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} | 「な、なんと! 私と店長殿の間の信頼関係は!? 私の幻想だったのか?」
「あ、信頼はしていますよ? もちろん。単に主な理由が違うだけで」
私は慌ててフォローを入れつつ、なぜアデルバート様ではダメなのか、その理由を説明する。
「サラマンダーと戦うなら、ブレスと熱に対応する防具が必要ですが、そのための素材があまりないんですよ」
先日処理を終え、防熱素材として師匠かレオノーラさんに販売するつもりだった溶岩トカゲの革。
あれを使えば、サラマンダーと戦うために必要な最小限の防具は手に入る。
ただ、今手元にあるの分の革でしかない。
ブーツと手袋、それにコートを作るとなれば、小柄な私とアイリスさん、ケイトさんでギリギリだろう。
のどちらかの代わりにカテリーナさんという選択肢はあるにしても、明らかに大柄なアデルバート様は、どうやっても無理である。
「今手元にある、途中まで処理が終わっている溶岩トカゲの素材を使っても、完成までほど。新たに取りに行っていては、とてもじゃないですが......時間的余裕、ありますか? 借金の支払期限、ありますよね?」
おそらくは万策尽きたからこそ、アイリスさんを迎えに来たはず。
案の定、アデルバート様は厳しい表情で、深く唸る。
「むむむ、厳しいな......。二ヶ月......いや、引き延ばせば月はいけるか?」
「それでは無理ですね。サラマンダーを首尾良く斃せたとしても、現金化する必要がありますから」
普通なら錬金術師のお店に持ち込めば、その時点でお金に替わるんだけど、私がその錬金術師。
この村に持ち帰ったとしても、簡単に現金化できたりはしない。
......あ、持ち帰り。そっか、それがあったか。
「あの、アデルバート様、それにカテリーナさん。もしよろしければ、行き帰りについて、ご協力いただけませんか?」
「と、言うと?」
「サラマンダーを倒した後は、それを持ち帰る必要があるのですが、私とアイリスさん、ケイトさんの三人だけでは......」
「なるほど。力は儂の方があるな」
「この村の採集者を荷物持ちとして連れて行っても良いのですが、それだと、報酬の分配が必要になりますからね。貴族であるアデルバート様に雑用をさせるようで申し訳ないのですが」
「なに、それに関しては気にする必要は無い。儂なぞ、所詮は木っ端貴族。それを言うなら、アイリスは一応、貴族の令嬢だぞ?」
「お父様!
「事実ではないか。礼儀作法よりも先に剣術を覚えおって......」
諦めと呆れを込めた視線をアイリスさんに向けつつ、アデルバート様は頭を振るが、そんな彼に対しても、呆れた視線が一つ向けられる。
カテリーナさんである。
「アデルバート様。アイリス様に喜々としてそれを教えたのは、アデルバート様ですよ? 『お父様みたいになる!』と言われて、それはもう嬉しそうに」
「......そのような事、あったかな?」
記憶に無いとばかりに、とぼけたように応えるアデルバート様だが、逸らされた視線が全てを物語っている。
「ありましたよ。木の枝を振り回すアイリス様を窘めるどころか、緩んだ表情で見てたじゃないですか。私、奥様にどうしたら良いか、相談されましたから」
「それ、私も覚えています。私がママから弓を習うきっかけになったのも、それですから」
ケイトさんはアイリスさんよりも年上。
アイリスさんが木の枝を振り回せる年齢であれば、当然、ケイトさんの記憶もしっかりとしているだろう。
「アイリス様が大きくなった時、それを支えられる人が必要でしたからね。アイリス様が普通の令嬢と同じ方向に興味を持たれるようなら、ケイトの教育も、そちらになる予定だったのですが......」
カテリーナさんはアイリスさんを見て、『ふぅ』と深くため息をつく。
「うっ、ケイト、すまない。付き合わせてしまったな」
「別に構わないわよ。私も変に礼儀作法を習わされるより、弓の修行の方が楽しかったから。幸い、それなりに素質もあったみたいだし?」
少し申し訳なさそうなアイリスさんに、ケイトさんは朗らかに笑う。
実際、ケイトさんの腕前を考えるに、その言葉に嘘は無いのだろう。
対してアデルバート様は、話を続けると自分が不利と思ったのか、一つ咳払いして話題を元に戻した。
「ゴホン。それでサラサ殿、実行はいつ頃になりそうなのだ?」
錬成具
を用意する事になりますから......一ヶ月後にここを出発。それぐらいの予定で動きましょう」
「なるほど。では儂たちは一度戻る必要があるな。引き延ばし工作の指示も出さねばならぬし、事情の説明も必要だろう」
「ですね。――話をすると、ウォルターも来たがると思いますが」
「そうもいかぬだろう。ウォルターには家宰として役割がある」
借金の契約に関してはミスがあったようだけど、人間ながらエルフであるカテリーナさんを射止めただけあって、武力、知力、そして優れた容姿まで備えた俊英。
普通なら、ロッツェ家の小さな枠に収まるような人物では無いのだが、彼がいるからこそ、当主であるアデルバート様がこうしてここに来られているようだ。
逆に言うと、彼が抜けてしまうと、ロッツェ家は機能不全、借金の支払期限に関する交渉も行えなくなるほど重要な人物である。
「......あれ? それならむしろ、アデルバート様の代わりに、その方が来られた方が」
今回、アイリスさんを連れ戻すという目的では、当主で父親のアデルバート様が来る意味はあると思う。
結婚に関する重要な話なのだから、多少の無理をしても父親がアイリスさんに、きちんと説明するべきだろう。
でも、次回は単なる護衛と荷物持ち。
一度戻るのであれば、貴族で当主のアデルバート様が来る必要なんて無いんじゃ?
そんな私の当然の疑問に、ロッツェ家の人たちは揃って沈黙した。
「「「.........」」」
「おや?」
首をかしげた私に対し、アイリスさんが困ったような笑みを浮かべながら、曖昧に口を開いた。
「あ~、店長殿。とても言いづらいのだが......ウォルターにお父様の代わりはできるのだが、その逆は......」
チラリとアデルバート様に目を向ければ、彼は渋面で腕組みをして、まるで私の視線を避けるかのように目を閉じていた。
なるほど、訊いちゃダメな事なんですね?
大丈夫です。私、空気が読めますから。
――たぶん、書類仕事とかが苦手なんだろう。アイリスさんの父親だし。
「さ、さて! それじゃ、詳しい事を決めましょうか!」
空気は読めても、対処できるとは言ってない。
私はやや強引ながら話を変え、今後の予定についてアイリスさんたちと話を詰めるのだった。
◇ ◇ ◇
師匠にお伺いを立てたところ、『一般的な強さのサラマンダーなら、お前が頑張れば大丈夫じゃないか?』という、とても頼もしい(?)返答をいただいた。
頑張る......もちろん、そのつもりだけど、少々心許ない。
だって私、戦いの専門家じゃないので。
なので、本業で頑張る。
何より重要なのはサラマンダーのブレスを防ぐための“防熱コート”。
このコートの構造を大まかに言うなら、表面には溶岩トカゲの革を加工した物、それの裏打ちがヘル・フレイム・グリズリーの革。
その下に断熱素材を配し、一番内側には何か適当な革で裏地をつける。
この中で一番重要なのは、当然、溶岩トカゲの革。
裏打ちは予算次第で別の革を使っても良いんだけど、今回はコスト度外視で、少しでも効果を高めるため、ヘル・フレイム・グリズリーの革をチョイス。幸い、ウチには在庫もあるしね。
断熱素材は魔道コンロに使った物の応用品、裏地の革に付加する冷却機能は、冷却帽子などと似た仕組み。
だからなのか、実はこのコート、載っているのは錬金術大全なんだよね、実は。
そして私は未だ、四巻が終わらず。
だからこそ、溶岩トカゲの革は下処理だけして売るつもりだったんだけど......今回の事で、そうもいかなくなったわけで。
なので今は、わずかに残っていた四巻の
素材だけはそろえていたので、後は頑張るだけ!
ちょっとばかし、睡眠時間を削ってね!
そんな事をしていると、ロレアちゃんには心配をかけてしまったようで――。
「サラサさん、大丈夫ですか? かなり無理しているように見えますが......。何かお手伝いできれば良いんですが」
お店の方をほぼロレアちゃんに任せっきりで工房に籠もっていたら、ご飯と呼びに来たロレアちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
徹夜も三日目、ちょっと隈ができちゃってるからなんだろうけど、このぐらいならまだ問題はない。
「大丈夫、大丈夫。ロレアちゃんは料理を作ってくれているだけで、十分助かってるよ。それが無かったら、私も無茶できないもの」
錬金術師が食事も忘れて研究に没頭、なんてことはよくある事だけど、錬金術師もれっきとした人間。そんな事は何日もは続かない。
その点、私は毎食、きちんとした食事が提供されているので、長期間でも倒れる事無く頑張れている。
「なら良いのですが......あまり無理はしないでくださいね? せめて、体力のつく物を作りますから」
ロレアちゃんにも今回の事情はきちんと伝えていて、ロレアちゃんはアイリスさんの状況に憤慨、できる限りの協力を約束してくれている。
それ故、私が徹夜で工房に籠もっていても、無理に休めとは言わないのだろう。
「うん、ありがとう。ロレアちゃんの料理はいつも美味しいから、本当に助かってるよ」
私がにこり笑って、そうお礼を言うと、ロレアちゃんが照れたようにはにかむ。
「店長殿、私たちにできる事はあるだろうか? ロレアのような料理は無理なのだが」
「錬金術に関しても、よく判らないしね、私たち」
「う~ん......、でしたら、鹿でも狩ってきてもらえますか?」
正直に『何も無いです』と言うのも申し訳ないと、ひねり出してみた答えに、アイリスさんとケイトさんは顔を見合わせて首をひねった。
「鹿? ごく普通のか?」
「魔物とかではなく?」
「ええ、普通の鹿。皮が必要なんですよね」
防熱コートの裏地に使う革は、これと言った制限が無い。
問題となるのは着心地だけなので、肌触りやコスト面などから、鹿なんかがちょうど良い。
処理済みの革を買うつもりだったけど、アイリスさんたちが狩ってきてくれるなら、全部自前で処理ができるので、普通の鹿革を買うよりはちょっとだけ高性能にできる。
わずかな差が生死を分ける可能性が無いとも言い切れないし......うん、これは良いお仕事じゃないだろうか?
「なるほど。それが店長殿の助けになるのなら、すぐに行ってこよう」
「そうね。狩りなら、私、得意だからね」
「ウチの食卓に上る肉は、ケイトかカテリーナの狩ってくる物だったからな」
「狩ってこないと、食べられなかったからね」
実はケイトさん、ロッツェ家の領地にいる時は、時々訓練と食糧確保を兼ねて、鹿狩りに行っていたらしい。
その結果として育まれたのが、あの腕前。
きっと容易に鹿を狩ってきてくれるに違いない。
「それでは、よろしくお願いします。そこまで急がなくても良いので」
「あぁ、任せてくれ!」 | Money Factories ()
"Hey, my God! What was the relationship of trust between me and Lord Store Manager!? Was it my fantasy?
"Oh, I trust you, don't I? Of course. Simply for different main reasons."
While I rush in to follow up, I explain why I can't do this with Dear Adelbert.
"If we're going to fight salamanders, we need braces and heat protection, but we don't have a lot of material for that."
Lava lizard leather that I had recently finished processing and intended to sell to my master or Mr. Leonora as a heat proof material.
With that, you get the minimum amount of protective equipment you need to fight a salamander.
However, all I have on hand now is four pieces of leather.
Boots and gloves, and if you were to make a coat for it, you'd be critical with little me, Mr. Iris, and Mr. Kate.
Even though we have the option of Mr. Caterina instead of either of us, obviously the big Dear Adelbert, can't do anything about it.
"Even with the lava lizard material we have on hand right now, which has been processed until halfway through, it's about a month until it's done. I'm on my way to pick it up anew, and it's not very... spare time, do you have any? There's a debt payment deadline, right?
You should have come to pick up Mr. Iris, probably because you ran out of measures.
Advice, Master Adelbert has a harsh look and roars deeply.
"Mmm, that's tough...... Two months...... no, if we postpone it, can we do three months?
"Then you can't. Even if you kill Salamander, you need to cash in."
Normally, if you bring it into an alchemist's shop, I'll replace it with money at that point, but I'm the alchemist.
Even if I brought it back to this village, it wouldn't be easy to cash it in.
... Ah, take it home. Oh, my God, did you have that?
"Um, Master Adelbert, and Mr. Caterina. If you don't mind, could you help us with getting back and forth?
"And say?
"After we defeat Salamander, we need to bring it back, but not just me, Mr. Iris and Mr. Kate..."
"I see. The power is better than the power."
"You can take the collectors from this village as luggage holders, because then you'll need to distribute the rewards. I apologize for causing the nobleman, Lady Adelbert, to chore."
"What, you don't have to worry about that. No, it's a wooden nobleman. If that's what you mean, Iris is a noble lady, isn't he?
"Father! One (...) responds (...) is terrible."
"Isn't that true? Remember swordsmanship before courtesy..."
Master Adelbert shook his head as he turned his gaze toward Mr. Iris, giving up and shuddering, but one shuddering gaze toward him as well.
It is Mr. Caterina.
"Dear Adelbert. It was Lady Adelbert who taught Iris that with pleasure, wasn't it?" I'll be like your father! 'And they say,' That already seems happy. "
"... did that happen?
Dear Adelbert, who responds as if it were not in his memory, but his misguided gaze tells the story of everything.
"There was. Instead of embarrassing Master Iris wielding a tree branch, you saw it with a loose look. I've talked to your wife about what to do."
"I remember that, too. That's what inspired me to learn bows from my mom."
Mr. Kate is older than Mr. Iris.
If Mr. Iris was old enough to wield a tree branch, he would naturally have a solid memory of Mr. Kate as well.
"When Iris grew up, he needed someone to support him. If Iris is going to be interested in the same direction as a regular courtier, Kate's education was going to be there..."
Katerina looks at Mr. Iris and sighs deeply with 'Phew'.
"Ugh, Kate, I'm sorry. You made me go out with you."
"It doesn't matter. Because I also had more fun training bows than I was weirdly taught to be polite. Luckily, it seemed to have a lot of qualities, too?
Kate laughs furiously at Iris, who seems a little sorry.
In fact, I guess there's no lie in that word to think of Kate's skill.
In contrast, Master Adelbert coughed up one and reverted to the subject, thinking he was unfavourable if he continued to talk.
"Gohon. So, Lord Sarasa, when is the execution going to be?
"Well, we're going to have the necessary smelting equipment Artifacts... leaving here in a month. That's how we plan to move."
"I see. Then the Noons need to go back. You'll have to give instructions for the postponement, and you'll need to explain the circumstances."
"Right. - I think Walter would like to come, too."
"That won't work either. Walter has a role to play as a housekeeper."
There seemed to be a mistake when it came to the debt contract, but I just shot Mr. Katerina, a human but elf, and Joon-young with force, intelligence, and even an excellent appearance.
Normally, he is not the kind of person who fits into the small boundaries of the Rozze family, but because of him, it seems that this is how our Lord Adelbert comes here.
Conversely, if he falls out, the Rotze family is such an important person that they will also be unable to negotiate on dysfunctional, debt payment deadlines.
"... that? Instead of Mr. Adelbert, it would be better if he came."
For the purpose of bringing Mr. Iris back this time, I think it makes sense for our Lord and Father, Lord Adelbert, to come.
It's an important story about marriage, so your father should explain it properly to Mr. Iris, even if he does have some difficulty.
But next time, just escorts and luggage.
Once you're back, you don't have to come to our lord Adelbert, the nobleman.
To such a natural doubt of mine, all the people of the Rozze family silenced.
.........
"Oh?"
He opened his mouth vaguely with a troubled grin against me with his neck clenched.
"Ah, the manager. It's very hard to say... Walter can replace your father, but vice versa..."
If I turned my attention to Chilari and Lady Adelbert, he would arm himself on the tannic side and close his eyes as if to avoid my gaze.
I see, shouldn't you ask?
It's okay, because I, I can read the air.
- Probably not good at paperwork or anything. I'm Mr. Iris' father.
"Well! Let's decide what we want to know!
Even if I could read the air, I didn't say I could deal with it.
I changed the conversation somewhat forcefully and packed the conversation with Mr. Iris about my plans for the future.
◇ ◇ ◇
I asked my master, 'If you're a salamander of general strength, wouldn't you be okay if you worked hard?' very reliable (?) I received a response.
I'll do my best...... of course, I'm going to, but I won't forgive you a bit.
Because I'm not an expert in battle.
So I'll work hard in the main business.
Most importantly, a "heat proof coat" to prevent the braces on the salamander.
If you want to roughly describe the structure of this coat, the surface is made of lava lizard leather, the backing of which is Hell Flame Grizzly leather.
Insulated material underneath, lined with something appropriate leather on the innermost side.
The most important of these, naturally, is the leather of lava lizards.
The backing depends on your budget. You can use another leather, but this time with a cost exterior view, you choose Hell Flame Grizzly leather to make it a little more effective. Luckily, we have some in stock.
The insulation material is an application of objects used for magic stoves, and the cooling function to be added to the leather of the lining is a mechanism similar to that of cooling hats, etc.
Is that why, in fact, this coat, it's five volumes of all the alchemy on it, actually?
And I haven't finished four volumes yet.
That's why I was just going to sell the lava lizard leather with the down-treatment... because of this one, it stopped working.
So now, I'm making Artifact, a four-roll smelter that was only marginally left, on a steep pitch.
We only had the material, so we'll just work hard later!
Hey, silly, sharpen your sleep!
Doing that seems to have worried Lorea...
"Mr. Sarasa, are you okay? It looks pretty impossible...... I wish I could help you with something."
When I was caged in the workshop, leaving the shopkeeper almost to Lorea, Lorea, who came to call me rice, looked into my face worried.
The third day of the night, I don't know what it is because I have a little neighborhood, but I still don't have a problem with this.
"It's okay, it's okay. Lorea's just cooking for me, and she's helping me enough. Without it, I can't be impotent either."
It's common for alchemists to forget to eat and immerse themselves in research, but alchemists are clean people. That won't last for days.
In that regard, I have a decent meal served every meal, so I am working hard to avoid falling even for a long time.
"That would be nice...... don't push me too hard, would you? At the very least, I'll make something strong."
Lorea has also been properly informed of this situation, and Lorea is outraged by Mr. Iris's situation and has promised me all possible cooperation.
So even if I'm caged in the workshop all night, I guess I won't be forced to rest.
"Yeah, thanks. Lorea's food is always delicious, so it's really helping."
When I grinned and thanked her, Lorea lit up.
"Sir, is there anything we can do? I can't cook like Lorea."
"Even when it comes to alchemy, I'm not sure, we"
"Uh-huh... If so, can you hunt for a deer too?
To be honest, I'm also sorry to say 'nothing', and to the answer I twisted out, Mr. Iris and Mr. Kate twisted their necks face to face.
"Deer? Very normal?
"Not demons or something?
"Yeah, regular deer. You need a skin."
The leather used for lining the thermal coat is unlimited.
The only problem is comfort, so the deer is just right because of the touch, cost, etc.
I was going to buy treated leather, but if Mr. Iris and I are going to hunt it, I can handle it all in front of me, so I can make it just a little more high-performance than buying regular deer leather.
I can't say enough that the slightest difference is unlikely to divide life and death... Yeah, isn't this a good job?
"I see. If that's going to help the manager, let's go right away."
"Right. If you're hunting, I'm good at it."
"The meat on our table was something Kate or Katerina would hunt for."
"If you hadn't hunted, you wouldn't have eaten."
Actually, Mr. Kate, when he was in the Rotze family territory, he sometimes went deer hunting, combined with training and food security.
It was that skill that grew up as a result.
I'm sure they'll hunt deer easily.
"Well, thank you. Because we don't have to rush that far."
"Oh, I'll take care of it! |
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} | の人数を確認。
カーク準男爵の他には、取り巻き。
荒事には慣れていそうだけど、脅威というほどではなさそう。
周囲に他の人影はなし。
――やれる、かな?
覚悟を決めようか、そんなことをちょっと思った私だったけど、幸いなことにそれが実行されることはなかった。
「カーク準男爵、なかなか興味深い話をしているようですが、このようなことをしている暇はあるのですか?」
に姿を現したのは、先ほどまで無駄にお茶とお菓子を消費していた殿下だった。
消費した分は働いてくれるつもりなのか、私の前に立つと、カーク準男爵に厳しい視線を向ける。
「お前は――」
「あなたには、王領へ無断で軍を入れた疑いが掛かっています」
カーク準男爵の言葉を遮るように殿下が口にした言葉に、カーク準男爵は絶句。
その背後に立つ取り巻きたちも息を呑ん後ろに下がった。
でもそれも当然だろう。
他の貴族の領地ならまだしも、無断で王領に軍を侵入させれば、それは王家に対して弓を引いたに等しく、謀反認定待ったなし。
一族郎党、軒並み死罪になりかねない重罪であり、関係者もまた同様。
取り巻きなんてしていれば、当然の如く連座で斬首である。
しかし、カーク準男爵ってそんなことまでしていたの?
目的自体が不明だけど、それよりも――。
「この近くに、王領なんて......」
「あるでしょう? すぐ近くに」
そう言いながら殿下が指さすのは背後。
そこにあるのは私のお店。
確かにこのお店は王国の援助を受けて購入した物だから半分は――いや以上は王国の物と言えなくもないけど、王領というわけでは......あぁ、そっか。
殿下が指さしているのはその更に向こう、大樹海や山脈だ。
代官を置いて統治している直轄地とは少し異なるため忘れがちだけど、この国では大樹海のような重要な採集地は、その大半が王領となっている。
戦略物資でもある錬金素材を一領主が握るのは不都合があるため、このような仕組みとなっているらしい。
だから、山脈にいた私たちに対して兵士を差し向けたカーク準男爵は、『王領に軍事侵攻をした』と見なすこともできる。厳密に言えば、だけど。
実際には、一般的な王領と採集地では意味合いが異なるし、私の知る限り、採集地に軍を入れたことで処罰された事例はない。
「そ、そのようなこと、身に覚えがない! そもそもお前は何者だ。儂の話に割り込むなど、不敬だぞ!!」
おっと、カーク準男爵はフェリク殿下のお顔を知らないようだ。
私やアイリスさんも知らなかったけど、あなたって、一応は貴族家の当主だよね?
良いの、それで?
不敬と言いながら、とんでもない不敬をしているんだけど。
剣林に裸で飛び込んでるようなもんですよ?
切り裂かれてズタズタになりますよ?
しかし殿下の方は、そんなカーク準男爵を見て、むしろ面白そうに笑みを浮かべた。
「ほう、私の顔を見忘れましたか?」
そう言いながら、ずいっと前に出る殿下。
そして自分に視線が集中すると同時に、芝居がかった大袈裟な仕草でやや目深に被った帽子に手を置くと、髪をかき上げるようにして帽子を脱いだ。
――脱いだ? いや、脱ぐの!?
その上、殿下はまだそれを使っていないわけで。
帽子の下から出てきたのは、以前見た時と変わらないその頭頂部。
図らずも良い感じに差し込んだ太陽の光がそこに反射、キラリと輝く。
そして、完璧なキメ顔。
アイリスさんも耐えられなかったそれを、心構えもなく正面で見たカーク準男爵たちは――。
「「「ぶほっ!」」」
吹いた。
「不敬罪も追加ですね」
「なっ!?」
満足そうに頷き、さらりと言った殿下の言葉に、カーク準男爵が絶句する。
笑わせに来ておきながら、ちょっと酷い。
既に耐性のあった私は耐えられたけど、普通は無理。
もっとも、アイリスさんは普通に許されているわけで、不敬罪の適用はそれこそ殿下の胸三寸。
カーク準男爵たちだから、特別と言えるかも?
嫌な特別もあったものである。
「後ろの方々のために付け加えておくと、私の名前はフェリク・ラプロシアンです。さすがに理解できますよね?」
ラプロシアンの名を聞き、取り巻きたちの顔から血の気が一気に引いた。
いくら教養がなくとも、大人であれば自分たちの住む国の名前ぐらいは知っているし、その名前を冠する人がどのような血筋か理解できないはずもない。
「カ、カーク様、不敬罪って、どうなるんすか!?」
「判らん! だがそれよりも問題は、王領への進軍の方だ! 平民の錬金術師一人殺すのとはわけが違う。王族への謀反は確実に死刑になるぞ!!」
再び、さらっと犯罪の告白。
焦っているのかもしれないけど、貴族としては迂闊すぎないかな?
王族の前で自白してくれるとか、私としては楽でいいけどさ。
「お、俺たちは大丈夫っすよね!? そっちには関わってないっすから!」
「そんなわけあるか! 儂が処刑されるときはお前たちも一蓮托生だ!」
「カーク様の指示に従っただけだろ!」
「散々甘い汁を吸っておきながら、逃れられると思ってるのか!」
醜い仲間割れを始めるカーク準男爵と、取り巻きのチンピラたち。
でも、マディソンたちのように心ならずも従ったならまだしも、自主的に協力していたのなら、しっかりと責任は取ってもらわないと。
......私のお店に手を出した愚か者も含めて、ね。
「こんな田舎村に王族がいるとかおかしいっすよ!」
「そもそも、あんな天辺ハゲの男が王族とかマジかよ!?」
「あり得ねぇよ! ハゲだぞ!? 王子様だぞ!」
頭を抱え、とんでもなく不敬なことを叫んでいる取り巻きたちと、それと一緒に狼狽していたカーク準男爵だったが、急にハッとしたように目を見開き、ニヤリと笑った。
「――そうだ! こんな田舎に王族がいるはずはない。奴は王族を騙る不届き者だ。そうだろう?」
カーク準男爵の言葉が理解できなかったのだろう。
取り巻きたちは呆けたような表情を見せたが、すぐに共通認識に達したのか、顔を引き攣らせて笑みを浮かべた。
「えっ? ――そ、そうっすね! 王族なんかここにはいない、そういうことっすね?」
「お、王族が供も連れずに一人で行動するとか、あり得ないよな!」
「お前ら、高い金を払ってやっているんだ。相手はたっ、しっかりとやれよ!」
後ろに下がったカーク準男爵に背中を押され、取り巻きたちは僅かな躊躇いを見せつつも、武器に手を掛ける。
――それは、さすがにマズいよ!?
私は慌てて殿下の前に出た。
殿下も武器は持っているけど、一見すると優男風で、その腕前は不明。
仮に強かったとしても、さすがに殿下だけに戦わせて私は後ろに下がっている、なんてことはできない。
としてはありだろうけど、実際にそんなことになればどうなるか。
その場は助かっても、後での査問が怖い。
殿下に戦わせて、お前は何をしていたのか――と。
か弱き姫ならばそれも許されるだろうけど、私はそんな立場じゃない。
だから私は前に出る。
明日の自分のために!
決して、殿下のためじゃない。
「殿下、お店の中へ。そこなら安全です」
「いえいえ、問題ありませんよ。――これで、王族に対する殺害教唆と殺害未遂も追加できましたし?」
「そんな暢気な......」
しかしそんな私の呆れや気遣いは不要だったらしい。
殿下が軽く右手を挙げ、パチンと指を鳴らす。
その途端、どこからともなく現れの男たち――いや、たぶん男たち?
全身を黒装束で覆い、覆面で顔を隠しているから判らないけど。
そう、さっき取り巻きが言っていた通り、王族が供も付けずに行動するなんてあり得ず、見当たらなくても護衛がいないはずもない。
私もなんとなく気配は感じていたけれど、姿を現すまでは明確には掴めなかったその存在の実力は間違いなく。
ほぼ同時に昏倒させられる取り巻きと、縛り上げられるカーク準男爵。
一瞬の出来事に何が起きたか理解できず、狼狽するカーク準男爵の口にも猿轡が嵌められ、声を出せなくなる。
そして彼らはその場で跪き、一人が前に出て、殿下の指示を待つように頭を垂れた。
堂々と立つ殿下と、その前に跪く彼らはなんか格好いいけど......殿下、お願いだから帽子を被って。色々台無しだから。
ギャップ、酷すぎだから。
そんな私の願いが通じたのか、殿下は帽子を被り直しながら指示を与えた。
「連れて行きなさい」
「はっ」
あ、答えた声がちょっと高い。
もしかして女性? 少し小柄に見えるし、体つきも少し柔らか?
私がじっと観察しているのを感じたのか、彼女と一瞬だけ目が合ったが、すぐにその姿が薄れて消えていく。縛られた男たちも含めて。
――あぁ、あの黒装束って
夜ならまだしも、昼間では目立つ黒装束。
それでも隠れていることができたのは、あれの効果か。
もちろん、彼らの実力あってのことだろうけど。
そんな物が与えられていることだけでも、彼らが特別な存在であることが判る。
、一般には流通していないし、私ですら存在を知らないもの。
「さて、スムーズに片づきましたね。協力、感謝します」
「......殿下、あえて挑発しましたね?」
パンと嬉しそうに手を叩く殿下に、私は図らずも胡乱な視線を向けてしまう。
殿下が今日来たのも、お茶とお菓子を消費しながら居座っていたのも、カーク準男爵がウチに来ることを知った上で、挑発して罪状を追加したかったのだろう。
カーク準男爵の不正の情報やら、証拠やら、色々話させられたけど、それって暇潰し程度にしかなってないですよね?
王族への殺害教唆だけで、その場で手打ちにしても何ら問題ないのだから。
私への迷惑も考えて欲しい!
「挑発、というほどのことでもないと思いますが? いや、挑発しようとは思っていましたが、するまでもなく暴走したというか......ちょっと予想外でした」
私の内心の憤りを少しは感じ取ってくれたのか、僅かに視線をそらせる殿下。
ノルドさんが迷惑を掛けたと、迷惑料を払ってくれた殿下だけど、むしろ殿下の方が厄介ですよ? あらがえない権力を持っている点で。
「そもそも罪状を積み増す必要があったのですか? 私も殿下が仰るまで失念していましたが、王領への侵攻だけで改易には十分に可能でしょうに」
こんな所で面倒くさく、且つ危険(?)なことをしなくても、殿下が軍を率いてサウス・ストラグに赴けば、カーク準男爵を捕らえることなど、さほど難しいことではないだろう。
いくらカーク準男爵でも、王旗を掲げた軍に対して攻撃を加えるようなことは――しないよね? いや......怪しいかも?
「厳密に言うならそうですが、それは極力避けたかったのです。大樹海などの採集地の周辺領主が魔物への警戒や、万が一の際の救助活動に躊躇いが出るようでは困りますから」
「それは......ごもっともです」
錬金術の素材が多く採集できる場所には、大抵の場合、魔物も多く存在している。
そこから魔物が出て周囲に被害をもたらすことはさほど多くないが、ヘル・フレイム・グリズリーの狂乱のように、皆無というわけではない。
当然、周辺領主は警戒が必要になるし、状況次第では軍を派遣して対処しなければいけない。
にも拘わらず、採集地に軍を入れたことで処罰された前例があればどうなるか。
大半の領主は採集地に自軍を入れることを躊躇うだろう。
その結果、被害を受けるのは採集者や周辺の領民である。
「それに、軍を動かすと不測の事態もあり得ます。領民たちに被害を与えるのは本意ではありません」
軍事衝突だけではなく、兵士による略奪が発生することもある。
その被害を受けるのは、そこに暮らす平民たち。
軍事行動なんて起こさなくて済むならその方が良いのは、私にも理解できる。
「こっちの方がお金も掛かりませんしね」
「とても......賢明なご判断です」
私のお財布とロレアちゃんの胃に、地味にダメージを与えていることを考えなければね!
「でしょう?」
殿下のそのドヤ顔に、ちょっとイラッと。
一見付き合いやすそうだけど、笑裏蔵刀だよね、フェリク殿下って。
戴く王族としては頼もしいのかもしれないけど、あんまり仲良くなりたくはないタイプ。
私はアイリスさんみたいに素直な人が良いよ......。
アイリスさん、ケイトさん、早く帰ってきて! | Quietly check the number of enemies (·).
In addition to Baron Kirk, there are three surroundings.
I'm familiar with rough things, but it doesn't seem like a threat.
There are no other people around.
- Can you do it?
I was a little bit prepared for that, but fortunately, it never happened.
"Warrant Baron Kirk, you seem to be having an interesting conversation, but do you have time for this?
It was His Highness, who had wasted tea and sweets just now, who appeared in Omoro with such words.
Are you going to work for what you've spent? Standing in front of me, I look hard at Baron Kirk.
"You..."
"You are under suspicion of entering the kingdom without authorization."
"Nhhh!?"
Baroness Kirk was uttered by His Highness to block the words of Baroness Kirk.
The surrounding men who stood behind him also took a breath and stepped back.
But of course.
In the territory of other nobles, let alone the invasion of King's Land without authorization, it is equal to drawing a bow against the royal family, without waiting for the certification of treason.
It is a felony that could be a homicide, and so are those involved.
As long as it is wrapped around it, it is natural to behead it in a series.
But that's what Warrant Baron Kirk did?
The purpose itself is unknown, but more than that...
"I can't believe you're near King's Landing....."
"Isn't there? It's close."
With that, His Highness points to the back.
That's my shop.
It's true that this shop was purchased with the support of the Kingdom, so half of it - no, not to mention more than 0% of it belongs to the Kingdom, but it's not King's Land... Ah, I see.
His Highness is pointing beyond that to the sea of trees and mountains.
It is often forgotten because it is slightly different from the direct jurisdiction where the deputy is ruled, but in this country, important gathering sites such as the Great Tree Sea are mostly kingdoms.
It seems to be such a mechanism because it is inconvenient for a lord to hold the Alchemy material, which is also a strategic material.
Therefore, Warrant Baron Kirk, who sent soldiers against us in the mountains, can also be considered to have 'invaded the kingdom'. Strictly speaking, though.
In fact, it has different meanings in the general kingdom and gathering place, and as far as I know, there have been no cases of punishment for putting troops in the gathering place.
"Yes, I don't remember anything like that! Who are you in the first place? It's disrespectful to interrupt a story!!"
Whoa, it looks like Warrant Baron Kirk doesn't know His Highness Felix's face.
You didn't know me or Iris, but you're the head of a noble family, right?
Okay, so?
I'm saying disrespect, but I'm doing a terrible disrespect.
It's like jumping naked into a sword forest.
It'll tear you apart.
