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# [16] デジタルコモンズクラウドサービス dcommons.net による地域学習の包摄的支援 ○前川道博 1 ) 1) 長野大学企業情報学部, $\overline{\mathrm{T} 386-1298$ 長野県上田市下之郷 658-1 E-mail: maekawa@nagano.ac.jp ## Area-Based Learning and Activity Support using Digital Commons Cloud Service d-commons.net MAEKAWA Michihiro ${ }^{1}$ ${ }^{1)}$ Nagano University, 658-1 Shimonogo, Ueda, 386-1298 Japan ## 【発表概要】 分散型地域デジタルコモンズ(デジタルな地の共有地)の実現を支援する目的で開発を進めてきたクラウドサービス d-commons.net を 2020 年『みんなでつくる下諏訪町デジタルアルバム』 に適用して以来、その汎用化・普及推進に取り組んできた。それ以後、『みんなでつくる西部地域デジタルマップ』『みんなでつくる信州上田デジタルマップ』等、タブレットを活用した児童生徒の主体的学習支援、地域資料のデジタルアーカイブ化、キュレーション型地域学習支援、教員向け地域学習研修支援といった多目的な方向で包摂的に地域学習・地域活動の支援ができた。本発表ではその実績と知見を踏まえ、デジタルコモンズ実現に向けて解決すべき課題とその方向性を提起する。 ## 1. はじめに 社会のデジタル化が進展し、従来の知識消費型社会から知識循環型社会へのパラダイムシフトが起きている。それと共に地域の知の再編が問われるようになってきた。知識を一方的に受け取る「知識消費」から専門家も学習者も誰もが知識を授受しあえる「知識循環」 が実現される社会を「デジタルコモンズ」(デジタルな知の共有空間) と呼ぶこととしよう。 その概念を図 1 に示す。 図 1. デジタルコモンズ概念図 筆者らは知識循環型のメディア環境となるクラウドサービス $d$-commons.net[1]を開発し、 その社会への適用、サービスの汎用化・実用化に取り組んできた。 筆者は、インターネットが社会に普及しつ つあった 1997 年から誰もが多様なデータを自由に蓄積・発信・共有できるメディア環境の実現を目指し、デジタルアーカイブ構築、主体的ポートフォリオ学習が同時に支援できる参加型の地域プラットフォーム構築支援サー ビス PPCorn(PopCorn/PushCorn)を開発し、学校における学習支援、地域活動の支援などに役立ててもらってきた実績がある[2]。 2017 年以降は、知識循環型社会へのシフ卜を意識し、PPCorn の発展的メディア環境ともなる d-commons.net の研究開発を進めてきた[3]。PopCorn 開発からすでに 20 年が経過し、システムに対する利用者のニーズやメディア意識も変化してきた。端的なニーズは誰もがスキルレスでいきなり利用できるユー ザインタフェースの平易性、際限なくデータを蓄積・共有できるプラットフォームとしての汎用性・フールプルーフ性(どのような利用状況にも耐える運用上の強勒性)である。 ## 2. 分散型地域デジタルコモンズの概念 分散型地域デジタルコモンズの概念は、 2015 年の拙論 [4]で提起した。PPCorn および地域 SNS の実績を踏まえ、 $\lceil$ AII(Augmented Intelligent Interaction $=$知識の接触への限りなき増大)」の実現に向け た知識基盤プラットフォームの要件として以下の 5 項目を挙げた。 (1)データ倉庫 (2)AII データ・アーキテクチャ (3)オーサリング要件 : 非定形文書の構造化 (4)地理・時系列インデクス空間への写像 (5)関連づけ・相互参照の編集機能 デジタルコモンズサイトは、学習者それぞれの主体的で持続的な学習の支援、知識資源・学習成果の共有・利用促進を図れるようにするため、親サイト/マイサイトの複合的・階層的なサイト体系とした(図 2 )。 図 2. デジタルコモンズサイトの複合的構成 マイサイトは、自らの学習を際限なく記録し蓄積し知識を生産できるようにするためのポートフォリオ学習支援を目的とするメディア環境である。それらを親サイトに包掑することにより知識の共有・利用促進を支援する。 その実運用においては、サービスがそれぞれの事業者、運営主体ごとに自律分散して利用できることが求められる。デジタルアー カイブサイトの構築には、特定業者が提供するサービスを利用する形が一般的である。そのためには低コストであること、導入が容易であること、複数の利用者が参加できる開かれたサービスであること、持続可能な運用に移行できることが求められる。 ## 3. d-commons.net の設計 以上の検討・試作・試供の段階を経て、実用に供することのできる分散型デジタルコモンズクラウドサービス d-commons.net の設計および開発を行った。 開発においては”small start”(小さく始める) を基本スタンスとした。アーカイブサイトを構築する場合、既存のアーカイブ系サービスのオープンソース系プログラムを援用しシステム構築するケースが多い。こうしたツールの多くは利用者にとっての使いやすさは考慮されていないケースが多い。加えてデジタルアーカイブのベースとなるデータベースのスキーマが厳密に設計されたケースが多い。その結果としてシステム開発(ツールの援用) には高い開発スキルが要求されるものとなり、不可避的に開発工数が発生する。またツール仕様の制約を受けるため、ユーザニーズに応える柔軟な対応がしにくくなる。プログラムは技術的進化、社会ニーズの変化を伴うものであるため、プログラムは任意に差し替えられるものであることが望ましい。 d-commons.net の開発においては、データベースの継承を保証しつつ、プログラミングスキルがある意味未熟な学生でも新たなプログラムの開発・差し替えをしやすくすることにより、持続的なアーカイブの発展的継承が担保できる。 以上の基本方針のもと、段階的に $\mathrm{d}-$ comons.net の設計・実装に着手した。その過程でクラウドサービスの基本モデル設計を行った。その要諦は次の 2 点である [5]。 (1)群小化に対応した複合スキーマ構造モデル 地域・施設・学校等でのデジタルアーカイブのスキーマ(メタデータ構造)は個別に異なる。その個別性、特殊性を殺ぐことなくスキーマに反映させることができる。これにより利用者・学習者中心の柔軟なデジタルアー カイブ運用がしやすいものとなる。 (2)可搬的データモデルとデータエクスチェンジ従来、デジタルアーカイブは特定のシステムに保有され、データの可搬性は不自由なものであった。現代においてはアーカイブデー タのオープンデータ化は具備すべき条件となってきた。そのためにもデータはその取り出 しや他サービスへの移行などが極力容易となるよう保証される必要がある。 ## 4. デジタルコモンズサイトへの適用 4. 1 小さく始め汎用化を図る発展的開発 d-commons.net は、スパイラルモデルによ る開発を行っている。分散型地域デジタルコ モンズの開発にはトップダウン型の開発手法 はなじまない。自律分散する地域、自治体・団体等の運営主体を考えるとなおのこと、「小 さく始める」が重要である。 d-commons.net は、2020 年 2 月に稼㗢した地域デジタルコモンズクラウドサービス『みんなでつくる下諏訪町デジタルアルバム』の構築のために開発したプログラムが起点である。開発は無理せず、運用者である下諏訪町立図書館と要求仕様の十分な打合せをしながら初期仕様を策定した。 この際に「群小化に対応した複合スキーマ構造モデル」を採用した。古い写真を対象としており、アーカイブサイト構築以前から写真の寸法や年代などの写真依存の属性情報が含まれており、汎用的なデータベースのスキ一マとはならないが、個別的な要求仕様(群小化)に対応できるメリットがある。 群小化に対応した複合スキーマ構造とすることにより、今後、Japan Search 等、他のデジタルアーカイブサービス等とのデータの流通を図る場合にデータエクスチェンジの機構を設けることにより、データ互換・変換を図ることができる。 ## $4.2 \mathrm{~d$-commons.net 適用サイト事例} これに続き、以下のデジタルコモンズ、クラウドサービスサイトに d-commons.net を適用した。現時点では d-commons.netを既に 10 を超えるサイトに適用した実績がある[6]。現状では問題なく運用できている。 いずれも施設、学校、団体等がその必要性においてサイトを構築し運用している点に特色がある。それぞれのクラウドサイトには全く異なるデータベースのスキーマを適用しながら同じクラウドサイトで運用している。 ## 5. 解決すべきいくつかの課題 これまでの支援実践をふり返り、デジタルコモンズ実現の支援において直面した課題と方向性を提起しておきたい。 (1)地域社会への浸透を阻む壁の克服 デジタルコモンズの運用で直ちに直面する課題は、デジタル化の意味や意義が殆ど理解できない地域社会の壁である。長野県上田市の『みんなでつくる西部地域デジタルマップ』[6]は、運営部会以外の住民にその周知・利用促進を図ることが困難であった。その解決策としてデジタルマップ周知の冊子を地域の全戸に配布した。さらに地域のイベントと連動させた「デジタル写真展」イベントを行うなどしてその普及につとめている。冊子とデジタルマップの相互補完による運営が地域社会においては現実的な運用ソリューションとして欠かすことができない。 (2)世代間デジタル対応ギャップの克服 学習支援活動においては、小学生・高校生・大学生に利用してもらった。これらの世代はツールを抵抗感なく使っている。地域探検などの地域学習にもスマホやタブレットなどを利用している。記事の選択、タイトル付与、画像選択、説明文の記述など必要最小限の指示で学習に活かした利用ができている。 これに対して教員や中高年層の市民に対しては、個人の地域に対する知識差、探求力の差、メディアリテラシーの差が両極端であった。できる人は難なくできるが、できない人には対応が難しい面がある。 (3)地域資料のデジタル化促進 学校などの地域学習で本来参照されるよい地域資料のほとんど全てはデジタル化されていない。その問題すら全く顕在化していない。小学校の郷土資料館には農具や虫具などの道具類の他、多様な資料が収蔵されている。現実には教員がそれらをどう地域学習に活かせるかがわかる教員は限られ、児童も道具類に触れる機会が極めて少ない。『塩尻小デジタル資料館』は教員や児童が教室や自宅でいつでもそれらにアクセスできるようにデジタル化した。地元住民による解説も動画で示す工 夫を行った。GIGA スクールに適合した資料のデジタル化はその比較的少ないデジタル化の労力に比して大きな学習効果が期待できる。 ## 6. おわりに 以上の通り、d-commons.net は開発を重ね実用に向けた実践を重ねたことにより、汎用的なデジタルコモンズクラウドサービスとして提供できる段階に至ってきた。異なる支援ケースに適用させてきたこともその汎用性を高める上で効果が高かった。 今後は、これらの実践で得られた方法論、知見を、学校教育、生涯学習、地域活動など、地域や年齢の差を超えて包摂的に支援できる 「学び方モデル」を手引き化して、デジタルコモンズサイト利用による地域学習・地域活動の実践を推進していくことに取り組みたい。 サービス開発の面では、利用者の拡大に対応したサービスの提供・開放を行うためのパッケージ化による提供、オープンソース化、 Japan Search 等と相互接続するためのデータエクスチェンジ機構の実装に取り組んでいくことが課題である。 ## 参考文献 [1] クラウドサービス d-commons.net. https://d-commons.net/ (参照 2022-05-15). [2]前川道博,後藤忠彦. 素材中心による生涯学習支援システム「PopCorn」の開発. 岐阜女子大学文化情報研究センター研究報告 1.1999, p.25-30. [3]前川道博. 地域デジタルコモンズの概念とその構築:信州デジタルコモンズ『わたしたちの信州』の創成モデル. 日本教育情報学会年会論文集 33. 2017, p.136-139. [4]前川道博. 地域の知の編集を支援する AII の概念〜知識基盤プラットフォーム創出とオ ープンデータ促進に向けて〜.日本教育情報学会年会論文集 31. 2015, p.110-113. [5]前川道博. 分散型デジタルコモンズの汎用モデル開発:下諏訪町地域アーカイブの構築を通して. デジタルアーカイブ学会誌 4(2). 2020, p.85-88. [6]d-commons.net サイト一覧. https://mmdb.net/maekawa/dc-list.html ( 参照 2022-05-15). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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Japan Society for Digital Archive
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# [15] コミュニティ・アーカイブとその多様性 : 福島県大沼郡金山町〈かねやま「村の肖像」プロジェクト〉の実践を例に ○榎本千賀子 1 ) 1) 新潟大学人文学部, T950-2181 新潟市西区五十嵐 8050 E-mail: enomoto@human.niigata-u.ac.jp ## Community Archives and their Diversity: A Study Based on a Practice in Kaneyama Town, Fukushima, Japan ENOMOTO Chikako1) 1) Niigata University, 8050 Ikarashi, Nishi-ku, Niigata, 950-2181 Japan ## 【発表概要】 コミュニティ・アーカイブは、地域をはじめとした様々なコミュニティが、自らが主体となって、自らの利益のために、自身に関する記録の収集・管理・活用に取り組む事業である。コミュニティ・アーカイブが公共性と継続性を保つためには、コミュニティ内外の多様な観点から、記録の意味と管理方法を絶えず問い直すことが必要であると指摘される。しかし、コミュニティ・ アーカイブとは、そもそもいかなる人々や団体がいかに関与する場であり、その場に取り入れるべき「多様な観点」とはどのようなものであるのだろうか。本発表では、福島県大沼郡金山町のコミュニティ・アーカイブ事業〈かねやま「村の肖像」プロジェクト〉を例に、地域を対象としたコミュニティ・アーカイブに関わる人々や団体の具体的なあり方を活動場面ごとに整理し、そこに取り入れられるべき「多様な観点」について検討する。 ## 1. はじめに コミュニティ・アーカイブ(以下 $\mathrm{CA}$ )とは、地域をはじめとした様々なコミュニティに関する記録を、コミュニティ自身の利益のために、コミュニティの関与のもと、収集・管理・活用する事業である。CAがコミュニティ内部の保守的・閉鎖的な自己認識を維持・強化するような不健全な状態に陥ることなく、 その公共性と継続性を保つためには、コミュニティ内外の多様な観点を取り入れ、記録の意味と管理方法を不断に問い直し続けることが必要であると指摘される[1]。 しかしながら、CAが取り入れるべき「多様な観点」のあり方を、具体的な CA を例に検討した研究は少ない。そこで本発表では、発表者がその立ち上げ段階より企画・運営に携わる $\mathrm{CA}$ 事業〈かねやま「村の肖像」プロジエクト〉を事例として、地域を対象とした $\mathrm{CA}$ に関わる人々や団体の具体的なあり方を場面ごとに整理し、本事例が取り入れるべき「多様な観点」とはなにか検討する。 ## 2.〈かねやま「村の肖像」プロジェクト〉〈かねやま「村の肖像」プロジェクト〉(以下「村の肖像」)は、新潟・福島の県境に位置 する人口 2000 人弱の町・福島県大沼郡金山町 が 2016 年より取り組む、CA 事業である。 発表者は、2013 年に新潟大学地域映像ア一カイブ研究センターの一員として町内在住のアマチュア写真家・角田勝之助の資料整理に関わったことから金山町を知り、2016 年 5 月に金山町へ移住した。そして、後述する同年 10 月のワークショップ開催以来、現在まで、時とともに立場を変えながらも、町教育委員会とともに「村の肖像」の企画・運営に携わっている。 「村の肖像」では、町に甚大な被害をもたらした「44 年水害」(1969)以前に撮影された写真を中心に、現在の金山町にあたる地域の映像資料を収集している。収集資料の大部分は、町民・元町民から提供されたものであり、その撮影者や被写体もまた、その多くが、町民・元町民である。さらに、資料の管理・活用にあたっては、町民の記憶と経験を取り入れるとともに、町民の反応や意見を反映す るべく努めている。 これまでの「村の肖像」の成果については、 その概要が金山町教育委員会発行の写真集にまとめられている[2]。また、デジタル化した資料の大部分は、新潟大学「にいがた MALUI 連携・地域データベース」を通じて、 ジャパンサーチ上に一般公開されている[3][4]。 以下本節では、「村の肖像」に関わる人々や団体の全体的な傾向を掴むために、資料・情報収集、企画・運営、資料管理・活用という活動の場面ごとに、いかなる人々がどのように関わってきたのか、記述・整理してみたい。 ## 2. 1 資料・情報収集 資料の収集にあたって対象としたのが約半世紀前までの映像資料であったことから、資料提供者および資料に関する情報提供者は、必然的に長期にわたって町内に定住する高齢の町民が大部分を占めることとなった。これまでにデジタル化を終えた資料の提供者は合計 64 名、情報提供者総数の集計は困難であるが、後述するワークショップの参加者数を一つの目安とするならば、延べ 279 名である。 なお、町外からの資料・情報提供者は、全体から見るとわずかであった。 また、資料提供者に限って言えば、少なくとも許諾書類などの書面上は、その大半が男性(64 名中 47 名)であった。これは、提供される写真やアルバムの多くが、「個人」というよりは「家」に属するものとして捉えられていることに加元、成人男性が家の代表者を務めることが慣例となっているためと考えられる。許諾資料上で男性が提供者となっていても、事実上の資料管理者は女性で、提供の意思決定も女性が行ったと判断できる例は複数みられた。なお、情報提供者については、資料提供者の書類上に見られるような極端な男女比率の偏りはなかった。 ## 2.2 企画 - 運営 一方、「村の肖像」の企画・運営に関わる場面においては、より幅広い年齢層の、より多様な町との関係を持つ人々が多く見られた。 これらの人々は、資料・情報提供者に比べ、人数的には圧倒的に少ないが、 $\mathrm{CA} の$ 方向性を決定づける上で大きな役割を果たしていた。 例えば、「村の肖像」が町の公式事業として位置づけられる発端を作ったのは、写真資料を持ち寄り、その写真を閲覧しながら資料について語り合うという形式で実施していたワ一クショップ(第 1 回: 金山町老人福祉センターゆうゆう館, 2016 年 10 月 15 日より 2019 年までに全 12 回開催)である。「村の肖像」 でも中心的な活動のひとつとなったこのワー クショップを発案し、資料提供者の確保に奔走したのは、2016 年当時、町中央公民館で社会教育事業を担当していた女性非常勤職員 A であった。「村の肖像」の初期を支えるキーパ ーソンであった A は、町内にルーツを持つ配偶者の転勤に伴い、町に移住した 30 代の町外出身者であった。A は、地域映像アーカイブ研究センターが企画した角田勝之助「村の肖像展」(2015 年 8 月 10 日-20日,金山町自然教育村会館)会場で高齢者が活発に語り合う様子に感銘を受け、移住後の発表者とインフオーマルな交流を重初るうちに、この企画を思いついたという。 また、資料提供者の探索や、ワークショップ会場での聞き取りおよび記録作業、資料のデジタル化作業など、「村の肖像」の運営に関わる場面には、数名のボランティアが継続的に協力していた。これらボランティアもまた、 30 代から 50 代までの現役世代、かつ U ター ン者あるいは移住者など、町外での暮らしの経験を長く持つ人々であった。 また、日々の $\mathrm{CA}$ 活動を振り返り、より広い観点から検討する上で重要な役割を果たしたのが、「村の肖像」が 2018 年より参加した地域博物館および文化事業の協働プロジェクト「ライフミュージアムネットワーク(2021 年よりポリフォニックミュージアムと改称。以下、LMN)」である。LMN は、福島県立博物館をプラットフォームとするプロジェクトで、「村の肖像」が参加した事業においては、金山町を含む周辺 5 町村からなる奥会津地域の博物館および文化事業担当者との意見交換や、スタディツアーの開催に取り組んだ[5]。 LMN 通じた交流からは、後述する町内既存 $\mathrm{CA}$ 活動との連携をはじめ、その後の活動につながる様々なアイデアを得ることができた。 ## 2. 3 資料管理・活用 企画・運営場面には若年層のU ターン者・移住者が多く参加したが、同様の傾向は資料の管理・活用場面においても指摘できる。「村の肖像」写真集を編集するにあたっては、「公開編集室」と名付けたイベントを開催し、参加者とともに編集案を検討する機会を設定した。この「公開編集室」の参加者は、全 6 回延べ 27 人と決して多くはなかったが、そこに集ったのもまた、10 代から 60 代までの幅広い年代の、U ターン者や移住者を中心とした人々であった。 また、町民自身の発案により、写真展やパンフレットなどに「村の肖像」の収集資料を活用する事例が、次第に増加しつつある (2021 年発行、福島県大沼郡金山町「奥会津金山町のまたたび細工」パンフレットなど)。 こうした事例にも、30 代から 40 代の U ター ン者や移住者が関わることが多い。 加えて、デジタルアーカイブの公開にあたっては、いわゆる「つなぎ役」としてデータを受け入れた新潟大学地域映像アーカイブ研究センターとの関係が重要であった。「村の肖像」のような小規模 CA が、自前でデジタルアーカイブを構築・維持してゆくのは、資金面でも体力面でもとても難しい。そこで「つなぎ役」となるアーカイブ機関が必要となる。 「村の肖像」では、金山町・新潟大学人文学部間に連携協定が締結されていたことや、発表者の前所属先(当時)であることなど、スムーズな連携を可能とする環境が整っていた点を評価して、同センターを「つなぎ役」として選定した。 ## 3.「村の肖像」にとっての「多様な観点」 以上「村の肖像」に関わる人々や団体の具体的様相を、活動場面ごとに記述・整理してきた。以下本節では現状を分析し、今後の 「村の肖像」に取り入れるべき「多様な観点」 を検討してゆく。 ## 3. 1 現状分析 整理から明らかとなったが、現状の「村の肖像」では、活動の場面によって、「村の肖像」 に関わる人々の属性が大きく偏っている。資料・情報提供の場面には、高齢の長期定住者が多く関係し、企画・運営、資料管理 - 活用の場面には、比較的若年の U ターン者・移住者など、町と多様な関係を結ぶ人々が多く関係する。前述の通り、資料・情報提供者に高齢者・長期定住者が多くなるのは避けがたいことである。しかしながら、現在若年の U タ一ン者・移住者が主に関わる企画・運営、資料管理 ・活用の場面に、今後、より多くの高齢の長期定住者を巻き込むことは可能であろう。 また、資料・情報提供者に町外在住者が少ないことも課題である。金山町は、戦後の水力発電所建設工事により急激な人口増を経験し、1960 年に人口 1 万人を記録した。そして、発電所建設工事の終了とともに、今度は急激な人口流出を経験した。こうした金山町特有の人口推移を考慮するならば、1969 年以前の金山町についての資料や情報の提供を、現在金山町内に定住する人々にのみ依存する「村の肖像」のありかたは、偏りを抱えているのである。 「村の肖像」参加者の年齢構成比の観点からも、町外在住者の参加は望まれる。金山町民の大多数は、高校や大学への進学・就職を期に、少なくとも一度は町を離れることを選択する。そのため、町内の人口構成は、20 代から 50 代の現役世代が極端に少ない、偏ったものとなっている。このことは、町内のあらゆる側面に大きく影響を及ぼしているが、「村の肖像」も、参加する若年層の顔ぶれが固定しがちで、しかもそれを打開できる人数の若者がそもそも町内に存在しないという解決し難い課題に直面している。一方で、現在町外に暮らす町出身の若者には、町外に暮らしながらも、故郷である金山町との関係の継続や町への貢献を望む者や、将来的な町へのU タ ーンを希望する者も少なくない。こうした若者を「村の肖像」に巻き込んでゆく可能性は、 今後追求するべきであろう。 ## 3.2 「多様な観点」を取り入れる 前項では、以下の 3 つの方法により「村の肖像」にさらに「多様な観点」を取り入れてゆく可能性を示した。 - 高齢の長期定住者の活動場面を広げること。 - 町外在住者による資料・情報提供可能性を追求すること。 - 町外在住の若者の参加の拡大。 この分析をもとに、現在の「村の肖像」では、以下の 2 点を重視した取り組みを行っている。 (1) 町内既存 CA 活動との連携 (2) 町出身者との協働 $\mathrm{CA}$ は近年になって突然生まれた活動ではなく、過去にも多くの CA 活動が各地で営まれてきた [6]。町内にも、「村の肖像」に先行する CA 的活動が存在する。そこで(1)の取り組みでは、玉梨民具保存会による「弥平民具」 コレクションの保存運動をはじめ、町内の既存 CA 活動と「村の肖像」の連携を目指す。具体的には、既存 CA のメンバーと共に、既存 $\mathrm{CA}$ と「村の肖像」を組み合わせ、新たな資料活用の方法を検討するなどの活動を行う。 この取り組みでは、高齢の長期定住者の活動場面を広げることを目指している。 また(2)の取り組みとしては、(1)を実施するにあたって、町出身の 30 代のデザイナーを起用し、企画段階から最終成果物の制作までそのプロセスに参加してもらうという試みを行っている。現時点では、ひとりの町出身者との実験的取り組みに過ぎないが、この取り組みが、今後さらに町出身者の若者を「村の肖像」に巻き込んでゆく手がかりになることを期待している。 ## 4. おわりに 本発表では、「村の肖像」という具体的 CA に関わる人々や団体のあり方を、活動の場面ごとに分けて整理・分析することを通じて、本 CA にとっての「多様な観点」を検討した。先行研究では、CAの「多様な観点」は、コミユニティ内部の市民と外部の専門家・研究者という二分法的な構図を基本に捉えられている。しかしながら、本発表では、むしろコミユニティ内部の多様性の把握が不十分であるという「村の肖像」の課題が浮かび上がった。一方、本発表では、先行研究で重要性が指摘されていた CA における専門家や研究者の役割については十分に論じることができなかった。この点については、今後の課題としたい。 ## 参考文献 [1] 清原和之. アーカイブズ資料情報の共有と継承一集合記憶の管理を担うのは誰か. 過去を伝える、今を遺す一歴史資料、文化遺産、情報資源は誰のものか. 九州史学会, 公益財団法人史学会編. 山川出版社, 2015, p.115-114, (史学会 125 周年リレーシンポジウム 2014, 4). [2] 榎本千賀子, 金山町教育委員会編著. 山のさざめき川のとどろき一かねやま「村の肖像」プロジェクト. 金山町教育委員会, 128 p. [3] にいがたMALUI連携・地域データベース. https://arc.human.niigata- u.ac.jp/malui/index.html (参照 2021-05-01). [4] ジャパンサーチ. https://jpsearch.go.jp (参照 2022-05-01). [5] 川延安直ほか編. ライフミュージアムネットワーク 2019 活動記録集. ライフミュージアムネットワーク実行委員会. 2019, 510p. [6] 安藤正人. 草の根文書館の思想. 1998. 岩田書院, 99p. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [14] 香川$\cdot$時空間デジタルアーカイブ: 時空間を基軸とした MPEG-7 準拠メタデータを活用したデジタルアー カイブ 國枝孝之 1)2) 1) 香川大学 創造工学部, 〒760-8521 香川県高松市幸町 1 - 1 2) 香川大学 イノベーションデザイン研究所 E-mail: kunieda.takayuki@kagawa-u.ac.jp ## Kagawa spatio-temporal Digital Archives: Digital archive utilizing MPEG-7 compliant metadata based on space-time \\ KUNIEDA Takayuki1) 2) \\ 1) Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho Takamatsu-shi Kagawa 760-8521 Japan \\ 2) Kagawa University Innovation Design Laboratories ## 【発表概要】 香川大学では郷土情報の時空間メタデータによるデジタルアーカイブ化推進事業を始動した。郷土香川県に係る文献、地図、写真などの貴重な一次資料をデジタル化し適切なメタデータを付与し、さまざまな分野での利活用可能な形で保存(アーカイブ化)することを目的としたものである。本アーカイブでは、時間と空間に着目して歴史的な一次資料にメタデータを付与し管理する研究と、アーカイブされたさまざまな情報を多面的に新しい情報サービスに利活用できる仕組みの研究を同時に行なっている。本発表では「香川・時空間デジタルアーカイブ」の概要と機能を紹介し、MPEG-7 に準拠した画像、映像などのアーカイブ情報に付与するメタデータの設計ならびにその活用ポイントに関して紹介する。また、アーカイブ情報を新しい情報サービスに活用するための Application Programming Interface に関しても紹介する。 ## 1. はじめに 香川大学では、郷土香川県に係る文献、地図、写真などの貴重な一次資料をデジタル化し、再利用可能な形で保存(アーカイブ化) することを目的とした活動を 2021 年度から開始した。特に様々な目的で再利用可能な形での保存を行うために、デジタル・トランスフオーメイション(DX)の考え方に基づきデジタル化技術を用いてアーカイブするとともに、検索や再利用を容易にするために適切なメタデータ(タグ情報)を付与することで多目的な利用を可能としている。さらに、本アーカイブでは時間と空間の広がりの中で個人や事柄を位置づける仕組みを構築し、様々な視点から管理される情報を可視化できることを特長としている。将来的には深層学習などの $\mathrm{AI}$技術を適用するなどして、メタデータ付け作業そのものの省力化なども視野にいれ、構想を進めている。 本デジタルアーカイブを開始する起点は、 香川県の中野武営顕彰会から香川県独立の父 と言われ、渋沢栄一の盟友である「中野武営 [1](1848-1918)」に関しての知名度の向上につながる施策はないかと言った相談からはじまった。政治家として香川県を独立に導き、実業家として多くの企業を設立した中野武営の業績や活動を当時の香川県の様子とともに追体験できるような仕組みの構築が望まれた。 相談を受けた香川大学イノベーションデザイン研究所[2]では、単に中野武営本人に関わるデジタルアーカイブを構築するのではなく、中野武営の情報を皮切りにさまざまな情報を取集し管理できる仕組みを有するアーカイブ構想が開始された。その結果として提案したのが時空間情報を基軸とした香川・時空間デジタルアーカイブである。 本論では、香川・時空間デジタルアーカイブの概要を紹介し、2 章では提案された時空間デジタルアーカイブがどのようなものであるかを述べ、 3 章では対象のコンテンツとともに管理されるメタデータ仕様とその活用方 法を述べる。 4 章では、デジタルアーカイブの情報を活用した新しい情報サービス創出活動を述べ、おわりにでは課題と今後の展開に関して述べる。 ## 2. 時空間デジタルアーカイブ \\ 2. 1 時空間情報の管理 時空間デジタルアーカイブでは、対象コンテンツ(現在は静止画像)に対して、そこに描写されている内容がいつ・どこでの情報であるかをできるだけ正確に記録する。これは撮影された情報を記録するメディアとしてのいつ・どこでではなく、コンテンツ(内容) として記録されている事象に対しての情報である。図 1 は、中野武営と大隈重信が映った写真であるが、大正 2 年 11 月 1 日(1913-1101T12:00+09:00)、高松市にある玉藻城天守台前(34 $24^{\circ} 00.2^{\prime \prime N} 134^{\circ} 03^{\prime} 00.4^{\prime \prime} \mathrm{E} )$ で撮影された写真と見られる。この情報をもとに、 この写真情報を図 2 に示すように時空間の場に位置づけることができる。対象となるコンテンツには時空間情報として記述できないものも存在するが、その場合も、不明とせず、明治時代の日本であれば「1868-0904T00:00+09:00 1912-07-30T00:00+09:00、日本国・香川県内」などの記載を施しておく。時空間デジタルアーカイブでは管理されるコンテンツをすべて時空間の中の点もしくは領域として管理できる仕組みを有している。 ## 2. 2 スレッドとエピソード 前節で紹介した時空間の中に存在するさまざまなコンテンツをつなげる糸に相当するものをスレッドと定義した。スレッドは登場する人物や団体、企業などの連続性があるものを表現する場合に利用し、一連のコンテンツのリストを持つ。さらに存在するコンテンツやスレッドにまつわる情報をまとめたものをエピソードと定義した。エピソードは時空間の中で発生した逸話や事件などを表現でき、 そ机自体は時空間情報を持たない。図 3 は時空間デジタルアーカイブの中でスレッドとエピソードの概念を模式図化したものである。 図 1. 大隈重信と中野武営(1913) 図 2. 時空間場におけるコンテンツの配置 ## 3. MPEG-7 準拠メターデータを用いた 内容記述 ## 3. 1 メタデータ仕様 時空間デジタルアーカイブではコンテンツを管理するためのメタデータとして MPEG-7 (ISO-15938 Part 8) [3]のコンテンッ内容記述インタフェースに準拠した記述方式を一部拡張して採用した。登録されるコンテンツは現段階では、静止画像を対象としている。コンテンツを特定する ID は拡張性を考慮して Universally Unique Identifier (以降 UUID とよぶ)を採用した。対象となるコンテンツとメタデータは同一の環境で管理されるとは 図 3.時空間におけるスレッドとエピソード <GeographicPosition> <Point longitude="134.050096" latitude="34.350048"/> GeographicPosition> 図 4. MPEG-7 による時間・空間記述例 限らず、コンテンツは URI で所在を管理される。コンテンツはオリジナルとして記録された画像ファイル(RAW データ)と同サイズで現像された JPEG 画像のデータをく MediaLocator>タグを用いて参照する。コンテンツ内容としてのいつ・どこでに相当する場所や時間に関しての情報は、図 4 のように < GeographicPosition >、<Time>タグを用いて記述する。さらに静止画像中に写されている人物やオブジェクトに関してはく StillRegion>タグを用いて対象領域を矩形で表現し、その内容をくTextAnnotation>タグを用いて記載する。図 5 は、図 1 の写真に対し人物領域を設定し、その領域の人物が中野武営であることを MPEG-7 準拠のメタデータを用いて記述する例である。 今回、このように MPEG-7 の準拠のメタデ一タを採用した理由は、国際標準である相互運用性の確保だけでなく、MPEG-7 で規定されたコンテンツ内容記述の標準がさまざまな事象に対し網羅的にタグを用意している点である。MPEG-7 の国際標準化作業に従事した 図 5. 人物領域と MPEG-7 による記述例著者らは、その著書「MPEG-7 と映像検索」 [4]の中でも、MPEG-7 をマルチメディア情報の検索・管理の新手法として具体的な記述方法を紹介している。将来に映像や音声と言った他のメディアへの拡張を視野にいれても統一的なメタデータ記述体系の採用は不可欠である。また、現在は人手を介してメタデータ付与作業をおこなっているが、将来的には、画像中に写っている人物に関しては人工知能 (AI)による顔認識技術などを用いて、入力された画像に対し同一人物候補を提示するなどの省力化も研究対象としている。 ## 3.2 メタデータ活用と提供インタフェース 1 つのコンテンツに対し生成された MPEG7 準拠のメタデータは、コンテンツとは別に MPEG-7 リポジトリーに格納される。格納されたメタデータに対して、コンテンツの利活用に有効な以下のような登録・検索のための Application Programming Interface (以降 API とよぶ)を提供する計画である。 - 空間での検索(領域内のコンテンツメタデータ UUID リストを取得) - 時間での検索(時間内のコンテンツメタデータ UUID リストを取得) - 時空間での検索(領域・時間内のコンテンツメタデータ UUID リストを取得) —コンテンツメタデータのタグと本文内のキーワードとのセットによる検索 また、簡易的に時空間情報を可視化するための API も提供する。検索結果として得られたコンテンツ UUID のリストを指定することで地図情報(Google Map など)上にコンテンツ位置情報の登録点を表示し、その場所をクリックすることでコンテンツと関連するメタデータを表示する高級インタフェースである。 いずれの API も DX 時代のローコード開発[5] を意識して誰もが簡単に利用できる API としての公開を計画している。 ## 4. 時空間デジタルアーカイブを利用し た新しい情報サービスの創出 香川・時空間デジタルアーカイブでは、さ まざまな一次資料をデジタル化し保管することもその目的の 1 つであるが、それ以上に蓄積された情報の利活用を進める仕組みと合わせて継続的にコンテンツが登録追加されていく仕組みの構築が求められている。そのため、香川・時空間デジタルアーカイブに収納されているデジタルコンテンツを利用する新たな情報サービスを創出することが重要な活用となっている。その 1 つが中野武営の知名度向上に繋がる情報サービスの創出であり、香川県の観光情報サービスへの活用と並んで直近の課題となっている。これらの新しい情報サ一ビスの創出は、学生によるデザイン思考を取り入れたアイデア提案活動だけでなく、香川大学のイノベーションデザイン研究所において産官学+民の活動として展開している。 また、提案されたアイデアは実際に香川・時空間デジタルアーカイブの提供する API を利用してプロトタイプシステムを開発し、フィ ールドで実証実験を行う。図 6 は提案された 近くに来るとPush通知 地図上にマーカー表示 VRでオブジェを表示図 6. 時空間アーカイブを利用したサービス例 情報サービスのアプリケーション画面の例である。この提案では、時空間デジタルアーカイブに格納されたコンテンツの位置情報をもとに、閲覧者の嗜好情報から、現在自分のいる場所の近くに関係するコンテンツがある場合にプッシュ通知を行い、VRなどを用いてコンテンツを閲覧できる情報サービスである。新しい情報サービスの提案は小規模であっても実際にフィールドにおける実証実験を行い その有効性を判断していく計画である。 ## 5. おわりに 2021 年度は、中野武営に関する情報の整理と中野武営顕彰会ならびに関係者との構想立案を中心に進め、プロトタイプシステムとしての簡易データベースならびに静止画像を対象としたメタデータ設計とその評価を実施した。2022 年度からは香川・時空間デジタルア ーカイブを中心に以下の活動を計画している。 1. 時空間デジタルアーカイブの本運用システムの開発着手とAPI の提供 2. 中野武営を皮切りにアーカイブ情報の収集とメタデータ付与作業の継続 3. 時空間デジタルアーカイブを活用した新情報サービスの創出 また、研究対象としてはデジタル化技術と合わせてメタデータ付与の省力化やメタデー 夕記載内容の更新ならびに精緻化のための研究活動を始める予定である。また、2024 年の中野武営の銅像建立に合わせて香川・時空間デジタルアーカイブを活用した新しい情報サ一ビスの公開も進める予定である。 ## 参考文献 [1] 中野武営. https://ja.wikipedia.org/wiki/中野武営 (参照 2022-05-01). [2] 香川大学イノベーションデザイン研究所 https://www.kagawa-u.ac.jp/faculty/centers/kidi/ (参照 2022-05-01). [3] MPEG-7 (Part 5). https://www.iso.org/standard/34232.html (参照 2022-05-01). [4] 國枝孝之, 脇田由喜, 高橋望, MPEG-7 と映像検索.CQ 出版. 2004219 p. [5] ローコード開発. https://www.intec.co.jp/column/detail/05.htm l (参照 2022-05-01).
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# [13] みんなでつくる みんなでつかう 災害アーカイブ:資料の収集・活用・運用 ○荒川宏 1),小山真紀 2),伊藤三枝子 1),平岡祐子 1),中村貫志 3),柴山明宽 4),井上透 5),千葉久美子 6) 1) 災害アーカイブぎふ,〒501-1193 岐阜市柳戸 1-1 岐阜大学流域圏科学研究センター小山研究室 2) 岐阜大学流域圈科学研究センター, 3) 岐阜大学大学院自然科学技術研究科, 4) 東北大学災害科学国際研究所, 5) 岐阜女子大学文化創造学部, 6) (一社) 三陸 \&東海防災フォーラム伝 E-mail: bousaiara@cy.tnc.ne.jp ## Disaster Archive: Build it Together, Spend it Together: Collection, utilization and operation of materials ARAKAWA Hiroshi ${ }^{1)}$, KOYAMA Maki2), ITO Miekon', HIRAOKA Yuko리, NAKAMURA Kanji3), SHIBAYAMA Akihiro ${ }^{4}$, INOUE Toru ${ }^{5}$, CHIBA Kumiko ${ }^{6}$ ) 1) Disaster Archive Gifu, Koyama Laboratory, River Basin Research Center, Gifu Univerisity, 1-1, Yanagido, Gifu, 501-1193 Japan 2) River Basin Research Center, Gifu University, ${ }^{3}$ Graduate School of Natural Science and Technology, Gifu University, 4) International Research Institute of Disaster Science, Tohoku University, ${ }^{5)}$ Gifu Women's University, 6) "Den": Sanriku - Tokai Forum on Disaster Prevention ## 【発表概要】 災害アーカイブは、データの蓄積と活用が期待される機能・役割であり、それを実現するための継続的な運用が重要となる。しかしながら、データの蓄積についてはできていても、活用が難しかったり、サービスの継続が難しいなどの課題がある。そこで著者らは、どうすればデータの蓄積、活用、運用を継続的に実施できるか、に着目した実践研究を続けてきている。これまで、 データの蓄積と活用として、地域の防災ワークショップを活用したデータ収集と活用のあり方について提案を行ってきたが、今回は、データの収集・蓄積から、ワークショップやパネル展、学校での活用までの事例を紹介した冊子の作成と、その冊子に期待される効果について報告する。 ## 1. はじめに 大きな災害が発生した後には、その記録を残すべきという気運が高まる。2011 年に発生した東日本大震災でも多数の災害アーカイブが構築された。しかしながら、災害アーカイブに格納されたデータが活用されないケースも多く、使用許諾や権利処理、適切なメタデ一タの付与、利用シーンの提案など、データの活用には課題がある。また、東日本大震災から 11 年が経過し、東日本大震災を契機に作成された災害アーカイブの維持が課題になっている。閉鎖されたアーカイブも複数存在している。このように、災害アーカイブには、 データの収集と権利処理、利用提案、システムの維持管理という 3 つの大きな課題が存在している。筆者らは、“持続可能性を考慮した上で、デ一タの活用を前提とした災害アーカイブの実現”を目指した取り組みを行っている。デジタルアーカイブ学会においても、これまで、防災ワークショップを活用したデータの収集と活用のための方策の提案[1]、同手法のオンラインワークショップへの適用[2]について報告してきた。これらの手法は、地域で実際に活用したいという団体との協働で実施してきているものの、実際に行った団体でないと具体的な手法が理解できないうえ、一度の経験で再現することは難しいため、活用できる災害アーカイブの取り組みを多方面に展開することは困難であった。そこで、災害アーカイブの運用や活用をしたいと思っている地域・団体向けに、災害アーカイブの課題であるデー タ収集、活用、維持管理について、これまで行ってきた手法を整理した冊子を作成することとした。 ## 2. 冊子の構成 冊子の想定読者は、過去の災害記録(デー タ)を残したい(あるいは災害アーカイブを構築したい)、過去の災害記録を活用したい (あるいは災害アーカイブを活用したい)と思っている地域・団体の方とした。 冊子のコンテンツは大きく 7 章構成であり、以下のような内容からなる。 1 章: はじめに(災害アーカイブってどんなもの、災害アーカイブの活動目的、みんなで作りみんなで活用する災害アーカイブとは、 なぜこのような災害アーカイブが必要だと思ったか、災害を伝える資料) 2 章: 資料を集めよう(資料収集の考え方、資料収集の方法、資料の権利処理は確実に行う、資料の位置情報・時間情報を確認する、個人情報の取り扱いに注意しよう、提供された資料は受取台帳に記録する) 3 章: 資料を使おう(どんな人・場面に使ってもらうか、ワークショップでの活用、パネル展での活用、学校の防災教育などの教材に使用、新聞などのメディアでの活用、ホームページでデータ公開) 4 章:資料をデジタル保管しよう(資料をデジタル化する、地図データの GIS 化、デジタルデータの保管、データ保管場所の確保) 5 章: 資料をデータベース化して管理しよう (資料のかたち、アーカイブシステムの概要とデータの流机、運用) 6 章: 災害・防災関連の既存情報も活用しょう(災害データベース、防災に役立つ地図情報、参考資料) 7 章: 活動の工夫(定例会、役割分担、共有のメールアドレスを作成、共有フォルダで共有している情報、マニュアルで作業手順を明確にする) これに加え、災害アーカイブの動向、権利処理、活用の効果と可能性について寄稿という形で情報を補足している。また、実際のワ一クショップで使ったスライド資料を附録として掲載する事で、ワークショップの組み立てをイメージしてもらいやすい様にしている。 このように、本冊子は資料の収集から権利処理、活用手法、デジタルアーカイブの作成とデータの保管、継続的な活動の工夫などをまとめており、これから活動をはじめようとしている方や活動方法について悩んでいる人にも有用なものとなっている。 ## 3. 冊子に期待される効果 本冊子は、災害アーカイブぎふの活動に基づいて、活動の指針や技術的な内容をまとめたものであるが、災害アーカイブぎふのメンバー自体が地域で防災活動を行う人を中心に構成されている。そのため、冊子の構成そのものも、地域で活動する人にとって活動の参考になるものという視点で作成されている。刊行以来、同様の活動をしたい人からの問い合わせも来ており、他地域での災害アーカイブの活動の拡大や、災害アーカイブの取り組みを行う団体同士の連携などが期待できる。 ## 参考文献 [1] 小山真紀. 柴山明寞. 平岡守. 荒川宏. 伊藤三枝子. 井上透. 村岡治道. 防災ワークショップを活用した災害写真の収集とデータベー ス化 : 災害アーカイブぎふの取り組みから. デジタルアーカイブ学会誌. 2020,4 巻, 2 号, p.136-139. [2] 小山真紀. 荒川宏. 伊藤三枝子. 平岡祐子.柴山明寛. 井上透. 災害アーカイブぎふを活用したオンラインワークショップ. デジタルア一カイブ学会誌. 2021, 5 巻, s1 号, p.63-66. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [12] 東京都練馬区光が丘における地域サークル主体の デジタルアーカイブ: ## 現状の取り組みと今後の構想 ○菅原みどり 1 1)立教大学大学院 21 世紀社会デザイン研究科修士 2 年, 光が丘歴史博物研究会 E-mail: 21vm034k@rikkyo.ac.jp ## Digital archive of community circle initiative in Hikarigaoka, Nerima, Tokyo: The present approach and future design SUGAHARA Midori' ${ }^{1)}$ Rikkyo University Graduate School of Social Design Studies ## 【発表概要】 東京都練馬区光が丘は、戦時中は帝都防衛目的のため「成増飛行場」が建設された土地であるが、戦後、米軍家族宿舎(グラントハイツ)として利用され、1973 年に返還された後 1980〜 1990 年頃にかけて約 27,000 人が住む巨大な住宅団地群と公園のまちへ開発された。住民のほとんどは地域外からの移住者のため地域の土地利用の変遷やまちづくりの歴史を知る機会はなく、 また、開発前から同地域の周辺地区で生活し地域の歴史を知る住民も、時の経過により年々減少しつつある。 そうした背景の中で、地域の有志が 2021 年より光が丘地域の歴史資料をアーカイブするサー クル「光が丘歴史博物研究会」をつくり、デジタル博物館の構築を目指して歴史資料や地域住民へのオーラルヒストリーの収集を開始した。この営みが、活動主体であるサークルと地域になにをもたらすのか。本報告では現状の取り組みと今後の構想について報告する。 ## 1. はじめに いま、コミュニティのかたちは多様な展開が広がっている。いわゆるコロナ禍、緊急事態宣言下において対面での会合が開催できない等の課題が顕在化した中でも、地縁に限定されずに共通の価値観で繋がる SNS など、オンラインでの交友関係は活発だった。現代は地縁型組織とオンライン型組織の両方との距離・関わり方を個人が選べる時代である。 デジタル化・ネットワーク化が進久、都市部の地緑型コミュニティが急速に衰退している中で、逆に地緑型コミュニティが主体となって、デジタル化・ネットワーク化を利用し、地縁と深く関係する地域史や、地域の情報を収集・公開していく試みを 2021 年 5 月 18 日より、筆者を中心とした地域サークル「光が丘歴史博物研究会」が始めた。市区町村よりも小さな範囲で、その地域の住人たちが「わがまち」の歴史資料を収集・保存・管理・公開する取り組みは、制作されるコンテンツや デジタルアーカイブそのものだけでなく、制作主体や地域にも少なからず面白い影響があることが見えてきた。 ## 2.「光が丘」の 100 年 まず、広く知られてはいないが、東京都練馬区光が丘はこの 100 年で大きく三度の変化を経験した特異な地域である。 戦前までは稲作・畑作を行なう農地であった当地は、1942(昭和 17)年 4 月に日本がアメリカ軍によって初の本土空襲を受けたことから、首都防衛目的のため飛行場を建設するべく日本陸軍に接収された。そして田柄川を暗渠化し、成増飛行場が 1943 年 12 月に完成した。この農地から成増飛行場への変化が一度目の変化である。 戦後、一旦同地では旧地主らの呼びかけによって開墾耕作が始まったが、GHQ 占領軍が成増飛行場を接収し、1946 年 3 月に石炭等の燃料や物資を運び込むため東武啓志線が開通、 1948 年には米軍家族宿舎グラントハイッ (Grant Heights)が完成した。フェンスや有刺鉄線で囲まれたアメリカ人のまちとなった当地には 1446 戸の赤い屋根・白い壁の広々とした家と芝生の広い庭が計画的に建設され、ボイラー工場、将校クラブ、学校、教会などの施設もあった。この、日本国内にありながら米国として扱われる治外法権の区域グラントハイツが、当地の二度目の変化である。 1959 年より逐次始まった基地縮小化によって、グラントハイツ内の施設は次第に遊休化し、土地返還運動を経て1973 年に全面返還された。その後、周辺環境や景観への配慮、交通網の整備促進、広域避難場所としての機能を基本方針とした都市計画によって、1980 年代より現在の広大な公園「東京都立光が丘公園」と、総戸数 12,000 戸、人口おおむね 42,000 人を目標とした 23 区最大規模の団地群「光が丘パークタウン」で成るまちがつくられた。これが三度目の変化であり、現在の光が丘の姿である。[1] ## 3.「光が丘デジタルアーカイブ」の活動 3. 1 活動目的 団地の入居開始より約 35 年が経過した現在、第一次入居から世代交代も行なわれ、光が丘の歴史を知る者は減少する一方である。小学 3 年生の社会科では地域を学ぶが、2021 年 11 月に光が丘春の風小学校でアンケートをとった結果、練馬区全体の地域史については学習しているが、 3 年生のクラスの 3 分の 1 は「グラントハイツ」や「成増飛行場」について触れていなかった。 また、核家族化や少子高齢化、閉鎖性 - 独立性を持つ住宅、職場・住居・余㗇活動の空間が分離され交通網で結ばれる生活が一般化している現代の都市部では、地縁的なつながりや地域への愛着・帰属意識が低下している。特に労働者世代は、地緑型コミュニティや地域の活動に関わる時間や心の余裕がなく、地域コミュニティを通じて地域史に触れる機会は少ない。 地域サークル「光が丘歴史博物研究会」は光が丘地域史を戦前〜戦時中・戦後復興期における貴重な資料であると考え、地域の方々と協力しながら、光が丘地域の画像や映像、 オーラルヒストリーを収集し編集、デジタルアーカイブ化し、「光が丘デジタルアーカイブ」 を制作するべく取り組んでいる。これにより地域資料の利活用、教育やまちづくり、地域への愛着・連帯感の再強化、新たな価値の発見につなげたいと考えている。 ## 3.2 オーラルヒストリー収集 2021 年 5 月より、光が丘デジタルアーカイブは SNS(Facebook、Twitter)を利用しているが、SNS を通じて光が丘地域やデジタルア一カイブに関心を持ち、インタビューに応じていただける場合がたびたびある。光が丘地域から離れて生活している、もと光が丘地域住民との出会いがあるのも SNS ならではであり、SNS の更新頻度や地域に対する好意的な投稿が、制作主体への信用につながっていると感じる。 活動 $P R$ 用に製作した 1 分間、 5 分間の動画も、活動内容を周知するのに効果的であり、区のイベント等でも動画での参加を行なった。内容は戦前、戦中、戦後から現在に至る光が丘地域の歴史や、その歴史が地域であまり知られていない現状、光が丘歴史博物研究会が地域資料を収集・公開する活動を行なっていることを伝える内容である。画像や映像という手段は情報量が多く、デジタル化・ネットワーク化が普及した現代において鑑賞者の印象に残りやすいという強い手ごたえがあり、 その後も映像・画像を中心に資料の収集・公開を行なう方針を固めた。 SNS 以外では主に光が丘および周辺で生活している方へ、思い出話を中心としたオーラルヒストリー収集を行なっている。年表や地図を広げながら、あるいは話者自ら資料を PowerPoint 等で準備してくれる場合もある。地域での思い出話は、当然ながら話者の主観で過去を振り返るものであり、必ずしも事実や他者の主観とは一致しないが、聞き取り調查では地域の歴史を語る「場」ができたことで上書き的に歴史資料が深く堀り下げられ、 その精度が増していく様子も感じられ、公的資料では見ることのできない光が丘の歴史も見えはじめた。さらに、話す場・聞く場であるオーラルヒストリー収集の現場そのものを、話者と制作側の双方が面白い・楽しい、有意義であると感じているのがわかる。また、一度の取材で終わるのではなく、後に資料提供や、別のインタビュー協力者を紹介されるなどの展開にもつながっている。 一方で、メディアで自身の活動が取り上げられた経験がある場合や、外部へ向けた発信を伴う活動を行なっている場合を除いては、 インタビューの様子など話者本人の画像や映像の撮影・公開の許可が得られることは稀であり、生活圏と自分の情報が紐づけられてインターネット上で公開されることに対しては、強い抵抗があるのがわかる。このため、貴重な資料にもかかわらず、現状としては公開できないものもある。 ## 4. 今後の取組みと課題 画像や映像、思い出話をテーマとしたオー ラルヒストリーの収集は今後も継続しながら、「光が丘デジタルアーカイブ」の内容や目的、利活用方法がイメージできる設計図的な動画・ハンドアウトを制作し、それらを光が丘地域に関わる人に観てもらった上で、「光が丘デジタルアーカイブ」をどのように使いたいか、どのような内容に興味があるか、その人に何をもたらすか等をアンケート調査する予定である。また、学校・博物館・図書館等で光が丘地域の地域史に関わる人へ、地域サー クルが主体となって地域資料を広く活用可能にすることに対する意見や、地域資料をデジタルアーカイブ化することによって何が期待できるか等をインタビュー調査する。 課題は多く、デジタルアーカイブという技術が歴史資料の利活用に対して有効であるの は自明であるものの、膨大な、しかも特に目を引くでもない地域資料の収集・蓄積・公開・管理・運営を永続的に行なうには、人やカネや権利の問題があり、個人や地域のサー クルが取り組んでいくのは容易ではないと感じている。図書館や博物館、他の地域で同様に地域資料のデジタルアーカイブ化に関わる経験を持つ人へ、その地域資料のデジタルア一カイブ化によって、何が地域にもたらされているかなどをインタビューしたい。 2023 年 9 月にはグラントハイツ返還より 50 年という節目もあり、それまでに「光が丘デジタルアーカイブ」でグラントハイツに関するコンテンツを公開することを計画し目標としている。 ## 5. おわりに 光が丘が特異な変遷をたどり現在の姿になったこと、それを知る住人が非常に少なく地域史を学ぶ機会も少ないことなどから、「光が丘デジタルアーカイブ」を作ろうと活動開始し、約 1 年が経過した。地域住民をはじめとする多くの方に協力いただき、少しずつ活動が知られ、「光が丘デジタルアーカイブ」のあり方や、これを通じた人のつながりができ始めた。この試みは光が丘という特異な地域を対象としたものであるが、他の多様な地域にも貢献し得るものであり、地域への愛着や地域住民の連帯感の再強化、新たな価値の発見につなげられると考えている。 ## 参考文献 [1] 練馬区ホームページ「光が丘地区のまちづくり」 https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/mach i/kakuchiiki/hikarigaokachiku.html (参照 2022-05-13).
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# [11] 地方自治体におけるデジタルアーカイブによる経済波及効果の推計:草創期の事例を対象として 宮田悠史 ${ ^{11}$ 1) 立命館大学大学院文学研究科, $\mathbf{T} 603-8577$ 京都市北区等持院北町 56-1 E-mail:gr0130fk@ed.ritsumei.ac.jpxx ## Estimation of Economic Ripple Effects of Digital Archives in Local Governments: For pioneering case MIYATA Yuji ${ }^{1)}$ 1) RITSUMEIKAN UNIVERSITY Graduate School of Letters, 56-1 Tojiinkita-machi Kitaku Kyoto-city, 603-8577 Japan ## 【発表概要】 我が国の「デジタルアーカイブ」草創期において、文化資産のデジタル記録とアドバタイジングで「地域振興」を図る動きが自治体で進んだ。筆者は、それら自治体が構築したデジタルアー カイブによる「地域の経済振興」に注目した研究を行っており、本発表では、草創期に構築されたデジタルアーカイブである「Wonder 沖縄」による経済波及効果を試験的に推計した。ただし、現段階では当該デジタルアーカイブに関する「構築投資」と「運用費用」に最終需要の増加額を限定して行った。その結果、経済波及効果として 131,414 万円(構築投資による経済波及効果が 90,526 万円、運用費用による経済波及効果が 40,888 万円)が算出された。ただし、ここでの推計は様々な仮定や推定によって行っていることから、今後はそれらの正確性を向上させる必要がある。また、最終需要増加額の範囲を民間支出などに広げて推計することも必要である。 ## 1. はじめに〜研究の立場 我が国における「デジタルアーカイブ」(以下、DA)は、1990 年代前半のデジタル技術発展を背景としており、この草創期において、「文化資産のデジタル記録とアピールによって『地域振興』を」図る動きが地方公共団体 (以下、自治体)で進んだ[1]。ここでいう地域振興の概念は、それぞれの地域における事情やねらい等によって違いが生じるため幅広い多様性が存在する。また、それら DA の対象も地域の古文書や古地図、美術品など多種多様であり、映像もその重要な対象として、多くの自治体で DA が構築されてきた $[2]$ 。 筆者は、「自治体が構築した映像に関するデジタルアーカイブ」(以下、自治体映像アーカイブ)による地域の経済振興に注目しており、自治体映像アーカイブに関する経済活動が、地域の他産業と連関して生じる経済波及効果に視点を置いている。本発表は、当該研究における初期段階の部分にあたり、「草創期にお いて自治体が構築した映像を含んだ DA」(以下、草創期自治体アーカイブ)による経済波及効果の推計を仮説的に行ったものである。 ## 2. 背景と目的 ## 2. 1 背景 これまで、「地域における映像デジタルアー カイブ」(以下、地域映像アーカイブ)に関する研究は、様々な研究者によって行われてきた。宮本は、沖縄県における地域映像アーカイブの事例調査において、沖縄の戦争に関する特異な歴史を背景として、映像の収集や公開、利活用の取り組みが進んでいることを確認している[3]。また、水島は地域映像アーカイブ構築の実践において、「人的・資金的コス卜問題」を示すなど、当該分野全体に対する示唆的な研究も存在する [4]。これらの研究は、多くの地域映像アーカイブにおいて幅広く援用し得る重要な知見といえる。 しかし、現状では筆者が注目している経済 波及効果について直接的に視点を置いた研究は見当たらず、筆者の研究はその点で先行研究における視点と方法とは異なるものである。 ## 2.2 目的 本発表は、自治体映像アーカイブと地域経済振興の関連を念頭に置きつつ、自治体が構築した DA による中・長期的な経済波及効果の推計を試みるものである。そのため、まずは地域においてすでに一定期間運用された草創期自治体アーカイブに対象を限定し、それらが地域に与えた経済波及効果を推計したい。 ## 3. 方法と対象 ## 3. 1 推計の方法 産業連関分析における均衡産出高モデルを用いて、経済波及効果を推計する。ここでいう経済波及効果とは、当該モデルにおいて推計した「直接効果と間接 1 次効果」及び「間接 2 次効果」を合算した額とする。均衡産出高モデルは、一定期間の経済活動により増加した「最終需要」を産業連関表の諸係数とかけ合わせることで経済波及効果を求めるため、最終需要増加額の設定が重要な課題である。 そこで、今回は琵琶湖博物館(滋賀県)の経済波及効果を推計した研究を参考として、 「草創期自治体アーカイブの構築に関する投資」(以下、構築投資)と「草創期自治体ア一カイブの運用経費」(以下、運用経費)を経済波及効果の推計における最終需要の増加額として設定する[5]。本稿で用いる経済波及効果推計のモデルは、次のとおりである[6]。 1) $\mathrm{Xa} 1=\left[\mathrm{I}-\left(\mathrm{I}-\mathrm{M}^{\wedge}\right) \mathrm{A}\right]-1\left(\mathrm{I}-\mathrm{M}^{\wedge}\right) \mathrm{Fa}$ 2) $\mathrm{Xa} 2=\left[\mathrm{I}-\left(\mathrm{I}-\mathrm{M}^{\wedge}\right) \mathrm{A}\right]-1\left(\mathrm{I}-\mathrm{M}^{\wedge}\right) \mathrm{Fb}$ 3) $\mathrm{Xb} 1=\left[\mathrm{I}-\left(\mathrm{I}-\mathrm{M}^{\wedge}\right) \mathrm{A}\right]-1\left(\mathrm{I}-\mathrm{M}^{\wedge}\right) a b c X a 1$ 4) $\mathrm{Xb} 2=\left[\mathrm{I}-\left(\mathrm{I}-\mathrm{M}^{\wedge}\right) \mathrm{A}\right]-1\left(\mathrm{I}-\mathrm{M}^{\wedge}\right) \mathrm{abcXa} 2$ 5) $\mathrm{X}=\mathrm{Xa} 1+\mathrm{Xa} 2+\mathrm{Xb} 1+\mathrm{Xb} 2$ ## 3. 2 対象の選定 「デジタルアーカイブ」という用語は、 1994 年頃に月尾嘉男東京大学教授(当時)が提案したものとされており、この当時が DA の草創期といえよう。 「Wonder 沖縄」は、2002 年に沖縄県によって設置された草創期自治体アーカイブであり、設置自体は少し遅い面を持つが、国が強力に支援して大規模な予算で構築された稀有な事例である。また、2003 年から 2010 年にわたり運用された実績から、本研究の目的である中長期的な経済波及効果を測定することも可能である。もちろん、1995 年に構築された「上田市デジタルアーカイブ」(長野県上田市)や、1996 年に構築された「石川新情報書府」(石川県)は草創期における代表的な事例であり、研究全体の中では対象にすべきであると考えるが、本発表では紙面の都合上 Wonder 沖縄に対象を限定することとする。 ## 4. 経済波及効果の推計 \\ 4. 1 Wonder 沖縄の概要 Wonder 沖縄は、沖縄の歴史・風土等の文化資産に関するデジタルコンテンツを製作して収録した DA である。ただし、現在では閉鎖されており、沖縄県公文書館などの限られた環境でのみ閲覧可能である。 本事例は、その設立構想に国の施策が大きく影響していることが特徵といえる。国は、 2002 年度に DA 構築を予算化するとともに、 オブザーバーとして事業に関与した。加えて、 コンテンツ制作には、大規模かつ実績のある県外企業が県内企業とコンソーシアムを形成してコンテンツ制作することで、県内企業への技術移転が図られた点も重要な特徵である。 ## 4. 2 推計 表 1 は、本事例における各年度の最終需要 増加額を示したものである。ここでは、設置時に沖縄県から支出された構築投資と、2003 年以降閉鎖された 2010 年までに沖縄県から支出された運用経費を設定した。 構築投資は、県の報告書を基に受注事業者の産業区分ごとに配分したが、受注事業者のなかには県外企業も存在するため、沖縄県内の経済波及効果を推計する上では、県外事業者に支払われた事業費を除外して推計する必要がある。しかし、事業者ごとへの支払額が確認できる資料が存在しないため、これらの事業費について県内事業者に支払われた金額を按分した。そこでは、県外事業者の企業規模が県内事業者と比較して大規模であることや、当時の関係者に対する聞き取り調査などから総合的に判断し、県内・県外事業者が混在する事業については、それぞれに 50\%ずつ支払わ札をのと仮定した。その後、県内事業者に按分した最終需要増加額を受注事業者の産業区分毎に配分した。また、運用経費は、関連資料が保存年限を経過しており確認できなかったため、各年度の決算額、委託業務の概要、支払先事業者の産業区分について、沖縄県の担当者への聞き取り調査によって確認した。結果は、すべての額を県内の専門事業者にサーバー維持等の委託料として支払っていたため、各年度の支払額を「情報通信」産業の最終需要増加額として設定した。 なお、経済波及効果の推計は「2000 年(平成 12 年)版沖縄県産業連関表(大分類)」、 $「 2005$ 年(平成 17 年)版沖縄県産業連関表(大分類)」によって行った。また、消費転換係数は各年度における「沖縄県家計調査結果」より年間の平均値を引用した。表 2 及び表 3 は、各年度の経済波及効果を示したものである。 ## 5. おわりに〜考察と展望 表 4 は、Wonder 沖縄による経済波及効果をまとめたものである。現時点では、 1 事例における試験的な推計結果にとどまるが、経済波及効果が最終需要の増加額を上回り、生産誘発係数が 1 を超えていることから、草創期自治体アーカイブの構築・運用による経済活表 2. 経済波及効果集計表(2002-2004) 単位:万円 & 間接2次効果 \\ 動が一定の経済的効果を地域にもたらしていることが仮説的に推定できる。 ただし、今回の推計では運用経費に関する最終需要増加額を一括して「情報通信」業に設定しており、これは DA 運用における経済活動と正確に合致しているとは言いきれない。加えて、事業費の按分や費目の推定を仮定的に行っており、その方法が推計結果に影響することは言うまでもない。現状では、研究の出発点として現在の方法を選択しているが、 表 3. 経済波及効果集計表(2005-2010)単位: 万円 & 間接2次効果 \\ 事業費の按分や仮定は研究全体に関わる重要な課題であり、今後の詳細な事例分析において十分に検証する必要がある。また、本発表での最終需要増加額は、構築投資と運用経費にとどまっており、今後はこの範囲を民間支出などに広げた推計も行っていきたい。表 4. 経済波及効果集計表単位 : 万円 & $73,401.8$ & $34,044.7$ \\ ## 註・参考文献 [1] 笠羽晴夫. デジタルアーカイブ基点・手法・課題. 水曜社,2010. [2] 宮田悠史. 地方自治体における映像アーカイブの現状と課題-アーカイブの公開と活用による地域振興に向けて。立命館映像学:立命館大学映像学会. 2021, 13/14, p7-30. [3] 宮本聖二. 沖縄の映像アーカイブの公開と活用. 2019, デジタルアーカイブ学会誌,vol3,p.9-14 [4] 水島久光. 地域映像アーカイブの構築と活用に関する課題 : 北海道 - 夕張市の事例から. 2017, デジタルアーカイブ学会誌,vol1(Pre),p.96-98. [5] 中澤純治. 産業連関分析と費用便益分析による博物館の経済的評価-琵琶湖博物館への投資と支出はどのような経済波及をもたらすのか. 施策としての博物館の実践的評価-琵琶湖博物館の経済的 - 文化的 - 社会的効果の研究,村山晧編.雄山閣,2001. [6] Xa1:構築投資による直接効果+間接 1 次効果、 $\mathrm{I}$ :単位行列、 $\mathrm{M}^{-}$:移輸入係数、 $\mathrm{A}$ :投入係数、 $\mathrm{Fa}$ : 構築投資における最終需要増加額、Xa2:運用経費による直接効果 + 間接 1 次効果、 $\mathrm{Fb}$ : 運用経費における最終需要増加額、 $\mathrm{Xb} 1$ : 構築投資による間接 2 次効果、 $\mathrm{Xb}$ 2 : 運用経費による間接 2 次効果、 $\mathrm{a}$ : 民間消費支出構成比、 $\mathrm{b}$ : 消費転換係数、 $\mathrm{c}$ : 雇用者所得率、 $\mathrm{X}$ : 経済波及効果
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# 京都の文化活動を支える ## Supporting Cultural Activities in Kyoto \author{ 宮崎刀史紀 \\ MIYAZAKI Toshiki } 公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団ロームシアター京都 ## 1. はじめに 長尾真先生には、2013 年 6 月 10 日から 2020 年 6 月 23 日まで、公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団の理事長として、京都における文化の振興にご尽カいただきました。長尾先生が大のクラシック音楽好きであったことは多くの方がご存知かもしれませんが、その造詣の深さゆえでしょうか、芸術文化を日常業務で扱っている私ども財団職員としては、日頃から普通に音楽や演劇などに関わる話題をお話させていただいていることもあり、失礼ながら、長尾先生の本来の(!?)ご専門が何であるかをあまり知らない職員が大半ではなかったかと、今となってはこっそり明かしてしまおうかと思います。 さて、京都市音楽芸術文化振興財団は京都市の外郭団体で、音楽文化・地域文化の普及振興や芸術文化施設の管理運営にあたっており、京都コンサートホールとロームシアター京都という京都市の舞台芸術系の 2 大拠点施設と、地域の文化会館 5 館、そして、京都市交響楽団 (京響)を運営しています。理事長は、初代の岡本道雄氏から、西島安則、岡田節人、佐野豊の各氏といった、京都大学や京都府立医大でご活躍された先生方に就任いただいており、長尾先生は5代目です。実は、長尾先生には、もっと早い時期に打願いしょうとしていたのですが、京都大学総長を退任後、数々の要職につかれたため実現せず、国立国会図書館長を退任された翌年に、念願かなってご就任いただいた、と漏れ聞いたことがあります。 私どものような財団の「理事長」というのは、「年数回の理事会などの場だけにしか来なくて、墄多に会えない」という場合も少なくないのかもしれませんが、長尾先生は、理事会などだけでなく、有識者に上る委員会の座長を抒務めいただいたり、コンサートや公演に頻繁にご来場いただいたりと、少しばかり身近な存在の方でした。そんな長尾先生のエピソードをいくつかご紹介します。 ## 2. 京都市交響楽団 在任期間中は、財団運営に大きなトピックがいくつもありました。京都市交響楽団 (京響) の運営、とりわけ運営移管(京都市から財団へ)に伴う団員の財団職員化、また、ロームシアター京都のリニューアルオープンとその運営などに関しては、特に気にされていました。それらが財団だけでなく、まさに京都にとっての大きなトピックであったからではないかとも推察します。 長尾先生が理事長に就任された時、京響の練習場にお見えになり、練習開始前の団員やスタッフが全員そろっている合奏場で、「私が市長から理事長就任の打診を受けた時、お受けする際の条件の一つとして、京都文化のシンボルである私の大好きなこの京都市交響楽団をなくすようなことはしないでほしいと打話しました。市長もご理解いただいていると思います」といった旨のお言葉をいただきました。この力強いご挨拶を直接しにいらして下さった新・理事長を、その場にいる者は自然と大きな拍手で扮迎えした、と聞いています。長尾先生は、スマートで物腰柔らかな紳士という印象を多くの職員がもっています。たた、ご本人が全く納得いかない場合は、とことん突っ达まれ、鋭い指摘もあります。ご理解いたたくと、笑顔で「わかりました」と領いてくださいました。大きなことを動かす際には、理事長に笑顔になっていただくため、財団も京都市も懸命になっていました。この笑顔の後には、様々なことが前に進んでいった、という印象です。 さて、長尾先生は毎年、主にヨーロッパに奥さまと海外旅行をされ、有名なオーケストラの演奏だけでなく、ふらっと訪れたコンサートホールで行われている 演奏会を聴き、その後にティータイムを過ごすのが楽しみの一つだとおっしゃっていました。時に、京響のコンサートでもその選曲などについて細かく聞かれることもあり、本当にクラシック音楽が打好きで毎回楽しまれていたように思います。 ## 3. 京都コンサートホール 当財団が運営する京都コンサートホールの自主・共催公演には、ご夫妻でご来館され、ほぼ全ての公演をお楽しみいただき、仲睦まじいご様子のお背中をお見送りさせていただいたことは多くのスタッフに共通する記憶です。新型コロナウイルス感染症発生前の 2019 年度の京都コンサートホールの自主・共催公演は、30 公演を実施しましたが、そのうち 26 公演にご来場いただきました。 長尾先生が座長を務め、外部有識者の方も入り、年数回開催される財団の委員会では、財団が運営する各ホールの運営について様々な視点で議論が行われていました。施設で行われている催しや自主事業の内容などについて、長尾先生は議事の進行をしつつ、質問・意見を多くされていましたが、特に印象に残っているのは、財団への寄付金(賛助会員制度)についての事項です。どのような働きかけをしているのか、寄付してくれた方へどのような対応をしているのか、寄付を毎年続けたいと思ってもらうために工夫はしているのか、と毎回、細かく質問やアドバイスをして下さいました。制度を作るだけではなく、運用が大切だ、と厳しく見守っていて下さったように思います。 ## 4. ロームシアター京都 ロームシアター京都は、1960 年に設置された京都市立の公共ホール「京都会館」が、2016 年にリニュー アルオープンした施設ですが、まさにそのリニューアルの時期に運営団体の理事長として、ご尽力いただきました。リニューアル後のホールのあり方や事業イメージを検討した「オープニング事業検討委員会」 (2013 年 14 年)では、指揮者の小澤征爾氏、京舞の井上八千代氏、美術評論家の建畠晢氏、演劇プロデューサーの津村卓氏らとともに委員を務めていただき、現在のロームシアター京都の運営の根幹をなすコンセプトづくりにあたっていただいています。オープン後も公演に何度もお運びいただいたほか、劇場が立地している京都岡崎地域の四季の移り変わりを感じられる場所として、(こっそり) 奥さまやお知り合いの方との交友の場としてもご来館いただいていたとお聞きしております。 劇場が新しくオープンする際には、ピアノの弾き込みをします。これは、新品のピアノは、音の調子が狂いやすいため、ピアノが納品されてから、ひたすら弾くのですが、ロームシアター京都でもオープン前 3 か月間にわたり実施しました。京都コンサートホールの田隅靖子館長(当時)監修のもと、多くの演奏家の方に打願いをしたのですが、2015年 12 月 16 日には、長尾理事長の奥さまである長尾美紀子様に 4 台の新しいピアノを各 30 分ずつ弾き达んでいただいたと当館の記録にあります。 ロームシアター京都で発行している機関誌『ASSEMBLY』では第 6 号[1] で「アーカイヴ」を特集しようということになり、長尾先生に監修を打願いしたところ、ご快諾いただき、理事長を退任して間もない2020 年 6 月 26 日に、館長室でお話を伺いました。国立国会図書館時代の話などを引き合いに、知を蓄積する装置としてのアーカイヴの意義と、それらをどう運用/活用するかにおいては、デジタルデータによる整理・編纂・アーカイビング促進とそのプラットフォームの構築、そして、そのリテラシーの教育が最大の命題で、そうしたことがこれからの創造活動の発展には不可欠、といったことをお話いただき、ご相談すべき方などもご推薦いただきました。ようやく、長尾先生のご専門に我々がたどり着いた矢先、お倒れになったとお聞きし、さらなるアドバイス等をいただくことはかないませんでしたが、翌年春に発行した際には、「企画協力・長尾真」と打名前を入れさせていただき、長尾先生なしには決して実現しなかった企画であったことを刻ませていただいております[1]。 前例の無い実験的な企画についてもいつも懐深く、応援して下さっていました。また、京大に芸術学部を作万うとして本気で取り組んだというお話を伺った職員もおります。まだまだ様々な形で京都の文化を支えていただき、いろいろなお話を伺えたらと思ってもかなわないのがとても残念ではありますが、私たちにとって、決して忘れることのできない身近で偉大な理事長であったということをここに記しておきたいと思います。 ## 註・参考文献 [1] ロームシアター京都. Assembly:アセンブリー:京都に劇場文化をつくる.2021.6. https://rohmtheatrekyoto.jp/wp-content/uploads/2_05_Rohm_ asmb6-210420-1img-1.pdf (参照 2022-02-11).
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# For the younger generations # # 江上 敏哲 \\ EGAMI Toshinori 国際日本文化研究センター ## 天野 絵里子 AMANO Eriko 京都大学学術研究支援室 大阪大学附属図書館筆者 $($ 江上・天野・赤澤)らは元々京都大学の図書館職員であり、附属図書館長であった長尾先生の京都大学電子図書館、情報探索入門等、さまざまな活動.運営のもとで業務に携わっていました。その影響が、 いまのデジタルアーカイブ、オープンアクセス、研究支援等につながっています。本稿では、特に我々含む後進の司書・図書館関係者に、長尾先生がどのように接してくださっていたかをふりかえってみます。 2009 年 10 月 29 日、全国図書館大会の関連行事として催された「U40(アンダーフォーティー)プレミアセッション」。その東京会場にゲストとして登場した長尾先生のスピーチが、YouTube にのこされています。まだ国立国会図書館館長だった頃の長尾先生が、 40 歳以下の若手 - 中堅図書館関係者たちに向けて語ったものです。 「日本の知的基盤を充実させて、日本が創造力豊かな、住民の皆さん方にとっては心の満たされる生活がおくれる社会になっていってもらいたい。そのためのひとつの大事な要素が図書館です」 「若い方々ですからこれから 20 年、 30 年、しっかりとした仕事をしていっていただければ..........なかなか報われないというときもあるかもしれませんが、半年や 1 年という長さで物事を考えるのではなく、 5 年 10 年という長さで物事を考えて焦らずにやっていけば、必ず良くなる。」 「ご遠慮なく国会図書館にもご注文いただきたいとおもいますし、あるいは私個人に対してもい万んなことをおっしゃっていただければ私も努力をしたい」[1] 情報と図書館による社会貢献を長いスパンで実現していくこと。そのための、次の世代の担い手への信頼と期待。図書館の未来を語るために集まった若手たちに対する、先輩からの力強い応援メッセージとして、参加者から大きな拍手をもって受けとめられています。 2012 年に国立国会図書館館長を退かれてからのちも、長尾先生は図書館関連の催しにたびたび参加・登壇されていました。京都地区だけでも、総合資料館開館 50 周年記念シンポジウム「総合資料館の 50 年と未来」(2013 年)、同志社大学図書館司書課程講演会「『見たことのない図書館』を考える」(2014 年)、アーカイブサミット in 京都(2017 年)等が思い出されます。 またそのような大規模な催しばかりではなく、小規模の研究会・勉強会等の集まりにも参加され、時には自らスピーカーとなり後進に向けて熱心に語ってくたさったこともあります。 2013 年 1 月 30 日、「『未来の図書館を作るとは』-長尾真先生と語る」[2][3] と題する勉強会が催されています。京都府内の公共図書館等を中心とした図書館職員による “京都図書館情報学学習会”(当時)と、主に京都大学の図書館職員による “Ku-Librarians” という勉強会があります。どちらも主に若手・中堅の図書館員からなる自主的な集まりで、現場での取り組みや勉強の成果を共有しあうような、さほど規模が大きいとは言えないものです。通常はそれぞれ 10 人前後の参加者でおこなわれていましたが、この日「長尾真先生と語る」と題された合同学習会には 40 人を超える参加者が集まっていました。 この勉強会で長尾先生は、記録と情報の歴史をはじめとして、検索技術や著作権問題、国立国会図書館における電子図書館的機能、そして電子図書館時代の公共図書館の役割など、過去・現在・未来におよぶさまざまな話題を提供してくださいました。驚くべきはその話題の豊富さで、情報技術の専門的な話もあれば、法律や制度、業界団体との交渉の話、図書館利用者への情報提供の話もあるなど、実に多岐にわたっています。また「図書館員間で活発な議論をする。素人の意見や各分野の方の意見も聞く」「部長、課長級の職員や若い職員達と 80 回ほど会談した」[3] 等、国立国会 図書館の館長としての課題への取り組みや、その背景にある哲学なども印象的でした。これから図書館をひっぱっていかなければならない我々に向けて、どのような姿勢と考え方で職務にあたっていくべきだろうかということを、理念と実践の両面で語ってくださいました。長尾先生の遠慮のない率直な意見に影響されてか、会場の参加者からもやはり遠慮のない質問や議論が飛び交い、大いに盛り上がりました。 あらためて思い出されるのは、長尾先生の親しみやすさ、距離の近さ、後進へのフランクな接し方です。「鍵屋荘」と呼ばれるシェアハウスでの飲み会やイベント終わりの懇親会の席などでも、我々後進の者に混じって、情報や図書館に関することにしろ関係ないことにしろ、ざっくばらんにおしゃべりさせていただいたものでした。こちらも元国立国会図書館長だということを忘れそうになるほどでしたし、ご自身も特別扱いは望まず直接接したいと思っておられたのでしょう。U40での「何でも言ってきてほしい」という呼びかけは本心だったのたと思います。 さらに印象的なことは、長尾先生のほうから後進の我々にも「それはどういうことなのか」「詳しく教えてほしい」などと質問されることも多かったということです。知的好奇心にあふれるというだけでなく、年齢・経歴に関わらずコミュケーションを大事にされていたのだなと思います。話を聞いて「ああなるほど、 わかった」と言う長尾先生の笑顔が、最高にうれしそうだったのを覚えています。 『情報を読む力、学問する心』[4]に、子供のころ人生の意味について考えた、という回想があります。 「自分は皆と一緒に社会の中にいるということ、そのことに意味があるのだ、他の人についても同じであろう。お互いに仲良く共存することによって、自分がいなくなることによる社会への貢献よりももっといろ い万と貢献してゆけることがあるにちがいない」 今にして思えば、ご自分の時間を割いて何かを伝えようとしてくださったのは、後進の我々を信頼し期待して、互いに協力して社会を良くしょうと、そういう “相手”と認めてくださっていたのだろうと思います。「知識は共有されるべきである。そうでなければ新しい知識、有用な知識の発展、蓄積はありえない」(「未来の図書館を作るとは」[5]) とは、単に電子図書館的な構想のみでなく、若い世代の前でざっくばらんに多くを語ってくださったことにもまた、共通することなのかもしれません。 しかし今になって、少し不安に思うこともあります。我々は長尾先生から“教わる”ばかりではなかったか、 と。「未来の図書館をつくる」を読むにつけ、もつと 「むしろこうなんじゃないか」「自分はこう構想する」 というようなことを時には不躾にでも投げかければ、先生はふむふむと耳を傾けさらに議論に向き合ってくれたような気がします。あらゆる情報を整理する図書館の新たな構想を、今後我々自身で議論しアップデー トしていく。それが、我々後進が長尾先生から受けとったバトンなのだろうと思います。 ## 註 - 参考文献 [1] 長尾真先生スピーチ-Future Librarian 全国図書館大会U40 プレミアセッション 2009/10/29. YouTube. https://www.youtube. com/watch?v=6i761CepBTk (参照 2021-12-28). [2] KU・京図情合同学習会「『未来の図書館を作るとは』長尾真先生と語る」. Togetter. https://togetter.com/li/447740 (参照 2021-12-28). [3] 学習会記録 (第201回). 京都情報図書館学学習会. https://togetter.com/li/447740 (参照 2021-12-28). [4] 長尾真. 情報を読む力, 学問する心. ミネルヴァ書房, 2010.7. [5] 長尾真. 未来の図書館を作るとは. 2014-07-03版. 達人出版会, 2014.7. https://tatsu-zine.com/samples/free/miraino-toshokan.pdf (参照 2021-12-28).
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# 国立国会図書館長退任後の京都での ## Various aspects of Dr. Nagao: His activities in Kyoto after his retirement as Director General of National Diet Library ## 1. はじめに この節では、国立国会図書館長退職後、京都を中心とした長尾先生の多面的な活動について紹介する。長尾先生の多面性を示すため、図書館人としての後進にあたる江上敏哲氏・赤澤久弥氏・天野絵里子氏の連名での記事と、理事長を務められた京都京都市音楽芸術文化振興財団の宮崎刀史紀の記事、そしてまったく別の立場からの筆者の本記事から構成する。 筆者はもともとの研究分野も出身大学も職場も長尾先生とはまったく重ならない。2012 年秋にはじめて個人的にお目にかかり、その後 2013 年秋頃からいろい万とやりとりをさせていただいている。まさに国会図書館長を退かれた直後の時期、ということになる。筆者は当時、京都府立総合資料館の職員であったが、 デジタルとかアーカイブのことを京都で考えている人間、ということで、ご紹介があってお声がけをいただいたようである。考えてみれば、当時長尾先生は京都府の特別参与を勤められ、筆者は一介の末端職員、また、前述のように、いままでまったく縁のない人間であった。しかし、本節での江上氏や宮崎氏の記事に現れているように、先生は後進に対して懇切にお括をされる面があった。その中で、少し意見を持っている存在、ということで興味を持っていただいたのかもしれない。 ## 2. 長尾先生の多様な側面 以下、少し私的な回想も交えながら、長尾先生のお姿を点描したい。 何度かじっくりとお話を伺う機会があったが、そのなかでも記憶に残っている会合は、2016年6月4日に、中山正樹 (元国立国会図書館)、原田隆史 (同志社大学) のおふたりとともにご一緒したものである。京都市中心部をはずれた閑静な住宅街のお店でご一緒する機会を得たが、その際、交通手段の関係か、お店の前で中山・原田両氏と行き会った。少しく早い時間で、長尾先生を打出迎えする心づもりで打店に入ったところ、 すでに着席されてお茶を飲んでおられた。非常に恐縮して会食がはじまったため、強く記憶が残っている。 その際、図書館の今後に話題が集中したが、理想の情報流通を楽しそうに話されながら、その背景にちらちらと文化全般への造詣の深さや哲学への言及があって圧倒されたことをよく思えている。 次に印象に残っているのは、2017 年 9 月に、京都市で開催した、アーカイブサミット 2017 in 京都でのお姿である ${ }^{[1]}$ 。この企画は、産官学民を横断するアー カイブ関係者によるもので、6つのセッションと 2 つのミニシンポジウム、さらに基調講演とシンポジウムを行った。長尾先生は、このアーカイブサミットの組織委員会委員長というお立場で、2日間の日程に 300 名以上の参加者とともに参加された。そのなかで、実行委員長として発言される機会があった ${ }^{[2]}$ 。そこでは、 デジタルアーカイブの進展についての期待を述べられるとともに、組織や立場を越えて連携し、真面目なことだけにこだわらず、楽しむこと、そしてお金を獲得 することを強調され、参加者に非常に感銘を与えられていた。 また、このサミット開催に並行して、京都府立図書館では図書館協議会を設置する動きがあった。筆者はその担当のひとりとして設置事務に携わっていたが、 その際、協議会長を長尾先生にお願いしよう、という話が持ちあがった。さっそくご連絡を差し上げ、直接お話をする機会もいただいて、前向きなご意向をうかがうことができた。しかし、結局この話は流れてしまった。時間をいただいてお話を差し上げていた長尾先生には大変な失礼をすることになってしまったのである。恐縮してお詫びに参上したが、その際にもいつもの温顔で、京都府立図書館をよりよくするためにはどのようなことを考えれば良いか、懇切に指導いただいた。 長尾先生は、以前から私が当時勤務していた京都府立図書館のへビーユーザーであったようである。このころには他の職員も長尾先生のお姿を認識するようになり、来館された際には、知らせをうけて、お話などをするために駆けつけたこともあった。また、ヨー ロッパ旅行に備えてのレファレンスのご依頼を受けたことも記憶に残っている。帰国後にわざわざレファレンスが役に立ったとお話においでいただいたことを思い出す。 時期はさかのぼるが、2012 年に、江上氏の記事にも記述がある京都のシェアハウス「鍵屋荘」がスター トする際、その屋号を揮毫いただいたことがある。その時期まで長尾先生が書に通じておられることを知らず、その端正な書に驚いたものであった。京都教育大学名誉教授で、現在は建仁寺塔頭正伝永原院住職の真神巍堂師に師事され、この特集の写真にあるように様々なところに書を残されている。 ## 3. 文化の組織者としての長尾先生 長尾先生の国立国会図書館ご退職後の活動を振り返ったとき、情報学分野を切り開いたという偉大な研究者としての活動の根底に、京都のみならず日本に とって非常に重要な文化人としての要素があった、と改めて確認できる。 音楽と書と哲学を中心に自身が文化を享受し発信する、という個人としての活動もさることながら、宮崎氏の記事で触れられていた京都市音楽芸術文化振興財団の理事長としての一連の活動に象徴されるように、文化活動の巧みな組織者でもあった。またこの側面は、京都府立大学と京都府立医科大学を統括する京都府公立大学法人理事長を務められた時期に、数々の困難な決断を行われた際に遺憾なく発揮されたと聞している。その意味では、2008 年に公表された、国会図書館が蔵書を電子化して公開し、その対価を著者や版元に還流するという、画期的な電子図書館構想であった長尾構想 ${ }^{[3]}$ が、2021 年の著作権法改定などを中心に、現在いよいよ結実しようとしていることも、文化の組織者としての長尾先生の活動の大きな結実であると言えよう。この間、関係者は折に触れて長尾先生のお考えを、著作や講演、また直接の対話によって確認してきたのである。 この文化の組織者としての側面が、本特集で繰り返し触れられ、江上氏の記事で特に強調されている若手中堅への目線にも繋がっているのであろう。長尾先生は、おそらく意識せずに、日常の延長として、若手中堅に様々な課題を問いかけながら、自然に励まし、組織していったのである。 そして、これは社会全般への視線でもあったのではないか。偉大な文化の組織者を失ったことの損失に、改めて気づかされる。 ## 註・参考文献 [1] アーカイブサミット組織委員会・福島幸宏, 小村愛美. E1973-アーカイブサミット2017 in 京都<報告>. カレントアウェアネス-E. https://current.ndl.go.jp/e1973, (参照 2022-2-28). [2] アーカイブサミット2017-13 長尾真氏セッションレビュー 2017/9/9. YouTube. https://www.youtube.com/watch?v= QEM4M6oLOzw, (参照 2022-2-28). [3] 長尾構想. 日本電子出版協会. https://www.jepa.or.jp/ebookpedia/ 201703_3489/, (参照 2022-2-28).
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# 東日本大震災とデジタルアーカイブ ## The Great East Japan Earthquake and Digital Archive 東北大学災害科学国際研究所災害文化アーカイブ研究分野 どをもたらした。本地震を含めた東日本大震焱において、震災関連死を含む 19,747 名の尊い命が失われ、 2,556 名の方が未だに行方不明な状況である(令和 3 年 3 月時点) [4]。 大正 12 年(1923 年)関東大震災以来、数万人の規模におよぶ犠牲者が発生した出来事であった。震災の影響は、ガソリンや物資の枯渇、東北地域の電力網・通信網・交通網の停止、産業の停止、原発事故の影響による全町の広域避難や都市部における計画停電、風評被害による国内外の影響などが発生した。そして、早期の復旧・復興を推進するために新たに復興庁も創設された。震災から 11 年が経過した現在、防潮堤の建設や防災集団移転、なりわいの復興、帰還困難区域の一部解除による住民帰還など、復興が着実に進んでいる。 ## 3. 東日本大震災デジタルアーカイブの経緯 震災記録の収集活動は、地震直後から同時多発的に行われ、目的も異なっていた。震災から1ヶ月後には、 Yahoo! Japan ${ }^{[5]}$ などで震災記録等の公開が開始され、震災デジタルアーカイブの一歩が始まったと言える。 その頃、国立国会図書館は、国や地方公共団体等の情報収集を重ね、各省庁に重複を避けながら記録収集の計画を立てるように会合を持つなどが行われた。さらに、国の会議において、震災記録の保存の重要性の大切さについて訴えていた。その結果、2011 年(平成 23 年)5月に東日本大震災復興構想会議において、「復興構想 7 原則」[6] が会議決定され、原則 1 に(略)大震災の記録を永遠に残し、広く学術関係者により科学的に分析し、その教訓を次世代に伝承し、国内外に発信する」が明文化された。続いて、同年 8 月の東日 本大震災復興対策本部では、「東日本大震災からの復興の基本方針」[7] が改訂され、「(略) 地震・津波災害、原子力災害の記録・教訓の収集・保存・公開体制の整備を図る。(略)こうした記録等について、国内外を問わず、誰もがアクセス可能な一元的に保存・活用できる仕組みを構築し、広く国内外に情報を発信する」 が明文化された。これらが明文化されたことにより、震災記録の収集が本格化し、震災デジタルアーカイブの構築の動きが開始されることとなった。 著者は、被災地大学として震災記録の保存が必要と考え、国の動きとは関係せずに東北大学「みちのく震録伝」[8] を立ち上げた。この頃、著者は被災地の復旧・復興支援等にも翻弄していたため、国の情報は知りつつも、その裏で長尾館長が様々動いていることを知らなかった。国立国会図書館の存在を知るきっかけとなったのは、同年 9 月に岩手県遠野市で開催された 「東日本大震災の記録とその活用」のシンポジウムの後であった。国立国会図書館からのアポイントメントがあり、その会議の場で知識インフラ構想について初めて知った。当時は、図書館学での常識的なことも知らず、ちんぷんかんぷん状態であったことを記憶している。ただし、その機会により、単なる記録収集や保存だけで無く、震災デジタルアーカイブによる知識インフラの構築が次に目指す発見にも繋がった。 同年 11 月には、第 3 次補正予算で総務省「東日本大震災アーカイブ」基盤構築プロジェクトが成立した。総務省は、国立国会図書館と連携して「収集・保存・公開するためのルール作り」と「ネット上に分散して存在する震災記録を一元的に検索・活用できるソフトウェア開発」が決まった。2012 年(平成 24 年)1月にハーバード大、東北大、総務省などが主催となり、東日本大震災アーカイブ国際合同シンポジウムが開催され、国立国会図書館をはじめとする 13 団体の取り組み等が報告され、震災アーカイブの方向性について議論がなされた。250 名を超える多種多様な業種の方が参加し、当時の関心の高さがわかる出来事であった。同年 2 月、国立国会図書館は、震災アーカイブ構築を開始することを発表し、同年9月から総務省による 「被災地域におけるデジタルアーカイブ構築・運用に関する実証調査」が開始された。実証調査は、著者も参画し、4 県 5 つのプロジェクトで実施され、収集や分類方法、著作権処理、震災メタデータスキーマなど多岐に渡る実証と調查を行った。震災メタデータスキーマは、当初 DC-NDL(2011 年 12 月版) ${ }^{[9]}$ で対応することが考えられていたが、多種多様な震災記録を多様な方法で検索するためには項目が不足しており、 メタデータが決定するまでに多くの時間を要した。本来、DC-NDLだけでも、ある程度の一元的な検索を実現することはできる。しかし、長尾館長の知識インフラの理念が、単なる検索に止まらず、その先の活用が視野に入っていたからこそ、ここまで柔軟なメ夕データ構成が実現できたと考える。 2013 年(平成 24 年)3月には、国立国会図書館「ひなぎく」が公開され、同年 5 月には、総務省「震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン」が公表された ${ }^{[10]}$ 。これ以降、地方自治体、教育研究機関、図書館、報道機関などで震災デジタルアー カイブが構築されはじめ、現在に至っている。 ## 4. 東日本大震災と長尾館長の強い信念 改めて東日本大震災デジタルアーカイブを著者なりに振り返ってみる。長尾館長が示した国立国会図書館の「知識インフラ」構想がなければ、ここまでの早期の震災デジタルアーカイブの実現は無かったと言える。さらに、国立国会図書館の業務範囲を超えた震災記録の収集、文献や資料の電子化及びオープンアクセス化、100 年 1000 年後までの長期保存、複数のデジタルアーカイブを同時かつ一元的に取り出せる統合検索システム「ひなぎく」の構築など、当初の震災デジタルアーカイブの構想が震災から 11 年経過した現在、 ほとんどは実現できている。 しかし、その道のりは、大変険しかったと想像する。長尾館長は、国立国会図書館として震災記録を残し、後世の人たちに役に立てるという強い使命を持ち、最初に国立国会図書館内の職員に決意を表明したそうである。しかしながら、職員の中には、「国会図書館の業務範囲を超えている」などの多くの反対があったそうである。その声にも負けず、職員に対して説得し続けたことが、震焱アーカイブに対して真鈝的かつ積極的な活動に繋がっていると言える。また、著者自信も意見の相違などで国立国会図書館の職員との衝突は何度もあったが、互いの意見を尊重しつつ、前に進められたことも長尾館長の幅広い理念があったからだと思う。 最後に、長尾館長が目指した構想は、震災アーカイブに止まらず、人々を繋げ、分野を超える架け橋にもなったと感じる。そして、震災デジタルアーカイブは、多くの人を助けるための科学技術の発展に寄与すると考える。 ## 註・参考文献 [1] 国立国会図書館. 東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」. https://kn.ndl.go.jp/ (参照 2022-01-31). [2] 科学技術関係資料整備審議会. 国立国会図書館における今後の科学技術資料整備の基本方針に関する提言. 2011年 1 月19日. https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3518760_ po_teigen_2.pdf?contentNo=1 (参照 2022-01-31). 3]国立国会図書館第三期科学技術情報整備基本計画. 2011年 3月18日策定. https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_ 8262067_po_basic_plan03.pdf?contentNo=1 (参照 2022-01-31). [4] 総務省消防庁災害対策本部. 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震 (東日本大震焱) について (第162報), 平成 3 年 3 月 9 日 [5] Yahoo! Japan. 東日本大震災写真保存プロジェクト. https://archive-shinsai.yahoo.co.jp/ (参照 2022-01-31). [6] 東日本大震災復興構想会議.「復興構想 7 原則」. 平成 23 年 5 月10日. https://www.cas.go.jp/jp/fukkou/index.html (参照 2022- 01-31). [7] 東日本大震災復興対策本部.「東日本大震災からの復興の基本方針」. 平成23年 8 月11日. https://www.reconstruction.go.jp/ topics/110811kaitei.pdf (参照 2022-01-31). [8] 東北大学災害科学国際研究所. 東日本大震災アーカイブプロジェクト「みちのく震録伝」. http://www.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/ (参照 2022-01-31). [9] 国立国会図書館. 国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL2011年12月版). https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8295098 (参照 2022-01-31). [10] 総務省. 震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン(2013年 3 月). https://www.soumu.go.jp/menu_ seisaku/ictseisaku/ictriyou/02ryutsu02_03000114.html (参照 2022-01-31).
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# 国立国会図書館電子図書館サービス の発展 Development of Digital Library Service at NDL 正樹 NAKAYAMA Masaki 元国立国会図書館 専門調査員 電子情報部長 ## 1. はじめに 国立国会図書館(略称 NDL)の電子図書館サービスは、始動期から離陸期までの実質的な推進役であった田屋裕之元副館長、さらにトップダウンで加速させた長尾真元館長により、推進されてきた。両名が推進してきた施策のうち、公式文書ではあまり記されていないエピソードにフォーカスして振り返る。 2. 長尾さんが就任されるまでの電子図書館サービス ## 2.1 電子図書館サービスのはじまり NDL は、他の多くの先進的な図書館同様、電子技術と情報通信ネットワークが急速に発展し社会的コミュニケーションの枠組みが変わり始めた 1980 年代から、日本でも資料のデジタル化に向かい合ってきた。 1992 年には、「地球規模の知的財産を誰でも容易に利用できるようにする」という目標を掲げた。 ## 2.2 第 1 ステージ 摇籃期・始動期 【1994~2002】 1996 年、NDL と通商産業省(現:経済産業省、略称 METI)は電子図書館の実現に向けて共同して研究することとし、執行は(現:情報処理振興機構、略称 IPA)が担うこととなった。 田屋さんが推進役となって、「パイロット電子図書館プロジェクト」を実施した。このプロジェクトの目的は、広く分散して個々に収集・蓄積されている知的資源を、空間的・時間的制約を越えてアクセス可能とする環境を提供するというものである。 2.3 第 2 ステージサービス離陸期【2002 2007】 実証実験の成果は、その後の電子図書館サービスに引き継がれて離陸し、その後の NDL の事業に多大な影響をもたらした。サービスが離陸した。 (1)国立国会図書館電子図書館中期計画 2004 NDL では、2004 年 2 月に「国立国会図書館電子図書館中期計画 2004」(以下、「中期計画 2004」) ${ }^{\text {[1] を策 }}$定した。 中期計画 2004、e-Japan 戦略等の取組を拠り所に、 デジタルアーカイブの構築と併せて、日本のデジタル情報全体へのナビゲーションを行うポータルの構築を進めることとして、このステージにおいて、プロト夕イプの試験公開と、各機関のデジタルアーカイブ構築のインキュベータとしての役割を持つ PORTA の開発を進め、2007 年に正式公開することができた。 図1電子図書館中期計画2004の実現イメージ ## 3. 長尾先生によって加速された電子図書館 サービス ## 3.1 第 3 ステージ 発展期【2007〜】 2007 年、長尾さんが就任され、NDLがこれまでの電子図書館の実績に基づき、さらに加速し飛躍した ${ }^{[2]}$ 。 ## 3.1.1 就任時の挨拶の中で、「不易流行の実践を」 就任時の職員に向けた挨拶は、NDL の広範な課題に関して、「不易流行の実践」を求めるものであった。就任時にも関わらず、内容は、具体策にまで踏み达んだものであり、その内容の骨子は、2008 年、長尾ビジョン(国立国会図書館 60 周年を迎えるに当たって)で明文化され、退任まで貫かれた姿勢の原点であった。 ## 3.1.2 2007 年就任直後の館内各部署への「指示」 就任直後の館内各部署のヒアリング後に、電子図書館システムの開発手法、機能については、更に実施手順にまでブレークダウンされた「指示」があった。 ## (1)電子図書館システム全般の開発姿勢に関して 業務システム最適化は、(1)既存の枠をこえて“館全体として最適に統合化される” べき、(2)のデータベー スは統合し、それらを共有し、増強していくようにすべき、(3)パッケージの活用、(4)業務システムの最適化計画により、特にデータベース共有、外部情報資源の積極的利用について検討すべき、(6)RFI の作成などは、外部の機関を活用、(7)重複や無駄を省き、相互に協力する努力。(8)最後の拠り所、ラストリゾート。(9)外部人材の活用。 ## (2)電子図書館関連システムの機能に関して (1)OPAC 等の検索は完全一致検索だけでなく、種々の工夫をしたあいまい検索が出来ることが必要ではないか、(2)典拠 DB などは広く各種図書館に無償で公開し、ダウンロードして加工して使うことを許可する、 (3)レファレンス事例の文章表現をもっと抽象度の高いものにする。 ## 3.1.3 次世代図書館を目指したサービスのリニューアル長尾さん就任 2 年の 2009 年初頭に、館の情報化の 推進とコスト削減を前提とした基盤システムの開発方針の見直しを含めた、「トータルな図書館システムの 実現」のイメージ案の提示を求められた。当館及び他 の図書館の紙資料、デジタル資料を一体的に管理し、国全体のアーカイブへのアクセスの保証をイメージし たものである。 これは、「基盤システムのリニューアル」と一体で、実施することになり、長尾さん、田屋さんのタッグによる強力な指揮により進められた。長尾さんの退任直前の 2012 年 1 月にリニューアルオープンした。 (1) デジタルアーカイブポータルのプロトタイプから、知識情報探索サービスヘ NDL サーチは、国立国会図書館所蔵資料と他機関所蔵資料の区分だけでなく、来館者、非来館者の区分をも一挙に乗り越え、Googleのように1つの空で、全てを検索できるようにするものであったが、図書館職員、来館利用者の間では否定的な意見を持つ人が多いのが現実であった。 もともと、NDLサーチは様々なアーカイブを一元的に利用できるようにするためのものであり、メ夕データ収集のための API と、利用局面毎のユーザに特化した検索サービス用の画面(GUI)のための APIを提供し、APIを活用した専用のGUIである児童書 OPAC と同様に、NDLが保有する資料のみを検索する NDL-OPAC もその 1 つとして位置付けたが、そのコンセプトは十分に伝わらなかったようである。 ## 3.1.4 知識インフラの構築を目指して 2010 年に、長尾さんは、総合科学技術会議基本政策専門調査会において、知識インフラの必要性、知の共有化の仕組み、持続可能な社会の構築を訴えた。 「科学技術基本政策策定の基本方針」において、「文献から研究データまでの学術情報全体を統合して検索・抽出が可能なシステム (「知識インフラ」) の展開を図る」という方向性が提示された。これを踏まえて、 NDL において、2011 年に国の知識インフラの構築の一翼を担うことを内外に示した。 図2 知識情報基盤の構築モデル ## (1)「東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」 2011 年 3 月に東日本大震災が発災し、大震災に関連するあらゆる記録を後世に残すため、関係府省、各種震災関連情報の保有機関と協力して分担収集 - 保存し、一元的に検索・閲覧できる仕組みとして、「東日本大震災アーカイブ (ひなぎく)」を構築することとなった。 構築に当たっては、長尾さんの指揮のもと、記録の保存と提供のハブとして NDLが中核的な役割を果たすことした。従来の朹を越えてあらゆる情報資源への到達を目指す知識インフラ構築のステップとして位置付け長尾さん退館 1 年後、大震災発災の 2 年後の 2012 年 3 月に公開された。 ## (2)電子情報部の発足 2011 年 10 月、電子情報部は、デジタル関係、情報システムの企画・立案・実施・運用を一元的に遂行する組織として発足した。NDL内において、長年の懸案であり、電子図書館サービスの位置づけが大きく転換したイベントである。電子情報部の発足においては、多くの課題・懸案があったが、長尾さん、田屋さんの強い意志により進められた。 「電子情報部発足にあたっての長尾館長のおことば」 の中の「次期基盤システムリリースで初期トラブルがあっても『責任は全て私が負う』からのびのびとやりなさい」との言葉は忘れない。 ## 3.2 退館される際に残されたメッセージと記録 長尾さんの活動記録[3] には、第 1 部では成果、第 2 部では職員に向けた 38 回のメッセージが綴られている。短期間に矢継ぎ早に、無理難題とも思われる様々なメッセージが発せられたが、これを拠り所に、強力なバックアップの下で電子図書館事業が推進されたのも事実である。 長尾さんの活動成果は、電子図書館関係の記録だけでも多岐にわたるが、「未来の図書館を作るとは」で述べられている「理想の図書館へ向けて」のステップだったと感じている。 ## 3.3 「未来の図書館を作るとは」[4] ## (1)「未来の図書館」の概念 2012 年 3 月に NDLを退任される際に、職員に配布されたもので、のちに EPUB 文書として発行されている。 1995 年に刊行された「電子図書館」で示された知識の概念から、これまでに現実になったこと、今後実現されていくべき事項と方向性が網羅的に綴られてい る。締めの言葉として、「現実世界の本や情報の大切さ以上にヴァーチュアルな世界における情報処理と表現力の可能性にもっと大きな関心を持つべき時代に来ていると言えるのではないだ万うか」は、従来の図書館の枠を越えた役割を果たすべきと示唆している。 ## (2)「書物の本文の組織化」と情報図書館学 2010 年に田屋さんの指示のもと「電子書籍の標準化の調査」を日本電子出版協会 (略称 JEPA) に委託し、今後の電子書籍の標準フォーマットとして EPUB の有用性を認識し、EPUBの普及の一役を担った。 EPUB は、文書を XHTML 等で記述され、章節項、文節等の単位でタグ付けされた構造化テキストであり、長尾さんの言う「書物を徹底的に解体、利用者が好きなところだけを取り出して利用できるようにする」ことが容易になる。 図書館情報学による文献の書誌データ (メタデータ) とともに、構造化された本文テキストを含めて、情報図書館学によりシステム的に体系化し、より的確な知識を構築することができる。 長尾さんが、度々熱く語っていた「情報の体系化」 の実現の 1 つのステップであったと振り返る。 ## (3)「未来の図書館を作るには」の実現 「未来の図書館を作るには」が発行された 2012 年初めは、まだ第3次人 AI ブームの前で、AI はまだブレー クスルーしていなかった。しかし、2012 年以降の AI における機械学習はディープラーニング手法等により飛躍的に進展し、また、アーカイブ機関での資料のデジタル化、デジタルコンテンッのオープンデータ化の加速化により、AI が扱える質の高いビッグデータが揃いつつある状況で、「未来の図書館を作るには」の中で「未来」と示唆されていた多くの仕組みが、今後 5 年程度で実用化を見通せるようになっている[5]。 ## 4. 長尾先生の退任後の電子図書館サービス 4.1 第 4 ステージ総括による停滞期、見直し期【2012 2014] 長尾さんの退任後、リニューアル総括および今後の構想の議論において、伝統的な図書館業務の延長線で電子図書館を捉える姿勢が垣間見え、図書館がデジタルをメインに据えなければ、存立意義が危ぶまれる危機感の認識も含めて、コンセンサスが十分に得られない状況であった。 そのような中でも、国の「知的財産政策ビジョン」 (2013年)、「電子書籍化と利活用の促進に関する構想」、 「デジタル文化資産の保存・活用の基盤の整備に関する構想」等において、外部の有識者の立場での長尾さんの助言のもと、ナショナルアーカイブの機能と One of Them としての NDLの役割を示す「我が国の知識インフラとしてのナショナルアーカイブ構想(案)」を提示し、「知識インフラ」の実現に向けた活動は継続した。 ## 4.2 第 5 ステージサービス普及期、飛躍期【2015 】 その後の電子図書館の発展は、私も退館した後であ り、詳細の紹介は現職員に委ねるが、関係者の強い意志と大変な努力の積み重ねにより、国の事業として、国としてのデジタルアーカイブの構築・連携を位置付 けられ、各府省の協力のもと、 2020 年には「ジャパ ンサーチ」が公開された。「未来の図書館と作るとは」 で示された「知識インフラ」の構築に向けて大きな一歩を踏み出している。 ## 5. おわりに 長尾さんは、あらゆる面において、先見の眼で、常に5 10 年先のあるべき姿を示唆してくれた。時として早すぎるために、内外において軋轢をもたらすこともあったが、その言葉通りに、世の中は進んでいるように見える。 長尾さんの活動成果、メッセージ、教訓は数多く残されており、それぞれのトピックでのエピソードが想い出される。紙面の都合上、私の心の中で特に想いのあるトピックにフォーカスしたが、記すことができなかったトピックは別途記録として残すこととする ${ }^{6]}$ 。私は、IPA に在籍中の 1995 年から、NDL から出向 していた田屋さんとパイロット電子図書館プロジェクトに関わり、2002 年から NDLにおいて電子図書館事業、情報システム関連事業に従事し、NDL の電子図書館の激動の時期を経て、2015 年に退職した。 長尾さんは、生涯で最も尊敬する上司であった。事あるごとに館長室に呼ばれ、システムの要素技術の実装方式にまで踏み达んだ意見交換や時に厳しく指導を受けたことが想い出される。実施に当たって強力な支援のもと業務遂行できたことを深く感謝している。 最後に、長尾さん、田屋さんとともに、電子図書館関連で、NDLとの連携に尽力いただいた青空文庫の富田倫生さん、国立公文書館の牟田昌平さんを始め、道半ばで亡くなられた方々にも、この場を借りて、改めて感謝と哀悼の意を表します。 ## 註・参考文献 [1] 中山正樹. 国のデジタル・アーカイブ・ポータルの構築:国立国会図書館「電子図書館中期計画2004」の実施に向けて. 情報の科学と技術, 2004, vol. 54, no. 9, p.453-460. https://doi.org/10.18919/jkg.54.9_453 [2] 和中幹雄. 国立国会図書館一2009年から2017年6月まで一.図書館界. 2018, vol. 70, no. 1, p.110-124. https://doi.org/10.20628/toshokankai.70.1_110 [3] 長尾真. 国立国会図書館2007-2011年度活動記録. 2011. [4] 長尾真, 未来の図書館を作るとは. 長尾真, 2012, 27p. [5] 中山正樹. AIを活用した「知の共有化」システムの方向性一「未来の図書館を作るとは」の実現に向けて一. 同志社図書館情報学. 2017, (27), 42-58. https://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016828 [6] 中山正樹.未来の図書館の実現に向けて一「知の共有化」を目指した活動記録一.中山正樹. https://BlueMoon55.github.io/Repository/bibi-bookshelf/Sharing_ Knowlege.epub (参照 2022-01-22).
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# Dr. Makoto Nagao as Director General of the National Diet Library 田中 久徳 TANAKA Hisanori } 国立国会図書館前副館長 ## 1. はじめに 長尾真先生は、2007 年 4 月から 2012 年 3 月までの 5 年間、第 14 代国立国会図書館長として数多くの業績を残され、退任後も仰ぎ見る偉大な存在であられた。本稿では、国立国会図書館(以下、NDL)にとどまらず、図書館界や出版界、さらに知識情報基盤や学術・文化活動全体を視野にご活躍された長尾先生の役割を振り返るとともに、先生が NDL のいわば「中興の祖」というべき存在であったことも論及したいと思う。 ## 2. 長尾館長の就任 ${ ^{[1]}$} 国会の付属機関である NDL の館長は、国務大臣経験者である初代金森德次郎を除き、衆参両院の事務総長経験者が就任することが半ば慣例となっていた。先生の自伝には、2007年 2 月、当時の河野洋平衆議院議長に呼び出され、館長就任を要請された件が記されている。河野議長は、「今まではいわば天下り的な人事でやってきたが、これからはそれではいけないので、ぜひ長尾さんにお願いしたいのだ」と言われたという ${ }^{[2]}$ 。 この時期、行革の波は立法府に及び、 3 施設に拡大した NDLの組織も曲がり角にあった。2005 年 4 月、大臣相当とされていた館長給与が問題化し、940名の組織定員は5 年間で50名を削減、業務委託が拡大した。 2006 年 2 月には、自由民主党行政改革推進本部が、 NDL の独立法人化を含む国会事務局改革提言を両院議長に提出し、国会外部からの館長選任は、河野議長としてどうしても実現しなければならない懸案であった。長尾館長は、就任挨拶で「知識はわれらを豊かにす る」を日本の図書館界の標語として掲げる。これは、立法補佐機関と国立図書館を兼ねる NDL の組織理念、「真理がわれらを自由にする」に倣い、図書館活動の今日的意義を捉え直したもので、幅広い知識が心豊かな平和な社会を実現する原動力であり、知識の宝庫である図書館の役割がいっそう重要になるとして、「これからの国立国会図書館は全国のあらゆる種類の図書館と協力して、そういった流れの方向に対して最善の努力を払い、これを先導し、社会に貢献してゆきたい」 との決意を述べられる $[3]$ 。 ## 3. 精力的な活動 在任中の長尾館長は、NDLの業務範囲に限ることなく、内外の多くの人と会い、さまざまな会合に出席された。これは、それまでの歴代館長の活動のあり方とは大きく異なるものであった。自伝ではこう書かれている。「国立国会図書館長はこのような地位のものだからこのように振る舞わねばならないとか、これまでの図書館長がどのように物事をやってこられたかといったことは気にすることなく、自分としてそれぞれの場面でどうすべきかを判断し行動してきた。(略)図書館界だけではなく出版界、流通業界、利用者、その他関係のあるところへは出かけて行って、こういった人達の考え方を理解するとともにこちらの目指すところを説いてまわっている。」[2] 筆者は、電子事業の担当として、面会の陪席や外出の際の随行の機会をいただいたが、長尾館長が自由闊達にさまざまな働きかけをなされることに新鮮な驚き と胸躍る期待感を覚えた。メディア取材も多く、イベントや月報での対談など、長尾館長は積極的に広報活動を担われた。 また、歴代館長との際立ったちがいは、海外出張の頻度で、毎年の IFLA(国際図書館連盟)大会、CDNL (国立図書館長会議)への参加に加元、米国議会図書館とユネスコの合同事業である WDL(ワールドデジタルライブラリー)の会合、中国、韓国との電子図書館協力、その他ご専門の国際学会にも出席されていた。 2008 年に CDNLAO(アジア太平洋地域国立図書館長会議)をホスト国として開催、さらに 2013 年の IFLA 世界大会の横浜招致をめざされたが、東日本大震災の発生で断念することとなった。 ## 4. 長尾館長の主要事績を振り返る ([4] [7] 参照) 4.1 「60 周年を迎えるに当たってのビジョン」 2007 年 11 月「長尾ビジョン」(通称)を策定する。 NDL の 2 度目のビジョン (活動目標) で、前述の「知識はわれらを豊かにする」の標語のもと7つの目標が公表された。長尾館長は立法調査を含む NDLの機能すべてに具体的指示を出され、館内では諸課題の取組を進めた ${ }^{[8]}$ 。 開館 60 周年に当たる 2008 年は、認知度を高める機会として、5月 28 日を新たに「納本制度の日」に定め、秋にかけて館長主導による各種記念行事が開催された。 ## 4.2 インターネット資料(Web サイト)の制度収集 長尾館長着任の時点で、インターネット資料の制度収集の検討は暗礁に乗り上げた形になっていた。2007 年後半から自由民主党デジタルアーカイブ小委員会での議論が再開され、収集範囲を国、自治体等の公的機関のものに限定する方向で合意が形成される。2009 年 6 月に国立国会図書館法が改正され、翌年 4 月から制度収集が施行された。 さらに民間の電子書籍・雑誌(オンライン資料)の制度収集をめざして、2009年 10 月納本制度審議会に館長の諮問が行われ、翌年 10 月に答申が出されるが、無償で DRM のない電子書籍に限定した制度収集の国立国会図書館法改正は、長尾館長退任後の 2012 年 6 月のこととなる。 ## 4.3 所蔵資料の大規模デジタル化 NDLでは、電子図書館事業として貴重書、明治期図書のデジタル化(画像化)を進めていたが、著作権処理コストが課題であった。長尾館長着任と同時期に著作権分科会に「過去の著作物等の保護と利用のため の小委員会」が設置され、保護期間延長とアーカイブ利用の検討が始まる。 長尾館長のご指示は、出版物のテキスト化と版下データの入手検討であったが実現のハードルは高く、小委員会等での協議の結果、NDLが保存のためにデジタル複製を行うことまでが合意され(テキスト化については継続検討)、2009 年 5 月に著作権法が改正される。並行して、館内利用に向けた関係者協議とシステム改修を進めた。まさにそのタイミングでグーグル訴訟の和解問題が全世界に波及し、緊急経済対策の中で 127 億円の資料デジタル化経費の補正予算計上が実現する。この間、長尾館長は多方面に奔走され、デジタル化の意義を訴え続けられた。 ## 4.4 電子書籍の利活用促進 2008 年 4 月 26 日の出版学会で、長尾館長はのちに 「長尾構想」と呼ばれる電子書籍の有料配信構想の私案を発表する。NDLの大規模デジタル化が進行する中で、2009年 11 月には、松田政行弁護士を座長に日本文藝家協会、日本書籍出版協会、長尾館長による 「日本書籍検索制度提言協議会」が組織され、注目を集める。 「電子書籍元年」と呼ばれた 2010 年 3 月、総務、文科、経産省による「三省䬶」(デジタル・ネットワー ク社会における出版物の利活用の推進に関する䬶談会)が始まり、長尾館長もメンバーとして参加する。 6月に報告書がまとめられ、各省の関連事業が実施されるが、同時に「長尾構想」に対する出版界の懸念が増大し、NDLのデジタル化事業と民間の電子書籍配信事業を重ねる構想は後退する。 同年 10 月から、三省剆を受けて文化庁が「電子書籍の流通と利用に関する検討会議」を組織し、絶版等資料に限定して、NDLからデジタル化資料の図書館送信を可能とする案がまとまり、2012 年著作権法改正が実現する。 ## 4.5 その他 長尾館長が主導された事業は、枚挙にいとまがない。海外協力では、2008 年 10 月に日中韓 3 力国の電子図書館事業の交流が始まり、2009 年 6 月ソウルで 3 館長会談が開催され、同年 8 月に「日中韓電子図書館イニシアチブ協定(CJKDLI)」を締結、検討が開始される。前述の WDL 事業は、2008 年 12 月に正式加入、翌年 4 月にパリユネスコ本部で開催された発会式に長尾館長が出席された。 2010 年 2 月の総合科学技術会議(当時)では、学 2009年 4 月26日パリのワールドデジタルライブラリ発足式の記者会見 (筆者撮影) 術活動の基盤となる「知識インフラ」の概念を提唱され、国の第四期科学技術基本計画に盛り达まれた。 NDLの計画においても実現を目指すこととされ、「東日本大震災アーカイブ」はその先行事例でもあった。 2011 年 3 月の東日本大震災では NDL も被害が生じ休館を余儀なくされるが、被災地の復旧支援、復興のための震災アーカイブの構築に長尾館長は強い指導力を発揮された。 2011 年 5 月、文化庁と脚本、音楽、メディア芸術といった組織的取り組みがなされていなかった資料群の収集・保存のための協力協定を締結し、脚本アーカイブの協力事業が始動する。10月には、長尾館長の主導による館内組織の再編が行われ、NDL の電子情報や情報システムの企画、開発、運用を担当する部門を一元化した電子情報部が設置され、目玉として、外部研究者との連携拠点を意図した「次世代システム研究開発室」が新設された。 2012 年は年初から館内システムを全面更新、アー カイブ連携の中心事業である「NDLサーチ」も正式稼働する。 ## 5. おわりに 長尾先生の就任前から、NDL は電子図書館中期計画を策定し、デジタルアーカイブの推進(ウェブサイトの収集、資料デジタル化、ポータルサイトの構築) に取り組んでいたが、予算獲得や法制度の整備、利害関係者との調整など山積する課題に苦闘していた。夕イミングも多少は影響したとしても、長尾先生のリー ダーシップを得て初めて多くの事業が進展し成果を挙げることができたと当時の実務担当者の一人としては、確信を持って断言したい。 長尾館長時代に NDL は国の情報基盤としてのプレゼンスを高めることができた。組織の観点から見れば、独立法人化という危機を回避し、より強固な立場に導かれた点で、長尾先生はまさに NDLの「中興の祖」 と言えよう。 もとより先生は、一組織のためではなく、広く国民、利用者のために理想とする未来の図書館の実現に奮闘された。人間の精神活動の奥深い洞察に基づき、知識や情報が生成発展する仕組みを考え抜かれた長尾先生にとって、電子情報時代の NDLのあるべき方向性は明確で、その実現のためにはどんな努力も惜しまれることはなかった[9]。 長尾先生のご退任後、決して努力を总ったわけではないが、NDLのデジタル化の拡大も電子書籍の制度収集も容易には進展しなかった。長尾先生の描いた理想の姿には、未だ道半ばにも達してはいないが、少しでも前へ進めることで先生のご恩に報いることができればと念じて、結びとしたい。 ## 註・参考文献 [1] 本稿では、国立国会図書館長時代の長尾真先生を「長尾館長」と表記する。 [2] 長尾真. 情報を読む力, 学問する心. ミネルヴァ書房. 2010, p.232-234, p. 244. [3] 長尾真. 就任挨拶知識は我らを豊かにする. 国立国会図書館月報. 2007, no. 554, p.1-2. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1001556 (参照 2022-01-29). [4] 根本彰. 長尾館長時代の国立国会図書館を振り返る. 図書館雑誌. 2012, 106(7), p.470-472. [5] 和中幹雄. 国立国会図書館:2009年から2017年6月まで. 図書館界. 2018, 70(1), p.110-124. [6] 中井万知子. 「電子図書館」再考 (後篇). 立正大学図書館司書課程年報. 2020, no. 6, p.17-44. http://doi.org/10.34386/00007671 (参照 2022-01-29). [7] 国立国会図書館七十年記念館史編さん委員会. デジタル時代の国立国会図書館1998-2018 国立国会図書館70年記念館史. 国立国会図書館. 2021. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11645818 (参照 2022-01-29). [8] 長尾館長は、折に触れ、担当する職員向けに課題の整理と検討してほしい事項をメモの形で伝えられた。その一部は、「国立国会図書館2007-2011年度活動記録」として、ご自身で小冊子にまとめられた。(未公表資料) [9] 長尾真. 電子図書館の建設. 図書館雑誌. 2019, 113(5), p.268271.
