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半導体集積回路と一体化可能な圧電境界波デバイス | 本申請者らは、圧電性基板(LiNbO_3)とシリコン(Si)基板を接合すると、その境界にエネルギーを集中して伝搬する境界波が存在し、これにより、これまでのSAWデバイスと同等以上の性能が得られることを示している。本研究では、LiNbO_3基板とSi基板を接合する技術を開発し、それを利用して上述の境界波デバイスを実現することを目的とした。この構造実現には、非常に微細なすだれ変換子(IDT)が必要とされる。そこで、まず、電子ビーム露光法を利用した超微細電極の形成について検討した。超微細電極の作成にはリフトオフ法が有利であるが、基板が絶縁体であるため、電子ビームによるチャージアップが問題となる。そこで、水溶性の帯電防止剤を事前に塗布し、その後にリフトオフ法によりパターニングするプロセスを構築し、線幅0.2μmのIDTをAl製微細IDTを実現することができた。次に、Si/LiNbO_3構造境界波デバイスを試作した。まず、LiNbO_3上に電子ビーム露光法によりすだれ変換子(IDT)を作成した後、絶縁層としてスパッタ法によりSiO_2層を堆積し、さらにその上に電子ビーム蒸着法によりSi層を堆積した。その結果、中心周波数2.09GHz付近に境界波による応答が観測された。ただし、Si層の堆積により挿入損失が約20dB増加してしまった。次に、基板接着による境界波デバイスの作成を試みた。まず、紫外線硬化樹脂により接着したところ、中心周波数991MHzにおいて挿入損失30.8dBとなった。配線の引き回しの最適化により10dB程度が低減でき、残りの大部分は樹脂内での吸収によるものであることが判った。そこで、次に低融点ガラスによる圧着を試み、LiNbO_3とsiの接着に成功した。しかし、ガラス層が厚く、境界波の観測までには至らなかった。今後、ガラス層厚の低減を目指し、良好な特性を有する境界波デバイスの実現を目指したいと考えている。本申請者らは、圧電性基板(LiNbO_3)とシリコン(Si)基板を接合すると、その境界にエネルギーを集中して伝搬する境界波が存在し、これにより、これまでのSAWデバイスと同等以上の性能が得られることを示している。本研究では、LiNbO_3基板とSi基板を接合する技術を開発し、それを利用して上述の境界波デバイスを実現することを目的とした。この構造実現には、非常に微細なすだれ変換子(IDT)が必要とされる。そこで、まず、電子ビーム露光法を利用した超微細電極の形成について検討した。超微細電極の作成にはリフトオフ法が有利であるが、基板が絶縁体であるため、電子ビームによるチャージアップが問題となる。そこで、水溶性の帯電防止剤を事前に塗布し、その後にリフトオフ法によりパターニングするプロセスを構築し、線幅0.2μmのIDTをAl製微細IDTを実現することができた。次に、Si/LiNbO_3構造境界波デバイスを試作した。まず、LiNbO_3上に電子ビーム露光法によりすだれ変換子(IDT)を作成した後、絶縁層としてスパッタ法によりSiO_2層を堆積し、さらにその上に電子ビーム蒸着法によりSi層を堆積した。その結果、中心周波数2.09GHz付近に境界波による応答が観測された。ただし、Si層の堆積により挿入損失が約20dB増加してしまった。次に、基板接着による境界波デバイスの作成を試みた。まず、紫外線硬化樹脂により接着したところ、中心周波数991MHzにおいて挿入損失30.8dBとなった。配線の引き回しの最適化により10dB程度が低減でき、残りの大部分は樹脂内での吸収によるものであることが判った。そこで、次に低融点ガラスによる圧着を試み、LiNbO_3とsiの接着に成功した。しかし、ガラス層が厚く、境界波の観測までには至らなかった。今後、ガラス層厚の低減を目指し、良好な特性を有する境界波デバイスの実現を目指したいと考えている。本申請者らは、圧電性基板(LiNbO_3)とシリコン(Si)基板を接合すると、その境界にエネルギーを集中して伝搬する境界波が存在し、これを利用してGHz帯フィルタを構成した場合、これまでのSAWデバイスと同等もしくはそれ以上の性能が得られることを示している。本研究では、LiNbO_3基板とSi基板を低温度で接合する技術を開発し、それを利用して上述の境界波デバイスを実現することを目的としている。この構造を実現するためには、非常に微細なすだれ変換子(IDT)が必要とされる。そこで、まず、電子ビーム露光法を利用した超微細電極の形成について検討した。超微細電極の作成にはリフトオフ法が有利であるが、圧電性基板が絶縁体であるため、電子ビームによるチャージアップが問題となる。そこで、水溶性の帯電防止剤を事前に塗布し、その後にリフトオフ法によるパターニングするプロセスを構築し、線幅0.2μmのIDTをAl製微細IDTを誘電体基板上に実現することができた。また、LiNbO_3基板上にSi層を堆積することによりSi/LiNbO_3構造を作成し、その構造における境界波伝搬の観測を試みた。まず、LiNbO_3上に電子ビーム露光法によりすだれ変換子(IDT)を作成した後、絶縁層としてスパッタ法によりSiO_2層を堆積し、さらにその上に電子ビーム蒸着法によりSi層を堆積した。 | KAKENHI-PROJECT-13650371 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13650371 |
半導体集積回路と一体化可能な圧電境界波デバイス | その結果、中心周波数2.09GHz付近に境界波による応答が観測された。ただし、Si層の堆積により挿入損失が約20dB増加してしまった。これは、Si堆積時に発生した不具合によりIDT電極が短絡してしまったためと考えられる。今後、プロセスをさらに検討し、低損失デバイスの実現を目指すと共に、基板の圧着に基づく境界波デバイス実現を検討して行く予定である。本申請者らは、圧電性基板(LiNbO_3)とシリコン(Si)基板を接合すると、その境界にエネルギーを集中して伝搬する境界波が存在し、これにより、これまでのSAWデバイスと同等以上の性能が得られることを示している。本研究では、LiNbO_3基板とSi基板を接合する技術を開発し、それを利用して上述の境界波デバイスを実現することを目的とした。この構造実現には、非常に微細なすだれ変換子(IDT)が必要とされる。そこで、まず、電子ビーム露光法を利用した超微細電極の形成について検討した。超微細電極の作成にはリフトオフ法が有利であるが、基板が絶縁体であるため、電子ビームによるチャージアップが問題となる。そこで、水溶性の帯電防止剤を事前に塗布し、その後にリフトオフ法によりパターニングするプロセスを構築し、線幅0.2μmのIDTをAl製微細IDTを実現することができた。次に、Si/LiNbO_3構造境界波デバイスを試作した。まず、LiNbO_3上に電子ビーム露光法によりすだれ変換子(IDT)を作成した後、絶縁層としてスパッタ法によりSiO_2層を堆積し、さらにその上に電子ビーム蒸着法によりSi層を堆積した。その結果、中心周波数2.09GHz付近に境界波による応答が観測された。ただし、Si層の堆積により挿入損失が約20dB増加してしまった。次に、基板接着による境界波デバイスの作成を試みた。まず、紫外線硬化樹脂により接着したところ、中心周波数991MHzにおいて挿入損失30.8dBとなった。配線の引き回しの最適化により10dB程度が低減でき、残りの大部分は樹脂内での吸収によるものであることが判った。そこで、次に低融点ガラスによる圧着を試み、LiNbO_3とSiの接着に成功した。しかし、ガラス層が厚く、境界波の観測までには至らなかった。今後、ガラス層厚の低減を目指し、良好な特性を有する境界波デバイスの実現を目指したいと考えている。 | KAKENHI-PROJECT-13650371 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13650371 |
ナノバイオミメティックプロセスによる小規模フッ素排水処理・資源循環パッケージ開発 | 水質汚濁防止法の排出規制において,フッ素化合物に関する暫定基準が設けられているメッキ業等の小規模事業者に対し,研究代表者が歯のう蝕(虫歯)予防にヒントを得て開発を進めてきたナノバイオミメティックプロセスを活用した1)水処理資材の開発,2)水処理効率をオンサイトで観察できる分析技術,3)水処理で発生する汚泥の再資源化,および4)水処理技術導入による効果の評価を行った。得られた主な成果は,1)リン酸カルシウムの一種であるDCPDを用いた水処理に適した資材開発,2)メッキ業など小規模事業所におけるフッ素排水処理の技術課題の抽出,3)処理水中のフッ化物イオンを簡便に測定できる技術の開発である。水質汚濁防止法の排出規制において,フッ素化合物に関する暫定基準が設けられているメッキ業等の小規模事業者に対し,研究代表者が歯のう蝕(虫歯)予防にヒントを得て開発を進めてきたナノバイオミメティックプロセスを活用した1)水処理資材の開発,2)水処理効率をオンサイトで観察できる分析技術,3)水処理で発生する汚泥の再資源化,および4)水処理技術導入による効果の評価を行った。得られた主な成果は,1)リン酸カルシウムの一種であるDCPDを用いた水処理に適した資材開発,2)メッキ業など小規模事業所におけるフッ素排水処理の技術課題の抽出,3)処理水中のフッ化物イオンを簡便に測定できる技術の開発である。【研究成果の概要】1.フッ素廃水の高度処理に適したリン酸カルシウム塩の合成および評価:リン酸カルシウムの一種であるリン酸水素カルシウム(DCPD)と水酸アパタイト(HA)の複合化がフッ素廃水処理効率向上に及ぼす因子を調査した。結果,DCPD表面にHAを粒子レベルで複合化させることにより,処理後のスラッジの粒子形状を処理前のDCPDの形状に近い形状に制御することができる知見を得た。また,水産業廃棄物とリン酸含有排水を用いてDCPDを合成する最適条件を見いだした。2.処理水の簡易分析に適したオンサイトモニタリング技術の構築:ポルフィリン系の発色試薬に阻害物質としてジルコニウムの添加量を変えると,変色が生じるフッ化物イオン濃度を容易に制御できることを見いだした。3.企業倫理に基づくビジネスモデルの構築:東京都鍍金工業組合との連携により,小規模事業所における水処理技術の現状および実際の排水サンプルを用いた上記1,2の検討を進める体制を整備した。またこれらの企業に対するインタビューにより,小規模事業所の連携による事業拡大・新規技術導入の可能性を検討した。4.アウトリーチ:2011NEW環境展やイノベーションジャパン2012にて研究内容のPRおよび社会とのコミュニケーションを持つ機会を設定した。また,海外のフッ素排水処理に対する需要を共有する機会をもち,本研究成果を国内外で実用化研究に展開する足がかりを構築した。【成果発表等】研究成果は国内外の学会発表,論文投稿に加え,研究内容を紹介するWebページを開設し,広く社会にPRするメディアを構築した。1)水処理に適した高機能リン酸カルシウム塩の合成条件の構築:フッ素排水処理の際に問題となる,生成したスラッジのろ過性を向上させることを目的に,本研究で対象としている第二リン酸カルシウム(DCPD)の粒子形状の制御を可能とする条件を構築した。具体的には,溶液のpHと濃度を制御するだけで,板状から板状粒子を花弁状に凝集させた粒子へと容易に変換することができる条件を見いだすことができた。2)処理効率を評価するオンサイトモニタリングシステムの構築:アルミニウムを共存させることにより,通常の比色法による液中フッ化物イオンの検出を容易にする条件を見いだした。3)フッ素廃水の高度処理に適したシステム作り・実証試験:実際のフッ素廃水を対象として,広く用いられているアルミニウム塩(硫酸バンド)による凝集沈殿処理とDCPDとで,水処理効率,処理の操作性について評価を行った。DCPDを用いることで,生成するスラッジ量,スラッジの沈降速度,ろ過性とも既往の硫酸バンドよりも優れた結果を得ることができ,DCPDの水処理への有用性を確認することができた。4)アウトリーチ:2013NEW環境展での研究成果のPR,全国高専等での講演等で,本研究成果をPRすることができた。5)研究成果の展開:当初の目的であるメッキ等の小規模水処理に対する対応については,種々の企業との意見交換を通して実証試験を平成24年度までに展開したが,フロン破壊処理等で発生する大規模なフッ素廃水処理への展開の可能性など,種々の可能性に向けて検討を開始した。本研究で得られた成果を海外,特にチュニジアの水環境問題に展開するため,筑波大学・入江准教授の科研費(基盤A:海外学術調査)の申請に参画,採択され平成25年度から4年間海外への展開も合わせて行うこととなった。研究2年目となる平成24年度は以下の内容で研究を行った。1)フッ素排水の高度処理に適した機能性材料の設計,未利用資源からの製造技術:実際の水処理現場との情報交換で見いだされた「スラッジの分離回収」の課題を克服するため,排水中フッ素化合物の処理を可能とするリン酸カルシウムの粒子形状を制御するための条件を構築,論文発表を行った。また,未利用資源である貝殻等を用いてリン酸カルシウムを製造する基礎知見を構築,論文発表を行った。また,リン酸カルシウムのフッ化物イオンとの反応性を向上させる,粒子表面の改良技術を確立した。2)処理効率を現場で簡便に評価できるオンサイトモニタリング技術:排水および処理 | KAKENHI-PROJECT-23310058 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23310058 |
ナノバイオミメティックプロセスによる小規模フッ素排水処理・資源循環パッケージ開発 | 水中のフッ化物イオン濃度を簡便に評価できる手法として,種々の濃度の妨害イオンを用いてフッ化物イオンをマスキングし,ある値以上で急激に発色反応を引き起こすことができる手法を開発,論文発表を行った。3)処理後に生じる副生物(スラッジ)の再資源化:スラッジの再資源化について,アパタイトが有する触媒能を活かした触媒等への展開の可能性を検討した。4)アウトリーチ・ビジネスシナリオ構築:水処理業界との意見交換の中で,フッ素およびホウ素は海域への放流が可能な地域や,フッ素等を含まない排水処理ラインを併設している小規模事業所では,適切に処理水を混合希釈することで高度処理を行うに値するビジネス的な価値が見いだせないことが指摘された。一方,水の使用が限られる地域,土壌汚染のリスクが懸念される地域等においては,この種の技術の有用性があることが見いだされている。水処理に用いることができる機能性材料の設計指針を得,フッ素分析の簡易化につながる基礎知見を得た。その他それぞれの目的に関して,期待される成果を得ることができた。この成果は平成24年度以降に論文として発表していく予定。本研究の成否を分ける社会とのコネクションについても,東京都鍍金工業組合と継続的な意見交換ができる体制を整備できた。以上の理由よりおおむね順調な発展をしているものと判断した。25年度が最終年度であるため、記入しない。1)リン酸カルシウムの合成については今年度,材料科学の分野においても興味ある基礎的学術成果が得られている。水処理への適応についても,各種業界とのディスカッションを通して,フッ素排水の高度処理への展開可能性を確固とすることができた。また,リン酸カルシウムの反応性を向上できる技術の確立も成し遂げることができた。2)フッ素濃度のオンサイト分析については,分担者の間中(富山高専)が「分析化学」誌への総合論文掲載等の成果を挙げており,基礎学術的にも高い評価を受けた。実用的には試験紙・テストキットへの展開が今後の課題と言える。3)実用化への展開については,残念ながら当初の目的である小規模事業所へダイレクトに本成果を展開できるビジネス的な価値が薄いことが明らかになってきたが,水処理に伴う環境影響低減について,いくつかの知見が見いだされていることから,これらを総合的に組み合わせることにより,次年度以降に新しい環境影響の低いフッ素排水処理技術への展開が可能となると期待される。本年度の取り組みの中で,めっき排水に本技術を適応する際,発生するスラッジの長期安定性,水処理に適した操業条件等に関して懸案となる事項を業界から指摘されている。これについては次年度以降の研究で対策技術の検討を行う。排水中フッ素濃度の簡易分析技術に関しては,試験紙等の形態での簡易分析装置への組み上げが要望されており,現在その検討を進めている。研究遂行の問題点については研究開始段階で予想された範囲内のものであったことから,特に大きな計画変更は必要ないと考えている。25年度が最終年度であるため、記入しない。1)リン酸カルシウムの合成については,未利用資源からの合成,粒子形状制御の基礎的検討に加え,水処理の作業効率の向上等,実際の水処理に適した検討を実排水を用いた検討などを通して検討する。 | KAKENHI-PROJECT-23310058 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23310058 |
靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性に関する研究 | 現在,セラミックスに関して種々の靭性向上法が提案されている.しかし、衝撃荷重に対する靭性強化セラミックスの破壊挙動に関しては,未解明の点が多く残されている.セラミックスのように本質的に脆性を有している材料では,衝撃力に対する配慮が不可欠であるので,静的荷重に対して有効な靭性強化法がそのまま衝撃荷重に対しても有効かどうか明らかにすることは重要と考えられる.そこで,本研究では,まず,靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性値の計測法について検討し,靭性強化セラミクスの衝撃破壊条件を明らかにすることを目的とし,以下のような研究を行った.(1)衝撃試験において重要な衝撃力の測定法に関して,ひずみ波形の測定デ-タより逆解析的手法を用いて衝撃力の算定を行う手法について検討を行った.その際,測定デ-タに含まれる雑音成分の影響を抑え,結果の精度を向上させる方法について検討を加えた.(2)高温度下における衝撃破壊靭性試験について検討し,一点曲げによる方法が有効であることを示した.(3)塑性変形の影響が無視できない場合にたいする動的破壊力学パラメ-タの簡便評価式を導出した.(4)アルミナおよびアルミナ-ジルコニア複合材料の高温衝撃破壊靭性について調べ,荷重速度および温度の影響を明らかにした.(5)アルミナとアルミニウム複合材料の高温衝撃破壊靭性について,荷重速度および温度の影響を調べ,破壊機構と荷重速度の関係について検討を行った.現在,セラミックスに関して種々の靭性向上法が提案されている.しかし、衝撃荷重に対する靭性強化セラミックスの破壊挙動に関しては,未解明の点が多く残されている.セラミックスのように本質的に脆性を有している材料では,衝撃力に対する配慮が不可欠であるので,静的荷重に対して有効な靭性強化法がそのまま衝撃荷重に対しても有効かどうか明らかにすることは重要と考えられる.そこで,本研究では,まず,靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性値の計測法について検討し,靭性強化セラミクスの衝撃破壊条件を明らかにすることを目的とし,以下のような研究を行った.(1)衝撃試験において重要な衝撃力の測定法に関して,ひずみ波形の測定デ-タより逆解析的手法を用いて衝撃力の算定を行う手法について検討を行った.その際,測定デ-タに含まれる雑音成分の影響を抑え,結果の精度を向上させる方法について検討を加えた.(2)高温度下における衝撃破壊靭性試験について検討し,一点曲げによる方法が有効であることを示した.(3)塑性変形の影響が無視できない場合にたいする動的破壊力学パラメ-タの簡便評価式を導出した.(4)アルミナおよびアルミナ-ジルコニア複合材料の高温衝撃破壊靭性について調べ,荷重速度および温度の影響を明らかにした.(5)アルミナとアルミニウム複合材料の高温衝撃破壊靭性について,荷重速度および温度の影響を調べ,破壊機構と荷重速度の関係について検討を行った.現在,セラミックスに関して現在種々の靭性向上法が提案されている.しかし,衝撃荷重に対する靭性強化セラミックスの破壊挙動に関しては,未解明点が多く残されている.セラミックスのように本質的に脆性を有している材料では,衝撃力に対する配慮が不可欠であるので,静的荷重に対して有効な靭性強化法がそのまま衝撃荷重に対しても有効かどうか明かにすることは重要と考えられる.そこで,本研究では,まず,靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性の計測法について検討し,靭性強化セラミックスの衝撃破壊条件を明らかにするとともに,優れた耐衝撃特性を持った靭性強化セラミックスの材料設計に関して指針を得ることを目的とする.本年度は靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性に関して以下の研究を行った.(1)従来提案されている種々の動的応力拡大係数の評価式の精度と使用限界について検討した.また,弾塑性破壊力学パラメ-タJ^^<^>積分の算定法ついても検討した.(2)高温度下におけるき裂進展開始時刻の検出法に関いて,落下円柱に添付した歪みゲ-ジの出力波形を動的処理することにより,き裂進展開始時刻を推定する方法について検討した.(3)アルミーアルミナ複合強化セラミックスについて衝撃破壊靭性試験を行った.(4)破面を電子顕微鏡で観察するした.その結果,破面は複雑な様相を示していることがわかり,破壊機構をより精密に解明するために,破面写真の画像処理手法について若干の検討を行った.現在,セラミックスに関して種々の靭性向上法が提案されている。しかし,衝撃荷重に対する靭性強化セラミックスの破壊挙動に関しては,未解明の点が多く残されている。セラミックスのように本質的に脆性を有している材料では,衝撃力に対する配慮が不可欠であるので,静的荷重に対して有効な靭性強化法がそのまま衝撃荷重に対しても有効かどうか明らかにすることは重要と考えられる。そこで,本研究では,まず,靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性値の計測法について検討し,靭性強化セラミクスの衝撃破壊条件を明らかにするとともに,優れた耐衝撃特性を持った靭性強化セラミックスの材料設計に関して指針を得ることを目的とする。本年度は,靭性強化セラミクッスの高温衝撃破壊靭性に関して以下の研究を行った。(1)衝撃試験において重要な衝撃力を測定法に関して,ひずみ波形の測定デ-タより逆解析的手法を用いて衝撃力の算定を行う手法について検討を行った。その際,測定デ-タに含まれる雑音成分の影響を抑え,結果の精度を向上させる方法について検討を加えた。(2)アルミナおよびアルミナ-ジルコニア複合材料の高温衝撃破壊靭性について調ベ,荷重速度および温度の影響を明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-02650063 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02650063 |
靭性強化セラミックスの高温衝撃破壊靭性に関する研究 | (3)アルミナとアルミニウム複合材料の高温衝撃破壊靭性について,荷重速度および温度の影響を調べ,破壊機構と荷重速度の関連について検討を行った。 | KAKENHI-PROJECT-02650063 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02650063 |
奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症の負荷時血行動態及び予後調査(多施設合同研究) | 超高齢化を迎えた先進諸国で爆発的に増加している大動脈弁狭窄症(AS)の新たな概念、奇異性低流量低圧較差AS(PLFLG AS)に対する研究を行った。本邦においてPLFLG ASはAS全体の約10%に認め、その予後は欧米諸国の報告と比較して良好であることを報告した。さらに本研究においてはドブタミン負荷心エコー図法を用いて、PLFLG AS患者の血行動態及びその予後について検討を行い、負荷中の血行動態は様々で、偽ASが約半数存在し、その患者群の予後は真ASと比較して良好であることが解明された。以上の結果は国際及び国内学会での発表を行い、論文投稿中である。奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症患者における負荷時血行動態及び予後調査を多施設にて研究を開始。2014年4月時点で4施設より63症例のエントリー及び予後調査を終了した。またエントリーされた症例のデータ解析を行い、負荷時血行動態は個々様々であることが判明した。先行研究より負荷時flowrate 250ml/sec時の弁口面積(Projected AVA)を計測し、1cm2未満を真、1cm2以下を偽の大動脈弁狭窄症とした場合、偽が60%近く存在し、欧米で行われた先行研究よりも高い確率であることが判明。またそれら偽の患者群は真の患者群と比較して予後も良好であり、本邦における大動脈弁狭窄症重症度診断には注意が必要であることを究明しえた。それら結果は2014年ヨーロッパ心臓病学会にて発表を予定している。また、引き続き症例エントリー及び予後調査を行い、論文作成に向け準備を進める予定である。現在4施設から約70名のエントリーを頂き、仮説同様の結果が出ている。その結果はヨーロッパ心臓病学会2014をはじめ、国内学会でも発表させて頂いた。現在論文作成を進めている段階である。本邦における奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症に対し、負荷エコーを多施設にて実施し、68症例のエントリーが終了し、平均16か月の予後調査を行った。先行研究から負荷中の弁口面積(projected AVA)を用いて真と偽の大動脈弁狭窄症の層別化を行った。全症例のうち、真の高度狭窄症例は32名(47%)と、欧米の報告と比較してその割合は低かった。追跡期間中、35名に心血管イベントが発症した(8名の心臓死を含む)。Coxハザード解析を行い、projected AVAは独立した予後予測因子であった。(ハザード比:9.26)またKaplan-Meyer曲線においてもprojected AVAを用いて予後の層別化は可能であった。我々の先行研究において、本邦における奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症は欧米と比較して予後良好であると報告したが、今回の結果は、真の大動脈弁狭窄症の割合が欧米と比較して低く、それを裏付けるものと考えられた。今回の結果から負荷心エコーは奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症において予後層別化に有用な検査方法であることが示されたが、現在安静時エコー検査が真の大動脈弁狭窄症を予測することが可能であるかどうかの検証を加えている。特に今回は3Dエコーを用いているという特徴を活かし、3Dスペックルトラッキング法を用いて検討している。現在論文作成を同時に進めており2016年中の投稿を予定している。超高齢化を迎えた先進諸国で爆発的に増加している大動脈弁狭窄症(AS)の新たな概念、奇異性低流量低圧較差AS(PLFLG AS)に対する研究を行った。本邦においてPLFLG ASはAS全体の約10%に認め、その予後は欧米諸国の報告と比較して良好であることを報告した。さらに本研究においてはドブタミン負荷心エコー図法を用いて、PLFLG AS患者の血行動態及びその予後について検討を行い、負荷中の血行動態は様々で、偽ASが約半数存在し、その患者群の予後は真ASと比較して良好であることが解明された。以上の結果は国際及び国内学会での発表を行い、論文投稿中である。現在論文作成段階に進んでおり、今年度中の投稿を予定している。循環器内科本研究は負荷エコーを用いた研究によって、本邦における奇異性低流量低圧較差大動脈弁狭窄症の予後が欧米と比較して比較的良いことの理由の一つを解明した研究である。しかしながら負荷エコーは本邦のみならず全世界においてどの施設でも行うことのできる検査方法ではなく、少なからずリスクも伴うため、今後は本研究を参考に安静時エコーの新たな指標の検討に関しても行う必要があると考える。症例エントリー、予後調査を開始後1年で順調に行えている。予定していた人件費を使用することができず、その分の予算が次年度に持ち越すこととなった。引き続き症例エントリー及び予後調査を多施設にて行い、論文作成に向け準備を進める。今年度は予後調査含めたデータ収集への人件費投入及び、論文作成のためのデータ解析等に用いる統計ソフト等に投じる予定である。今年度は症例エントリー及び予後調査等のみとなり、心エコーNew technologyである3Dでの解析まで到達できておらず、未購入である。翌年度は3D解析等含めたソフトウェアーの購入及び解析を計画している。 | KAKENHI-PROJECT-25860627 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25860627 |
パルス電流通電法による耐酸化性MoSi_2基超高温材料のその場合成 | ダイシリサイドは耐酸化性超高温材料の候補材の1種であるが、一般に融点が高いため溶融法での作製が困難であること、接合材料や複合材料の作製も容易にできることなどから、粉末冶金法による作製が有望である。本研究では、パルス電流通電による粒子間での放電現象の真偽について検討するとともに、作製したダイシリサイドの耐酸化性評価、さらに複合材料を想定した異種材料間での界面反応挙動ついて明かにするための実験を10-11年度にかけて行った。今年度は特に本方法で作製した各種ダイシリサイド焼結体の耐酸化性評価に関する研究を重点的に進めた。1.FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2、Vsi_2、TaSi_2、NbSi_2、Wsi_2およびMoSi_2の耐酸化性評価を500°Cから1500°Cの温度範囲において行い、各ダイシリサイドにおける金属とSiの同時酸化が起きる温度領域を明らかにした。2.FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2は1000°C以下の温度で優れた耐酸化性を有し、またMoSi_2は500°C±100°Cを除く温度範囲で極めて優れた耐酸化性を示した。しかし、他のダイシリサイドでは500°C以上の温度範囲にわたって金属とSiの同時酸化が起こるため、優れた耐酸化性を示さなかった。3.MoSi_2の500°C±100°Cにおける同時酸化には、材料の欠陥(ポアやクラック)および雰囲気の水蒸気が強い影響を及ぼしていることを明らかにした。4.パルス電流通電法により清浄で緻密なダイシリサイド焼結体およびその複合材料を作製することが可能であるが、特に耐酸化性超高温材料としてのポテンシャルが高いダイシリサイドはMoSi_2であることを明らかにした。高温機器の性能向上のみならず、地球環境保護の立場からも耐酸化性超高温材料の開発が望まれている。モリブデンダイシリサイド(MoSi_2)はその候補材のひとつであるが、融点力塙いため溶融法での作製が困難であること、接合材料や複合材料の作製も容易にできることなどから、粉末冶金法による作製が望まれている。本研究では、パルス電流通電による粒子間での放電現象の真偽について検討するとともに、作製したグイシリサイドの耐酸化性評価、さらに接合材料作製の可能性ついて明かにするための実験を行った。本年度の研究で得られた結果は以下の通りである。1. FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2、VSi_2、MoSi_2の焼結終了温度はダイシリサイドの融点とともに上昇するのに対し、焼結開始温度はすべてのダイシリサイドにおいてほぼ一定(約1050K)であった。このことは粒子間での放電が初期の焼結を促進していることを示唆している。2.作製したダイシリサイドはすべて高緻密体であり、また1273Kにおける耐酸化性はSiO_2皮膜の形成により従来の耐熱合金よりも格段に優れていた。3. MoとSiの混合粉末およびMo、Si、Cの混合粉末を用いることによって、吸着酸素とSiの反応によるSiO_2介在物の生成を抑制できることがわかった。4. MoSi_2の焼結とNb板上への接合を同時に行うことができ、耐酸化性超高温材料の作製に有効である。次年度はさらに焼結体および接合体の耐酸化性についての詳細な評価および組織構造解析を行う。ダイシリサイドは耐酸化性超高温材料の候補材の1種であるが、一般に融点が高いため溶融法での作製が困難であること、接合材料や複合材料の作製も容易にできることなどから、粉末冶金法による作製が有望である。本研究では、パルス電流通電による粒子間での放電現象の真偽について検討するとともに、作製したダイシリサイドの耐酸化性評価、さらに複合材料を想定した異種材料間での界面反応挙動ついて明かにするための実験を10-11年度にかけて行った。今年度は特に本方法で作製した各種ダイシリサイド焼結体の耐酸化性評価に関する研究を重点的に進めた。1.FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2、Vsi_2、TaSi_2、NbSi_2、Wsi_2およびMoSi_2の耐酸化性評価を500°Cから1500°Cの温度範囲において行い、各ダイシリサイドにおける金属とSiの同時酸化が起きる温度領域を明らかにした。2.FeSi_2、CoSi_2、CrSi_2は1000°C以下の温度で優れた耐酸化性を有し、またMoSi_2は500°C±100°Cを除く温度範囲で極めて優れた耐酸化性を示した。しかし、他のダイシリサイドでは500°C以上の温度範囲にわたって金属とSiの同時酸化が起こるため、優れた耐酸化性を示さなかった。3.MoSi_2の500°C±100°Cにおける同時酸化には、材料の欠陥(ポアやクラック)および雰囲気の水蒸気が強い影響を及ぼしていることを明らかにした。4.パルス電流通電法により清浄で緻密なダイシリサイド焼結体およびその複合材料を作製することが可能であるが、特に耐酸化性超高温材料としてのポテンシャルが高いダイシリサイドはMoSi_2であることを明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-10875138 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10875138 |
レーザー光による血管内手術の基礎的研究 | レーザー光による血管内手術の基礎的研究として、照射方法、照射端の形状、レーザーの種類、レーザープローブの開発、組織反応および照射効果、さらに動脈硬化に対する光化学療法などに関する実験を行い、以下の結果を得た。1.実験的にに作成したアテローマおよび器質化血栓を使用した実験において、接触照射の方が非接触照射より動脈壁の熱傷が少く照射後の照射面が滑らかであるなどの点で優れていることが判った。照射出力はファイバー先端による接触照射ではアルゴンレーザーを使用して約1.5Wで十分であった。2.照射端であるレーザー光ファイバー先端は丸く加工した法が穿孔が少いことが判った。照射端の形状に自由度を持たせるため先端チップの開発をした。先端チップはセラミックチップの方が金属チップより焼灼蒸散能力に優れていることが判った。チップを使用した場合、出力の点でYAGレーザーが適しており、2035W必要であった。3.ファイバーの材質に関する検討を行い、血管内手術用にセラミックチップを装着したレーザープローブを開発した。このプローブは最大直径1.8mmであり、同口径の血管内視鏡にて病変部の状態が観察可能であった。4.アテローマにおける焼灼実験においては焼灼部は直後に血栓を生じ、48時間後にはフィブリン様物質が同部を被い、2週間後には焼灼部が判らない位になっていた。また器質化血栓により閉塞した血管は、開発したレーザープローブによる血管内手術により、直径約2mmの丸い穴を形成した。5.アテローマにおける光化学療法に関しては現在実験中である。レーザー光による血管内手術の基礎的研究として、照射方法、照射端の形状、レーザーの種類、レーザープローブの開発、組織反応および照射効果、さらに動脈硬化に対する光化学療法などに関する実験を行い、以下の結果を得た。1.実験的にに作成したアテローマおよび器質化血栓を使用した実験において、接触照射の方が非接触照射より動脈壁の熱傷が少く照射後の照射面が滑らかであるなどの点で優れていることが判った。照射出力はファイバー先端による接触照射ではアルゴンレーザーを使用して約1.5Wで十分であった。2.照射端であるレーザー光ファイバー先端は丸く加工した法が穿孔が少いことが判った。照射端の形状に自由度を持たせるため先端チップの開発をした。先端チップはセラミックチップの方が金属チップより焼灼蒸散能力に優れていることが判った。チップを使用した場合、出力の点でYAGレーザーが適しており、2035W必要であった。3.ファイバーの材質に関する検討を行い、血管内手術用にセラミックチップを装着したレーザープローブを開発した。このプローブは最大直径1.8mmであり、同口径の血管内視鏡にて病変部の状態が観察可能であった。4.アテローマにおける焼灼実験においては焼灼部は直後に血栓を生じ、48時間後にはフィブリン様物質が同部を被い、2週間後には焼灼部が判らない位になっていた。また器質化血栓により閉塞した血管は、開発したレーザープローブによる血管内手術により、直径約2mmの丸い穴を形成した。5.アテローマにおける光化学療法に関しては現在実験中である。 | KAKENHI-PROJECT-60480313 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-60480313 |
脳腱黄色腫症におけるアポトーシス誘導機構 | CTXの発症は10歳前後と思われ、初発症状として知能低下がもっとも多いが軽度から中等度で重症の痴呆は稀である。思春期以後に錘体路症状、進行性の小脳症状が現れ、失調性歩行や水平性眼振や失調性言語障害を伴うこともある。若年性白内障も10代後半には顕著になり、水晶体摘出術を施行する例もある。脳腱黄色腫はもっとも特徴的で、好発部位はアキレス腱、上腕三頭筋・頸骨粗面・手指の伸筋の腱である。これらの症状はいずれも進行性だが、経過が緩徐のためにCTXと診断されるまでに時間を要することが多い。軽度精神遅滞、錘体路症状、白内障、小脳性眼球運動障害を呈し、抗てんかん薬のみの治療を受けていた患者が、CTXと診断されケノデオキシコール酸の投与により軽快したように小児期からの早期診断・治療が重要である。本研究の結果は、CTXで見られる小脳症状、白内障は、高コレスタノール血症が持続し、コレスタノールが小脳や水晶体上皮細胞に蓄積し、細胞死を引き起こすことに起因するとの仮説を強く支持するものである。また、コレスタノールによる小脳神経細胞、角膜内皮細胞、水晶体上皮細胞のアポトーシス誘導の際にICE, CPP32 proteaseが活性化することが明らかになったが、現在さらに詳しい情報伝達系の解明を行っている。前頭葉性の痴呆例で、高コレスタノール血症およびCYP27遺伝子にヘテロの変異が見いだされた。高コレスタノール血症は、CYP27遺伝子異常と関連があると考えられ、痴呆と高コレスタノール血症の密接な関連性が示唆された。今後、コレスタノールによる大脳培養細胞死について解析し、高コレスタノール血症と痴呆との関係について、検討を加えていきたい。CTXの発症は10歳前後と思われ、初発症状として知能低下がもっとも多いが軽度から中等度で重症の痴呆は稀である。思春期以後に錘体路症状、進行性の小脳症状が現れ、失調性歩行や水平性眼振や失調性言語障害を伴うこともある。若年性白内障も10代後半には顕著になり、水晶体摘出術を施行する例もある。脳腱黄色腫はもっとも特徴的で、好発部位はアキレス腱、上腕三頭筋・頸骨粗面・手指の伸筋の腱である。これらの症状はいずれも進行性だが、経過が緩徐のためにCTXと診断されるまでに時間を要することが多い。軽度精神遅滞、錘体路症状、白内障、小脳性眼球運動障害を呈し、抗てんかん薬のみの治療を受けていた患者が、CTXと診断されケノデオキシコール酸の投与により軽快したように小児期からの早期診断・治療が重要である。本研究の結果は、CTXで見られる小脳症状、白内障は、高コレスタノール血症が持続し、コレスタノールが小脳や水晶体上皮細胞に蓄積し、細胞死を引き起こすことに起因するとの仮説を強く支持するものである。また、コレスタノールによる小脳神経細胞、角膜内皮細胞、水晶体上皮細胞のアポトーシス誘導の際にICE, CPP32 proteaseが活性化することが明らかになったが、現在さらに詳しい情報伝達系の解明を行っている。前頭葉性の痴呆例で、高コレスタノール血症およびCYP27遺伝子にヘテロの変異が見いだされた。高コレスタノール血症は、CYP27遺伝子異常と関連があると考えられ、痴呆と高コレスタノール血症の密接な関連性が示唆された。今後、コレスタノールによる大脳培養細胞死について解析し、高コレスタノール血症と痴呆との関係について、検討を加えていきたい。(研究の背景)脳腱黄色腫症(CTX)は、ステロール27位水酸化酵素の障害による先天性の代謝異常症で、コレステロールが胆汁酸に代謝される過程が阻害されて、胆汁酸の組成が異常を来たすことが一次的な代謝障害である。血清中の胆汁酸はコール酸を除いて一様に低下し、正常には存在しない胆汁アルコールが出現する。CTXの遺伝子異常は家系ごとに異なっているが、血清中のコレスタノールが高値になることと、黄色腫や小脳症状があらわれることは共通している。コレスタノールも正常ではマイナーな側副路を経由して異常に増量する。そこで高コレスタノール血症がもたらす病態について研究を進めた。(研究結果)Wistar系ラットに1%コレスタノール含有食を15週間投与し、CTXのモデル動物作製を試みたところ、血清、小脳、肝臓、水晶体、眼房水にコレスタノールが蓄積した。小脳プルキンエ細胞、角膜内皮細胞、水晶体上皮細胞にそれぞれ10μg/mlコレスタノールを添加したところ、核に強い蛍光が認められアポトーシス誘導が示唆され、同時にICE、CPP32プロテアーゼ活性が上昇していた。(考察)これらの知見はCTX患者において、高コレスタノール血症という状態が長く続くことと小脳プルキンエ細胞にコレスタノールの蓄積をもたらし、細胞膜の流動性の低下、カルシウムチャンネルの障害からアポトーシス、ひいてはプルキンエ細胞の機能欠落に至るという仮説を支持する疾患モデルといえよう。脳腱黄色腫症(cerebrotendinous xanthomatosis : CTX)はステロール27位水酸化酵素の障害による先天性の脂質代謝異常症で、血清コレスタノール値が上昇し、腱および神経系の黄色腫、小脳症状、錐体路症状、若年性白内障、痴呆などの症状が現れる。 | KAKENHI-PROJECT-13480201 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13480201 |
脳腱黄色腫症におけるアポトーシス誘導機構 | 我々はCTX患者の神経、眼などの症状が、コレスタノールによる神経細胞や角膜細胞、水晶体の細胞のアポトーシスに起因するの仮説をたててin vivoおよびin vitroの両面から研究を進め、それを実証する結果を得た。ラットにコレスタノール含有食を15週間投与し、CTX様モデル動物である高コレスタノール血症ラットを作成した。小脳、肝臓、水晶体、眼房水にコレスタノールが蓄積した。そこで、コレスタノールが小脳(特にプルキンエ細胞)、角膜内皮細胞・水晶体上皮細胞の細胞死(アポトーシス)を起こすとの仮説をたて、これを実証する実験を行った。ラットの小脳細胞、ウシ角膜細胞、水晶体上皮細胞を培養し、コレスタノールをの細胞死への効果をトリパンブルー法、TUNELで解析した。さらにアポトーシスの要件であるカスパーゼ活性(ICE, CPP32protease)を測定した。その結果、コレスタノールは小脳細胞、角膜細胞、水晶体上皮細胞細胞のカスパーゼ活性を有意に上昇させ、アポトーシスを誘導することが明かとなった。以上の結果は上記の仮説を実証し、CTX患者の小脳症状、眼症状の機構解明に寄与する研究成果をあげた。 | KAKENHI-PROJECT-13480201 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13480201 |
効率的な交通ネットワーク計画を歪める習慣的行動メカニズムの解明 | 近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。筆者は、習慣的行動による情報探索の低下が、知覚バイアスを発生させる大きな要因と考えている。よって、本研究は、(1)習慣的行動メカニズムの検討を行った後、各種の事例に基づいて、(2)知覚バイアスの発生を確認した上で、(3)習慣的行動を強める要因を把握し、(4)習慣性の強さ(習慣強度)を測定する方法を検討する。さらに、(5)習慣形成要因と習慣強度、知覚バイアスとの因果連鎖を分析し、(0)知覚バイアスを考慮した離散選択モデルを構築することを目的とする。本年度は、供用後5年を経た鉄道新線を対象に需要の定着過程のデータ収集と分析とを行った。時系列の需要総量を把握するために、都市交通年報の断面交通量データおよび東京都交通局の所有する輸送需要データを取得した。平成14年度に都営大江戸線利用者、非利用者を対象に実施したインターネットを用いたアンケート調査の同一被験者にパネル調査を行い、経路利用および、知覚誤差の経年変化と習慣的行動との関係を把握した。インターネット調査では平成14年度インターネット調査の被験者(モニター)と同一の被験者が対象となるため、(株)アサツーディケイのインタニネット調査システムKNOTsを利用した。このデータ取得が研究補助のうちの大半である。取得できたパネルデータは、通勤目的トリップを104サンプル、私事目的トリップを101サンプル取得することができた。これらのデータにより、新しい交通ネットワーク供用後の転移速度と速度を決定づける習慣的行動との関係の解明を行った。こうした実行動と知覚状況に関する実データの解析とともに、知覚誤差の減少とともに、新規路線の需要定着が進む交通行動モデルの理論画からの検討を行った。複数の方法の検討を行ったが、特に経路選択行動とサービス水準の知覚値を同時決定する同時方程式モデルの体系で検討を試みた。近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。筆者は、習慣的行動による情報探索の低下が、知覚バイアスを発生させる大きな要因と考えている。よって、本研究は、(1)習慣的行動メカニズムの検討を行った後、各種の事例に基づいて、(2)知覚バイアスの発生を確認した上で、(3)習慣的行動を強める要因を把握し、(4)習慣性の強さ(習慣強度)を測定する方法を検討する。さらに、(5)習慣形成要因と習慣強度、知覚バイアスとの因果連鎖を分析し、(0)知覚バイアスを考慮した離散選択モデルを構築することを目的とする。本年度は、供用後5年を経た鉄道新線を対象に需要の定着過程のデータ収集と分析とを行った。時系列の需要総量を把握するために、都市交通年報の断面交通量データおよび東京都交通局の所有する輸送需要データを取得した。平成14年度に都営大江戸線利用者、非利用者を対象に実施したインターネットを用いたアンケート調査の同一被験者にパネル調査を行い、経路利用および、知覚誤差の経年変化と習慣的行動との関係を把握した。インターネット調査では平成14年度インターネット調査の被験者(モニター)と同一の被験者が対象となるため、(株)アサツーディケイのインタニネット調査システムKNOTsを利用した。このデータ取得が研究補助のうちの大半である。取得できたパネルデータは、通勤目的トリップを104サンプル、私事目的トリップを101サンプル取得することができた。これらのデータにより、新しい交通ネットワーク供用後の転移速度と速度を決定づける習慣的行動との関係の解明を行った。こうした実行動と知覚状況に関する実データの解析とともに、知覚誤差の減少とともに、新規路線の需要定着が進む交通行動モデルの理論画からの検討を行った。複数の方法の検討を行ったが、特に経路選択行動とサービス水準の知覚値を同時決定する同時方程式モデルの体系で検討を試みた。近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。 | KAKENHI-PROJECT-14550532 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14550532 |
