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# 「デジタルアーカイブ整備推進法 (仮称)」に関する意見交換会報告 デジタルアーカイブ学会法制度部会は 2017 年に、 デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) の要請を受け、デジタルアーカイブの整備・推進を目的とする法制度について検討してきました。その検討結果は自民党の議員連盟 (以下「議連」)に提案され、現在、当該要綱案がデジタル文化資産推進議連総会に て提示されるという段階に来ています。法制度部会で は、その要綱案を会員に説明し、意見交換を行う事を 目的とし、2018年 9 月 18 日に「意見交換会」を開催 しました。その概要を報告いたします。 (文責:橋本 阿友子(骨董通り法律事務所、法制度部会員)) ## 【概要】 主催:デジタルアーカイブ学会法制度部会 日時:2018 年9月 18 日(火)9:15 16:00 場所: 東京大学本郷キャンパス情報学環ダイワユビキタス学術研究館石橋信夫記念ホール 構成: 経緯と概要説明(10 分): 福井健策法制度部会長法案要綱説明 (30 分) : 藤森純弁護士 (法制度部会員)質疑応答及び意見交換(80 分):法制度部会員及び学会会員 パネラー (柳与志夫東京大学大学院特任教授、瀬尾太一日本写真著作権協会常務理事、足立昌聰弁護士、藤森純弁護士、数藤雅彦弁護士、生貝直人東洋大学准教授 (着席順)) ## 1. 背景と概要説明(福井健策法制度部会長) 今回の要綱案をまとめるに至った背景について説明したい (スライド 1)。 デジタルアーカイブは 2009 年が大きな転機となった。国会図書館によるデジタル化に 127 億円という、 それまでからすると 100 年分の予算が一気についた。同時に著作権法が改正され、国立国会図書館において権利者の許諾なくデジタル化が可能となった。ただし、国会図書館が権利者の許諾なく行うことのできる他の図書館等への送信の対象は絶版等資料に限るものとさ 福井健策法制度部会長(弁護士) ## 花開くデジタルアーカイブ れた。 2015 年の知財推進計画でも重点目標とされた。 2017 年にはデジタルアーカイブ学会、DAPCON の発足、超党派の議連が再スタートするなどの進展があった。2019年からジャパンサーチの試験稼動が行われる予定である。ジャパンサーチとは、全国のデジタルアーカイブをつなぐ、国会図書館に置かれたポータルとして機能する。デジタルアーカイブの課題は、「ヒト・カネ・権利」であろう。この分野は慢性的な人手と予算不足に悩まされている。 次に、権利について補足したい(スライド 2)。権利処理コストとは、権利者に支払われる作品の使用料ではなく、その前段階の、権利者を探して交涉する権利処理の手間㗇のコストを意味する。この権利処理コ & & & & 所有権 \\ $\Rightarrow$ 権利処理コスト:1番組あたり30万円 (NHKオンデマンド) $\Rightarrow$ 公開率 $1 \%$ 未満 (NHKアーカイブズ) スライド2 デジタルアーカイブに関わる権利一覧 ストは、日本放送協会 (NHK) によれば、1作品につき平均 30 万円を要すると言われている(NHK オンデマンドの例)。NHKは、過去に放送したテレビ番組のアーカイブ活動を行っているが (NHKアーカイブズ)、 その公開率は設立 10 年時点で約 $1 \%$ と、決して高くない。 最後に、アーカイブ振興法制の試みについてご説明したい。2017 年に、DAPCON が法制度部会の協力のもと、振興基本法を自民党の議連に提案した。現在、当該要綱案がデジタル文化資産推進議連総会にて提示されたという段階にきている。今後は我々も、1ステークホルダーとして関わっていくことになる。要望を出していくこと、方向性に疑義があれば注意喚起することが重要であろう。 ## 2. 法案要綱説明 (藤森純弁護士 (法制度部会員)) 次に、藤森委員から、要綱案の具体的な説明が行われた。 藤森純弁護士 要綱案を概説する。骨子案をご覧いたたききたい(スライド 3)。 「第一『総則』一目的」では、3つの目的が規定されている(スライド 4 )。一つは、基本理念を定め、 ## 骨子案の構成 1. 総則 2. デジタルアーカイブ整備推進基本計画 3. 基本的施策 4. デジタルアーカイブ整備推進協議会 5. その他 スライド3 デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)骨子案の構成 責務を明らかにすること、二つ、施策の基本事項を定めること、三つ、デジタルアーカイブ整備推進協議会を設置して、施策を推進すること、と定めている。 ## 第一 総則 - 目的 ・基本理念を定めて、国、地方公共団体及び事業者の責務を明らかにすること ・デジタルアーカイブ整備推進基本計画の作成その他デジタルアーカイブの整備の推進に関する施策の基本となる事項を定めること ・ デジタルアーカイブ整備推進協議会を設置し、デジタルアーカイブの整備の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進すること スライド4 デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)「総則目的」の概要 「二定義」では、「知的財産データ」と「デジタルアーカイブ」の2つの定義を置いた(スライド5)。 「知的財産データ」の定義については、他の法令や関係者との関連で、「知的財産」という文言を定義に含めること自体が課題となりうる。法制局では、メ夕データだけではなくデジタル化されたデータそのものも含むと説明している。議連では産業より過ぎるのではないかとの意見も出た。「価値の高い」ではなく「価値を有する」と定義している点については、データを収集する段階では、収集するデータの価値に差を設けない考えを表している。価値は時代の流れによって変わる点も考慮し、価値の高さによって定義を絞らないとの視点は重要だと考えている。デー夕単体で価値の有無を判断するのか、単体では価値がないがデータを集合体として捉えたときにはじめて価値を有するに至ったものを含めるかについては、今後議論となり得るものと考えられる。 「デジタルアーカイブ」の定義については、個人情報保護法 2 条 4 項「個人情報データベース」に類似した定義としている。検索の主体や検索方法については、今後議論となり得るだろう。個別法規や運用で適切な範囲を決するのも一法だと思われる。 ## 第一 総則 二 定義 -「知的財産データ」 電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録をいう。) に記録された知的財産 (知的財産基本法 (平成十四年法律第百二十二号) 第二条第一項に規定する知的財産をいう。) に関する情報であって,歴史上、芸術上、学術上、観賞上又は産業上価値のあるもの $\cdot$「デジタルアーカイブ」 。 知的財産データを含む情報の集合物であって、特定の知的財産データを電子計算機を用いて検素することができるように体系的に構成したもの スライド5 デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)「総則定義」の概要 「三基本理念」第 1 項では、知的財産デー夕の永続的な保存が規定されている(スライド6)。これは、知的財産データが永続的に活用できる資源であるという考えを示している。そのような形で保存することが過大な負担ではないかという問題点はある。 また、この基本理念は第 2 項で、「文化の継承および発信」を明示している点で特徴的である。同第 3 項は、官民データ活用推進基本法第 3 条第 4 項に倣って規定している。権利保護の視点の表れである。第 5 項では、具体的には多言語化、翻訳の方向性が示されている。 ## 第一 総則 三 基本理念 - 知的財産データを永続的に利用することができるよう保存。高度情報通信ネットワークを通じて容易に利用できる方法で提供。 - 文化の継承・発信、教育の振興、防災対策の推進、福祉の增進、医療の充実、観光の振興等を通じて地域及び我が国経済の活性化に資すること。 - 情報通信の技術の利用における安全性及び信頼性の確保。個人及び法人の権利利益、国の安全等が害されることのないようにすること。 - 国及び地方公共団体の有する知的財産のみならず、事業者その他の者の有する知的財産についてデジタルアーカイブの整備を推進するための措置を講ずること。 - 我が国の知的財産データを広く世界へ発信。 スライド6 デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)「総則基本理念」の概要 「第一『総則』」の四から六では、各機関の責務について定めている(スライド7)。「四国の責務」では国の責務として、デジタルアーカイブの整備のための援助を規定している点は評価できるものと考えている。「六事業者の責務」では、事業者の責務の対象をどこまで含めるかは議論の対象となり得る。 「七法制上の措置」の「金融上の措置」とは、政府系金融機関による低利融資を想定したことによる。 「第二デジタルアーカイブ整備推進基本計画」では、第 1 項で、政府の基本計画の策定義務を定めている(スライド 8)。ここに「数值目標」という表現を入れるかは今後の課題であろう。現状、主務官庁は定まってい ## 第一 総則 責務、法制上の措置 \\ - 四 国の責務 \\ - 五 地方公共団体の責務 \\ - 六 事業者の責務 \\ - 七 法制上の措置等 スライド7 デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)「総則責務・法制上の措置」の概要 ない。第 5 項では、主務大臣には、デジタルアーカイブ整備推進協議会の意見聴取が義務付けられる。 第 8 項ではデジタルアーカイブ整備推進基本計画の見直しを定めており、そのタイミングを「少なくとも三年ごとに」と定めている。関係機関の負担を考慮し、 デジタルアーカイブに関しては三年ごとと規定したものであるが、毎年見直しにするのか、骨太の方針を示して三年ごとにするのかなど、議論の余地はあろう。 ## 第二 デジタルアーカイブ整備推進基本計画 ・ デジタルアーカイブ整備推進基本計画の策定義務 - 基本計画に定める事項 - 具体的目標 ・達成期間の設定 - 基本計画の案作成時における、関係行政機関の長との協議・デジタルアーカイブ整備推進協議会の意見聴取 - 設定した具体的目標の達成状況の調査・結果の公表 - 少なくとも3年ごとの基本計画の見直し スライド8 デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)「整備推進基本計画」 の概要 「第三基本的施策三」では、国がデジタルアー カイブに関する措置を講ずる対象を、「価値の高い」知的財産に限らず、「価値を有する」知的財産と規定しているが、国が施策を定めるのは、価値の高いものに限る趣旨なのか、今後の議論の対象となり得る。 「第四デジタルアーカイブ整備推進協議会」では、第 1 項に規定の、協議会をどの省に設置するのかが課題である。経産省に設置すれば、経済的価値に比重が置かれると考えられる。経産省以外を検討するとすれば、いずれの省庁に設置するのが適切か、検討の余地があろうと思われる。 「第五その他二検討」第 1 項第 1 号では、補助金等の交付を受けて制作されたものは、公共財としてインターネットで提供できることになるが、著作物に対する過度の負担となり得るため、今後の課題となろう。同第 2 号では、権利者不明データ $\rightarrow$ 権利の壁の問題への取り組みである。第 4 号では施行後三年以内に、施行状況の検討をすると規定した。 ## 3. 質疑応答及び意見交換(80分):法制度部会員及び学会会員 生貝副部会長が司会を務め、パネラーから一言ずつコメントがあったのち、参加者との間で質疑応答が行われた。 (足立)要綱案の主務官庁をどこに設置するのかも含めて、意見を伺いたい。 (瀬尾)柔軟な権利制限規定が規定される著作権法改正とこの基本法は対になっており、両輪で推進できるという意味で重要である。推進法は実現可能な内容とした。どのように活性化されるのかを考えて、ご意見を伺いたい。 (柳)大前提として議員立法で立法化する。共産党を含めて超党派で議論していく。自民党の中では合意が取れているが、漫画議連に劣後する可能性はある。 (数藤)裁定制度に打いて補償金の事前供託が不要になるという改正がなされる。文化財保護法においても、過疎化や少子高齢化の観点から地方の資源活用のための改正がなされる。これらはアーカイブにとって前進ではあるが、各分野に限った前進ともいえる。基本法はその横串になるような法律になることを期待している。 (生貝)文化、芸術、産業、経済の4つとデジタルアー カイブがどう関わっていくべきか位置づけが大きな論点になるだ万う。デジタルアーカイブの定義においていかなる情報をデジタルアーカイブと呼ぶか。どのようなデータが生成されるかは今後変わりゆくものであり、デジタルアーカイブが意味するものはだんだん広がっていくのではないか。一字一句について、気になる点、こうあるべきではないか、という点をお寄せ頂きたい。質疑応答 〔質問 1〕事業者の責務としてデジタルアーカイブの 「適切な管理に努める」ことが規定されているが、処分権限のある事業者の所有物の管理にまで善管注意義務を負わせるのか。 (藤森)事業者に善管注意義務を負わせるのは難しい。 しかし、事業者としてデジタルアーカイブに取り組む人に国や地方公共団体から何らかの資金的な援助を行い、事業者側のデジタルアーカイブを進めさせることを推進するインセンティブを付与することが解決策になろう。 (瀬尾) 民間事業者の関与方法については、等価のデー 夕を提供することを利用の条件とする等のインセンティブを付与するような仕組みの構築が、民間アーカイブ構築の課題だと考えている。 (柳)ご指摘のとおりではあるが、事業者を含めないとこの法律を作る意味がない。それをどのように実効性あるものにするかが課題であろう。DAPCONデー 夕活用の持続可能性検討委員会では、企業が有する情報を日本国内で保存活用する重要性の認識があるため、うまく引き出すようなインセンティブをどのように設けるのか、国の方でアーカイブセンターを設けて援助していく仕組みなどが重要だと考えている。 〔質問 2〕主務大臣自らが選んだ委員で構成される協議会が実効性を確保できるのか。 (藤森)任命方法についてはご指摘のとおりで、どこまで意見をとり入れるかは課題である。 (足立)デジタルアーカイブの利用者の代表は誰かが 問題になる。省庁横断的にするのか、特定省庁のもとに設置するのかも大事だが、どのような立場の人を何人含めるか、利用者サイド及び権利者サイドからみて中立という点に重きをおくべきものと思われる。 (福井)要綱案を見ると、権利と利用の問題は一部でしかなく、人材育成等他の問題を考えると、利害関係者はもっと幅広いように思うが、この点はいかがか。 (足立) 大きな組織のなかに分科会が設置されることで組織されることにな万うかとも考えられる。 (生貝)美術館、博物館等全てに精通する者はいない。基本計画は、学会等において素案のようなものが、できれば複数、練られて提出されるのが理想的である。協議会で議論されるべきであらうと思われる。 〔質問 3】デジタルアーカイブの定義(2 条 2 項)について、インターネットで資料を検索できるようにすることまで含んでいるのか。ネットで公開することも含めたデジタルアーカイブか。 (生貝)公開はされないが保管としてはしっかりしておく、ということはあるだ万う。 (藤森) 定義としては広めに、インターネットでの公開を前提としていないものについても保存すべきと考えている。その後公開までできるかは検討事項であろう。 (瀬尾) 利活用の一方法としての公開がある。公開すべきものは公開する。他方、公開しなくても利用できるものはある。そう考えると、公開は前提にはならない。何らかの規制をかけてデータを集めようとすることは、すぐに限界がくるだろう。地方が参加して接続することにメリットを感じれば、主体的に接続するた万う。接続するメリットがなければ、インフラとして成立しない。簡単ではないだろうが、参加することのメリットを作る、アーカイブ自体が目的ではなく、それを使って社会システムとして役立てることが重要であると思われる。 (数藤)個人情報保護法のデータベースに関する条文の定義を使っている。過去の法律との整合性から定義ができている。同法ではデータベースを使用するのは事業者である。デジタルアーカイブの実態に即して正しいかは議論の対象となろう。〔質問 4〕官民データ利活用促進法では、義務規定が一歩進められている。それを意識して進めている自治体がどれだけあるのか。自治体のどこがデジタルアー カイブを行うのか。 (藤森)区域の実情については自主的な施策というところにとどまり踏み込んではいない。どこが自治体として主体的に関与していくのかは今後の課題だ思われる。「自主的な」という点をどのように理解するのかという点も問題になろう。 〔質問 5〕「知的財産データ」の定義に関して、「電磁的記録 - . ・記録された一 . 知的財産に関する情報」と定義されているが、情報の方が整理されている気がするので、データと情報の関係が気になった。 (瀬尾)データと情報の関係については、コンテンツホルダーの立場からすると、自分の作品を「データ」 と表現されることに違和感はある。ニュアンスの問題ではあるが、データと情報の関係についての議論は必要と考えられる。 (柳)ご指摘はごもっともだが、デジタルアーカイブの方向性との関係で妥協的な内容になっているため今後議論が必要だろう。 〔質問 6〕アーカイブという話になると、著作権の話と、 オーファンワークスの話が必ず出てくる。それが岩盤のように横たわっている。そこが分かっていないといけないのならば文化庁が主務大臣となるべきではないか。 (柳)要綱案では、目的で、デジタルアーカイブが「経済活動」の重要な基盤となるものであることを前提としており、経済的な観点にまとめたというところがある。それ以外の観点は第一の三の 2 に規定があるが、産業的な側面が強く出すぎではないかという意見は出ている。今後議論の対象となるだろう。 (福井) 著作権の話は出てくるが、むしろ、手つかずとなっているのは、肖像権や所有権だと思われる。 (柳)具体的に困るのは、肖像権である。 (生貝)従来は著作権が主に議論されてきたが、個人情報、プライバシーももっと議論されなければならない状態にあると思われる。 〔質問 7〕○○所蔵と記載するのが一般的になっている。パブリックドメインの理解が一般的になっていない。その点も要綱に盛り达んでほしい。 〔質問 8〕デジタルアーカイブの対象となる原本の維持、修理等文化財の維持保存との両輪であることが分かれば、参加するメリットを感じる。健康状態の良い文化財だを対象とせずに弱い文化財も対象となるのであればよいように思う。 (数藤)博物館、学芸員に関連して、9月上旬にブラジルの国立博物館で火災が起きて、作品が消失した事件があった。これは日本の未来の姿ではないか。本日の意見を反映し、要綱案をリバイズすることも検討したい。 (藤森)修繕との関係も、アーカイブと絡めていきたい。肖像権などについても今後検討していきたい。 〔質問 9〕地方の文化財は所有者の意見が強い。今の所有者は公開に反対だが、次世代の所有者は公開に賛成だったりする。所蔵クレジット等、利用にあたり所蔵者へのフィードバックはお願いしたい。 (瀬尾)所蔵について、たとえば東大寺は、教育目的であれば、ということで権利を写真家協会に移転してくれた。このように、所有者との信頼関係からデータを出してもらうことがある。逆に、信頼関係がないためにアーカイブデータが埋もれていることがあるのではないか。文化財を守ってきた所有者との関係で、修繕費を出すのは分かりやすいところだが、アーカイブをする時にいかに関係を構築するかが大事ではないか。 〔質問 10〕日本のデジタル・アーキビストの資格については不勉強だが、現在すでに国立国会図書館にあるものとの関係が疑問である。海外で「デジタル・アー キビストか」と聞くと、「情報学の専門家であってアー キビストではない」といった返答がある。分業化の点はどう考えられているか。どこまでを、アーキビストの範疇に含めるのか。 (柳)要綱案は、ボーン・デジタルが前提にはなっている。人材の点は難しいが、残念ながら日本の場合は前提の部分がなく、いきなりデジタル・アーキビストの議論に入っていかなければならない。いきなり分業的には考えられない。学生から出てくる人と現職者からの移行の両方を視野に入れたような内容を考える。 現在、省庁は人手が足りない。DAPCON や学会に丸投げしてもらえるとしっかりしたものを作れると思う。チャンスの面もあると考えている。 (生貝) 要綱案は、本流としての文化芸術施策がある。他分野との関連では、第一の三の 2 に書かれている。大分削られた印象がある。振興法ができたらデジタルアーカイブを正しく位置付けていく。デジタルアーカイブとの関わりが意識されていないものを含め、例えば福祉、文化保存などとの関係を考慮して、位置づけを考えていく必要がある。 最後に司会の生貝副部会長から挨拶があり、閉会した。
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Japan Society for Digital Archive
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# 第6 回定例研究会 参加報告 デジタルアーカイブ学会第 6 回定例研究会 日時:2019年 4 月 20 日 (土) 14:00 17:00 場所 : 東京大学 (本郷キャンパス) 工学部 2 号館 93b [テーマ 1]デジタル化された複数参考図書利用によ るアクティブラーニングと教育効果改善の 可能性について 報告: 山里敬也氏(名古屋大学教養教育院教授)山里氏からは、名古屋大学と大学学習資源コンソー シアムとの、大学のデジタル教材の活用実験の結果に ついて報告があった。大学の授業では、教員自らプレ ゼンテーションソフト等で作成したデジタル教材を用 いる傾向が強まっているが、その内容は必ずしも教員 オリジナル執筆ではなく、学術・専門書に掲載の写真 やイラスト等の図表類を再利用するケースが多く見受 けられる。この場合、著作権の権利制限規定に該当す るか不安を感じつつも利用したり、出版社等の許諾が 必要な場合には、手続きに多大な労力と時間を要する ことから教員は図表利用を諦めているのが現状であ る。今回の実験では、教育・学習の質の向上はもとよ りコンプライアンス面の課題解決も含め、図表類の再利用に関して、大学と出版社間における新しい権利処理モデルの構築を目指した国内初の取り組みとなった。 具体的には、教員オリジナルのデジタル教材で使用 されている、引用元となる学術・専門書へのリンクを 付与する、というものである。京セラコミュニケー ションシステム株式会社が提供している、「Book Looper」という電子書籍配信サービスの仕組みを利用 し、山里氏が実際に受け持っている物理学の授業で学生たちの反転学習に役立てた。予習し課題に取り組ん た上で授業に出席する、といった授業形式とした。 学生たちの授業外学習頻度・時間と最終成績を分析 したところ、反転学習による教育効果があることがわ かった。また、デジタル教材を用いることによって、複数のデジタル参考図書を閲覧できる効果も期待で き、教員の教材作成の手間を減らすこともできるので はないか、と山里氏は言う。 教材作成や著作権処理など教員の負担を減らすだけ でなく、学生たちの費用・物理的な負担を減らすとと もに学習の質を向上させていくなど、デジタル教材に は大きな可能性があるように感じる。 [テーマ2]市民参加で解読するくずし字資料 — デジタ ルアーカイブ学会第1回実践賞受賞記念発表報告:橋本雄太氏(国立歴史民俗博物館助教)橋本氏からは、くずし字学習支援アプリ「KuLA」と 「みんなで翻刻」の2つのプロジェクトについて報告が あった。橋本氏は 2014 年から参加している京都大学古地震研究会で多くの史料を解読してきたことがきっか けで、くずし字に取り組むようになった。古い文献史料はくずし字で筆記されており、訓練を受けない限り 現代人には解読困難である。 くずし字とは、楷書の点画を省略した手書き文字と、手書き文字を元にした版本の文字の総称である。活版印刷の導入により明治期に楷書体が一般化し、一般人 には 150 年前の書籍も読めない状況になってしまった。 くずし字を学び、後世に引き継いでいくことは、歴史研究を行う上で非常に重要なことなのである。 「KuLA」は、愛らしいマスコットキャラクター「し みまる」が基礎解説をしてくれ、3,000 件の用例を用い た字形学習を行うことができる。また、習熟度を チェックできるテスト機能もあり、実際の資料を利用 した読解訓練も提供している。スマートフォンのカメ ラで資料を撮影し、他ユーザーに読み方を聞くことが できる「教え合い」機能もある。 毎日約 400 人の人々が KuLAを起動し、週単位では、毎週 2200 人の人々が利用しているそうだ。もっとも利用者の多い層は 18-24歳の女性で、これは、ゲームや ドラマをきっかけとして、歴史に関心を持つ若年層が 急増しているからだと考えられる。非常に多くの人々 に利用されている KuLA だが、収録文字数が 300 字に 満たないことによる教材としての未熟さや、科研が終了してしまったために予算が足りないことに加え、人手不足により継続開発が難しいといった課題がある。 「みんなで翻刻」は、歴史災害史料の市民参加型翻刻 プロジェクトでいわゆるオープンサイエンスの取り組 みである。翻刻とは、歴史学用語で、史料を活字に起 こすことで、東大地震研のデジタルアーカイブを対象 に翻刻を進めているそうだ。 2 年間で 589 万字に及ぶ災害史料のテキスト化を市民の協力を得て実現し、精度も $98.5 \%$ と十分な水準を 保っている。市民の声を聞くと、解読作業そのものの 面白さや相互添削を通じた学習、気晴らし、現実逃避 などが参加のモチベーションになっているらしい。ま た、国文学・日本史専攻 $\mathrm{OB}$ の方や趣味・教養目的で くずし字学習をしている方、ご定年を迎えた方が熱心 に参加している模様である。 これらのプロジェクトのように、市民を巻き込んで いけるような魅力的なサービスを提供することによっ て、くずし字だけでなくデジタルアーカイブ事業全体 を推進していけるような仕組みを考えていくべきでは ないか。 (東京大学大学院情報学環 平野桃子)
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# デジタルアーカイブ推進コンソー シアム (DAPCON) 2018年度デ ジタルアーカイブ産業賞受賞講演「デジタルアーカイブの危機」 Crisis in Digital Archive 本記事は、2019年 7 月 18 日(木)に行われた 2018 年度デジタルアーカイブ産業賞授賞式における受賞記念講演を事務局がとりまとめたものである。 私は長続きしない性格で 5 年毎に関心対象を変えて きました。建築学科を卒業したのですが、大学院では コンピュータに熱中し、一時は建築設計を教えていま したが、後年は産業政策を教えていました。したがっ て賞には無縁でしたが、今回初めて立派な賞をいただ き、大変光栄に思っております。 「デジタルアーカイブ」という言葉は私が作ったこ とになっていますが、それも定かではありません。あ るジャーナリストが大学の研究室に取材に来られ、私 がそう言ったと書かれたことで広がったようです。恐万しいことにウイキペディアの私の紹介でも「デジタ ルアーカイブ」という言葉をつくったことになってお ります。 今回、最大の失敗は賞をいただいて帰ればいいかと 思っていたところ、講演をしなければいけないという ことでした。仕方がありませんので、これから適当な 話をさせていただこうと思います。 ## 1. アーカイブの変貌 アーカイブには 3 つの仕事があります。まずは情報を集める。2 番目は集めた情報を分類する。最後に必要な情報を検索する手段が必要です。ところがデジタ ル革命が登場し、情報の洪水が発生しました。それを最初に予言したのはブレット・スワンソンというアメリカの評論家で、2007 年に『ウォール・ストリート・ ジャーナル』に「The Coming EXAFLOOD(出現したエクサ単位の情報洪水)」いう評論を書きました。 というのは、10の 18 乗のことですが、エクサバイトは膨大な量です。大英図書館には 1200 万冊の蔵書があり、情報量を計算すると 12 テラバイトになります。 この 12 テラバイトで 1 エクサバイトを割ると答えは 8 万 3000 です。2007 年に人類がコンピュータを使つてつくり出す情報は、大英図書館が 250 年間かけて集めてきた書物の 8 万 3000 倍という大変な量になっているわけです。 この予言は当たり、現在ではゼッタバイト単位、つ まり、人間社会が 1 年間に作り出す情報は 1000 エクサバイト以上に到達しているのです。 私たちは通信というと、人間と人間の情報交換を思い浮かべますが、これを P to P(人間対人間)と表現します。しかし最近では人間と物が情報のやりとりをする P to M (人間対機械) や、機械と機械(M to M) が急増してきました。 そこで日本でやりとりされている情報を 3 種類に分けると、人間対人間、代表は電話やメールですが、これは全体の $4 \%$ しかありません。次に人間対機械や人間対場所の通信が $8 \%$ \%す。残りの $88 \%$ は人間には関係なく機械同士の通信です。これが IoTです。 問題は、この膨大な情報をアーカイブとして集めることですが、それがデジタルアーカイブです。Kindle がデジタル化している書物は洋書が 120 万冊、和書が 12 万冊です。さらに大量なデジタルアーカイブは Google Booksです。Google Booksはすでに 1200 万冊の書物のデジタル化を終了しています。ただし、著作権の問題があるので、すべて読むことができるのは 100 万冊、一部だけ読むことができるのが 100 万冊です。音楽はさらに大規模で、Apple Music は 5000 万曲の音楽から自由に選んで聞けますし、Spotifyも 4000 万曲から選択できます。 紙の書物を最もたくさん集めているのはアメリカ議会図書館で 3000 万冊です。開館したのが 1800 年ですから、220 年かけて 3000 万冊を集めました。しかし Google Book は 2003 年から 10 年もかからない期間で 1200 万冊を収蔵しているのです。アーカイブの第一歩の収集はデジタル社会になってまったく異なった局面に移ったということです。 次は検索です。検索は Google が代表ですが、スぺルを間違えて入力しても、期待しているような内容を検索してくれます。Shazam というスマートフォン用の音楽検索のアプリケーションは、いま聞こえている音楽にスマートフォンを向けると、直ちに題名を教えてくれます。世界に存在する楽曲は大体 5 億曲くらいあるそうですが、そのうち 1 億曲が検索可能になっています。 ## 2. アーカイブは電気を消費する この素晴らしい世界にも問題があります。第 1 の問題はデジタルデータを蓄積する記憶装置が必要ということです。世界一のデジタルアーカイブは National Security Agency(NSA)のデータセンターです。ユタ州の砂漠の中に巨大なデータセンターをつくって、ありとあらゆるデジタルデータを蓄えています。一時、ドイツのメルケル首相の携帯電話の通話を盗聴して記録していたことが明らかになり問題になりましたが、そういうデータも記録しています。 Amazon は 1995 年の創業以来の購買データをすべて保存しています。そのデータを使って、それぞれの人が欲しいと思う商品をレコメンドしているわけです。 Amazon のデータセンターの用地面積は東京ディズニーランドの 12 倍と言われており、今後も膨大な購買記録を保存していく構想です。 多くの情報サービス企業のデータセンターはフェイスブックがスウェーデン、Googleがフィンランドというように寒地に設置されています。発熱量が膨大だからです。19世紀にはゴールドラッシュが発生しましたが、21世紀にはコールドラッシュが発生するのです。 情報社会は電気がないと動きません。2025 年には世界の電力消費の 15 \%は情報社会を維持するために Wikimedia Commons: NSA Utah Data Center, February 2019.jpg "Ivanpah Solar Power Facility 9" by Justin Elliott is licensed under CC BY 2.0 必要だと推測されています。そこで情報サービス企業は自然エネルギーに熱心です。Apple も Google も風力発電や太陽光発電に巨額の投資をしています。 ## 3. プライバシー 物騒な問題も出てきております。Googleの 2 年前までの会長であったエリック・シュミットの言葉ですが「我々はあなたがいま何処にいるか知っている、これまで何処にいたかも知っている」と発言しています。携帯電話を持っていれば基地局が位置を把握していますし、GPSがオンにしてあれば精密にわかります。 NTTデータと東京大学の研究室が共同で行った「ミトラプロジェクト」では、東京の約 6000 台の携帯電話の位置情報から、ほとんどの所有者の自宅を突きとめています。シュミットはさらに「いま何を考えているかもほぼ知っている」と発言していますが、Google は世界の情報検索の9 割弱を引き受けており、2016 年で検索回数は年間 2 兆回になっています。こういうデータは、誰が、いつ、どの端末から何を検索したかを記録していますから、それを分析すれば、誰が何に関心があるかという程度のことはわかるわけです。 このスライドはスノーデンが 2013 年に盗み出した ものの 1 枚です。マイクロソフト、Yahoo、Appleなど情報サービス産業が、裁判所から要請があれば、個人の利用情報を捜査機関に開示しはじめた時期を示したグラフです。 我々が各社のサービスを利用すると、そのデータは捜査機関に渡される可能性があるということです。 ## 4. アーカイブの信頼性 デジタルアーカイブに特化した大事な問題は、そのアーカイブのデータが公正かどうかということを知る必要があるということです。私がデジタルアーカイブという言葉を思いついたきっかけとなったのは、アメリカ議会図書館が作っている「アメリカン・メモリー」です。 これはアメリカの歴史上の主要な記録をアーカイブして、それを誰でも利用できるようにしたものです。 一見、アメリカが世界に膨大な情報を提供しているようですが、実際はアメリカに都合のいい情報を編集して送り出しているわけです。それをもっと露骨に行っているのは中国の Great Firewall で、不都合な情報は国境で遮断しています。 それらを調査した「FREEDOM ON THE NET」というレポートが毎年、発表されています。63力国のネットの利用環境がどれだけ自由かということを採点しているのです。カナダ、ドイツなど高い点数の国がある一方、中国やイランは非常に制約されています。 アーカイブというと、情報が自由に公開されているように思いますが、世界全体で見ると制約された社会の中でアーカイブは維持されているということです。 ## 5. フェイク・アーカイブ 最後に贋作問題です。それは古代からあり、『先代旧事本紀』という神道の古典がありますが、偽書だという説があります。 デジタル社会でも偽の情報が流行しはじめました。 post-truth という言葉はオックスフォードディクショ ナリーによると、2004 年が初出だということですが、 2016 年に Word of the year、今年を象徴する言葉として選ばれました。これを別の言葉で言うと alternative fact です。 この言葉が有名になったのはスパイサー報道官がトランプ大統領を守るために数多くの嘘の発表をしたことです。アメリカの国会議事堂の前で行われる大統領就任式のときに、8 年前のオバマ大統領の時に比べて観客が少ないではないかと質問された時に、入口にセキュリティのための金属探知機を設置したからだと答えたのですが、実際はオバマ大統領の就任式には設置されていたが、トランプ大統領の時には設置されていなかったのです。そこでケリーアン・コンウェイという大統領顧問がスパイサーは、alternative fact を言っただけだと反論して、この言葉が有名になりました。 最近は deepfake という、動画で偽映像をつくるソフトウェアが登場し、見分けがつかないほど精巧な偽の 映像が氾監しはじめています。例えばオバマ前大統領が「トランプ大統領は救いようのない間抜けだ」と発言している動画がありますが、完全に映像と音声が同期するように作られており、本物のように見えます。最近、話題になっているのは、民主党のバイデン大統領候補をおとしめようという deepfakeです。知らない人が見るとバイデン候補のホームページと誤解するようなサイトですが、バイデン候補が嫌がる女の子に無理やりキスしようとしている動画などが掲載されています。知らない人がこれを見るとバイデン候補はいかがわしい人物と誤解します。 急速に技術が進歩する情報社会でデジタルアーカイブはどのような問題に直面しているかを知ることが重要になります。 何も貢献していない私が賞を頂いたことにつき、心より御礼を申し上げ終わらせていたたきます。
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# \begin{abstract}デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(DAPCON) では、2018 年度より、デジタルアーカイブ産業の振興 を目的として、優れた業績をあげている個人・団体・企業に対して「デジタルアーカイブ産業賞」を付与す ることとした。この度下記のとおり、2018 年度産業賞 を選定し、2019年 7 月 18 日 (木) 東京大学(本郷キャ ンパス) 医・教育研究棟レストラン カポ・ペリカー ノにて授賞式及び記念パーティーを行なった。この授賞式はデジタルアーカイブ学会が後援したので、以下 に概要を報告する。 \end{abstract} # # 1. 賞の概要 (1) 趣旨 デジタルアーカイブ産業振興に寄与した活動を称揚 することによって、デジタルアーカイブ産業及びデジ タルアーカイブ推進コンソーシアム(以下 DAPCON) への社会的関心を高めるとともに、産業の発展に資す る。各年度で選考し、授賞式を行う。 (2) 賞の名称 「デジタルアーカイブ産業賞」(3つの部門を設ける) (3)各部門賞概要 技術賞:前年度に発表または実施したデジタルアー カイブ産業に資する革新的な技術・手法・サービ ス・機材・システムを対象とする。 ビジネス賞:過去 5 年以内を対象としてデジタルアー カイブ産業の新しい分野・ビジネスモデルを開拓し、普及・活用等に優れた貢献をした個人・企業・機関・団体を対象とする。 貢献賞:期間を問わず、デジタルアーカイブ産業の 発展に大きく寄与した個人または団体を対象とする。 ## 2. 2018年度受賞者と受賞理由 (1)特別功労賞(今年度特別に設定) 受賞者名:月尾嘉男(つきお・よしお)東京大学名誉教授。工学博士。 1990 年代に「かつての図書館などの電子版」という意味から「デジタルアーカイブ」という言葉を我が国でかつ世界で初めて提唱した。その概念は「有形・無形の文化資産をデジタル情報の形で記録し、その情報をデー タベース化して保管し、随時閲覧・鑑賞、情報ネットワークを利用して情報発信する」というデジタルアーカイブ構想に発展的にまとめられた。またそれを進めるためのデジタルアーカイブ推進協議会の設立にも大きく貢献された。 人々の生活水準を向上させ、新規の経済活動を活発にしながら、人類が蓄積してきた資産を後世に継承していく活動を担う「デジタルアーカイブ」の誕生と概念の普及に長年に渡って大きく寄与し、現在のデジタルアーカイブ発展の礎を築いたことにより、特別功労賞に相応しいと思料する。 ## (2) 貢献賞 、受賞者名:株式会社ポーラ・オルビスホールディングスポーラ文化研究所 ポーラ文化研究所は 1976 年創立で、「化粧」を核に化粧史や道具、時代風俗、美人観など幅広い分野を対象に研究活動を行なっている。研究成果としてレポート・書籍の発行、展覧会などの開催、専門図書館開設のほか、蔵書や収集資料を DB 化して公開。昨年 11 月に公開された「化粧文化データベース」は、江戸時代の化粧道具や版画など貴重な品目も含む約 1 万点が収録され、デジタル画像とともに充実したメタデータも提供する。単に収蔵品を紹介するぺージを作成するだけでなく、メ夕データを含む DB として公開している点、また企業の持つ情報の DB 化・公開を奨励する観点から、最近の事例「化粧文化データベース」を持つポーラ文化研究所は貢献賞に相応しい。 —受賞者名:株式会社ケイズデザインラボ K's Design Lab は、2006 年の設立以来、3D データの作成・活用に関する高度な技術を有し、人体や舞踏、 スポーツ、文化財や工業製品、医療品に至るまで、有 機物・無機物を問わず幅広い物体・情報の $3 \mathrm{D}$ データ化とその活用のプロデュース事業に取り組んでいる。また、その豊富なノウハウを基に $3 \mathrm{D}$ データ活用に関するコンサルティングやトレーニングも提供しており、当該技術の更なる普及を積極的に進めている。 デジタルアーカイブ産業の裾野を三次元形状やその動きの 3D データへと広げていくことへの貢献は極めて大きく、貢献賞として推薦されるに足る実績を有している。 、受賞者名:山川道子(やまかわ・みちこ) 株式会社プロダクション・アイジーアーカイブグループリーダー。デジタルアーカイブのビジネス実務を切り拓かれるとともに、学会等において多数の示唆に富んだ発表を行い、大いにデジタルアーカイブ産業のパブリシティ向上に貢献された。具体的には次の 3 点で貢献された。 ・ビジネスの現場で、長年、試行錯誤しながら、デジタルアーカイブを実践し、産業界における一つのべストプラクティスを構築された。 ・デジタルアーカイブは多くの企業にとってコスト部門に留まっているところ、プロフィット部門になりうることを示し、産業発展の可能性や方向性を示した。 ・学会等において、多くの発表を行い、デジタルアー カイブの実務を紹介し、会員へのよい刺激となった。以上により、貢献賞に相応しいと思料する。 受賞者名:福井健策(ふくい・けんさく) 骨董通り法律事務所 for the Arts 代表パートナー、并護士。芸術・文化法、著作権法を専門分野とし、各種クリエイター、プロダクション、劇団、劇場、レコー ド会社、出版社など文化関連産業分野の権利処理問題等を長年に渡ってサポートしている。国立国会図書館納本制度審議会会長代理を始め、内閣府、経済産業省などの委員を歴任し、オーファン著作物の利用制度改革等著作権法及び関連法改正に対し、著作物の利用促進の観点から様々な提言を行なってきた。近年はデジタルアーカイブ及びデジタルアーカイブ産業の発展に向けた言論活動に力を注いでいる。また、メディアの露出も多く、実務者に対して著作権などをわかりやすく解説し、産業界におけるデジタルアーカイブの活用に資する知識の普及にも大きく貢献している。 ## (3) 技術賞 受賞者:凸版印刷株式会社「トッパンVR・デジタルアーカイブ」 トッパン VRは、高精細画像処理技術、色彩計測技術、三次元計測技術を核に彫像や絵画、絵巻などの文物から、それらが納められていた建物などの構造物、そしてその建物が存在していた空間まで、それぞれに適し た手法を使ってデジタル化、保存・公開する手法を用いている。さらに、VRの映像をリアルタイムで生成し、臨場感と没入感のある仮想体験を提供している。普段は地下に埋もれ見ることができない遺跡や、簡単には訪れることができない空間を、文化財の調查・研究資料や三次元形状計測・色彩計測デー夕を元に、目の前にいるかのように忠実に再現し、東京国立博物館内をはじめ国内に 18 拠点、海外に 2 拠点の専門シアターを展開するなど、VRの作成とその視聴環境提供の両輪でデジタルアーカイブの普及に貢献している。 受賞者:株式会社サビア「文化財に特化したスキャナ開発と活用」 デジタルアーカイブの対象となる文化財は多種多様で、データの活用目的もまた多様である。そうしたデジタルアーカイブにおいてデジタル化の最初のステップとなるスキャニング(デジタル化)業務で、同社は常にユニークな機能を備えた高精度なスキャナの技術開発と業務実績を重ねてきた。 京都大学井出研究室の研究成果を元に同社が開発してきた多くの文化財専用スキャナは、大型の対象物や寺社の壁画など幅広い対象に対応できる国産のスキャナ技術として国内外の多様な文化財関係者から認められ多くの実績を重ねており、デジタルアーカイブ構築の基礎的な技術となっている。その貢献により技術賞の受賞に相応しい。 ๑受賞者:株式会社アルステクネ「アートとテクノロジーの融合による絵画のマスターレプリカ再現技術「リマスターアート」」 株式会社アルステクネは「アートとテクノロジーの融合」を掲げ、 10 年以上の歳月をかけて技術研究を重ね、 デジタルリマスター技術を駆使して絵画のデジタル化 (リマスターアート)等を手がける企業である。同社のリマスターアートは、フランスのオルセー美術館もマスターレプリカとして公認しており、同社独自の最先端デジタル画像処理技術 DTIP(Dynamic Texture Image Prosessing)により、色相、彩度、明度に加え、二次元において三次元質感再現を含めた統合的な画像処理を行うことで、原画の持つ質感、色合い、筆さばきを限りなく忠実に再現している。 限りなく原画に近い視覚効果にすぐれたリマスター アートは取り扱いが困難な原画に変わり、学術・研究分野での活用はもちろんのこと、国内の教育現場での展覧会の実施など、デジタルアーカイブ利活用の一例としても積極的な活動を行っており、今後のデジタルアーカイブ発展への貢献が大きく期待される。 なお、ビジネス賞については、2019年度から選考を開始する。
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# お知らせ [総務担当理事/東京大学大学院情報学環特任教授 ## 1. 趣旨と概要 デジタルアーカイブ学会が 2017 年 5 月に発足して約 1 年半が立ち、ようやく学会活動の概要も固まってきたように思われます。また、デジタルアーカイブへの社会的関心が高まり、関連する政府、産業団体、議員連盟等の動きも活発化しています。こうした社会状況を受けたデジタルアーカイブ振興への貢献は本学会の実学的な側面から重要ですが、その一方で、学会としてデジタルアーカイブの理論的な基礎固めも求められます。 そこで、この度勉誠出版社の協力の下、デジタルアーカイブの諸分野に関する動向・課題を把握することができる専門的啓発書の発行をシリーズ化することになりました。各巻ひとつのテーマのもとに 8 10 本程度の論考を所収し、その分野の概要がその 1 冊で理解できるようにしたいと考えます。先ずは第 1 期として、5冊の発行を図ります。 また、当シリーズ寄稿者の中から単著としての発行ができる中堅若手の執筆者を発掘することも目標のひとつとします。 ## 2. シリーズ名と各巻テーマ (1)シリーズ名「デジタルアーカイブ・ベーシックス」 (2)各巻テーマ (予定) 第 1 巻法制度 第 2 巻震災. 災害 第 3 巻自然科学・理工学 第 4 巻アート 第 5 巻産業 ## 3. 編集・発行体制 (1)編集責任: デジタルアーカイブ学会、発行: 勉誠出版 (2)シリーズ全体の恒常的な編集委員会を設置するとともに、各巻に専門分野の監修者 1 名を置きます。 ## <編集委員 $>$ (敬称略、50 音順) \\ 嘉村哲郎(東京藝術大学) \\ 鈴木親彦 (情報・システム研究機構データサイエ ンス共同利用基盤施設) \\ 数藤雅彦(并護士) \\ 中川紗央里(国立国会図書館) \\ 中村覚 (東京大学) \\ 久永一郎 (大日本印刷) \\ 柳与志夫(東京大学):編集委員長 \\ (3)発行頻度:年 1 回(場合によっては年 2 回)を予定 (4)第 1 巻発行予定:2019年 1 月 \\ 4. 第1巻「法制度」の構成・タイトル・執筆者 (予定、タイトルは仮題) 監修者:福井健策(弁護士) (1)デジタルアーカイブに関わる法制度の概観:最近の法改正等を中心に 生貝直人 (東洋大学) (2)著作権の諸問題(1)パブリックドメインの判断基準数藤雅彦・橋本阿友子(并護士) (3)著作権の諸問題(2)オーファンワークスへの対応瀬尾太一 (日本写真著作権協会) (4)自治体が運営する災害デジタルアーカイブ:肖像・ プライバシー等を巡る現状と課題 長坂俊成(立教大学) (5)所有権の諸問題:オーファンフィルムの寄贈に関する問題を例に 山元裕子(弁護士) (6)デジタルアーカイブのライセンス表示についての動向時実象一 (東京大学) (7)デジタルアーカイブに関わる法制度の課題と解決の方向 : 公共機関デジタルアーカイブ構築の実務と問題点 井上奈智(国立国会図書館) (8)アニメーション・アーカイブから見る資料を取り巻く権利とその問題点 山川道子(プロダクション IG) (9)美術全集のデジタルアーカイブ構築の実務と問題点清水芳郎 (小学館) (10)デジタルアーカイブ活用促進のための新しい法的環境の在り方福井健策・藤森純(弁護士) (11) (コラム)映像コンテンツのデジタルアーカイブのための権利処理実務宮本聖二(立教大学)
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# 「アーカイブサミット2018-2019」 ## 概要報告 Report on the Archive Summit 2018-2019 \author{ 渡邊太郎 \\ WATANABE Taro } 国立国会図書館総務部企画課 抄録: 本稿では、2019年 6 月 11 日に千代田区立日比谷図書文化館において開催された「アーカイブサミット 2018-2019」の概要を報告する。同サミットでは、これまでの成果と課題に関する基調講演、異なるテーマの3つの分科会、有識者・専門家によるラウンドテーブル等が行われ、活発な議論が交わされた。2015 年にスタートしたアーカイブサミットは、我が国に打けアーカイブ及びデジタルアーカイブの現状や課題等について議論すると共に、民産学官の関係者を横につないでいく機能を果たしてきた。しかし、デジタルアーカイブ学会の設立等の環境変化に対応し、位置付けを再定義すべき時期に来ている。 キーワード : アーカイブ、デジタルアーカイブ、図書館、博物館、文書館 ## 1. はじめに 2019 年 6 月 11 日、千代田区立日比谷図書文化館において「アーカイブサミット2018-2019」 ${ }^{[1]}$ が開催され、アーカイブ等に関わる約 60 名の有識者・専門家が参加した。主催はアーカイブサミット組織委員会 (委員長:長尾真京都大学名誉教授)、事務局は文化資源戦略会議 ${ }^{[2]}$ である。筆者は、文化資源戦略会議の事務方として運営に携わり、一部のプログラムを実際に聴講したほか、全てのプログラムの記録を確認した。本稿では、「アーカイブサミット 2018-2019」の概要を紹介する。 図1会場となった千代田区立日比谷図書文化館(眞籠聖撮影) ## 2. アーカイブサミットの開催概要 ## 2.1 開催趣旨 アーカイブサミットは 2015 年にスタートした。この間、東京で 2 回、京都で 1 回の開催をみて ${ }^{[3] \sim[5]}$ 、「アーカイブサミット2018-2019」は4 回目に当たる。 これまでのアーカイブサミットでは、我が国におけるアーカイブ及びデジタルアーカイブ(以下「DA」)の状況をレビューし、課題を発見し、その解決の方向性を議論してきた。また、その過程で、これまで分野、機関等で分断されていた産官学民の関係者を横につないでいく機能を果たしてきた。今回の「アーカイブサミット 2018-2019」は、それらの多様でかつ多層的な議論から3つのテーマを選び出し、アーカイブ及び $\mathrm{DA} の$ 今後の発展に関わる本質的課題を析出した上で、 その解決に向けて早期の実現が求められる「デジタルアーカイブ整備推進法案」(仮称) の在り方について、多様な立場・観点から集中的に論じることを目的として開催された。なお、今回がアーカイブサミットのいったんの着地点となる。 ## 2.2 プログラム 当日は、開会挨拶、これまでの成果と課題に関する基調講演の後、3か所の会場に分かれてそれぞれ異なるテーマの分科会が行われた。その後、総勢 13 名の有識者・専門家によるラウンドテーブルでの議論が交わされ、閉会挨拶で締めくくられた。各プログラムの テーマ等は表 1 のとおりである。 表1 当日のプログラム プログラム及び登壇者(敬称略・順不同) 1. 開会挨拶 (5 分) 長尾真 (京都大学名誉教授) 2.これまでの成果と今後の課題 (15 分) 吉見俊哉 (東京大学教授) 3. 分科会による課題抽出 (各 90 分) (1)近年の一連の著作権法改正の動きの背景とその本質、これからの影響 福井健策(弁護士)* 生貝直人 (東洋大学准教授) * (2)「官」に独占された「公文書 (official document)」概念を捉え直す 一「公共文書 (public document)」への展開一 福島幸宏 (東京大学特任准教授) * 山川道子((株) プロダクション・アイジーアーカイブグループリーダー) * 瀬畑源(成城大学非常勤講師) (3)全国の特色ある小規模コレクションアーカイブ・DA の意義と維持・発展の可能性 井上透 (岐阜女子大学教授) * 沢辺均((株)スタジオ・ポット代表取締役社長)* 4. ラウンドテーブル(105 分) 「デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)を意義あるものにする」 司会 : 吉見俊哉 (東京大学教授) 討論者:緒方靖弘 (寺田倉庫執行役員)、柴野京子 (上智大学准教授)、高野明彦 (国立情報学研究所教授)、長坂俊成 (立教大学教授)、長丁光則 (デジタルアーカイブ推進コンソーシアム事務局長)、松田昇剛(総務省情報流通行政局地域通信振興課地方情報化推進室長)、ほか各分科会コーディネー夕 (*) ## 5. 閉会挨拶 (5 分) 柳与志夫(東京大学特任教授) 図2 当日の様子(基調講演)(眞籠聖撮影) 以下では、この内の 3 つの分科会及びラウンドテー ブルについて、筆者の印象に残った点を中心に、議論の概要を紹介する。 ## 3. アーカイブサミットの内容 3.1 分科会 (1)「近年の一連の著作権法改正の動きの背景とその本質、これからの影響」 分科会 (1)では、前半部で 2018 年の著作権法改正を振り返るとともに、後半部で欧米の動きを参考に次の改正はどのようにあるべきかといった点が議論された。 TPP11 協定の締結に伴う 2018 年の著作権法改正では、著作権保護期間が延長された上、戦時加算の特例は撤廃されなかった。そのため、パブリックドメインの著作物が生まれにくくなり、逆にいわゆる孤児著作物は生まれやすくなったと言える。 一方で、同年の改正では、アーカイブに携わる機関が活用できる種々の権利制限規定も整備された。例として、国立国会図書館がデジタル化された絶版等の資料を国内だけでなく海外の図書館にも送信可能になったこと、美術館等で展示作品の解説や紹介のための掲載がタブレット端末等でも可能になったこと、展示作品のサムネイル画像のインターネット送信が可能になったこと、書籍の所在検索サービスにおける著作物の部分表示等が一定の範囲で可能になったこと、国・地方公共団体等が裁定制度を利用する際に補償金の供託が不要となったことなどが挙げられる。これらの規定の活用に向けては、ステークホルダーとの対話に基づくガイドラインなど「ソフトロー」の役割がますます重要になるとの指摘があった。 後半部では、世界でパブリックドメイン、孤北著作物、絶版等資料の順で対策が進んでいることを念頭に、主に絶版等資料の利活用促進の観点から、今後の法改正の在り方に関する議論が行われた。欧米における、保護期間が最終 20 年に入った絶版著作物をアーカイブ機関が利用できる規定(米国)や、文化遺産機関が利用可能な絶版等資料に係る拡大集中許諾制度 (EU) が紹介されたほか、「認定デジタルアーカイブ事業者制度」というアイデアも提案された。この提案は、一定の要件を満たす民間事業者を公的に認定し、認定事業者は絶版等資料を配信可能にするほか、著作権法第 31 条や第 35 条に基づくデジタル化作業を受託できることを明確化するというものである。 会場からは、裁定制度利用時の関係機関への照会において個人情報保護が壁になっている現状、図書館送信と大学等における教育利用との連携の必要性、ブロックチェーンなどの新しい技術により権利者への適正な分配を担保する「社会的サブスクリプションモデル」の可能性等も指摘された。また、最後に、今後対応がさらに求められることが予想される課題として、 DA と個人情報保護法との関係、判断の基準が確立していない肖像権の問題が指摘された。 ## 3.2 分科会(2)「「官」に独占された「公文書(official document)」概念を捉え直す一「公共文書 (public document)」への展開」一 分科会 (2) では、近年問題となっている公文書管理を出発点に、いわゆる公文書たけに留まらない公共性の高い文書(公共文書)の保存、共有の在り方が議論された。 現在の公文書管理法は、行政府の一部の文書しか保存対象となっていない。例えば、政策決定に至るまでに官僚が作成したメモ (大臣レク資料等)が残らない、政策立案にシンクタンクや $\mathrm{NPO}$ 等の民間セクターが関与するようになってもその関わりが公文書では見えにくいといった課題があるとされる。また、三権の残りを担う立法府・司法府の文書が、公文書管理法の対象とならず大きく抜け落ちている。さらに、民間セクターの私文書にも公共性が高いものがある。会場からは、首相を始めとする政治家や政党の文書、紙面掲載に至らない新聞社の資料、公共建築物の設計・施工資料、アーカイブ機関自体の文書、大学の研究室に残された資料など「公共文書」に含まれ得る様々な資料に関する現状や問題点が報告された。 他方で、政策の推進などの本来業務を担う現場の負担増大、レコードマネジメントが業務機能に含まれず専門家も不在であること、ジャンクな文書やストレージ容量の限界もある中での選別の在り方、保存のためのインセンティブの必要性等の課題も指摘された。文書の保存・共有は、組織内部の人間にとっても業務効率化といったメリットを生み出す可能性がある一方で、価値判断には外部からのポジティブな評価が必要との意見や、時代の経過と共に意義が見いだされる場合もあるといった指摘もあり、文書を「公共化」していくことの難しさが改めて浮き彫りにされたとも言えよう。 ## 3.3 分科会(3)「全国の特色ある小規模コレクション アーカイブ・DAの意義と維持・発展の可能性」 分科会(3)では、全国に散在し、日頃注目されづらい小規模なアーカイブ及び DA に焦点が当てられ、 それらの意義、課題、振興方策等に関する議論が交わされた。 冒頭で簡単な論点出しがあった後、たましん地域文化財団の取組を皮切りに、「世田谷クロニクル」、寒川文書館(「三枝惣治氏マッチラベルコレクション」)、 (株)TRC-ADEAC、「にいがた MALUI 連携地域デー タベース」「戦争証言アーカイブス」「ヒロシマ・アー カイブ」等の取組に係る報告があった。 分科会全体を通して、アーカイブが新たな切り口で地域を見直すきっかけになること、DAが学びの場のデザインにつながること、アーカイブが地域の変化の記録であると同時に地域の在り方を変える力もあること、文化遺産の継承に貢献してきた「蔵」の文化を DA で実現できる可能性など、アーカイブの意義が改めて共有された。他方で、継続性の観点から運動としてのアーカイブを機関のアーカイブにつなげていく必要性、機関においても予算制約等でアーカイブの持続性が不透明であること、組織の縦割りによる DA の統合・連携の難しさ、担当者依存の実情、利用者や研究者が DAを育てていく必要性、コンテンツの価値を必ずしもコンテンツホルダーが認識していないことといった課題も指摘された。また、DAの振興に向けて、利活用をする当事者によるデザイン、各 DA の見える化 (一覧化)、DA 学会等による簡単にDAを作るためのツール・手順の整備や、flickrなどの簡易な Web サービスの推奖、うまくDAに残せていない又は利用したいのに探せないといったニーズの共有、各機関によるデータの分散化といった提案があった。 ## 3.4 ラウンドテーブル「デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)を意義あるものにする」 ラウンドテーブルでは、冒頭で前述の 3 分科会の概要が簡潔に報告された後、議員立法に向けた検討が進められている「デジタルアーカイブ整備推進法案」(仮称)の経緯や内容が紹介された。同法案の骨子では、権利面の措置(権利者不明知的財産データのインター ネット提供に関する検討、知的財産データの取引の活性化施策)に加元、DA 整備推進基本計画の策定と定期的見直し、DA 間の連携促進、DA 活用における格差の是正、多様な主体の参加を可能にする支援、翻訳等の支援による国際発信・国際連携、検索技術などの調査研究支援、人材育成、及びそれらの受け皿となる組織体の検討といった視点が盛り达まれている。 討論者からは、次のような多様な指摘・提案が出た。 ・維持管理やデジタル化に多大なコストがかかる中で、商業的に自立できるコンテンツを縛らないような配慮の必要性 ・草の根レベルでアーカイブを作れるツールの支援や発見されるための仕組み作りの必要性 ・ルールによって作業者側がブラック化しないような現場目線の必要性 $\cdot$ 基本理念における文化権という観点の必要性 ・企業による資料寄贈時にデジタル化費用に税制上の優遇措置を適用する制度の可能性 ・社会として守っていくべきDAの要件((1) データ の品質・正確性・正統性、(2) マイグレーション、(3) (部分的も含む)公開)を定めた上での国の支援の可能性 また、会場からは、他者の視点を通すことでコンテンツの潜在的価値が認識されること、DA はパブリックでオープンであるべきこと、ボーンデジタルの資料も巻き达んでいくべきこと、データ・情報の地域間格差是正に DA が果たす役割等に関する指摘があり、討論者も含めた活発な議論が交わされた。 ## 4. おわりに アーカイブサミットは 2019 年で開始から 5 年目を迎える。この間、アーカイブ及び DAをめぐっては、変わらない課題が多数存在する一方で、少なくない環境の変化(良い変化)も生じてきた。代表的な変化として、デジタルアーカイブ学会の設立、デジタルアー カイブ推進コンソーシアムの設立、内閣府と国立国会図書館によるジャパンサーチの取組といったものが挙げられよう。 アーカイブサミットは「2.1 開催趣旨」で述べたよ うな役割を一定程度果たし、上述の好ましい変化にも直接的・間接的な影響を及ぼしてきたと考えている。 その一方で、これらの環境変化に対応し、新たに設立された関係団体や、「ソフトロー」的な民間の取組との役割分担を明確化する必要性も生じている。そのような意味で、今回のアーカイブサミットがいったんの着地点とされたことは時宜にかなった判断と言えよう。今後は、引き続き残された課題の解決に向けて、関係者による分野横断的な議論の場を再定義していくことが望まれる。 ## 註・参考文献 [1] アーカイブサミット2018-2019. http://archivesj.net/news/post1144/(参照 2019-07-31). [2] 文化資源戦略会議. http://archivesj.net/(参照 2019-07-31). [3] アーカイブサミット2015報告書. http://archivesj.net/wpcontent/uploads/2015/07/a81dbfea25795720fd0fd14c9dbf306a. pdf(参照 2019-07-31). [4] アーカイブサミット2016. http://archivesj.net/news/post-884/ (参照 2019-07-31). [5] アーカイブサミット2017 in 京都. http://archivesj.net/news/ post-1128/(参照 2019-07-31).
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# フィルムアーカイブにおける映画の 復元と保存 Film Restoration and Preservation within Film Archives 抄録:フィルムアーカイブにおける映画の復元と保存のミッションを、1)ソース(復元の元になるオリジナル素材)の保存2)ソー スの復元 3) 複製物の保存 の 3 点に整理し、アナログ・デジタル両面について論じる。その上で、LTO (Linear Tape-Open) を用い、 デジタル・マスター等をオフラインで長期保存する際に生じるマイグレーションの困難を、デジタル・ジレンマの具体例として示 し、アナログ保存とデジタル復元のハイブリッドによる当面の解決策を紹介する。 Abstract: The mission of film archives regarding restoration and preservation of motion picture films in both analog and digital form is discussed in terms of 1) preservation of sources (original elements to be restored), 2) restoration of sources, and 3) preservation of reproductions. We then see the migration difficulties that arise when LTOs are used to store digital masters offline for extended periods of time as a concrete example of "the digital dilemma" and present a hybrid solution combining analog preservation and digital restoration. キーワード : 映画、フィルム、復元、デジタル保存、LTO、マイグレーション、デジタル・ジレンマ Keywords: Motion picture, Film, Restoration, Preservation, LTO, Migration, Digital dilemma ## 1. はじめに 筆者は 2000 年より東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)の研究員として、主として映画フィルムの収集・保存・復元に携わっていたが、2002 年、伊藤大輔監督の失われた傑作として名高い『斬人斬馬剣』(1929年)がふたたび世に出る瞬間に立ち会う幸運に恵まれた。発見されたフィルムが $9.5 \mathrm{~mm}$ という家庭用玩具のフォーマットであり、 かつ非常に保存状態が悪かったことから、従来の写真化学的な複製では納得のいく結果が得られなかったことを受けて、当時はまだ国内では例のなかった映画フィルムのデジタル復元という選択肢について、漠然と検討をはじめた。折しも個人的に参加していた北イタリアのポルデノーネ無声映画祭で、アムステルダムのハーゲフィルム社においてはこのフォーマットのフィルムのデジタル化、デジタル復元がすでに実用化されており、日本国内の相場からすると思いのほか安価に実現可能であることを知った。ちょうどデジタル化関連の予算が付きやすい時期だったこともあり、本作によって日本初のデジタル復元を実現することができた。これをきっかけに、当時はまだまだ未成熟な分野であった映画フィルムのデジタル復元について、 ヨーロッパのアーカイブやラボをまわって調査する機会を得、プロジェクトごとに異なるテーマを設定して、 ケーススタディを積み重ねていった ${ }^{[1]}$ だがフイルムセンターの研究員という立場では、素材提供者やラボとの間のコーディネート、段階ごとの意思決定、および最終的なクオリティ・チェック以上の役回りを果たすことは難しく、隔靴搔痒の思いがつのっていった。完全に現像所の専権事項としてアーキビスト =素人には立ち入る余地のなかった写真化学の領域から、デジタルに映画の復元が場を移したいまこそ、技術が可視化され、言語化可能なものになったはずた、そうでなけれげならない、という思いが強くあった。 数十年、時には一世紀以上にもおよぶ時を、熯難辛苦を乗り越えて奇跡的に生き延び、エマルジョン層のうちにかたちづくられた写真像を、その素材にとって可能だった限りにおいて忠実にとどめ続けているフィルム。たまたまこのタイミングでフィルムアーカイブという場にあり、それを手に取る特権を享受している自分は、いったい何をすればもっともよい形でフィルムに報いることができるのか。そのために決断を迫られる場面がいくつもあった。 $2 \mathrm{~K}$ の解像度は、フィルムがとどめる粒子を損なわずに写し取れているか。 フィルムを連続的に走行させ、ファクシミリのように ラインでスキャンしていく方式と、間歇走行で一コマごとに静止させて撮影する方式とでは、どちらがより精確にフイルム上の情報をすくい取ることができるのか ${ }^{[2]}$ 。最終的な画調の調整は、デジタル処理を終えた後の出力フォーマットであるネガフィルム上ですべて完了すべきなのか、それともこのネガを写真化学的に上映プリントとして再度複製する際に、いま一度、 アナログの調整を加えるべきなのか。 自分ですべての工程を把握し、オペレートできるのでなければ、つまり自らの手で思考するのでなければ、少なくともデジタルの領域においては、プロジェクトのマネージメントをしたことにはならない。そのような切迫した思いに駆られて、2006 年、デジタル復元をすべてインハウスで行なうオーストリアの国立フィルムアーカイブに移籍した。日本での経験を活かし、館内で行なうアナログ・デジタル双方の復元プロジェクト全般に携わったのち、2014年からは復元のほか館内で行なうすべてのデジタル化作業、デジタルアー カイブの構築なども併せて統括している。 以下、筆者がおよそ 20 年のあいだに経験してきた、 フィルムアーカイブにおける映画の復元と保存のミッションを、1)ソース(復元の元になるオリジナル素材)の保存 2) ソースの復元 3) 複製物の保存の 3 点に整理し、アナログ・デジタル両面について論じる。 ## 2. ソースの保存 1895 年に映画が発明されてから一世紀以上の間、映画の保存といえば当然にフィルムの保存のことだった。この問題系は、世界のフィルムアーカイブで長年にわたり議論し尽くされている。中心となるのはフィルム収蔵庫の温湿度管理であるが、低温低湿に保ち、急激な温湿度変化を避けることを基本方針に、さまざまな細部(フィルムに負担を与えない缶や巻芯の材質・構造、フィルムの巻き方、出入庫に伴う温湿度変化の緩和の方法、フィルムの劣化を察知するための定期検查の方法や頻度、すでに始まった劣化を食い止める方法など)についても膨大な議論の蓄積がある。 フィルムアーカイブの最大のミッションである保存= Preservation は、映画フィルムをこれ以上劣化させず、可能な限り良い状態で可能な限り長く生き延びさせるための営為、すなわち「消極的な保存」を第一義的には意味し、これは今後数十年、場合によっては百年以上のスパンで連綿と続いてゆくはずのものである。 ## 3.ソースの復元 ## 3.1 フィルムのアナログ復元 フィルムアーカイブにとって、収集対象として決定的に重要なのは、今も昔も $35 \mathrm{~mm}$ フィルム、とりわけ可燃性フィルムである。1952 年にまずコダックが、 つづいて富士フイルムなど他のフイルム製造業者が可燃性の硝酸セルロース (ナイトレート)から不燃性の酢酸セルロース (アセテート)へと、あらゆるフィルムべースの素材を完全に転換するまで、映画産業の大部分が可燃性フィルムに依拠していた。1950 年代以降、国によって程度の差はあれ、可燃性フィルムの使用は厳しい制約を受けるようになり、所持にさえ制限がかかるようになった。ついこの間まで映画文化の中核にほかならなかったものが、突如として、あらゆる映画フィルム所有者にとって頭の痛いお荷物になったのである。過去の映画などという、映画産業が上り調子であった当時はさほど魅力のなかった「コンテンツ」 から、いつの日か得られるかもしれない(得られないかもしれない)微々たる利益に比べれば、はなから割に合うはずのないその膨大な管理コストとリスクとを、引き受ける役割を担ったのが公的なフィルムアー カイブであった。 化学的に不安定な可燃性フィルムは、早晚劣化して使用できなくなるエフェメラルな媒体であり、一刻も早く「安全」で「安定」した恒久的な保存媒体、すなわち不燃性のフィルムに複製しなければならない、という考え方が共通認識になった。“Nitrate Won't Wait 象徴する標語で、欧米のフィルムアーカイブの多くは所蔵する可燃性フィルムを片端から複製しつづけた。 したがって既述の「消極的な保存」からもう一歩進んで、可燃性フィルムを不燃性フィルムに複製すること (積極的な保存)、またはその複製物をもPreservation という言葉は意味する(図 1)。可燃性でなくても、収集された古いフィルムがその 図1アナログ復元のワークフロー まま上映に供されることは稀で、新しい保存原版および上映用プリントに複製されるのが通常である。 $35 \mathrm{~mm}$ や $16 \mathrm{~mm}$ の上映可能なプリントであっても、他に保存原版がない一点ものであれば上映には用いないのが原則であるし、物理的な損傷や変形のため映写機による走行に耐えないことも多い。上映用プリント以外のネガやマスター素材、あるいは $8 \mathrm{~mm} 、 9.5 \mathrm{~mm}$ などの小型フォーマットも、上映のためには複製を経なければならない。複製芸術としての映画の復元が、絵画や彫刻の復元と大きく相違する点だろう。ソースを現行のシステムで上映・再生が可能なフォーマット(アナログであれば、基本的には $35 \mathrm{~mm}$ フィルム) に複製すること、それがすなわち映画フィルムの「復元」である。 保管に伴うリスクや高コストを理由に、複製作業の後に可燃性フィルムを組織的に廃棄しつづけてきたアーカイブは少なくないが $[5]$ 、現在では、良好な保存環境に置かれさえすれば、可燃性フィルムは不燃性フィルム以上の寿命を持ちうることが知られている。 ## 3.2 日本の場合 1930 年代および 50 年代にはアメリカをも凌駕する、世界一の製作本数を誇る映画大国であったにもかかわらず、日本では残念ながら公共のフィルムアーカイブの発足が著しく遅れた。1952年に国立近代美術館に 「フィルム・ライブラリー」が設置され、国立機関による映画フィルムの収集が開始されたのは大きな前進ではあったが、あくまでも美術館での上映のためのプリント収集がその趣旨であり、そのまま上映に使うことはできない可燃性フィルムや原版類を収集、ましてや複製するような余裕にはそしかった。 一方で可燃性フィルムに対する消防法上の規制は他のどの国よりも厳しく、映画製作会社が自社の過去作品の原版を所持しつづけることはほぼ不可能になった。黄金期に毎週 2 本の新作を製作していた大手映画製作会社各社には、年間 100 本分、すなわち画、音それぞれ 10 巻 ${ }^{[6]}$ ずつとして原版だけでも年あたり 2000 巻ものフィルムが新たに蓄積しつづけていたのであり、この膨大な量のフィルムをどのようにか始末する必要に迫られた。すなわち在庫の可燃性原版を、相当な金額を投資して不燃性フィルムに複製するか、何もせずに廃棄するかのどちらかを選ばねばならなかった。どんなに有力な製作会社にとってもその負担は小さなものではなく、当時としてありえた最良の方法(35mm の不燃性マスター素材への複製)を採用したところはむしろ少数派であった。作業コストと収蔵スペースの節約のため、 $35 \mathrm{~mm}$ 原版を $16 \mathrm{~mm}$ に縮小し て複製したケースが日本では突出して多い。フィルムセンター在職中、本来なら 20 缶あるべき 1 作品の原版が、通常の 2 缶分の厚みの缶たった 1 缶にすべて収まってしまっている ${ }^{[7]}$ 光景を目にするたび、胸が潰れる思いをしたものである。フィルムの幅(一コマあたりの面積 $=$ 情報量)は映画の画質にとって決定的な要素であり、 $16 \mathrm{~mm}$ に縮小することで日本映画はその組成要素のうちの大きな一部を断念したことになる。他にも、可燃性原版から保存用の素材をわざわざ起こすことをせずに、すでにあった不燃性の上映用プリント(35mmならまだしも多くは $16 \mathrm{~mm}$ 、映写にさんざ几使用された後のキズだらけのプリントであることも多い)のみを「保存用」として残すケースは少なくなかったし、単純に何も残さずに廃棄してしまったところさえ皆無ではなかった。 ## 3.3 フィルムのデジタル復元 デジタル復元とは、フィルムの各コマを高解像度でスキャンしてデータ化し、画像処理(位置補正、キズやフリッカーの除去など)したのちに、現行のシステムで上映可能なフォーマットに出力することである。 129,600コマと、処理すべき画像デー夕数が映画の場合は多いため、用いられる画像処理のソフトウェア ${ }^{[8]}$ は処理の自動化に力点を置いている。 筆者が初めてデジタル復元に携わった 2003 年当時は、テレビ放映やソフト販売ではなく映画館での上映を最終的な出口とする以上、最終成果物を「フィルムに戻す」こと、すなわちフィルムレコーディングが必須であった。具体的には、画像処理を終えた各コマのデータを、一コマーコマ、 $35 \mathrm{~mm}$ のネガフィルム上にレーザーで焼き付ける作業である。ここからさらに上映用プリントを起こす(図2)。 レコーデイング費用がスキャニングと同程度にかかってくる上に、従来のアナログ復元と同じだけの 図2 デジタル復元のワークフロー (1) フィルムの複製物、すなわち画ネガ、音ネガ、上映用プリント、それぞれ 10 巻分ずつの成果物が発生することになるので、まだまだ高額であったし、レコー ディングされたネガの現像から上映用プリント作成までの工程は従来通り、現像所内における写真化学作業になるため、デジタル技術で獲得されたせっかくの透明性に再び不透明な要素が混じってしまううらみがあった。 2006 年、現在の映画館で使用されているデジタル上映のフォーマット、DCP (Digital Cinema Package) の仕様に関し、ハリウッドを中心に合意が成立したことにより、アウトプットは急速にフィルムを離れ、デジタル一辺倒になってゆく。これによって、デジタル復元のワークフローは劇的に簡素化され (図 3)、フィルムを一切介さずに最終的な上映用フォーマットまで持ってゆけるようになった。これは最終成果物へのコントロール可能性という意味では画期的であった。 ## 4. 複製物の保存 アナログ復元、および初期のデジタル復元においては、作成される複製物が第一義的にフィルムであるから、その保存は従来通り、オリジナル素材の扱いと同様(アナログ保存)で差し支えなかった。アナログ保存かデジタル保存かという問いは、デジタル技術が映画製作のまずはポスプロ(撮影と上映の間の諸工程) に、つづいて撮影に、そして最終的には上映に、段階的に浸透するにともなって、少しずつ切実さを増してきたものである。 上映用プリントが不要になっても、保存のためにデジタル・マスターを $35 \mathrm{~mm}$ フィルムにレコーディングし、保存用プリントを作成しておくのが望ましいのは異論のないところである(図4)。だが映画館での上映という商業的に最も重要なゴールがすでにデジタルの形で達成されているとき、純然たる保存のためにこの大きな投資を諾う製作会社やアーカイブは多くない。 図3 デジタル復元のワークフロー (2) となると、保存されるべきは上映用コピーとしての DCP と、そのもとになるデジタル・マスターということになる。具体的には、 1 時間半の映画ならば 129,600 個の DPX または TIFF 画像ファイルに、音声ファイル、 さらには字幕などの各種メタデータを加えたものである。デジタル保存には、オンライン(サーバー上)による保存とオフライン (コールド・ストレージとも呼ばれる)による保存があるが、映画の場合、上映用コピーとアクセス・コピー(QuickTimeなど)がオンラインにあれば十分で、データ量が $2 \mathrm{~K}$ で $2 \mathrm{~TB} 、 4 \mathrm{~K}$ で 8TB(DPXの場合)とかなり大きいデジタル・マスターにはオフラインの保存媒体が適している。 オフラインの保存メディアとして、現在一般的に使用されているのは LTO (Linear Tape-Open) と呼ばれる磁気テープである。筆者が携わった初期(2003 年から 2005 年)のデジタル復元ではソニーの規格 DTF (Digital Tape Format)を使用したこともあったが、現在は少なくとも映画の分野では、ほぼLTOの独占状態と思われる。この種のデータの長期保存のための才プションとしては、他に光学ディスクがあり、災害の多い日本で特に活発に開発・導入が進みつつある。 オープン規格として開発されたLTOは、2000 年に第 1 世代 LTO-1 が登場して以来、2019 年 8 月現在、第 8 世代まで更新を重ねている。後方互換性があるとはい元、書き达みは 1 世代前まで、読み出しは 2 世代前までしかできないから、迅速なマイグレーションが必須である。復元により生じたデジタルの複製物を、将来ふたたび使用可能な状態で、可能な限り恒久的に保存しつづけるための研究は、まだその緒に就いたばかりであり、理論的にも実践的にも手探りの状態である。 マイグレーションを怠って 2 世代以上前のテープを読み出す必要に直面すると、非常な困難が生じるのだが、実際に筆者がオーストリアで経験した例はこうである。1908 年製作の映画をデジタル復元するため、 チェコのアーカイブから可燃性フィルムを借用し、ス 図4 デジタル復元のワークフロー (3) キャン、画像処理の上、ネガフィルムにレコーディングして上映用プリントを作成した。2006年のことだから DCP は作っておらず、上映用素材は $35 \mathrm{~mm}$ プリントのみ。この作品は現在でも映画祭などからのリクエストが多く、そのたびにフィルムを送らずに済むよう、 DCP を作りたい。レコーディングに使用したデジタル・マスターが格納されているのは第 2 世代の LTO テープ。ソースの可然性フィルムはすでにチェコに返却されてしまっているから、新たにスキャンし直して修復し直すことも難しく、何としても LTO-2 からデー 夕を読み出したいが、現在館内で稼働中なのは第 7 世代のシステムで、互換性がない。そこで必要となるのが、LTO-4のドライブとドライバ、SCSI インターフェイスのボードとドライバ、SCSI ボードを搭載できる形状のマザーボード、これらすべてが動作する OS、デー 夕書き出しのための現行のインターフェイス (USB、 ネットワークなど)、以上を揃えたワークステーションである。古すぎてサポートなど期待できない領域であるから、かなりハードルが高く、いわゆる「デジタル・ジレンマ ${ }^{[9][10]}$ の典型例であろう。 ## 5. おわりに こうしたデジタル保存の困難さ、未来へ向けての不透明性から、保存媒体として改めてフィルムを採用することには妥当性がある。その場合、改めて問うべきなのが、何を保存するのかである。 十数年、映画のデジタル復元に関わってきて痛切に感じるのは、デジタル技術は日進月歩であり、デジタル復元はその時点での一つの通過点でしかないということである。デジタル復元の問題点、とりわけデジタル処理そのものによって生じた瑕疵(キズを除去した部分の不自然な痕跡やデジタルノイズ)は、時を追い、技術が進み、解像度が上がり、こちらの経験值も上がるにつれていや増しに浮き出て見えてくるもので、 10 年後に同じ作品を復元すればまったく別のものにならざるを得ない。復元の成果物は、それぞれ、その時々にあり得た一バージョンでしかない。 画像処理を施されたデー夕、言ってみれば人為的に改竄されたデータを、恒久保存の目的でフィルムに文字どおり刻みつけて(レコーディングして)しまうのは、正当性の観点から問題なのではないか。ここ数年、筆者が抱えていたこの問いへの、当面の答えとなるワークフローが図 5 である。 上映用素材作成のためのフローははじめからデジタ 図5 デジタル復元のワークフロー (4) ルの道を行くが、保存用素材作成のためのフローはあくまでアナログの道にとどまるというものである。当然、ソースにあるキズはそのまま焼きこまれるし、画面のガタつきもそのままである。複製による世代間劣化も避けられない。しかしオリジナルに由来する瑕疵は、デジタル処理に起因する瑕疵よりはるかに正当性が高い。いわばアナログとデジタルのハイブリッドによる、保存と復元の両立を、今後の道筋として見据えていきたい。 ## 註・参考文献 [1] 常石史子.デジタル復元、はじめの一歩一フィルムとデジタルをつなぐインターフェイス. 映画テレビ技術. 2004, vol.619, pp.20-25. [2] デジタル復元の草創期には、テレシネ(フィルムを低解像度でヴィデオ化する技術の総称)技術の応用で、前者の方式が多く使われていた。現在では一コマをスキャンするために必要な時間が劇的に短縮されたことにより、連続走行で各コマをスキャン(撮影)する方式が一般的になっている。 [3] Anthony Slide, Nitrate Won't Wait: A History of Film Preservation in the United States (Jefferson: McFarland Publishing, 2000). [4] Ed. Roger Smither and Catherine A. Surowiec, This Film Is Dangerous: A Celebration of Nitrate Film (Lausanne: FIAF, 2002). [5] ドイツ連邦アーカイブ・フィルムアーカイブはその代表的な例。 [6] 1000 フィート(300メートル)巻による換算。 [7] オリジナルネガは画と音が分かれているが、これをマスターポジに複製する際に画と音をまとめることで、さらに量が半減する。 [8] オーストリアのグラーツに居を置くHS-ART社が複数のフィルムアーカイブと共同で開発したソフトウェア Diamantが、2001年以来、この分野では牽引的な役割を果たしている。 [9] The Digital Dilemma 2. AMPAS. 2012. https://www.oscars.org/science-technology/sci-tech-projects/ digital-dilemma-2(参照 2019-07-31) [10] デジタル・ジレンマ 2. 国立映画アーカイブ. 2016. https://www.momat.go.jp/fc/research/bdcproject/\#section1-2(参照 2019-07-31)
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# 特集:映画の保存とデジタルアーカイブ ## 欧州の映画アーカイブ ## Film Archives in Europe 抄録:欧州は映画発祥の地でもあり、各国に独自の映画アーカイブが存在する。ここでは文献調査と面談により、英国、フランス、 ドイツ、イタリア、オランダ、オーストリアの映画アーカイブの歴史と現状についてまとめた。 Abstract: As a birthplace of movie, each European country has its own film archive. Here the author summarize the history and current status of film archives in the UK, France, Germany, Italy, the Netherlands, and Austria through literature surveys and interviews. キーワード : 映画、フィルム、保存、デジタル化、FIAF、法定納入 Keywords: movies, motion pictures, films, preservation, digitization, FIAF, legal deposit ## 1. 概論 欧州は映画の発祥地フランスをはじめ、各国に映画アーカイブが存在する。多くは国立またはそれに準ずるが、Cineteca di Bolognaのように全く民間のアーカイブもある。 欧州の各映画アーカイブ機関の一覧表を表 1 に示した。 cinémathèque はフランス語で、上映施設を備えた映画アーカイブである。ドイツ語では Kinemathek、イタリア語では Cineteca と呼ばれる。 なおこの記事で映画フィルムの数を示す場合、映画のタイトル数を示す場合は「作品」、フィルの巻数を示す場合は「巻」としたが、はっきりしない場合も多く、その場合は「本」を用いた。 ## 2. 各機関 2.1 英国の映画アーカイブイギリス映画協会(BFI) ## 2.1.1 歴史と概要 イギリス映画協会(British Film Institute: BFI ${ }^{[1]}$ 1933 年、国家による資金援助をもとに設立された。 1983 年からは国王特許状(Royal Charter)によって認可される公益団体となった ${ }^{[2]}$ 。BFI のアーカイブは、 は1935 年に国立映画ライブラリー(National Film Library)として設立された。BFI 1938 年に設立さ 表1欧州の主要映画アーカイブ & & & & 常設上映設備 & & \\ れた国際フィルムアーカイブ連盟 (International Federation of Film Archives: FIAF)の創設メンバーともなっている ${ }^{[3]}$ 。現在の財源は政府からの助成金と、事業収入、寄付金、テレビ放送事業者からの委託金などである。 BFI National Archive では、劇映画 60,000 作品、ノンフィクション 120,000 作品を保有し、欧州最大規模である ${ }^{[4]}$ 。さらに主として受信・記録したテレビ番組 750,000 本も保有している。テレビ番組については 1990 年の法律により ${ }^{[5]}$ 収集が認められている。なおラジオ番組の収集は大英図書館 (BL) が担当している。英国には映画の法定納入制度がないので、製作者からの寄託の形で収集している。しかし信頼できるフィルム保存設備を備えているところは他にないので、映画会社から提供がある。その際の提供契約(Doner agreement)では、どこまでの範囲で公開できるかが記載されている。たとえば、非商用公開、教育用など。 またカレントな映画については原則 7 年間のエンバー ゴを設定している。またデジタル映画の収集・保存もおこなっている ${ }^{[\text {注1] }}$ ## 2.1.2 フィルムの保管 BFI の保存センターは 1987 に設立された。ロンドンから約 40 分のバーカムステッドにあり、ここで保存のためのデジタル化もおこなっている。約 60 名がシフトで勤務している。テレビ番組のキャプチャもここでおこなっている $[6] \sim[8]$ 。 フィルム保管庫はロンドンから 90 分のゲイドンにある。2010 年に建設された最新式の設備であり、ナイトレート・フィルムの保管もおこなっている ${ }^{[6][9]}$ 。 ## 2.1.3 デジタル化 ${ ^{[\text {注1] }}$} BFI の最近のデジタル化プロジェクトは宝くじ資金でおこなわれた。10,000 本の映画をデジタル化するもので、5000 本は BFI の所蔵フィルム、5,000 本はたとえば東カンブリアアーカイブなど地域のアーカイブか 保存用のデジタル化 (masterization) ではフィルムのクリーニングや修復などをおこなうが、上記のプロジェクトではとくにそういうことは抗こなっていない。最近ビクトリア時代の 500 本のサイレント映画をデジタル化した。全部で 700 本が BFI Player からアクセスできる。 ## 2.1.4 公開 BFI はロンドンのサウスバンク地域に BFI Southbank と BFI IMAXの 2 つの上映施設を持っている。BFI IMAXは通常の映画館であり、商業映画を上映している。BFI Southbank は BFI のコレクションや商業映画を組み合わせた特集の企画を中心している。また BFI Southbankには BFI Mediatheque という映画の視聴設備がある。 BFI Player Online は一般の人がデジタル化された映画をウェブで閲覧できるツールである。これは英国内のみで利用でき、「無料」「購読」(月5 ポンド)、「貸出」の3つのオプションがある。「貸出」は最近の劇場映画等がライセンスで提供されている(1,500 本)。「購読」では過去の劇場映画や特別のコレクションがある (650 本)。「無料」は多くは記録映画や政府機関が作成した映画であり(10,000 本)著作権が切れた古い映画が多い。YouTubeの BFIチャンネルでも 2,833 本の動画(2019年 5 月)が提供されており、国外からも視聴できる。 ## 2.2 フランスの映画アーカイブ 2.2.1 シネマテーク・フランセーズ 1936 年、アンリ・ラングロワ(Henri Langlois)(当時 22 歳) は友人とともに映画フィルムの保存を目的としてシネマテーク・フランセーズ (Cinematheque Francais)を設立した。1939年には映画機材の収集も始めた ${ }^{[10]}$ 。当時は映画は消費財と考えられており、 これを文化財として保存しようという考えは画期的であった。彼は FIFAの創設(1938 年)にも中心的役割を果たした ${ }^{[3]}$ 。ドイツ占領時代には、ラングロワたちはナチによる破壊や収奪からフィルムを保存しようと努力し、非占領地域に移送したり、埋めたしたと伝えられている。 しかし、ラングロワは独善的で、経営者・管理者としては問題が多いことから、1968 年に当時の文化省大臣、アンドレ・マルローによって罷免されたが、著名な映画監督を含む支持者の反対運動により2カ月後には撤回された。1974年にはラングロワは長年の功績により、オスカーの栄誉賞を受賞している。 2007 年にシネマテーク・フランセーズは映画ライブラリー(Bibliothèque du Film)を吸収合併し、現在の形になった。2007年のデータでは、その所蔵は映画フィルム 40,000 巻、写真 500,000 点等である ${ }^{[11]}$ 。 ## 2.2.2 フランス国立映画センター (CNC) 「フランス国立映画センター (CNC)」は、1946 年にフランス政府文化省の部局として、フランスの映画と視聴覚芸術振興のために設立された。CNC の映画 アーカイブは 1969 年に当時の文化省アンドレ・マルローの主導により設置された ${ }^{[12]}$ 。1977 年に映画の法定納入が制度化され、1992 年にその引受先として CNC が指定された。現在はフランス政府文化省に所属している。CNC はもともと Centre national du cinéma et de l'image animéeの略称であるが、現在は正式名称としてCNCを用いている。 $\mathrm{CNC}$ 映画アーカイブの使命は、映画フィルム遺産の収集、保存、カタログ、保全、復元、などである。現在 100,000 巻以上の映画フィルムを所蔵している。 そのうち 12,000 巻を修復しているが、その $25 \%$ が長編、 $70 \%$ が短編、 $5 \%$ がコマーシャルその他となっている [11]。なおテレビ・ラジオ番組の保存は INAがおこなっている ${ }^{[13]}$ 。 ## 2.3 ドイツの映画アーカイブ ## 2.3.1 ドイツ映画アーカイブの歴史 「帝国フィルムアーカイブ (Reichsfilmarchiv)」は 1935 年、ナチスの時代に設立された。IFLA の創設会員である。帝国フィルムアーカイブは占領地域から接収したものも含め 17,352フィルムを持っていたとされるが、ドイツの敗戦の際に破壊され、残り $(6,400)$ の国立映画アーカイブ(State Film Archive: SFA)に戻されたともいわれている。SFAは 1981 年にベルリン郊外に最先端のフイルム倉庫を建設した ${ }^{[16]}$ 「ウーファ教育映画施設(Ufa-Lehrschau)」は著名な映画会社 UFA の監督だったルードウィッヒ・クリチュ(Ludwig Klitzsch)らによって、1936 年に設立された ${ }^{[17]}$ 。敗戦によって、コレクションは破壊または散逸してしまったが、一部はハンス・ウイルヘルム・ ラヴイス (Hanns Wilhelm Lavies) が保存した ${ }^{[15]}$ 。 1949 年にラヴイスらによってドイツ映画観客協会 (Deutsches Institut für Filmkunde: DIF) がヴィースバー デンに設立され、1952 年にはその一部門としてドイツ映画協会(Deutschen Filmarchiv: DIF)が設立された。 DIF は2006年にドイツ映画博物館 (Deustches Filmmuseum)と合併してドイツ映画協会・映画博物館(Deutsches Filminstitut \& Filmmuseum)となった ${ }^{[18]}$ 。 ドイツの連邦政府は文化行政をおこなわないとのルールがあり、文化事業は各州の政府やその他で行われている。したがって、映画アーカイブも次のように多数存在する (カッコ内は所蔵する映画フィルム数)。 Deutsches Filminstitut (German Film Institute - dif) $(20,000 \text { 本 })^{[19]}$ Bundesarchiv-Filmarchiv (Federal Archive / Film Archive - Coblenz / Berlin) $(1,000,000$ 巻) Deutshc Kinemathek(20,000 本) [20] CineGraph - Hamburgisches Centrum für Filmforschung Filmmuseum Düsseldorf (6,500 本) ${ }^{\text {[21] }}$ Filmmuseum München (6,000 本) ${ }^{\text {[22] }}$ Filmmuseum Potsdam Haus des Dokumentarfilms, Stutgart (8,000 本) ${ }^{[23]}$ これらの映画アーカイブ機関はDeutscher Kinematheksverbund (Association of German Film Archives) を結成して活動している。 フィルムアーカイブの最大のものは、ドイツ連邦公文書館(Bundesarchiv)のフィルムアーカイブ部門である。ここは 1895 年以降の 120,000 作品 $(1,000,000$巻以上)を保存している。劇映画のほか、漫画、教育映画、広報映画、1914-1978 年のニュース映画などを含んでいる。旧東ドイツのフィルムアーカイブ SFA は公文書館の一部だったので、そこが保存していたフィルムも現在公文書館が保有している。 ベルリンのドイッ・キネマテーク (Deutshc Kinemathek)は1963 年に開設された。ゲルハルト・ランプレヒト(Gerhard Lamprecht)が集めたコレクションをベルリン市が保有していたが、これをドイツ・キネマテークに譲渡したりした結果、1895 年以降の 26,000 作品を保有している。また、マレーネ・ディー トリヒ(Marlene Dietrich)の屋敷を 1993 年にベルリン市から取得しており、少の遺産を保管している。連邦公文書館、ドイツ・キネマテーク、DIFがドイツの 3 大アーカイブである ${ }^{[24]}$ なお初期のドイツ映画(Ufaを含む)はムルナウ (Murnau) 財団(ヴィースバーデン) ${ }^{[25]}$ が著作権を持っている。 ## 2.3.2 ドイツ映画協会(DIF)の概要 ${ ^{\left[i \text { 注 }^{2}\right]}$} ドイツ映画協会(Deutsches Filminstitut: DIF)は非営利の協会であり、連邦政府の文化メディア省、ヘッセ州、フランクフルト・アム・マイン市とヴィースバー デン市、映画産業協会(SPIO)、その他が会員となり出資している。職員はフランクフルトに 40〜50人、 ヴィースバーデンに 10 名である。 どちらもそれぞれ 10,000 巻ほど所蔵しており、これを統合して、現在 26,000 巻ある。このうち $6,000 \sim$ 8,000 はネガで、のこりはプリントである。 DIF の大きな仕事はドイツ国内の地域映画館にフィルムを配給することである。連邦公文書館は配給をお こなわないので、この仕事はドイツ・キネマテーク [26] と DIF で共同しておこなっている。 ## 2.3.3 デジタル化 ${ ^{[\text {注2] }}$} フィルムのデジタル化は 2013 年に始まった。DIF としては 2018 年は 90 分以上の長いフィルム 15 17 本をデジタル化する見込み。DIF はスキャナーを持たず、デジタル化は外部業者に委託している。DIF とドイツ・キネマテークは、デジタル化について連絡し合って分担している。2019年からは、連邦政府より 10 年間毎年 1000 万ユーロがデジタル化費用として支給されている。 今最大の問題はデジタル・データの保存である。現在 LTO で保存しているが、ワークステーションが 2 台しかなく、管理が難しい。できれば自動テープ書庫を導入したい。 デジタル化の際の映画製作会社との契約条件として、商業的でない利用は自由にできるが、商業的な利用については権利料(50~60\%)を支払う。通常のフィルムは $2 \mathrm{~K} 、$ ニトロセルースのフィルムとネガ ## 2.3.4フィルムの保管[注2] ニトロセルロースのフィルムは規制でここでは管理できないので、ウィーンのオーストリア映画アーカイブに頼んで保管している。連邦公文書館はニトロセルロースの保管庫を持っている。 ## 2.4 イタリアの映画アーカイブ ## 2.4.1 チネテカ・ナチオナーレ (Cineteca Nazionale) チネテカ・ナチオナーレ(Cineteca Nazionale)はイ タリアの映画遺産を保存するために、1949 年に映画芸術実験センター(Centro Sperimentale di Cinematografia) の一部門として設立された。映画芸術実験センターは 1930 年代のイタリア映画フィルムを多数所蔵してお り、チャップリンを始めとする映画人にも利用された が、1943 年、ドイツ占領時に接収され、散逸してし まった[27]。 戦後になって、コレクションの再構築が始まった。 1949 年 12 月 29 日に法 958 により、イタリアが製作または共同製作した映画は納入することが義務付けられ、チネテカ・ナチオナーレが保存することとなった。納入された映画は 3 年後には文化的および非営利的に 海外との交換により、所蔵が増加した。2005年までに、 チネテカ・ナチオナーレは国立商業映画アーカイブ (Archivio Nazionale del Cinema d'Impresa) の所蔵も吸収し、現在の所蔵は約 120,000 本である ${ }^{[29]}$ 。 2003 年からはローマのトレビ・シネマ (Trevi Cinema)劇場でアーカイブを上映するとともに、国内・国際のフェスティバルも開催するようになった。 ## 2.4.2 チネテカ・ディ・ボローニャ (Cineteca di Bologna) チネテカ・ディ・ボローニャ (Cineteca di Bologna) [30] は 1963 年に設立された。2012 年 1 月 1 日には財団となっている。 チネテカ・ディ・ボローニャの映画アーカイブはサイレント時代からの $35 \mathrm{~mm}$ と $16 \mathrm{~mm}$ フィルムからなる 40,000 巻以上のフィルムを所蔵している ${ }^{[31] 。 この ~}$中にはアマチュアが撮影したB-ムービーも含まれる。 チネテカ・ディ・ボローニャは映画フィルムの保存と修復を専門とする研究所(L'Immagine Ritrovata)を持っている [32]。 チネテカ・ディ・ボローニャでは、1986年より、希少な作品、およびサイレント映画を中心とする「ボローニャ復元映画祭(Il Cinema Ritrovato)」を毎年実施している [33]。2019 年には 6 月 22 30日に開催された。2016年には、日本から「カルメン故郷に帰る」 などの映画が出品された。 ## 2.5 オランダの映画アーカイブEYE映画博物館 2.5.1 歴史と概要 オランダでは、1919年 10 月にオランダ中央映画アー カイブ (Nederlandsch Centraal Filmarchief) が設立された。これはデンマーク(1913 年)に次いで古い映画アーカイブである ${ }^{[34]}$ 。このアーカイブは 1933 年に活動を停止したが 1,100 本のフィルムを収集し、これらは現在も残されている。戦後 1946 年にオランダ歴史映画アーカイブ(Dutch Historical Film Archive)が設立され、アーカイブ活動が再開された ${ }^{[35]}$ 。この機関はオランダ映画博物館(Netherlands Filmmuseum)と名称を変更し、アムステルダムのフォンデルパーク地域で、46,000 作品の映画を所有し、上映していた ${ }^{[36]}$ 。 EYE は 2010 年に、この映画博物館などの 4 機関が合併して設立された ${ }^{[37]}$ 。その機能は、映画博物館、 シネマテーク、映画アーカイブ、である。 ## 2.5.2 デジタル化プロジェクト[注3] オランダの文化省は 2007 年から多方面の文化資源のデジタル化を進め、120万ユーロを投資した。その多くは放送テープのデジタル化のためにオランダ視聴覚 研究所 (Sound and Vision) ${ }^{[38]}$ が受け取ったが、EYEでもこれを元に多数のフィルムのデジタル化を進めた。 この資金は 2012 年に終了したが、今でも 250 本 / 年程度デジタル化している。 現在デジタル化されたフィルム数は 33,000 作品であるが、これには最近のボーン・デジタルも含まれる。 オランダでは、映画を製作する際、オランダ映画資金(Dutch Film Fund)の支援を得る場合があるが、その場合、最後の $10 \%$ の資金は EYE に映画を納入したのち支払われる。したがってここの資金を使った映画のほとんどは納入される。もちろん、Netflexその他の資金で製作した場合は、納入されない。納入されたフィルムは、2 年間は一切公開されず、厳密なセキュリティで保管される。その後はすべてのフィルムはこの保存センターに来館すれば閲覧ができる。現在閲覧できるのは 24,000 作品である。 ## 2.6 オーストリア映画アーカイブ (Filmarchiv Austria) ## 2.6.1 歴史と概要 オーストリア映画アーカイブ (Filmarchiv Austria) は 1995 年 10 月 17 日に Österreichische Filmarchiv (ÖFA) として設立された ${ }^{[39]}$ 。現在の名前になったのは 1997 年である。 2002 年に、ウィーン市中心部にメトロ・ キノクルトゥールハウス(Metro-Kinokulturhaus)という劇場を取得した ${ }^{[40]}$ 現在の所蔵は映画 200,000 巻、写真 $2,000,000$ 点、 プログラム 25,000 点、ポスター 15,500 点、映画プログラム $(48,000$ 点)、書籍 25,000 冊、その他機器等である ${ }^{[41]}$ 。保存されている一番古い映画はリユミエー ル兄弟が撮影したウィーンの情景 (1896)、一番古いオーストリアの映画はドキュメンタリー、Der Kaiserbesuch in Braunau/Inn ("Visit of the Kaiser to Braunau am Inn")(1903)である。 ## 2.6.2 家庭映画アーカイブプロジェクト[注4] オーストリア映画アーカイブでは、2012 年から、市民が持つフイルムを集めてアーカイブするプロジェクトを行っている [42][43]。ブルゲンランド州 $(1,300$本)、低地オーストリア州(70,388 本)、ザルツブルグ州 (43,000本)の3州についてそれぞれ実施した(カッコ内の数字はデジタル化したフィルム本数)。多くは 196070 年代の $8 \mathrm{~mm}$ であるが $9.5 \mathrm{~mm} 、 16 \mathrm{~mm}$ もある。 ほとんどが素人の家庭映画であるが、中にはセミプロが撮影・編集を行ったものもある。 ## 2.6.3フィルムの保管 ${ ^{[\text {注4] }}$} オーストリア映画アーカイブでは、2004 年にウィー ン郊外のラクセンブルクにある旧離宮地域にフィルム収蔵庫を設置した ${ }^{[39]}$ 。現在一般フィルム用の保存庫とニトロセルロース・フィルム用の保存庫がある。二トロセルロース・フィルムは、他のアーカイブではコンクリート壁で仕切られた倉庫に保存され、発火の場合に他のフィルムに影響しないようにしている。ここでは、温度・湿度調整された木造倉庫に収蔵している。木造にした理由は、日本の古いニトロセルロース・ フィルムが桐の木箱に非常に良好な状態で見つかったことから、木の倉庫が適しているのではないかと考えたことによる。 ## 3. まとめ アメリカ映画が世界を席巻する前は欧州が映画の中心地であり、1930 年代に各国で映画アーカイブが誕生した。しかし、大二次世界大戦により、多くの映画フィルムが焼失または紛失してしまった。各国のアー カイブの歴史を見ると、戦争の傷跡を感じることができる。 欧州の映画アーカイブでは、法定納入制度が確立していたり (フランス、イタリア)、補助金と引き換えに納入を義務付けていたり(オランダ)などによって最近の映画も収集している。日本でも早急に何らかの制度を作る必要があると思われる。 ## 註・参考文献 [注1] Jez Stewart氏(Curator of the Non Fiction collection, BFI) のインタビューより (2019-05-22)。 [注2] Thomas Worschech氏(Head of Filmarchive, DIF)、Michael Schurig氏(Leiter der analogen Filmsammlung, DIF)のインタビューより (2018-11-29,30). [注3] Anne Gant氏(Head of Conservation and Digital Access, EYE Filmmuseum)のインタビューより(2019-03-25). [注4] 常石史子氏(Filmarchiv Austria)のインタビューより (2017-11-27). [1] 長井暁. 放送研究と調査. 2008, (3), 46-59. 世界の映像アーカイブの現状と課題 [2] 深谷公宣. イギリス・アイルランドにおける映画関連機関について. 富山大学芸術文化学部紀要, 2010, vol.4, Page 174181. [3] FIAF. The Origins of FIAF, 1936-1938. https://www.fiafnet.org/ pages/history/origins-of-fiaf.html (参照 2019-07-11). [4] BFI. Key archives and what they do. https://www.bfi.org.uk/ archive-collections/archive-projects/artist-archive/key-archiveswhat-they-do(参照 2019-07-11). [5] Broadcasting Act 1990. https://www.legislation.gov.uk/ ukpga/1990/42/contents(参照 2019-07-05). [6] BFI. A history of the archive. https://www.bfi.org.uk/archivecollections/about-bfi-national-archive/history-archive(参照 201907-11). [7] A day in the life of the BFI National Archive. https://www.bfi.org. uk/news-opinion/news-bfi/features/day-life-bfi-national-archive (参照 2019-07-05). [8] J. Paul Getty Jr Conservation Centre. https://www.bfi.org.uk/filmstv-people/4ce2b9bff37c0(参照 2019-07-05). [9] Inside the BFI's new film storage facility. https://www.bbc.com/ news/av/entertainment-arts-14665763/inside-the-bfi-s-new-filmstorage-facility(参照 2019-07-05). [10] Laurent Mannoni. Les Collections D'appareils De la Cinémathèque Française et Du CNC (1940-2013). Journal of Film Preservation. April 2014, (90), 13pp. [11] Eric Le Roy. Archives cinématographiques. La Cinémathèque française/Bibliothèque du film, Bibliothèque nationale de France, Institut national de l'audiovisuel, Centre national de la cinématographie. Genesis (Manuscrits-Recherche-Invention). 2007, (28), 201-207. [12] European Film Gateway. Archives françaises du film du CNC (Bois d'Arcy). http://europeanfilmgateway.eu/content/archivesfran\%C3\%A7aises-du-film-du-cnc-bois-darcy(参照 2019-07-05). [13] 時実象一.フランスのデジタルアーカイブ機関:BnFとINA (調査報告).デジタルアーカイブ学会誌. 2018, 2(3), 287293. [14] Lexicon der Filmbegriffe. 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The Nederlands Filmmuseum - (The Netherlands Film Museum) . https://www.jlgrealestate.com/netherlands_film_ museum/?lang=en(参照 2019-07-11). [37] EYE. about eye. https://www.eyefilm.nl/en/about-eye(参照 2019$07-11$ ). [38] The Netherlands Institute for Sound and Vision. https://www. beeldengeluid.nl/en(参照 2019-07-05). [39] Filmarchiv Austria. History. https://www.filmarchiv.at/en/about/ history/(参照 2019-07-11). [40] Armin Loacker. Filmarchiv Austria. the National Library of the Moving Image. J. Film Preservation. 2017, (96), 5pp. [41] Filmarchiv Austria. Collections. https://www.filmarchiv.at/en/ sammlung/(参照2019-07-11). [42] 常石史子. あなたのフィルムが歴史をつくる:ホームムー ビーのデジタルアーカイブ. デジタルアーカイブ学会誌. 2019, 3(1), 175-178. [43] Fumito Tsuneishi. Digitising 25,000 Films a Year. A Challenge for Filmarchiv Austria. Journal of Film Preservation. 2018, (99), 133140 .
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Japan Society for Digital Archive
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# 「にいがた 地域映像アーカイブ」の 実践を通して:地域をブーツスト ラップする Niigata Regional Image Archive: Bootstrapping the Community 原田 健 HARADA Kenichi 新潟大学 人文学部 } 抄録:新潟大学の研究プロジェクト「にいがた 地域映像アーカイブ」は、地域の町や村と連携しながら、新潟を中心とした地域の 生活のなかにある映像を発掘して、整理・保存を行い、デジタル化をし、さらには、その内容を整理、分析し、映像メデイアの社会的あり方を考え直し、新たな社会の文化遺産として映像を鬽らせるものとして構想された。地域のデジタル映像アーカイブは、 デジタル化という現在の大きな社会変容のなかで、機能しなくなった研究状況を打破する装置であり、地域の時間層へのボーリン グ調査によって、社会変容の基層にあるものが何なのか、デジタル化することによって再帰的に実証し、地域そのものをブーツス トラップ(編み上げ直す)するものだ。 Abstract: Niigata University's research project "Niigata Regional Image Archive" is collaborating with local towns and villages to discover, organize, store, and digitize images stored in communities in the Niigata Prefecture. Furthermore, it was conceived as a way of reorganizing and analyzing the content, rethinking the social way of image media, and reviving image as a new social cultural heritage. The regional image archive is a device that breaks down the research situation that has ceased to function in the current major social transformation of digitalization. It proves what is at the foundation of social transformation through a boring survey of the local time layer by recursively digitizing, and bootstraps the community itself. キーワード:地域、映像、フィールドワーク、データベース、MALUI連携 Keywords: Community, Images, Field work, Database, MALUI ## 1. 地域に映像はあるのか 現在、変化の激しい社会の現実なかで、人文社会科学系の研究はその役割を十分に果たしていないのではないかという問いは、通奏低音として多くの研究者にある。 言い古されたことではあるが、資本主義と社会主義の対決としての米ソの対立という政治体制は、1989 年にベルリンの壁が壊され、1991 年にソビエト連邦が崩壊したことによって終結する。その後、資本主義はよりグローバル化し、人やモノ、金(資本)の流れが活発化すると同時に、社会における格差が拡大する。 2001 年 9 月 11 日のアメリカでおきた同時多発テロを機に、世界は安定したものから見えにくい流動化した不安定なものへと変わる。 これに並行するにように、あるいは媒介するように、私たちのコミュニケーション・ツールのメディア化1990 年代以降のパソコン、インターネットの普及、 さらには、2000 年代以降はケイタイ、スマホなどの SNS などの普及によって、私たちのコミュニケーショ ンのあり方そのものが変わり、日常生活のさまざまな領域も変容した。 ところで、こうした激しい社会変容の表層の下にある、基層にあるものはどうなっているのだ万う。日常生活における人びとの潜在化した記憶のなかでは何が起こっているのだろう。あるいは、その変容の様態を横断的に読み取るにはどうしたらいいのだろう。ここでは、その方法として、まずある特定の地域を設定し、映像の堆積されたかたまりを発掘し、記憶の外部装置の継起的な連なりをたどることで、社会の集合的記憶の領域を顕在化させる。さらに、「にいがた地域映像アーカイブ」として集合化し、こうした社会の潜在化した意識の基層を実証的に明らかにする。これは、デジタル化という大きな社会変容のなかで、遷移するアイデンティティを自ら再帰的に明らかにしょうとする試みであり、その意味でデジタル・アーカイブはその方法的な機械であり、装置としての役割をもつ。 ところで、私が 2008 年に新潟大学に赴任したとき、 「地域の映像」といえば、1960 年代以降の NHK の地方局、あるいは、民間放送局の映像か、行政が関わつた文化記録映画、あるいはドキュメンタリーといったものか、新聞社のニュース写真といったものが考えられていた。それらの多くはマス・コミュニケー ションの範囲のものであり、そうでなければパーソナルな家族写真のことが考えられていた。残念ながら、こうした考えは、実際に調査して得られたものではなかった。 新潟に来てから 12 年目となる地域の映像を調査発掘する「にいがた地域映像アーカイブ」 ${ }^{[1]}$ の試みは、 こうした研究状況を打破し、地域の時間層へのボーリング調查をすることで、社会変容の基層に持続的に流れるものが何なのか、映像という資料をもとに、実証的に明らかにしょうとするものだ。 ## 2. 発見された地域の映像 それでは、地域にはどんな映像があるのだろうか。 ここでは、映像メディアが近代になってヨーロッパで生み出されたものであり、日本社会に幕末以降、移入されたものであるという観点から考えてみよう。日本社会における映像の移入の窓口として、貿易港であった長崎や横浜があり、映像を享受する人びととして為政者、さらには江戸 (東京) や大阪、京都といった大きな都市の富裕層(のちにはブルジョアジーとなる人びと)を想定することは間違っていない。ここで、映像を都市的なものと仮定すれば、社会学のセオリーに従って考えれば、都市における上流階級(富裕層)から下層階級(一般庶民)へのコー ス、あるいは都市上流層から各地の都市上流層へのコースが中心的なものとなる。 しかし、新潟での調查の結果は違ったものであった。都市における支配層や富裕層から、都市ではない各地域の支配層や富裕層へと、横へ横へと広がっていった。特に、中心都市と各地域の都市とを結ぶ流通経路である中山間地域 - 江戸と新潟湊の間、三国街道を通り魚野川へといたる地域に普及していた。幕末、南魚沼市六日町(新幹線の駅でいえば、湯沢と浦佐の間にある)に在住する地域名望家であった今成無事平と無為平が、江戸に遊学し、写真の技術を学び、写真機、現像機を購入し、写真を写した事例(1866 1877 年)はこうした典型的なものといえる。今成無事平による江戸遊学の背景には、この地域が縮みなどの織物の産業が盛んであり、生糸など横浜を通した貿易があり、グローバルな経済的な関係性がネットワーク化されていたことがある。こ の地域では、山つたいに馬で物を運び、川で船に荷を積み替え、さらに港(新潟湊)で帆船へと荷を変えていく物流の経路が形成されていただけでなく、物を運ぶ人を泊める宿などを含めた流通を支える施設(インフラストラクチャー)があり、それらの施設はそのまま文化的な土滾を育むものとしてあった。例えば、信州の中山道と北国街道の分岐点である追分宿で唄われていた馬子㖵が追分節となり、北国街道を北上し、越後に入り新潟湊で松前節となり、北前船の船乗りたちが港々に伝え江差追分になる。 あるいは、これらの地域は養蚕業の盛んな地域であり、薣女の三味線やうたは虫が喜ぶとされ、新潟、群馬を中心に養蚕信仰のあった地を嘉女は回るものでもあった。こうした事例は、この地域が都市と都市との間の流通経路としてあっただけでなく、移動を通して、文化そのものを生み出すような社会的構造をもつ地帯であったことを明らかにしている。つまり、近代以前の物流の経路は単なる流通路ではなく、宗教や文化を支えるような文化的な土壌としてあった。 そうした観点から今成家の写真の内容をみると、地主名望家であった若き当主(無事平と無為平の兄弟)が自ら村芝居である歌舞伎の演目を演じているもの、さらにその芝居仲間による演目の写真が大半を占めていることは、こうした文化的な文脈なかで映像を理解していたことを示している。また、「写し写され見る」関係が、パーソナルな家族などの対人コミュニケーション内にあるのではなく、村や仲間などのコミュニティである中間的・特殊関心的なコミュニケーションにあることは、地域において映像が生成する場所がどこなのかを明らかにしている。 さらに、こうした遊戯的な仲間による中間的なコミュニケーションの領域が、村の共同規範から微妙にはずれたものであることも映像の受容の社会的なあり方を顕している。 写真撮影: 今成無事平撮影アーカイブ番号 IF-001-023 新潟において、中山間地域に継続的に映像が蓄積されていることは、これまでの研究の前提を大きく変えるだけでなく、その内容がその地域の文化を反映したものであることは、映像が既にある地域文化に加上され、重ねられることで普及していったことを示している。 ## 3. 地域でフィールドワークをするということ の意味 デジタル時代におけるメディアのあり方を論じたレフ・マノヴィッチは『ニューメディアの言語』(みすず書房、2013 年) ${ }^{[2]}$ で「世界が画像や、文章や、その他のデータ・レコードの果てしない、構造化されざる集積として私たちに現れるとしたら、当然、それをデータベースとしてモデル化するように促されるだ万う」(310頁)としている。多くの論者はこうしたデー タベース化が、PC、インターネット、デジタル化によって可能になったかのように考えるが、しかし、それは間違っている。実際には、こうしたデータベース化は近代以前(写真を考慮すれば近代以降)から行われてきており、デジタル化によって変わったのは、画像や、文章や、その他のデータ・レコードとの関係が変わったことにある。つまり、現在、日常生活におけるデータ(映像など)の組み替えが起きており、それによって記憶のあり方が遷移しつつあるのだ。 例えば、デジタル化以前において、個人が作る写真帖は蓄積された写真をどう整理し、秩序づけようとするかという日常生活における小さなデータベースと考えることができる。この小さなデータベースはデジタル化したニューメディアと同じように、つけ加えられたり、削られたり何度もする。 新潟大学地域映像アーカイブ研究センターの榎本千賀子は福島県大沼郡金山町の個人蔵の写真帖の調査を行い、渡辺章栄が写真帖を編集し直す過程で、写真の裏面、あるいは頁余白への記し書きを、何度か変えながら再編集していったことを明らかにしている(榎本千賀子「「村の肖像」制作の現場から」原田健一一水島久光編『手と足と眼と耳』学文社、 2018 年 $\left.{ }^{[3]}\right)$ 。 日常生活において、多くの庶民は楽しみのため、自分を慰撫するため、あるいは何らかの理由のために、 さまざまな小さなデータベースを作りだしている。そして、時にそれらを集積しアーカイブを作り上げる。 ところで、デジタル映像アーカイブの議論で、しばしば、何のためにアーカイブと作るのかという問題が提起されることがあるが、こうした質問は適切ではない。人びとは日常生活のなかで、世界を理解するために、 あるいは、人とつながるために、画像や、文章や、その他のデータ・レコードを集積し、組織化しようとする。そこに、個々の「データベースの詩学、美学、倫理学」が胚胎する。地域で映像を発掘しデジタル化し、 アーカイブを創り出す作業は、こうした人びとの日常生活の営みを、正当な場所へと位置づけ、人びとをして自分たちの行為が独特の「詩学、美学、倫理学」 を形成していることを自覚化させるものである。既に述べたように、社会の潜在化した意識の基層は、実際にはこうした物として顕在化している。地域映像アーカイブの調査は、人びとの日常生活における物との関係を変え、記憶のあり方を変容させる。それはナショナルな要請ではなく、自らの生活の必要において行われるべきものとしてある。しかし、現在の日常生活におけるデジタル化は、過去を清算する微細な権力による組み替えとして機能しており、そのことに研究者はもっと留意する必要がある。 なお、榎本千賀子は 2016 年 5 月から 2019 年 3 月まで現地に住み、金山町教育委員会の事業として村にある個人が所蔵する写真 (写真帖) の調査を約 3 年にわたって行った。榎本の人びとに身を寄せたフィールドワークは、その成果として『山のさざめき川のとどろきかねやま「村の肖像」プロジェクト』 (金山町教育委員会、2019 年) ${ }^{[4]} 、 『 「$ 村の肖像」調査記録報告書』(新潟県・新潟大学ミュージアム連携ネットワーク、2019 年) ${ }^{[5]} 、 『$ 家族写真の社会学』(大阪市立大学社会学教室、2019 年) ${ }^{[6]}$ としてまとめられている。ここでは詳しいことは紹介しないが、金山町という山間部にある小さな町に蓄積された膨大な小さな映像のデータベースのつらなりから、日本の近代の構造が逆立してみえてくる。今、私たちは巨大都市・東京や大阪、名古屋、京都からは見えない人びとの声の響きに耳を傾ける時季に来ている。 ## 4. 新潟におけるMALUI連携の試み 「にいがた地域映像アーカイブ」は、こうした地域の町や村と連携しながら、新潟を中心とした地域の生活のなかにある映像を発掘して、整理・保存を行い、 デジタル化をし、さらには、その内容を整理、分析し、映像メデイアの社会的あり方を考え直し、新たな社会の文化遺産として映像を皸らせるべく、さまざまな試掘を行ってきた。 データベース化された映像(写真、動画)は、新潟県を中心にはば広く撮影をした中俣正義、金山町の一つの村で 70 年間写し続けた角田勝之助などの個人コ レクションを中心にしている。また、機関が所蔵する映像は、新潟大学附属図書館、新潟県立生涯学習センター、新潟市視聴覚ライブラリー、魚沼市教育委員会、南魚沼市教育委員会、新潟日報社・BSN などから提供されたものによっている。映像以外では、新潟県立図書館「郷土新聞画像データベース」もサイトアップされている。 地域という観点から考えた場合、本来まとまって一緒にあるべき資料が、メディアが違うために、異なったいくつかの機関や場所に所蔵されている。こうした資料を所蔵する博物館 $(M)$ ・文書館 $(A) \cdot$ 図書館 $(\mathrm{L}) \cdot$ 大学 $(\mathrm{U}) \cdot$ 産業界 (I) などが連携して、 デジタル化したものを統合し、文化資源として共有化するために、県内全体のさまざまな資料を一元的に管理公開するシステムを構築する必要が出てきている。既に述べたように、こうした連携はデジタル化によって求められている新しい規準であり、社会に作用している権能としてある。MALUI 連携はこうした連携を実現するためのものである。2017年 3 月より、MALUI 連携に向けて新潟県立図書館「郷土新聞画像データベース」[7](戦前の郷土新聞発行別で約 3 万件(約 20 万紙面)と、新潟大学人文社会 - 教育科学系附置地域映像アーカイブ研究センターの新潟大学「にいがた地域映像アーカイブ・データベース」 (写真・動画・音源など約 8 万点)を統合して、公開・閲覧することが始まった ${ }^{[8]}$ 。な扒、公開、閲覧は地域の連携した機関である上越教育大学、敬和学園大学の附属図書館や、新発田市図書館などでも閲覧することができる。 なお、地域の映像資源を循環させていくためのサイクル構築のために、展示機関と連携したものとして、 2015 年 9 月 4 日から 10 月 6 日まで池田記念美術館で 「光の記憶」展を開催し、2019 年 1 月 19 日から 3 月 21 日まで新潟県立歴史博物館で「村の肖像」展を開催し、小中高校との授業ワークショップも行っている。 ## 5. 連携をはばむ問題とはなにか、経験則から 考える 地域の小さなデータベースを集積しアーカイブ化し、さらに公的な機関のアーカイブをつなげ、さらに、地域のメディア各社、図書館、博物館、美術館などの関連機関と連携を深めることで、映像を公開・利用してゆくためのルールを確立し、地域の人びとや映像メディアに関わる人びとと共に新たな文化、社会をデザインしていくところへと、私たちは進む必要がある。 ここで、こうした連携を阻むものが何かを、経験則から考えてみよう。一つ目は、行政的な縦割り社会の構造がある。例えば、同じ新潟県の機関でも縦割り組織になっているために、県立図書館、県立文書館、県立歴史博物館、県立美術館、県教育委員会など、それぞれ全く別組織といい状態にある。これは県と市とが全く別組織と同じ状態にあるのと同じである。それでいながら、各機関は、近年ではさまざまな成果が求められており、自分の機関の所蔵資料の公開について、形だけでもネット上で公開する必要があり、公開しやすい資料については、個々でサイトアップする。しかし、サイトアップしたものを統合することはない。しかし、こうした実態は、研究に打いても変わらない。例えば、映像を研究する場合、メディア研究、写真研究、映画研究、放送研究、映像学 (芸術学)、さらには歴史学、民俗学、文化人類学、社会学などなど異なった研究領域が形成されているだけでなく、研究はそれぞれに分断しており、互いに参照することは少ない。 二つ目に、担当者による裁量が思った以上に大きいという問題がある。文書館など行政機関のアーカイブは、本来、保存、閲覧の専門機関であるにも関わらず、担当者、あるいは館長(副館長)などの管理職の人間が何らかの理由でデジタル化をし、公開することに積極的な場合、事態は進む。しかし、担当者が変わる、管理職が退任すると一挙に事態は止まることになる。あるいは予算がついているときは動くが、予算がつきるとプロジェクトは止まる。もち万ん、こうしたことは研究者に打いても同じである。科研が採択されたときに、研究は前進し、不採択になると止まる。 三つ目に、多くの一般の人びとはユーザーであることに、何らかの特権を感じている。現在、こうしたデジタル映像アーカイブのデータベースを実際に使うのは、先進的なユーザーといえるが、それゆえの多くの誤解、先入観をもっている。ユーザーとして、 こうであるべきだという理想を語ることはするが、自分が作る必要があるとは思っていない。自分が当事者であることに思い执よばないのだ。しかし、研究者においても、同じである。研究者は自分の研究に必要なデータベースは自分で作り、さらにそれを社会に公開し還元する必要があると思っているものは少ない。 どちらにしても、地域の映像アーカイブは、まだ始まったばかりであり、これらの現象、問題は過渡的なものといえる。今後、どうデジタル映像アーカ イブが発展していくかは、どれだけ多くの人びとがアーカイブに関わり、またさらにそのことで、手と足を使って眼と耳をこらすことでその実態が実現していくことに変わりはない。 ## 註・参考文献 [1] にいがた地域映像アーカイブ. http://arc.human.niigata-u. ac.jp/malui/index.html(参照 2019-08-07). [2] レフ・マノヴィッチ, 堀潤之訳.『ニューメディアの言語: デジタル時代のアート、デザイン、映画』.みすず書房. 2013, 488p. [3] 原田健一$\cdot$水島久光編.『手と足と眼と耳』. 学文社, 2018, $328 \mathrm{p}$. [4] 金山町教育委員会『『山のさざめき川のとどろき : かねやま 「村の肖像」プロジェクト』.金山町教育委員会. 2019, 126p. [5] 原田健一編.『村の肖像」調査記録報告書』. 新潟県・新潟大学ミュージアム連携ネットワーク. 2019, 137p. [6] 大阪市立大学社会学教室.『家族写真の社会学』.2019, 180p. [7] 津田光弘、にいがた「郷土新聞画像データベース」の構築.第22回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」発表論文集2016. https://www.jinbun-db.com/journal/pdf/vol_22_ 1-8.pdf(参照 2019-08-07). [8] にいがた MALUI連携地域データベース. http://arc.human. niigata-u.ac.jp/malui/\#!page1(参照 2019-08-07).
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# 「映画の復元と保存に関するワーク ショップ」について ## Workshop on Movie Restoration and Preservation \author{ 太田米男 \\ OTA Yoneo } 大阪芸術大学映像学科教授/ (一社)京都映画芸術文化研究所(おもちゃ映画ミュージアム)代表理事 抄録:「映画の復元と保存に関するワークショップ」も 2019 年には 14 年目になる。この間に、「アナログ」から「デジタル」へ、映画製作や上映を取り巻く環境も大きく変わってきた。過去に、サイレントからトーキーヘ、ナイトレートからアセテートへと、映画の歴史を見ても、規格が変った時に、過去のソフトは失われている。この点を危惧する思いで、ワークショップを提案した。 120 年以上の歴史を持ち、世界で唯一の共通規格である $35 \mathrm{~mm}$ 映画フィルムは膨大な量の映像遺産を残した。それをどのように生かすのか。「ビネガー・シンドローム」、「デジタル・ジレンマ」の問題を抱え、山積する難問は多い。この「ワークショップ」を多くの人たちの情報交換の場と考えている。 Abstract: "Workshop on movie restoration and preservation" reaches its 14th conference in 2019. During this time, the environment surrounding film production and screening has changed dramatically from "analog" to "digital". In looking back at the history of movies, contents were lost when the standards changed, from silent to talky or from nitrate to acetate. I proposed this workshop with this fear. With a history of more than 120 years, the only common standard in the world, $35 \mathrm{~mm}$ movie film, has left a huge amount of motion picture heritage. How do you make use of it? There are a lot of difficult problems such as "vinegar syndrome" and "digital dilemma". We consider this "workshop" a place for exchanging information among many people who are concerned. キーワード : 映画の復元と保存に関するワークショップ、映像遺産、ビネガー・シンドローム、デジタル・ジレンマ Keywords: Workshop on Movie Restoration and Preservation, Movie heritage, Vinegar syndrome, Digital dilemma ## 1. はじめに 今年(2019)で「映画の復元と保存に関するワークショップ」も 14 年目になる ${ }^{[1]}$ 。ここでは発案に至った経緯や開催趣旨、運営内容、そして今後について、順次紹介して行く。 ここに第 2 回「映画の復元と保存に関するワークショップ」2007のチラシがあります。この 14 年の間に、映画製作や映像保存を取り巻く環境や状況は大きく変わりましたが、当時この「ワークショップ」を発案した意図や目的に関しては、今でも通じるものがあり、まずはその内容を示しておきます。 表紙には、劣化したナイトレート・フィルムの画像に、あなたは映画を救えるか!」というキャッチフレー ズをつけ、裏には開催内容を詳しく記載しています。《直接ラボで学べる映画フィルムの修復と復元作業!》映画保存に関心を持った人たちに、映画保存の現状と映画復元の意義を理解していただき、直接ラボ(現像所)でフィルム修復や復元の技術指導を受けることによって、将来の映画保存に携わる専門的な人材育成を目的としています。 第2回「映画の復元と保存に関するワークショップ」2007のチラシ 《日本映画を守る映画保存のワークショップ》 日本映画の保存状況は、決して恵まれた環境にはありません。それどころか過去の名作や傑作も消滅の危機に直面しているのが現状です。戦前の映画は、ナイ レートと呼ばれた硝酸セルロース (綿火薬) フィルムであったため、過剩に危険視され、安全フィルムにコピーすると廃棄されてきました。また、安全フィルムと呼ばれたトリアセテート(三䣷酸セルロース)フィルムも、50 年以上を経過し、加水分解 (ビネガーシンドローム)という組織破壊を起こし、今日、戦後の名作や傑作映画の原版も、消滅へのカウントダウンが始まっていると言えます。 《著作権法の保護期間が延びれば、映画は殺される!》小説も多くが死蔵され、著作権法の保護期間延長を危惧する声があります。映画の場合、死蔵されると、 ビネガーシンドロームで劣化消滅させる可能性があります。欧米のように、パブリック・ドメインや原版を所持することが著作権法の条件になっている国は、盛んにデジタル・リマスター版という映画復元を行っていますが、日本の場合は、劣化を放置し、映画を消滅させても、権利を主張できます。もし、フィルムが死蔵されるようなことになれば、映画は法律によって殺されることになりかねません。このような現状も、このワークショップで理解して戴きたいと思っています。《映画フィルムは、第3 世代に入った!》 世界で唯一の共通規格である $35 \mathrm{~mm}$ 映画フィルムは、 110 年以上の歴史をもち、膨大な映画財産を人類に残しました。新しいデジタルの時代にも、そのコンテンツの中心が映画であることが、それを証明しています。今日、映画フィルムは第 3 世代のエスター(ポリエステル)フィルムの時代に入っています。欧米のデジタル・リマスター版は、フィルム原版からデジタル修復し、複製原版を作り保存する。そのフィルムは、 こののち 100 年以上の耐久が保証されています。《関西を映画復元の基地に!》 ここ関西には、映画フィルムの復元を専門とする我が国唯一のラボ(現像所)があり、映画復元の基地とするには最適な環境にあると言えます。 我が国には、映画保存や修復に携わる人たちを対象にしたアーキビストの連盟も学会、学校もなく、国際的には後進の状態にあります。また、映画保存に関しては、これまで博物館学芸員の資格対象にないため、新たに発見されたフィルムも、専門施設以外では、どのように対応してよいのか判らず、倉庫に眠らせたまま劣化させ、消滅を持つほかありません。今後、デジタル復元が本格化する過程で、フィルム修復技術が重要な課題になることが見込まれます。 「あなたも、映画復元を体験しませんか?」 プログラムは、第 1 日目、神戸映画資料館で、講義 (1)「映画の復元について」太田米男 (大阪芸術大学)、 (2)「フィルム・アーカイブの仕事について」とちぎあきら (東京国立近代美術館フィルムセンター)、(3)「映画復元の歴史と地域文化アーカイブ」森脇清隆(京都文化博物館)、(4)「映画保存の里親制度と映画学校について」石原香絵(NPO 映画保存協会)、(5)シンポジウム「デジタル時代のフィルム復元と保存について」。 2日目からは IMAGICA ウェスト試写室に移動し、(6)「映画フィルムの種類と特性」平野浩司(富士フイルム)、(7)「フィルム修復と復元の方法」山本毅 (IMAGICAウェスト)、8「デジタル・インターメディエイトとデジタル修復について」越智武彦 (IMAGICA)、(9)「撮影者からの提言」森田富士郎(映画撮影監督)、(10「技術研修に関する説明」須佐見成 (IMAGICA ウェスト)。第 3 日は、技術研修となり、4 組 5 名編成で順に 70 分単位で11)フィルム修復、(12)才プチカル作業、(13) 現像、(14)タイミング作業一 IMAGICAウェストのスタッフ。 もちろん、第 1 回目にも案内チラシを作りました。大学の単位制に則したもので、2 週間、朝 10:00〜 17:00まで。講義 2 日間、演習 3 日、実習は 5 日間という内容でした。専門の技術員を育成するために、夏休み期間にワークショップを計画したのですが、現場の技術者たちから、「1日か2日なら協力するが、長期のワークショップは勘弁してほしい」という声が出て、第 2 回では仕切り直しして、新しく開館した神戸映画資料館に打願いしました。理想とは違ったものでしたが、逆に期間が短いことで参加者も多く、特に各種博物館の学芸員の方、また直接フィルムに携わっている映写技師の方やポストプロの人、そして映画会社のアーカイブ担当者など、映画専門の人たちも参加していただき、以降は、思い上がった「人材育成」というより「情報交換」の場として運営するべく方針も改め、第 3 回上り 100 名以上収容可能な京都文化博物館で開催することになりました。 ## 2. ポルデノーネ無声映画祭で学んだこと 1997 年に「日本映画 100 年」を記念して京都映画祭が創設され、復元した『何が彼女をそうさせた』をプレイベントで公開、その縁で、私は企画委員の一人になりました。上映の成功もあり、周りからイタリアにあるポルデノーネ無声映画祭 ${ }^{[2]}$ で上映すべきという声が上がり、1999 年に初めて参加した時は、北欧映画が特集され、オーケストラやピアノ伴奏で上映されていました。多彩で表現豊かな、映像と音楽のコラボの祭典、無声映画専門の映画祭であり、それだけでも新鮮な体験でした。欧米では、無声映画が盛んに上映さ れ、旧作の再評価と映画芸術への認識の広さと深さを思い知ることになりました。 特に、プログラムの一つ「グリフィス・プロジェクト」は衝撃でした。D.W.グリフィスと言えば、映画創生期を飾る偉大な監督で、『イントレランス』(1916) や『散り行く花』(1919) で有名ですが、1900〜10 年代に「一場もの」と呼ばれた短い作品を数多く作り、生涯で 450 本以上の映画を監督しています。当時映画に著作権がなく、バイオグラフ社はすべてのフィルムを紙焼きにし、著作物として議会図書館に登録しました。1950 年代にその大量のペーパーフィルムが発見され、復元プロジェクトが始まりました。驚くことに、完全に散逸したのは数本たけで、この映画祭では、毎年 50 本程度の作品が上映され、グリフィスのほぼすべての映像を鑑賞することができるということでした。 グリフィスを、日本で例えれば牧野省三。彼の製作本数もグリフィスに匹敵しますが、残念ながらほとんど残っていません。千本もの主演を誇る尾上松之助の映画も、そして『何が彼女をそうさせたか』を製作した帝国キネマ作品も、操業期間に 700 本も製作しているのですが、ほとんどが散逸し、残存していません。映画を守るという意識においても、日本と欧米では認識の違い、また保存状況の違いや格差に衝撃を受けました。 欧米では、EU(ヨーロッパ連合)が成立した時、映画製作や映画保存を支援する条約もでき、人類の財産である映画保存を積極的に取り組みます。「リュミエール・プロジェクト」と呼ばれる最初期のカメラマンたちが世界中で記録した映像を残すプロジェクトが始められており、アメリカでも 1988 年に「映画フィルム保存法」が成立し、毎年 25 本の映画を保存することを定めています。「アメリカ国立フィルム登録簿」 と呼ばれているものです。今日では 30 年経過しますから、750本もの映画が国宝として議会図書館に保存されていることになります。 それに対し、我が国では世界的に著名な小津安二郎や溝口健二、黑澤明の作品ですら文化財に指定されていません。2006年に『紅葉狩』(1899)が映画文化財第 1 号と認定されましたが、当時は皆無でした。現在でも、まだ3本しか映画文化財と認定されていません。 そして、もう 1 点は、アメリカのニューヨーク州ロチェスターに、コダックの創始者ジョージ・イーストマンの屋敷が写真映画博物館になり、名称も「ジョー ジ・イーストマン・ハウス(現在はミュージアム)」。 その博物館内に映画保存を教える学校「L. ジェフリー・セルズニック・スクール」が併設されていることでした。カリキュラムを見ると、映画史はもち万ん のこと、映画アーカイブの歴史や映画修復に関する技術的な講義や実習もあり、このような学校の必要性を強く感じました。 このワークショップを提案するまでに数年間かかったのには、世の中の動きに関係がありました。IMAGICA も 2000 年に大阪映像センターを分社化して、IMAGICA ウェストになり、関西唯一のラボとして存続の危機にあった頃です。 地上波デジタルは、国策であり、フィルムを扱うラボが存続の危機にあったと言えます。「アナログ」から「デジタル」へ、一辺倒の開発が進んでいました。 その中で、ポルデノーネ以降に知った映画保存への意識と現実の中で、日本の無声映画の残存率があまりにも低いことと、京都映画祭の復元部門を担当する過程で、家庭用に無声映画の断片フィルムが切り売りされていた $35 \mathrm{~mm}$ 玩具映画の存在を知り、2003年に「玩具映画お上び映画復元・調查・研究プロジェクト (TOYFILM PROJECT)を立ち上げました。 IMAGICA ウェストは、修復の専門ラボとして操業方針を固めましたが、他のラボは地上波デジタルの動きとともに、映画製作やポストプロもデジタル化を進めて行きます。 小型映画である $8 \mathrm{~mm}$ や $9.5 \mathrm{~mm}$ フィルムも対応できる専門ラボと言えば「育映社」があり、大手のラボではできない小型映画の修復も行っていました。私のプロジェクトでも、 $17.5 \mathrm{~mm}$ フィルムの復元を依頼したこともあります。デジタル修復を海外のラボに出すという国立フィルムセンターの方針により、その「育映社」が操業を停止したのでした。 2005 年頃の状況としては、地上デジタル放送の開始に向け、世の中はデジタル化一辺倒のように動いていた時期です。テレビ業界だけではなく、映画の世界でも、家電メーカーがデジタルカメラの業務用開発を進めます。その中で、映画界は変革期を迎え、製作現場や映画館へのデジタル配信など大きなうねりを見せていました。デジタルシネマの実験的な発表が続きます。フィルム専門であったコダック社もデジタル上映システムの新たな提案も行っていました。 ますます危機感を強く感じたことで、「デジタル時代だからこそ、フィルム保存がより安全であり、これから欠くことのできない業務内容になる」とIMAGICA ウェストの森原社長に相談、ワークショップ開催の快諾を頂きました。さらに京都文化博物館やプラネット映画資料図書館、映画保存協会、日本映画撮影監督協会関西部、東京国立近代美術館フィルムセンター (現・国立映画アーカイブ)などにも声を掛け、2006 年に第 1 回「映画の復元と保存に関するワークショップ」を開催しました。 ## 3.「映画の復元と保存に関するワークショップ」 で得たもの この「ワークショップ」では、予想をはるかに越えた熱心な参加者を得て、ネットワークができ、毎年皆勤のように参加していただく方も増えて、大きな力になっていきました。専門技術者以外が入る機会がなかった現像ラボに、その門戸を開いたことと、何よりの成果は、ラボで働く若い人たちが、映画アーカイブに携わることが世の中の為になり、誇りある仕事だと感じてくれたことでした。 第 3 回(2008 年)では、新たに復元した $35 \mathrm{~mm}$ フィルム上映も加立、 $9.5 \mathrm{~mm}$ という特殊フィルムの復元も行い、特色を見せることになります。第 4 回(2009年) には、手回し映写機の実演や修復作品の上映を加え、第 5 回 (2010 年)には、中島貞夫監督に「監督としてのアー カイブ」について講演していただきました。第6回 (2011 年)にはアメリカ・ロチェスター大学のジョアン・ベルナルディ先生による「L. セルズニック・スクールとロチェスター大学の交換制度」などを紹介していただき、 その頃になると主催メンバーであった $\mathrm{NPO}$ 法人映画保存協会の里親制度の幾つかの復元例や東日本大震災による「映画フィルム救済プロジェクト」などの取り組み、 またライトニングトークによる海外のアーカイブ状況や最新のフィルム復元の事例、地域のアーカイブ活動報告など、第 7 回(2012年)には、オーディオ・メカニックスのジョン・ポリト氏による『羅生門』、幕末太陽伝』 の音声修復の講座と宮野起氏による「ハリウッドの映画復元状況」について。第 8 回(2013年)には、IOC(国際オリンピック協会) による『東京オリンピック』の復元責任者であったエイドリアン・ウッド氏によって具体的な修復プロジェクト活動の講演と、復元した $35 \mathrm{~mm}$ フィルム上映が実現し、ますます充実したものになって行きました。ここではすべてを記載できませんが、広島市映像センターなどの参加など、これらの企画もすべてこのワークショップの参加者たちの提案や交流から、また理解者によるボランティアという形で実現して行きました。 ## 4. ワークショップの今後 2012 年に、DCP デジタル上映や画像配信などによる影響で、経営破綻したコダック社が破産するという世界中を震撼させる出来事が起こり、合名会社化します。2013 年、富士フイルムも保存用フィルムを残し、撮影用フィルムの製造販売を停止。映画を取り巻く環境の変化に、ワークショップ存続の意味も問われかねない状況になりました。 その間、東京では「日本映像アーキビストの会 (仮称)呼びかけ人会」が立ち上がり、神戸でも、「神戸映画保存ネットワーク」(2014) など、地域アーカイブで活躍されている人たちの連携も生まれ、映像業界など産官学各方面の人たちの広がりを見せ、東京での開催を提案されました。第 11 回(2016)と 12 回(2017)は東京で開催。映画会社、映画職能組合の方々、各ラボの方々、大学関係者も加わり、規模も格段に大きくなりました。 10 年間コツコツと手弁当で運営したものが、大きく成長していることを知り、感動さえ覚えました。 2018 には、東京国立近代美術館フィルムセンター が「国立映画アーカイブ」として独立。IMAGICAウェストも社内合併して、IMAGICA Lab.となります。映画保存の重要性はワークショップ創設時よりもはるかに大きく、支持者も増えてきています。ますます映画保存の重要性は増すばかりです。一方、課題は山積されたまま。フィルムには「ビネガーシンドローム」があり、「デジタル・ジレンマ」の問題もあります。映画作品をどのようなフォーマットで保存するのか、完璧な保存方法などはあり得ません。映画製作や映画上映の環境がどのように変わるのか。予測の立たない時代に入っています。 次世代には、世界中に映像図書館が充実し、映像ア一カイブはますます重要になるでしょう。過去に、サイレントからトーキーへ、ナイトレートからアセテートへと、映画の歴史を見ても、規格が変った時に、過去のソフトは失われています。アナログからデジタル映像への時代になり、映画をどのように残すのか。山積みした難問の中で学び、考元、情報交換する場が必要です。このワークショップが、その場として継続されることを願っています。 ## 註 - 参考文献 [1] 映画保存協会. 映画の復元と保存に関するワークショップ. http://filmpres.org/project/project02/(参照 2019-08-07) [2] Le Giornate del Cinema Muto. https://www.facebook.com/ pordenonesilent/(参照 2019-08-07)
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# 記録映画の保存と活用: 記録映画 アーカイブ・プロジェクトの10年 Preservation and Utilization of Documentary Films: Activities of the Documentary Film Archive Project for 10 Years 丹习习习 美之 NIWA Yoshiyuki 東京大学大学院情報学環 } 抄録:いま多くの貴重な記録映画が消失の危機にさらされている。製作会社の倒産により、フィルムの廃棄や散逸がはじまってい る。フィルムの劣化も急速に進みつつある。2008 年にスタートした記録映画アーカイブ・プロジェクトは、こうした記録映画の収集・保存とその利用・活用を進めてきた。本論では、この記録映画アーカイブ・プロジェクトの 10 年間の歩みを振り返り、今後 の課題と展望を明らかにする。 Abstract: Currently, many valuable documentary films are at risk of disappearance. Due to the bankruptcy of the production company, film disposal and dissipation have begun. Deterioration of the film is also rapidly progressing. The Documentary Film Archive Project, launched in 2008, has promoted the preservation and utilization of such documentary films. This article reviews the decade of the Documentary Film Archive Project and highlights future challenges and prospects. キーワード : 記録映画アーカイブ・プロジェクト、ドキュメンタリー映画、科学映画、教育映画、岩波映画製作所、戦後日本 Keywords: Documentary Film Archive Project, documentary film, science film, educational film, Iwanami Productions, postwar japan ## 1. 記録映画を救え これまで膨大な数の映画が同時代を記録してきた。日本でも数多くの記録映画が作られてきた。人々の生活や暮らしを描いた文化映画や教育映画から、日本の産業や科学技術の発展を描いたPR映画にいたるまで、 その分野は多岐にわたる。これらの記録映画(教育映画、文化映画、科学映画、PR 映画、ドキュメンタリー 映画など様々なタイプの短編映画の総称)は、時代を映し出す鏡であり、歴史を生き生きと次世代に伝える貴重な文化遺産と言える。 しかし、いま多くの記録映画が散逸・消失の危機にさらされている。これらのフィルムのほとんどは、適正な保存環境とはいえない事務所内や常温倉庫に保管されており、急速に劣化が進みつつある(図1)。また製作会社の倒産や解散により、フィルムの廃棄や散逸もはじまっている。さらに各現像所の倉庫には、引き取り手のいなくなった原版、いわゆる「孤児フィルム」(orphan film) が多数存在している。放っておけば、 これらはいずれ廃棄されてしまうだ万う。とりわけ記録映画の場合、劇映画のように注目を浴びる機会も少なく、製作会社も中小企業が多いため、対応は遅れがちである。一度失われてしまえげ二度と見ることがで 図1 劣化したフィルム きない貴重な記録が消え去ろうとしている[1](p.1-4)。 こうした状況に危機感をもった研究者や製作会社 OB、アーカイブの関係者が集まり、2008 年にスター トしたのが記録映画アーカイブ・プロジェクト(共同代表:丹羽美之・吉見俊哉)である。このプロジェク卜の目的は、散逸や消失の危機にある貴重な記録映画を体系的に収集・保存し、それらを用いて多様な研究・教育の可能性を探ることにある。東京大学大学院情報学環を拠点に、東京藝術大学大学院映像研究科、記録映画保存センター ${ }^{[2]}$ 、東京国立近代美術館フィル ムセンター(2018年4月に国立映画アーカイブに改組) が緊密に連携・協力しながら、記録映画の収集・保存とその利用・活用を進めてきた ${ }^{[1](\mathrm{p} .4-7)}$ 。 本論の目的は、この記録映画アーカイブ・プロジェクトの 10 年間の歩みを振り返り、今後の課題と展望を明らかにすることにある。後述するように、同プロジェクトの成果として、すでに『記録映画アーカイブ』 シリーズ (全 3 巻) が東京大学出版会より刊行されており、プロジェクトの詳細について紹介しているので、詳しくはそちらを参照してほしい。本論はそれらの内容の一部を再構成し、加筆・修正したものであることをあらかじめお断りしておく。 ## 2. モデルケースとしての岩波映画 記録映画アーカイブ・プロジェクトが最初のモデルケースとして取り組んだのが、戦後日本を代表する記録映画会社、岩波映画製作所が制作した約 4000 本のフィルム原版の収集・保存である。 岩波映画製作所は 1950 年、物理学者の中谷宇吉郎が中心になり、岩波書店の後押しで科学映画や教育映画の制作を開始した。その後、日本の戦後復興や高度経済成長の柱となった電力、造船、製鉄、電機など基幹産業を中心に、幅広く産業 PR 映画を世に送り出した。また「岩波映画学校」といわれるほど、数多くの名作や話題作、優れた人材を輩出したことでも知られる。羽仁進、羽田澄子、時枝俊江、黒木和雄、土本典昭、小川紳介など、戦後日本の映画界を担う若い作り手たちがそこから育っていった。 岩波映画製作所は 1998 年に経営難に陥り倒産した。岩波映画のフィルム原版約 4000 本は破産管財人から日立製作所に売却されたが、2008 年に記録映画アー カイブ・プロジェクトが日立製作所から寄贈を受けることになった。東京大学と東京藝術大学がその受け入れ先となり、フィルム原版そのものは東京国立近代美術館フィルムセンター(現在の国立映画アーカイブ) に再寄贈・保存されることになった ${ }^{[1](p .7-10) 。 ~}$ $ \text { その後、これが一つのモデルケースとなり、フィル } $ 么の収集 - 保存活動は他の映画会社やテレビ局にも広がっていった。記録映画アーカイブ・プロジェクトでは、日本映画新社、英映画社、記録映画社、桜映画社、東京文映など、これまでに合計で約 1 万本の記録映画を収集した。記録映画保存センターが中心となり、保存すべき記録映画の収集、複雑な権利処理(著作権や原版所有権など)、データベースの作成、国立映画アーカイブへのフィルム移管作業などを行っている(図 2) [3](p.2)。 図2 国立映画アーカイブヘのフィルム移管作業 ## 3. 利活用の可能性を開く ## 3.1 シンポジウム・ワークショップの開催記録映画アーカイブ・プロジェクトがフィルムの収集・保存と並行して、力を入れてきたのがその利用・活用である。せっかく貴重なフィルムを収集・保存す ることに成功したとしても、それらが再び倉庫に眠っ たまま「死蔵」されてしまっては意味がない。記録映画が研究の資料として、教育の教材として、あるいは 様々な社会的実践の素材としていかに大きな可能性を 秘めているか。そのことを明らかにするために、同プ ロジェクトでは、大規模なシンポジウムから小規模な ワークショップ・上映会に至るまで、記録映画の活用法を探る多種多様な場を作り出してきた(図3、表1)。 図3記録映画アーカイブ・プロジェクトのシンポジウム これらのシンポジウムやワークショップでは、岩波映画の重要な柱となった産業 PR映画 (『佐久間ダム』)、科学映画 (『たのしい科学』)、社会教育映画 (『村の婦人学級』『町の政治』)をはじめ、東京オリンピック前後に盛んに制作された建設記録映画、公害や大学闘争を活写したテレビ番組や自主映画、大阪万博で上映さ 表1シンポジウム/ワークショップ/上映会の開催実績 \\ 図4『記録映画アーカイブ』シリーズ(全3巻) れた展示映像など、様々な記録映画を上映し、いま改めてこれらの映画を見直す意義を議論した。その成果は、前述したように『記録映画アーカイブ』シリーズ (全 3 巻) としてまとめられ、東京大学出版会から刊行された(図 4)。同シリーズには記録映画を多数収録した DVDも付属しており、読者は制作者インタビューや最新の研究成果に加えて、貴重な映画作品そのものを視聴することができるようになっている。 ## 3.2 データベースの作成・公開 また記録映画アーカイブ・プロジェクトでは、これまで収集・保存してきた記録映画のデータベースを作成・公開する作業も進めている。2019年現在、約 6000 本のデータベースを作成し、同プロジェクトの公式ウェブサイトで公開している(図 5 ${ }^{[4]}$ 。今後、権利処理の可能な作品については、ネット上で動画の視聴もできるようにする予定である。 図5 データベース検索画面 ## 3.3 制作現場へのフィードバック さらに収集した記録映画を新たな映画やテレビ番組の制作に活かす取り組みも行っている。 2011 年に製作・公開された長編記録映画『夢と憂鬱~吉野馨治と岩波映画~』(監督:桂俊太郎、製作:記録映画『夢と憂䖇〜吉野馨治と岩波映画〜』製作委員会、122 分)はその一例である(図 6)。この映画は、岩波映画製作所の創設者の一人である吉野馨治の人生を通して、岩波映画と戦後日本の歩みをたどる。吉野が科学にかけた夢と苦悩、彼が多くの若い映画作家を生み出していった背景、岩波映画の栄光と挫折が、関係者の貴重な証言や記録映画の名場面の数々とともに 図6 『夢と憂鬱』撮影風景 明らかにされている。同映画は平成 23 年度文化庁文化記録映画賞優秀賞を受賞したほか、東京国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭など、各地の映画祭でも上映された ${ }^{[3](p .3) 。 ~}$ 同様に、記録映画の名場面を活用して 2016 年に製作・公開されたのが『表現に力ありやー「水俣」プロデューサー、語る』(監督:井上実・片岡希、製作:記録映画保存センター、100 分) である。同映画は「水俣」のドキュメンタリー・シリーズで知られる土本典昭監督の自主製作・自主上映活動をプロデューサーとして支えた高木隆太郎にスポットを当てる。『キネマ旬報』の2016年文化映画べスト・テン第 4 位を受賞したほか、山形国際ドキュメンタリ一映画祭で特別招待作品として上映された。 この他にも、記録映画保存センターが『NHKスペシャルカラーでよみがえる東京〜不死鳥都市の 100 年』(NHK 総合、2014 年 10 月 19 日放送、第 63 回菊池宽賞受賞)や『大河ドラマいだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK 総合、2019年放送)にフィルム素材の提供を行うなど、映画やテレビの制作現場に貴重な記録映画をフィードバックする活動を積極的に進めている[5](p.273-274)。 ## 4. 今後の展望と課題 以上、記録映画アーカイブ・プロジェクトは 10 年間にわたって、散逸や消失の危機にある記録映画を収集・保存し、様々な利用・活用の可能性を開く活動を続けてきた。実務機関(記録映画保存センター)、保存機関(国立映画アーカイブ)、研究・教育機関(東京大学・東京藝術大学)の3者が緊密に連携・協力するユニークな体制をとることによって、記録映画の収集・保存・活用を一体的に進めてきた点に、このプロジェクトの大きな特徴があると言えるだ万う。 一方で、貴重な記録映画を公共の財産として保存し、次世代へ継承する活動はまだ始まったばかりである。記録映画保存センターが 2014 年度から 2016 年度にかけて文化庁の補助事業として実施した全国フィルム所蔵調査の結果によると、全国の博物館・図書館・視聴覚ライブラリー・放送局・製作会社等には 49 万本以上のフィルムが所蔵されており、それらのほとんどが有効に活用されない状態で残されている [5](p274-280)。 これらの膨大なフィルムをどのように収集・保存し、 デジタル化も含めた新たな利用・活用の道を開くか。一刻も早い対策が望まれる。 ## 註・参考文献 [1] 丹羽美之. “映像で見る戦後日本の科学技術・社会・文化”.記録映画アーカイブ1 岩波映画の1億フレーム. 丹羽美之,吉見俊哉編. 東京大学出版会, 2012. [2] 記録映画保存センター. https://kirokueiga-hozon.jp(参照 2019-06-10) [3] 丹羽美之. “記録映画を生き直す”. 記録映画アーカイブ2 戦後復興から高度成長へ. 丹羽美之, 吉見俊哉編. 東京大学出版会, 2014. [4] 記録映画アーカイブ・プロジェクト. http://www.kirokueigaarchive.com/search/eigadata/(参照2019-06-10) [5] 村山英世.“記録映画保存センターの活動成果と今後の課題”. 記録映画アーカイブ 3 戦後史の切断面. 丹羽美之, 吉見俊哉編. 東京大学出版会, 2018 .