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# 国立国会図畫館長の時代を概観する Overview of Dr. Nagao's contributions to National Diet Library 大場 利康 OBA Toshiyasu 国立国会図書館 ## 1. 情報通信研究機構理事長としての長尾先生 2003 年 12 月に京都大学総長を退任された後、2007 年4月に国立国会図書館長に就任されるまでの、長尾真先生の活動にまず触れておきたい。 2004 年 4 月、長尾先生は、旧通信総合研究所と旧通信・放送機構を統合する形で発足した、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)の初代理事長に就任 L1]、研究機関であると同時にファンディングエー ジェンシーの側面を併せ持つことになった立ち上げ期のNICT を指揮した。 2006 年には、NICT 発足後策定のものとしては初の中期計画となる第 2 期中期計画をまとめ上げ、同計画での「新世代ネットワーク技術」、「ユニバーサルコミュニケーション技術」、「安心・安全のための情報通信技術」の3つの目標に合わせる形で、NICT の4つの研究部門を3つに再編している[2]。 2006 年の NICT 理事長としてのインタビュー記事では、情報技術における「人間」と「機械」の間のコミュニケーションの重要性や、「進化したコミュニケー ション環境を充分に活かすコンテンツが不可欠」として、「映画、小説、音楽、そういうものをコンピュー 夕に入れていかに活用するか」という課題に言及している ${ }^{[3]}$ 。長尾先生は、こうした課題を、国立国会図書館長就任以降も引き続き追求されたと見ることもできるのではないか。 ## 2. 国立国会図書館長としての活躍と国際交流 イベント 国立国会図書館長時代の様々な活躍については、田中久徳氏と中山正樹氏による別稿を参照いただくとと もに、長尾館長時代を含む公式の記録である『国立国会図書館七十年記念館史』[4] も併せてご覧いただきたい。 ここでは国立国会図書館長としての長尾先生の活動について、国際交流という観点からその特徵を確認してみたい。長尾館長時代の国立国会図書館は、海外から有識者を招き、館長自身が登壇するイベントを多数開催している。代表的な例を挙げると、2008 年 7 月にカナダ国立図書館公文書館長イアン・ウィルソン氏[5] と、2009 年 9 月に元フランス国立図書館長ジャンーノエル・ジャンヌネー氏と対談[6] L、2010 年9月にロジェ・シャルチエ氏[7]、2011 年 5 月にインター ネットアーカイブのブリュースター・ケール氏を招いたイベントを開催し、自らも登壇している $[8] 。 2010$年の国民読書年の国際シンポジウムでは各国の知財専門家を招いた ${ }^{[9]}$ 。柴山明寞氏が別稿で論じている東日本大震災の記録収集・保存についても、国内外の有識者を招いたイベントを開催している[10]。なお、これら全ては一般公開イベントであった。 欧米の各分野のキーパーソンを招き、自らも登壇するイベントを開催したのは、海外の最先端の動向を国内に紹介するためだけではない。重要なのは別稿で論じられている様々な事業と、これらのイベントのテー マや人選は密接に関係しており、事業推進の環境作りとしても機能していたという点であろう ${ }^{11]}$ ## 3. 長尾館長が遺したもの 国立国会図書館長時代に長尾先生が示された構想や考え方は、新型コロナウイルス感染症感染拡大下における経験を踏まえて、その先見性が改めて見直されている。2021 年の著作権法改正を受けて 2022 年 5 月か ら開始予定の、絶版等で入手困難なデジタル化資料の個人への送信サービスについて、長尾ビジョン[12] の 「利用者がどこにいても、来館者と同様のサービスが受けられるように努めます」という言葉を思い起こした方も少なくないのではないか。館長としての長尾先生が残した業績は、今後も国立国会図書館がその役割を果たし続ける限り、その意義を失うことはないだろう。 ## 註・参考文献 [1] 国立研究開発法人情報通信研究機構. 訃報: 長尾真元情報通信研究機構理事長. 2021年 5 月28日. https://www.nict.go.jp/ publicity/topics/2021/28-1.html (参照 2022-01-29). [2] 若菜弘充. 第 2 期中期計画スタートーユニバーサルコミュニケーション社会の創造に向けて一. NICT NEWS. 2006, no. 362. https://www.nict.go.jp/publication/NICT-News/0605/sp/ index.html (参照 2022-01-29). [3] 長尾真. 日本の活力, 情報通信の未来を拓くNICT一第 2 期中期計画スタートアップ NICT長尾真理事長に聞く. NICT NEWS. 2006, no. 361. https://www.nict.go.jp/publication/NICTNews/0604/interview/02.html (参照 2022-01-29). [4] 国立国会図書館七十年記念館史編さん委員会. デジタル時代の国立国会図書館1998-2018 国立国会図書館70年記念館史. 国立国会図書館. 2021. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/ 11645818 (参照 2022-01-29). [5] 国立国会図書館. 講演と対談「インターネットアーカイブの制度化に向けて」. https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/282494/ www.ndl.go.jp/jp/service/event/ca_archive.html (参照 2022-01-29). [6] 国立国会図書館.ジャンヌネー前フランス国立図書館長による講演と対談「インターネットと文化:チャンスか危機か」. https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/287276/www.ndl.go.jp/ jp/event/events/jnjlecture.html (参照 2022-01-29). [7] 国立国会図書館. 国民読書年記念ロジェ・シャルチエ氏講演会「本と読書、その歴史と未来」. https://warp.da.ndl.go.jp/ info:ndljp/pid/1167909/www.ndl.go.jp/jp/event/events/ lecture100907.html (参照 2022-01-29). [8] 国立国会図書館. 講演会「あらゆる知識へのユニバーサルアクセス一誰もが自由に情報アクセスできることを目指して」. https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1938565/www.ndl.go.jp/ jp/event/events/20110524lecture.html (参照 2022-01-29). [9] 国立国会図書館. 国民読書年記念国際シンポジウム「本を読むという文化一デジタル時代における展開一創造性とアクセスを育む手段としての著作権—」. https://warp.da.ndl. go.jp/info:ndljp/pid/1283840/www.ndl.go.jp/jp/event/events/sympo 1201.html (参照 2022-01-29). [10] 国立国会図書館. シンポジウム「東日本大震災の記録の収集と保存」〈報告〉. カレントアウェアネス-E. 2012, no. 212. https://current.ndl.go.jp/e1275 (参照 2022-01-29). [11] なお、こうしたイベント等、広報面で長尾館長を支えたのは、2013年に亡くなられた岸美雪氏であった。 [12] 国立国会図書館. 国立国会図書館60周年を迎えるに当たってのビジョン (長尾ビジョン). https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/ pid/3487626/www.ndl.go.jp/jp/aboutus/vision_60th.html (参照 2022-01-29).
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# 電子図書館からデジタルアーカイブヘ From Electronic Library to Digital Archive 引原隆士 HIKIHARA Takashi } 京都大学 図書館機構 この追悼文は、長尾真先生の膨大なご業績の中でも、研究業績の集大成として示された電子図書館の概念 が、京都大学附属図書館にどのような方向性を示され たかを改めてなぞり、単に京都大学附属図書館だけで なく、大学図書館、国立国会図書館、公共図書館が先生のお考えに示された方向に、紛れもなく歩みを進め ていることを確認するものである。先生の偉業は、先生から直接言葉で伺いしたことがなくても、多くの 関係者が触れたお考えを頼りとして、示された方向に 自然に導かれていることにあると、改めて思い至る。 その事実を打伝えすることを、先生への追悼の言葉と させて頂きたい。 長尾先生は京都大学総長に就任されるに当たって、 1998 年 2 月に最終講義を行われた ${ }^{[1]}$ 。その中で、取 り組まれた多方面の研究成果にコンピュータ・ネット ワークを包含して電子図書館の研究を行われたと述べ られている。グーテンベルクの活版印刷技術以後、人類の知識や情報は活字として、本や雑誌として残され てきた。しかし知識は地図、画像、音、映像といった 活字以外の形態においても固定され、図書館以外の場 で収集されてきたことから、それらをネットワーク上 で網羅した電子図書館の考え方が技術の自然な成り行 きであり、全てがネットワーク上に電子化して供され、利用者はその膨大な情報から選別して集積していく、 それが 21 世紀の図書館の姿であると述べられている。先生は、情報は一冊単位というものではなく、多く の書籍、雑誌の集合から形成されるということを指摘 され、その打考えは、「岩波情報科学辞典」の編集に おいて実証されている。全ての知識がネットワーク上 でオープンにアクセスでき、既成の概念は多数の書籍 を包含し、新しい概念は雑誌等論文や記録の断片から構成されるという編纂のあり方は、紙冊子にのみ重点 を置いてきた図書館の機能が、電子化によりリアルタ イムで知識を形成する場に転換できることを示された ものである。それが知識の体系的構成法として論じら れている[2]。 先生は、知識は活字だけではないということを前提 として、情報がネットワーク上で画像、音声を介して 伝わり、機械翻訳を経ることで言葉の壁も乗り越えた 読書環境が生まれ、電子図書館としてネットワーク上 でつながり世界を自由に広げていくと主張された。当時はまだモバイル端末などのハードウエアの無い時代 であり、ソフトウエアもまだ WWW が漸く一般利用 が始まった頃である。 京都大学はその後、附属図書館を中心とした部局の 図書館・室からなるネットワーク型組織である図書館機構と姿を変えた。複数の図書館がネットワーク上 でつながり、あたかも一つの図書館のように見える電子図書館構想の姿を実験、実証してきた。長尾館長時代に蓄えられた Tiff 画像は、ウエブ掲載だけでは相互利用とアクセスを啓発するには至らなかった。アプリ ケーションの制約を受けない IIIF の活動開始を契機 として、学内の各図書館・室が保有する貴重資料をデ ジタル化し、同一フォーマットで京都大学貴重資料デ ジタルアーカイブとして括り、ワンストップで図書館機構のウエブサイトから世界に発信している。世界か らの利用を可能にし、利用者が意識せずに複数の図書館で提供されたデータを一連の資料として利用できる まで辿り着いた。このような機会が生まれたこと自体 が、技術の発展の中で用意されたものであったとしか 思えない。このデジタルアーカイブの事業は、京都大学において長尾先生が館長であった時代から綿々と準 備してきたデジタル化の概念に、やっと時代が追いつ いたと言うことができる。 筆者は長尾先生が京大総長を退任されて暫くして、縁有って図書館機構長・附属図書館長の任を受けた。博士学位論文の電子公開の規定改正後に進めたオープ ンアクセスポリシーの策定、工学研究科が移転した桂 キャンパスの新営図書館の建設、オープンアクセス事業などを具体的に進めてきた。都度に先生からのご意見を頂戴したが、それらは明らかに、長尾先生が示さ れた電子図書館構想を具現化する先兵であることを自覚したものである。その一つ一つを喜んでくださって いたと感じている。先生が目指された電子図書館実現 までにはまだやるべきことがあり、同時に研究者、図書館員、利用者も成長し続けなければならない。我々 がその起点とすべきは、2021 年に桂図書館に寄贈さ れた「長尾文庫」である。改めてご冥福をお祈りする と共に、導き続けてくださることを望むばかりである。 ## 註・参考文献 [1] 長尾真, 人間的情報処理を目指して, 教授退官記念誌, pp.15-38, 1998年 2 月. [2] 長尾真, 辞典形式での専門分野の知識の体系的構成法, 人工知能学会誌, 1992, No. 7, No. 2, pp.320-328.
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# 京都大学全学共通科目「情報探索入 ## 門」の開始 ## Launch of "Introduction to Information Retrieval" as a Liberal Arts and Sciences Course at Kyoto University \author{ 慈道佐代子 \\ JIDO Sayoko } ## 1. はじめに 京都大学では、平成 10(1998)年度から附属図書館が提供部局として、全学共通科目「情報探索入門」 を開講した[1]。これは、平成9(1997)年2月に、当時附属図書館長であった長尾真教授がシラバスを提示、提案されたことが発端である。それを受けて、平成 5(1993)年度から実施している「新入生のための図書館利用のオリエンテーション」と、平成 $8 、 9$ (1996、1997)年度と実施した「卒論・レポート作成のための文献収集講座」をもとに授業の具体化を図っていった。講義は総長に就任して間もない長尾教授を先頭に、教育学研究科、薬学研究科、情報学研究科の教員と附属図書館長がリレー式に担当。講義(8 回) と演習(5回)が行われ、演習補助者として全学から 15 名の図書館職員が参加した。シラバスに「演習は図書館司書が協力する」と明記された。以下、その内容と実施体制について報告する。 ## 2. 企画の内容 長尾提案による授業計画と内容は、次の通りである。第 1 講:大学図書館への招待(講義)、第 2 講:分類の一般概念と分類理論 (講義) 、第 3 講: 同演習、第 4 講: 情報の種類 (講義)、第 5 講:目録情報とその利用法 (講義)、第 6 講:同演習、第 7 講:データベー スの種類とその利用法 (講義) 、第 8 講:同演習、第 9 講:インターネット情報とその利用法 (講義)、第 10 講:同演習、第 11 講:参考資料の種々とその利用 (講義)、第 12 講:同演習、第 13 講:おわりに一情報探索とその周辺一 (講義) 第 1 講は、遠隔講義システムを利用し、質疑応答時に SCS(Space Collaboration System)の双方向会話機能を使って初めての遠隔授業となった。第 12 講の参考図書を利用した演習は、附属図書館の参考図書コー ナーを会場とした。学生の出席状況は、第 1 講は配布資料から判断して 350 名余。その後演習で使える端末台数を考慮し約 130 名に絞ったが、6月になって履修者名簿が届いた時は 228 名になっていた。端末は 2 人で 1 台のところがあった。アンケートの結果は、「役に立つ」と好評で、「来年も開講されたら後輩に薦めるか」という設問に、約 $60 \%$ の学生が「薦める」と回答していた。 また、配布資料と講義ビデオをもとに平成 11 (1999)年 3 月、講義録『大学生と「情報の活用」』(長尾真監修、川崎良孝責任編集)を出版した。 開講 2 年目は、第 1 講を長尾総長が担当し、講義室で直接講義が行われた。講義終了後、質問の時間になった。主として講義に関連する質問であったが、桂キャンパス移転についての質問が出た。桂キャンパス移転は反対意見もあり、移転計画は一時中断した時期だったので、講義室に詰めていた筆者は一瞬どきっとした。講義と関係がないのでとスルーもできたと思うが、長尾総長は淡々と質問に応えておられた。教育者として学生を見る目の大らかさというか温かさを感じた。 ## 3. 図書館員の参加 「情報探索入門」は、教員と図書館員が一緒になっ て情報リテラシー教育に取り組んでおり、この種の企画が全国的に進められるきっかけになった。開講当時は多くの注目を集めた。国公私立大学、総合的な大規模大学から小規模大学にいたるまで、実に多くの大学で多様な実践が試みられ、その実践報告や研究報告等が図書館関係雑誌に多数紹介された。 長尾教授は、かねてから図書館を利用した情報の収集と活用の必要性を痛感しておられ、図書館に対して何度か提案の機会を窥がっておられた。それが全学共通科目「情報探索入門」として実現した。平成9(1997)年 2 月に提案されたシラバスには、授業のテーマと目的として「論文・レポートを書くための文献・情報収集、卒業論文作成のための文献調查等に必要な情報活用技術を演習で習得させながら、情報図書館学、情報探索学の概要を学ばせる」とあった。長尾提案には、 この講義は「全国的にみて初めてのもの、ユニークで演習付き」、「レポート、論文作成のための調查の技術の習得」、「全世界の知的資産の活用」、「全世界の最新情報の習得」を学ぶことと、人類の知的財産・知識は図書館に蓄積されてきており、図書館の活用の大切さを述べておられた。 大学における図書館の役割は、研究・教育に貢献することであり、図書館員は図書館という土俵でその職責を果たすべきものと、筆者は思っていた。しかし、今回は授業で教室まで行って、単位を付与する科目に関わる経験をした。関係者の中には反対はあった。しかしながら実践し、全国に範となる形で示すことができた。館長から総長に就任されていた長尾教授の強いリーダシップに尽きるが、旧七帝大の一つ京都大学で、総長が教壇に立ったことの意義は大きい。地元の新聞には、見出し「学問の入口体系的に教えます」[2] と開講前に紹介されたが、その先頭に立たれたのが長尾総長であった。筆者にとってこの経験は、大学図書館の役割を改めて考える機会になった。図書館は常々、情報を入手し利用者に提供するために、どの程度可能 な状況になっているのか、利用者に知らせなければならない。そのための手段の一つに利用者教育、情報リテラシー教育があると筆者は思っている。 「情報探索入門」は、科目名を「大学図書館の活用と情報探索」と変え、現在も継続している。 ## 4. おわりに 最後に筆者と同じく長尾教授も熱心に取り組まれた書について述べたい。いくつかの長尾教授の作品を学内で拝見することができる。例えば、百万遍近くの京都大学総合博物館の正面にある館名を刻した石碑は、長尾教授の揮毫である。桂キャンパスの大会議室に揭げられている『学術無窮』(額装) もまた長尾教授の作品であり、好まれた言葉である(図1)。 京都大学に長く勤務し、追悼文の形でお礼を述べる機会を得たことに感謝する。 図1 長尾総長揮毫(平成15年 9 月) ## 註・参考文献 [1] 慈道佐代子「全学共通科目「情報探索入門」の試み一図書館員の役割について」. 大学図書館研究. 1998, 54, p.43-54. [2]「学問の入口体系的に教えます」. 京都新聞. 1998年 3 月 4 日.
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# 京都大学附属図書館における電子図書館計画によるサービス展開 Development of services at Kyoto University Library based on the digital library plans ## 1. はじめに 謹んで、長尾真先生のご冥福をお祈りします。 著者らは、先生が附属図書館長の時、総務課長(石井)と情報管理課専門員(片山)で、電子図書館計画の立案・概算要求・実際の導入・稼働に際し、前者は事務局、後者は実務を担当し、事務部長は 2007 年逝去された高橋柏氏でした。 ## 2. 電子図書館計画のはじまり 1996 年 7 月 29 日の学術審議会建議「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について」に対応するため、国立大学図書館は競って電子図書館計画の概算要求を行い、実現に向けた努力をしました。当時は、OPAC 公開、遡及入力推進、ホームページによる情報提供等が主要課題でした。附属図書館では、 1995 96 年度、目録情報から少し内容に踏み込んだ図書館資料の電子化を計画し、科学研究費 (情報公開促進)を得て、維新特別資料、「阿国歌舞伎」や重要文化財などの画像データベース作成に着手しました。一方、外国雑誌等の電子化は急速に進みつつあり、資料購入予算膨張への対応にも迫られていました。そんな中、附属図書館長になられた長尾先生は、実験システム Ariadneを展開しつつ、高橋部長とともに先頭に立って解決策を立案すべく現場の図書館職員にも知恵を求めました。 1 年間のワーキンググループ(以下、 WG)活動で産み出されたのが「京都大学電子図書館計画」です。これは維新特別資料等の画像データベー スが嚆矢になったことは言うまでもありません。折から図書館業務システムも更新の時期でした。 1994 年 9-10月電子図書館実験システム Ariadne による電子展示と展示会「吉田松陰とその同志」 1995 年 1 月阪神・淡路大震災:復興支援ボランティア 同年 4 月長尾館長就任 同年 9 月京都大学 OPAC (目録情報 60 万件) 公開 1996 年 1 月新ホームページ公開 同年 6 月重要文化財「今昔物語集」国宝に 1997 年創立百周年記念事業(式典・展示会・「京都大学百年史」刊行) ## 3. 電子図書館システム予算獲得から導入・稼働電子図書館予算は、先導的プロジェクト支援継続費 として奈良先端科学技術大学院大学に続き 1996 年 12 月に示達、1997 年度から筑波大学と京都大学への配分が決定されました。主に文部科学省と折衝した高橋部長の口癖は「京都は先の大戦で戦禍に遭わなかった、長い間日本の中心地として知の文化が集まっている」 で、予算獲得に効果があったと思っています。 1997 年度は、図書館業務システム更新と電子図書館システム導入・稼働準備に明け暮れました。担当は、小川晋平電子図書館掛長、山田周治システム管理掛長で、二人を中心に「図書館業務システム+電子図書館システム仕様書」を作成、業者の評価は、提案内容を精査する総合評価方式となり、仕様書に記述した内容項目一つ一つを点数で評価する初めてで気を遣う苦労をしました。共同で開発してきた $\mathrm{F}$ 社に決まるかどうかの瀬戸際にも立ち会いました。WGメンバーで頻繁に打ち合わせて進めました[1]。 長尾先生の指導で実験的機能を盛り込んた Ariadne 開発実験は、調査研究室の黒橋禎夫先生と故谷口敏夫氏が担当し、その経験がシステムに反映されました。稼働は、1998 年 3 月 2 日電子図書館システムデモンストレーション (お披露目) ${ }^{[1]}$ の時で、附属図書館 1 階で開催しました。総長となった長尾先生が臨席され、新システムへの期待を表明したのは、後任の万波通彦館長でした。 披露式は、高橋部長の司会、万波館長の挨拶、長尾総長・林一夫文部科学省学術国際局学術情報課長の祝辞に続き、電子図書館化連絡会議メンバー奈良先端科学技術大学院大学附属図書館長、学術情報センター、筑波大学附属図書館長の電子祝辞が披露された後、林課長 - 長尾総長 - 万波館長 - 黑川京都大学事務局長の手でテープカットが行われ、電子図書館サービスがスタートした瞬間でした。 ## 4. 電子図書館サービス展開の主要な柱 新たな図書館情報サービスは、学生・教職員への情報配信と、世界への情報発信に仕分け、以下の四つの柱を構想しました。 ## 4.1 京都大学エンサイクロペディアの作成・提供 所蔵する資料と発生する学術情報を、フルテキスト・画像データベースとして作成・蓄積・公開する試みで、システムに問い合わせれば何でもわかるデータベースサービスの実現が目標でした。電子化対象資料は、公開を念頭に置いた著作権処理の容易な以下の資料に限定しました。 (1)展示対象資料 (国宝、重要文化財、貴重書等古典籍) (2)学内で発生する基礎的・萌芽的研究成果: 学位論文要旨、紀要、科研費成果報告書、広報類 (3)特殊文庫目録類 (4)OPAC を補う新規受入資料目次類 システムは、Ariadneの検索システムを活かし、図書や雑誌の目次データを提供し、資料内容を言葉の階層構造として捉え利用者の検索精度を高める工夫を施し、インターネット上の情報源の横断検索や、学内情報源の縦断検索を実現し、問い合わせに学術情報利用案内が可能なナビゲーションシステムを備え、OPAC や図書館・室の利用案内や大学生活情報とリンクし、日本語と英語の翻訳機能を備えるバイリンガルを意図しました。 京都大学学術情報への学内外・世界からのアクセスのプラットフォームを形成し提供することを「京都大学エンサイクロペディア」(電子図書館) 計画と称しました ${ }^{[2]}$ 。長尾先生は責任者として立たれ、高橋部長が実際の根回し、実務は片山がまとめました。二つのキャッチフレーズは、WGメンバーの発案でした。 「京都大学エンサイクロペディア」織田裕行(参考調査掛) 「机の上に京都大学」木下聡 (図書受入掛) ## 4.2 電子出版サポート/多機能クライアント 電子出版サポートは、対応が遅れていた人文・社会科学の研究成果電子化支援システムで、多機能クライアントは主要部局に配置し、全学的規模で電子化を推進する分散システムの位置づけでした。 ## 4.3 CD-ROM マルチ検索システム (電子ジャーナル) 導入 文献情報データベースや電子ジャーナルをネットワーク利用に展開することが目標でした。要望の高い主要分野のデータベースを順次提供、最終的に 16 種まで拡大しました。電子ジャーナル採用にも積極的に取り組みました。 ## 4.4 全学共通教育科目「情報探索入門」開講 もう一つの重要な柱が「情報探索入門」開講です。総長になられたからこそ実現できた事業で教員と図書館職員が協力して実施する全学共通教育科目です。総長自ら第 1 回目の講義を担当され、話題を呼びました。 ## 5. 思い出すこと 枚方の宿舎に住まわれていた長尾先生(総長時は岩倉に自宅)は、出町柳までの 30 分程の京阪特急電車の中で電子図書館構想を考えたと言って毎朝のようにボールペンで書かれた小さなメモを高橋部長に渡されたようです。何度か見せてもらった覚えもあります。小さな手帳の 1 ページを破ったもので、小さな文字で細かく、びっしりと書かれていました。 ## おわりに 長尾先生と共に進めた電子図書館計画は、附属図書館の全学的位置づけを明確にしました。この計画で全学規模のシステム化予算が文部科学省から配分され、附属図書館の全学共通基盤が形成できたと考えられるからです。 ## 註・参考文献 [1] 京都大学附属図書館報「静脩」,34巻2-4合併号, (1998.3)導入・稼働日誌、披露式などが参照可能 [2] 長尾真.「京都大学附属図書館における電子図書館計画」「学術月報」,50巻 3 号, (1997年 3 月), p.35-41.
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# 第 7 回研究大会 (沖縄 )企画セッション (スライドは J-STAGE Data に登載されます) サテライト企画セッション ## 1. デジタル時代のアーカイブの系譜学 (2022/11/13) \\ 【日時】2022 年 11 月 13 日 (日) 14:00 17:00 【企画提案者】 \\ 宮本隆史、加藤諭 (デジタルアーカイブ学会 SIG デジタ ルアーカイブ理論研究会) ## 【企画趣旨】 デジタル技術が社会基盤となった現代において、「アーカイブ」と呼ばれる制度や営みが生活に浸透してきた。現代人の生活のさまざまな局面で、「アーカイブ」が語られるようになってきている。しかし、この「アーカイブ」なるものは、自明の実体などでは決してなく、歴史的・社会的に構築されてきたものである。本セッションでは、デジタル時代の今日において「アーカイブ」と呼ばれるものに合流してきた諸系譜について歴史的に考察し、今後のデジタルアーカイブのありかたについて議論したい。 ## 【登壇者】 - 加藤諭 (東北大学) - 宮本隆史(大阪大学) - 大向一輝(東京大学) ・鈴木親彦(群馬県立女子大学) - 阿部卓也(愛知淑徳大学) - 西川開 (科学技術・学術政策研究所) ## 【進行案】 ・加藤諭・宮本隆史「デジタル時代のアーカイブの諸系譜をたどるために」(20 分) -大向一輝「デジタルアーカイブの技術史」(20 分) $\cdot$鈴木親彦「アーカイブの側面を持つ草の根活動」(20 分) ・阿部卓也「複製技術とアーカイブ」(20 分) ・西川開(コメンテーター)(10 分) ・ディスカッション(20 分) ## セッション 2.知識インフラの再設計に 向けて (2022/11/14) \\ 【日時】2022 年 11 月 14 日 (月) 14:00 16:00 \\ 【企画提案者】 数藤雅彦 (弁護士、『デジタルアーカイブ・ベーシックス』編集委員) ## 【企画趣旨】 論集『デジタルアーカイブ・ベーシックス』シリーズは、好評のうちに全 5 巻の刊行を終え、新シリーズの第 1 巻「知識インフラの再設計」も 2022 年 11 月に刊行予定である。同巻では、デジタルアーカイブに関する社会・法律・経済 などのさまざまな「制度」を分析し、そこから導かれた「課題」を乗り越えることをひとつの目的としている。 本セッションでは、図書館という知識インフラを再設計した田村俊作氏をお呼びしてその取り組みを伺い、第 1 巻の執筆者らとともに、デジタルアーカイブをめぐる諸制度が現状どうなっているか、またそこにある課題を乗り越えるためにどうすべきかを議論したい。 ## 【進行】 1 趣旨説明(数藤) 5 分 2 基調講演 「知識インフラの再設計〜石川県立図書館の取り組みを通じて〜」(30分) 田村俊作(石川県立図書館長、慶應義塾大学名誉教授) 3 パネルディスカッション(85 分) <パネリスト(敬称略、50 音順)> 小山紘一(弁護士、政策秘書) 後藤和子(摂南大学教授) 数藤雅彦(弁護士、『デジタルアーカイブ・ベーシックス』 編集委員):司会 高野明彦 (国立情報学研究所名誉教授) 田村俊作 (石川県立図書館長、慶應義塾大学名誉教授) 西川開(科学技術・学術政策研究所研究員) ## セッション 3. デジタルアーキビストを 考える $(2022 / 11 / 20)$ \\ 【日時】2022 年 11 月 20 日 (日) 15:00 17:00 \\ 【企画提案者】 デジタルアーカイブ学会人材養成・活用検討委員会 ## 【企画趣旨】 第 6 回研究大会(2021 年 10 月)においてデジタルアー カイブ学会人材養成・活用検討委員会主催で開催した「企画セッションデジタルアーキビストの在り方」の議論を継承し、デジタルアーキビストの使命とターゲット、そして養成課程について提示する。各報告者から人材養成・活用検討委員会で積み重ねた議論を報告し、その後、参加者からの発言を求めつつディスカッションを行い、デジタルアーキビストのアウトラインを検討する。 社会全体の DX 化の動きのなかで、デジタルアーカイブにあらためて期待が集まっている。これからの各団体や地域に必須の人材としてのデジタルアーキビストについて、現段階での議論をまとめ、今後の展開を見据えるためのセッションとしたい。 ## 【登壇者】 - 細矢剛(国立科学博物館) ・徳原直子(国立国会図書館) ・福島幸宏(慶應義塾大学) ・コーディネーター:井上透(岐阜女子大学) ## 【登壇者】 - 趣旨説明(5 分)井上透(岐阜女子大学) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246a (J-STAGE Data あり [ 講演 S3-1] ・報告:デジタルアーキビストの使命について(15 分) 細矢剛(国立科学博物館) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246b (J-STAGE Data あり [講演 S3-2] ・報告 : デジタルアーキビストのターゲットについて (15 分)徳原直子(国立国会図書館) ・報告:デジタルアーキビストの養成課程について(15 分)福島幸宏(慶應義塾大学) 休㗍 ・ディスカッション(50 分) ・まとめ (パネラーから各 3 分) ## セッション 4. 琉球文化のテキストアー カイビング $(2022 / 11 / 23)$ ## 【日時】2022 年 11 月 23 日 (水) 13:00 15:00 ## 【企画提案者】 永崎研宣、岡田一祐中村覚 ## 【企画趣旨】 琉球文化のテキストには豊かな多様性があり、それを適切にデジタル媒体としてアーカイブする手法を確立することは喫緊の課題である。個々の言語を記述するための言語コード、固有の音を適切に表現するための文字コード、それをテキストとして組み立てた際に効率的に利活用するための構造化するための記述ルールとしての TEI ガイドライン、書かれたテキストを見えるままに共有するための画像共有の枠組み IIIF など、琉球の貴重なテキストを適切にデジタルアーカイビングするために必要な手法やツールの現状と課題を参加者と共有し、テキストアーカイビングを通じた琉球文化の過去・未来・現在を考える。 ## 【登壇者等】 - 岡田一祐(北海学園大学・TEI 協会東アジア/日本語分科会運営委員) -冨田千夏(名桜大学環太平洋地域文化研究所共同研究員) - 中川奈津子 (国立国語研究所) - 中村覚(東京大学史料編纂所・TEI協会東アジア/日本語分科会運営委員) - 永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所・TEI 協会東アジア/日本語分科会運営委員) ## 【進行案】 ・テキストアーカイビングの技術 (岡田一祐、中村覚、永崎研宣による共同発表) ・琉球諸語の言語調査データのアーカイビング (中川奈津子 (国立国語研究所)) ・琉球歴史文書のテキストアーカイビング (冨田千夏(琉球大学附属図書館)) ・全体ディスカッション セッション 5. 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション:急変する社会における地域資料継承の “これから” を考える (2022/11/24) 【日時】2022 年 11 月 24 日 (木 ) 16:00~19:00 【企画】 主催 : 合同会社 AMANE - 国立歴史民俗博物館 共催 : 琉球大学博物館(風樹館)、他 本サテライト企画は現地でプレイベントとして琉球大学 博物館(風樹館)にて実施する企画をオンライン中継する ものです。現地イベントのお申込みはこちらからお願いい たします。 ## 【企画提案者】 堀井洋 (合同会社 AMANE) ## 【企画趣旨】 日本国内には、文書や民具など多様かつ豊富な学術資料が現存しており、それらは学術研究の観点のみならず、教育や産業など社会の発展に資する重要な資源である。一方で、急速に進む地方都市の過疎化・高齢化および地震や台風などの大規模自然災害の影響により、地域に現存する学術資料(地域資料)の保存・継承に関する状況は厳しさを増していることから、地域資料継承に関する新たな概念・手法の創出および担い手・実施体制の確立など、様々な分野や立場において取り組みが求められている。 本セミナーでは各事例の報告を通じて、調査・整理〜公 開・活用に至る各段階での専門家や市民との連携や、コミュニティ・機関・個人で継承されてきたアーカイブ資料(記録資料)の継承など、急変する社会における地域資料継承の “これから”について考える。さらに、地域資料継承は地域を問わず社会全体で共有すべき課題として捉え、学術研究者を含む多様な立場・役割の人材が関わる継承事業の意義・ あり方や、デジタルアーカイブを基盤とした資料情報の公 開・共有についても、会場全体で議論したい。 ## 【プログラム】 - 全体司会:小川歩美(合同会社 AMANE) (1) 趣旨説明(合同会社 AMANE 堀井洋・国立歴史民俗博物館後藤真)(20 分) (2) 地域資料継承に関する取り組みの報告(60 分) 山下俊介 (北海道大学水産科学研究院) 佐藤琴 (山形大学附属博物館) 佐々木健志 (琉球大学博物館風樹館) 島袋美由紀(NPO 法人沖縄ある記) 堀井美里(合同会社 AMANE) 高田良宏(金沢大学学術メディア創成センター) 休憙:10分 (3) ディスカッション(60分) 「急変する社会における地域資料継承の “これから”を考える」 ## セッション 6.ビヨンドブック・プ ロジェクト:新しいフェイズへ (2022/11/28) 【日時】2022 年 11 月 28 日 ( 月 ) 17:00 19:00 ## 【企画提案者】 柳与志夫 (東京大学) ## 【企画趣旨】 昨年の研究大会サテライトセッションにおいて発表したビヨンドブックの第 1 次プロトタイプに続いて、改めて多方面からの検討を加えた第 2 次プロトタイプ制作に向けてのプロダクトコンセプトを提示する。こうした「新しい本」 を探求する社会的な意義についても考察したい。 ## 【企画概要】 報告とパネルディスカッションで構成する。 構成 1 趣旨説明(柳) 5 分 2 報告 (1) 第 1 次プロトタイプ制作の意義と課題 (美馬) 15 分 3 報告 (2) バックキャスティングで考える「新しい本」 (渡邊) 30 分 「新しい本」と私たちの未来(東京大学 1 年生 : 冨田萌衣) を含む。 4 パネルディスカッション(60 分) <パネリスト(敬称略、50 音順)> ・植村八潮(専修大学教授) -小林エリカ (作家・漫画家) - 美馬秀樹 (京都大学特定教授) - 柳与志夫(東京大学特任教授):司会 - 渡邊英徳(東京大学教授) セッション 7. 分散型の情報基盤技術を 用いた DA 活用と展望 $(2022 / 12 / 1)$ ## 【日時】2022/12/1 (木) 18:00 20:00 ## 【企画提案者】 嘉村哲郎 (東京藝術大学芸術情報センター) ## 【企画趣旨】 ここ数年、分散型の情報基盤技術を用いた実験的試みやサービスの研究開発が著しい。特に 2021 年にクリスティー ズで行われたデジタルアート作品のオークションにおいて、非代替性トークン (NFT) を用いたデジタル画像が約 75 億円で落札されたことが公表されると、トークンの発行やデータ流通を実現する周辺技術への注目と Web におけるデジタルコンテンツ活用と流通の可能性に対する期待の熱が爆発的に高まった。 本企画では、デジタルコンテンツの流通や活用の点から、 NFT をはじめとする関連技術とデジタルアーカイブの可能性や展望を議論する。 ## 【進行案】 - 進行 : 嘉村 ・報告内容 1. 分散型情報技術に関する概説 ( 東京藝術大学芸術情報セ ンター: 嘉村 ) 2. アート分野の NFT に関する現状調査報告 (野村総合研究所 : 寻屋氏) 3. 国内における地方創生 $\times$ NFT 活用の取組 (slash : 加藤氏) 4. 小学館メタバース 1: ブロックチェーン推進室よりご報告 (小学館: 川邊氏) 5. 小学館メタバース 2: XR 推進室よりご報告 (小学館: 嶋野氏 LATEGRA: 伊藤氏) 6. ディスカッション 今後の DA やコンテンツ活用の可能性等を議論したいと考えています。 ## 沖縄現地企画セッション ## 6 【午前セッション】2022 年 11 月 26 日 ( 土 ) 10:00 12:00 セッション 1.「文脈」を伝える一一アジア・アフリカをアーカイブするための方法的探究 【会場】沖縄県立図書館 ## 【企画提案者】 熊倉和歌子、東京外国語大学 TUFS フィールドサイエン スコモンズ ## 【企画趣旨】 今日、研究者により、アジア・アフリカ地域の言語や文化を研究対象とするデジタルアーカイブが構築され、研究や教育への利活用が進められている。そうした動きは、さまざまな形でその地域の理解を促進するものであり、地球一体化の時代においてますますその需要は高まっている。他方、デジタルアーカイブは、既存の情報資源の電子的な指標化や保存、大規模なデータの蓄積や参照、検索機能やネットワーク構築を通した情報の連携や発信などを通して、情報資源の飛躍的な構築や発信が可能となり、その社会的な影響も大きなものとなっている。そうした中で、デジタルアーカイブの存在が現地社会に及ぼすさまざまな影響も考えられ、検討を要する問題も多い。特定の地域文化についてとりあげることにより、アーカイブ自体が政治性を打びるためである。 第一に、静的なイメージの固定化があげられる。デジタルアーカイブにおける情報の取り上げ方や利用者の知識や理解の程度によっては、デジタルアーカイブがその地域にかんする固定的なイメージを作りあげてしまい、研究や教育に携わる構築者の意図を離れて利用されうることが懸念される。アーカイブの対象がマージナルなものであればあるほど、その懸念は強まる。第二に、その地域の情報がアー カイブされ、広く発信されることによって、現地社会のもつ知識の搾取など、現地の人々に何らかの不利益が生じる可能性も想定される。これらの問題は、デジタル情報資源に関する固有の権利の保護などの喫緊の課題に関わる同時に、公共財としてそれを適正に保全し、将来の利活用に道を開くことにも結びつくだろう。 このような問題に対して、「他者」である研究者は何を意識し、どのような方法でデジタルアーカイブを作り、発信すればよいのだろうか。この問題を考えるにあたり、私たちは「文脈」つまり、アーカイブの対象のそばにいる人々が形成するコミュニティや、その歴史的・文化的な背景の重要性に注目する。デジタルアーカイブの構築において、 そうした「文脈」をどのように扱うべきか、また、「文脈」 をいかにしてデジタルアーカイブとともに伝えるか、本企画セッションでは、そうした問題意識に立ち、アジア・アフリカ地域を対象としたデジタルアーカイブ構築の事例を踏まえながら、問題点を共有し、現地の人々とともにあるデジタルアーカイブ構築の方法を検討する。 ## 【登壇者等】 ・司会:熊倉和歌子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所) ・パネラー 1:倉部慶太(東京外国語大学アジア・アフリ力言語文化研究所) ・パネラー 2 :野林厚志(国立民族学博物館) ・パネラー 3 : 深見奈緒子 (日本学術振興会カイロ研究連絡センター)・吉村武典 (大東文化大学) ・コメント:木村大治(京都大学名誉教授) ## 【進行案】 1. 趣旨説明(5 分): 熊倉和歌子 2. パネル 1(20 分) 3. パネル 2(20 分) 4. パネル 3 (20 分) 5. コメント (10 分) 6. 総合討議 (25 分) ## セッション 2. (沖縄発 ) 形あるもの、 \\ 沖縄の歴史の DA 化 ## 【会場】沖縄県立美術館・博物館 【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 日本はもとより海外とも多くの文化的交流を経て、独自の文化を築き上げた沖縄には、独特な文化財が多く存在する。しかし古来からの貴重な文化財の多くは、戦争で消失、散逸している。また 2020 年の首里城火災においては、精緻な復元によって厷った工芸品などとともに多くの文化財が消失した。防災対策はもちろんだが、不慮の事故は常に怒る可能性を秘めている。失われる可能性のある形あるものを保存、展示する手法としてデジタルアーカイブは、こういった問題に一定の役割を担えると言えるだうう。 今、沖縄のアーカイブや文化行政は、デジタルアーカイブの構築をどのように考え、問題点を抱えているのだろうか? また観光立県として、デジタルアーカイブを利用で得られる可能性など、経済的な分野へ可能性なども含め、沖縄の有形文化財に対する現状を語る。 ## セッション 3. (沖縄発) 戦後文書資料 と展示〜一次資料保存と DA 化の連動〜公文書館と民間資料施設の“復帰 50 年" \\ 【会場】沖縄県公文書館 \\ 【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 【企画趣旨】 「沖縄県公文書館」では復帰 50 年にあわせ、企画展「Part.1: 民主主義のショーウインドーーアメリカ統治の光と影(2021/7/30~12/28)」「Part.2: 軍用地政策の変遷一基地のない島から基地の島へ沖縄の変貌を紐解く(2022/2/1 ~4/24)」「Part.3: 日本復帰と沖縄展(2022/5/13~ 12/28)」をシリーズ開催。公文書館ならではの歴史への光の当て方に加元、VR 展示から目録〜 Web 閲覧をシームレスにつなぐ「デジタル導線」の工夫が脚光をあびている。本セッションではその考え方と DA 化の現状を報告いただく。 一方、民衆の戦後史を考えるうえでは、私文書の保存・公開も需要な課題だ。その活動の代表例として草の根で支援の輪を広げてきた「不屈館一瀬長亀次郎と民衆資料」の現状についても紹介いただく。 この二つの事例から、「文書資料」の収蔵〜活用における技術や制度の果たすべき課題について共有を図り、討議を深めていきたい。 ## 【登壇者等】 ・プレゼンテーター:沖縄県公文書館大城博光さん : 不屈館内村千尋さん ・司会:水島久光コメンテータ:(検討中) ## セッション 4. デジタルアーカイブ憲章 をみんなで創る円卓会議 in 沖縄【会場】琉球大学 50 周年記念館 ## 【企画提案者】 デジタルアーカイブ学会法制度部会 ## 【企画趣旨】 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、デジタルアー カイブ振興に向けた社会的認知を高めるとともに、めざすベきデジタルアーカイブ社会の姿と、我々がデジタルアー カイブの普及・活用促進において従うべき羅針盤を広く共有するため、『デジタルアーカイブ憲章(仮称)』の策定・公表に向けた検討を進めている。それは学会内に閉じた議論ではなく、社会各層の人々を巻き込んだ公開討議を積み重ねていくことによって実現されるものである。今後、沖縄大会以前にも参加者層の異なる幾つかの円卓会議開催を予定しているが、本大会では、それまでの議論を踏まえながら、沖縄の歴史的・地域的特性を活かしつつ、地域アーカイブ振興の観点からの憲章案を検証していきたい。 デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議についてはこちら ## 【プログラム】 - 挨拶:吉見俊哉(東京大学大学院教授、デジタルアーカイブ学会会長) ・本会議の趣旨と進行 : 福井健策(弁護士、デジタルアー カイブ学会法制度部会長) ・デジタルアーカイブ憲章(案)の概要: ・ラウンドテーブル ・参加者からの質問・意見 【登壇者】(五十音順) $※ 2022$ 年 10 月 23 日現在 -太下義之(文化政策研究者、同志社大学教授) - 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター准教授) - 呉屋美奈子(恩納村文化情報センター係長、沖縄国際大学非常勤講師) -平良斗星 (公益財団法人みらいファンド沖縄副代表理 事、沖縄デジタルアーカイブ協議会運営委員) ・田村卓也 (南城市教育委員会デジタルアーカイブ専門 員 ) ・平田大一(沖縄文化芸術振興アドバイザー、演出家、脚本家、南島詩人) - 福井健策 : 司会 - 三好佐智子(EPAD2022 事務局長、有限会社 quinada 代表取締役社長) - 柳与志夫(東京大学大学院特任教授) ## 【午後セッション】2022 年 11 月 26 日 ( 土 ) 14:00~16:00 ## セッション5. (沖縄発) 沖縄のマスメ ディアのアーカイブコンテンツの価値 と可能性 \\ 【会場】沖縄県立図書館【企画提案者】 \\ 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【進行】 吉見俊哉東京大学大学院情報学環教授 / デジタルアー カイブ学会会長 ## 【企画趣旨】 沖縄のマスメディアは何を伝えてきたのか。 それぞれのメディア各社が保有するアーカイブコンテン ツは、戦前 (新聞) から戦後の沖縄の激動の日々を記録し、放送局は本土の情報、流行や芸能の空となりながら、同時に独自の番組を生み出してきたことを記録している。 復帰までは、新聞やニュースに刻まれているのは、占領下の自治権拡大の動き、米軍由来の事故や事件の数々、復帰が近づくと人々の望んだ形ではないことが明らかになり期待と失望が錯綜した社会の姿だ。そして、復帰の混乱、本土からの公共投資による開発と環境破壊。変わら女基地負担、海兵隊員による少女暴行事件、SACO 設置と普天間の返還決定、さらに幾度もの反対の意思表示を踏み躙る名護市辺野古の新基地建設。そして、沖縄に向けられるフェイクとヘイトの言説。 一方、テレビやラジオは、沖縄芝居や民謡などの民俗芸能から沖縄ならではのポップカルチャーを番組化して人々から支持されてきたことも浮かび上がる。 これらアーカイブコンテンツを活用することで、沖縄の独自の歴史と文化から基地問題を確認することも、新たなコンテンツを生み出すこともできる。 しかし、マスメディアのアーカイブコンテンツは、事業者のアセット・著作物でもある。社会で共有するには、その価値をできるだけの多くの人々が確認した上での合意形成と新たなデザインが必要である。 このセッションでは、復帰 50 年の記念特番で、沖縄の民放各局と NHK のアーカイブ映像を活用して制作された「ど こにもないテレビ」(NHK 沖縄放送局制作)を起点に、放送局のアーカイブの価値を確認する。 さらに、アーカイブコンテンツを活かした映画制作の取り組みから、ドキュメンタリー番組などの教育現場での利用可能性について考える。 新聞は日々起きていることを正確に伝え続け、その取材カ、ネットワークとジャーナリストの課題意識が紙面に結晶する。そして新聞紙面や記事は積み上げられていけば、壮大な地域史の記録となり、一層の価值を生むはずである。 ならば、どういう仕組みが実装されればその記録を社会共有できるのか、メディアの枠を超えて議論する 【登壇者】(確定した方のみ) ・OTV 沖縄テレビ放送山里孫存報道制作局次長 - 琉球新報社米倉外昭論説委員 - NHK 放送文化研究所大高崇主任研究員 進行吉見俊哉東京大学大学院情報学環教授デジタルアーカイブ学会会長 ## セッション6. (沖縄発) 残りにくい文化をどうするか一沖縄芝居を中心に 【会場】沖縄県立美術館・博物館【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 沖縄の大衆文化の多くは、サブカルチャーの視点からも注目が大きい。祭祀や芸能などの無形の文化も多い。これらは複雑な社会の変化の中で、複雑に絡み合いながら変化、 あるいは分化するなど、あるいは分化するなど系統立てた研究も必要である。 しかし大衆の中で育まれた分化には著作物も多く、容易にデジタル化、さらには公開できない事情など、問題は山積みのまま放置されている。 本セッションでは、多くのカテゴリーの中から、沖縄芝居に注目し、そのデジタルアーカイブを実現する可能性や利点、さらに問題点を拾い上げ、無形の文化を保存記録するためのシミュレーションを行う。 沖縄芝居は、組踊などの王朝文化が解体された琉球処分以降に下野した芸能が、大衆文化として広まり、多くは独立した芝居一座の運営によって各地で隆盛を極めた時代もあった。しかし映画、テレビの影響など時代とともに廃れつつある。しかし近年は大衆文化の記録としての重要性はもちろん、後継者育成のための台本の復元、使用楽曲の特定、 さらに写真、映像資料の保存はもちろん、芝居小屋などの周辺文化の調査、さらには著作物の保存に関する問題など、他の分野にも通ずる問題が多くあり、タイミング的にも今やらねば手遅れになる分野といえる。 ## 【登壇者】 -大宜見しょう子(沖縄芝居大伸座) ・真喜屋力 (沖縄アーカイブ研究所) $\cdot$その他調整中 ## 【企画提案者】 福島幸宏、古賀崇 ## 【企画趣旨】 “DX 化が急速に進み、社会のあらゆる事象がデジタル情報で記録されてきている。ただしまだまだそのデジタル情報をアーカイブするというところに議論が及んではいない。 そこで、デジタルアーカイブ論の視点から「デジタル公共文書 (digital public document)」という概念を提起し、その意義とその展開の可能性を考える。その際、利用者(市民、企業人、研究者等)の視点から、民間のものも含めた、公共的に利活用可能な形で蓄積されるべき「デジタル公共文書」を、新しい知識や社会生活、産業を生み出す源泉とするための方策を考える。特に今回は、沖縄の地域や現状に即しつつ、日本の状況と今後を視野に入れる形で、公共文書やそのデジタルアーカイブ化をめぐっての実例と課題を共有し、議論する機会としたい。 ## 【登壇者等】 ・古賀崇 (天理大学) $\cdot$東健二郎 (Code for Japan) ・沖縄関係者 ・福島幸宏(慶應義塾大学) ## 【進行案】 - 趣旨説明(5 分) ・報告:デジタル公共文書をめぐる論点(15 分) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246c (J-STAGE Data あり [ 講演 07-1] ・報告 : 沖縄における公共文書 | (15 分) ・報告 : 沖縄における公共文書 II(15 分) ・ディスカッション (70 分) ## セッション 8. (沖縄発) 自治体のアー カイブ活用 ## 【会場】琉球大学 50 周年記念館【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 全国の様々な自治体では、教育委員会の文化財担当等が地域資料のデジタルアーカイブを進めています。自治体によっては専用のサイトを開発し、その成果発信をはじめました。ただ、その活用に関してはまだ担当部局からの発信にとどまる場合が多く、自治体内外への波及効果が出にくい状態にあるのではないでしょうか。今回はこの問いに対して、沖縄県内でチャレンジを続ける自治体のアーキビストの方々のインタビューを聞きながら今後のデジタルアー カイブの蓄積とその活用の展開を考えていく分科会です。 ## セッション7.DX 化する社会とデジタ ル公共文書 \\ 【会場】沖縄県公文書館
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Japan Society for Digital Archive
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# 第 7 回研究大会 (沖縄 )企画セッション (スライドは J-STAGE Data に登載されます) サテライト企画セッション ## 1. デジタル時代のアーカイブの系譜学 (2022/11/13) \\ 【日時】2022 年 11 月 13 日 (日) 14:00 17:00 【企画提案者】 \\ 宮本隆史、加藤諭 (デジタルアーカイブ学会 SIG デジタ ルアーカイブ理論研究会) ## 【企画趣旨】 デジタル技術が社会基盤となった現代において、「アーカイブ」と呼ばれる制度や営みが生活に浸透してきた。現代人の生活のさまざまな局面で、「アーカイブ」が語られるようになってきている。しかし、この「アーカイブ」なるものは、自明の実体などでは決してなく、歴史的・社会的に構築されてきたものである。本セッションでは、デジタル時代の今日において「アーカイブ」と呼ばれるものに合流してきた諸系譜について歴史的に考察し、今後のデジタルアーカイブのありかたについて議論したい。 ## 【登壇者】 - 加藤諭 (東北大学) - 宮本隆史(大阪大学) - 大向一輝(東京大学) ・鈴木親彦(群馬県立女子大学) - 阿部卓也(愛知淑徳大学) - 西川開 (科学技術・学術政策研究所) ## 【進行案】 ・加藤諭・宮本隆史「デジタル時代のアーカイブの諸系譜をたどるために」(20 分) -大向一輝「デジタルアーカイブの技術史」(20 分) $\cdot$鈴木親彦「アーカイブの側面を持つ草の根活動」(20 分) ・阿部卓也「複製技術とアーカイブ」(20 分) ・西川開(コメンテーター)(10 分) ・ディスカッション(20 分) ## セッション 2.知識インフラの再設計に 向けて (2022/11/14) \\ 【日時】2022 年 11 月 14 日 (月) 14:00 16:00 \\ 【企画提案者】 数藤雅彦 (弁護士、『デジタルアーカイブ・ベーシックス』編集委員) ## 【企画趣旨】 論集『デジタルアーカイブ・ベーシックス』シリーズは、好評のうちに全 5 巻の刊行を終え、新シリーズの第 1 巻「知識インフラの再設計」も 2022 年 11 月に刊行予定である。同巻では、デジタルアーカイブに関する社会・法律・経済 などのさまざまな「制度」を分析し、そこから導かれた「課題」を乗り越えることをひとつの目的としている。 本セッションでは、図書館という知識インフラを再設計した田村俊作氏をお呼びしてその取り組みを伺い、第 1 巻の執筆者らとともに、デジタルアーカイブをめぐる諸制度が現状どうなっているか、またそこにある課題を乗り越えるためにどうすべきかを議論したい。 ## 【進行】 1 趣旨説明(数藤) 5 分 2 基調講演 「知識インフラの再設計〜石川県立図書館の取り組みを通じて〜」(30分) 田村俊作(石川県立図書館長、慶應義塾大学名誉教授) 3 パネルディスカッション(85 分) <パネリスト(敬称略、50 音順)> 小山紘一(弁護士、政策秘書) 後藤和子(摂南大学教授) 数藤雅彦(弁護士、『デジタルアーカイブ・ベーシックス』 編集委員):司会 高野明彦 (国立情報学研究所名誉教授) 田村俊作 (石川県立図書館長、慶應義塾大学名誉教授) 西川開(科学技術・学術政策研究所研究員) ## セッション 3. デジタルアーキビストを 考える $(2022 / 11 / 20)$ \\ 【日時】2022 年 11 月 20 日 (日) 15:00 17:00 \\ 【企画提案者】 デジタルアーカイブ学会人材養成・活用検討委員会 ## 【企画趣旨】 第 6 回研究大会(2021 年 10 月)においてデジタルアー カイブ学会人材養成・活用検討委員会主催で開催した「企画セッションデジタルアーキビストの在り方」の議論を継承し、デジタルアーキビストの使命とターゲット、そして養成課程について提示する。各報告者から人材養成・活用検討委員会で積み重ねた議論を報告し、その後、参加者からの発言を求めつつディスカッションを行い、デジタルアーキビストのアウトラインを検討する。 社会全体の DX 化の動きのなかで、デジタルアーカイブにあらためて期待が集まっている。これからの各団体や地域に必須の人材としてのデジタルアーキビストについて、現段階での議論をまとめ、今後の展開を見据えるためのセッションとしたい。 ## 【登壇者】 - 細矢剛(国立科学博物館) ・徳原直子(国立国会図書館) ・福島幸宏(慶應義塾大学) ・コーディネーター:井上透(岐阜女子大学) ## 【登壇者】 - 趣旨説明(5 分)井上透(岐阜女子大学) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246a (J-STAGE Data あり [ 講演 S3-1] ・報告:デジタルアーキビストの使命について(15 分) 細矢剛(国立科学博物館) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246b (J-STAGE Data あり [講演 S3-2] ・報告 : デジタルアーキビストのターゲットについて (15 分)徳原直子(国立国会図書館) ・報告:デジタルアーキビストの養成課程について(15 分)福島幸宏(慶應義塾大学) 休㗍 ・ディスカッション(50 分) ・まとめ (パネラーから各 3 分) ## セッション 4. 琉球文化のテキストアー カイビング $(2022 / 11 / 23)$ ## 【日時】2022 年 11 月 23 日 (水) 13:00 15:00 ## 【企画提案者】 永崎研宣、岡田一祐中村覚 ## 【企画趣旨】 琉球文化のテキストには豊かな多様性があり、それを適切にデジタル媒体としてアーカイブする手法を確立することは喫緊の課題である。個々の言語を記述するための言語コード、固有の音を適切に表現するための文字コード、それをテキストとして組み立てた際に効率的に利活用するための構造化するための記述ルールとしての TEI ガイドライン、書かれたテキストを見えるままに共有するための画像共有の枠組み IIIF など、琉球の貴重なテキストを適切にデジタルアーカイビングするために必要な手法やツールの現状と課題を参加者と共有し、テキストアーカイビングを通じた琉球文化の過去・未来・現在を考える。 ## 【登壇者等】 - 岡田一祐(北海学園大学・TEI 協会東アジア/日本語分科会運営委員) -冨田千夏(名桜大学環太平洋地域文化研究所共同研究員) - 中川奈津子 (国立国語研究所) - 中村覚(東京大学史料編纂所・TEI協会東アジア/日本語分科会運営委員) - 永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所・TEI 協会東アジア/日本語分科会運営委員) ## 【進行案】 ・テキストアーカイビングの技術 (岡田一祐、中村覚、永崎研宣による共同発表) ・琉球諸語の言語調査データのアーカイビング (中川奈津子 (国立国語研究所)) ・琉球歴史文書のテキストアーカイビング (冨田千夏(琉球大学附属図書館)) ・全体ディスカッション セッション 5. 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション:急変する社会における地域資料継承の “これから” を考える (2022/11/24) 【日時】2022 年 11 月 24 日 (木 ) 16:00~19:00 【企画】 主催 : 合同会社 AMANE - 国立歴史民俗博物館 共催 : 琉球大学博物館(風樹館)、他 本サテライト企画は現地でプレイベントとして琉球大学 博物館(風樹館)にて実施する企画をオンライン中継する ものです。現地イベントのお申込みはこちらからお願いい たします。 ## 【企画提案者】 堀井洋 (合同会社 AMANE) ## 【企画趣旨】 日本国内には、文書や民具など多様かつ豊富な学術資料が現存しており、それらは学術研究の観点のみならず、教育や産業など社会の発展に資する重要な資源である。一方で、急速に進む地方都市の過疎化・高齢化および地震や台風などの大規模自然災害の影響により、地域に現存する学術資料(地域資料)の保存・継承に関する状況は厳しさを増していることから、地域資料継承に関する新たな概念・手法の創出および担い手・実施体制の確立など、様々な分野や立場において取り組みが求められている。 本セミナーでは各事例の報告を通じて、調査・整理〜公 開・活用に至る各段階での専門家や市民との連携や、コミュニティ・機関・個人で継承されてきたアーカイブ資料(記録資料)の継承など、急変する社会における地域資料継承の “これから”について考える。さらに、地域資料継承は地域を問わず社会全体で共有すべき課題として捉え、学術研究者を含む多様な立場・役割の人材が関わる継承事業の意義・ あり方や、デジタルアーカイブを基盤とした資料情報の公 開・共有についても、会場全体で議論したい。 ## 【プログラム】 - 全体司会:小川歩美(合同会社 AMANE) (1) 趣旨説明(合同会社 AMANE 堀井洋・国立歴史民俗博物館後藤真)(20 分) (2) 地域資料継承に関する取り組みの報告(60 分) 山下俊介 (北海道大学水産科学研究院) 佐藤琴 (山形大学附属博物館) 佐々木健志 (琉球大学博物館風樹館) 島袋美由紀(NPO 法人沖縄ある記) 堀井美里(合同会社 AMANE) 高田良宏(金沢大学学術メディア創成センター) 休憙:10分 (3) ディスカッション(60分) 「急変する社会における地域資料継承の “これから”を考える」 ## セッション 6.ビヨンドブック・プ ロジェクト:新しいフェイズへ (2022/11/28) 【日時】2022 年 11 月 28 日 ( 月 ) 17:00 19:00 ## 【企画提案者】 柳与志夫 (東京大学) ## 【企画趣旨】 昨年の研究大会サテライトセッションにおいて発表したビヨンドブックの第 1 次プロトタイプに続いて、改めて多方面からの検討を加えた第 2 次プロトタイプ制作に向けてのプロダクトコンセプトを提示する。こうした「新しい本」 を探求する社会的な意義についても考察したい。 ## 【企画概要】 報告とパネルディスカッションで構成する。 構成 1 趣旨説明(柳) 5 分 2 報告 (1) 第 1 次プロトタイプ制作の意義と課題 (美馬) 15 分 3 報告 (2) バックキャスティングで考える「新しい本」 (渡邊) 30 分 「新しい本」と私たちの未来(東京大学 1 年生 : 冨田萌衣) を含む。 4 パネルディスカッション(60 分) <パネリスト(敬称略、50 音順)> ・植村八潮(専修大学教授) -小林エリカ (作家・漫画家) - 美馬秀樹 (京都大学特定教授) - 柳与志夫(東京大学特任教授):司会 - 渡邊英徳(東京大学教授) セッション 7. 分散型の情報基盤技術を 用いた DA 活用と展望 $(2022 / 12 / 1)$ ## 【日時】2022/12/1 (木) 18:00 20:00 ## 【企画提案者】 嘉村哲郎 (東京藝術大学芸術情報センター) ## 【企画趣旨】 ここ数年、分散型の情報基盤技術を用いた実験的試みやサービスの研究開発が著しい。特に 2021 年にクリスティー ズで行われたデジタルアート作品のオークションにおいて、非代替性トークン (NFT) を用いたデジタル画像が約 75 億円で落札されたことが公表されると、トークンの発行やデータ流通を実現する周辺技術への注目と Web におけるデジタルコンテンツ活用と流通の可能性に対する期待の熱が爆発的に高まった。 本企画では、デジタルコンテンツの流通や活用の点から、 NFT をはじめとする関連技術とデジタルアーカイブの可能性や展望を議論する。 ## 【進行案】 - 進行 : 嘉村 ・報告内容 1. 分散型情報技術に関する概説 ( 東京藝術大学芸術情報セ ンター: 嘉村 ) 2. アート分野の NFT に関する現状調査報告 (野村総合研究所 : 寻屋氏) 3. 国内における地方創生 $\times$ NFT 活用の取組 (slash : 加藤氏) 4. 小学館メタバース 1: ブロックチェーン推進室よりご報告 (小学館: 川邊氏) 5. 小学館メタバース 2: XR 推進室よりご報告 (小学館: 嶋野氏 LATEGRA: 伊藤氏) 6. ディスカッション 今後の DA やコンテンツ活用の可能性等を議論したいと考えています。 ## 沖縄現地企画セッション ## 6 【午前セッション】2022 年 11 月 26 日 ( 土 ) 10:00 12:00 セッション 1.「文脈」を伝える一一アジア・アフリカをアーカイブするための方法的探究 【会場】沖縄県立図書館 ## 【企画提案者】 熊倉和歌子、東京外国語大学 TUFS フィールドサイエン スコモンズ ## 【企画趣旨】 今日、研究者により、アジア・アフリカ地域の言語や文化を研究対象とするデジタルアーカイブが構築され、研究や教育への利活用が進められている。そうした動きは、さまざまな形でその地域の理解を促進するものであり、地球一体化の時代においてますますその需要は高まっている。他方、デジタルアーカイブは、既存の情報資源の電子的な指標化や保存、大規模なデータの蓄積や参照、検索機能やネットワーク構築を通した情報の連携や発信などを通して、情報資源の飛躍的な構築や発信が可能となり、その社会的な影響も大きなものとなっている。そうした中で、デジタルアーカイブの存在が現地社会に及ぼすさまざまな影響も考えられ、検討を要する問題も多い。特定の地域文化についてとりあげることにより、アーカイブ自体が政治性を打びるためである。 第一に、静的なイメージの固定化があげられる。デジタルアーカイブにおける情報の取り上げ方や利用者の知識や理解の程度によっては、デジタルアーカイブがその地域にかんする固定的なイメージを作りあげてしまい、研究や教育に携わる構築者の意図を離れて利用されうることが懸念される。アーカイブの対象がマージナルなものであればあるほど、その懸念は強まる。第二に、その地域の情報がアー カイブされ、広く発信されることによって、現地社会のもつ知識の搾取など、現地の人々に何らかの不利益が生じる可能性も想定される。これらの問題は、デジタル情報資源に関する固有の権利の保護などの喫緊の課題に関わる同時に、公共財としてそれを適正に保全し、将来の利活用に道を開くことにも結びつくだろう。 このような問題に対して、「他者」である研究者は何を意識し、どのような方法でデジタルアーカイブを作り、発信すればよいのだろうか。この問題を考えるにあたり、私たちは「文脈」つまり、アーカイブの対象のそばにいる人々が形成するコミュニティや、その歴史的・文化的な背景の重要性に注目する。デジタルアーカイブの構築において、 そうした「文脈」をどのように扱うべきか、また、「文脈」 をいかにしてデジタルアーカイブとともに伝えるか、本企画セッションでは、そうした問題意識に立ち、アジア・アフリカ地域を対象としたデジタルアーカイブ構築の事例を踏まえながら、問題点を共有し、現地の人々とともにあるデジタルアーカイブ構築の方法を検討する。 ## 【登壇者等】 ・司会:熊倉和歌子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所) ・パネラー 1:倉部慶太(東京外国語大学アジア・アフリ力言語文化研究所) ・パネラー 2 :野林厚志(国立民族学博物館) ・パネラー 3 : 深見奈緒子 (日本学術振興会カイロ研究連絡センター)・吉村武典 (大東文化大学) ・コメント:木村大治(京都大学名誉教授) ## 【進行案】 1. 趣旨説明(5 分): 熊倉和歌子 2. パネル 1(20 分) 3. パネル 2(20 分) 4. パネル 3 (20 分) 5. コメント (10 分) 6. 総合討議 (25 分) ## セッション 2. (沖縄発 ) 形あるもの、 \\ 沖縄の歴史の DA 化 ## 【会場】沖縄県立美術館・博物館 【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 日本はもとより海外とも多くの文化的交流を経て、独自の文化を築き上げた沖縄には、独特な文化財が多く存在する。しかし古来からの貴重な文化財の多くは、戦争で消失、散逸している。また 2020 年の首里城火災においては、精緻な復元によって厷った工芸品などとともに多くの文化財が消失した。防災対策はもちろんだが、不慮の事故は常に怒る可能性を秘めている。失われる可能性のある形あるものを保存、展示する手法としてデジタルアーカイブは、こういった問題に一定の役割を担えると言えるだうう。 今、沖縄のアーカイブや文化行政は、デジタルアーカイブの構築をどのように考え、問題点を抱えているのだろうか? また観光立県として、デジタルアーカイブを利用で得られる可能性など、経済的な分野へ可能性なども含め、沖縄の有形文化財に対する現状を語る。 ## セッション 3. (沖縄発) 戦後文書資料 と展示〜一次資料保存と DA 化の連動〜公文書館と民間資料施設の“復帰 50 年" \\ 【会場】沖縄県公文書館 \\ 【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 【企画趣旨】 「沖縄県公文書館」では復帰 50 年にあわせ、企画展「Part.1: 民主主義のショーウインドーーアメリカ統治の光と影(2021/7/30~12/28)」「Part.2: 軍用地政策の変遷一基地のない島から基地の島へ沖縄の変貌を紐解く(2022/2/1 ~4/24)」「Part.3: 日本復帰と沖縄展(2022/5/13~ 12/28)」をシリーズ開催。公文書館ならではの歴史への光の当て方に加元、VR 展示から目録〜 Web 閲覧をシームレスにつなぐ「デジタル導線」の工夫が脚光をあびている。本セッションではその考え方と DA 化の現状を報告いただく。 一方、民衆の戦後史を考えるうえでは、私文書の保存・公開も需要な課題だ。その活動の代表例として草の根で支援の輪を広げてきた「不屈館一瀬長亀次郎と民衆資料」の現状についても紹介いただく。 この二つの事例から、「文書資料」の収蔵〜活用における技術や制度の果たすべき課題について共有を図り、討議を深めていきたい。 ## 【登壇者等】 ・プレゼンテーター:沖縄県公文書館大城博光さん : 不屈館内村千尋さん ・司会:水島久光コメンテータ:(検討中) ## セッション 4. デジタルアーカイブ憲章 をみんなで創る円卓会議 in 沖縄【会場】琉球大学 50 周年記念館 ## 【企画提案者】 デジタルアーカイブ学会法制度部会 ## 【企画趣旨】 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、デジタルアー カイブ振興に向けた社会的認知を高めるとともに、めざすベきデジタルアーカイブ社会の姿と、我々がデジタルアー カイブの普及・活用促進において従うべき羅針盤を広く共有するため、『デジタルアーカイブ憲章(仮称)』の策定・公表に向けた検討を進めている。それは学会内に閉じた議論ではなく、社会各層の人々を巻き込んだ公開討議を積み重ねていくことによって実現されるものである。今後、沖縄大会以前にも参加者層の異なる幾つかの円卓会議開催を予定しているが、本大会では、それまでの議論を踏まえながら、沖縄の歴史的・地域的特性を活かしつつ、地域アーカイブ振興の観点からの憲章案を検証していきたい。 デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議についてはこちら ## 【プログラム】 - 挨拶:吉見俊哉(東京大学大学院教授、デジタルアーカイブ学会会長) ・本会議の趣旨と進行 : 福井健策(弁護士、デジタルアー カイブ学会法制度部会長) ・デジタルアーカイブ憲章(案)の概要: ・ラウンドテーブル ・参加者からの質問・意見 【登壇者】(五十音順) $※ 2022$ 年 10 月 23 日現在 -太下義之(文化政策研究者、同志社大学教授) - 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター准教授) - 呉屋美奈子(恩納村文化情報センター係長、沖縄国際大学非常勤講師) -平良斗星 (公益財団法人みらいファンド沖縄副代表理 事、沖縄デジタルアーカイブ協議会運営委員) ・田村卓也 (南城市教育委員会デジタルアーカイブ専門 員 ) ・平田大一(沖縄文化芸術振興アドバイザー、演出家、脚本家、南島詩人) - 福井健策 : 司会 - 三好佐智子(EPAD2022 事務局長、有限会社 quinada 代表取締役社長) - 柳与志夫(東京大学大学院特任教授) ## 【午後セッション】2022 年 11 月 26 日 ( 土 ) 14:00~16:00 ## セッション5. (沖縄発) 沖縄のマスメ ディアのアーカイブコンテンツの価値 と可能性 \\ 【会場】沖縄県立図書館【企画提案者】 \\ 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【進行】 吉見俊哉東京大学大学院情報学環教授 / デジタルアー カイブ学会会長 ## 【企画趣旨】 沖縄のマスメディアは何を伝えてきたのか。 それぞれのメディア各社が保有するアーカイブコンテン ツは、戦前 (新聞) から戦後の沖縄の激動の日々を記録し、放送局は本土の情報、流行や芸能の空となりながら、同時に独自の番組を生み出してきたことを記録している。 復帰までは、新聞やニュースに刻まれているのは、占領下の自治権拡大の動き、米軍由来の事故や事件の数々、復帰が近づくと人々の望んだ形ではないことが明らかになり期待と失望が錯綜した社会の姿だ。そして、復帰の混乱、本土からの公共投資による開発と環境破壊。変わら女基地負担、海兵隊員による少女暴行事件、SACO 設置と普天間の返還決定、さらに幾度もの反対の意思表示を踏み躙る名護市辺野古の新基地建設。そして、沖縄に向けられるフェイクとヘイトの言説。 一方、テレビやラジオは、沖縄芝居や民謡などの民俗芸能から沖縄ならではのポップカルチャーを番組化して人々から支持されてきたことも浮かび上がる。 これらアーカイブコンテンツを活用することで、沖縄の独自の歴史と文化から基地問題を確認することも、新たなコンテンツを生み出すこともできる。 しかし、マスメディアのアーカイブコンテンツは、事業者のアセット・著作物でもある。社会で共有するには、その価値をできるだけの多くの人々が確認した上での合意形成と新たなデザインが必要である。 このセッションでは、復帰 50 年の記念特番で、沖縄の民放各局と NHK のアーカイブ映像を活用して制作された「ど こにもないテレビ」(NHK 沖縄放送局制作)を起点に、放送局のアーカイブの価値を確認する。 さらに、アーカイブコンテンツを活かした映画制作の取り組みから、ドキュメンタリー番組などの教育現場での利用可能性について考える。 新聞は日々起きていることを正確に伝え続け、その取材カ、ネットワークとジャーナリストの課題意識が紙面に結晶する。そして新聞紙面や記事は積み上げられていけば、壮大な地域史の記録となり、一層の価值を生むはずである。 ならば、どういう仕組みが実装されればその記録を社会共有できるのか、メディアの枠を超えて議論する 【登壇者】(確定した方のみ) ・OTV 沖縄テレビ放送山里孫存報道制作局次長 - 琉球新報社米倉外昭論説委員 - NHK 放送文化研究所大高崇主任研究員 進行吉見俊哉東京大学大学院情報学環教授デジタルアーカイブ学会会長 ## セッション6. (沖縄発) 残りにくい文化をどうするか一沖縄芝居を中心に 【会場】沖縄県立美術館・博物館【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 沖縄の大衆文化の多くは、サブカルチャーの視点からも注目が大きい。祭祀や芸能などの無形の文化も多い。これらは複雑な社会の変化の中で、複雑に絡み合いながら変化、 あるいは分化するなど、あるいは分化するなど系統立てた研究も必要である。 しかし大衆の中で育まれた分化には著作物も多く、容易にデジタル化、さらには公開できない事情など、問題は山積みのまま放置されている。 本セッションでは、多くのカテゴリーの中から、沖縄芝居に注目し、そのデジタルアーカイブを実現する可能性や利点、さらに問題点を拾い上げ、無形の文化を保存記録するためのシミュレーションを行う。 沖縄芝居は、組踊などの王朝文化が解体された琉球処分以降に下野した芸能が、大衆文化として広まり、多くは独立した芝居一座の運営によって各地で隆盛を極めた時代もあった。しかし映画、テレビの影響など時代とともに廃れつつある。しかし近年は大衆文化の記録としての重要性はもちろん、後継者育成のための台本の復元、使用楽曲の特定、 さらに写真、映像資料の保存はもちろん、芝居小屋などの周辺文化の調査、さらには著作物の保存に関する問題など、他の分野にも通ずる問題が多くあり、タイミング的にも今やらねば手遅れになる分野といえる。 ## 【登壇者】 -大宜見しょう子(沖縄芝居大伸座) ・真喜屋力 (沖縄アーカイブ研究所) $\cdot$その他調整中 ## 【企画提案者】 福島幸宏、古賀崇 ## 【企画趣旨】 “DX 化が急速に進み、社会のあらゆる事象がデジタル情報で記録されてきている。ただしまだまだそのデジタル情報をアーカイブするというところに議論が及んではいない。 そこで、デジタルアーカイブ論の視点から「デジタル公共文書 (digital public document)」という概念を提起し、その意義とその展開の可能性を考える。その際、利用者(市民、企業人、研究者等)の視点から、民間のものも含めた、公共的に利活用可能な形で蓄積されるべき「デジタル公共文書」を、新しい知識や社会生活、産業を生み出す源泉とするための方策を考える。特に今回は、沖縄の地域や現状に即しつつ、日本の状況と今後を視野に入れる形で、公共文書やそのデジタルアーカイブ化をめぐっての実例と課題を共有し、議論する機会としたい。 ## 【登壇者等】 ・古賀崇 (天理大学) $\cdot$東健二郎 (Code for Japan) ・沖縄関係者 ・福島幸宏(慶應義塾大学) ## 【進行案】 - 趣旨説明(5 分) ・報告:デジタル公共文書をめぐる論点(15 分) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246c (J-STAGE Data あり [ 講演 07-1] ・報告 : 沖縄における公共文書 | (15 分) ・報告 : 沖縄における公共文書 II(15 分) ・ディスカッション (70 分) ## セッション 8. (沖縄発) 自治体のアー カイブ活用 ## 【会場】琉球大学 50 周年記念館【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 全国の様々な自治体では、教育委員会の文化財担当等が地域資料のデジタルアーカイブを進めています。自治体によっては専用のサイトを開発し、その成果発信をはじめました。ただ、その活用に関してはまだ担当部局からの発信にとどまる場合が多く、自治体内外への波及効果が出にくい状態にあるのではないでしょうか。今回はこの問いに対して、沖縄県内でチャレンジを続ける自治体のアーキビストの方々のインタビューを聞きながら今後のデジタルアー カイブの蓄積とその活用の展開を考えていく分科会です。 ## セッション7.DX 化する社会とデジタ ル公共文書 \\ 【会場】沖縄県公文書館
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Japan Society for Digital Archive
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# 第 7 回研究大会 (沖縄 )企画セッション (スライドは J-STAGE Data に登載されます) サテライト企画セッション ## 1. デジタル時代のアーカイブの系譜学 (2022/11/13) \\ 【日時】2022 年 11 月 13 日 (日) 14:00 17:00 【企画提案者】 \\ 宮本隆史、加藤諭 (デジタルアーカイブ学会 SIG デジタ ルアーカイブ理論研究会) ## 【企画趣旨】 デジタル技術が社会基盤となった現代において、「アーカイブ」と呼ばれる制度や営みが生活に浸透してきた。現代人の生活のさまざまな局面で、「アーカイブ」が語られるようになってきている。しかし、この「アーカイブ」なるものは、自明の実体などでは決してなく、歴史的・社会的に構築されてきたものである。本セッションでは、デジタル時代の今日において「アーカイブ」と呼ばれるものに合流してきた諸系譜について歴史的に考察し、今後のデジタルアーカイブのありかたについて議論したい。 ## 【登壇者】 - 加藤諭 (東北大学) - 宮本隆史(大阪大学) - 大向一輝(東京大学) ・鈴木親彦(群馬県立女子大学) - 阿部卓也(愛知淑徳大学) - 西川開 (科学技術・学術政策研究所) ## 【進行案】 ・加藤諭・宮本隆史「デジタル時代のアーカイブの諸系譜をたどるために」(20 分) -大向一輝「デジタルアーカイブの技術史」(20 分) $\cdot$鈴木親彦「アーカイブの側面を持つ草の根活動」(20 分) ・阿部卓也「複製技術とアーカイブ」(20 分) ・西川開(コメンテーター)(10 分) ・ディスカッション(20 分) ## セッション 2.知識インフラの再設計に 向けて (2022/11/14) \\ 【日時】2022 年 11 月 14 日 (月) 14:00 16:00 \\ 【企画提案者】 数藤雅彦 (弁護士、『デジタルアーカイブ・ベーシックス』編集委員) ## 【企画趣旨】 論集『デジタルアーカイブ・ベーシックス』シリーズは、好評のうちに全 5 巻の刊行を終え、新シリーズの第 1 巻「知識インフラの再設計」も 2022 年 11 月に刊行予定である。同巻では、デジタルアーカイブに関する社会・法律・経済 などのさまざまな「制度」を分析し、そこから導かれた「課題」を乗り越えることをひとつの目的としている。 本セッションでは、図書館という知識インフラを再設計した田村俊作氏をお呼びしてその取り組みを伺い、第 1 巻の執筆者らとともに、デジタルアーカイブをめぐる諸制度が現状どうなっているか、またそこにある課題を乗り越えるためにどうすべきかを議論したい。 ## 【進行】 1 趣旨説明(数藤) 5 分 2 基調講演 「知識インフラの再設計〜石川県立図書館の取り組みを通じて〜」(30分) 田村俊作(石川県立図書館長、慶應義塾大学名誉教授) 3 パネルディスカッション(85 分) <パネリスト(敬称略、50 音順)> 小山紘一(弁護士、政策秘書) 後藤和子(摂南大学教授) 数藤雅彦(弁護士、『デジタルアーカイブ・ベーシックス』 編集委員):司会 高野明彦 (国立情報学研究所名誉教授) 田村俊作 (石川県立図書館長、慶應義塾大学名誉教授) 西川開(科学技術・学術政策研究所研究員) ## セッション 3. デジタルアーキビストを 考える $(2022 / 11 / 20)$ \\ 【日時】2022 年 11 月 20 日 (日) 15:00 17:00 \\ 【企画提案者】 デジタルアーカイブ学会人材養成・活用検討委員会 ## 【企画趣旨】 第 6 回研究大会(2021 年 10 月)においてデジタルアー カイブ学会人材養成・活用検討委員会主催で開催した「企画セッションデジタルアーキビストの在り方」の議論を継承し、デジタルアーキビストの使命とターゲット、そして養成課程について提示する。各報告者から人材養成・活用検討委員会で積み重ねた議論を報告し、その後、参加者からの発言を求めつつディスカッションを行い、デジタルアーキビストのアウトラインを検討する。 社会全体の DX 化の動きのなかで、デジタルアーカイブにあらためて期待が集まっている。これからの各団体や地域に必須の人材としてのデジタルアーキビストについて、現段階での議論をまとめ、今後の展開を見据えるためのセッションとしたい。 ## 【登壇者】 - 細矢剛(国立科学博物館) ・徳原直子(国立国会図書館) ・福島幸宏(慶應義塾大学) ・コーディネーター:井上透(岐阜女子大学) ## 【登壇者】 - 趣旨説明(5 分)井上透(岐阜女子大学) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246a (J-STAGE Data あり [ 講演 S3-1] ・報告:デジタルアーキビストの使命について(15 分) 細矢剛(国立科学博物館) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246b (J-STAGE Data あり [講演 S3-2] ・報告 : デジタルアーキビストのターゲットについて (15 分)徳原直子(国立国会図書館) ・報告:デジタルアーキビストの養成課程について(15 分)福島幸宏(慶應義塾大学) 休㗍 ・ディスカッション(50 分) ・まとめ (パネラーから各 3 分) ## セッション 4. 琉球文化のテキストアー カイビング $(2022 / 11 / 23)$ ## 【日時】2022 年 11 月 23 日 (水) 13:00 15:00 ## 【企画提案者】 永崎研宣、岡田一祐中村覚 ## 【企画趣旨】 琉球文化のテキストには豊かな多様性があり、それを適切にデジタル媒体としてアーカイブする手法を確立することは喫緊の課題である。個々の言語を記述するための言語コード、固有の音を適切に表現するための文字コード、それをテキストとして組み立てた際に効率的に利活用するための構造化するための記述ルールとしての TEI ガイドライン、書かれたテキストを見えるままに共有するための画像共有の枠組み IIIF など、琉球の貴重なテキストを適切にデジタルアーカイビングするために必要な手法やツールの現状と課題を参加者と共有し、テキストアーカイビングを通じた琉球文化の過去・未来・現在を考える。 ## 【登壇者等】 - 岡田一祐(北海学園大学・TEI 協会東アジア/日本語分科会運営委員) -冨田千夏(名桜大学環太平洋地域文化研究所共同研究員) - 中川奈津子 (国立国語研究所) - 中村覚(東京大学史料編纂所・TEI協会東アジア/日本語分科会運営委員) - 永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所・TEI 協会東アジア/日本語分科会運営委員) ## 【進行案】 ・テキストアーカイビングの技術 (岡田一祐、中村覚、永崎研宣による共同発表) ・琉球諸語の言語調査データのアーカイビング (中川奈津子 (国立国語研究所)) ・琉球歴史文書のテキストアーカイビング (冨田千夏(琉球大学附属図書館)) ・全体ディスカッション セッション 5. 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション:急変する社会における地域資料継承の “これから” を考える (2022/11/24) 【日時】2022 年 11 月 24 日 (木 ) 16:00~19:00 【企画】 主催 : 合同会社 AMANE - 国立歴史民俗博物館 共催 : 琉球大学博物館(風樹館)、他 本サテライト企画は現地でプレイベントとして琉球大学 博物館(風樹館)にて実施する企画をオンライン中継する ものです。現地イベントのお申込みはこちらからお願いい たします。 ## 【企画提案者】 堀井洋 (合同会社 AMANE) ## 【企画趣旨】 日本国内には、文書や民具など多様かつ豊富な学術資料が現存しており、それらは学術研究の観点のみならず、教育や産業など社会の発展に資する重要な資源である。一方で、急速に進む地方都市の過疎化・高齢化および地震や台風などの大規模自然災害の影響により、地域に現存する学術資料(地域資料)の保存・継承に関する状況は厳しさを増していることから、地域資料継承に関する新たな概念・手法の創出および担い手・実施体制の確立など、様々な分野や立場において取り組みが求められている。 本セミナーでは各事例の報告を通じて、調査・整理〜公 開・活用に至る各段階での専門家や市民との連携や、コミュニティ・機関・個人で継承されてきたアーカイブ資料(記録資料)の継承など、急変する社会における地域資料継承の “これから”について考える。さらに、地域資料継承は地域を問わず社会全体で共有すべき課題として捉え、学術研究者を含む多様な立場・役割の人材が関わる継承事業の意義・ あり方や、デジタルアーカイブを基盤とした資料情報の公 開・共有についても、会場全体で議論したい。 ## 【プログラム】 - 全体司会:小川歩美(合同会社 AMANE) (1) 趣旨説明(合同会社 AMANE 堀井洋・国立歴史民俗博物館後藤真)(20 分) (2) 地域資料継承に関する取り組みの報告(60 分) 山下俊介 (北海道大学水産科学研究院) 佐藤琴 (山形大学附属博物館) 佐々木健志 (琉球大学博物館風樹館) 島袋美由紀(NPO 法人沖縄ある記) 堀井美里(合同会社 AMANE) 高田良宏(金沢大学学術メディア創成センター) 休憙:10分 (3) ディスカッション(60分) 「急変する社会における地域資料継承の “これから”を考える」 ## セッション 6.ビヨンドブック・プ ロジェクト:新しいフェイズへ (2022/11/28) 【日時】2022 年 11 月 28 日 ( 月 ) 17:00 19:00 ## 【企画提案者】 柳与志夫 (東京大学) ## 【企画趣旨】 昨年の研究大会サテライトセッションにおいて発表したビヨンドブックの第 1 次プロトタイプに続いて、改めて多方面からの検討を加えた第 2 次プロトタイプ制作に向けてのプロダクトコンセプトを提示する。こうした「新しい本」 を探求する社会的な意義についても考察したい。 ## 【企画概要】 報告とパネルディスカッションで構成する。 構成 1 趣旨説明(柳) 5 分 2 報告 (1) 第 1 次プロトタイプ制作の意義と課題 (美馬) 15 分 3 報告 (2) バックキャスティングで考える「新しい本」 (渡邊) 30 分 「新しい本」と私たちの未来(東京大学 1 年生 : 冨田萌衣) を含む。 4 パネルディスカッション(60 分) <パネリスト(敬称略、50 音順)> ・植村八潮(専修大学教授) -小林エリカ (作家・漫画家) - 美馬秀樹 (京都大学特定教授) - 柳与志夫(東京大学特任教授):司会 - 渡邊英徳(東京大学教授) セッション 7. 分散型の情報基盤技術を 用いた DA 活用と展望 $(2022 / 12 / 1)$ ## 【日時】2022/12/1 (木) 18:00 20:00 ## 【企画提案者】 嘉村哲郎 (東京藝術大学芸術情報センター) ## 【企画趣旨】 ここ数年、分散型の情報基盤技術を用いた実験的試みやサービスの研究開発が著しい。特に 2021 年にクリスティー ズで行われたデジタルアート作品のオークションにおいて、非代替性トークン (NFT) を用いたデジタル画像が約 75 億円で落札されたことが公表されると、トークンの発行やデータ流通を実現する周辺技術への注目と Web におけるデジタルコンテンツ活用と流通の可能性に対する期待の熱が爆発的に高まった。 本企画では、デジタルコンテンツの流通や活用の点から、 NFT をはじめとする関連技術とデジタルアーカイブの可能性や展望を議論する。 ## 【進行案】 - 進行 : 嘉村 ・報告内容 1. 分散型情報技術に関する概説 ( 東京藝術大学芸術情報セ ンター: 嘉村 ) 2. アート分野の NFT に関する現状調査報告 (野村総合研究所 : 寻屋氏) 3. 国内における地方創生 $\times$ NFT 活用の取組 (slash : 加藤氏) 4. 小学館メタバース 1: ブロックチェーン推進室よりご報告 (小学館: 川邊氏) 5. 小学館メタバース 2: XR 推進室よりご報告 (小学館: 嶋野氏 LATEGRA: 伊藤氏) 6. ディスカッション 今後の DA やコンテンツ活用の可能性等を議論したいと考えています。 ## 沖縄現地企画セッション ## 6 【午前セッション】2022 年 11 月 26 日 ( 土 ) 10:00 12:00 セッション 1.「文脈」を伝える一一アジア・アフリカをアーカイブするための方法的探究 【会場】沖縄県立図書館 ## 【企画提案者】 熊倉和歌子、東京外国語大学 TUFS フィールドサイエン スコモンズ ## 【企画趣旨】 今日、研究者により、アジア・アフリカ地域の言語や文化を研究対象とするデジタルアーカイブが構築され、研究や教育への利活用が進められている。そうした動きは、さまざまな形でその地域の理解を促進するものであり、地球一体化の時代においてますますその需要は高まっている。他方、デジタルアーカイブは、既存の情報資源の電子的な指標化や保存、大規模なデータの蓄積や参照、検索機能やネットワーク構築を通した情報の連携や発信などを通して、情報資源の飛躍的な構築や発信が可能となり、その社会的な影響も大きなものとなっている。そうした中で、デジタルアーカイブの存在が現地社会に及ぼすさまざまな影響も考えられ、検討を要する問題も多い。特定の地域文化についてとりあげることにより、アーカイブ自体が政治性を打びるためである。 第一に、静的なイメージの固定化があげられる。デジタルアーカイブにおける情報の取り上げ方や利用者の知識や理解の程度によっては、デジタルアーカイブがその地域にかんする固定的なイメージを作りあげてしまい、研究や教育に携わる構築者の意図を離れて利用されうることが懸念される。アーカイブの対象がマージナルなものであればあるほど、その懸念は強まる。第二に、その地域の情報がアー カイブされ、広く発信されることによって、現地社会のもつ知識の搾取など、現地の人々に何らかの不利益が生じる可能性も想定される。これらの問題は、デジタル情報資源に関する固有の権利の保護などの喫緊の課題に関わる同時に、公共財としてそれを適正に保全し、将来の利活用に道を開くことにも結びつくだろう。 このような問題に対して、「他者」である研究者は何を意識し、どのような方法でデジタルアーカイブを作り、発信すればよいのだろうか。この問題を考えるにあたり、私たちは「文脈」つまり、アーカイブの対象のそばにいる人々が形成するコミュニティや、その歴史的・文化的な背景の重要性に注目する。デジタルアーカイブの構築において、 そうした「文脈」をどのように扱うべきか、また、「文脈」 をいかにしてデジタルアーカイブとともに伝えるか、本企画セッションでは、そうした問題意識に立ち、アジア・アフリカ地域を対象としたデジタルアーカイブ構築の事例を踏まえながら、問題点を共有し、現地の人々とともにあるデジタルアーカイブ構築の方法を検討する。 ## 【登壇者等】 ・司会:熊倉和歌子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所) ・パネラー 1:倉部慶太(東京外国語大学アジア・アフリ力言語文化研究所) ・パネラー 2 :野林厚志(国立民族学博物館) ・パネラー 3 : 深見奈緒子 (日本学術振興会カイロ研究連絡センター)・吉村武典 (大東文化大学) ・コメント:木村大治(京都大学名誉教授) ## 【進行案】 1. 趣旨説明(5 分): 熊倉和歌子 2. パネル 1(20 分) 3. パネル 2(20 分) 4. パネル 3 (20 分) 5. コメント (10 分) 6. 総合討議 (25 分) ## セッション 2. (沖縄発 ) 形あるもの、 \\ 沖縄の歴史の DA 化 ## 【会場】沖縄県立美術館・博物館 【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 日本はもとより海外とも多くの文化的交流を経て、独自の文化を築き上げた沖縄には、独特な文化財が多く存在する。しかし古来からの貴重な文化財の多くは、戦争で消失、散逸している。また 2020 年の首里城火災においては、精緻な復元によって厷った工芸品などとともに多くの文化財が消失した。防災対策はもちろんだが、不慮の事故は常に怒る可能性を秘めている。失われる可能性のある形あるものを保存、展示する手法としてデジタルアーカイブは、こういった問題に一定の役割を担えると言えるだうう。 今、沖縄のアーカイブや文化行政は、デジタルアーカイブの構築をどのように考え、問題点を抱えているのだろうか? また観光立県として、デジタルアーカイブを利用で得られる可能性など、経済的な分野へ可能性なども含め、沖縄の有形文化財に対する現状を語る。 ## セッション 3. (沖縄発) 戦後文書資料 と展示〜一次資料保存と DA 化の連動〜公文書館と民間資料施設の“復帰 50 年" \\ 【会場】沖縄県公文書館 \\ 【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 【企画趣旨】 「沖縄県公文書館」では復帰 50 年にあわせ、企画展「Part.1: 民主主義のショーウインドーーアメリカ統治の光と影(2021/7/30~12/28)」「Part.2: 軍用地政策の変遷一基地のない島から基地の島へ沖縄の変貌を紐解く(2022/2/1 ~4/24)」「Part.3: 日本復帰と沖縄展(2022/5/13~ 12/28)」をシリーズ開催。公文書館ならではの歴史への光の当て方に加元、VR 展示から目録〜 Web 閲覧をシームレスにつなぐ「デジタル導線」の工夫が脚光をあびている。本セッションではその考え方と DA 化の現状を報告いただく。 一方、民衆の戦後史を考えるうえでは、私文書の保存・公開も需要な課題だ。その活動の代表例として草の根で支援の輪を広げてきた「不屈館一瀬長亀次郎と民衆資料」の現状についても紹介いただく。 この二つの事例から、「文書資料」の収蔵〜活用における技術や制度の果たすべき課題について共有を図り、討議を深めていきたい。 ## 【登壇者等】 ・プレゼンテーター:沖縄県公文書館大城博光さん : 不屈館内村千尋さん ・司会:水島久光コメンテータ:(検討中) ## セッション 4. デジタルアーカイブ憲章 をみんなで創る円卓会議 in 沖縄【会場】琉球大学 50 周年記念館 ## 【企画提案者】 デジタルアーカイブ学会法制度部会 ## 【企画趣旨】 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、デジタルアー カイブ振興に向けた社会的認知を高めるとともに、めざすベきデジタルアーカイブ社会の姿と、我々がデジタルアー カイブの普及・活用促進において従うべき羅針盤を広く共有するため、『デジタルアーカイブ憲章(仮称)』の策定・公表に向けた検討を進めている。それは学会内に閉じた議論ではなく、社会各層の人々を巻き込んだ公開討議を積み重ねていくことによって実現されるものである。今後、沖縄大会以前にも参加者層の異なる幾つかの円卓会議開催を予定しているが、本大会では、それまでの議論を踏まえながら、沖縄の歴史的・地域的特性を活かしつつ、地域アーカイブ振興の観点からの憲章案を検証していきたい。 デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議についてはこちら ## 【プログラム】 - 挨拶:吉見俊哉(東京大学大学院教授、デジタルアーカイブ学会会長) ・本会議の趣旨と進行 : 福井健策(弁護士、デジタルアー カイブ学会法制度部会長) ・デジタルアーカイブ憲章(案)の概要: ・ラウンドテーブル ・参加者からの質問・意見 【登壇者】(五十音順) $※ 2022$ 年 10 月 23 日現在 -太下義之(文化政策研究者、同志社大学教授) - 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター准教授) - 呉屋美奈子(恩納村文化情報センター係長、沖縄国際大学非常勤講師) -平良斗星 (公益財団法人みらいファンド沖縄副代表理 事、沖縄デジタルアーカイブ協議会運営委員) ・田村卓也 (南城市教育委員会デジタルアーカイブ専門 員 ) ・平田大一(沖縄文化芸術振興アドバイザー、演出家、脚本家、南島詩人) - 福井健策 : 司会 - 三好佐智子(EPAD2022 事務局長、有限会社 quinada 代表取締役社長) - 柳与志夫(東京大学大学院特任教授) ## 【午後セッション】2022 年 11 月 26 日 ( 土 ) 14:00~16:00 ## セッション5. (沖縄発) 沖縄のマスメ ディアのアーカイブコンテンツの価値 と可能性 \\ 【会場】沖縄県立図書館【企画提案者】 \\ 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【進行】 吉見俊哉東京大学大学院情報学環教授 / デジタルアー カイブ学会会長 ## 【企画趣旨】 沖縄のマスメディアは何を伝えてきたのか。 それぞれのメディア各社が保有するアーカイブコンテン ツは、戦前 (新聞) から戦後の沖縄の激動の日々を記録し、放送局は本土の情報、流行や芸能の空となりながら、同時に独自の番組を生み出してきたことを記録している。 復帰までは、新聞やニュースに刻まれているのは、占領下の自治権拡大の動き、米軍由来の事故や事件の数々、復帰が近づくと人々の望んだ形ではないことが明らかになり期待と失望が錯綜した社会の姿だ。そして、復帰の混乱、本土からの公共投資による開発と環境破壊。変わら女基地負担、海兵隊員による少女暴行事件、SACO 設置と普天間の返還決定、さらに幾度もの反対の意思表示を踏み躙る名護市辺野古の新基地建設。そして、沖縄に向けられるフェイクとヘイトの言説。 一方、テレビやラジオは、沖縄芝居や民謡などの民俗芸能から沖縄ならではのポップカルチャーを番組化して人々から支持されてきたことも浮かび上がる。 これらアーカイブコンテンツを活用することで、沖縄の独自の歴史と文化から基地問題を確認することも、新たなコンテンツを生み出すこともできる。 しかし、マスメディアのアーカイブコンテンツは、事業者のアセット・著作物でもある。社会で共有するには、その価値をできるだけの多くの人々が確認した上での合意形成と新たなデザインが必要である。 このセッションでは、復帰 50 年の記念特番で、沖縄の民放各局と NHK のアーカイブ映像を活用して制作された「ど こにもないテレビ」(NHK 沖縄放送局制作)を起点に、放送局のアーカイブの価値を確認する。 さらに、アーカイブコンテンツを活かした映画制作の取り組みから、ドキュメンタリー番組などの教育現場での利用可能性について考える。 新聞は日々起きていることを正確に伝え続け、その取材カ、ネットワークとジャーナリストの課題意識が紙面に結晶する。そして新聞紙面や記事は積み上げられていけば、壮大な地域史の記録となり、一層の価值を生むはずである。 ならば、どういう仕組みが実装されればその記録を社会共有できるのか、メディアの枠を超えて議論する 【登壇者】(確定した方のみ) ・OTV 沖縄テレビ放送山里孫存報道制作局次長 - 琉球新報社米倉外昭論説委員 - NHK 放送文化研究所大高崇主任研究員 進行吉見俊哉東京大学大学院情報学環教授デジタルアーカイブ学会会長 ## セッション6. (沖縄発) 残りにくい文化をどうするか一沖縄芝居を中心に 【会場】沖縄県立美術館・博物館【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 沖縄の大衆文化の多くは、サブカルチャーの視点からも注目が大きい。祭祀や芸能などの無形の文化も多い。これらは複雑な社会の変化の中で、複雑に絡み合いながら変化、 あるいは分化するなど、あるいは分化するなど系統立てた研究も必要である。 しかし大衆の中で育まれた分化には著作物も多く、容易にデジタル化、さらには公開できない事情など、問題は山積みのまま放置されている。 本セッションでは、多くのカテゴリーの中から、沖縄芝居に注目し、そのデジタルアーカイブを実現する可能性や利点、さらに問題点を拾い上げ、無形の文化を保存記録するためのシミュレーションを行う。 沖縄芝居は、組踊などの王朝文化が解体された琉球処分以降に下野した芸能が、大衆文化として広まり、多くは独立した芝居一座の運営によって各地で隆盛を極めた時代もあった。しかし映画、テレビの影響など時代とともに廃れつつある。しかし近年は大衆文化の記録としての重要性はもちろん、後継者育成のための台本の復元、使用楽曲の特定、 さらに写真、映像資料の保存はもちろん、芝居小屋などの周辺文化の調査、さらには著作物の保存に関する問題など、他の分野にも通ずる問題が多くあり、タイミング的にも今やらねば手遅れになる分野といえる。 ## 【登壇者】 -大宜見しょう子(沖縄芝居大伸座) ・真喜屋力 (沖縄アーカイブ研究所) $\cdot$その他調整中 ## 【企画提案者】 福島幸宏、古賀崇 ## 【企画趣旨】 “DX 化が急速に進み、社会のあらゆる事象がデジタル情報で記録されてきている。ただしまだまだそのデジタル情報をアーカイブするというところに議論が及んではいない。 そこで、デジタルアーカイブ論の視点から「デジタル公共文書 (digital public document)」という概念を提起し、その意義とその展開の可能性を考える。その際、利用者(市民、企業人、研究者等)の視点から、民間のものも含めた、公共的に利活用可能な形で蓄積されるべき「デジタル公共文書」を、新しい知識や社会生活、産業を生み出す源泉とするための方策を考える。特に今回は、沖縄の地域や現状に即しつつ、日本の状況と今後を視野に入れる形で、公共文書やそのデジタルアーカイブ化をめぐっての実例と課題を共有し、議論する機会としたい。 ## 【登壇者等】 ・古賀崇 (天理大学) $\cdot$東健二郎 (Code for Japan) ・沖縄関係者 ・福島幸宏(慶應義塾大学) ## 【進行案】 - 趣旨説明(5 分) ・報告:デジタル公共文書をめぐる論点(15 分) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246c (J-STAGE Data あり [ 講演 07-1] ・報告 : 沖縄における公共文書 | (15 分) ・報告 : 沖縄における公共文書 II(15 分) ・ディスカッション (70 分) ## セッション 8. (沖縄発) 自治体のアー カイブ活用 ## 【会場】琉球大学 50 周年記念館【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 全国の様々な自治体では、教育委員会の文化財担当等が地域資料のデジタルアーカイブを進めています。自治体によっては専用のサイトを開発し、その成果発信をはじめました。ただ、その活用に関してはまだ担当部局からの発信にとどまる場合が多く、自治体内外への波及効果が出にくい状態にあるのではないでしょうか。今回はこの問いに対して、沖縄県内でチャレンジを続ける自治体のアーキビストの方々のインタビューを聞きながら今後のデジタルアー カイブの蓄積とその活用の展開を考えていく分科会です。 ## セッション7.DX 化する社会とデジタ ル公共文書 \\ 【会場】沖縄県公文書館
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Japan Society for Digital Archive
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# 第 7 回研究大会 (沖縄 )企画セッション (スライドは J-STAGE Data に登載されます) サテライト企画セッション ## 1. デジタル時代のアーカイブの系譜学 (2022/11/13) \\ 【日時】2022 年 11 月 13 日 (日) 14:00 17:00 【企画提案者】 \\ 宮本隆史、加藤諭 (デジタルアーカイブ学会 SIG デジタ ルアーカイブ理論研究会) ## 【企画趣旨】 デジタル技術が社会基盤となった現代において、「アーカイブ」と呼ばれる制度や営みが生活に浸透してきた。現代人の生活のさまざまな局面で、「アーカイブ」が語られるようになってきている。しかし、この「アーカイブ」なるものは、自明の実体などでは決してなく、歴史的・社会的に構築されてきたものである。本セッションでは、デジタル時代の今日において「アーカイブ」と呼ばれるものに合流してきた諸系譜について歴史的に考察し、今後のデジタルアーカイブのありかたについて議論したい。 ## 【登壇者】 - 加藤諭 (東北大学) - 宮本隆史(大阪大学) - 大向一輝(東京大学) ・鈴木親彦(群馬県立女子大学) - 阿部卓也(愛知淑徳大学) - 西川開 (科学技術・学術政策研究所) ## 【進行案】 ・加藤諭・宮本隆史「デジタル時代のアーカイブの諸系譜をたどるために」(20 分) -大向一輝「デジタルアーカイブの技術史」(20 分) $\cdot$鈴木親彦「アーカイブの側面を持つ草の根活動」(20 分) ・阿部卓也「複製技術とアーカイブ」(20 分) ・西川開(コメンテーター)(10 分) ・ディスカッション(20 分) ## セッション 2.知識インフラの再設計に 向けて (2022/11/14) \\ 【日時】2022 年 11 月 14 日 (月) 14:00 16:00 \\ 【企画提案者】 数藤雅彦 (弁護士、『デジタルアーカイブ・ベーシックス』編集委員) ## 【企画趣旨】 論集『デジタルアーカイブ・ベーシックス』シリーズは、好評のうちに全 5 巻の刊行を終え、新シリーズの第 1 巻「知識インフラの再設計」も 2022 年 11 月に刊行予定である。同巻では、デジタルアーカイブに関する社会・法律・経済 などのさまざまな「制度」を分析し、そこから導かれた「課題」を乗り越えることをひとつの目的としている。 本セッションでは、図書館という知識インフラを再設計した田村俊作氏をお呼びしてその取り組みを伺い、第 1 巻の執筆者らとともに、デジタルアーカイブをめぐる諸制度が現状どうなっているか、またそこにある課題を乗り越えるためにどうすべきかを議論したい。 ## 【進行】 1 趣旨説明(数藤) 5 分 2 基調講演 「知識インフラの再設計〜石川県立図書館の取り組みを通じて〜」(30分) 田村俊作(石川県立図書館長、慶應義塾大学名誉教授) 3 パネルディスカッション(85 分) <パネリスト(敬称略、50 音順)> 小山紘一(弁護士、政策秘書) 後藤和子(摂南大学教授) 数藤雅彦(弁護士、『デジタルアーカイブ・ベーシックス』 編集委員):司会 高野明彦 (国立情報学研究所名誉教授) 田村俊作 (石川県立図書館長、慶應義塾大学名誉教授) 西川開(科学技術・学術政策研究所研究員) ## セッション 3. デジタルアーキビストを 考える $(2022 / 11 / 20)$ \\ 【日時】2022 年 11 月 20 日 (日) 15:00 17:00 \\ 【企画提案者】 デジタルアーカイブ学会人材養成・活用検討委員会 ## 【企画趣旨】 第 6 回研究大会(2021 年 10 月)においてデジタルアー カイブ学会人材養成・活用検討委員会主催で開催した「企画セッションデジタルアーキビストの在り方」の議論を継承し、デジタルアーキビストの使命とターゲット、そして養成課程について提示する。各報告者から人材養成・活用検討委員会で積み重ねた議論を報告し、その後、参加者からの発言を求めつつディスカッションを行い、デジタルアーキビストのアウトラインを検討する。 社会全体の DX 化の動きのなかで、デジタルアーカイブにあらためて期待が集まっている。これからの各団体や地域に必須の人材としてのデジタルアーキビストについて、現段階での議論をまとめ、今後の展開を見据えるためのセッションとしたい。 ## 【登壇者】 - 細矢剛(国立科学博物館) ・徳原直子(国立国会図書館) ・福島幸宏(慶應義塾大学) ・コーディネーター:井上透(岐阜女子大学) ## 【登壇者】 - 趣旨説明(5 分)井上透(岐阜女子大学) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246a (J-STAGE Data あり [ 講演 S3-1] ・報告:デジタルアーキビストの使命について(15 分) 細矢剛(国立科学博物館) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246b (J-STAGE Data あり [講演 S3-2] ・報告 : デジタルアーキビストのターゲットについて (15 分)徳原直子(国立国会図書館) ・報告:デジタルアーキビストの養成課程について(15 分)福島幸宏(慶應義塾大学) 休㗍 ・ディスカッション(50 分) ・まとめ (パネラーから各 3 分) ## セッション 4. 琉球文化のテキストアー カイビング $(2022 / 11 / 23)$ ## 【日時】2022 年 11 月 23 日 (水) 13:00 15:00 ## 【企画提案者】 永崎研宣、岡田一祐中村覚 ## 【企画趣旨】 琉球文化のテキストには豊かな多様性があり、それを適切にデジタル媒体としてアーカイブする手法を確立することは喫緊の課題である。個々の言語を記述するための言語コード、固有の音を適切に表現するための文字コード、それをテキストとして組み立てた際に効率的に利活用するための構造化するための記述ルールとしての TEI ガイドライン、書かれたテキストを見えるままに共有するための画像共有の枠組み IIIF など、琉球の貴重なテキストを適切にデジタルアーカイビングするために必要な手法やツールの現状と課題を参加者と共有し、テキストアーカイビングを通じた琉球文化の過去・未来・現在を考える。 ## 【登壇者等】 - 岡田一祐(北海学園大学・TEI 協会東アジア/日本語分科会運営委員) -冨田千夏(名桜大学環太平洋地域文化研究所共同研究員) - 中川奈津子 (国立国語研究所) - 中村覚(東京大学史料編纂所・TEI協会東アジア/日本語分科会運営委員) - 永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所・TEI 協会東アジア/日本語分科会運営委員) ## 【進行案】 ・テキストアーカイビングの技術 (岡田一祐、中村覚、永崎研宣による共同発表) ・琉球諸語の言語調査データのアーカイビング (中川奈津子 (国立国語研究所)) ・琉球歴史文書のテキストアーカイビング (冨田千夏(琉球大学附属図書館)) ・全体ディスカッション セッション 5. 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション:急変する社会における地域資料継承の “これから” を考える (2022/11/24) 【日時】2022 年 11 月 24 日 (木 ) 16:00~19:00 【企画】 主催 : 合同会社 AMANE - 国立歴史民俗博物館 共催 : 琉球大学博物館(風樹館)、他 本サテライト企画は現地でプレイベントとして琉球大学 博物館(風樹館)にて実施する企画をオンライン中継する ものです。現地イベントのお申込みはこちらからお願いい たします。 ## 【企画提案者】 堀井洋 (合同会社 AMANE) ## 【企画趣旨】 日本国内には、文書や民具など多様かつ豊富な学術資料が現存しており、それらは学術研究の観点のみならず、教育や産業など社会の発展に資する重要な資源である。一方で、急速に進む地方都市の過疎化・高齢化および地震や台風などの大規模自然災害の影響により、地域に現存する学術資料(地域資料)の保存・継承に関する状況は厳しさを増していることから、地域資料継承に関する新たな概念・手法の創出および担い手・実施体制の確立など、様々な分野や立場において取り組みが求められている。 本セミナーでは各事例の報告を通じて、調査・整理〜公 開・活用に至る各段階での専門家や市民との連携や、コミュニティ・機関・個人で継承されてきたアーカイブ資料(記録資料)の継承など、急変する社会における地域資料継承の “これから”について考える。さらに、地域資料継承は地域を問わず社会全体で共有すべき課題として捉え、学術研究者を含む多様な立場・役割の人材が関わる継承事業の意義・ あり方や、デジタルアーカイブを基盤とした資料情報の公 開・共有についても、会場全体で議論したい。 ## 【プログラム】 - 全体司会:小川歩美(合同会社 AMANE) (1) 趣旨説明(合同会社 AMANE 堀井洋・国立歴史民俗博物館後藤真)(20 分) (2) 地域資料継承に関する取り組みの報告(60 分) 山下俊介 (北海道大学水産科学研究院) 佐藤琴 (山形大学附属博物館) 佐々木健志 (琉球大学博物館風樹館) 島袋美由紀(NPO 法人沖縄ある記) 堀井美里(合同会社 AMANE) 高田良宏(金沢大学学術メディア創成センター) 休憙:10分 (3) ディスカッション(60分) 「急変する社会における地域資料継承の “これから”を考える」 ## セッション 6.ビヨンドブック・プ ロジェクト:新しいフェイズへ (2022/11/28) 【日時】2022 年 11 月 28 日 ( 月 ) 17:00 19:00 ## 【企画提案者】 柳与志夫 (東京大学) ## 【企画趣旨】 昨年の研究大会サテライトセッションにおいて発表したビヨンドブックの第 1 次プロトタイプに続いて、改めて多方面からの検討を加えた第 2 次プロトタイプ制作に向けてのプロダクトコンセプトを提示する。こうした「新しい本」 を探求する社会的な意義についても考察したい。 ## 【企画概要】 報告とパネルディスカッションで構成する。 構成 1 趣旨説明(柳) 5 分 2 報告 (1) 第 1 次プロトタイプ制作の意義と課題 (美馬) 15 分 3 報告 (2) バックキャスティングで考える「新しい本」 (渡邊) 30 分 「新しい本」と私たちの未来(東京大学 1 年生 : 冨田萌衣) を含む。 4 パネルディスカッション(60 分) <パネリスト(敬称略、50 音順)> ・植村八潮(専修大学教授) -小林エリカ (作家・漫画家) - 美馬秀樹 (京都大学特定教授) - 柳与志夫(東京大学特任教授):司会 - 渡邊英徳(東京大学教授) セッション 7. 分散型の情報基盤技術を 用いた DA 活用と展望 $(2022 / 12 / 1)$ ## 【日時】2022/12/1 (木) 18:00 20:00 ## 【企画提案者】 嘉村哲郎 (東京藝術大学芸術情報センター) ## 【企画趣旨】 ここ数年、分散型の情報基盤技術を用いた実験的試みやサービスの研究開発が著しい。特に 2021 年にクリスティー ズで行われたデジタルアート作品のオークションにおいて、非代替性トークン (NFT) を用いたデジタル画像が約 75 億円で落札されたことが公表されると、トークンの発行やデータ流通を実現する周辺技術への注目と Web におけるデジタルコンテンツ活用と流通の可能性に対する期待の熱が爆発的に高まった。 本企画では、デジタルコンテンツの流通や活用の点から、 NFT をはじめとする関連技術とデジタルアーカイブの可能性や展望を議論する。 ## 【進行案】 - 進行 : 嘉村 ・報告内容 1. 分散型情報技術に関する概説 ( 東京藝術大学芸術情報セ ンター: 嘉村 ) 2. アート分野の NFT に関する現状調査報告 (野村総合研究所 : 寻屋氏) 3. 国内における地方創生 $\times$ NFT 活用の取組 (slash : 加藤氏) 4. 小学館メタバース 1: ブロックチェーン推進室よりご報告 (小学館: 川邊氏) 5. 小学館メタバース 2: XR 推進室よりご報告 (小学館: 嶋野氏 LATEGRA: 伊藤氏) 6. ディスカッション 今後の DA やコンテンツ活用の可能性等を議論したいと考えています。 ## 沖縄現地企画セッション ## 6 【午前セッション】2022 年 11 月 26 日 ( 土 ) 10:00 12:00 セッション 1.「文脈」を伝える一一アジア・アフリカをアーカイブするための方法的探究 【会場】沖縄県立図書館 ## 【企画提案者】 熊倉和歌子、東京外国語大学 TUFS フィールドサイエン スコモンズ ## 【企画趣旨】 今日、研究者により、アジア・アフリカ地域の言語や文化を研究対象とするデジタルアーカイブが構築され、研究や教育への利活用が進められている。そうした動きは、さまざまな形でその地域の理解を促進するものであり、地球一体化の時代においてますますその需要は高まっている。他方、デジタルアーカイブは、既存の情報資源の電子的な指標化や保存、大規模なデータの蓄積や参照、検索機能やネットワーク構築を通した情報の連携や発信などを通して、情報資源の飛躍的な構築や発信が可能となり、その社会的な影響も大きなものとなっている。そうした中で、デジタルアーカイブの存在が現地社会に及ぼすさまざまな影響も考えられ、検討を要する問題も多い。特定の地域文化についてとりあげることにより、アーカイブ自体が政治性を打びるためである。 第一に、静的なイメージの固定化があげられる。デジタルアーカイブにおける情報の取り上げ方や利用者の知識や理解の程度によっては、デジタルアーカイブがその地域にかんする固定的なイメージを作りあげてしまい、研究や教育に携わる構築者の意図を離れて利用されうることが懸念される。アーカイブの対象がマージナルなものであればあるほど、その懸念は強まる。第二に、その地域の情報がアー カイブされ、広く発信されることによって、現地社会のもつ知識の搾取など、現地の人々に何らかの不利益が生じる可能性も想定される。これらの問題は、デジタル情報資源に関する固有の権利の保護などの喫緊の課題に関わる同時に、公共財としてそれを適正に保全し、将来の利活用に道を開くことにも結びつくだろう。 このような問題に対して、「他者」である研究者は何を意識し、どのような方法でデジタルアーカイブを作り、発信すればよいのだろうか。この問題を考えるにあたり、私たちは「文脈」つまり、アーカイブの対象のそばにいる人々が形成するコミュニティや、その歴史的・文化的な背景の重要性に注目する。デジタルアーカイブの構築において、 そうした「文脈」をどのように扱うべきか、また、「文脈」 をいかにしてデジタルアーカイブとともに伝えるか、本企画セッションでは、そうした問題意識に立ち、アジア・アフリカ地域を対象としたデジタルアーカイブ構築の事例を踏まえながら、問題点を共有し、現地の人々とともにあるデジタルアーカイブ構築の方法を検討する。 ## 【登壇者等】 ・司会:熊倉和歌子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所) ・パネラー 1:倉部慶太(東京外国語大学アジア・アフリ力言語文化研究所) ・パネラー 2 :野林厚志(国立民族学博物館) ・パネラー 3 : 深見奈緒子 (日本学術振興会カイロ研究連絡センター)・吉村武典 (大東文化大学) ・コメント:木村大治(京都大学名誉教授) ## 【進行案】 1. 趣旨説明(5 分): 熊倉和歌子 2. パネル 1(20 分) 3. パネル 2(20 分) 4. パネル 3 (20 分) 5. コメント (10 分) 6. 総合討議 (25 分) ## セッション 2. (沖縄発 ) 形あるもの、 \\ 沖縄の歴史の DA 化 ## 【会場】沖縄県立美術館・博物館 【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 日本はもとより海外とも多くの文化的交流を経て、独自の文化を築き上げた沖縄には、独特な文化財が多く存在する。しかし古来からの貴重な文化財の多くは、戦争で消失、散逸している。また 2020 年の首里城火災においては、精緻な復元によって厷った工芸品などとともに多くの文化財が消失した。防災対策はもちろんだが、不慮の事故は常に怒る可能性を秘めている。失われる可能性のある形あるものを保存、展示する手法としてデジタルアーカイブは、こういった問題に一定の役割を担えると言えるだうう。 今、沖縄のアーカイブや文化行政は、デジタルアーカイブの構築をどのように考え、問題点を抱えているのだろうか? また観光立県として、デジタルアーカイブを利用で得られる可能性など、経済的な分野へ可能性なども含め、沖縄の有形文化財に対する現状を語る。 ## セッション 3. (沖縄発) 戦後文書資料 と展示〜一次資料保存と DA 化の連動〜公文書館と民間資料施設の“復帰 50 年" \\ 【会場】沖縄県公文書館 \\ 【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 【企画趣旨】 「沖縄県公文書館」では復帰 50 年にあわせ、企画展「Part.1: 民主主義のショーウインドーーアメリカ統治の光と影(2021/7/30~12/28)」「Part.2: 軍用地政策の変遷一基地のない島から基地の島へ沖縄の変貌を紐解く(2022/2/1 ~4/24)」「Part.3: 日本復帰と沖縄展(2022/5/13~ 12/28)」をシリーズ開催。公文書館ならではの歴史への光の当て方に加元、VR 展示から目録〜 Web 閲覧をシームレスにつなぐ「デジタル導線」の工夫が脚光をあびている。本セッションではその考え方と DA 化の現状を報告いただく。 一方、民衆の戦後史を考えるうえでは、私文書の保存・公開も需要な課題だ。その活動の代表例として草の根で支援の輪を広げてきた「不屈館一瀬長亀次郎と民衆資料」の現状についても紹介いただく。 この二つの事例から、「文書資料」の収蔵〜活用における技術や制度の果たすべき課題について共有を図り、討議を深めていきたい。 ## 【登壇者等】 ・プレゼンテーター:沖縄県公文書館大城博光さん : 不屈館内村千尋さん ・司会:水島久光コメンテータ:(検討中) ## セッション 4. デジタルアーカイブ憲章 をみんなで創る円卓会議 in 沖縄【会場】琉球大学 50 周年記念館 ## 【企画提案者】 デジタルアーカイブ学会法制度部会 ## 【企画趣旨】 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、デジタルアー カイブ振興に向けた社会的認知を高めるとともに、めざすベきデジタルアーカイブ社会の姿と、我々がデジタルアー カイブの普及・活用促進において従うべき羅針盤を広く共有するため、『デジタルアーカイブ憲章(仮称)』の策定・公表に向けた検討を進めている。それは学会内に閉じた議論ではなく、社会各層の人々を巻き込んだ公開討議を積み重ねていくことによって実現されるものである。今後、沖縄大会以前にも参加者層の異なる幾つかの円卓会議開催を予定しているが、本大会では、それまでの議論を踏まえながら、沖縄の歴史的・地域的特性を活かしつつ、地域アーカイブ振興の観点からの憲章案を検証していきたい。 デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議についてはこちら ## 【プログラム】 - 挨拶:吉見俊哉(東京大学大学院教授、デジタルアーカイブ学会会長) ・本会議の趣旨と進行 : 福井健策(弁護士、デジタルアー カイブ学会法制度部会長) ・デジタルアーカイブ憲章(案)の概要: ・ラウンドテーブル ・参加者からの質問・意見 【登壇者】(五十音順) $※ 2022$ 年 10 月 23 日現在 -太下義之(文化政策研究者、同志社大学教授) - 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター准教授) - 呉屋美奈子(恩納村文化情報センター係長、沖縄国際大学非常勤講師) -平良斗星 (公益財団法人みらいファンド沖縄副代表理 事、沖縄デジタルアーカイブ協議会運営委員) ・田村卓也 (南城市教育委員会デジタルアーカイブ専門 員 ) ・平田大一(沖縄文化芸術振興アドバイザー、演出家、脚本家、南島詩人) - 福井健策 : 司会 - 三好佐智子(EPAD2022 事務局長、有限会社 quinada 代表取締役社長) - 柳与志夫(東京大学大学院特任教授) ## 【午後セッション】2022 年 11 月 26 日 ( 土 ) 14:00~16:00 ## セッション5. (沖縄発) 沖縄のマスメ ディアのアーカイブコンテンツの価値 と可能性 \\ 【会場】沖縄県立図書館【企画提案者】 \\ 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【進行】 吉見俊哉東京大学大学院情報学環教授 / デジタルアー カイブ学会会長 ## 【企画趣旨】 沖縄のマスメディアは何を伝えてきたのか。 それぞれのメディア各社が保有するアーカイブコンテン ツは、戦前 (新聞) から戦後の沖縄の激動の日々を記録し、放送局は本土の情報、流行や芸能の空となりながら、同時に独自の番組を生み出してきたことを記録している。 復帰までは、新聞やニュースに刻まれているのは、占領下の自治権拡大の動き、米軍由来の事故や事件の数々、復帰が近づくと人々の望んだ形ではないことが明らかになり期待と失望が錯綜した社会の姿だ。そして、復帰の混乱、本土からの公共投資による開発と環境破壊。変わら女基地負担、海兵隊員による少女暴行事件、SACO 設置と普天間の返還決定、さらに幾度もの反対の意思表示を踏み躙る名護市辺野古の新基地建設。そして、沖縄に向けられるフェイクとヘイトの言説。 一方、テレビやラジオは、沖縄芝居や民謡などの民俗芸能から沖縄ならではのポップカルチャーを番組化して人々から支持されてきたことも浮かび上がる。 これらアーカイブコンテンツを活用することで、沖縄の独自の歴史と文化から基地問題を確認することも、新たなコンテンツを生み出すこともできる。 しかし、マスメディアのアーカイブコンテンツは、事業者のアセット・著作物でもある。社会で共有するには、その価値をできるだけの多くの人々が確認した上での合意形成と新たなデザインが必要である。 このセッションでは、復帰 50 年の記念特番で、沖縄の民放各局と NHK のアーカイブ映像を活用して制作された「ど こにもないテレビ」(NHK 沖縄放送局制作)を起点に、放送局のアーカイブの価値を確認する。 さらに、アーカイブコンテンツを活かした映画制作の取り組みから、ドキュメンタリー番組などの教育現場での利用可能性について考える。 新聞は日々起きていることを正確に伝え続け、その取材カ、ネットワークとジャーナリストの課題意識が紙面に結晶する。そして新聞紙面や記事は積み上げられていけば、壮大な地域史の記録となり、一層の価值を生むはずである。 ならば、どういう仕組みが実装されればその記録を社会共有できるのか、メディアの枠を超えて議論する 【登壇者】(確定した方のみ) ・OTV 沖縄テレビ放送山里孫存報道制作局次長 - 琉球新報社米倉外昭論説委員 - NHK 放送文化研究所大高崇主任研究員 進行吉見俊哉東京大学大学院情報学環教授デジタルアーカイブ学会会長 ## セッション6. (沖縄発) 残りにくい文化をどうするか一沖縄芝居を中心に 【会場】沖縄県立美術館・博物館【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 沖縄の大衆文化の多くは、サブカルチャーの視点からも注目が大きい。祭祀や芸能などの無形の文化も多い。これらは複雑な社会の変化の中で、複雑に絡み合いながら変化、 あるいは分化するなど、あるいは分化するなど系統立てた研究も必要である。 しかし大衆の中で育まれた分化には著作物も多く、容易にデジタル化、さらには公開できない事情など、問題は山積みのまま放置されている。 本セッションでは、多くのカテゴリーの中から、沖縄芝居に注目し、そのデジタルアーカイブを実現する可能性や利点、さらに問題点を拾い上げ、無形の文化を保存記録するためのシミュレーションを行う。 沖縄芝居は、組踊などの王朝文化が解体された琉球処分以降に下野した芸能が、大衆文化として広まり、多くは独立した芝居一座の運営によって各地で隆盛を極めた時代もあった。しかし映画、テレビの影響など時代とともに廃れつつある。しかし近年は大衆文化の記録としての重要性はもちろん、後継者育成のための台本の復元、使用楽曲の特定、 さらに写真、映像資料の保存はもちろん、芝居小屋などの周辺文化の調査、さらには著作物の保存に関する問題など、他の分野にも通ずる問題が多くあり、タイミング的にも今やらねば手遅れになる分野といえる。 ## 【登壇者】 -大宜見しょう子(沖縄芝居大伸座) ・真喜屋力 (沖縄アーカイブ研究所) $\cdot$その他調整中 ## 【企画提案者】 福島幸宏、古賀崇 ## 【企画趣旨】 “DX 化が急速に進み、社会のあらゆる事象がデジタル情報で記録されてきている。ただしまだまだそのデジタル情報をアーカイブするというところに議論が及んではいない。 そこで、デジタルアーカイブ論の視点から「デジタル公共文書 (digital public document)」という概念を提起し、その意義とその展開の可能性を考える。その際、利用者(市民、企業人、研究者等)の視点から、民間のものも含めた、公共的に利活用可能な形で蓄積されるべき「デジタル公共文書」を、新しい知識や社会生活、産業を生み出す源泉とするための方策を考える。特に今回は、沖縄の地域や現状に即しつつ、日本の状況と今後を視野に入れる形で、公共文書やそのデジタルアーカイブ化をめぐっての実例と課題を共有し、議論する機会としたい。 ## 【登壇者等】 ・古賀崇 (天理大学) $\cdot$東健二郎 (Code for Japan) ・沖縄関係者 ・福島幸宏(慶應義塾大学) ## 【進行案】 - 趣旨説明(5 分) ・報告:デジタル公共文書をめぐる論点(15 分) https://doi.org/10.24506/jsda.6.s3_s246c (J-STAGE Data あり [ 講演 07-1] ・報告 : 沖縄における公共文書 | (15 分) ・報告 : 沖縄における公共文書 II(15 分) ・ディスカッション (70 分) ## セッション 8. (沖縄発) 自治体のアー カイブ活用 ## 【会場】琉球大学 50 周年記念館【企画提案者】 第 7 回研究大会実行委員会 ## 【企画趣旨】 全国の様々な自治体では、教育委員会の文化財担当等が地域資料のデジタルアーカイブを進めています。自治体によっては専用のサイトを開発し、その成果発信をはじめました。ただ、その活用に関してはまだ担当部局からの発信にとどまる場合が多く、自治体内外への波及効果が出にくい状態にあるのではないでしょうか。今回はこの問いに対して、沖縄県内でチャレンジを続ける自治体のアーキビストの方々のインタビューを聞きながら今後のデジタルアー カイブの蓄積とその活用の展開を考えていく分科会です。 ## セッション7.DX 化する社会とデジタ ル公共文書 \\ 【会場】沖縄県公文書館
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# [E23] デジタルアーカイブにおける分散型情報技術を用 いたコンテンツ管理と流通 ○嘉村哲郎 1)2) 1)東京藝術大学 芸術情報センター,〒110-8714 東京都台東区上野公園 $12-8$ 2)特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ ## Content Management and Distribution for Digital Archive using Distributed Ledger Technology \\ KAMURA Tetsuro ${ ^{12)}$} 1)Art Media Center, Tokyo University of the Arts, 12-8 Uenopark, Taito-ku, Tokyo, 110-8714 2)Linked Open Data Initiative ## 【発表概要】 本発表では、Web3 の文脈で語られる分散型台帳技術をはじめとする通信や暗号化技術、仕組み等を分散型情報技術と称し、これらをデジタルアーカイブ(DA)に導入することで、DAが抱えるデジタルコンテンツの管理と流通に関する課題解決の可能性を技術的側面から考察する。 ## 1.はじめに ここ数年、分散型台帳技術を用いた実験的試みやサービスの研究開発が著しい。ブロックチェーン技術と非代替性トークン(NFT)の可能性は、2010年代から注目されていたが[1]昨今の潮流は 2021 年のアートオークションで NFT と紐付いた画像が約 75 億円と類い希な落札価格が公表されると、トークンや周辺技術、デジタルコンテンツ活用への期待が爆発的に高まった。 本稿は、Web3 の文脈で語られる分散型台帳や関連技術等をデジタルアーカイブ(DA)に適用することで、DA が抱える課題のうち、小規模組織における恒久的なデータ保存と公開、DA 運用コストの解決可能性に着目し、 これからのデジタルコンテンツ管理と流通の一考察を述べる。関連研究には、ブロックチエーン技術を用いたデジタル文化財の保存等の取組等がある[2]が、本稿ではデータ保存に加え、その価値や信頼性と貢献、運用コストの面でDA の課題解決を目指すことにある。 ## 2. Web3 と Web3.0 Web3 とはブロックチェーン基盤の一つであるイーサリアムの共同創設者ギャビン・ジエームズ・ウッドによって2014年に提唱された Web 構想である。この文脈で語られる次世代 Web は、巨大インターネット企業により収集・管理されてきた個人データを自らが適切に制御して利用できるデータの民主性をコン セプトに脱中央集権型の Web またはネットワ ーク社会を目指すものとして話題となった。 一方、Web1.0 から 2.0 そして 3.0 に繋がる源流は Web の発明者であるティム・バーナー ズ=リーに由来する。Web3.0 は、セマンティック Web の文脈で語られ、Web オントロジー 言語や RDF、LOD 等の基盤技術を中心に、 データの内容を人間だけで無くコンピュータもその意味を理解できるようにすることで、 データ間の意味関係を考慮したグラフ検索やリンクによるデータ価值向上を図る仕組みとして提唱[3]され、現在も研究開発が続く。 それぞれが提唱する次世代 Web は、性質や思想が異なるため同一に考えることは難しいが、Web で人類社会の発展を推進していくという点は共通するだろう。 本稿ではティム・バーナーズニリーが提唱する次世代 Web を Web3.0、分散型情報技術を用いた脱中央集権型のネットワーク社会を目指すWebを Web3 と示す。 ## 3. 分散型台帳とブロックチェーン技術 Web3 の中心的な技術要素である分散型台帳技術とは、ネットワーク上の複数サーバ(ノ ード)が同一の台帳(データベース)を保持してデータ管理する仕組みの総称である。分散型システムとは、データを中央で管理するクライアント・サーバモデルではなく、ネットワ ーク上の複数サーバが同一データを保持する。 そのため、ネットワークを構成するサーバの 一部が機能不全に陷った場合でも、他のサー バが役割を補うため耐障害性に強いとされている。また、データ管理に電子署名やハッシユ等の暗号化技術を用いることでデータ透明性や耐改ざん性を持つ。 ブロックチェーン技術とは、分散型台帳技術の一種であり、ネットワークを構成する全てのサーバにデータを自律的に複製してサー バ間の整合性を保持する機能を持つ自立分散型システムである。ブロックチェーンは、デ一夕処理が発生するとブロックと呼ばれるデ一夕の塊を時系列順に数珠のようにつないで記録していく。この時、ネットワークに参加するサーバが内容の検証を行い、データがチエーンに記録されると第三者が一連の処理内容を履歴で確認できるよう透明性が担保されている。そして、ブロックチェーンは、デー 夕改ざんを図るならば、ネットワークの全サ一バに対してデータを改ざんする必要があるため、現実的に不可能とされている。 ## 3. $1 \mathrm{NFT$ :代替性と非代替性の価値} NFT とは、ブロックチェーン技術を用いて作られる非代替性トークン Non-Fungible Token の略称である。Fungible は “代替可能” や“代用できるもの”、Non-Fungible は “代替不可”、“代用できないもの”として、それぞれ次のように解釈できる。Fungible: 日本銀行が発行する一万円券は法定通貨として一万円の価値を有し、紙幣には識別子が付与されている。複数枚の一万円券があったとき、個々の識別子が異なる場合でも通貨の価値は同じ一万円である。つまり、それらは同じ価値を持ち、代替(交換)可能なものである(識別子がぞろ目などは考慮しない)。NonFungible:ある人が神社でお茂いを受けて、御札を受け取ったとする。この札は神社で販売されている札と同じものだが、その人物にとってお祓いを受けた札は販売中の札と代替できる物では無く、唯一性の価值を持つ。つまり、形状等が同じであっても、文脈により非代替性の価値を持つ。このように、NFT とは唯一性の価値や信頼を、耐改ざん性を有するブロックチェーン技術で管理・実現する仕組みである。 ## 3. 2 NFT と価値分配 2022 年 9 月現在、広く利用されている NFT 基盤はイーサリアムである。イーサリアムは、 2014 年から運用が始まった暗号資産または仮想通貨の一つであり、ビットコインが通貨的機能に特化していることに対し、ブロックチエーン技術をコンテンツ流通など多様な用途に使えるよう開発が進められているプラットフォームの総称である。そのため、イーサリアムはトークン発行、売買、決済時の手数料支払い等の用途で広く利用されている。 ビットコインと大きく異なる点は、トークンの流通において価値分配を可能するスマー ト・コントラクトと呼ばれる仕組みを実現していることにある。スマート・コントラクトは、決められた条件に基づいて自立的に動作するブロックチェーン上のプログラムと解釈される。以下、アート作品の流通における利用例を示守(図 1)。 図 1. スマート・コントラクトの利用例 アート作品の流通には一次市場と二次市場がある。一次市場は、個人やギャラリー等が直に作家と取引するため、作家は直接対価を得られる。一方、二次市場は作品を購入した者がオークションなどの競売に出すことで作品が流通する市場である。そのため、出品者は落札された価格のうち、出品手数料等を除いた対価を得られるが、制作者である作家には一切収益がないため一連の仕組みは長らく問題とされてきた。スマート・コントラクトは、この課題解決方法の一つとして注目されている。例えば、作品が二次流通で取引され た際、代金の支払いを出品者の送金に加えて、一部を作家に支払われるよう設定しておくことで、作品が取引される度に対価の一部を作者に還元できる。さらに、所有者情報は分散型台帳に記録されてネットワークに配置されるため、改ざんが困難な来歴情報として利用できる。 ## 3. 3 NFT の実態 NFT の実態は、イーサリアム標準規格 ERC-721[4]に準拠した JSON 形式のメタデー タである。現在のブロックチェーンの仕組み上、NFT に記録できるデータはハッシュ值や簡単な作品情報などの内容に限られ、NTF に対応する画像は一般的な Web で扱うメディアデータのリンクとして扱われる。これは、 NFT はブロックチェーンで管理されるため、改ざんや削除といった危険性は少ないが、メディアデータはサーバの故障等でデータを消失する可能性があることを意味している。そのため、NFT が扱うメディアデータの保存は、惑星間ファイルシステムや既存のクラウドストレージサービス等が用いられる。 ## 3. 4.惑星間ファイルシステム 一般的に広く利用されている Dropbox 等のクラウドストレージは、企業という中央管理者が存在する。一方、惑星間ファイルシステム InterPlanetary File System(IPFS)は、中央管理者を必要とせずストレージのネットワ ークに参加する全てのコンピュータにデータを分散保存して共有・管理する仕組みを用いた分散型ストレージシステムである。 IPFS は、分散型システムのため耐障害性の特徴を持つが、ブロックチェーンのようなデ一夕自体の耐改ざん性や履歴管理の機能を持たない。しかし、IPFS はデータ保存時にデー タのハッシュを生成してその值をコンテンツ識別子に用いることから、ハッシュ値の変更を検知する仕組みを用いればデータの更新や改ざんを検知できる。例えば、NFT にハッシユを記録することで耐改ざん性や第三者によるデータ検証が可能になる。その他の方法には、既存の電子記録文書の管理に用いられている電子認証や電子公証の仕組みを用いても実現可能である。 ## 4. 分散型情報技術とコンテンツ管理 小規模組織がデジタルアーカイブに取り組む課題の一つに、保存のためストレージやデ一夕公開基盤の永続的な運用とそのコストがあげられる。国内最大の DA プラットフォー ム「ジャパンサーチ」は、組織から提供されたメタデータをプラットフォームで管理するが、コンテンツデータは各組織の情報システムに依存する。そのため、データ公開システムを保有しない、または運用が困難な組織は参加が難しい。そこで、本稿は分散型情報技術を用いたストレージシステム基盤の提供と運用コストの解決を提案する。 ## 4. $1 \mathrm{DA$ コンテンツの保存と公開} 図 2.IPFS とNFT を組合せたストレージサービス案 DA コンテンツの保存と公開は、IPFS を用いた DA 専用のストレージネットワーク (DASN) 構築を提案する(図 2)。IPFS サーバは、 プライベート構成を用いて全国の大学等、信頼のある組織に設置することで、範囲を限定したデータ管理が可能になる。これにより、中長期的なデータ保存と公開の可能に加え、複数拠点による同一データの保持は災害や障害対策など BCP/DR の観点でも有益がある。 さらに、ストレージへのデータ保存時に所有者等のメタデータを記載した NFT を発行することで、データ所有者や公開元の証明、来歴管理の他にトークンを用いたライセン管理、 デジタル貸出など様々なデータ活用が期待できる。ただし、トークン発行にはブロックチエーン基盤が必要になるため、長期的な運用 と信頼性を考慮すると、文化財データを対象にした DA 専用のブロックチェーンネットワ ーク(DABN)の構築を検討すべきである。 ## 4. 2 コンテンツデータの活用 IPFS で公開される画像データ等の利用は、 IPFS プロトコルを用いるが、2022 年 9 月時点で Google Chrome 等のウェブブラウザは非対応である。現状は API や別途ソフトウェアを利用する必要があるが、今後の普及次第では標準になることも十分考えられる。そして、有償コンテンツの貸借を考えるならば、NFT のレンタル機能(ERC-4907)を利用する方法がある。本機能は、NFT の所有情報を移転せずに複数相手にデータの貸借を行うことができるため、レンタル費用の支払いが暗号資産に対応するならば、その対価を自動的にデータ提供元や DASN 参加組織へ分配して運用費に充てることができる。このようなデータ活用を検討するならば、一次データを使用して作成された二次創作物の取扱いや収益配分率など検討すべき事項は多岐に渡る。分散型情報技術の成熟と普及に伴い、従来の Web サービスでは実現が困難であったコンテンツ活用が可能になりつつある。 ## 5. おわりに 本稿では分散型情報技術を用いて DA が抱える課題解決の可能性を技術的側面から検討し、特にデジタルコンテンツの管理と流通を中心に考察した。一連の技術は、発展途上だが基盤技術として着実に進歩を続けており、 2022 年の NFT に関わる動向では、レンタル機能の実装、発行後の譲渡不可トークン Soul Band Token(SBT)理論の提唱[5]、イーサリアムの環境を改善した Proof of Stake(PoS)の導入など、分散型情報技術は新たなステージに入ったと言える。その傍ら、脱中央集権を掲げるものの NFT アートは OpenSea が従来の巨大企業と同様の態様を形成しており、結局 は中央に集約されているという指摘もある。世界中で多様な議論が交わされている中で、 デジタルコンテンツと親和性の高い分野では積極的な導入や活用の試みが進む。博物館等文化財の分野では、大英博物館による葛飾北斎のパブリックドメイン画像の NFT をはじめ、米国マイアミ美術館やボストン美術館、台湾故宮博物院等がデータ販売やコミュニティ構築の試みを行っている。 NFT の複製は不可能だが、画像は複製可能なデータであり、これらに高額な費用を投じて所有することの意義は何か。NFT アートを発端に動き出した新たなコンテンツ活用と流通は、メタバースやゲーム利用のほか、関連技術は金融や物流、農林水産等や多様な業種への展開が見られる。今後は、引き続き DASN 及び DABN と共に今回は扱えなかった分散型の情報資源識別子や中心権限を持たずに全参加者が平等な立場でコミュニティやプロジェクト運営を行う分散型自律組織、SBT の可能性など、これからのデジタル社会における DA のあり方を検討していきたい。 ## 参考文献 [1] 施井泰平. ブロックチェーン技術のアート産業への応用可能性, 研究技術計画, 2019, 34 巻, 4 号, p.367-376. https://doi.org/10.20801/jsrpim.34.4_367 [2] Trček, D. Cultural heritage preservation by using blockchain technologies. Herit Sci 10, 6, 2022. https://doi.org/10.1186/s40494021-00643-9 [3] "The Semantic Web Revisited" in IEEE Intelligent Systems, vol. 21, no. 03, pp. 96101, 2006. https://doi.org/10.1109/MIS.2006.62 [4] EIP-721: Non-Fungible Token Standard, https://eips.ethereum.org/EIPS/eip-721 (参照 2022-09-15). [5] Weyl, Eric Glen and Ohlhaver, Puja and Buterin, Vitalik, Decentralized Society: Finding Web3's Soul, 2022. http://dx.doi.org/10.2139/ssrn. 4105763
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# [E22] 長崎の原爆を前後にして米軍が記録した航空写真 の画像処理(その 1 ) 全 炳徳 1 ) 1)長崎大学情報データ科学部,〒852-8521 長崎市文教町 1-14 E-mail: bdjun@nagasaki-u.ac.jp ## Image processing of aerial photographs taken by the U.S. military before and after the atomic bombing of Nagasaki (Part 1) JUN Byungdug1) 1) Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki, 852-8521 Japan ## 【発表概要】 今から凡そ 77 年前の 1945 年 8 月 6 日と 9 日,広島と長崎に原子爆弾が投下された。アメリ力軍の戦略爆撃機 B-29によるものだった。この約 8 カ月前,戦略爆撃機 B-29を改造して F-13 と呼ばれる写真偵察機が,広島と長崎など原子爆弾を投下するための情報収集を当たった。当時としては最先端の航空写真測量によるものだった。本論での発表内容としてはアメリカの写真偵察機による航空写真関連の内容について触れるとともに, 新しく取り組んだ画質の高度化のため研究内容について発表する。更に,近年普及しているクラウド環境を活用した平和教育教材のためのデジタルアース・システムについての内容も発表に盛り込む。本論では長崎の原爆前後のデジタルデータ(1945 年 8 月 7 日と 9 月 7 日)の合計 58 枚を処理しており, オリジナルデータに近い画質向上のため ArcGIS と Adobe Photoshop を活用して解析を実施した。 ## 1. はじめに アメリカ軍の戦略爆撃機 B-29を改造した写真偵察機の F-13 が軍事機密情報を収集するために日本列島に初めて飛来したのは 1944 年 11 月 1 日の東京上空だった。それは F-13の写真偵察機がサイパンの基地に配備されたのが 1944 年 10 月 30 日であり, その僅か 2 日後の最初の任務に当たるためであった。その後, 日本全土を隈なく特殊カメラのフィルムに収め, 日本列島の軍事機密情報の収集に専念した。その回数は写真偵察機 F-13 の 1944 年 11 月 1 日から 1945 年 9 月 11 日までの作戦一覧を確認すると,474 回に上る[1]。ほぼ毎日 1 回から 2 回の任務に当たったことになる。 1945 年 4 月 27 日, 原爆投下候補地についての第 1 回目目標検討委員会がワシントンで招集され, 東京湾, 川崎, 横浜, 名古屋, 大阪, 神戸, 京都, 広島, 呉, 八幡, 小倉, 下関, 山口, 熊本, 福岡, 長崎, 佐世保の 17 力所が原爆投下の研究対象と選ばれた $[2]$ 。長崎周辺の写真偵察機 F-13 による機密基地の撮影は 1945 年 3 月 9 日を皮切りに, 検討委員会後徐々に増え始めた。筆者がワシントン郊外の カレッジパーク・国立公文書館の検索エンジンを使って調べた結果, 1945 年 3 月から 8 月までの間に F-13 により長崎周辺を撮影され写真フィルムを収めている筒状の缶(写真 1 ) だけでも 19 個あることを確認している[3]。 写真 1. 1945 年 3 月 9 日用のフィルム缶 写真 2. フィルム缶の中身を確認する様子 アメリカ国立公文書館に公開された情報は誰もがアクセス可能となっており, その利用についても広く公開されている[4][5]。本論で取り扱う航空写真フィルムについては, 写真 2 で示されているように,フィルム缶の中身を確認する特殊装置を必要としており, 装置の上部にカメラを設置してフィルムの内容を撮影, 写真 3 のようにデジタルデータとしてカメラに納めることができる。しかし,その画質は撮影カメラにより異なり, 高画質のカメラであるとしてもフィルムスキャナーを使っての結果に比べるとかなり解像度が落ちる。内容の確認程度で満足するしかない。 そこで, 本研究では日本地図センターから購入したもので,フィルムスキャナーにより解像度 $1200 \mathrm{dpi}$ として均一にスキャンしたデジタルデータを用いている。画像処理を行ったのは長崎に原子爆弾が投下される前と後のもので, 1945 年 8 月 7 日のデータ 16 枚(原爆前), 1945 年 9 月 7 日のデータは 42 枚(原爆後)の合計 58 枚のデータである。 58 枚のデータは K-18 カメラ(写真 4)により撮影されたもので,フィルムサイズが 18 インチ $\times 9$ インチ $(450 \mathrm{~mm} \times 230 \mathrm{~mm})$ の縦より横が長い変わった形をしている[5]。そこで, 日本地図センターは 1 枚のフィルムを 2 枚に分けてスキャニングして制作しており,オリジナルデータは原爆前が 8 枚,原爆後が 21 枚となる。 ## 2. 画像処理 ## 2. 1 スキャニングデータのマージ作業 日本地図センターから購入したデジタルデ一夕は上述したように,特殊カメラの K-18 写真 3. フィルムをカメラに収めた写真 写真 4. K-18 の外観と装置の説明文[6] より撮影された 1 枚のオリジナル写真を, 2 枚の写真に分けてスキャニングをしており, 1 枚のオリジナル写真の中央部分が少し重なるような形で 2 枚構成のデジタルデータとなっている。これは中央の同じ部分が重なって撮影されたパノラマ写真に似ており, 本研究では Photoshop の Photomerge 機能を使って位置の変更のみを行う処理で,2枚の写真を 1 枚にするマージ作業を行なった。これらの作業の結果, K-18 により撮影されたオリジナル写真がデジタルデータとして再構成され, 長崎の原爆前の写真が 8 枚, 原爆後の写真が 21 枚 図 1. 原爆前の 1945 年 8 月 7 日の処理結果 のデジタルデータが作成できた。以降の全ての作業はこの 29 枚の写真により実施された。 ## 2. 2 ジオレファレンス作業 $\mathrm{K}-18$ により撮影された写真には航空写真独特の地面に対するカメラの傾きが含まれることから, 対象地域の地図に対する傾きを補正するための「ジオレファレンス作業」を行う必要がある。ジオレファレンス作業は ArcGIS Pro により行っており,ジオレファレンスの作業はマージ作業が終わった 29 枚のすべての写真に対して実施された。これらの結果を図 1 と図 2 に示す。図からも確認できるように,特殊カメラ K-18により撮影されフィルムに納められた写真は正方形となっており,フィルムスキャナーによりスキャニングされたデー タも同じく, 正方形の形をしている。しかし, ジオレファレンス作業が終わった写真は地図に対してはそれぞれの写真が傾きの異なった形をしていることが見てとれる。ジオレファレンス作業が正しく行われたことを表す。 ## 2. 3 ジオレファレンスデータのマージ作業 ジオレファレンス作業が終わった写真は原爆前のデータが 8 枚, 原爆後のデータは 21 枚ある。このようにして作成が終わった合計 29 枚のデータは, 多くの地域が重なり合ってい 図 2. 原爆後の 1945 年 9 月 7 日の処理結果 る。しかし, 重なった地域のデジタル値は必ずしも同じ地域だからといって同じ値を持っているわけではない。K-18により撮影されたフィルムの状況, 更には撮影されたフィルムのフィルムスキャナーによるスキャニングの状況等により影響されているためである。ジオレファレンス作業後, 一般的に 8 枚 (原爆前)と 21 枚(原爆後)のデータをマージすると, 写真と写真をつなぐつなぎ目の部分でデジタル値の濃淡の違いが発生し, つなぎ目が不自然な状態でマージされることになる。これらの不自然なマージ面を無くすため, 本研究では再び Photoshop の Photomerge 機能を利用してマージ作業を実施した。その結果は大変満足する結果となった。ジオレファレンス作業が完了した結果を図 3 と図 4 に示す。 これらは原爆前の写真 9 枚 (原爆前) と原爆後の写真 21 枚 (原爆後) がそれぞれ 1 枚の広い写真データとしてマージした結果である。 ここで大事なのは, ジオレファレンス作業が終わった後, Photomerge 機能によるマー ジ作業を行うことである。ジオレファレンス作業が実施されないまま, Photomerge 機能のマージ作業が実施されると, その結果はマ一ジ作業が不明なエラーとなり実施されないか, 実施されるとしても, 最終的に得られた結果は地図との整合性が取れない結果となる。 図 3.1945 年 8 月 7 日のマージ結果(原爆前) ## 3. デジタルアースシステムの構築 最終的に,デジタルアースシステムを図 5 のように構築した。本論では Re:earth システ厶を活用した。図 3 から図 5 に示された長崎市域をカバーする面積に対して写真 1 枚のマ ージしたデータになると, マージした写真デ一タの容量が大きく膨らみ, 高スペックの CPU や GPU 機能を持ったパソコンを装備する必要がある。しかも,マージした結果を表示するのはパソコンが整備された教室のみでの限界がある。しかし, 近年のデジタルアー スシステムを利用することにより,3D の高機能の画像表現が Web ブラウザから表現できるとともに,膨大なデータもクラウド上にタイルデータとして分散・保管することで,滑らかな画像転送が実現できる。しかも, iPhone やiPad などの携帯端末からも滞りない滑らかな $3 \mathrm{D}$ 結果表示機能を利用することができる。 ## 4. おわりに 本論ではアメリカ軍が撮影して米国国立公文書館に保管している長崎の原爆前後の航空写真を, ArcGIS Pro と Photoshop 等の機能を使って画像処理し, デジタルアースシステム上に表現する「平和教育教材」を得ることができた $[7]$ 。今後の課題としては, より正確なジオレファレンス作業を実施することである。 図 4.1945 年 9 月 7 日のマージ結果(原爆後) 図 5. デジタルアースシステムの構築結果 ## 参考文献 [1] 工藤洋三. 米軍の写真偵察と日本空襲 : 写真偵察機が記録した日本本土と空襲被害. 瞬報社写真印刷株式会社, 2011, p173-184. [2] 菊池良輝. 日本に投下された 49 個の模擬原爆. 東洋大学学術情報リポジトリ:アジア文化研究所研究年報. 2007, 42, p. 18-30. [3] 全炳徳. 証言 2012 : ヒロシマ・ナガサキの声. 汐文社. 2012,26, p. 272-278. [4] ゲーリー・M・スターン.アーカイブズ.国立公文書館. 2006, 23, p.1-18. [5] 金野豊彦. 米国における「情報提供制度」 の概要とその活用策. 月間パテント, 2015,68 (8), p.57-66. [6] Handbook of Instructions with Parts Catalog for Arial Camera Improved Type K18. Fairfield. 1945, Revised 20, 4p. [7] https://nagasaki-genbaku.reearth.io (参照 2022-10-01). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [E21] ビデオゲームのメタデータ拡張のためのメディア 芸術データベースと Wikipedia とのリンキング ○福田一史 1),三原鉄也 2) 1)大阪国際工科専門職大学 工科学部,〒530-0001 大阪市北区梅田 3-3-1 2) IT コンサルタント・コネクテッド社会研究機構 E-mail: fukudakz@gmail.com ## Linking Media Arts Database to Wikipedia for Video Game Metadata Enhancement FUKUDA Kazufumi ${ }^{11}$, MIHARA Tetsuya ${ }^{2)}$ 1) International Professional Unviersity of Technology in Osaka, 3-3-1 Umeda Kita-ku, Osaka-shi, Osaka-fu 530-0001 Japan 2) IT Consaltant / Research Institute for Connected Societies ## 【発表概要】 検索やデータ利活用など調査・研究のための専門分野の要求に基づく、メタデータのリッチ化は一つの論点であるが、データ作成コストが課題となる。その解決策として、オープンデータとのリンキングは有効な戦略である。ビデオゲーム分野では、オンラインコミュニティが生成するゲーム作品データセットが評価を集めており、同時にアーカイブ機関が生成する現物資料の書誌データ作成も活発化しつつある。本研究は効率的なメタデータの拡張や補完・検証を目的に、メディア芸術データベースのビデオゲームパッケージリソースと、Wikipedia より抽出したビデオゲームリソースのリンキング実践について報告する。Wikipedia のゲームタイトル一覧から情報を抽出し、メディア芸術データベースの関連するリソースを機械的にリンクさせた。その結果、多くのリソースで適切なリンクが確認できたが、Wikipedia の利用者要求や記述ルールの不統一に起因する課題と限界が明らかになった。 ## 1. 背景 検索やデータ利活用など調査・研究のための専門分野の要求に基づく、メタデータのリッチ化はアーカイブ構築における一つの論点である。ただし、リッチ化のためのデータ作成コストの増大は一つの論点である。 低コスト化の方法論として、オープンデー タとのリンキングは、継承によるデータ拡張や外部データセットとの接続性向上(データの調和)、相互のデータ比較による検証・網羅性評価などといった観点からメタデータ品質向上のための有効な戦略である。 本研究では、国内のビデオゲームリソースのメタデータを対象に、低コストで機械的なリンキング手法について検討する。ビデオゲ一ム分野のオープンデータとしては、 Wikipedia[1]や IGDB[2]や MobyGames[3]などウェブサービスで、オンラインコミュニテイが生成するゲーム作品のデータセットが評価を集めている。 このようなウェブ上での活動と並行して、立命館大学ゲーム研究センターやゲーム保存協会など、アーカイブ機関が生成する現物資料であるビデオゲームパッケージ(以下、パッケージとする)の書誌データ作成も活発化しつつある。これらのメタデータは、文化庁が運営するメディア芸術分野のつなぎ役[4]であるメディア芸術データベース(以下、 MADB)への登録が進みつつある。 よく知られるところだが、ビデオゲームでは通常版、限定版、Blu-Ray 版、オンラインリソース版、など異版が存在する場合が多い。 オンラインコミュニティにより作成されるゲ一ム作品リソースは創作的実体すなわち作品を記述対象とし、アーカイブ機関により作成される現物資料は物理的実体を記述対象とする。つまり多くの場合、一つのゲーム作品は一つないし複数の現物資料により体現されるという関連で記述可能であり、アーカイブ機関によるリソースのほうがより細かい粒度だと言える。両者は、機能的には役割分担と捉えることが可能であり、またビデオゲーム分 野のオントロジー[5][6]で定義される一部の実体の記述対象とフィットする。さらに、リンキングによる両者へのメタデータ拡張や補完・検証のメリットは大きく、そのような試作がいくつか展開されてきた[7][8][9]。 ## 2. 研究の目的 本研究は、効率的なメタデータの拡張や補完・検証を目的に、メディア芸術データベー スに登録されるビデオゲームパッケージリソ一スと、Wikipedia 日本語版(以下 Wikipedia)より抽出したビデオゲームリソ一スのリンキング実践について報告する。オ ープンデータとして Wikipediaを選択した理由としては、1)日本のゲームリソースを対象とするサービスであること、2) 各プラットフオームのゲームタイトル一覧として同サービスで記事化されていないリソースを含め網羅性が高いリストが記録されており、3)記事ごとに生成される Wikidata リソースが多数の外部 ID を持つハブとして機能すること[10]、が挙げられる。MADB では、アーカイブ機関が生成した現物資料すなわちゲームパッケージが主要な記述対象である。未所蔵のものについては、ゲーム雑誌やカタログ、ウェブペー ジなど複数の情報源を元に、2017 年までのものに限られるが、国内で公開された家庭用ゲ一ム、アーケードゲームの大部分が登録されている。 ## 3. Wikipedia におけるビデオゲームのタ イトルリストの記述 Wikipedia にはゲーム作品やゲーム機など様々なビデオゲームに関する記事が公開されている。とりわけゲーム作品の記事には詳細な記述と、前章で述べたデータ連携における有用性が期待できる。ただし記事が作成されその記述が充実している作品に偏りがあり、 網羅性の点では充分ではない。また記事の記述対象も個別の作品以外に、続編を含むシリ ーズ、原作を含む作品群など多様で、粒度は一定しない。これらは網羅性・記述対象の厳密性に焦点化する MADB とは異なる性質で、 そのリンキングを困難にするものである。 そこで本研究では Wikipedia のゲームタイトル一覧の記事に着目した。Wikipedia では 「バンダイナムコエンターテインメント発売のゲームタイトル一覧」「CEROレーティング 18 才以上対象ソフトの一覧」といった多様なゲーム一覧を主たる内容とする記事および記事を集約するカテゴリが提供されている。本研究ではその内「カテゴリ:ゲーム機別ゲームタイトル一覧」[11]のゲームプラットフォー ム毎に作成されている一覧(以下、PF 一覧とする)からのデータ抽出を試みた。日本国内で公開された多くのゲームプラットフォームの $\mathrm{PF}$ 一覧が既に公開されており、収録の基準が明確で、さらに高い網羅性が期待できる。 また、一覧中のリソースの内、作品の個別記事を持つものについてはそれらへのリンクが記録され、先に述べた作品記事の情報の活用やデータ連携にも有用である。 PF 一覧は記事毎に記載形式や記載項目が異なるが主に HTML のリスト形式またはテーブル形式で公開されている。主要な項目はタイトルと発売日であり、その他に発売元や付属品・限定版等の異版体に関する情報が記録されることも多い。その他にメディア形式 (例:SNK が販売していたネオジオでは ROM カートリッジと CD-ROM が存在し、同タイトル複数のパッケージが頒布される)やダウンロード版の有無、レーティングなど、 ゲームプラットフォームの特徴に即した項目が存在し、一覧毎に特有の記法・ルールで示される。また、オンライン配信以前のプラットフォームについては物理パッケージ主体でリストが作成されているが、オンライン配信以後のものについては、それらは一体として記述されており両者で記述の粒度が異なる。 記事の作成単位は概ねプラットフォーム毎であり記事タイトルからそれらを判別することが可能だが、プラットフォームそのものの解釈に曖昧さが残るためMADB のプラットフオーム記述とは一部異なる。またタイトル数が多数の場合、発売年毎に個別の一覧が作成されているものもある。 ## 4. リンキングの実践と結果 本研究では、 3 章で述べた $\mathrm{PF}$ 一覧から Web スクレイピングを用いてビデオゲームリソー スを抽出した。抽出したリソースの各項目のうち、タイトル・発売日・プラットフォームを主要なキーとしてMADB のパッケージリソ ースと同一のパッケージに関するリソースを同定、リンキングした。 $ \text { データ抽出に際しては、「カテゴリ:ゲーム } $ 機別ゲームタイトル一覧」に含まれる $\mathrm{PF}$ 一覧 84 ページを対象に、各ページの記述ルールに従って記述された項目全てを取得した。取得した項目は、全ての PF 一覧に共通する項目(ただしデータが欠損し不完全なタイトルを含む)に「タイトル」「発売日」「発売者」、一部の一覧の項目として「CERO レーティング」「ジャンル」「対応周辺機器」「ゲーム容量」「ゲームモード」「規格」「備考」「開発元メー カー」「プレイヤーモード」「脚注」「基盤」があった。これらについて文字列の他、ゲーム作品記事へのリンクも個別の項目として取得した。また「プラットフォーム名」や前述の項目の内、一覧のコンテンツとして示されないが、記事名や見出しなどの HTML 要素として記述された情報も適宜項目値として加えた。 さらに、タイトル及び備考に「○○版」といった異版の記述が含まれる場合にそれらを値とする「異版体」の項目も設けた。 抽出したリソースとMADB とのリンキングに際しては、抽出したリソースの内、MADB に登録されている家庭用ゲーム機のプラットフォームのパッケージリソースのうち、物理パッケージを対象とし、ダウンロード版やオンライン配信で提供されているリソースについては除外した。結果リンキングを行ったプラットフォームは 34 件、それらに関する $\mathrm{PF}$一覧は 59 ページとなった。 リンキングのアルゴリズムは次の通りである。まず、プラットフォームと発売日の完全一致を条件として、抽出したリソース 1 件に対して候補となるMADBのリソースを絞り込む。発売日については年月日の内、与えられている値のみの一致を条件とする。次にその候補についてレーベンシュタイン距離を用いてタイトルの文字列の類似度を算出して比較し、 $20 \%$ 以上類似した候補の内、最も類似度が高いものをリンキングする。タイトルの比較に際しては抽出したリソースがタイトル 1 項目に記述されていることに対し、MADB のリソースではタイトルと別タイトルなど構造化されているため、これらも結合して評価する。また評価対象の抽出したパッケージリソ一スが異版体である場合には MADBのリソー スの版表示についてもテキスト一致をリンキングの条件とした。最後に、発売日のずれを許容するためにリンキングできていない抽出したリソースと MADB のリソースを対象に、日付の条件を 1 段階緩和し(年月日まで值のあるものは年月、年月しか值のないものは年のみ)、タイトルの類似度によるリンキングを行った。 この手法により 34,109 件の抽出したリソー スと MADB のリソースをリンキングすることができた。一方で 2,749 件の抽出したパッケ ージリソースについては MADB〜のリンクを得られなかった。また、リンクが得られたリソースの内 24,833 件は個別記事へのリンクを有していた。さらに MADB のリソースとリンクしたリソースとその項目についてはRDFデ一タセットを生成した。作成したデータは 1,225,907トリプルに及んだ。 リンキングできなかったリソースについては目視による誤リンクを分析したところ、両者のデータそれぞれに登録されていないリソ一スがあり、これが原因であることが明らかになった。特に Wikipedia では異版体の網羅が十分ではないことが目立った。これに加えて、異版の記述ルールが多くの場合不明確で、 リスト及びテーブルでの構造化も十分ではないことも抽出を困難にする要因であった。これらは PF 一覧が現物資料の網羅的なリストではなく、あくまで作品のリストを志向していることの表れと言える。 ## 5. 示唆と今後の課題 本研究では、Wikipedia に記載されている 半構造化リストからビデオゲームリソースの抽出を行い、MADB のビデオゲームパッケー ジリソースとのリンキング手法を開発し実践した。これにより物理的、コスト的な制約のある現物資料に基づく目録作成では容易ではない大規模なメタデータの拡張が可能であることを示した。あわせて、MADB の高い網羅性を示すことができた。 しかしながら、今回行ったリンキングについては厳密な正確性の評価ができておらず、 この実現は大きな課題である。有識者による網羅的なチェックが最も高品質なものの、本手法の利点である効率性の観点からは望ましくない。ゲーム販売者が提供している信頼性の高いデータの利用や複数のデータベースを参照する手法が有効であろう。 また、今回リンキングについては統一的なアルゴリズムを設計し実践することができたが、抽出では一覧毎に個別の対応を要し、品質管理の負担が大きかった。Wikipedia は常に編集されうるため、継続的にデータ抽出・ リンキングを行うことで持続的なメタデータの品質向上が期待できるが、そのためにはデ一夕抽出仕様の汎用的な記述や抽出ルールの管理手法による手間の削減、及びデータ整合性を担保する仕組みが求められる。 ## 参考文献 [1] Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/ (参照 2022-09-04). [2] IGDB. https://www.igdb.com/ (参照 202209-04). [3] MobyGames. https://www.mobygames.com/ (参照 202209-04). [4] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. デジタルアー カイブの構築・共有・活用ガイドライン. 東京,内閣府知的財産戦略推進事務局, 2017. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digi talarchive_kyougikai/guideline.pdf (参照 2022-09-04). [5] Lee, Jin ha, Perti, Andrew, Clarke, Rachel Ivy, Windleharth, Travis W., Schmalz, Marc. Video Game Metadata Schema Version 4.0. UW/SIMM, 2017. https://gamer.ischool.uw.edu/releases/ (参照 2022-09-04). [6] Fukuda, Kazufumi, Mihara, Tetsuya. A development of the metadata model for video game cataloging: for the implementation of media-arts database. 2017. [7] 大石康介,豊田将平,吉岡孝祐,三原鉄也,永森光晴, 杉本重雄. [P05] マンガ・アニメ・ ゲーム作品の横断的アーカイブのための作品間関係 LOD データセット開発. デジタルアー カイブ学会誌. 2018, vol. 2, no. 2, p. 150-151. [8] Hoffmann, Tracy. "Developing a Mediated Vocabulary for Video Game Research". Proceedings of the Doctoral Symposium on Research on Online Databases in History 2019. 2019, p. 11p. [9] 福田一史. コミュニティ生成データを典拠とした目録作成の試み:ビデオゲーム目録を事例として. 情報の科学と技術. 2022, vol. 72, no. 8, p. 299-306. [10] 大向一輝. 識別子としての Wikidata. 情報の科学と技術. 2020 , vol. 70 , no. 11, p. 559562 . [11] Wikipedia -Category:ゲーム機別ゲームタイトル一覧. https://ja.wikipedia.org/wiki/Category:ゲー ム機別ゲームタイトル一覧 (参照 2022-0924).
