値が見いだせないことが指摘された。一方,水の使用が限られる地域,土壌汚染のリスクが懸念される地域等においては,この種の技術の有用性があることが見いだされている。水処理に用いることができる機能性材料の設計指針を得,フッ素分析の簡易化につながる基礎知見を得た。その他それぞれの目的に関して,期待される成果を得ることができた。この成果は平成24年度以降に論文として発表していく予定。本研究の成否を分ける社会とのコネクションについても,東京都鍍金工業組合と継続的な意見交換ができる体制を整備できた。以上の理由よりおおむね順調な発展をしているものと判断した。25年度が最終年度であるため、記入しない。1)リン酸カルシウムの合成については今年度,材料科学の分野においても興味ある基礎的学術成果が得られている。水処理への適応についても,各種業界とのディスカッションを通して,フッ素排水の高度処理への展開可能性を確固とすることができた。また,リン酸カルシウムの反応性を向上できる技術の確立も成し遂げることができた。2)フッ素濃度のオンサイト分析については,分担者の間中(富山高専)が「分析化学」誌への総合論文掲載等の成果を挙げており,基礎学術的にも高い評価を受けた。実用的には試験紙・テストキットへの展開が今後の課題と言える。3)実用化への展開については,残念ながら当初の目的である小規模事業所へダイレクトに本成果を展開できるビジネス的な価値が薄いことが明らかになってきたが,水処理に伴う環境影響低減について,いくつかの知見が見いだされていることから,これらを総合的に組み合わせることにより,次年度以降に新しい環境影響の低いフッ素排水処理技術への展開が可能となると期待される。本年度の取り組みの中で,めっき排水に本技術を適応する際,発生するスラッジの長期安定性,水処理に適した操業条件等に関して懸案となる事項を業界から指摘されている。これについては次年度以降の研究で対策技術の検討を行う。排水中フッ素濃度の簡易分析技術に関しては,試験紙等の形態での簡易分析装置への組み上げが要望されており,現在その検討を進めている。研究遂行の問題点については研究開始段階で予想された範囲内のものであったことから,特に大きな計画変更は必要ないと考えている。25年度が最終年度であるため、記入しない。1)リン酸カルシウムの合成については,未利用資源からの合成,粒子形状制御の基礎的検討に加え,水処理の作業効率の向上等,実際の水処理に適した検討を実排水を用いた検討などを通して検討する。 | KAKENHI-PROJECT-23310058 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23310058 |
靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性に関する研究 | 現在,セラミックスに関して種々の靭性向上法が提案されている.しかし、衝撃荷重に対する靭性強化セラミックスの破壊挙動に関しては,未解明の点が多く残されている.セラミックスのように本質的に脆性を有している材料では,衝撃力に対する配慮が不可欠であるので,静的荷重に対して有効な靭性強化法がそのまま衝撃荷重に対しても有効かどうか明らかにすることは重要と考えられる.そこで,本研究では,まず,靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性値の計測法について検討し,靭性強化セラミクスの衝撃破壊条件を明らかにすることを目的とし,以下のような研究を行った.(1)衝撃試験において重要な衝撃力の測定法に関して,ひずみ波形の測定デ-タより逆解析的手法を用いて衝撃力の算定を行う手法について検討を行った.その際,測定デ-タに含まれる雑音成分の影響を抑え,結果の精度を向上させる方法について検討を加えた.(2)高温度下における衝撃破壊靭性試験について検討し,一点曲げによる方法が有効であることを示した.(3)塑性変形の影響が無視できない場合にたいする動的破壊力学パラメ-タの簡便評価式を導出した.(4)アルミナおよびアルミナ-ジルコニア複合材料の高温衝撃破壊靭性について調べ,荷重速度および温度の影響を明らかにした.(5)アルミナとアルミニウム複合材料の高温衝撃破壊靭性について,荷重速度および温度の影響を調べ,破壊機構と荷重速度の関係について検討を行った.現在,セラミックスに関して種々の靭性向上法が提案されている.しかし、衝撃荷重に対する靭性強化セラミックスの破壊挙動に関しては,未解明の点が多く残されている.セラミックスのように本質的に脆性を有している材料では,衝撃力に対する配慮が不可欠であるので,静的荷重に対して有効な靭性強化法がそのまま衝撃荷重に対しても有効かどうか明らかにすることは重要と考えられる.そこで,本研究では,まず,靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性値の計測法について検討し,靭性強化セラミクスの衝撃破壊条件を明らかにすることを目的とし,以下のような研究を行った.(1)衝撃試験において重要な衝撃力の測定法に関して,ひずみ波形の測定デ-タより逆解析的手法を用いて衝撃力の算定を行う手法について検討を行った.その際,測定デ-タに含まれる雑音成分の影響を抑え,結果の精度を向上させる方法について検討を加えた.(2)高温度下における衝撃破壊靭性試験について検討し,一点曲げによる方法が有効であることを示した.(3)塑性変形の影響が無視できない場合にたいする動的破壊力学パラメ-タの簡便評価式を導出した.(4)アルミナおよびアルミナ-ジルコニア複合材料の高温衝撃破壊靭性について調べ,荷重速度および温度の影響を明らかにした.(5)アルミナとアルミニウム複合材料の高温衝撃破壊靭性について,荷重速度および温度の影響を調べ,破壊機構と荷重速度の関係について検討を行った.現在,セラミックスに関して現在種々の靭性向上法が提案されている.しかし,衝撃荷重に対する靭性強化セラミックスの破壊挙動に関しては,未解明点が多く残されている.セラミックスのように本質的に脆性を有している材料では,衝撃力に対する配慮が不可欠であるので,静的荷重に対して有効な靭性強化法がそのまま衝撃荷重に対しても有効かどうか明かにすることは重要と考えられる.そこで,本研究では,まず,靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性の計測法について検討し,靭性強化セラミックスの衝撃破壊条件を明らかにするとともに,優れた耐衝撃特性を持った靭性強化セラミックスの材料設計に関して指針を得ることを目的とする.本年度は靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性に関して以下の研究を行った.(1)従来提案されている種々の動的応力拡大係数の評価式の精度と使用限界について検討した.また,弾塑性破壊力学パラメ-タJ^^<^>積分の算定法ついても検討した.(2)高温度下におけるき裂進展開始時刻の検出法に関いて,落下円柱に添付した歪みゲ-ジの出力波形を動的処理することにより,き裂進展開始時刻を推定する方法について検討した.(3)アルミーアルミナ複合強化セラミックスについて衝撃破壊靭性試験を行った.(4)破面を電子顕微鏡で観察するした.その結果,破面は複雑な様相を示していることがわかり,破壊機構をより精密に解明するために,破面写真の画像処理手法について若干の検討を行った.現在,セラミックスに関して種々の靭性向上法が提案されている。しかし,衝撃荷重に対する靭性強化セラミックスの破壊挙動に関しては,未解明の点が多く残されている。セラミックスのように本質的に脆性を有している材料では,衝撃力に対する配慮が不可欠であるので,静的荷重に対して有効な靭性強化法がそのまま衝撃荷重に対しても有効かどうか明らかにすることは重要と考えられる。そこで,本研究では,まず,靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性値の計測法について検討し,靭性強化セラミクスの衝撃破壊条件を明らかにするとともに,優れた耐衝撃特性を持った靭性強化セラミックスの材料設計に関して指針を得ることを目的とする。本年度は,靭性強化セラミクッスの高温衝撃破壊靭性に関して以下の研究を行った。(1)衝撃試験において重要な衝撃力を測定法に関して,ひずみ波形の測定デ-タより逆解析的手法を用いて衝撃力の算定を行う手法について検討を行った。その際,測定デ-タに含まれる雑音成分の影響を抑え,結果の精度を向上させる方法について検討を加えた。(2)アルミナおよびアルミナ-ジルコニア複合材料の高温衝撃破壊靭性について調ベ,荷重速度および温度の影響を明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-02650063 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02650063 |
靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性に関する研究 | (3)アルミナとアルミニウム複合材料の高温衝撃破壊靭性について,荷重速度および温度の影響を調べ,破壊機構と荷重速度の関連について検討を行った。 | KAKENHI-PROJECT-02650063 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02650063 |
奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症の負荷時血行動態及び予後調査(多施設合同研究) | 超高齢化を迎えた先進諸国で爆発的に増加している大動脈弁狭窄症(AS)の新たな概念、奇異性低流量低圧較差AS(PLFLG AS)に対する研究を行った。本邦においてPLFLG ASはAS全体の約10%に認め、その予後は欧米諸国の報告と比較して良好であることを報告した。さらに本研究においてはドブタミン負荷心エコー図法を用いて、PLFLG AS患者の血行動態及びその予後について検討を行い、負荷中の血行動態は様々で、偽ASが約半数存在し、その患者群の予後は真ASと比較して良好であることが解明された。以上の結果は国際及び国内学会での発表を行い、論文投稿中である。奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症患者における負荷時血行動態及び予後調査を多施設にて研究を開始。2014年4月時点で4施設より63症例のエントリー及び予後調査を終了した。またエントリーされた症例のデータ解析を行い、負荷時血行動態は個々様々であることが判明した。先行研究より負荷時flowrate 250ml/sec時の弁口面積(Projected AVA)を計測し、1cm2未満を真、1cm2以下を偽の大動脈弁狭窄症とした場合、偽が60%近く存在し、欧米で行われた先行研究よりも高い確率であることが判明。またそれら偽の患者群は真の患者群と比較して予後も良好であり、本邦における大動脈弁狭窄症重症度診断には注意が必要であることを究明しえた。それら結果は2014年ヨーロッパ心臓病学会にて発表を予定している。また、引き続き症例エントリー及び予後調査を行い、論文作成に向け準備を進める予定である。現在4施設から約70名のエントリーを頂き、仮説同様の結果が出ている。その結果はヨーロッパ心臓病学会2014をはじめ、国内学会でも発表させて頂いた。現在論文作成を進めている段階である。本邦における奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症に対し、負荷エコーを多施設にて実施し、68症例のエントリーが終了し、平均16か月の予後調査を行った。先行研究から負荷中の弁口面積(projected AVA)を用いて真と偽の大動脈弁狭窄症の層別化を行った。全症例のうち、真の高度狭窄症例は32名(47%)と、欧米の報告と比較してその割合は低かった。追跡期間中、35名に心血管イベントが発症した(8名の心臓死を含む)。Coxハザード解析を行い、projected AVAは独立した予後予測因子であった。(ハザード比:9.26)またKaplan-Meyer曲線においてもprojected AVAを用いて予後の層別化は可能であった。我々の先行研究において、本邦における奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症は欧米と比較して予後良好であると報告したが、今回の結果は、真の大動脈弁狭窄症の割合が欧米と比較して低く、それを裏付けるものと考えられた。今回の結果から負荷心エコーは奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症において予後層別化に有用な検査方法であることが示されたが、現在安静時エコー検査が真の大動脈弁狭窄症を予測することが可能であるかどうかの検証を加えている。特に今回は3Dエコーを用いているという特徴を活かし、3Dスペックルトラッキング法を用いて検討している。現在論文作成を同時に進めており2016年中の投稿を予定している。超高齢化を迎えた先進諸国で爆発的に増加している大動脈弁狭窄症(AS)の新たな概念、奇異性低流量低圧較差AS(PLFLG AS)に対する研究を行った。本邦においてPLFLG ASはAS全体の約10%に認め、その予後は欧米諸国の報告と比較して良好であることを報告した。さらに本研究においてはドブタミン負荷心エコー図法を用いて、PLFLG AS患者の血行動態及びその予後について検討を行い、負荷中の血行動態は様々で、偽ASが約半数存在し、その患者群の予後は真ASと比較して良好であることが解明された。以上の結果は国際及び国内学会での発表を行い、論文投稿中である。現在論文作成段階に進んでおり、今年度中の投稿を予定している。循環器内科本研究は負荷エコーを用いた研究によって、本邦における奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症の予後が欧米と比較して比較的良いことの理由の一つを解明した研究である。しかしながら負荷エコーは本邦のみならず全世界においてどの施設でも行うことのできる検査方法ではなく、少なからずリスクも伴うため、今後は本研究を参考に安静時エコーの新たな指標の検討に関しても行う必要があると考える。症例エントリー、予後調査を開始後1年で順調に行えている。予定していた人件費を使用することができず、その分の予算が次年度に持ち越すこととなった。引き続き症例エントリー及び予後調査を多施設にて行い、論文作成に向け準備を進める。今年度は予後調査含めたデータ収集への人件費投入及び、論文作成のためのデータ解析等に用いる統計ソフト等に投じる予定である。今年度は症例エントリー及び予後調査等のみとなり、心エコーNew technologyである3Dでの解析まで到達できておらず、未購入である。翌年度は3D解析等含めたソフトウェアーの購入及び解析を計画している。 | KAKENHI-PROJECT-25860627 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25860627 |
パルス電流通電法による耐酸化性MoSi_2基超高温材料のその場合成 | ダイシリサイドは耐酸化性超高温材料の候補材の1種であるが、一般に融点が高いため溶融法での作製が困難であること、接合材料や複合材料の作製も容易にできることなどから、粉末冶金法による作製が有望である。本研究では、パルス電流通電による粒子間での放電現象の真偽について検討するとともに、作製したダイシリサイドの耐酸化性評価、さらに複合材料を想定した異種材料間での界面反応挙動ついて明かにするための実験を10-11年度にかけて行った。今年度は特に本方法で作製した各種ダイシリサイド焼結体の耐酸化性評価に関する研究を重点的に進めた。1.FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2、Vsi_2、TaSi_2、NbSi_2、Wsi_2およびMoSi_2の耐酸化性評価を500°Cから1500°Cの温度範囲において行い、各ダイシリサイドにおける金属とSiの同時酸化が起きる温度領域を明らかにした。2.FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2は1000°C以下の温度で優れた耐酸化性を有し、またMoSi_2は500°C±100°Cを除く温度範囲で極めて優れた耐酸化性を示した。しかし、他のダイシリサイドでは500°C以上の温度範囲にわたって金属とSiの同時酸化が起こるため、優れた耐酸化性を示さなかった。3.MoSi_2の500°C±100°Cにおける同時酸化には、材料の欠陥(ポアやクラック)および雰囲気の水蒸気が強い影響を及ぼしていることを明らかにした。4.パルス電流通電法により清浄で緻密なダイシリサイド焼結体およびその複合材料を作製することが可能であるが、特に耐酸化性超高温材料としてのポテンシャルが高いダイシリサイドはMoSi_2であることを明らかにした。高温機器の性能向上のみならず、地球環境保護の立場からも耐酸化性超高温材料の開発が望まれている。モリブデンダイシリサイド(MoSi_2)はその候補材のひとつであるが、融点力塙いため溶融法での作製が困難であること、接合材料や複合材料の作製も容易にできることなどから、粉末冶金法による作製が望まれている。本研究では、パルス電流通電による粒子間での放電現象の真偽について検討するとともに、作製したグイシリサイドの耐酸化性評価、さらに接合材料作製の可能性ついて明かにするための実験を行った。本年度の研究で得られた結果は以下の通りである。1. FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2、VSi_2、MoSi_2の焼結終了温度はダイシリサイドの融点とともに上昇するのに対し、焼結開始温度はすべてのダイシリサイドにおいてほぼ一定(約1050K)であった。このことは粒子間での放電が初期の焼結を促進していることを示唆している。2.作製したダイシリサイドはすべて高緻密体であり、また1273Kにおける耐酸化性はSiO_2皮膜の形成により従来の耐熱合金よりも格段に優れていた。3. MoとSiの混合粉末およびMo、Si、Cの混合粉末を用いることによって、吸着酸素とSiの反応によるSiO_2介在物の生成を抑制できることがわかった。4. MoSi_2の焼結とNb板上への接合を同時に行うことができ、耐酸化性超高温材料の作製に有効である。次年度はさらに焼結体および接合体の耐酸化性についての詳細な評価および組織構造解析を行う。ダイシリサイドは耐酸化性超高温材料の候補材の1種であるが、一般に融点が高いため溶融法での作製が困難であること、接合材料や複合材料の作製も容易にできることなどから、粉末冶金法による作製が有望である。本研究では、パルス電流通電による粒子間での放電現象の真偽について検討するとともに、作製したダイシリサイドの耐酸化性評価、さらに複合材料を想定した異種材料間での界面反応挙動ついて明かにするための実験を10-11年度にかけて行った。今年度は特に本方法で作製した各種ダイシリサイド焼結体の耐酸化性評価に関する研究を重点的に進めた。1.FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2、Vsi_2、TaSi_2、NbSi_2、Wsi_2およびMoSi_2の耐酸化性評価を500°Cから1500°Cの温度範囲において行い、各ダイシリサイドにおける金属とSiの同時酸化が起きる温度領域を明らかにした。2.FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2は1000°C以下の温度で優れた耐酸化性を有し、またMoSi_2は500°C±100°Cを除く温度範囲で極めて優れた耐酸化性を示した。しかし、他のダイシリサイドでは500°C以上の温度範囲にわたって金属とSiの同時酸化が起こるため、優れた耐酸化性を示さなかった。3.MoSi_2の500°C±100°Cにおける同時酸化には、材料の欠陥(ポアやクラック)および雰囲気の水蒸気が強い影響を及ぼしていることを明らかにした。4.パルス電流通電法により清浄で緻密なダイシリサイド焼結体およびその複合材料を作製することが可能であるが、特に耐酸化性超高温材料としてのポテンシャルが高いダイシリサイドはMoSi_2であることを明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-10875138 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10875138 |