His Highness, however, smiled rather funny when he saw such a Baron Kirk.
"Oh, did you forget to see my face?
With that, Your Highness leaves a long time ago.
And at the same time as she focused on herself, she put her hand on the hat, which was slightly covered in the dramatic manners, and she pulled her hair up and took off the hat.
- Did you take it off? No, take it off!?
Besides, Your Highness hasn't used it yet.
It came out from under the hat, the same as when I saw it before, on the top of my head.
The light of the sun, which plunged into a good feeling without trying, reflected there, sparkling.
And a perfect face.
Iris couldn't stand it either, but the barons looked at him head-on without thinking.
"" "Buho!
I blew it.
It's an additional offence of disrespect.
Baron Kirk nodded satisfactorily and exclaimed his words.
It's kind of awful, coming to make me laugh.
I was already resistant, but I couldn't do it normally.
However, Iris is not normally allowed, and the application of disrespect is only three inches of His Highness's breast.
Perhaps you're special because you're the Barons of Kirk?
There was something unusual about it.
"For those behind me, my name is Felix Laprosian. You understand that, don't you?
Hearing the name of Laprosian, the blood came out of the faces of the surrounding people.
No matter how educated they are, adults know the name of the country in which they live, and there is no way they can understand what kind of bloodline the person who bears the name is.
"Ka, Kirk-sama, what happens to disrespectful sins!?"
"I don't know! But the bigger problem is marching into King's Landing! It's not like killing a civilian alchemist. Murder of the royal family will definitely be a lynching!!"
Again, a snatch and a confession of crime.
You may be in a hurry, but as a nobleman, it's not too rough.
It would be nice for me to confess in front of the royal family.
"Oh, we're okay!? I'm not involved with you!
"I can't believe it! You're all dead when they execute you!
"You just followed Master Kirk's instructions!
"You think you can escape while inhaling all the sweet juice!
Warrant Baron Kirk and the surrounding chimps start to break ugly.
But if you obey like Madison and the others, and you're willing to cooperate, you need to take responsibility.
... including the fools who put their hands on my shop.
"This country village has a royal family!
"In the first place, such a bald man is royalty or something!?"
"That's impossible! You're bald!? You're a prince!
He was Warrant Baron Kirk, who held his head and shouted at his surroundings with such disrespect, but suddenly opened his eyes and smiled happily.
"- That's right! There can't be a royalty in a country like this. He is a fool who deceives the royal family. Isn't it?
I don't suppose you could understand the words of Baron Kirk.
The surrounding people looked stunned, but soon they reached a common sense, causing their faces to convulse and smile.
"Eh? - That's right! You don't have a royal family here, do you?
"Oh, it's impossible for the royal family to act alone without a confession!
"You guys are paying a lot of money. Only two opponents, hold on tight!
Warrant Baron Kirk pushed his back back and the surroundings laid their hands on the weapon, showing a slight hesitation.
--Isn 't that a bad idea!?
I hurried out in front of His Highness.
Your Majesty also has a weapon, but at first glance it looks like an elegant man whose skill is unknown.
Even if I were strong, I can't help but let His Highness fight me back.
It may be a story (fiction) to have a prince protect it, but what happens when that happens?
I'm afraid of later interrogation, even if I'm saved on the spot.
Let His Highness fight and see what you were doing.
A weak princess would forgive that, but I'm not in that position.
That's why I'm going forward.
For yourself tomorrow!
Never for His Highness.
"Your Highness, go inside the shop. It's safe there."
"No, no problem. --Now we can add homicide incitement and attempted homicide against the royal family?
"Such a fluent..."
However, it seems that such a clumsiness and concern on my part was unnecessary.
His Highness raised his right hand lightly and snapped his fingers.
Six men appearing from nowhere - no, maybe men?
I don't know because I cover my whole body in black and cover my face with a mask.
Yes, as the surroundings just said, there is no way the royal family can act without them, and there can be no escort without them.
I somehow felt the signs, but I could not grasp clearly the strength of its existence until it appeared.
Baron Kirk is tied up with a circle that almost simultaneously causes him to faint.
I can't understand what happened to the instant event, and the monkey is stuck in the mouth of the cowardly Baron Kirk, unable to speak.
And they knelt on the spot, and one of them came forward, and sat down to wait for His Majesty's command.
The majestic princes who stand up and kneel before them are kind of cool... but please, please put on your hat. Because it ruined everything.
Gap, it's too bad.
Did such a wish come true? His Highness gave instructions while wearing his hat again.
Take him away.
Ha.
Ah, the voice that answered is a little loud.
Could it be a woman? It looks a little small, and it's a little soft?
You felt me staring at her for a moment, but soon she faded and disappeared. Including the men tied up.
--Ah, that black outfit is a smelter (artifact).
Dark outfits stand out during the day rather than at night.
Is that the effect of being able to hide anyway?
Of course, it's about their abilities.
Even if they are given such things, they can be found to be special.
Because such smelters (artifacts) are not generally distributed, and I don't even know they exist.
"Well, you've cleared it up smoothly. Thank you for your cooperation."
"... Your Highness, you dared to provoke me.
I gladly clap my hands on His Majesty, and I turn my gaze to confusion without trying.
Whether His Highness is here today or sitting down consuming tea and sweets, I'm sure he wanted to provoke and add to the charges, knowing that Warrant Baron Kirk is coming to us.
I've been told a lot about Baron Kirk's fraudulent information and evidence, but it's only a waste of time, isn't it?
There's nothing wrong with just abetting a royal murder, even if it's handmade on the spot.
I want you to think about what's bothering me!
"I don't think it's that much of a provocation? No, I was going to provoke you, but I didn't have to run away... a little unexpected."
Did you feel a little anger in my heart, Your Highness, slightly distracted?
Your Highness paid me the trouble Nord caused, but it's more troublesome for you, isn't it? In that I have powers beyond my control.
"Did you need to accumulate more charges in the first place? I was sorry until His Highness said, but the invasion of King's Land alone would be enough to make a change."
It's troublesome and dangerous here (?) If His Highness leads his army to South Strag, it will not be so difficult to capture Warrant Baron Kirk.
No amount of Baron Kirk would attack an army with the King's flag on it - wouldn't he? No... maybe it's suspicious?
"Strictly speaking, yes, but I wanted to avoid it as much as possible. It is difficult for landlords around gathering sites such as the Great Tree Sea to be wary of monsters and hesitate to rescue them in the unlikely event."
"That's... true."
Most places where you can collect a lot of Alchemy materials are also home to many monsters.
There are not many monsters out there that cause damage to the surroundings, but not all of them, like the frenzy of Hell Flame Grizzly.
Of course, the surrounding lords will need to be alert and, depending on the situation, they will need to send troops to deal with it.
Nevertheless, what happens if there are precedents where you have been punished for placing troops in a collection site?
Most lords will hesitate to bring their own troops into the gathering grounds.
As a result, it is the gatherers and the surrounding people who suffer.
"And there can be contingencies when you move your troops. I didn't mean to hurt the people."
Military clashes as well as looting by soldiers can occur.
The victims are the civilians living there.
I understand that if you don't have to take military action, it's better.
"This one doesn't cost much."
"Very... wise decision."
I have to think about damaging my wallet and Lorraine's stomach!
"Am I right?
I'm a little frustrated with His Highness's face.
It seems easy to get along at first sight, but you're laughing at your sword, Lord Felix.
I may be trustworthy as a royal wearer, but I don't want to get along very well.
I'd rather be honest like Iris...
Iris, Kate, get back here! |
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} | サウス・ストラグの領主の屋敷。
主のいなくなったそこは、ひっそりと静まりかえっていた。
大半の人員には暇が出され、今残っているのは最低限の警備と事務仕事をする者たちのみ。
通常であれば、家督や財産を狙って押し寄せてきそうな親族や自称親族も、カーク準男爵の罪状から、連座を恐れて近寄ろうともしない。
そんな屋敷、執務室にあるソファーに一人の老人が腰を下ろし、静かに窓から町を眺めていた。
その背中には積年の心労が積み重なって酷く草臥れて見え、その外見以上に老け込んだ空気を漂わせていた。
そんな彼に静かに声を掛けたのは、この状況を作った人物だった。
「クレンシー」
「フェリク殿下......ご無沙汰いたしております」
声を掛けられた老人――カーク準男爵家の家令であるクレンシーは速やかに立ち上がると、フェリクの前に膝をついて頭を下げた。
「既に知っているとは思いますが、ヨクオ・カーク準男爵は拘束しました。罪状はいくつもありますが......ここに戻ることはもうありません」
はっきりと告げられた言葉に、クレンシーはきつく目を閉じて暫し沈黙すると、深く息を吐き出した。
「......わざわざありがとうございます。カーク準男爵家はどうなりますか?」
「取りあえず座ってください。あなたのような老人に膝をつかせたままでは、話もしづらい」
それに答える前に座れとソファーを示すフェリクだったが、クレンシーは首を振った。
は処罰を待つ身。どうかこのままで」
「あぁ、それはありません。対象者は自ら悪事に手を染めていた者たちのみ。ヨクオに命じられて行っていたことについては、実行者を処罰することはありません」
サラサに頼まれたこともあり、マディソンたちを罪に問わないと決めた以上、犯罪行為を自主的に行ったかどうかで区別して対象者を分けるしかない。
それに加え、すべて処罰してしまうと実務を行う者がいなくなるという、現実的な問題もあり、当主が王族の殺害未遂を起こした割に、今回のことで処罰された人物はさほど多くなかった。
「ご温情、大変ありがたいことですが、私もその対象としてよろしいのですか? 家令としてカーク準男爵家を取り仕切っていた私を」
「あなたはヨクオの無茶な命令を、できるだけ被害が少なくなるように取り仕切ってきた。よくやってきたと思いますよ。――座ってください」
再度フェリクに促されたことで、クレンシーは「失礼します」と言ってソファーに腰を下ろし、フェリクもその前に座ると、「さて」と仕切り直した。
「カーク準男爵家については、領地没収の上で降爵、騎士爵家として残す道も模索しましたが......まともな親族がいません。残しても国の益にならない以上、残す意味もありません。ご理解ください」
にすぎたのです。残る親族の方々では、更に家名を汚すだけに終わるでしょう」
ヨクオは特に酷かったが、さすがは親族というべきか、残っている者たちも似たり寄ったり。
調査結果を聞いたフェリクとしては、この一族から先代、先々代のような傑物が何故輩出されたのかと、不思議に思うほどだった。
もし家が残ったとしても、心を入れ替えて殊勝になることなどほぼ考えられず、かなりの確率で再度、問題を起こすであろう。
そのようなことで再び国に迷惑を掛けるのであれば、今回改易されていた方がマシであると、クレンシーはそう考え、再び深くため息をついた。
「今代が平凡でさえあれば良かったのですが......先代の優秀さも、子育てには発揮されなかったようですね」
「町の発展に力を注ぎすぎました。せめて優秀な教育者を付けることができれば良かったのですが、このような地方では......」
「貴族の子供をしっかりと叱れる教育者は貴重ですからね。幸い私に付けられた教育者はしっかりと叱ってくれましたが。――何度殴られたことか」
フェリクはその時のことを思い出したのか、クツクツと笑う。
「ミリス師ですか。彼女は特殊です。王族に苦言を呈すことができる教育者はいても、手を出せる者などどれだけいるか......。当家では望んでも得られぬ師です」
「私に付ける時も随分と渋られたそうですよ? 『不満があるなら、いつでも首にしろ』という台詞を口癖のように仰っていました」
「それでも殿下は、首にされなかった」
「そんな権限、私にはありませんから。さすがに拳で殴られた時には父に直談判に行きましたが......結果はたんこぶが一つ増えただけでした」
息子の訴えを最後までしっかりと聞いた国王だったが、その上で『お前が悪い』と鉄拳制裁。『もっと学べ』と勉強時間を増やされることになった。
「そのことで機嫌を損ねたミリス師からは色々と無茶な課題を出されましたが......自身の成長に繋がったことは確かですね」
オフィーリアからすれば、元々乗り気ではなかったフェリクの教育に、更に時間を奪われることになり、錬金術に費やす時間が減少。
講義に掛かる時間を減らすため、課題という形を取ったのだが、フェリクは不平を口にしつつも、出された課題はしっかりと熟した。
それ故、なんだかんだ言いつつも面倒見の良いオフィーリアの負担は減ることもなく、結果、優秀な生徒を一人育て上げるだけに終わっていた。
「ミリス様の半分でも優秀な教育係が、当家でも得られれば良かったのですが......。契機は、サラサ様に手を出したことでしょうか?」
「以前ヨクオが問題を起こした時から、注視はしていました。ロッツェ家の領地に手を出そうとしたことが発端で、サラサさんは要因の一つ、でしょうか。――それなりに重要な、ですが」
フェリクとしては、ロッツェ家の借金問題も苦々しくは思っていたが、貴族家同士の問題に、王家が首を突っ込み一方に肩入れすることはできない。
多少のアドバイスをすることも考えたが、ロッツェ家の陣容ではそれを上手く生かせるとも思えず、別のきっかけを探すかと思っていた際に、図らずも割り込んできたのがサラサであった。
フェリクが手を出さずとも、自身の知識と技術、そして人脈により借金問題を解決したのを見て、フェリクは考えを変えた。
「そろそろ時期的にも限界かと思いましたので、“試す”ことにしました」
「私を王都へお呼びになったのも、その一環ですか」
「それは正しくありませんね。呼んだのはサウス・ストラグの責任者です。カーク準男爵本人が来て対応できるなら良し。こちらに残った場合でも、あなたなしで無難に仕事を熟せるのならそれもまた良し。――実際には、残念な結果に終わったわけですが」
“試す”と言ったフェリクではあるが、実際にはその時点で、ほぼ完全にヨクオのことは見限っており、クレンシーのことは最後の一押し。
そして案の定、ヨクオはフェリクが領内で活動していることに気付く様子すらなく、あっさりと羽目を外す。
だが、いきなりサラサを殺そうとしたことは、さすがに想定外だった。
国策として増やそうとしている錬金術師、それも優秀な人物に手を出すことの危険性は、少し考えれば解ること。
せいぜいお店に対する嫌がらせぐらいだと思っていたフェリクは、慌てて部下を派遣することになり、予想外の手間を取られることになったのだった。
「まさかあそこまで愚かとは思いませんでした。私の失策でサラサさんが命を落としたりしたら、私がミリス師に殺されてしまうところでしたよ」
オフィーリアがサラサを気に入っていることは、フェリクも十分に理解している。
ヨクオに先んじてサラサの所を訪れていたのも、それがあったから。
サラサの実力は理解していたが、戦えるのがサラサ一人で、周囲には人質として使えそうなロレアや村人たち。
ヨクオが形振り構わなくなれば、サラサに危害が及ぶ危険性は十分に考えられた。
「私もまさかあそこまでとは......申し訳ございませんでした。それで、この町はどうなるのでしょうか?」
「しばらくは代官を置き、直轄地として統治することになるでしょう。その後は......サラサさんに任せるのも面白いかもしれませんね。なかなか優秀ですよ、彼女」
フェリクが微笑みながら口にした、本気とも冗談ともつかないその言葉に、クレンシーは少しだけ目を瞠った。
「錬金術師養成学校の卒業生でしたか? 優秀なのでしょうが、彼女は平民だったはず。殿下の方針には沿っているのでしょうが、急な改革は貴族の反発を招くと思われますが」
「私は何も貴族を排そうとしているわけではありません。もっと真面目に学び、必死になって能力を上げろと言いたいのです。少なくとも、私程度には」
「ははは......ミリス様にしごかれたあなた様ほどとは、厳しいことを仰る」
その『私程度』が凡人には到底為し得ない努力であることを知るクレンシーは、乾いた笑いを漏らし、首を振った。
「少なくとも努力はできるでしょう? 我が国を弱国とは思いませんが、強国とも言い難い。もっと危機感を持ってもらわねばなりません。それにサラサさんについては、平民を貴族に取り立てるわけではありませんしね。さほど難しいことではありません」
「違うのですか?」
「どうもロッツェ家の継嗣と婚約しているようでして。ロッツェ家に入ればサラサさんも貴族、陞爵させてこの町を任せることは可能です」
優秀な錬金術師は、貴族としては是非にでも取り込みたい人材。
クレンシーはそういうことであれば、十分に婚姻はありうるだろうと考え、自身の情報との齟齬に首を捻った。
「確か、ロッツェ家には男児がいなかったと思いますが......?」
「長女のアイリスさんとですよ」
「お、女同士ですか......」
「錬金術師ですしね。跡継ぎができるなら、国としては問題ありません」
禁止こそされていないが、かなり珍しい同性同士の婚姻。
クレンシーは戸惑ったように言葉に詰まったが、フェリクは問題ないと首を振り、肩をすくめて言葉を続けた。
「――最低の男を見て、嫌になったのかもしれませんね」
フェリクはロッツェ家の事情を思い出し、そんなことを口にしたが、実際、その想像はほぼ正しかった。
貴族故に不本意な婚姻も覚悟していたアイリスだったが、その相手がホウ・バール。
性格最悪な上に、結婚してしまえば家を乗っ取られかねない現実。
そんな絶望的な状況のところに現れたのがサラサである。
ホウ・バールとの結婚を叩き潰し、借金問題を解決し、更には結婚することで家に利益がある相手。
有能、且つ性格も悪くない。
ホウ・バールと比べれば、天と地。
そんなサラサに、同性であってもアイリスがうっかり惚れてしまう――まで行かずとも、『結婚しようかな?』ぐらいになってしまうのも仕方のないところだろう。
「しかし、少し残念ですね。それがなければ、サラサさんを私の妻としても良いかと思ったのですが」
フェリクがポツリと漏らした言葉に、クレンシーが目を剥いて身動ぎした。
「なっ! さ、さすがにそれは難しいかと。授爵するよりも反発が大きいでしょう」
「彼女は孤児院出身です。適当な貴族の隠し子にしておけば良いじゃないですか。それに実力も確かです。ミリス師の後押しがあれば不可能ではありません」
『さる貴族の落とし胤』としたうえで、高位貴族と養子縁組してしまえば、嫁ぐ上での身分の問題はなくなるし、貴族であればそう珍しい話でもない。
だが、それが可能となったところで、むしろ最も嫌がるのはサラサ本人であろう。
素敵な人との結婚を夢見る彼女であるが、それでもフェリクは対象外。
彼と結婚するぐらいなら、確実にアイリスを選ぶだろう。
そしてそれはフェリクも理解していたようで、苦笑して肩をすくめた。
「ま、実際には無理でしょうが。どうも私、彼女には敬遠されているようで」
「ほぅ、殿下がですか? 女性に好まれる外見をされておりますのに」
「彼女は外見以外を見ているようで。外見や地位に寄ってくる女性には辟易しますが、本当の私を知った上で受け入れてくれる女性とは出会えない。難しいものです」
何だかそれっぽいことを言っているが、サラサが敬遠しているのはその微妙な陰険さ。
それを知った上で受け入れてくれる女性は、ちょっと貴重すぎるだろう。
それなりにフェリクとの付き合いが長いクレンシーもフェリクの心根は知っていたが、それを直言はせず、言葉を飾る。
「殿下の聡明さは凡人にはなかなか理解が難しいのですよ」
「ふっ、お世辞は不要ですよ。フフフ」
「いえいえ、本心ですよ。ははは」
そう言って一頻り笑ったフェリクたちだったが、やがしてため息をつき、表情を改めた。
「それで、ここの代官に関してですが......」
「はい。最後のご奉公として、赴任されるまでには引き継ぎ資料を揃えておきます」
「それなのですがクレンシー、あなた、代官になりませんか?」
「わ、私が、ですか? しかし、カーク準男爵家なき今、私はただの平民です。そんな私が代官になれば、カーク準男爵家のご親族の方々が色々とうるさいと思われますが......」
「官僚には平民もいます。親族の方も、文句を言うような者たちは
「.........」
その言葉に含まれる意味にクレンシーは僅かに息を呑み、『そういうところが敬遠されたのでは?』とチラリと思ったが、それを口に出したりはせず、沈黙を守る。
「あなたが断るならば、こちらで選んだ代官を派遣することになります。まともな人物を選ぶつもりですが、どのような施策を講じるかは代官次第です」
暗に町の方向性などに変化が生じるかもしれないと言うフェリクに、クレンシーは目を伏せた。
そんな彼の脳裏に先々代、先代との思い出がよぎる。
小さな宿場町を発展させるため、寝る間も惜しんで共に働き、汗を流し、議論を戦わせ。
ヨクオとの記憶が色褪せたものなのに比べ、その思い出のなんと鮮やかなことか。
そうやって作り上げてきたサウス・ストラグが、自分たちが理想としたものとは変わってしまうかもしれない。
そのことを突きつけられた今、クレンシーに選択の余地はなかった。
「代官、引き受けてくれますか?」
「......謹んでお受けいたします」
再度確認したフェリクに深々と頭を垂れた彼の目尻から、静かに涙がこぼれた。 | The residence of the Lord of South Strag.
The place where the LORD was gone was quietly resting.
Most personnel are given time, and only those with minimal security and administrative responsibilities remain.
Normally, neither relatives nor self-proclaimed relatives who are likely to rush toward the governor or property will be approached in fear of the guilt of Baron Kirk.
In the corner of such a mansion, an old man sat down on a couch in the office and quietly looked at the town from a window.
There was a pile of years of hard work on his back, and he looked terribly asleep, with more aging air than his appearance.
It was the person who created this situation who quietly spoke to him.
"Cleansing"
"Your Highness Felix... I'm very sorry for your loss."
A loud old man, Cleansie, a decree of the Baron Kirk family, quickly stood up and bent her head down on her knees in front of Felix.
"As you may already know, Baron Yokoo Kirk is in custody. There are a lot of charges... but there's no going back here."
In clear words, Cleansie closed her eyes and silenced for a while, exhaling a deep breath.
"... thank you very much. What happens to the Baron Kirk?
"Please sit down for now. It's hard to talk with an old man like you on his knees."
Felix told her to sit on the couch before answering, but Cleansie shook her head.
"No, I wait for punishment. Please stay put."
"Oh, that's not true. Only those who had their hands stained with evil. We will not punish those who did what Yokoo ordered us to do."
Sarasa has asked me to, and I've decided not to hold Madison guilty, so I can only distinguish between them by whether or not they voluntarily commit a criminal act.
In addition, there was a realistic problem that if all were punished, there would be no practitioners, and there were not many people punished for this incident, even though the lord attempted to kill the royal family.
"Thank you very much for your hospitality, but am I also eligible for it? I was in charge of the Baron Kirk family as a house order."
"You've ordered Yokoo's reckless orders to do as little damage as possible. I think you've done well. - Sit down."
When Felix prompted her again, Cleansie sat down on the sofa saying, "Excuse me," and Felix sat in front of her and said, "Okay."
"As for the Quasi-Bar Kirk family, we have also explored ways to confiscate their territory and leave them with descendants and knights... but they have no decent relatives. There is no point in leaving it any more than it is in the interest of the country. Please understand."
"No, originally, Milord and Milord were just flattering. The rest of your relatives will just have to stigmatize your family name."
Yokoo was particularly bad, but he should be a relative, or the rest of them are similar or close.
Felix, who heard the results of the investigation, wondered why masterpieces like ancestors and ancestors were produced from this family.
Even if the house stays, it is hardly conceivable that it will be a special victory with a change of heart, and there is a good chance that it will cause side problems.
If such a thing bothers the country again, Cleansie thought it would be better if it had been changed this time, and sighed deeply again.
"I wish this generation were mediocre... but the excellence of our ancestors didn't appear to have been demonstrated in raising children."
"I've focused too much on the development of my town. I wish I could have had a good educator, but in a region like this...."
"Educators who scold noble children well are valuable. Fortunately, my educator scolded me. - How many times have I been beaten?"
Felix laughs as if he remembers that time.
Are you Master Millis? She's special. Even if there are educators who can complain to the royal family, how many can do it...? He's a teacher who can't get what he wants in our house. "
"He said he was quite reluctant to put it on me, too." If you're dissatisfied, always put it on your neck. "
Even so, Your Highness was not struck by the neck.
"I don't have that kind of authority. When I was punched with my fist, I went straight to my father to negotiate... but the result was only one more bump."
He was the king who listened to his son's appeal until the end, but on top of that, he said, "You are wrong" and iron fist sanction. "Learn more," he said.
"Master Millis, who was in a bad mood for this, gave me a lot of challenging questions... but I'm sure it led to my own growth."
From the point of view of Ofelia, Felix's education, which was originally unresponsive, would deprive him of more time and reduce the time spent on alchemy.
In order to reduce the time required for the lecture, Felix took the form of an assignment, but while complaining, the assignment was well ripened.
So, somehow, the burden of taking good care of Ofelia didn't decrease, and as a result, it ended up raising only one outstanding student.
"Even half of Millis-sama's excellent educators would have been better off at home... Have you ever given Sarasa-sama an opportunity?
"I've been watching Yokoo ever since he got into trouble. Was Sarasa one of the factors that started when she tried to reach out to the Rotze family? --It's quite important."
As for Felix, I thought the Rotze family's debt problem was painful, but the royal family couldn't afford to stick their necks into each other's problems.
I thought about giving some advice, but I didn't think the Rozze family could make it work, and when I thought I'd look for another trigger, it was Sarasa who interrupted without trying.
Felix changed his mind when he saw his knowledge, skills, and connections solve the debt problem without taking action.
"I thought it was about time, so I decided to try."
"Was it part of that that you called me to King's Landing?"
"That's not right. I called the head of South Strag. If only the Baron himself could come and deal with it. Even if you stay here, it would be good if you could get the job done without any difficulty. --In fact, it ended in unfortunate results."
Felix said, "Try it," but in fact, at that point, Yokoo was almost completely limited, and Cleansie was the last push.
And Yokoo didn't even notice Felix was operating in the territory, so he took off his wings lightly.
But it was unexpected that he suddenly tried to kill Sarasa.
An alchemist who is trying to increase it as a national policy, and the danger of reaching out to good people, should be understood with a little thought.
At best, Felix, who thought it was harassment of the store, had to dispatch his men in a hurry, causing him unexpected trouble.
"I didn't think it was that stupid. If Sarasa died because of my mistakes, I would have been killed by Master Myris."
Felix also fully understands that Ofelia likes Sarasa.
I was visiting Sarasa before Yokoo because of that.
I understood Sarasa's strengths, but it was Sarasa alone who could fight, Lorea and villagers who could be used as hostages around.
The danger to Sarasa was well considered if Yokoo became comfortable shaking.
"I didn't mean to go that far... I'm sorry. So what happens to this town?
"You will have a deputy for a while, and you will rule as a direct authority. After that... it might be interesting to leave it to Sarasa. She's quite good, isn't she?"
Felix smiled and talked, but Cleansie glanced a little at the words, which she didn't take for granted.
"Were you a graduate of the Alchemist Training School? Excellent, but she must have been a civilian. It would be in line with His Highness's policy, but sudden reform would likely lead to a rebellion by the nobles."
"I'm not trying to throw away anything noble. I want to learn more seriously and be desperate to improve my abilities. At least to my degree."
"Hahaha... as harsh as you stroked me by Millis-sama"
Knowing that "about me" was an impossible effort for everyone, Cleansie gave a dry laugh and shook her head.
"At least you can try, right? We do not consider ourselves a weak country, but it is difficult to say even a powerful country. You have to be more critical. And as for Sarasa, we don't take civilians for nobility. It's not that hard."
"Is it different?
"Apparently I'm engaged to the heirs of the Roze family. Once you get into the Rotze house, Sarasa can leave the town to the nobles, the Counts."
A good alchemist is a person who, as a nobleman, would definitely like to bring in.
Cleansie thought that if that were the case, there would be enough marriage, and twisted her neck in confusion with her own information.
"Sure, I don't think there was a boy at the Rozze house....?
"With my eldest daughter, Iris."
"Oh, are you two women....."
You're an alchemist. If you can inherit it it, it's fine as a country. "
Marriages between same-sex couples are not prohibited, but rather rare.
Cleansie was puzzled, but Felix shook her head and shrugged her shoulders to continue.
"--Perhaps you don't like seeing the worst man."
Felix remembered what happened to the Rotze family and said that, but in fact, his imagination was almost correct.
Iris was prepared for an unintentional marriage because of the aristocracy, but the opponent was Ho Barr.
Besides the worst personality, the reality is that if you get married, you could take over the house.
Sarasa appeared in such a desperate situation.
The person who breaks down his marriage to Ho Barr, solves the debt problem, and makes a profit at home by marrying.
Competent and not bad character.
Compared to Ho Baal, heaven and earth.
Even if Iris accidentally falls in love with a same-sex salad like that, he doesn't even have to go to it and say, "Shall we get married? I guess there's nothing I can do about it.
"But I'm a little disappointed. Without it, I was wondering if Sarasa could be my wife."
Felix slipped her eyes and moved on to the words she leaked.
"Ha! That's exactly what I thought was difficult. It will be more rebellious than the Duke."
"She is from an orphanage. Wouldn't it be better to keep it a proper nobleman's hideout? And I'm sure of what I can do. It's not impossible with the support of Master Millis."
If you adopt a higher-ranking aristocrat after "the drop of a sardine", there will be no problem with your status as a daughter-in-law, and if you are a aristocrat, it is not that uncommon.
However, where that is possible, it will be Sarasa herself who will hate it the most.
She dreams of marrying a nice person, but still Felix is not eligible.
As long as you marry him, you will surely choose Iris.
And it seemed that Felix also understood, smiling bitterly and shrugging his shoulders.
"Well, you can't actually do that. Thank you, I seem to be distant from her."
"Huh, Your Highness? Even though it has the appearance that women like."
"She seems to be looking beyond the appearance. It's easy to meet women who come close to appearance and status, but I can't meet a woman who will accept me after knowing the real me. It's hard."
It's kind of like that, but Sarasa's distancing is that subtle shadow.
A woman who knows and accepts it would be a little too valuable.
Cleansie, who had a long relationship with Felix, knew Felix's heart, but she didn't say it directly and adorned her words.
"Your Majesty's brilliance is hard for everyone to understand."
"Fu, you don't have to compliment me. Fufufu"
"No, I mean it. Hahaha"
Those were the Felix who laughed all of a sudden, but eventually they sighed and changed their expression.
"So, as for the deputy here....."
"Yes, as your last servant, I will have the handover materials ready for your assignment."
"That's right, Cleansie, why don't you be my deputy?
"Wow, am I? But now, without Baron Kirk, I'm just a civilian. If I were such a deputy, it would be a lot of noise for the relatives of the Baron Kirk family...."
"There are civilians in the bureaucracy. Even relatives, those who complain are already (...) present (...) (...) (...) (...) (...) (...) (...) so you don't have to worry."
.........
Cleancy took a slight breath into the meaning contained in the words and said, 'Is that why you were distanced? I thought it was chilling, but I didn't say it to my mouth, and I kept silence.
"If you refuse, you will send the agent of your choice here. I'm going to choose a decent person, but it's up to the deputy to take action."
Cleansie lay down her eyes at Felix, who said that there might be a change in the direction of the town.
There are many memories of his predecessors and his predecessors behind his head.
To develop a small workplace town, we spare no effort to work together while we sleep, sweat, and fight arguments.
What a vivid memory of Yokoo compared to that of Yokoo.
The South Strag that we've created in this way may be different from what we thought it would be.
Now that I was caught up in it, Cleansie had no choice.
"Agent, will you take over?
"... I will accept it with all due respect."
Tears fell silently from the corner of Felix's eyes, which lay deep on his head after checking again. |
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} | 「と、ところで、最近、レオノーラさんの方は特に変わりはないですか?」
「......? そうね、これといってはないかしら。バール商会が多少、ゴタゴタしてたみたいだけど、それぐらい? あれって、アイリスの実家がらみでしょ?」
「よく知っているな? そのあたりのことに関して、広めているつもりはないのだが......」
調停を行った以上、ある程度の情報が流れるのは当然だが、外聞の悪い話だけに、ロッツェ家が余所に知らせることはほぼないし、そもそもが無名に近い小さな貴族なのだから、情報が広まる素地もない。
カーク準男爵家としても、建前はどうあれ、調停の内容は実質的な負け。
公言したりはしないだろう。
にも拘わらず、それをしっかりと把握しているあたり、レオノーラさんの情報収集能力はかなり高いと言わざるを得ない。
「情報が重要だからね、こんな町で商売をやるには。元々、ヨク・バールが消されて落ち目になっていたバール商会だったけど......」
レオノーラさんの言葉を、フィリオーネさんが引き継ぐ。
「跡を継いだホウ・バールが色々と空手形を切っていたみたいなのよ。少し前にそれが不渡りになることが確実になって、かなりの利権が持っていかれたみたい」
それはあれだね。ロッツェ家の調停が成立して、ホウ・バールとアイリスさんとの婚姻の目がなくなったからだね。
たとえ弱小でも、貴族の看板があるとなしでは大きな違い。
それを梃子にバール商会を立て直そうとしていたんだろうけど、それに頼って無理をすれば、なくなったときに元より酷くなるのは火を見るより明らか。
「じゃあ、今、バール商会は?」
「潰れてはいないかな。小規模ながらなんとか生き残っている、って感じだけど前は大商会だったんだけどねー」
フィリオーネさんが「あはは」と陽気に笑い、レオノーラさんも肩をすくめる。
「サラサに手を出したのが、転落の始まりってことね」
「そうですか? 私だけだと、ちょっと揺るがせるぐらいしかできなかったと思いますけど。突き落としたのは、の功績ですよ」
私だけであれば、ヨク・バールを村から追い出すぐらいまでがせいぜい。
がっぽりと儲けることができたのはレオノーラさんの協力があったからだし、追い出した後で彼を退場させ、バール商会の屋台骨をへし折ったのは、レオノーラさんとフィリオーネさんの二人。
私はあまりそこに寄与していない。
「そこは、確かにそうね。海千山千のクソ共を相手にするには、サラサはまだまだ経験が足りないし」
「でも、私たちが突き落としたなら、水に落ちたバール商会を棒で叩いて沈めたのはアイリスちゃん?」
唐突に話を振られたアイリスさんが眉を上げ、突き出した両手の平をふるふると振る。
「わ、私か!? 私は――というか、当家は何もできていないぞ? まったく自慢にならないが、店長殿がすべてやってくれたからな!?」
「つまり、
「止めと言うほどのことでは。アイリスさんの足に絡みついていた
「そんなことないわよー。サラサちゃんは、カーク準男爵もしっかり追い込んでるじゃない? なかなかできないわよ、貴族相手は」
「それは私がやったというより、人を紹介しただけですから――」
などと、私たがやっていると、一歩引いたアイリスさんが困ったようにポツリと言葉を漏らす。
「私からすれば、腹黒さの謙遜合戦にしか見えないのだが......」
微妙に否定しづらいアイリスさんの感想に、私たちは顔を見合わせる。
私の場合、こちらから手を出したわけじゃなく、向こうがちょっかいをかけてきたので、仕方なく応戦しただけなんだけど......端から見たら、そう見えるのも仕方ない?