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# [E13] アーカイブズ記述の新標準 : ## Records in Contexts(RiC)の実装方法 ○元ナミ 1 ), 橋本陽 2 ) 1)東京大学文書館, $\overline{1} 113-8654$ 東京都文京区本郷 7-3-1 2)京都大学大学文書館,〒606-8305 京都市左京区吉田河原町 15-9 E-mail: won.nami@mail.u-tokyo.ac.jp; hashimoto.yo.4a@kyoto-u.ac.jp ## The New Standard of Archival Description: The Implementation Methods of Records in Contexts (RiC) WON Nami', HASHIMOTO Yo²) 1) The University of Tokyo Archives, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-8654 Japan 2) Kyoto University Archives, 15-9 Yoshidakawara-cho, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8305 Japan ## 【発表概要】 本報告ではアーカイブズ記述の新標準である Records in Contexts(RiC)の実装方法について検討する。 $\mathrm{RiC}$ とは、アーカイブズ記述のための概念モデル(Conceptual Model)である RiC-CM およびそのオントロジー(Ontology)である RiC-O から構成される。他国を見れば、すでに RiC-O を用いたテスト段階の検索システムが少数ではあるが公開されている。それらを紹介しつつ、実装のための具体的なワークフローを構想する。 提示するのは次の方法である。Access to Memory(AtoM)を利用し、XML 形式でアーカイブズ記述のメタデータを作成する。それをフランス国立公文書館が開発した RiC-O Converter によって RiC-O 準拠の RDF/XML に変換する。最後に RDF/XML をOmeka-S などのアプリを使い、検索とその視覚化を実現させる。 ## 1. はじめに Records in Contexts (RiC) とはアーカイブズ記述のための概念モデル (Conceptual Model)である RiC-CM およびそのオントロジー(Ontology)である RiC-O から構成される。 $\mathrm{RiC} は 、$ 既存の国際記述標準である General International Standard Archival Description ( $\operatorname{ISAD}(G)) 、$ International Standard Archival Authority RecordsCorporate Bodies, Persons, and Families (ISAAR(CPF) )、International Standard Description of Functions ( ISDF )、 International Standard Description of Institutions with Archival Holdings (ISDIAH)を統合することを目的として作成されている。 $\mathrm{RiC}-\mathrm{CM}$ および RiC-O の作成と更新は国際アーカイブズ評議会 (International Council on Archives、ICA)設立のアーカイブズ記述専門家グループ (Expert Group on Archival Description, EGAD)が担当し、ともに 0.2 番が現在までに公表されている[1]。国内の研究では、寺澤正直が、 $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ 公表以前の段階において、 $\mathrm{RiC}-\mathrm{CM}$ の概要説明および既存の 4 つの標準と $\mathrm{RiC}-\mathrm{CM}$ の照合などの重要な作業を行なっている[2]。また、谷合佳代子が $\mathrm{RiC}$ の中の典拠データに着目し、その作成実験について報告している[3]。一方で、海外では $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ 公表後に、それに準拠したメタデータを使用したシステムの実装に着手した研究事例がいくつか確認される。これらの事例を参照することで、 $\operatorname{RiC}$ に則ったアーカイブズ記述を国内で実現するための手がかりを得られるはずである。 そこで本報告では、 $\mathrm{RiC}-\mathrm{CM}$ および $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ の概要を確認した上で、フランスとブラジルの実装事例を紹介し、実装のための具体的なワークフローを構想する。なお、国内では、 4 つの国際標準に準拠した記述を適切にマークアップできる Encoded Archival Description (EAD)、Encoded Archival Context (EAC) によって作成された $\mathrm{xml}$ ファイルを用意できていないことも、 $\mathrm{RiC}$ 実装の障害の 1 つとなる。そのため、EAD.xml、EAC.xml の生成 も含めたワークフローを提示したい。 ## 2. $\mathrm{RiC-\mathrm{CM}$ と $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$} $\mathrm{RiC}-\mathrm{CM}$ は、アーカイブズに関する事象を抽象的に表現したモデルで、アーキビストの専門的な視点から作成されている。これは、記録資料群、記録資料群を作成し使用する組織や人々、その組織や人々が行う業務・活動を特定、記述するためのモデルである。 既存の 4 つの国際記述標準においては、 $\operatorname{ISAD}(\mathrm{G})$ が記録資料群、ISAAR(CPF) が組織や人々、ISDF が業務・活動、ISDIAH が記録資料群の保存を請け負う組織を記述するという役割を果たしていた。また、それぞれの標準に準拠して記入された記述項目は、それぞれリンクさせることが意図されていた。同一の標準内の場合、ISAD(G)であれば、記録資料群内の関係性、つまりフォンドーシリー ズーファイルーアイテムの各階層の記述がリンクさせられる。ISAAR(CPF)は、組織内の各部署といった組織間の関係性や親類などの個人間の関係性を結びつけることができる。同様に ISDF は、機能一業務・活動のそれぞれの関係性を紐づける。一方、異なる標準の記述項目もリンクさせる。このリンクによって、例えば、ISAAR(CPF)で書かれる一つの部署が、ISDF 内のある業務を遂行する中で、 $\operatorname{ISAD}(\mathrm{G})$ 内のシリーズを作成したという状況を表現することができる。ISDIAH の記述は、 アーカイブズの保存する記録資料群を記述した $\operatorname{ISAD}(\mathrm{G}) の$ 記述項目に紐づけられる。さらに、リンクの関係性について、記録資料群とその作成者でいえば作成や収集、作成者間でいえば前後・上下といったその種類も明示できる。 $\mathrm{RiC}-\mathrm{CM}$ は、記録資料群、業務・活動および組織・人々を実体(Entity)として特定、記述し、実体とそれぞれの関係性を示しながら可視化するという点で、既存の標準を含むモデルである。ここに、場所、出来事、権限などの実体が追加され、さらに記述を充実化および細分化させることができる。RiC-O は、 RiC-CM の正式な実装様式であり、Resource Description Framework(RDF)の表示形式として、アーカイブズ記述を表すための語彙と規則を定めている一方、 $\mathrm{RiC}$ を実装させるためのガイドラインである Records in Contexts-Application Guidelines(RiC-AG)は現在のところ未公表である[4]。 しかし、そのような現状の中、実装に取り組む事例が確認できる。ここでは、フランスとブラジルの事例を紹介する。 ## 3. フランスとブラジルにおける $\mathrm{RiC-\mathrm{O}$実装の事例} RiC-O 実装を先進的に進めているのが、フランス国立公文書館 (Archives nationales de France、ANF)である。ANF は、既存の国際記述標準に準拠して目録をウェブ上に公開してきたが、利便性を高めることを 1 つの目的として RDF で表示するためのプロジェク トを開始し、 $\mathrm{RiC}$ の採用を決定した。その一環として、これまで作成してきた大量の $\mathrm{EAD}$ と $\mathrm{EAC}$ の $\mathrm{xml}$ ファイルを、 $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ 準拠の rdf ファイルに変換する RiC-O Converter を開発した。それにより変換したファイルを、 GraphDB を通じて、視覚的に表示する検索システムの試行を進めている[5]。 また、リオデジャネイロ州立大学の LABOGAD 研究所 (Laboratório de Preservação e Gestão de Acervos Digitais) は、「Atlantic Slave Trade」サイトに揭載されている目録データと筆写テキストを $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ で入力するプロジェクトを行なっている。具体的には、 $\operatorname{ISAD}(\mathrm{G})$ をべースとしたブラジルのアーカイブズ記述標準 Nobrade[6] に準拠して記述されている Arquivo Geral da Cidade do Rio de Janeiro (AGCRJ) 所蔵の大西洋奴隷貿易関係文書(Slavery Series)目録とコンテンツの筆写テキストを $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ で記述し、 「Atlantic Slave Trade」サイトと Linked Open Archives (LOA) [7]が相互に接続、検索できるようにする試みである[8]。 LOA は $\mathrm{RiC}$ で提供されるデジタルアーカイブのハブであり、そのプラットフォームは、 デジタルコレクション管理ソフトウェアである Omeka S、仮想知識グラフシステムの Ontop、オブジェクト関係データベースの Virtuoso Open Source(VOS)で構成されている。将来的には、ブラジル、アンゴラ、ポルトガルにそれぞれ保管されている大西洋奴 隷貿易関係文書に、RDF フォーマットと SPARQL エンドポイント提供を通じて、エンドユーザーがアクセスできる Linked Open Data(LOD)環境の構築を目指している。 ## 4. 日本における $\mathrm{RiC-\mathrm{O}$ の実装} 本研究では、既存のアーカイブズ目録記述を $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ に移行する検証作業を進めている海外の知見を利用し、現段階において $\mathrm{RiC}$ を利用した日本語のアーカイブズ記述をどこまで実現できるのかを試してみた。 ## 4. 1 EAD.xml と EAC.xml の生成 まず、多くのアーカイブズ機関などにおいてスプレッドシートに入力済みの資料目録を機械可読な形に変換する作業を行う。その際に、4つの国際記述標準に準拠したデジタルアーカイブのアプリケーション、Access to Memory(AtoM)を利用し、AtoM に入力されているデータを $\mathrm{EAD}$ およ゙ $\mathrm{EAC}$ でコード化した XML 形式のメタデータとしてエクスポートした。 4. 2 EAD.xml と EAC.xml を $\mathrm{RDF} / \mathrm{xml}$ に変換 次に、ANF の RiC-O Converter(v1.0)を使って、EAD 2002 形式で書き出された XML ファイルを $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ 準拠の $\mathrm{RDF} / \mathrm{XML}$ ファイルに変換する。 変換したい EAD.xml または EAC.xml ファイルを Github よりダウンロードした RiC-O Converter フォルダの中の「input-ead」または「input-eac」フォルダに入れる。その後、「ricoconverter」実行ファイル[9]を立ち上げ、 ファイル変換に必要なコマンド[10]を実行する。 「convert_ead」コマンドを実行した場合、自動に「output-ead-8 桁の日付半角数字」のフォルダが作成され、フォルダ内に $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ オントロジーに変換された RDF ファイルが生成される。 また、「convert-eac」コマンドを実行した場合、同じく「output-eac-8 棪の日付半角数字」のフォルダが作成されるが、フォルダ内にはさらに「agents」「places」「relations」 の 3 つのフォルダが作成され、それぞれに該当する RDF ファイルが生成される。 ## 4. 3 Omeka $S$ への適用と視覚化 次に、ブラジルの事例に学んで $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ に変換された RDF/XML ファイルを Omeka S を利用し、LOD への対応を試みた。また、 Ontop によって Omeka S のデータベースから RDF/Turtle アーカイブにエクスポートする工程を経て、VOS でグラフ化するという可能性を模索した。 しかし、 $\mathrm{RiC}-\mathrm{O}$ コンバーターで生成された RDF/XML ファイルが予想に反し Omeka S の Bulk Import モジュールで適切に処理できなかった。RDF データモデルを視覚化するウエブアプリ、zazuko Sketch[11]で実体記述と関係性などを確認したところ、変換前の $\mathrm{EAD}$ データの記述が不十分であることや、RDF への変換方式などに問題があるなど、変換前後の記述を再検討する必要があることがわかった。そのため、Omeka S で RiC-O オントロジーの実装とグラフによる可視化は実現できていないのが現状である。 ## 5. 終わりに フランスとブラジル以外に、ベルギー、ドイツ、オランダ、スイスとアメリカなどにおいても、既存のアーカイブズ記述標準から新標準の $\mathrm{RiC}$ に移行するための実装研究が進められている。その結果、まだ少数ながら、これまでアーカイブズが十分に取り組んでこなかったセマンティックウェブ技術と LOD 環境を活用した検索システムの成果が公開され始めている。これらの変化はアーカイブズ資料のエンドユーザーに検索性と利用可能性をより高める可能性を提示している。 今回、日本のアーカイブズ記述を $\mathrm{RiC}$ に変換し、検索システムに実装するまでには至らなかったため、完全なワークフローの提示ができなかった。今後は RiC-O Converter v2.0 の公開と、ICA-EGAD による RiC-AG が公開されることを期待しつつ、改めて問題を把握し、実装の検証を試みていく。 ## 参考文献 [1] Expert Group on Archival Description. Records in Contexts - Conceptual Model. https://www.ica.org/en/records-in-contextsconceptual-model (参照 2022-09-30). [2] 寺澤正直. アーカイブズ記述の国際標準に関する近年の動き。アーカイブズ学研究. 2016, 25, p. 79-90;新たなアーカイブズ記述の国際標準 Records in Context(RiC)への対応に係る課題の抽出. アーカイブズ学研究. 2017 , 27, p. 4-31. [3] 今野創祐. 谷合佳代子報告. アーカイブズ組織化の新国際概念モデル $\mathrm{RiC}$ と図書館目録のマッピング:典拠データから考える.情報組織化研究グループ月例研究会報. 2021-04. http://josoken.digick.jp/meeting/2021/20210 4.html (参照 2022-09-30). [4] International Council on Archives Expert Group on Archival Description. Records in Contexts Conceptual Model Consultation Draft v0.2. 2021, 122p https://www.ica.org/sites/default/files/ric-cm02_july2021_0.pdf (参照 2022-09-30). [5] Florence Clavaud and Pauline Charbonnier. Sparnatural demonstrator, Archives nationales: documentation. 202209-09. https://sparna- git.github.io/sparnatural-demonstrateuran/presentation-en.html (参照 2022-09-30). [6] BRASIL. Conselho Nacional de Arquivos. Nobrade: Norma Brasileira de Descrição Arquivística. Rio de Janeiro: Arquivo Nacional, 2006. https://www.gov.br/conarq/pt-br/centrais-deconteudo/publicacoes/nobrade.pdf (参照 2022-09-30). [7] Linked Open Archives. https://www.linkedopenarchives.com (参照 2022-09-30). [8] Jair Martins de Miranda. Records in Contexts (RiC): Analysis of its Application in Archives, in Light of the Linked Open Data (LOD) technologies. Acervo, Rio de Janeiro. 2021, 34, 3, p. 1-26 https://revista.an.gov.br/index.php/revistaac ervo/article/view/1745/1676 (参照 2022-0930). [9] ricoconverter.bat と ricoconverter.sh が用意されている。 [10] convert_eac, convert_eac_raw, convert_ead, test_eac, test_ead, version, help の 7 つのコマンドが用意されている。 [11] SKETCH. https://sketch.zazuko.com/ (参照 2022-09-30). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 電子図書館Ariadne ## The Electronic Library Ariadne ## 黒橋 禎夫 \\ KUROHASHI Sadao \\ 京都大学大学院情報学研究科 本稿では、長尾真先生が中心となり、1990 年代前半に構想 ・開発・公開実験が行われた、電子図書館のさきがけ的システム、Ariadne (Advanced Retriever for Information And Documents in Network Environment)を振り返る[1]。Ariadne はギリシャ神話において洞窟の中を迷わないように糸をつけて進むことを考えたという女性で、情報の森の中を迷わずにポインターを頼りにして有用な情報にたどり着くことを念じてつけられたシステム名である。 長尾真先生は画像処理、自然言語処理の分野ですでに世界的な業績を収められていたが、情報一般について興味をもたれており、辞書の構成法、図書情報の検索や相互参照、また、自ら編纂された岩波情報科学辞典のハイパーテキストシステムなどの研究も行われていた。このような活動を通じてマルチメディア処理や電子図書館についても考えをめぐらされ、1990 年 4 月に、関西文化学術研究都市推進機構の学術委員会の援助により、京都大学の図書館担当の原田勝先生(後に図書館情報大学教授) と長尾先生の二人が中心となって私的な電子図書館研究会を始められた。 1992 年ごろには電子図書館の機能や構成法についてかなり検討が進み、そこから先は具体的なシステムを作成して広く図書館界に見てもらうことが必要であると考えられ、この内容に興味をもった富士通(株)の研究・開発グループが電子図書館研究会に加わった。 そして、1994 年秋に京都国際会議場で国際電気通信連合(ITU)の全権委員会議が開催された際、その会議を含む約 1 ヶ月にわたり、電子図書館プロトタイプシステムとして Ariadneの公開デモンストレーションが行われた。 電子図書館研究会では将来の電子図書館の概念とし て、従来の図書館の単なる電子化ではなく、電子図書館にすることで初めて可能となること、理想的には人間頭脳の持つ知識とその活用の機能にできるだけ近い機能を持つシステムを作ることが目標とされた。 第一の特徴として、従来の図書館で取り扱う情報の単位が冊子であり、その表題、著者名などの書誌的事項が検索の対象であったのに対して、冊子全体を電子化することによって、その中に存在する章や節、パラグラフといった任意の単位で情報の活用を可能とする。このとき、目次情報、索引情報、その他テキストが持つ構造を十分に活用した検索を実現する必要がある。第二に、このような情報の単位を種々の関連情報という観点から自動的にリンク付けることにより、一冊の本という壁をこえて関係する情報を横断的、連想的に活用することを可能にする。これは文字情報だけでなく、図面、画集、録音情報、映像情報等についても行われ、マルチメディア情報をハイパーテキスト的に統合することを含む。第三に電子図書館では貸し出した本の読書環境も提供することになり、付䇝をつけたり、メモ書きができたり、自動朗読、自動翻訳、知的検索機能など種々の便利な機能を持った読書支援機能を考えることができる。 1994 年に公開デモンストレーションが行われた Ariadne はこのような電子図書館のプロトタイプであり、その特徴は図1のようなものであった。システム構成としては、Ariadne サーバーがインターネットに接続され、1993 年にリリースされたばかりのウェブブラウザ Mosaicをクライアントとし、HTTP で通信が行われた。 Ariadne で提案された概念は、その後の電子図書館の研究開発に大きな影響を与えた。Ariadneは京都大 図1 電子図書館Ariadneの特徵 学附属図書館で試用されるようになり、附属図書館の貴重資料の電子化・公開が次々と行われた。1998 年には文部省において予算化され、京都大学の電子図書館システムが正式にスタートした。 Ariadneを構想した電子図書館研究会が発足したのは 1990 年、Ariadne のデモンストレーションが行われたのは 1994 年である。ティム・バーナーズ・リーが WWWを構想したのが 1989 年、世界初のウェブペー ジが公開されたのが 1990 年、1994 年はやっと一部の研究者が電子メールを使い始めていた頃で、WWW の存在を知る人もほとんどいなかった時期である。 Ariadne の構想と開発がいかに先駆的なものであったかがわかる。この頃、著者は長尾研の大学院生、助手として電子図書館研究会に何度か参加させて頂いたが、世界でまだ誰もやっていないことをやるんだという熱意をひしひしと感じた。 その後の情報処理の進展は著しく、さらに昨今の深層学習の進化はまさに「人間頭脳の持つ知識とその活用の機能」に近づきつつあるとも言える。長尾先生が構想された世界が実現しつつある。 ## 註・参考文献 [1] 長尾眞, 原田勝, 石川徹也, 谷口敏夫, 澤田芳郎, 吉田哲三,柿元俊博. 電子図書館Ariadneの開発(1)ーシステム設計の方針一. 情報管理. 1995 , vol. 38, no. 3, p.191-206.
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# [E12] 近代日本の法律・勅令を踏まえた法令標準 XML スキーマの提案 ○佐野智也 1), 外山勝彦 2), 増田知子 1) 1) 名古屋大学大学院法学研究科, 〒464-8601 名古屋市千種区不老町 2)名古屋大学情報基盤センター/同大学院情報学研究科 E-mail: tomoya@law.nagoya-u.ac.jp ## Proposal of a Legal Standard XML Schema Based on Modern Japanese Acts and Imperial Orders SANO Tomoya1), TOYAMA Katsuhikon, MASUDA Tomoko ${ }^{1)}$ 1) Graduate School of Law, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, 464-8601, Japan 2) Information Technology Center / Graduate School of Informatics, Nagoya University ## 【発表概要】 「日本研究のための歴史情報」プロジェクトでは、明治以降の近代法体系に基づく全法令の才 ープンデータベースシステムの構築を目指している。その最初の作業として、日本国憲法施行以前の法律と勅令のデータベース化に取り組んでいる。日本政府の「e-Gov 法令検索」は、データ利活用の観点から、法令標準 XML スキーマに従った現行法令のデータを提供している。本プロジェクトでも、共通規格として、このスキーマに準拠する方針である。しかし、このスキーマは、その策定時(2017 年)において有効な法令の文書構造を記述できるように設計されたため、日本国憲法施行以前の法律や勅令に適合することは担保されていない。本報告は、明治 19 年から大正 10 年までの法律・勅令の文書構造を分析した結果をもとに、法令標準 XML スキー マに対して追加・変更が必要な事項と、同スキーマが対象としていない上諭の構造化に必要な事項を示す。 ## 1. はじめに 日本政府は、ウェブ上のデータベースシステム「e-Gov 法令検索」[1][2]を通じて、法律・政令・府省令・規則の法令データを提供している。ただし、現在有効な法令と未施行の法令のデータだけを提供していて、過去の法令のデータは提供していない。しかし、過去の法令の参照は、過去の社会の分析という研究上の意義がある。さらに、法令の適用に不遡及の原則が働くことや、従来の規定が当分の間なお有効であるとする経過措置を伴うことがあるため、実務的な重要性もある。 「日本研究のための歴史情報」プロジェクト [3]では、全法令のオープンデータベースシステムの構築を目指している。日本は、明治 19(1886)年の公文式(明治 19 年勅令第 1 号)の制定により、法律 - 栜令 - 閣令 - 省令・訓令(これらを総称して法令という)という近代的法体系を確立し、法令の制定・布告の手続きを定めた。そこでまず、日本国憲法 (以下、単に憲法) 施行以前の法律と勅令をデータベース化するため、明治 19 年法律第 1 号及び同年勅令第 1 号から順に、テキストデータを作成している。 さらに、テキストデータを構造化文書 (XML 文書)として整備すれば、テキストに付与されたタグを手がかりとし、文書の論理的構造を機械処理できる。XML 文書化にあたっては、「e-Gov 法令検索」を補完し、シームレスな接続を実現する観点から、同システムが採用する法令標準 XML スキーマ[4](以下、標準法令スキーマ)に準拠する方針である。 しかし、標準法令スキーマは、その策定時 (2017 年)において有効な法令の文書構造を記述できるように設計されたため [2]、それ以前に廃止された法令、特に憲法施行以前の法律や勅令に適合することは担保されていない。本プロジェクトでは、大正 10(1921)年までの法律・勅令(以下、対象法令)について、表部分を除いてテキストデータ化をすでに完了した。本報告は、対象法令の文書構造の分析をもとに、標準法令スキーマに対して追加・変更が必要な事項を示す。それにより、対象法令の参照・分析の容易化に貢献する。 図1. 法律の文書構造 ## 2. 法令の基本的な文書構造 本節では、日本の法令の基本的な文書構造を説明する。法令の文書構造は、明文化されているわけではないが、明治以来の法制執務と呼ばれる立法業務の慣習の中で、一定の形式が確立している[5]。 法令のうち法律の文書構造は、先頭から公布文、法律番号、題名、目次、本則、附則、署名がこの順で並ぶ(図 1)。公布文には、法律の公布を表明する一文、御名御需、公布日、内閣総理大臣の副書が記載される。法律によっては、目次がない場合や、附則の後に別表が置かれる場合、本則の前に前文が置かれる場合などがある。 本則には、法律の実質的な規定が置かれる。本則は多くの場合、章で区分されている。章を細分化する場合に、節、款、目がこの順で階層的に使われる。章の上位構造として編が存在するが、編を設けている法律は多くない。 これらの構造の冒頭には、その番号と表題を示す章名が置かれる。例えば、第二章の冒頭に章名「第二章婚姻」が置かれる。 条は、これらの構造の下位に置かれる構造である。さらに、条にも、その下位構造がある(図 2・図 3)。条の冒頭には、その内容を簡潔な字句で示した条見出しを置く。条の番 図 2. 条の文書構造(概略) 図 3. 条の構造(概略) 号を示す部分は条名という。条の内容を記した文は、改行で区切られた段落ごとに項を構成する。項には、アラビア数字で項番号を順に付す。ただし、条名がある場合、第一項には項番号「1」を付さない。 項は、文ごとに段という構造に細分化される。項が二つの段で構成される場合、それぞれ前段、後段と呼ぶ。また、後段が「ただし」 で始まる場合、その文をただし書という。 項は、号という下位構造を持つ場合がある。号は、「次に掲げる事項を登記しなければならない」のように、項の中で事項を列挙する場合に使う。号の冒頭には、漢数字による号名「一」「二」「三」を付して示す。号を階層的に細分化する場合には、下位構造に「イ」「口」「八」を、さらに細分化する場合には「(1)」 や「(i)」を付して、その順序を示す。 以上のように、日本の法令の文書構造は、階層と出現順序が定式化された精緻なものとなっている。法令の文書構造は、「第百八条第三項前段の規定による・・・のように、法令文中でも使われるため、その存在と範囲を XML 文書の中で顕在化させておくことは、法令文書を機械処理する上で有用である。 ## 3. 法令標準 XML スキーマ $\lceil\mathrm{e}-\mathrm{Gov}$ 法令検索」では、法令データを XML 形式でダウンロードできる。この XML 文書は標準法令スキーマに準拠している。標準法令スキーマは、2 節で述べた法制執務の慣習に沿って策定されている。また、このスキーマは、W3C XML Schema[6]で記述されており、それ自体もダウンロードできる。 しかし、法制執務は、明治 19 年から一貫しているわけではなく、徐々に変化している。特に、憲法施行前後において、大きく変化し ている。例えば、条見出しや項番号は、憲法施行前には使われていない。もっとも、憲法施行前に公布された法令であっても、現在も有効な法令があり、その範囲で憲法施行前に公布された法令の文書構造も考慮されている。 しかし、現在の標準法令スキーマで対応できない構造が存在することも予想される。 また、2 節で示した構造のうち、標準法令スキーマには、公布文と署名の定義がない。公布文と署名は、法令そのものの一部を成すものではないとされており、「e-Gov 法令検索」 の収録対象としていないことから、この部分の定義を除外したと考えられる。 公布文に相当する部分は憲法施行前には上諭と呼ばれていたが、上諭には法律・勅令を分類するための手がかりとなる表現が含まれている。また、関係大臣の署名はその法律の所管事項を知る手がかりとなりえる。そのため、本プロジェクトの目的に鑑みると、この部分の構造化は必要である。 そこで本報告では、憲法施行前の法律・勅令を XML 文書化するために、標準法令スキー マに対して必要となる追加・変更事項を示す。 ## 4. 法令標準 XML スキーマの追加・変更本節では、標準法令スキーマに対して追加・変更が必要な事項を示す。 ## 4. 1 新規追加が必要な構造 標準法令スキーマが想定していない構造として、目次題名、部、目次部、別冊、文字列、改行の 6 種を確認できた。これらを標準法令スキーマに追加する必要がある。 目次題名:目次は「目次」という字面の部分 (目次ラベル)から始まるが、対象法令の多くはこれと異なる。法令の題名のみが記載される場合が最も多く、その他に「裁判所構成法目次」のように題名十目次となっている場合や、「民事訴訟法目錄」のように「目録」という表現が使われている場合、現在と同じく単に「目次」とされている場合もある。「目次」 や「目録」という表現が使われている場合は、目次ラベルに含めてよいと考えられる。題名のみの場合は、目次ラベルではなく、目次中 の題名と考えた。 なお、対象法令の構造は、「目次 $\rightarrow$ 題名 $\rightarrow$ 本則」の順に並んでいて、これは 2 節で述べた現在の順序と異なる。すなわち、法令の題名は、目次題名と題名の二つの構造に重複して記載されている。 部・目次部:編と章の間の階層として部という構造が使われている。これは、明治 23 年民法(いわゆる旧民法)のみで使われている。 別冊 : ごく一部の法令で、制定文と目次の間に「別冊」という字面の構造が使われている。 この構造は、現在有効な民法にも存在し、「eGov 法令検索」では、制定文となっている。 文字列:法令の一部改正の際、改正後の新条文は別行で示す。この部分は、標準法令スキ一マでは新規定という構造として、条や項、段までの下位構造を対象としている。対象法令では、段の一部分である文字列を別行で示している例がある。 改行: 例えば、「・陸軍中將ヲ以テ親補シ天皇二直隸シ・・(明治 32 年勅令第 6 号第 2 条)では、「天皇」が行頭に来るように意図的に改行されている。意図的な形式上の改行を示すための定義の追加が必要となる。 ## 4. 2 上諭の構造化 3 節で述べた上諭の追加も必要である。上諭には、上諭文、御名御需、裁可日、署名という下位構造がある。2 節で示した文書構造と異なり、関係大臣の署名は、法律の末尾ではなく、上諭の中に置かれる。署名は「内閣總理大臣伯爵伊藤博文」のように、肩書(複数可)と氏名の組の並びとして構造化できる。 また、天皇に代わって摂政が署名する場合は、御名御需に加えて摂政名が記載される。 ## 4. 3 変更が必要な構造 標準法令スキーマに反することになるため、変更が必要となる事項を五つ挙げる。 制定文の順序:標準法令スキーマでは、「題名 $\rightarrow$ 制定文 $\rightarrow$ 目次」「制定文 $\rightarrow$ 目次(題名は存在しない)」「目次 $\rightarrow$ 題名(制定文は存在しない)」 の 3 パターンの順序を想定している。しかし、対象法令には、「制定文 $\rightarrow$ 題名」や「制定文 $\rightarrow$目次一題名」というパターンがある。なお、 後者では「別冊」が入るため、「制定文 $\rightarrow$ 別冊 $\rightarrow$ 目次 $\rightarrow$ 題名」というパターンになる。 章の下位構造としての款(欵): 標準法令スキ一マは、章、節、款、目がこの順に階層的に定義されている。加えて、目が節の直接の下位構造となることも想定している。しかし、対象法令には、款が章の直接の下位構造となる例がある。 列記の下位構造としての号 : 号名を付さずに事項を列挙する構造を列記といい、標準法令スキーマで定義されている。標準法令スキー マでは、列記の下位構造として、列記の細分のみがある。しかし、対象法令では、列記の下位構造として号が使われる例がある。 新規定の附則 : 標準法令スキーマでは、 4.1 節で述べた新規定の下位構造として、附則は含まれていないが、対象法令では、附則が使われる例がある。 波括弧:対象法令では、図 4 に示す波括弧が使われている。これを適切に構造化するためには、標準法令スキーマが定義している闌という構造の中に列記を許可することが望ましいと考えられる。また、波括弧自体は、闌の属性として定義することを考えている。 ## 4. 4 変更不要な構造 対象法令は上記以外にも、さまざまな点で違いがあるが、多くは標準法令スキーマでそ 図4. 波括弧のまま対応できる。例えば、章名は通常「第一章総則」 のように章番号を伴って示されるが、単に「総則」のみを記載し、構造の順序位置を示す番号やその階層位置が明示されない場合が対象法令に見られる。しかし、章名は単なる文字列であるため、章番号を付さないで「総則」のみを入れることは問題ない。 また、号名に相当する部分を「第一」「第二」 とする例や、「一」のみが連続する例、「一、」「二、のように読点を付している例などがある。しかし、号名も文字列であればよいため、標準法令スキーマに反しない。 このように、現在の標準法令スキーマで対応可能であるものは、スキーマの追加や変更を行わない。 ## 5. おわりに 明治 19 年から大正 10 年までの法律・勅令をXML文書化することを目的として、法令標準XMLスキーマの追加・変更点を示した。大正 11 年以降についても、分析を順次進めていく予定である。 今回の分析には、閣令や省令となど下位法令を含んでいないが、これは今後の課題である。また、刑法などの一部の主要法令は、明治 19 年以前に制定されており、これらへの対応も今後の課題である。 ## 参考文献 [1] e-Gov 法令検索. https://elaws.e-gov.go.jp/ (参照 2022-09-06). [2]「紙の聖域」に切り込む(Part 1: 15 年越しの念願かなう),日経コンピュータ,2017 年 8 月 31 日号, pp.44-48, 2017. [3] 日本研究のための歴史情報. http://jahis.1 aw.nagoya-u.ac.jp/ (参照 2022-09-06). [4] 法令標準 XML スキーマについて. https:// elaws.e-gov.go.jp/file/XMLSchemaForJapane seLaw_v3.pdf (参照 2022-09-06). [5] 法制執務研究会:新訂ワークブック法制執務第 2 版,ぎょうせい, 2018. [6] W3C XML Schema. https://www.w3.org /XML/Schema(参照 2022-09-06). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [E11] 仮想空間ワールド検索用メタデータ及びインタフ ェースの開発メタバース内のワールド検索用メタデータ スキーマの提案 : ## 仮想空間アーカイビングシステム構築に向けて ○廣瀬陸 1),柊和佑 ${ }^{11}$ ,柳谷啓子 1),王昊凡 1),坂本董 1) 1)中部大学国際人間学研究科, $\overline{\mathrm{T}} 487-8501$ 愛知県春日井市松本町 1200 kl21003-8477@sti.chubu.ac.jp ## Development of Metadata and Interface for Virtual Space World Search for the Virtual Space Archiving System HIROSE Riku ${ }^{1)}$, HIIRAGI Wasuke ${ }^{1)}$, YANAGIYA Keikon ${ }^{1)}$, WANG Haofan ${ }^{11}$, SAKAMOTO Sumire ${ }^{1)}$ 1) Graduate School of Global Humanics, Chubu University, 1200 Matumoto-cho, Kasugai City, Aichi Prefecture, 487-8501 Japan kl21003-8477@sti.chubu.ac.jp ## 【発表概要】 現在、3D 仮想空間をインフラとして利用する「メタバース」が試みられている。博物館や美術館を模した文化資源として成立しうる精度のコンテンツも存在するが、仮想空間のコンテンツを将来にわたって再利用するための、アーカイビングシステムは存在していない。そのため、将来的にメタバースが普及した際、従来の Web 情報資源のように、制作された文化資源が散逸する可能性が高い。情報資源の散逸を繰り返さないために、今後の利活用方法を検討・予測し、ア一カイビングシステムを整備しなければならない。 本稿は、メタバースにおけるワールドを環境とコンテンツに分けて蓄積し、検索、利活用が出来るシステムの構築を目指している。現在は、蓄積されたワールドに対してのメタデータの付与と、検索システムの構築について研究を進めており、現状の仮想空間デジタルアーカイブのワー ルド検索システムについて解説を行い、今後の検討すべき点について解説を行う。 ## 1. 仮想空間とワールドアーカイビング システムの必要性 「メタバース」という概念は現在、国内外で大きく注目を浴びており、様々な産業業界においても、取り組みが行われている。文化庁 [1]によると、メタバースとは、インターネット上で多人数が参加出来る三次元空間であり、 ユーザーはアバターという自身の分身を操作し、ある一定の広さを持ったワールドという空間内を移動、他の参加者と交流をすることが出来るといった定義がされている。「メタバ一ス」を用いた仮想空間を制作したり、利用するユーザーは増加しており、新たに作られるワールドは、管理しきれない状態である。 また、普及が進んだ際に、コンテンツを自分で作成、既存のワールドを改変したコンテンツが更に増加することは想像に難くない。本発表では、このような背景を受けて、アーカイビングシステムの必要性を述べ、アーカイブで必要となる検索方法の提案を行うものである[2]。 現在は、インターネット上で多人数が参加出来る三次元空間、ワールドを蓄積し、検索、利活用まで出来るアーカイビングするシステムが現状存在していない。さらに、現存するワールドは、個人で制作されているものが多く、現存するワールドにおいての規格化は、技術的にも、創作物としても困難である [4]。現在、ワールドの検索は個人が作成したリンク集やロコミ(他利用者に連れて行ってもらう)に限定されているのが現状である。 また、ワールドを検索する利用者が普段からメタバースに触れている既存ユーザーのみでない。前述のように、新規ユーザーも増え ている為[3]、既存のワールドで使われていた語彙に詳しくないユーザーも多い。そのため、 より感覚的な検索項目も必要となる。 本研究は、メタバースにおけるワールドに対してメタデータを付与することで、検索、 利活用が出来るシステムを目標としている。 ## 2. 詳細検索、エンタメ検索における項目とワールドメタデータの構造 ## 2.1 詳細検索、エンタメ検索 エンタメ検索とは、蓄積されたそれぞれのワールドに対して、世界観が近い漫画やアニメ、映画等の現存する創作物の名前を検索項目に設定し、ユーザーが求めているワールドを直感的に検索出来る手法である。大きな利点としては、ユーザーがワールドの細かい分類が分からなくても検索が出来ることである。 ワールドは、多種多様な要素が含まれているものが多く、新規ユーザーがこれらの要素を細かく分類するのは困難である。新規ユー ザーが利用するのを踏まえると、求めている要素の割合が多い既存の創作物から検索が出来るシステムを求められると考えている。 詳細検索では、ワールドの要素を分類出来る既存ユーザーに向けての検索手法である。 ワールド検索でも述べたように、あらゆる言葉が検索項目になり得るため、ここでは 6 つの項目に絞った検索手法を提案している。検索項目は以下のとおりである[5]。 詳細検索の検索項目およびメタデータは以下の通りである。 - 元となる空間 : 統制語彙 (森、海、草原、平野、山、砂漠、宇宙、部屋の中、建物内、街、無)を利用している。 - テクスチャのヒストグラム: RGB の各パラメータ[図 1]を数値で利用している。 ## - ジャンル : 統制語彙(SF、ホラー、アクション、コメディ、児童映画、探偵、スポーツ)を利用している。 - 時代 : 統制語彙(過去、現代、未来)を使用している。 - 音響 : 選択肢(BGM(ステレオ、モノラル)、効果音(ステレオ、モノラル)、ボイス(距離による変化有り、無し))を利用している。 - 機能検索 : 選択肢(三次元空間内の移動方法、コミュニケーション機能(チャットの種類))を利用している。 ## 2. 2 ワールドメタデータの構造 前述した情報に加え、ワールド名、作者の 2 つの要素を持った XML文書としてメタデー タを記述した このようにメタデータを付与することで、各ワールドのデータを記述した。これらはツリ一構造を持っており、検索時には指定したメタデータから選択式と、記述式の 2 つを用いて検索を行い、3 D 空間内に検索結果ワー ルドへのポータルを出現させることで検索を行う。 ## 3. ワールドアーカイブシステムの実装 ## 3.1 詳細検索の検索項目 前述したメタデータスキーマを用いて、 100 以上のワールドにメタデータを付与した。 ここに具体例を示す。 ワールド A Midnight Rooftop 作者 $\mathrm{InLeXz}$ 元となる空間街屋上 テクスチャのヒストグラム研究中 ジャンル現実世界 時代現代 音響 BGM モノラル効果音ステレオ ボイス距離による変化有 機能コミュニケーション機能有 ワールド B PARALLEL SHIBUYA MIYASITA PARK -DAY 作者 PARALLEL SITE 元となる空間公園 テクスチャのヒストグラム研究中 ジャンル現実世界 時代現代 音響 BGM モノラル効果音モノラル ボイス距離による変化有 機能コミュニケーション機能有 ## ワールド C Dreams Train 作者 Kireya 元となる空間電車街 テクスチャのヒストグラム ジャンルサイバーパンク 時代未来 音響 BGM モノラル効果音モノラル ボイス距離による変化有 機能コミュニケーション機能有 以上のようにメタデータを付与することで、各ワールドのデータを記述した。 先程述べた 8 つの検索項目を実際のワールドに当てはめたところ、これらのようなことが分かった。 元となる空間においては、ほとんどのワー ルドに対して項目を当てはめることが出来たため、必要な項目であることが確認することが出来た。ただし、同じ語彙を含むワールドが多数存在しているため、複合語として複数のメタデータと組み合わせるか、特定の語彙のみ、追加の検索語を使った検索を検討する必要性がある。 テクスチャのヒストグラムにおいては、現在、トグルスイッチによる「写実的」、「抽象的」という主観的な検索を行っている。今後検討していく上で、RGB 要素、明るさといった機械的に分類できる手法を検討している。 しかし、ワールド内の光源まで含めた色情報は、ワールドの特徴を表す指標となり得るため、今後機能と利用者の検索にかかるコストとを検討する必要がある。 ジャンルにおいては、実在し得ない空間が題材のワールドでは、項目として当てはまることが多かったが、実在し得る空間が題材のワールドの場合には、ジャンルとしての項目が使えない場合が多いことが確認された。ワ ールドにおけるジャンルは、ワールドそのものの世界観や概念等からの視点の分類のため、現実世界に存在する空間をワールドにした場合に、うまく分類が出来なくなったと考えられる。しかし、実在し得ない空間を題材としたワールドにおいては、ジャンルを用いることで求めているワールドを大幅に絞り込めるため、必要性は高いと言える。そのため、ジヤンルという検索項目は必要ではあるが、実在しない空間を題材としたワールドに限定されたものとなるだろう。 時代においては、実在し得る空間を題材としたワールドでは、項目として当てはめることが出来たが、実在し得ない空間を題材としたワールドでは使われない場合が多いことが確認された。ワールド内の構成要素の一つ一つが実在するものであっても、同じ時代に同時に存在しない建造物や生物が存在しているワールド等では時代が判別出来なかったからである。しかし、実在し得る空間を題材としたワールドにおいては、時代の検索項目が存在する事で、時間軸上からの検索が可能になり、必要性が高いと言える。そのため、時代の検索項目においては、実在し得る空間を題材としたワールドに限定されたものとなるだろう。また、時代に関しては時間的幅が利用者によって異なり、どのような語彙が必要か、検討が必要である。 ワールド名、作者、音響、機能については、 ワールドの構成要素であり、それぞれ、ワー ルドの名前として制作者が付与した文字列、制作者の名前と ID、音響に関するデータ、機能に関する記述を行っている。ワールド内で使える機能を限定して検索を行う時に必要なメタデータであるが、どの程度の利用者が使うかは検討が必要である。また、機能に関しては制作者が常に新しいものを開発する部分であり、今後は追加が可能な方法を取り入れる必要がある。 ## 3. 2 システムの実装 前述したメタデータを実装したワールドを、実際に UNITY で作成し、VRChat 用の仮想空間として構築した。検索画面は HTML で作り、ワールド内に配置した Web ブラウザエンジンを持ったパネルに表示させた(図 1 )。検索項目を選択し、条件に合致したワールドのポータルを、空間に表示させることで、検索を行うこととした(図2)。 図 1 検索画面を表示したパネル 図 2 検索結果を表示したワールド ワールド内にポータルを出現させる関係上、検索エンジンごとワールドにデータを持たせている。しかし、データ更新の関係上、外部の Web サーバに検索エンジンを持たせることが可能であるか検討する必要がある。 検索結果が複数あった場合、ポータルへの仮想空間内の物理的距離が開き過ぎてしまい、移動に手間がかかるため、一定以上の検索結果を表示する場合はなんらかのナビゲーションや、追加の検索語の入力を求める必要がある。利用者の体感に関係することであるため、慎重に検討をする予定である。 ## 4. おわりに 本発表により、一定の検索方法、その提示方法の提案を行うことができた。しかし、検索項目にはまだ不備が存在している。また、検索項目に当てはめる前に、実在する空間を再現したワールドも最近は作られており、実在し得ない空間で作られたワールドをわけることも必要ではないかと考えている。今後、 このようなメタバースとワールドの流行を注視し、研究を進める予定である。 ## 参考文献 [1]文化庁.文化審議会文化経済部会基盤・制度ワーキンググループ報告書.2022-3-29. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/b unka_keizai/seido_working/pdf/93687501_01.pdf (参照 2022-08-26). [2] 文化庁.文化審議会文化経済部会基盤制度ワーキンググループ参考資料. 2022-329. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashin gikai/bunka_keizai/seido_working/pdf/93687 501_03.pdf (参照 2022-08-26). [3] バーチャル美少女ねむ. メタバース進化論. 2022-03-16. 技術評論社. [4] All One Needs to Know about Metaverse: A Complete Survey on Technological Singulari ty, Virtual Ecosystem, and Research Agenda. 20 21-11-3, https://arxiv.org/abs/2110.05352v3 (参照 2022-08-26). [5] メタバース内のワールド検索用メタデー タスキーマの提案: VR 閲覧環境のアーカイビングシステム構築に向けて.2022-6-13 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsda/6/s2/ 6_s75/_article/-char/ja (参照 2022-08-26). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [D24] デジタルアーカイブのポータルサイトのリニュー アルについての考察 ○村文 1) 1)広島大学 Town \& Gown 未来イノベーション研究所, 〒739-0046 広島県東広島市鏡山 1 丁目 4 番 5 号 広島大学フェニックス国際センター MIRAI CREA $2 \mathrm{~F}$ E-mail: g18702@hiroshima-u.ac.jp ## A Study of Modernization of Digital Archive Web Portal KIMURA Aya ${ }^{1)}$ 1) Hiroshima University, 1-4-5 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima City, Hiroshima, Japan 739-0046 ## 【発表概要】 本発表は、リトアニア共和国のデジタルアーカイブのポータルサイトである ePaveldas (アー パーヴェルダス)のリニューアルの契機について考察を行うものである。ePaveldas は 2005 年に公開されて以降、 2 度リニューアルされており、 2 度目が完了したのは 2022 年 2 月であった。ユーザーの視点では、 2 度目のリニューアルの前の ePaveldas は、検索機能の不具合等、使い勝手に課題があった。他方、運営側からの視点として、国立マジュヴィーダス図書館においてヒアリングの結果をまとめたところ、 2 度目のリニューアルは、二次利用のための著作権の権利関係を表示することに注力していた。また、最初のポータルサイトの公開と 2 度のリニューアルは欧州連合の助成金を受けることによって行われていた。リニューアルの契機は、運営側の方針や助成金の有無等の様々な要因があることが分かった。今後は、デジタルアーカイブのポータルサイトのステークホルダーについて、さらなる調査が必要である。 ## 1. はじめに 本発表ではデジタルアーカイブのポータルサイトのリニューアルについて、リトアニア共和国の ePaveldas(アーパーヴェルダス、 https://www.epaveldas.lt)を事例に、リニュ ーアル前後のポータルサイトがどのようなものであったのかについて紹介し、リニューアルの契機や意図を考察することを目的とする。本発表でデジタルアーカイブのポータルサイトに着目したのは、市民のアクセスの観点から持続的なデジタルアーカイブを実現するために、不可欠な要素だからである。ウェブサイトは物理的な建造物と異なり風化が起こらない一方、利用者のニーズの変化や利用している外部サービスの廃止等に伴って陳腐化してしまう。このことは、デジタルアーカイブを一般利用者に提供するポータルサイトについても同様であり、持続的なデジタルアー カイブの公開のためには、定期的な更新や改修を適宜行う必要がある。ウェブサイトの改修そのものは、学術的な関心の対象とはなりにくいものの、どのように改修するのが適切であるのかについて知見を蓄積することは、持続的なデジタルアーカイブの維持・公開のために重要である。 まず、ePaveldas の概要をまとめる。そして、前半では、ユーザー視点から ePaveldas のリニューアルの経緯について述べる。特に筆者の視点から、リニューアル前後の ePaveldas について整理する。後半では、運営側の視点よりそのリニューアルの契機を述べる。2022 年 8 月に国立マジュヴィーダス国立図書館文書遺産調査部長ヨランタ・ブドゥリューニエネ博士に対して行ったヒアリングをもとに、ePaveldas のポータルサイトの全面的なリニューアルの内容をまとめた上で、 その契機について考察する。 ## 2. ePaveldas について 本発表で扱う事例は、リトアニア共和国の国立図書館の運営するポータルサイトである。 まず、リトアニア共和国は、ヨーロッパ北部に位置する人口約 280 万人の国である。 1990 年にソヴィエト連邦から独立を宣言し、2004 年に欧州連合(EU)に加盟した。 リトアニアにおいては、VEPIS(Virtuali elektroninio paveldo informacinè sistema、 ヴァーチャル遺産情報システム)が図書館・博物館・文書館・視聴覚アーカイブの収蔵資料のデジタルデータのアグリゲータの役割を担っている。そのVEPIS に一般からアクセスするためのポータルサイトが、ePaveldas である[1]。ePaveldas の管理運営も国立マジュヴィーダス図書館が行っている[2]。 ePaveldas はリトアニア語と英語の両方に対応している。キーワードから資料を検索できるほか、「展示 (Exhibitions)」や「コレクション (Collections)」機能があり、テーマごとに資料をまとめている。 このポータルサイトは、それ自体の機能の他に、リトアニアとヨーロッパの文化遺産を繋ぐ役割を担っている。ヨーロッパの文化遺産へのデジタルアクセスを提供するプラットフォームである Europeana[3] は国ごとのパー トナーからデータの提供を受けており[4]、 ePaveldas はリトアニアの文化遺産のデータを提供する Europeana パートナーである[5]。 ePaveldas は 2005 年に公開されて以降、これまでに 2 度、リニューアルされている。現在公開されているのは、後述するように 2022 年 2 月に完全移行が終わった 2 度目のリニュ一アル後のものである。 ## 3. ユーザー視点のリニューアル前後の 様子 ## 3. 1 リニューアル前夜 ePaveldas リニューアル直前の 2021 年初頭、 ePaveldas はユーザー(筆者)にとって非常に使いにくいウェブサイトとなっていた。デジタルアーカイブとして致命的な不具合が起こっていたのである。 まず、検索エンジンが長い間不具合を起こしていた。ePaveldas のトップページに表示されている検索窓にキーワードを入力して 「検索(ieškoti)」と押すと、どのようなキー ワードを入力したとしても、検索結果は見つからなかった旨の表示がされた。この検索窓を使うには「コツ」が必要であり、検索窓にキーワードを入力して、サジェスト機能で表示される予測一覧表に示された資料名をクリ ックして、その後「検索」をクリックすると、 クリックした資料名と対応する資料のページが表示された。厳密には検索することはできなかった。筆者の知る限り、2019 年の秋には既にこの不具合が起こっていた。 検索エンジンが機能していないので、 Europeana を使って検索を行うという「裏技」 が一部の研究者同士で共有されていた。 Europeana はヨーロッパ最大のアグリゲータであり、リトアニアの図書館・文書館・博物館のデータは ePaveldas を経由してエクスポ一トされている。そのため、Europeana であれば、ePaveldas のデータは検索可能だった。 ただし、アグリゲータである Europeana では、表示されるデータは限られたものであり、必要な情報全てを閲覧するには物足りなかった。特に書籍については、全てのぺージをスキャンした画像を見るためには ePaveldas の個別の資料を示すページにアクセスする必要性があった。そういった場合は、Europeana の個別の資料の“Providing institution”に表示されているリンクから、データ提供元のウェブページ(ePaveldas の個別の資料を示すぺ ージ)にアクセスすることができた。 また、2020 年末の Adobe Flash Player のサポートが終了したことによっても、不便さが増していた。当時の ePaveldas は、音楽や朗読を収録したレコード等の音声の公開をしており、音声再生の手段として Adobe Flash Player を用いていた。ブラウザ上で聞くことができたものの音声ファイルのダウンロードはできないようになっていた。そのため、 Adobe Flash Player のサポートの終了とともに、ePaveldas 上で公開されていた音声は一切聞くことができなくなった。音声を聞くことができないという不具合については、ユー ザー側で解決できることはなかった。 以上に示したのは、発表者自身が観察したリニューアル前の ePaveldas の不具合である。一般の人がアクセスするという目的を果たすことの大きな障壁になっていたように思われた。しかし、数年に渡って不具合のある状態そのままで公開され続けていた。 ## 3. 2 リニューアル後の移行 2021 年夏頃から、リニューアルされた ePaveldas のウェブサイトの先行公開が始まった。トップページにリュニューアル版が公開された旨が表記され、そのURLも表示された。旧版と並列して公開されていたこともあり、一時的にリニューアル版は仮の URL を付与されていた(完全移行後の現在、このURLにアクセスすると自動的にリダイレクトされる)。対応言語はリニューアルの前後で変わらず、リトアニア語と英語の両方に対応した。但し、全ての資料のメタデータの表記が二か国語に対応していたわけではない。 リニューアル後のポータルサイトでは、検索窓から検索ができるようになっていた。詳細検索も問題なく機能した。その他の機能は、次のとおりである。 - 展示 (新機能) - VR 展示 (新機能) - コレクション —ブログ (新機能) - 地図 (新機能) - 初めての方一 - 登録/ログイン (新機能) 完全移行されたのは、2022 年 2 月 14 日であった。約 3 週間前に、国立マジュヴィーダス図書館のウェブサイトにおいて完全移行の日にちが告知された $[6]$ 。 ## 4. 運営主体視点のリニューアルの契機 ここまでは、ユーザー(筆者)の視点から ePaveldas のリニューアルについて記述したが、ここでは運営主体(国立マジュヴィーダス図書館)の視点からリニューアルがどのような意図で行われたのかを整理する。 2022 年 8 月 12 日に国立マジュヴィーダス国立図書館文書遺産調査部長ヨランタ・ブドウリューニエネ博士と面会し、これまでの ePaveldas のリニューアルについてのヒアリングを行った。以降は、回答の内容を要約す る。 ePaveldas の歴史は 2005 年に遡る。この年に開発が開始した VEPIS のポータルサイトとして、ePaveldas は開設された。VEPIS はリトアニアで初めて、図書館・文書館・博物館の所蔵する文化遺産をデジタル化したものを一元化する試みであった[7]。 ePaveldas は 2022 年のリニューアルを含めて、3 回制作された。前述した不具合の多いポータルサイト(旧版の ePaveldas)は、一度目のリニューアルにより公開されたものである。いずれのポータルサイトの制作においても、欧州連合の助成金を活用していた。 最初のポータルサイトは 2005 年に公開されたものである。その制作の際は、とにかくデジタルデータの形で国内の文化遺産を見せることを目的としていた。 二度目のポータルサイトは、リトアニア国外で出版された書籍や新聞の収録に力を入れた。リトアニアは、1775 年から 1918 年までの間はロシア帝国の占領下にあり、1939 年から 1990 年までソヴィエト連合に併合されていた。そうした占領下のリトアニアの国外で出版されたリトアニア語の出版物の公開を重視したのが二度目のポータルサイトであった。 そして三度目の制作のポータルサイトは、 2022 年に完全移行された最新のものである。主な機能は前述したとおりである。主な改善として、ユーザーによる二次利用に向けて著作権についての表記を明示するようにした。 これは、Europeana にデータをエクスポートするにあたっても重要な点であった。このリニューアルに向けて、公開のための著作権者との覚書のひな形も作成し、権利関係をクリアにすることを重要視したとのことである。 実際に、最新の ePaveldas では、各資料にパブリックドメインの表示やクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの表示がされている。著作権で保護されている場合も、そのように明示されている。リニューアル前は、著作権については分かりやすい表記が無く、二次利用に際してはその都度確認が必要であった。 ヒアリングでは、ポータルサイトの制作において重視した点として、ユーザーインター フェイスの技術的な改善よりも、国立図書館として何をどのようにポータルサイトを通じて見せたいか、という点が強調されていた。 この点については、同じ国立マジュヴィーダス図書館内で ePaveldas のポータルサイトの制作やリニューアルに関わった職員でも別の部署・役割の人からは別の視点からの意見があると思われる。この点については今後の調査の課題としたい。 リニューアルの契機として、EU から助成金が得られたことが大きな要因であると思われる。助成金が得られたから大規模リニュー アルをくり返しているのか、助成金がないと小規模の改善をする余裕さえなく大規模リニューアルをせざるをえないのか、もしくはその両方であるのか、については、別途調査分析を行う必要がある。 ## 5. おわりに 本発表では、リトアニア共和国のデジタルアーカイブのポータルサイトの ePaveldas のリニューアルについて、その契機を考察することを試みた。そのために、まず、ユーザー 目線と運営目線両方におけるリニューアルの前後の様子について整理した。 リニューアルの契機は、運営側の方針や助成金の有無等の様々な要因があることが分かった。少なくとも、ユーザーにとって使い勝手が悪い不具合が発生していることによってのみリニューアルされるわけではなかったことは明らかである。 ただし、今回の発表では発表者自身が観察したユーザー目線のポータルサイトの不具合と、 1 名へのヒアリングの結果のみを扱ったものであるため、様々な要因の詳細を考察す るにはデータが不足している。デジタルアー カイブのポータルサイトのステークホルダー について、さらなる調査が必要である。 ## 参考文献 [1] Lietuvos nacionalinès Martyno Mažvydo bibliotekos generalinio direktorius. NAUDOJIMOSI VIRTUALIOS KULTÜROS PAVELDO INFORMACIJOS SISTEMOS (VEPIS) PORTALU EPAVELDAS.LT TAISYKLĖS. https://www.epaveldas.lt/assets/other/PORT ALO\%20NAUDOJIMO\%20TAISYKLES_LT _final.pdf (参照 2021-09-23). [2] ePaveldas. Contacts. https://www.epaveldas.lt/contacts (参照 2021-09-23). [3] Europeana. Home. https://www.europeana.eu/en (参照 2021-0923). [4] Europeana. About. https://www.europeana.eu/en/about-us (参照 2021-09-23). [5] Europeana. About web portal. https://www.epaveldas.lt/about (参照 202109-23). [6] Lietuvos nacionalinès Martyno Mažvydo biblioteka. Lietuvos nacionalinès Martyno Mažvydo biblioteka. Svarbi informacija portalo „E. paveldas“ vartotojams. https://www.lnb.lt/naujienos/8108-svarbiinformacija-portalo-epaveldas-ltvartotojams (参照 2021-09-23). [7] Lietuvos nacionalinès Martyno Mažvydo biblioteka. Istorija. https://www.lnb.lt/apiebiblioteka/bendra-informacija/istorija (参照 2021-09-23).
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# [D23] SxUKILAM(スキラム)連携: 多様な資料を学校教育で活用するための「人」と「データ」のネットワーク構築 ○大井将生 ${ }^{12)}$, 渡邊英徳 ${ }^{11}$ 1)東京大学, 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1, 2) TRC-ADEAC E-mail: oi-masao519@g.ecc.u-tokyo.ac.jp ## SxUKILAM collaboration: Constructing a network of 'people' and 'data' to utilize diverse resources in school education OI Masao ${ }^{1{ }^{12} \text { ), WATANAVE Hidenori1) }}$ 1)The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku,Tokyo, 113-0033 Japan, 2)TRC-ADEAC ## 【発表概要】 本研究の目的は、多様な資料と学校教育をつなぐ、人とデータのネットワークを構築することである。そのための手法として、小中高の教員と資料公開機関の関係者が協創的に資料の教材化を行う S $\times$ UKILAM (School $\times$ University $\cdot$ Kominkan $\cdot$ Industry $\cdot$ Library $\cdot$ Archives $\cdot$ Museum)連携を提案する。これまでに全国規模のワークショップを 4 回開催し、 43 都道府県、 242 機関から多様な参加者が集い、資料の教材化に向けた議論が行われた。また、ワークシヨップをもとに協創され、「教育メタデータ」が付与された 62 点の多様性に富む教材を二次利用可能なアーカイブとして IIIF を用いて公開した。以上の実践を基点に自治体単位での発展的な取り組みも各地で展開されており、多様な資料と学校教育をつなぐネットワークがボトムアップに拡張されている。 ## 1. はじめに ## 1. 1 本研究の概要 本研究の目的は、多様な資料と学校教育をつなぐ、人とデータのネットワークを構築することである。そのために、小中高の教員と資料公開機関の関係者が協創的に資料の教材化を行う「S $\times$ UKILAM 連携」を提案する。本稿では、これまでに開催したワークショップ及びその成果物を実装した教材アーカイブ、自治体単位での発展的な取り組みの事例について述べる。 ## 1.2 背景 UNESCO(2015)は、ミュージアムの主要機能の一つとして教育を位置付け、学校と連携した教育プログラムの開発・伝達の推進を勧告した [1]。UN(2019)が採択した “ESD for 2030” においても有形・無形の文化遺産に関する学びの推進が揭げられている $[2]$ 。 国内でも、2017 年には国の方針として「デジタルアーカイブ社会」の実現が掲げられ、 デジタルコンテンツの活用を推進することが目指された[3]。新学習指導要領(2017-2019) においても、図書館・博物館などの機関と連携して地域の文化遺産を尊重する態度を育むことや、諸資料を活用して探究的な学びを行 うことが示されている[4]。GIGA スクール構想やコロナ禍で重要性が顕在化したオンライン学習においても、ICT を用いて多様な資料を学習に接続させる需要が高まっている。 ## 2. 関連研究と課題 ## 2.1 学校教育における地域資料の必要性 地域資料を活用することは、学習者の共感を喚起することや[5]、多元的な歴史理解と探究方法の獲得への有効性が示されている[6]。 すなわち、地域資料は地域学習への寄与に加え、国家の歴史や現代の課題を日常と繋げて身近なものとして捉える一助となる[7]。 一方で、地域資料は学校教育では原典のままでは活用しづらいという課題がある。学校で用いる資料は、単元に位置づけ、学習者自身で読み、理解できる状態である必要がある。 それゆ立、教員は発達段階をふまえ、資料を授業で使えるように加工すること、すなわち、 「教材化」が求められる[8]。そのために、教員が施設に足を運び、資料の収集・教材化を行う重要性も提言されてきた[9]。 ## 2. 2 地域資料の教育活用をめぐる課題 しかしながら、こうした手法は、時間的・距離的制約が大きい。多くの教員は、業務過 多により授業準備の時間が不足している [10]。 そのため、施設に足を運び、資料を収集・選択・翻刻・教材化する時間を取ることが難しい。また、施設が近くにない、所蔵資料が十分でないという場合もある。 こうした課題を背景として、教科指導上の障壁について教員に問うた調査では、「適切な教材の不足」を挙げる者が多く、とりわけ 「地域教材」の収集・教材化に不安を抱える教員が多いことが明らかにされている[11]。 このように、地域資料を活用した教材開発や実践を蓄積していく必要性が示されながらも、学校教育と多様な資料をつなぐための連動は十分に広がっていない[12]。 ## 2.3 資料を活用した教材共有に関する課題 とりわけ、社会科を専門としない小学校教員や初任者の教材開発を支援するためには、地域資料をはじめとした多様な資料を活用した教材を、自由に参照・活用できる共有空間の構築が望まれる。 自治体が学習指導案を公開する事例や、教材共有サイトを会員限定で運営する事例などがあるものの、それらのコンテンツはテキス卜主体で構成されており、多様な一次資料と学校教育を紐付ける仕組みは構築されていない。また、教材やその素材となる資料が学校で自由に二次利用できるオープンアクセスな環境も整えられていない。 ## 2. 4 デジタルアーカイブの活用と課題 多様な資料の教育活用をめぐる課題を解決する手法として、デジタルアーカイブの活用に期待が寄せられている。しかしながら、その教育活用は十分に進展していない。その要因としては、以下の課題が考えられる。 ## ・資料と学校をつなぐ学習デザインの不在 第一に、デジタル資料と学校教育における学びとを関連づける体系的な方法が確立されていないことが挙げられる[13]。デジタルア一カイブにストックされている資料は、どの単元で活用できるのかなど、教育現場の目線に基づいた情報は付与されていない。そのため、多くの教員及び学習者は、日々の授業の中での各資料の活用場面が分からない。 ## ・ 二次利用条件に関する不明瞭さと厳しさ 第二に、二次利用条件表示の不明瞭さと厳しさの課題がある。日本では二次利用を制限する機関や利用に書面申請を求める機関が多い[14]。ここで問題なのは、慣習的に表示されている厳しい利用条件が活用の障壁となっているという実情を、教育現場の立場から資料公開機関に伝える場や、互いのニーズを把握する意思疎通の機会が少ないことである。 ## ・資料へのアクセシビリティ 第三に、情報があふれる中で求める資料にアクセスしづらいという課題がある。これに対しては、分野横断型統合プラットフォームであるジャパンサーチの活用が有効な解決手法となる[15]。一方、ジャパンサーチも連携機関の増加による資料数の拡張に伴い、今後アクセシビリティが低くなるというジレンマが生じる可能性がある。そのため、膨大な資料から教材の素材を探すことの困難性も考慮し、デジタルアーカイブ資料の活用事例を共有する仕組みを検討していく必要がある。 ## 3. 研究目的と提案手法 こまでの議論をふまえ、本研究は「多様な資料と学校教育をつなぐ、人とデータのネットワークを構築すること」を目的とする。そのために、以下の手法を提案する。 1)小中高の教員と資料公開機関の関係者らが協創的に資料の教材化を行うワークショップを開催する。 2)制作される教材に教育活用を促進するメタデータ(以下「教育メタデータ」)を付与した「教材アーカイブ」構築し、二次利用可能な形で公開する。 本研究では上記の提案手法をSchool $\cdot$ University $\cdot$ Kominkan $\cdot$ Industry $\cdot$ Library $\cdot$ Archives ・ Museum の頭文字から $「 S \times U K I L A M ($ スキラム)連携」と呼称する。 ## 4. 研究内容 4. 1 「人」のネットワーク構築のための 「教材化ワークショップ」の実践 多様な資料と学校教育をつなぐためには、 「人」のネットワークを構築する必要がある。 そのため、小中高の教員と資料公開機関の関係者らが集い、協創的に資料の教材化を行うワークショップを開催する。 開催形態は遠隔地からの参加を容易にするため、オンライン会議システム(zoom)を用いて実施する。学校関係者と資料公開機関の関係者が混成チームとなるように配置し、ブレイクアウト機能を用いてグループワークを行う。協働作業場としては Google drive の共有フォルダをグループごとに作成し、議論と並行した協働的な教材化の作業を支援する。 ワークショップは以下の三部構成で行う。第一部 : ワークショップの説明 : 30 分第二部:グループ別教材化のワーク:110 分第三部:各グループから第二部の発表 : 40 分 ## 4. 2 「データ」のネットワーク構築のため の「教材アーカイブ」の実装 多様な資料と学校教育をつなぐためには、「データ」のネットワークを構築する必要がある。そのために、ワークショップで制作される教材を二次利用可能な形で格納する教材アーカイブを実装する。その際、資料と学校教育をつなぎ、普及性・汎用性を高めるために、以下に例示する「教育メタデータ」をワ ークショップの議論に基づいて付与する。 ・学習対象 (学年、教科、科目、単元など) ・時間情報(時代、西暦など) ・キーワード(ペリー、日米和親条約など) ・位置情報(緯度経度、都道府県など) - 学習指導案 ・学習指導要領コード 次いで、国際的な相互運用性の高い IIIF (International Image Interoperability Framework)ビューアのマニュフェストファイル内に「教育メタデータ」を資料メタデー タと共に保持する形で格納し、公開する。これにより、コンテンツへのアクセシビリティ向上を図る。 UI デザインとしては、付与された「教育メタデータ」の要素ごとにソートして教材を検索可能とする。例えば、位置情報データに基づいて教材をマッピングすることで、地域ご との検索を視覚的に支援する。 ## 5. 結果 ## 5. 1 教材化ワークショップの実践 2021 年 7 月から 2022 年 7 月にかけて、全 4 回のワークショップを開催した。その結果、北海道から沖縄まで 43 都道府県、 242 機関から参加者が集い、多様な地域・属性の専門家が一堂に会す機会を創出することができた。 ワークショップでは、資料の教材化という共通目標に向けて、多様な観点で議論が行われた。また、異なる立場から資料の活用に関する日頃の悩みや課題、質問なども飛び交かい、活発なコミュニケーションが創発した。 ## 5.2 「教材アーカイブ」の実装 「教材アーカイブ」は 2021 年 9 月に $\mathrm{ADEAC}$ 上で公開した[16]。その後も成果物を拡充し、2022 年 7 月現在、 62 点の教材を「教育メタデータ」および二次利用可能なライセンスを付与した状態で公開している。 教材の内容については、歴史的な資料を主な素材としながらも、総学・探究・国語・美術 - 保健体育 - 防災 - 地学 - 生物 - ESD (Education for Sustainable Development) など、様々な科目の教材が制作されている点に特徴がある。さらに、社会科×国語、社会科 $\times$ 保健体育など、教科横断的な視点で制作された教材もあり、従来の教科観や既成概念に捉われない教材が多様な属性の参加者によって協創されている点がユニークである。 ## 5.3 S×UKILAM 連携からの発展的な実践 ## 5. 3.1 自治体単位でのワークショップ $\lceil\mathrm{S} \times \mathrm{UKILAM}$ 連携」への参画から創発された発展的な実践も行われている。まず、第二段階として、自治体単位での教材化ワークショップが静岡県の浜松市と東京都の港区で実施された。当該地域の学校教員や教育委員会、図書館、博物館関係者らが集い、地域の資料を中心的に活用した教材化が行われた。 ## 5. 3.2 公務とコンペによる資料の教育活用 さらに、上述した地域単位での教材化ワー クショップを開催した両自治体が、異なる形 で第三段階の発展的な実践を展開している。 浜松市では、教育研究会の教材研究部において、デジタルアーカイブを活用した教材化の検討が年度を通しての正式な公務として実施されている。港区では、地域のデジタルア一カイブ資料の活用事例を募集し、優れた教材や実践例に表彰を行う計画が進行している。 両者の方向性は異なるものの、こうした発展的な実践によって、デジタルアーカイブ資料の活用が一部の教員だけでなく、学校現場のより多くの教員、そして学習者にとって日常のものとなることが期待できる。 ## 6. おわりに 本稿では、多様な資料と学校教育をつなぐ人とデータのネットワークを構築するための手法として、小中高の教員と資料公開機関の関係者が協創的に資料の教材化を行う $「 S \times$ UKILAM 連携」を提案した。その結果、全国各地から多様な機関の参加者が集い、資料の教材化を検討するコミュニティが形成された。また、協創された教材を「教材アーカイブ」として IIIF を用いて公開した。さらに、上記実践を基点として自治体単位での発展的な実践も展開されており、多様な資料と学校教育をつなぐネットワークがボトムアップに拡張されていることを明らかにした。今後は継続的にワークショップを開催すると共に「教材アーカイブ」の LOD(Linked Open Data)化を行い、学習指導要領 LOD [17]やジャパンサーチとの接続を進める。 ## 参考文献 [1] UNESCO. Recommendation concerning the Protection and Promotion of Museums and Collections, their Diversity and their Role in Society. 2015. [2] United Nations. Education for sustainable development in the framework of the 2030 Agenda for Sustainable Development. 2019. [3]デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. 我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性. 2017. [4] 文部科学省. 平成 $29 \cdot 30 \cdot 31$ 年改訂学習指導要領. 2017-2019. [5] 安井俊夫. 国際社会における人間形成と地域. 社会科教育研究. 1986, 54, p.72-76. [6] 梅津正美. 中等歴史教育における地域社会史教授の方法.社会科教育研究.1995, 72, p.16-26. [7] 阿部保志. 地理歴史科における地域史の教材化. 社会科教育研究. 2000, 84, p.1-10. [8] 藤野敦. 新学習指導要領における公文書館等との連携について。国立公文書館アーカイブズ. 2019, 第 72 号. [9] 永井博. 社会科教育における文書館の意義.社会科教育研究. 2004, 91, p.34-40. [10] HATO プロジェクト. 教員の仕事と意識に関する調査. 2016. [11] 大久保正司. 社会科教育の障害と大学教育への要望 1 年 $\cdot 5$ 年経験教員の調査から. 社会科教育研究. 1985, 53, p.48-58. [12] 松岡尚敏. 社会科教育における地域連携の動向と展望. 社会科教育研究. 2007, 102, p.112. [13] 小森一輝. 学校教育におけるデジタルア一カイブ利活用のために.デジタルアーカイブ学会誌. 2019, 3 (2), p.211-212. [14] 時実象一. デジタルアーカイブの公開に関わる問題点:権利の表記. デジタルアーカイブ学会誌. 2017, 1 (Pre), p.76-79. [15] 大井将生, 渡邊英徳. ジャパンサーチを活用した小中高でのキュレーション授業デザイン. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4 (4), p.352-359. [16] 大井将生, ADEAC. S $\times$ UKILAM 連携: 多様な資料を活用した教材アーカイブ. 2021. https://adeac.jp/adeac- lab/top/SxUKILAM/index.html (参照 2022-09-25). [17] 高久雅生, 大井将生, 榎本聡, 江草由佳,有山裕美子, 阿児雄之. 学習指導要領 LOD. https://w3id.org/jp-cos/ (参照 2022-09-25). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [D22] 国立国会図書館デジタル化資料の OCR 全文テキ ストデータの活用可能性: NDL ラボの実験サービスにおける沖縄関連キーワードの検索結果から ○徳原 直子 1 ), 青池 亨 1 1) 1)国立国会図書館電子情報部,〒100-8924 東京都千代田区永田町 1-10-1 E-mail: lab@ndl.go.jp ## Applicability of OCR full text data of digitized materials held by the National Diet Library: ## From the search results for Okinawa-related keywords in the NDL Lab's experimental services TOKUHARA Naoko ${ }^{1)}$, AOIKE Toru1) 1) National Diet Library, 1-10-1 Nagata-cho, Chiyoda-ku, Tokyo, 100-8924 Japan ## 【発表概要】 令和 3 年度、国立国会図書館は、二つの OCR 関連事業を外部委託にて実施した。一つは、国立国会図書館が保有するデジタル化資料約 247 万点(2 億 3000 万画像)の OCR によるテキス卜化であり、もう一つはオープンソースで公開可能な OCR 処理プログラムの研究開発である。令和 4 年 3 月から 5 月にかけて、OCR 関連事業の成果物の一部を使った実験サービスを NDL ラボ上で公開した。NDL ラボは、次世代の図書館システムの開発に資する要素技術の実証実験を行うウェブサイトである。令和 4 年 9 月現在、NDL ラボ上の実験サービス「次世代デジタルライブラリー」及び「NDL Ngram Viewer」は、著作権保護期間が満了した図書約 28 万点の全文テキストデータを対象としている。本発表では、OCR 関連事業の概要、実験サービスの特徴を紹介するとともに、沖縄に関連するキーワードを用いた検索結果から、本文テキストデータの地域史研究等への活用可能性を探る。 ## 1. はじめに 令和 3 年度、国立国会図書館は、令和 2 年度末時点で国立国会図書館デジタルコレクシヨンに収録されていたデジタル化資料約 247 万点の OCR(光学的文字認識)によるテキス卜化を実施した。また、令和 3 年度以降デジタル化する資料に利用するため、OCR 処理プログラムの研究開発も併せて実施した。筆者が所属する国立国会図書館電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室(以下「次世代室」)は、先進情報技術を応用した新しい図書館サービスの調査研究を行っており、これらの OCR 関連事業を担当し、また、 その成果物の一部を用いた実験サービスの開発を行っている。 本発表では、二つの OCR 関連事業の概要、 NDL ラボ[1]上の実験サービス「次世代デジタルライブラリー」及び「NDL Ngram Viewer」について紹介した上で、これらの実験サービスの検索結果から本文テキストデー タの地域史研究等への活用可能性を探る。 ## 2. 二つの OCR 関連事業 ## 2.1 OCR テキスト化に取り組む背景 国立国会図書館は、平成 22 年度頃から視覚障害者等の利用のために全文テキスト化実証実験に取り組んできた。次世代室では、平成 25 年度に市販の OCR ソフトによってテキス卜化したデータを利用した合成音声読み上げによる視覚障害者等向け配信実験を行った。当時、昭和前期以前の資料を多く含むデジタル化資料の OCR の文字認識精度は低く、未校正テキストをそのまま読み上げ用として活用するのはかなり難しいとの結果が実験参加者から示された。一方で、資料の大凡の内容把握を目的とする利用については有用性が認められたことから、平成 26 年度以降は、市販の OCR ソフトを用いたテキスト化の読み取り精度向上のための調査研究を行うと共に、全文検索機能の開発に取り組んできた。 そうした中、平成 30 年の著作権法改正[2] により、AI における機械学習用データとしての活用(30 条の 4)や、所在検索サービスと しての活用(47 条の 5)が権利処理せずに実施できるようになった。これを受けて、令和元年度には、AI(機械学習)を用いた OCR 精度向上の調査研究や、全文検索に活用するための本文テキスト化事業の本格実施に着手した[3]。平成 31 年 3 月には、NDL ラボ上に、全文検索機能を組み込んだ次世代デジタルライブラリーを公開した。 ## 2.2 大規模な OCR 全文テキスト化事業 段階を踏んで進められつつあったデジタル化資料の OCR テキスト化であったが、令和 2 年度補正予算(第 3 号)により外部委託にて、国立国会図書館が保有するデジタル化資料約 247 万点(2 億 3000 万画像)を一度にテキス卜化することとなった。対象資料の内訳は、表 1 のとおりであり、江戸期以前の古典籍資料や録音・映像資料(音声・動画)、英文で書かれた日本占領関係資料等を除く当時デジタル化されていた資料のほぼ全てに当たる。 対象資料の半分近くは、昭和前期以前に刊行された資料であり、これらに対して既存の OCR ソフトやクラウド OCR サービスをそのまま用いた場合、文字認識精度は非常に低い。現代の資料であれば概ね 0.98 以上、すなわち 100 文字あたり 98 文字程度正確に読めるサー ビスであっても、明治期は 0.8 より低く、大正期でも 0.9 を下回ることがわかっていた。 そこで、本事業では、AI(機械学習)等により、既存の OCR 性能を国立国会図書館のデジ タル化資料に最適化するための改善を行った。改善の結果、明治期で 0.9 を超え、大正期では 0.96 以上を達成した[4]。こうして改善された OCRによりテキストデータが作成された。 また、1960 年代以降の図書については、図表等のキャプション、注釈、見出しといった紙面のレイアウト情報を追加した構造化テキストデータも併せて入手している。 ## 2. 3 OCR 処理プログラムの研究開発事業前項で紹介したOCRテキスト化事業は令和 2 年度までにデジタル化済みの資料が対象で ある。国立国会図書館が令和 3 年度以降にデ ジタル化する資料のテキスト化のため、日本語の OCR 処理プログラムそのものの研究開発 も外部委託にて実施した。この事業において も、AI(機械学習)によりモデル開発を行っ ており、学習やカスタマイズが可能な OCR 処理プログラムとなっている。この OCRの文字認識精度は、明治期で 0.91 以上であった [5]。令和 4 年 4 月、GitHub の NDL ラボ公式アカ ウントから、「NDLOCR」と称してオープン ソース(CC BY 4.0)で公開した[6]。利用の ための環境構築に技術スキルを要するが、チ ユートリアル等も提供している。 なお、読み上げ用テキストとして活用するには、NDLOCR の処理機能は未だ不十分である。例えば、行の順番の情報は全文検索では重要でないが、読み上げる場合は必須となる。現在、令和 3 年度補正予算(第 1 号)に 表 1. OCR 全文テキスト化の対象資料 & 973,000 & $137,728,493$ \\ より、NDLOCR の改善のための研究開発を実施中である。 ## 3. NDL ラボの実験サービス NDL ラボ[1]は、次世代室の研究成果の発表の場であり、新しい図書館システムの開発に資する要素技術の実証実験を行うウェブサイトである。地域研究に役立つツールとして、 2.2 で述べた OCR 全文テキスト化事業の成果物を活用した、NDL ラボ上の二つの実験サー ビスを紹介する。 ## 3.1 次世代デジタルライブラリー 次世代デジタルライブラリーは、次世代室が研究開発した各種機能を実験的に提供するサービスである。資料画像から自動抽出した図版(図表、挿絵、写真等)の類似画像検索などの機能もある。 令和 4 年 3 月、全文検索の対象を拡大し、著作権保護期間が満了した図書 28 万点の全文テキストの検索を可能とした。テキストデー タは、ページ単位で範囲指定した箇所だけコピーすることや、資料単位でテキストデータを一括してダウンロードすることも可能である。ルビは文字の大きさによって本文かルビかを判定しており、ぺージ単位でルビの大きさ判定を自分で変更することができる。 図 1 は「西表島」で検索した例である。検索結果には、テキストデータだけでなく、当該資料画像から自動抽出された図版(図表、挿絵、写真等)も表示されている。 図 1 次世代デジタルライブラリー検索結果画面 ## 3. 2 NDL Ngram Viewer 全文テキストデータに含まれる単語やフレ ーズを、出版年代ごとに出現頻度で可視化できるようにした実験サービスである。Google Books Ngram Viewer を参考に開発したもので、令和 4 年 5 月に公開した[7]。検索対象の資料は、同年 9 月時点で次世代デジタルライブラリーと同じ範囲、つまり、著作権保護期間が満了した図書 28 万点となっている。 図 2 は「沖縄/琉球」で検索した例である。 1880 年代は琉球(青)の出現頻度の方が高く、徐々に沖縄(赤)の方が高くなっている。検索結果下方には、次世代デジタルライブラリ一の全文検索結果へのリンクを表示している。 NDL Ngram Viewer は、先行する Google のサービスよりも、正規表現を用いた検索の自由度が高いことが特徴である。正規表現とは、複数の文字列を共通のパターンにまとめて簡潔に表記する方法である。例えば、「尚. $\{1,2\}$ 王」で検索すると、「尚」と「王」 の間に 1 以上 2 文字以下の任意の文字が入る単語・フレーズが検索できるため、歴代の琉球国王に関する単語が列挙されると共にその全文検索結果へのリンクを手軽に入手できる。 全文検索においては、検索結果の情報量が多く、探したい資料が埋もれて戸惑う利用者がいると考えられる。NDL Ngram Viewer の正規表現を使った検索では、ある検索キーワ ードに対するヒット件数や検索結果へのリンクを簡単に列挙できるので活用してほしい。 図 2. NDL Ngram Viewer 検索結果画面 ## 4. 地域研究における全文テキストデー タの有用性 3. では、二つの実験サービスで沖縄について調べる際の具体例を紹介した。もう一つの切り口として全文テキストが地域研究の資料調査にも有用であることを紹介する。 同じキーワードで、次世代デジタルライブラリーにおいて、本文検索時のヒット件数と、書誌データ(目次含む。)での検索時のヒット件数を比較した。表 2 のとおり、ヒット件数は大きく異なる結果となった。全文検索でヒットした全ての資料が目的の調べものに役立つとは限らないが、地名や人名などで本の中身が検索できることは、圧倒的に地域の情報探索に役立つと言えよう。 表 2. 書誌データと全文検索のヒット件数の比較 & 本文検索のヒット件数 \\ また、こうした地域の情報を本の中身から探し出すといった研究手法だけが全文テキストデータの活用方法ではない。例えば、文学作品のみ取り出したテキストデータから、沖縄を舞台にした作品を分析する、または、沖縄で出版された資料だけを集めたテキストデ一タをもとに、社会的変化を分析するなど、 デジタル人文学における地域研究にも、全文テキストデータは有用と考える。 ## 5. おわりに NDL ラボの実験サービスでは、OCR テキスト化事業の成果物の一部のみの利用だったが、令和 4 年 12 月にリプレース予定の国立国会図書館デジタルコレクションでは、247 万点の全文検索が可能となる。また、令和 4 年度内には、視覚障害者等の個人及び図書館等に配信する「視覚障害者等用データ送信サー ビス」においても提供を開始する予定である。 テキストデータをより利活用していただけるよう、引き続き、利用者の本の探索行動に役立つ各種機能の開発に取り組んでいきたい。 一方で、国立国会図書館が所蔵しない地域資料、博物資料は少なくないと考元る。地域の図書館、博物館・美術館、文書館等が所蔵する資料のデジタル化に加えて、NDLOCR 等を利用したテキスト化も促進されることで、国立国会図書館デジタル化資料と一緒にそれらの中身検索もできるようになること、また、 データセットとして提供されることでデータ駆動型研究に活用されるなどして、これまで光が当たって来なかった古い資料にも新たな情報価値が生まれていくことに期待している。 ## 参考文献 [1] NDL ラボ. https://lab.ndl.go.jp/ (参照 2022-09-22). [2] 文化庁. 著作権法の一部を改正する法律(平成 30 年法律第 30 号)について. https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hoka isei/h30_hokaisei/ (参照 2022-09-22). [3] 徳原直子. デジタル化資料のテキスト化・本文検索サービスおよび AI(機械学習)を用いたサービス開発〜「柔軟な権利制限規定」の実践例として〜. 情報の科学と技術. 72 巻 3 号. p.88-94. 2022/3. [4] 国立国会図書館. 1 令和 3 年度デジタル化資料の OCR テキスト化. https://lab.ndl.go.jp/data_set/ocr/r3_line/ (参照 2022-09-22). [5] 国立国会図書館. 2 令和 3 年度 OCR 処理プログラ公研究開発. https://lab.ndl.go.jp/data_set/ocr/r3_morpho/ (参照 2022-09-22). [6] NDLOCR. https://github.com/ndl-lab/ndlocr_cli (参照 2022-09-22) [7] 青池亨. NDL Ngram Viewer の公開 : 全文テキストデータ可視化サービス. カレントアウェアネス E2533. No. 442 2022/9/1 https://current.ndl.go.jp/e2533 (参照 2022-09-22).
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# 京都大学時代の図書館をめぐる足跡 ## Dr. Nagao's footprints on the library during his time at Kyoto University \author{ 吞海沙織 \\ DONKAI Saori } 筑波大学図書館情報メディア系 ## 1. はじめに 本節は、長尾真先生の京都大学時代の図書館をめぐる足跡をたどるものである。長尾研究室出身の黒橋禎夫教授 (京都大学大学院情報学研究科) による「電子図書館 Ariadne」、京都大学電子図書館計画を先導された片山淳氏(当時、同図書館情報管理課専門員)掠よび石井保廣氏(当時、同附属図書館総務課長)による 「附属図書館に打ける電子図書館計画によるサービス展開」、全学共通科目「情報探索入門」を推進された慈道佐代子氏 (当時、同情報サービス課参考調査掛長) による「全学共通科目『情報探索入門』の開始」、オー プンアクセスの推進等、京都大学の図書館のみならず大学図書館界を牽引されている引原隆士教授 (同図書館機構長兼附属図書館長)による「電子図書館からアーカイブへ」、そして本稿から構成される。 長尾先生は、1990 年代から研究の軸足を電子図書館へと移された。1990 年、原田勝教授(当時、図書館情報大学図書館情報学部) とともに電子図書館研究会をたちあげられ、1994 年に電子図書館システム Ariadneを発表された。附属図書館長在任期間中には、電子図書館システムを導入、全学共通科目『情報探索入門』を立案され、総長在任期間中は、京都電子図書館国際会議を推進された。 長尾先生の京都大学時代の図書館をめぐる足跡をあえて大別すると、電子図書館と情報リテラシー教育に分けることができる。いずれも京都大学の図書館にとどまらず、大学図書館界に大きな影響を与えている。以下、当時、京都大学の図書館員であった筆者の視点から、電子図書館と情報リテラシー教育を中心に、長尾先生の京都大学時代の図書館をめぐる足跡をたどり たい。 ## 2. 電子図書館についての足跡 「研究室におもしろいものがあるので見に来ませんか?」京都大学工学部電気系図書室(当時)の図書館員であった筆者は、長尾研究室の大学院生に誘われるままに同研究室を訪孔た。小さな画面に広がる電子図書館システム Ariadne の世界は、まだ若い図書館員であった筆者をいたく刺激した。物理的な図書や雑誌を単位とする資料の収集・組織化・提供が主であった図書館というものが、根底から変わるのではないかという予兆に、わくわくするとともに、怖さも感じた。黒橋教授の記事にあるように、Ariadneが従来の図書館の単なる電子化にとどまらないものであるということが直観的に伝わったからかもしれない。 Ariadne 開発に際して、長尾先生が熱く語られた電子図書館への可能性のうち、強く印象に残っているのは、「情報アクセスにおける知識・情報の粒度の変化」 と「エンドユーザによる直接的な情報検索」である。後者は、情報リテラシー教育の重要性へ、全学共通科目「情報探索入門」の立ち上げへとつながっていく。 片山氏・石井氏の記事にあるように、長尾先生が 1995 年に附属図書館長に就任されて以降、電子図書館計画は急速に進展し、Ariadne の要素が取り込まれた電子図書館システムが構築された。この電子図書館システム計画には、若手の図書館員のアイデアが盛り込まれた。電子図書館の構想図作成に際しては、公式非公式に若手の図書館員が集められた。若手の図書館員によるキャッチフレーズ「京都大学エンサイクロペディア」や「机の上に京都大学」の採用もその象徴と いえる。 2000 年には、京都電子図書館国際会議が開催された。これは、1999年 5 月に京都大学附属図書館で「英国図書館の未来とイギリスにおける大学図書館の発展」[1] について講演されたリチャード・ローマン氏 (当時、British Library Document Supply Centre)からの提案であった。当時、附属図書館には国際会議運営のノウハウがなかったため実現が危ぶまれた。ところが、 この会議の趣旨に強く賛同された長尾先生(当時、京都大学総長) が上林彌彦教授 (当時、京都大学大学院情報学研究科)につないでくださったことにより、同教授を中心に、研究者と図書館員による実行委員会が組織され、実現に向けて動き出した。最終的に同会議は、京都大学、英国図書館 (BL)、米国国立科学財団 (NSF)による主催、図書館関連、情報学関連の学協会、研究所、地方自治体など 13 団体の後援による大規模な国際会議となった。長尾先生は、「情報技術の発展と図書館機能の拡大」というタイトルで講演され、図書館員の仕事の変化や、グローバル時代の図書館の連携についても触れられた[2]。 引原教授の記事にあるように、長尾先生による電子図書館の概念は、京都大学附属図書館のみならず、あらゆる館種の図書館に方向性を与えた。研究者や図書館員、利用者のマインドセットの変革も含め、道半ばではあるが、長尾先生の電子図書館構想の具現化は、着実にすすんでいる。 ## 3. 情報リテラシー教育についての軌跡 1990 年代、代行検索は図書館員の重要な仕事のひとつであった。多くの書誌データベースは従量制で課金されていたため、適切にキーワードを選択し、検索式を組み立て、できるだけ短時間で効率的に検索を行うスキルが求められた。検索の知識とスキルをもった者が、エンドユーザの代わりに情報検索するといった形をとっていたのである。 しかし電子図書館では、エンドユーザが直接的に情報検索を行う。そこでエンドユーザに求められるようになったのが、情報リテラシーである。早くからその重要性に着目されていた長尾先生の提案により、1998 年度、全学共通科目として結実したのが「情報探索入門」であった。複数の教員によるオムニバス形式の講義と演習から構成され、演習の部分に図書館員が参画する形で実施された。図書館員が直接、授業に関わることについては、図書館内外から反対があった。図書館内からは「授業をするのは図書館員の仕事ではない」、図書館外からは「職員が授業で学生を教えるなんてとんでもない」という声があがっていたように記憶している。しかしそのような声は、他に範となるような実践によって、次第に小さくなっていった。慈道氏の記事にあるように、長尾先生による強力なリー ダーシップがなければ実現しなかったといっても過言ではないだろう。 この全学共通科目「情報探索入門」を通して長尾先生は、電子図書館時代における情報リテラシー教育の重要性を示されるとともに、情報リテラシー教育を図書館員の新しい役割として改めて示されたように思う。2000 年の京都国際電子図書館会議での講演でも、電子図書館時代において図書館員が行うべき最も大切な仕事は教育ではないかと指摘されている。シラバスには「演習は図書館司書が協力する」と明記され、当初、全学の図書館員 20 名がこの授業に参加した。この授業に携わった筆者は、誇りをもって演習に取り組んだことをはっきりと覚えている。なお、1999年3 月にこの授業の講義録として、『大学生と「情報の活用」: 情報探索入門』が発行された[3]。 ## 4. さいごに 長尾先生を想うとき、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということわざが、いつも頭に浮かびます。どんな些細なお願いや相談ごとにも、丁寧にそして真剣に、耳を傾けて下さいました。 長尾先生、ありがとうございました。 ここに謹んで哀悼の意を表します。 ## 註・参考文献 [1]吞海さおり.「英国図書館の未来とイギリスにおける大学図書館の発展」: リチャード・ローマン氏講演要旨. 静脩. 2000.3, vol. 36, no. 4, p.20-22. [2] 京都大学電子図書館国際会議編集委員会編. 2000年京都電子図書館国際会議 : 研究と実際. 日本図書館協会. 2001.3. [3] 長尾真監修;川崎良孝編集. 大学生と「情報の活用」: 情報探索入門. 京都大学図書館情報学研究会. 1999.3.