効率的な交通ネットワーク計画を歪める習慣的行動メカニズムの解明 | 筆者は、習慣的行動による情報探索の低下が、知覚バイアスを発生させる大きな要因と考えている。本年度は、都営12号線を対象に、需要定着過程における習慣行動のメカニズムについて検討を行った。まず、短期的な知覚誤差の発生メカニズムについて検討した後、Web調査によって、大江戸線利用者と非利用者で大江戸線を代替経路とすることが可能な被験者を2803名抽出し解析を行った。この結果、利用経路に対しては60%強が正確(-5+5分)に知覚しているのに対し、代替経路に対しては、40%前後しか正確に知覚していないことがわかった。また、所要時間、待ち時間、乗換え時間別に通勤トリップの知覚誤差分布と知覚誤差の平均値の経年変化をみたところ、所要時間については、利用年数による知覚誤差の収束が明確でないが、待ち時間と乗換え時間については利用を重ねるに従って知覚誤差が小さくなる傾向がわかった。また、私用トリップでは、所要時間、待ち時間の経年的な誤差縮小傾向が明らかになることがわかった。近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。筆者は、習慣的行動による情報探索の低下が、知覚バイアスを発生させる大きな要因と考えている。本年度は、東海道本線を対象に、経路選択行動におけるサービス水準の知覚誤差を分析した.離散選択モデルは分析者側が設定したサービス水準を用いることが通常だが,特定の経路に系統的な知覚誤差が発生する場合は,知覚誤差をランダム項で吸収できない.東海道線と横須賀線の利用者を対象に知覚誤差の分析を行った結果,所要時間や混雑率に大きな知覚誤差が発生すること,またその要因として過去のサービス悪化の記憶や個人の路線の評価,情報探索性向などが影響することを明らかにした.以上の観察結果をもとに,サービス水準の知覚誤差モデルを構築するとともに,選択肢集合の形成と選択行動を同時表現するPLCモデルで習慣強度を考慮した経路選択モデルを検討した.近年、交通施設整備の事業採択の判断は、費用対効果分析の結果に左右されるが、その信頼性は、交通需要の予測値、時間価値や大気汚染、騒音等の社会的費用原単位の精度、建設費と建設期間の見通しに依存することが大半である。一般に、交通行動モデル、社会的費用原単位ともに実行動データを用いて作成することが望ましいとされているが、被験者に知覚バイアスが発生している状態でパラメータを推定し、知覚バイアスの発生構造を同定しないまま将来予測を行ったり、社会的費用を推定すれば、誤った分析結果となることは自明であり、それをもとにした交通ネットワーク計画は社会的に大きな損失をもたらす。 | KAKENHI-PROJECT-14550532 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14550532 |
高温高圧水を用いた温度・圧力可変型水性二相抽出システムの開発 | 超臨界水反応観察セルに,水性二相系溶液の導入システムを組み込み,さらに攪拌と分取の機能を付加して高温高圧水性二相抽出システムを構築した。ポリエチレングリコール(PEG)-硫酸ナトリウム水性二相系におけるアルコール,ケトン,ニトロアルカンの分配に及ぼす塩濃度の効果を検討し,各有機化合物の分配係数が溶質と高分子溶液相との相互作用および塩斥効果の関数として表すことができることを示した。また,高分子溶液相への分配係数を推算し,その値がPEGゲル粒子を充填したカラムを用いる液体クロマトグラフィーにより得られる分配係数とよく一致することを明らかにするとともに,示差熱分析により得られた結果から,水性二相抽出における分離選択性は特定の水和構造を持つPEG相への分配によるものであることを示した。さらに,アルコールとケトンをモデル化合物として,分配係数の温度依存性を25-100°Cの範囲で調べ,相間移動自由エネルギー△Gを求めて抽出機構の解析を試みた。その結果,水性二相抽出においては温度を変化させることによって分配係数を大きく変化させ,分離を制御できることが明らかになった。一方,高分子の疎水部と水分子の相互作用,ならびに分離選択性への寄与を明らかにすることを目的として,アルキル化学結合型シリカゲルを用いた逆相液体クロマトグラフィーにおけるイオンの保持挙動を,独自に開発した移動相体積測定法を駆使して検討した。その結果,アルキル結合層表面にはバルクの水とは異なる溶質親和性を持つ水の層が形成され,その水が分離媒体として機能していることを明らかにした。超臨界水反応観察セルに,水性二相系溶液の導入システムを組み込み,さらに攪拌と分取の機能を付加して高温高圧水性二相抽出システムを構築した。ポリエチレングリコール(PEG)-硫酸ナトリウム水性二相系におけるアルコール,ケトン,ニトロアルカンの分配に及ぼす塩濃度の効果を検討し,各有機化合物の分配係数が溶質と高分子溶液相との相互作用および塩斥効果の関数として表すことができることを示した。また,高分子溶液相への分配係数を推算し,その値がPEGゲル粒子を充填したカラムを用いる液体クロマトグラフィーにより得られる分配係数とよく一致することを明らかにするとともに,示差熱分析により得られた結果から,水性二相抽出における分離選択性は特定の水和構造を持つPEG相への分配によるものであることを示した。さらに,アルコールとケトンをモデル化合物として,分配係数の温度依存性を25-100°Cの範囲で調べ,相間移動自由エネルギー△Gを求めて抽出機構の解析を試みた。その結果,水性二相抽出においては温度を変化させることによって分配係数を大きく変化させ,分離を制御できることが明らかになった。一方,高分子の疎水部と水分子の相互作用,ならびに分離選択性への寄与を明らかにすることを目的として,アルキル化学結合型シリカゲルを用いた逆相液体クロマトグラフィーにおけるイオンの保持挙動を,独自に開発した移動相体積測定法を駆使して検討した。その結果,アルキル結合層表面にはバルクの水とは異なる溶質親和性を持つ水の層が形成され,その水が分離媒体として機能していることを明らかにした。高温高圧水性二相抽出を安定に長時間行ないうる抽出装置を構築し,これを用いてポリエチレングリコール(PEG)-硫酸ナトリウム水性二相系の状態図の作成を行なった。(1)高温高圧水性二相抽出装置の作製ハステロイ製容器に試料溶液導入用チューブと試料採取用チューブを組み込み,さらに攪拌機能を付加して高温高圧水性二相抽出槽を作成した。水性二相系を構成する液相はあらかじめ調製しておき,高速液体クロマトグラフィー用ポンプを使用して抽出槽に導入される。抽出槽にはサファイヤ製の窓を設けて,攪拌と分相の状態を観察できるようにした。また,抽出槽は温度センサーを挿入したマントルヒーター内に設置して温度制御を行なえるようにし,槽内の圧力は窒素ガスで加圧するとともに超臨界流体クロマトグラフィー用のリストリクターを使用して制御するシステムとした。抽出槽の熱容量に比してヒーターの能力が十分でなかったために設定温度が100°Cを超えると平衡までに長時間を要したが,その精度は±0.1°C程度とほぼ満足できるものであった。(2)状態図の作成抽出槽内で平衡に達した二相系の各相における溶質の濃度は,窒素ガス加圧により,冷却部を通過させてシステムから液相を排出し,これについて高速液体クロマトグラフィーにより分析することにした。構築した高温高圧水性二相抽出システムを用いて,PEGと硫酸ナトリウムとで構成される水性二相抽出系の各相組成の温度依存性を40-100°Cの範囲で検討した。また,ベンゼンなど数種の有機化合物についてその分配係数を測定した。その結果,高温になるほど臨界濃度が低下し,各溶質の分配係数の差が増大することが明らかになった。また,適切な組成を選ぶと,常温では単一相である系を昇温させることによって分相できることがわかった。ポリエチレングリコール(PEG)-硫酸ナトリウム水性二相系におけるアルコール,ケトン,ニトロアルカンの分配に及ぼす塩濃度の効果を検討し,各有機化合物の分配係数が溶質と高分子溶液相との相互作用および塩斥効果の関数として表すことができることを示した。 | KAKENHI-PROJECT-18550081 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18550081 |
高温高圧水を用いた温度・圧力可変型水性二相抽出システムの開発 | また,高分子溶液相への分配係数を推算し,その値がPEGゲル粒子を充填したカラムを用いる液体クロマトグラフィーにより得られる分配係数とよく一致することを明らかにするとともに,示差熱分析により得られた結果から,水性二相抽出における分離選択性は特定の水和構造を持つPEG相への分配によるものであることを示した。ついで前年度において作製した,高温高圧下で水性二相抽出を行ないうる抽出装置を用い,アルコールとケトンをモデル化合物として,分配係数の温度依存性を25-100°Cの範囲で調べ,相間移動自由エネルギーΔGを求めて抽出機構の解析を試みた。その結果,メチル基とメチレン基のΔGは負の値であるのに対して,ヒドロキシル基とカルボニル基のΔGは正の値であること,また前者は実験温度範囲内で一定とみなすことができるのに対して後者は80°C以上で著しく大きくなることがわかった。これらの結果から,水性二相抽出においては温度を変化させることによって分配係数を大きく変化させ,分離を制御できることが明らかになった。一方,高分子の疎水部と水分子の相互作用,ならびに分離選択性への寄与を明らかにすることを目的として,アルキル化学結合型シリカゲルを用いた逆相液体クロマトグラフィーにおけるイオンの保持挙動を,独自に開発した移動相体積測定法を駆使して検討した。その結果,アルキル結合層表面にはバルクの水とは異なる溶質親和性を持つ水の層が形成され,その水が分離媒体として機能していることを明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-18550081 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18550081 |
新規フタロシアニン金属錯体の合成と機能に関する研究 | いくつかの新規フタロシニン錯体の合成を行ない、これらを用いて以下に述べる特性について検討した。(1)構造異性体の制御MPc錯体の四置換体には四つの構造異性体が存在するが、嵩高い置換基(3-pentoxy)をα位に導入した錯体には一種類の構造しか無く、ニッケル(II)錯体では単結晶が得られた。X線結晶構造解析を行なった結果、スクリュー型構造であることが判明した。(2)特異な反応場の構築デンドロンでPc環を覆った錯体では、デンドロンの世代数及びPc環への結合位置によりMPc錯体の内包のされかたに違いが見られた。α位に世代数3のデンドロンを導入した亜鉛(II)錯体は特に良く覆われており、吸収及び発光スペクトルに特異性が見られた;錯体をジクロロメタン等の非極性溶媒中で放置しておくと、Qバンドの長波長側に新しい吸収が現われ、ピリジン等の塩基を少量添加すると元のスペクトルに戻った。(3)酸化触媒テトラ(t-ブチル)フタロシアニンのマンガン(III)、鉄(III)、コバルト(II)、ニッケル(II)及び銅(II)錯体を用いたシクロヘキセンの酸素化反応について検討した。反応は、アルデヒドから生ずる過酸による酸素化とオキソ金属錯体形成を経由する酸素化の二経路により進行することが分かった。また、有害有機塩素化合物であるトリクロロフェノール(TCP)の過酸化水素による酸化分解をテトラスルホフタロシアニナト鉄(III)錯体を触媒として用いて、速度論的に検討した[4)光触媒亜鉛(II)錯体を光触媒として活性酸素の発生能について検討した。また、その応用としてTCPの光酸化分解についても調べた。亜鉛(II)錯体を用いた場合、TCPは効率よく光酸化分解されることが分かった。いくつかの新規フタロシニン錯体の合成を行ない、これらを用いて以下に述べる特性について検討した。(1)構造異性体の制御MPc錯体の四置換体には四つの構造異性体が存在するが、嵩高い置換基(3-pentoxy)をα位に導入した錯体には一種類の構造しか無く、ニッケル(II)錯体では単結晶が得られた。X線結晶構造解析を行なった結果、スクリュー型構造であることが判明した。(2)特異な反応場の構築デンドロンでPc環を覆った錯体では、デンドロンの世代数及びPc環への結合位置によりMPc錯体の内包のされかたに違いが見られた。α位に世代数3のデンドロンを導入した亜鉛(II)錯体は特に良く覆われており、吸収及び発光スペクトルに特異性が見られた;錯体をジクロロメタン等の非極性溶媒中で放置しておくと、Qバンドの長波長側に新しい吸収が現われ、ピリジン等の塩基を少量添加すると元のスペクトルに戻った。(3)酸化触媒テトラ(t-ブチル)フタロシアニンのマンガン(III)、鉄(III)、コバルト(II)、ニッケル(II)及び銅(II)錯体を用いたシクロヘキセンの酸素化反応について検討した。反応は、アルデヒドから生ずる過酸による酸素化とオキソ金属錯体形成を経由する酸素化の二経路により進行することが分かった。また、有害有機塩素化合物であるトリクロロフェノール(TCP)の過酸化水素による酸化分解をテトラスルホフタロシアニナト鉄(III)錯体を触媒として用いて、速度論的に検討した[4)光触媒亜鉛(II)錯体を光触媒として活性酸素の発生能について検討した。また、その応用としてTCPの光酸化分解についても調べた。亜鉛(II)錯体を用いた場合、TCPは効率よく光酸化分解されることが分かった。光化学療法(PDT)用光増感剤,二酸化炭素の光還元、可逆的酸素付加、及び酸素化触媒反応の実験を遂行するために必要なデンドリマ-フタロシアニン錯体を合成した。また、その光触媒能について検討した。1.デンドリマ-フタロシアニンニッケル(II)及び亜鉛(II)錯体の合成Frechetの方法に従い、ジヒドロキシベンジルアルコールを出発原料として各世代のデンドリマ-を合成した。13世代のデンドリマ-のヒドロキシ誘導体と4-及び3-ニトロフタロニトリルを反応させフタロニトリル誘導体を合成した。このフタロニトリル誘導体を金属塩存在下アミルアルコール中で加熱することによりデンドリマ-フタロシアニン金属錯体を合成した。同定は元素分析、赤外、可視吸収スペクトル、NMRスペクトルにより行なった。鉄、コバルト錯体は現在のところまだ合成されていない。2.光触媒能3位にデンドリマ-が置換されたフタロニトリルから合成したフタロシアニンのニッケル(II)錯体は、4位のそれよりも二量体の形成が著しく少ない。これはフタロシアニン環により近いところにデンドリマ-が付くことにより立体障害が大きくなり、環の接近が妨げられたためである。また、世代数が大きくなるにつけ同様な理由で二量体の形成量は少なくなった。トリエタノールアミンを電子供与体、メチルビオローゲンを電子受容体として、錯体の光触媒能を調べた。4位よりも3位、また世代数が大きいほどメチルビオローゲンの光還元は起こりやすい。光不活性な二量体の減少と逆電子移動の抑制によるためと思われる。フタロシアニン金属錯体を用いた、光触媒反応、光線力学的増感作用、酸素化触媒反応、有害物質の酸化分解等について検討し、これら触媒反応に対する本錯体の基礎的特性及びその応用についての評価を行なった。 | KAKENHI-PROJECT-09640668 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09640668 |
新規フタロシアニン金属錯体の合成と機能に関する研究 | 光触媒電子供与体、光触媒、電子受容体の三成分系における触媒の役割を明らかにするための検討を行なった。特に水溶性錯体をめざして、トリスルホフタロシアニナト亜鉛(II)錯体を用いた。その結果、本反応系は酸化的消光過程を経て進むことが分かった。光線力学的増感作用DMSO中テトラ-t-ブチルフタロシアニナト金属錯体による酸素分子の光励起について検討した。この活性酸素分子はガン等の腫瘍を分解する機能を有するので、本錯体は臨床的治療薬としての可能性を持つ増感剤である。コバルト(II)錯体は触媒能がなく、亜鉛(II)錯体は大きな触媒能を示した。また、周辺置換基として、アニオン性のスルホ基よりカチオン性の置換基の方が効率良く励起酸素分子を発生させることが判明した。酸素化触媒アルデヒド存在下シクロヘキセンの酸素酸化の触媒としての本錯体の機能を調べた。反応は、ラジカルによる基質の直接酸素化、及びオキソ金属錯体を形成しこれによる酸素化の二経路により進行することが分かった。その際、マンガン(III)、鉄(III)錯体で反応は促進され、メタルフリー及び亜鉛(II)錯体では反応は進行しないことが判明した。また、コバルト(II)錯体では、誘導期間が現われた。有害物質の酸化分解トリクロロフェノールの過酸化水素による酸化分解における本錯体の触媒作用について速度論的に検討した。反応次数等より分解の反応機構を推定した。デンドリマー錯体フタ口シアニン亜鉛(II)錯体の周辺にデンドリマーを4個導入して、吸収及び発光スペクトルに及ぼす影響について検討した。今後、更に光触媒としてまた酸素化触媒としての機能について検討を進める予定である。フタロシアニン金属錯体を用い、光触媒反応、光線力学的増感作用、酸素化触嫌反応、有害物資の酸化分解等について検討した。光線力学的増感作用DMSO中テトラ-t-ブチルフタロシアニナト金属錯体による酸素分子の光励起について検討した。この活性酸素分子はガン等の腫瘍を分解する機能を有するので、本錯体は臨床的治療薬としての可能性を持つ増感剤である。コバルト(II)錯体は触媒能がなく、亜鉛(II)錯体大きな触媒能を示した。また、周辺置換基として、アニオン性のスルホ基よりカチオン性の置換基の方が効率良く励起酸素分子を発生させることが判明した。光触媒を用いる有害物質の分解アセトニトリル中亜鉛フタロシアニン錯体を用いて、光照射により活性酸素を発生させ、トリクロロフェノールを酸化分解した。その際、フタロシアニン環周辺置換基及び中心金属錯体の影響等について検討した。酸素化触媒フタロシアニン環周辺にフッ素原子を導入して中心鉄イオンの酸化を起こりにくくまた還元を起こりやすくすることにより、過酸により鉄(II)-鉄(III)のサイクルが起こりやすくしてシクロヘキセンの酸素酸化を行なった。これは、過酸やアルデヒド存在下酸素による従来の酸素化に比べてシンプルな反応系である。デンドリマー錯体フタロシアニン亜鉛(II)錯体の周辺にデンドリマーを4個導入して、吸収及び発光スペクトルに及ぼす影響について検討した。今後、更に光触媒としてまた酸素化触媒としての機能について検討を進める予定である。 | KAKENHI-PROJECT-09640668 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09640668 |
小中高生の生きる力を高める芸術系総合学習のカリキュラム開発・過疎地域と芸大の連携 | 芸大と過疎地域の連携を目指す研究メンバーと芸大生が、地域の小中高生用の芸術系総合学習プログラムを作成するため、始原的な創造力を持つ「お窯」の制作やその実際的な活用を含む「ものづくり」の実践を京都市右京区の黒田村で展開。この試行をもとに、過疎地域の潜在的な価値を大学生と地元の子ども達が協働し、4種の「お窯」を使って再発見する「お窯プログラム」を開発。芸大と過疎地域の連携を目指す研究メンバーと芸大生が、地域の小中高生用の芸術系総合学習プログラムを作成するため、始原的な創造力を持つ「お窯」の制作やその実際的な活用を含む「ものづくり」の実践を京都市右京区の黒田村で展開。この試行をもとに、過疎地域の潜在的な価値を大学生と地元の子ども達が協働し、4種の「お窯」を使って再発見する「お窯プログラム」を開発。今年度は「ものつくり」の実践に先立って、それに必要な五感の練成、および「ものつくり」の根本的な意義を問う公開講座を実施した。前者については、本研究の実施舞台となる黒田村のアートヴィレッジにおいて8月12日、13日の2日間、オーディオ機器の専門家、寺村幸治氏とソプラノ歌手、高島依子氏を講師に招き、「音を聴く、音を出す」をテーマにしたワーク・ショップを黒田村の子供達を対象におこない、人工の音、自然の音それに人間の声を通じての聴覚練成の機会とした。後者については、本学において「ものつくり」の理論的基礎となる公開講座を、10月28日と12月9日の二度にわたって実施した。そのひとつは、ナポリの古文書研究家・美術家で、晩年のE・ゴンブリッジがそのユニークな活動を高く評価したジュゼッペ・ゼーヴォラ氏を講師として招聘しおこなった、ナポリ銀行所蔵の歴代の出納帳に描かれた様々な落書きに対する氏の分析を中心にしたもの。もうひとつは、アートの境界を社会常識と戦いながち探求し続ける現代美術家、ヘルマン・ニーチェの創造活動を論じた気鋭の美学者、ロベルト・テロージ氏がおこなったものである。以上の活動に加え、黒田村の夏祭りに際し、研究分担者の椎原氏と協力して本学の学生と成安造形大、大阪芸大の学生を組織し、アート・イベントやアート・パフォーマンスをおこない、祭りの活性化を図ると共に、その活動記録を冊子「黒田村アート・ワーク」として纏めている。更に研究分担者の森田氏が、京都、大阪、滋賀の12の中・高校を訪問し、学校での美術教育の現状と問題を調査し、その結果を報告している。今年度は、本研究の実践舞台となる黒田村において、地域環境に根ざした「ものづくり」の可能性がどのように開かれているのかを探るべく、その前段階として以下の企画、調査をおこなった。(1)黒田地区の自然環境の観察、(2)黒田地区の伝統的遊びに関する調査研究(1)に関しては、旧京北町片波自然観察インストラクターの伊藤五美氏と地質研究者である本研究分担者の原田教授を講師に招き、御用林としての歴史と深く結びつき形成された黒田地区内の片波川源流域の特異な伏条台杉群とその周囲の動植物、地質の現地観察を、本学学生および黒田の子供たちも交えて春季と秋季におこない、その特性や現状を理解すると共に、黒田地域の先人達が脈々と培ってきた自然との共生の知恵や、周囲の環境に応じて自在に姿を変える自然の摂理を体験できる機会とした。(2)に関しては、地域学研究者の中路正恒教授、環境デザイン学研究者の下村泰史助教授(共に本学教員)、それに本研究の協力者、寺村幸治氏が中心となって、本学学生と共に黒田地区の古老たちから、黒田地区の伝統的な遊びに関する聞き取り調査を三度にわたっておこなった。更に、夏祭りの伝統行事である松上げに使用する松明作りや、手作り漁具による鮎取りといった地域の行事にも参加しながら、「ものづくり」を踏まえた新たな遊びの開発のヒントとした。以上の活動に加え、研究分担者の椎原氏の指導の下に、本学学生が地域の子供たちと共に夏祭り会場の入り口用の大アーチを制作し、「ものづくり」の面白さを彼らと共有すると同時に、祭り当日の松上げにも参加し、過疎化によりややもすれば下火になりがちな村祭りの活性化を図った。なお、研究分担者の森田助教授が、昨年に引き続き、京都・大阪・兵庫の中学・高校を訪問し、美術教育の現状と問題点についての調査を継続している。研究開始から3年目に当たる今年度は、研究代表者で企画と実行の責任を負う松原が、所属する京都造形芸術大学での職位変更に伴い、5月に茨城へ転居するという想定外の事態が発生したため、当初の目標を変更せざるを得なかったという点を、最初にお断りしておかなければならない。そのような変則的な状況の中で、今年度は以下の活動をおこなった。先ず例年に倣い、松原が京都造形芸大の学生達と夏祭りの時期に黒田を訪れ、村の子供達や村人と協力しながら、昨年制作した会場ゲートを祭りの中心行事である松上げにふさわしい、火をテーマとしたより壮麗なものへと作り変える作業をおこなった。祭りの夜を華やかに彩り、大好評を博したこのゲートは、共同体の象徴的存在である祭りの活性化が「ものづくり」により可能性となることを極めて具体的に実感させてくれる格好の証左となった。 | KAKENHI-PROJECT-17602010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17602010 |
小中高生の生きる力を高める芸術系総合学習のカリキュラム開発・過疎地域と芸大の連携 | また昨年に続き、中路を中心に学生達が村の古老達に対し、「ものづくり」の深い経験を丹念に掘り起こす聞き取りとアンケート調査をおこない、更には松原・椎原・中路と研究協力者の寺村幸治が、現在の黒田に最も必要かつふさわしい「ものづくり」プログラムとは何かを今一度模索すべく、村人達と討議を重ねた。その結果、黒田の風土を形成する基本要素、土・火・木に深く関わる三種のお窯の制作と活用を軸にした「お窯プロジェクト」が生まれるに至った。これは、村の子供が大人達と協力しながら、周辺の雑木を材に自家製の炭焼き窯で炭を作り、近隣で収穫される山の幸をこの炭と自家製の石窯を用いて調理し、出来た料理を自作の陶器で食するという「ものづくり」体験を通し、過疎化によって急速に荒廃しつつある黒田の山林の現状を直視し、その復興を考えていく循環型プログラムである。黒田自治会の協力を得て、平成20年度4月から早速、この一環として作陶プロジェクトが実施されることになっている。今年度は、五感による「ものづくり」のための始原的な道具、お窯を利用した二種類のプログラムを企画し、黒田村で実施した。第一番目は、村内にある京都造形芸術大学の陶芸施設で吉川充教授が講師を務めた4回の陶芸講座である。この中で、小中高生のみならず黒田の老若男女約40名が、塑形から焼成に至る一連の陶芸制作と作品講評会を体験し、自らの手で生み出した食器・花器・オブジェによって自身の生活をデザインする可能性を探った。第二番目は、石窯制作とパン焼きの専門家、竹下晃朗氏の指導により、造形大の学生と村人の協同で実現した石窯プロジェクトである。先ず、夏休み中に、村の中央広場の一隅に共同体のシンボルとしてパン焼き用の石窯施設を設置し、秋にこの広場で開催された野菜祭りで、黒田産の米をパン粉に加工し、山の間伐材を薪に利用して子供達と黒田地産の石窯パンを焼き、村外の買い物客からも好評を博した。村全体の3つの底力、自治会を中心に結束する村の男性陣の「マンパワー」、彼らの高度な左官・木工加工・大工技術が示す「ものづくりパワー」、黒田村の特性を生かしたパン開発と子供達の食育に向けて、原料生産から加工・調理・販売方法までを検討しようと村の女性陣が立ち上げたパン焼き研究会の「ウーマンパワー」が発揮されることになったこの計画は、参加した村の子供達に加え、協力した学生達にも「生きる力」を学ぶ絶好の機会となった。以上の黒田村での試行を踏まえ、昨年11月から茨城県の常陸太田市の青年会議所および市役所の市民協働課と連携し、過疎問題を抱える同市で子供達と母親を対象に、4種のお窯を使って食育と景観の再生をおこなう「お窯プロジェクト」に着手し、現在推進中である。 | KAKENHI-PROJECT-17602010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17602010 |
肉眼観察で確認困難な断層変位基準の定量的把握手法の構築 | 本研究は、活断層露頭において、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法の構築を目的とした。主に断層周辺の黒色土において、帯磁率・帯磁率異方性・古地磁気・含水率・強熱減量・C-14年代の測定、火山灰の分析が有効であることを確認した。これらの手法を効率的に適用するために、それぞれの手法の特徴を踏まえて、体系的な作業の流れを検討した。まず露頭において帯磁率を測定し、その後試料を採取する。採取した試料は、古地磁気・帯磁率異方性・含水率・強熱減量を順に測定し、火山灰を分析する流れが効率的である。合わせてC-14年代測定が効果的である。本研究は、C-14年代測定・火山灰分析・粒度分析・帯磁率測定・土色測定・強熱減量測定・ESR測定・地中レーダ探査などの複数の手法を組み合わせて、活断層露頭において肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法を構築することを目的としている。平成26年度は、阿寺断層中部で行われた過去の活断層トレンチ掘削調査において、下部から上部へ数cmから数十cm間隔で採取された黒色土を用いて、C-14年代測定と火山灰分析を行った。下部から上部へ連続したC-14年代値と火山灰の分布特徴は、断層付近を境に対比できることを確認し、これらが肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する際に有効である可能性が示された。また、C-14年代値と火山灰の降灰時期が調和的であることを確認するとともに、密なC-14年代値がこれまでより詳細な断層活動時期の把握に有効であることも確認した。この試料を採取した露頭は現存しないことから、他の探査・分析・測定を適用することができる活断層露頭での研究が必要である。そのため、平成26年度は、既往のトレンチ掘削地点から数m離れた場所で活断層露頭を新たに掘り出した。その露頭では、1平方メートル程度の中に砂礫層とそれを覆う黒色土が複数の断層で変位している。この露頭において、観察・スケッチなどを行うとともに、1辺約2cmのプラスチックキューブを用い試料採取を行い、黒色土の粒度分析を実施した。その結果、深度によって粒径分布の特徴が異なることが明らかになり、その特徴を用いることで肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を検討できる可能性があることが示された。平成27年度は、この露頭において探査・分析・測定の手法を複数組み合わせて断層変位基準の有無を定量的に把握する予定である。本研究は、炭素14(C-14)年代測定・火山灰分析・粒度分析・帯磁率測定・土色測定・強熱減量測定・電子スピン共鳴(ESR)測定・地中レーダ探査などの複数の手法を組み合わせて、活断層露頭において肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法を構築することを目的としている。平成27年度は、前年度に引き続き、活断層である阿寺断層の露頭において採取された堆積物試料(主に黒色土)を用いて、各種分析・測定を実施した。その結果、黒色土のフミン酸とヒューミンのC-14年代値の差、火山ガラスや重鉱物の含有率、強熱減量や含水率の特徴は、断層の両側の堆積物を対比する際に有効である可能性を示すことができた。ただし、これらは全て類似の対比を示すわけではなく、総合的に検討することが必要であると考えられる。粒度分布については、深度によって異なる特徴が認められるものの、明瞭な違いが認められなかったり、同じ試料でも異なる結果が得られたりする場合があることから、断層の両側の堆積物を対比する際に慎重な検討が必要である。その他、帯磁率の値が場所によって異なる特徴が認められたこと、古地磁気測定が可能な試料であることが確認できたことから、今後、帯磁率の詳細な分布や断層をトラバースする古地磁気の特徴を把握することで、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位を検討できる可能性がある。さらに、実際の活断層調査での適用においては、時間対効果および費用対効果を踏まえた手法の体系化が重要である。本研究の目的は、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する手法を複数の手法を組み合わせて構築することである。これまでに断層変位基準の指標としてC-14年代、火山ガラス、重鉱物、粒度、強熱減量、含水率などの有効性を確認するとともに、これらの指標を測定・分析する手法の適用性を確認してきた。これらの成果から、断層変位基準を定量的に把握する手法に見通しが立ち、今後は、時間対効果および費用対効果を踏まえた手法の体系化を進めていく状況であることから、おおむね順調に進展していると考えている。さらに、帯磁率測定や古地磁気測定の適用検討を開始していることや、当初検討していたESR測定や地中レーダ探査などの手法の適用も今後可能であることから、これらの成果も加えることで、より汎用性が高い手法の構築が可能と考えている。なお、本研究を進める中で、連続的なC-14年代測定が断層変位基準認定に有効であることに加え、詳細な断層活動時期の把握にも有効である可能性も認められ、予想以上の成果も得られつつある。 | KAKENHI-PROJECT-26350481 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26350481 |
肉眼観察で確認困難な断層変位基準の定量的把握手法の構築 | 本研究は、活断層露頭において、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法の構築を目的としている。平成27年度までに、活断層である阿寺断層のトレンチ掘削壁面から採取した堆積物試料を用いた各種分析等の結果、上下に数cm間隔の炭素14年代値、火山ガラスと重鉱物の含有率、強熱減量、含水率の特徴が、断層付近の堆積物の対比に有効であることを示すとともに、古地磁気測定が可能な試料であることを確認した。平成28年度は、主に火山灰分析、帯磁率測定、帯磁率異方性測定、古地磁気測定を行った。火山灰分析は、トレンチ掘削壁面における上盤側と下盤側において下部から上部に数cm間隔で採取した堆積物を用いて行い、姶良Tn火山灰、アカホヤ火山灰、カワゴ平火山灰の広域火山灰に加え、低発泡タイプの火山ガラスを特徴とするローカル火山灰を抽出し、これらの火山灰が断層付近を境に変位していることを確認した。帯磁率測定は、トレンチ掘削壁面の断層付近において行った結果、地層ごとに値が変化しており、その地層が断層付近を境に変位していることを確認した。帯磁率異方性測定は、トレンチ掘削壁面において1辺2cmのプラスチックキューブに採取した試料を用いて行い、断層付近の試料の最大軸が断層面に沿う特徴を示すことを確認した。古地磁気測定も帯磁率異方性測定と同じプラスチックキューブ試料を用いて行い、断層付近で多く回転していることを確認した。これらの結果から、火山灰分析、帯磁率測定、帯磁率異方性測定、古地磁気測定が、堆積物中の断層変位及びその基準を定量的に把握する際に有効であることを示すことができた。時間対効果と活動時期の解明を踏まえた場合、帯磁率測定、試料採取、古地磁気測定、帯磁率異方性測定、含水率測定、試料分割、炭素14年代測定・強熱減量測定・火山灰分析の順で体系的に行うことが有効である。本研究は、活断層露頭において、肉眼観察では確認が困難な堆積物中の断層変位基準を定量的に把握する体系的手法の構築を目的とした。主に断層周辺の黒色土において、帯磁率・帯磁率異方性・古地磁気・含水率・強熱減量・C-14年代の測定、火山灰の分析が有効であることを確認した。これらの手法を効率的に適用するために、それぞれの手法の特徴を踏まえて、体系的な作業の流れを検討した。まず露頭において帯磁率を測定し、その後試料を採取する。採取した試料は、古地磁気・帯磁率異方性・含水率・強熱減量を順に測定し、火山灰を分析する流れが効率的である。合わせてC-14年代測定が効果的である。本研究において、C-14年代値と火山灰の分布特徴が、断層変位基準を定量的に把握する際に有効である可能性が示された。一方でこれらの分析を適用した露頭が現存しないことから、他の探査・分析・測定を適用して体系的な手法を検討することができる活断層露頭が必要であった。平成26年度は、既往の活断層トレンチ掘削地点から数m離れた場所で本研究の複数の手法が適用可能と考えられる露頭を新たに掘り出すことができた。この露頭において、観察・スケッチと粒度分析の結果が得られたものの、その他の手法については成果を得るには至っていないことから、やや遅れていると考えている。平成28年度は、引き続き主に分析・測定に係わる室内作業を継続し、得られた結果を評価して断層変位基準を定量的に把握する体系的手法を構築する予定である。特に、平成27年度に適用可能であることを確認した帯磁率と古地磁気の測定について、帯磁率の詳細な分布や断層をトラバースする古地磁気の特徴を把握するための分析とデータ解析を行う予定である。その他、ESR測定や地中レーダ探査などの手法の適用も検討する。これらの成果を総合して、時間対効果および費用対効果を踏まえた体系的手法の提示を行う。 | KAKENHI-PROJECT-26350481 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26350481 |
家畜預託慣行の史的研究 | 本研究では、家畜預託慣行が近代日本農村におけて果たしていた歴史的意義を解明した。具体的には、農業災害補償制度などの法制度整備過程および実施後の経過に関する資料群を中心に分析し、それら法整備の進展と家畜預託慣行の衰退との代替関係を明らかにした。家畜預託慣行は、家畜市場をめぐる法整備および金融市場、保険市場ともに未発達であった当時の農村社会において、それを補完し農民の営農や生活を保障するインフォーマルな社会制度であったとの結論に至った。最終年度には、今までの研究をとりまとめて、家畜預託慣行の近代日本農村における歴史的意義につき考察を進めた。特に、1930年代に家畜預託慣行は衰退するが、それに代替したものを明らかにする作業にとりかかった。戦後の農業災害補償制度の源流ともなっている1930年代に法整備が進展した農業関連の保険・金融政策に着目し、史料を収集し分析した。その結果、農村社会における家畜の預託は、預ける側(牛持)と預かる側(厩先)の両者にとって相互扶助的な慣行的側面と、副業的利益追求を目的とする経営的側面が融合したものとして捉えるべきもので、家畜市場をめぐる法整備および金融市場、保険市場ともに未発達であった当時の農村社会において、それを補完し農民の営農や生活、つまりは《生存》を保障するインフォーマルな社会制度であったとの結論に至った。また、国家的なフォーマルな保険や金融が整備され、家畜購入資本の融資が可能となり、だれもが自家牛を所有できような時代が確実に到来したことで、動産信用にもとづく家畜保険は地域社会に歓迎された。しかし、従来の家畜預託慣行の大前提ともなっていた地域内分業を崩壊させた要因を作ったものも、他ならぬ国家的な軍事行動であったことは完全に忘れられていることは指摘しておく必要がある。これらの総括的内容は、2012年度大阪歴史学会大会近代史部会にて報告した。大会当日の報告内容およびコメント、討論要旨に関しては、「1930年代における日本農政の転換と家畜預託慣行」(『ヒストリア』第235号、2012年12月)に掲載されている。本研究では、家畜預託慣行が近代日本農村におけて果たしていた歴史的意義を解明した。具体的には、農業災害補償制度などの法制度整備過程および実施後の経過に関する資料群を中心に分析し、それら法整備の進展と家畜預託慣行の衰退との代替関係を明らかにした。家畜預託慣行は、家畜市場をめぐる法整備および金融市場、保険市場ともに未発達であった当時の農村社会において、それを補完し農民の営農や生活を保障するインフォーマルな社会制度であったとの結論に至った。今年度は、分散的になっている畜産史を再構築するために畜産史に関する基本的資料の網羅的な収集と分析をすすめた。具体的には、農業災害補償制度、家畜保険法、農業動産信用法の法制度整備過程および実施後の経過に関する資料群を中心に収集した。その結果、昭和農業恐慌対応に始まった1930年代の日本農政の転換において、重要課題として畜産業に着目が集まり、国家的課題となっていく過程の見通しをたてることができた。とりわけ1931年に施行された有畜農業奨励規則は、従来の政府のとった畜産奨励方針が、個体の改良と増産に重点をおいていたのを反省して、畜産と農業経営との有機的な結びつきを図ろうとしたところに、重大な意義をもっていた。そして、当該期に展開した農山漁村経済更生運動の有効な具体策として、全国的に取り組まれていた実態の一端を把握できた。この成果は、従来の一部の農山漁村経済更生運動研究が指摘していたように、一見すると自給主義(自給肥料の増産、自給味噌、醤油など)をはかりながら、全体としては商品経済化の促進を結果するもの(二毛作奨励、共同作業奨励、有畜農業、園芸作物の導入、増産など)であり、当面焦眉の課題に答えながら、農政の転換、農村構造の変化の線を進めていたことに注意を払う必要があるとする評価を裏付けるものである。つまり日本近代農業を特徴付けていた養蚕業からの転換をはかる当該期の日本農政および農村にとって、「有畜農業」の指導と奨励は、歴史的に大きな意味をもっていたことを解明しつつある。現状では、交付申請書に記した「研究が当初計画どおりに進まない時の対応」となっている。当初分析予定としていた家畜多頭所有者の史料群(高木家文書および中村家文書)が計画通り進まず、畜産史関係資料の網羅的に収集に研究をシフトさせている。平成23年度に進めていた方向で研究を進めていきたい。つまり分散的になっている畜産史の学説史を整理し、再構築することを目的としている。先ず具体的には、1930年代以降に展開する有畜農業奨励政策の歴史的性格を明らかにする作業を進めていきたい。畜産史関連資料の収集を進める。西井俊蔵『農業機械文献目録』(1943年)、農林省振興局研究部『畜力利用に関する文献目録』(1952年)などの文献目録を参照しつつ、当該時期に畜産業研究を行った代表的な農業経済学者の蔵書や資料の調査を進めていく。 | KAKENHI-PROJECT-23720321 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23720321 |
ブリッジ結合磁路を利用した可変出力・磁気発振型正弦波出力インバータの開発 | 本研究では、磁気発振型正弦波出力のインバータとブリッジ結合磁路を組み合わせて、交流系統への出力電力制御が可能な可変出力インバータを開発することを目的とした。数値目標を、制御可能な出力電力が4 kW以上で電力変換効率を92 %以上に設定した。まず、汎用電子回路シミュレーターSPICEで利用可能なブリッジ結合磁路の磁心モデルを考案し、次いで、3次元磁場解析ソフトJMAGを用いてブリッジ結合磁路の磁心内部・外部の磁界分布を解析した。しかし、ブリッジ結合磁路を利用して構成した可変出力の磁気発振インバータでは、出力電力が1.6 kWで電力変換効率83 %と目標値には達しなかった。本研究では、磁気発振を利用した正弦波出力のインバータと、磁気応用素子であるブリッジ結合磁路を組み合わせて、直流の信号電流により、既存の交流系統に供給する電力が制御可能な可変出力・磁気発振型正弦波インバータを開発する。本年度は、まず初年度からの継続である、ブリッジ結合磁路を除いた磁気発振型正弦波出力インバータ本体の出力電力拡大ならびに電力変換効率の改善について検討を行った。その結果、コモンモードフィルターを交流系統側に接続することにより、スイッチングによる放射伝搬ノイズが減少することを明らかにした。試験結果では、出力電力が3.6 kW(電力変換効率90 %)と当初の数値目標4 kW超えることができなかったが、この方策が出力電力の拡大化に期待できることを明らかにした。次いで、本インバータシステムに最適なブリッジ結合磁路の磁心材質及び形状を明らかにするため、市販の3次元磁場解析ソフトを用いて磁心内部及び外部の磁界分布を定量的に解析した。使用した磁場解析ソフトはJSOL社開発による電気機器の設計・開発のためのシミュレーションソフトウェアであるJMAGを使用した。しかし、この解析ソフトには、まだコバルト系アモルファスのモデルが存在していないため、磁心モデルとして軟磁性材料で異方性の指定が等方性であるJFEスチールを使用した。磁心構成、寸法及び巻線数、ならびに解析用のメッシュ長を種々変化させて、磁心内部及び外部の磁界分布を計算したところ、磁心寸法によっては磁心の一部に磁場が偏る領域が存在することなど、幾つかの新しい事項を明らかにすることができた。しかし、本インバータシステムに最適なブリッジ結合磁路についての知見はまだ得られていない。本研究では、磁気発振型正弦波出力のインバータとブリッジ結合磁路を組み合わせて、直流電流により既存の交流系統への出力電力制御が可能な可変出力の正弦波インバータを開発する。数値目標を、制御可能な出力電力が4 kW以上で電力変換効率を92 %以上に設定した。この目標を達成するために初年度から次年度に掛けて、ブリッジ結合磁路を除いたインバータ本体を試作して、性能試験を行った。インバータ本体の電圧型ブリッジ回路本体を構成するMOSFETの外部に高速ダイオードを付加してMOSFETの内蔵ダイオードの逆回復特性を見かけ上改善させること、コモンモードチョークを利用したノイズ低減策について工夫した。その結果、最大出力電力3.6 kWで電力変換効率90 %と、目標値のほぼ90%の値が得られた。インバータ本体の設計は、汎用電子回路シミュレーターを利用し、ブリッジ結合磁路の磁心モデルも考案した。さらに、次年度では、市販の3次元磁場解析ソフトJMAGを用いて磁心内部・外部の磁界分布を解析した。磁心寸法、巻線数及び解析用のメッシュ長を変化させて磁界分布を計算したところ、磁心寸法により磁心の一部に磁界が偏る領域が存在することなど、幾つかの新しい事項を明らかにした。最終年度では、インバータ本体とブリッジ結合磁路を組み合わせて、直流電流により既存の交流系統に供給する電力が制御可能な可変出力・磁気発振型正弦波インバータを設計製作し、性能試験を行った。その結果、制御可能な出力電力が1.6 kWで電力変換効率83 %と目標値には達しなかったが、ブリッジ結合磁路を利用することにより直流電流で交流出力電力の制御が可能であることを明らかにした。また、本インバータに必要な外部インダクタを漏れインダクタンスを有するコモンモードチョークに置き換えることにより、構成の簡略化が期待できることを明らかにした。本研究では、磁気発振型正弦波出力のインバータとブリッジ結合磁路を組み合わせて、交流系統への出力電力制御が可能な可変出力インバータを開発することを目的とした。数値目標を、制御可能な出力電力が4 kW以上で電力変換効率を92 %以上に設定した。まず、汎用電子回路シミュレーターSPICEで利用可能なブリッジ結合磁路の磁心モデルを考案し、次いで、3次元磁場解析ソフトJMAGを用いてブリッジ結合磁路の磁心内部・外部の磁界分布を解析した。しかし、ブリッジ結合磁路を利用して構成した可変出力の磁気発振インバータでは、出力電力が1.6 kWで電力変換効率83 %と目標値には達しなかった。本研究では、磁気発振を利用した正弦波出力のインバータと、ブリッジ結合磁路と呼ばれる磁気応用素子を組み合わせて、直流の信号電流により、既存の交流系統に供給する電力が制御可能な可変出力・磁気発振型正弦波インバータを開発する。数値目標を、最大出力の制御範囲が4 kW以上で電力変換効率を92 %以上に設定した。この目標を達成するためには、磁気発振型正弦波出力インバータ本体の出力電力拡大と、本出力電力制御方式に最適なブリッジ結合磁路の設計にあると考えている。このため、初年度ではブリッジ結合磁路を除いた磁気発振型正弦波 | KAKENHI-PROJECT-23560314 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23560314 |
ブリッジ結合磁路を利用した可変出力・磁気発振型正弦波出力インバータの開発 | 出力インバータ本体を製作して、その性能試験を行った。まず、コバルト系アモルファステープを特製のトロイダルボビンに巻いた磁心を2個製作し、一方を磁気発振用、他方をブリッジ結合磁路用とした。ブリッジ結合磁路はこのアモルファストロイダル磁心と市販のケイ素鋼板カットコアによるU形磁心を組み合わせて構成した。詳細な磁気特性測定の結果、磁気発振用磁心に適する角形ヒステリシス特性が得られていること、ブリッジ結合磁路では想定通り角形ヒステリシスを保持したまま最大磁束値が制御可能であることを確認した。次いで、この磁気発振用のアモルファストロイダル磁心を用いて、磁気発振型正弦波出力インバータ本体を製作し、その性能試験を行った。本インバータ本体では、各スイッチング素子(MOSFET)の外部に高速ダイオードを付加してMOSFETの内蔵ダイオードの逆回復特性が見かけ上改善されている。また、本インバータに加える交流電圧及び制御電流は、可変単巻変圧器を利用して生成し手動で調整した。なお、インバータ本体の設計は、研究実施計画にはなかったが、汎用電子回路シミュレーターを利用して行い、併せて次年度以降の設計製作での使用が想定されるブリッジ結合磁路の磁心モデルを考案した。交流系統電源との間に自作のコモンモードフィルターを接続した磁気発振型正弦波出力インバータを試作し、その性能試験を行ったところ最大出力電力が3.6 kWで電力変換効率が90 %であった。当初目標の最大出力4 kW(電力変換効率が92 %以上)には達しなかったが、目標値のほぼ90%の値であり、おおむね順調に進展していると考えている。しかしながら、当初の計画にあった、本インバータシステムに最適なブリッジ結合磁路の磁心材質、形状及び寸法を明らかにするための、ブリッジ結合磁路の内部及び外部の3次元磁界分布解析については、幾つかの解析結果が得られたものの、最適なブリッジ結合磁路についての知見はまだ得られていない。このため、現在までの達成度を、やや遅れていると判断している。この3次元磁場解析ソフトを用いたブリッジ結合磁路の磁界解析については、次年度の前半も継続して取り組む必要があると考えている。ブリッジ結合磁路を除いた磁気発振型正弦波出力インバータの本体を製作して、その性能試験を行ったところ最大出力電力が3.2 kWで電力変換効率が90 %であった。当初目標の最大出力4 kW(電力変換効率が92 %以上)には達しなかったが、目標値のほぼ80%の値であり、おおむね順調に進展していると考えている。なお一方、この本体の出力電力拡大と電力変換効率の改善に、次年度の前半も継続する取り組む必要有りと考えている。初年度及び本年度に行った、磁気発振型正弦波出力インバータ本体の性能試験の結果が、当初目標の最大出力4 kW(電力変換効率が92 %以上)に達しなかったため、インバータ本体の出力電力拡大化についての検討を、次年度の前半に継続して行う。出力電力の拡大化の方策として、1)発振周波数を低く抑え、磁心磁気特性に起因する電流ノイズを低減させて安定な磁気発振の動作を維持させる、2)MOSFETを並列接続して電流値を稼ぐことを試みる。 | KAKENHI-PROJECT-23560314 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23560314 |