レーザー光による血管内手術の基礎的研究 | レーザー光による血管内手術の基礎的研究として、照射方法、照射端の形状、レーザーの種類、レーザープローブの開発、組織反応および照射効果、さらに動脈硬化に対する光化学療法などに関する実験を行い、以下の結果を得た。1.実験的にに作成したアテローマおよび器質化血栓を使用した実験において、接触照射の方が非接触照射より動脈壁の熱傷が少く照射後の照射面が滑らかであるなどの点で優れていることが判った。照射出力はファイバー先端による接触照射ではアルゴンレーザーを使用して約1.5Wで十分であった。2.照射端であるレーザー光ファイバー先端は丸く加工した法が穿孔が少いことが判った。照射端の形状に自由度を持たせるため先端チップの開発をした。先端チップはセラミックチップの方が金属チップより焼灼蒸散能力に優れていることが判った。チップを使用した場合、出力の点でYAGレーザーが適しており、2035W必要であった。3.ファイバーの材質に関する検討を行い、血管内手術用にセラミックチップを装着したレーザープローブを開発した。このプローブは最大直径1.8mmであり、同口径の血管内視鏡にて病変部の状態が観察可能であった。4.アテローマにおける焼灼実験においては焼灼部は直後に血栓を生じ、48時間後にはフィブリン様物質が同部を被い、2週間後には焼灼部が判らない位になっていた。また器質化血栓により閉塞した血管は、開発したレーザープローブによる血管内手術により、直径約2mmの丸い穴を形成した。5.アテローマにおける光化学療法に関しては現在実験中である。レーザー光による血管内手術の基礎的研究として、照射方法、照射端の形状、レーザーの種類、レーザープローブの開発、組織反応および照射効果、さらに動脈硬化に対する光化学療法などに関する実験を行い、以下の結果を得た。1.実験的にに作成したアテローマおよび器質化血栓を使用した実験において、接触照射の方が非接触照射より動脈壁の熱傷が少く照射後の照射面が滑らかであるなどの点で優れていることが判った。照射出力はファイバー先端による接触照射ではアルゴンレーザーを使用して約1.5Wで十分であった。2.照射端であるレーザー光ファイバー先端は丸く加工した法が穿孔が少いことが判った。照射端の形状に自由度を持たせるため先端チップの開発をした。先端チップはセラミックチップの方が金属チップより焼灼蒸散能力に優れていることが判った。チップを使用した場合、出力の点でYAGレーザーが適しており、2035W必要であった。3.ファイバーの材質に関する検討を行い、血管内手術用にセラミックチップを装着したレーザープローブを開発した。このプローブは最大直径1.8mmであり、同口径の血管内視鏡にて病変部の状態が観察可能であった。4.アテローマにおける焼灼実験においては焼灼部は直後に血栓を生じ、48時間後にはフィブリン様物質が同部を被い、2週間後には焼灼部が判らない位になっていた。また器質化血栓により閉塞した血管は、開発したレーザープローブによる血管内手術により、直径約2mmの丸い穴を形成した。5.アテローマにおける光化学療法に関しては現在実験中である。 | KAKENHI-PROJECT-60480313 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-60480313 |
脳腱黄色腫症におけるアポトーシス誘導機構 | CTXの発症は10歳前後と思われ、初発症状として知能低下がもっとも多いが軽度から中等度で重症の痴呆は稀である。思春期以後に錘体路症状、進行性の小脳症状が現れ、失調性歩行や水平性眼振や失調性言語障害を伴うこともある。若年性白内障も10代後半には顕著になり、水晶体摘出術を施行する例もある。脳腱黄色腫はもっとも特徴的で、好発部位はアキレス腱、上腕三頭筋・頸骨粗面・手指の伸筋の腱である。これらの症状はいずれも進行性だが、経過が緩徐のためにCTXと診断されるまでに時間を要することが多い。軽度精神遅滞、錘体路症状、白内障、小脳性眼球運動障害を呈し、抗てんかん薬のみの治療を受けていた患者が、CTXと診断されケノデオキシコール酸の投与により軽快したように小児期からの早期診断・治療が重要である。本研究の結果は、CTXで見られる小脳症状、白内障は、高コレスタノール血症が持続し、コレスタノールが小脳や水晶体上皮細胞に蓄積し、細胞死を引き起こすことに起因するとの仮説を強く支持するものである。また、コレスタノールによる小脳神経細胞、角膜内皮細胞、水晶体上皮細胞のアポトーシス誘導の際にICE, CPP32 proteaseが活性化することが明らかになったが、現在さらに詳しい情報伝達系の解明を行っている。前頭葉性の痴呆例で、高コレスタノール血症およびCYP27遺伝子にヘテロの変異が見いだされた。高コレスタノール血症は、CYP27遺伝子異常と関連があると考えられ、痴呆と高コレスタノール血症の密接な関連性が示唆された。今後、コレスタノールによる大脳培養細胞死について解析し、高コレスタノール血症と痴呆との関係について、検討を加えていきたい。CTXの発症は10歳前後と思われ、初発症状として知能低下がもっとも多いが軽度から中等度で重症の痴呆は稀である。思春期以後に錘体路症状、進行性の小脳症状が現れ、失調性歩行や水平性眼振や失調性言語障害を伴うこともある。若年性白内障も10代後半には顕著になり、水晶体摘出術を施行する例もある。脳腱黄色腫はもっとも特徴的で、好発部位はアキレス腱、上腕三頭筋・頸骨粗面・手指の伸筋の腱である。これらの症状はいずれも進行性だが、経過が緩徐のためにCTXと診断されるまでに時間を要することが多い。軽度精神遅滞、錘体路症状、白内障、小脳性眼球運動障害を呈し、抗てんかん薬のみの治療を受けていた患者が、CTXと診断されケノデオキシコール酸の投与により軽快したように小児期からの早期診断・治療が重要である。本研究の結果は、CTXで見られる小脳症状、白内障は、高コレスタノール血症が持続し、コレスタノールが小脳や水晶体上皮細胞に蓄積し、細胞死を引き起こすことに起因するとの仮説を強く支持するものである。また、コレスタノールによる小脳神経細胞、角膜内皮細胞、水晶体上皮細胞のアポトーシス誘導の際にICE, CPP32 proteaseが活性化することが明らかになったが、現在さらに詳しい情報伝達系の解明を行っている。前頭葉性の痴呆例で、高コレスタノール血症およびCYP27遺伝子にヘテロの変異が見いだされた。高コレスタノール血症は、CYP27遺伝子異常と関連があると考えられ、痴呆と高コレスタノール血症の密接な関連性が示唆された。今後、コレスタノールによる大脳培養細胞死について解析し、高コレスタノール血症と痴呆との関係について、検討を加えていきたい。(研究の背景)脳腱黄色腫症(CTX)は、ステロール27位水酸化酵素の障害による先天性の代謝異常症で、コレステロールが胆汁酸に代謝される過程が阻害されて、胆汁酸の組成が異常を来たすことが一次的な代謝障害である。血清中の胆汁酸はコール酸を除いて一様に低下し、正常には存在しない胆汁アルコールが出現する。CTXの遺伝子異常は家系ごとに異なっているが、血清中のコレスタノールが高値になることと、黄色腫や小脳症状があらわれることは共通している。コレスタノールも正常ではマイナーな側副路を経由して異常に増量する。そこで高コレスタノール血症がもたらす病態について研究を進めた。(研究結果)Wistar系ラットに1%コレスタノール含有食を15週間投与し、CTXのモデル動物作製を試みたところ、血清、小脳、肝臓、水晶体、眼房水にコレスタノールが蓄積した。小脳プルキンエ細胞、角膜内皮細胞、水晶体上皮細胞にそれぞれ10μg/mlコレスタノールを添加したところ、核に強い蛍光が認められアポトーシス誘導が示唆され、同時にICE、CPP32プロテアーゼ活性が上昇していた。(考察)これらの知見はCTX患者において、高コレスタノール血症という状態が長く続くことと小脳プルキンエ細胞にコレスタノールの蓄積をもたらし、細胞膜の流動性の低下、カルシウムチャンネルの障害からアポトーシス、ひいてはプルキンエ細胞の機能欠落に至るという仮説を支持する疾患モデルといえよう。脳腱黄色腫症(cerebrotendinous xanthomatosis : CTX)はステロール27位水酸化酵素の障害による先天性の脂質代謝異常症で、血清コレスタノール値が上昇し、腱および神経系の黄色腫、小脳症状、錐体路症状、若年性白内障、痴呆などの症状が現れる。 | KAKENHI-PROJECT-13480201 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13480201 |
脳腱黄色腫症におけるアポトーシス誘導機構 | 我々はCTX患者の神経、眼などの症状が、コレスタノールによる神経細胞や角膜細胞、水晶体の細胞のアポトーシスに起因するの仮説をたててin vivoおよびin vitroの両面から研究を進め、それを実証する結果を得た。ラットにコレスタノール含有食を15週間投与し、CTX様モデル動物である高コレスタノール血症ラットを作成した。小脳、肝臓、水晶体、眼房水にコレスタノールが蓄積した。そこで、コレスタノールが小脳(特にプルキンエ細胞)、角膜内皮細胞・水晶体上皮細胞の細胞死(アポトーシス)を起こすとの仮説をたて、これを実証する実験を行った。ラットの小脳細胞、ウシ角膜細胞、水晶体上皮細胞を培養し、コレスタノールをの細胞死への効果をトリパンブルー法、TUNELで解析した。さらにアポトーシスの要件であるカスパーゼ活性(ICE, CPP32protease)を測定した。その結果、コレスタノールは小脳細胞、角膜細胞、水晶体上皮細胞細胞のカスパーゼ活性を有意に上昇させ、アポトーシスを誘導することが明かとなった。以上の結果は上記の仮説を実証し、CTX患者の小脳症状、眼症状の機構解明に寄与する研究成果をあげた。 | KAKENHI-PROJECT-13480201 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13480201 |
効率的な交通ネットワーク計画を歪める習慣的行動メカニズムの解明 | 近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。筆者は、習慣的行動による情報探索の低下が、知覚バイアスを発生させる大きな要因と考えている。よって、本研究は、(1)習慣的行動メカニズムの検討を行った後、各種の事例に基づいて、(2)知覚バイアスの発生を確認した上で、(3)習慣的行動を強める要因を把握し、(4)習慣性の強さ(習慣強度)を測定する方法を検討する。さらに、(5)習慣形成要因と習慣強度、知覚バイアスとの因果連鎖を分析し、(0)知覚バイアスを考慮した離散選択モデルを構築することを目的とする。本年度は、供用後5年を経た鉄道新線を対象に需要の定着過程のデータ収集と分析とを行った。時系列の需要総量を把握するために、都市交通年報の断面交通量データおよび東京都交通局の所有する輸送需要データを取得した。平成14年度に都営大江戸線利用者、非利用者を対象に実施したインターネットを用いたアンケート調査の同一被験者にパネル調査を行い、経路利用および、知覚誤差の経年変化と習慣的行動との関係を把握した。インターネット調査では平成14年度インターネット調査の被験者(モニター)と同一の被験者が対象となるため、(株)アサツーディケイのインタニネット調査システムKNOTsを利用した。このデータ取得が研究補助のうちの大半である。取得できたパネルデータは、通勤目的トリップを104サンプル、私事目的トリップを101サンプル取得することができた。これらのデータにより、新しい交通ネットワーク供用後の転移速度と速度を決定づける習慣的行動との関係の解明を行った。こうした実行動と知覚状況に関する実データの解析とともに、知覚誤差の減少とともに、新規路線の需要定着が進む交通行動モデルの理論画からの検討を行った。複数の方法の検討を行ったが、特に経路選択行動とサービス水準の知覚値を同時決定する同時方程式モデルの体系で検討を試みた。近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。筆者は、習慣的行動による情報探索の低下が、知覚バイアスを発生させる大きな要因と考えている。よって、本研究は、(1)習慣的行動メカニズムの検討を行った後、各種の事例に基づいて、(2)知覚バイアスの発生を確認した上で、(3)習慣的行動を強める要因を把握し、(4)習慣性の強さ(習慣強度)を測定する方法を検討する。さらに、(5)習慣形成要因と習慣強度、知覚バイアスとの因果連鎖を分析し、(0)知覚バイアスを考慮した離散選択モデルを構築することを目的とする。本年度は、供用後5年を経た鉄道新線を対象に需要の定着過程のデータ収集と分析とを行った。時系列の需要総量を把握するために、都市交通年報の断面交通量データおよび東京都交通局の所有する輸送需要データを取得した。平成14年度に都営大江戸線利用者、非利用者を対象に実施したインターネットを用いたアンケート調査の同一被験者にパネル調査を行い、経路利用および、知覚誤差の経年変化と習慣的行動との関係を把握した。インターネット調査では平成14年度インターネット調査の被験者(モニター)と同一の被験者が対象となるため、(株)アサツーディケイのインタニネット調査システムKNOTsを利用した。このデータ取得が研究補助のうちの大半である。取得できたパネルデータは、通勤目的トリップを104サンプル、私事目的トリップを101サンプル取得することができた。これらのデータにより、新しい交通ネットワーク供用後の転移速度と速度を決定づける習慣的行動との関係の解明を行った。こうした実行動と知覚状況に関する実データの解析とともに、知覚誤差の減少とともに、新規路線の需要定着が進む交通行動モデルの理論画からの検討を行った。複数の方法の検討を行ったが、特に経路選択行動とサービス水準の知覚値を同時決定する同時方程式モデルの体系で検討を試みた。近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。 | KAKENHI-PROJECT-14550532 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14550532 |
効率的な交通ネットワーク計画を歪める習慣的行動メカニズムの解明 | 筆者は、習慣的行動による情報探索の低下が、知覚バイアスを発生させる大きな要因と考えている。本年度は、都営12号線を対象に、需要定着過程における習慣行動のメカニズムについて検討を行った。まず、短期的な知覚誤差の発生メカニズムについて検討した後、Web調査によって、大江戸線利用者と非利用者で大江戸線を代替経路とすることが可能な被験者を2803名抽出し解析を行った。この結果、利用経路に対しては60%強が正確(-5+5分)に知覚しているのに対し、代替経路に対しては、40%前後しか正確に知覚していないことがわかった。また、所要時間、待ち時間、乗換え時間別に通勤トリップの知覚誤差分布と知覚誤差の平均値の経年変化をみたところ、所要時間については、利用年数による知覚誤差の収束が明確でないが、待ち時間と乗換え時間については利用を重ねるに従って知覚誤差が小さくなる傾向がわかった。また、私用トリップでは、所要時間、待ち時間の経年的な誤差縮小傾向が明らかになることがわかった。近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。筆者は、習慣的行動による情報探索の低下が、知覚バイアスを発生させる大きな要因と考えている。本年度は、東海道本線を対象に、経路選択行動におけるサービス水準の知覚誤差を分析した.離散選択モデルは分析者側が設定したサービス水準を用いることが通常だが,特定の経路に系統的な知覚誤差が発生する場合は,知覚誤差をランダム項で吸収できない.東海道線と横須賀線の利用者を対象に知覚誤差の分析を行った結果,所要時間や混雑率に大きな知覚誤差が発生すること,またその要因として過去のサービス悪化の記憶や個人の路線の評価,情報探索性向などが影響することを明らかにした.以上の観察結果をもとに,サービス水準の知覚誤差モデルを構築するとともに,選択肢集合の形成と選択行動を同時表現するPLCモデルで習慣強度を考慮した経路選択モデルを検討した.近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。 | KAKENHI-PROJECT-14550532 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14550532 |