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# [D21] 沖縄語のデジタル語彙資源の構築 ○宮川創 1), 加藤幹治 2), 町田星羅 3), カルリノ・サルバトーレ 4), ズラズリ美穂 5) 1)国立国語研究所,〒190-8561 東京都立川市緑町 10 番地の 2 2)東京外国語大学・日本学術振興会 3) 八ワイ大学七口校 4) 九州大学・一橋大学 5) ロンドン大学東洋アフリカ学院 E-mail: so-miyagawa@ninjal.ac.jp ## Making Digital Lexicon of Okinawan MIYAGAWA So ${ }^{1)}$, KATO Kanji2), MACHIDA Seira ${ }^{3)}$, CARLINO Salvatore ${ }^{4)}$, ZLAZLI Mihoo ${ }^{5}$ 1) National Institute for Japanese Language and Linguistics 2) Tokyo University of Foreign Studies / Japan Society for the Promotion of Science 3) University of Hawai'i at Hilo 4) Kyushu University/Hitotsubashi University 5) SOAS University of London ## 【発表概要】 沖縄語は、沖縄本島で話されている日琉語族に属する北琉球諸語のうちの一言語である。国立国語研究所発行の『沖繩語辞典』(1963 年刊行、2001 年第 9 刷) は、ラテン文字を使用し、声門閉鎖音などの音素記号を一部補足したものである。沖縄語は今日に至るまで、漢字かな混じり、カタカナ、ローマ字、ひらがなのみなど様々な形で書かれてきた。本「沖縄語辞典オンライン」プロジェクトでは、まず、今までに用いられた正書法・表記法を精査し、標準的な漢字かな混じり表記法を割り出し、標準化した。次に、国語研により既に作成されている辞書のスプレッドシートデータ(XSLX)に、標準化した漢字かな混じり表記やひらがな表記、国際音声字母 (IPA)を追加した上で、データをテキスト構造化の世界標準である TEI XML に変換した。さらに、この XML を変形させ、静的ウェブサイトジェネレータである Hugo を通してウェブアプリケーションを作成した。本稿ではこの「沖縄語辞典オンライン」の現在までの成果と課題について議論する。 ## 1. はじめに 沖縄語(うちなーぐち)は、日琉語族のうちの琉球語派、北琉球語群に属する言語である。日琉語族とは、日琉祖語という祖先の言語を共有する諸言語である。日琉語族は、日本語派と琉球語派に分か扎、日本語派には、日本語共通語をはじめ、日本語諸方言と、八丈語(八丈方言)が属する。琉球語派は、北琉球語群と南琉球語群に分かれ、北琉球語群には、奄美語と沖縄語が、南琉球語群には、宮古語と八重山語と与那国語が属する。日琉諸語のそれぞれの語派、語群が分かれた年代については諸説がある。また、琉球語派を認めず、拡大東日本語派と琉球諸語と九州諸方言を含めた南日本語派に分ける考え方もある [1]。さらに、一部の学者や UNESCO は国頭語 (北部沖縄、与論島、沖永良部)、徳之島語を認め、Ethnologue [2] やISO 639-3 [3] では、与論語、沖永良部語、徳之島語、喜界島語、北部奄美語、南部奄美語を認める。言語 と方言の違いに絶対的な指標がない以上、言語分類に多様性があるのは致し方ないが、本稿では、これ以上、日琉語族の分類については、述べない。本稿が主眼とするのは、沖縄語である。沖縄語は、分類によって、沖縄北部や伊江島、伊平屋島で話されている言語を入れる説と、入れない説が存在するが、本稿が主眼とする沖縄語は、琉球王国の首都であった首里の方言を中心とする。 国立国語研究所は、1963 年に『沖繩語辞典』 [4]を刊行した。さらに、2001年の『沖繩語辞典』第 9 刷が XSLX 形式でデジタルデータ化され、国立国語研究所のリポジトリに CC BY 4.0 のライセンスで公開され、現在も入手可能である[5]。 このデータセットは、沖縄語の学習や言語復興にとって大変有益であるものの、様々な補助記号を加えたアルファベットによる音韻表記が採用されており慣れが必要であること、 また、データ構造に例文と意義が混在してい ることから、学習者にとっては使いづらい。本研究は、このデータセットを活用して、沖縄語学習者にとって使いやすいウェブアプリケーションにするものである。 ## 2. プロジェクトデザイン ## 2.1『沖繩語辞典』の経緯 『沖繩語辞典』は、1947 年度文部省科学研究費共同概究題目「日本民族に近接せる諸民族の言語及び文化等の硫究」のプロジェクトにおいて、沖縄語首里方言話者である島袋盛敏氏が「琉球首里語」の題目を担当したことに端を発する。島袋氏はこの科学研究費によって、沖縄語首里方言辞典の執筆を始めた [6]。島袋氏は国立国語研究所の設立時期である 1948 年度・1949 年度に、評議員の柳田國男氏の推薦によって調査研究を外部委託され、 1950 年には国立国語研究所の非常勤職員となり、その中で辞書の執筆を続けた。島袋氏の辞書の稿本は、1951 年に完成し、全体の分量は原稿用紙 1856 枚に及んだ。その後、国立国語研究所地方方言研究室が大幅に見直し、言語学的・客観的な分析をもとに、改訂され、 1963 年に『沖繩語辞典』として刊行された。 島袋氏は、首里の士族階級の家庭の出身である。首里方言は特に、身分別の言語使用域の差が大きかった。しかし、明治以降の身分制度の廃止や急激な社会変動によって、差は著しく失われてしまった。島袋氏は、首里王府を支持する保守派の家庭で育ったことや、妻もまた首里方言の母語話者であること、 1931 年に東京に引っ越し、それ以降、関東に住んでいたことから、首里方言の士族言葉を非常によく保っているという。 元々、島袋氏の稿本の見出し語は全てカタカナ表記でなされていたというが、その表記は、ベッテルハイム琉訳新約聖書などで使われる伝統的な仮名表記に近いものであり、実際の音韻をそのまま表したものではなかった。 そこで、国立国語研究所では、研究所評議員である服部四郎教授(東大)の指導のもと、首里方言の母語話者である比嘉春潮氏らによる読み上げと加筆を基に、首里方言の音韻体系に忠実な、言語学的なアルファベット表記を用いて、見出し語および例文の表記を直した。この改訂による表記は、首里方言の音韻体系を忠実に表すという点において優れている一方、日本での日常生活で一般の人が目にすることがない補助記号が用いられているため、辞典を活用するためにはこれらの特殊な記号の発音を全て覚えなければならないという負担が存在する。 現在、しまくとうば検定、各地の琉球諸語の教室、教科書の出版 [7]など、琉球諸語の復興・保全に繋がる教育活動が盛んになっているが、沖縄語の表記法についても、ある程度現代的でかつ、古典的仮名表記よりも実際の音韻体系にある程度即した表記法が確立されつつある。沖縄語に限っては、漢字かな混じりの表記も頻繁にみられる。そのため、この 『沖繩語辞典』に漢字かな表記を望む学習者の声もウェブ上で公開されている[8]。本研究では、沖縄語の表記法を可能な限り調査し、比較的標準的で、かつコンピュータでも入力しやすい、ひらがな表記と漢字かな表記を標準化して見出し語および例文を転記している。 かな表記は、国語研のアルファベットから自動で変換するプログラムを作成して変換し、漢字かな表記は、意味などを参考に、 3 人の作業者が漢字かな表記の入力を行なっている。 ## 2.2 語彙資源のウェブアプリケーション化 紙の辞書では紙面の見やすさやぺージ数制限などを考慮する必要があるので、全ての表記法を載せることは難しい。しかし、ウェブページであれば、あらかじめ多数の表記法のデータを記録しておき、そのうち学習者が必要なものだけを使いやすいように表示させることが可能である。そして、学習者用の辞書サイトと研究者用の辞書サイトを別々に表示させることも可能である。そこで、本プロジエクトでは、2001 年の第 9 刷の『沖繩語辞典』 のデータのスプレッドシートに一般的なかな表記、漢字かな混じり表記を加えた後、TEI (Text Encoding Initiative)ガイドライン P5 [9] に準拠した XML に変換し、そこから XSLT を用いてデータを変形し、ウェブサイトに落 とし込んで、言語資源として公開することを目指している。次の節では、これまでに採用してきた方法論について述べる。 ## 3. 沖縄語辞典デジタル化の計画と進展 3.1 既存のデジタルデータと表記法 国立国語研究所はすでに『沖繩語辞典』の第 9 刷のデータをスプレッドシート(拡張子 XSLX)に入力し、それをCCBY 4.0 で公開している。『沖繩語辞典』のオリジナル版では、様々な補助記号を用いたラテン・アルファベットで見出し語と例文を表記しているが、このスプレッドシート版では、ASCII の範囲の英数字で見出し語と例文を書いているため、 オリジナルではセディーユなどのダイアクリティカル・マークつきで書かれている文字が、大文字で書かれている。そこで、本プロジェクトは、『沖繩語辞典』の現物を見ながら、オリジナルのどの文字が元データのどの文字に対応するのか調査した。また、範例や説明の章においてそれらの文字の実際の発音も調心゙、 IPA で対応するものをできる限り調査した。 そして、現在出版されている沖縄語のひらがな表記を有する書籍を調べ、ひらがな表記を標準化した。この際、パソコンでの入力しやすさを最優先した。日本語共通語にはなく沖縄語にある発音を表すために、新しいひらがなを使用する者もいるが、本プロジェクトの標準化では標準のひらがなのみを使用した。 ## 3.2 漢字かな表記、ひらがな、IPA の追加 ひらがな表記および、IPA、そしてオリジナルの表記は、簡単な Python プログラムを用いて、『沖繩語辞典』データファイルの「見出し語」の ASCII 表記から自動変換で作成した。漢字かな混じり表記への変換は、 3 名の作業者によってなされた。見出し語の漢字かな混じり表記変換は、14,549 語全てが完了し、現在チェックと推敲を行っている。しかし、例文の漢字かな混じり表記は、 4 分の 1 程度しか完了していない。2022 年度中にウェブペー ジのベータ版を公開する予定であるが、公開時点で漢字かな混じり表記を表示できるのは見出し語に限られ、例文はひらがな・IPA・ オリジナル表記のみに限られると思われる。 ## 3. 3 データの TEI XML 化 『沖繩語辞典』のデータのスプレッドシートを、現在デジタルヒューマニティーズ分野においてテキストの機械可読化・構造化フォー マットの世界標準となっている TEI XML に変換し、他のプロジェクトが容易に二次利用可能な状態にする必要がある。そのために、本プロジェクトでは、Python の ElementTree ライブラリを使用して、『沖繩語辞典』のスプレッドシートデータを TEI XML に変換するプログラムを開発した。このプログラムにより変換される TEI XML ファイルは、TEI XML ガイドラインにある辞書データのサンプルおよび TEI Lex-0 [10] に従って、設計した。 <orth>タグの xml:lang 属性において BCP47 に従って複数の表記を示し、各単語に固定されたピッチアクセントパターンの種類を持つ辞書を作成した。また、発音を明確にするために国際音声記号を追加し、<phon>タグを使用した。このプログラムによって変換された、辞書データの一部を図 1 で示す。 図 1. 辞書データの TEI XML 化 ## 3. 4 TEI XML データのウェブサイト化 XSLT を用いて、上述のプログラムで変換された TEI XML ファイルを、ウェブサイトに変形する。この際、プロトタイプとして作成したウェブサイトには、Go 言語で開発された静的サイトジェネレータである Hugo を用いた。 Hugo のテーマは、検索可能でメニューバーから文字を選んで引くことができ、それぞれの見出し語ページが見やすい、Hugo Curious を 選択した。このテーマでは、ライトモード/ダ ークモードをユーザが自由に選択できる。図 2 で、Hugo Curious を用いて開発したライトモードのサンプルウェブページを示す。 2. サンプルウェブページのライトモード ## 4. おわりに 以上、現在進行中の「沖縄語辞典オンライン」プロジェクトの進展とそこで使用している技術について詳述した。ここで述べたものは、計画され、サンプルを作成し、試しているものであり、今後の技術の革新、あるいは、 プロジェクトの運営上の制限などで、技術の選定など変更される可能性がある。特に静的サイトジェネレータである Gatsby と TEI を JavaScript でウェブサイトに直接視覚化して表示させる CETEIceanを組み合わせた技術が Raffaele Viglianti 氏によって開発中であり [11]、このプログラムを用いれば、TEIを HTML に変換することなく、そのまま Gatsby のコンテンツのフォルダに入れてビルドすれば、ウェブサイトに表示される。そのため、今後は Gatsby と CETEIcean を使用することも視野に入れており、現在、本プロジエクトのサンプルデータで試している。技術は日進月歩で進化しているため、使用する技術に関しては、より適したものを使う準備がある。だが、本プロジェクトの目標は、学者向けの『沖繩語辞典』を万人がウェブ上で気軽に使えるものにして、沖縄語の言語復興に寄与することに変わりはない。今後は、沖縄語の見出し語と例文の読み上げ音声や、視覚的ハンディキャップがある人向けに、サイトの音声読み上げなど、よりインクルーシブなオンライン辞書に仕上げていく。この目標を目指し、公開に向けて作業を進めていく。 ## 参考文献 [1] 五十嵐陽介. 分岐学的手法に基づいた日琉諸語の系統分類の試み. フィールドと文献から見る日琉諸語の系統と歴史. 開拓社. 2021, pp. 17-51. [2] Eberhard, David M., Gary F. Simons, and Charles D. Fennig (eds.). Ethnologue: Languages of the World. 25th ed. SIL International. 2022. http://www.ethnologue.com (参照 2022-09-26). [3] SIL International. ISO 639-3. https://iso639-3.sil.org/code_tables/639/data (参照 2022-09-26). [4] 国立国語研究所. 沖繩語辞典. 国立国語研究所資料集 5. 第 9 刷. 財務省印刷局. 2001 . [5] 国立国語研究所. 沖縄語辞典データ集. https://mmsrv.ninjal.ac.jp/okinawago/ (参照 2022-09-26). [6]以下の経緯は、『沖縄語辞典』の pp. 1-7 の「編集経過の概要」による。 [7] 例えば、花薗悟. 初級沖縄語. 研究社. 2020. や、西岡敏・仲原穣. 沖縄語の入門一たのしいウチナーグチ.白水社. 2006. など。 [8]いめゆんな. オススメの勉強法 【うちな一ぐち(沖縄方言)講座・じゅん選手】. 沖縄芸人じゅん選手のネタで! ゼロから学ぶうちなーぐち講座. 2015-07-24. https://imeyunkana.blogspot.com/2015/05/blogpost_51.html (参照 2022-09-26). [9] TEI: Text Encoding Initiative. P5 Guidelines. https://tei-c.org/guidelines/p5/ (参照 2022-09-26). [10]TEI Lex-0. https://dariaheric.github.io/lexicalresources/pages/TEILex0/TEI Lex0.html (参照 2022-09-26). [11] Viglianti, Raffaele. raffazizzi/gatsbyceteicean-workshop. GitHub. 2022. https://github.com/raffazizzi/gatsby-ceteiceanworkshop (参照 2022-09-26).
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# [D13] 地域新聞のデジタルアーカイブへの利活用のため の地域特有の語彙の抽出と可視化に関する研究日刊宗谷を事例として (石橋豊之 ${ ^{1)}$, 柊 和佑 ${ }^{11}$, 安藤友晴 ${ }^{2}$ 1)中部大学人文学部, $\bar{\top} 587-8501$ 愛知県春日井市松本町 1200 2)育英館大学情報メディア学部 E-mail: toyoyuki@isc.chubu.ac.jp ## A Study on Extraction of Area-specific Vocabulary and Visualization for Utilization in Digital Archives of Local Newspapers: ## A Case Study of Nikkan Soya ISHIBASHI Toyoyuki'1), HIIRAGI Wasuke ${ }^{1)}$, ANDOH Tomoharu ${ }^{2)}$ 1) College of Humanities, Chubu University, 1200 Matumoto-cho, Kasugai City, Aichi Prefecture, 587-8501 Japan 2) Ikueikan University ## 【発表概要】 本発表は宗谷総合振興局内でのみ発行さ新聞である「日刊宗谷」の記事および広告に着目したものである。日刊宗谷では、過去の新聞記事を画像によるデジタル化のみされている状態である。そのため、このような新聞記事をデジタルアーカイビングするうえでは、検索に有効なメタデータの検討が必要である。発表者ら次の手順に沿ってメタデータを検討した。1960、70、 80、 90 年の 1 月 1 日 10 日までの記事のテキスト化を行い、『ニュース・シソーラス』の 7 つの分類と 42 分野を参照し照らし合わせ、その分野に当てはまる「領域・範囲」を検討した。そのために KH Coder 3 を用いて形態素解析を行い、複数の記事かつ 10 回以上の出現のある用語に絞り、「領域・範囲」に当てはめた。次にこれら記事及び広告の位置に着目しQGIS でシンボルレイヤを作成し地図上にプロットした。その際には、過去の地名と現在の地名を参照し、広告については「日本標準産業分類」を用いて分類を行った。 ## 1. はじめに 本研究は、地域住民による地域情報収集・蓄積・利活用の支援システムの構築を目指し、 その中で「地域の記憶」アーカイブを中核システムであると位置付けている。これまで、市民の持っている情報を幅広く引き出す支援を行い、地域が使いやすい語彙とともにその意味を蓄積するシステムの構築を目指し、複数回北海道稚内市において実験を行なってきた[1]。本発表ではその中でも宗谷総合振興局内でのみ発行されている地域新聞である「日刊宗谷」の記事および広告に着目したものである。 なお、本発表における地域新聞とは、”県レベル以下の特定の地域社会に力点を置いて記事を収集・編集し、特定地域の人々を主たる読者として販売している新聞”とする [2]。そして、このような地域新聞は対象とする範囲が限られているため、発行部数も多いとは言 えない。故にデジタル化をしても全国紙や一部のブロック紙のように有料データベースとして運用することは難しいと思料する。特に日刊宗谷の購読者となる宗谷総合振興局内の人口を見ると、住民基本台帳人口によれば 2022 年 8 月時点で 59,560 人(参考値)となっており人口減少が続いている状態である[3]。こうした実情は他の地域新聞を発行している地域にも当てはまるものも多い。 その中で、北海道東部に位置する置戸町立図書館では、地元の地域新聞である「置戸夕イムス」のデジタルアーカイブを構築している[4]。著作権等の課題が存在するものの、置戸町立図書館のように地域の貴重な記録でもある地域新聞をデジタル化し保存継承していくことは、地域の記録を残すことにつながる。他方で、発表者らは以前にも日刊宗谷の記事と全国紙の共通するテーマの記事について 比較分析をしている[5]。この中では、全国紙と地域新聞ではテーマが同じでも用いられる用語等に違いがあることを明らかにしている。 そのため、全国紙のデータベース等で用いられている索引等では対応できない用語も存在する。ただし、前述した置戸タイムスのデジタルアーカイブにおいても「おけと 100 大ニュース」と閲覧できる内容を限定し、その 100 大ニュースの見出しのみ検索できるようになっている[6]。 そのため、実際に地域新聞をデジタルアー カイビングするうえでは、検索に有効なメタデータの検討が必要である。発表者らは次の手順に沿ってメタデータを検討した。 ## 2. 研究手法 ## 2.1 日刊宗谷のテキスト化と語彙の抽出 日刊宗谷は、1948 年に刊行され現在まで宗谷総合振興局内で発行されている地域新聞である。このうち、1950 年の一部から 2013 年まで画像(Tiff 形式)ではあるもののデジタル化がなされている。研究ではこの画像を使用している。今回は、そのうち、1960 年、70 年、 80 年、 90 年の 1 月 1 日 10 日までの記事のテキスト化を行った。当初は見出しのみにすることも考えたが、見出しのみだと記事本文の内容が不明なものも一定数あったことからテキスト化を行っている(例えば、「投書ひんぱん」という見出しのものがあったが、 これだけでは、失業保険の不正に関する投書とはわからない)。 テキスト化は、ソースネクスト株式会社が提供している有料の OCR ソフト「読取革命 Ver.16」で読み取る箇所の範囲指定を行いながら OCR をかけた。しかし、古い記事ほど精度が悪かったため、その後確認しながら手作業でテキスト化を図っている。一部明らかに誤植と分かる部分については修正をしている。次に日刊宗谷に掲載されているものを次のように区分した。ニュース等が掲載されている通常の記事、そしてコラム、小説、社説、番組紹介(古いものは映画紹介)、俳句、川柳、囲基、将棋、天気予報、占い、その他(慶吊禄等)と分けた。このうち記事に絞ってテキ スト化を行っている。また、記事のうち、一つの見出しが複数の記事に適用されるものがあったため、この見出しを特集とした。この例として 1960 年 1 月 3 日の記事に「二千人の労働力年間ザット 20 億の水揚げ」というものがある。こ扎は、「月、月、火、水、木、金金の操業」「競り合う水揚げ」「二千人の労働力」「酒でウサ晴らし」と 4 つの記事にかかっている見出しである。 以上の総数は次のとおりである。 1990 年のみ記事数が大幅に多いのは、この年の 1 月 1 日号のぺージ数が 59 ページ(通常は 4 ページ)と多かったためだと考えられる。 次に、これらの記事を分類及び分野ごとに分けた。これらは、『ニュース・シソーラス』 の第 3 版(1990)及び第 4 版(2004)において用いられているものを採用した。『ニュー ス・シソーラス』では、 7 つの分類項目と 42 分野(1990 は 41 分野)が存在している。『ニュ一ス・シソーラス』では、分野に当てはまる 「対象とする領域・範囲」という項目がある。 この「領域・範囲」のための用語についてテキスト化した記事から抽出することを試みる。 この際には、『新聞切抜・写真分類表:昭和 48 年版』(1973) も参考にしている。 そのために、記事をテキストマイニング用のフリーソフトウェアである KH Coder 3 を用いて形態素解析を行った。この結果、どの \\ 表 2. 分野・分類・対象とする領域・範囲の一部 年代においても上位頻出語については大きな違いはなかったので、年代ごとに領域・範囲を分けるのは行わないこととした。 記事全体で形態素解析した中で、領域・範囲に用いることが可能な上位頻出語の一部を表 1 に示す。これらの頻出語はどの年においても多く使用されている。また、分野を外部変数とした共起ネットワークも作成した。この頻出語と共起ネットワークの結果を参考にし、複数の記事かつ 10 回以上の出現のある用語に絞り、分野に当てはまる領域に当てはめた。なお、一桁しか出ていない単語においても、領域として用いることが可能そうなものもあったが、これらについては今後、記事数を増加させて分析するまで保留とする。 この結果の一部を表 2 に示す。記事の時期が限られていることもあり、「軍事」「外交」 「学術」といった該当する領域のなかった分野も一定数存在した。『ニュース・シソーラス』 で用いられている用語も存在する一方で、異なる用語も出てきている。加えて、管内・支庁のように現在では宗谷総合振興局という用語に変化しているものもある。また、浜森辰雄のような人名は取り扱いに注意が必要だが、氏は稚内市長を 30 年以上務めた人物であり、稚内市の行政を考える上で妥当であると判断した。 他方で、方言のような稚内でしか通用しないという用語に関して今回は見受けられなかった。もちろんスケソのように省略されている用語やクサンルといった地名については一般的ではない。しかし、地名については後述する手法を使えば対応可能である。 このほか、消防団や観光などは記事の性質上『ニュース・シソーラス』の領域とは異なる領域に当てはめている。 ## 2. 2 GIS を用いた可視化 次に着目したのはこれら記事及び広告の位置である。事件の起きた場所やそこにどのようなお店等があったかを可視化することは、 その地域について調査する際に有効であると考える。こうした取り組みはいくつか関連研究が存在する[7]。本研究では位置情報だけではなく、時代ごとに提示できるようにする。 使用するのは、GIS(地理情報システム) のフリーソフトウェアである QGIS 3.26.3Buenos Airesを用いる。 なお、広告については店名のみが掲載されているものも多かった。そこで、稚内商工会議所が刊行している『稚内商工名鑑』の 1963 年、1973 年、1984 年、1994 年を参照し、住所が未記載だったお店の住所を取得した。ただし、実際の広告やこの名鑑において記載されている住所は丁目までのものが多く、番地までは把握することはできなかった。そのため、GIS に掲載する位置についてはおおよその位置となる。これらの住所のうち 1970 年以前は現在の地名と大きく異なるため、以前行った地名の変遷調査の際に使用したデータを用いる [8]。これにより過去の地名でも現在の地名を把握することができる。 次に、広告の分類を行った。基本的には企業やお店(飲食店等)の広告が多いことから、「日本標準産業分類」を用いた。ただし、近火御見舞に関する広告等もあったので、これらはその他の扱いにしている。 これを今回は QGIS でシンボルレイヤを作成しそれぞれ地図上にプロットした。このシンボルは産業分類(うち中分類)ごとに色を変充、記事に関するものはシンボルの形を変えている。以上の結果の一部を図 1 に示す。 図 1 は、現在の稚内市の中央付近のものに、 1960 年の記事のタイトルと広告元をプロットしたものである。 この中央付近については、稚内市では数少ない個人名が掲載されている地図の「昭和 35 年度稚内市々街案内図」を見ることで比較的正確な位置でプロットができた。他の場所でもプロットは行っているが、そちらについてはおおよその位置となっている。 今後は、これらをデータベース化し、記事と紐づけていく。また、広告については画像も重要であるため、当該広告の画像とも紐づけていくことも検討している。 図 1. 現在の QGIS 上の地図にプロット ## 3. 今後の課題と展望 今回行ったものについては手動によるものが多い。そのため、今後は自動化するための手法を検討していく。少数の記事であれば今回の手法でも問題ない。しかし、地域新聞とはいえ、70 年以上の歴史がある日刊宗谷の記事数は膨大である。そのため、自動化を図り、作業にかかるコストを減らしていく必要がある。加えて、領域については一般的ではない用語も今後増加すると考える。こうした用語と一般的に用いられる用語の双方に対応させる必要もある。 また、NewsML のように記事の構造化を図るのも、利活用の観点から有効であると思料する。 ## 注釈 [1] 柊和佑, 石橋豊之, 三河正彦, 安藤友晴. 市民協働型デジタルアーカイブにおけるやる気維持とインセンティブマネジメント. 第 13 回デジタルアーカイブ研究会,2019. [2] 吉岡雅光.地域新聞の地域求心力. 立正大学人文科学研究所年報. 1997, 別冊 (11), p.15-29.参照部分は、p. 16 . [3] “宗谷管内の住基ネットにおける人口【参考値】”. 宗谷総合振興局. https://www.souya.pref.hokkaido.lg.jp/ts/tss/so uyatoukei18jyuuki.html (参照 2022-09-24). [4] “置戸タイムス 100 大ニュース”. 置戸町立図書館 /置戸町デジタル郷土資料館. https://trcadeac.trc.co.jp/Html/Home/0155005100/topg/205oke totimes/oketotimes.html (参照 2022-09-24) [5] 石橋豊之, 柊和佑, 三河正彦, 安藤友晴. 域新聞からみる地域特有のメタデータ〜大韓航空機撃墜事件を事例に〜.デジタルアーカイブ研究報告. 2020,2 , p.8-14. [6] 置戸町立図書館においてもコスト面から見出しおよび記事の中で特徴的な語のみを抽出している。 参照: 今西輝代教. "置戸町立図書館の資料とデジタルアーカイブ". 地域資料サービスの展開.蛭田廣一編. 日本図書館協会, 2021, p.14-38, (JLA 図書館実践シリーズ, 45). [7] 例えば、伊藤智章. タブレットコンピュー ターを用いた「デジタル地図帳」システムの構築一沖縄修学旅行の研修教材の制作を中心に一. E-journal GEO. 2016, 11 (2), p.516-525. [8] 石橋豊之, 柊和佑, 三河正彦, 安藤友晴. 地域包括的支援サービスを志向した意思伝達のための語彙収集に関する研究. デジタルアーカイブ学会誌. 2019, 3 (2), p. 203-206. ## 参考文献 樋口耕一. 社会調査のための計量テキスト分析:内容分析の継承と発展を目指して. 第 2 版,ナカニシヤ出版, 2020, 264p. 喜多耕一. 業務で使うQGISVer. 3 完全使いこなしガイド. 全国林業改良普及協会, 2019, 640 p. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [D12] 失われゆく牧畜文化を活写するための「フィール ド・アーカイビング」: ## 『チベット牧畜文化辞典』編纂の経験から ○星泉 1),岩田啓介 2),平田昌弘 3),別所裕介 4),山口哲由 5),海老原志穂 6) 1)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所, 〒183-8534 東京都府中市朝日町 3-11-1 2)筑波大学, 3)帯広畜産大学, 4) 駒澤大学, 5) 北星学園大学, 6) 日本学術振興会/東京外国語大学 E-mail: hoshi@aa.tufs.ac.jp ## 'Field archiving' as a method for vividly documenting an endangered pastoral culture: ## Perspectives from the experience of compiling the Dictionary of ## Tibetan pastoralism HOSHI Izumi ${ }^{1)}$, IWATA Keisuke ${ }^{2}$, , HIRATA Masahiro ${ }^{3}$, BESSHO Yusuke ${ }^{4)}$, YAMAGUCHI Takayoshi ${ }^{5)}$, EBIHARA Shiho ${ }^{6}$ 1)Tokyo University of Foreign Studies, 3-11-1 Asahi-cho, Fuchu-shi, Tokyo, 183-8534 Japan 2)University of Tsukuba, 3)Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine, 4)Komazawa University, 5)Hokusei Gakuen University, 6)JSPS/Tokyo University of Foreign Studies ## 【発表概要】 チベット高原では都市への移住と村落部の生活変化が急速に進み、家畜飼養と密接に結びついて長期間かけて形成されてきた民俗文化が、十分な学術調査がなされないまま、急速に失われようとしている。発表者らはこれを憂慮し、チベット高原東北部の青海省ツェコ県において、牧畜民出身の研究者と現地の人々とともに 6 年間にわたる現地調査を実施し、牧畜民の民俗文化を体系的に整理した『チベット牧畜文化辞典』を刊行した。調査の過程では、辞典には収録しきれない語り・映像・写真・音声・文学作品など多岐にわたる情報が得られ、発表者らの手元に残されている。これらを有機的に結びつけた形でアーカイブすることによって民俗文化を再現的に活写することを課題とし、現在実験的試みを続けている。本発表では、この一連のプロセスから成る研究の営みを「フィールド・アーカイビング」と位置づけ、その意義と可能性について論じる。 ## 1. はじめに 「フィールド・アーカイビング」という術語は、フィールド調査とアーカイブ化という 2 つの活動を結びつけた造語である。デジタル技術の進展により、調査研究によって得られる情報をデジタルデータで残すことができるようになった。これにより、人文系のフィ一ルド調査においても、得られた文字情報や空間情報、画像情報などを有機的に統合すれば、フィールドの状況をより豊かに再現できる可能性が見えてきたといえよう。特にアジア・アフリカの少数言語の文化の記録・保全という文脈においては、デジタルデータの活用は研究面でも成果の社会還元という意味でも意義がある。 本発表では、「フィールド・アーカイビング」 を「フィールド調査の過程で得られた語り・映像・写真・音声・文学作品など多岐にわたる情報を有機的に結びつけた形でアーカイブすることによって当該地域で継承されてきた文化を再現的に活写するための活動」と定義し、その実験的な事例として、前段階にあたる(1)チベット高原の牧畜地域での民俗語彙の収集を始めとするフィールド調査と辞典編纂による民俗語彙ネットワークの可視化と、 (2)そこで得られたデータを組み合わせて提示するフィールド・アーカイビングの事例を紹介し、その意義と可能性について検討する。 ## 2. 民俗語彙ネットワークの可視化 2.1 民俗語彙収集の背景 チベット高原では、標高と自然環境に応じて専業的な牧畜と農耕、さらには半農半牧が営まれてきたが、いずれの生業形態においても家畜の飼養が重要な役割を担ってきた。チベット人にとって、家畜は欠かせない生産材や労働資源としてのみならず、儀礼などの文化的要素とも密接に結びついており、その意味で、チベット高原で形成された民俗文化は家畜飼養と切り離すことができない。ところが現在、中国政府が 2000 年代に進めた生態移 民政策などの影響を受けて都市への移住と村落部の生活変化が急速に進み、十分な学術調査がなされないまま、家畜との暮らしの中で形成されてきた民俗文化が急速に失われようとしている。 そこで発表者らは、言語学、文化人類学、宗教人類学、牧野生態学、生態人類学、歴史学の研究者で学際的な研究チームを組み、牧畜民出身の研究者と現地の人々の協力を得てフィールド調査を行った。牧畜民の生活全般にわたって聞き取り調査と参与観察を実施し、牧畜に関わる民俗語彙の収集と分析を行い、体系的な整理を施し、成果を辞典にまとめることとした。 ## 2.2 調査票の策定とフィールド調査 民俗語彙ネットワークを可視化するためには、単語を調査するだけでなく、その単語と他の単語との関連性を的確に把握し、配置して見せる必要がある。言語学では、未知の言語を調査する際に行われる語彙調査の際に、既存の基礎語彙調査票が用いられることが多い。しかし、発表者らの研究対象は家畜飼養を中心とする特定の生業をもつ人々であり、 そうした人々の語彙ネットワークを可視化するには、別途調査票を策定する必要があった。調査票の策定にあたって参考にしたのは、 チベット高原を含むユーラシア全域を対象に、乳加工技術に関して調査を行った経験のある、共同研究者の平田昌弘の調査票である。このリストは家畜から乳を得て、各種の加工を施していく「プロセス」を念頭において作られており、民俗語彙のネットワークを可視化する目的と合致する部分が多い。そこで乳加工技術の質問リストを範として、糞や毛、皮、肉などの加工技術についても、プロセスを重視した調査票を試作した。 フィールド調査は中国青海省黄南チベット族自治州ツェコ県において 2014 年から 6 年間にわたって実施した。現地では試作した調査票をもとに語彙調查やその周辺情報の聞き取り調査を行うとともに、放牧や搾乳、乳加工、糞加工、屠畜・解体などは可能な限り参与観察を行った。 ## 2. 3 フィールドデータのデータベース化 調査によって得られた単語やその付随情報は全てデータベースに取り込み、あとから語彙ネットワークを組み立てられるようにした。調査に用いた記録用紙も全てデジタル化してデータベースに取り込み、単語データベースから簡単に参照できるようにした。さらに、 フィールド調査で撮影した 3 万枚以上の写真については、写真データベースを別途構築して全てのデータを格納し、後から単語データベースと紐付けられる仕組みを設けた。これらのデータベース群は初回の調査から帰国してすぐに構築を始め、以後は調査のたびに修正・拡張を続けた。 ## 2. 4 分類辞典の編纂 収集した語彙を辞典の形でまとめるにあたっては、データベースに蓄積した情報を書き出すこととしたが、どう配列するかが問題となった。単語を一般的な辞書配列順に並べただけでは、辞典によって牧畜民の生活世界を描き出すことは難しい。発表者らは、この課題を克服するために、(1)調査地の言語話者のもつ語彙ネットワークのあり方を提示できる形で整理し、さらに(2)その語彙ネットワークをふまえた形でデータベースから情報を書き出す方法を確立する必要があった。 (1)については、フィールド調査を重ね、マ一ドックらの文化項目分類[1]を参照しつつ検討した結果、牧畜民の生活世界を 28 の場面に分類し、さらに大中小の項目に分け、それぞれに見出しを付け、段階的に絞り込む形で単語をグループ分けすることとした。これにあたっては、フィールド調査で蓄積した知識を総動員し、調査地の牧畜地域出身の共同研究者も交えて分類・整理を進めた。 (2)については、(1)が固まったあとで、デ ータベースのIDをキーとし、それらを分類項目に則して配列するプログラムを通して書き出すという方法をとった。 辞典のアウトプット形態としては、書籍版、 オンライン版、iOS アプリ版の 3 つとし、いずれも上述のデータベースから情報を書き出す形で進めた。各単語のために用意した情報 セットは、チベット文字表記、国際音声字母にもとづく発音表記、音声、語釈を必須とし、必要な場合に解説、写真、図版を提示することとし、それぞれのデバイスの特徵に合わせた表示形式の工夫を施した[2]。 ## 2. 5 辞典編纂からアプローチする民俗語彙 ネットワーク 本分類辞典は、牧畜民の理解する民俗語彙ネットワークに、現時点で可能な限り迫ろうとしたものである。フィールド調査から辞典編纂まで行った発表者らにとって、調査の初期段階においては、単語はそれぞれ独立した存在でしかなかったが、調査と検証の繰り返しを経たあと、それらが実際に用いられる場面や文脈と有機的に結びついた形で理解できるようになった。草原の植生について言えば、家畜の好む草、好まない草があり、それぞれに単語があること、そして前者には、例えば乾燥した山の斜面に生える短い草や沼沢地周辺の水分の多い草などを表す数多くの単語があり、それらを好む家畜の種類や、そこで放牧するのに適した季節など数多くの情報が有機的に結びついていることがわかった。そうしたネットワーク的に存在している情報を可能な限りすくい取り、記述したのが本分類辞典なのである。 ## 3. フィールド・アーカイビングの試み 3. 1 フィールド情報をアーカイブする活動 発表者らがフィールド調査で観察したのは、単語やその意味だけではない。手仕事であれば手の動きや手順、そして物や事象にまつわる背景的知識や体験などの語りなどを観察していた。それらの多くは貴重な情報を含むが、継承者がいなくなればたちどころに失われてしまうものである。発表者らは、こうしたフイールドで得られた情報をアーカイブすることで、辞典で描いた民俗語彙ネットワークをさらに豊かなものとして保存できるのではないかと考え、以下に示すような活動に取り組んでいる。 ## 3.2 記録映像の制作 手仕事の継承は、言語だけでなく、手の動きや手順が受け継がれることで完成する。し たがって、そうした手仕事が失われようとしている場合、それらを映像によって記録しておくことは重要であろう。発表者らはチベッ卜人映画監督カシャムジャ氏に協力を要請し、搾乳や乳製品作り、燃料糞の加工など、特に手の動きが重要と思われる行為を選び、18 のシーンからなる映像作品「チベット牧音民の一日」を制作した。本格的に牧畜文化の記録・保全を行うには点数が不足しているのは否めないが、実際の生活空間の中で撮影された映像は、いずれそれらが失われたときに真価を発揮するだろうと考えている。 なお、映像は個人を特定できる可能性が高いため、現時点では、現地協力者のプライバシーに配慮するため、オンライン等の広く流布する形での公開はしていない。 ## 3.3 解説イラストの制作 映像作品は、手の動きや手順の克明な記録に優れている。しかし、その動きや手順のどこに要点があるのかを、より的確かつ簡潔に伝えるには、イラストと文字情報を組み合わせることが有効であると考えた。そこで発表者らはチベット文化に造詣の深い漫画家の蔵西氏に依頼し、牧畜生活の様々な場面を精密なイラストで表現することとした。イラストの制作にあたっては、発表者らが撮影した写真や動画を提供し、それらをもとに描くという工程はもちろん、描いたものを現地の人々にチェックしてもらい、必要に応じて修正を施すというプロセスを経て完成させた。この結果、映像とは異なり、個人を特定できないように配慮した形で、手の動きや手順の要点を広く公開することが可能となった。 さらなる利点として、イラストを調査に既に失われた技術を、現地の人々の語りをもとに再現できる点、また、イラストを調査の媒介として用いることで、現地の人々から思いもかけない語りを引きだすことができる点もまた、イラストの優れた点である。これらの点も、イラストがフイールド・アーカイビングを実現するためのツールとして有効であることを示している。 ## 3. 4 百科事典的コンテンツの制作 発表者らが編纂した辞典は簡潔な記述を心がけたため、項目ごとの情報量は多いとは言えない。一方で、これまでの調査により蓄積してきた取材データには未発表のものも含めると多数ある。それらの多くは論文として公表するような専門的な内容ではないものの、民俗語彙ネットワークの記述を分厚くするための重要な情報を多く含む。それらもまた記録しておかなければ失われてしまうものである。そこで発表者らは、チベット牧畜民の生活に迫る百科事典的なコンテンツの構築を目指すこととし、写真やイラスト、テキストからなるコラムを掲載できるサイト「チベット牧畜文化ポータル」を公開している[3]。テキストにはリンクを埋め込むことによって、辞典のコンテンツを適宜参照できる仕組みを用意した。 本ポータルは大学の授業等でも、チベット文化を牧畜という生業を通して理解するための教材として活用されている。フィールド調查の成果をデジタル技術で効果的に統合することで、異文化の多様な価値観に触れることのできる手段として有用な教材として開発することのできた事例と言える。 ## 4. おわりに フィールド調査に基づく辞典編纂と、その過程で生み出された各種データをアーカイブし、それらを有機的に統合するフィールド・ アーカイビングの営みについて紹介した。本研究の特徴は、民俗語彙の記述を出発点とした点にある。民俗語彙はそれらを継承しながら用いてきた人々の脳内でネットワークをなして存在している。それらをイメージするには、語彙のネットワークを基盤とし、そこに多岐にわたるデジタルデータで肉付けしながら可視化することが有効であると思われる。単独の仕組みで何もかも提示できるように作り込むのも一つの方法だが、本研究のように、複数の仕組みを組み合わせて提示するのは、研究活動の持続可能性という面でも有効であろう。発表者らは現在、上述の基本方針を維持しながら、フィールドと文献の記録を集積した「チベット・ヒマラヤ牧畜農耕資源デー タベース」の構築、文学作品の翻訳、料理漫画の制作などの活動を展開し、民俗語彙とその背景をより複合的に可視化した形で体験できるコンテンツを増やす試みを続けているところである。 国際的な共同研究により民俗文化の記録・保全を行うにあたっては、現地の人々と協力関係を築きながら、息の長い活動を続けていくことが肝要である。したがって、現地の人々とともに調査研究を実施し、蓄積したデ一タをデジタル技術を活用して有機的に結びつけて提示する研究手法は、グローバル化によってマイノリティの文化が縮小していく現在、その記録と保全、そして継承、再活性化が必要とされる場面で重要な役割を果たす可能性がある。今後フィールド・アーカイビングのあり方の一つとしてモデル化し、手法を共有していきたい。 ## 参考文献 [1] マードック J.P.ほか編, 国立民族学博物館翻訳. 文化項目分類. 国立民族学博物館, 1988, 309p. [2] 星泉, 海老原志穂, 南太加, 別所裕介編. チベット牧畜文化辞典. 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所, 2020, xl+448p. https://nomadic.aa-ken.jp/search/ (参照 2022-09-24). [3] チベット牧畜文化ポータル https://nomadic.aa-ken.jp/ (参照 2022-09-24).
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# [D11] サウンドスケープ支援を目指した音資源アーカイ ビングシステムの開発 ○坂本董 ${ }^{11}$ ,柊和佑 ${ }^{11}$ ,柳谷啓子 1),王昊凡 1),廣瀬陸 1) 1)中部大学 国際人間学研究科, 〒 487-8501 愛知県春日井市松本町 1200 kl22001-3326@sti.chubu.ac.jp ## Sound Resource Digital Archiving System for Soundscape Design Support SAKAMOTO Sumire ${ }^{1}$, HIIRAGI Wasuke $^{1)}$, YANAGIYA Keiko ${ }^{11}$, WANG Haofan ${ }^{11}$, HIROSE Riku1) 1) Graduate School of Global Humanics, Chubu University, 1200 Matumoto-cho, Kasugai City, Aichi Prefecture, 487-8501 Japan kl22001-3326@sti.chubu.ac.jp ## 【発表概要】 近年、エンタテインメントコンテンツに関わる情報が増え続けている。その情報は、映像だけに止まらず、 $3 \mathrm{D}$ データ、環境音、位置情報など、その種類は多岐にわたる。本研究は、無編集の音資源アーカイブを制作し、サウンドデザイナーが利活用できるアーカイビングシステムについて検討を行い、収集蓄積提供システムを構築している。現在は、2022 年に稚内市と中部大学内で実験データの収集とメタデータの付与を行い、検索システムの検討を進めている。本稿では、天気、気温、湿度、年日時、季節、オノマトぺを検索項目に持つ検索システムを構築し、その有用性を示した。その上で、サウンドスケープの概念を整理し、サウンドデザイナーによる利活用を目指した音資源デジタルアーカイブを構築し、データを百件程度入力した。また、API の計画とオノマトペ検索について、その方向性を示す。 ## 1. はじめに BGMは様々なエンタテインメントコンテンツや、場所の雾囲気を向上させるために、昔から制作、消費され続けている。一つの職種としてサウンドデザイナーも存在し、環境に合わせて繊細な調整を行っている。そして、 2000 年代には YouTube の浸透で、素人が動画を作成するようになり、汎用的な BGM が目立つようになった。 さらに、近年 VR 環境の発展が目覚ましい。 2000 年代までは VR 用のコンテンツを行う際に必要な環境が、大掛かりでコストがかかるため、テーマパークなどで運用されてきた。 しかし、近年は家庭用の機器も出現し、そのコンテンツの数は増加している。とくに、 2016 年に入ると Oculus 社が発売した VR ッドセット Rift を皮切りに、家庭用 VR ヘッドマウントディスプレイが多数発売された。家庭用 VR ヘッドマウントディスプレイは、 それまでの VR に必要だった環境に比べ小型で安価であるため、VR 触れる人口が増え、 VR上でのコンテンツ量の増加、および消費が激しくなった。 また、2020 年から全世界的に感染爆発を起こした新型コロナウイルスによって、これまでの生活様式から一変してしまった。その影響から、仮想空間上で社会活動や、円滑なコミュニケーションを行う支援システムの発展が社会的課題となり、いわゆる「メタバース」 について研究や議論が盛んに行われるようになった。 ## 2. 環境音の現状 ## 2.1 仮想空間の音 仮想空間が発展することにより、前述の YouTube 以上に、BGM が、そしてBGM と同時に流れる環境音が重要になる。例えば、VR 空間内で夏の早朝時間に富士山の樹海付近を歩いている際に全くの無音では VR の持つ雾井気が感じられなくなる。また、山を歩いている時に野生動物で有るというだけで、アザラシの鳴き声がなることとは VR 世界では許されない。そこで VR 空間や仮想空間での没入や臨場感を高めるために、利用者がプレイ している「仮想環境に近い環境音」が必要になる。しかも、同じ空間を体験したとしても、利用者ごとに鳴らすべき音が異なる。 このように、仮想空間の音はコストが高いと言える。しかし、仮想環境コンテンツの数的増加が進み、大学や公共機関といった、コンテンツ作成が本業ではなく、BGM や環境音に気を配らない組織も盛んに導入を進めるようになった(図 1 )。そのため、雾囲気の合わない効果音と無音 (コンテンツよってはBGM) が、キャリア支援などの大学サービスを使う際に使われている。目新しさが優先している今ならば許容されるものであるが、利用感を著しく損なうものである。 図 1. 中部大学アプリ内仮想空間 現在のメタバースや VR 空間等のコンテンツには、前もって作成した BGM や編集済みの効果音が必要だが、前述したようにメタバ一スや VR 空間の生成速度が上がり多くのコンテンツが作られるようになれば、コンテンツの公開スピードが重視され、音にはコストをかけることが不可能になる。だが音楽はコンテンツのイメージを左右しやすい要素のため、ある程度コンテンツの内容に見合った音を自動取得・生成する仕組みが求められるようになるだろう。 そこで、本研究では環境音の機械的な収集と、メタデータ付与、検索と仮想空間へのマッピングを一元的に行うアーカイビングシステムを提案する。そして、増加するコストをかけることができないコンテンツの音に対す る要求に、環境音を自動的に提供する仕組みをもったデジタルアーカイブの構築を目標とする。 なお、環境音は無編集で蓄積するものとし、録音機に録音されたデータをそのままをア一カイブする予定である。これは、自動的に提供するため、著作権的な問題に対処しにくいことと、本研究が対象とする音資源アーカイブシステムは、将来の仮想環境の発展により、未加工の環境音が大規模に消費される環境での利活用を目的としているためである。 ## 2. 2 環境音とサウンドデザイン R.マリー・シェーファが提唱した「音にも風景がある」[1]というサウンドスケープの概念から、サウンドスケープ、そして理想の音を制作するサウンドデザインという考え方は、多くの領域にその概念が取り入れられている $[2]$ 。 既存の環境音アーカイブシステムや環境音データを取り扱っているサービスでは、音デ一タは録音した環境音そのままのデータではなく、目的に応じて編集済みの音データが多数である。例えば編集済みである森の環境音であれば、偶然環境音データに載ってしまった人間の声、強すぎる風の音、大きな声で鳴く虫や鳥の音といった音は、コンテンツのイメージとかけ離れているため削除される。このような音のことを一般的にはノイズと呼称し、削除・追加を行うことがサウンドデザインであるとした。そのため、環境音を提供するプラットフォーム側がイメージに不必要だと判断した音は音量を極小に下げられる又は音ごと消されてしまう。 サウンドスケープの概念も、音に対して標識音、特徴音などの分類を行い、それらをデザインすることが一般的であるとしている[2]。 ## 2. 3 音資源デジタルアーカイブ 前述した環境で音を使う場合、使うたびに音をデザインし、理想のサウンドスケープにデザインし直すコストをかけることは現実的ではない。そこで、本研究では必要となる音を無作為に蓄積し、その音に関するメタデー タを整備することで必要な音を探し出すことを目的とする。 特に日本では春夏秋冬がはっきり分かれており、同一箇所で撮った環境音も季節ごとに変化している。時間による環境音の変化は当然存在するため、同一箇所で長時間の環境音を記録しておく必要がある。季節の音を探している利用者は、同一の季節を記録した多くの環境音の中からよりイメージに合った環境音を選択できるようになる。また、季節だけではなく、時間、日時、天気といったメタデ一タを用意することで、より目的にあったサウンドを探すことができるようになる。 また、API を用意することで、機械的にソフトウェアが音データを検索し、前述した仮想環境に音を利活用することを可能とする。例えば、本学の仮想環境内で流れる音を探す場合は、場所として中部大学のキャンパス内、利用時間を放課後近辺のものとし、季節と天気をシステム利用時の近いものとして検索し、自動的に適用させる。環境音に特化した音資源デジタルアーカイブがあれば、コストをかけずにコンテンツに沿ったサウンドスケープを選択することが可能になる。サウンドデザインを経ずにサウンドスケープを利用できるようにすることが、本研究の目的である。 ## 3. 音資源デジタルアーカイブの機能 本研究の機能は、アーカイブとしての収集蓄積機能に加元、提供機能としてWeb ページと API を持っている。前者はサウンドスケー プデザインのためのサウンドデザイナーが目的に合った音を探すためのものである。 アーカイブされた音データには、メタデー タとして、年日時、天気、湿度、気温、体感的な季節(隣接する季節は一部重複している)、標識音のオノマトペを付与している。年日時、天気、湿度、気温、季節はサウンドデータ収集時には基本的に手動で確認・記録するが、後にサウンドデータの自動収集を行うことを想定し、小型コンピュターとセンサー類が取得したデータを用いたメタデータの付与を行うことを検討している。また、オノマトぺのメタデータに関しては、音データを登録する際に登録者が手作業で付与する。現在は、日本のマンガで使用されているオノマトぺを、 マンガから手作業で取り出し、登録時に一覧から選択するようにした。これにより、木の擦れる「ガサガサ」と、紙袋を開ける「ガサガサ」のように文字情報だけでは伝わらない標識音の違いを区別することができる。しかし、付与するためにコストがかかるため、将来的には音の特徴から推薦するシステムを追加したいと考えている。また、オノマトぺに関しては日本のみのデータを元にしているため、今後は、海外の表現を検討する必要がある。 API には、日時と天気、湿度、気温、季節、標識音の有無を指定して検索する機能を持たせた。複数の音データが検索された場合、現在は新しいものを適合するデータとして提供している。これは、一部のデータに利用が集まらないようにする処置である。今後、複数の音データから選択する仕組みや、最適な音データを選択する仕組みを検討する必要がある。 ## 4. 音資源デジタルアーカイブのメタデ 一夕 本研究の環境音が持つメタデータは以下の通りである。(表 1 ) 表 1 .メタデータ一覧 実際に稚内市内と中部大学構内で収集した約 50 データにメタデータを付与し、以下のメタバースのワールドで実際にデータがマッチするかテストを行った。ワールドのメタデー タとしては本研究室廣瀬の研究データを利用し、利用者が思う音が見つかることを確認した[3]。しかし、突発的に入る音をオノマトペに抜き出しきれないため、場違いな音(工事の音など)が混じることがあった。このことから、オノマトペのメタデータは、入って欲しくない音を排除するためにも利用できることはわかった。しかし、その場合は全ての標識音をオノマトぺとして抜き出す必要があるため、今後の検討が必要である。 以上の結果より、ワールドに一定のメタデ一タがあれば、音資源デジタルアーカイブからのデータ自動取得は可能であるといえる。 ## 5. 音資源デジタルアーカイブの実装 前述した機能を持ったデータベースサーバを用意し、Web サーバと連携、データの蓄積と提供機能の確認を行った。Web ページに検索項目を表示し、選択したメタデータを持つ音データをダウンロードできることを確認した。 図 2. 音資源アーカイブの Web ページ登録用システムは現状では実装しておらず、手作業でメタデータの追加をおこなっている。今後、自動収集システムと併せて、開発を進める予定である。 ## 6. まとめと今後 本研究により、BGMへの音資源デジタルア一カイブの利活用は可能であるといえる。しかし、標識音の存在や、オノマトぺの利活用方法、自動収集・蓄積システムとの連携など、検討すべき事項は多い。 また、今後は、どの環境音がどのようなワ一ルドに利用されたかという実績をもとに更なるシステムの改良と、需要のある環境音を用いた検索結果の調整をしていく予定である。 また、外部に公開するように作っていないため、セキュリティなどを整備した上で Web サイトの公開を目指している。さらに、音に関する権利、プライバシーについて調査を行う必要があると考えている。 オノマトぺは国によって言葉の表現の仕方に違いが見られるため、海外で翻訳出版されている日本のマンガを見比べてメタデータ項目を増やし、オノマトぺ検索の利用方法について検討を行う必要がある。 ## 参考文献 [1] R.マリー・シェーファー,鳥越けい子訳「世界の調律」平凡社 2006 [2] 鳥越けい子「サウンドスケープーその思考と実践」鹿島出版会 1997 [3] 廣瀬陸「メタバース内のワールド検索用メタデータスキーマの提案:VR閲覧環境のア ーカイビングシステム構築に向けて」 https://doi.org/10.24506/jsda.6.s2_s75 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C24] 災害デジタルアーカイブと防災教育の可能性 : コロナ禍の中の日本の災害アーカイブ (JDA) ワークショップの 3 種類の事例 ○ゲルスタ・ユリア 1 ), 柴山明寛 1 ),森本涼 3 , ゴードン・アンドルー 2 , ボレー・ペンメレ ン・セバスチャン 1) 1) 東北大学・災害科学国際研究所,〒980-0845 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 2) ハーバード大学 3) プリンストン大学 E-mail: gerster@irides.tohoku.ac.jp ## Disaster Digital Archives and disaster education: Three workshop examples using the Japan Disasters Digital Archive (JDA) in different phases of the Covid-19 pandemic GERSTER Julia'), SHIBAYAMA Akihiro"1), MORIMOTO Ryo ${ }^{3)}$, GORDON D. Andrew ${ }^{2}$, BORET Penmellen Sébastien ${ }^{1}$ 1) Tohoku University, International Research Institute of Disaster Science, Aramaki Aoba 468-1, Aoba-ward, Sendai, 980-0845 Japan 2) Harvard University 3) Princeton University ## 【発表概要】 ソーシャルディスタンスやテレワークなどの新型コロナウイルス感染拡大防止対策は, 教育現場に甚大な影響を与え、防災教育もその例外ではない。一方、災害デジタルアーカイブは, 個別にオンラインでアクセスでき、コロナ禍の中でも大きな可能性があると考えられる。そこで本稿は、コロナ禍の 2 年間(2020-21 年)に実施した日本災害デジタルアーカイブ(JDA)を用いた 3 種類の「ワークショップ」の結果から見えた災害デジタルアーカイブの可能性と課題を報告する。JDA の個人的利用はある程度の学びをもたらすが、講師を交えたワークショップや被災地訪問を併用する事により、利用者は防災意識向上をより強く感じられることが分かった。 ## 1. はじめに 2020 年初頭の教育現場は、過酷な日々であった。新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が世界中に広がり始めて間もない頃、北海道など各自治体独自の緊急事態宣言の発表がなされた。奇しくもその日は、宮城県内で著者らが主催した災害デジタルアーカイブのワークショップ(以下、WS)の開催日であった。WS は、二日間の日程で、高校や大学などの教育関係者が数多く参加した。宮城県内では新規陽性者が少ない状況ではあったが、欠席者も多く、パンデミックが対面重視の教育現場に与える影響が考えさせられた。 このことは、現場の学びを基本とする震災伝承館や震災遺構などの防災教育にも関連していると言える。コロナ禍の 2 年間でオンライン教育が浸透し始め、防災教育現場においてもデジタルツールの利用が増えつつある。本稿では、2020 年から 2021 年にかけてコロナの流行期が異なる時期に開催した 3 種類の WS(個別対応無しのオンライン形式、個別対応有りのハイブリッド形式、セミナー型のハイブリッド形式)を試行し、それぞれ WS の課題と今後の可能性について述べる。 ## 2. ハーバード大学の JDA について 2011 年東日本大震災を契機に、ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所では、日本災害デジタルアーカイブ、 Japan Disasters Digital Archive、(以下 JDA) の開発した[1]。JDA には、デジタルアーカイブのシステム内で登録されているコンテンツを利用者が独自の観点で、再収集や編集、共有できる機能などを有している。さらに、利用者に対して、新たなコンテンツの投稿や既存コンテンツのメタデータ編集などを行うこ とを推奨しており、震災デジタルアーカイブに寄与を促している。 JDA の主な機能は、マイ・コレクション、 ノート、ジオロケーション機能などがある。 マイ・コレクション機能は、テーマ、場所などの利用者独自の基準でアーカイブ内にあるコンテンツを整理することが可能である。また、ノート機能を使って、コンテンツにメモや独自解釈を付け加えることもできる。さらに、マイ・コレクションは、他者も閲覧できるように公開することが可能である。公開機能により、他者が災害の新たな側面を知り、様々な観点で関わることができる。ジオロケ ーション機能は、地図上でコンテンツを閲覧や検索することができる機能である。さらに、 コンテンツの空間的密度をヒートマップで表現し、範囲を限定することで、コンテンツが地図上に点として表示される。 ## 3. コロナ禍での WS の開催 日本では、他の多くの国とは異なり、法律上で完全に外出を制限する「ロックダウン」 はないが、2020 年から 2022 年にかけて日本のコロナの対応・対策が変化し続けた。著者らは、コロナ感染状況や対応・対策の状況などの変化に合わせて、オンライン形式の WS からハイブリッド形式の WS を試行した。 3つのWSで共通して実施したことは、JDA のジオロケーション機能を用いたことである。 また、 2 つの WS では、マイ・コレクション機能も用いてもらった。これらが防災意識などに貢献するのかの調査は、WS 実施後にアンケート調査で行った。以下に、3つの WS についての概要を示す。 ## 3.1オンライン形式 WS (ケース 1) ケース 1 は、2021 年 1 月 2 月にオンライン形式の WS を実施した。開催時期は、ワクチン接種は開始されておらず、大都市圏を中心に感染者が急増し、政府は、2 度目の非常事態宣言(2021 年 1 月 7 日)を発出した。しかし、岩手・宮城・福島県での個別宣言はしていない状況であった。しかしながら、対面形式の WS では感染拡大の危険性もあったこと から、オンライン形式の WS を開催し、参加者に対して個別に被災地に赴き、JDA のジオロケーション機能を使用してもらった。 WS の参加者については、匿名性を確保するために研究支援会社を利用して 50 名を募集した。参加者の $66 \%$ は、東日本大震災で最も被害を受けた岩手・宮城・福島県の出身であった。参加者への最初のガイダンスは、オンラインで実施し、JDA の機能やジオロケーシヨン機能などの使用方法について、テキストのマニュアルと動画の両方で説明を行った。 ガイダンス後は、個別に被災地に赴き、ジオロケーション機能を試し、その場所でコンテンツの閲覧などを行った。その後に、JDA の使用感や学習効果などのアンケートを実施した。さらに、ヒアリングも 4 名に実施した。 ## 3. 2 ハイブリッド形式 WS(ケース 2) ケース 2 では、 2021 年 10 月にハイブリッド形式の WS を東北大で開催した。第二波での感染者が減少し、多くの人々が 2 回目のワクチン接種を受けていた状況ではあったが、国内の感染拡大防止対策が継続していた。本 WS では、参加者を減らすなどの対策を行い、 オンラインと対面のハイブリットで WS を実施した。 WS では、まず参加者に対して、JDA の機能やマイ・コレクション機能、ジオロケーシヨン機能などの使用方法について、テキストのマニュアルを事前に読んでいただき、ガイドッアーに参加してもらった。ガイドッアー は、宮城県石巻市南浜地区で実施し、参加者に対して津波浸水場所などの案内を行った。 ツアー中には、JDA の使用方法などわからない場合にはサポートを行った。また、ツアー の訪問場所で、被災地の現状説明に重要だと思われる場所に対して写真撮影をお願いした。撮影した写真は、JDA に登録と写真の説明文の追記をお願いし、興味のあるテーマに沿ってマイ・コレクションを作成してもらった。 アンケートは、終了後に実施した。 ## 3. 3 ハイブリッド形式 WS(ケース 3) ケース 3 は、 2021 年 10 月 12 月に東北大とハーバード大との共同でセミナー型の WS を実施した。本 WS は、修士・博士課程の学生に対して 2 ヶ月間の週 1 回のプログラムとして行われた。まず、JDA の使い方などのガイダンスを行い、次に学生が JDA 内でプレゼンテーションを作成し、発表する流札とした。 2020 年は、これらの作業すべてをオンライン形式で行い、2021 年については、ケース 2 と同様に、被災地に赴き、JDA のジオロケーシヨン機能を試行するプログラムを追加した。 3 種類の WS の中で、参加者に対して最もサポ ートしたのはケース 3 となる。週 1 回のオンラインのセミナーでは、コンテンツの検索や分析方法の実習と課題に加亢、東日本大震災の全般の講義、発表内容や発表方法に関する講義を行った。学生へのアンケートは、ケー ス 1 と 2 と違い、実施していない。代わりに、学生らによるセミナーへのフィードバックとプレセンテーション作成課程で明らかになった学習体験に焦点を当てている。 ## 4. WS 参加者の反応とューザー体験 ケース 1 では、Gerster et.al[2]で参加者の半数近くが $(46 \%)$ 、JDAを利用を通じ防災意識が高まったと回答している。「今まで知らなかった災害や訪問先に関するコンテンツが 「防災意識に変化はなかった」と回答した人 ら考えられることは、ケース 1 の参加者の大半が過去 10 年間の被災経験者であったからである。また、 $42.9 \%$ の参加者が、「JDA の詳しい使い方の説明を読まないと使用方法が分かりにくい」と回答したことも要因のひとつと考元られる。参加者の中から数名に行ったフオローアップインタビューの結果、訪問先でジオロケーション機能によるコンテンツの取得に課題があることがわかった。震災復旧・復興による区画整理によって住所変更があった地域や WS 開催時点で新たな施設などがオンライン地図上にまだ反映されないことなどの課題があることがわかった。さらに、参加者の中には、JDA 内で発見したコンテンツの解釈や、コンテンツの検索に関する技術的な面で困難があった。このように、被災現場訪問と災害デジタルアーカイブの併用は、可能性はあるものの、個別のサポート無しでは課題が残されることがわかった。 ケース 2 では、参加者に対して WS 開催前 JDA の使用方法についてテキストのマニュアルを事前に配布したが、多くの参加者が準備時間を取れず、熟読していない参加者がいた。 そのため、ツアー中に、参加者に対して JDA の使用方法の不明点などの質問に対して個別に回答をした。 ツアーでは、東日本大震災や石巻市の復興状況についての追加の説明を行った。参加者には、個人的に現地の写真を撮影してもらったが、その際、その場所を知らない人がいたため、追加で説明が必要であることがわかった。このような追加説明は、参加者がより被災地と関わり、災害と復興がこの地域にとって何を意味するのかを問うきっかけとなるのではないかと著者は考えていた。しかしながら、参加者の 8 名 (62\%) は、訪問先で自分が知らない新しい情報を見つけたと答えたものの、同じく8 名が JDA の利用は防災意識向上に寄与しなかったと答えた。さらに、その中の 2 名が防災意識向上を判断するには時間がかかると指摘した。 WS とアンケートから得られた印象は、 JDA 利用への個別サポートと組み合わせた現地訪問によって、自身で撮影した写真を JDA に貢献することが出来た事が、参加者がより深いレベルで周囲と関わり、被災地の現状を理解するためにどのような手助けができるかを考元ることに役立ったと考元られる。 ケース 3 は、 2 ケ月間のセミナーで、JDA のすべての機能に精通してもらい、さらに、東日本大震災に関する詳細な情報をまとめ、発表を行った。学生は、被災地に住んでいながら、東日本大震災についてあまり詳しくなく、また、震災当時も記憶も少ない状況であった (約半数は留学生)。セミナーは、オンラインで実施したが、JDA の様々な機能を学び、 講師のサポートにより個人的な誤解や技術的問題を解決することができた。また、JDA やオンライン会議等のツールを使って、参加者が作業をリアルタイムで共有することができた。さらに、コンテンツの収集をセミナーの課題として取り組み、JDA を使う際の知識をより深めることができた。その結果、ケース 2 の参加者と違い、石巻市の被災地を訪問した際には、被災状況やJDA の使用方法などを十分把握していた。現地視察の際には、比較的自主的に訪問先の情報を検索し、得ることができた。発表の最終資料を見ると、現地訪問とコンテンツの収集の組み合わせが、震災への理解や発見したコンテンツの分析能力に大きく影響していると言える。セミナー終了後のアンケート調査は行わなかったが、学生との対話や観察で、ケース 1 と 2 とは異なり、 セミナー、現地訪問、発表準備の組み合わせが、JDA 利用者の防災意識向上に大きく影響したと言えると考えられる。 ## 5. おわりに 個別のサポートのレベルが異なる 3 つの WS を比較することにより、以下のような発見があった。地図機能やジオロケーションなどのツールにより、JDA ユーザは、被災地情報について現地でのガイドなしにその場所に関する情報収集が可能であった。しかし、ケース 1 では、講師やガイドのサポート無しでは、一部の参加者がコンテンツへの理解や技術的な問題を解決することが困難であることも示された。ケース 2 と 3 では、マイ・コレクシヨン機能を使用することで課された、ある場所やテーマに関する情報を JDA 内外より収集する作業体験を通じ、自分の周囲により深く関わるようになったことがわかる。ケース 2 と 3 のツアーに参加した筆者らは、JDA との関わりが、参加者の災害への興味・関心にどのように影響を与えるかを観察することがで きた。また、この比較から明らかになったのは、個別のサポートが無くても、JDA を使った見学は可能であり、参加者の過去の災害に関する理解に寄与するが、個別のサポートがあればあるほど JDA を使った防災教育効果が高まる可能性があると言うことである。これは、JDA 上で発見されたコンテンツの解釈だけでなく、利用者体験にも当てはまる。ケー ス 1 での追加インタビューやケース 2 と 3 での著者らによる観察で判明したように、一部の利用者は技術的な問題を経験したり、単にアーカイブの使い方を誤ったりしていた。このような問題は、個別のサポートが可能な環境下では容易に解決されるが、個別のサポー トを受けなかったケース 1 の参加者にとっては、JDA を使いにくいツールとして認識されてしまった。また、調査方法についても、ケ ース 1 では、アンケート調查だけではわからなかった問題が、フォローアップインタビュ一によって初めて認識されたことから、対面調査の重要性が強調された。これらの結果から、災害デジタルアーカイブは、様々な場所で情報を提供するための補完的な防災教育ツ ールとして有効であることが示唆された。しかし、ユーザー体験や学習効果を高めるためには、詳細な動画による説明など、使用方法に関するさらなるサポートが必要かもしれない。 ## 参考文献 [1] Gordon,A. and Morimoto, R. 日本災害デジタルアーカイブの展開と展望。デジタルア一カイブ学会誌, 2018, v.2, n.4, pp. 347-352. [2] Gerster,J; Boret, P.S; Morimoto,R; Gordo n, A, and Shibayama, A. The potential of dis aster digital archives in disaster education: The case of the Japan disasters digital archi ve (JDA) and its geo-location functions. Inte rnational Journal of Disaster Risk Reductio n-IJDRR, 2022. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C23] 特徵語の視覚化による文化財探索支援システムの構築 ○奥野拓 ${ }^{11}$ 1)公立はこだて未来大学,〒041-8655 函館市亀田中野町 116-2 E-mail: okuno@fun.ac.jp ## Building a Search Support System for Cultural Properties by Visualizing Feature Words \\ OKUNO Taku1) 1)Future University Hakodate, 116-2 Kamedanakano-cho, Hakodate, 041-8655 Japan ## 【発表概要】 地域デジタルアーカイブの一つである「南北海道の文化財」は、道南地域に散在する文化財の情報を網羅的に収集・活用すること目的とするウェブサイトである。サイトの閲覧者の大半が検索エンジンから文化財の個別ページにアクセスし、閲覧後にサイトを離脱している。そこで本研究では、サイトを訪れたユーザーが、閲覧した文化財以外に興味のある文化財を探索することを支援するシステムを構築する。興味を持つ文化財を容易に発見できるように、文化財のタイトルと説明文から抽出した特徴語を階層的クラスタリングした結果を提示する。全体的な文化財の分布を把握しながら興味のある文化財の探索を行うことを支援するために、対話的な階層構造の視覚化手法である Zoomable Circle Packing を用いて特徵語クラスタの階層構造を視覚化する。 ## 1. はじめに 文化財のデジタルアーカイブ化により、ウェブサイトを通じて様々な文化財情報が閲覧可能となった。そして、検索エンジンにより、トップページを経由することなく、目的とする文化財の解説ページを直接閲覧することも可能となっている。これはユーザーのアクセス性を高め、 デジタルアーカイブの活用促進の点で非常に有効である。一方で、目的とする文化財の解説ぺ ージを閲覧した直後にサイトから離脱してしまうケースも増加している。その結果、閲覧した文化財と関連があり、ユーザーが興味を持ちそうな文化財がそのサイトで公開されていたとしても、閲覧される可能性が低くなる。 そこで本研究では、デジタルアーカイブを訪れたユーザーが、閲覧した文化財以外に興味のある文化財を探索することを支援するシステムを構築する。大量に存在する文化財の中から興味を持つ文化財を容易に発見できるように、文化財のタイトルと説明文から抽出した特徵語を意味的な類似性に基づいて階層構造化し、対話的な視覚化手法によりユーザーに提示する。本研究では、道南地域の文化財のデジタルア一カイブである「南北海道の文化財」[1]を対象としてシステムを構築する。 ## 2. 南北海道の文化財 ## 2. 1 概要 「南北海道の文化財」は、道南地域に散在する文化財の情報を網羅的に収集・活用すること目的として、道南地域の学芸員団体である道南ブロック博物館施設等連絡協議会が運営するウエブサイトである。道南 18 市町の文化財(石碑、史跡、屋外美術、景勝地など)と博物館等施設の情報(2022 年 1 月時点で 714 件)を公開している。碑文や文化財の制作までの歴史など様々な情報がアーカイブされており、観光や地域学習などへの活用も期待される [2]。 各文化財には、タイトル(名称)や説明文、写真の他、位置情報 (緯度・経度)、所在地、エリア、時代、カテゴリなどのメタデータが付与されている。カテゴリには、「碑・像」、「歴史」「建造物」など 9 つの分類がある。文化財の探索は、マップ表示、タイル表示、カテゴリまたはエリア(市町)による絞り込み、キーワード検索により行うことができる。 ## 2.2 ユーザの閲覧行動 2021 年の Google アナリティクスの解析結果によると、ランディングページがトップペー ジであるユーザは約 $12 \%$ $\%$ り、直帰率は約 $35 \%$ あっった。一方、ランディングページが文化財の個別ページであるユーザは約 $84 \%$ であり、直帰率が $80 \%$ を超えるぺージが大半であっ た。また、個別ぺージから直帰しなかったユー あった。 この解析結果より、検索エンジンから文化財の個別ページにアクセスしたユーザは、関連する文化財の存在を把握できないため、探索行動に繋がらない可能性が示唆される。また、2.1で示した探索方法は、絞り込みを行うためにトップページへの遷移が必要な点や、キーワード入力が必要な点から、ユーザにとって負担となっている可能性がある。以上より、ユーザの負担とならない方法により、興味を持つ可能性がある文化財の存在を示すことが必要であると考えられる。 ## 3. 関連研究 大河原らは、ユーザの嗜好にあった店舗の発見支援を目的とした ECサイトの店舗情報視覚化システムを提案している[3]。 このシステムでは、アパレル店舗情報を階層的クラスタリングし、円形ツリーマップとバブルチャートを組み合わせてクラスタを視覚化している。第 1 階層は商品カテゴリ、第 2 階層は商品テイスト、第 3 階層は店舗によってそれぞれ分類されている。ユーザは円の色や大きさの情報に基づいて階層を辿ることにより、興味がある店舗を探索することができる。 このように視覚化したクラスタをユーザに提示することにより、店舗情報の特徴や関連性が把握でき、店舗探索が容易になるという結果が評価実験により示されている。 本研究では、大河原らの視覚化手法を参考に文化財の探索支援システムを構築する。 ## 4. 文化財探索支援システム 歴史的な人物や出来事に関心を持ち、検索エンジンから「南北海道の文化財」の個別ページにアクセスした場合、閲覧した文化財に関連する文化財にも興味を持つ可能性が高いと考えられる。例えば、土方歳三に興味を持つユーザが 「土方歳三最後の地」の個別ページにアクセスした際に、土方歳三や箱館戦争に関連する文化財を提示することができれば、他の文化財を閲覧する契機となる可能性がある。そのため、本研究では閲覧中の文化財に関連する文化財を容易に探索できるシステムを構築する。 2.1 で示したとおり、「南北海道の文化財」にアーカイブされている文化財には、メタデータとしてカテゴリが付与されているが、粒度が大きく、関連する文化財を抽出する目的には不十分である。そこで本研究では、文化財のタイトルと説明文から特徴語を抽出し、意味的類似性に基づいて特徴語の階層的クラスタリングを行い、類似する文化財を抽出する。そして、特徴語クラスタの階層構造を視覚化することにより、関連する文化財を探索できるようにする。具体的な手順は以降の節で説明する。 ## 4. 1 特徵語クラスタの作成 提案システムにより視覚化する特徴語クラスタを以下の手順で作成する。 (1) 特徴語の抽出 (2)特徵語の階層的クラスタリング (3)特徴語クラスタのラベリング (4)特徵語クラスタと文化財の関連付け 手順(1)では、各文化財のタイトルと説明文を形態素解析し、TF-IDF 値が間値以上の名詞をその文化財の特徴語とする。 手順(2)では、まず Word2Vec を用いて特徴語をベクトル表現する。そして、それらの間のコサイン類似度を距離として用い、全ての文化財の特徵語の階層的クラスタリングを行う。 手順(3)では、ユーザがクラスタを識別するためのラベルを各クラスタに付与する。ラベリングには、クラスタに含まれる特徴語の上位概念を用いる。特徴語には歴史的な単語が多く含まれており、既存のシソーラスでは不十分であるため、Wikipedia の記事に含まれる上位概念に関する情報を利用する [4]。 手順(4)では、最初に各文化財のタイトルと説明文から名詞を抽出し、Word2Vec を用いてべクトル表現する。各クラスタに対して、属する特徴語とのコサイン類似度が間値以上の名詞 (手掛かり語) を抽出する。各文化財において、各クラスタの手掛かり語が出現する文の数を文の総数で除した値を、そのクラスタとの関連度とする。そして、関連度が間値以上の文化財を、 そのクラスタに関連付ける。 ## 4. 2 特徵語クラスタ の視覚化 4.1 で述べた手法を用いてラベルが付与された特徴語クラスタを、階層構造のデー タ視覚化手法の一つであり、データ視覚化ライブラリ D3.js に含まれている Zoomable Circle Packing により視覚化する(図 1 および図 2 の右側)。この手法では、任意の円を選択することによって、 その階層にズームされ、対話的に階層を辿ることができる。初期状態で表示されるクラスタ階層の位置を調節することにより、全体のクラスタ分布を俯瞰しながら探索できる。クラスタに含まれる文化財の数を円の面積に対応させることにより、クラスタの規模も同時に把握できる。 提案システムでは、「南北海道の文化財」の文化財の個別ページの右側に Zoomable Circle Packing による視覚化ぺインを配置する。その上部に、左側に表示されている文化財が関連付けられた特徴語クラスタのラベルを表示する。 ユーザが視覚化画面を操作すると、その結果を左側の表示に反映させる。 例えば、ユーザーが「山津波犠牲者慰霊碑」 のページ(図 1)にアクセスした場合、視覚化ペインには「山津波犠牲者慰霊碑」が関連付けられた特徴語クラスタである「墓、岬」、「事故、戦闘」などが表示される。ここで、ユーザーが視覚化ペインの左下に位置する「事故、戦闘」 図 1. 文化財探索支援システムの個別ページ(山津波犠牲者慰霊碑) 図 2. 文化財探索支援システムの関連文化財ページ(事故,戦闘に関する文化財) 図 3.評価アンケート回答(5 段階評価) ## 5. 評価実験 ## 5. 1 実験方法 提案システムの有効性検証するために、「南北海道の文化財」と提案システムの比較実験を行った。歴史に興味を持つ 20 代の被験者 6 名に対して、文化財を調べるためのテーマ(「箱館戦争」「教会」「阿部たつを」など)を提示し、興味のある文化財を探す課題を与えた。この課題を「南北海道の文化財」と提案システムをそれぞれ使用して実行させた。課題終了後、 5段階リッカート尺度と自由記述によるアンケ一ト評価を行った。 ## 5.2 実験結果と考察 「従来のシステムと提案システムのどちらが自分の興味のある文化財を探索しやすかったですか?」という質問に対して、約 $83 \%$ の被験者が提案システムと回答した。選択式の質問に対する回答については図 3 に示す。 自由記述には、「最初に調べた文化財から関連していそうなものに飛びやすいので次から次へと興味が湧く」のような肯定的な回答の他に、 「探索途中で前の候補が保存されていなくて戻ることができないのが不便」、「ラスタのラべルの方向性がばらばら」、「ラベルを探すのが面倒(アイコンがあるとよい)」など、改善を求める回答があった。 以上の結果より、提案システムは、興味のある文化財を探索する目的に対しては概ね有効であることが示唆される。一方で、特徴語クラスタのラベリングの精度や、ユーザビリティに関 しては、改善の余地があることが示された。 ## 6. おわりに 本稿では、特徴語の視覚化による文化財探索支援システムの構築について述べた。今後は評価実験から得られた問題点の改善に取り組む。 一部の特徴語クラスタのラベリングが不適切である問題については、特徴語とラベル候補の類似度をWord2Vec により算出し、最も類似度の平均値が高いものをラベルとすることを検討している。 特徴語クラスタのラベルが探し難いという問題に対しては、特徴語クラスタに代表的な画像を表示することを検討している。 ## 参考文献 [1] 道南ブロック博物館施設等連絡協議会. 南北海道の文化財. http://donan-museums.jp/ (参照 2022-09-10). [2] 奥野拓. 地域文化財のデジタルアーカイブ化とオープンデータ化による活用の試み:「南北海道の文化財」の事例. デジタルアーカイブ学会第 5 回研究大会予稿. 2020. Vol. 4, No.s1, p. s9-s12. [3] 大河原一輝, 平野廣美, 益子宗, 星野准一. ショッピングモール型 ECサイトのための店舗情報視覚化システム. 情報処理学会論文誌. 2015. Vol. 56, No.3. p. 847-855. [4] 小林暁雄, 増山繁. ウィキペディアを利用したシソーラスの自動拡張. 計測自動制御学会第 54 回自動制御連合講演会講演論文集. 2011. p. 460-465. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C21]「映像タイムトラベル」昭和の暮らしをデジタル アーカイブする 2: ## SNS と連動するアーカイブの可能性 ○向平由子 ${ }^{1)}$, 平岡磨紀子 ${ }^{1)}$, 山岡正明 ${ }^{2)}$ 1)株式会社ドキュメンタリー新社, $\mathbf{T} 555-0023$ 大阪市西淀川区花川 2 丁目 19-8 2) mixlab E-mail:info@d-sin.com ## Utilizing the TV Program, Eizou Time Travel: Creating a Digital Archive of Life in the Showa Era 2 MUKAHIRA Yuko ${ }^{1)}$, HIRAOKA Makikon), YAMAOKA Masaaki ${ }^{2}$ ) 1) Documentary Shinsha Inc., 19-8, Hanakawa 2-Chome, Nishiyodogawa-ku, Osaka, 555- 0023 Japan 2) mixlab ## 【発表概要】 ドキュメンタリー新社では、1992 2002 年に放送したテレビ番組「映像タイムトラベル」のデジタルアーカイブに取り組んでいる。昭和館での一般公開も始まり、その存在を周知するため 2021 年から動画共有サイト YouTube での公開をスタートさせた。昭和の生活、鉄道の作品を中心に掲載したところ、視聴回数は 19 万回を超え予想を上回る反響を得ている。寄せられたコメントは、動画を見て戔った思い出など、撮影当時を理解する上で貴重な情報が多い。番組情報のデータ化も進めているが、これらコメントも映像への理解を深める情報として保存を始めた。また、解説ナレーションと BGM がミックスされた番組の音から、マルチオーディオ(MA)技術を応用してナレーションのみ抽出できることが分かった。この取組みについても紹介する。 ## 1. はじめに 20 世紀を記録した映像作品を、歴史資料として見直すことで自分たちが生きてきた時代を検証する。そんな狙いをもって制作されたテレビ番組「映像タイムトラベル」。 私たちは、2020 年第 4 回研究大会で、「テレビ番組『映像タイムトラベル』の利活用 :昭和の暮らしをデジタルアーカイブする」[1] を発表し、デジタル化の過程における課題を報告した。あれから 2 年。SNS の浸透やデジタル技術の進化によって、当初は想像していなかったアーカイブの可能性が見えてきた。 SNS との連動に向けて動き出した「映像タイムトラベル」の新たな利活用について述べる。 ## 2. デジタル化で広がる可能性 ## 2. 1 これまでの経緯 「映像タイムトラベル」は、ドキュメンタリ 一工房の鈴木昭典代表(1929-2019)が、20 世紀の様々な映像作品を、歴史資料として見直す必要性を訴えたことから始まったテレビ番組だ。全国の市町村や企業、団体、個人から協力を得て、所蔵のフィルム作品をオリジナルのままに放送する代わりに、映像を保管する了承を得た。 ドキュメンタリー新社は、2019 年に $\beta$ カムテープの状態で保管されていた映像を引き継ぎ、デジタル化をスタートさせた。教育用資料として活用してもらうためには、どこでも再生可能な形にしなければならない。OA テ ープを動画ファイルに変換する作業を進めていくなかで、2021 年にデジタル化した一部を昭和館(東京都千代田区)で一般公開してもらえることになった。 そこで、このデジタルアーカイブの取り組みを広く知ってもらおうと、動画共有サイト YouTube を利用することにした。まずは、個人の映像提供者に連絡をとり、揭載の許諾をもらうことから始まった。フィルム世代には馴染みの薄いSNS での公開に、理解を得られるか不安もあったが、全くの見当違いだった。「デッキが故障し、録画した VHS テープが見 られなくなり困っていた上、「家族や知人にも簡単に見てもらえる」と積極的に承諾を得ることができた。 次に、放送時に反響のあった昭和の暮らしや旅、鉄道のテーマから作品を選び、 1 時間の番組を 5 分程度にまとめる作業にとりかかったが、ある課題にぶつかった。個人から提供されたフィルムの場合、ディレクターが提供者を取材し、当時の状況を説明するナレー ションを書いていた。そして編集した映像に合わせてナレーションを収録し、BGMをつけて一つの音にする「MA:マルチオーディオ」 という工程を経て、OA テープを完成させた。 この音を一つにする工程が、SNS での掲載においてネックになってしまった。 YouTube で公開する際には、番組で使用した楽曲を著作権管理団体へ再申請する必要がある。しかし、手元に楽曲情報は残っておらず、許諾を得ることは難しい。つまり、BGM だけでなく一体化したナレーションも使用できない。やむなく番組の音を全てカットし、 テロップで情報を補い公開することにしたが、朝日放送の名アナウンサーとして知られた玉井孝さんのナレーションがなけ林「映像タイムトラベル」の意義を失うのではないかという声もあがった。 ## 2. 2 YouTube 公開の反響 2021 年 6 月に公開を始めたが、 1 日の視聴回数は数十回程度。そんな中、視聴者から時折コメントが寄せられる作品があった。中島忠夫さん撮影の「城東貨物線のある日」だ。 中島さんは熱烈な鉄道マニアで、全国の鉄道をめぐって撮影した作品を番組に提供してくれた。その鉄道知識を活かそうと、ナレー ションは、玉井さんとの対談形式で収録された。対話を尊重したためか「城東貨物線のある日」は、BGMがほとんど付いておらず、唯一ナレーションつきで公開出来た作品だった。 中島さんの他の作品を調べたところ、「汽車物語 III 碓水峠 1962」「汽車物語 60 年代の特急と狩勝峠」も BGM がついていない。ナレ ーションがあれば、もっと視聴してもらえる かもしれないと、思い切って 3 本の作品を 20 分ほどの長尺で公開することにした。 2022 年 6 月から新たに、中島さんの作品を含む 11 本の動画を公開すると、視聴回数が急増し 1 カ月後には 1 日 2 万回を突破した。視聴者は、世界 18 力国に広がった。関西ローカルで深夜に放送された番組が、20 年後に驚きの結果をもたらしてくれた。 ## 2. 3 SNS 公開で寄せられたコメント YouTube のコメント闌には、2021 年の公開から 1 年 3 カ月の間に、 118 件のコメントが寄せられた。そのうち 65 件に、動画を見て甦った思い出や当時の鉄道技術など、映像の理解を深める情報が含まれていた $[2]$ 。 「汽車物語III 碓氷峠 1962」は、横川一軽井沢間の碓氷線が、歯車で急勾配を登り降りするアプト式だった頃の記録だ。 子供の頃に乗車した男性のコメントは、「客車の窓から前の機関車を見ると、電気機関車のはずなのにロッドが上下しているのが見えて、あれは何だろうと思っていました。26 あるトンネルの数を数えながら窓から乗り出してみていたのを思い出します[3]」。また別のコメントは、「私の曾祖母はこの列車で上田から新宿へお嫁に行ったそうです。たった 2 年とちょっとの生活。夫が他界して生まれた娘を抱いて上田に帰って来ました。[3]」と、当時の乗客の姿を彷彿とさせる。碓氷峠は標高差が $553 \mathrm{~m}$ あり、アプト式の頃は電気機関車でも 49 分かかったという[4]。コメントを読 図 1.「汽車物語III 碓氷峠 1962 」より むと、鉄道が運んだ様々な人生に想像が及び、新たな角度から映像を見ることが出来る。 さらに、視聴者どうしがコメントを交わし、撮影場所が議論となった例もある。「城東貨物線のある日」の踏切(図 2 上)だ。 最初に(1)「21:07 の踏切は今の JR 長瀬駅のある府道と城東貨物線の踏切ではないでしょうか。当時から自動車の通行は多かったです」というコメントが出された。これに対し(2)「この踏切は近鉄長瀬駅に向かう道では? 府道とはもっと斜めに交差していました。」 と地形を指摘する意見が現れた。すると、(3)「21:07 は、…煙も右へたなびいている(この地域では西にたなびくのが 8 割)、府道は平坦、長瀬へ行く道は坂がありました。よって (2)さんが正解ですね。私もあの交通量は府道だと思いましたが、踏切待ちで溜まっていたのですね。」(1~3 のコメント全て[5]) と蒸気機関車の煙のたなびく方向を指摘するコメントが現れた。映像を確認すると、21:07 (図2 上) の数秒前(図 2 下)、中央に走り去 図2.「城東貨物線のある日」より る蒸気機関車と右にたなびく煙(丸枠内)が確認できる。 映像内の地形や交通量、さらには蒸気機関車の煙まで参考にする面白さ。 3 人の議論のおかげで作品に新たな情報が加えられた。 YouTube「映像タイムトラベル」の視聴者は、 $45 \sim 64$ 歳が $57.1 \% 、 65$ 歳以上は $29.4 \%$ (視聴回数より 2022-09-26 現在)と、中高年がほとんどを占める。1997 年に長野新幹線が開通し、碓氷線は廃線となった。城東貨物線は旅客線化され、おおさか東線となっている。景色が大きく変化していく中で、彼らのコメントは映像を活性化させる貴重な証言ともいえる。 映像のデジタル化に加えて、紙媒体の番組情報のテキスト化も進めており、YouTube に寄せられたコメントを追加情報として保存することにした。備考闌に記録するだけでなく、何か活用法がないか模索している。 ## 3 ミックスされた音声ファイルからナレ ーションを抽出 \\ 3.1 音声認識の技術に注目 SNS での公開によって、映像における音声の重要性を再認識する結果となったが、10 年間の放送の中で、BGMがついていない作品はまれだ。今後の掲載をどうするべきか話し合う中で、音声認識の技術を応用できないかという提案が出た。映像編集ソフトに「自動文字起こし機能」が搭載され話題になっていた。声を認識出来るのであれば、BGM とナレーシヨンが一体化した音声ファイルから、人の声だけを取り出せるかもしれない。そこで、番組制作時からお世話になっていった mixlab の山岡正明氏に相談したところ、方法を検討いただけることになった。以下、山岡氏が実践した音声抽出方法を記す。 ## 3.2 ナレーションの抽出方法 (1)まず音声編集ワークステーション Avid 社の Pro Tools にて、動画ファイルの映像と音を分離し、プラグインエフェクトからiZotope 社 RX9Advanced のエフェクト Music Rebalance を選択する。本来このエフェクト は、ボーカルの音量変更やドラム、ギター等のバランス変更を目的とした音楽制作用のマスタリング機能だが、本作品では「ボーカル =ナレーション」に見立て、ナレーション以外の全ての楽器を削除した。さらにエフェク ト Dialogue Isolate を選択し、前記の作業で取りきれなかった音楽成分のかけらを削除した。上記 2 つのエフェクトはいずれも当該音声を解析したスペクトグラム表示がされており、実音と合わせながら効果を確認して行う必要がある。強く掛けすぎるとナレーション自体の欠落や不自然さにつながる為、オリジナルの音楽の種類、大きさ、ナレーションの音質等を考慮し、シーン毎に調整した。またこの処理は、ナレーションをボーカルに見立てているため、唄入りの BGM には適用できない。 (2)上記の処理後、著作権処理済みの BGM と仮ミックスを行い、旧 BGM の漏孔やナレ ーションの欠け等が無いかチェックし、どうしても取りきれない箇所は RX9Advanced のエフェクト Gainを用いて、スペクトグラム表示と実音を合わせ手作業にて削除した。再処理後にナレーションの音質と音量を補正し、最終ミックスを行った。 山岡氏の技術によって、ナレーション抽出に成功し、2022 年 9 月に初のリミックス版「映像タイムトラベル汽車物語 8 SL から新幹線まで」[6](山下勝久さん提供)を公開した。この作品は、平均視聴時間が 8 分を超え、全作品の平均 4 分 50 秒と比べて長く、改めて映像における音の力を害感している。 ## 4. おわりに 当初は膨大な資料のデジタル化に、焦りが募るばかりだったが、多く方から助言を頂き、 なんとか前へ進むことが出来た。SNS を通して、視聴者の声が聞けたことも新たな原動力となっている。視点が増えるごとに映像は活性化されることを胸に、これからもデジタルアーカイブに取り組みたい。 ## 参考文献 [1] 平岡磨紀子向平由子. テレビ番組「映像タイムトラベル」の利活用:昭和の暮らしをデジタルアーカイブする. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4 巻 2 号, p. 117-119. [2] ドキュメンタリー新社. 2021. YouTube 映像タイムトラベル。 https://www.youtube.com/channel/UCxQ83nSiKlv8B1TYaEsnug (参照 2022-09-24). [3] 映像タイムトラベル汽車物語III碓水峠 1962. 2022-06-10. https://youtu.be/lfuBEMjb4h4 (参照 202209-24). [4] 碓水峠鉄道文化村. 鉄道文化村について. https://www.usuitouge.com/bunkamura/abo ut/ (参照 2022-09-25). [5] 映像タイムトラベル城東貨物線のある日. 2022-7-2. https://youtu.be/SfCMC_hbtd8 (参照 2022-09-24). [6] 映像タイムトラベル汽車物語 8 SL から新幹線まで. 2022-09-14. https://youtu.be/toJmRyKCRiw (参照 202209-24). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C13] デジタル時代の「アーカイブ」と政治言説 : ## インド首相のメディア戦略を事例として 宮本隆史 ${ }^{11}$ 1)大阪大学大学院人文学研究科, $\overline{\mathrm{T}} 562-8678$ 大阪府箕面市船場東 3-5-10 E-mail: miyamo.hmt@osaka-u.ac.jp ## "Archive" and Political Discourse in the Digital Age: A Case Study of the Media Strategy of the Prime Minister of India MIYAMOTO Takashi1) 1) Graduate School of Humanities, Osaka University, 3-5-10 Senba-higashi, Minoh-shi, Osaka 562-8678, Japan ## 【発表概要】 本発表では、デジタル時代において「アーカイブ」がいかに想像されるのかを考察する。インターネットと端末が普及した今日、「アーカイブ」なるものがわたしたちの日常生活にかつてないほど浸透してきている。その変化の中で、情報の「集積」なるものについてのひとびとの捉え方が変化し、「アーカイブ」を想像するありかたも大きく変わってきている。本発表では、「アー カイブ」や情報の「集積」といった概念を自明の前提とすることなく、それらがどのような文脈において想像されうるのかを考察する。その手がかりとして、インドの首相ナレーンドラ・モー ディーのインターネット上のメディア戦略を検討する。 ## 1. はじめに 「アーカイブ」あるいは「デジタルアーカイブ」なるものを定義しようとする試みは、 これまでに繰り返しなされてきた $[1]$ 。アー カイブズ学においては、個人や組織の活動にともなって作成・収受され、継続的に利用する価値があるとされたものを編成・保存した記録(あるいはその保存機関)として「アー カイブズ」が定義されることが多い。あるいは、いわゆる「デジタルアーカイブ」の議論においては、複数のファイルをまとめてシステムやネットワーク上で利用できるようにしたものを広く「アーカイブ」と捉えることが多く、そのための「要件」としてアクセシビリティ、オープン性、信頼性、永続性などの担保といった規範が強調される。「アーカイブズ」あるいは「デジタルアーカイブ」なるものを定義しょうとするこうした議論では、それらがなんらかの価値観にしたがって編成され構築されるべきものと捉える視点が共有されてきた。これら、「アーカイブ」や「デジタルアーカイブ」がどうあるべきかという規範を論じる議題設定は、制度の要求やそのため の運動を展開する文脈において、戦略的に選択されてきたものと理解できる。 しかし、デジタル時代において、アーカイブなるものがいかに日常的に経験され作用しているのかを実証的に考察するにあたっては、 こうした規範的議論における「定義」の範囲は狭すぎるように思える。保存・活用といった意図をもって構築されたものでなくても、 あるいはアクセシビリティ、オープン性、信頼性、永続性といった「要件」が備わっていなくても、ある情報の集積が「アーカイブ」 として扱われてしまうという事態は、日常的に経験されているものであろう。そうした、日常的実践の中での「アーカイブ」が、どのようなものである「べき」かという規範を論じるのではなく、どのようなもので「ある」 かを実証的に記述する方法を、いかに組み立てるかがここで考えたいことである。 本発表は、このような関心から、デジタル時代の「アーカイブ」を実証的に議論するための方法論の構築を目指す試みのひとつである。まず第 2 節で、情報の「集積」や「アー カイブ」を実証的に議論する際にとりうる視 角について考察する。それを踏まえて、第 3 節ではインドの首相ナレーンドラ・モーディ一が展開するインターネット上の発信を事例として取り上げ、「アーカイブ」がいかに想像され作用するのかを観察する。最後の節では、本発表の議論のまとめを行なう。 ## 2. 情報の「集積」と「アーカイブ」 「アーカイブ」なるものを自明の実体として扱うことができないことについては、たとえば権力の問題との関係において、これまでに幾度も指摘されてきた。植民地帝国とジェンダー規範の関係を論じるバートンは、アー カイブを単純に読んでしまうと、植民地主義や帝国主義などアーカイブを作る側の物語を再生産することになると警告する $[2]$ 。一方で、ホーリーらは、アーカイブを作る権力が、階級、カースト、ジェンダー、言語などのカテゴリーにもとづいて、特定の集団を排除してしまうことを指摘している [3]。 さらに確認しておきたいのは、アーカイブを構成する「意図」も常に明らかとは限らないということである。わたしたちの日常生活は、意図されることなく形成されてしまった情報の「集積」に満ち溢孔ている。この事態は、デジタル環境の普及によっていっそう明白になっているように思われる。たとえば、 システムやサービスの履歴情報を「集積」とみなし、わたしたちはそれを「アーカイブ」 として扱ってしまう。しかしこのとき、情報の「集積」なるものはいったい何を意味するのだろうか。すべての情報が接続しうるネットワーク環境において、情報が「集積」するとはいかなることなのか?ある「集積」をべつの「集積」とどのようにして原理的に識別できるのか? ここで、「集積」や「アーカイブ」なるものを、所与の実体とは考えず、情報のネットワ一クがわたしたちに与える効果として捉えられることを指摘しておきたい。ひとびとは、自らが置かれた政治的 - 経済的 - 社会的 - 文化的文脈を前提として、情報のネットワークの中に、ある「集積」を見い出す。言い換えれば、情報のネットワークは、そこに「集積」 があるかのように振る舞うことを、わたしたちに促している。そうして想像された「集積」 は、保存・利用・忘却・破壊など「アーカイブ」にかかわる行為の選択肢をわたしたちに与える。つまり、アフォーダンスの問題として「アーカイブ」を論じるのである。このような視角を取るならば、「アーカイブ」について実証的に論じるということは、情報のネットワークが与える「アーカイブ効果」とでも呼べるようなものの見取り図を描く作業になるだろう。それでは、どのようにして、情報は特定の「集積」と認識され「アーカイブ」 として扱われることになるのだろうか。このことを考察するためには、とりあえずは具体的な事象の観察に向かうことが現実的だろう。 ## 3. インド首相のメディア戦略 ここで事例として、インドの首相ナレーンドラ・モーディーのメディア戦略をとりあげたい。モーディー政権は、2014 年に成立して以来、大量のオンライン・コンテンツを制作し発信してきた。 モーディーの演説・発言・ラジオ番組などの映像・音声は、YouTube の公式チャネルで公開される [4]。これらは、API を通じて首相公式ウェブサイト[5]やモーディー自身の公式ウェブサイト[6]にも表示される。モー ディー公式ウェブサイトでは、Google Playストアと App Store(Apple)を通じてスマートフォン用のアプリケーションを配布しており、利用者はそれを使って発信を受け取ることもできる [7]。さらに、演説やメディアでの発言などはテクスト化され、膨大なデータとして首相公式ウェブサイトおよびモーディー公式ウェブサイトに掲載される。そればかりでなく、それらテクストは英語、ヒンディー語、 アッサム語、ベンガーリー語、グジャラーテイー語、カンナダ語、マラヤーラム語、マニプリー語、マラーティー語、オリヤー語、パンジャービー語、タミル語、テルグ語、ウルドゥ一語へ翻訳し公開できるようウェブサイトが設計されている [8]。さらに、首相公式 Twitter [9] とモーディー公式 Twitter [10] のアカウントが用意され、演説や発言のテクストの引用や、YouTube 動画へのリンクが発信される。同様の発信は、首相公式 Facebook [11]およびモーディー公式 Facebook [12] アカウントでも行なわれている。また、こちらはモーディー公式アカウントのみであるが、 Instagram でも画像の発信をしている [13]。 Twitterでは、過去の発信も折に触れて再発信 (retweet)され、さらにそれがAPIを通じて公式ウェブサイトなどに再度引用される。 たとえば、広く聴取されている首相公式ラジオ番組『内奥の思惟(Mann ki Baat)』[14] も、YouTube 上に音声が公開されるとともに、 エピソードの文字おこしテクストが首相公式ウェブサイトに掲載される。モーディーが番組中で使用するヒンディー語とその英訳はすべてのエピソードについてテクストが作られており、エピソードの内容によってはその他のインド諸言語の訳が用意される。それとともに、YouTube 上に音声が公開されており、 それが API を通じて公式ウェブサイト上に配されている。 このように、重複する自己引用の網の目が形成されており、どのサービスにおける発信がオリジナルでどれが複製なのかは、もはや判断することは難しい。こうしたモーディー の一連の発信は、支持者や批判者によってさかんに引用され、インターネット上にさらなる複製が作られている。これによって、モー ディーの発信はさらに注目を集め、さらなる情報が生産され「集積」されていくのである。 モーディーのインド人民党は、2014 年に政権をとる以前に顕著であったヒンドゥー至上主義的主張を露骨に打ち出すことは、現在では得策でないと判断し、モーディー自身の過激な言動は控えている。むしろムスリムなど非ヒンドゥーのマイノリティとの対話を強調する一方で [15]、教育・文化・社会などの制度面でヒンドゥー至上主義の浸透を進めるという戦略をとっている[16]。マイノリテイへの融和姿勢を示しつつ、マジョリティの過激な部分からの支持をも維持するにあたって、モーディー政権は綿密に言論戦を展開し ている。インターネット上の「アーカイブ」 は、そのために有用な装置として活用されているのである [17]。 ## 4. おわりに モーディーの発信によって作られる膨大な情報は、アーカイブズ学的な意味において編成され保存されているわけではなく、デジタルアーカイブの「要件」として語られるようなアクセシビリティ、オープン性、信頼性、永続性などが必ずしも保証されているわけでもない。しかし、モーディーが過去の発信を戦略的に自己引用し繰り返し利用することに見られるように、その発信の総体は彼とそのチームにとって、政治的に有用な情報の「集積」として活用されている。いわば、関連するサービス群の全体が「アーカイブ」として扱われ、それがモーディーのメディア戦略のひとつの柱となっているといって良い。ここで「アーカイブ」と呼べるようなものが立ち現れているのは、その政治的有用性のためにコミットメントが継続されていることによっている。 本発表では、モーディーのインターネット上でのメディア戦略を手掛かりとして、情報のネットワークが「集積」の存在をひとびとに想像させ、それを「アーカイブ」として扱うことを促す文脈を観察しようとした。もちろんこの事例のみをもって議論を一般化することは難しいが、こうしたアフォーダンスの問題として「アーカイブ」を捉える視角から、実証的な議論を深める方法論を練り上げていくことを今後の課題としたい。 ## 参考文献 [1] 本節と次節では、つぎの加藤・宮本の論考で示した論点を下敷きに議論を行なっている。加藤諭 - 宮本隆史. 2022 (刊行予定).「デジタル時代のアーカイブの諸系譜をたどるために」. 加藤諭・宮本隆史編『デジタル時代のアーカイブ系譜学』. みすず書房. [2] Burton, Antoinette. 2021. "Digital Methods + Empire Histories $=$ New, Old, and Emerging Practices." Journal of World History 32 (2): 191-97. [3] Hawley, John Stratton. 2015. A Storm of Songs: India and the Idea of the Bhakti Movement. Cambridge, MA \& London: Harvard University Press. [4] https://www.youtube.com/c/NarendraModi (参照 2022-09-01). [5] https://www.pmindia.gov.in/hi/ (参照 2022-09-01). [6] https://www.narendramodi.in (参照 2022-09-01). [7] https://www.narendramodi.in/downloadapp (参照 2022-09-01). [8] ただし、多くの記事では英語とヒンディ一語が用意されるのみで、内容によってはその他の言語にも訳されているというのが現状である。本稿で示した言語名の並びは、首相公式ウェブサイトのもので、モーディー公式ウェブサイトでは異なる並びになっている。 この順番にどのような意味があるかは明らかではない。2011 年国勢調査の結果のなかで、母語話者人口が大きい順に 12 のインド憲法指定言語が選ばれているが、20 位のマニプリー 語も付け加えられている。また、指定言語ではないが、大きな話者人口を持つ英語も入れられている。2011 年国勢調査における言語調査の結果は次を参照。Language: India, States and Union Territories (Table C-16), Paper 1 of 2018, Census of India 2011. 2018. Office of the Registrar General, India. インド憲法の指定言語(scheduled languages)とは、憲法第 8 附則で指定された言語で、連邦公用語委員会に委員を選出する母体として認知された言語である。現在 22 の言語が指定されている。インドの言語問題と憲法第 8 附則については、藤井が多くの論考で正確な解説を行なっている。藤井毅. 1999.「現代インド の言語問題」.『ことばと社会』2: 137-170. [9] https://twitter.com/PMOIndia (参照 2022-09-01). [10] https://twitter.com/narendramodi (参照 2022-09-01). [11] https://www.facebook.com/PMOIndia (参照 2022-09-01). [12] https://www.facebook.com/narendramodi (参照 2022-09-01). [13] https://www.instagram.com/narendramodi (参照 2022-09-01). [14] https://www.pmindia.gov.in/en/mann-ki- baat/(参照 2022-09-01). 番組名 Mann ki Baat は「心の言葉」と訳せるが、英語では Inner Thought と訳されているため、日本語訳もこちらに合わせた。 [15] 二宮文子. 2021. 「インド共和国におけるスーフィズムと共生のイメージ」。東長靖, イディリス・ダニシマズ,藤井千晶編『イスラームの多文化共生の知恵一周縁イスラーム世界のスーフィズムに着目して一』.京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科, pp. 63-75. [16] 三輪博樹. 2021.「2010 年代のインド政治:インド人民党による一党優位状況の成立」. 堀本武功・村山真弓 ・輪博樹編『これからのインド:変貌する現代世界とモディ政権』. 東京大学出版会, p. 25. [17] モーディーの「アーカイブ」と言説の具体的な内容については、 15 世紀の詩人カビー ルへの言及に注目して考察を行なった。宮本隆史. 2022. 「批評するアーカイブ:カビー ル・プロジェクトとウェブサイト「驚異の街」」.『言語文化研究』48: 153-173.