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# 総論:映像で書かれる歴史と デジタルアーカイブ ## General: History Recorded on Films and Digital Archive \author{ 吉見俊哉 \\ YOSHIMI Shunya \\ 東京大学 \\ 大学院情報学環 } ## 1. 映像で書かれる歴史とデジタル 歴史が映像で書かれ、読まれる。そのような歴史、 つまり自らが写真や映画のような映像媒体によって撮られ、観られる歴史が始まったのは、無論 19 世紀以降のことである。それは、長い人類の歴史でみるならば、せいせいここ 200 年ほどのことに過ぎない。それよりもはるかに長い時間、歴史は文字で書かれ、読まれてきた。文字で書かれる歴史とは、もち万ん歴史書だけではない。様々な記録が石碑や竹簡、パピルスや羊皮紙、それに紙に文字で刻まれてきた。歴史とは、多くがそうして書かれた記録の巨大な集積体である。 だから、その歴史が文字だけでなく映像媒体でも書かれ、読まれるようになったことは、歴史の成立するパラダイムの基底的な転換である。文字は、筆やぺンと紙との関係のなかで書かれてきた。映像による歷史は、カメラと被写体の間に書かれることになる。そこで決定的に重要なことは、その映像が、いつ、どこで、何に照準して、どのような角度から撮られたのかという点であり、また誰によって撮られたのかという点である。 そして 21 世紀初頭、ここにさらにデジタルという新しい記憶技術が加わる。デジタル以前の映像は、写真も映画も基本的にフィルムであり、テレビの特異性はその記録技術によるというよりも伝播技術、つまり無数の大衆に対する同時的な送信にあった。アナログ的な視覚情報の集積体としてのフィルムは、デジタル化を通じてその可塑性や編集可能性が劇的に拡大した。同時に記録され得る情報量がほぼ無限となってしまった。 ## 2. 保存、修復、公開、活用 こうした大雑把な歴史把握から出発して、次に問われなければならないのが、映像で書かれる歴史とデジタルという新しい記憶技術の関係である。すでに述べたことから明らかなように、歴史とは遺されたモ人、文字による記録、映像による記録の集積であり、同時にそれらの集積についての解釈の連なりである。もち万んここに、語り継がれた記憶としてのオーラルヒストリーも加わるのだが、この点の議論は別の機会に譲りたい。今、確認しておきたいのは、映像による歴史という約 200 年の歴史を持つ新しい形式の記録の集積と、デジタルというここ数十年の記憶技術の関係になる。 これを、良く知られた保存、修復、公開、活用というアーカイビングの基本作業と結びつけて考えると、 フィルムが保存と修復の問題により深く関わり、デジタルが公開と活用の問題により深く関わると、第一次近似としては整理しておくことができる。とはいえ、 フィルム映像の公開、活用も大きなテーマであり、デジタル化は保存の重要なプロセスであり、デジタルによる映像修復も大テーマだ。したがって、本当はこの第一次近似は不正確で、この対比のクロスオーバー、写真であれ、映画であれ、フィルムの展示や上映、教育活用、そしてそのフィルムのデジタル保存と修復、 そこからフィルムと連動しての公開や活用が、映像アーカイブにとって最も将来性のある領域ということになる。 デジタルアーカイブは、この全体のプロセスを媒介する。つまりそれは、アーカイブであることにおいて、 フィルム本体の保存、修復と不可分である。デジタル アーカイブだから物理的場所はいらないというのは大間違いで、デジタルアーカイブが本来の可能性を最も発揮するのは、過去の澎大な資料の物理的集積としてのアーカイブ、たとえば国立図書館や大学図書館、文書館、映像資料館、大規模な博物館等と連携し、デジタル技術の可能的な広がりにおいて、資料の修復、公開、活用に道を開いていくことによってである。 ## 3. アーカイブ立国宣言とMALUI連携 実は、デジタルアーカイブ学会誕生にはいくつかの前史がある。その一つ、この学会設立の大きなきっかけとなったのは、文化資源戦略会議がアーカイブサミットを通じてまとめた「アーカイブ立国宣言」(2014 年)である。その「宣言」の柱の一つにあったのが、 デジタルアーカイブを支える専門職人材の育成で、その基盤を既存の大学などの研究教育機関、博物館・美術館・文書館などの文化資源機関、企業等との連携によって築かなければならないとしていた。この連携は、 MALUI (Museum, Archive, Library, University, Industry)連携と呼ばれ、上記の文化資源戦略会議でなされた議論の焦点だった。 こうした宣言の背景には、21世紀中葉までに地球規模で広がるだろう知識循環型社会における知のリサイクルを支えていくのは、これまで公共的文化施設として整備されてきた図書館、博物館・美術館、文書館・資史料館、フィルムセンター、番組アーカイブなどの保存機関と大学・学校、そしてこの新たな体制に適応した知識・文化産業の横断的な連携、すなわち MALUI 連携であるという認識があった。この連携は、 デジタル情報の共有化だけでなく、文化資源の販売・展示・閲覧や情報提供・助言サービスの拠点として地方の公共施設を利用していくことにも道を開く。地域全体でネットワークをつくることで、デジタル情報の提供や閲覧も促進されることになると考えられていた。デジタルの力を借りながら、個々の博物館、文書館、図書館等が別々にあるという考え方を変えて、それらすべてを横断的に連結させるアーカイブの仕組みが考えられるべきだとされていた。 この MALUI 連携の核となるのは、施設間の連携を媒介し、文化資源をコーディネートしてそのデジタル活用を推進していく人材の育成である。たしかに文化資源の発掘と活用は、これまでも意欲的なキュレー ターやライブラリアン、アーキビストが取り組んできたが、そうした取り組みを拡大し、社会全体が文化情報を共有していくには、MALUI 連携を推進する人材の組織化が必要不可欠である。その中核人材は、大学院の新しい育成プログラムによって育成され、デジタルアーカイブ技術と当該の文化資源に関する深い知見を兼ね備えていなければならない。そうして MALUI 連携を基盤としつつ、各地の施設が保有する文化資源の流通・活用を、それらの文化資源施設の連携、財源確保、権利処理等を円滑に進めながら全体の体制整備を進めなければならない。 ## 4. 映像アーカイブとMALUI連携 以上の全般的な見通しのなかで、映像で書かれる歴史、その基盤としての映像アーカイブはどのように位置づけられるであろうか。すでに述べたように、文字資料のアーカイブは図書館も文書館も、すでにかなり長い歴史をもって発達しており、少なくとも欧米ではその国家的な制度としての地位が確立している。これに対して映像アーカイブは、そもそも映像の時代が始まったのが 19 世紀だから、そのフィルムの保存体制という意味ですら歴史がまた浅く、発展途上である。 20 世紀後半における欧米でのフィルム・スタディー ズのめざましい発展はあったものの、その研究体制も日本ではきわめて未発達である。つまり保存体制も研究体制も、とりわけ日本ではきわめて不十分な中で、私たちはさらにデジタル化やネット社会化のなかで映像の公開や活用の体制整備を迫られているのである。 いわば日本の映像アーカイブは三重苦の中にいるといっても過言ではないのだが、逆に言えばそれだけノビシロがあるとも言える。保存のための公共アーカイブ、大学の研究教育、デジタルアーカイブが結びつくことで、それぞれ発展途上の3つの課題の間に相乗効果が生まれ、1つ1つというよりもむしろ一気に解決に向かっていくはずである。なぜならば、すでに述べたアーカイビングの諸段階、保存、修復、公開、活用は、決してバラバラな過程ではない。それらは相互に深く結びついており、映像が持っているインパクトの大きさは、この結びつきによって大いに生かされるだろう。本特集の諸論考は、そのような諸段階と 3 つの課題の結びつきを具体的に示してくれるものとなるはずである。
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# 求知らせ ## 『デジタルアーカイブ・ベーシックス』第2巻「災害記録を未来に活かす」発刊 『デジタルアーカイブベーシックス』は第 1 巻「権利処理と法の実務」(2019 年 3 月発行)に引き続き、第 2 巻を勉誠出版より発行しました。内容は次のとおりです。 目次 デジタルアーカイブ・ベーシックス2「災害記録を未来に活かす」 今村文彦[監修]鈴木親彦[責任編集] 序論震災・災害アーカイブの今日的意義今村文彦第 1 部震災・災害の記録を残すことの意義と目的 第 1 章震災・災害アーカイブの役割と歴史的変遷と現状柴山明宽 第 2 章放送局による東日本大震妆アーカイブの意義一NHK 東日本大震災アーカイブスを事例に宮本聖二 第 3 章震災の記録を横断する一国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)の意義と課題伊東敦子/前田紘志 第 2 部復興に向けて人々の声、地域の歴史を残す 第 4 章 Voices from Tohoku:from a digital archive of oral narratives to scientific application in disaster risk reduction(東北からの声一口承記録デジタルアーカイブから防災・減災のためのアプリケーションヘ) デビッド・スレイター/フラビア・フルコ/ロビン・オディ 第 5 章 「命の軌跡」は訴える一東日本大震災、地万紙とデジタルアーカイブ鹿糠敏和 第 6 章市民の力で地震史料をテキスト化『みんなで翻刻』 橋本雄太 第 3 部未来のためのデジタルアーカイブ:震災・災害情報の活用 第 7 章災害の非可逆性とアーカイブの精神:デジタル台風・東日本大震災デジタルアーカイブ・メモリーグラフの教訓北本朝展 第 8 章歴史地震研究と日記史料有感地震デー夕ベース西山昭仁 第9 章防災科学技術研究所の災害資料とデジタルアーカイブー自然災害資料の収集・整備・発信三浦伸也 $/$ 鈴木比奈子 第 10 章記憶の解凍一資料の“フロー”化とコミュニケーションの創発による記憶の継承渡邊英德 今後 第 3 巻理工系研究デー夕の活用 第 4 巻アートシーンを支える 第 5 巻新しい産業創造へ の順に発行を予定しています。
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# 福井健策 監修/数藤雅彦 責任編集出版社:勉誠出版 2019年3月23日 240ページ A5判 ISBN : 978-4-585-20281-3 本体2,500円+税 本書は、デジタルアーカイブ学会の活動の一環とし て、デジタルアーカイブ活動を取り巻く諸問題につい て、これらに取り組むための知識と実践の智を共有す ベく発刊された「デジタルアーカイブ・ベーシックス」 シリーズの第 1 巻である。本書では、デジタルアーカ イブ活動の現場が直面する「壁」の1つである権利処理について、法理論と実務の観点から、権利処理全体 の外観を俯瞰するとともに、デジタルアーカイブ活動 の現場における悩みを解決するためのガイドラインと して活用されることが企図されている。 本書は 2 部構成となっており、第 1 部では、権利処理における法理論の視点から網羅的な検討が加えられ ている。一般に、デジタルアーカイブ活動における権利処理といえば著作権に関する権利処理が想起される ところであるが、実際には、アーカイブの対象となる 情報が化体したオリジナルである物の所有権の問題 や、資料の被写体となっている個人の肖像権やプライ バシー(個人情報にかかる本人の権利等)の問題など、検討すべき論点は多岐にわたる。デジタルアーカイブ 活動における権利処理特有の問題が、時間経過による 「本人」へのリーチの困難さであるが、著作権をはじ めとする諸権利は、権利者の同意に基づく取得や利用 を前提に制度が組み立てられているため、法律実務家 が理論的な「正解」を述べると、往々にして保守的に 「使えない」シチュエーションを列挙するにとどまっ てしまう事が多い。一方、本書では、実務において直面し得る懸念を明らかに、可能な限り、デジタルアー カイブ活動を推進するための方法論とその理論武装を 精緻かつ包括的に提供している。私の知る限りにおい て、デジタルアーカイブ活動に関する法理論について、本書ほど網羅性の高い類書はこれまでなかったと思わ れ、ここだけでも本書の存在意義は大きい。 第 2 部では、ジャンルごとのデジタルアーカイブ活動について、実際にデジタルアーカイブ活動の現場で 活躍されてきた方々による「実践」の知恵が記されて いる。執筆者の所属も、公的なアーカイブ機関から私企業まで多岐にわたっており、現場の実情や悩みを知 る機会の少ない法律実務家にとっても、現場を追体験 できる臨場感のある内容となっている。 本書では、執筆者が皆、現在の日本におけるデジ夕 ルアーカイブ活動を取り巻く法環境の課題の指摘と将来への提言を行っている。デジタルアーカイブ学会の 一員として、この将来に向けた課題解決を目指してい く上でも、本書は一つの「道標」となるであろう。 (インハウスハブ東京法律事務所代表弁護士足立昌聰)
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# 研究会「コミュニティ映画・映像 のアーカイブを考える」参加報告 【研究会概要】 日時:2019年 3 月 12 日(火)13:30 16:00 場所:千代田区紀尾井町 1-3 ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井タワーヤフー本社 主催 : デジタルアーカイブ学会コミュニティアーカイブ 部会 司会 : 宮本聖二(立教大学大学院、ヤフー株式会社、 コミュニティーアーカイブ部会長) DA 学会からいただいたメールで本研究会の開催を 知り、参加した。オープンスペースの会場で、リラッ クスした雾囲気の中、 2 件の発表と質疑が行われた。 [テーマ1]小さな映像を囲む:アーカイブの利活用 をとおしたコミュニティづくり 報告:松本篤氏(東京大学大学院学際情報学府博士課程 (丹羽美之研究室)) 1 件目は、松本篤氏(NPO 法人、記録と表現のた めの組織)が、8ミリを中心としたフィルムのデジ夕 ル化と利活用に関する講演をされた。その中で特に注目されたのは、映像を見た際の発見を書き残す、映像 にまつわるものを持ち寄るといったことを通じて、映像につながる世界を広げ、記憶を呼び戻し、人々の間 をつなげ、コミュニティを形成してゆくということが 行われている点であった。これはアーカイブの領域を 広げてゆく、非常に創造的な取り組みであると感じた。 フィルム映像は SD レベルでデジタル化され、原版は 利用者に返却される。原版の保存は今後の課題であろ う。デジタル化や原版、データの保存にはお金が必要 である。現状では公的資金が利用されているとのこと であったが、上記のような創造的な取り組みが新たな 価値を生み出し、そのことがさらなる資金につながる ことを期待したい。 松本篤氏 常石史子氏 [テーマ 2] ホームムービーのデジタルアーカイビン グーオーストリアの取り組み 報告:常石史子氏(オーストリア・フィルムアーカイブ (Filmarchiv Austria)) 2 件目は、常石史子氏(オーストリア・フィルムアー カイブ)が講演をされた。オーストリアの家庭に眠っ ているフィルムの収集、デジタル化に関する報告で、非常にアイデアに富んだ事業が紹介された。収集は公共図書館を拠点としたユニークな方法で行われた。 アーカイブ内のスキャナを使用してデジタル化を行い、 DVDを作成、提供者が視聴可能にして還元された。 フィルムは返却せず、アーカイブで保存した。この結果、 10 万本以上のフィルムが収集され、資金がそしい 中、大きな成功が収められた。デジタル化に必要な人材を社会福祉プロジェクトの朹組みから調達したこと もすばらしい取り組みである。紹介された中にはヒト ラーの驚くべき映像等があり、貴重なオーストリアの 歴史が発掘されている。我が国も含め、文化、歴史を 記録した貴重なフイルムがホームムービーの形で眠っ ている可能性があり、多くのアーカイブにとって、本報告の取り組みは非常に参考になると思われる。 (国立映画アーカイブ 大関勝久)
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# 動向解説 ## 欧州のナショナル・アグリゲータ National Aggregators in Europe ## 1. 概要 欧州のデジタルアーカイブ・ポータル、Europeana にはメタデータを提供するさまざまなアグリゲータがある ${ }^{[1]}$ 。国や地域単位のアグリゲータ(National/ Regional Aggregator)、博物館・文書館・図書館など、分野別のアグリゲータ (Domain Aggregator)、ファッション・食品・飲料などテーマ別のアグリゲータ (Thematic Aggregator)などである。どのアグリゲータを経由するかは、各国、あるいは個別の博物館・美術館・図書館・文書館等の事情によって異なる。主な分野別、テーマ別のアグリゲータを表 1 に示した。国や地域単位のアグリゲータに関しては、筆者はこれまでにフランスのアグリゲータ、フランス国立図書館(Bibliothèque nationale de France: BnF)の調査について報告した ${ }^{[3]}$ が、今回はドイツ、イタリア、オランダのナショナル・アグリゲータについて 2018 年から 2019 年にかけて訪問調査をおこなったので報告する。 これらアグリゲータの状況を表 2 にまとめた。なお英国にはアグリゲータに相当する機関はない。 各国の取り組みを見ると、以下の通りかなり多様である。 表1主な分野別およびテーマ別アグリゲータ ${ }^{[2]}$ & \multicolumn{1}{|c|}{ 期間 } \\ 表2 欧州4カ国のナショナル・アグリゲータ(件数は2019年4月末現在) ${ }^{[2]}$ } & \multicolumn{2}{|c|}{ 独自ポータル } & \multirow{2}{*}{} \\ * アグリゲータではないが、規模が大きいので記載した ** Sara Di Giorgio 氏の情報により Europeana サイト ${ }^{[2]}$ から計算(2019 年 5 月末現在) (1) フランス フランス政府文化庁と国立図書館(BnF)がそれぞれ博物館関係と書籍を分担してメタデータを提供している。文化庁は moteur collections ${ }^{[4]} \quad(7,500,000$ 件 )、 BnF は Gallica ${ }^{[5]}$ (5,080,325 件)というポータルを提供している。 (2) ドイツ ドイツは連邦政府が直接文化政策に関わらない制度なので、州や文化機関がコンソーシアムを結成し、ドイツデジタル図書館(Deutsche Digitale Bibliothek: DDB) を運営、ここで Competence Network ${ }^{[6]}$ (24,157,130 件) というポータルを構築し、ここが Europeana にデータ提供している。 (3) イタリア イタリアでは、国立図書館が複数あるので、独立した機関、ユニオン・カタログ中央研究所 (Istituto Centrale per il Catalogo Unico: ICCU) がユニオン・カタログを作成しているが、このICCUがナショナル・デジタルアーカイブとしても機能しており、CulturaItalia (3,400,000 件) というポータルを構築し、そこから Europeana にメタデータ提供している。データ提供は直接ではなく、The European Library や ATHENAPLUS 経由が多いようである。 (4) オランダ オランダでは、国立文書館(National Archives)、王立図書館 (Koninklijke Bibliotheek: KB)、オランダ視聴覚研究所 (Netherlands Institute for Sound and Vision)、 オランダ政府文化遺産庁 (Rijksdienst voor het Cultureel Erfgoed)の4者によって、Europeana にデータを提供するため、Digital Collectie (Digital Collection) プロジェクトが開始され、ここから Europeana にデータ提供している。たたし独自のポータルは持っていない。なお、 オランダでは Digital Collectieにかわり、リンクト・ オープン・データを基礎とした新しいネットワーク Network Digital Heritage を構築中である。 また、オランダ国立美術館(Rijksmuseum)は、独立して Europeana にデータ提供している。 ## 2. 各ナショナル・アグリゲータ 以下、フランス、ドイツ、イタリア、オランダのナショナル・アグリゲータについて詳述する。 ## 2.1 フランス国立図書館 この項はフランスのデジタルアーカイブ機関に関する筆者の報告 ${ }^{3]}$ からアグリゲータ活動に関する部分をまとめた。Gallica ${ }^{[5]}$ はフランス国立図書館 (Bibliothèque nationale de France: BnF) が提供するデジタルアーカイブのポータルである。Gallica は BnF の蔵書をデジタル化したものの他、約 350 機関からメタデータ、またはコンテンツ・データを受け取っている。現在 $(2019 / 4 / 13 )$ の収録データは合計 5,080,325 件である。Gallicaの画面を図 1 に示した。 図1 Gallicaのトップページ Europeana がフランスのシラク大統領の手紙から始まったこともあり、BnF は Europeana の創立メンバー であると同時に、強力なサポーターである。 フランスでは文化省(culture.fr)も Europeanaのアグリゲータであり、主として博物館・美術館のメ夕データを提供している。 ## 2.2 ドイツデジタル図書館(Deutsche Digitale Bibliothek: DDB) 2018 年 11 月 29 日にドイツ国立図書館内にある DDB の事務所を訪問し、製品開発・イノベーション部長の Stephan Bartholmei 氏に面会して調査をおこなった。 ドイツは連邦政府が直接文化政策に関わらない仕組みになっており、文化政策は各州の政府や外郭機関がおこなっている。ドイツデジタル図書館 (以下 DDB) ${ }^{[6]}$ は2005年に検討が始まった Europeana の構想に歩調を合わせ、2007 年にその計画がスタートした。2009 年 10 月 30 日に提出された報告書に基づき、2010年に文化大臣会議、地方自治体の傘下組織および連邦政府によって指名された 13 の創設メンバーが Competence Network(Kompetenznetzwerk)を結成し、 DDB を構築することに合意した ${ }^{[7,8]}$ 。その中心となったのがベルリンにあるプロイセン文化財団(Stiftung Preußischer Kulturbesitz)である。DDBのテスト版は 2012 年 11 月に試供されたが、本格的なべータ版は 2014 年 3 月に公開された ${ }^{[9]}$ 。 前記 2009 年の報告書に基づき、連邦政府と各州は 2011 年から年間予算各 130 万ユーロ(合計 260 万ユー ロ)を 5 年にわたって提供した ${ }^{[10]}$ 。2014 年のアセスメントを経て、その後も現在までも同額の予算が付いている。さらに主として連邦政府から、技術開発費として 40 万ユーロをもらっており、年総予算は 300 万ユーロとなる。そのほかに EC のプロジェクトにも随時応募しており、2019 年には総予算は 350 万ユーロの見达みである。 DDB には、2019年 3 月 7 日現在 $24,157,130$ メタデー 夕 (objects) と9,400,914 件のコンテンツがある。ドイツ語と英語がサポートされている。DDB の画面を図 2、3 に示した。 図2 Deutsche Digital Bibliothek (DDB) のトップ画面 図3DDBで "Beethoven" を検索した結果画面 現在このコンピテンス・ネットワークのメンバーはバイエルン州立図書館、バーデン・ヴュルテンベルク州立図書館センター、ドイツ国立図書館、デュッセルドルフ・デジタル藝術・文化アーカイブ、ブランデンブルグ州立記念物館・考古学博物館、digiCULT、連邦公文書館、プロイセン文化財団、バーデン・ヴュルテンベルク地方公文書館、ゲッティンゲン州立・大学図書館、ザクセン州立図書館・ドレスデン大学図書館、 マックス・プランク科学史研究所、FIZ カールスルー エ、である ${ }^{[1]}$ 。 $D D B$ 本部はベルリンのプロイセン文化財団にあるが、フランクフルトの国立図書館にも事務所がある。職員はフランクフルトの国立図書館内に 8-10人、べルリンに5-6名である。現在のシステム・インフラス トラクチャは FIZ Karlsruheが担当している。ソフトウェアの開発は Europeana を参考にしつつ、フラウンホーファー研究機構がおこなった。DDB はコンテンツを持っておらず、純粋なポータルである。 DDB が発足する前に BAM (Bibliothek, Archiv, Museum)というプロジェクトがあった ${ }^{[12]}$ 。BAM は 2001 年にドイツ研究財団(DFG)の補助により開始され、2007年までに 4000 万件のメタデータを持つデータベースとなった。しかしDDBが立ち上がったため、そちらに引き継がれ、2016 年には運用を停止している。 ## 2.3 Culturltalia 2018 年 12 月 3 日にローマにあるイタリア・ユニオン・カタログ中央研究所 (Istituto Centrale per il Catalogo Unico: ICCU $)^{[13]}$ を訪問し、Sara Di Giorgio 氏ら職員から話を伺った。 歴史的な事情により、イタリアには独立した国立図書館が多数(12 館)存在するため、ユニオン・カタログというものが存在しなかった。そこで、1951 年に Centro nazionale per il catalogo unico (CNCU) が創設され、ユニオン・カタログを構築することとなった。 1975 年に CNCU は文化遺産庁直属のICCU に再編された。ICCUは、ユニオン・カタログ・サービスThe National Library Servcie や各種デジタル・ライブラリー の検索システム Internet Culturale ${ }^{[14]}$ を構築している。 このICCUが構築したデジタルアーカイブ・ポータルが CulturaItalia ${ }^{[15]}$ である。現在 37 機関から収集した、 3,400,000 件のメタデータを公開している。これは 96 博物館、 115 図書館、119文書館に対応する。また、文化機関に関する 25,000 件の情報もある。また、イタリア 3800 博物館所蔵品を収録した MuseiD-Italia ${ }^{[16]}$ は CulturaItalia の一部である。 CulturaItalia は Europeana とよく似た作りになっている。ただし、日本語の検索はできない。CulturaItaliaの画面を図 4、5 に示した。CuturalItalia は Europeana に 図4 Culturaltaliaのトップ画面 図5Culturaltaliaで“Genji”を検索した結果画面 1,445,923 件のメタデータを提供している(** Sara Di Giorgio 氏の情報により Europeana サイト ${ }^{[2]}$ から計算)。 CulturaItalia は、Europeana Publishing Framework イ夕 リア版や、Europeana の Rise of Literacy プロジェクトにも協力している。Rights Statementsに対応する予定で、現在協力機関に問い合わせ中であるとのことであった。 ## 2.4 Digital Collectie 2019 年 3 月 19 日にヒルバーサム市にあるオランダ視聴覚研究所 (Netherlands Institute for Sound and Vision $)^{[17]}$ に Dimitra Atsidis 氏を訪問し、調査を行った。 2009 年の Europeana の設立に伴い、オランダでは、 2011 年に国立文書館(National Archives)、王立図書館 (Koninklijke Bibliotheek: KB)、オランダ視聴覚研究所 (Netherlands Institute for Sound and Vision)、オランダ政府文化遺産庁(Rijksdienst voor het Cultureel Erfgoed)の 4 者によって、Europeana にデータを提供するための Digital Collectie (Digital Collection) ${ }^{[18]}$ プロジェクトが開始された。オランダ文化遺産 (Digitaal Erfgoed Nederland: DEN)も協力した。実務はヒルバーサムにあるオランダ視聴覚研究所が担当した。 このプロジェクトは 3 年間の試行期間を経て、2012 年 6 月に正式に発足し、Europeana ののメタデータ提 図6 Digital Collectieのトップ画面供が開始された。Digital Collectieのトップ画面を図 6 に示した。 図 6 の画面でわかるように、Digital Collectie は検索ポータルではない。オランダでは、すでに Memory of the Netherlands ${ }^{[19]}$ などのポータルが存在して使われていたため、新たなポータルを提供することは避けたためである。Digital Collectieはあくまで Europeanaへの協力プロジェクトとして位置づけられた。このプロジェクト自身は 2015 年で終了したが、Europeanaへのメタデータ提供は続いており、引き続きオランダ視聴覚研究所が担当している。ナショナル・アグリゲータとしては、各参加機関に Rights Statements を記述するように要請している。 2015 年に政府の新しい方針により、Network Digital Heritage プロジェクト ${ }^{[20]}$ が開始された。このプロジェクトでは、メタデータのアグリゲーションをやめ、 Linked Data のアプローチにより、分散型ネットワー クを目指している ${ }^{[21]}$ 。 ## 3. 終わりに Europeana の立ち上がり時には、EUの資金提供を受けた The European Library や ATHENA/ATHENAPLUS などの大型プロジェクトによってメタデータを収集したが、表 1 に見られるように、これらプロジェクトは順次終了した。その後 Europeana Fashion, Europeana Food and Drink、Europeana Collections 1914-1918 どのテーマ別のプロジェクトが行われたが、これらもすでに終了している。現在も、Migration in the Arts and Sciences などいくつかのプロジェクトが動いているが、これまでのような大型プロジェクトではないように見える。Europeana における最近のプロジェクトとナショナル・アグリゲータの関与については、今後も調査を続けたい。 ## 参考文献 [1] 時実象一. 欧州の文化遺産を統合するEuropeana. カレントアウェアネス. 2015/12/20. CA1863. [2] Sources - Europeana Collections. https://www.europeana.eu/portal/ en/explore/sources.html [参照 2019-04-29]. [3] 時実象一.フランスのデジタルアーカイブ機関: BnF とINA (調査報告). デジタルアーカイブ学会誌. 2018, 2(3), 287-293. [4] moteur collections. http://www.culture.fr/Ressources/MoteurCollections [参照 2019-04-08]. [5] Gallica. https://gallica.bnf.fr/ [参照 2019-04-08]. [6] Deutsche Digitale Bibliothek. https://www.deutsche-digitalebibliothek.de/ [参照 2019-03-07]. [7] Frank Frischmuth. Kompetenznetzwerk Deutsche Digitale Bibliothek. https://www.preussischer-kulturbesitz.de/schwerpunkte/ digitalisierung/netzwerke-und-portale/kompetenznetzwerk-deutschedigitale-bibliothek.html [参照 2019-03-07]. [8] Competence Network. https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/ content/ueber-uns/kompetenznetzwerk [参照 2019-04-29]. [9] About us. https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/ ueber-uns [参照 2019-03-07]. [10] Deutsche National Bibliothek. https://www.dnb.de/DE/Wir/ Kooperation/DeutscheDigitaleBibliothek/ deutschedigitalebibliothek_node.html [参照 2019-03-07]. [11] Competence Network. https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/ content/ueber-uns/kompetenznetzwerk [参照 2019-03-07]. [12] Thomas Kirchhoff, Werner Schweibenz, J. Sieglerschmidt. BAM: A German portal to libraries, archives, museums. Museums Informations System. https://www.researchgate.net/ publication/290026981_BAM_A_German_portal_to_libraries_ archives_museums [参照 2019-03-07]. [13] ICCU - Istituto Centrale per il Catalogo Unico. CulturaItalia. https://www.iccu.sbn.it/en/activities/national-activities/pagina_0007. html [参照 2019-03-07]. [14] Internet Culturale. http://www.internetculturale.it/ [参照 2019-0307]. [15] CulturaItalia. http://www.culturaitalia.it/ [参照 2019-03-07]. [16] MuseiD-Italia. http://www.culturaitalia.it/opencms/museid/index_ museid.jsp?language=it [参照 2019-03-07]. 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# デジタルアーカイブの未来にむかって:東京大学大学院DNP寄付講座 3周年記念シンポジウム参加報告 Toward the Future of Digital Archive: Report on Symposium Commemorating 3 Years of the DNP Course of Electronic Scholarly Contents at the University of Tokyo. \author{ 福島 幸宏 \\ FUKUSIMA Yukihiro } 京都府立大学図書館(現: 東京大学大学院情報学環特任准教授) 主催 : 東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテ ンツ寄付講座 日時:2019年 2 月 13 日(水)午後 3 時半 6 時 会場 : 東京大学情報学環ダイワハウスユビキタス館石橋信夫記念ホール 「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」(以下「DNP 寄付講座」)は 2015 年 11 月に 3 年の年限で設立されたものだが、2021 年 11 月まで延長された。第 1 期の 3 年間を振り返り、次の 3 年を展望するためこ のシンポジウムが開催された。 # # 1. 挨拶 まず、東京大学大学院情報学環の田中秀幸学環長よ り、1月の内閣総理大臣の施政方針演説や政府のデー 夕利活用戦略、さらに情報学環が掲げる未来情報社会 イニシアチブと関係させて、講座の活動を評価する開会挨拶があった。続けて、林芳正参議院議員・前文部科学大臣から、産学連携の流れやプラットフォーマー への対抗のなかで、デジタルアーカイブ振興法の成立 を目指したい、との挨拶があった。 ## 2. 報告 続いて、DNP寄付講座担当の柳与志夫特任教授から、 $\lceil D N P$ 寄付講座 3 年間の成果と今後の課題」と題して報告が行われた。柳氏は「3 年間タネをまいて、次の 3 年で成果を出す」「基盤となる制度の整備が必要」 と現状を俯瞰したうえで、DNP 講座が取り組んでいる、デジタル教材、地方紙活用、アートコンテンツの二次利用について、それぞれの成果と課題を述べた。 また、DNP 講座と密接な関係をもつ、デジタルアー カイブ学会とデジタルアーカイブ推進コンソーシアムについても、その状況を報告し、6周年の際にはそれぞれ大きな成果を出したい、と結んた。 3. パネルディスカッション 引き続き、パネルディスカッション「我が国のデジタルアーカイブ:これからの課題」が、生貝直人東洋大学准教授、古賀崇天理大学教授、長丁光則デジタルアーカイブ推進コンソーシアム事務局長、平賀研也県立長野図書館長、松田昇剛総務省情報流通行政局地域通信振興課地方情報化推進室長をパネリストに、吉見俊哉東京大学教授を司会者として開催された。 生貝氏は、この間の著作権をめぐる動向に着目し、 デジタルアーカイブのオープン化構想が着実に進んでいる状況を肯定的にとらえる一方、課題として、保護期間が 70 年に延長されたことダメージの最小化を提言し、さらに、ジャパンサーチ構想におけるつなぎ役 左から吉見俊哉、平賀研也、生貝直人、古賀崇、松田昇剛、長丁光則の各氏 (アグリゲーター)の支援が予算や制度面から行われることで、現代文化を扱うバックボーンとしてのデー 夕の多様性が確保される、とした。 古賀氏は、アーカイブズの立場から、スポーツ資料の危機を事例にあげて、まずは、現物資料の管理の課題をクリアしなければならない、さらにデジタルアー カイブの対象をどのようにとらえるか、2020 年以降の理想をどう考えるか、など、多数の課題を提示された。平賀氏からは、地域でのアーカイブを作っていくという視点から、地域でのアグリゲーターを重視し、暮らしに根差した記憶へより一層注目していかなければならない、という地域からの視点を強調した議論があった。 長丁氏からは、地域文化資源の流通に焦点をあて、 データの作成時からの留意点、展開するストーリーの重要性、さらにコンテンツの価值づけについて整理する発言があった。 最後に、松田氏から、2009年の国会図書館へ投資開始から説き起こされ、現在、予算が非常に少なく、国のかかわりが薄い一方、自治体等にオープンデータ義務を課したことが指摘され、2040年を見据えて行政情報の早急なデジタル化とオープン化を目指す方向が示された。 ここで、吉見氏から、生貝・松田・長丁の各氏がマクロに状況を整理し、古賀・平賀の両氏が、ローカルに、個別の価値から主張した、との整理が示され、文化の価値をめぐっての議論になる、とアジェンダが設定された。これを受けて、パネリスト間では、日本では諸外国に比べて立ち遅れの度合いが半端なく、知の価値の産業化などもまだ緒に就いたばかりで相当なスピードで巻き返すことが重要、産業化された文化のアーカイブこそが不足しているのではないか、メディア自体がもっとデジタル化を行なないといけない、また写真屋さんのように気軽にデジタル化を相談できる仕組みがないか、さらに、ジャパンサーチのつなぎ役の情報基盤に関する支援が必要、などの状況把握や提案があった。 さらに、予算の状況が厳しい中での見通しが吉見氏から松田氏に問われ、総枠が厳しい中、KPIと費用対効果を示せてないため、今後は波及的効果を連携のなかで考えることが必要になる、同時に、デジタルアー カイブは民主主義の基盤である、という観点は重要ではないか、との見通しが示された。 また、デジタルコモンズの観点からの質問に、平賀氏は、アーカイブというものをイメージする基盤があればより浸透すると応え、生貝氏からは、開発を public private partnership で構築することが重要であるという指摘とともに、喫緊の課題として、フェイクニュースへの対抗のために、ジャーナリズムのビジネスモデル化などを通じ、如何に信頼できる情報へのアクセスを保障するかを考えるしかない、との発言があった。これを受けて、吉見氏から、公文書・法人文書の記録・管理・利活用の仕組みができてないとガバナンスはできない、とのコメントがあった。 ここで吉見氏から各パネリストに、a.デジタルアーカイブジャパンはどういう形になるべきか、 b.DNP 寄付講座に何を期待するかという総括的な問いが出された。長丁氏からは、a. 既存の情報技術を前提にしている状況で次世代を考えることが重要では?、b. デジタルアーカイブと知識基盤の関係を作っていくとよいのではないか、松田氏からは、a. 長尾真氏が目指した、国民に必要な情報を提供することが重要、b. 国は民主主義に影響あれば動く。国会議員に対してはデジタルもアーカイブも重要でないという姿勢が大事とあり、古賀氏からは、a. 読み解いていく過程が重要、b. 立命館のゲームアーカイブの取り組みなど、アーカイブがあるから産業が活き ていくということはあるため、幅を広げていきたいとあり、生貝氏からは、a.b. とも、見えている部分のみでは止まってはいけない、マルチステークホルダーの状況でやっていく、平賀氏は、前提として、情報を使う力がすごく弱いので、その状況をどうするか、というなかで、a. 分散型になったのはよかった、b. もっと学際的な展開を希望する、と述べた。 パネリストそれぞれから刺激的なコメントがあったディスカッションといえよう。 ## 4. 討議 ここで、フロアからの発言が求められた。京都府立図書館の福島幸宏氏と国立情報学研究所の大向一輝氏から、新しい評価指標や KPIをつくる研究が重要ではないか、という指摘があった。これに対して、松田氏が、オープンデータ化の一つの側面として、 コスト削減の効果を上げ、データを示してくことで、評価を作っていく方向があるとし、平賀氏はメタデー 夕収集のみならず、地域の publicに必要な存在として、知ること学ぶことを価値化する必要が示された。さらに、株式会社ヴィアックスの遠藤ひとみ氏から、 デジタルアーカイブの普及のためには、身近なキラー コンテンツが提示できるとよいのでは、との意見があった。 最後に、吉見氏から、誰がデジタルアーカイブをつくるのか、誰をデジタルアーカイブがつくるのかという、総括的な問いが提出され、平賀氏から、新しいコミュニティを作る、生貝氏から、知識をつかって何かになりたい人すべてを作る、古賀氏から、利用障壁をさげれげおのずと成長する、などの応答があり、吉見氏が、デジタルのなかで大学がどうなっていくか、大学が誰を育てるか、を考えていきたい、とのまとめがあって、全体が終了した。 総じて、挑戦的な課題を揭げる講座の 3 年目の総括にふさわしい、刺激的な議論がなされたと言えよう。今回の議論をもとに、より広い戦線を構築することが、講座側にもデジタルアーカイブに関わる関係者全員にも求められる。
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# 我が国における地方紙のデジタル化状況に関する調査報告 A survey report on digitization situation of local newspapers in Japan 東 由美子 ${ }^{1}$ 時実 象一 ${ }^{1}$ 平野 桃子 $^{1}$ 柳 与志夫 ${ }^{1}$ HIGASHI Yumiko ${ }^{1}$ TOKIZANE Soichi ${ }^{1}$ HIRANO Momoko ${ }^{1}$ YANAGI Yoshio ${ }^{1}$ 1 東京大学大学院情報学環 1 Interfaculty Initiative in Information Studies, the University of Tokyo } (受付日: 2018年5月11日、採択日: 2018年10月4日) (Received: May 11, 2018, Accepted: October 4, 2018) 抄録:欧米と比較すると、我が国ではデジタル編集導入以前の過去に発行された地方新聞のデジタルデータは、活用以前に公開自体ほとんど進んでいない。しかし、古い新聞原紙の劣化の進行、地方紙の地域における役割の重要性等に鑑みて、過去の地方紙の デジタル化は今後の我が国のデジタルコンテンツ形成、及びデジタルアーカイブ構築にとって極めて重要な課題といえよう。筆者 らは 2017 年 2 月から 5 月に日本新聞協会の協力を得て、協会に加盟する地方新聞社 73 社に対し、デジタル化に関するアンケート 調査をおこなった(回収率 $64.4 \%$ )。本稿ではその概要について報告し、地方紙のデジタル化やデータの公開に関する課題、問題点等を検討する。 Abstract: Digitized data of regional newspapers published prior to the introduction of digital typesetting has not been publicly available or utilized in compared to those in Europe and the US. However, in view of the progress of deterioration of old newspaper copes, and the importance of roles in regional paper in the region, digitization of past local newspapers is critical for overall digital content development and digital archive construction in Japan. With cooperation of Nippon Shimbun Kyokai (The Japan Newspaper Publishers \& Editors Association), the authors conducted a questionnaire survey on digitalization from February to May 2017 to 73 regional newspaper companies affiliated to the association with the recovery rate of $64.4 \%$. In this paper, we report on the outline of the survey results, and discuss problems and challenges, etc concerning digitization and distribution of local newspapers. キーワード:地方紙、デジタル化状況、紙面保存、データベース、アンケート調查、デジタルデータの公開基準 Keywords: regional newspaper, digitization, preservation of newspapers, database, survey, disclosure guidelines ## 1. はじめに 欧米で進んでいる古い新聞のデジタル化とその活用に対し、我が国では全国紙は別として、デジタル編集導入以前の過去に発行された地方新聞のデジタルデー 夕の公開は、ほとんど進んでいないのが現状である。 しかし、古い新聞原紙の劣化の進行、地方紙の地域における役割の重要性等に鑑みて、過去の地方紙のデジタル化は、今後の我が国のデジタルコンテンツ形成、及びデジタルアーカイブ構築にとって極めて重要な課題となっている。 このような状況のもと、新しい学術電子コンテンツ構築とデジタルアーカイブのあり方に関する研究開発を目的とし、東京大学新聞研究所の流れを継ぐ情報学環に設置された東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座 (以下、DNP 講座) では、 2017 年 2 月から 5 月にかけて、日本新聞協会(以下、協会)の協力を得て、協会に加盟する地方新聞社に対し、デジタル化に関するアンケート調査を実施した。 また、アンケート調查の際におこなったヒアリングや、数回の口頭発表 ${ }^{[1]}$ での議論によって、知り得た情報もある。本稿では、それらの概要について報告をおこない、地方紙のデジタル化状況やデータの公開に関する課題、問題点等を検討したい。 ## 2. 新聞電子化の歴史について 具体的な報告に入る前に、新聞電子化の歴史について、ごく簡単に述べておく。 活字を使わず、フィルムに印字する写真植字機は、熱を使って鉛を溶かす「ホット・タイプ」に対して 「コールド・タイプ・システム (CTS) 」[2] と呼ばれた。 このシステムの導入によって新聞の電子化が開始されたといえる。 この電子化は日本では 1968 年に佐賀新聞が先鞭を切り、朝日新聞(1972 年)と日本経済新聞(1971 年) はIBM と組んで大型システムを構築した。しかし当初は、活字拾いの代わりに紙テープのパンチを、紙型のかわりにフィルムを使ったに過ぎなかった。最終校正はフィルムの切り貼りでおこなわれるため、確定原稿の印刷データが保存されることはなかった(以上、奥田 1972)。 1980 年代になり、パソコンによるワード・プロセッサ(ワープロ)が普及するにつれ、記者自身が記事を入力できるようになり、また割り付け作業や校正も画面上でできるようになった。その結果、校正後の確定原稿をデータベースに保存することが可能となった。 したがって、日本の新聞の記事データベースはほとんどの社では 1980年代半ばからのものとなっている(以上、松尾・神尾 1993:877)。 全国紙 3 社(朝日、読売、毎日)はその後縮刷版またはマイクロフィルムから電子化をおこない、さらに各記事の書誌やキーワードを追加してイメージとして公開している。また、国立国会図書館と日本新聞協会は、協力して協会加盟新聞社の紙面のマイクロフィルム化を進めている。 ## 3. 先行研究、および本調査報告の位置づけ 次に、地方紙に関する先行研究を概観し、本稿の位置づけを確認しておきたい。 複数の地方紙を対象とする調査報告の先行例として、小野寺 1955 や鎌田2002などの成果が挙げられる。小野寺が取り上げている新聞社は河北新報、福島民報、信濃毎日新聞、上毛新聞の 4 社のみで、とくに紙面の性格の分析に力を注いでいる。鎌田は地方新聞社 40 社を個別に取り上げ、社史や特性、地域性、気質などの要素を、関係者へのインタビューとともに記述している。ただし、前者は新聞の電子化以前の時代のものであり、後者はデジタル化に関する本格的な言及はほとんどなされていない。 「地方紙」の「デジタル化」に関する記事に限定してみると、これまでに、(1) 紙面の電子版やスマートデバイス向けコンテンッに関する記事 (小出 2013、内田雄 2013)、(2)新聞記事データベース関連記事(広木 1984、神尾 1988、松尾・神尾 1993、佐々2013)、(3) SNS などの読者とのコミュニケーション構築に関する記事(畑仲・林 2012、内田雅 2013、奈良岡 2013、樋渡 2013、八巻 2013、和城 2013、松本 2017)、(4)震災ア一カイブを中心とした地方紙と他アーカイブとの連携に関する記事(柴山 2013、宮本 2013、八浪 2013)、の打およそ 4 種類のテーマが存在するといえる。 ${ }^{[3]}$ 。これらの記事のほとんどは、各社の担当者の手によるか、各担当者へのヒアリングによって書かれており、記事中で言及されている新聞社は 1〜7社程度となっている。 電子新聞・有料デジタルサービスの対応や、インターネット・携帯端末向け情報提供、コンテンッの外部提供、データベースへの対応の有無などの、各社のデジタル化状況全般を網羅的に調查したものとしては内田雅 2013 がある。しかし、データベース上で、いつからいつまでの記事が閲覧可能となっているかといった詳細な情報や、全記事のデジタル化に至らない事情などについては、さらなる調査を必要とする。筆者らが着目したのは、この点である。 ## 4. 调査概要 ## 4.1 調査の準備状況 調査の準備状況について述べる。 各新聞社へのアンケート調査の実施に先立ち、筆者らが所属する DNP 講座では、2016年 12 月に「地方紙デジタル化活用プロジェクト全体プログラム策定委員会 ${ }^{[4]}$ を設置し、調査票に掲載する質問の大朹を、以下の4つの大項目に決定した。 (1)各社における原紙、縮刷版、マイクロフイルム、 DVD、CD での保存状況 (2)オンライン上で公開されたデジタルデータに関する状況 (3)未公開の形でのデジタルデータに関する状況 (4)デジタルデータの公開 ${ }^{[5]}$ 基準(フリーアンサー 形式) 上記の項目は協会の修正と確認を経た上で、調査票に揭載した。また、質問はすべて各紙の創刊号から 2016 年 12 月末日までの状況とした。 なお、インターネット上ですでに公開されている情報については筆者らで事前に調査をおこない、各調査票に、あらかじめ当該のデータを記しておいた。デー 夕に誤記等があった場合には、調查票の返送の際に、各紙に訂正してもらうこととした。 ## 4.2 調査対象、調査期間、回収率等 調查対象は、協会に加盟している県紙相当の地方新聞社全 73 社の発行する 73 紙である。全国紙地方版は、今回は対象としていない。 調查票は、2017 年 2 月に協会からメール添付で各社の担当部署宛に送付し、2017年 5 月までに 47 紙からメール(一部は郵送)で直接回答を得た(回答率 $64.4 \%$ 、表 1 参照)。 表1 アンケート回答状況 返送されてきた調査票には、質問項目によっては無回答の箇所、複数回答の箇所もあった。したがって、以下に揭載しているグラフでは、各項目の值が 47 に満たない部分、あるいは47を超える数値を示している部分がある。また、結果の公表に際して、匿名を希望する社が複数存在したことから、本稿では具体的な社名を伏せている。 ## 5. 調査概要 ## 5.1 各社における原紙、縮刷版、マイクロフィルム、 DVD、CDでの保存状況 原紙、縮刷版、マイクロフィルム、DVD、CD 関する社内での保存とその期間について尋ねた。これをグラフ化したのが図 1 である。 図1地方新聞各社における原紙・縮刷版・マイクロフィルム・CD・DVD での保存状況 原紙については、1980~2016 年までの 36 年間は 32 41 社が保存しており、各社とも原紙保存への意識の高さがうかがわれた。保存されている最も古い原紙は 1873 年のものであった。また、原紙は製本して保存しているとのコメントもあった。 原紙以外では、マイクロフィルムの形態が比較的多く選択されている。1942 年以降はマイクロでの保存よりも原紙での保存が増えていくが、1941 年を境として、1940 年以前は、原紙での保存よりもマイクロフィルムでの保存の方が多かった。この原因については、戦災や震災等で、原紙が相当数欠落したことが関係しているという。欠号を補うために、国立国会図書館と日本新聞協会との協力のもとでおこなったマイクロフィルムのコピーを国会図書館から取り寄せたり、地元図書館に所蔵されている原紙をコピーしたり、読者から原紙の寄贈を受けたり、等の措置を取っている社もあった。 縮刷版は 1915 年から 1965 年にかけて若干作られているが、約 4 倍の数になったのは 1966 年以降のことである。 デジタル化という観点からすれば、CDや DVDでの保存も一定数おこなわれ続けて現在に至っている。 DVD や CD は制作年代によっては、使用するパソコンの機種次第で読み达みができなくなること、耐久性や保存状態の悪さがもたらすデータ破損の危険性などの問題がある。筆者の経験では、ある大学の附属図書館で所蔵している DVD P CD が作動せず、結果的に授業で使用することができなかったというケースも あった。 しかし、保存方法には各社ともかなり神経を使っており、上記の形態以外のさまざまなメディアでの保存を試みている新聞社も散見された。 ## 5.2 オンライン上で公開されたデジタルデータに関す る状況 オンライン上でコンテンツ検索や閲覧が可能な状態になっているか尋ねた。 データが公開されている場合、自社データベース以外のポータルサイトとして、日経テレコンやG-Search と連携する新聞社が多かった。この状況をまとめたのが表 2 である ${ }^{[6}$ 。 表2 オンライン公開を行っている紙数(2016年末日時点) 日経テレコンでは、テキストデータ、およびイメー ジデータ ${ }^{[7]}$ が 1987 年を皮切りに有料で公開されている。1987年当時、テキストデータを 1 紙、イメージデータを 2 紙が公開していたが、2016 年の段階では、 テキストデータは 40 紙、イメージデー夕は 22 紙が公開するようになっている。 G-Search でも状況はほぼ同様と言ってよい。やはり 1987 年を初年とし、同年はテキストデータを 1 紙、 イメージデータを 2 紙が公開していただけであった。 2016 年には、テキストデータは 35 紙、イメージデー 夕は 20 紙と増加している。 この他、Factiva、スカラコミュニケーションズ、 ELNET、ニューズウォッチ、全国新聞ネット(47NEWS)、 nift ${ }^{[8]}$ といった機関と連携している新聞社もあった。 また、国会図書館のホームぺージ上では、無料で記事検索ができるサイトを紹介するサービスがある ${ }^{[1]}$ 。 そのサービスによって、県立博物館や県立図書館、公益財団法人といった地元の機関と連携している新聞社もあることがわかった。Nifty、日経テレコン、 G-Search 以外のサイトで公開しているものすべて「その他」にまとめた。 ## 5.3 未公開の形でのデジタルデータに関する状況 検索・閲覧が可能な、未公開のデジタルデータが存在するかどうかについて、イメージデータ、テキスト、写真ごとに尋ねた。 (1) イメージデータについて 紙面、ないしは記事単位のイメージデータについては、図 2 に見られるように、約 6 割近くの地方紙がデータ化を終了していることがわかった。また、ほとんどの新聞社は、原紙からではなく、マイクロフィルムからデジタル化をおこなっているという。 図2イメージデータが作成されている紙数(末公開のもの)(2016年末日時点) 興味深いことに、デジタル化にあたっては、年次ではなく、記事のジャンルで入力順を決め、重要度で選別しているという回答もあった。重要度の尺度について、さらに尋ねたところ、続報の有無や見出しの大きさで判断しているとのことであった。 これらのデータが、公開に至らない理由については、「6. 考察」の箇所で、調査票のフリーアンサー欄に記された回答から考察する。 ## 5.3.2 文字部分のテキスト化 次に、紙面における文字の部分をテキスト化しているかどうかを尋ねた。 イメージデータ化は予想を超える割合でなされていたが、テキスト化、とくに 1873 年から 1940 年にかけての古い時代の記事のテキスト化は全くされておらず、1941 年から 1984 年までの間も、数件を除き、ほとんどおこなわれていなかった。次第に件数が増えてくるのは 1985 年以降のことであり、飛躍的にテキス卜化が進むのは 2000 年前後のことである。この状況は、図 3 にまとめた。 図3文字部分のテキストが行われている紙数 (末公開) (2016年末日時点) 先に日経テレコンや G-Search などで公開されているのが 1987 年以降であると述べた。また、先にも述べた松尾・神尾が1993年に記すように、新聞記事デー タベースは、1980 年代半ばからのものがほとんどであった(松尾・神尾 1993:877)。これらをまとめれば、記事のテキスト化に関する境界年次は、松尾・神尾が報告した時代から変化がなく、公開・未公開にかかわらず、おおよそ 1980 年代半ば以降とみなしうる。 また、テキスト化が済んでいる部分でも、検索が 100 \%可能な状況にはないようである。切り抜きをスキャンし、OCR処理を施したものの、データは未校閲のままになっているというコメントがあった。 ## 5.3.3 写真のデジタル化 紙面に掲載された写真のデジタル化について尋ねた。 デジタルカメラの急速な普及によって、2011年以降、すべての写真がデジタル化されている。しかし、 それ以前の写真のデジタル化数は徐々に下がっていき、1987 年以前は 5 紙以下であった。これをまとめたのが、図 4 である。 図4写真がデジタル化されている紙数(未公開のもの)(2016年末日時点) ただし、図4のみで判断できない事情もある。たとえば、筆者らの調査票の「デジタル化の済んだ写真の年次(いつからいつまでの写真をデジタル化しているか)」という小項目に対して、フリーアンサー欄には、 「年次に関係なく、重要な写真から順次デジタル化している」「現在作業中」との回答があった。包括的な質問では、新聞各社のデジタル化の現状を完全には掬い上げられないということであろう。ここには項目設定の難しさが反映されている。 また、ヒアリングにて、紙面に採用されなかった古い写真、およびネガが大量に残されており、まだ詳細を把握し切れていないとのコメントもあった。これらも図 4 には反映されない性格のものである。 いずれにしても、各紙とも過去写真のデータ化の重要性を認識していると考えて間違いないであろう。 ## 5.3.4 デジタル化されているが未公開のデータ これまでに述べてきた、未公開のイメージ・テキスト・写真のデジタル化状況をまとめたのが、表 3 である。 表3 イメージ、テキスト、写真のデジタル化済み紙数(未公開のもの) (2016年末日時点) \\ & & & \\ カレント(紙数)欄には、2016 年末日時点でのデジタル化実施紙数を、カレント(\%)欄にはアンケー 卜回答総紙数 47 に占める割合を記載した。アーカイブ(紙数)欄には、2016 年末までに一度でもアーカイブを作成したことのある紙数を示した。アーカイブ (\%)欄には、アーカイブ紙数の 47 総紙数に占める割合を記載している。 表 3 によれば、2016 年末日時点(カレント(\%)) では写真のデジタル化率が最も高い。しかし、それ以前に行われたデジタル化を含めると、テキスト化率が最も高いことになる。 ## 6. 考察 ## 6.1 デジタル化状況の問題点 以上で述べてきたように、各紙とも創刊以来の紙面保存の意識は高く、原紙やマイクロフィルム等の形態で保存に努めてきた。また、1980 年代半ば以降のデジタルデータについては、さまざまな機関を通じて公開される傾向が強かった。イメージデータ化に関しては、未公開ではあるものの、6割程度なされている。 しかし、創刊号から 1990 年代半ばまでの記事のテキスト化や写真のデジタル化については、ほぼ未着手の状態であるとみなしうる。 ## 6.2 デジタルデータの公開基準と課題 最後に、各社からフリーアンサー形式で送付されてきたデジタルデータの公開基準、ないしは非公開基準について述べ、公開に関する課題について若干の考察を打こないたい。 デジタルデータの公開基準に関しては、各社とも著作権や肖像権、人権などの権利事項を挙げている。 自社が著作権を保有している記事や一部の写真、もしくは著作権者からの了承が得られた寄稿文については、公開していると答えた新聞社が多かった。ただし、顔写真、戦前戦後の風景写真、自社に著作権がない図表などについては非公開とする社も多く、共同記事・寄稿・投稿の類は見出しのみ公開といった措置を取る社もあった。 外部データベースには、ネットで公開されている記事のみ提供するとの回答もあった。ただし、ネット上では非公開の記事も、マイクロフィルムでは全面公開されているようである。 事件・事故に関する記事は、原則非公開か、見出しのみ公開とした社が多い。また、記事ごとに人権のチェックをおこない、配慮すべきものは揭載後 5 年で削除することをおこなっている社もあれば、ある時期までは非公開だが、それ以降は匿名化して公開するとした社もあった。 広告については、各社とも、基本的にはマスキングをかけて非公開としている。 さらに、非公開の理由として、上記の権利事項以外に、公開の体制が整っていないためという回答も得ている。 上述のように、データの公開に際しては、著作権、肖像権、人権などの権利関係への配慮が不可欠となる。 また、公開した後も定期的に記事を見直し、訂正や削除などを打こなわなければならない。明治・大正・昭和初期の紙面を検索可能な形で公開するためには、校閲作業などもおこなう必要が出てくる。メタデー夕付与も含めて、デジタルデータの公開には人手、すなわち人件費が必要となる。 費用の側面から見れば、デジタルデータの制作費用ももち万んのこと、仮に自社データベースを構築することを決定するならば、システム構築費やメンテナンスなどの維持費用もかかる。 要するに、デジタル化とその公開においては、さまざまな段階で、予算と、ある程度の事情を理解している人手の確保が不可欠なのである。フリーアンサーに記されていた「公開の体制が整っていない」というコメントが意味するもののひとつには、こうした事情が あると推測される。 一方、巨額の予算をかけて制作した過去記事のデジタルデータは、利用者をどの程度確保できるのかは未知数である。過去の紙面の公開と採算性の関係も、地方新聞社にとっては、不可避の重い課題となっている。 ## 謝辞 アンケート調査と結果の発表に際して、日本新聞協会には多大なご尽力を賜りました。また、各新聞社のご担当のみなさまには、突然のお願いにもかかわらず、 アンケートに快く応じてくださり、たいへん貴重な情報をいただきました。心より御礼申し上げます。 なお、本研究の一部はデジタルアーカイブ学会第 2 回研究大会にて口頭発表を行った ${ }^{[10]}$ 。 (註) [1] 本調查に関する口頭発表は、これまでに3回おこなっている。1回めの発表は日本新聞協会主催の報道資料研究会での調査報告 (柳. 2017年6月6日 (火). 於神戸市勤労会館)、 2回めの発表は課題提起フォーラム「ナショナルな地域文化資源:地方紙の活用に向けて一地方紙原紙のデジタル化状況調查から見えてきたこと」(DNP講座. 2017年7月13日 (木)。於日本新聞協会)、3回めの発表はデジタルアーカイブ学会第二回研究大会でのポスター発表「我が国における地方紙のデジタル化状況に関する調査報告」(平野桃子、時実象一、柳与志夫、東由美子. 2018年3月10日(土)、於東京大学)である。いずれの報告でも、関係者と貴重な意見を交換することができた。 [2] CTSは後にはComputerized Type Setting、すなわち電算写植機の略語となった。 [3] たたしい、複数のテーマを取り扱っている記事もあり、明瞭に切り分けられるものではない。 [4] 構成メンバーは、植村八潮、柴野京子、時実象一、丹羽美之、東由美子、平野桃子、松岡資明、宮本聖二、柳与志夫である。 [5]「公開」という言葉には有償公開と無償公開の意味が含まれるが、本調査では区別して用いていない。 [6] 2016年末日時点の公開がなされていない場合は、この表には含まれていない。 [7] 本稿で使用する「イメージデー夕」には、紙面のイメージデータと記事単位のイメージデータの双方の意味を含んでいる。 [8] niftyは新聞社と直接連携しているのではなく、G-Searchが個別契約をしているプロバイダーのひとつであるとの指摘が複数あった。 [9] 国立国会図書館無料記事検索サービス https://rnavi.ndl. go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-700003.php(更新日 2017年6月19日、閲覧日2017年10月23日) [10] 平野桃子, 東由美子, 時実象一, 柳与志夫. 我が国における地方紙のデジタル化状況に関する調査報告. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, 2(2), 140-143. (参考文献) 内田雅章. ローカルに徹し、新たなコミユニケーションを ——福井新聞「ふくーぷ」の挑戦. 新聞研究. 2013, no.742, p.47-49. 内田雄一. 新聞協会企画開発部企画開発担当 2013年新聞・通信社の電子・電波メディア現況調査変化するメディア環境に対応——スマートデバイス向けコンテンツ増加. 新聞研究. 2013, no.742, p.52-57. 奥田教久. ミニ解説新聞の電算写植システム. 電気学会雑誌. 1972, vol.92, no.7, p.23-26. 小野寺林治. 地方新聞の実態調査河北、福民、信毎、上毛の四紙について. 朝日新聞調查研究室報告社内用 53 . 1955. 鎌田慧. 地方紙の研究. 潮出版社. 2002. - 神尾達夫. 新聞記事データベースの最新動向. 情報システム, 1988, vol.18, no.3, p.1-10. 小出浩樹. 一歩また一歩——西日本新聞経済電子版 (qBiz)創刊半年. 新聞研究. 2013, no.742, p.38-40. ・佐々瑞雄. 地方紙におけるデータベースへの模索——地域情報センターをめざす熊本日日. 新聞研究. 2013, no.742, p.29-31. . 柴山明寬. 震災の記録・教訓をどう活用するか——産官学民連携、みちのく震録伝の活動. 新聞研究. 2013, no.742, p.17-20. 奈良岡将英. 地域メディアの未来を描くために一一静岡新聞SBSグループのSNS活用. 新聞研究. 2013, no.742, p.45-47. 畑仲哲雄, 林香里.「地域ジャーナリズム」という事業:SNS に取り組んだ地方紙7社への調査から. 国立民族学博物館調查報告, 2012, vol.106, p.147-177. ・広木守雄. 情報検索技術の革新と新聞———般ニュースのデータベース・サービスの試み. 新聞研究. 1984, no.398, p.24-28. 樋渡光憲. 地域密着型コミュニティーサイトの可能性一一佐賀新聞「ひびのコミュニティ」の成果と試み. 新聞研究. 2013, no.742, p.50-51. 松尾光, 神尾達夫. 日本における新聞記事データベースの現状と今後の動向. 情報管理. 1993, vol.35, no.10, p.871-883.松本恭幸. 地方紙のデジタル事業の今. 月刊マスコミ市民: ジャーナリストと市民を結ぶ情報誌. 2017, no.580, p.63-67. 三浦伸也. 震災・災害時情報源としてのマスメディアの役割——「311情報学」の試みから. 2013, 新聞研究. no.742, p.21-24. 宮本聖二.「次」に備えるために一一東日本大震災NHKアー カイブスの取り組み. 新聞研究. 2013, no.742, p.13-16.八浪英明.「成長するアーカイブ」を目指して——河北新報震災アーカイブの試み. 新聞研究. 2013, no.742, p.8-12. 八巻恭子. 読者との対話を続けるために一河北新報社の SNS戦略. 新聞研究. 2013, no.742, p.41-43. 和城信行. 公式記者ツイッターの試み一一神奈川新聞社の挑戦. 新聞研究. 2013, no.742, p.43-45.
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# 日本国内における自然史標本資料の電子化状況アンケート 調査結果 Status Survey of Digitization of Natural History Collections in Japan 中江 雅典 ${ }^{1,2}$ 細矢 剛2,3 NAKAE Masanori ${ }^{1,2}$ HOSOYA Tsuyoshi, ${ }^{2,3}$ 1 国立科学博物館動物研究部 〒305-0005 茨城県つくば市天久保4-1-1 Email: nakae@kahaku.go.jp 2 GBIF日本ノード 3 国立科学博物館 標本資料センター 1 Department of Zoology, National Museum of Nature and Science, 4-1-1 Amakubo, Tsukuba, Ibaraki 305-0005 JAPAN 2 Japan Node of Global Biodiversity Information Facility 3 Collection Center, National Museum of Nature and Science } (受付日: 2019年1月18日、採択日: 2019年5月13日) (Received: January 18, 2019, Accepted: May 13, 2019) 抄録:日本国内における自然史標本コレクションの電子化の進捗状況を把握するためのアンケート調査を行った。その結果、節足動物、維管束植物および魚類のコレクション規模が大きいこと、藻類、無脊椎動物化石および鳥類コレクションで電子化の進捗率 が相対的に高いこと、標本の画像化はどの分類群のコレクションでも進渉率が低いことが明らかとなった。また、多くの機関がコ レクション全体を徐々に電子化させる方針であるが、電子化の作業は主に非常勤職員が担い、職員の時間がなく、資金もなく、必要作業量が膨大であるため、電子化の遂行に苦労しているとの傾向・状況が明らかとなった。 Abstract: A survey was conducted to assess the progress, benefits, and impediments of digitization of natural history collections data in Japan using a questionnaire. The survey revealed that arthropod, vascular plant and fish collections are remarkably large in total number of specimens; progress of digitization in alga, invertebrate fossil and bird collections were more advanced compared to other collections; capturing images of specimens has not been progressed in all collections. Lack of time, funding and amount of task were found to be the major impediments in digitization. キーワード:S-Net、GBIF、自然史博物館、コレクション、公開 Keywords: S-Net, GBIF, Natural History Museum, Collection, Publication ## 1. はじめに インターネットを介した自然史標本の情報や画像等へのアクセスは、ますます重要になってきている。特に環境問題や生物を扱う研究・教育・行政機関の関係者にとって、これらの情報に自由にアクセスできる環境は非常に重要である。 地球規模生物多様性情報機構 (Global Biodiversity Information Facility: GBIF ${ }^{[1]}$ は、96の国や地域などが参加する国際的な機関であり、世界中の博物館や研究機関からの生物の標本情報と観察情報を、インター ネットを通じて自由に利用できるよう提供している。日本にはこの活動に対応したノード(活動拠点) “JBIF"[2] があり、国立科学博物館が活動の中心的役割を担っている。そして、標本情報の国内利用推進のため、サイエンスミュージアムネット (S-Net:日本国内の 100 の自然史系博物館・研究機関が参加している自然史標本情報の検索サイト) ${ }^{[3]}$ を運営している。 生物の標本情報と観察情報から構成される生物多様性情報は、集積量が増大すれば様々な解析の精度も上昇する。ただし、その集積には情報源となる標本や関連情報の電子化の労力が必要であり、集積計画にはそ れらの把握が必須である。 GBIF は、その活動の一環として、世界の自然史標本コレクションについて、電子化の進捗状況を把握するためのアンケート調査を行い、国内関係機関にも協力を依頼した。本調査は、世界的なスケールでの結果にマージされ、すでに公表されているが $[4]$ 、本稿では、国内での調查結果に焦点を絞り報告する。 ## 2. 調査方法 2015 年 10 月、GBIF の委員会が作成したアンケー トの日本語版を作成し ${ }^{[5]} 、$ S-Net 協力機関および日本分類学会連合が運営する TAXAメーリングリストを通じて回答を募った。 ## 3. 調査結果 3.1 自然史標本コレクション(動植物)の規模、電子化・画像化および公開の状況 53 機関から 308 のコレクションに関する 83 の回答が得られた。機関内訳は、43が国立・県立・市町村立の研究教育機関または博物館、7が旧国立・公立大学、3がその他の機関であった(図1)。 図1 アンケート回答者の所属機関の種類 図2 回答53機関に各コレクションがある割合 各機関にコレクションがある割合が最も高い分類群は節足動物 (40 機関) であり、以下、維管束植物 (33)、哺乳類(30)が続いた(図 2)。コレクション規模を個体数かロット(標本の単位: 多数の個体をひとまとめにして管理しているものを示す単位)として回答を求めたが、個体数とロットを同じ 1 として暫定的に扱って分類群毎の規模の概略をみると、節足動物が約 450 万と最も大きく、維管束植物の約 370 万と魚類の約 350 万が続いた(図 3)。コレクション規模が小さい分類群は、両生・は虫類(2万弱)であり、藻類、哺乳類、鳥類、植物化石 - 花粉打上び脊椎動物化石 (それぞれ 10 万以下)がそれに続いた。 アンケート回答 53 機関のうち、51 機関において標本情報(分類群や採集日、採集場所、採集者など)の電子化が進められていた。コレクションの電子化の進渉状況は、各機関や各コレクションにより様々であった。分類群毎の電子化状況の総計は、藻類で高く (98\%)、無脊椎動物化石(85\%)と鳥類(78\%)が続いた(図4)。電子化が相対的に進んでいない分類群は、陸上無秦椎動物(節足動物または巻貝以外)(3\%)であった。ただ、これらの数値は加重平均で算出されており、大規模コレクションの電子化状況に全体の傾 図3 自然史標本コレクションの各分類群のおよその規模 図4 自然史標本コレクションの各分類群での電子化進捗程度 向が牽引されるので、注意が必要である。 電子化されている標本情報のうち、ポータルサイト等で公開されている割合は、植物化石・花粉 (99\%) や脊椎動物化石 (97\%)、無脊椎動物化石 (94\%) で高い一方、藻類 (6\%) や節足動物 (32\%) で相対的に低かった(図 5A、5B)。 標本の画像化(標本を電子画像として閲覧可能な状態にすること)は、標本情報の電子化よりも進捗率が低く、取り組んでいる機関は 32 機関であった。また、進捗率が高い鳥類、維管束植物打よび植物化石・花粉のコレクションにおいても、収蔵標本に対する画像化率は約 $10 \%$ に過ぎなかった。他の分類群では、0~ 3.5\% 程度である。標本の画像化を推進する理由については「研究のため」と「分類学的重要性のため」を挙げる回答者が多かった。 図5A 自然史標本コレクションの各分類群での公開割合(電子化した標本の総計に対する公開標本の割合) 図5B 自然史標本コレクションの各分類群での公開割合 (収蔵標本の総計に対する公開標本の割合) 図6標本データの電子化におけるメリット 3.2 標本情報の電子化におけるメリットおよび公開の際に重要と考える情報 標本情報の電子化と公開によるメリットでは、「コレクション情報(標本数や分類群情報など)のより正確な把握」(44\%)、「標本の管理運営の効率化」(42\%)、 および「標本情報の管理運営の効率化」(42\%)の回答が多かった(図 6)。一方、「標本を利用した新たな成果や商品、新たな標本使用用途の開発」 $(1 \%)$ 、「寄付金の増加」(3\%)および「マスコミなどへの露出増加」(5\%)を挙げる回答は少数であった。 コレクションに関する情報(対象分類群、標本数、管理者など)において、ウェブ上で公開している、も しくは公開の際に重要だと思われる事柄では、「採集地データ」 $(97 \%)$ 、「分類群名」 $(96 \%)$ 、「タイプ標本に関する情報」(77\%)を挙げる回答が多い一方、「電子化された割合」 (9\%) 、「担当技術職員名」(13\%)、「担当コレクションマネージャー名」(16\%)で回答が少なかった(図7)。 また、コレクションに関する情報の公開先については、「GBIF・S-Netを介して」打よび「研究報告・機関誌の発行によって」が多かった(図 8)。 ## 3.3 標本情報の電子化・画像化の予算 標本情報の電子化や標本の画像化においては、回答 図7 データ公開の際に重要なコレクションに関する情報 *2 The Global Registry of Biodiversity Repositories 図8 コレクションに関する情報の公開先 者の $64 \%$ が外部資金などの何らかの資金を得ていた。 その内訳では、外部資金が $54 \%$ 、経常研究費の一部が 46\%、特別予算が 15\%であった。外部資金では、公的機関から得たが $86 \%$ 、助成団体や慈善団体から得たが $21 \%$ 、その他が 7\%、商業団体・企業の助成金が $0 \%$ であった。外部資金の獲得方法では、学芸員・職員自身が助成金に応募したが $85 \%$ であり、その他が 19\%、外部資金獲得部署が助成金を得たが $4 \%$ であった。 ## 3.4 電子化におけるサポート、マンパワー、長期計画、障害 継続的な電子化・画像化に関する努力や資金について、何らかのサポートや処置を行っている機関は $44 \%$ であった。その内訳については、「標本関連データの長期保存」「その他」および「職員のトレーニング」 が多かった(図9)。 電子化を担っているのは、非常勤職員が一番多く、次いでアルバイト、外注、常勤職員の順であった(図 10)。 長期的な視野での電子化計画では、「全体を徐々に 図9標本情報の電子化や画像化における所属機関のサポート 図10標本情報の電子化におけるマンパワー 電子化していく」(94\%) が圧倒的に多く、「研究上の需要がある標本のみ電子化を行う」 $(13 \%)$ 、「新規標本のみ電子化を行う」(8\%)が続いた(図 11)。 電子化・画像化を行う上での障害については、「職員の時間がない」(91\%)が最多であり、「必要作業量が膨大すぎる」 (69\%) と「助成金や資金がない」(57\%) が続く(図 12)。一方、「必要性を感じない」 (0\%)、「コ 報の共有を望まない」(1\%)は相対的に低い数値である。特に重大な障害となっている事柄については、「職員の時間がない」、「必要作業量が膨大すぎる」、「助成金や資金がない」が挙げられていた。 ## 4. まとめ 日本でのアンケート調査結果から、国内のコレクションおよび電子化の傾向の特徴は、1)節足動物、維管束植物および魚類のコレクション規模が大きいこと、 2)藻類、無春椎動物化石および鳥類で電子化の進捗率が相対的に高こと、3)標本の画像化はどの分類群のコレクションでも進渉率が低いことが挙げられる。 上述 ${ }^{[4]}$ のと打り、本アンケート調査は世界で行われており、公開の際に重要だと考えられている標本. コレクションの関連情報、電子化における作業者、長期計画および障害となっている上位の事由は、世界と日本で同様の傾向がみられた。すなわち、「どのような地域で採集されたどの分類群のコレクションかが公 図11標本情報の電子化における長期計画 図12標本情報の電子化や画像化における障害開の際に重要な情報であり、非常勤職員が主に電子化の作業を担い、コレクション全体を徐々に電子化させる方針であるが、職員の時間がなく、資金もなく、必要作業量が膨大であるため、電子化の遂行に苦労している」との傾向・状況が明らかとなった。 ## 註・参考文献 [1] GBIF | Global Biodiversity Information Facility. https://www.gbif. org/ [accessed 2019-04-07] [2] JBIF | 地球规模生物多様性情報機構日本ノード. http://www. gbif.jp/v2/ [accessed 2019-04-07] [3] サイエンスミュージアムネット. http://science-net.kahaku. go.jp/ [accessed 2019-04-07] [4] Krishtalka, L.; Dalcin, E.; Ellis, S.; Ganglo, J.C.; Hosoya, T.; Nakae, M.; Owens, I.; Paul, D.; Pignal, M.; Thiers, B. 2016. Accelerating the discovery of biocollections data. Copenhagen: GBIF Secretariat. http://www.gbif.org/resource/83022 [accessed 2018-12-28] [5] 地球規模生物多様性情報機構(GBIF)からのアンケート. http://science-net.kahaku.go.jp/contents/resource/ GBIF_20151005_questionnaire.pdf [accessed 2018-12-28]
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# 生物学動画アーカイブの運用で想定される課題 : 研究者 アンケートからの考察 ## Issues associated with the operation of biological moving image data archives: A questionnaire research involving biologists \author{ 石田惣 ${ }^{2}$ 中田兼介 ${ }^{2}$ \\ ISHIDA So ${ }^{1}$ \\ NAKATA Kensuke ${ }^{2}$ \\ 西浩孝 $^{3}$ \\ NISHI Hirotaka ${ }^{3}$ \\ 蔞田慎司 $^{4}$ YABUTA Shinji ${ }^{4}$ \\ 1 大阪市立自然史博物館動物研究室 〒546-0034 大阪府大阪市東住吉区長居公園1-23 大阪市立自然史博物館 \\ Email: iso@mus-nh.city.osaka.jp \\ 2 京都女子大学現代社会学部 \\ 3 豊橋市自然史博物館 \\ 4 帝京科学大学生命環境学部 \\ 1 Laboratory of Zoology, Osaka Museum of Natural History \\ 2 Faculty of Contemporary Society, Kyoto Women's University \\ 3 Toyohashi Museum of Natural History \\ 4 Faculty of Life and Environmental Sciences, Teikyo University of Science } (受付日: 2018年12月2日、採択日: 2019年2月18日) (Received: December 2, 2018, Accepted: February 18, 2019) \begin{abstract} 抄録:生物研究者が撮影した動画を収集し、利用公開するアーカイブを運用する上で起こり得る課題を抽出するため、アーカイブに対する研究者のニーズ、対象データの潜在量や記録媒体、データ提供者が認容できる利用条件等について研究者にアンケート調査を行った。教育目的での利用可能性には提供者・利用者双方の立場のニーズがある。課題として、・デジタル化により増大する動画量への対応、・レガシー媒体への対応、・ウェブ公開や営利利用、目的を問わない利用に提供者側の抵抗感があり、アーカイブやオープンサイエンスの意義について理解を求める必要性、データの利用時の編集の是非、データのウェブ公開可否の判断基準、等が見出された。 Abstract: We carried out a questionnaire research involving biologists to identify issues concerning the operation of biological moving image data archives. The questionnaire asked biologists about their needs, the quantity of and recording media for potential data, and the acceptable license for donors. Results show that the possibility of educational opportunities would meet donors' and users' needs. The primary issues are an increase in data quantity resulting from the diffusion of digitized movie device; conversion of legacy media; necessity for donors to understand the significance of archives and open science policy, owing to their reluctance to open the data on www or approve commercial or unlimited use; appropriateness of edited data use; and guidelines to open the data on www. \end{abstract} キーワード : 生物学、動画、デジタルアーカイブ、オープンサイエンス、自然史博物館、著作権 Keywords: Biology, Moving Image, Digital Archives, Open Science, Natural History Museum, Copyright ## 1. はじめに 学術研究の現場では、データを得る手段として動画を用いることがある。生物学はその一つで、特に生物の動きを記録してデータを得ようとする動物行動学や生態学など、いわゆるマクロ生物学では動画が重用されてきた。動物行動学ではその最初期から映像の利用 分野で、研究者はその時々で入手可能な動画撮影・解析装置を積極的に駆使して一次デー夕を得てきた ${ }^{[3]}$ 。近年、これらの分野の研究者が扱う動画は急増傾向にあると考えられる。その理由はデジタル動画の技術向上と普及にある。デジタル動画の登場当初は撮影装置の選択肢が少なかったこと、記憶容量が必要なこと、処理速度の速いコンピュータが必要といった制約があったものの、近年それらを選択または入手するハー ドルがすべて下がった。さらに、撮影装置が撮像解像度を向上させながらも小型化し、電池駆動時間を長く し、さらには防水性能をも付加させる ${ }^{[4]}$ といった傾向は、とりわけ生物の野外調査に用いるうえでは有利に働く要因だろう ${ }^{[5]}$ 。つまり、現在一線で活動する動物行動学者や生態学者は、研究過程で得た、多様で、興味深い動画を大量に持っている人が多くいるはずである。 このようなデータ群は、二つの点で公共財になりうる。一つは研究資源である。例えば動物行動学では特定種の行動を研究するため、出現する全行動パターンをリストアップすることがあり、これはエソグラムと呼ばれる。エソグラムの作成によって、行動を個体間・種間で比較することが可能になり、その一般性を扱うことができるようになる。研究者間でエソグラムを共有する上で動画は有用だと認識されており ${ }^{[6]}$ 実際に動画(DVD)を用いて編纂された文献もある ${ }^{[7]}$動画を集積することで、行動要素の分類や比較が容易になることが期待される。また、研究者はなんらかの 情報を抽出するために動画を撮影しているが、動画はその特性上、目的とした以外の情報も同時に記録している ${ }^{[5]}$ 。元になった動画を別の研究者が見れば、新たな研究デー夕になる可能性がある。これは動物行動学に限らないものであり、例えば背景の景観などは、その時点の環境情報の記録として有用である ${ }^{[8]}$ 。このような研究データの流通は、近年急速に議論が進むオー プンサイエンスの主眼の一つでもある ${ }^{[9-[11]}$ もう一つは、教育資源である。動画は現象を効率よく伝えることができ、学習者の関心を引きつける効果も高い ${ }^{[12]}$ 。自然現象は野外で直接観察するのが最も望ましいが、時期や時間帯、場所を選ぶことなく再生できる動画は、生物学教育を補助する材料として有効である ${ }^{[13][14]}$ 。実際に教育コンテンツとして動画が多数提供されている状況 ${ }^{[15]}$ も、これを支持する。 生物研究者が撮影した動画をこのような公共財として社会に還元するためには、アーカイブとして収集し、保管し、利用公開する仕組みが考えられる。生物学一般ではないが、著者らは 2003 年より、動物の行動に関する映像を研究者やナチュラリストから集め、ウェブで公開する「動物行動の映像データベース」年を立ち上げ、運営をしてきた。このデータベースの当初からのねらいの一つは、動物行動学の研究成果の公表と参照が容易になること、もう一つはそれらの成果が教育現場で活用されることである ${ }^{[17]}$ 。2018 年 11 月現在で約 1,400 点の動画が登録されており、先に述べた 「公共財としての社会還元」はある程度の形をなして実現している。しかし、データベースは公的な機関の後ろ盾があるわけではなく、有志で運営をしており、登録動画を「アーカイブ」として恒久的に保管する基盤としては依然脆弱である。 このような経緯から、著者の石田は所属する大阪市立自然史博物館において、動画を標本資料と同じ位置付けで収蔵するデジタルベースのアーカイブを立ち上げられないか、検討をすることにした。この発想は動物行動の映像データベースの運営に携わっていることが基になっているが、自然史博物館として収集する以上、対象となる動画はより幅広い生物学(例えば自然景観や農業・漁業なども)を視野に入れることになる。生物学動画(音声を含む)のアーカイブに取り組む機関は、国内では千葉県立中央博物館 ${ }^{[18]}$ や同分館海の博物館 ${ }^{[12]}$ 、海洋研究開発機構 ${ }^{[19]}$ などすでにいくつかあり、その事例は石田 ${ }^{[8]}$ が詳述しているが、研究者や市民から広く寄贈を募りつつ、利用公開を意識した運用をしている機関の事例は、国内ではまだ少ないようである。収集から利用公開までの流れを作るには、 データの受け入れや規格、メタデータの項目、権利許諾など、様々な条件設定が必要となる。この設計にあたっては、あらかじめ課題を抽出し、可能な限り対処をとった上で進めることが求められる。具体的には、 どの程度の研究者が関心を持ち、収集対象となるデー 夕量は潜在的にどの程度あるのか、どのような媒体に記録されているのか、提供者が許諾できる利用条件はどのラインなのか、実際に研究・教育活動で利用されるためにどのような環境整備をすべきか、などである。 これらの疑問や課題を事前に把握しておくことは、 アーカイブを効率良く運営し、実質的に機能させるために必要なことである。オープンサイエンスに対する研究者の意識調查はすでに国内外で行われているが、例えばデータ公開への意識は分野ごとに違いのあるこ だ調査が求められる。 そこで今回、主要なデータ提供者となり得る生物研究者に対し、課題抽出を目的としてアンケート調査を行った。上記の各課題を想定して設問を作成し、得られた回答から、その全体的な傾向と詳細を掴むことを試みた。 なお、本論文では研究者が自身の発想に基づいて行う研究を想定し、研究データの保存や著作権の管理権限は研究者本人が持つという前提で議論を進める。所属機関の職務として位置づけられるような研究の場合、データの主たる管理権限は研究者には委ねられないのが通例である。自然史系の領域では相対的に前者のような研究スタイルが多いと考えられる。研究者にデータの管理権限がないケースでは、以下の議論は必ずしも適用できない部分があることを了承されたい。 ## 2. 方法 ## 2.1 調査対象 調查対象は動画(または音声)を一次データとして用いた生物学分野の論文を 1 報以上発表したことがある研究者とした。今回対象としたのは主に日本生態学会または日本動物行動学会の会員であり、生態学・動物行動学が専門分野で、特に動物を材料とする研究者とみなされる。質問・回答はアンケート用紙(紙または MS-Word ファイル)を用い、記名式により行った。 ただし、回答者名が特定される形での回答内容の公表はしないという条件による。回答に不備があった場合や、調査者が追加の質問を行う場合はメール等でやりとりをした。また、一部の回答者については面接しヒアリングにより回答を得た。アンケートの設問及び回答で想定している「動画」とは、研究者が研究データ として採録したものを指し、以下特に断らない限り音声データも含まれる。アンケートは 2015 年 11 月から 2016 年 7 月にかけて行った。 ## 2.2 質問項目 アンケートでは以下の質問項目を設定した:1)回答者の属性 (年代、研究年数、研究分野、扱っている生物の分類群);2)保有する動画量や媒体等(記録時間数、記録媒体、デジタル化率、データの処分歴の有無と量);3)動画アーカイブに対する関心(自身のデータの保存先としてアーカイブを利用したいかどうか、利用したい・したくない場合の理由、アーカイブに提供した自身の動画について許諾できる利用条件);4)別の人が撮影した動画の利用経験(利用経験の有無、目的、入手方法、課題);5)アーカイブされた動画の活用可能性 (研究での利用可能性、データ検索時・利用時に必要とするメタデータ、利用できないと考える場合の理由);6)その他自由記述(アイデアや問題点等)。 3)の「許諾できる利用条件」とは、自身の動画を提供した場合に、その動画を博物館が利用する、または博物館が第三者に対して利用許諾をする際の許諾条件である。設問で提示した利用形態は、著者(石田) が博物館において日常業務として経験する資料利用や利用許諾の事例として、実際に多いものを取り上げた。 それに対して「許諾してもよい (連絡不要)」「許諾してもよい (要事後連絡)」、「個別に許諾を判断(要事前連絡・相談)」、「許諾したくない」を選んでもらった。なお、個々の利用条件では「撮影者の氏名表示といった著作者人格権は保持されている」という前提を示した。 実際の調查項目と回答選択肢は、附録 $\mathbf{1}$ に調査用紙の実物を掲載するので、そちらを参照されたい。 ## 3. 結果 ## 3.1 回答者の属性 有効回答数は 45 名、年齢層は 20 代 80 代(図 1)、平均研究年数は 23 年(最長 58 年、最短 4 年) だった。 ## 3.2 保有する動画量や媒体等 回答時点で保有する動画の累計記録時間数の平均は 577 時間(最小 4 分 50 秒、最大 8,800 時間、標準偏差 1,475、 $\mathrm{N}=42$ )であった(45 名中 3 名が「総記録時間数は多すぎてわからない」と回答したので、この3名は母数に含めていない)。42 名分の頻度分布を図 2 に示す。動画の記録媒体別の保有者数と、平均記録時間数を図 3 に示す。前述の「総記録時間数は多すぎてわからない」とした回答者でも、媒体によって時間数がわかる場合はこの集計に含めている。保有者数・平均記録時間数共に最も多かったのはデジタルファイル(30 名・305 時間)だが、保有者数では次いでDVテープ (17名)、VHS (13名)、 $8 \mathrm{~mm}$ ビデオ (Video8、Hi8 など)(8 名)、DVD-R(5 名)の順に多く、平均記録時間数では DVD-R(228 時間)、VHS(190 時間)、8mm ビデオ (140 時間)、DVテープ (98 時間)に順に多かつた。その他の媒体を保有すると回答した 1 名についてはVHSでないことは確かだが、詳細な形式は不明だった(放送業務用と推定される)。銀塩フィルムを現在 図1 回答者の年代構成。数字は回答者数。 図2 保有する動画の累計記録時間数の頻度分布。横軸の数値は、その区間での最大値を示す。 図3 記録媒体別の保有者数と、平均記録時間数。「フィルム」は銀塩フィルム媒体、「磁気テープ (旧式)」はVHSより前の世代の磁気テープ媒体、「DV」はDVテープ媒体、「DVD」はDVD-Rを示す。 保有する回答者はいなかったが、2 名が過去に $8 \mathrm{~mm}$ フィルムで記録した動画を所有し、すでにすべて処分したと回答した。 回答者のうち、音声データを保有していたのは 5 名で、その全員がデジタルファイルとして保有し、うち 1名は DAT も所有していた。デジタルファイルの平均記録時間は 2,372 時間だった。媒体としてカセットテープを保有する回答者はいなかった。 併せて、保有しているアナログデータ(銀塩フィルム、VHS、8mm ビデオなど)をデジタル化しているかどうかも尋ねた。アナログデータを保有している回答者は 45 名中 22 名で、そのうち 16 名(73\%)は「デジタル化は全くしていない」と回答した(図 4)。「デジタル化している」と回答した 6 名(27\%)にデジタル化したデー夕量の割合を尋ねたところ、その平均は $44 \%$ だった。 図4 アナログデータの保有の有無と、アナログデータのデジタル化の有無、数字は回答者数。 過去に所有していた動画を処分したことがあるか (紛失や事故・災害による消失は除く)を尋ねると、 18 名(40\%)が「処分してしまったものがある」と答え、27名(60\%)が「処分したことはない」と回答した。処分経験ありの回答者に処分した動画の累計時間数を尋ねたところ、平均は 106 時間だった(この質問は回答用紙の受領後、個別に尋ねてその回答を得た)。 ## 3.3.1 動画アーカイブに対する関心と許諾条件の意識 博物館が動画アーカイブを立ち上げた場合に、保存先として「利用したいと思う」という回答者は 14 名 (31\%)、「条件によっては利用したいと思う」は 28 名 からない」は2名(4\%)たっった。利用したい(条件によっては利用したいを含む)場合の理由(複数回答可)を尋放たところ、「研究以外の目的(教育など) で役立つ機会が増えるから」という回答が 42 名中 36 名で最も多く、「自身の研究内容を社会に広める機会になるから」が32名と続いた。利用したいと思わな いと回答した 1名にその理由を選択肢で尋ねると、「データの公開が自身の研究遂行の支障となる恐れがあるから」を挙げた。 ## 3.3.2 自身の提供した動画について許諾できる利用条件博物館の動画アーカイブを利用したい(条件によっ ては利用したいを含む)という回答者 42 名に対し、自身の動画を提供した場合に、その動画を博物館が利用する、または博物館が第三者に対して利用許諾をす る際の許諾条件を尋ねた。その結果を図 5 に示す。他 の研究者が研究目的で用いること、博物館での展示、教育目的利用(学校に教材として貸し出す、非営利の 教育目的利用希望者に貸し出す)については各々回答者の合計 $62-74 \%$ が「許諾してもよい」(要事後連絡 を含む)とし、「許諾したくない」とした回答者はい なかった。博物館が出版物やグッズに用いることや、 ウェブ上で誰でも視聴できるようにすることに対して は「個別に許諾を判断(要事前連絡・相談)」が増元、 テレビ番組制作等の営利利用に対しては 42 名中 30 名 (71\%)が「個別に許諾を判断(要事前連絡・相談)」 とした。さらに、利用目的を問わずに貸し出す(利用許諾する)ことについては 24 名(57\%)が「許諾し たくない」とし、「許諾してもよい」(要事後連絡を含 む)としたのは合計 5 名(12\%)だった。 図5 自身が提供した動画を博物館が利用する、または博物館が第三者に利用許諾する場合に、想定される利用形態ごとの許諾の可否とその要件 (連絡不要、要事後連絡、要事前連絡・相談、許諾不可の4択)について、それぞれ選択回答した人の割合。数字は回答者数。 ## 3.4 別の人が撮影した動画の利用経験 自身(または共同研究者)以外の人が撮影した動画を、研究や教育目的で利用した経験を尋ねたところ、教育目的での利用経験があったのは合計 25 名(56\%) で、研究目的の利用経験は合計9名 (20\%) だった(図 6)。いずれかに利用経験のある 32 名に動画の入手手段を選択肢(複数回答可)で尋ねると、多い順に「知 図6 自身(または共同研究者)以外の人が撮影した動画を研究や教育目的で利用した経験。数字は回答者数。 りあいから提供してもらった」(19名)、「動画デー夕ベースサイトにアクセスし、検索して探した」(12 名)、「検索エンジンで検索して探した」(11名)、「放送を録画 (録音) した」(10 名)、「業者から購入した」(4 名) で、「レンタルを利用した」という選択肢を選んだ回答者はいなかった。利用時に課題として感じたことを選択肢(複数回答可)で尋ねると、多い順に「著作権法上許容される範囲かどうかが気になった」(16名)、「求める動画を探し出すのに時間がかかった」(10 名)、「必要な部分を切り取ったり、編集して利用する必要があり手間だった」(9名)、「動画を自身のコンピュー 夕にファイルとして保存したかったが、技術的、法律的、または契約的にできなかった」(8 名)、「動画の質が求めている水準に達していない、または一致していなくても使わざるを得なかった」(6名)、「利用するのに費用がかかった」(2 名)たっった。 ## 3.5 アーカイブされた動画の活用可能性 博物館に大量に動画がアーカイブされているとして、それらが自身の研究に活用できると思うかを尋ねたところ、「大いに活用できると思う」は6名(13\%)、「部分的には活用できると思う」は 18 名 (40\%)、「すぐには活用できないが研究テーマによっては活用できると思う」は 19 名 (42\%)、「活用できないと思う」 は2名(4\%)で、「わからない」と答えた回答者はいなかった。「すぐには活用できないが研究テーマによっては活用できると思う」または「活用できないと思う」 という回答者 21 名に対し、その理由を選択肢(複数回答可)で尋ねたところ、「データの質が自身の求める水準に達していない、または一致しない恐れがあるから」(10名)、「そのようなデータを活用する研究テー マがすぐに思いつきそうにないから」(9名)、「デー 夕は自身で取るものと考えているから」(8名)と続いた。 図7 研究目的で動画をデータベースから検索する時、またはその動画を利用する時の各メタデータ項目の必要度。それぞれの項目について必要度を「高い」「中程度」「低い」から選んでもらい、「高い」を2、「中程度」を1、「低い」を0とした平均値を示す。 「大いに活用できると思う」または「部分的には活用できると思う」と回答した 24 名に対し、求める動画をデータベースから検索するとき、またはその動画を利用する時に必要となるメタデータ項目について、 それぞれの必要度を 3 段階(高い・中程度・低い)で尋ねた(図 7)。ここでは「高い」を2、「中程度」を $1 、$「低い」を 0 とした場合の平均値を示す。この值が 1.5 を超えた項目は、検索時では高い順に「撮影対象生物の種名」「撮影行動カテゴリ」「撮影対象生物の上位分類群」、利用時では「撮影対象生物の種名」「撮影場所」「実験室・実験環境の詳細」「撮影日」「野外・撮影環境」「撮影時刻」「撮影行動カテゴリ」「データが使用された論文名」であった。 ## 3.6 自由記述 アンケートでは最後にこのようなアーカイブについてこうあればよいと思うこと、アイデア、問題点について回答する自由記述欄を設けた。記入者は 32 名であった。この闌に書かれた内容について、要約したものを表 1 に示す。この内容にはヒアリング時の聞き取りにより得たものが含まれる。本論文で設定した主題に関係しないと思われる回答記述は収載を割愛した。回答には番号を付し、以下の考察で「表 1 - 回答番号」のように引用する。なお、回答内容が複数のテーマにまたがっている場合は、同一回答者の回答であっても本表ではテーマごとに分割して示した。 ## 4. 考察 ## 4.1.1 デジタルへの移行とデータ量の増加 回答者が保有する累計記録時間数は、目安として 577 時間という平均値は算出されたものの、頻度分布 アーカイブについてこうあればよいと思うこと、アイデア、問題点について自由記述で尋ねた回答。要約のため、回答の原文と全く同一ではない。回答末尾のカッコ内はその回答者の年代と、研究対象とする生物の分類群。ここで表記した分類群の一部は、回答者が回答した分類群名をそのまま記さず、それを包含する上位分類群名で置き換えたものがある。 \\ や標準偏差からわかるように個人差がとても大きい。 これは研究年数よりも、対象生物や研究手法によって動画の利用頻度が大きく異なるためのようだ。回答者が保有する記録媒体は、過去に普及していた他の記録媒体に比べて、保有者数・平均記録時間数ともにデジタルファイルが多かった。このことは冒頭にも述べたように、生物学のデータ取得手段として動画を用いる機会が増えてきていることを示唆する。この傾向を踏まえると、研究者が保有する動画の記録時間数やデー 夕容量は総体として今後増えていくことが予想される。今回の結果から将来の増加率を見積もることは困難であるが、アーカイブ対象となるデー夕量が年々増えるという傾向は、その管理運営において留意すべき課題となるだろう。 ## 4.1.2 潜在する磁気テープメディア 回答者に 1980 年代から 90 年代に研究活動をした世代が含まれていたため、保有者数ではDVテープや VHS といった磁気テープメディアがデジタルファイ \\ ルに次いで多かった。また、磁気テープメディア (VHS、 $8 \mathrm{~mm}$ ビデオ、DV)を持つ人は、平均で 1 人あたりそれぞれ 98 190 時間分を保有していた。2000 年代前半までのビデオカメラの主流が磁気テープメディアであった ${ }^{[12]}$ ことを踏まえると、本調査時点で概ね 40 代以上の研究者は過去にこれらの記録媒体を用いていたはずであり、学界には磁気テープメディアが潜在すると考えられる。汎用の磁気テープメディアは各層の化学組成が明らかでないことが多く、正確な期待寿命の推定は難しいものの、15-30 年程度ではな ジタル化及びファイルへの移行が有力選択肢となる。 しかし、アナログデータ (VHS、 $8 \mathrm{~mm}$ ビデオ規格のうち Video8 や Hi8 など)のデジタル化率の回答を見てもわかるように、回答者自身でデジタル化に取り組んでいる人はデー夕保有者のうちの $27 \%$ にとどまる。デジタル化している人についてみると、デジタル化済みのデー夕量 (記録時間) は 1 人平均 $44 \%$ である。単純に掛け算して推定すると、学界に潜在するアナロ グデータのうち研究者の手でデジタル化されているものは $12 \%$ に過ざない。古いデータはすでに論文化されており、再解析する意図がなければそれをわざわざデジタル化する作業は当然優先度が低い。研究者に過去のアナログデータ・磁気テープメディアのデジタル化やファイルへの移行作業を期待するのは無理があるだろう。この世代の研究者のリタイア時に大量の磁気テープメディアが放出された場合、その処理作業の負担はアーカイブの運営上の課題になることが予想される。今回の調查では音声デー夕の事例は少なかったが、音声でも磁気テープメディアの課題は同様に起こり得ると考えられる。 銀塩フィルムを現に保有する回答者はいなかったが、過去に所有していたとする回答者は少なくとも 2 名いた。また、ヒアリングによると $8 \mathrm{~mm}$ フィルムが普及しはじめた頃、動物の行動を $8 \mathrm{~mm}$ で記録する手法が流行ったという(表 1-1)。このことから、銀塩フィルムのデータも潜在する可能性があると考えられ、アーカイブはその対応も想定しておく必要があるだろう。 ## 4.1.3 データの処分 $40 \%$ の回答者が、データとして所有していた動画を処分したことがあるとし、その累計時間数は平均 106 時間だった。ヒアリングによれば、研究室の引っ越しや引き払いのタイミングで処分したとあり(表 1-3,4)、特に保管スペースを取る磁気テープメディアが処分されやすいのではないかと推察される。所属機関の職務研究等によるものでデータの管理権限が研究者本人にない場合を除き、研究データを保存するかどうかの判断は研究者に委ねられ、処分は否定されるものではない。データリポジトリ等の仕組みの普及はようやく始まったところであり、従来はそのような選択肢を意識しないままデータを処分してきた事例(もう自分では使わない、邪魔だから捨てる)が大半ではないかと推測される。広範な分野の研究者にアンケー 卜を行った別の調査 ${ }^{[20]}$ では、論文公表済みデータの望ましい保存年限として「永久保存」と回答した研究者は $13.6 \%$ で、生物科学分野に限るとその平均は 8.9 年であったという。 文部科学省は研究不正行為の対応への観点から、 2014 年より研究データの一定期間の保存を研究者に事実上義務付けておりり ${ }^{[2]}$ 、日本学術会議は論文化されたデータの保存期間について論文公表後 10 年(標本などの有体物は 5 年)という基準を示している ${ }^{[23]}$ 。 この方針は今後、データの処分に一定の歯止めの効果 を持つかもしれない。しかし、保存期間を過ぎたデー 夕を処分することは差し支えなく、もとより論文化されていないデータは保存義務がない。アーカイブの視点では、論文化されたことは保存価値の判断基準の一つではあるものの、それがすべてではない。アーカイブの本質的な意義について、研究者への理解を求めることが必要になるだろう。 ## 4.2.1 教育目的利用への理解と期待 博物館が動画データをアーカイブする仕組みを作った場合、自身のデータの保存先として利用したいかを尋ねたところ、条件付きも含めて $93 \%$ の回答者が利用したいとした。その理由として、研究以外(教育等) で役立つことや、研究内容を社会に広める機会になることが上位となっていた。アンケートは記名式のため、質問者側の意欲を否定する回答は出にくい恐れがあり、アーカイブを利用したいとする回答率は過大かもしれない。しかし、そのような仕組みに対して教育目的での利用機会拡大やアウトリーチ機能を期待している、という傾向はそのまま捉えてよいと思われる。教育目的利用を期待することは、回答者自身の経験と関連があるかもしれない。自身以外の人が撮影した動画を利用した経験を尋ねると、研究目的での利用経験が $20 \%$ に対し、教育目的での利用経験は $56 \%$ を占めた。自由記述にあるとおり、これらは主に講義等での利用が考えられる(表 1-24, 25)。教育目的での利用可能性という点では、動画アーカイブには資料提供者・利用者双方のニーズがあると言ってよいだろう。 このことは、自身の動画に付与する許諾条件の意向の傾向とも整合する。動画データを博物館に提供した場合に、博物館または第三者に対して許諾できる利用形態と要件を尋ねると、研究目的での利用や、博物館での展示、教育目的利用には比較的寛容であり、 7 割前後の回答者が事前相談を求めなかった。利用許諾契約にこれらの条件が含まれることについては、提供者には抵抗なく受け入れられると考えられる。 ## 4.2.2 営利目的・ウェブ公開・目的を問わない利用へ の懸念 研究目的や教育目的での利用に比べると、営利目的、 ウェブ公開、目的が予想できない利用には個別判断とするか、許諾しないとする割合が増えた。 研究活動の多くは税金で支えられており、その過程で得られたデー夕は本来社会に還元されていくべきものである。とはい元、研究者は多大な労力を払ってデータを得ており、私的時間・財産を投じたケースも あるに違いない。その成果物で他者が利益を得ることへの抵抗感は同意されてしかるべきだろう。 自由記述のコメントでは、営利利用された場合に提供者に利益還元される仕組みを求める声があった(表 1-28)。このような仕組みは理想的だが、公立博物館でこのシステムを運用するのは労力や維持管理コストから見て困難と言わざるを得ない。また、提供者と連絡が取れなくなった場合、資料が著作者不明の「孤肾著作物」化してしまい、利用に制約が生じる恐れもある ${ }^{[24]}$ 。公的アーカイブをストックサービスのように運用するのは、現実には難しいだろう。 ウェブ公開や目的が予想できない利用への抵抗感の主要な理由としては二つが挙げられそうだ。一つは自由記述でその旨の回答があるように、コピーの流出、 すなわち許諾した目的以外での利用の拡散への懸念である(表 1-39, 41)。千葉県立中央博物館分館海の博物館の川瀬が魚類研究者にアンケートをとった結果 ${ }^{[12]}$ でも、自身の動画を博物館に登録したいと思わない主な理由として「自分の知らないところで活用されたくない」の次に「不正コピーによる動画の流出が不安」 が挙げられている。コピー制限は商業映像コンテンツで様々な対策が練られているところだが、例えばコー ディングによってコピー操作を制御しようとする場合、デコードプログラムが特定の機器や OS に依存する限り、再生可能状態の長期的な保持は難しくなる恐れがある。コピー制限は広汎な利用を前提とするアー カイブとは本質的に相性が良くないものであるが、複製の許諾は(職務著作物を除いては)著作権で保護された撮影者の権利であることも留意する必要がある。池内ほかの調査 ${ }^{[20]}$ でも、データ公開に際して最も懸念として挙げられたのが「引用せずに利用される可能性」であり、利用者の性善説には頼れないとする意識は分野に限らず研究者に共通して存在するようである。引き続き検討を要する課題である。 抵抗感の二つ目の理由は、編集によって撮影者が同意できない解釈が生じることへの懸念だと考えられる。これはテレビ番組等での利用(表 1-30, 32, 34) だけでなく、他の研究者による利用を想定するケースでもコメントに挙げられていた(表 1-37, 38, 40)。編集による解釈操作の可能性は、動画に打いて留意すべき課題だろう。二次利用の際、クレジットとともに 「編集の有無」や「元データのソース」の明記をガイドラインとして示す、といった工夫を考える必要があるかもしれない。特に元データへのアクセス保証については、複数の回答者がその必要性を指摘している (表 1-22, 40)。 なお、再利用時に営利利用や編集(改変)を不可とする条件設定も考慮の余地がある。これについては課題も含めて後述する。 ## 4.3 研究利用の可能性 教育目的に比べると、研究目的での利用可能性への期待は低めである。その理由として、選択回答では求める質に達しないか一致しない恐れが上位となった。 また、自由記述でも、他人の設定した実験・撮影等の条件が自身の求める要件と合致することは少ないと思われる、という旨の回答が複数あった(表 1-12, 13, 14,15)。これは確かに指摘の通りだろう。別の人が撮影した動画の入手方法を尋ねた設問で、最も多い回答が「知りあいから提供」であったのは、撮影条件を確認しやすい背景があるのかもしれない。一方、野外で撮影した映像であれば役に立つ可能性や、撮影者が必要としていない場面からデータが得られる可能性を指摘した回答者もいた(表 1-14, 18,19,20)。ここで実際の研究例を挙げると、哺乳類の排尿時間が体重 $3 \mathrm{~kg}$ 以上であればほぼ一定であることを物理モデルで示した研究 ${ }^{[25]}$ では、 15 種群の哺乳類について排尿行動を捉えた動画をYouTubeから探し出し、それらの排尿時間を計測してデータに用いたという。野外で撮影された動画であれば、被写体の背景に写った景観から環境情報が得られるかもしれない ${ }^{[8]}$ 。このような利用形態は資料が大量に集積されてこそ実現可能性が高くなるものであり、アーカイブの方向性とも一致するものである。ただし、これらは動画の記録内容を説明するアノテーションの付与が前提であり、複数の回答者がその必要性を指摘している(表 1-49, 50, 51)。動画資料は内容確認に時間を要する特性があり ${ }^{[5]}$ 、その労力確保はアーカイブ運営時の課題である。この議論と解決の可能性については、別稿 ${ }^{[8]}$ で詳述したのでそちらに委ねる。 仮に内容説明のアノテーション付与が追いつかなくとも、動画アーカイブを研究利用に供する段階では、動画の基本情報を示すメタデータの整備は久かせない。 アンケートではあらかじめ想定される項目を挙げ、検索時と利用時の必要度をそれぞれ尋ねた。検索時の必要度から見ると、ユーザーは撮影対象となっている生物の種名 (または分類群名) や動物の行動のカテゴリをキーワードとして検索する頻度が高いと予想される。種名・分類群名は標準化やデータベース化の取り組みが進んでおり、新たにアーカイブを構築する場合でもいわゆる「ゆらぎ」への対応がしやすい。一方、行動カテゴリについては研究者や対象生物によって異なる 語句が用いられることがある (例えば「椇食」「椇餉」「採食」「採慨」「feeding」「ingestion」「foraging」など)。検索の利便性を向上させるには、例えば用語の類義語辞書をシステムに持っておくことが考えられる。一方、動画の利用時に参照するメタデータについては、それぞれに必要度が高いという結果になっており、当然のことながら可能な限り情報を付与しておくのが望ましいということになる。特に、実験下での動画では実験条件に関するメタデータがないと使い物にならないと指摘されている(表 1-16)。実験条件をどのような様式で格納するのか(テキストデータでひとまとめにするのか、あるいは情報要素を項目分けすべきなのか、 など)については、運用してみてユーザーの意見を聞きながらの検討になるだらう。それ以外の基本情報の様式については、生物多様性情報を記録したマルチメディアリソースの標準データセットである Audubon Core ${ }^{[26]}$ がすでに存在する。あるいは、生物の観察デー 夕として位置づけるのであればDarwin Core ${ }^{[27][28]}$ がデー タセットの世界標準となっている。これらに対応して設計するのが望ましいと考えられる。 このようにメタデータの重要性は言うまでもないが、動画の提供時にそれらを研究者自身が整理しなおすことの負担を懸念する回答もあった(表 1-9)。状況によっては、動画の提供を受けたアーカイブ運営側が整理作業を担わざるを得なくなるケースも考えられ、留意すべき課題である。 実際にアーカイブを立ち上げたのち、研究者が積極的に動画を提供してくれるような状況になるには、少し時間がかかるかもしれない。博物館が収蔵すると決めた資料は、資料の保存維持や公益に著しく反する場合でない限り、調査研究目的の利用には等しく提供されることになる。例えば自然史博物館の場合、収蔵された標本は研究者が閲覧したり、写真に撮ったり、場合によっては解剖するなどして、得られた知見を基に論文を公表することができる。博物館に標本を寄贈する場合、寄贈者はそのような利用を暗黙に了解しており、利用にあたって博物館(または標本利用者)が寄贈者に事前・事後の了解を得ることはまずない。しかし、動画の寄贈を想定した場合、研究者は標本と同一の取り扱いをイメージしにくいようである。自身の提供した動画を他の研究者が研究目的で利用しようとする場合、「許諾したくない」とした回答者はいなかったものの、 $38 \%$ の回答者は「個別に許諾判断」したいとした。前述したように、複数の研究者が自身と異なる解釈やその広まりを懸念しており、それが背景となっている可能性がある。この調查を行った 2015 2016 年頃は、生物科学ではオープンサイエンスの概念が広く普及していたとは言い難く、その枠組みによる動画アーカイブは自身の経験に照らして想像できるものではなかったかもしれない。オープンサイエンスの普及により、これらの意識は今後変わってくる可能性はあるだろう。 ## 4.4.1その他の課題 : 利用の許諾条件の設定 他の人が撮影した動画を利用した際に感じた課題について尋ねると、その利用が著作権法上許容される範囲かどうかが気になった、が最も多い回答だった。入手方法で「知りあいから提供」が最も多いのも、利用について合意が得られやすいという背景が一つにはあると思われる。自由記述でも著作権に関する内容がいくつかあり、利用者側として許諾条件が明確になっていればありがたい、という指摘があった(表 1-44)。研究データを含むオープンデータの許諾条件として現状打そらく最も普及しているのはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス、本稿執筆時点でのバージョンは 4.0) ${ }^{[29]}$ であり、設定条件の大半は 「表示 4.0 国際(CC BY 4.0)」であろう。しかし、営利目的利用や、目的が予想できない利用に対して抵抗があることを踏まえると、当面は CC BYを受け入れる提供者は多くないことが予想される。CCライセンスには非営利目的に限る「NC」や、改変(動画の場合はすなわち編集)を禁じる「ND」などの付帯条件をつけることもできるため、これらのオプションを活用することも考えられる。ただ、改変禁止の付带条件は、博物館が展示や出版物に用いる場面では制約を受ける恐れがある。非営利限定条件も同様である。公立博物館の常設展示や普及教育活動は一般には「非営利的」 というコンセンサスがある。しかし、企画展は新聞社等のメディアと共催で行われることがあり、その場合の入場料収入は共催相手と分配されることがある。このような利用形態は「非営利的」とみなしてもらえるたろうか。また、博物館の運営形態も多様化しており、販売物の収入は運営資金として重視される傾向にある。このような資料のマネタイズの公益性については、社会で共通理解を得る過渡期にあるのが現状だろう。 CC ライセンスでは、個別の利用条件を別に定義することは認められていない。提供者にはできるたけ $\mathrm{CC}$ BYを依頼しつつも、難しい場合は博物館が自身の活動範囲に打いてある程度自由に利用できる許諾契約を別に結ぶ、といった工夫が必要だと考えられる。 ## 4.4.2その他の課題 : ウェブ公開を避けるべき資料 動画アーカイブの利用機会を増やすには、ウェブでの公開が最も望ましい。たた、ウェブ公開が難しいケースとして、動物実験の動画を挙げた回答者がいた。動物実験には倫理基準が設けられているが、このルー ルは年を追って厳しくなっている。過去の実験遂行時点では可とされていて、現在では不可とされる手法で行われた実験の動画は、研究上のコンプライアンスとしては全く問題がないとしても、ウェブ上で誰もが見られる状態に置くと謂れのない批判やいわゆる「炎上」 を招く恐れがあり、研究活動に支障をきたす可能性があるとした(表 1-55)。 また、回答にはなかったものの、ウェブ公開制限を考慮すべきケースとして、例えば人物が写り込んでいて肖像権への配慮を要する場合や、希少な野生生物の生息地情報が含まれていて、保全上その情報を制限する必要がある場合などが考えられる。アーカイブにおけるセンシティブ・データの取り扱いと同様に、動画についても提供者の意向や情報を参考にしつつ、アー カイブ管理者が個別に判断して対処していく必要があるだろう。 ## 5.おわりに このアンケート調査では、生物学研究者による研究データとしての動画をアーカイブする上での課題を見出した。まとめると以下のようになる。 ・デジタル動画の普及により、研究者が扱う動画量は今後増えていくと考えられ、アーカイブ対象となる動画量も増え続ける。 ・アーカイブ対象となる動画には磁気テープメディアや銀塩フィルムに記録されているものが潜在する。 これらの保存処理への対応が必要となる。 ・保存義務がない、または保存年限を過ぎた研究デー 夕は、処分される可能性がある。アーカイブ活動への理解を求める必要がある。 ・動画を第三者が利用する際に、編集をすることで撮影者の意図と異なる解釈が生じる恐れがある。編集の有無の表記、元データソースの明記などの利用ガイドラインを検討する必要があるかもしれない。 ・実験を記録した動画の場合、実験条件などの情報をメタデータに格納する必要がある。 - 研究データとして得た動画を、別の研究者に研究目的で用いられることに対し、抵抗感を持つ研究者がいる。オープンサイエンスの概念の普及を待つ必要がある。 ・営利利用に抵抗感があることから、CC BYによる許諾が普及するには時間がかかるとみられる。博物館が自身の活動で利用しやすい許諾契約を検討する必要がある。 ・ウェブ公開が難しいケースには個別の判断が必要となる。 これらのうち、アーカイブの運用ルール(利用ガイドラインの設定、ウェブ公開判断)や許諾条件設定などは、運営者の工夫や努力によってある程度解決可能である。一方、受け入れ対象資料の増加傾向や難保存性資料への対処は、究極的には運営資金の継続的な確保にかかっている。また、研究者にアーカイブ活動やオープンサイエンスへの理解を求める必要性も見えてきた。これらは運営者の努力はもちろんであるが、アー カイブに関わる組織が連携して取り組む必要がある。 この課題解決が進めば、他の研究データのアーカイブにもプラスの効果として波及するのではないだろうか。本稿がその議論の一つの材料となれば幸いである。 ## 謝辞 貴重な時間を割いてアンケート調査に協力してくたさった 45 名の研究者、並びに学会メーリングリストで会員に調査協力を呼びかけてくたさった日本動物行動学会にお礼申し上げる。本研究は JSPS 科研費 JP15H02955 の成果であり、「デジタルアーカイブ学会第 2 回研究大会 (2018 年 3 月 9 日 10 日)」でポスター 発表した内容 ${ }^{[30]}$ である。 ## 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# 特集:著作擢延長問題シンポジウム ## ライトニングトーク「今後我々に何が できるか/すべきか」 ## 1. 最終20年アーカイブ可能化条項 生貝直人 (いけがい・なおと) 東洋大学准教授、デジタルアーカイブ学会理事 私はデジタルアーカイブの実践と法政策の研究に携わっているが、著作権保護期間が延長されたことによって、デジタルアーカイブで新しく公開できる著作物は、今後 20 年間はおそらくほぼ生まれてこないということを危惧している。 20 年前にソニー・ボノ法で著作権保護期間を延長した米国は、著作権保護期間の延長と同時に、その副作用を少しでも少なくするため、米国著作権法の第 108 条に (h) 項というものを作った。これは、保護期間が最終 20 年に入った著作物が絶版などの状態にあり、通常の商業的利用をされていない場合には、図書館や文書館といったようなアーカイブ機関がデジタルアーカイブとして利用してよいという規定である。 Internet Archive の、「The Sonny Bono Memorial Collection」プロジェクトでは著作権保護期間が最後の 20 年となり、そして絶版であることを確認された書籍などがどんどんインターネットに公開されている。これは日本でも、すぐにでも導入するべき条項たと考える。例えば著作権法 31 条に第 4 項を設けて、図書館等が保護期間の最終 20 年に入った絶版の資料をインターネット公開できることとする。すでに絶版等資料については国立国会図書館が図書館送信をしている。加えて、青空文庫のような非営利のデジタルライブラリーを同条の対象に含むことができるように施行令を変えることが考えられる。 さらに、絶版で、しかも非営利のしっかりとした アーカイブ機関が公開するのであれば、とくに最終 20 年に限定する必要はないのではないか。これについては、EUにおいて、「デジタル単一市場における著作権指令」案というものが審議されている(編集注:その後 2019 年 4 月に成立)。その中で、文化遺産機関が、所蔵する絶版作品の利用に関して、集中権利管理団体に参加していない著作者のものでも、その分野の代表的な集中権利管理団体が許諾を出せるという ECL 拡大集中許諾制度条項が含まれている。そしてさらに最新の議会修正提案によれば、そういったライセンス手段が機能しない分野においては、文化遺産機関が絶版作品をオンライン公開することを可能とする権利制限規定を導入するという条項が新たに提案されている。 日本においても、少なくとも米国著作権法 108 条 (h)項と同様の最終 20 年条項は積極的に考えるべきである。そして絶版等資料全体の非営利アーカイブ公開ということに関しても、積極的に議論をしていくべきところだというふうに思う。 ## 2. 今後の青空文庫について(ビデオ参加)大久保ゆう \\ 青空文庫 これから私たちがどうするのかとについては、新年元旦に「そらもよう」という青空文庫の告知ページで詳しく書いている。ここではその内容を5つにまとめてみた。 「これから青空文庫にできること」 1.まずあくまで PDの重要性にこだわる 2. もち万ん著作権あり作品も受け入れる 3. 孤览作品の扱いも検討する 4. 市民活動としての青空文庫を広める 5. 国外・世界での青空文庫利用を調査する どうしてパブリック・ドメイン(PD)が大事なのだとあくまで伝えたいかといえば、かつて富田倫生さんが述べたように、PDは「天に宝を積み上げる営み」、 つまり文化を振興していくための自由の出発点であるという考え方に基づいている。この PDにもともと備わっている文化のための自由が奪われてしまったことについて重く受け止めたい。つまり「うちの空さえ青ければいい」ということでは全くないからた。 また、青空文庫が目指していきたいことは、著作権ありの作品にしても、あるいは孤児作品にしても、できるだけパブリック・ドメインに近い状態で提供できないかということである。そしてパブリック・ドメインの思想や技術を伝えていくためには、具体的な活動、例えば図書館等々でワークショップができないか、あるいは、海外で青空文庫のファイルや作品が使われている状況を調査したい、とも考えている。 ## 3. クリエイティブ・コモンズの更なる普及 渡辺智暁(わたなべ・ともあき) クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(NPO 法人コモンスフィア)理事長 今回の TPP11 批准にかかる著作権法改正では、限定された形とはいえ、著作権侵害の非親告罪化が導入された。現在のように著作権が複雑になっている環境では、どれが利用してよいコンテンツなのかということがわかりやすくなっていることがクリエイターにとって必要で、非親告罪化の導入によって、それはこれまで以上に求められるようになったと感じている。 そして現代社会にはデータやコンテンツと呼ばれるも ので溢れているが、それが著作物なのか、それともそもそも著作物でないのかという区別がつきづらくなつている。例えば AIが生成したコンテンツは、その進化によって、プロのクリエイターが作ったものと区別がつかなくなってきている。インターネット上でミー ムと呼ばれるもの、人々が転々と転載したり、ちょっと手を加えたりして活用しているようなものの類には起源が不明なものがたくさんある。そうすると一体許諾を貪おうにもどこに行ったらいいのか、誰に許諾をもらいに行けばもらえるのかというのがわからない。 Wikipedia には 100 人を超える人が編集を加えた項目などはザラにある。そういうものについて完全に許諾をとることは困難である。また政府は今、報告書や白書などのデータや図表をオープンデータという形で提供するようになったが、そのようなデータの中に第三者の権利物が入っていることがある。 現代社会における著作物のありかたとして、どういうコンテンツがどういった利用ができるのかということがわかりやすくすることが求められている。そしてこれを実現するのがクリエイティブ・コモンズ・ライセンスである。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを用いることで、クリエイターは自身の作品について自分の指定した範囲で使ってもらえることができ、死蔵から逃れることができる。クリエイティブ・コモンズは Wikipedia や各国政府で導入されている。クリエイティブ・コモンズは今後重要性を増していくだろう。 ## 4. 図書館からの家庭配信などの提案 赤松健(あかまつ・けん) 漫画家・日本漫画家協会常務理事. 今日はまず、thinkTPPIP の方々にお礼を言いたい。皆さんの活動のおかげで日本の二次創作文化が守られた。コミケを含めて二次創作関係のクリエイターを代表して、thinkTPPIP の活動に参加された先生方に対して改めてお礼を申し上げる。 マンガ図書館 Zでは、実業之日本社さんと組んた実証実験をおこなっている。一般ユーザーが自炊など を通じてスキャンした実業之日本社の書籍データをマンガ図書館Zにアップロードすると、実業之日本社は、 そのアップロードされた本の著者に連絡をとって、マンガ図書館 Zで公開していいか、許諾を取る。そして著者から OKがでたらその本をマンガ図書館 Zで広告モデルによって無料で公開する(絶版書のみ、新刊は対象としない)。広告収益のうち、 $80 \%$ を作者に還元し、実業之日本社に $10 \%$ 、さらに投稿したユー ザーにも 10\%を渡す。絶版書から著者や出版社に収益が入る。 今回は、このモデルを拡張したものを考えてみた。国立国会図書館は著作者の許諾がなくても書籍を入キャンすることができ、デジタルコレクションとして持っている。その権利処理を行う新しい著作権管理団体を作って、広告をつけた形で広く国民に見せるのはどうか。広告収益のうち、 $80 \%$ は権利者に、そして $20 \%$ は出版社に還元する。 このような取り組みでは作家はもちろん、出版社の協力が不可欠である。作者や出版社に収益が回らないと進まない。このモデルでは出版社に権利者を探してもらって許諾をとってもらうが、出版社も作者も収益を得ることができる。さらに、この新しい著作権管理団体が、デジタルコレクションのデータに OCR 処理をして、文字列データとして蓄積できるようにすればなお素晴らしい。 ## 5. オーファン問題をどう解決していくか 瀨尾太一 (せお・たいち) 写真家、日本複製権センター代表理事 2010 年の文化庁での保護期間延長の論争の後、権利者側から延長を求める声が小さくなったことにはお気づきだと思う。保護期間を伸ばすに際しての権利者の義務を真剣に考え始めたからである。オーファンワークス対策については、保護期間が延長される前から、権利者団体が一般の方に代わって文化庁に対する裁定制度の煩雑な手続きをほぼ全部代行するという実証実験を文化庁と協力しておこなっている。代行にかかる費用は無料で、非常に好評を得ている。これまでに分かった課題は大きく分けて3つである。 1. まずは大量処理が難しい。そもそも裁定制度は大量処理をするための制度ではない。ついては制度的な対応が必要になると考えられる。 2. 事務的手続きの円滑化ということもやはり必須である。 3. 著作隣接権や肖像権などもクリアする必要があるし、商習慣もある。 拡大集中許諾制度(ECL)は、日本ではなかなか難しそうである。そこで「限定的拡大集中処理」を提案している。これは対象となる著作物と、利用の範囲について、極めて限定的に団体が許諾を出せる制度で、著作権者の利益を不当に害さない特別の場合について、特定の団体が許諾を出せる制度である。 現状ではオーファンワークスの解決について、裁定制度の活用と、今実証実験でやっているような裁定制度を代行する制度、そして拡大集中許諾。この三つを併用することが重要だと考えている。 さらに、無名または変名の著作物の保護期間について、日本著作者団体協議会では公表から 50 年経てば少なくとも公表してもいいのではないかと議論している。 「AIの時代」は「共有の時代」なのではないかと思う。社会の目的が、個人が「モノ」を所有することから、社会で「コト」を共有する時代になってきている。 そんな社会では、無体財産である著作権も、ますます社会で共有されていくことを求められるのではないか、権利制限が拡大していくということではないかと思っている。今後は補償金制度のように広く社会で著作物に対する支払いを徴収し、それを著作者に分配するシステムが必要となるのではないか。その著作権使用料が、著作者に精密に分配されるシステムが必要になるのではないか。そのためにもブロックチェーンなどの新しい技術による仕組みを現時点から研究し、実用化していくことが大切なのではないか。 ## 6. ブロックチェーン/リーガルテックは著作権管理を変えるか? 永井幸輔(ながい・こうすけ) 弁護士、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事 (NPO 法人コモンスフィア) 福井先生からお話があった通り、何らの条約上の義務はなかったにも関わらず著作権保護期間の延長が決まってしまった。しかも 2010 年までの国内の議論を全部無視するような形で進んでしまった状況を目の当たりにしてしまうと、この国の立法のやり方にはもう期待できないのではないか。 ではこの状況をどうすれば良いか。私は IT 技術を使って何とかできないかと考えている。これが技術が法を代替する、あるいはエンパワーメントする、ということである。例えば著作権侵害になるようなコンテンツを技術的にアップロードできないサイトができたとすると、そこでは著作権侵害が発生しえない。従って著作権が保護されることになる。 また例えばクリエイティブ・コモンズの場合、著作物にメタデータを付与することで、そのコンテンツがクリエイティブ・コモンズのもとでライセンスされていることをコンピュータが理解できる形で提供するこ とができる。 重要な技術としてブロックチェーンがある。ブロックチェーンは鎖のように履歴を記録することができる技術である。登録は簡単であるが、改ざんは難しく、高い透明性を持ったデータベースのように用いることができる。この特徴を使って権利処理のプラットフォームを作れば、どこでどのように著作物が使われたかを追いかけることができる。また、利用料の分配を全て即時にかつ自動的に行うことが可能である。従来では自身の著作物の利用状況を追いかけることが難しかったアマチユアの領域の作品やまだ作品とまではいえないちょっとした素材であっても、許諾の対象とすることができる。少額での許諾や細かい条件付きの許諾もできるようになる。そのため、これまで十分に流通していなかったような作品などについても流通し、使用料を受け取れる環境を作ることができるということである。また、サブスクリプションモデルを通じてコンテンツを誰が利用したかという流通に関するデータも取得できる。 利用料の $100 \%$ をアーティストに送金し、関係者がいれば自動分配もできるUjo Music や、権利登録をして自分が最初の創作者ということを示しつつ、不正利用を防止することができる Binded というプラットフォームが海外では出てきている。ただしいずれもまだスタートしたばかりで、まだまだ本当の意味で実用的ではない。著作権保護期間延長後の世界で著作物の流通を促進していくためには、ブロックチェーンでもそれ以外でも、IT 技術を用いた管理が有効だと感じている。 (文責:学会誌編集事務局)