高温高圧水を用いた温度・圧力可変型水性二相抽出システムの開発 | 超臨界水反応観察セルに,水性二相系溶液の導入システムを組み込み,さらに攪拌と分取の機能を付加して高温高圧水性二相抽出システムを構築した。ポリエチレングリコール(PEG)-硫酸ナトリウム水性二相系におけるアルコール,ケトン,ニトロアルカンの分配に及ぼす塩濃度の効果を検討し,各有機化合物の分配係数が溶質と高分子溶液相との相互作用および塩斥効果の関数として表すことができることを示した。また,高分子溶液相への分配係数を推算し,その値がPEGゲル粒子を充填したカラムを用いる液体クロマトグラフィーにより得られる分配係数とよく一致することを明らかにするとともに,示差熱分析により得られた結果から,水性二相抽出における分離選択性は特定の水和構造を持つPEG相への分配によるものであることを示した。さらに,アルコールとケトンをモデル化合物として,分配係数の温度依存性を25-100°Cの範囲で調べ,相間移動自由エネルギー△Gを求めて抽出機構の解析を試みた。その結果,水性二相抽出においては温度を変化させることによって分配係数を大きく変化させ,分離を制御できることが明らかになった。一方,高分子の疎水部と水分子の相互作用,ならびに分離選択性への寄与を明らかにすることを目的として,アルキル化学結合型シリカゲルを用いた逆相液体クロマトグラフィーにおけるイオンの保持挙動を,独自に開発した移動相体積測定法を駆使して検討した。その結果,アルキル結合層表面にはバルクの水とは異なる溶質親和性を持つ水の層が形成され,その水が分離媒体として機能していることを明らかにした。超臨界水反応観察セルに,水性二相系溶液の導入システムを組み込み,さらに攪拌と分取の機能を付加して高温高圧水性二相抽出システムを構築した。ポリエチレングリコール(PEG)-硫酸ナトリウム水性二相系におけるアルコール,ケトン,ニトロアルカンの分配に及ぼす塩濃度の効果を検討し,各有機化合物の分配係数が溶質と高分子溶液相との相互作用および塩斥効果の関数として表すことができることを示した。また,高分子溶液相への分配係数を推算し,その値がPEGゲル粒子を充填したカラムを用いる液体クロマトグラフィーにより得られる分配係数とよく一致することを明らかにするとともに,示差熱分析により得られた結果から,水性二相抽出における分離選択性は特定の水和構造を持つPEG相への分配によるものであることを示した。さらに,アルコールとケトンをモデル化合物として,分配係数の温度依存性を25-100°Cの範囲で調べ,相間移動自由エネルギー△Gを求めて抽出機構の解析を試みた。その結果,水性二相抽出においては温度を変化させることによって分配係数を大きく変化させ,分離を制御できることが明らかになった。一方,高分子の疎水部と水分子の相互作用,ならびに分離選択性への寄与を明らかにすることを目的として,アルキル化学結合型シリカゲルを用いた逆相液体クロマトグラフィーにおけるイオンの保持挙動を,独自に開発した移動相体積測定法を駆使して検討した。その結果,アルキル結合層表面にはバルクの水とは異なる溶質親和性を持つ水の層が形成され,その水が分離媒体として機能していることを明らかにした。高温高圧水性二相抽出を安定に長時間行ないうる抽出装置を構築し,これを用いてポリエチレングリコール(PEG)-硫酸ナトリウム水性二相系の状態図の作成を行なった。(1)高温高圧水性二相抽出装置の作製ハステロイ製容器に試料溶液導入用チューブと試料採取用チューブを組み込み,さらに攪拌機能を付加して高温高圧水性二相抽出槽を作成した。水性二相系を構成する液相はあらかじめ調製しておき,高速液体クロマトグラフィー用ポンプを使用して抽出槽に導入される。抽出槽にはサファイヤ製の窓を設けて,攪拌と分相の状態を観察できるようにした。また,抽出槽は温度センサーを挿入したマントルヒーター内に設置して温度制御を行なえるようにし,槽内の圧力は窒素ガスで加圧するとともに超臨界流体クロマトグラフィー用のリストリクターを使用して制御するシステムとした。抽出槽の熱容量に比してヒーターの能力が十分でなかったために設定温度が100°Cを超えると平衡までに長時間を要したが,その精度は±0.1°C程度とほぼ満足できるものであった。(2)状態図の作成抽出槽内で平衡に達した二相系の各相における溶質の濃度は,窒素ガス加圧により,冷却部を通過させてシステムから液相を排出し,これについて高速液体クロマトグラフィーにより分析することにした。構築した高温高圧水性二相抽出システムを用いて,PEGと硫酸ナトリウムとで構成される水性二相抽出系の各相組成の温度依存性を40-100°Cの範囲で検討した。また,ベンゼンなど数種の有機化合物についてその分配係数を測定した。その結果,高温になるほど臨界濃度が低下し,各溶質の分配係数の差が増大することが明らかになった。また,適切な組成を選ぶと,常温では単一相である系を昇温させることによって分相できることがわかった。ポリエチレングリコール(PEG)-硫酸ナトリウム水性二相系におけるアルコール,ケトン,ニトロアルカンの分配に及ぼす塩濃度の効果を検討し,各有機化合物の分配係数が溶質と高分子溶液相との相互作用および塩斥効果の関数として表すことができることを示した。 | KAKENHI-PROJECT-18550081 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18550081 |
高温高圧水を用いた温度・圧力可変型水性二相抽出システムの開発 | また,高分子溶液相への分配係数を推算し,その値がPEGゲル粒子を充填したカラムを用いる液体クロマトグラフィーにより得られる分配係数とよく一致することを明らかにするとともに,示差熱分析により得られた結果から,水性二相抽出における分離選択性は特定の水和構造を持つPEG相への分配によるものであることを示した。ついで前年度において作製した,高温高圧下で水性二相抽出を行ないうる抽出装置を用い,アルコールとケトンをモデル化合物として,分配係数の温度依存性を25-100°Cの範囲で調べ,相間移動自由エネルギーΔGを求めて抽出機構の解析を試みた。その結果,メチル基とメチレン基のΔGは負の値であるのに対して,ヒドロキシル基とカルボニル基のΔGは正の値であること,また前者は実験温度範囲内で一定とみなすことができるのに対して後者は80°C以上で著しく大きくなることがわかった。これらの結果から,水性二相抽出においては温度を変化させることによって分配係数を大きく変化させ,分離を制御できることが明らかになった。一方,高分子の疎水部と水分子の相互作用,ならびに分離選択性への寄与を明らかにすることを目的として,アルキル化学結合型シリカゲルを用いた逆相液体クロマトグラフィーにおけるイオンの保持挙動を,独自に開発した移動相体積測定法を駆使して検討した。その結果,アルキル結合層表面にはバルクの水とは異なる溶質親和性を持つ水の層が形成され,その水が分離媒体として機能していることを明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-18550081 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18550081 |
新規フタロシアニン金属錯体の合成と機能に関する研究 | いくつかの新規フタロシニン錯体の合成を行ない、これらを用いて以下に述べる特性について検討した。(1)構造異性体の制御MPc錯体の四置換体には四つの構造異性体が存在するが、嵩高い置換基(3-pentoxy)をα位に導入した錯体には一種類の構造しか無く、ニッケル(II)錯体では単結晶が得られた。X線結晶構造解析を行なった結果、スクリュー型構造であることが判明した。(2)特異な反応場の構築デンドロンでPc環を覆った錯体では、デンドロンの世代数及びPc環への結合位置によりMPc錯体の内包のされかたに違いが見られた。α位に世代数3のデンドロンを導入した亜鉛(II)錯体は特に良く覆われており、吸収及び発光スペクトルに特異性が見られた;錯体をジクロロメタン等の非極性溶媒中で放置しておくと、Qバンドの長波長側に新しい吸収が現われ、ピリジン等の塩基を少量添加すると元のスペクトルに戻った。(3)酸化触媒テトラ(t-ブチル)フタロシアニンのマンガン(III)、鉄(III)、コバルト(II)、ニッケル(II)及び銅(II)錯体を用いたシクロヘキセンの酸素化反応について検討した。反応は、アルデヒドから生ずる過酸による酸素化とオキソ金属錯体形成を経由する酸素化の二経路により進行することが分かった。また、有害有機塩素化合物であるトリクロロフェノール(TCP)の過酸化水素による酸化分解をテトラスルホフタロシアニナト鉄(III)錯体を触媒として用いて、速度論的に検討した[4)光触媒亜鉛(II)錯体を光触媒として活性酸素の発生能について検討した。また、その応用としてTCPの光酸化分解についても調べた。亜鉛(II)錯体を用いた場合、TCPは効率よく光酸化分解されることが分かった。いくつかの新規フタロシニン錯体の合成を行ない、これらを用いて以下に述べる特性について検討した。(1)構造異性体の制御MPc錯体の四置換体には四つの構造異性体が存在するが、嵩高い置換基(3-pentoxy)をα位に導入した錯体には一種類の構造しか無く、ニッケル(II)錯体では単結晶が得られた。X線結晶構造解析を行なった結果、スクリュー型構造であることが判明した。(2)特異な反応場の構築デンドロンでPc環を覆った錯体では、デンドロンの世代数及びPc環への結合位置によりMPc錯体の内包のされかたに違いが見られた。α位に世代数3のデンドロンを導入した亜鉛(II)錯体は特に良く覆われており、吸収及び発光スペクトルに特異性が見られた;錯体をジクロロメタン等の非極性溶媒中で放置しておくと、Qバンドの長波長側に新しい吸収が現われ、ピリジン等の塩基を少量添加すると元のスペクトルに戻った。(3)酸化触媒テトラ(t-ブチル)フタロシアニンのマンガン(III)、鉄(III)、コバルト(II)、ニッケル(II)及び銅(II)錯体を用いたシクロヘキセンの酸素化反応について検討した。反応は、アルデヒドから生ずる過酸による酸素化とオキソ金属錯体形成を経由する酸素化の二経路により進行することが分かった。また、有害有機塩素化合物であるトリクロロフェノール(TCP)の過酸化水素による酸化分解をテトラスルホフタロシアニナト鉄(III)錯体を触媒として用いて、速度論的に検討した[4)光触媒亜鉛(II)錯体を光触媒として活性酸素の発生能について検討した。また、その応用としてTCPの光酸化分解についても調べた。亜鉛(II)錯体を用いた場合、TCPは効率よく光酸化分解されることが分かった。光化学療法(PDT)用光増感剤,二酸化炭素の光還元、可逆的酸素付加、及び酸素化触媒反応の実験を遂行するために必要なデンドリマ-フタロシアニン錯体を合成した。また、その光触媒能について検討した。1.デンドリマ-フタロシアニンニッケル(II)及び亜鉛(II)錯体の合成Frechetの方法に従い、ジヒドロキシベンジルアルコールを出発原料として各世代のデンドリマ-を合成した。13世代のデンドリマ-のヒドロキシ誘導体と4-及び3-ニトロフタロニトリルを反応させフタロニトリル誘導体を合成した。このフタロニトリル誘導体を金属塩存在下アミルアルコール中で加熱することによりデンドリマ-フタロシアニン金属錯体を合成した。同定は元素分析、赤外、可視吸収スペクトル、NMRスペクトルにより行なった。鉄、コバルト錯体は現在のところまだ合成されていない。2.光触媒能3位にデンドリマ-が置換されたフタロニトリルから合成したフタロシアニンのニッケル(II)錯体は、4位のそれよりも二量体の形成が著しく少ない。これはフタロシアニン環により近いところにデンドリマ-が付くことにより立体障害が大きくなり、環の接近が妨げられたためである。また、世代数が大きくなるにつけ同様な理由で二量体の形成量は少なくなった。トリエタノールアミンを電子供与体、メチルビオローゲンを電子受容体として、錯体の光触媒能を調べた。4位よりも3位、また世代数が大きいほどメチルビオローゲンの光還元は起こりやすい。光不活性な二量体の減少と逆電子移動の抑制によるためと思われる。フタロシアニン金属錯体を用いた、光触媒反応、光線力学的増感作用、酸素化触媒反応、有害物質の酸化分解等について検討し、これら触媒反応に対する本錯体の基礎的特性及びその応用についての評価を行なった。 | KAKENHI-PROJECT-09640668 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09640668 |
新規フタロシアニン金属錯体の合成と機能に関する研究 | 光触媒電子供与体、光触媒、電子受容体の三成分系における触媒の役割を明らかにするための検討を行なった。特に水溶性錯体をめざして、トリスルホフタロシアニナト亜鉛(II)錯体を用いた。その結果、本反応系は酸化的消光過程を経て進むことが分かった。光線力学的増感作用DMSO中テトラ-t-ブチルフタロシアニナト金属錯体による酸素分子の光励起について検討した。この活性酸素分子はガン等の腫瘍を分解する機能を有するので、本錯体は臨床的治療薬としての可能性を持つ増感剤である。コバルト(II)錯体は触媒能がなく、亜鉛(II)錯体は大きな触媒能を示した。また、周辺置換基として、アニオン性のスルホ基よりカチオン性の置換基の方が効率良く励起酸素分子を発生させることが判明した。酸素化触媒アルデヒド存在下シクロヘキセンの酸素酸化の触媒としての本錯体の機能を調べた。反応は、ラジカルによる基質の直接酸素化、及びオキソ金属錯体を形成しこれによる酸素化の二経路により進行することが分かった。その際、マンガン(III)、鉄(III)錯体で反応は促進され、メタルフリー及び亜鉛(II)錯体では反応は進行しないことが判明した。また、コバルト(II)錯体では、誘導期間が現われた。有害物質の酸化分解トリクロロフェノールの過酸化水素による酸化分解における本錯体の触媒作用について速度論的に検討した。反応次数等より分解の反応機構を推定した。デンドリマー錯体フタ口シアニン亜鉛(II)錯体の周辺にデンドリマーを4個導入して、吸収及び発光スペクトルに及ぼす影響について検討した。今後、更に光触媒としてまた酸素化触媒としての機能について検討を進める予定である。フタロシアニン金属錯体を用い、光触媒反応、光線力学的増感作用、酸素化触嫌反応、有害物資の酸化分解等について検討した。光線力学的増感作用DMSO中テトラ-t-ブチルフタロシアニナト金属錯体による酸素分子の光励起について検討した。この活性酸素分子はガン等の腫瘍を分解する機能を有するので、本錯体は臨床的治療薬としての可能性を持つ増感剤である。コバルト(II)錯体は触媒能がなく、亜鉛(II)錯体大きな触媒能を示した。また、周辺置換基として、アニオン性のスルホ基よりカチオン性の置換基の方が効率良く励起酸素分子を発生させることが判明した。光触媒を用いる有害物質の分解アセトニトリル中亜鉛フタロシアニン錯体を用いて、光照射により活性酸素を発生させ、トリクロロフェノールを酸化分解した。その際、フタロシアニン環周辺置換基及び中心金属錯体の影響等について検討した。酸素化触媒フタロシアニン環周辺にフッ素原子を導入して中心鉄イオンの酸化を起こりにくくまた還元を起こりやすくすることにより、過酸により鉄(II)-鉄(III)のサイクルが起こりやすくしてシクロヘキセンの酸素酸化を行なった。これは、過酸やアルデヒド存在下酸素による従来の酸素化に比べてシンプルな反応系である。デンドリマー錯体フタロシアニン亜鉛(II)錯体の周辺にデンドリマーを4個導入して、吸収及び発光スペクトルに及ぼす影響について検討した。今後、更に光触媒としてまた酸素化触媒としての機能について検討を進める予定である。 | KAKENHI-PROJECT-09640668 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09640668 |