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# [C12]特撮作品を誘致資源化したレジャー施設の観光史研究 : ## 特撮ツーリズム研究の視点から 二重作昌満 1 ) 1)東海大学大学院文学研究科文明研究専攻, $\bar{\top} 259-1292$ 神奈川県平塚市北金目 4-1-1 E-mail: masamitsu@futaesaku.jp ## Research on the tourism history of leisure facilities that use Tokusatsu films as a resource to attract tourists: From the perspective of Tokusatsu -Special Effects Films- tourism Research FUTAESAKU Masamitsu1) 1) Tokai University Graduate School of Letters, 4-1-1 Kitakaname Hiratsuka, Kanagawa, 259-1292 Japan ## 【発表概要】 本研究の目的は、特撮を誘致資源化した観光現象である特撮ツーリズム誕生当初の時代 (1950 年代から 1970 年代)に焦点を当て、当時代に各レジャー施設にて開催された催事の模様やその創作過程に着目することで、各映像制作会社がいかにキャラクタービジネスを現在まで成立させてきたかについて、観光歴史学的観点から記録と検証を実施した。その結果、特撮ツ一リズム誕生初期の時代も現在と同様、開催地は多様性に富んでいた。特に百貨店や遊園地において、着ぐるみショーや展覧会等の開催事例が集中的に確認可能であった。その上で、特撮ツーリズムが現在まで約 70 年の歴史を有するまでに至った背景には、誕生初期の時代において特撮作品の撮影で使用された「物品」が、観光者にとって「時間を費やして訪孔るに値する存在」として認知されたことが下地となり、やがてその認識が現在まで普遍化していったことで、当観光現象は現在まで続いてきたことが考察できた。 ## 1. 研究の背景 現在、我が国では各映像制作会社が発信してきた特撮作品を誘致資源化し、大型商業施設や遊園地、テーマパーク等の各レジャー施設にて 1 アトラクションとして導入する事例を多数確認することができる。例えば、株式会社東宝(以降、東宝)制作の特撮怪獣映画『ゴジラ (1954)』シリーズを題材に、兵庫県立淡路島公園内にあるテーマパーク「ニジゲンノモリ」では、当シリーズの世界観を表現したアトラクション「ゴジラ迎撃作戦」[1] を 2020 年 10 月 10 日から開業した。また、静岡県裾野市にある遊園地「ぐりんぱ」内では、株式会社円谷プロプロダクション(以降、円谷プロ)制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン (1966)』シリーズを題材とした 「M78 ウルトラマンパーク」[2]が 2007 年に開業し、現在まで至っている。さらに国内のみに留まらず、中国・上海にあるテーマパー ク「上海海昌海洋公園」では 2022 年 7 月より 「ウルトラマン歀楽エリア」[3]が開業した。 つまり、我が国を代表する映像文化資源である「特撮」を活用した施設の運営は、もはや国内の事象に留まらず国際的な事象へと変化しつつある。筆者はこれまで、特撮を誘致資源化した観光現象を「特撮ツーリズム」[4] と定義し、現在まで約 70 年の歴史を有する当観光現象を対象に、コンテンツツーリズム研究の一環として包括的な調査を実施してきた。 しかし、今や特撮作品を誘致資源化した観光は国際化の一途を辿っており、米国での夏季恒例催事[5]を筆頭に世界的な広がりを見せているが、その下地には国内市場での成功が挙げられ、半世紀に渡り各映像制作会社が構築してきたキャラクタービジネスが世界に適応できるまでのプロセスを歩んできた上での成果であると考える。つまり、本研究では特撮作品が観光者にとって「時間を費やして訪れ るに値する存在」として観光地に定着するようになるまでのプロセスに焦点を当てた。そこで本研究では、1950 年代から 1970 年代までの時代、即ち、特撮ツーリズム誕生当初の単発的な催事の開催が主流であった時代から、継続的な集客を視野とした常設施設での開催へと変化を遂げた時代に焦点を当て、これらの時代に開催された催事の模様やその創作過程をアーカイブ化することを視野とした調査を実施した。 ## 2. 研究の目的・対象 ・方法 本研究の目的は、特撮を誘致資源化した観光現象である特撮ツーリズム誕生当初の時代を対象に、これらの時代に開催された催事の模様やその創作過程に着目することで、各映像制作会社がいかにキャラクタービジネスを現在まで成立させてきたかについて、観光歴史学的観点から記録と検証を実施する。具体的には、1950 年代から 1970 年代における各レジャー施設がどのような試行錯誤を実践しながら各映像制作会社の著作物である特撮作品を通じた誘客を継続してきたか、アーカイブ化を視野とした資料の収集を行なった。即ち、本研究では資料調査を中心に調査検証を実施した。当研究で活用した調査資料は「1.文献」、「2.Web サイト」、「3.映像ソフト」の 3 種類に大別できる。まず「1. 文献」は、円谷プロや東宝等、各映像制作会社が公式に制作に携わった書籍を対象に収集した。また 「2.Web サイト」では、催事の運営側である催事開催地のサイトや、作品の著作側である各映像制作会社のサイトを活用し、情報収集に努めた。よって、本研究では研究の信頼性を確保するために、公式サイトのみに調査対象を限定した。最後に「3. 映像ソフト」である。映像ソフトとは、催事開催時の現地の様子を映像等で記録した市販の DVD 等を指す。 上記の調査検証は、アニメと並ぶ我が国の一映像ジャンルとして定着してきた「特撮」 がいかに長期的な催事マネジメントを成立させてきたかのノウハウを理解する一助になると共に、国際市場に向けた催事を実施できる ようになるまでの一過程を把握するために、後世に向けた記録を行なっていくことに研究の社会的・学術的意義があると考えた。 ## 3. 結果 特撮ツーリズム誕生初期の時代も現在と同様、開催地は多様性に富んでいた。特に百貨店や遊園地において、着ぐるみショーや展覧会等の開催事例が集中的に確認可能であった。原稿の体裁上、全ての情報を掲載するのが困難であるため、本研究では「(1)百貨店」、「(2)遊園地」「(3)その他」の 3 つの観光地に分類し、 それぞれの実態について概説していく。 ## 3. 1 百貨店 まず、我が国で特撮ツーリズムが確認されるようになった当初、催事の開催地として急速に台頭するようになったのが百貨店であった。特撮怪獣映画のヒットに伴い、これらの作品を誘致資源とした催事が各百貨店にて次々に開催されるようになった。 現状、確認できる国内初のショーの開催事例は、1964 年 11 月に池袋デパート屋上にある「子供遊園地」にて開催された怪獣ゴジラの着ぐるみショーであった。当催事は同年 12 月 20 日公開予定の特撮怪獣映画『三大怪獣地球最大の決戦』の宣伝を目的に開催された [6] 。他にも、1965 年に東京都松屋デパート屋上にて開催されたゴジラの着ぐるみによる実演ショーが開催された $[7]$ 。つまり半世紀以上前より、作品の宣伝という目的の下で、百貨店では特撮作品を題材とした催事が数多く開催されており、遊園地のようにチケット代を支払うことなく出入りできる百貨店は、特撮作品とそのメイン視聴層である子ども達との距離を身近にする場として当時大きく機能していたことが考えられる。 ## 3.2 遊園地 続いて、初期の時代の特撮ツーリズム開催地のひとつとして挙げられるのが遊園地である。先述した後楽園ゆうえんちはあくまで成功事例のひとつに過ぎず、大衆的な人気を得た特撮作品を誘致資源として遊園地に導入しても、その殆どは単発的な開催で終了していた。また 1966 年当時は、現在のようにアニメ、 特撮といった映像のジャンル分けは行なわれておらず、「テレビマンガ」等という名目で、映像制作会社の枠を超えた内容で開催された事例も多々あった。例えば、1966 年 4 月に東京郊外に位置する遊園地「多摩テック」にて開催された「ウルトラ Q 大会」が該当する。当イベントは 3 部構成で実施され、第 1 部は猿の着ぐるみと遊ぶ「お猿といっしょにあそぼう」、第 2 部はアニメ作品の主題歌を歌った上高田少年合唱団による「歌の大行進」、最後に第 3 部「怪獣、多摩テックに現る」にてウルトラ Q に登場した怪獣達が実演ショーを行なう催事内容であった [8]。 他にも、現在の東急田園都市線、大井町線・二子玉川駅東側に存在した二子玉川園が挙げられる。当園は 1971 年に円谷プロと独占契約を締結したことに伴い、以降 4 年間をウルトラシリーズを中心とした展示館や屋外催事の実施に注力するようになる。当園を「怪獣ランド・二子玉川園」[9] と呼称する等、いわばウルトラシリーズのテーマパークを創作しようとした試みが伺える。しかし、長期間に渡る催事としては発展せず、当園は 1985 年に閉園することとなった。 ## 3.3 その他 上述してきた百貨店や遊園地以外にも、特撮作品の催事は多種多様な場所を舞台に開催されてきた。その中には、現在は酷似した事例を確認することが極めて困難な事例も存在した。本稿では、2つの催事開催事例に焦点を当てて概説していく。 まず、1966 年 7 月 9 日に東京都杉並区内の杉並公会堂で開催された『ウルトラマン前夜祭』7) が挙げられる。当ショーは同年 7 月 17 日に放送開始の『ウルトラマン(1966)』の PR 番組として録画中継され、特徵的な点としては舞台用の脚本が制作され、司会による進行の下による物語仕立てのショーという、現在実施されている着ぐるみショーの基盤が当時既に完成していたという点である。つまり、 55 年以上にわたって着ぐるみショーの構成は大きな変化を遂げておらず、着ぐるみという 「物品」を用いたひとつの我が国の演劇の形 として定着し続けてきたと考えられる。 さらに、1970 年に大阪府の千里丘陵で開催された日本万国博覧会では、同年 4 月 28 日から 5 月 5 日にかけて同会場内の「お祭り広場」 にて「子供まつり」の一環として東宝制作の 『ゴジラ(1954)』シリーズと大映株式会社制作の『ガメラ(1965)』シリーズの怪獣達による舞台上での実演ショー[10]が実施された。本研究の対象となる特撮ツーリズムの約 70 年の歴史において、特撮作品の催事を万国博覧会にて開催した事例は現状本件のみである。 ## 4. 考察 特撮ツーリズム誕生初期の時代に着目すると、現在まで約 70 年の歴史を有するまでに至った背景には、誕生初期の時代において特撮作品に登場する着ぐるみやミニチュア等の「物品」 は、これを見るために「時間を費やして訪れるに値する存在」として認知されたことが下地となり、やがてその認識は現在に至るまで世代を跨ぎながら普遍化していったことで、当観光現象は現在まで続いてきたことが考えられる。つまり、特撮作品の催事を幼少期に楽しんだ世代が親世代となり、自分の慣れ親しんだ催事を子ども達にも体験させるという循環が続いていったことで、今や特撮ツーリズムは親子 3 世代を跨ぐ観光現象として定着した。しかしながら、東宝配給の特撮怪獣映画『シン・ゴジラ (2016)』等、特撮作品の表現方法は CG やモーションキャプチャ等の新たな描写技術も導入されつつある。即ち、 これまで着ぐるみやミニチュア等の「物品」 が重要な誘致資源であった特撮ツーリズムが、 デジタル新技術を活用した特撮作品の発信に併せて、どのような変化を遂げていくのか、今後も注視していく必要がある。 ## 5. おわりに 本研究では、特撮を誘致資源化した観光現象である特撮ツーリズム誕生当初の時代 (1950 年代から 1970 年代)を対象に、これらの時代に開催された催事の模様やその創作 過程に着目することで、各映像制作会社がいかにキャラクタービジネスを現在まで成立させてきたかについて、観光歴史学的観点から記録と検証を実施した。しかし近年は COVID-19 の影響を受け、急速に観光の形は変化を遂げつつある。つまり、オンライン観光もしくはオンラインイベントが台頭するようになる等、今後の社会情勢に応じて我が国の観光は変化を遂げていくことが予測される。 これらの変化に応じ、我が国の特撮ツーリズムはどのような変化を遂げていくのか、現状を注視しながら後世に向けた記録を実施していくことが、今後の課題である。 ## 参考文献 [1] “リアル体験型アトラクションゴジラ迎撃作戦”.ニジゲンノモリ. https://nijigennomori. com/godzilla_awajishima/ (参照 2022-09-10). [2] “M78 ウルトラマンパーク”. ぐりんぱ. http://www.grinpa.com/m78/ (参照 2022-09-10). [3] “「ウルトラマン」上海のテーマパークに登場…希少フィギュア、歴代変身アイテムも”.読売新聞. https://www.yomiuri.co.jp/world/20220727-OYT1 T50166/ (参照 2022-09-10) [4] 二重作昌満,田中伸彦.「特撮ツーリズム」 の発展と多様化に関する歴史的研究.レジャ一・レクリエーション研究. 2017, vol.82, p. 21-30. [5] “Past G-FEST Conventions". Daikaiju Enterprises Ltd. http://www.g-fan.com/htm 1/past-gfests.php (参照 2022-09-10). [6] 田神健一, 佐藤慶幸.ゴジラ全映画 DVD コレクターズ BOX VOL. 4 復刻パンフレット.講談社. 2016, 13p [7] 菅家洋也. 講談社 MOOK 円谷ヒーロー ウルトラ怪獣全史. 講談社. 2014,80p [8] 新名新. 総天然色ウルトラ Q 公式ガイドブック. 角川書店. 2012,139-142p [9] 中西一雄.オール・ザットウルトラマンタロウ. 株式会社ネコ・パブリッシング. 2016, 76-77p [10] 五十嵐隆夫,山野勝.ぼくらが大好きだった特撮ヒーローBEST マガジン VOL.11. 講談社 $2006,22-25 p$ この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C11]放送アーカイブ活用 地域 MLA のニーズ:北陸 3 県公共文化施設へのアンケートから見える可能性と課題大高 崇1) 1)NHK 放送文化研究所, 〒 105-6216 東京都港区愛宕 2-5-1 愛宕 MORI タワー16 階 E-mail: ootaka.t-gs@nhk.or.jp ## Utilization of broadcast archives Regional Museums, Libraries needs: Possibilities and challenges indicated by the survey results OTAKA Takashi1) 1)NHK Research\&Studies Institute, 2-5-1 Atago,Minato-ku,Tokyo, 105-6216 Japan ## 【発表概要】 北陸 3 県の博物館・図書館等(MLA)に対して、過去の放送番組アーカイブの利用ニーズをアンケート調査したところ、約 $70 \%$ が「利用したい」と回答。理由として、放送映像のわかりやすさなどの魅力が、博物館等での展示内容を補強充実させ、地域文化の継承や集客、さらには PR になることで観光客や移住者の増加など地域活性化の効果に期待があげられた。一方、権利処理コストや、放送局の相談窓口機能の貧弱さと高額な使用料など、放送アーカイブ活用に際しての課題も抽出された。デジタル化とコロナ禍で存在感低下が危惧される地域 MLA と、同じく 「テレビ離れ」の加速に苦しむ放送局、ともに従来「公共」を担ってきた両者が、アーカイブ利活用を通じて協力・連携することで、変容・混迷する公共空間の立て直しの一助になり得る。調査分析結果を踏まえ、法改正と放送局の運用改善など、活用促進に向けて提言する。 ## 1. はじめに 放送局が保存する過去の放送番組やニュー スの音声・映像、およびその素材(以下「放送アーカイブ」と総称)は、例えば NHK では番組が 107 万コンテンツ、ニュースが 870 万項目を超える。しかし大半は一般には非公開で、「死蔵」状態にある。2025 年にはラジ才放送開始から 100 年の節目を迎える放送界には、文化資産である放送アーカイブの社会還元の推進が求められている。 一方、全国にある博物館や図書館等(以下「MLA」と総称)は、それぞれの地域の文化発信拠点であるが、デジタル化、さらにはコロナ禍の影響もあり、存在感低下を危惧する声も少なくない。それは、近年若年層を中心に加速する「テレビ離れ」に悩む放送界の存在感低下の危惧とも共通する感がある。 本稿の目的は、地域の公共文化の担い手であるはずの MLA と放送局が、「死蔵」されている放送アーカイブの活用によって地域社会に貢献する可能性を探ることある。MLA に対して行った利用ニーズに関するアンケート調查分析結果を通して考察してゆく。 ## 2.アンケートの声から浮かぶニーズ ## 2. 1 調査の概要 アンケート調査は、2022 年 2 月から 3 月にかけて、石川・富山・福井の北陸 3 県にある 「協議会」「協会」に加盟する MLA 全館に呼びかけ、このほかにも大学や観光協会なども含めた 436 の施設・団体に対して行った。施設等の事業・企画で放送アーカイブを利用したいか(放送局からの提供を受けたいか)、その理由や背景、それを実現するための障壁や放送局への要望を尋ねた。回収率は $82.3 \%$ (359 施設・団体)。こうした調查は過去に例がなく、先行研究も見当たらない。 なおこの調査は、対象の無作為抽出などを行っていないことを留意されたい。自由記述で回答してもらう設問を中心に、MLA の現場担当者の「声」の収集・分析することに主眼を置いた。そのため、「数量的な分析」は参考程度にご覧いただきたい。 ## 2. 2 利用ニーズ まず、放送アーカイブのニーズは、「利用し (48\%)」をあわせて $66 \%$ \%であった(図 1 )。施設別では、美術館が $81 \%$ と最も高く、博物館が $67 \%$ 、図書館が $47 \%$ $\%$ あっ。 7 割近い利用ニーズが確認されたが、一方の「利用したくない」と回答した MLA の自由記述を読み込むと、放送アーカイブの有用性は認めつつも、現実的に利用は困難だとする意見も多く、つまりは「利用したいけど、 できない」から「利用したくない」を選択したとわかるものも多く、ニーズは 8 割程度に及び得るという推測も成り立つ。 図 1.放送アーカイブを利用したいか ## 2. 3 利用したい理由 利用ニーズの理由としては、(1)映像の魅力 (2)施設のメリット (3)地域のメリットの 3 点の特徵が抽出された。以下、自由記述での MLA 担当者の「声」を読多解いてゆく。なお、「声」 は、極力回答の原文を尊重しつつ、文意をわかりやすくするため、筆者によって若干の訂正を加えていることをご了承いただきたい。 (1)映像のメリット - 分かりにくいものを分かりやすく紹介出来る。若者にも興味を持ってもらいやすい【史料館】 - 口伝や文章では伝えきれない部分を補ってくれる【美術館】 - 人々の内面が表情などから伝わる【図書館】 -(展示対象が故人の場合)生前にインタビユーした生の声が貴重【博物館】 直観に訴え、テキストで「学ぶ」より、映像で「感じる」ことへの影響力が示された。 また、特に古い番組などでの、亡くなった人物の肉声や表情、所作が、観る者に同じ一人の人間として身近さを覚えさせるなど、深い理解に導くことへの期待が示された。 (2)施設のメリット -(コロナ禍で)人を集めることが困難な中、放送アーカイブ利用できると事業の可能性が広がる【博物館】 - 展示物やガイドの説明も説得カが高まる【史料館】 - 来館者の理解および満足度の向上【博物館】 展示などのバリエーションが拡がることで、来館者の増加を期待する声は多数のぼった。視聴覚に訴えるコンテンツは MLA の存在感向上に役立つと思われる。 (3)地域のメリット - 語り手の減少への対応、伝統文化$\cdot$行事の消滅への防波堤になる【博物館】 - 地域に愛着や親しみを持てるような機会を作る【図書館】 - 世代、バックグラウンドの異なる人の交流のきっかけ【博物館】 - 観光客誘致につながる【博物館】 放送アーカイブの活用の効果として、伝統文化の継承、地域の人々同士の学びや交流といった地域内にもたらすことへの期待が示された。さらには映像を PR 素材として、地域外から観光客や移住者を呼び込み、地域活性化につながる期待感もあった。 ## 2. 4 放送アーカイブの社会貢献の可能性 ここまでの結果から、放送アーカイブの映像および音声の力、記録としての貴重性などが示され、MLA 等の施設の存在感を向上させ、 さらには地域社会の文化・経済発展にも貢献し得る可能性が示された。 なお、利用したい番組や利用方法についても尋ねたが、当初予想された「地域に関連する番組」の「上映会」をする、といったもの だけではなかった。利用したい番組は、全体の約 3 分の 1 が、地域やその施設のテーマと直接関連しない番組を希望した。利用方法も、自分たちで編集したい、配信や $\mathrm{AR}$ (拡張現実)動画の制作をしたいといった積極的な声が少なからず見られた。放送アーカイブを放送局から MLA に提供するとなれば、こうした多様なニーズにきめ細かく対応する必要があるだろう。 ## 3. 活用の実現を阻む障壁、課題 高いニーズの一方で、実際に放送アーカイブを放送局から MLA に提供できるか、となると課題は大きい。アンケートには放送局にとって厳しい声が多数寄せられた。 - どのような資料があるかわからない。申請に手間がかかりそう【史料館】 - メニュー表(タイトル、内容(出演者・あらすじ$\cdot$放送日・上映時間))を提供して頂きたい 【図書館】 -誰もがすばやくアクセスできるシステムを構築してほしい【美術館】 また、何よりの障壁・課題として示されたのは、使用料についてである。 - (以前の企画展で)過去番組を上映できないか検討したが、高額のため、あきらめた 【美術館】 - 使用料が高い。博物館で利用できる金額ではない【博物館】 - 営利目的ではない施設・団体の活動では、無料視聴できると良い【博物館】 NHKのアーカイブ素材の提供では、多くの場合、番組 1 本で数十万から数百万の使用料がかかる (図 2 )。権利処理にかかる費用が大きいが、同時に、CM や劇場用映画での使用などの「商業的利用」に対する提供という営利性の高い価格設定がなされていることも要因となっている。地域の MLA などでの公益性・非営利の高い利用は、あまり想定されて いないのが現状である。 そのため、利用したくとも現実にはできない、だから「利用したくない」という回答を選択させる結果を導いているようである。 また、回答の中には、人材・予算・機材・ ノウハウの不足のため、利用できないという地域の MLA の現状を嘆く声も少なくなかった。そうした背景のもと、以下のような声が注目された。 -(自館の扱うテーマと)どうマッチングできるのかを相談させていただきたい【博物館】 「どうマッチングできるか」は、地域貢献に取り組む放送局側が、どこまで地域に寄り添えるか、その本気度を問うものだろう。 図 2. 展示 (1ケ月)で 41 年以上前の映像 10 分を使用する場合の概算額 NHK エンタープライズ料金シミュレータより [1] ## 4. まとめ MLA での活用促進に向けて放送アーカイブを MLA 等に提供し、活用 を促進させるためには、権利処理の簡便化と 低額ないし無料の価格設定、そして、放送局側の窓口機能などの体制整備が求められる。 まず、権利処理の課題に関しては、現在、文化審議会著作権分科会 - 法制度小委員会で 審議中の「簡素で一元的な権利処理方策」が 実効性ある内容で法改正につながるよう期待したい。ただしこの方策によって、今回のような、放送局から MLA 等での公益性の高い利用に対してアーカイブ番組を提供する場合をも直ちにカバーされるわけではない。 利用の公共性・公益性に応じて、提供のための複製などは権利制限となるような新たな規定の検討も必要だろう。また、拡大集中許諾による利活用(提供)促進も期待され続けている。そうした新たな法制度や契約が実現すれば、使用料の低額化が期待できる。 放送局の体制整備は急務である。何より求められるのは、MLAのニーズとどうマッチングできるか、相談に応じ、協力する人材だ。 例えば、放送番組制作に長く従事した放送局職員などには、アーカイブにどのような番組があるか、といったことに関する知見を十分に備えた者も少なくない。こうした人材に、 MLAからのニーズを聞き、相談したうえで、利用(提供)につなげる、という任務を与え てもよいのではないか。いわば、放送アーカイブの「コンシェルジュ」である。 放送人と、地域のML A 担当者が密接に情報共有することで、その地域に必要な情報とは何か、いま何をすべきかが見えてくるだろう。その取り組みは、放送局にとっても、M LA、地域の人々にとっても有益であろう。玉石混交の情報が氾監する今、公共空間の再構築にもつながり得るものだ。 放送開始 100 年が間近に迫っている。放送局は、新しい情報(ニュースや番組)を発信するだけでなく、歴史・文化の資産の保有者としてそれを社会還元に努めることも、公共の福祉に資する重要な使命となっていることを再認識すべきである。 参考文献 [1] NHK エンタープライズ料金シミュレータ https://nhk-sozai.com/charge/simulator.html (参照 2022-09-26). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B6] 地域学習に活かす校内資料のデジタル化: デジタルコモンズによる DX 時代の地域学習環境づくり ○前川道博 1) 1)長野大学企業情報学部, 〒386-1298 長野県上田市下之郷 658-1 E-mail: maekawa@nagano.ac.jp ## Digital Archiving of School Materials for Area-Based Learning: Educational Environment Using Digital Commons Service MAEKAWA Michihiro ${ }^{1)}$ 1) Nagano University, 658-1 Shimonogo, Ueda, 386-1298 Japan ## 【発表概要】 全国の学校で GIGA スクールが実施されながら、学校で地域学習を計画しようとすると、地域を知る情報源がネット上には極めて少ないことが直ちに顕在化する。特に学校区の情報源は殆どの地域においても存在しないと言って過言ではない。さらには地域資料があっても、教員の経験不足等の理由によりその活用が図りにくい課題がある。 以上の課題を解決するため、これからの学校教育に求められる児童生徒の主体的で探求的な学びを包摂的に支援できる分散型デジタルコモンズサービス d-commons.net を用いた「dcommons メソッド」により、校内資料のデジタルアーカイブ構築に取り組んだ。校内資料のデジタル化は「やればできる」ことなのに、学校現場ではその課題の気づきや実践が行えない壁がある。その壁を取り除き、DX 時代にふさわしい地域学習の環境づくりが全国の学校で進んでいくことを期待したい。 ## 1. はじめに 全国の学校で GIGA スクールが実施されながら、学校で地域学習を計画しようとすると、地域を知る情報源がネット上には極めて少ないことが直ちに顕在化する。特に学校区の情報源は殆どの地域においても存在しないと言っても過言ではない。さらには地域資料があっても、教員の経験不足等の理由によりその活用が図りにくい課題がある。 その一方で、それぞれの学校には郷土資料などを保管展示する資料館や過去に発行された「創立 $\bigcirc$ 年史」といった学校や地域の記録を扱った刊行物等がある。それらが学校教育で利用される機会は殆どないのが大方の状況である。 本研究では、GIGA スクールの学習において、特に指導要領の改訂[1]で示された「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善に資する学習環境改善の試みとして地域学習に活かす校内資料のデジタル化に取り組んだ。この取り組みにおいては、DX(Digital Transformation)時代の学び環境となる「分散型デジタルコモンズ」のモデルおよびサービス[2]を適用して校内資料のデジタル化、地域学習の環境づくりを行った。 ## 2. GIGA スクールでの学習支援の課題 GIGA スクール環境の学校現場への導入は コロナ禍を背景にほぼ全国一斉になされたた め、どの学校現場においても少なからず戸惑 い、混乱が起きている。新指導要領において は「主体的で対話的で深い学び」が授業改善 の視点に据えられている。教員にとってそう した教育実践は経験がない場合がほとんどで ある。現実的に総合学習を担う教員がその理念を咀嚼し実践するには相当に大きな壁があ ると言わざるを得ない。 この課題に対してはその解決策として、私たちはかねてから次の方法を提案している。 分散型デジタルコモンズクラウドサービスを構築しその運用を図ること[3] キュレーション型学習を(1)の環境において 行うこと [4][5] キュレーション型学習とは探求の問いを立て、それをさまざまな資料を利用し、分析・考察・例証したことをアウトプット化する学習方法である。 以上の方法を開発したサービスにちなみ 「d-commonsメソッド」と呼ぶことにする[6]。校内資料化のデジタル化については、(1)と同じサービスの適用で構築が容易であり、かつ(2)の学習にシームレスに連結することができる。 d-commons メソッドを適用するとそこで直ちに顕在化した課題は、地元を知る情報源、特に学校区の限られた地域に関わる情報のほとんどがデジタル化されておらず、GIGA スクール環境下の教室においてタブレットから参照すらできないという学習環境の分厚い壁であった。 ## 3. 校内資料が活用されない課題 地元を知るデジタル化資料が極度に少ないい一方で、校内には地域を学ぶ上で欠かせない情報資源が眠っている。資料室、刊行物等である。多くの教員はそうした資料があることを知らなかったり、知ってはいてもどう利用できるかがわからない。学校の「創立 $\bigcirc$年史」などはその年度、学校や PTA などが力を入れて編纂したもので、学校史・地域史の情報の宝庫となっているケースはめずらしくない。それらは過去の刊行物であるため、校長室のロッカーや学校図書館の片隅に眠ったまま、多くの場合、忘れ去られているのが実情である。 この課題にはさらに資料活用を阻む壁がある。つまり教員の側に、学校区の地域について何も知らない、関心もない、という「慣習的・社会的な意識の壁」の存在である。 資料館の資料や地域の冊子等の資料は、児童生徒がそれから学ぶ以前に、まず教員が知らないことを知ることの面白さに気づいてもらうことが何よりも肝要である。「知らない」 ことは実は壁でなく、「知らない」から共に学びを楽しむことが原動力になる。校内資料こそまさに「灯台下暗し」のたとえのごとく、地域学習のこの上ない学習コンテンツとなる。 ## 4. 主体的な学習支援環境のデザイン 4. 1 校内資料の活用課題 本研究は、2021 年度、上田市からの委託による「信州上田学事業」において、上田市内の施設にある史資料を対象にデジタルアーカイブ化を試みた取り組みの一部である [7]。長野県上田市立塩尻小学校の「郷土資料館」、上田市立神川小学校の「山本鼎先生の部屋」の所蔵資料をデジタルアーカイブ化の対象とした。これらの資料は、展示物を見ただけでは、児童ばかりでなく、教員や一般の市民ですら理解が難しい対象である。 これらの 2 ケースは、校内資料のデジタル化により、GIGA スクールでの学習支援、主体的な学習の支援に活かすことをねらいとして取り組んだものである。 ## 4. 2 『塩尻小デジタル資料館』[8]の制作 塩尻小学校のある塩尻地区は近世から近代にかけて日本を代表する虫種製造業地だった地域である。全国で広く営まれていた養虫業ではなく、養虫の原料となる虫種(虫の卵) を製造し全国に販売し、一時期は欧州にも輸出するなど我が国の虫糸業の発展に大きく貢献した。蚕種製造業は近代において隆盛し、䖪種製造業が終焉した現在もなお塩尻地区には数多くの虫種製造民家が数多く存在している。また、蚕種製造や養虫に使われた道具類が塩尻小学校郷土資料館に多数保存 - 展示されている。郷土資料館は 1964 年資料室として開設後、1997 年新築の資料館に移行した。 その一方、虫種業、養虫業を経験した世代は少なくなり、解説できる人材も減少した。展示のみでは知識の授受が行えない。以上の課題を踏まえ、郷土資料館のデジタル化では以下の改善を試みた。 (1)資料館収蔵の文物を一つ一つ撮影しデジタル画像としてデジタルアーカイブサイト『塩尻小デジタル資料館』に公開した(図 1 )。 図 1.塩尻小デジタル資料館 (2)蚕種製造・養虫などをよく知る地元の方々に口頭で道具の解説をしてもらい(図2)、それを解説動画として揭載した。 図 2 地元の方々によるビデオ解説収録 漢字等にはすべてルビをふった。現在は 200 点余りの記事を『塩尻小デジタル資料館』に公開している。 ## 4. 3 『山本鼎の部屋アーカイブ』[9]の制作 神川小学校がある上田市神川地区は、ほぼ 100 年前、児童自由画、農民美術運動を興した画家・山本鼎(やまもとかなえ 1882-1946) がその活動拠点とした地域である。その他、同地区は当時の神川村の青年だった山越脩蔵、金井正が主催した上田自由大学(当初は信濃自由大学)とゆかりが深い。神川小学校が創立 90 周年を迎えた 1987 年、校内に「山本鼎先生の部屋」が開設された。同館には山本鼎の作品、関係資料の他、昭和初期の児童画数百点が保存されている。「山本鼎先生の部屋」は校内の 1 室を使って開設されてはいるものの、ほぼ開かずの間と化している。資料・作品はショーケースに陳列されているのみで、資料を手に取ってみることはできない。総じて経年の変化と共に旧態化した印象は否めない。寒暖の影響を受けやすいのも展示室形式の欠点である。夏は暑く、冬は寒い。じっくりと鑑賞する状況ではない。児童の学習に使われる機会も限られている。 現在は 740 点余りの資料・収蔵品を『山本鼎の部屋アーカイブ』に公開している(図 3)。 図 3 山本鼎の部屋アーカイブ ## 5. 校内資料のデジタル化の効果 以上、塩尻小学校、神川小学校の資料のデジタル化の実践ケースを紹介した。いずれも 「やればできる」というものである。しかし現実には、学校現場において校内資料をデジタル化して公開することにより、児童生徒の地域学習で参照できる地元の情報源となることに気づけないのが実情である。デジタル化は何よりも、一番の学習者である児童生徒に校内資料を教室からタブレットで手軽に参照できるようになることが最大のメリットである。地元を知らず、地域学習をためらっていた教員にとっても、デジタルアーカイブサイトで校内資料を閲覧できる。 資料を見て問いを立て、地域学習を探求的に深めていく学びに校内資料は有用である。児童生徒が何に関心を持ち、また探求したいと思うかは、誘導的な問いかけでなく、さま ざまな情報源から児童生徒が発見して気づいていくことが大切である。地域を教えるのではなく、校内資料を含むさまざまな情報源から対話的に掴み取ることが肝要である。校内資料から問いを立てる例を図4 に示す。 図4 校内資料から探求の問いを立てる ## 6. おわりに 本研究で紹介した特定 2 校のケースは全国どの学校においても適用が可能である。「どの学校にでもできる DX 実践」となるよう各学校において校内資料のデジタル化が取り組まれることを期待したい。 さらには、校内資料を情報源の一つとして児童生徒の主体的な学習を実現するために 「d-commons メソッド」の適用を提案したい。 ## 参考文献 [1] 文部科学省 $/$ 学習指導要領 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/newcs/1383986.htm (参照 2022-09-26) [2] 前川道博. 地域デジタルコモンズの概念とその構築. 日本教育情報学会年回論文集 33 . 2017. [3] 前川道博. 分散型デジタルコモンズの汎用モデル開発:下諏訪町地域アーカイブの構築を通して。デジタルアーカイブ学会誌 2020,Vol.4, No. 4 [4] 前川道博. 市民参加型キュレーションによる地域資料のデジタルアーカイブ化. 日本教育情報学会第 15 回デジタルアーカイブ研究会 2021. [5] 前川道博. キュレーションモデルによる地域資料のデジタルアーカイブ化. デジタルア一カイブ学会第 6 回研究大会. 2021. [6] 地域デジタルコモンズクラウドサービス d-commons.net https://d-commons.net/ (参照 2022-09-26) [7] 長野大学/信州上田学 https://www.nagano.ac.jp/education_researc h/uedagaku/ (参照 2022-09-26) [8] 塩尻小デジタル資料館 https://d-commons.net/shiojiri/ (参照 202209-26) [9] 山本鼎の部屋アーカイブ https://d-commons.net/ykanae/(参照 202209-26) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B5]舞台芸術分野におけるアーキビスト人材育成のた めの課題と展望:演劇博物館ドーナツ・プロジェクトの事例から 中西智範 1 ), 田村優依 1) 1)早稲田大学坪内博士記念演劇博物館, $\overline{169-8050$ 東京都新宿区西早稲田 1-6-1 E-mail:t.nakanishi5@kurenai.waseda.jp ## Consideration on Human Resource Development of Theatre Archivist: A Case Study of the Donuts Project NAKANISHI Tomonori1), TAMURA Yui ${ }^{1)}$ 1)The Tsubouchi Memorial Theatre Museum, Waseda University, 1-6-1 Nishi-Waseda, Shinjuku-ku, Tokyo, 169-8050 Japan ## 【発表概要】 演劇博物館が実施する事業、通称「ドーナツ・プロジェクト」の活動や国内外における舞台芸術分野のアーカイブの実情について紹介しながら、国内における舞台芸術分野を担うアーキビス卜人材育成についての課題や展望を考察する。国内における舞台芸術分野のアーカイブ/デジタルアーカイブの活動は、個別の機関やプロジェクト事業などにおいて特徵的な取り組みがあるものの、コミュニティやネットワークを利用した活動は限定的である。本発表ではこの点に注目しつつ、舞台芸術分野のアーキビストに求められる役割やその定義についても言及する。 ## 1. はじめに 演劇や舞踊、伝統芸能などの舞台芸術は、演技・演奏などの実演表現に加え、照明や音響、舞台美術など様々な要素で構成される総合芸術である。ステージ上で表現されるパフオーマンスそのものを保存することは困難であり、舞台芸術のアーカイブにおいては戯曲やポスター、フライヤー、チケット、衣装、舞台装置図、舞台写真、劇評、記録映像など、可能な限り多くの資料や情報を保存対象としながら、それらを文化資源として複合的に捉える必要がある。このように、舞台の創作表現は数多くの著作物で構成されるため、保存と利活用の場面においてアーカイブの活動をより困難にする。本発表では、演劇博物館が実施する、舞台芸術分野のアーキビスト人材育成事業の取組みを紹介するとともに、舞台芸術のアーカイブに着目したアーキビストの役割について分析し、その人材育成に向けた課題や展望について考察する。 ## 2. 舞台芸術分野におけるアーカイブ 2. 1 コロナ禍とデジタルアーカイブ 2020 年初頭から現在にいたるまで、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)によって舞台芸術界にもたらされた影響は計り知れない。中止や延期を余儀なくされた公演は、2020 年を対象に当館が行った調査だけでも、その数は 960 超にものぼる[1]。この未曾有の事態により、社会では「不要不急」という言葉が広がる中、舞台芸術においては人と人の接触を避けるために、インターネット等を利用した公演の開催など、制限下での試みも行われた。公演映像の配信はコロナ禍により、その取り組みが進展した側面を持つ。以下、国内外の事例を紹介する。 英国国立劇場は、サブスクリプション型の映像配信サービス National Theatre at Home を提供している。2020 年には同サービスのコンテンツから 16 作品が YouTube を介して無料で視聴できる試みを 3 ケ月間行い、期間中には世界 173 力国で 1,500 万回以上視聴されたと報告されている $[2]$ 。フランス文化省は 2020 年 3 月 18 日、おうちで文化 (\#culturecheznous)を公開した[3]。オぺラ座やコメディー・フランセーズ、パレ・ド・ト一キョーなどフランス全土から提供された映像コンテンツが配信されており、現在でもコンテンツの拡充が継続して行われている。 日本国内でも映像配信の試みが国立劇場や新国立劇場などで行われたが、デジタルアー カイブの視点から特に注目すべき事例は寺田倉庫株式会社と緊急事態舞台芸術ネットワー ク[4]が共同で活動を行う緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(通称 EPA $\mathrm{D}$ 事業)である。文化庁の文化芸術に関する各種支援事業を活用し実施された 2020 年度文化芸術収益力強化事業では、およそ 1,300 点の公演映像のアーカイブ化とともに、約 300 作品について映像配信化のための権利処理サポ ートを行った[5]。翌 2021 年度には、独立行政法人国際交流基金との共催によるプロジェクトSTAGE BEYOND BORDERS が実施され、新規収録作品を含むアーカイブ化 50 作品が多言語字幕付きでYouTube にて無料配信[6] され、これまでに 725 万回以上再生されている(筆者による 2022 年 9 月 20 時点の集計)。 ## 2. 2 諸外国におけるアーキビストによる劇場アーカイブ支援活動 2009 年に設立されたアメリカン・シアタ一・アーカイブ・プロジェクト(American Theatre Archive Project)は、アメリカ演劇学会(American Society for Theatre Research) がイニシアチブをとり、米国の演劇遺産の保存を奨励するための活動を行う、アーキビストで構成されたプロジェクトである[7]。資料のアーカイブ方法についての質問窓口の設置やコンサルティングなど、活動中の劇団やカンパニーが現在の記録とアーカイブの記録を管理するための各種リソースを提供しており、劇団やカンパニーが図書館などの公的な機関に記録を移管することよりも劇団やカンパニ一内に独自のアーカイブを設立するための活動支援を行うことを声明に掲げている点が特徴である。2021 年 12 月には、アーカイブを作成し維持するための基礎的な情報が掲載されたマニュアルとして PRESERVING THEATRICAL LEGACY (Version 1.5)[8]が公開された。マニュアルには、アーカイブの目的や利点などアーカイブ活動を開始するにあたっての前提事項から、資料の評価や調査、鑑定、保管や保存、整理・記述方法、資料や情報へのアクセス方法などについての情報が含まれる。 イギリスおよびアイルランドでは、舞台芸術に関わる専門家や個人などで構成される専門家ネットワークとして、1979 年に設立されたパフォーミングアーツ・コレクション協会 (Association of Performing Arts Collections) [9]が活動している。舞台芸術遺産コミュニテイの発展や一般市民による幅広い参加を提唱し、UK Theatre Collections[10] として約 350 機関・900 件以上のコレクション情報をまとめたリストを公開するなど、アーカイブの専門知識やベストプラクティスの情報交換や普及のためのフォーラムを提供する活動を行っている。 ## 3. ドーナツ・プロジェクト 3. 1 経緯 ドーナツ・プロジェクト[11]は、令和 4 年度文化庁大学における文化芸術推進事業「舞台公演記録のアーカイブ化のためのモデル形成事業」として、演劇博物館が実施する事業である。本事業は、アーカイブの意義と可能性、公演映像など諸資料のデジタルデータの適切な保存・管理の方法や著作権や契約関係の処理などを学ぶための連続講座の実施を通じ、舞台芸術のデジタルアーカイブの構築と活用を担うアートマネジメント人材の育成を目的としている。講座の受講対象者は、舞台芸術のアーカイブの入門編として、現役のカンパニーや劇場スタッフ、これから舞台芸術のマネジメントを志す学生、舞台芸術のアーカイブ構築に関心がある者など幅広く設定した。 ## 3. 2 実施内容 連続講座は 2022 年 8 月・ 9 月の 4 日間、全 12 回で実施した。うち 10 回を理論編・技術編に分けた座学中心の講座、2 回を受講者参加型のワークショップとした。対面受講者は 22 名、記録映像の視聴による受講者は 93 名 (2022 年 9 月 12 日現在)となった。対面受講者は舞台芸術の制作関係者、図書館、博物館等の実務者、舞台芸術アーカイブに興味を持つ 学生など多岐にわたることが想定されたため、全 12 回の連続講座を通じ舞台芸術のアーカイブの概観を見渡せるような講座を設計した。 理論編はアーカイブについての基礎知識を始めとし、上述の 2020 年度文化芸術収益力強化事業において演劇博物館が開設した Japan Digital Theatre Archives[12]の事例紹介や、「アーカイブする =記憶する」という視点から、演劇にとって記憶とは何かについての講座を実施した。技術編はVHS 等のアナログ映像記録媒体のデジタル化やデジタルデータの保存、公演情報の記録、著作権や契約処理、利活用をテーマとした。計 10 回の講座終了後、受講者には「どんな舞台芸術アーカイブがつくりたいか・あったらいいか」や「舞台芸術アーカイブを利活用してやってみたいこと」 についてのアイデアや実践方法などを考える課題をあたえた。 ワークショップでは、受講者それぞれが事前課題についてのプレゼンテーションを行った後、講師を交えアーカイブにおける保存や利活用などの視点を加えながら、課題や問題点についてディスカッションを行った。 図 1.ドーナツ・プロジェクトの枠組み ## 4. 舞台芸術分野におけるアーキビストの役割 日本国内では大学等の研究機関や公的な劇場施設を中心にアーカイブ機能を備え、デジタルライブラリーなどのサービスが提供されている。またこれに加え、商業劇場や実演家・劇作家など各職能を束ねる団体等においても、舞台芸術に関わる文化資源を保有している。国内では諸外国の事例のように、文化資源を有機的に結びっけ活用可能とする支援の仕組みや、コミュニティーや人的ネットワ ークを用いた問題解決の視点が希薄であることが指摘できるものの、コロナ禍を機に動きを見せる活動に対して、これからの発展が期待できる。 パフォーマンスそのものを保存することが困難な舞台芸術において、何を記録しアーカイブするかは制作者や舞台関係者、アーカイブ機関などそれぞれの判断に委ねられる。ア一カイブの機能として保存と利活用の 2 つに焦点を当てた場合、「何を保存し・どのような利活用ができるか」といった舞台芸術アーカイブの価値そのものを、具体的なイメージをもとにあらゆる関係者で共有することが重要となり、それを主導する役割としてアーキビストの活躍が期待できる。さらには、国立公文書館「アーキビストの職務基準書」[13] に紹介される各種知識・技能について、アーカイブに関わる諸活動を行うさまざまな実務者が理解し、それぞれの活動や専門分野に応じた分担型のアーキビストの役割が求められる。 ## 5. おわりに $ \text { ドーナツ・プロジェクトのワークショップ } $ において、「国内における舞台芸術分野のア一キビストが現状不在である」点について議論がなされた。上述したように、アーキビストに求められる役割は保存や利活用のためのキュレーション、アーカイブの価值そのものの共有を主導することなど、多岐にわたる。そのため、舞台芸術業界においてアーキビストの多様な役割を誰が担うのかとともに、アー キビストの定義が不明確であるという問題が浮かび上がった。保存対象が曖昧である舞台 芸術のアーカイブにおいては、特定の個人が単独でアーキビストの役割を担うのではなく、保存、公開、利活用、教育などの役割をアー カイブの実務者、制作者、利用者それぞれが分担し、一つ一つの活動を相互作用的に循環させていくことが重要である。このようなモデル形成を目指すことで、業界全体でアーカイブの価値を共有し舞台芸術文化自体の価値を高めていくことへ繋がる。ただしアーカイブの価値について個人が具体的イメージを持つことは非常に難しい。だからこそ、アーカイブの価値を主導する役割としてのアーキビストの存在が求められており、個々の制作団体やアーカイブ機関、利用者など、立場を超えた舞台芸術アーカイブのコミュニティやネットワークが必要である。 (執筆分担は中西が $1 \cdot 2 \cdot 4$ 、田村が $3 \cdot 5$ ) ## 参考文献 [1] 後藤隆基, 早稲田大学演劇博物館監修. ロスト・イン・パンデミック失われた演劇と新たな表現の地平. 2021, 275-312p. [2] National Theatre Blog, The road to $\mathrm{N}$ ational Theatre at Home. https://www.nationaltheatre.org.uk/nt-at-ho me-2020 (参照 2022-09-20). [3] Ministère de la Culture, France. プレスリリース. 2020/04/24. https://www.culture.gouv.fr/en/Presse/Comm uniques-de-presse/culturecheznous-Creation -du-nouveau-site-internet-d-offres-culturelle s (参照 2022-09-20). [4] 緊急事態舞台芸術ネットワーク. https://jpasn.net/(参照 2022-09-20). [5] EPAD 実行委員会. 舞台芸術の映像配信とデジタルアーカイブのこれからーEPAD 事業報告書一. 2021. https://epad.terrada.co.jp/wp-content/upload s/epad2020.pdf (参照 2022-09-20). [6] EPAD 実行委員会. デジタルアーカイブ産学フォーラム(第 5 回) EPAD の活動と日本の舞台芸術公演映像にまつわる課題. $2022,5 p$. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/foru $\mathrm{m} / 2021$ /siryou2.pdf (参照 2022-09-20). [7] The American Theatre Archive Project. https://www.americantheatrearchiveproject. org/ (参照 2022-09-20). [8] PRESERVING THEATRICAL LEGAC Y: AN ARCHIVING MANUAL FOR THE ATRE COMPANIES. https://www.americantheatrearchiveproject. org/resources/preserving-theatrical-legacy-a $\mathrm{n}$-archiving-manual-for-theatre-companies/ (参照 2022-09-20). [9] The Association of Performing Arts C ollections. https://performingartscollections.org.uk/ (参照 2022-09-20). [10] List of UK Theatre Collections (UKT C) who contributed to the UKTC databas e. 2015 . https://performingartscollections.org.uk/wpcontent/uploads/2021/04/List-of-UK-Theatre -Collections.pdf (参照 2022-09-20). [11] 早稲田大学演劇博物館ドーナツ・プロジエクト HP. 2022-05-31. https://w3.waseda.jp/prj-archivemodel/ (参照 2022-09-20). [12] Japan Digital Theatre Archives. https://www.enpaku-jdta.jp/ (参照 2022-0920). [13]独立行政法人国立公文書館. アーキビストの職務基準書. 2018 年. https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ syokumukijunsyo.pdf (参照 2022-09-20). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B4] デジタルアーカイブの理論構築に向けたレイヤー モデルの提案 ○永崎研宣 1 1) 1)一般財団法人人文情報学研究所,〒113-0033 東京都文京区本郷 5-26-4-11F E-mail:nagasaki@dhii.jp ## A Layer Model of Digital Archiving NAGASAKI Kiyonori ${ }^{11}$ 1) International Institute for Digital Humanities, 5-26-4, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033 Japan ## 【発表概要】 デジタルアーカイブ(以下、DA)の議論の場においては、議論の前提を共有することの困難さがある。この解決のためにはインターネットの 4 階層モデルにヒントをモデルとするデジタルアーカイブのレイヤーモデルを確立することが有効である。このモデルはデジタルコンテンツ/ アノテーション/インターフェイス/コミュニケーションの4階層と法・規範・技術標準等を含む要素からなる。DA の構築運用にかかわる様々な営為は前者の 4 階層に分類される一方、後者の要素は 4 階層のすべてに関わり、全体を規定しつつ各階層から影響を受けるというインタラクションのなかで新たな知識基盤を形成していく。このモデルを踏まえることで、議論の前提の共有が容易になるだけでなく、DAの様々な課題への対処やこれに関わる組織や個人の連携・協力も促進されることが期待される。 ## 1. はじめに デジタルアーカイブ(以下、DA)の議論の 場においては、議論の前提を共有することの困難さがある。このことはより幅広い議論や相互の意識の刺激と拡張のためには好ましいことだが、具体的発展的な議論や合意形成に達することが難しいという状況があり、理論構築に際しての議論に至ることも容易ではなかった。そこで、筆者はそれを解消するための提案を行った[1]。本稿ではその問題意識を継承しつつ、レイヤーモデルという観点を導入することで、より効果的な解決を提案する。 ## 2. レイヤーモデルとは ## 2. 1 インターネットのレイヤーモデル インターネット技術の位置づけにおいて、 レイヤーモデルという考え方がある。次頁の図 1 はインターネットにおける TCP/IP の 4 階層モデルとして紹介されるものの典型例であり、2022 年度から必修化される高等学校情報科「情報 I 」のための文部科学省が配布する教員研修用教材からの抜粋である。すなわち、この年の高校一年生の世代を社会が受け入れる時、高等学校卒業以上であればこの知識は既習のものという前提でインターネット技術の議論が可能となるということでもあり、 デジタルアーカイブ関係者としてはその点についても留意しておきたい。 $\mathrm{TCP} / \mathrm{IP}$ の 4 階層モデルと呼ばれているインターネットのレイヤーモデルには、(1)イー サネットや無線 LAN 等のハードウェアが通信を成立させる層としてのネットワークインタ一フェイス層、(2) 複数のネットワーク間でデータ伝送を実現するための層としてのインターネット層(ここにはインターネット・プロトコル(IP)が当てはまる)、(3)信頼性のあるデータ通信を実現するための通信制御やプログラム間の通信を行うトランスポート層 (ここには TCP やUDPがあてはまる)、そして、(4) Webやメールなどのアプリケーション同士でやりとりを行うアプリケーション層がある。ットを利用する様々なサービスの場合にも、Web と同様に、このアプリケーション層において通信を行い、その際に、トランスポート層にデータを委ねることになる。これをトランスポート層の側からみると、アプリケーション層にどの通信手段が来ようとも、同様にデータの受け渡しを行うことになるのである。そして、このレイヤーモデルにおいては、上の階層と下の階層がそれぞれに独立 ## (2)有線 LAN と無線 LAN の違い TCP/IP の 4 階層モデルについて説明する。インターネットの通信において,通信する際の規定を定めたものを通信プロトコル(略してプロトコルということもある)という。このプロトコルがあることで,相互に通信を行うことが可能になっている。 TCP,IPv4,IPv6,DHCP,HTTP,SMTP,POP など様々なプロトコルがインターネットの通信で用いられるが,これらは,4層のレイヤに分けて考えることができる。インターネットでアプリケーション同士が通信する際は,上位のアプリケーション層から下位の層に移動することで,通信手順が付加され,ネットワークインタフェース層で物理的な通信を行っていく。 ## アプリケーション層 トランスポート層 インターネット層 ネットワークインタフェース層 図表 44 層のレイヤ 図 1. 高等学校情報科「情報 I 」教員研修用教材 しつつ相互に連携することで一つの通信を成立させている。インターネット上で公開されている DA は、この 4 階層モデルに必ず依拠しており、DA 利用者がこれを利用する場合には、直接にはアプリケーション層を利用し、 それを通じてさらに下位のレイヤーを利用しているということになる。 ## 2. 2 DA のレイヤーモデル DA が利用される局面を検討すると、インターネットの 4 階層モデルの上に、さらにいくつかのレイヤーが重なることになると考元ることができる。これを、DAの 4 階層+バックグラウンドとしての DA-Code としてまとめたのが図 2 である。ここにはインターネットの 4 階層モデルにおけるパケットのような明確なオブジェクトは存在しないが、デジタルコンテンツ(以下、DC)がそれに似た役割を果たしている。DC が各レイヤーを経由する際に付加される要素とそれに対応する営為を整理したものである。以下、この DA の個々のレイヤーについて検討してみよう。 ## 2.2.1 デジタルコンテンツ・レイヤー DAにおいて基礎となるのは DC である。これには、物理的な資料としての書籍をはじめとする様々な物品をデジタル化したものと、最初からデジタルデータとして作成されたものとがある。前者に関しては、デジタル化の手法や粒度に応じて様々な種類のコンテンツがあり得る。古典籍や古文書であれば平面のデジタル撮影画像の場合もあれば、文字起こ しをしたテキストデータの場合もある。時間軸を持つオブジェクトなら音声や動画、立体物なら 3D $\mathrm{CT}$ スキャンもある。DA 登場の文脈に鑑みるならデジタル撮影画像が中心になりそうではあるが、アナログな資料を符号化し離散的な情報として保持したデータという点ではデジタル撮影画像と他との差異を見いだすことは難しく、DA の対象としては同列に扱うべきだろう。なお、DC に付与される基本的なメタデータまではこのレイヤーに含まれる。 ## 2.2.2 アノテーション・レイヤー DC に対して様々な付帯情報を付与するの 図 2.DA のレイヤーモデル がアノテーション(注釈)のレイヤーである。 かつては、デジタル化に多大なコストを要し、一部の優品のみが DA の収録対象となっていたこともあったが、デジタル技術のコモディティ化が進展した現在、DA においては、ごく一部を除き、DC そのものが価値を持つことは必ずしも多くない。むしろ、そこにあるコンテンツがどういうものであるかが説明されることで価値を持つことになる。コンテンツ単独で価値の高いものの場合には、ただそのコンテンツについての説明が用意されれば十分だが、多くの DA では、むしろコンテンツ群がなんらかのまとまりを持っている場合や、コンテンツに含まれる何らかの共通の要素で横断的に集約されることによって価値を持つことがある。特定の人物や地域に関連するもの、同じような形や色彩を持つもの、似たような語彙を含むものなど、様々な観点があり得る。そのようにしてコンテンツのまとまりや共通要素を見いだせるような説明が付けられることがコンテンツの有用性を引き出すために極めて重要なものとなる。 ## 2.2.3 インターフェイス・レイヤー DA に対して利用者がアクセスするためにはインターフェイスが必要である。アノテーションを介して DC にアクセスしたり、そういったものがない場合には DC に直接アクセスして自ら解釈することになる。そして、DC とアノテーションで構成されるデータを利用者の個々の操作とつなげる役割を果たす。そのつながり方には様々なものがある。たとえば以下のようなものが考えられる。(1)表示・閲覧 (2)検索 (3)分析・視覚化 (4)文脈化・キュレーション。ここでもまた DC に様々な価値が付与されるが、DA-L2 と異なり、DA-L3 は集約的であり、得られる効果に比して必要な労力は大きくない。また、DC の内容の影響が少ないことから、言語等の障壁も少なく、国際的な連携も行いやすい。 ## 2.2.4 コミュニケーション・レイヤー コミュニケーションのレイヤーは、DA のあらゆる側面を関係者や利用者、そして広く社会に対して伝える(これはアウトリーチと呼ばれる活動を含む)とともに、そこからのフィードバックを受け、場合によってはそれに基づいて改善をも行う活動全般を指す。 ## 2.3 DA-Code/法・規範・技術標準等 法律や規範、技術標準等は、 4 つのレイヤ一のそれぞれにおいて、それらの在り方を規定する形で深く関わってくる。敢えて述べるまでもないかもしれないが、コンテンツ (DA-L1)、アノテーション(DA-L2)、インターフェイス(DA-L3)、コミュニケーション (DA-L4)のいずれにおいても法律としての著作権や規範としての利用条件はそれぞれに作成から公開・頒布に至るあらゆる局面でその活動を規定する。そして、その規定と同時に各階層の現場から影響を受けるというインタラクションのなかで新たな知識基盤を形成していく。 ## 3. おわりに 筆者が昨年挙げた議論を整理するための各項目[1]は基本的にこのレイヤーモデルと直交するものであり、それぞれのレイヤーにあわせて論点として整理することで、より効果的な議論が可能となる。それだけでなく、DA に関わる営為自体についても、このレイヤー モデルを通じて整理することで DA に関わる個人や組織の間での分業・協業の効率化が可能となることが期待される。 ## 参考文献 [1] 永崎研宣, [52] デジタルアーカイブの内実はどう表現されるべきか?:DA に関する議論の基盤構築に向けて, デジタルアーカイブ学会誌, 2021,5 巻, s1 号, p. s86-s89, 公開日 $2021 / 04 / 20$. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B3] 「ジャパンサーチ・アクションプラン 20212025」が目指すもの: ## 〜策定プロセスから見えたデジタルアーカイブの現場の思い ○奥村牧人 1 ),徳原直子 1 ),高橋良平 1) 1)国立国会図書館,〒100-8924 東京都千代田区永田町 1-10-1 E-mail: ml-renkei@ndl.go.jp ## The goal of Japan Search Action Plan 2021-2025: Feedback from partner institutions in the development process of the Action Plan OKUMURA Makito ${ }^{1)}$, TOKUHARA Naoko ${ }^{1)}$, TAKAHASHI Ryouhei ${ }^{1)}$ 1) National Diet Library, 1-10-1 Nagata-cho, Chiyoda-ku, Tokyo, 100-8924 Japan ## 【発表概要】 2021 年 9 月、デジタルアーカイブジャパン推進委員会・実務者検討委員会(事務局:内閣府知的財産戦略推進事務局)は、今後のジャパンサーチの活動の方向性を示した「ジャパンサーチ戦略方針 2021-2025」を策定し、翌年 4 月には、その目標の実現に向けて「ジャパンサーチ・アクションプラン 2021-2025」を策定した。 国立国会図書館は、実務者検討委員会の企画運営に協力しており、ジャパンサーチのシステム開発・運用等の実務を担当する立場から、戦略方針やアクションプランの素案の作成を分担した。素案の作成に当たり、国立国会図書館は、ジャパンサーチの連携機関と 2 回にわたる意見交換会を開催した。そこでは、共創的な議論が行われ、多様な意見の集約を図ることができた。 本発表では、意見交換の場で出た連携機関の主な意見を紹介し、デジタルアーカイブに取り組む現場の人々の要望を踏まえ策定されたアクションプランが何を目指しているのかを解説する。 ## 1. はじめに 2020 年 8 月 25 日に国の分野横断統型統合ポータルとして正式公開されたジャパンサー チは、いまや我が国のデジタルトランスフォ ーメーション(DX)を推進し、デジタルコンテンツの新しい利活用環境を提供するプラットフォームと位置づけられている。様々な分野のアーカイブ機関が保有するデジタルコンテンツをより効果的・効率的に活用できるよう、デジタルアーカイブをつなぐだけでなく、 コンテンツ提供者と活用者など人をつなぐ役割も担っている。 2020 年 10 月、ジャパンサーチがその役割を適切にかつ長期にわたって果たせるよう、 その課題を検討する会議体として、実務者検討委員会の下にジャパンサーチ WG が設置された。WG で議論を重ねる中で、中期的な目標を定める戦略方針やアクションプランの必要性が提起され、正式版公開から 1 周年を迎えたのを機に、2021 年 9 月に「ジャパンサー チの戦略方針 $2021-2025 」$ (以下「戦略方針」) が策定された。さらに、翌年 4 月に戦略方針に掲げた目標の実現に向けて、具体的な行動 (アクション)を示した「ジャパンサーチ・ アクションプラン 2021-2025」(以下「アクシヨンプラン」)が策定された[1]。国立国会図書館はこれらの方針・計画の素案作成を分担しており、本発表では、その作成過程を振り返りながら、ジャパンサーチが目指す活動の方向性について概説したい。 ## 2. ジャパンサーチ戦略方針 2021-2025戦略方針は、2021 2025 年の 5 年間を対象 に取り組む内容を端的に示すキャッチフレー ズとして「デジタルアーカイブを日常にする」 を掲げている。また、ジャパンサーチのミッ ションを示すとともに、デジタルアーカイブ の大切な役割として「3つの価値」に言及す ることで、デジタルアーカイブに取り組む意義について説明している(図 1 参照)。これら を実現するために行うべきこととして「4つ のアクション:ジャパンサーチを使った活動 の柱」を提示している。 戦略方針の素案作成に当たっては、 Europeana やDPLA などのストラテジー等を参考に全体構成及び盛り込むべき内容の検討 を行い、アーカイブ機関の実務関係者や有識者を含む実務者検討委員会構成員からの意見を集約する形で素案はまとめられた。当館が提示した素案は、さらに同委員会で議論が重衩られた上策定に至った。 ## 3. 連携機関との意見交換会 ジャパンサーチ戦略方針に掲 げた内容の実現に向けて具体的 なアクションを検討し、アクシ ヨンプランの素案を作成するた め、当館は、ジャパンサーチの連携機関に呼 びかけ、2 回にわたってオンライン意見交換会を開催した。1回目は、戦略方針が目指す 方向性の共有とアクションプランに盛り込む 要素の把握を目的として、2 回目は、1 回目で 寄せられた意見等を踏まえて当館が作成した アクションプラン素案に対する意見交換を行 うために開催した。ここでは、1 回目を中心 に紹介する。 ## 3.1 進め方・使用ツール 意見交換会では、最初に当館から戦略方針を説明した後、ブレイクアウトセッションに切り替え、 5 名程度のグループに分かれて、自由な雾囲気で議論が行われた(議論のテー マは、3.2 の各見出しを参照)。 オンラインホワイトボードを使用し、付箋で意見を出したり、複数の意見を整理したり、会議で出た意見をその場で発展させた。オンラインホワイトボードは、参加者が視覚的に議論の論点や分布を理解する助けとなった。 ## 3.2 主な意見 意見交換会で出された主な意見は次のとおりであった。 (1)「デジタルアーカイブが日常に溶け込んだ世界」とはどのような世界だと思うか ・多くの人が「デジタルアーカイブ」という言葉を知らずにデジタルアーカイブを使っている。 ・ビジネス(営利)目的のデジタルアーカイブが仕組みとして機能し、人々の暮らしの中に入り込んでいる。 ## ジャパンサーチ戦略方針2021-2025 ## 「デジタルアーカイブを日常にする」 新しい情報技術とアーカイブ連携を通じて、日本の文化的・学術的コンテンツの発見可能性をあめ、それらを活用しやすい基盤を提供することで、デジタルアーカイブが日常に溶け込んだ 3つの価値 アーカイプの大切な役割 新たな社会 ネットワーク 図 1.ジャパンサーチ戦略方針 2021-2025 概要 ・デジタルアーカイブが情報・コミュニケー ションのインフラとなっている。 ・作品についての情報が常に作品に付帯するのが当たり前の世界となっている。 (2)「デジタルアーカイブが日常に溶け込んだ世界」の実現のために、自分たちはどんなことができるか ・日常のものが入っていることが大事。地域資料や身近なもの・ことをデジタルアーカイブに含めることが日常化の第一歩。 ・オープンな利用条件で公開していくこと。 -一般人の興味関心を引くために、現代のデ 一タを意識的に取り扱うことが重要。 ・デジタルコンテンツの量と質を向上させる。 ・社会におけるデジタルアーカイブの認知度を向上させる。 ## 4. ジャパンサーチ・アクションプラン 2021-2025 ## 4. 1 構成 当館が作成したアクションプラン素案に対し、実務者検討委員会での議論及び 2 回目のアーカイブ機関との意見交換会で出た意見を踏まえた修正が加えられ、2022 年 4 月にアクションプランが策定された。アクションプランは、戦略方針の 4 つのアクション「支える」「伝える」「拡げる」「挑む」に掲げた計 16 の目標の行動計画である。実施主体は、ジャパンサーチ運営者(実務者検討委員会)だけでなく、ジャパンサーチにデータを提供している連携機関(つなぎ役・アーカイブ機関)、更 にはジャパンサーチを活用しているユーザ及びコミュニティ(活用者)、また活用者を支え活用を推進する「拡げ役」も含まれる。 ## 42 主な活動(アクション) アクションプランの内容をデジタルアーカイブの「構築」「連携」「活用促進」という段階(フェーズ)に沿って整理されたのが図 2 である。図 2 は、連携機関、ジャパンサーチ (運営者)、活用者が各フェーズでどのようなアクションを取るべきか具体例が列挙されている。図 3 は、デジタルアーカイブの「活用」 という観点から、各アクターが取り組む活動が整理されている。活用の第一歩は、まず 「知ってもらう」ことから始まり、次に「日常業務で使ってもらう」さらに「コミュニテイで使ってもらう」、「コミュニティを超えた交流」といったように、活用の場面と活用の範囲を広げていく具体的イメージを持てるようになっている。意見交換会では、データ提供側の負担を低減できる仕組みづくりについての希望が示されたことから、アクションプランでは、各実施主体がデジタルアーカイブに関する知見・経験を共有できる取組が列挙されている。また、ジャパンサーチが十分に知られていないことや同じ組織内でも担当によって横のつながりが希薄であるとの指摘があったことを受け、連携機関との広報協力や機関内での情報共有など日常レベルでの取組 図 2. デジタルアーカイブの構築・連携における各フェーズのアクション & \\ 図 3.デジタルアーカイブの活用における各フェーズのアクション が挙げられている。さらに、現場で頑張っている人を評価してほしいとの意見があったことから、表彰の仕組みづくりも揭げられた。 なお、表彰についてはデジタルアーカイブジヤパン・アワードとして、2022 年 8 月に実現した[2]。 ## 5. 実行スケジュール アクションプランの取組は多岐にわたるため、実務者検討委員会は、2023 年末までに優先的に取り組む活動として、(1)キュレーション活動の推進、(2)二次利用条件の整備/オー プン化の推進、(3)地域アーカイブとの連携拡充、(4)広報の強化、(5)関連する知識と経験の共有、の 5 つを揭げている(図 4 参照)。デジタルアーカイブを日常的に感じてもらうため、 デジタルコンテンツを使ったキュレーション活動を推進すること(1) を活動の柱とし、 デジタルコンテンツを活用するための基盤として、二次利用条件の整備やコンテンツのオ ープン化の推進を明記している(2)。また、 ジャパンサーチに豊富なコンテンツがなければ、キュレーション活動を十分に行うことができないので、地域アーカイブとの連携拡充を進めることとしている (3))。その上で、(1) (3)を推進していくためには、デジタルアー カイブをもっと多くの人に知ってもらうこと、 図 4. アクションプランの実行スケジュール すなわち広報を強化すること(4)が重要であり、さらに、(2)と (3)を効果的に推進していくため、二次利用条件の整備やジャパンサー チとの連携に関連する知識や経験を広く共有していくこと(5)を挙げている。 ## 6. おわりに 連携機関との意見交換会では、「異なる分野で立場の違う人の様々な意見を伺え、貴重な体験だった」「連携機関同士のコミュニケーションができることは大変ありがたい」等の感想が寄せられた。デジタルアーカイブの現場にいる担当者にとって、気軽に情報交換したり、課題を共有したりしたいというニーズがあることが分かり、ジャパンサーチの運用実務を担当する立場として、今後も「連携機関フォーラム」のような場を継続開催する必要性を感じている。 「デジタルアーカイブを日常にする」取組は、まだ緒に就いたばかりであるが、この取組には連携機関だけでなく、活用者、ユーザなどデジタルアーカイブに関心を持つ人なら誰でも何らかの形で参加することができる。 デジタルアーカイブが日常に溶け込んだ豊かな創造的社会の実現を目指し、取組を前に進めていきたい。皆さんにも、できるところから小さな一歩を踏み出してもらえると幸いである。 ## 参考文献 [1] ジャパンサーチ・アクションプラン 2021-2025.https://jpsearch.g o.jp/about/actionplan2021-2025(参照 2022-10-07). [2] デジタルアーカイブジャパン・ アワード.https://jpsearch.go.jp/daj-aw ard-2022(参照 2022-10-07). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B2]真正なデジタル化資料の長期保存と公開: ## Archivematica と Omeka S を用いた事例 金甫榮 1) 2),中村覚 2),渡邊英徳 2) 1)公益財団法人渋沢栄一記念財団 2) 東京大学 E-mail:kim@shibusawa.or.jp; nakamura@hi.u-tokyo.ac.jp; hwtnv@iii.u-tokyo.ac.jp ## Long-term Preservation and Publication of Authentic Digitized Archive Materials: A Case Study Using Archivematica and Omeka S KIM Boyoung1) 2), NAKAMURA Satoru ${ }^{2}$, WATANAVE Hidenori2) 1) Shibusawa Eiichi Memorial Foundation 2) The University of Tokyo ## 【発表概要】 本研究では、デジタル化した資料の長期保存および公開のための、OAIS 情報モデルに準拠したワークフローを提案する。ワークフローの実現には、オープンソースソフトウェアである Archivematica(長期保存用)と Omeka S(公開用)を用いる。まず、デジタル化資料の真正性を確保するため、OAIS 情報モデルで定義するメタデータ要素に基づき、メタデータを分析した。次に、Archivematicaを用いて必要な情報パッケージを作成した上で、それを Omeka Sへインポートするためのツールを独自に開発した。その結果、デジタル化資料の受入から公開までの一貫したワークフローを提案することが可能となった。 ## 1. はじめに 近年アーカイブズ資料のデジタル化及び公開は盛んに進められている。特に、2020 年にサービスを開始したジャパンサーチでは、 2022 年 6 月現在、日本国内の 185 のデータベ一スと連携し、 2 千 6 百万件に近いメタデー タを収録しており[1]、様々な分野のコンテンツを検索・閲覧できるツールとして定着しつつある。しかし、注意が必要なのは、公開されたデジタル化した資料(以下、デジタル化資料)の真正性の確保と長期的な保存の責任は、各所蔵機関に任されていることである。 そこで本研究では、アーカイブズ資料の所蔵機関がデジタル化資料の真正性を確保しつつ、それを長期保存するための仕組みについて考察する。 ## 2. 研究方法 本研究では、東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センターが所蔵する「新聞原紙資料」を事例として活用する。また、デジタル情報の長期保存用として Archivematica[2]を、公開用として Omeka S[3]を活用する。 これらのソフトウェアを使用する理由は、 2つある。一つ目の理由は、Archivematica が長期保存を支援するオープンソースソフトウェアでありながら、OAIS 参照モデル (Reference Model for an Open Archival Information System)に準拠しているためである。特に、長期保存に不可欠な「提出情報パッケージ (Submission Information Package : SIP)」、「アーカイブ情報パッケー ジ (Archival Information Package : AIP)」 および「利用情報パッケージ(Dissemination Information Package : DIP)」の作成が可能であることが利点の一つとして挙げられる。 二つ目の理由は、事例として活用する「新聞原紙資料」は、「Digital Cultural Heritage」 [4]から公開中であるが、このシステムは Omeka S で構築されているためである。 Omeka S は、コレクションのコンテンツ管理が可能で、Archivematica と同様オープンソ ースである。モジュールを用いた機能拡張が可能であり、Linked Data、IIIF、Scripto、 OAI-PMH といった、人文情報学関連のモジユールが豊富に提供されている点にも特徴がある。 ## 3. 現状と課題 本研究では、「新聞原紙資料」の中で、とりわけ『新聞之日本』(1929〜1931 年) コレクションを対象とする。同コレクションは、 2000~2011 年にデジタル化され、その後、インターネットでの公開が始まり、2018 年 11 月から Omeka S を活用したシステムで運用 [5] [6]中である。 『新聞之日本』は、原紙 $(385 \times 270 \mathrm{~mm})$ を製本した形で保存されており、1 ページずつ撮影してデジタル化された (図 1)。これらの画象(JPEG 形式)と目録(CSV 形式)は、 Omeka S にインポートする前のものと、インポート後に Omeka S からエクスポートしたものの 2 種類が保存されている。しかし、これらの長期保存の方法は検討中である。 図 1. デジタル化された『新聞之日本』(東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター / 情報学環・学際情報学府図書室所蔵) 長期保存の観点から、デジタル化資料を真正な状態で維持することは、最も重要な課題である。真正性(Authenticity)を維持するためには、信頼性(Reliability)、完全性 (Integrity)、利用可能性(Availability)を確保することが求められる[7]。『新聞之日本』 のデジタル化資料の長期保存においても、これらの要素を担保することは重要な課題であろう。 表 1 は、上述した真正性を確保するための三つの要素に対して、それらを保証するために必要と思われる情報(「必要な情報」項目) を選別し、それらが OAIS 参照モデルの要素に該当するかどうかを分析したものである。 その結果、表 1 で示すように現在の Omeka S で管理しているメタデータ項目には不足している情報があることが確認できた。「現在の有 る。 表 1. 真正性の確保のためのメタデータ要素 & & 必要な情報 & & \\ ## 4. 情報パッケージの作成 3 で検討したメタデータ項目に基づき、そのメタデータファイル(CSV 形式)と保存対象である画像ファイル(JPEG 形式)を Archivematica に取り込み、情報パッケージを作成した。Archivematica では、受け入れた情報から、SIP、AIP、DIPを順に作成する。 AIPには、保存対象のデータおよび Archivematica で生成されたメタデータを含む長期保存に必要なすべての情報がパッケー ジ化されている。これによって、長期保存の対象を明確にすることが可能となった。 DIP は、AIP から公開に必要な情報のみがパッケージ化されたもので、それを公開用システムにインポートすることで資料の公開が可能となる。しかし、Archivematica は、現在 Omeka S との連携フローが公式に整備されていないという課題がある。そこで、DIPを Omeka S インポートする新たなプログラム を開発した。具体的には、 Archivematica の DIP を入力として、そこに含まれる METS ( Metadata Encoding and Transmission Standard) ファイルを解析し、Omeka S ヘインポート可能なフォーマットに変換するプログラムを開発した。METS ファイルから記述メタデータ、アイテムの階層情報、およびメディアへのパスを 取得することで、Omeka $S$ との連 図3. ワークフローの改善 $(\mathrm{A} \rightarrow \mathrm{B})$ 携を可能にした[8]。図 2 の「Media」では、 DIPのobjects ファイルが登録されていることが確認できる。Omeka Sへのインポートにあたっては、Omeka S の REST API の Create 操作を使用した[9]。 図 2. OmekaSヘインポートした結果 ## 5. 考察 ## 5.1 ワークフローの改善 実験結果として、従来のデジタル化資料の保存・公開のワークフローに対して、図 3 に示す改善を行うことができた。従来は存在しなかった長期保存のためのワークフローを加えており、主な改善点は以下の三点である。 (1) 真正性を支えるメタデータを充実させた (2) AIP を作成することで、長期保存対象が明確になった (3) DIPのOmekaSへのインポートを可能にした これによって、Archivematica とOmeka S を活用したデジタル化資料の一貫した保存・公開のワークフローを確立することができた。 さらに、この改善により、OAIS 参照モデルで定義する情報モデルおよび保存メタデータ標準である PREMIS ( Preservation Metadata Implementation Strategies)に準拠した情報の保存が可能となった。 ## 5.2 実運用に導入するための課題 ## 5.2.1 ワークフローの自動化 本研究では、Archivematica とOmeka Sを組み合わせた、真正なデジタル化資料の長期保存と公開のプロセスを確立するためのワー クフローを検討した。そして、 Archivematica の DIP をOmeka S ヘインポ一トするシステム開発を行なった。ただし、今回検証したワークフローでは、例えば Archivematica が出力する DIP を人手でコピ一するなど、導入コストの高い方法となっている。実際の現場への導入にあたっては、デ一夕の取り込みから公開までの自動化が求められる。今後は Archivematica が提供する API を活用し、ワークフローの効率化に向けた自動化処理を検討する。 ## 5.2 .2 記述メタデータの管理 Archivematica は長期保存用アプリケーションであり、記述メタデータのような資料の内容に関するを情報を一緒に管理・公開するためには AtoM や ArchivesSpace などの別のシステムと組み合わせる必要がある。注意が必要なのは、その組み合わせのシステムで、真正性に影響を与え得るメタデータが管理されているかという点である。 一般的にメタデータには、記述メタデータと技術メタデータがあり、前者は資料の発見 と理解を助ける情報や、出所、来歴、構造、権利などの情報が該当する。後者は、技術的な情報や保存処理、パッケージ化、送信などに関わる情報が該当する。 記述メタデータを管理できるソフトとしては、例えばAtoMがある。AtoM はアーカイブズ資料の記述標準である $\operatorname{ISAD}(G)$ (General International Standard Archival Description) に準拠しており、資料を概要(フォンドやシリーズレベル)から詳細(アイテムレベル) へ記述する階層の表現が可能で、コンテクス卜情報の記述項目が充実している。これらの記述メタデータは、資料の真正性を維持する上で重要な役割を果たす。つまり、 Archivematica と AtoM を組み合わせる場合は、アーカイブズ資料に適した保存情報の管理が可能である。 しかし、Omeka S はアイテムレベルでの資料管理に主眼が置かれており、個別資料の閲覧に適している。そのため、本研究では来歴や編成、階層情報などの記述メタデータを AIP に含めることとした。今後、このようなメタデータをどのように追加・維持するかを考慮する必要がある。 ## 6. おわりに 本発表では、デジタル化資料の長期保存と公開を、OAIS 参照モデルで定義する情報モデルに対応するワークフローで管理することを試みた。その結果、Archivematica と Omeka Sを活用し、改善されたワークフロー を提案するとともに、次の三つの成果を達成した。1)真正性を支えるメタデータの付与、 2) AIP の作成による長期保存対象の明確化、 3)独自のツールの開発による DIP の Omeka $\mathrm{S}$ のインポートの実現、である。 デジタル化資料の長期保存において、OAIS参照モデルへの準拠は、信頼できるレポジトリの構築においても望ましいことであり、そのサポートツールとして Archivematica の存在意義は大きい。しかし、導入時のコストやメンテナンスの問題などの課題も多々あろう。 Omeka Sのようにすでに導入しているシステムとの相互運用性もその一つと言える。本研究で開発・公開したツールが、Omeka $S$ を用いているアーカイブズ機関における Archivematica の有効活用、さらには、デジタル化資料の長期保存を考える上で一助になれば幸いである。 ## 参考文献 [1] ジャパンサーチ,現在のデータ, https://jpsearch.go.jp/stats (参照 2022-09-04). [2] https://www.archivematica.org/en/ (参照 2022-09-22). [3] https://omeka.org/s/ (参照 2022-09-22). [4] Digital Cultural Heritage Homepage, https://dch.iii.u-tokyo.ac.jp/s/dch/page/home (参照 2022-09-22). [5] 高嶋朋子. 東京大学情報学環社会情報研究資料センターニュース 28,2018 , pp.3-5. http://hdl.handle.net/2261/0002000860 (参照 2022-10-06). [6] 中村覚, 高嶋朋子. 持続性と利活用性を考慮したデジタルアーカイブ構築手法の提案, デジタルアーカイブ学会誌, Vol.5, No.1, pp.56-60, 2021. [7] Adrian Brown, Practical Digital Preservation: A How-to Guide for Organizations of Any Size. Facet Publishing, London. 2013, 352p. [8] 開発したツールの公開サイト, https://github.com/nakamura196/archivema tica-omekas (参照 2022-09-22). [9] REST API - Omeka S, https://omeka.org/s/docs/developer/api/rest_ api/\#create (参照 2022-09-22).
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# [A6] 震災関連資料の利用活性に向けた資料循環型デジ タルアーカイビングシステムの試行: 岩手県立図書館震災関連資料コーナーを事例として ○富澤浩樹 1),阿部昭博 1) 1)岩手県立大学ソフトウェア情報学部, $\bar{\top 020-0693$ 滝沢市巣子 $152-52$ E-mail: tomizawa@iwate-pu.ac.jp ## Trial of a Material-Cycle Digital Archiving System to Invigorate the Use of Disaster-Related Materials: A Case Study of the Disaster-Related Materials Corner of the Iwate Prefectural Library TOMIZAWA Hiroki ${ }^{1}$, ABE Akihiro ${ }^{1)}$ 1)Iwate Prefectural University, 152-52 Sugo, Takizawa, 020-0693 Japan ## 【発表概要】 東日本大震災関連資料(以下、資料)を対象とした震災関連デジタルアーカイブは、震災で得た教訓を後世に伝えることを目的に各所で構築されている。対象の岩手県立図書館震災関連資料コーナーは発災翌年 4 月に本公開されたが、OPAC で管理された資料は研究者や調查者といった強い関心と目的意識がなければ利用することが難しい状況にある。そこで著者らは、資料を用いた活動によって新規に作成されたデジタル資料がアーカイビングされ、それによって資料の利用活性を促す仕組みを資料循環型デジタルアーカイビングシステムと呼び、その活動を支援するシステムの研究開発を、2014 年以来継続的に行なって来た。本稿ではその試行から得られた知見をまとめるとともに、今後の研究について展望する。 ## 1. はじめに 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災津波は、東北地方を中心に甚大な被害をもたらし、発災から 10 年を経過した現在においても地域社会に大きな影響を与えている。その間に作成された報告書やちらし、ポスターといったその時々の状況を表す東日本大震災関連資料(以下、資料)は、被災県の公立図書館を中心に現在も収集が継続されており、震災の記憶の風化が懸念される中、その利用活性が期待されている。しかし、それら資料の多くはデジタル化を前提とされずに収集されており、インターネットを通した閲覧が難しい。また、資料が図書館の蔵書目録管理システム(OPAC)で管理されている場合、本以外の資料は検索の対象となりにくく、たとえリストに表示されても内容まではわからないことが多い。 以上の背景を踏まえ、著者らは岩手県立図書館が所蔵する資料を対象に、2014 年よりその利用活性を目指した協働プロジェクトを発足した。具体的には、利用者が資料を用いた震災学習を行う場面を設定するとともに、そのプロセスで収集されるデジタルデータや新規に作成されたデジタル資料を、OPAC に登録された資料に関連づけてアーカイブするためのシステム(以下、試作システム)を開発した[1]。本稿の目的は、岩手県立図書館との協働プロジェクト(以下,協働プロジェクト) に着目し、その成果である試作システムの概要について述べたのちに、試作システムを用いたこれまでの試行から得られた知見をまとめ、今後を展望することである。 ## 2. 資料の利活用を巡る課題 永井 [2]は、資料をより活用していくための課題として、「利用の日常化」と「業務の日常化」を挙げている。前者は、特別コレクションとして扱うだけでなく通常資料と同様に検索できるようにしておくこと、アクティブラ一ニングなどの震災学習に利用することを挙げる。また後者は、先ず集めるだけ集める考 え方もあると前置きした上で、「自分の図書館にどの資料が必要なのか、利用者が何を求めているのかを判断し、く必要な資料>を収集する力が求められる」と述べる。 一方、デジタル公開されている資料についても、デジタル化した資料や元々デジタル形式で作成された資料を収集する震災デジタルアーカイブは、現在までに数多く公開されているものの、利活用が進んでいない現実があると指摘されている[3]。さらに池田ら[4]の調査分析によれば、資料の利用可能性の高いと考えられる東日本大震災地における自治体防災担当、教育委員会、社会福祉協議会においても、Web 公開されたデジタルアーカイブはあまり活用されておらず、自組織内のアーカイブが多く活用されていると報告されている。 ## 3. 試作システムの開発・運用 ## 3.1 試作システムのコンセプト 以上を踏まえ、協働プロジェクトでは、利用者が資料を利用して震災学習を行う場面を設定するとともに,そのプロセスで収集・作成されるデジタルデータを資料に関連づけてアーカイブするとともに、それによって資料の利用活性を促すことを資料循環型デジタルアーカイビングシステムと呼び、初めに図 1 として示すシステム概念図を考案した[1]。さらに、試作システムについて、情報システムの設計・開発手法によって、「利用者が、資料を容易に利活用するために、テーマ別に資料を関連させた新資料によって,資料の発見を 図 1. システム概念図[1]容易に行うことのできるデータベースシステ么」と定義された[5]。 ## 3.2 試作システムの運用 試作システムは、当初、内部公開用に開発された。協働プロジェクトにおいて資料循環型デジタルアーカイビングシステムの概念が共有されたものの、実際にどのように実装されるかが不透明であったことによる。そこで、 まず、図書館職員 6 名と学生 4 名を対象に、基本機能の確認と運用方法の検討のための震災学習ワークショップ(以下、WS)が行われた(2015 年 3 月)。基本機能とは、OPAC において一意に登録された書誌コードのリストを利用者の興味・関心で作成し、新資料に関連づけてシステムに登録することである。基本機能確認後、利用者 14 名(公募した市民 7 名、学生 6 名、図書館職員 1 名)で、WSを実施(2015 年 11 月~翌年 2 月:全 4 回)した。そして、利用者が取得した画像データに着目した機能追加を行い、利用者 9 名 (公募した市民 6 名、学生 3 名)で、被災地フィー ルドワーク(以下、FW)を伴うWS を実施した(2017 年 11 月〜翌年 2 月: 全 4 回)。震災学習 WS では、利用者が資料を実際に閲覧しながらテーマについて検討し、その学習成果として新資料を作成してシステムに登録、その内容を参加者で共有した。その結果、 64 件の資料が 6 件の新資料に関連づけて登録された[6]。 図 2 は、「てんでんこ」をテー マに作成された新資料の一例である。作成した利用者 (60 代男性)は、岩手県山田町での被災経験を資料を通 図 2. 利用者が作成した新資料例 して振り返り、調べ学習を通して分かったこと、作業の感想、読者へのメッセージ、として用紙にまとめた。それらは PDF 化してシステムに登録されると同時に、学習を進める際に有益だった資料がおすすめ順に登録され、 その書誌情報が確認できるようになっている。学術論文における参考文献リストと同様な役割を、資料に特化して提供することが狙いである。 ## 3.3 ポータルサイトの公開 試作システムは、2014 年に内部公開用として開発されたが、震災学習 WS を実施することで作成された新資料を、広く公開したいというニーズが協働プロジェクト内で高まり、 コロナ禍により集合型 WS が開催できないという社会的事情も相俟って、それまで開発された機能が統合されたポータルサイト(図 3) を開発し、2020 年 5 月に公開した[7]。その後、第三者に向けた機能として、図書館職員が資料を紹介できるパスファインダー機能、被災地 FW で震災ガイドを受けたときの動画など、震災学習に有用な動画を登録・公開できる震災学習動画アーカイビング機能を追加開発し ている。 図 3.ポータルサイトの画面例 ## 4. 試行から得られた知見 ## 4.1 図書館職員への半構造化インタビュー試作システムの運用に際しては、協働プロ ジェクトの継続が欠かせない要素であった。 そこで、ポータルサイト公開後、これまでの協働プロジェクトを振り返り、今後に向けての課題を明らかにする目的で、図書館職員 9 名に対して半構造化インタビューを実施した (2020 年 9 月 10 月)。質問項目は大きく 3 項目からなり、具体的には、(1)資料について (意義、資料のイメージ、利用活性に必要なこと等)、(2協働プロジェクトについて(試作システム利用の感想、将来のコンテンツ等)、(3)協働プロジェクト全般について(意義、コロナ禍後に考えられること等)である。表 1 は、その特徴的な意見・コメントをまとめたものである。 表 1 . 特徴的な意見・コメント & 資料の意義 \\ 資料の意義(表 1:(1)-1)については、資料を網羅的に集めていることで事象を多種多様な視点から見られること、に焦点が当たっている。資料のイメージ(表 1:(1)-2)は、防災資料の方がむしろ少ない、その多様性に触れて欲しい、資料を提供した人が取り出せ る仕組み、といったコメントは、資料に日常的に携わる図書館職員ならではの視点といえる。利用活性に必要なこと(表 1:(1)-2)は、資料のアピール、テーマ展示、継続、利用に足る状態にしておくこと、が挙げられていた。試作システムの利用の感想(表 1 : (2)-1)は、使いこなすのが難しい、機能面・UI の改善が望まれている。将来のコンテンツ(表 1 : (2)-2) としては、既存コンテンツの機能面の充実の他、レファレンスサービスやブックリストといった図書館職員としてより関われる機能を求める声が上がっている。協働研究の意義 (表 1:(3)-1)、コロナ後の取り組み(表 1: (3)-2) からは、特に外からの視点で継続的に関わること、図書館が利用者を待っているだけでなく地域社会に出ていく姿勢、が窥えた。 ## 4.2 試作システムの継続的な運用に向けて 既存の震災デジタルアーカイブのほとんどが公開後にその利用活性を課題としているのに対して、試作システムでは利用場面に基づいたシステムデザインが行われた。 震災学習 WS を通して作成された新資料は、二次資料として、資料の存在を示すのに有用と考えられる。資料循環型デジタルアーカイビングシステムの効用をより高めるためには新資料の充実が欠かせないため、出前図書館での活用といった、新たな利用場面を創出する必要がある。 一方、協働プロジェクトは当初より学部学生の卒業研究の一環ともなっている。それにより定期的に新規人材が関わることが、プロジェクトの継続と試作システムの進展に大きく寄与していた(表 1:(3)-1)。今後は震災の記憶の乏しい学部学生が関わってくることが想定されるが、そうした学生の目線からも試作システムを見直し、協働プロジェクトにフイードバックさせていくことで、震災の記憶の風化に対抗していくことになるのではないかと考える。 ## 5. おわりに 本稿では、資料循環型デジタルアーカイビングシステムのコンセプトに基づいて開発・運用された試作システムについて得られた知見をまとめた。現在、岩手県立図書館は、復興教育のためのグループ学習用のスペースを整備するとともに、全国の災害・防災資料の充実に向けて動き出している[8]。協働プロジエクトとしても、地域社会のニーズに応元、復興教育に貢献していく所存である。 謝辞: 本研究は、JSPS 科研費 $19 K 12717$ の助成を受けて遂行しました。本研究の遂行にあたっては、岩手県立図書館、震災学習ご参加の皆様の全面的な協力を得ました。また、一般社団法人 SAVE IWATE、岩手県立大学ソフトウェア情報学部の教員及び学生の皆様には、研究協力及びアドバイスを頂きました。ここに記して感謝の意を表します。 ## 参考文献 [1] 富澤浩樹. 阿部昭博. 資料の利活用を前提とした震災関連デジタルアーカイブの検討 : 情報処理学会研究報告. 2014, 2014-IS-129, 3, p.1-8. [2] 永井伸. 図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」呼びかけ団体における東日本大震災関連資料収集の現状と課題一震災の経験を活かすために:日本図書館協会. カレントアウェアネス. 2014, 319, p.11-13. [3] 柴山昭寛. 災害記録を活かすためには: 情報の科学と技術. 2020, 70, 9, p.458-463. [4] 池田真幸. 佐藤翔輔.東日本大震災アーカイブの活用実態に関する調査分析 : 地域安全学会論文集. 2020, 37, p.219-226. [5] Hiroki Tomizawa. Akihiro Abe. Digital Archive System for Utilization of Earthquake-related Material : SEFBIS Journal. 2018, 13, p.31-40. [6] 富澤浩樹. 阿部昭博. 震災学習と連携した震災関連資料デジタルアーカイビングシステムの試作: 情報処理学会. 人文科学とコンピュータシンポジウム. 2018, 1, p.283-290. [7] Iwate Reedy Project Portal 震災関連資料の利用活性を目指す: https://pike.si.soft.iwate-pu.ac.jp/ portal/ (参照 2022-09-20). [8] 全国災害 - 防災資料充害一:岩手日報. 2022-9-20, p. 4 . この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A5] 東京大学人名データベースの構築と活用 ## 人名による所蔵資料検索システム公開に向けて ○逢坂裕紀子 1) 1)東京大学文書館, $\overline{\mathrm{T}} 113-8654$ 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: osaka.yukiko@mail.u-tokyo.ac.jp ## Construction of personal names search system using the University of Tokyo Archives collection database and management OSAKA Yukiko ${ }^{1)}$ 1) University of Tokyo Archives, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8654 Japan ## 【発表概要】 本報告では、東京大学文書館が所蔵する人事記録をもとにした人名データベースの構築とその活用について報告する。所蔵資料『職員進退』目次情報及び文書館作成「教員データベース」 は、明治初期の大学発足時からの所属教職員に関するデータベースとして、これまでレファレンスなど館内において活用されてきた。学内外からの利用ニーズも高いコンテンツであるため、公開に向けて個別に管理運用されてきたファイルの統合及びデータの整理、ウェブデータベースの構築をおこなった。ウェブデータベース化にあたっては、オープンソースの CMS である Omeka S を利用し、キーワードによる全文検索機能を持たせ、国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)による典拠データーのリンク表示の機能をもたせることで、人名データベースの精度を高めた。人名データベースにより、コンテンツの自由度を増加させ、所蔵資料の利活用性を高めることができる。 ## 1. はじめに 東京大学文書館(以下、当館)では、明治初期の東京大学発足時から平成初期までの個別人事案件の原議書綴を中心とした職員進退録、及びその他人事異動関係を綴った所蔵資料『職員進退』を所蔵している[1]。同資料は、東京大学に在籍した教職員の任免やその他の進退を記した一次資料として、学術的な価値及び利用頻度の高い資料群である。当館では、このうち明治初期から戦前期分までの 200 簿冊、目次情報約 47,000 件について、2020 年度より記載されている人名と件名等のテキストデータ化を進め、完了している。 また、東京大学文書館作成「教員データベー ス」は、『東京大学百年史』[2] 編纂時に人事課所蔵の人事情報をもとに作成したデータを基礎とし、当時の大学史史料室とその後継組織である当館において、継続してデータの収集・追加・名寄せ等の修正をおこなってきた情報群である。「教員データベース」には、約 17,000 名分の情報が含まれ、人名によって情報の疎密さは異なるものの、以下の項目で整理している。姓名/姓名読み/生年月日/没年月日/学位 $/$ 称号 / 最終学歴 $/$ 所属歴 / 役職歴 これら『職員進退』の掲載人名情報及び「教員データベース」データは、これまで Google スプレッドシートと Excel ファイルを用いて管理・運用し、レファレンスなどの館内業務においてデータ活用されてきたが、検索性や一覧性の点で課題があった。また、これらのコンテンツは日本近代高等教育史に関する情報として学内外の利用ニーズも高いものであり、いずれ公開することを前提にデータ蓄積がなされてきたものである。 筆者は当館においてデータベースの構築や運用に携わる立場であり、本報告ではこれら東京大学の人事記録情報をもとにした人名デー タベースの構築とその活用について報告する。 図 1.『職員進退』 ## 2. 既存データベースの特徵と課題 ## 2.1 『職員進退』目次情報 『職員進退』のコンテンツは人事情報であるが、対象とした明治期から戦前期までの期間の資料は、利用制限期間を満了したものが多い。明治初期の東京大学発足以降の嘱託を含む教職員に関する一次資料として、今後さらなる利活用が期待される。 『職員進退』目次情報の採録作業は、2020 年以降のコロナ禍で始まったリモートワーク対応において推進された事業であったため、従来当館で運用してきた学内ネットワーク上での MS Excel ファイル形式でのデータ保存とは異なり、Google のオンラインストレージ上での Google スプレッドシート形式でのファイル管理運用体制を敷いていた。資料特性上、典拠の問題はないが、目次情報のため項目が丁数/人名/件名等に留まり、資料探索のインデックスとしては非常に有用であるものの、情報量は多くない。 ## 2.2 「教員データベース」 こちらもコンテンツは人事情報であるが、東京大学百年史資料編に掲載されている情報が多いこと、追加部分は学内広報や各部局の公刊情報等、公開情報から作成していることから、公開の制限はない。なお、ファイル形式は MS Excel ファイルを用いている。 データベースとしての問題点は、百年史編纂室作成情報には典拠が明示されていないこと、文書館で典拠データ確認済のものは、ほぼ自館での追加部分に限られることが挙げられる。 1960 年代に開始された百年史編纂事業を基礎として、数十年にわたり多くのデータ作成者が関わってデータの引継・追加・修正されてきたが、その履歴がないことも問題点としてあげられる。 ## 2. 3 データベース統合 既存のデータベースをつかって特定の人物について調べる場合には、これまで Google ドライブ上と学内ネットワークに置かれているそれぞれのファイルを開いてファイル内検索機能を用いる必要があり検索性や一覧性に欠けていた。 以上の経緯から、当館としては文書館データベースとして一般利用に供するには完成度が低いと判断し、これまではレファレンスベースでの情報提供にとどめてきた。しかし、内外からの利用ニーズの高い情報群であり、公開に向けてデータベースの情報を整理・統合し、ウェブデータベース化をおこなうこととした。 ## 3. 人名データベースの構築 \\ 3. 1 データ整理 先述のように既存データベースは、Google スプレッドシートと MS Excel ファイルを用いて独立して管理・運用されてきた。 2020 年度以降、『職員進退』の目次情報テキスト化が進み、データが蓄積されるにつれ、これまで原本本体を参照しなければ確認できなかった掲載人名が Google ドライブ上でキーワ一ド検索できるようになり、館内業務における調査やレファレンス対応での利便性が格段に向上した。しかし、資料アイテム単位でのファイル構成となっていたために、詳細情報を確認するには Google ドライブ上での検索結果から個別にファイルを開いて確認する必要があり、一覧性や操作性に欠けていた。また、学内ネットワーク上に置かれていた「教員データベース」 は、パフォーマンス速度の観点からあいうえお順の分割ファイルでの運用となっていたため、 こちらも検索利便性に課題があった。 ウェブデータベースの構築にあたっては、まず『職員進退』及び文書館作成「教員データベ一ス」のデータ整理をおこなった。『職員進退』 は Google スプレッドシートで管理されていたため、一度 MS Excel ファイルに変換し、名寄せなどをおこなった。その後、「教職員データベース」とあわせてデータ整理うえで、一人名を一レコードとして FileMaker Pro に取り込んだ。FileMaker Pro は複数条件を指定してデ一夕抽出や置換、ローコードでの画面設計などができるデータベース管理システムである。先行事例として東京文化財研究所におけるウェブデータベース化の取り組みを参考とし、操作性の高さからデータ整理用のソフトウェアとして採用した[3][4]。 ## 3. 2 ウェブデータベース化 ウェブデータベース化にあたっては、オープンソースの CMS である Omeka S を利用することとした。当館では、先だって 2018 年より目録情報公開システム「東京大学文書館デジタル・アーカイブ」[5]を Omeka S を使って構築・公開しており[6]、ハード及びソフト両面での開発環境構築の容易さや既存システムとの連携の観点から採用するに至った [7]。 『職員進退』目次作成、及び「教員データべ一ス」データ作成のいずれも長期にわたるため漢字表記や記述スタイルにおいて時代による相違があり、また人名ごとの情報の疎密さも大きく、データベースとして統合した場合の不均衡が懸念された。しかし、それら記述スタイルの相違も資料的価値を持つものと捉え、修正などはおこなわないこととした。ただし、検索性を考慮して、人名表記については現在一般的に用いられている表記に一部改めた。 ウェブデータベース化により、キーワード検索と検索結果一覧表示が可能となり、課題であった利便性が大幅に向上した。なお、Omeka S の日本語による全文検索機能の不備を補足するため、一部テーマの修正を行なった[8]。 ## 3. 3 国立国会図書館典拠データの活用 さらに国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス (Web NDL Authorities)を利用して、人名をキーとして典拠データに当該個人名が含まれる場合にはリンクを表示させ、情報の精度を高める工夫をした。とりわけ明治期から戦前期に在籍していた教員の多くは典拠データに記載されていることも多く、典拠データを参照することで、人物の同定や「人名データベー ス」に欠けている情報の補足が可能となった。 ## 4. おわりに 東京大学文書館が所蔵する人事記録『職員進退』及び文書館作成「教員データベース」をもとにした人名ウェブデータベース構築によって、コンテンツの利活用性を高めることができた。さらに、当館で所蔵資料目録公開のために運用しているデジタル・アーカイブシステムである CMS、Omeka S が人名データベースの構築・運用においても有効であることも確認できた。 最後に今後の課題について触れ、本報告を終える。現時点で「人名データベース」は公開に至っていない。公開に向けて、いくつか解決すべき問題が残されている。 ひとつは、人名表記の精度の問題である。人名漢字の使い分けによる表記摇れによって、統合が不十分なデータが少なくない。当館では表記の整理を進めているが、典拠データベースの活用も含め今後精度を上げていきたい。ふたつ目の課題は、「教員データベース」の典拠の確認である。百年史編纂事業において蓄積された典拠が明示されていないデータの照合や公開情報からの除外が求められる。三つ目の課題は、既存の当館デジタル・アーカイブとの連携についてである。当館デジタル・アーカイブシステムは、アーカイブズ学に基づいた資料階層関係を表示するために独自にモジュール機能を組んだインタフェースを採用している。編成記述による体系だった所蔵資料目録データベースから構築された既存のデジタル・アーカイブシステムに「人名データベース」をどのように位置付け、一般利用に供するかはアーカイブズ学を踏まえての検討が必要である。さらに資料目録データベースと人名データベースの両者を横断検索できる機能の実装についても今後検討していきたい。 ## 参考文献 [1] 東京大学文書館所蔵『職員進退』. https://uta.u- tokyo.ac.jp/uta/s/da/docarchive/915de23d29c a9e6029e79c536e7d1b26 (参照 2022-09-15). [2] 東京大学百年史編集委員会編. 東京大学百年史(全 10 巻). 1977-1987. [3] 小山田智寛. 研究ノート WordPress を利用した動的ウェブサイトの構築と効果一「物故者記事」「美術界年史 (彙報)」を事例として一. 2018. 美術研究. 424 , p.21-28. [4] 小山田智寛. 研究ノート文化財データベ一スの作成とその意義について. 2018. 美術研究. 429, p.65-74. [5] 東京大学文書館デジタル・アーカイブ https://uta.u-tokyo.ac.jp/uta/s/da/ (参照 2022-09-15). [6] 宮本隆史. Omeka S を活用した東京大学文書館デジタル・アーカイブの公開. カレントアウェアネス-E. No.361. https://current.ndl.go.jp/e2094 (参照 2022$09-15)$. [7] 元ナミ, 逢坂裕紀子. 東京大学文書館におけるデジタルアーカイブの構築と運営. 2022. アーキビスト:全史料協関東部会会報. 97, p.46. [8] デジタルアーカイブシステムの技術ブログ. Omeka S の日本語による全文検索の注意点と Mroonga search モジュール. https://nakamura196.hatenablog.com/entry/ 2022/03/07/083004 (参照 2022-09-15). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A4]地域に散在する江戸期古記録の時系列提示による情報補完を目指したデータベースの構築 ○吉賀夏子 ${ ^{11}$ ,伊藤昭弘 ${ }^{11}$, } 1)佐賀大学地域学歴史文化研究センター, 〒 840-8502 佐賀県佐賀市本庄 1 E-mail: natsukoy@cc.saga-u.ac.jp ## Construction of a Database Aimed at Complementing Information by Presenting Time Series of Scattered Regional Business Records in the Edo period \\ YOSHIGA Natsuko ${ ^{11}$, ITO Akihiro ${ }^{1)}$ \\ 1) Saga University, 1 Honjo, Saga-shi, Saga 840-8502 Japan} ## 【発表概要】 佐賀県立図書館および佐賀大学では、佐賀藩とその支藩で作られた「日記」およびその要約で 「日記目録」と呼ばれる業務日誌群を所蔵している。当史料群には、藩主の側役人らの家で記録された日記に相当する私的な記録も含まれる。このような歴史史料から当時の藩内外の政治・経済の動きを統合的に知るために、同大学地域学歴史文化研究センターでは、「佐賀藩関係『日記』資料時系列データベース」を構築し、佐賀県地域に残存する 11 種の日記について、同じ日付の日記画像を並列で参照できるようにした。加えて、「小城藩日記データベース」の日別記事文も対応させた。その結果、ある日付における多様な出来事や天候についての記録を補完しあい、統合的な情報収集が可能となった。本稿では、当データベースの概要と機械学習などへの応用可能性を含めた現時点までの取り組みについて紹介する。 ## 1. はじめに 佐賀県立図書館および佐賀大学附属図書館では、日々の業務記録である「日記」および各日記内容を要約して目録化した「日記目録」などの文書群を所蔵している。さらに、両機関では、これらの文書群を 1 丁(見開き 2 ページ分)ずつ撮影して画像化し、記載内容をインタ一ネット上のデータベースを通じて一般市民に広く公開し、可能な限り自由度の高い利用許諾を付す取り組みを進めている[1]。 特に、2018 年からは利用許諾を整備した上で小城藩日記目録の全ページを翻刻し、各記事文を詳細内容が記載された日記画像に紐付けた。この取り組みは「小城藩日記データベース」 [2]として公開されている。 佐賀藩の支藩である小城藩の史料がデータベース化された理由は次のとおりである:佐賀藩は、地方知行制に倣い、身分の高い家臣にその領地について一定の自治権を認めたが、藩の政策や法制には従わせた。小城藩は佐賀藩の家臣団組織の中でも最上位にあたる三家[3] と いう地位であった。 したがって、小城藩日記には、当藩以外にも佐賀藩などとの交流や政治的な出来事が数多く記載されており、当時の政治や経済の動向を調べる上で有用である。しかし、残存史料は約 120 年分にわたり、その上で日記と目録それぞれが作られている。その膨大な史料から人手で関心あるトピックを調査することは実質不可能であり、過去の文書調査には、文書原文のデジタル画像化・翻刻と検索支援用データベースの整備が必須である。 加えて、小城藩と同格である蓮池藩や武家内の私的記録としての日記にあたる文書が肥前佐賀地域各所に多数残存している。これらの史料群も小城藩日記データベース同様に情報整備を進めていけば、人手や時間の労力を大幅に解消しつつ、必要な情報を誰の目にも見える形で収集し考察をまとめることが可能になる。 しかし、各地域史料は小城藩のそれとは異な り目録が存在することはむしろ珍しいため、同様のデータベース化は難しい。現状では、日記 に紐づく日付のみを頼りに関連画像を収集するしか手段がない。 そこで、当センターでは 2021 年に「佐賀藩関係『日記』資料時系列データベース」[4](以下、時系列データベースと呼ぶ。)を公開した。以降の節では時系列データベースのコンテンツと機能および当データベースの可能性について述べる。 ## 2. 時系列データベースの概要 2. 1 登録データ データベースには、記録に記載されている旧暦、時間基盤情報である Hutime[5]で変換したユリウス通日[6]、書名および日付に対応する画像ファイル名が手作業で紐づけられている。具体的には、2022 年 9 月時点で、江戸時代 265 年のうち約 $53 \%$ にある 142 年分すなわち 51,850 日分の旧暦とユリウス通日を登録している。実際は、正徳 2 年 1 月朔日(1712 年 2 月 7 日[7])から明治元年 12 月晦日(1869 年 2 月 10 日)までの期間のうち、38,255 日分の日記画像を参照できる。表 1 では、本データべ一スで参照可能な肥前佐賀地域の日記書名と参照可能な日数を示す。 各日付に紐づけられた画像は IIIF 規格[8]でデータベース上のリンクから参照可能である。 また、IIIF 画像を参照するために必要なメタデータに相当するマニフェストファイルを活用すれば、自前のアプリケーションやサイトでも直接画像を参照できる。 ## 2.2 検索機能 本データベースでは、対象期間を検索し、該当する各日記画像を日付ごとに並列して表示する。また、同じ日に小城藩の日記目録の記事文がある場合は、それらも同時に表示する。図 1 の例では、正徳 2 年 1 月朔日の結果を示す。 この日は蓮池藩請役所日記と小城藩日記目録の日記画像がある。 また、蓮池藩の日記には、天気の記録があり、 これもデータベースに登録した。よって同日の蓮池藩周辺の天候も併せて参考にできる。なお、検索メニューでは「蓮池藩請役所日記」に記載された自然現象を検索できる。表 2 では、参照可能な自然現象の一覧および掲載日数を示す。表 1.2022 年 9 月における時系列データベースに登録されている書名および登録画像のある日数 図 1. 文化 10 年 7 月 3 日の表示例。(スマー トフォン対応画面での表示) 表 2. 時系列データベースで検索可能な自然現象および各自然現象が記載されている日数 ## 3. 散在する地域史料の公開およびその 可能性 ## 3.1 時系列に沿った史料提示の利点 一般に地域史料は、同一の場所や時間に留まらず保存状態も様々であるが、本文を画像化し、時系列で並べることで、内容分析を効率よく進めると同時に史料内容の保存を図ることができる。また、ウェブで公開することで、日記や地域史に関心ある人々が直接内容を確認し、記載内容に誤りがある場合に訂正も可能である。 また、本データベースは、日付に紐づく各書名、画像ファイル名および「蓮池藩請役所日記」 に記載されている天気(自然現象)を表にした、個人でも実現可能な簡素なものである。しかしながら、このような簡易な情報を連結し、ウェブ公開していくことで、ある地域の出来事を巨視的かつより客観的に捉えられると考元る。 ## 3. 2 機械学習用テキストデータ作成支援の ための画像公開 他方、画像自体は JPEG 形式など利用の容易な形式で提供も可能であるが、画像のメタデ一タを IIIF マニフェストのJSON 形式で公開することで、プログラムによる画像の一括ダウンロードや独自アプリケーションでのオンデマンド処理などに利用しやすくなる。すなわち、 ブラウザ上での共同翻刻や固有表現抽出、トピック分析などの機械学習への応用可能性が高まる。 例えば、先述の通り「小城藩日記データベー ス」では、佐賀大学附属図書館貴重書データベ ースで「日記目録」の記事文をデータベース化した[9]。さらに、テキストになった記事文を用いて固有表現抽出を試みた[10]。固有表現とは文を構成する重要キーワードであり、その抽出を行うことで記載内容の傾向を統計ツールでより詳細に把握できる。固有表現データが集積すると、検索結果を構成する周辺単語を抽出したり、あるトピックに関連深い人物や出来事の抽出と繋がりをデータで可視化したりすることも可能となる。 つまり、現時点での本データベース構築は、時系列への画像の紐付けと IIIF 画像の公開のみを行っているが、時系列に史料を提示する機能の提供のみならず、将来的には、手作業を含 む市民協働型の半自動的あるいは $\mathrm{AI}$ による自動的な手書きくずし字翻刻支援、ならびに大量のテキスト化された文書を対象にした内容分析を下支えするものになると考えている。 特に、現状の機械学習用のくずし字データにおいて、CODH で配布されている実用的な機械学習用くずし字アノテーションデータ[11]は 44 冊の古典籍 (文学作品) 由来のものである。 ここで述べるアノテーションデータとは、画像化されているくずし字 1 文字に対して、画像上での位置および範囲と文字情報を記述したデ一タを指す。 しかしながら、この CODH 提供データは、文書や証文などの江戸期公文書に書かれたくずし字とは筆跡が若干異なる。 そこで、各所で様々な筆跡を集めた大量のくずし字データを積極的に作り公開することで、公文書類に対する自動翻刻の精度向上に貢献できる。当センターにおいても、現在、既存の自動翻刻技術の支援を受けながら、佐賀大学所蔵の古記録に対するくずし字翻刻支援システムを構築しており 2022 年内に運用が予定されている。本システムでは、江戸期での公的な記録文書に使用されている御家流くずし字書体を対象に、学習用アノテーションデータを複数の協力者とともにウェブ上で作成する予定である。アノテーションデータは CODH の取り組み同様に、ウェブで無償公開し、地域史料からのテキスト抽出に活用できるようにする。 ## 4. おわりに 本稿では、地域に散在する地域史料を時系列で参照可能にする「佐賀藩関係『日記』資料時系列データベース」の概要と、同じ日に書かれた複数の史料を並列して提示することの意義を述べた。 さらに、先行して公開されている「小城藩日記データベース」記事文に対する固有表現抽出の実践研究を踏まえ、将来のテキストおよび固有表現データ需要の可能性を見据えたデータベース構築の提案を行った。 大量に残存する地域史料を読み解くために、 テキストデータに含まれている「意味」のデー 夕化、すなわち固有表現抽出とその需要は年々高まっている。そのため、本稿で示すような画像からのテキスト抽出を支援する「下準備」は、各機関や個人で簡易なデータベース構築を通じて十分取り組み可能なものである。 ## 謝辞 本研究のうち、3 章最後に述べた御家流くずし字に対する AI 翻刻支援システム構築については、JSPS 科研費 JP22K18149 の助成を受けたものである. ## 参考文献 [1] 佐賀県立図書館. 古文書 - 古記録 - 古典籍データベース.「請役所日記」の検索結果. https://www.sagalibdb.jp/search/?mode=search\&k $\mathrm{ey}=$ 請役所日記 (参照 2022-09-24). [2] 佐賀大学地域学歴史文化研究センター. 小城藩日記データベース. https://crch.dl.sagau.ac.jp/nikki/ (参照 2022-09-24). [3] 蓮池鍋島家 - 小城鍋島家・鹿島鍋島家. [4] 佐賀大学地域学歴史文化研究センター. 佐賀藩関係『日記』資料時系列データベース. https://crch.dl.saga-u.ac.jp/dates/ (参照 2022-09-24). [5] Tatsuki Sekino. Hutime (時間基盤情報). http://www.hutime.jp/ (参照 2022-09-24). [6] 国立天文台. 暦 Wiki - ユリウス日. (紀元前 45 年からカエサルによって導入された太陽暦であるユリウス暦を-4712 年(紀元前 4713 年) 1 月 1 日まで遡って適用し、そこから数えた経過日数.) https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/A5E6A5EA A5A6A5B9C6FC.html (参照 2022-09-24). [7] グレゴリウス暦での日付. [8] International Image Interoperability Framework (IIIF). https://iiif.io (参照 202209-24). [9] 吉賀夏子, 只木進一. 小城藩日記データベ一スの構築. 研究報告人文科学とコンピュー 夕 (CH) . Vol. 2018-CH-117, No. 3, p.1-7. [10] 吉賀夏子, 堀良彰, 只木進一, 永崎研宣,伊藤昭弘. 郷土に残存する江戸期古記録の機械可読化を目的とした市民参加および機械学習による固有表現抽出. 情報処理学会論文誌. 2022, 63(2), p.310-323. [11] 人文学オープンデータ共同利用センター (CODH) - 日本古典籍くずし字データセット書名一覧. http://codh.rois.ac.jp/char-shape/book/ (参照 2022-09-24). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A3] 地域アーカイブのレコード・マネジメント確立の 試み: 山形大学「まちの記憶を残し隊」の実践から ○小幡圭祐 1 ), 本多広樹 1) 1)山形大学人文社会科学部, $₹ 990-8560$ 山形市小白川町一丁目 4-12 E-mail: obata@human.kj.yamagata-u.ac.jp ## The Attempt of Establishing Record-Management for Local Archives: \\ The Case of " Machi no kioku wo nokoshitai (Corps for Town Memory Archives), " Yamagata University OBATA Keisuke ${ }^{1}$, HONDA Hiroki1) 1)Yamagata University Faculty of Humanities and Social Sciences, Kojirakawa-machi 1-4-12, Yamagata City, Yamagata 990-8560 Japan ## 【発表概要】 発表者の所属する山形大学では、2022 年度より、再開発など変化がめまぐるしい山形市の中心市街地にまつわる資料を、同大学附属博物館を拠点としてアーカイブするというプロジェクトをスタートした。本プロジェクトの最大の特徴は、いわゆる歴史資料だけではなく、のちに歴史資料になるであろう、現代の街並みや土地利用状況、そこで活動を行っている人々の声などを積極的に先回りして収集・記録し、デジタルアーカイブとして保存・活用することを目指している点、さらに、大学の授業の一環として、学生たちがアーカイブの収集・活用を立案・実践する点である。本報告では、学生を主体とした「まちの記憶を残し隊」によるまちの「記憶」のデジタルアーカイブ化の実践事例を紹介するとともに、公文書管理で実施されているような組織アーカイブにおけるレコード・マネジメントを、地域アーカイブにおいても実現することが可能であることを試論的に示したい。 ## 1. はじめに 発表者が学芸研究員をつとめている山形大学附属博物館では、2021年(令和 3 )、同館にもゆかりのある、山形市出身の実業家で歴史家の三浦新七(1877-1947)がドイツ留学時代に収受した絵葉書 2119 点が寄託されたことを受けて、低廉かつ簡便なデジタルアーカイブを構築・公開することを目指し [1]、2022 年(令和 4)にデジタルアーカイブ「三浦新七関連絵葉書」を公開する運びとなった $[2]$ 。同館では、これをきっかけに、博物館の収蔵資料のみならず、地域の「記憶」を積極的に収集してデジタルアーカイブにして公開をするプロジェクト、「地域の記憶「共創」アーカイブ〜まちと人の未来のために〜」を立ち上げた(図 1)。このプロジェクトでは、大学博物館の特徵を活かし、資料の収集を大学の授業の一環として実施することを計画し、2022 年度の前期の授業で実践した。本発表では、授業の実践内容を紹介するとともに、毎年の授業を実施することで、恒常的に地域の「記憶」をアーカイブする仕組みが構築できるのではとの見通しを示すこととしたい。 図 1.プロジェクトのチラシ ## 2. 「まちの記憶を残し隊」によるアー カイブ実践 ## 2. 1 授業「街の記憶をアーカイブする」 山形大学の位置する山形市、特にかつて県庁の存在した旅籠町 ・ 七日町界隈は、歷史的にも劇的な街並みの変化を遂げてきた土地である。一例を挙げると、江戸時代には山形藩の城下町として栄えたが、明治新政府のもとで 1876 年(明治 9)に山形県が設置されると、初代県令 (現在の県知事) となった三島通庸 (1835-1888)が旅籠町に県庁を移転し、七日町には工場・学校・病院などの都市機能を集約させ、街の様相を一変させている[3]。しかし、少のような劇的な変化は近年も続いており、景気の低迷やコロナ禍などさまざまな要因により、店舗の閉店や再開発などでまちの様子は刻一刻と変化している。そ扎元、地域アーカイブを構築するにあたっては、少なくとも年単位で継続的に地域の「記憶」を収集する策が必要となる。 そこで、発表者が考えたのは、日頃から実施している教育の場、すなわち大学の授業を利用するという方法である。大学の授業を利用するメリットは、大幅な制度改変を伴わない限りにおいて、基本的に毎年授業を実施できること、授業の履修者すなわち学生を収集活動に参加させることができる点にある。特に、後者は単位の修得との兼站合いから、ボランティアベースよりも無理なく人員を確保できるところに利点がある。 2022 年度前期、発表者は授業の中でも比較的融通のきく 1 年生向けの教養科目(「基盤共通教育科目」)において「街の記憶をアーカイブする(共生を考える)」との授業名で新規に授業を立ち上げた。15 回分の授業計画のうち、第 1 回はガイダンスにあて、第 2 回〜第 5 回は「アーカイブ」の語義と山形の中心市街地の「記憶」がどのように残されてきたのかを講義した。第 6 回〜第 10 回は、街の記憶をア一カイブする意味や方法について、学生を 1 グループ 3 4 名に分けたうえで、実際に行う計画を議論・立案・発表させた。第 11 回〜第 12 回は、立案した計画を山形市街 (七日町) で実践した。第 13 回〜第 15 回は、実践によって集めた記憶をグループで一つの作品としてまとめ、成果を発表することとした。 第 11 回〜第 12 回のアーカイブ収集の実践に際しては、学生が山形大学のシンボルと 「まちの記憶を残し隊」と書いた腕章(図 2) をつけて七日町で収集活動を行った。 図 2.「まちの記憶を残し隊」腕章 ## 2. 2 アーカイブの方法 地域の「記憶」を収集する方法としては、 (1)デジタルカメラによる街並みのアーカイブ、 (2)インタビューによる「記憶」の収集の 2 方法を採用した。 (1)のデジタルカメラによる街並みのアーカイブについては、撮影写真に緯度経度や高度、方角などを付与できるデジタルカメラを用いて撮影を行った。これは、収集した画像デー タの活用の際に、GIS 上でのポイントデータ作成を想定しているためである(GIS については後述)。 (2)について、地域の「記憶」を収集する方法としては、(1)個別調査法、(2)投稿法、 (3)ワークショップ法、(4)書き込み法、 (5)資料活用法などが知られているが [4] 、今回は収集者が提供者一人ひとりに対してインタビューを行う(1)個別調査法を採用した。 インタビューに際しては、ビデオカメラで動画を、ボイスレコーダーで音声を、デジタルカメラで写真を収集した。 ## 3. 土地利用調査による「面」のアーカ イブ ## 3. 1 土地利用調査とその有用性 先述の写真を用いたアーカイブに加充、本事業では地域の記憶を面としても残すことを想定している。そこで行うのが、土地利用調 査である。土地利用調査とは地理学の伝統的な調査手法であり、現地の土地利用を観察し、 その結果を図化することでその地域の空間的な特徴を明らかにするものである[5]。 地域分析一の適用例としては、韓国の都市の店舗構成を分析した例が挙げられる [6]。この事例では、店舗構成をデータベース化し[7]、 その結果を比較することで店舗構成の経年変化を詳細に解明した。本報告が対象地域とする七日町でも店舗更新は毎年行われており、土地利用調査によって各年度のデータベースを作成することは、地域アーカイブの作成においても重要な意味を持つと考えられる。 また、土地利用調查は大学教育の一環としても位置付けることができる。例えば、景観観察をはじめとしたフィールドワークの手法や、作図手法の習得に用いた例がある [8]。これに関連して、作成したデータベースを利用することが地域の動態的変化の分析に繋がり得る点も指摘されている[5]。加えて、データベースの還元による地域貢献や、研究での利用可能性の増大も将来の方向性として提示されている[5]、[8]。 その一方で、既往研究における実践例はデ一タベースの作成に留まり、その先の利活用は個別の研究論文に委ねられている。そのため、各研究が指摘したデータベースの活用、特に地域貢献については具体的な事例の蓄積が不十分である。このことは、同一地域で継続的に土地利用調查を実施するということが、費用や教育カリキュラムの面から困難だったことが要因として考えられる。こうした課題に対しては、2.1で述べたように授業を通して地域の「記憶」を収集することが解決策の一つになり得るのではないだろうか。 ## 3.2 授業での実践例 土地利用調査の実践に際しては、まず事前学習として調査対象地域の概要や調査方法を確認する。合わせて履修者の人数を踏まえ,当日の調査の分担を行う。 次に現地調査では、実際に学生が現地に赴き、調査を行う。この時、ベースマップ上に区画を記入するとともに、その区画の土地利 図 3.土地利用調査のイメージ 注)イメージ図であり、実際の調査結果とは異なる。 用を記録する(図 3)。この時、複数階を有する建造物については、階ごとにその利用形態を記録する [7]。 調査終了後には、データベース作成作業を行う。まず区画については、GIS (Geographic Information System、地理情報システム)を用いてベースマップをトレースして作成する。本発表の事例では、ESRI 社の ArcGIS Pro 2.9 を使用した。次に土地利用の記録については、Excel を用いて表として作成する。これら二種類のデータは、通し番号を用いて結合させることができる[5]、[7]。 その後の作図にあたっては、凡例の設定が重要となる。土地利用の種類は具体的に記載しようとすればするほど細分化され、数多くの凡例が必要となる。しかし、図の可視性を考慮するならば、地域の特徴を的確に表現できるような凡例にまとめる作業が必要である。 そこで、調査後に調査者同士で議論を行い、使用する凡例を決めていく。実際に調査を行った後にこの作業をすることで、自身が直接観察した地域の様子を踏まえた凡例設定が可能となる。そして議論によって設定された凡例区分を基にして土地利用図を完成させる。 本報告の場合では、授業にて作図までの一連の流れを取り扱うことで、学生に対しては卒業論文作成に関する技術の習得、アーカイブに対しては定例的なデータの収集という点でさまざまな主体にメリットを提供できる。 また、将来データが増えた際には、デジタルデータであることを活かした定量的な分析も可能になる。 GIS は位置情報を持つデータを分析、可視化するソフトウェアである。そのため、ここで作成した土地利用図と、位置情報を持つ写真とを一枚の地図上に配置することができる。 これらを通し、地域の記憶を点と面の両方で保存することが可能となる。 ## 4. おわりに 発表者が以前勤務していた東北大学学術資源研究公開センター史料館は、2011 年に施行された公文書等の管理に関する法律の「国立公文書館等」に指定され、大学の本部・部局において保存期間を満了した文書を評価選別した上で、特定歴史公文書として史料館に移管することを毎年行っている。このような 「国立公文書館等」に代表される組織アーカイブにおいては、文書の作成から保存・廃棄までのライフサイクルや、それらの記録を管理するレコード・マネジメントが機能しているといえる。地域においても、都道府県立・市町村立の公文書館が設立されていれば、少なくとも公文書については後世に記録を残される可能性が高いといえる。 一方で、地域の景観やそこに生きる人々の 「記憶」は、その対象が膨大であるがゆえに、組織アーカイブで行われているようなレコー ド・マネジメントを構築することは難しい。 しかし、授業を年単位で実施している大学の授業を活用すれば、地域の「記憶」を網羅的に収集・保存することは難しいにしても、定例的に地域の「記憶」を収集するシステムを構築することは可能なのではないだろうか。 ## 参考文献 [1] 佐藤琴, 小幡圭祐, 堀井洋, 小川歩美.継続的に稼㗢するデジタルアーカイブをつくりたい最弱の大学博物館の無謀な取り組み. デジタルアーカイブ学会誌. 2021.5(S2), p.S146p.S149. [2] 山形大学附属博物館. 三浦新七関連絵葉書 -Shinshichi Miura Postcards. 2022. https://cherry.yum-archives.net/miura/ (参照 2022-9-22). [3] 小幡圭祐. 山形県の県都を建設したのは三島通庸か? それとも薄井龍之か? . 山形史学研究. 2021, 49, p.13-33. [4] 橋爪孝介. 地域の記憶の収集・継承・活用に関する調査研究.市政研究うつのみや.2021, 17 , p.75-80. [5] 兼子純, 杉野弘明, 大石貴之. 都市の土地利用図作成におけるデータベースの構築一一大学院の野外実験の実践を通じて. 地域研究年報. 2011, 33, p.213-221. [6] 兼子純, 山元貴継, 橋本暁子, 李虎相,山下亜紀郎, 駒木伸比古, 全志英. 韓国地方都市の中心商業地における店舗構成の変化一一釜山大都市圏・梁山市を事例として. 都市地理学. 2019, 14, p.76-88. [7] 橋本暁子, 全志英, 駒木伸比古, 山元貴継, 山下亜紀郎, 兼子純, 李虎相. 韓国の地方都市における商業地域の調査方法と土地利用のデータベース化. 地理空間.2017, 10, p.236-246. [8] 兼子純, 山下亜紀郎, 宮坂和人. 大学教育における土地利用調査と分析の試み一一筑波大学生命環境学群地球学類「人文地理学地誌学実験」の事例. 人文地理学研究. 2014 , 34, p.143-154.