結果が出ちゃってるから。
「あら、アイリスちゃん。別に腹黒くなれとは言わないけど、もっと用心深くならないとまた騙されるわよ?」
「そ、そこまで把握されているのか......」
説明していないのに、かなり細かいところまで把握していそうなフィリオーネさんの発言に、アイリスさんはグッと言葉に詰まる。
「しかし私では。やはり当家には店長殿が――」
「そういえば、レオノーラさん。実は先日、ウチのお店に乗り込んできたんですよね。件のカーク準男爵が」
あまり良くない方向に話が行きそうだったので、アイリスさんの言葉を遮って軌道修正。
レオノーラさんに訊いておきたかったことに話題を移す。
「サラサの店に? 本人が?」
意外そうに首を傾げたレオノーラさんに私は頷いて、言葉を続ける。
「はい。突然やってきて、言いがかりを付けてきたんですけど......何というか、素人っぽいというか、やっていることがチンピラレベルというか......ロッツェ家を罠に掛けたような狡猾さはゼロだったんですよね」
「アイツが直接行くってことは......そういえば、フィー、今ってあの爺さん、いないんだっけ?」
「そうねぇ、出かけてたと思う。だからだね、それは」
何やら納得したように頷き合う、レオノーラさんとフィリオーネさん。
でも、私とアイリスさんにはさっぱり事情が解らない。
「『あの爺さん』、とは?」
「カーク準男爵の補佐役......と言うのが正しいのかはちょっと微妙なんだけど、先代から仕えている爺さんがいるのよ」
「このお爺さんが切れ者なんだよ。準男爵家を実質的に取り仕切っているのがこのお爺さんで、バカなカーク準男爵を適当に制御してるって感じかな?」
「それは、黒幕的な?」
「う~ん、どっちかと言えば抑制している? カーク準男爵の言う無茶を、なんとか現実的な範囲に収めているのかな?」
「そうそう。この爺さんがいるから、この町が栄えていると言っても過言じゃないわね」
二人からの、カーク準男爵の評価が酷い。
でも、実際に会ってみた感じ、私も同感かも。
ただそれよりも――。
「アイリスさん、知っていました?」
「いや、初耳だ。現カーク準男爵が不出来なことは知っていたが......あ、そういえば、調停に出てきたのは年配の男だったと、お父様に聞いた気がするな」
「たぶんそれね。普段はあまり表に出ないようにしているからね、あの爺さん」
「そうなんですか?」
「今回みたいに留守にしていることもあるじゃない? お目付役のいない状況なんて、カーク準男爵の敵からすれば、絶好の機会だから」
「ちょいちょいと、煽ってあげたら、簡単にボロを出しますからねぇ、カーク準男爵だけであれば。今回のことも、一人で暴走したんでしょうねぇ」
「もしかしたら、爺さんの指示という可能性もゼロじゃないけど......」
そう言ったレオノーラさんは少しだけ考え、すぐに首を振った。
「たぶんないわね。メリットがないわ。サラサに対する勝ち筋が見えないもの」
「そんな、私を化け物みたいに......」
ちょっと不本意である。
「私なんて、可愛くてか弱い、ただの女の子ですよ?」
「それは嘘だ」
アイリスさんに即座に否定された。
「むぅ」
「可愛いのは否定しないが、『ただの』女の子ではないだろう?」
――む。そこを否定しないのなら、許そう。
そんな私たちの遣り取りを見て、フィリオーネさんが笑う。
「そりゃ、後先考えなければ可能よ? でもその後、どう考えてもカーク準男爵家は潰されるわ。正当性もなく錬金術師を攻撃するだけでも致命的なのに、サラサはオフィーリア様の弟子。どうなるかぐらい、サラサなら解るんじゃない?」
「......まぁ、そうですね。師匠なら、遠慮はしないでしょうね。しかも、準男爵家程度ともなれば」
もっと高位の貴族でも、不愉快なことを言われれば、お尻を蹴っ飛ばして店から追い出す師匠なのだ。
弟子である私に何かあれば、その報復は確実に行うだろう。
それぐらいには大事にされていると思っている。
嬉しいことにね。
「そんなわけで、爺さんなら、ある意味で心配はないけど、逆にカーク準男爵本人なら衝動的に何をするか......ちょっと注意した方が良いかもしれないわね」
「はい、気を付けます。それでは、そろそろお暇しましょうか、アイリスさん。宿も探さないといけないですし」
「そうだな。レオノーラ殿、お薦めの宿などご存じないだろうか?」
「宿など探さなくとも、泊まっていきなさい。この時間だと、良い宿が空いているとは限らないわよ?」
外を見れば、既に少し薄暗くなっていた。
確かに、宿を取るには少し遅い時間ではあるけど......。
「いえ、今回はアイリスさんもいますし、ご迷惑をおかけするわけには」
「若い子が遠慮しない! あなたたちを泊めるぐらい、別に迷惑じゃないわよ。二人が泊まる部屋ぐらいあるから」
辞退しようとした私の背中を、レオノーラさんがポンと叩き、フィリオーネさんも微笑んで頷く。
「ノーラもこう言っているし、本当に遠慮する必要はないのよ? 食材もちゃん分、買ってあるんだから」
どうしたものかとアイリスさんを窺えば、アイリスさんはコクリと頷いて、小さく「良いんじゃないか? 店長殿も今はあまりお金に余裕がないだろう?」などと言う。
うぅ......宿代すら気にしないといけなくなるとは!
借金に比べれば大した額じゃなくても、サウス・ストラグぐらいの町ともなれば、宿代は決して安くはない。
こちらから頼むのはアレでも、向こうから誘ってくれているわけで......節約できる方法があるのなら、それを選ばない理由はない、か。
ちょっと情けないけど、背に腹はかえられない。
「......それでは、お世話になります」
私は色々飲み込んで、レオノーラさんたちにぺこりと頭を下げた。 | "And, by the way, has Mr. Leonora changed anything in particular lately?
...... Well, I guess it's not called this. The Barr Chamber of Commerce seems to have been a bit of a mess, but is that about it? That was Iris' home, wasn't it?
"You're familiar with that? I'm not going to spread the word about it..."
It is natural for some information to flow beyond the mediation, but there is little room for the Rotze family to inform just bad stories on the outside, and there is no place for information to spread because they are small nobles close to anonymity in the first place.
Even as an Associate Baron Kirk, no matter what happens before construction, the content of mediation is a substantial loss.
I wouldn't make a public statement.
Nonetheless, I have to say that Mr. Leonora's ability to gather information is quite high around a firm grasp of it.
"Because information matters, to do business in a town like this. Originally, it was the Barr Chamber of Commerce where Yoku Barr had been erased and disappointed..."
Mr. Figlione will take over Mr. Leonora's words.
"It's like Howe Barr, who inherited the trail, was cutting a lot of empty bills. Sounds like a lot of rights were taken with certainty a while back"
That's it. It's because the Rotze family's mediation has taken place and the eyes of Howe Barr's marriage to Mr. Iris are gone.
Even if it's weak, it's a big difference without a noble sign.
I know you were trying to rebuild the Barr Chamber of Commerce on that, but if you rely on it to force it, it's more obvious than seeing fire that it gets worse than the original when it's gone.
"So, what about the Barr Chamber of Commerce now?
"I wonder if it's crushed. I feel like I managed to survive on a small scale. A year ago, it was the Grand Chamber of Commerce."
Mr. Filione laughs cheerfully "haha," and Mr. Leonora shrugs his shoulders too.
"The beginning of the fall was the beginning of Sarasa's hand."
"Really? Just me, I think I could only do enough to rock it a little. It was you two who pushed me down."
If it were just me, it would be as far as kicking Yoku Bahr out of the village.
I was able to make a disappointing profit because of Mr. Leonora's cooperation, and after I kicked him out, I let him leave and broke the Barr Chamber of Commerce stall, two of whom were Mr. Leonora and Mr. Filione.
I don't really contribute there.
"There, it sure is. Sarasa still hasn't had enough experience to deal with all of Kaiqiyama's shit."
"But if we shoved it down, it was Iris who sank the Barr Chamber of Commerce that fell into the water by tapping it with a stick?
Mr. Iris, who was abruptly told the story, raises his eyebrows and waves as he sifts through the flats of his protruding hands.
"Wow, it's me!? Am I - or we haven't been able to do anything? I'm not proud of you at all, but the manager did everything for me!?"
"I mean, stop."
"Not enough to say stop. I paid for the fence (blemishes) that was entangled in Mr. Iris' leg. He said it wasn't for the two of us who pushed him that far."
"That's not true. Yikes. Sarasa's been pushing for Baron Kirk, hasn't she? Hard to do, nobleman."
"That's more than I did, because I just introduced people -"
And so on, when the three of us are doing it, Mr. Iris, who pulled a step back, leaks the potpourri and the word as troubled.
"From me, it just seems like a humble battle of belly-black..."
We face to face with Mr. Iris's sentiments, which are subtly hard to deny.
In my case, I didn't get my hands on this one, it's been a little over there, so I just had no choice but to respond... from the edge, can't help but to look like that?
Because the results are coming out.
"Oh, Iris. Nothing. I'm not telling you to go belly-black, but if you don't be more careful, you're gonna fool me again, okay?
"Is that how they grasp it..."
Mr. Iris gets stuck in words with what Mr. Filione said, even though he hasn't explained it, but seems to grasp quite the details.
"But in me. We still have the manager."
"Speaking of which, Mr. Leonora. Actually, you came into our store the other day, didn't you? Associate Baron Kirk."
We were going to talk in a less good direction, so we blocked Mr. Iris' words and fixed the track.
Turn to what I wanted to ask Mr. Leonora.
"To Sarasa's? In person?"
I nod to Mr. Leonora, who unexpectedly tilted his neck, and continue the words.
"Yes, I came all of a sudden, and I've been putting up a claim... to say what, you look like an amateur, what you're doing is a chimp level... you had zero cunning like you put the Rozze family in a trap, right?"
"Does he mean he's going directly... Speaking of which, Phee, is that grandpa not here now?
"Hey, I think I was out. So it is."
We nod at each other like we were convinced, Mr. Leonora and Mr. Filione.
But I and Mr. Iris have no idea what's going on.
"'The Grandpa', what?
"It's a little subtle to say that Associate Baron Kirk's adjunct... but I have a grandfather who's been serving me since my predecessors"
"This grandfather is the cutter. Is it this grandfather who's essentially partitioning the quasi barons, and you feel like he's in proper control of the stupid quasi baron Kirk?
"Is that, like, mastermind?
"Uh-huh, are you suppressing it one way or the other? Do you manage to fit what Associate Baron Kirk calls impotence within a realistic range?
"Yes, yes. With this grandfather, it's no exaggeration to say this town is flourishing."
From both of us, Associate Baron Kirk has a terrible rating.
But it actually feels like we've met, and I might agree.
Just more than that...
"Mr. Iris, did you know?
"No, it's my first ear. I knew the current Associate Baron Kirk couldn't... but speaking of which, I think your father told me that it was an elderly man who came out to mediate"
"Probably. I don't usually try to be on the table, that old man."
"Really?
"Sometimes you're away like this one, aren't you? This is a great opportunity for a situation without a visitor, based on the enemies of Baron Kirk."
"Hey, hey, if I stir you up, I'll give you an easy rundown. Hey, if it's just Associate Baron Kirk. You must have stormed out on your own this time."
"Maybe it's not a zero possibility that Grandpa's instructions..."
Mr Leonora, who said so, thought only a little and immediately shook his head.
"Probably not. It's not beneficial. Something I can't see winning muscles against Sarasa."
"Oh no, make me look like a monster..."
It is a little unintentional.
"How cute and weak of me, I'm just a girl, right?
"That's a lie"
Mr. Iris immediately denied it.
"Mmm."
"I don't deny you're cute, but you're not a 'just' girl, are you?
- Mm-hmm. If you don't deny it, let's forgive it.
Seeing us take over like that, Mr. Filione laughs.
"Well, if you don't think about it later, it's possible, right? But then, whatever you think, the Associate Baron Kirk family will be crushed. Even though it is deadly to just attack the alchemist without justification, Sarasa is the disciple of Master Ophelia. Sarasa would know what would happen.
"... well, that's right. If you were a master, you wouldn't hesitate. Besides, if only to the extent of the Associate Baron family."
Even higher nobles, if they say something unpleasant, are masters who kick their asses and kick them out of the store.
If anything were to happen to me, the disciple, the retaliation would surely be done.
That's how much I think they take care of it.
Glad to hear it.
"So if you're a grandfather, don't worry in a way, but on the contrary, what would you do impulsively if you were an Associate Baron Kirk himself... maybe you should be a little careful"
"Yes, I'll be careful. So, is it time for some free time, Mr. Iris? We need to find a place to stay."
"Right. Lord Leonora, don't you know what kind of inn you recommend?
"You don't have to look for an inn or anything, just stay. At this hour, there's not always a good place to stay, is there?
Looking outside, it was already a little dim.
Sure, it's a little late to take the inn...
"No, there's also Mr. Iris this time, and I'm not going to bother you"
"Young kids don't shy away! I'm not bothered enough to stay with you guys. 'Cause there's like a room for the two of us to stay."
Mr. Leonora pounds on my back, trying to resign, and Mr. Filione smiles and nods, too.
"Nora says this, too, and you really don't have to shy away, do you? I also buy ingredients for four people."
Looking at Mr. Iris as to what was going on, Mr. Iris nodded cocklessly and said small, "Isn't that good? The manager wouldn't be able to afford much money right now, would he?," etc.
Ugh... I didn't know I even had to worry about the inn bill!
Even if it's not a big amount compared to debt, if it's also a town about South Strag, the cost of accommodation is never cheap.
I'm asking you from here, but you're inviting me from the other side... if there's a way you can save money, is there any reason not to choose that?
It's a little pitiful, but I can't stomach it on my back.
"... Now, I'll take care of you"
I swallowed a lot and bowed my head to Mr. Leonora and the others. |
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} | ゴゥン、ゴゥンと音を立て始めたその箱に、ケイトたちの視線も集中する。
やや離れた場所にいもノルドラッドに近付き、身を乗り出すようにして、その手元を覗き込んだ。
「それは......もしかして、氷牙コウモリの牙ですか?」
「うん。何にしようかと思ってたんだけど、何故か、お手頃価格で買えたんだよね、幸いなことに」
「へぇ、お手頃価格で」
アイリスたちからすれば、その理由は明確だが、いくらお手頃価格とは言っても、量が量である。普通の人なら決して無造作に扱えるような額ではない。
――ないはずなのだが、ノルドラッドは無造作に牙を掴み取り、ざらざらとその箱に注ぎ込んでいる。
そみにかかるコストを考えると、ケイトなどため息しか出なくなるので、彼女はそれを考えないようにして質問を重ねる。
「それは何をしているんですか?」
だね。もちろん、これみたいな原料が必要なんだけどね」
ケイトとしては、何を目的としているのか訊きたかったのだが、返ってきたのは
いくら研究者でも『周辺の魔力を上げる』こと自体が目的とは思えず、『上げた結果として何を期待しているのか』が重要。
しかしノルドラッドはそれ以上説明を続けることもなく、取り出した計測器で周囲の魔力量を測定、その値を手元のノートに記していく。
「......水属性が上昇、魔力量も上昇。魔力量だけを見れば、何らかの変化が起こりそうだけど......何も無しか」
次にノルドラッドが取り出したのは、アイリスたちが頑張って集めた火炎石が入った袋。
今度はそれを、これまた無造作にスリットの上でひっくり返す。
ガラガラと箱の中に吸い込まれる火炎石と、ゴウン、ゴウン、ゴウンと更に大きな音を立て始める黒い箱。
見る間に消費されるそれらの値段を考え、目眩すら覚え始めたアイリスたちだが、ノルドラッドの方は気にした様子もなく測定器を再度確認。
「水がやや下がり、火が上昇。魔力量は十分以上......かな?」
「ノルド! 何をするつもりだ」
なんだかとんでもない不安感に襲われ、黒い箱から響く音に負けないよう、アイリスが大きな声で訊ねれば、ノルドラッドもアイリスを振り返り、同じように大きな声で答える。
「サラマンダーの発生条件だよ! サラマンダーは一度斃しても、そのうちまた、同じ場所、もしくはその周辺に現れることがある。ボクはそれに、魔力量が大きな影響を与えていると考えているんだ」
ノルドラッドが説明している間に黒い箱から響いていた音は途切れ、辺りには再び静寂が戻ってきた。
そこにアイリスとケイトの、呟くような声が響く。
「魔力量......現れる......?」
「それって......?」
「思った以上に水が強い。火炎石が少ないこともあるが......あれを使うしかないか」
あれで説明は終わったと思っているのか、ノルドラッドは再び箱に向き直り、荷物の中をゴソゴソとあさる。
そうして取り出したのは、赤い鱗が数枚。
に輝くそれはとても美しかったが、その美しさよりもアイリスたちが気になったのは、その鱗になんだか見覚えがある気がしたこと。
「ま、まさか、それは......」
どう考えても、良い未来が見えない。
勘違いであることを祈り、震える声で恐る恐る訊ねたケイトに、ノルドラッドはごく自然に頷く。
「うん。サラマンダーの鱗だね。出費がかさむから、使いたくなかったんだけど」
「待っ――」
「仕方ないよね。ほい」
ケイトが止める間もなく、黒い箱のスリットに滑り込む鱗。
同時に、大きな音が再び響きだした。
いや、先ほどよりも確実に音は大きく、黒い箱もガタガタと揺れ始める。
「お、おい! その揺れ、正常なのか?」
「問題ないと思うよ? ほら、ちゃんと火属性の値が上昇してるし」
そう言いながら計測器をアイリスに示すノルドラッドだが、アイリスからすれば、今はそんなことどうでも良かった。
! 壊れるんじゃないのか?」
「そっちも大丈夫、だと思うけど。サウス・ストラグで最近買った物だし、壊れるには早いよ」
「サウス・ストラグって......レオノーラからか?」
「いや、別の店。この村に来るときにそこの前を通ったら潰れてたんだけど、経営不振だったのかな?」
「「.........」」
嫌な予感しかしない。
言葉を交わさずとも、アイリスとケイトの間で共有されるそんな思い。
もし、この場にサラサがいれば、彼女もまた強く同意したことだろう。
そんな彼女たちの思いに応えるかのように、次第に振動が激しくなる黒い箱。
あれだけの魔力を籠もった物が放り込まれた箱。
万が一、暴走でもしたら何が起こるのか。
そんな恐怖感から、アイリスとケイトは、一歩、二歩、後ろに下がる。
ガタガタ。
ゴトゴト。
ガッ! ガッ!
まるで、何かが詰まっているような、そんな音すら聞こえ始め――。
ボンッ!
上部の板が弾け飛び、ガランと地面に転がる。
そして、そこから溢れ出す、赤い光とキラキラした何か。
それを見て、ノルドラッドは首を傾げる。
「......おや?」
「お、おい! 大丈夫、なのか?」
破滅的な事態にならなかったことに、アイリスは少し胸を撫で下ろしつつも、明らかに普通の動作とは思えない状況。安心もできない。
「あぁ、うん。大丈夫。ちゃんと魔力量は上がっているし、火属性の値も期待値を上回っているから――」
計測器を確認して、あまり気にした様子もなくそう答えたノルドラッドに、アイリスが詰め寄った。
が壊れて、なんか溢れてるだろ!?」
「直ちには、人体に影響はない、と思う?」
「直ちには?」
「思う?」
不穏な言葉に、アイリスたちの目が据わる。
その迫力に、ノルドラッドは慌てて手を振った。
「ない、ないです! 単なる魔力だから! よほど魔力耐性が低い人なら気分が悪くなることもあるかもだけど、普通の人なら問題ないから!」
魔力量の少ない人や魔力に触れる機会のない人の場合、急激に大量の魔力に曝されると、魔力酔いという症状になり、気分が悪くなったり、酔っ払ったようになったり、場合によっては意識を失うこともある。
それ自体は身体に悪影響が残る物ではないのだが、安全な場所以外でそんな状態に陥れば、魔力酔いとは別の意味で危険である。
それは現在のアイリスたちのように、何が起こるか判らない状況でも同様だ。
「そうか」
「それなら、そう言えば良いのに」
自分たちには影響がないことを知り、アイリスとケイトはホッと安堵の息を吐く。
二人はそれなりの魔力を持ち、魔力耐性も普通にある。
そもそもこの空間に漂う魔力量は、しばらく前からかなりの量になっているので、気分が悪くなるならすでになっていることだろう。
は壊れたみたいだが、問題はないのか? 魔力量が期待値を超えたと言っていたが?」
「ああ、うん、そうだね。壊れてしまったのはもちろん残念だけど、最低限の仕事はしてくれたから、取りあえず、今回の実験に問題ないかな?」
「実験......って、なんだ? 魔力量がどうとか、属性がどうとか言っていたが」
自分の考えを開陳できることが嬉しいのだろう。
アイリスの疑問に、ノルドラッドは笑みを浮かべて得意げに話し始めた。
「通常、魔物は魔力の多い場所で発生する。これはボクのこれまでの研究結果からも正しいはずなんだけど、残念ながらまだそれを確認することはできていないんだよ。魔力は拡散する物だから、『魔物が発生しやすいエリア』は判っても、『発生する地点』は判らない」
「......ほう?」
「でも、サラマンダーって、巣の条件がかなり限定的なんだよね。だから、発生場所に関する条件もまた同様だと、ボクは予測した」
これまた、嫌な予感しかしない。
再び思いを共有するアイリスとケイト。
引きつった表情で顔を見合わせる。
そして今度も、その思いは裏切られなかった。 | Gong, Kate's gaze also concentrates on that box where she started making noises with Gong.
The two of them, who were somewhat apart, also approached Nordrad, trying to get themselves on board, and peered into his hand.
"Is that... could it be ice tooth bat fangs?
"Yeah. I was wondering what to make it, but for some reason, you could have bought it at an affordable price, fortunately."
"Heh, at an affordable price"
From the Iris and the others, the reason for this is clear, but no matter how affordable, the quantity is quantity. Normal people are never the kind of amount that can be handled unconstitutionally.
- It shouldn't be, but Nordrad is grabbing his fangs unconstructively and pouring them into a rough box of them.
Given the cost of that grasp, Kate and other sighs are the only ones left, so she tries not to think about it and repeats the question.
"What is that doing?
"This is an artifact that boosts the magic around you. Of course, I need raw materials like this."
As for Kate, I wanted to ask what she intended, but what returned was an explanation of the effects of the smelter (artifact).
"Raising the Magic of the Perimeter" is not an end in itself for any number of researchers, and "what do you expect as a result of raising it" is important.
Nordrad, however, does not go on to explain it any further, but measures the amount of magic around him with the retrieved measuring instrument and notes the value in the notebook at hand.
"... water attributes rise and magic levels rise. If we just look at the amount of magic, there's going to be some kind of change... but nothing."
The next thing Nordrad took out was a bag with flaming stones that Iris and the others worked hard to collect.
Now flip it over the slit this again unmanipulatively.
Flaming stones sucked into the crap and boxes and black boxes that start making even louder noises with gowns, gowns, gowns.
Iris and I thought about those prices consumed while I looked at them and even started remembering the glare, but the Nordrad ones checked the measuring instrument again without looking concerned.
"The water drops slightly and the fire rises. More than enough magic...?
"Nord! What are you going to do?"
If Iris asks out loud so that he is attacked by some absurd sense of anxiety and can't be beat by the sounds that echo from the black box, Nordrad looks back at Iris and answers equally loudly.
"Conditions for Salamander! Salamanders may also appear in or around the same place once they have been killed. I believe the amount of magic is having a huge impact on that."
The sound that was echoing from the black box while Nordrad was explaining was broken, and the silence returned around.
There goes Iris and Kate's, squeaky voice.
"Magic power... show up...?
"What is that...?
"The water is stronger than I thought. Sometimes there are few flame stones... but do I have to use them?"
You think the explanation is over with that, Nordrad turns to the box again and clamors with Gossogoso in his luggage.
That's how I took it out, a few red scales.
It was so beautiful in the palm of my hand, shining in clear red (not for me), but what bothered me more about Iris than its beauty was that I felt it looked kind of familiar to the scale.
"No way, that's..."
Whatever you think, I don't see a good future.
Nordrad nods very naturally to Kate, who prays it is a mistake and asks terribly in a trembling voice.
"Yeah. That's a salamander scale. I didn't want to use it because it was expensive."
"Wait -"
"You have no choice, do you? Ho."
Shortly after Kate stops, the scales slip into the slit of the black box.
At the same time, the loud noise sounded again.
No, the sound is definitely louder than earlier, and the black box starts to rattle and shake.
"Oh, hey! That shake, is it normal?
"I don't think that's a problem, do you? See, the value of the fire attribute is rising properly."
Nordrad showing Iris the meter with that being said, but from Iris, that didn't matter now.
"No, I'm not! This smelter (artifact)! Wouldn't it break?
"That's okay, I think. I bought it recently in South Strag, and it's fast to break."
"What's South Strag... from Leonora?
"No, another store. I passed in front of it when I came to this village and it was crumbling, was it poor management?
.........
I only have a bad feeling.
Such thoughts shared between Iris and Kate, even without exchanging words.
If there were Sarasa on this occasion, she would have strongly agreed again.
A black box that gradually vibrates as if it responds to their thoughts like that.
A box with all that magic caged in it.
In case of a runoff, what happens?
Out of such fear, Iris and Kate, step, step, step back.
Rattling.
Gotgoto.
Gah! Gah!
It's like something's jammed up, you even start to hear that sound -.
Bong!
The top plate bounces and flies and rolls to the ground with the gallon.
And something that overflows from it, red light and glitter.
Look at that, Nordrad tilts his neck.
"... oh?
"Oh, hey! It's okay, is it?
To the point that it didn't turn out to be a ruinous thing, Iris stroked his chest down a bit, but a situation that clearly doesn't seem like normal behavior. I can't even feel safe.
"Oh, yeah. It's okay, because the amount of magic is up properly, and the value of the fire attribute exceeds expectations -"
Iris stuffed Nordrad, who checked the meter and answered so without looking too concerned.
"Not that way! The smelter (artifact) is broken and overflowing!?"
"Immediately, no effect on the human body, do you think?
"Immediately?
"Think?"
Iris' eyes set upon the disturbing words.
To its force, Nordrad waved hastily.
"No, I don't! Because it's just magic! Sometimes people who are less resistant to magic may feel bad, because normal people have no problem!
In the case of people with little or no chance of touching magic, sudden exposure to massive amounts of magic can result in symptoms of magic sickness, feeling sick, feeling drunk or, in some cases, unconscious.
That in itself is not something that leaves a negative effect on the body, but it is dangerous in a different sense than magic sickness if you fall into such a state outside of a safe place.
That is true even in situations where we do not know what will happen, as the Iris do today.
"Right."
"Then I wish I could say so"
Knowing that it has no effect on us, Iris and Kate exhale in a ho and a relief.
The two have quite a bit of magic, and magic resistance is normal.
The amount of magic that drifts into this space in the first place has been quite a bit for some time, so it would already be if you felt sick.
"So, the smelter (artifact) seems to be broken, but is there a problem? You said the amount of magic exceeded expectations?
"Oh, yeah, you are. Of course I'm sorry it broke, but you did the least you could do, so for now, do you have a problem with this experiment?
"Experiment... what? He said something about magic and attributes."
I guess I'm happy to be able to open my thoughts.
To Iris' doubts, Nordrad began to smile and speak well.
"Usually demons occur in places with a lot of magic. This should be correct from my previous research, but unfortunately I haven't been able to confirm it yet. Magic is a diffuse thing, so even though you know" areas where demons are likely to occur, "you don't know" where they occur. "
"... Hmm?
"But salamanders, they have pretty limited nest conditions. So again, I predicted that the conditions regarding the place of occurrence were the same."
Again, I only have a bad feeling about this.
Iris and Kate sharing their thoughts again.
Face to face with a drawn look.
And this time, the thought was not betrayed. |
{
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} | 』を使って死体を適当に冷やす。
ここで凍ってしまうと台無しになるので、威力の調節は重要。
ある程度冷えたら、そのまま家の裏手に引きずっていく。
もちろん、裏庭じゃなくて塀のその外側ね。
綺麗に整備している庭を血で汚したくはないし、店先での解体ショーとかちょっと刺激的すぎる。ロレアちゃんとか遊びに来たら、泣いちゃうかもしれない。
工房から取ってきた道具を使って解体し、必要な部位を取っていく。
ここで失敗すると台無しだから、慎重に、慎重に。
最初に取るのはやはり心臓、肝臓、眼球。
いずれもすぐに処理しないとダメだから、なかなか手に入らない貴重品。
あとは胃袋や腸、爪なんかも使えるので確保。
毛皮と肉は他の獣と同じなので、エルズさんに下取りに出そうかな?
自分で解体して売っても良いんだけど、時間がかかるし。
「素材の鮮度が落ちる方が、無駄だよね」
ひとまず確保した素材を工房へ置き、余った部位を引きずってお隣のエルズさん宅へ。
「こんにちは~」
「おや、サラサちゃん。なに――でっかい獲物だねぇ」
外から声を掛けると、すぐに出てきたエルズさんが、私の持ってきたアンガーベアーに少し呆れたような声を上げる。
「これ、下取りして貰えませんか?」
「――あぁ、素材を取ったあとの肉と毛皮かい」
私の言った意味解らなかった様子のエルズさんだったけど、すぐに理解してくれた。
もしかすると、以前のお爺さんがいたときも同じ事があったのかもしれない。
「はい。専門家に任せた方が色々良いかと思って。――面倒くさいし」
「あっはっは。そりゃそうだ! よしわかった、任せな!でどうだい?」
「良いんですか? もっと安くても大丈夫ですよ?」
ぶっちゃけ、私にとっては余り物とも言えるので、タダで譲っても利益が出るんだよね。
「問題ないさ。生肉としてはあんまり人気が無いが、最近は採集者向けの燻製肉がよく売れてるからねぇ。上手く処理すれば結構旨いんだよ、この肉も」
「そうですか? じゃあ、それで。運びますね」
「ああ、すまないね」
エルズさんの家は猟師だけあって、解体作業専用の小屋が裏手に建ててある。
エルズさんの旦那のジャスパーさんは基本的に一人で狩りをするみたいだから、あまり大きな獲物は持って帰らないみたいだけど、この熊でも何とか入らないことは無い。
私は再びアンガーベアーを移動させ、その巨体を小屋の中へと押し込む。
多少中身を抜いたとはいえ、まだまだ一〇〇キロは超えていそうな肉の塊。
いくらエルズさんの恰幅が良くても、これを移動させるのはきっと大変だから、入り口に放置して、『後は任せた!』では気が引けるからね。
◇ ◇ ◇
エルズさん宅から戻ったら、店舗の前には『御用の方はベルを鳴らしてください』の札を下げて鍵を閉める。
もれるように、一週間ほど前に呼び出し用のベルを設置したのだ。今の来店頻度だと、ずっと店番しているのはさすがに効率が悪かったから。
錬成だけなら閉店後でもできるし、カウンターでもある程度の作業は進められるのだが、薬草畑の手入れは日があるうちしかできない。
お客が増えれば店番を雇っても良いけど、当分先だろうね。
「さて、手早く処理してしまおうかな」
爪は洗う程度で良いのだが、他の部分はしっかりと処理しないと価値が落ちてしまう。
特に心臓、肝臓、眼球は処理が難しい。
「しかし、私も慣れたものだよねぇ......」
こういう内臓系の処理は、学校の実習でも顔を青くして、気分が悪くなる人も多い。
私も気分こそ悪くならなかったが、かなりおっかなびっくり処理していたものだ。
しかしそれも最初だけ。しばらくすれば全員慣れて、顔色も変えずに動物を
いや、全員慣れるは言いすぎかな?
慣れない人は単位を落として消えていくわけだから。
「わたしぃ、怖ぁ~い」とか「気持ち悪~い」とか言ってる人が卒業できるほど甘くないのだ。
まぁ、そんなこと言っている人ほど、実際は全然問題ないんだけど。
あれ、異性に対するパフォーマンスだから。
本気でヤバい人は、そんなことを口にする余裕も無くぶっ倒れる。
同期でも、成績は良かったのに、あれがダメで辞めていった人もいたなぁ......。勿体ないことに。
ま、彼女の家は裕福みたいだから、錬金術師になれなくても大丈夫だろう。
孤児にはそんな余裕なんて無いから、さすがにあれで辞める人はいなかった。
「――うん、これで完了」
心臓と眼球は瓶詰めにして、あとの素材は乾燥させたり、粉末にしたりする処理を行えば、かなりの長期にわたって品質を落とさずに保管ができる。
このへんの処理に関しては、師匠のところでもかなり仕込まれたので、得意な分野かも。
「そういえば......もしかして、これを見越していた?」
師匠は「珍しい素材があったら送ってくれ」と言っていたけど、こういった処理ができなければ送れるはずも無い。
バイトをしていた頃から、師匠は私を辺境に飛ばすつもりだった......?
「......いや、
素材の買い取りは錬金術師の大事な仕事で、保管可能なように処理できなければ買い取れない。だから丁寧に教えてくれたんだよ、きっと。
「さて、この素材、どうしようかな?」
錬成薬
を作っても良いのだが、あまり必要とされる物ではないため、ここに並べてもたぶん買う人はいない。
そもそも、普通の村人に買えるような値段にはならないのだから。
「経験のために作っても良いけど......さすがにそろそろ売りに行かないとマズいかも」
当たり前の事として、ここで買い取った素材をここだけで消費できるはずがない。
そのため、現状の私の店は、素材が溜まり現金が減る一方。
そろそろ卸しに行かないと、手持ち資金が心許ない。
その第一候補は、この村から一番近い“サウス・ストラグ”という町。
徒歩で移動すればかの距離かな?