小中高生の生きる力を高める芸術系総合学習のカリキュラム開発・過疎地域と芸大の連携 | 芸大と過疎地域の連携を目指す研究メンバーと芸大生が、地域の小中高生用の芸術系総合学習プログラムを作成するため、始原的な創造力を持つ「お窯」の制作やその実際的な活用を含む「ものづくり」の実践を京都市右京区の黒田村で展開。この試行をもとに、過疎地域の潜在的な価値を大学生と地元の子ども達が協働し、4種の「お窯」を使って再発見する「お窯プログラム」を開発。芸大と過疎地域の連携を目指す研究メンバーと芸大生が、地域の小中高生用の芸術系総合学習プログラムを作成するため、始原的な創造力を持つ「お窯」の制作やその実際的な活用を含む「ものづくり」の実践を京都市右京区の黒田村で展開。この試行をもとに、過疎地域の潜在的な価値を大学生と地元の子ども達が協働し、4種の「お窯」を使って再発見する「お窯プログラム」を開発。今年度は「ものつくり」の実践に先立って、それに必要な五感の練成、および「ものつくり」の根本的な意義を問う公開講座を実施した。前者については、本研究の実施舞台となる黒田村のアートヴィレッジにおいて8月12日、13日の2日間、オーディオ機器の専門家、寺村幸治氏とソプラノ歌手、高島依子氏を講師に招き、「音を聴く、音を出す」をテーマにしたワーク・ショップを黒田村の子供達を対象におこない、人工の音、自然の音それに人間の声を通じての聴覚練成の機会とした。後者については、本学において「ものつくり」の理論的基礎となる公開講座を、10月28日と12月9日の二度にわたって実施した。そのひとつは、ナポリの古文書研究家・美術家で、晩年のE・ゴンブリッジがそのユニークな活動を高く評価したジュゼッペ・ゼーヴォラ氏を講師として招聘しおこなった、ナポリ銀行所蔵の歴代の出納帳に描かれた様々な落書きに対する氏の分析を中心にしたもの。もうひとつは、アートの境界を社会常識と戦いながち探求し続ける現代美術家、ヘルマン・ニーチェの創造活動を論じた気鋭の美学者、ロベルト・テロージ氏がおこなったものである。以上の活動に加え、黒田村の夏祭りに際し、研究分担者の椎原氏と協力して本学の学生と成安造形大、大阪芸大の学生を組織し、アート・イベントやアート・パフォーマンスをおこない、祭りの活性化を図ると共に、その活動記録を冊子「黒田村アート・ワーク」として纏めている。更に研究分担者の森田氏が、京都、大阪、滋賀の12の中・高校を訪問し、学校での美術教育の現状と問題を調査し、その結果を報告している。今年度は、本研究の実践舞台となる黒田村において、地域環境に根ざした「ものづくり」の可能性がどのように開かれているのかを探るべく、その前段階として以下の企画、調査をおこなった。(1)黒田地区の自然環境の観察、(2)黒田地区の伝統的遊びに関する調査研究(1)に関しては、旧京北町片波自然観察インストラクターの伊藤五美氏と地質研究者である本研究分担者の原田教授を講師に招き、御用林としての歴史と深く結びつき形成された黒田地区内の片波川源流域の特異な伏条台杉群とその周囲の動植物、地質の現地観察を、本学学生および黒田の子供たちも交えて春季と秋季におこない、その特性や現状を理解すると共に、黒田地域の先人達が脈々と培ってきた自然との共生の知恵や、周囲の環境に応じて自在に姿を変える自然の摂理を体験できる機会とした。(2)に関しては、地域学研究者の中路正恒教授、環境デザイン学研究者の下村泰史助教授(共に本学教員)、それに本研究の協力者、寺村幸治氏が中心となって、本学学生と共に黒田地区の古老たちから、黒田地区の伝統的な遊びに関する聞き取り調査を三度にわたっておこなった。更に、夏祭りの伝統行事である松上げに使用する松明作りや、手作り漁具による鮎取りといった地域の行事にも参加しながら、「ものづくり」を踏まえた新たな遊びの開発のヒントとした。以上の活動に加え、研究分担者の椎原氏の指導の下に、本学学生が地域の子供たちと共に夏祭り会場の入り口用の大アーチを制作し、「ものづくり」の面白さを彼らと共有すると同時に、祭り当日の松上げにも参加し、過疎化によりややもすれば下火になりがちな村祭りの活性化を図った。なお、研究分担者の森田助教授が、昨年に引き続き、京都・大阪・兵庫の中学・高校を訪問し、美術教育の現状と問題点についての調査を継続している。研究開始から3年目に当たる今年度は、研究代表者で企画と実行の責任を負う松原が、所属する京都造形芸術大学での職位変更に伴い、5月に茨城へ転居するという想定外の事態が発生したため、当初の目標を変更せざるを得なかったという点を、最初にお断りしておかなければならない。そのような変則的な状況の中で、今年度は以下の活動をおこなった。先ず例年に倣い、松原が京都造形芸大の学生達と夏祭りの時期に黒田を訪れ、村の子供達や村人と協力しながら、昨年制作した会場ゲートを祭りの中心行事である松上げにふさわしい、火をテーマとしたより壮麗なものへと作り変える作業をおこなった。祭りの夜を華やかに彩り、大好評を博したこのゲートは、共同体の象徴的存在である祭りの活性化が「ものづくり」により可能性となることを極めて具体的に実感させてくれる格好の証左となった。 | KAKENHI-PROJECT-17602010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17602010 |
小中高生の生きる力を高める芸術系総合学習のカリキュラム開発・過疎地域と芸大の連携 | また昨年に続き、中路を中心に学生達が村の古老達に対し、「ものづくり」の深い経験を丹念に掘り起こす聞き取りとアンケート調査をおこない、更には松原・椎原・中路と研究協力者の寺村幸治が、現在の黒田に最も必要かつふさわしい「ものづくり」プログラムとは何かを今一度模索すべく、村人達と討議を重ねた。その結果、黒田の風土を形成する基本要素、土・火・木に深く関わる三種のお窯の制作と活用を軸にした「お窯プロジェクト」が生まれるに至った。これは、村の子供が大人達と協力しながら、周辺の雑木を材に自家製の炭焼き窯で炭を作り、近隣で収穫される山の幸をこの炭と自家製の石窯を用いて調理し、出来た料理を自作の陶器で食するという「ものづくり」体験を通し、過疎化によって急速に荒廃しつつある黒田の山林の現状を直視し、その復興を考えていく循環型プログラムである。黒田自治会の協力を得て、平成20年度4月から早速、この一環として作陶プロジェクトが実施されることになっている。今年度は、五感による「ものづくり」のための始原的な道具、お窯を利用した二種類のプログラムを企画し、黒田村で実施した。第一番目は、村内にある京都造形芸術大学の陶芸施設で吉川充教授が講師を務めた4回の陶芸講座である。この中で、小中高生のみならず黒田の老若男女約40名が、塑形から焼成に至る一連の陶芸制作と作品講評会を体験し、自らの手で生み出した食器・花器・オブジェによって自身の生活をデザインする可能性を探った。第二番目は、石窯制作とパン焼きの専門家、竹下晃朗氏の指導により、造形大の学生と村人の協同で実現した石窯プロジェクトである。先ず、夏休み中に、村の中央広場の一隅に共同体のシンボルとしてパン焼き用の石窯施設を設置し、秋にこの広場で開催された野菜祭りで、黒田産の米をパン粉に加工し、山の間伐材を薪に利用して子供達と黒田地産の石窯パンを焼き、村外の買い物客からも好評を博した。村全体の3つの底力、自治会を中心に結束する村の男性陣の「マンパワー」、彼らの高度な左官・木工加工・大工技術が示す「ものづくりパワー」、黒田村の特性を生かしたパン開発と子供達の食育に向けて、原料生産から加工・調理・販売方法までを検討しようと村の女性陣が立ち上げたパン焼き研究会の「ウーマンパワー」が発揮されることになったこの計画は、参加した村の子供達に加え、協力した学生達にも「生きる力」を学ぶ絶好の機会となった。以上の黒田村での試行を踏まえ、昨年11月から茨城県の常陸太田市の青年会議所および市役所の市民協働課と連携し、過疎問題を抱える同市で子供達と母親を対象に、4種のお窯を使って食育と景観の再生をおこなう「お窯プロジェクト」に着手し、現在推進中である。 | KAKENHI-PROJECT-17602010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17602010 |
肉眼観察で確認困難な断層変位基準の定量的把握手法の構築 | 本研究は、活断層露頭において、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法の構築を目的とした。主に断層周辺の黒色土において、帯磁率・帯磁率異方性・古地磁気・含水率・強熱減量・C-14年代の測定、火山灰の分析が有効であることを確認した。これらの手法を効率的に適用するために、それぞれの手法の特徴を踏まえて、体系的な作業の流れを検討した。まず露頭において帯磁率を測定し、その後試料を採取する。採取した試料は、古地磁気・帯磁率異方性・含水率・強熱減量を順に測定し、火山灰を分析する流れが効率的である。合わせてC-14年代測定が効果的である。本研究は、C-14年代測定・火山灰分析・粒度分析・帯磁率測定・土色測定・強熱減量測定・ESR測定・地中レーダ探査などの複数の手法を組み合わせて、活断層露頭において肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法を構築することを目的としている。平成26年度は、阿寺断層中部で行われた過去の活断層トレンチ掘削調査において、下部から上部へ数cmから数十cm間隔で採取された黒色土を用いて、C-14年代測定と火山灰分析を行った。下部から上部へ連続したC-14年代値と火山灰の分布特徴は、断層付近を境に対比できることを確認し、これらが肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する際に有効である可能性が示された。また、C-14年代値と火山灰の降灰時期が調和的であることを確認するとともに、密なC-14年代値がこれまでより詳細な断層活動時期の把握に有効であることも確認した。この試料を採取した露頭は現存しないことから、他の探査・分析・測定を適用することができる活断層露頭での研究が必要である。そのため、平成26年度は、既往のトレンチ掘削地点から数m離れた場所で活断層露頭を新たに掘り出した。その露頭では、1平方メートル程度の中に砂礫層とそれを覆う黒色土が複数の断層で変位している。この露頭において、観察・スケッチなどを行うとともに、1辺約2cmのプラスチックキューブを用い試料採取を行い、黒色土の粒度分析を実施した。その結果、深度によって粒径分布の特徴が異なることが明らかになり、その特徴を用いることで肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を検討できる可能性があることが示された。平成27年度は、この露頭において探査・分析・測定の手法を複数組み合わせて断層変位基準の有無を定量的に把握する予定である。本研究は、炭素14(C-14)年代測定・火山灰分析・粒度分析・帯磁率測定・土色測定・強熱減量測定・電子スピン共鳴(ESR)測定・地中レーダ探査などの複数の手法を組み合わせて、活断層露頭において肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法を構築することを目的としている。平成27年度は、前年度に引き続き、活断層である阿寺断層の露頭において採取された堆積物試料(主に黒色土)を用いて、各種分析・測定を実施した。その結果、黒色土のフミン酸とヒューミンのC-14年代値の差、火山ガラスや重鉱物の含有率、強熱減量や含水率の特徴は、断層の両側の堆積物を対比する際に有効である可能性を示すことができた。ただし、これらは全て類似の対比を示すわけではなく、総合的に検討することが必要であると考えられる。粒度分布については、深度によって異なる特徴が認められるものの、明瞭な違いが認められなかったり、同じ試料でも異なる結果が得られたりする場合があることから、断層の両側の堆積物を対比する際に慎重な検討が必要である。その他、帯磁率の値が場所によって異なる特徴が認められたこと、古地磁気測定が可能な試料であることが確認できたことから、今後、帯磁率の詳細な分布や断層をトラバースする古地磁気の特徴を把握することで、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位を検討できる可能性がある。さらに、実際の活断層調査での適用においては、時間対効果および費用対効果を踏まえた手法の体系化が重要である。本研究の目的は、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する手法を複数の手法を組み合わせて構築することである。これまでに断層変位基準の指標としてC-14年代、火山ガラス、重鉱物、粒度、強熱減量、含水率などの有効性を確認するとともに、これらの指標を測定・分析する手法の適用性を確認してきた。これらの成果から、断層変位基準を定量的に把握する手法に見通しが立ち、今後は、時間対効果および費用対効果を踏まえた手法の体系化を進めていく状況であることから、おおむね順調に進展していると考えている。さらに、帯磁率測定や古地磁気測定の適用検討を開始していることや、当初検討していたESR測定や地中レーダ探査などの手法の適用も今後可能であることから、これらの成果も加えることで、より汎用性が高い手法の構築が可能と考えている。なお、本研究を進める中で、連続的なC-14年代測定が断層変位基準認定に有効であることに加え、詳細な断層活動時期の把握にも有効である可能性も認められ、予想以上の成果も得られつつある。 | KAKENHI-PROJECT-26350481 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26350481 |
肉眼観察で確認困難な断層変位基準の定量的把握手法の構築 | 本研究は、活断層露頭において、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法の構築を目的としている。平成27年度までに、活断層である阿寺断層のトレンチ掘削壁面から採取した堆積物試料を用いた各種分析等の結果、上下に数cm間隔の炭素14年代値、火山ガラスと重鉱物の含有率、強熱減量、含水率の特徴が、断層付近の堆積物の対比に有効であることを示すとともに、古地磁気測定が可能な試料であることを確認した。平成28年度は、主に火山灰分析、帯磁率測定、帯磁率異方性測定、古地磁気測定を行った。火山灰分析は、トレンチ掘削壁面における上盤側と下盤側において下部から上部に数cm間隔で採取した堆積物を用いて行い、姶良Tn火山灰、アカホヤ火山灰、カワゴ平火山灰の広域火山灰に加え、低発泡タイプの火山ガラスを特徴とするローカル火山灰を抽出し、これらの火山灰が断層付近を境に変位していることを確認した。帯磁率測定は、トレンチ掘削壁面の断層付近において行った結果、地層ごとに値が変化しており、その地層が断層付近を境に変位していることを確認した。帯磁率異方性測定は、トレンチ掘削壁面において1辺2cmのプラスチックキューブに採取した試料を用いて行い、断層付近の試料の最大軸が断層面に沿う特徴を示すことを確認した。古地磁気測定も帯磁率異方性測定と同じプラスチックキューブ試料を用いて行い、断層付近で多く回転していることを確認した。これらの結果から、火山灰分析、帯磁率測定、帯磁率異方性測定、古地磁気測定が、堆積物中の断層変位及びその基準を定量的に把握する際に有効であることを示すことができた。時間対効果と活動時期の解明を踏まえた場合、帯磁率測定、試料採取、古地磁気測定、帯磁率異方性測定、含水率測定、試料分割、炭素14年代測定・強熱減量測定・火山灰分析の順で体系的に行うことが有効である。本研究は、活断層露頭において、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法の構築を目的とした。主に断層周辺の黒色土において、帯磁率・帯磁率異方性・古地磁気・含水率・強熱減量・C-14年代の測定、火山灰の分析が有効であることを確認した。これらの手法を効率的に適用するために、それぞれの手法の特徴を踏まえて、体系的な作業の流れを検討した。まず露頭において帯磁率を測定し、その後試料を採取する。採取した試料は、古地磁気・帯磁率異方性・含水率・強熱減量を順に測定し、火山灰を分析する流れが効率的である。合わせてC-14年代測定が効果的である。本研究において、C-14年代値と火山灰の分布特徴が、断層変位基準を定量的に把握する際に有効である可能性が示された。一方でこれらの分析を適用した露頭が現存しないことから、他の探査・分析・測定を適用して体系的な手法を検討することができる活断層露頭が必要であった。平成26年度は、既往の活断層トレンチ掘削地点から数m離れた場所で本研究の複数の手法が適用可能と考えられる露頭を新たに掘り出すことができた。この露頭において、観察・スケッチと粒度分析の結果が得られたものの、その他の手法については成果を得るには至っていないことから、やや遅れていると考えている。平成28年度は、引き続き主に分析・測定に係わる室内作業を継続し、得られた結果を評価して断層変位基準を定量的に把握する体系的手法を構築する予定である。特に、平成27年度に適用可能であることを確認した帯磁率と古地磁気の測定について、帯磁率の詳細な分布や断層をトラバースする古地磁気の特徴を把握するための分析とデータ解析を行う予定である。その他、ESR測定や地中レーダ探査などの手法の適用も検討する。これらの成果を総合して、時間対効果および費用対効果を踏まえた体系的手法の提示を行う。 | KAKENHI-PROJECT-26350481 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26350481 |
家畜預託慣行の史的研究 | 本研究では、家畜預託慣行が近代日本農村におけて果たしていた歴史的意義を解明した。具体的には、農業災害補償制度などの法制度整備過程および実施後の経過に関する資料群を中心に分析し、それら法整備の進展と家畜預託慣行の衰退との代替関係を明らかにした。家畜預託慣行は、家畜市場をめぐる法整備および金融市場、保険市場ともに未発達であった当時の農村社会において、それを補完し農民の営農や生活を保障するインフォーマルな社会制度であったとの結論に至った。最終年度には、今までの研究をとりまとめて、家畜預託慣行の近代日本農村における歴史的意義につき考察を進めた。特に、1930年代に家畜預託慣行は衰退するが、それに代替したものを明らかにする作業にとりかかった。戦後の農業災害補償制度の源流ともなっている1930年代に法整備が進展した農業関連の保険・金融政策に着目し、史料を収集し分析した。その結果、農村社会における家畜の預託は、預ける側(牛持)と預かる側(厩先)の両者にとって相互扶助的な慣行的側面と、副業的利益追求を目的とする経営的側面が融合したものとして捉えるべきもので、家畜市場をめぐる法整備および金融市場、保険市場ともに未発達であった当時の農村社会において、それを補完し農民の営農や生活、つまりは《生存》を保障するインフォーマルな社会制度であったとの結論に至った。また、国家的なフォーマルな保険や金融が整備され、家畜購入資本の融資が可能となり、だれもが自家牛を所有できような時代が確実に到来したことで、動産信用にもとづく家畜保険は地域社会に歓迎された。しかし、従来の家畜預託慣行の大前提ともなっていた地域内分業を崩壊させた要因を作ったものも、他ならぬ国家的な軍事行動であったことは完全に忘れられていることは指摘しておく必要がある。これらの総括的内容は、2012年度大阪歴史学会大会近代史部会にて報告した。大会当日の報告内容およびコメント、討論要旨に関しては、「1930年代における日本農政の転換と家畜預託慣行」(『ヒストリア』第235号、2012年12月)に掲載されている。本研究では、家畜預託慣行が近代日本農村におけて果たしていた歴史的意義を解明した。具体的には、農業災害補償制度などの法制度整備過程および実施後の経過に関する資料群を中心に分析し、それら法整備の進展と家畜預託慣行の衰退との代替関係を明らかにした。家畜預託慣行は、家畜市場をめぐる法整備および金融市場、保険市場ともに未発達であった当時の農村社会において、それを補完し農民の営農や生活を保障するインフォーマルな社会制度であったとの結論に至った。今年度は、分散的になっている畜産史を再構築するために畜産史に関する基本的資料の網羅的な収集と分析をすすめた。具体的には、農業災害補償制度、家畜保険法、農業動産信用法の法制度整備過程および実施後の経過に関する資料群を中心に収集した。その結果、昭和農業恐慌対応に始まった1930年代の日本農政の転換において、重要課題として畜産業に着目が集まり、国家的課題となっていく過程の見通しをたてることができた。とりわけ1931年に施行された有畜農業奨励規則は、従来の政府のとった畜産奨励方針が、個体の改良と増産に重点をおいていたのを反省して、畜産と農業経営との有機的な結びつきを図ろうとしたところに、重大な意義をもっていた。そして、当該期に展開した農山漁村経済更生運動の有効な具体策として、全国的に取り組まれていた実態の一端を把握できた。この成果は、従来の一部の農山漁村経済更生運動研究が指摘していたように、一見すると自給主義(自給肥料の増産、自給味噌、醤油など)をはかりながら、全体としては商品経済化の促進を結果するもの(二毛作奨励、共同作業奨励、有畜農業、園芸作物の導入、増産など)であり、当面焦眉の課題に答えながら、農政の転換、農村構造の変化の線を進めていたことに注意を払う必要があるとする評価を裏付けるものである。つまり日本近代農業を特徴付けていた養蚕業からの転換をはかる当該期の日本農政および農村にとって、「有畜農業」の指導と奨励は、歴史的に大きな意味をもっていたことを解明しつつある。現状では、交付申請書に記した「研究が当初計画どおりに進まない時の対応」となっている。当初分析予定としていた家畜多頭所有者の史料群(高木家文書および中村家文書)が計画通り進まず、畜産史関係資料の網羅的に収集に研究をシフトさせている。平成23年度に進めていた方向で研究を進めていきたい。つまり分散的になっている畜産史の学説史を整理し、再構築することを目的としている。先ず具体的には、1930年代以降に展開する有畜農業奨励政策の歴史的性格を明らかにする作業を進めていきたい。畜産史関連資料の収集を進める。西井俊蔵『農業機械文献目録』(1943年)、農林省振興局研究部『畜力利用に関する文献目録』(1952年)などの文献目録を参照しつつ、当該時期に畜産業研究を行った代表的な農業経済学者の蔵書や資料の調査を進めていく。 | KAKENHI-PROJECT-23720321 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23720321 |