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# [A1]京都国立博物館における記録資料の整理と課題 メタ文化財情報アーカイブズ構築に向けて ○西村由希子 1), 羽田聡 1), 三島貴雄 1), 近藤無滴 1), 後藤真 2) 1)京都国立博物館, $\mathbf{\top} 605-0931$ 京都市東山区茶屋町 527 2)国立歴史民俗博物館,〒285-8502 千葉県佐倉市城内町 117 E-mail: nishimura-y7g@nich.go.jp ## The Organization of Archival Materials and Related Issues at the Kyoto National Museum: Toward the Creation and Digitization of an Archive of MetaInformation Relating to the History and Handling of Cultural Properties NISHIMURA Yukiko ${ }^{1)}$, HADA Satoshi ${ }^{11}$, MISHIMA Takao ${ }^{1)}$, KONDO Muteki ${ }^{1)}$, GOTO Makoto ${ }^{2)}$ 1)Kyoto National Museum, 527 Chaya-cho, Higashiyama-ku Kyoto City 605-0931 Japan 2)National Museum of Japanese History, 117 Jonai-cho, Sakura City, Chiba Prefecture 285-8502 Japan ## 【発表概要】 本研究は、文化財に関わる情報をさらに豊かにすることでその価値を再発見するとともに、それらのデジタルアーカイブの高度活用に資するための「メタ文化財情報アーカイブズ」の構築手法を検討するものである。 メタ文化財情報とは、文化財のメタデータのうち、物質そのものの情報だけはなく、その歴史的変遷・来歴・取り扱いなど文化財の「扱われ方」を重視した概念として定義する。このメタ文化財情報のデータを構築するために、1889(明治 22)年の創設以降、京都国立博物館(以下、 「当館」という。)に多数集積された記録資料を活用する。 本研究では、現在ある文化財と記録資料とのリンクをはかるべく、以下のステップにて作業を進めている。1.全体像を把握するための資料整理、目録化。2.デジタル化、メタデータの検討。 3 .現在デジタル化されている文化財とのリンクモデル作成。今回は、本研究の前半部分を対象として、現状の報告と課題、今後の展望について発表する。 ## 1. はじめに 文化財に関する情報は、たとえば作成年代や材質など、文化財本体が持つもの以外に、周辺を構成する来歴や修理の記録といった 「扱われ方」をめぐるものまで、じつに多様である。後者のうち、前近代の情報について記されることは多いが、近代以降の特に博物館に収蔵されてからのそれは、修理の過程での新発見など特段の事情がない限り、言及されることは無いに等しい。また、これらの情報は、デジタルアーカイブなどのデータや、基本的な資料目録などで記述されることは決して多くはない。 そこで、1889(明治 22)年の創設以降、当館に集積された記録資料を見ると、文化財に関する周辺情報が記載されている。現在、文化財に関する情報は、収蔵品管理を目的としたシステム「文化財情報システム(以下、「システム」という。)」で一元的に管理しているが、これらの簿冊は紙媒体のため、記載内容のデータ化、メタ文化財情報の抽出が必要となる。 本発表では、上記研究の進捗として、メタ文化財情報の定義、メタ文化財情報の採取に至るまでの資料整理作業、資料を使ったメタ文化財情報の具体的事例に加え、課題と今後の展望について報告する。 ## 2.メタ文化財情報とは 前述の通り、本研究におけるメタ文化財情報とは、文化財の「扱われ方」そのものの概念として定義する。すると、当館に現存する 記録資料は、この点を知る最大にして最良のツールとなる。なぜなら、記録資料は人事や経理、土地や建物、展覧会に関する記録など、 いずれも博物館の活動に即して生成されたもので、当館の歴史を物語る情報だけではなく、文化財に関する情報も併せ持つからである。特に、文化財の作成年代や材質以外の「扱われ方」については、それらが展示された期間や、修理、貸出、写真撮影の依頼など、実に多様な記載が見られる。 現在、メタ文化財情報の一部は、システムに登録、管理されている。このシステムが運用されたのは、約 25 年前である。つまり、システム運用以前のメタ文化財情報は、フロッピーやテープ、あるいは紙媒体の記録になる。 また、当館でパソコンが業務に利用されたのは 1993 (平成 5)年以降であるため、電子媒体はほとんどなく、約 100 年近くの情報が紙媒体で記録されていると推測される。 こうした状況に鑑みて、本研究では、これら記録資料の整理、目録化、デジタル化を行っている。デジタル化によって、文化財と紐づけるだけではなく、一元的に情報を管理し、検索可能な状態にすることができる。ただし、記録資料は未整理状態に近く、どの場所に、 どのような資料が、どれだけあるかの全体把握が必要となった。そのため、まずは資料の整理作業に取り掛かった。 ## 3. 資料整理作業、目録化、デジタル化 前述の通り、本研究の対象とする記録資料は、当館の歴史を物語る情報を持ちながら、文化財に関する情報も包含する。そのため、資料の多くが、「独立行政法人国立文化財機構法人文書保存期間基準」の「当館にとって重要な資料である」という理由で永年保存の対象となる予定の文書である。 これらの資料は、1997 年発行の『京都国立博物館百年史』(以下、『百年史』という。) [1]編纂事業過程において、一部は番号が付与され、記載が『百年史』に引用されるなど、整理が行われた。この百年史編纂における作業の後行われた建物(平成知新館)の建て替 え工事などによって、現在、資料は書類保管庫など、数箇所に分散していることが判明した。これらの中には、『百年史』編纂時点では、把握されていなかった資料も含まれる。 資料の整理作業と並行して、同じく帝国博物館として設置され、同様の簿冊を所持している、東京国立博物館、奈良国立博物館に七アリングを行った。両館は記録資料に関する研究を報告しており、資料の整理、目録化、 デジタル化において参考にした[2]、[3]。 続いて、具体的な整理作業について述べる。資料番号は、現状の配架場所に従い付与しているが、一部は『百年史』編纂時に付与された番号を活かしている。資料番号を付与して識別した資料については、基本は番号を記載した付箋を挟んでいる。保存措置が必要な一部の資料は、破損の拡大を防ぐため、中性紙封筒に収納、紙帙の作成などを行っている。 資料整理の過程で、資料の作成年代や種別がおおよそ判明した。資料は、帝国京都博物館(1889〈明治 22$\rangle$ 年 $1900\langle$ 明治 33$\rangle$ 年)、京都帝室博物館(1900 年 1924 〈大正 13〉年)、恩賜京都博物館(1924 年 1952 〈昭和 27〉年)、京都国立博物館(1952 年〜) の各時代において作成、蓄積されている。 資料の種別は、『列品録』に代表される簿冊から、展覧会や講演会の記録、古美術品輸出鑑査証明関係の資料、預証明経など多岐にわたる。これらは、文化財の調査、収集、保管、展示など、博物館の活動に基づいて作成されたものである。 また、資料の記載や形態から、目次(件名目録)が採取可能な資料(主に明治から昭和初期にかけての『列品録』に代表される和経じの簿冊)と、採取不可能な資料に分けることができたため、目録を 2 種類用意した。目録採取項目検討時には、 $\operatorname{ISAD}(\mathrm{G})$ を一部参照しているが、資料の内容、形態から適宜、項目を新たに追加した。 項目は、記述レベル、簿冊や編纂に関する各情報、件名、整理過程などがある。目録採取時に異体字など、常用漢字以外の文字については、見たままの入力を行っている。 これらの作業に加え、資料のデジタル化も並行して行っており、内製可能なものは館内で試行し、簿冊形態の資料は、順次、外注している。 ## 4.メタ文化財情報の具体的事例 対象とする記録資料の、どの記載がメタ文化財情報となり、その他の情報と結びつくのか、件名目録採取可能な資料から具体例を挙げる。なお、記録資料内に記載のある文化財と、当館収蔵品の同定には、紙媒体で保管している作品台帳とシステムを用いた。 記録資料の中には、簿冊に綴じられている号数の内容を端的に表現した件名が、目次に相当する部分や、それぞれの案件の前に内表紙として記載されている。今回扱う『列品録十九摸冩摸造撮影等ノ部』(明治 35 年〜明治 37 年)には、第六號(一二七號の件名が収録)、第七號 (一一七號の件名が収録)、第八號(一一○號の件名が収録)の合計 3 號 54 件が綴じられている。 『列品録十九』第六號第二七號(図 1) 「高山寺外十六ケ寺寄託什寶藥師如來像外二十四點竝樂吉左衞門出品樂燒獅子一個 7 國華社員參館撮影ノ件」 図 1.『列品録十九』第六號第二七號承諾書 一、楽焼獅子一箇 計壱点 右八、国華社発行之雑誌国華一揭載之義、差支無之候条、撮影願出候節八、宜敷御取計可被成下候也、 三十五年十一月樂吉左衛門(印) 京都帝室博物館御中國華社員が当館に、高山寺など十六の寺院からの寄託品、薬師如来坐像など二十四点と、樂吉左衞門が出品の「樂燒獅子一個」について、所有者の承諾書を添えて撮影の申請をした、という内容である。樂燒獅子については、収蔵品における同定はできなかったが、承諾書欄外の「明治三十五年十二月十九日撮影済」 という朱書きから、撮影日を特定することができた。また、撮影した後の動きとして、この案件に関しては、『國華』への掲載が挿図から判明している(図 2)、[4]。 図 2.挿圖解說樂長次郎獅子置物 『列品録十九』第六號第一二號(図 3) 「源氏五十四帖物語圖縮寫方願出ノ件」 図 3.『列品録十九』第六號第一二號御願書 一、源氏五拾四帖物語図 右者、絵画為研究、縮図致度候間、 今廿一日ヨリ廿三日迄三日間、御許可被成下度、此段願出候也、京都市下京区本町通十丁目拾七番戸 明治三十五年五月廿一日谷川直田(印) (朱書) 「廿一・二・三ノ三日間ヲ以テ縮図撮影結了」 前述の獅子と異なり、本記載の作品は収蔵品と同定することができた。この作品は、当館公式ウェブサイトで公開している「館蔵品データベース」の「源氏物語絵色紙帖絵土佐光吉筆詞後陽成天皇他 21 筆」に該当する[5]。 ただし、画像利用や特別観覧の情報をシステムで確認したが、『列品録』の記載に該当する情報は登録されていなかった。 また、作品台帳を確認したところ、修理記録が見つかったが、この記録もシステムに登録されていなかった。なお、館内外での展示、 および貸出履歴は他作品同様、2011 年より前の記録はシステムに登録されておらず、紙媒体で辿るしかない。記録資料を確認することで、さらなるメタ文化財情報の取得が見込まれる。 この作品の受入日をシステムや作品台帳で確認すると、京都市から再度国に移管された 「1952/04/01」であるが、『列品録』では、明治 24 年 2 月であることが確認できる。 なお、申請者である谷川直田について調べたところ、大正三年度改正第三十八號「大日本繪画著名大見立」に同名の記載がある。住所は異なるが、同一人物の可能性が高い[6]。 現在、整理、目録化が完了した資料は全体の 1 割にも満たないため、今後、残りの資料について作業を進める中で、さらなるメタ文化財情報を採取できると思われる。これらを蓄積し、一元的に管理し、検索可能な形にするためにもデジタルアーカイブを用意する必要がある。 ## 5. おわりに これまでの作業を通じて、以下 4 点の検討が課題として挙げられる。1.効率的なメタ文化財情報の抽出方法ならびに実作業。2.文化財とメタ文化財情報を紐づけるためのデジタルアーカイブに登録する項目。3.デジタルア一カイブ本体の構築。4.記録資料は機密情報 を含むため、デジタルアーカイブの公開方法。 これらの記録資料の高度活用により、「現在に至るまでの歴史的変遷の情報を含むメタ文化財情報」の提供が可能となり、文化財の保存という面では、修理における判断材料の提供、活用という面では、二次利用などのレフアレンス対応の軽減、文化財に関する諸研究、 ひいては文化財政策へ大きく貢献するものとなる。 ## 謝辞 本研究は、科学研究費補助金をうけ実施している基盤研究(B)「博物館史資料アーカイブズを活用したメタ文化財情報構築の検討」(課題番号 21H03778)による成果の一部である。 見学を受け入れてくださった、奈良国立博物館、東京国立博物館、京都国立近代美術館のご担当者様には厚く御礼を申し上げる。 ## 参考文献 [1] 京都国立博物館. 京都国立博物館百年史.便利堂, 1997. [2] 基礎研究(A)「博物館における文化財の情報資源化に関する研究」(課題番号 26242022) [3] 宮崎幹子. 日本美術院彫刻等修理記録の整理とデータベース構築:文化財アーカイブズのあり方をめぐって. アート・ドキュメンテ一ション研究. 2015,22 , p. 15-25 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jads/22/0/ 22_15/_pdf/-char/ja (参照 2022-09-21). [4] 挿圖解說, 樂長次郎作獅子置物. 國華. 1904, vol. 171, p. 45-46. [5] “館蔵品情報源氏物語絵色紙帖絵土佐光吉筆詞後陽成天皇他 21 筆”. 京都国立博物館館蔵品データベース. https://syuweb.kyohaku.go.jp/ibmuseum_public/i ndex.php?app=shiryo\&mode $=$ detail\&list_id $=370$ 5600\&data_id=595 (参照 2022-09-21). [6] “大日本絵画著名大見立_807036”. 東京文化財研究所明治大正期書画家番付データベース https://www.tobunken.go.jp/materials/bandu ke/807036.html (参照 2022-09-22). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [36]絣のデジタルアーカイブ構築に向けた取り組みに 関する報告: 現状に至る取り組みと構想 ○江口久美 1 ),須藤竜之介 ${ }^{2}$ ,布施健吾 1 ),鹿野雄一 1),久保裕貴 $\left.{ }^{3}})$ 1) 九州オープンユニバーシティ, $\overline{\mathrm{T}} 819-0395$ 福岡県福岡市西区元岡 744 九州大学伊都キャン パス内ウエスト 1 号館 D-310 2) 九州大学, 3) 感性 AI 株式会社 E-mail: kumi.eguchi0122@gmail.com ## Report on Efforts to Build a Digital Archive of Ikat: Initiatives and Concepts Leading to Current Status EGUCHI Kumi ${ }^{11}$, SUDO Ryunosuke ${ }^{2}$, , FUSE Kengo ${ }^{1)}$, KANO Yuichi1 ${ }^{1}$, KUBO Yuki ${ }^{3}$ ) 1) Kyushu Open University, D-310, West1 Building, Ito Campus, Kyushu University, 744, Motooka, Nishi-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 819-0395 Japan 2) Kyushu University, ${ }^{3)}$ Kansei AI Co., Ltd. ## 【発表概要】 絣は 8 世紀頃にインドで発祥した後、インド人の植民やヒンドゥー教・仏教に付随して東南アジア方面に伝播した伝統工芸の織物である。15 世紀頃にジャワから琉球に絣が伝播した後、日本三大絣産地(久留米、備後、伊予)においても江戸時代後期から流行が起こった。また、ヨー ロッパや中南米にも絣は伝播した。しかしながら、絣は世界的に衰退の危機に瀕している。本発表は、世界的な伝統工芸である『絣』の紋様に関する総合情報をオンラインでデジタルアーカイブとして公開する取り組みに向けた報告である。デジタルアーカイブ構築の手法として、生物学の手法に基づき、世界各地の生地見本帖から主要な絣のパターンを収集し、紋様の最小単位(モチーフ)を抽出し、データベース化する。また、研究者、教育現場(小学校から大学)、地場の伝統工芸に興味を持つ一般の方々、各織元の職人、布を扱うアパレルメーカーまで幅広いユーザ一の利用を想定している。 ## 1. はじめに 絣とは、「経(たて)糸か緯(よこ)糸、 あるいは双方の糸を染め分けて絣糸(まだらに染めた糸) をつくり、この絣糸で柄をあらわしながら織り上げた」伝統工芸の織物である[1]。絣は経糸または緯糸のみを染め分けた経絣、緯絣、双方の糸を染め分けた経緯 (たてよこ)絣が存在する[2](図 1)。このような絣文化は 8 世紀頃にインドで発祥し世界中に伝播したものであるが、世界的に衰退の危機に瀕している[3]。 発表者らは 2017 年度の九州大学 $Q R$ プログラムによる「絣文化の評価に関する学際的研究」についての研究助成以降現在まで、筑後地区および広川地区(福岡県筑後市及び八女郡広川町周辺)に現存する久留米絣協同組合所属の織元やフランス、インド、メキシコ等において調査を行なってきた[4]。本発表は、世界的な伝統工芸である『絣』 図 1 久留米絣の経絣(発表者撮影・下川織物所蔵) の紋様に関する総合情報をオンラインでデジタルアーカイブとして公開する取り組みに向けた報告である。 ## 2. 絣の伝播の歴史と現況 絣はインドで発祥した後、インド人の植民やヒンドゥー教・仏教に付随して東南アジア方面に伝播した(図 2)[5]。日本に絣文化が 伝えられるきっかけとなった琉球には、15 世紀頃にジャワから絣が伝播した。その後、日本三大絣産地(久留米、備後、伊予)において江戸時代後期から流行が起こった。また、 イスラムを通じて 10 世紀頃に絣が伝播したヨーロッパにおいて、フランスでは 18 世紀頃に宮廷文化としてシネ・ア・ラ・ブランシユ(chiné à la branche) と呼ばれる絣がドレスの素材として流行した。中南米方面には、16 世紀頃にスペイン人によりアジアからの交易品として絣が伝えられた。現在でもメキシコにおけるレボソ (Rebozo)や、グアテマラなどに伝統工芸として絣文化が残されている [6]。 日本には経絣、緯絣、経緯絣が現存している。経緯絣の製作には高度な技術が必要とされ、その存在は現在のところ、日本の他にはインドネシア・バリ島におけるグリンシンなど、世界でも数力所においてのみ確認されている。 以上のように世界中に広く伝播した絣であるが、その文化は衰退の危機に瀕している。例えば、現在の日本を代表する久留米絣を例に取っても、昭和初期の最盛期には年間 220 図 2 岡村吉右衛門の構成による絣の伝播主要ルート想定図(出典:文献 2) 表 1 久留米絣の分類情報及び織元への聞き取り情報の一例 図 3 英語版ウェブサイトのイメージ(テキスト検索) 図 4 ウェブサイトのイメージ(テキスト検索) 図 5 ウェブサイトのイメージ(地図検索)(出典 : 久留米絣共同組合 HP を元に発表者作成) 万反の生産量を誇っていたが、その後減少を続けている[7]。 ## 3. 絣のデジタルアーカイブ構想 ## 3. 1 デジタルアーカイブの概要 デジタルアーカイブ構築の手法として、生物学の手法に基づき、世界各地の生地見本帖から主要な絣のパターンを収集し、紋様の最小単位(モチーフ)を抽出し、データベース化する。アーカイブのデータについては、例えば日本の絣では、各紋様について、反物に対する図案の最小単位である 1 絵紙分(約 38 センチ $\times$ 約 24 センチ)の画像、紋様の最小単位の画像、分類情報、織元への聞き取り情報(表 1)が付随する。画像は、生物学的記録手法に基づき、シンボルのサイズおよび色を確定させるため、スケールと画像補正用力ラーチャートも共に撮影される。さらに、推定される伝播経路上に時間軸も考慮しながら位置付け、アーカイブを作成する。アーカイブの対象地は、日本三大絣産地 (久留米、備後、伊予)、沖縄 (琉球)、フランス、メキシコ及び、インドで発祥した後、東南アジアに広まった絣の伝統的な形態が残された主要な産地としてカンボジアを予定している。 なお、紋様数について、久留米絣の 1 織元あたりでは、約 300 種類、サンプルブックも含めると約 1,000 種類であり、括り技法に基づいた経絣、緯絣および経緯絣に限定した場合でも約 500 種類に及ぶことが分かっている。 また、ウェブサイトのシステムは、鹿野雄一により管理・作成されている日本をはじめモンスーンアジアの淡水魚および淡水生物等に関する既存の生物多様性総合データベース (http://ffish.asia)のシステムに基づいて構築することを想定している。ウェブサイトは、 World Wide Web で最も一般的な文字エンコ ーディングである UTF-8 で記述され、検索機能を持っており、難読漢字による紋様名称や技法および英語(アルファベット)での検索にも対応する (図 3)。テキスト検索と地図検索に対応しており、テキスト検索ではキ ーワード検索および年代別などの詳細検索が可能であり、画像と文献情報が付記され、ポップアップで聞き取り情報が表示される(図 4)。地図検索では、織元別の主要な情報がポ ップアップで表示されるほか、キーワードおよび詳細検索ができる(図 5)。データベー ス構築後は、全国の大学の学術情報データベ一スとの連携を目指す。 ## 3. 2 データベース化する対象と項目 データベース化する対象は、主に、絣の紋様の類型化と、聞き取り情報を含む類型化された各紋様の分布情報である。また、下記のように体系化された各項目の情報が追記される。 1レコード当たりの具体的なデータ項目について、番号、紋様の収集場所、紋様のある絣の布の状態が付記される。これらのレコー ドは、 5 つのサブデータベース、すなわち環境のサブデータベース(織元名・住所・日時)、メディアファイルのサブデータベース (画像)、紋様分類のサブデータベース(年代・経、緯または経緯の別・色名・紋様名称 (シンボル名))、聞き取り情報のサブデータベース (染料・由来・糸・技法)、文献のサブデータベース(著者、年、タイトル、ソース、 DOI)と連携され、重層的な情報のデータベ一スとなる。また、データベースの久留米絣共同組合ウェブサイト、国立国会図書館デジタルコレクション、国際日本文化研究センタ一のデータベースおよび文化財保護修復研究国際センター(ICCROM) との連携を目指す。 ## 3. 3 想定される利用対象者と利用内容 研究者、教育現場 (小学校から大学)、一般の方々、各織元の職人、アパレルメーカーまで幅広いユーザーの利用を想定している。 研究者は現在、生地の紋様について参照したい場合、例えば吉岡らによる文献等の希少書を参照する必要がある[8]。同文献には実際の絣の生地見本が添付されているものの、見本は 97 点に限られており、また、120 部限定の出版であるため、入手が非常に困難である。更に、所蔵する図書館も数が限られている。 または、各織元で継承されている紋様の裂地 (サンプル)を集めた、縞帳または生地見本帳と呼ばれる古いサンプル帳が民間のオークションサイトに出品されていることがあるが、 これらを多数収集し、紋様の全体像を把握することは困難である。また、こうしたサンプ ルは、各織元に所蔵されているが、公開されておらず、アクセスすることが困難である更に、文献、生地見本帳などに揭載されている紋様には、説明として産地程度の記述しかないため、年代やどのような技法で製作されたのか等の付随する情報を知ることはほとんど不可能である。本データベースは、画像と紐づけられた情報が掲載されているため、研究者のデーターのアクセスを容易にし文化の全体像の把握を可能にするため、有用であろう。 また、地域の小学校から大学への教育現場では、小学校で緯絣の製作体験の授業が行われるなど、地域の文化資源を知り、活用を進めるための活動が行われている。このような教育現場で、本データベースは、紋様の「図鑑」として文化に親しむことを促進することができると考えられる。更に、久留米絣の文化に興味を持つ一般の方々に対し、「図鑑」としての本データベースは、伝統工芸への興味をより引き出すことができると考えられる。 更に、各織元の職人の生地見本帳のアーカイブとして活用されることが考えられる。各織元にはこれまでに製作された紋様がサンプルの布により保存されているが、歴史が長い織元が多く、職人にとっても、全体像を把握することは困難である。本データベースは、各織元のアーカイブとして活用されることで、 デザイン分野における AI の深層学習やビックデータへの適用も可能であると考えられる。 最後に、織元と布を扱うアパレルメーカー を繋ぎ、産業の発展に貢献できることが可能であると考えられる。すなわち、織元が布を販売する際に、生地見本帳を直接見せずに済むため、受注に利便性が出せ、地域産業の外部からの発注を促進することができる。 ## 4. おわりに 衰退の危機に瀕している無形文化遺産であ る絣について、生物学の手法に基づいたオー プンなアーカイブ作成を行うことで、無形文化の記録ツールとして新たな手法を提示することができると考えている。さらに、全体像を把握することが困難な無形文化である絣について、各織元の垣根を超えて全体像を可視化することできる。また、非構造化データである無形文化である絣の情報について、デジタルアーカイブ化を通じて構造化データ化することができるため、情報としての活用可能性を広げ、知識循環型社会の構築を目指すことができる。また、アーカイブ化された絣デザインの $\mathrm{AI} への$ 応用を目指したいと考えている。 ## 参考文献 [1] 中江克己. 日本の伝統染織事典. 東京堂出版, 2013, 191-200p. [2] 江口久美. 文化伝播の経糸と緯糸一絣 (かすり)織り文化の世界史における伝播経路. 稲賀繁美編「映しと移ろい文化伝播の器と蝕変の実相」. 花鳥社, 2019, 117-129p. [3] 江口久美.久保裕貴.須藤竜之介. 布施健吾.岡本真祐子. 絣紋様の単位分類に関する一考察. 天然の色一天然染料顔料会議報告 2017. 2018, 95-104p. [4] 須藤竜之介. 江口久美. テキスタイルのグラフィックの文化差に対するネイティブの弁別力の検討:インドにおける絣を対象とした事例. 決断科学 8 号. 2021, 37-52p. [5] 岡村吉右衛門. 世界の絣. 染織の美初夏. 1984, 40-88p. [6] 岡村吉右衛門. 世界の絣について。『絣の道』, 毎日新聞社, $1984,171-178$ p. [7] 財団法人伝統的工芸品産業振興協会. 平成 17 年度伝統的工芸品産地調査診断事業報告書一久留米絣一. 財団法人伝統的工芸品産業振興協会, 2006, 3-6p. [8] 吉岡常雄・吉本忍. 裂地集世界の絣. 紫紅社, 1975. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [35] 芷標本のデジタルアーカイブ化とジャパンサーチ 公開: 自然史・人文学の分野横断を目指して ○齊藤有里加 1 ), 堀井洋 2 ), 小川歩美 2 ), 横山岳 1), 金子敬一 1) 1)東京農工大学,〒184-8588 東京都小金井市中町 2-24-16 2) 合同会社 AMANE E-mail: yusaito@cc.tuat.ac.jp ## Digital Archiving of Cocoon Specimens and Publication of Japan Search: Aiming at Cross-disciplinary of Natural Sciences and ## Humanities SAITO Yurika ${ }^{1)}$, HORII Hiroshi2 ${ }^{2}$, OGAWA Ayumi2), YOKOYAMA Takeshi1), KANEKO Keiichi ${ }^{11}$ 1) Tokyo University of Agriculture and Technology, 2-24-16 Nakacho Koganei-shi, Tokyo 1848588, Japan 2) AMANE.LLC, Ro8, Yamada, Nomi, Ishikawa Japan 923-1241 ## 【発表概要】 本報告では、虫糸業の品種改良に用いられた「薢標本」のデジタルアーカイブとジャパンサー チへの公開例について報告する。自然科学、人文科学双方の領域にまたがる博物館コレクションは、資料の所在が認知されず十分に活用されない課題があった。東京農工大学科学博物館に所蔵する「藩標本」は中央教育研究機関であった東京虫業講習所が品種改良研究と教育に用いた資料標本である。本資料を自然史資料と人文学資料の横断型資料と位置付け、デジタル化とジャパンサーチへの公開を行った。自然史資料の人文科学的視点でのアーカイブにおける課題の抽出と、横断型ポータル公開の効果について考察する。 ## 1. はじめに 令和 4 年 4 月に博物館法の一部を改正する法律が成立し、博物館の事業に博物館資料のデジタル・アーカイブ化が追加された[1]。収蔵資料のデジタル化によって、博物館の領域、規模を超えた博物館の横断的資料の活用が期待されている。2020 年 8 月に正式版が公開された「ジャパンサーチ」では、自然史資料と人文科学資料双方の横断検索が可能になり 図 1. 藏標本 (東京農工大学科学博物館蔵) つつある[2]。 一方で、属性をまたぐ資料の公開には、デジタル化の過程で多くの課題が発生することが想定される。 本報告では、自然史資料と人文科学資料双方にかかる資料として、東京農工大学科学博物館に所蔵する「蕃標本」資料を取り上げその公開における課題抽出と、公開への効果について考察を行う。 ## 2. 対象資料とデジタル化の方法 ## 2. 1 芷標本 本資料は東京農工大学科学博物館所蔵、東京虫業講習所 - 東京高等虫糸学校由来。明治 $30 ( 1897 )$ 年〜昭和 30(1955)年までの虫業講習所~東京高等虫糸学校由来藩標本資料であり、約 360 点存在する(図 1)。蕿が標本化される理由は、養虫で生産した蔧を器械製 糸によって生糸にする際に、その莿の品質の向上と均質化が重要であり、適した藏が品種改良されていった背景がある。また、蛋は品種改良技術を背景に遺伝学・生理学・病理学など各方面でのモデル昆虫として発達し、各種の実験に応用されていった。本標本群は、虫 Bombyx mori の海外 - 国内の地域虫品種、交雑に用いる原虫種およびその交雑種である実用蚕品種の家蚕の藏であり、ラベルには 「本校産」と記され、品種改良実験 - 教育に用いていたことが分かる。また、虫以外の種である野虫の蘭も収集されていた。これら明治・大正期の西ヶ原時代の「陳列室」にて一般に展示公開され、関東大震災以降は小金井キャンパスに移動し「標本室」を経て博物館に保管された。明治期中央教育研究機関由来の標本でありながら、長く工学部所属の資料であったことなどから、藏標本の学術資料価値の認知度は低い。 当館資料のほか、国内藏標本は文化財に資料が確認される。(1)伊達の蚕種製造及び養蚕・製系関連用具(伊達市: 国重要有形民俗文化財) 、(2)藤本虫種株式会社㶓標本(上田市:市指定有形民俗文化財)、(3)蔹の標本(豊田市:市指定有形民俗文化財)。いずれも蚕種業者、試験場由来の標本であり、品種改良の記録や、共進会へ出品されていたと考元られる。 ## 2.2 自然史資料としての荿標本の課題 䉾標本は、昆虫標本の一形態であるが、自然史資料としての活用にはいくつかの課題がある。 藏は、虫自身ではなく蛹を取り囲む形成物である。また、虫品種は Bombyx mori 1 種の変異によるものであり、野外生物ではなく家畜昆虫である。近年、古標本の遺伝解析など、 ミュゼオミクス (museomics) 的視点での研究アプローチが盛んだが、蓄からDNAの抽出は困難である[3]。 また、GBIF など自然史資料としての登録を想定しても、自然資料のデータベースの基本的な分類基準は「種」であり、分類スケー ルの相違が課題となる[4]。農業環境資源のインベントリーとして目を向けると、土壌や、菌類などの明治期以降農商務省が収集してきた標本類は、「農業環境インベントリー」としてデータベースの構築が行われている[5]。この中には、昆虫標本も含まれるが、藏標本は先述の理由からアーカイブ対象として登録が難しいと推測する。また、蚕の遺伝資源の継承には九州大学がナショナルバイオリソースプロジェクト (NBRP) として、生体を系統保存し 750 系統が保存されている[6]。 これらの点は、藏標本を自然史資料と並行して取り扱う難しさを示していると言える。 そこで我々は、粕標本に付帯する情報を人文科学資料としてのメタデータをべースに整備し、自然史資料としても横断検索が可能な 「ジャパンサーチ」に公開することで、双方の領域の検索者からもアプローチしやすくなることを目指した。 ## 2. 3 デジタル化の手順 デジタル化の手順については、当館において先行する虫織錦絵コレクションに基づき進行した[7]。アーカイブシステムには Omeka $\mathrm{S}[8]$ を、IIIF 規格に基づいた画像公開環境 (イメージサーバ)については IIPImage Server を用いて構築し、IIIF マニフェストフアイルの共有などジャパンサーチとの連携を実現した。 資料撮影は吹きガラス瓶や、小型ケースなど特徴的な形状で収められている䔞標本の資料特性を配慮し、容器全体像並びに、容器から資料 1 点を取り出し、䔞単体での撮影を行なった (容器の劣化のあるものは省略)。さら 図2. 䔞標本の撮影 に、IIIF ビューワーを介した資料画像閲覧環境を提供することにより、高解像な資料画像をWeb ブラウザー上で表示することが可能となった。これにより、(1)標本の概観 (2)ラベル情報(3)各品種の細部確認が可能となった。 ## 3. デジタル化における課題 今回の䔞標本の自然科学、人文科学横断を想定したメタデータの整備の過程において、 いくつかの課題を確認した。 1つ目は自然史資料のデータ項目と、人文科学資料の項目の相違である。一般的に自然史資料のラベル記載には(1)種名(2)採集者(3)採集日(4)採集場所が記録される。この記載規則に沿ってメタデータの記載を作った場合、(1) は全てカイコ:Bombyx mori、(2)は飼育者もしくは当該施設、(3)は上蔟日(蚕が䔞になった日)(4)飼育場所となる。そのため、記載事項はほぼ全て同一化し、品種名は備考または亜種以下の表記として記載することとなる。菠標本メタデータの作成においては、博物館全体のデータに準拠し、(1)タイトル(2)内容記述(3)公開者としている。そのため、(1)タイトル:藏標本(2)内容記述昭和 24 年 8 月, 夏秋虫,日光 $\times$ 万華, 昭栄製系(3)公開者: 東京農工大学科学博物館のように記載される。 2 点目の課題は、メタデータの制作が、博物館の台帳に記載されている表題に準拠して記載され、そのままジャパンサーチ上の画面に表記される点である。ローカルサイト上では画像データの下に、タイトル名、記載事項が表示されるため、品種名、年代を確認することができる。一方、連結するジャパンサー チ上に掲載された際は、全てタイトル表記「藏標本」として表示される。 書誌情報と異なり、標本資料は台帳上の資料の情報の粒度によって、タイトルが同一となる場合がある。この際、元台帳に手を加えて整備をすべきか、検討課題となった。 ## 4. おわりに 絊標本の横断型ポータル公開の効果前述のように、データ公開上のメタデータの整備についての課題はあるが、藏標本資料は、自然科学資料と人文科学資料を跨ぐ資料であり、横断型のポータルに公開する意義は大きい。藏標本資料画像を用いて、各虫品種名と実物を照らし合わせることができ、各地の歴史博物館が収蔵している養蚕関連資料の解析の手がかりとして有効である。例えば、虫業者によって流通された「種紙」には産み付けた卵の産卵日、品種が掲載されている。記載された品種の検索により、どのような形態の藏を取り扱っていたのか、確認することができる。また、各地の神社に奉納されている「藩額」は養虫の成功を願って、虫品種が奉納されている。これらの藩標本には、思わ女地域品種が含まれていることもあり、地域信仰とのつながりや在来の養虫技術を知る手がかりとなる情報が含まれている可能性がある。また、地域資料からの思わぬ古品種の確認は、虫品種の系統解析においても新たな発見をもたらす可能性もある。今後、当館資料を手がかりに古い虫品種をたどり、現在の養蚕復興と結びつけるなど、地域資源を活用する上での手がかりとして活用が進むことを期待している。 ## 謝辞 本デジタル公開は東京農工大学科学博物館と合同会社 AMANE との連携協定事業の一環として実施した。東京農工大学科学博物館デジタルアーカイブサイトのデザインについては上田咲子氏に尽力いただき、実資料の整備においては石田朋子氏の協力を得た。心より御礼申し上げる。 ## 参考文献 [1]博物館法の一部を改正する法律案.文部科学省. https://www.mext.go.jp/b_menu/houan /an/detail/mext_00022.html (参照 2021-0514). [2] ジャパンサーチ. https://jpsearch.go.jp/ (参照 2021-05-14). [3] 伊藤元己. ミュゼオミクス:博物館とバイ オインフォマティックスのクロスロード(特集博物館の標本情報を活用するミュゼオミクス:過去の生物多様性を観る・測る). 生物の科学遺伝. 71 (5), 438-441, 2017-09. [4] GBIF. https://www.gbif.org/ja/ (参照 20 21-05-14). [5]農業環境インベントリーセンターhttps://w ww.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/div/invent_ ctr.html (参照 2021-05-14). [6]伴野豊. 九州大学におけるカイコ系統保存.虫系・昆虫バイオテック 87(1), 2018. [7] 齊藤有里加, 堀井洋, 堀井美里, 小川歩美. [62] ジャパンサーチを利用した大学博物館所蔵の学術資料公開:~虫糸学術資料「虫織錦絵コレクション」を事例として〜.デジタルアーカイブ学会誌. 4(s1), s77-s79, 2020. [8]omeka. https://omeka.org (参照 2021-0517). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [34] 自然史博物館における「標本画」の保存とデジタ ルアーカイブ: ## 新たな価値の創出と活用に向けて 大坪奏 11 1) 神奈川県立生命の星・地球博物館, 〒 250-0031 小田原市入生田 499 E-mail:kanade@nh.kanagawa-museum.jp ## Preservation and digital archiving of scientific illustrations in natural history museum: ## For additional value and utilization OTSUBO Kanade1) 1) Kanagawa Prefectural Museum of Natural History, 499 Iryuda, Odawara, Kanagawa 250- 0031, Japan ## 【発表概要】 神奈川県立生命の星・地球博物館が収蔵する標本画のデジタルアーカイブの取り組みについて報告する。ここで対象とする標本画とは、生物の分類学的な特徴をとらえ科学的に表現した図画を指す。本資料は、明治〜昭和期の菌類学者が、調査研究の過程で採集した菌類(きのこ)を新鮮なうちにスケッチした彩色細密画である。この資料について、デジタル画像の取得、メタデー タの整備等のほかに、学術関連情報の調査とデータの追加を行うことで、学術資料として利活用可能なデータベースの作成を試みた。自然史標本で必須とされる標本データ(採集日・採集場所) や、標本画が掲載された出版物(図鑑や論文)、標本画のモデルとなった実物標本の所在、現在の学術的知見に照らした再同定結果を備えることで、学術資源としての新たな価値を創出することを目指している。 ## 1. はじめに 自然史博物館では、自然史標本を対象として資料収集や調查・研究を行うが、ときに標本ではないさまざまな学術資料を扱うことがある。たとえば、過去の著名な研究者が収集・作成した学術資料が標本とともに本人や遺族から寄贈される。文献、写真フィルム、調査記録、書簡など、素材や内容が多種多様で量も膨大なことが多い。神奈川県立生命の星・地球博物館には、そうした学術資料群が多分野にわたり収蔵されている。 本発表で取り上げる標本画は、その中の代表的な資料群であり、資料的価値は場合によっては標本に引けを取らないが、自然史博物館が通常扱っている動物・植物標本などとは由来も素材も根本的に異なるため、収蔵方法やデータ管理方法、活用方法が定型化していない。本研究では標本画の活用を見据え、デジタル画像やメタデータの整備のほかに学術関連情報を追加することで、学術資源として新たな付加価値を持つデータベースの構築を試みた。 ## 2. 対象資料 2. 1 標本画とは ここで言う標本画[1]とは、学術的知識にもとづいた慎重な観察により、生物の分類学的な特徵をとらえ科学的に表現された図画を指す。生物画や博物画といった類語もあるが、 ここではあえてその区別に言及しない。写真技術が発達していなかった明治〜昭和期には、調査研究の記録や伝達のために多くの図画が描かれた。研究者自身にも描く技術が求められ、また研究室には「画工」と呼ばれた一種の職業画家が配属されていた[2]。 生物標本は乾燥やホルマリン液浸などの保存処理によって、分類学上の特徴である色や形が変化してしまうため、標本画に描かれた採集時の形態情報はとくに重要である。 これまでに、所在不明だった基準標本(新 種発表時の証拠標本)が標本画に基づいて再発見された事例[3] や、失われた基準標本の代わりに標本画の図版そのものが基準標本に指定された事例[4]など、標本画をきっかけに分類学上の発見がなされることも多くあり、標本画をいつでも閲覧・利用できる状態で適切に管理することの重要性が指摘されている[5]。 ## 2.2 今關六也コレクション 本発表では、神奈川県立生命の星・地球博物館が収蔵する標本画から「今關六也菌類細密画コレクション」のデジタルアーカイブの取り組みについて報告する。発表者らはこれまで、菌学資料としての本資料の分析やその重要性について検討してきたが[6,7,8 ほか]、 ここではおもにデジタルアーカイブの構築について紹介する。 今關六也(1904~1991;以後、今関と表記) は、日本を代表する菌類学者の一人で、東京科学博物館 (現国立科学博物館)、農林省林業試験場(現森林総合研究所)を退官後は神奈川県に在住し、神奈川県立博物館(神奈川県立生命の星・地球博物館の前身)を拠点として後進の指導に当たった。標本、図画、書籍、写真、文献などの研究資料一式は自宅に残されていたが、遺族によって当館に寄贈された。 今回の対象資料は、調査研究の過程で採集した菌類(きのこ類)を、新鮮なうちにスケッチした図画約 600 枚である(図 1)。1930 年代から 1950 年代にかけて今関自身が描いたものが多いが、嘱託画家が描いたものや別の研究者から譲り受けた細密画も含まれる。透明水彩で小さめの紙に描かれており、その紙を種ごとに A3 サイズの台紙に貼り付けてある (図 2)。つまり、種は同じだが採集日や個体の異なる標本画が、 1 枚の台紙上に同居する形である。寄贈当初、台紙は分類群ごとに厚紙に挟み込まれアルファベット順に整理されていた(図 1)。これは植物標本や菌類標本の伝統的な管理方法に準拠したものと思われる。 本資料の特筆すべき点は、自然史標本で必須とされる採集年月日や採集場所などの標本 図 1. 今関六也コレクション菌類細密画. 図 2. 今関が新種として発表したきのこ (タマノリイグチ) の標本画.台紙に 2 枚の紙が貼付されている. データが付記されていること、当時の分類学者が持っていた種の認識や新種発表に至る検討の過程が文字として記されていること、新種発表論文や図鑑の図版として掲載されている場合があることなどである。また明治期の洋画家である佐久間文吾や昭和期のボタニカル・アートの先駆者である藤島淳三などが嘱託画家として見事な作品を残していることも注目に値する。 そのため、これらの情報を画像とともにデ 一タベース化し、さらに研究の進展とともにデータを追加することで、自然科学と人文科学双方に利活用できるデジタルアーカイブを構築できると考えた。 ## 3. データの整備と追加 ## 3. 1 メタデータの整備 以上をふまえ、標本画のデジタル画像を取得するとともに、標本画に付記された情報をすべて判読し項目ごとにデータを整備した。例えば、採集年月日や採集場所などを検索可能な状態にすることで標本データベースと同様に自然科学分野での活用が可能になる。また描画者のデータは人文科学分野からの利用を促進できるものと考えた。 ## 3. 2 データの追加 標本画に記された種名は現在の分類体系とは大きく異なる場合があり、そのままではデ一タベースとしての利便性に大きく支障が出る可能性が高いと考えられた。そのため、標本画ごとに最新の分類体系を確認し、一部については標本画をもとに専門家による再同定を行い[6]、その結果を追加した。 標本画はきのこが新鮮なうちに描く必要があるが、詳しい顕微鏡観察や証拠標本の確保のためには採集したきのこを乾燥して標本として保存する。標本画のモデルとなったきのこが、今関がかつて所属した研究機関に標本として残されていることを想定して訪問調査を行い[7]、一部の標本画については対となる実物標本のデータを追加した。また、標本画は今関が執筆した図鑑や論文の原図にも使われていたことから、その揭載資料を特定しデ一タを追加した。 ## 4. 資料保存とデータ利活用の課題 本資料は自然史資料としてのさまざまな情報を有している一方で、素材的にみると絵画としての資料保存を求められる。そのため、記されている情報はすべてデジタル化することで、資料自体にアクセスする機会を減らし資料の劣化を抑えている。中性紙保存箱を用いる等その時点で最善と考えられる手段をと表 1. 主なデータ項目 (抜粋) と入力例. 上段は標本画からの判読,下段は調査による追加データ. \\ ってはいるが自然史博物館での絵画資料の保存は常に手探り状態である。 データは現在、公開のための最終調整中である (一部公開済み)。描画者に今関以外の複数の画家が含まれることから著作権に配慮する必要があり、また個人名や採集地の公開にあたっても検討を要している。プラットフォ一ムには従来当館で用いている収蔵公開システムを利用して当館ウェブサイト上からアクセス可能だが、本来は分野横断的な資料であるため人文科学分野からもアクセスしやすい公開方法が望ましいと考える。 この取り組みは学術資料として利活用可能な標本画データベースの構築を目指したものである。今後も研究の進展とともにデータを追加する予定であり、データ項目の整備や効果的な公開・周知方法を検討していきたい。 ## 5. おわりに 博物館にゆかりのある研究者や市民愛好家の標本が寄贈される事例はよくあるが、標本だけでなく関連する学術資料をまるごと受贈することは、収蔵スペースや館の資料収集方針上難しい場合もある。しかし、上述したようにこれらは標本の単なる付属資料ではなく、自然史資料として重要な情報を有している場合がある。たとえば、失われた標本の代わり に標本画そのものが基準標本に指定された事例[4]は、まさに本資料の受け入れ後に分類学者の調査により得られた事実であり、資料を受贈していなければ得られなかった学術上の発見である。標本画とそのデータを誰もが利用可能な状態で保管することの重要性を示している。一方で、発表者ら自身も、標本画とともに受贈した多種多様な学術資料(フィルム、調査メモ、書簡等)をどのように管理し活用していくべきか明確な答えを持ち合わせていない。アーカイブ作業に携わる人的資源も予算も限られる中では、学術面・教育普及面での利益を生むアーカイブ資料の活用[9]を念頭に置き判断していくことが現実的かつ適切な方法と考えている。 本研究は JSPS 科研費 $16 \mathrm{~K} 16344$ の助成を受けた。 ## 参考文献 [1]川島逸郎. 標本画〜その伝えるものとは〜.自然科学のとびら. $2010,16(4)$, p.28-29. [2] 藏田愛子. 明治 10 年代の東京大学理学部と画工. 生物学史研究. 2016, 94, p.37-39. [3] 佐藤大樹ほか. 小林義雄博士により記載された Cordyceps のタイプ標本について一甲虫寄生菌- 日本菌学会第 54 回大会要旨集. [4] Neda, Hitoshi. Correct name for "nameko". Mycoscience. 2008, 49(1), p88-91. [5] 川島逸郎・渡辺恭平. “昆虫を描く〜昆虫学における標本画の意義とその技法〜”. 特別展生き物を描く〜サイエンスのための細密描画〜. 神奈川県立生命の星 - 地球博物館. 2015, p15-22. [6] 大坪奏 - 折原貴道. 昭和期に菌類画に描かれた未記載きのこ類〜 今関六也氏菌類図譜より. 2021 , 日本菌学会第 65 回大会講演要旨集. [7]大坪奏 - 折原貴道. 今関六也氏菌類図譜に描かれた標本の所在. 2016, 日本菌学会 60 周年記念大会講演要旨集. [8]佐久間大輔・大坪奏. 菌類図譜の資料価値の検討. 2019, 日本菌学会第 63 回大会講演要旨集. [9]山下俊介・五島敏芳. 研究者資料か? 研究資料か?:京都大学研究資源アーカイブの活動と課題. 2011, 研究者資料のアーカイブズ:知の遺産その継承に向けて予稿集. 東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター。 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [33] アメリカ・アーキビスト協会ミュージアム・アー カイブズ・ガイドラインについて 筒井弥生 1) 1) 筑波大学アーカイブズ ## Museum Archives Guidelines by the Society of American Archivists TSUTSUI Yayoi ${ }^{1}$ 1) University of Tsukuba Archives ## 【発表概要】 2021 年 4 月の第 6 回研究大会で報告したアメリカ・アーキビスト協会(SAA)ミュージアム・ アーカイブズ・セクションのミュージアム・アーカイブズ・ガイドライン案が、2022 年 2 月の SAA 評議会で承認された。案と実際に承認されたガイドラインとの差異やガイドライン更新の背景及び承認手続きについて報告する。併せて、報告者が訪問したことがあるアメリカのミュー ジアム・アーカイブズの活動とデジタルアーカイブの事例を紹介する。 ## 1. はじめに 2021 年 4 月の第 6 回研究大会で「〔55〕アメリカ・アーキビスト協会ミュージアム・ア一カイブズ・セクションの新ガイドライン案について」と題して報告した[1]。予稿には、新ガイドライン案の内容を仮訳として掲載し、発表スライドで 2003 年版のガイドラインと公開されたばかりで意見募集中の案と比較、関連するべストプラクティスを提示した。 Council の訳を評議員会から評議会にするなど手直しすべき点がいくつかあるが、今回の報告は、前回報告に基づいたものとし、その続編とする。2022 年 2 月 SAA 評議会で、この改訂版のミュージアム・アーカイブズ・ガイドライン[2]が承認された。公開された評議会議事録[3] をもとに、承認手続きや、ミュー ジアム・アーカイブズ・セクションがガイドラインの改訂に踏み切った背景について説明する。ガイドラインそのものについては、案への変更が些細なものであったので、基本的に前回報告に委被る。さらに、アメリカのミュージアム・アーカイブズについてデジタルアーカイブの視点から検討してみたい。おわりに、アメリカで唱えるミュージアム・アー カイブズが日本において実現可能か、そのためには何が必要かを課題としたい。 ## 2. ガイドラインの改訂と承認 2. 1 ガイドライン改訂の背景 SAA 評議会が承認したガイドラインは 18 ある。ミュージアム・アーカイブズ・セクションによるミュージアム・アーカイブズ・ガイドラインは 2003 年に評議会で承認されたが、 セクションは2018年から改訂作業を行ない、意見募集やオンライン会議での評価など改訂過程を記録したパケットを評議会に提出した。改訂作業に協力していた標準委員会が、提出された資料を検討して、全会一致で評議会に推薦することに決定した。改訂版ガイドライン、改訂の経緯、コメントやフィードバックをまとめたこのパケットは Google フォルダで公開されている。5 年毎に見直すこともうたわれている。 パケットには、変更点の要約があり、基本的に、旧ガイドラインが、専門職を中心にどのようにミュージアム・アーカイブズを設立するか、に視点があるが、改訂版では、既存のミュージアム・アーカイブズを維持、発展させることを目的としている、という。新しい技術やボーンデジタル記録の出現がミュー ジアム・アーキビストの機能に変化を求めていて、そのことはインフラストラクチャーのところで示されている。 ## 2. 2 ガイドライン承認の手続き 2018 年からミュージアム・アーカイブズ・ セクションは改訂作業に入った。具体的な行動はパケット内にリンクを伴って記入されている。また、意見募集の結果もリンクで示されている。それらを踏まえて標準委員会が検討、多様性についての言及がないことが議論となったが、問題とはならなかった。2022 年 2 月 SAA 会長が評議会を招集、バーチャルで開催した。標準委員会による推薦によって、評議会がミュージアム・アーカイブズ・ガイドライン改訂版を承認した。推薦事項には、承認によって、ガイドラインを必要とする専門家に最新情報を提供できることなどがある。承認の報はあったが、実際に改訂版のガイドラインがホームページ上に掲載されたのは、 4 月のことだった。また 2 月の会議の議事録は 5 月開催の会議で承認されて、公開された。 この議事録には、出版物編集者の報告もあり、 そこには、ミュージアム・アーカイブズ・セクションの標準とベストプラクティス作業部会が中心となって完成させた書籍、Museum Archives: Practice, Issues, Advocacy edited by Rachel Chatalbash, Susan Hernandez, Megan Schwenke の刊行が 2022 年春の予定であると記されている。 ところで、ガイドライン案と承認された案を見比べたところ、ほぼほぼ同じであるが、 よくみると、2 か所変更されている。ひとつは、前文の下から 2 行目、is available が are available となっていて、これは主語が examplesなので単純なミスの修正と思われる。 もう一点は 6 .Records Management の下から 7 行目から 6 行目で、The museum archives may be consulted $\sim$ The museum archivist should be consulted~という変更で、ミュー ジアム・アーカイブズが相談されてもよい、 されるかもしれない、からミュージアム・ア一キビストが相談されなければならない、つまり、ミュージアム・アーキビストに相談しなければならない、という明確にアーキビストという専門職に相談しなければならない、 と強調している重要な変更である。 ## 3.アメリカのミュージアム・アーカイブ ズのデジタルアーカイブ事例 アメリカでは、1980 年前後にミュージアム・アーカイブズ設立運動があり、助成金を得てミュージアムにアーカイブズが整備されていく動きとなった。ここでは、発表者が、実際に見学したり、利用したことがあるミュ ージアム・アーカイブズのデジタルアーカイブを紹介する。 囚スミソニアン協会アーカイブズ スミソニアン協会アーカイブズは最近ライブラリーと合併したが、協会全体のレコー ド・マネジメントとアーカイブズ資料の保存・利用公開、レファレンスを司り、権利処理と複製作成も担当している。さらに注目したいのは、デジタルキュレーション[4]である。画像、音声、ビデオ、テキスト、データベー ス、データセット、 $\mathrm{CAD}$ ファイル、ウェブサイト、電子メール、ソーシャルメディア、カスタムメイドのソフトウェアなどのボーンデジタル資料を収蔵している。その際は、OAIS 参照モデルのワークフローに従う。またアナログ資料をデジタル化していて、その仕様も明記されている。ボーンデジタル資料とデジタル化資料の両方をデジタルアセットマネジメントで保存・管理をはかる。 スミソニアン協会のミュージアム、アーカイブズ、ライブラリーの膨大な資料の横断検索ができるコレクション・サーチ・センター やデジタル・ボランティアの取り組みについては、別のところに書いたものを参照していただきたい[5]。 スミソニアン協会の博物館美術館にもそれぞれアーカイブズがある。国立アジア美術館や国立航空宇宙博物館は日本関連資料をもち、 それらはデジタル化されてオンラインで閲覧できる。さらにデジタル・ボランティアによつて翻刻、翻訳されているものもある。 アーカイブズ・オブ・アメリカン・アートはアメリカ美術史のアーカイブズで、資料をデジタル化し、翻刻を委ねている。 ○ナショナル・ギャラリー(ワシントンDC) ナショナル・ギャラリーのアーカイブズは、 ギャラリーの歴史にとって一次資料である。 アーカイブズは、展覧会、取得、学術的教育的プログラム、建物といった館の過去と発展に関する記録を収集、保存し、利用に供する。 ギャラリー・アーカイブズで研究のために公開されている歴史的コレクションは、ギャラリ一の過去やアメリカ合衆国の歴史や文化についての豊富な情報を形づくっている。建築図面や『モニュメント・メン』の資料もある。最近、クレス・コレクション・デジタル・ア一カイブを公開した[6]。これは、サミュエル・H・クレス・コレクションの作品とコレクション形成に関わるアーカイブズ資料と取得や他館への寄贈といった情報をまとめたプラットフォーム上に作成されている。 デジタル担当のアーキビストは、最新技術情報に詳しく、ミュージアム・アーカイブズ・セクションのシンポジウムやニューズレターなどでしばしば報告している。 ナショナル・ギャラリーはパブリック・ドメインにあると考えられる作品の画像については、オープン・アクセス・ポリシーを堅持していて、高精細画像を自由に $\mathrm{CC0}$ でダウンロードすることができる。データセットは Github から得られる。 ৩ゲティ研究所 ゲティ財団は、美術館、研究所、保存研究所、基金からなるが、財団全体の機関アーカイブズが研究所の特殊コレクションにあって、 レコード・マネジメントも担当している。ア一カイブズ資料のマネジメント・システムは ArchivesSpace[7]を採用している。 $\diamond$ 国立公園史跡ロングフェロー邸とワシントン司令部アーカイブズ 第 1 回 DA フォーラムで紹介したチャールズ・ロングフェローの写真を所蔵している。国立公園 NP ギャラリーでデジタルアーカイブとして 832 点の文書や写真などのアーカイブズ資料がオンラインで公開されている [8]。 囚ケント州立大学特殊コレクションとアー カイブズ、May4 ビジターセンター オハイオ州のケント州立大学は、遠隔でのアーキビスト養成コースを開設している。大学図書館とアーカイブズを 2015 年に訪問した際、案内されたのが May4 ビジターセンター である。1970 年 5 月 4 日に起きた州兵による非武装学生銃撃事件の犠牲者を追悼する展示施設で、事件についてのアーカイブズ資料は大学図書館の特殊コレクションに収蔵されている。デジタル・コレクションもある。ビジターセンターのオンライン展示には現在 10 のコンテンツがある[9]。 囚テキサス大学オースティン校ブリスコ一・アメリカ史センター このセンターは、大学附属のアメリカ史のための研究センターであるが、同時に州立大学の機関アーカイブズでもある。オーラルヒストリーを含むデジタル・コレクションがある[10]。2017 年に改装して、展示スペースが充実した。昨夏から今年 1 月まで、Flash of Light, Wall of Fire 展を開催していた。この展覧会は、原爆投下後の広島、長崎の惨状を伝える写真展で、「反核写真運動」が収集保存してきた写真画像をもとにしている。核兵器による破壊、放射線被曝の恐ろしさ、そしてその結果生じた多くの苦しみを視覚的に記録した画像データは、現在ブリスコー・センター の広島・長崎原爆写真アーカイブを形成している。写真家江成常夫の作品も収蔵した。 ## 4. おわりに アメリカ型のミュージアム・アーカイブズを見習うべきである、と主張するつもりはない。日本には日本でのありようがあり、すでに東京都美術館や金沢 21 世紀美術館の取り組みがある。国立新美術館、埼玉県立近代美術館、そして大阪中之島美術館がアーカイブズ資料の整備を行なっている。全国美術館会議情報・資料研究部会は「美術関係アーカイブズ資料所在調査」を実施している。2018 年度に完了した明治大学矢島國雄らによる「博物館活動アーカイヴス・モデルの構築」科学研究の成果もある。また、国立のミュージアムについては、以下に挙げるような資料とすれば、公文書等の管理に関する法律の適用外となる。ただし、“研究所(博物館)その他の施 設において、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの”とあり、施行令では、内閣総理大臣による指定機関で専用の場所において適切に保存され、目録が作成され、目録が一般の閲覧に供され、資料自体も特別な場合を除いて、一般の利用の制限が行われていないこと等、定められている。歴史的公文書であれば、国立公文書館へ移管するか、手許に置きたければ、自前で国立公文書館等をつくる必要があろう。このような場合、大学アーカイブズが先行しているので、例えば東北大学学術資源研究公開センター史料館公文書室や東京工業大学博物館資史料館部門公文書室の在り方が参考になるのではないだろうか。これからミュージアム・アーカイブズをつくろう、というのであれば、むしろ旧ガイドラインが参考になるのかもしれない。 SAA が今回ミュージアム・アーカイブズ・ ガイドラインとして提供しているものには、 Standards \& Best Practices Resource Guide[11]が随伴している。これは作業部会による、項目毎の具体的な事例の集積である。 このような情報共有のためのプラットフォー ムが望まれる。そしてやはり専門職の配置が必要であり、その養成が重要となろう。環境整備とあわせて、資金の獲得が必要であり、 そのためのコンセンサスが得られること、つまりミュージアムにもアーカイブズは必要であるという認識が行き渡ることを期待する。 ## 参考文献 [1] 筒井弥生.[55] アメリカ・アーキビスト協会ミュージアム・アーカイブズ・セクションの新ガイドライン案について:デジタルアーカイブ学会誌. 5 巻 s1 号, 2021, p.s98-p.s101. [2] Museum Archives Guidelines. https://www2.archivists.org/groups/museum -archives-section/museum-archivesguidelines (参照 2022-05-15). [3] February 16, 18, 2022, Council Meeting Agenda.https://www2.archivists.org/groups/ saa-council/february-16-18-2022-councilmeeting-agenda (参照 2022-05-15).さらにリンクあり。 [4] Smithsonian Institution Archives, Digital Curation. https://siarchives.si.edu/what-we-do/digitalcuration (参照 2022-05-15). [5] 筒井弥生.スミソニアン協会デジタル・ボランティア:トランスクリプション・センター の活動紹介:JMMA 会報 84 号 vol. 23 no.2, 2019.3,https://www.jmma- net.org/mucjprtkw-71/\#_71 (参照 2022-05- 15).ダウンロード可能. [6] Kress Collection Digital Archive. https://kress.nga.gov/ (参照 2022-05-15). [7] ArchivesSpace. https://archivesspace.org/ (参照 2022-05-15).オープンソースのアーカイブズ情報マネジメント・アプリケーション。 [8] Longfellow House-Washington's Headquarters NPGallery Digital Archive. https://npgallery.nps.gov/LONG/About (参照 2022-05-15). 現在、832 点の画像を見ることができる。 [9] Special Collections and Archives, Kent State Shootings: May 4 Collection. https://www.library.kent.edu/specialcollections-and-archives/kent-stateshootings-may-4-collection (参照 2022-0515). May 4 Visitor Center. Online Exhibits. https://www.kent.edu/may4visitorscenter/on line-exhibits (参照 2022-05-15). [10] Digital Collections. https://digitalcollections.briscoecenter.org/ (参照 2022-05-15). [11] Standards \& Best Practices Resource Guide. https://www2.archivists.org/groups/museum -archives-section/standards-best-practicesresource-guide (参照 2022-05-15). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# デジタルアーカイブをとおした地域史資料の収集と活用:沖縄県南城市の事例から The Collection and Utilization of Local Historical Materials through Digital Archives: A Case Study of Nanjo City, Okinawa 田村 卓也 TAMURA Takuya 堀川 輝之 HORIKAWA Teruyuki 南城市教育委員会 文化課 Email: nanjo-da@city.nanjo.okinawa.jp Nanjo City Board of Education Culture Division (受付日:2022年3月 1 1日、採録日:2022年5月21日、電子公開日:2022年7月25日) (Received: March 11, 2022, Accepted: May 21, 2022, Published electronically: July 25, 2022) } 抄録:沖縄県では、自治体による地域史の刊行が盛んにおこなわれているものの、そこには資料の収集や活用という点において、 いくつかの課題が存在する。本稿では、沖縄県南城市「なんじょうデジタルアーカイブ」の事例を紹介し、地方自治体に打引地域史編さん業務とデジタルアーカイブの連携について考察した。膨大な資料を扱う地域史編さん業務において、デジタルアーカイ ブは資料の管理や活用に大きな役割を果たす。今後、沖縄でデジタルアーカイブを活用した地域史研究を活性化させるためには、自治体間において活用事例やノウハウの共有を進める必要がある。 Abstract: In Okinawa, many books written about local history have been published by municipalities. However, there are several problems with the collection and utilization of materials. This paper shows the possibilities of collaboration between local history research and digital archives through the case of Nanjo City, Okinawa. Digital archives can contribute to the effective management and utilization of materials. To promote local history research using digital archives in Okinawa, it is necessary to share the knowledge and experience among local municipalities. キーワード : 沖縄、地域史、写真、地域デジタルアーカイブ Keywords: Okinawa, Local History, Photos, Regional Digital Archives ## 1. はじめに 2022 年、沖縄は日本への復帰から 50 年という節目の年を迎えた。戦争がもたらした破壊からの復興、米国による統治、高度経済成長にともなう開発や都市化など、戦後の沖縄は大きな社会変化を経験してきた。 その経験を将来へ伝えていくにあたり、ローカルな社会の歴史や、そこに生きる人々のくらしを記述した地域史(地域誌)は重要な役割を担う。 沖縄における地域史の蓄積は厚い。1960 年代にスタートした沖縄県史や那覇市史の刊行を嚆矢として、各自治体は 1980 年代以降、精力的に地域史の編さんを進めてきた ${ }^{[1]}$ 。こうした動きは、地域に即した歴史研究の各論的展開や、あらたな資料の蓄積という点において、学術的な貢献をもたらした ${ }^{[2]}$ 。また、地域史編さん業務をとおした人材育成は、沖縄研究そのものの活性化にも寄与した ${ }^{[3]}$ 。地域史のなかには、自治体の刊行物以外にも、字や自治会、郷土史家によって編まれたものも多数存在する。これらは、住民の視点から地域の歴史を描いた貴重な資料といえる。 自治体における地域史の編さん業務では、「民俗」 や「移民」といったテーマを設けたうえで調査研究を進め、その成果を出版物として刊行することが多い。 しかしながら、そこには資料の収集や活用、情報の発信という点において、いくつかの課題が存在するように思われる。一般的に、地域史の企画から刊行にいたるプロセスには、膨大な時間が必要となる。そのため、出版物という形にこだわると、調査研究で得られた成果を迅速に社会へ還元することは難しい。また、人員や予算等の制約により、刊行までのスケジュールでは十全的な資料の掘り起こしが困難なこともある。くわえて、全国に流通する一般書籍とは異なり、自治体の刊行物は流通範囲が狭く、それにアクセスすることのできる人は限定されてしまう。 終戦から 70 年以上が経過した沖縄では、戦争を直接経験した世代が減少し、その記憶をいかに継承していくかが大きな課題となっている。同様に、激動ともいえる戦後の社会変化を経験した人々も今後、時間の経過とともに確実に減っていく。自治体の地域史には、 その時代を生きた人々の記憶や、それを伝える資料を着実に収集・保存し、社会に発信する取り組みを加速させることが求められている。 以上のような問題意識を踏まえ、本稿では自治体における地域史編さん業務と、デジタルアーカイブとの連携について考察する。具体的には、筆者が実務にたずさわる沖縄県南城市の事例を紹介し、デジタルアー カイブが資料の収集と活用にあらたな可能性をもたら しうることを示したい。 ## 2. 南城市のデジタルアーカイブ事業 沖縄本島南部に位置する南城市は、2006 年に 4 町村(佐敷町、知念村、玉城村、大里村)の合併により誕生した、人口 4 万 5 千人ほどの市である。市内には、世界文化遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の構成資産である斎場御获(せ一ふあうたき)や、国指定の史跡である5つのグスク(城)をはじめとした、 さまざまな有形・無形の文化財がある。これらを含め、地域の歴史や文化にかんする資料を保存し、ひろく活用していくための取り組みとして、南城市は 2021 年 3月に「なんじょうデジタルアーカイブ(略称:なんデジ)」を公開した[4]。本アーカイブは市民のみならず、市外に居住する南城市出身者や旅行者、研究者など、幅広い利用者を想定しており、地域に関係する多様な資料を公開している点が大きな特徴である。 デジタルアーカイブの立ち上げにむけて、南城市は 2020 年から所蔵資料(写真、映像、音声、文書)のデジタル化に着手した。これまでにデジタル化が完了した資料は、7万点におよぶ。これらの資料は、個人情報やプライバシー、肖像権などについて一点ずつ確認し、問題がないと判断したものについては、原則として二次利用を認める形 (CCBY) で公開している。 2022 年 3 月 1 日現在、本アーカイブでは 7295 点の資料が閲覧可能となっており、その大部分は旧町村(あるいは市)の職員や、地域住民が撮影した写真によって占められている。今後は、旧町村時代の広報や行政文書、音声デー夕(戦争体験や民話などの聞き取り調查で収録したもの)の公開も積極的に進め、資料のさらなる多様化をはかる予定である。 デジタルアーカイブの立ち上げ後には、公開資料の点数を増やすだけでなく、それらをなるべく多くの人に利用してもらえるよう、ジャパンサーチとの連携や、 SNSでの積極的な情報発信にも取り組んできた。また、 デジタルアーカイブを長期的に運用していくためには、たんに利用者を増やすだけでなく、解決すべき課題や運営方針を関係者間で共有しておくことも欠かせない。とくに、担当者が数年のうちに入れ替わる可能性が高い、自治体の運営するデジタルアーカイブにおいて、この重要性は強調してもし過ぎることはない。 そこで、2021 年 12 月には、市職員や住民、関係者の参加を募り、地域デジタルアーカイブの可能性と課題をさぐる円卓会議を開催した。また、専門家を招いた委員会での議論を踏まえ、南城市における資料公開の判定基準や、デジタルアーカイブ運営の基本的な方針 を明確にした。 南城市のデジタルアーカイブは、公開から 1 年ほどしか経過しておらず、その運営はまだ試行錯誤の段階にある。今後も引き続き、資料の充実と運営の持続性、利用のしやすさという点を重視しつつ、魅力ある地域デジタルアーカイブとして育てていくための方法を模索していく必要がある。 ## 3. 地域住民からの資料収集 市が所蔵する資料とともに、「なんじょうデジタルアーカイブ」で公開している資料の中核をなすのが、住民から提供された写真である。その収集にあたり、 これまで大きな役割を果たしてきたのが「古写真トー クイベント」である[5]。 このイベントは、区や自治会を単位としておこなう。 まず、対象地域の住民や公民館から古い写真を借用してデジタル化する。それらをスライドにまとめ、後日集まってもらった住民に、大型スクリーンを用いて鑑賞してもらう。参加者には、写真についての記憶や、当時のエピソードなどを自由に語ってもらい、その情報を記録していく。このように、写真そのものだけでなく、それに付随する住民の語りを同時に収集し、蓄積・共有していくことが、このイベントのねらいである。南城市には 70 を超える行政区が存在するが、これまでに計 24 か所でこうしたイベントを開催してきた。「なんじょうデジタルアーカイブ」では、本イベントをと打して収集した、ほぼ全ての写真を公開している。 収集した写真には、地域の風景や行事の様子を撮影したものや、住民や親族が集まって撮影した記念写真などが目立つ。イベントでは、戦後復興を進めるなかで、地元出身の海外移民から大きな支援があったことや、日本復帰以前における米軍と住民との交流、住民総出でおこなった行事の様子など、地域の歴史を知るうえで貴重な情報が寄せられることも少なくない。 「古写真トークイベント」は、手元で眠っていた写真をとおして、住民たちが地域の歴史を見つめなおす機会を生み出している。それだけでなく、戦後資料の収集という点においても、このイベントが果たす役割は大きい。2022 年 3 月 1 日現在、「なんじょうデジ夕ルアーカイブ」で公開されている写真(7106点)の半数以上は、1990 年代から 2010 年代に撮影されたものによって占められている。いっぽう、終戦直後 (1945~49 年)から沖縄の日本復帰前後(1970 年代) に撮影された写真は、全体の 1 割ほど(770 点)にとどまる。この 770 点のうち、もともと市が所蔵してい 図1 完成した貯水タンクの上で撮影された記念写真 (南城市䋛 $)^{[6]}$ た写真は 164 点で、残りは全て「古写真トークイベント」をと打して収集されたものである。終戦から日本復帰までの間、南城市内には大規模な米軍施設が置かれ、現在とは大きく異なる風景がひろがっていた。また、この時期には集落の再建やインフラの整備(図1) が進み、人々のくらしが変化していった。このように、地域の歴史をたどるうえで、1940 年代から 70 年代はきわめて重要な時期といえる。しかしながら、市が所蔵する資料のなかには、この時期に撮影された写真が少ない。住民から寄せられた写真や情報は今後、市の戦後史をまとめるための貴重な材料になると思われる。 ## 4. 市史編さん業務とデジタルアーカイブ 南城市では、教育委員会文化課が市史編さん業務とデジタルアーカイブの運営を担当している。2006 年の南城市誕生後、文化課はこれまで『南城市史総合版 (通史)』や『南城市の沖縄戦:資料編』など、計 7 冊の出版物を刊行するとともに、市の歴史や文化についての普及活動にも取り組んできた。従来、こうした活動は催し物の開催などが中心であったが、デジタルアーカイブの立ち上げにより、オンラインでの情報発信というあらたな手段が加わった。 オンライン環境を活用した事例のひとつが、動画コンテンツの配信である。2021 年度には、民俗学を専門とする研究者の解説をとおして地域を学ぶ、「久高島歷史民俗散歩」という動画シリーズを自主制作した。動画には、現地であらたに撮影した映像とともに、デジタルアーカイブで公開している資料も補足的に用いた。完成した動画は、デジタルアーカイブ上だけでなく、YouTubeでも配信している。「なんじょうデジ夕ルアーカイブ」の公開にあわせて開設した YouTube チャンネルでは、1970~90 年代の成人式で撮影された写真や、「古写真トークイベント」で収集した写真 をまとめた動画なども配信している。資料のデジタル化が進み、それらをオンラインで配信する環境が整ったことにより、普及活動に用いるコンテンツの幅と、 アウトリーチの対象をひろげることができた。今後、「なんじょうデジタルアーカイブ」のホームページでは、教育や研究にも利用できるコンテンツの拡充をはかるとともに、市史編さんにかかわる調査研究の成果を随時、コラムや論考といった形で公開していくことも構想している。これにより、出版物の刊行を待つことなく、業務の成果をタイムリーに発信することが可能となる。 市史編さん業務とデジタルアーカイブとの連携は、 コンテンツの製作のみならず、所蔵資料の管理にも変化をもたらした。市史の刊行にむけた調査研究では、写真をはじめとした膨大な資料が蓄積されていく。南城市には、デジタルカメラで撮影された写真のデータにくわえ、旧町村時代に撮影された写真のネガやプリントが数千点保管されている。これらは、町村別に分類されていたものの、どこにどのような資料が収納されているかを細かく把握することは困難であった。これらをデジタル化し、メタデータを付与したうえでデジタルアーカイブに登録することにより、過去の業務で収集した資料を、容易に検索することが可能になった。「古写真トークイベント」などをとおして住民から提供された資料と、市が所蔵する資料を、すぐに利用できる状態で一元的に管理することにより、手元の資料を活用した原稿の執筆や調查研究が打こないやすくなった。また、出版物を刊行する際には、紙面の都合上、どうしても掲載する資料を絞り込まざるをえない。デジタルアーカイブと市史編さん業務との連携により、これまで出版物に掲載できなかった資料にくわえ、調査研究の過程で収録した映像や音声など、写真以外の資料も活用することが可能になった。 市史編さんの過程で収集された資料は、市のみならず、地域住民にとっても貴重な財産といえる。それらを死蔵させることなく、ひろく社会に還元していくにあたり、デジタルアーカイブの果たす役割は大きい。 ## 5. おわりに 南城市では今後、戦後史に焦点をあてて市史の編さんを進めていく予定である。戦後の大きな社会変化を経験した人々から直接話を聞くことができる今のうちに、住民の語りと、それを伝える資料を収集し、誰もが利用できる状態で残していく作業は、自治体の地域史にかかわる者に与えられた重要な責務であると考える。そうしたなか、市史編さん業務とデジタルアーカ イブとの連携は、資料の収集・管理・活用を効果的に進めるうえで、大きな利点をもつ。 しかしながら、そこには解決すべき問題も存在する。 ひとつめは、デジタルデバイドへの配慮である。高齢者のなかには、インターネットを使用できないため、自身が提供した資料や情報がオンライン上でどのように活用されているのかを、直接確認することのできない人もいる。これについては、事業を紹介する説明会を開催したり、成果物(資料が公開されている web ページなど)を紙媒体で配布するといった配慮が必要になるだろう。ふたつめは、公開資料に付与されたメタデータの不足である。旧町村時代に撮られた写真のなかには、被写体や撮影日時、撮影場所など、資料としての基礎的な情報が欠けているものが大量にある。 これらについては、町村史などを参照しつつ、特定できた情報の追加を少しずつ進めているものの、まだ十分とはいえない。手元にある資料の価値を高めていくには、住民や当時の職員からの聞き取りを実施するなど、継続的な情報収集につとめる必要がある。 南城市以外にも、沖縄県内ではいくつかの自治体がデジタルアーカイブの運用をすでに開始しており、その数は着実に増えている。各自治体が膨大な地域史資料を管理・公開していくにあたり、デジタルアーカイ ブの果たす役割は今後、ますます大きくなることが予測される。そうしたなか、沖縄全体で地域史研究を活性化させ、その成果をひろく社会に還元していくためには、自治体間での積極的な情報交換をとおして、デジタルアーカイブの活用事例やそのノウハウを共有していくことが重要になると思われる。 ## 註・参考文献 [1] 財団法人南西地域産業活性化センター(編)、『沖縄県における地域歴史書刊行事業の成果とその意義』. 財団法人南西地域産業活性化センター. 2003, p. 11. [2] 高良倉吉.「琉球史研究をめぐる40年」『沖縄文化』 100. 2006, p.45-59. [3] 財団法人南西地域産業活性化センター(編)、『沖縄県における地域歴史書刊行事業の成果とその意義』. 財団法人南西地域産業活性化センター. 2003, p. 18. [4] なんじょうデジタルアーカイブ. https://nanjo-archive.jp/ (参照2022-03-10). 事業の詳細や経緯については、別稿(新垣瑛士・田村卓也.「南城市におけるデジタルアーカイブ事業について」. 琉球沖縄歴史, 2021, 3. p.129-136.) [5] イベントの詳細については、別稿(平良斗星.「沖縄県南城市古写真トークイベントを通したコミュニティアーカイブの活用」.デジタルアーカイブ学会誌, 2019, 3(1), p.26-30.) [6] 貯水タンク. https://nanjo-archive.jp/document/?detail=1413\& genre=6 (参照 2022-03-17).
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# 日本全国における文化財オープンデータの現状と課題 Current Status and Challenges of Open data on Cultural Property in Japan 武内 樹治' 高田 祐一 ${ }^{2}$ TAKEUCHI Mikiharu TAKATA Yuichi } 1 立命館大学大学院 文学研究科 Email: mikihdqt812@gmail.com 2 奈良文化財研究所 1 Ritsumeikan University 2 Nara National Research Institute for Cultural Properties (受付日:2021年10月5日、採択日:2022年1月17日、電子公開日:2022年4月4日) (Received: October 5, 2021, Accepted: January 17, 2022, Published electronically: April 4, 2022) 抄録:文化財の継承・保存・活用にはオープンデータの公開が有用であり、政府によって文化財情報の公開が推奨されている。本研究は、日本全国の文化財に関するオープンデータの取り組みや公開状況を調查し、現状分析を行ったうえで課題を明らかにする ことが目的である。調査の結果、推奖フォーマットを利用したうえで指定の項目まで一致したデータセットを公開している自治体 はかなり限られており、再利用性に課題があることが明らかになった。推奨フォーマットに準拠した文化財オープンデータ公開自治体を増加させるには、より分かりやすく文化財に適したデータセット作成の仕組みを整備する必要がある。 Abstract: The purpose of this study is to investigate the publication status of open data on cultural properties in Japan and to clarify the related issues. According to the results of our survey, it was found that the number of local governments that have released datasets that are consistent with the recommended format is quite limited, and there is a problem with reusability. In order to increase the number of local governments that publish open data on cultural properties in accordance with the recommended format, it is necessary to establish a mechanism for creating datasets that are easier to understand and more suitable for cultural properties. キーワード : 文化財、オープンデー夕、地方公共団体、位置情報 Keywords: Cultural Property, Open Data, Local Government, Location Information ## 1. はじめに 近年、オープンデータの公開・利活用が増えている。 オープンデータとは、(1)営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの、(2)機械判読に適したもの、(3)無償で利用できるものを指す[1]。社会や学術の発展に資するため、オープンデータの推進が望ましい。文化財についても、継承・保存・活用には文化財情報をオープンデータとして公開することが大きな効果を発揮する。例えば移動手段情報と組み合わせて文化財へのアクセスを提示できるようなサー ビス・アプリ開発 ${ }^{[2]}$ や、文化財の災害シミュレーションや、災害時の被害評価への活用[3]、そして地域おこしゃ学校教育にも有用であると予想される。 全国で一定数のオープンデータが公開されている一方で、公開していない地域もある。今後も公開が増え、利用できる有用なデータの増加が期待されるが、オー プンデータにも再利用性を考慮した際にデータとしての優劣がある。 これまで、日本において、オープンデータ導入済の地方公共団体(以下、自治体)と未導入の自治体を人口や財政力指数から分析した向原らの研究 ${ }^{[4]}$ や導入済の自治体所在地の空間分布からその集中性について考察した青木の研究 ${ }^{[5]}$ など、自治体の特徴からオー プンデータの進展について考察されている。しかし、 オープンデータのデータとしての登録内容や再利用性の観点から考察した研究は管見の限り見られない。 そのため、本研究では、都道府県や市町村などの自治体による文化財オープンデータへの取り組みや公開状況・デー夕の登録内容に関する現状分析と課題の抽出を行うことを目的とする。 ## 2. 文化財情報に関する政府の取り組み ## 2.1 文化財オープンデータ化への取り組み IT の活用による国民の利便性の向上及び行政運営の改善にかかる総合調整を行う内閣官房情報通信技術 (IT)総合戦略室による「政府 CIO ポータル」[6] にオー プンデータに関する文書やガイドラインなどとともに、推奨データセットに関する情報がある。推奨デー タセットとは、政府として自治体などに公開を推奨したデータ群であり、「文化財一覧」はこれに該当している。ここでは、「文化財一覧」データセットについて、「国もしくは地方公共団体が指定、登録、選定等を行った文化財の一覧についてのもの」と定義されている。そして、作成にあたり準拠すべきルールや フォーマット等を定めて公開されている。フォーマットに関しては、公開されているxlsx、CSVのひな形ファイルをダウンロードして入力する形で自治体はデータを整備することができる。「データ項目定義書」 にはデータセット作成におけるルールなどが明記されており、推奖データセット全体に関わることと、推奨データセットごとの作成ルールなどがシート別にまとめられている。「文化財一覧」については、「04. 文化財一覧」シートに、各データセットにおける各項目 (「名称」や「文化財分類」など34列) の説明や形式 (文字列、数値など)、記入例などが明記されており、「データ項目特記事項」シートに、データ項目に対する共通ルールと文化財特有の項目(「文化財分類」.「種類」)についての記入ルールが明記されている。また、推奨フォーマットの中で「緯度」・「経度」や「住所」については、「行政データ連携標準」[7] の記載ルー ルに則る必要がある。このように、文化財のオープンデータ化は推奨されており、幾つかの作成ルール・推奨フォーマットに則りデータセットを作成することが必要である。 ## 2.2 オープンデータの取り組みに関するアンケート結果 ここでは、 2.1 での政府によるオープンデータへの取り組みがどのように自治体に受け取られているのかを内閣官房情報通信技術(IT)総合戦力室が実施した 「地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート」の結果・回答 ${ }^{[8]}$ より確認する。このアンケートは、「地方公共団体がオープンデータに取組む際の課題の抽出、及びオープンデータ取組促進に向けた効果的な支援策の検討等に役立てることを目的」としており、これまで平成 28 年度、 30 年度、令和 2 年度(以下 R2版と表記)に実施している。 このアンケートからは、オープンデータの全般的な要素として、オープンデータの理解度の向上、オープンデータ公開数の増加とともに、依然として人的リソースの不足や、オープンデータの利点やニーズが不明確であるなどの問題点も読み取れる。また、「オー プンデータに取組むにあたっての貴団体の課題や問題点」については、「オープンデータにどう取組んで良いか分からない」や「オープンデータの効果・メリット・ニーズが不明確」の回答が平成 28 年度の調査から徐々に減っているのに対して、「オープンデータの利活用が進まない」の回答が徐々に増えている。そして、「オープンデータに取組むにあたり、貴団体が必要と考える支援」については、「先進的な活用事例の公開」、手順等をまとめたガイドラインの整備」、「オープンデータの作成・公開の作業支援」、「オープンデータ作成・公開の作業支援ツール提供」などの回答が上位を占めるとともに平成 28 年度からこれらの回答数が増えている。以上から『利活用への取り組み』 と『オープンデータ作成過程の支援・整備』がオープンデータを推進していく上で大きな課題であるといえる。オープンデータに興味を持った、取り組もうと思った自治体が取り組みやすい環境と、その利活用が進んでいる社会が求められる。 これらのアンケートから文化財オープンデータへの取り組みをみていく。「推奖データセットに準拠している公開デー夕」に関する質問からは、避難所や AED どの人命に関わるもの、人口や公共施設などの自治体基礎デー夕に次ぎ、「文化財一覧」はオープンデータセットの 23 項目中 5 番目に公開数が多く、回答した自治体のなかで $13.8 \%$ の 236 の自治体が公開していることがわかる。今後の公開を予定、または検討しているデータに関する質問でもデータセット 23 項目の中ではそれぞれ上位 7 位(予定)、8位(検討) であり、文化財は、オープンデータセットの中では公開に対して前向きに捉えられており、今後の公開数の増加が期待される。 ## 2.3 政府による文化財情報発信 ここでは、政府による文化財情報発信の事例をみて $\omega<0$ 文化庁によって「国指定文化財等データベース」[9] が公開されており、文化財保護法に基づき、国が指定・登録・選定した文化財情報を検索・閲覧することができる。このデータベースでは、検索結果をCSV ファイルにて全件出力することも可能である。デー夕については、利用規約を守れば、出典を記載の上で文字情報については自由に利用することができる。ここでは 34,106 件の国指定等文化財の情報が取得できる (2021年 1 月 29 日現在)。 国土交通省によって「国土数値情報ダウンロードサービス」 ${ }^{[10]}$ が公開されており、国土に関する基礎的な空間情報のデータベースが公開されている。文化財情報として、「都道府県指定文化財デー夕」が公開されており、これは都道府県が文化財保護法に基づき、国指定等の文化財以外の重要な文化財について、その位置を表すデータと属性データを整備したものである。GML・Shape ファイルにてダウンロードすることが可能で、こちらのデータも利用規約を守れば、出典を記載の上で自由に利用することができる。ここでは、 19,337 件の都道府県指定文化財の情報が取得できる (2021 年 3 月 18 日現在)。 以上のように政府によって、国指定等・都道府県指定文化財のオープンデータが公開されている。一部未公開情報がありつつも、国指定・都道府県指定の文化財は一定数整備されている。よって、次章では自治体による市町村指定文化財のオープンデータ公開について調査していく。 ## 3. 自治体による文化財オープンデータ ## 3.1 市町村指定文化財オープンデータ調査 前章の政府の取り組みから分かるように、市町村指定文化財は各自治体によって公開される必要があり、 その一つの方法として政府の推奨フォーマットによるオープンデータの公開が挙げられる。よって、本章では、各自治体による再利用可能な市町村指定文化財オープンデータを調査した結果を述べる。調査手法としては、全国 1,788 の都道府県・市町村が公開している自治体の Web サイトやオープンデータサイトを実際に閲覧し、文化財のデータ公開状況とそのデー夕登録内容について確認した。なお、PDFでの公開や、 ファイル形式で公開していないものは対象外とした。調査は 2021 年 3 月 1 日〜15日の期間に行った。 ## 3.2 調査結果 市町村指定文化財のオープンデータを公開している自治体は 262 自治体(3 都道府県、259市町村)であった[註1]。その 262 自治体がどのデー夕形式で公開しているのかを図 1 に示した。政府によって推奨フォー マットでひな形が提供されている xlsx や CSVファイルによって公開している自治体が多いことが分かる。 また、その中でもオープンに利用できるフォーマットであり、オープンデータの公開レベル ${ }^{[11]}$ が「3」である CSVファイルが最も利用されている。オープンデータを公開している自治体の中でも、政府による推奨フォーマットを利用しているのは 125 自治体であった[註2]。図 2・3に文化財オープンデー夕の公開自治体数の比較を示した。ここでは、推奖フォーマットを用いていても、推奨のフォーマットと列数・列項目が異なれば推奨/独自フォーマット利用、そしてそれらの中でもデータ型(文字列・数値列など)や進数(位置情報の 10 進法利用)が推奨と一致していなければ項目不一致と定義しており、推奖フォーマット利用且つ項目一致は 28 自治体のみであった。つまり、推奨フォーマットと項目まで一致しているものは $10.1 \%$ (28 件)のみである。 図1 文化財のオープンデータ化に用いられているデータ形式の集計注 : 二つ以上のデータ形式で公開されている場合は、それぞれのデータ形式でカウントした上で、複数形式にカウントしている。 図2 全国の自治体と文化財オープンデータ公開数の集合関係図注 : オープンデータ公開自治体数とオープンデータ推奨データセット利用自治体数についてはR2版アンケート回答(No. 17)より算出。 図3文化財オープンデータフォーマットの内訳(自治体数) ## 3.3 オープンデータの登録内容 ここでは、調査した自治体による市町村指定文化財のオープンデータ、特に推奨フォーマットを利用しているものについて、登録されているデータ内容の調査結果を述べる。結果からは、大きく二つの問題が指摘できる。一つ目は列ごとの登録内容の相違である。例えば、推奨フォーマットにおいて「文化財指定日」列は日付列として、「YYYY-MM-DD」と入力すると規定されているが、「YYYY/MM/DD」と入力しているケー スがある。もう一つの例として、「種類」列に登録するのは規定上 5 つの中から選ぶ形になっているが、「美術工芸品」と登録するところをより細分化して「古文書」と登録しているケースがある。「種類」と「文化財分類」の項目については、記載ルールについても不明確な部分があり、文化財の分類や種類分けについてはどれを採用するかがかなり曖昧となっている。そし て、問題点の二つ目は、位置情報の問題である。「緯度」「経度」列では明らかな間違いがあり、(1)桁ずれ (小数点位置のずれ) 、(2)緯度経度逆転、(3)緯度・緯度、経度・経度の組み合わせ、(4)指定していない進数での値、という四点が間違いの原因として挙げられる。 ## 4. 文化財オープンデータの考察 4.1 文化財オープンデータの全容 本研究では、政府による文化財オープンデー夕化の取り組みを踏まえた上で、自治体による文化財オープンデータ化の現状を調査し、262 自治体が機械判読可能なオープンデータを公開していることが明らかになった。 この調查によって把握できた指定文化財件数について表 1 に示した。政府によるデータベースやサービスにより、国指定と都道府県指定文化財の多くがオー プンデータ化されている。これらと比較すると、市町村指定文化財は、 $14.6 \%$ のみしかオープンデータ化されていない。 表1 指定文化財オープンデータの件数比較 & \\ 都道府県指定 & 22,063 & $19,337(87.6)$ & 19,337 \\ 市町村指定 & 95,948 & $13,992(14.6)$ & 5,729 \\ 計 & 150,011 & $67,435(45.0)$ & 50,400 \\ 注:指定文化財件数については文化庁 ${ }^{[12]}{ }^{[13]}$ による公表をもとにしている。市町村指定については、推奨フォーマット利用のみを示している。 文化財オープンデータを公開している自治体数が全国の自治体数と比較して $15 \%$ 程度であることは既に R2 版アンケートでも示されていたが、図 2・3を見てみると、その中でも推奖フォーマットに準拠しているといえるものは $27.5 \%$ 程度であり、推奨データセットと項目一致しているものはさらにその半数以下ということが明らかになった。 また、筆者らは2021年7月に「文化財総覧WebGIS」[14] を公開した。日本中の約 61 万件の遺跡・文化財情報が閲覧できることに注目が集まった。これには開発の段階で全国の推奨フォーマットを利用している文化財オープンデータを取り入れている。登録内容の課題がありつつも、データフォーマットが確立しているため、作業量はそれほどかからずに 100 を超えるデータセッ卜を統合し、文化財オープンデータを当システムに組み达むことが可能であった。これは推奖データセットのオープンデータを利活用する事例の一つである。 ## 4.2 文化財オープンデータの課題 今回の文化財オープンデータ調査結果からの課題として、市町村文化財の公表については各自治体によって取り組む必要があるものの、オープンデータに関しては 15\% 程度のみしか整備されていないことが挙げられる。既に公開されているものの中でも推奨デー夕セットと項目まで一致しているものは $10.1 \%$ (28 件) のみであり、データ形式やフォーマットに相違があることは、リユースコストの増大に直結し、文化財情報の普及に壁を作ることになる。ただし、推奨デー夕セットに則っても、全てのデータ登録条件に従うには難しいことが伺える。また、政府による推奖フォー マットについても、データ登録規定についてはバー ジョンアップの余地がある。 今後、政府が「推奖」するフォーマットにて公開を促すには、より分かりやすく文化財に適したデー夕セット作成の仕組みを整備する必要がある。 ## 5. おわりに 以上のような課題がありつつも、自治体による文化財情報のオープンデータは徐々に進みつつあり、今後さらに充実していく可能性は大きいと思われる。もち万ん、政府は利用者の利便性向上の観点から、推奖データセットを用いることが望ましいが、必ずしも対応しなければならないものではない[15] としており、独自のフォーマットやPDFでの公開も十分に文化財情報発信には効果を発揮するであらう。しかし、その後の横断的な利活用を望むためには、やはり推奨フォーマットの充実が必要である。オープンデータのデータセットフォーマットの作成の仕組みの見直し・簡易化や指導などを行い、活用事例を増やすことによって、オープンデータの充実は進むと思われる。 本稿は、日本情報考古学会第 44 回大会での発表内容を大幅に加筆・修正したものである。 ## 註・参考文献 [註1] 東京都の大島町、利島村、新島村、神津島村は 4 市町村の市町村指定文化財を統合し、1つのファイルで公開している。ここではデー夕は 1 つであるが、4市町村それぞれを件数として換算している。また、文化財一覧のオー プンデータについての調査であり、文化財件数などのオープンデータはここには含まれていない。 [註2] 完全一致でなくとも、推奖データセットに準拠しているとみられるものも件数に含んでいる。列数が26(推奖フォーマットの列数「34」の75\%)に満たない市町村は準じていないとみなし、件数に含んでいない。 1]行動情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民デー夕 活用推進戦略会議. オープンデータ基本指針. 2017. https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/kihonsisin. pdf (参照 2021-09-05). [2] 福井のこんなところに文化財!?. https://www.pref.fukui. lg.jp/doc/toukei-jouhou/apli38.html (参照 2021-09-05). [3] 中谷友樹, 瀬戸寿一, 長尾諭, 矢野桂司, 板谷 (牛谷) 直子. 東日本大震災による文化遺産の被災状況について文化財被災地理情報データベースの利用. 歴史都市防災論文集. 2011.5, p.201-208. [4] 向原剛, 藤本直樹. オープンデータ取組自治体の特徴に関する統計的調查. 情報経営. 2020, 80(6), p.93-96. [5] 青木和人. オープンデー夕取り組み自治体の点分布分析. 社会情報学会(SSI)学会大会論文集. 2018, p.45-50. [6] 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室. 政府CIOポー夕ル. https://cio.go.jp/policy-opendata (参照 2021-09-05). [7] 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室. 行政デー夕連携標準. https://cio.go.jp/guides (参照 2021-09-05). [8] 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室. 地方公共団体へのオープンデータの取組に関するアンケート結果. 2021. https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/r2_survey_ results.pdf (参照 2021-09-05). 平成 28 年度、平成 30 年度版も前掲7)のサイトにて公開されている。 [9] 文化庁. 国指定文化財等データベース. https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index (参照 2021-09-05). [10] 国土交通省. 国土数値情報ダウンロードサービス. https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/ (参照 2021-09-05). [11] Michael Hausenblas. $5 \star$ OPEN DATA. https://5stardata.info/en/ (参照 2021-09-05). [12] 文化財指定等の件数. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/ shokai/shitei.html (参照 2021-09-05). [13] 都道府県・市町村指定等文化財の件数. https://www.bunka. go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/chiho_shitei/kensu.html (参照 2021-09-05). [14] 文化財総覧WebGIS. https://heritagemap.nabunken.go.jp/ (参照 2021-09-05). [15] 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室. 推奨データセットについて. https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/ opendata_suisyou_dataset.pptx (参照 2021-09-05).
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# 「不正義の景観」デジタルアーカイブにおける日系カナダ人家族の記憶 Japanese Canadian Family Memories in the "Landscapes of Injustice" digital archive 稲葉 あや香 INABA Ayaka } 東京大学 大学院学際情報学府 The University of Tokyo Graduate School of Interdisciplinary Information Studies (受付日:2021年12月8日、採択日:2022年1月23日、電子公開日:2022年4月4日) (Received: December 8, 2021, Accepted: January 23, 2022, Published electronically: April 4, 2022) 抄録:本稿は日系カナダ人財産没収を主題とする「不正義の景観(LoI)」アーカイブを事例に、デジタルアーカイブが日系カナダ 人の想起に与える影響を考察する。LoI アーカイブは学術資料、日系カナダ人の集合的記憶、家族の記憶という 3 つの側面を持つ。日系カナダ人ユーザーが書いた記事の分析から、ユーザーにとってLoI の資料が家族史として重要である事が示された。ユーザー は感情に着目することで、財産没収が持つ行政の不正義と家族の過去という側面を、共に個別的な家族の記憶として理解する。こ のような理解は、より大きな集団の物語と個別的な記憶を競合なく並存させることができるデジタルアーカイブの表現の可能性を 示唆している。 Abstract: This paper examines the impact of digital archives on the remembrance of Japanese Canadians through the analysis of the "Landscapes of Injustice (LoI)" archive, which focuses on Japanese Canadian dispossession. The LoI archive has three aspects: academic materials, the collective memory of Japanese Canadian, and survivors' familial memory. An analysis of articles written by Japanese Canadian users showed that materials on LoI archive are important to them as family histories. Japanese Canadian users emphasize the injustice of bureaucracy and their family's past and integrate them into their family memories by associating the documents to their emotions. This understanding suggests the possibility that digital archives can present larger groups' stories and personal memories without conflict. キーワード : デジタルアーカイブ、集合的記憶、日系カナダ人、日系人カナダ人財産没収 Keywords: digital archives, collective memory, Japanese Canadian, Japanese Canadian dispossession ## 1. はじめに : デジタルアーカイブと集合的記憶 アーカイブは記録の保存機関というだけでなく、人々が過去の出来事を知り解积する場でもある。そう した役割が期待され、現在に至るまで、数多くの歴史 アーカイブが作り出されてきた。さらに昨今の情報化 により、アーカイビングの実践はインターネット上に 広がっている。この「記憶の場」1] のデジタル化は集団の過去の想起のあり方をどのように変えるのだろう か。本稿では、デジタル化に伴うアーカイブの記憶の 場としての役割の変遷を、日系カナダ人の歴史保存プロ ジェクトによるデジタルーカイブを事例に分析する。 モーリス・アルヴァックスは、個人は何らかの集団 の観点から過去を想起するという集合的記憶 ${ }^{[2]} の$ 概念を提唱した。彼によると、集合的記憶は人々の集団 アイデンティティを規定し共同性を形作る要素の 1 つ で、その伝達には「社会的枠組み」と呼ばれる建造物 や暦などの時空間的秩序を必要とする。この集合的記憶は動態的なもので、語られるべき記憶の座をめぐっ て複数の物語が競合する場でもある[3]。 近年ではデジタルプラットフォームも想起の社会的枠組みの一部だと考えられ、ウェブ上での想起の実践 が研究されている[4][5]。インターネットでは個人が低コストで情報を発信できキュレーションも徹底されない事から、既往研究ではマスメディアが権力者や主流社会の歴史観を反映しがちであるのに対し、デジタルメディアはマスメディアが抑制しがちな個別民衆的な声を強く反映すると論じられてきた[6]。アメリカにおける記念式典と集合的記憶の関係を研究したジョン・ ボドナーは、集合的記憶を支配者が民を統合するために作る「公式な記憶」と、被支配者が自らの経験や利害関心を反映させた「個別民衆的な記憶」との折衝の産物だと捉えた[7]。同様にインターネット上での集合的記憶も、公的な記憶と個別民衆的な記憶の対立図式として理解される傾向にある。 ではデジタルアーカイブを用いた想起の実践は、そうした公的な記憶と個別民衆的な記憶の対立図式として理解可能なのだろうか。国家や大企業などの権力者と専門家により作成され、一般市民に利用される伝統的なアーカイブであれば、ボドナーの用語を借りれば、「公的な記憶」の担い手としての作成者と「個別民衆的な記憶」を担う利用者の資料解釈が競合する場として容易に理解できる。しかし現在一般的になっている 市民参加型のデジタルアーカイブ実践では、記録する者とされる者、あるいはプロとアマチュアの境界が必ずしも明確ではなく、そのような対立図式が当てはまるかは検討の必要がある。 本稿では、日系カナダ人歴史保存プロジェクト「不正義の景観(Landscapes of Injustice、以下 LoI)」を題材にこの問いを検討する。LoI は、第二次世界大戦時の日系カナダ人財産没収に関するデジタルアーカイブを作成した。このアーカイブの制作には日系カナダ人が深く携わっており、作り手と利用者の境界は曖昧である。この特徴から、公式対個別民衆的な記憶に収まらない想起の実践を誘発しうるデジタルアーカイブの事例として、LoIを本研究の対象とする。以下で、LoI の形成過程と、デジタル化された資料の日系カナダ人による受容のされ方の分析を通して、日系カナダ人による LoI デジタルアーカイブを用いた想起の実践を明らかにする。 ## 2. Lol アーカイブから読み解かれる日系の記憶 2.1 不正義の景観(Lol)プロジェクトの概要 LoI は、第二次世界大戦中の日系カナダ人財産没収の実態の解明を目指す、バンクーバーのビクトリア大学を拠点としたプロジェクトである。第二次世界大戦時、カナダ太平洋岸に暮らしていた日本人と日系カナダ人はカナダ政府により強制的に住居を立ち退かされ、ブリティッシュ・コロンビア(以下 BC)州内陸の収容所や労働キャンプへ送られた。残された日系人の資産は、カナダ連邦政府内の「敵性外国人資産管理人 (the Custodian of Enemy Property、以下、資産管理人)」の信託管理下に置かれ、当初は持ち主に返却される約束であったが、最終的には持ち主の同意なく安価で売却された。これが後に言う日系カナダ人の財産没収である。持ち主には資産の売却金が支払われたものの、額面は相場よりも低かった。1988 年にカナダ政府は立ち退きと収容を謝罪したが、強制立ち退きは日系カナダ人に大きな経済的・精神的打撃を与えた出来事として、今も真相究明が続けられている。 LoI は 2014 年から 2018 年にかけて、大学、博物館、地元日系コミュニティと協働しながら、カナダ各地の文書や聞き取り記録の収集と分析を通して、財産没収が起きた背景やその影響を調査してきた $[8]$ 。特に、調 抹殺(2)財産没収政策の持続性(3)行政による過ちの正当化(4)財産没収の永続性—を揭げ、財産没収にかかる行政過程の批判的考察に重点を置いた $[9]$ 。 プロジェクトの重要な対象資料は、地権関連書類、法制資料、日系人の資産の「保管」と売却を行った資産管理人が作成した文書といった、一連の行政文書である。特に、戦後の日系カナダ人からの売却への異議申し立てや補償請求への対応のために設置された王立日本人請求委員会、通称「バード委員会」(1947 年 1951 年)が作成したケースファイルがカナダ国立図書館・文書館に残されており、その収集とデジタル化がプロジェクトにとって重要な意味を持っていった。 調査の成果物 [註1][10] の 1つとして 2021 年 3 月に公開されたのが、調查用データベース「不正義の景観アーカイブ (以下、LoIアーカイブ)」である。LoIアー カイブでは、日系人財産没収に関する 34,824 件の資料かHTML形式で公開されている[11]。このデジタルアー カイブが日系カナダ人コミュニティの想起のあり方に与えた影響を、LoIアーカイブ利用者の体験記が載つたコラム「財産没収に触れて (Touched by Dispossession、以下 TbD) $\rfloor^{[12]} 、 2021$ 年 3 月 28 日と同月 31 日に実施された LoIアーカイブ公開記念イベント [13][14]、2019 年 11 月に筆者が LoI プロジェクトメンバーに実施したインタビューを基に検討する。また、本稿第 2 章第 2 節は 2020 年のデジタルアーカイブ学会第 4 回研究大会に打ける稲葉あや香の発表 ${ }^{[15]}$ に依る。 ## 2.2 Lol アーカイブの価値の変遷 LoI アーカイブは現在に至るまでに、いくつかの価値の転換を経験している。LoI 始動前から前身のデー タベースは存在していたが、当初の目的はプロジェクト・ディレクターであるビクトリア大学教授のジョー ダン・スタンガーロス氏の学術調査の利便性向上であった。当初スタンガーロス氏はイーストエンドバンクーバーの不動産を調查していたが、一次資料の地権関連書類は所蔵館から有料で取り寄せなければならず、アクセシビリティの低さが課題たっった。そこでビクトリア大学のコンピューティングチームと協働し、収集した地権関連書類をデジタル化し閲覧できるデー タベースを作成し、その過程で資産管理人の記録に注目するようになった。しかしこの時点ではデータベー スの用途を明確に決めていたわけではなかった。しかしスタンガーロス氏は調查のために日系国立博物館に行ったところ、博物館側が自身の研究に強い関心を持っていることを知った。そこから彼と日系国立博物館との協働が始まり、プロジェクトの規模が拡大し、 2014 年、連邦の助成金を用いて LoI が始動した[註2]。 この時点でデータベースは「日系人財産没収」という日系カナダ人の歴史の解明を使命とし、日系コミュニティとの協働も緊密になっていった。たとえば LoI は日系国立博物館や全カナダ日系人協会などの日系人団体とパートナーシップを結び、日系カナダ人リー ダーから成る「コミュニティ協議会」を設け助言を受けた。デジタルアーカイブ部会も、言葉の用い方やオーラルヒストリーの扱い方、機微な情報の扱い方について、日系コミュニティのニーズに合致するよう同協議会から監修を受けた ${ }^{[11]}$ 。 さらに活動を通してLoI アーカイブは、より個人的な「家族の記憶」としての意味も持っていった。そのきっかけが日系人へのバード委員会ケースファイル提供活動である。財産没収経験者は自らの経験を家族にも話さないことが多く、家族の過去を知りたい日系力ナダ人にとって、申請者の生活や言動が事細かに記載されたケースファイルは貴重な情報源となる。そこに資料の価値を見出したプロジェクト・マネジャーのマイケル・アべ氏を中心に、LoIはアーカイブ公開前から、日系人へ家族のケースファイルを提供してきた。 このようにLoIアーカイブは、資料のデジタルデー 夕化の影響を受けながら、歴史学の史料、日系カナダ人の集合的記憶、家族の記憶と、順次新しい価値を付加されてきた。 ## 2.3 Lol アーカイブを用いた想起の実践 以上の事を踏まえて、本節からは日系カナダ人利用者がいかに LoI の資料を読み解いているのかを考察する。まず家族の記憶という意義は、2021 年 3 月に公開されたLoIアーカイブの設計に反映された。LoIアー カイブには自由検索やコレクション別検索のほか、人名検索機能が実装されていることが特徴だ。たとえば文書の概要ぺージには文書内に登場する日系人の氏名が記載され、氏名に貼られたリンクから、個人の情報やその人の名前が載った他の文書、アーカイブに載つている同姓の人名をまとめたポップアップページを閲覧できる。また、生年月日や立ち退き前後の居住地による絞り达みも可能である。この機能によりLoIアー カイブは、家族関係や地縁といった日系人の社会的ネットワークを可視化する効果を持つ[13][14]。 続いて TbD の記事から日系人ユーザーの LoI 文書の読み方を考察する。TbD は LoI ウェブサイトで 2014 年から不定期に連載されるコラムで、一般の日系カナダ人によるエッセイや、LoIメンバーによる進捗報告やエッセイが載せられる ${ }^{[12]}$ 2021 年 12 月 4 日時点で $\mathrm{TbD}$ に公開されていた全 31 本の記事のうち、27 本が個人史または家族史を題材とする。うち筆者自身の家族に関する記事は 20 本で、残り 7 本は LoIメンバーによる聞き書きや記事の筆者以外の家族についての記事、論文、フィクションなどだ。また 31 本中 12 本が LoI の資料提供をきっかけに分かった事実を書いている。内容面では、LoI の性質上ほぼ全てが財産没収に言及しているが、中でも頻出するテーマは行政の不正義(10 本)と個人の感情(7 本)であった。そのような性質を踏まえ、LoI の資料を読むことが日系カナダ人にいかなる想起を起こすのかを以下で検討していく。 ## 2.3.1 個別的経験としての財産没収 $\mathrm{TbD}$ 上の家族史の語り口にはある定型が見られる。 まず(1)家族構成や戦前の生活が書かれ、次に(2)LoI 資料を読んでわかった家族の立ち退き経験が説明され、最後に(3)総括が書かれる。(2)の立ち退きと財産没収の経緯の説明では、祖父が持っていた土地が相場よりも安価に売却されたなどの家族の具体的な経験が書かれると同時に、当時のカナダの財産没収行政の理不尽さが語られる ${ }^{[12]}$ 。 このような財産没収の証言は新しい物ではない。たとえば全カナダ日系協会が 1984 年に立ち退きの補償請求のために連邦政府に提出した意見書では、損失額や政府幹部の意思決定を批判する節の間に、立ち退き経験者の証言が引用されている[16]。この意見書のように、補償運動の文脈では個人の証言は戦時立ち退きと収容の実態解明手段であり、その引用は政治的行為でもあった。 それに対して、 $\mathrm{TbD}$ の証言の多くは資料との出会いをそのような政治的動機付けではなく、むしろ個別的な家族との繋がりの中で理解する。例えば 2020 年 10 月 13 日発表の記事で、LoIのマイケル・アべ氏がスーザン・フクヤマ氏へケースファイルを提供した時の反応がその典型例だ。アべ氏によると、フクヤマ家のケースファイルからは、祖父から押収された漁船の売買経路や当時の政府高官の言動といったカナダ史上貴重な事実がわかるのだが、フクヤマ氏はそれよりも、祖父母が立ち退き前の家に住んでいた頃の様子がわかる記録や、祖父の手書きの手紙の署名が父親のものと似ているといった「より小さな事」に関心を持ったという。アべ氏が評価したように、LoI が収集した文書はフクヤマ氏の「家族の歴史を生き返らせた」[17]のだ。 またステイシー・イノウエ氏の文章では、LoI が掲げる財産没収の4つのテーマと関連づけて「多くの者の共犯」と名付けられたチャプターに、イノウエ氏の祖母のケースファイルのスキャンデータとミシンの写真が揭載され、次のような文章がある。 私のバアチャンのケースファイルには、アルバー タ州ピクチャー・ビュートにあるテンサイ農場にいた自身のもとに所持品を送るよう要請する手書きの手紙と、そのタイプされた版があった。リストにはシンガーのミシンがあるとケースファイルで読んだ後、私はバアチャンにそのミシンが今彼女の寝室にあるものと同じものかどうか尋ねると、そうだと答えた。つまりこのミシンはバンクーバー島のパルデイ近くの伐採作業地からピクチャー・ビュートのテンサイ農場へ、さらにアルバータのトゥリン、そして北オンタリオのいくつかの町を旅しながらこの 80 年ほどをかけてトロントに到着したのだら、 すごいことだ。(Inouye 2021) [18] イノウエ氏はこの後で財産没収を「過ち」と表現しているが、引用部分では行政の不正義を強調する見出しをつけながらも、祖母が今も持つミシンが家族と共に長い距離を旅してきたことへの感嘆の言葉で文章を結んでいる。このように、家族の財産没収やそれに伴う行政の理不尽さは、あくまで個人の想い出に結び付けられる。 ## 2.3.2 エスニック集団の記憶と個人の記憶の両立 しかし、同じくLoI から資料提供を受けたローラ・ サイモト氏の場合は、2つのテーマの関係はより複雑である。サイモト氏は自身が生まれる前に亡くなった祖父クニマツ氏の財産没収に関する文書を読み、カナダ行政の冷酷さに涙を流しながらも、資料を通して明らかになった祖父の人間性に注目する。以下は、祖父が他の日系人と共にバード委員会に資産評価額の是正を争い、資産価値の過小評価の事実を認めさせた事への評価である。 これらの日系カナダ人たちは、自分の価値と自分の資産の価值を知り守ることで、結果がどうであれ自身の価値を主張した。その試みは行政的に悪質たっったが、彼は不当な加害者の餙食にはならなかった。胸が張り裂けそうになり、諦めたくなっただ万うが、彼は諦めなかった。加害者の道徳的破綻を暴くために彼ら自身のルールを使ったことで、彼の尊厳はそのページの細部から見てとれた。(Saimoto 2020) [19] サイモト氏は LoI 上の資料から、祖父が当時のカナダ行政による財産の過小評価に抗った事を知り、その 「尊厳」を高く評価する。それは一方では、政府の不正義に異議を申し立てた「日系カナダ人たち」という集団の「尊厳」の物語であり、同時に他でもない祖父が「尊厳」を持ち正義を「諦めなかった」ことへの感嘆でもある。つまりサイモト氏は、資料を日系カナダ人という集団の物語と個別的な祖父の物語という二重の記憶に位置付けており、両者は両立している。 その行政の不正義と家族という二重の読みを繋ぐ要素として、書き手の感情がしばしば現れる。例えば前述のサイモト氏は、祖父の財産没収経験を知り、まず 「涙が頬を伝った」と言及している。また、フクヤマ氏は史料から祖父と父の類似性に「驚き」を感じ、家族の繋がりを意識する。他のエッセイや公開イベントでも、日系人ユーザーはしばしば史料を読むことで生じた「怒り」や「ショック」といった感情を表現し、家族の「空白が埋められた ${ }^{[13]}$ と語り、財産没収に関する資料を家族の記憶に引き寄せている。 総括すると、LoIアーカイブ資料は TbD 上の日系カナダ人ユーザーに二重の想起を誘発した。1つ目は、財産没収を行った行政機構の不当性を批判する集団としての日系カナダ人の記憶、2つ目は家族の苦難や現在の自分との繋がりの発見といった家族の記憶である。そして利用者は 2 つの読みを個人の感情と関連付けることで、その両方を個別的な家族の経験として読む傾向が見られた。つまり、デジタルアーカイブを読むことは、家族の過去の空白を怒りや驚きなどの感情を抱きながら埋めていく過程として表現された。それは、デジタルアーカイブ作成の責任者の 1 人である日系国立博物館のリサ・ウエダ氏が、公開記念イベントのスピーカーの言葉を借りてアーカイブでの検索を 「感情的な旅」[13] と表現したように、作り手も自覚する LoI アーカイブの情動的な効果なのである。 ## 3. おわりに 以上、LoI デジタルアーカイブの形成が、日系カナダ人のどのような想起といかに結びついているかを検討してきた。TbDにおいて日系カナダ人たちは、LoI の資料を国家を批判するエスニックな対抗言説と家族史という、2 通りのナラティブと結び付けている。そして彼らの結論は、政府の不正義の告発よりもむしろ、個人の感情や家族とのつながりの回復に力点が置かれるのだが、この 2 つのナラティブは「公式な記憶」と 「個別民衆的な記憶」として対抗し合っているわけではない。書き手が財産没収経験を自分の感情と関連づけることで、彼らの想起は、国家の不正に抗うエスニック集団の物語としても、代替不可能な家族の歴史としても読みうる、いわば二重の個別民衆的な記憶と いうべきものになっているのだ。個人を重視した検索機能や TbDコラムが示したように、その二重の記憶を矛盾なく提示することが LoIアーカイブの効果であった。この効果は日系人コミュニティの意図だけでなく、デジタル化された資料という物的条件にも促されて生じたものである。 最後に、今後の課題を述べる。本稿は、公的な記憶と個別民衆的な記憶が競合しないという LoI デジタルアーカイブの二重的な想起の様態を明らかにした。今後は、ここでの認識を発展させ、これをポスト補償期の北米日系人の集合的記憶という、より広い問題系に位置付けて分析を進めていく必要がある。たとえば、同じ強制立ち退きと収容の経験を持つ日系アメリカ人の場合、1980 年代の補償運動期には日系アメリカ人の集合的記憶が画一化されたのに対し、補償実現後には日系コミュニテイ内部の多様性への関心が高まった経緯がある $[20]$ 。今後は LoI のような事例を、北米日系社会におけるポスト補償期という時代背景と、非単線的な読みを可能にするデジタルメディアの出現という二重の文脈との関わりでさらに調査する必要がある。 ## 謝辞 本稿の執筆にあたり「不正義の景観」プロジェクト・デイレクターのジョーダン・スタンガーロス・ビクトリア大学教授と同プロジェクト・マネジャーのマイケル・アべ氏をはじめメンバーの方々にご協力をいたたいいたこの場を借りて心より感謝の意を申し上げる。 ## 註・参考文献 [註1] LoIウェブサイトによると、LoIはデジタルアーカイブの他にも、教材開発、ミュージアムでの企画展の実施、歴史学習ウェブサイトの開設といった発信活動を行ってきた[10]。 [註2] 以上は2019年11月 7 日に筆者がビクトリア大学でジョー ダン・スタンガーロス氏とマイケル・アべ氏に行ったインタビューによる。 [1] Nora, Pierre. Between Memory and History: Les Lieux de Mémoire. Representations. 1989, vol. 26, Special Issue: Memory and Counter-Memory, p.7-24. [2] Halbwachs, Maurice. On Collective Memory. Coser, Lewis A, tr. The University of Chicago Press, 1992. [3] Sturken, Marita. Tangled Memories: The Vietnam War, the AIDS Epidemic, and the Politics of Remembering. University of California Press, 1997. [4] Gessner, Ingrid. From Sites of Memory to Cybersights: (Re) Fram- ing Japanese American Experiences. Universitätsverlag Winter, 2007, (American Studies, 141). [5] Rutten, Ellen.; Fedor., Julie.; Zvereva Vera, eds. Memory, Conflict and New Media: Web Wars in Post-Socialist States. Routledge, 2013. [6] Birkner, Thomas.; Donk, André. Collective Memory and Social Media: Fostering a New Historical Consciousness in the Digital Age?. Memory Studies. 2020, vol. 13, no. 4, p.367-383. [7] Bodnar, John. Remaking America: Public Memory, Commemoration, and Patriotism in the Twentieth Century. Princeton University Press, 1992. [8] Landscapes of Injustice. "Purpose". Landscapes of Injustice. 2017. https://www.landscapesofinjustice.com/purpose/ (参照 2021-12-04). [9] Stanger-Ross, Jordan, ed. Landscapes of Injustice: A New Perspective on the Internment and Dispossession of Japanese Canadians. McGill-Queen's University Press, 2020, p.14. [10] Landscapes of Injustice. https://www.landscapesofinjustice.com/ (参照 2021-12-07). [11] Landscapes of Injustice. "About LOI digital archive". https://loi.uvic.ca/archive/about.html (参照 2021-12-04). [12] Landscapes of Injustice. "Touched by Dispossession”. Landscapes of Injustice. 2021. https://www.landscapesofinjustice.com/ touched-by-dispossession/ (参照 2021-12-04). [13] Abe, Michael. "Digital Archives Database Launch Event Session 1 Sunday, March 28, 2021”. YouTube. 2021-03-31. https://www. youtube.com/watch?v=wZhamaJEH7o (参照 2021-12-04). [14] Abe, Michael. "Digital Archive Database Launch Event Session 2 Wed. March 31, 2021”. YouTube. 2021-04-07. https://www. youtube.com/watch?v=HPpNs5cKaQE (参照 2021-12-04). [15] 稲葉あや香. [A22] カナダに打けるエスニック・コミュニティの歴史デジタルアーカイブの事例報告:日系カナダ人歴史保存プロジェクト「Landscapes of Injustice」を事例として.デジタルアーカイブ学会誌. 2020, vol. 4, no. 2, p.105-108. [16] 全カナダ日系人協会. 裏切られた民主主義 : 補償問題のために. 横山赳夫, 鹿毛達雄訳. 全カナダ日系人協会, 1985. 原書名Democracy Betrayed: The Case for Redress. [17] Abe, Mike. "The Lost Fleet Exhibit Launch Report: A Case Study". Landscapes of Injustice. 2020-10-13. https://www.landscapesofinjustice.com/news/the-lost-fleet-exhibitlaunch-report-a-case-study/ (参照 2021-12-04). [18] Inouye, Stacey. "Landscapes of Injustice Claim Series \#15 Property Lost-Found in Case Files". Landscapes of Injustice. 2021-3-11. https://www.landscapesofinjustice.com/touched-by-dispossession/ property-lost-found-in-case-files/ (参照 2021-12-04). [19] Saimoto, Laura. "Landscapes of Injustice Claim Series \#10 9609 Meeting My Ojiisan (Granddad)”. Landscapes of Injustice. 202010-13. https://www.landscapesofinjustice.com/touched-bydispossession/landscapes-of-injustice-claim-series-10-9609-meetingmy-ojiisan-granddad/ (参照 2021-12-04). [20] Takita, Sachiko. The Tule Lake Pilgrimage and Japanese American Internment: Collective Memory, Solidarity, and Division in an Ethnic Community. University of California, Los Angeles, 2007, Ph.D. Dissertation.