私がこの村に来た時も、そこまでは乗合馬車、そこからは徒歩だったので、一応少しだけはどんな町か知っている。
王都とは比べるべくもないけど、辺境ではそれなりに大きく人口の多い街。
あ、ちなみにこの村の名前は“ヨック村”ね。
誰も使ってないけど。
私も学校の店舗情報の書類で見たぐらいで、サウス・ストラグで道を聞いても誰も解らなかったぐらい。
「大樹海近くの小さな村」という情報を付け加えて、やっと「ああ、あの村ね」と理解してもらえるぐらい、知られていない。
村の人も名前なんてほとんど意識していないと思う。さすがに名前を知らないことは無いと思うけど......無いよね?
ま、そのくらい知られていない村だから、サウス・ストラグの錬金術のお店に挨拶に行って、素材の買い取りをして貰えるように話を通しておいた方が良いと思うんだよね。
私が一度顔を出しておけば、他の人に輸送を頼めるかも知れないから。
例えば雑貨屋のダルナさんに、仕入れのついでに売却を頼んだとして、ただの素人だと思われたら、足下を見られるかも知れないじゃない?
でも、錬金術師の代理と解っていれば大丈夫なはず......。
私が若いから、もしかすると侮られる可能性もあるけど、その場合は師匠の威を借ることも私は躊躇しないっ!
「うん、そうしよう!」
私はそう決意すると、師匠にもらったリュックを取りだし、これまで買い取った素材の荷造りを始めたのだった。
◇ ◇ ◇
辺境では少し都会の町、サウス・ストラグ。
そんな町の一角に、私の目的地はあった。
そう、ちょっとオシャレなカフェ。
さすがに引っ越しの途中で入るのは、と前回は涙をのんだんだよね。
え、素材の卸し? そんなのは、あとあと。まずは腹ごしらえをしないと。
「少し高そうだったけど、良いよね?」
誰に言い訳するでも無くそう呟いた私は、目を付けていたそこに突撃する。
時間帯的に少し混んでいたため、「少し待つことになりますが、よろしいですか?」と聞かれたが、ここは素直に待つことにする。
目的のお店は比較的広く、席数もそれなりにあったため、比較的すぐに私の順番が回ってきた。
「紅茶......わっ、何種類もある! う~~ん、ここはちょっと頑張って......中間の物を!」
そこ『え、高いのじゃないの?』とか言わない。
このお店に入ること自体、私としてはかなり頑張ってるんだから!
「お菓子は食べたいけど、昼食だし......ここは、『薄焼きパンに野菜とチーズをのせて』というのを頼んでみようかな」
よく解らないけど、なんかオシャンティな感じがする。
「これでレアかぁ。結構奮発したけど......ううぅぅん、ここは頑張って、フルーツケーキも頼もう!」
しめて普段の昼食五回分。
私、かなり頑張った!
お金はあるけど、気分的にしばらくは節約、かな?
注文して一息ついた私は、改めてお店の中を見回してみる。
雰囲気を大事にしているのか、お店の中は綺麗に掃除され、植物の鉢植えや絵画、窓には綺麗なカーテンまで掛けられている。
当然だけど、普通の食堂にそんな物はありはしない。
インテリアにコストがかかるのはもちろんだが、これだけ掃除を行き届かせようとするなら、ある意味、お客を選ばないと無理がある。
ディラルさんのところとかも頑張って綺麗にしているが、採集者とか泥だらけで帰ってくることもあるので、限界があるのだ。
あんまり酷いと、店に入る前に追い出して、「身体洗っておいで!」と一喝してるけどね。
「素敵だから真似したいけど......私にできるのは植物ぐらい?」
ウチのお客も採集者がメインだし、この雰囲気を出すのは土台無理があるよねぇ。
カーテンはすでに付けてあるし、絵画を飾っても「この
「でも、小さいテーブルぐらいは置いても良いかも?」
最近、ロレアちゃんが頻繁に遊びに来てくれるのだ。
私が素材の買い取りを始めたので、ダルナさんが町に売りに行く必要が無くなり、村にいる時間が増えたみたいなんだよね。
その分、ロレアちゃんが店番に立つ必要が無くなり、ウチに遊びに来ては、しばらく王都の話なんかの雑談をしては帰って行く。
ゲベルクさんから貰った椅子はあるけど、テーブルもあればもう少しのんびり、お茶とかができるかも。
これからも遊びに来るなら買っても良いかなぁ......王都の話、することが無くなったらもう用済み、遊びに来ないとか無いよね?
ここは一つ、お友達レベルを上げるべく、お土産、買って帰るべき?
でも、ダルナさんもこの町には頻繁に来てるわけだし、ロレアちゃんが喜ぶような物は無いかなぁ?
「お待たせしました」
そんな事を考えていると、給仕のお姉さんが私が注文した物を持ってきてくれた。
そしてそれらをテーブルに並べ終わると、ニッコリと笑って頭を下げる。
「ごゆっくりどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
ほほう。さすが高いだけある。接客も丁寧。
基本、「あいよっ!」と一声掛けてドドンと置くだけの食堂とはひと味違う。
ウチでもあんな感じの接客を......必要ないか。客層、違うもんねぇ。
食べよ、食べよ。
「これが薄焼きパン、か」
紅茶とケーキは後回しにして、初めて食べる薄焼きパンを観察してみる。
パン自体はそう特殊でもない。
オーブンが無いウチでも、フライパンがあれば作れそうな感じ。
――いや、そもそもコンロ自体、まだ無いんだけどね。
「乗せてあるのが、野菜とチーズ、あとは小さいお肉? この赤いソースがちょっと変わってるね」
逆に言えば、ソース以外は普通。一口サイズに切って、口の中へ。
「むぐむぐ......美味しいね?」
見た目から想像する以上に美味しい。
野菜とお肉に特筆するところは無いが、チーズのコク、ソースの酸味と少しの甘みがとてもマッチしている。
膨らみ損ないみたいなパンも、この料理ではそれが良い。
「このソース、トマトに香辛料? う~ん、香辛料が難しそうだね」
美味しいから村でも食べたいが、特に料理が得意なわけでもない私では、このソースの味は真似できない。
分析を得意とする錬金術師としては、ソースに使ってある香辛料ぐらい解析したいけど......。
「うん、素材が高く売れたら、この街で手に入る香辛料、一通り買って帰ろう」
あと、チーズも。
村ではなかなか手に入らないし。
「紅茶は......普通......。フルーツケーキは......び、微妙......?」
いや、決して美味しくないわけじゃないよ?
だけど、何というか、師匠のお茶の時間に出てくる紅茶とお菓子の方が、よっぽど美味しいというか......。
紅茶はともかく、お菓子はいつもマリアさんが作ってたんだけど......。
これは、マリアさんが凄いの?
それとも、このお店が大したことないの?
判断基準がないから判らない!
王都に住んでいても、食べ歩きなんてしたこと無いし、孤児院でお菓子が出てくるわけも無い。
「結構人が入っているんだから、ダメって事はないと思うけど、味じゃなくてこのお店の雰囲気で来てるかも知れないし......」
このお店なら、多少味が良くなくても許容できそうな?
「って、どうでも良いか。世間的な評価なんて」
私基準では、味のわりにちょっと高めのお店という評価。
二度と来ないとは言わないけど、あえて訪れようと思うほどでは無いかな?
今後、この街でいろんなお店を回ると、また変わるかも知れないけどね。
それでも決して不味いわけじゃないので、払った代金分ぐらいは時間を掛けてゆっくりと味わい、私はお店を後にした。
「この街には二軒、錬金術師のお店があるんだよね」
そのへんは村の採集者にリサーチ済み。
この街に三カ所ある門のうち、村へ続く道がある門、その近くに一軒。
町の中心にある広場、そこから少し外れた場所にもう一軒。
採集者たちの評価としてはどちらもあまり変わらず、「近い方を利用することが多い」とのことだったけど......。
「まずは近い方に行ってみようかな?」
今いる場所からも近いので、ひとまずそちらに向かう。
数分ほど歩いて見えてきたその店構えは、ウチの店とも大差ないほどの大きさ。
もちろん、田舎とこの街じゃ店舗の値段は全然違うと思うし、うちの店みたいに格安なんて事は無いはず。それを考えれば、やはり順当にどこかのお店で修行してから独立した錬金術師のお店だろう。
う~ん、少し店周りが汚れている気がするけど、街中だとこんなものかな?
師匠なら確実に怒って、掃除させるけどね。
店構えの観察を終えた私は、少し古びた扉を押して中に入る。
「いらっしゃい」
店に入って聞こえてきたのは、少し無愛想な男の人の声。
年齢的には、三〇にはなっていないかな?
少し値踏みするような視線が気になるけど......取りあえず商品を見てみる。
基本はやっぱり錬成薬。ラインナップはウチと大して違わないね。
も置いてあるけど、数が少ないので、基本は受注生産か。
作製に高度な技術を必要とする商品が並んでいないのは、売れないからか、それともこの店の錬金術師の腕が不足しているのか。
......うん、よし。
少し気合いを入れて、カウンターへ向かう。
「あの、これ、売りたいんですけど」
「あん? どれ」
私がカウンターに置いたのは瓶に入ったアンガーベアーの心臓。
それを取り上げて、ピクリと眉を動かした店員は、不満げに言う。
「ちょっと古い上に、処理も良くない。一万二千って所だな」
へぇ、古い? で、処理が良くない?
ほうほう。
――ふざけてるのかな?
私は内心の不満を押し殺し、次の素材をテーブルに置く。
「――そうですか。これは?」
今度は肝臓だけど......。
「こっちもだな。合わせて二万だ。いいな?」
良いわけがない。
持っていこうとする店員の手から二つともささっと取り返し、リュックにしまう。
「そうですか。お邪魔しました」
「あっ、おい! 待て!」
待つわけがない。
背後から聞こえる雑音をシャットアウトして、さっさと店を出る。
しばらく歩いて、後ろを確認。
――さすがに追ってこないか。
ふぅと一息。
「どっちも差が無いと言ってたけど、最悪なお店だったねぇ。ウチの村の採集者で利用する人は少ないと思うけど、一応注意しておこうかな」
私のお店があるので、わざわざここまで来る人はいないと思うけど、買い叩かれたら可哀想だから、教えてあげた方が良いよね?
決してさっきの店員が気に入らないから、嫌がらせをしているわけでは無いよ?
採集者のためです、ええ、もちろん。
「未だにあんな錬金術師、いるんだなぁ。――もしかして、私が舐められた?」
たまたま素材を手に入れた、とでも思われたのかな?
私が錬金術師だと判ってあの態度なら、ただのバカだよね。
多少スゴめばどうにかなると思ったのかなぁ?
あの程度、何の迫力も無かったけど。
エルズさんの旦那さん、ジャスパーさんなら立っているだけであの何倍も凄味があるから。
最初紹介されたとき、思わず
夜道で会ったら、多分逃げるね。知り合いじゃなければ。
実際はとてもいい人なんだけどね。
「もう一軒が良いお店なら良いけど。まさか、どちらも『差が無く』
私は少し憂鬱な気分になりながら、もう一軒の錬金術師のお店に向かって歩き出した。 | Wholesale Materials ()
First use the weakened 'Frozen' to properly cool the corpse.
It's important to regulate the power because freezing here ruins it.
When it gets somewhat cold, I drag it straight to the back of the house.
Of course, it's not the back yard, it's the outside of the walls.
I don't want to stain my beautifully maintained garden with blood, and the demolition show at the store is a little too exciting. If I came to see Lorea or something, I might cry.
Dismantle using the tools I have taken from the workshop and take the necessary areas.
Failure here ruins it, so be careful, be careful.
The first thing to take is still the heart, liver, and eyeballs.
All of them have to be processed immediately, so valuables that are hard to come by.
And then you can use your stomach, intestines, nails, etc., so make sure.
Fur and meat are like any other beast, so why don't we send Mr. Elles to take them down?
You can dismantle it yourself and sell it, but it'll take time.
"It's more useless to lose the freshness of the material."
First place the secured material in the workshop and drag the excess area to Mr. Elles' house next door.
"Hello ~"
"Oh, Sarasa. What? You're a big prey."
Speaking from the outside, Mr. Elles, who immediately came out, raises his voice a little frightened by the angler bear I brought.
"Could you take this down?
"- Oh, the meat and fur after the ingredients are removed"
It was Mr. Elles who didn't seem to understand what I meant for a moment, but he understood right away.
Maybe the same thing happened when my old grandfather was around.
"Yes. I thought it would be better to leave it to the experts. - It's a pain in the ass."
"Ha ha. That's right! All right, I got it, I got it! How about eight grand?
"Is that good? It's okay if it's cheaper, right?
Blah, you can even say it's extra for me, so it's profitable to give it away for free.
"No problem. It's not very popular as raw meat, but it's been selling smoked meat for collectors a lot lately. It would taste pretty good if you handled it well, and this meat."
"Really? Okay, so. I'll carry you."
Oh, I'm sorry.
Mr. Elles' house is the only hunter, and a cabin dedicated to demolition work is built on the back.
Mr. Elles' husband, Mr. Jasper, is basically like hunting alone, so he doesn't seem to take home too much of his prey, but even this bear never manages to get in.
I move the Anger Bear again and push that giant inside the cabin.
A chunk of meat that is still likely to exceed 0 kilos, even though it has been somewhat removed from the contents.
No matter how wide Mr. Elles is, it must be hard to move this around, so leave it at the entrance and say, 'I'll take care of it later!' Cause I can feel it.
◇ ◇ ◇
Mr. Elles, when you get back from your house, close the key by lowering the 'ring the bell if you need it' bill in front of the store.
We set up a call bell about a week ago so that we could get a cage in the workshop even during business hours. With the current frequency of visits, it has always been because it was just not efficient.
If it's just smelting, we can still do it after closing, and some work can go on at the counter, but we can only take care of the herbal fields while there's day.
You can hire a store number if you have more customers, but for the time being, I guess.
"Well, I guess I'll handle it quickly"
The nails are good enough to be washed, but the other parts will be worthless if not treated thoroughly.
The heart, liver and eyes in particular are difficult to process.
"But I'm used to it too..."
Many people feel bad about handling this kind of gut system by bluing their faces in school internships as well.
I didn't feel any worse either, but it's something I was pretty surprised to process.
But that's just the first one, too. After a while, everyone gets used to scratching animals without changing their complexion.
No, is it too much to say that we're all used to it?
Because those who are unfamiliar drop their units and disappear.
It's not sweet enough for someone who says "I'm not scared" or "disgusting" to graduate.
Well, the more people who say that, in fact, there's no problem at all.
That's because it's performance against the opposite sex.
Anyone who seriously sucks won't even be able to afford to say that.
Even in the same period, some people had good grades but that one didn't work and quit...... Without you.
Ma, her house looks wealthy, so you won't have to be an alchemist.
Orphans can't afford that, so there was just no one to quit with that.
"- Yeah, that's it"
If the heart and eye are bottled and the rest of the material is dried or powdered, it can be stored without loss of quality for quite a long time.
It may be an area of specialty because it was also planted quite well at the master's when it came to the handling of this area.
"Speaking of which... Could you have foreseen this?
The master said, "Send me if you have any rare materials," but if you can't handle these, you can't even send them.
Since I was working part-time, my master was going to fly me to the edge...?
"... No, you're wearing too much."
The purchase of materials is an important task of the alchemist and cannot be bought unless it can be processed in such a way that it can be stored. That's why he taught me politely, I'm sure.
"Well, what am I going to do with this material?
I can make the potion, an alchemy drug that uses these materials, but since it is not much needed, there is probably no one to buy it even if arranged here.
In the first place, it won't be as expensive as ordinary villagers can buy.
"You can make it for experience... but it's just time to go sell it. It might suck"
As a matter of course, we can't just consume the materials bought here.
As a result, my store as it stands has accumulated less material and less cash.
If it's not time to go wholesale, I don't mind the funds in hand.
Its primary candidate is a town called South Strag, which is closest to this village.
If you travel on foot, is it a distance of two to three days?
Even when I came to this village, that was a boarding carriage, and from there it was on foot, so I know what kind of town for once.
Neither comparable to the Wang capital, but quite a large and populous city on the border.
Oh, by the way, the name of this village is "Yock Village”.
No one is using it.
As much as I saw it in my school store info paperwork, so much so that no one even knew the way when I heard it in South Strag.
It's unknown enough to add the information "A small village near the Great Tree Sea" to finally make you understand "Oh, that village".
I think the villagers are barely aware of their names either. I don't think you know exactly what your name is... but there isn't, is there?
Because it's an unknown village, I think you should go say hello to the South Strag alchemy store and talk to them so they can buy the material.
Because once I show my face, I might be able to ask someone else to transport me.
For example, if Darna, the grocery store, asks you to sell it after purchasing it, and you think she's just an amateur, maybe you can look under her feet?
But if you know you represent the alchemist, you should be fine......
Because I am young, I may be insulted, but in that case, I am hesitant to borrow the authority of my master!
"Yeah, let's do that!
When I was so determined, I took the backpack my master had given me and started packing the material I had bought so far.
◇ ◇ ◇
South Strag, a little urban town on the border.
In such a corner of town, there was my destination.
Yes, a bit of a stylish cafe.
That's right, you went in on the way to the move, and last time, you cried.
Huh, wholesale materials? That's more like it. I need to get a tummy first.
"It seemed a little expensive, but it's good, right?
No matter who you excuse, I squealed like that, and I stormed there with my eyes open.
It was a little crowded over time, so I said, "You're going to have to wait a little, okay? I was asked," but I honestly decide to wait here.
My order turned relatively quickly because the shops in question were relatively large and the number of seats was considerable.
"Black tea...... wow, there are so many kinds! Uh-huh, a little hard work here...... some intermediate stuff!
So I said, "Uh, isn't it expensive? 'I don't say.
Because as far as I'm concerned, I'm trying pretty hard to get into this store!
"I'd love to have some sweets, but it's lunch and... here, let's ask for 'vegetables and cheese on thin baked bread'"
I don't know, but it feels like something stylish.
"That's 150 rare. Pretty excited though...... ugh, good luck here and ask for fruit cake too!
Five regular lunches at least.
I worked pretty hard!
I have money, but I feel like saving a while, huh?
After ordering and taking a breather, I'll look around the store again.
Do you care about the atmosphere, the inside of the shop is cleaned up beautifully and plants potted, painted and even hung with beautiful curtains on the windows.
Naturally, I don't have anything like that in a regular dining room.
Of course there is a cost to the interior, but if you're going to make it so well cleaned, in a way, you have to pick a customer.
I try my best to clean up Mr. Dilal's place and stuff, but sometimes he comes back full of gatherers and mud, so there are limitations.
When it was too bad, he kicked it out before entering the store and said, "Wash yourself!" I'm having a drink, though.
"I'd like to imitate it because it's nice... but is it about plants I can do?
Our customers are predominantly gatherers, and it's impossible to base this atmosphere.
I already have the curtains on, and even decorating the paintings, I'm like, "What's the effect of this smelter Artifact?" or something like that.
"But maybe I could put down a small table or something?
Lorea's been coming to see me a lot lately.
Since I started buying materials, it seems that Mr. D'Arna no longer has to go to town to sell them, and he spends more time in the village.
For that matter, Lorea no longer needs to stand in the store number, and when she comes to visit us, she goes home after some chatter about the Wang Capital for a while.
I have a chair that Mr. Geberg gave me, but some tables, maybe I can relax a little more, tea or something.
I was wondering if I could buy it if I was going to keep coming to see you... talk about Wang Du, if I don't have anything else to do, I've already used it, and you don't want to come to see me, right?
There's one thing here, to raise your friend level, souvenirs, should you buy and go home?
But Mr. D'Arna comes to this town often, and I wonder if there's anything that makes Lorea happy?
"Thank you for waiting"
With that in mind, my sister-in-law brought me what I ordered.
And when I finish arranging them on the table, I laugh nicely and bow my head.
"Take your time"
"Ah, yes. Thank you."
Hopefully. That's just expensive. Customer service is also polite.
Basics, "aye!" It's not like a dining room where you just hang up and put it down with Dodon.
Don't we need customer service like that? Guest base, it's different.
Eat, eat.
"Is this thin baked bread?"
I'll put tea and cake behind me and observe the thin baked bread I eat for the first time.
The bread itself is not so special.
Even if we don't have an oven, it feels like we could make it with a frying pan.
- No, in the first place, the stove itself, it's not there yet.
"What I'm putting on is vegetables and cheese, and then little meat? This red sauce is a little different."
Conversely, except for the source, which is normal. Cut into bite sizes and into mouths.
"Muggle... yummy, huh?
Tastes better than you'd imagine from the looks of it.
There is nothing special about vegetables and meat, but the richness of the cheese, the sourness of the sauce and a little sweetness match very well.
Bread that looks like it won't swell is good in this dish.
"This sauce, spices on tomatoes? Hmm, spices seem difficult."
I want to eat it in the village because it's delicious, but I can't imitate the taste of this sauce, especially if I'm not good at cooking.
As an alchemist who specializes in analysis, I'd like to analyze about the spices I use for my sauce...
"Yeah, if the ingredients sell high, the spices you get in this city, buy them all the way home"
And cheese.
It's hard to get in the village.
"Tea is... normal... Is the fruit cake... bi, subtle...?
No, it's never delicious, is it?
But what do you mean, tea and sweets that come out at the master's tea time taste better...
Regardless of the tea, Maria always made the sweets......
Is this, is Maria awesome?
Or is this store no big deal?
I don't know because I don't have any judgment criteria!
Even if you live in Wang capital, you've never eaten or walked around, and there's no way sweets come out in an orphanage.
"There are quite a few people in there, so I don't think it's a good idea, but I think it might be coming in this store atmosphere instead of flavor..."
Does this store seem acceptable even if it doesn't taste good?
"I don't care. I don't know what public appreciation is."
By my standards, the rating is a slightly higher store instead of flavor.
I'm not saying I'm never coming again, but isn't it enough that I dare to visit?
Going around all kinds of shops in this city in the future, it might change again.
Still, it was never unsavory, so I took the time to taste it slowly for about the price I paid, and I left the store behind.
"There are two Alchemist shops in this city."
The area has been researched by village gatherers.
Of the three gates in this city, there is a gate that leads to the village, one near it.
Square in the center of town, another one a little off the edge of it.
Neither of them changed much as the collectors rated them, saying that they "often use the closer ones"......
"Shall we go to the nearest one first?
It's also close to where you are now, so I'll head over there for a second.
Its storefront, which I've seen on foot for about a few minutes, is as big as our store.
Of course, I don't think the prices of stores are quite the same in the country and in this city, and there should be no such thing as cheap as our store. Given that, it would still be an independent alchemist's shop after training in some store in due course.
Uh-huh, I feel a little dirty around the store, but is this what it is all over the city?
A master would surely be angry, and make him clean it.
After completing my observation of the store, I push the slightly old door into it.
"There you are."
What I heard walking into the store was the voice of a slightly unfathomable man.
At your age, aren't you thirty?
I'm concerned about the slightly worthy gaze... but I'll take a look at the product for now.
The basics are smelting drugs, after all. The lineup is very different from ours.
I also keep the smelter "Artifact", but since the number is small, is the basic order production?
Is there no line of products that require advanced technology to make, because they cannot be sold, or is there a shortage of alchemist arms in this store?
... Yeah, okay.
Get a little tempered and head to the counter.
"Um, I'd like to sell this."
"Amen? Which"
What I put on the counter was the heart of an angler bear in a bottle.
The clerk, who took it up and moved Pickle and Frown, says dissatisfied.
"On top of being a little old, it's not handled well either. Twelve thousand."
Heh, old? So, it's not handled well?
Hmm.
- Are you kidding me?
I push and kill my inner dissatisfaction and put the next material on the table.
"- Really? What's this?"
Now the liver......
"You too. Twenty grand together. All right?"
There's no way it's good.
I take both of them back from the clerk's hand trying to take them, and I turn them into a backpack.
"Really? Sorry to bother you."
"Ah, hey! Wait!"
There is no way to wait.
Shut out the noise you hear from behind and just leave the store.
Walk a while, check the back.
- Why don't you just follow me?
Phew, take a breath.
"He said there was no difference between them, but it was the worst store. I don't think a lot of people use it as collectors in our village, but let's just keep an eye out."
There's my store, so I don't think anybody's bothered to come this far, but if they buy me down, it's pathetic, so I should tell you, right?
I'm not harassing you because you never like the clerk you were with, are you?
It's for the gatherers, yeah, sure.
"I still have such an alchemist. - Could I have been licked?
Did they happen to get the material, but did they think?
If you find out I'm an alchemist and that attitude, you're just stupid, aren't you?
I was wondering if you thought if it was slightly awesome, you could handle it?
To that extent, there was nothing powerful about it.
Because Mr. Elles' husband, Mr. Jasper, would be many times more amazing just standing there.
When I was first introduced, I accidentally retreated from "Azusa".
If I see you on the night lane, I'll probably run away. Unless you know him.
He's actually a very good guy.
"It would be nice if the other one was a good store. Neither is' no difference 'bad quality, is it?
I walked out towards another alchemist's shop, feeling a little melancholy. |
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} | 「さて。件の商人の話、しましょうか」
食事が終わり、フィリオーネさんが店番へと向かったところで、レオノーラさんがそう切り出した。
「はい。お願いします」
「うん。でも、話が長くなりそうだから、何か飲み物でも......サラサ、作り置きのお茶で良い? そのへんのこと、フィーに任せっきりだから」
今から呼ぶのもね、と言うレオノーラさんに私が頷くと、出てきたのはよく冷えたお茶だった。
最近、私がよく飲んでいるスヤ茶とは違い、薄茶色の香ばしいお茶。
飲んだ事のないお茶だったけど、これはこれで良い。
「ふぅ、美味しいです。――やっぱり、冷蔵庫ってあるんですね」
「淹れたのはフィーだけどね。冷蔵庫は、錬金術師の所なら、大抵はあるんじゃない? 上を目指す錬金術師なら必ず作る物だし」
『サラサもそうでしょ?』と言外に言われ、私は頷く。
「だよね。タイミングが良ければ売るために作れるけど、売れなかったら、自分で使うしか無いしねぇ。サラサも売れなかったんじゃない? あの村だと......」
「はい。売れませんね。なので、最初から諦めて、ウチの台所に合わせて作りました。冷凍庫に」
「あぁ、セットで作るわよね、あれは。夏場以外はあまり使わないけど」
「ですね。ウチの冷凍庫も――あ、今は氷牙コウモリの果物が入ってますね」
「回収したの!? あー、でも時季的にはちょうど良いのか。サラサ本人が行ったなら、問題なく持ち帰れるでしょうし」
「あそこの洞窟はずっと狩られていなかったので、群の規模がかなり大きかったですからね。回収した果物も、結構な数になりました。――お分けしましょうか?」
「良いの? かなり貴重な代物だけど」
「私自身はあまり興味ありませんし、売り先に困っているので、師匠にお願いしようと思ってたぐらいですから」
今のところ、冷凍庫に入れたまま、放置状態になってるんだよねぇ。
私も一度くらい味見してみようかな、とは思っているけど、持ち帰って食べたアンドレさんたちの評価は『美味い......と、思う』、『普通の酒で良いわ』、『高級な味がした』というもの。
慌てて食べてみようと思う様なものではなかったし、彼らもそれ以上は食べようとせず、売却を依頼されているのだ。
「それなら、少し分けてもらえる? 話のタネに食べてみたいわ」
「解りました。では、今度来る時に持ってきますね。人に預けるのは難しいので、少し先になると思いますが」
「えぇ、構わないわ。次回の仕入れの時とかで」
そのまま運べば融けてしまうので、私が持ち運ぶしかない。
必要数と買い取り価格を話し合い、仕切り直して、本題。
「まず、名前はヨク・バール。ここ、サウス・ストラグに店を構えている、まぁまぁの規模の商人だったわ」
大商人とまでは言えないけれど、それなりには大きい商人。
それ故に、レオノーラさんも比較的簡単に相手を絞り込めた様だ。
「扱っている商品は錬金術関連の素材や、
「素材だけじゃなく、
「そう。そこが問題なのよね」
素材に関しては、処理をしなくてもあまり劣化しない物もあるし、錬金術師が保存できる様に処理した物を商人が扱う事もある。
も効果が判りやすい物であれば、取り扱う事はあるだろう。
私が冷却帽子をグレッツさんたちに卸している様に。
に関してはちょっと違う。
見ただけでは効果が判らない上に、使用期限などもあるし、保存状態によってそれは変化する。
を使うのは、購入してしばらく経ってから。
効果が無かったり、おかしな効果が出たとしても、『あなたの保存の仕方が悪かったのだ』と言われてしまえば、文句も付けづらい。
を購入するのはかなりリスクが高く、普通の商人が商品として扱うのはなかなかに難しいのだ。
「販売先も気になりますが、どこから仕入れているんでしょう? 錬金術師でも抱えているんですか?」
「それに近いわね。ヨクからお金を借りている――いえ、ヨクによって借金を背負わされた錬金術師を使っているみたいなのよ。かなり理不尽な状態で」
「背負わされた?」
気になる言い方に聞き返すと、レオノーラさんは苦い表情の中に怒りを滲ませて頷いた。
「そう。調べてみたんだけど、いずれも陥れられた、って感じなのよね」
「それって、捕まらないんですか?」
「私が調べた範囲では、悪質ではあるけど、ハッキリと違法行為をしているわけじゃないから、難しいわね」
むむ......それは確かに。
ウチの村でやっている事もそれに近く、領主に訴えたところでおそらくは無駄。
「ただ、ターゲットになっているの全員若い子ばかりというのが、ね」
「経験の少なさを突かれて、騙された、と?」
「私はそう思ってる。店を構えたばかりだと、お金、無いでしょ? 錬金術ってお金が掛かるから、ちょっとしたミスでも一気にお金が無くなるから......」
「あぁ、それはありますね」
例えば
の作製を依頼された場合。
簡単な物なら良いんだけど、ちょっと背伸びをして難しい物の依頼を受けてしまうと......一度作製に失敗したら、とてもマズい。
お金があれば、再度素材を買い集めて作れば良い。
その時点で、ほぼ利益は出なくなるけど、注文には応えられるし、自分の労力を除けば、損までは出ない。
でも、お金が無かったら?
素材をダメにした上で、注文を断って損失を出すか、どこからかお金を借りて、損失を何とかゼロにするか。
そして万が一、再度失敗したりすれば、借金だけが残る。
「自分のミスなら、ある程度仕方ないようにも思いますが、仕組まれて、となると......」
例えばお金の無い時に、タイミング良く必要な素材を、少し安く売りに来る商人がいたとしたら?
普通は買ってしまうだろう。
でも、その素材に細工がされていて、失敗しやすくなっていたら?
もちろん、素材の質をしっかりと見極められない錬金術師が未熟ではあるんだけど......。
「嫌でしょ?」
「嫌ですね」
面識の無い人たちではあるけど、同じ錬金術師、そして同年代の私としては。
「......あ、もしかして、私、ターゲットになってます?」
ふと、そんな事を言った私に向けられたのは、レオノーラさんからの少し呆れたような視線だった。
「今気付いたの? なってるわね、確実に。サラサの事を軽く調べたら、どう見てもカモだもの」
学校卒業したての新米錬金術師。
田舎の村で、格安の店を手に入れて開業。
確実に経験は少ない。
まぁ! なんて騙しやすそうな相手でしょう!
――私の事なんですけど。
「けど、今回は完全に相手が悪いわよね。敵対する相手を間違えてるわ」
「えぇ......? それだと、なんだか私が悪い人みたいなんですけど......」
「悪くは無いけど、油断できない相手じゃない」
「そうですか? 私なんて、経験の少ない新米ですよ? ひよっこです」
まったく心外である。
けど、レオノーラさんが私に向けるのは、ジト目。
「ひよっこは私の所に根回しに来たりしないわよ。せいぜい自分の住んでいる村まで。対してサラサ、ウチの店は当然として、周囲の町にまで手を伸ばしていたりしない?」
「まさか、まさか。......レオノーラさんの所に大量に流れれば、結果的にそうなるかな、とは思いましたけど」
あとはちょろっと、グレッツさんにも氷牙コウモリの牙を渡しただけですよ?
行商に行った先で換金してね、と言付けて。
「そのへんが用意周到なのよね......えぇ、当然、私も流してるわよ。おかげで順調に、この周辺では氷牙コウモリの牙の相場が暴落中」
「それはそれは。買い集めている人は可哀想ですね」
えぇ、まったく。
私がニッコリと笑うと、レオノーラさんは首を振って苦笑を浮かべる。
「良く言うわよ。サラサのその笑顔がちょっと怖く感じるわ。......けど、少し前まで牙の相場が上がっていたのって、ヨクのせいみたいだし、同情する気はまったくないんだけど」
「あぁ、そのへんから関与してたんですね」
を流したものだから、ウチの村に来たと。
「正直、行動規範の無い商人に、錬金術素材の相場を操作されるのは困るのよね」
「ですよね。利益だけでやられると、困っちゃいますからね」
錬金術師は勝手に安売りしちゃダメとか、色々制限があるのだから。
国の政策なのだから、これを盛大に破ったりすると、怖い人たちがやって来ちゃうのだ。
「でしょ? だから、できれば潰したいのよね、このヨク・バール。サラサも協力してくれない?」
「えぇ、かまいませんよ。私にできる事なら」
悪徳商人、滅ぶべし。
慈悲は無い。
その後、私とレオノーラさんは、いくつかのパターンを想定して、ヨクに確実にダメージを与えられる様な方策を共に立てた。
それぞれのパターンに沿って、それぞれの役割を決め、細かな打ち合わせも行う。
「しかし、さすがですね、レオノーラさん。私が気付かないところもしっかりとフォローしてくれて」
「いえいえ、サラサもなかなかよ? とてもその年齢とは思えないぐらい」
「そうですか? でも、これなら上手くいきそうです」
現段階でも、私たちの勝ちはほぼ確実。
その上で、ヨクがどの程度の段階までで潰れるかは、彼の強欲さ次第。
それがとても良い。
「楽しみですね?」
「ええ、そうね」
ニッコリと、とても悪い笑みを浮かべるレオノーラさんに、私の方は可愛く笑みを浮かべる。
ちょうど入ってきたフィリオーネさんが『似たもの同士ね......』と呟いたのは、聞こえなかった事にして......。 | Push ()
"Well, let's talk about the merchant."
At the end of the meal, Mr. Filione made his way to the store number, where Mr. Leonora cut out so.