ブリッジ結合磁路を利用した可変出力・磁気発振型正弦波出力インバータの開発 | 本研究では、磁気発振型正弦波出力のインバータとブリッジ結合磁路を組み合わせて、交流系統への出力電力制御が可能な可変出力インバータを開発することを目的とした。数値目標を、制御可能な出力電力が4 kW以上で電力変換効率を92 %以上に設定した。まず、汎用電子回路シミュレーターSPICEで利用可能なブリッジ結合磁路の磁心モデルを考案し、次いで、3次元磁場解析ソフトJMAGを用いてブリッジ結合磁路の磁心内部・外部の磁界分布を解析した。しかし、ブリッジ結合磁路を利用して構成した可変出力の磁気発振インバータでは、出力電力が1.6 kWで電力変換効率83 %と目標値には達しなかった。本研究では、磁気発振を利用した正弦波出力のインバータと、磁気応用素子であるブリッジ結合磁路を組み合わせて、直流の信号電流により、既存の交流系統に供給する電力が制御可能な可変出力・磁気発振型正弦波インバータを開発する。本年度は、まず初年度からの継続である、ブリッジ結合磁路を除いた磁気発振型正弦波出力インバータ本体の出力電力拡大ならびに電力変換効率の改善について検討を行った。その結果、コモンモードフィルターを交流系統側に接続することにより、スイッチングによる放射伝搬ノイズが減少することを明らかにした。試験結果では、出力電力が3.6 kW(電力変換効率90 %)と当初の数値目標4 kW超えることができなかったが、この方策が出力電力の拡大化に期待できることを明らかにした。次いで、本インバータシステムに最適なブリッジ結合磁路の磁心材質及び形状を明らかにするため、市販の3次元磁場解析ソフトを用いて磁心内部及び外部の磁界分布を定量的に解析した。使用した磁場解析ソフトはJSOL社開発による電気機器の設計・開発のためのシミュレーションソフトウェアであるJMAGを使用した。しかし、この解析ソフトには、まだコバルト系アモルファスのモデルが存在していないため、磁心モデルとして軟磁性材料で異方性の指定が等方性であるJFEスチールを使用した。磁心構成、寸法及び巻線数、ならびに解析用のメッシュ長を種々変化させて、磁心内部及び外部の磁界分布を計算したところ、磁心寸法によっては磁心の一部に磁場が偏る領域が存在することなど、幾つかの新しい事項を明らかにすることができた。しかし、本インバータシステムに最適なブリッジ結合磁路についての知見はまだ得られていない。本研究では、磁気発振型正弦波出力のインバータとブリッジ結合磁路を組み合わせて、直流電流により既存の交流系統への出力電力制御が可能な可変出力の正弦波インバータを開発する。数値目標を、制御可能な出力電力が4 kW以上で電力変換効率を92 %以上に設定した。この目標を達成するために初年度から次年度に掛けて、ブリッジ結合磁路を除いたインバータ本体を試作して、性能試験を行った。インバータ本体の電圧型ブリッジ回路本体を構成するMOSFETの外部に高速ダイオードを付加してMOSFETの内蔵ダイオードの逆回復特性を見かけ上改善させること、コモンモードチョークを利用したノイズ低減策について工夫した。その結果、最大出力電力3.6 kWで電力変換効率90 %と、目標値のほぼ90%の値が得られた。インバータ本体の設計は、汎用電子回路シミュレーターを利用し、ブリッジ結合磁路の磁心モデルも考案した。さらに、次年度では、市販の3次元磁場解析ソフトJMAGを用いて磁心内部・外部の磁界分布を解析した。磁心寸法、巻線数及び解析用のメッシュ長を変化させて磁界分布を計算したところ、磁心寸法により磁心の一部に磁界が偏る領域が存在することなど、幾つかの新しい事項を明らかにした。最終年度では、インバータ本体とブリッジ結合磁路を組み合わせて、直流電流により既存の交流系統に供給する電力が制御可能な可変出力・磁気発振型正弦波インバータを設計製作し、性能試験を行った。その結果、制御可能な出力電力が1.6 kWで電力変換効率83 %と目標値には達しなかったが、ブリッジ結合磁路を利用することにより直流電流で交流出力電力の制御が可能であることを明らかにした。また、本インバータに必要な外部インダクタを漏れインダクタンスを有するコモンモードチョークに置き換えることにより、構成の簡略化が期待できることを明らかにした。本研究では、磁気発振型正弦波出力のインバータとブリッジ結合磁路を組み合わせて、交流系統への出力電力制御が可能な可変出力インバータを開発することを目的とした。数値目標を、制御可能な出力電力が4 kW以上で電力変換効率を92 %以上に設定した。まず、汎用電子回路シミュレーターSPICEで利用可能なブリッジ結合磁路の磁心モデルを考案し、次いで、3次元磁場解析ソフトJMAGを用いてブリッジ結合磁路の磁心内部・外部の磁界分布を解析した。しかし、ブリッジ結合磁路を利用して構成した可変出力の磁気発振インバータでは、出力電力が1.6 kWで電力変換効率83 %と目標値には達しなかった。本研究では、磁気発振を利用した正弦波出力のインバータと、ブリッジ結合磁路と呼ばれる磁気応用素子を組み合わせて、直流の信号電流により、既存の交流系統に供給する電力が制御可能な可変出力・磁気発振型正弦波インバータを開発する。数値目標を、最大出力の制御範囲が4 kW以上で電力変換効率を92 %以上に設定した。この目標を達成するためには、磁気発振型正弦波出力インバータ本体の出力電力拡大と、本出力電力制御方式に最適なブリッジ結合磁路の設計にあると考えている。このため、初年度ではブリッジ結合磁路を除いた磁気発振型正弦波 | KAKENHI-PROJECT-23560314 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23560314 |
ブリッジ結合磁路を利用した可変出力・磁気発振型正弦波出力インバータの開発 | 出力インバータ本体を製作して、その性能試験を行った。まず、コバルト系アモルファステープを特製のトロイダルボビンに巻いた磁心を2個製作し、一方を磁気発振用、他方をブリッジ結合磁路用とした。ブリッジ結合磁路はこのアモルファストロイダル磁心と市販のケイ素鋼板カットコアによるU形磁心を組み合わせて構成した。詳細な磁気特性測定の結果、磁気発振用磁心に適する角形ヒステリシス特性が得られていること、ブリッジ結合磁路では想定通り角形ヒステリシスを保持したまま最大磁束値が制御可能であることを確認した。次いで、この磁気発振用のアモルファストロイダル磁心を用いて、磁気発振型正弦波出力インバータ本体を製作し、その性能試験を行った。本インバータ本体では、各スイッチング素子(MOSFET)の外部に高速ダイオードを付加してMOSFETの内蔵ダイオードの逆回復特性が見かけ上改善されている。また、本インバータに加える交流電圧及び制御電流は、可変単巻変圧器を利用して生成し手動で調整した。なお、インバータ本体の設計は、研究実施計画にはなかったが、汎用電子回路シミュレーターを利用して行い、併せて次年度以降の設計製作での使用が想定されるブリッジ結合磁路の磁心モデルを考案した。交流系統電源との間に自作のコモンモードフィルターを接続した磁気発振型正弦波出力インバータを試作し、その性能試験を行ったところ最大出力電力が3.6 kWで電力変換効率が90 %であった。当初目標の最大出力4 kW(電力変換効率が92 %以上)には達しなかったが、目標値のほぼ90%の値であり、おおむね順調に進展していると考えている。しかしながら、当初の計画にあった、本インバータシステムに最適なブリッジ結合磁路の磁心材質、形状及び寸法を明らかにするための、ブリッジ結合磁路の内部及び外部の3次元磁界分布解析については、幾つかの解析結果が得られたものの、最適なブリッジ結合磁路についての知見はまだ得られていない。このため、現在までの達成度を、やや遅れていると判断している。この3次元磁場解析ソフトを用いたブリッジ結合磁路の磁界解析については、次年度の前半も継続して取り組む必要があると考えている。ブリッジ結合磁路を除いた磁気発振型正弦波出力インバータの本体を製作して、その性能試験を行ったところ最大出力電力が3.2 kWで電力変換効率が90 %であった。当初目標の最大出力4 kW(電力変換効率が92 %以上)には達しなかったが、目標値のほぼ80%の値であり、おおむね順調に進展していると考えている。なお一方、この本体の出力電力拡大と電力変換効率の改善に、次年度の前半も継続する取り組む必要有りと考えている。初年度及び本年度に行った、磁気発振型正弦波出力インバータ本体の性能試験の結果が、当初目標の最大出力4 kW(電力変換効率が92 %以上)に達しなかったため、インバータ本体の出力電力拡大化についての検討を、次年度の前半に継続して行う。出力電力の拡大化の方策として、1)発振周波数を低く抑え、磁心磁気特性に起因する電流ノイズを低減させて安定な磁気発振の動作を維持させる、2)MOSFETを並列接続して電流値を稼ぐことを試みる。 | KAKENHI-PROJECT-23560314 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23560314 |
FRAS1 を標的とした胃癌肝転移特異的な治療・診断法の開発 | 平成29年度、我々は、肝転移を有する胃癌患者の原発巣で有意に発現が上昇している遺伝子群をRNA sequencingの結果から抽出し、その遺伝子群からFRAS1を胃癌肝転移関連分子として着目した。CRISPR-Cas9システムを用いてFRAS1のノックアウト株を作成し、FRAS1ノックアウトに伴い増殖能・接着能・遊走能・浸潤能が有意に低下することを示した。また180例の胃癌コホートでは、胃癌原発巣におけるFRAS1高発現症例は有意に累積肝転移発生率が高く、FRAS1高発現はHR 4.05を伴い唯一の独立した肝転移予測因子であった。平成30年度、まずアポトーシスへの影響を評価したところ、FRAS-1ノックアウトによりアポトーシス細胞が増加し、caspase activityが上昇していた。また、細胞内ROS活性がFRAS1ノックアウト細胞で上昇していた。次いで、肝転移能を評価するために、SCIDマウスの門脈に癌細胞を注入することにより、マウスの肝転移モデルを作成することに成功した。皮下腫瘍モデルにおいては、FRAS-1ノックアウト細胞ではワイルドタイプ細胞に比べて有意に腫瘍径が小さかったが、皮下に生着し腫瘍を形成した。肝転移モデルにおいては、ワイルドタイプ細胞が肝転移を形成するのに対し、FRAS-1ノックアウト細胞はほとんど生着しなかった。これは、FRAS1が転移巣形成において、より肝転移巣形成に重要な役割を果たしている事を示す結果と考える。我々は、肝転移を有する胃癌患者の原発巣で有意に発現が上昇している遺伝子群を、次世代シーケンサーを用いたtranscriptome解析により抽出し、その遺伝子群の中の1つであるFRAS1を胃癌肝転移関連分子として着目した。14種の胃癌細胞株と正常腺細胞株であるFHS74intを用いたRT-qPCRを行い、胃癌細胞株の多くでFHS74intに比べてFRAS1は高発現していた。また、RT-qPCRの結果からFRAS1の高発現株の選定を行った。その上で、将来的なin vivo実験でのXenograft肝転移モデルの作成を前提として、BALB/cヌードマウスに胃癌細胞株皮下移植することで生着良好な細胞株の選定を行った。その結果から、研究対象の胃癌細胞株としてMKN1を用いることとした。CRISPR-Cas9システムを用いてFRAS1のノックアウト株をsingle cell cloningで作成し、ノックアウトはsanger sequencingで確認した。MKN1のwild typeと比較して、FRAS1ノックアウト株のphenotypeの変化を確認した。WST assayにて、有意に細胞増殖能が低下した。また、adhesion assayでは細胞接着能の低下を認めた。また、wound healing assayでは細胞遊走能が有意に低下し、matrigel invasion chamberを用いたinvasion assayでは浸潤能が有意に低下した。180例の胃癌原発巣を用い、RT-qPCRでFRAS1発現を調べた。胃癌原発巣におけるFRAS1高発現症例は低発現症例に比べて有意に累積肝転移発生率が高かった。肝転移再発に関する多変量解析を行ったところ、我々の胃癌コホートにおいては、FRAS1高発現はHR 4.05を伴い唯一の独立した肝転移予測因子であった。H29年度に得られた結果より、in vitroならびにex vivoでもFRAS1が胃癌の肝転移関連分子の有力な候補であることが示されたと考える。また、原発巣でのFRAS1発現は、肝転移予測のバイオマーカーとなる可能性も示唆された。平成29年度、我々は、肝転移を有する胃癌患者の原発巣で有意に発現が上昇している遺伝子群をRNA sequencingの結果から抽出し、その遺伝子群からFRAS1を胃癌肝転移関連分子として着目した。CRISPR-Cas9システムを用いてFRAS1のノックアウト株を作成し、FRAS1ノックアウトに伴い増殖能・接着能・遊走能・浸潤能が有意に低下することを示した。また180例の胃癌コホートでは、胃癌原発巣におけるFRAS1高発現症例は有意に累積肝転移発生率が高く、FRAS1高発現はHR 4.05を伴い唯一の独立した肝転移予測因子であった。平成30年度、まずアポトーシスへの影響を評価したところ、FRAS-1ノックアウトによりアポトーシス細胞が増加し、caspase activityが上昇していた。また、細胞内ROS活性がFRAS1ノックアウト細胞で上昇していた。次いで、肝転移能を評価するために、SCIDマウスの門脈に癌細胞を注入することにより、マウスの肝転移モデルを作成することに成功した。皮下腫瘍モデルにおいては、FRAS-1ノックアウト細胞ではワイルドタイプ細胞に比べて有意に腫瘍径が小さかったが、皮下に生着し腫瘍を形成した。肝転移モデルにおいては、ワイルドタイプ細胞が肝転移を形成するのに対し、FRAS-1ノックアウト細胞はほとんど生着しなかった。これは、FRAS1が転移巣形成において、より肝転移巣形成に重要な役割を果たしている事を示す結果と考える。H29年度の研究結果より、FRAS1が胃癌において癌遺伝子として作用し、かつ肝転移成立に関与している可能性が示された。今後は、wild typeとFRAS1ノックアウトを行った胃癌細胞株を用い、アポトーシスや細胞周期への影響も含め、FRAS1の下流に関わる関連分子の検討を行いたい。胃癌肝転移関連分子候補の抽出にあたりtranscriptome解析に用いた症例は、Stage II/III症例であり、TS-1による術後補助化学療法を受けている。 | KAKENHI-PROJECT-17K16521 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K16521 |
FRAS1 を標的とした胃癌肝転移特異的な治療・診断法の開発 | その中で肝転移再発を来してきていることから、ここから抽出されたFRAS1をはじめとする遺伝子群はTS-1耐性に関与する可能性も含んでいる。本邦における胃癌治療のkey drugであるTS-1の主成分である5-FUに対する感受性の変化に関して、FRAS1ノックアウト株を用いて評価したい。さらに、免疫不全マウスを用いたin vivo実験により、肝転移成立への影響を評価する予定である。来年度の実験消耗品に使用予定 | KAKENHI-PROJECT-17K16521 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K16521 |