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# 著しく短縮して語る著作権延長問題 の経緯とこれから 福井 健策 FUKUI Kensaku 弁護士、thinkC世話人 } 「著しく短縮して語る著作権延長問題の経緯とこれ から」と題してお話をいたします。 ## 1. 保護期間延長の経緯と懸念された点 著作権保護期間の歴史は 300 年前からスタートします。世界最古の著作権法であるアン女王法では、 その保護期間は発行から 14 年あるいは 28 年、今から考えるとかなり短い期間からスタートしています。 ところが 19 世紀ぐらいから、知的成果の複製そして流通手段が発達をしていき、それに合わせて保護期間の延長が始まります。この動きが大きくなるのは特に 1990 年代。1993 年には欧州、そして 1998 年には米国が、相次いで死後 70 年原則に保護期間を伸ばします。米国では激論になりまして、憲法訴訟にまで発展しましたけれども、7 対 2 という票差で合憲の判決が出ました。 日本では 2006 年 9 月に権利者団体が延長の要望書を文化庁に提出しました。そしてこれをうけて文化庁が期間延長の検討を開始。この段階では延長は既定路線と見る向きが強かったのではないかと思います。しかし青空文庫はその前年から保護期間の延長反対を訴えておりました。そしてこの年の 11 月、さまざまなジャンルのクリエーター、事業者、実務家、研究者などが集いまして、保護期間の延長問題を慎重に検討しようという thinkC というフォーラムが発足します。発起人が最大 110 名という規模でした。thinkC は発足後、シンポジウムや意見書の提出、提言などを繰り返していきます。このような動きを経て、文化庁の文化審議会では「保護利用小委員会」と「基本問題小委員会」の2つの委員会にわたり、保護期間延長の是非を議論することになります。審議会の場で賛否議論を尽くした上、2010 年には延長は事実上見送るという結果になりました。 一体どんな懸念があって延長を事実上見送ることになったのかと言うと、理由は大きく分けて3つです。 (1)保護期間を伸ばしたところで遺族の収入はほとんど増えないのでないかという指摘。これについては朝日新聞社の丹治吉順さん、慶応大学の田中辰雄先生などの実証研究が発表されています。その研究によれば、作品の市場での寿命は実はそんなに長くない。書籍については、作者の死後 50 年時点で出版されている本は全体の約 $2 \%$ 、そして死後 70 年になると $0.8 \%$ ぐらいまで落ちてしまう。つまりほぼ売られてないわけです。売られているのはごく一部の作品だけであって、大多数の作品は市場から姿を消しているのですね。 いくら保護期間を伸ばしても、それが市場で売られていなければ遺族の収入は一銭も増えません。 (2) 更に、保護期間の延長により作品の散逸が進むのではないかということが危惧されています。これらの作品が命を保ち続ける上では、例えば青空文庫、国立国会図書館のデジタルコレクションのような非営利のアーカイブ活動、あるいはさまざまな研究活動が頼りです。しかし保護期間が伸びてしまうと、著作権の相続回数が増え、権利関係が複雑になり、権利処理が難しくなります。ひどい場合は探しても権利者が結局見つからない権利者不明作品、いわゆるオーファンワークスの状態になります。この不明作品は一般に考えられているよりもずっと多くて、過去全作品の半数かそれ以上というデータが国内外で出ております。権利処理が困難になることによって、アーカイブ活動などができなくなってしまう。 古い作品に基づく二次創作もより困難になります。今後 5 年の間に本来だったら著作権保護期間をほぼ終えるはずだった作家は、数多くいます。一例としては 『赤毛のアン』の翻訳者の村岡花子、藤田嗣治や三島由紀夫。多くの童謡や流行曲の詩を手がけた西条八十。志賀直哉、川端康成。志几生、文楽。サトウ八チロー。海外に目をやりますと。スタインベック、ジミ・ヘンドリックス。ジャニス・ジョプリン、ストラヴィンスキー、ピカソ、そして指輪物語のトールキン。 こういう傑作群に基づく二次創作は保護延長によって困難になります。 (3)民間の負担増ということも言われました。なぜ欧米が各国に著作権保護期間の延長を求めるかと言うと、欧米は古い作品で稼いでいるから、コンテンッの大輸出国だらです。日本は残念ながら真逆、収支で言うと大輸入国で、払い出す著作権の使用料と、受け取っている使用料の差額は大赤字です。この赤字は概ね年々拡大しており、直近、2017 年は年間 8500 億円を超える赤字を記録しています。これにはビジネスソフトウェアなどによるものも大きいですが、米国商務省のデー夕によれば、文化作品も決して割合は低くない。つまり保護期間が伸びると、民間の著作権使用料の負担が増加します。そして契約の負担ものしかかってくる。 こうした懸念もあり、2010 年に著作権保護期間の延長は一度見送られました。しかし問題はすぐに再燃します。米国や日本をはじめとした環太平洋の国々の間で議論されていた包括的な通商協定、TPP の米国提案による知財条項案が流出し、これに、加盟国は保護期間を死後 70 年原則に延長せよという要求が入っていました。これによって国内の議論も再度高まり、 2012 年にはクリエイティブコモンズジャパン、 MIAU、thinkC の 3 団体による thinkTPPIPが結成され、 ネットシンポ、さまざまな提言や意見書の提出、政府説明会への出席などをおこないます。この頃から、政府の TPP 交涉に関する説明会に多数の知財関係団体が出席するようになりました。政府はその説明会において、保護期間の延長、そして著作権侵害の非親告罪化の問題では各国が激しく対立し、日本にとっても重要な問題である、と繰り返し説明しています。 海外での動きも出てきました。2013 年には米国議会で当時の著作権局長が保護期間の部分短縮を提案しています。これはおそらく議会史上初めてのことでしょう。その理由は、保護期間を死後 70 年に伸ばしてみたところ、権利者不明作品が激増し、かえって国益を害していると。その翌年、2014年にはクリエイティブ. コモンズや、米国の電子フロンティア財団、そして図書館協会など、各国の有力な $\mathrm{NPO}$ が 35 団体集まり、 TPPによる著作権保護期間の延長に反対の国際声明を出します。thinkTPPIP もこれに加わりました。しかし、 この頃から、日本政府が保護期間延長については譲歩するという報道が増えはじめ、そして最終的には延長で大枠合意したと報道されることになりました。 この頃、米国で大きな動きがあります。米国大統領選挙に立候補したトランプ候補は、選挙中から公約としてTPPからの離脱をあげたのですね。著作権保護期間延長は米国が求めていたもの。包括的な通商協定で実を取るため、我が国は著作権保護期間を譲歩したはずです。しかし、その米国の離脱が予想される中、日本政府はTPPを批准するための特別法を前倒しで整備してしまいます。これには著作権保護期間や著作権侵害の非親告罪化も含まれていました。非親告罪については国内の懸念の声を受け、二次創作を害さないようなさまざまな工夫が入りました。しかし保護期間延長については懸念点に対応するセーフガードもほとんどなかった。唯一あったのは、TPP 関連法は TPP の発効によって初めて施行されるいうことだけでした。 日本でTPP 関連法が成立した一ヶ月後、2017年 1 月には米国でトランプ氏が大統領に就任。公約通り米国はTPP 協議を離脱しました。しかしここから今度は日本政府が主導して、米国抜きの 11 力国による、 TPP11の協議が始まります。ここで保護期間を延長しないで打けば、その導入を交涉材料に米国に TPP 復帰を促しやすいという目論見もあって、TPP11では延長に関する部分が涷結されました。つまり条約上の義務から著作権保護期間延長がなくなったわけです。 しかしこの年、2017年 11 月には、政府が TPP と並行して交渉していたEUとの EPA 協議の中で、既に保護期間延長で合意していたことが4 个月遅れて公表されるという事態が执きま。つまり2017年の夏には、政府は内々で保護期間延長を既定路線としていたということです。 そして 2018 年 3 月、日本は TPP11に署名しました。 TPP11では保護期間に関する部分は凍結されたままで、EUとの EPA はまだ発効していない。つまり条約上の義務はないにも関わらず、2018 年 6 月に国会は保護期間延長を含むTPP 整備法を可決。これに伴って 2018 年 12 月 30 日、TPP11 は発効し、発効と同時に即日 TPP 整備法が施行。日本において著作権保護期間が死後 70 年原則へと、 20 年延長されました。期間延長を受け、即日、thinkTPPIPを構成する 3 団体を中心に、作品の散逸を止めるための取り組みを今後前向きに進めようという署名活動が change.org でスター トしました。今も多くの署名が集まっています。 ## 2. 保護期間はどうなったのか こうして保護期間は延びました。ではそれでどうなったか、見てみましょう。 原則これまで著作者の死後 50 年間の保護だったものが、死後 70 年間に延びました。戦時加算を含めると 100 年を超える保護期間も珍しくなく、超長期化したわけです。匿名や変名の作品については、作者がいつ死んだかよくわかりません。団体の作品は公表後 50 年だったものが公表後 70 年になりました。映画はもともと公表後 70 年で変わりません。歌唱や演技などの実演や、あるいはレコード音源はどうでしょうか。 これらについては著作隣接権という、著作権と似ているけれども、ちょっと狭い権利で保護されています。 これは実演から 50 年あるいはレコード発行から 50 年の保護だったものが、やはり 70 年に伸びました。 ただしこの延長の効果は遡及しません。つまりこの時点で保護期間が存続中、正確に申し上げれば法文の関係で、2018 年 12 月 29 日時点で保護期間が存続中のものだけが延長の対象です。先ほど例に挙げた藤田嗣治や村岡花子、三島由紀夫などは保護が延長されます。しかしすでに保護期間が満了していた江戸川乱歩や谷崎潤一郎、山本周五郎、そして『くまのプーさん』 などはパブリックドメインのままです。 ## 3. 我々に何ができるのか こんな状態ではありますけれども、我々はここから何ができるかを前向きに考えていかなくてはならない。そこで作品を死蔵と散逸から救うために、我々に何ができるかということを考えてみたいと思います。 例えばさまざまな流通促進策が挙げられるでしょう。民間では青空文庫やマンガ図書館 Z、そしてその他、実にたくさんのアーカイブ活動が行われています。国立国会図書館のデジタルコレクションに代表されるような公共のアーカイブ活動もあります。 そして絶版、市場から姿を消している作品が非常に多い問題。この利活用も進めなければならない。これに関しては生貝先生がこの後魅力的な提案を発表してくださるでしょう。また漫画家の赤松健さんからも、刺激的な提案が準備されていると聞いています。 さらにオーファンワークス、権利者不明作品をどう利活用していくかという問題。これには文化庁が権利者不明の作品について、代わりに利用を許可してくれるという裁定の制度はあり、政府は運用改善を前向きに進めてくれているので、昔に比べるとかなり使いやすくはなっています。しかしこれをさらにどう改善できるか、瀬尾さんがこのあと紹介してくださるはずです。 戦時加算問題。これは平和条約上の義務ですから、撤廃は容易ではないはずです。しかし戦時加算の撤廃の努力は続けるべきであり、これは現在の死後 80 年国を生じさせてしまった政府、そして権利者団体にとっての宿題だと思います。この問題については上野教授からパネル討論の冒頭で解説いたたけることになっています。 そしてパブリックライセンス。これは「私の作品はこういうルールだったら使ってくださって構いませんよ」と利用条件を作者自身が公開していくような動きです。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのようなパブリックライセンスがついた作品は権利者不明にならない訳です。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスについてはこの後渡辺先生からさらなる活用策を含めて解説をいただきます。 デジタルライセンス市場の充実。権利者がわかっている作品について、商業利用を含めて利用許諾、そして利活用していく仕組みも今後の鍵となるでしょう。 これにはどんな知恵があるのか。永井并護士が発表してくださいます。 そして、こうした流通促進策と同時に、我々は今回の保護期間延長の経緯から何を学ぶべきなのか。つまり情報社会のルールメイクはいったい誰が主役で、どのように行っていくべきなのか。これは後半のパネル討論で太下さんがコメントをしてくださるはずです。 以上、駆け足で保護期間延長問題の経緯、課題についてご紹介をさせていただきました。先人達の遺した作品を死蔵と散逸から防ぐための多くの知恵が、この場に集まることを期待しております。どうもご清聴ありがとうございました。
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# 特集:著作勧延長問題シンポジウム ## 基調スピーチ ## 中山 信弘 NAKAYAMA Nobuhiro \\ 東京大学名誉教授/日本学士院会員 私からは前座といたしまして、総論的なお話をしたいと思っております。 著作権法とは一体なにか、著作権法が私達にいかなる利益・便益を与えているのか。現行著作権法は真の意味で著作権法第 1 条に書いてある文化の発展に寄与しているのかという疑いを完全に払拭することはできません。自分の学問を否定するようでちょっと心苦しいのですけれども、著作権法なんかないほうが世のため人のためになるという考え方もありえますし、その反対に、いや著作権法こそ文化の発展に大いに裨益するんだという考えもあります。 いうまでもなく著作権法とは、創作者に対して著作物の独占的利用権を与之、尘孔から得られる収益をインセンティブとして新たな創作に励んでもらう、それが文化の発展、すなわち情報の豊富化に裨益するのたということを前提とした法システムです。 著作権法は独占による利潤が創作へのインセンティブになるということを前提としております。つまり人は経済合理性によって動くという、経済の教科書によく出てくるようないわゆるホモ・エコノミクス(合理的な経済人)を前提にした制度です。しかしながら他方、「人はパンのみにて生くるものではない」、これは旧約聖書に載ってくるモーゼの有名な言葉ですけれども、これも人の心理を的確に表していると思います。人は、金も欲しいけれど、金だけではないということだろうと思います。 しかしながら法制度としては独占的利潤を与えるという方法以外にはありません。そして世界中の著作権法はそれを前提とした立て付けになっています。著作権法というものは、国とか権威のある団体、機関がその価値を判定するのではなく、マーケットがその判定をするということになっております。これは特許法も同じであります。 著作権制度は情報の複製や伝達の技術の手段に大き く規制を受けております。つまりこれは著作権制度はその時代の技術の産物であるといえます。したがってアナログの時代にはアナログに適した著作権制度、デジタルの時代にはデジタルに適した制度というものを再検討する必要があろうかと思います。 ただし金銭、報酬、あるいは対価だけが、人の創作へのインセンティブではない、つまり著作権制度だけが著作物の創作のためのインセンティブではないという認識は必要だ万うと思います。世界最大のネット上の百科事典であるウィキペディアやフリーソフトウェアに関わる人たち、自らの著作物にクリエイティブ・ コモンズ・ライセンスを適用する人たちは金銭で動いているわけではありません。 従来はプロの作家とか作曲家などが創作を行い、一般人はそれを享受するだけという一方方向であったために、著作権法の制度設計の立て付けはかなり容易であったということは言えるだ万うと思いますが、デジタル時代・ネット時代になりますと、誰もが創作活動をし、そして誰もがそれを世界に発信できるという時代になっています。そうなってまいりますと著作権制度の設計というものが非常に難しくなってきています。現在はYouTube などを通じて全く無名の人が一夜にして世界的な著名人になることも不可能ではないわけであります。ピコ太郎などは従来のメディアでは現れてこなかったような人材であろうと思っております。 またある人がネットに投稿するにあたってそのバックグラウンドミュージックとして音楽を無断で使ったためにその音楽が大流行し、結果としてその権利者、 つまり侵害を受けた人は大儲けをしてしまう、そういうこともありうるわけです。有体物の場合ですと、侵害を受けてくれたおかげで大儲けするなどということはまずありえません。情報の特殊性はそこにあります。 ただもち万ん今日におきましても従来型の才能のある作詞家、作曲家、小説家等々がたくさんおります。そ して情報の創作、流通という観点からしますと、アマとプロが混在をしている、つまり両者の境界というものがわかりにくくなっています。 このような混沌とした状況に於きまして、著作権法というものはどこに、何に焦点を合わせて制度設計をすればいいのかということがわからなくなってきています。昨年の 12 月 30 日に発効いたしました著作権の保護期間の延長、これはTPP という条約によるものであります。実務的にはもう 70 年ということを前提として処理をしていくことが必要となるわけでます。 けれども、期間の延長については、果たして議論を尽くしているのかという点につきまして、甚だ疑問に思えます。 70 年への延長ということは、ヨーロッパの場合は、ヨーロッパの統合の関係でいちばん長かった国に合わせざるを得なかったという状況がありますし、アメリカではご存知の通りミッキーマウス法と言われるように、非常に強いロビー活動があって成立したものであります。したがいまして他の先進国に合わせるというだけで本当に正当化できるのかという点については十分議論がなされていないように思えます。 70 年になってはしまいましたけれども、ここで一度立ち止まって、このデジタル時代・ネット時代において、著作権とはいったいなんなのかということを再考してみる必要があるだ万うと思います。 昨年著作権法は大きな改正がなされ、変革を経まし た。そしてデジタルに関しましては、かなりの程度フェアユース的な規定になったと思いますけれども、世の中デジタルだけでできているわけではありません。例えばパロディに関しましては、今度の改正は踏み达んではおりません。世の中で著作権法が単独で成立し、機能しているわけではありません。例えば憲法に規定されている表現の自由と著作権という問題、これは非常に重要な問題であります。著作権法は場合によっては他人の創作活動を阻害するという機能を有しています。まさにパロデイはその問題ということができると思います。アメリカでは著作権法を論じるときには必ず表現の自由の問題がでてきます。今回の改正は、デジタル中心ですので、あまり表現の自由との関連が問題となっておりませんけれども、今後は著作権と表現の自由ということに踏み込んで議論をしていく必要があるだ万うと思います。 単に著作権は強くすれば強くするほど創作のインセンティブが増す、そして世の中の情報が増えるというほど単純なものではありません。著作権制度を見る際には、常に複眼的な視野に立って、有機的に見る必要があります。これは著作権法に限ったわけではなく、 あらゆる法律の解釈、また立法の際には有機的な、複眼的な目を持って、著作権法をはじめあらゆる法制度を見ていく必要があるだ万うと思います。 私の申し上げたいことは以上でございます。
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# シンポジウム「著作権延長後の世界 で、我われは何をすべきか」 主催 : 青空文庫、本の未来基金、デジタルアーカイブ学会、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン、インターネット ユーザー協会、thinkC(順不同) 日時:2019年1月10日(木) 18:30 21:00 会場 : 東京ウィメンズプラザ(銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道」B2より7分) ## [プログラム] 基調スピーチ 中山信弘(東京大学名誉教授) 報告「著しく短縮して語る著作権延長問題の経緯とこれから」 福井健策(并護士、thinkC 世話人) ○ライトニングトーク「今後我々に何ができるか/すべきか」 1.「最終 20 年アーカイブ可能化条項」 生貝直人/東洋大学准教授、デジタルアーカイブ学会理事 2.「今後の青空文庫について」大久保ゆう/青空文庫 3.「クリエイティブコモンズの更なる普及」渡辺智暁/クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(NPO 法人コモンスフィア)理事長 4.「図書館からの家庭配信などの提案」赤松健/漫画家、日本漫画家協会理事 5.「オーファン問題をどう解決して行くか」瀬尾太一/写真家、日本複製権センター代表理事 6.「ブロックチェーン/リーガルテックは著作権管理を変えるか?」永井幸輔/弁護士、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(NPO 法人コモンスフィア) 総括シンポジウム「個別対策と今後の政策形成」 前半部の登壇者に加え下記の皆さまをお迎えします。 上野達弘 (早稲田大学教授) 太下義之(三菱 UFJ リサーチ\&コンサルティング芸術・文化政策センターセンター長) 田中辰雄(慶應義塾大学教授) 富田晶子(青空文庫、本の未来基金運営委員) 司会:津田大介(ジャーナリスト、インターネットユーザー協会代表理事)
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# 「記憶の解涷」 : カラー化写真をもと にしだフロー"の生成と記境の継承 "Rebooting Memories": Generation of "FLOWING" and Inheritance of the Memories based on Colorized Photographs 抄録:本稿では、デジタルアーカイブ/社会に“ストック”されていた白黒写真をAI 技術でカラー化し、ソーシャルメディア/実空間に“フロー”を生成する活動について報告する。被写体が備えていたはずの色彩を可視化することによって、白黑写真の凍り ついた印象が解かされ、鑑賞者は、写し込まれているできごとをイメージしやすくなる。このことは、過去のできごとと現在の日常との心理的な距離を近づけ、対話を誘発する。こうして生成された“フロー”においては、活発なコミュニケーションが創発し、情報の価値が高められる。この方法は、貴重な資料とできごとの記憶を、未来に継承するための一助となり得る。 Abstract: In this paper, we explain an activity to generate "FLOWING" in social media / real space by colorizing black-and-white photographs "stocked" in digital archives / society with AI technology. By visualizing the colors of the objects in the photographs, the "frozen" impressions of blackand-white photographs are "rebooted" and viewers can imagine the subjects of the photographs. Therefore, the past events get closer to the present daily lives and dialogues are triggered in social media / real space. The generated "FLOWING" arises emerging communications and enhances the value of information. This method will be one of the effective ways to help inherit precious materials and memories of past events in the future. キーワード : 写真、カラー化、人工知能、AI、デジタルアーカイブ、記憶、継承 Keywords: Photographs, Colorization, Artificial Intelligence, AI, Digital Archives, Memory, Inheritance ## 1. はじめに 戦争・災害など過去のできごとの「実相」 ${ }^{[1]}$ は、多様な人々の視点を内包した多面的なものである。正確な資料を多面的に網羅したデジタルアーカイブは、この「実相」を伝えていく基盤として重要である。しかし、こうしたデジタルアーカイブは、いまだ十分に利活用されていないことが指摘されている ${ }^{[2]}$ 。この点を解決するためには、アーカイブされた資料の貴重さを社会にアピールし、利活用に向けたモティベーションを形成する必要がある。 現代の社会においては、“ストック”されたデータそのものに加えて、適切な情報デザインにより“フロー”を生成し、コミュニケーションを創発することに価値が見いだされる ${ }^{[3]}$ 。従って、デジタルアーカイブ/社会において“ストック”されている資料を“フロー”化し、そこから創発するコミュニケーションによって、情報の価値を高めることが望まれる。 筆者らは、こうしたアプローチを「記憶の解凍」と名付け、情報デザイン・コミュニティデザインの手法 を用いて、さまざまな活動を実践している。本稿ではそのうち、人工知能 (AI) 技術を応用して白黒写真をカラー化し、ソーシャルメディア/実空間に“フロー” を生成する活動について報告する。 被写体が備えていたはずの色彩を可視化することによって、白黑写真の涷うういた印象が解かされ、鑑賞者は、写し达まれているできごとをイメージしやすくなる。このことは、過去のできごとと現在の日常との心理的な距離を近づけ、鑑賞者どうしの対話を誘発する。つまり、白黒写真をカラー化することで“フロー” が生成しやすくなるのである。この“フロー”においては、活発なコミュニケーションが創発し、情報の価値が高められる。その結果として、貴重な資料とできごとの記憶が、未来に継承されていくことになる。 なお、本稿は、筆者らの既発表の論文 ${ }^{[4]}$ (CC-BY 4.0 で公開)をべースに、加筆修正を施したものである。 ## 2. 白黒写真のカラー化 ## 2.1 カラー化の意義と方法 戦前・戦中の写真はもっぱらモノクロフィルムで撮影されている。従って、この時期のできごとは概ね、白黑の静止画で記録されているといえる。スマートフォンのカメラを携え、カウシの動画で日常を記録している私たちは、色彩・動きを伴わない白黒写真に、 あたかも凍りういているような印象を抱く。このことが、写し达まれた過去のできごとと、現在を生きる私たちの日常との距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っているのではないだろうか。 筆者らはこの問題意識のもと、2016年 12 月から、飯塚らが開発した AI 技術 ${ }^{[5]}$ を応用し、白黒写真のカラー 化を始めた。この技術は、約 230 万組の白黒・カラー 写真から学習した AIによって、白黒写真を着彩するというものである。このソフトウェアはウェブサービス化されており、容易に利用することができる。ただ、以下に示す 2 つの不満点がある。 ## 1. 計算リソースを節約するため、入力画像のピクセル サイズが縮小される ## 2. 人工物のカラー化は苦手なため、不自然に色付けさ れることがある 筆者らはこれらの点を解消するために、自動カラー 化した画像を元の白黒画像にオーバーレイして、色彩のみを反映させることにより、ピクセルサイズを復元している。さらに、資料をもとにしてできる限り色調を補正し、より自然な印象に近づけている。 ## 2.2 カラー化写真の例 図 1 に、呉からみた広島原爆のきのこ雲の元写真・ カラー化写真を示す。グレーのグラデーションで表現されていた過去の空が、現在の青空のように着彩されている。また、山や海面などの色彩も、私たちが日頃目にするものである。このように、被写体が備えていたはずの色彩を可視化することによって、過去にも、現在と変わらない日常があったことが実感しやすくなる。この例では、原爆投下当日の呉と私たちの日常が重ね合わされ、 この日起きたできごとを、よりイメージしやすくなっている。 図 2 と図 3 に、 100 年以上前の日本で撮影された白黒写真・カラー化写真を示す。人と背景の色彩が可視化されることにより、静止している背景と、動いている人物の差異が強調され、人の姿が前景に浮かび上がっている。 カラー化によって、過去の「人物」が、現在の私たちと変わらない「人間」であることが、実感されやすくなる。 図 4 は、空襲で炎上する呉の街の白黒写真・カラー 化写真である。炎の色彩が可視化されることにより、背景から浮かび上がり、動きと熱をイメージしやすくなっている。過去の火焱の写真をカラー化すると、私たちが頻繁に目にする、現在の火災の写真と似た印象に変化する。私たちは、見知らぬ誰かが体験している災いがリアルタイムに共有され、自分ごととして感じられる時代を生きている。同じように、カラー化された火災の写真は同時性を備え、過去の人々の恐怖を、現在の私たちに伝えてくるのた。 ここまでに示した例のように、白黒写真のカラー化は、現在の私たちの日常と、写し込まれた過去のできごとの距離を近づけ、イメージさせやすくする。遠い昔のできごとが同時性を備えて、現在の日常と地続きになり、自分ごととして感じられるようになる。このことにより、写し込まれたできごとについての対話が誘発されるたろう。 次章では、カラー化した写真をもとにした“フロー”生成の方法と、そこから創発するコミュニケーションについて説明する。 ## 3. カラー化写真をもとにした“フロー”の生成 3.1 ソーシャルメディアの“フロー" ソーシャルメディアのタイムラインに投稿される現在のカウ்・写真は、自明的に同時性を備えている。過去の白黒写真をそのまま投稿した場合、その凍りういた印象は、ユーザの意識のなかで、タイムラインをうリリズさせるはずである。白黒写真をカラー化することで、このプリ・ズを回避し、写真に写し込まれたできごとの印象を解がて、ユーザの身の回りの時間の流れ=“フロー”に合流させることができるのではないだろうか。 筆者らはこの推測に基づき、主にパブリックドメインの写真をカラー化し、Twitterに投稿することで“フロー”を生成する活動を続けている。 ユーザからは大きな反響があり、ほぼすべての写真が 100 1,000 回程度リツイート・イイネされ、多数のリプライが付く。このことは、カラー化写真を起点にした Twitter 上の “フロー”において、活発なコミュニケー ションが創発していることを示している。 また、2016年 12 月から 2019 年 3 月までの期間に、約 1 億回のインプレッションがあった。さらに、同期間において、筆者の Twitter アカウントのフォロワー数は、約 3,000 人から約 28,000 人に増加した。これらのことから、カラー化写真が、多数の Twitter ユーザに支持されていることが伺える。 筆者らは活動の初期において、カラー化写真を Twitter にそのまま投稿していた。しかしユーザの反応から、投稿に際して「自動カラー化」であることを明示し、さらに、元の白黒写真・参照元を示す必要があることがわかってきた。そこで、筆者らは以下のルールを設定した。投稿の例を図 5 に示す。 ## 1.「Automatic Image Colorization」の透かしを付加 ## 2.「ニューラルネットワークによる自動色付け+手動補正」とツイートに記載 ## 3. 元の白黒写真・参照元 URL をリプライに記載 さらに、できごとの同時性を高めるため、撮影日が明らかな写真については、「○○年前の今日」とツイート本文に記載し、撮影日と同じ日付に投稿することにした。 ## 3.2 創発したコミュニケーションの例 カラー化写真をもとにしたフフロー”からは、写真そのものについての感想、撮影地の特定、写し込まれたできごとの時代考証など、さまざまなコミュニケー ションが創発している。 図 6〜8に、創発したコミュニケーションの例を示す。図 6 のツイートにおいて、筆者は、現在の鳥居が赤色であることから、AIが誤った色を付けたと判断し、「機械の限界」と表現した。しかしその後、図 7、 8 のように、鳥居の色の妥当性について考察するリプライが付いた。そこで、図 9 に示した着彩写真と比較してみると、実際の鳥居の色を元にして手作業で付けられた色と、自動カラー化後の色が似ていることがわかった。 この事例では、カラー化写真を元に生成された“フロー”から活発なコミュニケーションが創発し、元資料に対する考察が促された。その結果、「鳥居は赤い」 といった先入観が覆され、逆にそうした先入観を持たないAIだからこそ、学習結果に従って、素直に“自然な色”を付けられたのではないか、という洞察も得られた。これは、元の白黒写真からは得られない知見ではないだろうか。 図 10 は、2018 年 8 月 6 日、広島原爆の日に「72 年前の今日」の写真としてツイートした、被爆 1 年後の焼け野原を見つめるカップルの写真である。これは、筆者らがこれまでに投稿したうち、最も反響が大きかったものであり、本稿執筆時点において 18,354 回リツイート・37,671 回イイネされ、4,520,576 回のインプレッションがあり、86件のリプライが付いている。 図 11 にリプライの例を示す。このように、リプライ には、戦争と平和、核兵器と社会の関わりなどについて、ユーザの意見を述べたものが多く含まれていた。 さらにユーザ間においても、リプライがスレッド化するなど、活発なコミュニケーションが創発した。多くの人々が「広島原爆」を意識する日に、同時性を備えたカラー化写真がタイムラインに流れたことにより、強い共感を含む“フロー”が生じたのではないだ万うか。 さらにこのツイートは、マスメディアを起点とした “フロー”も生み出した。このツイートに関する記事が新聞に掲載されたところ、写真についての詳細な情報が、読者である沼田清氏(共同通信社)から寄せられた。以下にその概要を示す。 ## ・共同通信社が 1946 年 8 月 5 日以前に撮影したもの \\ $\cdot$ 被爆 1 周年 ・終戦 1 周年に向けた企画取材で、全国 の関係地に取材手配した中の一枚 \\ ・胡町の福屋百貨店から南東方向を俯瞰したもので、後方の山は広島湾の金輪島 ・ カップルの頭上に写っている新築の建物は旅館であり、改築を経て、飲食店として現存 このカラー化写真を元に生成された“フロー”から、活発なコミュニケーションが創発し、戦争と平和、核兵器と社会の関わりについての、ゆたかな対話が生みだされた。さらに、この“フロー”がソーシャルメディアからマスメディアへと拡がった結果、写真についての詳細な情報が得られた。 ここまでに示した事例から、筆者らの方法によって、 “ストック”された資料が“フロー”化され、創発したコミュニケーションによって、情報の価値が高められていると推測できる。 ## 3.3 実空間の“フロー” 筆者らは広島において、戦前に撮影された写真を力ラー化し、直接の対話の場をつくりだすことで、実空間における“フロー”を生成する活動を進めている。 広島平和記念公園が所在する地区はかつて、4,400 人の市民が暮らす繁華街・中島地区だった。そこにあった、現在の私たちと変わらない平和な暮らしは、原爆投下によって永遠に喪われた。近年、この地区における被爆遺構の発掘調査が進み、かつての街のようすが明らかになりつつある ${ }^{[6[[]]}$ 。この中島地区で営まれていた生活の息づかいをカラー化で再現することによって、これまで関心を持たなかった人々も原爆の残酷さを自分ごととして想像しやすくなり、共感とともに受け止めてもらえるのではないだろうか。 そこで筆者らは、中島地区の元住民に協力を得て、戦前に撮影された白黑写真をカラー化し、所有者との直接の対話を続けてきた。以下にその手順を示す。 ## 1. 白黒写真の所有者に同意を得る 2. 現物の写真をスマートフォンアプリで非接触スキャンし、デジタルデータ化する 3. 自動カラー化したのちに、高解像度化とおおまかな色補正を施す 4. 白黒写真・カラー化写真のセットを、フォトアルバムサービスにアップロードし、アーカイブ化する ## 5. 所有者に、フォトアルバム上のカラー化写真をタブ レット端末で鑑賞してもらい、写真にまつわる想い出 や、当時の記憶を語つてもらう 6. 対話から得られた情報をもとにして、さらに色補正を重ね、所有者の記憶の中の色彩に近づけていく 図 12 のように、手順のうち $3 、 4$ 以外は、実空間で進められる。3.2 節の事例とは対照的に、対面のコミュニケーションを生み出す点と、その結果をもとにして色の再現度を向上させる点に特徴がある。 図 13 に、演井德三氏から提供された元写真・カラー 化写真を示す。演井氏は原爆投下により家族全員を喪ったが、疎開先に持参していたアルバムが手元に残された。このカラー化写真を鑑賞した濱井氏からは、以下のコメントが得られた ${ }^{[8]}$ 。(以下引用:下線は筆者)。 “家族が一堂に会した写真に「本当にきれい。昨日の上う」。かつて広島市内にあった桜の名所・長寿園での花見の場面では、背景の青々とした杉に「杉鉄砲でよう遊んだなあ」とほほ笑んだ。「長寿園までの道に弾薬庫があって幼心に怖かった」と新たな記憶もよ从がえった。 この事例においては、「青方とした (杉)」という要素が着彩によって可視化されたことで、演井氏の涷うていた記憶が解かされ、「杉鉄砲」「長寿園」などにまつわる、戦前の記憶がよみがえっている。カラー化写真をもとにした対話を終えた演井氏は、家族との楽しい想い出がよみがえったことを、とても嬉しく思うと述べた。 3.2 節の事例では、できごとの当事者ではないユー ザ間のコミュニケーションが創発し、情報の価值が高められていた。一方、この事例においては、当事者との信頼関係に基づく直接の対話によって記憶が解凍され、写真にまつわる隠れたエピソードが掘り起こされ ている。 図 14 に、高橋久氏から提供された元写真・カラー 化写真と、色補正のプロセスを示す。上から元の白黒写真 (手順 1)、AI で自動色付けしたのち、高解像度化を施したもの(手順 2) である。筆者らはこの段階において、写っている花をシロツメクサであると判断し、花畑の黄色味を弱めた (手順3)。このバージョンを家族とともに鑑賞した高橋氏からは、以下のコメントが得られた ${ }^{[9]}$ (以下引用:下線は筆者)。 “一面に咲く花の中で、両親と祖母、弟と高橋さんの5人がほほ笑む写真。「これは多ンポポだった」。記憶をたぐり寄せながら高橋さんが指さした。庭田さんがシロツメクサだと思い达んでいた小さな花だ。 このコメントは、カラー化写真をもとにした直接の対話が、「タンポポだった」という、高橋氏の涷うていた記憶を解かi、想い出がよみがえったことを示している。図 14 の最下段に、この高橋氏のコメントをもとに、さらに色補正を施したもの(手順 6)を示す。 なお、高橋氏は年齢を重ねるとともに口数が減り、 このカラー化写真に自身が写っていることを認識しているのかどうかについても、判然としない状態にあった。しかし、カラー化写真を囲む対話の場においては、原爆で喪った両親・弟との楽しい想い出について、活き活きと語りはじめた。このことから、カラー化写真のみでは記憶は解凍されなかったこと、親密な対話の場こそが、高橋氏の記憶をよみがえらせるために、重要な要素であったことが伺える。高橋氏が過去の記憶を語りはじめ、筆者らとの対話が生まれたことについて、同席した高橋氏の家族は驚き、大きな喜びを示した。 これらの事例から、筆者らの方法によって、個人蔵の写真=社会に“ストック”されていた資料が実空間で“フロー”化されており、創発したコミュニケーションによって、所有者の記憶がよみがえっていると推測できる。 本節で説明した活動は、その後も多くの中島地区の元住民の協力のもと、写真についての隠れたエピソー ドを掘り起こし、情報としての価値を高めるとともに、世代を越えて記憶を継承する対話の場をつくりだしてきた。さらに筆者らは、写真提供者と筆者らの間で生まれた“フロー”を社会に拡げていくために、映像作品の制作と国内外での上映 ${ }^{[10]}$ 、カラー化写真展示会 実)表示するスマートフォンアプリのリリース ${ }^{[12]}$実施し、好評を得ている。 筆者らの活動によって、かつての平和な暮らしが、 たった一発の原子爆弾によって一瞬のうちに奪われたという事実を、自分ごととして想像しやすくなる。より多くの人々がこの“フロー”に参加することによって、平和を希求する被爆者の想いは共感とともに社会に拡がり、その記憶は未来へ継承されていくだろう。 ## 4. おわりに 本稿では、デジタルアーカイブ/社会に“ストック” されていた白黒写真を AI 技術でカラー化し、ソーシャルメディア/実空間に“フロー”を生成する活動について述べてきた。被写体が備えていたはずの色彩を可視化することによって、白黒写真の凍りついた印象が解かされ、鑑賞者は、写し込まれているできごとをイメージしやすくなる。このことは、過去のできごとと現在の日常との心理的な距離を近づけ、対話を誘発する。こうして生成された“フロー”においては、活発なコミュニケーションが創発し、情報の価値が高められる。筆者らの方法は、貴重な資料とできごとの記憶を、未来に継承するための一助となり得る。 ## 註・参考文献 [1] 湯崎稔. 広島における被爆の実相. 1978. 歴史評論, Vol.336, p.12-28. [2] 今村文彦, 柴山明寛,佐藤翔輔. 東日本大震災記録のアーカイブの現状と課題. 2014. 情報の科学と技術, Vol.64, No.9, p.338-342. [3] ケヴィン・ケリー(著), 服部桂(訳)、イインターネット〉 の次に来るもの未来を決める 12 の法則. 2016, NHK出版, 403 p. [4] 渡邊英徳.「記憶の解凍」資料の“フロー”化とコミュニケー ションの創発による記憶の継承. 2018, 立命館平和研究:立命館大学国際平和ミュージアム紀要, vol.19, p.1-12. [5] Satoshi Iizuka, Edgar Simo-Serra, Hiroshi Ishikawa. Let there be Color!: Joint End-to-end Learning of Global and Local Image Priors for Automatic Image Colorization with Simultaneous Classification. ACM Transaction on Graphics (Proc. of SIGGRAPH). 2016, vol.35, no.4,\#110. [6] 石丸紀興. 発掘地層からみる広島平和記念公園における都市の重層構造に関する研究. 2000, 都市計画論文集, Vol.35, p.103-108. [7] 水川恭輔, 明知隼二, 爆心地下に眠る街, 中国新聞. 2018-0723 , 朝刊, 16-17面. [8] 城戸良彰. 被爆前の営み鮮やか広島女学院高生写真カラー化記憶掘り起こし継承, 中国新聞. 2017-12-30, 朝刊, 第一社会面 [9] 土屋香乃子。よみがえる被爆者の心の色 AIで写真カラー 化 $\rightarrow$ 聞き取りで補正広島の高校生. 朝日新聞. 2018-08-03,夕刊, 1 面. [10] Anju Niwata \& Tetsuya Yamaura. "Rebooting Memories": Hiroshima's time advancing and breathing by colorized photographs.2018-11-21.PLURAL+ Screening and Discussion,Paley Center for Media, New York, US. [11] 東京大学大学院情報学環・学際情報学府. 広島テレビ新社屋「記憶の解凍」展覧会. 2019-01-22. http://www.iii.u-tokyo. ac.jp/research/180122rebootmemories (参照 2019-03-31) [12] 渡邊英徳, 庭田杏珠.「記憶の解凍」ARアプリ. 2018-02-01. https://wtnv-lab.github.io/rebootingMemories/(参照 2019-0331) 図1「呉からみたきのこ雲」の元写真・カラー化写真 図2 「1908年の日本」(Arnold Genthe) の元写真・カラー化写真 図3「1914 18年の日本」(Elstner Hilton: A.Davey提供) の元写真 ・ カラー化写真 図4 炎上する呉の街(「呉戦災を記録する会」ウェブサイトより)の元写真・カラー化写真 図5 カラー化写真のTwitter投稿例 図6 鳥居の写真のツイート 図7 ユーザによる考証の例-1 図8 ユーザによる考証の例-2 図9 鳥居の着彩写真 図10「被爆地のカップル」(共同通信社) のカラー化写真のツイートの例 図11 リプライの例 図12 カラー化写真を元にした対話のようす 図13「戦前の広島」(湞井德三氏提供) の元写真・カラー化写真 図14「戦前の広島」(高橋久氏提供) の元写真・カラー化写真 図15 カラー化写真展示会全景 図16 展示会における戦争体験者の対話
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# Visualizing Inter-firm Transaction Networks Utilizing Company Big Data on a Digital Globe 帝国データバンク、東京大学 抄録:企業間取引ネットワークの構造は、インフラ事情によるサプライチェーンの効率化やリスクの増減に影響を与える。また政策立案を実施する場では、リスク軽減やステークホルダー間の合意形成のため、エビデンスに基づく意思決定のアプローチが求め られる。そこで近年、企業活動を測るデータとして、信用調査報告書のデータから構築された企業ビッグデータが注目されている。本稿では、信用調査報告書をビッグデータとしてアーカイブするまでの経緯と、そのデータから企業間取引ネットワーク構造の可視化を試みた実践例についていくつか報告したい。 Abstract: The structure of inter-firm transaction networks affects the efficiency of the supply chain and the risk depending on the infrastructure situation. At the scene of policy making, an Evidence Based Policy Making approach is required for risk reduction and consensus building among stakeholders. Therefore, in recent years, company big data constructed from corporate credit reports has attracted attention as data for measuring corporate activities. In this paper, we would like to report on the history of archiving corporate credit reports as a big data and some examples tried to visualize the structure of inter-firm transaction networks. キーワード : 企業間取引ネットワーク、グラフ可視化、階層、ジオビジュアライゼーション Keywords: inter-firm transaction network, graph visualization, hierarchy, geovisualization ## 1. はじめに 企業間取引ネットワークの構造は、インフラ事情によるサプライチェーンの効率化やリスクの増減に影響を与える。しかし、その構造は複雑で膨大であるため、 ここから情報を読み解き構造の見直しを図ることは困難である。 一方、このような政策立案を実施する場では、リスク軽減やステークホルダー間の合意形成のため、エビデンスに基づく意思決定のアプローチが求められる。近年は、蓄積された膨大なデジタルデータであるビッグデータを利用し解析することで、データからエビデンスを創出し、政策立案に役立てるという施策が多岐に渡る分野で実施されている。 このような背景より、企業に関するビッグデータを活用しその構造を明らかにすることで、エビデンスの創出に役立ち、企業取引の効率的な政策立案に貢献できると考える。 企業活動を測るデータとしては、経済センサスなど の統計データや、産業ごとに調査したデータベース、自治体や事業者が公開しているオープンデータが広く一般に存在している。これまで企業を題材とした研究の多くは、これらのデータを用いて分析がされていた。 まず経済センサスなどの統計データは、日本に存在する企業に同様の調査票を送付し情報を収集している。そのため、企業の規模や業種の偏りがない情報を収集できるが、公開されているデー夕は市区町村(自治体)やメッシュ単位に集計されているため、個社ごとの企業の状態を測ることができない。 次に産業ごとに調査したデータベースは、第3者機関が調査しているため公正な情報であり、詳細な情報を含んでいる。しかしながら、産業ごとに調査をするため、産業をまたいだ取引のつながりなどを把握することができない。 最後にオープンデータについてであるが、一般的に企業が独自に持つ Web サイトで公開されている。そ のため、企業規模に関わらず全世界の企業データを収集することが可能であるが、データのフォーマットが均一でなく、企業により収集できる情報にムラがある。 また企業独自に情報を開示するため、第三者によって制作されたデータと比べると信憑性の点で少し劣る。 このような背景より近年、信用調查報告書のデータから構築された企業ビッグデータが注目されている。 そこで筆者らは、企業間取引ネットワークの構造を明らかにするため、信用調査報告書のデータから構築された企業ビッグデータを用いた企業間取引ネットワー ク構造の可視化を実践してきた。本稿では、信用調査報告書をビッグデータとしてアーカイブするまでの経緯と、そのデータから企業間取引ネットワーク構造の可視化を試みた実践例についていくつか報告したい。 ## 2. 企業ビッグデータアーカイブ 2.1 信用調査の歴史 信用調査や信用確認は、信用取引において欠かせないものであり、信用取引が発生すると同時に行われてきた。本節では、まず信用取引の歴史から信用調查の構造について述べる。 信用取引は、貨幣経済の発達に伴い出現した手形のシステムによって始まる。例えばイスラム社会では、 8 世紀のアッバス王朝時代に為替手形、約束手形や小切手などが流通した。中国でも 7 世紀から9 世紀にかけての唐の時代に、飛銭と呼ばれる為替手形が登場し、 またヨーロッパでは 12 13 世紀に来たフランスのシャンパーニュ地方の市場に集まった商人たちによって為替が利用された。このような手形のシステムを利用した信用取引では、様々な信用調査や信用確認が行われてきた。例えば振出人は振出と同時に別の文書を送り、支払人は受取人の持参する手形と照合して初めて支払をすることで、信用確認を行っていた。あるいは、取引先への密かな人の派遣や、外国の取引先の場合は、駐在の外交官を通じた信用調査をしていた。こうした信用確認あるいは調查は、信用取引の当事者が自ら行うことが多かった。 ところが、産業革命後のイギリスで取引の範囲・規模が拡大したことにより、信用調査がより一層重要になってくると、当事者に代わって信用調査を行う第三者機関が成立するようになった。このほかヨーロッパでは、1850 年代以降フランス、イタリア、ドイツ、 ベルギー、オランダ、スイスなどで興信所の設立が相次いだ。この中でも最も有名なのが 1872 年にドイツで設立されたシンメルフェング社であった。従業員数は約 1100 名、事業所数は 33 力所にも上っていた。事業所はドイツ国内はもち万ん、ロンドン、パリ、ブリユッセル、ブダペスト、ウィーン、アムステルダムなどヨーロッパ各地に置かれた。独立した機関としての興信所の誕生はイギリスであり、その後ヨーロッパ各国でも次々設立されていったが、それらの国々では商業組合の情報交換の機関という性質が強かった。一方アメリカでは、興信所は当初から企業として成立した。1841 年に設立されたマーカンタイル社が、最初の企業であった。 日本においても信用取引の歴史は古く、 13 世紀後半(鎌倉時代中期)には銭の代わりに為替、割符と呼ばれる証書が流通していた。戦国時代以降は、こうした契約証書類は手形と呼ばれるようになった。江戸時代になると、各地で生産された商品が“天下の台所”大坂に持ち込まれ、全国的な商品の流通機構が形づくられた。そして問屋を軸とした前貸しゃ延売買の信用売買が次第に拡充していった。また大坂と江戸との間で大量の資金移動が盛んであった当時、大坂や京都などの上方では、銀貨幣を基準とする取引が行われる銀遣が、一方、江戸では金貨幣を基準とする取引が行われる金遣がそれぞれ行われていたため、両替屋が手形を多用しながらこの間に介在して活躍の場を広げた。特に大坂では、有力な両替屋だけではなく広範囲に手形が用いられ、近在の取引や町内の薪炭から米魚の節季の支払いにまで通用するようになった。こうした近世における信用経済の隆盛を背景として、この後、明治新政府下でもまず大坂で手形交換所やさらに興信所が創立されることになり、信用調查が普及し始める。 ## 2.2 企業情報のアーカイブ化による企業ビッグデータ 図 1 は、昭和初期の信用調查報告書の入力用紙である。当時は企業の概要情報を元に、企業の信用度を調べていた。現在の信用調査では、企業を訪問して、 ヒアリングした情報を 30 40ページの信用調査報告書としてまとめている。信用調査報告書には、各企業の売上高や従業員数などの定量的な情報や、事業内容などの定性的な情報、また取引先や資本関係など他企業とのつながりを示した情報が記載されている。 1960 年代から 1970 年代にかけては、コンピュータの導入により、信用調査で得られた情報が統一された形式でアーカイブされ、企業情報のデータベース化が進んでいった。そして近年の飛躍的なコンピュータの性能の向上により、蓄積できるデー夕量は莫大になり、信用調査報告書がアーカイブされたデータベースを企業ビッグデータと定義するようになった。 図1昭和初期の信用調査報告書の入力用紙 ## 3. 企業間取引ネットワークの可視化 3.1 関連研究 インターネットや人間関係、神経経路など、分野を問わず身の回りに存在する様々な関係性は、ネットワークという概念を用いて表現できる。しかし世の中で実際に起こっている事象のネットワークは、多数のノード(頂点)とエッジ(ノードとノードを結ぶ線) で構成され、複雑な構造を有している。そのため、複雑ネットワークから一見して構造的特徴を把握することは非常に困難である。 企業ビッグデータから構築した企業間取引ネットワークも複雑ネットワークの一種である。特に、企業間取引ネットワークは、始点と終点のノードが企業であり、つながりを示す取引関係にはお金の流れがあることから、位置情報をもつ有向ネットワークである。 また企業同士の取引は、原材料から部材、製品が生産され、製品として最終消費者の手に届くといった過程があるように、取引関係は複数の企業でつながりあっている。そのため、実社会における企業間取引ネットワークは階層で構成されるという特徴を持っている。 このような複雑ネットワークの性質を分析するための可視化手法は、これまで多数研究されてきた。複数のネットワークの階層性の関係を比較するために、 Dwyer ら ${ }^{[1]}$ は 2 次元で描かれたネットワークを積み重ねることによって比較する可視化手法を提案した。企業間取引ネットワークに着目すると、伏見ら ${ }^{[2]}$ は、産業をノードとし、産業間の取引関係をエッジとした重み付き有向ネットワークの可視化手法を提案している。 また、Basole ${ }^{[3]}$ は、エレクトロニクス産業の企業を頂点 とし、階層別に企業間の共同研究ネットワークを可視化している。これらの提案手法では、階層をもつネットワークを 2 次元平面上に階層ごとに区別してノードをプロットした可視化手法を提案している。ネットワークの階層を区別して可視化することで、ネットワーク内に打ける各ノードの取引階層ごとに区別した把握が可能になる。しかしながらこれらの手法は、2 次元平面上に取引階層とエッジの重み付けなどで描画する座標を決定しているため、地理情報を重ね合わせた可視化には不向きである。そこで筆者らは、任意の企業を頂点とした取引クラスタを抽出し、階層ごとにデジタル地球儀上に描画することで、企業間取引ネットワークの可視化を試みた ${ }^{[4,5]}$ 。これにより、企業間取引ネットワークに潜在する性質の読み解きが可能となり、エビデンスの創出に貢献できると考える。 ## 3.2 企業間取引ネットワークの実装例 3.2.1 階層をもつ企業間取引ネットワークのジオビジュアライゼーション 企業間の取引関係が地域ごとにどのような特徴をもち、また時系列で取引数が変化する様子を把握するため、任意の企業を頂点とした企業間取引ネットワークをデジタル地球儀上に可視化するアプリケーションを実装した。幅広いユーザが可視化から容易に情報の読み取りを体験できるようにするため、ウェブアプリケーションとして動作する可視化ツールを実装した。本稿では、オープンソースで利用可能なデジタル地球儀 Cesium ${ }^{[6]}$ を用い、企業間取引ネットワークのデー タベースから Cesium 上に時空間の可視化ができる CZML 形式のデータを構築した。 図 2 に示す可視化では、自動車産業に属する企業を頂点として、頂点企業から仕入取引により 2 次のつながりをもつ企業間取引ネットワークのデータを用いる。このデー夕は、発注社と受注社からなる取引関係と、発注社、受注社それぞれの位置情報で構成されている。 図 2 では、デジタル地球儀の地表から垂直方向に地図を重層する。そして任意に選択した頂点企業をデジタル地球儀上部に配置し、 1 次取引先、 2 次取引先の順にデジタル地球儀の中段、下段の地図上に描画する。また時系列での取引量の変化に応じて、エッジの色を変化させる。ここでは、取引数が増加したエッジは赤色、減少したエッジは青色、変化のない取引を白色とし、新規に発生した取引を緑色で描画する。また画面左側には、企業の選択フォームや、右側に表示させる可視化方法の選択など設定用のフォームを設け 図2 取引階層を重層表示した企業間取引ネットワークの可視化事例 図3 2011年 2013年における時系列での1次取引先の取引数の変化 る。図 3 に時系列での 1 次取引先の取引数の変化を示す。2011 年から 2013 年における $1 \mathrm{j}$ の時系列でのエッジの色の変化を示す。2011 年と 2013 年は青色のエッジが多く、2012 年では赤色のエッジが多く存在する様子が読み取れることから、年ごとに描画された取引クラスタのエッジの集合体の色に傾向があることが読み取れる。これは、2011 年に発生した東日本大震災の影響により、自動車産業の取引は 2012 年に一時的に減少したが、2013 年には取引クラスタにおけるつながりが再構築されていると推測される。 図 4 に、前述の可視化手法をより多階層に適用させた可視化事例を示す。より多階層を同時に可視化す 図4 多階層な取引構造の可視化事例 図5 ビジュアライゼーションによる2時点の企業間取引ネットワークの比較(日本全体) 図6 ビジュアライゼーションによる2時点の企業間取引ネットワークの比較 (北海道周辺) るため、エッジをグリッドメッシュ単位に束化した。 またエッジの色は束化したエッジの取引数による重み付けによって、透明度の高い青色から透明度の低い赤色へ変化させている。また図 5 の実装例では、画面を左右に分け、同じ視点で 2 時点の可視化を俯瞰する。 ここでは、2012 年と 2018 年の 2 時点を比較する。この可視化手法により、時系列での企業間取引ネットワークの地理的特徴の変化の比較が容易となる。図 6 に北海道に注目した企業間取引ネットワークの比較を示す。この図より、この企業間取引ネットワークにおいて、新規に北海道での取引が開始され、かつ自地域内での取引ネットワークを構築している様子が読み取れる。 図7 没入型ディスプレイLiquid Galaxyへの実装例 ## 3.2.2 没入型ディスプレイによる可視化 近年、VR システムや複数のスクリーンを並べて構成する没入型ディスプレイが、様々な場面で活用されている。特に没入型デイスプレイによるシステムは、 ユーザの視界を高視野の立体映像で覆うことにより、臨場感の高いインタラクティブな仮想世界を提示することができるため、へッドセットなどの機材なしに、映像世界の中に入り达んでいるかのような感覚を得ることができる。これらの没入型可視化は、情報可視化の分野でも活用され始めている。Kwon ら ${ }^{[7]}$ は、没入型ディスプレイでの複雑ネットワークの可視化手法を提案している。この可視化手法の体験者からは、少ないインタラクションで複雑なデータから知見が得られたなどの効果が報告されている。 そこで、3.2.1 の可視化手法を用いたジオビジュアライゼーションコンテンツを没入型デジタルディスプレイに実装した。本研究では、END POINT 社の Liquid Galaxy を用いる。55インチのディスプレイ 7 枚を半円周状に配置し、Liquid Galaxy のシステムによって、デジタル地球儀上に企業間取引ネットワークを可視化したジオビジュアライゼーションコンテンツを表示する。またこのデジタル地球儀は、手前に設置したモニタと $3 \mathrm{D}$ マウスを操作することで視点を動かすことが可能である。図 7 に、Liquid Galaxyへの実装の一例を示す。高視野でデジタル地球儀を俯瞰すると、北海道から九州までを同時に表示したまま、細かなデー 夕まで視認することが可能である。 また、その場にいる全員に同じ体験を提供することができるため、複数人での議論を要する場などに適しており、議論の質やスピードの向上に役立つ。この特徵は、企業取引の効率的な政策立案の場にも効果的である。図 8 は、複数のユーザが Liquid Galaxy に実装したジオビジュアライゼーションコンテンツを囲み、 図8 没入型ディスプレイを用いたディスカッションの様子 ディスカッションを実施している様子である。ディスカッション中に挙がった気づきを以下に列挙する。 ・デスクトップコンピュータで操作するより、より自分ごとのように可視化を探索することができる。 この頂点企業で勤めている社員になったかのように、具体的な戦略の仮設を立てることができる。 没入型デイスプレイを情報可視化に活用することで、閲覧しているユーザは自分事として捉えながら、企業間取引ネットワークを探索し、分析することがきる。これはユーザ自身がその場に立っているかのような感覚になるためであると推測される。また複数人で画面を囲み、Liquid Galaxyを操作しながらディスカッションを行うことで、ユーザが考えた分析結果をディスカッションしているその場で他のユーザに共有することができる。したがって、ディスカッションで没入型ディスプレイによるジオビジュアライゼーションコンテンツを用いることで、会議体の質やスピードを向上することが可能となる。 ## 4. おわりに 本稿では、信用調査報告書のデータを企業ビッグデータとしてアーカイブ化し、企業間取引ネットワー クの可視化手法を紹介した。詳細な可視化手法などについては、既発表論文 ${ }^{[4,5]}$ を参照されたい。 本研究の意義は大規模な取引クラス夕内のエッジ数の変化を把握し、時系列での取引構造の変化のメカニズムを発見したことである。これにより特定の企業を中心とした企業間取引ネットワークの構造的特徴を可視化から把握することができ、自治体や企業の施策立案においてデー夕に基づいた意思決定を支援することが可能になる。 ## 註$\cdot$参考文献 [1] Tim Dwyer, Seok-Hee Hong, Dirk Koschützki, Falk Schreiber, Kai Xu: "Visual analysis of network centralities.", In Proceedings of the 2006 Asia-Pacific Symposium on Information Visualization, Vol. 60, 2006, p.189-197. [2] 伏見卓恭, 斉藤和巳, 郷古浩道:“Zスコアを用いた階層性を有するカテゴリ間関係の効果的可視化法”, 情報処理学会論文誌, Vol. 7, No. 2, 2014, p.93-103. [3] Rahul C. Basole: "Topological analysis and visualization of interfirm collaboration networks in the electronics industry", Decision Support Systems, Vol. 83, 2016, p.22-31. [4] 有本昂平, 渡邊英徳:“デジタルアースを用いた階層を有す る自動車産業における取引構造のビジュアライゼーション”, 映像情報メディア学会誌, Vol. 70, No. 4, 2016, p.J88-J93. [5] 有本昂平、渡邊英徳:“階層を有する取引クラスタの時系列でのジオビジュアライゼーション”, デジタルアーカイブ学会誌, Vol. 2, No. 1, 2018, p.2-7. [6] Analytical Graphics, Inc.: "Cesium.js". URL: https://cesiumjs.org/ [参照 2019-04-09] [7] Oh-Hyun Kwon, Kyungwon Lee, Kwan-Liu Ma:"A study of layout, rendering, and interaction methods for immersive graph visualization", IEEE transactions on visualization and computer graphics, Vol. 22, No. 7, 2016, p.1802-1815.
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# 沖縄の8mmフィルム地域映像デジ タル配信とコミュニティでの利活用 Digital Distribution of $8 \mathrm{~mm$ films created in Okinawa and their application in the community } 真喜屋 力 MAKIYA Tsutomu } 沖縄アーカイブ研究所 抄録:沖縄アーカイブ研究所では、沖縄県内の市井の人々の所有する $8 \mathrm{~mm}$ フィルムを収集、保存、公開する事業を行っている。 2 年間で 83 時間分の映像を収集し、CC-BYによって公開している。さらに、インターネットでの配信を始め、上映会、テレビ番組、 アートなどとのコラボを積極的に展開し、認知度を高めると同時に新たな収集活動などに取り組んでいる。これまでの 2 年間の活動を振り返り、 $8 \mathrm{~mm}$ フィルムの持つ資料としての重要性を改めて確認できたこと、フィルムのアーカイブ化を上映会や放送につな げることでその映像のメタデータをより豊かなものにし、新たな映像の発掘・収集に繋がってきたことを報告する。 Abstract: The Okinawa Archive Research Institute has been collecting $8 \mathrm{~mm}$ films owned by citizens of Okinawa Prefecture, preserving and making them publicly available. In these 2 years, we have collected 83 hours of videos and made them available in CC-BY. In addition to web delivery, we have been actively developing collaborations through screenings, television programs, art events, etc., to increase awareness and work on new collecting activities. Looking back on activities over the past two years, I was able to confirm the importance of the $8 \mathrm{~mm}$ film as historical assets, and through the screening events and broadcasting of archived films, we could successfully enrich metadata of such video contents and extend the collecting activities for new videos. キーワード $: 8$ $8 、 8 \mathrm{~mm}$ 、沖縄、インターネット、デジタル・アーカイブ、CC-BY、クリエイテイブ・コモンズ、権利許諾 Keywords: $8 \mathrm{~mm}$ movies, Okinawa, internet, digital archive CC-BY, Creative Commons, Permission ## 1. はじめに 沖縄県内には戦前から映画を製作する文化はあった。しかし、戦前の映像のほとんどは戦火で焼け、県外、国外に流出した映像などがわずかに残っているだけである。 しかし、戦後、少なくとも 1950 年ごろには、アメリカ軍関係者、あるいはアメリカ軍関係者と交流のある富裕層の中から、 $8 \mathrm{~mm}$ カメラに触れる人々が現れた。以後 70 年をピークに、 80 年代まで、多くのフィルムが回され、報道記録が撮影しなかった $8 \mathrm{~mm}$ ならではの生活の記録が残されている。 しかし、これまで沖縄県内、特に公のアーカイブでは、組織的かつ計画的な収集活動が行われた様子はない。筆者たちはいくつかの貴重な瞬間を収めたフィルムを見るうちに、公のアーカイブができないなら、民間の手でやることにした。もっと言うと、「自分たちがやろう」と思ったのだ。 そこで 2 年前から $8 \mathrm{~mm}$ フィルムの収集とデジタル化、そして利活用を実際に行ってきた。ここにその活動の概要を、簡単にまとめる。 ## 2. 沖縄の $8 \mathrm{~mm$ フィルム} 2.1 収集状況 インターネット、マスコミなどを利用して、収集を抗こなった。結果、沖縄県内 $8 \mathrm{~mm}$ フィルムは、2016 年の9月から 2018 の 8 月までの 2 年の収集期間で以下の映像が集まった。 (2018 年 8 月 31 日現在の状況) おそらくデジタル化していないフィルムの総時間を入れれば、100 時間近い映像が収集できている。 ## 2.2 提供者 $8 \mathrm{~mm}$ 提供者の職業を見ると、わずかなサンプルではあるが、時代との整合性が見られる様に思われる。 1950 年代に $8 \mathrm{~mm}$ を始めた人々は 3 人。職業は米軍関連の高圧線送電技師。彼は階級的には将校待遇であっ た。また戦前からの由緒ある出版社の社長。そしてハワイ移民で成功した人物。一見バラバラだが、ハイクラスの生活環境にいた人物であり、撮影された映像にも米国人との仕事や、交流の様子などが映っている。 1960 年代は、写真館経営者、時計屋、質屋など、高級な商品を扱う民間の小売店経営者が、次々と $8 \mathrm{~mm}$ を手にしている。復帰前、ドル時代の沖縄で成功した人々の姿が見えてくる。また映画的な編集。見せることを意識した作品が多く作られていたのも、この時期から撮影を始めた人に多い。 1970 年代、と言うよりは 1972 年の復帰後は $8 \mathrm{~mm}$ オーナーの幅は多様になる。撮影されたものも、レジャーや海洋博などイベントが圧倒的に多い。身近な被写体の映像がほとんどで、作品というこだわりはあまり感じられないのも特徵である。 ## 2.3 映像の内容 映像の内容は千差万別だが、一貫して映し出されるのは撮影者の家族。とりわけ子供たちの成長記録が多い。その一方で、祭や、時代のトピックとなるイベント、あるいは地域の文化的な記録を、家族と関係なく撮影している映像も存在する。アマチュアとはいえ、記録者として後世に映像を残す気概を持って撮影していることが伝わってくる。またそのように意識的に残された記録映像は、早い時代ほど多い。 以下に作品としてまとめられた貴重な映像作品例をあげる。 図1イルカの大陸・赥海(1960~1963年)撮影者: 屋冨祖正弘 図1は今はなくなってしまった名護湾のイルカの追迄み漁の記録。3 年間取りためた映像を編集し、やや文明批評めいた演出など作家性も顔をのぞかせる。 この映像に触れたことが、本事業の原動力になったとも言える。 図 2 はアイゼンハワー米大統領が来沖した時の歓迎パレードの映像である。オフィシャルの $16 \mathrm{~mm}$ フィルムも現存するが、 $8 \mathrm{~mm}$ はカラー映像である。 図2 アイク来沖(1960年)撮影者: 遠藤保雄 図 3 はニュース映像ではあまり見ない式典会場の外の様子が、アマチュア目線で記録されている。機動隊やデモ隊、そのぶつかる様子は小規模だが生々しい。また雨天のため階上から出てきた来賓たちが雨宿りをしながら車を待つ姿を至近距離で撮影しているのもユニーク。 図3日本復帰沖縄県発足式(1972年)撮影者 : 大城隆盛 ## 3. デジタル化 ## 3.1 フィルムからデジタルへ 収集されたフィルムは、すべてデジタル化を行った。 もち万ん、全てのフィルムをデジタル化することを “ちゃんと”すると、たいへんな経費がかかるため、私たちは“ちゃんとする”ことはやめた。 幸い私たちがフィルムの収集を始めるタイミングに、 スーパーダビング 8 という $8 \mathrm{~mm}$ フィルム用のデジタルスキャナーが発売されたので、これを利用した。 この機材は 1 コマ 1 フレームの静止画像でクリアな映像を記録できる。取り达み速度が再生速度の 10 倍と遅いので、フィルムへの負担が軽いというのが利点。 ただし取り込みの画角が狭いなど、欠点も多く。映 像業界筋では安かろう、悪かろうと言った評判も聞こえてくる機材である。 確かにフィルムをデジタルに置き換えるという主旨では、話にならないレベルだが、私たちは「デジタルによるサムネイル動画作り」という方向性のもとに、画質はともかく、集まった全ての映像をデジタル化によって見える形にすることにした。 どのフィルムにどの映像が含まれているかという情報さえ記録できれば、予算がついた時点で、ピンポイントでも高解像度なデジタル化が可能だ。それから $8 \mathrm{~mm}$ フィルムの保存のための、メタデータの収集を行った。 またサムネイルとはいえ、 $8 \mathrm{~mm}$ フィルムに記録された内容によっては、多少の画質の荒れよりも、その希少価値のほうが上回ることの方が多い。そのままの状態でネット配信はもち万ん、上映会、テレビ放送の資料映像として使うことは、不可能ではない。 ## 4. 権利処理に関して ## 4.1 CC-BYによるオープン化 一般家庭の $8 \mathrm{~mm}$ フィルムを収集する際に、私たちはこの映像を「公的な文化資源」として扱うことを前提に「無償で利用させていただ」という許諾をもらった。 よって私たちは、この動画データを無償で配布せねばいけないが、一方でオープンソースとして公開することにより、この $8 \mathrm{~mm}$ 映像の商用利用も可能になる。 これは無償でもらった素材を、既得権益のように販売したくないと言う道義上の問題もあるが、オープン化によって利活用が広がることが、結果的に利があると考えているからだ。 私たちは収益事業として、調查報告とあわせた上映会や、ワークショップのカリキュラムなど、自身の試行錯誤から生まれた二次創作を売っていく。その方が、独占的な販売よりもクリエイティブなものになる。 もちろんオープンな状態なので、この二次創作を行う権利、および商用利用の権利は、大勢の人々が共有していることになる。それが様々なアイデイアを呼び迄み、利活用を促進、 $8 \mathrm{~mm}$ フィルムの認知度と価値の上昇、収集範囲の拡大、多様な利活用が生まれる、という好循環を期待できるだ万う。そのような理由で、アーカイブの商用利用の許諾は、非常に効果的な手段と感じている。 ## 5. インターネットによるアーカイブ 5.1 デジタル・アーカイブ公開の現状 デジタル化した動画データは、自前のブログ『沖縄アーカイブ研究所で、デジタル・アーカイブとして公開している。[1] とにかく集めた映像を片っ端からアップすることもできるが、ある程度調査した上で、その情報とともに順次公開していく方針である。現在の公開本数はけして多くないが、年度内に全体のカタログだけでも広く公開したいと作業を進めている。 ## 5.2 ネット公開の意味 インターネット上にアーカイブを置く一番の意味は、 デジタル化によって拡散していく映像の、元々の情報を保存し、本来の意味を担保することだと考える。 CC BYによって動画なり、情報が広がることは、編集などの改変によって、事実とは違うイメージとして利用されることも、今後は出てくると予想される。 これを管理することは、どんなにハードルをあげても不可能。私たちにできることは、この映像が本来どういうもので、どういう意図で撮影されたかという、正しい情報を確認するための情報を公開し続けることである。まさに、Web 上デジタル・アーカイブの役割として、一番に考えるべきものだろう。 ## 6. ネット以外の利活用 6.1 図書館上映ツァー 今年度、沖縄の公共図書館連絡協議会(公図連)との共催で図書館上映ツアーを行っている。会場は全部で11ヶ所。図書館は地域情報収集・公開の拠点でもあり、私たちの活動とも親和性の高い施設である。また各市町村に存在していると言うのも重要な要素である。 あわせて貸館料がかからず、上映機材等も用意できるため、こちらは動画デー夕を持ち边むだけですみ、当日の負担は非常に軽微なものになる。 ただ上映に関しては、ご当地の映像を多めにすると言う内容なため、会場ごとの編集を行う手間はある。実際の上映は 10 分程度にまとめたものを複数用意して、そのパッケージを組み合わせての上映になる。音声がないので、スタッフが解説をしながら観客に見てもらうことになる。上映の途中で映像を止め、観客からの声を聞いたりすること重要で、これによって正体不明の $8 \mathrm{~mm}$ 映像のメタデータの多くを収集することができ、同時に上映会場も盛り上がる。結果として、上映を重ねるたびに、映像の資料価値が増していくと言うことにもなる。 また上映会場に新たに $8 \mathrm{~mm}$ フィルムが届けられると言う事例もあった。 ## 6.2 テレビでのレギュラー放送 地元の民放局・沖縄テレビ放送のニュース番組において、 $8 \mathrm{~mm}$ 映像を紹介するレギュラーコーナーが、月一で放送されている。すでに 1 年半続く人気コー ナーになり、スピンオフ的にスポンサー付きの番組も生まれた。 このことで、活動の認知度も上がり、フィルム収集がやりやすくなり、 $8 \mathrm{~mm}$ 映画という文化を若い世代にも認識してもらう良い機会となっている。 ## 6.3 資料映像としての提供 他のアーカイブ、または地域イベントの展示映像としての利用も行っている。以前はこちらから、この様な資料があると提案する形だったが、最近は「こういう映像はありますか?」との問い合わせも増えてきている。 素材提供は無償だか、編集や解説などの仕事が発生することもあり、事業の継続に役立っている。 ## 6.4 アート作品とのコラボ $8 \mathrm{~mm}$ を自作のアート作品に取り达んだり、音楽ライブの背景映像など、コラボレーション型の利活用も出てきている。本来の用途から広がった利用は、ともすればイノベーション的な展開も起こりうることであり、こちらとしてもプロデュース的な関わり方をして、事例を積み上げていくような仕掛けも行っている。 ## 6.5 その他の利活用 $8 \mathrm{~mm}$ フィルムを動画としてでなく、スチルとして資料化することも進めている。特にパンショットなどを、連続写真として取り込み、パソコン上でつなぐことによってパノラマ写真を作ることできる。狭い画面で見るよりも空間的に被写体を把握しやすく、撮影地の調査はもち万ん、歴史的な資料としても展示、出版などで使用できると素材となりうるだろう。 ## 7. 沖縄のデジタルアーカイブに足りないもの 今年度に入って、沖縄県が 2012 年に 5,000 万円を投じて製作した『沖縄平和学習デジタルアーカイブ』 が突然閉鎖された。 閉鎖した理由は「低コストでアクセスをあげる手法が見つからず、予算の折り合いがつかなかった」ことが理由のようだ。しかし最初の段階で、どれほど利活用のための、ワークショップなどの予算が組まれていたのかは定かではない。用意して宣伝するだけでは、 しだいに飽きられていくのは当然である。これもトライ\&エラーの一つと思えば納得もできるが、沖縄県は過去にも「Wonder 沖縄」という大失敗をしているだけに、まったく并護のしようがない。ある意味、デジタル時代のハコモノ行政として、今後も定着しかねない事例だろう。 既存のアーカイブ施設が運営するデジタルアーカイブは、着実にノウハウを持ちながら存続と進化を続けているが、逆に付属施設的な位置づけの為、そこから何か能動的なものはあまり感じられない。ただし、これは施設のプライオリティもあるので理解はできる。 これまで 2 年近く、 $8 \mathrm{~mm}$ 映画のデジタルアーカイブに取り組んでいく中で自覚してきたのは、私たちが活動するうえで最も重要なことは、行政や、既存のデジタルアーカイブが苦手としている、利活用の仕組みを作ることだと自覚してきた。筆者の前職が映画館のデイレクターだったこともある。つまり「見てもらってナンボ」という価値観を持った興行師でもある。 アーカイブは社会にとって重要なツールで、それを支えるのがアーキビストである。しかし、どんなに立派なツールを持っていても、それが何も生み出せなければ意味がない。何を生み出したかを測るのはアクセス数ではないことは明らかだ。そうであれば、アーカイブ、そしてアーキビストをも社会のツールとして利用できる興行師は、デジタルアーカイブの発展に重要な意味を持っていると考えている。 ## 8. おわりに 知的財産を社会が有効に使っていくために、デジタルアーカイブは重要なツールだが、立派なツールを手に入れたなら、それで何ができるかが大きな問題であろう。利活用とはコンテンツを説明するといったようなシンプルな手段だけではない。我々は上映会や、様々なコラボを通して、あらゆる可能性を模索していく。現場ではメタデータ以外にも新たな情報やアイディアも生まれてくる。時には戦前の $35 \mathrm{~mm}$ フィルムや、テレビ局が廃棄した $16 \mathrm{~mm}$ ネガなどが発見される事例も出てきた。これからも軸足をややアナログにおきつつ、良きツールをデジタルで開発するというスタンスを突き進めていきたい。 (註・参考文献) [1] 沖縄アーカイブ研究所 http://okinawa-archives-labo.com (参照 2018-10-31) [2] 沖縄タイムス 2018年8月2日
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# 歴史継承を目的としだ゙アーチャルリ アリティコンテンツの製作 Production of virtual reality contents aimed at inheriting history 長公川 勝志 HASEGAWA Katsushi } 広島県立福山工業高等学校電子機械科 抄録:歴史継承の新しい方法として最新技術であるヴァーチャルリアリティを活用したコンテンツ製作を行ってきた。仮想空間で はコンピュータグラフィックスとプログラミングによりどのような世界も作り出すことができる。私たちはこの技術を活用し原爆投下前後の広島を復元した。1945 年 8 月 6 日、あの日の体験が可能なこのコンテンツはモダンな建物が立ち並ぶどこか懐かしい街並みから投下後の焼け野原まで、地獄と化した広島の疑似体験が可能である。遠い日の出来事を体験を通し身近に感じることがで きるこのコンテンツは新らたな平和継承の手法として有用であると考える。 Abstract: As a new way of inheriting history, we have made contents making use of the latest technology, virtual reality.In virtual space you can create any world with computer graphics and programming. We utilized this technology and restored Hiroshima before and after atomic bombing. On August 6, 1945, this content that can be experienced on that day is a simulated experience of Hiroshima that turned into a hell, from somewhere where modern buildings stand side by side, to the burning field after being thrown away. I think that this content that can feel close to the events of a distant day through experiences is useful as a new method of peace inheritance. キーワード:広島、原爆、被爆前、被爆後、ヴァーチャルリアリティ、コンピュータグラフィックス Keywords: CG, VR, Hiroshima, Atomic bomb, Before the atom bombing, After the atom bombing ## 1. はじめに 私たちが VR 爆心地の制作を始めたのは被爆者の 「暗闇の中を逃げた」この一言が全てだったような気がする。夏の強い日差しの朝、なぜ被爆後は暗かったのか。今と変わらない「当たり前の日常」が一瞬のうちに生き地獄と化した経験はどのようなものだったのか。それらが明らかになれば私たちの活動の「継承」 も違ったものになるかもしれない。様々な思いで 2 年かけ爆心地近辺を VRで復元してきた。その過程を寄稿したい。 ## 2. 継承活動について 私たちは被爆前後の広島をコンピュータグラフィックス(以下 CG)で映像化し続けて 10 ケ所を復元、今年で 10 年目になる。原爆投下日を知らない子どもたちが増えてくる中、決して忘れてはいけない出来事をどのように継承していくか。試行錯誤の日々だった。 4 年前にはモーションキャプチャを導入し被爆者の証言とともに当時の動作をデジタル化(図 3・図 8) し復元 CGに活用し始めた。 図1復元CG 相生橋から産業奨励館(原爆ドーム) 図2 復元CG 水主町にあった広島県庁(現加古町) 図3被爆者の方にモーションキャプチャをセットアップ 図4復元CG 被爆後の中国軍管区司令部内 図5復元CG 爆心地から約2kmの被爆前の御幸橋 ## 3. VR爆心地 ## 3.1 制作過程 私たちは制作にあたり被爆前、被爆の瞬間、被爆後の 3 部に当時を分け調査を行った。それに基づき体験型コンテンツ制作に活かすことにした。 ## 3.1.1 第1部被爆前 原爆投下数日前に米軍による広島の航空写真をべー スに正確な位置や建物の大きさなどを割り出した。 建物の詳細については当時のポストカードなどを元にしたが一部の有名な建造物しかないためそれ以外は被爆者の証言などを元にした。以前平和資料館で被爆前の爆心地のイラスト展を開催した記事をネットで見つけた。それらは非常に詳細で驚きと感動で震えたのを覚えている。作者の住所を調べ連絡したところ快く 図6 復元CG 被爆後の御幸橋 図7 復元CG 御幸橋(製作中の画面から) 図8 復元CG 御幸橋(製作中の画面から) 図9爆心地近辺のイラスト図(森富茂雄さん作) イラスト(図 9)を見せていただいた。不明なところはそれらのイラストや当時の住民の聞き取りなどから大部分が明らかになってきた。 図 10 の画像左端にある白色の 2 階建てが爆心地の島病院で画像右端にあるつねとも寝具店が森富さんの家族のお店。この近辺で遊びまわった懐かしい思い出とともに街並みの検証をしていただいた。 ## 3.1.2 第2部被爆の瞬間 コンテンツでは原爆の炸裂から 2 秒後には真っ白の画面が黒く変わり焼け野原と化している。この時間は速いのかそれとも遅いのか、被爆後の広島を制作する前段階として壊滅に要する時間を知るため炸裂の瞬間を調べる必要があった。 半径 $4 \mathrm{~km}$ の広島が壊滅するのに要した時間はわずか 10 秒、炸裂の瞬間から壊滅までのプロセスはとてもすさまじく想像を超える威力があった。直下の建物はゼロコンマの世界で壊滅し、火球による衝撃波の威力・スピードのすさまじさは私たちの想像をはるかに超えるものであった。 図10 イラストを元に復元したVR爆心地 (細工町郵便局前近辺) 図11VR爆心地産業奨励館(原爆ドーム) 図12VR爆心地猿楽町と細工町の交差 それら様々な案件を加味し考えた結果、閃光から暗闇までの時間 2 秒というのはほぼ的確でないかと考える。 ## 3.1.3 第3部被爆後 被爆者の手記を調べていると「暗闇だった」「手探りだった」等直後の広島が暗かったことを裏付ける証言がいくつかあつた。朝の時間帯、雲一つない晴天の明るさの中どうすれば暗闇になるのか、被爆直後を調べる必要があり、まずは被爆者の手記を 450 人分調査した。暗闇は半径 $0.8 \mathrm{~km}$ から $1 \mathrm{~km}$ くらいの広さで、空からは巻き上げられた瓦礫や板など様々なものが降り注いでいた。急激に発生し膨張した火球は強烈な衝撃波を生み出し真空状態となった爆心地には周囲から膨大な空気が入り込み空中へと抜けていった。また、火災による上昇気流も手伝い地上の瓦礫などが巻き上げられ煙やほこりなどと一緒に日差しを遮った。 図13VR爆心地爆心直下(島病院内庭) 図14VR爆心地被爆直後の奨励館(原爆ドーム) 図15VR爆心地猿楽町から奨励館を望む 20 分後くらいからそれらが雨や放射能と混ざり黒い雨となり人々に降り注いだ。 ## 4. コンテンツについて 原爆の恐ろしさは被爆前後を対象としてみないと伝わりにくい。等様々な意見をまとめあの日の朝 7:00~8: 20 までをコンテンツとして製作することにした。 体験開始 1 分後警戒警報が聞こえてくる(当時は 7 : 09)その 2 分 30 秒後エノラゲイが飛来・投下・さく裂、暗闇の焼け野原は 1 分弱とし計 5 分間の体験コンテンツとした。 あの日の約 1 時間を 5 分に短縮したのはこれより短いとあわただしく、長いと 1 日の体験者の数が少なくなる。複数人が同時にできないというVRの欠点を補うにはこの時間が一番いいように思える。 ## 5. VR爆心地の今後について 現在イベントで活用しているものはラフモデルである。被爆者の高齢化が進む中話が聞けない状況が増えてきた。 時間との闘いのためまずはラフモデルを製作し検証作業に使用する。その後、修正部分を含めさらに細かく作っていく予定である。現在は大部分が完成し爆心直下の島病院 ・産業奨励館・郵便局・大正呉服店など建物の中にも入れるようにした。また、元安川で泳いでいた証言がとても多く川の中にも入れるようにした。 このディテール版は 2020 年夏完成予定でこれが VR 爆心地の最終版となる。 一から作っているため時間はかかるが予定通り何とか完成させたい。不安材料としてはこだわりながら作っているため軽快に動作するのかどうか。パソコンのスペックをさらに高めたものでないと難しいような気がする。 ラフモデル・ディテールモデル共に人は登場しない。被爆前の広島を散策している中その後どうなるか私たちは知っている。いわゆる覚悟ができた状態で体験しても当時の人たちに思いを馳せることはできない。スタートから不安な状況で体験してもらうためあえて人は登場させないことにした。また、人工物、動物なども動作させない。しかし、木が摇れる。川が流れる。雲が流れるなど自然な動きは動作をさせている。自分一人が町の中に立つ不自然さ。体験者の意見では不安になるそうである。 私たちは「当たり前の日常や生活」を描きたかった。突然奪われる不合理さを表現したかった。人を登場させないということは生活を描くことではかなりマイナ スとなった。コンテンツ制作は難航を極めた。人を描かずどのように生活感を描くのか。試行錯誤の末私たちは経年劣化をしっかりと作り出すことにした。 モデルに 360 度全方向から光を当て届きにくい部分などには污れを描き埃をためた。金属などは錆を描き柱などには傷を入れるなど日常生活でつくであろう污れ痛みなど丁寧に描きこんだ。それだけ手を入れるためにはラフバージョンの改造では不可能なため結局新たに制作をするしかなかった。それらのこだわりは体験中決してわかる部分ではない。しかし、それらのおかげでどこか懐かしい街並みができたのも事実である。 図16 ラフモデル島病院 図17 ディテール版島病院 図18 ディテール版本通り ## 6. おわりに 各地へ講演やイベントに呼ばれ、VR 爆心地の体験者も今では 1,500 名を超え新たな継承ツールとして役立っている。VRには言葉が必要ないため言語の壁を越え海外の方にも多く利用されるようになった。 国家を、年代を、様々なものが超越できるVRはアイデア次第で教育に活かせる強力なツールだと思っている。 私たちはその他に呉で建造された「大和」・日明貿易に使用された船「遣明船」$\cdot$「福山城」等広島県内の 図19VR戦艦大和歴史継承に役立てるよう様々なコンテンツを作り各地でイベントを行ってきた。歴史建造物に興味を持っていなかった人や若い世代の人にまでVR ということで興味を持ってもらうことができ幅広く体験していたたくことができた。 取り掛かりは VRでも、やがて歴史に興味を持ってもらえるかもしれない。アプローチ方法をさまざまに変えながら、また新しいアイデアを盛り込みながらこれからも様々な物をVRで製作し強力なツールとして活用していきたい。 図20VR戦艦大和
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# データ可視化を通してみる図書館 Seeing libraries through data visualization $ \begin{gathered} \text { ブラン スティーベン } \\ \text { BRAUN Steven } \end{gathered} $ Data Analytics and Visualization Specialist, Northeastern University Library 抄録:図書館は,物理的・デジタルの書庫としてのみならず,さらに別の役割を果たすアーカイブズとしても機能している。すな わち,蔵書,利用者の行動,そしてそれらに関わるすべてのデータのアーカイブズである。しかし,この機能は,図書館自身と利用者の双方からしばしば見過ごされている。こうしたデータ・アーカイブズの可視化は, 教育・研究の両面において,コミュニケー ション, 分析, 教育のための媒体として利用可能であり,教育と学習における図書館の役割を再考するための,新しい枠組みを提供する。本稿では,ノースイースタン大学図書館において作成された視覚化プロジェクトをケーススタディとして, 図書館におけ るデータ視覚化の活用について報告する。そしてこれらのプロジェクトが,教育・研究における図書館の機能を再文脈化するため に, どのように活用されてきたのかについて議論する。 Abstract: Beyond their physical and digital collections, libraries function as archives in another sense -- archives of data about their collections, the behaviors of their users, and everything in between. However, these other capacities are often overlooked by libraries and patrons alike. As a communicative, analytical, and pedagogical medium, data visualization can be leveraged to surface this archival richness in both scholarly research and teaching, offering new frames in which to consider the library's role in teaching and learning. This article examines the use of data visualization in libraries through a case study of several visualization projects created in the Northeastern University Library, along the way discussing how such projects have been used to recontextualize the library's function in scholarly research and pedagogy. キーワード : 図書館、データ可視化・ビジュアリゼーション、アーカイブ、教育学、学術研究 Keywords: libraries, data visualization, archives, pedagogy, research ## 1. データ可視化を通してみる図書館 ## 1.1 破壊的なイコライザーとしての可視化と図書館近年、情報可視化への関心が爆発的に高まっており、私たちを取り巻く世界を定量化し、美しく・興味をそ そるやり方で視覚的に伝えるための、専門家・初心者向けのプロダクト・ツール・リソースが急増してい る。そのアプローチが横断領域的、かつ学際的になり つつある中で、可視化は、芸術・人文科学・社会科学・自然科学を分けていた壁を打破するために、大き な進歩を遂げている。現在の創造的なメイカー・カル チャーにおいて、情報の可視化は、デザイン・データ 科学・心理学・哲学・神経科学、そして数えきれない 他の分野のパラダイムと知識を混ぜ合わせ、技術と分野をイコライズするための、重要な触媒となっている。誰もが、背景や専門的な訓練の有無に関わらず、適切 なツールの利用によって、説得力のあるストーリーを、 データから引き出すことができるようになっている。 このことを踏まえれば、異なるイコライゼーションの分野、すなわち「図書館」において、データ可視化が強力な存在感を持つようになってきていることは、 それほど驚くべきことではない。創造的なメイカー・ カルチャーにおいて、図書館は、バリアフリーな情報 へのアクセスを運用し、情報リテラシーを推し進める機関として、ますます破壊的な力となりつつあり、 データ可視化は、その欠かせない手段である。多数の学術機関の図書館は、教育・研究におけるデー夕可視化をサポートするためのスタッフを採用し、データの収集 - 整理 - 分析 - 可視化 ・最終的な解釈にいたる工程全体においてサービスを拡大している。ユーザ体験を向上させるために、可視化を用いている図書館の例も数多い。たとえば、ニューヨーク公共図書館 (NYPL)研究所は、ユーザのデジタルコレクション探索を容易にするために、可視化を用いている ${ }^{[1]}$ 。また、ハー バード美術館は、コレクションの内容を分析し、表現するために可視化を用いている ${ }^{[2]}$ 。さらに、Immersive Scholar Grant ${ }^{[3]}$ や Visualizing the Future Symposium ${ }^{[4]}$ のような、公的な助成金による可視化の取り組みは、図書館が可視化の研究と教育を先導するために、主導的な役割を果たしつつあることを示す。こうした事例には、情報リテラシーへの強い関心 ${ }^{[5]}$ がみられ、情報可視化の重要性が増していることは、図書館において当然のことながら認識されている、その結果、学術的 - 専門的 - 創作的な可視化についての、数多くの活動が生まれている。 しかし、こうした破壊的イノベーターとしての役割以外にも、図書館は従来の意味における公式・非公式なデータのアーカイブとしても機能している。図書館に収蔵されている典型的なアーカイブや特別なコレクション以外にも、図書館のリソース・利用者、そして図書館自身にまつわる、非公式のデータのアーカイブもしばしば存在する。こうしたデータを表現・分析・伝達するために、可視化を活用できる。こうした傾向は、アメリカのボストンに所在するノースイースタン大学において、学生・教職員・スタッフのためのデー 夕可視化をサポートするサービスを通して明らかになっている。筆者は同大学において、データ分析・可視化の専門家として、データ可視化と教育・研究の統合を容易にするためのサービス構築を担当している。 さらに、図書館のデータコレクションとユーザ行動についてのデータの可視化によって、図書館のユーザ体験を向上させることを試みてきた。その結果、可視化は、サービス提供のあり方についてコミュニケートするための強力な媒体となり、図書館と利用者の新しい関わりかたを引き寄せるサービス・ポイントに変わってきている。 本稿では、ノースイースタン大学に打ける可視化の事例を通して、図書館におけるデータの可視化の役割 について説明する。図書館のサービス・リソースに関するデータを活用した可視化プロジェクトの例を紹介しながら、教育・研究に打ける図書館の役割を強化・強調できる、可視化の多種多様な能力について探って $い<。$ ## 2. 可視化と図書館のデータ 図書館は、データの管理・キュレーション・運用におけるさまざまな役割を果たしている。情報リソースのデータベースへの公的アクセスを容易にするという図書館の社会的責任はますます高まっているため、 データ運用の能力は特に重要なものである。可視化は、 このデータ運用において重要な役割を果たし、利用者が図書館を通してアクセスするデータについて、別のエントリポイントと、コミュニケーションの手段を提供する。以下の例では、このデー夕運用の役割について説明し、デー夕運用を容易にするコミュニケーションの媒体として、可視化がどのように機能することができるのかについて示す。 ## 2.1 入退館データの可視化 ノースイースタン大学の学生は、メイン図書館であるスネル図書館に入館する際、学生証をスワイプする 図1「IN / EFFLUX」のスクリーンショット 必要がある。その結果、誰がいつ図書館に入館したのか・いつ、どの学術プログラムに参加したのか・利用者は学部生なのか大学院生なのか、といったデータが収集されている。その結果、利用者が図書館をどのように利用しているかについて網羅した、膨大なデータベースがつくられている。このデータベースから、図書館の利用をサポートするサービスの設計方法についての、新たな気づきを得ることができる。 図書館における「IN / EFFLUX」プロジェクト(図1) では、このデータベースに潜在している、利用者の興味深い行動を説明するために、可視化を用いている ${ }^{[6}$ 。 この可視化では、2015 年度の利用者入退館データセットにおけるカードのスワイプ履歴が、極座標によって示されている。円周を分割して日付が表示されており、 さらに各々の日付は、 24 時間ごとのセグメントに分割されている。円は各時間における、図書館への入館者数を表している。大きい円は、より入館者数が多いことを、小さい円は入館者数が少ないことを示す。その結果、学年暦のリズムにともなうトラフィックの増減が時間軸に沿って表現されており、利用者の入退館の自然な流れをつかむことができる。 この可視化の結果は、図書館で 2016 年に展示された。利用者はこの可視化に関わり、データセットにおける、驚くべき、予期しない結果を見いだした。このプロジェクトの目的は、図書館を生きた呼吸するエコ システムとして描写することであり、その動作は、利用者の入退館によって駆動されていた。この過程において、可視化の鑑賞者は、本の静的な集まりとしての概念を超えた、あらたな枠組みとして図書館について考えるように促された。 ## 2.2 カタログ検索履歴の可視化 利用者は、さまざまな方法で図書館と関わる。基本的には、前節で説明したプロジェクトのように、学習場所の集まり、共同作業のためのテクノロジー、実際の書棚など、図書館の物理的な空間を構成する要素と関わっている。しかしながら、利用形態は物理的な空間に限られず、デジタル空間にも拡がっている。利用者は、図書館のデジタルコレクションとカタログを用いて、研究と教育に必要な資料を見つけている。ノー スイースタン大学の図書館は、こうしたデジタル利用に関するデータも収集している。 可視化は、図書館のデジタル空間と、視覚的にインタラクションするための媒体としても利用することができる。図書館向けに開発された「A City of Searches at Club Snell」(図 2) プロジェクトにおいては、カ夕ログの検索に使用された用語のデータセットを用いて、可視化を行なった ${ }^{[7]}$ 。この可視化においては、 2017-2018 年度において、カタログの検索において入力されたすべての検索語が、活気に満ちた大都市をイメージして表現されている。この都市における建物は、 図2「A City of Searches at Club Snell」のスクリーンショット は、検索された回数に比例している。大きな建物は検索頻度が高いことを、小さい建物は検索頻度が低いことを示している。同じ色の屋根の建物は、同一のキー ワードを共有する検索語クラスタを表す。例えばピンク色の屋根の建物はすべて、キーワード “journal”を共有する検索語を示している。この可視化は、カタログの検索履歷の上位 20 位までのキーワードについて、最も多く検索されたフレーズを示している。 この可視化の結果は、2018 年に図書館で展示され、利用者がカタログをどう利用し、どのように必要な情報リソースを検索しているのかについて、多くの興味深い知見を提供した。例えば、使用頻度が最も高いキーワードは「journal」であり、使用頻度が最も高いフレーズは「gang health outcomes」であることがわかる。これらは、利用者の検索における習慣と、特定の研究課題に関してよく用いられる検索用語が反映されたものである。この可視化は、グラフィカルな図形と視覚的メタファーによってユーザの検索行動を楽しく表現し、利用者自身に自らの行動を振り返り、図書館との基本サービスとの典型的な関わり方について、改めて考え直すための機会を提供している。 ## 2.3 作品批評のデータの可視化 前節までの例では、図書館の物理的空間・デジタル空間を、利用者がどう使っているのかについての情報を伝達する可視化について示してきた。さらに、可視化を利用することによって、図書館自身のデータコレクションに関する情報を伝達することもできる。可視化の力を活かすことによって、データコレクションはよりダイナミックになり、これまでには得られなかつたであろう、新しいかたちの利用者による探索・探査を促すことができるだろう。 「Cultures of Reception」プロジェクト(図 3)においては、ノースイースタン大学の「Women Writers Project」プロジェクトの一部である「Women Writers in review」のデータを可視化し、表現した ${ }^{[8]}$ 。「Women Writers in review」は、18 19 世紀の女性作家の作品について議論・評価した、同時代における批評文・出版案内・文学史・その他のテキストのコレクションである。このプロジェクトにおいて作成された元々のデー タセットはXML で記述されており、データセットに潜んでいる傾向をつかむ手がかりを提供するために可視化が利用された。このデータセットにおいては、 $\mathrm{x}$ 図3「Cultures of Reception」のスクリーンショット 軸に沿って時間が表現されており、水平方向にグルー プ化された円は、ある女性作家の単一の作品に対するレビュー群を表している。各円はレビュー 1 件に対応しており、その色はレビューの意見(ポジティブ・ ニュートラル・ネガティブ)を示し、同心円は同じ日付における、同じ作品についての複数のレビューがあることを示している。円のクラスターは、各々の作家による作品のクラスターに対応し、同一期間において、特定の作家が他の作家よりも(ポジティブまたはネガティブに)注目されたことを示している。 これまでのプロジェクトと同じく、この可視化は図書館において2017 年に展示された。しかしこれまでの例とは異なり、この可視化は異なる種類のインタラクション、特に利用者にとって馴染みの無かったデー タセットへの探索を促した。データセットに新たな方法でアクセスできるようになったことで、利用者は、 それまで馴染みのなかったトピックについて探索し、興味深い発見をすることができた。このように、可視化は新しい知識を促進するための媒体として活用できる。また、図書館がどのように機能し得るのか、そしてそれはどのようなコレクションを保有し得るのかについて、再考する機会を提供する。 ## 2.4 隠れたデータの可視化 本節で説明する「Atomic Narratives」(図 4)プロジェクトは、図書館のコレクションに隠されたデータを可視化するものであり、ここまでに説明したプロジェクトとは異なる意味を持つ可視化である。図書館の書棚には、ペーパーバックの小説・美術書・漫画・そして以外にも、さまざまな種類の資料が収められている。 その中でも、教科書は見落とされがちな例である。 ノースイースタン大学図書館のコレクションにおいて 図4 「Atomic Narratives」のスクリーンショット も、これは例外ではない。この図書館は、アメリカの歴史を含む広汎なテーマについての、過去から現在に至る多数の教科書を所蔵している。こうした教科書の資料は、分析のための豊富な機会を提供しており、図書館のコレクションが、単純な読書以外にも活用できることを示している。 このプロジェクトでは、図書館が所蔵している 1960 年代から現在までのアメリカの歴史教科書のコレクションを用いて、広島・長崎の原爆投下に関する、日米における歴史教科書の類似点と相違点を分析した。その成果物として、テキストと可視化を組み合わせ、ズームイン・アウト操作によってユーザによる分析を補助する、スクロール可能なストーリーテリング型のプロジェクト ${ }^{[9]}$ をンライン公開した。ユーザがスクロールしていくと、品詞・単語の属性・内容のテーマなど、いくつかの分析の形式に応じて、動的に可視化が変化するようになっている。そして最終的に、 こうした教科書が提示する規範的なストーリーについての議論で締めくくられる。そして、教科書を通して歴史と関わり合うことによって、歴史的な分析における、より批判的なアプローチが主張される。 アメリカの教科書は、図書館の中に隠れたデータの代表例であり、歴史の記憶の中におけるできごとを、私たちがどのような異なる視点で眺めてきたのかについて説明するアーカイブである。図書館の利用者は、 こうしたアーカイブにアクセスしづらく、図書館に存在することにも気づいていないかも知れない。この可視化は、新しい方法でそうしたアーカイブが持つ可能性を浮き彫りにすることによって、利用者自らが受けてきた歴史教育と、研究における図書館の役割についての認識の双方について、再考させる。 ## 3. 意思決定と分析のための可視化 可視化は、コミュニケーションそのものから分析まで、幅広い役割を果たしている。ここまでに述べてきたプロジェクトは、データと視覚的に触れて対話するためのみならず、データドリブンな意思決定と、研究の新たな方向性を拓くためにも使われてきた。例えば、「IN / EFFLUX」プロジェクトは、図書館において日々、大量のトラフィックがあるという、図書館職員と利用者にとっては周知の事実を、視覚的に実証した。この結果を考慮して、図書館の再設計プロセスにおいては、空港と同等の利用レベルと交通量を維持可能な家具調度が必要ということが主張された。この可視化は、どれだけの利用者が図書館の空間を利用しているのかについて具体的なデータに直接結び付けられているので、 その主張の妥当性を視覚的に裏付けするものだった。 同様に、「City of Searches」プロジェクトでは、研究$\cdot$指導担当の図書館員にとって有用な教育データが提供された。この可視化は、カタログの利用者の検索行動の傾向を示しており、検索の方法と習慣を垣間見せるものである。例えば、上位の検索フレーズが、キー ワード「journal」のバリエーションだったことは、多くの利用者がカタログ内を直接検索して、図書館の電子リソースにアクセスしていることが示されている。 さらにこの可視化によって、カタログの利用者は、資料のタイトルを直接検索するよりも、関連するキー ワードで検索していることも明らかになり、レファレンス担当の図書館員が、より良い検索方法を指導する際に強調すべき点も示唆された。可視化は、未知の利用者の行動を推測するためにも役立ち、情報リソースにアクセスする利用者が、自らの検索習慣について再考することを促すという意味においても有益な媒体となり得る。 前述した 2 つのプロジェクトが図書館の物理的空間・デジタル空間への、外部からの問いを表現しているのに対し、「Cultures of Reception」プロジェクトは、図書館のデータ保有のあり方についての新しいイメー ジに向けた、内面的な問いを表現しているといえる。女性作家に対する批評のデータを視覚的に表現することによって、これまでに無かったデータ分析の方法を提供することができた。例えば、時間と感情分析を視覚的に組み合わせた表現は、同時代の女性作家を受容する社会的・文化的な環境の概観について、新しい視野を提供した。加えて、可視化によって、データへのアクセスがさらに容易になった。この可視化プロジェクトは、データベースの内容を学生が探求するための新しい契機を提供し、新たな学術的探求の方向性を示唆した。 最後に、「Atomic Narratives」においては、見落とされがちな図書館の収蔵物の一つ・教科書について、新たな研究の問いを提示した。このプロジェクトは、図書館の所蔵物についての新たな活用法を示しており、図書館が持ち得る機能は、情報リソースへのアクセスを提供する以上のものであることを示唆している。このプロジェクトにおいて、利用者は、これまでに無かった方法で図書館のコレクションを探索し、その結果、研究と分析のための新しい機会が拓かれた。 ## 4. まとめ 図書館においては、新しい、エキサイティングな方法で、可視化が活用されはじめている。情報リテラシーと、利用者のユーザ体験についての関心が高まっており、可視化がもたらすものをクリエイティブに実験するための、人を惹き付ける空間が提供されている。本稿で説明した、ノースイースタン大学図書館における可視化プロジェクトは、可視化が図書館の空間において果たすことができる役割、そして、図書館が学術研究と指導において果たす役割について調查するための、有用な事例である。 データの可視化においては、探索モード・テクノロジー・分析の手法・表現の媒体など、さまざまなものが同時に機能している。可視化はこうした多能性によって、研究・教育・学習における創造の力となっている。図書館は、可視化が開いたあらたな地平における拠点として機能しており、コミュニケーション・教育のメディアとしてはたらくことが期待されている。図書館はその力を、創造的で有益な方法で活用し、可視化によって、教育・研究における図書館の役割について、あらたな理解の枠組みで眺めることを、利用者に促す。 ## 註・参考文献 [1] New York Public Library Labs. "NYPL Public Domain Visualization," http://publicdomain.nypl.org/pd-visualization/ (accessed 2019-03-30) [2] “Seeing our collections as Data." Index Magazine. Mar 7, 2014, https://www.harvardartmuseums.org/article/seeing-our-collectionsas-data (accessed 2019-03-30) [3] “Immersive Scholar," https://www.immersivescholar.org/ (accessed 2019-03-30) [4] "Visualizing the Future Symposia," https://visualizingthefuture. github.io/ (accessed 2019-03-30) [5] ACRL. "Framework for Information Literacy for Higher Education.” 2015, http://www.ala.org/acrl/standards/ilframework (accessed 2019-03-30) [6] Braun, Steven. "IN/EFFLUX," https://www.stevengbraun.com (acceced 2019-04-02) [7] Braun, Steven. "A City of Searches at Club Snell," https://www. stevengbraun.com (accessed 2019-04-02) [8] Braun, Steven. "Cultures of Reception," https://www.stevengbraun. com (accessed 2019-04-02) [9] Braun, Steven. “Atomic Narratives," https://www.stevengbraun. com/atomic-narratives/ (accessed 2019-04-02)
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# 長尾真先生の文化勲章受章をお祝い uT \author{ 黒橋禎夫 \\ KUROHASHI Sadao } 京都大学 大学院情報学研究科 教授 長尾真先生が平成 30 年度の文化動章を受章されま したこと、門下生の一人として、また情報学にかかわ るる者として心よりお祝い申し上げます。型越ながら 先生のご業績の一端をご紹介させて頂きます。 長尾真先生は京都大学教授、京都大学総長を務めら れ、京都大学退官後も独立行政法人情報通信研究機構理事長、国立国会図書館長等を歴任されました。この 間、画像および言語という情報メディアを用いた知的 な情報処理に関する研究に力を注ぎ、パターン認識、画像処理、自然言語処理、機械翻訳、電子図書館の分野において優れた研究業績を挙げられました。 パターン認識の分野では、オートマトンモデルを用 いた手書き文字の認識方式を提案し、この方式は初期 の郵便番号の自動読み取り装置に使われ、その実用的有効性を示されました。画像処理の分野では、世界に 先駆けて画像処理にフィードバック解析機構を導入し 顔画像の認識を行うとともに、リモートセンシング画像などの複雑な自然画像の解析に黒板モデルを導入す るなど、人工知能的手法による画像処理の分野を開拓 し、国際的に大きな影響を与えられました。 自然言語処理の分野では、日本語の形態素解析法、重要語抽出法、電子辞書などの研究を行い、そこで考案された様々なアルゴリズムを基にして、現在日常的 に使われている日本語ワープロや文献検索システムな ど多種多様な文書処理システムが開発されています。機械翻訳の分野では、昭和 57 年から 4 年間科学技術庁の機械翻訳プロジェクトを推進し、科学技術論文の 抄録の日英执よび英日翻訳システムを構築されまし た。また、アナロジーによる機械翻訳という新たな翻訳方式を提案され、今日この考え方を取り入れた研究開発が世界の各所で行われています。 さらに、パターン認識、画像処理、自然言語処理、機械翻訳研究で得られた成果の上に立ち、マルチメ ディア情報処理、ディジタル通信機能を包含した総合的情報処理システム研究として、電子図書館研究を行 われ、Ariadneと称する電子図書館システムを開発さ れました。 これら一連の研究業績に対して、平成 5 年 IEEE Emanuel R. Piore 賞、平成9 年紫綬褒章、平成 15 年国際計算言語学会 (ACL) Lifetime Achievement Award、平成 17 年日本国際賞を受賞されています。さらに、言語処理学会初代会長、認知科学会会長、情報処理学会会長、電子情報通信学会会長、国際パターン認識連盟副会長、機械翻訳国際連盟初代会長など多くの学会 における要職を歴任されるとともに、多数の国際会議 を主催、運営されました。 以上のように、長尾先生の研究者、教育者としての 多大なる功績が評価され、このたび文化勲章を受章さ れましたことを心よりお喜び申し上げます。
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# エレクトリカル・ジャパン : 公共デー タアーカイブを対象とした状況認識 のための可視化 ## Electrical Japan: Visualization for Situational Awareness on Public Data Archives \begin{abstract} 抄録:エレクトリカル・ジャパンは、日本を中心に電力データを収集・統合・可視化するウェブサイトであり、消えゆくデータを保全して長期的かつ網羅的なデータベースを構築する役割を果たしている。まず可視化手法を把握型可視化、魅力型可視化、洞察型可視化の 3 つに分類し、エレクトリカル・ジャパンが洞察型可視化から状況認識、データジャーナリズムへという方向を目指すことを論じる。次に可視化のケーススタディとして、電力使用状況、発電所マップ、電力統計「見える化」の3つを取り上げ、可視化で重視したポイントを説明する。最後に、データ収集から統合、可視化に至るワークフローを説明し、公共デー夕の公開に関する課題を取り上げる。 Abstract: Electrical Japan is the website that collects, integrates, and visualizes electricity data centered on Japan, and plays a role on constructing long-term and comprehensive database through the preservation of otherwise disappearing data. We first classify visualization approaches into three types, namely visualization for comprehension, visualization for attraction, and visualization for insight, and claim that Electrical Japan aims at visualization for insight, thereby realizing situational awareness and data journalism. We then introduce case studies of visualization, such as electricity usage, power plant maps, and electricity statistics visualization, together with important design consideration. Finally, we explain the workflow starting from data collection to integration and visualization, and discuss relevant issues about the release of public data. \end{abstract} キーワード:エレクトリカル・ジャパン、電力データ、洞察型可視化、状況認識、デー夕統合、データジャーナリズム、デジタルアーカイブ Keywords: Electrical Japan, Electricity data, Visualization for insight, Situational awareness, Data integration, Data journalism, Digital archive ## 1. はじめに エレクトリカル・ジャパン ${ }^{[1]}$ とは、日本を中心に電力データを収集・統合・可視化するウェブサイトであり、2011 年 3 月の東日本大震災による福島第一原発事故と電力危機の状況を理解するために始まったプロジェクトである。当時、電力問題に対する社会の関心は急上昇し、東京電力などの電力会社は電力需給デー タの公開を開始した。これを受けて、電力需給データを可視化するネットサービスも多数生まれたが、年月の経過とともに関心は徐々に低下し、サービスは次々と閉鎖され、現在も運用が続いているサービスはごく少数にとどまる。一般に過去の出来事は忘れられていくものとはいえ、このままでよいのだろうか。 実は、東日本大震焱直後に公開された電力需給デー 夕は、今やネットから消えてダウンロードできなくなっている。東京電力の「でんき予報」年にアクセスしても、入手できるのは 2016 年 4 月以降のデー夕のみ。デー夕 が消えてしまった理由には、電力自由化も絡んだ複雑な事情がないわけではない。とはいえ、データ公開に義務や責任を負う主体がなければ、データがいつの間にかアクセス不能になってしまうことのリスクは無視できない。エレクトリカル・ジャパンは、こうしたデー タをアーカイブし保全する役割を果たしている。 エレクトリカル・ジャパンのもう一つの役割は、再生可能エネルギーへのシフトや電力自由化などが引き起こす電力業界の歴史的な変化をアーカイブする点にある。東日本大震焱は、再生可能エネルギーが立ち上がり、電力自由化が進展する時期にたまたま重なったため、それらの変化を強力に後押しする効果をもたらすことになった。エレクトリカル・ジャパンはこうした変化を記録し、電力という切り口から社会経済現象をアーカイブし可視化する役割を果たしている。 社会経済データは数値データが主体となるため、他の種類のデータと比べて可視化の必要性が高い。そこ で本稿では、エレクトリカル・ジャパンにおける可視化の事例を紹介するとともに、データの収集から可視化に至るワークフローの課題についても触れる。 ## 2. 可視化・状況認識・データジャーナリズム まず本稿が対象とする可視化とは何かを明確にするために、可視化を 3 種類に分類してみよう。 (1)把握型可視化:標準的な可視化手法を用いて、 データの内容を把握することを目的とする。プレビューや監視などによく使われる。 (2)魅力型可視化:人々の関心を惹きつける可視化手法を用いて、データに対する関心を高めることを目的とする。色彩や動き、空間構成などを工夫したリッチなコンテンツとする場合が多い。 (3)洞察型可視化:探索的な可視化手法を用いて、 データに関する問いに答えることを目的とする。変数の選択や相関・因果の分析などに焦点を絞ったシンプルなコンテンツとする場合が多い。 把握型可視化や魅力型可視化では「可視化 $=$ 目的」 であり、データそのものに関心があるため、「そこにデータがあるから」可視化することもある。一方の洞察型可視化では「可視化=手段」であり、データから得られる洞察に関心があるため、「データがなければ自分で作って」可視化することもある。理想的な可視化とは、魅力があり洞察にもつながる可視化である。 とはいえ、魅力と洞察の両立が難しい場合は、目的と手段が不明確な可視化とならないよう、重視する点を明確にした方がよい。 エレクトリカル・ジャパンが重視するのは洞察型可視化である。具体的には「状況認識」に資する洞察を得ることを目的とする。状況認識 (situational awareness)とは災害対応や軍事などを中心に用いられる言葉で、周囲の状況を把握し、どのような原因で危険が迫っているかを判断することで、今後の行動(アクション)を意思決定するプロセスを指す。ここでよく用いられる可視化手法が「状況認識の統一図 (common operational picture)」である。各地の状況を共通の地図にマッピングし、意思決定者が共有し分析することによって、次のアクションに関する意思決定を支援することが、この可視化手法の目的である。 東日本大震災直後の節電期間には、電力使用状況を可視化したグラフを監視しながら、家電製品などのスイッチをオンノオフするアクションが見られた。こうした物理的なアクションはもちろん大切であるが、 データに基づく研究や調査に基づき自らの意見を表明するといった知性的なアクションも重要である。その方向性で重要なのがデータジャーナリズム ${ }^{[3]}$ である。 データジャーナリズムの役割は、データに基づき状況を認識した上で、ストーリーテリングというアクションを起こすことで、データの意味を多くの人々に伝える点にある。このとき、魅力型可視化(インフォグラフイックス)を用いてメッセージを明確かつ親しみやすい形式で伝えてもよいし、洞察型可視化のために本格的なデータベースや可視化ツールを公開し、 データに隠れた(隠された)事実を掘り起こす調査報道へと発展させていく方向もある。エレクトリカル. ジャパンは、後者の洞察型可視化の方向性を重視し、電力問題という複雑な問題を様々な切り口で分析するための可視化機能を提供する ${ }^{[4]}$ 。 ## 3. 可視化のケーススタディ 3.1 電力使用状況 東日本大震災後に最初にニーズが高まったのは電力使用状況 ${ }^{[5]}$ に関するデータである。まずこのシンプルなデータを対象として、エレクトリカル・ジャパンの可視化の背景にある考え方を説明する。 図 1 は同一時刻の電力使用状況グラフを示す。図 1 (左)は東京電力 (パワーグリッド)社が提供する「で 図1 電力使用状況グラフの比較。 (左)東京電力パワーグリッド株式会社が提供する「でんき予報」のグラフ。(右)エレクトリカル・ジャパンが提供する電力使用状況のグラフ。 んき予報」、図1(右)はエレクトリカル・ジャパンが提供する電力使用状況のグラフである。第一の違いは表示期間である。前者は当日と前日のデータしか表示できないのに対し、後者は過去 30 日分のデータを古いデータほど薄くなるように可視化することで、当日の需要曲線が最近の需要曲線の変動幅のどこに位置するかを一瞬で理解できる。第二の違いはグラフ形式である。前者は棒グラフと折れ線グラフを併用するが、後者は折れ線グラフのみである。棒グラフは面積を示し見やすいことは利点であるが、縦軸がゼロから始まり変動幅を有効に可視化しづらいこと、複数データを重畳表示しづらいことは久点である。また前者は、観測間隔だけが異なる同一変数の可視化に棒グラフと折れ線グラフを併用しており、効果的な表現とはなっていない。第三の違いはシンプルさである。後者は、黒背景に明るい線を描いてコントラストを高め、グリッド線をすべて省略することで、データそのものに焦点を合わせやすいシンプルな表現を用いている。 この 2 通りの可視化の違いは、需要が急増した日に明らかとなる。エレクトリカル・ジャパンのグラフでは、需要曲線が過去 30 日の変動幅から上方に大きく飛び出るため需要の増大を一瞬で認識できるのに対し、東京電力のグラフは絶対値の変動しか可視化できないため、見かけ上は平常時との区別がつかない。エレクトリカル・ジャパンのグラフで需要急増のような重要イベントを明確に状況認識できる理由は、まさにそのように可視化しているからである。平常時と当日の需要曲線を相対的に比較し、そこから洞察を得るにはどうすればよいか、そうした検討の末に生まれたのがエレクトリカル・ジャパンの可視化手法なのである。 このように洞察型可視化では、何を可視化したいのか、何をそこから知りたいのか、という問いから出発するため、そこから得られる洞察も明確である。一方、把握型可視化や魅力型可視化にはそのような問いがないため、可視化の結果として得られる洞察も曖昧なものとなってしまう。東日本大震災後に登場した可視化サービスのほとんどが、東京電力の可視化手法を無批判に踏襲したことは、可視化の目的に対する問いの欠如を示唆している。 ## 3.2 発電所マップ エレクトリカル・ジャパンのもう一つの可視化の主役は発電所マップである。これは日本最大規模の位置情報つき発電所データベースであり、2019 年 5 月現在で 12,300 件以上の発電所を登録している。東日本大震災後の電力危機を受けて、筆者は「日本にはいったい発電所がどこにいくつあるのか?」という素朴な問いを抱いた。その問いに答えるために構築したのが発電所データベースである。 発電所データベースは位置情報を持つため、地図上に可視化することができる。発電所の位置情報を推定するために Google Mapsを活用したため、可視化にも Google Mapsを利用した。ただし、ベースマップを黒背景に変更し、その上に夜景マップとして DMSP 衛星が観測した夜間光観測データをオーバーレイし、さらにその上に発電所マーカーを色鮮やかな電球のように配置することで、電気を供給する発電所と電気を消費する都市の空間的な関係に関する洞察が得られるようにした。 図 2 には発電方式ごとの発電所マップ ${ }^{[6]}$ として、水力発電所と太陽光発電所の例を示す。水力発電所の分布を見ると、明かりのない山奥まで水力発電所が点々と分布しており、大規模な発電所を新規開発する余地はほぼ残っていないことが実感できる。風力発電所や地熱発電所は立地の制約が強く、風が強い適地には風力発電所が密集している。原子力発電所は全国に 図2 発電所マップの電源種別ごとの立地分布。 (左)水力発電所。(右)太陽光発電所。背景地図は夜間光マップ。 まんべんなく配置されている。太陽光発電所は都市部から山間部まで立地を問わずに広がっている。このように発電所マップは、人間の生活圈と電源立地との空間的な関係を洞察するのに有用である。 一方、日本の発電所の歴史 ${ }^{[7]}$ は、発電所建設の歴史に関する時間的な洞察につながる可視化である。まず発電所の運転開始日をデータベース化する。次に時間軸を 1 カ月ごと進めながら、その月に運転開始した発電所を Google Mapsに新規表示する。そして時間軸を自動的に進めることで、発電所が全国を覆っていく様子をアニメーション化する。このアニメーションを用いることで、 100 年以上に及ぶ日本の電源開発の歴史を、早回しで見ることができる。ただしすでに閉鎖された発電所など、過去に存在したすべての発電所に関するデータは現存しないため、歴史を網羅するデー 夕収集には限界がある。 ## 3.3 電力統計「見える化」 電力に関連する様々な統計データを整理し、DataDriven Documents(D3.js)などによる可視化を通して、日本の電力問題に関する洞察を得ることを目的とするのが電力統計「見える化」である ${ }^{[8]}$ 。電力統計デー夕は、行と列に属性を持つ二次元の表として作成され、 エクセル形式で配布されることが多い。この形式は最低限の機械可読性を満たしているものの、APIを用いたデータアクセスは決して容易ではないため、この種のエクセル形式の解析に対応するスクリプトを独自に作成し、データの前処理を行った。 電力統計データを可視化するテーマとして特に重要性が高いのが再生可能エネルギーである。日本も再生可能エネルギーへのシフトを進めているが、そのプロセスは世界的にも独特の展開を見せている。高い買取価格の設定による国民負担の急速な拡大、脱炭素と脱原発という 2 つ動きの複雑な交錯、不動産業界や金融業界などが主導する持続性に欠け自然破壊的な太陽光発電所の開発など、様々な問題が現場では噴出している。にもかかわらず、それらの問題に関する報道は断片的であり、報道者の立ち位置によるバイアスも絡むため、公平な視点から問題を理解することは簡単ではない。さらに数値データの意味を理解するには、ある程度の専門知識も必要になる。こうした問題の解決に、洞察型可視化に基づくデータジャーナリズム的なストーリーテリングが役割を果たすことへの期待がある。 一例として、「太陽光と他電源種別の相関 $\rfloor^{[9]}$ に関して、太陽光発電と揚水発電の出力の関係を図 3 に示す。 このグラフは、揚水発電の活用方法が以前とは変わっ 図3 太陽光と他電源種別の相関。九州電力における揚水発電と太陽光発電の相関を2018年について可視化した。グラフが全体に右下がりとなっているのは、太陽光発電の出力が増加すると揚水発電による汲み上げ (マイナスの発電) が增加することを示す。 てきたことを示す。もともと揚水発電は、夜間の原子力発電の出力を吸収するための一種の「蓄電池」として作られた。しかし、九州電力などを中心に太陽光発電が大きく増加したため、昼間の太陽光発電の出力を吸収するために揚水発電が活用されるようになった。図 3 は縦軸と横軸を効果的に選択することでこの状況を明確に可視化しており、再生可能エネルギーの役割を考えるのに有用である。しかし一般の人々がこのグラフをいきなり見せられても、そこから洞察を得ることは難しいだろう。可視化をストーリーテリングの一部として活用し、そこから得られる洞察を効果的に伝えるためのメディアが必要である。 ## 4. データ収集から統合・可視化までのワーク フロー エレクトリカル・ジャパンの出発点は、日本全国の発電所の分布はどうなっているのか、という素朴な問いに答えられるデータベースがないという点にあった。ないなら作ってみせよう、ということで始めた作業であるが、 8 年たった現在も発電所データベースの構築が続いている現状を踏まえれば、作業量の見積は大幅な過小評価であったと言わざるを得ない。しかし過小評価したからこそ、無謀にも開始できたという面もある。 このように発電所データベースの作業量を増やしている大きな原因は、デー夕統合の複雑さにある。例えば新しい発電所の運転開始がニュースで報道された場合、記事には発電所の(大まかな)所在地や出力などに関する記載はあるかもしれないが、発電所の緯度経度が記載されていることはまずない。そこで Google Mapsでジオコーディングして位置を特定しようと考えるが、ジオコーディングだけで位置を特定できる場 合はごく一部であり、衛星画像や地形、現地撮影写真等を詳細に比較してようやく位置を推定できる場合が多々ある。また複数のデータソースに同一の発電所の記載がある場合、重複の除去や不整合の調整などが必要となるが、こうした問題が生じる原因は複雑なため、機械による自動化は困難である。どれが正解か未知の状況で各種のエビデンスを比較するには、長年の経験と知識や直感に基づく推定が不可欠となる。 こうした暗中模索の状況を大きく改善したのが、 2017 年 10 月 12 日に公表された「再生可能エネルギー 発電事業計画の認定情報」である ${ }^{[10]}$ 。これは再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の適用を受けた発電所の網羅的なデータベースであるが、すべての発電所に ID が付されているため、これがデー夕統合の基準として利用できるようになった。そこで、これまでに構築した発電所データベースを FIT データベースと突き合わせ、ID を基準にデータを統合する作業を開始した。これも自動化が困難な作業であるが、 1 年半ほどの作業の末にようやく完了の目途が見えてきた。これだけのコストをかけたとしても、典拠となる発電所 IDにすべてのデータを統合するのは、それに見合う価値があるからである。公共デー夕を管理・公開する行政が果たせる最も価値ある役割の一つが、 このような ID 管理であることを改めて強調しておきたい。 最後に国際比較にも触れたい。日本版の発電所マップの可視化に数年の歳月を費やした筆者ではあるが、実は米国版の発電所マップ ${ }^{[11]}$ は、あっけなく一瞬で可視化できてしまった。というのも、米国ではエネルギー省エネルギー情報局(EIA)が発電所データベースを公開・更新しているからである。このデータベースは、発電所や事業者にID を付与しているだけでなく、発電所の緯度経度も記載するという優れもので、発電所マップを作成するのに必要な情報をほぼ網羅している。このような米国の例を踏まえれば、日本においても公共データの可視化を普及させるには、公共データの品質向上が重要な課題であると言えるだろう。 ## 5. おわりに 本稿ではエレクトリカル・ジャパンを対象とした可視化手法とその意義を紹介した。エレクトリカル. ジャパンは社会経済データを切り口に社会の変化をアーカイブしており、文化データを切り口とする一般的なデジタルアーカイブとは異なる面もある。しかし社会経済データであっても、消えゆくデータを保全し長期的かつ網羅的なアーカイブを構築する課題は共通する。またデータ可視化から得た洞察をストーリーテリングによって広めていく方法論も、デジタルアーカイブ一般に共通する課題である。 本稿ではスペースの制限から説明できなかったが、 エレクトリカル・ジャパンでは他にも多様な可視化手法を試している。また電力・エネルギー業界関係者も含めて多くの人々に利用されており、累計のアクセスは 400 万 PVを超えている。ウェブサイトは随時更新しているため、エネルギー問題への関心を高めるためにもぜひアクセスいただきたい。 ## 註・参考文献 (URL 参照日は全て2019-04-14) [1] 北本朝展. エレクトリカル・ジャパン. http://agora.ex.nii. ac.jp/earthquake/201103-eastjapan/energy/electrical-japan/. [2]東京電力パワーグリッド株式会社. でんき予報. http://www. tepco.co.jp/forecast/. [3] European Journalism Centre, The Data Journalism Handbook, https://datajournalismhandbook.org/. [4] 北本朝展. データジャーナリズムで日本の電力問題を可視化する, 2013年1月28日, https://researchmap.jp/joog1dk73-1786/. [5] 北本朝展. 電力会社・電力使用状況グラフ. http://agora. ex.nii.ac.jp/earthquake/201103-eastjapan/energy/electrical-japan/ usage/. [6] 北本朝展. 日本全国の発電所一覧地図・ランキング(発電方式ごと). http://agora.ex.nii.ac.jp/earthquake/201103-eastjapan/ energy/electrical-japan/type/. [7] 北本朝展. 日本の発電所の歴史 http://agora.ex.nii.ac.jp/ earthquake/201103-eastjapan/energy/electrical-japan/history/. [8] 北本朝展. 電力統計「見える化」一一覧. http://agora.ex.nii. ac.jp/earthquake/201103-eastjapan/energy/electrical-japan/stat/. [9] 北本朝展. 太陽光と他電源種別の相関 - 供給区域需給実績. http://agora.ex.nii.ac.jp/earthquake/201103-eastjapan/energy/ electrical-japan/stat/31/. [10] 経済産業省資源エネルギー庁. 事業計画認定情報公表用ウェブサイト. https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfo. [11] 北本朝展. Electrical USA - 米国電カマップ. http://agora.ex.nii. ac.jp/earthquake/201103-eastjapan/energy/electrical-japan/planet/ usa/.