FRAS1 を標的とした胃癌肝転移特異的な治療・診断法の開発 | 平成29年度、我々は、肝転移を有する胃癌患者の原発巣で有意に発現が上昇している遺伝子群をRNA sequencingの結果から抽出し、その遺伝子群からFRAS1を胃癌肝転移関連分子として着目した。CRISPR-Cas9システムを用いてFRAS1のノックアウト株を作成し、FRAS1ノックアウトに伴い増殖能・接着能・遊走能・浸潤能が有意に低下することを示した。また180例の胃癌コホートでは、胃癌原発巣におけるFRAS1高発現症例は有意に累積肝転移発生率が高く、FRAS1高発現はHR 4.05を伴い唯一の独立した肝転移予測因子であった。平成30年度、まずアポトーシスへの影響を評価したところ、FRAS-1ノックアウトによりアポトーシス細胞が増加し、caspase activityが上昇していた。また、細胞内ROS活性がFRAS1ノックアウト細胞で上昇していた。次いで、肝転移能を評価するために、SCIDマウスの門脈に癌細胞を注入することにより、マウスの肝転移モデルを作成することに成功した。皮下腫瘍モデルにおいては、FRAS-1ノックアウト細胞ではワイルドタイプ細胞に比べて有意に腫瘍径が小さかったが、皮下に生着し腫瘍を形成した。肝転移モデルにおいては、ワイルドタイプ細胞が肝転移を形成するのに対し、FRAS-1ノックアウト細胞はほとんど生着しなかった。これは、FRAS1が転移巣形成において、より肝転移巣形成に重要な役割を果たしている事を示す結果と考える。我々は、肝転移を有する胃癌患者の原発巣で有意に発現が上昇している遺伝子群を、次世代シーケンサーを用いたtranscriptome解析により抽出し、その遺伝子群の中の1つであるFRAS1を胃癌肝転移関連分子として着目した。14種の胃癌細胞株と正常腺細胞株であるFHS74intを用いたRT-qPCRを行い、胃癌細胞株の多くでFHS74intに比べてFRAS1は高発現していた。また、RT-qPCRの結果からFRAS1の高発現株の選定を行った。その上で、将来的なin vivo実験でのXenograft肝転移モデルの作成を前提として、BALB/cヌードマウスに胃癌細胞株皮下移植することで生着良好な細胞株の選定を行った。その結果から、研究対象の胃癌細胞株としてMKN1を用いることとした。CRISPR-Cas9システムを用いてFRAS1のノックアウト株をsingle cell cloningで作成し、ノックアウトはsanger sequencingで確認した。MKN1のwild typeと比較して、FRAS1ノックアウト株のphenotypeの変化を確認した。WST assayにて、有意に細胞増殖能が低下した。また、adhesion assayでは細胞接着能の低下を認めた。また、wound healing assayでは細胞遊走能が有意に低下し、matrigel invasion chamberを用いたinvasion assayでは浸潤能が有意に低下した。180例の胃癌原発巣を用い、RT-qPCRでFRAS1発現を調べた。胃癌原発巣におけるFRAS1高発現症例は低発現症例に比べて有意に累積肝転移発生率が高かった。肝転移再発に関する多変量解析を行ったところ、我々の胃癌コホートにおいては、FRAS1高発現はHR 4.05を伴い唯一の独立した肝転移予測因子であった。H29年度に得られた結果より、in vitroならびにex vivoでもFRAS1が胃癌の肝転移関連分子の有力な候補であることが示されたと考える。また、原発巣でのFRAS1発現は、肝転移予測のバイオマーカーとなる可能性も示唆された。平成29年度、我々は、肝転移を有する胃癌患者の原発巣で有意に発現が上昇している遺伝子群をRNA sequencingの結果から抽出し、その遺伝子群からFRAS1を胃癌肝転移関連分子として着目した。CRISPR-Cas9システムを用いてFRAS1のノックアウト株を作成し、FRAS1ノックアウトに伴い増殖能・接着能・遊走能・浸潤能が有意に低下することを示した。また180例の胃癌コホートでは、胃癌原発巣におけるFRAS1高発現症例は有意に累積肝転移発生率が高く、FRAS1高発現はHR 4.05を伴い唯一の独立した肝転移予測因子であった。平成30年度、まずアポトーシスへの影響を評価したところ、FRAS-1ノックアウトによりアポトーシス細胞が増加し、caspase activityが上昇していた。また、細胞内ROS活性がFRAS1ノックアウト細胞で上昇していた。次いで、肝転移能を評価するために、SCIDマウスの門脈に癌細胞を注入することにより、マウスの肝転移モデルを作成することに成功した。皮下腫瘍モデルにおいては、FRAS-1ノックアウト細胞ではワイルドタイプ細胞に比べて有意に腫瘍径が小さかったが、皮下に生着し腫瘍を形成した。肝転移モデルにおいては、ワイルドタイプ細胞が肝転移を形成するのに対し、FRAS-1ノックアウト細胞はほとんど生着しなかった。これは、FRAS1が転移巣形成において、より肝転移巣形成に重要な役割を果たしている事を示す結果と考える。H29年度の研究結果より、FRAS1が胃癌において癌遺伝子として作用し、かつ肝転移成立に関与している可能性が示された。今後は、wild typeとFRAS1ノックアウトを行った胃癌細胞株を用い、アポトーシスや細胞周期への影響も含め、FRAS1の下流に関わる関連分子の検討を行いたい。胃癌肝転移関連分子候補の抽出にあたりtranscriptome解析に用いた症例は、Stage II/III症例であり、TS-1による術後補助化学療法を受けている。 | KAKENHI-PROJECT-17K16521 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K16521 |
FRAS1 を標的とした胃癌肝転移特異的な治療・診断法の開発 | その中で肝転移再発を来してきていることから、ここから抽出されたFRAS1をはじめとする遺伝子群はTS-1耐性に関与する可能性も含んでいる。本邦における胃癌治療のkey drugであるTS-1の主成分である5-FUに対する感受性の変化に関して、FRAS1ノックアウト株を用いて評価したい。さらに、免疫不全マウスを用いたin vivo実験により、肝転移成立への影響を評価する予定である。来年度の実験消耗品に使用予定 | KAKENHI-PROJECT-17K16521 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K16521 |
高温超伝導材料を基盤とする新エレクトロニクスの総合的研究 | 本研究は重点領域研究(1)高温超伝導材料を基盤とする新エレクトロニクス(略:新超伝導工学)の研究計画の策定、研究者相互の調整および本領域内や隣接領域とのコミュニケ-ションなどの業務を通じて、本領域の研究進展を円滑ならしめることを目的とする。本総括班のメンバ-は上記6名の他、本領域の計画研究から山下努(東北大学)、小林猛(阪大)および森末道忠(埼玉大)の3名、評価メンバ-から坂東尚周(京大)、梶村皓二(電総研)、宮沢信太郎(NTT)および大塚泰一郎(日本真空)の4名である。その他に各研究班(第1第4班)の評価メンバ-計13名が所属している。活動の主なものは研究会開催と総括班会議である。定例として総括班会議は研究会と日を合わせて、研究会が2日以上にわたる場合は、その初日に開催して、研究の進展に対する評価、今後の日程の決定などを行う。研究会は平成3年6月12・13日(つくば)、8月2628日(秋田)および平成4年1月20・21日(東京)で開催した。本年は本領域の最終年度であるから、総括班としては平成4年度での成果とりまとめを隣接領域と協調して計画することに特に意を用いた。個人の研究内容は各研究代表者の報告に譲るが、高温超伝導領域に占める新超伝導工学の位置づけには常に大きな関心を持ってきた。実用面での基礎を主とする本領域では現時点で表面的な成果を云々するのは当を得ない。しかし以下に示す様な特徴的な成果は基礎的に重要である。バイクリスタルJJ素子、Bi系単結晶のJJ的特性の確認、各種の方法による超薄膜の製作とそのキャラクタリゼ-ション、従来の方法によるSIS形素子製作の限界とその原因究明、ヘテロエピタクシの特性と表面・界面の評価およびデバイス応用への展望、酸化物超伝導体表面の局所トンネル分光による電子状態の推定、電界効果素子の実験的な確認。本研究は重点領域研究(1)高温超伝導材料を基盤とする新エレクトロニクス(略:新超伝導工学)の研究計画の策定、研究者相互の調整および本領域内や隣接領域とのコミュニケ-ションなどの業務を通じて、本領域の研究進展を円滑ならしめることを目的とする。本総括班のメンバ-は上記6名の他、本領域の計画研究から山下努(東北大学)、小林猛(阪大)および森末道忠(埼玉大)の3名、評価メンバ-から坂東尚周(京大)、梶村皓二(電総研)、宮沢信太郎(NTT)および大塚泰一郎(日本真空)の4名である。その他に各研究班(第1第4班)の評価メンバ-計13名が所属している。活動の主なものは研究会開催と総括班会議である。定例として総括班会議は研究会と日を合わせて、研究会が2日以上にわたる場合は、その初日に開催して、研究の進展に対する評価、今後の日程の決定などを行う。研究会は平成3年6月12・13日(つくば)、8月2628日(秋田)および平成4年1月20・21日(東京)で開催した。本年は本領域の最終年度であるから、総括班としては平成4年度での成果とりまとめを隣接領域と協調して計画することに特に意を用いた。個人の研究内容は各研究代表者の報告に譲るが、高温超伝導領域に占める新超伝導工学の位置づけには常に大きな関心を持ってきた。実用面での基礎を主とする本領域では現時点で表面的な成果を云々するのは当を得ない。しかし以下に示す様な特徴的な成果は基礎的に重要である。バイクリスタルJJ素子、Bi系単結晶のJJ的特性の確認、各種の方法による超薄膜の製作とそのキャラクタリゼ-ション、従来の方法によるSIS形素子製作の限界とその原因究明、ヘテロエピタクシの特性と表面・界面の評価およびデバイス応用への展望、酸化物超伝導体表面の局所トンネル分光による電子状態の推定、電界効果素子の実験的な確認。 | KAKENHI-PROJECT-03210112 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03210112 |
高次脳における痛覚制御機構解明のためのオピオイド受容体PETリガンドの開発 | これまでに、carfentanilを親化合物として、構造-活性相関に関する考察をもとにその構造を様々に改変させた化合物を設計・合成し、クローン化オピオイド受容体発現細胞株を用いて受容体結合特性の評価を行うことで、μ-オピオイド受容体に対して高選択性を有する化合物を数種見いだしてきた。さらに、受容体発現細胞株を用いた実験によりこれら化合物が受容体作動薬として機能することも明らかにしてきた。本年度はこれら化合物のうち最もμ-オピオイド受容体選択性の高い化合物であるK-8の薬理作用を個体レベルで検討した。Tail-pinch法およびフォルマリン法により、それぞれ、機械的および化学的侵害刺激を与え、侵害受容反応に対するK-8およびモルヒネ、フェンタニルの皮下投与による効果を比較検討した。これらの薬物は、いずれの侵害刺激に対しても鎮痛効果を示し、その作用の強さはフェンタニル>K-8>モルヒネの順であった。また、μ-オピオイド受容体のより詳細な個体レベルでの機能解析を行うために、ノルアドレナリン・アドレナリン神経特異的にμ-オピオイド受容体を発現する遺伝子改変マウスを作製した。本遺伝子改変マウスにおいてモルヒネの有意な鎮痛作用は認められなかった。一方、tail-suspension法を用いた解析において、μ-オピオイド受容体ノックアウトマウスで観察される行動量の増加が、μ-オピオイド受容体をノルアドレナリン・アドレナリン神経特異的に発現させることにより野性型と同様のレベルまで減少していた。Tail-suspension法における行動量はストレス応答と関連していることが知られていることから、ノルアドレナリン・アドレナリン神経系に発現しているμ-オピオイド受容体はストレス応答の調節に関与していることが示唆された。これまでに、μ-オピオイド受容体に対し高選択性かつ高親和性を有するcarfentanilを親化合物として、構造-活性相関に関する考察をもとにその構造を様々に改変させた化合物を設計・合成し、クローン化オピオイド受容体発現細胞株を用いて受容体結合特性の評価を行うことで、μ-オピオイド受容体に対して高選択性を有し、且つ様々な親和性を有するリガンド賦活法に適したPETリガンド候補化合物を数種見いだしてきた。本年度は、これらのうち最もμ-オピオイド受容体選択性の高い化合物の薬理作用を個体レベルで検討するために、30mgの追加合成を行い、手始めとして鎮痛作用に関して、モルヒネとの比較検討を開始した。また、μ-オピオイド受容体のより詳細な個体レベルでの機能解析を行うために、μ-オピオイド受容体を特定の神経系にのみ発現する遺伝子改変マウスの作製を試みている。本年度は、ノルアドレナリン神経特異的な発現調節を行うプロモーター遺伝子の下流にμ-オピオイド受容体遺伝子を組み込んだ遺伝子を作製し、これをマウス受精卵に対しマイクロインジェクションを行うことにより、4系統のトランスジェニックマウスを得た。これらトランスジェニックマウスをμ-オピオイド受容体ノックアウトマウスとかけ合わせることにより目的とするマウスを得ることができると考えられる。すでに、トランスジェニックマウスとノックアウトマウスのかけあわせにより1系統のマウスを得ており、現在、受容体遺伝子発現と機能的タンパク質発現に関して、インジツハイブリダイゼーション法および受容体結合実験により解析中である。これまでに、carfentanilを親化合物として、構造-活性相関に関する考察をもとにその構造を様々に改変させた化合物を設計・合成し、クローン化オピオイド受容体発現細胞株を用いて受容体結合特性の評価を行うことで、μ-オピオイド受容体に対して高選択性を有する化合物を数種見いだしてきた。さらに、受容体発現細胞株を用いた実験によりこれら化合物が受容体作動薬として機能することも明らかにしてきた。本年度はこれら化合物のうち最もμ-オピオイド受容体選択性の高い化合物であるK-8の薬理作用を個体レベルで検討した。Tail-pinch法およびフォルマリン法により、それぞれ、機械的および化学的侵害刺激を与え、侵害受容反応に対するK-8およびモルヒネ、フェンタニルの皮下投与による効果を比較検討した。これらの薬物は、いずれの侵害刺激に対しても鎮痛効果を示し、その作用の強さはフェンタニル>K-8>モルヒネの順であった。また、μ-オピオイド受容体のより詳細な個体レベルでの機能解析を行うために、ノルアドレナリン・アドレナリン神経特異的にμ-オピオイド受容体を発現する遺伝子改変マウスを作製した。本遺伝子改変マウスにおいてモルヒネの有意な鎮痛作用は認められなかった。一方、tail-suspension法を用いた解析において、μ-オピオイド受容体ノックアウトマウスで観察される行動量の増加が、μ-オピオイド受容体をノルアドレナリン・アドレナリン神経特異的に発現させることにより野性型と同様のレベルまで減少していた。Tail-suspension法における行動量はストレス応答と関連していることが知られていることから、ノルアドレナリン・アドレナリン神経系に発現しているμ-オピオイド受容体はストレス応答の調節に関与していることが示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-01J03715 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01J03715 |
ガス吸着圧による多孔性金属錯体のプロトン伝導度制御 | イオン伝導体は電解質やガスセンサーよどの電子デバイスとしての応用が期待され、物質内のイオンのダイナミクスにも興味が持たれることから、盛んに研究されている分野である。多孔性配位高分子(MOF)は、構造の高い設計性と多様性を持ち多様な物性の発現が可能であることにより近年大きな研究領域を形成している。本研究ではMOFの有する高い設計性を利用したプロトン伝導体の開発を行っている。特に酸性基を有する分子や高沸点分子などを細孔内に導入した新規配位高分子を作製し、ゲスト分子によって誘起される高プロトン伝導体の開発とその伝導メカニズムの解明に取り組んでいる。初年度となるH24年度では目的のゲスト分子(CO_2, Sulfamide)を選定し、種々の配位高分子との複合化を行った。溶媒、濃度、温度など様々な条件を検討することで、ゲスト分子が配位高分子に導入された複合物質を数種合成することに成功した。二年目となるH25年度では、特に、熱や水蒸気に対し高い構造安定性を有するHKUST-1, MIL-101, UiO-66型のMOFに着目し、上記のゲスト分子を導入した場合のプロトン伝導性について検討を行った。CO2吸着体においては装置の立ち上げ等に時間がかかり、現在伝導度の測定条件の検討を行っている。一方で、Sulfamideをゲスト分子として導入したMOFについては、導入後のN2吸着等温線測定や粉末X線回折からゲスト分子の導入が確認され、これらのゲスト導入後のプロトン伝導性の測定を行ったが、期待されたほど高いプロトン伝導性の発現には至らなかった。この理由として、ゲスト分子の導入量が不足していることや、導入後の構造中で適切な水素結合ネットワークが形成されていないことが考えられる。選択した数種類のMOFについて目的のゲスト分子の導入には成功したものの、プロトン伝導測定の結果、元のMOFと比較しても期待されるほど高いプロトン伝導性の発現は観測できていない。以上のように昨年度よりは進展したものの、本研究の目的を鑑みるとやや遅れていると感じる。今後については、ゲスト分子・導入条件の検討を含めたゲスト分子の導入量の詳細な制御や、ゲスト分子導入後の結晶構造解析、光学測定から細孔内部におけるゲスト分子の状態の検討を行うことが重要であると考えられる。イオン伝導体は電解質やガスセンサーなどの電子デバイスとしての応用が期待されると同時に、そのダイナミクスにも興味が持たれることから、盛んに研究されている分野である。配位高分子は、構造の設計性と多様性を持ち多様な物性の発現が可能であることから、近年大きな研究領域を形成している。本研究では金属イオンと有機配位子によって構築される配位高分子に着目し、配位高分子の高い設計性を利用したプロトン伝導体の開発を行っている。特に酸性基を有する分子や高沸点分子などを細孔内に導入した新規配位高分子を作製し、ゲスト分子によって誘起される高プロトン伝導体の開発とその伝導メカニズムの解明に取り組んでいる。本年度では目的のゲスト分子を選定し、種々の配位高分子との複合化を行った。溶媒、濃度、温度など様々なパラメータを検討することで、ゲスト分子が配位高分子に導入された複合物質を数種合成することに成功した。一方で、これまで報告されている多くの固体プロトン伝導体では、水分子がプロトンの伝導媒体になっている。二酸化炭素やアンモニアを媒体としたプロトン伝導体は、これまでほとんど報告されておらず、水分子とは異なったプロトン伝導システムを構築することができるため、材料科学のみならず基礎科学の面においても非常に重要である。本研究では規則的なナノ細孔を有する配位高分子を用い、二酸化炭素やアンモニアの取り込みによる新しいプロトン伝導システムの構築を目指している。本年度では二酸化炭素やアンモニアを安定に細孔内へ取り込むことが可能な配位高分子の探索を行い、候補と成り得る配位高分子を数種見出した。イオン伝導体は電解質やガスセンサーよどの電子デバイスとしての応用が期待され、物質内のイオンのダイナミクスにも興味が持たれることから、盛んに研究されている分野である。多孔性配位高分子(MOF)は、構造の高い設計性と多様性を持ち多様な物性の発現が可能であることにより近年大きな研究領域を形成している。本研究ではMOFの有する高い設計性を利用したプロトン伝導体の開発を行っている。特に酸性基を有する分子や高沸点分子などを細孔内に導入した新規配位高分子を作製し、ゲスト分子によって誘起される高プロトン伝導体の開発とその伝導メカニズムの解明に取り組んでいる。初年度となるH24年度では目的のゲスト分子(CO_2, Sulfamide)を選定し、種々の配位高分子との複合化を行った。溶媒、濃度、温度など様々な条件を検討することで、ゲスト分子が配位高分子に導入された複合物質を数種合成することに成功した。二年目となるH25年度では、特に、熱や水蒸気に対し高い構造安定性を有するHKUST-1, MIL-101, UiO-66型のMOFに着目し、上記のゲスト分子を導入した場合のプロトン伝導性について検討を行った。CO2吸着体においては装置の立ち上げ等に時間がかかり、現在伝導度の測定条件の検討を行っている。一方で、Sulfamideをゲスト分子として導入したMOFについては、導入後のN2吸着等温線測定や粉末X線回折からゲスト分子の導入が確認され、これらのゲスト導入後のプロトン伝導性の測定を行ったが、期待されたほど高いプロトン伝導性の発現には至らなかった。 | KAKENHI-PROJECT-12F02036 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12F02036 |
ガス吸着圧による多孔性金属錯体のプロトン伝導度制御 | この理由として、ゲスト分子の導入量が不足していることや、導入後の構造中で適切な水素結合ネットワークが形成されていないことが考えられる。ゲスト分子が配位高分子に導入された複合物質を数種合成することに成功した。また、二酸化炭素やアンモニアを安定に細孔内へ取り込むことが可能な配位高分子の探索を行い、候補と成り得る配位高分子を数種見出した。選択した数種類のMOFについて目的のゲスト分子の導入には成功したものの、プロトン伝導測定の結果、元のMOFと比較しても期待されるほど高いプロトン伝導性の発現は観測できていない。以上のように昨年度よりは進展したものの、本研究の目的を鑑みるとやや遅れていると感じる。見出した配位高分子のプロトン伝導特性について評価を行い、新規高プロトン伝導体の創製を行う。今後については、ゲスト分子・導入条件の検討を含めたゲスト分子の導入量の詳細な制御や、ゲスト分子導入後の結晶構造解析、光学測定から細孔内部におけるゲスト分子の状態の検討を行うことが重要であると考えられる。 | KAKENHI-PROJECT-12F02036 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12F02036 |
ジュゴン沖縄個体群の絶滅を想定しての保全対策調査計画の立案 | 平成14年6月、東京において環境省・水産庁・文化庁の担当者、およびそれら省庁から調査の委託を受けているアセス会社の取りまとめ責任者に集まってもらい、各省庁のジュゴン調査の目的、調査方法および、結果などについて説明を受けた。その上でそれら各省庁で実施されている調査を総合できるよう、また、具体的な調査内容については重複を避けるように調整した上で、科学研究費としての調査方法の検討を行なった。その検討に基づいて、9月に沖縄本島東部において、潜水および目視によるジュゴンの食性に関する調査方法の開発、電波発信機装着の検討、保全生物学的調査方法の検討、頭骨標本の研究法などについての検討を行なった。10月に富山大学で行なわれた哺乳類学会の折に、DNA分析の専門家も交えて、9月調査の結果などを含めて再度検討会議を行なった。この段階で、事実上本企画調査のとりまとめを行ない、平成15年度科研費基盤研究(A);「ジュゴン沖縄個体群の保全生物学的研究」(4年間5000万円、代表大泰司)の申請書類を作成した。10月の打ち合わせにおいて、本年度調査として、海南島、台湾、トカラ列島、奄美諸島の予備調査を行なうこととし、本年2月から3月にかけて実施した。海南島調査においては、20年ぶりに同島での生息の確認をした。このほか小笠原諸島にはジュゴン生息地の記録や生息条件のないことを確かめ、同様の火山島である大東島、鳥島などにも生息条件はなく、わが国の排他的経済水域では南西諸島のみジュゴン生息の条件が具わっていることを確認した。平成14年6月、東京において環境省・水産庁・文化庁の担当者、およびそれら省庁から調査の委託を受けているアセス会社の取りまとめ責任者に集まってもらい、各省庁のジュゴン調査の目的、調査方法および、結果などについて説明を受けた。その上でそれら各省庁で実施されている調査を総合できるよう、また、具体的な調査内容については重複を避けるように調整した上で、科学研究費としての調査方法の検討を行なった。その検討に基づいて、9月に沖縄本島東部において、潜水および目視によるジュゴンの食性に関する調査方法の開発、電波発信機装着の検討、保全生物学的調査方法の検討、頭骨標本の研究法などについての検討を行なった。10月に富山大学で行なわれた哺乳類学会の折に、DNA分析の専門家も交えて、9月調査の結果などを含めて再度検討会議を行なった。この段階で、事実上本企画調査のとりまとめを行ない、平成15年度科研費基盤研究(A);「ジュゴン沖縄個体群の保全生物学的研究」(4年間5000万円、代表大泰司)の申請書類を作成した。10月の打ち合わせにおいて、本年度調査として、海南島、台湾、トカラ列島、奄美諸島の予備調査を行なうこととし、本年2月から3月にかけて実施した。海南島調査においては、20年ぶりに同島での生息の確認をした。このほか小笠原諸島にはジュゴン生息地の記録や生息条件のないことを確かめ、同様の火山島である大東島、鳥島などにも生息条件はなく、わが国の排他的経済水域では南西諸島のみジュゴン生息の条件が具わっていることを確認した。 | KAKENHI-PROJECT-14608020 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14608020 |
サイクロトロン共鳴力顕微鏡の開発 | 本研究では微小試料のサイクロトロン共鳴信号をマイクロカンチレバーにより高感度に検出することを開発目的とする。サイクロトロン共鳴に伴う反磁性成分の成果をカンチレバーにはたらく力の変化として検出する。本研究ではこの目的のために磁場発生用磁石、磁石電源、サンプルホルダーを新規に作製し、その特性評価を行った。自作磁石を用いて0.2 Tの磁場を発生し、テストとして有機超伝導体試料の磁気トルク測定を行ったところ、過去の結果と一致する結果を得た。続いて、グラファイトを用いたサイクロトロン共鳴測定を試みた。その結果、反磁性に伴う信号変化は得られたが、サイクロトロン共鳴信号の検出には至らなかった。本研究では微小試料のサイクロトロン共鳴信号をマイクロカンチレバーにより高感度に検出することを開発目的とする。サイクロトロン共鳴に伴う反磁性成分の成果をカンチレバーにはたらく力の変化として検出する。本研究ではこの目的のために磁場発生用磁石、磁石電源、サンプルホルダーを新規に作製し、その特性評価を行った。自作磁石を用いて0.2 Tの磁場を発生し、テストとして有機超伝導体試料の磁気トルク測定を行ったところ、過去の結果と一致する結果を得た。続いて、グラファイトを用いたサイクロトロン共鳴測定を試みた。その結果、反磁性に伴う信号変化は得られたが、サイクロトロン共鳴信号の検出には至らなかった。H25年度はカンチレバーを用いてサイクロトロン共鳴信号を検出するための測定系を構築した。本研究ではサイクロトロン共鳴の際、試料が電磁波を共鳴吸収し軌道半径が変化することに着目し、その信号を軌道反磁性の変化として検出しようとするものである。従って、基本的な装置構成は研究代表者がこれまで構築してきたカンチレバーを用いた電子スピン共鳴(ESR)測定装置と同様の構成となる。カンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴信号の検出に際しては、高純度、軽い有効質量、異方的な有効質量を持った試料が有望と考えられたため、本研究では測定試料としてグラファイトを念頭に置いて装置を作成した。グラファイトの面内有効質量は自由電子の0.05倍程度であるため、80 GHzの電磁波に対し共鳴磁場は約2000 G程度と見積もられる。そのため、本研究では銅線を用いてソレノイド磁石を自作した。磁場を自由に制御することが必要になるため、電圧-電流変換回路を用いて磁石用電源を自作した。これにより、3000 Gまで磁場を発生できるシステムを構築した。また、液体ヘリウムベッセルと組み合わせて実験が可能な測定用ホルダーを自作した。測定系のテストとして有機物超伝導体試料を用いて4.2 Kで超伝導状態の磁気トルク測定を行った。その結果、第2種超伝導に起因する磁気トルクのヒステレシスループの観測に成功し、測定系が正しく動作していることを確認した。さらに、実際にHOPGグラファイトと呼ばれる結晶性の高いグラファイトを用いてサイクロトロン共鳴測定を試みた。電磁波を照射しない状態でグラファイトの軌道反磁性に伴うトルク信号を検出することに成功した。しかし、電磁波を照射した状態でサイクロトロン共鳴信号の検出を試みたが、現時点ではまだ検出には至っていない。本研究では微小試料のサイクロトロン共鳴信号をマイクロカンチレバーにより、高感度に検出することを開発目的する。サイクロトロン共鳴とは電磁波による異なる軌道間遷移として理解できるので、サイクロトロン共鳴に伴い試料の反磁性成分が変化する。この微小な磁化変化をカンチレバーにはたらく力の変化として検出することを本研究では試みる。微小試料でのサイクロトロン共鳴測定が可能になれば、ナノデバイスやナノマテリアルの有効質量を決定する際に有効な測定手段となる。本研究ではまずサイクロトロン共鳴の観測に必要な磁場発生用マグネットコイル、磁場及び磁場変調用電源、サンプルホルダーの製作を行った。マグネットコイルは0.3 mm銅線を用いて内径20 mmのものを作製した。自作電源を用いて最大で2000 gaussの磁場が液体ヘリウム中でも発生できることを確認した。測定用のカンチレバーとしてはピエゾ抵抗型カンチレバーを採用した。測定系の評価を行うために第2種超伝導体κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2の磁気トルク測定を行った。測定結果からは予想されたような超伝導ヒステリシスを観測することに成功した。測定試料として過去にサイクロトロン共鳴の報告例があるグラファイトを取り上げ、サイクロトロン共鳴信号の検出を試みた。試料重量は約1 μgであった。磁場を印加すると磁化過程に伴う信号の変化を観測することには成功したが、サイクロトロン共鳴に伴う信号を検出することができなかった。考えられる原因としては試料が金属的であることによる表皮厚さによる実効的な試料体積に減少や、キャリア密度が小さいことによる微弱な信号強度などが考えられる。そのため、サイクロトロン共鳴の信号検出には更なる高感度化が必要と考えられる。固体物理当初の計画ではH25年度に(1)測定系を構築、(2)サイクロトロン共鳴信号の検出を目標として挙げていた。このうち、(1)については実際に本年度中に必要な測定系の構築を実際に行い、その動作を確認することに成功した。その中でも特に、磁場発生系は高い磁場精度と制御性が求められるため、一から設計、自作を行う必要があった。作製にはかなりの時間を要し、完成が年度後半にずれ込んだが、測定に必要な仕様を実現することができた。 | KAKENHI-PROJECT-25610075 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25610075 |
サイクロトロン共鳴力顕微鏡の開発 | 実際に既知の物性を示す試料を用いてトルク測定を行った結果、過去の文献とよい一致をしめす結果を得ることができた。このことから測定系の構築は当初予定していた通りの成果が得られたといえる。サイクロトロン共鳴信号の検出に関しては、測定系の構築に準備がかかったためグラファイトを用いたテスト的な測定を行うにとどまった。グラファイトはカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴測定の有望な候補の一つではあるが、現時点では信号検出に至っていない。しかし、GaAs-HEMT基板や有機伝導体などサイクロトロン共鳴信号の検出が期待される試料はほかにもあるため、引き続き測定を行うことでサイクロトロン共鳴信号の検出が期待できる。そのため、本研究は当初研究計画と比べ現時点において、おおむね順調に進展しているといえる。まずはカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴信号を検出する必要がある。グラファイトを用いた予備的な測定では信号検出には至っていないが、これにはいくつかの要因が考えられるため、引き続き、測定を行う必要がある。特に、グラファイトのサイクロトロン共鳴信号は線幅が狭くシャープであるため、微分検出が有効であると考えている。カンチレバー付近に磁場変調コイルを設置し、微分検出を行うことにより検出感度を大幅に改善できる可能性がある。すでに磁場変調検出の測定系は準備ができているので、今後は磁場変調によるサイクロトロン共鳴信号の検出を試みる。また、測定試料として他の候補を測定することも必要であると考えている。例えば、過去にもサイクロトロン共鳴信号の測定例がある物質系として2次元有機伝導体が挙げられる。有機伝導体は結晶性がよく、試料サイズも1 mm角程度であるためカンチレバーを用いたサイクロトロン共鳴測定に適していると考えられる。有効質量は自由電子の値に近いためグラファイトに比べより高い磁場が必要になる。そのため、超伝導磁石と組み合わせて測定を行い、サイクロトロン信号の検出を試みる。また、現行のピエゾ抵抗方式では感度に限界があるため、より高感度な検出方式が望ましい。そのような方法として光ファイバーを用いたFabry-Perot干渉計による方法が挙げられる。この方法ではカンチレバーの変位を光の干渉強度の変化として高感度に検出することができる。この方法はピエゾ抵抗方式に比べよりも高い感度を実現することができる。今後はカンチレバーホルダーを新規に設計、作製し、現行のサンプルホルダーと組み合わせることで感度の向上を図り、サイクロトロン共鳴信号の検出を可能にする。 | KAKENHI-PROJECT-25610075 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25610075 |
グラフェンによる新機能THzデバイスの開拓 | テラヘルツテクノロジーは、電波天文学・固体物理学・生体分子分光学などの基礎学術分野からセキュリティ・情報通信・医療などの実用分野に至る幅広い分野での応用が期待されている。ところが、この周波数帯域は光(フォトニクス)と電波(エレクトロニクス)の間に挟まれているため、他帯域に比べ発展途上である。テラヘルツデバイスの中でも高性能なテラヘルツ検出器は強く求められている技術である。現在の室温検出器としては、焦電検出器、ショットキーバリアダイオード、光伝導アンテナ等が知られているが、感度が低いため高精度な計測ができないことが問題となっている。以上を背景とし、高性能テラヘルツ検出素子の開拓を目指して、ナノカーボンのユニークな特徴を利用した研究を行った。得られた成果は以下の2点である。1高いテラヘルツ吸光度を持つカーボンナノチューブアレイ薄膜によるテラヘルツ検出器のノイズ密度スペクトルを測定したところ、熱雑音極限まで達していることを見出した。この検出器のテラヘルツイメージング応用を行い、遮蔽物背後の物質検知に成功した。また、この試料の低温下でのテラヘルツ応答を調べたところ、別のメカニズムによる応答を見出し、感度が室温に比べて3桁程度向上することが分かった。2立方晶窒化ホウ素基板上(物質・材料研究機構の谷口博士、渡邊博士よりご提供)のグラフェン試料によるテラヘルツ検出について検討し、最適なチャネル形状を特定した。27年度が最終年度であるため、記入しない。27年度が最終年度であるため、記入しない。テラヘルツ(THz)技術は、天文学・固体物理学・生体分子分光学などの基礎分野からセキュリティ・情報通信・医療などの実用分野に至る幅広い分野での応用が期待されている。ところが、この帯域は光と電波の間に挟まれているため、他帯域に比べ発展が遅れている。グラフェンは発見当初より、電子デバイス・光デバイスの両面からTHzデバイスへの応用が着目されてきた。この開拓は非常に魅力的であると考えられるものの、このテーマの研究(THz検出器、THz光源、THz周波数帯動作の高速トランジスタ等への応用)は端緒についたばかりである。本研究では、グラフェンの高い潜在能力を用いて、新しいTHz機能素子の創出やその背後にある物理現象の探求を目指す。今年度は、グラフェンと同種のカーボン系薄膜として高配向カーボンナノチューブアレイを用いた研究に着手した(試料はライス大学より提供)。THzデバイスの中でも室温動作で高性能なTHz検出器は強く求められている技術である。現在の室温検出器としては、焦電検出器、ゴーレイセル、ショットキーバリアダイオード等が知られているが、感度が低いことが問題となっている。本研究では、広い周波数帯域で高いTHz吸光度を持つ高密度・高配向カーボンナノチューブアレイを用いることで、室温におけるTHz・赤外光検出を達成した。さらに、高配向性を利用して、THz・赤外光領域における偏光子として機能させることも可能であることを示した。テラヘルツテクノロジーは、電波天文学・固体物理学・生体分子分光学などの基礎学術分野からセキュリティ・情報通信・医療などの実用分野に至る幅広い分野での応用が期待されている。ところが、この周波数帯域は光(フォトニクス)と電波(エレクトロニクス)の間に挟まれているため、他帯域に比べ発展途上である。テラヘルツデバイスの中でも高性能なテラヘルツ検出器は強く求められている技術である。現在の室温検出器としては、焦電検出器、ショットキーバリアダイオード、光伝導アンテナ等が知られているが、感度が低いため高精度な計測ができないことが問題となっている。以上を背景とし、高性能テラヘルツ検出素子の開拓を目指して、ナノカーボンのユニークな特徴を利用した研究を行った。得られた成果は以下の2点である。1高いテラヘルツ吸光度を持つカーボンナノチューブアレイ薄膜によるテラヘルツ検出器のノイズ密度スペクトルを測定したところ、熱雑音極限まで達していることを見出した。この検出器のテラヘルツイメージング応用を行い、遮蔽物背後の物質検知に成功した。また、この試料の低温下でのテラヘルツ応答を調べたところ、別のメカニズムによる応答を見出し、感度が室温に比べて3桁程度向上することが分かった。2立方晶窒化ホウ素基板上(物質・材料研究機構の谷口博士、渡邊博士よりご提供)のグラフェン試料によるテラヘルツ検出について検討し、最適なチャネル形状を特定した。カーボン系薄膜の一種である、高密度・高配向カーボンナノチューブアレイを用いて、室温におけるTHz・赤外光検出を達成したことは応用上大きな意義を持つ。またこの素子では、低温下あるいは磁場下で別の機構によるTHz応答を示すことがわかった。これらの結果は、来年度グラフェンによる研究へと拡張する上でも大きな一歩となった。27年度が最終年度であるため、記入しない。今後は、カーボンナノチューブアレイによるTHz・赤外光応答の温度・磁場依存性について研究し、検出メカニズムについての知見を得る。また、同様の観点から、グラフェンに対しても同種の研究を進める。カーボンナノチューブアレイとグラフェンのいずれにおいても伝導チャネルの形状効果に着目した研究を行う。27年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PUBLICLY-26107516 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PUBLICLY-26107516 |
先駆水和電子チャネル形成仮説による水中プラズマ超高速電荷移動機構の学理構築 | 本研究は,熱流体の最先端計測を核とする分野横断的な特異な計測・解析手法を用いて,申請者らが提案する極微小スケールにおける超高速電荷移動機構の仮説を証明することで,水中の超高速電荷移動機構の学理を構築し,高電界やプラズマを利用したバイオ・医療,創薬,農業,食品加工,水処理,洗浄などに貢献する新たな水和電子工学分野を創成することを目指す.具体的には,ストリーマ進展前に先駆的に生成された水和電子チャネルを媒体として伝播する電界波動と共に高電荷領域が超高速で移動するという仮説を,熱流体,電気,化学からなる分野横断的アプローチにより実証する.本研究は、熱流体の最先端計測を核とする分野横断的な特異な計測・解析手法を用いて、研究代表者らが提案する極微小スケールにおける超高速電荷移動機構の仮説を証明することで、水中の超高速電荷移動機構の学理を構築し、高電界やプラズマを利用したバイオ・医療、創薬、農業、食品加工、水処理、洗浄などに貢献する新たな水和電子工学分野を創成することを目指している。高度な計測技術等を用いることで、液中でのプラズマ発生時に形成される絶縁破壊前駆現象であるストリーマの進展機構の解明を目指す、学術的に興味深い研究である。特に、落雷との相似性から研究代表者が独自に考え出した、水和電子チャネルがストリーマの進展に先駆的な役割を果たすという仮説が実証されれば、学術的価値の高い研究になる。本研究は,熱流体の最先端計測を核とする分野横断的な特異な計測・解析手法を用いて,申請者らが提案する極微小スケールにおける超高速電荷移動機構の仮説を証明することで,水中の超高速電荷移動機構の学理を構築し,高電界やプラズマを利用したバイオ・医療,創薬,農業,食品加工,水処理,洗浄などに貢献する新たな水和電子工学分野を創成することを目指す.具体的には,ストリーマ進展前に先駆的に生成された水和電子チャネルを媒体として伝播する電界波動と共に高電荷領域が超高速で移動するという仮説を,熱流体,電気,化学からなる分野横断的アプローチにより実証する. | KAKENHI-PROJECT-19H00743 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19H00743 |
六十六部廻国供養塔のデータベース構築に向けての基礎研究 | 本研究は、六十六部廻国行者の実態を解明するため、六十六部廻国供養塔資料を収集し、そのデータベースを作成するための基礎研究である。調査対象地域として兵庫県・岡山県を選択し、収集した資料の総数は合計539例に及んだ。これらの資料は様々な情報を含み、そのうち建立年・所在地・立地・像容・銘文などがデータベースに盛り込む情報として必要だと考えた。廻国供養塔のデータベース作成に関しては、当初市販のデータベースソフトの利用を想定し、この方針に沿ってデータベースを試作した。しかし、データベースソフトなど同一の環境がない場合、田中・小嶋両者の間でもデータ交換に支障が生じる結果となった。そのため急遽、市販のソフトの利用を放棄し、作成およびその利用が容易であるとの見地から、CSV形式のテキストファイルでのデータベース作成を目指した。完成したデータベースを試験的に利用した結果、廻国供養塔造立年代・造立目的・種子の種類とその出現件数などを統計的に分析することが可能となった。さらに資料の銘文のうち、願主と助力者に関しては、特定の人物が複数の廻国供養塔造立に関与している事例が14例みられ、しかも彼らの中には遠方の者も含むことから、廻国供養を補佐する情報ネットワーク、さらには組織さえあったのではないかと推測できた。このようにして全国的に廻国供養塔資料のデータベース化ができれば、六部の活動もかなりの範囲で解明できるものと思われた。本研究は、六十六部廻国行者の実態を解明するため、六十六部廻国供養塔資料を収集し、そのデータベースを作成するための基礎研究である。調査対象地域として兵庫県・岡山県を選択し、収集した資料の総数は合計539例に及んだ。これらの資料は様々な情報を含み、そのうち建立年・所在地・立地・像容・銘文などがデータベースに盛り込む情報として必要だと考えた。廻国供養塔のデータベース作成に関しては、当初市販のデータベースソフトの利用を想定し、この方針に沿ってデータベースを試作した。しかし、データベースソフトなど同一の環境がない場合、田中・小嶋両者の間でもデータ交換に支障が生じる結果となった。そのため急遽、市販のソフトの利用を放棄し、作成およびその利用が容易であるとの見地から、CSV形式のテキストファイルでのデータベース作成を目指した。完成したデータベースを試験的に利用した結果、廻国供養塔造立年代・造立目的・種子の種類とその出現件数などを統計的に分析することが可能となった。さらに資料の銘文のうち、願主と助力者に関しては、特定の人物が複数の廻国供養塔造立に関与している事例が14例みられ、しかも彼らの中には遠方の者も含むことから、廻国供養を補佐する情報ネットワーク、さらには組織さえあったのではないかと推測できた。このようにして全国的に廻国供養塔資料のデータベース化ができれば、六部の活動もかなりの範囲で解明できるものと思われた。本年度は、1)兵庫・岡山両県における既往の供養塔調査の確認、2)現地調査、3)六十六部に関する研究論文の収集を行った。1)両県内での近世の石造物調査実施の有無、調査が実施されている場合の資料の公開など調査状況を確認するため、両県内の各自治体教育委員会に対してアンケート調査を行った。兵庫県では90余の自治体にアンケートを配布し、約6割の回答を得た。そのうち姫路市、養父郡・美方郡・神崎郡などで石造物調査が実施され、調査結果中に六十六部供養塔を確認できた。岡山県では80余の自治体にアンケートを配布し、約7割の回答を得た。そのうち岡山市・総社市・勝田郡・英田郡の各自治体で石造物調査が行われ、調査結果の中に六十六部供養塔を確認できた。2)岡山県津山市周辺を一事例として現地調査を実施し、主要街道沿いに六十六部供養塔が多く建立され、街道沿いには六十六部行者の設けた庵室を認めた。六十六部供養塔の設置場所を考える上で示唆に富むものであった。3)六十六部に関する研究論文の収集は、国立国会図書館や兵庫県立図書館、岡山県総合文化センターなどにおいて行った。以上、研究を推進してきたが、問題点や課題も多い。既往の石造物調査は、六十六部供養塔の所在確認には有益であるが、寄進者名の省略、主文言の不明確さなど、現地で再確認しなければならない点もみられた。来年度は可能な限り現地調査を実施し、不明な点を解明してより正確な資料を得るとともに、資料のデータベース化にむけて研究を進めたい。本研究は、六十六部廻国行者の実態を解明するため、六十六部廻国供養塔資料を収集し、そのデータベースを作成するための基礎研究である。調査対象地域として兵庫県・岡山県を選択し、収集した資料の総数は合計539例に及んだ。これらの資料は様々な情報を含み、そのうち建立年・所在地・立地・像容・銘文などがデータベースに盛り込む情報として必要だと考えた。廻国供養塔のデータベース作成に関しては、当初市販のデータベースソフトの利用を想定し、この方針に沿ってデータベースを試作した。しかし、データベースソフトなど同一の環境がない場合、田中・小嶋両者の間でもデータ交換に支障が生じる結果となった。そのため急遽、市販のソフトの利用を放棄し、作成およびその利用が容易であるとの見地から、CSV形式のテキストファイルでのデータベース作成を目指した。 | KAKENHI-PROJECT-08610325 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08610325 |
六十六部廻国供養塔のデータベース構築に向けての基礎研究 | 完成したデータベースを試験的に利用した結果、廻国供養塔造立年代・造立目的・種子の種類とその出現件数などを統計的に分析することが可能となった。さらに資料の銘文のうち、願主と助力者に関しては、特定の人物が複数の廻国供養塔造立に関与している事例が14例みられ、しかも彼らの中には遠方の者も含むことから、廻国供養を補佐する情報ネットワーク、さらには組織さえあったのではないかと推測できた。このようにして全国的に廻国供養塔資料のデータベース化ができれば、六部の活動もかなりの範囲で解明できるものと思われた。 | KAKENHI-PROJECT-08610325 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08610325 |