高温超伝導材料を基盤とする新エレクトロニクスの総合的研究 | 本研究は重点領域研究(1)高温超伝導材料を基盤とする新エレクトロニクス(略:新超伝導工学)の研究計画の策定、研究者相互の調整および本領域内や隣接領域とのコミュニケ-ションなどの業務を通じて、本領域の研究進展を円滑ならしめることを目的とする。本総括班のメンバ-は上記6名の他、本領域の計画研究から山下努(東北大学)、小林猛(阪大)および森末道忠(埼玉大)の3名、評価メンバ-から坂東尚周(京大)、梶村皓二(電総研)、宮沢信太郎(NTT)および大塚泰一郎(日本真空)の4名である。その他に各研究班(第1第4班)の評価メンバ-計13名が所属している。活動の主なものは研究会開催と総括班会議である。定例として総括班会議は研究会と日を合わせて、研究会が2日以上にわたる場合は、その初日に開催して、研究の進展に対する評価、今後の日程の決定などを行う。研究会は平成3年6月12・13日(つくば)、8月2628日(秋田)および平成4年1月20・21日(東京)で開催した。本年は本領域の最終年度であるから、総括班としては平成4年度での成果とりまとめを隣接領域と協調して計画することに特に意を用いた。個人の研究内容は各研究代表者の報告に譲るが、高温超伝導領域に占める新超伝導工学の位置づけには常に大きな関心を持ってきた。実用面での基礎を主とする本領域では現時点で表面的な成果を云々するのは当を得ない。しかし以下に示す様な特徴的な成果は基礎的に重要である。バイクリスタルJJ素子、Bi系単結晶のJJ的特性の確認、各種の方法による超薄膜の製作とそのキャラクタリゼ-ション、従来の方法によるSIS形素子製作の限界とその原因究明、ヘテロエピタクシの特性と表面・界面の評価およびデバイス応用への展望、酸化物超伝導体表面の局所トンネル分光による電子状態の推定、電界効果素子の実験的な確認。本研究は重点領域研究(1)高温超伝導材料を基盤とする新エレクトロニクス(略:新超伝導工学)の研究計画の策定、研究者相互の調整および本領域内や隣接領域とのコミュニケ-ションなどの業務を通じて、本領域の研究進展を円滑ならしめることを目的とする。本総括班のメンバ-は上記6名の他、本領域の計画研究から山下努(東北大学)、小林猛(阪大)および森末道忠(埼玉大)の3名、評価メンバ-から坂東尚周(京大)、梶村皓二(電総研)、宮沢信太郎(NTT)および大塚泰一郎(日本真空)の4名である。その他に各研究班(第1第4班)の評価メンバ-計13名が所属している。活動の主なものは研究会開催と総括班会議である。定例として総括班会議は研究会と日を合わせて、研究会が2日以上にわたる場合は、その初日に開催して、研究の進展に対する評価、今後の日程の決定などを行う。研究会は平成3年6月12・13日(つくば)、8月2628日(秋田)および平成4年1月20・21日(東京)で開催した。本年は本領域の最終年度であるから、総括班としては平成4年度での成果とりまとめを隣接領域と協調して計画することに特に意を用いた。個人の研究内容は各研究代表者の報告に譲るが、高温超伝導領域に占める新超伝導工学の位置づけには常に大きな関心を持ってきた。実用面での基礎を主とする本領域では現時点で表面的な成果を云々するのは当を得ない。しかし以下に示す様な特徴的な成果は基礎的に重要である。バイクリスタルJJ素子、Bi系単結晶のJJ的特性の確認、各種の方法による超薄膜の製作とそのキャラクタリゼ-ション、従来の方法によるSIS形素子製作の限界とその原因究明、ヘテロエピタクシの特性と表面・界面の評価およびデバイス応用への展望、酸化物超伝導体表面の局所トンネル分光による電子状態の推定、電界効果素子の実験的な確認。 | KAKENHI-PROJECT-03210112 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03210112 |
高次脳における痛覚制御機構解明のためのオピオイド受容体PETリガンドの開発 | これまでに、carfentanilを親化合物として、構造-活性相関に関する考察をもとにその構造を様々に改変させた化合物を設計・合成し、クローン化オピオイド受容体発現細胞株を用いて受容体結合特性の評価を行うことで、μ-オピオイド受容体に対して高選択性を有する化合物を数種見いだしてきた。さらに、受容体発現細胞株を用いた実験によりこれら化合物が受容体作動薬として機能することも明らかにしてきた。本年度はこれら化合物のうち最もμ-オピオイド受容体選択性の高い化合物であるK-8の薬理作用を個体レベルで検討した。Tail-pinch法およびフォルマリン法により、それぞれ、機械的および化学的侵害刺激を与え、侵害受容反応に対するK-8およびモルヒネ、フェンタニルの皮下投与による効果を比較検討した。これらの薬物は、いずれの侵害刺激に対しても鎮痛効果を示し、その作用の強さはフェンタニル>K-8>モルヒネの順であった。また、μ-オピオイド受容体のより詳細な個体レベルでの機能解析を行うために、ノルアドレナリン・アドレナリン神経特異的にμ-オピオイド受容体を発現する遺伝子改変マウスを作製した。本遺伝子改変マウスにおいてモルヒネの有意な鎮痛作用は認められなかった。一方、tail-suspension法を用いた解析において、μ-オピオイド受容体ノックアウトマウスで観察される行動量の増加が、μ-オピオイド受容体をノルアドレナリン・アドレナリン神経特異的に発現させることにより野性型と同様のレベルまで減少していた。Tail-suspension法における行動量はストレス応答と関連していることが知られていることから、ノルアドレナリン・アドレナリン神経系に発現しているμ-オピオイド受容体はストレス応答の調節に関与していることが示唆された。これまでに、μ-オピオイド受容体に対し高選択性かつ高親和性を有するcarfentanilを親化合物として、構造-活性相関に関する考察をもとにその構造を様々に改変させた化合物を設計・合成し、クローン化オピオイド受容体発現細胞株を用いて受容体結合特性の評価を行うことで、μ-オピオイド受容体に対して高選択性を有し、且つ様々な親和性を有するリガンド賦活法に適したPETリガンド候補化合物を数種見いだしてきた。本年度は、これらのうち最もμ-オピオイド受容体選択性の高い化合物の薬理作用を個体レベルで検討するために、30mgの追加合成を行い、手始めとして鎮痛作用に関して、モルヒネとの比較検討を開始した。また、μ-オピオイド受容体のより詳細な個体レベルでの機能解析を行うために、μ-オピオイド受容体を特定の神経系にのみ発現する遺伝子改変マウスの作製を試みている。本年度は、ノルアドレナリン神経特異的な発現調節を行うプロモーター遺伝子の下流にμ-オピオイド受容体遺伝子を組み込んだ遺伝子を作製し、これをマウス受精卵に対しマイクロインジェクションを行うことにより、4系統のトランスジェニックマウスを得た。これらトランスジェニックマウスをμ-オピオイド受容体ノックアウトマウスとかけ合わせることにより目的とするマウスを得ることができると考えられる。すでに、トランスジェニックマウスとノックアウトマウスのかけあわせにより1系統のマウスを得ており、現在、受容体遺伝子発現と機能的タンパク質発現に関して、インジツハイブリダイゼーション法および受容体結合実験により解析中である。これまでに、carfentanilを親化合物として、構造-活性相関に関する考察をもとにその構造を様々に改変させた化合物を設計・合成し、クローン化オピオイド受容体発現細胞株を用いて受容体結合特性の評価を行うことで、μ-オピオイド受容体に対して高選択性を有する化合物を数種見いだしてきた。さらに、受容体発現細胞株を用いた実験によりこれら化合物が受容体作動薬として機能することも明らかにしてきた。本年度はこれら化合物のうち最もμ-オピオイド受容体選択性の高い化合物であるK-8の薬理作用を個体レベルで検討した。Tail-pinch法およびフォルマリン法により、それぞれ、機械的および化学的侵害刺激を与え、侵害受容反応に対するK-8およびモルヒネ、フェンタニルの皮下投与による効果を比較検討した。これらの薬物は、いずれの侵害刺激に対しても鎮痛効果を示し、その作用の強さはフェンタニル>K-8>モルヒネの順であった。また、μ-オピオイド受容体のより詳細な個体レベルでの機能解析を行うために、ノルアドレナリン・アドレナリン神経特異的にμ-オピオイド受容体を発現する遺伝子改変マウスを作製した。本遺伝子改変マウスにおいてモルヒネの有意な鎮痛作用は認められなかった。一方、tail-suspension法を用いた解析において、μ-オピオイド受容体ノックアウトマウスで観察される行動量の増加が、μ-オピオイド受容体をノルアドレナリン・アドレナリン神経特異的に発現させることにより野性型と同様のレベルまで減少していた。Tail-suspension法における行動量はストレス応答と関連していることが知られていることから、ノルアドレナリン・アドレナリン神経系に発現しているμ-オピオイド受容体はストレス応答の調節に関与していることが示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-01J03715 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01J03715 |
ガス吸着圧による多孔性金属錯体のプロトン伝導度制御 | イオン伝導体は電解質やガスセンサーよどの電子デバイスとしての応用が期待され、物質内のイオンのダイナミクスにも興味が持たれることから、盛んに研究されている分野である。多孔性配位高分子(MOF)は、構造の高い設計性と多様性を持ち多様な物性の発現が可能であることにより近年大きな研究領域を形成している。本研究ではMOFの有する高い設計性を利用したプロトン伝導体の開発を行っている。特に酸性基を有する分子や高沸点分子などを細孔内に導入した新規配位高分子を作製し、ゲスト分子によって誘起される高プロトン伝導体の開発とその伝導メカニズムの解明に取り組んでいる。初年度となるH24年度では目的のゲスト分子(CO_2, Sulfamide)を選定し、種々の配位高分子との複合化を行った。溶媒、濃度、温度など様々な条件を検討することで、ゲスト分子が配位高分子に導入された複合物質を数種合成することに成功した。二年目となるH25年度では、特に、熱や水蒸気に対し高い構造安定性を有するHKUST-1, MIL-101, UiO-66型のMOFに着目し、上記のゲスト分子を導入した場合のプロトン伝導性について検討を行った。CO2吸着体においては装置の立ち上げ等に時間がかかり、現在伝導度の測定条件の検討を行っている。一方で、Sulfamideをゲスト分子として導入したMOFについては、導入後のN2吸着等温線測定や粉末X線回折からゲスト分子の導入が確認され、これらのゲスト導入後のプロトン伝導性の測定を行ったが、期待されたほど高いプロトン伝導性の発現には至らなかった。この理由として、ゲスト分子の導入量が不足していることや、導入後の構造中で適切な水素結合ネットワークが形成されていないことが考えられる。選択した数種類のMOFについて目的のゲスト分子の導入には成功したものの、プロトン伝導測定の結果、元のMOFと比較しても期待されるほど高いプロトン伝導性の発現は観測できていない。以上のように昨年度よりは進展したものの、本研究の目的を鑑みるとやや遅れていると感じる。今後については、ゲスト分子・導入条件の検討を含めたゲスト分子の導入量の詳細な制御や、ゲスト分子導入後の結晶構造解析、光学測定から細孔内部におけるゲスト分子の状態の検討を行うことが重要であると考えられる。イオン伝導体は電解質やガスセンサーなどの電子デバイスとしての応用が期待されると同時に、そのダイナミクスにも興味が持たれることから、盛んに研究されている分野である。配位高分子は、構造の設計性と多様性を持ち多様な物性の発現が可能であることから、近年大きな研究領域を形成している。本研究では金属イオンと有機配位子によって構築される配位高分子に着目し、配位高分子の高い設計性を利用したプロトン伝導体の開発を行っている。特に酸性基を有する分子や高沸点分子などを細孔内に導入した新規配位高分子を作製し、ゲスト分子によって誘起される高プロトン伝導体の開発とその伝導メカニズムの解明に取り組んでいる。本年度では目的のゲスト分子を選定し、種々の配位高分子との複合化を行った。溶媒、濃度、温度など様々なパラメータを検討することで、ゲスト分子が配位高分子に導入された複合物質を数種合成することに成功した。一方で、これまで報告されている多くの固体プロトン伝導体では、水分子がプロトンの伝導媒体になっている。二酸化炭素やアンモニアを媒体としたプロトン伝導体は、これまでほとんど報告されておらず、水分子とは異なったプロトン伝導システムを構築することができるため、材料科学のみならず基礎科学の面においても非常に重要である。本研究では規則的なナノ細孔を有する配位高分子を用い、二酸化炭素やアンモニアの取り込みによる新しいプロトン伝導システムの構築を目指している。本年度では二酸化炭素やアンモニアを安定に細孔内へ取り込むことが可能な配位高分子の探索を行い、候補と成り得る配位高分子を数種見出した。イオン伝導体は電解質やガスセンサーよどの電子デバイスとしての応用が期待され、物質内のイオンのダイナミクスにも興味が持たれることから、盛んに研究されている分野である。多孔性配位高分子(MOF)は、構造の高い設計性と多様性を持ち多様な物性の発現が可能であることにより近年大きな研究領域を形成している。本研究ではMOFの有する高い設計性を利用したプロトン伝導体の開発を行っている。特に酸性基を有する分子や高沸点分子などを細孔内に導入した新規配位高分子を作製し、ゲスト分子によって誘起される高プロトン伝導体の開発とその伝導メカニズムの解明に取り組んでいる。初年度となるH24年度では目的のゲスト分子(CO_2, Sulfamide)を選定し、種々の配位高分子との複合化を行った。溶媒、濃度、温度など様々な条件を検討することで、ゲスト分子が配位高分子に導入された複合物質を数種合成することに成功した。二年目となるH25年度では、特に、熱や水蒸気に対し高い構造安定性を有するHKUST-1, MIL-101, UiO-66型のMOFに着目し、上記のゲスト分子を導入した場合のプロトン伝導性について検討を行った。CO2吸着体においては装置の立ち上げ等に時間がかかり、現在伝導度の測定条件の検討を行っている。一方で、Sulfamideをゲスト分子として導入したMOFについては、導入後のN2吸着等温線測定や粉末X線回折からゲスト分子の導入が確認され、これらのゲスト導入後のプロトン伝導性の測定を行ったが、期待されたほど高いプロトン伝導性の発現には至らなかった。 | KAKENHI-PROJECT-12F02036 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12F02036 |
ガス吸着圧による多孔性金属錯体のプロトン伝導度制御 | この理由として、ゲスト分子の導入量が不足していることや、導入後の構造中で適切な水素結合ネットワークが形成されていないことが考えられる。ゲスト分子が配位高分子に導入された複合物質を数種合成することに成功した。また、二酸化炭素やアンモニアを安定に細孔内へ取り込むことが可能な配位高分子の探索を行い、候補と成り得る配位高分子を数種見出した。選択した数種類のMOFについて目的のゲスト分子の導入には成功したものの、プロトン伝導測定の結果、元のMOFと比較しても期待されるほど高いプロトン伝導性の発現は観測できていない。以上のように昨年度よりは進展したものの、本研究の目的を鑑みるとやや遅れていると感じる。見出した配位高分子のプロトン伝導特性について評価を行い、新規高プロトン伝導体の創製を行う。今後については、ゲスト分子・導入条件の検討を含めたゲスト分子の導入量の詳細な制御や、ゲスト分子導入後の結晶構造解析、光学測定から細孔内部におけるゲスト分子の状態の検討を行うことが重要であると考えられる。 | KAKENHI-PROJECT-12F02036 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12F02036 |
ジュゴン沖縄個体群の絶滅を想定しての保全対策調査計画の立案 | 平成14年6月、東京において環境省・水産庁・文化庁の担当者、およびそれら省庁から調査の委託を受けているアセス会社の取りまとめ責任者に集まってもらい、各省庁のジュゴン調査の目的、調査方法および、結果などについて説明を受けた。その上でそれら各省庁で実施されている調査を総合できるよう、また、具体的な調査内容については重複を避けるように調整した上で、科学研究費としての調査方法の検討を行なった。その検討に基づいて、9月に沖縄本島東部において、潜水および目視によるジュゴンの食性に関する調査方法の開発、電波発信機装着の検討、保全生物学的調査方法の検討、頭骨標本の研究法などについての検討を行なった。10月に富山大学で行なわれた哺乳類学会の折に、DNA分析の専門家も交えて、9月調査の結果などを含めて再度検討会議を行なった。この段階で、事実上本企画調査のとりまとめを行ない、平成15年度科研費基盤研究(A);「ジュゴン沖縄個体群の保全生物学的研究」(4年間5000万円、代表大泰司)の申請書類を作成した。10月の打ち合わせにおいて、本年度調査として、海南島、台湾、トカラ列島、奄美諸島の予備調査を行なうこととし、本年2月から3月にかけて実施した。海南島調査においては、20年ぶりに同島での生息の確認をした。このほか小笠原諸島にはジュゴン生息地の記録や生息条件のないことを確かめ、同様の火山島である大東島、鳥島などにも生息条件はなく、わが国の排他的経済水域では南西諸島のみジュゴン生息の条件が具わっていることを確認した。平成14年6月、東京において環境省・水産庁・文化庁の担当者、およびそれら省庁から調査の委託を受けているアセス会社の取りまとめ責任者に集まってもらい、各省庁のジュゴン調査の目的、調査方法および、結果などについて説明を受けた。その上でそれら各省庁で実施されている調査を総合できるよう、また、具体的な調査内容については重複を避けるように調整した上で、科学研究費としての調査方法の検討を行なった。その検討に基づいて、9月に沖縄本島東部において、潜水および目視によるジュゴンの食性に関する調査方法の開発、電波発信機装着の検討、保全生物学的調査方法の検討、頭骨標本の研究法などについての検討を行なった。10月に富山大学で行なわれた哺乳類学会の折に、DNA分析の専門家も交えて、9月調査の結果などを含めて再度検討会議を行なった。この段階で、事実上本企画調査のとりまとめを行ない、平成15年度科研費基盤研究(A);「ジュゴン沖縄個体群の保全生物学的研究」(4年間5000万円、代表大泰司)の申請書類を作成した。10月の打ち合わせにおいて、本年度調査として、海南島、台湾、トカラ列島、奄美諸島の予備調査を行なうこととし、本年2月から3月にかけて実施した。海南島調査においては、20年ぶりに同島での生息の確認をした。このほか小笠原諸島にはジュゴン生息地の記録や生息条件のないことを確かめ、同様の火山島である大東島、鳥島などにも生息条件はなく、わが国の排他的経済水域では南西諸島のみジュゴン生息の条件が具わっていることを確認した。 | KAKENHI-PROJECT-14608020 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14608020 |