"Yes, please"
"Yeah. But it's going to be a long story, so can I get you something to drink... Sarasa, can I make you a cup of tea? I'll leave that to Phee."
When I nodded to Mr. Leonora, who would call me now, it was a cold cup of tea that came out.
Unlike the Suya tea I have been drinking a lot lately, light brown fragrant tea.
It was tea I had never had, but this is good.
"Phew, it's delicious. - I knew there was a refrigerator."
"It's Phee who brewed it, though. The refrigerator is mostly at the alchemist's, right? If you're an alchemist looking up there, you must make it."
"So is Sarasa, right? 'They say otherwise, and I nod.
"Right. If it's a good time, I can make it to sell, but if I can't, I'll have to use it myself. You couldn't even sell Sarasa, could you? That village..."
"Yes. You can't sell it. So I gave up from the start and made it to fit our kitchen. And the freezer with me."
"Oh, I'll make it on a set, right, that one? I don't use it much except in the summer."
"Right. And our freezer -- oh, now you have ice tooth bat fruit in it."
"Did you collect it!? Uh, but is it just right sometimes? If Sarasa went there herself, she'd be able to bring it back with no problem."
"That cave over there wasn't hunted all the time, so the group was pretty big. The recovered fruit also amounted to a good number. - Shall I share it?
"Is it good? Pretty valuable substitute, though."
"I'm not very interested in it myself, and I'm having trouble selling it to someone, so I was going to ask my master to do it."
So far, I've left it in the freezer, left it alone, haven't I?
I think I'll taste it for once, too, but Andre and the others I took home and ate rated it as' delicious... and I think ',' good with normal liquor 'and' tasted fancy '.
It wasn't like I was rushing to try it, and they didn't try to eat any more, and they're asking me to sell it.
"Then can you split it a little? I'd love to try it in the tale."
"I understand. Then you'll bring it next time you come. It's hard to keep with people, so I think we're a little ahead of them."
"Yeah, I don't mind. At the next purchase or something."
If you carry it as it is, it will melt, so I'll have to carry it.
Discuss the required number and buyout price, re-compartmentalize, and get to the point.
"First of all, his name is Yoku Bahr. He was a merchant on a fairly large scale with a shop here in South Strag."
Not even a big merchant, but a pretty big one.
Therefore, Mr. Leonora seems to have narrowed down his opponent relatively easily.
"The products I'm dealing with are like alchemy related materials, smelter artifacts, smelter potions..."
"Not only the ingredients, but also the smelting drug Potion?
"Yes, that's the problem."
With regard to materials, some do not have to be processed to deteriorate much, and merchants sometimes handle items that have been processed so that the alchemist can store them.
If the smelter "Artifact" is also an easy object to understand the effect, it may be handled.
Just like I'm unloading my cooling hat to Mr. Gretz and the others.
But a little different when it comes to the smelting drug Potion.
There are also expiration dates, etc. which vary depending on the storage state, even though the effects are not known from just looking at them.
Besides, I generally use the smelting drug Potion some time after I bought it.
It's hard to complain if they say, 'Your way of preserving it was bad,' even if it didn't work or had a strange effect.
Therefore, purchasing the smelting drug Potion from outside the alchemist is quite risky and it is quite difficult for ordinary merchants to treat it as a commodity.
"I'm also curious about the seller, where are you purchasing it from? Even an alchemist holds it?
"That's close. I owe money from York - no, it's like I'm using an alchemist owed money by York. in a rather irrational state."
"Were you carried?
When asked back to the way she was concerned, Ms. Leonora nodded with anger seeping into her bitter expression.
"Yes, I've looked into it, and it all feels like it's fallen into place."
"Does that mean you won't get caught?
"From what I've looked into, it's hard because it's malicious, but it's not clarity and illegal."
Mmm...... that's for sure.
What we're doing in our village is close to that, and it's probably futile where we complained to the lord.
"It's just that they're all targeting young kids."
"Being poked at for lack of experience, deceived," he said?
"That's what I think. You just set up a shop, you don't have any money, do you? Alchemy costs money, so even a few mistakes can run out of money at once..."
"Oh, you have that"
For example, if the smelter Artifact is requested to be made.
I wish it was an easy one, but if you stretch your back a bit and get a request for a difficult one...... once you fail to make it, it's very bad.
If you have money, you can buy the material again and make it.
At that point, you're almost out of profits, but you can take orders, and with the exception of your own efforts, you don't even lose money.
But what if I don't have the money?
After ruining the material, turn down the order and make a loss, or where do you borrow money from and manage to zero the loss?
And in case you fail again, only debt will remain.
"If it's my mistake, I don't think I can help it to some extent, but when it's set up..."
What if, for example, there was a merchant who came to sell the right materials at a slightly lower price when he didn't have the money?
I would normally buy it.
But what if that material was meticulously crafted and made it easier to fail?
Of course, there are immature alchemists who can't pinpoint the quality of the material...
"You don't like it, do you?
"I don't like it."
Not knowledgeable people, but the same alchemist, and as for me of my age.
"... Oh, could it be me, I'm the target?
It was a slightly dazed gaze from Mr. Leonora who said that to me.
"Did you just notice? You are, for sure. If you do a little research on Sarasa, you're a duck no matter what."
Freshly graduated New American Alchemist.
In a rural village, get a cheap shop and open it.
I definitely don't have much experience.
Well! What a gullible opponent!
- It's about me.
"But they're totally bad this time, aren't they? Wrong opponent."
"Yep...? And I'm kind of like a bad person..."
"Not bad, but not the one who can't be alarmed"
"Really? I'm a new America with little experience, aren't I? It's a chick."
Totally out of heart.
But what Mr. Leonora is pointing at me is the jitsu eye.
"Chicks don't come to me to root for me. Up to the village where I live at best. By contrast, Sarasa, don't you think our shop is reaching out to the surrounding towns?
"No way, no way. ... I wondered if it would turn out that way if it flowed to Mr. Leonora in large quantities."
All you have to do is give Mr. Gretz some ice tooth bat fangs, too, right?
I went to the dealership and redeemed the money.
"It's all around the prep... yeah, naturally, I'm flushing it too. Thanks to you, the ice tooth bat fang market is crashing around here"
"It is. It's pathetic who's collecting them."
Yeah, not at all.
When I laugh nicely, Mr. Leonora shakes his head and smiles bitterly.
"I'll put it well. I feel a little scared of Sarasa's smile.... but the fang market was up until a while ago, it seems like it's Yorke's fault, and I'm not at all sympathetic."
"Oh, you were involved from around there."
He said we came to our village because we had a lot of teeth there - or because we flushed the fang-based smelter Artifact.
"Honestly, it's hard for a merchant without a code of conduct to manipulate the market for alchemy materials."
"Right. If you get hit by profit alone, you're in trouble."
Alchemists shouldn't sell cheap on their own, because of all the restrictions.
It's a national policy, so if you break this big, scary people will come.
"Right? So if you can, you want to crush it, you Yoke Barr. Sarasa, can you help me?
"Yeah, I don't mind. If I can do it."
Bad merchants, don't perish.
No mercy.
Me and Mr. Leonora then set up a strategy together to ensure that Yorke was damaged, assuming several patterns.
Follow each pattern, determine each role, and also hold detailed meetings.
"But that's great, Mr. Leonora. Follow me closely where I don't realize it."
"No, Sarasa's pretty good, too, huh? I don't think I'm that old."
"Really? But this is going to work."
Even at this stage, our win is almost certain.
On top of that, it depends on his greed how far the yoke will crumble to.
That's very good.
"Looking forward to it?
"Yeah, right."
I smile cuter at Mr. Leonora with a nickel and a very bad grin.
Filione, who just came in, muttered, 'You're similar to each other...' I decided I didn't hear you... |
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} | 「ははは......。それじゃにお願いします。これであと必要なのは、お豆と少しのお塩、それに錆びた釘とか、簡単に手に入る物なので、すぐに作製には入れます」
「お豆? お塩? 何というか......変な物を使うんですね? ちょっと料理みたいで」
「うーん、案外、こんな感じだよ? 錬金術って。台所から失敬するだけで、普段使っている植物の葉っぱや鉱石の欠片などと大して違わないよね?」
「そう言われれば、そうなんでしょうが......」
私の説明に、納得しつつも微妙な表情を崩さないロレアちゃん。
台所に普通にある物だからそう感じるんだろうけど、
というか、美味しいかどうかは別にして、病気や怪我に使う
「ほら、この前の腐果蜂の蜂蜜だって錬金術に使う素材だけど、無毒化処理して普通に食べたりするし?」
「「うっ」」
ポロリと漏らした私の言葉に、あのときの醜態を思い出したのか、アイリスさんとケイトさんが、揃って顔を顰める。
そういえばあの蜂蜜、買い取るだけ買い取って、倉庫に仕舞ったままだ。
使い道が多い素材だけに、売ってしまうのは勿体ないと思って。
「て、店長殿、あのことは忘れてもらえると......。私、これで、嫁入り前の女なので......」
「忘れた方が良いですか? あの蜂蜜、美味しいんですけど」
腐ったりはしないから、しばらく忘れていても全然問題はないんだけど、まさかそのまま本当に忘れてしまうわけにはいかない。
錬成の素材として使う分は当然取っておくとして、残りを売ってしまうか、それとも自分たちで食べるかは決めないといけない。
美味しい物だけにちょっと残念だけど、アイリスさんたちが嫌な思いをするのなら、ウチの食卓には上らせず、売ってしまう方が良いのかも。
「私としては、半分ぐらいは食べようかな、と思っていたんですが......」
「そ、そう言われると......悩むな」
「凄く美味しかったものねぇ、あの蜂蜜。――その後は地獄だったけど」
味を思い出したのか、少しうっとりしたような表情を浮かべたケイトさんだったが、その表情はすぐにどんよりと沈む。
「サ、サラサさん、その蜂蜜って、やっぱり高いんですか?」
「そうだね。普通の蜂蜜と比べると、かなり高いね。食用にもなるけど、錬金術の素材としても使われる物だし」
蜂蜜ですら高級品だった私には、手の届かなかった高嶺の花。
......まぁ、師匠の所にお呼ばれすると、普通にテーブルに載っていたけどね。
私が味を知っているのもそのおかげ。
「腐果蜂の蜜蝋と蜂蜜を使って、マリアさんがカヌレっていうお菓子を作ってくれたんだけど、あれも美味しかったなぁ。表面はサックリ、中はしっとり、甘くて......」
「ゴクリ......。そんなに美味しいんですか?」
「うん。腐果蜂の蜂蜜はそのままでも凄く美味しいけど、少し酒精が入っているから、気になる人は気になると思うんだ。でも、一度焼くことでそれがほどよく飛んで、良い風味になるんだよ」
マリアさんの腕が卓越しているとしても、あれだけ美味しかったのは、腐果蜂の蜂蜜を使ったからこそだと思う。
正直、あれほど美味しいお菓子は、生まれて初めて食べた。
でも、それも当然。
蜂蜜のお値段を考えれば、あのカヌレは超高級菓子。
今の私ならまだしも、あの頃の私には絶対に手が出ない価格になる。
今はその蜂蜜が手元にあるわけで......貰った本にあれのレシピは載ってるかな?
マリアさんほどの物を作るのは難しいにしても、載っていたら一度作ってみようか?
型も必要だから、すぐに作れるわけじゃないけど、型は自分で作るなり、ジズドさんに発注するなり、方法はあるからね。
「あー、店長殿?」
そんなことにロレアちゃんと話していると、アイリスさんがやや遠慮がちに声をかけてきた。
「何ですか、アイリスさん」
「あれは確かに苦い思い出だったが、私たちはそれを乗り越えていけると思うんだ。なぁ、ケイト?」
「ええ、そうね。むしろ、良い思い出で上書きして、消し去るべき。そう思ったりするんだけど、どうかしら?」
つまり、カヌレを食べたいということですね。
とても解りやすい表情だったが、すぐに困ったように眉を下げる。
「あ、だが、資金的に厳しいようなら......」
「いえいえ、それは大丈夫ですよ。幸い、今は資金的にも余裕がありますから」
サラマンダーの素材を売った代金は、ロッツェ家の借金を返しても十分に残ったし、ディラルさんから新館の利用料という形で返済もある。
アデルバート様からの返済はまだだし、ヨク・バールの件で債権を買い取った錬金術師たちも、返済するだけの余裕はまだないみたいだけど、長期的に見ればそれらからの収入も見込めるわけで。
少しぐらい、普段の食生活に彩りを添えても問題はないはず。
「ふふっ、解りました。では、やはり半分ほどはウチで食べるために取っておきましょう」
私がそう言った途端、表情を輝かせる三人に、私もまた、笑みを漏らしたのだった。
◇ ◇ ◇
おおよその方針を決めたところで、私は早速、準備に取りかかった。
今回作製する物の中で一番時間がかかるのは、やはり
突貫作業でなんとかなる共鳴石やフローティング・テントに比べ、
「一応、今回作るサイズなら三日もあれば十分なはず、だけど......」
初めて作る物だけに、少し不安。
失敗したら、ダメージが大きいだけに。私のお財布的に。
「手順通りにやれば大丈夫、だよね?」
もう一度、しっかりと錬金術大全を読み込み、錬金釜を用意する。
今回使うのは、片手鍋サイズの錬金釜。
これにサラマンダーの鱗、ヘル・フレイム・グリズリーの目玉、大きめの氷牙コウモリの牙を複数放り込み、魔晶石と水を少々。
魔力を注ぎ込みながら数分ほどかき混ぜれば、最初はカチャカチャ、コロコロと転がっていた素材がだんだんと形を失い、赤くドロリとした液体へと変化する。
「ここまでは問題なし。更に素材を加えて......」
棚に並ぶ素材をいくつか集め、重さを量っては鍋の中へ。
それらがすべて溶けてしまうまで、再度しっかりとかき回し、台所から持ってきた豆や塩、錆びた釘を削った物なども加える。
この時点では、豆入りのスープにしか見えないんだけど、臭いは微妙。
決して美味しそうな色でも、臭いでもない。
「形が完全になくなるまで煮込む、と」
普通、豆を煮込んだところで、煮崩れるぐらいでなくなったりはしないけど、そこは錬金釜。普通じゃない。
しばらく根気よく混ぜ続ければ、赤く濁っていた液体がだんだんと透き通った色に変化し、豆の形も消えていく。
「全部消えたら、培養容器に移して、井戸水で薄める」
培養容器は円筒形のガラス容器で、縦横共に三〇センチほど。
その中に、薄められて桃色になった液体が満たされた。
「あとはこの中に、私の髪の毛と、三人の髪の毛を入れる、っと」
パラリと落とせば、一瞬にしてシュワッと溶けてなくなる髪の毛。
明らかに危険そうな液体だよね、これ。
もちろん、手袋をつけて扱っているけど、ちょっと怖い。
「こぼれないようにしっかりと蓋をして、最後にひたすら魔力を込めるっ!」
容器の側面に手を当て、残る魔力を注ぎ込む私。
錬金術大全によると、このときに多くの魔力を注げば注ぐだけ、質の良い
作業中にも魔力は消費していたので、万全ではないけれど、ここは私の無駄に多い魔力を活用すべき場面!
ぐんぐんと魔力を注いでいけば、液体が淡い光を発し始める。
「えっと、この光の明るさの上限まで注げば良いんだよね?」
多ければ良いとはいうものの、注いだ魔力を受け止められるかは使用した素材次第なようで、その限界は光の明るさによって判断できるらしい。
つまり、魔力を注いでも光度が増加しなくなれば、そこが限界。
それ以上は魔力の無駄遣い。
――なんだけど。
なんか、どんどん明るくなるんですけど。
これ、本当に大丈夫? | "Ha... I'll ask the three of you, then. Now all I need is some beans and a little salt, and some rusty nails and stuff that's easy to get, so I'll put it right in the making."
"Beans? Salt? I don't know... you use weird stuff, right? Kind of like cooking."
"Mm-hmm. Guidance, here's the deal, huh? Alchemy. Just disrespect me from the kitchen, it's not very different from the leaves and ore shards you usually use, is it?
"If you say so, I guess so..."
To my explanation, Lorea doesn't break the subtle look while I'm convinced.
I know it feels that way because it's a normal thing in the kitchen, but there are lots of ingredients for smelting drugs (potions) that can be eaten normally.
Or, whether it tastes good or not, most of the smelting drugs (potions) used for illness and injury can be taken, so you can't put in anything you can't eat.
"Look, even the honey from the rotten bees before this is an ingredient we use for alchemy, but we treat it non-toxic and eat it normally?
"" Ugh. "
You remind me of the ugliness of that time in my words that leaked with polarity, Mr. Iris and Mr. Kate, all together, face to face.
Speaking of which, that honey, I just bought it out and left it in the warehouse.
I don't think it's safe to sell just materials that have a lot of use.
"And, Lord Store Manager, when you can forget about that... I, for once, am the woman before my dowry..."
"Should I forget? That honey is delicious."
I don't rot, so I don't have any problems at all with forgetting it for a while, but I can't really forget it as it is.
Naturally, we have to decide whether we want to sell the rest or eat it ourselves, as we will take the portion to use as an ingredient for smelting.
I'm a little sorry about just the delicious stuff, but if Mr. Iris and the others don't like it, maybe it's better not to put it on our table and sell it.
"As for me, I thought I'd eat about half of it..."
"Well, when they say that... don't worry"
"Something that was so delicious. Hey, that honey. - After that, it was hell."
You remembered the flavor, it was Kate with a slightly grumpy look on her face, but that look soon sinks more than ever.
"Sa, Sarasa, is that honey, after all, expensive?
"Right. That's pretty expensive compared to regular honey. It's edible, but it's also used as an alchemy material."
Even honey was a luxury product, a high ridge flower out of my reach.
... Well, when I called you to my master, you were usually on the table.
It is also because of that that I know the taste.
"Using beeswax and honey from a rotten fruit bee, Maria made me a treat called Canulette, which was delicious, too. The surface is crisp, moist inside, sweet and..."
"Gokuri...... Is it that good?
"Yeah. Rotten bee honey tastes great as it is, but with a little alcohol in it, I think anyone who cares. But once baked, it flies better and tastes better."
Even with Maria's exceptional arms, I think it was only because she used rotten fruit bee honey that it tasted so good.
Honestly, I've never had such a delicious treat before in my life.
But naturally so is that.
Given the price of honey, that cannula is a super fancy treat.
If I were you now, it would still be a price I would never be able to afford back then.
I have that honey on hand now... do you have that recipe in the book I got?
Even though it's hard to make as much stuff as Maria's, if it's on it, why don't we make it once?
I also need a mould, so it's not ready to be made, but if you want to make your own mould, you need to order it from Mr. Jizzed, because there's a way.
"Uh, the manager?
Speaking properly about that, Lorea, Mr. Iris called out somewhat reluctantly.
"What is it, Mr. Iris?"
"That was a bitter memory, for sure, but I think we can get over it. Hey, Kate?
"Yeah, right. Instead, we should overwrite it with good memories and erase it. That's what I think. What do you think?
I mean, you want cannula.
He was two very understandable expressions, but immediately lowers his eyebrows like trouble.
"Oh, but if it seems financially strict..."
"No, that's okay. Fortunately, we can afford it financially now."
The cost of selling Salamander's materials remained sufficient to repay the Rozze family's debts, as well as in the form of royalties for the new building from Mr. Dilal.
I haven't repaid from Master Adelbert, and the alchemists who bought the claims on the Yoke Barr thing don't seem to be able to afford to repay them yet, but in the long run, so I can expect to earn money from them.
For a little while, there should be no problem adding color to your regular diet.
"Heh, I get it. Well, let's still keep about half of it for us to eat."
As soon as I said that, I also leaked a smile to the three of them who made their faces shine.
◇ ◇ ◇
I had just decided on an approximate policy, and I was quick, getting ready.
The most time-consuming thing to make this time is still alchemy (homunculus).
Compared to resonant stones and floating tents that can be managed by piercing work, alchemy (homunculus) cannot be completed without ensuring culture time.
"For once, three days should be enough for the size to make this one, but..."
Just for the first time, a little anxious.
If it fails, it's just a lot of damage. In my purse.
"Just follow the procedure and you'll be fine, right?
Again, load the whole alchemy thoroughly and prepare the alchemy kettle.
This time, a one-handed pot-sized alchemy kettle is used.
Throw in multiple salamander scales, Hell Flame Grizzly eyeballs, large ice tooth bat fangs, and a little Demonic Crystal Stone and water for this.
If stirred for about a few minutes while instilling magic, the material that was initially chattering, corny and rolling gradually loses its shape and turns into a red, drooling liquid.
"No problem so far. Add more ingredients..."
Collect some of the ingredients that line the shelves, weigh them and go inside the pan.
Until they are all melted, stir thoroughly again, and add beans, salt, and rusty nail-sharpened objects brought from the kitchen as well.
At this point, it just looks like soup with beans, but the smell is subtle.
Never seems like a delicious color or smell.
"Simmer until the shape is completely gone," he said.
Normally, I just simmered the beans, and they don't disappear enough to simmer, but there's an alchemy kettle. It's not normal.
If you keep mixing with guts for a while, the liquid that was red and cloudy gradually changes to a clear color, and the shape of the beans disappears.
"When it all disappears, transfer it to a culture vessel and dilute it with well water"
The culture container is a cylindrical glass container, about cm long and horizontal.
In it was filled a diluted and peachy liquid.
"And then I'm gonna put in this, my hair and three hairs, all the time"
If you drop it in paralysis, your hair will instantly dissolve away from shwagging.
It's obviously a liquid that looks dangerous, isn't it, this?
Of course, I'm handling it with gloves on, but I'm a little scared.
"Cover tight so you don't spill, and you can even magic at the end of the day!
Me putting my hand on the side of the container and pouring in the remaining magic.
According to Alchemy Daiichi, if you pour a lot of magic into it at this time, you will be able to raise a quality alchemy creature (Homunculus).
I was consuming magic during work as well, so this is an occasion where I should utilize my much wasted magic, although not complete!
If you pour gum and magic into it, the liquid will begin to emit light.
"Eh, we should pour it to the upper limit of this brightness of light, right?
Although it would be nice to have more, it seems that the ability to accept the magic poured depends on the material used, and its limits can be judged by the brightness of light.
In other words, if you pour magic into it and the luminosity stops increasing, that's the limit.
More than that, a waste of magic.
- What is it?
Something's getting brighter and brighter.
Are you sure you're okay with this? |
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} | ヨク・バールが村から退去し間ほど。
色々と後始末を終えて落ち着いた私は、ロレアちゃんたちとゆっくりと、午後のお茶を楽しんでいた。
師匠から送られてきた物と一緒に入っていた、マリアさんお手製のお茶菓子と共に。
このあたりでは手に入らない、とても美味しいお菓子はロレアちゃんたちにも大好評である。
でも、ちょっとぐらい遠慮してくれても良いんですよ?
滅多に食べられない物なんですから。
「これでやっと、のんびり過ごせる様になるね」
「ですね~。でも、サラサさん」
「はい?」
「あの商人が来る前も、結構バタバタしてましたよね? ヘル・フレイム・グリズリーが森から出てきたのも、サラサさんが来て間もない頃でしたし」
「......否定できないね。私は錬金術ができればそれで良いのに」
私がふぅ、とため息をつくと、アイリスさんがお茶菓子をまた一つ、パクリと口に放り込み、笑みを浮かべつつ指摘する。
「あの商人との対決を決めたのは店長殿だろう?」
「だってとも対決に手を上げるんですもん」
「確かにそうだけど......後悔はしてないんじゃない?」
「してませんね。トータルで見れば、利益の方が大きいですし」
「大きいというか......店長さんは今回の事でかなり儲けてない? 牙もあの商人に言っていたような使い方、しないんでしょ?」
ちょっとわざとらしく笑みを浮かべて言うケイトさんに、素直なロレアちゃんは目を丸くする。
「え、あれって嘘だったんですか?」
「嘘じゃないよ。魔晶石に加工する方法ってのは、確かにあるからね」
ただし、とても効率は悪い。
冷やす事に特化した氷牙コウモリの牙から、その一番の利点、“冷やす”の部分を取り除いて汎用的な魔晶石に変えるのだから、言うなれば、“水が必要だから氷を溶かして水を作る”みたいなもの。
溶かすためのコストが必要だし、この魔晶石を使って冷却帽子の様な
だから、氷牙コウモリの牙はそのまま使うのが基本。
問題はそんなに使い道も無ければ、売り先も無いことなんだけど、今回はかなりの部分を師匠に押しつけちゃいました。
ここから遠く離れた王都なら、かなりの数が捌けるからね。
そんなわけで氷牙コウモリの牙を送りつけるのに便乗して、氷牙コウモリの果物も大半を送りつけておいた。
そして、しばらくして返送されてきたのが、大量のお酒と金貨、おまけでマリアさんのお菓子。
お酒の方は既にアンドレさんたちが大喜びで持ち帰っている。
「つまり、かなりの稼ぎになったのよね?」
「否定はしません」
氷牙コウモリの乱獲、プライスレス。
牙の売却、相場の何割か増しでお金がジャラジャラ。
牙の買い取り、圧倒的安値で買い叩き。
買い叩いた牙の売却、相場よりも数割値引きして師匠に押しつける。
ハッキリ言って、見たことの無い量の金貨が積み上がりました。
「えーっと、どうするの、そのお金」
「私、錬金術師ですから、色々と素材を買い込む予定ではありますが、大半は貸し付けですね」
「貸し付け?」
「一つはディラルさんに。ほら、ディラルさんの宿屋、建て増しを始めたじゃないですか」
「そうだな......ん? あれの原資は店長殿か!?」
「はい。今回は採集者の人たちにも協力してもらいましたから、一部還元です」
直接協力してくれた人たちには、ちゃんと日当と手数料を払っているから、それ以外の面での貢献、それが宿の拡張。
宿の部屋は満室、食堂にも入れなくて困っている採集者は結構な数がいた様なので、それを解消するために投資を行ったのだ。
本当は、私がお金を出して建てようかな、とも思ったんだけど、ディラルさんが『さすがにそれは受け取れないよ!』と固辞したので、融資。
利息無しで貸し付け、新しく建てた建物で出た利益で少しずつ返してもらう事にした。
「他は、ヨクの被害に遭っていた錬金術師たちですね」
さすがに私が直接は動きにくいので、私同様に今回のことで利益を上げたレオノーラさんと共同でお金を出し合い、ヨクの持っている債権を買い叩いた。
彼も死にたくはなかったのだろう。
タイムリミットが迫る中、かなり阿漕に叩きまくり、すべての債権を買い取った......らしい。
同席してないから知らないけど、交渉から帰って来たレオノーラさんとフィリオーネさんは、すごく良い笑顔を浮かべていたから。
その結果、彼が無事に生き延びられたかは......どうなんだろうね?
レオノーラさんは『少し足りないかもね~』とか言っていたけど。
「そうですか。では、もうこのお店にはそんなにお金、無いんですね? 安心しました。床が抜けるかと思いましたよ」
ロレアちゃんとしては、“お金を使った”という方が重要だったようで、安堵の表情を浮かべて深く息を吐く。
「ロレアちゃん、そんな、大げさな――」
「大げさじゃないです! 私、お金が置いてある部屋に近づかないようにしてましたもん!」
ロレアちゃんは一部でも倒れかけたもんね。
......一番たくさんお金があった時を見たら、どうなったんだろ?
「店長さんは優しいわね。その人たちは確かに可哀想だけど、別に店長さんが私財を投じることでもないでしょうに」
「あー、新人の錬金術師でしたからね。
他人事
想定よりも人数が多かったのは、意外だったけど。
「でもその“新人”って、全員店長さんより年上なんでしょ?」
「まぁ、そうですね。ケイトさんよりも年上ですね。店を構えているわけですから」
学校を出てすぐ店を構える私が例外。
普通は数年、他のお店で修行して、お金を貯めてから店を構える。
「でも、別に損したわけじゃないですよ? これでそれらの錬金術師、私とレオノーラさんの紐付きですから。フフフ......」
「あ、また悪い笑みを......」
「大丈夫だ、ロレア。あれはそんなに悪い事を考えてないから」
「そうよね、店長さんだもんね」
ロレアちゃんの言葉に、アイリスさんとケイトさんが苦笑を浮かべて肩をすくめる。
「えー、そんな事無いですよ? きちんと借金は返してもらいますし、場合によっては色々と無理を聞いてもらうつもりですから」
「そうなの? 利子はどれぐらいの予定?」
「......今のところ、考えてませんけど」
お金が無くてピーピー言ってるのに取れないよね?
これまで、散々苦労してるんだから。
「そもそも、そのへんの未熟な錬金術師に無理を聞いてもらう必要があるのか? 店長殿が。困った時には師匠がいるだろう?」
「......そうですけど」
そもそもそのへんの錬金術師には負けない様に、努力しているし。私。
「良かった。やっぱりサラサさんですね」
ロレアちゃんのまぶしい笑顔に、私はそれ以上何も言わず、ティーカップを | Epilogue
About a week after Yoku Bahr left the village.
Having settled down after everything, I was slowly enjoying my afternoon tea with Lorea and the others.
It was in there with the stuff my master sent me, with Maria's handmade tea treats.
Very delicious treats not available around here are also very popular with Lorea and the others.
But you can be a little shy, right?
Because it is rarely edible.
"Now you can finally relax."
"Right ~. But, Mr. Sarasa"
"Yes?"
"Even before that merchant came, he was pretty bummed, wasn't he? It wasn't long before Hell Flame Grizzly came out of the woods or Sarasa."
"... you can't deny it. I wish I could alchemy."
When I sigh, Mr. Iris throws another cup of tea sweets into his mouth, pacling and pointing out with a grin.
"It was the manager who decided to face that merchant, wasn't it?
"'Cause we're all gonna put our hands up against each other."
"Sure, but... you don't have any regrets, do you?
"You didn't. In total, it's more profitable."
"Big... the manager hasn't made a lot of money on this one? You don't use fangs the way you told that merchant, do you?
Honest Lorea rounds her eyes to Kate, who says with a slight deliberate grin.
"Oh, was that a lie?
"I'm not lying. Because there are definitely ways to process it into magic crystal stones."
However, it is very inefficient.
From the fangs of ice tooth bats that specialize in cooling, the best advantage of this is that they remove the "cooling” part and turn it into a generic Demonic crystal stone, so to speak, something like "melt ice and make water because you need water”.
We need the cost to melt it, and if we use this demonic crystal stone to make the smelter Artifact, like a cooling hat, multiplier don. It is an outrageous waste.
So it's basic to use ice tooth bat fangs as they are.
The problem is that if I don't have that much use, I don't have a seller, but this time I pushed a good part of it on my master.
The King's capital, far from here, can be quite a few.
That's why I hitched a ride to send ice tooth bat fangs, and I also sent most of the ice tooth bat fruit.
And after a while it was sent back a large quantity of alcohol and gold coins, besides Maria's treats.
The drinkers have already brought it home with great joy.
"I mean, you made a lot of money, didn't you?
"I won't deny it"
Ice Tooth Bat Scatter, Priceless.
Sale of fangs, money jarring with some increase in the market.
Tooth buyout, overwhelmingly cheap to buy and beat.
Sell the fangs you bought and beat, discount them by a few percent over the market and push them against your master.
Clarified, a pile of gold coins I'd never seen before.
"Er, what do you do, that money"
"I'm an alchemist, so I'm planning on buying a lot of materials, but most of them are on loan."
"Lending?"
"One to Mr. Dillall. Look, Mr. Dillall's house, you started building more."
"Right...... hmm? Is that the manager?"
"Yes, this time we've asked the collectors to help us, so it's a partial reduction"
I pay my daily allowances and fees properly to those who cooperated directly with me, so my contribution in other respects, that's the expansion of the Inn.
There seemed to be a good number of collectors who were in trouble because the inn room was full and they couldn't even enter the dining room, so they invested to get rid of it.
The truth is, I thought I'd give you the money to build it, and Mr. Dillall said, 'Exactly. I can't take that!' So I solidified, loans.
I decided to lend it without interest and have it repaid one by one with the profits that came out of the newly built building.
"Others are the alchemists who were the victims of Yorke."
Exactly because I'm hard to move directly, I co-offered money with Mr. Leonora, who made a profit on this one as well as I did, and I bought and beat the claims Yorke has.
I guess he didn't want to die either.
With the time limit looming, he slammed quite a bit on the rows and bought out all his claims... Apparently.
I don't know because I'm not present, but Mr Leonora and Mr Filione, who came back from the negotiations, had a very good smile on their face.
As a result, he survived safely... what do you think?
Mr. Leonora said, "Maybe a little short."
"Really? So there's not that much money in this store anymore, is there? I'm relieved. I thought the floor would fall out."
As for Lorea, it seemed more important that she "spent the money," exhaling deeply with a relief look on her face.
"Lorea, don't exaggerate -"
"I'm not exaggerating! Me, I was trying to stay away from the room where the money was!
Lorea almost collapsed, didn't she?
... What happened when I saw when I had the most money?
"The manager is sweet. Those people are pathetic, but it's not like the manager's throwing personal property."
"Uh, because you were a new alchemist. I don't think of it as" every other person. "
It was surprising that there were more people than expected.
"But the“ newcomers ”are all older than the manager, right?
"Well, that's right. You're older than Mr. Kate. Because we have a store."
I set up a shop as soon as I left school.
Normally, I train in other stores for a few years, save money, and then set up a store.
"But I didn't lose anything, did I? Because now it's with those alchemists, me and Mr. Leonora. Huuuuuuuuuu..."
"Ah, another bad grin..."
"It's okay, Lorea. 'Cause that wasn't such a bad idea."
"Right, you're the manager."
To Lorea's words, Mr. Iris and Mr. Kate shrug their shoulders with a bitter smile.
"Well, that's not true, is it? I'm going to pay my debts properly, and in some cases, I'm going to ask a lot of questions that I can't."
"Really? How much interest do you plan to have?
"... so far, I haven't thought about it"
I don't have any money, Peppy, and I'm telling you, you can't take it, can you?
So far, I've been struggling.
"In the first place, do we need the immature alchemist in that part of the world to hear the impossibility? The manager. You'd have a master in trouble, wouldn't you?
"... yes"
I'm trying not to beat that alchemist in the first place. Me.
"Good. I knew you were Mr. Sarasa."