携帯電話利用の深化とその社会的影響に関する国際比較研究 | 日韓台の携帯電話及びインターネットの利用実態を調査した結果、日韓台ともにほぼ同じ頃に急速に普及したという点では同じであるが、その利用形態には大きな違いがみられることを実証することができた。また、これらの通信メディアの使い分けは、各国・地域のコミュニケーション文化を色濃く反映する「通信文化」と呼ぶべきものが存在し、それに強く規定されていることがわかった。たとえば、韓国では、携帯電話を通話に使うことが非常に多く、日本では通話よりメールがよく使われている。この背景には、親しい人への連絡手段の選択に際して、相手が置かれている状況への配慮をどの程度すべきかというコミュニケーション文化の違いがある。韓国の場合は、「ウリ」と呼ばれる親しい集団の間では、遠慮をすることがあってはならないという文化があり、通信手段の選択に関しても遠慮しないことが求められ、その結果、リッチネスが高いメディアである、通話が積極的に使われる。これに対して日本では、親しい人への連絡に際しても、相手への配慮を欠いてはいけないとする「抑制」のコミュニケーション文化があり、このためメールが多用されるのである。また、日台の携帯電話利用の比較をしてみると、もっとも大きな違いは、利用の効用として「家族とのコミュニケーションが増えた」ことをあげる人の割合が日本では少ないのに対して、台湾では非常に多いことがあげられる。携帯電話利用がその社会でもっとも親しい集団の凝集力を強化する働きがあるという点では共通しているが、それがどの集団化ということになると、台湾では家族であり、日本ではふだんよく会う友人集団、韓国では「ウリ」という仲間集団ということになるのである。以上述べたように、日韓台の比較調査により、それぞれの国や地域に固有な通信文化が存在し、それが携帯電話を含む通信メディアの使い分けを規定していることがわかった。日韓台の携帯電話及びインターネットの利用実態を調査した結果、日韓台ともにほぼ同じ頃に急速に普及したという点では同じであるが、その利用形態には大きな違いがみられることを実証することができた。また、これらの通信メディアの使い分けは、各国・地域のコミュニケーション文化を色濃く反映する「通信文化」と呼ぶべきものが存在し、それに強く規定されていることがわかった。たとえば、韓国では、携帯電話を通話に使うことが非常に多く、日本では通話よりメールがよく使われている。この背景には、親しい人への連絡手段の選択に際して、相手が置かれている状況への配慮をどの程度すべきかというコミュニケーション文化の違いがある。韓国の場合は、「ウリ」と呼ばれる親しい集団の間では、遠慮をすることがあってはならないという文化があり、通信手段の選択に関しても遠慮しないことが求められ、その結果、リッチネスが高いメディアである、通話が積極的に使われる。これに対して日本では、親しい人への連絡に際しても、相手への配慮を欠いてはいけないとする「抑制」のコミュニケーション文化があり、このためメールが多用されるのである。また、日台の携帯電話利用の比較をしてみると、もっとも大きな違いは、利用の効用として「家族とのコミュニケーションが増えた」ことをあげる人の割合が日本では少ないのに対して、台湾では非常に多いことがあげられる。携帯電話利用がその社会でもっとも親しい集団の凝集力を強化する働きがあるという点では共通しているが、それがどの集団化ということになると、台湾では家族であり、日本ではふだんよく会う友人集団、韓国では「ウリ」という仲間集団ということになるのである。以上述べたように、日韓台の比較調査により、それぞれの国や地域に固有な通信文化が存在し、それが携帯電話を含む通信メディアの使い分けを規定していることがわかった。今年度は日本における携帯電話利用実態を全国調査により明らかにするとともに、来年度以降に実施予定の海外における携帯電話利用実態調査のための予備調査を実施する計画であった。日本における実態調査は2001年11月から12月にかけて実施し、全国の1,878人の方にご協力を頂くことができ、現在、データ分析中である。今年度中に第1次の分析結果をとりまとめる予定である。また、海外予備調査は、アメリカ、フィンランド、フランスの3ヶ国に研究者を派遣し、携帯電話研究者と意見交換等を行った。その結果、これらの国における携帯電話の利用実態と研究動向を明らかにすることができた。また、韓国の携帯電話の利用実態についても、先行して調査研究を行った研究者から詳しい話を聞いた。この予備的調査に基づき、次年度以降に調査対象とする外国の選定、調査の実施及び分析(日本との比較等)を行う予定である。なお、この調査計画を詰めるため、合計7回にわたる会議・打ち合わせを開催した。今年度は、昨年度実施した日本国内における携帯電話利用実態調査を受け、海外での携帯電話利用実態調査を実施した。比較する国の選定を様々な角度から検討し、ブロードバンド・インターネットがもっとも普及しており、かつ携帯電話利用率も非常に高い韓国に決定した。まず、韓国の携帯電話利用に関する既存調査データの収集や文献調査を行い、その後、昨年8月末に韓国を訪問し、定量調査に必要な様々な情報を得るために、グループインタビューを行った。グループインタビューは高校生、大学生、主婦、フルタイム勤務者の4つのグループについて行い、きわめて興味深い結果が得られた。その結果に基づき、昨年12月、韓国全土を対象にしたアンケート調査を訪問面接法(一部留め置き法を併用)により実施した。回収数は約1,500であり、昨年度実施した日本調査との比較をする上で充分な数を確保することができた。 | KAKENHI-PROJECT-13410057 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13410057 |
携帯電話利用の深化とその社会的影響に関する国際比較研究 | アンケート調査の結果、韓国における携帯電話利用は、日本と多くの点で共通点があるものの、日本よりはるかに通話のための利用が多く、また、携帯インターネットの利用が少ない等といった違いが見られた。これらの違いの背景には、制度(通信サービスヘの規制、携帯メールの相互通信)、技術(携帯端末、PCメールなどの競合技術)、文化(儒教的価値観や親子関係等)の違いなどがあるものと考えられる。他方、日本国内における携帯電話利用の影響を継続的に詳しく調べるため、若者や主婦を主たる対象とするデプスインタビューを昨年度に引き続き行った。これらの成果については、今年度にとりまとめる予定である。今年度は、一昨年度に実施した日本国内における携帯電話利用実態調査及び昨年度に行った韓国における携帯電話とインターネットに関する利用実態調査を受け、台湾における携帯電話及びインターネット利用に関する実態調査を実施した。まず、台湾における携帯電話及びインターネットの利用に関する既存調査データの収集や文献調査を行い、その後、昨年8月と9月に2つのグループに分かれ台湾を訪問し、定量調査に必要な様々な情報を得るために、グループインタビューを行うと同時に台湾のメディア研究者との意見交換を行った。グループインタビューは高校生、大学生、主婦、フルタイム勤務者の4つのグループについて行い、きわめて興味深い結果が得られた。その結果に基づき、昨年11月12月にかけて、台湾全土を対象にしたアンケート調査を台湾中央研究院の協力を得て、訪問面接法で実施した。回収数は1,002であり、一昨年度に実施した日本調査や昨年度実施した韓国調査との比較をする上で充分な数を確保することができた。アンケート調査の結果、台湾における携帯電話利用は、日本や韓国と多くの点で共通点があるものの、日本よりはるかに通話のための利用が多く、また、携帯インターネットの利用がきわめて少ない等といった違いが見られた。これらの違いの背景には、制度(通信サービスへの規制、携帯メールの相互通信)、技術(携帯端末、PCメールなどの競合技術)、文化(特に対人関係)の違いなどがあるものと考えられる。なお、台湾調査の結果は報告書としてとりまとめた。他方、日本国内における携帯電話利用の影響を継続的に詳しく調べるため、若者や主婦を主たる対象とするデプスインタビューを昨年度に引き続き行い、その成果を冊子にまとめた。 | KAKENHI-PROJECT-13410057 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13410057 |
イノシシ属の古DNA解析を用いた、先史人類の島への移動と適応の解明 | 太平洋の島々への先史人類の移動と適応を探るため、先史人類に食料として運搬される機会が多かったイノシシ・ブタのDNAを解析した。琉球列島の野生イノシシであるリュウキュウイノシシは全ての島の個体が遺伝的に近く、同一系統に由来する事が示唆された。しかし琉球列島の先史遺跡を対象とした古代DNA解析では、リュウキュウイノシシと異なる系統に属す個体が検出された。これらから、琉球列島では先史時代にイノシシ属を伴う人類の移動があった可能性が考えられた。先史人類の移動の経路や時期を探るため琉球列島の周辺地域の遺跡出土試料の古代DNA解析も試みたが、試料の状態が悪くDNAを増幅できなかった。太平洋島嶼地域を舞台とした先史人類の移動や適応の解明が本研究の目的である。本研究では先史人類の移動や資源の持ち込みをイノシシとブタ(Sus scrofa、以下イノシシ属)に着目して探る。先史遺跡から出土するイノシシ属の骨を用いたAncient DNA(古代DNA)解析を行うため、平成26年11月に沖縄県立埋蔵文化財センターにて白保竿根田原洞穴遺跡から出土したイノシシ属の骨を対象にDNAサンプリングを行った(立会:波木基真氏・藤田祐樹氏)。同年12月には国立民族学博物館でミクロネシアのファイス島先史遺跡から出土したブタの骨からDNA試料を採取した(立会:印東道子氏)。さらに平成27年3月にはベトナム社会科学院(ハノイ)に収蔵されている先史遺跡出土のイノシシ属骨からDNA試料を採取した(立会:Nguyen Thi Mai Huong氏)。ハノイでの調査の際は、ベトナムのイノシシ集団の遺伝的特徴を把握する目的で、同機関に収蔵されている現生骨格標本を用いたDNAサンプリングも実施した。なお、平成26年6月に所属機関が変わったため、新しく古代DNA解析用の実験施設をセットアップした。資料保管用の冷凍庫や実験機器の設置にくわえて、施設内と実験機器のDNAコンタミネーション対策を講じた。古代DNA解析を目的としたDNAサンプリングと並行して、これまでに採取した現生リュウキュウイノシシ試料のDNA解析を行い、解析結果を国内学会および国際学会で発表した。2014年9月にSan Rafael(アルゼンチン)で開催された国際考古動物学会第12回大会(ICAZ 2014)でポスター発表を行った。また同年11月には第68回日本人類学会大会(浜松)でポスター発表を、日本動物考古学会第2回大会(若狭三方縄文博物館)で口頭発表を行った。太平洋島嶼域を舞台に先史人類がどのように移動・適応したか探る事が本研究の目的である。先史人類の移動の指標については食料として盛んに利用されたイノシシやブタに着目し、遺跡から出土した骨と現生個体のDNA解析を行う。本年度は海外の遺跡出土資料の解析としてベトナムのHang Cho遺跡(約10,000年前)とMan Bac遺跡(約3,500年前)の解析(各22個体)を実施した。しかしその保存状態の悪さからDNA解析の成功率は極めて低く、遺跡で利用されていたイノシシ・ブタの遺伝的特徴を十分に把握できなかった。そこで2016年2月にベトナム考古学院を訪ね追加資料のDNAサンプリングを実施した。これらの追加資料の解析は平成28年度に実施する。これに加えて琉球列島に生息する野生イノシシであるリュウキュウイノシシ(現生個体)のDNA解析を行った。リュウキュウイノシシが生息する全ての島由来のDNA資料(肉片や骨)を野外調査で採集し、ミトコンドリアDNAの解析を行った。この結果全ての島の個体は遺伝的に近縁であり、同一の系統に由来する野生イノシシ集団である事が強く示唆された。琉球列島の遺跡出土資料を扱った過去のDNA解析では、前述したリュウキュウイノシシと遺伝的に異なる特徴を持つ個体が複数遺跡で検出されている。本解析結果と先行研究の結果を照らし合わせ、先史時代の琉球列島では人類によるイノシシ・ブタの持ち運びが生じていた可能性を示した。本研究成果は論文として公表した。平成27年度はベトナムの遺跡出土資料の解析を主に行ったが、その保存状態は非常に悪く、同遺跡の資料について複数の解析手法を試みる事となった。このため当初予定していた他の遺跡出土試料の解析が遅れたほか、ベトナムの遺跡出土試料については追加試料のサンプリングと再解析の必要が生じた。これらから「やや遅れている」と判断した。再解析の際は次世代シーケンサー解析などを利用し、解析成功率や解析精度の向上を目指す。解析に用いる資料のサンプリング状況は順調である。ミクロネシアのファイス島先史遺跡や琉球列島の先史遺跡由来の資料の採集は既に済んでいるため、平成28年度に解析を進める。先史人類が太平洋島嶼域を移動した時期や経路を探り、ヒトの島への適応を考察する事が目的である。古くからヒトに食料として利用されたイノシシ・ブタに着目し、その運搬時期や経路を、現生試料と先史遺跡由来の骨のDNA解析から検証した。期間全体を通じ、まず琉球列島での運搬を検証した。具体的には1琉球列島の野生イノシシ(リュウキュウイノシシ)の現生試料、および2先史遺跡出土の骨のDNAを解析した。1は遺跡出土試料の比較情報として重要で、本研究では生息する全ての島の個体を初めて解析した。この結果リュウキュウイノシシは1つの系統に由来する集団である事が示唆された。最終年度は奄美大島や徳之島、沖縄島で追加解析を行い、集団に地理的隔離が生じている可能性を示した。 | KAKENHI-PROJECT-26840157 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26840157 |
イノシシ属の古DNA解析を用いた、先史人類の島への移動と適応の解明 | 本成果を基に、今後の解析では各島の集団が成立した時期を検証できる。2では奄美群島、沖縄島、宮古島、石垣島の出土試料を解析し、複数の先史遺跡でリュウキュウイノシシと遺伝的に異なる系統に属す個体を検出した。1の成果と合わせると、別系統の個体は先史人類によるイノシシ・ブタ運搬に由来する可能性がある。また考古学の知見と融合すると、複数の運搬経路があった事も考えられた。最終年度は徳之島や石垣島の出土試料を解析したが、多くはDNAの保存状態が悪く、ミトコンドリア(mt)DNA断片を増幅できなかった。また3海外諸地域でのイノシシ・ブタ運搬を探るためベトナムのHang Cho遺跡やMan Bac遺跡、ミクロネシアのFais島先史遺跡の試料を解析した。最終年度を含む全期間を通じ解析を複数回繰り返したが、mtDNA断片を増幅できなかった試料が多かった。増幅できなかった物を含む全てのDNA試料は、次世代シーケンサー(NGS)解析により遺伝情報を詳細に得られる可能性がある。今後は本研究で収集した抽出済みDNAを活用し、NGSによる再解析を行う。太平洋の島々への先史人類の移動と適応を探るため、先史人類に食料として運搬される機会が多かったイノシシ・ブタのDNAを解析した。琉球列島の野生イノシシであるリュウキュウイノシシは全ての島の個体が遺伝的に近く、同一系統に由来する事が示唆された。しかし琉球列島の先史遺跡を対象とした古代DNA解析では、リュウキュウイノシシと異なる系統に属す個体が検出された。これらから、琉球列島では先史時代にイノシシ属を伴う人類の移動があった可能性が考えられた。先史人類の移動の経路や時期を探るため琉球列島の周辺地域の遺跡出土試料の古代DNA解析も試みたが、試料の状態が悪くDNAを増幅できなかった。平成26年度は所属機関の変更に伴い、古代DNA解析用の実験施設を新たに設置する必要が生じた。このため平成26年度に予定していた先史遺跡出土資料の解析が遅れている。しかし研究計画を調整し、ファイス島先史遺跡出土資料や沖縄県の先史遺跡出土資料など、平成27年度以降に予定していた資料のDNAサンプリングを先に実施した。この研究計画の調整により平成27年度の実験期間を当初の計画より長く設定する事ができたため、おおむね順調に進展していると判断した。平成27年度の調査で追加サンプリングしたベトナムの先史遺跡出土資料のDNA解析をまず実施する。続いてミクロネシアのファイス島先史遺跡出土資料、琉球列島の先史遺跡出土資料等の解析を行う。DNA解析の結果に年代測定や同位体分析の結果、考古学の知見等を合わせ、先史人類の移動の時期や経路、イノシシやブタが先史人類の島への移動や適応にどのように貢献したのかといった事を考察する。動物考古学平成27年度は、前年度にDNAサンプリングを行った先史遺跡出土のイノシシ属の古代DNA解析を優先して行う。各地域や時代のイノシシ属の遺伝的特徴を、データベース情報や自身の解析結果と比較する事で、ヒトがイノシシ属を伴って移動した時期や地域を検討する。また現生集団の遺伝的特徴の把握や、古代DNA解析の際の比較情報の充実化を目的に、現生資料を用いたDNA解析も引き続き行う。 | KAKENHI-PROJECT-26840157 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26840157 |
自殺者血液・死後脳におけるテロメア長およびミトコンドリアDNAコピー数の解析 | 末梢血白血球テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数は様々な精神疾患や心理社会的ストレスにより異常を来すため、精神疾患やストレスの病態機序への関連及びバイオマーカーとして注目されているが、精神疾患やストレス負荷の最悪の転帰といえる「自殺」とテロメア・ミトコンドリアDNAについての研究は未だ報告がなかった。H28年度は、自殺者末梢血・死後脳において、テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数の異常を見出すことができた。特に若年自殺者におけるテロメア短縮が顕著であった。本成果を学術雑誌Scientific Reportsにて発表した。H29年度は「若年自殺≒若年期における極度のストレス暴露状態」と捉えることにより、幼若期ストレスを負荷したラットをモデル動物として準備し、同ストレスラットの脳・血液試料のテロメア長・ミトコンドリアDNAコピー数を測定した。幼若期ストレスラットの前頭前皮質や海馬のテロメア長は対照群に比して顕著に短縮していた。H30年度は、反復拘束ストレスラットの系でも同様の測定を行い、末梢血にてミトコンドリアDNAコピー数の異常を認めた。また幼若期ストレスラット海馬にてテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のmRNA/タンパク発現が低下していることを確認した。現在、自殺者死後脳・末梢血試料におけるテロメア関連の遺伝子領域(TERT、TERC)のCpGサイト(特にCpGアイランド)についても網羅的メチル化アレイやメチル化特異的定量PCRにて測定し、非自殺者群との比較を行っているところである。末梢血白血球テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数は様々な精神疾患や心理社会的ストレスにより異常を来すため、精神疾患やストレスの病態機序への関連及びバイオマーカーとして注目されているが、精神疾患やストレス負荷の最悪の転帰といえる「自殺」とテロメア・ミトコンドリアDNAについての研究は未だ報告がない。我々は予備的研究において、女性自殺既遂者の白血球テロメア長が異常に短縮している現象を見出した。我々は世界にも類を見ない規模の自殺既遂者の末梢血サンプルおよび死後脳サンプルを保有しており、末梢血・死後脳サンプルのテロメア長測定、テロメア長制御遺伝子の遺伝子多型・DNAメチル化解析、ミトコンドリアDNAコピー数の測定、さらに幼若期ストレスや反復拘束ストレスを負荷したストレスモデルラットの脳・血液試料を用いた多角的な解析を計画した。H28年度は、508例の自殺者末梢血および20例の自殺者死後脳について、テロメア長・ミトコンドリアDNAコピー数を測定し、同規模の健常対照群サンプルと比較したところ、自殺者末梢血・死後脳において顕著なテロメア短縮を認めた。ミトコンドリアDNAコピー数については、自殺者末梢血で顕著に増加し、自殺者死後脳では顕著に低下していた。若年かつ女性であるほど、自殺者の末梢血テロメア短縮は対照群に比して顕著であり、高齢かつ男性であるほど、自殺者の末梢血ミトコンドリアDNAコピー数増加は対照群に比して顕著である傾向がみられた。すでにヒト末梢血・死後脳サンプルのテロメア長・ミトコンドリアDNAコピー数の解析が終了し、興味深いデータを得ることができている。また幼若期ストレス・反復拘束ストレスラットおよび対照群ラットの前頭前皮質・海馬・扁桃体のサンプル採取も順調に進んでおり、H29年度中にはテロメア長・テロメラーゼ活性・ミトコンドリアDNAコピー数の解析を遂行できる予定である。末梢血白血球テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数は様々な精神疾患や心理社会的ストレスにより異常を来すため、精神疾患やストレスの病態機序への関連及びバイオマーカーとして注目されているが、精神疾患やストレス負荷の最悪の転帰といえる「自殺」とテロメア・ミトコンドリアDNAについての研究は未だ報告がなかった。H28年度は、自殺者末梢血・死後脳において、テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数の異常を見出すことができた。特に若年自殺者におけるテロメア短縮が顕著であった。本成果を学術雑誌Scientific Reportsにて発表した。H29年度は「若年自殺≒若年期における極度のストレス暴露状態」と捉えることにより、幼若期ストレスを負荷したラットをモデル動物として準備し、同ストレスラットの脳・血液試料のテロメア長・ミトコンドリアDNAコピー数を測定した。幼若期ストレスラットの前頭前皮質や海馬のテロメア長は対照群に比して顕著に短縮していた。最終年度は、反復拘束ストレスラットの系でも同様の測定を行い、またテロメラーゼ逆転写酵素の発現についても解析する。また自殺者死後脳・末梢血試料におけるテロメア関連の遺伝子領域(例:テロメラーゼ逆転写酵素、テロメラーゼRNAコンポーネント)のCpGサイト(特にCpGアイランド)についても測定し、非自殺者群との比較を行う。上記データをまとめ、最終的な考察を行う予定である。すでにヒト末梢血・死後脳サンプルのテロメア長・ミトコンドリアDNAコピー数の解析が終了し、成果を論文として発表できた。また幼若期ストレス・反復拘束ストレスラットおよび対照群ラットの前頭前皮質・海馬・扁桃体・末梢血での測定も順調に進んでいる。さらには自殺者死後脳・末梢血試料のメチル化解析も遂行中である。末梢血白血球テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数は様々な精神疾患や心理社会的ストレスにより異常を来すため、精神疾患やストレスの病態機序への関連及びバイオマーカーとして注目されているが、精神疾患やストレス負荷の最悪の転帰といえる「自殺」とテロメア・ミトコンドリアDNAについての研究は未だ報告がなかった。 | KAKENHI-PROJECT-16K19766 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K19766 |
自殺者血液・死後脳におけるテロメア長およびミトコンドリアDNAコピー数の解析 | H28年度は、自殺者末梢血・死後脳において、テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数の異常を見出すことができた。特に若年自殺者におけるテロメア短縮が顕著であった。本成果を学術雑誌Scientific Reportsにて発表した。H29年度は「若年自殺≒若年期における極度のストレス暴露状態」と捉えることにより、幼若期ストレスを負荷したラットをモデル動物として準備し、同ストレスラットの脳・血液試料のテロメア長・ミトコンドリアDNAコピー数を測定した。幼若期ストレスラットの前頭前皮質や海馬のテロメア長は対照群に比して顕著に短縮していた。H30年度は、反復拘束ストレスラットの系でも同様の測定を行い、末梢血にてミトコンドリアDNAコピー数の異常を認めた。また幼若期ストレスラット海馬にてテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のmRNA/タンパク発現が低下していることを確認した。現在、自殺者死後脳・末梢血試料におけるテロメア関連の遺伝子領域(TERT、TERC)のCpGサイト(特にCpGアイランド)についても網羅的メチル化アレイやメチル化特異的定量PCRにて測定し、非自殺者群との比較を行っているところである。自殺者末梢血・死後脳サンプルの解析において、テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数の異常を見出すことができた。今後はテロメアやミトコンドリアの機能に関わるとされる遺伝子のSNPやメチル化領域の解析や、ストレスラットモデルを用いた解析を追加し、「自殺とテロメア・ミトコンドリア異常」の分子生物学的機序にアプローチしていくことを目標とする。本研究にて得られた成果について、今後はテロメアやミトコンドリアの機能に関わるとされる遺伝子のSNPやメチル化領域の解析を同一試料にて行うことで、「自殺とテロメア・ミトコンドリア異常」の分子生物学的機序にアプローチしていくことを目標とする。 | KAKENHI-PROJECT-16K19766 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K19766 |
聴覚におけるペリニューロナルネットの役割ー聴覚伝導路特異的Bral2の機能解析ー | Bral2は、リンクプロテイン(LP)の一種で、ヒアルロン酸(HA)結合型コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)およびHAとともに複合体を形成する。LPは、その複合体形成及び安定化に必須の分子であると考えられている。Bral2は、CSPGの中でもブレビカンと共局在する事がわかっている。これらは、成体脳ではペリニューロナルネット(PNN)と呼ばれる、神経細胞周囲の網目状構造に存在する。本研究では、聴覚伝導路において、Bral2複合体のシナプス伝達への関わりを1)シナプスの固定、2)イオンプールとしての可能性、3)イオンチャネルとの分子間相互作用という観点から解析し、聴覚伝導のメカニズムの一端を解明する事を目的とした。(I)Bral2欠損マウスにおける神経細胞体への影響(大塚・別宮)Bral2欠損マウスにおいて、PNNを構成するCSPG複合体構成分子が小脳核では局在できないことがわかっている。この神経核においてシナプスの接着等に何らかの形態的変化がないかを、電子顕微鏡での観察によって詳細に調べた。その結果、Bral2の小脳核において、単位面積当たりにおけるシナプス数が有意に減少していることが確認された。(II)Bral2タンパクの発現機構(百田・大橋)Bral2は、in situ hybridization等の結果から、mRNA発現神経細胞が投射した先の神経周囲にタンパクを産出していることが示唆されている。この発現機構を調べるために、Bral2のリコンビナントタンパクを神経細胞に発現させ、軸索輸送により投射先にタンパクが発現されるのかを解析したところ、確かに軸策輸送が観察された。軸索輸送に関与していると予測された配列を欠くリコンビナントタンパクも発現させたが、その配列によるものではないという結果が得られた。(III)Bral2欠損マウスにおけるCSPG複合体構成分子への影響(別宮)Bral2欠損マウスにおいて、聴覚伝導路におけるCSPG複合体構成分子が、各神経核または神経のサブタイプで異なる変化を示すという結果を得た。ブレビカンは、Bral2欠損マウスにおいてPNNパターンを維持できないことから、その局在はBral2に依存していることがわかった。これらCSPGの構成に関して、解析が単純であるランビエ絞輪においてその不均一性を更に解析し、その結果を論文にまとめた。現在印刷中である。Bral2は、リンクプロテイン(LP)の一種で、ヒアルロン酸(HA)結合型コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)およびHAとともに複合体を形成する。LPは、その複合体形成及び安定化に必須の分子であると考えられている。Bral2は、CSPGの中でもブレビカンと共局在する事がわかっている。これらは、成体脳ではペリニューロナルネット(PNN)と呼ばれる、神経細胞周囲の網目状構造に存在する。本研究では、聴覚伝導路において、Bral2複合体のシナプス伝達への関わりを1)シナプスの固定、2)イオンプールとしての可能性、3)イオンチャネルとの分子間相互作用という観点から解析し、聴覚伝導のメカニズムの一端を解明する事を目的とした。(I)Bral2欠損マウスにおける神経細胞体への影響(大塚・別宮)Bral2欠損マウスにおいて、PNNを構成するCSPG複合体構成分子が小脳核では局在できないことがわかっている。この神経核においてシナプスの接着等に何らかの形態的変化がないかを、電子顕微鏡での観察によって詳細に調べた。その結果、Bral2の小脳核において、単位面積当たりにおけるシナプス数が有意に減少していることが確認された。(II)Bral2タンパクの発現機構(百田・大橋)Bral2は、in situ hybridization等の結果から、mRNA発現神経細胞が投射した先の神経周囲にタンパクを産出していることが示唆されている。この発現機構を調べるために、Bral2のリコンビナントタンパクを神経細胞に発現させ、軸索輸送により投射先にタンパクが発現されるのかを解析したところ、確かに軸策輸送が観察された。軸索輸送に関与していると予測された配列を欠くリコンビナントタンパクも発現させたが、その配列によるものではないという結果が得られた。(III)Bral2欠損マウスにおけるCSPG複合体構成分子への影響(別宮)Bral2欠損マウスにおいて、聴覚伝導路におけるCSPG複合体構成分子が、各神経核または神経のサブタイプで異なる変化を示すという結果を得た。ブレビカンは、Bral2欠損マウスにおいてPNNパターンを維持できないことから、その局在はBral2に依存していることがわかった。これらCSPGの構成に関して、解析が単純であるランビエ絞輪においてその不均一性を更に解析し、その結果を論文にまとめた。現在印刷中である。 | KAKENHI-PROJECT-22591879 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22591879 |
細胞周期調節タンパクを分子標的とする造血系悪性腫瘍増殖制御法の開発 | 本研究計画における細胞周期研究では、有糸分裂制御メカニズムを分子レベルで解析することによって、造血系細胞腫瘍の増殖および拡大を制御する新たな標的分子を探索し、腫瘍性増殖を誘導する新たなカスケードを提唱することができた。特に、伴侶動物の肥満細胞腫やリンパ腫・白血病細胞の有糸分裂におけるG1/Sチェックポイント調節タンパクの発現動態やその相互作用を分子レベルで解析、細胞増殖の抑制に重要な標的分子を見出すとともに、新規薬物による治療効果を検討した。本研究計画における細胞周期研究では、有糸分裂制御メカニズムを分子レベルで解析することによって、造血系細胞腫瘍の増殖および拡大を制御する新たな標的分子を探索し、腫瘍性増殖を誘導する新たなカスケードを提唱することができた。特に、伴侶動物の肥満細胞腫やリンパ腫・白血病細胞の有糸分裂におけるG1/Sチェックポイント調節タンパクの発現動態やその相互作用を分子レベルで解析、細胞増殖の抑制に重要な標的分子を見出すとともに、新規薬物による治療効果を検討した。1)ヒト、齧歯類、及びイヌの造血系腫瘍(白血病あるいは肥満細胞腫細胞)株を用いて、細胞周期調節タンパクの発現及び相互作用の網羅的解析を進めている。特に、G1/Sチェックポイント調節分子であるD型サイクリンやそれによって機能調節を受けるサイクリン依存性キナーゼに閲し、各細胞腫による発現動態や結合・相互作用の違いをウエスタンブロット法や共役免疫沈降法によって検出を行っている。2)異常な細胞の増殖を抑制するCip/Kipファミリーサイクリン依存性キナーゼ阻害因子について解析を進めており、p21Cip1の発現調節異常、p27Kip1の遺伝子異常、p53ガン抑制遺伝子の発現低下・遺伝子異常などを見いだしている。また特に、p21Cip1のメチル化特異的PCR解析を実施している。3)イヌ臨床症例サンプルにおいて、D型サイクリンなどの検出を実施し、リンパ腫ではサイクリンD1/2、肥満細胞腫ではサイクリンD3の発現亢進が確認されている。4)上記の研究結果に従い、(株)アルファジェン(旧(株)ジェノファンクション)の協力を得て、D型サイクリンに対するsmall interference RNAを設計し、導入試験の準備を行っている。すなわち、GFP発現ベクターのイヌ細胞株への導入を様々な方法で実施し、エレクトロポーレーション法において十分な導入効率が得られることを確認した。本研究により得られた成果に閲し、平成18年第44回日本度癌治療学会総会、並びに平成18年度第142回日本獣医学会学術集会にて、いずれも口頭発表を行った。特に、第142回日本獣医学会学術集会では、臨床分科会主催のシンポジウムにおける招待講演として研究成果を発表している。これまでの研究結果をもとに、平成19年度はさらに造血系腫瘍における細胞周期謂節タンパクの発現制御機構およびガン抑制遺伝子の発現動態の解析を進めた。1)造血系腫瘍細胞株におけるG1/Sチェックポイント制御機構の解析造血系腫瘍細胞株ではD型サイクリンの発現が強発現しており、細胞周期の進行に関与していることを明らかにしているが、サイクリンは、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)と結合することで、細胞周期を促進する転写因子の活性化を誘導する。そこで、白血病および肥満細胞腫細胞株において、D型サイクリンと特異的に結合するサイクリン依存性キナーゼを共役沈降法によって探索し、G1/Sチェックポイントにおける細胞周期の進行に関与するCDK-D型サイクリン複合体を明らかにした。2)D型サイクリン発現制御因子のプロモーター領域CpGアイランドにおけるDNAメチル化の解析D型サイクリンを抑制するCip/Kipファミリーサイクリン依存性キナーゼ阻害因子の白血病および肥満細胞腫細胞における発現抑制を明らかにするとともに、これら因子のDNAメチル化解析を進めた。D型サイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼに対して特異的な阻害効果を有するsiRNAについて、細胞株および臨床材料から樹立した培養系において、腫瘍性増殖抑制効果を検証している。また、転写因子NF-κBがD型サイクリンの発現誘導に強く関与していることを証明するとともに、NF-κB活性の阻害による細胞周期の停止と細胞増殖抑制効果を明らかにした(論文投稿中、第146回目本獣医学会発表予定)。1)ヒト、齧歯類、及びイヌの造血系腫瘍(白血病あるいは肥満細胞腫細胞)株における細胞周期調節タンパクの発現及び相互作用の解析を免疫沈降法を用いて進めた。特に、G1/Sチェックポイント調節分子であるD型サイクリンやそれによって機能調節を受けるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)に関し、各細胞種による発現動態や結合・相互作用の違いをウエスタンブロット法や共役免疫沈降法によって検出し、肥満細胞腫細胞においてサイクリンD3とCDK2あるいは4の結合が主要な細胞周期進行因子であることを見いだした。しかし、イヌのリンパ腫細胞では、ヒト白血病細胞と同様にサイクリンD2も強く発現しており、転写因子NF-kappaBの活性化によって発現が誘導されていることを明らかにした。イヌ肥満細胞腫でも、細胞株によってはサイクリンD2およびD3の発現が強く誘導されており、これらD型サイクリンとCDK2、4、あるいは6が結合して細胞周期の進行を制御していることが明らかとなった。これらの成果は、学会発表するとともに、論文化して現在投稿中である。2)異常な細胞の増殖を抑制するCip/Kipファミリーサイクリン依存性キナーゼ阻害因子について解析を進め、p21Cip1およびp27Kip1の発現低下を見いだした。p27Kip | KAKENHI-PROJECT-18380187 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18380187 |
細胞周期調節タンパクを分子標的とする造血系悪性腫瘍増殖制御法の開発 | 1は転写因子NF-kappaBの活性を抑制することで発現が回復したが、p21Cip1ではそのような現象が認められなかったことから、p27Kip1はNF-kappaBの下流で発現調整を受けているものと考えられた。3)肥満細胞腫および白血病細胞におけるミトコンドリア関連アポトーシス調節因子Bcl-2ファミリータンパクの発現および相互作用について網羅的に解析を進めた。アポトーシス抑制性タンパクとしてMcl-1の高発現を見出し、この発現がNF-kappaBの活性抑制により低下すること、並びにMcl-1抑制因子であるBimの発現が亢進しミトコンドリアにおけるアポトーシス耐性が解除されることをあきらかにした。これらの成果は学科発表するとともに、論文化し現在投稿中である。 | KAKENHI-PROJECT-18380187 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18380187 |
妻の通勤時間・居住地決定権と妻の賃金に関する研究 | 仕事を持つ妻の通勤時間は夫に比べて短い。既存研究ではその理由として、妻の賃金が夫に比べて相対的に低く、家事責任が相対的に重いことを挙げている。しかし、本研究では賃金の高い妻の通勤時間も短くなるのに対し、中間的な賃金に直面する妻の通勤時間は長くなることを理論的に示す。すなわち、妻の通勤時間は賃金に対して最初増加し、やがて減少してゆく可能性がある。常勤で働く妻の個票を利用し、上記仮説を実証的に検証したところ、仮説を支持する結果を得た。さらに、高賃金の妻は家事責任が重いにもかかわらず、通勤時間が短い結果、余暇時間を確保していることが実証結果から確認された。仕事を持つ妻の通勤時間は夫に比べて短い。既存研究ではその理由として、妻の賃金が夫に比べて相対的に低く、家事責任が相対的に重いことを挙げている。しかし、本研究では賃金の高い妻の通勤時間も短くなるのに対し、中間的な賃金に直面する妻の通勤時間は長くなることを理論的に示す。すなわち、妻の通勤時間は賃金に対して最初増加し、やがて減少してゆく可能性がある。常勤で働く妻の個票を利用し、上記仮説を実証的に検証したところ、仮説を支持する結果を得た。さらに、高賃金の妻は家事責任が重いにもかかわらず、通勤時間が短い結果、余暇時間を確保していることが実証結果から確認された。就業している既婚女性の通勤時間は,家事労働時間のため短いとされる.ただし,これらの時間は女性が自由に意志決定できるにもかかわらず,これまでの理論や実証研究の多くは,どちらか一方を外生的に扱ってきた.また,既婚女性の短時間通勤はパートタイム労働者については当てはまるかもしれないが,フルタイム就業者については当てはまらないかもしれない.なぜなら,高賃金を得るフルタイム就業者は男性同様通勤時間が長くなる可能性があるからである.これらのことを念頭に,本研究では正社員として就業している既婚女性の通勤時間が賃金の上昇とともにどのように変化するか,賃金上昇が通勤時間と家事労働時間のトレードオフ関係にどのような影響をもたらすかを理論的・実証的に分析した.理論分析の結果,通勤時間は賃金が上がり始めると,当初は長くなるが,やがて短くなることが示された.高賃金の妻が長時間通勤を嫌うのは,通勤時間によって失われる機会費用(賃金)を気にすると同時に家事労働時間を確保するためである.家事労働時間については,賃金が上昇するに連れ当初は減少するが,やがて増加していく.すなわち,低賃金と高賃金の間の妻は,長時間通勤のため,家事の労働生産性が低下し,家事労働時間を確保できない.この点は賃金の上昇が家事労働時間を一方的に減らすとする既存の理論分析と大きく異なっている.1993年度の『消費生活に関するパネル調査』の個標データを用いて,正社員の既婚女性の通勤時間と家事労働時間をそれぞれ賃金とその二乗に回帰したところ,通勤時間は賃金の上昇と共に増加するが,やがて減少に転じ,家事労働時間は逆のパターンにあることが示された.これらの結果は,上記に示した理論的な結果と整合的である.本研究では正社員として就業している既婚女性の通勤時間が賃金の上昇とともにどのように変化するか,賃金上昇が通勤時間と家事労働時間のトレードオフ関係にどのような影響をもたらすかを理論的・実証的に分析した.理論分析の結果.通勤時間は賃金が上がり始めると,当初は長くなるが,やがて短くなることが示された.高賃金の妻が長時間通勤を嫌うのは,通勤時間によって失われる機会費用(賃金)を気にするからである.家事労働時間については,賃金が上昇するに連れ当初は減少するが,やがて増加していく.すなわち,低賃金と高賃金の間の妻は,長時間通勤のため,家事の労働生産性が低下し,家事労働時間を確保できない,この点は賃金の上昇が家事労働時間を一方的に減らすとする既存の理論分析と大きく異なっている.1993年度の『消費生活に関するパネル調査』の個標データを用いて,正社員の既婚女性の通勤時間と家事労働時間をそれそれ賃金とその二乗に回帰したところ,通勤時間は賃金の上昇と共に増加するが,やがて減少に転じ,家事労働時間は逆のパターンにあることが示された.これらの結果は,操作変数法を用いた場合も支持された.したがって,実証結果は上記に示した理論的な結果と整合的である.上記内容を国外や国内の学会や研究会で発表し,出席者などから論文を改善する上で有益なコメントを頂いた.また.補助金を利用し,共同研究者と打ち合わせを行うことができた.家計における家事負担割合は多くの国で妻が夫より高い.このような状況下で,仕事を持つ妻はどのようにして余暇時間を確保するだろうか.これに対しては仕事時間を削除する方法と,通勤時間を削除する方法が考えられる.本研究では後者の方法に着目し,正社員の妻が賃金の変化に伴い,どのように通勤時間を変化させるかを分析する.本研究が既存研究と異なる点は以下の二点である.第一に,既存研究では女性の仕事は都市に一様に分布し,妻の賃金は相対的に低いことを前提としている.低賃金を獲得するために長距離通勤することは合理的ではないため,妻の通勤時間は短くなる.しかし,本研究では仮に妻が男性と同じように,都心に立地する企業から高賃金を提供される場合も検討している.第二に,既存研究では与えられた家事負担が大きいことが妻の通勤時間を短くさせると述べているが,本研究では家事時間の一部は変化できると考えている. | KAKENHI-PROJECT-19730170 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19730170 |
妻の通勤時間・居住地決定権と妻の賃金に関する研究 | この結果,労働時間の短い妻は賃金が低い仕事を選び,通勤時間が短くなる傾向にあるが,労働時間が長く,かつ高賃金を獲得できる場合も妻の通勤時間は短くなることが示される.これは,高賃金の妻は居住地を家賃の高い職場近くに構えることができるからである.しかし,その中間の賃金の仕事を選ぶ場合は,職住が分離し,通勤時間が長くなることが示される.したがって,妻の通勤時間は,賃金の上昇に伴い最初長くなり,やがて短くなる可能性がある.1993年から2002年の「消費生活に関するパネル調査」から得られる正規雇用の妻のサンプル(N=932)を利用し,このことを実証分析したところ,上記の仮説が支持されたさらに,妻の家事時間は賃金に応じて変化せず,一日4時間程度家事をしていることが確認された.実証結果は,賃金の高い妻は,たとえ家事時間が長くても,通勤時間を短くすることで,余暇時間を確保しようとしているのに対し,中間的な賃金に直面する妻は,長時間通勤,長時間家事労働のため,余暇時間を確保できないことを示唆している. | KAKENHI-PROJECT-19730170 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19730170 |
大学生の認識的信念とコミニケーシン行動:文化的価値観からの検証 | 本研究の目的は、日本人学生の持つ認識的信念(例えば「知」への姿勢や学習観)を明らかにし、それら認識的信念と文化的価値観の関係を探ることで、日本人学生のコミュニケーション行動の特徴を解明することである。日本では認識的信念に関した研究は皆無に等しく、先行研究からの知見も限定的であることから、まず面接による探索的な調査を行い、認識的信念の全体像を明らかにした。約40名の学生を対象に集団面接を行った。逐語録を作成し、共通の社会的背景や深層心理を見つけ出す「テーマ分析」(Thematic Analysis)を行ったところ、5つのテーマを抽出することに成功した。米国での調査で見出されている認識的信念と関連性が高いテーマが見つかった一方で、文化的価値観とも関連の高い日本独自の信念があることがわかった。そこで面接調査で抽出されたテーマを基に心理尺度の開発を行った。それぞれのテーマごとに1015項目の質問項目を用意し、約600名の大学生を対象にアンケート調査を行った。一連の探索的因子分析(EFA)の結果残った20項目を対象に、確証的因子分析(CFA)を実施した。こられの20項目による5因子モデルはデータとの十分な適合度を有し、妥当性があることが示唆された。また尺度の内的整合性を示す信頼性係数(ω)は.50.65であった。認識的信念とコミュニケーション行動、またそれらの文化的価値観の関与を検証するため、共分散構造分析(SEM)を行った。コミュニケーション行動の測定には、Argumentativnenss尺度(Infante & Rancer, 1982)を、文化的価値観の測定には文化的自己観尺度(Leung & Kim, 1997)を使用した。分析の結果、コミュニケーション行動と関連性の高い認識的信念が存在し、またそこには文化的価値観の関与が示唆された。本年度は、3年間の研究期間の初年度として、以下の実績をあげた。(1)質的データの収集:大学生の認識的信念を探索的に調査するため、本年度は大学生を対象にフォーカス・グループ調査を行った。現在までに約30名の大学生からデータを収集した。質的データ収集は2005年度以降も継続し、最終的には100名程度の大学生からデータを収集したいと考えている。(2)逐語録の作成および予備的分析:現在まで収集したフォーカス・グループによる質的データは学生アルバイトによって適宜入力され、逐語録を作成している。現在までに完成した逐語録を基に予備的分析を実行中である。予備的分析のため暫定的ではあるが、学習の関心を誘発する役割としての教師の位置づけ、目的を重視した学習姿勢などこれまで米国の調査では報告されていないような信念体系を日本人学生に観ることができた。(3)ワークショップへの参加:2004年の9月にシカゴで開催された統計学のワークショップに参加した。このワークショップは項目反応理論(IRT)と呼ばれる新しいテスト理論についてのもので、質的調査の後、17年度および18年度に予定している、認識的信念の心理尺度の作成およびコミュニケーション行動との関連性を探る定量的調査でより精度の高い分析を可能にするものである。特に、異なるグループ間での心理尺度の等価性の検証、尺度の信頼性・妥当性の検証を中心により正確な統計分析を行いたい。(4)シンポジュームへの参加:2004年6月に拓殖大学で開催された第34回日本コミュニケーション学会全国大会において、"New perspectives on Japan-US communication"を題目としたシンポジュームにパネリストとして参加、比較文化研究における信頼性・妥当性の問題、また、文化のアンパッケイジングとしての認識的信念の役割について発表した。本年度は、3年間の研究期間の2年目として、以下の実績をあげた。(1)インタビューデータの分析と論文投稿準備:大学生の認識的信念を探索的に調査するために約40名の大学生を対象に面接調査を実施、被験者とのやり取りを記録した文字データにより逐語録を作成した,この逐語録をもとにテーマ分析(thematic approach)を行った結果、大学生に共通する4認識的信念が抽出された((a)暗記についての意識、(b)教師の役割、(c)判断基準、(d)真実の捉えかた)。これらの4信念と米国の調査結果を比較すると、(a)から(c)の3信念は知識の獲得に関する信念(nature of knowing)、(d)の信念は知識自体に関する信念(nature of knowledge)に相当すると考えられる。(2)心理尺度の作成、アンケート調査および論文投稿準備:インタビュー調査の結果を受けて、各テーマに沿うように約80の質問項目を作成した。これらの質問項目に対して約80名の学生を対象に予備調査を実施、各項目の明瞭さの度合いを5件法で尋ねた。また各テーマと質問項目の内容が一致しているか、内容的妥当性を専門家2名によって検証した。これらの2段階のスクリーニングによって残った22の質問項目を対象にデータを収集、確証的因子分析を行った結果、データとモデル間に高い適合性が示され、概念的妥当性が認められた(x^2=820.98,p<0.001,GFI=0.924,AGFI=0.905,RMSEA=0.055)。また各因子別の尺度の信頼性を示すω係数は、暗記=0.57、教師=0.56、判断=0.55、真実=0.71であった。(3)多文化関係学会全国大会での論文 | KAKENHI-PROJECT-16730412 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16730412 |
大学生の認識的信念とコミニケーシン行動:文化的価値観からの検証 | 発表:2005年11月に名古屋学院大学で開催された第4回多文化関係学会全国大会に参加し、面接調査で明らかになった4認識的信念および学習への影響などを報告した。本研究の目的は、日本人学生の持つ認識的信念(例えば「知」への姿勢や学習観)を明らかにし、それら認識的信念と文化的価値観の関係を探ることで、日本人学生のコミュニケーション行動の特徴を解明することである。日本では認識的信念に関した研究は皆無に等しく、先行研究からの知見も限定的であることから、まず面接による探索的な調査を行い、認識的信念の全体像を明らかにした。約40名の学生を対象に集団面接を行った。逐語録を作成し、共通の社会的背景や深層心理を見つけ出す「テーマ分析」(Thematic Analysis)を行ったところ、5つのテーマを抽出することに成功した。米国での調査で見出されている認識的信念と関連性が高いテーマが見つかった一方で、文化的価値観とも関連の高い日本独自の信念があることがわかった。そこで面接調査で抽出されたテーマを基に心理尺度の開発を行った。それぞれのテーマごとに1015項目の質問項目を用意し、約600名の大学生を対象にアンケート調査を行った。一連の探索的因子分析(EFA)の結果残った20項目を対象に、確証的因子分析(CFA)を実施した。こられの20項目による5因子モデルはデータとの十分な適合度を有し、妥当性があることが示唆された。また尺度の内的整合性を示す信頼性係数(ω)は.50.65であった。認識的信念とコミュニケーション行動、またそれらの文化的価値観の関与を検証するため、共分散構造分析(SEM)を行った。コミュニケーション行動の測定には、Argumentativnenss尺度(Infante & Rancer, 1982)を、文化的価値観の測定には文化的自己観尺度(Leung & Kim, 1997)を使用した。分析の結果、コミュニケーション行動と関連性の高い認識的信念が存在し、またそこには文化的価値観の関与が示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-16730412 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16730412 |