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# デジタルアーカイブと可視化:進化・創発する実践 Digital Archives and Visualization: Evolving and Emerging Practices \begin{abstract} 抄録:「デジタルアーカイブと可視化」についての事例は,必ずしも共通のデザイン指針に沿っているとは限らず,勃興するテク ノロジーから創発する,多種多様なクリエイターの創意によって次々に生み出され,進化し続けている。本特集ではこうした現状 を「可視化」するために,研究者による公共データアーカイブの可視化, デザイナーによる大学図書館のデータの可視化, 企業内研究者らによるビッグデータの可視化, 高校生チームによる被爆前後の広島のVR コンテンツ,そして筆者と高校生のコラボレー ションによる,AIを活用した白黒写真データのカラー化実践を紹介する。 Abstract: "Digital Archiving and Visualization" examples are not always along the common design guideline, but they are produced one after another by the creativeness of various creators emerging from rising technology, and continue to evolve. In this special issue, In order to "visualize" such present situation, I will introduce examples: visualization of public data archive by a researcher, visualization of data of a university library by designer, visualization of big data by researchers in an enterprise, VR contents of Hiroshima before and after exposure by high school student team, and coloring practice of black and white photo data using AI by collaboration of the author and a high school student. \end{abstract} キーワード : デジタルアーカイブ,可視化,デザイン,テクノロジー Keywords: Digital Archives, Visualization, Design, Technology 本号の特集テーマは「デジタルアーカイブと可視化」 である。読者にとって「デジタルアーカイブ」「可視化」 ということばはそれぞれ、おそらく馴染みのあるもの だろう。それらを組み合わせた「デジタルアーカイブ の可視化」というテーマも読者にとって、違和感のな いものかと思われる。このテーマは、多くの読者に とって普遍性を持つと想像できる。 とはいえ、特に「可視化」ということばは、「見え る化」などにかたちを変えつつ、日常生活においても 頻繁に眼にするものになっている。従って、各人各様 の「可視化」の定義と用法が日々生み出され、用いら れはじめていることが推測される。そこで本稿では、 まず「デジタルアーカイブと可視化」について共通の 認識を持つため、「可視化」の定義と現状、デジタル アーカイブにおける可視化研究の状況について、簡単 にサーベイしておきたい。 伊藤 ${ }^{[1]} に よ る と 、 「$ 可視化」とは「現象や知識を目 に見えるようにする技術の総称」であり、2000 年頃 までに、その課題と手法はひと通り整理されている。 その後、技術の趨勢にあわせて、例えば「大規模な情報に潜む知見を探る」ため、あるいは「社会における意思決定や仮説検証」を行なうために、可視化は用い られてきた。伊藤はさらに、ビッグデー夕、AI(人工知能)、IoT (internet of things) などの技術トレンドの勃興、そして VR (virtual reality) や AR (augmented reality) など、新規のユーザインターフェイスとユーザ体験の 普及により、可視化が必要となるシーンが多様化しつ つあると指摘する。 ここで「情報に潜む知見を探る」と表現されている ように、可視化は、ユーザによる情報の探索を助け、理解を促すものとして用いられてきた。こうした可視化は「探索型 ${ }^{[2]}$ と呼ばれる。さらに近年では、ストー リーに沿ってコンテンツを展開することにより、ユー ザの探索と理解をさらに促そうとする事例も増えてい る。非専門家のユーザによる「知見の探索」「意思決定」「仮説検証」を補助するためには、こうした「物語型 $\left.{ }^{[3]}}.\rfloor$ の可視化が有用であろう。例えば、ニュースサイトで ひんぱんに用いられる「インフォグラフィックス $\left.{ }^{[4]}}.\rfloor$ 型に分類される。 こうした事例は、必ずしも共通のデザイン指針に 沿っているとは限らず、テクノロジーから創発する 個々のクリエイターの創意によって次々に生み出さ れ、進化し続けている。 ここまでのことから、「可視化」は、専門家が情報 を分析するための有用な手段であるとともに、むしろ 社会一般において情報を伝達し理解を助ける手段とし て、重要なものとなってきたことがわかる。そして、 こうした社会一般における可視化は、リドレー ${ }^{[6]}$ が主張するように、勃興するテクノロジーからボトムアッ プに創発し、進化し続けていることがイメージできる。本稿の冒頭に述べた「各人各様の「可視化」の定義と 用法が日々生み出され、用いられはじめている」とい う現状には、こうした背景がある。 一方、「デジタルアーカイブ」の研究において「可視化」はどう位置づけられているのだろうか。例えば、 $\mathrm{CiNii}^{[7]}$ において「デジタルアーカイブ 可視化」とい うキーワードで検索してみると、 23 件がヒットする。永綱 ${ }^{[8]}$ は、2008 年当時、爆発的に増加しつつあっ た組織内のデー夕に可視化技術を適用することによっ て、それらに潜在する「価値を発掘」し「迅速な意思決定を支援」できる可能性を論じた。また中山 ${ }^{[9]}$ は、 2011 年、資料をデジタル化し、その内容のウェブ上 で可視化することにより「言語、業種、業態の壁を超 えて、網羅的な情報資源の中からより的確な情報を取 り出すことができる」と主張した。これらは、前述の 「探索型」の可視化を志向し、総論的に「デジタル アーカイブにおける可視化」を扱った研究である。 その他の CiNii 検索結果には、先端技術を可視化に 取り入れた、実践的な研究が目立つ。筆者らによる、 デジタルアースを用いた可視化の研究 ${ }^{[10]}$ も、理論研究ではなく、実践の報告に近い。こうした「デジタル アーカイブ」における「可視化」研究の状況は、前述 した、社会一般における可視化の現状とオーバーラッ プする。テクノロジーがコモディティ化し、研究者・ クリエイターによるボトムアップな実践が容易になっ たことから、デジタルアーカイブにおける可視化も「テ クノロジーから創発する個々のクリエイターの創意に よって次々に生み出され、進化し続けている」のだ。 これは裏を返せば、本稿のテーマである「デジタル アーカイブと可視化」については、トップダウン的な 「共通の指針」を立てる余地と必要性がない、という ことでもある。実際に、国による共通の指針である 「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライ する項目は設けられていない。おそらく、共通の指針 を設けることはできないし、設ける必要もないだ万う。「デジタルアーカイブと可視化」についての取り組み は、トップダウンではなくボトムアップに創発し、進化し続けているのだから。 本特集ではここまでの議論を踏まえ、ボトムアップ な実践が次々に創発している現状を「可視化」するこ とを目指した。十代の高校生から五十代の研究者まで、多種多様な著者たちによる、実践の事例を紹介してい く。まず、研究者による公共データアーカイブの可視化。次に、デザイナーによる大学図書館のデータの可視化。そして、企業内研究者らによるビッグデータの 可視化。さらに、高校生チームによる被爆前後の広島 の VRコンテンツと、筆者と高校生のコラボレーショ ンによる、AIを活用した白黒写真データのカラー化実践である。 以降、各報告の抄録を引用して、内容の紹介に代元 たい。これらの抄録には、各々の取り組みにおける 「デジタルアーカイブと可視化」についてのあらまし が述べられている。まず、これらに目を通し、興味を 惹かれたものから順に読み進めていただきたい。すべ ての報告を読み終えたとき、読者各人における「デジ タルアーカイブと可視化」のイメージと、新たな「実践」のヒントが創発していることだろう。 ## 1. エレクトリカル・ジャパン:公共データ アーカイブを対象とした状況認識のための 可視化 (北本朝展) エレクトリカル・ジャパンは、日本を中心に電力データを収集・統合・可視化するウェブサイトであり、消えゆくデータを保全して長期的かつ網羅的なデータベースを構築する役割を果たしている。まず可視化手法を把握型可視化、魅力型可視化、洞察型可視化の 3 つに分類し、エレクトリカル・ジャパンが洞察型可視化から状況認識、データジャーナリズムへという方向を目指すことを論じる。次に可視化のケーススタディとして、電力使用状況、発電所マップ、電力統計「見える化」の3つを取り上げ、可視化で重視したポイントを説明する。さらに、デー夕収集から統合・可視化に至るワークフローを説明し、公共データの公開に関する課題を取り上げる。 ## 2. データ可視化を通してみる図書館(スティー ブン・ブラン) 本稿では、ノースイースタン大学における可視化の事例を通して、図書館におけるデータの可視化の役割について説明する。図書館のサービス・リソースに関するデータを活用した可視化プロジェクトの例を紹介しながら、教育・研究における図書館の役割を強化・ 強調できる、可視化の多種多様な能力について探って $\omega<0$ ## 3. 企業ビッグデータを活用したデジタル地球儀による企業間取引ネットワークの可視化 (有本昂平、高田百合奈) 企業間取引ネットワークの構造は、インフラ事情によるサプライチェーンの効率化やリスクの増減に影響を与える。また政策立案を実施する場では、リスク軽減やステークホルダー間の合意形成のため、エビデンスに基づく意思決定のアプローチが求められる。そこで近年、企業活動を測るデータとして、信用調查報告書のデータから構築された企業ビッグデータが注目されている。本稿では、信用調查報告書をビッグデータとしてアーカイブするまでの経緯と、そのデータから企業間取引ネットワーク構造の可視化を試みた実践例についていくつか報告したい。 ## 4. 歴史継承を目的としたヴァーチャルリアリ ティコンテンツの製作(長谷川勝志) 歴史継承の新しい方法として最新技術であるヴァー チャルリアリティを活用したコンテンツ製作を行ってきた。仮想空間ではコンピュータグラフィックスとプログラミングによりどのような世界も作り出すことができる。私たちはこの技術を活用し原爆投下前後の広島を復元した。1945年 8 月 6 日、あの日の体験が可能なこのコンテンツはモダンな建物が立ち並ぶどこか懐かしい街並みから投下後の焼け野原まで、地獄と化した広島の疑似体験が可能である。遠い日の出来事を体験を通し身近に感じることができるこのコンテンツは新たな平和継承の手法として有用であると考える。 ## 5.「記憶の解凍」: カラー化写真をもとにしだフ ロ一"の生成と記憶の継承 (渡邊英徳、庭田杏珠)本稿では、デジタルアーカイブ/社会に“ストック” されていた白黒写真をAI技術でカラー化し、ソーシャ ルメデイア/実空間に“フロー”を生成する活動について報告する。被写体が備えていたはずの色彩を可視化することによって、白黑写真の凍りついた印象が解かされ、鑑賞者は、写し込まれているできごとをイメージしやすくなる。このことは、過去のできごとと現在の日常との心理的な距離を近づけ、対話を誘発する。こうして生成された“フロー”においては、活発なコミュニケーションが創発し、情報の価值が高められる。この方法は、貴重な資料とできごとの記憶を、未来に継承するための一助となり得る。 ## 註・参考文献 [1] 伊藤貴之. 意思決定を助ける情報可視化技術-ビッグデー 夕・機械学習・VR/ARへの応用. 2018, コロナ社, 150p. [2] Joanna Leng, Wes Sharrock. Handbook of Research on Computational Science and Engineering: Theory and Practice. 2011, IGI Global, 987p. [3] Robert Kosara, Jock Mackinlay. Storytelling: The Next Step for Visualization. Computer, 2013, Vol.46, Issue.5, p.44-50. [4] Jason Lankow, Josh Ritchie, Ross Crooks. Infographics: The Power of Visual Storytelling (English Edition). 2012, Wiley, 214p. [5] Jonathan Gray, Lucy Chambers, Liliana Bounegru. The Data Journalism Handbook: How Journalists Can Use Data to Improve the News (English Edition). 2012, O'Reilly Media, 242p. [6] マット・リドレー (著), 大田直子ほか(訳). 進化は万能である人類・テクノロジー・宇宙の未来. 2016, 早川書房, 313 p. [7] 国立情報学研究所. CiNii Articles - 日本の論文をさがす. URL: https://ci.nii.ac.jp/ [参照日 2019-04-23] [8] 永綱浩二. 情報の可視化を通じたワークプレイスの変革デジタル・アーカイブの可視化が拓く情報の価值化 -. 可視化情報学会誌, 2008, Vol.28, No.1, p. 389-394. [9] 中山正樹. 国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築知の共有を目指して. 情報管理, 2011, Vol.54, No.11, p.715-724 [10] 渡邊英德. データを紡いで社会につなぐデジタルアーカイブのつくり方. 2013, 講談社, 186p. [11] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン. 2017-04. URL: https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ digitalarchive_kyougikai/index.html [参照日 2019-04-21]
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# 座長が推すべスト発表 ## 2019年3月16日 第3回研究大会(京都大学) 各座長の方に、特に良かったと感じた発表を挙げていただいた。(カッコ内は推薦された座長、敬称略) [A12] 民族誌資料のデジタルアーカイブ化にかかる諸問題. 伊藤敦規(国立民族学博物館) 東京国立博物館にも、現在ならば民族誌資料となる資料がけっこうあるが、収集地など来歴に関する情報が少なく、取り扱いがむずかしい。そのことは強く感じていたたけに文化人類学の総本山たる国立民族学博 みんぱくよお前もか、であった。結局のところ過去における学問的な方法論の不十分さが情報記述に表れたということなのだ万う。しかし、そこで知恵を広く世界に求めるところは、さすがみんぱく、である。もの」 を作った人々との「再会」にデジタルアーカイブが一つの役割を果たし、再会を通じて新しく情報が共有されてゆく、というのは望ましい流れであ万う。困難は多いことと思うが、定着することを期待したい。(田良島哲) [A21] マラウイ共和国の視聴覚資料保存:~電力の供給が不安定な国・地域のデジタルアーカイブを考える〜. 鈴木伸和(株式会社東京光音) マラウイ国立公文書館 (NAM) アーカイブの問題は、日々どこかで(先進国も例外ではなく)貴重な残すべきさまざまな資料が失われていることです。 特に映像記録は、発展途上国においては温度や湿度の管理がなされないままフィルムが積み上げられていたりビデオテープも同様に放置されたりしています。 ある特定の地域の映像でも、世界にとって貴重な記録と記憶です。「FIAT/IFTA 国際映像アーカイブ連盟」 は 42 年前の発足以来「失われるアーカイブ」をキー ワードに欧州のアーキビストが途上国のアーカイブ整備のために長年支援をしてきました。 それだけに、日本からの支援に、人の派遣も含めて取り組んでいることに感銘と希望を感じました。こうした支援は、アフリカを始めとする途上国のアーカイブが私たちとも繋がる大切な営みでしょう。(宮本聖二) [A33] 西北タイ歴史文化調査団蒐集 $8 \mathrm{~mm}$ 動的映像資料の「再資料化」の試み : データベー ス消費の観点から. 藤岡洋(東京大学) 本報告は 1971 年に行われた西北タイ山地民族調査 (第 2 次)における $8 \mathrm{~mm}$ 映像資料の活用を目指す試みである。 $8 \mathrm{~mm}$ フィルムに限らず、動的映像資料はデジタルアーカイブの重要なリソースであるが、本報告の目指すものは $8 \mathrm{~mm}$ フィルムをデジタル化して保存・公開するということに留まるものではない。フィルムに残っていないショットとショットの間あるいはシーンとシーンの間などにも分析を加える「間」分析の方法によって、動的映像を静的映像資料化、文字資料化し、学術的資料としての価値を付加しょうとするものである。今後の映像のデジタルアーカイブ化に一つの重要な示唆を与えるとともに、資料再活用の新たな方向性を示す報告であった。(藤田高夫) ## [B12] IIIFとオープンデータを活用した『君拾帖』内容検索システムの開発. 中村 覚 (東京大学) 電子展示『捃拾帖』[くんしゅうじょう] https://kunshujo.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/ このセッションの発表はどれも素晴らしく甲乙をつけるのは難しかったが、今後のモデルとなり得る事例ということでこれを選げせていただいた。貼り込み帳の各オブジェを検索しアノテーション表示もできるシステムは、それ自体とても面白く有益なものであり、それはまさに中村氏の技術と努力の賜物である。しかしここで評価したいのは、その視線が、既存の優れた関連成果を理解し、それらを基にさらに新しいものを創り出そうとするところに向かっている点である。アノテーションの付与に際しては独自開発ではなくトロント大学図書館が開発したシステムを組み达んで Webコラボを可能としており、メタデータは同大学だが別の組織でかつて作成したデータベースのデータを再利用している。それぞれのシステムやデータベースを作った人達は、自らの成果がやがて最新のシステムの礎として新たな生を吹き込まれるとは想像もしていなかったかもしれない。しかし、知が組み合わさることで新たな知を産み出していくことは、 デジタルアーカイブが我々の社会にもたらし得る大きな可能性であり、それを具体的に示したという点を評価したい。(永崎研宣) [B21] あなたのフィルムが歴史をつくる:ホー ムムービーのデジタルアーカイブ. 常石史子 (フィルムアルヒーフ・オーストリア) 今回のコミュニティアーカイブの全ての論文は、よりパーソナルな技術や取り組みなどに着目した内容となったが、常石氏のテーマ「あなたのフィルムが歴史をつくる:ホームムービーのデジタルアーカイブ(ィルムアルヒーフ・オーストリア)」は全ての発表者が共有できる思想性を持つ内容であった。発表者は、歴史とは何かという問いに、著名人や政治家などではなく、個人や家族が所有するホームムービーに見出そうとしている。発表者が現在でも過去の映像に新たな価值を今の時代に持たせることを継続しているが、アナログ時代にはできないことが、現在のデジタル技術で は可能なことは何なのか。それも、専門家でななく、一般の人々が可能なことが何なのかを発表者が提言されることに期待したい。(坂井知志) ## [B34] 個人のアーカイブから想起のコミュニ ティヘー 前川俊行による「異風者からの 通信」と三池炭鉱の記憶一. 宮本隆史、前川俊行、中村 覚 B3 のセッションでは、地域に埋もれたプライベー トあるいはコミュナルな記憶が、公共性を獲得していく手続きに関する、極めて興味深い報告が続いた。その中でも本件は、私的な立場で三池炭鉱の資料の収集と情報発信を行ってきた前川俊行氏自身が共同発表者として登壇されたことによって、課題を明膫に示すこ とに成功したといえる。 1997 年に開設された Web サイト「異風者からの通信」による情報発信、全国に散った三池出身者との交流、その結果寄せられることになった数々の一次資料群は、現段階ではまだ整理途上のコレクションの域を出ず、宮本らの係わりも研究としてはとば口に立ったにすぎない。しかし対象を可能的なデジタルアーカイブと見なし、現物とデータの関係、現行サイトから安定的なアーキテクチヤへの移行、さらにはそこに向けていかなる運営・組織形態があり得るのか等を問題提起した点は高く評価できる。まずはここを出発点に、遍在する類似例等の知見集約に踏み出し、学会がそうした活動のセンターとしての役割を担いうるかについて議論を深めたい。(水島久光)
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# 企画セッション(6)「アーカイブの継承」 2019年3月15日 (金) (京都大学) \author{ 福島 幸宏 \\ FUKUSHIMA Yukihiro } 京都府立図書館 (現: 東京大学大学院情報学環特任准教授) 企画責任者:原田隆史 (同志社大学) 福島幸宏(京都府立図書館) 状況整理 デジタルアーカイブの危機: 小村愛美 (同志社大学) ・原田隆史 (同志社大学) デジタルアーカイブ消滅の危機の当事者から 渡邊英徳(東京大学情報学環) デジタルアーカイブを受け継ぐ立場から: 庭田杏珠(広島女学院高等学校生徒) 企画の趣旨としては、デジタルアーカイブの黎明期 から課題になっている、デジタルアーカイブの消滅と 継続性、という問題に焦点をあて、全体状況を共有し つつ、そこから派生する様々な課題を議論しよう、と するものであった。 当日、小村氏・原田氏の報告からは、デジタルアー カイブ廃止の要因に予算の相関は薄いこと、また廃止 されても内外からの反応が特にない事例があることが 言及され、渡邊氏からは、行政主導のデジタルアーカ イブが〈消滅〉し、ボトムアップのデジタルアーカイ ブが今もバージョンアップし続けていることが報告さ れ、庭田氏からは、写真の色付けの過程で、当事者と の対話が広がっていく状況の発表があった。その後、細井浩一氏(立命館大学)から機関をまたいだ継承事例として CM アーカイブの紹介があったあと、フロ アを巻き达んでの討論を行った。 討論では、インパクトの重要性、ネット・リアルを 問わないフローへの移行、大規模に展開するためのボ トムアップからトップダウンに転換する仕掛け、若い 人へのメリットの出し方、濃く使われていることへの 評価、デジタルアーカイブの年い方・冬眠するデジタ ルアーカイブを設計すること、など、非常に密度の濃 い議論が行われた。特に庭田氏の活動と報告は参加者 に大きな印象を残した。(文責福島) 左から渡邊英徳、庭田杏珠、小村愛美の各氏 by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 企画セッション (5)「日本文化資源と してのMANGAをアーカイブする〜京都/関西における活動と課題」 2019年3月15日 (金) (京都大学) \author{ 細井 浩一 \\ HOSOI Koichi \\ 立命館大学映像学部 } パネラー: ・マンガ : 吉村和真 (京都精華大学マンガ学部) ・アニメ:藤田健次(株式会社ワンビリング) ・ゲーム: 福田一史(立命館大学ゲーム研究セン ター) ・コーディネータ:細井浩一 (立命館大学映像学部) マンガ分野として発表した京都精華大学の吉村氏 は、国内分散型のマンガ保存施設ネットワーク構築の 現状とその成果を紹介した後、「原画ダッシュ」とい う非常にマンガ原画の現物に近い質感を再現したデジ タルデータの制作と国際的な展示等の利活用事例を解説した。また、京都府精華町で京都府が運営する KICK に大学として研究エリアを開設し、長期保存と 研究拠点化を戦略的に進めていることが紹介された。 アニメ分野として発表した(株)ワンビリングの藤田氏は、アニメ原画集 E-SAKUGAを紹介し、このプ ラットフォームを活用したアニメーションのアーカイ ブの構築を目的として、京都府精華町の KICKを拠点 にすべく、精華町に事業所を設置し活動していること 左から、吉村和真、藤田健次、福田一史、各氏 が紹介された。今後は、大学関係者・研究者にアニ メ・アーカイブを通じて異分野にアニメの基礎知識を 利活用してもらう道筋を考えたいとした。 ゲーム分野として発表した立命館大学の福田氏は、同大学ゲーム研究センターにおいて長期に進めている ゲーム保存活動の全体像を紹介した上で、最近の成果 として、オーラルヒストリー、国内外のゲーム所蔵館 との連携(データ連携も含む)、ゲーム以外のマンガ、 アニメ分野とも横断性のあるメディア芸術全般のメ夕 デー夕構造の設計と実装、などを進めていることが述 べられた。 発表と討論を通じて、MANGAはそれぞれ属性と特性を異にする素材であり、長期的なアーカイブについ てのハードルはそれぞれ異なるものであるが、保存ス ペースの確保、専門人材の育成、利活用のための社会化モデル、メタデータの構造化と共同化によるデー夕 ベース構築など、共通する重要課題が確認された。ま た、京都、関西でこの課題に取り組んでいるプレイ ヤーの活動を客観的に評価するならば、行政主導に よって東京のみで実現されるのではなく、東京と関西 の二元的な、あるいはより地方に分散するような方向性での MANGAアーカイブについても現実的な可能性があるのではないかという結論となった。 時間の関係でそれぞれの仔細に分け入る議論が出来 なかったことは残念であったが、会場からは、それぞ れの分野に固有のアーカイブ手法についての質問や、長期保存に向けた分散保存や博物館などでの利活用の 可能性について的確な質問が出された。
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# 企画セッション(4)「災害資料保存とデジタルアーカイブ」 2019年3月15日 (金) (京都大学) \author{ 福島 幸宏 \\ FUKUSHIMA Yukihiro \\ 京都府立図書館 } (現: 東京大学大学院情報学環特任准教授) 企画責任者 : 福島幸宏(京都府立図書館)報告者: ・松岡弘之(尼崎市) $\cdot$ 川内淳史 (東北大学) このセッションを設定した問題意識には、東日本大震災以降、大規模妆害に際して被災した資料をレス キューする活動があることは広く知られるようになっ たが、本来なら密接な関係を持つはずのデジタルアー カイブ関係者が、その最前線の活動にコミットする、 もしくは強力に支援する、というところまでには至っ ていない状況がある、というというものがあった。 当日は、松岡・川内の両氏から、阪神淡路大震災以来の 25 年にわたる被災資料レスキュー、さらに東日本大震妆後の活動を通じて、デジタルデータをどのよ うに作成し、管理・運用しているか、という報告が行 われた。それを受けて議論をフロアに開いて、討論を 行った。討論では様々な意見や助言が出た。特に、作成されていくデジタルアーカイブをどのように活用 し、若い世代にどのように課題を接続するか、という 左から、福島幸宏、松岡弘之、川内淳史の各氏 論点をめぐって、従来の資料レスキューとデジタル アーカイブの関係をみなおすきっかけが得られたと考 える。たた、一義的にはコーディネーターの責に帰す るものだが、もう少し議論が盛り上がったり、まと まったりする場面を期待していた。 一方で、この議論の困難さが、かえってデジタル アーカイブ学会で、災害関係、特に歴史資料から出発 したそれを取り上げ続ける意味を浮き彫りにしたとい える。われわれには、まだ被熧地や関係者からの要請 にこたえる準備が十分ではないのだ。今後とも、この 課題についての再論を検討したい。
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# 企画セッション(3)「デジタルアー カイブ推進法を意義あるものにす るために」 ## 2019年3月15日 (金) (京都大学) 報告者 生貝直人 (東洋大学) 藤森純(并護士) 3 月 15 日 (金) 午後 4 時から、40 名程度の参加を得て開催された。 冒頭に生貝直人東洋大学准教授から「著作権法改正の最近の動向」、藤森純弁護士から「デジタルアーカイブ整備推進法 (仮称) 要綱案概要」の 2 件の報告があり、その後質疑応答・意見交換に入った。 \author{ 柳与志夫 \\ YANAGI Yoshio \\ 東京大学大学院情報学環 } 報告では、近年の著作権改正の動きが急であり、大きな進展が見られること、ジャパンサーチ試験版の公開の意義などについて、またデジタル文化資産推進議員連盟総会で提示された「デジタルアーカイブ整備推進法 (仮称) 要綱案」の概要とポイントについて説明があった。会場からは、著作権処理の裁定制度の問題点や保険制度導入の可能性、整備法の所管官庁や推進体制のあり方等について活発な質問・意見が出された。 左から柳与志夫、藤森純、生貝直人、各氏
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# 企画セッション(2)「デジタルアー カイブと東アジア研究」 2019年3月15日 (金) (京都大学) パネラー: ・北本朝展 (ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター/国立情報学研究所) $\cdot$ 師 茂樹 (花園大学) $\cdot$ 内田慶市 (関西大学) 企画セッション(2)「デジタルアーカイブと東アジ ア研究」では、「近年、各国で急速に進展している東 アジア文化研究のデジタルアーカイブ構築の趨勢を踏 まえ、日本におけるアーカイブの構築と活用に関する 状況を共有し、今後の展開を考える」を企画趣旨とし、次の 3 件の報告を得た。 まずは、北本朝展(ROIS-DS 人文学オープンデー 夕共同利用センター/国立情報学研究所)が、「デジ タルシルクロード」「顔貌コレクション」「文字データ セットと機械学習」の各研究紹介を行った。北本は、機械学習による大規模なテキスト化への期待は大き く、今後はデータセットの構築が必須になるなど、今後の東アジア研究のためのデジタルアーカイブへの示唆を行った。次に師茂樹(花園大学)は、東アジア仏教研究において、多様なデータベースあるいはデジタ ルアーカイブの利活用がすでに一般化している現状を 論じた。その一方で、例えば資料そのものが信仰の対象となっているなどして、寺院や個人蔵の資料のデジ タル化とその公開が困難なケースがあるとの課題も指摘した。そして最後に、内田慶市(関西大学)は、中国語学で利用しているデジタルアーカイブ、特に Chinese Text Project(中国哲学書電子化計画)をはじめ とするテキストデータやコーパスの現状について、幅広い紹介を行った。 質疑応答の場面で企画責任者の藤田高夫 (関西大学) は、日本の東アジア研究の国際的な地盤沈下という現状にあって、デジタルアーカイブをはじめとするデジ タル技術を活用したリソースの発信は必要であると セッションの意義を強調した。一方で、その問題意識 を共有すべき相手がこの学会に参加していないことこ そがまさに問題であるとも述べ、デジタルアーカイブ の利用者としての東アジア研究者に対し、デジタル アーカイブの提供者としてどのように本学会への参加 を促すべきか、今後の展開への課題が共有された。 (文責:菊池信彦、関西大学特命准教授) 左から藤田高夫、北本朝展、師茂樹、内田慶市、各氏
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# 司会・問題提起 : 水島久光 (東海大学) ゲスト・パネラー1:榎本千賀子(福島県金山町教育委員会/新潟大学研究員) ゲスト・パネラー2: 平良斗星(沖縄県デジタルアー カイブ協議会) ゲスト・パネラー3:林田新(京都市立芸術大学芸術資源研究センター/京都造形芸術大学) コメンテーター:平賀研也(長野県立図書館) 本セッションでは、試行的ではあるが示唆に富む地域アーカイブ 3 実践を紹介。各ケースの「対象」「狙い」「手法」の比較を通じて、ボトムアップによるアーカ イブ構築の公共的イメージが浮かび上がる、エキサイ ティングなセッションとなった。 紹介されたのは (1)「かねやま『村の肖像』プロジェ クト」(福島:榎本千賀子氏)、(2)「古写真収集・活用事業」(沖縄:平良斗星氏)、(3)「SUJIN MEMORY BANK PROJECT」(京都:林田新氏)。いずれも写真 を介して記憶と向き合う実践でありながら、資料の扱 左から林田新、榎本千賀子、平良斗星、平賀研也、各氏 い方、コミュニケーションの作り方において、相互に 絶妙なコントラストを会場に印象づけた。後半は報告 を踏まえ、コミュニティを認識するツールとしてアー カイブを位置づけ、地域づくりのソリューションをそ こから導き出そうとする未来志向の討議が行われた。 様々なワークショップやイベント、展示などの工夫 は、いずれもが対象への意味づけ行為の循環をなして おり、資料に向ける多様な視線、あるいはその意味変化が時間経過とともに可視化する「生成の場」づくり を指向していた。こうした取り組みの集積こそが、ナ ショナル・グローバルな観点では目に入ってこない肌理、豊かなアーカイブの土壌を育むことにつながる。 また旧来の文献史的文脈を超えて、資料間、記録と記憶間の関係性を発見していく「新しい歴史学」の可能性も垣間見えた。さらに、活動をバックアップする組織連携ネットワーク、過去と今を結びつけるプロセス に地図システムや携帯端末などこなれた技術が用いら れていることから、収集・保存管理の課題とは別の、運動の視点からの「デジタルアーカイブ」像も感じと ることができた。 しかし今回はここまでが限界。時間内に論点整理が 十分できなかったことは司会の不手際としてお許しい ただき、ぜひ学会内外の様々な機会でこの続きの議論 が行われ、知見が重ねられることを期待したい。 by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# チュートリアル・エクスカーション報告 2019年3月15日 第3回研究大会(京都大学) 第 3 回研究大会では、初めての試みとして、3月 15 日の午前中、大会本プログラムの前の時間を利用して チュートリアルとエクスカーションを実施した。どれ もほぼ定員に達する盛況であった。以下は講師・企画担当者の方々の感想である。 $ \begin{aligned} & \text { エクスカーション「デジタルアーカイブで歩 } \\ & \text { く京大・吉田」 } \end{aligned} $ ガイド 重永瞬(京都大学文学部) エクスカーションは、京都のまち歩きッアーガイド としても活躍している京都大学文学部 4 回生の重永瞬 さんに、京大周辺の案内をお願いしました。当日は晴天に恵まれ、20 名ほどの参加者が大学構内に残る近代建築や、キャンパス周辺の痕跡を巡るまち歩きを楽 しみました。重永さんには、キャンパスの一角に昔は 牧畜場があったことなど、 2 時間飽きさせない興味深 い案内をしていただきました。配付資料はデジタル アーカイブからの地図や写真を活用して作られており、「このようなまち歩き資料が作成できるのもデジタル アーカイブのおかげ」と最後に語っておられました。学会のエクスカーションでまち歩きというのはめずら しいかもしれませんが、デジタルなことをする学会で、 このようなアナログなまち歩きもまたよかったのでは ないでしょうか(天野絵里子 京都大学)。 ## チュートリアル「Omeka」 講師 中村覚(東京大学情報基盤センター) 宮本隆史(東京大学文書館) 元ナミ(京都大学大学文書館) 我々は、オープンソースソフトウェアのコンテンッ管理システム Omeka の紹介 ${ }^{[1]} 、$ および実際にシステムを操作することで Omekaの理解を深めるためのチュー トリアルを実施した。90 分と短い時間ではあったが、用意したマニュアル ${ }^{[2]}$ を用いて、画像の登録や表示、 メタデータの編集、テーマの変更やプラグインの利用など、Omeka の基本的な操作を一通り実施することが できた。チュートリアル後に設けた質疑応答・ディスカッションでは、Omeka の情報共有を行うための場所やコミュニティを作って欲しい、との要望を参加者からいただいた。今後はWikiの構築やメーリングリストの作成など、国内の Omekaコミュニティの形成に繋がる活動を実施していきたい (中村覚東京大学)。 [1] 中村覚, 宮本隆史, 元ナミ. Omekaチュートリアル, DA学会 ・第3回研究大会, https://bit.ly/2TDpZ56. [2] 中村覚 (翻訳), Omeka.net 研究者向けユーザガイド, http:// bit.ly/2O47NyH. ## チュートリアル「デジタルアーカイブの業界標準・IIIFの基本を押さえる」 講師 永崎研宣 (一般財団法人人文情報学研究所) 岡田一祐(国文学研究資料館) 西岡千文(京都大学附属図書館) 『仏鬼軍』の絵巻と木版本をIIIF対応ビューワで並べて閲覧している例。左側は東京国立博物館、右側は国文学研究資料館が公開する画像。 時実先生より依頼をいただき、学会初日、IIIFのチュートリアルを実施した。これを実施するには京都で前泊が必要であり、旅費を余分に調達する必要が出てくるが、この学会の参加者の方々に少しでも IIIF のことを知っていただく機会になればと思い、お引き受けすることにした。 IIIF のチュートリアルは、これまで東京大学大学院次世代人文学開発センター人文情報学拠点の仕事として国内外各地で実施してきたフォーマットを基本的にはそのまま踏襲した。USBメモリに配付資料を用意してデータやプログラムは全て参加者個人による再利用可ということでお渡しし、概要の説明に加えて、基本的なビューワの操作・地図年表マッピングの実習を行った。さらに当日は、京都大学の西岡千文氏、国文学研究資料館の岡田一祐氏にアシスタントをしていただき、お二人のそれぞれの IIIFへの取り組みもご紹介していたたけたため、重層的な内容になった。なお、 IIIF に関する情報は、私的なまとめを作成しているのでそちらもご参照いただきたい。https://bit.ly/2K91DgN IIIF の講習会は、今後も各地で開催する予定であり、 3 名以上の方がご希望され、交通費の都合がつけげ極力おうかがいすることにしているため、今回参加しそびれたがご関心が打ありという方はぜひ永崎までお声がけいただきたい。(永崎研宣一般財団法人人文情報学研究所) ## チュートリアル「著作権法 とCreative Commons」 \\ 講師 橋本阿友子弁護士(骨董通り法律事務所) 「著作権法と Creative Comons」と題してチュートリアル講座を担当させていただきました。デジタルアー カイブの収集と公開で問題となる著作権法の基本と Creative Commons の基本の解説、と、いずれも「基本」 とのテーマで承ったこともあり、デジタルアーカイブの現場で権利処理に対応していらっしゃる方には釈迦に説法の内容だったかもしれません。もっとも、権利処理が複雑であることは事実であり、当職自身も現場での混乱を目の当たりにしていたため、2つのテーマのうち著作権法の基本に重点を置きました。CCライセンスは Creative Commons が提供する独自のルールであり、条件や詳細は公式ウェブサイトに依るため、講座では主に問題点の指摘にとどめましたが、2つのテーマをまとめるにあたり 90 分ではやや厳しい時間繰りとなり、最後が駆け足となってしまったことにつき、この場を借りてお詫び申し上げます。なお、 Creative Commons については当職のコラム (https:// www.kottolaw.com/column/190328.html)でも紹介いたしておりますので、こちらもご参照いただければ幸いです。(橋本阿友子骨董通り法律事務所)
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# 基調講演 ## 「文化における情報という財産一調査・研究と活用の問題一」 ## 2019年3月15日 (金)(京都大学) 神居文彰 KAMII Monsho 平等院住職 ## 講師プロフィール 科学的調査研究を基に、日本で最も国宝が集積し世界遺産である平等院の修復、復元事業を約 25 年以上行ってきた。宗教法人では初となる登録博物館では、 すでに 10 年以上前から紫 LED や演色性 98 の LED などを応用。各種文化財修復や文化財デジタルアー カイブ事業を先導し、多くの先駆的成果を残す。 現在:(独法)国立文化財機構運営委員、(公財) 美術院監事、(学) 埼玉工業大学理事、平等院ミュージア么鳳翔館館長 (府 20 号)、佛教大学非常勤講等 平成 3 年大正大学大学院博士課程単位修得満期退学 平成 5 年より現職 平等院の神居です。おはようございます。 早口で進めますので、皆さんの脳内で量子的に変換しながら 3 次元的にご清聴ください。(拍手) デジタル社会の問題点ーブラックボックス、 フェイク、ネットワーク依存ー 現在、スマート社会に移行中で、デジタルファースト、ITによる手続、ワンスオンリーという 1 度だけのデジタル操作で全て完了ができるように進めていますが、まだ多くの課題もあります。 スマート社会電子化法案 デジタタファー-ㅏ. I手続き ワンスオンリー ワンストップ 先日、新宿駅でみなさんご存知のコンシェルジュ-Pepper君 2 人に「池袋はどこ?」と質問してみました。 1 人はネットワークにつながらないので考えられませんと下を向き、もう一人は、「ごめんなさい、 うまく理解できなかったよ。もう一度試していただけますか。」というご愛敬で、背後に膨大な知識に繋がったディープラーニングも、特徴的な音声や質問を、 ファージーに理解するには発展途上だという気がしました。さらに情報が蓄積されてくると、より精度の高い回答が出ることになると思いますが。 別に東京駅のコンシェルジュAI さくらさん(上図左)に旅行者が「プロフィールは」と問いかけると、 さくらさんは「21才、趣味は散歩やショッピング」 と答え、上野のコンシェルジュIAちゃん(上図右)は、「16才、趣味は妹と遊ぶこと」と答えるのです。たいしたものだと感心するものの、これらは設定であり全てフェイクです。 こういうことを念頭に、デジタルアーキビストで最 ネットワーク としての存続と 個体としての エレメント も大事な点というのは、情報を収集し適切にそれを整理して出すべき時機に適切に発信する、「精確で価值あるデー夕」を構築できる人材にあると思います。 ## 文化財の概念 私がずっと携わってきました文化財では、保護法改正前は、有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群、と選定保存技術打よび埋蔵文化財の 7 分野 2 項目がありました。 文化庁がいう「活用」というのは、モノや動作が残っている必要があるのです。信号を介するデジタル 「データー」とはある意味真逆です。これが空間であったり、地域であったりするものと関わる。 「まもる」という字には 2 つの漢字があります。ウ冠の「守る」。これは原意としては集める、もしくは変えないという意味。言偏の「護る」のほうは、初めにそれがどういうものかというのを調査するという意味をもっています。二文字あわせて守護です。 守って/護っていくために必要なこと。言ってみれば、何をするか。状況を見定めるということが必要になるということです。 これらは明治時代、岡倉天心そして新納忠之介等が日本における近代文化財修理がスタートする際に提示した概念に相反します。対象は変えないということ。 できるだけそのままに残していく。たた、残っているもので明らかに今ある良好な部分に悪さをするときだけ、それを替えるなり修正しましょうということ、これを「普通修理法」といい、基本的には現状維持、変えないことになっています。 ## 普通修理法 - 現在遺されている造像時の良い姿を、これ以上損傷しないようにし、出来るだけ長く後世に伝える。 ・制作当初の部材や彫刻面、彩色、漆箔を尊重し、 これを傷つけないようにして、修理部分の仕上げは当初仕上げを生かして、出来るだけ控え目にする。 ・ 久損部の復元や追補は、最小限にとどめる。 「古社寺保存の仕事は、研究を眼目としてやらねばならない、職人になってはだめだ、随って君等にやって貪ふ仕事は、研究的なものでなくてはならないのだ。」 $ \text { 天心 } $ 天心はそれに関連して、修理というのは「研究」であるということも言います。まず、対象を研究、調査しましょうという教育や学習コンテンツとしての側面を含んだ内容を言うのです。 日本というのは言ってみれば木の文化であり、紙の文化であり、布の文化の側面を持ちます。 高温多湿で四季もあり台風・地震もあります。ですから、経年劣化・毀損が確実に起きやすい。その状態のままに保持するためには「修理する」ことが必要です。 何のために、どうやって、どうするという概念が必要で、そしてそれを具体化するための設計、実際に修理するもの、技手が必要になります。 ## 修理の実際と調査、デジタルアーカイブ 私が 30 年近くお守りしてきた鳳凰堂、修理後の全景です。 修理して 5 年経過しますが、修理をする直前まで 「本当に鳳凰堂に塗装を施していいのか」ということが識者の議論を二分しました。修理前というのは色が落ち枯れているイメージです。 創建当初の状態はどのようなものであったのか、徹底的に 30 年調査しています。発掘、沈下計測、三次元計測、蛍光 $\mathrm{X}$ 線調査、反射 $\mathrm{X}$ 線調査、透過 $\mathrm{X}$ 線調査、 偏向画像調査その他です。 鳳凰堂と一具となる絵画彫刻工芸品なども同時に調査してきました。周波数を変えた励起光調査では、目視できなかった文様などが浮かび上がることもあります(下図左)。 扉絵には、このような顔料自体を盛り上げた平安時代のおき上げもあります。斜光で見ていただくと、木々の葉や花に合わせた意匠であることがわかります。この数mmの凹凸まで再現して博物館の 1 室では、鳳凰堂の内部空間を構築した部屋をデジタルアーカイブの技術で再現しています(上図右)。 実際の鳳凰堂は先ほど言いましたように、さまざまな分野の国宝が集積しています。天然記念物、建造物、絵画、彫刻、金工品など。 これは最近の修理で取り外した鳳凰堂の西扉です。国宝の現品は、顔料等が剥落して絵画内容が判然としません。 ただよく見て頂きますと、平安時代の顔料や漆塗膜が残っています。染料が大面積に使用されていたことも判明し押縁は墨を多用した文様であることもわかりました。この扉は木朹をつくって中に筋交いを入れて、薄い板を両側から貼った構造で軽くて丈夫です。調査では金工品には、アンチモンが入っているということが大きな特徴であることもわかってきました。 復元において絵画は、日本画家に 4 年がかりで調査のもと想定復元を描画していただています。そして最終的にはその絵をデジタルアーカイブしUV印刷によって直接板木にプリントし現在鳳凰堂の扉として嵌め込まれて常用扉である国宝の一部として使用されています (右上図)。 材料、構造、技法を再現した扉の絵画をなぜ、デジタル出力にしたかというと、実際に扉を鳳凰堂に嵌め込み使用しながら印象や風合いを確認し検証を加え複 数回大規模な修正が可能なようにです。 扉の外装は朱漆で、高さ 3 メートル近くまで平滑な漆仕上げで塗装するということをしています(上図)。 このとき漆塗りは裸で行います。なぜかと言うと、そこに髪の毛が落ちてもそれは失敗になりますから。木部や漆、絵画だけではありません。金工品は、先ほど指摘したアンチモンも含めた構成比で材料を合成し型をつくり鋳造を行いました。温度調節のための上に敷き燃やす藳は、藤を焼いたものがいいとか、様々な伝承があります。これらは大切な口承伝承としてアーカイブしています (下図左)。 鋉を持つ指の技を見てくたさい。お小さい時から慣らして始めて実現でき得る匠です。これが文化財を修理する伝承すべき技の実際です。アーカイブ後もデジタルで再現しにくい部分でしょう。 現物としての扉と、アーカイブした様々なパーツは、最終的に CG 画像の中で三次元的に動かして一つの動画として結実しています。 ## 復元的修理の様々な展開 修復と復元、記録は時代の風潮や政治的な問題から様々に展開します。 帝国博物館による明治 25 年初版『織文類纂』は、 当時日本に伝わっていた重要な織物文様をアーカイブした本ですが、初版時には印刷に金が使えない通告があり、それを代用する表現で刊行されています(下図左側)。明治 40 年の 3 版の時には金糸部分は金色で表現できています (下図右側)。 平等院では、鳳凰堂以外にもさまざまな建物があり、宇治市指定文化財の羅漢堂には、1640 年当時の堂内彩色が残つています。 その修理事業の際、科学調査により、下地も含めて完全に顔料が落ち切って、木地だけになった部位に彩色復元を施しました (下図左)。(もしかしたら次世代の調查計測器だと調査結果は異なるかもしれませんが、ある意味解答のないものに決断が必要な場面も文化財には多々あります) アップで見ますと、当初菊の紋が多数配置されていることがわかると思いますが、明治初期に上から和紙を貼り、源氏香の文様を施し隠す様にされていました (上図右)。 今回の修理では、当然当初のものでない和紙部分は取り外したいところでしたが、そんな時代もあったという痕跡も大切だということで、全部で 18 あるうちの何面かはそのまま和紙で貼られ菊紋を隠した状態で残しています。 ご覧の様に、須弥壇下部は、全て日本画による復元絵画をデジタルアーカイブで再現したプリントを貼り达んでいます。このプリントを四分一で外せばその下 に当初の絵画が顕れるようにしてあります。当然、その漆下地の絵画の剥落止め保存処置も施しています。 ## 特別な場所 鳳凰堂、そしてほかの諸堂。これらは単なる「もの」 ではありません。「もの」であって「もの」でないものです。ある者にとっては美的なものとして、ある者にとっては祈りの空間。ある者にとってはここで結婚式を挙げたり、あるときはここで別れた思い出深い場所となるのです。ユニークヴェニュー(特別な場所)とは、押しつけるものではなく、各人で構築されるものなのです。 日本は 50 年で倍になった人口が今後 50 年で半分になると云われています。今見ているもの、扱ったものが、環境の激変していく中で、継続的に活用できる修理とアーカイブを行っていきたいと思っています。 いわゆる文化財を修理するときの3つの側面は「インプット目標」、「利活用」、「アウトプット成果」 です。インプットとしての目標というのは、常に修理をしていく必要があるという環境を定義したいと思います。メンテナンスしないと劣化します。ですから、 どの時点においてもいずれ大きな修理が必要であるという、小修理と日常管理を続けていくということに他なりません。 今回の修理のアウトプットというのは何かというと、先程言いましたメンテナンスを体系化していくことを目指していたのです。 ## 展示館の可能性から「暗黙知」まで 私のところでは登録博物館を 20 年運営しています。環境を安定化するために、ほとんど地下施設、地下構造としています。 これらは全て鳳凰堂の中にあった仏像群です。単なる別置保管ではありません。1000 年前の鳳凰堂の安置の意味も大切ですが、博物館移動にあたっては現代で私たちができる新しい価値を与えた配置も追求し、堂内では不可能であった間近でかつ約 $5 \mathrm{~m} 50 \mathrm{~cm}$ という当時日本で最も大きなウオールケースを活用してその仏達の意味を表現し高演色、紫 LEDなどを試行した新しい展示法の策定でもありました。 平等院の象徴的な国宝である鳳凰、皆さんが打使いの一万円札の裏側に使用されています。この金銅製鳳凰を調査した結果、鳳凰台座だけに鍍金がないことがわかりました。 ということは、 1,000 年前、像を造型しようとしたというより金色の鳳凰が降りてきたという姿を顕そうとした形だということがわかります。鳳凰の造形なのです。 その理念を踏襲するために、今回、足下は金箔置きではなく青銅を磨き迄むことを目指しました。 こちらの鳳凰は、屋根の大棟に乗っています。ですから、下から見上げ遙拝するものです。下から見上げて最適だと思える姿を顕したともいえます。 鳳凰 2 躯は三次元計測をしています。その三次元計測をもとにして、レプリカをつくってみました。高さ 30 センチぐらいの小像と原寸のもの。すると、両像とも机においても私の目線よりも下になります。ものすごい違和感でした。 屋根の上にあって適切に見えるものを、三次元計測をしたデーター値そのままでは、拝観環境や位置によって、どれほど現物と同じクローンとも言えるそっくりさん、そのとおりにつくった鳳凰でも、実はこれは全く別の䭾作に陥ってしまたのです。 実際には、復元模像製作の名人と言われる方に足の長さを調整して頂いたり、頸の角度を修正することによって、大棟上の鳳凰の如く見える様になりました。 これが、現時デジタルでは実現が難しい「暗黙知」 と言えるもので、絵画の想定復元では画家の、彫刻では彫刻家の感性を必要とする部分とも言えるものでしょう。 文化財は、デジタルデーター値たけで完結することができないのです。 ガンプラでも、カトキハジメ氏など、名人と言われるモデラーが輩出されていることからも容易に想像がつくと思います。 ## デジタル報告書とデジタル活用 これまでの大きな修理ではそのたびに報告書を刊行しています。 今から 15 年前、天然記念物、史跡名勝平等院庭園の復元的整備事業では、境内図と発掘調查、整備前後が連動するはじめてのデジタル報告書をつくりました。 その後、美術工芸国宝本尊阿弥陀如来小よび天蓋修理事業では、修理工法などを全てレイヤーで重ねるこ とができ、1000 年間の各時代修理位置や内容、痕跡、修理前の損傷、修理後状態などを、くし刺しにして時系列でみられる、いわゆる紙媒体では不可能な報告書を刊行しました。 今回の建造物、国宝鳳凰堂の修理報告書では画像図版のデジタル情報以外、「動画編」を作成しています。 どのような修理をどう実施したのか、それこそ膠を溶いているところから、土を莫くところ、材料を検証し集めてくる場面、塗装する瞬間、鍍金をする実際などインデックス動画として残しています。 次は別のデジタルにおける文化財応用例です。 三次元計測後、点描約 0.2 ミリの中に復元色を入れ三次元データーを作成し $3 \mathrm{D}$ で動かします。たた、それだけでなく最初期の $\mathrm{iPad}$ タブレット機をトーテムポール状に配置し、デイスプレーをそれぞれ球体画面のように連動させ、眼前に物体が存在するかのように再現しました。後ろに周るなど自身で具体的に動いて立体を認知する動作の重要性を探求したものです。 さらにこのような実験もしてみました。 東日本大震災後、祈りというのが蓄積できないだろうかということで、平等院来院の拝観者にタブレットを渡し、何か誰かのために祈りをしょうと。同時刻、別所で祈る人が読む経典の文字が点滅し、それをなぞるとその行為がサーバーに蓄積されていく(下図左、京都新聞 2013 年 3 月 8 日 28 面)。 平等院という今現在いる場所で、祈りという心理的なものと、なぞるという動作性が、他者と連動し蓄積されるという、デジタルならではアーカイブといえるでしょう。 ## 小結 文化財はオーセンティシティ、インティグリティが基本にありますが、維持するためには調査を継続し修理をし続ける必要があります。それでも経年での変化を止めることはできません。モノは必ず劣化する。 そして、本当にこの修理でよかったのかという検証をフィードバックさせながら、それこそ何度も、修理材料や技法を更改し続けながら護持していかなくてはいけないのが、文化財です。環境も変化します。 デジタルも同様で、終わりのない技術の積層です。 私は、最初期のIBM の 2 メガシリコンディスク、 あの卵型のものを持っていますが、すでに読むことはできません。それ以前の5インチデイスクをご存じの方は、私と同年代です。記念にドライブを保存していますが、もう使うことはできません。 新しい技術が出てきた場合、ソフトウェアも含め下位互換はせいぜい 2 世代です。 終わりのない技術更新がデジタル文化の宿命で、ある意味可逆性がない点が文化財と異なる性格であると指摘できます。 その上で、量子的な階層への開放と展開、ブロックチェーンの問題、改変の容易さという脆弱なマテリアルであること、メディアの保存性、他者・自己のセキュリティ、解に至る道筋検証、フィルタリング、経験や感性を含む暗黙知ということなどに関係させて活 用する必要があるのではないかと思量しています。 デジタルアーカイブと人間の身体性との関係も研究する必要があるでしょう。 そして、デジタルは現時、電気に依存する技術であることも忘れてはならないと考えています。 鳳凰堂 1000 年の歴史から、修理を含めた中でのさまざまな考察を、本日 1 時間 10 分を使ってお話をさせていただきました。 ご清聴ありがとうございます。(拍手) ## 質疑 ○質問修理の人を育てるという点について、お考えをお伺いしたい。 ○神居人というのが、最も大切な財産であり、人は電気信号とは異なり瞬時に完成された解を応答できたり即時に完成、成熟に至るものでもありません。 情報も財産であると同時に、情報を活用する者、また、実際にそれを援用していく者、つまりそれぞれの分野での人の関わりが重要になってきます。 さらに、文化財というのは、大変個別的な性格をもつものです。管理修理等には多様な人材を要します。 これが文化財修復動画をアーカイブする理由です。 ○質問これからの国としてのアーカイブ政策というのが、どういう道に進むべきかについて、お考えをお伺いしたい。 ○神居著作権などの問題は、文化庁の著作権課たけでなく、知財のほうと一緒にやる必要もあるのではないかと思っています。 デジタルアーカイブの利活用は文化そのものと密接に関わります。単一省庁だけでない総合的な施策がのぞまれます。 本日お話ししたことは、現時点ですでに時代遅れ・陳腐化するほど、時間の流れは早く進んでいます。 是非、文化財の本質と持続可能な文化財環境に心がけて下さい。
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# デジタルアーカイブ学会第 3 回研究大会概要 ## $\Delta$ 日時 2019 年 3 月 15 日 - 16 日 会場 京都大学吉田キャンパス総合研究 8 号館 ( 〒 606-8501 京都市左京区吉田本町) ## 開催趣旨 デジタルアーカイブ学会 (2017 年 5 月 1 日設立) は 21 世紀日本のデジタル知識基盤構築のために、人材の育成、技術研究の促進、メタデータを含む標準化、国・自治体・市民・企業の連携促進、公共的デジタルアーカイブや地域デジタルアーカイブの構築支援、デジタル知識基盤社会の法制度の検討などをおこなっています。関係者が経験と技術を交流$\cdot$共有し、研究発表を行い、ネットワークを形成する場として、本学会の第 3 会研究大会を京都大学で開催致します。 ## 主催 デジタルアーカイブ学会 ## 共催 京都大学大学院情報学研究科 ## 協賛 デジタルアーカイブ推進コンソーシアム 一般財団法人デジタル文化財創出機構村田機械株式会社 ## 後援 アート・ドキュメンテーション学会、日本アーカイブズ学会、記録管理学会、情報知識学会、情報メディア学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、日本教育情報学会、日本出版学会、東京文化資源会議、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報保存研究会、本の未来基金、京都文化力プロジェクト ## ๑プログラム 基調講演 : 平等院神居文彰住職 「文化における情報という財産一調査・研究と活用の問題一」 一般発表 (口頭発表・ポスター発表)(3月16日(土)) 企画セッション (1) 記憶を集める・公開する一まだ存在しない「アーカイブ」を考える (2) デジタルアーカイブと東アジア研究 (3) デジタルアーカイブ推進法を意義あるものにするために (4) 災害資料保存とデジタルアーカイブ (5) 日本文化資源としての MANGA をアーカイブする〜京都/関西における活動と課題 (6) アーカイブの継承 チュートリアル・エクスカーション チュートリアル「Omeka」 チュートリアル「デジタルアーカイブの業界標準・IIIF の基本を押さえる」 チュートリアル「著作権法と Creative Commons」 エクスカーション「デジタルアーカイブで歩く京大・吉田」 ## $\checkmark$ 実行委員会 委員長黒橋禎夫 (京都大学大学院情報学研究科) 委員 天野絵里子 (京都大学学術研究支援室) 古賀崇 (天理大学) 時実象一 ( 東京大学大学院情報学環 ) 原田隆史 (同志社大学大学院総合政策科学研究科) 福島幸宏 (京都府立図書館) 藤田高夫 (関西大学) 細井浩一 (立命館大学映像学部) 水島久光 (東海大学文学部) 村脇有吾 (京都大学大学院情報学研究科) 安岡孝一 (京都大学) 柳与志夫 (東京大学大学院情報学環) 吉村和真(京都精華大学) ## 企業展示出展者 富士フイルム株式会社 TRC-ADEAC 株式会社 インフォコム株式会社 ソニービジネスソリューション株式会社 株式会社東京光音 勉誠出版 株式会社サビア 株式会社パスコ NTTコミュニケーション科学基礎研究所 中国知網 CNKI 日本写真印刷コミュニケーションズ 株式会社アルメディオ ## 予稿集広告出稿者 大日本印刷株式会社 日本デジタル・アーキビスト資格認定機構 株式会社シー・エム・エス 株式会社メタ・インフォ 株式会社 Stroly ## 第 3 回研究大会 (2019/3/15-16) 写真 基調講演会場 基調講演をされる平等院神居文彰住職 長尾真会長挨拶 黒橋禎夫実行委員長 口頭発表の様子 企画セツションのパネル ## 企業展示会場の様子 ポスターセッション会場の様子
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# 受賞のことば ## 青空文庫 このたびは第 1 回目のデジタルアーカイブ学会の学会賞・実践賞に選んでいただき、たいへん光栄に思います。青空文庫は 1997 年の創設から 22 年が経ち、収録作品数は 1 万 5000 を超元、登録ボランティア数ものべ 1100 名超となりました。今回の賞は特定の個人というよりも、入力・校正・運営に携わるボランティア、読者のみなさま、さらには読書を越えてさまざまに活用してくださっているユーザやクリエイタ、エンジニア、企業の方々とともに、执よそ 20 年のあいだ培ってきたパブリック・ドメイ ンという共有財産を社会で大切にしていく文化そのものに賜つたものと考えております。著作権法の改正などで逆風も吹いておりますが、ようやく芽吹き始めた共有文化という花の苗を枯れさせぬよう、民間アーカイブならではの小回りのよさも生かしながら今後も尽力してゆく所存です。ありがとうございました。 ## 公益財団法人渋沢栄一記念財団 情報資源センター センター長 茂原啺氏 この度はデジタルアーカイブ学会第 1 回学会賞として「実践賞」を情報資源センターに授け頂き、誠にありがとうございました。私共、情報資源センターという小さな部署が第 1 回目の受賞者に選ばれるなど、夢にも思いませんでした。 情報資源センターの役割は、この社会をより善いものとするため、渋沢栄一の経験や考え方に誰でもアクセスできるよう、「涉沢栄一を社会の中に埋め込むこと」、そして「埋め込むための器 (らつわ)を作ること」です。資料集『渋沢栄一伝記資料』のデジタル版公開は前者、栄一が作り上げた世界を社史に求め、そ の目次や索引を検索できるようにした「渋沢社史データベース」 や、栄一が生きた時代の視覚的(ビジュアル)な索引とも言える「実業史錦絵絵引」の作成は後者に属する事業です。 閲覧施設を持たないセンターにとって、デジタルアーカイブの開発は「運命」とも言えるものです。 10 年以上前にプロジェクトが動き始めてからは毎日が挑戦の連続で、本当に多くの方々からお力添えをいただかなければならないことばかりでした。 これまでにご協力いただいた皆様には、この場を打借りして御礼申し上げる次第です。 情報資源センターの挑戦は今後とも続いて参ります。さらなるご指導・ご鞭撻の程をよろしくお願い申し上げます。 ## 橋本雄太氏 この度は実践賞に選んで頂き誠にありがとうございます。これまで開発に関わったプロジェクトを評価して頂いたことを大変嬉しく思います。『くずし字学習支援アプリ KuLA』と『みんなで翻刻』は、いずれも私の独力で開発したシステムではありません。前者は大阪大学文学研究科の飯倉洋一先生を代表とする科研研究の成果であり、後者は京都大学古地震研究会の活動の一環として開発されたものです。開発にあたっては、国文学、国語学、史学、地震学など、多分野の研究者にご協力を賜りました。ここに御礼申し上げます。 私が初めて「くずし字」で書かれた資料を読んだのは、 2014 年に京都大学古地震研究会に参加を始めた際のことです。現代と地続きのはずの、百五十年ほど前に書かれた文献がまったく解読できず、強い衝撃を受けました。昨今はくずし字資料のデジタルアーカイブ公開が進んでいますが、国文学や日本史の分野で訓練を受けていない非専門家がこれらを有効に活用するためには、資料解読を手助けする「梯子」 が必要です。今後とも、過去の資料に梯子をかけるような研究を進めていきたいと考えています。 ## SAT 大蔵経テキストデータベース研究会代表 下田正弘氏 大蔵経テキストデータベース研究会 (SAT) が 85 巻 1 憶字を超える仏典叢書の大規模なテキストデータベース事業に着手したのは、1994 年のことである。2008 年に全文データベースを Web 公開し、その後、2012 年、2015 年、 2018 年と、最新のデジタル機能を装備し更新をつづけてきた。ここに至るまでの四半世紀は、急速に変革されるデジタル学術環境に対応しつつ仏教知識基盤の構築を進めた歴史であるとともに、人類の文化の意義を解明する人文系の研究全体が、この新学術環境のなかで、どう道を開いてゆけばよいか、その活路を模索した過程でもあった。現在、SAT データベースは、仏教学国際標準データベースとして認知されたのみならず、日本史学、日本文学、美術史学等の関連学界や関心の高い市民のあいだで広く利用されるとともに、画像公開規格や外字符合化を通し、日本の人文学全体の知識基盤形成に寄与している。日本のデジタルアーカイブの未来を開く本学会からのこの受賞をあらたな励みして、今後、SAT データベースをさらに発展させてゆきたいと願っている。
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# デジタルアーカイブ学会第 1 回学会賞の授賞式は 2019 年 3 月 15 日、京都大学で開催され た第 3 回研究大会において行われました。長尾真会長より、下記の方々に賞を授与しました。授賞理由については前号 (第 3 巻第 2 号 )をご覧ください。 # 功労賞 角川歴彦 (かどかわ・つぐひこ ) 株式会社 KADOKAWA 取締役会長 ( 欠席 ) 北島義俊(きたじま・よしとし)大日本印刷株式会社代表取締役会長 ( 代理室田 ユニット長 ) 後藤忠彦 (ごとう・ただひこ) 岐阜女子大学顧問、前岐阜女子大学学長 ( 代理坂井知志氏 ) ## 돋距学宣 青空文庫 (大久保ゆう氏) いらすとや ( 欠席) 渋沢栄一記念財団情報資源センター (茂原暢氏) 橋本雄太 ( はしもと・ゆうた ) 国立歴史民俗博物館助教 ( 欠席 ) SAT 大蔵経テキストデータベース研究会 (代表:下田正弘 )( 代理永崎研宣氏) ## 授賞式写真 北島義俊氏代理室田ユニット長 後藤忠彦氏代理坂井知志氏 青空文庫大久保ゆう氏 SAT 大蔵経テキストデータベース研究会(代表:下田正弘)代理永崎研宣氏 左から大久保ゆう、永崎研宣、茂原暢、長尾真会長、室田、坂井知志、各氏
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# [P16] ドローンユーザを補助する情報共有システムの開発 ○渡邊康太 ${ }^{1)}$ ,馬場哲晃 ${ }^{1)}$ ,渡邊英徳 ${ }^{2}$, 1) 首都大学東京システムデザイン研究科, 〒191-0065 東京都日野市旭が丘 6-6 2) 東京大学 大学院情報学環 E-mail: watta.2co.3kyoku@gmail.com ## Development of information sharing system to assist drone users WATANABE Kota1), BABA Tetsuaki1), WATANAVE Hidenori2 1) UniversityGraduate School of System Design, Tokyo Metropolitan University, 6-6 Asahigaoka, Hino-City, Tokyo, 191-0065 Japan 2) Interfaculty Initiative in Information Studies Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, The University of Tokyo ## 【発表概要】 徳島県那賀町はドローンによる町おこしを行なっており,飛行スポットをまとめた紙パンフレットを配布している.昨年度,発表者らは,そのパンフレットの掲載情報を基にしたデジタルア ーカイブを那賀町と共同で制作した. 本研究では,アーカイブされている情報について再検討し, ドローンユーザの体験をより豊かにする情報の蓄積および共有を目的とする. 初期段階として,ドローンユーザへのヒアリングを行なった。ヒアリングの結果から,個々のドローンユーザは体験者特有の情報を持っていると考えられる. そこで,個々のドローンユーザが持つ情報に着目し,それらを投稿することが可能な SNS を構築する。本稿では,SNS の初期プロトタイプについて報告する。試作したプロトタイプをドローンユーザに利用してもらい, 情報の蓄積および共有に関して基礎的な検討を行う。 ## 1. はじめに ドローンは空撮や測量、農業など様々な分野で利活用されている。近年は、携帯性に優れた高機能な機体が通信販売や家電量販店を通して販売されており、企業だけでなく、大衆にもドローンが普及し始めている。一方で、趣味としてドローンの空撮や操縦をおこなうユーザは飛行場所の確保に対して問題を抱えている。まず、国土交通省が発表している無人航空機の飛行ルール[1]により、人口集中地区等における飛行が禁止されている。他にも公園等の施設独自のルール[2]で禁止されている場合もある。これらの飛行ルールにより、飛行可能な場所は限られている。また、ルー ル上は問題がない場合でも、操縦の難易度、飛行場所へのアクセスなど様々な情報が必要となる。このような情報は自治体が公式で提供している場合もあれば、飛行経験のあるドローンユーザしか有していない場合もある。 ドローンユーザ自身が情報を収集し、飛行場所を吟味する能力が必要である。 ## 2. 目的 本研究の目的は、ドローンユーザを補助する情報共有システムの開発である。ドローンユーザ特有の情報を中心に収集、蓄積、共有をおこなう。対象地域は日本全体とし、昨年度からドローンに関する共同研究を継続している徳島県那賀町[3]をケーススタディとする。 ## 3. 制作 ## 3.1 ベース 那賀町はドローンによる町おこしをしており、空撮や操縦目的のドローンユーザを積極的に受け入れている。昨年度、発表者らと那賀町で「デジタルアース版ドローンマップ」 を共同制作した。制作目的は、那賀町の風景資産の活用と飛行場所情報のビジュアライズである。 図 1.デジタルアース版ドローンマップ 現段階のドローンマップは、那賀町公式の情報のみで構成されている。そこで、ドロー ンユーザが持つ情報を共有するシステムを開発し、組み込む。本発表では、現時点での開発状況について報告する。 ## 3.2 初期プロトタイプの検討 まず、情報共有システム単体でプロトタイプの制作をおこなった。制作したシステムが有用であれば、ドローンマップへの組み込みに進行する。プロトタイプの制作とフィードバックの反映を繰り返すことで、システムの有用性を高めていく。そのため、プロトタイプは短期間で制作でき、フィードバックの反映がしやすいものが望まれる。今回は、条件に該当する OSS(Open Source Software)の OpenPNE[4]を用いてプロトタイプ制作をおこなった。 図 2 は OpenPNEを用いて構築したシステ 図2. 初期プロトタイプ ムである。ドローンユーザは自身の操縌体験を文章、写真で投稿できる。また、プロフィルに所有ドローン等を記載し、共有することができる。今後、共同研究先や首都大学東京周辺のドローン練習場の協力のもと、初期プロトタイプを使ったドローンユーザ間の交流をおこなう。 ## 4. おわりに 本システムを開発することで、個々のドロ ーンユーザが持つ情報の収集、蓄積、共有が可能になることを期待する。また、昨年度の成果である「デジタルアース版ドローンマップ」のビジュアライズ手法と併せることで共有可能な情報に幅が生まれると考えられる。 ## 参考文献 [1] 国土交通省. 航空 : 無人航空機の飛行の許可が必要となる空域について. http://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr10_00004 1.html (参照日 2019/1/21). [2] 八王子市. 公園でラジコン飛行機やへリコプターを飛ばしたい. https://www.city.hachioji.tokyo.jp/shisetsu/1 09/p011993.html (参照日 2019/1/21). [3] 徳島県那賀町まち・ひと・しごと戦略課ドローン推進室 http://nakadrone.com/ (参照日 2019/1/21). [4] OpenPNE https://www.openpne.jp/ (参照日 2019/1/21).
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# 沖縄県南城市古写真トークイベントを 通したコミュニティアーカイブの活用 Utilization of community archive through old photo archive talk event in Nanjo City (Okinawa Prefecture) 平良 斗星 TAIRA Tohsei スタートライン株式会社 } 抄録:沖縄県南城市で行われている「古写真トークイベント」という事業における、コミュニティアーカイブの活用事例紹介を紹介した。このイベントはエコミュージアム構想推進のために古写真を収集し、地域の歴史を住民と確認し記録してきた。古写真トー クイベントの準備時の記録方法を紹介し、将来アーカイブをオープン化する場合、どのようなルールでデータベース化すベきかと の方向性を議論した。最後にコミュニティアーカイブの活用の可能性とヒントを提示した。 Abstract: A case example of how to utilize the archive that has been developed through the project "old photo talk event" held in Nanjo City, Okinawa Prefecture. This event collected historic photographs to promote the Eco Museum concept and studied and recorded the history of the area with the residents. We discussed how to record the photograph talk event and suggested the rules in building a database which shall be open in the future. Finally, we presented the possibilities and tips in making the best of community archive. キーワード:コミュニティアーカイブ、古写真、沖縄、文化財 Keywords: Community archive, old photographs, Okinawa, cultural heritage 1. はじめに 1.1 古写真トークイベントを始めるまで 沖縄の南城市で、アーカイブ活用型のトークイベン ト「古写真トーク in 南城」(事業名:南城市尚巴志活用マスタープラン実施事業南城市地域孫会議事業南城市教育委員会文化課主幹)という事業が行われて いる。今年 5 年目のこの渋い事業は、地域で発掘した 市井の人々の写真を、字にある公民館で住民の方々と 共に語り合い確認する、いわば古写真アーカイブを活用した「ゆんたくイベント」(ゆんたく: 沖縄の言葉 でいう他愛のないおしゃべり)である。 私どもはこの開催支援という立場で、行政の方々と ともにその全工程に関わり、コミュニティアーカイブ について考えてきた。今回はこの体験を通したアーカ イブの活用に関しての可能性と課題をまとめていこう と思う。 1.2 古写真トークイベントをするきっかけ 私は写真を見ることが好きで、特に古い写真に映る 被写体とその周りの「生活」を感じることのできる写真が大好きであった。若い頃、それは私の特殊な趣味 なのかと考えていたが、そういうことが好きな方々が 意外にも周りにいることがわかってきて、その仲間た ちと古写真を使ったステージイベントやタブレットア プリの制作などに関わり、古写真アーカイブを通して できることの可能性を感じるようになる。 1.3 首里でのイベント(2014年) もう少しこの古写真アーカイブを地域づくりにも使 えないかと考えていた矢先、私も所属する NPO 法人首里まちづくり研究会という地域づくりの団体で、地域のユニークな場所を活用したナイトコンテンツの制作というプロジェクトに参加することになった。ここ で、「古写真アーカイブと地域コンテンツ制作」とい うテーマでーつイベントを制作するチャンスを得る。 イベント会場は、昭和 25 年開業の首里劇場という 場所、現在は日本でも殆どなくなったポルノ映画の専業館として生業を立てている。かつては、地域の学校 の学芸会や、旅回りの劇団らも公演し、様々な表現の 発表の場という役割を担っていた場所だ。外観内装と もに味わいがあり、いわゆるディープスポットとして の度々メディアにも登場しているのだが、ポルノ専業館になって 30 年以上、特に女性は気になっていても 入りにくい建物であった。 図1 首里劇場の外観 図2 首里劇場の内装 そこで、地域のお年寄りをスピーカーとして招き、 この趣のある場所で、古写真を見ながら戦後の首里地域のエピソードを聞くという企画は、地域の方々やこ の場所に興味のある方々に受け入れられ、用意した 1,000 円のチケットは完売、写真の通りの大盛況と なった。ここでイベントのスタイルが確立し、このあ と紹介する南城市を始め、約 40 回の古写真トークを 行っている。「古写真トラベル in 首里」主催 : 特定非営利活動法人首里まちづくり研究会 (図 3-1、図 3-2) 図3-1 首里での古写真トークイベント 図3-2 首里での古写真トークイベント ## 2. 南城市について 2.1 南城市とエコミュージアム構想 南城市は 2006 年にできた 4 の町村の合併でできた自治体 (人口は 4 万 3 千人超)。約 70 の字 (あざ) があり、 それぞれの共同体でそれぞれにユニークな歴史を持つ。 南城市地域は多くの貝塚等の出土からもわかるように、古くから人の住んでいた地域。多くの文化財があり、有名な斎場御嶽を始めとした、スピリチュアルスポットも点在する。市はこのスポットを有効活用する施策として「エコミュージアム構想」を提唱し、推進している。 エコミュージアムとは、基本的には文化を建物に閉じ达めずに地域の空間そのものを展示空間とみなすものであり、地域の生活や文化がどのような経緯で作られてきたかを住民自身が再確認し、また訪れた人たちにそれを見せることによって理解を深めること、正しく受け継いでいくこと。そしてその活動により地域の活性化を図り、産業振興を図ることを目指している。 ## 2.2 南城市古写真トークイベントのコンセプト この構想を受け、当事業のコンセプトは、「文化財がもう一度、生活(リアリティ)との接点となり、地域内のコミュニケーションを促進する装置として再定義され、まちづくりの対話拠点として機能すること。 そして、地域を訪孔る方々に対し、その魅力を伝えていくコンテンツを蓄積すること」としており、主に地域内の文化財の活用を目的とした事業である。そこで、 かつての文化財や「むらや一」と呼ばれる地域の寄り合いの場所(多くは公民館と呼ばれている)が、どう維持活用されていたかを知り、後世に継承していくツールとして古写真アーカイブが使われている。 ## 3. 古写真トークイベント当日に関して 古写真トークはこの首里でのテストイベントからあまり進行方法が変わっていない。基本的には、司会者(多くは私、平良斗星)と地域の区長に加え、長老格の方が登壇する。準備物はプロジェクター・スクリーン・マイク、そして古写真のスライドデータの入ったタブレット PC。チームはディレクターの深谷慎平 (スタートライン株式会社代表取締役)、司会進行の平良斗星、記録やその他業務に新井裕子の 3 人体制で運営している。進行手順 (1)古い写真をスクリーンで全員で見ながら、当時の様子をインタビューするというのがメインコンテンツ。度々会場からもっと拡大して欲しい旨のリクエストが入るため、ズームの操作性の良いタブレット PCが活躍する (2)次に、この写真と、できるだけ同じ場所同じアングルの写真を見ながら、その変化に関するコメントや感想を聞き取り、 (3)最後に 2 点の写真を比較、その位置情報を確認し、重要な証言はその場でディレクターが記録していく。 図4 昔と今の比較 このプロセスを繰り返しながら時間いっぱい(90 分間)までおしゃべりをしながら記録していく。来場者の 7 割程度はお年寄りで 30 代から 50 代の方々で 2 割程度、その他で 1 割程度の比率である。人数は字の大きさによってまちまちだが 40 人から 50 人くらいは安定して来場者がいる。 ## 3.1 興奮するイベント イベントは基本外部から来た司会者が、地域のお年寄りの話を聞くというスタイルで進行する。最初はおとなしい会場に集まった方々も、自分の親や自分の若かりし日の記念写真等が投影されると、被写体が何十人いようが写真に映るすべての参列者の名前を確認するまで次のスライドに進めないというある種の 「フィーバー状態」がしばしば発生する。これは、もともと字単位で行われるイベントのため、地域の関係性が強く、共同体の関わりの中での行事が多かった南城市では当然のこととも思える。そもそも字とは同じような農作物を作り、似通ったライフスタイルだったからその字を名乗り、協力しながら生きてきた。古写真トークイベントはこの実感を持てるイベントなのだ。 図5-2 会場風景2 ## 3.2 多くの参加者からの証言 イベントの際に聞けるエピソードは、当時の生活に関する情報でも貴重なものも多く、市史編さんに関わる方々でも聞けなかったような証言が取れることがある。また、多くの方々の参加により、より精度の高い情報に昇華することも多く、地域史を紡いでいく際の一つの有効な手段ではないかとも考えている。 ## 3.3 よく出てくるエピソード 南城市の古写真トークイベントは、公民館と簡易水道が必ず登場する。沖縄で「むらや一」と呼ばれる字の公民館(公設の公民館ではない)は、常に字の中心にあり、地域の人々が集い、意思決定を行っている重要な場所だ。建物の建設のために様々な知恵で資金を捻出し、人的資源を投入して作ってきたエピソードはそれぞれに趣き深い。例えば、南城市の場合は昭和 30 年代まではほとんどの公民館は茅茸きであった。当時の大きな台風被害により建て替えられ、ほとんどが木造を経ずにコンクリート造になった。当時はこの地域にも米軍基地があり、アメリカからの建築技術や資材が手に入りやすかったという背景があったようだ。 図6 南城市大里南風原区事務所落成記念 1957年 また、地域の水道の歴史も非常に興味深い、同じ水源を使っているからこの字を名乗っているのかと思う ほど、水をどう調達してきたかという点で共に苦労してきたことイコール共同体の歴史なのだ。ここで登場する写真の多くはは組み上げポンプが取り付けられた簡易水道開通記念の写真だ。関わったたくさんの住民が簡易水道のタンクの前で集合撮影したものだ。場合によっては全員正装ということもある。 図7 南城市垣花集落簡易水道開通記念 1953年 他には、南米を始めとする、戦前戦後を通じた移民の話題も多く登場する。戦後我が国では移民は低調となるが、沖縄においては戦後も盛んで、古写真トークの中でも、これから移民で出ていく方の送別会や一時帰国の写真は多く残っており、地域の当時の暮らし向きや事情を偲ばせる。また、戦前の移民の方々が戦禍によりダメージを受けた地域を気遣い、その資金により建てられた公民館や拝所(聖地)のエピソードも数多く残っている。 ## 3.4 映像や新聞記事の活用 古写真トークイベントも中では新聞や $8 \mathrm{~mm}$ フィルムといった他メディアとのタイアップを行っている。新聞記事の場合、当時この字で起こったイベントの小さな新聞記事も当事者が会場にいる場合も多く、いずれも古写真同等に「フィーバー状態」を作り出す。私どもも、地域のアーカイブは様々なフォーマットのものを貴賤なく保存していくことが重要だと改めて考えることになった。 図8-1 古写真トークイベント (協力:琉球新報社) 図8-2 地域で発掘された8mmフィルムの映像(協力:沖縄アーカイブ研究所真喜屋氏) ## 4. 古写真トークイベントの準備 古写真トークイベントで収集する写真は主に、地域住民や字公民館のような施設に眠っている写真である。南城市の事業の場合は、イベントは字単位で行われるため地域(字)の区長に声掛けしてもらい、区長を足がかりにして、地域に入り写真を収集していく。ちなみに、写真の多くは地域のイベントの記念写真が多く、スナップ写真のようなものは少ない。復帰前当時は、カメラを所有している住民も少なく、フィルムも貴重なため、写真は、 とっておきの瞬間を記録するものだったと推測される。 イベントで使用する写真は 30 枚程度だが、基本的には集まった写真はすべてデジタイズ (スキャニング) し、コメントを付けて保管していく。将来的にはネットに公開することを想定して、写真の保有者には公開していく旨の趣旨を伝え、その許諾をとっている。現在は、「あなたから預かった写真をデジタル化し、ネットで公開しても良いですか」というレべルでの許諾。 ## 4.1 同一アングルの写真を撮影する 収集した写真で、イベントで使用するものはすべて同一アングルの写真を事前に撮影している。イベントでこの場所の今の姿を提示することは、過去からこれまでの地域の変化を確認するのに最適だという判断と、若い世代の方に見てもらう際も、理解をしてもらいやすいという狙いもある。 ただし、相当な聞き取りを行って準備して撮影しても、イベント中に場所の誤りを指摘されることもあり、地域の変化(開発等)の大きさには驚かされる。 ## 4.2 保管する際のデータベース化を想定した項目現状収集した写真の保管にあたってのルールは以下 の通り 写真データ (JPEG 最高画質フォーマット・4×3の比率の場合 $4,000 \times 3,000$ ピクセル程度)に対して以下の情報を付与し csv データで保存。 (1) . 写真のシリアルナンバー (2).タイトル (3) . 写真のキャプション(50 文字程度) (4).任意のメタタグ(地域名、キーワード等) (5). 緯度経度情報 (6) 著作権者情報 (7). 撮影者情報 (8). 所有者情報 (9). 備考闌 ※イベントで収録された録音デー夕、動画データも保存 このようなルールで保管し、将来ウェブに公開する 際に備え、データを蓄積中である。 ## 5. 古写真トークイベントのもたらすことと期待すること デジタルアーカイブの推進 これまで 40 回ほどやってみて枚数単位では、5,000 枚以上の収集ができた。これは、私どものチームが関与しなければ世に出なかった可能性も大きく、将来にこの資源を残すことができることは評価できる。 ## イベントでの証言による地域コンテンツの収集 特に南城市では、前述のエコミュージアム構想施策の推進のために、住民自身が、地域の歩んできた道を確認しコンテンツ化するという立場にある。ここで記録された証言はまさしく重要な地域のコンテンツといえるわけで、これを記録加工し、今後の観光交流施策に貢献すると考えている。 ## まちづくりに関する対話の場として 古写真トークイベントは、ときに残酷な現実を地域に突きつけることもある。特に反映を誇った商店街等はかつての栄華の記憶が呼び起こされるにつけ、同一の場所の惨状は厳しく、歓声とため息の繰り返しとなる。けれども、この地域の歩んできた繁栄の道や、まちの衰退の岐路、そしてその反省も含め、多くの方々でこの状態を受容することが、自治によってまちづくりが行われるための触媒になると期待している。 ## 6. 集めた写真は誰のものか? さて、南城市の当プロジェクトは、収集した写真を多くの人に活用してもらうため、アーカイブのオープンデータ化を目指し、ウェブでの公開を計画している。公開時には、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス などを活用し、なるべく自由に許可なしに使える状態を目指している。写真を提供していただいた多くの方との対話の結果、住民の多くは自分の写真が地域社会に有用だという意識はなく、役立てられるなら存分に役立ててほしいということがわかった。その意志を汲み、完全なるパブリックデータ化を目指したい。 ## 7. どう事業を続けていくか、プロジェクトの 資金調達について プロジェクトの大きな課題は運営資金調達たと考えている。抗そらく、これは行政当局でやるべきだという公モデル、出版等のコンテンツ制作で賄うべきだという民間モデルが私の周辺でもよく議論されていた。 例えば、沖縄においては、行政の旗振りで巨額をかけたアーカイブ事業が使用許諾処理の不備やサーバ費用の予算化が叶わず事業継続できなかったケースが複数ケースあり、その継続性の問題がメディアを賑わせている。また民間モデルにもっていくと、たくさんのアーカイブ活用型の出版事業が行われているが、この手法は「使える」わかりやすいキャッチーなものばかりが使用され、さらにアーカイブしていく際もその瞬間の価値ばかりに光があたりがちである。つまり将来どうつかわれるかわからないものはアーカイブしないといったバイアスもかかりやい。このように、いずれも一長一短あり、この 2 つのモデルの利点と弱点を探りながら、事業継続の目処をつけていきたいと考えている。現在の南城市を始めとするプロジェクトは、エコミュージアム構想実現のためのコンテンツの醸成と蓄積という目的で行われているが、さらなる活用のバリエーションを開発し、コミュニティアーカイブをより安定的に継続できる状況を作り出したい。 ## 8. おわりに いよいよ、沖縄県内でも前述の真喜屋氏を中心に 「沖縄県デジタルアーカイブ協議会」を設立。私どもももち万ん参加している。協議会は、官民のコミュニティアーカイブに関与するもので組織し、隔月での情報交換や議論を行っている。 アーカイブには何らかの力がある。今回は沖縄の事例を知っていただき、全国の同胞と共に、このような生活に根ざしたコミュニティアーカイブを多くの方々に活用してもらえる環境を作りたい。 研究者でもない私に、このようなチャンスを与えていただき感謝する。
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# [P15] “逐次公開”の考え方に基づいた学術資料調査$\cdot$整理$\cdot$公開に関する考察 ○堀井 洋 ${ }^{1)}$, 堀井美里 ${ }^{1)}$, 阿肾雄之 ${ }^{2)}$, 高田良宏 $\left.{ }^{3}})$ 1) 合同会社 AMANE,〒923-1241 石川県能美市山田町口8 2) 東京国立博物館,3) 金沢大学 E-mail: a-horii@amane-project.jp ## A consideration on investigation, organization, and disclosure of academic resources based on the concept of "Successive Disclosure" OHORII Hiroshi $^{1)}$, HORII Misato ${ }^{1)}$, AKO Takayuki2), TAKATA Yoshihiro ${ }^{3)}$ 1) AMANE LLC, Ro 8 Yamada-machi Nomi, Ishikawa, 923-1241 Japan 2) Tokyo National Museum, ${ }^{3)}$ Kanazawa University ## 【発表概要】 本報告では,学術資料の調查・整理における作業途中での逐次的な成果の公開(“逐次公開”) に関して,その概要と文献資料を対象とした事例について述べる。報告者らは,地域に現存する古文書や民具などの学術資料を対象に, 調査・整理・情報資源化に取り組んできた. 近年, 地域の学術資料に対しては, 社会における幅広い利活用やオープンサイエンスに貢献する情報資源として, 大きな期待が寄せられているが, その一方で, 調査・整理開始からデジタルアーカイブ公開までには年単位の時間を要することが一般的であり, より迅速かつ柔軟な学術資料情報の公開方法の確立が急務である。本研究では,収集・整理・保存・公開・活用の過程について検証し,現状および課題を整理した上で,新しい逐次公開に関する手法・枠組みを提案する. ## 1. はじめに 報告者らは,これまで地域に現存する学術資料の整理や情報資源化に取り組んできた[1] [2]. 本報告では, これらの経験や得られた知見を踏まえ,地域の学術資料の収集・整理・保存・公開・活用(以下,整理等)の過程について検証し, 現状および課題を整理した上で,従来とは異なる新しい手法・枠組みを提案する。なお, 地域に存在する学術資料は,動植物や岩石の標本,観測データ等の自然系資料や,考古遺物や遺跡,民具,美術品等の人文系資料など多岐にわたるが,本報告では,古文書を中心とする歴史資料を対象とする。 近年,地域の古文書の整理等に関する状況は急激に変化している。その変化は多岐にわたるが,代表的なものとしては,(1)古文書の数の増加と多様化, (2)保存・継承環境の変化,(3)様々な活用を前提とした整理,(4)担い手の減少,が挙げられる。 それぞれの詳細と要因について述べると, (1), 古文書の時代構成が,近世から近現代中心に移り変わったことで膨大な数の多種多様な性質の資料を同時に整理しなければならない状況となったこと,(2)は,急激に進む地方の過疎化・高齢化により,従来の「家」を中心とした古文書の保存・継承システムが崩れたこと,地方自治体の財政難により資料保存機関の機能が縮小せざるを得なくなったことがある。 (3)は古文書を含む文化財行政全般の傾向が保存から活用へ変化したこと, (4)は(2)と重なる部分もあるが,社会科教員等の多忙化,ボランティアの高齢化, 地方の史学専攻学生の減少などがあるだろう。 一方,学術研究データの公開・循環を目的としたオープンデータの観点からも地域の学術資料を着実かつ迅速に情報資源化することは極めて重要である。これまで主に人文科学分野において,専門家によって生成された所謂” 非 born-digital"な学術研究データについては,その生成および公開に多くの時間やコストを要していた。さらに,資料の解釈や理 解など, データ作成者の主観や資料の状態がデータに反映されることから, 公開された後もその正確性や信頼性について作成者以外の専門家により検証を行うことが求められている. こうした現状を背景に,報告者らは,2018 年 8 月より, Open Repository の公開を開始した. 本リポジトリでは, 地域の学術資料情報をオープンデータとして公開し, 調查過程で得られた情報を逐次反映するとともに,ア ーカイブ構築における作業の可視化およびコストの検証を目指している[3][4]. 本報告では,まず従来の古文書整理等の方法・過程を整理する。その上で, 報告者らの取り組みを紹介して,新たな整理およびアー カイブ公開に関する考え方・方法を提案し,学術的な効果や研究活動の活性化, 新しい活用や専門人材の必要性について展望を述べたい. ## 2. 従来の古文書整理の概要 これまでの古文書の整理から公開に至る過程は,およそ次の通りである。概要を図 1 に示す. まず,整理をする前に,博物館や文書館であれば明確な収集方針に基づいて, 未整理 (またはそれに近い状態)な古文書を収集しその存在を肯定する過程が発生する。 その主 な方法は,購入,寄贈,寄託であるが,購入はコレクション形成がしやすい反面費用がかかり,寄贈の場合はその逆のメリット・デメリットがある。また,寄託には活用が制限されるという弱点がある。いずれの場合も,受け入れ時には, 旧蔵者とのコミュニケーションの過不足が,資料の整理や活用を左右する重要なポイントとなる. 次に,収集した古文書を物理的および情報的に整理する。まず,原秩序尊重の原則に従い,それまで古文書が保存されてきた状態を記録する。次に,大まかな内容の把握を行い,概算で点数を推測し, その後の整理作業の見通しを立てる,その上で,目録の基本となるメタデータ(番号・タイトル・年代・差出・作成者・形態・数量等)を作成し,画像を撮影する。作成したメタデータは紙媒体の目録として刊行されるのと同時に,インターネッ卜上にデータベースやデータセットの形式で公開される. 古文書本体は保存用封筒・箱に収め,目録順に並べ替え,保管場所に配架する. 以上が一般的な古文書の整理等の過程であるが,この方法が順調に適用される事業はあまり多くはないように思われる. 特に, 課題として挙げられるのが,収集から公開・活用までの整理過程全体を見通し,作業計画を立 図 2。逐次公開のイメージ てることの難しさであろう。その原因として,古文書を整理することのできる専門人材や予算の不足がある他, 従来の古文書整理等においてはまず保存が重視されたため, 公的機関等に収蔵後の整理の緊急性は, それよりも低くなる傾向があったように考えられる。 そのため収蔵から公開まで 10 年以上かかる場合も珍しくない,そして,整理が終了して目録が作成されるまで, その古文書が公開, 活用されることは無い。このように,資料発見・収集から公開までに時間を要し, さらに, 整理作業中の資料の公開利用が困難な現状は, 今後一層加速することが予想される,オープンサイエンスといった学術資料データ利活用に対する社会的要請を考えた場合には, 改善すべきであることは明らかである. ## 3. 資料整理における“逐次公開”の概要 以上の課題を踏まえ, 報告者らは, 学術資料の整理過程における情報の “逐次公開”を提案する. 本提案では, 資料整理・研究デー タ生成プロセスを可視化・検証し,公開した資料情報を利用した研究の実施と, その成果の整理作業への反映,スピーディーな社会的利活用への適用をめざす。“逐次公開”のイメ ージは図 2 の通りである。資料の収集から公開までの過程において,作業の進捗や時間などの客観的な基準により複数の「情報公開時点」を設定し,その都度,画像やメタデータなどの資料情報を公開する。公開に際しては, RAW 画像や CSV 形式のメタデータなどの平易かつ汎用性の高いデータ形式を採用し, 公開に要する手間やコストを低く抑え, かつ公開の頻度を高めることを目指す。加え $\tau$, 作業中に得られた知見や進捗に関する情報などについても同時に公開し,資料整理作業の状況を広く公開・共有するとともに,整理作業の初期段階から, 研究利用や社会的活用についてのアイデアを集めることも目標とする. 報告者らが現在公開している環境では,メタデータについては GitHubを,資料画像については Flickr を選択した (図3). 公開環境として一般に普及している SNS を選択した理由としては,(1)多くの利用者がアクセスでき,かつ頻度の高い情報更新が可能 (2)公開環境構築の手間やコストを抑えることができる (3)情報公開条件を自由に設定可能が挙げられる。さらに, GitHubについては,掲載する情報の版管理ができることから,逐次更新されるメタデータの差分や更新履歴なども公開・共有することか可能となる. 現在のところ公開している資料情報は, 「福井漆原村文書」「滝沢家文書」「宮城県師範学校図案資料」「三国大野屋襖裏張り文書資料」(いずれも,現時点の名称は仮称)の 4 資料群である. 公開条件については, CC-BY-SAとした. 各資料群の整理作業状況については, 資料の状態把握とおおよその点数の確認,および資料外観の撮影を実施した. 現時点では,資料のおおまかな概要のみが明らかとなっているが,画像およびメタデータを公開後,SNS を通じて当該地域の歴史研究者からコメントを得るなど,一定度の関心を集めている。 ## 4. おわりに 本研究では, 学術資料の整理過程の逐次公 開について提案し, SNS や GitHubを利用した環境下での構築・検証を行った。 その結果, 資料整理初期段階での画像およびメタデータ公開の意義について, 複数の歴史研究者から評価する意見を得た。さらに, Facebook 等における資料画像の共有も行われており, 逐次公開の有効性については一定の評価を得たと考えられる。 今後の課題としては, 以下の 3 点である. (1)公開データのより汎用的な共有 (2)複数作成者によるデータ作成への対応 (3)公開データの評価・信頼性の検証 現在のところ,メタデータに関しては CSV 形式で公開しているが,標準的なスキーマに対応した, 機械可読性・相互運用性の高いデ一夕形式に対応させることで, より多くの研究利用が期待される[5]. 画像については, IIIF に対応させることを予定しており,これにより他機関のアーカイブとの連携が可能となる[6]. また,一般的なオープンソースプログラムの開発のように, 複数の作成者がデー タを作成し, 幾つかのバージョンのデータが生成・公開されることを想定した, 学術資料情報の版および継承関係の可視化についても検討したい. さらに, 従来の資料目録の出版と比較すると, 逐次公開した資料情報の正確性・信頼性については, 未確認・未完成な情報が含まれることは否めない。そのために,情報の正確性に関する記述を行うとともに, データ作成者以外の専門家も交えた信頼性を検証・評価する仕組みが求められる。 今後は, これらの課題について取り組むとともに,資料整理等に対する効率化やコス卜の概念の導入, 作業プロセスのモデル化・標準化と, それを担う学術専門人材および役割分担について定義することを目指す. 図 3. 資料画像公開環境の外観 ## 参考文献 [1] 堀井洋,歴史資料の情報資源化に関する現状と課題——電子情報通信技術への期待——,電子情報通信学誌,Vol.99(2016),No.9pp.933938 [2]堀井美里,阿坚雄之, 高田良宏,堀井洋, 学術資料調査・整理過程の検証とオープン化に関する考察, アート・ドキュメンテーション学会第 11 回秋季研究集会 2018 年 10 月 13 日 [3] GitHub:https://github.com/amaneproject/collection(参照日 2019-01-25) [4] Flickr: https://www.flickr.com/photos/133345951@N 07/(参照日 2019-01-25) [5] JPCOAR スキーマガイドライン: https://schema.irdb.nii.ac.jp/ja (参照日 2019-01-25 認) [6]IIIF(International Image Interoperability Framework): https://iiif.io (参照日 2019-01-25) ## 謝辞 本研究の一部は JSPS 科研費(18K18525) の助成により実施されました。 この記事の著作権は著者に属します.この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/). 出典を表示することを主な条件とし, 複製, 改変はもちろん, 営利目的での二次利用も許可されています.
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# [P14] マンガ$\cdot$アニメ$\cdot$ゲームを対象とした作品と出版物の 構造的関係を記述した LOD データセット開発 ○内海祐希 1), 三原鉄也 2), 永森光晴 2), 杉本重雄 2) 1)筑波大学情報学群情報メデイア創成学類, 〒305-8550 茨城県つくば市春日 1-2 2) 筑波大学図書館情報メディア系 E-mail: s1511426@u.tsukuba.ac.jp ## A LOD Dataset for Describing Structural Relationships of Work and Publication in Manga, Animation and Game \\ UTSUMI Yuki ${ ^{11}$, MIHARA Tetsuya ${ }^{2}$, NAGAMORI Mitsuharu ${ }^{2}$, and SUGIMOTO Shigeo ${ }^{2}$ 1) College of Media Arts, Science and Technology, the University of Tsukuba, 1-2 Kasuga, Tsukuba, Ibaraki, 305-8550 Japan \\ 2) Faculty of Library, Information and Media Science, University of Tsukuba} ## 【発表概要】 近年、マンガ・アニメ・ゲーム(MAG)を保存・活用するためにデータベース整備の取り組みが始まっている。しかし、既存のデータセットにはマンガ・アニメ・ゲームの作品間や作品と出版物間の関連が明示的に記述されておらず、情報の利活用が困難である。本研究では、Web 上でのMAG 作品と出版物の関連に基づく検索のための基盤の構築を目的として、それらの構造的関係を記述するデータセットの開発を行った。大量のMAG 作品についてのデータを作成するために、複数のデータベースが提供する MAGに関するデータを機械的に変換・統合する手法によりデータセットを作成した。 ## 1. はじめに 近年、マンガ・アニメ・ゲーム(以下、 MAG と呼ぶ)を日本のポップカルチャを代表する文化資源として保護することを目的に、 これらに関する出版物や資料をアーカイブする取組みが産学官を挙げて推進されている。 この取組みのひとつとして文化庁では MAG に関する出版物や資料を統合的に検索できるデータベースの整備を行っている(メディア芸術データベース(開発版)[1])。しかし本来異なるメディアである MAG 作品と出版物の関連に基づくデータの整備は困難であり、 それぞれの情報の横断検索に留まっている。 そこで本研究では、Web 上での MAG 作品と出版物の関連に基づく情報検索のための基盤の構築を目的として、MAG 作品と出版物の構造を記述する Linked Open Data (LOD) デー タセットの開発を行った。 ## 2. マンガ$\cdot$アニメ・ゲーム作品とその出版物の構造的関係 MAG 作品はメディアミックスやシリーズ展開によって個別作品の枠を超えて世界観や設定を共有した作品が制作されることが多い。 こうした作品間、作品と出版物間の関連は MAG 作品の探索の際の重要な手がかりとなる。 しかし、例えばマンガ単行本やアニメのテレビ放送、ゲームパッケージのシリーズといった、作品と出版物を繋ぐ構造的な関係の女り方はメディアによって異なる。こうした MAG の作品間や作品と出版物間の関連は一般的な書誌情報を記述する目録規則では網羅されていない。また、複数のマンガ単行本やアニメのテレビ放送、ゲームパッケージで構成されるシリーズに即した出版物との間の関連も十分に記述されていない。そのため、既存のデ ータベースでは複数の作品や出版物をメディアとシリーズを超えて探索することが難しい。 ## 3. 関連研究 大石らは, Wikipedia[2]の記事と構造の情報から MAG 作品を同定し構造化を行った[3] 。 この研究では作品となりうる実体を情報源から発見して記事の上下関係から構造を推定しデータセットを作成している。Jacob らは,作品と出版物に関する実体を記述するデータモデルを提案している[4]。この研究ではゲー ム作品とパッケージ、その間をつなぐ中間的な実体をプラットフォームの違いなどでデー タモデルとして定義している。 ## 4. Liked Open Data 技術に基づいた MAG 作品と出版物の構造的関係につ いてのデータセットの開発 Linked Open Data(LOD)とはウェブ上で機械処理に適したデータを公開・共有するための技術の総称である。機械処理に優れており、 データを実体の関連として記述するのがMAG のデータ作成に適しているため、本研究ではこれに基づいてデータセットの開発を行う。 膨大な数に上る MAG の作品および出版物のデータをなるべく網羅的に作成するため、複数の既存のデータセットを変換・統合してデータセットを作成した。その際、作品と出版物のほかに、それらを繋ぐ「コミックス版」 のような出版物を集約する中間的実体と構造的関係を表現する必要がある。 ## 5. データセット作成手法 本研究では Wikipedia、メディア芸術データベース(MADB)、しょぼいカレンダー[5]のデ一タを利用してデータセットを作成した。これらを利用することで、MAG寸べてで作品と出版物の構造的関係の記述が可能である。 MAG それぞれに作品と出版物、中間的実体、 さらに MAG を横断する上位の作品を持つデ ータモデルを構造的関係に基づいて定義した。 Wikipedia からは MAG 作品の実体とその構造の情報、ゲームの中間的な実体を取得した。 MADB からはマンガ出版物と作品、その中間的な実体、ゲームパッケージの実体の情報を取得した。しょぼいカレンダーからはアニメの作品とテレビ放送、中間的な実体の情報を取得した。それぞれが持つ作品実体の情報から、タイトルの編集距離が最も近く、発表年が同じものでマッチングを行い、作品実体の統合を行った。こうして作成したデータを RDF のトリプルで表現しLODデータセットを作成した。表 1 . 作成できた実体の数 ## 6. データセット作成結果 提案手法によるデータセットの作成結果を表 1 に示す。ランダムサンプリングして目視で検証を行い、すべての実体で約 9 割の精度があることを確認した。 ## 7. おわりに データセット作成ルールの改善、利用するデータセットの増加によって更なるデータセツトの拡充が期待される。 ## 謝辞 本研究は JSPS 科研費 JP 16H01754 の助成を受けたものです。 ## 参考文献 [1]メディア芸術データベース. https://mediaarts-db.bunka.go.jp/ (参照日 2019-1-25) [2] Wikipedia. https://ja.wikipedia.org (参照日 2019-1-25) [3] 大石康介."Wikipedia を用いたマンガ・アニメ・ゲームの作品実体の同定とカテゴリ情報に基づく構造化”. 筑波大学, 2018. [4]Jacob Jett, Simone Sacchi, Jin Ha Lee, Rachel Ivy Clarke. A Co0nceptual Model for Video Games and Interactive Media. Journal of the Association for Information Science and Technology Volume 67 Issue 3,2016,p505-517. [5]しょぼいカレンダー. http://cal.syoboi.jp/ (参照日 2019-1-25) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P13] 月周回衛星かぐや(SELENE)搭載ハイビジョンカメ ラのデータアーカイブ: 科学データとメディアの融合 ○山本幸生 1) 3) 4), 本田理恵 ${ }^{2}$ ), 大猋久志 1), 海老沢研 1) 3), 石川博 4) 1)宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所, 〒 252-5210 相模原市中央区由野台 3-1-1 2) 高知大学, 3)総合研究大学院大学, 4) 首都大学東京 E-mail:yukio@planeta.sci.isas.jaxa.jp ## Data archive of High Definition Television onboard the lunar orbiter SELENE (Kaguya): ## Fusion of scientific data and multimedia data YAMAMOTO Yukion ${ }^{\left.1{ }^{13}\right)}{ }^{4}$, HONDA Rie $^{2}$, , OTAKE Hisashi ${ }^{11}$, EBISAWA Ken ${ }^{\left.1{ }^{1}\right)}$, ISHIKAWA Hiroshi4) 1) Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency, 3-1-1 Yoshino, Chuo, Sagamihara, Kanagawa 252-5210 Japan 2) Kochi University, ${ }^{3)}$ Graduate University for Advanced Studies (Sokendai), ${ }^{4)}$ Metropolitan University of Tokyo, ## 【発表概要】 月周回衛星「かぐや」に搭載されたハイビジョンカメラ(HDTV)は 600 以上の映像を取得した。広報目的に加え科学的な価値を見出すため、他の観測機器と同様に科学データとしてアーカイブを行った。HDTV 映像は標準で $30 \mathrm{fps}$ の 60 秒間の 1800 枚のフレームから構成され、2 倍速、4 倍速、 8 倍速で撮像可能である。データアーカイブでは動画をフレームに分割して静止画として扱い、撮像時刻、動作モード、衛星位置、撮像範囲等を含め、総計 100 万枚以上の静止画にメタデ一タの付与を行った。ファイルフォーマットは天文学分野標準の FITS を用い、ディレクトリ構造やメタデータ記述は惑星探査データの標準規格である Planetary Data System (PDS)を用いた。FITS と PDS は親和性が高く 2 つ基準を満たすことが容易である。そのため HDTV データは天文学分野と惑星探查分野の両方のツールを利用することが可能なハイブリッド仕様である。本発表では HDTV データの長期保存への取り組みをその背景と共に報告するものである。 ## 1. はじめに 月周回衛星「かぐや (SELENE)」は 2007 年 9 月 14 日に打ち上げられ 2009 年 6 月 11 日に月面に制御落下を行った[1]。「かぐや」には 14 種類の科学観測機器に加え、広報目的として選定された NHK 開発のハイビジョンカメラ(HDTV)が搭載された[2]。HDTV は衛星が月への遷移軌道中に地球が遠ざかる様子を撮像し、月周回軌道投入後には、月の周回軌道上から地球や月面を撮像した(図 1)。これらの映像はミッションが終了する頃には 600 を超えた(表 1)。HDTVが撮像した多くの映像は、 NHK や JAXA のウェブサイト、あるいはインターネットの動画サイトから説明付きの動画として配信されたが、それとは 図 1.かぐやHDTV による地球撮像の例 (2008 年 1 月 14 日 23 時 13 分 11 秒 UTC 撮像) 別に、取得された映像の科学的な付加価値を期待して、他の科学観測機器と同様の手法によりデータアーカイブを実施した[3]。これらのデータは JAXA の宇宙科学データを公開する DARTS ウェブサイト[4]から公開され、フ 表 1 かぐやHDTV が取得した映像 アイル数にして約 560 万ファイル、データ容量は $9.56 \mathrm{TiB}$ に登る。 科学データとしての保存は、科学の再現性を担保する手法を踏襲することを意味する。惑星探査は貴重な機会であり同じデータを得ることが困難である故、データを長期に渡り保存するための仕組みが必要不可欠である。 ## 2. 惑星探査データ標準とその背景 ## 2. 1 Planetary Data System 惑星探查で取得したデータは、長期保存を目的とした Planetary Data System (PDS)と呼ばれる NASA が開発したデータアーカイブ手法により保存する[5]。ここで言う長期とは、 データに関する知識がロ伝ではなく文書によって伝達される期間であり、およそ 200 年先でもデータが利用可能なよう整備を心掛けなければならない。 PDS で定める標準はファイルフォーマットを始め、ディレクトリ構造やファイル命名規約、時刻形式や物理量の単位の表記方法など細かく規定している。加えて観測機器の説明やデータ処理方法について記述した文書整備や参考文献を含める事が求められている。 また PDS 標準でアーカイブしたデータは NASA のウェブサイトからデータを公開する。 データの公開前には第三者による査読を義務付け、科学解析に耐えうるデータアーカイブとして情報が揃っているか確認が行われる。 ## 2.2 標準化コストと独自形式の採用 PDS 標準に準拠したデータアーカイブを作成することは一大事業であり多大な労力を要する。「かぐや」プロジェクトは PDS 標準に似た独自の形式を採用することを決定した。 この決断は短期的には非常に上手く機能した。当時の日本には PDS の専門家が不在であり、 また惑星探查データアーカイブに関して世界との繋がりも薄かったため、PDS 標準に準拠したアーカイブを行うのは困難であった。それでも可能な範囲で PDS 標準に従う「ベストエフォート方式」を採用し、結果的に観測機器チームの負担を大幅に低減した。この段階においては、HDTVの映像をPDS 標準に準拠する形で保存しようという意識は未だ生まれていなかった。特に HDTV は広報を目的とした機器であるため、科学観測機器としてのデ ータアーカイブ対象としては見られていなかったためである。 ## 2. 3 世界的な動向 PDS 標準化の波が一気に押し寄せることになったのは、2006 年に発足した国際惑星デー 夕連合 (International Planetary Data Alliance; IPDA)[6]の影響が大きい。IPDA により各国の惑星探査データの関係者一同が集う様になり、それまで PDS 標準は事実上の標準であったが、IPDA 勧告により従うべき標準として推奨された。一方で PDS 標準に準拠するということはどう言うことなのかを明確にする必要が出てきた。これに対して JAXA は PDS 適合レベルを設定した(表 2)。 表 2 PDS 適合レベル 欧州宇宙機関 (European Space Agency; ESA)はデータフォーマットが PDS 標準に従うアーカイブを作成しつつも、查読やデータ公開は ESA 自らが行う Planetary Science Archive (PSA) [7]を立ち上げている。表 2 の定義に従えば ESA のデータアーカイブは適合レベル 2 もしくは 3 である。 日本の惑星探查データアーカイブは ESA 同様、PDS の適合レベル 2 以上を目指したデー 夕整備を行っている。近年は JAXA と NASA のプロジェクト毎の覚書により、データアー カイブに関して多方面で協力してもらうことが可能となり、JAXA と NASA の双方のウェブサイトからデータを公開するなど、適合レベル 4 を目指す動きが主流となっている。 この様な PDS 準拠の流れもあり、HDTVのデータ整備は他の観測機器よりも遅れて開始したが、「かぐや」の中では PDS 標準に準拠する最初のデータとなった。しかしながら幾つかの参考となる論文はあるものの、データに対して十分に記述された文書は存在しないため、適合レベル 1 のフォーマットのみ PDS 標準に準拠したアーカイブとなっている。 ## 3. かぐや HDTV データ ## 3. 1 撮像方法 かぐや HDTV は望遠(TELE)と広角(WIDE)の二つのカメラを持ち、互いに反対方向を向いている(図 2)。そのため撮像された映像が前進か後進かは選択するカメラによって決定する。映像は $30 \mathrm{fps}$ で 60 秒間の 1800 フレームを基本単位とし、 2 倍速、 4 倍速、 8 倍速のモードを使用して 1 撮像あたり最大 8 分間の映像を記録可能である。 1800 フレームの最初の 5 枚は位置補正用として使用する。撮像計画の立案の際には軌道予報値を用いるが、予報値と実際の位置には誤差があるため、本撮像の一周回前(約 2 時間前)に 5 枚の静止画を撮像して姿勢の微調整を行い、残りの 1795 枚を動画撮像に用いた。そのためデータアーカイブでは前半 5 枚と後半 1795 枚とは別プロダクトとして扱っている。 図 2. HDTV の望遠(TELE)と広角(WIDE)カメラ ## 3.2 データフォーマット HDTV のデータフォーマットは、天文学で標準的に使用されている Flexible Image Transport System (FITS)を採用した。FITS はバチカン図書館でも採用されたフォーマットでありメタデータを格納するのに優れている[8]。FITS は PDS 標準と親和性が高く、 FITS で格納された画像に対して、PDS 標準に従うラベルファイルを付与すると PDS 標準とみなす事ができる(図 3)。従って HDTV デ一タは FITS としても PDS 標準としても取り扱う事が可能なハイブリッド方式と言える。 また閲覧用として大中小の 3 種類の JPEG ファイルに加え、MPEG-4 (H. 264 コーデック)による動画を用意した。JPEG は PDS 標準では科学データの保存方法としては推奨されていない。アルゴリズムを通してエンコー ドされたデータは、遠い将来デコードできない恐れがあるためである。そのため PDS 標準における科学データに位置するデータはエンコードされていないFITSであり、JPEGはあくまで閲覧用として科学解析用途では用いるべきでない。しかしながら、惑星探査のデー 夕は往々にして上下左右の反転や対象天体の色が分からなくなる事があるため、JPEG 画像は FITS 画像の正確な向きの検証やRGB チ 図 3. FITS と PDS のハイブリッド構造 ヤネル合成の検証に役立っている。 ## 3. 3 メタデータ 科学分析を手助けする観測条件やフットプリントなどの情報は FITS のヘッダー部や別ファイルの PDS ラベルにメタデータとして含まれている。かぐや HDTV データで取り扱うメタデータは大きく 4 つの情報に分類することができる。 1. 地上からの指令情報 2.「かぐや」から送付される情報 3. 地上で計算する情報 4. 手動で入力する情報 これら複数の情報源を集約した上でデータべ一スを用いて管理を行っている。このデータベースから情報を取り出し、FITS のへッダ部と PDS ラベルに埋め込んでいる。このデータベースはオンラインの検索システムでも利用している。 ## 3. 4 アンシラリデータ 惑星探查では、衛星の軌道や姿勢などのデ一タは別のプロダクトとして扱い、科学デー タを補助するためのアンシラリデータと呼ばれる。アンシラリデータは、より精度の良いデータへと更新されることがある。そのため現在データに埋め込まれている衛星の位置や観測領域の座標などは、将来更新される可能性がある。2019 年 1 月現在、HDTVデータに埋め込まれている情報は、現時点での最高精度の軌道と姿勢を用いて作られている。しかし米国の衛星 GRAILにより月の重力場の精度が大幅に更新されたため、再解析により精度の高い軌道の作成が可能である。その場合には再プロセスが必要となることもある。 ## 4. 著作権とデータ公開 宇宙科学データには「誰でも自由に使用可能」という理念が根底にある。NASA の宇宙科学データは自由に使われ、JAXA の宇宙科学データも昨今のオープンデータの流れを受け、商用に対しても自由にデータを利用可能なサイエンスデータポリシーが公開された $[9]$ 。 しかし、かぐや HDTV のデータに関しては著作権の半分を NHK が有しており、サイエンスデータポリシー内で示される「宇宙科学研究所以外の第三者が用途を制限している場合」 に該当する。事実、FITS のヘッダーには著作権情報が含まれ、JPEG 画像には利用規約に対する参照情報が含まれている。テレビ局の映像と宇宙科学データのポリシーの隔たりを示しているが、それでも今日のようなデータ公開が可能となったのは、NHKの宇宙科学デ一夕に対する理解があったからに他ならない。 ## 5. おわりに かぐや HDTV の映像は人類が残すべき資産として価值の高いものである。他の科学デー 夕と遜色のない形で整備・公開が行えたのは、多くの方の尽力の賜物である。200 年後、私たちの子孫がこの HDTV 映像を楽しむことができれば幸いである。 ## 参考文献 [1] Kato Manabu et al. The Kaguya Mission Overview, Space Science Reviews. 2010, 154, p.3-19. [2] Yamazaki Junichi et al. High-Definition Television System Onboard Lunar Explorer Kaguya (SELENE) and Imaging of the Moon and the Earth. Space Science Reviews. 2010, 154, p.21-56. [3] 本田理恵他. かぐや (SELENE) HDTV デ一タ公開システムの構築, 2012, 宇宙科学情報解析論文誌第一号, p.141-149. [4] Data Archives and Transmission System. http://darts.isas.jaxa.jp/ (参照日 2019/1/24) [5] NASA Planetary Data System. https://pds.jpl.nasa.gov/ (参照日 2019/1/24). [6] International Planetary Data Alliance. https://planetarydata.org/ (参照日 2019/1/24) [7] Planetary Science Archive. https://archives.esac.esa.int/psa/ (参照日 2019/1/24). [8] 杉野博史. バチカン図書館における文献電子化と長期保存のためのシステムの構築. http://doi.org/10.1241/johokanri.60.157 (参照日 2019/1/24). [9] 宇宙科学研究所のデータポリシー. http://www.isas.jaxa.jp/researchers/data-poli cy/ (参照日 2019/1/24). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P12] モノクロ写真のカラー化技術を用いたメディアと 読者の対話を促すコンテンツ制作の研究 與那覇里子 1) 1) 首都大学東京システムデザイン研究科, 〒191-0065 東京都日野市旭が丘 $6 丁$ 目 6 E-mail: satokoyonaha@gmail.com ## Contents production enhancing dialogue between media and newspaper's readers through Al monochrome photographic colorization technology \\ YONAHA Satoko1) 1) Tokyo Metropolitan University, 6-6 Asahigaoka, Hino, 191-0065 Japan ## 【発表概要】 本研究の目的は, 幅広い読者に沖縄のニュースへの理解を促すことである。近年,ニュースが読まれるメディアが紙からネットに移行しており,地方の情報が全国に直接届くようにもなった。本研究では, 沖縄のニュースに興味関心をもってもらうためのコンテンツを制作し、地元特有の文化の理解を促し、メディアと読者で前向きな対話を促すアプローチを行う。沖縄戦前後のモノクロ写真をAI でカラー化する手法を用いる。 地方の情報をより正確に伝えるため,写真を基に当時を生きた人への取材を行い,コンテンツを制作,クロスメディアで発信する。また,写真の展示会を開き,コンテンツを制作,発信する。結果, コンテンツは全国的に読まれ, 沖縄のニュースに興味を持ち, 理解を促すこともできた。取材からは,当時の状況を浮かび上がらせ,メディアと読者の対話も促進された。 ## 1. はじめに メディアの総接触時間は, オールドメディアで減少する一方, 携帯電話やスマートフォンは大幅に増加している [1]。ニュースを得る手段も新聞からミドルメディアに移り変わり, 地方紙もネットを通して全国に配信できるようになった。 しかし,筆者が携わる沖縄タイムスでは,ネットで新聞紙面を模した表現のニュースは読まれにくい。背景には, 沖縄特有の言葉や地名が分からないことがある。また,ソーシャルメディアでは, 双方向のコミュニケーションが可能になったものの, ディスコミュニケーションが現れる。課題として個人のもつ社会的背景の相違が挙げられる。 そこで,読者の興味・関心を引き,沖縄の二ユースへの理解を促すコンテンツを制作する。 ## 2. 先行研究 ウェブジャーナリズムの頂点を決める「ジャ一ナリズム・イノベーション・アワード」において, オールドメディアの制作したコンテンツの多くが,イマーシブ(没頭型)コンテンツだった。動画,インフォグラフィック, 取材を元にしたテキストなどで構成される。エンジニア, デザイナー,記者が連携し,数か月かけて制作する。だが,費用,時間,技術,人力がかかるため,容易に制作できるものではない。 そこで,飯塚ら(2016) [2]の開発した AI 技術は, 次のメリットがあるため, 活用することとした。 1。扱いが簡単で,非エンジニアにもコンテンツが容易に作成できる 2。新聞社が保持している写真を活用できる 3 。白黒がカラーになることで, 視覚的に興味関心を引くことができる 以上から, 次の 2 つのコンテンツを制作する。 ただし,AI は正確な色を付けることはできないため, 取材により色を補うこととする。 ## 3.カラー化技術を活用したコンテンツ制作 3.1 戦前の沖縄の写真を活用したコンテ ## ンツ制作 沖縄のニュースへの理解を促すためのトリガーとして, 朝日新聞に保存されている 193 5 年の写真をカラー化し, 活用する。沖縄独特の暮らしぶりが分かるため, ディスコミュニケ一ションが生まれにくいと推測する。また, 色を補い,新たな知見を掘り起こすため,当時を 生きていた人たちに取材を行うこととする。 (1)写真の中で,不明なモノ,例えば農産物など(2)撮影場所(3)カラー化した写真と実際の色の違い—を主に聞く。朝日新聞と沖縄タイムスの新聞紙面と各ホームページ,ミドルメディア,ソーシャルメディアで発信する。 白黒写真を色付けしたことで、沖縄で今は見られない結婚女性が手元にいれた入れ墨 (ハジチ)が浮かび上がった(図1)。取材からは当時売られていた農産物についての事実が明らかになった。 図 1。女性の手元に見られる入れ墨 SNS 上では対話も生まれた。 結果, 幅広い読者に沖縄のニュースへの理解を促すことができたと考える。 また, 慰霊の日, 朝日新聞と沖縄タイムスは,制作したコンテンツを 1 面トップで扱った。沖縄戦と直接的なつながりのある内容ではないものの, 既存の紙面の体裁から逸脱していたことから, 歴史的な節目の日に主要ニュースとして発信されたと推測される。 ## 3.2 戦後沖縄の白黒写真をカラー化した 写真展の実施 戦後沖縄の白黒写真の中から, 象徵的な出来事をピックアップし, 70 枚をカラー化し, 沖縄 で写真展を開催する。リアルな場所での“偶発的”な対話を生む機会をつくり,コンテンツを制作する。写真展には個人が所有する白黒写真を持参してもらい, その場でカラー化する試みもする。許可が得られたものについては,ソー シャル上で紹介する。 写真展には, 5 日間で 2300 人以上が来場し,話し込む様子が見られた。 個人所有の白黒写真は, 1 日 100 人以上からカラー化の依頼があった。色をつけるとその場で涙を流す来場者も多くいた。家族や親族が写る写真が多かった。 SNS 上では, メディアと読者との対話が生まれ,筆者はそれを基にコンテンツを制作した。 写真展の実施は, 前向きな対話を促すことができた。ディスコミュニケーションは見受けられなかった。個人写真のカラー化は, それぞれの心の中で個人との対話も生まれたと考える。 ## 4. おわりに 本研究の貢献は、幅広い読者に筆者が拠点を置く沖縄のローカルニュースに興味・関心を持ってもらうことを目指してコンテンツを制作し、その有効性を示したことである。 本研究の表現手法は、ニュースが読まれる媒体がメディアからネットに移行している現状において、メディアと読者の対話を促す一助となると考えられる。 ## 参考文献 [1] 総務省平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書. [2] E. S.-S. H. I. Satoshi Iizuka, “"Let there be Color!: Joint End-to-end Learning of Global and Local Image Priors for Automatic Image Colorization with Simultaneous Classification. “," ACM Transaction on Graphics (Proc. of SIGGRAPH)Vol. 35, No. 4, , 2016, p. \#110. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P11] 市民によるデジタルアーカイブの構築と行政の役割: 東大和市デジタルアーカイブの事例から ○時実象一 1), 宮本隆史 ${ }^{2}$, 富田泰之 $\left.{ }^{3}})$ 1)東京大学大学院情報学環, 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 2) 東京大学文書館, 3)東大和市立中央公民館 E-mail: tokizane@pc.highway.ne.jp ## Construction of Community Digital Archive and the Role of Local Government: ## An experiment at the Higashiyamato City TOKIZANE Soichi ${ }^{1}$, MIYAMOTO Takashi2), TOMITA Yasuyuki ${ }^{3)}$ 1) Interfaculty Institute in Information Studies, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, 113-0033 Japan 2) The University of Tokyo Archives, ${ }^{3)}$ The Higashiyamato City Community Center ## 【発表概要】 2010 年前後に各地で市民の手によるデジタルアーカイブ活動が報告されるようになった。しかしそれらは永続性に問題がある。東大和市では、地域活動を基礎としたデジタルアーカイブを、市の予算と独立し、汎用ツールを活用することにより、できるだけ永続性がある形で構築しようとしている。その試みについて報告する。 ## 1. はじめに 市民の手によるデジタルアーカイブ構築活動には多数の例がある。総務省は 2010 年に 「地域住民参加型デジタルアーカイブの推進に関する調查検討会報告書」[1]を出版しているが、その中で、また関連資料で紹介されているアーカイブ活動 18 件について調査したところ、デジタルアーカイブが現在も公開されているのは 3 件にとどまり、それらも更新は停止している。このように、地域のデジタルアーカイブ活動が消滅しやすいことは、すでに 2011 年に指摘されている[2]。この報告では、永続性の高いアーカイブを構築するための試みを述べる ## 2. デジタルアーカイブの構築 ## 2. 1 背景 東大和市は東京都の西北に位置する市である。同市では、「東大和どっとネットの会(独自のブログを運営、地域の活動を発信)」、「古文書を読む会(蔵敷村の名主内野家に伝わる 「里正日誌」を解読し、翻刻する)」、「東大和市史編さん(2000 年発行)協力者グループ」、「東大和観光ガイドの会」など、様々なコミユニティ活動が行われてきたが、その活動の中で、自分たちのデジタルアーカイブを作りたいとの声が上がり、中央公民館が主導する形で開始した。 市としては、予算、人員などのリソースが不足する中、支援するが、構築・維持・管理は市民グループに任せるという方針をとった。 この相談を受けた、筆者らは、安価かつ手軽にデジタルアーカイブを構築できるツールとして OMEKA を推薦し、デジタル化の初歩からの研修会を支援することとなった。 表 1. 研修会プログラム & \\ ## 2. 2 研修の実施 研修会は希望者を募集して 2019 年 1-2 月に実施された (表 1)。参加者のリテラシーは次のようであった。 - 全 14 名のうち、2 名を除き退職者 $\cdot$SNS 経験者 (どっとネットの会) 3 名 ・スカイプで外国人に日本語教育 1 名 ・文書のデジタル化をやった 1 名 ・企業でコンピュータ経験 3 名 ・その他 7 名 研修では、講義に続いてデジタル化の実習、 OMEKA へのアップロードの実習などをおこなった。 ## 2. 3 デジタルアーカイブの管理と運営 デジタルアーカイブの管理・運営については、ボランティアグループを結成し、そこが会費を集めてサーバーも維持管理する予定である。汎用のサーバーやツールを利用することにより、システムの更新のコストを抑えられ、また活動が停滞しても、蓄積されたデー タが散逸せず、再利用可能となるよう配慮した。 また、コンテンツの安定化のため、 Wikimeida Commons への登載なども検討し たい。 ## 3. おわりに 従来は、デジタルアーカイブ構築は敷居が高く、費用も相当必要であったが、近年サー バー価格が大幅に低下し、また OMEKA のような使いやすいオープン・ソースのツールが簡単に入手できるようになったため、デジタル化をボランティアで実施すれば、きわめて安価にデジタルアーカイブが構築できる。もちろん、その為には専門家の指導が必要であるが、行政としては、ボランティアの教育のみリソースを投入すれば、ある程度の成果が得られることがわかった。 ## 参考文献 [1] 総務省関東総合通信局. 地域住民参加型デジタルアーカイブの推進に関する調査検討会報告書. 2010.3. http://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/stats/d ata/chosa/chosa21_1.pdf (参照日 2019/1/22). [2] 川上一貴, 岡部晋典, 鈴木誠一郎. Web 上の地域映像アーカイブの調査と検証 : デジタルアーカイブズの持続性に着目して. 情報知識学会誌. 2011, 21(2), 245-250.
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# [P10] 『演劇博物館収蔵資料デジタル化ガイドライン』の 公開と利活用についての取り組み O中西智範 ${ }^{1)}$, 瀬上敦子 ${ }^{1)}$, 土屋紳一 ${ }^{2}$ 1) 早稲田大学 坪内博士記念演劇博物館, 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田 1-6-1 2) 株式会社早稲田大学アカデミックソリューション, E-mail: t.nakanishi5@kurenai.waseda.jp ## Utilization of The Guideline of Digitization for Collection of The Tsubouchi Memorial Theatre Museum NAKANISHI Tomonori ${ }^{11}$, SEGAMI Atsuko ${ }^{1)}$, TSUCHIYA Shinichi ${ }^{2}$ 1) The Tsubouchi Memorial Theatre Museum, Waseda University, 1-6-1, Nishi-Waseda, Shinjuku-Ku, Tokyo, 169-8050 Japan 2) Waseda University Academic Solutions Co., Ltd. ## 【発表概要】 2018 年 11 月 30 日、早稲田大学演劇博物館は『演劇博物館収蔵資料デジタル化ガイドライン』をクリエイティブ・コモンズ CCO ライセンスで公開した。本発表は、ガイドライン公開の背景や経緯、公開後のガイドラインの利活用における取り組みについて報告する。 ## 1. はじめに 近年では、産学官など組織・団体の違いや規模を問わず、多くの情報やデジタル・コンテンツが公開され、広く一般に利用されている状況にある。しかしながら、デジタルアー カイブを支える組織や人材の育成については、多くの議論の余地があるといえる。 早稲田大学演劇博物館では、このテーマを重点課題のひとつとして捉え、2013 年頃より対策を行ってきた。その第一のモチベーションは「デジタル化作業における知識と技術の継承を行うこと」にある。活動の一環として、数年をかけ、『演劇博物館収蔵資料デジタル化ガイドライン』の作成を行うとともに、2018 年 11 月には一般公開を行った[1]。本報告では、ガイドライン公開まで背景や経緯を報告するとともに、ガイドラインの今後の展開について報告する。 ## 2. 演劇博物館について ## 2.1 概要 早稲田大学演劇博物館は 1928 年に坪内逍遙が創立し、2018 年に開館 90 周年を迎えた。収蔵品は百万点を超え、アジアで唯一の、そして世界でも有数の演劇専門総合博物館として、エンパクの通称で親しまれている。博物館業務だけではなく、演劇・映像の研究拠点 として、また、地域文化振興の拠点としても多くの活動を展開している。 ## 2.2 デジタル化の取り組み 演劇博物館が力を入れているのはデジタルアーカイブである。演劇博物館がデジタルア一カイブの構築に向けた取り組みを開始したのは 1989 年に遡る。1997 年には「錦絵検索システム」を公開し、2001 年には演劇博物館デジタル・アーカイブ・コレクションの公開を開始した。その後、今日に至るまで数多くのデータベースを継続的に公開し、発展を続けている。2016 年には、データベースを大学が管理する共通プラットフォームへ移行し、 SNS と連携したデジタル版ラーニング・コモンズの導入による、利用者との相互利用が可能なサービスの提供や、3D 閲覧によるシミユレーション体験が可能なデータベースの公開など、時代の趨勢や要求に対しても、柔軟な対応を行ってきた。 ## 3. ガイドライン作成の経緯 ## 3.1 演劇における資料の特性 演劇はさまざまな要素からなる総合芸術である。演劇関連の資料は、台本、書籍などの図書資料から、チラシ、写真などの紙資料、記録映像や音源、その他博物資料など多種多 様である。 上演される演劇は時間や空間の要素で構成されるため、生き物のように変化していくという性質を持つ。そのため、台本にはセリフを書き加えたり隠したりする箇所や、貼り込み資料なども多い。こうした平面的な資料にも、演劇がもつダイナミズム性が表れているといえる。このような観点から、平面資料であっても、資料を立体的、時系列的にとらえられるよう、画像の順序や見え方を考慮しデジタル化を行う必要があると考える。貼り込み資料の例を図 1 から図 5 に示す (図版「イ00402-02 姫競双葉絵草紙」演劇博物館所蔵)。 図 1. 台本を開いた状態 図 2. 貼り込み部をめくった状態 図 3. 左ページの貼り込み部、右側情報 図 4. 左ページの貼り込み部、左側情報 図 5. 左ページ本文の情報(貼り込みに隠れた部分) ## 3.1 演劇博物館が抱える課題 演劇博物館では、デジタル・アーカイブ・ コレクションの管理や、資料デジタル化作業において、デジタルアーカイブ室が主にその業務を担当している。しかしながら、同室の要員は、大学の人事規則等に則り $3 \sim 5$ 年で入れ替わりが起こるため、デジタル化作業における知識と技術の継承が難しいという問題がある。また、収蔵資料のデジタル化においては、その画像化作業(デジタルカメラでの撮影や、スキャニング機器等によるスキャニング)を委託業者に依頼し行うことも多く、特に専門知識を必要とする作業では、委託業者に委ねざるを得ない部分が多く、委託業者の変更によりデジタル化品質を一定に保つことが難しいという状況もある。 ## 4. ガイドライン ## 4. 1 ガイドラインの目的 本ガイドラインは、 3 で記した状況や問題点を踏まえ、演劇博物館内の平面資料をデジタル化する際の、各作業の標準化を図るために作成したものである。一定の基準を作成することで、作業の合理化を図り、また、デジタル化作業委託先が変わる場合でも、品質を高水準で維持することを目的としている。 ## 4.2 ガイドラインの特徴 類例として参考にできるドキュメントには、「国立国会図書館資料デジタル化の手引 2017 年版」や「映画関連資料デジタル化の手引」、 「日本語の歴史的典籍のデジタル化に関するマニュアル」などが挙げられる[2][3][4]。これら類例のドキュメントと比較した場合の、本ガイドラインの特徵は、資料のデジタル化作業における資料現物に対する記述内容に徹底している点である。表 1 に、本ガイドラインの目次を抜粋する。章 2-2 以降は、資料をデジタル化する際の、画像ファイル名の付番ルールや資料分割ルール、付属資料等を伴う特殊・例外資料に対する画像化ルール等を記載している。なお、できる限り図を交え解説することで、仕様理解が高まるよう考慮し、作成していることも特徴と言える。ガイドラインの章 4-1-7 の内容を図 6 に示す。 公開にあたっては、本ガイドラインが、外部でも広く有効利用されるよう工夫をしている。クリエイティブ・コモンズ $\mathrm{CC0}$ にて公開を行っているため、利用者は、制限なく二次利用が可能となっている。また、ガイドラインは PDF 形式に加え、Microsoft PowerPoint 標準のファイル形式でも公開している。図解は、写真画像でなく図形オブジエクトを用いて描画しているため、文字だけでなく図についても、各利用者の用途にあわせ、柔軟な変更が可能である。表 1. ガイドライン目次 \\ 図 6. ガイドライン章 4-1-7 のイメージ ## 5. 課題と展望 ## 5. 1 デジタル画像の検查 3.1 に記したように、当館収蔵資料には貼込みのある資料など、複雑な形態の資料が多いという理由により、デジタル画像の品質を担保するための、画像検査作業を重視している。この作業には、ファイル名の確認や画像化順序、色調整処理結果の確認、ブレやゴミの確認など多岐にわたる検查項目を設けている。しかしながら、各検査の合否判定は、明確な基準を定めることが難しい項目も多く、作業者の裁量に委ねている部分が大きい。 大量の画像データを検査するには、相当の時間的コストが必要となる。将来的な展望として、この検查作業をいかに効率化・自動化できるかという課題に対し、検討を行っている。例えば、画像中に配置するカラーチャー トの各カラーパッチに対する RGB 值の確認作業は、画像に対するパターンマッチング (Pattern matching)の手法を応用した、ソフトウェアの利用により、自動化の可能性があると考える。このように、数値化できる検查項目については、積極的に自動化を進めるべきと考えている。 この度の公開では、ガイドライン第 5 章「撮影データの検査について」は記載できていない。また、記述範囲を平面資料に限定しているため、立体資料や $\mathrm{AV}$ (映像・音声)資料、 ボーンデジタル資料についての記載を行うことも、今後の課題である。 ## 5. 2 ガイドラインを題材としたワークショッ プの開催 2019 年 3 月初旬に、本ガイドラインを題材 にしたワークショップの実施を計画している。 デジタルアーカイブの現場の声によって議論が交わされ、新たな“気づき”を生み、各組織での資料デジタル化の促進や、作業円滑化に役立ててもらえることを期待する。 ## 6. おわりに ガイドラインの公開や、本発表など、一連の活動を通し、デジタルアーカイブに関わる関係者の人材の育成に貢献できればと考える。 ## 参考文献 [1] 早稲田大学演劇博物館. “演劇博物館収蔵資料デジタル化ガイドライン”. 早稲田大学文化資源データベース. 2018-11-30. https://archive.waseda.jp/archive/subDBtop.html?arg=\{\%22subDB_id $\% 22: \% 22106 \% 2$ 2\}\&lang=jp, (参照日 2019/01/20). [2]国立国会図書館. “国立国会図書館資料デジタル化の手引 2017 年版”. 国立国会図書館. http://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitiza tion/guide.html, (参照日 2019/01/20). [3] 国立映画アーカイブ. “「映画関連資料デジタル化の手引」について”. 国立映画アーカイブ. 2018-3-31. https://www.nfaj.go.jp/nfc_bdc_blog/2018/03/ 31/「映画関連資料デジタル化の手引」について/, (参照日 2019/01/20). [4] 国文学研究資料館. “日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画”。国文学研究資料館. https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/datab ase.html, (参照日 2019/01/20). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P09] データベースソフトを用いた自動生成による静的 HTML ファイルの連続作成方法: 『件名で本を探す』『索引で本を探す』の静的サイト構築からみえてくるもの ○丸山高弘 ${ }^{1)}$ 1) NPO 法人地域資料デジタル化研究会,〒406-0041 山梨県笛吹市石和町東高橋 133 E-mail: maruyama.takahiro@gmail.com ## How to continuous create a static HTML files by automatic generation using database software: ## Things seen from static website construction "Search for a book by subject", "Search books by index" MARUYAMA Takahiro ${ }^{1}$ 1) Digi-KEN (NPO), 133 Higashitakahashi, Isawa, Fuefuki, Yamanashi 406-0041 Japan ## 【発表概要】 デジタルアーカイブの構築においては、サーバ側に Web アプリケーションの構築が不可欠である。しかしながら構築時のイニシャルコスト、運用時のランニングコスト、システムのバージョンアップ時の対応、サーバやドメインの移行など将来の不測の事態を含めて考慮すると、費用対効果だけでなく持続性・継続性に課題が残る。それに対して、一定の条件下であれば(逐次更新でなくても可、複数の利用者が同時に更新することはない、アイテムの増減がないなど)、静的な HTML ファイルでサイトを構成することで、一般的な Web サーバがあれば運用が可能となり、仮にサーバがなくてもストレージ内(HDD や CD-R/DVD-R やUSB メモリ/ SD カードなど)においても利用することが可能となる。もちろん静的な HTML ファイルであればテキストエディタでの編集も可能だ。ただし通常数千個、数万個の大量の HTML ファイルをテキストエディタで編集するのは手間がかかる作業ではある。そこでデータベースソフトウェアの FileMakerPro を用いて HTML ファイルを連続的に自動生成させる方法と、それにより構築した『件名で本を探す』『索引で本を探す〜富士山資料編』を発表する。 1. はじめに 公開されている多くのデジタルアーカイブは、基本的にウェブサイトでもある。ブラウザでソースを見れば HTML で記述されていることがわかる。ただ、それらの多くがサーバ側でデータベースシステムと連動する Web アプリケーションで構築されおり、検索などによる抽出や並び替えなどのリクエストに応じて、 HTML を動的に生成しWeb サーバを介してブラウザに返している。これらの仕組みはとても便利であるが一方でイニシャルコスト、ランニングコストが高価であったり、他社の乗り換えなどが難しく独占的な状況になりやすい。一般的なウェブサイトでは、テキストエディタや Web サイト構築ソフトを用いて HTMLを記述することで作成しており、データベースやミドルウェア等が無い一般的な Web サーバ環境で あれば、どこにでも保存し運用することが可能である。加えてサーバを用いなくてもストレー ジ等の記憶媒体の中で機能する。しかしながら、大量または複雑な HTML をひとつひとつ作成するのは大変な作業を伴う。そこで Windows および macOS 環境で稼働するデータベースソフトである FikeMakerPro を用いて、静的な HTML ファイルを自動的に生成させ、この問題を解決し、国立国会図書館件名標目表と自館の蔵書との組み合わせにより「件名で本を探す」 サイトと、当館の富士山資料における荤引を抽出した「索引で本を探す〜富士山資料編」を構築した。 2. FileMakerPro による静的 HTML ファイルの生成 2. 1 FileMakerPro 概要 FileMakerPro は、FileMaker 社が開発・販売している Windows および macOS で稼働するリレーショナルデータベースソフトウェアである。また作成したデータベースファイルは iOS のスマートフォンならびにタブレットでも運用することができる。現在は Advance 版とサーバ版が発売されており、サーバ版はオンプレミス環境に加え、AWS や Azure などのクラウドサービスでも運用することができる。デ ータベースソフトにありがちな概念的作業中心ではなく、スクリーンや印刷画面をイメージしながら WYSIWYG で画面を作成することができ、複数のデータベースをつなぐリレーショナルの概念もわかりやすく、リレーションによるポータル行 (他のデータベースソフトではサブフォームとも言う)の設定もとても簡単にできるデータベースソフトである。このソフトウエアのエクスポート機能によってフィールド内容をひとつひとつのファイルとして連続的に書き出し保存することができる。 ## 2. 2 フィールド内容のエクスポート FileMakerProのフィールド内容のエスクポ一ト機能を用い、ファイル名もテキストフィー ルドから得ることもでき、一つ一つのレコードから順次、テキストファイルとして連続して書き出し保存できる。 【エクスポート用スクリプト】 【\$パスに代入されるファイルの保存パス】 Windows の場合のパス filewin:/ドライブ文字:/ディレクトリ名/ファイル名 macOS の場合のパスfilemac:/ボリューム名/ディレクトリ名/ファイル名 最低限必要となるのは、 ・ファイル名となるフィールド ・書き出す HTML となるフィールド ・エクスポート用スクリプト まずこの3つの要素があれば、大量の HTML ファイルを自動生成させることが可能となる。書き出す HTML となるフィールドは複数の計算フィールドの文字結合によって作成することができる。 ## 2. 3 リレーションによるポータル行 FikeMakerPro はリレーショナルデータベ ースであるので、特定のフィールドをキーとして複数のデータベースを関連づけることができる。リレーショナルには[1対1][1対多 (n)]の他に別途リレーショナルテーブルを用意することで $[$ 多 $(\mathrm{n})$ 対多 $(\mathrm{n})]$ の関係を構築することもできる。そのリレーショナルを用いてポータル行を設定することができるので、複数のデータベースから関連するデータを表示し、結果として、計算フィールドで HTML タグを付与するなどして、最終的な HTML 出力フィ ールドに加えることができる。 ## 3.「件名で本を探す」の構築 15,127 件 図 1. FileMakerPro によるデータベース画面 国立国会図書館件名表目標における件名と山中湖情報創造館の蔵書を [件名]をキーにしてリレーションを作成。ひとつの[件名]に対寸る所蔵リストだけでなく、件名表目標における[上位語][下位語][関連語]から、それぞれの件名とマッチングする所蔵リストもあわせて表示するページをデザインした。これにより、当該件名だけでなく、その件名と関連する他の件名を付与された所蔵リストもあわせて 確認することができるようになり、蔵書検索の視野を広げることができるようになった。 「件名で本を探す」では国立国会図書館件名表目標データベースと山中湖情報創造館の蔵書データベースを、[件名]をリレーションキー として設定した。 図 2.「件名で本を探す」のウェブページ ## 4.「索引で本を探す〜富士山資料編」 の構築 2,540 件 図 3.「索引で本を探す」の Web ページ 同様のデータベースからフィールド内容をエクスポートする仕組みを用いて、山中湖情報創造館の富士山資料を、索引から探すことができる静的ウェブページを作成した。荣引のある資料が少なかったこともあり対象となる本は 16 冊。抽出した索引語は 2,540 語である。基本的には同じ索引語が、どの資料に掲載されているかを探すぺージを作成したが、多少表記の摇れがある。本来ならば索引語を統制する必要があるのだが、今回は省略した。 ## 5. おわりに 「件名で本を探す」においては国立国会図書館の件名表目標を用いたため、そこに記載されていない件名(当館独自の件名)を拾うことができていない。自館において[件名マスター] を作成する必要を感じた。「索引で本を探す」 においては、索引語の表記のゆれが各所にみられたので、統制した[索引語マスター]を作成する必要があると感じた。これからの図書館は現状の OPAC に加え、図書館それぞれで「件名マスター」や「索引語マスター」を持つことなど、今後の図書館の資料組織化の課題がみえてきた。 今回テキスト中心の HTML ファイルを構築したが、当然ながら画像ファイル等を指定しデジタルアーカイブを構築することも可能である。また HTML に加え CSS によりデザイン性を高めたり JavaScript を用い操作性を高めたデジタルアーカイブサイトを構築することもできる。 本格的な Web アプリケーションによるデジタルアーカイブシステムを導入するためにコストやスキルなどに課題がある場合は、こうした「静的 HTML によるサイト構築」も選択肢として考えることができる。 「件名で本を探す」および「索引で本を探す 〜富士山資料編」は、山中湖情報創造館公式サイトのトップページから入ることができる。 http://www.lib-yamanakako.jp/ (参照日2019-1-24) ## 参考文献 [1] 野沢直樹十胡政則. FileMaker17 スーパー リファレンス Windows \& macOS \& iOS 対応. 2018. [2] FileMaker 社ヘルプページ. フィールド内容のエクスポート. https://fmhelp.filemaker.com/help/17/fmp/ja/ index.html\#page/FMP_Help/export-fieldcontents.html (参照日 2019-1-24) [3]国立国会図書館件名標目. Web NDL Authoritiesについて. http://id.ndl.go.jp/information/download/ (参照日 2019-1-24) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P08] 文化財情報の総合データベースシステムの構築と運 用 ○小山田智寛 1), 福永八朗,二神葉子 2),三島大暉 3),田所泰 4) E-mail: oyamada11@tobunken.go.jp ## Construction of a Cultural Property Information Database and Management OYAMADA Tomohiro ${ }^{1)}$, FUKUNAGA Hachiro, FUTAGAMI Yokon', MISHIMA Taiki3), TADOKORO Tai4) 1), 2), 3), 4) Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties, 13-43 Ueno Park, Taitoku, Tokyo, 110-8713 Japan ## 【発表概要】 東京文化財研究所(以下、当研究所)は 1930 年の設立以来、文化財に関する様々な情報を蓄積してきた。これらの蓄積による成果は主に刊行物として発表されてきたが、情報そのものの活用は限定的だった。対象とする文化財や、調查・研究手法を限定せず、幅広く情報を蓄積しており、情報の管理・運用が個々の研究者に任されていたためである。そこで、これらの情報のより活発な活用を目指して、総合的な文化財情報のアーカイブが構想され、2014 年、プロトタイプとして、所蔵資料や刊行物を中心としたデータベースである刊行物アーカイブシステム(以下、刊行物 AS)を開発した。本発表では刊行物 AS の運用について報告し、合わせて刊行物 AS の成果として『日本美術年鑑』および「東文研総合検索」について紹介する。 ## 1. はじめに 当研究所では有形、無形を問わず、文化財に関する様々な情報を蓄積している。その内容は美術工芸品に関する基礎研究の成果から、修復技術の実践的な研究の成果まで幅広い。蓄積された情報は、研究の手法や目的に応じて整理されており、統合的に管理することが難しい。利用されるアプリケーションも多岐に渡り、保存形式も、Excel や Word、テキストファイルや FileMaker 形式など様々である。 そのため、これらの蓄積の成果は主に刊行物の形で発表され、情報そのものの活用は限定的だった。 しかし、これらの情報は全て文化財研究に資するものであり、一体的に管理・運用することで、一層の情報発信や研究のための活用が見込まれた。そこで総合的な文化財情報のアーカイブが構想され、プロトタイプとして、 ある程度、一般的な項目で整理されており、主たる成果発信の形式でもある書籍や文献などの刊行物の情報を土台としたデータベース を構築することになった。 ## 2. システム構成 刊行物 AS は、利用環境を制限しないように、Web アプリケーションとして構築され、 ハードウェアについても汎用的な製品で構成できることが要件とされた。システムの選定にあたって、汎用的な Web サーバーで動作し、 Web アプリケーションとしての運用実績もある、図書館システムのカスタマイズが検討された。しかし、当研究所では、NDC(日本十進分類法)の普及以前から独自の規則によって図書を分類しており、取り扱う情報も刊行物にとどまらないことから、採用できなかつた。同様に、多くの場合、基本となるデータ構造が指定されている既存のデータベースアプリケーションも、当研究所の文化財情報を網羅できる見込みが立たなかった。システムの構築段階で、登録される文化財情報のデー 夕項目や運用方法を特定することは難しい。 そのため刊行物 AS の構築には、基本となる データ構造を持たず、Relational DataBase Management System (以下 RDBMS) の操作に特化し、データの構造化そのものをサ 図 1 刊行物 AS トップ画面 ポートする Web フレームワークが採用された (図 1)。 刊行物 AS は 2014 年に 12 テーブル、 104 カラムの構成で運用が始まった。2019 年 1 月現在、後述寸る『日本美術年鑑』編集のための機能や、様々なデータベースの設定も加わり、テーブル数は 16、カラム数は 327 に増加し、登録件数は 220 万件を超えた。テーブル間のリレーションもその都度組み直されている (図2)。 なお、刊行物 $\mathrm{AS}$ を運用しているサーバーや利用端末は、ファイアウォールによりインタ一ネットから分断されたイントラネット上で運用している。これにより文化財情報の管理基盤となる刊行物 AS ののアクセスを外部から遮断し、刊行物 AS 及びデータの保護を行っている。 ## 3. 運用 刊行物 AS は次の用途で運用されている。 1. 蓄積された情報の登録 2. 登録情報の活用 3. 所蔵資料などに関する目録情報の作成 1 については刊行物 AS のデータベース操作の柔軟性を活かし、蓄積された様々な調查記録の登録を逐次行っている。2 については次章で報告する。 3 は、新蔵図書などの登録である。図 2 に、この情報が登録される主要なテーブルを示した。内容は下記の通りである。 - Book : 図書や雑誌の一冊ごとの書誌情報 - Contents : 記事、論文などの文献情報 - Exhibition:国内外の美術展覧会の情報 - Place : 展覧会の会場の情報 ・ Series : 雑誌などのシリーズの情報 図 2 刊行物 AS 主要テーブル略図およびデータフロー ・ RDBMS の設定は、Webフレームワークより管理者が行う ・「総合検索」のデータは定期的に刊行物 AS のデータで置き換えられる ・作業者が利用する FileMaker は FileMaker Server を介して RDBMS へ接続する ・『日本美術年鑑』の入稿用データは、刊行物 ASより FileMaker Server にコピーされ、 FileMaker Server で作成される 当初、情報の登録や編集は、全て当該 Web フレームワークより行っていた。しかし、当研究所では新字や旧字の表記ゆれや、複数の名義を使い分ける作家の登録名など、入力値自体に検証が必要な事例が多く、頻繁な修正が生じる。刊行物 AS に、それらの業務を十分に遂行する水準の検索・編集機能を持たせることは困難だった。これは採用したフレームワークの性質がデータの網羅性を重視したものであり、特定の用途に特化した機能を持たなかったためである。 そのため、作業の進捗のたびに、機能の追加開発が行われた。その結果、機能同士の干渉や標準仕様からの逸脱が生じ、フレームワー ク自体のバージョンアップが困難となった。 そこで、刊行物 AS はデータの蓄積に特化し、特定機能についてはその都度、外部アプリケ ーションを利用するよう運用を改め、編集用のフロントエンドとして FileMaker を試行した。FileMaker は、豊富な検索機能と直感的なインターフェースが特徴のデータベースアプリケーションである。通例、単体のアプリケーションとして利用されるが、刊行物 AS においては RDBMS のインターフェースとして利用され、アプリケーション自身にはデー 夕を保存せず、RDBMS 内のデータの操作を行う。この運用によって、ブラウザからの利用環境はそのままに、FileMaker の機能を追加した形での、情報の一体的な管理・運用を維持している。 ## 4. 成果 ## 4. 1 『日本美術年鑑』 1936 年よりほぼ毎年、刊行している日本の美術界の動静を一年ごとにまとめたデータブックである。内容は当該年度の美術界の動向をまとめた「1.美術界年史」、展覧会の開催情報をリスト化した「2.美術展覧会」、雑誌や新聞記事、展覧会図録に掲載された美術に関する文献をまとめた「3.美術文献目録」、死去した美術関係者についての「4.物故者記事」である。このうち 2 と 3 の基礎データを刊行物 AS で作成している。「2.美術展覧会」の掲載内容は次の通りである。 . 展覧会名 - 開催期間 . 会場 ・ 展覧会が言及されている刊行物名 ・(上記の)執筆者 「3.美術文献目録」は次の通りである。 - 文献名 ・ 執筆者 - 掲載誌 これらの基礎データが刊行物 AS へ登録される。その後、当該年度に刊行される『日本美術年鑑』のデータが RDBMS より FileMaker ヘコピーされ、FileMaker 上で入稿データが作成される。この作業フローにより、基礎デ一夕を一元管理しつつ、入稿用データなどの特殊なデータを効率よく編集することが可能となった。 作業効率を向上させるため、刊行物 AS に登録された様々な文化財情報の『日本美術年鑑』への流用を目指しているが、異なる目的で作成されたデータの利用は、入力規則やデ一夕精度の相違のために難しい。当研究所全体としてのデータの作成基準は今後の検討課題である。 ## 4. 2 東文研 総合検索 当研究所の様々なデータベースを横断的に検索できる Web データベースシステムで、 2019 年 1 月現在、同時に検索できるデータベ一ス数は 28 、検索対象データは 125 万件を超える(図 3)。オープンソースの WordPress を、刊行物 AS のデータを登録するために設定した RDBMS のコントローラとしてカスタマイズし、WordPress 自体はデータを持たない。刊行物 AS とはシステム的な連携を行っていないため、刊行物 AS よりエクスポートした CSV ファイルを手動で登録することでデ一タの更新を行っている。 データの同一性や運用の煩雑さの観点からは、情報の蓄積と公開は単一のシステムで行うことが望ましい。しかし、蓄積と公開には求められる機能やセキュリティ水準が異なる ため、システムが肥大化、複雑化しやすい。 また、相反する機能を単一のシステムに組み込む開発は困難である。当研究所においては、刊行物 AS の役割を情報の蓄積、総合検索の役割を情報の公開に限定することで、過剩な開発を抑制している。また、総合検索にはデ一夕編集の機能は搭載していない。検索対象データは、常に刊行物 AS から取り込んでいる。これによって、データの同一性を維持し、運用の単純化を図っている。 図 3 総合検索検索結果画面 ## 5. まとめ 刊行物 AS の開発により、研究者ごとに保存・管理していた文化財情報を、集約することが可能となった。一方、データ編集においてはネイティブアプリケーションである FileMaker を導入することになった。また、登録された情報の Web 公開についてもオープンソースの WordPress を利用した別システムを開発した。しかし、情報の編集や公開を別システム化することで、刊行物 AS の役割を情報の蓄積に限定し、過剩な開発を行うことなく、業務を円滑に進めることが可能となった。文化財情報の一体的な管理・運用という構想をシステム面において維持することはできなかったが、情報の一元管理自体は無理なく維持できている。また FileMaker や WordPress といった一般的なアプリケーショ ンの利用は、システム全体の開発コストを下げるだけでなく、マニュアルの作成など作業者の教育に関するコストを下げる面でも効果的であった。 なお、刊行物 AS は現在、ハードウェアのリプレイスを検討している。登録件数の増加に伴うパフォーマンスの低下が見みられる中、更なる活用のために必要なスペックの検証を行いたい。 最後に、所内共有ストレージのファイル検索システムの試行について触れる。刊行物 AS はメタデータの整理が終わっている情報の登録や、メタデータ自体の作成のために運用している。しかし、当研究所には、いまだ未整理の画像データが膨大に存在している。 これらの未整理のファイルを埋もれさせないために、DOS コマンドで作成した、共有ストレージに保存された画像ファイル名と保存場所のリストによる、簡易的なデータベースを刊行物 AS に作成した。ファイル名やディレクトリ名で検索し、ブラウザで画像を確認できるこのデータベースにより、未整理のファイルへのアクセス性の向上が確認できた。デ一タベースの作成には、メタデータの作成が欠かせないが、その労力を省いたこのような形のデータベースがどのような有用性を持つか、検証を続けたい。 ## 参考文献 [1] 情報資料部 - 協力調整官一情報調整室. 東京文化財研究所七十五年史本文編. 2009, 12, 25, pp.224-290. [2] 山梨絵美子. 『日本美術年鑑』のこと. TOBUNKENNEWS no.45. 2011, 5, 31, pp.12-13. [3] 塩谷純、橘川英規. 『日本美術年鑑』創刊 80 周年によせて一その編纂とウェブ発信. TOBUNKENNEWS no.62. 2016, 11, 11, pp.34-35. [4] 福永八朗. 研究ノート東京文化財研究所の文化財データベースー刊行物アーカイブを中心とした、アーカイブ・データベースの目的、要件およびその実現の方法について一. 美術研究 419. 2016, 6, 1, pp.17-26. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P07] デジタルアーカイブ理論の変遷: ## デジタルアーキビスト養成におけるデジタルアーカイブ理論の変化 ○井上透 1 ) 1) 岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所,〒500-8813 岐阜市明徳町 10 E-mail: tinoue@gijodai.ac.jp ## Change in digital archive theory : \\ Change in digital archive theory in digital archivist education \\ INOUE Toru1) ${ }^{1)}$ Gifu Women's University Digital archive research center, 10 Meitoku-cho, Gifu, 500-8813 Japan ## 【発表概要】 デジタルアーカイブの開発、運営を担うデジタルアーキビスト養成において、当初は博物館・図書館・公文書館・大学が所蔵する有形・無形の文化遺産のデジタル化とウェブ公開のための理論・技術・著作権処理が中心であった。その後、自治体や企業・産業資料など取り扱う対象の質・量の拡大し、組織的なデジタル化やオープンデータ化などデジタルアーカイブを社会の知識基盤とするための対応が必要となるなど、理論・技術・権利処理など養成内容が変化している。人材育成におけるデジタルアーカイブ理論の課題と今後の方向性を考えたい。 ## 1. はじめに 2017 年 4 月デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会が取りまとめた「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」1${ }^{1}$ 事務局:内閣府知的財産戦略推進事務局において、「様々なコンテンツをデジタルアーカイブ化していくことは文化の保存・継承・発展の基盤となる」とした。 さらに、デジタルアーカイブは「場所や時間を超えて」情報にアクセスすることを可能とし、「分野横断で関連情報の連携・共有を容易にし、新たな活用の創出を可能とするものである。とした。また、デジタルアーカイブの活用対象は幅広く、「観光、教育、学術、防災などの様々な目的が考えられる。」とし、多様な分野での活用が期待されている。 つまり、デジタルアーカイブは、日本の目指寸知識基盤社会を支えるプラットフォームになる可能性を持っている。したがって、旧来の図書館、博物館、文書館、大学の所蔵する文化遺産中心のデジタル化と公開活用から、企業、自治体など社会の全領域にその活用範囲が広がっており、それに従った人材育成が必要となっている。 ## 2. デジタルアーカイブ理論の変遷 デジタルアーカイブの開発、運用に携わる人材はデジタルアーキビストとされ、NPO 法人日本デジタル・アーキビスト資格認定機構 2 ではその育成に必要なカリキュラムを(1)文化 (対象)の理解、(2)情報の記録と利用、(3)法と倫理の 3 分野で構成している。 & & \\ 図 1. デジタルアーカイブ概念の変遷 図 1 は養成の前提となる理論の変遷と対象の拡大を大きく整理したものである。 第 1 世代は、「デジタルアーカイブという言葉は、1996(平成 8)年に設立された「デジタルアーカイブ推進協議会 (JDAA)」の漼備会議の中で月尾嘉男氏(東京大学教授(当時)。平成 $14 \sim 15$ 年総務省総務審議官、現在、東京大学名誉教授)から提案され、広報誌『デジタルアーカイブ』で初めて公表されました。」 3 等によりデジタルアーカイブ化がスタートした初期を 1995 年前後とした。 第 2 世代は国立国会図書館の大規模なデジタル化や 2003 年の NHKアーカイブズ会館、 2004 年の国立科学博物館のデジタルアーカイブを前提にした展示情報システム稼働、2008 年の文化遺産オンラインの運用開始など 2005 年前後とした。 第 3 世代は急速に普及が進み内閣府知識財産推進本部による国の組織的なデジタルアー カイブ振興が始まった 2015 年前後とした。デジタルアーカイブの変遷を大きく 3 世代に区分するなかで人材育成との関係を概括したい。 ## 2. 1 対象 第 1 世代では有形無形の文化遺産、オーラルヒストリーであり、比較的少数のデジタル化と公開から始まった。第 2 世代になると科学関係データ、自治体資料、産業遺産・資料、災害資料への拡大(ソーシャルアーカイブ化) が進み、データ量も大きく増加した。第 3 世代ではコミュニティー、ファミリー、パーソナルアーカイブへの拡大、クッキング等生活情報の増加し、社会の多様なニーズを取り込んだ対象になり、データ量は飛躍的に拡大しつつある。 ## 2. 2 対象メディア 第 1 世代では実物としての仏像や祭礼の取材、博物館や図書館の所蔵資料、作品、古文書・印刷物を対象メディアとしてデジタルア一カイブ化したものであった。第 2 世代になるとデジタルメディア、インターネット等通信の空間で流通するメディアへ対象が拡大し、第 3 世代では SNS 等の CGM (Consumer Generated Media) 個人の発信 するデータが爆発的に増加し、科学技術・産業データなどビッグデータ等ファクトデータ一拡大して行った。 ## 2. 3 実施主体 開発・公開の実施主体は、第 1 世代では図書館、博物館、文書館、大学・研究機関の一部であった。第 2 世代になると図書館、博物館、文書館、大学・研究機関の提供機関が増加、自治体・企業の取り組みが進んだ。第 3 世代では、多様な機関・団体・企業が提供を開始し、個人から発信されデータの取り込みが増大するなど知識基盤社会化の充実が始まったと言える。 ## 2. 4 権利処理 第 1 世代では各関係機関の所蔵資料が主であり、著作権処理が中心であった。第 2 世代になると、対象が拡大するとともに個人情報保護法が成立するなどプライバシーや肖像権についても対応が始まった。第 3 世代では、提供する側のコンプライアンスのための権利処理から、利用者側に立った権利処理に変化してきた。クリエイティブコモンズライセンスなど、二次利用を進めるライセンス表示を可能にするのための権利処理が行われることとなった。 ## 2.5 提供形態 第 1 世代では著作権等の課題があり各施設内限定の閲覧から始まり、次第にウェブサイトの提供が始まった。第 2 世代になると各施設内だけでなく、ウェブサイトの公開が進み、検索や表示機能が進んだ。第 3 世代では提供機関の連携が進みリンクドデータベー ス、オープンデータ化、API (application programming interface)の公開が進んだ。 さらに、IIIF (International Image Interoperability Framework),DOI(Digital Object Identifier)など世界標準採用による利活用が進んできた。 ## 2.6 ユニバーサルデザイン 第 1 世代ではユーザの使い勝手への対応は 一般化していなかった。第 2 世代になるとユ ーザビリティ・アクセシビリティの改善が進んだ。第 3 世代では障害者差別解消法 4 成立によるユニバーサルデザインへの対応や、さらに障害者、高齢者、外国人にシステム開発の初期段階から参画していただくインクルー シブデザインの導入が始まった。 ## 2. 7 評価 第 1 世代では各機関のデジタルアーカイブ提供が運営評価に含まれないケースが多く、評価の対象とした場合も公開自体を定性的評価する内部評価が多かった。第 2 世代になるとトップページ・ベージビュー等アクセス数等の定量的評価が進み、ユーザとの双方向による評価や改善が進んだ。第 3 世代では検索エンジンのヒット件数、 2 次利用の可否、リンクドデータ化、オープンデータ化等提供機関間連携など社会的評価が付加されるようになった。 ## 2,8 アクセスデバイス 第 1 世代では提供施設内での利用であり、一部がネット利用による外部 PC からのアクセスであった。第 2 世代になるとインターネットを通じた他施設・家庭からの外部アクセスによる PC,タブレットの利用が進んだ。第 3 世代では、 $4 \mathrm{G}$ など高速のネットワーク回線による場所に限定されない、さらに個人所有の PC,タブレット、スマートフォンからのアクセスが主流になったと言える。 ## 3. デジタルアーカイブに関する人材育成上の課題 我が国のデジタルアーカイブは、 Europeana や DPLA(米国デジタル公共図書館)と比べ、圧倒的にコンテンツが不足している。その原因として、メタデータの整備・標準化、各機関の連携を担うアグリゲータやデ ータプロバイダの不在、情報資源のオープンデータ化促進不足、脆弱な制度、人的・財政的リソース、組織基盤、専任職員等の配置等が推測される。 デジタルアーカイブの構築・連携を担う人材育成には、文化(対象)の理解、デジタルアーカイブ化の技術理解、関連法令と倫理の理解だけでなく、活用者の視点に立ってユニ バーサルデザインを実現し、ニーズ分析、資料の選定、メディアの選定、ナレッジマネジメントの促進、市民参加型データ収集等に関わる各種能力が求められる。 また、デジタルアーカイブを開発するプロデュース力、他機関との連携を進めるコミュニケーション力等マネジメント力が求められる。特に中核的デジタルアーカイブ提供機関においては、アグリゲータやデータプロバイダとしての運営が求められている。残念ながら、デジタルアーカイブ化が拡大している各分野で、これらの能力を有し開発・運用・活用の担い手になる人材は不足している。したがって、博物館学芸員の養成過程に博物館経営論が追加されたように、現在のデジタルア一カイブ理論を実現するためには人材育成の充実のためのデジタルアーカイブ経営論というべきマネジメントのための人材養成プログラムの開発が喫緊の課題ではなからうか。 ## 4. おわりに 博物館、図書館、文書館、大学、自治体の公的セクターだけでなく、企業や個人の発信する多様な情報・メディアがデジタル化され横溢している。残念ながら、デジタルアーカイブの理論が第 3 世代に入ったと言っても、図書館を除けば各機関別に所在情報を検索し、 どのように利活用できるのかが実現できていない状況にある。さらに、全てを統合し横断的に検索し 2 次利用など活用することが極めて困難である。このことは、知識基盤社会を目指す日本にとって極めて大きな課題である。 これらを解決するためには、デジタルアーカイブを企画・開発・運用(マネジメント)するデジタル・アーキビストの養成が求められているのではなからうか。 2006 年に始められた NPO 法人日本デジタル・アーキビスト資格認定機構による人材育成制度は、9 の大学と日本アーカイブ協会によって、現在、準デジタル・アーキビスト、 デジタル・アーキビスト、上級デジタル・ア一キビストなど約 5,000 人の有資格者が養成されている。 一方、デジタルアーカイブの理論・技術は大きく変化しており、デジタルアーカイブ学 会等の関係学会から得られる知見を反映した人材育成を行うためには、講習時間の確保が必要になっている。 しかし、社会人の経験者を対象とした準デジタル・アーキビスト資格取得講座については、開発の担当を指名され方の参加が多く、基本的な項目の概論を中心にした 1 日プログラムを構成せざるを得ない状況である。 また、デジタル・アーキビスト資格講座はデジタルアーカイブ開発をプロ・生業とされた方の参加比率が高いため、5 日間の講習期間を確保している。しかし、ニーズの高い技術講習を中心とせざるを得ないため、将来つまり第 3 世代のデジタルアーカイブ理論に対応しているとは言い難い状況であり、新しいデジタルアーカイブの動向は情報提供に留まっている。 デジタルアーカイブに関する人材育成には、常に発展を続ける理論への対応と、対象の広がりにより求められる技量とのマッチングが必要になっている。したがって、資格取得者に対するリカレント教育の必要性が極めて高いと言わざるを得ない。そのため、デジタルアーカイブ学会への入会などを勧め、継続的な情報の収集と技能習得を資格取得者にお願いせざるを得ない状況である。 さらに、これまで準デジタル・アーキビス卜資格取得講座の参加者については、図書館、博物館、大学教育関係者が主流であったが、昨年からの傾向として企業関係者が主流になり、合わせて年間の資格取得者が増加している。今後、この傾向に対応した養成プログラムの改訂が必要となっている。引用文献 (Web 参照日は全て 2019-01-21) [1] 我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性, 内閣府知的財産戦略推進事務局, 2017 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarch ive_kyougikai/houkokusho.pdf [2] NPO 法人日本デジタル・アーキビスト資格認定機構 http://jdaa.jp/ [3] デジタルアーカイブの構築・連携のためのガイドライン,総務省 2012 年 3 月 http://www.soumu.go.jp/main_content/00015 3595.pdf [4] 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 (障害者差別解消法) https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_ h25-65.html ## 参考文献 [1] 三宅茜巳.井上透.松家鮎美.デジタルアーカイブと人材育成 : デジタルアーカイブ学会誌. 2018,Vol.2,No.4, p.376-384. [2]岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所, デジタルアーカイブの資料収集・撮影・記録の基礎, 2018. [3] クリエイティブコモンズライセンス,クリエイティブコモンズジャパン https://creativecommons.jp/ (参照日 2019-0121) [4]準デジタルアーキビス資格テキスト編集委員会編,デジタルアーキビス入門, NPO 法人日本アーカイブ協会, 2014 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P06] 戦争映画とコメント情報アーカイブの分析: ## 映画コメントから見る日本と中国の若者の歴史認識 ○岑天霞 1 1), 渡邊英徳 1) 1) 東京大学情報学環$\cdot$学際情報学府学際情報学専攻文化$\cdot$人間情報学コース渡邊研究室 T113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 福武ホール ROOM3 E-mail:tenka.sin@gmail.com ## Analysis of war movies and comment information archives : Views of history of young people in Japan and China viewed from film comments Cen Tianxia1), WATANAVE Hidenori1) 1) The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo113-0033 Japan ## 【発表概要】 本研究の目的は, 日中両国の戦争に関する歴史認識を明らかにすることである。このために, すでにネットでアーカイブされている映画情報とコメント情報を分析し, 日本と中国の戦争映画の「送り手」と「受け手」の現状を読み取った. まず日中両国の歴史・戦争を題材とした映画の内容と舞台を解読・比較し,日中両国の映画製作側の意図と表現手法の変遷を明らかにする.その上で,映画情報サイトから映画のレビュー情報や,「ニコニコ動画」などの弾幕動画サイトのコメント情報を収集・分析し,若者の映画鑑賞者(これらのサイトの主なユーザは 10 代後半から 30 代の若者)の戦争・歴史認識を明らかにする。本研究の成果によって, 日中両国の若者における歴史認識の違いを明らかにし, 新しい時代における日中歴史和解実現に示唆するものを得ることができると考えられる。 ## 1. はじめに 2018 年「第 14 回日中共同世論調查」の結果によると,日本人の 6 割,中国人の 9 割が,歴史問題は日中関係において今なお大きな障害だと考えている。また,両国とも相手国に関する情報源としては主に自国のニュースメディア・書籍・映像である。さらに,選択的接触などの原因によってソーシャルメディアの分断化も深刻な問題となっている。さらに,「言語の壁」により, 多くの人は自分が馴染んだ言語のネット環境に閉じこもりがちである. もつとも,中国のネット検閲によって,日中両国の人々は全く異なるインターネット社会で生きている. 以上のことからわかるように,多くの中国人も日本人も歴史問題は日中関係の障害とだと認識している。しかし, 両者がそれぞれ自国のコンテクストに基づいて歴史認識が形成されているため, 自国のコンテクストとの価値基準が異なる他者の歴史教育の内容や方法を無意識に批判的になりがちである。このように,歴史認識の相違とコミュニケーションの不足がもたらす誤解が,日中両国における国民感情の悪化をもたらしていると言えよ う.こうした状況を改善し,両国民が平和に対話できる状況をつくりだすためには,お互いの歴史認識を相互に知り, 理解しあうことが重要だと考えられる. ## 2. 戦争映画から見る歴史認識 ## 2.1 日本と中国の戦争映画 まず,日中両国の戦争映画の「送り手」を分析するために, 日本の戦争映画をまとめた Wikipedia(ウィキペディア) と中国国内検索エンジンシェア 1 位「Baidu(百度)」での関連するカテゴリから得たデータを利用して, 比較・分析を行った。また, 両国とも戦前と戦中において,プロパガンダを目的とした映画が多いので, 本研究では, これらの映画を略して,主に第二次世界大戦終戦後に制作した映画を取り扱う。 Wikipedia の「日本の戦争映画」カテゴリによると, 終戦から現在に至るまで日本で作られた戦争映画は合計 140 本である.この中 には,1937 年 7 月 7 日から 1945 年 9 月 9 日まで行われた日中戦争を舞台とした映画本数はわずかの 18 本であり,全体の $13 \% を$ 占める. 太平洋戦争を舞台とした作品数は 88 本で,全体の\%を占め, 残るのは架空的な戦争と時代劇である。(図 1) また,18 本の日中戦争を舞台とした映画の中, 16 本は 50 年代から 70 年代に年代の作品である. 80 年代以降、日本が「日中戦争を扱った映画」をほぼ作らなくなった. 残る 2 本の一つは南京事件の証言を取り上げて, 2007 年日本で制作したドキュメンタリー映画の 『南京一引き裂かれた記憶』である。しかしこの映画は公開上映してなかった。もう 1 本は 2010 年公開した『キャタピラー』であり, この映画は日中戦争の参戦によって深い火傷を負い、四肢を失った兵士と彼の妻の悲劇なストーリーを描写した。 一方, 中国の検索エンジンの Baidu からの情報によると, 中国で制作された 197 本の戦争映画の中に $73 \%$ 日中戦争を題材とした作品である.(図 2) さらに,この中にも,80 年代以降作られた作品が多い. ## 2.2 戦争のシンボル 中国のニュースサイトの人民網(2013)の調查によると回答者のほぼ全員が, 「南京大虐殺は全民族が受けた深い傷であり,決して忘れてはならない」と考えていた。その中,「南京 大虐殺の詳細については, それを題材とした映画から知った」と答えた人の割合が $52.6 \%$ だったのに対し, 「教科書で知った」とした人は $39.2 \%$ \%゙った. 中国人にとって「南京大虐殺」とは, 第二次世界大戦中の日本軍が中国国内で犯した犯罪行為を象徴し, 戦争記憶の中で最も際立ったシンボルである。一方,原爆を受けたという歴史は, 日本人にとって決して忘れてはならない悲劇である。本研究では,「南京大虐殺」と「広島原爆」を舞台とした映画を分析して,両国のそれに関する記憶およびその継承の実態を明らかにする。 図3 各国の「南京大虐殺」と「広島原爆」を扱った映画本数 中国大陸では南京大虐殺を題材とした映画 9 本があり, 原爆を描いた映画作品が 1 本もない, 一方, 日本では, 広島・長崎への原子爆弾投下を題材とした作品は 16 本がある. (図 3) 図4 日中両国における戦争映画の評価点数 これに対して, 中国側は核害験で国力を誇示する映画作品が 3 つある. ロプノールの原爆実験を舞台としたストーリーを描いた映画『原爆前の秘密』と『絶境を飛び越え』, そして中国初の原子爆弾を開発・製造した科学者,技術者たちの奮闘を描いた映画『横空出世』 が中国にとって「広島原爆」より主流的である. ## 3. 映画レビューから見る歴史認識 両国の戦争映画の「受け手」の実態を把握するために,両国の情報サイトの日本の 「Yahoo! 映画」と中国の「豆瓣电影」から映画のレビュー情報を収集・分析する。 映画情報サイトでは, 星数で映画の点数をつけることと長さが自由の文章で自分の感想を書くこと,この二つのレビュー機能がある。本研究では,まず日中両国の観客がそれぞれ映画につけた点数を比較する。しかし,日本では中国の映画に関する情報が極めて少ないため, 今回比較する映画は『南京!南京!』と 『鬼が来た』は 2 本, そして日本の戦争映画から確率抽出した 18 本の合計 20 本の映画についてのレビューである。この中には,日本と中国の点数差が 1 を超えた映画は『人間の條件』、『また逢う日まで』,『南京!南京!』3 本しかなかった。映画鑑賞者は映画を評価時の判断基準はかなり近いと考えられる。また, この 3 本の映画とも, 中国側の方の点数が高 い.この違いの理由を明らかにするために, もつと詳しい情報が必要である.例えば,現在議論した評価点数の平均点数であり,この点数だけで,映画レビューの状況を掴むのは難しい。 ここで、映画評価を分類して比較する。(図 5)これは『この世界の片隅に』の日中両国の星評価である. 左側は中国の Douban 映画で,右側は Yahoo!映画の情報である。左側の方は,投票が 3 つ星から 5 つ星に集中しているのは意見が一致する傾向が見える.筆者はこの夕イプの評価を P 型(Perfect)と定義する。また,右側のように,投票が 5 つ星と 1 つの星に分かれたとき,同じ国でも論争が存在することを示されている。筆者はこれを $\mathrm{C}$ 型 (Controversy)と定義する。 & \\ 図 5 映画評価を分類 今回抽出した 20 本の映画の中, 『人間の條件』,『南京! 南京!』,『この世界の片隅に』,『忍びの国』4 本以外の星評価は全部同じ夕イプです。さらに, この 4 本とも, 中国側は $\mathrm{P}$ 型で,日本の方は $\mathrm{C}$ 型である.以上のことからわかるように, 日中両国における戦争映画の評価に共通することが多く, 中国より日本の方が意見分けることが多い. 映画情報サイトのレビューから鑑賞者の感想を見てみると,高い評価は同じ理由が多いが,低い評価のレビューには相手国と意見が異なることが多い。例えば,同じ『この世界の片隅に』に対して, 日本側の低い評価のレビューの多くの理由は「映画自体が退屈だ」.一方, 中国側の一つ星のレビューの中、役立ち度が最も高いレビューに「南京」と「弁解」二つのキーワードがよく出て来る. しかし,このようなレビューだけを読み取っても,この観客は本当にこの映画を見てから書いた感想なのか, それとも, 映画を見てないけど,映画のタイトルや簡単な紹介を読んで自分の好き嫌いによって書いたレビュー なのかが読み取れない. このゆえに,筆者は他の映画に対してコメントつけることができるツールを考慮に入れた. 例えば日本から発祥し, 現在中国で大人気の弾幕動画サイトにおける弾幕コメントでは映画に対する感想を疑似同期でアーカイブされている,実は,レビューよりこのような映像から離れていないコメントの方から, 異文化交流の新しい可能性を見える。さらに,自文化と違うことや, 理解出来ないところについて説明してくれる弾幕が出現するときが多いので,見知らぬ文化の映画を見るとき役にたつ.「ニコニコ動画」の『鬼が来た!』 に対する弾幕コメントからみると, 最初は 「これは反日映画か」という疑問を持っている人が多い. 映画の最後まで見る人が書いた弾幕コメントは「いい映画だ」, 「反日じゃなく反戦映画だ」のような感想が多い. この映画には 2008 年から, 現在まで, 10 年間のコメントを疑似同期でつけられているため, 戦争映画研究には価値が高いと考える。 ## 4. おわりに 本研究は, 日中間の歴史認識問題とその成因となる戦争映画の因果関係に着目して, 両国における歴史認識の共通点と相違点を明らかにすることを目的とする。このために,日中戦争に関する映画作品の情報を収集した上で,映画の本数や,公開年,評価点数などを定量的に分析する.第二次世界大戦に対する歴史認識について, 中国において日中戦争が最も多く言及されており,その一方で日本の戦争映画は太平洋戦争に比重を置くようになる. 戦争における自国の被害を表現した作品は多数であることを明らかにした。したがって, 本研究の成果は, 戦争をテーマにした映画の比較・分析によって, 日中両国の歴史認識にある「壁」を明らかにしたことである. ## 参考文献 [1] 言論 NPO. 2018/10/9.第 14 回日中共同世論調査言論 NPO. http://www.genronnpo.net/world/archives/7053.html (参照日 2018/1/22). [2] 人民網日本語版(2017 年 08 月 10 日) $「 80$ 後・ 90 後の 8 割、「南京大虐殺の発生時期を知らない」」『人民網日本語版』 ((参照日 2019/1/24) 2018/1/22). [3]豆瓣电影「中国の映画情報サイト」 https://movie.douban.com (参照日 2019/1/24) 2018/1/22). [4]Yahoo! 映画「日本の映画情報サイト」 https://movies.yahoo.co.jp (参照日 2019/1/24) 2018/1/22).