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# COVID-19状況下での教育活動へのデジタル映像配信活用とその課題:大阪市立自然史博物館での実践例から Possibilities and subjects of digital archives on museum education under COVID-19 situation - in case of Osaka Museum of Natural History - 佐久間 大輔 ${ }^{1}$ 石田 惣 ${ }^{\top}$ 石井 陽子' SAKUMA Daisuke ISHIDA So ${ }^{1}$ ISHII Yoko ${ }^{1}$ 釋 知恵子 ${ }^{1}$ SHAKU Chieko ${ }^{1}$ 山中 亜希子 ${ }^{2}$ YAMANAKA Akiko² } 北村 美香 KITAMURA Mika' 1 大阪市立自然史博物館 2 特定非営利活動法人 大阪自然史センター 1 Osaka Museum of Natural History 2 Osaka Natural History Center } (受付日:2021年11月27日、採択日:2022年2月28日、電子公開日:2022年4月4日) (Received: November 27, 2021, Accepted: February 28, 2022, Published electronically: April 4, 2022) \begin{abstract} 抄録:COVID-19 状況下で、博物館活動もネット上での活動が多様性、量ともに大幅に増加した。デジタルアーカイブの活用も、各博物館で主に研究成果や所蔵品の公開を中心に進んでいる。ここでは、教育活動へのライブ配信の活用とそのアーカイブについ て、大阪市立自然史博物館の活動を検討する。教育活動の類型に応じて、様々な配信手法を選択しているが、それぞれにオンライ ン上の活動に利点と限界があった。細かな工夫で魅力を補うことも試みた。また、教育映像コンテンッのアーカイブの効果につい ても言及した。 Abstract: Under the COVID-19 situation, museum activities on the internet have boosted up in amounts of contents and in the range of diversity. Digital Archives are also promoted and utilized for publicizing of storage collections, research papers, in many museums. In this paper, digital archiving of educational activities of museums were focused, describing the case of Osaka Museum of Natural history as an example. The forms of streaming are selected by types of education activities for better communication, and we found some advantages and limitations for online educations. Some of the limitation can be improved by additional activities. The benefits of contents archiving of museum educational movies are also discussed. \end{abstract} キーワード:博物館教育、リポジトリ活用、ライブ配信、オンデマンド配信、協同的な学び、双方向会議利用 Keywords: museum education, live streaming, on-demand streaming, co-operative learning, interactive meeting ## 1. はじめに 2020 年冬から 2021 年 12 月の現在に至るまで、 COVID-19 新型感染症パンデミックの影響は経済・社会活動全般に及び、博物館もまたその例外ではなかった。大阪市立自然史博物館(以下大阪自然史)も 2020 年 2 月より、対面での行事を一部中止せざるを得なくなり、2月29日に感染拡大による大型イベントの中止要請を受け、特別展の開幕を目前に臨時休館となった。この休館は 2020 年 6 月 2 日までの 3ヶ月に及んだか、対面での教育活動は参加者同士の近接が避けられないことから、さらに長い間実施することができなかった。こうした中、様々な教育活動についてオンライン上での実施を試みた。コロナ禍の中での博物館・美術館のオンライン上での活動については、困難な状況の中での数少ない発展的な活動として、概ね肯定的な評価をされてきている[1]〜 [4]。こうした活動の多くは、十分な検討の余裕もなく行われた緊急避難的な活動である。博物館の教育活動としては必ずしも十分なものができていないと実施者として評価してき た[5]。一方で、はからずもこれまで不十分であった博物館の教育活動が映像コンテンツとして蓄積され、これまでは展開できなかった学びを展開できた側面もあった。大阪自然史は多様な活動を、報告や論文、冊子などの形で記録し、それをアーカイブし、さらにリポジトリ ) としてオンライン公開してきたが、これまでは実施した教育プログラムがコンテンツとしてアーカイブ記録が残ることがほとんどなかった。 カリキュラムに沿って行われる学校教育(フォーマル教育)や偶発的・非意図的な教育以外の、組織的に行われる教育を、ノン・フォーマル教育と呼ぶが[6]博物館での教育活動もその一つである。学習者もプログラムも多様であること、自主性に依存するなどの特徴を持ち、学習目的がコンパクトで短期で完結するような学習や、理論など抽象的概念よりも具体的、実際的な教育に向いているとされる。大阪自然史での教育活動も一連のカリキュラムではなく、その時期に博物館が扱う主題に合わせた内容を、あるいは地域や季節 などに合わせた内容を一回完結多くても数回完結で取り扱うことが多い。実際、多様な年齢や興味の程度に合わせた即興性の強い教育活動となっている。このため少人数で講師と参加者の双方向でのやり取りが多いものが主流となっていた。 具体的な現実を題材とした野外や展示室での教育活動のためには、講師と参加者が同時にその場の環境を共有していることも重要な要素となる。共時性や空間の共有は、現実空間での教育活動にしかできない要素である。他にも録画してのオンラインコンテンツとしての実施では双方向性が失われる場合もあり、また Zoom などの双方向ビデオ会議を利用しても初対面の参加者とコミュニケーションを成立させることが必要になるため、日常的な教育活動利用としてはかなりハードルが高いと考えられた。このため、従来は博物館の多くの教育活動を全面オンライン化するのはなかなか困難な課題と考え、実地での活動と、古くはメー リングリストから近年は SNS など文字べースのコミュニケーションとを組み合わせた展開を主流としていた[1][7][8]。しかし、コロナ禍対応を機にはからずも普及教育活動の映像アーカイブが蓄積されることとなった。 この報告では、今後の活動設計のために、オンライン上に移行した大阪自然史の教育活動について、行事類型ごとに利点と弊害について分析・評価するとともに、博物館教育コンテンッのアーカイブ化とその活用の可能性と課題についても議論する。 ## 2. パンデミック下での博物館教育活動のデジ タルシフト 自然史博物館では 2019 年度までの教育活動としては展示室での活動から室内での講座、野外活動まで様々な事業を行ってきた。しかし、それぞれに COVID-19が蔓延する状況下では難点がある。観察したい対象の周りに過密になりやすい、参加者同士の対話ができない、小さな子どもの多い行事もあり接触回避の徹底が難しいなどの課題がある(図1)。 人数を制限することで、「三密」は部分的には解消できるものもあるが、府県を越えて参加する者も多く、人流を抑制する観点からも、大阪自然史では大阪府の外出自肃要請や府民非常事態宣言に合わせて「対面での教育活動」を停止してきた。例えば、不特定多数が参加することを前提として計画されるギャラリートー クなどは話者との距離を確保しても参加者間の距離確保が困難であるなど、検討の上、中止判断を行った ${ }^{[5]}$ 。 しかし、特に 2020 年春は学校の授業も停止する中であり、学びの提供を続けるべく、可能なものはオン 図1コロナ禍以前の特別展ギャラリートーク。多くの参加者でやや密が避けられない。 図2 大阪自然史の利用者が求めたweb上での博物館活動。 (http://id.nii.ac.jp/1504/00001457/ (参照 2022-02-20)) ライン上での実施を模索した。制約の長期化が伺われた 2020 年 5 月には博物館をよく利用する友の会会員などに対し「博物館のオンライン上での普及活動についてのアンケート」[9]を行いニーズを調査した。 130 人からの回答で過半数を超える得票を得たのは「身近な自然観察の紹介」や「学芸員の日常の紹介」ついで、「ギャラリートークのウェブ配信」、「オープンセミナーのような講座のウェブ配信」などであった(図 2)。 これらのうち「自然観察」や「学芸員の日常」はすでにSNS での展開をしていたため[1]、ギャラリートー ク及びセミナーの動画配信を中心に、全体的にオンライン上での普及教育の取り組みを強める方針とした。動画配信が難しいものも SNS 以外に Blog やリポジトリからの資料提供で学びや観察に繋がる内容を博物館全体で提供し続けた。 これら博物館の提供するオンライン学習コンテンツ は「大阪市立自然史博物館おうちミュージアム」(図 3)としてポータルとなるぺージにまとめ、北海道立北海道博物館が始めた博物館が提供する学習コンテンツの共同キャンペーン「おうちミュージアム」[10] の一環として同プロジェクトの全国リンク集に掲載している。 コロナ以前にどのような教育活動を実施していたの か、詳細については大阪市立自然史博物館館報[11]を、 2020 年度にどのようなオンライン上への移行をはかったかは川端清司の記事[5] を参照していただきたい。今回オンライン上にコンテンツ化したものを中心に、類型を行った。 A. 参加者は話を聞くことが中心の室内トーク型、B. 参加者が実際に手を動かすことに主眼のある実習型、C. 参加者が野外で体験をする 図3大阪市立自然史博物館おうちミュージアムサイト (http://www. mus-nh.city.osaka.jp/ouchi/index.html (参照 2021-11-19)) 博物館が、コロナ䙤で新規に提供したコンテンツをひとまとめにしたもの。 ことに主眼のあるフィールド体験型、そして D. 博物館の展示そのものも教育活動の一環として位置づけた。 表 1 に行事の類型と、オンライン上への移行形式、本来その行事の学習効果や魅力にどのような要素が大事だったかを示した。以下に概説する。 A. 室内トーク型の教育活動:学芸員のトーク (講演)が主要なコンテンツは、展示室や収蔵庫で物を見せながら行うもの、PPTなどを投影しながら行う講義 (座学) 形式のものがある。後者は、学校教育における講義と近く、オンライン移行は比較的容易であったが、前者は博物館側からの知識伝達にとどまらず、来場者・見学者の視線を誘導し、展示品・収蔵資料の観察を深めてほしいという意図がある。このために座学に比べもとより双方向性が高く、集まった参加者を見ての調整など即興性の要素も高かった。これらをオンライン上のコンテンツとして公開するためにいくつかの工夫をしている。 A-1 ギャラリートーク:展示品を観察する視点を与えることが主目的のため、トークだけでなく資料をクローズアップする映像を入れる、字幕などで理解しやすく加工を加えて編集を重ね、録画後オンデマンド配信している (図4)。 A-2 収蔵品解説: 収蔵庫内で撮影し、収蔵品を紹介するコロナ禍中に新規企画されたコンテンツである。数人の学芸員が聞き役として参加し、視㯖者の代わりになって質問する役目を付した。同様に録画編集後、オンデマンド配信をしている。 表1 類型化した教育活動とその魅力発揮に必要な要素、選択したオンライン上での実施形態 & \\ & 双方向性 & 協同学習 & 即興性 & コンテンツ化に際しての工夫 \\ & 本来 1 日 & Blog + PDF & - & (0) & $\bigcirc$ & (0) & \\ & 本来 $4 \sim 6$ 時間 & Blog + PDF & - & & (0) & & \\ :学習に特に重要な要素、 $\bigcirc$ : 学習に重要な要素、必須ではないが魅力の一つ ゙ロロナ禍後新規に企画 図4 特別展「大阪アンダーグラウンド」のギャラリートークの1シーンから。 (2021年5月15日公開 https://www.youtube.com/watch?v= ZsGWIOkdBKg (参照 2021-11-19)) A-3、4 セミナー・シンポジウム:双方向性をある程度確保するために、YouTube によるライブ配信を基本とし、演者などの意向に応じて期間を定めたオンデマンド配信を行っている。ライブ配信時にはチャットによる質疑、あるいはチャット内での意見交換を可能とし、講演後になるべくそれらの質問を取り扱う時間を設けた。 B. 実習系の教育活動:大阪自然史では従来、標本の作り方やイカの解剖、顕微鏡観察など様々な観察技法や生物の理解につながる実習を行っている他、学芸員実習も年間 40-50人ほど受け入れている。実習形式は最もオンライン上のコンテンツにするのが困難なものと考え、限定的にオンラインでの実施を行った。 また、「子どもワークショップ」も実習のカテゴリー とした。 B-1 観察技法を解説するコンテンツ:映像教材型の技法解説は旧来から様々な分野でノウハウが開発されている。コロナ禍にあっては、自宅にある道具で、自宅周辺でできる観察コンテンツの提供を月刊の普及誌(友の会会報 “Nature Study”)での展開と合わせて提供した。 B-2 実習:実際に参加者が手を動かすことを指導する実習では双方向性、即興性を高いレベルで実現する必要があるため、予め実習の手順や材料をしっかりと準備した上で Zoom Meetingsを用いた同時双方向会議形式で、少人数で行うことで実現した。博物館実習だけでなく、「豚足」などの揃った材料を参加者に提供しての骨格標本の一般向け(成人向け)実習なども実施した。双方向性や指導のためには、実演する指導者、その手元をカメラで写す撮影者、さらに参加者の様子をみる支援者など、普段博物館の実習で実現されている質を保つためには、準備段階・実施段階ともに多大な労力を必要とした。これらの実習は参加者に 図5 特別展の題材を子供向けコンテンツに仕立てた「外来生物って、なあに?」(2020年 7 月 1 日公開 https://www.youtube.com/watch? $\mathrm{v}=E 8 W r j 3 R k K y 4$ (参照 2021-11-19)) とっては充実した実習となっても、第三者に役立つ学習者のための教材とするには多くの追加解説や編集を必要とし、映り达む参加者の許諾も必要となるため、 コンテンツとしての録画公開は行わなかった。 B-3 子どもワークショップ:小学生以下を対象とした「子どもワークショップ」の実施時にはさらに高いレベルでの双方向性、即興性を必要とし、更に参加者同士の相互作用も重要になる、博物館においても協同学習的要素の特に強い教育活動である [12][13]。このため、2つの方向性でオンラインプログラムとした。一つは B-1 と同様の教材ビデオとしての作成し、オンデマンド配信した。子どもにわかりやすいストーリー 構成とし、あらかじめダウンロードしてもらえる教材を用意し、あるいは毎日食べている野菜などを題材にするなど、自宅での取り組みにつながる工夫をした。 さらに低年齢の視聴を意識して、ビデオ作成にも視線誘導のためのパペット活用、課題を考えてもらうための「間」を確保するなどの工夫を行った(図 5)。 もう一つは、B-2 同様の同時双方向性を確保した少人数(最大 5 人)でのビデオ会議形式でのワークショップ実施を試みた。少しでも双方向性を確保するため、解説役、進行役、子どもの観察と支援役、機材担当といった体制を用意し、プログラム面でも他の参加者の話を聞く時間を確保し、少しでも他の参加者との学び合いが生じることを目指した。結果、スタッフと子どもとのコミュニケーショは十分確保できたが、参加者同士のコミュニケーションを十分確保することは難しかった(図6)。 C. フィールド体験:自然史系博物館は参加者を野外に連れ出して実際の自然を体験してもらう観察会を数多く実施してきた。滋賀県立琵琶湖博物館では実験的に農業水路での水生生物の観察のライブ配信を試 図6 Zoomで開催した「子どもワークショップおしえてハカセ! 石のカの子どもたちとのコミュニケーションをファシリテーターがサポー トする形で進行した。 |ビオトープの田起こし(6月)喜居植物阅寗内 (5月) $\mid$ メイy 6月12日にそのテストをかねて田起己しをしました。(權物场究堂・長谷川) 図7 中止された観察会の内容を伝えるBlog記事(2021年 6 月15日投稿 http://www.omnh.net/event/2021/06/6_1.html (参照 202111-19)) 図8 リポジトリで公開された観察会用資料(「大阪湾の磯の生き物観察シート」) (2021年 5 月公開 http://id.nii.ac.jp/1504/00001528/ (参照 2021-11-19)) み、ロケ番組のような実況感をみせている(須原せせらぎの郷・魚のゆりかご水田米 https://www.facebook. com/SuharaYurikago/videos/570903573821298 (参照 202202-20))が、全面的な代替は難しいようだ。滋賀県にくらべ、感染拡大状況がひどく、在宅勤務や出張抑制のかかった大阪自然史ではライブ配信は機材・労力的に C-3での限定的な取り組みとなった。 C-1 ガイドツアー:博物館で通常であれば行っている自然観察の案内ができない場合でも、各自で季節 の観察をしてもらうために、また可能なときには個人、家族での身近な観察をしてもらうことを目的に、予定した観察内容の博物館 Blog (http://www.omnh.net/event/ (参照 2022-02-20))やSNS での紹介、資料のリポジトリでの公開を中心とした(図 7)。 C-2 自己学習支援:C-1 の延長として過去の観察会の手引や、新たな観察ガイドをリポジトリ公開した (例えば http://id.nii.ac.jp/1504/00001528/ (参照 2022-0220))他、過去の自然観察手法の解説記事(図 8)を 図9「クマゼミの羽化ライブ中継夜の博物館・植物園を探検しよう!」配信の様子。(2021年 7 月24日(土) 実施 https://www.youtube. com/watch? $v=g W O c Y N J a q t 4$ (参照 2022-02-20)) 公開した。遠隔授業における「教材提示型」に近い活動である。 C-3 仮想体験:博物館周辺での観察会の中継を行った。博物館ビオトープからの中継を水田観察とセミの羽化で用意したが水田観察は雨天で実施できずセミの羽化の YouTube Live による中継を行った(図 9)。 D. 展示室仮想体験:特別展「大阪アンダーグラウンド」はコロナ禍による臨時休館の延長により開催が危ぶまれたために、VRによる記録と公開を試みた ## 3. オンライン上への活動の移行をどう評価す るか 従来方式からオンライン上の活動に変更した教育活動の評価を試みた。ロジックモデル評価など体系的な評価のためにはアンケートなどを用いたアウトカム測定が必要になる。今回は十分な事後アンケート調査を行うことができていないので、閲覧数などのアウトプットと、企画側である博物館として、どの程度事業の魅力を実現できているかという「質」を比較することで評価を試みた。 表 2 に、各活動について、行事のコンテンツ(教育内容)は変わらないとした場合、そのコンテンツを伝える魅力に重要な要素がデジタル化で損なわれていないかどうか、アウトプットである参加者数 (閲覧数) を従来方式で実施した場合とオンライン上で実施した場合についてそしてアーカイブの公開の有無と博物館の総合評価について示した。 A-1の「ギャラリートーク」は事前ビデオ収録によるオンデマンド配信とした事により、話者と利用者の 「双方向性」、利用者同士の「協同学習性」、状況によって話題が変化する「即興性」は実現できない。一方、現実空間で実施の場合には十数人から多くても数十人しか対象にしかできないが、オンラインであれば述べ数百人から数千人が再生する。この数字はアーカイブとして長期間公開されることによりさらに増加するだ万う。A-2「収蔵品解説」も同様だが、聞き役、質問役を含めて収録することで双方向性や、参加者の代わりに質問をしてもらってそのやり取りから学ぶ「協同学習」を擬似的に実現することができた。A-3、A-4 のセミナーやシンポジウムはライブ配信を収録し、 表2 オンライン上で実施した教育活動とその成果および評価 & & & オンライン上への移行の評価 \\ (0) : 学習に特に重要な要素、○: 学習に重要な要素、必須ではないが魅力の一つ $\square$ で示したものは、デジタル化で損なわれた当該活動の魅力 + : 数人十数人程度、 ++ : 数十人百数十人、 +++ : 数百人以上、 - : 実施していない チャットでの質問や意見交換をすることで、双方向性や、他の人の質問から学ぶ協同学習性も少なくともライブ視聴している人向けには確保できた。学芸員によるセミナーでは質問や感想などのチャット書き込みが 1 時間程度の間にコメントが 11.7 件 (16 回のセミナー の平均)あり、回によっては実地開催の講演よりも活発なほどである(数値はYouTube のアナリティクスから、以下同様)。シンポジウムになるとチャット上でも議論が始まるなど、活発な参加者同士の交流が見られる。例えば 2021 年 11 月に開催した「コロナ禍後の活動のリブートを目指して」というシンポジウム )では3時間あまりのシンポジウムの間に 60 件ほどのチャットがかわされるなど双方向性や協同学習性は担保されたと言えるだろう。議論を総合討論に取り达むことで即興性も実現できている。一方で参加者数は通常のセミナーは数十人、大規模に行うシンポジウムでも会場の定員などで 200 人程度までになってしまう。実はオンラインでも平常の学芸員のセミナーではライブ参加者数は数十人だが、アーカイブ化した録画を見る視聴者はその 10 倍以上になる。 2020 年 12 月に実施した「2020 年代のための里山シンポジウム」(図 10)はライブ配信でこそ実地の開催並みの 115 人同時視聴であったが、アーカイブは 1 年 2 ケ月の間に 3,568 回、再生時間数で 1,127 時間にのぼる。 こうした広がりは移行の成果といえるだろう。 B. 実習は映像教材的な B-1、B-3を除けば、双方向性が必須になるので、双方向のビデオ会議などを用いた。実習参加者の様子や反応に十分に答えるためには参加者数を限定する必要がある。複雑な内容であればあるだけ、低年齢など相手への配慮の必要が高いほど、少人数にしぼらざるを得ない。人数を限定しても、他の参加者と交流しながら学ぶ協同学習性の実現には工夫を必要とした。 特に低年齢の子ども向けワークショッププログラム 図10「2020年代のための里山シンポジウム」のスクリーンショット。 (2020年12月20日公開 https://www.youtube.com/watch? $\mathrm{v}=$ smbUNjq06tw(参照 2021-11-19))総合討論ではチャット上でも活発な議論が行われた。 (B-4)ではこの「他者との関わり」は重要な要素であると考えているが、ほとんど実現できなかった。実習のオンライン化は実現可能ではあるが、制約があること、人数を増やすことが難しいこと、さらには映像記録の公開のためには参加者の同意も必要となり難しい場合が多い。今回はコロナ禍という特殊なケースではあったが、同様にアクセスの難しい院内学級へのサー ビスなどでは応用の可能性がある。 C. フィールド体験は映像配信や記録がやはり最も難しい教育活動と感じている。実地で行う観察会は、 その場に出てきた生き物など自然現象に対応して解説する即興性、参加者の興味に応じる双方向性、他の参加者の振る舞いに学ぶ協同学習性がいずれも高度なレベルで必要となる。他のベテラン参加者のマネをして観察の仕方や質問の仕方を学び、誰かの発見に興味が触発されるなど「協同的な学び」[13]の要素は特に大きい。 C-2 の観察資料は多いものでは公開後 200 ダウンロードを超えている(数値はリポジトリのログから)。今後も活用されていくことを考えると、一定のニーズはあり、効果はあった。 撮影記録はドキュメンタリー並に作成に労力が掛かる。さらにライブ配信となると技術的な課題も多い。 C-3のような同じ場所で、特定テーマを中継するものに限定すれば実現可能性も、そしてアーカイブ活用による広がりも期待できる。 D. 展示室の Matterportによる仮想空間化は、特別展示などのインスタレーションのように $3 \mathrm{D}$ 空間に配列されたイベントをまるごと記録するには有効な手法である(図 11)。 しかし、現実空間での展示鑑賞は展示物と自分だけの関係ではなく、一緒に見に行く家族や友人との体験共有が重要な要素であるとされる ${ }^{[15]}$ が、現状の VR ではそうした交流の実現が難しい。スタッフへの問い 図11 MatterportでVR化した特別展「大阪アンダーグラウンド」のドー ルハウス (2021年5月28日公開 https://my.matterport.com/ show/?m=yYBfJ35Kh77 (参照 2022-02-20)) かけやそこで実施されているイベントのような出来事もない状態の孤独な空間は、現実の博物館そのものの代替としては難しい。とはい立、国立科学博物館の 「かはく VR」は約 1 年間に 133 万アクセスを得ている )。遠隔地やこれまで博物館に関心を示さなかった多くの人に届く可能性を持つ。僅かな数だが大阪アンダーグラウンド展 $\mathrm{VR}$ の閲覧者アンケートからはVRは展示の代替というより Preview としての活用の可能性を感じるものだった。「満足した」、「まあ満足した」との回答が合わせて 61\%、また内容 対し、「実際の展示を見たくなった」という回答は $78 \%$ にぼった。不満としてあげられた理由は、操作のしづらさなどが目立った。 取り組みの中にはオンライン移行によって教育活動としての本来の強みを失いながらも工夫により補うことのできるものもあった。オンライン配信により博物館に来なくても教育を受けられるというメリットはコロナ禍においては絶対であったが、コロナ後であっても引き続き視聴者にはメリットとなりうる特性である。ただし、博物館の教育活動としては、博物館の賑わいや現地での展示やイベントと連動して、そこに集まった強く興味を持った人々とともにトークを聞いてもらうことの有効性は無視できない。フィールド体験も含め、実体験を伴う教育活動はオンラインとは異なる教育効果を持つものとして改めて価值づけをされていくだろう。現地での体験とリモートでのニーズを調和させるためには、オンラインと現地観覧のハイブリッド型の講演などを追求する必要がある。より簡便に良質なハイブリッド講演会を実施するための環境整備も重要になる。今後の課題としたい。 オンライン化した場合の、双方向性確保の工夫は今後も発展するだ万う。チャットによる双方向性は「二コニコ美術館」)など多くの取り組みで採用されている。録画放送を一斉視聴するイベントや、VRを解説付きで一緒に見るイベントなども実施されている。例えば(「もっとかはくVR一かはくVR で隕石展示を巡万う!」https://www.youtube.com/watch?v=9gjZ-We_Iq0 (参照2022-02-20))のように、いくつかのアプローチを組み合わせて補う方法もある。現場での体験にも AR 動画提供などのフィードバックが予想される。 オンラインと現実の展示の組み合わせ方が発展していくだろう。 リアルタイムの配信だけでなく、アーカイブによる オンデマンド配信が加わることで「遠隔地から、予定に縛られることなく利用できる」という利点が加わる。 しかしオンデマンドで学ぶ学習者は、その代償に双方向性や協同的な学びを失っている。オンデマンド型の遠隔授業に近い学び方である。山田 ${ }^{[16]}$ は中央教育審議会大学分科会の資料の中で対面授業と同時双方向型、オンデマンド型のオンライン授業を比較している。表 2 で議論したような失われる特性だけでなく、期待される学習成果に影響するという。「知識・技能」 はオンデマンド型で優れるものの、「思考力・判断力表現力等」、「主体性・多様性・協働性等」では対面授業に比べて獲得が難しいことを懸念している。博物館での教育活動に同じ議論が当てはまるかは今後の検討が必要だが、知識以外の学習成果が重要になることから、フィールドでの体験プログラムのコンテンツ化が困難とした我々の判断と概ね一致する。カテゴリーごとにオンライン上の教育活動の課題を評価することで、例えばフィールド体験型の教育活動は実際の体験プログラムが中心となり、オンライン上のプログラム提供は補完的な活動紹介映像等と位置づける事が可能になる。正しく位置づけ、役割を定めることで相乗効果も期待でき、アーカイブに期待する要素も明確化できる。田良島 ${ }^{[17]}$ は「実在するミュージアムから開放された」VR 展示の活用可能性を議論するが、コロナ禍のような特殊状況を除けば、現状の技術の限りにおいては、学習の全体的な効果としてはリアルとデジタルの相補的なアプローチが最も教育効果が望めるだろう。 ## 4. 教育活動の成果物をアーカイブしていく上 での課題 博物館では「所蔵資料情報のアーカイブ化」や「発行出版物のアーカイブ化」など資料収集保管活動や研究活動のアーカイブ化は進展しつつあるが、教育活動を映像コンテンツなどで記録し、成果物としてアーカイブする活動はあまり進展してこなかった。しかし、学芸員のバックヤードでの活動を含め、あらゆる博物館活動は将来のコンテンツになり得るものであり、 アーカイブ化の価値が高い $[7]$ 。有形の標本だけでなく無形の活動をコンテンツ化して収集し活用すること、 あるいは既存のアーカイブの活用もふくめ、将来もっと進展させていくべきであろう。オンデマンド配信できる教育コンテンツが十分にたまれば MOOC(大規模公開オンライン講座)などの取り組み同様に博物館が様々な学びを支えるコアになっていくことも可能だろう。現実には単独の博物館でなく全国の博物館の共同で、あるいは MALUI ${ }^{[18]}$ とよばれる大学や産業界 を含めた文化資源を担う機関が共同で構築していくべき課題だろう。その中で博物館が提供する教育コンテンツは、児童から成人まで幅広い年齢を対象につくられたもの、多様なジャンルのものが含まれている。たとえば、「おうちミュージアム」には全国から $200 を$超える博物館が、それぞれの館が扱う独自の主題を元に映像だけでなく、教材テキストも含め多様な学習コンテンツを提供している ${ }^{[10]}$ 。しかし、小規模館が多いために、適切なプラットフォームがなければアーカイブ化されることなく消えていくことが危惧される。奥山らは終了した学習プログラムデータベース PCALi を基礎とした教育コンテンツデータベースとその活用可能性を議論している ${ }^{[19]}$ 。おうちミュージアムをはじめ、コロナ禍の間に PCALi に比べてもはるかに多様なコンテンツが生み出されていることを考えれば、 この議論は今こそ進めるべきである。 社会教育のための MOOC 推進のためには、活用とバックアップのためのプラットフォームの充実が望ましい。現状では民間サービスを利用しながらローカルにバックアップをもつという脆弱な仕組みである。 DOI も検索夕グもなく、YouTube に上げたのみであり URL やタイトル以外に特定の映像を指し示すことは難しい。博物館にとっては、映像もまた資料の一部であり ${ }^{20]}$ 保存と活用の仕組みが望まれる。共用のプラットフォーム上でバックアップや DOI 付与の仕組みができれば、小規模館のコンテンツの保存活用も、映像自身の資料としての利活用も進めることができる。奥山らが議論している、資料などとのクロスリファレンスもすすめやすいであろう。アーカイブと誰でもがアクセスしやすいYouTube のような商用サービスの組み合わせのようなものが最適な施策ではないだろうか。 肖像権処理や著作権などの権利処理も今後検討を深めなければならない。今後ハイブリッド形式などで質問者や客席が映るケースなどがある。DA 学会の肖像権ガイドラインによれば、収録前の口頭での撮影と利用に関する説明で、十分同意とみなせるとのことである ${ }^{[21]}$ 。ただし、児童が参加する「ワークショップ」 などに関しては「参加者として映り达む対象が子どもであること」、「場所が家庭内であるプライベート空間であることを重視し」、同意の得られた一部を除き録画は行っていない。有観客イベントの収録・配信$\cdot$ アーカイブをすすめていく場合にどのような同意をとるか、整理と議論が必要と考えている。 著作権については、博物館の教育活動は学校や図書館に比べ、曖昧な部分が残る。学校の授業などが特定 のメンバーへの送信になるのに比べ、博物館の講座は不特定多数に向けての講座になることから、「授業目的公衆送信補償金制度」の適用外となる。教育活動の際に著作物を利用するなどの際には適切な「引用」や著作者の了解などを慎重に進めなければならないことになるが、フェア・ユースに関するガイドラインなど、社会教育に関する円滑な利用を図るための枠組みについて学校教育同様に検討していく必要があるだ万う。 ## 5. おわりに 博物館の教育活動のアーカイブ化をどのようにすすめ、そしてその活用を、どのように、誰にむけて、すすめていくのか。今回の評価は現状の技術とノウハウを元にしたものであり、今後大きく変わる可能性は十分にある。運用の改善もまだまだ検討の余地が大きい。 オンライン上で、博物館での教育として重要な位置を占める「協同的な学び」をどのように実現していくかは工夫の必要なところである。より良い学びのために評価と改善を進めていきたい。改めて博物館個々のミッションに照らし合わせ、どのような戦略でどのような効果を狙うのか、中長期的な活動設計も必要だ。支援などを確保するためにも利用者アンケートも含め評価はより重要になるだろう。 博物館の教育コンテンツのアーカイブ活用には社会教育をより豊かにする可能性を持つ。仕組みづくりや基盤の形成など必要な政策的支援を議論していくことも並行してすすめていかなければならない。 謝辞 : 本稿は 2021 年 6 月 28 日にオンライン上で開催されたデジタルアーカイブ研究会にて佐久間・北村が発表した内容をもとに大幅に拡充してまとめたものである。ご意見を頂いた関係者の皆様、コンテンツの作成に協力を頂いた館員・関係者の皆様に改めて感謝する。本稿の一部は科研費(JP 20K01134)の成果である。 ## 註・参考文献 [1] 佐久間大輔. 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# "digital policy" Report on the Forum: "Libraries and Digital Media: Possibilities for Fusion" 内田 朋子 UCHIDA Tomoko 共同通信社田朋子 (筆者) の進行により議論を進めていくことで、「図書館」「メデイア」また「公文書館」の情報やアー カイブがどのようにつながり、デジタル社会での役割 をそれぞれがどう果たすべきかを浮き彫りにしていっ た。結果、「デジタル改革は日本を救うのか」という 視点から、未来の社会の在り方までも探ることに成功 したと言える内容となったのではないか。 $\nabla$ 図書館のデジタル改革〜デジタル化の現状と メディアとの関係 財務省による公文書改ざん、国土交通省の統計デー 夕操作など、「保存」や「記録」引いては「アーカイブ」 そのものへの信頼が問われるニュースが報じられる 中、まず山田議員が図書館のデジタル化の現状と未来 の役割、メディアとの関係について焦点を当て議論は スタートした。 山田氏は、国立国会図書館のデジタル化が 2 割ぐら いしか進んでいない事実、世界の主要な国々でも国立国会図書館がデジタル化していないのは日本ぐらいで ある状況、その中でもなんとか大きな予算を獲得しデ ジタル化を主導して進めている経緯を最初に明かした。 その上で「図書館の今の位置付けは、紙に印刷され たものを管理する書庫。けれど、デジタルになった瞬 間にコンテンツそのものになるため、紙である必要は なく、どこにあってもいい。一度、刷った紙は中古品 として流通させられるが、デジタルは中古にならない。紙媒体の情報とデジタルの情報というのは、根本的に 性質、属性が違うというところを前提に議論しないと いけない」と言い、いま現在は「紙の書庫」である「図書館」自体の存在への根本的な問題—デジタル時代 に対応した姿に変革する必要性を提起した。 これに対して「デジタル改革で一番最先端をいくべ きはずのメディアが一番後ろを走ってしまったところ が、(図書館をはじめ日本のデジタル化が遅れた)最大の原因」というデジタル情報の保存についてのメ ディア側の責任を問う意見も鮫島氏から寄せられたが、「今までは編集者が非常に強く、新聞は情報の編集者 の一つだったし、出版社も同じ。図書館というのは編集者と付き合っている。編集者が権利処理をしてくれ るというのが前提」であると話しながら、「ユーチュー ブを代表とするユーザー・ジェネレーテッド・コンテ ンツ(UGC)には編集者はいない。一方、裏側に寡占独占状態にある GAFA+M の集団がある。デジタル ではこういう新たなプレーヤー、ツールから情報を発信しなければいけないが、これらが利用規約を含めて (コンテンツやその編集を) コントロールし始めた」 と、UGC、GAFA+M というプラットフォーマーの出現により「編集者が誰かはっきり分からない時代」に なったと言及し、それにより「権利処理、あるいは権利者が誰なのかというのを特定する、論判する作業」 が難しくなったと説明した。 一方で「権利者にお金を還元しなければ、デジタル 上で全部が『タダ』になってしまい、権利者は死んで しまう。新たな『モノ』をつくろうとしない」という 危険性にも言及した。 また「紙の新聞は縮刷版として一生保管されるが、電子空間の場では新聞を含めたニュース情報がボーン デジタル(デジタル媒体用に作られた情報)である場合、(ネット上から消えると) 一生見られないことは、大きな問題ではないか。きちんと手当てして、法律上 も根拠をつくるなどの議論しておかなければいけない」「放送などには規律があるが、ネットにはない。欧州 はGAFAに規制をかけようとしているが、日本にはこ の議論がほぼないため、今のネットの自由空間の中で どうするか」というように、最初からデジタル用に配信されたコンテンツが主流になっていく時代に向け て、図書館やメディアの新たな課題と役割、デジタル アーカイブなどを巡るプラットフォーマーとの関係性 を再考する必要性に言及した。 マメディアコンテンツの流通化~著作権の集中管理、著作権法の行方について 福井氏からは、当フォーラムのタイトル「図書館と デジタルメディア、融合の可能性」について「自分に とって図書館はメディアだったので、『図書館とメディ アの融合』という言葉が分からなかった。図書館には 膨大な本 (情報) が集まりそれをいつでも読むことが でき、メディア以外の何ものでもない」との指摘がな され、「そのメディアである図書館が新しくデジタル というツールをどう使いこなしていくか」「デジタル 化が進むと、図書館、またメディアの前に権利という のは大きな壁として立ちはだかってく」と説明した。 その上で、権利問題の解消と整理のためのキーワード を三つ挙げた。 一つ目は「権利の集中処理」であり「大量のコンテ ンツを相手にする時代に一気に突入した。一個一個電話をかけての権利処理はできない」。二つ目は「パブ リックドメイン」を挙げ「著作権というのは保護期間 があって、それが切れるとパブリックドメイン、PD と言われ、自由に使ってよい社会の共通の財産になる」「この権利が終わるときをしっかり確定することが大切」であると述べた。三つ目として「権利者の意思表示」を提示し、「著作権法従うと、権利者に許可をも らわないと(著作物は)使えないということになって いるが、二次創作の場面など、当の創作者、権利者は 『条件を守ってくれたら自由に使っていい』とのケー スもある。その意思表示をしておく」ことが大事な鍵 になると説明し、「この三つをもつと洗練させてせる ことで図書館、あるいはメディアの未来が大きく変 わってくる」と話した。 著作権法の行方についても、文化庁文化審議会の委員を務める立場も踏まえて「利用円滑化に向かって大胆に歩みを進め、著作権を変えていこうと話し合って いる」と言及し、「権利者がどこにいるかという『権利情報のデータベース』が充実していない。これを大規模に普及させて横断検索を可能にし、更に JASRAC (日本音楽著作権協会) 的な集中管理を促進し、ここ に連絡を取ればさまざまな種類の作品について権利処理をサポートしてくれるという統一的な利用密口をつ くる」という案などが提示された。 山田氏からの「(デジタル化が進まないから) 100 点を狙うと著作権の法律の改正は全く何もできなかっ た。それを私が政治的責任を取って、全部見切り発車 したのは事実。デジタル時代の著作権、新たな体系に つくり直せないかどうか」「ベル又条約などがあって も、著作権が財産権でもある今の時代に合った法改正 をしないと事実上対応できない」との問いを受けて、「100点を目指したら進めないというのは正しい問題意識で、これは著作権だけではなく、デジタルや情報社会に対応しようとしたら常にそうだ。永遠の $\beta$ 版と いう言葉があるが、完璧なものをつくることを慎重に 検討していたら、その間に現実のほうが先にいってし まう。現実と並走し、走りながら考えていくべき」と の答えは、「メデイアが一生懸命『守り』に入ってい るため、デジタル改革の主導権を握れない」(鮫島氏) という現状を再認識させられるような、筆者にとって は非常に耳が痛く、かつ印象深いものであった。 # # $\nabla$ デジタル戦略で情報の共有化、透明性を確保 する〜公文書館のデジタル化と民主化 「古代ギリシャでアーカイブは『権力者の館』を意味していた」「記録を持つことこそ権力を持つことで あり、ヨーロッパでは中世まで王侯貴族や教会が記録 を握り統治をしてきた。それを大きく変えたのがフラ ンス革命。市民革命によって権力者の館は『市民の手』 に引き渡された。記録を管理するのは権力者ではなく 国家となり、その代表は市民であるという構図に変 わった」との、吉見氏の「アーカイブ」を巡る歴史説明を受け、鮫島氏から日本の「公文書館」のデジタル 改革の必要性ついて意見が述べられた。 「あまりなじみがなかった公文書という言葉が広く 多くの人に知れ渡る事件があった。外務省の官僚たち による公文書改ざん事件。朝日新聞のスクープだった が、事件に絡んだ官僚の一人はよく知っているが、誠実な人。一人で改ざんを発案したということはあり得 ない。組織全体として公文書を変えてしまった。官邸権力を守るため、国会答弁との整合性を守るためとい う極めて組織的な事件だった」と具体例を挙げつつ、「主権在民の時代に公文書というのは国民のものだと 思っているが、実際はエリート官僚たちにその瞬間、変えられてしまう」と述べ、「DX化というのは、本当の意味で公文書を国民の共有財産にするチャンスの 到来」であることを示唆した。その上で、政府の公文書のデジタル化、デジタル保存が制度化され、原則永久保存を法律で決めれば、文書改ざんはなくなり、不透明な政策決定が健全化され、政治がダイナミックに 変わっていく可能性を指し示した。 重ねて「デジタル改革によって公文書館は本当の意味で『国民の館』になる。デジタル改革を政治改革の 切り札と位置付けたい」と提案した。これに対し、山田氏は「官僚は怖がって、文書をできるだけ残さない ようになった。政府内部の自由な議論をどう保障する かとセットで考えなければならない」と指摘。福井氏 は「情報を公開してシェアしていく安全保障と、大事 な情報は独占管理する安全保障がせめぎ合っている。両者のバランスが大切だ」と述べ、保存期間などを定 めた公開・非公開の客観的基準やそれを判断する独立性の高い第三者委員会の設置を提案し、鮫島氏も「誰 が仕分けをするかが重要だ。政治家や官僚に仕分けを 委ねて信用できるのか」と主張、アーカイブを巡る統治と民主主義について議論が続いた。 またメディアを巡る著作権について「今の(国民の) マスコミ不信の原因は、既得権益で得た情報の著作権 を振りかざしてビジネスにつないでいることにある。 それらは (本来の意味で) 頑張って得た情報ではない」 ことを指摘した。その上で、福井氏の「集中処理」の 話に関連して「政治の決定的映像はテレビ局しか持つ ていない。フリージャーナリストらは入手できず、大手メディアの競争力はほぼここで保たれている。なぜ テレビ局が独自で持っているか? 記者クラブにいる から。NHKが撮った映像は(国民が)受信料を払っ ているのだから、誰もが自由に使えるようにする。そ の代わり、『集中処理』という形で、場合によっては 税金からその一部を補填する、または、その映像を (代表して)撮るのは通信社 2 社に限ることにして、通信社の取材を何かしらの形で援助する」などの持論 を述べた。 ## 開かれた国家・社会のためのアーカイブ、デ ジタル改革とは〜デジタル化の真の目的 「保存期間などを定めた情報公開の客観的基準」を判断できる人材——専門アーキビスト」の育成は、「図書館」「公文書館」は言うに及ばず、「メディア」 にも必要であろう。 吉見氏はこうしたデジタル社会における各領域の専門的人材の必要性を認めつつ、日本社会が人々のアイデンティティーを属している集団——企業、大学、政党などによって概念化し過ぎる傾向を指し示した。「(結局は) どこの会社に勤めているとか、どこの大学いるとかの話になってしまう」「この仕組みである限り、 (日本は)開かれた社会にならない。それぞれの企業など、その中での立ち居振る舞いが大切で、優れた専門性、技能を身に付けても、発揮したら周りの人からつまはじきに遭うかもしれない。だったら、みんなと仲よくしょうと、そっちにいく。けれど、それではグローバル化あるいはデジタルトランスフォーメーション化以降の世界でやっていけない」と、デジタル改革のために最も必要とされる人々の思考の根源的な在り 方について、まず変革を促した。 更に日本という国について「(岸田政権が提示している)『新しい資本主義』というのは、(自分の解釈では)金融資本主義と一体化した生産力資本主義から、資産力資本主義への変革ではないか?『プロダクトをどんどん拡大していく』のではない、『ストックを生かしていく』というような資本主義への移行を考えるべきだと思う」と話し、情報やデータのストックである「アーカイブ」が、今後ますます重要性を帯びることを示唆した。 その上で「AI やデータサイエンスを取り入れていくことが大切だと言われている。それは価値があると思うが、そのべースになるデータのストックが充実し、 クオリティーが高くなければ、AI 社会は機能しないと思う」と述べ「単に AIを取り入れ高速化して、もっと働いて生産性を上げようという傾向で、日本は疲弊してしまっている」とも指摘した。 吉見氏の考えるデジタル化の真の目的は「より速く、高く、強くを目指す価値観を変え、よりしなやかに、楽しく、末永く遊びの時間をつくる」と述べたよう、 デジタルの力を用いて個人が公私の人生で「自由な選択」を追求できる社会を実現させることではないだろうか?「そのために必要なのがストックされた知識とデータと情報。それらを垣根を越えて横でつないでいき、深掘りしていくこと。横、縦、真ん中を横でつなぐ、そして縦で深める。でも、一番中心になるのは、 その真ん中にいるのは『誰』なのかという、これはクエスチョンにしている。公文書の改ざんの問題はまさにその点だと思う。(真ん中にいる)誰が、横に広がり縦に深まる血をオーガナイズするのか。ここがすご 〈重要た」と解説した。 そして、アーカイブを巡り「戦後、GHQが入って、国会図書館、公文書館がないとなった。最初は国会図書館の中に公文書館的機能も含めて考えていた」「国家の記録を残して、民主主義を確立するために国会図書館がある。それが重要なことであって、統治と民主主義—、この二つの間に緊張関係がある。両方がバランスを持って成立するということが、アーカイブにとって大切なのでは」と説明し、「国家」と「アーカイブ」の関係を解き明かすことで、情報が市民の手に渡っていく発展の途上にいまだにわれわれがいること、「統治」と「民主主義」のせめぎ合いが今後も世界と日本で続いていくことを実感させた。 ## 筆者感想〜多様性の時代のメディアの在り方異例の徹底討論には、教育や大学の問題などここに は収まりきれないハイライトがいくつもあった。それらの貴重な場面は、ユーチューブ公開された映像でぜひ確認し役立ててもらいたい。 今回、メディア側からの一員として参加し司会を務めた筆者が強く感じたのは、デジタル時代に進んた 「多様性」と、それを基にした「目指すべき社会の在り方」だ。デジタルは素晴らしい道具だか、それ以上のものではない。国やメディアが、どのような社会をつくり、さまざまな人々にどう寄り添うのかを真墊に描き、考えなければ、デジタル改革は進まない。 「次代を担う層の多様性はかなり進んでいる」(山田氏)いうのは明確だ。要因の一つはおそらく、吉見氏の言うようにデジタルが発展したことで「マスメディアのゲートキーピング機能が効かなくなり、入り口にどんな情報入れるかという流れの中間地点を押さえていた大手メディアの仕組みが完全に崩れてしまった」 ことにあろう。 一方で、マスメディアが崩れたらから人々が自由になったというのではなく「GAFAやそのアルゴリズムなどのプログラミングのレベルで秩序づけられ、方向づけられた情報の構造に従っているにすぎない」(吉見氏)という見方も確かである。 しかしデジタル時代は既に不可逆的である。人々はデジタルという道具を使いこなしながら情報を得て、自由な人生を切り拓いていかなければならない。 その上でメディアの著作権を考えるとき、記者クラブを含む既得権で得た情報——映像や画像、記事を巡る権利の在り方について、多くの人々が疑いを持っていることをメディア側は認識しなければならないと思う。「ジャーナリズムの一番の反省は一方通行で上から目線だった」(鮫島氏)というような、強い「マスコミ不信」が生まれている社会情勢に無自覚でいることは、大手メディアにはもはや許されないと感じる。既得権やデジタルの新技術にただ頼るのではなく、「読者、視聴者、ユーザーに寄り添い交流する」ことを重視し、自らの著作権の扱い方を見直しながら、情報のデジタル化を進めることで、社会や人々にとって真に有益となり得る存在意義をメディアは再び見いだせるのではないだろうか? また、「図書館」や「公文書館」がそうであるように、 メディアにも過去の情報の膨大なストックがある。著作権が切れた——パブリックドメイン(PD)となった記事、映像や画像をどう扱うのか?これらの情報は時代が進むほど数が増え、そして、福井氏の言うように誰もが自由に使用できる「社会の共通の財産」なのである。この事実を踏まえながら、メディアはもう一 度、自分たちの社会的役割——公共性」をアーカイブの観点からも見つめ直す必要がある。「ストックということが、文化、コンテンツ立国ということにも親和する」(福井氏) という視点で改めて考えることが大切なのだと思う。 デジタル時代、国、図書館、メディアも「人々の選択の自由」と「多様な社会」が何であるかを模索し追求すれば自らを改革できる一一大き変わることのできるチャンスを逃してはならない。 (左から)吉見俊哉氏、福井健策氏、山田太郎氏、鮫島浩氏、内田朋子(筆者)=2021年11月27日午後、東京・南青山の骨董通り法律事務所 (撮影:佐藤竜一郎)
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# 第 1 回 DA フォーラム ## 座長が推すべスト発表 ## 2021 年 12 月 19 日 (オンライン) 各座長の方に、特に良かったと感じた発表を挙げていただいた。(カッコ内は推薦した座長、敬称略) ## セッション 1 [13] オンライン開催における我が国の観光の変化と将来性 : 日本のアニメ・特撮作品の現地イベントとオンラインイベントとの比較から (二重作昌満、東海大学大学院文学研究科文明研究専攻) COVID-19の感染拡大で人々の移動が制限され、各国の観光業界は特に大きな打撃を受ける中、移動を伴わない「オンラインイベント」が急速に浸透し始めている。本報告では、アニメ・特撮作品のオンラインイベントと従来の対面型イベントの比較からそれぞれの利点・久点が報告された。利点として、感染防止への貢献、リアルタイムの声掛けが可能という点が挙げられた。欠点としては五感で感じることができない、無断転載による著作権問題の発生、電子機器・通信環境に関する技術的な問題の発生が挙げられた。経済効果、視覚情報については効果が分かれ、地域を含めた経済効果を期待でき観覧者の好きなように舞台に注目できる対面型イベントに対し、オンラインイベントでは通販による経済効果を期待でき舞台上の描写をカメラでより詳細に観ることができるということだ。この 2 点はアフターコロナでも観覧者の都合や好みに合わせて更なる発展が期待できる。 新たな感染拡大により第 6 波の到来が予期されている現在、もう暫く続くであろうコロナ禍での経済活動の発展に繋がる大変興味深い発表であった。今後の研究成果にも期待したい。(佐々木紫帆) ## セッション 2 [25] プロ・オーケストラ定期演奏会演奏記録データベース作成の試み:仙台フィルのデータベース作成を例として(山口恭正、三田昌輝、山下裕太郎) 本発表は、仙台フィルハーモニー管弦楽団の演奏記録のデジタルアーカイブ化に取り組んだという内容である。 時代や社会とともに音楽の意味や役割は変化していくが、オーケストラのコンサートで演奏される曲目等の軌跡をたどりたいと考えたときに、演奏記録や演奏動画のアーカイブは非常に有効である。このデー夕ベースでは、それぞれの曲目について、コンサートの日付、当日の演奏順、作曲家、作品名、指揮者、会場のデータが表示されるが、作曲家と指揮者については、例えばべートーヴェンの作曲した曲の演奏回数を年代ごとに見ることができるなど、グラフ化できるようになっていた。 現在、海外での事例はあるものの、国内では主に紙媒体でしかオーケストラの演奏記録をたどれず、無料で検索できるデータベースは見当たらないとのことで、こういったデータベースが構築されることは非常に興味深い。今後の展開として考えられている日本全国のプロ・オーケストラのデータベース構築へ向かって研究が広がるよう期待したい。(山下ユミ) ## セッション 3 [32] チベット・ヒマラヤ牧畜農耕資源データベースの構築、フィールドデータと文献データをつなぐ(星泉、岩田啓介、平田昌弘、別所裕介、山口哲由、海老原志穂) 本発表では、チベット・ヒマラヤ地域における、乳製品や乳加工品といった牧畜農耕資源の加工プロセスに関するデータ収集・データベース構築・収集データ活用事例の現状が報告されている。コロナ禍によりフィー ルド調査が困難となったことを背景に、主として文献調査により収集されたデータをもとにデータベースが構築されている。調査対象である文献の執筆言語が多様であることから、データベースの構築に際しては KH Coder を用いた地名表記の名寄也や OpenStreetMap による地理情報の同定等の工夫も行われている。 本発表は、人文学分野における、研究活動のデジタル化および複数の研究者による研究データの作成・整備・活用に関する好例であると思われる。チベット・ ヒマラヤ地域を対象とする研究分野に対する貢献に留まらず、本発表では、多様な種類のデー夕を整理する方法や共同研究において共有の研究データを構築・活用することの利点といった、分野を問わず有用な知見が示されている。以上の理由により、本発表をべスト発表として選定したい。(西川開) ## セッション 4 [43] オブジェクトを交差させる場としてのデジタル・ミュージアム、Exhibition RoomX の設計思想と実装(本間友、慶應義塾ミュージアム・コモンズ) 本発表は、慶應義塾ミュージアム・コモンズ (KeMCo) が開発したデジタル・ミュージアムのためのツール Exhibition RoomXの理念と実践を論じた。RoomXは、 KeMCo が準備していた「人間交際」展が、新型コロナウイルス感染症のためウェブ開催に移行するに際し開発されたデジタル・ミュージアムの一種である。 一般的に、これまでのデジタル・ミュージアム開発では、360 度映像、VR・AR、メタバース、ゲームなど様々な新しい媒体が用いられてきた。 しかし、これらの前例は展示室を「一つのナラティヴによって固定された空間」という点で従来の展示と変わらない。そこで、RoomXは、「部屋」と呼ばれるデジタル空間に作品を集め、アクセス毎に陳列の順番を変更して、ナラティヴを解体し、作品同士が「何度も出会い直すような」セレンディピティを創出した。 本発表を選定したのは、展示室の既成概念を打ち壊す斬新なアイデアを提示しただけでなく、それを実際にウェブ上の展示会で運用し、ツールとして実用可能にしたためである。(宮川創)
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# いくつもの《11日》を思い出す : 育児日記を用いた被災経験の提え直し Remembering Multiple "11th" Day: Revisiting the Experience of the Earthquake Using a Child Care Diary 松本 篤 MATSUMOTO Atsushi } NPO法人記録と表現とメディアのための組織/東京大学大学院学際情報学府 \begin{abstract} 抄録:誰かが残した「私」の記録。その価値に着目したアーカイブづくりに取り組むプロジェクト・AHA!は、大地震から 10 年目 の節目に開催される展覧会の企画を依頼される。筆者は準備の過程で、仙台市の沿岸部に暮らすかおりさん(仮名)と出会う。彼女は、初めての出産を経験した 2010 年 6 月 11 日から育児日記をつけ続けていた。1000 年に一度といわれる大災害の経験を、たつ た 1 人の育児の記録と記憶から捉え直す。そんな展覧会『わたしは思い出す』は、どのように企画されたのか。本展の着想から開催に至るまでのプロセスをたどりながら、メモリアルとは何か、記憶の継承とは何か、忘却とは何かを問い直す。 Abstract: Records of "I" left by someone. AHA!, a project to create an archive focusing on the value of such records, was asked to plan an exhibition to be held in Sendai City on the tenth anniversary of the earthquake. In the process of its preparation, the author met Kaori (pseudonym), who lives in the coastal area of the city. She had been keeping a diary of her childcare since June 11,2010, the day she gave birth for the first time. This author recaptures the experience of a catastrophe, once in 1,000 years, from the records and memories of one person's childcare. How was the seemingly reckless exhibition "I Remember" organized? By tracing the process from the conception of this exhibition to its opening, the author questions the nature of memorial, the inheritance of memory, and forgetting. \end{abstract} キーワード : 能坚日記、記録、記憶 Keywords: childcare diary, record, memory ## 1. 大きな物語を逆なでする「私」の記録 あの大地震のあとを、あなたはどのように生きてきた か一。そんな問いを揭げた企画展『わたしは思い出す 10 年間の子育てからさぐる震災のかたち』(以下、本展 と記す)が、2021 年 2 月から 7 月にかけて宮城県仙台市に打いて開催された。同市の沿岸部に暮らし、自宅が 津波の被害にも遭ったひとりの女性が記し続けた育児日記。その再読によって思い起こされたさまざまな記憶か ら、 10 年という歳月を振り返ろうとする試みだった。会場は、せんだい 3.11 メモリアル交流館(以下、交流館 と記す)。「東日本大震災を知り学ぶための場」として、 また、「津波により大きな被害を受けた仙台市東部沿岸地域への玄関口」として、2016 年に地下鉄東西線荒井駅舎内に開設された公共施設だ。そんな交流館で 実施された本展はいったいどのようにして企画され、 どのように実現に至ったのか。本稿では、展覧会を企画・運営した当事者の立場から振り返ってみたい。 2020 年 7 月 5 日。交流館から 1 通のメールが届く。 そこに記されていた内容は主に 2 つ。あの地震から 10 年目の 3 月 11 日を迎える時期にあわせて企画展を開催しようとしていること、また、筆者が世話人を務 めるアーカイブプロジェクト、AHA! [Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ](以下、AHA!と記す)と一緒にその企画展を作っていきたいという打診だった。AHA! とは、8ミリフィルム、家族写真、戦時中の慰問文といった、私的な記録の価值に着目したデジタルアーカイブプロジェクトだ。大阪市に本拠地を置く NPO 法人記録と表現とメディアのための組織(remo)の一事業として、2005 年に筆者が始動させた。時間的/空間的な隔たりを前にして、 イメージはどのように働くのか。そんな問題関心を共有する仲間とともに、国内外で活動を継続していた。 そんな取り組みに関心を持った交流館スタッフ(当時) の飯川晃氏から声がかかったのだった。 2020 年 8 月 28 日からの 2 日間、筆者は企画を立案するための予備調査として、大阪から仙台に出向いた。沿岸部のさまざまな活動の現場を見学、体験させてもらった。しかし実は、メールをもらった当初から企画者を引き受けることをためらう気持ちが筆者の中にあった。これまでの 10 年間、「被菼地」の移り変わりにしっかりと身を置いてこなかった《よそ者》に、 いったい何ができるのだろう。沿岸部での地道な活動 の現場に触れるにつれ、そんな後ろ向きな気持ちが募っていった。実際の準備期間はあと半年もない。コロナ禍の真っ只中、状況次第では企画を進めるための現地調查も満足にできなくなる可能性もあるだ万う。多くの犠牲者の方々への配慮にも欠けるような付け焼刃の企画は、絶対に避けなければいけない。予備調査の終盤で、そんな心境を正直に飯川氏に伝えた。だが、彼は全く動じなかった。よそ者たかららそのアプロー チを持ち达んでもらえればそれでいい。そんな覚悟と信念を感じとった筆者は、自分たちに何ができるのかを本格的に検討し始めた。 ## 2.「被災者」から「生活者」へ 2020 年 9 月 11 日のオンラインミーティングでは、「育児日記」という記録物に着目するアイデアをすでに提案していた。その理由が3つほどあった。1つ目の理由は、私(わたくし)の記録をなぞり直すことでドミナントな「歴史」や「物語」とは異なる風景を立ち上げるという AHA!の《記録に対する政治性》を、震災という大きな文脈の中にもしっかりと持ち込む必要を感じたからだ。この 10 年を「震災」という大きな主語から捉えるのではなく、個という微小な点から捉え直すことで、「3.11」という日付や「メモリアル (追悼)」の意味がアクチュアルなものとして再認識されるのではないかと考えたのだ。私的な動機や理由にしっかりと支えられて記録を残してきた人を探す。そして、その人の記録と記憶をとおして、この 10 年を振り返る。そんなアプローチの重要性を強く意識した。育坚日記に着目した 2 つ目の理由は、交流館がこれまで取り上げてこなかった視点やテーマに光をあてることで、はじめて「継承」の意味が生まれてくると考えたからだ。地下鉄荒井駅舎内には交流館と隣接するかたちでこども園が併設されている。園览の送迎時には保護者や子どもの声でにぎやかになる。荒井駅周辺はファミリー向けのマンションや戸建て、商業ビルが建設されるなど、地震後の仙台において最も開発が進められた“新しいまち”だった。この地区に暮らす住民にとって、自分ごとになるようなテーマ設定が必要だと感じた。交流館がこれまで出会わなかった人たち、具体的には「被災」という朹組みではこぼれ落ちてしまうような新しい住民の声もしっかりと掬い上げ、残し、伝えていく。それによってはじめてこれまでの 10 年が、これからの 10 年に接続できると考えた。彼らは「被災者」以前に「生活者」であり、彼らが住む場所は「被災地」以前に「生活の場」なのだ。育览日記に着目した 3 つ目の理由は、個人的なエピ ソードに由来する。私が中学生の時に起きた兵庫県南部地震(1995)だ。最も被害の大きかった地区の小学校にボランティアに行った。体育館の入り口に立って、ずっと遠くを見つめている妊婦がいた。その横姿がずっと記憶に残っていた。地震から 10 年後の 2005 年、ふとその風景が浮かんだ。お腹にいた赤ちゃんが無事に産まれていれば、子どもは 10 歳になる。あの女性は、地震後の 10 年をどのように過ごしたのか。そんなことを思い立ち、記録と記憶の継承をテーマとしたプロジェクト、 AHA! を始めた。あなたは地震後の 10 年間をどのように過ごしたのか。神戸で出会った女性に尋ねたかったその問いを、仙台の地で発することができるかもしれない。上記の $3 つの$ 理由が重なるところに「子育て」 というテーマがあり、その記録としての育児日記に注目するのは自然な流れだった。 図1神戸での巡回展のひとこま ## 3. 育児日記を再読する 2020 年 10 月 30 日からの 2 日間、 10 年間の育児を振り返るためのワークショップに向けた説明会を実施した。地震の前後に出産を経験した、これまでの 10 年の育览経験を振り返りたいという動機を持つ参加希望者を募集したのだ。ワークショップにさきがけて、沿岸部の複数の小学校 $3 、 4$ 年生の保護者 (合計 600 名) に対して集中的に募集チラシを配布した。チラシには 「駆け抜けてきた子育ての 10 年間。今、振り返ってみませんか。あなたの記録があるうちに。あなたの記憶があるうちに」というメッセージを込めた。さらには、交流館のウェブサイトを通じて広く参加を呼びかけた。育児日記をつけ続けてきた人なら、このワークショップにきっと参加すると思ったのだ。ただ、育览の記録を取り続けている万がそもそもどれほどいるのか。仮にいたとしても、その記録を見せてくれる方が本当に現れるのか。そんな不安とずっと隣り合わせだった。ただひたすら待つしかなかった。 わたしのことだ。かおりさん(仮名)は、自分の娘 が学校から持ち帰ってきた募集チラシを見て、そう思ったという。岩手県盛岡市で生まれ育った彼女は高校卒業後、仙台市の専門学校に進学し、一人暮らしを始める。卒業後、市内にて就職。2007 年に結婚。夫も宮城県外出身者で、夜間勤務もある警備会社で働いていた。2010 年 6 月 11 日に第一子を出産。その日から毎日、日記をつけ始めた。女览のちょうど9ケ月目の月誕生日の日に、市内沿岸部の自宅にて地震と遭遇。津波の被害にも遭った。「ずっと振り返りたかったけど、 そんな時間を自分で作ることはできなかった。もしかしらこのタイミングを逃したらこれからもできないんじゃないか。そう思って応募しました」。あくまでも自分のため、娘のために日記を書き続けてきたかおりさん。 そんな彼女の記録と記憶に触れる日々が始まった。 2020 年 11 月 18 日を皮切りに、約4个月間、交流館の一室において、20 回以上にわたって継続的に ZOOM での振り返りインタビューを実施した。出産日、地震の日、津波に遭った家を引っ越す日、幼稚園の卒業式の日、ひとりで留守番を任せた日、ドラッグストアのマスクが売り切れだった日、10 年目の 3 月 11 日。日記の再読をとおして紡がれた言葉たちによって、かおりさんという実在する人物にとても具体的な輪郭が与えられていくように感じた。そこには暴露的なマル秘エピソードもなければ、ドラマティックな伏線や回収があるわけでもない。まして、巨悪を断罪するようなジャーナリスティックな視点が达められているわけでもない。しかし、まがいもないか扬さんの 10 年という歳月がくっきりと横たわっていた。 図2 神戸での巡回展のひとこま ## 4. いくつもの《11 日》を思い出す 2021 年 2 月 10 日に始まった本展。黒色のシャープな明朝系のフォントによって出力された「わたしは思い出す」という定型句から始まる短文の羅列。それらは会場の四方の白い壁に、等間隔に配置された。「わた しは思い出す、涙は意外と出なかったことを。(2010.6.11)」「わたしは思い出す、14 時7 分を。(2011.3.11)」「わたしは思い出す、福田パンの焼きそばパンを。(2013.5.11)」「わたしは思い出す、字を書きはじめたことを。少し寂しかった。(2014.6.11)」「わたしは思い出す、2人で影送りをしたことを。(2015.3.11)」「わたしは思い出す、忘れてしまうということを。(2017.12.11)」….. それらの短文は、日記を再読したかおりさんが語ったエピソードのうち、毎月 11 日の内容を抽出したもの、 すなわち、かおりさんにとっては娘の月誕生日であり、多くの犠牲者遺族にとっては月命曰でもある日の出来事が思い起こされ、筆者によって編集されたものである。ある一定の制約を課すことによって、言葉のもつ喚起力が発揮されることを狙った方法だった。 また、会場の中心部には、 10 年間の振り返りの聞き書きが筆者によって編集された配布資料 (ハンドアウト) と、それを読むためのベンチが設置された。約 50 万字にもおよぶかおりさんの書き起こしは 20 万字のテキストに編集され、さらに 1 年ごとに $\mathrm{A} 3$ 用紙の両面にまとめられた。短文として壁面に紹介された 11 日のエピソード(前述)の詳細も配布資料にはもちろん揭載されており、資料を読めば約められた短文の意味がわかるように設えた。来場者が落ち着いて読めることを心がけ、配布資料は会場から自由に持ち帰ることも可能にした。振り返りインタビューは会期が始まっても続き、 10 年目の 3 月 11 日をまたぎながら 3 月 26 日に終了した。それに伴い、壁面の短文や 1 年ごとにまとめられた配布資料も段階的に増えていき、6月 11 日にすべての展示要素、すなわち、「わたしは思い出す」 から始まる 130 の短文と、 12 枚からなる 10 年分の振り返りの言葉たちが揃った。会場には、交流館に隣接する保育園の子どもたちの声が時折聞こえていた。 か打りさんは 10 年目の 3 月 11 日に書いた日記を再読して、どんなことを思い出したのか。以下に抜粋する。「《略》14 時 46 分にみどりと一緒に家の外に出て、 お寺の鐘と防災無線から流れてくるサイレンを聞きました。 10 年前のあの日はすごく寒かったのに、この日は暖かくて穏やかでした。あの時とは違う綺麗な青空を見上げました。《略》会社勤めの人は車に乗って会社に行き、小学生は小学校に行き、家にいる人は洗濯機を回したり、食事の支度をする。地震が起きてからは、そんな普通の日常が、普通じゃなくなった、普通の 10 年でした。 2020 年 11 月からの約半年間、短い間でしたが日記を読んで思い出す作業が私の生活の一部になりました。そんな“日常”も今日[2021 年 3 月 26 日]で終わります。明日から当たり前じゃない 新しい生活が始まります。いや、もとの日常に戻ると言ったほうがいいのかもしれません。でも、思うんです。“もとの日常に戻る”と言うけれど、それってどこに戻ることなんでしょうね。私は、日記を書くことで私の日常に戻ろうと思います」。 図3神戸での巡回展のひとこま ## 5. 仙台から神戸へ 2021 年 12 月 4 日から翌年 1 月 17 日にかけて、本展は神戸に巡回開催された(デザイン・クリエイティブセンター神戸)。巡回展においても企画を担った筆者たち AHA! は、「あなたの《わたしは思い出す》」と題したアンケートを来場者に対して実施した。か打りさんの《わたしは思い出す》を発端として、来場者が思い出した大切なエピソードとその日付を尋ねたのた。以下にその一部を抜粋する。「2020/1/12 成人式の帰り、振袖のまま母と老人ホームにいる祖母に会いに行きました。老人ホームが成人式の会場から近かつた事から、私の気まぐれで会いに行きましたが、6-7 年振りに会った祖母は私の事を覚えていませんでした。祖母の認知症は祖母が 17 歳の時から私の姉が小さな頃(24、25 年前)までしか思い出せないそうで、 その事を知っていた母は、きっと私を悲しませないように介護がどんなにつらくても私にはその話を一切してこなかった事を、その時知りました。コロナでもう会う事は難しいかもしれませんが、私の事を知らなくてもいいので祖母に会いたいです」。 「1999/2/25父の亡くなった日。夜中に誰かと話したかった」。「2011/10/82011年 10 月 8 日、仙台から群馬へ引越した。転勤だった。6月頃、人事部との面談で希望をすれば仙台から離れられるという話を聞き、迷うことなく手を挙げた。引越した日の夜、余震 が無くて久々にぐっすり眠れて嬉しかったのと同時に、『私は逃げたんだな』と思って罪悪感を抱いた。数年経って結婚して子育てをし(子供はもうじき新一年生)、神戸で家を建てたこのタイミングでこの展示を見られて、本当に良かった。自分の 10 年と重ねながら、 1つ1つじっくり見ました」。「1995/1/16 夕方に三宮の『そごう』のバーゲン売り場で私、妻、長男(中 2)、次男(小4)の4人で買い物をし、兵庫県内の自宅に帰宅しました。翌朝未明に就寝中、背中を下からドンとつきあげられ、大きな地震だと直感しました。半日遅く『そごう』にいたら、4人とも命を落としていたかもしれません。長男は当日のことを何も記憶しておりませんでしたが、どういう巡り合わせか、この展覧会を企画しています」。 あの大地震のあとを、あなたはどのように生きてきたか一。本展および神戸での巡回展は、たったひとりの女性の日々の記録と記憶に、その問いの答えをさぐる試みだった。来場者が自分にとって大切な日付やエピソードをアンケートに寄せてくれたのは、多くの万々にとって不幸が訪れた日であり、かおりさんにとつて祝福の日でもあった、いくつもの《11日》に触発されてのことだった。来場者にとって会ったことのないかおりさん(わたし)の記憶をなぞることは、期せずして、来場者自身(わたし)の記憶をたどる行為にもなりえ、さらには、あの日埏われた個々の生 (わたし)や、あとにのこされた生(わたし)を想像する契機にもなりえた。2010 年 6 月 11 日から始まったかおりさんの育览日記。その再読をとおして地震からの月日を振り返るという試みは、2つの展示を経て、 2022 年 6 月 11 日、 11 年分の回想記録『わたしは思い出す』として出版される。刊行をつうじて、未知なる誰か(わたし)の手元に届くことを願っている。 ## <付言> 私たちはかおりさんの 10 年分のモノローグから構成される展覧会『わたしは思い出す』終了後、その資料価値をひろく示すため、さらに追加取材を行った。地震から 11 年目を迎え、か打りさんの 11 年分の聞き書き 20 万字超の回想を書籍化するとともに、その全文をデジタル化し、特設ウェブサイト上で公開する予定である (無料)。 https://aha.ne.jp/iremember/ (2022 年 3 月 30 日閲覧)
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# 抄録 : 筆者は 2012 年より、日本のアーティストや学芸員、多様な参加者と協働し、1950-80 年代にドイツで構築された学術映像アー カイブ「ECフィルム」の活用に取り組んできた。本稿ではまず、ECフィルムの特徴を生かして企画した、多様な場所や実物の素材、 あるいは多視点のゲストスピーカーを組み合わせた上映座談会や、2019年開催の《映像のフィールドワーク》展について概観する。後半部では、特に ECフィルムの音楽映像を「再現/再演」する試みを取り上げ、「遠い他者」の経験を写した記録映像のアーカイ ブを、現代に生きる我々が組み替えながら継承していく方法について考える。 Abstract: Since 2012, I have been working with Japanese artists, curators and diverse participants on the use of EC Film, an academic video archive constructed in Germany in the 1950s-80s. In the first part of this article, we will present a series of screenings/lectures that combine EC Film, various locations, real materials and guest speakers with multiple perspectives, as well as the "Fieldwork in Films" exhibition held in Tokyo in 2019. In the second part, we will focus on the attempt to 're-enact' music and performing arts images in EC film, and consider the ways in which we, living in the present day, can recombine and 'pass on' visual archives that capture the experiences of 'distant others'. キーワード:ECフィルム、映像アーカイブ、リエンナクトメント、継承、経験の多重化 Keywords: EC film, Visual Archives, Re-enactment, Succession, Pluralizing Experiences # # 1. はじめに 「1952 年、第 2 次世界大戦の敗戦後間もないドイツ の国立科学映画研究所で、ある壮大なプロジェクトが 始まりました。その名は「エンサイクロペディア・シ ネマトグラフィカ」(Encyclopedia Cinematographica、以下、ECフィルム)。世界中の知の記録を集積すること を目指した、“映像による百科事典”です。(…… 道具を作り、狩りをし、果実を集め、土を耕し、料理し て食べ、紐を綯い、衣服を作り、住居を建て、身を飾 り、時に祈り、踊り歌い、子を産み育てる一。これら の映像を記録した人々は、未来の私たちに、何を伝え、残したかったのでしょう。タイムカプセルの中身を現代に活かせるかどうかは、私たち自身の手に委ねられ ています。本展では、 $(\cdots \cdots . .$.$) 映像のなかの世界をひ$ もとくように探索しながら、そこで生まれた来場者の 問いと気づきが展示に反映されていきます。過去から のメッセージを未来へとつないでいく、参加型の展覧会です」。 このテキストは、2019年に東京・世田谷区の生活工房で開催された《映像のフィールドワーク〜20世紀の映像百科事典をひらく》展の告知文である ${ }^{[1]}$ 。同展は、筆者が 2012 年より携わる「EC 活用プロジェク ト」による記録映像アーカイブの活用実践の集大成的 な試みであり、その参加型の企画は、前年度に同館で 実施された上映・制作ワークショップ《映像のフィー ルドワーク・ラボ》が土台となっている。 「映像のフィールドワーク」とは、筆者自身の文化人類学的フィールドワークの記録を元に、EC 活用プ ロジェクトのメンバーでもある造形作家の下中菜穂さ しと共同制作した《窓花一中国の切り紙》展(2013-14 年)で考案したワークショップの手法である。ここで は敢えて専門家が前面に出ずに、フィールドで撮影し た編集前の調査映像を、過度な解説抜きに一般参加者 が自ら「観察」し、被写体の営みを「倣う」「なぞる」 ことで得た気づきが共有される。人類学のフィールド ワークでは、調査者は身体をもってフィールドに入り、全知覚と知識を総動員してそこで起きていることを観察し、現地の暮らしに参入して倣うことを通じ、対象地の人々の生や思考を理解しょうと奮闘する。「映像 のフィールドワーク」は当初、展覧会の観者がこうし たフィールドワークの営みを追体験し、展示をより主体的に(単に外側から解釈的に「情報」として受け取 るのみならず)自分事として「体験」してもらうべく 考案された。ところが実際には当初の目論見を大きく 超えて、ワークショップ参加者達の異なる複数の身体 が、自らと異なる身体をもつ映像に記録された他者と の「距離」を経験し、各様の経験を対話の中で重ね合 わせる過程で、多様な理解の仕方がひらかれたり、イ メージ経験が多重化するといった、新たな可能性が見 えてきた[2]。 本稿ではこのような参加者と共に作るワークショッ プや映像インスタレーション展示の手法を、学術映像 アーカイブの活用に導入した取り組みについて、参加者の感想等も交えて紹介する。後半部では特に、EC フィルムの音楽映像を「再現/再演」する試みを取り 上げ、「遠い他者」の経験を写した記録映像のアーカ イブを、現代に生きる我々が組み替えながら継承して いく方法について考えていきたい。 ## 2.「アーカイブ」概念の刷新と、記録の「再現再演」 「アーカイブ」は従来、集合的知識の外部的・固定的蓄積メディアとして機能する記録伝達のための装置であり、時にその権力性が指摘されてきた[3]。これに対して近年は「アーカイブ」概念が拡張され、多様な出来事の生成を通じ、受け継ぎ残すための媒体へと変化を遂げつつある。一例を挙げれば、震災記録アーカイブを先導する「せんだいメディアテーク」の「3がつ 11 にちをわすれないためにセンター」の実験的な活用実践について、当時担当していた清水チナツ氏は、「外部装置に全てを預けられないと知った私たちは、集団での作業を通して経験されることをこそ、身体に蓄えようとしているのかもしれない」と述べ、その手法を「アクションとしてのアーカイブ」と称した ${ }^{[4]}$ 。 また現在、現代美術や学術分野で注目を集めている手法に、歴史や民族誌の「玨演クト再現」がある。これは、調査対象者自身が自らの生の営みを再現したり、 その出来事や歴史と時空間的に遠い受け手が、自らの身体をもって、他者の生を写した映像を仮構的パフォーマンスとして再演するものである。旧日本軍の教育訓練の記録映像を、現代の韓国人大学生が見て再演する映像作品などで知られる現代美術家の藤井光氏は、リエンナクトメントのワークショップと歴史的な記録資料を組み合わせ、過去と現在をオーバーラップさせるような自身の作品について、「専門家たちの事覀磪認的な言語を、行為遂行的な言語に書き換える」 と説明している[5]。また、人類学においては儀礼研究の第一人者である V. ターナーが、自身が記したザンビアの民族誌を、ニューヨークの学生や俳優と再演した活動が知られる。この演劇についてターナーは、対象地の「村落世界を彷彿とさせる仮構的世界の創造」 であり、単なる「ミメーシス」、模倣を超えた「ポイエーシス」、制作作業だと論じた ${ }^{[6]}$ $\mathrm{EC}$ 活用プロジェクトの上映と制作表現を組み合わせた映像の活用実践は、集団で過去の記録アーカイブを身をすて経験する「アクションとしてのアーカイブ」や、一連の「リエンナクトメント」の試み等の延長線上に位置付けられる。このような従来の実践と $\mathrm{EC}$ 活用プロジェクトが異なる点等については、本稿最終部で言及したい。 ## 3. EC 活用プロジェクトの試み \\ 3.1 ECフィルムの特徵を生かす上映会 ECフィルムは 1952 年、ドイツ・国立科学映画研究所で G. ヴォルフが提唱した「映像による百科事典」構想のもと設立され、その後約 40 年の間に、世界各地の人間や動物の生を捉えた、民族学・生物学・科学技術の 3 分野から成る 3000 以上もの短編映像が作られた ${ }^{[7]}$ 。主に生物学では顕微鏡撮影やスローモーションなどの多用、民族学では当時すでに失われつつあつた文化のサルベージのための記録が目指され、ヨー ロッパ・アフリカ・アジア・オセアニアの各地にカメラマンや研究者が派遣された。 ECフィルムの主な特徴は、管見では二つある。一つは、「比較」を可能にする体系的なアーカイブの構築である。1950 年代当時に隆盛した動物行動学の見地から、生物学・民族学フィルムともに、一つの映像は行動様式別の短編映像として制作され、相同する行動をする異なる地域間、人と動物などを、相似のアングル・編集で記録することで、比較研究が目指された。二つ目は、徹底した「客観」主義の追求が挙げられる。芸術的表現や演出、被写体への干涉は極力避けられ、時系列の改変や過度な解説、BGM も規制された。制作過程はレフェラーと国際編集会議がチェックし、 ECの制作基準を満たすよう再編集を提議したという ${ }^{[8]}$ 。 ECフィルムはドイツや日本を含む5カ国にフルセットが置かれ、日本では出版社の平凡社の創設者を記念する下中記念財団に「EC 日本アーカイブズ」 (ECJA)が開設され、管理・運用されてきた。しかし 16 ミリフィルムという保存媒体や、調查者・撮影者が対象を一方向的に観察記録する「客観的」な科学映像のスタイルが時代にそぐわなくなり、21世紀に入ってからは上映機会がほぼ失われていた。 2012 年、同財団のサポートのもと、下中菜穂さん、映画制作や映画館運営に携わる中植きさらさん、文化人類学を専門とする筆者らが中心となり、フィルムのデジタル化と平行して、ECの新たな活用方法を探る 「EC 活用プロジェクト」が始動した。 活用にあたりまず問題となったのは、ECの特徴的な映像形式であった。各フィルムは「物語」(線形.完結性)のない断片的な記録であり、撮影機材等の制限からサイレント・モノクロの映像が多い。また、映像間の比較を可能とするため演出を排し、ナレーションや字幕が付されていない。それぞれの映像には往時の研究者や撮影者による短い論文が別添えされているが、ドイツ語表記であったり、紛失しているものも多く、情報不足は否めない。そこで、このような無い無い尽くしの「わからなさ」をも含めた「ECフィルムらしさ」を最大限生かしつつ、多地域・多種の人や動物の生のイメージ同士をぶつけたり、響き合わせるような、実験的な上映方法を模索することになった。 具体的には、各種テーマに合わせて、複数地域や生物学 + 民族学の ECフィルムと、現代の映像作品や、 ものづくり・芸能・ダンス等の実演を組み合わせたり、実際に実物素材や道具を備えた現場で鑑賞してみる上映会や、異なる眼をもつ実践者や研究者など複数のゲストと来場者が上映中にざっくばらんに気づきや疑問を語り合う座談会形式の上映会などが定着して、現在に至る。 前者の「場所・モノ・出来事との交差」の例としてはこれまでに、原発事故の影響を受けた農地で藍栽培を始めた福島県大玉村で世界各地の藍染の映像を、東京のパン工房を紹介する展覧会場で小麦粉を膨らませる様々な食文化の映像を映したり、せんだいメディアテークでECフィルムと被災地の記録映像を並べた上映座談会等のイベントを行ってきた。 また後者の例として次章で扱う音楽関連の $\mathrm{EC}$ 上映会を振り返ると、結果的に「音楽とは何か」を深く問い直すような企画が多く試みられてきた印象がある。例えば 2017 年に映画館「ポレポレ東中野」で開催し た「ECフィルム七夜連続上映会」の一プログラム「語りと歌の境界〈音楽行為と身体〉」では、映像人類学者の川瀬慈氏とミュージシャンの環 ROY 氏をゲストに、ECフィルムの中からアフリカの民族楽器や歌の演奏記録(音声有り)や、身振り手振りでサインを送り合う遊び、老婆がおとぎ話を語るサイレント映像などがセレクトされた。当日はそれら 1960-70 年代の ECフィルムと、川瀬氏が現代のエチオピアの人々のパフォーマンスを写した映像作品、さらに日本語ラップを繰る環氏のライブ動画などの現代の「音楽」的営為とを並べて観ることで、「語りとも歌とも吟りとも判別しがたい人間の〈音楽行為〉」いわば「音楽」となる以前のアフリカの豊かな音の世界に焦点が当てられ、「楽器と歌」「声/語りの力」「身体性」の問題等などへと議論が深められた。 各回の $\mathrm{EC}$ 上映会のアンケートには、「残像効果」「本来無関係の映像がめくるめく繋がり、観る私たちの対話も根源的な問いに向かっていったことに驚いた」といったコメントが書かれ、フィルムや実演、あるいは想起された複数のイメージを、観者たちが自分なりの仕方で「モンタージュ」し、個人的・集団的な思考の跳躍が生まれたことが見て取れる。そして、この上映活動で得られた知見が、映像アーカイブと観者たちの複数の経験を重ね合わせてイメージを多重化し、新たな思考をひらく《映像のフィールドワーク》 の企画へと結びつくことになった ${ }^{[9]}$ 。 ## 3.2 鑑賞者とともに「育つ展示」 冒頭で触れた 2019年開催の《映像のフィールドワー ク》展は、「観る・やってみる・問い続ける $\rightarrow$ 次の誰かに手渡す」をテーマに、会場全体を「EC 研究所」 と位置づけて、来場者が自らの身体をもって ECフィルムと対峙し、そこで日々生まれた問いと気づきが展示に反映されていく参加型展覧会として企画された。 その最大の特徴は、「EC ラボラトリーズ」と題し、会期の 20 日間中、「ゲスト研究員」をファシリテーター として、12 回の上映とものづくりやパフォーマンス等を組合せたワークショップを実施したことにある。 そこでの制作物と来場者の「フィールドメモ」等が徐々に会場内にコラージュされていき、他者の「実験」 の経験や思考の「痕跡」が映像と多重写しにされ、次の来場者に「伝わる」という仕組みを展示に組み込んだ。私たち EC 活用プロジェクトのメンバーや生活工房の学芸員など企画者側は、「育つ展示」の「庭師」役という位置付けだ。 会場全体は、(1)ECフィルムの概要や、日本での $\mathrm{EC}$ 活用プロジェクトの歩みを紹介する「EC 資料室」、 (2)ECのアーカイブの全体像(数や多様性)を可視化する「映像の百科事典」展示、(3) EC や関連書籍を自由閲覧できる仮設の「EC 研究所」を中心に配し、その周囲に同心円状に各種テーマごとの複数の $\mathrm{EC} を$ ループ再生するスクリーンを設置した「ワークショップ空間」の3つから構成された。 (2)のメインは、アーティストの野口靖氏による映像インスターレション《Diverse and Universal Camera》 である(図1)。 図1 Diverse and Universal Camera(制作 $\cdot$ 写真提供:野口靖) 本作品は、ワークショップに参加した有志メンバー が「運ぶ」「食べる」「犬」「飾り」など 40 の「ことば」 を選定し、約 300 本の ECフィルムを眺めて、相当する動きや対象が写り达んだ場面を、登場した時間と合わせ詳細に記録。デジタル化した映像データにこれらの情報を夕グ付けしてプログラミングし、来場者がある「ことば」を選んで検索すると、タグ付けされた映像部分が壁一面にコラージュ再生されるものである。多地域間・人間を含む多種の生物の相似的な生の営みが同時投影される本作品は、題名通り、アーカイブとしての ECフィルムがもつ多様性と普遍性を体現する装置として、本展の中で極めて重要な役割を担った。 また(3)の「ワークショップ空間」では、「住処」「音楽」「料理」「儀礼」「ひも」等をテーマにセレクトしたECフィルムを投影したスクリーンの周囲に、来場者が自由に触れて、試作に使える素材や道具を多数盛っておき、映像の見真似を促すような展示空間が作られた(図2)。 紙幅の都合で鑑賞者の感想の具体は省くが、本展では、展覧会という上映会に比べて長期間、ECフィルムをほぼ時間制限なく幾度も眺めて、画面の向こうの被写体と時間を共有することのできる鑑賞空間が維持されたことにより、単発のワークショップ以上に、鑑賞者の個人的な内省や来場者同士の対話が引き起こさ 図2 映像とものづくりや食の材料・道具が並ぶ展示風景(会場:生活工房、撮影:松田洋一) れたことが注目される。 ## 4. EC フィルムの音楽・芸能を「見真似」する 次に、とりわけ情報が足りず「わからない」アーカイブ映像の創造的な活用方法を模索した事例として、音楽や芸能関連のECフィルムの活用実践を紹介したい[10]。 ECアーカイブの分類は、大分類/中分類/地域/民族別に区分がなされている。音楽・芸能関連では、大分類の「音楽・演奏・舞踊・演劇・語り」が計 368 (内デジタル化済 145)夕イトルあり、その下に「歌唱」「楽器演奏」「楽器づくり」「舞踏」「舞踏用の仮面関連」「演劇」「伝説を語る」等の中分類が続く。ECフィルムの制作規定では、音声有りの場合は同時録音が必須とされたが、大型かつ高額であった当時の撮影機材の制限から、音声有りの映像は歌唱や演奏を撮影用に力メラの前で実演してもらうケースが多く、実際の音楽行為がどのようなコンテクストの中で発現したかまでは画面からはうかがい知れない。他方、儀礼など撮影用の「再現」が認められない対象はサイレント映像が多く、現場で鳴っていたであろう音や歌は観る者が想像するほかない。 2017 年度に実施した《映像のフィールドワーク・ ラボ》では、このような「情報不足」を逆手に取り、 ECフィルムの音を想像/創造する表現実践を試みた。 この上映・制作表現ワークショップでは、参加者が ECフィルムを「観察」し、身体を介して被写体の営みを「なぞる」「「見よう見真似」することを通じて、映像のより深い理解や新たな気づきを共有することが目指される。開催した全 3 回のうち「みみをすます/ なかに入る」をテーマとした回では、民族学と生物学の映像の横断的鑑賞経験をもとに、ECの中の生き物になりきって、身体表現や演劇的パフォーマンス、映像インスタレーション等を制作し、映像の中の営みを 全身で「再現/再演」する実験を行った。一群の映像を見終わった後、参加者たちの対話において、複数の映像イメージを連ねた「残像効果」により見出された、複数地域・他種の間の身振りやリズムの類似が語られ、それをアイディア・ソースとして、3つのパフォーマンス作品が作られた。演劇的表現に挑戦したあるチームは、前述の映画館でのアフリカ音楽を扱った上映会でも上映された中央スーダンのおとぎ話を語る老女と車座で聴き入る子供たちの無声映像に、想像された台詞や音を創作してアテレコしたり、中央ヨー ロッパの復活祭で行われる鳴子ならしの記録映像をみて同様の構造の道具を手作りして映像と同じタイミングで鳴らしてみたりと、数々の「なりきり」パフォー マンスを制作した。 ワークショップの最後に設けた参加者達の「反易」 の場では、パフォーマンス制作の中で「脳内で起きている ECのスクリーニングと、目の前でビジュアルに起きていることのスクリーニングとが同時に起き」、身体的な知覚と (科学的知識としては誤読も交えた)想像的なイメージが入り混じり、多元化していくような経験が創出したことが語られた。また見た映像と真似した身体経験との大きなギャップを痛感し、他者/他種に「なりきれない」という経験から、対象との距離が逆に鮮明になったとの感想も聞かれた。 アーカイブの活用という面から特筆すべきは、こうした上映会や、映像を見真似するワークショップを通じて、ある一つの記録映像を、多視点で観る契機が作られることである。EC 活用プロジェクトで登板数の多い、「バリの音楽のリズム型」という、バリの女性 る儀礼の映像を例にとると、「音楽のはじまる時」をテーマとする上映会では、川辺で厚手の外套を足でリズム良く踏みつけ洗濯する北アフリカの映像と一緒に観ることで、労働する身体の動きに合わせて歌やリズムが生まれる瞬間が着目された。また「木と作る暮らし」というテーマで木工細工の映像と並べて観た際には、木という素材に随う形や音の生成について議論が及び、さらに《映像のフィールドワーク・ラボ》の第 2 回「こな・ねる・食べる」と題した脱穀から粉を練って食事を作るワークショップでは、この映像を真似てみたことで、食を支える「脱穀」という重労働と道具との関係が実感された(図3)。展覧会の「ECラボラトリーズ」では、民族音楽学者・ガムラン奏者の増野亜子さんをファシリテーターに、大人数の参加者が集って映像と同じタイミングで音を出し合奏することで、バリの音楽がもつ独特なリズムの「再現」が試 図3「バリの音楽のリズム型」の映像を見ながら、儀礼的な脱殼/演奏のリズムを真似する展覧会の参加者(会場:生活工房、撮影:松田洋一) みられた。このようにして、その都度のテーマに従って、同じ一つの映像がもつ多面的な要素が引き出され、理解が深められていった。 ## 5. おわりに 「EC 活用プロジェクト」が他の実践と一線を画す点は、体系的かつ客観的な知のあり方を体現する学術的な科学映像を、当初のコンテクストからずらし、ある特徴ある映像イメージとして現代に生きる私たちの眼と身体で見直し、異なるイメージ間の類比や衝突による思考の跳躍を促すような上映方法を模索したこと。 さらにその過程で、(創造的)誤読も多分に含む、鑑賞者による「見真似」という仮構的再現の上映ワークショップの手法が練り上げられていったこと等が挙げられる。 《映像のフィールドワーク》に参加したある女性は、「体験しながら映像を観ることで次々と新たな視点が加わり、映像を観る解像度」が上がり、ひいては「日常目に留めないようなこと、生きている中でものを見る解像度までが上がった気がする」と述べた。この言葉は、遠い他者の経験を記録したアーカイブを、現代に生きる我々が組之替完ながら継承していく核心的な意義を言い得て妙である。 アーカイブ映像を見よう見真似した参加者達は、素材や道具等のモノや身体との折衝を通じて、対象の質感や生のリズムなどを、自己=身体の内から感得する。 このような「見ること」と「やること」の間のギャップ、「失敗」や「なりきれなさ」といった経験の中から、映像に映された他者と自己の距離を探り、映像の中に 「入って」思考を始める。 このような意味で「EC 活用プロジェクト」は、異なる複数の身体間で、イメージや経験を多重化していく装置として、映像アーカイブを活用する取り組みだ と言えるだろう。そこでは総じて、記録と身体経験、記憶などの複数のイメージが折り重なる経験を通じ、一つの事象をめぐる主客や自他の境界線が摚乱・再編されるとともに、複数の時間、複数の身体 - 視点、複数の思考の混淆がもたらされうる。 もち万ん、上述したような活用実践は、映像の被写体の置かれた現実から大きくかけ離れてしまう危険性を孕むことには留意すべきである。本特集で川瀬氏が論じている国立民族学博物館のフォーラム型情報ミュージアムの活動などに顕著なように、昨今は調查・記録された現地の人々の声を取り入れたアーカイブ活用が強く求められている。EC 活用プロジェクトにおいてもその端緒を開く試みとして、ECフィルムを対象地域の人々とともに見て対話する「映像の里帰り」プロジェクトを進めてきた[11]。今後は、ECフィルムを経験する「身体」を日本国内から対象地、またさらに遠い時空間へと射程を広げて複数化し、より多様な「距離」や「ズレ」を取り达むようなアーカイブの活用を目指していきたいと考えている。 謝辞:EC 活用プロジェクトの参加者および、公益財団法人せたがや文化財団生活工房、公益財団法人下中記念財団の関係者の皆様のご協力に感謝いたします。 また、本稿の元になった調査研究は、科研基盤 B (20H01403)の支援を受けました。 ## 註・参考文献 [1] 公益財団法人せたがや文化財団の運営する「生活工房」は、市民を巻き込んだ実験的なワークショップや展示を多数実施する施設である。《映像のフィールドワーク展一20世紀の映像百科事典をひらく》(2019.3.16〜4.7、主催・会場:生活工房)は、下中菜穂氏と同館の学芸員竹田由美氏が中心となって企画し、筆者は主にコンセプト作りやECフィル么解説部分の制作、ワークショップの記録などを担当した。 [2] 2013-14年開催の《空花一中国の切り紙》展(福岡アジア美術館・生活工房)の、様々な参加者を巻き迄む共創的な記録映像や展示の制作・公開の手法については、以下の拙稿に詳しい。丹羽朋子. 空花を〈うつす〉窓花展一人類学的表現実践としての映像と展示制作. 国立民族学博物館研究報告. 2020, vol. 45, no. 2, p.319-358. [3] アスマン,アライダ. 想起の空間一文化的記憶の形態と変遷. 安川晴基訳. 水声社, 2007. [4] 清水チナツ.“影が照らす」せんだいメデイアテーク”. 物語りのかたち一現在に映し出す、あったること. Grambooks, 2016, p.168-177. [5] 藤井光. ARTIST INTERVIEW 藤井光. 美術手帖. 2018, vol. 70 (1067), p.174-189. [6] ターナー, ヴィクター. パフォーマンスとしての人類学. 大橋洋一訳. 現代思想. 1981, vol. 11, p.60-81. [7]「EC活用プロジェクト」. http://ecfilm.net/ (参照 2022-04-01). 本サイトではECフィルムの全リストの閲覧や、デジタル変換済みタイトルの検索が可能で、教育研究目的の貸出も受付けている。 [8] ECフィルムの制作に関しては、以下の 2 つの論考が参考になる。Loizos, P. Innovation in ethnographic film: from innocence to self-consciousness, 1955-85. University of Chicago Press, 1993.川瀬慈.アーカイブ映像の創造的活用にむけてーエンサイクロペデイア・シネマトグラフィカを事例に,民博通信. 2013, vol. 141, p.2-7. その他ECフィルム設立経緯等については、EC日本アーカイブズの代表を務めた岡田一男氏へのインタビュー(2018年10月12日、東京シネマ新社) に基づく。 [9] 以下の拙稿では、より詳細に映像メディアの特性に焦点を当てながら、EC活用プロジェクトがもたらす日常イメー ジを異化する経験の創出について考察した。丹羽朋子. “「カメラの眼」と「肉体を持った眼」を往還する一「映像のフィールドワーク・ラボ」の試みから”.わざの人類学.床呂郁哉編. 京都大学学術出版会, 2021, p.27-49. [10] 丹羽朋子.「音楽のはじまる場所」を再現/再演する学術映像アーカイブの「組み替え」の試みから. 第72回東洋音楽学会公開シンポジウム「音楽研究とメデイアの歴史と未来」, 2021年10月30日. [11] 人類学者の村越勲氏による、1960年代のスーダンでヌバの生活を写したECフィルムを、現在紛争で難民となり各地に移住するヌバ人とともに観る活動については以下を参照。Murahashi, I. Creatively Utilising the Encyclopaedia Cinematographica Film Project: Visual Repatriation of the Masakin. TRAJECTORIA, 2020, vol. 1, p.1-8.
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# データの可視化と個へのインタビュー による複合メディアの可能性 The Possibility of Complex Media Through Data Visualization And Individual Interview 東京工芸大学 インタラクティブメディア学科 \begin{abstract} 抄録:一般的に、コンピュータのプログラムなどを利用して可視化されたデータは、ユーザーの客観的な分析を容易にするが、生身 の人間の個々の体験の詳細や感情の摇らぎなどがこぼれ落ちてしまうことは否めない。一方で、データの「可視化」と、アートや ドキュメンタリーにおけるインタビューを組み合わせることによって互いを補完し、「理解と共感」を引き出そうとする試みがある。本稿では、筆者が関わったアートプロジェクトである「核についてのいくつかの問い」と「東京大空襲証言映像マップ」を紹介し、 データの可視化と個のヘインタビューによる複合メディアの可能性を論じる。 Abstract: In general, data visualized using computer programs etc. facilitates objective analysis of users, but it is inevitable that details of individual experiences of people and emotional changes are difficult to observe. On the other hand, there are attempts to complement each other and derive "understanding and empathy" by combining data visualization and individual interview in art and documentary. In this paper, I will introduce art projects called "Some Questions about Nuclear" and "Tokyo Air Raid Oral History Map" that I have been involved in, and discuss the possibility of complex media by data visualization and individual interview. \end{abstract} キーワード : ライフストーリー、データビジュアライゼーション、デジタルアーカイブ、インタビュー、オーラルヒストリー、メ ディアアート Keywords: Life Story, Data Visualization, Digital Archives, Interview, Oral History, Media Art ## 1. はじめに 近年、「データビジュアライゼーション」や「見える化」などの用語が話題に上ることからも分かる通り、 データの可視化が様々な分野で重要視されている。 一般的に、コンピュータのプログラムを利用して澎大なデータを可視化したメディアは、事象の把握を容易にするという特長を持っている。しかしながら、「デー夕」として可視化することにより客観的に分析し俯瞰することは可能になっても、生身の人間の個々の体験の詳細がこぼれ落ちてしまい、個人の感情の摇らぎなどが見えにくくなることは否めない。 一方、アートやドキュメンタリーでも用いられる個人に対するインタビューは、主観的、個人的な体験が語られることによって鑑賞者の感情を摇さぶることが多い。これらのインタビューを活用したメディアには、 その人が経験したことを大局的・客観的に捉えることは難しいが、個人の人生観、倫理観、思想に訴えかけるという特長がある。 これらのメディアにはそれぞれの長所があるが、両者を組み合わせることによって互いを補完し、鑑賞者 の「理解と共感」を深めることが可能になるのではないだろうか。本稿は、データの可視化と個へのインタビューを組み合わせて制作した複合メディアの可能性を探るものである。ここでは、筆者が関わったアートプロジェクトの中から、「核についてのいくつかの問 $い\rfloor^{[1]}$ と「東京大空襲証言映像マップ」 $]^{[2]}$ の制作過程及び鑑賞者の反応などを紹介する。 ## 2.「核についてのいくつかの問い」 「核についてのいくつかの問い」は、筆者が 2011 年 3 月に起きた東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故後に構想・調査を開始し、2015 年 3 月に作品化して公開したものである。そして、現在も更新を継続している。 この震災と原子力発電所事故は、多大な被害をもたらし多くの人々の心に深い傷を残したが、特に、拡散した放射性物質の問題については、「情報は誰のものか」という根本的な問いを国民に投げかけたと言える。例えば、事故直後に日本政府が迅速に情報公開しなかったことにより放射能被ばくの被害が拡大し、異な る立場の「専門家」による被ばくについての様々な発言が国民の混乱を招いた。そして、この混乱は現在でも風評被害という形で続いている。さらに、未だに 6 万 7 千人超が避難を余儀なくされ (2021 年 1 月現在)、污染水問題も解決されていないにもかかわらず、事故発生から 10 年以上の歳月が経過した今、被災者の声は以前上り周囲に届きにくくなり、多くの人々にとって事故の記憶は遠い存在となりつつある。情報を分かりやすく発信し続けること、問題を風化させないことが切迫した課題であると考えられる。 本プロジェクトでは、「日本における食品中の放射性物質検査マップ」と「日本を含むアジアでのインタビュー映像」という二種類のメデイアが使用されている。展示空間においては、中央に前者が展示され、それを取り囲むようにして後者の二種類の映像が左右で上映される(図 1)。 図1「核についてのいくつかの問い」展示風景 この空間構成により、体験者は「日本における食品中の放射性物質検査マップ」を操作している間にも 「日本を含むアジアでのインタビュー映像」の語りを聞くことになり、二つの作品の要素が常に混ざり合う環境に身を委ねることになる。 ## 2.1 「日本における食品中の放射性物質検査マップ」 について 「日本における食品中の放射性物質検査マップ」は、日本の厚生労働省と東京電力ホールディングス株式会社(以下、東京電力と記す)がそれぞれ公開しているデータを統合し、主に JavaScript、D3.js、MySQLを使用して可視化した、Webブラウザ上のインタラクティブマップである。使用した厚生労働省のオープンデー 夕[3]は、日本国内のほぼ全ての食品の検査結果を集約・アーカイブ化したものである。また、東京電力が定期的に発表している「魚介類の分析結果:福島第一原子力発電所 $20 \mathrm{~km}$ 圈内海域」[4]のデー夕は、厚生労働省のデータには集約されていなかったので、福島県沖の海洋污染の実態を知る貴重なデータとして、マップに組み込んだ。 このマップの大きな特長は、チェルノブイリ原子力発電所の事故後の、各国・各機関における食品中の放射性物質の基準値が比較できるという点である。福島第一原子力発電所の事故直後、日本の暫定基準値は緩すぎるという批判を受けたが、各国の基準値が客観的に比較できる資料は管見の限りではほぼ存在しない。 チェルノブイリの事故当時の食品検査デー夕は入手できなかったが、当時の検査基準値は判明したので、「日本国内の食品を、当時のウクライナやベラルーシなどを含む各国・各機関の基準值で検查し直した結果のシミュレーション」を行うマップを作成し、徹底的に客観的なデータを集めて概観、比較できるメディアを提示することに努めた。 ## 2.2 「日本を含むアジアでのインタビュー映像」につ いて 「日本を含むアジアでのインタビュー映像」は、日本、ベトナム、インドという、日本の原発政策と関係の深い国々において、地域住民、避難者、科学者、市民活動家、政治家など多様な立場の人々に対して行ったインタビュー映像を、ビデオインスタレーションとしてまとめたものである。インタビューにおける質問は全てのインタビュイーに対して同一であり、原発政策に関するものであったが、鑑賞者にどのような質問たっったかを明示しないことによって、深い思考や多様な解釈を促し、鑑賞者独自の解を見出してもらうように構成されている。 核の平和利用はエネルギー政策であると同時に安全保障問題でもあることから、単純に「原発推進」対「脱原発」の議論をすれば済む話ではないと考えられる。「日本における食品中の放射性物質検査マップ」で示された事実からは明らかにすることができない、利害関係が生じる立場によって異なると推測される問題の捉え方を浮かび上がらせるため、極力二項対立にならないように、様々な立場の方々にインタビューを実施するように留意した。 ## 2.3 プロジェクトに対する反応 2015 年 3 月に筆者が所属する大学の展示場で、また 2017 年 2 月に都内のギャラリーで展示を行ったところ、様々な反応があった。この作品に関しては、特に「日本における食品中の放射性物質検査マップ」に 鑑賞者の関心が寄せられることが多く、感想やコメントも「全体的に思ったよりも数値が低くなっていて安心した」「意外な地域の数値が高めで驚いた」「地域によっては検査をしていないところもあることを知らなかった」などマップに関するものが多かった。 一方で、「日本を含むアジアでのインタビュー映像」 に関しては、「楢葉町からいわき市に避難している方が質問への返答に詰まっている映像を見るとやりきれない」、「インタビュー中に言葉を慎重に選んでいるように見える(またはインタビューを受けない)政治家と、率直に自分の考えを述べょうとしていると感じる避難者の口調の違いが印象的であった」などのコメントや、インタビューが編集されていたことについて 「都合のいいところだけを切り取っているように見える」などの指摘があった。 無論、「日本に扔ける食品中の放射性物質検査マップ」は現状の把握を可能にするものであり、単体であってもこの作品には意義がある。しかしながら、感想やコメントの内容からも、そこから生まれる議論を 「原発推進」対「脱原発」の対立構造に巻き込まれたものに留めないためには、「日本を含むアジアでのインタビュー映像」は必要であると考えられる。なぜなら、立場の異なる多くの人の生の声を聴くことによって感情を摇さぶられることが、問題の理解をさらに深めると考えられるからである。 その後、「日本に打ける食品中の放射性物質検査マップ」に関しては、福島第一原子力発電所事故から 10 年以上経過し、チェルノブイリ原子力発電所事故と污染度を比較する必要性が薄れてしまったことに加え、当初のマップにさまざまな機能を付加しすぎて操作性の低いインタフェースになってしまったことから、2021 年にシステムを全て作り直し、基準値を超過した検体の割合を地域ごとに確認できるシンプルな構造にリニューアルした(図 2) ${ }^{[5]}$ 。 そして、当初と同じょうにインターネット上で公開したところ、マスメディアにも取り上げられ多少の関心を集めたものの、残念ながら 2015 年の発表時ほどの反響を得たとは言い難かった。放射能問題の風化を目の当たりにし、現在は、時間の経過とともに変化する人々の考え方を踏まえて「日本を含むアジアでのインタビュー映像」を更新することを計画中である。インタビュー自体は 2015 年も継続しており、元東京電力社員や、「世界で唯一の高レベル放射性廃棄物の最終処分施設」がある、フィンランドのオルキルオト原子力発電所の所員にインタビューを行なっている。 図2「日本における食品中の放射性物質検査マップ」最新版 ## 3.「東京大空襲証言映像マップ」 筆者は 2007 年から c-loc(クロックと読む)と名付けた時空間マップソフトウェアの開発を始め、現在に至る。「東京大空襲証言映像マップ」はこの c-locのコンテンツとして制作されたものである。 ## 3.1 時空間マップソフトウェア(c-loc)とは 時空間マップソフトウェア (c-loc) は、時間を縦軸、空間を横軸として $3 \mathrm{D}$ 空間上に立体的なマップを表示する、時空間データを視覚化するためのソフトウェアである。時間地理学の概念をプログラム化したものであり、主に歴史学、文化人類学、地理学などの分野の研究成果を分かりやすく表示することが可能である。 また、文章、音声、画像、映像をオブジェクトとして登録することができ、それぞれのオブジェクトはカテゴリ/サブカテゴリを設定することができる。 ## 3.2 「東京大空襲証言映像マップ」とは 「東京大空襲証言映像マップ」は、東京大空襲・戦災資料センターのプロジェクトとして、山本唯人 (ディレクション)、早乙女愛(映像制作)、筆者(デジタルメディア・ソフトウェア制作)を中心に制作されたものである。この作品は、1人 $15 \sim 20$ 分程度の証言映像をライフイベントごとに分節化して時空間マップ上に配置したものであり、筆者が開発した c-loc が使用されている。筆者はソフトウェアを提供する役割を担ったため、コンテンツ制作に直接は関わっていないが、作品をより魅力的にするためにプログラム自体を改変する作業や助言を行った。 この「東京大空襲証言映像マップ」は、1919年から 2000 年の間に 8 層の旧地図が年代順に配置されている(図3)。 そして、この各年代の旧地図の間に配置された人型 図3東京大空襲証言映像マップの操作画面 図4 その時・その場所での体験を語る証言者 のシンボルをクリックすることにより、その時・その場所での体験を語る証言者の証言映像を視聴できる (図 4)。 証言映像は主に $1 、 2$ 分から最大で 15 分程度の短い動画に分節化されているため、各証言者の過去から現在を辿ることもでき、一方で同じ時期の体験である 1945 年 3 月 10 日の空襲体験や 8 月 15 日の終戦の日の様々な証言者の記憶を比較することもできる。すなわち、「そのひとが『どう語ったか』を共感的に理解しながら、全体社会のなかで『どういう位置にあるのか』を考える $\rightarrow$ 個別の経験を理解する『社会的な文脈』 を発見する」[6]ことを促す構成となっているのである。 各地の平和記念館などで展示されている多くの証言映像は、歴史的な節目となったまさにその当日の体験のみに焦点を当てたものが多い。その中で、このインタビュー映像は、戦前・戦後を含めた各人のライフストーリーの中に空襲体験があり、「戦争の前には普通の日常というものがあり、また戦争の後にも傷を負った人たちの痛みは続いていく」[2]ということを改めて確認できるものとなっている。 ## 3.3 プロジェクトに対する反応 この「東京大空襲証言映像マップ」は 2014 年 3 月 に東京大空襲・戦災資料センターの常設展示として公開された。展示公開記念イベントの来場者からは、操作方法に関して「パソコンに詳しくない年配の人には使い方が分からない」などの指摘もあったが、「新しいメディアを使って戦災のことを知るのは子どもたちにとってはいい機会だと思う」というように、戦災の記憶を次世代に伝える上での本作品の複合的なメディアの在り方に対する肯定的な評価も得られた。 ## 4. おわりに 本稿では、データの可視化と個へのインタビューを組み合わせて制作した複合メディアの可能性を探った。紹介した「核についてのいくつかの問い」と「東京大空襲証言映像マップ」はともに、様々な立場の人が「共感」した上で社会状況を「理解」をすることが可能な作品であり、社会が自分を含め様々な人の関係性の中で成り立ち、問題はその中に存在することを改めて認識することができるようなものとなっている。震焱、戦災、大事故などの体験を後世に継承するためには、当事者としての「理解と共感」を得ることが必要であると考えられ、そのためのメディアとして、 データの可視化と個へのインタビューによる複合义ディアは可能性を有していると言えよう。 もちろん課題もある。操作性の改良及び社会情勢の変化に応じた情報の更新、またより多くの人に情報を届けるための活動は、今後もできうる限り継続していくことが必要であると考えられる。 ## 註・参考文献 [1] Noguchi, Yasushi. Some Questions about Nuclear, https://vimeo.com/121926522 (参照 2022-01-31). [2] Yamamoto, Tadahito; Saotome, Ai; Noguchi, Yasushi. The Document of the Tokyo Air Raids Oral History Map, https://vimeo.com/138595407 (参照2022-01-31). [3] 厚生労働省. 食品中の放射性物質の検査:全国の過去の検査結果 (月別). https://www.mhlw.go.jp/stf/kinkyu/0000045250. html (参照 2022-01-31). [4] 原子力規制委員会. 放射線モニタリング情報. https://radioactivity.nsr.go.jp/ja/list/460/list-1.html (参照 2022-01-31). [5] Noguchi, Yasushi. Food and Radiation Map in Japan. https://foodradiation.org/ (参照 2022-01-31). [6] 山本唯人. 東京大空襲証言映像マップ一「語りの時間」を内側から聞く、外側から見る一.オーラルヒストリー・プロジェクト一新しい仕組みが生み出す様々な可能性. https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/ detail/251987/d8c86ac74013f2bbcda587f60c79b807?frame_ $\mathrm{id}=699685$ (参照 2022-01-31).
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# 企画セッション(2)「多様な担い手た ちによる地域資料継承セッション」 合同会社AMANE & & & \\ 開催日:2021 年 10 月 16 日(日) (東北大学災害科学国際研究所) ## 登壇者: 後藤真(国立歷史民俗博物館) 堀井美里(合同会社 AMANE) 高橋和孝 (奥州市教育委員会) 野坂晃平(えさし郷土文化館) 司会: 堀井洋(合同会社 AMANE) 急速に進む地方都市の過踈化・高齢化打よび地震・台風などの大規模自然焱害により、地域に現存する学術資料(地域資料)の保存・継承に関する状況は厳しさを増している。地域資料継承のための新たな実施体制の確立が喫緊の課題の 1 つである。本セッション登壇者らは、奥州市域において「産学官連携に基づいた地域資料継承支援事業 (以下、産学官連携事業)」を 2020 年から実施している。本セッションでは、産学官が連携した“多様な担い手たち”による地域資料の継承に関する現状と、今後の展望について議論を行った。 冒頭に、本企画セッションの趣旨について堀井が説明を行った。その後、後藤氏が国立歴史民俗博物館义夕資料学研究センターにおける総合資料学の展開と、実施中の地域資料継承に関する取り組みについて紹介した。さらに奥州市域に存在する民具等の情報を総合資料学情報基盤システム khirin に揭載していること、全国から資料情報にアクセス可能になることにより期待される効果について述べた。次に、堀井美里氏が奥州市における資料調査活動について概要を紹介するとともに、地域における資料継承を想定した「地域資料情報継承記録モデル」について述べた。奥州市における産学官が連携した資料調査では、異なる立場・分野の専門家が連携し、調査過程・手法の客観化や事業としての透明性の確保など、新たな視点・問題意識に基づいた事業の実現を目指している。その後、高橋氏が奥州市域の資料の紹介と産学官連携事業への期待について述べた。奥州市には、膨大な量の文書資料が現存している。地域資料の継承を継続的に実現するために、地域内外の多様な組織・専門家と連携して調査・研究・公開事業を実施する意義や今後の展望が述べられた。最後に、野坂氏が地域資料・文化の活用と地域間連携の可能性について述べた。産学官連携事業では、岩手県奥州市の他に石川県輪島市 - 富山県高岡市と連携協定を締結している(2021 年 10 月現在)。本事業では、AMANE・歴博・自治体の産学官三者のみで閉じた関係ではなく、地域間の文化交流も実施している。野坂氏の発表では、特別企画展「雅静の美一正法寺の至宝を巡る一」関連フォーラム「禅禅禅世一正法寺学寮 2021」(2021 年7月 18 日)の事例が紹介された。本イベントは、曹洞宗寺院である正法寺(奥州市)と 總持寺祖院(輪島市)が双方の自治体を含めて連携することにより実現した、遠隔地域間の文化交流の一事例である。 登壇者の発表後に、参加者(オンラインも含む)全員によるデイスカッションを行った。会場からは、各地で確認され問題となっているネットオークションへの地域資料の流出や、地域資料の保存・継承に携わる専門人材の不足への対応などについて、質問や発言があった。さらに、大量な地域資料を今後も継続的に継承していくためには、人材や予算確保なども含めた事業的なスキームを構築することが非常に重要であるとの意見に対して、多くの賛同があった。 本セッションには、オンラインを含め約 80 名の参加者があった。地域資料継承の現状と今後に関しては、厳しい状況が続いており、現在様々な取り組みが各地で行われている。急速に変化する社会情勢の中で、同じ目的を持って活動する個人・団体間での交流や連携が非常に重要になりつつあることは明らかであり、今後も議論・交流の機会を積極的に設けたい。
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# 映像実践の創造的な プラットフォームづくりにむけて ## Toward a creative platform for visual study practices \begin{abstract} 抄録: 本稿では、人文学の将来にむけた創造的な研究成果公開の場の在り方について、筆者自身が携わってきた映像人類学研究の成果発表と議論のプラットフォームづくりの事例をもとに考察したい。人類学とアートの接近と交流という近年の映像人類学研究の潮流を俯瞰しつつ、筆者が創設に携わった Anthro-film laboratory と題した研究会、さらには筆者の職場、国立民族学博物館が刊行する、国際的なオンラインジャーナル、TRAJECTORIA をとりあげ、その目的、活動内容について報告する。 Abstract: In this paper, I would like to discuss the nature of a platform for the publication of creative research results for the future of the humanities, based on my own experience of creating such for visual anthropology research. While looking at the recent trend of visual anthropology, which is the proximity and exchange between anthropology and art, I would like to report the purpose and activities of the research group entitled Anthro-Film Llaboratory, which I was involved in establishing, as well as TRAJECTORIA, an international online journal published by the National Museum of Ethnology, where I work. \end{abstract} キーワード : 映像人類学、プラットフォーム、オンラインジャーナル Keywords: visual anthropology, platform, online journal ## 1. はじめに 「イメージは説明しない一それは人がイメージを再創造し、文字通りイメージを再び生きるよう誘うのである」。オクタビオ・パスのことば[1] の通り、映像は記録者・表現者の意図、表現を超え、映像を享受した存在が世界を主体的に創造することを促す媒体である。映像作品を公開することによって、制作者が視聴者より、撮影対象に関する新たな知見や情報を得て、対象に対する理解を深めることがある。また映像作品は、視聴者の記憶をゆさぶり、感情に訴えかける存在でもある。それはすなわち、スクリーンに投影されることをきっかけに、制作者の意図から離れ、視聴者を通し、自らを生成、顕現させ、饒舌に、雄弁に語りはじめる主体であるともいえる。そのため研究者には、映像を享受する側の存在、役割を軽視せず、幅広い表象の受け手と向き合い、相互交渉を重ね、その結果を研究に再帰的に反映させていく工夫が求められる。人文学は、言語を中心に据えた議論に固執しない、映像の特性を踏まえ活用する、世界の探求と理解の方法を開拓していく必要があるといえるだろう。 筆者はエチオピアをはじめとするアフリカや日本の地域社会の音楽・芸能等、無形文化の調査を行うとともに、それらを対象とした映像作品を制作し、学界内外の幅広い社会的脈絡で発表し議論する映像人類学研究を行ってきた。自らの作品制作においては、制作者である自身を対象の観察者として固定したスタイルから、自らが作品を構成するアクターとなって被写体と頻繁に会話し、議論するスタイル等、様々なアプロー チを試してきた。同時に、作品が公開されることによって引き起こす問題や可能性について検討し、学術活動における記録・表現・議論の地平の拡張に取り組んできた[2]。本稿では、人文学の将来にむけた創造的な研究成果公開の場の在り方について、筆者自身が携わってきた人類学(主に映像人類学)の成果公開と議論のプラットフォームづくりの事例をもとに考察したい。 ## 2. 映像人類学研究における近年の傾向 ## 2.1 人類学とアートの接近と交流 人類学者による民族誌映画(Ethnographic Film)と呼ばれる映画の制作に基づく文化事象の記録と研究は、映像人類学の分野において主要な研究実践として位置づけられてきた。民族誌映画は、大学等の教育現 場や博物館において異文化を理解するツールとしてひろく活用されると同時に、研究者による研究成果の学会への還元においても積極的に実践されている。民族誌映画の公表、議論の場として知られる代表格に、人類学を掲げる映画祭があげられる。隔年で開催される英国王立人類学協会民族誌映画祭やゲッティンゲン民族誌映画祭は、テーマ別の上映部門やコンペティションを設けて、作品を募り、人類学者による研究作品の国際的な上映と討論の場となってきた。今世紀に入り、欧州人類学映画祭機構(CAFFE)を筆頭にした映像人類学の国際的な議論のプラットフォームの形成が急速に展開している。これらの動向と並行して、Youtube や Vimeo 等の動画チャンネル、ソーシャルネットワー キングサービス上における学術作品公表の場の拡大、作品流通の加速も無視できない。民族誌映画が幅広い社会的文脈において共有されつつあるといえる。 そのようななか近年、既存の学術映画の様式に見受けられる視覚中心主義的な認識のありかた、さらには映像をアカデミックな論述を補完する資料として位置づける傾向への批判が高まり、人の知識、経験と映像の関係を、感覚の多様な働きの中でとらえる議論の重要性が指摘されている[3]。匂いや味、音、触感を中心とする研究報告の増加、さらには感覚をめぐる人類学研究の議論の隆盛に呼応するかのように、各国の主要な映像人類学の研究機関では、民族誌映画とは異なる映像人類学的な研究実践が探求されている。これらの実践においては、センサリーメディア (sensory media)、 あるいは、マルチモーダル (multimodal) のキーワー ドのもと、人類学研究における表現、そして研究成果公開のありかたが大きく変容している。これらの研究実践には、音、テクスト、写真、モノのインスタレー ション、ドローイング、アニメーション、人の心象に基点を置いたマッピング、研究者自身による身体パフォーマンス、あるいは以上のメディアや表現を重層的に組み合わせた様式が挙げられる ${ }^{[4]}$ 。筆者が研究員として過去に所属したマンチェスター大学や、 HMKWベルリン (応用科学大学)、オーフス大学等の欧州の映像人類学拠点の大学院においては、従来の民族誌映画の制作と同時に、以上のセンサリーメディアの実践を教育カリキュラムに定着させている。民族誌映画祭や学会の研究大会を俯瞰すると、センサリー メディアの動向を意識した、映像制作と表現の試みがみうけられ、研究者のメディアの活用と表現のありかたについては、まさしく百花繚乱に展開しているといえる。しかしながら、技術的、制度的な制限のためなのか、以上の研究成果公開のプラットフォームが、こ れら先鋭的かつ、多層的に進化する研究者の表現のすべてを包括的に受け入れ発信しているとは言い難い。 この他にも、近年注目すべき動向として、人類学とアートの実践的な交流が挙げられる。テクストのみに依拠しない、各種のメデイアを駆使した人類学研究の模索が、アートの方法論を学びつつ各地で展開しているのである。反対に、人類学研究に影響を受けたアー ティストが、特定の場所を基点にしたフィールドワークを行い、なんらかの作品を制作する機会も珍しくない。 ## 2.2 Anthro-film Laboratory 人類学とアートの密な交流の場として Anthro-film Laboratory が挙げられる。Anthro-film Laboratory は筆者を発起人とし、映像実践に興味を持つ人類学者の有志を中心に組織された映像人類学の研究会である。 2012 年 5 月に発足し、その後 45 回、研究会を積み重ね (2022 年 2 月現在)、国内外の人類学者やアーティストが制作した民族誌映画、インスタレーション作品、博物館、美術館での展示企画等のブラッシュアップを目的とした会合を継続してきた。本会で発表・議論された作品のなかには、国際民族誌映画祭、ドキュメンタリー映画祭、アートフェスティバルにおいて入選・受賞し、大学講義の場においてひろく活用されることになった作品が少なくない。本会の目的は、「文化人類学、映画、アートが交叉する実践のなかで、言語に依拠するだけでは伝達されえない知や経験の領域を探求し、人文学における新たな知の創造と語りの新地平を切り開くこと」(本会のウェブサイト http://www. itsushikawase.com/anthro-film_lab/より抜粋、(参照 202202-21)である。本会が最も重視してきた点は、本会が、完成した作品やプロジェクトを披露する場なのではなく、発表者が制作過程のプロジェクトについて発表し、参加者とともに密な議論を行う点にある。この “制作過程”については発表作品によって大きく程度が異なる。映画の制作計画に関する口頭発表から、海外でのフィールドワークを終え、撮りためたフッテージを開示し作品構成についての方向性を示す報告や、映画祭出品を直前に控え、音の調整のみを残すものまで多様である。いずれにせよ、発表者は、参加者からの厳しい意見や提言を受け、それらをさらなる編集等の制作活動に反映させていくのである。これまで本会の会場は主に国立民族学博物館 4 階の映像実験室の上映室であり、せいぜい 10 名が入っていっぱいという狭いスペースであった。その他にも、本会は大阪大学、京都市立芸術大学、立命館大学、早稲田大学、東京藝術大学、また、ミニシアターやアートギャラリーにお いても開催されてきた。新型コロナウィルス蔓延の時代状況を踏まえ、近年はオンラインでも開催されるようになった。Anthro-film laboratoryでは、人類学者、映画監督、アーティスト、キュレーター等、活動する分野が異なる参加者、発表者が、領域横断的な議論を行う。1.において紹介した、映像人類学の新潮流である、センサリーメディアの実践においては、急速に進化し、多元化するメデイアの活用法については、特に人文学関係の機関での研究活動にとどまるのみでは、有益な知識が得られない。メデイアの活用をめぐっては、必然的に現代美術の関係者から、そのノウハウについて学ぶことになる。反対に、アーテイストの作品発表に対して、主に、フィールドワークの技法についての建設的な提言等が人類学者よりなされることもある。例えば“津波石』制作過程のインスタレーションのブラッシュアップ”(2017年 12 月 18 日、民博にて開催)という研究会合では、美術作家の下道基行による、津波によって打ち上げられた巨石群を映像記録したインスタレーションが発表され、アーティスト、 キュレーター、人類学者によって、映像の構成から、 スクリーンの設置法について、展示に関わる具体的な方法をめぐる意見交換が行われた。この時の議論は、下道が参加した、第 58 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展・日本館展示「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」に、後に生かされることになる。また、“The Image-making from Africa-Perspectives from Visual Anthropology-” (2020 年 6 月 26 日、 2021 年 3 月 16 日、オンラインにて計 2 回開催、東京外国語大学現代アフリカ地域研究センターとの共催)という研究会合(図1)では、アフリカにおいて映像制作を通した人類学研究を推し進める研究拠点、例えばカメルーンのマルア大学、マリのバマコ大学、エチオピアのメケレ大学等の教員、大学院生が制作した民族誌映画を参加者が会に先立ち視聴 (作品は動画チャンネル Vimeo 上にアーカイビング) し、研究会合当日、Zoom 上で議論を行い、各作品の撮影アプローチ、構成からモンタージュの詳細に至るまで、アフリカ、日本、欧州の研究者、アーティスト、映画作家が意見交換を行った。概して、人類学における映像実践については、その理論や方法論を欧米の研究者が制引するのみならず、民族誌映画祭で発表される作品についても、欧米を拠点にする研究者による作品が圧倒的に多い現状がある。 かつては一方的に表象される客体として人類学研究の脈絡で位置付けられてきた人々が様々なメディアを通して自らの文化・歴史を表象しようとする試みが北米や南米の先住民を中心にさかんになって久しい。し 図1 Anthro-film laboratory の告知文 かしながら、アフリカに目を移すと、アフリカの諸文化は調查・撮影・記録の対象ではあっても、ノルウェーのトロムソ大学とマルア大学による先鋭的な民族誌映画制作プログラムをのぞき、現地の研究者による映像作品を通した主体的な表象・表現についてはあまり注目されてこなかった点は否定できない。Anthrofilm Laboratory でのこのような研究交流の機会を継続することによって、人類学者とアーティストの対話を促進させ、世界の多様な地域からの研究発信と交流を実現させ、非言語メディアを通した研究における、各国間のネットワーク構築を進めていく予定である。 ## 3. 研究成果発表の新たな場づくり 一オンラインジャーナルー 2016 年頃を境に、筆者の職場、国立民族学博物館 (民博)において、審査付きの国際オンラインジャー ナルを刊行する準備がはじまった。民博は 1974 年の創設以来、様々な方法を用いて研究結果を学界、および一般社会に発信してきた。特に近年民博では、 フォーラム型情報ミュージアムプロジェクトの実施に力を注いできた。これは、物質文化に関する知識や情報、映像音響資料等を、様々なアクター間で、多角的に議論する創造的なプラットフォームとしてミュージ アムを位置づけなおす試みといえる。オンラインジャーナル創造の構想は、フォーラム型情報ミュージアムに関する議論の盛り上がりのなかで胚胎してきたといえる。研究者が論文をまとめ、査読付きのジャー ナルに投稿し、学界に研究成果を報告し、問題提起することは、いうまでもなく重要な研究の営みである。 これまでジャーナルは、あくまでも紙媒体の刊行物が主流であったが、国内の人文学分野の各種ジャーナルは、紙媒体のみならず、オンラインジャーナルの刊行に移行する動きが顕著である。しかしながら、それらの多くが、従来のテクストを主体とした論文の発表が中心であり、オンラインという空間の特性を、創造的に活用、開拓するものは現状では決して多くない。では、国外の審查付きオンラインジャーナルの状況はどうだろうか。例えば映像人類学に関連するジャーナルは、世界を俯瞰する限り、近年増加する傾向にある。欧州社会人類学者協会の下部組織、映像人類学ネットワーク(VANEASA)が編集・運営する Anthrovision、 ロンドン大学ゴールドスミス校の研究者等による entanglements: experiments in multimodal ethnography、イタリア、バジリカータ大学の研究者等による VISUAL ETHNOGRAPHY、ハーバード大学感覚民族誌学研究所 (SEL)による Sensate、北欧人類学映画協会 (NAFA) が運営する Journal of Anthropological Films 等が知られる。これらのジャーナルにおいては研究者による論述と同時に写真、動画 (映像作品)、サウンド、ドロー イングをはじめとする非言語メディアが、研究成果の重要な部分としてテクストと同等に位置づけられ揭載されている。以上の中でも Journal of Anthropological Filmsについては、人類学者による映画作品のみの揭載に徹底して特化している点がユニークであるといえる。筆者は、これらのジャーナルの方向性、編集体制、 デザイン、機能を批判的に吟味しつつ、民博ならではの独創的なオンラインジャーナルの構想を練っていった。そうしたなか、研究者による研究・展示活動を基軸に据えた民博刊行のジャーナルという特性を踏まえ、人類学、文化遺産、ミュージアム、アートを対象とする査読つき国際オンラインジャーナルをはじめるに至った。モノ、知識、人がミュージアム内外で時空を経て生成させる様々な関係の軌跡についての議論を主軸に据えるということから、TRAJECTORIA(軌跡) というジャーナルのタイトルを想起した。ジャーナルは 2020 年の 3 月に第 1 号を発刊した。筆者をはじめ、外国の研究機関(オックスフォード大学、トロムソ大学)に属する研究者を含めた編集委員によって運営され、現在に至っている。本ジャーナルはテクスト主体 の学術誌では実現しにくい、マルチメディアの表現形態を推奨するプラットフォームを目指している。民族誌映画をはじめ、静止画、動画、アニメーション、イラストレーション、地図、音響作品、VR、さらにはこれらを様々なかたちで組み合わせた作品を対象に据え、知の創造と語りの新地平を切り開く投稿を求めている。ウェブサイト (https://trajectoria.minpaku.ac.jp/ (参照 2022-02-21)上には、本ジャーナルの目的として以下の 3 点が揭げられている。 1)モノや物質をとりまく環境を、多感覚的な側面から検証し、新しい知識の創造を促す。 2) ソースコミュニティ (研究成果やミュージアムの収蔵品を提供した人々)との情報共有を通して、表象、研究される側の人々と研究者間の多様で創造的なコラボレーション、相互交流のありかたを提示する。 3)来館者がミュージアムに関連する知の創造過程に参与できる、マルチメディアや、展示の革新的な手法を探求する。 その他重要な点として、本ジャーナルが研究者による研究成果発表の場であると同時に、発表されたコンテンッのアーカイブの役割を持つということが挙げられる。コンテンツのプレゼンテーションと保管はできうる限りの高度な技術で実現させていく所存である。 2020 年の 3 月に刊行されたジャーナルの第 1 号では、上記の 2 に属するプロジェクト、すなわちソースコミュニティと研究者による共同作業に主眼が置かれたマルチメディア論文が揭載されることになった。古いアーカイブ映像の創造的な活用方法を世界に離散するスーダンの又バの人々と探る試み、さらにはソースコミュニティである北米先住民の声を主体とするミュー ジアムカタログ作りに関するマルチメデイアによる報告と議論が、豊富な写真、動画資料、映像作品とともに発表された。2021 年の 3 月に刊行された第 2 号においては、台湾の人類学者、原住民による映像作品をはじめ、ブラジルの先住民、人類学者による映像作品、 ならびに制作者・被写体間の作品制作をめぐる議論の動画(図2)が公開された。 2022 年の 3 月に刊行された第 3 号では、アニメー ション、ドローイング、絵画、さらには風刺漫画が発表され、揭載されるコンテンツの様式がますます多様化していく傾向にある。今後も本ジャーナルは人類学、文化遺産、ミュージアム、アートに関心のある各国の研究者、および広く一般の人々を対象とし、年 1 回ペースで刊行していく予定である。 図2 TRAJECTORIA上の投稿者による議論動画 ## 4. おわりに 以上、足早に筆者自身が携わってきた、研究成果公開と議論のプラットフォームづくりの事例を紹介した。議論を喚起する媒体として映像を位置付けた場合、特に上記のオンラインジャーナル上で発表された作品 や論稿が、今後どのような“声”を喚起させていくか注意深く見守っていく必要があるだ万う。それらの声は、ジャーナル上にどのようなかたちで効果的に反映させていくことが可能なのであろうか。様々な研究者による思考の循環と交流を促進させる開かれたプラットフォームとしてのオンラインジャーナルを実現させていくには、まだまだ課題は山積みである。 ## 註・参考文献 [1] オクタビオ・パス. 牛島信明訳. 弓と竪琴. 2011, 岩波書店 [2] 川瀬慈. コミュニケーションを媒介し生成する民族誌映画一エチオピアの音楽職能集団と子供たちを対象とした映画制作と公開の事例より一. 文化人類学. 2015, 80(1), 6-19. [3] MacDougall, D. The Corporeal Image: Film, Ethnography, And The Senses. New Jersey: Princeton University Press, 2006. [4] 川瀬慈. センサリーメディア. Lexicon 現代人類学. 2018, 以文社. 172-175.
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# 総論 : 人類の棠みのデジタルアーカ イブー「他者」理解に関する実践例 Digital archive of human activities - Practical examples of understanding "others" 東 由美子 HIGASHI Yumiko } 国際ファッション専門職大学 国際ファッション学部 \begin{abstract} 抄録:本特集は、デジタルアーカイブやデジタルデータを用いて、「他者」理解に対する自らの姿勢を意識的に提示しようとする 研究領域の紹介を目的としている。この研究領域については、これまで本学会では正面からは論じてこなかった。しかし、他の分野に目を向けてみると、「他者」理解という人類学的な関心を「芸術的に」表現しようとする人類学者や社会学者、アーティスト といった人々によって、研究が蓄積されてきているのである。ある者は、古今東西の人類の営みに対する自らの理解のありかたを、 デジタル形式を媒介させつつ多元的に表現しようとする。別の者は、読解・分析した既存のデジタルデータを、現在の自分が共感 できる形で表現し直そうとする。本特集では、このような研究の実践例として、国立民族学博物館のフォーラム型情報ミュージア ムプロジェクト、および4名の執筆者の試みを取り上げる。 Abstract: The purpose of this special feature is to introduce research areas that consciously present their attitudes toward understanding "others" using digital archive and digital data. So far, they have not been discussed head-on at Japan Society for Digital Archive. However, looking at other fields, people such as anthropologists, sociologists, and artists who are trying to "artistically" express the anthropological interest of understanding "others" have accumulated research. Some people try to express their understanding of human activities in the east and west in a multidimensional way through the digital format. Another people try to re-express the existing digital data that they have read and analyzed in a form that they can sympathize with. In this special issue, as practical examples of such research, we will take up 'The Info-Forum Museum' Project of the National Museum of Ethnology and the attempts of four people. \end{abstract} キーワード : 国立民族学博物館、フォーラム型情報ミュージアム、映像人類学、アート、実践、他者理解、創造的活用 Keywords: National Museum of Ethnology, The Info-Forum Museum, Visual anthropology, Art, Practice, understanding others, creative utilizationrt ## 1. 本特集の目的 デジタルアーカイブ学会が設立されてから約 5 年が経過した。 この間、国内に埋もれている文化資源をデジタル形式でアーカイブ化する際の環境整備に関する議論がさかんに交わされ、デジタルアーカイブ構築において先行する海外の動向や既存のデジタルアーカイブの利活用についても精力的に報告がなされてきた。国内において、文化資源のデジタル発信に関する議論と調査、実例報告、活用事例、提言などが蓄積されつつあるといえよう。 こうした中、本特集では、本学会がこれまで正面からは論じてこなかった研究を紹介することによって、本学会の対象領域の拡充を目的としている。 その研究は、近年、「他者」理解という人類学的な関心をアートの形で表現しようとする人類学者や社会学者、アーティストといった人々によって行われてき た。彼らが行っているのは、デジタルアーカイブやデジタルデータを用いて、古今東西の人類の営みに対する自らの理解のありかたを多元的に表現したり、既存のデジタルデータを読解・分析した後で、現在の自分が共感できる形で表現したり、追体験したりするという試みである。 彼らに共有されているのは、デジタルアーカイブやデジタルデータを用いて、「他者」理解に関する問題を提起するという姿勢に他ならない。すなわち、デジタルアーカイブやデジタルデータから、「他者」の生活形式や生活実践をいかにして理解できるのか。「他者」になりかわって「他者」がいかなるものであるのかを物語ったり、別の形で表現したりすることが可能か。あるいは、今を生きる私たちに、「他者」の思考や感覚などの追体験は可能か。そういった「他者」理解をめぐる問いかけや現時点で得た解答を、さまざまな方法を駆使して呈示している。 本特集では、このような研究の実践例として、日本の研究機関による世界各地の民族資料やその研究成果のデジタルアーカイブ化の試み、および個人、もしくはごく少数の人々からなるグループの試みを紹介する。 ## 2. 機関の実践例:国立民族学博物館 ## 「フォーラム型情報ミュージアム $]^{[1]$ の試み} かねてより、人類学者は世界各地におもむき、現地の人々とともに生活しながら、当該地域や文化における生活様式や習慣、伝承、親族構造や思考法などの情報や、生活の中で使用されているモノや図像などを調查・収集してきた。オリジナルの資料は、調査者の国に持ち帰ることが許される場合もあれば、持ち帰るのが難しい場合もある。そこで研究者は許可が得られれば、調査対象物をスケッチしたり、写真を撮ったり、音声を録音したり、動画で撮影したりする。 国立民族学博物館(以下、民博)は、このようにして人類学者が現地で収集し、日本に持ち帰ってきた有形・無形の民族資料、あるいは大阪万博などで現地の人々が日本に残していった資料等について、海外の研究機関などと共同しながら、長年、研究や展示を行ってきた。さらに近年では、現地でも消失しつつある貴重な資料を、世界中の人々がいつでも閲覧できるように、現地の人々とともに、「フォーラム型情報ミュー ジアム」を構築し、運営している ${ }^{[2]}$ 。の民博のプロジェクトのうち、今回は国際的なオンラインジャーナルの発行について、川瀬慈氏に紹介いたたく。 ## 3. 個人の実践例 : アート化するデジタルアー カイブ、あるいはデジタルデータの「創造的活用 $]^{[3]$} 一方、デジタルデータやデジタルアーカイブを用い て、制作者ないしは利用者が、自らの思想を、芸術性を重視しながら表現しようとする場合もある。一般的に、機関がつくるアーカイブは公共性の確保に重点が置かれる傾向が強い。しかし、このような人々がつくる私的アーカイブ、ないしはアーカイブの活用法からは、制作者ないしは利用者が私たちに投げかける問いを読み取ることができる。彼らは、デジタルアーカイブを梃子に用いて、既存の認識の枠組みに疑問を投げかけ、私たちのパースペクティブを摇さぶろうとするのである。 民博で「フォーラム型情報ミュージアム」プロジェクトに携わる川瀬氏は、自らも映像人類学者として民族誌映画や映像アーカイブなどを制作されており、長らく「映像の話法」というものを模索されてきた $[4]$ 。 そこで、川瀬氏には民博でのプロジェクトと同時に、氏個人のプロジェクトの解説もお願いした。 東京大学大学院学際情報学府に所属する松本篤氏は、大学院で研究するするかたわら、「Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ(略称 AHA!)」の世話人を務めている。AHA! とは、「8 ミリフィルム、家族写真、戦時中の慰問文といった、私的な記録の価値に着目した」デジタルアーカイブプロジェクトのことである[5]。今回は、ある女性が東日本大震災の前後を通じて書き続けてきた育児日記に焦点を当て、展覧会を開催するに至った経緯、さらには松本氏の問題関心について報告いただく。 野口靖氏は既存のデジタルデータを、見る者の「理解と共感」につながる形で可視化しようと試みる気鋭のアーティストである。氏は、観察者と対象物との間に、暗黙のうちに横たわる距離に非常に敏感であり、 そのへだたりに潜む問題をつかみだし、表現方法にこだわりながら呈示しようとする $[6]$ 。氏の実践を、作品の解説とともに紹介いただく。 丹羽朋子氏は、古い映像アーカイブを用いて、新たな現代的経験を得ようとする斬新な人類学的試みを行っている。鑑賞者は、古いアーカイブであれば時間的なへだたりを、他民族を対象とするアーカイブであ だたりを同時に体験し直すための実験的なワークショップを開催してきた[7]。既存のデジタルアーカイブの創造的活用を試みる丹羽氏の実践を、他の執筆者との連携の模様も含めて報告いただく。 以上の本特集の執筆者 4 名に共通するのは、デジ夕ルアーカイブやアーカイブデータを用いて、おのおのが持つ「他者」理解への関心をどのような形で表現するかという点に意識的であるということである。異文化に属する人々やモノであれ、東日本大震焱を経験した一女性の手による育坚日記であれ、公表された数字であれ、古い映像アーカイブの空間であれ、自己と完全に同化できない存在(「他者」)との距離が何を意味しているのか。その疑問を、実践を通じて解き明かそうとしている人々である。 各執筆者の報告によって、デジタルアーカイブの世界に、新たな展望が切り開かれるさまを体感いただければ幸いである。 ## 付記 本特集を構成するにあたり、執筆者の一人である丹羽朋子氏に、ひとかたならぬご尽力をいただいた。特記して感謝申し上げる次第である。 また、本特集原稿の依頼後に、川瀬慈氏が御著書『エチオピア高原の吟遊詩人うたに生きる者たち』[8] にて、第 43 回サントリー学芸賞(芸術・文学部門) を受賞された ${ }^{[9]}$ 。映像による語りの第一人者である川瀬氏は、この書物の中で、文字による語りの力をも遺憾なく発揮されている。本学会を代表して、心よりの祝意を申し上げたい。 ## 註・参考文献 [1] 国立民族学博物館の「フォーラム型情報ミュージアム」プロジェクトとは、「多言語によるフォーラム機能をもつマルチメディア対応のデジタルアーカイブ」を構築するプロジェクトのことである。https://www.minpaku.ac.jp/research/ project/ifm (参照 2022-02-15). [2] 岸上伸啓. フォーラム型情報ミュージアムの構築一国立民族学博物館における新たな展開. 民博通信. 2014. no. 146, 2-7.「人類の文化資源に関するフォーラム型情報ミュージアムの構築一国立民族学博物館における新たな展開」 https://older.minpaku.ac.jp/research/activity/project/ifm/summary (参照 2022-02-15). [3] 本稿における「創造的活用」という言葉は、デジタルアー カイブの構築そのもの、あるいはデジタルデータの活用のしかたそのものに、構築者や活用者の価値観や思想、精神性、芸術性が表明されている、といった意味で用いている。 [4] 港千尋・笠原恵実子・川瀬慈.アートと人類学のクロスポイント人類の営みを探究する手法・制作・記録をめぐって. 美術手帳. 2018. vol. 70, 14. [5] AHA! (Archive for Human Activities/人類の営みのためのアー カイブ)。https://aha.ne.jp/project/gaya/ (参照 2022-02-07). なお、今回の特集タイトル「人類の営みのデジタルアーカイブ」は、この松本氏の「AHA! (Archive for Human Activities /人類の営みのためのアーカイブ)」プロジェクトから着想を得、松本氏の了解のもとで使用している。 [6] 本特集で紹介されている試み以外にも、野口靖展「関係性の次元」などがインターネット上で閲覧可能である。 http://rcc.recruit.co.jp/gg/exhibition/gg_sec_ph_200505/gg_sec_ ph_200505.html (参照 2022-02-07). [7] 丹羽朋子.「カメラの眼」と「肉体を持った眼」を往還する一「映像のフィールドワーク・ラボ」の試みから. 床呂郁哉編. わざの人類学. 京都大学学術出版会. 2021. 27-49. [8] 川瀬慈. エチオピア高原の吟遊詩人うたに生きる者たち.音楽之友社. 2020. [9] サントリー学芸賞2021年受賞、選評。https://www.suntory. co.jp/sfnd/prize_ssah/detail/202103.html (参照 2022-02-07).