音声認識による聴覚障害者の発音訓練法の開発 -音声セグメント技術の導入- | 音声分析システムVoiceAnalyzerに従来から整備されている子音領域推定機能に加えて母音領域推定機能を整備し、単語における音素の構成を把握しやすくした。また、音声セグメントをアルファベットで表示することに加え、平仮名で表示することによって分かりやすくした。さらに、Windows8において新たに加わったタッチ入力への対応を行い、使い勝手を向上させた。聴覚障害者によって発話された235単語×10人分のデータを収集し、一般に聴覚障害者は濁音の発声が難しいことが分った。また、本システムによって発音を可視化することによって、音素の省略された発話やあいまいだった発話が改善した。音声分析システムVoiceAnalyzerに従来から整備されている子音領域推定機能に加えて母音領域推定機能を整備し、単語における音素の構成を把握しやすくした。また、音声セグメントをアルファベットで表示することに加え、平仮名で表示することによって分かりやすくした。さらに、Windows8において新たに加わったタッチ入力への対応を行い、使い勝手を向上させた。聴覚障害者によって発話された235単語×10人分のデータを収集し、一般に聴覚障害者は濁音の発声が難しいことが分った。また、本システムによって発音を可視化することによって、音素の省略された発話やあいまいだった発話が改善した。本年度はすでに実装している子音領域推定機能に加えて母音領域推定アルゴリズムを策定し、音声分析システムVoiceAnalyzerに母音領域推定機能として組み込んだ。また、母音領域の表示・非表示を選択できるようにし、従来同様の簡素な使い易さも維持するようにした。また、アイコンを押すだけで音声セグメントラベル系列をCSVファイルとして保存し、この音声セグメントラベル系列に基づいて筑波技術大学で開発したマッチングプログラムを起動する機能を実装した。さらに、静岡県立大学で開発しているExcelベースのマクロを使用しないでユーザインタフェースを比較的簡単に開発可能なStiLLのプログラムで構成されているモーラ判定機能および音素判定機能を起動するアイコンも実装した。もちろん、モーラ判定機能および音素判定機能については系統的に分析し、訓練者に理解しやすい形式としてまとめることを目標としている。筑波技術大学では、聴覚障害者の矯正のための訓練手法について検討した。すなわち、自分の発音と模範的な発音とを比較して、異なる個所、同一とみなせる個所を把握し、異なる個所について修正・練習する手法である。VoiceAnalizerをこのような目的に用いるとき、音声訓練の専門家ならばVoiceAnalizerの出力(音声セグメントラベル系列)を比較して異同を指摘することができる。しかし、必ずしも専門家ではない指導者(たとえば母親)あるいは聴覚障害者自身がこの異同を識別することは容易ではない。ここでは、指導者と訓練者の音声セグメント列を比較して部分ごとの一致不一致を自動検出するプログラムを試作し、訓練者の間違いを指摘する機能の可能性を示した。今後は、VoiceAnalizerが定めた分節の数が異なったり、異なる区切りが行われたりする場合への対処について検討する予定である。本年度は音声分析システムVoiceAnalyzerの使い勝手の向上のために収集した音声データの音量が小さすぎる場合に大きさを調整する振幅調整機能を組み込んだ。また、研究効率の推進のために音声ラベル数を自動的にカウントする機能とラベルデータ保存を自動的に実行する、いわゆるバッチ処理機能も実装した。さらに、特に音韻長の計測精度向上のためにパワー計算機能を実装した。一方、筑波技術大学で開発したマッチングプログラムとVoiceAnalyzerとの連携についてはラベルデータの自動保存機能を実装し、使い勝手の向上を図った。EXCELのマクロを用いた開発ツールStiLLを用いて実装した判定プログラムについては、「胃痛」「一通」について促音の判定、長音の判定、一部の音韻の判定を行い、聴覚障害者にとっても分かりやすいコメント機能によって結果を表示するプログラムを作成した。また、StiLLの自動繰り返し機能を用いて、多くのデータに対する分析を自動化することによって、判定アルゴリズムの開発を加速化することができた。筑波技術大学では、聴覚障害者の10人分のデータを収集した。今後は、聴覚障害者のデータを用いてVoiceAnalizerで分析し、その結果をStiLLベースの判定プログラムで判定するすることによって、聴覚障害者の発音改善に資する発音訓練ソフトにつなげていく予定である。音声セグメント分析システム(VoiceAnalyzer)は従来はWindows7までの対応であったが、Windows8対応及びおよびWindows8で新たに加わったタッチ入力への対応を行った。タッチ入力はポインティング範囲がかなり狭く扱いにくいところがあったがかなり改善し使いやすくなった。また、スマートホンとVoiceAnalyzerの連携による分析・評価システムを構築した。これは、(1)スマートホンで音声入力(PCM録音:22kHz、16bits)(2)音声ファイルをパソコンへメールで送付(3)パソコン上のVoiceAnalyzerで分析し、発音評価システムで評価し結果をスマートホンへ送付(4)スマートホンで結果を表示の手順で行われる。さらに音声ファイルの一括閉じを作成するなどユーザインタフェースを改良した。すなわち、従来は開いた音声ファイルを一括で閉じるためには、VoiceAnalyzerを閉じ無ければならなかったが、アイコンを用意していつでも複数の音声ファイルを閉じられるようにした。科研費の終了を控え筑波技術大学を訪問し、聴覚障害者の方にVoicenAlyzerが使えるか検証した。田中元教授(昨年度末に退職により分担者から外れた)がデータ収集した学生のうちの1名が岡崎教授の下で修士課程に在籍していたので、再発声してもらった。彼は「こんにちは」が「こんちは」のようになるほか、所どころあいまいだったが、発声指導で良くなった。 | KAKENHI-PROJECT-22500513 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22500513 |
音声認識による聴覚障害者の発音訓練法の開発 -音声セグメント技術の導入- | しかし、「さしすせそ」は「かきくてと」となり、正しく発音できない。サ行は歯音に分類され、上下前歯間・舌口蓋間に瞬時に狭い空隙を作るのが困難だったためと考えられる。また、聴覚障害者は濁音の発声が一般に難しいようである。聴覚障害者の中には人工内耳を装着し、かなり聞こえて障害認定されない人もいる。しかし、確かに発声がかなり良い人もいるが弱点は残っている。個別の機能については精度よく整備されてきており、障害者のデータに適応することによって、統合が図れると考えている。24年度が最終年度であるため、記入しない。障害者の発話は健常者に近いレベルから聞き取れないレベルまで多様であり、どの範囲まで対応可能になるか未知な点があることが懸念として残るが、聴覚障害者教育を実施している筑波技術大学との協力を一層強化して乗し切りたい。24年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-22500513 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22500513 |
形態異常を呈する植物リン脂質生合成欠損株の細胞内膜動態の観察 | ロゼット葉のmgタンパク質あたりのCDP-エタノールアミン合成活性(PECT活性)が野生型の25.9%に低下したpect1-4変異株、null変異株pect1-6、およびこれらのF1変異株pect1-4/pect1-6(PECT活性は19.4%に低下)について、配偶子形成、胚発生、および胞子体形成における影響を調べた。その結果、胚発生では、PECT1は8細胞期以降の発達に必須であり、PECT1遺伝子発現の低下は、胚発達の遅延や8細胞期以降での胚性致死も引きおこすことを明らかにした。しかし、pect1-6,/PECT1と野生型との相反交雑実験から、配偶子の発達と受精には配偶体世代のPECT1遺伝子は必要ないことを明らかにした。一方、胞子体レベルでは、PECT1遺伝子の発現があるレベル(2025%)以下に低下すると、個体の綾化を引き起こし、葯の形成不全や胚嚢の形成異常などを引きおこす割合が高くなることを明らかにした。すべてのpect1表現型は、個体全体でPECT1遺伝子を発現させると完全に回復するが、一部のロゼット葉や花芽に誘導的にPECT 1cDNAを発現させても、誘導した部位の異常は部分的にしか回復しないことから、変異組織間の相互作用がより厳しいpect1表現型をもたらしていると考えられる。pect1個体では、ミトコンドリアを特異的に染色するマイトトラッカーの染色像に異常が見られた。変異表現型とオルガネラ機能との因果関係を立証するために、pect1-4変異体からミトコンドリアを単離する系を確立した。今後、ミトコンドリアやその他のオルガネラ膜をもちいた脂質分析が必要である。PE合成の律速酵素であるCDP-エタノールアミン合成酵素(ECT1)の変異株について、以下のことを明らかにした。(1)null変異であるect1-6変異をホモにもつ胚は8細胞ステージまでに致死となることを明らかにした。また、ect1-6胚をとりまく胚乳の核が肥大することを明らかにした。一方、ECT活性が野生型の42%まで低下したect1-4は、23°Cでの植物体の成長は野生型とほとんど変わらないが、胚の成長は野生型よりも明らかに遅れることを明らかにした。(2)ect1-4/ect1-6F1植物の葉身、茎及び根の顕微鏡切片を観察した結果、細胞数の減少、細胞分裂パターンの乱れ、細胞伸長の低下、細胞間隙の減少および細胞肥大が観察された。以上の結果は、ECT活性の低下は、細胞分裂、細胞伸長、細胞間隙形成、細胞壁の合成に異常を起こすことを示唆している。(3)ECT1-Enhanced Yellow fluorescence Protein(EYFP)キメラタンパク質を発現するシロイヌナズナを作出し、ECT-EYFPの蛍光がMitoTracker^<【○!R】>Red CMXRos蛍光と一致すること、すなわち、ECT1はミトコンドリアの膜(おそらく外側)に局在することをあきらかにした。(4)ect1-4を8°C、短日条件あるいは連続光条件いずれでも、植物体が矯小化することを見出した。一方etc1-6ヘテロ植物は同じ条件でも矮小化しなかった。この結果は、ect1-4変異は低温感受性変異でもある可能性が示唆された。これらの植物は低温でのPEの機能を調べるにあたってよい材料になると期待される。ロゼット葉のmgタンパク質あたりのCDP-エタノールアミン合成活性(PECT活性)が野生型の25.9%に低下したpect1-4変異株、null変異株pect1-6、およびこれらのF1変異株pect1-4/pect1-6(PECT活性は19.4%に低下)について、配偶子形成、胚発生、および胞子体形成における影響を調べた。その結果、胚発生では、PECT1は8細胞期以降の発達に必須であり、PECT1遺伝子発現の低下は、胚発達の遅延や8細胞期以降での胚性致死も引きおこすことを明らかにした。しかし、pect1-6,/PECT1と野生型との相反交雑実験から、配偶子の発達と受精には配偶体世代のPECT1遺伝子は必要ないことを明らかにした。一方、胞子体レベルでは、PECT1遺伝子の発現があるレベル(2025%)以下に低下すると、個体の綾化を引き起こし、葯の形成不全や胚嚢の形成異常などを引きおこす割合が高くなることを明らかにした。すべてのpect1表現型は、個体全体でPECT1遺伝子を発現させると完全に回復するが、一部のロゼット葉や花芽に誘導的にPECT 1cDNAを発現させても、誘導した部位の異常は部分的にしか回復しないことから、変異組織間の相互作用がより厳しいpect1表現型をもたらしていると考えられる。pect1個体では、ミトコンドリアを特異的に染色するマイトトラッカーの染色像に異常が見られた。変異表現型とオルガネラ機能との因果関係を立証するために、pect1-4変異体からミトコンドリアを単離する系を確立した。今後、ミトコンドリアやその他のオルガネラ膜をもちいた脂質分析が必要である。 | KAKENHI-PROJECT-17051004 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17051004 |
紫外線による免疫抑制効果におけるTLR4の役割 | 紫外線照射部位では、ランゲルハンス細胞(LC)数が減少し、同部位からの接触過敏症(Contact hypersensitivity, CH)の誘導が阻害されるが、TLR4欠損マウスであるC3H/HeJ(HeJ)では、CHの誘導が阻害されない。そこで、今回TLR4の直接刺激による皮膚への影響を検討するために、大腸菌由来LPSを直接真皮注入し、表皮シートにおけるIa陽性細胞の形態観察および細胞数の測定および、接触過敏症の誘導によりTLR4分子の役割を検討した。まずLPS25μgを真皮注入後、表皮シートを作製、抗Ia抗体にて染色し、形態を観察した。C3H/HeN(HeN)マウスではPBS注入群あるいはLPS投与後のHeJに比べIa陽性細胞(LC)の細胞体は膨化し、dendriteは減少しており、単位あたりの細胞数も減少していた。以上の所見は紫外線による変化と同等であった。LPS投与は紫外線同様TNFが媒介しているかを検討するため、抗TNF抗体投与後にLPS真皮注入を行った。投与群では、LPS注入による効果は認められなかった。以上より、紫外線照射によるLCに与える影響は、TLR4を介したTNFの作用によるものと考えられた。次にTLR4のアダプター蛋白であるMyD88欠損マウス(KO)において紫外線がCHの誘導に与える影響を検討した。各実験群のマウス腹部皮膚に4日間連続400J/m^2/日の紫外線を照射した。最終照射直後30分以内の照射部位に185μg dinitrofluorobenzene(DNFB)をマウス腹部皮膚に塗布し、5日後15μgDNFBによる耳介challengeを行い、24, 48時間後の耳介腫脹を測定した。紫外線照射KOはその野生型マウス(B6 background)同様に非照射マウスに比べ耳介腫脹が減少しており、すなわちCHの誘導を阻害した。このことより紫外線によるCHの誘導阻害は(TLR4依存性であるが)MyD88非依存性であることが示唆された。最後にLPSがTLR4を介した刺激により紫外線によるCH誘導阻害を阻止できるかどうかを検討した。紫外線照射前においても後においても、LPS注入を施行したマウスでは、非照射マウスと同等の耳介腫脹がみられた。このことよりTLR4シグナルはCH誘導相を調節する能力があることを示している。以上より紫外線照射による皮膚免疫能の変化においてTLR4が関与することが示唆された。紫外線照射部位では、ランゲルハンス細胞(LC)数が減少し、同部位からの接触過敏症(Contact hypersensitivity, CH)の誘導が阻害されるが、TLR4欠損マウスであるC3H/HeJ(HeJ)では、CHの誘導が阻害されない。そこで、今回TLR4の直接刺激による皮膚への影響を検討するために、大腸菌由来LPSを直接真皮注入し、表皮シートにおけるIa陽性細胞の形態観察および細胞数の測定および、接触過敏症の誘導によりTLR4分子の役割を検討した。まずLPS25μgを真皮注入後、表皮シートを作製、抗Ia抗体にて染色し、形態を観察した。C3H/HeN(HeN)マウスではPBS注入群あるいはLPS投与後のHeJに比べIa陽性細胞(LC)の細胞体は膨化し、dendriteは減少しており、単位あたりの細胞数も減少していた。以上の所見は紫外線による変化と同等であった。LPS投与は紫外線同様TNFが媒介しているかを検討するため、抗TNF抗体投与後にLPS真皮注入を行った。投与群では、LPS注入による効果は認められなかった。以上より、紫外線照射によるLCに与える影響は、TLR4を介したTNFの作用によるものと考えられた。次にTLR4のアダプター蛋白であるMyD88欠損マウス(KO)において紫外線がCHの誘導に与える影響を検討した。各実験群のマウス腹部皮膚に4日間連続400J/m^2/日の紫外線を照射した。最終照射直後30分以内の照射部位に185μg dinitrofluorobenzene(DNFB)をマウス腹部皮膚に塗布し、5日後15μgDNFBによる耳介challengeを行い、24, 48時間後の耳介腫脹を測定した。紫外線照射KOはその野生型マウス(B6 background)同様に非照射マウスに比べ耳介腫脹が減少しており、すなわちCHの誘導を阻害した。このことより紫外線によるCHの誘導阻害は(TLR4依存性であるが)MyD88非依存性であることが示唆された。最後にLPSがTLR4を介した刺激により紫外線によるCH誘導阻害を阻止できるかどうかを検討した。紫外線照射前においても後においても、LPS注入を施行したマウスでは、非照射マウスと同等の耳介腫脹がみられた。このことよりTLR4シグナルはCH誘導相を調節する能力があることを示している。以上より紫外線照射による皮膚免疫能の変化においてTLR4が関与することが示唆された。紫外線照射部位では、ランゲルハンス細胞数が減少し、同部位からの接触過敏症の誘導が阻害されるが、TLR4欠損マウスであるC3H/HeJ(HeJ)では、接触過敏症(contact hypersensitivity, CH)の誘導が阻害されない、すなわち紫外線抵抗性であることが報告されている。 | KAKENHI-PROJECT-16591112 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16591112 |
紫外線による免疫抑制効果におけるTLR4の役割 | そこで、今回TLR4を直接刺激することによる皮膚への影響を検討するために、大腸菌由来lipopolysaccharide(LPS)を直接真皮注入し、表皮シートにおけるIa陽性細胞(ランゲルハンス細胞)の形態観察および細胞数の測定および、CHの誘導によりTLR4分子の役割を検討した。まずLPS25μgを真皮注入後、表皮シートを作製、抗Ia抗体、FITC附加抗マウスIgG抗体にて染色し、形態を観察した。BALB/cおよびC3H/HeN(HeN)マウスではPBS注入群に比べIa陽性細胞の細胞体は膨化し、樹枝状突起は減少しており、単位あたりの細胞数も減少していた。以上の所見は紫外線による変化と同等であった。それに対し、HeJでは、形態にほとんど変化はなく、細胞数の変化も観察されなかった。したがって、LPS投与は紫外線照射同様TNF-αが媒介していると考えられたため、BALB/cに抗TNF-α抗体を腹腔投与した6時間後にLPS真皮注入を行った。投与群では、LPS注入による細胞数の変化が認められなかった。以上より、LPS投与による表皮Ia陽性細胞に与える影響は、TLR4を介したTNF-αの作用によるものと考えられた。一方でCHの誘導相に与える影響を検討するため、HeNにLPSを真皮注入後、0.5%dinitrofluorobenzene(DNFB)をマウス腹部皮膚に塗布し、5日後0.05%DNFBによる耳介challengeを行い、24-72時間後の耳介腫脹を測定した。LPS注入マウスでは、PBS注入群に比べ有意に耳介腫脹の程度が強かった。それに対し、HeJおよびBALB/cでは、有意差を認めなかった。すなわち紫外線照射によりTNF-αを介してCHが阻害されるという報告とは逆の結果であった。以上よりLPS注入皮膚における表皮Ia陽性細胞の遊走にはTLR4を介したTNF-αによる作用が関与しているが、CHに関してはTLR4を介しているものの、紫外線照射と異なりTNF-α以外の因子による結果である可能性が示唆された。紫外線照射部位では、ランゲルハンス細胞数が減少し、同部位にハプテンを塗付した際の接触過敏症の誘導が阻害されるが、TLR4欠損マウスであるC3H/Hej(HeJ)では、接触過敏症(contact hypersensitivity,CH)の誘導が阻害されない、すなわち紫外線低抗性であることが報告されている。しかし、紫外線照射によりどの細胞に発現しているTLR4がどのような経緯で紫外線による影響を媒介しているのかは明らかではない。今年度はTLR4の直接刺激を目的に大腸菌由来Lipopolysaccharide(LPS)を投与し、紫外線照射によるCHの抑制効果におけるTLR4分子の役割を検討した。そこで紫外線照射とLPS刺激による逆向きの結果を利用して、CHに対する紫外線の効果をLPSによりブロッキングすることを試みた。すなわち紫外線照射後のDNFB塗付直前に25μgLPSの真皮注、または照射1日前のマウス頚部に1μgLPSの皮下注を施行した。いすれのプロトコールにおいてもLPSは紫外線によるCHの抑制を減弱した。以上のごとく、照射の前後に関わらず、TLR4経路を用いたアジュバント効果により、紫外線による有害事象をブロックすることが可能であることが示された。 | KAKENHI-PROJECT-16591112 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16591112 |
qNMR 多変量解析を用いた水環境中の有害化合物のモニタリング技術の開発 | 水環境中の有害化合物の包括的な定量分析が可能であり,また得られた分析値の信頼性を確保した分析法として,定量NMR (qNMR)を用いた絶対定量法の微量分析及び多変量解析への応用を検討した.その結果,コールドプローブ付600 MHz NMRの定量下限(誤差±10%)は10-40 ppmであった.また,農薬標準品41製品の絶対純度を測定した結果,試薬メーカーの表示値を下回る純度値のものが認められた.さらにqNMR多変量解析用に約100種の有害化合物のqNMRスペクトルをデータベース化した.水環境中の有害化合物の包括的な定量分析が可能であり,また得られた分析値の信頼性を確保した分析法として,定量NMR (qNMR)を用いた絶対定量法の微量分析及び多変量解析への応用を検討した.その結果,コールドプローブ付600 MHz NMRの定量下限(誤差±10%)は10-40 ppmであった.また,農薬標準品41製品の絶対純度を測定した結果,試薬メーカーの表示値を下回る純度値のものが認められた.さらにqNMR多変量解析用に約100種の有害化合物のqNMRスペクトルをデータベース化した.水環境中の微量有害化合物の包括的な新規定量分析法の開発を目指し,定量NMR(qNMR)による絶対定量法と多変量解析を応用した方法を検討した.まず,qNMRの定量下限に関する情報が乏しいため,基礎的な実測データの収集して微量分析への適合性について議論する必要であった.そこで,認証標準物質(CRM)ジエチルフタレート(DEP)をモデル化合物試料とし,NMR(600MHz)で得られるNMRスペクトルの定量精度を検証した.その結果,標準プローブ付600MHzNMRで1.12.1mM,コールドプローブ付600MHzNMRで0.230.46mMの試料濃度があれば,誤差±1%以内で精度良く定量分析が可能であることを見出した.この濃度は,測定対象化合物の分子量を200と仮定したとき,それぞれ210420ppm(μg/mL)および46-92ppm(μg/mL)に相当する.研究開始当初より,コールドプローブ付600MHzNMR自体の定量下限(誤差±10%)の理論値は10-40ppmになると試算していたが,実測よる検証作業により求められたこの結果はほぼ満足できる値であった.また,NMRスペクトル上に観察される不要な軽水等のプロトンシグナルをWater suppression Enhanced through T1 effect(WET)法で消去し,NMRスペクトルのダイナミックレンジを有効に活用することでさらに高感度・高精度化が可能であるか予備的な検討を行ったが,現状のパルス系列では高い定量精度が得ることができなかった.したがって,WET-qNMRによる高感度・高精度化については,パルス系列全体の見直しが必要であることがわかった.また,有害化合物(主に農薬類)についてqNMRスペクトルデータベースの作成を開始した.NMRによる環境試料等の混合物中の化合物の同定・定量については観察されるシグナルの重複の取扱に関して大きな課題がある.すなわち,質量分析計(MS)では,測定対象の分子イオンを指標にした同定・定量が可能であるのに対し,NMRでは,分子上の原子核の構造情報が複雑なスペクトルとして観察されるため,測定対象の化合物の化学シフトやスピン結合等の情報がない場合や数種の化合物が混合している場合には,NMR単独での同定・定量は非常に困難である点である.このことから,NMRによる汚染物質のモニタリング技術の構築には,化合物ライブラリーの拡充が必須であると考えた.qNMRスペクトルでは,測定対象の化合物の分子構造に関わらず,分子内の化学シフトの異なる各プロトンシグナルの高さおよび面積比はすべて定量的に観測される.そこで,各測定対象化合物のスペクトル情報のライブラリーを作成した.NMRスペクトル情報については,混合物中の化合物の同定だけでなく定量を視野に入れ,多くの既存NMRデータベースで採用されている化学シフトおよびスピン結合情報以外に,観察されたすべてのシグナルについての分子内強度比,濃度等を入力し,各化合物の化学シフト(ppm)と分子内シグナル強度比(signal top int.%)をXY座標に展開した2次元データとのフィッティングの度合いにより,混合物中の化合物の同定・定量を可能とする化合物ライブラリーとした.数種の化合物を混合した試料を検証用モデル実験に用い,実測スペクトル上の各シグナル頂点の化学シフト(ppm)とシグナル強度比(signal top int.%)を抽出し,化合物ライブラリーとのフィッティング条件として3点以上のシグナル頂点のXY座標がほぼ一致するものを候補化合物とした結果,複数成分を同定・同時定量することが可能であることが確認された.前年度に引き続き,定量NMR (qNMR)による絶対定量法と多変量解析を応用した方法を検討した.qNMRの定量下限は,測定対象化合物の分子量を200と仮定したとき,標準プローブ付600MHz NMRで210420 ppm (μg/mL),コールドプローブ付600MHz NMRで4692 ppm (μg/mL)であることを見出しているが,本年度は,さらに高感度・高精度化を目指し,NMRスペクトルのダイナミックレンジを有効に活用する方法として,WETパルス系列の見直しを行った.しかしながら,WETパルス系列をqNMRに適用したとき,高感度化は達成できたものの,WETパルス照射によりNMRスペクトル全体にひずみが生じ,結果として定量精度の低下が観察され,この現象をパルス系列全体を見直したが解消することができなかった. | KAKENHI-PROJECT-22590127 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22590127 |
qNMR 多変量解析を用いた水環境中の有害化合物のモニタリング技術の開発 | 次に,qNMR多変量解析法の実用化のために,NMRスペクトル解析には関する専門的な知識を要求するため汎用性に乏しいという問題について検討した.この問題を解決するために,qNMRスペクトルが化合物の構造情報と純度(絶対量)をデジタルデータとして正確に保存するという特長を生かし,qNMRスペクトル検索システムの構築を行った.qNMRスペクトル上に観察される各化合物の化学シフト(ppm)と分子内シグナル強度比(%)をXY座標化してライブラリーに保存した.現在までに,qNMRスペクトルライブラリーには農薬を中心としておよそ100種の有害化合物を登録した.また,分析対象のqNMRスペクトルとライブラリーに保存されたスペクトル情報とのシグナル頂点のXY座標の一致度より候補化合物を出力するためのプログラムを作成した.数種の化合物を用いて検索システムを評価した結果,ライブラリーに化合物が登録されていれば,混合物中から複数成分を推定・同定することが可能であることが示唆された.水環境中の微量有機化合物を同定するためのライブラリー構築およびqNMR定量分析条件について当初の予定通り順調に進展している.一方,検出感度を向上させるためのWET-qNMR条件については更なる検討が必要である.24年度が最終年度であるため、記入しない。検出感度を向上させるためのWET-qNMR条件についてさらに最適化を進め,高精度な定量分析法としての有効性を示す.また,これまでの検討結果を踏まえ,スペクトルライブラリーをqNMR多変量解析システムに統合し,実用化を図る.24年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-22590127 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22590127 |
病原性因子を標的としたファイトプラズマ病の新規治療薬の開発 | ファイトプラズマの植物宿主への感染に関わる因子の一つである浸透圧チャネルMscLを標的とした機能阻害実験を行ったところ、阻害剤処理後3週間において、ファイトプラズマ増殖量の部分的な減少が観察された。この結果は、MscLチャネルの阻害が、ファイトプラズマ病の新規防除技術の開発につながる可能性が示唆された。ファイトプラズマ(Phytoplasma属細菌)は植物の篩部細胞内に寄生する病原細菌である。ファイトプラズマ病には特効薬が無く、また抵抗性品種も知られていないため、有効な防除法が切望されている。本研究ではファイトプラズマの病原性に関わる因子を標的とし、その機能を阻害する低分子化合物を探索することで、ファイトプラズマ病に対する新規治療薬剤を得ることを目的とする。H24年度は、ファイトプラズマの植物宿主への感染に関わる因子の一つであるMscLを標的とした機能阻害実験を行った。MscLは、浸透圧調節に関わる機械刺激受容チャネルである。ファイトプラズマは植物・昆虫の各宿主体内で自身の遺伝子発現を変動させることによって両宿主に適応しており、マイクロアレイ解析の結果より、MscLは植物への感染時に重要な働きを担うことが示唆されている。MscLチャネルの機能を阻害する塩化ガドリニウムを底面給水によって宿主植物へ投与し、この植物に対してファイトプラズマの感染実験を行った。ファイトプラズマ増殖量を定量PCRを用いて測定したところ、阻害剤処理後3週間において、ファイトプラズマ増殖量の部分的な減少が観察された。この結果は、MscLチャネルが植物感染時におけるファイトプラズマの生存に重要な役割を果たしていることを示していると同時に、本研究により、感染・病原性に関わる因子の阻害が、ファイトプラズマ病の新規防除技術の開発につながる可能性が示唆された。ファイトプラズマの植物宿主への感染に関わる因子の一つである浸透圧チャネルMscLを標的とした機能阻害実験を行ったところ、阻害剤処理後3週間において、ファイトプラズマ増殖量の部分的な減少が観察された。この結果は、MscLチャネルの阻害が、ファイトプラズマ病の新規防除技術の開発につながる可能性が示唆された。ファイトプラズマ(Phytoplasma asteris)は植物の篩部細胞内に寄生する病原細菌である。ファイトプラズマ病には特効薬が無く、また抵抗性品種も知られていないため、有効な防除法が切望されている。最近、申請者らの研究によりファイトプラズマの病原性因子「TENGU」が明らかとなった。TENGUは低分子ペプチド性物質であり、ファイトプラズマから植物中に分泌され、植物に形態異常を引き起こす。本研究ではファイトプラズマの病原性因子のうち特にTENGUを標的とし、その機能を阻害する低分子化合物を探索することで、ファイトプラズマ病に対する新規治療薬剤を得ることを目的とする。H23年度は、TENGUの機能を明らかにする一環として、TENGUがサプレッサー活性を持つかどうかについて解析した。一般にRNAサイレンシングの抑制因子(サプレッサー)の多くは、植物に形態異常を引き起こすことが知られている。GFPと病原性因子を同時に植物体で発現させ、GFP蛍光が消失するか否かを指標としてサプレッサー活性を解析した。その結果、TENGUを発現させた場合にはGFP蛍光が消失した一方で、典型的なサプレッサーであるP19を発現させた場合には、GFP蛍光が保持されていた。従って、TENGUはRNAサイレンシングサプレッサー活性を持たないことが示唆され、RNAサイレンシングとは異なる経路によって植物に形態異常を引き起こすことが明らかとなった。従来真核生物の遺伝子発現制御は転写因子等による転写レベルの発現制御が司ると考えられてきた。しかし、近年RNAサイレンシングにより生ずるmiRNA等の小分子RNAを介した転写後の遺伝子発現制御が重要な役割を果たすことが明らかにされており、植物の形態形成の制御にもRNAサイレンシングが深く関与することが明らかにされつつある。例えば植物ウイルスがコードする一部のRNAサイレンシングサプレッサーが形態異常を誘導することが明らかにされている。そこで萎縮・叢生を誘導するファイトプラズマの病原性因子TENGUのRNAサイレンシングサプレッサー活性を解析した結果、TENGUはサプレッサー活性を有さないことが明らかとなった。これはTENGUがmiRNA等の小分子RNAを介さずに植物の形態形成の制御に働きかけることを示唆しており、機能を特定する上で重要な知見であると考えられる。これまで我々は、病原性因子TENGUを発現する形質転換植物における植物遺伝子発現変動を解析し、天狗巣症状の誘導に伴って植物ホルモンであるオーキシンの作用が抑制されることを明らかにしている。H23年度に得られた知見を合わせて考えると、病原性因子であるTENGUの発現から病徴発現に至るまでのプロセスにおいて、病原性因子と相互作用して病原性発現シグナルの移行サポートする因子や病原性因子と相互作用する受容体の存在が予想される。今後は、病原性因子としての活性に重要な部位に焦点を当て、解析を進める予定である。当該研究費は、基本的には実験のための消耗品の購入に充てる予定である。高額な機器の購入予定は無い。 | KAKENHI-PROJECT-23658039 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23658039 |
突然変異mtDNA導入マウス作製による糖尿病と老化の原因遺伝子の解明 | 突然変異mtDNAのマウス細胞株への導入法の確立,さらには突然変異mtDNA導入マウス系統の樹立は急務となっているが,従来の方法ではDNAを核には導入できてもミトコンドリアには導入することができない.従って,ミトコンドリアノックアウトマウスの作製には,突然変異を持つマウスmtDNAと,マウスの培養細胞株からmtDNAが完全に削除された細胞株(マウスρ^0細胞株)の樹立が必須である.このような背景の中で,今年度は以下のような成果をあげた.(2)ごく最近当初の目的である人工的に突然変異を導入したマウスmtDNA含むシャトルベクターの作製に成功し,このベクターのミトコンドリアへの導入法等の確立に全力をあげているところである.(3)最後に,様々なヒトの病原性突然変異mtDNAを導入したHeLa細胞を使って,ミトコンドリアでこれまで考えられてきた常識を覆えす事実,すなわち"細胞内のミトコンドリアは機能的には単一である"という新しい仮説を提唱し,遺伝学の基礎的分野にも大きく貢献することができた(Takai,D.,etal.,J.Biol.Chem.1997).今後の展開:本申請の目的である"mtDNAノックアウトマウスの作製"を実現することはできなかったが,すでにマウスのρ^0細胞の樹立とマウスmtDNA含むシャトルベクターの作製に成功し,本申請の目的である"mtDNAノックアウトマウスの作製"を実現できる見通しがでてきた.突然変異mtDNAのマウス細胞株への導入法の確立,さらには突然変異mtDNA導入マウス系統の樹立は急務となっているが,従来の方法ではDNAを核には導入できてもミトコンドリアには導入することができない.従って,ミトコンドリアノックアウトマウスの作製には,突然変異を持つマウスmtDNAと,マウスの培養細胞株からmtDNAが完全に削除された細胞株(マウスρ^0細胞株)の樹立が必須である.このような背景の中で,今年度は以下のような成果をあげた.(2)ごく最近当初の目的である人工的に突然変異を導入したマウスmtDNA含むシャトルベクターの作製に成功し,このベクターのミトコンドリアへの導入法等の確立に全力をあげているところである.(3)最後に,様々なヒトの病原性突然変異mtDNAを導入したHeLa細胞を使って,ミトコンドリアでこれまで考えられてきた常識を覆えす事実,すなわち"細胞内のミトコンドリアは機能的には単一である"という新しい仮説を提唱し,遺伝学の基礎的分野にも大きく貢献することができた(Takai,D.,etal.,J.Biol.Chem.1997).今後の展開:本申請の目的である"mtDNAノックアウトマウスの作製"を実現することはできなかったが,すでにマウスのρ^0細胞の樹立とマウスmtDNA含むシャトルベクターの作製に成功し,本申請の目的である"mtDNAノックアウトマウスの作製"を実現できる見通しがでてきた.ヒトのミトコンドリア病では、その原因性の突然変異がmtDNAのtRNA^<Leu(UUR)>遺伝子にホットスポットとして集中していることから、それぞれに対応する位置に人工的に突然変異を起こさせたマウスmtDNAの断片を含むプラスミド(BluescriptKS^+)の作製を試み、すでに4種類の突然変異体の作製に成功している。一方、作年度内に樹立をめざしていたマウスのp^o細胞に関しては、多くの試行錯誤の結果ごく最近樹立に成功し(投稿準備中)、PCR法によってもmtDNAの存在は確認できないことから、本申請の最も大きな障害がクリアされたことになり、今後の研究に有効に利用できるはずである。“マウスのp^o細胞の樹立"に成功したことから、本申請の最も大きな障害がクリアされたことになり、今後はMIN6細胞からのp^o細胞の樹立と、すでに作製が完了している人工的に突然変異を起こさせたマウスmtDNAを、マウスのp^o細胞のミトコンドリアに導入する実験系の確立が焦点となった。今年度は、すでに作製が完了している人工的に突然変異を起こさせたマウスmtDNAを、マウスのp^o細胞のミトコンドリアに導入する実験系の確立を目指しており、すでに、エレクトロポレーション法を用いると、少なくとも5kb程度のmtDNA断片はミトコンドリアに導入できることが確認できた。現在は、さらに16kbの全mtDNA導入の実験条件の設定を重点的に行っているところである。一方、この実験系が成功しなかった場合を想定して、mtDNAの体細胞突然変異が比較的多量に存在することが確認された老化マウスの脳の組織(Takai,D and Hayashi,J.-l.,Biochem.Biophys.Res.Commun.217:668-674,1995)のミトコンドリアをマウスのp^o細胞へ導入したところ、欠失突然変異を持つmtDNAが確認できたことから、今後この細胞のミトコンドリア画分をマウスの受精卵に直接導入して、取りあえずできるだけ早くミトコンドリア病の病態モデルマウスの完成を目指したいと考えてる。一方、グルコース濃度に依存したインスリン分泌をするMIN6細胞のp^o細胞は樹立されていないが、これに代わって、この細胞のミトコンドリア呼吸機能を人工的に阻害し、mtDNA突然変異が導入されたのと同じ状況を作り出したところ、グルコース濃度に対応したCa^<++>流入とインシュリン分泌が著しく抑制されることが明らかになった(投稿準備中)。 | KAKENHI-PROJECT-07458226 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07458226 |
突然変異mtDNA導入マウス作製による糖尿病と老化の原因遺伝子の解明 | 突然変異mtDNAのマウス細胞株への導入法の確立、さらには突然変異mtDNA導入マウス系統の樹立は急務となっているが、従来の方法ではDNAを核には導入できてもミトコンドリアには導入することができない。従って、ミトコンドリアノックアウトマウスの作製には、突然変異を持つマウスmtDNAと、マウスの培養細胞株からmtDNAが完全に削除され細胞株(マウスp^0細胞株)の樹立が必須である。このような背景の中で、これまで不可能と考えられてきた「突然変異導入マウス作製による糖尿病と老化の原因遺伝子の解明」という本申請の目標のうち突然変異導入マウス作製が、以下にまとめたような今年度の成果により、かなり現実性の高いものになってきたといえる。(1)現在当研究室で保管されている50種以上のマウスの培養細胞を様々な薬剤で処理した後、サザン法やPCR法を用いてmtDNAの様々な欠失や点突然変異を持った細胞株をスクリーニングしたところ、4.5kbの大規模な欠失突然変異を持つmtDNAを30%の割合で含むマウス繊維芽細胞株の樹立に成功した。今後、この細胞を再クローン化することにより、より突然変異の多いクローンを分離する予定である。(2)マウス培養細胞を様々な薬剤で処理することによってmtDNAを完全に失ったp^0細胞の樹立に成功した。(3)多様な欠失や点突然変異やが蓄積しているとされる老化したマウスの脳から、シナプス部分(シナプトソーム)を単離し、これをポリエチレングリコールを用いて、マウスp^0細胞に融合させる事により、生体からmtDNAが直接導入された融合細胞(cybids)を作製した。(4)グルコースの濃度に応じてインスリンを分泌できるマウスのインスリノーマであるMIN6細胞株のp^0細胞株を樹立し、更にこの細胞にmtDNAを再導入することにより、この細胞が持つグルコース濃度に応じたインスリンの分泌にmtDNAの存在が必要不可欠であることを初めて立証した。突然変異mtDNAのマウス細胞株への導入法の確立、さらには突然変異mtDNA導入マウス系統の樹立は急務となっているが、従来の方法ではDNAを核には導入できてもミトコンドリアには導入することができない。従って、ミトコンドリアノックアウトマウスの作製には、突然変異を持つマウスmtDNAと、マウスの培養細胞株からmtDNAが完全に削除された細胞株(マウスρ^0細胞株)の樹立が必須である。このような背景の中で、今年度は以下のような成果をあげた。(2)ごく最近当初の目的である人工的に突然変異を導入したマウスmtDNA含むシャトルベクターの作製に成功し、このベクターのミトコンドリアへ導入法等の確立に全力をあげているところである。(3)最後に、様々なヒトの病原性突然変異mtDNAを導入したHeLa細胞を使って、ミトコンドリアでこれまで考えられてきた常識を覆えす事実、すなわち"細胞内のミトコンドリアは機能的には単一である"という新しい仮説を提唱し、遺伝学の基礎的分野にも大きく貢献することができた(Takai,D.,etal.,J.Biol.Chem.1997)。今後の展開:本申請の目的である"mtDNAノックアウトマウスの作製"を実現することはできなかったが、すでにマウスのρ^0細胞の樹立とマウスmtDNA含むシャトルベクターの作製に成功し、本申請の目的である"mtDNAノックアウトマウスの作製"を実現できる見通しがでてきた。 | KAKENHI-PROJECT-07458226 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07458226 |
高齢者の精神機能を高める看護コミュニケーション・スキルの開発 | 今回の調査では、熟練看護師が高齢者に対して行う声掛けは、1つの場面で約10秒であった。そしてその中で、高齢者の認知機能低下や聴力の低下を補うコミュニケーションをとっているだけではなく、高齢者の次の行動を起こす動機付を行っていた。また、熟練看護師が意識して行っている高齢者を対象としたコミュニケーションの特徴として「感覚器の機能低下を補う」、「理解を助ける」、「主体的発言を促す」、「尊重的態度を示す」、「事故を予防する」の5つがあげられた。熟練看護師は、これらのコミュニケーション・スキルを、主に臨床体験を通して自然に身につけていた。今回の調査では、熟練看護師が高齢者に対して行う声掛けは、1つの場面で約10秒であった。そしてその中で、高齢者の認知機能低下や聴力の低下を補うコミュニケーションをとっているだけではなく、高齢者の次の行動を起こす動機付を行っていた。また、熟練看護師が意識して行っている高齢者を対象としたコミュニケーションの特徴として「感覚器の機能低下を補う」、「理解を助ける」、「主体的発言を促す」、「尊重的態度を示す」、「事故を予防する」の5つがあげられた。熟練看護師は、これらのコミュニケーション・スキルを、主に臨床体験を通して自然に身につけていた。高齢者と看護者のコミュニケーション場面をフィールドワークと文献から生活援助の視点で7つ抽出した。それらは、場面1(はじめの挨拶)、場面2(食事の声がけ)、場面3(トイレへの促し)、場面4(入浴の声がけ)、場面5(散歩の誘い)、場面6(レクリェーションへの参加の促し)、場面7(おわりの挨拶)である。上記の7場面それぞれについて、相手となる高齢者の条件(難聴と認知障害の程度など)を明示して、参加協力者10名の声かけ時の音声を録音しデータとした。なお、声かけは研究者が事前に用意したセリフと参加者が普段行う声かけの2種類である。その後、高齢者とのコミュニケーション(言語、非言語)における留意点や工夫点および経験を通して大切だと考えていることについて半構成的に1時間程度のインタビューを実施した。参加協力者の年齢は30歳代60歳代であり、内訳は男性4名、女性5名、高齢者と接する機会が多い経験豊富なホームヘルパー5名と対人的職業をもたず高齢者と関わる経験も少ない5名であった。音声データに対する分析では、母音と子音の組み合わせについては、母音を多く使用する傾向にあり、擬音語と擬態語については、今回の調査では使用が認められなかった。しかし、インタビュー内容から、その人にとっての馴染みの言葉を使用することが工夫点としてあげられており、馴染みがある場合には使用される可能性が大きい。声の大きさについては、ホームヘルパー内でばらつきが大きかったことが、注目される結果であった。この点は更に他の要因と複合して分析する必要がある。イントネーションについては、ホームヘルパーで共通した特徴がみられ、重要な言葉については、一音一音をアクセントし、全体的にイントネーションをつけない傾向があった。また語と語の間のポーズを長くとるという特徴も認められた。これらの特徴は、難聴と認知障害がある高齢者にとって、理解を高めるために有効だと考えられた。高齢者とのコミュニケーションの経験が豊富である看護師を対象に、下記の調査を実施した。1.調査対象者について1)調査対象者数:20名、2)性別:女性、3)年齢:30代40代、4)勤務年数:10年以上2.調査内容について(1)高齢者とのコミュニケーション場面についての質問紙調査(2)設定した模擬場面でのロールプレイ内容(画像、音声)設定した模擬場面は以下の7場面である。場面1:はじめの挨拶、場面2:食事の声がけ、場面3:トイレへの促し、場面4:入浴の声がけ、場面5:散歩の誘い、場面6:レクリェーションへの参加の促し、場面7:おわり(帰り)の挨拶それぞれの場面では、普段の対象者とのコミュニケーションを極力再現してもらうように依頼した。(3)(2)と同様の7場面であるが、研究者が事前に作成したセリフで話してもらった音声(4)高齢者とのコミュニケーションにおける経験や自分なりの工夫点についてのインタビュー3.結果高齢者とのコミュニケーションにおいては、聴覚・視覚機能及び認知機能の低下に対する言語的・非言語的配慮がなされていた。更にそれらの配慮は、対象者の反応をアセスメントしながら調整されていた。また身体機能の特徴への対応だけではなく、心理社会的側面への配慮として、高齢者を人生の先輩として敬う態度が強調されていた。対象者の人生経験から、対象者の興味・関心を捉え、そこに焦点を当てたコミュニケーション内容の選択や、対象者から聞かれる同じ内容の話の繰り返しに対して、常に強い興味・関心を示すという努力もなされていた。調査対象者からは、高齢者とのコミュニケーションで「学ばせてもらっている」という発言も複数聞かれ、コミュニケーション関係において高齢者は、「看護を受ける者」という立場に「人生の先輩として、自らの経験を伝える者」という新たな役割を担ったと見なすことができる。その他の、特徴として、嚥下機能の低下に着目し、食事の際には、返答を求める会話をしないという、高齢者の安全面への配慮もなされていた。高齢者とのコミュニケーション・スキルは、看護師に意識されずに臨床経験を積む中で自然と身についたスキルと考えられた。 | KAKENHI-PROJECT-21659491 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21659491 |
高齢者の精神機能を高める看護コミュニケーション・スキルの開発 | そして、これらのスキルを明確にしていくことの重要性が再確認された。高齢者とのコミュニケーションに関する、下記の3種類の調査(2009年)を高齢者と関わる頻度の異なる3種類の対象群に対して実施し、それらの結果を分析・比較検討することにより、看護職者に求められる高齢者とのコミュニケーション・スキルの特徴を明確にした。調査:(1)高齢者とのコミュニケーション経験についての質問紙調査、(2)設定した模擬場面でのロールプレイの画像と音声(軽度の認知機能低下と難聴がある高齢者への声掛け)、(3)高齢者とのコミュニケーション・スキルに関するインタビュー対象群:A群-高齢者と関わった経験がほとんどなく対人的職業にも就いていない対照群(5名)、B群-高齢者と頻回に関わっているホームヘルパー(5名)、C群-高齢者とほぼ毎日関わっており、高齢者とのコミュニケーション・スキルが高いと認められた看護師(20名)結果および考察:いずれの群においても、高齢者のためのコミュニケーション・スキルについて、理論や科学的根拠に基づいて学習した経験はほとんどなく、経験を通してスキルを獲得していた。会話のスピードについては、通常の会話速度とほぼ同じで、看護師では、400文字当たり平均68秒(SD=14.3)であった。但し、スピードは一定ではなく、単語と単語の間に長いポーズがあった。構文は、単純であり、助詞や助動詞を省略し、重要な単語を並べ、かつ単語の一音一音にアクセントをつけるパターンが多く見られた。高齢者が聞き取りにくいと考えられる破裂音などには、特に考慮せず、高齢者にとって馴染みのある言葉を積極的に使用し、反応から理解が悪いと判断した場合には、ゆっくり話す、声を大きくする、身振りを加えることで補っていた。高齢者とのコミュニケーション・スキルの特徴として(1)感覚器の機能低下を補う、(2)理解を助ける、(3)主体的発言を促す、(4)尊重的態度を示す、(5)事故を予防する、があげられた。 | KAKENHI-PROJECT-21659491 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21659491 |