サイクロトロン共鳴力顕微鏡の開発 | 本研究では微小試料のサイクロトロン共鳴信号をマイクロカンチレバーにより高感度に検出することを開発目的とする。サイクロトロン共鳴に伴う反磁性成分の成果をカンチレバーにはたらく力の変化として検出する。本研究ではこの目的のために磁場発生用磁石、磁石電源、サンプルホルダーを新規に作製し、その特性評価を行った。自作磁石を用いて0.2 Tの磁場を発生し、テストとして有機超伝導体試料の磁気トルク測定を行ったところ、過去の結果と一致する結果を得た。続いて、グラファイトを用いたサイクロトロン共鳴測定を試みた。その結果、反磁性に伴う信号変化は得られたが、サイクロトロン共鳴信号の検出には至らなかった。本研究では微小試料のサイクロトロン共鳴信号をマイクロカンチレバーにより高感度に検出することを開発目的とする。サイクロトロン共鳴に伴う反磁性成分の成果をカンチレバーにはたらく力の変化として検出する。本研究ではこの目的のために磁場発生用磁石、磁石電源、サンプルホルダーを新規に作製し、その特性評価を行った。自作磁石を用いて0.2 Tの磁場を発生し、テストとして有機超伝導体試料の磁気トルク測定を行ったところ、過去の結果と一致する結果を得た。続いて、グラファイトを用いたサイクロトロン共鳴測定を試みた。その結果、反磁性に伴う信号変化は得られたが、サイクロトロン共鳴信号の検出には至らなかった。H25年度はカンチレバーを用いてサイクロトロン共鳴信号を検出するための測定系を構築した。本研究ではサイクロトロン共鳴の際、試料が電磁波を共鳴吸収し軌道半径が変化することに着目し、その信号を軌道反磁性の変化として検出しようとするものである。従って、基本的な装置構成は研究代表者がこれまで構築してきたカンチレバーを用いた電子スピン共鳴(ESR)測定装置と同様の構成となる。カンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴信号の検出に際しては、高純度、軽い有効質量、異方的な有効質量を持った試料が有望と考えられたため、本研究では測定試料としてグラファイトを念頭に置いて装置を作成した。グラファイトの面内有効質量は自由電子の0.05倍程度であるため、80 GHzの電磁波に対し共鳴磁場は約2000 G程度と見積もられる。そのため、本研究では銅線を用いてソレノイド磁石を自作した。磁場を自由に制御することが必要になるため、電圧-電流変換回路を用いて磁石用電源を自作した。これにより、3000 Gまで磁場を発生できるシステムを構築した。また、液体ヘリウムベッセルと組み合わせて実験が可能な測定用ホルダーを自作した。測定系のテストとして有機物超伝導体試料を用いて4.2 Kで超伝導状態の磁気トルク測定を行った。その結果、第2種超伝導に起因する磁気トルクのヒステレシスループの観測に成功し、測定系が正しく動作していることを確認した。さらに、実際にHOPGグラファイトと呼ばれる結晶性の高いグラファイトを用いてサイクロトロン共鳴測定を試みた。電磁波を照射しない状態でグラファイトの軌道反磁性に伴うトルク信号を検出することに成功した。しかし、電磁波を照射した状態でサイクロトロン共鳴信号の検出を試みたが、現時点ではまだ検出には至っていない。本研究では微小試料のサイクロトロン共鳴信号をマイクロカンチレバーにより、高感度に検出することを開発目的する。サイクロトロン共鳴とは電磁波による異なる軌道間遷移として理解できるので、サイクロトロン共鳴に伴い試料の反磁性成分が変化する。この微小な磁化変化をカンチレバーにはたらく力の変化として検出することを本研究では試みる。微小試料でのサイクロトロン共鳴測定が可能になれば、ナノデバイスやナノマテリアルの有効質量を決定する際に有効な測定手段となる。本研究ではまずサイクロトロン共鳴の観測に必要な磁場発生用マグネットコイル、磁場及び磁場変調用電源、サンプルホルダーの製作を行った。マグネットコイルは0.3 mm銅線を用いて内径20 mmのものを作製した。自作電源を用いて最大で2000 gaussの磁場が液体ヘリウム中でも発生できることを確認した。測定用のカンチレバーとしてはピエゾ抵抗型カンチレバーを採用した。測定系の評価を行うために第2種超伝導体κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2の磁気トルク測定を行った。測定結果からは予想されたような超伝導ヒステリシスを観測することに成功した。測定試料として過去にサイクロトロン共鳴の報告例があるグラファイトを取り上げ、サイクロトロン共鳴信号の検出を試みた。試料重量は約1 μgであった。磁場を印加すると磁化過程に伴う信号の変化を観測することには成功したが、サイクロトロン共鳴に伴う信号を検出することができなかった。考えられる原因としては試料が金属的であることによる表皮厚さによる実効的な試料体積に減少や、キャリア密度が小さいことによる微弱な信号強度などが考えられる。そのため、サイクロトロン共鳴の信号検出には更なる高感度化が必要と考えられる。固体物理当初の計画ではH25年度に(1)測定系を構築、(2)サイクロトロン共鳴信号の検出を目標として挙げていた。このうち、(1)については実際に本年度中に必要な測定系の構築を実際に行い、その動作を確認することに成功した。その中でも特に、磁場発生系は高い磁場精度と制御性が求められるため、一から設計、自作を行う必要があった。作製にはかなりの時間を要し、完成が年度後半にずれ込んだが、測定に必要な仕様を実現することができた。 | KAKENHI-PROJECT-25610075 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25610075 |
サイクロトロン共鳴力顕微鏡の開発 | 実際に既知の物性を示す試料を用いてトルク測定を行った結果、過去の文献とよい一致をしめす結果を得ることができた。このことから測定系の構築は当初予定していた通りの成果が得られたといえる。サイクロトロン共鳴信号の検出に関しては、測定系の構築に準備がかかったためグラファイトを用いたテスト的な測定を行うにとどまった。グラファイトはカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴測定の有望な候補の一つではあるが、現時点では信号検出に至っていない。しかし、GaAs-HEMT基板や有機伝導体などサイクロトロン共鳴信号の検出が期待される試料はほかにもあるため、引き続き測定を行うことでサイクロトロン共鳴信号の検出が期待できる。そのため、本研究は当初研究計画と比べ現時点において、おおむね順調に進展しているといえる。まずはカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴信号を検出する必要がある。グラファイトを用いた予備的な測定では信号検出には至っていないが、これにはいくつかの要因が考えられるため、引き続き、測定を行う必要がある。特に、グラファイトのサイクロトロン共鳴信号は線幅が狭くシャープであるため、微分検出が有効であると考えている。カンチレバー付近に磁場変調コイルを設置し、微分検出を行うことにより検出感度を大幅に改善できる可能性がある。すでに磁場変調検出の測定系は準備ができているので、今後は磁場変調によるサイクロトロン共鳴信号の検出を試みる。また、測定試料として他の候補を測定することも必要であると考えている。例えば、過去にもサイクロトロン共鳴信号の測定例がある物質系として2次元有機伝導体が挙げられる。有機伝導体は結晶性がよく、試料サイズも1 mm角程度であるためカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴測定に適していると考えられる。有効質量は自由電子の値に近いためグラファイトに比べより高い磁場が必要になる。そのため、超伝導磁石と組み合わせて測定を行い、サイクロトロン信号の検出を試みる。また、現行のピエゾ抵抗方式では感度に限界があるため、より高感度な検出方式が望ましい。そのような方法として光ファイバーを用いたFabry-Perot干渉計による方法が挙げられる。この方法ではカンチレバーの変位を光の干渉強度の変化として高感度に検出することができる。この方法はピエゾ抵抗方式に比べよりも高い感度を実現することができる。今後はカンチレバーホルダーを新規に設計、作製し、現行のサンプルホルダーと組み合わせることで感度の向上を図り、サイクロトロン共鳴信号の検出を可能にする。 | KAKENHI-PROJECT-25610075 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25610075 |
グラフェンによる新機能THzデバイスの開拓 | テラヘルツテクノロジーは、電波天文学・固体物理学・生体分子分光学などの基礎学術分野からセキュリティ・情報通信・医療などの実用分野に至る幅広い分野での応用が期待されている。ところが、この周波数帯域は光(フォトニクス)と電波(エレクトロニクス)の間に挟まれているため、他帯域に比べ発展途上である。テラヘルツデバイスの中でも高性能なテラヘルツ検出器は強く求められている技術である。現在の室温検出器としては、焦電検出器、ショットキーバリアダイオード、光伝導アンテナ等が知られているが、感度が低いため高精度な計測ができないことが問題となっている。以上を背景とし、高性能テラヘルツ検出素子の開拓を目指して、ナノカーボンのユニークな特徴を利用した研究を行った。得られた成果は以下の2点である。1高いテラヘルツ吸光度を持つカーボンナノチューブアレイ薄膜によるテラヘルツ検出器のノイズ密度スペクトルを測定したところ、熱雑音極限まで達していることを見出した。この検出器のテラヘルツイメージング応用を行い、遮蔽物背後の物質検知に成功した。また、この試料の低温下でのテラヘルツ応答を調べたところ、別のメカニズムによる応答を見出し、感度が室温に比べて3桁程度向上することが分かった。2立方晶窒化ホウ素基板上(物質・材料研究機構の谷口博士、渡邊博士よりご提供)のグラフェン試料によるテラヘルツ検出について検討し、最適なチャネル形状を特定した。27年度が最終年度であるため、記入しない。27年度が最終年度であるため、記入しない。テラヘルツ(THz)技術は、天文学・固体物理学・生体分子分光学などの基礎分野からセキュリティ・情報通信・医療などの実用分野に至る幅広い分野での応用が期待されている。ところが、この帯域は光と電波の間に挟まれているため、他帯域に比べ発展が遅れている。グラフェンは発見当初より、電子デバイス・光デバイスの両面からTHzデバイスへの応用が着目されてきた。この開拓は非常に魅力的であると考えられるものの、このテーマの研究(THz検出器、THz光源、THz周波数帯動作の高速トランジスタ等への応用)は端緒についたばかりである。本研究では、グラフェンの高い潜在能力を用いて、新しいTHz機能素子の創出やその背後にある物理現象の探求を目指す。今年度は、グラフェンと同種のカーボン系薄膜として高配向カーボンナノチューブアレイを用いた研究に着手した(試料はライス大学より提供)。THzデバイスの中でも室温動作で高性能なTHz検出器は強く求められている技術である。現在の室温検出器としては、焦電検出器、ゴーレイセル、ショットキーバリアダイオード等が知られているが、感度が低いことが問題となっている。本研究では、広い周波数帯域で高いTHz吸光度を持つ高密度・高配向カーボンナノチューブアレイを用いることで、室温におけるTHz・赤外光検出を達成した。さらに、高配向性を利用して、THz・赤外光領域における偏光子として機能させることも可能であることを示した。テラヘルツテクノロジーは、電波天文学・固体物理学・生体分子分光学などの基礎学術分野からセキュリティ・情報通信・医療などの実用分野に至る幅広い分野での応用が期待されている。ところが、この周波数帯域は光(フォトニクス)と電波(エレクトロニクス)の間に挟まれているため、他帯域に比べ発展途上である。テラヘルツデバイスの中でも高性能なテラヘルツ検出器は強く求められている技術である。現在の室温検出器としては、焦電検出器、ショットキーバリアダイオード、光伝導アンテナ等が知られているが、感度が低いため高精度な計測ができないことが問題となっている。以上を背景とし、高性能テラヘルツ検出素子の開拓を目指して、ナノカーボンのユニークな特徴を利用した研究を行った。得られた成果は以下の2点である。1高いテラヘルツ吸光度を持つカーボンナノチューブアレイ薄膜によるテラヘルツ検出器のノイズ密度スペクトルを測定したところ、熱雑音極限まで達していることを見出した。この検出器のテラヘルツイメージング応用を行い、遮蔽物背後の物質検知に成功した。また、この試料の低温下でのテラヘルツ応答を調べたところ、別のメカニズムによる応答を見出し、感度が室温に比べて3桁程度向上することが分かった。2立方晶窒化ホウ素基板上(物質・材料研究機構の谷口博士、渡邊博士よりご提供)のグラフェン試料によるテラヘルツ検出について検討し、最適なチャネル形状を特定した。カーボン系薄膜の一種である、高密度・高配向カーボンナノチューブアレイを用いて、室温におけるTHz・赤外光検出を達成したことは応用上大きな意義を持つ。またこの素子では、低温下あるいは磁場下で別の機構によるTHz応答を示すことがわかった。これらの結果は、来年度グラフェンによる研究へと拡張する上でも大きな一歩となった。27年度が最終年度であるため、記入しない。今後は、カーボンナノチューブアレイによるTHz・赤外光応答の温度・磁場依存性について研究し、検出メカニズムについての知見を得る。また、同様の観点から、グラフェンに対しても同種の研究を進める。カーボンナノチューブアレイとグラフェンのいずれにおいても伝導チャネルの形状効果に着目した研究を行う。27年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PUBLICLY-26107516 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PUBLICLY-26107516 |
先駆水和電子チャネル形成仮説による水中プラズマ超高速電荷移動機構の学理構築 | 本研究は,熱流体の最先端計測を核とする分野横断的な特異な計測・解析手法を用いて,申請者らが提案する極微小スケールにおける超高速電荷移動機構の仮説を証明することで,水中の超高速電荷移動機構の学理を構築し,高電界やプラズマを利用したバイオ・医療,創薬,農業,食品加工,水処理,洗浄などに貢献する新たな水和電子工学分野を創成することを目指す.具体的には,ストリーマ進展前に先駆的に生成された水和電子チャネルを媒体として伝播する電界波動と共に高電荷領域が超高速で移動するという仮説を,熱流体,電気,化学からなる分野横断的アプローチにより実証する.本研究は、熱流体の最先端計測を核とする分野横断的な特異な計測・解析手法を用いて、研究代表者らが提案する極微小スケールにおける超高速電荷移動機構の仮説を証明することで、水中の超高速電荷移動機構の学理を構築し、高電界やプラズマを利用したバイオ・医療、創薬、農業、食品加工、水処理、洗浄などに貢献する新たな水和電子工学分野を創成することを目指している。高度な計測技術等を用いることで、液中でのプラズマ発生時に形成される絶縁破壊前駆現象であるストリーマの進展機構の解明を目指す、学術的に興味深い研究である。特に、落雷との相似性から研究代表者が独自に考え出した、水和電子チャネルがストリーマの進展に先駆的な役割を果たすという仮説が実証されれば、学術的価値の高い研究になる。本研究は,熱流体の最先端計測を核とする分野横断的な特異な計測・解析手法を用いて,申請者らが提案する極微小スケールにおける超高速電荷移動機構の仮説を証明することで,水中の超高速電荷移動機構の学理を構築し,高電界やプラズマを利用したバイオ・医療,創薬,農業,食品加工,水処理,洗浄などに貢献する新たな水和電子工学分野を創成することを目指す.具体的には,ストリーマ進展前に先駆的に生成された水和電子チャネルを媒体として伝播する電界波動と共に高電荷領域が超高速で移動するという仮説を,熱流体,電気,化学からなる分野横断的アプローチにより実証する. | KAKENHI-PROJECT-19H00743 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19H00743 |