I said nothing more to Lorea's smile and hid the teacup in her face. |
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"source": "superScraper-fanfic"
} | と言っても、そう難しくは無い。
まず“お店を開店する”を基準に考えると、“商品を作る”のはその前。売る物が無いとどうしようも無いから。
柵と庭も前かな? 外見が悪いと、お客さんが来ないだろうし。
ついでに、庭の薬草使って商品を作れば良いよね。
残りの井戸の改善、お風呂、魔道コンロは独立しているから、時間があるときに回せば良い。
「となれば、最初は柵か。商品作りは日が落ちてからでもできるし」
家の前の柵を軽く蹴ってみる。
ポコ、ベキ。
......うん、あっさり倒れた。これは完全に作り直しだね。
杭を打って横木を渡しただけの簡単な柵だから、大工さんに頼むほどじゃないかなぁ?
資金節約のためにも、ここは自分でやるべき?
作製の関係で、多少の木工はできるんだよね。
とはいえ、大工道具は持ってないんだけど。
学校では実習室を使っていたし、師匠の所ではお店の道具を借りていたから。
というわけで、やってきました雑貨屋です。
「こんにちは~」
「あ、サラサさん、昨日はすみませんでした! 帰って値段を聞いて、私......」
「あー、こっちこそごめんね? お礼のつもりだったんだけど、気軽にあげるにはちょっと高かったみたいで。逆に私の方も布と綿を貰っちゃったし」
私の顔を見て、慌てたようにやってくるロレアさんに、私は手をぱたぱたと振って応えた。
「いえ! 是非貰ってください! お父さん、あれでも釣り合わないって言ってました。それくらい貰ってくれないと、逆に私たちがあの布を使いづらいので」
あー、うん、そういう部分はあるかもね。
特に今後、あの布をお店で売り出すとなると、半日のお手伝いで貰った、というのは双方にとってあまり良くないか。
「それなら、ありがたく貰っておくね」
「ぜひぜひ。――ところで、今日は?」
「大工道具とか置いてるかな?り欲しいんだけど」
「あ、はい。普通の家庭で使う物ぐらいなら。良い物は直接ジズドさんに頼んだ方が良いですけど。サラサさん、何かするんですか?」
「ちょっと柵を修理しようかと思ってね」
「えっ? ご自分で、ですか? ゲベルクお爺さんに頼まないんですか?」
ロレアさんは驚いたように言うけど、そこまで意外?
柵を作る程度、簡単だよね?
「ん~、あのくらいなら自分でもできるかなって」
「えぇ~~、大工仕事って結構難しいですよ? サラサさん、やったことあります?」
「多少は?」
あまり大きな物や複雑な物は作ったこと無いが、細かい木工作業は
それ以前にも、孤児院では自分たちで何とかするのが基本だったので、物や建物が壊れた場合、直せる物は自分たちでやっていた。
普段の手伝いを免除してもらっている関係上、こういった突発的な物に関しては頑張って手伝っていたのだ。
なので、大工仕事の難しさもある程度解っている。
の入りが少し曲がっているだけで、切り終わったときには結構斜めになってしまうのだ。
ただ、家の柵は、杭を打ってそこに細長い板を渡してあるだけなので、自分でもできると思ったんだけど......。
「うーん、一度、ゲベルクお爺さんに相談してみてはどうですか? ぶっきらぼうですけど、親切な方ですから、アドバイスももらえると思いますよ?」
「そう、ね。お店の補修も頼まないといけないし......。ただ、大工道具自体は必要だから、それは買うね」
「はーい、まいどあり、です」
ロレアさんから受け取った大工道具が思った以上に重かったので、ひとまず家に置きに戻ったあと、ゲベルクさんの所に向かった。
雑貨屋さんと比べて一見普通の民家だから入りにくいんだけど、意を決して声を掛ける。
「すみませーん」
ちょっと声が小さかったかな? と思ったのだが、少し待つとゲベルクさんが奥から出てきてくれた。
「ん? なんだ、嬢ちゃんかい。何か用かい?」
「実は、ご相談がありまして......家の回りの柵を直そうと思っているのですが、木材を分けてもらうことはできますか? それとも、自分でやるのは難しいでしょうか?」
「嬢ちゃんが、か? そう言うってこたぁ、多少はやったことあんだろ? 売ってやるこたぁできるが......まあ、続きは現場を見てからだな。――ほら、行くぞ!」
「は、はい」
年齢を全く感じさせない歩みのゲベルクさんの後を追い家に到着。
草臥れた柵を『これです』と示す。
んどるな。やんなら、全部作り直した方が良いが、嬢ちゃん、コレを全部一人でやるつもりか?」
そう言って家の周りをぐるりと指さすゲベルクさん。
そういえば、結構広い裏庭もあるし、距離的には何十メートルもあるよね......。
少し大変かも?
「......ちょっと、多いでしょうか?」
「ちょっとか? まぁいいが。嬢ちゃんがどんだけの腕か知らんが、一人でやってどれくらいかかる? その分、錬金術師として働いた方が稼げるんじゃねぇのか?」
「......それも、そうです、ね」
よくよく考えれば、柵の修繕は人任せにして、早くお店を開いて錬金アイテムを販売した方が、たぶん稼げる。
孤児院時代から学生時代にかけて、とにかくお金を使わないように、できることは自分でやる、という精神だったので、まず自分で直すと言うことを考えたけど、よくよく考えれば私はもう一人前の錬金術師なのだ。
誰もがうらやむ、高給取りの錬金術師様。
それが私!
私、頑張った! 人生、勝ち組!
......いやいや、落ち着け。
さすがにそこまで言うのはアレだけど、専門外は人を雇うというのも今後は必要になることだよね。その方が、錬金術関係に専念できるし?
「わかりました! では、お願いできますか? あと、ついでにあの看板の補修と壁の修繕も!」
私がビシリと落ちかかった看板を指さすと、ゲベルクさんもそちらに目をやり、納得したように頷いた。
「ああ、確かにそっちも必要そうだな。柵は今と同じ感じで良いのか?」
「えーっと、お店の前はそれで良いんですが、側面と裏側はせっかくなのでートルぐらいの
「そりゃ構わんが、なんでじゃ? 板塀はその分、高くなるぞ?」
「いえ、その、私も一応、女の子なので、洗濯物とか、あんまり見えない方が、ね?」
「はっ! この田舎でそんなもん気にするヤツなんぞおらんわ。第一、隣の家とも離れとるじゃろうが。――まぁ、客の注文なら作るがな!」
うん、まぁ、確かに裏庭に洗濯物を干しても、あんまり見えないとは思う。
一番近いエルズさん宅ともそれなりに離れているし、回りには木が茂っていて、裏はすぐ側まで森が迫っているため、見通し自体悪い。
それでもやっぱり、気分的に、ねぇ。
王都では部屋干しだったけど、ここなら塀さえできれば気軽に干せるようになるし。
あとは、裏庭の畑を小動物なんかに、荒らされないようにしたいということもある。
逆に、お店の前はお客さんが入りやすいように、簡単な柵のまま。
そのあたりの希望も合わせて伝え、打ち合わせた結果、裏側と側面の中程までは膝ぐらいまでの石垣を作り、その上に板塀、それ以外の場所は開放感を重視した柵という構成に決まった。
また、裏庭へと続く側面の通路には簡単な門を作って、出入りを制限できるようにした上で、裏庭の板塀にも扉を付けて、利便性を確保した。
看板や壁面に関してはよく解らないので、すべてお任せ。
その他の細かい部分もお任せ。
ゲベルクさんなら良い感じにしてくれるに違いない!
そう伝えたら、ゲベルクさんは「ふんっ」と鼻を鳴らして、「明日から工事を始めるからな」と言い置いて帰って行った。
「あれは......きっと照れたんだよね、うん。気を悪くはしてない......よね?」
気になるけど......今は時間が無い。
一日でベッドを作り上げるほど仕事が早いゲベルクさんだから、本当に明日から工事が始まりそう。
そうなると、柵の周りにある小銭《薬草》は無駄になる!
「回収しないと!」
家からカゴを持ってきて、柵沿いに生えている薬草をひたすら抜いていく。
「おっと、これは貴重なやつだ!」
摘んでしまうのは勿体ないので、根っこごと掘り上げて避けておく。
あとから植え直そう。
「草は放置で良いよね」
石垣を作るのなら、ある程度掘り返されるはず。
わざわざ抜いておく必要も無い。
そのままぐるりと一周。
柵の内側、庭になる部分は薬草を回収しながら草抜き。
そんな作業を、苦手な身体強化も併用しながら、夕方までひたすら行う。
途中休んだのは昼食の時と水分補給の時のみ。
ひじょーに疲れたけど、その甲斐もあって、荒れ放題だった庭は見られるレベルまで回復していた。
「いやー、正直私、頑張りすぎじゃない?」
まだこれから、商品作りがあるんだけど。
今日採取した薬草はともかく、初日に採取した薬草はそろそろ使わないと効果が落ちてしまう。
一応、簡単な保存処理はしてるから、明日までならなんとかなりそうだけど、明日は明日で今日採取した物があるわけだし。
「ただ、貴重な薬草が多かったのは嬉しい誤算だったね!」
普通に買うと結構高い薬草が、何種類も生えていたんだよ。
もちろん、前の持ち主が植えていたからだろうけど、枯れずに残っていたことが凄い。
普通の薬草とは価値が違うから、当然全部回収して、きちんと耕した畑に植え直したよ。
良いよね、タダって言葉!
「でも今は、少し休憩しよ。さすがに疲れた......」
私は家に入って軽く身体を拭くと、温かい食事を求めて食堂へと足を向けた。
◇ ◇ ◇
翌日、いつもより少し遅い時間に目を覚ますと、何やら家の前が騒がしかった。
「んぅ~~ん? 何だっけ?」
昨日の夜は結構遅かったので、頭がはっきりしない。
当初こそ、程々で切り上げる予定だった
それが、途中で薬瓶が足りなくなったあたりから予定が狂い始めた。
薬瓶が無ければ作るしかないよね?
作るためにはガラス炉に火を入れないといけないよね?
そうなるともうダメ。
一度ガラスを溶かすと、使ってしまわないと色々面倒なのだ。
で、ひたすら薬瓶作り。
冷えた端から
それを繰り返し、最終的にガラスをすべて使い切る頃にはすでに外は白み始めていた。
おかげで商品は大量にできたんだけど......。
「あー、う~~?」
のそのそと身体を起こし、窓から外を覗くと......男の人がいっぱい。
......あ、そういえば今日から柵を作り始めるって言ってたっけ。
さすがゲベルクさん、思ってた以上に迅速だよ。
昨日の今日、しかも朝から始めるとか......。
すでに家の前には資材が積み上げられ始めている。
挨拶、しないといけないよね、やっぱり。
私は疲れた身体に鞭を打って起き上がると、身なりを整えて外に出た。
「おはようございます、ゲベルクさん」
「おう、おはよう、嬢ちゃん。庭、随分綺麗になったな?」
ゲベルクさんが示すのは、昨日頑張って“荒れ果てた庭”から“少し手入れを怠った庭”にクラスチェンジを果たしたウチの庭。
まだ草を抜いただけなので、さすがに“手入れの行き届いた庭”にはほど遠いけど、随分マシになったのは確か。
「ええ、まぁ、それなりに頑張りました」
「疲れているのはそれが原因か?」
「解りますか? それも原因の一つですね」
身なりを整えたつもりだったけど、見て解る程度には疲れが表に出ているらしい。
どっちかと言えば、寝不足の方が辛いんだけどね。
「それで、えっと、えっと、こちらの方たちは......?」
「こいつらは村の男衆だ。大規模な作業の時には呼んどる。問題ないたぁ思うが、いらんちょっかいかける奴がいたらワシに言え。根性、叩き直してやる」
そう言うゲベルクさんの右手にはでっかいハンマー。
それを軽々と、ブンブン振っている。
それじゃ、根性を“叩き直す”じゃなくて、“叩きつぶす”にならないかな?
ゲベルクさんの言葉に一部の人が顔を青くしたのは、たぶん気のせいじゃない。
「おはようございます、皆さん。先日引っ越してきた錬金術師のサラサです。よろしくお願いします」
まだ挨拶していない人たちだったので、この機会に丁寧に頭を下げておこう。
私がそう言うと、皆さん、和やかに口々に挨拶を返してくれたんだけど......すみません、名前は覚えられそうにありません。
「こいつらのことは無理に覚える必要は無いぞ。どうせ自炊するならそのうち覚えることになる」
そんな私の困惑を察したのか、ゲベルクさんがフォローを入れてくれた。
どうやらここにいる人たちは、普段は農業をしている臨時雇いの人たちらしい。
そのため野菜などが必要になれば、そのうちまた顔を合わすことになる。
つまり先日、エルズさんに村の案内を頼んだとき、後回しにしてしまった人たちってわけだね。
うん、頑張って覚えよう。
「それで、作業はもう始めても良いのか?」
「はい、お願いします。あっ、裏庭の畑には薬草が植えてあるので、そこだけは気をつけてください」
せっかく貴重な薬草を掘り上げて移植したのだから、もしも踏まれでもしたら結構悲しい。
「おう、俺はプロ、こいつらは本業農家、解ってるさ。そいじゃお前たち、手はず通り頼むぞ!」
「「「おう!」」」
ゲベルクさんの号令に威勢の良い声で応え、男の人たちが動き出した。
見る見るうちにボロボロの柵が撤去されていく。
ゲベルクさんの方は家の壁や看板を確認しているので、手分けして作業を進めるのかな?
「あの、私は何かやることありますか?」
「ああ? 面倒くせーこと言わねぇのなら、別に用事はねぇな」
「そうですか? それならお任せします」
すでにゲベルクさんにお任せしたのだ。
作業中にあれこれ言って邪魔するつもりも無いし、何より眠い。
私は素直に家に戻ると、もうしばらくの間、二度寝を楽しんだのだった。
◇ ◇ ◇
次に私が目覚めたのは、完全に日が昇りきって、昼間近という時間帯。
再びのそのそと起き出し、窓から外を見ると、家の前の簡単な柵はもうできあがっていた。
「うわっ、さすがに仕事が早い......側面は......うん、さすがにまだだよね」
側面にある窓から覗けば、そちら側はさすがに石垣積みの真っ最中。
こっちまで出来ていたら、さすがに異常だよね。
「お昼は......適当で良いか」
食べに行くのも面倒だったので、買い置きの干し肉なんかで朝食兼昼食を済まし、軽く体操をして身体を解す。
「よしっ!」
家を出て裏手に回ると、石垣は全体の半分程度がすでに出来上がっていた。
「ゲベルクさん、お疲れ様です。順調ですね」
「おう、嬢ちゃん。そうだな、今日中に支柱を立てる所までやって、明日の午前中に板を張って、門扉を作って完成ってとこだな」
「早いですねぇ。助かります」
「壁の方も直しておいたが、看板は数日待ってくれ」
「――あ、本当だ、直ってる。看板も了解です」
ゲベルクさんに言われて家の方を見ると、何カ所かあった漆喰のひび割れが、綺麗に塗り直されていた。
「それじゃ、よろしくお願いします」
「任せておけ!」
力強く請け負ってくれたゲベルクさんから離れ、私は辺りを見回す。
柵に関しては私が手伝うことは無いみたいなので、私は前庭を“手入れの行き届いた庭”にクラスチェンジできるよう、努力しようかな?
うーん、薬草は無くなったから、あと適当に草を刈り込んで、木の剪定と花壇でも作ろう。
せっかくの自分のお店、どうせなら可愛いお店が良いじゃない?
花の綺麗な薬草を植えれば、一石二鳥だし。
とはいえ、花や葉っぱを使うタイプは花壇に植えるのには向かないから、花が終わったあとの根っこや種を使うタイプじゃないとダメだよね。
「まずは木の剪定から」
適当に伸びすぎている部分を切り落としていく......魔法で。
は買ったけど、背の高くない私にとって、高木の剪定はちょっと大変なのだ。
魔法だと細かいことは出来ないけど、木に登る必要も、踏み台を用意する必要も無い。
切り落としたあとは、引っかかっている枝を風で吹き飛ばし、庭の隅に一纏めにしておく。
草の方もやっぱり魔法で解決。
広い部分はザックリと刈り取り、家や柵のすぐ側だけ、手作業で丁寧に。
普通の魔術師にはできない細かい魔法の制御も、錬金術師にとってみればたやすいことよ!
「ふっふっふ、便利だよねー、魔法って」
私の華麗な(?)魔法捌きに目を丸くする人たちを尻目に、私は作業を進めていく。
まぁ、華麗かどうかは別にしても、こういう使い方にはかなりの制御力が必要になるから、できる人は限られていることは確か。
そうでなければ、錬金術師の数はもっと増えていただろう。
「花壇は......アプローチの脇と、家の壁際で良いかな?」
位置を決めたらザクザクと土を掘り返し、その周りには丸太で境を作る。
この丸太は家の裏の森から適当に切り出してきた物で、一応、ゲベルクさんに確認して、このへんの森を切り出しても問題ないというお墨付きはもらっている。
丸太を担いで戻ってきた私に、男の人たちから驚愕の視線が注がれたんだけど、これ、身体強化してますからね?
あえて主張はしないけど、素じゃかなりひ弱ですから、私。
「よし、できた~~!」
剪定された植木と綺麗に刈り揃えられた草、野趣溢れる――いや、素朴な感じの花壇。
これはもう、“手入れの行き届いた庭”と言っても良いんじゃないかな?
あとは......。
「花壇、何を植えよう......?」
手持ちの素材の中で、花が綺麗な薬草を思い浮かべる。
どの薬草も花は案外綺麗なのだが、種が手元にあるのは種自体が錬金素材になる物のみ。
私が持っているのは飽くまで錬金術の素材。葉っぱを使う薬草は葉っぱしか持ってないし、根っこを使う薬草も乾燥させた根っこなので、植えたところで芽は出ない。
「時期は良いから、大抵の物は大丈夫なはずだけど......」
幸い、今は春。
播く時期としては悪くない。
ついでに言えば、種を使う薬草なら、花が終わるまで花壇に植えておけるので、観賞用としても悪くない。
葉っぱや花を使う薬草だと、途中で毟ってしまう事になるので、花壇としては台無しだからね。
私はしばらく考えて、アプローチ脇には小さくて白い可愛い花が咲く薬草、家の前には青紫の少し大きめの花が咲く薬草を植えた。
「こっちは蔦を伸ばすから、芽が出るまでに支柱も準備しないとね」
どちらも強い薬草なので、芽が出ないということは無いと思う。
花に囲まれて営業する自分のお店を夢想して、私は一人笑みを浮かべた。 | Even so, it's not that hard.
First of all, based on the criterion of "opening a store”, “making a product” precedes that. Because there's nothing I can do without selling it.
The fence and the garden, too? If it doesn't look good, customers won't come.
Finally, you can use the garden herbs to make the product, right?
Improvements to the rest of the wells, baths and magic stoves are independent, so you can turn them when you have time.
"If so, is it a fence at first? I can make products even after sundown."
Try to kick the fence in front of the house gently.
Poko, Beki.
... Yeah, I fell down lightly. This is a complete rebuild.
It's a simple fence that just hit the pile and handed Yokogi over, so I was wondering if it's enough to ask the carpenter?
Should we do this here ourselves, even to save money?
Alchemists can do some woodworking because of the smelter artifact making, right?
Though, I don't have carpentry tools.
Because I used an internship room at school and rented shop tools at my master's place.
That's why I came. I'm a grocery store.
"Hello ~"
"Oh, Mr. Sarasa, I'm sorry about yesterday! Go home and ask for the price, I..."
"Uh, sorry about this one, huh? I was going to thank you, but it seemed a little expensive to give you easily. On the other hand, I got cloth and cotton."
When I looked in my face, I responded to Mr. Lorea, who came as if in a panic, waving my hands flat.
"No! Make sure you get it! Father, even that one said it wouldn't match. If you don't give me that much, it's hard for us to use that cloth."
Uh, yeah, maybe there's a part of that.
Especially if we are going to sell that cloth in the store in the future, it is not very good for both sides that they helped us for half a day.
"Well, thank you."
"Absolutely. - By the way, today?
"Do you keep carpentry tools or something? I want the whole thing."
"Ah, yes. If you want to use something in a normal home. You should ask Mr. Zizd for the good stuff directly though. Mr. Sarasa, are you going to do something?
"Thought I'd fix the fence a little bit."
"What? Yourself, is it? Aren't you going to ask Grandpa Geberg?
Mr. Lorea tells you as surprised, but so surprised?
It's as easy as building a fence, isn't it?
"Mm-hmm. I don't know if I can do that."
"Yeah, it's pretty hard to work as a carpenter, huh? Mr. Sarasa, have you done this before?
"Somewhat?
I have never made anything very large or complex, but I also learn fine woodworking at school because it is sometimes necessary to make the smelter Artifact.
Even before that, in the orphanage, it was fundamental that we do something ourselves, so if a building or building broke down, we did what we could fix ourselves.
I worked hard to help with these unexpected things in relation to getting exempt from the usual help.
So I also know some difficulty in carpentry work.
It's pretty hard just to cut the board straight, isn't it? It's just a little bent in the saw "Nokiri," and when I'm done cutting it, it gets pretty diagonal.
However, I thought I could do the house fence myself because it just punches the pile and gives me an elongated plate there...
"Um, for once, why don't you talk to Grandpa Geberg? I'm gonna bluff, but you're kind, so I think you can get some advice, too, right?
"Right. I also have to ask for repairs to the store... I just need the carpentry tools themselves, so I'll buy them."
"Yes, Maido."
The carpentry tools I received from Mr. Lorea were heavier than I thought, so I went to Mr. Geberg's after I had first returned to put them at home.
It's hard to get in because it's a seemingly normal private house compared to a grocery store, but I never speak up.
"Sorry."
Was your voice a little low? I thought, after a moment, Mr. Geberg came out of the back.
"Hmm? What is it, lady? What can I do for you?
"Actually, I need to talk to you...... I'm trying to fix the fence around the house, can you split the wood? Or will it be difficult to do it yourself?
"Miss, is that it? That's what I said. Oh, you've done some things, haven't you? I'll sell it to you. Well... well, we'll see what happens next. - Look, let's go!
"Yes, sir"
Arrive at home after Mr. Geberg, a walking man who makes you feel no age at all.
The grassy fence is shown as' This is it '.
"Hmm, this fence? Quite a scratch. Don't move. If you don't, you better rebuild it all, lady, but are you going to do it all by yourself?
That's what I'm saying. I'm pointing around the house, Mr. Geberg.
Speaking of which, there's a pretty big backyard, and there's dozens of meters at a distance...
Maybe a little rough?
"... hey, is that a lot?
"A little bit? Well, fine. I don't know how much arm your lady has, but how long does it take you to do it alone? For that matter, wouldn't you make more money working as an alchemist?
"... that too, right,"
On second thought, it would probably be better to leave the repair of the fence to manpower and open a store quickly to sell alchemy items, perhaps making money.
From the time I was an orphanage to the time I was a student, it was in the spirit of not spending money anyway, all I could do was do it myself, so I thought about saying I'd fix it myself first, but on second thought, I'm another serving alchemist.
Everybody's jealous, high-paying alchemist.
That's me!
Me, good luck! Life, winners!
... No, no, calm down.
That's exactly what I'm saying, but hiring people out of specialty is also something you'll need in the future, isn't it? Can you focus more on alchemy?
"Okay! So, can you do me a favor? And finally, that sign repair and wall repair!
When I pointed to Bisilli's fallen sign, Mr. Geberg glanced at you too and nodded as he was convinced.
"Oh, you sure look like you need that one too. Is the fence as good as it is now?
"Um, that's fine in front of the store, but because of the sides and the back, could you make it" Itabei ", which is about two meters long?
"I don't mind that, why not? The fence's gonna be high for that, right?
"No, you know, I'm a girl, too, so I don't really see laundry or anything, right?
"Ha! I don't know who cares about that in this country. First of all, I'd stay away from my neighbor's house. - Well, if it's a customer order, I'll make it!
Yeah, well, I do think you don't see much of it, even if you dry your laundry in the backyard.
The outlook itself is poor due to the fact that it is quite far from the nearest Mr. Elles' house, and the trees are bush around and the woods looming just down the back.
Still, I figured, moody, hey.
In Wangdu, the room was dry, but as long as the walls were here, it would be easy to dry.
And then sometimes I want to make sure that the fields in the backyard are not vandalized into small animals or anything.
Conversely, in front of the store, it remains an easy fence for customers to enter.
The hope around it was also conveyed together, and as a result of the meeting, stone walls were built up to about knees to the back and midway between the sides, on which the plate walls and other places were decided on the configuration of a fence with an emphasis on openness.
In addition, a simple gate was made in the side passage leading to the backyard to allow access to be restricted, and a door was also attached to the slab wall of the backyard to ensure convenience.
I don't know much about signs and walls, so I'll take care of everything.
I'll take care of the other details.
Mr. Geberg would make it look good!
When I told him that, Mr. Geberg snorted, "Hmm," and left to say, "I'll start construction tomorrow," he said.
"That... must have lit up, yeah. I'm not offended...... right?
I'm curious... I don't have time for this right now.
Work is fast enough to create a bed in one day, Mr. Geberg, so construction is really going to start tomorrow.
If that happens, the change "Herbs" around the fence will be in vain!
"We need to collect it!
Bring the basket from the house and even pull out the herbs growing along the fence.
"Whoa, this is a precious one!
I don't have the body to pick it, so I dig up every root to avoid it.
Let's plant it back later.
"You can leave the grass alone."
If you're going to build a stone wall, you should be dug back somewhat.
I don't even have to bother pulling it out.
Keep going around.
Inside the fence, the area that becomes the garden drains the grass while recovering the herbs.
Perform such tasks even into the evening while also using bad physical enhancements.
I took a break on the way only during lunch and rehydration.
I was tired of hiji-kun, but it was worth it, and the garden, which was all-you-can-see, had recovered to the level it could see.
"No, honestly, me, aren't you trying too hard?
I still have a product to make.
Regardless of the herbs collected today, it is time to use the herbs collected on the first day or they will become less effective.
For once, I have a simple preservation process, so I think I can handle it until tomorrow, but I have something I picked up tomorrow and today.
"It was just a delightful miscalculation that there were so many precious herbs!
Normally, a lot of expensive herbs were grown.
Of course, it's probably because the previous owner planted it, but it's amazing that it stayed intact.
Because it's not worth the usual herbs, I naturally recovered them all and planted them back in a well-plowed field.
That's good, the word free!
"But now, take a break. Exactly tired..."
When I entered the house and wiped my body gently, I turned to the dining room for a warm meal.
◇ ◇ ◇
The next day, when I woke up a little later than usual, there was some noise in front of the house.
"Uh-huh? What was that?
It was pretty late last night, so I can't get my head straight.
It was only in the beginning that we planned to cut up the smelting drug Potion.
That started making my plans crazy around running out of medicine bottles along the way.
If we don't have a vial, we're gonna have to make it, right?
You have to put a fire in the glass furnace to make it, right?
When that happens, no more.
Once the glass is melted, it's a lot of trouble if you don't use it.
So, even make medicine bottles.
Pour the smelting drug Potion from the cold end and seal.
Repeat that, by the time I eventually ran out of all the glass, it was already starting to whiten outside.
Thanks to this, I was able to make a lot of products...
"Uh huh?"
I wake myself up and look out the window...... full of guys.
... Oh, speaking of which, I thought you said you were going to start building fences today.
That's right, Mr. Geberg, faster than I thought.
Yesterday today, and starting in the morning or something......
Materials are already starting to pile up in front of the house.
Greeting, you have to, I knew it.
When I got up whipped to my tired body, I got dressed and went outside.
"Good morning, Mr. Geberg"
"Whoa, good morning, lady. The garden, it's beautiful, isn't it?
What Mr. Geberg shows is our garden where we worked hard yesterday to change classes from a "desolate garden” to a "slightly neglected garden”.
I've just drained the grass yet, so it's just far from a “well-maintained garden," but I'm sure it's gotten a lot better.
"Yeah, well, I tried pretty hard"
"Is that why you're tired?
"Do you understand? That's one of the reasons."
I was going to get dressed, but to the extent that I can see and understand it, they're tired on the table.
One way or the other, it's harder not to sleep.
"So, uh, uh, these guys...?
"These are village men. I call it when it comes to large-scale work. I don't think it's a problem, but if someone calls me back, tell me. guts, I'll beat you back."
A big hammer on Mr. Geberg's right hand to say so.
I'm shaking it lightly, boom.
So, instead of “beating back" your guts, I guess it's "beating up”?
It's probably not my fault that some people blued their faces on Mr. Geberg's words.
"Good morning, gentlemen. I'm Sarasa, the alchemist who moved in the other day. Best regards,"
Those were the ones who hadn't greeted me yet, so let's take this opportunity to carefully bow our heads.
When I say that, gentlemen, he greeted me soothingly and verbally... sorry, I don't think I can remember his name.
"You don't have to forget about these guys. If you're going to cook yourself anyway, you'll remember."
You perceived my perplexity like that, Mr. Geberg followed me.
Apparently, the people here are temporarily employed people who usually farm.
If vegetables or the like are needed for this reason, then we will face each other again.
I mean, the other day, when you asked Elles to show you the village, you were the ones who left it behind.
Yeah, let's try and remember.
"So, can we start work already?
"Yes, please. Ah, there are herbs planted in the backyard fields, so just be careful there."
Because I dug up precious herbs and transplanted them, it would be quite sad if they even stepped on them.
"Whoa, I'm a pro, these guys are farmers, I know. Come on, you guys, do as you're told!
"" "Whoa!
Responding to Mr. Geberg's decree with a powerful voice, the men moved out.
The worn out fence is removed as you see it.
Mr. Geberg is checking the walls and signs of the house, so do we split them up and proceed with the work?
"Um, do I have something to do?
"Oh? Trouble. If you're not going to tell me, I don't have any business."
"Really? I'll take care of it."
I've already left it to Mr. Geberg.
I don't mean to interrupt you by saying this while you're working, and most importantly, I'm sleepy.
I honestly went home and enjoyed sleeping twice for some time now.
◇ ◇ ◇
The next time I woke up was at a time when the sun was completely rising and close to noon.
Once again I woke up to it and looked out the window, the simple fence in front of the house had already been raised.
"Wow, just working fast... the sides... yeah, just not yet, right?"
Peek through the window on the side, and that side is just in the middle of a pile of stone walls.
If it was done this way, it would be just as unusual.
"Lunch is... appropriate and good"
It was also a hassle to go to eat, so I had breakfast and lunch with some dried meat I bought away, and did some light gymnastics to unwind my body.
"Ok!"
When I left the house and turned to my back, Ishigaki was already able to do about half of the whole thing.
"Good day, Mr. Geberg. It's going well."
"Whoa, lady. Yeah, I'll be there by the end of the day, putting up a plate tomorrow morning, building a portal and getting it done."
"It's early. It helps."
"I fixed the wall too, but wait a few days for the sign"
"- Oh, it's true, it's fixed. And the sign."
When Mr. Geberg told me to look at the house, a lacquer crack that had occurred in several places had been painted back beautifully.
"Well, thank you."
"Leave it to me!
Away from Mr. Geberg, who gave me a strong undertaking, I look around.
There seems to be nothing I can do to help with the fence, so should I make an effort to change the front yard to a "well-maintained garden”?
Um, the herbs are gone, so let's prune the grass properly and even make it in the tree pruning and flower beds.
My shop, it's cute anyway, isn't it?
If you plant a beautiful herb of flowers, it's two birds a stone.
Nevertheless, the type that uses flowers and leaves is not suitable for planting in flower beds, so you have to be the type that uses roots and seeds after the flowers are finished.
"Let's start with the tree pruning"
Cut off parts that are appropriately overstretched...... magically.
I bought the saw "Mushroom," but for me not tall, pruning Takagi is a little hard.
Magic doesn't do the details, but you don't have to climb a tree or prepare a stepping stone.
After cutting them off, blow the branches that are caught in the wind and keep them all together in the corner of the garden.
The grass figured it out magically.
The wide area is zackled and pruned, just on the side of the house or fence, carefully by hand.
Fine magic control that no ordinary magician can do is easy for an alchemist!
"Ha-ha-ha, it's convenient, magic."
My gorgeous (?) I go ahead with the work with the people who round their eyes with magic.
Well, whether it's gorgeous or not, there are certainly a limited number of people who can, because this kind of usage will require a lot of control.
Otherwise, the number of alchemists would have increased more.
"The flower beds... are good beside the approach and between the walls of the house?
Once in position, we dig back the crisps and dirt, and around them we make borders with the marutai.
This whole thing has been properly cut out of the woods behind the house, and for once, I checked with Mr. Geberg to get the ink that it is not a problem to cut out the woods in this area.
When I came back in charge of Marutai, the men gave me a startling glance, because this is strengthening my body, right?
I don't dare make any claims, but I'm pretty weak with vegetables, so I...
"All right, I got it!"
Cut plants and beautifully mowed grass, wild - no, a flowerbed with a rustic feel.
Can I say this is a well-maintained garden now?
And then...
"Flower beds, what shall we plant...?
Among the materials in hand, the flowers think of beautiful herbs.
All the herbs are exotic and beautiful, but the only thing the seed has at hand is what makes the seed itself an alchemical material.
What I have is alchemy material until I get tired of it. The only medicinal herbs that use leaves are leaves, and the roots that use roots are dry roots, so they don't bud where they are planted.
"It's a good time, so most things should be fine..."
Fortunately, it's spring now.
Not a bad time to sow.
Finally, if you're a herb that uses seeds, you can plant them in a flower bed until the flowers are finished, so it's not bad for ornamental use.
If you use leaves or flowers, you will get on the way, so it is ruined as a flowerbed.
I thought for a while and planted a small, white cute flowering herb beside the approach and a slightly larger flowering herb of blue and purple in front of the house.
"This one stretches out the shovel, so we'll have to get the struts ready by the time it sprouts."
Both are strong herbs, so I don't think it means they won't bud.