工業高等専門学校におけるデザイン能力養成のための系統的な創成教育プログラムの開発 | 5年間の一貫教育が可能な高専の利点を生かし、高専における総合的デザイン能力養成のための系統的な創成教育プログラムを開発し、その効果を評価・確認し、スパイラルアップさせた。具体的には、養成すべきデザイン能力を定義し、全ての学年に創成教育を導入し系統的に涵養していく教育プログラムを設計・実践した。設定した具体的な能力が得られているかどうかを評価する方法およびその基準を定め、能力の達成度に関する定量的解析を行い、創成教育プログラム自体の点検及び改善をはかった。5年間の一貫教育が可能な高専の利点を生かし、高専における総合的デザイン能力養成のための系統的な創成教育プログラムを開発し、その効果を評価・確認し、スパイラルアップさせた。具体的には、養成すべきデザイン能力を定義し、全ての学年に創成教育を導入し系統的に涵養していく教育プログラムを設計・実践した。設定した具体的な能力が得られているかどうかを評価する方法およびその基準を定め、能力の達成度に関する定量的解析を行い、創成教育プログラム自体の点検及び改善をはかった。5年間にわたる総合的デザイン能力養成のための系統的な創成教育プログラムを開発し、その効果を評価・確認し、スパイラルアップさせる。第一に、養成すべき総合的なデザイン能力の具体的内容を定義し、能力養成のために、全ての学年に創成教育を導入し、系統的に涵養していく教育プログラムを設計する。第二に、各学年に配備した創成教育を実践し、5年間に渡りデザイン能力を涵養する。第三に、能力を評価する方法およびその基準を定め、それに基づいて能力を点検・評価する。第四に、プログラムを修了した学生のデザイン能力に関する5年間のポートフォリオを作成し、能力の達成度に関する定量的解析を行い、創成教育プログラム自体の点検及び改善をはかる。以上の目的のもとに本年度は以下のように研究を実施した。1.系統的な創成教育プログラムの設計は研究代表者により既に修了している。2.12科目の創成型授業を実施した。特に、工学基礎研究(ものづくり教育を実施、成果は中学生の高専見学会で披露、中学生や中学校教員の評価に耐えるだけの新規性と完成度を満足、企画・創案能力及び制約下の計画・実践能力を特に養成)及び電気電子(情報)工学実験(PICNICを用いた自由課題コンテストを実施、制約下の企画・創案能力、問題抽出・検討能力、設計・計画能力等を特に養成、成果は中学生の高専見学会で披露、中学生から評価)の2科目を重要視した。3.達成度評価基準を作成し、Web入力により自動的にデザイン能力の総合的な評価ができるシステムを構築した。4.本年度の点検により、来年度は第四学年にPICNICを導入することに改善した。5.学会発表及び関連の論文を発表した。5年間にわたる総合的デザイン能力養成のための系統的な創成教育プログラムを開発し、その効果を評価・確認し、スパイラルアップさせる。第一に、養成すべき総合的なデザイン能力の具体的内容を定義し、能力養成のために、全ての学年に創成教育を導入し、系統的に涵養していく教育プログラムを設計する。第二に、各学年に配備した創成教育を実践し、5年間に渡りデザイン能力を涵養する。第三に、能力を評価する方法およびその基準を定め、それに基づいて能力を点検・評価する。第四に、プログラムを修了した学生のデザイン能力に関する5年間のポートフォリオを作成し、能力の達成度に関する定量的解析を行い、創成教育プログラム自体の点検及び改善をはかる。以上の目的のもとに本年度は以下のように研究を実施した。1.系統的な創成教育プログラムの設計は研究代表者により既に修了している。2.12科目の創成型授業を実施した。特に、以下の科目で改善をはかった。1)工学基礎研究(4年前期)(担当:電気情報工学科全教員)昨年度までは自由なものづくりであったが、今年度はPIC教育の流れを重視し、5年生で実施していたPICNICを用いたものづくり教育を実施した。成果は中学生の高専見学会で披露した。中学生や中学校教員の評価に耐えるだけの新規性と完成度を示した。企画・創案能力及び制約下の計画・実践能力を特に養成した。2)電気電子(情報)工学実験(担当:電気情報工学科全教員)昨年度に引き続きPICNICを用いたものづくりを実施した。内容はさらにレベルアップし、ネットの特徴を活かしたものとした。成果は中学生の高専見学会で披露し、中学生から評価を受けた。3.達成度評価基準に基づき、Web入力により自動的にデザイン能力の総合的な評価を実施した。4.本年度の点検により、来年度は第四学年でPICNIC、第五学年はe-learningコンテンツの開発を課題とすることに改善した。5.ポートフォリオの中に就職・進学先あるいは業種等の情報を盛ることについて検討した。6.学会発表及び関連の論文を発表した。5年間にわたる総合的デザイン能力養成のための系統的な創成教育プログラムを開発し、その効果を評価・確認し、スパイラルアップさせる。第一に、養成すべき総合的なデザイン能力の具体的内容を定義し、能力養成のために、全ての学年に創成教育を導入し、系統的に涵養していく教育プログラムを設計する。第二に、各学年に配備した創成教育を実践し、5年間に渡りデザイン能力を涵養する。第三に、能力を評価する方法およびその基準を定め、それに基づいて能力を点検・評価する。 | KAKENHI-PROJECT-17500609 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17500609 |
工業高等専門学校におけるデザイン能力養成のための系統的な創成教育プログラムの開発 | 第四に、プログラムを修了した学生のデザイン能力に関する5年間のポートフォリオを作成し、能力の達成度に関する定量的解析を行い、創成教育プログラム自体の点検及び改善をはかる。以上の目的のもとに本年度は以下のように研究を実施した。1.系統的な創成教育プログラムの設計は研究代表者により既に終了しており、前年度に引き続き創成型授業を実施した。特に以下の科目で改善をはかった。(1)工学基礎研究(4年前期)(担当:電気情報工学科全教員)一昨年度までは自由なものづくりであったが、昨年度はPIC教育の流れを重視し、5年生で実施していたPICNICを用いたものづくり教育を実施した。今年度はさらに高いテーマ設定で実施した。成果は中学生の高専見学会で披露した。中学生や中学校教員の評価に耐えるだけの新規性と完成度を要求し実践した。企画・創案能力及び制約下の計画・実践能力を特に養成した。(2)電気電子(情報)工学実験(担当:電気情報工学科全教員)昨年度まではPICNICを用いたものづくりを実施していた。今年度はPICNICは4年生が主となるので、題材をe-learning教材の開発に変更した。成果は中学生の高専見学会で披露し、中学生から評価を受けた。二つの科目とも、よりステップアップした課題とした。また、計画書を重視することとした。2.システムの評価のために、ポートフォリオの検討を開始した。3.学会発表及び論文発表により成果を公開した。5年間に及ぶ一貫教育が可能な高専の利点を生かし、総合的デザイン能力養成のための系統的な創成教育プログラムを開発し、その効果を評価・確認し、スパイラルアップさせてシステムを確立する。これまでに、系統的な創成教育プログラムを設計し、12科目のPBLを実施している。デザイン能力の達成度評価基準を作成し、Web入力により自動的にデザイン能力の総合的な評価ができるシステムを構築し、成績評価に取り入れている。最終年度にあたり、引き続きプログラムの実践、点検評価、継続的改善等を実施し、内容の点検・改善、評価方法の点検・改善を行った。さらに、上述のWeb入力システムによるデータが4年を修了し、年度末にはデータからポートフォリオを作成した。本システムの点検改善を図ると同時に、システムを評価した。また、以下の科目で改善案を実施した。1.工学基礎研究(4年前期)(担当:電気情報工学科全教員)一昨年度からはPIC教育の流れを重視し、5年生で実施していたPICNICを用いたものづくり教育を実施し作年度はさらに高いテーマ設定で実施した。今年度はより幅広い分野のものづくりを取り入れた。成果は中学生の高専見学会で披露した。2.電気電子(情報)工学実験(担当:電気情報工学科全教員)昨年度から、題材をe-learning教材の開発に変更した。今年度は、より充実した教材開発を行った。成果は中学生の高専見学会で披露し、中学生から評価を受けた。 | KAKENHI-PROJECT-17500609 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17500609 |
界面活性剤の流入・吸着ダイナミクスと生物学的リン除去に及ぼす影響 | 晴天日における流入下水や生活廃水中のLAS濃度の日内変動を調べたところ、下水中の界面活性剤の主要な起源として、洗濯廃水が考えられた。そこで、界面活性剤としてLASを含む洗濯洗剤に着目し、ポリリン酸蓄積細菌群(PAOs)の有機物摂取に及ぼす影響を調べた。その結果、界面活性剤がPAOsの酢酸摂取効率を悪化させることに加えて、PAOsの潜在的なPHA源として利用されることが確認され、PAOsに対して正と負の影響を及ぼすことが明らかとなった。晴天日における流入下水や生活廃水中のLAS濃度の日内変動を調べたところ、下水中の界面活性剤の主要な起源として、洗濯廃水が考えられた。そこで、界面活性剤としてLASを含む洗濯洗剤に着目し、ポリリン酸蓄積細菌群(PAOs)の有機物摂取に及ぼす影響を調べた。その結果、界面活性剤がPAOsの酢酸摂取効率を悪化させることに加えて、PAOsの潜在的なPHA源として利用されることが確認され、PAOsに対して正と負の影響を及ぼすことが明らかとなった。LASの汚泥表面への吸着ダイナミクスを明らかにするための検討として,まず,晴天日における生活廃水中のLASの動態を調べた。具体的には,合流式下水道上流部において下水を24時間にわたり採水し,LAS濃度を追跡した。早朝から正午にかけて,溶存態LASの濃度や負荷は9時をピークに著しく増減した。そこで,総LASの組成に基づいてMDS解析を行ったところ,ピーク時付近では,洗濯廃水が日内で最も集中したと判断された。一方,12時から0時にかけて,総LAS組成の遷移が確認されたことや,より高頻度に観測した溶存態LASの濃度や負荷に違いが見られたことから,LASの流下量や組成は,変動していたと言える。これらの検討では,従来から分析例の多い溶存態に加えて,SSに吸着していたLASも分析したが,後者の存在量の方が多いうえに,組成も明らかに異なっていた。したがって,LASの動態を理解するためには,総量に着目する必要があることが見出された。また,総量に着目することで,一人一日あたりLAS排出量は1.2g・p.e^<-1>・day^<-1>と見積もられ,例えば,CSOにともなうリスク評価の観点でも,貴重な知見が得られた。一方,実験室での検討では,界面活性剤がPAOsやGAOsに及ぼす影響を調べるために,まず,酢酸基質を用いてそれぞれの集積を試みた。特に前者では,その過程において,生物学的リン除去の不安定化要因として,これまで見出されていない知見を得ることができた。それは,GAOsの酢酸摂取活性を特異的に促進する酢酸濃度が存在し,それはPAOsとGAOsの存在量に応じて変化する可能性があることである。現場では,これにLASなどの界面活性剤の汚泥表面への吸着が影響するはずであることから,次年度はこれを総合的に解析する予定である。晴天日における流入下水中のLAS濃度の日内変動を調べたところ、約3倍の差が見られた。住宅地域から排出された生活廃水も含めて解析したところ、LAS濃度のピークが午前中に出現したことや、このときのLAS組成は、市販の洗濯洗剤と似ていたことから、下水中の界面活性剤の主要な起源として、洗濯廃水が考えられた。また、この日内変動にともない、下水処理施設の嫌気槽における汚泥LAS吸着量も変動することが確認された。そこで、界面活性剤としてLASを含む洗濯洗剤に着目し、嫌気条件におけるPAOsの有機物摂取に及ぼす影響を調べた。長期間にわたり、都市下水に洗濯洗剤を強制添加して、嫌気好気回分式活性汚泥運転を行ったところ、リン放出速度はほとんど変化しなかったが、酢酸摂取速度は低下することが確認された。つまり、PAOsの酢酸摂取効率が悪化することが明らかとなった。一方、LASの嫌気的分解過程を調べたところ、既報では、LASは嫌気条件で分解されにくいと言われているが、分解産物として酢酸を生成することが明らかとなった。また、この酢酸を含めて、前駆物質である一部の有機物(低級脂肪酸以外)が、PAOsのPHA源として利用されていることが明らかとなった。さらに、PAOsのなかには、酢酸は摂取しないが、LASに由来する酢酸以外の有機物を摂取するものが存在する可能性が示された。以上のことから、下水処理施設に流入する洗濯洗剤は、その流入変動にともない、PAOsに対して正と負の影響を及ぼすことが明らかとなった。 | KAKENHI-PROJECT-19760369 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19760369 |
富栄養化湖沼の有機物分解および栄養塩回帰過程に関する研究 | 本研究は、富栄養化水において、バクテリア・植物プランクトン・動物プランクトンの3微生物群各々が有機物分解過程に及ぼす基本的な効果を明らかにすることを目的としている。本年度は前年度の研究成果を踏まえ、実際の湖沼での分解過程に強く関連する因子の影響を検討した。検討した因子は、【◯!1】非生物性有機物の質的差異、【◯!2】植物プランクトンの生物種、【◯!3】水温の効果である。まず水中の生物種構成がバクテリアのみでかつ有機物の質が異なる多くの試料を用いて、非生物性有機物の質的な差によるバクテリアの摂取速度の影響を検討した。その結果、試料によって有機物の分解速度は大きく異なるが、それは試料中の易分解な成分と難分解な成分との割合の差によるもので、一連の実験を通じて両成分の減少速度定数は、各々0.40.8、0.0030.006 1/日程度と比較的一定していることが示された。植物プランクトンの生物種ごとの自己分解速度は、生物種混合系中の個体数変化および単一種を用いた分解実験より求め、スタウラストウムのように分解しやすい種からメロシラのように分解しにくい種まで、藻類種によって大きく異なることが示された。しかし、通常の湖水の植物プランクトンの平均分解速度をクロロフィルaより求めると、同一水温では生物種構成が異なってもその分解(減少)速度定数は0.020.03 1/日程度の範囲に存在した。植物プランクトン全体の挙動はクロロフィルaなどの総括指標でも近似的には可能であることがわかった。さらにこの生物種同様、有機物の季節変化に大きく影響する温度の効果を実験により検討した。水温は内在する3微生物群それぞれの活動に大きく影響し、その効果は各種の水質指標の減少速度定数に対し指数形(K=【K_(20)】【Θ^(t-20)】)で表記できた(1030°C)。Θの値は約1.051.10の範囲である。ただし、リンでは低温時の無機化回帰過程で顕著な時間遅れが観察されるなど、その挙動が他の有機物指標と異なっていた。本研究は、富栄養化水において、バクテリア・植物プランクトン・動物プランクトンの3微生物群各々が有機物分解過程に及ぼす基本的な効果を明らかにすることを目的としている。本年度は前年度の研究成果を踏まえ、実際の湖沼での分解過程に強く関連する因子の影響を検討した。検討した因子は、【◯!1】非生物性有機物の質的差異、【◯!2】植物プランクトンの生物種、【◯!3】水温の効果である。まず水中の生物種構成がバクテリアのみでかつ有機物の質が異なる多くの試料を用いて、非生物性有機物の質的な差によるバクテリアの摂取速度の影響を検討した。その結果、試料によって有機物の分解速度は大きく異なるが、それは試料中の易分解な成分と難分解な成分との割合の差によるもので、一連の実験を通じて両成分の減少速度定数は、各々0.40.8、0.0030.006 1/日程度と比較的一定していることが示された。植物プランクトンの生物種ごとの自己分解速度は、生物種混合系中の個体数変化および単一種を用いた分解実験より求め、スタウラストウムのように分解しやすい種からメロシラのように分解しにくい種まで、藻類種によって大きく異なることが示された。しかし、通常の湖水の植物プランクトンの平均分解速度をクロロフィルaより求めると、同一水温では生物種構成が異なってもその分解(減少)速度定数は0.020.03 1/日程度の範囲に存在した。植物プランクトン全体の挙動はクロロフィルaなどの総括指標でも近似的には可能であることがわかった。さらにこの生物種同様、有機物の季節変化に大きく影響する温度の効果を実験により検討した。水温は内在する3微生物群それぞれの活動に大きく影響し、その効果は各種の水質指標の減少速度定数に対し指数形(K=【K_(20)】【Θ^(t-20)】)で表記できた(1030°C)。Θの値は約1.051.10の範囲である。ただし、リンでは低温時の無機化回帰過程で顕著な時間遅れが観察されるなど、その挙動が他の有機物指標と異なっていた。 | KAKENHI-PROJECT-60035032 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-60035032 |
経済社会開発におけるソーシャルビジネス活用の可能性 | バングラデシュにおけるマイクロファイナンス機関の大規模な調査、およびチッタゴン区ミルシャライでの家計調査を実施した。前者については、一部地域でのデータ収集の遅れがあったため、データ分析の段階までは至っていない。今後、産業組織論のアプローチからマイクロファイナンスの支店の立地問題とマイクロファイナンス間の競争に関して、分析を続けていく。ミルシャライでの家計調査については、その地域において利用可能なマイクロファイナンスサービスの全リストを収集したうえで、家計がどのマイクロファイナンス機関から借り入れるのかという行動を分析することによって、どのような人々がマイクロファイナンスのサービスのどのようなコンポーネントを評価しているのか、どの程度多重債務問題が起きているか、を明らかにしようとするものである。データクリーニングが完了し、平成28年7月のRahaman氏の帰国に向けて、データ分析と論文執筆をつづけていく。また、援助プロジェクトの配置とソーシャルビジネスの参入について、二本の論文を執筆し、一本は国際学術雑誌Development Policy Reviewに掲載されることが決まった。これらは、近年のソーシャルビジネスやCSR活動の活発化を背景に、政府が外国援助資金や自らの資金、法執行能力などを通じて、いかに開発課題に取り組んでいくべきかを、様々な事例研究から明らかにしたものである。27年度が最終年度であるため、記入しない。27年度が最終年度であるため、記入しない。バングラデシュにおけるマイクロファイナンス機関の大規模な調査、およびチッタゴン区ミルシャライでの家計調査を実施した。前者については、一部地域でのデータ収集の遅れがあったため、データ分析の段階までは至っていない。今後、産業組織論のアプローチからマイクロファイナンスの支店の立地問題とマイクロファイナンス間の競争に関して、分析を続けていく。ミルシャライでの家計調査については、その地域において利用可能なマイクロファイナンスサービスの全リストを収集したうえで、家計がどのマイクロファイナンス機関から借り入れるのかという行動を分析することによって、どのような人々がマイクロファイナンスのサービスのどのようなコンポーネントを評価しているのか、どの程度多重債務問題が起きているか、を明らかにしようとするものである。データクリーニングが完了し、平成28年7月のRahaman氏の帰国に向けて、データ分析と論文執筆をつづけていく。また、援助プロジェクトの配置とソーシャルビジネスの参入について、二本の論文を執筆し、一本は国際学術雑誌Development Policy Reviewに掲載されることが決まった。これらは、近年のソーシャルビジネスやCSR活動の活発化を背景に、政府が外国援助資金や自らの資金、法執行能力などを通じて、いかに開発課題に取り組んでいくべきかを、様々な事例研究から明らかにしたものである。27年度が最終年度であるため、記入しない。27年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-15F14013 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15F14013 |
ピリドイミダゾピラジンおよびその類縁骨格を有する新規機能性化合物の開発 | 1.ジアミノマレオニトリルを出発原料として、数年前われわれが新たに合成に成功した多数の新規2,3ージシアノーピリド〔1′,2′:1,2〕イミダゾ〔4,5ーb〕ピラジン誘導体がいずれも強い蛍光をもつことを見出し、その特性を詳細に検討したところ、特に7ーフェニル、7ー(2ーピリジル)、7ーメチル誘導体は蛍光量子収率0.60.8と、優れた蛍光特性を示すことを見出した。2.そこでつぎに環数増大と置換基効果の検討を目的として、数種の4ー置換oーフェニレンジアミンを出発原料として、シュウ酸との閉環、塩化チオニルによるクロロ置換を経て、それぞれ対応する6ー置換ー2,3ージクロロキノキサリン類を調製し、これらを置換2ーアミノピリジン類と閉環縮合させ、目的とする新規四環系のピリド〔1′,2′:1,2〕イミダゾ〔4,5ーb〕キノキサリン誘導体を多数合成することに成功した。3.前項の合成経路では一方の閉環成分である置換2ーアミノピリジン類の入手に制限があるため、つぎに、前項の中間体である6ー置換ー2,3ージクロロキノキサリン類を部分アミノ化して6ー置換ー2ーアミノー3ークロロキノキサリン類を調製し、これらを4ーフェニルピリジン、4,4′ージピリジン、4,2′ージピリジンなど置換ピリジン類と閉環縮合し、前項の経路では得られない新規のピリドイミダゾキノキサリン誘導体を合成した。4.このようにして得たピリドイミダゾキノキサリン誘導体について、紫外スペクトル、蛍光スペクトルを測定し、スト-クスシフトおよび蛍光量子収率を求めた。いずれもかなり優れた蛍光特性を示すが、蛍光量子収率0.60.7と、第1項のピリドイミダゾピラジン類より若干劣るようである。キノキサリン環側の置換基は、ニトロ基、ベンゾイル基など、電子吸引性基ほど、量子収率は高いことも見出した。1.これまで合成に成功した多種のピリド〔1′,2′:1,2〕イミダゾ〔4,5ーb〕ピラジン誘導体がいずれも強い蛍光特性を示すことから、環拡大した新規四環系ピリド〔1′,2′:1,2〕イミダゾ〔4,5ーb〕キノキサリン誘導体の合成を検討した。すなわち4種のo-フェニレンジアミンをシュウ酸と反応させ、対応するキノキサリンー2,3ージオンを得、これを塩化チオニルと処理して2,3ージクロロキノキサリンとしたのち、2ーアミノピリジンおよび2ーアミノー4ーピコリンと閉環し、8種の新規ピリドイミダゾキノキサリン類の合成に成功した。生成物はいずれも元素分析および各種スペクトルにより同定した。2.既に得た2,3ージシアノピリド〔1′,2′:1,2〕イミダゾ〔4,5ーb〕ピラジン類のシアノ基の段階的加水分解を検討し、まず過酸化水素モリブデン酸ナトリウム系でシアノーアミド誘導体とし、ついでこれを炭酸ナトリウムで加水分解してアミドーカルボン酸誘導体へ変換し、親水基の導入に成功した。3.上記1.および2.で得た新規誘導体の薬理活性および蛍光特性は現在検討中であるが、既に得た2,3ージシアノピリドイミダゾピラジン類については、7ーtert-ブチル誘導体が著しい殺菌活性を示すこと、および7ーメチル、7ーフェニル、7ー(2ーピリジル)誘導体は蛍光量子収率0.610.80と、すぐれた蛍光特性を示すことを見出した。4.上記1.および2.で得た化合物の特性試験の結果をみて、さらに上式のピリジン環の置換基Rを変えた新規誘導体を合成する計画である。1.ジアミノマレオニトリルを出発原料として、数年前われわれが新たに合成に成功した多数の新規2,3ージシアノーピリド〔1′,2′:1,2〕イミダゾ〔4,5ーb〕ピラジン誘導体がいずれも強い蛍光をもつことを見出し、その特性を詳細に検討したところ、特に7ーフェニル、7ー(2ーピリジル)、7ーメチル誘導体は蛍光量子収率0.60.8と、優れた蛍光特性を示すことを見出した。2.そこでつぎに環数増大と置換基効果の検討を目的として、数種の4ー置換oーフェニレンジアミンを出発原料として、シュウ酸との閉環、塩化チオニルによるクロロ置換を経て、それぞれ対応する6ー置換ー2,3ージクロロキノキサリン類を調製し、これらを置換2ーアミノピリジン類と閉環縮合させ、目的とする新規四環系のピリド〔1′,2′:1,2〕イミダゾ〔4,5ーb〕キノキサリン誘導体を多数合成することに成功した。3.前項の合成経路では一方の閉環成分である置換2ーアミノピリジン類の入手に制限があるため、つぎに、前項の中間体である6ー置換ー2,3ージクロロキノキサリン類を部分アミノ化して6ー置換ー2ーアミノー3ークロロキノキサリン類を調製し、これらを4ーフェニルピリジン、4,4′ージピリジン、4,2′ージピリジンなど置換ピリジン類と閉環縮合し、前項の経路では得られない新規のピリドイミダゾキノキサリン誘導体を合成した。4.このようにして得たピリドイミダゾキノキサリン誘導体について、紫外スペクトル、蛍光スペクトルを測定し、スト-クスシフトおよび蛍光量子収率を求めた。 | KAKENHI-PROJECT-63550632 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-63550632 |
ピリドイミダゾピラジンおよびその類縁骨格を有する新規機能性化合物の開発 | いずれもかなり優れた蛍光特性を示すが、蛍光量子収率0.60.7と、第1項のピリドイミダゾピラジン類より若干劣るようである。キノキサリン環側の置換基は、ニトロ基、ベンゾイル基など、電子吸引性基ほど、量子収率は高いことも見出した。1.これまで合成に成功した多種のピリドイミダゾピラジン誘導体がいずれも強い蛍光特性を示すことから、環拡大した新規四環系ピリドイミダゾキノキサリン誘導体を合成した。すなわち、4-メチル、クロロ、ベンゾイル、ニトロおよび非置換の5種の0-フェニレンジアミン(1)をシュウ酸と閉環縮合させ、対応する2,3-ジオキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノキサリン類(2)を得(収率6080%)、これらをジオキサン中で塩化チオニルと反応させ、2.3-ジクロロキノキサリン類(3)を合成した。(収率6090%)。これをつぎに2-アミノピリジン類(4)と閉環縮合させ、目的とする多種のピリドイミダゾキノキサリン類(5)を得た。ここで出発原料である0-フェニレンジアミン類の置換基Xは、最終生成物の蛍光特性に及ぼす効果を調べるためであるが、電子吸引性の置換基ほど閉環が円滑に進むことも見出した。2.前項の合成経路では、一方の原料である2-アミノピリジン類の入手に制限があるため、つぎに2,3-ジクロロキノキサリン類(3)をジメチルホルムアミド中で氷冷下アンモニアガスを吹き込み、2-アミノ-3-クロロキノキサリン類(6)に誘導し(収率60%以上)、これを4-フェニルピリジン、4,4'-ジピリジン、4,2'-ジピリジンなどの置換ピリジン類(7)と閉環編合させ、数種の新規ピリドイミダゾキノキサリン類(5)を合成した。3.上記で得たピリドイミダゾキノキサリン類について、柴外スペクトル、蛍光スペクトルを測定してスト-クスシフトおよび蛍光量子収率を求めた。いずれもかなり優れた蛍光特性を示し、置換基効果を検討した。 | KAKENHI-PROJECT-63550632 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-63550632 |
パーソナリティの複線的発達とその可塑性に関する生活史理論からの考察 | 前年度の研究において翻訳・標準化した心理尺度(Mini-K; Figueredo et al., 2006)を用いて,パーソナリティの変化を検討するための短期縦断研究を完遂した。得られた結果は想定されていた仮説と合致するもので,現在その結果を欧文献への投稿論文としてまとめている。また,パーソナリティ発達の標準的な発達軌跡や,その軌跡に対する進化的見地からの考察を行うことも,本研究の目的の一つであったため,前年度の研究に引き続き,日本人サンプルを対象としたパーソナリティ発達の検討を試みた。その結果,日本人サンプルにおける欧米圏とはやや異なった発達軌跡が観察され,その結果を論文としてまとめ,採択された。さらに,パーソナリティの変化と一貫性の個人差ということに対して,それらを規定する要因がどれほど遺伝的な要因に規定され,反対にどれほど環境要因に規定されるのかを,東京大学教育学部附属中等教育学校の双生児サンプルを用いた行動遺伝学的分析によって検討した。その結果,成人とはやや異なる青年期に特有の結果が明らかとなり,それらの結果は論文としてまとめ,採択された。加えて,パーソナリティの変化をより具体的な文脈で検討を行うことも試みた。東京大学で行われている体験活動という課外活動に着目し,その中で個々人のパーソナリティがいかに変化したのかを検討した。その結果,学生の外向性やストレス対処能力が向上する可能性が見いだされ,この結果も論文に投稿し,採択された。以上の他にも,関連する研究を積極的に行った。その結果,本年度は研究のアウトプットとして,査読付き論文6本,シンポジウムにおける話題提供を1回,その他ポスター発表を6回発表することになった。27年度が最終年度であるため、記入しない。27年度が最終年度であるため、記入しない。本年度の研究では,進化心理学の領域で用いられているArizona Life History Battery (Figueredo, 2007)の翻訳許可をFigueredo教授からいただいて,まずそのテストバッテリー中に含まれる短縮版の生活史戦略尺度であるMini-K尺度(Figueredo et al., 2006)の翻訳・標準化を行った。この結果は論文として投稿し,現在印刷中となっている。次にこのMini-K尺度を用いて,K-Factorの得点が低い,または高い個体のパーソナリティが短期間でいかに変化,または一貫しているかを,半年ごとに計3回測定を行う短期縦断研究によって検討を行っている。これについては現在2時点目まで調査が終了しており,現在3時点目の調査の準備中である。また、東京大学教育学部附属中等教育学校で蓄積されてきてアーカイブ化されているデータを用いて,パーソナリティや知能の得点に対するコホートの効果,およびその変化の軌跡そのものに対するコホートの効果を検討した。その結果も論文として投稿し,現在,パーソナリティについての論文はパブリッシュ済み,知能についての論文は印刷中となっている。最後に,パーソナリティの変化と一貫性の個人差ということに対して,それらを規定する要因がどれほど遺伝的な要因に規定され,反対にどれほど環境要因に規定されるのかを検討した。青年期という比較的パーソナリティの変化が大きく観察される発達段階に焦点化し,その背景にある遺伝的要因と環境要因の相対的な寄与ということについて,双生児サンプルを用いた行動遺伝学的検討を試みた。その結果、青年期のパーソナリティの変化は比較的,遺伝的要因に規定されるところが大きいことが明らかにされた。こちらの結果は論文としてまとめ,Twin Research and Human Genetics誌に投稿し,現在査読中となっている。前年度の研究において翻訳・標準化した心理尺度(Mini-K; Figueredo et al., 2006)を用いて,パーソナリティの変化を検討するための短期縦断研究を完遂した。得られた結果は想定されていた仮説と合致するもので,現在その結果を欧文献への投稿論文としてまとめている。また,パーソナリティ発達の標準的な発達軌跡や,その軌跡に対する進化的見地からの考察を行うことも,本研究の目的の一つであったため,前年度の研究に引き続き,日本人サンプルを対象としたパーソナリティ発達の検討を試みた。その結果,日本人サンプルにおける欧米圏とはやや異なった発達軌跡が観察され,その結果を論文としてまとめ,採択された。さらに,パーソナリティの変化と一貫性の個人差ということに対して,それらを規定する要因がどれほど遺伝的な要因に規定され,反対にどれほど環境要因に規定されるのかを,東京大学教育学部附属中等教育学校の双生児サンプルを用いた行動遺伝学的分析によって検討した。その結果,成人とはやや異なる青年期に特有の結果が明らかとなり,それらの結果は論文としてまとめ,採択された。加えて,パーソナリティの変化をより具体的な文脈で検討を行うことも試みた。東京大学で行われている体験活動という課外活動に着目し,その中で個々人のパーソナリティがいかに変化したのかを検討した。その結果,学生の外向性やストレス対処能力が向上する可能性が見いだされ,この結果も論文に投稿し,採択された。以上の他にも,関連する研究を積極的に行った。その結果,本年度は研究のアウトプットとして,査読付き論文6本,シンポジウムにおける話題提供を1回,その他ポスター発表を6回発表することになった。本年度計画していた研究内容については、ほぼそのすべてを消化することに成功した。その結果、査読付き論文4本、及び国内外の学会での発表を5回行うこととなった。尺度の翻訳に関しては、許可を得ているものすべてについて行うことができなかったが、これは予算の上限のためであり、次年度予算にて続きを継続して行う予定である。 | KAKENHI-PROJECT-14J12061 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J12061 |
パーソナリティの複線的発達とその可塑性に関する生活史理論からの考察 | 縦断研究については予定通り実施しており、あと次年度に一度調査を行うことで終了する見込みである。その他、論文化しようと考えていたものについては、すべて通せたわけでは無いものの、おおむね順調に論文をパブリッシュできた。以上のことから、今年度はおおむね順調に研究が進んだと判断した。27年度が最終年度であるため、記入しない。まず今年度予算の関係でやり残してしまった尺度の翻訳・標準化について継続して行うこととなる。また縦断研究については3時点目の測定を行い、分析をして論文化する予定である。またその他論文化する予定であったデータについても、迅速に論文をパブリッシュできるよう研究を進展させていく予定である。27年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-14J12061 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J12061 |
造礁サンゴの骨格記録に基づく過去1万年間の表面海水温の精密復元 | 研究期間中,活発なフィールドワークと室内作業を行ない,基礎的データの蓄積を進めると同時に,成果をまとめた.中でも,本研究の大きな成果は,以下の2点である.鹿児島県喜界島の完新世サンゴ礁段丘の各面から,続成作用による影響がないと判断した化石サンゴを2群体ずつ選び,骨格伸長に伴う同位体非平衡の補正をした上で,年平均表層海水温を算出した.その結果,現在の喜界島周辺の年平均表層海水温(25.4°C)に対し,8.16.3kaには現在と同じかあるいはわずかに低い,6.33.1kaには現在よりも約3°C低い,3.11.4kaには現在よりも約1°C弱低いという海水温変動が推定された.しかし,同一群体の同時期に形成されたと考えられる骨格部位の間ですら最大で約5°Cのばらつき持っていた.サンゴ礁の分布域の北縁付近にある喜界島の完新世サンゴの骨格記録との比較のために,より低緯度にあるグアム島の現世サンゴの骨格記録を検討した.Nino3.4海域の水温偏差に基づいて,Guamの気候はエルニーニョ期間・ラニーニャ期間・通常期間に区分される.酸素同位体比-海水温の相関は,-0.66(通常時),-0.81(エルニーニョ時),-0.48(ラニーニャ時)となり,期間の間で差が認められた.この原因は,次のような理由による.エルニーニョ時にはWPWP(西太平洋暖水塊)が東進し,WPWPを取り巻く低温水が北西太平洋域から南下するため,グアムにおける冬季の水温が27°C以下に低下する.逆にラニーニャ時にはWPWPの西進により,冬季水温が高くなる(28°C以上).このような海洋環境の差異によってグアム周辺海域の水温の年較差に違いが生じ,その結果,サンゴ骨格の酸素同位体比に及ぼす海水酸素同位体比変化の影響が相対的に変化し,各期間の相関における有意な差として現出する.研究期間中,活発なフィールドワークと室内作業を行ない,基礎的データの蓄積を進めると同時に,成果をまとめた.中でも,本研究の大きな成果は,以下の2点である.鹿児島県喜界島の完新世サンゴ礁段丘の各面から,続成作用による影響がないと判断した化石サンゴを2群体ずつ選び,骨格伸長に伴う同位体非平衡の補正をした上で,年平均表層海水温を算出した.その結果,現在の喜界島周辺の年平均表層海水温(25.4°C)に対し,8.16.3kaには現在と同じかあるいはわずかに低い,6.33.1kaには現在よりも約3°C低い,3.11.4kaには現在よりも約1°C弱低いという海水温変動が推定された.しかし,同一群体の同時期に形成されたと考えられる骨格部位の間ですら最大で約5°Cのばらつき持っていた.サンゴ礁の分布域の北縁付近にある喜界島の完新世サンゴの骨格記録との比較のために,より低緯度にあるグアム島の現世サンゴの骨格記録を検討した.Nino3.4海域の水温偏差に基づいて,Guamの気候はエルニーニョ期間・ラニーニャ期間・通常期間に区分される.酸素同位体比-海水温の相関は,-0.66(通常時),-0.81(エルニーニョ時),-0.48(ラニーニャ時)となり,期間の間で差が認められた.この原因は,次のような理由による.エルニーニョ時にはWPWP(西太平洋暖水塊)が東進し,WPWPを取り巻く低温水が北西太平洋域から南下するため,グアムにおける冬季の水温が27°C以下に低下する.逆にラニーニャ時にはWPWPの西進により,冬季水温が高くなる(28°C以上).このような海洋環境の差異によってグアム周辺海域の水温の年較差に違いが生じ,その結果,サンゴ骨格の酸素同位体比に及ぼす海水酸素同位体比変化の影響が相対的に変化し,各期間の相関における有意な差として現出する.本研究の目的は,造礁サンゴ化石(ハマサンゴ)の酸素同位体比および金属濃度から,過去1万年間の表面水温を精密に復元することである.この目的達成のためには,(1)続成作用を被っていないサンゴ化石が大量に得られること,(2)その年代が過去1万年を網羅すること,という2つの条件を満たす場所を選定する必要がある.そこで,琉球列島の中で,完新世段丘が最もよく発達する喜界島で試料を採取することを計画した.喜界島の全域にわたる慨査の結果,南部の荒木海岸に発達する完新世段丘を構成する堆積物は,主に礁斜面上部で形成されたもので,非常に多くのハマサンゴを含むことが分かった.そこで,本研究では荒木を主たる研究試料の採取地点とすることに決定した.試料の採取に先立って,海岸にほぼ直交する測線を4本設定し,これらの測線に沿って光波測量計を用いて段丘地形を詳細に調べた.その結果,本地点に4面の段丘が発達することが判明した.また,測線に沿って約10m間隔で1mx1mの方形区を設置し,化石サンゴ群集の定量的な調査を行い,それぞれの段丘内における堆積環境(サンゴ礁の微地形との対応関係)を詳細に決定した. | KAKENHI-PROJECT-12304028 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12304028 |
造礁サンゴの骨格記録に基づく過去1万年間の表面海水温の精密復元 | これらの地形・堆積物の調査終了後にハマサンゴ群体を採取した.すべての採取群体について,産状の写真記録をとり,産出位置を光波測量計で測定した.採取した個体数は約100個である.現在,これらの群体を約6mm厚のスラブにし,軟X線写真を撮影し,骨格の年輪を観察する作業を進めている.一方,サンゴの炭素・酸素同位体比を大量に分析するために導入した安定同位体比質量分析計delta S用炭酸塩自動分析システムは,立ち上げ作業を完了し,現在順調に稼動中である.今年度は,本研究の関連資料であるグアム島産ハマサンゴ群体の分析を行い,過去13年間の温度および塩分変化を詳細に復元することができた.今年度は,鹿児島県喜界島に発達する4面の隆起サンゴ礁段丘から採取したハマサンゴ群体の酸素同位体比に基づいて,それらの生息当時の年平均表層海水温を算出するとともに,続成によって炭素・酸素同位体比記録がどのように改変されるかについて検討した.なお,4つの段丘の形成年代は陸側から8.16.3,6.34.1,4.13.1,3.11.4kaであり,化石サンゴは採集された段丘面の形成年代の範囲に生息していたと考えた.続成作用:続成作用によって生じた方解石の含有量と炭素・酸素同位体組成の関係を検討した.その結果,炭素同位体比-酸素同位体比のクロスプロット上で,方解石を含む試料の炭素・酸素同位体比は方解石を含まない試料に比べてばらつきが大きく,この傾向は炭素同位体比でより顕著であることが明らかとなった.また,陸上での続成作用により生成する方解石セメントは,サンゴが形成するアラレイシ骨格と類似した炭素・酸素同位体緯成であり,特に両者の酸素同位体比は近い値にあることが判明した.このような方解石の存在は,サンゴ骨格本来の同位体組成をゆがめるものであり,サンゴ骨格の同位体組成を利用した古環境解析では,方解石を全く含まないサンゴ骨格のみを用いる必要がある.古水温:現在の喜界島周辺の年平均表層海水温は25.4°Cである.8.16.3kaの平均海水温は.現在と同じかあるいはわずかに低く見積もられた.また,6.33.1kaには平均海水温は現在よりも約3°C低く,3.11.4kaには現在よりも約1°C弱低かったという結果が得られた.しかし,同一群体から得た複数の骨格部位を用いて算出した古水温は,最大で約5°Cのばらつきをもつ.このことは,古水温を算出する際,ある化石サンゴ骨格の任意の部位の酸素同位体比から古水温を算出しても,その値には大きな誤差が伴うものであることを意味する.平成14年度は,活発なフィールドワークと室内作業を行ない,基礎的データの蓄積を進めると同時に,これまでの成果をまとめた.中でも,今年度の大きな成果は,以下の2項である.鹿児島県喜界島の完新世サンゴ礁段丘の各面から,続成作用による影響がないと判断した化石サンゴを2群体ずつ選び,骨格伸長に伴う同位体非平衡の補正をした上で,年平均表層海水温を算出した.その結果,現在の喜界島周辺の年平均表層海水温(25.4°C)に対し,8.16.3kaには現在と同じかあるいはわずかに低い,6.33.1kaには現在よりも約3°C低い,3.11.4kaには現在よりも約1°C弱低いという海水温変動が推定された.しかし,同一群体の同時期に形成されたと考えられる骨格部位の間ですら最大で約5°Cのばらつき持っていた.サンゴ礁の分布域の北縁付近にある喜界島の完新世サンゴの骨格記録との比較のために,より低緯度にあるグアム島の現世サンゴの骨格記録を検討した.Nino3.4海域の水温偏差に基づいて,Guamの気候はエルニーニョ期間・ラニーニャ期間・通常期間に区分される.酸素同位体比-海水温の相関は,-0.60(通常時),-0.76(エルニーニョ時),-0.45(ラニーニャ時)となり,期間の間で差が認められた. | KAKENHI-PROJECT-12304028 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12304028 |
高次元Qファノ多様体と有理連結多様体の双有理幾何学的研究 | 本年度は、高次元Qファノ多様体を対象として、双有理剛性に関わる問題を中心に研究を行った。双有理剛性はIskovskikh-Maninにより3次元4次超曲面の非有理性を示す際に導入された概念で、その後も極小モデル理論の進展と相まって進展を続けている。双有理超剛性を有するファノ多様体の安定性に関する研究を尾高氏と共同で行った。結果としては、双有理超剛性を有するファノ多様体は、ごく弱い付加条件の下にスロープ安定である、ということを示した。代数多様体のスロープ安定性は、ベクトル束のスロープ安定性の類似として導入された概念である。双有理(超)剛性と(スロープ)安定性という出自からして全く異なる二つの間に関連性を見いだすことに成功した。脱安定化部分スキームが、双有理剛性における極大特異点に対応するという見通しのよい証明が与えられた。スロープ安定性よりも強いK安定性を示すことがより重要な問題として残っている。ファノ多様体のK安定性は、ケーラー・アインシュタイン計量の存在と密接に関係しているため、非常に興味深い問題である。上記のものと平行して、3次元Qファノ重み付き完全交叉の森ファイバー構造を決定する研究を行った。Corti-Pukhlikov-Reidによって3次元Qファノ重み付き超曲面は全て双有理剛性を有することが示されている。一方で、余次元2の3次元Qファノ重み付き完全交叉の多くは双有理剛性を有しないことがわかる。現段階において、それらのうちで双有理剛性を有するものを決定し、有しないもののうちの多くの対象についてその森ファイバー構造を決定することに成功している。Qファノ多様体の双有理幾何学的な観点からの明示的な研究ということで、本年度の研究は順調に経過している。計画当初は正標数還元手法による研究を予定していたが、その手法を修正することで3次元重み付き完全交叉の研究につながり、さらには申請者が思いもよらなかった安定性の研究につながった。双有理剛性に関わる研究は、自己双有理写像の研究と密接に関係するため当初の研究の目的に沿った研究が遂行できている。3次元Qファノ完全交叉に関する本年度の研究を継続し、余次元2の3次元Qファノ重み付き完全交叉の森ファイバー構造を決定することを目標とする。自己双有理写像に関する研究も行う。本年度は、高次元Qファノ多様体を対象として、双有理剛性に関わる問題を中心に研究を行った。双有理剛性はIskovskikh-Maninにより3次元4次超曲面の非有理性を示す際に導入された概念で、その後も極小モデル理論の進展と相まって進展を続けている。双有理超剛性を有するファノ多様体の安定性に関する研究を尾高氏と共同で行った。結果としては、双有理超剛性を有するファノ多様体は、ごく弱い付加条件の下にスロープ安定である、ということを示した。代数多様体のスロープ安定性は、ベクトル束のスロープ安定性の類似として導入された概念である。双有理(超)剛性と(スロープ)安定性という出自からして全く異なる二つの間に関連性を見いだすことに成功した。脱安定化部分スキームが、双有理剛性における極大特異点に対応するという見通しのよい証明が与えられた。スロープ安定性よりも強いK安定性を示すことがより重要な問題として残っている。ファノ多様体のK安定性は、ケーラー・アインシュタイン計量の存在と密接に関係しているため、非常に興味深い問題である。上記のものと平行して、3次元Qファノ重み付き完全交叉の森ファイバー構造を決定する研究を行った。Corti-Pukhlikov-Reidによって3次元Qファノ重み付き超曲面は全て双有理剛性を有することが示されている。一方で、余次元2の3次元Qファノ重み付き完全交叉の多くは双有理剛性を有しないことがわかる。現段階において、それらのうちで双有理剛性を有するものを決定し、有しないもののうちの多くの対象についてその森ファイバー構造を決定することに成功している。Qファノ多様体の双有理幾何学的な観点からの明示的な研究ということで、本年度の研究は順調に経過している。計画当初は正標数還元手法による研究を予定していたが、その手法を修正することで3次元重み付き完全交叉の研究につながり、さらには申請者が思いもよらなかった安定性の研究につながった。双有理剛性に関わる研究は、自己双有理写像の研究と密接に関係するため当初の研究の目的に沿った研究が遂行できている。3次元Qファノ完全交叉に関する本年度の研究を継続し、余次元2の3次元Qファノ重み付き完全交叉の森ファイバー構造を決定することを目標とする。自己双有理写像に関する研究も行う。 | KAKENHI-PROJECT-11J02053 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11J02053 |