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# [P05] デジタルアーカイブを横断した画像活用による研究 実践: ## IIIF と IIIF Curation Platform を軸に ○鈴木親彦 1) 2) 1) ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター, 〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋 2-1-2 2) 国立情報学研究所 E-mail:ch_suzuki@nii.ac.jp ## Practical Studies Using Multiple Databases: Focusing on IIIF and IIIF Curation Platform SUZUKI Chikahikon) 2) 1) GROIS-DS Center for Open Data in the Humanities, 2-1-2 Hitotsubashi, Chiyoda-ku, Tokyo, 101-8430, Japan 2) National Institution of Informatics ## 【発表概要】 本発表では、ユーザーとしての研究者の立場でデジタルアーカイブを横断活用した研究事例を示し、ユーザー視点からアーカイブの活用について議論する。特に国際的画像配信規格である International Image Interoperability Framework(IIIF)がもたらす相互運用性を軸とし、ユ ーザーである研究者が「キュレーション」として主体的に IIIF 画像を活用することを可能にした IIIF Curation Platform(ICP)と、それを利用した美術史や文化資源学での研究事例を中心に置く。具体的には第 2 回研究大会で発表したプロトタイプ研究を発展させた「顔貌コレクション」の構築と、江戸時代の観光案内である「名所記」の横断的なキュレーションについて紹介し、 これらのキュレーションが、さらに新たな情報とつながっていく可能性を示す。これらの実践と通じて、メタデータの整備や IIIF の発見性の問題についても議論する。 ## 1. はじめに 本発表では、ユーザーとしての研究者の立場でデジタルアーカイブを横断活用した研究事例を示し、ユーザー視点からアーカイブの活用について議論する。中心に置くのは画像配信規格として国際的にも定着し、日本国内でも活用事例が増加している International Image Interoperability Framework (IIIF) [1]である。この IIIF がもたらす相互運用性を軸とし、ユーザーである研究者が主体的に IIIF 画像を活用することを可能にしたのが、人文学オープンデータ共同利用センター (CODH)が開発する IIIF Curation Platform(ICP)である。この 2 つを軸に、画像面からデータベースを活用した美術史や文化資源学での研究事例を中心に議論を行う。 ## 2. IIIF と ICP デジタルアーカイブの充実によって、世界中の様々な文化資源および研究資源へのアクセスが容易になっている。特に文化財や美術作品画像の公開では、IIIF による相互運用可能な方式での配信が定着しつつある。日本においても、国会図書館や国文学研究資料館を始めとして、各大学のデジタルアーカイブで IIIF の導入が進んでおり、デジタルアーカイブ学会第 3 回研究大会においてもチュートリアル「デジタルアーカイブの業界標準・IIIF の基本を押さえる」が行われている。これまでも様々な高解像度画像が活用されてきたが、 IIIF のもたらす相互運用性 (Interoperability)によって、アーカイブを横断した研究を容易にするインフラが整ってきたと言える。 CODH が開発した ICP は、IIIF 画像に対して、横断的に収集・整理・情報付加を行う 「キュレーション」を可能にするサービスである[2]。ここで言うキュレーションとは、ア ーカイブを横断して画像または画像の一部を自由に切り取り、リスト化し、メタデータを付与して公開可能にすることで、デジタル時 図 1 ICP を利用した部分の切り取り例 (『しつか』国文学研究資料館所蔵 DOI: $10.20730 / 200003070$ ) 図 2 切り取り結果を一覧表示する「キュレーションリスト」 代の「はさみとノリ」を提供するものである (図 $1 \cdot 2$ )。作成したキュレーションはメ夕データをもとに検索を行うこともでき、外部システムへの情報提供も可能となっている。 ## 3. ICPを活用した研究実践 ここからは ICP を活用して、デジタルアー カイブを横断して研究資源を活用した事例を紹介する。 ## 3.1 顔貌コレクション(顔コレ) デジタルアーカイブ学会第 2 回研究大会では、ICP プロトタイプを活用し、国文学研究資料館が公開している「奈良絵本」の顔貌をキュレーションした事例を紹介した[3]。 この研究を進展させ、慶應義塾大学図書館、慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション、京都大学貴重資料デジタルアーカ イブで公開されている絵巻・絵入本の顔貌も含めて横断的にキュレーションした。この成果をもとに、「顔貌コレクション(顔コレ)」 [4](図 3・4)を構築した。 「顔コレ」では絵巻・絵入本 64 作品から 5,824 顔貌を切り抜いた。それぞれの顔貌に 「性別」「身分」「向き」「原点」「原点 ID」「所蔵」「製作年」というメタデータを統一的に付与した他、自由記述で固有名詞などのメタデータも付与している。このメタデータをもとに顔貌を絞り込むことが可能である。 顔コレの構築は、美術史の様式研究に量的な解析という可能性をもたらした。この可能性は、文学における「遠読」を美術様式研究にもたらしえる [5]。また、同じ仕組みを活用することで美術史の様式教育にも利用できる [6]。 とメタデータの一覧 図 4 メタデータを利用した顔貌の検索結果、 ## 4.3. 江戸名所挿絵コレクション 比較的平和な時期が長かった江戸時代には、 いわゆる観光ガイドの要素を持った「名所記」が観光されていた。特に江戸については 『江戸名所記』を皮切りに多くの名所記が出版され、斎藤月岑らによる『江戸名所図会』 は、単なる観光案内の域を超えた史料として重要である。 名所には神社仏閣、芸能、市場や食事など、江戸の複数の側面が含まれている。国立国会図書館、国文学研究資料館など、複数の組織が公開している名所記を横断的にキュレーシヨン寸ることで、掲載されている名所をまとめつつ、メタデータを利用して他の資料と紐づけていく事が可能になる。 名所のキュレーションは、江戸に関する情報を紐づけていく 1 つのハブとなりえる。現在は最初の段階として「挿絵」をもつ名所記をキュレーションし、地名や種類(寺院・神社・市場など)のメタデータを付与している。 さらに、名所位置を『江戸切絵図』に落とし込んでいく作業を進めている(図 $3 \cdot 4$ )。 図 3 ICP による名所の切り取り作業 (『江戸名所百人一首』国文学研究資料館所蔵 DOI: $10.20730 / 200013679$ ) 図 4 名所記を横断した「両国橋」の挿絵 ## 5. まとめと課題 IIIF の相互運用性と、それを活かしてキュレーション機能を提供する ICP によって、デジタルアーカイブを横断した研究実践は容易になっている。「顔コレ」で示したように、従来なかった視点を導入することも可能であるし、名所記の取り組みの様にさらに新たな情報とつなげてデジタルアーカイブを活用していくことも可能である。 その一方で、ICP を活用しIIIF に対応した画像を研究活用していく上では、いくつかのの課題が残っている。画像資料に与えるべき研究レベルでのメタデータは、様々なキュレ ーションが作成される中で、ある程度の自由さと統一性を保つ必要がある。Getty Vocabularies[7]の活用など、各研究分野で共有されている標準語彙に従う形での記述をしていくことが望ましいが、キュレーションの成果は分野横断で活用できる可能性もある。複数のキュレーションが作られていく中で、 ナレッジを共有し整理していきたい点である。 また IIIF 画像の発見性はまだ高くなく、キユレーションを作成するためには個別のデジタルアーカイブを巡って探して行く必要がある。キュレーションの思想と相性の良い IIIF Discovery Japan[8]への協力など、研究者側からのさらなる取組も必要である。 ## 謝辞 IIIF Curation Platform と「顔貌コレクション」の開発は、フェリックススタイルの本間淳氏および Albert Ludwigs University of Freiburg の Tarek Saier 氏の尽力によるものです。 「顔貌コレクション」に登録されているデ一夕構築に際しては、学習院大学大学院人文科学研究科美術史学専攻(博士前期課程)の今村采香さんが数多くの顔貌切り出しを行ってくれました。 「顔コレ」での画像利用を認めていただいた慶應義塾大学メディアセンターおよび京都大学附属図書館に深く感謝いたします。またクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで IIIF 画像を公開している国文学研究資料館 「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」に感謝申し上げます。 ## 参考文献 [1] About IIIF. https://iiif.io/about/ (参照日 2019/1/24). [2] 人文学オープンデータ共同利用センター. IIIF Curation Platform. http://codh.rois.ac.jp/icp/ (参照日 2019/1/24). また ICP の具体的な利用法については、鈴木親彦. ICP Tutorial. http:/chsuzuki.com/icpt/ (参照日 2019/1/24). [3] 鈴木親彦. IIIF $の$ 研究活用と課題「顔貌データセット」構築を事例に. デジタルアー カイブ学会誌. 2018. No.2(2). pp.75-78 (doi:10.24506/jsda.2.2_75) [4] 人文学オープンデータ共同利用センター.顔貌コレクション(顔コレ)。 http://codh.rois.ac.jp/face/ (参照日 2019/1/24) [5] SUZUKI Chikahiko, TAKAGISHI Akira, KITAMOTO Asanobu. A Case Study on Digital Pedagogy for the Style Comparative Study of Japanese Art History Using "IIIF Curation Platform". Proceedings of the 8th Conference of Japanese Association for Digital Humanities. 2018. pp.166-168 [6] 鈴木親彦,高岸輝,北本朝展. 顔貌コレクション(顔コレ): 精読と遠読を併用した美術史の様式研究に向けて.じんもん こん 2018 論文集. 2018. pp. 249-256 [7] The Getty Research Institute. Getty Vocabularies. http://www.getty.edu/research/tools/vocabula ries/ (参照日 2019/1/24). [8] IIIF Discovery Japan. http://iiif2.dl.itc.utokyo.ac.jp/s/iiif/page/home (参照日 2019/1/24). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P04] 政府情報アクセス$\cdot$デジタルアーカイブ$\cdot$専門職教育 の接点を探る: 北米 2 大学の大学院 (iSchool) 科目を通じての考察 ○古賀崇 11 1) 天理大学人間学部総合教育研究センター, 〒 $632-8510$ 奈良県天理市杣之内町 1050 E-mail: tkoga@tenri-u.ac.jp ## Seeking the Crossroads Where the Issues on Access to Government Information, Digital Archives and Professional Education Meet: \\ A Review on iSchool Courses at Two Universities in North America KOGA Takashi ${ }^{1}$ 1) Tenri University, 1050 Somanouchi, Tenri, Nara, 632-8510 Japan ## 【発表概要】 政府情報アクセスを担う専門職、すなわちアーキビスト、図書館司書、レコード・マネジャー などの育成と、デジタルアーカイブとの関わりについて考察する一助とすべく、2017 年にワシントン大学(米国シアトル)とブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)での教育活動について訪問調查を行った。その結果、デジタルアーカイブ上にある既存の政府刊行物の共有や、新たなデジタル情報技術の活用など、日本での専門職教育の示唆となり得る点を見出すことができた。 ## 1. はじめに ## 1.1 調査の背景と概要 日本では、いわゆる「モリカケ問題・自衛隊日報問題」に代表される公文書管理の問題、 さらにごく最近の勤労統計の不正問題など、政府情報の管理・アクセスをめぐるさまざまな問題が、ここしげらく大きく取り上げられている。その中で、政府情報(デジタル媒体のもの含め)を適切に管理し、政府内部あるいは外部の人々のアクセス・利用につなげる専門職の充成と待遇が課題のひとつとなっているが、日本社会の大きな関心を惹くには至っていない、と発表者は考える。ここでいう専門職とは、主にアーキビスト (「デジタル」 に限られない)、図書館司書、レコード・マネジャー(現用文書・記録の管理・整理の専門家)を指す[1]。 発表者は上記の問題の発端が見えた 2017 年 2 月と同年 $7 \cdot 8$ 月に、本発表の主題である 「政府情報アクセス・デジタルアーカイブ・専門職教育の接点を探る」ために、それぞれの時期において、ワシントン大学(米国シアトル、以下 UW)と、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー、以下 UBC)にて訪問調查を行った。UW・UBC $の$共通点は、米国図書館協会(ALA)から図書館司書の養成課程(大学院修士課程)の認証を受けていること。加えて、図書館情報学を起点としつつも、より広い情報学の研究と教育を志向する “iSchool”を設置し、また前述の各専門職につき、図書館司書に限らず広範囲の人材育成を志向する大学院カリキュラムを組んでいることにある[2]。一方、発表者は UW・UBC の iSchool[3][4]や科目それぞれの特色も意識して調査を行った。 ## 1.2 「デジタルアーカイブ」などのことばを めぐって なお、「デジタルアーカイブ」という概念については、発表者の別稿[5]で論じた通り、日本のみならず英語圈においても、定義のばらつきが見られる。本発表ではあえて、「デジタ ルアーカイブの多様化・多様性」という現状を考慮し、Theimer のいう以下の要素を含めたものを、広くデジタルアーカイブとして捉えておきたい $[6]$ 。 (1)ボーン・デジタルの記録(records)の集積 (2)デジタル化された資料の集積(コレクション)に対してアクセスを提供するウェブサイト (3)ある事柄についての、さまざまな種類のデジタル化情報を扱うウェブサイト (例:テキスト情報と画像資料が混在したもの) (4)ウェブ上の「参加型」コレクション (利用者からの資料提供に依拠するもの。“participatory archives (参加型了 ーカイブズ)” とも) ただし、「デジタルアーキビスト (digital archivist)」については、少なくとも英語圈では明らかに、上記の(1)の面を扱う専門職として位置づけられている。特に、米国アーキビスト協会(SAA)では「デジタル・アーカイブズ・スペシャリスト(DAS)」資格の認定を行っており[7]、北米ではその資格を得ているか、資格要件に近い知識や技能を持った上で専門職として業務についている者が、デジタルアーキビストとして位置づけられている、 というのが発表者の理解である[8]。これは DAS 資格のための講習科目や、後述寸るような UBC での専門職教育における、「デジタル・フォレンジック」の重視という点にもかかわる。 ## 2. 2 つの大学と科目の特色 ## 2. 1 ワシントン大学(UW) UW のiSchool では図書館司書やアーキビストの養成のための大学院科目のひとつとして、「政府刊行物 (Government Publications)」 という名称の科目(オフライン、オンライン双方で開講)を設置している。オフライン科目の講師を務める Cassandra J. Hartnett 氏は UW 図書館の政府刊行物部門の責任者であり、またテキストの執筆・刊行[9]や、ALAの政府刊行物関連部門[10]の要職を担うなど、全米レベルで政府情報アクセス活動を主導するひとりとして広く知られた存在である。米国では連邦政府刊行物寄託図書館制度 (FDLP) [11][12]が 19 世紀から現在に至るまで運用されていることもあり、米国で図書館司書養成を担う大学院の大半において、政府刊行物ないし政府情報に関する科目が開講されている。Hartnett 氏は、従来から各大学院で開講されてきた科目構成を踏襲しつつ、自身での工夫も行っている。ひとつは HathiTrust[13] という、主に米国の大学図書館所蔵資料に基づくデジタルアーカイブの多くに政府刊行物が含まれていることに着目し、 Tumblrを活用して、自身の科目の履修者、あるいはそれ以外の人々に、HathiTrust から興味深い政府刊行物を紹介させている点がある [14]。もうひとつは政府情報の遡及的検証の必要性をさまざまな観点で示そうとしていることである。世界大戦期・冷戦期における文化人類学者の米国連邦政府(特に諜報機関) への関与とその証拠の保全・入手(情報公開手続の実態含め)につき、ゲスト講演者として David H. Price 教授 (セント・マーチンズ大学)を招いての講義を行ったこともその一環である[15]。 ## 2. 2 ブリティツシュ・コロンビア大学(UBC) 一方、UBC は Luciana Duranti 教授を中心に、デジタル記録保存と信用性・証拠性の確保をめぐる国際共同研究 “InterPARES”を主導してきたことで知られ[16][17]、Duranti 教授ら UBC 関係者が多く寄稿したアーカイブズ事典の刊行[18]や、産学官共同での実務への反映にも努めている。UBC ではこうした取り組みをiSchoolでの専門職教育の面にも反映させる大学院科目のひとつとして、「デジタル・フォレンジック(以下 DF)」[19]、つまりデジタル記録の復元および証拠保全に関する科目を、「デジタル文書学とデジタル記録フオレンジック (Digital Diplomatics and Digital Records Forensics)」という名称で開講している。この科目は、InterPARES 財団のプロジェクト・コーディネーターである Corinne Rogers 氏が講師を務める[20]。この科目では単に DF の手続きや技術を教授するのみならず、DFがもたらしうる幅広い可能性 と課題一政府情報アクセス、文化遺産保存など一についても、数多くの文献を履修者への読書課題として提示しつつ、議論を求めている。授業の後半では DF の各方面への応用につき、履修者自身によるグループワークを通じ理解を促している。 なお、訪問時の面会は叶わなかったが、 UBC では Victoria L. Lemieux 准教授を中心に、ブロックチェーン技術を記録管理やアー カイブズに応用する研究・教育活動が進行していることも注目される[21][22]。 ## 3. おわりに $\mathrm{UW}$ ・UBC の両者を比較すると、端的には 「オーソドックスな科目構成を取りつつ、デジタルアーカイブ活用も意識した UW の科目」「最先端のデジタル情報技術を対象とし、幅広い応用を追求するUBC の科目」とまとめることができる。それぞれの科目・教育内容を踏まえ、政府情報の特性や、デジタル技術の可能性と課題を意識し、またデジタルアーカイブの活用も取り入れた専門職教育が、日本でも求められると言えよう。発表者自身の教育実践の試みについてもウェブサイトで発信しているが[23]、今回の発表が、「政府情報アクセス・デジタルアーカイブ・専門職教育の接点」を日本においても深め、また広げる一助となれば幸いである。 なお、本発表は JSPS 科研費 JP16K00454 による成果の一部である。 ## 参考文献 [1] このうちアーキビストについては、国立公文書館が「アーキビストの職務基準書」を 2018 年 12 月に確定し公表したことが、日本での現状の到達点と言えるが、その策定過程ではさまざまな議論も成された。下記を参照。“アーキビストの職務基準に関する検討会議開催状況” . 国立公文書館. http://www.archives.go.jp/about/report/syok umukijun.html, (参照日 2019-01-25). 宮平さやか. 研究集会「「アーキビストの職務基準書」を検討する」参加記. アーカイブズ学研究. 2018, no. 29, p.129-132. [2] 北米ほか世界各国の iSchool、またそこで の専門職教育に関する詳細については、例として下記を参照。古賀崇. “第 4 章 1 アメリ力図書館協会認定校の変遷と iSchool の動向” . 図書館情報学教育の戦後史: 資料が語る専門職養成制度の展開. 中村百合子ほか編. ミネルヴァ書房, 2015, p. 203-222. 酒井由紀子. “ 3 章北米における図書館情報学教育の動向” . 図書館情報学教育の拡がりと今後の方向性に関する調查報告書. 日本図書館情報学会図書館情報学教育に資する事業ワーキンググループ. 日本図書館情報学会, 2017, p. 85-111. 下記にて入手可能。 http://jslis.jp/publications/others/, (参照日 2019-01-25). [3] Information School, University of Washington. https://ischool.uw.edu/, (参照日 2019-01-25). [4] iSchool (Library, Archival and Information Studies), University of British Columbia. https://slais.ubc.ca/, (参照日 2019-01-25). [5] 古賀崇.「デジタル・アーカイブ」の多様化をめぐる動向:日本と海外の概念を比較して. アート・ドキュメンテーション研究. 2017, no. 24 , p. 70-84. http://opac.tenriu.ac.jp/opac/repository/metadata/4389/, (参照日 2019-01-25). [6] Theimer, Kate. "Digital Archives". Encyclopedia of Archival Science. Duranti, Luciana and Franks, Patricia C., eds. Rowman \& Littlefield, 2015, p. 157-160. [7] Digital Archives Specialist (DAS) Curriculum and Certificate Program. Society of American Archivists. https://www2.archivists.org/prof- education/das, (参照日 2019-01-25). [8] 古賀,前掲[5]を参照。 [9] Hartnett, Cassandra A. et al. Fundamentals of Government Information: Mining, Finding, Evaluating, and Using Government Resources. 2nd ed. ALA NealSchuman, 2016, 424p. [10]正式名称とウェブサイトは下記の通り。 Government Documents Round Table (GODORT), American Library Association. http://www.ala.org/rt/godort, (参照日 2019-01-25). [11] Federal Depository Library Program (FDLP). https://www.fdlp.gov/, (参照日 2019-01-25). [12] FDLP ほか米国連邦政府情報のアクセス保障の仕組みに関し、情報の電子化・多様化が進行する中での取り組みや課題は、下記で論じた。古賀崇. 米国連邦政府におけるウェブ上の情報の多様化とその管理・保存をめぐる現状と課題:オープンデータの扱いを中心に. レコード・マネジメント. 2015, no. 69 , p. 67-86. https://doi.org/10.20704/rmsj.69.0_67, (参照日 2019-01-25). [13] HathiTrust. https://www.hathitrust.org/, (accessed 201901-25). 特に政府刊行物に関する HathiTrust と連邦政府機関との協働プログラムについては、下記を参照。HathiTrust U.S. Federal Government Documents Program. https://www.hathitrust.org/usgovdocs, (参照日 2019-01-25). [14] University of Washington Gov Pubs Finds. http://govpubsfinds.tumblr.com/, (参照日 2019-01-25). [15] Price 教授の著作一覧など詳細は下記を参照。David Price on anthropology, military, $\&$ intelligence agencies. Saint Martin's University. http://homepages.stmartin.edu/fac_staff/dpr ice/CW-PUB.htm, (accessed 2019-01-25). 最近の主著としては下記を参照。Price, David H. Cold War Anthropology: The CIA, the Pentagon, and the Growth of Dual Use Anthropology. Duke University Press, 2016, 452 p. Available at: https://hdl.handle.net/2027/ku01.r2_112, (参照日 2019-01-25). [16] InterPARES Project. http://www.interpares.org/, (参照日 2019-01-25). [17] InterPARES などに関する Duranti 教授の来日講演録として、下記を参照。Duranti, Luciana. デジタル記録の信用性 : インターパレス・プロジェクトの成果. 古賀崇訳. 京都大学大学文書館研究紀要. 2013, no. 11, p. 1-13. https://doi.org/10.14989/173415, (参照日 2019-01-25). [18] Duranti \& Franks,前掲[6]. 発表者による紹介は下記に掲載。アーカイブズ学研究. 2017, no. 24, p. 129-132. http://opac.tenriu.ac.jp/opac/repository/metadata/4390/, (参照日 2019-01-25). [19] UBC の教育・研究活動を含め、北米におけるデジタル・フォレンジックとアーカイブズ・アーキビストなどとの結びつきについては、下記で論じた。古賀崇. 記録管理・アー カイブズにおける「デジタル・フォレンジック」に関する一考察 : 国際比較に基づき.レコード・マネジメント. 2017, no. 73, p. 7285. https://doi.org/10.20704/rmsj.73.0_72, (参照日 2019-01-25). [20] 下記も参照。Rogers, Corinne. “Digital Records Forensics". Duranti \& Franks, 前掲 [6], p. 166-170. [21] Blockchain@UBC. University of British Columbia. https://blockchain.ubc.ca/, (参照日 2019-01-25). [22] Lemieux 准教授の主著として下記を参照。Lemieux, Victoria L. Trusting records: is Blockchain technology the answer? Records Management Journal. 2016, vol. 26, no. 2, p. 110-139. https://doi.org/10.1108/RMJ-12-2015-0042, (参照日 2019-01-25). また下記の論考が翻訳刊行されている。Lemieux, Victoria L. ブロックチェーン記録管理 : SWOT 分析. 木村道弘,青木延一訳. Records \& Information Management Journal. 2018, no. 35, p. 1319. [23] 同志社大学大学院総合政策科学研究科図書館情報学コースでの教育実践事例の報告などを行った例として、下記を参照。古賀崇. 「政府情報論」の試み : 教育・研究の観点から. 情報ネットワーク法学会第 15 回研究大会 (個別報告). 2015 年 11 月 29 日, 北九州国際会議場. https://www.slideshare.net/takashikoga5439 /ss-55638112, (参照日 2019-01-25). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P03] 地域資源デジタルアーカイブにおける資料の保管方法の研究 〜飛粨高山匠の技におけるア゙ータバースの構築〜 ○久世均 1) 1) 岐阜女子大学 〒501-2592 岐阜市太郎丸 80 E-mail: pfe01173@nifty.com ## Study on storage method of materials in regional resource digital archive: Construction of a database in the technique of Hida Takayama Takumi KUZE Hitoshi1) 1) Gifu Women's University 80 Taroumaru, Gifu, 501-2592 Japan ## 【発表概要】 飛騨高山匠の技の歴史は古く,古代の律令制度下では,匠丁(木工技術者)として徵用され,多くの神社仏閣の建立に関わり,平城京・平安京の造営においても活躍したと伝えられている。 しかし,現在の匠の技術や製品についても,これら伝統文化産業における後継者の問題や海外の展開,地域アイデンティティの復活など匠の技を取り巻く解が見えない課題が山積している。本研究では,知識循環型社会におけるデジタルアーカイブを有効的に活用し,新たな知を創造するという本学独自の「知の増殖型サイクル」の手法により,これらの地域課題に実践的な解決方法を確立するための,地域資源に関する総合的な地域文化の創造を進めるデジタルアーカイブの保管方法ついて研究したので報告する。 ## 1. はじめに 飛騨高山の匠の技に関する総合的な地域文化の創造を進めるデジタルアーカイブでは,産業技術, 観光, 教育, 歴史等で新しい「知の増殖型サイクル」を目的とした総合的なデジタルアーカイブとして捉えている。そこで, これらの飛騨高山匠の技デジタルアーカイブ (以下,飛騨高山匠の技 DA と呼ぶ。)を 「知の増殖型サイクル」として適用すると図 1 のような構成になる。 図 1 知の増殖型サイクル そこで,この「知の増殖型サイクル」を具体的に飛騨高山匠の技 DA に適用し, 知の増殖型サイクルとしての地域資源デジタルアー カイブの開発を試みた。このことにより,飛騨高山匠の技 DA を構築し,その地域資源デジタルアーカイブのオープン化と共にそのデ一タを有効的に活用し,新たな知を創造する本学独自の「知の増殖型サイクル」を生かして地域課題を探求し,深化させ課題の本質を探り実践的な解決方法を導き出す手法を確立することが可能になる。ここでは,「知の増殖型サイクル」に適応する地域資源デジタルアーカイブにおける資料の保管方法について論述する。 2. 地域資源デジタルアーカイブ 飛騨高山匠の技 DA をデータベース化する際に,「知の増殖型サイクル」に適応するために Web 公開型と非公開型の 2 つの種類のデータベースを作成した。これらのデータベ 一スは,図 2 のような関係となる。 図 $2 \mathrm{Web}$ 公開型と非公開型 DB の関係性 ## (1)Web 公開型型データベース Web 公開型データベースは, デジタルアー カイブしたものを, 図 3 のように(1)名称(2)アイキャッチ画像(3)説明(4)関係資料(5)地図情報で構成されている。図 2 では短期利用 (Item Bank)に相当する。 図 3 Web 公開型データベース (2)非公開長期保管型データベース非公開長期保管型データベースは, 図 4 の ように長期保存・管理を目的とするデータベ一スで,映像は高品位な映像をそのまま保存し,紙メディアにおいては,できるだけ高品位にスキャンして保存している。このデータベースには,OCR 機能があるため,データを文字で検索でき,メタデータもジャケット単位に付記することが可能になっている。非公開型となっているため, 新しい知を創造するために必要と思われる情報を全てここに保管する。図 2 では一時保管の Item Pool と長期保管の Item」Bank の機能を有するデータベ ースに相当する。 図 4 非公開長期保管型データベース ## 3. おわりに 知識循環型社会においては,デジタルアー カイブを有効的に活用し, 新たな知を創造するという「知の増殖型サイクル」の手法により, 地域課題に実践的な解決方法を確立し,地域に開かれた地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備が必要となる。 本研究では, 知の増殖型サイクルを支える公開を目的とした Web 公開型型データベースと長期保管を目的とした非公開長期保管型デ ータベースについて報告した。 参考文献 [1] 久世,富川:デジタルアーカイブにおける知の増殖型サイクルの実証的研究, 岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究報告, 2018,Vol.1,No.1, PP32-37 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし, 複製, 改変はもちろん, 営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P02] デジタルアーカイブをデザインする: ## 「まだそこにいない」利用者に共感し本当に使われるサービスを作るために ○橋正司 1$), \bigcirc$ 五十嵐佳奈 2$)$ 1) サイフォン合同会社, 〒180-0006 東京都武蔵野市中町 2-1-9 2) ゼロベース株式会社,〒160-0022 東京都新宿区新宿 2-15-1 秋場ビル 301 E-mail: shosira@scivone.jp, kana@zerobase.jp ## Designing digital archive: \\ Creating good service by developing empathy for "your" future users OHASHI Shoji ${ }^{1}$, IGARASHI Kana ${ }^{2)}$ 1) SCIVONE, LLC, 2-1-9, Nakamachi, Musashino-shi, Tokyo 180-0006 JAPAN 2) Zerobase Inc, 2-15-1, Shinjuku, Shinjuku-ku, Tokyo 160-0022 JAPAN ## 【発表概要】 デジタルアーカイブを市民へと開いていく中では、研究者などの「すでにそこにいる」利用者ではない人々の眼差しを共感的に理解し、新たな利用者が使い続けたいと感じるサービスの提供や、多様な使い方を保証するのに必要な機能やインタフェースの有効性を検証するデザイン手法の成熟が鍵を握る。 そこで本発表では、デジタルアーカイブの設計における課題とデザイン手法の必要性を整理し、現場の必要に応じて導入できるデジタルアーカイブのデザインプロセスの標準化について検討する。デジタルアーカイブアセスメントツール[1]を機械的に達成すべき「チェックリスト」 ではなく、適切なデザインプロセスの結果、必然的に達成される「アウトプット」として、具体的に分かりやすく導き出せることを示し、デジタルアーカイブの設計者が、サービスの多様性と利活用の可能性を大きく広げられる素地をつくることを目指す。 ## 1. デジタルアーカイブを設計アプローチの 視点で分類し課題を整理する ## 1. 1 ツ一ル型かサービス型か 近年、アーカイブの利用者を積極的に巻き込みながら展開される、参加型デザイン形式のデジタルアーカイブプロジェクトが地域ア一カイブを中心に展開されている。実際の利用者の姿が分かりやすく、社会構成主義的アプローチと親和性が高い参加型デザインは教育分野を中心に牽引できる人材も多く魅力的に映る。 他方、すべてのデジタルアーカイブの構築に利用者が共創的に携われるとは限らない。 デジタルアーカイブをサービスとして提供し、使いやすさや魅力を向上させていくことが求められる場合には、参加型デザイン以外の設計アプローチが求められる。 本発表では具体的な設計における課題の検討にあたり、デジタルアーカイブを「狭義の利活用を目指す業務・研究ツール」(以下「ツ ール型 $\mathrm{DA}$ 」呼ぶ)と「広義の利活用を目 図 1.サービス型 (左側) とツール型 (右側) 指すデジタルサービス(以下「サービス型 $\mathrm{DA}\rfloor$ と呼ぶ)」に分類した(図 1)。 ツール型 DA は既に明確な利用像が明らかになっており、「問題を解決する・品質を向上させる」アプローチが特に必要なデジタルア ーカイブを指す。 対してサービス型 DA は、利用像が多岐に渡り、提供するべき機能をはっきり定めるこ とが難しく、使いやすく魅力あるサービスを 「新たに創出する」アプローチが特に必要なデジタルアーカイブを指す。本項冒頭で取り上げた参加型デザインアプローチもサービス型DA に分類される。 ## 1. 2 ツ一ル型 DA の設計上の課題 ツール型 DA では、既に既存の利用者がいる場合が多く、利用像を明瞭に描き出すことができる。特にアーカイブ対象分野の研究者本人がデジタルアーカイブを構築している場合のように、設計者と利用者の距離が近い場合は、設計者の当事者性、言い換えれば現場の経験と勘を活かして仕様を定められる。 このアプローチの課題は、その熟練度に成果が大きく依存してしまうこと、設計者と利用者の間の「距離が (分野が異なる、非専門家である等の理由で)遠い」場合に用途の違いからツールが機能しないことにある。熟練者によって設計されたシステムは、当事者にとって自明の「暗黙の前提」を無自覚に反映してしまったり、所属組織の業務フローをそのまま設計に反映してしまいがちで、想定された利用方法とは異なる使い方をしたい利用者や組織外の利用者からすると使いにくくなってしまう。 ## 1. 3 サービス型 DA の設計上の課題 サービス型DA では、利用者像や利用イメー ジをツール型 DA ほど明確に規定できず価值を 「新たに創出する」必要がある。 サービス型DA の設計では、なにを実現するべきなのか、まず利用者に関する何らかの手がかりを得る必要がある。ここで課題となるのは「誰に聞くべきなのか」「何を聞くべきなのか」調查対象者の選定と調査方法である。実際に将来提供されるサービスの利用者像に近い利用者を選定したり、比較対象になるような利用者の話も聞く必要があるが、一見するとこれは「鶏と卵どちらが先か」という手探り感を伴う。幸運にも適切な利用者に出会えたとして、それらの調査に基づいて企画した機能が「実際に使われるのか」「要求を満たせているのか」「十分な利用者が見込める機能なのか」を判断するのも難しい。 サービス型DAの設計で最終的に大きな課題となるのは、利用者があるサービスに満足するかどうかは機能の充実度と必ずしも比例し ない点である。システム構築には多額のコストが必要であり、ある程度の利用が見込めなければ実装を決断できない。そこで「楽しい」「面白い」「もうこれなしの暮らしが考えられない」といった利用を繰り返したくなるような利用者の感性的な評価を高める、サー ビスの総合的なユーザー体験(UX)の設計、 つまり「どうしたら忘れがたい体験にできるか」が非常に重要になる。 ## 1. 4 複層化するデジタルアーカイブ 前節の課題に加え、デジタルアーカイブの相互参照性の向上により、ジャパンサーチや Europeana のように全く異なる利用者を対象に構築されていたデジタルアーカイブを統合的に利用できるようになると、どの利用者に焦点をあわせるのか、利用者との接点や機能要求にあわせたデザインと実装がさらに困難になる。たとえば画像の鑑賞を目的に訪れる利用者と公文書の検索を目的に訪孔る利用者では期待しているコンテンツが異なる。 このように設計を複雑化させる要因が増え続ける中で、現在提案されているアセスメントツールは、ツール型で課題となっている使いやすさの課題と、サービス型で課題となる UX の課題に加えて、複層化するデジタルアー カイブの課題までを一気に解消しようとしているようにも見える。 だが、システムの使いやすさは、その利用目的のみならず、ユーザの置かれた具体的な状況に左右され $[2]$ 、利用場所、組織的な影響などによっても定まる [3]。サムネイルの解像度、API の整備状況、利用条件、システムの応答性など一つ一つの機能が正しく動作しているかどうかを検証するだけでは、多様な利用状況への配慮が抜け落ちてしまい、それだけで有効性を検証するには限界がある。 アセスメントツールに挙げられた各項目を単に満たしていくだけではなく、ユーザーの複雑な利用状況やシーズに応じてユーザビリティやUXを保証するデジタルアーカイブの設計プロセス、つまりデザイン手法を標準化し、デジタルアーカイブの品質を維持・向上させ、その結果としてアセスメントツールの項目を満たすことが求められる。 ## 2. 課題解決のためのデザイン ## 2. 1 UX デザイン 1.3 で述べた UX をデザインするためのアプローチ (デザイン手法) はUX デザインと総称されるものだ。UX デザインは個々の機能的な 「使いやすさだけではなく、ユーザー(利用者)体験を総合的に捉えること [4]」を通じ、 どのような状況にユーザーが置かれているのか、どんな欲求があるのかなどのコンテクス卜を整理することを出発点に、機能だけに注目していると見えてこない、サービスに接する過程で提供されるべき全体的な体験に着目し、ユーザーのよりよい体験の構築を目指してサービスやプロダクトをデザインするアプローチとして世界中で用いられており、デジタルアーカイブのデザイン手法の基盤としても機能しうる。体験に注目すると複雑な利用状況を具体的に把握していくことができる。 ## 2. 2 UX デザインの基本的なプロセス UX デザインはユーザー中心設計または人間中心設計と呼ばれることもある。関連して用いられる用語や定義、手法やアウトプット (成果物)が幅広く、一様には捉えがたい概念である。しかしながら、ユーザー理解とユ一ザー体験を中心に見据えたデザインプロセスであることは一貫しており、「インタラクテイブシステムの人間中心設計」(IS09241210:2010[5], JIS Z 8530:2019[6]) にて HCD サイクル(図 2)としてプロセス規格化され 図 2. HCD サイクル ている。用語や定義ではなく「(1)利用状況を把握して」「(2)ユーザーの要求事項をまとめて」「(3)解決策を作成して」「(4)評価する」という一連のプロセスの反復が、UX デザインの基本を成す。 実際にUX デザインを行うには、まずユーザ一調査と分析を行い、ペルソナやジャーニー マップ等を作成してユーザー像を視覚化するのが一般的である。ユーザー調査では、行動観察やインタビューによって調查対象者の定性的情報を収集し、利用像の手がかりになるインサイトを分析する。続いて代表的なユー ザーの人物像を一人または数名のペルソナの形で表現する。併せてペルソナの思考や行動の流れをジャーニーマップ等で可視化して整理する。これは HCD サイクルの(1)(2)の段階に該当する。 例示した手法と手順はあくまで一例で、他にも数々のデザイン手法が開発されており、用途に合わせて採用することができる。 デザイン手法を適切に用いれば、1. で述べた課題、サービス型DAのようなゼロから価値を創出する新規開発や、ツール型DA の機能改善において設計者と利用者の距離が遠い場合にも利用者像を把握し優れた UX の設計が志向でき、まだそこにいないユーザーに向けた価値の創出が可能になる。 ## 2. 3 UX デザインで起きがちなこと UXデザインの実践において、プロセスや手法の他に、重要であるが見過ごされされがちなことがある。関係者間の共有の欠如、そしてUXデザインに取り組む真摯な姿勢の欠如である。 関係者間の共有が不足していると、関係者それぞれの立場や役割から、異なる視点で異なるユーザー解积がなされた状態で、共通の理解がないままに開発が進む。するとUXにまつわる様々な判断に差異が生じ、結果として優れたUX を実現できない事態に陥る。このような事態を防ぐために、ユーザーのペルソナ等の定性情報の関係者間での明示と共有は不可欠である。ユーザーに対する理解を共有して初めて、適切にUX デザインを適切な(3)解決策の作成と(4)評価へとプロセスを進められ、 HCD サイクルの適合に至ることができる。 加えてよりよい体験を生むサービスが世に出た時に、設計者とユーザーの間に引き起こされる感性的側面を強調しておきたい。うれしい感情や前向きな気持ちを世に発生させ、数多のユーザーに信頼感を生むことで、設計者は社会の持続的な発展に寄与することができる。このことを忘れると、UX デザインの使い方を誤り、自らの目的達成のためにユーザ一を不適切に誘導してしまうことが起こりか ねない。これはUX デザインのダークパターンとも呼ばれ、近年問題視されている。設計者は組織や自身の目的達成におもねることな く、ユーザーに対し一人の人間として相対し真摰に取り組むことが望ましい。 ## 3. UX デザインは誰のための技術か 本発表で取り上げたUX デザイン(人間中心設計)の考え方は、図 1 の「Industry」にあたる領域を中心に長年にわたり発展してきた。実際に多くのUX デザイナーや、インフォメーションアーキテクト(IA)が UX デザインを実践し、様々な産業分野においてサービスの活性に貢献している。そこで培われた UXデザインの手法は、「他者に対する理解に基づく設計」が重要なあらゆる職域で活用できる。 「Industry」領域では、これまではオープンデータなど工学的な側面への注目とエンジニアへの期待が集まってきた。アーキビス卜、司書、学芸員、研究者、そして教育者同様に、デジタルアーカイブに命を吹き込むことができるもうひとつの存在がこれらのデザイン系の人材であり、今後デジタルアーカイブの領域で今以上に活動が広がればより多くの成果が期待できる。 デジタルアーカイブ界では福島幸宏氏(京都府立図書館)によって提案された「文化情報コーディネーター」のような、デジタルア一カイブの構築や利活用を促す仕組みづくりを行うサポーターや、各機関や分野、地域での関係性づくりと展開を支援するつなぎ役にあたる人材の担うべき役割と育成手法が現在も継続的に議論されている [7] [8] [9]。こうした人材による多様なデザイン手法の実践はデジタルアーカイブに関わるステークホルダー の様々な様態やニーズ、関係性を分析して整理し、機能設計を通じて利害関係を整えながら、システムが生み出す資源の価値最大化を目指すことが期待できる。 本発表ではツール型DA とサービス型DA という視点を導入し、デジタルアーカイブのデザインプロセスについて整理を行ったが、現実には多くのデジタルアーカイブがツール型 DA とサービス型DA の役割を同時に要求されることも踏まえ、設計の全体的な整合性を整えていくための方策についても、分かりやすく整理し具体的な実践に向けた提案を継続的に行っていきたいと考えている。 ## 参考文献 [1] デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会. (抜粋) デジタル. アーカイブアセスメントツール(案). 2018 . http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digit alarchive_suisiniinkai/jitumusya/2017/asses smenttool.xlsx(参照日 2019/01/25) [2] JIS Z 8521:1999, 人間工学一視覚表示装置を用いるオフィス作業一使用性についての手引. 日本規格協会. $1999,1 \mathrm{p}$. [3] JIS Z 8530:2019, 人間工学ーインタラクティブシステムの人間中心設計一. 日本規格協会. 2019, 7p. [4] 山崎和彦, 松原幸行, 竹内公啓. 人間中心設計入門. 近代科学社. 2016, 58p. [5] ISO 9241-210:2010, Ergonomics of hu man-system interaction -- Part 210: Hum an-centred design for interactive systems, 2010. [6] JIS Z 8530:2019, 上掲. [7] 2009 年から NPO 法人知的資源イニシアティブ主催で開催された「日本の MLA 連携を考えるラウンドテーブル」の一連のシリー ズを例として挙げる。また、2019 年から試験公開となるジャパンサーチでも「つなぎ役」 という言葉が主に機関連携コーディネーター の意味で使われている。 [8] 福島幸宏. 地域拠点の形成と意義 ーデジタル文化資源の「資源」はどう調達されるのか. デジタル文化資源の活用:地域の記憶とア一カイブ. 勉誠出版. 2011, p157-167. [9] 佐々木秀彦. 新しい担い手の創出一「文化情報コーディネーターの養成」. 同書. p16 9-186. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P01]学校教育におけるデジタルアーカイブ利活用のために 小森一輝 1) 1) 大阪府立茨木工科高等学校 〒567-0031 大阪府茨木市春日 5 丁目 6-41 E-mail:tkomorik@gmail.com ## A proposal for using digital archives in the school education KOMORI Kazuki¹) 1) Ibaraki Technical High School, 6-41 Kasuga, Ibaraki, Osaka, 567-0031 Japan ## 【発表概要】 本発表では、デジタルアーカイブの教育利用に際し、学習指導要領、および教科書とコンテンツの関連づけに課題があることを指摘する。また教員は、デジタルコンテンツを学習指導の補助として捉えており、コンテンツ自体を学習させることに消極的である可能性がある。このことから、デジタルアーカイブを学校へ提供する際には、コンテンツと学習内容との対応を明確にし、 コンテンツを用いた指導案や教材案を示すことが効果的であると結論づけた。 ## 1. はじめに 2020 年から 2022 年にかけて、小学校・中学校・高等学校の新学習指導要領が実施される。小・中学校では、コンピュータや情報通信機器(ICT)を活用した情報活用能力の育成、理数教育における自然災害に関する教育の充実、体験学習の充実、伝統や文化に関する教育の充実が図られる。高等学校では、理数教育における探求的科目の新設、伝統や文化に関する教育の充実、科目「メディアとサ一ビス」の新設等、様々な場面でデジタルコンテンツの利用が想定される[1]。 ## 2. デジタルアーカイブの教育的意義 デジタルアーカイブを各教科で利活用することは、教科学習の意義を学習者が自覚するために有効と考えられる。学習者は、学校教育を、自己の将来と関係のないものと捉え、忌避している[2]。しかし、デジタルアーカイブを効果的に利活用すれば、教科の基盤となった学問の営為を、学習者が一次資料を用いて追体験できる。また、学習者の興味関心や、教員のニーズに応じた様々なコンテンツを、教材や資料として提示することができる。 ## 3. 先行研究$\cdot$事例 上田(2013)によると、アーカイブの活用事例は、社会科・総合的な学習に多いという [3] 。 この要因としては、社会科の学習内容とコンテンツとの関連が高いこと、また、総合的な学習では、学習内容の制約が少ないこと、あ るいは、Europeana や米国デジタル公共図書館のような、ポータルにおける教育への取り組みが発展していないこと $[4]$ 等が考えられる。 ## 4. 学習内容とコンテンツの対応 ## 4. 1. 現在の課題 多様なメディアを学校教育で利用する際には、学習内容とコンテンツとの関連づけが問題となる。これに関しては、学習指導要領の内容を「学習要素リスト」として組織化する実証研究が行われている[5]。しかし、現在のところ、教科の学習内容とコンテンツとを関連づけるための体系的な方法は確立されていない。目下のコンテンツ選定の基準としては、学習指導要領、および教科書が考えられる。 ## 4. 2. 学習指導要領 学習指導要領は、教科用図書検定基準とともに、教科書編集の基準である。ゆえに、学習指導要領の内容を踏まえたコンテンツの選定は、校種を超えた高い汎用性が期待できる。 たとえば国立科学博物館は、館内のコレクシヨンと、学習指導要領の理科とを対応させたワークシートを提供している[6]。しかし、学習指導要領には、コンテンツと学習内容との照応が難しい教科もあり、コンテンツの選定に係る負担が大きい。たとえば、先に示した 「学習要素リスト」の実証は数学科・理科で行われているが、国語科・英語科ではリストの作成が難しいことが報告されている。さらに、学習内容は、学年が上がるにつれて多様化するため、個人が全容を把握することは難 しい。 ## 4. 3. 教科書 児童生徒は、一部の例外を除き、教科書を用いて学習しなければならない。たとえば、 NHK 高校講座は、全国高等学校通信制教育研究会加盟の高等学校で、最も採択率の高い教科書に準拠してコンテンツを提供している [7]。教科書は、学習内容 (=教材) が自明であるため、それに対応するコンテンツの選定は比較的容易である。一方、この方法では、異なる編成の教科書に対応できない場合がある。これは、学習内容が多様な高等学校では特に顕在化する問題である。以上のごとく、学習指導要領および教科書は、コンテンツの選定基準としてそれぞれ一長一短がある。 ## 5. 教員のメディア利用傾向 学習指導における教員のメディア利用については、教科ごとに相違点が指摘されている。 たとえば、英語科では音声、理科では動画の利用が多い[8]。一方、コンテンツの利用が、览童生徒の「興味・関心を高める」ことに有効であるとの認識は、各教科の教員に共通している[9]。これらのことから、教員はデジタルコンテンツを学習指導の補助と捉えている可能性が高い。すなわち、コンテンツは、教科書等を指導する上での補助的な道具と位置づけられており、教科書のような学習内容とは見なされていないと考えられる。この一因として、前述のように、学習内容とコンテンツとの関連づけに課題があること、コンテンツを用いた教材開発に係る教員への負担が大きいこと等が考えられる。 ## 6. まとめ 学習内容とコンテンツとを対応させるための体系的な方法が確率していないことが、教育活用に際して課題となっている。また、教員のメディア利用傾向から、教員にとってデジタルコンテンツは、学習指導の補助と位置 づけられ、コンテンツの内容に踏み込んだ授業が積極的に行われていない。したがって、 デジタルコンテンツを学校教育で利活用するためには、学習内容とコンテンツとの関連を明確にし、コンテンツを用いた指導案や教材案を示すことが、目下の要件であると考える。 ## 参考文献 [1] 文部科学省. “学習指導要領等”. http://ww w.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/138466 1.htm,(参照日 2019-1-6). [2] コリンズ, A. ハルバーン, R. デジタル社会の学びのかたち. 北大路書房、2012、p. 1 81-183. [3] 上田雄太. 高等学校の情報リテラシー教育におけるアーカイブ活用教育の必要性について.レコード・マネジメント. 2013, 65, p. 10 0-108. [4] 古賀崇. デジタルアーカイブコンテンツの児童・生徒向け教育への活用をめぐって. カレントアウェアネス. 2018, 338, p.16-18. htt p://current.ndl.go.jp/ca1943, (参照日 2019-1-23). [5] 日本教育情報化振興会. ICT を活用した学習成果の把握 - 評価に向けた学習要素の分類等に関する調査研究事業. 2018, http://www. mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/14 10959.htm,(参照日 2019/1/6). [6] 国立科学博物館. “学校利用”. http://www. kahaku.go.jp/learning/learningtool/index.ht $\mathrm{ml}$, (参照日 2019-1-6). [7] NHK 高校講座. http://www.nhk.or.jp/kok okoza/index.html,(参照日 2019-1-6). [8] 宇治橋祐之,小平さち子. アクティブ・ラ一ニング時代のメディア利用の可能性 : 2017 年度「高校教師のメディア利用と意識に関する調查」から(1). 放送研究と調查. 2018,68 (6), 57-61. [9] ベネッセ教育総合研究所.「ICT を活用した学びのあり方」に関する調查報告書. 2014, p.14. https://berd.benesse.jp/up_images/res earch/0410_WEB_BENESSE_ICT.pdf, (参照日 2019-1-6). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B34]個人アーカイブから想起のコミュニティヘ: 前川俊行による「異風者からの通信」と三池炭鉱の記憶 $\bigcirc$ 宮本隆史 ${ }^{1)}$, 前川俊行 ${ }^{2}$, 中村覚 ${ }^{11}$ 1) 東京大学, 〒113-8654 東京都文京区本郷 7-3-1 2)『異風者からの通信』運営・発行 E-mail: mt@jasmineorange.com ## Personal Archive and Emergence of Commemorative Community: ## Maekawa Toshiyuki's Ihyumon kara no Tsushin and Memories of Miike Coal Mine MIYAMOTO Takashi ${ }^{11}$, MAEKAWA Toshiyuki ${ }^{2}$, NAKAMURA Satoru ${ }^{1)}$ 1) The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8654, Japan 2) Editor, Ihyumon kara no Tsushin ## 【発表概要】 1997 年に開設されたウェブサイト『異風者からの通信』[1] は、同年に閉山した三池炭鉱とその地域の近現代史に関心を寄せる者にとって参照点となってきた。本発表では、ウェブサイトを運営する前川俊行を共同発表者として招き、日本における初期のウェブの時代からの、個人による記憶の発信という営為の歴史的意味について議論する。前川本人の証言とともに、この 20 年間のインターネットの環境の変化の中で、個人的なコレクションが公共性を帯びたアーカイブとして進化した過程を論じる。さらに、個人アーカイブを継承する方法について考察する。 ## 1. はじめに 1997 年に開設されたウェブサイト『異風者からの通信』[1]は、同年に閉山した三池炭鉱とその地域の近現代史に関心を寄せる者にとって参照点となってきた。本発表では、ウエブサイトを運営する前川俊行を共同発表者として招き、日本における初期のウェブの時代からの、個人による記憶の発信という営為の歴史的意味について議論する。前川本人の証言とともに、この 20 年間のインターネットの環境の変化の中で、個人的なコレクションが公共性を帯びたアーカイブとして進化した過程を論じる。さらに、個人アーカイブを継承する方法について考察する。 ## 2. 三池炭鉱の記憶 日本における本格的な炭鉱開発が始まるのは、産業の「近代化」が推し進められた明治維新後のことである $[2]$ 。現在の福岡県大牟田市と熊本県荒尾市にひろがる三池炭鉱は、当初は明治政府の管理下に置かれたが、1889 年に三井財閥に払い下げられ、三井鉱山が 1997 年まで運営することになる。炭鉱業の開始とともに、採炭地域では労働力需要が急速に高まり、多くの移民が流入した。初期には安価な労働力が必要とされ、三池でも三池集治監の囚人、与論島などからの集団移住労働者、朝鮮半島・中国からの労働者、連合軍捕虜などが採炭に従事した。 石炭は、世界大恐慌の影響による需要低迷、日中開戦後の増産、太平洋戦争末期の生産停止、朝鮮戦争を背景とした増産というように変化を経験しながら、戦後にいたるまで日本の主要エネルギー源でありつづけた。しかし、 1950 年代には日本の主要エネルギー源を石炭から石油に切り替える政策の下で、炭鉱業は縮小しはじめた。一方で、第二次大戦後に連合軍の統治下で形成された労働組合は、50 年代に政治化し交涉力を高めていく。国家のエネルギー政策の転換をうけて、炭鉱労働者数を削減しようとする企業と、それに反対する労働組合の対立が激化した。 三池労働組合もまた、労働者を大量解雇しようとする三井鉱山と対立した。組合運動には、崩壊した日本帝国の各地から職を求めて移住した「引き揚げ者」も多く加わった。 1953 年に、会社は大量解雇を実行しようとするが、労働者の大規模なストライキにあい断念する。1959 年 12 月、会社は再度 1,278 人の労働者に対して解雇通知を出し、翌 1 月 25 日には労働者を炭鉱からロックアウトした。三池労働組合はストライキに入り、当初は消極的であった総評も運動を支持する立場をとった。しかし、ストライキが長期化すると、困穿した労働者の一部は組合から離れ、会社への協調路線をとる第二組合を形成する。ストライキは 8 月に終了し、 12 月に鉱山は営業を再開した。解雇された労働者は三池を離れ、残った労働者のあいだでは新旧労働組合の緊張が続くこととなる。さらに 3 年後の 1963 年に、三池炭鉱の三川坑で炭塵爆発がおき、 458 人の死者と数百人の一酸化炭素中毒患者 (公式には 839 人が被害者として認定)を出した。この後、数十年にわたって訴訟が続いた。争議と炭塵爆発の記憶は、この後の大牟田・荒尾の住民たちの日常的な政治関係に強く作用し続けることとなる。一方で、1960 年代を境として日本の石炭産業は縮小に向かい、三池炭鉱と周囲の社会も縮小を続けた。 こうした文脈において、歴史的資料を保存する作業は、大牟田・荒尾地域において、社会政治的実践としての意味を帯びることになった。例えば、囚人労働の記憶を掘り起こす作業を 60 年代に開始した大牟田贝人墓地保存会の活動 [3]、炭塵爆発によって一酸化炭素中毒患者となった夫を持ち数十年にわたって訴訟をたたかった松尾惠虹の資料保存の実践 [4] などにその例を見ることができる。 また、1997 年の閉山前後より、三池炭鉱の歴史に関わる資料や記憶を発掘し保存する活動が行われてきた。大牟田市立図書館では、当時の市職員の大原俊秀が広範に資料の収集を行なった[5]。また、大牟田・荒尾炭鉱のまちファンクラブに集まる市民が、多様な記憶の掘り起こし作業を継続している[6]。2015年には、三池炭鉱は「明治日本の産業革命遺産」 のひとつとして、ユネスコの世界遺産に登録されている。 次節では、こうした歴史的文脈を前提として、ウェブサイト『異風者からの通信』とその意義を前川の個人史を参照しつつ論じる。 ## 3. ウェブ発信と記憶の集積 前川は、1952 年に荒尾市にあった三池鉱山の緑ヶ丘若葉社宅に生まれた。両親は、第二次大戦後に台湾から引き揚げ、父は三池炭鉱で鉱夫となり、母は三池主婦会の一員として活動するようになった。父は、1960 年の三池争議のきっかけとなった解雇通知を受け取ったひとりであった。家族は争議の渦中に巻き込まれることになるが、労働組合が分裂するかたちで争議が集結すると、1961 年 3 月に三池を離れ岐阜県に移住した。その後前川は、転居を重ねたのち、滋賀の彦根に居を定める。前川と家族は、荒尾から移住後に三池のコミュニティと深い交友関係を維持することはなかった。しかし、三池炭鉱の閉山を機に、前川は「故郷」への関心を高めることになる。 1996 年 9 月、三池炭鉱の四ツ山坑の橹が爆破・解体される映像をテレビ報道で見た前川は、「故郷がなくなってしまう」との思いを抱く[7]。実際に、閉山後には多くの人びとが三池を離れることになり、まさに地域全体が 「故郷」の培失を経験することになったのである。前川は大牟田と荒尾を訪孔写真を撮りためるようになった。 三井三池炭鉱が完全に閉山した 1997 年は、日本でワールド・ワイド・ウェブが普及した時期に重なる。前川は、この時期に最初のパ ーソナル・コンピュータ (Windows 95 機) を手に入れる。近隣の銭湯の店主に勧められて HTML 言語を学び、この年の 8 月にウェブサイト『異風者からの通信』を開設して、大牟田・荒尾で撮影した写真を公開しはじめた。前川は、現在のウェブサイトの「はじめに」 ページに、個人的な意義を記している。 遠い昔の出来事でも、三池に生きた父や母たちが私たちに語り残したかったこと、大切なものがあるはずだと、私はふるさと三池の中にこりもせず今もなお探しものをしています。[8] このウェブサイトは、大牟田・荒尾に住む人びとだけではなく、そこから移動した人びとなど、三池に何らかの関係を持つ閲覧者を得ることになる。そして閲覧者からは、前川のもとにメッセージが寄せられるようになっ た。前川は「故郷に寄せる熱きメッセージ」 と題してこれらをサイト上に掲載する。 次んとは、私んホームページば見らしゃった方々からん感想です。それぞれん人が、 ふるさと三池んこつばどげん想いよるかち他の人たちにでん伝えたかとです。[9] さらに、前川のもとには文書やモノの実物資料が集まるようになった [10]。現在では、彼の自宅にあるコレクションには、写真、手紙、書籍、演劇台本、詩集、ハガキ、ヘルメット、旗、レンガ、組合員章バッジなどといった資料が含まれている。これらの資料とウェブサイトは、コミュニティの可能性を開くこととなった。前川は、「共感してくれるたくさんの人たちと、ホームぺージを通じて出会いました」と語る[11]。 前川の「個人的な」活動としてはじまったオンライン上の発信は、三池の近現代史に関心を寄せる多くの人びとの注意をひきつけた。 オンライン上の前川の継続的な活動は、歴史的記憶を背負うモノを託すに足るという信頼感を与え、彼のもとにさまざまな資料が集まることになった。三池の錯綜した現代史を背景として考えるとき、三池から物理的に離れた前川のディアスポラ的立ち位置は、資料の 「管理人」としての信頼性を高めたと考えられる [12]。前川のウェブサイトは、多様な個人から前川のもとに集まった資料が、公共的記憶の空間に入る回路として機能するようになったのである [13]。 ## 4. デジタルアーカイブの継承の方法 最後に、公共性を獲得した、個人の「アー カイブ」を継承していくために適した方法について考察する。前川のウェブサイトは、有料のホスティングサービスを利用しており、更新・運用が困難となっていた。そのため、 サイト自体の永続性が高くなく、情報の二次的活用も容易ではなかった。これらを解決することを目標として設定した。ただし、「使い勝手のよい」コンテント・マネジメント・システムへの移行や、最新のデザインへの変更は安易に行なわないこととした。前川のウェブサイトは、90 年代末の設計思想を引き継い だものになっており、このこと自体が情報の受容のされかたに歴史的な意味を与えてきたと考えるからである。 前川は HTML でウェブサイトを記述していたため、静的 HTML を新たな公開用プラットフォームに移行することとした。公開用プラットフォームとしては、GitHub [14]を利用する。さらに、活用促進のために、ウェブサイト上のコンテンツにメタデータを付与してデジタルアーカイブ化することとした。デジタルアーカイブ化のためのデータ入力作業には、 Omeka S [15] を活用した [16]。作成したメタデータは、Dublin Core や EAD などの標準的な語彙を用いて、JSON-LD、RDF/XML、 Turtle、N-Triples などの静的データの形式にし、これらもまた GitHub 上に公開する。さらに、関連する画像データに関しては、 Wikimedia Commons [17] に公開することを検討している [図 1]。 [図 1. ウェブサイト上データの活用モデル] ## 5. おわりに 20 世紀末から継続して発信を続けてきた前川のウェブサイトは、三池をひとつの結節点としながらも、物理的な地域にとらわれない 「想起のコミュニティ」の形成に寄与した。 オンライン上の個人のウェブサイトが、公共的な記憶の集積の場として機能しうることを実践的に示している。 こうした歴史的営みを記録・継承するための適切な方法を開発し共有することは、今後のデジタルアーカイブ研究の課題のひとつであると考える。本発表では、ウェブサイト上の情報を標準的な形式で記述し、現時点で信頼性が高いと考えられるプラットフォーム上に、静的データとして公開することをひとつの方法として提案した。ただし、プラットフオームの安定性とは、長期的に予見できるものではない。長期的に安定的かつオープンなプラットフォームのありかたについては、議論が必要であろう。また、プラットフォーム自体のアーキテクチャや規約も価值中立的ではない。例えば、Wikimedia Commons が条件とする「教育目的のために現実的に有用」 [18] であるかどうかの判断は、コミュニティの慣習に依存する。前川コレクションのように、潜在的に公共性を獲得しうる個人のコレクションと、既存のコミュニティの慣習との関係についてもさらなる議論が必要であろう。 註 [URL の参照日は全て 2019 年 1 月 1 日] [1] http://www.miike-coalmine.org/ [2] 日本の炭鉱と記憶の問題については、つぎで簡潔にまとめている。SCHIEDER, Chelsea Szendi and MIYAMOTO Takashi. 2018. Mining Grass-Roots Archives: The Japanese Experience. Waseda RILAS Journal. 6: 540-544. [https://www.waseda.jp/flas/rilas/assets/uplo ads/2018/10/539-544_Special-Feature7-01.pdf] [3] 大牟田囚人墓地保存会による記憶の掘り起こし作業についてはつぎを参照。 MIYAMOTO Takashi. January 2017. Convict Labor and Its Commemoration: the Mitsui Miike Coal Mine Experience. The Asia-Pacific Journal: Japan Focus. 15 (1-3). [https://apjjf.org/2017/01/Miyamoto.html] [4] Chelsea Szendi SCHIEDER. 2018. From Coal Miner's Wife to Historical Actor: The Personal Archive of Matsuo Keiko. Waseda RILAS Journal. 6: 545-552. [https://www.waseda.jp/flas/rilas/assets/uplo ads/2018/10/545-552_Special-Feature71.pdf] [5] 大原俊秀. 2015.「大牟田市立図書館が所蔵する三池炭鉱関係資料とその目録につい て」『エネルギー史研究』30: 83-109. [6] http://www.omuta-arao.net/ [7] 宮本による前川俊行へのインタビュー (2017 年 7 月 23 日、彦根)。 [8] http://www.miike- coalmine.org/hazimeni.html [9] http://www.miike- coalmine.org/message $1 . \mathrm{html}$ [10] http://www.miike- coalmine.org/data/tenzisitu.html 前川が収集した資料コレクションは、2010 年 5 月 1-6 日に開催された「三池労働争議 50 年展」(京都市のひと・まち交流館)、2017 年 $5 \cdot 6$ 月に開催された「炭鉱の記憶と関西 : 三池炭鉱閉山 20 年展」(エル・ライブラリーお よび関西大学博物館)で展示された。 [11]前掲インタビュー(2017 年 7 月 23 日)。 [12] MIYAMOTO Takashi. 2018. Excavating Memories Through HTML: The Internet and the Personal Archive of Maekawa Toshiyuki. Waseda RILAS Journal. 6: 553559. [https://www.waseda.jp/flas/rilas/assets/uplo ads/2018/10/553-559_Special-Feature72.pdf] [13] 前川は、ウェブサイト開設の 10 年後の 2007 年から、同じく『異風者からの通信』と題する A4 版の紙媒体冊子を発行しはじめる。冊子版は 78 号まで出ており、現在は前川の両親の台湾における経験を綴っている。 http://www.miike-coalmine.org/NO1.html [14] https://github.co.jp/ [15] https://omeka.org/s/ [16] これは「三池炭鉱歴史資料データベー ス」プロジェクト [学術振興会研究成果公開促進費(データベース)・宮本隆史代表・課題番号 18HP8039]の一貫として行なっている。 [17]https://commons.wikimedia.org [18]https://commons.wikimedia.org/wiki/Co mmons:Project_scope/ja この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B33]地域包括的支援サービスを志向した意思伝達のた めの語彙収集に関する研究 ○石橋豊之 ${ }^{1)}$, 柊和佑 ${ }^{2}$, 河正彦 ${ }^{3)}$, 安藤友晴 ${ }^{11}$ 1) 稚内北星学園大学, ${ }^{2}$ 中部大学, ${ }^{3)}$ 筑波大学 〒097-0013 稚内市若葉台 1-2200-28 E-mail: toyoyuki@wakhok.ac.jp ## Research of collecting lexicon for communication toward Regional comprehensive support service ISHIBASHI Toyoyuki1), HIIRAGI Wasuke2), MIKAWA Masahikon), ANDOH Tomoharu1) Wakkanai Hokusei Gakuen University ${ }^{1)}$, Chubu Unisversity ${ }^{2}$, University of Tsukuba ${ }^{3}$, 1-2290-28Wakabadai, Wakkanai, 097-0013 Japan ## 【発表概要】 本研究は、これまで市民の持っている情報を幅広く引き出す支援を行い、地域が使いやすい語彙とともにその意味を蓄積するシステムの構築を目指し、これまで複数回稚内市において実験をおこなってきた。現状ではオーラルヒストリー的手法を用いて情報を収集しているため、実験対象者から聞き取る情報に関しては原則、その人にとって過去のものとなる。そのため、重要な同定情報であるはずの地名が、すでに使われていない過去の名称で語られることが多い。 この問題の解決のため、デジタル情報資源同士を、過去を含めた地名で結びつかせるための地域資源メタデータスキーマの構築を進めている。現在は、地名を行政上のものと地域住民内で共有されている愛称に分け、その出現年代を推定するために稚内市で調査を進めている。本発表では、本研究の考える地域包括的支援サービスの概要と、地名の変遷の調查・記録・組織化のための手法に関して解説する。 ## 1. はじめに 近年、インターネットの発展に伴い、デジタルアーカイブや機関リポジトリが様々な組織で構築されている。これらは、近年の震災において特に注目され「地域の記憶」アーカイブの構築において大きな役割を果たしている。 そうした中で、本研究は地域住民による地域情報収集・蓄積・利活用の支援システムを、地域包括的支援サービスと考え、「地域の記憶」アーカイブをその中核システムであると位置付けている。 市民の持っている情報を幅広く引き出す支援を行い、地域が使いやすい語彙とともにその意味を蓄積するシステムの構築を目指し、 これまで複数回稚内市において実験をおこなってきた。実験では稚内市の昔の画像を示しその画像に関しての情報をオーラルヒストリ一形式で収集を行ってきた。これらの情報を聞き取る際には多くのその地域特有の語彙が登場するだけではなく、地名も同様に登場す る。多様な地名がでてくるものの、その多くは当時の地名となることが多い。そして、その時点での地名と現在の地名が異なるケースも散見される。地名は様々な要因によりその名称が変更されることがある。一方で、人々が語る際には過去の地点のものになる。これは、新聞記事など過去の文献を見る際にも起きる問題である。当然ながら過去の地名と現在の地名は同定する必要がある。同定できない場合には、地名や地理情報が不明となり、 アーカイビングする上で不完全な情報となってしまう。そのため、地名を「地域の記憶」 アーカイブとして利活用する場合、その地名を、アーカイブの将来の利用者にとって理解できるように情報を追加する必要がある。 そこで、本研究ではアーカイブする上で重要となる地名の変遷に関し調查を実施し、記録方法や組織化についての手法について稚内市を事例に取り上げて検討を行ってきた。そのうち本稿では、現段階までの成果について解説するものである。 ## 2. 手法 ## 2. 1 本研究の対象 本研究を行う上で、地名を行政上のものと地域住民内で共有されている愛称に分け、その出現年代を推定するために稚内市で調查を進めている。その中で本発表で対象とするものは、行政上のものとする。そうした行政上の変遷については「行政界変遷データベー ス」[1]などすでに提供されているものもある。 しかし、本研究では更に細かい丁目といった区域を主対象とする。これらの変遷に関しては、行政文書等に残っている可能性が高い。 というのは、地方自治法第 260 条に下記のように明記されている。 市町村長は、政令で特別の定めをする場合を除くほか、市町村の区域内の町若しくは字の区域を新たに画し若しくはこれを廃止し、又は町若しくは字の区域若しくはその名称を変更しようとするときは、当該市町村の議会の議決を経て定めなければならない。 つまり、変更をする際には議会の議決を経るため、その議会の議決書を調查することで変遷をたどることが可能ということである。なお、第 9 条の 5 には、「市町村の区域内にあらたに土地を生じたときは、市町村長は、当該市町村の議会の議決を経てその旨を確認し、都道府県知事に届け出なければならない。よともあるため、都道府県にも記録されている可能性もある。 ## 2.2 地名の収集と組織化 前述したように行政上の地名の変更に関しては、議決書を確認することで調査が可能である。本研究でも稚内市議会事務局が保管している稚内市の市制施行以降(1949)の議決書を調查することとした。また、稚内市の地名の変遷に関しては一定程度稚内市の Web サイト内に設けられた” 稚内の沿革” にて確認が可能でありこちらも参考にする。このほか、北海道立文書館にて保管されている稚内市に関連する資料に関しても収集を実施する。 また、地名を調查する上で有効である『日本歴史地名体系』(平凡社, 2003) や『角川日本地名大辞典』(角川書店, 1987) および稚内市が発行している図書等も参照する。 また、変遷を見る上では地理情報も重要となるため、必要に応じて地図も入手することとする。 以上のように入手した情報に関しては、デ ータベースへと格納する。 ## 3. 結果 稚内市の議決書を閲覧することにより、市制施行以降の地名の変遷をたどることができた。他方で、施行以前の地名でいっ成立したか不明な地名も散見された。一部は、『角川日本地名大辞典 1 北海道上巻』にて記述があったものの、施行以前のものに関しては不明なものが散見された。このほか、沿革に記載されている変遷に関して議決書からは発見できないものもあった。 次にこうした地名の変遷に関して、杉本らは、地名の変遷種別を下記のようにまとめている[2]。 表 1 地名の変遷種別(引用) \\ これらは主として、市町村名を想定したものであるが、「新設合併」「編入合併」「分割」「分立」「改称」については、字や丁目にも同 様のことが言える。その中で、編入合併に関しては合併前と合併後で地名が同一でもそれは別々のものとして扱った。また、稚内市の場合埋立地の編入が多々ある。これは厳密には異なるが「編入合併」に近いものであると考え、埋立前と埋立後に編入したものでは項目として分けた。 入手した情報は CSV 形式でまとめたのち、 データベース化をおこなった。なお、今後の展開を踏まえ PostgreSQL にてデータベースを管理することとした。現段階では、 「places」「transitions」の 2 つのテーブルに変遷情報を格納している。 表 3 「places」テーブルでは各地名に id を割り振りっている。そうした地名を name 属性に格納している(地名は前述した通り、同一の地名も存在している)。year 属性はその地名ができた年月日である。当初議決書の議決日を充てようとしたが、一部発見できないものもあったため、原則的には” 稚内市の沿革”に記載されている日付を使用した。 「transitions」テーブルは、各変更に対し idを割り振っている。from_id 属性は、元の地名のidが格納され、to_id 属性には変更後の地名のid が格納されている。 year 属性に関しては、変更が行われた年月日となる。例として、表 3 のid130は、表 2 のid16「今江通 5 丁目」が、id153(表 2 には記載していない)「恵比須 5 丁目」に変更したということを表している。 次に地理情報であるが、議決書にも付録として手書きの地図がついているものもあった。北海道立公文書館の稚内に関する資料でも一部地図の載つているものが存在した。 またこのほか、場所が限定的であるものの稚内市立図書館所蔵の市街地図等(1960 年、 1953 年、1930 年)も許可をいただいたうえで、写真撮影を行った。 図 1 議決書に付随していた地図 図 21960 年の稚内市街地図 (稚内市立図書館所蔵) 図 3 稚内市富岡周辺の現在の地理情報 図 4 図 3 に対し、図 1 の議決書の手書き地図を QGIS 上に表示 図 1 や 2 のような地図をデジタル化し、画像処理ソフト(発表者は、Adobe Photoshop CC 2019 を使用)で町ごとに切り分けた。また、国土地理院基盤地図情報基本項目データをダウンロードし、SHAPE 形式に変換したのちに、図 3 のように地理情報システムの QGIS (3.4.3-Madeira)に取り込んだ。次にジオリファレンス処理を施し、切り分けた地図をQGISへと当てはめた。以上の処理を実施することで、現在と過去との比較が可能となり、おおよその位置情報も把握できる。 また、今回は一部の地図のみを使用したが、複数の年代の地図でも対応自体は可能である。 ## 4. 課題と今後の展望 今回の調査により、市制施行以降の稚内市の地名の変遷については概ね把握することができた。他方で、市制以前のものに関しては記録が残っていないものもあり、今後はそうした記録に関してもさらに調查を進めていく必要がある。 次に、地名の変遷については、こちらについては、データベース化することによりある程度まとめることができたといえよう。今後については、そうした地名と地理情報を結びつけていくかが課題となる。手書き地図を含 めて地名の変更ごとの地図が残っていれば、 それを PostgreSQL および QGIS 等を用いて、現在の地理情報と結びつけることは可能である。しかし、議決書に付録としてついている地図は一部であった。また、市立図書館等公的な機関でも一部の年代のものしか保存されていないのが実情である。ただし、建築物等からもある程度の同定は可能なため、そうした情報の活用も視野に入れている(稚内市の場合、昭和 45 年 47 年にかけて大規模な住居表示の変更を行なっており、その記録が 『住居表示対照表』として 3 冊残っている)。 そして、本研究の目的は地域資源メタデー タスキーマの構築である。そのため、今回入手した地名情報をメタデータとして活用する手法についての検討も行なっていく。現段階では、以前作成された稚内 LOD [3] への適用を目指して実験を行なっている。 また、本発表での地名の変遷は行政上のものを対象とした。今後は、オーラルヒストリ 一等を用いて、地域住民内でのみ共有されている地名の変遷に関しての調査も実施していく予定である。 ## 謝辞 本研究の一部は、「平成 30 年度稚内北星学園大学地域志向教育研究経費」の助成を受けている。 ## 参考文献 [1] 筑波大学大学院生命環境科学研究科空間情報科学分野村山祐司研究室.”行政界変遷データベース”。歴史地域統計データ. http://giswin.geo.tsukuba.ac.jp/sis/his_downl oad/data.htm ,( 参照日 2019/1/25). [2] 杉本重雄, 三原鉄也,永森光晴. コミュニティアーカイブとしての東日本大震災アーカイブ:オープンデータ連携による利用性の向上. デジタルアーカイブ学会誌, 2018, Vol.2, No.4, p.359-363. (引用部分は、p.362.) [3] 安藤友晴, 石橋豊之. 稚内 LOD の構築と公開. 稚内北星学園大学第 8 回地域活動報告会ポスター報告. 2018 年 2 月 27 日実施 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 長尾真会長の文化勲章受章を祝して \author{ 吉見 俊哉 \\ YOSHIMI Shunya \\ 東京大学大学院情報学環 教授 } デジタルアーカイブ学会会長の長尾真先生が、この 度、文化勲章を受章された。長尾先生は、長きにわた り日本の情報学で多大な貢献をされただけでなく、い ち早く電子図書館の理念を掲げてデジタルアーカイブ への流れをリードされ、国会図書館長としてそれを果敢に実践してこられた方である。私たち学会員の多く が、長尾先生の後万姿を見ながらデジタルアーカイブ の重要性に気づき、この学会の設立へと導かれてきた。 だから今、学会員の誰しもが先生の受賞を心から喜ば しいことと受けとめている。 私が長尾先生に最初にお会いしたのは、2006 年か ら東大大学院情報学環長をしていた時期、情報学環の 顧問会議を組織することになり、京大総長を退任され て国立国会図書館長をされていた長尾先生にその座長 をお願いした頃からだったように思う。顧問会議は、青柳正規先生、伊藤滋先生、角川歴彦氏、福武總一郎氏等々の鋝々たる委員からなっていたが、長尾先生は 見事なまとめ役をしてくださった。 その後、故市川森一氏ら脚本アーカイブスの方々が過去の放送脚本を大量に集められ、その保存について相談に 来られた際、国会図書館での収蔵が一番と考元、長尾館長 にお願いにうかがった。長尾先生は、類似案件とをまとめ、 テレビ・ラジオ番組の脚本・台本、楽譜等の音楽関係資料、 マンガ、アニメーション、ゲーム等を国会図書館で収蔵し ていく方針を文化庁との協定にまとめてくださった。これ も長尾先生でなければ実現しなかったことた。 国立国会図書館長として長尾先生が達成された偉業 は、何といっても 127 億円の予算を獲得して進められ た「大規模デジタル化事業」だろう。電子図書館につ いての長尾構想を実現する第一歩だったこの事業によ り、2 年間で 210 万冊の資料がデジタル化された。こ れは、日本の図書館史で画期的なことだった。長尾先生は、これでもまだデジタル化すべき資料全体の 5 分 の 1 だと話されていたが、 2 年でそこまで進めてし まったのは十分に「偉業」だ。 管見だが、長尾構想には、(1)図書館が所蔵する資料 のデジタル化、(2)その構造化を通じた図書館の AI 化、 (3)知識創造に向けた図書館利用者と運営者の新しい関係構築という $3 つ の$ 次元が含まれていたように思う。 (1)は資料の転換、(2)は図書館の転換、(3)は情報社会の 転換に関わる。長尾先生は国会図書館で(1)を実現され、 (2)にも道筋をつけられた。 しかも長尾先生は、こうした見通しを、1990 年代 から明確に持っていらした。90 年代半ばに出された 「電子図書館アリアドネ」構想は、その後の電子図書館=デジタルアーカイブが進むべき道をいち早く指し 示していた。因みにこの「図書館」から「アーカイブ」 への用語の変化は方向転換ではなく概念の拡張であ る。デジタル化される資料の拡張により、従来の「図書」概念には収まりきらない資料が知識創造基盤とし てますます大きな比重を占めてきた。 同時に長尾先生は、旧来のアーカイブ $=$ 文書館の拡充にも貢献してこられた。京大総長在任中、京都大学 は文書館を画期的に革新する。全国の大学文書館がま だ未整備な頃、いち早く体制を確立した京都大学は、他大学が見習うべきモデルとなった。これも、長尾総長の力なくしてできたことではない。 今日、デジタルアーカイブ学会が依って立つ潮流は、 こうして長尾先生が作ってきてくださったものだとも 言える。学会にとって、文字通りの「ファウンディン グ・ファーザー」である。私たちはその志を受け継ぐ 立場にある。長尾先生の文化勲章受章を心から祝いつ つ、学会員一人ひとりが、次世代、次々世代としてバ トンを受け継いでいきたいと思う。
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# [B32]デジタルアーカイブ化による地域研究資源の活性化:輪中に関する地域資料のデジタルアーカイブ化 林知代 1 ) 1) 岐阜女子大学,〒501-2592 岐阜市太郎丸80 E-mail: tomoyo@gijodai.ac.jp ## Vitalization of regional research resources through digital archiving: Digital archiving of regional materials on underwater HAYASHI Tomoyo ${ }^{1)}$ 1) Gifu Women's University, 80 Taroumaru, Gifu, 501-2592 Japan ## 【発表概要】 岐阜県安八郡輪之内町をフィールドに、輪中に関する地域研究資源のデジタルアーカイブ化を目指し、資料収集活動を行った。具体的な活動内容は、輪中関連史跡等の写真撮影とドローンを用いた空撮、輪中に関する私設博物館「片野記念館」の所有する古文書・古地図等の資料のデジタル化である。 輪中研究の分野は、昔から地域研究が盛んな分野であるが、長年に渡って集められた貴重な資料や研究成果が、地域研究の分野でも研究者の高齢化や媒体の進化によって活用しづらい状態にあった。これらの資料のデジタルアーカイブ化を進めることで、地域研究資源の活用の活性化に多いに役立つのではないかと考える。 ## 1. はじめに 輪中研究の分野は、残されている史料も多く、岐阜県では岐阜県歴史博物館や揖斐川町歴史民俗資料館などに保管されている。 また、名古屋大学附属図書館では所有される 「高木家文書」を中心とした大規模な古文書のデジタルアーカイブ化が行われている。 一方、昔から地域の歴史研究者に大変人気のあるテーマであることから、その濃密なフイールドワークや研究活動により素晴らしい成果があげられている。直接、古文書を読むことができない地域研究の学習者にとっても、 それらの成果から学習することは、地域研究の理解の大きな学習の助けになっている。 また、輪中関連の地域映像のデジタルアー カイブ化についても、岐阜大学教育学部や輪之内町商工会、国土交通省中部地方整備局,岐阜女子大学など多くの収集の事例があるが、 ドローンのような新しい機器を用いて資料収集をすることにより、新たな地域研究資源の収集につながるのではないかと考えた。 そこで、本発表では、岐阜県輪之内町をフイールドに、輪中に関する地域研究資源のデジタルアーカイブ化を目指し、その資料収集活動の過程での気づきについて考察する。具体的な活動内容は、輪中関連史跡等の写真撮影とドローンを用いた空撮、輪中に関する私設博物館「片野記念館」の所有する古文書・絵図等の資料のデジタル化である。 ## 2. 輪之内町の歴史と治水 岐阜県安八郡輪之内町は、岐阜県の南西部に位置し、木曽川、長良川、揖斐川の木曽三川合流地域に属している。 この地域の歴史は古く、弥生時代の遺跡が発掘されている。弥生時代後期には米づくりが行われていた。近隣する地域が、古事記や日本書記に大和朝廷との繋がりが記されていることから、輪之内町も同様の発展を遂げてきたと考えらる。 また、平安時代には荘園となり、その後、歴史がめぐり、支配者が様々に変わっていっても、変わらず稲作が営まれてきた地である。 木曽三川の堆積によって形成された濃尾平野の中でも河口近くに位置し、豊かな農耕地域であるが、標高ゼロメートル地帯を含んだ地域であり、当然水害との戦いの歴史も刻んできている。そこで輪中と呼ばれる生活集落を洪水から守るため、周囲を堤防で囲んでい る農業集落で形成された。本研究の撮影対象とした、福束輪中は、1615 年(元和元年)に設立された。 また、大規模な治水対策として、江戸時代には江戸幕府が薩摩藩に命じて行わせた宝暦治水、明治時代には、オランダ人技師ヨハネス・イ・デレーケを招いて行われた木曽三川分流工事が行われてきた歴史がある。 戦後は、様々な近代的な治水事業が行われた。その結果、輪中はその役目を終えたとされていたが、1976 年(昭和 51 年)の台風による豪雨では、残っていた輪中堤によって大きな被害をまぬがれることができた事実があり、このことは記憶に新しいため、現在でも住民の輪中への愛着は強いと感じられる。 ## 3. 輪中関連史跡の現地撮影 現地撮影による資料収集では、輪中堤(自然堤防)、列状集落、排水機場、水屋などの輪中関連資料を撮影対象とし、2018 年 8 月 23 日、29日、12月 20 日の 3 日間で行った。 撮影は、デジタルカメラを用いた静止画撮影と、ドローンを用いた空中からの動画撮影を行った。 今回、特にドローンを用いた理由は、今まで輪中関連史跡の画像資料を見てきたが、その全貌を見ることができないため、その特徴を理解することができなかったからである。 特に、輪中堤は地上から見ると、図 1 の画像のように、小高い場所としか理解することができず、その特徴を見て理解することが難しいと感じてきた。 図 1. 輪中堤(自然堤防)地上から撮影 図 2 の空撮動画からキャプチャーした静止画では、川岸ではなく平野の真ん中に堤防が存在することが理解でき、さらに動画では、堤防が集落を包んでいることが理解できる。 その他にも、地上からの撮影では全貌を撮影することのできない、排水機場と川との位置関係(図3)、治水事業による移転が原因で堤防に沿って住宅が建つ列状集落(図4) の様子など、特徴がわかる映像を撮影することができた。 図 2. 輪中堤(自然堤防)ドローンにて空撮 図 3. 福束排水機場 図 4. 列状集落 ## 4. 片野記念館資料のデジタル化 4 1. 片野記念館 片野記念館は、昭和 46 年に片野知二氏よって開館された私設の民俗博物館である。 片野家は、明治の木曽三川改修工事で、治水共同社の初代取締役を務めた片野万右衛門氏を祖先とされ、記念館を営まれている建物自体が、安政期に土盛りされた石積みの助命壇の上に建てられている(図 5)など、福束輪中の古くからの名家である。 図 5. 片野記念館助命壇 また、記念館を開設された知二氏の父にあたる片野温氏は、岐阜県において、大正時代より活躍された高名な郷土史家である。 したがって、片野家に伝わる貴重な村方文書類をはじめ、温氏によって影写された絵図など、近代庶民資料、岐阜県中世文書影写本,輪中民俗文化財および郷土史研究の参考書籍文献などや、農具、漁具、養虫具、生活用品などが保管・展示されている。(図6) 図 6. 片野記念館展示の様子 現在は、知二氏が亡くなり、ご子息が記念館を引き継がれ継続されているが、展示は知二氏が施されたままの状態であり、経年劣化が感じられる状態であった。そこで、それらの史料のデジタル化を行うことにした。 ## 4. 2. 史料のデジタル化 文書 20 点、絵図 18 点、その他展示パネル類 12 点の撮影を行った。 文書には、江戸時代末期から明治初期に書かれた入水見舞覚帳(図 7 )が含まれている。 これは、洪水に見舞われたときにいただいたお見舞いの品、今でいう救援物資の一覧表なのだが、誰から何をいくついただいたかが、詳細に記録されており、当時の人々の助け合いの精神が伝わるのとともに、いただいた物を記録し、相手の有事の際にはきちんとお返しするための記録であるのだろうと考えられ、当時の人付き合いの機微を感じられる。 絵図は、宝暦治水関連の絵図(図 8)が多く含まれていた。これらは、温氏が宝暦治水について研究され影写された成果なのではないかと推察される。 図 7. 嘉永三年入水見舞覺帳戌八月八日切入 図 8. 宝暦八年寅四月新堰設計絵図 また、その他のパネル展示されていた資料についても、撮影を行った。知二氏が、記念館の展示資料として、他の施設が所蔵する治水や輪中について学ために重要だと考えられる資料を選び複製して展示されていた資料である。知二氏も、地域研究および教育普及活動に尽力された人物であり、その知二氏が選び展示されていた資料が何であったかを記録しておくべきであると考えたため撮影した。 ## 5. 考察と課題 ドローンによる空撮では、広い範囲の撮影も可能とし、地形や位置関係のがわかる映像を撮影することができとともに、飛行しながら撮影することで、スムーズに撮影場所を変えながら撮影することができる。空撮の映像をデジタルアーカイブの記録映像に加えることは、魅力的であると言える。 一方、古文書や絵図のデジタルかについては、地域研究の分野でも研究者の高齢化が進んでおり、その整理の状態から、集められた貴重な資料や研究成果を引き継いでいくことが難しい状態にあると感じた。ご協力いただいた片野記念館においても、知二氏が残された資料についてご子息が把握できている史料は資料のほんの一部のようだった。 また、今回デジタル化した史料のような、原本資料の経年劣化への対応はもちろん重要だが、片野記念館の目録や、地域の研究者で構成された「輪中文化を育てる会」が発行された「輪中文化」という機関誌などの研究成果がガリ版刷りで残されていた。 これらの資料を提供くださった、岐阜女子大学地域文化研究所の丸山幸太郎教授は、ご自身がワープロ専用機で書かれた文書が活用できないのが悩みだとおっしゃっていた。 ガリ版刷りは 1950 年代 1980 年代、ワープ口専用機は 2001 年頃まで文章であると考えられるが、これらの年代の資料こそがデジタル化が進んでおらず、このまま失われてしまう危険性があるのではないかと危惧するとともに、長年、地域研究に携われてきた、地域の研究者の方々の研究成果のデジタルアーカイブ化を進めることで、地域研究資源の活用の活性化に多いに役立つのではないかと考える。これらの資料のデジタルアーカイブ化を今後の課題としたい。 ## 謝辞 輪之内町での実践にあたり、現地での撮影交涉および、撮影ポイントのアドバイスをしていただいた新田直氏、貴重な史料をご提供いただいた片野記念館様、輪中研究についての資料提供および古文書の取り扱い等についてアドバイスくださった岐阜女子大学地域文化研究所の丸山幸太郎先生、辻公子先生、撮影を手伝ってくださった岐阜女子大学文化創造学部の学生のみなさんに感謝いたします。 ## 参考文献 [1] 名古屋大学附属図書館. 高木家文書デジタルライブラリー.https://libdb.nul.nagoyau.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000011Takagi (参照日 2019/1/20). [2]岐阜大学教育学部附属カリキュラム開発研究センター.CRDC データレポート NO. 248 輪中を主とした地域映像資料の収集と流通. 1996/2/. 4]輪之内町商工会.かんこう輪之内. http://kanko.washoko.or.jp/ (参照日 2019/1/20). [5] 国土交通省中部地方整備局木曽川下流河川事務所.木曽三川で学ぶ. http://www.cbr.mlit.go.jp/kisokaryu/sub_ind ex/sub_index_05.html(参照日 2019/1/20). [6]岐阜女子大学、NPO 法人日本アーカイブ協会.長良川デジタル百科事典. http://dagwu.com/nagaragawa/ (参照日 2019/1/20). [7] 丸山幸太郎. 木曽三川治水史上の奇跡-宝暦治水の実像-. 2017/6/25. [8]「開けゆく輪之内」編集委員会. 開けゆく輪之内. 1996/3/31.輪之内町企画課 [9] 輪之内町.輪之内町史資料治水. 1981/8. [10] 輪之内学研究会.輪之内学研究創刊号. 2012/4/1. [11] 輪中文化を育てる会.輪中文化合本 1 ~ 20 号. 1978/8/15. [12] 片野記念館, 片野知二編.福束輪中発達史の基礎的研究基本資料目録 $1.1976 / 8 / 1$. [13] 片野知二編.地域素材を生かした社会科学習資料集 4 年生福束輪中の開発と人々のくらし展開例. 1980/6/10. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B31]北海道における地域の歴史公開サイトの現状と課題: デシタルアーカイブの視点からの一考察 ○皆川雅章 1) 1)札幌学院大学法学部, 〒069-8555 江別市文京台 11 E-mail: minagawa@sgu.ac.jp ## Current Status and Issues of Regional History Web Contents about Hokkaido: An Investigation from the View Point of Digital Archive MINAGAWA Masaaki" ${ }^{1)}$ Sapporo Gakuin University 11 Bunkyodai, Ebetsu, 069-8555 Japan ## 【発表概要】 明治初期か始まる開拓者たちの苦闘の歴史は,さまざまな形で北海道に残されている。子孫にその歴史を伝えるには、各地で父祖が刻んだ開拓・開発の痕跡をデジタル化して記録・保管・公表することが有効な手段の 1 つになる。本報告では、その取組みの最初の段階として、北海道の 179 市町村の歴史のインターネット上での公開状況を調査・整理した結果を記す。著者はウェブサイト上における地域の歴史の公表形態を、(1)写真展型、(2)年表型、(3)概要型、(4)資料型、(5)歴史物語型、(6)Wikipedia 型に分類し、その事例をまとめた。また,(1)メッセージの明確さ、(2)最低限の要件、(3)資料型の活用、(4)記録に対する想い、という観点から地域の歴史公開サイトの現状分析を行い、地域の歴史のデジタルアーカイブ化に向けた課題を記している。 ## 1. はじめに 明治初期に始まる開拓者たちの苦闘の痕跡や記録は,いまも北海道の各地に残っている。 2018(平成 30)年は 1869(明治 2)年に「北海道」の命名が行われてから 150 年目となり,「北海道 150 年事業」(1)の基本理念の中には,「未来を展望しながら,互いを認め合う共生の社会を目指して, 次の 50 年に向けた北海道づくり」といった文言が盛り込まれた。 北海道はさまざまな背景を持つ人々の手により切り拓かれた地であり,そこには固有の特徴的な歴史が刻まれている。50 年後の子孫達にその歴史を伝えるためには,それぞれの地域で父祖が現在の基盤を築いた歴史をデジタル化して記録・保管・公表する取り組みが有効な手段の1つになると考える。 本報告では,北海道の 179 市町村の歴史のインターネット上での公開状況を調べ,その結果をもとに,地域に根差したデジタルアー カイブを発展させるための方策を検討する。 ## 2. 歴史公開サイトの分類 著者は地域の歴史デジタルアーカイブの公表形態を次の 6 つのタイプに分けた。明示的に「デジタルアーカイブ」として公開されてはいないが,ここでは地域の歴史情報をデジタル化してインターネット上で公開しているサイトのコンテンツをそのように呼ぶことにする。 (1)写真展型 主として一覧表示など,閲覧のしやすさを考慮した上で画像の公開を行うタイプである。撮影年代の旧い写真をデジタル化し,一定数集めて掲載する場合が多い。 (2)年表型 自治体の歴史が始まってから,現在に至るまでの出来事を順に列挙するもので,文字通り年表である。 (3)概要型 歴史全体の流れのなかで,年表の情報のなかから, 特徴的な出来事の画像と要約された説明文を記すものである。 (4)資料型 提示している画像の説明が詳細になされており,それを資料としてまとめると印刷物が作成できそうなレベルのものを指す。 (5)歴史物語型 単に事実の羅列だけではなく,自治体の歴 史の特徵を統一的な流れの中で説明しようとするものである。 (6)Wikipedia 型 上記の 5 つのような公表形態をとらずに, Wikipedia の事典的な記述形態をそのまま採用するものである。 以下, Wikipadia 型を除き,それぞれについて例を示す。以下の事例は「自治体名」と 「歴史」を主なキーワードとして検索し, 自治体名およびそれに準ずる機関名で公開されているものを載せている。 ## 3. 分類に基づく事例 代表的と考えられる事例を紹介していく。 (1)写真展型 歌志内市「炭鉱(ヤマ)の記憶」(2)では主に昭和 20 年代以降の炭鉱の 9 地区の炭鉱施設や住宅地の様子が, 各々 $3 \sim 5$ 枚の画像で紹介されている。小樽市「小樽市指定歴史的建造物」(3)は漁家, 倉庫, 店舗, 料亭, 寺院, 教会,銀行など多岐にわたり 80 件の建造物の画像一覧から拡大画像および建築年や構造などの説明を閲覧することができる。 (2)年表型 年表型は比較的多くみられるタイプである。年表は Web ページになっているものと, pdf ファイルで提供されているものとがある。前者の例としては, 稚内市「稚内のあゆみ(歴史)」(4)(1685 年から 2016 年), 釧路町「釧路町のあゆみ」(5)(1644 年から 2016 年)がある。後者の例としては増毛町「増毛歴史年表 ・ あゆみ」(6)(1706 年から 2010 年), 奥尻町「奥尻町のあゆみ」(7)(1454 年から 2006 年) がある。 (3)概要型 東神楽町「東神楽町の歴史」(8)では「神楽町の誕生」,「稲作の始まり」,「戦時中の分村」, 「旭川空港の完成」などについて画像と説明文が載せられている。帯広青年会議所「十勝帯広の歴史」(9)では「十勝監獄」,「場産地」, 「ビート工場」, 「農業王国十勝の誕生」などについて記されている。年表型に比べて,地域の特徴を把握しやすい。 (4)資料型 南後志をたずねて「寿都町をたずねて」(10) では,10 の大項目のそれぞれについて小項目を設け, 新聞記事, 地図, 画像とともに詳細な解説が記されている。札幌市「札幌市歴史資料館」(11)では「札幌圏の屯田兵」と「札幌の歴史を築いた先人達」が札幌の歴史を語る資料となっている。 (5)歴史物語型 月形町「月形歴史物語」(12)は「樺戸集治監」と「囚人による開拓」に焦点をあてて, 28 の項目に分けて月形町の歴史が語られている。他の自治体には見られない視点でコンテンツが作成されている。図 1 は集治監の建物を使用した月形樺戸博物館(17)の前面である。 図 1 月形樺戸博物館 遠軽町「えんがる歴史物語」(13)には, 3 名の偉人伝, 遠軽町にまつわる様々な話題を記した資料館,時代ごとに整理されたギャラリ一などから構成されている。 なお、「写真展型十概要型」、「概要型十年表型」、「資料型十年表型」など、(1)から(5)を組み合わせたタイプもある。 ## 4. 事例に基づく現状分析 上述事例に基づき, 地域のデジタルアーカイブの現状分析を記す。 (1)メッセージの明確さ 地域の歴史はさまざまな形でインターネッ卜上に公開されているが,「どのようなメッセ ージを発信しようとしているのか」についての, 各自治体の意図や想いが必ずしも明確ではない。 (2)最低限の要件 「歴史」という観点からは, 年表は必須であるが,年表だけでは年号と出来事の羅列になるので, 閲覧者が全体像を把握することが容易になるように概要の説明があることが望ましい。 (3)資料型の活用 「資料型」については, 現在のコンテンツのさらなる活用方法を検討してみる余地があ ると考える。サイト上での見せ方の工夫によって,当該資料への関心を高められる可能性がある。 (4)記録に対する想い 歴史公開サイトが閲覧され続けるには、公開する側の「記録に対する想い」が重要と考える。例えば、「えんがる歴史物語」には、「どのように広め,伝えていくかを考えたとき,ただ記録を残すだけではなく,当時の人々の想いをしのばせるような物語として再構築し, 誰もがいつでも見ることができるような形で提示すべき,という考えに至りました。」と記されている。 ## 5. デジタルアーカイブ構築に向けて 5.1 歴史公開サイトの充実 \\ (1)Wikipedia $の$ 活用 デジタルアーカイブ構築に際して, 人的,経済的な問題を避けて通ることはできない。 Wikipedia は出典の掲載を含めて, 記事の厳密さを要求されるが,自らのサイトを持てない自治体においては, Wikipedia の活用を図るという方法がある。 (2)図書館との連携 デジタルアーカイブのコンテンツを作成する上で,正確性や客観性の担保は必須である。市町村史および地域資料を保管している図書館との連携を行いながら, 構築していくことが良いと思われる。このような取組みは, 地域の図書館利用の活性化にもつながっていく可能性がある。 (3)ポータルサイト構築 デジタルデータ活用の観点からは資料型、歴史の伝え方の観点からは歴史物語型を参考にするのが有効であると考える。現存するサイトを一覧できる一種のポータルサイトを構築しておけげ,閲覧が容易になり、比較検討の材料が得られる。本研究では、179 市町村分の歴史公開サイト(18)を集約・公開している。 (4)デジタルアーキビスト育成 地域のアーカイブは, 限られた専門家だけで担うことは現実的ではない。さまざまなレベルの素養を持ったデジタルアーキビストの育成が今後も不可欠である。 ## 5.2 地域資料の活用 北海道は産業、生活において幅広い歴史的特徴を持ち、地域の博物館、郷土資料館など には、これらに関する資料が数多く展示されている。図 2 から図 5 に炭鉱、農業、林業、鉄道に関する資料展示例画像(著者撮影)(14),(15),(16)を示す。 今回の取組みに加え、デジタルアーカイブ化推進の 1 つの方向性は、これらの資料へのアクセスを促進することである。すでにデジタル化された資料を Web 上で多数公開している場合もあるが、一般的とはなっていない。実物資料あるいはデジタル資料に誘導していくための仕組みが必要と考える。その方法の 1 つが、上述のポータルサイトの中に、統一された形式で、画像と案内文からなる資料へのアクセス情報を付加することである。 図 2 炭鉱(歌志内市郷土館ゆめつむぎ) 図 3 農業(岩見沢郷土科学館) 図 4 林業(岩見沢郷土科学館) 図 5 鉄道(南幌町郷土文化資料室) ## 6. おわりに 地域の歴史デジタルアーカイブの現状と課題について, 北海道の事例を紹介し, 課題点について記した。本稿で記したように,デジタル化された記録の扱われ方は自治体間で大きく異なる。北海道が次の 50 年に向けて記録を残す上で,このような状況があることを認識しておく必要がある。筆者は 179 市町村で公開している情報を集約したサイト(18)を公開した。各サイト運営者の目に触れ, 相互に評価しあうことによって, サイトの更新, 地域間のつながりが促進され, 「地域の歴史を残すこと」への関心が高まることを期待している。 地域資料の活用に向けた取組みについては、北海道内各地の博物館、資料館の調査活動を実施中である。 ## 参考文献 [1]北海道 150 年事業、https://hokkaido150.j $\mathrm{p} /$ (参照日 2018/7/13) [2]歌志内市「炭鉱(ヤマ)の記憶」, http://www. city.utashinai.hokkaido.jp/hotnews/category/ 205.html(参照日 2018/7/12) [3] 小樽市「小樽市指定歴史的建造物」, https://www.city.otaru.lg.jp/simin/gakushu_s ports/kenzo/(参照日 2018/7/12) [4]稚内市「稚内のあゆみ(歴史)」 http://www.city.wakkanai.hokkaido.jp/gaiyo/ ayumi.html(参照日 2018/7/12) [5]釧路町「釧路町のあゆみ」 http://www.town.kushiro.lg.jp/introduction/a yumi.html(参照日 2018/7/12) [6]増毛町「増毛歴史年表・あゆみ」http:// www.town.mashike.hokkaido.jp/menu/kaku ka/kikakuzaisei/history_of_mashike/pdf/03. $\operatorname{pdf}($ 参照日 2018/7/12) [7]奥尻町「奥尻町のあゆみ」http://www.tow n.okushiri.lg.jp/hotnews/detail/00001111.ht $\mathrm{ml}$ (参照日 2018/7/12) [8]東神楽町「東神楽町の歴史」, https://www. town.higashikagura.lg.jp/docs/742.html (参照日 2018/7/12) [9]帯広青年会議所「十勝帯広の歴史」http://o bihiro-jc.jp/rekishi.html(参照日 2018/7/12) [10]南後志をたずねて「寿都町をたずねて」h ttp://minami-siribesi.world.coocan.jp/content s/suttu1.htm(参照日 2018/7/12) [11]札幌市「札幌歴史資料館」http://sapporojouhoukan.jp/sapporo-siryoukan/lekishibun ko/mokuji.html(参照日 2018/7/12) [12]月形町「月形歴史物語」http://www.town. tsukigata.hokkaido.jp/3665.htm (参照日 2018/7/12) [13]遠軽町「えんがる歴史物語」http://story.e ngaru.jp/gallery/(参照日 2018/7/12) [14]南幌町「南幌町郷土文化資料室」http://w ww.ms11.or.jp/07nanp/b053-2.html (参照日 2019/1/25) [15]歌志内市「歌志内市郷土館ゆめつむぎ」 $\mathrm{h}$ ttp://yumetsumugi.ec-net.jp/ (参照日 2019/1/25) [16]岩見沢市「岩見沢郷土科学館」https://w ww.city.iwamizawa.hokkaido.jp/content/deta il/1506247/(参照日 2019/1/25) [17]月形町「月形樺戸博物館」http://www.to wn.tsukigata.hokkaido.jp/2991.htm (参照日 2019/1/25) [18]皆川雅章「ほっかいどうデジタルアーカイブ 179 市町村の歴史」http://pub.sgu.ac.jp/ $\sim$ mngw_research/(参照日 2019/1/25) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B25] スマホ・アーカイブサービスを適用した地域学習モデ ル「苶科学アーカイブ」 ○前川道博 1) 1)長野大学企業情報学部, 〒 386-1298 長野県上田市下之郷 658-1 E-mail: maekawa@nagano.ac.jp ## Area-Based Learning Model "Tateshina-gaku Archive" Using Smartphone and Archiving Service MAEKAWA Michihiro ${ }^{11}$ ${ }^{1)}$ Nagano University, 658-1 Shimonogo, Ueda, 386-1298 Japan ## 【発表概要】 長野県萑科高校の「蓼科学」は、生徒が地元立科町を学ぶ地域科目である。学習メディア環境にはスマホとアーカイブサービスを適用した。アクセス側の主体性において成立する自己開発/学習機能の実現にその主眼を置いている。「蓼科学アーカイブ」は、生徒たちの地域探検(取材)をアーカイブサイトに載せ合う形で地域理解を深める学習プログラムである。生徒がスマホを使って地域を記録し、皆で地域アーカイブを構築できる学習メディア環境「信州デジタルコモンズ試作版」を構築した。当該の取り組みでは生徒がスマホを活用することで、地域探求課題を自分事として取り組む面白さが向上し、学習意欲の向上につながった。学習成果は毎年蓄積されるため、年度を超えた学習アーカイブが容易に構築できる。地元(長野県立科町)の地域アーカイブを地元住民に公開して学習成果(地域の記録)を地域に還元することができる。 ## 1. はじめに 長野県蓼科高校の「蓼科学」は、生徒が地元立科町を学ぶ地域科目である。当該科目はその一部を長野大学との高大連携講座として実施している。 本研究では、生徒の地域学習を支援するため、自己開発/学習機能の実現に主眼を置き、 その地域学習モデルとなる「参加型地域アー カイブ」の仕掛けと方法を「蓼科学」の授業実践を通して開発し評価した。これを基に学習メディア環境「信州デジタルコモンズ試作版」を構築した。 地域学のあり方は、デジタル知識基盤の現代においては地域の知の再編の課題、新たな知の生産手段である ICT 活用支援の課題としても問われるようになってきている。地域学は、歴史、地理、文化、自然、経済、産業などのあらゆる分野の学際的視点から地域を総合的に探究する学びである。こうした学際的な地域の学びの具体的な実践方法を全国で利用できるより普遍的な地域学習モデルに高めていきたいと考えている。 ## 2. 地域ア一カイブの授業モデル ## 2.1 参加型アーカイブ適用による実践 筆者が「蓼科学」指導の依頼を受けた 2015 年当時、「蓼科学」は地元に詳しい外部講師 に話を聞いたり、ミニ実習的な学びをしたりして立科町の歴史文化を学ぶアラカルト的な授業内容であった。 筆者は、地域の講師を迎えて生徒が話を聴く座学型の授業形態を改め、生徒が主体的に地域の探求に取り組めるアクティブラーニング型授業への転換、学習成果蓄積型の授業実践を同校に対して提案した。以来 4 年間にわたり当該の授業実践に取り組んできた。 地域の人々が知識基盤時代に欠かせない地域デジタルアーカイブをどう構築していくかはどの地域にも共通の課題である。筆者らはその具体的支援策として、地域の誰もがデジタルアーカイブづくりに参加できる「参加型アーカイブ」として、「信州デジタルコモンズ」の実現を目指している[1]。地域デジタルコモンズの概念を図 1 に示す。 「参加型アーカイブ」は、筆者らが 1997 年以来、開発と運用に取り組んできた e ポートフォリオ支援ツール(PopCorn/ PushCorn)[2]老構築・運営してきた知見を活かし、誰もがスキルなしにいきなり学習支援に適用できるシステムとして新たに構築中である。スマートフオン (以下スマホ) とクラウド上のサービスを連携させている。 図 1 地域デジタルコモンズのイメージ 「参加型アーカイブ/立科町探検隊」は 「自己開発・学習論」(端山貢明、2000 年)に構想の原点を置いている $[3]$ 。端山は現代社会における旧来教育の不適合を指摘し、現代の要請に対応する「自己開発・学習」実現の視点から、その支援系システム構築の必要性を提起した。端山は、自己学習は常に発見的プロセス(heuristics)であり、アクセス側の主体性において成立する Accessibility と自由選択性が自ら考える能力、自発性を高める点を強調している。 ## 3. 単元「蓼科学アーカイブ」 ## 3.1 授業計画 2017 年には延べ 13 回(各日 50 分 $\times 2$ コマ) 2018 年には 8 回の単元「蓼科学アーカイブ」 を企画し担当した $[4]$ 。生徒各自が探求したいテーマを選び、関係する場所に赴いたり、地元の方から話を聞いたりして、その取材デー タをアーカイブサイトに載せ合う形で地域探検の内容をまとめる生徒主体の学習プログラムである。2017 年の授業構成を表 1 に示す。 表 1 単元「蓼科学アーカイブ」の構成 ## 3.2 フィールド学習「立科町探検隊」 「蓼科学アーカイブ」は、「参加型アーカイブ」を適用した地域学習モデルである。生徒それぞれが地域の探求テーマを設定し、自分たちで地域に赴いて、地域の様子を記録し、人々にヒアリングしてその記録をデジタルな形で蓄積・共有する。現地の様子は写真に撮り、インタビューはビデオに撮ってデータとして持ち帰り、これらをアーカイブサイトに投稿して学習成果を協働的に一元化する。 図 2 地域の記録はデジカメ+ビデオで フィールド学習では取材データは地域を記録する客観的な記録であること、事後に第三者が見ることに留意する必要がある。「見たまま」「聴いたまま」を客観的データとして持ち帰り、蓄積・共有することで地域を知る情報源とすることが肝要である。 生徒たちが地域から持ち帰るデータは、地域を生け捕り記録した無二の情報源である。 その客観性、事実性を崩すことなく、生徒たちは自分たちが学習して得たことをメタデー 夕にしっかりと記述することで、探求の深化に役立てることができる。 2017 年度の授業では、生徒各自の関心に基づき探求テーマを個別に設定した。生徒たちが選んだテーマは、五無斎先生関連、中山道関連(芦田宿、本陣、笠取峠)、立科町の産物 (手科牛、リンゴ農家、リンゴ政策、リンゴの販売流通)などである。 ## 4. アーカイブ構築のシステムサポート 4.1 アーカイブサービスの提供 地域アーカイブの構築にはアーカイブサー ビスと利用者側の利用環境(パソコン、スマホ等)が必要である。蓼科学では生徒が操作説明抜きでもいきなり使えるぐらいに平易な仕様の投稿ツールとした。主な入力項目は夕イトル、説明文、位置情報、カテゴリ、CC ライセンス(オープンデータライセンス)である。メタデータ作成は情報整理の基礎力養成に活かせる効用がある。投稿方法が平易であることにより、生徒は画像に撮った対象を卜ピック化することで、探求内容に専念して内容をまとめることができる。簡単な仕掛けながら生徒の学習意欲を誘発しつつ、情報整理がトレーニングできる。 図 3 スマホ等からデータ登録しサイトで共有 ## 4.2 スマホを教室で Wi-Fi につなぐ 地域学習にデジタルアーカイブを適用するには、解決すべきいくつかの課題があった。 その一つがネット接続環境である。教室の教員用 LAN 端子に Wi-Fi ルータを接続することにより、学外のアーカイブサーバとつないで生徒がネットを利用できるよう県教育委員会に許諾を得て対処した。 ネットワークに接続できる情報機器がないため、当初は長野大学のタブレット PCを持ち込み、 $4 \sim 5$ 人の班で 1 台ずつ利用してもらった。しかし同時に 1 人しか使えないため、生徒たちのスマホも接続できるようにした。生徒たちは記録発信手段をスマホに変えることにより、思う存分、自身の時間をメタデ一タの作成に振り向けられるようになった。生徒たちには取材した内容の情報整理を面白がっている様子がうかがえた。この変化は顕著であった。貸与されたタブレットが所詮は授業用、他人事であるのに対し、自身のスマホは自分事で思考を引き出す自己開発の手段である。学習メディアの要件 Accessibility と自由選択性がスマホで保障できることを改めて認識することができた。 ## 4.3 私たちの地域マップづくり 2018 年度の蓼科学では、前年度に開発したアーカイブサービスをエンハンスしたバージヨンで生徒の地域学習を支援した(図4)。 「立科町探検隊」の成果をアーカイブテーマ 「立科町探検隊」に一元化した。 試行錯誤を伴った前年度と異なり、2018 年度は当初から生徒のスマホ利用を前提とした授業計画を立てることができた。校内のミニ探検、沖縄修学旅行の記録、立科町探検隊 (第 1 ラウンド、第 2 ラウンド)を 8 回の授業の中で実施した。立科町探検隊では多様な立科町の地域資源が「見える化」した。どのような発信が望ましいかを生徒たちの「いい䘞」投票と指導者からの選定でコンペ形式にすることも試みた。地元から賞品の提供協力もいただいた。これにより生徒たちも「探検隊」により面白さを感じられたようである。 図 4 立科町探検隊のアーカイブサイト ## 5.「蓼科学アーカイブ」の知見$\cdot$評価 5.1 スマホの教育的利用 蓼科学アーカイブの実践では、地域学習に生徒のスマホを活用することの有効性が検証できたことの意義が大きい。 多くの学校が情報機器の絶対数の不足という状況に直面している。教育委員会や各学校では教室への情報機器の配備は喫緊の課題ではある。しかし情報機器を充実させても、1 人 1 台の学習環境は提供できない。学習支援のためには、一人一人が主体的に学習を成就できる問題解決策を真剣に講じる必要がある。筆者らは、生徒個人のスマホ利用に着目をした。蓼科学の取り組みでは、Wi-Fiルータを授業目的で教室に臨時に接続することにより、生徒のスマホをアーカイブづくりに直接利用できるようにした。 学習者にとって必要な自己開発・学習機能を実現する現実的な方法は Wi-Fi ルータの増設、生徒のスマホの Wi-Fi 接続である。きわめて低コストで、慢性的な情報機器不足を解消する手段となる。そして何より生徒の自己学習支援策となる。 ## 5.2 参加型アーカイブの適用 多くの学校では未だに授業での学習成果を蓄積・共有する試みはなされていない。 筆者らは、学校の学習成果や活動記録のデジタルアーカイブ化を 2002 年度から支援してきた。一例を挙げると、山形県寒河江市立南部小学校では 2005 年度以来、 10 年以上に渡り、年度ごとの学校アーカイブを運用し続けてきている実績がある。それが支援できるサービスと学校側にその意思があれば、こうした取り組みができることを実証している。「蓼科学アーカイブ」も持続的に発展できるアーカイブサイトとなることを想定している。参加型アーカイブが普及するには「信州デジタルコモンズ」のような実稼働サービスを利用できることも必要な条件である。 ## 5.3 蓄積・共有される学習アーカイブ運用 従来、高校生の学習成果がアーカイブサイ卜に蓄積されるものとなること、広く社会に公開されるものとなることは想定になかったものである。「蓼科学アーカイブ」は 2015 年度から始め、2017 年度からは生徒の直接利用により地域アーカイブ構築を運用している。支障ない限り、アーカイブサイトはインター ネットに公開することとしている。毎年、利用する生徒は変わっていくが、年毎に蓄積がなされている。 ## 5.4 地域アーカイブとしての発展可能性 地元(立科町)から見ると、地元高校の生徒が協働で制作した地域アーカイブは、地元行政や地元住民では具体化しにくい元の歴史・文化・産業等の記録となっている。 生徒の地域取材を通して、地元の企業や農家などで活躍している方々や産業施設、歴史的文化的資源など数多くの記録を地元(長野県立科町)の地域アーカイブとして地元に広 く還元することができる。 地域の学校がこうしたアーカイブづくりを通した地域学習を実践していくと、学校が地域の知の拠点の一つとなり、地域(市民の生涯学習、その他地域活動)と学校との協働的な学びにも道が拓かれるものとなろう。アー カイブづくりを活かした地域学習が全国の学校や地域活動、社会教育の分野にも広がることが期待される。 ## 6. 最後に 地域学は、現代においては、ネットワークの自律分散的特徴を活かし、誰もが「デジタルコモンズ」という共有の本棚に情報を載せ合うことで、一人の研究者が生涯をかけて著した成果を凌駕する可能性がある。 未来の地域学習は、知識基盤社会の進展を見据え、より望ましい地域学習支援、環境づくりが進んでいくことが期待される。「参加学アーカイブ」「地域デジタルコモンズ」のモデルづくりを今後とも進めていきたい。 ## 謝辞 システム開発・技術支援にはカンプロの中村完二郎氏に多大のご協力をいただいた。この場を借りて感謝したい。 ## 参考文献 [1]前川道博. 地域の知の再編「地域デジタルコモンズ」の実現に向けて. 手と足と眼と耳 2018, p.15-37. [2]PopCorn/PushCorn https://www.mmdb.net/popcorn/ (参照日 2018-01-25) [3]端山貢明. ネット・ムセイオンを目指して I . 東北芸術工科大学紀要 No.7. 2000, p.104127. [4]蓼科学アーカイブ(2015-2018). https://www.mmdb.net/shinshu/tateshina/ (参照日 2018-01-25) [5]長野県蓼科高等学校. 平成 28 年度地域開放講座「蓼科学」授業記録 2018 .