I laughed alone, dreaming of my own shop that was open surrounded by flowers. |
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} | 「ほぉー、ここがその洞窟か。結構大きいな」
アンドレさんたちの案内によって、私たちは迷う事も無く、北の洞窟に辿り着いていた。
メートルほど、高メートルほどの洞窟の入口を見上げて、アイリスさんが感心したような声を上げている。
「結構近いのね。これなら、気軽に来られるけど......問題は、きちんと狩れるか、よね」
「強くはないですから、大丈夫ですよ。一斉に襲ってこられると判りませんが、普通は襲ってきませんから。......普通は」
「普通は?」
「多少狩る程度なら逃げる方を優先するんですが、例えば洞窟の入口を塞いで殲滅しよう、とかすると、向こうも死に物狂いで襲いかかって来るようですね。過去にはそれで、全身が凍り付いて死んだ人もいるみたいです」
果樹園にとっては害獣だから、当然殲滅しようとした事例もある。
十分な実力者がいれば問題ないのだが、中途半端な人員で対処しようとすると、そういう事故も発生しうるのだ。
なので一応注意を促したところ、アンドレさんたちは鼻白んだ様に神妙な顔になって、頷いた。
「お、おう......油断はできねぇって事だな」
「採取作業中は常に油断はできない。当然だな」
「大丈夫ですよ、今回は。いきなり広範囲魔法でも放り込まない限り。使える人は......いないですよね」
「店長殿、そんな魔法が使えれば、先の襲撃の時に使っている」
「なら大丈夫です。では、行きましょうか。まずは、『
全員をカバーするように超重要魔法を使い、洞窟の中に足を踏み入れる。
「むっ、く、臭いなっ!」
「え、えぇ、これはなかなか......」
すぐに声を上げたのはアイリスさんとケイトさん。
まぁ、臭うよね。床面、全部アレだもの。
「アンドレさんたちは......まぁ、採集者だからアレとして」
「おい、アレって何だよ!?」
ケイトさんはアンドレさんの抗議をサラリと流し、私の顔を心配そうに覗き込んでくる。
「店長さんは大丈夫なの?」
「臭いのは間違いないですが、錬金術の素材には、かなり臭いのきつい物もありますからね。それこそ何らかの対処しなければ、意識を失うような物も。ちなみに今は、臭いを軽減するお薬を使ってます」
「ズ、ズルい! 店長殿、私にもそれを!」
「ちょっと良いお値段しますけど、良いですか?」
「うぐっ!」
「しゃ、借金が......」
「冗談です。今回だけは、使って良いですよ。はい、これを嗅いでください」
私は取りだした小瓶の蓋を開け、アイリスさんたちの前に差し出す。
その小瓶に鼻を近づけ、息を吸い込んだ二人は、すぐにその効果を感じたのか、目を見開いた。
「臭くない! ......事はないが、凄くマシになった!」
「えぇ。全然違います」
です。完全に嗅覚をダメにしてしまうと、危険ですから」
錬金術を行う場合でも、臭いは重要だからね。
臭いによって加熱時間を変えたりする時や、焦げる臭いで危険性に気付いたりとか、嗅覚ってバカにならないのだ。
この『程よくカットする』という部分が
だからこそ高いんだけど。
「さすがに毎回無料で提供はできませんから、どうするかはお任せします。借金を増やすか、我慢するか」
「むむ......悩むな」
「我慢できない事も無い、ってあたりがね」
「アンドレさんたちも使いますか?」
「いや、俺たちはいい」
「ま、耐えられるレベルだからな。採集者の中には、『いつから身体洗ってねぇんだよ!』って奴もいるからな」
「さすがにここまでひでぇのはいねぇだろ!? ......少なくとも、この村の採集者には」
え、この村以外にはいるの......?
そんな採集者、店に来て欲しくないかも。
――本気でこのレベルの人がいるなら、出入禁止にすることも辞さないよ、私は。
店番をしているロレアちゃんが可哀想すぎる。
「ちなみに、この床を削り取って持ち帰れば、良い肥料になるみたいですよ」
「お、そうなのか? サラサちゃんの所で買い取ってくれたり――」
「は、しません。錬金術の素材では無く、すでに肥料ですからね。売るなら農家相手でしょうが、この村の農家が買うかどうか......」
今はちょっとお金を持ってるかもしれないけど、普段はそうじゃない。
お金を出して肥料を買う事は、なかなか難しいだろう。
それに、肥料という物は、使ってすぐに効果が出るわけじゃ無い事も問題。
アンドレさんたちぐらい、長期にこの村に滞在していて、ある程度信用されている採集者ならともかく、素性の判らない採集者から、大事な畑に撒く肥料を買うかどうか。
悪影響が出るリスクを考えれば、たぶん買わないんじゃないかな?
「そうか。なら、知り合いにタダでやるぐらいか......」
「量が多すぎると逆効果ですから、気を付けてくださいね。――それより、本命です。上を見てください」
「上......うわっ!」
私が指さしたのに釣られて、素直に見上げたアイリスさんが、声を上げる。
アンドレさんたちも、驚いたようにぽかんと口を開けている。
「こいつは......多いな......」
天井に張り付いていたのは、氷牙コウモリ。
それも、実際の天井が見えないほどにびっしりと。
何匹いるのか数える事なんて、とてもできそうに無い。
「こ、この中から以上の個体を探すの? 店長さん、無理じゃない?」
「あぁ、無差別に斃してみるぐらいしか、方法はなさそうだが」
「いえいえ。少し難しいですが、この状態でも年齢を判別する事は、不可能ではないんですよ。例えば......あれですね」
そう言いながら私は、魔法を使って一匹の氷牙コウモリを攻撃。
ぽてんと地面に落下した氷牙コウモリを拾い上げ、アンドレさんたちに示すが、彼らはただ首を捻るのみ。
「......いや、なにを基準に攻撃したんだ、サラサちゃん」
「あぁ、俺たちにはさっぱり判らないんだが」
「相手の魔力量ですね。一定以上の魔力を持つ氷牙コウモリを狙います」
「いや、無理だから! 俺たち、そんなの感知できねぇから!」
平然と答えた私に、ギルさんが激しく反論し、他の人たちもまたウンウンと何度も頷く。
「はい、解ってます。この方法で判別しろとは言いません。まずは体長ですね。他の物より大きいのですが、判りますか?」
私は氷牙コウモリの足を持ってぶら下げ、その体長を示す。
アンドレさんたちは、その氷牙コウモリと、天井に張り付いた氷牙コウモリを何度も見比べる。
けど......イマイチ判ってない?
「......言われれば、ちょっと小さいように見えるけど」
「いや、ほとんど差が無くないか? 私には判らないぞ?」
「この距離じゃ判らねぇよ......」
私の狩った氷牙コウモリは、足先から頭の先までおおよそ二〇センチあまり。
天井に張り付いているのは、小さい物で一〇センチほどから。これよりも大きい個体はあまり多くない。
何となくでも判るのは、ケイトさんと、辛うじてギルさん?
ケイトさんは弓を主体にしてるから、観察力が鋭いのかな?
「まぁ、外見については措いておきましょう。次は牙で判別する方法です」
氷牙コウモリの口を引き開け、その牙を示す。
二センチぐらいの牙が二本。
“氷牙”と名前に付くだけあり、身体の大きさから考えると、結構大きい。
「まずは色。青が深いほど年齢が高いです」
「ほー、なんだか綺麗な色だな......」
「これまだ薄いですが、一〇歳を超えると、
感心したような声を上げ、牙を触ろうとするアイリスさんから、それを遠ざけ、言葉を続ける。
「次に冷却能力。素手で触って、すぐに触れていられないほど冷たくなれば、十分価値があります」
「ほうほう」
素直に手袋を外し、牙を触ろうとしたアイリスさんから、再び氷牙コウモリを遠ざける。
そんな私に、アイリスさんが不満そうな顔を向けるが、私はダメダメと首を振る。
「牙に何か刺しても判ります。そうですね、五歳以上なら、人の指が数秒で凍り付くぐらいですね。アイリスさん、試してみますか?」
「い、いや、いい!」
ブルブルと首を振り、慌てたように手袋を履き直すアイリスさん。
うん。説明中に手を出すのは危ないんですよ?
錬金術の授業でも、実験中は絶対に近寄らない。
許可が出るまでは、触ったりしないってのが鉄則だったからね。
「最後は、ここ、牙の根元を見る方法ですね。筋のような物があるのが判りますか?」
私が示した場所をアンドレさんたちが興味深そうに、アイリスさんは恐る恐る覗き込む。
「......ちょっと、暗くて見えねぇな」
「あ、そうですね。『
あまり明るくしすぎて氷牙コウモリが騒ぎ出しても困るので、ほんのりとした明かりを灯す。
それで見やすくなったのか、アンドレさんたちは『ふむふむ』と頷く。
「確かに、筋があるな。これの数が年齢か?」
「そうです。これだと五本あるのでですね」
「なるほど。これなら私にも判別できるな。だが、斃さないと判らないのでは......ケイト、何とかなるか?」
「私も、このぐらいの僅かな差だと、確実に判別できるかは......」
アイリスさんに訊かれ、ケイトさんは渋い表情で首を捻る。
「ギル、お前はどうだ?」
「俺も自信はねぇよ。そもそも、俺たちはどうやって斃すんだ? ケイトちゃんなら弓があるけどよ」
「だよな。サラサちゃん、何か方法はねぇかな?」
「いえ、普通に網でも使えば良くないですか? 虫取り網的な。羽虫を捕まえる時、使いますよね?」
「......おぉ、そうだな。ちょっと長めの柄を付けて、網を少し頑丈にすれば、それで良いのか」
氷牙コウモリなんて、牙以外の攻撃力なんて、ほぼ皆無なのだ。
網で絡め取ってしまえば、何もできなくなる。
ハッキリ言って、対処方法さえ間違わなければ、とてもボロい獲物なんだよねぇ。
それこそ、私が自分で大量に回収して帰りたいぐらい――いや、回収して帰る予定ですけどね。
「後は、この二本の牙を折り取って持ち帰れば完了です。指に刺さったりしないように慎重に持って、内側に倒すと、案外簡単に折れますよ」
私はそう言いながら、バキ、バキと牙を折り取り、持ってきた革袋に放り込み、身体の方は足を掴んで洞窟の外へポイ。
シュポーンと飛んで行った氷牙コウモリの死体は、木々の間へと消えていく。
「残った身体の方は、ほぼ使い道が無いので、捨てます。が、できれば洞窟の外に捨てる方が良いでしょうね。ここで腐ってしまうと、次に来る時に困りますから」
「お、おぅ......」
「あと、もう一つ。こういう洞窟の場合、奥にいる氷牙コウモリの方が、年齢層が高いです」
「......ん? なら、一番奥で狩れば、年齢を気にする必要はねぇのか?」
「入口の所にこの年齢の氷牙コウモリがいましたし、今ならそうでしょうね」
「今なら......あぁ、そういう事か。奥のを狩っていけば、若いのが順次奥に入ってくるって事だな?」
少し考えて、納得した様に頷いたアンドレさんに、私もまた頷く。
「そうです。なので、判別できるようになるのは、無駄じゃないですよ」
「そうなのか。つっても、俺には無理そうなんだがなぁ......」
「そこは頑張ってください、としか」
「だな。おう、ギル、頑張れよ?」
「俺かよっ!? まぁ、努力はするが......奥に五歳未満の個体が住み着くようになったら、引き上げるのが賢くねぇか、これ」
「そのあたりはお任せします。正直なところ、私の予想以上の生息数なので、全部狩ってこられても、買い取れないですから」
狩る人がいなかったからだろう。
入口でのこの数。
この洞窟に生息している氷牙コウモリの総数は、想像もできない。
これを狩り尽くすような事をしたら、この国の氷牙コウモリの牙の相場自体が下がるんじゃない?
「ま、とりあえず奥に進んでみましょう。ここで話していても仕方ないですから。アンドレさん、この洞窟の深さ、ご存じですか?」
「ん、すまねぇ。俺たちも実際に入るのは初めてなんだよ。俺たちの先輩のドレイクさんなら知ってたと思うんだが、もう引退しちまったからなぁ」
「ですか。まぁ、行ってみれば判りますね。慎重に進みましょう」 | "Ho, is this the cave? That's pretty big."
With the guidance of Mr. Andre and his men, we were not lost, but reached the northern cave.
He looks up at the entrance to the cave, about meters wide and about 10 meters high, and raises a voice that Mr. Iris was impressed with.
"You're pretty close. This makes it easy to come... but the question is, can you hunt properly?"
"It's not strong, so it's okay. I don't know if they can attack me at the same time, because they usually don't.... normally."
"Normally?
"If it's somewhat about hunting, I'll give priority to the escape, for example, by blocking the entrance to the cave and exterminating it, or something like that, and it seems to be coming crazily over there too. In the past, some people have frozen their whole bodies to death."
Because it is a vermin for an orchard, there have naturally been instances of attempts to annihilate it.
With enough strength, there's no problem, but when you try to deal with it with halfway personnel, accidents like that can happen.
So I cautioned him for once, and Andre and the others nodded, as strange as a nose whispered.
"Oh... you can't be alarmed."
"You can't always be alarmed during sampling operations. Naturally."
"It's okay, this time. Unless you suddenly throw in even extensive magic. There's no one to use it."
"Dear Store Manager, if you can use such magic, you are using it during the raid ahead"
"Then it's okay. So shall we go? First," Wind Wall "Air Wall" "
Use supercritical magic to cover everyone and step inside the cave.
"Ugh, it stinks!
"Oh, yeah, this is pretty..."
It was Mr. Iris and Mr. Kate who immediately raised their voices.
Well, it stinks, doesn't it? The floor, it's all there.
"Mr. Andre and the others... well, they're collectors, so as arr"
"Hey, what the fuck is that?!?"
Mr. Kate sarallies through Mr. Andre's protests and peeks into my face worryingly.
"Is the manager okay?
"I'm pretty sure it stinks, but there are some pretty stinky things in the alchemy material. That's the kind of thing that loses consciousness if you don't deal with it somehow. Now, by the way, I'm using medicine to reduce the odor."
"Z, cheat! Lord Store Manager, give it to me too!
"It's a bit of a good price, okay?
"Ugh!
"Shit, I owe you..."
"It's a joke. Only this time, you can use it. Yes, sniff this"
I open the lid of the vial I took away and give it to Mr. Iris and the others.
The two people, who brought their noses closer to the vial and inhaled their breath, immediately opened their eyes to see if they felt the effect.
"It doesn't stink!... nothing, but it got so much better!
"Yep. Not at all."
"More than a certain odor is the potion, an smelling drug that cuts it. Because it's dangerous if you completely ruin your sense of smell."
Even when doing alchemy, the smell is important.
It's not stupid to smell when you change the heating time due to smell, or when you notice danger due to burning smell.
This "cut well" part is the part of the smelting drug Potion.
That's why it's expensive.
"We can't just offer it for free every time, so we'll take care of what we do. Increase your debt or be patient."
"Mmmm... don't worry"
There's nothing unbearable about it.
"Do you also use Mr. Andre and the others?
"No, we're good"
"It's a bearable level. Some of the gatherers said, 'Since when have you not washed your body!' Cause some of them do."
"That's just how far we can go!?... at least not to the collectors of this village"
What, are you outside of this village...?
Such a gatherer, I might not want you to come to the store.
- If you're serious about this level of people, I wouldn't quit making it off-limits, either, I would.
Lorea, who has the store number, is too pathetic.
"By the way, if you cut off this floor and bring it back, it's going to be good fertilizer."
"Oh, really? Sarasa bought it for me."
"Ha, I won't. It's not an alchemy material, it's already fertilizer. If you want to sell it, you'll be dealing with the farmers, but whether the farmers in this village will buy it..."
I may have a little money right now, but I don't usually.
It would be hard to give money and buy fertilizer.
Besides, fertilizers are not effective immediately after use.
Regardless of the collectors who have stayed in this village for a long time and are somewhat trusted, Andre and the others, whether or not to buy fertilizer to be spread over important fields from collectors who do not know their characteristics.
Given the risk of adverse effects, you probably won't buy it?
"Right. Then I'll do it for free to someone I know..."
"Too much is counterproductive, so be careful. - More importantly, it's fate. Look up there."
"Up...... whoops!
Mr. Iris, caught by me pointing and looking up honestly, raises his voice.
Andre and the others, too, are opening their mouths to surprise.
"This guy... that's a lot..."
The one sticking to the ceiling was the ice tooth bat.
That, too, is so surprising that you can't see the actual ceiling.
I can't seem to count how many there are.
"Ko, from this, are you looking for individuals over the age of five? Shouldn't you be able to do that, Mr. Store Manager?
"Oh, there seems to be no way to kill him indiscriminately."
"No. It's a little difficult, but it's not impossible to tell your age even in this condition. For example... that's it."
With that said, I use magic to attack a single ice tooth bat.
Potentially picked up the ice tooth bats that fell to the ground, and showed them to Mr. Andre, but they just twist their necks.
"... no, I attacked you based on what, Sarasa"
"Oh, we have no idea."
"That's their amount of magic. Aim for ice tooth bats with more than a certain amount of magic."
"No, because I can't! We can't sense that!
To me, who answered plainly, Mr. Gill vehemently disputed, and the others nodded again and again with Unh-unh.
"Yes, I know. I'm not asking you to discern it this way. First of all, you're body length. It's bigger than the rest, you know?
I hang with my ice tooth bat leg and show its length.
Andre and the others compare that ice tooth bat to the ice tooth bat stuck on the ceiling over and over again.
But... you know what I mean?
"... if you ask me, it looks a little small"
"No, it makes little difference? I don't understand, do I?
"You can't tell from this distance..."
My hunted ice tooth bat is roughly 20cm less from toe to toe of head.
It sticks to the ceiling from about 10 cm with small objects. Not many individuals are bigger than this.
Anyway, what do you know about Mr. Kate and Mr. Gill?
Mr. Kate has a bow in the main, so is he sharp in observation?
"Well, let's take action on the appearance. The next step is to tell by fangs."
Pull open the mouth of the ice tooth bat and show its fangs.
Two fangs about two centimeters.
It just comes under the name “Ice Fang," which, given the size of your body, is pretty big.
"Color first. The deeper the blue, the older it is."
"Ho, that's kind of a beautiful color..."
"This is still thin, but beyond the age of ten, it will turn blue and blue" Konji "color, so it's even prettier."
Keep it away from Mr. Iris, who raises his voice like he was impressed and tries to touch his fangs, and keep the words going.
"Next, cooling capacity. It's well worth it if you touch it with your bare hands and get cold enough not to be touching it right away"
"Ugh."
Keep the ice tooth bat away from Mr. Iris, who honestly took off his gloves and tried to touch his fangs, again.
To me like that, Mr. Iris turns a dissatisfied face, but I shake my head no good.
"I can tell by stabbing something in my fangs. Well, if you're over five, people's fingers are about to freeze in seconds. Would you like to try, Mr. Iris?
"Yes, no, fine!
Mr. Iris shakes his head with a blurb and wears the gloves back like he panicked.
Yeah. It's dangerous to get your hands on it during the explanation, isn't it?
Even in alchemy classes, they never come close during experiments.
Until I got permission, it was the iron rule not to touch it.
"At the end of the day, here, that's a way to see the root of your fangs. Can you see there's something like a muscle?
Mr. Iris peeks in horror as Andre and the others look intrigued at the place I have shown them.
"... hey, you don't look dark"
"Oh, right." The Light ""
I have trouble making too much bright and ice tooth bats noise, so I light a slight light.
Did that make it easier for you to see, Andre and the others nod 'Hmm'?
"Sure, you have muscle. How old is this number?
"That's right. There are five of these, so you're six."
"I see. You can tell this from me, too. But if you don't shoot him, you don't know... Kate, can you handle it?
"I, too, can tell with certainty that this slight difference..."
Iris asks, and Kate twists her neck with a sinister look.
"Gil, how about you?
"I'm not sure either. In the first place, how do we kill them? Kate would have a bow."
"Right. Sarasa, is there any way?
"No, shouldn't I normally even use a net? Wormless. When you catch a feather worm, you use it, right?
"... oh, right. If you put on a slightly longer pattern and make the net a little sturdy, is that all you need?"
Ice tooth bats have almost no attack power other than fangs.
If you tangle it with a net, you can't do anything.
Clarify, if you don't even deal with it the wrong way, you're a very lame prey.
That's as much as I want to collect a ton of it myself and go home - no, I plan to collect it and go home.
"Later, if you fold these two fangs and bring them back, you're done. Carefully hold it so you don't stab it in your finger, knock it inside, and it'll break easily."
With that said, Baki, Baki and I broke our fangs, threw them into the leather bag we brought, and the body grabbed our legs and poised outside the cave.
The corpse of the ice tooth bat that flew away with the shpawn disappears into the midst of the trees.
"If you have any remaining body, discard it because it has little use. but if possible, you should throw it out of the cave. If you rot here, you'll have trouble the next time you come."
"Ooh..."
"And one more thing. In these caves, the ice tooth bat in the back is older."
"... hmm? So if you hunt in the deepest part, don't you need to worry about your age?
"There was an ice tooth bat of this age at the entrance, and it must be now."
"Now... Oh, you know what? You mean if you hunt the back, the younger ones come in the back in turn?
I nod again, too, to Mr. Andre, who gave a little thought and nodded as I was convinced.
"That's right. So it's no use being able to tell."
"Really? Even so, I don't think I can..."
"Good luck there, only"
"Right. Whoa, Gil, come on, man.
"Me?!? Well, I'll make an effort... but when an individual under five gets to live in the back, isn't it smart to pull it up, this"
"I'll take care of that area. Honestly, it's more habitat than I expected, so even if they hunt it all down, they can't buy it."
Probably because there was no one to hunt.
This number at the entrance.
The total number of ice tooth bats living in this cave is unimaginable.
If you do anything to hunt this down, the market for ice tooth bat fangs in this country will go down in itself, right?
"Ma, let's just move on back. Because I can't help talking about it here. Mr. Andre, do you know the depth of this cave?
"Um, I'm sorry. It's the first time we've actually been in there. I think our senior Mr. Drake would have known, because he's already retired."
"Is it? Well, you can tell if you go. Proceed with caution." |
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} | これは、ロレアがサラサのお店で働き始める前のお話。
その頃のサラサで店を回していたため、なかなかに多忙な日々を送っていた。
日中は店番、閉店後は
それに加えて、日常の掃除、洗濯、食事の準備。
清掃の“刻印”の効果で掃除は比較的簡単に終わるのだが、洗濯は自分でやるしかないし、食事も同様。ディラルの所に行けばそれなりの食事が食べられるが、その時間も惜しんだサラサは、適当な保存食で食事を済ませることも多かった。
では、まったく暇がないのかといえば、決してそんなことはない。
なんといっても、今のサラサのお店を訪れるお客は、採集者のみ。
などを補給し、昼過ぎから夕方にかけて仕事の成果を持ち込むというのが、通常のパターン。
必然的にそれ以外の時間帯はとても暇。
だけど、店を閉めるわけにもいかないのが難しいところ。
そんな時間帯を見計らって遊びに来るロレアと共に、休憩を兼ねたティータイムとおしゃべりを楽しむことが、最近のサラサの日課となっていた。
そして今日もまた、ロレアが少し遠慮がちに、お店の入り口から顔を覗かせた。
「こんにちは、サラサさん。今、お時間の方は......」
「いらっしゃい、ロレアちゃん。いつも通り暇だよ~。入って、入って」
カウンターからサラサが手招きすると、ロレアは嬉しそうにお店に入ると、最近の定位置になっているカウンター横の椅子に腰を下ろした。
「今お茶を淹れるから、ちょっと待ってね」
「いつもありがとうございます。ウチで飲むのと比べて、凄く美味しいんですよね、サラサさんのお茶って」
「そう? だったら少し研究してみた甲斐もあるね」
そう言いながらサラサが取り出すのは、この村で一般的に飲まれているスヤ茶。
だがそれは、サラサが自分で摘んできた葉に錬金術で一手間加えた茶葉で、フレッシュさという名の青臭さを取り除き、深みと味わいを引き出したもの。
大きな町で売られている高級な茶葉とは比較にならないが、この村で飲まれているお茶としてはかなりの上位に位置することは間違いない。
そして、そんなお茶に合わせるのは、これもサラサの用意したドライフルーツ。
サウス・ストラグで購入したそれは、砂糖も少しだけ加えられ、村ではなかなか食べられない贅沢品である。
少々貧乏性なところのあるサラサだが、この村で唯一の友達と楽しい時間を過ごすため、ロレアに提供するお茶菓子にはちょっと奮発していたりする。
「さ、どうぞ。お菓子も遠慮せず食べてね」
「はい、いただきます」
お茶を一口飲み、ドライフルーツに手を伸ばしたロレアが笑顔になる。
それを見て、サラサもまた微笑む。
同年代の友達とこうしてのんびり過ごせる余裕がある。
そのことに嬉しさを感じながらも、サラサには少し心配なこともあった。
「......ねぇ、ロレアちゃん、一つ訊いて良いかな?」
「え、あ、はい。何でも訊いてください」
小首を傾げ、コクリと頷くロレアに、サラサは少し迷いつつも口を開く。
「えっと......、結構頻繁に遊びに来てくれるけど、お家のお仕事のお手伝いとか、大丈夫なの? 私としては来てくれて嬉しいんだけど」
これを口にして、ロレアが遊びに来てくれなくなったら寂しい。
でも、やるべきことをやらずに来ているのであれば、ロレア自身のためにもならないし、今後のご近所付き合いにも支障が出ると、少しドキドキしつつも指摘したサラサだったが、ロレアは一瞬キョトンとして、すぐに苦笑を浮かべた。
「あー、それですか。実は今の私って、結構暇なんですよ」
「そうなの?」
「はい。普段は両親が仕入れに行っている間の店番が主な仕事なんですけど、サラサさんが来てくれたおかげで、その回数も減りましたし」
を仕入れてきたり、保存処理があまり必要ない一部の素材を採集者から買い取り、それをサウス・ストラグに売りに行くような仕事もあったため、ロレアの両親は結構な頻度で店を空けていた。
だが、錬金術師であるサラサが店を開いたことでそれらは不要となり、業務内容はごく普通の雑貨屋のものに限定されることになった。
結果として、仕入れの回数は激減し、ロレアが店番をする回数も減ることになる。
「同世代の子たちが毎日働いていることを考えると、少し複雑なんですけど......」
ロレアぐらいの年齢帯であれば、家業を手伝いつつ仕事を覚え、将来的に家を継ぐ準備をする段階であり、本来であれば彼女もまた同じ。
だが、村の中での店番ならともかく、仕入れのために他の町へと連れて行くにはロレアはまだ少し幼く、かといって、村の雑貨屋の仕事など普段は人手を必要としない。
つまり、両親がいればロレアが暇になるのは必然。
一応、頼まれれば他の家の手伝いに出向いたりはするのだが、家族の誰かが病気になったとか、農繁期で人手が足りないとかでない限り、普通はその家の人間で賄える範囲の仕事しかなく、ロレアが呼ばれることもない。
「なので今の私は、家庭菜園をちょこちょこっとお世話するぐらいの仕事しかないんですよねぇ......困ったことに」
「でも、両親がいないときにはちゃんと店番をしてるんだよね? 別に良いと思うよ?」
「そう言って頂けると心も軽くなりますけど......。でも時間があるおかげで、サラサさんから王都のお話を聞けるのは嬉しいです」
「ははは、私も話し相手がいるのは嬉しいかな? ねぇ、折角だし、ロレアちゃんの話も聞かせてくれる? この村のこととか、雑貨屋さんのこととか」
サラサが『私が王都の話ばかりするのはつまらない』とばかりに話を振ると、ロレアは少し困ったように、小首を傾げる。
「うーん、でも、村で事件なんてそうそう起きないですし、雑貨屋の店番も代わり映えしないですよ? お客さんも顔見知りばかりですし......。あ、でも――」
「なに? 何か面白い話?」
ロレアが少し言葉を濁したのを見て、サラサが興味深そうに身を乗り出す。
「面白い......ことはないですね。どちらかといえば不思議なこと、でしょうか」
「不思議?」
「はい。あれは......サラサさんがこの村に来る少し前のことですから、冬の終わり......いえ、早春でしょうか。変わった人がお店を訪れたんです」
ロレアはその時の記憶を掘り起こすかのように、口元に人差し指を当て、少し上を見ながら話し始めた。
◇ ◇ ◇
その日は寒の戻りとでも言うべきか、やや肌寒かった。
良い日和が続き、開きっぱなしにすることも多かった雑貨屋の扉も、風が入らないようにしっかりと閉じられている。
元々客の少ない閑散期、『今日は期待できない』と椅子に腰を下ろしたロレアが外を眺めていると、にわかに雲行きが怪しくなり、外が薄暗くなった。
そして降り始める強い雨。
どしゃどしゃという音と共に、一気に見通しが悪くなった外の景色。
そのことにロレアがどこか心細さを感じていると、突然店の扉が開き、客が一人、入ってきた。
「い、いらっしゃいませ......」
半ば反射的に挨拶をしたものの、その人物を見たロレアの心臓はドキリと跳ねた。
身長はやや高め。
まるで素性を隠すかのように、全身をすっぽりと覆う黒っぽいローブ。
目深に被ったフードで顔も確認できないが、村人は全員が顔見知り、村に滞在している採集者も最近はほとんど入れ替わりがなく、おおよそ把握しているロレアからすれば、入ってきた人物が知り合いでないことを見抜くのは容易い。
ロレアは咄嗟に、親から『何かあったときに鳴らせ』と言われているベルに手を伸ばすが、状況が良くない。
普段であれば、ベルを鳴らせば近所の大人が駆けつけてくれる。
でも今外は大雨。
いくらロレアが頑張ってベルを振り回しても、音が届くかどうか。
ロレアはドキドキしながら、その客の動きに注視する。
そんなロレアの警戒を知ってか、知らずか、ゆっくりと店内を歩き回る客。
その落ち着いた動きに、早鐘を衝くように忙しなかったロレアの鼓動もやがて平常を取り戻し、考える余裕も出てきた。
「(――もしかして、狩り場を変えるため、事前の下見に来た採集者?)」
そう予想して観察してみれば、何を手に取るでもなく店内を観察し、どんな商品が置いてあるかを確認しているその行動も理解できる。
怪しく思えたそのローブも、突然の大雨ということを考えればさほど不思議なことでもなく、ロレアはカウンターの下で握っていたベルからそっと手を離した。
そうして数分ほど。あまり広くはない店内、おおよそ見て回って満足したのか、その客はロレアに声を掛けてきた。
「すまない、一つ訊きたいのだが......ここでは
客が指さしたのは、高級品故にカウンターの奥に置かれた
ロレアは振り返ってそれを確認し、頷く。
「はい、一応は。仕入れても売れるとは限らないし、使用期限もありますから、ほぼ赤字ですけど。サービスですね、村の人たちや採集者への」
「やはり、そうなるか。――他にも村について訊いても良いだろうか?」
「はい、構いませんよ。どんなことでしょう?」
「あー、そうだな。少し抽象的なのだが......住みやすい村か?」
何を訊くべきか、少し迷うように言ったその言葉に、ロレアはしばし考えて答える。
「......住人として言うなら良い村です。常住している採集者も良い人が多いですし。ただ、採集者として儲けになるかは別問題ですね。錬金術師がいないので、素材の売却が難しいんです。ウチでも多少は買い取れますが、普通の雑貨屋ですから――」
雑貨屋のロレアとしては、客となる採集者は増えて欲しいが、虚偽を伝えたところで意味はない。ロレアは正直に、そしてできるだけ公平に自分の村のことを話していく。
そんなロレアの言葉に頷きながら話を聞いていた客だったが、やがて満足したように礼を言うと、結局何一つ商品を買うこともなく、店を後にしたのだった。
「と、まぁ、そんなことがあったんです」
「へー、そんなお客さんが。......ん? でも、それの何が不思議なの? 話の入り方はちょっと......だったけど」
なんとなく怖い話なのかな、と聞いていたサラサであったが、結果としてはただ雨の日にお店に来たお客が、話を訊いて帰っただけ。
唐突に降り出した雨とか、怪しげな格好とか、若干気になる要素はあれど、殊更不思議と強調するほどでもない。
「いえ、それがですね。その人の姿は村のあちこちで確認されているんですが......宿には泊まってないんですよね。もちろん、村の誰かの家に泊まったということもありません。夕方頃の目撃情報を最後に、忽然と姿を消しているんです」
「えっと......日帰りしたということ?」
「もちろんその可能性もあります。でも、夕方からわざわざ村の外に出ますか? それも土砂降りの雨の中」
「......普通なら、一泊してから帰るよね」
「はい。もし所持金が乏しかったとしても、こんな村ですからね。頼めば納屋ぐらいはタダで借りられます」
「無理して豪雨の中、旅立つ必要もない、か」
「はい。しかもですね」
ロレアはそこで一度言葉を区切り、やや声を潜めて付け加えた。
「後から気が付いたんですが、あれだけの雨の中お店に入ってきたのに、床が全然濡れてなかったんですよね......」
「......わぉ。実はその人って、ロレアちゃんにしか、見えていなかったり?」
ロレアに付き合うようにサラサも声を潜めて言えば、ロレアは慌てて首を振った。
「いえいえ! 目撃情報があるって言ったじゃないですか」
「そうだよね。ちなみに、話をしたのは?」
「それは私だけですけど......」
サラサとロレアは顔を見合わせて沈黙。
身体を温めるように、お茶を一口飲んで小さく息を吐く。
「結局、それ以降、一度もあの女性を見ていませんし......あれは何だったんでしょうね」
「確かに不思議な――あれ? その人って、女性だったの?」
すっかり男性だと思って話を聞いていたサラサは、ロレアがポロリと漏らした言葉に、改めて訊き返した。
「はい。若い女性が一人きり、しかも軽装だったので、良く覚えているんですよね」
この村から隣町まで、馬車の定期便なんてものは存在しないし、自前の馬を持っていたとしても、普通の人間なら一日では辿り着けず、少し特殊なサラサですら半日がかり。
つまり、夕方に村を出れば、途中で野宿が必要になるのは確実。
それにも拘わらず、軽装。
「これは、本格的に不思議な出来事――」
そこまで考えたところで、ふとサラサの頭に、それが可能な人の顔がよぎった。
「......ねぇ、ロレアちゃん。その人って、どんな外見だった?」
「ちょっとカッコイイ感じの女性でした。少し背は高めで、かなり美人で――」
ロレアの挙げるその特徴に、サラサの頭の中でほわほわと一人の女性の姿ができあがり、それは先ほどよぎった人の顔と良い感じにマッチング。
その人であれば、夜の街道を歩く危険性なんて気にする必要もないだろうし、土砂降りの雨すらその身体を濡らすことはできないだろう。
「......いや、まさか、ね?」
この村と王都までの距離を考え、サラサはそれはあり得ないと首を振る。
ここを薦められた時にも、それらしい話は一切聞いてないし、いつも忙しいマスタークラスが、こんな辺境まで時間をかけてくるなんて、考えにくい。
理論的にはそう理解しながらも、『もしかしたら』という考えも捨てきれず。
サラサは『今度会った時に、訊いてみるべき? それとも触れない方が良いの?』と思い悩むのだった。 | This was before Lorea started working at Sarasa's shop.