六十六部廻国供養塔のデータベース構築に向けての基礎研究 | 本研究は、六十六部廻国行者の実態を解明するため、六十六部廻国供養塔資料を収集し、そのデータベースを作成するための基礎研究である。調査対象地域として兵庫県・岡山県を選択し、収集した資料の総数は合計539例に及んだ。これらの資料は様々な情報を含み、そのうち建立年・所在地・立地・像容・銘文などがデータベースに盛り込む情報として必要だと考えた。廻国供養塔のデータベース作成に関しては、当初市販のデータベースソフトの利用を想定し、この方針に沿ってデータベースを試作した。しかし、データベースソフトなど同一の環境がない場合、田中・小嶋両者の間でもデータ交換に支障が生じる結果となった。そのため急遽、市販のソフトの利用を放棄し、作成およびその利用が容易であるとの見地から、CSV形式のテキストファイルでのデータベース作成を目指した。完成したデータベースを試験的に利用した結果、廻国供養塔造立年代・造立目的・種子の種類とその出現件数などを統計的に分析することが可能となった。さらに資料の銘文のうち、願主と助力者に関しては、特定の人物が複数の廻国供養塔造立に関与している事例が14例みられ、しかも彼らの中には遠方の者も含むことから、廻国供養を補佐する情報ネットワーク、さらには組織さえあったのではないかと推測できた。このようにして全国的に廻国供養塔資料のデータベース化ができれば、六部の活動もかなりの範囲で解明できるものと思われた。本研究は、六十六部廻国行者の実態を解明するため、六十六部廻国供養塔資料を収集し、そのデータベースを作成するための基礎研究である。調査対象地域として兵庫県・岡山県を選択し、収集した資料の総数は合計539例に及んだ。これらの資料は様々な情報を含み、そのうち建立年・所在地・立地・像容・銘文などがデータベースに盛り込む情報として必要だと考えた。廻国供養塔のデータベース作成に関しては、当初市販のデータベースソフトの利用を想定し、この方針に沿ってデータベースを試作した。しかし、データベースソフトなど同一の環境がない場合、田中・小嶋両者の間でもデータ交換に支障が生じる結果となった。そのため急遽、市販のソフトの利用を放棄し、作成およびその利用が容易であるとの見地から、CSV形式のテキストファイルでのデータベース作成を目指した。完成したデータベースを試験的に利用した結果、廻国供養塔造立年代・造立目的・種子の種類とその出現件数などを統計的に分析することが可能となった。さらに資料の銘文のうち、願主と助力者に関しては、特定の人物が複数の廻国供養塔造立に関与している事例が14例みられ、しかも彼らの中には遠方の者も含むことから、廻国供養を補佐する情報ネットワーク、さらには組織さえあったのではないかと推測できた。このようにして全国的に廻国供養塔資料のデータベース化ができれば、六部の活動もかなりの範囲で解明できるものと思われた。本年度は、1)兵庫・岡山両県における既往の供養塔調査の確認、2)現地調査、3)六十六部に関する研究論文の収集を行った。1)両県内での近世の石造物調査実施の有無、調査が実施されている場合の資料の公開など調査状況を確認するため、両県内の各自治体教育委員会に対してアンケート調査を行った。兵庫県では90余の自治体にアンケートを配布し、約6割の回答を得た。そのうち姫路市、養父郡・美方郡・神崎郡などで石造物調査が実施され、調査結果中に六十六部供養塔を確認できた。岡山県では80余の自治体にアンケートを配布し、約7割の回答を得た。そのうち岡山市・総社市・勝田郡・英田郡の各自治体で石造物調査が行われ、調査結果の中に六十六部供養塔を確認できた。2)岡山県津山市周辺を一事例として現地調査を実施し、主要街道沿いに六十六部供養塔が多く建立され、街道沿いには六十六部行者の設けた庵室を認めた。六十六部供養塔の設置場所を考える上で示唆に富むものであった。3)六十六部に関する研究論文の収集は、国立国会図書館や兵庫県立図書館、岡山県総合文化センターなどにおいて行った。以上、研究を推進してきたが、問題点や課題も多い。既往の石造物調査は、六十六部供養塔の所在確認には有益であるが、寄進者名の省略、主文言の不明確さなど、現地で再確認しなければならない点もみられた。来年度は可能な限り現地調査を実施し、不明な点を解明してより正確な資料を得るとともに、資料のデータベース化にむけて研究を進めたい。本研究は、六十六部廻国行者の実態を解明するため、六十六部廻国供養塔資料を収集し、そのデータベースを作成するための基礎研究である。調査対象地域として兵庫県・岡山県を選択し、収集した資料の総数は合計539例に及んだ。これらの資料は様々な情報を含み、そのうち建立年・所在地・立地・像容・銘文などがデータベースに盛り込む情報として必要だと考えた。廻国供養塔のデータベース作成に関しては、当初市販のデータベースソフトの利用を想定し、この方針に沿ってデータベースを試作した。しかし、データベースソフトなど同一の環境がない場合、田中・小嶋両者の間でもデータ交換に支障が生じる結果となった。そのため急遽、市販のソフトの利用を放棄し、作成およびその利用が容易であるとの見地から、CSV形式のテキストファイルでのデータベース作成を目指した。 | KAKENHI-PROJECT-08610325 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08610325 |
六十六部廻国供養塔のデータベース構築に向けての基礎研究 | 完成したデータベースを試験的に利用した結果、廻国供養塔造立年代・造立目的・種子の種類とその出現件数などを統計的に分析することが可能となった。さらに資料の銘文のうち、願主と助力者に関しては、特定の人物が複数の廻国供養塔造立に関与している事例が14例みられ、しかも彼らの中には遠方の者も含むことから、廻国供養を補佐する情報ネットワーク、さらには組織さえあったのではないかと推測できた。このようにして全国的に廻国供養塔資料のデータベース化ができれば、六部の活動もかなりの範囲で解明できるものと思われた。 | KAKENHI-PROJECT-08610325 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08610325 |
携帯電話利用の深化とその社会的影響に関する国際比較研究 | 日韓台の携帯電話及びインターネットの利用実態を調査した結果、日韓台ともにほぼ同じ頃に急速に普及したという点では同じであるが、その利用形態には大きな違いがみられることを実証することができた。また、これらの通信メディアの使い分けは、各国・地域のコミュニケーション文化を色濃く反映する「通信文化」と呼ぶべきものが存在し、それに強く規定されていることがわかった。たとえば、韓国では、携帯電話を通話に使うことが非常に多く、日本では通話よりメールがよく使われている。この背景には、親しい人への連絡手段の選択に際して、相手が置かれている状況への配慮をどの程度すべきかというコミュニケーション文化の違いがある。韓国の場合は、「ウリ」と呼ばれる親しい集団の間では、遠慮をすることがあってはならないという文化があり、通信手段の選択に関しても遠慮しないことが求められ、その結果、リッチネスが高いメディアである、通話が積極的に使われる。これに対して日本では、親しい人への連絡に際しても、相手への配慮を欠いてはいけないとする「抑制」のコミュニケーション文化があり、このためメールが多用されるのである。また、日台の携帯電話利用の比較をしてみると、もっとも大きな違いは、利用の効用として「家族とのコミュニケーションが増えた」ことをあげる人の割合が日本では少ないのに対して、台湾では非常に多いことがあげられる。携帯電話利用がその社会でもっとも親しい集団の凝集力を強化する働きがあるという点では共通しているが、それがどの集団化ということになると、台湾では家族であり、日本ではふだんよく会う友人集団、韓国では「ウリ」という仲間集団ということになるのである。以上述べたように、日韓台の比較調査により、それぞれの国や地域に固有な通信文化が存在し、それが携帯電話を含む通信メディアの使い分けを規定していることがわかった。日韓台の携帯電話及びインターネットの利用実態を調査した結果、日韓台ともにほぼ同じ頃に急速に普及したという点では同じであるが、その利用形態には大きな違いがみられることを実証することができた。また、これらの通信メディアの使い分けは、各国・地域のコミュニケーション文化を色濃く反映する「通信文化」と呼ぶべきものが存在し、それに強く規定されていることがわかった。たとえば、韓国では、携帯電話を通話に使うことが非常に多く、日本では通話よりメールがよく使われている。この背景には、親しい人への連絡手段の選択に際して、相手が置かれている状況への配慮をどの程度すべきかというコミュニケーション文化の違いがある。韓国の場合は、「ウリ」と呼ばれる親しい集団の間では、遠慮をすることがあってはならないという文化があり、通信手段の選択に関しても遠慮しないことが求められ、その結果、リッチネスが高いメディアである、通話が積極的に使われる。これに対して日本では、親しい人への連絡に際しても、相手への配慮を欠いてはいけないとする「抑制」のコミュニケーション文化があり、このためメールが多用されるのである。また、日台の携帯電話利用の比較をしてみると、もっとも大きな違いは、利用の効用として「家族とのコミュニケーションが増えた」ことをあげる人の割合が日本では少ないのに対して、台湾では非常に多いことがあげられる。携帯電話利用がその社会でもっとも親しい集団の凝集力を強化する働きがあるという点では共通しているが、それがどの集団化ということになると、台湾では家族であり、日本ではふだんよく会う友人集団、韓国では「ウリ」という仲間集団ということになるのである。以上述べたように、日韓台の比較調査により、それぞれの国や地域に固有な通信文化が存在し、それが携帯電話を含む通信メディアの使い分けを規定していることがわかった。今年度は日本における携帯電話利用実態を全国調査により明らかにするとともに、来年度以降に実施予定の海外における携帯電話利用実態調査のための予備調査を実施する計画であった。日本における実態調査は2001年11月から12月にかけて実施し、全国の1,878人の方にご協力を頂くことができ、現在、データ分析中である。今年度中に第1次の分析結果をとりまとめる予定である。また、海外予備調査は、アメリカ、フィンランド、フランスの3ヶ国に研究者を派遣し、携帯電話研究者と意見交換等を行った。その結果、これらの国における携帯電話の利用実態と研究動向を明らかにすることができた。また、韓国の携帯電話の利用実態についても、先行して調査研究を行った研究者から詳しい話を聞いた。この予備的調査に基づき、次年度以降に調査対象とする外国の選定、調査の実施及び分析(日本との比較等)を行う予定である。なお、この調査計画を詰めるため、合計7回にわたる会議・打ち合わせを開催した。今年度は、昨年度実施した日本国内における携帯電話利用実態調査を受け、海外での携帯電話利用実態調査を実施した。比較する国の選定を様々な角度から検討し、ブロードバンド・インターネットがもっとも普及しており、かつ携帯電話利用率も非常に高い韓国に決定した。まず、韓国の携帯電話利用に関する既存調査データの収集や文献調査を行い、その後、昨年8月末に韓国を訪問し、定量調査に必要な様々な情報を得るために、グループインタビューを行った。グループインタビューは高校生、大学生、主婦、フルタイム勤務者の4つのグループについて行い、きわめて興味深い結果が得られた。その結果に基づき、昨年12月、韓国全土を対象にしたアンケート調査を訪問面接法(一部留め置き法を併用)により実施した。回収数は約1,500であり、昨年度実施した日本調査との比較をする上で充分な数を確保することができた。 | KAKENHI-PROJECT-13410057 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13410057 |
携帯電話利用の深化とその社会的影響に関する国際比較研究 | アンケート調査の結果、韓国における携帯電話利用は、日本と多くの点で共通点があるものの、日本よりはるかに通話のための利用が多く、また、携帯インターネットの利用が少ない等といった違いが見られた。これらの違いの背景には、制度(通信サービスヘの規制、携帯メールの相互通信)、技術(携帯端末、PCメールなどの競合技術)、文化(儒教的価値観や親子関係等)の違いなどがあるものと考えられる。他方、日本国内における携帯電話利用の影響を継続的に詳しく調べるため、若者や主婦を主たる対象とするデプスインタビューを昨年度に引き続き行った。これらの成果については、今年度にとりまとめる予定である。今年度は、一昨年度に実施した日本国内における携帯電話利用実態調査及び昨年度に行った韓国における携帯電話とインターネットに関する利用実態調査を受け、台湾における携帯電話及びインターネット利用に関する実態調査を実施した。まず、台湾における携帯電話及びインターネットの利用に関する既存調査データの収集や文献調査を行い、その後、昨年8月と9月に2つのグループに分かれ台湾を訪問し、定量調査に必要な様々な情報を得るために、グループインタビューを行うと同時に台湾のメディア研究者との意見交換を行った。グループインタビューは高校生、大学生、主婦、フルタイム勤務者の4つのグループについて行い、きわめて興味深い結果が得られた。その結果に基づき、昨年11月12月にかけて、台湾全土を対象にしたアンケート調査を台湾中央研究院の協力を得て、訪問面接法で実施した。回収数は1,002であり、一昨年度に実施した日本調査や昨年度実施した韓国調査との比較をする上で充分な数を確保することができた。アンケート調査の結果、台湾における携帯電話利用は、日本や韓国と多くの点で共通点があるものの、日本よりはるかに通話のための利用が多く、また、携帯インターネットの利用がきわめて少ない等といった違いが見られた。これらの違いの背景には、制度(通信サービスへの規制、携帯メールの相互通信)、技術(携帯端末、PCメールなどの競合技術)、文化(特に対人関係)の違いなどがあるものと考えられる。なお、台湾調査の結果は報告書としてとりまとめた。他方、日本国内における携帯電話利用の影響を継続的に詳しく調べるため、若者や主婦を主たる対象とするデプスインタビューを昨年度に引き続き行い、その成果を冊子にまとめた。 | KAKENHI-PROJECT-13410057 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13410057 |
イノシシ属の古DNA解析を用いた、先史人類の島への移動と適応の解明 | 太平洋の島々への先史人類の移動と適応を探るため、先史人類に食料として運搬される機会が多かったイノシシ・ブタのDNAを解析した。琉球列島の野生イノシシであるリュウキュウイノシシは全ての島の個体が遺伝的に近く、同一系統に由来する事が示唆された。しかし琉球列島の先史遺跡を対象とした古代DNA解析では、リュウキュウイノシシと異なる系統に属す個体が検出された。これらから、琉球列島では先史時代にイノシシ属を伴う人類の移動があった可能性が考えられた。先史人類の移動の経路や時期を探るため琉球列島の周辺地域の遺跡出土試料の古代DNA解析も試みたが、試料の状態が悪くDNAを増幅できなかった。太平洋島嶼地域を舞台とした先史人類の移動や適応の解明が本研究の目的である。本研究では先史人類の移動や資源の持ち込みをイノシシとブタ(Sus scrofa、以下イノシシ属)に着目して探る。先史遺跡から出土するイノシシ属の骨を用いたAncient DNA(古代DNA)解析を行うため、平成26年11月に沖縄県立埋蔵文化財センターにて白保竿根田原洞穴遺跡から出土したイノシシ属の骨を対象にDNAサンプリングを行った(立会:波木基真氏・藤田祐樹氏)。同年12月には国立民族学博物館でミクロネシアのファイス島先史遺跡から出土したブタの骨からDNA試料を採取した(立会:印東道子氏)。さらに平成27年3月にはベトナム社会科学院(ハノイ)に収蔵されている先史遺跡出土のイノシシ属骨からDNA試料を採取した(立会:Nguyen Thi Mai Huong氏)。ハノイでの調査の際は、ベトナムのイノシシ集団の遺伝的特徴を把握する目的で、同機関に収蔵されている現生骨格標本を用いたDNAサンプリングも実施した。なお、平成26年6月に所属機関が変わったため、新しく古代DNA解析用の実験施設をセットアップした。資料保管用の冷凍庫や実験機器の設置にくわえて、施設内と実験機器のDNAコンタミネーション対策を講じた。古代DNA解析を目的としたDNAサンプリングと並行して、これまでに採取した現生リュウキュウイノシシ試料のDNA解析を行い、解析結果を国内学会および国際学会で発表した。2014年9月にSan Rafael(アルゼンチン)で開催された国際考古動物学会第12回大会(ICAZ 2014)でポスター発表を行った。また同年11月には第68回日本人類学会大会(浜松)でポスター発表を、日本動物考古学会第2回大会(若狭三方縄文博物館)で口頭発表を行った。太平洋島嶼域を舞台に先史人類がどのように移動・適応したか探る事が本研究の目的である。先史人類の移動の指標については食料として盛んに利用されたイノシシやブタに着目し、遺跡から出土した骨と現生個体のDNA解析を行う。本年度は海外の遺跡出土資料の解析としてベトナムのHang Cho遺跡(約10,000年前)とMan Bac遺跡(約3,500年前)の解析(各22個体)を実施した。しかしその保存状態の悪さからDNA解析の成功率は極めて低く、遺跡で利用されていたイノシシ・ブタの遺伝的特徴を十分に把握できなかった。そこで2016年2月にベトナム考古学院を訪ね追加資料のDNAサンプリングを実施した。これらの追加資料の解析は平成28年度に実施する。これに加えて琉球列島に生息する野生イノシシであるリュウキュウイノシシ(現生個体)のDNA解析を行った。リュウキュウイノシシが生息する全ての島由来のDNA資料(肉片や骨)を野外調査で採集し、ミトコンドリアDNAの解析を行った。この結果全ての島の個体は遺伝的に近縁であり、同一の系統に由来する野生イノシシ集団である事が強く示唆された。琉球列島の遺跡出土資料を扱った過去のDNA解析では、前述したリュウキュウイノシシと遺伝的に異なる特徴を持つ個体が複数遺跡で検出されている。本解析結果と先行研究の結果を照らし合わせ、先史時代の琉球列島では人類によるイノシシ・ブタの持ち運びが生じていた可能性を示した。本研究成果は論文として公表した。平成27年度はベトナムの遺跡出土資料の解析を主に行ったが、その保存状態は非常に悪く、同遺跡の資料について複数の解析手法を試みる事となった。このため当初予定していた他の遺跡出土試料の解析が遅れたほか、ベトナムの遺跡出土試料については追加試料のサンプリングと再解析の必要が生じた。これらから「やや遅れている」と判断した。再解析の際は次世代シーケンサー解析などを利用し、解析成功率や解析精度の向上を目指す。解析に用いる資料のサンプリング状況は順調である。ミクロネシアのファイス島先史遺跡や琉球列島の先史遺跡由来の資料の採集は既に済んでいるため、平成28年度に解析を進める。先史人類が太平洋島嶼域を移動した時期や経路を探り、ヒトの島への適応を考察する事が目的である。古くからヒトに食料として利用されたイノシシ・ブタに着目し、その運搬時期や経路を、現生試料と先史遺跡由来の骨のDNA解析から検証した。期間全体を通じ、まず琉球列島での運搬を検証した。具体的には1琉球列島の野生イノシシ(リュウキュウイノシシ)の現生試料、および2先史遺跡出土の骨のDNAを解析した。1は遺跡出土試料の比較情報として重要で、本研究では生息する全ての島の個体を初めて解析した。この結果リュウキュウイノシシは1つの系統に由来する集団である事が示唆された。最終年度は奄美大島や徳之島、沖縄島で追加解析を行い、集団に地理的隔離が生じている可能性を示した。 | KAKENHI-PROJECT-26840157 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26840157 |
End of preview. Expand
in Dataset Viewer.
llm-jp-corpus-v3のkakenサブセットをHFフォーマットに変換し、各データに付与されたURLから元記事のタイトルを取得可能なものについては取得して付与したデータセットです。
ライセンスは元ページに従いCC-BY 4.0とします。
- Downloads last month
- 155