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# [B24] Wikimedia Commons への伊丹市酒造り唄の 市民参加型オープンデータデジタルアーカイブ ○青木和人 1), Miya. $\mathrm{M}^{2}$ , 三皷 由希子 3) 1) オープンデータ京都実践会・京都府立大学,〒600-8806 京都市下京区中堂寺壬生川町8番地 2) オープンデータ京都実践会,3) 古書 みつづみ書房・伊丹市立図書館いたみアーカイ部 E-mail: kazu013057@gmail.com ## Itami Sakedukuri_songs to Wikimedia Commons by Citizen Participatory Open Data Digital Archive Kazuto AOKI ${ }^{1)}$, Miya.M ${ }^{2}$, Yukiko MITSUZUMI ${ }^{3}$ 1) Open Data Kyoto Practice Group $\cdot$ Kyoto Prefectural University, 8, Tyudoji mibugawatyo, Kyoto, 600-8806 Japan 2) Open Data Kyoto Practice Group, ${ }^{3)}$ Mituzumi Secondhand bookstore$\cdot$Itami City Library Itami Archive Group ## 【発表概要】 本研究では、インターネット百科事典 Wikipedia と同じく、現在、最も知られているオープンデータプラットフォームであるWikimedia Commonsに着目した。そして、兵庫県伊丹市に残る酒造り唄を伊丹市立図書館ことば蔵における市民参加型活動にて、Wikimedia Commons にオープンデータデジタルアーカイブする試みについて、その意義と課題について考察した。その結果、 Wikimedia Commons をデジタルアーカイブプラットフォームとすることで、費用をかけない永続的なデジタルアーカイブをオープンデータとして実現した。そして、地域の歴史的音源の市民参加型のデジタルアーカイブ手法を提示した。さらに、歴史的音源のオープンデータデジタルアー カイブに際しては、歌唱者、演者も含めた著作権者全員の許諾とその手法の確立が必要であることが明らかとなった。 ## 1.はじめに 現在、政府は地域活性化を掲げ、地域情報化施策が行っている。その中では、国・地方自治体、住民・NPO 等、多様な担い手による地域情報化が必要であるとされている[1]。 その中で今後の公共図書館には地域の情報発信拠点としての、地域情報のデジタルアー カイブ等の役割が掲げられている[2]。その具体的活動に、地域の風景写真をアーカイブし公開する瀬戸内市立図書館の「せとうちデジタルフォトマップ」[3]や箕面・豊中市立図書館の「北摄アーカイブス」[4]がある。これらの先行事例は現在や過去の地域風景写真をデジタルアーカイブする取り組みであるが、地域文化をデジタルアーカイブする取り組みには至っていない。特に酒造り唄など「生産に伴う労働・仕事の際に歌われる仕事歌」は、戦後の高度成長期における生産工程の機械化により役割を終え、当時の記憶を残す人材が絶えようとしている。これらの記憶から歴史的音源をデジタルアーカイブすることが求められている事象の好例である。 一方で、デジタルアーカイブの持続性の問題が指摘されている。日本では 1996 年に設立されたデジタルアーカイブ推進協議会の活動などにより 2000 年代にかけて、活発な地域文化のデジタルアーカイブ事業が行われた。その結果、国の実証事業や地方自治体の事業としてデジタルアーカイブが行われ、高額な費用をかけたデジタルアーカイブプラットフォ一ムがその都度、構築されてきた。そのため、実証事業終了や自治体予算がなくなると同時に、これらのデジタルアーカイブはデータサ一バーの維持費用がなくなり消滅してしまっている。その代表例が 2005 年に解散したデジタルアーカイブ推進協議会の関連業績であり、 その成果物はインターネット上でも消滅してしまっている。川上ほか[5] は 1996〜2008 年 に構築された地域映像デジタルアーカイブ設置団体へのアンケート調查から、地方自治体が設置母体のデジタルアーカイブは、デジタルアーカイブ推進団体のものより消滅しやすい結果を示している。 現在、費用をかけずに市民参加型で、オー プンなデータプラットフォームにデジタルア一カイブ化可能な時代が到来している。その際には、持続信頼性が高く、すでに知名度の高いデジタルアーカイブプラットフォームの利用を進めていくことが重要である。これらは官民データ活用推進基本法に基づき政府が進めつつあるオープンデータ施策に則るデー タプラットフォームであればさらに望ましい。 現在、最も知られているオープンデータプラットフォームは、Wikimedia 財団が運営しているインターネット百科事典 Wikipedia である。Wikimedia 財団のプロジェクトは、画像・音声・動画を扱う Wikimedia Commons や自由に利用できるテキストを集めた電子図書館である Wikisource などから構成されている。 この Wikipedia に地域資料を出典として記述して、市民参加型で公共図書館から地域情報を発信する「ウィキペディアタウン」の取り組みも注目されている[6]。 Wikimedia プロジェクトは誰もが無料で自由に参加でき、GFDL とクエイティブ・コモンズ(CC-BY-SA)ライセンスのもと、自由に 2 次利用可能なオープンデータである。そして、 これらのデータは未来永劫、無料で利用可能なものとして維持し続けることが Wikimedia 財団の最重要目的として宣言されており[7]、寄付により永続的な運営が確立されている。 そこで本稿では、インターネット百科事典 Wikipedia と同じく、現在、最も知られているオープンデータプラットフォームである Wikimedia Commons に着目した。しかし、 オープンデータプラットフォーム Wikimedia Commons への地域文化デジタルアーカイブを実践して、その手法と課題について整理し、 その意義を明らかにした事例は未だない。 そこで本稿では、公共図書館を地域情報発信拠点として、兵庫県伊丹市に残る地域文化 図 1. 伊丹の酒造り唄復元の様子 である酒造り唄を市民参加型で Wikimedia プロジェクトにオープンデータデジタルアーカイブし、費用をかけない持続可能性の高いデジタルアーカイブを実践し、その意義と課題について考察する。 以下、 2 章では伊丹市酒造り唄について述べ、 3 章ではオープンデータデジタルアーカイブ手法について述べ、 4 章では研究の成果と今後の課題について述べる。 ## 2. 伊丹市酒造り唄 酒造り唄は日本酒生産作業とともに唄われてきた労働唄の一種である。江戸初期に兵庫県伊丹・池田地域での造り酒屋が台頭し、江戸の大量消費のため、製造工程の分化による大量生産を進めた。桶・樽の洗い作業、米洗い作業、配仕込み作業などの各工程で、複数の杜氏が調子を合わせて作業をするために唄われていたのが酒造り唄である。伊丹・池田での丹波杜氏による酒造り唄は元禄時代から唄われていたと推定されている[8]。七七七五の都々逸調で、語呂をひっかけた連続唄である。同一作業の繰返し疲労を軽減し、一致した作業、作業時間の計測効果も持つ。 (1)秋洗い唄は 11 月中旬に貯蔵桶や仕込み桶を水洗いする時に唄われる。もとすり唄、 もとかき唄は、酒造りのもとを仕込む冬至から 1 月中旬ごろに唄われた。(2)もとすり唄は蒸米、敖水を仕込んで一夜 2 3 回摚汼を行う際に唄われる。(3)もとかき唄は三番指りの済んだ内容物をもと寄せまでの間、気温の低い 図 2. 酒造り歌のオープンデータデジタルアーカイブ成果 夜間に 2〜3 時間毎に撹汼する際に唄われる。 これらの酒造り唄は戦後の高度成長期における木桶のホーロータンク化、生産工程の機械化により消滅してしまった。このため、当時の記憶を残す人材が絶えてしまう前に伊丹・池田地域では、丹波流酒造り唄保存会が酒造り唄の保存活動を行っている。 ## 3.デジタルアーカイブ手法 2017 年 10 月 5 日に丹波流酒造り保存会により、兵庫県立伊丹市図書館にて、尺八を伴奏として、伊丹の秋洗い唄、伊丹のもとすり唄、伊丹のもとかき唄が披露された(図 1)。そこで録音された酒造り唄の音源を伊丹市立図書館ことば蔵における市民活動いたみアーカイ部が Wikimedia Commons にアップロードし、歌詞を Wikisource にアップロードすることにより、オープンデータデジタルアーカイブを実現した。その成果は図 2 に示す通りである。まず、情報の入り口として最も知られている Wikipedia の酒造り唄項目に、 Wikimedia Commons の音源へのリンク、歌詞を書いた Wikisource の歌詞へのリンクを作成した。そして、Wikimedia Commons、 Wikisource 両方に相互リンクを作成して、 Wikimedia プロジェクト群でのオープンデー タデジタルアーカイブを実現している。 今回の実践では著作権処理が課題となった。 オープンデータプラットフォームである Wikimedia ではファイルアップロードの際に、著作権を持つ全員が自分の作品をオープンデ一タとして公開する旨を許諾することが必要となる。今回、酒造り唄の作詞者、作曲者、歌唱者、尺八演者、記録者の 5 名が対象となった。まず、作詞者、作曲者は元禄期の人物であるため、著作権切れと推定された。記録者が許諾の上、ファイルアップロードを行ったため、記録者も問題なかった。残りの歌唱者、演者の許諾が問題となり、2 名が公開の場で許諾を表明する必要があった。例えば自身の Web サイトなどで表明し、URL リンクを表示するなどの手法が考えられるが、IT スキルの問題から実現は難しかった。 そこで今回は、Wikimedia プロジェクトにおける OTRS (Open-source Ticket Request System)で著作権処理の確認を行った。OTRS とは、Wikimedia プロジェクトに一般から寄せられる質問、苦情、意見などに信頼のあるボランティアが対応するシステムである[9]。 今回の場合は、歌唱者、尺八演者が、 (1)フリーなライセンスを付与する許諾権限を持っているか (2)許諾を明確に宣言しているか (3)許諾とそれによる結果を理解しているか について、OTRS ボランティアが兵庫県立伊丹市図書館と email にて確認を行った。上記 3 点を歌唱者、尺八演者が了解している旨を公的機関である伊丹市図書館が確認、連絡の上で、Wikimedia Commons 上に「2017 年 10 月 5 日、伊丹市立図書館ことば蔵にて収録 (図書館及び演者了解済み)」を表示した上で登録を実現した。ただし、今回の手法は緊急回避的手法であり、OTRS ボランティアへ負担を強いるものである。今後、明確な許諾が確認できる許諾文書様式の作成など、手法の確立が必要であることが明らかとなった。 ## 4. おわりに 本稿では公共図書館と市民活動にて Wikimedia Commons を利用し地域文化をオ ープンデータデジタルアーカイブする試みを実施した。その結果と意義は以下のようにまとめることができる。 (1)地域の伝統文化である伊丹市酒造り唄の音源、歌詞を市民参加型のデジタルアーカイブとして実現し、地域情報の発信拠点としての公共図書館の新たな役割を実践した。 (2)Wikimedia 財団の持続運営方針と実績のある Wikimedia プロジェクトにデジタルアー カイブすることで、費用をかけない永続的なデジタルアーカイブを実践した。 (3)今回の成果は Wikimedia プロジェクトの認知度の高さから、多くに人に閲覧され、 オープンデータであることから、大いに二次利用されることが期待される。 (4)オープンデータデジタルアーカイブに際して、著作権者全員の許諾を確認する必要があることから、今後は著作権者が直接立ち会うデジタルアーカイブの場において、オープンデータデジタルアーカイブの趣旨を説明し た上で、著作権者から許諾文書を得ていくことが必要である。そのための許諾文書様式の作成などの手法の確立が必要である。また、画像、映像、文書など様々な地域文化の Wikimedia プロジェクトへのデジタルアーカイブの実践と手法確立も必要である。 このような取り組みを進めていくことで、 市民参加型の地域文化オープンデータデジタルアーカイブは、地域情報化のために必須のものになっていくであろう。 ## 参考文献 [1] 総務省. 地域情報化の推進. http://www. soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/loc al_suport/ict/index.html (参照日 2019/1/20). [2] 文部科学省. 地域の情報ハブとしての図書館. http://www.mext.go.jp/a_menu/shoug ai/tosho/houkoku/05091401/all.pdf (参照日 2019/1/20). [3] 瀬戸内市立図書館. せとうちデジタルフオトマップ. http://www.setouchi-photomap. jp/ (参照日 2019/1/20). [4] 豊中・箕面地域情報アーカイブ化事業実行委員会. 北摂アーカイブス. http://e-libra ry2.gprime.jp/lib_city_toyonaka/c (参照日 2019/1/20). [5]川上一貴, 岡部晋典, 鈴木誠一郎. We $\mathrm{b}$ 上の地域映像アーカイブの調査と検証 : デジタルアーカイブズの持続性に着目して. 情報知識学会誌 21(2). 2011. p.245-250. [6] 青木和人. 公共図書館を情報発信拠点とした市民参加型オープンデータ作成イベントの参加者属性分析. じんもんこん 2015 研究発表論文集. 2015. p.145-152. [7]Wikimedia 財団. 使命声明. https://meta. wikimedia.org/wiki/Mission/ja (参照日 2019/1/20). [8]筀山公雄, 酒造り唄. 日本釀造協會雜誌. 1980, 75(3), p.209-213. [9]Wikimedia 財団. OTRS. https://meta.wi kimedia.org/wiki/OTRS/ja (参照日 2019/1/20). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B23]市民団体によるデジタルアーカイブ構築$\cdot$運営$\cdot$利活用の方法と課題:しでんの学校の実践から 大西智樹 1 ) 1)しでんの学校 代表 E-mail: shidenchan.yokohama@gmail.com ## Methods and tasks for building, operating and utilizing the digital archive by local club: A case study of "Shiden school" \\ ONISHI Tomoki1) \\ 1) Local club "Shiden school" ## 【発表概要】 「しでんの学校」では市民の方から集めた横浜市電の写真をデジタルアーカイブとしてウェブサイトで公開する「しでんちゃん横浜プロジェクト」を 2013 年から始め、現在では 700 枚を超える写真の提供を頂いている。同時に、デジタルアーカイブ「デジタルでみる横浜市電の写真マップ」(通称;しでんマップ)の構築を進めており、2018 年 9 月に限定的な公開を開始した。また、提供された写真をデジタルアーカイブとして公開するだけではなく、街歩きや写真展への活用など、デジタルアーカイブを活用した取り組みについても実績が蓄積されつつある。そこで本稿では、これまでの実践をもとに、市民団体がデジタルアーカイブを構築・公開した上で、ウェブサイトと団体の継続的な運営、さらにはデジタルアーカイブを利活用するための一方法論を提案するとともに、それらの課題を明らかにすることを目的としている。 ## 1. はじめに 著者らは 2013 年より、かつて横浜を走った路面電車「横浜市電」の写真を集めてデジタル化し、「集める・学ぶ・伝える・残す」を軸とした様々な利活用を行う「しでんの学校」(以下、当会)を結成し、活動を行っている。これまでの 5 年間の活動において、市民の方が個人で所有している横浜市電の写真約 700 枚の提供を受け、デジタル化し利活用を行っている。 また、2018 年には撮影場所の特定及びデー タベース化等の作業が進んだことから、デジタルアーカイブの構築を行い、横浜市電保存館の協力を得て公開に至った。しかしながら、今昔写真の表現方法、サーバの維持管理・運営、公開方法等、デジタルアーカイブの維持管理・運営については課題も残る。 さらに、当会は有志団体のため、助成金、交付金、寄付、研究費等はなく、完全なボランテイアによる運営となっている。そのため、デジタルアーカイブや提供を受けた写真を継承するという観点での課題もある。以上の背景から、本稿では、デジタルアーカイブを構築・公開し、ウェブサイトと団体を継続的に運営することや、デジタルアーカイブを利活用するための方法を整理するとともに、それらの課題を明らかにすることを目的としている。本研究では、まず、しでんの学校がデジタルアーカイブを開始した経緯とデジタルア一カイブの公開までの流れを述べる。次いで、 デジタルアーカイブの構築内容とその作成方法について述べる。そのうえで、当事者の視点からデジタルアーカイブとその団体の運営について概観し、それらの実践から、市民団体がデジタルアーカイブを構築・公開・運営及び利活用をするための方法と課題を明らかにする。 ## 2. 団体の経緯と活動内容 当会は、首都大学東京渡邊英徳研究室 (当時) の学生の卒業制作であった東京都電のデジタルアーカイブ「ハロー、とでんちゃん」に触発され、協力を頂き、横浜版として「しでんちゃん横浜プロジェクト」を 2013 年に開始し、 2015 年頃より「しでんの学校」という団体名にて活動を行っている。 活動当初は、1970 年代の横浜市電に関する写真を中心に市民の方からの提供を受け、スキヤンを行い、同地点の現在の様子を巡る街歩きイベント等を行った。また、2014 年から横浜市電保存館を運営する一般財団法人横浜市交通局協力会より、館内展示リニューアルの検討への参加を依頼され、横浜市電保存館でのイベント企画等も行っている。 当会は、「集める・学ぶ・伝える・残す」を活動の軸としている。現在では、市民の方から提供頂いた写真を活用した街歩きイベントを通して写真から横浜について学び、写真展、ブ一ス展示やメディア出演及び所有写真の貸出し等を通して幅広く伝え、デジタルアーカイブによって末永く残していくといった 4 つの柱を活動の中心としている。 ## 3. 写真提供のプロセス 写真の提供を受ける際のプロセスとして大きく 3 つに分類できる。 1 つ目は、当会の会員が所有しているパターンである。提供者に容易に連絡が可能であり、使用も容易である。 2 つ目は、他の媒体や団体等へ提供された写真を当会にも提供して頂くパターンである。実際に神奈川新聞社や横浜市電保存館に提供された写真を、提供者の承諾を得た上で当会にも提供頂いている。多くの場合は保管が難しく、処分するくらいなら自由に活用してほしいという提供者の思いがある場合が多く、当会が利活用することに快諾頂いている。 3 つ目は、メンバーの伝手や、メールで連絡を受けてご提供頂くパターンである。実際にご本人とお会いしたことが無い場合もあるが、当会の趣旨を理解して頂いているため、当会が利活用することに快諾頂いている。 このように、当会では個人の方が所有する写真を対象としている。提供を受けた写真を含め、会の運営に必要な書類やデータ等についても一括してクラウドサービスの Dropbox に保存しており、同時に Excel でデータ管理を行っている。Excel データの項目は表 1 のとおり、(1)通し番号、(2)ID、(3)場所 (一般)、(4)停留所名、 (5)撮影年月日、(6)確度、(7)考証メモ、(8)緯度、 (9)経度、(10)使用記録となっている。表 1 の概要に示す情報を入力し、不明な項目は空欄として、定例会の際に場所特定作業を行う。実際の写真データが表 2 のとおりである。 表 1. 写真管理データの項目 表 2. 写真の管理データ(一部抜粋) ## 4. デジタルアーカイブの構築 2017 年まではウェブサイト上で写真を公開する形式としてアーカイブ活動を行ってきたが、2018 年に東京工業大学大学院の大学院生の協力を得て、地図上で写真を表示するデジタルアーカイブ「デジタルでみる横浜市電の写真マップ」(通称;「しでんマップ」)を製作した。当会が所有する約 700 枚のうち、場所の特定と座標の登録が完了した約 200 枚を表示している。横浜市電保存館にて限定的な公開を行い、現在はウェブ上での公開準備を行っている。 表 3.「しでんマップ」の基礎データ(一部拔粋) 図 1.「しでんマップ」の表示画面 しでんマップの基礎データに相当するデー タベースは、表 3 のとおりである。必要な情報であるデータ名、撮影年、緯度、経度、キャプションを入力し、該当する画像データをフォルダに保存する作業が必要となる。また、類似箇所で撮影された写真が複数存在する場合には、 プロット数が過多となり、閲覧の際に地図の拡大が必要となるため、公開する写真の峻別作業を行った上で、公開するデータベースに登録する。これらの作業を 1 枚ずつ行っていくことで、 しでんマップのコンテンツとなる写真を追加する作業を行っている。 ## 5. 写真データの利活用 ## 5.1 写真展の開催 しでんの学校では年 1 回程度、写真展を開催している。依頼を受けて写真展を開催する場合には、開催場所や年代などのテーマを依頼者と相談した上で、キャプションと展示写真の選定をしでんの学校が行っている。例えば、地域の図書館で開催する場合には、近隣の地区で撮影 された写真を中心とした展示を行った。公的な場所で地域の写真展示を行うことで、地域住民から写真の提供につながることも考えられる。 図 2. 図書館での写真展の様子 ## 5. 2 街歩きの開催 しでんマップに追加する写真の場所特定を兼ねた街歩きイベントを開催し、旧写真との比較等を行っている。街歩きの中で、当時を知る方に話を伺うことや、まちの成り立ちについて学ぶことによって、写真のバックグラウンドを理解することや、地元であっても知らないまちの魅力を知るきっかけとして、活動の幅を広げている。 ## 5. 3 写真の二次利用 しでんの学校が所有する写真の二次利用希望者への写真提供を行っている。主に地域情報紙やサイト、商店街の行事でのパンフレットへの使用、博物館の歴史展示ゾーンへの写真使用等の実績がある。 これらは、ウェブサイトを閲覧した方希望者がメールにて依頼される場合や、横浜市電保存館に写真提供の依頼があり、保存館を仲介して当会に依頼される場合がある。 団体等から写真貸出の依頼があった場合には、撮影地域などの希望を伺い、表 2 のデータに示される情報から選定している。 ## 6. 課題 ## 6. 1 費用負担 現在、当会では月一回活動を行っており、公的な市民活動センターを利用することにより無料で定例会を開催している。またウェブサイ トについても無料サービスを利用している。しかしながら、デジタルアーカイブや写真等のデ一タについては、各会員が個人で契約しているクラウドサービス等に間借りしているため、同じデータをバックアップ出来ているものの、あくまで個人所有である。そのため、各会員がクラウドサービスの利用を止めた場合や、活動そのものに参加できなくなった場合にはアクセスできなくなるリスクがある。 ## 6. 2 デジタルアーカイブの更新作業 しでんマップを更新する際には、構築したソ ースコードを読み、写真データ、座標等の情報を追記・更新していく必要があり、プログラミングの基礎知識を持つ会員が更新作業を行う必要がある。なお今後、更新作業のためのマニユアルを作成することにより、しでんマップに写真を追加する手順を共有することで解決できると考えられる。 ## 6. 3 提供者と使用希望者の許諾 写真提供者には、当会が写真展や企画等を行う際に写真を使うことについて許諾を頂いている。当会としては、CC-BY を基本として写真提供者に対する許諾書を作成しており、写真提供者には一筆を頂くことを原則としているが、現実的には提供者に書面に署名を頂くことを拒まれることも多い。提供者の立場からすれば、「自由に使ってほしい」との思いによるものであるが、一方でトラブル等が発生した場合の課題もある。 また、写真の二次利用希望者については、当会の結成時に北摂アーカイブス等を参考とした利用許諾書を作成しており、許諾の後に提供することを原則としている。しかし、実際にはメールで二次利用希望を受け、写真提供者に二次利用希望者へ提供する旨を報告・確認した上で写真を提供する流れとなっている。これまで二次利用者への提供を巡ったトラブル等は発生していないが、書面を交わしていないことによるトラブルの可能性は残る。 ## 6. 4 “CC-BY”をいかに伝えるか 写真提供を受ける際、写真提供者に許諾書を渡し、署名を頂く際に、“CC-BY”に相当する写真利用の条件を分かりやすく提供者に理解していただく必要がある。しかしながら、当会の特性上、写真提供者は高齢である場合が多く、 どのように説明するかといった課題がある。 ## 6. 5 写真以外のアーカイブの必要性 当会が歴史的な調査や街歩き等を続けていく中で、動画や文章などについてもアーカイブとして残していくことは重要であると考える。例えば、乗車券や文書などの紙資料についても今後、提供を受ける可能性がある。写真以外の資料のアーカイブやその公開方法についても検討する必要がある。 ## 7. おわりに 本稿では、当会の活動を概観し、デジタルア一カイブの構築・運営の実践における方法と課題を整理した。課題として、特にデジタルアー カイブの維持のための団体の継続性が重要であることが明らかになった。会員や新たな興味・関心につながる利活用を行っていくことが必要であり、そのための事例研究の蓄積が必要と考えられる。現在、市民によるデジタルアー カイブの事例やその課題の整理に至っておらず、今後の課題としたい。 ## 参考文献 [1] 北摂アーカイブス.http://e- library2.gprime.jp/lib_city_toyonaka/cms/ (参照日 2019/1/23). [2] しでんの学校. http://shidenchanyokohama.com/ (参照日 2019/1/23). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B22] コミュニティインデペンデントデジタルアーカイブ:英国の事例紹介 ○北村美和子 1 ) 1)東北大学災害科学国際研究所, 〒980-0804 仙台市青葉区荒巻 468-1 E-mail : kitamura.miwako.s5@dc.tohoku.ac.jp ## Community Centered-collecting:Example study of Community Independent Digital Archives in the UK \author{ KITAMURA Miwako1) } 1)Tohoku University International Research Institute of Disaster Science, 468-1 Aramaki, Aobaku, Sendai, Miyagi,980-0804, Japan ## 【発表概要】 英国のコミュニティデジタルアーカイブについて紹介する。本研究ではコミュニティ主体で構築・公開されたデジタルアーカイブについて着目した。これらのコミュニティ主体のアーカイブには、英国の 1970 年代の経済危機における厳しい社会状況の中で、社会的弱者となってしまった移民やマイノリティコミュニティへの差別をなくすためにコミュニティの人種・宗教などの理解を広めるために構築され、一般に公開されたものが多い。本研究では英国におけるこれらのコミュニティ主体のデジタルアーカイブ活動の背景を調査し、またテキストマイニングなどにより現在のトレンドを明らかにした。 ## 1. はじめに 本研究では英国のコミュニティアーカイブに着目した。その中でもコミュニティ主体で収集と公開が行われているコミュニティインデペンデントデジタルアーカイブ(以下 CIDA と示す) の活動背景やその内容について文献調查、インタビューを行った。 そして、英国におけるコミュニティアーカイブをサポートする団体 Community Archives and Heritage Group (以下 CAHG と示す) に属しているアーカイブの中で、マイノリティや人種に関する活動を行なっているアーカイブに着目し、それらのトップページのテキストマイニングを行い英国の CIDA のトレンドを明らかにした。 ## 2. 英国のコミュニティアーカイブ活動 2.1 英国のコミュニティインデペンデントア ## 一カイブ活動の背景 英国でコミュニティアーカイブの重要性が唱えられたのは 1970 年代に入ってからである。 その背景には多様性のある英国の社会構造が関わっている。植民地を世界中に所有していた英国は自国の経済発展に伴い植民地としていた国々から労働者として多くの外国人を移民として受け入れていた。 しかし、1970 年代以降、インドやブラジル、 アジアなどの安価な労働力による工業製品の価格競争が始まると、これらの国々に比べ労働者の賃金が高価である英国は、インダストリー中心の経済からサービス業中心の経済への移行が行われた。この経済環境のシフトのなか、英国では、安価な労働力として受け入れられてきた移民への社会的排他活動が行われるようになった $[1]$ 。 このような社会的背景により、社会的弱者となり差別や迫害を受けたコミュニティが存在した。これらの人々への人権軽視や差別をなくし、コミュニティ全体の意識を高める活動の一つとして、コミュニティのアイデンティティを高めるアーカイブの活動が掲げられた [2]。 表 1. メインストリームのアーカイブとインデペンデントコミュニティアーカイブの比較 社会的弱者となったコミュニティが、自らの記録を構築し、歴史(ルーツ)を学ぶことは、自らのアイデンティティを向上するための社会的活動に発展していった[3]。 ## 2.2 コミュニティインデペンデントデジタルア 一カイブ 英国では、ロンドン大学UCL のフリン教授が中心となって、コミュニティ主体のアーカイブのデジタル化フレームワークとして「デジタルカタログ」を用意し、活用されている。 フリンはメインストリームのアーカイブと対比させて、英国のコミュニティアーカイブ活動の中でもコミュニティの人々が中核となり、アーカイブ活動を行っているアーカイブをコミュニティインデペンデントアーカイブと定義している [4]。 メインストリームの記録では残されないような人々の声が、コミュニティインデペントア一カイブでは記録される。これらのアーカイブが人々を過去から現代に結びつけるきっかけを作り、コミュニティを学ぶ機会を作り続ける。これが、コミュニティの財産となりソ ーシャルキャピタルを生むとフリンは述べている。文献調查やインタビューからコミュニティインデペンドアーカイブとメインスト リームのアーカイブの比較を表 1 にまとめた。 社会的弱者の視点から収集された記録には公の機関では記録されないような、移民やマイノリティグループへの差別の記録が写真や音声記録、動画などで残されている。コミュニティ主体のアーカイブはメインストリームのアーカイブでは見過ごされてしまうような社会的弱者のコミュニティの貴重な記録活動が行われているが、公の機関から独立し、活動を継続していくためにはコミュニティの人々のアーカイブ活動への熱意、リーダーシップそしてボランティア活動が大きな支えとなる。コミュニティインデペンデントアーカイブで重要なことは1)コミュニティ主体で収集されたアーカイブであること、2) 保存された記録の管理がコミュニティで行われていること、3)これらのアーカイブ活動がコミュニティに属する人々に対して社会的に貢献していることである。 これらのアーカイブのうちデジタル化されたものが CIDA である。記録をデジタル化する事の重要性についてフリンへのインタビュー 調查を行った。コミュニティアーカイブをデジタル化する利点を以下に示す。 1)インターネットで公開することにより、 コミュニティの歴史などが様々な階層の多くの人の目に触れる。 2)コンピュータの普及によりアーカイブをデジタル化することで情報発信と記録の管理がノンプロフェッショナルなアーキビストにも行うことができる。 3)SNS などと連動させばコミュニティ内外の多くの人が気軽にアーカイブ活動に参加することができる。 コンピュータの普及により、草の根的アー カイブ活動が、低予算であっても地域のボランティアや寄付により継続することができるようになってきている。 ## 2. 3 Community Archives and Heritage Group Community Archives and Heritage Group は (以下 CAHG と示す)英国においてコミュニテイアーカイブの活動をサポートしている団体である。CAHG はコミュニティ主体で記録された資料を収集、保存、作成することによって包括的で多様な地域および国の遺産の保存に貢献している。 CAHG は次の理念を柱にコミュニティアーカイブをサポートする活動を行なっている。 - ユーザーおよび訪問者としての活動に参加する人々の生活を豊かにする。 - コミュニティのアイデンティティと相互および異文化間の理解を高める。 2006 年からはコミュニティアーカイブのデジタル化促進に献身的に取り組んでいる。前出したフリンの制作による無料のデジタルカタログをオンラインで公開し、ノンプロフェツショナルなアーキビストに対して、どのようにアーカイブをデジタル化して行くのかについて細かな指導を行っている。また、それだけではなくコミュニティアーカイブのアワ ードを設けて、コミュニティアーカイブ活動を広く提唱している。 ## 2.4 CAHG に登録されているコミュニ ティアーカイブの概要 CAHG に登録されているコミュニティアーカイブの数は 2019 年 1 月現在 634 件である。 図 1. CAHG の地域別アーカイブ数 図 1 は英国内の地域別のコミュニティアー カイブの数を示したものである。この図によるとコミュニティアーカイブの数が多いエリアは工業都市であったシェフィールド、バー ミンガム、そしてロンドン周辺である。これは工業活動が衰退した地区でマイノリティや人種差別などが起こり、アーカイブ活動を通じ人権の重要性や民主主義の公平さを訴えてきたコミュニティアーカイブ活動の背景と歴史に関連していると考えられる。 また、英国南西に位置するブライトンは LGBT の活動が盛んなエリアである[5]。ブライトンに CIDA が多く存在するのは、このようなマイノリティの人権を守る活動がコミュニティアーカイブの活動に結びついていると考えられる。 ## 3. インデペンデントコミュニティアー カイブ(マイノリティ、人種)の 内容分析 本研究では、CAHG に属しているアーカイブの中で、マイノリティと人種 (Minority and ethnic community) というタグが付けられている 32 のアーカイブに着目し、テキストマイニングによる内容の分析を行った。 これらのアーカイブには、1960 年代のバー ミンガムにおける黒人労働者の日常生活の様子、ブライトンの LGBT の歴史、ロンドンのブリックレーンで暮らす人々の多様な民族文化、 図 2. ワードクラウド 図 3. 共起キーワード 中国人移民による中華料理の文化など、各コミュニティの視点で捉えられた記録が残されている。これらの Web ページのサマライズを摘出し、その文章を USER LOCAL のソフトウエアを用いて、テキストマイニング分析を行った。これらの結果を図 2 と図 3 に示す。 ワードクラウドの結果をみると black, Chinese, oral, project, historyなどという単語が多く出てきていることがわかる。そして共起キーワードを見ると、history という単語が oral, black, community などと同時に現れていることがわかる。 マイノリティと人種というタグが付けられているアーカイブなのでblack, Chineseなとい た単語が頻出し、また oral history がコミュニティアーカイブで重要な要素であることが推測される。 ## 4. おわりに 英国でのコミュティアーカイブの背景とそのデジタル化に関して調査し、CAHG における CIDA について概観した。メインストリームには残らない記録をCIDA が保持しており、CIDA は多様性のある社会において、マイノリティの尊厳やルーツをたどるために重要なものとなっている。コミュニティが主体となっての活動が将来にわたって継続していくことが大切であると考えられる。 ## 参考文献 [1] Office for National Statistic. "Immigration Pattern of Non-UK born Populations in England and Welles in 2011 https://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20 160107164635/http://www.ons.gov.uk/ons/dcp1 71776_346219.pdf (参照日 2019/1/20). [2] Caswell Michelle. , GABIOLA.J, Zavala. J,Imagining transformative space:thepersonal-political site of community archives : Archival Science.2018,18:pp73-93 [3] Wakimoto Diana, Bruce.C, Partidge.P., Archivist as activist: Lessons from three queer community archives in Calofornia, ArchalScience. 2013, 13: pp293-316 [4] Flinn Andrew and Stevens Mary, "It is noh mistri, wi mekin histri" Telling our own story: independent and community archives in the UK, challenging and subverting the mainstream, 2009, pp1-33 [5] Misgav Chen, Ordinary in Brighton? LGBT, activism and the city, Gender and Culture A Journal of Feminist Geography, 2015, 23(2): pp1-3 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B21] あなたのフィルムが歴史をつくる: ホームムービーのデジタルアーカイブ ○常石史子 11 1)フィルムアルヒーフ・オーストリア E-mail: fumiko.tsuneishi@gmail.com ## Your Films Make History:Digital Archiving of Home Movies TSUNEISHI, Fumiko ${ }^{1)}$ ${ }^{1)}$ Filmarchiv Austria, Obere Augartenstraße 1, A-1020 Vienna, Austria ## 【発表概要】 フィルムアルヒーフ・オーストリアは、映画フィルムおよび映画関連資料の収集・保存および公開を使命とするフィルムアーカイブであり、デジタルアーカイブの構築にも積極的に取り組んでいる。2012 年以降は「あなたのフィルムが歴史をつくる」をモットーに、各州政府および国内最大の放送局 ORF と共同で、ホームムービーの収集およびデジタル化を継続的に行なっている。ブルゲンラント、ニーダーエスターライヒ、サルツブルクの各州から収集し、デジタル化を完了したフィルムは 11 万本を超え、ホームムービーの分野では先駆的かつ最大のデジタルアー カイブの一つとなっている。本報告では、中でも最大規模のニーダーエスターライヒ州の例を中心に、 7 万本を超えるフィルムを正味 3 年足らずの期間にデジタル化するにあたり、浮上した様々な課題について述べる。 ## 1. 各プロジェクトのアウトライン 各プロジェクトに共通する基本的なモデルは、テレビスポット等によりホームムービー をアーカイブに寄付するよう市民に呼びかけ、返礼としてデジタル化したフィルムの DVD を無償で提供するというものである。最も人口の少ないブルゲンラント州における試験的なプロジェクトを経て、2013 年、ニーダーエスターライヒ州において大規模なプロジェクトが実行に移された。準備段階では両州間の人口比からの試算で、 ブルゲンラント州の成果に比して 6 倍程度の収集本数を見込んでいたが、実際の反響は予想をはるかに超え、 2,715 人から提供されたフィルムはブルゲンラント州のおよそ 24 倍にあたる 70,388 本にのぼった。そのすべてについて、2016 年末までに館内でのデジタル化を完了している。 現在はサルツブルク州で 3 番目のプロジェクトが進行中であるが、人口に対する収集成 表 1. 各プロジェクトのアウトライン & サルツブルク \\ 果としてはニーダーエスターライヒをさらに大幅に上回る 43,000 本以上のフィルムが寄せられ、2019 年夏の完了を目指している。その後も国内すべての州と順次プロジェクトを継続することが予定されている。 ## 2. ロジスティクス フィルムの受け渡しは、州内 5 ヶ所に用意された収集センターにおいて行なわれた。輸送の過程での紛失を避ける意味もあるが、各提供者と個々に面談し、内容やコレクションの背景に関する情報を収集する重要な機会ともなった。 提供者はフィルムのフォーマット、量、年代、内容等にかかわらず、原則としてすべてのフィルムを DVD として受け取ることを約束される一方、DVD と共に送付されるデータシートに撮影年、撮影地、内容、写っている人物などの情報を記入し、返送することを求められる。USB スティックや HDD によるフアイルの受け渡しにも一定の条件のもとに応じている。フィルムは原則として寄贈 $(2,573$件、 $95 \%$ )または寄託(113 件、 $4 \% )$ として FAA に収蔵された。しかし、フィルムがより手軽に視聴できるメディアに変換されても、誰もがフィルムを手放せるわけではない。 かつて地元のクラブで活動していたアマチュア映画作家などで、フィルムを上映する設備や技術的な知識をもつ人は、急激に減っているとはいえなお一定数存在するし、自分の作品や家族の思い出をそばに置きたいという人もいる。そのようなケースを門前払いとしないため、デジタル化後のフィルムを返却するオプションも設けた。この場合にはすべてのフィルムでなくアーカイブの側で選択したフイルムのみのデジタル化としたため、結果的にはわずか 29 件 (1\%) の適用にとどまっている。予想された通り、集まったフィルムの大半 $(98.9 \%)$ は $8 \mathrm{~mm}$ であったが、それ以外のフォーマットも少なからず含まれていた。 すべての提供者はプロジェクト・データベ一スが自動的に生成する提供者 ID によって管理され、各フィルムにもフィルム ID が割 りふられる。登録を終えたフィルムはアーカイブの収蔵庫でなく、プロジェクト専用の仮置き倉庫に集められ、デジタル化を待った。 フィルムは詳細なリストとともに提供される場合もあれば、年代と簡単な題名のみがフィルムケースに記されている場合もあるが、何ひとつ情報がなく「内容不明」として登録されたフィルムも 4,500 本を超える。このような題名のないフィルムのうちに、少なからぬポルノが紛れ込んでいたことは特記に值するだろう。『おばあちゃんの 60 歳の誕生日』 という無害な題名の下にそうした内容が隠されていた例もある。大部分は商品として流通していたものだが、純然たるプライベート・ ポルノもいくらか含まれていた。おおむね所有者の意向に反してアーカイブに漂着してしまったものだが、これもホームムービーの、今まで表面化することの少なかったもうひとつの重要な側面と言えるだろう。届けられた DVD を家族と視聴する際にフィルム提供者が戸惑うことのないよう、こうしたフィルムは別の DVD に分けて届けられた。 ホームムービーは商業用の映画よりも価値が低いとみなされがちであるが、ほぼすべてが代替のきかない一点ものであるという特異な側面がある。所有者自身の結婚式かもしれないし、子供が初めて歩いた日の最初の一歩であるかもしれない。すでに亡くなった家族の唯一の動く映像かもしれない。紛失した場合、保険で解決できる性質のものではない。極度にタイトなスケジュールの中、 7 万本を超えるフィルムのうち 1 本も紛失しなかったことは、筆者の誇りとするところである。 デジタル化後のフィルムは、アーカイブのメインデータベースに登録され、ウィーン郊外のラクセンブルクにある収蔵庫で、理想的な温湿度条件のもと恒久保存されている。 ## 3. プロジェクト・マネジメント プロジェクト開始から 1 年は、チームは収集と登録に忙殺され、デジタル化作業はごく限定的な形でしか行なわれなかった。予想外の規模に達してしまったプロジェクトを座礁 から防ぐ任務を負い、筆者が引き継ぐことになったのが 2014 年初頭のことである。完遂のため何をおいても必要なのは人員であったが、人件費に対する州政府からの助成は $50 \%$程度に過ぎず、新たな雇用に回せる財源は限られていた。雇用の際には映画フィルムを触った経験があるか否かはあえて不問とし、賃金を抑えた。ビデオの撮影や編集等、オーデイオ・ビジュアルの分野ですでに知識や経験があり、アナログのフィルムにも関わってみたいと考えている学生やアーティストを見つけることは難しくなかった。2 台のスキャナを最大限効率的に稼働させるため、週末を含む毎日、午前 8 時から午後 10 時までの間に 2 交代制のシフトを組まなければならなかったが、タ方や週末のシフトを歓迎する者も少なくなかった。まずは筆者がスキャンのプロセスを自ら経験し、すべての工程にわたる詳細なマニュアルを書いて、新人トレーニングの効率化をはかった。 スキャナの稼働時間をさらに増やすため、 デジタル化プロセスからスキャナを使用しない作業、すなわちフィルムの補修、クリーニング、接合、データベースの入力、内容の調査といった二次的な作業を切り分けた。とりわけスキャン処理を減速させていたのが、撮影・現像されたまま編集されることなく残されている $15 \mathrm{~m}$ (約 3 分)の小さなフィルムであつたが、これらは大きなリール(通常 120m)につなぎ合わせ、一度にスキャンすることとした。 では、こうした二次的な作業はいったい誰が引き受けるのか。この分野には、インター ンやボランティアを積極的に受け入れることとした。以来、学生、年金受給者、失業者、就労許可をもたない外国人等、さまざまな経歴を持つ無給のメンバーが常時 4 10 人程度、 チームに加わっている。疾患や障害のある人々をサポートする機関と連携が増えるにつれ、当初はもっぱら経費節減を目的としていたこの試みは徐々に福祉プロジェクトとしての側面を持ちはじめた。中でも心理的な問題を抱える人の職場復帰を支援する機関 INDI とは密接な協力関係を築いている。参加者個々のスキルやニーズに応じた 4 種類の業務 を、4 週間のプログラムとして継続的に提供しており、すでに 30 人以上の受け入れ実績がある。 ワークフローをブラッシュアップした結果、 1 シフト 8 時間あたり最大 8 時間程度のアウトプット(デジタル化されたフィルムの総時間数)が見込めるようになった。リールの交換、巻き戻し、補修などによる時間のロスは当然あるが、リアルタイムの 2.8 倍の速度でスキャンできるため、ロスを吸収できるのである。こうして年間 2 万 5 千本をデジタル化できる体制を整え、予定通り 2018 年末までにプロジェクトは無事完了した。 とはいえ、フィルム提供者は DVD を受け取るまでに 1 年から最長 4 年も待たなければならなかったのだから、催促の電話は途切れることがなかった。クリスマスに、あるいは母親の 80 歳の誕生日に、どうしてもDVDを贈りたいという人はあとを絶たなかった。年配のアマチュア映画作家たちは、自身の作品を「死ぬ前にもう一度」見たいと切望した。実際、「名宛人死亡のため」郵便局から DVD が送り返されてくるたび、このプロジェクトの特殊な緊急性を思い知らされた。 DVD を受け取った人からもさまざまな修正や追加の要望が届く。中でも最も頻繁に寄せられた苦情のひとつは「音声欠落」というものである。 $8 \mathrm{~mm}$ 映画の大部分 (当プロジェクトでは $90 \%$ 以上)が無音であることは多くの人にとって信じ難いことなのだろう。ある提供者は、父親が彼女のためにそのフィルムを映写した際、どのような音楽が流れていたかまで鮮明に記憶しており、それがフィルムの上には存在しないこと(上映時にレコードをかけていたと推測される)に大きなショックを受けていた。 ## 4. ワークフロー デジタル化の技術的なワークフローは以下の通りである。 1)2 台のスキャナで MOVファイル生成 2)コンバータ兼ストレージ上にコピー 3) MP4 と ISO に変換 4) DVD ラベル(pdf)とデータシート (excel)を生成 5)DVD ロボットでISO をDVD に焼き ## 付け、ラベルをプリント \\ 6)データシートを印刷 \\ 7) LTO5 にバックアップ ワークフローも部分的に変更する必要があった。当初のスキャンは解像度 $1280 x 720$ 、 Apple ProRes 422 HQ で、データサイズは で $300 \mathrm{~TB}$ ほどのデータが生成されることになる。作業の効率化が軌道に乗って間もなく、 LTO5(1 本あたりの記録容量 1.3TB)によるバックアップが、この規模のデータを恒常的に処理するには不安定に過ぎることが判明した。出口の部分でトラブルが頻発し、ただちにデータストリームの停滞とストレージ容量不足を引き起こしてしまうのである。様々な解像度とコーデックを DVD にした状態で比較したのち、解像度を $1280 x 720$ から 768x576 、ビットレートを HQ から LT または Proxy へ落とし、引き続き $\mathrm{HD} 、 \mathrm{HQ}$ でスキャンするのはフィルムの返却が予定されている場合のみとした。これでデータサイズを $10 \%$ 近くまで大幅に落とすことができた。 テレビ放映や映画館での上映などでよりクオリティの高いファイルが必要になった場合、再度スキャンすることもやむを得ないと考えた上での苦渋の決断だったが、これがプロジエクトを救う鍵となった。現行のサルツブルク州のプロジェクトでは、 1 本あたり $5.2 \mathrm{~TB}$ の記録容量をもつ LTO7 を導入し、すべてを $\mathrm{HD} 、 \mathrm{HQ}$ で行なえるようになっている。 7 万点以上の MP4 ファイル(データ総量は約 20TB)はオンラインでも管理し、参照用として常時アクティブに活用している。 ## 5. デジタルアーカイブの活用 これらのプロジェクトの第一義的な目的は、 オリジナルであるフィルムが散逸することを防ぎ、アーカイブの収蔵庫で安全に恒久保存することである。無償のデジタル化は、あく まで所有者がフィルムを手放しやすくなるよらにとのオファーであった。しかしながら、結果として生じたこの大規模なデジタルアー カイブは、フィルムアーカイブの活動を新たな地平へと導くことになった。地域映像を編集した DVD シリーズの制作にはすでに最重要ソースとなっているほか、外部の研究機関、大学等と共同での研究プロジェクトや、ドキユメンタリー映画やテレビ番組の製作など、続々と活用されはじめている。2018 年 3 月に 図 1.『サールフェルデンのアドルフ・ヒトラー』 1938 年 は、オーストリアのナチスドイツへの併合から 80 年の節目に、ホームムービーに由来する歴史的な映像をまとめた上映を行なった。 ヒトラーやゲーリングの近影など、これらのプロジェクトを通じて新たに発見された 14 本のホームムービーは真にセンセーショナルであった。2019 年には市民をフィルムの調查に動員するため、参加型デジタルアーカイブの構築と公開を予定している。 ## 参考文献 Fumiko Tsuneishi, "Digitizing 25,000 Film s a year. A Challenge for Filmarchiv Aus tria", Journal of Film Preservation, Vol.99, 2018.
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# [B16]学術論文出版からみる研究データへの DOI 付与と その粒度の考え方の課題 ○尾鷲瑞穂 ${ }^{11}$ 1)国立研究開発法人国立環境研究所,〒305-8506 茨城県つくば市小野川 16-2 E-mail: owashi.mizuho@nies.go.jp ## Consideration of link management and DOI assignment to research data viewed from academic publishing \\ OWASHI Mizuho1) 1)National Institute for Environmental Studies, 16-2 Onogawa, Tsukuba-shi, Ibaraki, 3058506 Japan ## 【発表概要】 オープンサイエンスの潮流が広がる中、研究データの公開とその方法についても関心が高まっている。科学研究の学術論文投稿時には、その研究を通して生産された研究データの公開が求められ、メタデータと併せて永続的固有識別子である DOI(Digital Object Identifier)をその研究データに付与することが求められるようになってきている。その際には、データの再利用や引用のしやすさを考慮した上で、その粒度やメタデータへの記載にも留意する必要がある。しかし、 その考え方は、分野によっても相違があり、統一した方法があるわけではない。今回は、気象観測データや環境モニタリングなど、先に集積的なデータが公開されており、それを解析して研究を行うようなケースと、社会調查や疫学調査など、データ集計の経過途中で論文が出版されるケ一スを取り上げ、学術論文の出版を見据えた研究データへのDOI 付与の考え方の必要性を報告する。 ## 1. はじめに 近年、科学研究の学術論文投稿に際しては、 その研究を通して生産された研究データの公開が求められ、その研究データに関するメタデータと併せて永続的固有識別子である DOI (Digital Object Identifier) を付与することが求められるようになった。その際、特に、悩ましい課題の一つとして識別子である DOI の粒度やメタデータの記述があげられる。これらは、分野の特性やデータの性質より任意に決めてよいことになっているが、自由度が高いが故に難しい課題となっている。そこで、 この発表では、学術論文出版を視野に入れた、研究データへの DOI 付与について考察してみたい。 ## 2. 研究データと DOI 付与 ## 2. 1 DOI とは DOI (Digital Object Identifier) とは、インターネット上の主にデジタルなコンテンツやドキュメント(オブジェクト)に恒久的に与えられる固有識別子である。DOI は、国際 DOI 財団 (International DOI Foundation: IDF)に認定された DOI の登録機関 (Registration Agencies:RA)を通じて、その ID が登録される。その中でも最大規模の ID 登録数を誇っているのが、主要学術出版社が多く加盟している Crossref である。最近では、学術論文に DOI が付与されていることはめずらしいことではなくなり、むしろ、一般的に付与されているものになりつつある。そのため、DOI は、学術論文だけに付与される識別子だと誤解されてしまいがちであるが、学術論文だけでなく、データセットや画像など、デジタルなコンテンツであれば何に対しても付与することが可能である。 DOI を付与する目的は、オブジェクトに一意な番号を付与することで、当該オブジェクトの引用情報の特定を容易にすることである。 また、その ID を永続的に管理することで、 オブジェクトが置かれているサイトやサーバの変更が合った際も、リンク切れを防ぐことが可能となる。「https://doi.org/」を DOI の前につけることで、恒常的に該当オブジェクトの置かれたぺージにアクセスをし、閲覧、利用することが可能となり、オープンサイエンスの基盤をなすものの1つとなっている。 ## 2.2 研究データへの DOI 付与 データ解析環境が向上し、機械学習による解析やデータ駆動型研究の推進が求められるようになった。これに伴い、解析に用いるための研究データを共有、公開するための基盤整備を進めることの重要性が世界的にも認識されるようになってきている。研究データへの DOI の付与は、この基盤整備を担う重要な仕組みのひとつである。 研究データへの DOI 付与において、中心的な役割を果たしているのが国際コンソーシアムの DataCite である。DataCite は、2009 年に組織され、インターネット上の研究デー タの発見、アクセス、再利用に係る問題に取り組み、その取り組みとして、研究データー の DOI 付与を進めている。特徴的なのは、サ一ビスの利用者が DOI を取得して登録することが可能な点で、研究成果のセルフアーカイブ機能を有する ResearchGate は、利用者自身で、登録したデータに DOI 名を付与することが可能である。このようなフレキシブルな運用により、研究データへのDOI 付与も学術論文に追いつく勢いで拡大している。 一方、日本国内でも、ジャパンリンクセンター (JaLC) が中心となって日本発のデジタルコンテンツに対して、DOI の登録の普及が進められている。JaLC は、DOI の登録機関として、日本で生産された学術コンテンツ情報を收集し、利用を促進する目的で設立された。2012 年に RA に認定されて、まずは、学術論文等に対しての DOI の登録がすすめられた。2014 年には、JaLC 新システムをリリースし、研究データをはじめとする、様々なデジタルコンテンツへの DOI 登録を可能とした。これにより、大学や研究機関は、 JaLC の会員となることで、自機関の研究デ一夕にもDOI を付与出来、さらに、JaLC を通して、DataCite にも登録が出来るようになった。日本の学術機関で生産された研究デー タが DataCite でも検索可能となることで、 その研究データが国際的に流通することが可能となる。同様の取り組みは、世界各国で行われており、国境を越えた研究データの相互利用と、その発展が期待されている。研究デ一タへの DOI 付与はその基盤を担う役割を果たしていると言ってよいだろう。 ## 3. 研究データ公開を求める学術出版 3. 1 研究デ一タと学術出版 DOI の付与が、学術論文だけでなく研究デ一夕にも拡大したことで学術論文投稿の際の、研究データの取り扱いにも変化が起きている。一つは、各出版社がデータジャーナルを次々と創刊しており、これにより「研究データ出版」という新しい研究成果の形が登場したことである。これは、昨今のデータの公開による研究者の貢献をより積極的に認めようとする動きであり、データジャーナルの創刊によって、データセットなどの研究データが「出版物」として DOI と共に公開され、引用が可能となることで、積極的に研究の評価されることが期待されている。 そして、もう一つは、論文の付属データについても独立して公開を求められるようになったことである。従来は、查読の過程でその研究の根拠となるエビデンスデータ提出を求められ、論文掲載時には、付属データとして付録的に収録されることが多かった。その付属データを独立した研究成果としてリポジトリ等で公開し、その際には、メタデータと併せて永続的固有識別子である DOI(Digital Object Identifier)を付与することが求められることが増えている。 ## 3. 2 研究データへの DOI 付与の広がり 学術出版社の研究データの取り扱いの変化により、研究データにDOI を付与を含め、より公開しやすいリポジトリの運用が求められるようになった。大学や研究機関においては、自機関で生産された研究データに自らDOIを付与して公開出来る基盤を整える取り組みが国内外で増え始めている。他方、figshare や Dryad といった代表的な汎用データリポジトリでは、データセットや図版、画像、動画などを、作成者自身でリポジットすることが出来、これらコンテンツのリポジットと同時に DOI も取得することが出来るようになっている。 また、CrossRef と DataCite など研究デー 夕の流通促進を図っている組織が連携を行うことで、論文の引用・被引用の関係と同じような関係で、研究データの引用情報の整備も行われつつある。2) その他、Clarivate Analytics 社の「Data Citation Index」のように世界の主要なデータリポジトリの情報を元に、研究データの情報を検索出来るデータベースも登場した。これは、Web of Science 製品の 1 つとして提供されており、データべ一スで索引付けされたジャーナルや会議録などの文献へリンクが実装されており、研究デ一夕と文献の関係性を分析し、研究データ引用の実態を分析するのに活用されている。 ## 4. DOI 付与における問題点 ## 4. $1 \mathrm{DOI$ 付与におけるデータの粒度} 研究データへのDOI 付与においては、学術論文への DOI 付与とは異なる留意点がある。特に、粒度とバージョン管理は、 1 報に対して 1 つの DOI を登録するという学術論文と異なり、データセットの粒度は公開する側が決められる仕組みになっている。JaLC のガイドラインにおいても、「研究データの場合は、 その性質や利用のされ方がさまざまであるため、どの粒度で DOI を登録するかを一概に決めることが難しい。最終的には、粒度を決めるのはデータ提供者の判断である。」3)とされており、データ提供者自身が、その研究デ一夕の利用のしやすさやなどを考慮して決定することになる。留意する点は分野やデータの性質によっても異なるものであるが、ここでは、学術論文における研究データ引用という側面からデータの粒度やデータ間リンクの問題や課題を示唆したい。 ## 4. 2 統合$\cdot$処理して得られるデータの問題 気象観測データや環境モニタリングなど、集積的なデータが先に公開されている場合には、これらのデータを用いて論文を投稿する際に、集積的なデータと解析で生産された 2次データとの関連性をメタデータに適切に埋め込むことが出来るよう DOI の粒度を決めることが求められる。しかし、解析や分析に用いやすいというだけでなく、集積的なデータが、複数のデータを統合・処理された指数や係数などであった場合にはさらに注意が必要となる。 例えば、村山ら(2015)は、ある観測デー タから作られた複数のデータを統合・処理して得られるデータにおいては、元のデータの生成者を参照して評価するしくみが明確でない点を指摘している。地球電磁気学分野で用いられる Dst 指数のように複数の観測所から得るようなデータを元にした指数の場合、 Dst 指数が引用されたらその元になった各観測所のデータに対しても引用の評価が必要となる。今後、基盤的な実験 - 観測活動の研究評価として重要で必要な仕組みであることから、DOI $の$ relation $の$ 項目から利用数を計量する機能が必要であることを論じている。このような複数のデータを統合・処理された指数を解析データとして用いるのは、気象観測データなど自然科学分野だけでなく、経済学や経営学など社会科学分野にもある。また、 先述の Data Citation Index の場合でも、 DOI によるリンケージは行っていないが、基本的に論文と研究データという一対の関係を基本としているため、研究データ間の関係性は見えにくい。 このことは、特定分野の問題というよりは、研究データへの DOI 付与、さらには、研究デ一夕に対する研究評価にも関わる課題であるといえる。 ## 4. 3 DOI と研究データ管理計画 大規模な社会調查や疫学調查などは、調查に膨大な時間を要することが少なくない。例えば、環境省が主導となって行われている 「こどもの健康と環境に関する全国調查(エコチル調査)」は 2011 年 1 月から 2014 年 3 月までの 3 年間にわたり、国内 15 地域で娃婦への調查協力のリクルートが行われた、大規模な疫学研究のプロジェクトである。5)こ の調査では、約 10 万組の親子の協力により、母親の妊娠中から子どもが 13 歳し達するまでの期間、診察記録や質問票を通した各種デ一夕、生体試料の収集が計画的に収集され、化学物質の影響を統計的に解析・分析するために用いられる。この調查の終了は 2032 年であり、協力者の募集から、データ解析終了まで 22 年もの年月を要する。そのため、デ一タの集計作業とその解析・分析が同時平行で実施されることになる。 このような長期に渡る調査は、とりまとめが可能になったデータや分析を行う研究者の要望などにより、集計が終了した項目や年度から解析が行われていくことになる。そのため、すべての調查項目の集計が終わり、デー タセットとして公開出来る状態になってから DOI を付与しようとすると、付与前に解析を行い発表された論文には、データセットの DOI を記載することが出来ないため、後に付与されたデータセットの DOI は別のデータセットという扱いになってしまう。時間と労力をかけた調査のデータほど、この可能性が高く、活用されているにも関わらず、利用数は低く計測されてしまう恐れがあり、研究の評価にも影響することになる。大規模な調查のデータへの DOI 付与においては、年度ごと、 もしくは調查項目ごとなど、解析がしやすい粒度で DOI を先に付与しつつ、データが追加されるごとにバージョン管理によって更新をいくなどの解決策が必要となるだろう。しかし、そのためには、調查を開始する段階で DOI の付与とバージョンの管理を研究データ管理計画で定めておくなど、事前準備が重要である。その点から、研究データ管理計画における DOI の管理は、その後の、論文出版、 さらには研究評価にも影響するものであると認識を持つことが大切である。 ## 5. おわりに 研究データへの DOI の付与は、データセッ卜の利活用につながり、引用されることで、 その研究データやデータの生成者が評価される仕組みの一助となることが期待される。 そのためには、学術論文等他のコンテンツでの引用のしやすさやデータ間の関係性の明示も含めて粒度を決めていく必要がある。そうすることで、論文出版と同様には評価されてこなかった、データの生産という研究活動が、 より明確に見え、その評価に繋がることを望みたい。 ## 参考文献 [1]林和弘,村山泰啓. 研究データ出版の動向と論文の根拠データの公開促進に向けて(オ ープンサイエンスをめぐる新しい潮流(その 3) ). 科学技術動向. 2015 ,vol. 148 , p.4-9. [2] CrossRef and DataCite "CrossRef and DataCite announce new initiative to accelerate the adoption of DOIs for data publication and citation." https://www.crossref.org/news/2014-11-10crossref-and-datacite-announce-newinitiative-to-accelerate-the-adoption-of-doisfor-data-publication-and-citation/ (参照 2019/1/10) [3]ジャパンリンクセンター運営委員会. “研究データへの DOI 登録ガイドライン.” 2015 年,https://doi.org/10.11502/rd_guideline_ja (参照 2019/1/10) [4]村山ほか. "観測データから生成された 2 次データに関するDOI 引用法の新提案.”第 138 回 SGEPSS 総会および講演会,2015 年地球電磁気・地球惑星圈学会.http://www kasm.nii.ac.jp/papers/takeda/15/murayama1 5sgepss.pdf(参照 2019/1/10) [5]只見康信.「エコチル調査」について(環境行政の取組みについて). 環境と測定技術. 2018, no. 45 vol.7, p.27-35. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B15] 全国紙における大量のコンテンツ制作管理とアーカ イブ化: ## 毎日新聞社コンテンツ管理システムの全面刷新を事例として ○大橋正司 ${ }^{1)}, \bigcirc$ 平川裕蔵 ${ }^{2}$ ) 1) サイフォン合同会社 2) フューチャー株式会社 E-mail: shosira@scivone.jp, y.hirakawa.de@future.co.jp ## Managing and Archiving huge quantities of data for the national press: A case of updating both workflow and CMS of newspaper production in the Mainichi Shimbun OHASHI Shoji1), HIRAKAWA Yuzo ${ }^{2}$ 1) SCIVONE, LLC 2) Future Corporation ## 【発表概要】 毎日新聞社とフューチャー社グループのフューチャーアーキテクト社は、2018 年 11 月、新聞制作のコンテンツ管理システムを共同で開発し全面的に刷新した。この刷新と同時に、それまで紙面を降版したあとにインターネットなどに配信する「紙面中心・ベルトコンベア型」だった業務フローは、紙面と各媒体向けの記事制作・リアルタイム配信を同時に行っていく「紙とデジタルの同時並行展開・分散型」業務フローへと大きく舵を切った。 本発表では新聞社がどのように膨大なコンテンツの制作とデータ管理に取り組んでいるのか、 コンテンツ管理システム刷新の過程で検討されたコンテンツ制作、アーカイブ収録管理、利活用における課題と工夫、新しい業務フローと考え方がもたらす変化について、全国紙の大規模なコンテンツ管理・アーカイブシステムの全容をお見せしながら紹介する。 ## 1. はじめに 新聞の制作工程では、多数の中間成果物が発生している。さらに近年、コンテンツの配信先や表現手段が以前にも増して多様化し、 それぞれのニーズにあわせて情報を編集加工し、より迅速にコンテンツとして提供することが強く求められるようになり、最終成果物のバリエーションも増加している。そのため、記事・写真・映像・紙面などの多種多様なデ ータを素早く参照し、円滑に利用・販売できるように、適切なコンテンツ制作・管理体制を構築・運用することが新聞社にとって中心的な命題となっている。 そこで今回の刷新では、業務フローをそのままにシステムを最新のものに置き換えるのではなく、業務フローや各部署の役割、コンテンツ管理手法を、現場から経営まで組織のそれぞれのレベルで全面的に検証・変更した上で、それにあわせた次世代システムをスクラッチで開発する方式を採用した。この業務 およびシステムの改革を毎日新聞社とフュー チャーアーキテクト社が PJ として運営し、 その新業務コンセプトを UX, UI として具体化する情報設計・デザイン担当としてサイフオン社が参画した。 新システムで毎日新聞社のコンテンツ制作およびアーカイブ管理の枠組みがどう変化したのかを具体的に示し、新聞報道アーカイブのあり方が今後どのように変化するのか概要を示す。 ## 2. 課題 本項ではシステム刷新の過程で浮かび上がった課題を、新聞制作、デジタル配信、アー カイブの 3 つに分けて整理する。 ## 2. 1 新聞制作業務における課題 毎日新聞社では従来、紙面の降版(新聞紙面の完成)時間を新聞制作の締め切り時間として意識し、降版時間から逆算して、いつまでに記事を書き上げれば良いか、いつまでに 校閲を完了させておけば良いかを判断する、降版の時間を中心にした業務フローが構築されていた (図1)。 図 1. 従来の業務フロー しかし、大量の記事、写真、図表などの出稿物が同じ締切時間に向けて集中してしまうと、校閲、紙面編集などの業務が圧迫され、 コンテンツ毎の校閲時間が減少してクオリティが低下してしまう。 さらに本社、支局、部署間の連絡や依頼は手書きのメモ・依頼票などの紙でのやり取りと、時間の制約を受ける電話や FAX 中心のコミュニケーションから抜け出せず、全体の作業量や出稿時間の見通しが悪くなり特定の時間帯に出稿が集中し、校閲や図表作成が忙殺されてしまう悪循環が発生していた。 加えて各部署の作業のピークタイムが降版前の時間に集中することで(特に朝刊業務においては)育览や高齢などの事情で多様な働き方を望んでいる社員に大きな負担なため、働き方改革が急務となっている。 ## 2.2 デジタル化と時代の変化への対応 コンテンツを一般の読者向けにデジタル配信する際には、読者が増える通勤時間帯や就寝前などの適時にコンテンツを配信する必要があるが、紙面制作を中心に業務フローを組み立てると、それらの時間帯は紙面制作の時間帯と重なってしまい的確なコンテンツ配信が行えない。たとえば朝刊制作業務は 15 時ごろの編集会議に始まり翌午前 1 時ごろまで続き、読者が集中する時間帯に重なる。 従来のシステムでは多くの記事が紙面編集を終えて降版したあとにアーカイブに収録され、それからデジタル向けに配信されるようになっている。紙面が版を重ねる度に加筆修正されて記事が確定しないための配慮だが、翌日午前にならないと記事がデジタル向けに配信できないことを意味し、一部の速報やデジタルに直接配信される記事を除くと、出稿部局が出稿した記事の多くが、デジタル配信されるまでに半日以上かかってしまう。 さらに紙面掲載記事が一度に配信されるた め、大量に記事が配信される時間帯と全く配信されない時間帯ができてしまい、コンテンツ配信を行いたいタイミングで最新の記事がないという課題を抱えている。 また紙面では、取り扱う主題が重要になると「本記」(メインとなる記事)、「サイド記事」(関連記事や解説記事) などの複数の記事で構成して、主題を分かりやすく伝えるような工夫を行うが、そのような配慮がデジタルでは柔軟に行えない。あるいは紙面が足りないことが要因で、紙面向けに編集された記事の情報量が過度に圧縮され、ニュースサイトなどで読みにくくなってしまうことが多く、 「ワンソース・マルチユース」が必ずしも最適解ではないことが認識されてきた。 ## 2. 3 アーカイブに関連した問題点 毎日新聞社は、2022 年 2 月には創刊 150 年を迎える日本で最も歴史ある日刊紙として価値のあるコンテンツを多数保有しデジタル化を進めている。 新聞社は、このアーカイブを日常業務でも使用している。たとえば校閲では過去のアー カイブを常に参照し用語の登場頻度や言い回しを確認しているし、写真記者は過去の写真の取り出しを日常的に行っている。しかし旧アーカイブ管理システムは、アーカイブへのアクセス、権利処理、整理、二次利用の各観点から問題が山積していた。 第一に API が整備されておらず、アーカイブへのアクセスは専用の Web アプリケーションを利用していたため、アーカイブの利用に必ず人が介在する必要があり、制作システムやデジタルサービスのシステムからの機械的な参照性の保証が求められていた。 次に旧システムはコンテンツの権利処理は 「二次利用可能であればその旨登録する」仕組みになっており、取材現場がコンテンツ登録時に入力しないと、改めて権利確認を行わなければならない状態に陥っていたため、情報の入力負荷を低減する必要性があった。 写真アーカイブについては朝日新聞社の報告 ${ }^{[1]}$ と同様の権利処理、書誌情報の整備にまつわる課題を毎日新聞社でも抱えている。 第三にアーカイブの再利用性という観点からは、主題管理に課題があった。同一の報道対象でも事象の経過、切り口に応じて見出し や内容は刻々と変わる。アーカイブコンテンツの再利用においては、それらを俯瞰して閲覧する用途が多いのに、様々な見出しやタグで登録されたコンテンツを集約することが困難な状態になっていた。 ## 3. 解決方針 ## 3. 1 新聞制作中心からコンテンツ中心へ の業務フロ一転換 コンテンツの品質を媒体によって最適化し、適切な時間に配信を行うため、新聞制作が中心になっていた業務フローを見直し「コンテンツの作成と利用」を分離した(図2)。 図2.新しい業務フロー 従来の業務フローでは、紙の編集と校閲が終わらないと記事を配信できない。これを改め、新聞向けの編集が始まる前にコンテンツ単体で必ず校閲を完了させ、紙面の制作状況に依存せずデジタル向けの編集配信が行えるようにデータの作成・保持方法を改めた。 これにより降版時間を締め切り時間の基準とせず、記事の執筆完了時間を起点として個別に完了時間が定まり、降版時間が近づくにつれてピークを迎えていた作業時間の圧迫が緩和され、コンテンツ毎の校閲時間を従来よりも確保できるようになった。朝刊制作業務は夜間に作業が集中していたが作業時間を前倒しでき、負担軽減の土台になっている。 コンテンツが完成時点から紙面制作、デジタル向けのコンテンツ配信に利用できるようになるため、適切な時間に配信を行うことも可能となり、具体的にはスクープの第一報がデジタル向けに流れることも増えてきた。 ## 3.2 出稿予定を起点とした業務フロ一の 導入 出稿部局が作成するコンテンツの出稿予定はこれまで限られた範囲でしか共有されていなかった。しかしコンテンツが出稿された時点でその存在を認知し各制作・配信業務を開始するのでは十分な準備ができず、後工程になるにつれて業務負荷が増してしまう。 そこでシステム上で全社的に出稿予定を共有し、出稿予定に対して紙面、デジタル配信それぞれの利用予定を作成・共有し、作業量・出稿量の事前予測を立てる形式に改めるとともに、事前予測と実際の結果を分析し、業務効率とコンテンツの質の両面で絶えず改善するサイクル活動の導入を目指している。 出稿予定・利用予定の共有は、本社、支局、部署間のコミュニケーションツールとしての利用も狙いにあり、デジタル配信の利用予定があるなら早く仕上げよう、といった現場のモチベーションにつなげている。毎日新聞社ではあわせて、出稿の予定時刻を編集会議で確認し、出稿の前倒しを促進する改善活動を行っている。 また、デジタルで先出しした記事の反応が良ければ紙面での取り扱いを見直すなど、それまで「紙が出るまで反応が分からない」状態だったのが「デジタルで先に読者に問う」 ことが可能になってきている。 ## 3. 3 アーカイブの利用性向上 アーカイブコンテンツの利用性向上を図り、特に他のシステムからも容易に利用できるよう Web API アクセスを可能にし、利用可能性を増やした。コンテンツ管理システムからア一カイブシステムを参照することができるようになった他、システムから機械的にアクセスできるようになったことでストックフォトの連携事業者が営業時間外にも API 経由で検索をかけられるようになり、外販時のボトルネックが緩和された。 権利処理については基本的には利用可とし 「利用不可の場合に制作現場が入力する」方式に改めたことで入力・確認コストを低減させた。 ## 4. コンテンツ管理の枠組み 本項では前項で解説した業務フローにマッチ寸るよう構築したシステムにおけるコンテンツ管理の枠組みを紹介する。 ## 4. 1 コンテンツの管理体系 3.1 節で述べたフロー実現のため、コンテ ンツをオリジナル(出稿側)と利用側(紙およびデジタル)で分割管理し、利用側のコンテンツはオリジナルコンテンツから派生して作成する方式を採用した。オリジナルは完成後も変更が可能で、変更があった場合は、即座に派生した利用側に通知が入る。派生側コンテンツは変更内容を差分確認して取り込みの是非を決定できる。この仕組みをシステムで自動化することによってオリジナルコンテンツの作成者は作成に集中することができ、利用者側は利用開始通知、利用開始後の変更通知を即時に受け取ることができるため、素早いコンテンツ配信が行える。 ## 4. 2 コンテンツ間のバージョン管理 前節で述べたオリジナルコンテンツ、利用側コンテンツはそれぞれが独立して更新されていく。その変更の履歴をすべて保持することで、オリジナルコンテンツの変更履歴、利用側コンテンツの編集及びオリジナルコンテンツの取り込み履歴を確認できる。誤った更新を行った場合は履歴から即座にコンテンツの復元が可能になっている。 ## 4. 3 アーカイブへの登録 永年保持が前提となるアーカイブコンテンツのデータストアは記事、写真、図表、動画などの種別によって管理項目が違うことが前提にあり、さらに時代による変動にも対応してデータを保持し続けなければならない。そこでデータストアでは作成側、利用側とアー カイブという保持体系のみを定義し、特定の管理項目に特化した処理は一切定義せず、どのような管理項目や変化にも対応できるよう汎用処理のみでデータ管理が行えるよう構築されている。なおアーカイブ対象になるのは紙面掲載したコンテンツ、デジタル配信したコンテンツである。再利用性が高い写真については紙面掲載やデジタル配信されなくても、写真記者デスクでアーカイブ化が決定される。 また新システムでは、主題管理用途としてコンテンツにテーマという大きなくくりの主題を付与し、同一の報道対象を俯瞰して集約させる運用を取り入れている。 ## 5. おわりに 出稿されたコンテンツを各媒体向けに加工し適切なタイミングで配信する体制が整ったことで、表現のフォーマットや更新のタイミングが今後ますます多様化し、大量の派生が生まれていくものと想定されている。 加えて、それまでの「古い記事より新しい記事を出す」意識を見直し、過去のアーカイブも現在のコンテンツも並列に捉えて、必要であれば読者に提供する運用方針を導入し、 コンテンツとアーカイブに対する捉え方を変化させる試みも始めている。「どの時点でコンテンツを確定させるのか」「アーカイブの再利用性と接続可能性」を変えたことで、アーカイブやコンテンツの利活用スピード、提供の幅は大きく変わりつつある。 今後の課題は選挙やスポーツの「タイムライン (速報)」やデータビジュアライゼーション、AI スピーカー向けの配信コンテンツやライブコンテンツのように、コンテンツ管理システムを通さない、いわゆる「ボーンデジタル」との関連付けと保存管理、中間成果物などの保存管理の仕組みが挙げられる。 また報道では前述の通り時間経過とともに報道対象の主題が大きく変わっていく。これらの主題管理や分類、統制語彙、 $\mathrm{AI}$ 等による再利用可能性の向上も課題である。 またアーカイブやドキュメンテーションの 国際標準化対応等は手付かずのままであり、 ビジネスモデル上の整合性や権利保護の枠組みを整理しながら公共に開かれた新聞社のオ ープンデータ戦略のあり方を模索していくことが長期的な課題となっている。 ## 参考文献 [1] 吉田耕一郎. 特集,コミュニティ・アーカイブ: 朝日新聞フォトアーカイブ - 写真のデジタル化と外販事業について一 . デジタルアーカイブ学会誌. 2018, Vol. 2, No.4, p. 330336. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B14] 長期的なデジタル文化資源運用のためのシステム マイグレーション・フローチャートの構築に向けて: 森正洋デザインアーカイブを例として ○須之内元洋 1) 1) 札幌市立大学デザイン学部,〒005-0864 札幌市南区芸術の森一丁目 E-mail: sunouchi@media.scu.ac.jp ## Study for Constructing System-migration Flowcharts for Long-lasting Management of Digital Cultural Assets: Case Study of Masahiro Mori Design Archive SUNOUCHI Motohiro1) 1) Sapporo City University, Geijutsu-no-mori 1, Minami-ku, Sapporo 005-0864, JAPAN ## 【発表概要】 文化資源の蓄積と永続的継承を意図して構築されるデジタルアーカイブにおいて、その長期的ケアを具体的に計画し実践することは、運用者の倫理的な義務である。しかし、様々な要因によって、運用中のアーカイブの停止や規模縮小、意図しないデータ消失といった問題が顕在化している。特に、コミュニティアーカイブのような中小規模のデジタルアーカイブにとっては、こうした問題に対する論理的対応手順の検討と事前準備を行っておくことが、喫緊の課題となってきている。運用開始から 11 年となる森正洋デザインアーカイブを例として、システムマイグレー ション・フローチャートの構築を試み、その考察を行った。 ## 1. はじめに デジタルアーカイブの長期的ケアを具体的に計画し実践することは、運用者の倫理的な義務である。20 世紀末に登場したデジタルメディア環境は、私達の生活や文化の営みの記憶を、私達自身の手で記録し、アーカイブ化することを可能にした。しかし、デジタルア一カイブの永続性とアクセス性の担保を、社会全体としてどのように実現していくか、また、どのような技術的裏付けによって実現できるのかという課題に対しては、未だ最終的な答えは出ていない。こうした状況下では、以下のような様々な要因によって、大切に築いてきたアーカイブが運用停止や規模縮小に追い込まれたり、意図しない消失事故が発生したりすることが想定される。 ・ メディア環境の変遷によるユーザーインタフェースやシステムの不適合 - アーカイブシステムの脆弱性の露呈 - アーカイブ運用資金の枯渴、助成金の切れ目 ・ アーカイブシステムを開発・構築した人材の失跡 - 運用担当者の引継ぎ不備、システム運用やメンテナンス契約に対する不理解 たまたま準備をしていなかったり、適切な方法が思いつかなかったりという理由によって、アーカイブが一瞬にして消失してしまうリスクは小さくない。システムマイグレーシヨン・フローチャートを整備し、定期的にリスクとその対策をチェックし、事前の準備を行っておくことで、より安定的なデジタル文化資源の運用が実現できる。 ## 2. アーカイブシステムのマイグレーション ## 2. 1 マイグレーションの目的と基本要件 OAIS 参照モデル(Reference Model for an Open Archival Information System) [1] は、 デジタル化資産の長期運用に関する指針であり、ISO 14721:2012 として国際標準規格化されている。OAIS 参照モデルには、責任あるデジタル化資産の長期運用に必要とされる 6 つの基本的サービス・機能要素が定義さ れ、OAIS Functional Model として提示されている(図 1)。OAIS Functional Model の機能要素の一つであるアーカイブ保全計画 (Preservation Planning) は、以下の各機能として定義されている。 - OAIS の状況変化に応じて、システム保全戦略の適切な改訂を提示すること。 - OAIS の永続性とアクセス性に影響を与える可能性のある、外部環境の変化及びリスクを監視すること。例えば、ストレ ージやアクセス技術の革新、アーカイブ利用コミュニティの変化や、コミュニテイがアーカイブに期待する内容の変化など。 -上述の変化に対応するため、OAIS のポリシー及び運用手順の更新勧告を作成すること。 図 1. OAIS Functional Model (OAIS 参照モデルより作成) アーカイブシステムにおけるマイグレーションとは、絶えず進化し続けるアーカイブ利用者の関心やニーズ、メディアテクノロジー を監視し、システムの永続性とアクセス性を保護するための具体的計画作成とその実行のことであるといえる。また、このことは、ア一カイブの運用責任の大きな柱である。 例えば、システムの永続性とアクセス性を保護するための具体的要件として、「デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡 会・実務者協議会」によるガイドライン [2] は以下の各要件を提示している。 - デジタル化資産とメタデータの運用・保存のためには、特定の機器や製品(システム、ソフトウェア、記録媒体)等に依存せず、仕様等が公開され、かつ広く普及している (国際標準等で定められた) フォーマットを採用すること。 - 数年毎のストレージ装置、各種デバイス、システムのリプレースに必要な経費、メンテナンスに従事する人員確保など、事前に運用コストを見込んでおくこと。 - メタデータ項目について、各項目の意味が将来的に把握できるようにドキュメントを整備・維持すること。 ## 2.2 中小規模のアーカイブ現場における システムマイグレーション 2. 1 で示したマイグレーションの考え方は、 アーカイブの永続性とアクセス性を理想的な形で保証するためのモデルであるが、あくまで概念的な定義である。これを様々なアーカイブの現場に適用し、実践するためには、そのための方法論を別途開発し活用する必要があるだろう。特に、コミュニティアーカイブ等の中小規模のデジタルアーカイブにおいては、予算や人員の制約があることも多く、最善努力による運用が常態化していると想像される。そうした現場でも実践可能なマイグレ一ションの方法論が求められている。本発表では、運用開始から 11 年が経過した森正洋デザインアーカイブを例として、中小規模のデジタルアーカイブに適用可能なマイグレーション・フローチャートを提案する。 ## 3. 森正洋デザインアーカイブの成り立ちと あらまし 森正洋(1927-2005)は、戦後日本の食卓と生活をみつめ、半世紀以上にわたって食器づくりに心血を注いだ陶磁器デザイナーである。初期の代表作「G 型しょうゆさし」 (1958)をはじめとして、生涯で 110 を超える G マーク選定作品(グッドデザイン賞)がある。森はプロダクト・デザインの社会性をいち早く認識し、自身のデザインポリシーに沿って一貫した提案を行なってきた人物である。 2005 年 11 月に森が逝去した後、生前に森と交流のあった編集者、研究・教育者、デザイナーらを構成メンバーとした合同会社森正洋デザイン研究所が設立され、デザイナーの権 利の保全と運用、ならびに森正洋デザインに関するアーカイブの構築と運用が開始された。佐賀県嬉野市に現存する森の自宅兼アトリエには、作品や試作品、スケッチ、ノート、メモランダム、資料写真、収集品等の膨大な資料が残されており、そうした資料の整理とア一カイブ化を通じて、森正洋デザインの思想の伝承が試みられている。 森正洋デザインアーカイブの構築にあたっては、アーカイブの専門家ではない人々が主体的に構築するデジタル・アーカイブのモデルとなることを目指した。例えば、原則として汎用的に入手可能な機器やソフトウェアのみを利用し、アーカイブス学の技法を参照して編集・作業ルールを定めるなどの方針を採っている。一方で、幅広いやきものの知識、現地のやきもの文化、森との深い親交経験を共有しているメンバーらが、直接アーカイブ構築に携わることによって、より精度高く細やかな資料整理やメタデータの付与、情報編集を実現している点が特徴である。 ## 4. 森正洋デザインアーカイブにおけるシス テムマイグレーションの検討 図 2 は、森正洋デザインアーカイブのシステムマイグレーションを検討する過程において帰納的に導出されたシステムマイグレーシヨン・フローチャートの試案である。デジタル・アーカイブの現場において、システムマイグレーションの実施判断を行うために必要な情報を、なるべく自然な流れで獲得・整理可能な手順を示している。 表 1 は、フローチャート 1 のプロセスにおいて作成された「デジタル化資産種別ごとのシステム・サービス・技術リスト」である。表 2 は、フローチャート 2 のプロセスにおいて作成された「システム・サービス・技術ごとの変化要因とリスクの検討リスト」である。表 1 中のアスタリスク付き番号は、表 2 の各項目行ナンバーに対応している。表 3 は、フローチャート 3 のプロセスにおいて作成された「マイグレーション実施候補リスト」である。表 3 については、各項目の予算見積もり 図 2. システムマイグレーション・フロー チャートの試案 を行った上で、最終的なマイグレーション実施判断を行うことになるであろう。 ## 5. 考察と展望 デジタルアーカイブのシステムマイグレー ションを検討する際の実践的方法論としてフローチャートの試案を提示し、森正洋デザインアーカイブに適用した経過を示した。今回提示したマイグレーション検討プロセスを定期的に実施することによって、アーカイブシステムの永続性とアクセス性の向上が期待さ 表 1. デジタル化資産種別ごとのシステム・サービス・技術リスト 表 2. システム・サービス・技術ごとの変化要因とリスクの検討リスト 表 3.マイグレーション実施候補リスト れる。今後は、以下のような検証を通じ、フローチャートの信頼性と応用性を向上させることが必要と考える。 -フローチャート中の各プロセスの詳細化 - マイグレーション実施候補リストの妥当性の検証 $\cdot$ マイグレーション検討プロセスの適正な頻度についての検討 - 他のデジタル・アーカイブヘフローチャ一トを適用する際の適合性検証 ## 参考文献 [1] Brian Lavoie. The Open Archival Information System (OAIS) Reference Model: Introductory Guide (2nd Edition). 2014/10 [2] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. デジタルアー カイブの構築・共有・活用ガイドライン. 2017/4.https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tite ki2/digitalarchive_kyougikai/guideline.pdf (参照日 2019-01-10) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B13]最新映像機器によるデジタルアーカイブ: 〜 360 度カメラを利用した実写 VR コンテンツ〜 ○河道威 1 1) 古賀崇朗 1 ), 永渓晃二 1 1), 米満潔 1 1) 1) 佐賀大学全学教育機構, $\bar{\top} 840-8502$ 佐賀県佐賀市本庄町 1 番地 E-mail:d5107@cc.saga-u.ac.jp ## Digital archive using latest video equipment : VR contents using 360 degree camera KAWAMICHI Takeshi ${ }^{1}$, KOGA Takaaki $^{1}$, NAGATANI Kouji ${ }^{11}$, YONEMITSU Kiyoshi ${ }^{1}$ ) 1) Saga University Organization for General Education, 1 Honjyo-cho, Saga-City, 840-8502 Japan ## 【発表概要】 佐賀大学クリエイティブ・ラーニングセンターでは、これまでに佐賀県内の伝統工芸や伝承芸能などの歴史的・文化的な資産や資料を映像として記録し、アーカイブコンテンツを制作している。更に、それらは本学の学修教材として利用したり、「佐賀デジタルミュージアム」において公開したりしている。それらの映像の撮影には、2010 年度ごろまでは DV カメラ(SD 画質)、 2011 年度からは HD 画質のカメラ、2017 年度からは 4K カメラを使用してきた。2018 年度からは、360 度全方位を撮影できる業務用の 360 度カメラを導入し、360 度実写 VR コンテンツの制作にも取り組んでいる。そして、360 度カメラの全方位を動画や写真で撮影できる利点を生かした映像アーカイブにも活用している。 本稿では、 360 度カメラによるアーカイブコンテンツ制作の現状と課題について報告する。 ## 1. はじめに 近年の映像収録機器の発展、特に 360 度全方位を撮影することができる 360 度カメラの発達は目覚ましいものがあり、多種多様な機種が販売されている。また、映像編集ソフトにおいても、360度 VR (Virtual Reality) 映像への対応が進んでいる。更に、「YouTube」 などの動画配信サイトや SNS(Social Networking Service)においても、360 度の画像や動画の視聴への対応が進んでいる。 佐賀大学クリエイティブ・ラーニングセン 2018 年度より業務用の 360 度カメラ[2](以降、「360 度カメラ」と記す。)を導入し、360 度映像の撮影と実写 VR 映像コンテンツの制作に取り組み、主に、佐賀県内の名所や祭り、 イベント等の映像を収録している。 ## 2. コンテンツの制作 2. 1 制作手順 360 度カメラを使用した実写 VR コンテンツの制作手順は、(1)カメラでの撮影、(2)ステイッチング、(3)編集、(4)視聴デバイスへのアウトプット、である。 ## 2. 1.1 カメラでの撮影 360 度カメラを撮影対象空間の中央、もしくは被写体が最も良く映る場所に設置し撮影する。撮影には、スマートフォンの専用アプリケーションを使用しカメラの操作を行う。操作用のスマートフォンを VR ゴーグルに装着することで、カメラからの映像を見ることができるので、実際の映像を確認しながら撮影することができる。 360 度カメラでは、撮影時の解像度を、最大 $8 \mathrm{~K}$ の高解像度で収録することができる。しかし、高解像度で撮影した映像はデータ量が大きく、編集の際に高スペックの編集機器が必要となる。更に、視聴に使用するデバイスも高解像度に対応しているものが少ないため、現時点では、 $6 \mathrm{~K}$ 解像度で撮影し、 $2.5 \mathrm{~K}$ 解像度で出力している。 また、撮影の際には、平面映像と $3 \mathrm{D}$ 映像のどちらかを選択することができ、3D で撮影しておくと、視聴の際に立体的な映像を視聴することが出来る。撮影対象が広い空間の場合は平面映像で、立体感を出したい場合は、 $3 \mathrm{D}$ 映像で撮影するようにしている。撮影の様子を図 1 と図 2 に示す。 図 1 . 撮影の様子 図 2. 撮影の様子 ## 2. 1.2 スティッチング 360 度カメラで撮影した映像は、編集作業の前に「スティッチング」という作業が必要となる。 360 度カメラには、球体をした本体の側面に 6 つレンズが付いており、周囲の映像を 6 分割して撮影している。「スティッチング」とは、これらの 6 つのカメラで撮影した映像を一つに繋ぎ合わせ、パノラマ映像を作り出す作業である。スティッチング作業には、専用のスティッチングソフトを使用した。スティッチング画面を図 3 に示す。 図 3.スティッチング画面 スティッチングが完了したデータは、任意の解像度を指定し H264 形式の映像データで書き出すことができる。 ## 2. 1.3 編集 スティッチングが完了し、書き出した映像データを映像編集ソフトで編集を行う。編集には、Adobe 社の “Premiere Pro CC”を使用した。“Premiere Pro CC” は、VR 映像の編集にも対応しており、画面上で 360 度の映像を確認しながら編集を行うことができる。 また、VR 映像に対応したエフェクトも多数設定されている。更に、ヘッドマウントディスプレイと、それに連動する編集ソフトを導入していれば、VR ゴーグルで実際の視聴画面を見ながら編集を行うことができる。編集においては、場面ごとのカット割りや繋ぎ、 タイトル挿入、 $\mathrm{SE}$ (Sound Effects) 挿入など、通常の映像編集と同じ作業を行う。編集画面を図 4 に、編集環境を図 5 に示す。 図 4.編集画面 図 5. 編集環境 編集が完了したら映像データの書き出しを行う。“Premiere Pro CC" は、VR 映像の書き出しにも対応しており、平面映像に加え $3 \mathrm{D}$映像に対応した「トップアンドボトム」形式や「サイドバイサイド」形式でも書き出すことができる。書き出した映像データを図 6 に示す。 図 6. 書き出した映像データ ## 2. 1.4 視聴デバイスへのアウトプット 書き出した映像データは、スマートフォン端末に移行し、VR コンテンツ視聴用の専用アプリと VR ゴーグルを利用して視聴できるようにした。スマートフォン端末と VR ゴー グルを利用することで、比較的手軽に、どこででも VR コンテンツを視聴することができる。使用したスマートフォン端末は、ASUS 社の “Zenfone AR” で、視聴アプリは、 “Insta360 Player” である。また、動画配信サイト「YouTube」にもアップロードしている。「YouTube」は、360 度映像の視聴に対応しており、画面上でマウス操作することで 360 度映像を視聴できるほか、スマートフォンの YouTube アプリと VR ゴーグルを使用することで、VR コンテンツを視聴することができる。視聴デバイスを図 7 に示す。 図 7. 視聴デバイス ## 2.2 制作コンテンツ 2018 年度で CLC が制作した 360 度実写 VR コンテンツの一覧を表 1 に示す。 表 1 . 制作コンテンツ一覧 佐賀県内の名所等の中で、広い空間が見渡せる場所や、対象物の迫力が伝わりやすい場所など、360 度映像に適していると思われる場所や空間を選び撮影した。 また、小城市内で行われた 2 つの祭りの様子も撮影している。これは、小城市の情報発信事業の一環として撮影したもので、より祭りの雰囲気や盛り上がりが伝わるであろうと考え撮影した。撮影した映像は、編集の際に BGM やナレーション、説明テロップなどを付け、より分かりやすい VR コンテンツを目指した。 ## 3. これからの課題 実際に 360 度実写 VR コンテンツを制作してみると、いくつかの課題が浮かび上がってきた。 1 つ目の課題は、「スティッチング精度」についてである。撮影の際に、360 度カメラと対象物の距離が近すぎると、スティッチングの際に、繋ぎ目でズレが生じたり、映像がぼやけたりする。そのため、カメラと対象物との間には、少なくとも、 $1 \mathrm{~m}$ の距離を開けたほうが良いようである。そして、撮影前のカメラの『キャリブレーション (較正)』という作業を確実に行うことが、スティッチングの精度向上に繋がるようである。 2 つ目の課題は、「VR 酔い」である。視差を利用した VR コンテンツにおいては、(人にもよるが)画面に急激な動きがある映像ほど VR 酔いを起こしやすい。VR 酔いは、視聴者の実際の体の動きや感覚と VR 映像中の視点 の動きの相違によって起こるため、なるべく固定映像を使用し、VR 酔いを起こす部分を減らす工夫が必要である。 3 つ目の課題は、没入感をいかに得られる映像にするかである。撮影の際には、視聴者が実際にその空間に立った時の目線を意識し、 カメラの設置場所や高さを調整し撮影する。 また、カメラを固定した映像だけではなく、移動撮影を取り入れると、視聴者がより没入感を感じられるのではないかと考える。ただし、これは「VR 酔い」の課題と相反することでもあるので、急激な視線の移動は避けるなど、撮影方法に工夫が必要である。更に、映像に加えて音声面での工夫が必要であると感じた。現実の空間と同じように、360 度全方向から音が聞こえる立体音響 (Ambisonics) に対応した VR コンテンツであれば、より没入感を得ることができる。今回使用した 360 度カメラは、同時に 4 方向の音声を収録でき、“Premiere Pro CC”は Ambisonics での編集に対応している[3]。つまり、撮影時に音声まで考慮することで、視聴者がより没入感を得られるような VR コンテンツの制作も可能である。 現段階では、自然や祭りの風景など比較的開かれている空間を撮影したものがほとんどである。今後は、歴史的建築物や遺跡・史跡等を収録し、普段は目にすることができない空間を、高い没入感で視聴できる VR コンテンツの制作を目指したい。 ## 4. おわりに デジタルアーカイブにおいて、360 度カメラを利用し VR コンテンツを制作することは、撮影の段階においては比較的容易にできるようになってきている。機材の発達により、 360 度カメラひとつあれば、高解像度で全方位の写真や映像を収録することができる。例 えば、長い年月を経た老朽化や風化により、崩壊が危ぶまれる文化財等や、普段は立ち入ることができない空間を撮影してアーカイブ化したり、VR コンテンツとしたりすることで、一般に提供し見てもらうこともできる。 また、360 度全方位を画像として記録する場合、通常のカメラであれば、アングルを変えながら何枚もの写真を撮る必要がある。しかし、360 度カメラであれば、 1 枚撮影するだけで全体を写真に収めることができる。将来的に、膨大になっていくデジタルアーカイブのデータ容量を減らすことにも繋がるのではないかと考える。 360 度カメラの撮影技術は日進月歩で発達し、 $8 \mathrm{~K}$ や $12 \mathrm{~K}$ の高解像度でも撮影できるようになっている。視聴デバイスの面でも、今後、高解像度で視聴できる機材の技術発展が見込まれる。これからは、デジタルアーカイブにおいても、歴史的な文化財や資料等を後世に残すために、このような最新技術をどんどん駆使することが必要になるであろう。 CLC では、これからも最新技術を大いに活用し、デジタルアーカイブを進めていきたい。 ## 参考文献 [1] 佐賀大学クリエイティブ・ラーニングセンター https://www.clc.saga-u.ac.jp/ (参照日 2019/1/18). [2] Shenzhen Arashi Vision 社製の "Insta360 Pro" https://www.insta360.com/product/insta360- pro/ (参照日 2019/1/18). [3]VR360.work https://vr360.work/workflow/ambisonics/ (参照日 2019/1/18). 本稿に記載されている社名および商品名は、 それぞれ各社が商標または登録商標として使用している場合があります。 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B12] IIIF とオープンデータを用いた『捃拾帖』内容検索シ ステムの開発 中村覚 11 1)東京大学情報基盤センター, 〒113 -8658 東京都文京区弥生 2-11-16 E-mail:nakamura@mail.u-tokyo.ac.jp ## Development of Content Search System of "Kunshujo" with IIIF and Open Data NAKAMURA Satoru 1 ) 1) The University of Tokyo, 2-11-16 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8658 JAPAN ## 【発表概要】 本研究では、『捃拾帖』の内容検索を可能とするシステムの開発事例について述べる。『捃拾帖』とは、明治時代の博物学者である田中芳男が収集した、幕末から大正時代にかけてのパンフレットや商品ラベルなどを貼り込んだ膨大なスクラップブックである。東京大学総合図書館はこれらの画像を冊単位で公開しているが、貼り込まれた資料単位での検索が望まれていた。この課題に対して、本研究では IIIF のアノテーション機能を利用し、各頁の貼り込み資料単位で画像を切り出し、検索可能なシステムを開発した。また、東京大学史料編纂所の「摺物データベー ス」が提供する、貼り込み資料単位のメタデータと組み合わせることで、内容情報に基づく検索を可能としている。本研究はその他、複数の機関が提供する各種リソース (III・・ープンデー 夕)を組み合わせて利用している点に特徴があり、デジタルアーカイブの利活用を検討する上での一事例として機能することを期待する。 ## 1. はじめに 東京大学では 2017 年 4 月より、学内の多様な学術資産のデジタル化と利活用を促進することを目的とした「東京大学デジタルアー カイブズ構築事業」を実施している。具体的には、学内公募に基づく予算配分による学術資産のデジタル化の促進に加え、デジタルア一カイブシステムの構築や運用が困難な部局に対して、学術資産の公開を支援するホステイングサービス「東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ」の構築・運用を行っている。本サービスは、学術資産の公開支援だけでなく、画像共有のための国際規格として近年導入が進む IIIF (International Image Interoperability Framework)に準拠した画像公開を行うなど、資料の利活用支援を目的としている。さらに、利活用支援の一環として、学術資産のオープンデータ化を推進している。例えば東京大学総合図書館では、2018 年 6 月に利用規約を改定し、著作権の保護対象ではない公開画像を CC BY 相当の条件で利用可能としている。本事業の取り組みにおいて公開された学術資産の一つに、「田中芳男・博物学コレクション」[1]がある。田中芳男(1838 - 1916)は幕末から大正期にかけて活躍した博物学者、そして博覧会行政を主導した明治政府の実務官僚である。彼が青年期から晚年にかけて収集した資料をスクラップブックとしたものが、『捃拾帖』(93 冊)、『外国捃拾帖』(5 冊) などである。そして、これらをはじめとする画像を冊単位で公開するものが、「田中芳男・博物学コレクション」である。 上記システムにより、『捃拾帖』をインター ネット上で閲覧可能になったが、スクラップブックの各頁に貼り込まれた資料単位での検索ができない点が課題となっていた。この課題に対して、本研究では、『捃拾帖』の内容細目を検索可能なシステムの開発を目的とする。具体的には、IIIF 準拠で公開されている利点を活かした画像の部分切り出しや、オープンソース・オープンデータとして公開されている各種ツールやデータを利用した可視化システムを構築する。このように、複数の機関が提供する各種リソース(IIIF・オープンデー タ)を組み合わせて利用することで、デジタルアーカイブの利活用を検討する上での一事例を示すことも本研究の目的である。本研究におけるシステム開発フローを図 1 に示す。以下、「2. データ作成」と「3. アプリケーション開発」に分けて説明する。 図 1. システム開発フロー ## 2. データ作成 ここでは、図 2 に示すデータを作成する手順について述べる。本プロセスは「2.1. 目録データの RDF 化」と「2.2. アノテーションによる貼り込み資料の識別」の 2 つのサブプロセスから構成される。以下、それぞれについて説明する。 図 2. 作成する RDF データの例 ## 2.1 目録データの RDF 化 東京大学史料編纂所が 1999 年 4 月 1 日に公開した「㕷物データベース」[2]では、『捃拾帖』の第 $1 \sim 15$ 冊について、貼り込み資料単位の目録データ(表題や年月日、地名など)が公開されている。本プロセスでは、この目録データをべースとして、内容細目に関するデータを作成する。具体的には、各内容細目のレコードに URI を与え、表題や年月日に関するデータを RDF によって記述する。 RDF 表現にあたっては、語彙として Dublin Core 等を用いた。特に地名については、 DBpedia Japanese が提供する URI を与えた。 これにより、DBpedia Japanese が提供するサムネイル (foaf:thumbnail) や概要説明 (rdfs:comment)が利用可能となる。さらに、人間文化研究機構が公開する「歴史地名デー 夕」を利用し、地名の属性区分が「行政地名」である歴史地名(ex. 尾張国)に関する緯度・経度の情報を与えた。語彙としては Geo vocabulary を用いた。 本プロセスを通じて、 2,645 件の目録デー タを作成した。 ## 2. 2 アノテーションによる貼り込み資料の 識別 本プロセスでは、「田中芳男・博物学コレクション」で公開されている『捃拾帖』の IIIF 画像データを対象として、貼り込久資料の識別を行う。具体的には、各画像中の貼り込み資料を矩形選択し、 2.1 で定めた各資料汇関する資料 ID(dcterms:identifier)をアノテ ーションとして付与する。本作業は Omeka Classic とプラグイン「IIIF Toolkit」を用いて構築したシステムを利用した。「田中芳男・博物学コレクション」で公開されている IIIF マニフェストをシステムにインポートすることで、Mirador を用いた当該資料に対するアノテーションの付与および保存が可能となる。本システムはインターネットを介してアクセス可能なため、複数人が並行してアノテーション付与作業を実施した。 本プロセスを通じて、『捃拾帖』 15 冊、 826 コマを対象として、計 2,713 件のアノテーシヨンを付与した。 このアノテーションに関する情報を 2.1 で作成した目録デー夕に紐付けることにより、貼り込攵資料単位での目録お上び画像デー夕が関連付けられる。このとき、中村ら [4]の手法を参考として、IIIF マニフェストを Curation API に基づくキュレーションリストに変換した上で、これらの関連付けを行った。 ## 3. アプリケーション開発 本プロセスでは、 2 で作成したデータを用いて、検索や可視化機能を提供するアプリケ ーション開発を行う。 本研究では、検索対象とするデータ数が 3,000 件弱と小規模な点、および開発したアプリケーションの持続可能性を考慮し、静的サイトとして構築した。静的サイトジェネレ一タである Jekyll を用いてアプリケーションを開発し、GitHub が提供している静的サイトのホスティングサービス GitHub Pages を用いてアプリケーションを公開している。 なお、アプリケーションにおけるデータ利用にあたり、2 で作成した RDF データを JSON-LD 形式で格納している。 ## 3. 1 検索機能 開発したアプリケーションの検索画面例を図 3 に示す。貼り込み資料が一覧表示され、 サムネイル画像または右端のアイコンをクリックすることにより、IIIF Curation Player[5]を用いて拡大画像を閲覧することができる。また、各種項目での並び替え、検索語による絞り込み機能などを提供する。さらに、各資料の行の左端に配置されたチェックボックスを利用し、チェックされた資料を同一画面上で表示する機能も提供する。この比較機能については、Mirador を用いている。本検索機能を用いることにより、『捃拾帖』 の第 $1 \sim 15$ 冊について、貼り込み資料の単位で検索、閲覧できることを確認した。 図 3. 検索画面の例 ## 3. 2 その他の可視化機能 検索機能に加え、「地図で見る」「カテゴリで見る」「サムネイルで見る」「年表で見る」 など、多様な観点で資料に関する情報を可視化する機能を有する。 例えば「地図で見る」の画面例を図 4 に示す。 2.1 で述べた地名毎にマーカーが表示され、当該値の資料件数をマーカー上に表示している。マーカーをクリックすると、 DBpedia が提供するサムネイル画像と概要説明が表示される。さらに検索ボタンをクリックすることにより、当該地の資料の一覧を表示する。「歴史地名データ」の緯度・経度情報を利用することにより、本機能における地図上へのマッピングが可能となっている。 図 4.「地図で見る」の画面例 ## 4. 考察 ## 4. 1 オープンデータの利活用 本研究の特徴の 1 つは、複数の異なる機関が提供・公開するデータを組み合わせてアプリケーションを開発している点である。近年、文化・学術施設が提供するデジタルアーカイブにおけるオープンデータ化が進んでいる。二次利用可能なデータが増加することにより、本研究で例示したような新しいサービス、システムの提供が、これまで以上に促進すると考える。このようなオープンデータの利点や利活用例を示す一事例として、本研究が参考になれば幸いである。 ## 4. 2 オ一プンソースソフトウェアの利用 本研究のアプリケーション開発にあたっては、オープンデータだけでなく、様々なオー プンソースソフトウェアを利用している。デ一夕作成・画像の切り出しはOmeka、画像の閲覧ビューアは IIIF Curation Player を利用できるなど、新規サービス・ソフトウェアの開発コストも低減しつつある。オープンソー スソフトウェアを積極的に活用かつ開発することにより、デジタルアーカイブの利活用に寄与することができると考える。 ## 5. 結論 本研究では、『捃拾帖』の内容検索を可能とするシステムの開発事例について述べた。具体的には IIIF のアノテーション機能を利用し、『捃拾帖』の各頁の貼り込み資料単位で画像を切り出し、検索可能なシステムを開発した。 また、複数の機関が提供する各種オープンデ一タを用いたマッシュアップの事例を示した。 今後の展望としては、機械学習を利用した貼り込み資料の自動切り出しを検討している。本研究において人手で作成した切り出し画像を教師データとして利用し、『捃拾帖』の残り 86 冊への適用や、国立国会図書館が所蔵する 『張交帖』等の異なるシリーズの資料への適用を検討する。 ## 謝辞 本研究を進めるにあたり、電気通信大学の佐藤賢一先生、東京大学史料編纂所 - 同附属画像史料解析センター、および附属図書館と情報システム部の関係者の方々から多大なご協力を賜りました。ここに感謝いたします。 ## 参考文献 [1]. 東京大学デジタルアーカイブ構築事業.田中芳男・博物学コレクション. https://i iif.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/repo/s/tanaka/pag e/home(参照日 2019/1/6). [2]. 東京大学史料編纂所. 㕷物データベース. https://wwwap.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/shi pscontroller(参照日 2019/1/6). [3]. 人間文化研究機構. 歴史地名データ. http s://www.nihu.jp/ja/publication/source_m ap (参照日 2019/1/6). [4]. 中村覚, 成田健太郎, 永井正勝. Linked Data 化した典拠データと IIIFを用いた法帖の異版比較支援システムの開発. じんもんこん 2018 論文集. $2018,2018, p$. 297-302. [5]. 北本朝展, 本間淳, Tarek SAIER. IIIF Curation Platform : 利用者主導の画像共有を支援するオープンな次世代 IIIF 基盤. じんもんこん 2018 論文集. 2018,20 18, p.327-334. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B11]グローバルなテーマ志向デジタルアーカイブの構築に向けて: IIIF の推進とその活用手法について ○永崎研宣 ${ }^{1)}$ 1) 一般財団法人人文情報学研究所, 〒113-0033 東京都文京区本郷 5-26-4-11F E-mail:nagasaki@dhii.jp ## Toward a Global Thematic Digital Collection: Through promotion and Utilization of IIIF Kiyonori Nagasaki1) 1) International Institute for Digital Humanities, 5-26-4, Hongo, Bunkyo, Tokyo, Japan ## 【発表概要】 現在、世界中のデジタルアーカイブ公開機関から多くのコレクションが公開されている。しかしながら、「コレクション」への興味を持つ人はそれほど多いわけではない。むしろ、自らの関心のあるテーマに沿って各地のコレクション中の個別の資料を横断して閲覧したり注記したりすることを望む利用者への対応が課題であり、IIIF はそれを解決し得るものである。そこで、筆者らは IIIF の採用を推進すべく各地で活動を行ってきた。国際規格の普及活動は今後も必要になることが予想されるため、情報共有のためにこの活動について報告する。さらに、IIIF のグローバルな普及から得られる公開者・利用者双方のメリットについて事例とともに紹介する。 ## 1. はじめに IIIF (International Image Interoperability Framework)は、この種の規格としては驚くような速さで国際的に普及し、国内でも徐々に採用が広がりつつある。とりわけ、2018 年に入り国立国会図書館(以下、NDL)デジタルコレクションにおいて IIIF Image API 及び Presentation API が実装され、人文学オープンデータ共同利用センター(以下、CODH) より IIIF 活用の枠組みとして IIIF Curation Platform が提案されその実装が公開されたことは、日本でも IIIF の取り組みが本格化してきていることの証左とみてよいだろう。菊池信彦氏による「日本の図書館等における IIIF 対応デジタルアーカイブリスト」11によれば採用サイトは 30 件を数え、IIIF 協会への日本からの加盟機関も 5 機関となっている。 IIIF は、これまでの世界中の文化機関やそれに関わる IT エンジニア達の経験が活かされ、導入が容易になるような仕掛けが様々に用意されており、今や、デジタルアーカイブ(以下、DA)構築経験のある研究者・技術者であれば導入に不都合を感じることはほとんどないだろう。IIIF 対応可能な企業も増加しており、筆者が把握しているだけでも 6 社が IIIF 対応システム公開の実績を有している 2)。これ以外にも複数の企業がすでに対応準備を終 えているとのことであり、入札を含む外注の場合にも十分に対応可能になっている。 このような、DA に関わる国際的な技術動向への対応は、英語コミュニケーションと地理的制約のため日本では容易ではない課題の一つである。IIIF に関しても様々な困難があったが、日本の DA の枠組みとの相性のよさからこの数年をかけてようやく欧米先進諸国並みの取り組み体制が整いつつあると言っていいだろう。筆者としては、同じく DA の国際的な枠組みである Text Encoding Initiative ガイドラインへの対応の遅れへの反省から、個人的には懸命に取り組んだが、この種の国際動向への対応が必要となる事態は今後もあり得るため、対応の仕方について共有しておくことは有用だろう。しかし、論文・雑誌記事・図書等を通じた情報提供は後からの参照が比較的容易だが、イベント等の対面的対話的な普及活動は状況次第では効果的であるにも関わらず情報として残しておくことが難しい。そこで、以下に、筆者が取り組んだ普及活動の概要について記しておく。これに取り組んだのは筆者だけではなく他にも様々な活動があったはずであり、いずれそうした情報も含めて集積できたなら、今後の対応の参考として日本での DA の健全な発展に多少なりとも貢献できるだろうと期待したい。 ## 2. 2016 年度の普及活動 IIIF の情報を時折提供していた筆者のブログでは、 2015 年 3 月 2 日が最初の言及となっている。当時すでに IIIF に関する取り組みは国内に他にもあったと聞しているが、参照できる形では確認できていない。その後、 2016 年 2 月 28 日から頻繁に導入手法や活用事例などを通じた紹介が当該ブログで行われている。2016 年 5 月には SAT 大蔵経テキストデータベース研究会による SAT 大正蔵図像 DB が公開されたことで画像アノテーションを含む IIIF の利便性を提示することが可能となり、普及活動本格化の契機となった。当初は、IIIF 協会のメンバーでもある東京大学大学院人文社会系研究科次世代人文学開発センター人文情報学拠点(以下、人文情報学拠点) の活動の一環として実施された。情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会の休惒時間を借りて簡単なチュートリアルを行い(2016 年 5 月)、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会のワークショップ(以下、WS)(同年 9 月) にてやや本格的な解説を行った。 1 月にはデジタルアーカイブサロンでも講演を行った。個別の機関・組織への対応としては、東京国立博物館(5月)、国立国会図書館(9月)、東京文化財研究所 (11 月)、東京大学附属図書館 (10月)、国際仏教学大学院大学 (12月)、 デジタルアーカイブサロン (1 月)、大正大学 (2 月)、そして、東京大学大学院人文社会系研究科等の複数の大学研究室で IIIF に関する情報提供や講習等を行った。文化機関での説明に際しては DA 発注者側としてのメリットを中心とした説明を行い、研究者が聴衆の中心になった大学等での紹介では研究者が利用する際のメリットを中心とした解説を行った。実習付きの講習の際にはUSBメモリにて説明用パワーポイントファイルや Mirador や Universal viewer 等の実習用素材を配布することで、その場で体験するだけでなく、受講者が持ち帰って自らの職務において周囲への説明や稟議書作成などに活用できるようにすることを目指した。時間が前後するが、2016 年 10 月には内閣府知財本部のデジタルアーカイブの連携に関する実務者協議会(国立情報学研究所高野明彦座長) でも紹介する機会をいただいた。一方で、関心を持つ企業に直接赴いての情報提供も行った 3)。企業ごとに状況や関心が異なるため、対面での情報提供は有益だったように思われる。教育面では、東京大学大学院人文社会系研究科で開講される 「人文情報学概論」「デジタルアーカイブ特論」 において実習付で扱い、その後毎年継続している。 ## 3. 2017 年度の普及活動 2017 年度には、より大きな枠組みでの活動が開始される。 7 月に CODH でセミナーが実施された 4)ことに加え、10 月には IIIF コンソ ーシアムの中心メンバーの一部が来日することになり、高野明彦教授を中心とした IIIF Japan 企画実行委員会による IIIF イベントシリーズが実現し、一橋講堂での WS とシンポジウム、京都大学、立命館大学、九州大学のそれぞれで講習会等が開催された 5)。この流れの一方で、筆者が実施する情報提供・講習も引き続き継続し、8月には H-GIS 研究会で紹介を、国立国会図書館関西館で実習付の講習を行った。 この年には、トロント大学図書館による IIIF Toolkit with Mirador が 7 月にリリースされ、CODH の IIIF Curation viewer が 10 月には外部の IIIF コンテンツを取り込めるようになるなど、各地の IIIF コンテンツを簡便に活用できる仕組みが登場した。これ以降の IIIF 講習会ではこれらのツールが活用されることになった。 12 月 2 日には NDL デジタルライブラリーカフェにてこれを利用した WS が開催され、参加者は各地の IIIF コンテンツを切り出したり地図年表上にマッピングしたりする体験をした。同月には琉球大学でも同様の WS を行い沖縄県立芸術大学では講演を、 1 月には渋沢記念財団でワークショップを行った。 2 月、大阪大学での国文学専攻の教員・大学院生を対象とした同様の WS では国文学研究資料館の IIIF コンテンツが大いに活用された。 ## 4. 2018 年度の動向 2018 年度に入ると、 10 月には国立大学図書館協会シンポジウムで IIIF が全面的に取り上げられ、12 月のじんもんこんシンポジウムでは IIIF をタイトルに含む発表が 6 件を数えるなど、DA の基本要素であるという認識が定着しつつあると言つてもいい状況になる。成果としても多様なものが生まれた。その一例として筆者らが構築した国際的な IIIF 活用事例について紹介しておきたい。 ## 5. IIIF 活用事例 IIIF Manifests for Buddhist Studies (以下、 IIIF-BS) 6)は、仏典関連の IIIF Manifest ファイルを収集し、検索・閲覧・メタデータ編集できるようにした Web コラボレーションシステムである 7)。データの蓄積・検索には Apache Solr、Web インターフェイスには Bootstrap と jQuery UI というオープンソー スソフトウェアを組み合わせた上で、IIIF コンテンツを表示するために Mirador, Universal Viewer, IIIF Curation viewer をそれぞれ 1 クリックでビューワ上に表示できるようにしている。Mirador に関しては、アイコンをクリックするたびに Mirador ウインドウを分割して並べて画像を表示できるようにしており、容易な画像対比を実現している。 登載コンテンツとしては、原稿執筆時点では 6847 件、Gallica における敦煌文書のペリオコレクションが多くを占めているが、東京大学、NDL、京都大学が続いている。東京大学はほとんどが万暦版大蔵経デジタル版でありもともと仏典のコレクションであると言えるが、NDL はデジタルコレクションの古典籍のカテゴリに含まれており、京都大学も貴重資料デジタルアーカイブ中の複数のコレクシ ヨンに部分的に含まれている。そして、ハー バード大学は主に燕京図書館のコレクション、 バイエルン州立図書館は東アジアコレクションの一部、といった具合に、仏教学の資料としてではなく、それぞれのコレクションの文脈で公開されているものである。IIIF-BS の目標は、こうした世界中の IIIF 対応デジタルコレクションのそれぞれに部分的に含まれる仏典資料を、仏典研究というコンテクストで再構成することである。 これにあたって IIIF-BS が提供する機能は、現在のところ、大正新脩大藏經に収録され SAT 大蔵経テキストデータベース(以下、 SAT DB)8)において全文テクストデータとして公開されている 2920 件の仏典関連資料と世界中の IIIF 対応仏典資料とのリンクである。大正新脩大藏經が漢文仏典の国際的なデファクト標準であり、その経典番号や頁・行の番号(以下、大正蔵 ID)によってテクストを一意に示すことができるため、その大正蔵 ID を付与することで SAT DB とリンクできるだけでなく、仏典研究のデファクト標準とも接続できるようになる。そこで、タイトルが不明な写本の断片等については SAT DB での同定ができた場合、その対応する大正蔵 IDを付与することで SAT DB の当該箇所との連携が可能になる。また、タイトルがわかっているものであっても、写本版本等の画像の開始位置・終了位置の大正蔵 IDを付与しておけげ、 やはり SAT DB と緊密に連携可能になる。 IIIF-BS はこのようにして付与したデータを JSON 形式で取得できるようにしている。一括ダウンロードも可能だが、経典番号や巻番号で検索すると該当する仏典画像の Manifest URI と付与した情報のみが JSON 形式で返戻される仕組みを用意している。SAT DB からはこれを利用することで全文テクスト検索から経典単位・巻単位で写本・版本の IIIF 対応画像を表示できるようになっている。SAT DB では画像対比用に Miradorを組夕込んで おり、経典によっては、同じ箇所を様々な時代・地域の写本や版本で対比できるようになっているものもある。さらに、vis.jsのタイムライン機能をカスタマイズして、写本・版本の断片がテクスト全体のどの位置にあたるかを視覚的に捉えることのできる仕組みも提供している。(図 1) 図 1. SAT DB 上での写本版本断片位置表示 このような一連の機能により IIIF-BS は英国図書館から関心を寄せられ、2018 年 11 月には同図書館の国際敦煌プロジェクトの WS に招聘され、IIIFを用いた将来的な活用可能性の一つとして提示する機会を得た。また、 IIIF-BS で付与された大正蔵 ID のうち京都大学のコンテンツに関するものは京都大学貴重資料 DA にフィードバックされた。結果として、不明であった一部の写本断片の経典名を調查・提供するとともに、SAT DB の該当箇所への直接リンクが実現し、京都大学 DA としても利便性を高めることとなった。 IIIF-BS は、システムとしては簡素なものだが、それによって文化資料に関わる人々の力を集約して資料自体の利便性を高めただけでなく、そうした力を文化機関に成果として還元することもできた。このことは、IIIF が DA のエコシステムを成立させる上で有用であることを端的に示していると言えるだろう。 ## 6. 終わりに DA に関連する動向は、世界の各文化機関の連携を強めることで価値を高める方向に進みつつあるように思われる。そのような場での議論や情報を日本でも適切に共有し、妥当な取捨選択をするための体制は今後ますます重要になっていくだろう。本発表がそれを検討する際の一助になれば幸いである。 参考文献(url 参照日は全て 2019-01-25) [1] https://docs.google.com/spreadsheets/d/1Ieo Ydyb56X0vq9r5rKk9SDA99ZZrHbNw6JxCl uKvvVs/edit\#gid $=0$ [2] http://digitalnagasaki.hatenablog.com/entry/ 2019/01/25/165533 [3] 企業名のリストは http://21dzk.l.u- tokyo.ac.jp/DHI/index.php?IIIF_C を参照 [4] http://codh.rois.ac.jp/seminar/iiif-imageaccess-20170727/ [5] http://iiif.jp/ [6] http://bauddha.dhii.jp/SAT/iiifmani/show.php [7] 永崎研宣, 下田正弘, オープン化が拓くデジタルアーカイブの高度利活用 : IIIF Manifests for Buddhist Studies の運用を通じて,じんもんこん 2018 論文集, pp. 389 394. [8] http://bauddha.dhii.jp/SAT/iiifmani/show.php この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 受け継がれる琉球政府文書:その経緯と動向 ## The History and Trends in the Okinawan Public Records Under the American Administration: Passing the Records Toward the Future \author{ 西山絵里子 \\ NISHIYAMA Eriko \\ 独立行政法人国立公文書館 } 抄録:本稿は、沖縄戦以降の米国統治下において、沖縄に存在した統治機構である、琉球政府及びその前身組織により作成・取得された資料群(琉球政府文書)が、施政権返還、保存環境、保存場所等の課題を乗り越え、沖縄県公文書館で永久保存に至った経緯と、その後の資料を巡る動向について概観を試みるものである。当時の実務担当者の論考や記録等を中心に、(1)復帰前、(2)復帰後〜沖縄県公文書館設置前、(3)沖縄県公文書館設置後の3つの時期における、琉球政府文書の保存・利用に係る経緯及び動向を整理した。これらの結果から、今後の可能性として、デジタルアーカイブ構築後の継続的な運用及び利活用推進に向けた取り組みの重要性や、次世代へのアプローチの視点を示唆した。 Abstract: This report provides an overview of the history on passing the historical records that were created and collected by The Government of Ryukyu Islands and the previous organizations which were under the American administration from 1945 to 1972 down to the Okinawa Prefectural Archives(OPA). Moreover it describes the projects regarding preserving, arranging, and making archives accessible to people after they were established by the OPA. The staff who are in charge of managing these records struggled to overcome the drastic changes of returning the administrative rights from the United States to Japan in 1972. Serious problems concerning environmental conditions, floods, and the amount of storage space are main issue. Finally it suggests future possibilities and perspectives. キーワード : 琉球政府、公文書、アーカイブズ、戦後沖縄、レビュー Keywords: The Government of Ryukyu Islands, Public Records, Archives, Post-war Okinawa, Review ## 1. はじめに 1.1 背景 沖縄は、琉球王府・薩摩侵攻・琉球処分・米国統治・施政権返還に挙げられるように、他の都道府県には見られない特異な歴史を歩んできた。政治変革や戦災により、沖縄が保有する歴史資料は大きな影響を受けた。特に沖縄戦では、沖縄県立図書館の歴代館長により収集された沖縄関係資料 ${ }^{[1]}$ はじめ、公文書やその他多くの歴史資料が失われた。 沖縄戦以降の米国統治下において、沖縄に存在した統治機構である琉球政府及びその前身組織により作成・取得された約 16 万簿冊もの資料群が、施政権返還やその後の多くの困難を乗り越え、沖縄県に引き継がれ、「琉球政府文書(以下「琉政文書」という。)」 として、現在、沖縄県公文書館で永久保存され利用に供されている。筆者は過去、琉球政府文書デジタル・ アーカイブズ推進事業(以下「琉政DA」という。) に携わった経験から、琉政文書を巡る一連の経緯を整理したいと考えた。 ## 1.2 目的 本稿は、これまでの研究成果をもとに、復帰前から現在に至るまでの琉政文書の経緯について、概観を試みることを目的とする。また、琉政文書の今後の可能性についても簡単に触れる。 ## 1.3 対象と方法 本稿では、琉政文書の保存及び利用に係る研究や記録を対象とする。琉球政府の具体の政策や米国側の資料に係る研究 ${ }^{[2]}$ は対象としない。できる限り網羅的に遺漏のないよう心掛けたが、見落としの可能性もあることをお断りしたい。 方法として、第一に、琉政文書をとりまく時代背景について触れる。第二に、琉政文書の所管組織の観点から、3つに時期を区分し、資料の保存及び利用に係る経緯や動向を整理する。第三に、これまでの経緯をふまえ、琉政文書の今後の可能性について触れる。 ## 2. 琉政文書をとりまく時代背景 1945(昭和 20)年 3 月に慶良間諸島に上陸した米軍は、ニミッツ布告を発し、南西諸島における日本の施政権停止と占領の開始を告げた。沖縄は、本土と切り離され、沖縄統治のための米国の出先機関である USCAR (United States Civil Administration of the Ryukyu Islands, 琉球列島米国民政府)の管理下のもと、同年 8 月に志喜屋孝信を委員長とする戦後初の民間組織が設置された ${ }^{[3]}$ 。 その後、幾度かの組織変遷を経て、1952(昭和 27)年4月1日、琉球政府が創設され、それまで、沖縄・宮古・八重山 ・奄美の4つの群島政府により分割統治されていた行政機構が統一された。琉球政府は、立法・行政・司法を備えた、都道府県の業務範囲を超えた組織であったが、その上位には、USCARをはじめとする米国政府組織があり、住民側では自治権拡大を求めて運動が繰り広げられた。 1972 (昭和 47) 年 5 月 15 日、施政権返還により、沖縄は米国統治時代の終焉を迎えた。琉球政府は閉庁し、「新生沖縄県」として新たな一歩を踏み出した。通貨切替によりドルが円に交換され、車両通行が右側から左側通行に変わる等、諸制度の本土一体化が進められた。日本政府は、沖縄戦や戦後の米国統治により本土との格差が生じた歴史的事情、広大な海域に 160 もの離島が散在する地理的事情、全国の米軍専用施設の約 $70.6 \%$ が集中している社会的事情を鑑み、復帰以降、沖縄振興特別措置法のもと 10 年毎に策定する沖縄振興計画に基づき沖綿振興策を実施している ${ }^{[4]}$ 。これまでに 4 次にわたる振興策が実施され、現在は沖縄県が 2012 (平成 24)年 5 月に策定した沖縄 21 世紀ビジョン基本計画 (第 5 次沖縄振興計画)に基づき施策が進められている。同計画は、2017(平成 29)年 5 月に一部改定 ${ }^{[5]}$ された。 ## 3. 琉政文書の保存及び利用に係る経緯・動向 復帰前から現在に至る、琉政文書の保存及び利用に係る経緯及び動向を、過去の研究成果をもに、(1)復帰前、(2)復帰後〜沖縄県公文書館設置前、(3)沖縄県公文書館設置後の 3 つの時期区分に分け整理する。なお、表 1 にも琉政文書を巡る経緯をまとめたので、適宜参照されたい。 ## 3.1 復帰前 復帰前の琉政文書の文書管理及び復帰に係る文書保存活動は、大湾ゆかり $\left(2004^{[6]} \cdot 2012^{[7]}\right)$ に詳しい。琉球政府は、復帰までに計 8 回の組織変遷を経ているが ${ }^{[8]}$ 、文書管理業務は、一貫して文書課が全体管理・調整・指導等を担い、各局庁の文書管理業務は、配下の総務課 ${ }^{[9]}$ が行っていた。 規程類の面では、1952(昭和 27)年に「文書取扱規程」が公布され、その後改廃を経て、最終的に「行政府文書管理規程」(1970.1.1 訓令第 1 号 $\left.{ }^{[10]}\right)$ 、「行政府文書管理規程の一部を改正する訓令(1971.1.11 訓令第 68 号 $\left.{ }^{[11]}\right)$ 」「公文書類の引継要領について(依命通達)(1972.1.22 総文第 6 号 $)^{[12]}$ 」以て復帰を迎えた。 「行政文書管理規程の一部を改正する訓令」により、廃棄対象でかつ、行政または県史編集の資料として活用できると判断された琉政文書及び公印・標札等は、沖縄県史料編集所(以下「史料編集所」という。)へ移管され、その作業は、1973(昭和 48)年度まで続いた ${ }^{[13]}$大湾は、文書課と史料編集所の取り組みに着目し、職員への文書管理の啓蒙活動及び文書管理の担当者会議における協議の過程やその結果から、琉球政府の復帰時における資料保存に向けた取り組みを明らかにした ${ }^{[14]}$ 。公文書類の引継ぎ要領では、(1)保存期間満了後の文書であっても原則廃棄しない、(2)現地保存の原則により、現在保有している文書は、県内の国の出先機関または沖縄県に引き継ぐこと、(3)目録の作成と提出等が示されている。 このように、現用・非現用の区別なく、琉政文書の資料的価値から資料を残す意思決定がなされた。この視点は、資料か現用段階にあるか非現用段階にあるかを問わず、後世に残すべき歴史資料として重要な公文書を 「歴史公文書」と定義した、公文書管理法の思想に通ずるものがあると考える。また、資料保存に対する高い意識の背景として、大湾は、琉球政府では、かねてより戦争によって失われた歴史資料の損失を補うため、戦後資料の収集や保存に取り組んでいたことや、『沖縄県史』編集事業、1950~60 年代の全国的な地域史料収集・文書館設立の機運が高まった影響を示唆している ${ }^{[15]}$ ## 3.2 復帰後 沖縄県公文書館設置前 1972(昭和 47)年 5 月 15 日の本土復帰から、沖縄県公文書館が設置される 1995 (平成 7) 年までの 23 年間、琉政文書は安住の地を求め、流浪の旅を繰り返した。その間の琉政文書の保存及び利用に係る経緯を、 さらに3つの時期に分けて整理する。 ## 3.2.1 復帰直後の混乱期(1972年5月~1976年3月) 復帰に際し、沖縄県へ引き継がれる資料は、旭町にあった県所有の倉庫である「沖縄県文書管理保存所 (旧琉球政府物資保管所)(以下「文書管理保存所」という。)」に運び达まれた。後に 17 年間にわたり琉政 文書の整理に携わった渡口善明によると、次々と各局から文書を満載したトラックが押し寄せ、トラックから投げ出された段ボール箱は破損し、崩れた箱から文書が散乱し足の踏み場もない状態になっており、用意した書架の数は絶対的に不足したという ${ }^{[16]}$ 。同氏は、 1974(昭和 49)年 5 月に文書管理保存所を参観したときの様子を「書庫内は、カビ臭い匂いが充満し、各部局の文書が入り乱れ、埃にまみれ、見るからに手の施せる状態ではなかった。英文に和訳のついた公文書の多いことでも特殊な時代を物語っていた。」吕] と述べている。当時、史料編集所専門員であった金城功によると、資料整理の予算もつかず資料は放置される一方で、行政利用の要望はあったという ${ }^{[18]}$ 。金城の談の中で、琉政文書に含まれる、琉球政府と米国間で交わされた 「往復文書」を復帰前にマイクロ化したという点は興味染い。琉球処分で明治政府に接収された琉球王国評定所文書 ${ }^{[19]}$ 想起したためだという ${ }^{[20]}$ 。結果的に日本政府からの資料要求はなかったが、沖縄の世替わりが資料へ与えた影響が垣間見られる。復帰時の混乱から、琉政文書が朽ち果てる危険性と整理の必要性を感じた渡口は、沖縄県総務部文書学事課に、早急な対策を求める一方、資料整理に係る事前調査を進めた ${ }^{[21]}$ 。 ## 3.2.2 文書学事課における整理作業(1976年4月~ 1978年3月) 1976(昭和 51)年 4 月 1 日より、文書学事課は、学術団体からの要望を受け、「琉球政府文書整理 5 か年計画」を策定し、OB と臨時職員で整理作業を開始した。しかし、資料整理の見通しや整理方針もなく、結果的に文書学事課だけでは作業ができないと判断し、1978(昭和 53)年 3 月 31 日で作業は打ち切られ、民間委託へと舵をきることとなった ${ }^{[22]}$ ## 3.2.3 外部委託による整理作業と課題意識(1978年4 月 1995年) 1978(昭和 53)年 6 月 1 日、文書学事課は、「琉球政府行政文書の分類整理及び編さんに関する業務」を立ち上げ、「琉球政府文書の保存体制を確立し、広く一般の活用に供する」ことを目的に琉政文書の整理事業を民間委託した。金城・津波古によると、「公文書を民間の業者に整理させるということは、当時としては思いもよらなかったこと」であり、内製すべきという意見が大勢を占めていた ${ }^{[23]}$ が、検討の結果、外部委託が決定し、結果的に 17 年間に及ぶ整理作業が実施された。当時、琉政文書の整理及び管理に携わった人々の記録から、整理作業時の主な課題をまとめる。 ## (1)評価選別 旭町の文書管理保存所に山積みされた資料の整理作業を受託し、本格的に整理方法を考え実践したのは、有限会社沖縄マイクロであった。その具体的手順や内容については、渡口 $\left(1985^{[24]} \cdot 1989^{[25]} \cdot 1995^{[26]}\right)$ に詳しい。作業は、まず沖縄マイクロが資料の仮目録を作成し、次に沖縄県側で仮目録をもとに評価選別し、その結果をもとに沖縄マイクロが資料を箱詰め・ラベル貼付する形で進められた。復帰前の通達では、目録を提出し、文書は課ごとに秩序立てて配架されているはずであったが、実際には、目録がない・所管課区分記載の欠落が多い・文書の保存種別の記載が少ない等の問題に直面した ${ }^{[27]}$ 。 保存対象資料を決定する評価選別作業は、原課が仮目録に保存の○×をつけることで行われていたが、当時の文書保存規定に照らし合わせ、保存期間が短い資料に次々とメが付けられ、資料に対する歴史的視点が欠如していると感じた渡口は、総務次長に廃棄予定の簿冊を手に廃棄の妥当性を問うた。その結果、1978 (昭和 53)年 12 月に「琉球政府文書保存・廃棄検討委員会」が設置され、会議により文書の保存・廃棄について協議されるようになった ${ }^{[28]}$ 。評価選別基準は、同年 10 月の「琉政文書廃棄に係る会議」において決定された「琉政文書として永年保存し、学者文化人その他広く一般県民に利用されると思われるもの、その他保存しておく価値があると思われるものとし、それ以外は廃棄」 ${ }^{[2]]}$ であった。資料の廃棄については、学識経験者による副知事への資料の保存を求める提言等抵抗が示され、併せて次項に述べる保存環境に係る問題も顕在化し、表 2 に示すとおり、琉政文書は新聞に幾度となく取り上げられた。結果的に、資料保存に係る機運が文書館建設にも繋がった。 一方で、史料編集所長の大城立裕は、当時の資料の評価選別に 5 年以上かけて協議し、「こんなにも残す必要があるのか、と気になるほど廃棄には遠慮した」 と述べ、風評の影響を指摘している。同氏は、実際に廃棄したものとして、次の基準を挙げている ${ }^{[30]}$ (1) 史料としても権利確認のためにも無用と思われる単票類 (2) 入管と税関の申請書、申告書類(詳細は前述 ${ }^{[3] 1]}$ (3) 重複した文書の片方 (4) 課ごとにある法規、公報、広報刊行物類のうち、一冊を除いた分 担当者は厳しい現実と報道の狭間で、資料と向き合っていたことが垣間見られる。例えば、「土地所有申請書」に代表される、個人の権利に関する資料群は 重要と判断され、全て保存され、それらは現在も沖縄県公文書館において利用頻度の高い資料群 ${ }^{[3]}$ となっている。このように、世間の資料や文書管理への関心と関係者の努力の両輪によって琉政文書は整理された。 ## (2)保存環境 文書管理保存所の非常に厳しい保存環境は、渡口の一連の論考に詳しい。表 1 に示すとおり、大雨や台風等計 4 回(1982(昭和 57)年、1983(昭和 58)年、 1985(昭和 60)年、1986(昭和 61)年)の浸水で資料が污損した。満潮時には、豪雨となると雨水だけでなく、トイレの污水が逆流してきて事務所内へ溢扎出たという。その都度、職員らが加勢して水を汲み出し対応した。また、老朽化した建物であったため、天井のセメントが剥離し、ヘルメットをかぶって作業をしたほか、シロアリ等の虫害、作業員の皮虐のかぶれ等、環境手当を出すほどの環境下で作業者は整理作業にあたった ${ }^{[33]}$ 。亜熱帯気候の沖縄で、さらに作業員の健康問題に発展するほどの環境下での作業は、非常に過酷であったことが分かる。 ## (3)保存場所と文書館構想 資料の保存場所の確保も、深刻な問題の1つであった。琉政文書の移動の流れを図 1 にまとめた。幾度も資料の移動を繰り返し、何とか保存場所を捻出しようとした様子が伺える。例えば、1981(昭和 56)年 4 月、公害衛生研究所に格納していた整理済の琉政文書の移動では、環境保健部保有の薬品倉庫へ移動後、 1 年足らずで旭町文書管理保存所への再移動を余儀なくされた。 1983 (昭和 58)年 2 月に旭町から整理済の資料を移動させた首里の万う学校も、首里東高校を建設のため移動を迫られ、1984(昭和 59)年 10 月に再び旭町に戻されている。最も大規模な移動は、1987(昭和 62)年 7 月の区画整理に伴う、それまで整理作業の核となっていた旭町の文書管理保存所の撤去に伴う移動である。史料編集所の職員が手分けして施設を探し、交涉を重ねた結果、旧県立那覇病院の 1 階を使うことで落ち着いた ${ }^{[34]}$ 。 文書館構想については、復帰前から沖縄史料編集所において検討されており、1970(昭和 45)年、来沖していた坂田文部大臣に、「沖縄歴史資料館」設立に係る陳情がなされた ${ }^{[35]}$ 。1976(昭和 51)年以降、文 & 1982 年 09 月 30 日 & 琉球新報 & 朝刊 \\ 渡口善明. 琉政文書がうったえるもの. 渡口貞子, 1985.をもとに作成 書館機能・博物館機能・美術館機能・文化センター機能等を有する複合施設の検討が進められたが、同一施設内での全ての機能の実現は難しいと判断され、緊急度が高い「文書館」設置の方向で、1980(昭和 55)年に議論がまとまった ${ }^{[36]}$ 。表 2 のとおり、1982(昭和 57)年を中心に文書館設立の機運の高まりが見られるものの、具体的な建設には至らなかった。 1987(昭和 62)年に公文書館法が制定され、1990 (平成 2) 年以降の大田県政において、かねてより資料保存の重要性を体感していた知事のもと、公文書館設立に向けた動きが加速化した。専門職養成の面でも、海外の大学院への人員派遣が実施された ${ }^{[37]}$ 。そして 1995 (平成 7)年 5 月 15 日に、沖縄県公文書館(以下「公文書館」という。)に琉政文書が移管された。 ## 3.3 沖縄県公文書館設置後 1995 (平成 7)年、「沖縄県公文書館の設置及び管理に関する条例」及び「沖縄県公文書館管理規則」が施行され、琉政文書は公文書館で一般の利用に供された。翌年から、公文書館の管理運営業務は、公益財団法人沖縄県文化振興会(以下「振興会」という。)に委託された。豊見山和美によって、沖縄県公文書館設立の経緯及び理念、並びに沖縄県の文書管理制度がまとめられている ${ }^{[38]}$ 。2007(平成 19)年、沖縄県は公文書館業務を指定管理制度に移行し、振興会は指定管理者として、第 1 期以降、第 3 期にあたる現在も、沖縄県公文書館の管理運営を担っている。 ## 3.3.1 保存に係る取り組み ## (1) 概要調査(平成 9 年度) 琉政文書は、戦後の物資のそしい時期に作成され、 さらに、劣悪な保存環境下に置かれていたため、表紙や背のはずれ・酸による変色・クリップ類の錆・セロハンテープによる変色・水濡れによるシミ・虫害・力ビ等、課題が山積していた。保存対策をとるためにも現状を把握する調査が必要であった。平成 9 年度、外部専門業者による概要調査が行われた。サンプル調査の結果を全簿冊数に割戻したところ、規格外の資料は全体の $1 \%(1,546$ 冊)、修復に要する時間は専属作業員 1 名体制で 87.7 年、青焼きのマイクロ化に要する時間は作業員 1 名が 1 日 2 簿冊(約 500 枚)処理する前提で 34 年要すると試算された ${ }^{[39]}$ 。 ## (2)琉球政府総合整理保存計画事業(平成15 16年度) 平成 15 年度から、琉政文書の保存及び利用を両立させ、中長期的な業務の見直し等を検討する「琉球政府総合整理保存計画事業」が開始された。整理・修復・複製等、各々の業務を同じ方針のもとで進めようという取り組みである。そのためには、簿冊単位の保存状況の調查と劣化資料の特定が必要であった。そこで、沖縄県緊急地域雇用創出特別事業を活用し「琉球政府文書保存状態調査事業」で、全簿冊に対する調査が実施された。事業詳細は、大湾 $\left(2007^{[40]}\right)$ に詳しい。平成 15 年度は、琉球政府文書の素材調查により、素材毎の劣化原因、劣化予測、対策がまとめられ ${ }^{[41]} 、 そ$ の概略は、沖縄県公文書館だより “Archives” 第 28~30 号 ${ }^{[42]}$ でも紹介されている。また、平成 $15 \sim 16$ 年度にかけて、全簿冊を対象とした劣化状態等の調查から、調査総数 149,460 冊のうち、約 0.1 \%にあたる 172 冊が「強劣化」と判定され、これらの簿冊は、最優先修復簿冊とされた。なお、本調査の記録はデータベース化され、現在も公文書館の業務に活用されている。 ## (3)琉球政府文書緊急保存措置事業(平成17 24年度) 平成 16 年度までの調査により、保存措置の優先度の高い資料が明らかにされた。公文書館では、次のステップとして、平成 17 年度 24 年度の 8 か年計画で 「琉球政府文書緊急保存措置事業」を立ち上げ、「強劣化」・「弱劣化」簿冊の修復と劣化を防ぐための新規保存箱の作成及び入替作業、並びに劣化が進んでいる簿冊のマイクロ化の作業が実施された。 ## 3.3.2 利用に係る取り組み ## (1)利用状況調査 (平成10 $\cdot 12 \cdot 26$ 年度) 基礎調査の 1 つとして、保存状態調査と並んで実施されたのが、利用状況調査である。調査は、1998(平成 10)年、2000(平成 12)年、2014(平成 26)年の 3 回実施された。その結果は、大湾 $\left(2001^{[43]}\right)$ 及び琉政 DA 報告書に詳しい ${ }^{[44]}$ 。平成 26 年度の調査は、琉政DAのデジタル化対象資料選定のための調査である。資料群単位では、法務局の土地台帳に関する資料群の利用が最も多く、割り戻すと 1 資料あたり 14.72 回である。土地台帳に関する資料群の利用が多いことは、琉政文書が今も沖縄県民の権利財産を守るために利用されていることを示している。 ## (2)複製物作成 複製物作成は、保存と利用の両側面を持つ。琉政文書は、2001(平成 13)年よりマイクロ化がすすめら れた。その経緯は吉嶺昭の一連の論考 (2002 $2^{[45]}$. $\left.2003^{[46]} \cdot 2007^{[47]} \cdot 2016^{[48]}\right)$ に詳しい。論考によると、土地所有申請書 - 一筆限調書 - 沖縄諮詢会等、利用頻度の高い資料がマイクロ化の優先対象となった。当初は、資料群単位で作業が進められていたが、利用頻度が高い資料が一点でも含まれていると資料群全体が作業対象となるため、通常予算で 400 年余りの年数を要することが判明した。また、利用頻度のみを優先付けの指標とすると、状態に問題がない簿冊を解体する作業が発生し、より緊急を要する資料との対応に齯踣が生じた。そこで、平成 $15 \sim 16$ 年度に実施された「琉球政府文書保存状態調査事業」の調査結果の活用によって、優先順位が高い資料を特定し、平成 17 年度以降、「琉球政府文書緊急保存措置事業」に打いてマイクロ化が進められた。マイクロ化の優先順位は、強弱裉色の湿式コピーを含む資料を最優先とし、続いて、強劣化資料(修復済み)と続く ${ }^{[49]}$ 。このように、平成 15 年度以降開始された「琉球政府文書総合保存計画」により、資料の整理・保存・複製業務が互いに連携し、「琉球政府文書緊急保存措置事業」に発展した。 ## (3) 目録システム構築 公文書館では、2001(平成 13)年から ARCHAS21 (ARCHives Administration System : 以下「アーカス」という。)によるインターネット目録検索システムの運用が開始された。データベース構築については、大城博光 $\left(2000^{[50]}\right)$ や、豊見山 $\left(2001^{[51]}\right)$ に詳しい。アー カスでは、公開用の目録だけでなく、受入管理台帳やマイクロ撮影台帳、修復カルテ票等、館内の資料管理業務の基幹システムとなっており、各業務フローで発生する台帳をテーブル化し、リレーショナルデータベースを構築している。識別子は、「資料コード」と呼ばれ、記録媒体を特定するもので、媒体変換前と変換後の各媒体でコードが異なるため、例えば複製物を出納する際、原本と複製物の識別ができるようになつている。他方、管理用では、「内容コード」と呼ばれる、媒体に依らず資料の内容を特定するためのコードも整備されている。 ## (4)琉球政府デジタル・アーカイブズ推進事業 沖縄県は、平成 25 年度から、平成 33 年度までの計画で、離島など遠隔地に住む人々の資料へのアクセスと、国内外に打ける沖縄研究の発展に寄与する目的で、沖縄振興特別推進交付金活用事業のひとつとして、「琉球政府文書デジタル・アーカイブズ推進業務」を開始した。概要は、堀川輝之 $\left(2013^{[52]}\right) \cdot$ 平成 $26 \cdot 27$ 年度 に業務受託した株式会社 Nansei の業務報告書 $\left(2015^{[53]}\right.$. $2016^{[54]}$ 、西山 $\left(2016^{[55]}\right)$ 、小野百合子 $\left(2018^{[56]}\right)$ に詳しい。当該事業は、(1)琉政文書のデジタル化、(2)公開制限情報の特定及びマスキング(目録充実も含む)、(3)事業の普及業務を柱とし、平成 27 年度に Web 上での画像配信が開始され、平成 28 年度には、公文書館の目録検索システムと統合された。事業は現在も進行中である。2018(平成 30)年 10 月 25 日時点で、13,462簿冊の資料画像が Web 上で公開されている ${ }^{[57]}$ 。Web 公開にあたっては、公開制限情報の特定は容易ではないが、事例を積上げながら作業が続いている ${ }^{[58]}$ 。また、当該事業によって作成されたデジタル画像は、閲覧室でも活用されており、デジタル複製物を利用に供することでカウンター業務の効率化と資料原本の保存に資している。広報活動では 2017 (平成 29)年3月から、『琉政だより』が定期的に刊行され、広く琉政文書及び事業の普及を図っている。 琉政 DAを巡る昨今の動向として注目されるのが、 2017 (平成 29)年 5 月に、沖縄県により「沖縄 21 世紀ビジョン基本計画」が改定され、以下の文言が追加されたことである。以下に該当部分を引用する。 沖縄の戦後史の検証等、国内外における沖縄研究の発展と離島における学術文化の振興を図るため、琉球政府文書をデジタル化し、インターネットによる公開を推進しますす。 本改定により、琉政文書のデジタル化及び公開の推進が、沖縄振興策の基本計画に明文化された。今後の事業推進にもつながる改定であるといえる。 このように、復帰当初、旭町の倉庫に積み上げられていた琉政文書は、多くの人々の熱意と努力によって受け継がれ、公文書館開館後も、保存と利用に係る調查を経て、保存修復措置、デジタルアーカイブによる利用の促進、沖縄振興策の基本方針に明文化されるまであゆみを進めてきた。沖縄戦によって多くの歴史資料を失った沖縄にとって、琉政文書は、米国統治下の 「自治」を示す貴重な資料であるだけでなく、資料が受け継がれてきた経緯そのものが、付加価値となっている。 ## 4. 今後の可能性 デジタルアーカイブ構築後の活動は、デジタルアー カイブ共通の課題である。最近の事例では、沖縄県が平成 24 年度に作成した「沖縄平和学習アーカイブ」が、 サーバー維持費用やサイト効果を理由に、2018(平成 30)年 4 月から停止し、大きな問題となった ${ }^{[60][61]}$ 。 システムリリース直後は注目が集まるが、沖縄戦の記憶の継承という事業目的のためには、その後の運用継続性や利活用推進に向けた取組が重要である。 琉政DAの今後の活用の一つとして考えられるのは、次世代へのアプローチである。以前より、沖縄の教育現場では課題意識があった。2013(平成 25)年に琉球新報と沖縄県高等学校障害览学校教職員組合 (高教組) が実施したアンケートでは、「沖縄の歴史的な節目について十分に教えることができているか」の問いに対し、沖縄県内の高校に勤める社会科教員 134 名のうち、約 75.3 \%が「十分に教えられていない」もしくは「教えら に沖縄歴史教育研究会と高教組が沖縄県内の高校生を対象に実施したアンケートでは、本土復帰の年月日を正しく回答できたのは、全体の 12.4 \%で、無回答もしく 30)年 3 月に文部科学省より、「高等学校学習指導要領 (日本史探究) ${ }^{[64]}$ が公示された。その中で、「公文書 (館)」 という文言が明文化され、「歴史に関わる諸資料を整理・保存することの意味や意義」を考えることが示された。琉政文書は、資料を通じて沖縄の戦後史に触れることができ、現在につながる内容も多い。また、資料が保存された経緯も記録が残っており、例えば、資料と公文書館の見学を組合せることにより資料保存について考えるきっかけにもなると考える。このように、琉政文書は、資料そのものの内容と、歴史的背景、資料の来歴の三点で、素材としての可能性を秘めていると考える。沖縄の戦後のあゆみを学ぶことは、基地問題等、現在の生活に関わる課題にもつながる。例えば、米軍基地建設による土地接収や軍事演習、住民からの陣情書等、資料を通じ、当時の人々が何を考元、どういう行動をしたのか具体的にその息づかいを見ることができる。過去の歴史的経緯を知り、資料を見て、感じて、そこから考えることはひとつひとつは小さなことかもしれない。また、限られた授業時間で、資料を活用するためには、対象資料や活用方法、学生・生徒への「伝え方」等検討すべき点は多い。一方で、そうした経験を経た世代が増えていくことで現在の課題について関心を持ち、これからの社会を考える一歩になるのではないか。 沖縄 21 世紀ビジョンでは、「公開の推進」が謳われているが、今後は公開だけにとどまらず、公開後の継続した利活用に係る活動、並びに事業を継続的に支え、発展させ、資料の活用を促すための人材に対する視点がますます重要になるであろう。また、デジタル資源に着目されがちであるが、その裏側では、資料原本の日々の保存管理業務や、目録の整備等、目に見えづらい日々の業務がべースとなって国民への利用を支えている。 ## 参考文献 (沖縄県公文書館開館以前) 琉球政府総務局涉外広報部文書課. 行政府文書管理業務概要 1971 年度.琉球政府文書デジタルアーカイブ(資料コード:RDAE006751), 沖縄県公文書館蔵. 大城将保. 沖縄県沖縄史料編集所の沿革. 沖縄史料編集所紀要, 1976, 第 1 号, p.144-150. 沖綶県沖縄史料編集所. 沖縄県史料編集所日誌 1979 年 1985 年 沖縄県立図書館史料編集室。史料編集室日誌 1986 年 1994 年 渡口善明. 琉政文書がうったえるもの. 渡口貞子, 1985. 渡口善明. 語りかける沖縄の文書. 渡口貞子, 1989 . 大湾ゆかり. 復㫶前における琉球政府文書の保存活動について. 沖縄県公文書館紀要 , 2004, 第 6 号, p.101-114. ## (沖綶県公文書館開館後) 沖縄県公文書館沿革. http://www.archives.pref.okinawa.jp/about/history\#section01[accessed:2018-10-23] 沖縄県公報.平成 13 年 3 月 30 日。号外第 10 号。沖縄県行政組織規則の一部を改正する规則(人事課). 沖縄県.「沖縄 21 世紀ビジョン基本計画【改定計画】(沖綶振興計画)」の公表について. 2017. http://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/h29_kaiteikeikaku.html [accessed 2018-10-23] (公財)沖縄県文化振興会公文書管理課. 沖縄県公文書館 20 年のあゆみ. 2016, 沖縄県 (公財)沖縄県文化振興会公文書管理課. 沖縄県公文書館年報.第 1 号 20 号. 吉嶺昭. 琉球政府文書の緊急保存措置事業ーマイクロ化とその利用のための方策. 沖縄県公文書館紀要. 2007, 第 9 号, p.49-58. 大湾ゆかり . 琉球政府文書に関する保存履歴の記録化の試み . 沖縄県公文書館紀要, 2012, 第9号, p.9-26. 小野百合子. 琉球政府文書デジタルアーカイブと「布告・布令・指令等に関する書類」について. 沖縄県公文書館紀要, 2018, 第 20 号, p.29-38, ## 5. おわりに これまでの研究成果をもとに、復帰前から現在に至るまでの琉政文書を巡る経緯及び動向について概観を試みた。琉政文書は、これまで多くの歴史資料を失った沖縄にとって、戦後沖縄を象徴する貴重な共有知的資源であり、多くの人々の熱意と行動によって沖縄県政に引継がれ、利用に供されている。琉球文書に限らず、資料の経緯を学ぶ大切さと、受け継がれた記録に現在の記録を積み重ね、次世代に引き継ぐことが、現世代の役割なのだと改めて感じた。本稿では対象としなかったが、米国側の資料も合わせて検討をすることによって、米国統治時代における沖縄の資料の全体像を描くことができると考える。今後も継続して調查を進めたい。 最後に、本報告は、筆者の現在及びこれまでの所属機関の業務方針とは関わりがないことを申し添える。 琉政文書の軌跡を追う中で、改めて資料管理に携わった人々に深い敬意の念を抱くとともに、改めて資料の重みを感じた。本稿執筆に際し、公益財団法人沖縄県文化振興会の関係各位にはお世話になった。感謝申し上げる。 ## (註・参考文献) [1] 山田勉. 衣食の飢えと心の飢えと. 沖縄の図書館.『沖綶の図書館』編集委員会編, 教育史料出版会, 2000, p.32-38. [2]沖縄県公文書館では、米国での資料収集事業を展開しており、その成果は、仲本和彦の一連の論考に詳しい。近年では、金子彩里香によって、USCARの記録管理ついて研究がなされている。(金子彩里香. 戦後沖縄におけるUSCAR の記録管理と「処分」. 国文学研究資料館紀要アーカイブズ研究篇. 2017, 第13号, p.111-130.) [3] 大城将保. 琉球政府. ひるぎ社, 1992, p. 24. [4] 沖縄振興の必要性. 首相官邸ホームページ, https://www.kantei.go.jp/jp/headline/okinawa_shinko/hitsuyousei. html [参照 2018-10-25] [5]「沖縄21世紀ビジョン基本計画【改定計画】(沖縄振興計画)」の公表について. 沖縄県, 2017. http://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/h29_ kaiteikeikaku.html [参照 2018-10-25] [6] 大湾ゆかり,復帰前における琉球政府文書の保存活動について. 沖縄県公文書館紀要. 2004, 第6号, p.101-114. [7] 大湾ゆかり. 琉球政府文書に関する保存履歴の記録化の試み. 沖縄県公文書館紀要. 2012, 第14号, p.9-26. [8] 沖縄県公文書館. 特別展 - 琉球政府の時代 - 沖縄県公文書館開館1周年記念事業. 沖縄県公文書館, 1996. [9] 行政府配下には、1972年5月14日時点で次の11の局庁があり、各局庁下に総務課が存在した。(総務局・企画局・主税局 ・法務局 - 農林局 - 通商産業局 - 建設局 ・厚生局 - 労働局・宮古支庁・八重山支庁)。(照屋榮一. 終戦39周年記念沖縄行政機構変遷史明治12年~昭和59年. 1984.) [10] 行政府文書管理規程(訓令第1号). 琉球政府公報(号外)第1号. 1970, 琉球政府, 沖縄県公文書館蔵. [11] 行政文書管理規程の一部を改正する訓令(1971.11.1訓令第 68号). 琉球政府公報(号外)第145号. 1971, 琉球政府, 沖縄県公文書館蔵。 [12] 「公文書類の引継要領について(依命通達)(1972.1.22総文第6号).1971, 琉球政府, 琉球政府文書デジタルアーカイブ (資料コード:RDAE005667), 沖綶県公文書館蔵. [13] 大城将保. 沖縄県沖縄史料編集所の沿革. 沖縄史料編集所紀要. 1976, 第1号, p.144-150. [14] 前揭註6. [15] 前揭註6 .p. 112 . [16] 渡口善明. 琉政文書と十七年. (有) 沖縄マイクロセンター, 1995. [17] 渡口善明. 語りかける沖縄の文書. 渡口貞子, 1989. [18] 金城功ほか. 沖縄県公文書館開館10周年記念シンポジウム,「琉球政府の記録から何を学ぶか」. 沖縄県公文書館紀要. 2007, 第9号, p.117-136. [19] 琉球王府に打いて、政治・外交・経済等、王府の最高の意思決定機関である評定所が記録した文書資料(当時の公文書)で、琉球処分により、明治政府に接収され、その後内務省倉庫に入ったものの、関東大震災でその多くが焼失したといわれている。内務省が作成した目録及び一部資料の筆写が東京大学法学部法制史資料室に「琉球評定所記録」 として所蔵されている。また、1986年に、我部政男らにより警視庁で琉球評定所文書の写本が発見され、警視㕂発見資料は、国立公文書館に移管された。(島尻勝太郎. [棇説]評定所文書についての概観. 琉球王国評定所文書. 浦添市教育委員会, 1988, 第一卷, p.6-14.) [20] 前揭註18. p. 119 . [21] 前掲註17. p. 33 . [22] 前揭註18. p. 120 . [23] 前揭註18. p. 120 . [24] 渡口善明. 琉政文書がうったえるもの. 渡口貞子, 1985. [25] 前掲註 17 . [26] 前揭註 16 . [27] 前掲註24. p. 22 . [28] 前揭註16. p. 23 . [29] 前揭註7. p. 19 . [30] 大城立裕. 琉政文書の仮目録による廃棄処分等について. 沖縄県公文書館紀要. 2000, 第2号, p.1-11. [31] 出入管理部と税関の文書については、数も膨大で選別に迷ったという。後に統計資料としての価値は高いか、という判断基準から、「渡航申請書」「輸入申告書」についてはサンプルとして年度ごとに1冊残すにとどめ、「輸出申請書」 についてはすべて保存したという(前揭註30)。 [32] 2014年4月25日段階で、最も利用回数が多い資料群は、「土地所有申請書」や「一筆限調書」に代表される、土地台帳に関する書類である。(株式会社Naisei. H26年度琉球政府文書デジタル・アーカイブズ推進事業普及活動報告書. 2015, 株式会社Nansei, p.9-12.) [33] 前揭註16. p.21. [34] 前揭註18. p.121-122. [35] 文部大臣の沖縄訪問に際する陳情について. 沖縄・琉球昭和45年度(平18文科00227100),国立公文書館蔵. [36] 前揭註24. p. 65 . [37] 大田昌秀.アーカイブズと私-沖縄の経験から-、アーカイブズ学研究, 2014, No.21, p.8-16. [38] 豊見山和美. 沖縄県における公文書の管理と公文書館4年間の実践と今後の展望. 沖縄県公文書館紀要. 2000, 第2号, p.31-48. [39] 大湾ゆかり. 琉球政府文書の保存状態調査について. 沖縄県公文書館紀要. 1998, 第1号, p.119-123. [40] 大湾ゆかり. 琉球政府文書保存状態調查の報告. 沖縄県公文書館紀要. 2007, 第9号, p.37-48. [41] 財団法人元興寺文化財研究所. 琉球政府文書の素材調査報告書. 沖縄県公文書館紀要. 2007, 第9号, p.37-155. [42]「琉球政府文書の現状と保存対策のこれから」 [43] 大湾ゆかり. 琉球政府文書の利用状況調査報告. 沖縄県公文書館紀要. 2001,第3号, p.67-84. [44] 株式会社Nansei. H26年度琉球政府デジタル・アーカイブズ推進事業普及活動報告書. 2015, 株式会社Nansei. [45] 吉嶺昭. 琉球政府文書のマイクロ化について. 沖縄県公文書館紀要. 2002, 第4号, p.33-39. [46] 吉嶺昭. 琉球政府文書のマイクロ化について. 沖縄県公文書館紀要. 2003, 第5号, p.83-96. [47] 吉嶺昭. 琉球政府文書の緊急保存措置事業-マイクロ化とその利用のための方策. 沖縄県公文書館紀要. 2007, 第9号, p.49-58. [48] 吉嶺昭. 資料保存の取り組み一筆地調査図の代替化を中心に〜. 沖縄県公文書館紀要. 2016, 第18号, p.23-39. [49] 前揭註47. p.51-52. [50] 大城博光. 公文書目録情報のデータベースモデル〜階層構造を持つ目録情報のリレーショナルデータベースでの実装 ~. 沖縄県公文書館紀要. 2000, 第2号, p.117-123. [51] 豊見山和美. 公文書目録データベースにおける階層構造の表現に関する試み〜琉球政府文書を例に〜. 沖縄県公文書館紀要. 2001,第3号, p.47-55. [52] 堀川輝之. 米国統治時代の沖縄関係資料の現地収集及びウェブ公開の意義. カレントアウェアネス-E1404, http:// current.ndl.go.jp/e1404 [参照 2018-10-25] [53] 前揭註44. [54] 株式会社Nansei. 平成27年度琉球政府デジタル・アーカイブズ推進事業普及業務報告書. 2016, 株式会社Nansei. [55] 西山絵里子. 近現代公文書のインターネット公開における課題と対応琉球政府文書デジタル・アーカイブズ事業を例として〜. 情報の科学と技術. 2016, vol.66, no.11, p.572578. [56] 小野百合子. 琉球政府文書デジタルアーカイブと「布告・布令・指令等に関する書類」について. 沖縄県公文書館紀要. 2018, 第20号, p.29-38. [57] 琉球政府文書デジタルアーカイブ. http://www.archives.pref. okinawa.jp/digital_archive [参照 2018-10-25] [58] 前揭註55. [59] 前掲註5. [60]「沖縄平和学習デジタルアーカイブ」は平成30年4月以降、「予算が減少する中でアクセス件数を増加させるなどの課題」があり、運用の見直しが必要となったことから一時休止。監修者である渡邊英徳氏は、サイト休止を知り、自身の研究室のサーバーにコンテンツを移植し、公開を続けた。 サイトは同年12月1日に再開した。 http://www.pref.okinawa.jp/site/kodomo/heiwadanjo/heiwa/ heiwagakushu.html [参照 2018-12-05] http://okinawa.archiving.jp/ [参照 2018-12-05] *渡邊研究室サーバー [61] 沖縄タイムスープラスニュース.「沖縄平和学習アーカイブ」 が見られない制作費は8千万円以上県は早急に再公開へ 2018年8月2日. http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/293108 [参照 2018-10-25]. [62] 琉球新報. 沖縄史教育「不十分」75\% 悩む高校社会科教員. 2013年7月5日. https://ryukyushimpo.jp/news/prentry-209022. html [参照 2018-11-23]. [63] アンケートは沖縄県内の全県立高校の2年生2クラス、計36 校、2,340名が回答。 琉球新報. 沖縄復帰いつ? 正答 $12 \%$ 県内高校生調查. 2015年5月14日. https://ryukyushimpo.jp/news/prentry-242922. html [参照 2018-11-23]. [64] 文部科学省. 高等学校学習指導要領 (平成30年3月公示). http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm [参照 2018-10-25]