内発的動機づけの生起および変容の神経基盤 | 内発的動機づけに脳内で影響を及ぼす要因を明らかにするために、ストップウォッチ課題遂行中の脳活動を機能的磁気共鳴画像法によって計測した。ストップウォッチを自分で選べる「自己選択条件」を人は好み、課題成績も上がった。失敗に対する前頭前野腹内側部の活動低下も、自己選択条件では消失した。失敗を次の成功へと結び付ける機構が前頭前野腹内側部に備わっており、これが、自己決定感が動機づけを高め課題成績を上昇させることを示唆する。また線条体は、失点を回避する成功よりも、得点をアップする成功に強く反応した。成功接近の方が失敗回避よりも脳内報酬系の活性化の度合いが大きく、動機づけ向上の効果が高いことを示唆している。内発的動機づけに脳内で影響を及ぼす要因を明らかにするために、ストップウォッチ課題遂行中の脳活動を機能的磁気共鳴画像法によって計測した。ストップウォッチを自分で選べる「自己選択条件」を人は好み、課題成績も上がった。失敗に対する前頭前野腹内側部の活動低下も、自己選択条件では消失した。失敗を次の成功へと結び付ける機構が前頭前野腹内側部に備わっており、これが、自己決定感が動機づけを高め課題成績を上昇させることを示唆する。また線条体は、失点を回避する成功よりも、得点をアップする成功に強く反応した。成功接近の方が失敗回避よりも脳内報酬系の活性化の度合いが大きく、動機づけ向上の効果が高いことを示唆している。自己決定感の内発的動機づけへの影響の神経基盤を明らかにするため、31名の被験者に、毎試行で呈示される2つの異なるデザインのストップウォッチのうちの一方でストップウォッチを5秒で止める“ストップウォッチ課題"を行って貰った。課題遂行中の脳活動をfMRIによって測定し、使うストップウォッチを自分で選べる自己選択条件と、コンピュータによって選ばれる強制選択条件とで、脳活動を比較したところ、先行研究と一致して、どちらの条件かを示す手がかり刺激提示期に、自己選択条件で有意に高い活動が、帯状回前部、島皮質、線条体、および中脳において見られた。また、成功/失敗の結果が呈示される期間の活動では、失敗に対する前頭前野腹内側部における活動低下が、自己決定感によって消失することが分かった。この結果は、英国の科学雑誌“Cerebral Cortex"に掲載された。もう一つの着目点である「接近/回避フレーム」が内発的動機づけに影響を与える神経基盤を明らかにするため、成功すると得点がアップする「成功接近ブロック」、失敗すると得点がダウンする「失敗回避ブロック」、得点が変化しない「対照ブロック」を用意して、20名の被験者に全ての条件でストップウォッチ課題を行って貰った。さらに、自分のユニークさへの動機も内発的動機づけの一成分であると考えられたため、自分らしいユニークな商品に対する価値づけの神経基盤を明らかにするために、オリジナルのスマホカバーをどれだけ欲しいかを評定する課題を29名の被験者に行って貰い、課題遂行中の脳活動をfMRIによって計測した。その結果、限定商品を評価するときに縁上回の活動が有意に低下し、ユニークさを求める性格傾向が強いほど、この低下の度合いが大きいことが明らかになった。この成果は、国際学会(Neuroscience2013およびNeuroeconomics2013)で発表した。平成24年度は、予定通り、自己決定感の内発的動機づけへの影響を調べる課題を作成し、31名の被験者で行動実験を行った。この実験では、毎試行で呈示される2つの異なるデザインのストップウォッチのうち、その試行で使うストップウォッチを自分で選べる自己選択条件と、コンピュータによって選ばれる強制選択条件とがランダムな順序で用意された。事後的にどちらがより楽しかったかを尋ねたところ、自己選択条件の方が楽しかったと答えた被験者が有意に多かった(p<0.0001, binomial test)。また、課題自体の困難度は条件間で全く差が無かったにも関わらず、成功率も自己選択条件の方が、強制選択条件よりも有意に高かった(p<0.05, t-test)。31名のうち27名については、fMRIを用いた脳計測実験も行った。その結果、自己選択条件の試行が始まる手がかりを呈示した直後の期間に、強制選択条件の手がかり呈示直後と較べて、有意に高い活動が、帯状回前部、島皮質、線条体、および中脳において見られた。このことは、先行研究(Leotti & Delgado, 2011)と一致する。また、成功/失敗の結果が呈示される期間の活動では、失敗に対する前頭前野腹内側部における活動低下が、自己決定感によって消失することが分かった。この結果は、自己選択条件においては、特に失敗に対するネガティブな感情が抑えられ、次の試行で成功するための情報としてポジティブに捉えることによって、動機づけと成功率を高められるプロセスに、前頭前野腹内側部が独自の重要な機能を有していることを示唆している。これらの研究成果は、日本神経科学大会で発表したほか、脳と心のメカニズム冬のワークショップでの招待講演でも発表し、現在は学術雑誌に論文投稿中である。「接近/回避フレーム」が内発的動機づけに影響を与える神経基盤を明らかにするため、成功すると得点がアップする「成功接近ブロック」、失敗すると得点がダウンする「失敗回避ブロック」、得点が変化しない「対照ブロック」を用意して、19名の被験者に全ての条件でストップウォッチ課題を行って貰った。 | KAKENHI-PROJECT-24240061 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24240061 |
内発的動機づけの生起および変容の神経基盤 | 課題遂行中の脳活動をfMRIによって測定し、成功接近ブロックと失敗回避ブロックとで、脳活動を比較したところ、成功したときに、成功接近ブロックにおいて獲得できる得点が高いことが分かったときも、失敗回避ブロックにおいて損失を回避できる得点が高いことが分かったときも、線条体を中心とする報酬系の活動は高かった。一方、成功/失敗の結果が分かったときの線条体の活動は、成功接近ブロックで成功して高い得点を獲得したときには高い活動を示したが、失敗回避ブロックで成功して高い得点の損失を回避したときには、そのような活動は見られなかった。これらの所見は、目標達成から遠ざかることからの回避よりも、目標達成に近づくことへの成功の方が、線条体を中心とする脳内の報酬系の活性化の度合いが大きいことにより、成功接近/失敗回避フレームの違いが課題に対する動機づけを変化させることを示唆している。内発的動機づけには、自らの能力についての自信(自己効力感)も大きな影響を与える。そこで、特性的自己効力感の質問紙指標と脳構造との関係を、voxel-based morphometry (VBM)法を用いて調べたところ、楔前部の灰白質体積が、特性的自己効力感の高さと有意な正の相関を示すことが分かった。この所見は線条体や前頭葉における内発的動機づけに、楔前部からの入力が影響を与える可能性を示唆するものであり、本成果は国内外の学会で発表した。26年度が最終年度であるため、記入しない。認知脳科学26年度が最終年度であるため、記入しない。自己決定感による動機づけの亢進とその神経基盤については既に明らかとなり、その成果は学術雑誌に掲載された。接近/回避フレームの影響については、fMRI実験を予定通り終え、現在解析中である。自分のユニークさという内発的動機づけのもう一つの側面についてもfMRI実験を実施し、その成果を国際学会で発表した。当初の予定通り、自己決定感による動機づけ更新を、行動実験で確認し、その神経基盤についても重要な所見を得て、論文投稿中である。今年度は、残る「接近/回避フレーミング効果」の内発的動機づけへの影響の神経基盤について、結果を解析し、論文にまとめ、投稿する。また、自分のユニークさを求める動機づけの神経基盤についても論文にまとめ、投稿する。平成25年度は、予定通り、内発的動機づけに影響を与えるもう一つの要因である「接近/回避フレーミング効果」に着目して研究を進める。応募者らが開発した、内発的動機づけに応じた脳活動を起こすことのできる課題を改変し、被験者に成功接近を意識させるフィードバックと失敗回避を意識させるフィードバックとを分けて用い、条件間で脳活動を比較することにより、内発的動機づけが成功接近欲求と失敗回避欲求にどのように影響されるか、その脳内過程を明らかにし、学術雑誌に発表する。 | KAKENHI-PROJECT-24240061 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24240061 |
純金属の水溶液中フレッティング摩耗に関する研究 | 腐食環境中フレッチング摩耗の機構を明らかにするため、空気中,蒸留イオン交換水中,3.4%食塩水中における純鉄,純銅の摩耗試験を行った。同種金属の組合せで、相対すべり量(片振幅120μm),接触荷重(3kgf)を一定とし、空気中では相対湿度(0-70%)を変数とした。また蒸留イオン交換水中、食塩水中では液中溶存酸素量(0.1-10ppm)と液温(10-40°C)を変数とした。実験結果からフレッチング摩耗に及ぼす水蒸気と水の効果の相違、両溶液中の溶存酸素の効果を調べた。また摩耗率に対する見かけの活性化エネルギの値を求め、炭素鋼や黄銅について先に得られている値と比較した。空気中では、純鉄,純銅ともそれぞれ15,25%の相対湿度で摩耗量の極大値が現れ、それ以上では湿度の増加とともに摩耗が低下する。極大値出現の理由は、適当量の水蒸気が接触面に吸着して酸素の吸着を妨げ、凝着摩耗が優勢になるためである。つぎに蒸留イオン交換水中、食塩水中の摩耗量は、調べた溶存酸素量、液温の範囲内では、湿潤空気中の摩耗量よりも小さい。これは液体の潤滑効果で金属の直接接触が緩和されるためであろう。純鉄の蒸留イオン交換水中の摩耗では溶存酸素の効果は明瞭でない。一方、食塩水中では溶存酸素量の増加とともに摩耗量はわずかに減少し、腐食摩耗に関する従来の実験事実と異なる。用いた接触荷重が大きいため、液体中でも腐食摩耗より凝着摩耗が優勢になったと考えられ、溶存酸素の増加と共に腐食成生物が接触面に堆積して凝着摩耗が減少するのであろう。蒸留イオン交換水中,食塩水中における両金属のフレッチング摩耗量は液温とともに増加する。摩耗率に対する見かけの活性化エネルギは溶存酸素量の値によってあまり変化せず、数Kcal/molのオーダである。この値は先に炭素鋼,黄銅の摩耗で得られた値と等しい。今後、電気化学的手法でこれらの結果を考察していきたい。腐食環境中フレッチング摩耗の機構を明らかにするため、空気中,蒸留イオン交換水中,3.4%食塩水中における純鉄,純銅の摩耗試験を行った。同種金属の組合せで、相対すべり量(片振幅120μm),接触荷重(3kgf)を一定とし、空気中では相対湿度(0-70%)を変数とした。また蒸留イオン交換水中、食塩水中では液中溶存酸素量(0.1-10ppm)と液温(10-40°C)を変数とした。実験結果からフレッチング摩耗に及ぼす水蒸気と水の効果の相違、両溶液中の溶存酸素の効果を調べた。また摩耗率に対する見かけの活性化エネルギの値を求め、炭素鋼や黄銅について先に得られている値と比較した。空気中では、純鉄,純銅ともそれぞれ15,25%の相対湿度で摩耗量の極大値が現れ、それ以上では湿度の増加とともに摩耗が低下する。極大値出現の理由は、適当量の水蒸気が接触面に吸着して酸素の吸着を妨げ、凝着摩耗が優勢になるためである。つぎに蒸留イオン交換水中、食塩水中の摩耗量は、調べた溶存酸素量、液温の範囲内では、湿潤空気中の摩耗量よりも小さい。これは液体の潤滑効果で金属の直接接触が緩和されるためであろう。純鉄の蒸留イオン交換水中の摩耗では溶存酸素の効果は明瞭でない。一方、食塩水中では溶存酸素量の増加とともに摩耗量はわずかに減少し、腐食摩耗に関する従来の実験事実と異なる。用いた接触荷重が大きいため、液体中でも腐食摩耗より凝着摩耗が優勢になったと考えられ、溶存酸素の増加と共に腐食成生物が接触面に堆積して凝着摩耗が減少するのであろう。蒸留イオン交換水中,食塩水中における両金属のフレッチング摩耗量は液温とともに増加する。摩耗率に対する見かけの活性化エネルギは溶存酸素量の値によってあまり変化せず、数Kcal/molのオーダである。この値は先に炭素鋼,黄銅の摩耗で得られた値と等しい。今後、電気化学的手法でこれらの結果を考察していきたい。 | KAKENHI-PROJECT-61550116 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61550116 |
保育環境が乳幼児の身体意識や行動特性に及ぼす影響 | 1研究目的厚生省は少子化傾向に歯止めをかけ働く母親支援の為エンゼルプランをスタートさせた。その代表的な対策に保育時間の延長があり、乳幼児の心身の発達に様々な形で影響を及ぼすと推察される。また核家族化,少子化傾向は早期教育ブームを生んだ。そこで本研究の目的は保育環境が幼児の身体意識にどの様な影響を及ぼすか検討することである。2調査対象3歳児保育所230各家庭養育261名早期学習児75名計566名。3調査内容身体意識調査(1)身体概念-身体部位,動作語認知調査(2)身体像-全身の身体画描かせた後,身体部位を情報呈示し再度描かせた描画サイズ描画率描画得点を算出した。(3)身体図式-片足立ち片足跳び両足跳び方向性ラテラリテイー正中線交叉を一部の幼児に実施した。4結果と考察(1)家庭養育児の特徴(1)身体部位の認知は21部位中19-7部まで認知し個人差が著しかった。(2)動作語の認知は3歳後半の男児で手を振る62%腰を曲げる12%肘を曲げる44%腕を曲げる22%であった。(3)身体画はロ-ダ・ケロッグの[人間]の発達過程と比較するとスクリブルから比較的完成に近い人間像に該当し個人差が著しかった。(4)身体画の描画サイズは1回目より2回目のほうが大きく描画得点も高かった。(5)身体画の描画サイズと体格や身体部位との相関は認められなかった。(2)家庭養育児,保育所児及び早期学習児との比較(1)身体部位認知では3歳後半女児で保育所児が有意に高かった。(2)身体画の描画得点では3歳後半女児の早期学習児が保育所児より有意に高く,2回目は家庭養育児が保育児より有意に高得点であった。(3)身体画の描画サイズは2枚ともどの年齢の男女とも家庭養育児が保育児より大きく,自尊感情の高い傾向が認められた。1研究目的集団保育と家庭で母親に養育されている幼児では、身体意識や行動特性にどのような特徴がみられるか比較検討することである。2調査対象保育所児1-3歳児476名家庭養育児2-3歳児340名3調査内容身体意識調査(1)身体概念-1人ずつ面接して身体部位や動作語を聞く(2)身体像-身体画を描かせた後身体に関する情報呈示後再度身体画を描かせた。(3)身体図式-片足立ち、片足跳び、両足跳び、物的バランスを測定した。結果と考察(1)身体の事実に関する知識は両者に有意な差はみられなかった。1歳児は目耳鼻口手足の部位を認知しており、2歳児は尻首背中が加わり胸はおっぱい腹はお腹、おへそと言換えると理解できた。3歳児になると個人差が著しく手首踵つま先を理解できる幼児もいた。(2)身体画で体に関するイメージの発達を検討した。図1は3歳児の事例であり情報呈示後の身体画は描画得点が高くなり、描画面積も大きくなる傾向を示した。ロ-ダゲロックの人物画の発達過程の9段階まで描ける幼児もいた。身体の事実に関する知識を得ることによって、身体イメージが明確になり自信をもって身体画を描くことができるようになったと推察された。(3)姿勢や運動のために必要な骨格や筋肉を自動的に調整する能力の発達を検討すると、3歳児では開眼片足立ち(12-2秒)90%片足跳び77%両足跳び100%物的バランス99%であった。今後の課題は対象者を増やし三者の関連を追及することである。1研究目的厚生省は少子化傾向に歯止めをかけ働く母親支援の為エンゼルプランをスタートさせた。その代表的な対策に保育時間の延長があり、乳幼児の心身の発達に様々な形で影響を及ぼすと推察される。また核家族化,少子化傾向は早期教育ブームを生んだ。そこで本研究の目的は保育環境が幼児の身体意識にどの様な影響を及ぼすか検討することである。2調査対象3歳児保育所230各家庭養育261名早期学習児75名計566名。3調査内容身体意識調査(1)身体概念-身体部位,動作語認知調査(2)身体像-全身の身体画描かせた後,身体部位を情報呈示し再度描かせた描画サイズ描画率描画得点を算出した。(3)身体図式-片足立ち片足跳び両足跳び方向性ラテラリテイー正中線交叉を一部の幼児に実施した。4結果と考察(1)家庭養育児の特徴(1)身体部位の認知は21部位中19-7部まで認知し個人差が著しかった。(2)動作語の認知は3歳後半の男児で手を振る62%腰を曲げる12%肘を曲げる44%腕を曲げる22%であった。(3)身体画はロ-ダ・ケロッグの[人間]の発達過程と比較するとスクリブルから比較的完成に近い人間像に該当し個人差が著しかった。(4)身体画の描画サイズは1回目より2回目のほうが大きく描画得点も高かった。(5)身体画の描画サイズと体格や身体部位との相関は認められなかった。(2)家庭養育児,保育所児及び早期学習児との比較(1)身体部位認知では3歳後半女児で保育所児が有意に高かった。 | KAKENHI-PROJECT-06680132 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06680132 |
保育環境が乳幼児の身体意識や行動特性に及ぼす影響 | (2)身体画の描画得点では3歳後半女児の早期学習児が保育所児より有意に高く,2回目は家庭養育児が保育児より有意に高得点であった。(3)身体画の描画サイズは2枚ともどの年齢の男女とも家庭養育児が保育児より大きく,自尊感情の高い傾向が認められた。 | KAKENHI-PROJECT-06680132 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06680132 |
エネルギー収支に基づくシンチレータとドシメータの実験的な統合 | 本研究の目的は、蛍光体を用いた放射線計測を行うという目的が同じでありながら、異なる分野として発展してきたシンチレータ、および蛍光体型ドシメータの実験的な統合モデルを描く事である。このような目的を達成する為、材料系としてはバルク単結晶、透明/不透明セラミックス、ガラスを選択し、何らかのホストに0.110%程度の発光中心元素を添加した物質を合成し、そのシンチレーションおよびドシメータ特性を評価した。例えば本年度の成果として、無添加およびTl添加CsBr透明セラミックスおよび単結晶の検討を行った。これらにおいては共に、シンチレーション特性とドシメータ特性の反相関性を確認できた。総じて様々な物質系において、透明セラミックスはドシメータ特性が高く、一方で単結晶はシンチレーション特性が高いという結果が得られた。これは透明セラミックスは多くの場合、還元雰囲気で合成を行うために陰イオン欠陥が形成されやすく、それらがドシメータで必須となる捕獲中心となる事で、ドシメータ特性を高め、一方でキャリアが発光中心まで輸送される確率が減少する為に、シンチレーション特性は相対的に低くなるものと理解される。これらに加え、本年度からは研究協力者らのグループと協力し、シンチレーション、ドシメータ用の遅発蛍光と、光音響信号強度の相関関係を調べ始めた。光音響信号は主に熱として消費されるエネルギーに比例する事が知られており、発光に寄与しない分のエネルギーが熱に変換されているという事を、定性的に実験で検証した。本研究を進めるうえでの作業仮説は、二次電子(デルタ線、もしくは半導体分野におけるキャリア)の、発光中心と捕獲中心への分岐比がシンチレータもしくはドシメータとしての性能を規程するというものである。従来は希土類発光中心を有するセラミックスと単結晶にという、秩序構造を有する物質系においてのみこの仮説を検証してきたが、昨年度は短距離秩序構造を有しないアモルファス(ガラス)においても同様の傾向(シンチレーションとドシメータ用蓄積蛍光)の反相関性を確認する事が出来た。本年度はさらにこの研究を進めると共に、光音響(熱)エネルギーとの相関性に関しても知見を得ることが出来た。より多様な物質、すなわち様々なナノ・ミクロスケールの秩序・ランダム構造におけるシンチレーションおよびドシメータ特性を観測し、どういった場合が反相関性が成立し、どのような場合は成立しない(すなわち多くの吸収した放射線エネルギーが熱失活する)かを明らかにする。さらに研究協力者らとの共同研究を通じて、逐次過程におけるダイナミクスや、光音響を用いた熱失活の定性的な評価を行っていきたい。本研究の目的は、蛍光体を用いた放射線計測を行うという目的が同じでありながら、異なる分野として発展してきたシンチレータ、および蛍光体型ドシメータの実験的な統合モデルを描く事である。このような目的を達成する為、材料系としてはバルク単結晶、透明/不透明セラミックス、ガラスを選択し、何らかのホストに0.110%程度の発光中心元素を添加した物質を合成し、その基礎的な光物性を計測した後に、シンチレーションおよびドシメータ特性を評価した。例えばガラスを例に取った場合、本年度はEu添加BaO-Al2O3-B2O3に着目し、Eu濃度を変化させて、シンチレーション・ドシメータ特性の双方を観測し、シンチレーション特性の高い組成(Eu濃度)ではドシメータとしての特性は低く、ドシメータ特性の高い組成ではシンチレータとしての特性が低いという、反相関性を見出した。同様の反相関性は、単結晶およびセラミックスでは検証してきたが、ミクロスケールで秩序構造を有しないガラスにおいても成り立つ事を明らかにした。加えて従来は希土類発光中心を持つもののみを検討してきたが、より一般性を拡張する為、遷移金属添加物質にも着目した。Mnを異なる濃度添加したMgOを作製し、評価したところ、これまでと同様に反相関性を確認できた。以上のように、様々な物質形態(ナノ、マイクロスケール)、発光中心において作業仮設であるエネルギー収支の反相関性を確認する事が出来た。本研究を進めるうえでの作業仮説は、二次電子(デルタ線、もしくは半導体分野におけるキャリア)の、発光中心と捕獲中心への分岐比がシンチレータもしくはドシメータとしての性能を規程するというものである。従来は希土類発光中心を有するセラミックスと単結晶にという、秩序構造を有する物質系においてのみこの仮説を検証してきたが、本年度は短距離秩序構造を有しないアモルファス(ガラス)においても同様の傾向(シンチレーションとドシメータ用蓄積蛍光)の反相関性を確認する事が出来た。本研究の目的は、蛍光体を用いた放射線計測を行うという目的が同じでありながら、異なる分野として発展してきたシンチレータ、および蛍光体型ドシメータの実験的な統合モデルを描く事である。このような目的を達成する為、材料系としてはバルク単結晶、透明/不透明セラミックス、ガラスを選択し、何らかのホストに0.110%程度の発光中心元素を添加した物質を合成し、そのシンチレーションおよびドシメータ特性を評価した。例えば本年度の成果として、無添加およびTl添加CsBr透明セラミックスおよび単結晶の検討を行った。これらにおいては共に、シンチレーション特性とドシメータ特性の反相関性を確認できた。総じて様々な物質系において、透明セラミックスはドシメータ特性が高く、一方で単結晶はシンチレーション特性が高いという結果が得られた。 | KAKENHI-PROJECT-17H01375 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H01375 |
エネルギー収支に基づくシンチレータとドシメータの実験的な統合 | これは透明セラミックスは多くの場合、還元雰囲気で合成を行うために陰イオン欠陥が形成されやすく、それらがドシメータで必須となる捕獲中心となる事で、ドシメータ特性を高め、一方でキャリアが発光中心まで輸送される確率が減少する為に、シンチレーション特性は相対的に低くなるものと理解される。これらに加え、本年度からは研究協力者らのグループと協力し、シンチレーション、ドシメータ用の遅発蛍光と、光音響信号強度の相関関係を調べ始めた。光音響信号は主に熱として消費されるエネルギーに比例する事が知られており、発光に寄与しない分のエネルギーが熱に変換されているという事を、定性的に実験で検証した。本研究を進めるうえでの作業仮説は、二次電子(デルタ線、もしくは半導体分野におけるキャリア)の、発光中心と捕獲中心への分岐比がシンチレータもしくはドシメータとしての性能を規程するというものである。従来は希土類発光中心を有するセラミックスと単結晶にという、秩序構造を有する物質系においてのみこの仮説を検証してきたが、昨年度は短距離秩序構造を有しないアモルファス(ガラス)においても同様の傾向(シンチレーションとドシメータ用蓄積蛍光)の反相関性を確認する事が出来た。本年度はさらにこの研究を進めると共に、光音響(熱)エネルギーとの相関性に関しても知見を得ることが出来た。より多様な物質、すなわち様々なナノ・ミクロスケールの秩序・ランダム構造におけるシンチレーションおよびドシメータ特性を観測し、どういった場合が反相関性が成立し、どのような場合は成立しない(すなわち多くの吸収した放射線エネルギーが熱失活する)かを明らかにする。合わせて共同研究などを通じて、逐次過程におけるダイナミクスや、光音響を用いた熱失活の定性的な評価を行っていきたい。より多様な物質、すなわち様々なナノ・ミクロスケールの秩序・ランダム構造におけるシンチレーションおよびドシメータ特性を観測し、どういった場合が反相関性が成立し、どのような場合は成立しない(すなわち多くの吸収した放射線エネルギーが熱失活する)かを明らかにする。さらに研究協力者らとの共同研究を通じて、逐次過程におけるダイナミクスや、光音響を用いた熱失活の定性的な評価を行っていきたい。 | KAKENHI-PROJECT-17H01375 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H01375 |
モデルベース開発(MBD)アプローチによる適応学習支援システムの開発 | 本年の目標である,学習者の特徴をデータベースによってモデル化する「データ駆動型学習者モデル」のアプローチについて調査・研究を進めた。平成30年度の実績は主に以下の点である。I.「状態空間表現による学習者モデル」の表現手法について考察・提案:本手法では,学習者の状態量として,やる気,知識,理解の3つを定義し,状態方程式として定式化した。また,定式化された状態方程式においては,教師の支援が学習者に及ぼす影響の非線形性を考慮できるように工夫を行った。本研究成果は,国内学会(電気学会制御研究会,愛媛,2019年3月)にて発表を行った。これにより,平成29年度の研究成果を含む「データベース駆動型状態フィードバック制御系」と「学習者モデル」の双方の理論的枠組みが概ね確立された。II.学習者モデル生成のためのデータ収集と整理:昨年度に引き続き,申請者の所属講座で実施する,モデルベース開発基礎研修において,参加者より承諾を得たうえで講義毎にアンケート調査を行い,これらのデータを集計した。また,講義終了時には,小テストを実施した。これまでの講義によって,およそ600名程度の受講生データを収集することができた。今後は,ニューラルネットワークによる解析結果や,2019年度に導入予定のウェアラブルデバイスによる生体信号データなどの解析結果を踏まえて,Iの状態空間モデルの妥当性やモデルの出力精度について検討を行い,さらにデータベース駆動型学習者モデルへの拡張についても研究を進める。当初の予定では,「データ駆動型学習者モデル」の完成および,「学習者モデルに対するデータ駆動型制御系の構築」を目標としていたが,学習者の状態量の定義などに試行錯誤を要し,若干進行が遅れている。ただし,研究実績の概要にもあるように,状態空間表現による学習者モデルの理論的な枠組みが概ね完成したため,平成31年度の上期には「データ駆動型学習者モデル」への拡張が可能であると考えている。また,すでにデータ駆動型状態フィードバック制御系の理論的枠組みは完成しているため,上記の統合も早々に進めることが可能であると考えている。以下の方策に基づき,研究を着実に進展させる。I.ウェアラブルデバイスによるデータ収集を開始し,状態空間表現による学習者モデルの妥当性について検討する。また,同データなどを用いたデータベース駆動型学習者モデルについても研究を進める。II.Iで完成したデータ駆動型学習者モデルと,データベース駆動型状態フィードバック制御系を組み合わせ,適応学習支援システムを構築し,その問題点等を明らかにする。III.これまでの成果について,国内外にて学会発表を行うとともに,学会にて得られた意見などを踏まえて論文を執筆し学会誌への投稿を行う。本年の目標である,学習者の特徴をデータベースによってモデル化する「データ駆動型学習者モデル」のアプローチについて調査・研究を進めた。平成29年度の実績は主に以下の点である。I.学習者モデル生成のためのデータ収集と整理:申請者の所属講座で実施する,モデルベース開発基礎研修において,参加者より承諾を得たうえで講義毎にアンケート調査を行い,これらのデータを集計した。また,講義終了時には,小テストを実施した。これらの集計結果と小テストの結果に対してニューラルネットワークを適用し,学習者の特徴を分類したところ,データから学習者の特徴量が抽出でき,初期のアンケート結果を用いるだけで学習者が最終的に小テストでどのような点を取得するかが大まかに予測できるようになった。これは,データから学習者モデルを設計可能であることを示唆しており,本成果に基づいて引き続き平成30年度に学習者モデルの設計を行う。II.データベース駆動型状態空間制御系設計手法の提案:状態空間表現とデータベース駆動型制御系設計手法を融合した新しい「データベース駆動型状態フィードバック制御系」を提案した。提案手法では,制御対象が局所的には線形な状態空間表現可能であることを仮定することで,制御対象から状態ベクトルを取得可能であれば,制御対象が非線形性を有していたとしても,その学習機能によって所望の制御性能を達成することが示された。本研究成果は,国内学会(自動制御連合講演会,東京,2017年11月)にて発表を行った。本手法は,平成30年度以降の計画である適応学習支援システムのコア技術となる。当初の予定では,データベースに基づく学習者モデルの完成を目標としていたが,若干進行が遅れており,完成までには至っていない。しかし,研究実績の概要にもあるように,学習支援システムのコア技術となる,データベース駆動型状態フィードバック制御系に関する理論構築が予定よりも早く完成している。以上の理由から,本研究はおおむね順調に進展している。本年の目標である,学習者の特徴をデータベースによってモデル化する「データ駆動型学習者モデル」のアプローチについて調査・研究を進めた。平成30年度の実績は主に以下の点である。I.「状態空間表現による学習者モデル」の表現手法について考察・提案:本手法では,学習者の状態量として,やる気,知識,理解の3つを定義し,状態方程式として定式化した。また,定式化された状態方程式においては,教師の支援が学習者に及ぼす影響の非線形性を考慮できるように工夫を行った。本研究成果は,国内学会(電気学会制御研究会,愛媛,2019年3月)にて発表を行った。これにより,平成29年度の研究成果を含む「データベース駆動型状態フィードバック制御系」と「学習者モデル」の双方の理論的枠組みが概ね確立された。II.学習者モデル生成のためのデータ収集と整理:昨年度に引き続き,申請者の所属講座で実施する,モデルベース開発基礎研修において,参加者より承諾を得たうえで講義毎にアンケート調査を行い,これらのデータを集計した。また,講義終了時には,小テストを実施した。 | KAKENHI-PROJECT-17K12803 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K12803 |
モデルベース開発(MBD)アプローチによる適応学習支援システムの開発 | これまでの講義によって,およそ600名程度の受講生データを収集することができた。今後は,ニューラルネットワークによる解析結果や,2019年度に導入予定のウェアラブルデバイスによる生体信号データなどの解析結果を踏まえて,Iの状態空間モデルの妥当性やモデルの出力精度について検討を行い,さらにデータベース駆動型学習者モデルへの拡張についても研究を進める。当初の予定では,「データ駆動型学習者モデル」の完成および,「学習者モデルに対するデータ駆動型制御系の構築」を目標としていたが,学習者の状態量の定義などに試行錯誤を要し,若干進行が遅れている。ただし,研究実績の概要にもあるように,状態空間表現による学習者モデルの理論的な枠組みが概ね完成したため,平成31年度の上期には「データ駆動型学習者モデル」への拡張が可能であると考えている。また,すでにデータ駆動型状態フィードバック制御系の理論的枠組みは完成しているため,上記の統合も早々に進めることが可能であると考えている。以下の方策に基づき,研究を着実に進展させる。I.平成29年度に取得された研修受講者のアンケートデータに基づき,データ駆動型学習者モデルの設計を行う。また,ウェアラブルデバイスによるデータ収集も開始し,これらのデータを融合することでさらにモデルの精度向上を目指す。II.Iで完成したデータ駆動型学習者モデルと,すでに提案しているデータベース駆動型状態フィードバック制御系を組み合わせ,適応学習支援システムを構築し,その問題点等を明らかにする。III.学会発表および論文執筆:これまでの成果について,国内外にて学会発表を行うとともに,学会にて得られた意見などを踏まえて論文を執筆し学会誌への投稿を行う。以下の方策に基づき,研究を着実に進展させる。I.ウェアラブルデバイスによるデータ収集を開始し,状態空間表現による学習者モデルの妥当性について検討する。また,同データなどを用いたデータベース駆動型学習者モデルについても研究を進める。II.Iで完成したデータ駆動型学習者モデルと,データベース駆動型状態フィードバック制御系を組み合わせ,適応学習支援システムを構築し,その問題点等を明らかにする。III.これまでの成果について,国内外にて学会発表を行うとともに,学会にて得られた意見などを踏まえて論文を執筆し学会誌への投稿を行う。 | KAKENHI-PROJECT-17K12803 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K12803 |
エージェントを用いた金融市場における統計的性質の解明 | 金融市場では、伝統的な金融理論モデルでは説明できないアノマリーやパズルが存在する。ファイナンス研究では、これらの性質を説明できるような、より洗練されたモデルを構築が求められている。本研究ではロス回避性エージェントモデルを構築し、オプション価格付け理論と行動ファイナンス理論との結び付けを行うとともに、行動ファイナンス理論の新たな方向性として認知神経科学分野との連携を模索した。オプション理論では、実際に観測されたオプション価格からBlack and Scholesモデルで算出したインプライドボラティリティは、異なる権利行使価格に対して、SmileやSmirkの形状になる。これらのインプライドボラティリティに関する事実は、これまで、Black and Scholesモデルを修正しより適切なオプション価格付けモデルを探索する上で非常に重要なベンチマークとなっており、これらの価格付けに関する現象をモデルに取り込むことができれば、オプション価格をより正確に予測することが可能となる。そこで、構築したロス回避性が存在する場合のエージェントベースモデルに対し、外生的に価格過程を与えるのではなく、投資家の意思決定から導出された需給関係によって内生的に価格過程が決定されるようにした。これによって、インプライドボラティリティに関する事実が、どのような要因によって強調されるのかを推測することが可能となり、これまでの外生的に原資産価格を与えるような多くのオプション価格付けモデルでは説明し得なかった、ロス回避度の上昇といった心理的な要因や市場の流動性の欠乏といった市場要因がインプライドボラティリティに関する事実を強調するということを明らかにした。さらに、本研究の成果の応用として、構築したモデルの妥当性を、行動ファイナンス理論の新たな方向性として注目されている認知神経科学分野の見地からも検証した。ファイナンス研究において、伝統的な金融理論モデルでは説明できない実証的事実であるアノマリーやパズルが注目を集めている。これらの統計的性質を説明するためには、より洗練されたモデルの構築が必要となる。統計的性質を説明する要因として、当該年度では『情報伝達の遅延』に着目した。しかしこのような要因を均衡モデルに組み込み、さらにそのモデルの持つ均衡経路の統計的性質を解析的に分析するのは非常に難しい。そのため、これらの性質を生み出す要因は解明されていない。そこで、このような分析上の問題に対しエージェントベース・シミュレーションを用いることで、解析的に分析することが困難であった統計的性質を明らかにし、既に知られている性質との整合性の検証を行なった。具体的には、複数のエージェントに情報伝達可能範囲を持たせ、それらのエージェントが移動しぶつかりあうことで情報交換や収集できるモデルを構築し、そこから得られる収益率分布の性質、特に収益率分布の自己相関や大尖度、収益率分散の正の自己相関といった統計的事実をLjung & Box's Q-statistics test等を用いて検証した。これらの統計的性質に注目した理由は、多くの実証分析で観測される頑強な性質であること、また実務においても非常に重要な性質だからである。実務においてこのような統計的性質が重要となる例としては、デリバティブへの応用があげられる。一般にデリバティブの正確な価格を計算するには、分散の正しい計測が必要だからである。また学術面においても収益率分散の不均一な状況を統計モデルに取り込もうという流れがある。ARCHモデルやGARCHモデルがその例である。このように価格形成に重要な役割を果たす要因を特定化していくことで、実務で使われる資産価格付けモデルの洗練を促し、資産価格の予測にインパクトをあたえる意味で意義のある研究であるといえる。金融市場では、伝統的な金融理論モデルでは説明できない実証的事実であるアノマリーやパズルが存在する。ファイナンス研究では、これらの統計的性質を説明できるような、より洗練されたモデルを構築が求められている。このような視点から、平成19年度では、情報伝達の遅延が資産価格に与える影響を、エージェントベースモデルによるシミュレーションを用いて解明した。このモデルの分析では、ファイナンスの実証分析における頑強な統計的事実である収益率の短期的な正の自己相関、収益率分布の大尖度、収益率分散の正の自己相関といった統計的性質が観測された一方で、収益率分布の非対称性が存在しないことが明らかになった。これらを引き起こす原因として、プロスペクト理論で提案されている不確実性下での人間の損失に対する恐怖心(ロス回避性)が考えられる。平成20年度では、この問題点に着目し、ロス回避性(限定合理性)と統計的性質との関係についての研究を行った。ロス回避性が存在する場合のエージェントベースモデルでは、収益率分布が、過度に大きな期待値、分散、尖度、また分布の非対称性といった性質をもち、Equity Premium Puzzle,Volatility Puzzle,Fat-tailといった統計的性質と整合性をもつことが解明された。また、収益率の分散不均一性、正の自己相関といった性質も観測され、Volatility clusteringといった統計的性質とも整合性を持つということを明らかにした。さらに、これらの統計的性質をもつロス回避性エージェントモデルを用いて、オプションのインプライドボラティリティを求め、スマイルやスキューネスと言った統計的性質とも整合的であることを示した。本研究で提案するロス回避性を持つモデルは、従来のモデルと比較して現実市場における統計的性質を非常に良く表現することが可能であり、金融資産価格の予測に対してインパクトを与える研究であるといえる。金融市場では、伝統的な金融理論モデルでは説明できないアノマリーやパズルが存在する。ファイナンス研究では、これらの性質を説明できるような、より洗練されたモデルを構築が求められている。本研究ではロス回避性エージェントモデルを構築し、オプション価格付け理論と行動ファイナンス理論との結び付けを行うとともに、行動ファイナンス理論の新たな方向性として認知神経科学分野との連携を模索した。 | KAKENHI-PROJECT-07J08063 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07J08063 |
エージェントを用いた金融市場における統計的性質の解明 | オプション理論では、実際に観測されたオプション価格からBlack and Scholesモデルで算出したインプライドボラティリティは、異なる権利行使価格に対して、SmileやSmirkの形状になる。これらのインプライドボラティリティに関する事実は、これまで、Black and Scholesモデルを修正しより適切なオプション価格付けモデルを探索する上で非常に重要なベンチマークとなっており、これらの価格付けに関する現象をモデルに取り込むことができれば、オプション価格をより正確に予測することが可能となる。そこで、構築したロス回避性が存在する場合のエージェントベースモデルに対し、外生的に価格過程を与えるのではなく、投資家の意思決定から導出された需給関係によって内生的に価格過程が決定されるようにした。これによって、インプライドボラティリティに関する事実が、どのような要因によって強調されるのかを推測することが可能となり、これまでの外生的に原資産価格を与えるような多くのオプション価格付けモデルでは説明し得なかった、ロス回避度の上昇といった心理的な要因や市場の流動性の欠乏といった市場要因がインプライドボラティリティに関する事実を強調するということを明らかにした。さらに、本研究の成果の応用として、構築したモデルの妥当性を、行動ファイナンス理論の新たな方向性として注目されている認知神経科学分野の見地からも検証した。 | KAKENHI-PROJECT-07J08063 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07J08063 |
六国史,とくに日本文徳天皇実録の注釈的研究 | 今回の研究は,将来の『文徳実録』全文の注釈作成に備えての基礎的資料の収集を第一の目標とし,その分析を少しでも進めることを第二の目標とした。まず第一の目標に関しては次のような成果があった。1.国立国会図書館,国文学研究資料館,国立公文書館,東京大学総合図書館及び史料編纂所,名古屋市鶴舞中央図書館及び蓬左文庫の各所において,『文徳実録』写本・版本(特に書き入れ等のあるもの)及び注釈書類を関覧調査し,今後の注釈に資すると思われるものの焼付写真を多数架蔵することができた。2.逐条件検討に資するための関連資料として,平安時代初期に関する史料・索引・研究書ならびに研究論文の類を,現物または複写の形で,多数架蔵することができた。3.以上の作業と併行し,『文徳実録』記事の収録年代に関する史料を収集し,編年順に整理して「係年史料」要目を作成した(裏面の研究発表爛,参照)が,これについてはなお,今回入手した資料等による補訂を続けて行く予定である。なお,当初予定していた特殊な原稿用紙作成は,作業手順等を改めて検討した結果,一応見送ることにした。今回の研究は,将来の『文徳実録』全文の注釈作成に備えての基礎的資料の収集を第一の目標とし,その分析を少しでも進めることを第二の目標とした。まず第一の目標に関しては次のような成果があった。1.国立国会図書館,国文学研究資料館,国立公文書館,東京大学総合図書館及び史料編纂所,名古屋市鶴舞中央図書館及び蓬左文庫の各所において,『文徳実録』写本・版本(特に書き入れ等のあるもの)及び注釈書類を関覧調査し,今後の注釈に資すると思われるものの焼付写真を多数架蔵することができた。2.逐条件検討に資するための関連資料として,平安時代初期に関する史料・索引・研究書ならびに研究論文の類を,現物または複写の形で,多数架蔵することができた。3.以上の作業と併行し,『文徳実録』記事の収録年代に関する史料を収集し,編年順に整理して「係年史料」要目を作成した(裏面の研究発表爛,参照)が,これについてはなお,今回入手した資料等による補訂を続けて行く予定である。なお,当初予定していた特殊な原稿用紙作成は,作業手順等を改めて検討した結果,一応見送ることにした。 | KAKENHI-PROJECT-02610158 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02610158 |
句会法に基づくアイディア創出支援システム | 企業では社員に創造性やデザイン能力の育成が重視されてきている。このような背景で、創造性技法や企業人の創造性開発能力を向上するアイデア創出システムを提案して構築する。本システムでは日本の伝統的な文化の一つ、句会法(俳句の作り方)を利用し、各段階のルールに基づいて、コンピュータによりユーザーに最も使用しやすい方式でアイデア創出に効果的に支援するシステムを実現している。ウェブ演習への通用実験により、アイデアの提出、選択、評価、コミュニケーションの過程を通し、改善される最終案を図り、アイデアを発展させる有効性を確認している。将来は企業向けの経営創造活動を行かせることを目指す。本研究の目的は、感性工学の観点から日本の伝統的な文化の一つである句会法を応用し、企業の事業創造や新製品開発などの場面でのアイディア創出を効果的に支援する手法を新たに提案してシステム構築、インターネット接続のパソコンから入力することが前提で、初心者から専門知識を有する者まで多様な被験者集団に対してうまく機能する事を確認することである。本研究では、1句会法のアイディア創出支援システムへの応用のための手法開発、2アイディア創出支援システムの構築、3構築したシステムの運用実験と評価、の3段階で実施するように計画している。平成26年度においては、前半で研究代表者と研究分担者が協力して、句会法のアイディア創出支援システムへの応用手法を確立している。句会は、複数の人が自作の俳句を提出し、お互いに選をし、成績を競い、評価しあったり、指導者の指導を受けたりする集まりであり、俳句の原点は句会にあるといわれるほど、俳句創造に上達するには一番勉強になる鍛錬の場とされている。それを、句会で通常行われている手法を尊重したうえで、現代企業における発想法として適用しようとする場合には、基本的には、5段階(出句(ORIGINATE)、清記(FAIR COPY)、選句(SELECT)、披講(PRESENT)、講評(REVIEW))を踏むことになっている。そして5段階の基本的なアプローチに従って、外部設計、モジュール分割、内部設計を行っている。後半では研究代表者の統括の元で、研究分担者および数名の大学院生で、前半で得られた5つのモジュールについて、特に利用者が使いやすいグラフィックユーザインタフェースという観点に留意の上、C++言語によるコーディングを進め、システムを構築している。その成果として、雑誌論文(3本)および学会発表(6本)をしている。平成27年度においては、前年度で句会法のアイディア創出支援システムへの応用のために開発した手法に基づいて構築したアイディア創出支援システムの運用実験と評価を行った。具体的には、構築したシステムを稼働して、初心者グループとベテラングループの双方から創出されたアイデアのデータ分析を行い、最終案で絞られる少数のアイデアに感性分析を適用して有効性を判定する。本適用実験においては、異なる経験知を有するグループに対してアイデア創出の支援をすることを確認することになるが、その互いにアイデアを共有し解決に向けてアイデアを発展することができるという利点を、経営活動における問題共有・解決へ応用すること等への発展を考えている。経営企画活動においては、本実証実験とは異なり、現実の問題を解決するにはアイデアのみに頼るわけではないため、経営活動における問題共有・解決に応用するには、句会法の最初の段階すなわち出句において、各被験者は与えられた課題に関するアイデアのみならず課題そのものに対する意見も入力でき、その意見に対する解決案をグループで互いに出し合うように使用することもできることを確認し、更には、企業の経営企画活動において、最初に与えられた課題をさらに発展させて問題を共有し、解決を図ることが出来ることを、最終的に結論づける。研究が研究計画にしたがって進んでいる。ところが、実験が多少遅れている。実験結果の多様性を保つため、試験者は日本人のみではなく、海外の留学生も視野をいれている。しかし平成26年度末、研究分担者が定年退職し、元の研究室の留学生を依頼することはできなくなり、学内の留学生を対象にしている。学生を集めるためスケジュール調整に時間が掛かって、実験も多少遅れている。本研究では、句会法に基づくアイディア創出支援システムを構築しその有効性の実証実験を行う。ようするに、感性工学の観点から、日本の伝統的な文化の一つである句会法を応用して、企業の事業創造や新製品開発などの場面でのアイデア創出を効果的に支援する手法を新たに提案する支援システムの構築および有効性の実証実験を行う。句会法をアイデア創出に適用して、システム構築を行う試みはまだ前例がない。また、アイデア創出では、紙シートへの記入や直接討論が基本のKJ法が従来からよく知られているが、被験者がある程度の経験知を有することが前提になる。それに対し、本提案ではネット接続のPCから入力することが前提で、初心者から専門知識を有する者まで、多様な被験者集団に対してうまく機能する事を目指しており、実証実験を通してその有効性を確認する。研究実施計画に基づき、平成27年度においては、前年度で構築したシステムの運用実験と評価を行った。具体的には、構築したシステムを稼働して初心者グループとベテラングループの双方から創出されたアイデアのデータ分析を行い、最終案で絞られる少数のアイデアに感性分析を適用して有効性を判定する。適用実験は、大学の研究室で実施しその具体的課題例としては「海外から東京への観光客を倍増するにはどうしたらよいか?」という例を考えている。被験者としては数名で、それぞれがアイデア創出に携わっており、うち1名は司会者を兼ねるものとした。平成28年度では、実験結果の多様性を保つため、試験者は日本人のみではなく、海外からの留学生を試験者として受け入れた。 | KAKENHI-PROJECT-26540140 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26540140 |