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# 日本学術会議協力学術研究団体の 指定を受けて デジタルアーカイブ学会 会長 去る 2021 年 11 月 25 日付で、本学会は、日本学術会議協力学術研究団体に指定されました。その詳細は、 すでに学会ホームページで告知されていますので、会員の皆様はご存知と思いますが、それがそもそもどん な意味を持つのかは、特に産業界や市民団体などから 参加されている皆様にはピンと来ない面もあるかもし れず、ここで若干の説明を加えておきたいと思います。指定には、以下の 2 つの価値があります。 第 1 は消極的な価值ですが、この指定により、今後、「デジタルアーカイブ」を前面に掲げる別の学会が学術会議に登録するのを防ぐことができます。これはい わば商標登録的な意味で、「デジタルアーカイブ」の 場合、あまり心配する必要はない気もしますが、一応保証として措置したという意味です。 第 2 は積極的な価値で、こちらのほうが重要です。 アカデミズムというのはなかなか厄介な世界で、学術的権威は目に見えません。つまり、資金力や政治的影響力、社会的地位と対応しているわけではありません。他方、実はそれは、本当の意味での研究者としての知的実力や仕事の創造性と完全に対応しているわけでも ありません。 ところがそれは、デュルケーム的な意味での「社会的事実」として存在している。つまり社会的に機能し ているのです。この機能は、学術的に権威づけられた 組織、たとえばフランスでしたらアカデミー・フラン セーズのような機関によって裏づけられます。結局、学者も「お上」に権威づけられたいのだと言ってしま えば身も蓋もありませんが、重要なのは、このように 〈権威づける一権威づけられる〉仕組みを内装するこ とで、アカデミズムは、政治や経済の影響力から一定程度の自律性を確保しているのです。 このあたりの学術的権威と学問的自律の関係がわ かっていないと、菅内閣で大問題となった日本学術会議会員の任命拒否がどれほど深刻な問題なのかを理解 できません。 そして、レベルや文脈は異なりますが、本学会が日本学術会議に「協力学術研究団体」に登録するのも、構造的には似た意味を含みます。つまり私たちは、学術会議の下位組織になるわけではもちろんありません し、学会の権威づけ自体が目的なのでもありません。 そうではなく、学術会議に登録することで多少なりと も〈権威づけられる〉ことが、学問の自律的な創造性 を可能にする仕組みを機能させていくことにつながる のです。 具体的には、これで本学会は国内アカデミズムの諸学会とまったく同様の地位を得たわけですから、その 立場で学会発表者やジャーナル論文揭載者、学会賞受賞者の未来を継続的にサポートしていくことになりま す。そうして、学会の裾野を産業界や市民、行政はも ちろん、よりいっそう大学や研究所などの学術機関に も広めていくべきだと思います。
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# \title{企画セッション(1)「デジタルアー キビストの在り方」 \\ 井上 透岐阜女子大学 開催日:2021 年 10 月 16 日(土) ライブとオンライン のハイブリッド型シンポジウム 企画趣旨: デジタルアーカイブ開発を担う人材としてデジタル アーキビストが注目され、政権与党の知財調査報告に 国家資格化が明記された。しかし、学会内でデジタル アーキビストに関する統一的な見解は明確になってい ない。そのため、デジタルアーカイブ学会人材養成・活用検討委員会が中心となって、プロデューサーとし て、国内外の動向を把握し、組織のミッション、理論、技術を確立し、他のデジタルアーカイブ提供機関と連携し、継続的にデジタルアーカイブを提供するため、 ヒト、モノ、カネをマネジメントしながら、ミッショ ンをもって活動し、社会に貢献する、硬派の人材とし てのデジタルアーキビストのあり方を考えたい。 パネラー及び演題: ・デジタルアーキビストのミッションとは 福島 幸宏 慶応義塾大学 -3次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集江添誠 古代オリエント博物館 ・分野横断型統合ポータルへの視線 中村 覚 東京大学史料編纂所 ・権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト 藤森 純 并護士 ・自治体とデジタルアーカイブ 坂井 知志 日本デジタル・アーキビスト資格認定機構理事 ・デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビスト の役割 久永一郎 大日本印刷(株) ・ジャパンサーチが支えたいもの 德原 直子 国立国会図書館 、公共図書館の現状と課題 田山 健二 TRC-ADEAC(株)会長 ・デジタルアーキビストが意識するべきビジネスの 可能性と求める人材像山川 道子(株)プロダクション・アイジー ・デジタルアーカイブマネジメント(まとめ) 井上 透岐阜女子大学 コーディネーター:井上透岐阜女子大学 コメンテータ:吉見 俊哉 東京大学 ・専門職が軽視される現状で、デジタルアーキビス トの重要性を確立すべきだある。 ・デジタルライブラリアン、デジタルキュレーター などを統合するデジタルアーキビストは、MLA の各場面でデジタルアーカイブをマネジメントす ることになる。 デジタルアーキビストの持つべき資質として、(1)倫理が必要、また、各分野の蛸营化からボーダレスの意識改革へのマインドセットが必要である。(2)デジタル 化に向けたテクノロジー・新技術の活用が必要であ る。(3)権利処理はキーポイントである。(4)デジタル アーカイブの活用、学びの場でのデジタルアーカイブ の活用、人材育成は重要課題である。(5)マネジメント、 ビジネスとしての見切り(網羅性へのこだわりを捨て ポイントを絞る)が必要である。 以上、デジタルアーキビストが目指すものは、デジ タルアーカイブの総合的活用であり、社会の DX 化に リンクするごとが重要である。さらに、このことを通 じて文化資源活用によるクオリティオブライフの実現 を目指すべきである。 パネルディスカッション: 以下の議論があった。デジタルアーキビストとして の倫理、地域・団体の側から足りてない部分を考える。 そのための文化情報資源の必要性、社会の DX 化に文化も包括されるためデジタルアーカイブが取り残され ない対策、文化資源コーデイネーターやアーキビスト と似通った広義のマネージメントの観点、多様な対象 に対する人材育成における横断型プログラムの必要性、デジタルアーキビストがキャリアパスになるかの 可能性・イメージを早急に提示すること。
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# 『欧米圏デジタル・ヒューマニティーズ の基礎知識』 \author{ 監修: 一般財団法人人文情報学研究所 \\ 編集:小風尚樹/小川潤/絸田宗紀/長野壮一/ \\ 山中美潮 $/$ 宮川創 $/ 大$ 向一輝 $/$ 永崎研宣 } 出版社:文学通信 A5判・並製・496頁 ISBN 978-4-909658-58-6 C0020 本体2,800円(税別) 本書はデジタル・ヒューマニティーズ(DH)に関 する多様な情報一とりわけ欧米圈のもの一をまとめた ものである。もとは『人文情報学月報』という、現在 は一般財団法人人文情報学研究所が発行するメールマ ガジンに掲載されたものである。そのため、大変に内容も幅広く、理論からイベントレポート・実践にまで 多岐にわたっており、多くの情報を得ることができる。 そして、本書の中で最初に指摘しておかなければなら ないのは、この本の執筆者のほとんどが、いわゆる 「若手」研究者であることである。DHに関わる日本 における研究はここ 10 年で大きく進展してきており、 その研究がさらに次のステージへと進みつつある。海外の研究史とつながり、様々な形で実践的に研究を進 める研究が増えてきている。日本の人文学が(いわゆ る輸入学問ではなく)、具体的に海外の研究史と情報技術を介して接続する状況が生まれつつあるのであ る。その状況を制引しているのが、本書を執筆してい るメンバーである。 さて、紙幅の関係で、全てに触れることはできない が、とりわけデジタルアーカイブに関する部分を簡単 に紹介しておきたい。まず、第一部のテーマのうち、冒頭の部分はまさに必読というべき内容である。DH の哲学という観点から本書は始まっており、とりわけ デジタルと人文学に関わる各地で行われている議論の 要点ともいうべき部分がまとめられている。人文学が ある種の資本の「ダークサイド」に陥る可能性がある と指摘しつつも、それとは異なる未来について、理論的な見通しを示している(1-1)。加えて、サイロ化と ブラックボックスというキーワードを用いながら、デ ジタル時代に人文学の社会的な責任を問う論考が続く (1-3,1-4)。この議論は、デジタル文化資源を扱うデジ タルアーカイブ関係者にとっても必読のものである。 その後、Europeana の解説からインパクト評価へと続 く論考が入る(1-10,1-11)。BVIM というデジタルアー カイブを評価する枠組みは、日本におけるデジタル アーカイブの評価枠組みを考える際の、一つの先行フ レームワークとして重要であろう。そして第3部では、 ドイツの動向を中心に解説しつつ、IIIF の適用事例に も言及をしている。3-13では、日本も含めた世界中 の IIIF 事例を紹介している。章全体の狙いとしては コプト語文献を探すものというものだが、IIIF 事例の ショーケースとしても有益であるといえよう。 ここでは、特に現時点でのデジタルアーカイブに関 わるものを中心に触れたが、DH の概観を学ぶという 点では、さらに広がりを持っている。とりわけTEI (Text Encoding Initiative)の事例は、欧米圏 DH が特に 力を入れている分野であるだけに多く、今後、日本や 東アジアでの TEI 導入のために最初に参照すべき文献となっている(そして本書の執筆者たちこそ、日本 でのTEIを用いた研究の先駆者となっている)。 本書について、唯一難点を述べるとするならば、全体の構成に対して個別の章の内容が一貫しているとは いいがたい。そのため、テーマごとに分けているとは いえ、体系的に情報を得にくくなっているのである。出典の大元が個別のメールマガジンであるため、やむ をえない部分はあるが、せめてイベントレポートは別建てにしたほうが読みやすかったのではないだ万う か。たた、そのような僅かな難点はあるものの、デジ タルアーカイブの関係者がデジタル・ヒューマニ ティーズの情報を得るためには、必須の書であること は間違いない。本書をもとに、更なる大きな展開が起 こることを、心より祈っている。 (国立歴史民俗博物館 後藤 真)
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# 2021 DAPCON産業賞受賞者発表会講評 ## Comment on the DAPCON Industry Awards 2021 \author{ 高野明彦 TAKANO Akihiko } 国立情報学研究所 2021 デジタルアーカイブ産業賞受賞内容 ${ }^{[1]}$ ビジネス賞 「ASEAN 統合デジタルアーカイブ」 株式会社 NTT データ 貢献賞 「Yahoo! ニュース未来に伝える戦争の記憶」 ヤフー株式会社 技術賞 「デジタルアーカイブに特化した高精度スキャナ機器開発と公開活用」アイメジャー株式会社 $\lceil 3$ DDB Viewer」産業技術総合研究所人工知能研究センター 地理情報科学研究チーム $\lceil\mathrm{BnF} \times \mathrm{DNP}$ ミュージアムラボ」大日本印刷株式会社奨励賞 「デジタルアーカイブコンテンッ管理プラットフォームの提供とデジタルコンテンツ利活用の推進」株式会社メディアプラス 「EPAD『緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業』」EPAD 実行委員会 「学術資料のデジタルアーカイブ事業(調查・整理・活用・発信) 」合同会社 AMANE 受賞理由については既にどこかで公表されていると思いますので、ここでそれを繰り返すのはやめにして、今日、受賞者のお話を伺って私が感じたところを中心に振り返ることにします。「ASEAN 統合デジタルアーカイブ」株式会社 NTT データ ${ }^{[2]}$ NTT データはバチカン図書館などでいろい万実績を積まれているチームだと思いますが、そこが今回新しくASEANの案件に取り組まれたことが非常に高く評価されました。 文化のデジタルアーカイブというのは自分たちの文化をどうやって未来の世代へ継承していくのか考え、 そして、そこで自分たちのプライドをもう一度確認するという活動の一環といえます。しかし、ASEAN 各国にはまだそこまでの余裕はないのかもしれません。今回の活動は、ある種、文化的な ODA だといえると思いますが、日本からの支援をそういう形で現地に根づかせていくのは、日本らしい国際貢献の在り方を示す非常に良い動きだと感じました。 図1「ASEAN 統合デジタルアーカイブ」のウェブ画面 「Yahoo!ニュース未来に伝える戦争の記憶」 ヤフー株式会社 ${ }^{[3]}$ 宮本聖二さんが NHK におられるとき戦争アーカイブや証言シリーズとしてされていた活動を、今度はヤ フーに移られて、民間の情報プラットフォームを運営する立場の会社で立ち上げられたというのが非常に意義のあることだ思います。ヤフーというのはどれだけのぺージビューを稼げたか、どれだけ社会の興味にアダプトできたかということを常に評価基準にしている会社だと思いますが、そういう会社で、人々が忘れつつあるもの、ある意味では注目されていないものにフォーカスして、そこに教育用の活用とか、いろいろなサービスのプラットフォームを合わせて提供しながら広げていこうという活動です。今現在の日々のぺー ジビューだけではなくて、100 年後そういうものをちゃんと覚えているかどうかということを KPIにしていこうというふうに考えられているのがすばらしいと思いました。 ビックアッフ 図2「Yahoo! ニュース未来に伝える戦争の記憶」のウェブ画面 ## 「デジタルアーカイブに特化した高精度スキャナ 機器開発と公開活用」アイメジャー株式会社 ${ ^{[4]}$} このオルソ・スキャナは、テレセントリックレンズを使って正射投影画像を記録できる画期的な装置で、被写体との距離が異なっても大きさが変化せず、寸法精度の高いスキャンを実現しています。その結果、分割してスキャンした画像を正確につなげることが可能となり、高精細で歪みの小さい大型のスキャン画像がえられます。まるでどこでもルーぺで拡大できるような画像です。これを使って非常に大きな作品、たとえば $1000 \times 2400 \mathrm{~mm}^{2}$ の絵を $800 \mathrm{dpi}$ で正確にスキャンした実績もあるそうです。 これは間違いなく未来の記録の一つの標準になっていくようなものだ万うと思います。アイメジャーはちょっと未来からやってきた会社という感じで、いつも将来はこういうことが普通になるんですよというのをちょっとずつ見せてもらっていると感じます。僕たちは技術的なブレークスルーに感謝しながら、ぜひ 1 つでも 2 つでも、こういう技術の適用事例を増やしていければと思います。 図3 アイメジャー株式会社高精度スキャナのウェブ画面 ## 「3DDB Viewer」産業技術総合研究所 情報・人間工学領域人工知能研究センター 地理情報科学研究チーム ${ ^{[5]}$} これは地図をデジタル化して、あるいは建造物の $3 \mathrm{D}$ 構造なども統合して提供するというプラットフォームです。これは多分、僕らが Google のストリー トビューやデジタル地図を見て、地図ってそもそもページで切れているのはおかしいねと思ったところから始まったし、世界の地名で引くと、地球儀からズー ムインしていくことで、ああ、そうなのかと納得したのだと思います。今では僕たちはスマ小を使って、身の周りを自分で $3 \mathrm{D}$ スキャンできるし、今後そういうものがどんどん身近になってくると思います。そのときに、自分が撮ったデータと、標準的な座標系を持ったサービスがつながっていくことの意義は非常に大きいわけです。2 次元のマップから 4 次元のマップへというお話がありましたが、4次元の4個目というのは要するに、3Dの形状をいくつも持ってきて重ね合わせたり、つないだりしながら、僕たちが活用できるというお話だと思いますが、これも 5 年後ぐらいには当たり前になっているかもしれません。 自分にちょっと引きつけて考えると、今年の7月に僕らが運営する神保町の JIMBOU というポータルサイトをリニューアルしました。そこでは 80 店舗の 360 度ビューの写真を大量に撮って、店内ウォークスルーを提供しましたが、かなり好評でした。これは Google ストリートビューで、技術的には随分以前から実現可能だったものですが、こういう技術が、自分たちの身近なところから、ボトムアップに発信していくことにつながると、社会の構造を変えていく力になるんじゃないかと思いました。 ## $\lceil B n F \times D N P$ ミュージアムラボ」大日本印刷株式会社 ${ ^{[6]}$} $\mathrm{DNP}$ は数年前にも $\mathrm{BnF}$ の地球儀の $3 \mathrm{D}$ 化で随分名を馳せたと思います。今度は、 $\mathrm{BnF}$ の歴史的なリシュ 自分でスキャンした三次元データを アップロードし現実世界と同じ場所に配置 図4産業技術総合研究所「3DDB Viewer」の実例 図5DNPコンテンツインタラクティブシステム「みどころシリーズ」 リユー館がリニューアル・オープンするに際して、 DNP 提供のこういう新しい技術が取り达まれて、ものすごく古い建物の中で、ものすごく新しい技術が試されるという。これは素直に楽しみだなと感じました。 ## 「デジタルアーカイブコンテンツ管理プラット フォームの提供とデジタルコンテンツ利活用の 推進」株式会社メディアプラス ${ }^{[7]}$ デジタルアーカイブコンテンツの管理プラットフォームです。これは文化施設が持っているアナログ資産からデジタルコンテンツを作成し、長期保存して、 さらにはそれらの活用方法も提供するという、これから各文化施設が進めなければならない仕事を、うまくつないで、そこにデジタルの力で何か新しいプラスアルファをつくっていくという仕事だと思います。ベンチャーらしいフットワークの軽さで、非常に合理的なシステム構成になっていると感じました。また Castory というのは、保育園で撮影した動画を、行事に参加できない保護者に見てもらうプラットフォームですが、現在のコロナ禍で行動が制限されている中で、 こうすればうまくいくということを具体的に示しておられるところが評価されたのだと思います。 図6株式会社メディアプラスのデジタルコンテンツの利活用を促進するサービス概念図 ## 「EPAD『緊急舞台芸術アーカイブ+デジタル シアター化支援事業』」EPAD 実行委員会 ${ ^{[8]}$} ここではデジタルアーカイブにおける権利処理の徹底、対洒還元、作品の未来継承、この3つが肝だということが重要なメッセージだったと思います。今回、文化庁の補助金という大きなきっかけがあって、これまでそういう話に乗ってこなかった実演者の団体も、今回はやってみようか、コロナ禍で背に腹は代えられないということで参加されました。知財専門家チームの協力で権利処理がぐっと進みました。最終的には早稲田大学演劇博物館という大変アカデミックな組織が作品の未来継承の部分を担いますということで、重い腰を上げていただいて、その3つがうまく組み合わさって、今回の事業が実現したのだと思います。 これまでこういう補助金の出し方は、何かを電子化するための助成であれば、電子化以外に使うことは不可でした。あるいは、公演の支援であれば、今回のこの作品の公演だけに使ってくださいねという感じで、 それ以外の利用は、目的外使用として認められないこ 図7「EPAD『緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業』」 のウェブ画面 とがほとんどでした。コロナ禍という非常事態だからではありますが、これまで繋がらなかった3つをうまくつないで、ここまでできるということを実証していただいたことは、この国の公的資金を提供する人たち、税金を使ってこの国をより良い方向に変えようと思う万々に対して、大きなヒントを与えたと感じています。 ## 「学術資料のデジタルアーカイブ事業(調査・整理・活用・発信)」合同会社 AMANE ${ ^{[9]}$} AMANE は、古文書や民具などの調査とデジタル化をコツコツ進められ、国立歴史民俗博物館の khirin や $\mathrm{CODH}$ の「武鑑全集」、東京農工大科学博物館の蚕糸学術コレクションなどのデータセット構築に協力されてきました。IIIFベースの情報技術も深く活用して非常に細やかに使っておられると感じました。 「キテンプロジェクト」[10] で示された、コロナ禍で生まれた距離というのを、何か有用な空間の創出に変えられないのかという発想は、なるほどと感じました。 いたるところにアクリル板が立って、その周りはスカスカにつながっていて、どんな意味があるのかと疑問を感じる今日この頃ですが、何を目指してそういうものが設置されているのか、もっとエレガントな方法がないのかと問いかける一つのアプローチだと思いました。 図8 合同会社AMANEのキテンプロジェクトポスター 以上が全体に対しての私の感じたことです。私自身、 チームを抱えていろい万と活動しているので、必要以上に自分に引きつけて余計な感想が入ってしまいましたことを打許しください。 ## 註・参考文献 [1] DAPCON. 2021デジタルアーカイブ産業賞受賞内容. https://dapcon.jp/uncategorized/award2021/ (参照 2021-12-23). [2] ASEAN Cultural Heritage Digital Archive. https://heritage.asean.org/ (参照 2021-12-23). [3] 未来に残す戦争の記憶. https://wararchive.yahoo.co.jp/ (参照 2021-12-23). [4] アイメジャー株式会社. オルソ・スキャナ. https://www.imeasure.co.jp/product/ortho.html (参照 2021-12-23). [5] 3DDB Viewer の公開について. https://www.digiarc.aist.go.jp/ team/gsvrt/digiarch-3ddb-viewer-2.html (参照 2021-12-23). [6] BnF $\times$ DNP ミュージアムラボ第 2 回展これからの文化体験. https://www.dnp.co.jp/biz/theme/cultural_property/ bnf/10159378_3530.html (参照 2021-12-23). [7] 株式会社メディアプラス. https://www.mediaplus.co.jp/ (参照 2021-12-23). [8] EPAD『緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業』. https://epad.terrada.co.jp/ (参照 2021-12-23). [9] 合同会社AMANE. https://amane-project.jp/ (参照 2021-12-23). [10] キテンプロジェクト. https://amane-project.jp/tenjitsukenji/ (参照 2021-12-23).
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# 本シンポジウムに参加させていただき、DNP 寄付講座が、2015 年からわずか 5 年で開拓されたデジ夕 ルアーカイブ領域の広さと、その速さに圧倒された。成果一覧を見ると、様々な研究プロジェクトとその成果を発表するシンポジウムに加え、デジタルアーカイ ブに関わる学会やコンソーシアム等、多くの組織の創設や運営に関わってきたことが分かる。 2017 年に創設されたデジタルアーカイブ学会は今 では 700 名規模になったが、近年、会員数を減らす学会が多い中で、こんなに急成長する学会もあることは 驚きである。この学会では、デジタルアーカイブの仕事に携わる方々が次々に研究発表を行い、交流を通し て次のステップへと進んで打られる。一研究者である 私などは、その後を追いかけるのが精一杯という印象 さえ持つ。更に、2020 年にはジャパン・サーチも完成 し、長年の課題だった MLA(Museum, Library, Archive) の連携もデジタルの世界でより実現しやすくなった。 筆者は、2014 年に知的財産戦略本部「検証・評価・企画委員会」の構成員として、日本のデジタルアー カーブ整備の遅れ、特に日本の全てのデジタルアー カーブを外国語でも一括検索できるシステムを整備す る必要があること等を指摘したことがある。その当時 の日本の状況と比べると、この研究寄付講座が成し遂 げた成果がいかに大きいかが分かる。 シンポジウムでは、吉見教授が、デジタルアーカー ブ構想が 1990 年代前半には存在したこと、その後、 2005 年 2015 年にかけて長い停滞期があり、2015 年以降は復活期にあると指摘した。記録を公共化した市民革命の歴史等を背景にデジタルアーカイブをみる と、デジタルアーカイブが市民の公共性と深く結びつ いていることが理解できる。筆者が 2000 年代前半に 北欧諸国を調査した際に、いち早くデジタル技術を市民のエンパワーメントに活用し、「失業者にとってイ ンターネットアクセスは不可欠です、インターネット アクセスは様々な可能性を開いてくれる」と答えてく れたことが思いだされた。デジタルアーカイブも、そ のネットワーク性を生かして、知の創造や市民のエン パワーメントにより深く関わることが期待される。 以上のように、デジタルアーカーブの特徴は、公共的記憶、あるいは誰でもアクセスできる知の基盤とい う公共性であ万う。他方、シンポジウムでは、デジタ ルアーカイブの産業化についても議論になった。デジ タルアーカイブはヤ又スのように、その半面は公共の ものであり、もう反面を産業化するという話である。 もともと情報は、一旦創造され公開されると誰でも無料で複製できるという公共財的性質を持つ。それでは 創造の費用を回収できないため一定期間に限り情報使用の占有を認めるのが知的財産権である。 文化産業はデジタル技術の影響を大きく受けた。デ ジタル化によりレコード会社や出版社等の役割が減少 し、それに代わって巨大プラットフォームが出版や アーテイストの育成まで行うようになった。技術革新 により創造の費用と敷居は下がり、創造される作品数 は増え、アーティストと消費者の距離も近くなったが、作品から得られる収益は少なくなった。 こうした既に産業化されたコンテンツの世界に、デ ジタルアーカイブはどのように参入し、デジタルアー カイブのプラットフォームはどのようなものになるの だろうか。公共性を保持しつつ、産業化とどのように 折り合いをつけていくのか、知的財産権の問題がそこ にどう介在していくのか等、様々な疑問が頭の中を駆 け巡り興味の尽きないシンポジウムであった。 (摂南大学経済学部教授 後藤和子)
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# シンポジウム「日本のデジタルアーカイブのこれからー東京大学DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座の 軌跡」に参加して (1) # # はじめに 本シンポジウムはコロナ禍に打いて久々に対面実施 されたことと、筆者にとっては育览休業取得後初のシ ンポジウム参加であったことから大変刺激を受けまし た。シンポジウムでは、デジタルアーカイブの事例は 增えてきていますが、文化資源デジタルアーカイブの オープンデータ化、抜本的な孤览作品対策や制作に抏 ける財源確保の模索といった課題は依然として残って いると感じました。しかし、コロナ禍で多くの老若男女がデジタル化の恩恵を受け、「つながる」ことの大切さを痛感した今こ只、日本のデジタルアーカイブが 飛躍するチャンスと確信しました。 ## シンポジウムを通して 筆者が勤める株式会社ヴイアックスは事業の一つとして、公共図書館の運営を行っており、地域資源の利活用としてデジタルアーカイブに取り組んでいることと、筆者自身、図書館司書として公共図書館で地域デジタルアーカイブ構築を経験し、現在は図書館員を支援する部署にいることから、デジタルアーカイブ構築に対して(1)デジタルアーカイブの具体的活用の追求、 (2)デジタルーーカイブを支える人材育成の 2 点に問題意識を持っています。シンポジウムの発表から、問題意識に対しても新たなヒントを得ました。11に関しては、小林氏のデジタルアーカイブ活用のビジネスモデルに興味を持ちました。モデルの存在は新規事業発案の大きな手助けになると思います。フレームワークの存在で発想が容易となり、結果、多分野からのビジネ ス参入が見込めるのではと感じました。②に打いては、塩原氏が紹介した『知的財産推進計画 2021』の「地域アーカイブ構築に掠いて、地域住民も当事者として参加する環境づくり」という文言が印象に残りました。筆者は地域ア一カイブ構築に打いて公共図書館は旗振り役を担えると考えます。弊社は図書館活動において地域の人々とのつながりを大切にしていますが、一歩進めて図書館を地域活動の重要な構成員と位置づけ立ち振る舞うことで、「地域住民が当事者として、公共図書館で地域アーカイブを構築する」が実現すると思います。また、筆者の図書館勤務経験上、当事者意識を持つには地域活動や社会運動に参加することが肝要と考えます。 ## おわりに これまでDNP 寄付講座で開催されたシンポジウム、講演会、セミナーへ参加させていただき、デジタルコンテンツの新たな編成・運用の在り方およびそれを支える情報基盤としてのデジタルアーカイブ構築について理解を深めることができました。深く感謝いたします。今後も研鑽を重ね、多様な地域資源提供のために図書館員と協力しながら積極的にデジタルアーカイブ構築を続けていきたいと考えています。そして、アー カイビング(記録知)とネットワーキング(集合知) が循環することで、ダイナミックに創造される新たな知を地域の人々と共有し、喜びを分かちあえるような仕組みづくりをしていきたいです。 (株式会社ヴイアックス遠藤ひとみ)
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# デジタルアーカイブの扉を開く: DNP奇付講座 6 年間の活動と成果 柳 与志夫 YANAGI Yoshio 東京大学大学院情報学環 } DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座が 2015 年 11 月に東京大学大学院情報学環に設置されて 6 年、 2021 年 10 月にその存置期限が終了した。同講座では、新しい学術電子コンテンツ構築の在り方に関する研究開発と、それを支える制度的基盤としてのデジタル アーカイブの在り方に関する研究・仕組みづくりを、二つの主要課題として取り組んできた。その基本方針 は、研究のための研究ではなく、社会的活用や学術基盤整備に実質的に役に立つことをめざすことにあっ た。以下では、その活動内容と成果について簡単に振 り返ってみたい。 ## 1. 新しい学術電子コンテンツ構築の在り方に 関する研究プロジェクト等の実施 (1)デジタル教材活用制度プロジェクト(2015 年~) デジタル教材の活用は、長年にわたりその必要性が議論されながら、教育現場では大きな進展がないままであった。その理由は技術的な問題というよりも、教科書 1 冊単位ではなく、様々なソースから集めたマイクロコンテンツ (図表 1 枚・文章 1 パラグラフの単位) の利用を前提とする教材コンテンツの確保、権利処理、課金システム、運用体制等制度的な要因によることが大きいように思われる。そこで本プロジェクトでは、大学教員と専門学術出版社との協議の場を設けながら、それらの課題解決の方策を探った。またその検証実験として、大学学習資源コンソーシアム (CLR) WG 活動の一環として実施した名古屋大学におけるデジタル教材マイクロコンテンツ利用による教育効果測定実験(2016 年度・2017 年度)、同じく名古屋大学教員・出版社 8 社の協力を得たデジタル教材(参考図書)実験授業(2020 年度)を実施し、その有効性を検証した。 2020 年以来のコロナ感染拡大によって、デジタル教材活用への本格的取組が始まった今こそ、このプロジェクトの拡大・発展が望まれる。 (2)地方紙デジタル化・活用プロジェクト(2016 年〜 2020 年) DNP 寄付講座が置かれた情報学環の前身のひとつである旧新聞研究所では、地方紙を始め多くの新聞資料を所蔵し、現在にも引き継がれている。しかしデジタル化以前の紙の新聞は劣化が進んでおり、その保存と活用のためにはデジタル化が不可欠の課題となっている。そしてこの問題は情報学環だけではなく、全国的な新聞所蔵機関の懸案でもあった。そこで先ず新聞紙のデジタル化状況を把握するためのモデルとして、日本新聞協会と共同で全国地方紙デジタル化状況調査 (県紙レベル、対象全 73 社)を実施し(回答 45 社、 2017 年)、公開研究会「地方新聞の利活用にむけてデジタルアーカイブ化と情報デザイン」(2019 年 7 月 31 日)に打いて、調査結果とそれに基づく分析を報告した。また、その結果を参考に、地方紙の今後のデジタル化促進とそれを可能にする活用方法の開発に関する問題点と課題を整理し、限定的であるが、信濃毎日新聞社と共同でデジタル化記事活用の試行 (2020 年) を行なった。 (3) ビヨンドブック(Beyond Book)プロジェクト (2017 年 ) 旧来の書籍・電子書籍に続いて、情報・知識のデジタル化・ネットワーク化・オープンテクスト化のメ リットを取り达んだ新たなデジタルストラクチャーの研究開発を目的として「次世代デジタルブック開発プロジェクト」を立ち上げ(2017 年 4 月)、これまでの書籍機能の延長線上ではなく、デジタルコンテンツの様々な特性を反映させた機能を取り入れる観点から取り組み、以下の研究成果を得ることができたが、製品化に向けた検討のようやく入口に立ったところであり、今後の継続的な研究開発が必要である。 (1) 書籍・電子書籍・インターネット情報源それぞれのメリットを生かしながら、その短所を解消する新しい知識構成体「ビヨンドブック (BB)」構築の意義とイメージを提示し、BB のプロダクトコンセプト(基本的な機能、コンテンッ、利用形態等)の一つのタイプを構成した。 (2) 上記コンセプトに基づき、より具体的な機能要件、コンテンツ対象、利用場面、システム構成等を盛り达んだ BB のプロダクトデザインを設定した。 (3) それに基づくプロトタイプをUI/UX 重視の観点から試作・公表し(2021 年 6 月)、今後の研究開発のベースを構築した。 (4) アートコンテンツの二次利用促進に関する研究 (2018 年 2019 年) アート作品のデジタル化にとどまらず、ボーンデジタルのアート作品の増加やアートデジタルコンテンツの二次利用への関心の高まりを受けて、その積極的活用に向けた問題点の整理と解決の方向について検討し、研究報告書「我が国のアートコンテンツ活用と国際発信の促進に向けた方策について」及び調査報告書「アート等関連デジタルコンテンツの公開及び二次利用促進にかかる法的 - 社会制度的課題の抽出 - 整理と解決策の提示に関する研究〜公開・活用事例調査〜」 をまとめた。 (5)東京大学大学院横断授業「デジタルアーカイブ原論」開講(2017 年度 2020 年度) デジタルアーカイブに関する標準的な講義内容が国内の大学で確立されていないことに鑑み、東京大学大学院横断の授業を 4 年にわたって実施し、授業内容と使用教材の試行と受講学生の反応を基に、デジタルアーカイブ論の標準テキストとなることを目指した電子書籍『デジタルアーカイブ概論』の発行を予定している (2022 年春)。 ## 2. デジタルアーカイブ基盤整備 デジタルアーカイブの構築・普及と研究を促進する基盤となる社会的制度の検討と実際の推進役となる仕組みづくりに取り組んだ。 ## (1)デジタルアーカイブ研究機関連絡会(DARA)の 運営(2016 年 ) 全国の主要なデジタルアーカイブ研究開発関連機関担当者の意見交換・相互交流の場となることを目的に、緩やかな会議体として組織化した。これまで連絡会議を全 9 回開催し、第 7 回までは DNP 講座で主催、第 8 回以降は情報学環メディア・コンテンツ総合研究機構が主催し、DNP 講座は事務局の役割を果たした。若手の研究者・実務家・学生が自由にデジタルアーカイブの未来を語る場としての「デジタルアーカイブ・ ラボ」を試行的に開設した (2021 年 10 月)。 ## (2) デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) の運営(2017 年 ) デジタルアーカイブの継続的発展には、関連産業の育成が不可欠であり、それを推進する産業団体としてのデジタルアーカイブ推進コンソーシアムの創設と運営に事務局として寄与した。具体的活動としては、設立総会を含む設立準備作業、組織運営・会計処理、シンポジウム・講演会・セミナー等の企画・運営、検討委員会・パイロット事業等の企画・運営、ニューズレター(季刊)の編集・発行、年度活動報告書作成、研修連続セミナーの企画・運営・講師派遣、デジタルアーカイブ産業賞の創設と運営などがある。 ## (3)デジタルアーカイブ学会(JSDA)の運営(2017 年〜) 研究基盤となる学会の設立・運営についても、事務局として積極的に関与し、設立総会を含む設立準備作業、組織運営・会計処理、シンポジウム等の企画・運営、学会誌の発行、定例研究会の開催、第 2 回 (2018 年)及び第 5 回 (2020 年) 研究大会の開催、学会賞の創設及び選考・表彰等運営などで中心的役割を果たした。 ## (4)デジタルアーカイブ法制化・政策化支援 「デジタル文化資産推進議員連盟 (超党派)」におけるデジタルアーカイブ整備推進法検討への助言、総務省等デジタルアーカイブ政策関連府省に対する情報提供・助言・提案等、デジタルアーカイブの政策化・法案化に向けた取組を支援した。 (5)アート活用郎談会の運営(2017 年~) アートコンテンツに関わる産官学民各分野の有志から成る「アート活用蓈談会」の設立に寄与し、事務局としてアートデジタルコンテンツの活用促進に向けた検討のまとめ役を担った。その成果としては、「アー 卜活用想談会提言」の発表(2019年)、アートコンテンツ活用シンポジウム「デジタルアーカイブで拓くアートの未来」の開催(2019年 12 月 23 日)などがある。 ## 3. 成果公開のためのシンポジウム等の開催と 論文等の発表 ## (1) シンポジウム等の開催 —講座開設記念シンポジウム「これからの学術デジタル・アーカイブ」(2016年2月9日) - 講座開設 1 周年記念シンポジウム「産官学民の連携によるデジタル知識基盤の構築」(2016 年 11 月 28 日) - 課題提起フォーラム「ナショナルな地域文化資源:地方紙の活用に向けて一地方紙原紙のデジタル化状況調查から見えてきたこと」(2017 年 7 月 13 日) —公開シンポジウム「地域の記憶と記録を今に活かす一地域文化資源デジタルアーカイブの役割一」 (東京文化資源会議主催、DNP 講座協力)(2017 年 11 月 24 日) -「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座 3 周年記念シンポジウム」(2019年 2 月 13 日) ・ラウンドテーブル「デジタル公共文書を考える一公文書・団体文書を真に公共財にするために一」 (2021 年 1 月 12 日) —DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座総括シンポジウム「日本のデジタルアーカイブのこれから一東京大学 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座の軌跡」(2021 年 10 月 1 日) ## (2)論文、報告書、学会発表等 —東由美子ほか「我が国における地方紙のデジタル化状況に関する調查報告」『デジタルアーカイブ学会誌』第 3 巻第 1 号 (2019年) —平野桃子ほか「我が国における地方紙のデジタル化と活用の促進に向けた課題抽出」『デジタルアー カイブ学会誌』第 3 巻第 2 号(2019年) - 井関貴博「大学におけるデジタル教材の構造的問題一主に著作権を巡る現状と対応に向けた考え方」『名古屋高等教育研究』第 20 号(2020 年) —柳与志夫「アート活用秘談会提言の概要」『デジタルアーカイブ学会誌』第 4 巻第 3 号(2020 年) ・デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会企画セッション「『ビョンドブック』の可能性:書籍、電子書籍を超えるもの」開催(2021年 4 月 28 日)及び報告記事(『デジタルアーカイブ学会誌』第 5 巻第 3 号、 2021 年) -柳与志夫ほか「ビヨンドブック研究開発成果報告」及び井関貴博「大学の授業における電子書籍サブスクリプションモデルの試み (仮題)」を『デジタルアーカイブ学会誌』に寄稿予定
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# シンポジウム「日本のデジタルアーカイブのこれから一東京大学DNP学術電子 コンテンツ研究寄付講座の軌跡」概要 Agenda of the Symposium "The Future of Japan's Digital Archive-Trajectory of the DNP Course of Electronic Scholarly Contents at the University of Tokyo" 口東京大学大学院 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座には、当学会の事務局を置かせていただくなど各種支援 をいただきました。今回同講座が終了することにともなって開催されたシンポジウムの記事を掲載いたします。 # # 1. 趣旨 2015 年 11 月に東京大学大学院情報学環に設置され た「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」では、独自の研究プロジェクトを企画・実施するとともに、学会や関連産業団体の形成・運営など、研究基盤整備 にも注力してきました。その設置期間が 2021 年 10 月 に終了するにあたって、その成果を検証し、我が国に おけるデジタルコンテンツ流通基盤の充実やデジタル アーカイブ構築の推進に向けての今後の課題を明らか にする機会とするため、シンポジウムを開催いたします。 ## 2. 主催 - 東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座 (後援)デジタルアーカイブ学会、デジタルアーカイブ推進コンソーシアム ## 3. 日時・会場 $\cdot$日時:2021 年 10 月 1 日(金) $14: 00 \sim 17: 00$ $\cdot$ 会場:東京大学伊藤国際学術研究センター 地下 2 階伊藤謝恩ホール (文京区本郷) ## 4. 構成 総合司会:長丁光則 (東京大学特任教授、デジタルアーカイブ推進コンソーシアム前事務局長) (1) ご挨拶 - 主催者挨拶 : 山内祐平東京大学大学院情報学環学環長・教授 $\cdot$御来賓挨拶 : 北島元治大日本印刷株式会社専務執行役員馳浩衆議院議員・デジタル文化資産推進議員連盟幹事長 田中久徳国立国会図書館副館長 (2)基調報告「デジタルアーカイブ(DA)をめぐる日本の状況」 吉見俊哉 (東京大学教授、デジタルアーカイブ学会会長) (3)報告 $1\lceil\mathrm{DNP}$ 講座 6 年間の歩みと成果」柳与志夫(東京大学特任教授、DNP 講座代表者) (4)報告 2 「デジタルアーカイブ論の現在」生貝直人 (一橋大学准教授、東京大学客員准教授) (5)報告 3 「デジタルアーカイブ産業の可能性」小林慎太郎(野村総合研究所上級コンサルタント) (6)パネルデイスカッション「DXから DAへ:日本を解き、結び、放つ」 登壇者(50 音順、敬称略) 生貝直人 太田亮子(TRC-ADEAC) 小林慎太郎 塩原誠志(内閣府知的財産戦略推進事務局参事官) 柳与志夫 吉見俊哉:司会 (7)フロアからの質疑応答・意見交換 以上 (文責学会誌編集部) ## シンポジウム「日本のデジタルアーカイブのこれから —東京大学 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座の軌跡」写真 ## ■来賓 北島元治氏 大日本印刷株式会社専務執行役員 馳浩氏 衆議院議員・デジタル文化資産推進議員連盟幹事長 田中久德氏 国立国会図書館副館長 ■登壇者 吉見俊哉氏 東京大学教授、デジタルアーカイブ学会会長 柳与志夫氏東京大学特任教授、DNP 講座代表者 生貝直人氏一橋大学准教授、東京大学客員准教授 小林慎太郎氏 野村総合研究所上級コンサルタント ロパネルディスカツション (左から、吉見俊哉 (司会)、柳与志夫、塩原誠志 (内閣府知的財産戦略推進事務局参事官)、小林慎太郎、太田亮子 (TRC-ADEAC)、生貝直人、各氏)
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# マンガ・ラノベ図書館とライトノベル アーカイブプロジェタトに関する報告 Report on the Manga and Light Novel Library and the Light Novel Archive project \begin{abstract} 抄録:本稿は 2020 年 8 月に開館した角川武蔵野ミュージアムとその内部施設であるマンガ・ラノベ図書館の成立過程を入り口とし、小説分野においてエンターテインメント性の強い作品を扱うアーカイブの必要性を確認するとともに、同施設の活動であるライト ノベルアーカイブプロジェクトについて概説する。開館当初、株式会社 KADOKAWA の刊行作品のアーカイブとしてスタートした 同施設が、現在なぜ “ライトノベル”と呼ばれるエンターテインメント性の強い小説作品の網羅的な収集=アーカイブプロジェクト を実施し、出版社横断的な施設として活動するに至ったか。その過程を整理し、紹介したい。 Abstract: This paper was inspired by the opening of the Kadokawa Musashino Museum and its internal facility, the Manga and Light Novel Library, in August 2020, discusses the need for an archive that deals with works that have a strong entertainment tendency in the field of fiction, which leads to Light Novel Archive project. At the time of its opening, the facility started as an archive of works published by KADOKAWA, but it has now become a cross-publisher facility with a comprehensive collection of "light novels" or novels with strong entertainment value. This paper discusses the pass of this change. \end{abstract} キーワード : ライトノベル、データベースの活用 Keywords: Light Novel, Ranove, book archive, Kadokawa ## 1. はじめに 本稿では公益財団法人角川文化振興財団が運営するマンガ・ラノべ図書館と、その事業である「ライトノベルアーカイブプロジェクト」(以下、本プロジェクト) を概説する。プロジェクト成立の背景として、ライトノベルというある種のまとまりが誕生してから 30 年以上を経た現在、それが出版史あるいは文学史上のどこに位置付けられ、どのように体系立てられるべきなのかといった探索が少しずつ進んでいる。本プロジェクトはそうした活動のべースとして機能することを目標としている。 ## 2. 角川武蔵野ミュージアム/マンガ・ラノベ 図書館の概要 マンガ・ラノべ図書館が存在する角川武蔵野ミュー ジアムは、公益財団法人角川文化振興財団が運営する文化施設で、株式会社 KADOKAWA が埼玉県所沢市に展開する「ところざわサクラタウン」内に存在する。運営者の角川文化振興財団とは、KADOKAWA(旧称、角川書店)の創立者・角川源義の遺志に基づいて設立された法人であり、俳句・短歌・小説等の創作を奨励し、顕彰活動などを通じて出版文化の保護・発展への寄与を旨とする機関として位置付けられている。 「ところざわサクラタウン」の起こりは 2013 年に遡る。旧所沢浄化センター跡地の利用にあたってプロポーザル方式で事業者が募集された際、条件に公共貢献が含まれていたことから、KADOKAWA は角川文化振興財団の運営する “文化施設” の建設、またその施設を拠点とするクールジャパン文化の発信、地方創生を目的とする共同プロジェクトの提案をもってこれに応じ(後に共同プロジェクト「COOL JAPAN FOREST 構想」に集約)、2020 年 11 月に全面開業した ${ }^{[1]}$ 。 KADOKAWA の事業としては 2014 年から計画が開始され、まずは倉庫・物流・生産の拠点として立案された。倉庫や物流管理のIT 化とデジタル印刷の導入を主要な目的としていたが、やがて本社機能の移転や地域利用の観点から、書店やテナント含む飲食店、ホテルなどが加わり、現在のかたちへと発展することになった。 上記の “文化施設”、すなわち角川武蔵野ミュージア 図1ところざわサクラタウン全景 (パース図) ムは「図書館・博物館・美術館の融合」「High \& Low」 (伝統文化のようなものから、エンターテインメントやサブカルまで差別なく扱うこと)等のコンセプトから構想され、館長の松岡正剛が選ぶ約 25,000 冊の図書や荒俣宏の博物学的コレクションが収まる「エディットタウン」、武蔵野地域の概要と KADOKAWA とのつながりを解説する「武蔵野ギャラリー」など、 さまざまな施設の集合体としてデザインされている。 その中で「Low」に属するエンターテインメントを担当しているのがマンガ・ラノべ図書館 (以下、当館) である[2]。 当館は当初KADOKAWAのライトノベル、コミック、览童書を配架する施設として開業した。特に過去刊行されたおおよそすべてのライトノベルとされる図書資料を約 20,000 冊所蔵しており、これは現在の角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫、電撃文庫等のライトノベルを自称する各レーベルに加え、角川ビーンズ文庫等の女性向けレーベル(KADOKAWA 内の分類ではこれらも広義のライトノベルとされている)、その他エンターテインメント色の強い小説作品が含まれている。つまり開業当初はあくまでKADOKAWA のアーカイブに過ぎなかった。 しかし 2021 年 7 月に「ライトノベルアーカイブプロジェクト」を発表し、他の出版社からも協賛を募った結果、この構成が大きく変化した。現在は約 35,000 冊を所蔵し、そのうち約 29,000 冊をライトノベルが占めている。約 20,000 冊が KADOKAWA 各レーベルであることについて変化はないが、そこに約 9,000 冊の他の出版社の刊行作品が加わり、またコンセプトにも「ライトノベル等エンターテインメント色の強い小説作品の網羅的収集」を加えることになった。 ## 3. 収集対象について プロジェクトを実施するにあたり、当然ながら先にも触れたような資料収集の基準を設定する必要があっ 図2 マンガ・ラノベ図書館アーカイブコーナー た。しかしながらライトノベルを明確に定義することは困難が伴う。辞書的には「青少年向けのエンターテインメント小説。略称ラノべ。ジャンルはSF、ファンタジー、ミステリーが多い。従来のジュブナイル (少年少女向け小説)と違うのは、漫画やゲームとの親和性が高いこと。」(現代用語の基礎知識 2019)[3]、「小説の分類の一つ。SF やホラー、ミステリー、ファンタジー、恋愛などの要素を、軽い文体でわかりやすく書いた若者向けの娛楽小説をいうが、明確な定義はない。(後略)」(日本大百科全書) ${ }^{[4]}$ 等と説明されているが、これが十分な解説であるかについては議論がある (実際、明確な定義はない、などと記されている)。例えばカバー、口絵、挿絵などの視覚的表現を主な要素として挙げる声も多いし、社会的な主題よりも登場人物自体にこそ言及が多い=キャラクター性の強さを挙げる場合もあるだ万うし、会話文の多さを指摘されることもある。 とはいえ、これはライトノベルにかかわらず「純文学」や「SF」といったキーワードであっても例外のない困難であろう。ある文学上のまとまり、例えばジャンルの曖昧さを払拭し、定義付けしようという試みは各所で不断に行われているものの、管見の限りおよそ決着していない。 そのため当館の資料収集においては、あくまで「エンターテインメント性の強い特定のレーベルから刊行されたもの」という弱い基準のみを設け、例えば従来女性向けとされてきたものなど隣接するレーベルについても広義のライトノベルとして収集を検討している。他にも、将来的には、新書判のいわゆる“ノベルズ”等についても含まれる余地があるだろう。なお、以下〈ライトノベル〉と表記する場合は、こうした曖昧な集合を指す。 もちろん例外は存在する。マージナルな作品の例と して、当初スニーカー文庫内のサブレーベル「スニー カー・ミステリ俱楽部」から刊行され、後に角川文庫に移った米澤穂信『氷菓』がある。スニーカー・ミステリ俱楽部が短命に終わったため、一般的に手に入るのはカバーにキャラクターのイラストもなく、口絵もない角川文庫版である ${ }^{[5]}$ 。しかしながら読みやすく、若年層に大ヒットし、後年はアニメ化や漫画化も行われた。本文を読むとキャラクター性も強い。他にも、一般的にライトノベルとみなされている富士見ミステリ一文庫から刊行され、後に単行本、角川文庫で刊行された桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』などがある。現状、これらはいずれも議論の上で収集対象としている。 現在ライトノベルとされる作品群はおおむね 1970 年代に登場したと目され、巷間その嚆矢とされるソノラマ文庫は 1975 年に創刊している[6]。なお収集資料を見てみると 1980 年代まではヤングアダルト、ジュブナイル、青春小説といった別の用語が用いられていたようで、たとえば 1988 年に角川文庫から刊行された『ロードス島戦記灰色の魔女』の初版オビには 「ファンタジー活劇小説」と書かれていた。 その後 1988 年に富士見ファンタジア文庫、1989 年に角川スニーカー文庫が創刊され、やがて 1990 年代にかけてライトノベルという名称が一般的に使用されることになった。現 KADOKAWA 以外も、1991 年の集英社スーパーファンタジー文庫[7]、1992 年の小学館スーパークエスト文庫 ${ }^{[8]}$ など、大手出版社が次々と参入し、また 2000 年代に入ると「ライトノベル完全読本」(日経 BP 社、2004) や「このライトノベルがすごい!」(宝島社、2004)等の関連書籍や、大塚英志『キャラクター小説の作り方』(講談社、2003 年)、東浩紀『動物化するポストモダンオタクから見た日本社会』(講談社、2001 年)等ライトノベルに言及する書籍が刊行され、批評的な側面でも取り上げられるようになった。映像化作品も多く、次々と新しいレーべルが創刊され、ブームといって良い状態が現出した ${ }^{[9]}$ 。一方で休廃刊レーベルも数多く存在し、1997 年の竹書房ガンマ文庫、2001 年のスーパーファンタジー 文庫、スーパークエスト文庫、2008年のソノラマ文庫、 2010 年のアニメージュ文庫(1998 年に一度刊行休止) ${ }^{[10]}$ 、富士見ミステリー文庫、2010 年の徳間デュアル文庫 ${ }^{[11]}$ 、近年も 2016 年に一迅社文庫の新刊が途絶え ${ }^{[12]} 、$ 隣接分野においても 2019 年に少女小説の一大レーベルである集英社コバルト文庫が電子書籍のみになる[13] など、老舗や有名レーベルであっても市況の影響は免れ得ず、入手困難になるケースも見られる。一般的に日本の出版分野におけるエンターテインメント作品の形態の多くはコミックが締め、その次は小説、殊に〈ライトノベル〉であることについて大方の違和感はないと思われるが、コミックを所蔵資料の主とする施設が多数存在することに比べて、隣接分野も含めた〈ライトノベル〉を専門として取り扱う図書館的施設は少ない。そこに当館が担うべき役割を見出し、検討を行ったのが「ライトノベルアーカイブプロジェクト」であるといえる。可処分所得の利用など消費行動の変化が進む中で、〈ライトノベル〉文化も不変のものとは考えられず、その保管と記録を目的としてプロジェクトを実施するに至った次第である。 ## 4. アーカイブプロジェクトの立案と実施 前述のとおり 2020 年の当館オープン時点では、収蔵資料のほぼすべてが KADOKAWA の刊行物で構成されていた。しかし角川文化振興財団理事長であり角川武蔵野ミュージアムのエグゼクティブプロデュー サーである角川歴彦、および館長の松岡正剛、マンガ・ラノベ図書館デイレクターの井上伸一郎らとともに出版市場の現況を踏まえた当館の社会的役割を検討する中で、本プロジェクトが策定され、〈ライトノベル〉全般の資料収集を行うこととなった。2021年 1 月頃からレーベルのリスト作成が始まり、刊行中のレーベルを保有する各社から協賛を募り、7月には当館のリニューアルとともに本プロジェクトを発表。その時点でKADOKAWA 含む 18 社、9月時点で 20 社から承諾を得ることができた(現在さらに 2 社と交涉中)。同時に一次的な収集目標であるブックリストを作成しており、概算でも約 50,000 冊以上を見積もっている。 協賛各社への依頼内容は主に下記 3 点であり、寄贈によって入手できないものについては今後購入や個人からの寄贈によって収集することが決定している。 図32021年 9 月時点での協賛各社 (協賛用資料より) 1. 所有する既刊見本を 1 冊ずつ寄贈していただく 2. 目録(ブックリスト)を提供していたたく 3. 今後の新刊を 1 冊ずつ寄贈していただく 協賛各社からは市況を踏まえた保管の難しさなどについての声がたびたび聞かれ、アーカイブに賛同を得ることは決して難しくなかった。当初 18 社からの協賛についてはほとんど障害なく得られたといっても過言ではない。つまり〈ライトノベル〉文化が一定の成熟を見せるとともに伸張と縮退が繰り返され、各レー ベルも折々その存否が問われる状況にあって、出版者側からも資料を収集・保存する機関が求められていたと考えられる。 当館内では、出版者に関わらず、執筆者などその表現をなしえた者=第一著者名の 50 音順で整理を行い、配架の作業が続いている。最大配架数は約 50,000 冊だが、新刊配架や企画配架などを円滑に行うためには、 おおむね 3~40,000 冊の配架が限界であると見積もつている。新刊として収集する図書資料は毎月平均して 200 点を数えており、配架の限界を超えた時点で閉架での管理を必要とするが、その基準についてはまだ検討が必要である。 ## 5. 書誌情報の整理 図書資料自体の収集と同様に重要なのは、言わずもがな書誌情報の整理である。〈ライトノベル〉を中核とする以上、資料管理の観点から、そして利用者(検索者)の益に供するといった観点から、一般的な図書館で管理されている書誌よりもさらに細かい情報を必要とする。 イラスト等視覚的な要素を重要視する場合にはイラストレーターやデザイナーを検索したいといった要求があろうし、原作コンテンツとしての要素を重視する場合にはメディアミックス情報を検索したいといった要求が想定できる。また、シリーズとしての情報も重要である。外伝等派生作品や短編集の存在はもちろん、 キャラクターなど特定の固有名詞が共通して用いられている他の作品の情報も重要視される可能性がある。場合によっては、複数の著者が同一の物語世界を舞台とした一連の作品群を執筆していることすらある (シェアードワールドなどと呼ばれる)。 たとえば、電撃文庫『とある魔術の禁書目録』(鎌池和馬、2004年-)には、コミックのみで発売されている外伝的作品『とある科学の超電磁砲』(冬川基、原作:鎌池和馬、2007 年 - )の小説作品『とある科学の超電磁砲 SS』(鎌池和馬) や、さらなる外伝的作品『とある科学の超電磁砲外伝アストラル・バディ』 (乃木康仁、原作 : 鎌池和馬、2017 年 -2020 年)がある。こうした複雑な構造を正確に伝える方法や、そのためにどのような構成でシリーズ情報やメディアミックス情報を管理するかを検討しなければならない。 また、タイトルひとつとっても「シリーズ名、メインタイトル、サブタイトル」といった基本的な構造には収まらない。たとえば電撃文庫のブギーポップシリーズ『ブギーポップ・リターンズ VS イマジネー ターPart1』(上遠野浩平、1998 年)において“ブギー ポップ・リターンズ”はメインタイトルなのか、あるいはサブタイトルなのかといった論点がある。私見では、現状それを指す言葉を我々は持たないのではないかという危惧を抱いている。 巻数についても自由度が高い。必ずしもタイトルの末尾に付かず、場合によっては数字や上中下など順番がわかる巻数が表記されることもない。さらに、シリーズ途中で “第 0 巻” や“第 x. 5 巻” が刊行されることもある。 これらは〈ライトノベル〉固有の問題ではない。しかし〈ライトノベル〉において顕著な問題であることもまちがいない。現在は角川武蔵野ミュージアムの蔵書管理システム(OPAC)で管理しているが、将来的にはこうした要求を満たすべくメタデータ項目を設定し、新たなデータベースを構築していく方向で検討が進んでいる。実際の作業にあたっては、すでに先行しているコミック分野を大いに参考とすべきだと考えている。 そして、当OPAC はインターネットを通じた外部からの検索も可能だが、新たなデータベースを構築した際にも、社会への還元の一環として広く公開したいと考えている。 図4 収集寄贈〜データベース公開(協賛用資料より) ## 6. おわりに かつてロックが音楽史に連なったように、またコ ミックが研究活動の対象となったように、〈ライトノベル〉への視線も少しずつ変わりつつある。映像化して大ヒットした例は枚挙に暇がなく、国際的な人気を誇る作品も増加している。それと同時に多様性も増しており、何物なのかを問う際にアーカイブが必要となることは容易に想像できる。 電子書籍、電子出版、国際化、人口減少などによって読書を取り巻く環境が激変するこの時代に、出版者側と協力して〈ライトノベル〉の性質に沿ったアーカイブを構築し、保存・提供する体制を整えていきたいと考えている。 ## 註・参考文献 [1] 所沢市 COOL JAPAN FOREST 構想 https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/shiseijoho/cjf/index.html (参照 2021-11-22). ところざわサクラタウンウェブサイト https://tokorozawa-sakuratown.com/ (参照 2021-11-22). 角川武蔵野ミュージアムの開業時期については、まず 2020 年 8 月にマンガ・ライトノベル図書館を含む一部施設のみが開業(プレオープン)し、その後11月に全施設が開業している。 [2] エンターテインメント分野を「Low」と表現しているが、 これはあくまで「ハイカルチャー」という言葉の対としての表現であり、上下関係を意味しているわけではない。 [3] 項目名"ライトノベル(* lightnovel)【2019】[外来語・カ夕カナ語【2019】]" 現代用語の基礎知識2019 JapanKnowledge, https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=5002019_160181770 (参照 2021-10-12). [4] 項目名"ライトノベル", 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=1001050308220 (参照 2021-10-12). [5] ライトノベル研究会ラノベ史探訪 (14) - 『水菓』とスニー カー・ミステリ俱楽部と https://societyforlightnovel.wordpress.com/2012/03/03/ (参照 2021-11-22). [6] 項目名"ソノラマ文庫",デジタル大辞泉プラス, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=5091001104060 (参照 2021-11-22). [7] 項目名"スーパーファンタジー文庫", デジタル大辞泉プラス, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=5091001103520 (参照 2021-11-22). [8] "スーパークエスト文庫", デジタル大辞泉プラス, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=5091001103620 (参照 2021-11-22). [9] 出版科学研究所によれば、2007年の刊行点数は2,233点、推定販売金額は344億円であったという。 出科研コラム「続々創刊、ライトノベル」 https://shuppankagaku.com/column/20071010/ (参照 2021-10-12). [10] "アニメージュ文庫", デジタル大辞泉プラス, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=5091001104140 (参照 2021-11-22). [11] "徳間デュアル文庫", デジタル大辞泉プラス, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=5091001104160 (参照 2021-11-22). [12] 一迅社文庫ウェブサイト https://www.ichijinsha.co.jp/novel/ (参照 2021-10-12). [13] コバルト文庫ウェブサイト https://cobalt.shueisha.co.jp/ (参照 2021-10-12). ねとらぼ, 集英社「コバルト文庫」新刊が電子書籍のみになりレーベル終了の臆測広がる集英社は否定 https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1902/04/news091.html (参照 2021-10-12).
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# ビデオゲームアーカイブにおける 実物保存 Preservation of Physical Objects in Video Game Archives 高見澤 こずえ TAKAMISAWA Kozue 立命館大学アート・ リサーチセンター 学芸員 ## 福田 一史 FUKUDA Kazufumi 大阪国際工科専門職大学講師 \begin{abstract} 抄録:1980 年代から家庭用ゲームを中心に急速に普及したビデオゲームは、プレイによる消耗や新製品への代替わりによる陳腐化が懸念されており、四半世紀以前に発売されたゲーム機本体およびパッケージ化されたゲームソフトのうち不具合なく作動するものの確保は今後ますます厳しくなると想定される。ビデオゲームの保存としてマイグレーションやエミュレーションなどが急務とされるなか、その前提として実物保存もまた不可欠である。本稿では博物館における資料保存の観点から、ビデオゲームの劣化要因と対策、保存環境ほか実物保存の方法論について述べる。 Abstract: Concerns have arisen over the preservation and obsolescence of video games that gained popularity, and became widespread in homes during the 1980s. Securing game consoles and packaged software in good working condition is expected to become increasingly difficult as a result of deterioration through use, and obsolescence due to continual replacement with newer models. Migration and emulation are urgently required for the preservation of video games, and it is also crucial to preserve the physical objects themselves. This paper introduces the factors involved in the deterioration of video games and details preventative measures, the preservation environment, and the methodology of physical preservation from the perspective of the preservation of archives and exhibits in museums. \end{abstract} キーワード : ビデオゲーム、ゲーム機、ゲームソフト、劣化要因、保存環境整備、博物館資料保存 Keywords: Video games, Game consoles, Game software, Deterioration factors, Environmental improvement for preservation, Preservation for museum archives and exhibits ## 1. はじめに ビデオゲームの保存といえば、ゲームプログラムやデータのマイグレーション、エミュレーション、ゲー ムプレイデータの動画保存が挙げられるが[1]、ゲーム保存の実践や議論が進むなか[2][3]、忘れてはならないのがゲーム資料の実物保存である。 1980 年代に普及した家庭用ビデオゲームでいえば、ゲーム機本体、 パッケージ化されたゲームソフト(以下、ゲームソフ卜とする)のほか、アクセサリや容器、取扱説明書、特典品など多様な対象が想定される。それらの外装デザインから時代性が読み取れたり、コントローラーやメデイアの消耗具合からプレイに興じた様子がうかがい知れたりすることもあるが、経年劣化や利用による劣化は免れない。羊も学孔開発時点からそれほど長い耐用年数を想定されたものではなく、修理・メンテナンスを要するものも少なくない。また、新製品への代替わりによる陳腐化で、コンピュータ・チップ・カー トリッジ、磁気ディスク、光デイスクといった形式のメデイアも、ゲーム機本体も、廃番や交換部品の不足、 メーカー保守期間終了を迎えていよいよ廃棄の危機にある。これらはゲーム資料の特性に基づくところであり、実物保存が急が扎る理由でもある。さらに、ゲー ム機本体やゲームソフトにプログラムやデータが格納・保護され、作動を担っていることに注視すれば、 それら実機を最善の状態で残し、動態保存することの必要性が指摘できる。ゲーム画面の画像・音声の視聴覚表現の評価もマイグレーションやエミュレーションによるゲームプレイの再現も、実機が正常に作動してオリジナルなゲームプレイを確認できてこそ可能なことであり、実機の劣化や損傷を単なる外傷として切り捨てられないのは、時に作動状況やデータ維持に影響するためである。 本稿では、主に家庭用ゲーム機として普及したビデオゲームを対象に、博物館における資料保存の観点からゲーム資料の実物保存の方法論について述べていく。な挍、本稿でいう「実機」とは、オリジナルのゲー ムプレイとその動態保存を可能とするために不可欠な、コントローラーやケーブル類などを含むゲーム機 本体とゲームソフトを包括して指す。 ## 2. 現状の把握 ゲーム資料に限らず、保存対象のモノについて知ることはその保存と継承、活用に関わる大切なプロセスである。具体的な保存計画の策定、利活用の可否やその限界を見極めるための判断基準となり、展示やプレイのほか、外部への貸出(移動)の可否、それに伴う輸送・相包の諸条件を設定する際の手がかりとなる。 まずは資料の素材や形状、コンディションを観察・調査により把握し、現状を調書に取りまとめていく。調書は人でいうところの健康カルテとして個々の資料の履歴が管理される。調書に設ける項目はゲーム機ならば、名称、サイズ、素材、構造、付属品、製造年、使用歴、修理歴等とコンデイションが想定される [註1]。 ビデオゲーム機の構成素材は、ゲーム機本体の場合、外装はほとんどがプラスチック(合成樹脂)で、内部にチップや基盤を配した電子回路や電子機器が収まる。ゲームソフトのメディア形式にもコンピュータ・ チップ・カートリッジ、磁気ディスク、光ディスクなどと違いがあるが外形は概ねプラスチックで、ともに構造は複合的である。ゲーム機のアクセサリや容器、取扱説明書、そして特典品などの関連商品に及んではプラスチックのほか、紙、ガラス、陶磁器、繊維物など、多種多様な素材にまたがっており、温度や湿度 (水)、紫外線に対する耐久性もそれぞれに異なる。 悪・不安定ならば寿命をさらに縮めることになる。 ## 表1 媒体の推定寿命 } & 30 年以上 \\ コンディションは目視で読み取り、劣化・損傷の有無とその程度、懸念事項などを記録し、必要に応じて写真に記録して、経過観察や利活用時の判断材料とする。ゲーム資料に多いプラスチックの特徴的な症例としては、擦れ、変形、歪み、割れ、変色、粉ふき (チョーキング)、脆弱化、べタつきなどがある。コントローラーを含むゲーム機本体とゲームソフトはプレイ歴による消耗があり得ること、また作動や動態保存 のためのメンテナンスや修理、部品交換が行われることも考慮して情報収集する。 ## 3. 劣化要因とその対策 ひとたび製品や作品が完成しようも、実在するモノは遅かれ早かれ経年変化する。ゲーム資料も同様、製造時の形状や色合い、強度などを永久に維持することはできない。ゲーム機を新品で入手後未開封で保管する例も稀にみられるが、それでも色やけや実機の未作動による不具合も起こり得る。大半のゲーム機はプレイを繰り返した形跡が何かしらあり、電源やコントローラーのボタンが作動しないものもある。劣化の進度や度合いは、長い年月をかける素材劣化などの単位時間では微細なものから、取り扱いにおけるミスなどを直接的な要因とする急激な損傷や消失など多様である。劣化要因を理解し、排除・軽減することは劣化速度を遅らせる手段であり予防保存の基本である。 ## 3.1 人為的被害 プレイを伴うゲーム機特有の劣化要因は利用者の操作や扱いによるものだろう。特に家庭環境下での不適切な扱いや劣悪な保存環境は本体や部品の消耗、久損、不具合に直に影響する。容器は廃棄される場合があり、 またそれが残存する場合でも破れやたわみ、変色がみられることがある。このような資料からは使用感や時代性を読み取ることが可能であるが、実機においては外装から得られる視覚情報とは別に、動態保存の可否に関わり深刻な課題である。 資料を直接手に取ることが許されている者による損傷も人為的被害の特徴のひとつである。ゲーム資料の場合はその性質上、殊の外、その傾向にあるといえる。具体的には、利用時の無意識や不注意による損傷、管理者や作業者の誤った操作や落下、衝撃による振動、頭髪や手垢、皮脂、汗の付着、指輪や腕時計といった装飾品の接触、飲食物の付着、劣悪な環境での保管が該当する。ハードデイスクやフラッシュメモリといった電子メディアは外形に問題がなくとも、強い衝撃・振動、磁気の接近によって故障を招くことがある ${ }^{[4]}$ 。火気、水濡れ、端子部への接触の回避や、電池・電源の正しい装着など、取扱説明書に記載の「使用上の注意」註3] も参照しつつ、修理・メンテナンスにおいても安全で適切な作業環境を確保し、工具の適切な選択と扱いに徹しなければならない。 ゲームプレイや視聴といった利活用を長期可能にするために、利用者に向けた利用ルールや注意事項の伝達と理解の獲得も重要である。また、ゲーム機が利用 時間や利用頻度に耐えられるかどうかの見極めと利用制限の設定のほか、レプリカの製作によって利用者に提供する視覚情報を補うこともオリジナル資料の負荷軽減の対策となる $[5]$ 。レプリカを含む二次資料はゲー 么資料の多様化する活用(展示、体験など)に対応する有効な手段として今後期待できよう。 ## 3.2 環境による被害 環境による被害とは、すなわち温度、湿度(水)、光、空気に起因するものである。日常的な環境下で人が不快に感じる条件があるように資料にも不適切な条件がある。 ## 3.2.1 温度 ・湿度 温度は高温になると化学的劣化を促進させ、金属ネジの錆やプラスチックの変形・変色を引き起こす。光ディスクやハードディスクなどの電子メディアも熱に弱く、不具合の直接的な要因になりやすい。紙の化学的劣化速度は $10{ }^{\circ} \mathrm{C}$ の上昇で 2 倍になるといわれるため[6、高温下での放置、直射日光や照明光源による部分的な温度の上昇も避けなければならない。 湿度(水)は、高湿になると紙や木材を膨張させてたわみや変形を引き起こし、印刷物や合板に含まれる接着剂を弱化させて素材そのものを脆くする。光ディスクは腐食による不具合を起こし、プラスチックは耐久性や強度を損ねることから電気コードやコントローラー ボタンにべたつきが生じる。電子基盤も高湿環境に極端に弱い。一方、湿度が低すぎると乾燥によって紙の柔軟性が失われて強度が低半減する。板の反りや割れ、 インクや塗料のひび割れや剥がれも乾燥に起因する。 さらに、温湿度のバランスの崩れが結露や有害生物 表2 保存に適した温湿度基準 } & \multicolumn{2}{|c|}{ 紙、木、染織品、漆 } & \multirow{3}{*}{} & $55 \sim 65 \%$ \\ の発生を招き、二次被害のリスクが高まる。温湿度の急激な変動や反復も素材に与えるダメージが大きい。 博物館の収蔵庫は概ね 20~ $25^{\circ} \mathrm{C} 、 50 \sim 55 \%$ で管理されるが[7]、温度や湿度の計器での計測をルーチンとして日常業務に組み达むとともに、適切な温度・湿度を体感で覚えることも一つの手かがりとなる。 ## 3.2.2 光 太陽光で人肌が日焼けするように、直射日光や蛍光灯、白熱灯といった光源から放射される紫外線が紙やプラスチックを黄変させ、時にパリパリに割れるほど素材を脆くする。染料や顔料も退色させる。ゲーム機の外装の変色、光ディスクの反りや不具合もその一例である。また、虫は紫外線に誘引される習性があるため不必要な照射は避けて二次被害を防ぎたい。 太陽光や照明光源が発する赤外線(熱線)は温度の上昇や乾燥を促す。なかでも直射日光は照射空間の温湿度を不安定にしやすく、結露やカビ発生の要因になりやすい。遮光カーテンを設置するなど、資料のあるスペースでの直射日光は避けることが原則である。 ## 3.2.3 空気 空気の污染には大気污染と室内污染がある。大気污染は工場や自動車の排気ガスなど燃料の燃焼によるものがほとんどで、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化窒素が劣化要因となって污染、粉塵、酸性雨、損傷、溶解、 カビをもたらす。室内に発生源を持つ室内污染はコンクリートや内装材の塗料、接着剂が発するアルカリ性物質と、建材や棚などの木製品が発する酸性物質によって化学変化を引き起こし、素材を変色、脆弱化させる。 施設の立地ごとの対策としては、森林付近の場合は酸性質、沿岸部の場合は塩害、都市部の場合は排気ガスや粉塵を考慮し、空気調和設備 (以下、空調) や污染物質除去フィルタを活用して新鮮で清浄な空気の循環を確保する。 ## 3.2.4 生物被害(虫、カビ、小動物) 高温多湿の環境は虫やカビ、小動物の温床となり、食害や営巣、フンによる污染、カビによる変形、着色、脆弱化を招く。クモ、ヤモリはゴキブリなどを捕食する益虫だが、フンによる污染は二次被害として深刻である。 一般家庭でも不快害虫として知られるゴキブリは、夜行性で温暖多湿な環境を好み、幼虫・成虫ともに雑 食性で紙や布等を食害、フンで污染する。ゲーム機の容器や取扱説明書、ゲームソフトに貼られたラベルの紙や接着剤、特典品に多いぬいぐるみなどの繊維物はゴキブリのほか、シミ(紙魚)、シバンムシ、カツオブシムシといった害虫の加害対象になり得る。新聞紙や段ボールといった紙類や建材の集積や放置も虫たちの温床になりやすい。 カビは、温湿度、酸素、養分が一定条件に整うことで発育し、素材を着色・変色させる。カビの抑制のためには湿度 60\%以下を維持し、閉め切った空間や部屋の隅、棚の後ろなど、湿気が滞留しやすい箇所に気流を確保する。カビは早期発見すれば被害も軽く対処しやすいが、大量発生すると根絶が困難である。カビ臭やカビをエサとするチャタテムシの発生に気をつけ、被害の拡大を回避したい。なお、チャタテムシは体長 $1 \mathrm{~mm}$ ほどで人目につきにくいがモニターの液晶画面内に侵入もし、機器類への影響が懸念される。コントローラーやカード、ぬいぐるみは埃や人の皮脂、汗の付着によってカビが発育しやすい。万一、カビが確認された場合は早急に隔離して処置し、他資料への伝播を防ぎたい。資料の受け入れ時は、既存資料との同室管理前に点検と清掃を済ませることも対策の一つである。 ネズミは紙や木、ゴム、プラスチック、さらにはアルミニウムもかじる咀嚼力を持ち、資料のみならず、柱や壁、設備など施設そのものも加害する。電気コー ドやケーブルの咀嚼によって機器の故障はもとより、漏電による火災に発展することから、ケーブルの配線や未使用時のゲーム機の管理にも配慮したい。不衛生なネズミの接近を絶対的に阻止すべく、物理的な隙間をなくし、エサとなる食料を置かないことで資料周辺への接近や侵入を遮断する。 虫、カビ、小動物による生物被害においては、資料とその周辺環境を清潔に保つことが被害の回避にもつとも有効な策である。人目に付かぬところで徐々に進む生物被害の性質に照らしても、その予兆を素早く感知できる日常的な観察とそれを持続的に行うための体制づくりを進める必要性がある。 ## 4. 保存環境の構築 ゲーム資料のまとまったコレクションを有する所蔵先の多くは博物館相当の保存設備を持たない施設であると推察するが、博物館であっても保存環境の構築は施設の立地条件、施設・設備の有無や程度によっても異なり、その対策も一様ではない。高温多湿な日本の夏季はカビ対策として空調や除湿機に頼らざるを得な い状況にあり、さらに施設の立地が山地か沿岸部か、敷地内や近隣に河川や森林があるかないかによって打つべき対策や留意点が異なってくる。 施設の概要として築年数や構造、設備、欠損箇所等を確認し、その構造や設備 (天井裏のダクトの経路等) に詳しい建築図面を確保し活用する。新設施設の場合、密閉性がよいため安定した温湿度の維持が期待できるが、躯体コンクリートや内装材が発するガス污染の懸念もある。既設の場合は建材の枯らしが済んでいる一方、経年劣化や建具の歪みで隙間風が流入して温湿度の安定を妨げることがある。施設ごとの長短所をリストとしてまとめておくことは有効である。 施設内は、資料との関係性に基づいてゾーニング (区画化)(図1)し、それぞれの目標値に沿った管理が効率的である。 図1施設のゾーニング (区画化) 「収蔵区画」は資料が一同に集まり長期保管される収蔵庫を指し、温湿度環境の安定化、防犯・防災対策をもっとも徹底すべき重要箇所である。収蔵区画といえども資料の露出保存は避け、保存箱や薄葉紙を活用して塵埃の堆積や手垢の不必要な接触、移動による衝撃の軽減を図る。「活用区画」は「収蔵区画」に準じつつ、利用者の安全や快適性にも配慮する。人の出入りに伴う温湿度の変動や、虫、カビ、埃の持ち込みに対応した清掃と、利用者による破損リスク回避のため利用ルールを明確化し周知する。飲食行為やペン、大型荷物、傘やナイフといった危険物の持ち込みは禁止し、活用によって資料が損なわれることがないようにしなければならない。「緩衝区画」は「危険地帯」(野外)との境界にあたる。植栽や外灯、排水溝、ゴミ集積場と施設の開口部(扉、窓、換気口)の位置関係の把握、施設付近の落葉たまりや水はけの悪い箇所などの把握によって問題の予測と清掃の効率化を図る。 ## 5. ビデオゲームの実物保存の実践にあたって 博物館の保存活動は近年、文化財 IPM(Integrated Pest Management、総合的有害生物管理)の考えに基づく取り組み ${ }^{[8]}$ が定着しつつある。「文化財の生物被害防止に関する日常管理の手引き」[9]には、日本の高温多湿な気候を前提に、日本特有の文化財が紙・絹・木など脆弱な素材で多く構成されていること、それゆえに虫やカビによる被害が起こりやすいとしつつ、環境破壊や人体リスクを伴う燻蒸ガスの運用の見直しと 「薬剤に頼らない日常管理の徹底による虫害防止の必要性」が述べられている。いわゆる予防的保存に重点を置いたこの取り組みは、プラスチックや電子基盤で構成されるビデオゲームの実機保存においても遜色ない効果が見込める。資料の性質やコンデイション、保存環境の立地や施設・設備の把握、関係スタッフや時に専門家を交えた人的ネットワークの構築、日常的な観察と行動の積み重ねは多方面に根を張るものだが、資料保存の長期的かつ本来的な成果が期待できる。文化財 IPM は5つのステップでサイクルする(図2)。 図2 文化財IPMの5つのステップ 被害の発生要因を避ける「回避」、劣化要因を断つ 「遮断、資料や施設環境の異変・異常の早期発見や安全確認の「発見」この3つは日常サイクルで繰り返される。「対処」は問題に対して速やかに発動して被害を最小限に抑える行為で、被害状況に応じて専門家を交えて処置の選択・実施をする。「復帰」は資料を元の場所に戻すことだが、被害が発生した環境も改善してこそ本来的な「復帰」となる。 震災などの非常時の被害状況の把握や救済・復旧活動においても文化財 IPMの成果が報告されている ${ }^{[10]}$ 。資料や環境を熟知して日々対処する実績が、非常時の迅速で適切な判断を可能にし、人的負担の軽減にもつながることから、総合的危機管理の観点からも文化財 IPM を評価することができる。また、『文化財防災ウィール』[11]には災害への備元、緊急時の対応と救出、処置の方法が端的にまとめられている。被害発生後 48 時間以内の初期行動を提唱しており、ゲーム資料に多い紙資料や電子メディア(磁気メディア、テー プ、フロッピーデイスク)については泥・水被害を想定した応急処置が記されている。 災害に限らずとも、ゲーム資料の中には実機の劣化がひどく、プレイや再生の不可・不具合によってデー 夕採取ができないものもあるだろうが、保存ニーズの高い資料にあってはそれを廃棄対象にしてはならない。将来の技術開発を待ち、時期尚早な判断や処置を避けて見送ることも大切な判断であり、やはり実機の保存には最善を尽くさなければならない。一方、ゲー ム資料に多いプラスチック素材は、戦後に普及したばかりの新素材で種別も特性も多様で $[12]$ 、長期保存にとって未知数といえる。また、実機のシステム変更やバージョンの更新、再生機器や交換部品の廃盤、修理・メンテナンス技師の確保といった実質的な課題は、映画、アニメーション、メディアアートといったメディア芸術にも共通する課題といえよう。このこともまた文化財 IPM が提唱する予防的対処や業界を跨いだ人的ネットワークの構築によって多角的な視点と知識を補い、保存活動をより強固にするものといえる。 ## 6. おわりに 本稿では、デジタルアーカイブの運用と活用が多様化する一方で実物資料の確保と保存が喫緊の課題となっているビデオゲームを例に、デジタルアーカイブのもととなるオリジナルの実物資料の保存について述べた。特にビデオゲームの実機保存は単にその外装を維持するためだけでなく、そこに格納されるプログラムやデータへのアクセスの可否やデジタルアーカイブの精度に影響する。もとより、デジタルアーカイブされた情報がオリジナル資料に完全に成り代わることはない。それがオリジナル資料の一時あるいは一部の情報の記録であることはいうまでもなく、ゆえにデジタルアーカイブ技術のさらなる発展が今後も期待されるのであって、デジタルアーカイブの価値を担保することになるオリジナル資料を尊重し最善の状態で継承するための保存活動は今後も不可欠なものになる。 資料の保存活動は現場ごとに条件が複雑でひとまとめに括ることはできないが、資料を取り囲む保存環境は決して日常からかけ離れたものではない。資料の劣化要因のひとつ「環境による被害」を見ても分かる通り、それらは私たちの生活環境の範囲内、もしくはその延長にあるといえる。家庭用ビデオゲームが遊ばれる場もしかり、さらにビデオゲームが保存・継承されるべき資料として扱われる場では、博物館レベルでの 保存環境や設備を有せずとも、まずは「保存すること」 にピントを合わせた観察や意識が保存活動の糸口になるといえる。それぞれができることから着手し、現場に見合う保存活動を築き継続することを心がけるべきであろう。 ## 註・参考文献 [註 1 ] 調書は個々の資料を特定するための情報として基礎的な項目とコンデイションを記載するが、ゲーム資料の特性に照らした項目として、開発者、デザイナー、製造者、発売者、価格、公開日などを加えることも考えられる。 [註2] 以下を参照し、筆者により一部加筆した。「紙資料保存マニュアル」編集ワーキング・グループ. 防ぐ技術・治す技術:紙資料保存マニュアル,日本図書館協会, 2005 . [註3]「使用上の注意」に関する事例として以下の取扱説明書の表示が挙げられる。任天堂株式会社. “ドンキーコング取扱説明書”. 2016. https://www.nintendo.co.jp/clv/manuals/ja/ pdf/CLV-P-HAAEJ.pdf (参照 2021-11-11).株式会社バンダイ. “たまごっちみ一つ取扱説明書”. 2018. https://bandainamco-bcpombucket1.s3.amazonaws.com/docs/ answers/url/4549660289012.pdf (参照 2021-11-11). [註4] 以下を参照し、筆者による加筆、改編を行った。京都造形芸術大学. 文化財のための保存科学入門. 飛鳥企画, 角川書店 (発売), 2002. Adcock, Edward P., 国立国会図書館, 日本図書館協会資料保存委員会. IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則. 日本図書館協会, 2003, (シリーズ本を残す). [1] 細井浩一. デジタルゲームのアーカイブについて一国際的な動向とその本質的な課題. カレントアウェアネス. 2010, no. 304, p.11-16. [2] ゲーム保存協会—特定非営利活動法人. https://www.gamepres.org (参照 2021-11-11). [3] 立命館大学ゲーム研究センター.https://www.rcgs.jp/ (参照 2021-11-11). [4] 大島茂樹. 光/磁気ディスク、フラッシュメモリの劣化と寿命.カレントアウェアネス. 2009, no. 299, p.7-10. [5] 小島道裕. “博物館とレプリカ資料”. https://www.rekihaku.ac.jp/ kenkyuu/kenkyuusya/kojima/repl.html (参照 2021-11-11). (小島道裕. 博物館とレプリカ資料. 国立歷史民俗博物館研究報告. 1993, no. 50, p.443-460.) [6] Adcock, Edward P., 国立国会図書館, 日本図書館協会資料保存委員会. IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則. 日本図書館協会, 2003, (シリーズ本を残す). [7] 高見澤こずえ. “学芸員による保存の実務”. 博物館の歷史・理論・実践 2 一博物館を動かす. 今村信隆編. 京都造形芸術大学東北芸術工科大学出版局藝術学舎, 2017. [8] 三浦定俊編. 文化財 IPMの手引き. 公益財団法人文化財虫菌害研究所, 2014. [9] 文化庁, “文化財の生物被害防止に関する日常管理の手引”. 2002. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/hokoku/ higaiboshi.html (参照 2021-11-11). [10] 文化財保存修復学会. 文化財防災ウィール. 2004. https://www.bunka.go.jp/earthquake/taio_hoho/pdf/yyoho_03.pdf (参照 2021-11-11). [11] 日本プラスチック工業連盟ウェブサイト. “主なプラスチックの特性と用途”. http://www.jpif.gr.jp/00plastics/plastics.htm (参照 2021-11-11). [12] 冨澤治子。“やってて良かった! ミュージアムIPM”, 熊本地震記録集地震のあとで:美術館を、美術館として開ける。坂本顕子, 岩崎千夏, 池澤苯莉, 佐々木玄太郎, 岡田直幸編.熊本市現代美術館, 2018, p.49-52. https://www.camk.jp/wp/wpcontent/uploads/2018/08/\%E5\%9C\%B0\%E9\%9C\%87\%E8\%A8 $\% 98 \% E 9 \% 8 C \% B 2 \% E 6 \% 9 C \% A C-1 . p d f($ 参照 2021-11-11).
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# 第 6 回研究大会第 2 部報告 今村 文彦 IMAMURA Fumihiko 第 6 回研究大会実行委員会 委員長/東北大学災害科学国際研究所 第 6 回研究大会第 2 部は、2021 年 4 月 23 日 (金) 24日(土)第 1 部(4月開催)に引き続き、10月 15 日(金)・16 日(土)の2 日間、東北大学災害科学国際研究所においてハイブリッドで開催されました。初日 は東日本大震災 10 年をテーマとしたシンポジュウム、翌日は企画セッションと被災地の見学会でありまし た。延べ、オンサイトでは15日53名、16日55名、 オンラインでは154 名(15日)の御参加を頂き、無事に 終了できました。開地実行委員会を代表して御参加頂 いた方々、関係者の皆さまに厚く御礼を申しげます。 ## 第 1 日:10月 15 日(金) 第 1 日は、坂田邦子氏 (東北大学情報科学研究科講師)による総合司会の下、開会は、吉見俊哉会長、今村文彦実行委員長の挨拶で始まりました。吉見会長からは、今回の大会の意義を紹介いただき、かつ学会の 4つの柱;(1)若手会員の拡大・人材育成、(2)全国化 (各地での大会の開催)、(3)連携・ビジネスモデル提案、(4)国際化に向けた方針を紹介いただきました。 引き続きのシンポジュウムは、 3.11 東日本大震災か 写真1 吉見会長の開会挨拶 写真2 初日シンポジウムでの様子 ら 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望と言うテーマであり、リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来について活動の紹介と議論を頂きました。加藤諭氏 (東北大学学術資源研究公開センター史料館准教授)による司会で始まり、3県の伝承施設での活動および2県でのデジタルアーカイブ活動について、発足、目的、活動状況、課題などをリレー方式で発表いたたきました。 【伝承館等事例報告】 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)福島県東日本大震災・原子力災害伝承館 (瀬戸真之氏) 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望) (高杉大祐氏) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏) 【パネルデイスカッション】 その後に、国立国会図書館・中川透氏による東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」の紹介の後に、コー ディネータ柴山明宽氏 (東北大学災害科学国際研究所准教授)によるディスカッションが続きました。 震災後 10 年の活動(振り返り)の中でひなぎくには496万件が保存され、公開当時から 2 倍になります。 ひなぎくと他機関のデジタルアーカイブ・蔵書目録等とのメタデータ連携、さらには、東日本大震災関係に加えて、震災と関係した人と防災未来センターや今後は防災科学技術研究所、朝日放送アーカイブなどとの連携が予定されています。一方で、 10 年間で閉鎖アー カイブが増え、承継機関等が見つからない場合にひなぎくが受け皿として対応する場もあります。また、著作権など権利権関係で公開できない資料も多く存在しており、例えばアーカイブ宮城では約 18 万件がそれに当たります。 その中で、数年前から伝承施設などが整備され、そこでの展示機能が向上するなかで、デジタルとリアル (展示)など連携・融合が見られています。例えば、岩手県では、施設などの訪問の前に、デジタルで事前学習することにより、実際のリアル展示や被災地での訪問で効率的に学ぶことが出来、その後にデジタルで復習するなど、学習効果が上がっている報告がありました。さらに、岩手県東日本大震災津波伝承館には、教育委員会を通じて教員が派遣(2 年間)され、展示を通じた学習方法を模索しています。任期を終えた教員は、学校現場に戻り、施設や資料利用の有効性を伝えています。さらに展示物(震災遺物)もデジタルとして保存・整理が出来る中、展示スペースが限られて いる中でウェブサイトなどを通じて紹介も可能です。 なお、震災遺物について現在も様々の場所で保存されており、伝承館という性質上管理についての依頼がありますが、廃棄・保管の判断、収蔵スペースなどの問題や課題が現在もあります。 デジタルアーカイブの活用に打いては、防災教育や地域振興(歴史の保存や観光資源など)で期待が高まっています。昨年には、ひなぎくアーカイブの利用拡大として、岩手県での教員への説明会や WS が行われました。多くの参加があり、今後、教室内での授業、教室外での研修旅行、さらには、図書館との連携など、活用が広がりそうです。特に、二次利用処理されたデータについては、生徒が自分の学習の教材として便利に使えるために、利用度が高まっています。コロナ禍では様々な制限や課題がありますが、オンライン教材の関心や活動が逆に高まっており、活用事例も多くなったとの報告もありました。 課題として、担当者の交代、専門的知識(アーキビスト)が少ない。デジタルアーキビスト研修(通信教育)資格認定機構は5 日間講習であるが、今後 e-learning などの活用が重要となる。複数部署(デジタルと施設;リアル)との連携が必要などの意見があり、会場ともやり取りを行いました。ビジネスモデル 写真3 ハイブリッド対応 写真4 コロナ感染防止対策を実施 (低コストで活用出来る、観光ビジネスと結びつける) や他の災害との取組の融合化なども会場から質問をいただきました。新たな課題(社会変化)の整理をガイドラインとしてまとめる。多種多様な災害があり、事前や直後の対応は違うものの、復旧・復興の基本形は同じであり、今後、連携を取るべきであるなどの意見が出されました。 東日本大震災から 10 年が経過する中でのアーカイブの活動(収集、整理)、さらに活用(展示、教育、地域観光・産業)への模索、課題の抽出などがこのパネルデイスカッションで行われました。 第2日:10月16日(土) 翌日は、以下の 3 つの企画セッションが実施され、貴重な話題提供と多くの質疑を頂きました 1. 企画セッション 1 : デジタルアーキビストの在り方(セミナー 室);68 名参加 2. 企画セッション 2 : 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション(演習室 A);79名参加 3. 企画セッション 3 : アーカイブをメデイアとして読み解く(理論研究会企画)(演習室 B);42 名参加 午後には、ツアー (オプション) 25 名の参加があり、石巻市南浜に東日本大震災津波伝承館などを訪問しました。この日は、岸田文雄総理大臣もこの地域を初めて視察されておりました。現場で、偶然に遭遇した形になりました。 写真5みやぎ東日本大震災津波伝承館を訪問
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# マンガ原画のアーカイブ:文化庁メデイア芸術事業を中心に The Archive of manga original drawings: Focusing on the Agency for Cultural Affairs' Media Arts Project 伊藤 遊 ITO Yu } 京都精華大学国際マンガ研究センター 抄録:本稿の目的は、近年急速に社会的な関心の対象となりつつある「マンガ原画」のアーカイブについて、とりわけ 2010 年代以降の状況を報告することである。マンガ文化と社会の関係性という背景にも触れつつ、ここでは特に、文化庁によるマンガ原画 アーカイブ事業における具体的な実践を紹介する。アーカイブが公的な事業として展開しているという事実は、マンガ文化に対する 社会的な評価が変化してきたことを示す一方、アーカイブ作業の現場で顕在化する脆弱性や膨大さといったポピュラー文化の本質は、 そうした性質とは真逆の形で定義付けられていた近代以降の「文化・芸術」概念を摇さぶり、拡大させていることもわかるたろう。 Abstract: The purpose of this paper is to report on the situation of the archiving of manga original drawings, which has rapidly become an object of social interest in recent years, especially since the 2010s. While touching on the background of the relationship between manga culture and society, this paper introduces the specific practices of the Manga Original Image Archive Project of the Agency for Cultural Affairs. While the fact that the archive has been developed as a public project indicates that the social value of manga culture has been changing, the nature of popular culture like manga, such as its vulnerability and vastness, which is apparent in the archival work, has shaken the traditionsl concept of "culture and art," which had been defined in a way directly opposite to such characteristics. キーワード : マンガ原画、文化庁メディア芸術、マンガ文化と社会の関係 Keywords: manga original drawings, Manga Original Image Archive Project of the Agency for Cultural Affairs, relationship between the manga culture and society ## 1. はじめに 本稿の目的は、近年急速に社会的な関心の対象となりつつある「マンガ原画」のアーカイブについて、特に 2010 年代以降の実践を報告することである。 ここで「マンガ原画」とは、主に「マンガ刊本」 —雑誌や単行本等として印刷されてきたマンガ作品一の、手描きの生原稿を指す。 筆者は、マンガ刊本のアーカイブ施設として構想された「京都国際マンガミュージアム」(2006年開館) の立ち上げから現在に至るまで同館のマンガ資料アー カイブに携わってきた。また、本稿で中心的に紹介する文化庁によるマンガ資料のアーカイブ事業にも全体のコーデイネーターとして関わっており、ここでの記述も、いわば当事者としてのそれとなっている。たたし、あくまでその記述は、筆者個人の責任に帰するものであり、京都国際マンガミュージアムと運営者の京都精華大学、文化庁を代表しているわけでないことはあらかじめ記しておきたい。 ## 2. マンガ原画アーカイブが社会的に要請される背景 マンガ原画のアーカイブ実践の報告に先立ち、まずは、「マンガがアーカイブされる」ことが社会的関心となってきた背景について、説明しておきたい。 マンガといった、場合によっては(特に子どもの育成に)「有害」とすらされてきたポピュラーエンタテインメントメディアが、とりわけ公共的な文化政策の対象として注目されるようになったのは、2000 年代以降のことである。 ひとつの大きな契機は欧米における人気だが、マンガは、アニメやゲームなどと共にグローバルなマー ケットにおける強力な「コンテンツ」としてのポテンシャルが追求されることになる。当時の小泉純一郎首相による「知的財産立国宣言」(2002 年 2 月)は、翌年施行される「知的財産基本法」と共に、結果的に、 マンガのようなポピュラーエンタテインメントを公的にバックアップすることを強力に後押しした。 そこでのマンガへの期待は経済・産業的なものだっ たが、公的支援を可能にするため、マンガを(当該文化において高度に洗練されたものとしての)「文化」 や「芸術」とみなすことでその保護や発展を促す、という戦略が採られた。1997 年から行われている文化庁主催の「メディア芸術祭」に端を発し、2001 年公布の「文化芸術振興基本法」で定義された「メデイア芸術」という新たな概念の創出は、そのことを象徴的に示している。 アカデミズムは、こうした戦略を意識的/無意識的に補完してきたが、同時期、マンガを分析的に読み解く視点や方法論が、高度化、制度化しつつあったことは重要である。2001 年に「日本マンガ学会」が設立されたことで、アカデミズムにおいてマンガを研究する、 あるいはその知見を教えるということが急速に広がっていた。「マンガ研究」のそうした盛り上がりの中で、研究対象としてのマンガ資料の体系的なアーカイブが求められるようになる。筆者が関わる京都国際マンガミュージアムは、そのような研究的な要請を背景に、資料アーカイブを目的として構想され、京都精華大学という研究機関によって運営されている施設である。京都国際マンガミュージアムがアーカイブするマンガ資料は、基本的には、印刷された複製物としての刊本である。大衆文化研究としてのマンガ研究にとって、多くの人が手に取ったマンガ雑誌やマンガ本などの刊本こそが「一次資料」と見なされていたからである。 しかしながら、ジェームズ・クリフォードが言うように、芸術」であることの重要な要素が「オリジナル」「唯一無二」だとすれば[1]、それとは対称的な性質、 つまり「複製」性や「商業的」性格を持つマンガ刊本は、一般的にその価値が理解されづらく、アーカイブという、時間や経費といった様々なコストがかかる事業の対象として設定するのは困難である。 一方、マンガ原画というのは、「オリジナル」で「唯一無二」であることを主張することで、「真正性」を持った「芸術」として、社会的に理解されやすいものであると言える。文化庁による「メディア芸術」としてのマンガのアーカイブ事業が常に、マンガ原画とマンガ刊本の二本立てになっているのは、こうした社会認識と無関係ではない。 何にせよ、ある種の戦略として設定されたこの二本立ても、結果的には、マンガ研究者や社会一般に、マンガ原画というものの存在を意識させ、マンガ文化をより幅広い視点で理解する契機をもたらすことになった。 ## 3. マンガ原画アーカイブの実践——文化庁事業 を中心に 本稿では主に、関係する個人・団体が多く、投入さ れているコストも大きなプロジェクトとして、日本のマンガ原画アーカイブに大きな影響を与えていると言って過言ではない、文化庁によるマンガ原画アーカイブ事業を紹介する。 同事業は、マンガを含む「メディア芸術」4 分野 —マンガ、アニメ、ゲーム、メディアアート—— またぐ、現在も進行中のアーカイブプロジェクトのひとつで、「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」(2010 年度~2014 年度)、「メディア芸術連携促進事業」(2015 年度~2019 年度)、「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」(2020 年度~)という 3 つのフェーズの中で実施されてきた。 マンガ分野に限って言えば、まず、「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」で、全国のマンガ関連施設におけるマンガ資料のアーカイブの実態を調查しつつ、協同でプロジェクトを進めるための「コンソーシアム」を構築し、第 2 フェーズの「メディア芸術連携促進事業」では主に、複数の施設において、 マンガ資料の収集・保管作業を実際に行うことで、様々なタイプのマンガ資料のアーカイブにどのようなコストがかかるのか実証実験した。現在は、「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」という形で、それまでのネットワークを拡げつつ、より実際的で安定した活動を目指した事業を展開中である。 ## 3.1 文化庁事業における座組みの背景 ここではまず、文化庁メディア芸術マンガ分野におけるアーカイブ事業が、いくつかの段階を踏む形になっているその背景と、全体的な座組みについて解説しておきたい。そのことが、従来の「芸術」のアーカイブとの相違も明らかにしてくれると思うからである。 ## 3.1.1 第 1 フェーズにおける啓蒙事業 先述のように、マンガ文化そのものが、多くの人にとって、アーカイブする価値のあるものと認識されるようになったのはごく最近のことである。 2010 年以降のメディア芸術アーカイブ事業においても、特に初期には、なぜマンガ資料をアーカイブする必要があるのか、という一種の啓蒙活動が必要だった。 筆者のキュレーションによる、そうした問い自体をテーマとするマンガ展「土田世紀全原画展 43 年、 18,000 枚。」(於・京都国際マンガミュージアム、2014 年)は、文化庁事業とも連動した、同時期における象徵的な企画と言える。展覧会は、2012 年に急逝したマンガ家・土田世紀の遺した 2 万点に近いマンガ原画をすべて展示する、というものだった。ギャラリーを 薄暗くし、額装された原画を展示するという従来の絵画芸術の展示方法を採用することで、鑑賞者に、印刷されたマンガ本とは異なるマンガ原画の迫力を実感させるコーナーがある一方で、壁と床にマンガ原画を敷き詰めた別のギャラリーも用意した(図 1)。 図1「土田世紀全原画展」会場風景 そこで示したかったのは、マンガ原画の圧倒的な分量という新しいイシューの存在である。また、来場者は作品を踏みながら鑑賞することになるわけだが、少なくない来館者から「踏むことができない」という感想が寄せられた。しかし、そうした気持ちの先に、「私たちはなぜ、マンガ原画を踏み付けてはいけないという気持ちを抱くのだろう」という自問を抱いてもらうことこそが、この展覧会の仕掛けだった。 ## 3.1.2 「コンソーシアム」によるアーカイブ事業文化庁によるマンガアーカイブ事業が、「コンソー シアム」を前提として企画されてきたことは、マンガ という分野における関連資料が膨大に存在しているこ とを示している。池川佳宏らによる戦後ストーリーマ ンガ刊本の種類に関する調査からの概算によれば、マ ンガ原画の数は約 5,000万枚と考えられている[2]。も ち万ん、少なくない数の原画がすでに失われ、今も失 われつつあるが、一方で産み出されてもいる。つまり、原画に限って言っても、アーカイブすべきと考えられ るマンガ資料は膨大に存在するのである。こうした物量の大きさこそが、マンガを含むポピュラー文化にお けるひとつの重要な特徴であり、むしろ希少性こそを ひとつの価値基準としてきた近代的アーカイブの思想 では対応できない事態がここにある。 2009 年度に予算計上されていたにもかかわらず、「国営マンガ喫茶」と批判され、凍結された「国立义ディア芸術総合センター」計画は、結果的に、その直後に始まる文化庁によるマンガアーカイブ事業の方針に大きな影響を与えた。当初の「総合センター」の思想は、マンガ資料を含むメディア芸術に関する資料を一ヶ所に集めるというものだったが、それは、膨大さこそがその本質でもあるマンガやアニメ、ゲームといったポピュラー文化を理解していない近代的アーカイブの発想だったと言える。代わって採用されたのが、 マンガ資料を、一ヶ所ではなく、分散してアーカイブするという方針である。実際、その当時でも、全国には、マンガ関連施設が約 70 存在しており $[3]$ 、それらを核とした「コンソーシアム」を形成する方が、マンガというポピュラー文化を扱うアーカイブの手法としては現実的だったのである。 ## 3.1.3 相互補完する原画/刊本アーカイブ もう一つ、文化庁事業としてのマンガアーカイブの座組みにおいて重要なのは、マンガ原画とマンガ刊本のアーカイブが相互補完的な形で構想されていることである。マンガの原画には、印刷された刊本などからは読み取れない、実作上の工夫や苦労が刻まれているが、その原稿が、マンガ作品として、いつ、どのような形で、どのような読者の手に渡ったのか、ということが判明してはじめて、その意義を知ることができる。 そのためには、多くの人々の手にするインターフェイスとしてのマンガ雑誌、マンガ単行本などのメディアと、原画がひもづけられる必要があるのである。 ## 3.2 マンガ原画アーカイブの実際 ## 3.2.1 マンガ原画の〈収集〉 文化庁事業としてのマンガ資料アーカイブにおいて、「アーカイブ」は、〈収集〉〈保存・管理〉〈活用〉という三段階が想定されている。 マンガ原画の収集に関しては、緊急性ということを念頭にした計画が立てられた。なぜなら、今この瞬間においても、マンガ原画は、大量に失われつつあるからである。 マンガというのは、歴史的に、制作者(マンガ家、出版社)にとっても、読者にとっても、最終的かつ唯一の「完成品」は、編集され印刷された刊本だとみなされてきた。マンガ原画とは言わば“中間生成物”であり、制作者によっては、見せたくない “舞台裏”ですらあった。それゆえ、マンガ原画は、一般的に、制作メモや下描き同様、廃棄対象だった。現在残っている原画の多くも、積極的に保管されていたというょり、偶然残っていたというものは少なくない。 文化庁マンガアーカイブ事業においては、このよう に失われつつあるマンガ原画を“レスキュー”することを重視した。“駆け达み寺”という表現がしばしば使われ、保管環境や体制が整っていなかったとしても、喪失を食い止めることが優先された。 第 2 フェーズの「メデイア芸術連携促進事業」(2015 年度〜2019 年度) の最終年度には、横手市増田まんが美術館内に、原画アーカイブに関する相談密口業務を行う「マンガ原画アーカイブセンター (MGAC)」 が開設された。相談案件のほとんどはマンガ原画の寄贈に関するものである。2020 年度には 24 件の相談があった。そうした相談案件を、関係施設・機関で構成された「マンガ原画アーカイブネットワーク」内で検討し、自館で引き取ったり、しかるべき保管先を提案したりする、ということを実験中である。もっとも、 そうした調整の速度を超える形で、行き場を失ったマンガ原画に関する相談が、MGAC 等に入ってくるのが現状である。第3フェーズである「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」(2020 年度〜) においては、仮預かり機能を持った、文字通り “駆け込み寺”としての「マンガ原画プール」の実験も始めている。横手市増田まんが美術館や石ノ森萬画館などの既存施設を一時的な「プール」と設定して原画を預かり、最低限の資料調査とリストを作成しつつ、最終的な受け入れ先を探すという事業である。 ## 3.2.2 マンガ原画の〈保存・管理〉 「メディア芸術連携促進事業」(2015年度〜2019年度) では、そうして集められたマンガ原画や、元々所蔵していたマンガ原画を、事業に参加する施設や団体それぞれが、保存・管理するための作業を行った。 ## (1)モノとしてのマンガ原画の保存・管理 具体的には、物理的なモノとしてのマンガ原画を対象に、それらをいかに分類し、どのような袋や箱などに収め、管理するかという実験が、試行錯誤の中、進められた。並行して、保存科学の専門家によるチームが結成され、モノとしてのマンガ原画(およびマンガ刊本)の保管と修復に関する研究が行われた。マンガ文化は、安く手軽に楽しめるポピュラーエンタテインメント商品であることが本質であり、モノとしての原画も刊本も、捨てることが前提に作られていると言って過言ではない。そのため、マンガ原画に限って言っても、画材(インク等)や支持体(紙等)、補修のためのセロハンテープや化学性のりなど、ほとんどすべての要素がアーカイブということに向いていない。そうしたモノを、いかに延命させ、場合によっては補修・補強しながら保管できるのか、ということは、同事業においても、いまだ正解が得られていない大きな問題である。 ## (2)データの作成 保存・管理という過程においてはまた、マンガ原画の画像データおよびメタデータの作成も行っている。画像データは、スキャニングあるいは撮影によって行われるが、その精度は、作業を行った施設・団体の運営体制や用途などによって、管理上のサムネイル程度のものから、1200dpi もの高精度のものまで幅がある。 また、マンガ刊本のメタデータや所蔵データがしばしば、所蔵館によってデータベース化され、公開されているのに対し、これらマンガ原画に関するデータがそうなっていることはほとんどない。 ## (3)多様な保存・管理方法の開発の必要 「メディア芸術連携促進事業」(2015年度~2019年度) における保存・管理作業の実験は、マンガ原画のアー カイブに必要なコストを計算することがひとつの目的たっったが、結果的には、作品のジャンルや制作年代、原画の状態や著作権者-所蔵者の状況によって、かかるコスト/かけられるコストが大きく異なることがわかった。例えば、週刊少年誌の連載作品はぺージ数が多いため、画像デー夕の作成には時間がかかる。一方、一般週刊誌などに揭載された一コマ諷刺マンガは、画像データの作成に時間はかからないが、初出情報の調查のために澎大な調査時間を要することもあった。 同事業では、マンガ原画の保存・管理のためのマニュアルを作成したが、そこでは、原画を個人で保管しておきたいという作家や遺族から、比較的コストをかけることができる文化施設まで、作業の多萓によるいくつかのパターンを設定した。このマニュアルは、 2020 年度以降の「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」でもブラッシュアップが検討され続けている[4]。 ## 3.2.3 マンガ原画の〈活用〉 ## (1)期待される文化の活用 最後に、マンガ原画アーカイブの活用ということについて、述べておきたい。特に 2000 年代以降、文化産業の中心は、マンガやアニメを含むいわゆる「コンテンツ産業」であると言っていいが、並行するかのように、文化政策にも大きな変更が起こっている。それが、「文化芸術」の「活用」を期待するという動きである。このことを詳しく分析した山田奖治によれば、 2017 年に「文化芸術振興基本法」が改正され制定さ れた「文化芸術基本法」のうち、旧法に追加された部分には、「日本の「文化」概念に転換をもたらすようなことが含まれてい」て、それは、「「文化芸術」が生み出す価値を観光、まちづくりほかに活用し、そこで生まれた利潤を「文化芸術」の継承・発展・創造に使うサイクルを作りたいということ」だと言う。山田はまた、「文化芸術」の「活用」が重要とされるようになった状況を「戦後日本の「文化」概念にとって新しい事態」と述べている[5]。こことが、「コンテンツ産業」のひとつであるマンガが「文化芸術」として存在するために、社会的に求められる条件のひとつになっている背景でもあり、文化庁によるマンガ原画のアーカイブ事業において、その活用があらかじめ意識されていた背景でもあると言えるだろう。 ## (2) モノとしてのマンガ原画の活用 マンガ原画の活用として、ここでは、モノとしての原画の活用と、画像データの活用の事例をいくつか紹介しておきたい。 モノとしての原画の活用例として最も多いのは、展覧会への出展だ万う。近年、マンガをテーマにした展覧会は、公立の文化施設などでも数多く開催されるようになったが、そのうちの少なくないマンガ展が、マンガ原画展である ${ }^{[6]}$ 。むしろ、国立美術館での初のマンガ家の個展である「手塚治虫展」(於・東京国立近代美術館、1990 年) 以来、マンガ原画展という形式が、 マンガの「文化芸術」的な価値を担保してきたと言つてもいいかもしれない。 もっとも、では、そうしたマンガ原画展に足を運ぶ人々が、原画と、原画を元に作られた刊本の違いについて、どれだけ理解しているのかは疑問だ。マンガ原画展の制作者も、来場者のマンガ原画のリテラシーを高めるような解説や、そのための調査研究を行ってきたとは言い難い。 その点、マンガ原画アーカイブの中心的役割を果たしている横手市増田まんが美術館の原画展は注目に値する。「ゲンガノミカタ原画でひもとく6つのマンガ史」展(2019年)は、「スクリーントーンは「貼るだけ」じゃない!」「ホワイトでつけるアクセント」「この「切り貼り」は何のため?」「なぜか裏側にも絵が?」 など、マンガ原画の 10 の「観方」を、同館所蔵の原画作品を示しながら丁寧に解説した。「小島剛夕原画論」展(2021 年)は、同館に所蔵されている小島剛夕の膨大な原画アーカイブの調査研究を元にした展覧会である。遺された原画の多くが切り張りされていることに注目、それが、同じ作品を様々な媒体で繰り返 し発表される際の、原稿サイズを変更するための作業跡であったことを明らかにした。これは、モノとしての原画を実際に手にすることができたからこその、そして、比較すべき様々な形で出版された刊本のアーカイブが進んでいたからこそのメディア研究、表現研究たっったと言える。同展は、原画アーカイブが進むことでこうした研究が活性化することも示した。 ## (3)マンガ原画の画像データ活用 マンガ原画の画像データは現在どのように活用されているのだろう。 最も多いのは、(再) 出版事業における原稿としてである。興味深いのは、通常であれば印刷・製本の過程で消去されるような、修正や切り貼り、污れといったものまで再現するヴァージョンの出版が登場してきていることた。例えば、赤塚不二夫『「おそ松くん」 とアカツカ怪作劇場』(宝島社、2016年)という復刻出版では、「赤塚先生の技法をよりわかりやすくご覧いただくため、特別に現存する原画をそのまま揭載」 している(図2)。 図2 赤塚不二夫『「おそ松くん」とアカツカ怪作劇場』宝島社、2016年、 p.10。赤塚不二夫「おそ松くん」の「原画感」を残したマンガ単行本。 「赤塚先生の技法」というのは、同じ顔をした主人公の六つ子を描く代わりに、当時珍しかったゼロックスコピーを切り貼りするというものだ。他にも、望月三起也「ワイルド7」の復刻出版が、「生原稿 ver.」というシリーズ(復刊ドットコム、2017-2018 年)とし てなされた。 集英社による「集英社マンガアートヘリテージ」は、原画を生産してきた出版社自身が企画・運営する原画アーカイブ事業として、注目されている。モノとしての原画のアーカイブは、劣化や収蔵スペースなどの本質的な問題に対して明確な回答を見いだせていないが、同事業は、「デジタルの力を活用することで、この問題を解決できないか」[7] という発想が出発点にある。正確に言えば、モノのアーカイブとは相互補完的な事業として位置付けられており、実際、主にモノとしての原画を扱っている「原画アーカイブセンター」 とは、定期的に情報交換するなど、協力関係にある。 「集英社マンガアートヘリテージ」が興味深いのは、高精度スキャンしたデータをプリントした複製原画を販売するビジネス活用につなげるだけでなく、データそのものも頒布の対象としている点にある。高精度デジタル画像は、モニタ上で拡大可能なため、現物を肉眼で観るだけではわからなかったことまで発見できる可能性があるとする。 同事業がさらに興味深いのは、アナログで制作されたマンガ原画だけでなく、元々フルデジタルで作成されたデータ原稿も対象にしたプロジェクトである点だろう。このデータは、デジタル制作の過程も記録されたものだが、マンガ家で、韓国・釜山にある「釜山グローバルウェブトウーンセンター」のキュレーターでもあるナム・ジョンフンも言うように[8]、原画が大切なのは、それが制作過程そのものを示しているからたとすれば、「マンガアートヘリテージ」のこの試み正しく「原画アーカイブ」のひとつと言えるだ万う。同事業におけるデータの頒布においては、「アートブロックチェインネットワークで、作品を保証し、来歴を管理」している。現代美術の世界ではグローバルに受け入れられつつあるNFTとしてのアートコンテンツだが、「絵師」と呼ばれるイラストレーターが手がけるマンガイラストも、VR 空間上の「ギャラリー」 に「展示」されたNFTとして販売するという試みも始まりつつある。 ## 4. おわりに 様々な形で急速に進みつつあるマンガ原画のアーカイブだが、考え続けなければならない問題は山積している。すでに述べたように、モノとしての膨大さや脆弱性は、マンガが、ポピュラー文化、サブカルチャー として発展してきたという、この文化の本質と関わっ ている。そのポピュラリティーが複製技術に支えられているため、そもそもこれを従来の「芸術」として理解し、これまでの「芸術」と同様のアーカイブの考え方が通用するのか、ということは問い直す必要がある。 さらに言えば、マンガのようなポピュラー文化と、近代的なアーカイブが対象としてきたものの大きな違いは、前者は“生きている文化”である、ということだ。価值が定まっている上に消滅していく可能性があるものこそが、ミュージアムなどのアーカイブ施設に収めるべき対象と想定される近代的な発想では対応できない事態が登場していると言える。生きているゆえに、 その社会的価値は日々変化し、「マンガ」という輪郭そのものすら変容している。 しかし、だからこそ、近代的アーカイブの思想がそうであったように、権力を持った者が価値を決めるのではなく、この文化のファンも含め、様々な立場の個人や団体がネットワークを築きながら、絶え間ない実験を続けるしかないのである。 ## 註・参考文献 [1] ジェームズ・クリフォード, 太田好信・訳. 文化の窮状二十世紀の民族誌、文学、芸術. 人文書院. 2003. (Clifford, James. The Predicament of Culture: Twentieth-Century Ethnography, Literature, and Art. Harvard University Press. 1988.) [2] 文化庁事業のひとつである「マンガ原画に関するアーカイブおよび拠点形成の推進」で作成した「マンガ原画アーカイブマニュアル(2019年度)」. https://mediag.bunka.go.jp/mediag_ wp/wp-content/uploads/2020/04/38_jv1_2.pdf (参照 2021-10-20). [3] 伊藤遊, 谷川竜一, 村田麻里子, 山中千恵. マンガミュージアムへ行こう. 岩波書店. 2014. [4] マンガ原画の保存・管理の作業マニュアルは、註[2]の「マンガ原画アーカイブマニュアル(2019年度)」に加え、 2016年度「関連施設の連携によるマンガ原画管理のための方法の確立と人材の育成」実施報告書. https://mediag.bunka. go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2017/05/report-genga.pdf (参照 2021-10-20). および2018年度「マンガ原画に関するアーカイブ(収集、整理・保存・利活用)および拠点形成の推進」実施報告書. https://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/ wp-content/uploads/2019/03/a9d3485d26c59528a1 ef10291f21a 0b1.pdf (参照 2021-10-20). [5] 山田奨治. 著作権は文化を発展させるのか人権と文化コモンズ. 人文書院. 2021. 168-170. [6] イトウユウ.マンガ展素描2019「複製芸術」と「展示」するということ.マンガ研究. vol. 27. 日本マンガ学会. 2021. [7]「集英社マンガアートヘリテージ」ウェブサイト. https://mangaart.jp/ja (参照 2021-10-20). [8]「国際博物館会議(ICOM〈アイコム〉)京都大会」のパネルセッション「〈マンガ展〉の可能性と不可能性英韓日の比較から」(於・国立京都国際会館、2019年9月4日) での発言より。
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# 日本のビジュアルメディア領域の ための知識グラフ提供へ Creating a knowledge graph for the domain of Japanese Visual Media 抄録:日本のビジュアルメディアに関する研究データが不足している中、Japanese Visual Media Graph プロジェクトは、ファンのコ ミュニティーがオンラインで集めキュレートする澎大な量のデータに注目し、それらの多様なデー夕を接続し、統合された RDF ベースのオントロジーを有する中心となる知識グラフを作成することを目的とする。本論文はそのデータへの取り組みと今後の展開を紹介する。 Abstract: Amidst a lack of research data on Japan's visual media, the project “Japanese Visual Media Graph" explores the rich data resources gathered and curated by enthusiast fans online, aiming to connect these heterogeneous resources in a central knowledge graph with an unified, RDF-based ontology. This article introduces the approach and provides an outlook on next steps. キーワード : 知識グラフ、オントロジー、LOD、ビジュアルメディア Keywords: knowledge graph, ontology, linked open data, visual media ## 1. はじめに 近年、アニメーション、漫画、ゲームという、日本で盛んに生産されるビジュアルメディアは国際的に人気を収めている。それに伴い、メデイア研究やマンガスタディーズからファンスタディーズまで、多々の観点からの学問的関心が寄せられるようになった $[1-3]$ 。 とりわけ、インターネットの発展に連れて、いわゆる 「ユーザー作成コンテンツ」研究 $[4]$ やより広い視野を適用する参加型文化研究 ${ }^{[5][6]}$ が注目されるようになった。一方で、ビジュアルメディアの「中身」に関する研究データが不足している。図書館などで作成される利用可能なデータは、その範井や内容において限界がある。ところで、ファンのコミュニティーはオンラインで膨大な量のデータを集めキュレートし、当メディアを驚くほど詳細に把握している。研究目的で作成されていないものの、それぞれのデータベースは様々な情報源に頼り、独自のデータモデルやボキャブラリーを開発しながらメディア資源(Media resources) の様々な側面を記述している。こうした多様性はビジュアルメディアを幅広く捉えようとする研究にとって大きな問題となっている。Japanese Visual Media Graph プロジェクト[7](以下 JVMG とする)はこの問題を解決するために、多様なデータを接続し、統合されたRDFベースのオントロジーを有する中心となる知識グラフを作成することを目的とする。 2. 熱心なコミュニティーとのコラボレーション知識グラフの作成に向けての第一ステップは、複数のオンラインファンコミュニティーのデータを収集・分析することである。それは技術的な作業を要すると同時に、表面的な領域分析として、各コミュニティー が自分のデー夕をどのように理解し、どのように定義するかを的確に反映する統一されたオントロジーを生み出す。このような分析から、データのクオリティー や信頼性の度合い、多様なりソースのタイプやエンティティーの記述粒度、ドメインのカバー率などは、基本的な観点やドメインの限界を研究者に対し明らかにし、各研究の手助けとなり、将来の研究に必要な情報が得られる。 プロジェクトの初期段階で打よそ 70 個のオンラインコミュニティーデータベースを特定し、データクオリティーやデータ量、範囲の多様性、言語、サイト固 有の情報という観点から評価した。これらの熱心なコミュニティーは 3 種類に分類できる。 第 1 には、日本ビジュアルメディア領域を幅広くカバーしながら、より広い視野を持つコミュニティーがある。その代表的な例は、日本のアニメ、漫画、実写ドラマについて情報を集めている AnimeClick ${ }^{[8]}$ というイタリア語のサイトである。当サイトは特定の焦点なく、これらのメディアをファンダムウィキという形式で扱っている。データはアニメーション作品、コミック作品、キャラクター、スタッフといった4つの実体に区分されている。作品区分では詳細な情報が収集されているのに対しキャラクターのそれには限りがあるように、それぞれの区分において粒度が異なっている。アニメーションやコミック作品間のアダプテー ションやキャラクターとその声優の関係を表すエンティティー間の関連情報は登録されている。データの一部はイタリア語であるが、エピソード数、完結度合い、データベース内の関連情報などのように言語とは無関係なデータも多くある。 第 2 には、アニメやゲームなど、領域内の特定のメディアを範囲とするコミュニティーがある。その一例としてビジュアルノベルゲームにのみ注目する The Visual Novel Database (VNDB) ${ }^{[9]}$ があげられる。単独のメディアジャンルに限定されている一方、作品、 キャラクター、貢献者(スタッフ)など、当ジャンルに関する情報の精密性は当メディアジャンルにおいて類なく高いものである。他のコミュニティーと違って、 コンテンツだけでなく、ビジュアルノベルゲームの物理的媒体までが注目され、コンテンツと媒体はエンティティータイプ「ビジュアルノベル」と「リリース」 に区別されている。コンテンツに関するエンティティーには、キャラクター情報やその構成要素、ユー ザー作成の夕グ、そして作成に貢献した人物とその貢献内容を含む。また、エンティティー間の関連情報も多様に登録され、ワークエンティティーに繋げられている。本データベース及びコミュニティーの強みは、精密性、タグや構成要素の堅牢性と合理的なエンティティー間関連構築にある。また、ところどころ外部へのリンク、とりわけウィキペディアへのそれが提供されている。 第 3 には、領域のある側面に焦点を当てるコミュニティーがある。アニメを始め、オリジナルアート、 ゲーム、漫画などの「アニメ的」キャラクターを幅広く扱う Anime Characters Database (ACDB) ${ }^{[10]}$ はその重要な一例としてあげられる。ACDB は自称「ビジュアルサーチエンジン」であり、髪や目の色、年齢、服装 のタイプなど、特定の構成要素によりキャラクターをインデックス化する。結果としてユーザーに統一されたキャラクター構成要素を提供している。VNDB と比べてこれらの要素を限定することにより曖昧さをより抑えている一方、精密性に限度がある。例えば、髪の長さは記録できるが、髪型までは記録できない。 ACDB は、Character エンティティー以外に、キャラクターのソースとしても機能する Workエンティティー、声優に該当する People エンティティー、そしてキャラクターやワークに関するCharacter Tagエンティティー、 Series Tagエンティティーが存在する。ACDBは、 VNDBより精密度が低いものの、複数のメディアに関するキャラクター情報を提供するとともに、メディア間のエンティティー関係を幅広く記録している。それにより、シリーズやフランチャイズの Workエンティティーと、特定なメディアにおける Workエンティティーを紐付けている。複数のメディアやメディアミックス的な Workエンテイティーを有しない VNDB ではこのような関係が見えてこない。統合されたコミュニティーデータセットに対して、ACDB の一番重要な貢献はこのようなメディアを超えるエンティティー間の関連データである。 ## 3. データ統合プロセス データ統合プロセスは3つのステップに分けて行っている。まずは、コミュニティーデータを、オリジナルフォーマットである SQL テーブルやその他の関係データベースで収集する。次に、データセット毎にクラス構造とボキャブラリーからなる RDF(Resource Description Framework) オントロジーを作成した。そしてデータは、セマンティック・リッチネスを維持しながら、それぞれのオントロジーに基づき RDF シリアル化形式に変換される。最後のステップでは、デー タセット間の重複や矛盾を含め、すべてのエンティティーをマッチングすることにより、統合されたデー タセットを作成する。エンティティータイプ毎にアトリビュートのサブセットを作成し、データをそのアトリビュートにマッピングをする。重複データや矛盾はこのステップで解消される。その方法の一つは、正典的タイトルなど、優先したい情報を選び、残る情報をバリエーション(例えばタイトルバリエーション)として登録することである。オントロジーがデータとは外部に存在するため、集約したリソースのためにネー ムスペースの独自の領域を選ぶことが可能である。 多様なコミュニティーデータを事前に指定した中心的オントロジーへ単位マッピングすることに比べて作 業量が増えるにもかかわらずこうして RDFデー夕と外部付のオントロジーの組み合わせを選んでいるのは、以下の利点があるからである ${ }^{[11]}$ 。オリジナルなコミュニティーデータはそのまま保たれ、集約したリソースヘリンクされるため、その由来は各々のデータポイントやステートメントのレベルで保たれる。また、研究者が一つのデータセットにだけ焦点を当てたい場合、集約したデータセットと同じような分析ツールや方法が各コミュニティーデータセットにも使用できる。さらに、コミュニティーデータとデータレポジトリーの間に一対一の関係があるため、各データセットのアップデートや変化は安易に適用できる。そして、集約や結合を最後のステップとして行うことで、既に研究者のデー夕に対する理解が進んだ上で、それまでのステップに影響せずに結果を反復法的に磨くことが可能になる。 ## 4. 研究者へのアクセス 全エンティティー・全プロパティーは URIにより特定できることから、RDF を探検するための方法には URI に関連付けられる情報をすべて表示するサー バーを設置することがある。これは、いわばリンクトデータの中心的な考えである。すなわち、リンクトデータのフロントエンドがアプリケーションにURI を通して「生」のRDFデータを提供する一方、人間のユーザーがブラウザーを介して同じ URI にアクセスする時に、全データの人間解読可能な HTML バー ジョンが提供されるというものである。人間解読可能な表示に打いて、全ての URIがリンクに変換することが可能であるため、このようなフロントエンドは、 データセットの簡便な探索・ナビゲーションを提供する。そのため、多くの商業的 RDFトリプルストアはシンプルなフロントエンドを搭載している。しかし、 これらの多くは設定のオプションに限界がある。したがって、本プロジェクトでは、CSS (Cascading Style Sheets)によるスタイルの拡張、ラベルの言語設定、由来データを詳細に表示可能とする独自のオープンソース RDF フロントエンドを開発した (図 1) ${ }^{[12]}$ 。 HTML バージョンをコンパクトに収めるために、 プレビュー程度のデータだけを表示するアトリビュー トセクションを展開させる機能やフィルター機能を加えた。フレームワークは、プラグインのような拡張を ## Phorni Dark Mode Search crosstab graphs languages Resource: http://mediagraph.link/vndb/character/1 ## Graph: vndb } & \multicolumn{3}{|l|}{ Value } \\ 追加することで、新しい機能を加えることを可能にしている。例えば、プロジェクト内の研究ニーズを踏まえ、エラスティックサーチインデックスを挿入することで特定の URI やラベルを検索することが可能になる拡張を追加した。 ## 5. 展望 今後、まずデータ分析やインパクト分析の中で浮き彫りになった問題を解決する必要がある。とりわけ、 コミュニティー内のデータクオリティーを分析している。メディア芸術データベースを接続させることで、 オーソリティーに関する問題に取り組んでいる。同時に、コミュニティーデー夕間の関連を構築できるように努力したい。新たな接続可能なデータの特定、新たな接続方法の開発は今後も継続的に行う予定である。 そして、何よりも、デー夕を研究目的で利用する研究者との連携を発展させることが、本来のプロジェクトの目標に向かうことを意味する。同時に、そうした連携はまた知識グラフのさらなる発展のために貴重なフィードバックをもたらすだろう。 ## 註・参考文献 [1] Fennell, D., Liberato, A. S. Q., Hayden, B., Fujino, Y.: Consuming Anime. Television \& New Media. 2013, 14(2), 440-456. https://doi.org/10.1177/1527476412436986 [2] Berndt J.: Anime in Academia: Representative Object, Media Form, and Japanese Studies. Arts. 2018, 7(4), 56-69. https://doi.org/10.3390/arts7040056 [3] Lee, J. H., Shim, Y., Jett, J.: Analyzing User Requests for Anime Recommendations. In: Proceedings of the 15th ACM/IEEE-CS Joint Conference on Digital Libraries (JCDL '15). 2015, 269-270. Association for Computing Machinery, New York. https://doi.org/10.1145/2756406.2756969 [4] Windleharth, T. W., Jett, J., Shmalz, M., Lee, J. H.: Full Steam Ahead: A Conceptual Analysis of User-Supplied Tags on Steam. Cataloging \& Classification Quarterly. 2016, 54(7), 418-441. https://doi.org/10.1080/01639374.2016.1190951 [5] Mittell, J.: Sites of participation: Wiki fandom and the case of Lostpedia. Transformative Works and Cultures. 2019, 3. https://doi.org/10.3983/twc.2009.0118 [6] Popova, M.: Fan studies, citation practices, and fannish knowledge production. Transformative Works and Cultures. 2020, 33. https://doi.org/10.3983/twc.2020.1861 [7] Japanese Visual Media Graph. https://jvmg.iuk.hdm-stuttgart.de/ (参照 2021-11-22). [8] AnimeClick. https://animeclick.it (参照 2021-11-22). [9] Visual Novel Database (VNDB). https://vndb.org (参照 2021-11-22). [10] Anime Characters Database (ACDB). https://animecharactersdatabase.com (参照 2021-11-22). [11] Kiryakos, S., Pfeffer, M.: The Benefits of RDF and External Ontologies for Heterogeneous Data: A Case Study Using the Japanese Visual Media Graph. In: Information between Data and Knowledge, Proceedings of the 16th International Symposium of Information Science (ISI 2021). 2021, 308-320. Glückstadt: Verlag Werner Hülsbusch. https://doi.org/10.5283/epub. 44950 [12] オープンソースRDFフロントエンド. https://mediagraph.link/index.html (参照 2021-11-22). フロントエンドのソースコードは下記からアクセスできる。https://github.com/Japanese-Visual-Media-Graph (参照 2021-11-22).
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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