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# [A35] データサイエンス時代の歴史情報基盤の構築 ○佐野智也 ${ }^{1)}$, 増田知子 ${ }^{11}$ 1) 名古屋大学大学院法学研究科, 〒 464-8601 名古屋市千種区不老町 E-mail: tomoya@law.nagoya-u.ac.jp ## Developing of history information platform in the data science era SANO Tomoya ${ }^{1)}$, MASUDA Tomoko ${ }^{1)}$ ${ }^{1)}$ Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, 464-8601, Japan ## 【発表概要】 「日本研究のための歴史情報」プロジェクトでは、様々な資料のデータベース化に取り組み、研究に利用している。研究利用のためには、テキストデータであることが重要であるが、明治〜占領期の資料について、テキストデータの作成はあまり活発におこなわれていないように思われる。本報告では、『人事興信録』データベースと「SCAPIN」データベースについて、テキストデ一タの作成方法を説明する。また、データベース化にあたっては、研究利用の立場からの様々な要請に応えており、これらデータベースと研究利用の関係についても報告する。 ## 1. はじめに 人文・社会科学の研究に共通している、ごく基本的な作業として、多くの文献・資料等の記載内容を解釈・再構成することが挙げられる。研究者がおこなっている高度な解釈・再構成をコンピュータに再現させることは、現時点では不可能であるが、パターン化可能な、文字通り機械的な作業であれば、コンピユータにおこなわせることが可能である。大量のデータの中から正確に情報を発見することや、一定のルールに基づいて情報を有機的に結合すること、大量の処理を短時間でおこなうことは、コンピュータ処理の方が優れている。 名古屋大学法学研究科でおこなっている 「日本研究のための歴史情報」プロジェクト (http://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/)では、法学、政治学、経済学で扱う歴史資料(明治〜占領期)のデータベース化に取り組んでいる。 その目的は、資料画像の展示ではなく、文献・資料に記載されている情報の集計や内容の検索を自由にできるようにすることである。文献・資料のテキスト化及びコンピュータ処理を、解読前の作業工程に組み入れることで、従来の研究者の手作業では非常に困難であつた、大量の情報を短時間で処理することが可能となった。従来の手法では十分に利用しえなかった文献・資料情報を、コンピュータ処理を組み入れて、効率的に分析することにより、新たな知見を獲得することを目指している。 本報告では、『人事興信録』(人事興信所が、 1903(明治 36)年から 2 3 年毎に刊行した人事情報誌であり、戸籍調查に基づき、家族、親戚情報が詳細に記載されている)と SCAPIN(スキャピン、占領期間中(1945~ 1952 年)に連合国軍最高司令部(SCAP)から日本政府に発せられた対日指令集)のデー タベースの構築に関する経験を中心に説明する。 ## 2. テキストデータの作成 ## 2. 1 テキストデータの意義 単に電子化いう場合、画像データかテキストデータかということは区別せず使うことが多い。しかし、研究で利用する場合、文献・資料に書かれている内容が必要であるため、 テキストデータになっていなければ、その利用は、紙の場合とほとんど変わらないものに留まる。画像データでは、検索によって情報を発見することができないのはもちろん、テキスト処理・テキストマイニングなどの手法も全く使うことができないからである。テキストデータにすることによって、文献・資料中の膨大な情報の中から、必要な情報を高速かつ正確に分解・抽出し、再構成することが できるようになる。この点で、テキストデー 夕の活用は、書籍や画像データを使ったものとは異なるレベルの研究手法であると言える。 このように重要なテキストデータであるが、明治〜占領期の資料について、ほとんど作られていないのが現状である。その最大の原因は、画像データに比べると、テキストデータの作成には、非常にコストがかかる点にあると考えられる。特に、この時代の資料は、印刷技術や資料の経年変化の関係で OCR の読み取り精度が一般的に低いため、正確なテキストデータを作るためには、校正に多くの人手が必要となる。さらに、使われている漢字が旧字体であることも、OCR の読み取り精度を低くする上、校正に知識が必要になってくる。これらの諸要素によって、テキストデー タ化は、高額化しますます困難となっている。 ## 2. 2 『人事興信録』テキストデータの作成 本プロジェクトでも、計画時の最大の問題は、どのようにテキストデータを作成するかということであった。諸条件を勘案し、『人事興信録』のうち第四版を最初にデータベース化することを決めたが、第四版は、本文だけで 1992 頁、1 頁あたり約 2300 文字と試算された。佐野は、明治期の法律関連資料のテキスト化を積極的におこなってきており、一定の経験を有していたが[1]、この規模のテキス卜化をおこなった経験はなく、大規模なテキスト化を受注可能な信頼できる業者の選定と予算が課題であった。 この課題は、株式会社凸版印刷の「高精度全文テキスト化サービス」を利用することで、解決した。当時、図書館向けの電子書籍サー ビスである EBSCO NetLibrary の代理店であった紀伊國屋書店から、凸版印刷がテキストデータを作成していると聞き、詳細な作業手順の説明を受け、実際に作業現場の見学もした上で、利用することを決めた。 テキストデータの精度は、 $99.98 \%$ 以上の仕様として、高精度にしている。テキストデー 夕に誤りがあると、その後のテキスト処理がうまくできなくなってしまうからである。他方、漢字の字体については、凸版印刷が通常、 JIS 第四水準の範囲内の入力に限定していることから、これに合わせることにした。デジタルアーカイブでは、漢字の字体の再現や、 あるいは資料の体裁の再現について問題となることもあるが、法律学・政治学では、内容が重要であり、字体や体裁が問題となることはないため、この点に対する厳密な再現はおこなっていない。 ## 2. 3 SCAPIN テキストデータの作成 SCAPIN のテキストデータの作成方法は、『人事興信録』とは異なる。SCAPIN は、全部で 2635 件あるため量が少ないわけではないが、テキストデータ化にあたっては、量よりも原資料の質が問題となった。連合国軍総司令部の作成した文書(英文タイプで作成) を、マイクロフィルム撮影により複写した国会図書館所蔵版を利用したが、原本の印字が不鮮明なもの、文書全体がかすれてほとんど読めないものなども含まれており、文書の状態はバラバラであった。 ところで、SCAPIN の一部は『日本管理法令研究』[2]に活字化されて掲載されている。 また、『SCAPINS』[3]にも部分的に掲載がされている。これらを利用すると、ほぼ OCR のみで高精度のテキストデータを作成できる。 このような状況において、まず、『日本管理法令研究』と『SCAPINS』の掲載分については、OCR による精度の高いテキストデータを作成し、国会図書館所蔵のマイクロフィルムを元にした校正を業者に依頼した。残りの SCAPIN については、OCR によってどれくらい読み取れるかを測定し、状態の良いものは業者に依頼をおこなった。状態の悪いものについては、専門の研究員を雇用して、すべて手作業で入力をお願いした。 ## 2. 4 本プロジェクトにおけるテキストデータ と画像デ一タの位置づけ デジタルアーカイブを作る際には、画像とテキストを重衩合わせるなど、画像との照合に重点を置く場合もある。しかし、本プロジ エクトでは、テキストデータとしての活用を重視しており、原資料を精密に再現していない。原資料の体裁にとらわれず、内容によってテキストを整理することで、広い分野でのテキストの活用を容易にしている。また、再現を重視しないことにより、テキストデータの作成コストやテキスト処理の負担を軽減できる。 しかし、資料解読の作業においては当然のことながら、原本を確認する必要が出てくる。 そこでテキストと原本とを照合できるよう、 データベース上では、ページ単位あるいは文書単位で、原資料の画像を簡単に確認できるようにしている。 ## 3. 研究利用とデータベースの構築 3. 1 人事興信録研究における DB 本プロジェクトでは、『人事興信録』を近代日本の社会経済政治の変化を反映している人事情報データとして、複数の研究者がそれぞれに分析対象として扱っている[4]。統計分析を行うグループは、テキストデータから必要な情報を抽出し、統計分析ソフトを使って研究を進めている。政治史研究では、テキストデータから得られた定量的な情報を、他の文献・資料と照合する定性的な分析を進めている。佐野は、『人事興信録』の資料としての特徴の分析を進めている。まず、記載項目や記載形式の分析をしているが、これはテキスト処理をするための基礎となっている。これに基づき、実際にテキストデータを処理した上で、表計算ソフトやネットワーク可視化ソフ卜を使い、『人事興信録』の定量的な分析を進めている。 プロジェクトにおいて検索 DB は、テキス卜処理によって分解・抽出された情報の実体を確認するための共通基盤となっている。 検索 DB には、研究利用上の必要性や要請から生まれた機能が備わっている。まず、 「親」、「政党」、「出身校」、「所得税」、「参照次数」などの項目は、研究目標との関係で必要とされたため、テキスト処理により取得し、検索項目になっている。本研究では、採録者の名前を他の資料と突合する作業が多く発生する。その際、文字コ一ドが異なると、機械的に同一人物を判定することができない。例えば、「郎」と「郎」などは、見た目もほとんど同じであるが、文字コードが異なり、機械的にはマッチしない。 そこで、新字体・旧字体はもちろん、「渡邊」 と「渡邊」など、氏名に特有な差異があってもマッチングできるような仕組みを構築した。 この仕組みは、そのまま検索 DB でも利用できるようになっている。 『人事興信録』は、家族、親戚情報が詳細に記載されていることが大きな特徴であり、 これを利用して、家系図を表示することが、研究の当初から要請されている。家系図は、 データ表現が難しいため、この要請には答えられていないが、採録者の実親子関係を利用して、人事興信録に採録者として登場する場合には、親や兄弟を表示できるようにしている(図 1)。 また、本プロジェクトでは、『人事興信録』 を用いて人物ネットワークの解明もおこなっているが、この研究目的の達成を目指して、 ネットワーク図を表示する機能も実装する予定である。 『人事興信録』データベースは、2018 年 8 月に一般公開をしたが、研究利用を主目的として開発したものを、いわば副産物として一般公開したという側面がある。非常に細かい検索項目が設定されているのはそのためである(図 2)。反対に、一般公開にあたっては、非専門家が利用できるものでなければならないと考え、研究利用段階では搭載されていなかった、全項目一括検索機能を搭載した。 図 $1 . \mathrm{DB}$ で表示される実親子関係図 図 2. 『人事興信録』データベース 図 3. SCAPIN-DB の画面 ## 3. 2 SCAPIN 研究における DB SCAPIN の研究は、ある SCAPIN が、具体的にどのような政策や立法に結びついているのかの解明を目指しているが、そもそも、 SCAPIN は、内容自体も知られていないことが多いため、データベースの目的は、まずは検索して内容を読むことにある。様々な角度から内容を読解できるように、資料に明示されている関連 SCAPIN にアクセスできるように整備してある。 また、具体的な立法との関係を明示している資料について増田から提示があり、それら判明した情報については、合わせて閲覧できるようになっている。さらに、『日本管理法令研究』に示されている、管理法令日誌の同日の日付の出来事を表示してほしいとの要望があり、閲覧できるようにした。 これらの関連情報は、画面の左側に一覧として表示されるようになっている(図 3)。これにより、SCAPIN と法令の関係の手がかりを得られるようになっている。 ## 4. おわりに 明治〜占領期については、多くの資料がテキストデータ化されないまま残されている。法律の基本資料である官報や帝国議会議事録すら、テキストデータにはなっていない。デ ータサイエンス時代において、憂慮すべき状況だと考えられる。本プロジェクトでは、今後も、歴史情報基盤の構築を進めていきたいと考えているが、 1 組織には限界があり、他にも多くの試みが登場することが必要である。 ## 謝辞 本研究は、科研費 16H01998、および、特別経費「電子立法支援システムを基盤とした法令情報の国際発信・共有のための法学・情報科学の融合研究の推進」(名古屋大学大学院法学研究科附属法情報研究センター)の助成を受けた。 ## 参考文献 [1] 佐野智也. 立法沿革研究の新段階一明治民法情報基盤の構築一. 信山社. 2016, pp.8791. [2] 日本管理法令研究会編. 日本管理法令研究. 1-35 号. 大雅堂. 1946.4-1953.12. [3] General Headquarters, Supreme Commander for the Allied Powers. SCAPINS. General Headquarters, Supreme Commander for the Allied Powers. 1952. (名古屋大学附属図書館所蔵) [4] 研究成果の一覧は、HP (http://jahis.law. nagoya-u.ac.jp)に掲載している。 (参照日 2019-01-24) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A34] 国書刊行会刊「近代日本彫刻史」における人名およ び事項の索引作成 ○保坂 涼子 1 ) 1)武蔵野美術大学, 〒 187-8505 東京都小平市小川町 1-736 ## Indexing of Names and Subjects in Modern Japanese Sculpture History from Kokushokankokai Inc \author{ HOSAKA Ryoko1) \\ 1)Musashino Art University. 1-736, Ogawa-cho, Kodaira-shi, Tokyo , 187-8505 Japan. } ## 【発表概要】 本稿は筆者が『近代日本彫刻史』(田中修二、大分大学) において巻末索引を作成した際のデータベースをもとに本の内容を浮かびあがらせようというものである。索引作成持に必要となるのはキーワードの設定と主要な固有名詞の選定である。田中修二の『近代日本彫刻史』は江戸時代までの日本美術史の中で語られてきた彫刻的な造形と明治期以降の近代日本彫刻史とを明確に区分するという意図を持っていない。「彫刻」というメディアと分離して取り扱われてきた分野の間にも彫刻的造形を見出すという新たな試みである。西洋の sculpture という意味で「彫刻」という語が登場するのは 1876 (明治 9) 年の工部美術学校の開設以後からと考えられる。明治期以降「彫刻家」として活躍した人物たちの中には仏像制作の仏師、様々な業種の職人までも含まれる。全 9 章から抽出した固有名詞、造形表現用語、各種事項の作成作業についての報告である。 ## 1. はじめに. 索引作成とはなにか。図書館用語集からその意味を引いてみると、 〈さくいん索引(index) $)$ ある特定の情報を検索するために、その情報を示す語句または記号等(キーワード、索引語) を一定の順序に排列し、その情報の所在を指示するもの。” 〈さくいんさくせい索引作成 (indexing) $\rangle$索引を作ること、あるいはその方法 (索引法) やその作業過程を指していう。… と説かれている。 一冊の本に巻末索引が付されていることの利点は情報利用者(文献探索者)が利用し易くすることにある。海外の出版事情においては索引を作成することに対し職業意識が非常に高いように見受けられる。日本においては具体的教育を受け資格を許可された人間が作成することがないという現実があり、著作物の索引作成事情については未知の部分が大きい。とりわけ専門性の高い学術書には精度の高い索引が必要であることは言うまでもない事実である。 ## 2.彫刻という難解なメディア 2.1 著者による索引本稿の標目『近代日本彫刻史』は美術の中でも稀有な歴史書である。著者田中修二の彫刻史の処女作は『近代日本最初の彫刻家』であるが、 この本の巻末索引には(1)本索引は、人名・事項名の索引とすること。(2)事項名は、主要なものに限り、また一部本文の記述にそくして、特に事項名をたてたものもあること。という注意書きがある。大熊氏廣と後藤貞行という二人の彫刻家を主体に語られているため、収録された索引は、本の趣旨と作者の意図が反映されている。田中は美術史を語る上で「銅像」を網羅的に集めたところで個々の作品をどこまで平等に語りうるのか、と読者に疑問符を投げかけながら後に刊行の『近代日本彫刻集成』という大著 3 巻本の内容を历めかしているようである。一人の著者が生涯に何冊も本を刊行することは今日の出版事情からすれば稀有なことであるので、田中の著作の分析は著作物における索引の在り方そのものを考えさせるものであろう。 ## 2.2 語られてきた「近代彫刻」との比較 近代美術の中で取り上げられてきた彫刻家は一体何人いたのか。比較のために取り上げるのは以下の 4 冊である。『近代日本美術家列伝』 (1999)、『日本の近代美術 11-近代の彫刻』 (1994)、『近代日本美術事典』(1989)、『明治 の彫塑一「像ヲ作ル術」以後』(1991)。『近代日本美術家列伝』は当時神奈川県立近代美術館長であった酒井忠康が雑誌『美術手帖』連載の記事を出版化したものである。原稿は当時の学芸員が執筆したものであり、収録作家の総数は 164 人(建築家・美術史家・評論家・ その他 10 数人を含む)である。「作家略伝」 の体裁のため目次に作家名と掲載頁の見出しの掲載が、巻末には「人名索引」として五十音順索引が表記されている。筆者が掲載された作家名を独自に集計したところ、掲載彫刻家の総数は 14 名であった。 『日本の近代美術 11-近代の彫刻』は酒井忠康が責任編集を担当した著作物であるが残念なことに掲載作家の索引の付記がない。冒頭の目次に掲載された人物と作品名は掲載頁順に (1)高村光雲《老猿》 (2)高村光太郎《腕》 (3)橋本平八《或る日の少女》 (4)新海竹太郎《ゆ女み》 (5)朝倉文夫 《墓守》 (6)荻原守衛《女》 (7)中原悌二郎《若きカフカス人》 (8)戸張孤雁《足芸》 (9)石井鶴三《信濃男》(10)藤川勇造《Mr.ボース》 である。筆者が引用された作家名を独自に集計したところ、掲載彫刻家の総数は 60 名であった。巻末に付されたデータとしては(掲載された全 10 作家の)関連作品収蔵先一覧が 6 頁、 および関連年表が 12 頁である。この本には出版に関わった人物が多数おり、少ない頁数の中に近代日本彫刻の要旨が分かり易く説いてある。監修に関わった人物の出版当時の略歴を列挙すると、町田市立国際版画美術館館長の青木茂、神奈川県立近代美術館館長の酒井忠康、山種美術館企画・普及課長の草薙奈津子、早稲田大学文学部教授の丹尾安典、神奈川県立近代美術館学芸員の原田光、東京国立文化財研究所美術部の三輪英夫、インディペンデントキュレー ターの萬木康博、神奈川県立近代美術館学芸員の堀元彰、神奈川県立近代美術館主任学芸員の橋秀文、台東区朝倉彫塑館学芸員の村山万介、碌山美術館学芸員の千田敬一、千葉市教育委員会美術館開設準備室学芸員の半田滋男がいる。『近代日本美術事典』は文部省美術研究所に勤めた美術評論家の河北倫明の監修で出版された。当時の略歴で東京国立文化財研究所美術部第二研究室長の三輪英夫、同研究所美術部研究員の佐藤道信・山梨絵美子両者による執筆である。近代日本美術の研究は昭和初期に同研究所の前身である帝国美術院の中に明治大正美術史編纂委員会が設けられたことによる。明治大正美術史編纂事業が同研究所に委託された。昭和 10 年文部省所管の美術研究所管制が公布され、以後同研究所正規事業として取組まれた。 (『日本美術年鑑』は昭和 11 年版から刊行)『近代日本美術事典』刊行は美術関係者、とりわけ学芸員にとって長らく待望されたものであったという。絵画領域(日本画/洋画/版画/挿絵) と彫刻領域を主要な分野として収録し将来には建築/工芸/デザインの各領域にまで広がりを見せるであろうと言及し 1252 名の該当範囲の作家を掲載した。構成は明治初期に活動の作家を上限とし、下限を 1930 年(昭和 5)生まれと定めている。掲載作家名の目次が付されていないことが残念であるが本の見出しは五十音の配列となっており、読仮名には姓と名の間に中黒 $(・)$ が表示される等、表記上の工夫がある。活動分野を洋画/日本画/版画/水彩画/童画/挿画/彫刻と示したことは絵画領域と彫刻領域を合わせて「近代日本美術」と冠した最初の事典としての特色であろう。この本の内容から筆者が独自に集計した彫刻家の総数は 160 名である。作家の顔写真と代表作品が掲載されていることで各分野が比較できるような編集である。巻末には「関係事項(美術団体・学校他)」 とし、20 頁を割いて美術団体・画塾を 160 項目掲載。さらに彫刻に関しては「彫刻諸団体」 と区別し、一括の記載となっておりそれらの変還は「近代美術の流れ一洋画、日本画、彫刻」 という 3 つの分野で 6 頁に図解されている。『明治の彫塑』は出版当時東京国立文化財研究所美術部名誉研究員 (註: 現在の独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所) $の$ 中村傳三郎が近代日本美術史の内でも特に彫塑史研究に 40 余年間従事した経験から出版されたものである。この本のタイトルには副題が付されている。〈「像ヲ作ル術」以後〉という題には「彫塑」という語が造形の特質上、分けて考えられる「彫刻」と「塑像」が明治以降に新しく概念 として発生したものであることが含まれている。中村は明治以降の彫塑が日本彫塑史上、最も大きな変動の時期であり西洋近代文明の導入が彫塑の世界においては西洋の技術の習得であったことを指摘した。中村が入所した国立博物館附属美術研究所は前述の『近代日本美術辞典』の項でも述べたが帝国美術院附属美術研究所が全身である。この研究所は帝国美術院院長だった子爵黒田清輝が大正 13 年に没してその遺言で美術奨励事業のために出捐した資金により事業として設けられたものである。研究所の方針には東京美術学校 (東京藝術大学の全身) 教授で後に国立博物館附属美術研究所所長の矢代幸雄の「美術に関する写真・文献資料はなんでも収集し、またそれを活用して調查研究を進めよう」という考えが採択された。同研究所は東京、上野公園の現在地に昭和 5 年に発足した。(当初「黒田清輝記念館」)昭和 2 年の朝日新聞社企画開催「明治大正名作展」を開催後、同新聞社の展覧会開催の収益金の寄付の申し出受理から明治大正美術史編纂事業が起こつた。新聞社から多大な援助を受けられたことが近代美術研究室発足の端緒となった。このことが同研究所に近代美術関係の図書から文芸誌に至るまで膨大な文献資料が網羅的に収集保管される所以である。中村の著作『明治の彫塑』 にも残念なことに巻末索引は見受けられない。巻末に掲載の参考文献の頁数は総数 10 頁である。目次の見出しからわずかに彫刻家・および美術史に関連する人物名・用語を拾うと、「彫塑」「日本彫刻会」「岡倉天心」「銅像」「ロダン」「ロッソ」「荻原守衛」「北村西望」「新海竹太郎」「印象主義」の 10 語となる。章立ての見出し、第 4 章および第 5 章に「ロダン」が 2 回も連続して登場している。なお、中村傳三郎の膨大な研究の紹介として小平市平櫛田中美術館学芸員の藤井明編集『中村傳三郎美術評論集成』が国書刊行会から 2018 年に刊行された。中村の仕事は「彫塑史」の範疇を超え、今日の 「近代日本彫刻史」研究の礎を築いた人物として再評価が高まっている。中村に取り上げられた画廊開催の展覧会案内状やパンフレットは既に入手困難なものばかりでそのような貴重 な資料が収録された『中村傳三郎美術評論集成』 は美術研究者にとってまさしく待望の書であるといえる。 ## 3. 索引作成のプロセス 3.1. 索引作成はアナログ的思考 『索引一作成の理論と実際』はイギリスの索引家養成講座で使用されたテキストを和訳化したもの。索引作成者を大別すると(1)著者(2)雇われの職業索引家(3)自由業の専門家の 3 種に分類されることが説明されておりイギリス/アメリカ、両国には索引家協会が存在した。イギリス索引家協会が行った講義は索引作成の初心者向けに行ったものであった。和訳初版が 1981 年であるので 38 年前の話である。パソコンが一般化する以前に行われていた索引作成法とは手作業によるカード記入方式であった。その後イギリス索引家協会は出版業界の悪化から廃止となった。現在の日本の索引作成において確立された良い方法があるかというと 1980 年代と状況に変化はない。最近の研究者の論文アンケートにも索引を作成する際の問題が指摘されている。索引のある、なしが本の内容を決定付けることは明白である。にもかかわらず、出版の事情から正確な索引を作成することだけに時間を割り当てることが困難だという作業の矛盾は解消されることなく連綿と続いている。 ## 3.2.『近代日本彫刻集成全 3 巻』と『近代日本彫刻史』 2013 年刊行の『近代日本彫刻集成 1 幕末 - 明治編』『近代日本彫刻集成 2 明治後期・大正編』『近代日本彫刻集成 3 昭和前期編』(判型 A4 変形判、頁数第 1 巻: 552、第 2 巻: 608、第 3 巻 : 754 頁)の時代設定の下限は敗戦後 1950 年前後である。本稿で取り上げる「近代日本彫刻史」は判型を前掲書の半分 (A5)、896 頁と少ない紙面に内容は彫刻集成の 3 巻分に第 9 章の項で現代の作家を大幅に加えた (出版後物故作家が生じたので下限を 2018 年) 形となっている。通史として、前例のない広域の時代を網羅した大著には海外の作家や偉人も含まれる。明治期以降「彫刻家」として活躍した人物の中には仏像制作の仏師、象牙に細工をして根付や置物の牙彫師、人形をつくる人形師/大工/陶工/ 石工/漆工/金工の職人がいた。なお、筆者が選出したが『近代日本彫刻史』の索引に適用とならなかった項目についての見解を述べる。吉川弘文館刊『近代日本最初の彫刻家』では大熊氏廣の作品《瓜生岩子銅像》が「女行」〈瓜生岩子〉の見出し中に関連項目として並列表記されている。『近代日本彫刻史』の本文中にもく瓜生岩子〉に関する表記は 2 箇所指摘できる。第 3 章 p194 と第 4 章 p265 にそれぞれ《-銅像》 の表記がある。ジェンダーの観点で見たときに瓜生岩子 (岩) については『日本女性肖像大事典』p21で確かめることができる。これまで積極的になされてこなかったが、今後男女の差異を視点にした新しい観点で美術史を語る試みが活発化するであろう。 ## 4. おわりに 出版までの期間はおおよそ二年間であった。概要を以下に付記して末尾とする。 ○依頼受諾 (1) 本の内容を「近代日本彫刻史概論」とする大まかな構想と第 1 章の内容、目次案。 (2) 作成手順の確認 (当初の予定では「索引」は「人名」「団体名」 とすることとし、「事項」に関しては表出しな い予定となっていた。) ○作業の指定 ・執筆の順にデータ送信されてくる Word 形式本文各章の原稿を読み、そこに出てくる「人名」 「団体名」を残らずチェックする。 ・チェックした人名および団体名を、それぞれ 50 音順にデータ化。 ・作業を最終校かその前段階までに終えること。 ・これらの作業中に原稿を読んでいて誤字や脱 字、不自然な文章の発見があれば知らせること。章毎に五十音管理した総数 4454 行のデータから最終的に巻末索引として採用され収録された総数は人名索引 847 、事項索引 336 である。 ## 参考文献 [1] 日本図書館協会用語委員会編集C. 図書館用語集四訂版. 公益財団法人日本図書館協会. 2013/10. p.98-99 [2] 柴田光滋. 編集者の仕事一本の魂は細部に宿る.新潮新書.2010/6 .p.61-63 [3] 緒方良彦○.インデックスその作り方・使い方ーデータベース社会のキー・テクノロジー.産業能率大学出版部. 1986/11.p24-25 [4] 田中修二. 近代日本彫刻史.国書刊行会. 2018/02 [5] 田中修二. 近代日本最初の彫刻家.吉川弘文館. 1994/03 [6] 田中修二. 近代日本彫刻集成〈第 1 巻〉幕末・明治編.国書刊行会. 2010/09 [7] 田中修二. 近代日本彫刻集成〈第 2 巻〉明治後期・大正編.国書刊行会. 2012/01 [8] 田中修二. 近代日本彫刻集成〈第 3 巻〉昭和前期編.国書刊行会. 2013/05 [9] 神奈川県立近代美術館編集. 近代日本美術家列伝.美術出版社. 1999/03 [10] 酒井忠康責任編集青木茂監修. 日本の近代美術 11-近代の彫刻.大月書店.1994/04 [11] 河北倫明監修. 近代日本美術事典.講談社. 1989/09 [12] 中村傳三郎. 明治の彫塑.文彩社. 1991/ 03 [13] 東京文化財研究所.「美術雑誌の情報共有に向けて」公開研究会.2018/3/16 [14] 藤井明編集.中村傳三郎美術評論集成.国書刊行会. 2018/10 [15] G.ノーマン・ナイト編集日本索引家協会監修藤野幸雄訳. 索引一作成の理論と実際.紀伊国屋書店. 1981/04 [16] 日本索引家協会編書誌索引展望 7(1)戸田慎一著.〈調査報告〉イギリス索引家協会の “索引家登録台帳” 制度.日外アソシエ ーツ.1983/02.p32-36 [17] 一般社団法人情報科学技術協会編情報の科学と技術 68(3) 藤田節子著.図書の索引作成の現状一編集者と著者への調查結果から一. 2017/11.p135-140 [18] 永原和子監修. 日本女性肖像大事典.日本図書センター. 1995/11
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# [A33] 西北タイ歴史文化調査団蒐集 $8 \mathrm{~mm$ 動的映像資料 の「再資料化」の試み:データベース消費の観点から } 藤岡洋 1) } 1) 東京大学東洋文化研究所, 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: hujioka@ioc.u-tokyo.ac.jp ## Approach to "Deep Indexing" of $8 \mathrm{~mm$ films collected by Northeast Thailand History and Culture Study Group in 1971: From the viewpoint of database consumption HUZIOKA Hirosi ${ }^{1}$} 1) Institute for Advanced Studies on Asia, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo, Tokyo, 113-0033 Japan ## 【発表概要】 動的映像資料は現在のところ多くの場合、上演・配信という形態をもって活用されているように思われる。だが動的映像にはまだ他種研究資料に劣らないポテンシャルを有していないだろうか。その可能性の一端を 40 年前に標準的な $8 \mathrm{~mm}$ フィルムカメラによって記録された映像を再資料化する試みを通じて探る。するとそこには記録された対象としてばかりでなく、同時的にはフレーム外の、継時的にはショット間の情報を導出するメルクマールとしての対象が見いだせる。本発表では映像撮影者の記憶や記録、未整理のまま埋もれている資料に、ショット内・ショット間分析を通じて漸次的近づくための提案を行う。それは動的映像を静的映像資料化十文字資料化することで再資料化する試みである。 ## 1. はじめに 地域研究調査で記録される動的映像資料 (moving image materials)は十分に資料化一の方法論が確立されていないため、蒐集され保管されはするものの、利活用の場面でそのポテンシャルは甚だ制限されているのではないだろうか。本発表では当時はまだ日本の学術研究にとって未開の地であった西北タイ山地で初めて記録された $8 \mathrm{~mm}$ フィルム動的映像資料を取り上げ、その利活用法を検討する。 ## 2. 研究対象資料と開発の経緯について 2.1 研究対象資料について 1969 年から 1974 年まで 5 年間、計 3 回に渡って上智大学白鳥芳郎教授を団長として国内初の本格的な西北タイ山地民族研究が行われた。この調查では、建築物を含む実体資料をはじめ、貴重な文書類や静的映像など膨大な数の資料が菟集され、副団長であった量博満教授の退職を機に、南山大学人類学博物館に全面移管された。中心メンバーの退職を機 に散冕の危機に晒される多くの地域調查資料群とは異なり、これら資料群は大学博物館資料として現在まで安定的に管理・保存されている。また単に保存されているのではなく、複数の当該館学芸員による資料研究論文[1][2] や神奈川大学の廣田律子教授が立ち上げたヤ才族文化研究所 [3] の活動を鑑みても、本研究資料が現在まで「生きた」資料であることは明らかである。さらに昨年には調査完了後 40 年以上が経過しているにも関わらず、回顧展 (日本・タイ修好 130 年記念「タイ・山の民を訪ねて 1969-1974」展. 2017/7/15-9/24. 横浜ユーラシア文化館)も開催されており、今後もその資料価値は維持されるばかりか、たびたび新聞記事(比較的最近では「中国・苗族の布に魅せられ 20 年」.朝日新聞. 夕刊 6 面. 2017/11/18)などで取り上げられていることなどを鑑みると、むしろ価值が高められる可能性すらある。本研究対象資料はこれら膨大な資料群のなかでも 1971 年の第二次調査に同行した東京大学文学部写真室・鈴木昭夫 助手によって記録され、2001 年に発表者もデジタル化に協力した $8 \mathrm{~mm}$ 動的映像資料 139 本である。 ## 2. 2 開発の意義 このように 40 年以上に渡って恵まれた研究環境に保存・活用されてきた同調查団資料だが、本研究対象資料だけは忘れ去られた資料になりつつある。その原因は主に二つ考えられる。一つはこの映像そのものに学術的価值がない、というものである。発表者は過去に一度、当該地の宗教に詳しい研究者に依頼し動的映像をすべて閲覧してもらい、その理由を尋ねたことがあった。結論としては、すでに存在する膨大な研究成果のなかにあって、当該映像には目新しい対象物(その場合は儀礼であった)が記録されていないからということであった。ところが、このことを撮影者に尋初ると、意外な回答がかえってきた。それは当時にあって、たとえ現地での撮影に関して良好かつ十分なコンセンサスがとられている状況でも、宗教儀式に向けてカメラを長時間向け続けることが必ずしも調査研究にとって好ましくなかったこと、代わりに宗教儀礼についていえば複数の研究者によるスチー ル写真と筆記による記録がとられたとのことであった。このことは調べた限り、発表されてきた論考で触れられたことはない。類似の事態がこの動的映像内の随所に存在したのではないか、ということは容易に想像される。 そもそも本研究対象資料は本来壁画をはじめ静物スチール撮影の専門家であった鈴木に白鳥団長からの強い要求があり撮影された動的映像であったという。鈴木は現在でもなぜ自分にスチールでの記録をさせてくれなかったのかとぼやくことすらある。こうした状況のなか、白鳥の要求の意図は何であったのか。 いま一度考えてみる必要があろう。 もう一つの考えられる原因は動的映像資料そのものの学術的活用の壁である。動的映像資料の学術分野での活用は一般に、たとえア一カイブ化されていても、上映や配信にほぼ限定されているように思われる。そして、上映・配信に際しては単なる再生の場合、テキストによるアノテーションを付与する場合、映像そのものに解説キャプションを焼きつける場合などが考えられてきた。本研究対象資料に関していえば、さきの回顧展では資料にキャプションを焼き込む方法が採られていた。確かに、上映・配信前後の解説や再生時に表示されるキャプションは、ただ上映・配信されるよりも微弱な資料化がなされるといってよい。だがこれだけでは「引用」の連繋によって成り立つ学術研究世界においては、例えば証言として付されたテキストデータの論考への引用方法が未確立など、資料価値として十分なものとして見なされない場合も出てくるのではないだろうか。 ## 3. 開発手法と経緯 ## 3. 1 着想 以上、本研究対象資料が顧みられてこなかった原因を二つほど考えてみたが、一つ目の資料自体の価値の問題に対しては、被写体は記録対象ではあるとともにメルクマールでもあって、全行程中の「どこで」ないしは「いつ」その対象が出現したのか、その対象の空間的・時間的位置づけを調査行程の中にマッピングしようとしたのではないか、という推測が成り立つ。もしこの推測に基づくならば、肝心なのは何が記録されたかではなく、それがなぜ記録されたか、また映像外の別の対象はなぜ記録されなかったのかという問いの解明が必要になるであろう。次に第二の問題、 すなわち動的映像そのものに潜む資料化へのアポリアの問題に対しては、Hunter \& Iannella が Dublin Core 拡張として動的映像のための拡張メタデータの作成を試みていたことがある $[4]$ 。彼らはテレビのニュース動的映像を例に、動的映像を粒度の大きさの順に $ \text { *シーケンス } $ *シーン *ショット に分類し、 *ショットのキーフレーム とともにショット単位にアノテーションをつけるという提案を行った。 この提案は動的映像を、静的映像資料化 +文字資料化することで学術的資料として価値付けようとする試みであったといえる。李東真はこのアイデアに基づき実際に「朝鮮大学校挑戦問題研究センター付属在日朝鮮人関係資料室」に所蔵されているビデオ動的映像のデータベース化を試み、映像再生のポイントの明確化により資料利用の増進に寄与できる可能性を示している[5]。本プロジェクトではさらに次の提案を加えることで動的映像の再資料化に寄与できると考えている。すなわち、 ショット、シーン、シーケンスだけでなく、 ショット間、シーン間、シーケンス間にも分析の余地を加えるというものである。この、仮に「間」分析と呼ぶが、はさきの撮影者のオーラルデータの組み込みだけにとどまらない。昨年の回顧展での学芸員へのインタビュ一では、収蔵元には未整理のまま保存されている静的映像資料が実はまだ多数存在しているという証言を得ている。これら未整理の静的映像資料の再整理に対しても、「間」分析は有効である可能性が高いと見込まれる。動的映像の「再」資料化そのものが他種資料の再整理に貢献できる、これはデジタルアーカイブならではの資料活用法の一つではないだろうか。 逆説的ではあるが、このことが可能なのは $8 \mathrm{~mm}$ フィルムを扱う機構の難点を逆手にとったものである。 $8 \mathrm{~mm}$ フィルムという媒体にはその機構的性質によってすでにつねに $16 \mathrm{fps}$ および 180 秒の壁という制約が課せられている。この物理的制約により、撮影者は頻繁にショットを切り、またフィルムを差替を迫られる。だが、このことが連続するショットに「間」を生み、映像本体よりはるかに多萓で豊かな情報が隠すともいえるだろう。 ## 3. 2 スキーマとプログラム 本プロジェクトでは当初は厳密なスキーマ定義を行っていない。発表者がこれまで参与したデジタルアーカイブ構築では当該分野で確固たる学術的知識基盤をもつたデータ監修者がおり、われわれはメタデータ作成時にデ一タスキーマをつねに一定程度確立させることができた。今回のケースでもすでに当該調査をまとめた白鳥編の著作[6] に 27 の調査項目が立てられており、リレーショナルデータベース用のデータスキーマをまずは立て、それを基にメタデータを作成していくことは可能であった。ただし今回の場合、撮影者への聞き取り調查内容がデータ生成のトリガーとなるため、メタデータの先々の変化に十分な見通しを立てられるとは言い難い。そこでよりメタデータの変化に柔軟に対応させるため NoSQL、mongodb を採用した。 mongodbを利用すれば開発開始時のスキーマ定義はこの一行で済む。 Schema.Types.Mixed 初期メタデータはさきの Hunter \& Iannella の Dublin Core 拡張に基づく情報と白鳥[編]の基本調查項目に加えて、カット表などを導出するためのごく基本的な記録情報(Camera Motion/Distance/Angle)、それに地理的位置情報(coodinate)を加えた程度である。ただし、すでに述べたとおり、shot_id は単なる連番でなく、 $ 1,1 \_2,2,2 \_3,3, \text {, } $ のようにショット間 id を付する。この方針は scene_id, sequence_id に対しても同様である。初期段階ではこれらの情報をネスト化されていない素朴な json 形式で蓄積していく方式を採る。 プログラムは mongodb との相性に問題がないこと、またプログラムプリザベーションへの配慮から可能な限り素朴な javascript + html5 で書ける node.js を採った。フレームワークはもちろんライブラリの使用もできるだけ避けるよう配慮しつつ構築を進めている。 node.js では MVC モデルに基づいたコンテンツ作成が標準的な作法であることから、作成した api を通じて各フェーズ、すなわち(a)基本情報(b)撮影者との協働作業 (c)資料所蔵博物館との協働作業による、情報の再発掘を必要最低限の労力で実現が可能になることが見込 まれる。(a)から(c)の各フェーズの具体的作業内容は以下の通りである。 (a)基本情報:ショット抽出 (b)撮影者との協働作業:シーン、シーケンスの確定、基本情報の確定 (c) 撮影者、調査同行者ならびに博物館学芸員等との協働作業: ショットハショッ下間分析 Views/インターフェイス、Control/api 部分はスキーマの発展段階に応じてアジャイル的に作成し、柔軟に改変を進めていくことになる。 ## 4. 現況と今後の課題 現在は上記(a)レベルで ffmpeg によるショット抽出、(b)レベルで撮影者との協働作業に向けてのプログラム開発、(c)レベルで協働作業で想定される機能開発の途上にある。ここでいう「協働作業」は必ずしも「共同作業」 でなくともよいように、提案されるメタデー タの重複等は自動的に避け、スキーマのステップアップ時にスムーズに作業を行える環境作りも含んでいる。 現在想定されている問題点は少なくとも二点ある。実際にデータ型を犠牲にしたことにより経過ごとにプログラムにかかる負担が増えること、加えてあえて $\mathrm{tsv} / \mathrm{csv}$ に落とし込めるよう二次元配列に拘った関係でメタデー タの可読性が漸次的に落ちることである。これらの問題は発生時に協働研究者とともに変更を決定する予定である。例えば、二次元配列を多元配列に変更しても csvtojson[7]の書式に合わせれば可読性を落とすことなく二次元配列でのメタデータ提出も可能であることが分かっている。 ## 5. おわりに 今回の試みは、当該地域研究史の中でも埋もれてきた資料をいま一度膨大な資料群の中に位置づけることができないか、という問題意識が端緒となっている。現在のところ、まだ定評のある有効な方法論がないため、試行錯誤が続くことになろう。しかし、プログラムのアジャイル的開発が一般化して久しい現状で、デジタルアーカイブがこの傾向を無視する必要はないとも考えている。すでに 20 年近く前にデジタル化されアーカイブされている資料の再発掘に似たこの試みは、ある意味でデータベース消費的な試みであると考えている。 ## 参考文献 [1] 後藤真理. ヤオ族の暮らし(1960 年代後半 70 年代) 一上智大学より移管された西北タイ歴史 - 文化調査団資料より. 人類学博物館紀要第 22 号. 2004. p.11-16 . [2] 木戸歩. 上智大学西北夕イ歴史・文化調査団」コレクション一調査団の研究目的を中心に一. 人類学博物館紀要第 25 号. 2007. p.55- 71. [3] https://www.yaoken.org/ (参照日 2019/1/24). [4] Jane Hunter, Renato Iannella. The Application of Metadata Standards to Video Indexing. Research and Advanced Technology for Digital Libraries. 1998. 1513. p.135-156. DOI: 10.1007/3-540-49653-X_9:, (参照日 2019/1/24). [5] 李東真. 在日朝鮮人関係資料室における動的映像資料活用のための検索・閲覧システムのプロトタイプ構築の経緯と構築手順につい て. 情報組織化研究グループ例会. 2017, 7. [6] 白鳥芳郎[編]. 東南アジア山地民族誌. 講談社. 1978. 334p. [7] https://www.npmjs.com/package/csvtojso n(参照日 2019/1/24) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A32] スペイン史研究のためのウェブリソースポータルの 構築とその背景:デジタルヒストリーの普及と確立に向けて ○菊池信彦 1) 1) 関西大学アジア・オープン・リサーチセンター, 〒564-8680 大阪府吹田市山手町 3-3-35 E-mail:nkikuchi@kansai-u.ac.jp ## Construction and Its Background of Web Resource Portal for the Iberian Historical Studies: Toward the Spread and Establishment of Digital History KIKUCHI Nobuhiko ${ }^{1)}$ 1) Open Research Center for Asian Studies, Kansai University, 3-3-35 Yamate-cho, Suita, Osaka 564-8680 Japan ## 【発表概要】 本報告では、「スペイン史研究のためのウェブリソースポータル」の構築背景とそのシステムを論じる。筆者が行ったスペイン史学会会員に対するアンケート調査の結果、研究上有用なウェブリソース情報の入手の場がないこと、また、近年興隆しつつあるデジタルヒューマニティーズ (DH)やデジタルヒストリー(DHis)の成果が十分享受できていないことが明らかになった。そこで報告者は、DH やDHis を含むスペイン史研究のためのウェブリソース情報の入手と共有を目的に、Omeka. net を利用したポータルサイトを構築した。その特徴は、メタデータの入力項目を減らし徹底的な省力化を図ったこと、展示機能を活用したウェブリソース入門用ページを作成したこと、また、ウェブフォームを活用し研究者からのフィードバックを得られるようにしたことそしてなにより構築から運用まで、すべて無料で利用できるものだけで作成したことにある。 ## 1. はじめに Europeana Collections を中心に、ヨーロッパ各国の図書館や文書館、ミュージアムによる資料デジタル化事業は活発である。筆者の研究対象であるスペインもその例に漏れず、 Europeana Collections へのデータ提供数は約 500 万件で国別では 5 番目に多く[1]、ヨーロッパ内では比較的デジタルアーカイブの進んでいる国である。 ところで筆者は、以前、西洋史研究の入門書の分析から、日本の西洋史学においては、 デジタルアーカイブを含むウェブリソースが史資料の検索や閲覧のためのものと位置づけられていると論じたことがある[2]。国内の日本史や東洋史においては、デジタルヒューマニティーズ(以下、DH と略)やデジタルヒストリー(以下、DHis と略)といった研究が蓄積されてきたが、一方で、ウェブリソースから得られるデータを利用する DH やDHis は、西洋史学ではほとんど行われてこなかった。 筆者の問題意識は、それら DH やDHis に積極的とは言い難かった日本の西洋史学界、そ して特に筆者の研究領域であるスペイン史学界において、その研究分野の普及と確立を目指すことにある。だが、そのためにもまずはスペイン史研究者にとって、ウェブリソースはどのような位置づけにあるのかを、入門書とは別に、改めて確認する必要がある。しかる後に、その考察を踏まえたスペイン史研究のための DH やDHis の研究環境を構築する必要があるだろう。 前段の問題意識を背景として、本稿は次の構成の下、論を進める。まずは、スペイン史研究者を対象に行った、ウェブリソースに対するアンケート調査の結果とその分析を述べる。次に、その結果を踏まえた DH、DHis 振興のためのウェブリソースポータルの構築の内容について論じる。 ## 2. 背景としてのデジタルリソースアンケー 卜調査とその分析 ## 2.1 アンケートとその回答者の概要 筆者は、スペイン史研究者にとってのデジタルリソースの位置づけを調べるべく、2018 年 9 月 29 日から 11 月 8 日までの期間、 Google フォームを活用したウェブアンケートを行った。調査対象者は、スペイン史を中心にポルトガル史やラテンアメリカ史の研究者を自認するものとし、呼びかけは、筆者の SNS(Twitter と Facebook)とスペイン史学会のウェブサイトおよび会員用メーリングリストを利用して行った。この結果、21 件の回答を得た。 まず、回答者の概要は次の通りとなった。年代は 20 代から 60 代までほぼ均等に分散し、各年代それぞれ $20 \%$ ほどである。研究対象地域は、「スペイン全域ないしは特定地域を定めていない」が最多で 4 割弱を占め、次にカ夕ルーニャを対象とする研究者が多かった (19\%)。複数回答可で研究対象とする時代を尋ねると、近世史が最多で全体の $52.4 \%$ を占め、中世史と現代史がそれぞれ $33.3 \%$ あった。 また、古代史と先史時代の研究者は 0 人であった。複数回答可で研究領域を尋ねると、政治史、文化史、交流史と答えた研究者が比較的多かったが、回答結果は分散していたと言える。 ## 2.2 アンケート調査の結果とその分析 次に、ウェブリソースに対する意識と評価について確認する。 ウェブリソースを日々の研究活動で利用しているかどうかという設問では、「よく利用している」、「たまに利用している」を合わせると約 $81 \%$ で、日常的に利用する研究者が多かった。その一方で、ウェブリソース全体の評価を見ると、「知らなかった」という回答が約 70\%と高い結果となった。このことから、スペイン史研究者は、すでに知っているリソー スだけを継続的に利用する傾向にあると言えよう。 次に、ウェブリソースの全体評価を世代別に確認すると、20 代が「知らなかった」という回答割合が最も小さく $57 \%$ であった。また、 20 代から 40 代までの「知らなかった」とする回答率は平均して $62 \%$ \%であったが、 50 代と 60 代では $80 \%$ \%゙あった。すなわち、40 代 と 50 代を境に、「知らなかった」とする回答率が大きく異なることも明らかとなった。50 代以上は、その下の世代と比較すると、ウェブリソースを研究利用する習慣が一般的ではないことがうかがわれる。 最後に、ウェブリソースのカテゴリ別に回答傾向を確認すると、「文献検索関係」と「史料検索・閲覧関係」については、比較的「知らなかった」が低い結果となった。「文献検索関係」は $66 \%$ 、「史料検索・閲覧関係」は $68 \%$ 、その他のカテゴリ (「ポータルサイト関係」と「その他ウェブリソースやツール」) はそれぞれ $78 \%$ 程度であった。このことは、自身の研究活動でウェブリソースがどのような位置づけにあるのかを問うた設問で、「二次資料の検索」を全員が、「一次史料の検索と閲覧」を回答者の $82.4 \%$ が、それぞれ選択した結果とも符合している。そのため、データ分析や成果発表の場面では、スペイン史研究者はウェブリソースを活用していないと言えるだろう。 以上のことから、スペイン史研究者は日常的にウェブリソースを利用しているものの、 その利用は「文献検索」・史料検索・閲覧関係」を対象に、知っているものだけを使う傾向にあることがわかる。また、DH 研究が行われるデータ分析や成果発表の場面ではウェブリソースが活用されておらず、DH (DHis)の研究成果の享受もできていない。 もちろん、同じ研究領域やテーマを同じような方法で継続的に行うとすれば、そのリソ一スサイトが閉鎖されない限り、特に前段のような状況であっても問題はないのだろう。 しかし、自由回答記述闌では、アンケートの設問によって「今まで知らなかったサイトなども知ることができて大変勉強になった。」という趣旨の回答が複数寄せられ、また、「どんなウェブソースがあるか知る機会がこれまでなかったから」自分はあまり利用していないと回答する者もいた。このことから、日常利用するウェブリソース以外の情報の入手が困難な現状にあることが分かる。以上のことから、スペイン史研究者がウェブリソース情報へアク セスできる「場」をを作って共有することが必要となる。 ## 3. スペイン史研究のためのウェブリソース ポータルの構築 ## 3. 1 ポータルサイトの条件 ウェブリソースポータルを作るという発想自体は特段珍しいものではない。例えば Alía Miranda (2009)は文献検索や史料検索・閲覧の観点からの論文上でリソース情報をまとめている[3]。しかし、論文にまとめてしまうと、 その当時の記録としての意義はあるが、情報の更新が出来ず継続的な利用が難しいという久点がある。 そこでウェブ上で管理するポータルサイトを志向することとなる。例えば、スペインの DHis の第一人者でもあるバレンシア大学の Anaclet Pons は、自身のウェブサイトで、現代史のためのリソース集 Recursos dedicats a la història (contemporània)[4]を公開している。しかし、このウェブサイトは 2008 年で更新が停止しているようであり、この種のリンク集は、個人で容易に公開と運用できる一方で、継続性を考えると難がある。 これに対し、例えば人間文化研究機構は English Resource for Japanese Studies and Humanities in Japan[5]を、人文系データベ一ス協議会は国立国会図書館による Dnavi を引き継ぎ、「人文系データベース構築事例のポ ータルサイト・データベース」[6]を、それぞれ提供している。Pons の例と比較すると、組織的な運用という強みから、信頼性のある情報を継続的に発信/利用できるという点が重要だろう。しかし、前者はシステムの利用料が、後者にはホスティングサーバのレンタル費用が必要になるだろう。 筆者が構築するポータルサイトでは、外部研究資金の獲得を前提としたものではないため、サーバレンタル料やシステム調達に費やす資金はない。また、詳細なメタデータの登録やシステム運用には、それに不案内なスぺイン史研究者にとってはハードルが高くなることも懸念される。以上を踏まえると、ポータルサイトの条件は次のようになる。 (1) サーバレンタル料やシステム開発、運用経費の掛からないこと (2) 組織的運用を通じて、掲載リソースの選別評価と情報のアップデート等の継続的な運用が可能であること (3) 運用にあたっては必要最低限で、操作のわかりやすいものであること 筆者は、この 3 つの条件を満たす「スペイン史研究のためのウェブリソースポータル」 の開発を行った。その詳細は次節で述べる。 ## 3. 2 「スペイン史研究のためのウェブリソ ースポータル」 まず、経費の掛からないものとして、無料サービスの中から、Omeka.net を採用した[7]。 Omeka とは、ジョージ・メイソン大学ロイ・ ローゼンヴァイク歴史とニューメディアセンターが開発した、デジタルコレクション作成用ソフトウェアである。Omeka.net は、その Omeka をホスティングサービスで利用でき、 トライアル版(容量 500 MB)であれば無料で利用できる。 この Omeka.net を利用して、「スペイン史研究のためのウェブリソースポータル」を作成した[8]。 ここには、筆者がこれまでの研究活動で収集してきたウェブリソースの情報のうち、研究に役立つと評価したリソースを約 140 件登録している(2019 年 1 月現在)。もちろん、今後も増える想定である。 Omeka の検索機能は、デフォルトで、キー ワード検索、コレクション検索、そしてタグ検索の 3 種がある。コレクション(ポータルサイト上ではカテゴリの名称)として、研究を進めるうえでウェブリソースを必要とする場面を想定し、「一次史料の検索・閲覧」、「二次資料(研究文献等)の検索用ウェブサイト・データベース」、「史料データの分析ツー ル・ソフト」、「発信・公開用ウェブサイト・ データベース・ソフトウェア等」、「ウェブリソースの紹介サイト」、そして「デジタルヒュ ーマニティーズ/デジタルヒストリーに関する関連情報」の 6 つのカテゴリに分け、それぞれにリソースを振り分けた。なお、DH や DHis の成果については、主に「史料データの分析ツール・ソフト」と「発信・公開用ウェブサイト・データベース・ソフトウェア等」に登録している。また、各アイテムにタグを付与することで、コレクション横断的な検索も可能としている。 また、運用の負担を軽減すべく、メタデー タの登録も、タイトル(Title)、詳細 (Description)そして、ソース (Source) の 3 つに絞ることで、徹底した省力化を行っている。なお、容量を抑えるために画像は登録していない。そして、Omeka に備わっているウェブ展示機能を使うことで、スペイン史研究を進める際に、まず調べるべきリソース情報を学ぶことのできる「入門ページ」を作成した。 さらに、ポータルサイトの情報は、クリエイティブコモンズライセンス CC-BY を付与し、研究者の利用を妨げない上うに配慮した。運用では、管理者が新たに確認した情報を追加するだけでなく、Google フォームを利用したフィードバック情報を活用することで、 リンク切れの対応や新情報の追加を行う想定である。 ## 4. ポータルの課題:結びにかえて 本稿では、主にスペイン史研究者を対象にしたウェブリソースの利用に関するアンケー 卜調査結果と、それをもとに筆者が作成した 「スペイン史研究のためのウェブリソースポ ータル」の構築について論じた。 最後にポータルサイトの課題に触れて擱筆したい。まずは、現状では小規模すぎるため、今後も積極的に登録数を増やす必要がある。 また、なにより組織的な運用体制を整えるこ とが必要であろう。これについては、2018 年 12 月に開催されたスペイン史学会第 178 回定例研究会において、スペイン史学会の組織的関与を訴えることができた。同学会が学会活動としてこの訴えを受け入れるかどうかは現段階では未定であり、粘り強く交涉を進める必要がある。 ## 参考文献 [1] 2019 年 1 月 23 日に Europeana Collections のウェブサイトで調査した。 Europeana Collections. https://www.europeana.eu/portal/en, (参照日 2019-01-23.) [2] 菊池信彦. 西洋史学はウェブ情報をどのように位置づけているのか: 『研究入門』を題材に. 人文情報学月報. No.046, 2015. http://www.dhii.jp/DHM/dhm46-1, (参照日 2019-01-23.) [3] Alía Miranda, Francisco. La Nueva Historia. Fuentes y documentación digitalizadas para la Historia de España en Internet. Cuadernos de historia de España. No. 83 , 2009, pp. 275-284. [4] Recursos dedicats a la història (contemporània). https://www.uv.es/ apons/un.htm, (参照日 2019-01-23.) [5] English Resource for Japanese Studies and Humanities in Japan. https://guides.nihu.jp/japan_links/ac, (参照日: 2019-01-23.) [6] 人文系データベース構築事例のポータルサイト・データベース. http://www.jinbun$\mathrm{db.com} /$ database, (参照日 2019-01-23.) [7] Omeka.net. https://www.omeka.net/, (参照日 2019-01-23.) [8] スペイン史研究のためのウェブリソースポータル. https://dhresources.omeka.net/, (参照日 2019-01-23.) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A31]2010 年代における J-Pop の世界伝播の変遷〜J-MELO リサーチを通じて〜 原田 悦志 1)23) 1) NHK 放送総局 2)明治大学国際日本学部 兼任講師 3)慶應義塾大学アート・センター 訪問研究員 E-mail: law-10-blow@nifty.com ## The Transition of J-Pop (Japanese Pop Music) to the World in 2010's :An Analysis of J-MELO Research ONobuyuki "Etsushi” Harada 1) NHK (Japan Broadcasting Corporation) 2) Meiji University, Lecturer 3) Keio University, Researcher ## 【発表概要】 NHK ワールド TV で放送されている、全世界向け日本音楽番組『J-MELO』では、2010 年以来、東京藝術大学及び慶應義塾大学の調査協力で視聴者調査『J-MELO リサーチ』を行ってきた。この調査は「視聴者の年齢層」「居住する国や地域」等の毎回行われる質問と、「日本のアー ティストが、もつと世界で支持を集めるようになるにはどうしたらよいか」等、年度ごとの特別な質問や提言とを織り交ぜて実施されてきた。2018 年 6 月までこの番組のチーフ・プロデュー サーを務めていた発表者が、メディアやコンテンツを取り巻く状況やデータに関する報告を交えながら、10 年代における J-Pop の世界伝播に関する解析を行いたい。 ## 1. はじめに 2005 年に放送開始した『J-MELO』は、全世界で放送され、またストリーミングでも視聴できる。2018 年までに世界 160 の国と地域からメール、写真、動画等が制作チームに届けられてきた。「J-MELO リサーチ」は、視聴者の実態を知るために 2010 年から 2017 年の 8 年間にかけて実施された。実施方法は、番組ウェブサイトでのアンケート調査である。全編英語であることもあり、主たる視聴者は各国現地の日本ファンであり、在外邦人からのリアクションはほぼ皆無だった。 2. 調査拡大期(2010~2014) ## 2. 1 データの推移 1-a アンケートへの回答数 ・ 2010 年-70 の国と地域から 728 通 - 2011 年-118 の国と地域から 573 通 - 2012 年-88 の国と地域から 1028 通 - 2013 年-95 の国と地域から 1305 通 - 2014 年-87 の国と地域から 1708 通 概ね、回答者の国や地域、もしくは回答数が増加傾向にあった。 1-b 返答者の年齢層の比率 - 2010 年-10 代 $49 \% 、 20$ 代 $39 \% 、 30$ 代 $6 \%$ - 2011 年-10 代 $45 \% 、 20$ 代 $39 \% 、 30$ 代 $8 \%$ - 2012 年-10 代 $40 \% 、 20$ 代 $43 \% 、 30$ 代 7\% - 2013 年-10 代 $50 \% 、 20$ 代 $37 \% 、 30$ 代 $7 \%$ - 2014 年-10 代 $26 \% 、 20$ 代 $53 \% 、 30$ 代 $12 \%$年を追うごとに、概ね、10 代が減少し、20 代、30 代が増加していた。 1-c 好きな音楽ジャンルのトップ 3 - 2010 年-(1)ポップス、(2)アニソン、(3)ビジ ユアル系 - 2011 年-(1)ポップス、(2)アニソン、(3)女性 アイドル ・2012 年-(1)アニソン、(2)ポップス、(3)ビジ ユアル系 - 2013 年-(1)アニソン、(2)ビジュアル系、(3) 女性アイドル - 2014 年-(1)アニソン、(2)ロック、(3)女性ア イドル 日本のジャンルは「音楽の中身」を必ずし も表していないことに留意すべきである。ア ニソンは「アニメの主題歌や挿入歌」、アイド ルは「アイドルが歌う楽曲」、ビジュアル系は 「主に、特徴的なメイクをした男性音楽家」 であり、「ロック」「ポップス」のような音楽的特徴を表しているものではない。したがって、アニソンやアイドル、ビジュアル系などの中に、「ロック」「ポップス」というような音楽性は、複数、内包されている。 また、アニソンが好きな音楽の上位に常にいることについて、「アニソンは世界で人気」 と手放しで喜んではならない。2010 年代前半まで、サブスクリプションや SNS での音源公開等に対し消極的だったことなどもあり、日本音楽に海外のリスナーが接触する方法は非常に限定的だった。アニメ作品を輸出(番組や映画の販売)する際にセリフは吹き替えられても、ボーカルは吹き替えられないため、 テーマ曲等は日本語のままで使用された。多くの人々にとって『アニソン』しか日本の音楽に接触する手段がなかったのだ。 1-d リクエスト数のトップ 3 - 2010 年-(1) the GazettE 、(2) Hey! Say! Jump!、 (3)L'Arc-en-Ciel - 2011 年-(1)L'Arc-en-Ciel、(2)the GazettE、 (3)モーニング娘。 - 2012 年-(1)the GazettE、(2)嵐、(3)L'Arc-enCiel - 2013 年-(1) the GazettE 、(2)嵐、(3) Alice Nine - 2014 年-(1)SCANDAL、(2)the GazettE、(3) モーニング娘。 L'Arc-en-Ciel は多くのアニソンを手掛けたロックバンドで、2012 年にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンのアリーナで、日本のバンド初となる単独公演を行った。the GazettE は欧州や中南米等でアリー ナツアーを成功させたビジュアル系バンドである。SCANDAL は欧州、北中米等でのツア一を行った、全員女性のバンドである。 1-e 番組の視聴方法のトップ 3 - 2010 年-テレビ(以下 TV) $76 \%$ 、 YouTube (以下 YT) $15 \%$ - 2011 年-TV61\%、YT16\%、ストリーミング (以下 ST) $11 \%$ - 2012 年-TV53\%、ST23\%、YT13\% - 2013 年-TV37\%、ST28\%、YT26\% - 2014 年-TV33\%、ST26\%、YT27\% テレビが漸減し、公式には行っていない YouTube が増加していた。 1-f 日本の音楽情報を得る方法、トップ 3 ・ 2010 年-(1)ウェブ、(2)テレビ、(3)友人 - 2011 年-(1)YT、(2)友人、(3)DVD - 2012 年-(1)YT、(2)友人、(3)FaceBook(以下 FB) $\cdot$ 2013 年-(1)YT、(2)FB、(3)ウェブ - 2014 年-(1)YT、(2)FB、(3)ウェブ SNS、とりわけ YT で情報を得る傾向が強 まっていった。 $1 \mathrm{~g}$ 回答者の居住地域、トップ 3 - 2011 年-(1)欧州、(2)東南アジア、(3)北米 - 2012 年-(1)欧州、(2)東南アジア、(3)中南米 - 2013 年-(1)欧州、(2)東南アジア、(3)中南米 - 2014 年-(1)欧州、(2)東南アジア、(3)北米 1 位、 2 位は変動がなかった。韓国、台湾 など東アジア地域の比率が低いのは、英語放 送である NHK ワールド以外にもソースが多いのが要因である。また、現在でも、中国では公式には視聴できない。この調査とは別に、リクエストや意見等を集計した「国・地域別メール数」(2007~2017)では、米国(4 回)、インドネシア(3回)、フィリピン (3 回)、英国(1 回)の 4 か国が首位を獲得している。 ## 2.2 海外における公演等の展開 2-a 日本ファン向けのイベント アニメエキスポ (米国・1992~)、ジャパンエキスポ (フランス・2000〜)、アニメフエスティバルアジア(シンガポール他・2008 ) 等、世界各地でアニメや漫画を中心した日本のポップ・カルチャーの大規模イベントが開催され、アニソンやアイドルを中心としたライブも開催されている。各国で、参加者によるアニメのキャラ等のコスプレも披露されてきた。『Cool Japan Research Project』を主宰するイアン・コンドリー教授 (MIT)は、「日本を学ぶ動機は、かつては 『経済』だったが、現在では『ポップ・カルチャー』が多数だ」と述べた。 2-b 日本のアーティストによる単独ライブ海外にもファンを持つ日本のアーティストやバンドは、単独公演やツアーを海外で行うようになった。2014 年秋のニューヨークを例に取ると、モーニング娘。(10月 5 日、2000 人(会場定員 -以下同))、X JAPAN (同 12 日、 15000 人)、初音ミク (同 17 日、 3500 人)、BABYMETAL(11 月 4 日、同上)、 Perfume(同 16 日、同上)と、ほぼ毎週末に公演が開催された。 ## 3. 調查縮小期(2015 2017) ## 3. 1 日本音楽への接触と拡散の変化 世界の音楽マーケットに目を転じると、 2014 年まで市場規模は縮小を続けていた。 2015 年以降、再び拡大に転じるが、その主たる原動力は Spotify や Amazon Music などのサブスクリプションサービス(定額聴き放題) の成長だ。 2016 年、 2 組の日本アーティストが、全米ビルボード総合チャートにランクインした。ピコ太郎の楽曲『PPAP』が全米チャートで 77 位、BABYMETAL のアルバム『METAL RESISTANCE』が全米アルバムチャートで 39 位を記録したのだ。 前者はジャスティン・ビーバーの Twitter で耳目を集めた。後者は、2014 年に有名 YouTuber である Fine Brothers が世界中の人気 YouTuber と共に鑑賞する動画を配信したことが契機になり、『ギミチョコ!!』のミュ ージックビデオは現在までに約 1 億回視聴されている。「アニソン」ではなく、「SNS」を入口とするモデルが発現したのだ。一方、JMELO リサーチへの回答数は、2015 年に 574 通、2016 年に 282 通、 2017 年に 259 通と急激に減少した。原因として、3つの変化が考えられる。 (1) 音楽への接触の変化 2014 年まで、J-MELO は、世界中の日本音楽ファンが集い、語り合い、自らの「好き」 を勧め合う、数少ない場の一つであった。しかし、サブスクリプションや SNS の発達により、日本音楽への接触の方法が多様化し、そ のような場もウェブや SNS 上に数多く設けられるようになった。 (2) 視聴習慣の変化 ニュースのような速報性を求められず、なおかつミュージックビデオのような外部著作物を多用する J-MELO のような音楽番組は、決まった時間に放送する既存の番組モデルではなく、好きな時間に視聴可能なオンデマンド型への移行が必要だった。しかしながら、 映像及び音楽著作権などのステークホルダー との調整が遅れ、2018 年 8 月まで実施されなかった。 (3) 視聴者層の変化 2013 年の調查によると、初めて日本音楽に接触した時期は 2008 年が最多で、上位 10 年は 1999 年から 2011 年に集中している。すなわち、J-MELO の視聴者層は「主に、00 年代に『アニメ』を入口として、日本音楽に接触した層」がメインだった。だが、1-b の通り彼ら「第一世代」は高齢化が進んだ。後進の「第二世代」は SNS やサブスクリプション・サービス等で、接触や視聴を行っている。 このような変化を受け、国際放送番組を基点とした日本音楽の世界伝播の調査を継続する使命は終えたと考え、このリサーチは終了した。現在では、Spotifyをはじめとするストリーミング・サービス等で、より迅速なオンラインでのデータ収集が行われている。 ## 3. $2 \mathrm{~K-\mathrm{Pop}$ の世界進出の影響} 制作現場の体感として、「調查縮小期」と 「K-Pop の世界進出」は、同時に進捗していた。東アジアで隣接する日本と韓国のポップ・ミュージックが比較されることは多いが、世界伝播という点では、日本は韓国の後塵を扯している。IFPI の統計によると、2017 年の日本の音楽売上は 27 億 2750 万 US ドルに達した。これは米国の 59 億 1610 万 US ドルに続く、世界第 2 位である。日本では、世界進出の必要性について、「音楽家=作り手」「音楽産業=送り手」「音楽ファン=受け手」の三者の間で、意向が一致している訳ではない。国内市場だけでも音楽ビジネスが成立するからだ。これに対し、韓国市場は 4 億 9440 万 US ドルと、日本の 5 分の 1 にも満たない。 強い商業的成功を収めようとするなら、大きな市場への進出は必須だ。米国のビルボー ド・チャートでは、PSY の楽曲『江南スタイル』(2012)が 2 位を記録。2018 年には、BTS (防弾少年団)のアルバムが 2 作連続でチャ一ト 1 位に輝いた。注目すべき点は、彼らが韓国語のまま歌唱していることである。KPop の成功の鍵の一つに、韓国語とダンスポップ音楽との相性の良さが上げられる。韓国語は「3 音節」を一単位とすることが多い。米国で育ったヒップホップユニット HOME MADE 家族の MC である KURO は「3 連符は、ダンスポップに合う」と語った。 日本語歌唱曲では『Sukiyaki(上を向いて歩こう)』(坂本九、1963)が首位に輝いたが、 それ以降、米国進出の際に「言葉の壁」が強く意識されてきた。『PPAP』以前にも『Kiss in the Dark』(ピンク・レディー、1979 年・ 37 位)、『The Right Combination』(松田聖子\&ドニー・ウォルバーグ、1990 年・54 位)等、英詞歌唱でチャートインした曲は存在するが、大ヒットとは言い難い。「サウンドとしての歌詞言語」に関しては、より一層の調査研究が必要である。 ## 4. おわりに 「調查拡大期」(2010~2014)では、00 年代に、アニメの付属物(主題歌や挿入歌)である「アニソン」をきっかけに「日本ファン」 となったレイヤーが中心となり、「新しいカルチャー」としてJ-Pop を受容した。「J- MELO リサーチ」に対する調查協力者が増加を続いたのも、このような視聴者の力が大きい。日本のアーティストは、世界音楽市場の core(中心)である米国での単独公演を行う等、一定の成功を収めていた。 「調查縮小期」(2015~2017)では、J-Pop への主な「ファースト・コンタクト」のきっかけが、「アニメ」から「SNS」へと変容した。ピコ太郎は「Twitter」、BABYMETAL は「YouTube」がブレイクの端緒であったように、放送(broadcast)から、通信 (communications) へと、J-Popへの「接触」と「拡散」の場が遷移したのだ。また、 ピコ太郎や BABYMETAL を支持したのは、「拡大期」に貢献した「日本ファン=Loyal Customer」だけではなく、それよりはるかに市場規模の大きい「一般の音楽ファン= General Public」を含めた層だった。 $\mathrm{K}$-Pop の精鋭アーティストは、より大きな成功を収めるために海外の市場に挑み、韓国語の特長を生かした歌唱と、日本語も含めた「訛り」の少ない現地語での歌唱を併存して発表することにより、世界各地で人気を得た。このことは、世界伝播を目指す日本の音楽関係者への示唆となるであろう。 ## 参考文献 『J-MELO』が教えてくれた世界でウケる 「日本音楽」ぴあ) 2015$)$ 著: まつもとあつし監修: 原田悦志 ISBS978-4-8356-2542-3 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許
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# [A25] デジタルコンテンツへの DOI 付与のすすめ: ## 日本をつなぐ〜アクセスをいつまでも〜 ○桜井有里 ${ }^{1)}$, 住本研一 1) 1) 国立研究開発法人科学技術振興機構, 〒102-8666 東京都千代田区四番町 5 番地 3 サイエンスプラザ E-mail: yuri.sakurai@jst.go.jp ## Recommendation for registering DOI for digital contents: Connecting Japan by registering DOI; Lasting access; SAKURAI Yuri1), SUMIMOTO Kenichi1) 1) Japan Science and Technology Agency, Science Plaza 5-3,Yonbancho,Chiyoda-ku,Tokyo 102- 8666 Japan ## 【発表概要】 デジタルオブジェクト識別子(DOI)は国際規格の識別子である。学術論文の分野ではDOI の利用が義務化されている雑誌もあり広く普及しているが、最近では研究データや画像、古典籍や博物館の展示資料等にもその利用範囲が拡大している。 画像や古典籍、絵画や写真等を電子化したコンテンツを公開する際に、将来にわたっていかにアクセスを保証するか、コンテンツを流通させるかは重要な課題である。さらに絵画や版画などは、タイトルや作者が同じでも版が異なるものも多く、引用や解説を行う際に一意性を確保・把握することも重要な課題とされている。 本発表においては、まず DOI の仕組みを説明するとともに、近年増加している画像、古典籍、絵画等に対する DOI 付与の事例を紹介する。また、電子化コンテンツに対する永続性、一意性の確保・把握等の課題に対し、その解決策の一例として用いられている DOI の活用方法について説明する。 ## 1. はじめに 学術論文等のコンテンツへの永続的なアクセスは、学術研究の発展のために必要不可欠である。また、学術研究の評価を高めるためには、成果論文へ容易にアクセス可能な環境を構築することが重要である。成果論文等は、印刷物として保存する場合には簡単には消滅しない。しかしながら最初から電子媒体として発行される場合には、コンテンツの所在場所を示す URL が何らかの事情により変更された場合には、いわゆるリンク切れが発生しアクセスが不能になってしまう。URL の変更は日常的に行われており、リンク切れがしばしば発生したため、コンテンツへの持続的なアクセスを保証するために DOI システムが考案された。 2. DOI とは 2.1 国際標準の識別子:DOI とは DOI(ディーオーアイ)とは、Digital Object Identifier の頭文字である。コンテン ツ(Object)を識別するための文字列 (Digital Identifier) で、ISO により標準化された規格(ISO26324:2012)である。 DOI は、個別のコンテンツに割り振られた ID(DOI)とその所在 URL 情報をペアで保管し、DOI の問い合わせに対して所在URLを返すというシンプルな機能で成り立っている。 コンテンツの所在URLが変わった場合、ペアの情報を更新することで、持続的なアクセスが保証される。 この DOI システムは、図 1 のとおり 3 階層の仕組みで構築されている。DOI の仕組みを統括する DOI 財団 (International DOI Foundation)と DOI 登録機関(Registration Agency : RA)、そして実際に DOI を登録するDOI 登録者である。 図1.DOI 運営組織の構成 DOI 財団は、DOI と所在 URL のぺアをデ一タベース化して管理し、新規の DOI、所在 URL $の$ 登録や変更の受付と、DOI $の$ 問い合わせに対して所在URLを返答する機能を提供している。 DOI の登録業務は、DOI 財団が認めた RA のみ行うことが可能となっており、現在 11 機関が RA として登録されている。RA は各々の登録ポリシーに基づき登録者へ DOI の登録サ ービスを提供している。 DOI 登録者は、RA の会員となることで自身が保有するコンテンツに DOI を付与することが可能になる。DOI 登録者は、デジタルコンテンツの発行者やデジタルコンテンツの管理者等であり、DOI とデジタルコンテンツにアクセスする URLをぺアにして登録する。登録された DOI は、https://doi.org/ “DOI” で検索すると、DOI とぺアにして登録した URL に変換されるため、検索者はコンテンツにたどり着くことが可能となる。 ## 2. $2 \mathrm{JaLC$ とは} JaLC (ジャルク)とは、Japan LinkCenter の略称であり、国内機関が保有する学術コンテンツの収集、普及、利用の促進 を目的に 2012 年 3 月に設立された日本で唯一の DOI 登録機関である。 JaLC が DOI 登録対象とするコンテンツは、学術論文、大学紀要論文、ジャーナル、予稿集、研究報告書、書籍、研究データ、大学コ ース(e ラーニング)であり、JaLC はこれらのコンテンツに DOI を登録し、コンテンツの所在情報(URL)やメタデータ(書誌データ、識別子、URL、引用情報)等を管理している。 RAは、主として学術論文を扱うCrossref、研究データを扱うDataCite など、特定のコンテンツを扱うものと、韓国の韓国科学技術情報研究院(KISTI)や中国の中国科学技術信息研究所 (ISTIC) などのようにコンテンツの種類に限らず国や地域のコレクションを扱う機関に大別でき、JaLC は後者に属する。 JaLC の運営は、国立国会図書館(NDL)、国立情報学研究所 (NII)、科学技術振興機構 (JST) 、物質 - 材料研究機構 (NIMS) といった日本における科学技術・学術情報の主要な情報提供機関および研究機関が共同で行っており、JST が運営事務局を務めている。 JaLC では、JaLC に入会しサービスを利用する「正会員」と、正会員を通じて JaLC サ ービスを利用する「準会員」の 2 つの利用形態を設けている。 JaLCにおけるDOI登録フローは下記の通りである(図2)。 (1) メタデータの送信および JaLC メタデー タデータベースへの登録 準会員は正会員を通じて、正会員は直接 JaLC ヘコンテンツに関するメタデータを送信し、JaLC メタデータデータベースへ登録する。 (2) DOI $の$ 登録 JaLC は、JaLC メタデータデータベースに登録されたメタデータのうち、DOI および所在 URL を DOI 財団へ登録し、DOI を有効化する。希望に応じCrossref やDataCite に送付することも可能である。 図 2. JaLC による DOI 登録フロー ## 2. $3 \mathrm{DOI$ の現状} 学術出版社が主導しDOI システムが誕生したこと、また学術出版は他の分野に先行して 1990 年代からデジタルコンテンツの販売・配信が普及していたことから、これまで DOI は論文の識別番号として普及してきた。しかしながら、近年インターネット上の所在を特定する手段として DOI は様々な分野で利用され、付与対象は研究データ、書籍、教育用コンテンツに拡がっている。 表 1. JaLC のコンテンツ別 DOI 登録数 (2018 年 12 月末) 海外の RA においても映画タイトルに DOI をつける Entertainment Identifier Registry (EIDR)や、建築資材にDOI をつける CIIDRA などが登場している。 このように DOI 登録対象コンテンツと RA の範囲は拡大し、DOI の世界は変貌を遂げつつある。 ## 3.電子化データへの $\mathrm{DOI$ 付与} 近年、人文系研究において古典籍や絵画、版画等の電子化データへの DOI 付与が進められている。古典籍や絵画、版画等には、作者やタイトルが同じでも保管する場所や時期が異なる版が多く存在し、その一意性をどのように確保・識別するかが課題となっている。 DOI は、コンテンツの一意性を保証するシステムであるため、この問題を解決することができる。DOI を付与することで、引用の根拠となる作品画像に将来にわたり安定的にアクセスすることが可能となることから、一意性の確保・識別に関する課題を解決することができる。 国文学研究資料館では、このような DOI 利用のメリットを活かすべく、「論文に引用する古典籍に DOI を明示しましょう一検証可能な学問に向けて一」というリーフレットを作成し、人文学分野における DOI 利用の普及に注力している。さらに、同資料館が保有する古典籍データベース上に収載された 30 万件の古典籍情報へのDOI 付与に取り組んでいる。 図 4. 版が異なる古典籍資料の例 また NDLにおいても、2018 年度に「国立国会図書館デジタルコレクション」に収載されている約 9 万件の古典籍に DOI を付与している。 一方、海外では韓国の KISTI は博物館の展示物の解説に対して DOI を付与している。展示物の解説はしばしば展示内容の変更等で URL が変更されることが多いが、DOIを利用することでリンク切れを回避することができる。 このように電子化データに対する DOI の付与実例は着実に増えていることから、今後も容易で持続的なアクセス確保を目的とした DOI 付与の重要性は増すと考えている。 図 5. 国文学研究資料館作成のリーフレット (一部抜粋) ## 4. おわりに これまで DOI は、我が国における科学技術分野のコンテンツを中心に付与・利活用されてきた。その結果、日本発の科学技術分野における学術コンテンツの書誌情報を網羅的に収集することが可能となり、日本国内の利活用を促進するだけでなく、世界から我が国の研究成果へのアクセス環境が向上された。 これまでアクセスの永続性および一意性の確保・把握が困難とされてきた古典籍、絵画、版画等をはじめとするデジタルコンテンツに対しても、DOI の付与・利活用を進めることで、我が国における学術情報の流通促進に貢献したい。 ## 参考文献 [1] ジャパンリンクセンター. “ジャパンリンクセンターとは何か〜その成り立ちと基本方針〜”。 https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_pol icy.pdf(参照日 2019/1/15). DOI: $10.11502 /$ jalc_policy [2] ジャパンリンクセンター. “ジャパンリンクセンターのご紹介” .ジャパンリンクセンタ一. https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_int roduction_2.pdf (参照日 2019/1/15). [3] 山本和明. “論文に引用する古典籍に DOI を明示しましょう一検証可能な学問に向けて一”.国文学研究資料館. https://kokubunken.repo.nii.ac.jp/?action=pa ges_view_main\&active_action=repository_vi ew_main_item_detail\&item_id=3171\&item_ no=1\&page_id=13\&block_id $=21$ (参照日 2019/1/21). [4] 京都大学総合博物館. “携帯用六分儀”.一般社団法人学術資源リポジトリ協議会. https://sci- instrument.repon.org/?action=pages_view_ main\&active_action=repository_view_main_ item_detail\&item_id=1111\&item_no=1\&pag e_id=13\&block_id=15(参照日 2019/1/21). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A24] デジタルアーカイブの制度分析の方法論 ○西川開 1 ) 1)筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程 E-mail: kai.nishikawa192000@gmail.com ## The Methodology for the Institutional Analysis of Digital Archive \\ NISHIKAWA Kai ${ ^{1)}$ \\ 1) Graduate School of Library, Information and Media Studies, University of Tsukuba1)} ## 【発表概要】 本発表ではデジタルアーカイブの制度分析の方法論として「知識コモンズ(Knowledge Commons)」研究と呼ばれる領域で系統化されている方法を用いることを提案する。知識コモンズ研究は、自然資源の管理制度に関する研究領域である「コモンズ」研究から派生した領域であり、「知識」(文化情報資源に相当する概念)のガバナンス・メカニズムを実証的・帰納的な方法で明らかにすることを目的としている。 発表内容として、まず「制度」という概念の複合性を指摘し、デジタルアーカイブと(知識) コモンズ研究の関係を示し、知識コモンズ研究の前身であるコモンズ研究と照応しつつ知識コモンズ研究の概要および同方法の詳細を明らかにする。最後にデジタルアーカイブ研究における同方法論の意義を考察する。 ## 1. はじめに 経済史家ダグラス・ノースによると「制度」とは成文化された「公式のルール」と社会規範や慣習などの「非公式のルール」からなるものであり、かつそれが有効に機能するためには「実効化可能性」が伴わなければならないという $[1]$ 。現在、我が国のデジタルア一カイブの制度研究の主眼はデジタルアーカイブ振興のための法整備や法解釈にあると考えられるが、それらは「公式のルール」に重点を置いたものであり「非公式のルール」や 「実効化可能性」を含めて「制度」を複合的に捉える研究は十分に行われていないのではないだろうか。 本発表はこうした複合的な「制度」を系統的に分析するための方法として、「知識コモンズ (Knowledge Commons)」研究の分野で確立されつつある方法論を適用することを提案するものである。知識コモンズ研究とはノー スら新制度派経済学の制度理解を前提に知識資源の管理制度の在り方を研究する領域である。知識コモンズ研究はデジタルアーカイブとも関係が深く、例えば Europeana は 2011 年頃より専門の委員を組織して同分野の文献調査や専門家インタビューを行い、そこで得 られた知見を基に行動指針としての「コモンズ原則」[2]を策定している。同原則は現在の Europeana の活動を規定している「20152020 年戦略計画」に反映されており、 Europeana の理論的根拠であると言える。我が国のナショナルデジタルアーカイブ構想は端的に Europeana をモデルとするものであると考えられるため、その根幹をなす考えを理解することは制度分析の方法として利用するにとどまらず重要であろう。 ## 2. 知識コモンズ研究とは ## 2. 1 Elinor Ostrom のコモンズ研究と社会的ジレンマ 一般に「コモンズ」とは共有される資源を指す語として解される。また一種のバズワー ドであるとも指摘され[3]無数の定義・用法が存在する概念でもあるが、本発表で扱う知識コモンズ研究における「コモンズ」は政治経済学者 Elinor Ostrom を中心として進められてきた自然資源の管理制度に関する研究をル ーツとするものである。 Ostrom らの研究における「コモンズ」は 「社会的ジレンマに対して脆弱な共有資源」 として特徴づけられ[3]、ここで言う社会的ジ レンマは Hardin の「コモンズ(共有地)の悲劇」[4]で表される状況を指す。Hardin によると競合性が高く第三者の利用を排除することが困難である自然資源(共同利用資源)はそのままでは使い尽くされて崩壊してしまうという。そしてこれを回避するには財産権を設定して市場メカニズムにおいて管理する市場型かもしくは国家など公的機関の規制により保護する国家型の方法をとる必要があるというのが自然資源の管理制度を考える際の通説であった。 Ostrom らはケーススタディを蓄積することで「コモンズの悲劇」が示唆する状況は必ずしも生じるわけではなく現実には市場型や国家型によらずとも地域的なコミュニティが 「非公式のルール」を介して持続可能に資源を管理することに成功している事例が多数存在していることを例証し、こうしたコミュニティが主体となる管理制度に成功している事例間で共通する条件である「デザイン原則」 を帰納的に抽出した ${ }^{[5][6]}$ 。 「デザイン原則」のような一般性のある知見を得るためにはケーススタディを蓄積したのちケース間の比較制度分析を行い、これをもって理論やモデルの構築・修正を重ねる必要があった。そしてケースを比較するためにはそもそも個々のケーススタディを標準化する必要がある。そこで開発されたのが「IAD フレームワーク (Institutional Analysis and Development Framework、以下 IAD)」[3]である。IAD は再帰的状況における人間の意思決定に関するリサーチクエスチョンを学際的に統合したものである。ここでいう「フレー ムワーク」とは理論やモデルを包含する概念であり、最も一般性の高い独立変数の組み合わせを図式化したものである[3]。 ## 2. 2 知識コモンズ研究系統化の試み 1990 年前後よりデジタル・コンテンツや特許などの知識資源をコモンズと捉える研究が見られるようになるが、その多くは系統的方法論を欠くものであった。そうした中 2000 年代半ばより Ostrom は自身が自然資源を対象に培ってきた知見を知識資源に適用し、知識コモンズ研究を系統化する試みに着手する [3]。Ostrom は 2012 年に没するがこの試みは後継の手により進められ 2014 年に出版された"Governing Knowledge Commons”[7]において研究プログラムとしての理論的前提・方法論・研究課題が暫定的に体系づけられる。以下本発表では同書のタイトルから上記の知識コモンズ研究系統化の試みを GKC と称する。本発表でデジタルアーカイブの制度分析の方法論として提案するのも GKC の知見である。 ## 3. GKC アプローチ ## 3.1 理論的背景と方法論 GKC は Ostrom の研究成果を踏襲しているため、ここでいう「知識コモンズ」も社会的ジレンマとの関連において捉えられる。しかし、一般に知識資源は競合性が低い財であるため資源の過剩利用は起こりえず「コモンズの悲劇」には直面しないと考えられる。知識コモンズが直面する典型的な社会的ジレンマは「フリーライダー」問題である[8][9]。 知識資源の多くは競合性・排除性がともに低い公共財に分類される。しかし知識資源の産出には時間的・金銭的コストが生じるため、他者による支払の伴わない利用(フリーライド)を排除できないと生産者のインセンティブが失われ資源の過少生産が生じるとされる。 これが「フリーライダー」が指す状況である。「フリーライダー」問題が存在するゆえに知識資源の管理には何らかの制度的措置が必要であるというのが従来の理解であり、最も一般的な方法として知的財産権法が用いられている。知的財産権法により知識資源に人工的に希少性を付与することで生産者のインセンティブを確保し、フリーライドを排除するコストを引き下げることで当該資源を市場で取引することを可能にするという点で知的財産権法は市場型の管理方法である[8][10]。一方で学術情報流通においてよく見られるように公的助成等により生産コストを補填し、当該資源はオープンな状態にとどめるという国家型 の方法も存在する[8][10]。 GKC は Ostrom らが「コモンズの悲劇」に反証を加えたのと同様に「フリーライダー」 を相対化することを起点とするアプローチである ${ }^{[10]}$ 。例えば知的財産権法による保護がなく経済的リターンを期待できない状況でも知識資源の生産活動が継続される事例は数多く報告されている[11]。GKC では仮説的に、「フリーライダー」は知識の生産と利用に関する普遍的なモデルではなく現実を過度に単純化しているということを前提とする[8][10]。そして、実際には純粋な市場型・国家型に拠らない複合的な管理方法が採用されている事例が多数存在することを想定し、そのような「知識コモンズ」のメカニズムを明らかにすることを目指している。 そのための方法は Ostrom のコモンズ研究と同様であり、フレームワークに基づく標準化されたケーススタディを蓄積することでデ ータを収集し、帰納的に理論・モデルの構築を図り、最終的には「デザイン原則」のような一般化可能な知見を得ることを目的とする。 ただし、IAD は自然資源コモンズを対象に構築されたフレームワークであるため、ケーススタディには知識資源の特性に合わせて IAD を修正した「知識コモンズフレームワーク (The Knowledge Commons Framework, 以下 KCF)」[10]を用いる。 図 1. 知識コモンズフレームワーク (KCF) (出典 : Frischmann et al. (2014) ${ }^{[10]}$ ) ## 3.2 前提と位置付け GKC は思想や理念の話ではなく、知識資源の管理制度ないし管理戦略に関する研究領域である。したがって存在論としては基礎づけ主義、認識論としては実証主義の立場に立つと考えられる。 また、GKC における「知識コモンズ」とは多様で複雑な知識資源のガバナンス体制の総称であり、単一の制度型が想定されているわけではない。さらに「知識コモンズ」は市場型や国家型に優る知識資源管理の目指すべき方法である、ということを前提とはしない (ただし仮説的に特定の状況下では「知識コモンズ」は他の制度型よりも社会的便益が高いことが予想されてはいる)[10]。この点において GKC は James Boyle や Lawrence Lessig などによる「コモンズ」をオープン・ アクセスないしパブリックドメインと同義に用いてそれを目指すべき状態として捉える初期の知識コモンズ研究とは異なる。 ## 3. 3 現状と課題 KCF は多数の研究者により利用され、学術情報やオンライン・コミュニティを対象とするケーススタディが蓄積されつつあり、暫定的な成果として知識資源は「フリーライダ一」だけではなく多様な社会的ジレンマに直面していることが明らかとなっている[12][13]。 課題としては、ケース間の比較分析の手法を確立することや定量的・実験的手法の適用、関連領域や実践事例との接続などが挙げられている[14]。また、KCF の修正は漸進的に進められているほか、「デザイン原則」の知識コモンズにおける有効性の検証も課題とされる [3]。 ## 4. デジタルアーカイブ研究の方法論として 本発表の目的はデジタルアーカイブの制度研究の方法として GKC アプローチの方法論を採用することを提案することであった。これは端的に、KCF に基づく記述的なケーススタディを行い、先進的な事例がどの様なメカニズムで知識資源を管理しているのかを明らかにすることを意味する。 GKC の方法論を用いる意義としては、先行研究を通して改良されてきた KCF に基づいて制度分析を行うことで分析の質の向上が見 込めるうえ、先行のケーススタディとの効果的な比較分析が可能になることが挙げられる。 より抽象的な含意としては、市場型(知的財産権法による保護)か国家型(デフォルトでのパブリックドメイン化)かという二分法的な思考とは異なる新しい観点や語彙など種々の概念装置を利用できるようになることが挙げられる。 また KCF に基づくデジタルアーカイブの制度分析を蓄積することは GKC の進展に寄与することにもなる。GKC では最終的な成果として「知識コモンズ」における「デザイン原則」の特定や各々の管理制度が選好される条件の解明が期待されているが、こうした知見はデジタルアーカイブ振興のための制度的措置を設計する際にも有用であろう。 ## 5. おわりに 今後の展開として KCF に基づく Europeana の制度分析はデジタルアーカイブ研究ならびに知識コモンズ研究として意義があると考えられる。前者について、KCF に基づいて Europeana の制度分析を行うことは既存の「公式のルール」にのみ着目した研究を補うものであり、「逸脱事例」[15]ないし 「決定的事例」[15]の「発見方法的」[16]な事例研究に相当する。後者について、「コモンズ原則」は「デザイン原則」を踏襲するものであるが、知識資源における「デザイン原則」の有効性は未検証であるため、その作用を明らかにする理論的意義は大きいと考えられる。 ## 参考文献 [1] North, Douglass Cecil. Institutions, Institutio nal Change and Economic Performance. Cambrid ge University Press, 1990, viii, 152 p.p. [2] Edwards, Louise, Escande, Aubery. European Cultural Commons. 2015. http://pro.europeana.eu/file s/Europeana_Professional/Projects/Project_list/Europeana _Version3/Milestones/Ev3 MS20 Cultural Commons Wh ite Paper.pdf, (参照 2019-01-24). [3] Hess, Charlotte, Ostrom, Elinor. Understandi ng Knowledge as a Commons : From Theory to Practice. MIT Press, 2007, xiii, 367 p.p. [4] Hardin, Garrett. The Tragedy of the Commo ns. Science. 1968, vol. 162, no. June, p. 1243-12 48. [5] Ostrom, Elinor. Governing the Commons : th e Evolution of Institutions for Collective Action. Cambridge University Press, 1990, xviii, 280 p.p. [6] Ostrom, Elinor. Understanding Institutional Diversity. Princeton University Press, 2005, xv, 3 55 p.p. [7] Frischmann, Brett M. et al., eds. Governing Knowledge Commons. Oxford University Press, 2 014, ix, 499 p.p., ISBN9780199972036. [8] Frischmann, Brett M. Two Enduring Lessons from Elinor Ostrom. Journal of Institutional Ec onomics. 2013, vol. 9, no. 4, p. 387-406. [9] Madison, Michael J. Information Abundance and Knowledge Commons. 2016. https://papers.ssrn. com/sol3/papers.cfm?abstract_id $=2867578$, (参照日 2019-01-24). [10] Frischmann, Brett M., Madison, Michael J., Strandburg, Katherine J. "Governing Knowledge Commons". Governing Knowledge Commons. Ox ford University Press, 2014, p. 1-43. [11] Darling, Kate, Perzanowski, Aaron. Creativi ty without Law: Challenging the Assumptions of Intellectual Property. New York University Pres s, 2017, vi, 280 p.p. [12] Frischmann, Brett M., Madison, Michael J., Strandburg, Katherine J. "Conclusion". Governi ng Knowledge Commons. Oxford University Pres s, 2014, p. 469-484. [13] Strandburg, Katherine J., Frischmann, Bret t M., Madison, Michael J. "Governing Knowledge Commons: An Appraisal". Governing Medical K nowledge Commons. Cambridge University Press, 2017, p. 421-429. [14] Madison, Michael J., Strandburg, Katherine J., Frischmann, Brett M. Knowledge Commons. 2016. https://poseidon01.ssrn.com/delivery.php?ID=636 105110097095077007021116114076108005045006058036 003100115024070126075024096100089061030040044008 109118027105002106020072064020059035013080118076 113026071007069062051048095027125114066125075101 0741050190051121,(参照日 2019-01-24). [15] Flick, Uwe. 質的研究入門 : 「人間の科学」のための方法論. 小田博志監訳. 新版, 春秋社, 2011, ix, $670 \mathrm{pp}$. [16] George, Alexander L., Bennett, Andrew. 社会科学のケース・スタディ:理論形成のための定性的手法. 泉川泰博訳. 勁草書房, 2013, xv, 376pp. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A23] 災害発生後の災害資料の収集$\cdot$整備$\cdot$発信とデジタ ルアーカイブ構築に向けての提案: 被災地図書館、国会図書館、研究機関の取り組みをふまえて ○三浦伸也 1),鈴木比奈子 ${ }^{1)}$,堀田弥生 ${ }^{2}$, 臼田裕一郎 1) 1) 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 総合防災情報センター 自然災害情報室,〒 305-0006 茨城県つくば市天王台 3-1 2) (公社) 全国市有物件災害共済会 防災専門図書館 E-mail: miura@bosai.go.jp ## Proposal for collecting, maintaining and transmitting disaster materials after disaster occurrence and for building a digital archive: Based on the efforts of disaster area libraries, National Diet Library, research institutes MIURA Shinya ${ }^{1)}$, SUZUKI Hinako ${ }^{1)}$, HOTTA Yayoi2 ${ }^{2}$,USUDA Yuichiro ${ }^{1)}$ 1) National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience, 3-1, Ten'nohdai、 Tsukuba, Ibaraki, 305-0006, Japan 2) Disaster Management Library ## 【発表概要】 2018 年は、大阪北部地震、西日本豪雨、台風 21 号、北海道胆振東部地震等の災害が頻発した。災害発生後、少し落ち着いた時期になると、災害資料を収集し、災害の記録、地域の記録として後世に残すことを考える被災地の図書館等では、災害(資料)をアーカイブしようとするが、ほとんどの図書館にとって、災害資料のアーカイブは初めての経験である。そのため、どのような資料を収集し、どのように整理するのかといった災害資料の収集・整備について 1 から学び、実践することになる。本発表は、これまでに被災地図書館や国会図書館、研究機関などに蓄積された災害資料の収集・整備・発信のノウハウを共有し、被災地の図書館が発災後最低限やっておくとよりよい災害のアーカイブになるための取り組み(準備)を、アーカイブ経験のある図書館や研究機関が共同で提案することを提案するものである。 ## 1. はじめに 発表者が所属する国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)は、1959 年 9 月の伊勢湾台風を契機として、1963 年 4 月に設立された研究機関である。1964 年 4 月には、資料調查室が開設され、現在は総合防災情報センター自然災害情報室と名称を変更し、国立研究開発法人防災科学技術研究所法第十五条四「防災科学技術に関する内外の情報及び資料を収集し、整理し、保管し、及び提供すること」を根拠として、国内外の自然災害、防災科学技術に関する情報および資料(以下、災害資料)の収集、整理、保管、提供を行っている。自然災害情報室が、これまで収集した災害資料は、紙媒体の資料が大半を占め、なかには劣化により触れると破損するものや、一点もので他館では閲覧が難しい資料が含まれるため、貴重な災害資料の保存と、広く一般に災害資料を提供するという観点から、資料のデジタル化を進め、インターネット上で公開する「デジタルアーカイブ」の構築に取り組んできた。 本発表では、防災科研が災害資料をどのように収集、整備、発信し、どのような考え方に基づいてデジタルアーカイブの構築をすすめているのかを示したうえで、その成果と課題を整理し、今年寄せられた被災地の図書館 等からの問い合わせをふまえて、災害発生後の自然災害資料の収集・整備・発信に向けての提案を行う。 ## 2. 防災科学技術研究所の災害資料の収集、整備、発信 自然災害は毎年発生し、災害により毎年のように死者が発生する。自然災害による被害を減少させるためには、観測技術による災害発生の予測、災害対策技術による災害発生の抑制に加え、過去の災害履歴から得た知見を活用した対策が必要である。過去の災害履歴は、その場所における災害リスクに大きく関係するため、ハザード・リスク評価や災害情報の利活用にとって必須の情報である。 被災地域にのみ存在する郷土資料などの災害資料は被災地の図書館が、最も多く収集しているため、災害アーカイブの知見を共有する活動を進めることにより、記録を後世に継承し、アーカイブを利活用する取り組みが必要である。そこで、自然災害情報室は、収集だけでなく、被災地図書館と連携する活動も行っている。 アーカイブの対象となる資料は、様々な形態で存在する。資料の多くは、研究の参考となる図書や雑誌をはじめ、報告書や地方新聞などである。このほか、印画紙に焼いた写真や絵、地域の災害リスクに関わる主題図、その土地の災害記録が刻まれた石碑の解析画像、災害記念碑などの分布を示す地理空間情報、空中写真、数は少ないが、火山灰や岩石などの現物資料、地震や天気の観測記録などの 2 次資料などで、一部はデジタル資料としても存在している。近年は、とくにデジタル写真のデータが多いため、後から、いつ、どこで撮影したものかわかるように、撮影する際に位置情報が付与されているものも多い。 また、関係機関の災害アーカイブの継承も行っており、2017 年度より、松代地震センタ一収集資料を長野市と気象庁松代地震観測所と連携し、災害アーカイブの継承と分散管理を行っている。収集した資料情報は「DILOPAC ( http://www.lib-eye.net/dil-opac/)」 で一般に公開しており、検索可能である。 収集した災害資料は、資料自体の整理と災害資料内に含まれる情報の整理が必要である。自然災害情報室では、資料の一覧性を最重要視し、災害資料をその場で直感的に探せるよう一般的な図書館の分類 - 配架手法に捉われない災害分野を軸とした独自の資料分類手法を考案し、実践している。資料の構成は、 8 種(表 1)で、 $\mathrm{D}$ 災害記録、 $\mathrm{E}$ 地域資料、 $\mathrm{F}$災害研究専門書、 $H$ 地図、I 学術和雑誌、J 洋雑誌、 $\mathrm{N}$ 防災科研資料であり、D 災害記録については、たとえば、地震は発生年代順に配架しており、1923 年関東大震災に関する資料は一カ所にまとまっている。 表 1 資料区分 & & \\ 表 2 D災害記録の出所分類と配架順 & 理由 \\ *1遠隔地津波など,被害が津波のみの場合 *2 死者 1,000 名以上または社会的にインパクトの大きい災害 *3 資料が大量の場合は NDC で分類してからタイトル順。阪神・淡路大震災と東日本大震焱の 2 例のみ D 災害記録の出所分類と配架は、表 2 のとおりである。国内外と災害種別によって分類の基準が異なっている。大まかには、災害種別、災害発生年順、災害地域ごとに分類している。この分類は直接配架された状態の資料を利用者が手に取ることを想定したものである。 ## 3. 自然災害資料のデジタルア一カイブ 防災科研が、インターネットを介してデジタルアーカイブを公開するのは、いくつか理由がある。ひとつは世界に対して発信するためで、現物の資料を公開するだけでは、資料が活用されにくいため、他機関で代替が効かない貴重な資料の一部はインターネットで公開している。このほか、日本全国で発生した各種自然災害のアーカイブを公開することにより、日本のそれぞれの地域でどのような災害が起こったのかという事実を収集・整備し、今後の災害に備えるためである。 防災科研自然災害情報室のデジタルアーカイブは、以下の災害資料の一部と災害の解説をインターネットで公開している(表 3)。 2014 年以前はデジタルスキャンした画像や動画のみを公開していたが、近年は Web-GIS を用いて、災害資料の撮影地点を地図上から の閲覧可能な形態でインターネット公開を行っている。このように、情報通信コミュニケ ーション技術(ICT)の進化によって、従来のアーカイブに GIS データを加えることができるようになったことを活かし、どこでその災害が発生したかがわかる情報としてアーカイブし、インターネット公開している。 ## 表 3 自然災害情報室でインターネット公開する過去 の災害資料及びハザードマップ このなかには、防災科研が著作権を有しており、権利処理が容易であった 1964 年新潟地震オープンデータ特設サイトや、資料発行者への利用許諾だけでなく、測量法に基づい た測量成果の複製・資料承認が必要となった水害地形分類図がある。この 2 つについては、『デジタルアーカイブ・ベーシックス第 2 巻』に詳述しているので参考にしてほしい。 ## 4 自然災害デジタルアーカイブの課題と 今後に向けた提案 自然災害のデジタルアーカイブの課題は、内閣府(防災担当)の「大規模自然災害情報の収集・保存・活用方策に関する検討会」が多角的な観点から検討した結果を報告している。この報告は、これまで防災科研自然災害情報室が取り組んできた自然災害のデジタルアーカイブの課題についてもほぼ網羅している。本発表では、これまでの取り組みをふまえた課題を示す。 まず、自然災害に関するアーキビストの不足があげられる。自然災害の現象を理解したらえで、資料をアーカイブすることができる人材が少ないこと、そしてそのアーキビストをとりまとめるディレクターが不足している。現在、これらの人材は、ほとんどいないと言ってよい状況であり、今後の人材養成・育成が待たれる課題であるといえる。 次に、アーカイブの目的を明確にする必要がある。自然災害の資料を収集、整備し、活用することがアーカイブの目的である。大規模災害後に自然災害資料の収集を始めると、資料の収集自体が目的化することがあるが、資料の収集だけがアーカイブの目的ではない。収集した資料を整理し、災害教訓とすることや防災教育に活かすことを目的とすることをアーカイブの前提としなければならない。そもそも何のためのアーカイブするのか、「災害情報アーカイブの意義と必要性」を認識・共有したうえで、アーカイブを行う必要がある。 最後に、災害デジタルアーカイブを災害教訓や防災教育での活用だけでなく、行動を促すアーカイブとして進化させ、デジタルアー カイブの利活用を進める必要がある。そのためには、災害写真などが撮影された地域、すなわち災害が発生した地域のコンテクスト (災害の危険性を含む地域特性)が、写真とともに表示され、把握できるようにする必要がある。 ここまでみてきた自然災害資料のアーカイブとデジタルアーカイブのノウハウを今後災害が発生した際に活かしたいと考えている。被災地の図書館などでは災害資料を収集し、災害の記録、地域の記録として後世に残すことを考える。しかし、多くの図書館にとって、災害(あるいは災害資料)のアーカイブは初めての経験である。災害が発生した際にどのような資料を収集したらよいのかといった問い合わせから、災害が落ち着いてからは、被害の写真だけでなく、災害対応や災害に見舞われた人々の活動を撮影しておく必要があった等、事前に災害の記録についての知識があれば、災害アーカイブを充実させることができる。 新たな被災地となる図書館等が活用できるように、防災科研はアーカイブ経験のある図書館や研究機関と共に前例となる知見を集約し、被災地の災害資料アーカイブ収集・整備の一助となる支援や支援する取り組みを開始していきたいと考えており、本発表は、その取り組みを行うための提案である。 ## 参考文献 [1]鈴木比奈子、「防災科研の災害資料デジタルアーカイブ -災害記録のより広い収集と利用に向けてー」、『月刊地理 2018 年 4 月号』、 (古今書院、2018) [2]内閣府防災担当大規模災害情報の収集 $\cdot$保存・活用方策に関する検討会「大規模自然災害情報の収集・保存・活用方策の方向性について(報告)平成 30 年 2 月」
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# [A22]我が国における地方紙のデジタル化と活用の促進 に向けた課題抽出: 法制度的$\cdot$倫理的、社会的、技術的、経済的$\cdot$制度的な課題について ○平野桃子 1) 、柳与志夫 2) 、東由美子 3)、数藤雅彦 4) 1)2)3) 東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座 〒113-0033東京都文京区本郷 7-3-1 4)五常総合法律事務所 ## Agenda for the Promotion of Digitization and its Utilization of Regional Newspapers in Japan HIRANO Momoko1), YANAGI Yoshio ${ }^{2}$, HIGASHI Yumiko3), SUDO Masahiko4) 1)2)3 Interfaculty Initiative in Information Studies, the University of Tokyo 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku,Tokyo 113-0033, Japan ${ }^{4)}$ Gojo Partners ## 【発表概要】 紙でのみ発行されていた過去の新聞記事のデジタル化とその活用策を検討することを目的に、 2017 年に地方紙デジタル化の状況を把握するためのアンケート調查を行なった。 本発表では、上記の調査結果から浮き彫りになった課題・問題点を、(1)法制度的・倫理的、 (2)社会的、(3)技術的、(4)経済的・制度的課題の 4 項目に整理し、各項目について、過去及び現在のデジタル化記事を今後活用していくための課題抽出を行なった。 ## 1. はじめに これまで地方紙は、その地方の住民を主な読者対象としてきた。ところが、新聞記事のデジタル化とネット上の公開が進むにつれて、全国紙の記事と同じラインで記事が並び、全国からの地方紙記事へのアクセスが増えるという状況が生まれている。その意味で、地方紙にこれまでにない新しい価值が生じていると言えよう。しかも、それは現在の記事に限らない。むしろ紙でしか発行されていなかった過去の記事も、それが大量にデジタル化され、検索されるようになれば、情報価値の高いビッグデータとして大きな利用可能性が見込まれるのである。 そのような環境変化にもかかわらず、我が国では全国紙は別として、デジタル編集導入以前の過去に発行された地方紙のデジタルデ一夕の公開と活用は進んでいない。しかも、昔の新聞原紙の劣化は日々進行しており、地方紙の将来的な活用に向けての取り組みが早急に求められている。それは今後の我が国のデジタルコレクション形成及びデジタルアー カイブ構築にとっても重要な課題となっている。 このような問題意識のもと、筆者らが関係 する東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座 (以下、DNP 寄付講座)では、日本新聞協会の協力を得て、協会に加盟する県紙相当の地方新聞社 73 社に対し、デジタル化に関するアンケート調查を行なった。今回の発表では、その結果及び「地方紙デジタル化・活用研究会[1]」における議論を参考に、地方紙のデジタル化とその活用促進に向けた課題を提示する。 ## 2. 地方紙のデジタル化状況に関する調査 2. 1 調査概要 2017 年 2 月から 5 月にかけて、日本新聞協会の協力を得てアンケート調查を行なった。 日本新聞協会に加盟している県紙相当の地方新聞社全 73 社の発行する 73 紙を調査対象とし、2017 年 2 月に日本新聞協会からメールで各社の担当部署宛に調査票を送付した結果、送付した 73 社のうち 47 社から回答を得た (回答率 $64.4 \%$ 、表 1 参照)。[2] 【表 1】アンケート回答状況 なお、アンケート調査における質問項目の大枠は、以下の 4 つに決定した。 (1)各社における原紙、縮刷版、マイクロフィルム、DVD、CD 等による保存状況 (2)オンライン上で公開されたデジタルデータに関する状況 (3)非公開の形でのデジタルデータ化に関する状況 (4)デジタルデータの公開基準(フリーアンサ一形式) ## 2. 2 調査結果 以上の調查の結果、過去の新聞記事のデジタル化およびテキスト化については、想定していた通り進んでいないことが改めてわかつた。しかし、イメージデータ化に限定すれば、非公開の形ながらも、予想以上に進んでいたことも判明した。 また、多額の予算をかけてデジタルデータ化を進めたとしても、利用者をどの程度確保できるのかの見通しがつかないため、採算性の確保が地方新聞社にとって重い課題となっていることも明らかとなった。 そして、データの公開や保存、維持については、メタデータの付与やシステム構築の問題、人手と予算の確保に関する問題のほかに、著作権の問題など、技術的、経済的、法的対応も急務となっていることがわかった。 ## 3. 課題整理 以上の調查結果を参考に、地方紙のデジタル化とその活用を進めていくための課題・問題点を 4 つの項目に整理した。 ## 3. 1 法制度的$\cdot$倫理的課題 地方新聞社がデジタルデータを公開できていない理由としては、まず、法的権利や倫理的な問題をクリアできていないことへの懸念が挙げられる。 そのうち、法制度的な課題としては、地方紙の記事や広告、写真などの公開に関する、 著作権やプライバシー権等の権利をいかにクリアするかという問題がある。権利処理に際しては、費用の問題も大きい。 地方紙の場合、自社で権利を有する記事だけでなく、通信社からの提供記事の割合も高 く、そのような他社の記事の権利処理も重要な課題となっている。 また、広告の取扱いも難しい。地方紙の広告は、その地方のある一時代の記録という側面も有しているが、広告主は通常、新聞社への権利譲渡を行なっていないことが多く、広告主が不明になったり、連絡がとれなくなるなどして権利処理が困難になる場合がある。 なお、広告に掲載されたタレントの写真についてはパブリシティ権が問題になる場合もあるが、肖像の顧客吸引力を目的としないような通常のデジタルアーカイブでの利用であれば、権利侵害となる可能性は低いと思われる。 次に、過去の犯罪報道や前科報道等の取扱いも非常に機微な問題である。特に、実名が掲載された記事を公開する場合は、人格権やプライバシー権等の侵害にならないよう、マスキング等による対応も検討する必要がある。加害者だけでなく、性犯罪関係の被害者や震災などの被災者においても、名前を出してほしくないとの要請を受ける場合がある。メデイアは実名報道が大事だと考えているが、一般読者は実名報道の必要性をそれほど感じていないことも多く、その社会的ギャップも考えなければならない。これらの課題の対処方法としては、公開前に許諾を得る方法(オプトイン)や、公開後にクレームがあった場合に取り下げる方法(オプトアウト)などが考えられるが、公開時点で権利侵害が生じる場合には後者の手法はとれず、またいずれの手法も一定の対応コストは避けられない。 さらに、記事中の写真に関して、例えばプ一ルや海水浴風景などに映り込んだ幼少期の水着姿を削除してほしいといった問い合わせを受けることや、過去に鯨を食べていた写真について、現在の国際的な批判を考慮して、 ウェブへの掲載の停止要請を受けることもある。これらの場合に、法律上の肖像権などの権利行使が可能かは別論として、このような事実上のクレームも想定する必要がある。 また、倫理的な課題としては、記事を検索する際に、新聞社が一部の検索キーワードにマスキングをかけており、適切な記事をうまく発見できない場合がある。マスキングをかけられたキーワードは、各新聞社の判断で削除した方が良いと取り決めたものと思われるが、マスキングの基準・内容については基本的に社外秘となっており、検索利便性の低下 に加えて、自主規制の妥当性の観点からも問題となる。 このように、現時点では記事のデジタル化と活用には法的・倫理的に解決すべき問題点が存在するため、それらの問題を解決するための道筋を立てたうえで、加えて各地方新聞社が不安を払拭できるような積極活用のベネフィット面を見出す必要がある。 ## 3. 2 社会的課題 記事のデジタル化により、今まで一般読者に届いていなかった地方のニュース記事が全国に届くようになるが、紙の発行を業務の柱とする新聞社がいまだに多い。取材をして事実を伝えることを新聞本来の目的とし、新聞 「紙」にこだわるのではなく、「ニュース」を届けることを第一義的に考えることが必ずしも新聞社の共通認識となるには至っていない。 販売店の問題もあり、紙の売上を重視している新聞社が多いのは事実である。「新聞のデジタル化によって紙の売上が伸びる」といった説明の仕方でないと、社内の理解を得られないといったことが考えられる。 記者の役割も変化しつつあり、紙面掲載・ ウェブ掲載 (無料) ・ウェブ掲載(有料)の 3 パターンに分けて記事を作成しなければならなくなっている。ウェブ掲載の場合、新聞紙とは異なる見出しなどを工夫し、読者に読んでもらえるようにしなければならないなど、紙の場合にデスクが果たしていた役割まで記者が担う必要も出ている。 地方紙のコンテンツの活用方法としては、教育利用(歴史教育等)が先ず挙げられる。 しかし、生徒に言葉の知識がないと、知りたいことを適切に検索することが難しいので、 そのリテラシーを同時に育てていくことも課題となる。 新聞の記事内容の価値判断というジャーナリズム教育も必要であるが、現代の若者はそもそも紙の新聞紙を日常的に読む習慣がなく、断片的なウェブニュースが多く見られている。 そのため、情報リテラシーの観点からウェブニュースの読み方も教える必要がある。一方で、ウェブニュースには地方紙の記事が多く掲載されているため、ウェブニュースの読者の方が意図せず地方紙の記事に触れる機会が多くなっているというメリットも生じており、 それを活かす工夫が求められる。地方紙の活用に関しては、新聞社単独ではなく、地方人材育成や地域振興における役割を果たすことを求められている地方大学との連携も課題として挙げられる。 過去のデジタル化記事の活用が、どのように社会的に有益・有効なものであるかの社会的共通認識が得られていない、各々の記事の重要度がわからないという問題もあるため、現在の記事と過去の記事を統合的に利用することによって得られるものが何か、モデル的な事例も必要とされている。 その他に、デジタル化が進んでいないために、海外に日本の情報が伝わらず、日本が立ち遅れてしまうといった問題も考えられる。 最大の課題として、現代の若者にとって情報のほとんどがボーンデジタルであり、古い紙形態の記事をデジタル化すること自体を必要と認識されていないことが考えられる。 ## 3. 3 技術的課題 新聞のレイアウトは新聞社によって異なり、海外 (欧米)の新聞紙ではページがとんでいるケースも多くあるため、コンピューターのレベルでどこまで解析できるようになるかが課題である。また、広告をどう扱うのかについても検討する必要がある。 過去の新聞記事の文字認識については、 OCR だけでなく、そこにディープラーニングによる分析をかけてデジタル化された記事内容を作成する手法が確立されつつある。しかしその際、実は何をコンピュータが学習しているのかがわからないという問題があり、原文とディープラーニングによって作成されたデジタルコンテンツの意味が異なってしまう可能性や、大きさによって意味づけ・重要度が異なる見出しのフォントが勝手に変えられてしまうなどの恐れがある。結局は最終的に人手で確認作業を行わなければならないのが課題である。 ルビの認識についての問題もある。漢字とルビにすき間がある場合はルビを認識することができるが、昔の活字にあるような漢字とルビが重なってしまっている場合は認識することができない。また、「政府」のルビが「おかみ」となっていたり、一般と異なった読み方をしているものなど、ルビを読み取ることについては困難な問題が多い。 なお、機械学習に関しては、2019 年 1 月 1 日に施行された著作権法改正により、テキストデータの利用の範囲が広がった。具体的には、統計的な解析に限らずディープラーニングのための解析も可能であることが法文上も明確になり、また情報解析を行う第三者に情報を複製し提供することも可能になった。膨大な量の過去の新聞記事をビッグデータ化することには、様々な活用が見込めるが、何らかの構造化がなされなければ、効果的・効率的に利用することは難しい。それを費用のかかる人手ではなく、自動的に行えるための技術開発が必要であろう。 ## 3. 4 経済的-制度的課題 経済的な課題として、実際のデジタル化の費用に明確な基準がないこと、過去の実績がほとんど公開されていないこと、原紙を保存するコストがかかってしまうことなどが挙げられる。また、すべてのデジタル化経費を新聞社単独で賄うことができないとすれば、海外の事例のように公的資金の援助も必要となる。内閣府の補助金でデジタル化を行なった地方新聞社の事例もあるが、全国的には広がっていない。そもそも公的資金援助を受けるだけの公益性を新聞社側がはっきり示す必要があろう。 商用や趣味などで記事が活用されるためには、それが顧客ニーズに合わせて加工されていないと使いづらい。学術的利用の場合は、 そのままの記事で利用できることも多いが、商業的に営利で利用しようとすれば、それだけでは収益は上がらない。例えば、地方紙の死亡記事など、地元の人物・企業・組織の消息記事には一定のニーズがあると考えられる他、地方新聞社が有する写真素材などはコン テンツとしての活用場面も考えられるので、 これらのコンテンツを中心に再編集して付加価值をつけていくことも課題としてある。 デジタル化新聞記事の利用実態を調査・分析したものがほとんどなく、どのような利用のニーズがあるか、把握できていないことも大きな問題である。そもそもデジタル化記事利用の課金モデルも確立しておらず、全国の地方紙のデジタル化記事を横断的に利用することに大きな可能性があるとしても、新聞界全体としての提供・課金共通プラットフォー ムが形成されていない。 ## 4. 今後の課題 今回は調査結果から抽出した課題を提示するにとどまったが、これを体系的に整理するとともに、その解決策を検討することにしたい。また、その具体策としての現在及び過去のデジタル化記事の活用モデルを提示することも課題として考えたい。 ## 註$\cdot$参考文献 [1] 構成メンバーは、筆者らを含め、植村八潮 (専修大学)、柴野京子(上智大学)、松岡資明(元日本経済新聞社)、宮本聖二 (立教大学)、時実象一・丹羽美之・美馬秀樹・渡邊英徳(東京大学)の各氏。事務局は DNP 寄付講座。(2018 年 1 月時点) [2] 東由美子, 時実象一, 平野桃子, 柳与志夫.我が国における地方紙のデジタル化状況に関する調査報告 : デジタルアーカイブ学会誌. 2019, vol.3, No.1, p.35-40.