句会法に基づくアイディア創出支援システム | 進行管理を円滑に行うために、司会者は若干の時間の増減が許されるものとして、句会法に基づくアイディア創出には役に立つことを確認している。企業では社員に創造性やデザイン能力の育成が重視されてきている。このような背景で、創造性技法や企業人の創造性開発能力を向上するアイデア創出システムを提案して構築する。本システムでは日本の伝統的な文化の一つ、句会法(俳句の作り方)を利用し、各段階のルールに基づいて、コンピュータによりユーザーに最も使用しやすい方式でアイデア創出に効果的に支援するシステムを実現している。ウェブ演習への通用実験により、アイデアの提出、選択、評価、コミュニケーションの過程を通し、改善される最終案を図り、アイデアを発展させる有効性を確認している。将来は企業向けの経営創造活動を行かせることを目指す。研究計画にしたがって進んでいる。継続に研究計画にしたがって進む。試験者をもっと集めるため、夏休みを利用する予定である。計算知能継続に研究計画にしたがって進む。実験が多少遅れて、論文発表を行っておりません。平成26年度に構築した句会法に基づくアイディア創出支援システムの有効性、特に「初心者からベテランまでの意見をうまく吸い上げることができること」を確認するために、十数名程度の被験者による実証実験を行う。ノートPC2台は、研究代表者がすでに所有しているノートPCと併せて、複数被験者に実験をしてもらうために使用する。本提案システムは、最終的にはフリーソフトとして公開することを企画しているが、2カ年の研究期間内では、ソフトコンピューティングあるいは感性工学の研究者グループに限定して公開して有効性を検証する。そのために、平成26年度に継続して、FSS2015, ISIS2015などいくつかの関連している国内および国際会議研究会で発表しプロモーション活動を行う。また、平成26年度末、研究分担者(廣田薫先生)が定年退職しているため、本校留学生に被験者およびテスト作業を委託予定である。国内発表会、FSS2016 3日/人、国際会議研究発表、ISCIIA2016中国5日/人学生にテスト作業を委託する予定。ノートPC Panasonic製Let's Note 2台を購入する予定である。国内学会発表においては、FSS2015/3日間×1名の参加予定である。海外学会発表に関しては、ISIS2015/韓国/4日間×1名、およびIWACIII2015/中国/5日間×1名の参加で、論文発表予定である。また、週5時間程度、学生にテスト作業を委託予定である。 | KAKENHI-PROJECT-26540140 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26540140 |
少人数で就業する職種の労働環境と職能団体の機能に関する研究 | 多くの職場に散在する専門的職種の従事者が社会的な資格に沿って育成され評価される労働市場は、どのようにすれば形成可能か、そのヒントを得るために、職能団体への面接に基づく事例研究と、それをふまえた「少人数職種」の従事者へのアンケート調査を行う。すなわち本研究は、福井県内の職能団体の地方組織と従事者への面接調査、職能団体等の全国組織への面接調査、および、医療・福祉分野をはじめとする職能団体を構成する従事者へのアンケート調査の3段階で構成される。多くの職場に散在する専門的職種の従事者が社会的な資格に沿って育成され評価される労働市場は、どのようにすれば形成可能か、そのヒントを得るために、職能団体への面接に基づく事例研究と、それをふまえた「少人数職種」の従事者へのアンケート調査を行う。すなわち本研究は、福井県内の職能団体の地方組織と従事者への面接調査、職能団体等の全国組織への面接調査、および、医療・福祉分野をはじめとする職能団体を構成する従事者へのアンケート調査の3段階で構成される。 | KAKENHI-PROJECT-19K02045 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K02045 |
協調学習における創造的学習場の共有 | 本研究の目的は、複数のコンピュータをネットワークで結び、遠隔にいる学習者どうしが学習環境を共有することや、個別に学習環境を持つことができる環境型学習支援システムを開発することである。このネットワークで結ばれた環境型学習支援システムでは、学習者が作成した道具を相手に送りつけ自身の考えを説明したり、相手の環境にある道具と連携して動作させて相手の考えを確かめたりすることもできる。このシステムの開発には、北海道大学で開発しているIntelligentPadシステムを用いて進めてきた。本研究は2か年で行い平成8年度は、学習教材の配送を実現した。平成9年度は、これを基に、学習者や教授者が行った教材操作や教材に与えたデータを配送する仕組みを開発した。また、学習者や教授者が、サーバコンピュータにこれらの操作内容やデータを置き、そこから自身のコンピュータ上にデータを読み込み再現するようにしたため、再現した操作が衝突することはない。また、学習者や教授者のコンピュータのそれぞれをサーバにすることによって、学習者間や、教授者と学習者間で、教材や、これらの操作内容やデータを交換することができるようにした。さらに、本研究では、この操作データを編集することによって、学習者が自身の考えを確かめたり、説明したりできるばかりでなく、新しい学習教材を作ることも実現した。本研究は、当初計画していた事項をほぼすべて実現した。また、学習者や教授者が行った操作内容の編集では、予定以上の成果を上げた。本研究の目的は、複数のコンピュータをネットワークで結び、遠隔にいる学習者どうしが学習環境を共有することや、個別に学習環境を持つことができる環境型学習支援システムを開発することである。このネットワークで結ばれた環境型学習支援システムでは、学習者が作成した道具を相手に送りつけ自身の考えを説明したり、相手の環境にある道具と連携して動作させて相手の考えを確かめたりすることもできる。このシステムの開発には、北海道大学で開発しているIntelligentPadシステムを用いて進めてきた。本研究は2か年で行い平成8年度は、学習教材の配送を実現した。平成9年度は、これを基に、学習者や教授者が行った教材操作や教材に与えたデータを配送する仕組みを開発した。また、学習者や教授者が、サーバコンピュータにこれらの操作内容やデータを置き、そこから自身のコンピュータ上にデータを読み込み再現するようにしたため、再現した操作が衝突することはない。また、学習者や教授者のコンピュータのそれぞれをサーバにすることによって、学習者間や、教授者と学習者間で、教材や、これらの操作内容やデータを交換することができるようにした。さらに、本研究では、この操作データを編集することによって、学習者が自身の考えを確かめたり、説明したりできるばかりでなく、新しい学習教材を作ることも実現した。本研究は、当初計画していた事項をほぼすべて実現した。また、学習者や教授者が行った操作内容の編集では、予定以上の成果を上げた。本研究は、複数のコンピュータ上にある環境型学習支援システムをネットワークで結び、遠隔にいる学習者が共有する学習環境や個別に持つ学習環境を混在させた環境型学習支援システムの開発を目的とする。このネットワークで結ばれた環境型学習支援システムでは、学習者が自身の考えを確かめるために作成した道具を相手の環境に送りつけ自身の考えを説明したり、相手の環境にある道具と連携して自身の環境にあるオブジェクトを動作させて相手の考えを確かめたりすることもできる。システムの開発には、北海道大学で開発しているIntelligentPadシステムを用いる。本年度は、製品版として開発されたIntelligentPadをプラットフォームにして学習教材を開発し、これをインターネットで結ばれた遠隔にあるコンピュータ上に配送するシステムを実現した。学習教材は、複数のコンピュータ間で相互に配送することができる。また、遠隔にあるコンピュータ上の学習教材にデータのみを送りつけるシステムアーキテクチャを開発した。さらに、遠隔にあるコンピュータ上の学習教材を離れた所から操作する(操作イベントを送る)システムアーキテクチャも開発した。今後の課題は、学習者や教授者が行った操作イベントの編集を実現する。これによって、学習者は、教授者の行った操作を一つずつ確かめたり、教授者の行った操作を使って自身の考えを説明することができるようになる。また、学習者がコンピュータ上で行った操作を自動的に取り込み、教授者側のコンピュータに配送するシステムアーキテクチャを開発する。本研究の目的は、複数のコンピュータ上にある環境型学習支援システムをネットワークで結び、遠隔にいる学習者どうしが共有する学習環境や個別に持つ学習環境を混在させた環境型学習支援システムを開発することである。このネットワークで結ばれた環境型学習支援システムでは、学習者が自身の考えを確かめるために作成した道具を相手の環境に送りつけ自身の考えを説明したり、相手の環境にある道具と連携して自身の環境にある道具を動作させて相手の考えを確かめたりすることもできる。このシステムの開発には、北海道大学で開発しているIntelligentPadシステムを用いて進めてきた。本年度は、平成8年度に実現した学習教材の配送を基に、学習者や教授者が行った教材操作や教材に与えたデータを配送する仕組みを開発した。また、学習者や教授者が、これらの操作内容やデータをサーバコンピュータから自身のコンピュータ上に読み込むことによって、これを再現するようにしたため、再現した操作が衝突することはない。また、学習者や教授者のコンピュータがそれぞれサーバになることによって、学習者間や、教授者と学習者間でこれらの操作内容やデータを交換することができる。さらに、本研究では、この操作データを編集することによって、学習者が自身の考えを確かめたり、説明したりできるばかりでなく、新しい学習教材を作ることができることも示した。 | KAKENHI-PROJECT-08458038 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08458038 |
協調学習における創造的学習場の共有 | 本研究は、当初計画していた事項をほぼすべて実現した。また、学習者や教授者が行った操作内容の編集では、予定以上の成果を上げた。 | KAKENHI-PROJECT-08458038 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08458038 |
感情制御のための自己注目方略 | 心理療法において近年マインドフルネスという心理療法が脚光を浴びている。マインドフルネスとはメタ認知機能や感情の言語的表現能力などを訓練するものであり,さまざまな感情障害の治療に有効であることが示されている。マインドフルネス機能の個人差を測定する尺度(5因子マインドフルネス尺度)においては,抑うつやアレキシサイミア傾向と負の相関を示すことが知られている。われわれはこの尺度の日本語版を作成し,脳の構造解析法(VBM)を用いて脳灰白質体積との関連性を検討したところ,マインドフルネス傾向の高い人では右扁桃体や右島皮質,右上側頭回がより発達していることを明らかにした。これらは生理的情動反応のトリガー,末梢の情動反応を中枢にフィードバックすることにより意識的な感情を生起させる部位,心の理論課題に関与する部位に相当し,これらの機能が感情制御能力に関与する可能性を示した。この知見を論文としてまとめ国際学術雑誌に投稿中である。これまでの研究から感情や身体反応の抑制を伴わない,実行系機能を優位にする認知活動を行うことが適切な感情制御を実現する方略であるという仮説を立てた。そこで認知課題の難易度を操作しそこに課題とは無関係な情動刺激を挿入することによって検討したところ,認知課題の難易度が高い場合そこに挿入された情動刺激に対する反応が弱まることを事象関連電位(ERP)と心拍定位反応を同時測定することで明らかにした。この知見を国際学術雑誌に投稿するため,論文としてまとめ執筆中である。自己の身体状態や主観的な感情体験に対して客観的に観察することが心理臨床場面において適応的な感情制御方略であると報告されている(Teasdale 1999 Behav.Res.Therapy).本研究では,経験的に有効とされている「自己の客観視」を心臓血管系の指標を用いることで実験的にその作用機序を検討した.また,感情障害に対する罹患率や情動刺激に対する脳(扁桃体)活動においてセロトニン・トランスポーター(5HTT)遺伝子多型のSタイプの人はLタイプに比べ高いことが知られている.本研究では被験者の5HTT遺伝子多型を事前に同定し,適応的な感情制御方略である「自己の客観視」において反応性の違いが見られるかについても検討した.実験の結果,自己の客観視によってSタイプの人はLタイプに比べ,心拍変動性の高周波成分が上昇した.これはSタイプの人は自己の客観視によって身体反応としては副交感神経優位になったことを示す.これにより感情制御方略に対する挙動の個人差を遺伝子レベルから解明することができた.この知見を日本感情心理学会第16回大会において発表し,優秀発表賞を受けた.また,論文として執筆し国際学術雑誌"NeuroReport"に掲載した.さらに,心拍変動性を制御する迷走神経活動の挙動を調査するため,呈示される刺激の内容が数秒前にわかる確定刺激と,内容がわからない不確定刺激を呈示した際の一時的な心拍減速の大きさを検討した.その結果,不確定刺激を呈示された際は確定刺激と比較してより大きい心拍減速が観察された.これは不確定な刺激に対してより注意が向き,それによってより大きな心臓迷走神経活動が引き起こされたと考えられる.この研究結果は既に論文として執筆し,現在国際学術雑誌に投稿中である.心理療法において近年マインドフルネスという心理療法が脚光を浴びている。マインドフルネスとはメタ認知機能や感情の言語的表現能力などを訓練するものであり,さまざまな感情障害の治療に有効であることが示されている。マインドフルネス機能の個人差を測定する尺度(5因子マインドフルネス尺度)においては,抑うつやアレキシサイミア傾向と負の相関を示すことが知られている。われわれはこの尺度の日本語版を作成し,脳の構造解析法(VBM)を用いて脳灰白質体積との関連性を検討したところ,マインドフルネス傾向の高い人では右扁桃体や右島皮質,右上側頭回がより発達していることを明らかにした。これらは生理的情動反応のトリガー,末梢の情動反応を中枢にフィードバックすることにより意識的な感情を生起させる部位,心の理論課題に関与する部位に相当し,これらの機能が感情制御能力に関与する可能性を示した。この知見を論文としてまとめ国際学術雑誌に投稿中である。これまでの研究から感情や身体反応の抑制を伴わない,実行系機能を優位にする認知活動を行うことが適切な感情制御を実現する方略であるという仮説を立てた。そこで認知課題の難易度を操作しそこに課題とは無関係な情動刺激を挿入することによって検討したところ,認知課題の難易度が高い場合そこに挿入された情動刺激に対する反応が弱まることを事象関連電位(ERP)と心拍定位反応を同時測定することで明らかにした。この知見を国際学術雑誌に投稿するため,論文としてまとめ執筆中である。 | KAKENHI-PROJECT-08J08551 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08J08551 |
乳腺の発育と泌乳に対する成長ホルモンの役割,とくにプロラクチンとの関係において | 1)GHと正常乳腺の発育:C3H/He雌マウスに5ngおよび50ngのSMS(GH分泌抑制剤)を1日2回,2555日齢に連日投与したところ乳腺の発育は有意に抑制された。これらのマウスでは血中GHレベルは低下したが、PRLレベルおよび発情周期は全くSMS投与に影響されなかった。また、mono-sodium glutamate(MSG)4mgをO日齢のSHN雌マウスに1回投与したところ血中GHレベルのみ、1ケ月以降慢性的に低下し、それに伴なって、正常乳腺の発育も各月齢において対照群より著しく低下した。またSHNマウスにおいて、血中GHレベルと正常乳腺発育の間には、有意な単純相関が得られた。しかし、PRLレベルを一定にした偏相関は有意ではなかった。2)GHと乳腺の前癌症状(HAN)の形成:上記のMSG投与によって、SHN雌マウスの各月齢におけるHANの形成は著しく抑制された。一方、血中GHレベルと、HAN形成度の間には有意の相関は得られなかった。3)GHと乳癌発生:MSG投与により、正常乳腺発育,HANの形成は抑制されたにもかかわらず、同様の処置はSHN雌マウスの乳癌の発生を抑制しなかった。C3H/He雌マウスに25日齢より50ngのSMSを1日2回連日皮下注射したところ、泌乳12日目の乳腺発育は明らかに抑制されたが、泌乳能力において対照群との間に、明かな差は認められなかった。以上の結果、GHは確かに乳腺の発育,泌乳にとって1つの重要なホルモンであるが、その作用はしばしばPRLによってmaskされることが明らかとなった。1)GHと正常乳腺の発育:C3H/He雌マウスに5ngおよび50ngのSMS(GH分泌抑制剤)を1日2回,2555日齢に連日投与したところ乳腺の発育は有意に抑制された。これらのマウスでは血中GHレベルは低下したが、PRLレベルおよび発情周期は全くSMS投与に影響されなかった。また、mono-sodium glutamate(MSG)4mgをO日齢のSHN雌マウスに1回投与したところ血中GHレベルのみ、1ケ月以降慢性的に低下し、それに伴なって、正常乳腺の発育も各月齢において対照群より著しく低下した。またSHNマウスにおいて、血中GHレベルと正常乳腺発育の間には、有意な単純相関が得られた。しかし、PRLレベルを一定にした偏相関は有意ではなかった。2)GHと乳腺の前癌症状(HAN)の形成:上記のMSG投与によって、SHN雌マウスの各月齢におけるHANの形成は著しく抑制された。一方、血中GHレベルと、HAN形成度の間には有意の相関は得られなかった。3)GHと乳癌発生:MSG投与により、正常乳腺発育,HANの形成は抑制されたにもかかわらず、同様の処置はSHN雌マウスの乳癌の発生を抑制しなかった。C3H/He雌マウスに25日齢より50ngのSMSを1日2回連日皮下注射したところ、泌乳12日目の乳腺発育は明らかに抑制されたが、泌乳能力において対照群との間に、明かな差は認められなかった。以上の結果、GHは確かに乳腺の発育,泌乳にとって1つの重要なホルモンであるが、その作用はしばしばPRLによってmaskされることが明らかとなった。 | KAKENHI-PROJECT-60560292 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-60560292 |
ホスホリパーゼ類の触媒機構の解明 | 1.PLA_2の触媒機構の解明ーウシ膵臓由来PLA_2とその触媒基His48の選択的修飾剤であるBPBとの反応のpH依存性を調べ,以前得られたヘビ毒由来PLA_2の結果と比較したところ,I型PLA_2のみにN末端αアミノ基の関与が見られた.この結果から,I型とII型PLA_2の活性部位に含まれるアミノ酸残基は保存されているにもかかわらず,それらの立体構造上のミクロ環境には違いがあることが示された.また,ウシ膵臓由来PLA_2のプロ体とアミド基を持つ基質アナログとの複合体の立体構造を明らかにし,阻害剤のアミド基がHis48と水素結合を形成することを示した.他方,テルペノイドの一種である3-methoxy-carbony1-2,4,6-trienalがPLA_2の強力な不活性化剤になることを明らかにし,その不活性化はPLA_2分子内のLys 56の化学修飾によることを示した.2.PLCの触媒機構の解明ーB.Cereus菌由来スフィンゴミエリナーゼの酵素反応速度論に基づく実験を行い,本酵素には親和性の異なる2つのMg^<2+>結合部位が存在し,低親和性部位に対するMg^<2+>の結合は触媒作用に必須であるが,基質結合に関与しないことを明らかにした.また,触媒作用はHis296(pK=5.85)による一般塩基触媒によることも推測した.さらに,Asp残基の役割を明らかにするために変異体酵素を作成した.その結果,Asp126のカルボキシル基の解離は,酵素の基質に対する結合力を増大させるが,触媒作用は低下させることがわかった.1.PLA_2の触媒機構の解明ーウシ膵臓由来PLA_2とその触媒基His48の選択的修飾剤であるBPBとの反応のpH依存性を調べ,以前得られたヘビ毒由来PLA_2の結果と比較したところ,I型PLA_2のみにN末端αアミノ基の関与が見られた.この結果から,I型とII型PLA_2の活性部位に含まれるアミノ酸残基は保存されているにもかかわらず,それらの立体構造上のミクロ環境には違いがあることが示された.また,ウシ膵臓由来PLA_2のプロ体とアミド基を持つ基質アナログとの複合体の立体構造を明らかにし,阻害剤のアミド基がHis48と水素結合を形成することを示した.他方,テルペノイドの一種である3-methoxy-carbony1-2,4,6-trienalがPLA_2の強力な不活性化剤になることを明らかにし,その不活性化はPLA_2分子内のLys 56の化学修飾によることを示した.2.PLCの触媒機構の解明ーB.Cereus菌由来スフィンゴミエリナーゼの酵素反応速度論に基づく実験を行い,本酵素には親和性の異なる2つのMg^<2+>結合部位が存在し,低親和性部位に対するMg^<2+>の結合は触媒作用に必須であるが,基質結合に関与しないことを明らかにした.また,触媒作用はHis296(pK=5.85)による一般塩基触媒によることも推測した.さらに,Asp残基の役割を明らかにするために変異体酵素を作成した.その結果,Asp126のカルボキシル基の解離は,酵素の基質に対する結合力を増大させるが,触媒作用は低下させることがわかった.1.PLA_2の触媒機構の解明-ウシ膵臓由来PLA_2のプロ体とアミド基を持つ基質アナログ型阻害剤との複合体のX線結晶解析を行った結果,阻害剤のアミド基が酵素の触媒基であるHis48と水素結合を形成することが明らかになった.他方,種々のアルデヒドテルペノイドによるPLA_2の不活性化を調べたところ,ある種の単環式セスキテルペンがLys残基を修飾することによってPLA_2を強く不活性化した.その作用には化合物の幾何異性と2重結合が重要であると共に,酵素の56位のLys残基を修飾することがわかった.また,モデル反応実験からこのセスキテルペンは,シッフ塩基生成後,安定な環状構造の付加物を生成することも明らかになった.2.PLCの触媒機構の解明-Bacillus cereus菌由来SMaseの加水分解反応におけるAsp126とAsp156の役割を調べた結果,Asp126のイオン化は基質結合を強め,触媒作用をわずかに弱めるのに対し,側鎖自体は水溶性基質であるHNPとの結合を強め,真の基質であるSMとの結合を弱めるが,両基質に対する触媒作用を強めることが明らかになった.他方,Asp156は,イオン化による影響か側鎖自体による影響かは判定できなかったが,基質結合を弱め,HNPに対する触媒作用を弱めるが,SMに対する触媒作用を強めることが明らかになった.次に短鎖のSMを合成し,その立体異性体のSMaseによる加水分解を調べた結果,天然物と同じ立体配座を持つD-erythro体が最も強く加水分解を受け,L-erythro体はD-erythro体の約14%,L-threo体は約8%しか加水分解されないことがわかった.また,D-threo体の加水分解物は検出出来なかった.この結果から,本酵素にはそれほど厳密な立体選択性のないことが明らかになった.1. PLA_2の触媒機構の解明-----ウシ膵臓 | KAKENHI-PROJECT-09672264 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09672264 |
ホスホリパーゼ類の触媒機構の解明 | 由来PLA_2とその触媒基His 48の選択的修飾剤であるBPBとの反応のpH依存性を調べ,以前得られたヘビ毒由来PLA_2の結果と比較したところ,I型PLA_2のみにN末端αアミノ基の関与が見られた.この結果から,I型とII型PLA_2の活性部位に含まれるアミノ酸残基は保存されているにもかかわらずそれらの立体構造上のミクロ環境には違いがあることが考えられた.他方,単環式セスキテルペンによるウシ膵臓由来PLA_2の不活性化を調べた結果,本酵素のLys 56が選択的に修飾されることがわかった.また,Lys残基とセスキテルペンの反応によって,非可逆的にdihydropyridine誘導体が生成することも明らかになった.2. PLCの触媒機構の解明-----Bacillus cereus菌由来SMaseによる短鎖Lyso-PCの加水分解反応を調べた結果,本酵素にはミセル認識機構が存在し,ミセル界面が酵素との結合に著しく重要であることが明らかになった.さらに,長鎖Lyso-PCを基質とする酵素反応パラメーターのpH依存性を調べ,真の基質であるSMや水溶性基質であるHNPを用いて得られた結果と比較したところ,1/K_mに関しては同様のpH依存性曲線が得られ,その値も同程度であったことから,基質結合にミセル界面が重要であると考えられた.一方k_<cat>に関しては,HNPについてのみ,アルカリ性pH領域においてその値の急激な低下が見られた.この結果から,SMaseとHNPの反応において,HNPのp-nitrophcnol基が本酵素のアミノ酸残基と相互作用していることが示唆された.1.PLA_2の触媒機構の解明-種々のテルペノイドによるPLA_2の阻害を調べ、テルペノイド構造をもったPLA_2阻害剤として知られているマノアライドよりも強い阻害剤として、3-methoxycarbony1-2,4,6-trienalの合成に成功した。そこで、この化合物によるPLA_2の阻害機構を調べた結果、阻害はLys残基の化学修飾に基づくことが明らかになり、修飾酵素のMALDI-TOF-MSを用いたペプチド分析により、Lys56が修飾されることがわかった。この残基は、PLA_2分子表面において、気質ミセルが結合する部位近傍に存在することから、本化合物によるPLA_2の不活性化は、酵素分子内のミセル認識部位の修飾によることが示唆された。2.PLCの触媒機構の解明-B.cereus菌由来スフィンゴミエリナーゼの結晶化を行うため、酵素溶液の調整法について動的光散乱により検討した結果、酵素溶液についてゲル濾過クロマトグラフィーを行い、単量体の画分を濃縮することにより、単一な粒子サイズの酵素溶液を調整できることがわかった。また、本酵素の触媒機構を明らかにするため、スフィンゴミエリンのリン酸エステル部分をホスホン酸に置換した基質アナログを合成した。阻害実験を行った結果、1mMの基質溶液を用いた場合の50%阻害濃度は0.1mMであった。しかし、このアナログがスフィンゴミエリナーゼと直接結合する証拠はまだ得られていない。 | KAKENHI-PROJECT-09672264 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09672264 |
ギ酸を鍵物質とする環境調和型社会を目指した固体触媒反応系の開発 | 層状粘土鉱物ハイドロタルサイトを高温で焼成して得られたMg-Al複合酸化物は酸ー塩基両機能を有し、過酸化水素水存在下で種々の糖類からギ酸を効率よく生成するという知見(K. EBITANIら、Org. Proc. Res. Dev. 19, 2015, 449-453)に基づき研究を遂行した。Mg-Al複合酸化物は、水に触れると元の不活性な層状構造に戻るため、高温での焼成処理を経由しない、水に強い酸ー塩基両機能触媒を設計・開発する事を目的とし、塩基性ハイドロタルサイト表面に種々の多価金属イオン(Cr3+, Fe3+, Sc3+, La3+, Co3+, Cu2+, Ni2+等)を固定化した多様な固体触媒を含浸法にて調製した。ハイドロタルサイト表面に多価金属イオンを固定化すると酸ー塩基両機能触媒が創成できる事は既に見出していた(例えば、K. EBITANIら、Catal. Sci. Technol. 6, 2016, 8200-8211)。流通式反応装置(設備備品)での連続大規模反応を目指し、その前段階としてバッチ式での反応を試みた結果、焼成したハイドロタルサイトの触媒性能を凌駕する反応活性と選択性を達成するに至らなかった。さらに、過酸化水素水濃度や反応温度、反応時間、撹拌速度等の反応パラメータを種々検討したが、水に強い酸ー塩基両機能触媒の発見には至らなかった。しかしながら、流通式反応装置は固体酸触媒によるフルフラール類のヒドロキシメチル化反応の大規模化に貢献できるなど(投稿中)、この科学研究費助成事業の意義は十分あったと思われる。翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。層状粘土鉱物ハイドロタルサイトを高温で焼成して得られたMg-Al複合酸化物は酸ー塩基両機能を有し、過酸化水素水存在下で種々の糖類からギ酸を効率よく生成するという知見(K. EBITANIら、Org. Proc. Res. Dev. 19, 2015, 449-453)に基づき研究を遂行した。Mg-Al複合酸化物は、水に触れると元の不活性な層状構造に戻るため、高温での焼成処理を経由しない、水に強い酸ー塩基両機能触媒を設計・開発する事を目的とし、塩基性ハイドロタルサイト表面に種々の多価金属イオン(Cr3+, Fe3+, Sc3+, La3+, Co3+, Cu2+, Ni2+等)を固定化した多様な固体触媒を含浸法にて調製した。ハイドロタルサイト表面に多価金属イオンを固定化すると酸ー塩基両機能触媒が創成できる事は既に見出していた(例えば、K. EBITANIら、Catal. Sci. Technol. 6, 2016, 8200-8211)。流通式反応装置(設備備品)での連続大規模反応を目指し、その前段階としてバッチ式での反応を試みた結果、焼成したハイドロタルサイトの触媒性能を凌駕する反応活性と選択性を達成するに至らなかった。さらに、過酸化水素水濃度や反応温度、反応時間、撹拌速度等の反応パラメータを種々検討したが、水に強い酸ー塩基両機能触媒の発見には至らなかった。しかしながら、流通式反応装置は固体酸触媒によるフルフラール類のヒドロキシメチル化反応の大規模化に貢献できるなど(投稿中)、この科学研究費助成事業の意義は十分あったと思われる。翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-17H03455 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H03455 |
発癌物質に抵抗性及び感受性動物の代謝活性化系の発現制御 | 肝細胞初代培養系を用いて癌原物質代謝に中心的な役割を果たしているP450遺伝子の発現制御機構を検討した。(1)ラットのP450遺伝子発現の制御因子としてポリADPリボースが関与することを示唆する結果を得た。芳香族炭化水素等の処理によりラット肝初代培養細胞のP450遺伝子の転写量とアリル炭化水素水酸化酵素(AHH)活性が誘導された。この時ポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤が共存するとP450遺伝子の転写量とAHHが亢進した。この亢進効果はいくつかの特異的といわれる阻害剤で認められ、構造類似体では現れないので、ポリADPリボースの生成が酵素活性の発現制御に働いていると考えられる。また転写以降の過程でもポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤による活性の亢進効果が観察された。これはポリメラーゼの特異的な阻害剤の未だ知られていない別の効果の可能性があるので検討しなければならない。(2)癌原物質に対する感受性がP450系代謝酵素の活性と相関するため、マウス肝臓での癌原物質代謝制御を調べることは必要である。しかしマウス肝細胞の初代培養系を用いての報告は非常に少なく、安定した細胞を得るために培地の検討から始めた。P450遺伝子の発現には、ダルベッコMEMは不敵で、誘導剤処理後の転写量、AHH活性とも低いレベルであった。一方Waymouth培地で培養した細胞は両者とも高かった。このように培地によってAHH活性発現が左右されることはラットの肝細胞初代培養系では認められない。両方の培地成分には量的、質的に大きな違いがあるが、アミノ酸を検討したところ、プロリンが含有されていることがマウスの肝細胞初代培養系での酵素活性発現に必要であることがわかった。また転写以降の過程にもプロリン含有培地で培養することが高い酵素活性発現に必須であることがわかった。肝細胞初代培養系を用いて癌原物質代謝に中心的な役割を果たしているP450遺伝子の発現制御機構を検討した。(1)ラットのP450遺伝子発現の制御因子としてポリADPリボースが関与することを示唆する結果を得た。芳香族炭化水素等の処理によりラット肝初代培養細胞のP450遺伝子の転写量とアリル炭化水素水酸化酵素(AHH)活性が誘導された。この時ポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤が共存するとP450遺伝子の転写量とAHHが亢進した。この亢進効果はいくつかの特異的といわれる阻害剤で認められ、構造類似体では現れないので、ポリADPリボースの生成が酵素活性の発現制御に働いていると考えられる。また転写以降の過程でもポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤による活性の亢進効果が観察された。これはポリメラーゼの特異的な阻害剤の未だ知られていない別の効果の可能性があるので検討しなければならない。(2)癌原物質に対する感受性がP450系代謝酵素の活性と相関するため、マウス肝臓での癌原物質代謝制御を調べることは必要である。しかしマウス肝細胞の初代培養系を用いての報告は非常に少なく、安定した細胞を得るために培地の検討から始めた。P450遺伝子の発現には、ダルベッコMEMは不敵で、誘導剤処理後の転写量、AHH活性とも低いレベルであった。一方Waymouth培地で培養した細胞は両者とも高かった。このように培地によってAHH活性発現が左右されることはラットの肝細胞初代培養系では認められない。両方の培地成分には量的、質的に大きな違いがあるが、アミノ酸を検討したところ、プロリンが含有されていることがマウスの肝細胞初代培養系での酵素活性発現に必要であることがわかった。また転写以降の過程にもプロリン含有培地で培養することが高い酵素活性発現に必須であることがわかった。 | KAKENHI-PROJECT-63015097 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-63015097 |
日系現地法人の財管分離に関する研究 | <研究内容>本研究の目的は、日系グローバル企業における業績管理システムについて研究する。特に、多様な価値観をもった海外人材を企業グループに取り込むことで多様な人材の業績評価を行うために必要な、財務会計、税務会計目的と異なる「財管分離」の業績管理システムを明らかにすることである。この研究目的に即して、2018年度は中米における日系子会社の実態を明らかにするために、メキシコのグアダラハラ大学の教授とインタビュー調査を行った。アグアスカリエンテスで3社、サカテカスで1社、グアダラハラで3社の計7社の日系企業を対象とした。そこでは、シェルターカンパニーというIMEXを利用している企業向けのアウトソージング企業を利用している企業での業績管理上の問題点が明らかになった。また、現地子会社では、日本の本社工場と比べきめ細かい業績管理を行っている事例も見られた。さらに中国・大連でもインタビュー調査を行った。ここでは、中国現地企業ならびに日系子会社の計6社を対象に行った。そこでは、日本の理念を踏襲しつつ現地の経営風土に即した業績管理システムを現地で開発するなど異文化融合した経営実態の知見を得ることができた。これらを通じて、作業仮説を裏付ける事例を発見できた点にインタビュー調査の意義があったと考えられる。<成果報告>日本管理会計学会2018年度全国大会統一論題「企業グループの管理会計」にて「異文化マネジメントと管理会計上の課題ー純粋持株会社,日系海外子会社の事例研究からー」の学会発表を行った。また、学会発表内容を学会誌『管理会計学』27巻2号(2019.3) pp.13-26にて、論文として発表した。2018年度は、研究実施計画に沿ってメキシコに進出している日系企業のインタビュー調査を実施した。これに加えて、中国・大連にて現地企業及び日系企業のインタビュー調査を行った。研究実施計画では、日本本社でも実態調査を行うことになっている。これについては、未実施である。また、日本管理会計学会の全国大会で学会報告を行い、それを論文化した。2019年度も引き続き海外にある日系企業の現地調査を行う。特に、北米で現地企業を合併・買収した企業を中心に調査を行う。M&A後、それが業績管理システムに与えた影響を調査する。このほか、現地に非M&Aで進出している日系企業の調査も行い比較検討する。可能ならば、2020年度にかけて、企業グループ内の複数の現地法人に対する質問票調査を行う。<研究内容>本研究の目的は、日系グローバル企業における業績管理システムについて研究する。特に、多様な価値観をもった海外人材を企業グループに取り込むことで多様な人材の業績評価を行うために必要な、財務会計、税務会計目的と異なる「財管分離」の業績管理システムを明らかにすることである。この研究目的に即して、2018年度は中米における日系子会社の実態を明らかにするために、メキシコのグアダラハラ大学の教授とインタビュー調査を行った。アグアスカリエンテスで3社、サカテカスで1社、グアダラハラで3社の計7社の日系企業を対象とした。そこでは、シェルターカンパニーというIMEXを利用している企業向けのアウトソージング企業を利用している企業での業績管理上の問題点が明らかになった。また、現地子会社では、日本の本社工場と比べきめ細かい業績管理を行っている事例も見られた。さらに中国・大連でもインタビュー調査を行った。ここでは、中国現地企業ならびに日系子会社の計6社を対象に行った。そこでは、日本の理念を踏襲しつつ現地の経営風土に即した業績管理システムを現地で開発するなど異文化融合した経営実態の知見を得ることができた。これらを通じて、作業仮説を裏付ける事例を発見できた点にインタビュー調査の意義があったと考えられる。<成果報告>日本管理会計学会2018年度全国大会統一論題「企業グループの管理会計」にて「異文化マネジメントと管理会計上の課題ー純粋持株会社,日系海外子会社の事例研究からー」の学会発表を行った。また、学会発表内容を学会誌『管理会計学』27巻2号(2019.3) pp.13-26にて、論文として発表した。2018年度は、研究実施計画に沿ってメキシコに進出している日系企業のインタビュー調査を実施した。これに加えて、中国・大連にて現地企業及び日系企業のインタビュー調査を行った。研究実施計画では、日本本社でも実態調査を行うことになっている。これについては、未実施である。また、日本管理会計学会の全国大会で学会報告を行い、それを論文化した。2019年度も引き続き海外にある日系企業の現地調査を行う。特に、北米で現地企業を合併・買収した企業を中心に調査を行う。M&A後、それが業績管理システムに与えた影響を調査する。このほか、現地に非M&Aで進出している日系企業の調査も行い比較検討する。可能ならば、2020年度にかけて、企業グループ内の複数の現地法人に対する質問票調査を行う。メキシコ出張は、本年度は、研究協定校であるグアダラハラ大学との交流のための旅費が成城大学経済研究所より支弁された。これにあわせて、現地インタビュー調査を行ったため計画していた旅費の支出がなかった。2019年度は、研究実施計画の北米に加え、欧州調査を追加して行うことを計画中である。2018年度から繰り越した金額は、この欧州調査の旅費等にあてる予定である。 | KAKENHI-PROJECT-18K01920 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K01920 |
離島・僻地における高齢者の地域継続居住を目指した医療・福祉の連携に関する研究 | 本研究は、2006年に導入された「在宅療養支援診療所」に認定された自治体診療所の取り組みを通して、高齢化・過疎化が進行する離島地域において「高齢者の地域での居住継続」と「自治体診療所の黒字経営」の両立を可能としている要因について探るものである。上記2点を考察するために、1)血縁・地縁や地域社会による支援が高齢者の地域継続居住に与える影響、2)医療・福祉資源の存在が高齢者の施設利用と地域継続居住に与える影響、3)栗生集落における医療・福祉施設の運営状況、について分析を行った。本研究は、2006年に導入された「在宅療養支援診療所」に認定された自治体診療所の取り組みを通して、高齢化・過疎化が進行する離島地域において「高齢者の地域での居住継続」と「自治体診療所の黒字経営」の両立を可能としている要因について探るものである。上記2点を考察するために、1)血縁・地縁や地域社会による支援が高齢者の地域継続居住に与える影響、2)医療・福祉資源の存在が高齢者の施設利用と地域継続居住に与える影響、3)栗生集落における医療・福祉施設の運営状況、について分析を行った。本研究では、在宅療養支援診療所に認定された屋久島の自治体診療所の取り組みを通じて、不採算になりやすい僻地や過疎地にある自治体診療所の黒字運営の要因と、高齢者の地域居住の継続を可能にする医療・福祉の連携による支援体制の構築手法を明らかにすることを目的とする。本研究は、(1)高齢化率が40%を超える集落が点在する地域を診療圏域としていること、(2)自治体診療所の黒字運営を実現し、高齢者の地域居住の継続のため集落内の福祉施設と連携が取れていること、(3)最寄りの他の医療機関と15km以上離れており、地域の医療・福祉の相互の連携体制をより明確に把握しやすいことの3点を特徴とする屋久島町栗生診療所を対象とし、医療の提供圏域と地域住民の生活圏域に着眼した上で、地域施設計画に医療経済の視点を合わせつつ分析を試みることに学術的特色がある。1年目にあたる2009年度は、まず現医師が着任した1996年以降の診療圏域や診療内容、収支状況など、屋久島町栗生診療所の基本データの収集を行った。また、2009年8月下旬には診療所が立地する栗生集落の住民に世帯構成、生活・交流の状況、医療・福祉の利用状況等に関する悉皆アンケート調査を行い、対象地域の実状と問題点を把握した。その上で、医療・福祉施設の利用者・職員ならびに在宅高齢者を抱える世帯にインタビュー調査を実施し、地域居住の意義を医療・福祉の連携による可能性と限界と併せて多角的に考察した。今後はいくつかの学会等にて調査報告を発表すると同時に、学会誌への投稿を行う予定である。本研究の目的は、在宅療養支援診療所に認定された屋久島の自治体診療所の取り組みを通じて、不採算になりやすい僻地や過疎地にある自治体診療所の黒字運営の要因と、高齢者の地域居住の継続を可能にする医療・福祉の連携による支援体制の構築手法を検討することである。2009年度においては、診療所が立地する集落の住民の世帯構成、医療・福祉の利用状況等に関する悉皆アンケート調査を行った上で、医療・福祉施設の利用者・職員ならびに在宅高齢者を抱える世帯にインタビュー調査を実施し、地域居住を継続させる近隣環境要因を抽出するとともに福祉施設利用者の転帰状況から現状における課題について多角的に考察を進めた。具体的成果として、2010年度日本建築学会大会にて発表し、その成果を『鹿児島大学工学部研究報告』で報告した。2010年度は、施設利用者の転帰状況から把握された課題を検証するために種子島における在宅要介護認定者の施設利用について現地調査を行い、離島や僻地などの高齢・人口減少地域に住む高齢者はどのように諸医療・福祉サービスを利用し、地域での在宅居住を継続させているのかを明らかにすることを通じて、高齢者の地域継続居住を可能にする支援体制について考察を行った。同時に、1992年より医療と福祉の連携に取り組む大分県豊後大野市の事例について、現在の利用状況の把握と20年の実践過程における課題と成果を分析することで、医療・福祉の連携手法について整理した。これらの研究成果は、2011年3月に日本建築学会九州支部研究発表会にて報告した。また、2010年度は公立種子島病院の運営に関する基本データの収集を行い、2009年度に引き続き屋久島町栗生診療所の運営手法の分析を進めており、現在、自治体診療所の黒字運営の要因についてまとめているところである。 | KAKENHI-PROJECT-21760476 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21760476 |
精神科病棟における身体拘束の最小化および最短化に向けた基礎的研究 | 本研究は、精神科看護師(准看護師を含む)を対象として、統合失調症の仮想事例に対する身体的拘束に対する臨床判断について評価し、臨床現場に形成されたモラル、職場環境などとの関連を検討し、我が国の精神科看護師に認知行動様式に影響を及ぼす要因の解明を試み、精神科医療施設内外の新たな支援モデルを見出すことである。研究期間の初年度である本年度は、研究計画の第一段階として、精神科看護師を対象に実施した先行研究(隔離に対する臨床判断と精神科臨床現場のモラル)の調査結果の報告として、調査対象機関に訪問し、看護管理者および専門看護師に結果の詳細な報告を行った。併せて、身体的拘束に関する調査研究に関する協力の依頼、内諾を得、調査票に使用する事例を実践現場によくある内容にするためのブラッシュアップについて協力をいただくことを確認した。関連学会への研究発表については、先行研究(隔離に対する臨床判断と精神科臨床現場のモラル)の結果の一部について、第38回日本社会精神医学会(2019.2.28-3.1)において研究分担者の石井がポスター発表を行った。主な内容は、統合失調症仮想事例(初回入院、20代男性、暴言がみられる)に対し必要な隔離期間として、3日間(10.0%)、7日間(12.3%)、1か月間(28.8%)、3か月間(27.1%)という結果が得られ、倫理的問題として、「病状が安定して日常生活に支障がない患者が入院し続けても何もできない」という「事実がある」と回答した人は回答者全体のおよそ8割で、「人員配置が不足しているため不適切なケアになる」という「事実がある」と回答した人は66%であった。こうした結果から、隔離解除の提案における看護職の主体性の乏しさ、精神科特例による看護配置の乏しさが背景にある可能性が推察された。また、身体的拘束に関する調査票の作成については、先行文献を踏まえていくつか調査項目を追加する方向で検討を進めており、調査協力機関については、隔離に引き続き調査協力が得られるところ、新たに調査協力を受けていただけるところの両者に対し連絡調整を進めることができた。精神科看護職が多く所属する学会において、演題発表を予定している。すでに報告したデータ数にさらにデータが追加されたため、それらを含めたデータの解析を加えて、看護職の現任教育や組織運営体制、病床数に対する看護職の配置数の違いなどの影響について解析した内容を発表する。また、身体的拘束に関する調査票を完成させ、研究協力機関に対して、自記式質問紙調査の依頼を進めていく。本研究は、精神科看護師(准看護師を含む)を対象として、統合失調症の仮想事例に対する身体的拘束に対する臨床判断について評価し、臨床現場に形成されたモラル、職場環境などとの関連を検討し、我が国の精神科看護師に認知行動様式に影響を及ぼす要因の解明を試み、精神科医療施設内外の新たな支援モデルを見出すことである。研究期間の初年度である本年度は、研究計画の第一段階として、精神科看護師を対象に実施した先行研究(隔離に対する臨床判断と精神科臨床現場のモラル)の調査結果の報告として、調査対象機関に訪問し、看護管理者および専門看護師に結果の詳細な報告を行った。併せて、身体的拘束に関する調査研究に関する協力の依頼、内諾を得、調査票に使用する事例を実践現場によくある内容にするためのブラッシュアップについて協力をいただくことを確認した。関連学会への研究発表については、先行研究(隔離に対する臨床判断と精神科臨床現場のモラル)の結果の一部について、第38回日本社会精神医学会(2019.2.28-3.1)において研究分担者の石井がポスター発表を行った。主な内容は、統合失調症仮想事例(初回入院、20代男性、暴言がみられる)に対し必要な隔離期間として、3日間(10.0%)、7日間(12.3%)、1か月間(28.8%)、3か月間(27.1%)という結果が得られ、倫理的問題として、「病状が安定して日常生活に支障がない患者が入院し続けても何もできない」という「事実がある」と回答した人は回答者全体のおよそ8割で、「人員配置が不足しているため不適切なケアになる」という「事実がある」と回答した人は66%であった。こうした結果から、隔離解除の提案における看護職の主体性の乏しさ、精神科特例による看護配置の乏しさが背景にある可能性が推察された。また、身体的拘束に関する調査票の作成については、先行文献を踏まえていくつか調査項目を追加する方向で検討を進めており、調査協力機関については、隔離に引き続き調査協力が得られるところ、新たに調査協力を受けていただけるところの両者に対し連絡調整を進めることができた。精神科看護職が多く所属する学会において、演題発表を予定している。すでに報告したデータ数にさらにデータが追加されたため、それらを含めたデータの解析を加えて、看護職の現任教育や組織運営体制、病床数に対する看護職の配置数の違いなどの影響について解析した内容を発表する。また、身体的拘束に関する調査票を完成させ、研究協力機関に対して、自記式質問紙調査の依頼を進めていく。研究分担者の支出が予定よりも少なくなったために、このような残額が生じたと考えられる。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画として、当該研究分担者が連絡調整する予定の研究協力施設との事前調整、調査の実施を進めることで、支出を計画している。 | KAKENHI-PROJECT-18K10357 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K10357 |