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# [A21] マラウイ共和国の視聴覚資料保存: 〜電力の供給が不安定な国$\cdot$地域のデジタルアーカイブを考える〜 ○鈴木伸和 1 1) 1) 株式会社東京光音, 〒151-0061 東京都渋谷区初台 1-47-1 小田急西新宿ビル 1 階 E-mail:suzuki@koon.co.jp ## Audiovisual Archiving in the Republic of Malawi: A Consideration on Digital Archive in the Countries and the Regions with Unstable Electricity Supply Nobukazu Suzuki1) 1) Tokyo Ko-on Inc, 1st floor, Odakyu-nishi-shinjyuku Bldg., 1-47-1, Hatsudai, Shibuya-ku, Tokyo 151-0061 Japan ## 発表概要 アフリカ南東部の内陸に位置するマラウイ共和国で、2016 年より視聴覚資料保存とデジタルアーカイブのプロジェクトを開始した。運営しているのはマラウイ国立公文書館、レイ・ファンデーション、株式会社東京光音の 3 者である。このプロジェクトの目的は、現地のアーキビストなどと協働し、マラウイ国立公文書館が所蔵している視聴覚資料を検查、保存、デジタル化することにより、国内外で視聴や利活用ができる環境を整備することである。しかし、サブサハラアフリカで最貧国の一つでもあるマラウイ共和国は慢性的な電力不足にあり、デジタルアーカイブの構築とその利活用にも影響を及ぼしている。プロジェクトの進捗状況を報告し、マラウイ共和国でどのようなデジタルアーカイブが可能か考察する。 ## 1. はじめに まずプロジェクトの経緯と概要を説明する。 2014 年から 1 年間、筆者は文化庁新進芸術家海外研修生として、カンボジアにあるボパナ視聴覚リソースセンターで、カンボジア政府が所有している視聴覚資料の調査、保存業務を行なっていた[1]。この時、カンボジアと同様の活動をマラウイでも実施できないかとレイ・ファンデーション ${ }^{[2]}$ (Rei Foundation Limited:以下 RFL)から筆者に依頼があり、 2016 年にマラウイで現地調查を開始した。 RFL はニュージーランドを拠点とする私的な財団であるが、2012 年からマラウイで社会的・文化的な活動をしており、現地の組織と強いつながりを持っているため、一般には立ち入ることができない場所でも調查が可能となった。 調查の結果、マラウイ国立公文書館 (National Archives of Malawi : 以下、NAM) (図 1)が大量の視聴覚資料、主に映画フィルムと音声テープを所蔵していることが判明した。簡易検查をした限りでは、特に映画フイルムは約半数が経年劣化していると推測で きたため、資料の保存と利活用のためのプロジェクト「Preservation and Rehousing of Films」を 2017 年 4 月から正式に発足させた。運営は RFL と NAM、さらに筆者が現在所属している株式会社東京光音の 3 者である。筆者がコンサルタントとなり、RFL の予算と人脈で現地の人材を雇用・トレーニングし、所蔵資料の保存と利活用ができる環境を目指している。プロジェクトはまず映画フィルムに絞り、「検査と保存」「デジタル化」「利活用」 の 3 つのフェーズを策定し、現在、第 2 フェ ーズのデジタル化を行なっている。 ## 2. マラウイ共和国の現状 ## 2. 1 マラウイ国立公文書館 NAM の前身は、1947 年に設立された中央アフリカ公文書館 (The Central African Archives)の分館である。1964 年、英国の植民地からマラウイが独立した時に NAM と改称され、現在は観光・野生生物・文化省の一部署となっている。旧首都であるゾンバに主要オフィスと保存庫があり、職員数は約 14 名である。その他に現首都リロングエとムズズに分館があり、それぞれ $4 \sim 5$ 名の職員がいる。 所蔵している公文書はデジタル化されておらず、アクセスする場合は索引カードで探す必要があり、利用者は週に 1 2 名程度である。 NAM が所蔵している視聴覚資料は映画フィルム $(16 \mathrm{~mm})$ : 約 1,100 缶、 $6 \mathrm{~mm}$ 音声テー プ: 数千本、写真(ゼラチンシルバープリン卜):約 600 枚がある。その他にビデオテープ (VHS、miniDV)、カセット音声テープ、 LP レコードなども少数であるが所蔵している。 しかし、どれもカタロギングされていないため、アクセスできずに放置されているのが実情である。各資料は保管されている場所が異なり、映画フィルムの場合は劣化による酢酸ガスの臭いが強いため、主要オフィス内のトイレ近くに置かれていた。2016 年 10 月(乾季)に映画フィルム周辺の温度と湿度を計測したところ、日中は摄氏 30 度前後、相対湿度 40\%前後であった。 映画フィルムの多くは 194070 年代に撮影されたマラウイのニュース映画である。音声テープは 1960 年代前後に記録された政治家による演説が多いと言われている。写真は 20 世紀初頭に撮影された政治家や著名人などが多く、1960 年代以降に複製された紙プリントである。オリジナルのネガフィルムは所蔵していない。NAM には保全担当(コンサバター) が 1 名おり、そのブライト・ジョシュア氏が $\left.\lceil\right.$ Preservation and Rehousing of Films $\dashv フ^{\circ}$ ロジェクトの NAM 側の責任者となっている。 図 1、マラウイ国立公文書館(外観) ## 2.2 マラウイ国立図書館 ## マラウイ国立図書館 (National Library Service in Malawi : 以下、NLSM)は 1980 年にリロングウエに設立された。開架の本とインターネットにアクセスできる環境のため、毎日大勢の人が利用している。館内用のオンライン所蔵目録(OPAC)があり、そのサー バーを維持管理する情報技術の部署(2 名) もある。建物の入口近くには元映写室(現在は物置)があるため、少なくとも 30 年前までは NLSM が映画フィルムを扱い、一般向けの上映もしていたことが建物の設計で知ることができる。今後、プロジェクトの第 3 フェー ズでデジタルデータの利活用をする時に NLSM と協働する予定である。残念なことは、 NLSM が所蔵していた映画フィルムは数年前に廃棄していたということである。 ## 2.3 電力の問題 日本の外務省の調查によると、2016 年のマラウイ国内の電化率は $12 \%$ であり、その主要電源の約 99\%を水力発電に依存している[3]。 2018 年に筆者が NAM と NLSM に聞いた限りでは、リロングウエでは数時間の停電が毎日断続的にあり、ゾンバでは一日数時間しか電気がこない状況である。近年の水不足と産業発展による電力需要の増加によって、電力供給の改善はめどが立っていないという。 NAM は電力だけでなく、インターネット環境も乏しいため、筆者と NAM の現地スタッフとのやりとりには、スマートフォンでの通信が必須となっている。 デジタルアーカイブを構築するためには、 あらゆる作業と維持に電力が必要となることは言うまでもない。データはクラウド保管で解決できると思われるが、予算が尽きれば消失する恐れがある。また、インターネット環境の乏しいマラウイでは、オンラインで映像を見ることは一般市民にとってはアクセスできないも同然である。つまり、マラウイにとって必要な視聴覚資料のデジタルアーカイブとは、可能な限り消費電力を抑えた持続可能な機器を使用し、かつインターネットを介さないアクセスの保証が必要となる。 ## 3. 視聴覚資料保存プロジェクト ## 3. 1 検査と保存 映画フィルムをランダムに検査したところ、約 1,100 缶の映画フィルムの約半分は、フィルムベースとして使われている酢酸セルロー ス特有の劣化「ビネガーシンドローム」によって収縮・変形しており、映写機にかけることができない状態であった。全体の約 $40 \%$ は状態が良く、残りの約 $10 \%$ は完全に溶解・固着しており、画が失われていた。全ての映画フィルムを日本に輸送し、予算をかければ映画コレクションの約 $90 \%$ をデジタル化することは技術的に可能であるが、 1 缶を 3 万円と想定するとデジタル化だけで約 3 千万円の予算が必要となる。 そこで現物の保存を優先し、ゾンバにある NAM の空き部屋を保存庫とするため、窓を遮光した後に、業務用エアコン (Samsung4800BTU)とスチールの保管棚を 2017 年に設置した。エアコンを稼働させると摂氏 25 度前後で安定するため、映画フィルムの中期保存[4]はできると考えていた。しかし電力の問題が悪化し、2017 年には一日数時間のみだったゾンバの停電が、2018 年には一日の内ほとんど電気が供給されない状態になってしまった。2017 年の時点では、停電中はディーゼル発電機(既に購入済み)を使用することで、 エアコンを 24 時間稼働させることが可能と考えていた。しかし、一日の大半を発電機で賄う予算がないため、現在は太陽光発電などの持続可能な発電システムを使用することで、保存庫の温湿度の維持を目指している。 その他、ミクロ環境の整備として映画フィルム缶の交換も進めている。多くの缶はスチ一ルであり、錆によって蓋が密封され、フィルムから発生する酢酸ガスが滞留して加速度的に劣化しているためである。そこで、デンマークの株式会社 DANCAN が販売しているポリプロピレン製の専用缶(側面に約 $1 \mathrm{~cm}$ の通気穴がある)に全て入れ替えることで、 2019 年には原資料のマクロとミクロの保存環境を可能な限り整える予定である。 ## 3. 2 デジタル化 保存環境の整備と並行して、状態の良い映画フィルムのデジタル化をリロングエにある NAM のオフィスで 2018 年から進めている。 デジタル化の方法は、詳細な検査と補修を行った後に、海外用 $240 \mathrm{~V}$ のポータブル $16 \mathrm{~mm}$映写機(北辰 X560)を使用し、映写されたスクリーンと音声をデジタルムービーカメラ という簡易的な手法である。全ての機器に無停電電源装置(UPS)を取り付けることで、 1 日時 8 間の作業を可能としている。デジタル化に必要な機材は全て日本で購入、もしくは寄贈いただいたものを持参した。研修は 2017 年 11 月の 2 週間、筆者が NAM のブライトに対して映画フィルムの検査、補修、デジタル化ができるトレーニングを行なった (図 2)。その後、検査とデジタル化業務のため 2 名を現地で雇用した。約 1 年でデジタル化を終える予定であったが、映写機の音量調整ミスなどのトラブルがあり、デジタル化作業はさらに 1 年延長する予定である。撮影は $\mathrm{HD}$ 解像度 (1920x1080, 24p) の MPEG-4 で記録し、iMac にインストールした DaVinci Resolve Ver. 14 (無償版)で編集とカラーグレーディングなどを行なった後に、ブルーレイディスクに全てのデータを保存している。 ディスクの保管は NAM とマラウイの国内ユネスコ委員会、さらにニュージーランドの RFL の 3 力所に分散保管する予定である。 図 2. 映画フィルムの検査、補修、デジタル化作業 ## 3.3 利活用に向けて プロジェクトの第 3 フェーズでは、検查で取得したメタデータとデジタル化した映像デ一タを利活用する予定である。現時点では NLSM 内で閲覧可能なシステムを構築し、さらに館内上映や地方での野外上映を行う計画をしている。これらは UPS などがあれば十分可能である。さらに、デジタル化後に内容を確認し、著作権などの問題がクリアできれば館内利用だけでなく、国外からのアクセスを受け入れることも検討している。そのためには YouTune や Vimeo などのオンラインサー ビスも必要になるかもしれない。また、RFL の他のプロジェクトでは、マラウイ国内の民話や民謡を映像で記録する活動もあり、共同のデジタルアーカイブを構築する可能性もある。 ## 3.4 今後の課題 プロジェクトの今後の課題を 4 点にまとめる。状態の悪い映画フィルムは、マラウイ国内でのデジタル化が難しく、映画フィルム専用のスキャナーを購入するか、国外に持ち出してデジタル化を行う必要がある。いずれにしても予算を確保しなければ、劣化し失われるのを待つのみである。可能な範囲でデジタル化と利活用を行なった後で、さらに予算を獲得する方法を検討する必要がある。 映画フィルムの次は、数千本の $6 \mathrm{~mm}$ 音声テ ープに着手する必要がある。現地のチェワ語の翻訳、文字化に加えて政治的な内容について公開・非公開の調査も行う必要があり、デジタル化は技術的には現地で可能だが、利用可能なデジタルアーカイブを構築するための法的問題は残されている。視聴覚アーキビストの養成は欧米以外の多くの国で問題となっている。日本と異なること は、マラウイでは国外で専門教育を受けることが金銭的に難しいため、現地のアーキビストなどに国内で実務研修を継続する必要がある。現物の歷史資料を適切に保存できる人材がいなければ、将来、デジタルアーカイブを構築することは視聴覚資料に限らず不可能である。 電力の確保は地理的、財政的な問題だけでなく、政治的な問題も関わるため解決には時間がかかるだろう。低価格で持続可能な発電システムの運用実績ができれば、マラウイ以外の国や地域でも活用できるのではないかと考えている。 ## 4. おわりに このプロジェクトは道半ばであるが、これまでの経験で分かったことは、電力の供給が不安定な国や地域であってもデジタルアーカイブの構築は可能だということである。ただし問題となるのは、デジタルアーカイブの元となる原資料の保存をどのように維持するかにある。マラウイ国内で視聴覚資料を保存するためには、太陽光発電などの持続可能な発電システムが必要であり、実現しなけれげならないと考えている。 ## 参考文献 [1] 鈴木伸和. カンボジアの視聴覚資料保存 (前編). 映画テレビ技術. 2016, no.767, $\mathrm{p} 47-51$. [2] Rei Foundation Limited. https://reifoundation.com (参照日 2019/1/24). [3] 外務省. 無償資金協力. 案件概要書. リロングウェ市変電所改修計画. 2017, p1. https:///www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files /000265657.pdf(参照日 2019/1/24) [4] JIS K7641:2008. 写真-現像処理済及安全写真フィルム-保存方法. p8 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A16]博物館の「思い出」をアーカイブする: ## 神奈川県博開館 50 周年記念プロジェクト「みんなの神奈川県博アーカイブ」 千葉毅 ${ }^{11}$, 武田周一郎 1 1) 1) 神奈川県立歴史博物館,〒231-0006 神奈川県横浜市中区南仲通 5-60 E-mail: chiba.t@kanagawa-musem.jp ## Archiving memories about a museum: 50th anniversary project of Kanagawa Prefectural Museum CHIBA Tsuyoshi ${ }^{1)}$, TAKEDA Shuichiro ${ }^{1)}$ 1) Kanagawa Prefectural Museum of Cultural History, 5-60 Minaminaka-dori, Naka, Yokohama, Kanagawa, 231-0006 Japan. ## 【発表概要】 本報告では、地域の博物館における、いわゆる博物館資料以外のデジタルアーカイブのささやかな実践事例について、その過程や方法、課題を紹介する。 2017 年、神奈川県立歴史博物館は、その前身である神奈川県立博物館の開館から 50 年を迎えた。これを記念し実施したプロジェクトの一つが「みんなの神奈川県博アーカイブ」である。このプロジェクトでは、当館にまつわる思い出を募集、思い出投稿者の位置をGoogle マップにプロットし「思い出分布図」として公開した。「思い出募集」企画は世の中に多くみられるが、集まった思い出を「分布図」として示した例はこれまでにあまりないだろう。 「思い出の広がり」が可視化されることは、特定の位置に縛られた博物館が持つ可能性の再評価につながる。また当館のような自治体の設置する地域博物館にあっては、つい各自の自治体範井で活動の朹組みを考えがちであるが、より広い視野での活動を内省的に促す視点につながるものともいえよう。 ## 1. はじめに 2017年3月、神奈川県立歴史博物館は前身である神奈川県立博物館の開館から50周年を迎えた。横浜開港期の趣きを色濃く残す馬車道・関内地区にこの博物館が開館した1967年頃、都道府県立の総合博物館は全国的にも稀で、当館はその先駆的存在として多様な試みを実践してきた。1995年には人文部門、自然部門が分離し、それぞれ独立の博物館として再編された。馬車道の建物は人文部門の後継館である当館が引継ぎ、今日に至っている。 この節目の年に、これまでの歩みを振り返り、そしてこれからの在り方を考えてみたいと思い企画したのが神奈川県博開館50周年記念プロジェクトである。これまで当館を利用し、支えてくださった方たちの思いと、まだ当館を知らない人たちとをつなぐようなプロジェクトを模索した。 50周年を迎えた2017年は空調設備等の改修工事に伴い休館中であったため、記念展覧会 のような催しは難しく、検討の結果、ウェブ上でいくつかのプログラムを展開することにした。本発表で取り上げる「みんなの神奈川県博アーカイブ」はそのうちの一つである。 なお、本プロジェクトでは、神奈川県立博物館及び神奈川県立歴史博物館の両者を含めて「神崈架师県博」と呼称した。本発表でも同様とする。 ## 2.「みんなの神奈川県博ア一カイブ」 2.1 収集の対象と方法 「みんなの神奈川県博アーカイブ」(以下、県博アーカイブとする)は、神奈川県博に関する思い出を募集し、ウェブ上で公開する企画である。それだけでも多少の意義はあるかも知れないが、企画としては新鮮味がない。 また、寄せられた文章をただ掲載しただけでは、投稿者やその思い出とウェブ閲覧者との距離感を縮めにくい。 そこで「思い出分布図」を作成してみよう と考えた。神奈川県博に思い出を持つ人が現在どんな場所にいるのかを可視化するのである。これであれば、ウェブ閲覧者が自分の知っている場所の記憶と絡めながら神奈川県博のことを想起することができ、博物館との距離感を縮められるのではないかと考えた。同時に、場所を介在させることで閲覧者は投稿者を想像し、思い出への共感も得られやすいのではないかとも考えられた。 そのため、投稿者の位置情報をどう収集し、公開するかが課題となった。住所を記入してもらいそのまま地図上に表示するのが最も正確ではあるが、個人情報保護のため困難だし、 そこまでの細かさが要求される性格のものでもない。とはいえ、市町村レベルの区分まで細かさを下げてしまうとリアリティが失われ、当初の目的達成には弱くなってしまう。大字程度が丁度よいと考えたが、それを記載してもらうのも、地図上に落とすのも煩雑である。 そのような検討の結果、郵便番号を利用することにした。郵便番号であれば、個人情報保護とリアリティのバランスも程よいし、記入、集計の煩雑さを低減することができる。 もちろん記入は任意とした。 募集内容は、神奈川県博に関する思い出、写真、イラスト等、基本的に自由とした。 応募特典も以下の 5 コースを用意した。 1.「学芸員と語らう特別講座」招待 2. 再開時の記念式典招待 3.「建物見学会 [特別篇]」招待 4. 展覧会招待券プレゼント 5. 神奈川県博思い出地図帳プレゼント 各特典の詳細は省くが、単なる記念品贈呈等ではなく、神奈川県博により親しんでいただく機会となるような内容とした。極力経費を抑えられる形を模索した結果でもある。 募集告知は、チラシ(裏面を記入用紙とした)、ポスター、ウェブ、Twitter で行った。応募方法は、郵送、FAX、email、持参とした。休館中に実施した講座等の際にはその場で記入用紙を配布し応募を募った。 また、新規投稿を待つのみでなく、ウェブ上で当館への訪問記録を記載している過去記事を検索し、掲載者へ連絡、県博アーカイブヘリンク打診も行った。 ## 2.2 公開の方法 前述のように50周年を迎えた2017年は博物館が休館中であった。それ故、神奈川県博ア ーカイブを含む神奈川県博開館50周年記念プロジェクトは、ウェブ上を主な展開場所とし、 そのための特設サイトの設置が望まれた。 当館では、展覧会等に際して特設サイトを作成することは多くなく、作成する場合でもすべて博物館スタッフが作成している(ウェブ担当スタッフや場合によっては当該期に業務的余裕がありウェブ制作の最低限の技術を持った学芸員が当たっている)。しかし、本プロジェクト進行時には再開館に向けた他業務が山積し、内部で特設サイトを制作する余裕はなかった。また、本プロジェクトでは、なるべく多くの立場の人々と県博にまつわる思いや思い出を共有してみたいという思いがあり、館外の人に関わってもらえる機会も作りたかった。 そこで、ウェブ制作関連の専門学校との共同制作の可能性を模索した。博物館近隣の数校に連絡し希望を伝えたところ、学校法人岩崎学園横浜デジタルアーツ専門学校 (以下、 YDA とする)から授業内課題として扱ってくださるとのお返事をいただくことができた。授業内課題としての扱いのため、委託費のような費用の発生を抑えることもできた。 ウェブ制作にあたっては、学生たちに本プロジェクトの経緯、目的等を伝えた上で、彼らの発想を取り入れつつ発表者ら学芸員と議論を重ね、半年弱をかけ共同で制作した。 県博アーカイブの公開については、地図上にドットを表示して思い出の広がりを可視化すること、各ドットをクリックして思い出を閲覧できること、思い出の追加作業が簡便であること、等を大枠とし、Googleマップをべ一ス地図に採用した。 完成したサイトは当館のサ ーバーに設置し、2017年8月 8日に公開した(右のQRコー ドからアクセス可能)。 ## 2. 3 投稿の状況 募集の結果、「思い出分布図」としてウェブサイトで公開した思い出は 177 件である(2019年1月時点)。投稿者の分布は国内では北海道から鹿児島県に及び、海外からの投稿は2件(フランス・インドネシア)であった。年齢別では、20代以下:13 件、30代 50代:49件、 60代以上:61件となり、公式アカウントでは16件の思い出を掲載した。 図 1. 神奈川県博思い出分布図 (一部) ここ数年の年間入館者数が平均 14 万人ほど、 1967年の開館からでは累計500万人以上が来場していることを考えると、極めて少ない投稿件数となってしまった。 投稿件数の少なさや、ウェブ上企画といった特性を考慮すると、このデータをもって当館利用者全体の傾向とすることは出来ない。 しかし、「思い出分布図」それ自体の特徴として理解するならば、横浜市を中心とする神奈川県東部から東京都東部への集中が明膫である (図1、2)。 県博アーカイブでは思い出の「広がり」を期待したが、むしろ「集中」の傾向が見て取れることとなった。「神奈川県の博物館」という側面より、東京近隣に位置することの特徵が強く表れた結果と言えるかも知れない。 ## 3. 課題 今回の試みを通じて直面した課題は、主に技術的なものであった。まず 1 点目は、デジタルアーカイブ構築、管理技術の問題である。本プロジェクトを担当した学芸員らは、博物館資料を収集、調查、公開(うアーカイブ) しているが、必ずしも「デジタル」アーカイブの構築に精通していたり、インターネット技術に関する専門知識を有しているわけではない。「思い出分布図」の公開は担当学芸員のウェブ技術だけでは困難であり、本プロジェ クトの実現にはYDA という協力者の介在が不可欠であった。「思い出分布図」の公開後は、 YDA から更新マニュアルの提供を受け、これに基づいて学芸員が更新作業を実施した。更新を担当した学芸員はウェブサイト管理に不慣れであったため、当初はコンテンツの追加さえもうまくいかず、思い出が投稿されてからウェブサイトに反映するまで時間がかかってしまうケースが少なからず生じた。 2 点目に、利用するサービスの問題が挙げられる。「思い出分布図」はGoogleマップを利用して公開している。公開から1年弱が経過した2018年6月頃からGoogleマップを表示すると「このページでは『Googleマップ』が正しく読み込まれませんでした」とメッセージが出て、地図には「For development purposes only」と表示される状態になった(図2)。これはGoogle社が「Google Maps Platform」の 図 2.「For development purposes only」のメッセージが表示された googlemap 画面 料金体系を更新し、有効なAPIキーを取得していない場合に地図の利用を制限したためであった。その経緯と対応方法については、各種のウェブサイトに紹介があり、これらの解説によって事態の原因と解決方法は理解された。しかし、学芸員だけでは技術的対応が困難なことや、APIキー取得にあたり利用料の発生が想定されたこと、セキュリティ等の観点で県庁内調整の必要の有無の確認等のため、 エラー表示が出たまま現在に至っている。 これらの課題は、ウェブ技術に長けた人であれば即座に対応可能な面もあらう。しかし学芸員は博物館資料というコンテンツの専門家ではあっても、デジタル、ウェブ技術には弱い場合も多いように思う。その意味では、本プロジェクトで直面した課題は、当館のみの問題ではないとも言い得る。大規模な組織が大規模なデジタルアーカイブを構築するのとは違い、予算も僅かな小中規模の社会教育施設が地域の情報等を扱うシステムを独自に構築しようとする際の共通の課題にもなり得るとも考えられよう。 課題への対応には、担当者が然るべき技術を得ることや外部に助力を求めるなど、多様な方法があろう。ただ、デジタルアーカイブを構築し持続的に運用するならば、突発的なエラー等に対処しうる最低限の技術を内部で共有しておくことがやはり望ましいだろう。 ## 4. おわりに 人々の記憶と位置情報をリンクさせた事例として、渡邊英徳氏らによる「ヒロシマアー カイブ」といった先進的な例がある[1]。しかし、博物館をはじめとする社会教育施設等で多く実施されている「思い出募集」のような企画について、集まった思い出を「分布図」 として示した例はこれまでにほとんどない。県博アーカイブの当初の目論見は、神奈川県博という接点を通じて、思い出の投稿者と閲覧者の気持ちをつなぐことだった。しかし、集まった思い出を地図に落とす作業をする中で、「思い出の広がり」が可視化されることは、特定の位置に縛られた博物館が持つ可能性を再評価する視点にもなり得ると考えるようになった。当館のような自治体の設置する地域博物館にあっては、つい各自の自治体範囲で活動の枠組みを考えがちであるが、より広い視野での活動を内省的に促す視点でも見つめ直してみたい。 県博アーカイブは、いわば「神奈川県博」 を一つの資料とし、それにまつわる記憶を共有するための仕組みであるとも言える。 「フォーラムとしてのミュージアム」という表現が使われるようになって久しい $[2]$ 。未知なるものとの出会い、新たな対話・コミュニケーションが生じる場としてのミュージアム、である。資料を観覧者の記憶と積極的に結びつけることで、より豊かで開かれた歴史観を構築できるとの考えもある [3]。 もはや博物館が向き合う世界は、資料として眼前に対峙する「もの」を超えて、その背後に広がる記憶や「思い」までにも広がっている。その広がりこそが、これからの博物館の一つの大きな可能性を持つと考えている。 ## 参考文献 [1] ヒロシマアーカイブ制作委員会. 2015. http://hiroshima.mapping.jp (参照日 2019/1/15). [2] 吉田憲司. フォーラムとしてのミュージアム、その後 : 民博通信. 2013, 140, pp.2-7. [3] Steven Lubar, 松本栄寿・小浜清子訳. 記憶の展示 : スミソニアンは何を展示してきたか. 2003,玉川大学出版部. pp.19-33
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# [A15]民俗芸能 3D データアーカイブの活用による継承支援 中中川源洋 1), 笹垣信明 1) 1) 株式会社ニコン, 〒244-8533 神奈川県横浜市栄区長尾台町 471 E-mail: Yoshihiro.Nakagawa@nikon.com ## Inheritance support of folk performing arts utilizing 3D data archive NAKAGAWA Yoshihiro"), SASAGAKI Nobuaki1), 1) Nikon Corporation, 471 Nagaodai-cho, Sakae-ku, Yokohama-city, Kanagawa, Japan, 2448533 ## 【発表概要】 無形の民俗芸能の保存は、そのままの形で保存させることが困難であるため、映像記録が広く用いられている。しかしながら目的ごとに求められる映像コンテンツが異なるため、予算や撮影条件が限られている場合は目的が限定され、必ずしも有効に活用されないことがあった。そこで様々な目的に適用が可能な記録を得るために、数台の測距カメラを組み合わせて民俗芸能を 3 次元 $(3 D)$ 的に記録・データ化する技術を開発した。本技術を郷土芸能保存会のような団体自身により、公演や練習の様子をデータ化/アーカイブ化していくこと想定している。取得データは演技空間そのものを記録しているので、目的に合わせた形態への加工が可能となる。例えば再生視点を自由に選べることから、行事全体を理解するための広角の映像、演者の動きや部位に注視した映像、更には広報用の極端なアングルやクローズアップ映像などに再構成させることができる。 また取得した $3 \mathrm{D}$ データを解析し、熟達者と初心者間の動きを定量的に比較し継承支援につなげたり、取得データを利用した芸能体験アプリなどによる観光目的への展開なども可能となる。 本稿では岩手県で継承されている鹿踊りや神楽の $3 \mathrm{D}$ データ化実験と、取得データを活用した訪日外国人向け芸能体験アプリの実験の結果を報告する。 ## 1. はじめに 無形の民俗芸能の保存には、音声と動画が同時に保存できる映像記録が広く用いられている。しかしながら映像記録は撮影者や編集者により空間の切り取りが行われるため、記録された映像が目的に沿わず、必要な状態が映っていないなどの課題があった。 東京文化財研究所の「無形文化財映像記録作成の手引き」[1]によれば、映像記録作成の目的は「記録保存」「広報・普及」「伝承・後継者支援」の 3 つに集約され、また、その作成目的を明確にすることを重要視している。記録目的の映像は広く演技空間を撮影しなければならないが、広報目的であれば映像自身を飽きずに見続けてもらうために、クローズアップを織り交ぜるなど、目的によってコンテンツの種類を変える必要がある。予算や撮影条件が限られている場合は目的を限定せざるを得ず、撮影した動画を多目的に活用することは難しいという課題を有していた。 また民俗芸能の現場では、後継者不足や活動資金不足などから、継承に不安を抱えている。2018 年 9 月北上市民俗芸能連合会により、北上市内における民俗芸能団体の実態調査 ${ }^{[2]}$ が実施された。調查の目的は、活動実態や課題を明らかにすることである。北上市の調查によれば、 $23 \%$ の団体が今後の継承に不安を抱えているという結果であった。このような傾向は北上市に限るものではなく、全国的に同じような状況であると考えられる。このように継承のための施策が必要な団体ほど、継承用のコンテンツや広報用のコンテンツの作成費用が捻出しにくいという状況である。 無形の民俗芸能という特性を考慮すると、 早急な対策が必要であると考えられる。 ## 2. $3 \mathrm{D$ データによる記録} ## 2. 1 従来技術 $3 \mathrm{D}$ データは出力時に再生画角や視点を自由に変更することができるため、様々な目的のコンテンツへの活用が可能である。その特 徴は民俗芸能のアーカイブに適している。 一般的に 3D データの作成は、モーションキャプチャを用いる方法 $[3-5]$ と、多数のカメラを用いる手法[6]が一般に使用されている。 モーションキャプチャシステムは別途作成された 3DCG モデルにシステムによって得られた演者の動きを付与し、3D データを作成している。しかしながら本方式では演者の動きしか取得できないため、民俗芸能の要素である衣装の動きなどの記録はできなかった。 多数のカメラを用いる手法では、数 10 台に及ぶカメラを配置し、それぞれのカメラの相対位置を算出した後、被写体の特徴点を解析し、モデル化することで $3 \mathrm{D}$ データを得るものである。 いずれの手法も自由多視点を実現できるが、専門知識が必要で製作コストも高く、撮影条件の制約も多いことから、民俗芸能の現場では使用しにくいという課題があった。 ## $2.23 \mathrm{D$ データ取得システム} 従来技術の課題を解決するために、数台の測距カメラ(図 1)による $3 \mathrm{D}$ データ取得システムを開発した。測距カメラは、画角内の各ポイントにおける距離を取得できる。これにより取得した距離情報(デプスマップ。図 2)とレンズ情報などから各画素の三次元位置を算出し、カメラに映った範囲の空間を $3 \mathrm{D}$ データに変換する。1 台のカメラから取得したデー タであっても、正面視点のみではなく、例えば俯瞰視点での位置の確認などができ、フォ ーメーションなども把握できる。 更に数台のカメラを組み合わせれば、死角が減り、より精度の高い $3 \mathrm{D}$ データが得られる。 図 1. 測距カメラ ## 2. 3 データアーカイブ実験 岩手県釜石市で開催された民俗芸能発表会において、データ取得実験を実施した。本実験は 1 台の測距カメラを用いた実験である。 データ取得結果を図 3-5 に示す。図が示すように、装束の動きや舞台装置を含んだ演技の様子が 3D データとして取得され、自由視点での再生が可能なデータ取得となっていることがわかる。 (a) 演技写真 (b) 点群デー夕 (正面) (c) 点群データ (俯瞰) 図 3. 臼澤鹿子踊り (a)演技写真 (b) 点群データ (正面) 図 4. 橋野鹿踊り (a)演技写真 (b) 点群データ (正面) 図 5. 橋野鹿踊り 更に岩手県一関市での南部神楽の練習の様子を複数台のシステムで $3 \mathrm{D}$ データ化する実験を実施した。本実験では 3 台の測距カメラを用いている。図 6 が示すように死角が少ない全周のデータが得られており、任意の視点で映像が確認できるので、継承支援などにも利用可能なデータとなっている。また取得デー タを加工することにより、CG などへの展開するためのデータも得ることができる。 (a)データ取得の様子 (b)点群データ(全周) (c) 3D モデル 図 6. 達古袋南部神楽 ## 3. アーカイブの活用実験 2.2 節で述べた南部神楽の実証実験で取得したデータから演者の姿勢データを抽出するとともに、演者へのヒアリングと組み合わせて、演舞のポイントを数值化した。更にその数値データを教師データとした体験アプリを作成した。本アプリは体験者の動きをリアルタイムで取得し、教師データとの一致度をフイードバックするものである。今回は民俗芸能体験を目的としたが、教師データとの一致度の厳密さを上げることで継承支援にも活用できる。 本アプリの有用性を確認するため、日本在住の留学生に体駼(図 7)いただいたところ、対象となった民俗芸能への関心が高まるという結果が得られた。本アプリを空港などに設置することでインバウンド増加などが期待でき、観光業界からの資金獲得なども見込める。 図 7.南部神楽体験アプリ ## 4. おわりに 本稿では開発した $3 \mathrm{D}$ データ取得システムにより民俗芸能のデータ化が可能であることを示した。更に取得されたデータを教師デー タとする体験アプリを開発し、在日留学生を対象とした実証実験を実施した。継承支援を主目的にしたデータを活用することで、インバウンド増加など観光産業への貢献も期待で きる。 今後は学校教育との連携を検討している。例えば学校教育の中で生徒にデータ取得やアプリ開発の一部を担わせることで、児童・生徒の教育活動を進めつつ継続的なアーカイブの拡充が可能になるためである。更に、民俗芸能に触れる人口を増やすことにもなり、継承支援にも貢献できると考えている。 ## 5. 謝辞 本稿で示した実験は縦糸横糸合同会社の協力いただいた。同社、および、実験に参加いただいた橋野鹿踊り・手踊り保存会、東禅寺しし踊り保存会、臼澤鹿子踊保存会、達古袋神楽をはじめとした関係者の皆様に感謝申し上げる。 ## 参考文献 [1] 国立文化財機構東京文化財研究所無形文化遺産部編. 無形民俗文化財映像記録作成の手引き, 2018, $\mathrm{p} 48$. [2] 北上市民俗芸能連合会. 民俗芸能団体の実態に関するアンケート調查報告書, 2018, p12. [3] Yoko, Usui.; Katsumi, Sato.; Shinichi, Watanabe. The Effect of Motion Capture on Learning Japanese Traditional Folk Dance. Proceedings of World Conference on Educational Media and Technology. 2013, p.2320-2325. [4] Yoko, Usui.; Katsumi, Sato.; Shinichi, Watanabe. Reflection CG in the Learning of Dance Movements. Proceedings of World Conference on Educational Media and Technology. 2014, p.2779-2775. [5] 薄井洋子. 松浦秀平. 佐藤克美. 渡部信一. 神楽の舞踊練習におけるモーションキャプチャのリアルタイム活用の評価. 教育情報学研究. 2014, 13 号, p19-24. [6] 延原章平. 3 次元ビデオによる人体 3 次元計測とその応用. 情報処理学会研究報告. 2013, Vol.2013-CG-153, No.18, p1-8. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 長尾真会長の文化勲章受章について ## デジタルアーカイブ学会事務局 当学会設立以来会長としてご尽力いたたいています長尾真先生が 2018 年 11 月 3 日に文化勲章を受章されました。これをお祝いして、関係の方々からご寄稿いただきした。 なお、先生のご略歴と主著書は次のとおりです。 ## [ご略歴] 1959 年 - 京都大学工学部電子工学科卒業 1973 年 - 京都大学教授に就任 1991 年 - 機械翻訳国際連盟を設立 1994 年 - 言語処理学会を設立 1997 年 - 京都大学総長に就任(2003 年退任)、紫綬褒章を受章 2004 年 - 情報通信研究機構理事長に就任 (2007 年退任) 2007 年 - 国立国会図書館長に就任(2012 年退任) 2008 年 - 文化功労者に選ばれる 2014 年 - 日本学士院会員(第 2 部、第 5 分科)に就任 2016 年 - 京都府公立大学法人理事長に就任(2018 年退任) 2018 年 - 文化勲章受章 [ご著書 (1990年以降の単著に限らせていただきました)]『人工知能と人間』1992.12(岩波新書) 『電子図書館』岩波書店 1994.9 (岩波科学ライブラリー) (2010 年に新装版発行) 『ऍわる」とは何か』2001.2 (岩波新書) 『学術無窮大学の変革期を過ごして 1997-2003』京都大学学術出版会 2004.10 『情報を読む力、学問する心』ミネルヴァ書房 2010.7 (シリーズ「自伝」) 『未来の図書館を作るとは』達人出版会 2012.3 『デジタル時代の知識創造変容する著作権』 KADOKAWA/角川学芸出版 2015.1 (写真は朝日新聞提供) 長尾真会長 天皇陛下から勲章を受ける長尾真会長(2018年11月3日) 文化勲章受章者と文化功労者を招いた茶会で、あいさつする天皇、皇后両陛下と皇太子ご夫妻、秋篠宮ご夫妻と受章者(2018年11月5日)
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# [C11] オープンソースを使用した市町村立図書館における デジタルアーカイブ構築 ## 低コストで主体的なシステム開発の可能性 ○山口学 佐野市立図書館,〒327-0012 栃木県佐野市大蔵町 2977 E-mail: sano-kancho@library.sano.tochigi.jp ## The usage of open source software for building digital archives in city, town and village libraries: \\ A possibility of developing low cost and proactive digital archive systems YAMAGUCHI Gaku Sano City Library, 2977 Okura-cho Sano-shi Tochigi-ken 327-0012 Japan ## 【発表概要】 市町村立図書館では所蔵資料をデジタルアーカイブ化したいという希望が多いが、財政難のため実現できない図書館が多いので、低コストでデジタルアーカイブを構築できるようにするため、 ユネスコが発展途上国の図書館向けに無償で提供しているオープンソースソフトウェア Greenstone の日本語版の開発に着手したが、組み込まれているインデクサーが日本語の形態素分析ができないためメタデータの検索ができないという問題に直面したのでクラウドシステムのオープンソースのソフトウェアである Fess server を Greenstone と組み合わせ Greenstone のメタデータをクローリングさせてメタデータを検索可能にした。今後検索したメタデータにもとづいて Greenstone のデータをユーザーがウエブ上で直接利用できるよう計画中である。図書館員が主体的に低コストで構築できるオープンソースのデジタルアーカイブをめざす。 ## 1. はじめに 北海道図書館振興協議会が指摘した「多くの市町村がデジタル化対象資料を所蔵しながらも、予算や人員確保、デジタル化のスキル、機材等が大きな課題」(1)は、全国の市町村立図書館にもあてはまる。国立国会図書館が 2010 年に実施した調查(2)でも、回答した 2,076 機関のうち、市町村立の公立図書館は 652 機関であり、デジタルアーカイブを実施・運営しておらず計画もない機関は全体の $61.9 \%$ であるが、そのうち市町村立図書館の比率はかなり高いと思われる。ここでもデジタルアーカイブ等を実施・運営していない理由として、予算がない $(79.7 \%)$ 人員がない $(74.2 \%)$ 実際的なノウ八ウがない (59.4\%)となっている。この原因を考えてみると、まず予算についてみれば、自治体の財政難により、図書館予算が削減されているためデジタルアーカイブへの予算獲得は難しく、それを補う国の予算も、文化庁の補助金は図書館に限定されているものではなく、金額も十分とは言えない。総務省の補助金は金額が多いが、東日本大震災記録保存などの防災関係に限定されている。次に人員がないのは、自治体直営館では頻繁な人事異動が行われるため専門的知識をもつた図書館員が定着しないこと、約 2 割の図書館で実施されている指定管理制度では、雇用スタッフは図書館の運営要員が多く、専門知識を持つ人員の確保が困難である。人員の欠如は、そのまま第 3 のノウハウの欠如につながっている。 ## 2. ユネスコのオープンソースソフトの日本語化による開発コストの削減の試み ## 2. 1 Greenstone の特徴 こうした市町村立図書館のデジタルアーカ イブ構築の隘路を打開するために、低コストで開発でき専門スタッフやノウハウがなくても簡単に構築できるデジタルアーカイブソフトが導入できないか模索していたところ、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が発展途上国の図書館向けに無償でデジタルアーカイブソフト Greenstone (http://www.greenstone.org/) を提供してい ることが分かった。Greenstone は以下の特徴を持つ。[3](A)Perl で開発された構築システムと Java で書かれたインターフェース (GLI)を持つが、GNU ライセンスのもとにソースコードが公開されるオープンソースソフトウェアであり、ユネスコから無償で提供され、自館による独自システムの構築やカスタマイズも自由に行える。(B)ニュージーランドのワイカト大学が開発を担当し、サポー トや問い合わせが保障されている。(C)インターフェースを使用することによって、プログラミングやコンピュータの知識がない図書館員でも簡単にデジタルアーカイブを構築できる。(D)図書館での標準的なメタデータであるダブリン・コアを簡単に付与することができ、データの検索も容易である。(E)多言語対応であり、日本語にも対応可能である。インド、南アフリカ、ラテンアメリカの図書館や学術機関で広く利用され欧米でもオクスフオード大学図書館やシカゴ大学図書館など利用されている。 (http://www.greenstone.org/examples) ## 2. 2 Greenstone 日本語版の開発 Greenstone 日本語版を開発すれば、市町村図書館での低コストでのデジタルアーカイブ構築が十分可能であると判断して、ワイカト大学に連絡して、共同作業を行い、画面の日本語表示化およびヘルプ画面の日本語化に成功した。続いて、サンプルデータの投入によるデータベースの開発に着手したが、日本語のメタデータの検索ができないという問題が発生した。原因はメタデータの検索を可能にするためにメタデータを単語に分割するインデクサーに Java の全文検索エンジンである Apache Solr を使用しているためであると分かった。Apache Solr 自体には日本語の形態素解析エンジン kuromoji が組み込まれており、日本語の検索が可能であるが、Greenstoneでは部分的にしか組み込まれていないために、日本語の形態素解析ができない。 (http://wiki.greenstone.org/doku.php?id=en :user_advanced:solr)このため日本語のメタデータを検索画面で検索してもヒットしない。 現在 Greenstone を部分的に使用している立命館大学アート・リサーチセンターの浮世絵閲覧システムでは、日本語メタデータを単語に分割する下処理を行うことで、日本語検索を可能にしている。 (http://www.dl.slis.tsukuba.ac.jp/DLjournal /No_39/3-kimura/3-kimura.pdf) しかしプログラミングの専門スタッフが不在の市町村立図書館でこうした処理を行うのは不可能に近い。この解決策は、もちろん Apache Solr をインデクサーとして、完全に組み込むことで日本語検索を可能にすることである。だがワイカト大学に対しGreenstone の Apache Solr の完全な組み込みを要請しているが、2018 年 1 月現在まだ実現していない。 Greenstone はオープンソースソフトウエアなので日本で自主開発することは可能であるが、開発資金と作業を引き受けてくれる企業・機関・個人が必要である。Greenstone のような外国製ソフトへの公的資金の援助が得られるかは不明確である。もし公的援助が不可能な場合、クラウドファンデイングによる資金調達が考えられるが、十分な資金を集めるためには、Greenstone を改良することによる市町村立図書館のデジタルアーカイブ構築への貢献の周知が必要となる。個人では不可能であり、多くの方の協力が欠かせない。それでは Greenstone に Apache Solr の完全組み込みをすることなしに、日本語検索を可能にする道はあるだろうか。 近年クラウドコンピューティングによるパッケージソフトの利用が急速に発展している。 クラウドシステムでは、ハードウェアにすべてのデータやソフトを導入する必要はなく、 インターネット経由でアプリケーションを利用することができる。Greenstone のメタデー タ検索の機能だけを、クラウドシステムによるソフトウェアの利用でできないかと考えて、 オープンソースの全文検索サーバーFess (http://fess.codelibs.org/ja/)を利用してみた。 Fess は Apache ライセンスで提供されるオ ープンソースソフトであり、無償で利用が可能である。Java で書かれており、特徴として、 Web を自動的に巡回して、Web 上にあるデー タベースの文書や画像などのデータを収集するクローラーとしての機能がある。 まず、いくつかの図書のサンプルデータをフラットベットスキャナーを使用してデジタル化し、PDFファイルを作成した。次にパソコンにインストールした Greenstone を起動 して作成した PDFファイルを取り込み、 Greenstone のデータベースを作成し、個々のファイルに日本語のメタデータを付与した。 Greenstone では、付与されたメタデータはグリーンストーンのディレクトリ内に保存される。次にやはりパソコンにインストールした Fess サーバーを起動し、クロールする対象に Greenstone のメタデータのサブデイレクトリを設定し、クローリングを実行し、その後検索画面で、先に付与したメタデータの単語をキーワードとして検索してみた。結果は、 PDF データのサブデイレクトリの URI とメタデータが個別に表示された。Fess は検索エンジンに Apache Lucene ベースの Elasticsearch を使用しており Greenstone のメタデータの日本語検索が可能であることが立証された。 ## 3. クラウド化によるデジタルアーカイブ構築の可能性 Fess の検索でヒットしたメタデータに対応する Greenstone のデジタルデータを We b 上に表示させるシステムが開発できれば、ユー ザーは Fess を検索した後 Web 上で直接各デ ータベースのデータにアクセスできる。また Fess を Greenstone と別々に起動させるのではなく Greenstone の画面上に表示するように Fessを組み込むことができれば、ユーザ一は Fess と Greenstoneを一体化して使用できる。さらに構築されたメタデータを Fess 上にクローリングして保存することが可能になれば、各図書館はローカルな Greenstone を使用したプラットフォームにデータのみを保存し、Fess を使用して Web 上で各館のデ ータベースを統合した検索画面を構築してクラウドの検索システムを構築できる。個々に専門知識を持つスタッフが不在の市町村図書館にとっては、Greenstone によるデジタルア一カイブシステムが構築されたとしてもメタデータの付与は大きな負担であり、メタデー タを管理する機関を設立して、Fessを利用してメタデータの構築を統一的に実施することができれば、個々の図書館はデータを定期的に Greenstone のシステムに入力するだけでよくなる。Fess のほかにこのようなシステムの構築を可能にするオープンソースソフトとして、アメリカのヴイラノヴァ大学が開発し ている図書館向けポータル Vufind がある。Vufind では OAI-PMH プロトコルを使用して、 Greenstone のデータベースのデータをハーベストすることが可能である。 もちろん日本語検索の問題が解決されたとしてもただちに市町村立図書館で Greenstone が利用できることにはならない。インドでは、初心者用など様々なユーザーマニュアルの整備と無償配布[4]、各地のユーザーグループの結成と情報共有、学術研究と事例発表が行われており、こうした条件が整備されればソフトウェアが有効に利用できることになる。また資料のデジタル化を行う費用も、外注するだけの予算が獲得できない市町村立図書館のデジタルアーカイブ構築の大きな負担となっており、図書館スタッフが自ら撮影できるような機材の整備と撮影技術の普及のための講習が欠かせない。また地方創生が叫ばれている中、各地域でのオープンソースを使用したデジタルアーカイブを構築するベンチャー企業の育成も考えられてよいと思われる。 ## 4. 郷土資料のオープンソースソフトによる デジタル化 市町村立図書館では、郷土資料に古文書などのアーカイブズ資料を所蔵している館が多い。アーカイブズ資料は、図書資料と異なったメタデータ付与が必要である。国際文書館評議会(ICA)が無償供与している ICA-A to M は、アーカイブズのメタデータの国際標準である $\operatorname{ISAD}(\mathrm{G})$ をサポートしており、デジタルデー タを使用してデジタルアーカイブを構築することができる。学習院大学では、ICA- A to M 日本語版を開発している。 ## 5. おわりに 従来デジタルアーカイブの構築は外部受注にまかされ図書館員が主体となることが少なく、また予算配分の重点がハードウエアの導入におかれたため、ソフトウエアの性能やシステムの使い勝手が軽視されてきた。その結果、ハードウエアの使用の終了後図書館の意向にかかわらずデジタルアーカイブが消滅してしまう事態が生じている。オープンソースソフトウェアの導入によるデジタルアーカイ ブの構築は、もちろん開発コストの軽減が主眼であるが、それにとどまらず並行した原資料の保存、公開すべき資料の選定、公開システムの仕様などに、図書館員が主体となって提言や関与を行うことで長期にわたる使用を可能にするものと言える。そのためにも、オ ープンソースソフトとデジタルアーカイブについて必要な知識を持った専門家の養成や資格制度の確立と、デジタルアーカイブの構築全般に専門家が関与するシステムの確立が求められる。またメタデータの統一や、開発の情報を共有する機関やグループの結成が必要である。図書館員に対しても、デジタルアー カイブソフトウエアの学習や撮影技術の講習に参加できるような財源の補助が必要である。 ## 参考文献 [1] 北海道図書館振興協議会調查研究チーム. ゼロからはじめるデジタル化一小規模図書館でもできる調查研究チーム報告書. 2015/3/24 https://www.library.pref.hokkaido.jp/web/rel ation/hts/qulnh00000000ew3att/vmlvna000 0000lza.pdf (閲覧 2018/1/1). [2] 国立国会図書館. 文化・学術機関におけるデジタルアーカイブ等の運営に関する調查研究. 2010 (http://current.ndl.go.jp/FY200 9_research)(閲覧 2018/1/1). [3] 北村啓子. オープンソースソフトウェア Greenstone による古いマニュスクリプトコレクションの開発 - Jawi 語(マレーシア国立図書館)と日本語のケーススタディ -2005 . http://www.dl.slis.tsukuba.ac.jp/DLjournal /No_28/3-keiko/3-keiko.html (閲覧 2018/1/ 1). [4] Rajasekharan, K. Nafala, K. M. Building up a Digital Library with Greenstone: a Self-Instructional Guide for Beginner's.2007. http://eprints.rclis.org/9139/ (閲覧 2018/1/1). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B32] Cyberforest:原生自然の環境感性情報の配信とア 一カイブの利用 ○下徳大祐 1 ), 藤原章雄 ${ }^{2}$, , 小林博樹 ${ }^{3)}$, 中村和彦 ${ }^{3}$ ,斎藤馨 1) 1) 東京大学新領域創成科学研究科, 〒277-8653 千葉県柏市柏の葉 5-1-5 2) 東京大学農学生命科学研究科, 3) 東京大学空間情報研究センター3) E-mail: shimotoku@nenv.k.u-tokyo.ac.jp ## Cyberforest: Utilization of live-streaming and archive from deep forest SHIMOTOKU Daisuké1), FUJIWARA Akio ${ }^{2}$, KOBAYASHI Hill Hiroki²), NAKAMURA Kazuhiko ${ }^{2}$, SAITO Kaoru ${ }^{1)}$ 1) Graduate Schools of Frontier Sciences, University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba, 277-8653, Japan ${ }^{2)}$ Graduate School of Agricultural and Life Sciences, University of Tokyo 3) Center of Spatial Information Science, University of Tokyo ## 【発表概要】 著者らは電源設備やネットワーク設備のない森林内(福島第一原発事故に伴う帰還困難地域な ど)において,環境音や景観画像を収録しアーカイブし続けており、これらを利用して毎年春期に森林性鳥類の聞き取り調查の研究活動が実施されている。しかしこれらの音源は、再生帯域などの問題で現地で環境音を聞くよりも非可聴音の情報が欠落して聞こえるという問題がある。また、聞き取り調査は人的資源の問題から聞き取りを行える頻度が少ないという問題がある。自動解析が求められている。そのため著者らは触覚トランスデューサを用いて欠落した低周波域音声を復元する装置を制作した。機械学習の教師データを非熟練の作業者を利用することで作成し、機械学習を行うことでこれらの問題を解決しようとした。制作した装置では対象の音を同定でき、自然音をリアルに感じられることが判った。機械学習によって福島県双葉郡浪江町でのウグイスの生息数の年変動を求めた。 ## 1. はじめに 著者らは, 1995 年より電源設備やネットワ一ク設備のない森林内において、環境音や景観画像(環境感性情報)を記録し続けている。プロジェクト初期の段階では DV カメラを用いて音と画像を同時に記録していたが,ここ 20 年の情報通信技術の発展に従い、これらを独立に記録し、インターネットを通じてほぼライブタイムにそれらの情報を一般公衆に配信できるようになった。2018 年現在でライブ配信している観測サイトは東日本を中心に 8 サイトであり(図 1)、デジタル化が完了している環境感性情報は,およそ $60 \mathrm{~TB}$ になる[1]。著者らはこれらの環境感性情報のライブ配信およびアーカイブの活用に関心を持っている。画像に関しては、景観の変化を捉えられることから生物季節の観察を通した環境教育や、アーカイブを利用した気候変動のモニタリングをおこなっている。また環境音については画像に比べて少ないデータ容量ながら、全周に情報把握で きる特性があることから、鳥類の専門家と共同で人手を介した鳥類の鳴き声聞き取りによる生息調查や, 計算機を利用した生物多様性の変動評価をおこなっている。 このような無人遠隔観測を行うことは, 有人観測を行うことよりも、原生林や高放射線地域などの人間がアクセスしづらい地域でも連続的に長期観測できることや、人間によって外乱を与え動物を逃がさないこと、多人数で観察出来ることなどの利点がある。 しかしながら,これらのアーカイブには次のような問題点がある。 第一に通信帯域や記録容量、マイクロフォンの性能の問題などから、アーカイブに記録された環境感性情報からは現地において観察・聴取できる生物の気配情報や方向情報が失われる。 たとえば、ヤマドリ (Synaticus soemmerringii) の縄張りを示す行動として知られる「母衣うち」の音やキジバト (Streptopelia orientalis)、ツツドリ (Cuculus optatus)の声のようなほぼ可聴域下限の低音は、聴取者の年齢や経験あるいは機器のセッテイングに依存して聞き取りの可否が決まるため、鳥類の聞き取り調査の対象からは除外されてきた[2]。 第二に、収集したアーカイブを簡便に検索・閲覧する方法がなく、またアーカイブから鳴き声の頻度といった生態学的な特徵量で鳥の存在を直接的に示す值をリトリーバルできないことである。著者らはこうした点を問題とし、解決するためにバイブロタクタイルトランスデューサを用いて振動触覚を用いたデバイスを開発し、また機械学習を用いたリトリーバル手法を検討した。 ## 2. 振動触覚によるデバイスの開発 ## 2.1 鳥類聞き取り調査 著者らは NPO バードリサーチなどの鳥類専門家と共同で、鳥の繁殖期に当たる毎春 4 月 1 日 - 6 月 30 日の期間、早朝日の出前 10 分から日の出後 60 分間、毎日収録した環境音の同定を行っている。 そのなかでマイクで録音されてはいるものの個人差によって聞き取れたり聞き取れなかったりする音が報告されており、スペクトグラムなどを用いて同定すると $50-100 \mathrm{~Hz}$ にヤマドリの母衣うちの音が同定された。人間の可聴範囲( $500 \mathrm{~Hz}-20 \mathrm{kHz}$ )のほぼ下限である 図 1 : 観測サイト一覧。 ため、個人差があらわれたと考えられる。 このような低音を確実に聞き分けるためには、聴覚よりもより低い周波数帯に感度を持つ触覚 $(<1000 \mathrm{~Hz})$ を利用することが有効と著者らは考えた。 ## 2. 2 デバイスの試作実験 振動触覚を利用するために、バイブロタクタイルトランスデューサ[3]を利用し、アンプを介して音源に接続した(図 2)。被験者にバイブロタクタイルトランスデューサを直に握らせて、ヤマドリの母衣うちや雨がマイクに当たる音、マイクに風が吹き込む音といった低周波を含む音源を再生し、感想を聞いた。 その結果、おおむね被験者は母衣うちが判別できた。さらに雨がマイクに当たる音がリアルに感じられたという感想があった。しかし風や雨の音はただ振動子が触れるだけで自然との一体感は感じられないようであった。 ## 3. 機械学習によるリトリーバル ## 3.1 背景 長期間アーカイブした環境感性情報を用いて教育活動や研究活動が行われている[1]。しかしアーカイブを全て人が聴取し分類することは不可能であるから、機械処理することが必要である。 機械処理の方法としては 2 種類提案されている。Sueur ら[4] は環境音の周波数成分からエントロピーやピークの数などを計算するこ 図 2 : デバイス概略 とにより、生態学的特徴量を定義した。この方法は計算量が少なくて済むという利点がある一方、計算した環境音の中にどういう種が存在するのかはわからないという問題がある。著者らはこういった点を踏まえ、機械学習により直接的に種を同定することを試みた。 機械学習による処理を行うには、教師データが必要である。いままで教師データの作成は専門家に依頼しており、費用と時間がかかっていた。著者らは、教師データの作成を一般参加型とすることでこの問題を解決した。 ## 3.2 データと解析方法 本研究では 2011 年東日本大震災に伴う福島第一原発事故によって帰還困難地域に指定された福島県双葉郡浪江町内に設置した観測至イト (\#soundx、図 1) で 2016 年 6 月-- 2017 年 5 月に記録された収集された環境音を用いた。 毎月 1 日の日の出前後 30 分と日の入り前後 30 分を抽出した。聞き取りの集中力を考えてそれらをさらに 2 分割し、各月毎に 15 分の環境音ファイルを 4 つ作成した。学部生 21 名にこれらのファイルをランダムに割り当てた。聞き取りのヒューマンエラーを考慮して、同じファイルを最低 3 回異なった学生に聴取させた。 Ishida ら[5]が高放射線環境下のウグイスの鳴き声について調查していることから、本研究でもウグイスについて調查することとし、学生らに「ウグイス」の囀りと地鳴きが聞こえた時間を質問紙に記載するように教示した。 ## 3.3 結果 学生らによって集められた教師データをもとに、Convolutional Neural Network を用いて機械学習をおこないウグイスの鳴き声 (囀り十地鳴き)を検出した(図 5)。 ウグイスが朝晚に多く鳴いている点から、図 4 は直感的に正しいように考えられる。結果の $1 \%$ を専門家によって評価したところ、精度 Area Under Curve (AUC) は $62 \%$ だった[7]。これは高い值ではない。しかし教師データが非専門家由来である点や、 フィールド録音であり理想条件ではない以上やむを得ないものと考える ## 4. 議論 浪江サイトは 2016 年 6 月より 24 時間連続 図 3 : 浪江サイト全景[7] 図 4 : 浪江町小丸での空間放射線量推移横軸は年。縦軸は毎時の放射線量。福島県による[6] 運用されている。サイトから $200 \mathrm{~m}$ の距離で福島県によって運用されているモニタリングポスト[6]での放射線量は他の地域の 500 -1000 倍程度高い (図 4)。このような環境下で電子機器を使用するとバッテリーの寿命が短くなったり、ハードディスクが突然故障したり予期せぬ問題が起こる。また風雨にうたれ端子が劣化・腐食したり、強風によって観測小屋が移動する問題もある。 こういった問題は、情報技術を野外で用いるに当たっては留意すべき問題であり、このような過酷な環境からデータを取得する技術は、生態系分野のみでなく火山観測といった遠隔観測 (リモートセンシング) 分野でも必要とされている。本研究は災害復旧という観点で重要であるのみならず、遠隔地における災害の発見や個体群動態の推定の方法の模索、すなわち情報技術を用いた自然管理という意味で重要であ る。 このように環境感性情報を収録する技術は、研究室で情報機器を扱うこととは違う注意が必要であり、新技術とは言えないまでも特殊な注意を必要とする。たとえばドイツ・アルフレツドワグナー研究所による国家的なプロジェクトで南極の音を収録・配信しても長期間は続かず[8]、20 年余りにわたる長期間野外で環境感性情報を収集しデータベース化し続けてきたのは、世界的に見ても著者らのみである。さらにこれら技術的な側面のみならず、制度的な側面では、環境感性情報の利用促進の意味を込めて著者らは CC BY-NC のライセンスでア一カイブを公開している。アーカイブの専門家と連携して環境感性情報データベースの整備を今後試みたい。 ## 5. おわりに デバイスの制作では、バイブロタクタイルトランスデューサを用いることで、非可聴域音を再生し、確実にヤマドリの母衣うちが識別できるようになった。さらにアーカイブの再生においてリアリティーを持った再現ができる事が示唆された。 機械学習を用いた一般参加型の環境音のリトリーバルを試みた。非専門家由来の教師デー 夕を用いても、朝夕に多くウグイスが鳴くという特徴は再現された。しかし $\mathrm{AUC}=62 \%$ と高くはない。このようなイベントの検出、公開までを含んだ遠隔観測技術は、生態系分野だけでなく火山観測など地学分野でも必要であり、 アーキビストとの連携が望まれる。 ## 謝辞 本研究は JSPS 科研費 (JP26282203, 16K12666, 16K12570, 17H05969), JST 「さきがけ社会と調和した情報基盤技術の構築」領域 (11012) - 総務省 (SCOPE) 若手 ICT 研究者等育成型研究開発 (162103107) - 守谷育英会の支援を受けた。また慶応大学大学院南澤孝太准教授には修士研究の実験に当たり格別の便宜を図って頂きました。記してお礼申し上げます。 ## 参考文献 [1] Saito, K., Nakamura, K., Ueta, M., Kurosawa, R., Fujiwara, A., Kobayashi, H. H., ... Nagahama, K. (2015): Utilizing the Cyberforest live sound system with social media to remotely conduct woodland bird censuses in Central Japan. Ambio, 44(Suppl. 4), 572-583. [2] 植田睦之, 黒沢令子, 斎藤馨. (2012): 森林音のライブ配信から聞き取った森林性鳥類のさえずり頻度のデータ. Bird Research, 8 , R1-R4. [3] Minamizawa, K., Kakehi, Y., Nakatani, M., Mihara, S., \& Tachi, S. (2012): TECHTILE toolkit. In Proceedings of the 2012 Virtual Reality International Conference on - VRIC '12 (p. 1). New York, New York, USA: ACM Press. [4] Sueur, J., \& Farina, A. (2015): Ecoacoustics: the Ecological Investigation and Interpretation of Environmental Sound. Biosemiotics, 8(3), 493502 . [5] Ishida, K., Tanoi, K., \& Nakanishi, T. M. (2015): Monitoring free-living Japanese Bush Warblers (Cettia diphone) in a most highly radiocontaminated area of Fukushima Prefecture, Japan. Journal of Radiation Research, 56, i24-i28. [6]福島県放射能測定マップ (http://fukushimaradioactivity.jp/pc/) 2017/1/5 取得 [7] Hill Hiroki Kobayashi, Hiromi Kudo, Hervé Glotin, Vincent Roger, Marion Poupard, Daisuké Shimotoku, ... ,(in press) A Real-Time Streaming and Identification System for Bio-acoustic Ecological Studies after the Fukushima Accident, Multimedia Technologies for Environmental \& Biodiversity Informatics, Multimedia Tools and Applications, Springer [8] Kindermann, Lars (2013): Acoustic records of the underwater soundscape at PALAOA with links to audio stream files, 2005-2011. Alfred Wegener Institute, Helmholtz Center for Polar and Marine Research, Bremerhaven, PANGAEA この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/ 4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B31] 非接触式イメージスキャナ「オルソスキャナ」の開発: オルソ画像の寸法精度がもたらす分割撮影画像の自動画像合成 ○一ノ瀬修一1), 浦野あずみ 1 ) , 佐藤武彦 2) 1) アイメジャー株式会社, $\bar{\top} 390-0876$ 長野県松本市開智 2-3-33 2) 株式会社シン技術コンサル E-mail: info@imeasure.jp ## Development of Ortho-Scanner as non-contact image scanner: The dimensional accuracy of orthogonal image enables automatic multi-image stitching. ICHINOSE shuichi1), URANO azumi ${ }^{11}$, SATO Takehiko ${ }^{2}$ 1) IMEASURE INC., 2-3-33 Kaichi Matsumoto Nagano, 390-0876 Japan 2) SHIN ENGINEERING CONSULTANT CO., LTD. ## 【発表概要】 従来、原資料の非接触撮影には、カメラ撮影方式が用いられている。原資料が数メートルにも及ぶ巨大な古地図等を光学解像度 $400 \mathrm{dpi}$ で撮影する場合は、複数回に分けて分割撮影し、画像処理ソフトを用いて接合して再統合する手法が用いられる。しかしながら、画像接合時に一定の寸法歪みを回避できない問題があった。 我々はテレセントリックレンズを採用した非接触式のイメージスキャナ「オルソスキャナ」を開発した。温度依存性を評価した結果、 1 メートル長に付き、 0.1 ミリメートル未満の寸法精度を達成する能力があることが判った。その結果、1 万対 1 という高い寸法精度でデジタルアーカイブが可能となるだけでなく、分割撮影画像の接合作業が全自動で行えるようになり、大幅な撮影作業時間の短縮が期待される。 ## 1. はじめに 古地図などをデジタルアーカイブする際に使用する画像入力装置(デジタルカメラやイメージスキャナ)に対する主な要求仕様は (1)光学解像度、(2)階調性、(3)色再現性、(4)寸法精度の 4 点が挙げられ る。光学解像度は原資料に対して 300 400dpi、階調性は 24 ビットフルカラー、色再現性は ICC プロファイルを適用し、原資料との色差を一定値以下に抑えることが推奨されている[1]。しかしながら、寸法精度に関しては、原資料と同時に巻尺を写し込む事が規定されている以外、仕様書サンプルの事例としてスキャン時の光学解像度の誤差が例示される程度である。資料をデジタル化する目的の1つは「原資料の代わりにデジタル化した資料を提供することにより、原資料をより良い状態のまま保存すること」であるから、原資料に再度アクセスする必要の無い程度の寸法精度が期待される。一回の撮影やスキャニングで納まる寸法の原資料であれば、得られるデジタルアーカイブ画像の寸法精度は、使用するイメージスキヤナの精度で決まる。また、デジタルカメラで撮影する際には、巻尺を原資料と一緒に写し込むことで校正し、一定の寸法精度を保証することが可能となる。しかし、大きな寸法の古地図などの場合は、規定の光学解像度を確保しようとすると分割撮影を避けられない。そのため、複数枚の画像を画像編集ソフ卜にて再度接合作業を行うことになる。そのため、再統合された最終画像の寸法精度についての規定が必要と思われるがそれらの規定は特に見あたらなかった。 本論文では、既存の撮影技術の課題を整理し、オルソ(正射投影)画像によるスキャニング方法を提案する。また、開発したオルソスキャナの寸法精度の評価結果を報告する。 ## 2. 中心投影と正射投影画像の比較 ## 2. 1 中心投影画像の課題-1:距離変動 カメラで撮影される画像は、中心投影画像と呼ばれる。原資料とカメラの距離に応じ て、撮像される画像の寸法精度は影響を受ける。Figure-1に説明断面図を示す。例えば、原資料とレンズとの距離 L が 1 メートルとした場合、原資料(ターゲット)との距離 $\Delta \mathrm{h}$ が 1 ミリメートル変動すると、千分の 1 の寸法誤差が生じる。もし、 2 メートル× 2 メー トルの古地図を、 1 メートル四方で 4 回に分けて分割撮影するケースを考えると、千分の 1 の誤差は、古地図上で 1 ミリメートルのズレを意味する。古地図に描かれた線画の線幅が、 1 ミリメートル未満であれば、正確な地図の撮影と再接合の作業は困難を極める。 Figure-1:中心投影画像の撮影距離変動の影響 ## 2. 2 中心投影画像の課題-2: 光軸傾き 次に、原資料がデジタルカメラのレンズに対して傾いて設置されている場合、もしくはレンズの光軸が、原資料に対して垂直に設置されていないケースを考察する。Figure2 に説明断面図を示す。先ほどと同様に原資料とレンズとの距離 L が 1 メートルとして、光軸の傾きの影響で、片方だけが 1 ミリメートルレンズに近づいた場合を考察する。先ほどと同様に、千分の 1 だけ寸法誤差が生じる。大きな古地図を左右にずらして分割撮影を行うケースを想定すると、分 Figure-2: 中心投影画像の光軸傾きの影響割撮影された画像の接合部分で、千分の 1 の誤差が生じることになる。具体的には、地図上にて 1 ミリメートルの誤差となるから、先ほどと同様に地図の再接合は困難を極める。 ## 2. 3 イメージスキャナ方式の課題 イメージスキャナ方式では、プラテンガラス面に原資料が密着して設置される限りにおいて、寸法精度と光軸の直交性の精度が保証され、上述のカメラでの撮影操作上に生じる課題は発生しない $[2]$ 。しかし、原資料がプラテンガラスから浮いた場合や、非接触式のイメージスキャナの場合では、ラインセンサの配列方向(主走査方向)は、カメラ方式と同様に中心投影画像であり、寸法誤差が生じる。一方、ラインセンサの配列とは直角な方向(副走査方向)は機械的な走査であるため、後に述べる正射投影画像となり、原資料の浮きが原因の寸法誤差は生じない。そのため画像の縦横で、寸法精度の不整合が生じ真円が棈円になるといった不具合が生じる。 ## 2. 4 オルソ画像によるスキャニング 以上の課題を解決した撮像方式が、オルソ画像の撮影系である[3]。Figure-3 は、中心投影画像を得る通常光学系と、オルソ(正射投影)画像を得るテレセントリック光学系の結像断面図である。 通常光学系 テレセントリック Figure-3: 中心投影画像を得る通常光学系と才ルソ画像を得るテレセントリック光学系 被写体からの反射光はレンズを経てセンサに結像される。通常光学系 (中心投影画像) では、レンズを通過した光線は全てセンサに到達する。一方、テレセントリック光学系 (オルソ画像)は、被写体(ターゲット)側のレンズとセンサ側のレンズの間に、被写体側レンズの焦点距離の位置に絞り環が配置されていることが特徴である。被写体から放たれる反射光線の内、光軸に並行な(すなわち被写体に鉛直な)光線のみが絞り環を通過した後センサに辿り着き結像に寄与する。その結果、Figure-4 に示す通り、原資料とレンズとの距離が変動した場合であっても、寸法誤差は生じない。 Figure-4:オルソ画像の撮影距離変動の影響 また、被写体(ターゲット)の傾き、もしくは光軸の傾きによる倍率変動は、余弦を含む式(1- $\cos \theta)$ で求めることができる。例えば、Wを 1 メートル、 $\Delta \mathrm{h}$ を 1 ミリメートルとした時の倍率変動は $0.5 \times 10^{\wedge}(-6)$ であり、原資料と光軸の間に傾きが生じた場合であつても、十分に無視できる程度の量であることが判った。Figure-5 参照。 Figure-5:オルソ画像の光軸傾きの影響 ## 3.オルソスキャナの評価 ## 3. 1 設計図面専用フィルムによる計測 設計図面の出力用紙として使用される低線膨張係数の専用フィルムを用いて、オルソスキャナの寸法精度の評価を行った。寸法精度を確保するためには、(1)絶対寸法精度、 (2)繰り返し寸法精度、(3)温度依存性の 3 つの評価が必要である。今回の実験では、スキャニングの環境温度を要因として8 水準の環境温度における寸法精度を求めた。設計図面専用フィルム十オルソスキャナシステムにおける寸法精度の繰り返し寸法精度と温度依存性を求めた。 ## 3. 2 実験方法 有効取り込み範囲、 $600 \times 1000$ ミリメートルのオルソスキャナに、 550 x 950 ミリメー トルの格子グリッドを描いた設計図面専用フイルムを設置し、スキャンニングを行う。スキャニング環境温度は、19.5、19.6、21.6、 $23.7 、 24.0 、 25.1 、 25.5 、 27.2^{\circ} \mathrm{C}$ の 8 水準で行った。グリッドの線幅は、 0.2 ミリメートルである。スキャニング光学解像度は、 $800 \mathrm{dpi} 、 256$ 階調のグレースケール画像より線画の濃度重心を求めることで、 0.2 ピクセル(約 3 マイクロメートル)の繰り返し測定精度で、グリッドの中心を求める専用の画像処理ソフトウェアを開発し計測した。 ## 3. 3 実験結果 $550 \times 950$ ミリメートルの格子グリッドの上辺、下辺、左辺、右辺をそれぞれ、 $\mathrm{XT}(\mathrm{X}$軸 Top)、XB(X 軸 Bottom)、YL(Y 軸 Left)、YR(Y 軸 Right)と呼ぶ。寸法精度は、次の式で求めた。 寸法精度 $=$ 1 ピクセルあたりの寸法 $[\mathrm{mm}] /$ 設計寸法 [mm] Figure-6 は、計測結果をグラフにしてプロットしたものである。また、Table-1 は、得られた直線回帰式の係数である。 ## 3. 4 結論 グラフより、寸法精度の繰り返し再現精度は、 1 万分の 1 程度に収まっていることが判った。また、スキャニング環境温度を土 $1{ }^{\circ} \mathrm{C}$ に管理する、もしくは、スキャニング時の環境温度を計測して温度補正を実施することで、 1 万分の 1 の寸法精度を実現可能であることが推察された。 Table-1:温度依存性直線回帰式の係数 Figure-6:オルソスキャナ寸法精度の温度依存性 ## 4. おわりに 本論文では、原資料をスキャニングする装置の要求仕様として、寸法精度の重要性を提唱した。特に大きな寸法の古地図などを分割撮影する際に、一定の精度を確保するため に、重要であると思われる。また、オルソ画像を撮影可能な非接触式イメージスキャナ 「オルソスキャナ」を開発し、その寸法精度の環境温度依存性を実験により求めた。その結果、 1 万対 1 という高い寸法精度でデジタルアーカイブが可能となるだけでなく、分割撮影画像の接合作業が全自動で行えるようになり、撮影作業時間や撮影後の画像編集時間の大幅な短縮が期待できることが判った。 ## 参考文献 [1] 国立国会図書館. 資料デジタル化の手引 2017 年度版. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/digitalguide. html (accessed 2018-01-05). [2] 松下ら. カラーイメージスキャナ設計技術,トリケップス, 1991, 184p. [3] 一ノ瀬修一. 正射投影イメージスキャナ OrthoScan-1000の開発アーカイブに適した撮像装置の提案. 画像ラボ. 2005 , vol. 15 , no. 12 , p.18-24. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B24] 日本語デジタルテキストの「正書法」を探求した青空 文庫: 日本語(による/のための)マークアップの誕生とルールの発展$\cdot$活用、テキ ストの品質管理 ○大久保ゆう 1), 2) 1)青空文庫, 2),本の未来基金 http://www.aozora.gr.jp/ E-mail: info@aozora.gr.jp ## A Quest for an Orthography of the Japanese Language in Digital Texts: \\ The Rise, Development and Management of a Markup Language (for / by) Japanese in Aozora Bunko. \\ OKUBO Yu1) \\ 1)Open Air Library (Aozora Bunko), 1)Fund For Book’s Future (Hon No Mirai Kikin) ## 【発表概要】 1997 年 7 月に創設された「青空文庫」は、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、図書館のようにインターネット上に集めようと考えて、20 年のあいだ民間ボランティアによる活動を続けてきた。また初期から電子化の軸となるファイルに「テキストファイル」を選び、書籍から電子化する際のルールを厳格に定めるとともに、ファイル共有の実現のために必要かつ妥当な女り方を作業するなかで探求し続けてきた。その活動のなかで確立された電子化ルールは、通称 「青空文庫形式」とも呼ばれているが、現在は作業マニュアルおよび「注記一覧」としてまとめられた上で一般公開され、青空文庫内外で活用されている。本発表では、青空文庫で用いられているテキストファイル化のルールについて、その誕生から発展・活用に至った経緯、そしてその品質管理を論じるものである。 20 年の電子化活動から生まれた、日本語(による/のための) マークアップの可能性を再考したい。 ## 1. はじめに 青空文庫は、インターネットさえあれば誰にでもアクセスできる「青空」をひとつの理想として、公開書架に自由な電子本を集める活動である。この青空の書架 (Open Air Shelf)には、読書・活用の自由な本がデジタルテキストというかたちで、大勢のボランテイアの自発的な作業によって収められている。創設された 1997 年以来、 20 年にわたって民間によるボランティア活動を続けてきたが、収録されたデジタルテキストの形式には、明確なルールが存在する。書籍から電子化するにあたって、底本に見られる日本語組版要素を定められたルールの通りに注記しつつ作業するわけである。この形式は、通称「青空文庫形式」とも言われ、青空文庫のウェブサイ トで作業マニュアルとともに「注記一覧」として集約・公開されている。現在では、この青空文庫注記に由来する簡易マークアップが、 さまざまなアプリケーションやウェブサイトで用いられているほか、プロアマ問わず現役の作家たちにも、日本語デジタルテキストの注記として利用されている。 青空文庫は、初期から「テキスト(txt)フアイル」を書籍の電子化作業の基盤に選び、 その作業のルールを厳格に定めてゆくとともに、日本語デジタルテキストの幅広い共有を実現するために、必要かつ妥当なあり方を探求し続けてきた。 本発表では、青空文庫で用いられている電子テキスト化のルールについて、その誕生から発展・活用に至った経緯に触れつつ、その 品質管理や各種課題を論じながら、20 年のデジタルアーカイブ活動から生まれた日本語 (による/のための)マークアップの可能性を再考したい。 ## 2. マークアップの誕生と発展 ## 2. 1 原文入カル一ルの採用と公開 開設当初の青空文庫に、はじめからマニュアルがあったわけではなく、ボランティアを希望する人々が多くいたため、その求めに応じて 1997 年 12 月 4 日、まずはマニュアルの草稿を公開している。ただし、初期形は現在のものとは少し異なっている。レイアウトを重視せず、文字入力だけをテキストフォーマットで行うとして、ルビや傍点などの注記を以下のように扱っていた。 ## 【ルビ】 > 闇《やみ》の中を跳梁《ちょうりょう》するリル > 表情?豊《ゆた》かな 【傍点注記】 > 天界の牧羊者 [*「天界の牧羊者」のすべての文字に傍点] ## 【外字注記】 [\#<narrow>うしへん」に建、16-2]陀多《かんだた》 > 森鴎 [\#「メ」の代わりに「品」、1157] 外 (なお数字は、ページ数-行数) この初期ルールは、青空文庫以前から書籍の電子化して大活字本や点字本 - 録音図書の制作を行っていた視覚障碍者読書支援協会 (BBA)の「原文入力ルール」に基づくものだ。入力可能な文字については、「コンピュー 夕に登録されている漢字」という曖昧な範疇で、上記注記の「鷗」や、以下に挙げる 「高」が外字で説明されているように、JIS X 0208 の包摂規準が厳密に採用されているわけではなかった。 > 高 [\#「口」の代わりに「目」、115-7]島屋 こうした運用は、これら注記が本来の “marking up”に近いかたちで用いられたことにもよるだろう。当初の青空文庫では、入力テキストをもとに、閲覧用の電子書籍ファイルも仕立てて同時に公開しており、この注記はその電子書籍を作る際の組版指示に使われていた。外字についても、電子書籍側で用意できるため、作成者にさえわかればそれでよいわけである。 ## 2.2 エ作員マニュアルの整備 ところが、作業メモとして残されたこれら外字に対する注記が、むしろ JIS 策定側から注目されることになる。1998 年 5 月、青空文庫は、JIS 文字コード原案作成委員会から収録漢字選定のための資料提供の打診を受け取つている。この作業のために、青空文庫はトヨタ財団の助成を受けて 1 年にわたり、「文学作品に現れる JIS X 0208 にない文字」を調べるわけになるのだが、む万ん JIS X 0208 の規格を守らなければ、精度の高い調査はできない。ここで、ひとつの問題が生じる。 それまでの編集者の「秩序意識」に従えば、 JIS 例示字体の一部は、あくまで「俗字」であり、JIS 漢字コードの包摂規準の受け入れはしがたいものであった。当時あった大手出版社による電子書籍も、また青空文庫の当初のルールも、おおむねこの考えに沿って作られていた。しかし、デジタルテキストの第一義を「交換」にあるとするなら、依拠する漢字コードの包摂規準を受け入れるしかない。 1998 年 12 月の「青空工作員マニュアル」 の改訂では、こうした JIS X 0208 の運用と包摂規準の採用が明確化されている。同時に注記も整理されて、以下のようになっている。 ## 【ルビ】 > 耳まで火照《ほて》って来る $>$ 一応 $\mid$ 何時《いつ》もの 【傍点注記】 > 胡麻塩おやじ $[$ #「おやじ」に傍点 $]$ 【外字注記】 〉喉を搔き※[#「※」は「てへん十劣」、読みは「むし」、30-16]って > 1 [#「1」は底本では $\bigcirc$ 付き数字 $]$ インターネット また JIS の空き領域に埋め込まれた互換性のない外字についても、「交換」を前提にして用いないことになっている。外字一般については、そこに文字があることを示すため、代替記号として※を置くことにした。入力者注記号の扱いにも変更が加わり、半角のアスタリスクやシャープから全角の井桁記号#に統一され、ルビの開始位置についても半角疑問符から(文学作品では使われる頻度の低い)全角バーティカルバー|を使うことになった。 そして 1999 年 2 月末には、青空文庫で調查した資料 (「文学作品に現れた第 3 第 4 水準原案にない文字」等)も提出し、2000 年には新 JIS 漢字コード(JIS X 0213)が制定された。調查に協力した青空文庫の関係者も利用者も、新しい JIS を歓迎し、実際のファイル交換に用いていくことを期待していた。ところが、未来はその方向へは進まなかった。 ## 2. 3 JIS X 0208 でいかに電子化するか 青空文庫では、Shift_JIS で符号化されたテキストを扱っており、同年から始められた実験サイトでも、新しいJIS X 0213 の範囲を Shift_JIS で符号化したテキストを準備していた。しかし予想に反して、コンピュータの世界では Unicode が標準になっていき、この方法で実装が一般化することはなかった。一方で JIS X 0213 を Unicode で符号化するにも問題があったため、青空文庫は JIS X 0208 での運用を続けたまま、その方法を深化させ、 かつ規格表にも厳密なものにしてゆく。 青空文庫で扱う文学作品には、もちろん戦前のものも少なくない。その場合、JIS X 0208 でいわゆる旧字旧仮名の文書を再現しなければならない。その作業を支援するツールとして、「文字チェッカー」と「校閲君」の 2 つがまず 2001 年に現れている。「文字チェッカー」は、ファイル内に残った機種依存文字や入力ミスをチェックする機能があり、「校閲君」は、JIS X 0208 の範囲で旧字入力可能な字を洗い出す作業を肩代わりしてくれる。 また JIS X 0208 で扱えない漢字についても、 その注記がルール化されて、情報を集約していくこととなった。それまで外字については場当たり的な処理も少なくなく、書き方にもばらつきがあった。その整理のため、2002 年 3 月にこれまでの注記をまとめた「外字注記コレクション」がボランティアによって自主的に制作され、2007 年以降「外字注記辞書」 として公式化している。 ## 【外字注記】 > $※[\#$ 「登十おおざと」、第 3 水準 1 92-80] > $※[\#$ 丸 $1,1-13-1]$ > ※[\#「目十争」」、U+7741、ページ数-行数 $]$ 漢字の構成を記述するためのルールをパ夕一ン化し、なおかつ JIS X 0213 に収録されたものについては、その区点も示したほか、 Unicode にあるものも補足情報として残しておくこととなった。 さらに、JIS X 0208 で扱えない「アクサンつきアルファベット」についても、2004 年 8 月にルール化している。 ## 【アクセント注記】 $>$ ae ao, ae ao, eo, aeo eo! [\#この行の「e」はすべてアクサン () 付き] > [ae' ao, ae' ao, e'o, ae'o e'o (上 1998 年 12 月時点 ; 下が改訂後) 「アクセント分解」という手法で、é を e とにに分け、その方法が用いられていることを龟甲括弧でくくって示すわけである。 同時に、当初は採り入れなかったレイアウ卜情報や文字以外の情報についても、見出し・字下げ・強調・改ページ・画像・割り注など、底本の再現に必要なものを組版注記として整備していった。 しかし、こうした厳密な符号化を進めるほど、「正しい符号化は何か」という問題にも踏み込むことになってしまう。それは JIS 規格表の解釈問題にもつながり、2003 年 5 月に定められた「区点番号 5-17 と 5-86 の使い分け指針」は、その妥当性をめぐって論争となり、約 10 年にわたって紛紏することになった。 ここでは、「原本への忠実性」と「テキストの交換可能性」が対立の軸となったが、電子化にあたって避けては通れない問題が、一例を通じて顕在化したとも言えよう。 ## 2.4 活用の広がりと品質管理 こうした入力ルールの標準化の試みが、活用の広がりに良い影響を与えていった。テキス卜内の注記は、あくまで、人が読んでわかる情報を残すものとして用いられてきたが、 それをビューワ側で解釈して見た目を再現するようになっていったのである。2004 年の専用ビューワ「azur」の登場と前後して、多くのアプリケーションが生まれ、2007 年以降には各種携帯端末向けに、青空文庫のテキスト閲覧のため、注記表記に対応したビューワが陸続と現れていった。 その趨勢を意識して、青空文庫の側でも注記表記を機械可読可能なタグとして再定義することにもなった。当初は、前方参照の注記が多かったが、この頃からコンピュータを意識した後方参照も積極的に採用されるようになり、2002 年以降テキスト公開の際に用いられていた txt2html という xhtml ファイルの自動生成スクリプトが、注記記述の正しさを検証する役目を果たすようにもなっていった。 作業のなかでも、注記を含めたテキスト形式の正しさを調べる「点検」というステップが設けられ、正規表現や、「校正ツール 2.0 化ひとりプロジェクト」などの各種ツールも用いつつ現在も実行されている。 こうした記法の厳密化の成果は、2010 年に 「組版案内」および「注記一覧」としてまとめられて、txt2html とともに一般公開され、青空文庫注記(またはその一部)を簡易マー クアップ言語として採用するエディタや小説投稿サイトの登場を後押しし、ファイルの自動変換 ・処理による再配布や二次活用への道も作ることとなった。実際に注記を使っていることを公言する作家も出てきている。 ## 3. おわりに 青空文庫注記は、“marking up”するために生まれたことから、日本語での記述を原則としている。結果、日本語話者とコンピュータの両方が可読なものとして、日本語デジタルテキストの発展に大きく寄与してきた。今後はむろん、このマークアップをいかに保守・管理・改良してゆくかも課題となるだろう。 さらには、JIS コードの範囲内で(ないしは規格表通りに)電子化するにはどういう文字が利用可能か、または利用不可能な場合 (いわゆる外字を)どう解決すればよいか、日本語書籍の組版をいかに注記すればよいか、 そのルールの徹底とテキストファイルの品質管理にどのような点検やツールが必要なのか、各種青空文庫ビューワの登場から高まった機械可読性と読み書きする日本語話者のための利便性のあいだのどこに落としどころがあるのか——等々、青空文庫が得てきた経験や知見・成果を踏まえた上で、さらなる挑戦や議論へと発展してゆくならば、何よりの幸いである。 ## 参考文献 [1] 大久保ゆう.クラウドソーシングを先取りした青空文庫の軌跡 : 一ボランティアによる電子ライブラリ活動一. 情報処理. 2014,5, p. 4 70-474 [2] 大久保ゆう. 青空文庫から.txtファイルの未来へ : パブリックドメインと電子テキストの 20 年. 情報管理. 2017, 12, p.829-838. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B23] 地域デジタル映像アーカイブの教育活用に関する実 践的研究: その可能性と課題 ○北村順生 立命館大学映像学部, $\bar{\top} 603-8577$ 京都市北区等持院北町 56-1 E-mail: yorikita@fc.ritsumei.ac.jp ## Practical Research of Using Local Digital Visual Archives in Education: Possibilities and Problems. KITAMURA Yorio College of Image Arts and Sciences, Ritsumeikan University, 56-1 Toji-in Kitamachi, Kita-ku, Kyoto, 603-8577 Japan ## 【発表概要】 各地で登場しつつある地域のデジタル映像アーカイブの活用に関して、教育分野での活用は有効であると期待できる。小学校における授業実践のワークショップにより、映像アーカイブを授業で活用することにより、学校と地域社会との連携の強化、子どもたちの興味か関心の向上、メディアリテラシーの涵養、といった効果が見られる。一方で、技術・人材面での整備、授業デザインの開発、教科・単元に対応した映像資料のパッケージ化といった課題が存在することが分かった。 ## 1. はじめに 近年、各地でデジタル映像アーカイブを構築する事例が増えている。地域の旧家や写真館などに残された古い写真や映画フィルムなごの映像資料を収集、保存、デジタル化し、公開、活用していくような試みである[1]。 各地で構築が進められているデジタル映像アーカイブに関して、地域に残る貴重な映像資料を保存していくことの意義については、大きな異論の出るところではない。そして、 その実現のための具体的な技術面、制度面、経済面、人材面での課題については、本学会をはじめてとして様々な場面での議論が進みつつある。一方で、構築したアーカイブの活用方法については、様々な事例が紹介されるようになって来てはいるものの、現在のところは試行錯誤の段階といえる。とりわけ、各地域で各種の助成や補助金を用いて映像アー カイブを構築したものの、せっかくのアーカイブが十分に活用されないままであるケースもある。 本研究では、地域で構築されたデジタル映像アーカイブについて、主に教育面での活用を目的とした実践事例を紹介したい。その上で、とりわけ教育と地域社会の連携の面に着目して、その可能性と課題について検討するものである。 ## 2. 映像アーカイブを活用した教育ワークシ ヨップ実践 2. 1 新潟地域映像ア一カイブの概要 本研究においては、新潟地域映像アーカイブの映像資料を活用したワークショップ実践について検討する。ここでは、素材として使用した新潟地域映像アーカイブの概要についてまとめておきたい。 新潟地域映像アーカイブは、新潟大学人文社会・教育科学系附置地域映像アーカイブ・ センター(代表:原田健一・人文学部教授) が、主に新潟県内の旧家や学校、公民館、写真館等に残されてきた写真やフィルム、絵葉書、テープなどの映像資料に関して、デジタル・アーカイブ化を進めてきた。2009 年よりプロジェクトは開始され、静止画の写真デー タが 3 万点以上、動画データも 300 本以上のデジタル・データが教育研究目的用に公開されている。 これらの映像資料の中には、幕末から明治初年代にかけて撮影された今成家コレクションの湿板写真や、1920 年代から 1930 年代にかけて撮影された 9.5 ミリフィルムの動画映像など、全国的にも貴重な映像も含まれている。とりわけ、県の観光課に在籍して戦後 1950 年代から 1970 年代を中心に新潟県内各地の風景や行事、人々の暮らしの様子を幅広く写真と映画として記録した中俣正義コレクションは、今では見ることのできない新潟の情景を現在に伝えるものとして大変貴重なものである。 これらの映像資料は、単にアーカイブとして収集され、オンラインで公開されているだけではなく、多数の展覧会や上映会などを通じて地域の住民と触れ合う機会を設けてきた。 また、本研究で扱う教育目的のワークショップ以外にも、社会福祉施設による高齢者向けのワークショップや、公民館等の施設による地域住民向けのワークショップなどの実践を行い、映像アーカイブの多様な活用方法について研究を進めてきている[2]。 ## 2.2 ワークショップ実践の概要 本研究では、新潟県南魚沼市で実施した教育ワークショップについて検討する[3]。南魚沼市は、新潟県の南側に存する人口 58,000 人足らずの地域である。コシヒカリの人気ブランド米の産地として名高いが、東京方面から日本海・新潟方面に至る経路の中間に位置し、古くから交通の要地としても発展してきた。市内を流れる魚野川はやがて信濃川と合流し、新潟市内で日本海へと繋がっているが、現在では上越新幹線が通り、ウインタースポーツをはじめとした多数の観光客が訪れる地域となっている。 本ワークショップは、南魚沼市教育委員会の協力を得て実施されたが、大きく 2 種類のワークショップ実践を行った。一つ目は、小学校教員を対象に実施したワークショップである。「映像を用いた授業を考える」と題したこのワークショップでは、県内 14 名の小学校教員が参加し、前述の新潟地域映像アーカイブの映像資料にある中俣正義コレクションから精選した写真を活用し、具体的にどのような授業が可能かという授業案を検討した。結果的に、総合的な学習の時間や社会科を想定した 4 グループの案が提案され、全体で議論を行った。 もう一つのワークショップ実践が、市内 5 つの小学校の授業として実施されたものである(表 1)。小学校高学年を対象にした総合学習の時間や道徳の時間において、やはり中俣コレクションから精選された写真を活用して、各教員が創意工夫を凝らした授業実践を行った。 ## 3. 映像ア一カイブの授業活用に向けて 3.1 映像ア一カイブの授業活用の可能性 地域のデジタル映像アーカイブを小学校の 表 1. 授業実践ワークショップの概要 授業の中で活用していくワークショップを通じて、その有効性および効果を引き出すための具体的な方策について検討してきた。その結果として、以下の点が指摘できる[4]。 まず、地域のデジタル映像アーカイブを授業で活用する際の効果の一つめは、学校と地域社会との連携の強化に繋がるという点である。現在の学校教育現場では、学外から地域指導員や学習支援ボランティアなどを招いて、教員以外の地域の人たちが子どもたちの教育に関与する事例が増えている。地域の映像ア一カイブの活用は、こうした学外の地域の人たちの授業参画を推進していく可能性が高い。現在の現役の小学校教員の多くは、かつての地域の生活や暮らしのあり方について必ずしも詳しいわけではない。そうした場合に、かつての地域の様子に詳しい学外の人材を招くことで、子どもたちの学びの場に学校内の教員だけではなく、地域社会の人々が関わっていくことができるようになるのである。 本研究で行なった授業実践のワークショップの中でも、学外からゲスト講師を招いて写真に写っている当時の生活の様子について説明してもらったり、父母参観ならぬ祖父母参観と合わせることで、参加した祖父母から写真の情景についてコメントをもらうようなケ ースがあった。 図 1. ゲスト講師による授業風景 さらに、帰宅後に家族の会話の中で子どもたちと祖父母たちが写真に写された時代の様子について語る事例も報告されるなど、子どもたちの学びが教室を超えて家庭の中にまで広がっていく可能性もあることがわかる。 デジタル映像アーカイブの映像資料を授業で活用する二つめの効果は。視覚メディアがもつ特性としての直感的な分かりやすさだ。例えば、かつての雪国での生活の情景を言葉で説明しようとしても、なかなか実感としては理解しづらい。しかし、映像が与えるインパクトは非常に強い上に、アーカイブの形で同種の映像と大量に触れることで、一層その印象も強くなる。とりわけ新しい単元の初回などで子供達の興味や関心を引き出すための教材として、映像アーカイブの映像資料は有効だと考えられる。 図 2. タブレット端末による閲覧 効果の三番目は、メディアリテラシーの能力の涵養だ。これまでも、教科書や副教材の中で写真などの映像資料は数多く活用されてきた。こうした従来の映像資料の場合は、あくまで言葉で説明されている事項の理解を深めるための補足的な資料として使用されてきた。個々の映像資料はその意味づけが固定されており、子どもたちはその意味を受容し理解することが求められていた。一方で映像アーカイブの場合は、大量の映像資料の中を子どもたちがさまよい、それらの相互の関係の中で個々の映像資料の意味を見出し、探索することが求められる。つまり、個々の映像資料の解釈は子どもたちの側に委ねられおり、こうした能力は広くメディアの意味を読み解き、解釈していくメディアリテラシーとも結びつくものであると考えられる。 ## 3.2 映像ア一カイブの授業活用の課題 映像アーカイブを授業で活用していく際の 課題としては、次の三点が挙げられる。まず一点目は、技術面・人材面での整備である。 ICT 教育全般に通じることであるが、学校教育の現場ではタブレット端末が急速に普及しつつあるなどの状況はあるが、地域差や学校間格差が大きい。また、人材面でも教員のデジタル・リテラシーの育成や教員支援体制の整備などが課題となる。 二番目の課題は、映像アーカイブの活用に適した授業デザインの検討である。大量の映像を用いた探索的な学びが可能となるアーカイブの活用は、アクティブラーニングや反転学習といった昨今の教育手法の変容と共通の方向性を持ったものと言える。とりわけ、教師の役割は、従来型の教師から子どもたちに向けて一方向的に新しい知識を伝えるというものから、子どもたちが映像資料と向き合いながら自らの疑問や問題意識、課題を発見し、解決していくことを手助けするものへと変質していくことになる。前述の教員向けワークショップのように、こうした新しい授業デザインの検討が求められている。 最後の課題として挙げたいのは、教育現場に適した形での映像資料の精選とパッケージ化である。現在のような多忙を極める学校教員が、数万点を超える映像資料から授業での活用に適した写真や映画を自ら選び出すことは、時間的にも労力的にも難しい。各教科のカリキュラムや単元に応じて、教材として活用しやすい形に映像資料をパッケージ化しておくことが是非とも望ましい。 ## 4. おわりに 本研究では、地域のデジタル映像アーカイブを教育現場で活用していくための方法やその可能性と、その課題についてワークショップ実践の結果を踏まえて検討してきた。この問題は、多様な環境での数多くの実践が必要となる。今後も、さらに実践を積み重ねることで、一層の研究の進展を図っていきたい。 ## 謝辞 本研究は、JSPS 科研費 JP26330979 および電気通信普及財団研究調査助成の成果の一部である。 ## 参考文献 [1] 原田健一・石井仁志編. 懷かしさは未来とともにやってくる:地域映像アーカイブの理論と実際. 学文社. 2013. [2] 北村順生. 地域映像アーカイブの活用に関する一考察 : 十日町情報館ワークショップ実践の試み. 人文科学研究. 2015,136, p.109-1 24. [3] 北村順生. 地域映像アーカイブの教育活用に関する事例研究 : 南魚沼市実践の報告から.人文科学研究. 2016, 138, p.177-195. [4] 原田健一・水島久光編. 手と足と眼と耳:地域と映像アーカイブをめぐる実践と研究.学文社. 2018 (予定). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# Lesson Learned from the Aceh Tsunami of 2004 ## A Digital Multimedia Display of the Aceh Archive Using an Open-Source Platform for Sustainable Disaster Risk Reduction and Global Information \author{ Nurjanah $^{1} \quad$ WATANAVE Hidenori ${ }^{1}$ \\ 1 Graduate School of System Design, Tokyo Metropolitan University 6-6 Asahigaoka, Hino-shi, Tokyo, 191-0065 \\ Email: nurjanahjane75@gmail.com } (Received: July 24, 2017; Accepted: October 8, 2017) \begin{abstract} We developed the Aceh Disaster Digital Archive to make information about past disasters more accessible to communities. It employs an open-source data platform, allows free access, and is interactive and easy to use, which is essential for engaging the younger generation. Similar disasters can occur anywhere in the world, and by collecting multimedia data related pre-and post-tsunami Aceh, we have put it into a visual form and linked it with Social Network Services (SNSs) to facilitate the transfer of information and knowledge about earthquake and tsunami experiences in Aceh to promote sustainable disaster mitigation (Disaster Risk Reduction (DRR)). The materials were evaluated in local university to enhance tsunami learning. Keywords: GAP information, digital archive, dissemination, Community-Disaster Risk Reduction, global information \end{abstract} ## 1. Introduction Indonesia is a disaster-prone area. The Indian Ocean tsunami of 2004 was one of the biggest catastrophes in a century. The Indian Ocean tsunami caused damage to infrastructures, individual properties, and the environment in many coastal areas around the Indian Ocean. The tsunami was estimated to have caused over 165,000 people lost their lost (BRR, 2005). This paper describes how the Disaster Digital Archive of tsunami was built and utilized as described in Figure 1. Figure 1: Framework of Aceh Disaster Digital Archive ## 1.1 An information gap on past disasters Researches shows that tsunamis in Aceh, shows in the Figure 2, were relatively rare, but not for the first time. On the seismic history and seismotectonic of the Sunda Arc (K.R Newcomb \& W.R McCann, 1987), found (by Monecke et al., 2008), that historic Indonesian seismic records described one of major earthquakes or tsunamis affecting the west coast of Aceh in the last 400 years. Even (Candace A., et al, 2012, Kelsey H., et al, 2011) found pre-historic tsunami since more than 5000 years ago. One exception was the 1907 earthquake, which generated a tsunami that devastated the coastal areas of Simeulue Island, but reached only minimum heights along the Acehnese mainland (McAdoo et al., 2006). Although tsunamis are not new and have occurred several times in Aceh, lessons from the past have been ignored. A loss of knowledge about earthquakes and tsunamis has led to an information gap in the Aceh region. As an international trading port since the 14th century. (D. Perret 2011), Aceh has historical records related to earthquake and tsunami history in the region. The manuscripts are an invaluable record of Acehnese indigenous local wisdom and could be crucial in communicating relevant lessons to current and future generations. As Indigenous Knowledge Saved Lives during 2007 Solomon Island Tsunami (McAdoo et al, 2008). The loss of information in Aceh, due to a long history of war, began during the Dutch Colonial period from 1873 to 1903 , and continued with conflicts between religious leaders known as the "Sabil War" (Edward Aspinall, 2007) from 1903 to 1946. In this era, every manuscript that produced has its own purpose mainly to spread Islam to follow the atmosphere and a specific place to Figure 2: Map of Aceh, Indonesia. read to the public (Ali. W., Mamat, 1998). Unfortunately, however, the long period of war and conflict in Aceh over the last century has led to the destruction of many valuable manuscripts (http://kebudayaan.kemdikbud.go.id/ bpcbaceh/2013/10/01/ulama-ulama-penyiar-islam-awal-diaceh-abad-16-17m/, accessed, October 8, 2017). The surviving manuscripts are preserved at institutions-Dayah (Islamic Boarding School) or by individuals. Such as Dayah Tanoh Abe in Aceh Besar, and Ali Hajsmy (Faturachman et al, 2010, 2007). Because of these events, the information from the manuscripts has not yet been transmitted to current generations, which has resulted in a major information gap about past natural disasters. To ascertain whether people have knowledge and experience related to past earthquake and tsunami disasters, I conducted interviews in six disasteraffected districts along the west coast of Aceh. ## 1.2 A historical account of Aceh tsunamis Some tsunami scientists argued that tsunamis did not leave deposits, and many geologists were skeptical (Bourgeois J., 2009). After scientist found the track of tsunami in the past. Tsunami have mapped boulder and other coral fragment deposits along the coasts (Scheffers S., et.al 2009). Tsunami waves transport sandy sediments from offshore areas and the beach and deposit sediments on the inundated land surface. Tsunami deposits are very characteristic for tsunami affected areas (Wagner Jean-Frank and Srisutam Chanchai, 2011). But today, there are several ways to explore and track historical tsunami records. One of these is called paleotsunami. Paleotsunami is an approach to tracking past tsunami events, either through scientific or historical data. In Samatiga Region, West Aceh (Monecke 2008, 2015) found layers of carbon dating to tsunami deposits at 780-990 1000-1170, 1290-1400, and 1510-1959. And (Meilianda 2009) mentioned tsunami events which might affect Aceh in 1907 based on an NOAA report with validity of 4 (very valid) and in 1964, in a report with a validity 3 (valid). The current study was supplemented by a geographical map of Aceh, which assumed can offer interesting information if overlaid with earth interface data on the open-source platform. The records of ancient manuscripts mentioned earthquake occurrences in Aceh dating to 1000 years ago. "The island is washed by two seas. Harkand and that of Salahit" (Bay of Bengal and the Malacca Strait), Lambri Archeological Manuscripts, 1000 Before Present (BP - around 9 Century), Some Aceh Manuscript related to the earthquake and tsunami Table 1: Aceh Manuscripts related earthquake and tsunami events in the past & & & \\ disaster in the past shows in the Table 1. ## 1.3 An alternative medium for educating young generations to learn about historical disasters Movie is an effective alternative medium for learning about past disasters. (D Buckingham, 1998). It results in changing young people's relationships with the media, and with classroom-based research. In this study, I outline the conceptual framework for contemporary media education and address unresolved questions about learning and pedagogy. (Hobbs \& Renee 1998) reviewed some characteristics of video - based educational materials by describing the intellectual heritage of the movement as including media analysis and media productions as basic skills for the information age. ## 1.4 Using disaster heritage to develop disaster tourism and an economic base The Indian Ocean tsunami of 2004 resulted in over 165,000 casualties (BRR, 2005). However, the affected area has become a target for the phenomenon of Dark Tourism. Dark tourism (also known as black tourism or grief tourism) has been defined as tourism involving travel to sites historically associated with death and tragedy. At the same time, this disaster also left a heritage of disaster that has attracted disaster tourism. I discuss this history and the questions raised about the nature of tourism in such "attractions" in the individual context. (John Lennon and Malcolm Foley, 2010). Today, numerous sites of the death and disaster attract millions from all around the world: While many believe that an interest in death and disaster simply stems from morbidity, the range of factors involved extends from an interest in history and heritage to education to remembrance (Yuill, 2003). Although it is only in recent years that it has been collectively referred to as dark tourism, travel to places associated with death, disaster and destruction has, occured as long as people have been able to travel. In other words, it has always been an identifiable form of tourism (Sharpley \& Stone 2009). Preserving the heritage of disaster and the testimony of tsunami survivors on the site lets it serve as a Dark Tourism attraction. ## 1.5 A lesson learned from the rehabilitation and reconstruction of the housing program After the 2004 tsunami, Aceh underwent one of the largest reconstruction projects ever seen in the developing world. International response to the tsunami was unprecedented, and billions of dollars flowed into reconstruction along with the largest number of actors ever witnessed. With nearly 500 participating actors on the ground, results were achieved in a remarkably short time, (Harry Masyrafah and Jock MJA McKeon, 2008). Decision making in post disaster housing reconstruction (Caroline S.H., 2010). Following the Asian tsunami, NGOs flocked to affected countries with large budgets and the best of intentions. Reconstruction projects became a priority both for NGOs and their donor. However, during their rush to be involved in reconstruction, many NGOs operated well outside their expertise due to the fact that action was urgent and essential and did so without the capacity, capabilities and competencies in place to deliver satisfactory projects. (Von Meding J. K., Oyedele L. and Cleland D.J., 2009). The most important area of rehabilitation and reconstruction in this case is housing construction for disaster victims. The German Red Cross (GRC) Housing Project implemented different housing types in the two districts in Aceh. The selected areas were districts at high risk of disasters. The housing program was implemented following assessments and needs. The GRC prepared and administered questionnaires, a guidebook for fieldwork, Enumerator who has been briefed, collection of controlled data verification was conducted 12 days end-line survey after 5 years using houses, and the time allocated to editing and reporting was about two months from the end of April to May 2013. The selected areas are the two districts. One housing program was inland, in the Calang Region, Aceh Jaya. The other was in Sabang Island, and differences between the two areas were compared (German Red Cross, 2013). Visualizing the data on the housing reconstruction process proved to be an effective way to document the lessons learned and disaster risk reduction for future use (Nurjanah, Ichiko T., Hidenori W., 2015). ## 1.6 A built community based on Disaster Risk Reduction for global information During disasters, people at the community level have the most to lose because they are most directly impacted by disasters, whether major or minor. On the other hand, they have the most to gain if they can reduce the impact of disasters on their community. This concept gave rise to the idea of community-based disaster management (CBDM), where communities are put at the forefront. Through the CBDM, the capacity of the general public to respond to emergencies was increased by providing them with four additional avenues of access and control over resources and basic social services. Using a community-based approach to managing disasters thus has definitive advantages. CBDM strives to empower communities to undertake any development program, including disaster preparedness and mitigation (Bisnhu Pandey, Kenji Okazaki, UN, 2005). Code for All in the link https://codeforall.org, is an international network of organizations who believe that digital technology opens new channels for citizens to more meaningfully engage in the public sphere and make a more positive impact on their communities (Codeforall.org, 2017). One of the things that should not be overlooked for sustainable disaster mitigation is the development of community-based disaster risk reduction. Disaster-responsive communities, who understand the threats within their territories, make efforts to share disaster information, experiences, and mitigation strategies by, from, and for the community. Social Network Services (SNSs) are an essential part of contemporary life. Thus, digitalizing, visualizing, compiling, and displaying open-source data and linking them to SNSs is a means of making information from past disasters accessible and transferring knowledge about sustainable disaster risk reduction and global information. ## 2. About this Study ## 2.1 Objectives The objectives of this study are (1) to collect data related to pre- and post-tsunami Aceh 2004; (2) to use alternative media for disaster risk reduction (DRR) education; (3) to transform those data onto a user-friendly visual open-source data platform, the Aceh Tsunami Archive to teach about pre- and post-tsunami events; and (4) to link the Aceh Disaster Digital Archive to SNSs to facilitate the transfer of information and knowledge about earthquake and tsunami experiences in Aceh for sustainable DRR and global information. Study areas for this research included several locations along the southwest coast of Aceh, which were particularly affected by the tsunami. The locations are situated at the border of the Indian Ocean subduction zone, which includes Banda Aceh, Aceh Besar, Aceh Jaya, Aceh Barat, Simeulue, and Singkil as shown in the Figure 3. Figure 3: Study Area of Research ## 2.2 Previous Studies Nurjanah, Nazli Ismail, Husaini Ibrahim: Aceh Paleotsunami for Disaster Risk Reduction, (Thesis, Disaster Science \& Management, Post Graduate Program of Syiah Kuala University, Banda Aceh, 2013). Based on some reviews, the tsunami disaster in Aceh is not new and it has happened several times. Nevertheless, when tsunami happened in Aceh, it is still powerful to pose some significant destructive impacts and it caused human casualties. It seems as a recurrence event of the same history that disregards lessons from the past. Many factors contributed to the low awareness of the disaster. One of them is tsunami period that is a low-frequent event. It may range between 30-600 years of return period. Due to its low-frequency, people tend to forget about it and lessons from past experiences were not being transferred to other community or generation. Today, there are several ways to explore and to track tsunami record in the past, they called it paleotsunami with science by tsunami deposit and coastal geomorphology, and historical base by prose and manuscripts. By integrating and synchronizing paleotsunami Aceh, the validity of Aceh tsunami records reconstruction will be more precise. This research is a qualitative descriptive approach using historical and science literatures. By this research, lesson learned from tsunami experience in the past can be more useful for Aceh's sustainable disaster risk reduction in the future. Nurjanah, Hidenori Watanave. Historical Digital Archive for Disaster Risk Reduction and Global Information. (ADADA, 2014). Information is the most important issue in Disaster Risk Reduction (DRR). Information transfer and dissemination is needed, sustainability from generation to generation. Indian Ocean tsunami in 2004 was occur in Aceh. The tsunami was estimated to cause more than 166,000 dead. One of the big reasons is GAP information from the past disaster. Today, information could be delivered to the world as soon as possible by internet. In this millennium era, used historical digital archive and display in Google earth contents is one of solution to fill in the GAP information for Disaster Risk Reduction and spread it up to the world as a global information. Nurjanah, Hidenori Watanave. Aceh Paleotsunami Reconstruction for Disaster Risk Reduction and Global Information. (JADH, 2014). http://conf2014.jadh.org/sites/conf2014.jadh.org/files/ jadh2014abstracts.pdf. Indian Ocean Tsunami 2004 is one of the biggest catastrophe incidents over the last 100 years. Although the tsunami is not new and it had happened several times in Aceh, that disregards lessons from the past. Paleotsunami is a theory to track the record of tsunami events in the past, either through scientific or historical approaches. Based on the interview, it reveals that Aceh communities already had knowledge in relation to the earthquake and tsunami under their own local terminology, i.e. "Geloro", "Smong" and "Ie Beuna". Banda Aceh as the capital of Aceh Province and the Centre of Aceh Government kept a biggest gap of information in relation to the earthquake and tsunami incidents in the past. Cultural changes had made the ancestors and coastal communities forgot to share the information and knowledge about the tsunami phenomena to the next generation. Such facts had affected to less disaster awareness of Banda Aceh as the region with the largest number of casualties and the extent of damage when compared to other parts of Aceh in earthquake and tsunami in December 2004. Aceh Paleotsunami Digital Archive is one of the ways to fill in the gap of information from the past disaster and global information. ## 2.3 Related Studies Data visualization products have been implemented in many fields such as disaster and historical studies and the weather forecasting system created by Hidenori Watanabe et al $(2010,2011,2012,2013)$. Creating a digital archive that provides a multipronged, general understanding of an archived event requires a well-designed method (Watanabe, $\mathrm{H}$. et al 2011). Data visualization that utilizes an online virtual globe makes it easier for researchers to find new historical information and disseminate knowledge widely on the internet (Watanabe, H. et al 2010). The Japan Disasters Archive (JDA), in the link http://jdarchive.org/, is an online portal to digital materials documenting the cascading series of natural and human-made disasters that began in Japan on March 11, 2011, designed and maintained by the Reischauer Institute of Japanese Studies at Harvard University. The JDA relies on the support of partner organizations around the world to supply digital contents including websites, tweets, video, audio, news articles, and much more. This portal provides information Great East Japan Disaster on how to use the archive interface for information retrieval (Website Japan Digital Archive, 2017). Building a community to improve the quality of life. Technical and design talents can be combined to transform government and impact lives and work on local matter. The portal shows how developers, designers, and product managers can work with governments to solve major challenges, such as disaster issues (Code for All, 2017). ## 3. Methods and Results 1) This study employed two research methods: (1) Qualitative research was used to collect data from several sources. Using primary data for the questionnaire, in-depth interviews and observations were conducted by purposive sampling. In addition, secondary data from the literature were used. (Cohen L., et al, 2005, Moleong L., 2001, Narbuko C., 2007, Nazir M., 2003, Miles M.B., 1992); and (2) Quantitative research was used for the creation of the archive. We used cesium for open-source data through the github platform , along with visualized data. We upload the link on the Facebook Fan-Page of Community. As an effective social media in Indonesia especially in Aceh. ## 3.1 Collecting Data ## 3.1.1 Interviews Acehnese has had prose forms including rhymes, poetry, and stories, known as Hikayat. Hikayat with the title "Earthquake in Aceh" describe the earthquake and tsunami of 1964 and describe boats tossed around and high surging seawater, "Ali Head Village trembling body, running and standing to the flat ground, boat in the sea is shaking, tossed around here and there." (Sjeh Rih Krueng Raja, 1964). The authors conducted interviews between March 10 to 25, 2012, in the six tsunami-affected districts in Aceh that border the Indian Ocean subduction zone with their own local terminology such as "Geloro" in Singkil Language, "Smong" in Simeulue, and "Ie Beuna" in Aceh, all of which are the local words for "tsunami.": (1) Singkil, March 25, 2012, Narated by Safrijal Amni: "The first geloro was around the 18th century, which drowned Old Singkil Town, then around the 19th century, there was a second geloro, which forced people to move from Kayu Menang to Singkil." (2a) (Rachmalia, 2012,). Teupah Barat, Simeulue. Narated by Rukiyah: "In 1907, an earthquake occurred before Friday prayer. I was a small child and did not know anything. The ground cracked open, and my father took me and we fled to the mountains. After prayer, many people visited the low tide sea, then the smong arrived, and the water entered the land and many people died. At that time, we were eating sago and using bark cloth (bairak). (2b) (Ilyas, 2012), When the earthquake happened in the early morning in December 2004 and the river water (estuarine) receded quickly, I knew that the sea water would rise, because of the sound like pandan leaves burning. So, I shouted "smong!" and everyone ran to the mountains. When my grandson was born in the mountains, I called him "Son of Smong." (3) Aceh Barat, March 23, 2012, Meulaboh-Padang Village. Narated by Cut Dian Putri: "According to a story from my grandmother, my grandfather was born at the time of the incident Ie Beuna. On that morning, the water in the sea looked very high. The religious leaders approached the coast and sounded the Azan. The sea water broke on the beach and a small amount of water came onto the land. That's why my grandfather was named Teuku Leupek Ie Beuna. During the earthquake in the morning of December 2004, my grandmother said, "The sea water will rise soon!" We were thinking that my grandmother was very old and just senile. When the sea water came, we tried to reach her, as she could not get out of bed. I lost my grandmother and my husband, but my son was saved." (4) Aceh Jaya, Krueng Sabe, Bunta Village, March 20, 2012. Narated by Hamidah: "When I was a girl, Ie Beuna happened (reconstructed by The authors, based on year of her birth, around 1907). In the morning, the water in the Krueng Sabe River was spilling over, which was close to the Dragon Cave (Geni Village, around 7-8 KM from the coastline). I also felt earthquakes for 7 days and 7 nights during the DI/TII war (reconstructed by the same authors based on the history of other regions, around 1964); the earthquakes started in the morning, and consequently Gunung Sawah collapsed." [Hamidah, 120 years old, Bunta Village, Krueng Sabe, Aceh Jaya]. (5) Aceh Besar, Lambaro Nejid Village, March 17, 2012. Narated by Abdul Majid: "According to a story from my mother, in the same year as my birth, there were Ie Beuna events; the sea level rose about 2 feet in 1936. I also experienced earthquakes in 1945 and morning earthquakes for 7 days and 7 nights in 1964." [Abdul Majid, 77 years old, Lambaro Nejid Village, Aceh Besar]. (6) Banda Aceh, Lampulo, March 10, 2012. Narated by Ayi: "My great-grandfather, my grandfather, and my father were fishermen, brought up from childhood in the coastal environment, but I never heard stories from my parents or grandparents related to tsunamis before 2004. So, the tsunami event in 2004 was a new experience for us, especially when it happened. A lot of people died, nearly $80 \%$ of them were old people. So, it was impossible to trace back information related to earthquakes and tsunamis from them." ## 3.2 An Aceh paleotsunami documentary film The authors, produced The "Aceh Paleotsunami" doumentary film in 2015 about Aceh's tsunami history was made into documentary film as an alternative medium of disaster education with the collaboration funding from Tokyo Metropolitan University Japan, Wellesley College USA and Yayasan Kemaslahatan Ummat, Indonesia. It began with the terrible scene of the 2004 earthquake that killed more than 166,000 people. It then showed the basic facts of the history of the earthquake and tsunami disaster in Aceh, the number of researchers who came to study the tsunami, and the paleotsunami research of Katrin Monocke, who discovered a tsunami layer dating back 1000 years in the Samatiga region of West Aceh. From Candace and Nazli Ismail et al. discovered a tsunami layer in a cave located in the Layeun area of Aceh Besar. The film then shows a historic Jawi language manuscript describing a past earthquake-related tsunami disaster, and was translated by the Aceh manuscript expert, Hermansyah (2012). This work should also be disseminated to the younger generation. This was followed by community interviews about past knowledge and experience of earthquake and tsunami disasters in some districts of Aceh. This added insight to the term geloro, which in the local language in Singkil means "tsunami." Tsunamis have occurred since the 18th century and drowned the Old Singkil City. The core of the film is to encourage young people to re-learn the history of the disaster, respond to disasters, and participate in disaster reduction activities, learning from the disaster-prone regions of Aceh. ## 3.3 The Aceh Archive for Disaster Risk Reduction (DRR) The author along with the member of Network Design Laboratory of Tokyo metropolitan University, Hiroki Inoue, has collaboration scientific research to develop "Aceh Archive for DRR”. The author collecting several types of data, overlaying maps into the open source platform by $\mathrm{kml}$ and html data, and the collaborator created the new platform by github. It provides additional valuable information about past disasters. Use of an open-source data platform with free access is essential for giving the younger generation an engaging and interactive first impression of the earth interface. With these tools, they can access geographical information ranging from a macro-global space perspective to the micro-space of Aceh, shows in the Figure 4. Figure 4: Overlaying map of the 2004 Aceh tsunami showing affected neighborhoods. Displaying old manuscripts related to the earthquake and tsunami in Aceh, can make better understanding for young generation, there are some of local knowledge from the past to get lesson learn for disaster mitigation, shows in the Figure 5. Figure 5: An earthquake manuscript from the Ali Hajsmy Museum collection. Personal testimonials about Aceh tsunami experiences can be accessed by face icons. This information will remind people around the world that local knowledge from past disasters offers the best lessons for DRR and global knowledge, since disasters and similar experiences can be happen anywhere in the world, shows in the Figure 6. Figure 6: A testimonial of past tsunami experiences. The Visualization of Aceh Digital Archive for DRR serves to fill the information gap about past disasters for disaster risk reduction - mitigation and global information, present in the link below: https://wtnv-lab.github.io/aceh_archive_for_drr/ Any major catastrophe will leave many relics. After the 2004 tsunami, many houses and infrastructures were destroyed or half destroyed. In many disaster areas, most of them were cleaned up because seeing the damage made disaster victims felt sad. But in Aceh, the opposite occurred. Tsunami survivors on the boat on the top of houses in Lampulo area decided to keep the relics. The community even made a book of testimonials from the local community that shared the experiences of 10 survivors in the book of "Mereka Bersaksi”, (2012), or “Their Testimonies”, printed by an independent tourism program. More complete testimonials are available through the Dark Tourism archive link. The following passages come from these testimonials: Abasiah: "On Sunday, December 26, 2004, exactly a year ago, the day that we will never forget in our lifetimes, in the time in which there was a great disaster, never before seen or heard or imagined. Allah (The Majesty and Almighty) was showing some signs of his greatness and power, ALLAHU AKBAR $\cdots ”$ Preserving disaster heritage and displaying the testimonials of tsunami survivors is important. It could serve as a lesson for other disaster areas such as Japan, where many disaster relics have been destroyed. From the experience of Aceh, we know that the heritage of disaster does not only include sorrow, but education and other benefits. The authors included into the Aceh Tsunami Archive visualizing mechanism of disaster heritage sites to enhance such tourism. It is not only to teach the history of disasters to young people, but also to attract foreign tourists to visit Aceh's disaster history sites, as well as to improve the economics of communities surrounding historical sites, shows in the Figure 7. The link of archive can be found in the link below: https://wtnv-lab.github.io/aceh_ archive_for_drr/dark_tourism Figure 7: A testimonial of a tsunami survivor as Dark Tourism. ## 3.4 Code4Aceh The authors is the founder of Community Base on Disaster Risk Reduction called Code4Aceh in collaboration with an international technology designer from Japan and Aceh governmental agencies such as the Tourism Board and Tsunami Museum. It creates an annual digital archive every year to engage the community to create simple, user-friendly digital interfaces to attract public participation to develop sustainable Community base on Disaster Risk Reduction (DRR). Code4Aceh built a Facebook fan page to provide access to analysis of and research related to the earthquake and the tsunami disaster`s experience, in Aceh and Japan. Code4Aceh also undertook post-disaster response measures in both countries, such as following the 2015 Kumamoto Earthquake in Japan and the 2016 Pidie Jaya Earthquake in Aceh. The Code4Aceh Community leveraged both nations' knowledge and resources through an interactive Talk Show in Radio Republik Of Indonesia (RRI-Aceh) on their daily program as an invited expert sources, shows in the Figure 8. Figure 8: Radio used as an interactive DRRR medium for international collaboration. Code4Aceh also cited publications in online and printed media, on local such as Lintas Aceh.com: http://www. lintasatjeh.com/2015/08/code4aceh-adakan-workshop-acehdigital-archive.html? $\mathrm{m}=1$; Portal Satu.Com: http://portalsatu.com/news/komunitas-code4aceh-gelarworkshop-aceh-digital-archive/; Aceh Kita.com: http://www.acehkita.com/category/teknologi/http://www. acehkita.com/code4aceh-gelar-workshop-arsip-kebencanaan/, all accessed 2015-12-05); national such as Tribun News: http://m.tribunnews.com/internasional/2016/05/19/tanggapantisipasi-keadaan-darurat-wni-bantu-pemda-jepang, accessed 2015-12-05); and international levels such as Asahi Shimbun (Edition of December 2, 2016) and Iwate Nippo (Edition of April 15,2016) as a global information source for Disaster Risk Reduction (DRR) shown in the Figure 9 and. So far, the data show that the Code4Aceh Facebook fan page has had a positive impact and attracted positive attention from audiences as an alternative medium for learning about disaster, more than 1.700 people reach the link and the information spread up, shows in the Figure 10. The link of Facebook fan page can be found in the link below: https:// www.facebook.com/code4aceh/ ## 3.5 Visualization of the GRC Housing Project Explore the key challenges facing non - governmental organisations (NGOs) during decision making in post disaster Figure 9: (left) Asahi Shimbun, (right) Iwate Nippo_ Code4Aceh Facebook Fan Page Figure 10: Code4Aceh promotes global information. housing reconstruction is needed (Caroline Hayes, 2010). The German Red Cross (GRC) Housing Project implemented programs for different housing types in two selected districts of Aceh. One housing program was inland, in the Calang Region of Aceh Jaya. The other was in Sabang Island. Differences between the two areas were compared. The Aceh Jaya District got two-story, semi-traditional style houses with sanitary facilities including toilets. The housing program in Sabang District constructed single-story houses in a semi-modern style with toilets but no wells (German Red Cross, 2013). Typical hazards in the two districts areas are common threats to the general area of Aceh: hydrometeorological hazards (floods and typhoons) and geological hazards (earthquakes and tsunamis). Earthquakes and tsunamis remain the two major types of disasters affecting both areas. Frequent floods and typhoons are the third hazard shown in the Figure 11. The characteristics of structures from the GRC Housing Project in the Aceh Jaya District found that building structures increased community disaster preparedness for floods with two-story houses, and they used the first-floor to self-initiatives for enhancing economic growth by making Figure 11: Characteristics of GRC housing structures in the Aceh Jaya District. small trading businesses such as, vegetable-fruit and fish stores, sewing shops, pharmacies, etc. For geological hazards (earthquakes), the community preferred evacuation to open space or higher land. One hundred percent of the communities confirmed that no structural damage occurred during the 2012 earthquake. The structure of gable houses is neither permanent nor strong enough to withstand typhoons without risk shows in the Figure 12. Figure 12: Characteristics of housing structures by the GRC in the Sabang District. Final study results showed an encouraging situation for the housing program, confirming the usefulness of the program and of community self-initiatives for enhancing economic growth for housing and disaster mitigation. The authors developed digital archive of visualization data from a housing program for disaster victims in Aceh, which can provide a better understanding to represent a concrete and overall of housing program post disaster 2004 in Aceh, base on German Red Cross End-line Survey after 5 years using the houses. It provides a real and attractive display offering access to information such as ground-to-top views, the number of occupied houses, their elevation, the kinds of materials used in the housing program, the appearance of landscaping in the areas, how close the areas are to the ocean, the effect of distance from the ocean on housing, and images showing the degree of damage to houses or materials. By visualization of the landscape, additional hazards were discovered: (1) the location of houses near the slope poses a risk for landslides, (2) the location of houses near the ocean can lead to problems for water sanitation, and (3) poor materials can come loose during the monsoons/typhoons, shows in the Figure 13. The link of archive can be found in the link below: http://code4aceh.github.io/ DigitalEarthArchive/ Figure 13: Visualization of the GRC housing program from final data. ## 4. Outreaching and Acceptance ## 4.1 The Aceh paleotsunami documentary film We uploaded The Aceh paleotsunami documentary film as discussed in chapter 3.1 above, uploaded on June 24, 2015 to YouTube and linked to the web and SNSs such as Facebook Fan-page of community that we will discuss in the chapter 3.1.5, ensure accessibility in the era of social media. Film cover shows in the Figure 14. ## Media Film YouTube Figure 14: The Aceh paloetsunami film is linked to YouTube and SNS trough the open-source platform The Aceh paleotsunami film has attracted a good start to pay attention as a global information dissemination tool for dissemination information to young generation. Besides, it gets $77 \%$ of its audience from YouTube searches, with $87 \%$ of its audience being American citizens, shows in the Figure 15. The authors provided the Inamura no Yakata, Tsunami Educational Museum, in Wakayama Prefecture, Japan a copy of the Aceh paleotsunami documentary film. The film is permanently displayed in the museum as an education tools for DRR education, sharing knowledge of past disasters in Aceh with Japanese society, can be found in the link http:// www.town.hirogawa.wakayama.jp/inamuranohi/tunami_2f. html (Nurjanah, Monecke K., Hidenori W., 2015). Figure 15: YouTube ratings of the Aceh Paleotsunami Film ## 4.2 Workshop using the Archive The authors presented the archive in a one-hour workshop in Aceh to fifty-two $1^{\text {st }}$ year students from Syiah Kuala University on date/month/year to test its attractiveness and its ability to inform young people about the past. The workshop was divided into two parts. In the first 30 minutes, the participants were asked to research the history of tsunamis in Aceh using traditional methods; that is, by consulting historical sources and other related literature such as paper journal and books. The first 10 minutes were spent introducing the theme, and the following 20 minutes were spent on manual research, with the last 5 minutes dedicated to completing the first questionnaire. The second 30 minutes were spent learning about the history of tsunamis in Aceh using the digital archive on the Aceh disaster open-source platform. The first 10 minutes of the second session were spent on the introduction. Participants were then asked to access the Aceh disaster archive on their mobile phones, and the last 5 minutes were spent completing the second questionnaire, as shown in the figures below. Figure 16 shows students get $54 \%$ lesson to learn by digital archive, even $5.76 \%$ get lesson in the range $80-100 \%$. Figure 16: Percentage of student get lesson by learnt Aceh disaster archive. Figure 17 shows $46 \%$ of the students were interested in learning with the digital archive, but $38.46 \%$ get interest increase to learn related disaster in the range $60-80 \%$ and more than $9 \%$ in the range $80-100 \%$. Figure 17: Percentage of interest in learning with the Aceh disaster archive. Figure 18 shows student get 63\% knowledge increase to learn related disaster by digital archive in the range $60-80 \%$, even $21 \%$ get knowledge increase in the range $80-100 \%$. Figure 18: Percentage of increased knowledge from learning with the Aceh disaster archive. Figure 19 shows, 44\% of the students gave their impressions by learning from each media. They enjoyed and exited learning about the disaster more with the digital archive than by learning the traditional manual way. Figure 19: Testimonials on learning with the Aceh disaster archive. Figures 20 and show that student felt that learning with the Aceh Disaster Digital Archive was easier and more interesting, efficient, ideal, helpful than traditional learning, and it also improved their skills and knowledge. Figure 20: Students agree it is easier to learn about disasters with the Aceh digital archive. ## 5. Discussion and Conclusion This paper discussed the accomplishiments of the authors as follows: (1) Collecting the disaster victims' voice through interviews. (2) Developing a movie film about the Aceh tsunami. (3) Developing the Aceh Tsunami Archive. (4) Establishing a Aceh Tsunami Community site, Code4Aceh. (5) Developing a visualization site for the GRC Housing Project The Aceh Tsunami Archive, which employs global information from open-source data for DRR. It also explained how this archive can contribute to the transfer of information and knowledge about earthquake and tsunami experiences to future generations. The 2004 Aceh tsunami experiences offer meaningful lessons. Aceh local knowledge must be transferred to others to mitigate future disasters. In the future, developing the Aceh Aceh Disaster Digital Archive will serve to make information on past disasters more accessible to communities in which it is needed. Using open-source data, free access, and interactivity make the platform easy to use for the younger generation and handy, its accessible by mobile phone shown in the Figure 21. The Aceh Disaster Digital Archive, will remind people all over the world that local knowledge of past disasters offers valuable lessons for DRR. ## Acknowledgement The authors thanks the colleagues at the Watanabe laboratory of the Tokyo Metropolitan University for their help and advises. The author also thanks to all parties involved and support in the writing of this paper. Figure 21: The Aceh archive on a mobile phone. 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Nagasaki Archive: Plural Digital Archives That Urges Multiponged, Overall Understanding about Archive Event, Transactions of the Virtual Reality Society of Japan. 2011, Vol. 16, No. 3 pp. 497-505, http://doi.org/10.18974/ tvrsj.16.3_497. 69) Watanave, H., Design Method Pluralistic Digital Archive by Application of Google Earth. The Journal of the Institute of Image Information and Television Engineers, 2012, Vol. 66, No. 2, pp. 87-91, http:// doi.org/10.3169/itej.66.87. 70) Watanave, H., Nurjanah, et al, Aceh Tsunami Archive, Industrial Art of Tokyo Metropolitan University, Japan, 2013. http://aceh. mapping.jp/ 71) Yuill, Stephanie, M., Dark. Tourism: Understanding Visitor Motivation at Sites of Death and Disaster. Thesis. Texas A\&M University, 2003, http://oaktrust.library.tamu.edu/handle/1969.1/89. # 2004年アチェ津波からの教訓オープン・ソース・プラットフォームを用いた持続可能な災害リスク低減とグローバル情報のためのアチェ・アーカイブのデジタル・マルチメディア表現 \author{ Nurjanah $^{1} \quad$ WATANAVE Hidenori ${ }^{1}$ \\ 1 Graduate School of System Design, Tokyo Metropolitan University 6-6 Asahigaoka, Hino-shi, Tokyo, 191-0065 } \begin{abstract} 抄録:コミュニテイが災害情報にもっとアクセスしやすくするために、過去の災害情報を作成するためのアチェ災害デジタルアー カイブを開発した。オープンソースのデータプラットフォームを採用しており、アクセスは無料で、若い世代をターゲットに、インタラクティブで使いやすく開発した。世界各地で同様の災害が発生する可能性があり、アチェの津波前後のさまざまな媒体でのマルチメディアデータを収集することで、可視化を達成し、これをソーシャルネットワークサービス (SNS) にリンクすることにより、アチェでの地震と津波の経験に関する情報と知識その情報と知識を広範に伝達し、持続可能な災害低減対策 ( 災害リスク低減 (DRR))を期する。 キーワード:GAP情報、デジタルアーカイブ、配信、コミュニティーの災害リスク低減、グローバル情報 \end{abstract}
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# [A11] Web ラジオによる社会デザインとソーシャルイノベー ションの可能性 ○長坂 俊成 ${ }^{1)}$, 増田 和順 2) 1) 立教大学 21 世紀社会デザイン研究科, 〒 171-8501 東京都豊島区西池袋 3-34-1 2) 立教大学社会デザイン研究所 E-mail: nagasaka@rikkyo.ac.jp Proposal of a next generation internet radio for social design and social innovation - from the viewpoint of digital archive NAGASAKA Toshiharu'), MASUDA Kazuyori2) ${ }^{1)}$ Rikkyo University University Graduate School of Social Design Studies, 3-34-1 Nishi- Ikebukuro,Toshima-ku, Tokyo Japan 171-850 ${ }^{2}$ Rikkyo University Social Design Lab. ## 【発表概要】 近年、スマートフォンの普及に伴いラジオ放送の Web 化が進みつつある。しかしながら、そこで流される著作音源の管理はレガシーなモデルを継承し、アーティストやクリエータをインキユベーションしプロモーションするプラットフォームへの転換を阻害している。さらに Web 環境が個人やコミュニティの環境を構成する時代の中で、音声文化をコミュニティの中でシェアし二次加工するなど、より自由に享受する利用環境が未整備のままである。コミュニティFM ラジオ放送もサイマル放送により Web 化に対応しているものの、Webメディアとしてのローカリテイとグローバリティを活かしきれず、また、地域の参加型市民メディアとしての役割も果たせずに圈域放送を矮小化したビジネスモデルの域を出ないか、または、過度に自治体に依存する傾向にある。そこで、本発表では、既存の放送メディアに依拠しない新たな Web ラジオによる文化資産の利用とアーカイブを通じた社会デザインとソーシャルイノベーションの可能性について展望する。 ## 1. はじめに スマートフォンや無料の公衆無線 LAN スポットの増加、モバイル Wi-Fi ルーターの通信料の低価格化に伴い、家庭や職場に限定されず常時かつシームレスにインターネットにアクセスできる環境が整備されつつある。その一方で、高齢者や障害者、低所得世帯のデジタルディバイドが新たな経済的格差や社会文化的な格差を生み出すことが懸念されており、デジタルディバイドの解消に向けた情報アクセサビリティーへの対応に加え、誰もが文化や安全を享受できるように、インターネット環境で提供されるコンテンツやサービス、 プラットフォームの社会的なガバナンスを向上させる取り組みが不可欠となる。 本発表では、上記の背景を踏まえつつ、市民社会を支える情報プラットフォーム(社会情報基盤)としての Web ラジオに着目し、既存の Web ラジオの課題や限界を見据えつつ、社会デザインとソーシャルイノベーションの実践事例として、音声文化のデジタルアーカイブの基盤ともなる新たな Web ラジオのコンセプトを提案する。 ## 2. 既存のラジオ放送の Web 化の動向と その限界 Web ラジオは、インターネットラジオ、ネットラジオとも呼ばれ、電波を利用したラジ才放送とは異なり、インターネット上で、音声やテキスト等から構成されるコンテンツを配信するサービスである。主にリアルタイムでストリーミング配信するものと、ポッドキヤスト(Podcast)などダウンロード配信 (無料)するものがあり、後者はアグリゲー ターを用いて更新された音声ファイルを $\mathrm{PC}$ またはスマートフォン内に保存し、音楽プレイヤーソフトで再生する仕組みである。スト リーミング型の Web ラジオは、主に、既存の広域や県域のラジオ放送事業者やコミュニテイ放送局が、難聴対策として提供しているものと、新聞社などの既存のマスメディアがインターネットメディアとして Web ラジオに参入するケースがある。 また、携帯電話キャリアが既存のラジオ放送局のアグリゲーターとして全国の FM 放送を有料で提供し、音楽を購入するサービスと連携するスマートフォンアプリを提供している。ただし、配信された音声はローカルに保存できず 2 次利用もできない。 その他、現状では、アニメやゲームなど特定分野に特化したもの、インディーズ系アー ティストのプロモーションを目的とし著作権管理団体が運営するもの、コミュニティ放送局から Web ラジオに転換したものなどが存在する。 以下では、上記の中から既存のラジオ局による Web ラジオの動向について、社会的なナレッジマネジメントや音声文化のアーカイブのためのプラットフォームの視点から、その課題と可能性について概観する。 ## (1) 公共放送の難聴対策としての Web ラジオ 「らじるらじる」 らじるらじるは、主に難聴対策を目的とし手、ラジオ第 1 、ラジオ第 $2 、$ NHK-FM の放送をインターネットで配信するサービスである。リアルタイムのストリーミング配信に加え、過去に放送された番組(聴き逃し配信) を配信しているが、聴き逃し配信は配信期間が限定されており、恒常的なアーカイブへの対応はなされていないため、番組のダウンロ一ドも社会資源、文化資源としての 2 次利用も許されていない。著作権や出演契約等の理由により電波で流された番組がネットでは配信されないことや、音楽がカットされる場合もあり、電波放送よりも劣化したサービスとなっている。さらに、放送法上の制約もあり、本来技術的には電波放送の資源制約(電波の割り当てによるチャネルの制約、放送時間の制約等)から解放される Web ラジオ用の特性を生かしたオリジナルコンテンツの提供や多言語化が可能にも関わらず、現状ではそうした対応はなされず、Web 時代の公共放送の役割が問われている。 ## (2)「ラジコ」 ラジコは、上記の NHK の番組に加え、全国の既存のラジオ放送事業者(コミュニティ放送局は除く)の番組をパソコンやスマートフォンで聴けるサービスである。ライブ配信が基本となるが過去 1 週間以内に放送された番組を聴くことができるものの、アーカイブには対応せず、ダウンロードも 2 次利用も禁止されている。また、特定のタレントが出演している番組等、一部聴取できない番組がある。無料のサービスの場合、聴取可能な番組はリスナーがいるエリアで放送されているラジオ局の番組に制限され、エリア外の聴取は有料となるが海外からは聴取できない。したがって、ラジコは既存のラジオ放送事業者の番組のポータルまたはアグリゲーターに過ぎずない。 ## (3) コミュニティ放送局によるインターネットサイ マル放送 コミュニティ放送局によるインターネットサイマル放送は、難聴地域解消を目的として、 コミュニティ放送局が電波放送と同時にインターネット上にストリーミング配信するサー ビスであり、コミュニティ放送局の業界団体や民間企業が、アグリゲーターまたはプラットフォームとしてポータルサービスを提供している。 コミュニティ放送局は、概ね市区町村内の地域を放送エリアとして、地域に密着した情報を提供する民間の FM 放送局(総務大臣の免許が必要)である。コミュニティ放送局は全国に 315 局(2017 年 12 月現在)あり、内 240 局(2017 年 7 月現在)がサイマル放送を実施している。地域コミュニティのメディア、 プラットフォームとして、住民参加やボランティアによる地域密着の自主番組の制作が望まれるものの、実際は、衛星音楽放送など地域性の無いコンテンツを長時間放送するなど、参加と協働に基づく番組の割合は低く、コミユニティ放送の本来の役割が果たせていない放送局が少なくない。また、可聴人口が少な い地方圏ではコミュニティ放送局の経営は厳しく、一方、大都市圏では周波数が逼迫し新たな割り当てができず新規の開局は困難な状況にある。 東日本大震災後の放送法改正によってもともと零細なコミュニティ放送局に災害 FM (臨時災害放送局)として耐震化等の過度な防災対策を負わせたため、民間事業者として責任が果たせないと判断し放送免許を返上しインターネットラジオ専業に完全移行するコミュニティ放送局が出現した。コミュニティ放送の地域メディアとしてのビジネスモデルや災害放送局としての公共性を維持するためには、現状では住民によるガバナンスと自治体による財政的支援が不可欠となっている。 このように、電波放送自体の事業採算性や市民メディア、災害放送としての本来の存在意義が問われている中で、難聴地域解消という枠の中で著作音源の制約を受けるサイマル性に縛られ、Web ラジオの持つ潜在力を生かす戦略を展開できない状況では、コミュニティ放送局による Web ラジオは、地域にこだわりつつ地域を超えるグローバルな市民メディアとして、また、音声文化のアーカイブを支えるプラットフォームとしては期待しえない。 上記で見た通り、既存の放送事業者による Web ラジオへの参入は、レガシーなビジネスモデルや番組制作の権利処理などの商慣行を継承するもので、現状では電波による放送とは異なる Web ラジオの可能性を示すビジネスモデルもソーシャルモデルも存在しない。したがって、現存の Web ラジオは、音声文化のアーカイブや、市民や多職種の専門家による参加・協働型のナレッジマネジメント、災害時の相互支援ネットワーク、当事者のナラテイブを共有するピアサポートネットワークなどを支えるソーシャルプラットフォームになりえない。 ## 3. 新たな Web ラジオ「クレバーメディア」 のコンセプト 成熟化した市民社会では、ガバナンスや、多様な社会資源のネットワークによるナレッ ジマネジメント、公民連携による社会的課題の解決、ボーンデジタル時代におけるオーラルヒストリーやナラティブ、音声ドラマ、音楽などの音声文化の共有と 2 次利用のためのデジタルアーカイブなどを一体的に支えるプラットフォームが求められる。また、平常時の地域コミュニティの双方向のコミュニケー ションや社会関係、ポアサポート、市民参加と公民協働などを支える地域メディアを災害時には避難情報や安否確認、避難生活情報をリアルタイムかつ双方向に提供・共有する防災情報基盤として活用することが求められる。 こうした社会的なニーズを踏まえ、ソーシヤルイノベーションの実現を目指し、社会デザインの実践として、新たな Web ラジオ「クレバーメディア」を開発し、産官学により社会実験に取り組んでいる。以下では、クレバ一メディアの機能と運用コンセプトの概要を紹介する。 ## (1) ユーザーの利用環境 クレバーメディアは、上記で示した目指すべき社会像に基づき、Web ラジオの技術的な特性を最大限に生かしつつ、かつ、既存の放送事業のレガシーなビジネスモデルや商習慣にとらわれず、利用者やコンテンツクリエー ター、地域社会の利益を尊重した社会企業モデルに基づく運営方式を指向する。 リスナーの利用環境は、マスメディアからコミュニティメディアへ、さらには、パーソナルメディアとしてのニーズに対応することや、モバイル性を重視し、スマートフォンとタブレット PC のネイティブアプリケーションをターゲットとして先行開発している。今後、PC のブラウザーやスマートスピーカなど IoT 器機にも対応する予定である。Web ラジオといいながら、音声コンテンツを核としてテキストや動画、写真などの画像データを統合的に配信するサービスを目指し、動画、写真などは、既存の SNS や動画・写真の投稿・共有サービスとの連携を図る。ラジオというメディアが本来持つべき、リアルタイムな速報性、携帯性に加え、インターネットの特徴を生かし、多チャンネル・多言語に対応 するとともに、双方向性やコミュニティ性を活かし、利用者個人のプロフィールや関心、 ロケーションに応じた情報(番組と広告)のフィルタリングやリコメンデーション、個人やグループを特定したプッシュ配信(災害時等緊急割り込み)やGPS・Web-GIS と連動した安否確認、多チャンネルのストリーミングライブ配信番組の予約やアーカイブ番組や再生予約、ローカル音源の再生予約などパー ソナライズ可能な統合的なタイムシフト・ザツピング機能、アーカイブ性を考慮した番組検索のクリアリング機能、ローカルへの番組のダウンロード機能などを実現する計画である。 ## (2) 放送局の配信環境 放送局またはチャンネル管理者の運用環境は、クラウド環境で SaaS として提供する。放送局は Wifi に接続された PC またはタブレット PC があれば、どこでもスタジオとして、番組制作から番組の配信設定まで、さらには、 ライブ配信が可能となる。このような運用環境であるため、放送局の運営コストを電波によるラジオ放送局と比較すると Web ラジオは各段にローコストとなる。自治体が災害時にコミュニティ放送に基づく災害放送や防災行政無線の代替・補完として同システムを利用する場合に、停電や庁舎の被災などへの対応が考慮されている。加えて、衛星インターネツト回線を確保することで放送局サイドの通信の壳長性は格段に高まることとなる。放送技術者ではなく、一般の市民やボランティアスタッフが番組制作や番組配信のスケジュー ル設定に参加できるように、制作段階で番組コンテンツの時間(尺)を厳密に意識しなくても、広告等の差し込みや番組間の移行の調整を自動でサポートする機能を有している。 ## 4. まとめ 本発表では、既存の Web ラジオの限界を指摘し、現在開発中の Web ラジオの開発コンセプトを紹介した。情報システムとしては既往の要素技術を利用しており、特段の新規性や先進性はないものの、実装する機能は、目指すべき社会モデルを前提にデザインされている。同システムの研究開発は、立教大学社会デザイン研究所と一般社団法人協働プラットフォームが協働し、民間からの寄付金等に基づき推進している。2017 年より茨城県境町の協力を得て、同システムの災害時利用の実証実験に取り組んでいる。なお、同町は、ふるさと納税を利用したクラウドファンディングにより本システムの研究開発を支援しており、 この成果は境町に貢献するとともに、全国の自治体とシェアし、大学発ソーシャルベンチヤーによる開発と運用を通じて、経済性、有効性に課題がある現状の自治体防災情報システムや地域情報化投資を抜本的に見直す契機としたい。今後、Web ラジオのプラットフォ一ムが、映像等の地域デジタルアーカイブやソーシャルメディア他のプラットフォームとも連携して、音声文化のデジタルアーカイブの一翼を担えるように、音声文化の共有・二次利用の観点からも、パブリックドメインの利用、二次利用を前提とした権利処理やメタデータ管理、適切な課金方法などについてもコンセンサスを得てゆきたい。また Web ラジオの普及がデジタルディバイドによる社会経済的、文化的な格差を生じさせないように、当事者や支援者をはじめ行政、企業のプロボノやボランティアなどとの協働を重視するガバナンスに努めたい。 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B22] デジタルアーキビスト講座の取り組み: ○塩雅之, 町英朋, 坂井知志 常磐大学総合政策学部, $\overline{\text { T }} 310-8585$ 水戸市見和 1-430-1 E-mail: shio@tokiwa.ac.jp ## Attempt of Child's Digital Archivist Course: SHIO Masayuki, MACHI Hidetomo, SAKAI Tomoji Tokiwa University, 1-430-1 Miwa, Mito-shi, Ibaraki, 310-8585 Japan ## 【発表概要】 平成 29 年度子どもゆめ基金の助成を受け、日本デジタルアーキビスト資格認定機構東日本支部が中心となり茨城県水戸市、茨城県高萩市、島根県大田市の 3 か所で「子どもデジタルアーキビスト養成講座」を実施する。会場ごとに異なる内容・時間でのカリキュラム開発を行って実施し比較することにより、子どもデジタルアーキビストの養成カリキュラムとしてより適切なものを目指した。この取り組みについてまとめ、今後の展望を合わせて報告する。 ## 1. はじめに 本稿は、平成 29 年度子どもゆめ基金助成「子どもデジタルアーキビスト養成事業」に基づき、日本デジタルアーキビスト資格認定機構東日本支部が中心となり、茨城県水戸市、茨城県高萩市、島根県大田市の 3 か所で行う 「子どもデジタルアーキビスト養成講座」について述べたものである。予稿執筆段階では講座が実施前のため、予稿では講座の計画について述べる。 近年、スマートフォンを含めたデジタルカメラの普及により、日常的な風景、建築物、祭りなどの伝統文化といったさまざまなコンテンツがデジタル化して記録することは容易となっている。しかし、ただ記録しただけでは、将来振り返った際にその記録がどのような記録であるのかの詳細がわからないため利用できなかったり、公開するために必要な権利処理が行えないため公開できないということがおきうる。東日本大震災の際には震災の記録として東日本大震災アーカイブが作られたが、アーカイブにあたり、その記録のメタデータを作る・公開のための権利処理を行うためには多大な労力を要した。また、東日本大震災の際には、アマチュアカメラマンの方が日常的に撮影していた町の風景が、失われてしまった町の風景として貴重な記録となった。伝統文化や歴史的建造物だけでなく、日常的な街並みや風習といったものも将来に残 していかなければいけないものといえる。こうした記録を公的機関や特定の企業だけで行っていくことは難しく、市民の参加が不可欠といえる。そのためには、記録の必要性を理解し、デジタルアーカイブとして将来的に利用できる記録を残せる人材の育成が必要となる。 また、2017 年 9 月から内閣府、総務省、文部科学省などのもとで取り組まれはじめた国家プロジェクト「知的財産推進計画 2017」[1] においても「2020 年とその先の日本を輝かせるコンテンツ力の強化」の一つとして「デジタルアーカイブの構築」があげられている。推進計画には「我が国における分野横断画家統合ポータル構築におけるアーカイブ間の連携と利活用を促進する」という目的に沿い、今後取り組むべき施策が示されている。そこでは「(1)アーカイブ間連携と利活用の促進」 [1, p.82]の中で「地方におけるアーカイブ連携の促進」があげられており、地方ゆかりの文化情報などのコンテンツの収集や利活用の促進がうたわれている。さらに「(3)アーカイブ利活用に向けた基盤整備」[1, p.84]の中で 「アーカイブ関連人材の育成」があげられている。これらのことからも、地方における文化情報をアーカイブしてゆく人材育成が重要であることがわかる。 現在は、高校生、大学生、社会人を対象としたデジタルアーキビストの資格養成は行わ れているが、小中学生の養成については、顕著なものはみられない。デジタルアーカイブについての確かな知識を定着させることを要求する高校生以上で取得可能な各種デジタルアーキビストの資格とは異なり、演習を通して地域文化の記録を残すことの重要性、何に気を付けて撮影・記録しなければならないかを理解してもらうことに重点を置きカリキュラムを開発した。この講座を通して地域文化の記録、デジタルアーカイブに興味・関心を持ってもらい、将来的に地域文化の記録活動やデジタルアーキビスト資格取得に結び付けていけたらと考える。 ## 2. 本研究の目的 本研究では、小・中学生を対象とした「子どもデジタルアーキビスト」の養成カリキュラム開発を目的としている。また、青少年教育活動においては、著作権 - 肖像権 - 個人情報を無視して行われることが頻繁に起きている。現在のデジタル社会においては、そのことはリスクとして大きな問題になり得る。そこで、地域の文化をデジタル化することを通じて、どのような権利処理・メタデータ及び位置情報の付与が必要かを学ばせることで、子どもデジタルアーキビストとして活動できる人材を育成する。 2017 年度は、子どもゆめ基金の助成を得て、茨城県水戸市、茨城県高萩市、島根県大田市の 3 会場で講座を行う。基本となる内容は統一するが、会場ごとに日程と一部内容が異なるカリキュラムで実施し、実施後の評価を行うことにより、より適切なカリキュラムが何かを明らかにする。 ## 3. 養成カリキュラム ## 3. 1 共通事項 講義と演習(ワークショップ)を組み合わせた養成カリキュラムとしている。 講義については、デジタルアーカイブとは何か、地域文化の記録の重要性、権利処理の必要性の理解を中心とした。権利処理については、利用許諾についてのフォーマットを利用して、民話や映像の許諾を得る方法やインタビューの方法を学ぶ。また、常磐大学の中村教授が開発した視覚障がい者向け触覚型教材を利用して、障がいを持つ人向けのデジタルアーカイブの活用についても学ぶ。 演習については、デジタル撮影、メタデー 夕記録、活用としてパワーポイント資料作成を行う。デジタル撮影では、デジタルビデオカメラまたはデジタルスチルカメラの使用法を学び、実際に撮影を行う。会場ごとに撮影対象(テーマ)を定め、撮影を行う。最後にパワーポイントを利用して、音声や画像、そしてメタデータが付されたパッケージデジタルアーカイブを作成する。その際、子どもの作成した成果物に対する著作権処理としてクリエイティブコモンズについて説明を行う。 講座修了時には、子どもデジタルアーキビスト養成講座の受講証明書を発行し、受講者に手渡すこととした。また、最後に講座についての簡単なアンケートを実施し、カリキュラムの評価に利用することとした。 以下、各会場で行われる講座について述べる。 ## 3.2 茨城県水戸市 茨城県水戸市では、指定管理団体と協力し、見和図書館にて講座を実施する。(表 1) 「図書館の仕事」を記録対象とし、参加者を 4 グループに分け、グループごとに記録テ一マを用意する。一般に知られている本の貸出業務だけでなく、本の修復、本の登録といった図書館のバックヤード業務や子育てコンシェルジュといった見和図書館独自の取り組みについて記録する。互いのグループの成果を見ることで、図書館についての理解を深めることも一つの目的とした。参加者には、参加希望をとる段階で、興味のある内容を聞き、 グループ分けを行うこととした。本の修復および貸出しについては、デジタルスチルカメラの撮影に加え、デジタルビデオの動画撮影を併用することとした。 また、記録を最初に行い、後に記録したものを振り返る形をとった。これは、講義から入るよりも演習から入った場合の効果を比較 するためである。 日程は、土曜日の午前 10 時から 12 時を 4 週続けて行うこととした。これは、参加者が小・中学生であることを考慮し、長時間の講座を受けることに対する配慮の必要性を確認するためである。 表 1. 茨城県水戸市の講座カリキュラム } & 講義 & 撮影の基本 \\ ## 3.3 茨城県高萩市 茨城県高萩市では、高萩市教育委員会と協力して講座を実施する。(表 2) 高萩市には古くから伝わる言い伝えなどが多く残っている。高萩市教育委員会が 5 年間にわたり聞き取り調査を行い、方言のままの語りをまとめた「高萩の昔話と伝説」[2]が 1980 年に発刊されている。高萩市教育委員会では、この昔話や伝説を広く郷土教育に役立てていく方針であり、2017 年 5 月には朗読講座を開講したり、2017 年 9 月には昔話などを伝えられる人を育てる「あなたの声で伝える朗読講座」を実施したりしている。高萩市教育委員会としては、本講座を受講して興味関心を持った子どもが高萩の昔話と伝説をデジ タルアーカイブする活動をするようになって欲しいという思いを持っている。 昔話の語り部の方に実際に昔話を講談してもらい、それを撮影対象とすることとした。講談については、デジタルビデオカメラでの撮影を行う。その後の Power Point の資料作成では、グループごとに講談された昔話について、昔話についての絵を描き、それをデジタルカメラで撮影して取り込み、自身が語り部になり講談を録音して資料を作っていく。 日程は、連続する土日の 1 日半とした。 表 2 . 茨城県高萩市の講座カリキュラム & 講義 & \\ ## 3. 4 島根県大田市 著者らが所属する常磐大学と同じくデジタルアーキビスト養成機関である島根大学の教育推進センターと協力し、大田市教育委員会の後援で実施する。島根大学の教育推進センターでは、デジタルアーカイブクリエイター の資格講座やフォローアップ講座を実施しており、デジタルアーキビスト養成に力を入れている。 大田市の日程は、1 か月半ほど間を置いた 2 日間で行う。これは、必要に応じて 2 回目までに各自の考える「ふるさと大田」を記録してもらうためである。講座外での撮影を含めたカリキュラムの評価を行うためでもある。 表 3. 茨城県高萩市の講座カリキュラム } & 講義 & $\cdot$子どもデジタルアーキビス \\ ## 4. おわりに 3 会場で行う子どもデジタルアーキビストの養成講座のカリキュラムを開発した。カリキュラムの開発については、協力団体と交渉 を行って詳細を詰めていったが、作業用 PC の有無やネットワーク環境の有無、付近の撮影対象の有無といった会場に起因する制約もあった。 発表の際には、講座を行った結果をふまえて各カリキュラムについての評価を行い、報告する予定である。今回は各会場の地域の特色を取り入れた演習内容を考えたが、どこでも一様に実施できる演習が良いのかどうかを含めて振り返りたい。 ## 参考文献 [1] 知的財産戦略本部. 知的財産推進計画 201 7. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/k ettei/chizaikeikaku20170516.pdf(閲覧 201 $8 / 1 / 6$ ). [2] 高萩市教育委員会編集, 高萩の昔話と伝説. 1980 . この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B21] IIIF の研究活用と課題「顔貌データセット」構築を 事例に ○鈴木親彦 情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 人文学オープンデータ共同利用センタ 一, 〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋 2-1-2 1517 号室 E-mail:ch_suzuki@nii.ac.jp ## Between Data Provider and Data User of IIIF A Study of Constructing Facial Expression Data Set SUZUKI Chikahiko Center for Open Data in the Humanities, Joint Support-Center for Data Science Research, Research Organization for Information and System, 2-1-2 Hitotsubashi, Chiyoda-ku, Tokyo, 101-8430, Japan ## 【発表概要】 本発表では、人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)によるデータ提供事例と、各機関が IIIF (International Image Interoperability Framework)に則って提供している画像を横断的に研究活用した事例を示す。それを踏まえ、データ提供者と提供されたデータを実際に利用する活用者の両面からデジタルデータのあり方の議論を提起する。 発表者は CODH の一員として IIIF に準拠した様々なデータを提供している。一方で、アーカイブ横断でIIIF 画像を自由に切り抜きリスト化し「キュレーション」できるツール「IIIF Curation Viewer」を利用して研究を行うデータ活用者でもある。キュレーションによってアー カイブを横断的に利用できる一方、公開と活用のはざまにある課題も明らかになる。例えば、キユレーションにいかなるメタデータを付与するべきか、出典はどう記載すべきか、キュレーション間の引用ネットワークをどう示すか、などである。最終的には公開者の存在が見えなくなる可能性や、予め公開者が意図した目的と異なった活用がなされる可能性も考えられる。これは今回の事例にとどまらない、デジタルアーカイブが普及する中で広く考えるべき問題でもある。 ## 1. はじめに 本発表では、人文学オープンデータ共同利用センター (Center for Open Data in the Humanities : 以下、CODH)の研究活動を紹介することを通して、データ提供とデータ活用両面の事例を示す。そのことから、デジタルアーカイブの進展の両輪といえる提供・活用の間で、調整すべき課題を議論する。 $\mathrm{CODH}$ は 2017 年 4 月より正式に活動を開始した情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設に属する組織である[1]。国立情報学研究所と統計数理研究所の共同研究、国内外の人文学研究機関との連携を軸に、人文学分野におけるデータのオープン化と共同利用推進を目的とし、研究・支援活動を進めている。発表者は 2017 年 4 月から $\mathrm{CODH}$ に所属し、人文学側に立脚した研究者として研究業務に従事してきた。 CODH はデジタル・ヒューマニティーズ (人文情報学)の方法論を取り入れたデータベースやツール開発・公開をおこない。研究資源の利活用を推進するためのセミナーやチュートリアルを開催して、データが駆動する人文学研究の普及に努めている。人文学オ一プンデータ推進のために、いわばデータ提供者としての役割を果たしているといえる。 その一方で、各種オープンデータの人文学における活用事例を示し共有するデータ活用者としての側面も持っている。例えば発表者は各機関が公開するデジタル画像を活用して美術史学の研究を行っている。 そこで次項では $\mathrm{CODH}$ が提供するデータについて、次々項ではデータを活用した事例について示す。そして最後に、二つの活動の中で確認できた提供者側と活用者側のギャップとそれを埋めるための方法を考察する。 ## 2. データ提供者として: $\mathrm{CODH$ の活動} ## 2. $1 \mathrm{CODH$ によるデ一夕提供} $\mathrm{CODH}$ は 2017 年 12 月現在、 5 種類のデー タセットを公開している。また、提供するデ一タやツールなどを活用したプロジェクトも CODH サイト上で公開している。ここでは、 データが充実している例として、「日本古典籍データセット」および「ディジタル・シルクロード」を紹介する。 ## 2.2「日本古典籍データセット」 CODH は国文学研究資料館が中心となって推進寸る大型研究プロジェクト「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(歴史的典籍 NW 事業) と協力し、国文研が所蔵する古典籍のデジタル画像を「日本古典籍データセット」(図 1)[2]として、高解像度で公開している。2017 年 12 月にデータをさらに拡充し、公開作品数は 1,767 (コマ数 329,702 )となった。 図 1.日本古典籍データセット 「日本古典籍データセット」では、次項で詳細を述べる IIIF (International Image Interoperability Framework) を用いて古典籍の画像を提供している。このことで、人文科学から自然科学までの大規模画像データベ ースを視野に入れた、国際的なコミュニティ活動を推進している。 $\mathrm{CODH}$ のデータセットには他に、古典籍から切り出したくずし字の字形と座標情報を機械や人間の学習データとして提供する「日本古典籍字形データセット」、江戸時代の料理本『万宝料理秘密箱卵百珍』のメニューを翻刻・現代語訳・現代レシピ化してクックパッドにも提供している「江戸料理レシピデータセット」などがある。「日本古典籍データセッ卜」はこれら CODH が提供する各データの軸となっている。 ## 2. 3 「ディジタル・シルクロード『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」 国立情報学研究所によって、2001 年に開始され、現在は CODH サイト上で公開されているディジタル・シルクロード・プロジェク卜(図 2)[3]では、文化と情報技術の融合によってシルクロード研究と文化遺産保護を目指すものであり、写真や地理情報など複数のデジタルコンテンツを公開している。 『『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」は、その中でシルクロードに関係する書籍データを提供するアーカイブで、東洋文庫が所蔵するシルクロードに関する貴重書のメタデータと版面画像 245 冊分を公開している。 2017 年には版面画像に IIIF を用いた高解像度版を追加するとともに、各書籍に DOI を付与して「人文学研究データリポジトリ」で公開している。このことで、検索性を高めるとともに研究データとしての引用を行いやすく している。 ## 3. データ活用者として:IIIF と IIIF Curation Viewer、「顔貌データ」の構築 ## 3. $1 \mathrm{IIIF$ による画像データ活用} 前項で示した CODH のデータ提供にも利用されている IIIF は、研究分野間の分断や組織によってサイロ化の危機にあるとされるデジタル画像を相互参照・運用可能にしようとするコミュニティ活動で、同コミュニティが提案している標準化した画像アクセス手法の呼称でもある[4]。通常は「トリプルアイエフ」と読まれる。 IIIF に三種類の API が準備されている。画像へのアクセスを定める IIIF Image API、書籍など画像の集合体の構造を定める IIIF Presentation API、そして検索に基づくアクセスを定める IIIF Search API である。IIIF の API 仕様は公開されており、対応したオー プンソースのソフトウェアが既に複数作られている。こうしたソフトウェアを改良して IIIF の使い勝手を向上させることで、さらにユーザーが集まるという好循環もうまれている。例えばビューワーとして定着し、研究者にも利用されているものとして Mirador と Universal Viewer がある。 CODH でも IIIF 規格に対応した画像ビュ ーワー「IIIF Curation Viewer」を開発している[5]。このビューワーには新たに「キュレ ーション」と呼ぶ機能を搭載している。元来は美術およびミュージアムの用語として使われ、最近は情報をある方針で整理することにも使われる概念に基づいた機能である。 前述の IIIF Presentation API は、書籍などをデジタル画像として提供するというニー ズに従って設計されており、デジタル化される前の元の物理的な資料を基本単位としている。そのため、複数の資料から研究者が必要な情報を抜き出して再整理し、新たな視点を提供するというキュレーションを実現することが難しかった。そこで新たな規格として資料を横断して画像を提供できる Curation API を提案し、対応したツール IIIF Curation Viewer を公開することで、複数の対象から自在にキュレーションする環境を整えた。 ## 3.2「顔貌データ」の研究利用 発表者は IIIF Curation Viewer を利用して画像をキュレーションし、美術史研究のための新たな画像リストを $\mathrm{CODH}$ サイト上に作成・公開している[6]。ここではその端的な例として絵画に描かれた「顔貌」をまとめた例を紹介する。 「奈良絵本顔貌データセット」(図 3)は、日本古典籍データセットで 2017 年 12 月以前の段階で公開されていた絵入本・絵巻、通称「奈良絵本」の挿絵から、登場人物の顔貌をすべて抽出したキュレーションである。現在は 20 作品について、絵画・挿絵部分から抽出した顔貌が容易に一覧で確認できるように公開している。 図 3.「奈良絵本顔貌データセット」より『宇津保物語』の顔貌 発表者はさらに、他機関が IIIF によって公開している奈良絵本についても横断的に顔貌をキュレーションし、これまで見出されていなかった作品の関係を新たに発見する研究も行った[7]。 ## 4. 公開と活用のはざまで 以上のように CODH は、オープンデータを中心に人文学データを提供する活動と、人文学データを活用して研究を進める活動を行っている。両方の活動に関わることによって、 データを公開・提供する側と、データを利用する側の立脚点の違いもまた明らかになって きた。 IIIF Curation Viewer は IIIF 画像を横断的にリスト化し、サムネイル化して一覧表示する機能を持っている。このサムネイル化と一覧表示というのは、多くの画像系のアーカイブで提供されている基本的なサービスでもある。その場合は、検索の利便性やメッセージ伝達など、提供者側の何らかの意図に基づいてサムネイルリストが提供されているが、 IIIF Curation Viewer はこのリスト化の主体を、提供者側から利用者・研究者側へと移す機能を持つということができる。 これは、例えば美術史研究などにとっては非常に有用で、デジタル画像を活用して研究を促進させる可能性を持つ機能である。その一方で提供者の視点に立ってみると、想定外の利用のされ方を生み、場合によってはキュレーションを行った利用者の名前のみが前面に現れ元データの提供側の存在が見えなくなる危機感を覚える機能でもある。将来デジタルアーカイブを横断する利便性の高い検索システムや大型研究が登場した場合、この危機感はより広範に発生する可能性もある。 だからといって、キュレーションの有用性を制限すべきとはいえない。利用者による様々な活用を制限するのは本末転倒である。 デジタルデータの適切な引用について利用者側、特に人文系の研究者に適切な作法が定着することで、この問題の幾分かは解決できるはずである。例えば国文学研究資料館は、 DOI (Digital Object Identifier) を適切に利用した引用の普及活動を行っている。 また、今や大きな流れになっているオープンデータの先行例を参照にすることも必要である。適切なメタデータ付与やデータ公開へのインセンティブの付与などは、多くのデジタルデータ提供者、アーカイブ運営者にとっても共有の課題といえる[8]。CODH の活動もまた、人文学におけるオープンデータ促進 を目指している。 ## 参考文献 [1] 人文学オープンデータ共同利用センター. “CODH の概要”. 人文学オープンデータ共同利用センター. http://codh.rois.ac.jp/about/ (閲覧 2017/12/31). [2] 人文学オープンデータ共同利用センター. “日本古典籍データセット”. 人文学オープンデ一タ共同利用センター. http://codh.rois.ac.jp/ pmjt/(閲覧 2017/12/31). [3] 人文学オープンデータ共同利用センター,国立情報学研究所. “ディジタル・シルクロー ド”。人文学オープンデータ共同利用センター,国立情報学研究所. http://dsr.nii.ac.jp/ (閲覧 2017/12/31). [4] International Image Interoperability F ramework. "about". International Image I nteroperability Framework. http://iiif.io/ab out/(閲覧 2017/12/31). [5] 人文学オープンデータ共同利用センター. “IIIF Curation Viewer". 人文学オープンデ一タ共同利用センター. http://codh.rois.ac.jp/ software/iiif-curation-viewer/(閲覧 2017/12 /31). [6] 人文学オープンデータ共同利用センター. “日本古典籍キュレーション”. 人文学オープンデータ共同利用センター. http://codh.rois.ac.j p/pmjt/curation/(閲覧 2017/12/31). 人文学オープンデータ共同利用センター. “III F グローバルキュレーション”. 人文学オープンデータ共同利用センター. http://codh.rois.a c.jp/curation/(閲覧 2017/12/31). [7] 鈴木親彦, 高岸輝, 北本朝展. IIIF Curati on Viewer が美術史にもたらす「細部」と 「再現性」絵入本・絵巻の作品比較を事例に. 人文科学とコンピュータシンポジウム論文集 2017. 2017, 11. pp157-164. [8] 林和弘,村山泰啓. 研究データ出版の動向と論文の根拠データの公開促進に向けて. 科学技術動向 148 号. 2015. pp.4-9 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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