At that time, Sarasa was turning the shop by herself, so she had a busy day.
Production of smelting medicine (potions) and smelting tools (artifacts) during the day and after the store closes.
Plus daily cleaning, laundry, and meal preparation.
Cleaning is relatively easy with the effect of “stamping”, but you have to do your own laundry, and so does eating. When I went to Dilal, I could eat quite a lot of meals, but Salasa who spared no time for it often finished meals with proper preserved food.
So, when it comes to having no time at all, that's never the case.
After all, only collectors visit Sarasa's shops today.
The usual pattern is to stop in the morning before work to replenish the alchemy (potion), etc., and bring in the work results after noon and in the evening.
Inevitably, other times are very free.
However, it is difficult not to be able to close the store.
Enjoying tea time and chatting with Lorea, who came to play in anticipation of such a time, was the daily routine of Sarasa these days.
Also today, Lorea was a little reluctant and let her face peer through the entrance of the store.
"Hello Sarasa, if it's your time..."
"Welcome, Lorea. I'm free as usual. Come in, come in."
As Sarasa gestured from the counter, Lorea gladly entered the store and sat down on the chair beside the counter, which was in its most recent position.
I can make tea right now, just a minute.
“Thank you so much. Compared to drinking from us, it's very delicious, isn't it, Sarasa-san's tea?"
Well, then, it's worth a little research.
While saying that, Sarasa takes out the suya tea that is commonly consumed in this village.
However, it is a tea leaf that Sarasa has alchemically added to the leaves she has picked herself. It removes the odor of freshness and brings out the depth and taste.
Although it is not comparable to the fine tea leaves sold in large towns, it is definitely at the top of the list of teas consumed in this village.
And to match that tea, this is also a dried fruit prepared by Sarasa.
Purchased in South Strag, it is a rare luxury in the village, with just a little sugar added.
Thalassa is a little poor, but he's a little excited about the tea treats he offers Lorea to enjoy with his only friend in the village.
"Come on, don't hesitate to eat sweets."
Yes, I'll take it.
Having a sip of tea, Lorea smiles as she reaches for the dried fruit.
Seeing that, Sarasa smiles again.
I have room to relax with friends of my age.
Though I was happy about that, I was a little worried about Sarasa.
"... hey, Lorea, can I ask you a question?"
"Oh, yes. Ask me anything."
Lorea leaned her head and nodded. Sarasa was slightly lost and opened her mouth.
"Um... you come to visit me quite often, but is it okay to help me with my work at home? As for me, I'm glad you're here."
I'll miss Lorea when she doesn't come to play with it.
However, if she came without doing what she had to do, it would not be for Lorea's own benefit, and it would also interfere with her future relationship with her neighbors. She was a little excited and pointed out that it was Sarasa, but Lorea smiled bitterly for a moment.
"Ah, is that it?" Actually, I'm pretty busy right now. "
Is that so?
“Yes, I usually work as a storekeeper while my parents are shopping, but thanks to Sarasa's arrival, the number has decreased.”
Until now, Lorea's parents had quite often left the shop because they had the job of buying alchemy (potions) for collectors, buying some materials from collectors that did not require much preservation, and selling them to South Strag.
However, when the alchemist Sarasa opened the shop, they became unnecessary, and the business content was limited to the ordinary grocery store.
As a result, the number of purchases decreases drastically, and Lorea also reduces the number of store numbers.
"It's a little complicated considering that the same generation of children work every day..."
If you're around Lorea's age, you're at the stage of helping her with her family business, remembering her job, and preparing her to take over the house in the future, and she'll be the same if she's the same.
However, as far as the shop number in the village is concerned, Lorea is still a little young to take her to other towns for purchasing. However, she does not usually need manpower for the work of the village grocery store.
In other words, it's inevitable that Lorea will be free with her parents.
I will go to other houses to help if asked, but unless someone in my family gets sick or is short-handed during the farming season, there is usually only a job that can be paid for by the people in the house, and Lorea is not called.
"That's why I have to take care of the vegetable garden a little bit right now... I'm in trouble."
"But when you don't have parents, you're a shopkeeper, right?" I don't think that's a problem.
"If you say so, your heart will be lightened..." But thanks to the time, I'm glad to hear from Sarasa about the capital. ”
"Hahaha, am I glad I have someone to talk to too? Hey, that's a corner. Can you tell me about Lorea? About this village and the grocery store."
When Sarasa said, "It's boring for me to talk about the capital," Lorea leaned her head in a bit of trouble.
"Hmm, but incidents don't happen like that in the village, and the grocery store doesn't replace the store number, right?" "The customers are just getting to know each other..." Ah, but-- "
"What? Something interesting?"
Seeing Lorea slightly dumbfounded, Sarasa stepped forward with interest.
"It's funny... there's nothing interesting about it." Somewhat strange, isn't it? ”
Wonder?
"Yes. That was... not long before Sarasa came to this village, so the end of winter... No, early spring." An unusual person visited the store. ”
Lorea put her index finger in her mouth as if digging up a memory of the time, and began to speak with a slight look up.
◇◇◇
It was a bit chilly that day, even if it should be said that it was back to cold.
The doors of grocery stores, which were often left open on good days, are also firmly closed to prevent the wind from entering.
When Lorea sat down in her chair during the idle period when there were few customers originally, "I can't expect today," looking out, the clouds became suspicious and the outside became dim.
And it starts to rain hard.
The view from the outside suddenly got worse with the rustling sound.
With that in mind, Lorea suddenly opened the door of the store and one customer came in.
"Hey, welcome..."
Although he greeted her half-reflexively, Lorea's heart bounced when she saw the person.
His height is slightly higher.
A black robe that completely covers your body as if it hides your identity.
Although the faces cannot be confirmed by the hood covered in the depths of the eyes, all the villagers know each other, and the collectors staying in the village have hardly changed lately. From Lorea, who is roughly aware of it, it is easy to spot that the person who came in is not an acquaintance.
Lorea reached out to Bell, who was told by her parents to "ring when something happened," but the situation was not good.
Usually, if you ring the bell, an adult in the neighborhood will rush in.
But now it's raining heavily outside.
No matter how hard Lorea tries to swing the bell, can she still hear the sound?
Lorea was thrilled and watched the customer's movements.
A customer who knows or does not know Lorea's vigilance and walks slowly around the store.
With this calm movement, Lorea's heartbeat, busy rushing the early bell, eventually returned to normal, and she had plenty of time to think.
”-And yet, to change the hunting ground, a collector came to see me in advance?”
If you look at it with that anticipation, you can understand the behavior of observing the store rather than taking anything, and checking what kind of products are there.
The robe that seemed suspicious was not so strange considering the sudden heavy rain, and Lorea gently let go of the bell she was holding under the counter.
That's about a few minutes. The customer called out to Lorea to see if she was satisfied in the store, which was not very spacious.
"I'm sorry, I just wanted to ask... do you also deal in alchemy (potion) here?"
The customer pointed to a bottle of alchemy (potion) that was placed behind the counter because it was a luxury product.
Lorea looked back, confirmed it, and nodded.
"Yes, for a while. I can't always buy them and they have expiration dates, so it's almost a deficit." It's a service to the people in the village and the collectors. "
"After all, is that the case?" ― ― Can I ask you something else about the village?
"Yes, I don't mind." What's going on? "
"Ah, that's right. It's a bit abstract, but... is it an easy village to live in?"
Lorea often thought and answered the words that seemed a little lost about what to ask.
"... it's a good village if you say it as a resident. There are also many good collectors who are permanent residents. However, it's a different question of earning money as a Gatherer. There is no alchemist, so it is difficult to sell the material. I can buy some, but it's an ordinary grocery store-"
As for Lorea at the grocery store, I want more collectors to become customers, but there's no point in telling falsehoods. Lorea talks about her village honestly and as fairly as she can.
The customer was listening to Lorea's words while nodding, but when I thanked her as if she was satisfied, she didn't buy any products, so she left the store.
And, well, that's what happened.
"Huh, that kind of customer."... hm? But what's so strange about that? The way I talked about it was a bit...... but "
It was Sarasa who asked if it was somehow a scary story, but as a result, a customer who came to the store on a rainy day just came back and asked the story.
Any element that suddenly rains down, or has a suspicious appearance, or is slightly disturbing, is not even more strange.
"No, that's the way it is. The figure of this person has been verified all over the village... but you haven't stayed at the inn, have you? Of course, I never stayed at someone's house in the village. The last sighting in the evening suddenly disappeared."
"Um... you mean you went on a day trip?"
“Of course, that's possible. But do you bother to leave the village in the evening? And in the rain of the dirt."
"... if it's normal, I'll stay overnight and then go home."
"Yes, even if you don't have enough money, this is the village." You can rent a barn for free if you ask. ”
You don't have to go out in heavy rain, do you?
"Yes, and it is."
Lorea partitioned her words there once and added, slightly hiding her voice.
"I noticed later that the floor wasn't wet at all even though I came into the store in that much rain..."
"...... Wow. In fact, this person is only visible to Lorea-chan?"
Sarasa hid her voice like she was with Lorea, and Lorea shook her head in a panic.
"No, no! You said you had sightings."
"That's right. By the way, who did you talk to?"
"It's just me..."
Sarasa and Lorea looked at each other in silence.
Take a sip of tea and exhale in small breaths to warm your body.
"After all, I haven't seen that woman since... I wonder what that was."
"It's certainly strange - is that it?" Was she a woman? "
Thinking of herself as a man, Sarasa replied to Lorea's leaked words.
“Yes, you remember it well, because it was one young woman and it was lightweight.”
There are no regular carriageway flights from this village to the next town, and even if you had your own horse, you wouldn't be able to reach it in a day if you were a normal person, and even a little special salsa would take half a day.
In other words, if you leave the village in the evening, you will definitely need camping on the way.
Nonetheless, it is lightweight.
"This is truly a mysterious event..."
And it came to pass, that the face of the man that could do it was suddenly on the head of Sarasa.
"... hey, Lorea. What was she like?"
"She was a bit of a cool woman. She's a little taller, and she's quite beautiful--"
Lorea's characteristics include the appearance of a woman in Sarasa's head, which matches the face of the person who just passed by.
That person won't have to worry about the dangers of walking the streets at night, and even the rain on the dirt won't get his body wet.
"... no, no way, right?"
Thinking of the distance between this village and the king's city, Thalassa shook his head that it was impossible.
Even when I was recommended here, I didn't hear any stories like that, and it's hard to imagine that a busy master class would take time to get to such a periphery.
In theory, even though I understood that, I couldn't get rid of the idea of 'maybe'.
Sarasa said, "Should I ask you the next time I see you? Or is it better not to touch it? 'I was worried. |
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} | 「サラサ、戻ったぞ」
「店長さん、ただいま帰りました」
「お帰りなさい、とも。ご無事で何よりです」
アイリスさんの実家の借金騒動に片が付いてしばらく。
二人の採集者としての活動は特に変化なく続いていた。
問題のある借金は清算されたものの、言うなれば私から借り換えただけで、借金自体がなくなったわけではない。
私としては、領地の税収からぼちぼちと返してもらっても良かったんだけど、アイリスさんたちは採集者を継続することを選択した。
お金の方はともかく、アイリスさんとお別れになっちゃうのは寂しかったから、私としても止めることはしなかった。
聞くところによると、アイリスさんの父親であるアデルバート様まで、『儂も採集者になって、借金返済を......』などと言っていたらしいけど、さすがにそれは奥方に止められて、しぶしぶ諦めたとか。
あの方なら実力的には十分そうだけど、当然だよね。
小さいとはいえ、領地を持つ貴族。実務では役に立たない(アイリスさん談)とはいえ、ずっと留守にしているわけにはいかないんだから。
なら、なんにも変化がなかったかといえば、さにあらず。
まず、アイリスさんたちに少し余裕ができた。
これまでは、切り詰められるところは、とにかく切り詰めていた様子が見て取れたけど、新たな債権者となった私が『余裕を持って活動を』と言っていることもあり、ある程度は手元にお金を持つようになったのだ。
もっとも、今も私の家に住んで、食事もウチでしているから、変わったのは、採取に向かうときの保存食や持ち物が少し良くなった、ぐらいでしかないんだけどね。
そしてもは、私に対する呼び方。
あれ以降、アイリスさんが私のことを呼び捨てで呼んでるんだけど、そのきっかけがアレだから――。
「というか、アイリスさん、続けるんですか? それ」
「......ダメだろうか?」
「いや、ダメというか......」
本気か冗談か、先日、私とアイリスさんの結婚云々の話が出てから、続いているその呼び方。
理由がそこにあるのなら、はっきり『ダメ!』と言いたいところだけど、アイリスさんから寂しそうな目を向けられると......。
「サラサと呼ばれるのは別に構わないんですけど、結婚するつもりはないですよ? アイリスさんも、別に男嫌いというわけでも、女同士が良いってわけでもないんですよね?」
「まぁな。だが、ヤツのことを思うと、少し男が嫌になるところはある」
アイリスさんは、顔を顰めて、深いため息を吐く。
詳しくは聞いていないけど、実家に帰ったとき、なかなかに嫌な思いをしたらしい。
ケイトさんが『お金のことがなかったら、生きては返さなかった』とかマジな顔で言っていたぐらいだから、話半分としても、よほどだったのだろう。
「アレと結婚することを考えれば、サラサの方が一〇〇倍マシ――いや、この言い方は失礼だな。一〇〇倍嬉しい......これも違うか。マイナスは何倍してもマイナスだしな。う~む」
しばらく悩んだアイリスさんは、ポンと手を打つと、私をまっすぐと見つめる。
「......うん、私はサラサと結婚したい。これだな!」
「は、はっきり言われると、テレてしまいます......」
正面から、はっきりと口にするアイリスさん、マジ、イケメン。
アイリスさんが女で良かった。
男だったら落ちてたね。うん。
「ア、アイリスさんのことは嫌いじゃないですが、一応私も、素敵な男性が現れてくれることを夢見る乙女なんですけど」
カッコイイ王子様、なんてことは言わないけれど。
「むむっ。そこは、『素敵な男性』じゃなくて、『素敵な人』ぐらいに負からないか?」
「負けたとしても、アイリスさんは......惜しいですね!」
「なにが!?」
「いや、基本的には素敵な人だと思いますが......」
外見は......良い。可愛いし、時々凜々しくてカッコイイ。
たまに残念なところが見え隠れするから、スペック的にはプラスマイナスで、若干プラス。『ステキ!』と夢を見るにはちょっと足りない。
ステータス
に関しては、曲がりなりにも貴族の継嗣。
結婚すれば、それが一緒に付いてくることを考えれば、商売人としては結構なプラス。
義父母との関係は......アデルバート様はいかにも実直な騎士という感じの人で付き合いやすそうだし、『私と結婚したら』的なことを言ったのは、奥方だとチラリと聞いたので、そっち方面での障害はないっぽい。
......うん、優良物件なんだよね。性別を考えなければ。
性別を考えなければ!
ここ、一番大事なところ。
私にはなんとかする方法があるのが、更に厄介。
「まぁ、性別は措いて、結婚じゃなくてパートナーとしてなら、女同士でも許容できますけど、それなら公私ともにサポートしてくれるような人が良いですね」
この業界、結婚していない女性って結構多いから。
錬金術師って、女でもかなり稼げるし、結婚適齢期に他のお店で修業に明け暮れることになるから、結婚する機会を逃しがちらしい。
「むむっ。サポートか。サラサはどのようなサポートが希望だ? 素材を集めてくるぐらいはできるが」
「素材ですか。それも悪くないですが、どうせなら私が苦手な分野を任せられる人が良いですね」
その気になれば、素材は自分で集めに行けるし、それは別に苦手じゃない。
時間を浪費してしまうことが問題といえば問題だけど、素材は買うことだってできる――というか、普通の錬金術師ならそれが本筋。
それ以外となると――。
「美味しい料理ができる人が良いかなぁ......? 家事もしてくれたら、なお助かりますね。錬金術に専念できますから」
「りょ、料理か。それはあまり得意じゃないな。――そこは、一緒に付いてくるケイトに頑張ってもらうってことでどうだろう? ケイトは家事もできるぞ?」
私の希望にアイリスさんは困ったように目を泳がせると、隣にいるケイトさんの肩にポンと手を置いて前に押し出した。
対して、差し出されることになったケイトさんの方は、戸惑ったように目をパチパチと瞬かせ、アイリスさんの方を振り返った。
「え、あれ、本気だったの? アイリス?」
「ケイトさんですか。悪くないですが、それなら、料理だけじゃなくて店番もできるロレアちゃんの方が、一粒で二度美味しいですね」
「わ、私ですか?」
当事者を差し置いて、アホなことを言い合う私とアイリスさん。
「あの、サラサさん。お気持ちは嬉しいですが、私もそっちの趣味は......」
「も、もちろん、冗談だよ? あくまでパートナーと考えたら、だから。助かっているのは本当だけど」
ちょっと身を引くロレアちゃんに、慌てて言い訳。
でも、本当にロレアちゃんのサポートには助かっているから、レオノーラさんじゃないけど、気をつけておかないと、本当に婚期を逃しそうで怖い。
「アイリス、もし本当に店長さんとあなたが結婚するなら、私にとっても主家になるから、公私ともにサポートするのも当然だけど、オマケ的な扱いは嬉しくないかな?」
そしてケイトさんの方も、少し困ったような表情で、アイリスさんに苦言を呈する。
それを聞いたアイリスさんは、少し考えて、納得したように頷く。
「......ならば、私の方がオマケでも。名目上、正妻は譲れないが」
「そういう問題じゃないでしょ! まったく。店長さんにその気がないんだから」
そうです、そうです。
言ってあげてください、ケイトさん。
「まずは、店長さんにその気になってもらうのが先でしょ?」
......おや?
なんだか、雲行きが......。
「ふむ。正論だな。オマケで振り向かせようなどと、烏滸がましかったか」
「えぇ、そうね。まずはあなた自身の魅力を高めないと」
「い、いや、そういう問題じゃ――」
なんだかアイリスさんを応援するようなことを言ってますけど、ケイトさん、本気ですか?
ここは止めるのが、臣下としてのありようなのでは?
私に借金があるから、そう単純じゃないのかもしれないけどさ。
「ふむ。少し急ぎすぎたようだ。取りあえず、呼び方は元に戻そう。店長殿」
「あ、いえ、本質はそこじゃ――」
「店長殿に選んでもらえるよう、まずは花嫁修業を頑張るとしよう。頑張るから、期待していてくれ!」
「が、頑張ってください......?」
なんかおかしいと思いつつ、力強く宣言するアイリスさんに、思わずそう返す。
そんな、キラキラした瞳で見られると、『頑張らなくて良いです』とは言いづらいよ!
「そうね、アイリスの花嫁姿も捨てがたいけど、店長さんが花婿というのはちょっと違う気もするのよね」
「だが、稼ぎは確実に店長殿の方が上になりそうだぞ? ウチの領地から得られる税収など、大した額でもないしな」
「そこよね。ここは一つ、二人とも花婿というのはどうかしら?」
「なるほど、それもありだな。そしてそこに、ケイトも加わるわけだな!」
「それに関しては、また話し合うとして......」
「ん? なんだ? ケイトは花婿姿の方が好みか?」
「そうじゃなくて――」
何やら相談し始めた二人に、どうしたものかと戸惑う私の肩に、ポンと手が置かれた。
振り返れば、そこにいるのは、優しい笑みを浮かべたロレアちゃん。
「大変ですね、サラサさん」
「他人事だね、ロレアちゃん」
「他人事ですからね。サラサさんも頑張ってください。色々と」
ちょっと非難がましい目をロレアちゃんに向ければ、彼女はそう言い、ちょっと肩をすくめて笑う。
だが、他人事でいられたのはそこまでだった。
「お、何だ、ロレア。そんな――あぁ、そうか。すまなかった」
「え? 何がですか?」
「一人だけ仲間はずれは寂しいよな。大丈夫だ。別にもう一人増えても問題ない」
「い、いえ、私は普通に結婚する予定で――」
「遠慮する必要はないぞ? 当家は細かいことにこだわらないからな。できれば、第二夫人はケイトにして欲しいが......」
「あら? 私は気にしないわよ? ロレアちゃんが第二夫人でも」
「こ、困ります!」
「確かにな。家中の収まりは陪臣のケイトが上の方が――」
「そっちじゃなくて......!」
慌て始めたロレアちゃんを尻目に、私はそっと立ち上がると、静かにその場をフェードアウトしたのだった。 | Prologue
Sarasa, we're back.
"Mr. Store Manager, I'm home now"
"Welcome home, both of you. You're safe."
There was a piece of debt disturbance on Mr. Iris' parents' house for a while.
Activities as two collectors continued unchanged in particular.
Although the problematic debt was liquidated, if you say so, you just borrowed it from me, and the debt itself is not gone.
As far as I'm concerned, I could have had it pumped back from my territorial tax revenues, but Mr. Iris and the others chose to keep the gatherers going.
Regardless of the money, I missed being able to say goodbye to Mr. Iris, so I didn't even stop him as me.
From what I hear, even Mr. Iris' father, Mr. Adelbert, said, 'Non also became a collector, paying off his debts...' etc., but that's exactly what his wife stopped him from doing, and he probably gave up?
That one seems strong enough, but it's natural, isn't it?
A nobleman with a territory, albeit small. Even though it doesn't help in practice (talk to Mr. Iris), I can't be away all the time.
Then, when it comes to making no difference, it's not.
First of all, I had a little room for Mr. Iris and the others.
Until now, where I could be stuck, I could see how I had stuck it anyway, but sometimes when I became a new creditor, I was saying, 'Do your activity sparingly,' and to some extent, have the money on hand.
Most importantly, I still live in my house and my meal is ours, so the only thing that has changed is that the preserved food and belongings are a little better when I go to collect them.
And the other, the way you call me.
Ever since then, Mr. Iris has been calling me out of my mind, because that's what triggered it -.
"I mean, Mr. Iris, are you going to continue? It."
"... Wouldn't that work?
"No, I mean no..."
Seriously or just kidding, that way of calling me and Mr. Iris since we talked about their marriages the other day.
If that's where the reason is, it's clear, 'No!' I'd just like to say that when I can turn a lonely eye from Mr. Iris...
"I don't mind being called Sarasa, but you're not going to marry me, are you? Neither does Mr. Iris, it doesn't mean he hates men, or that women are good with each other, does it?
"Well. But when I think about him, there's something about him that I don't like a little bit."
Mr. Iris looks up and exhales a deep sigh.
I haven't heard the details, but when I got home, he felt quite bad.
As much as Kate said with a serious face, 'If I hadn't had any money, I wouldn't have returned it alive', so even if it was half the talk, I guess it was.
"Sarasa is a hundred times better off considering marrying Arre - no, this way of saying it is rude. I'm times happier... isn't this the same? I don't care how many times negative it is. Uh-huh."
Having been troubled for a while, Mr. Iris stares straight at me when he punches Pong and his hand.
"... Yeah, I want to marry Sarasa. This is it!
"is, to be clear, tele..."
From the front, Mr. Iris, who speaks clearly, seriously, handsome.
I'm glad Mr. Iris is a woman.
If you were a man, you would have fallen. Yeah.
"A., I don't hate Mr. Iris, but for once, I'm also a maiden who dreams of a nice man showing up."
Prince Cool, though I won't say anything.
"Mm-hmm. Wouldn't that beat a 'nice man' or something?
"Even if you lose, Mr. Iris... that's a shame!
"What!?"
"No, I think he's basically a nice guy..."
Appearance is...... good. She's cute, and she's cool sometimes.
Sometimes the unfortunate part is hidden, so it's specularly positive or negative, slightly positive. 'Beautiful!' is a little short for dreaming.
In terms of other status (social status), bent aristocratic inheritance.
If we get married, it's a good plus as a merchant, given that it comes with us.
My relationship with my father-in-law...... Master Adelbert seems to be an honest knight and easy to get along with, and I heard that Chirali said something 'if you marry me', so he doesn't seem to have an obstacle on that side.
... Yeah, it's an excellent property, isn't it? I have to think about gender.
We have to think about gender!
Here, the most important part.
It's even more troublesome that I have a way of doing something about it.
"Well, gender is a measure, and if you're a partner, not a marriage, women can tolerate each other, but then you'd better have someone to support you, both public and private."
Because there are quite a few unmarried women in this industry.
Alchemists tend to miss out on opportunities to get married because even women can make quite a bit of money and it will dawn in other stores at the right age of marriage.
"Mmm. Support? What kind of support would Sarasa want? I can collect as much material as I want."
"Is it material? That's not bad either, but it would be nice to have someone in charge of an area I'm not good at anyway."
If that bothers you, you can go collect the material yourself, and I'm not bad at that.
It's a problem when it comes to wasting time, but you can even buy materials - or if you're a regular alchemist, that's the main point.
Otherwise...
"I was wondering if it would be better for someone to be able to cook deliciously...? If you could do some chores, it would still help. Because we can focus on alchemy."
"Ri, is that cooking? You're not very good at that. - What if that means getting Kate to stick with you? Kate can do her chores, too, right?
When Mr. Iris let his eyes swim like trouble to my hopes, he pushed forward with a pong and a hand on Kate's shoulder next door.
In contrast, Kate, who was to be offered, blinked her eyes as puzzled, looking back at Iris.
"Oh, that, were you serious? Iris?"
"Is that Mr. Kate? Not bad, but then Lorea, who can not only cook but also have a store number, tastes better twice in a grain."
"Wow, is that me?
Me and Mr. Iris, who, aside from the parties, say stupid things.
"Um, Mr. Sarasa. I'm glad you feel like it, but my hobby is..."
"And, of course, you're kidding, right? If you think of it only as a partner, so be it. It's true you're helping."
To Lorea, who pulls herself aside a little, excuses in a hurry.
But I'm really helpful with Lorea's support, so I'm not Mr. Leonora, but if you're not careful, I'm really afraid I'm going to miss my wedding.
"Iris, if you're really going to marry the store manager, you're going to be the boss for me, so it's natural to support both public and private, but aren't you happy with the Omake treatment?
And Kate, with a slightly troubled look, complains to Iris.
Mr. Iris, who heard it, thought a little and nodded as he was convinced.
"... then even I'm more of an omache. Nominally, I can't give up my real wife."
"That's not the problem! Not at all. The manager doesn't want to do that."
Yes, it is.
Tell him, Mr. Kate.
"First of all, let the manager be concerned about that, right?
... Oh?
I don't know, the clouds...
"Hmm. That's a good theory. Was it awkward to turn him around?"
"Yeah, right. First you have to make yourself more attractive."
"No, that's the problem."
I'm kind of saying something to support Mr. Iris, but, Kate, are you serious?
Isn't it like being under your command to stop here?
Maybe it's not that simple because I owe you money.
"Hmm. Looks like we're in a little too much of a hurry. In the meantime, let's call it back. Store Manager"
"Oh, no, the essence is there -"
"Let's try to train the bride first so the manager can choose. I'll do my best, hope for me!
"but good luck......?
While I find something strange, I return it unexpectedly to Mr Iris, who forcefully declares it.
It's hard to say 'you don't have to work hard' when you see it with those sparkling eyes!
"Well, it's hard to throw away Iris' bridesmaid, but I also feel a little different that the manager is the bridegroom."
"But the money's going to be better than the manager's, right? It's not a big deal, like the tax revenues we get from our territory."
"Right there. How about one here, and we're both bridegroom?
"Well, so is that. And there, Kate will be joining us!
"As for that, as we discuss it again..."
"Hmm? What? Does Kate prefer to look like a bridegroom?
"I'm not..."
Pong and his hand were placed on my shoulder, confused as to what was wrong with the two people who started to talk to him somehow.
Looking back, there you are, Lorea with a gentle grin.
"That's tough, Mr. Sarasa"
"Other personnel, Lorea."
"Because it's other human resources. Good luck to you too, Mr. Sarasa. Various."
There was a bit of blame. If you turn your eyes to Lorea, she says so and shrugs her shoulders a bit and laughs.
But that was all I was able to do with other personnel.
"Oh, my God, Lorea. Oh, no. Oh, well. I'm sorry."
"Huh? What is it?
"You miss only one of us. It's okay. It's okay to have another one."
"Yes, no, I plan on getting married normally..."
"You don't have to be shy, do you? We don't pay attention to details. Hopefully, the Second Lady wants it to be Kate..."
"Oh? I wouldn't mind, would I? Even if Lorea is the Second Lady."
"Ko, I'm in trouble!
"Sure. Kate, the jury, is better off in the house."
"Not that way...!
Lorea started panicking on her ass, and I stood up quietly and faded out the scene. |
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} | 高級宿ではないが、いわゆる貧困層が利用するような宿ではない。中堅の冒険者や行商人が多く利用しているようだ。
「俺は近くに人がいると眠れないから別部屋な。お前たちでいいだろう」
奴隷にはもっと安い宿か、場合によっては野宿をさせることも珍しく無いが、食事や装備の件もあり、オリガたちは特に戸惑うことなく頭を下げて受け入れた。
ちゃんとした装備を着たため、奴隷の刺青も見えないせいか、受付にいた女将も特に何も言わなかった。
「一度荷物を置いたら食堂に集合な」
女将分の宿泊費を渡して鍵を受け取った一二三は、二人を置いてさっさと階上の部屋へ上がって行ってしまった。
「ったく、優しいんだか適当なんだか......」
「多分、興味が無いんだと思う。ご主人様にとって、人間は敵かそうじゃないかのどちらかで、敵じゃなければ興味が薄くなるんじゃないかな」
一二三の背中を見送って呟いたオリガの言葉に、カーシャは首をかしげた。
「武器屋のトルンとは話が合うみたいだったけど?」
「あれは、トルンがどうとかなじゃくて、武器の話題だったからだと思う」
オリガの言葉は、どこか不満げだった。
自分の部屋の前にたった一二三は、室内に人の気配が無いことを確認し、一歩踏み込んで部屋の内容を見回した。窓はガラス戸ではなく、木製の簡単な造りのものだった。記憶を辿ってみたが、どこの商店でもガラスを見ていない。唯一、城の採光に一部使われていたくらいだ。ガラスは高級品なのかもしれない。
シンプルなシングルベッドには、少しくたびれた寝具が敷いてあり、ベッド横の小さな棚に木製の水差しとコップが置かれていた。他には、家具も飾りもない。
本当なら武器や装備を外すのだろうが、一二三は腰の刀を闇の収納に入れて終わりである。
ベッドに腰掛けて、これからのプランについて考えてみた。
(まずは、街を出る前に知っておくべきことを整理しておこう)
食事のあとにオリガとカーシャに聞いて、二人が知らないことがもしあれば、明日はそれを調査しないといけない。
金貨や銀貨の価値、魔法について、冒険者について、魔物について、この国について、この世界について......。
知りたいことはたくさんあるが、旅に出る準備も必要だから、それについても考えないといけない。この世界で旅をするとはどういうことなのか、まさか電車や車があるはずもない。徒歩か馬車かで、魔物と戦いながら宿場町を渡り歩くということになるのだろう。
一二三が食堂に下りてきた時、オリガたちは既に席についていた。料理は並べられているが、まだ手をつけていないようだった。
奴隷とはいえ律儀なことだと苦笑し、席に着いた一二三は用意された夕食を食べ始めた。
今日のメニューは野菜と肉の煮込みと、刻んだ野菜を混ぜ込んだポテトサラダだ。
「こっちの食い物にも慣れてきた。少し味が薄い気がするが、充分美味い」
「これで薄いって......。ご主人はお金持ちの生まれなんだね」
食事中の会話で、この世界は塩や砂糖などが割と手に入りにくいらしい事を知った。特に今いる王都は内陸部で、海までは馬車で十日以上かかる移動をしないといけないらしい。
「ああ、食事が終わったらお前たちの部屋に行くからな」
何気なく言われた一言に、オリガとカーシャはぴくりと反応した。
「それって......」
「わかりました。」
カーシャは何か言いかけたが、オリガは遮って了承した。
オリガたちが使っている二人部屋は、個室を単純に倍くらいの広さにして、ベッドと水差しを二つに増やしただけという内容だった。
片方のベッドに二人を座らせ、向かい合って座った一二三は、腕を組んで何から聞くか迷っていた。
その間に、カーシャがベッドから床に座り直し、深々と頭を下げてきた。
「お願いがあります」
「急にどうした? 話し方も変えて気持ち悪い」
「き、きもちわるいって......。あの、どうかオリガには手を出さないでくだ......ほしいんです。アタシが変わりになりますから」
「カーシャ?!」
突然の事で、オリガも目を見開いてびっくりしている。
「オリガは、その......身体もあまり強くないし、そういうのはまだ早いというか」
「......ああ」
顔を真っ赤にしてあたふたと言葉を選んで説明するカーシャを見て、ようやく合点がいった一二三は、つい笑ってしまった。
「わ、笑わないでくれ......ください。買われた時から、この事は覚悟していたから......」
「カーシャ、私もそれは同じ」
オリガもカーシャの横に座り、一二三に頭を下げた。
「ご主人様、私はご主人様に買われた時から自分の立場を理解しているつもりです。ですから......」
「ちょっと待て。お前らだけで話を進めるな」
二人を元通りベッドに座らせ、一二三は鼻を鳴らした。
「勘違いするな。別にお前らを抱こうとかは考えてない」
「え、でもアタシたち女の奴隷を買うってことは......」
「まあ、そういう意味合いに取るのも仕方ないか。とりあえず、カーシャもオリガも美人だからな、今までもそういう目で見られただろうし、俺の目的がそっちだと思ったかもしれないが」
美人と言われて、二人共顔を赤らめて俯く。オリガはその仕草が可愛らしく、カーシャも耳まで真っ赤にして、冒険者の風格はどこへやら、すっかり女の顔になっている。
「よく知らない相手を抱きたいと思わないし、お互いに納得してそういう関係を持ちたいと思ってるからな。立場を利用してどうとかいうのは、俺が一番嫌うやり方だ」
だから極力奴隷扱いをするつもりもないし、嫌なことは嫌と言えと、一二三は続けた。
すっかり肩透かしを食らったカーシャは、緊張が抜けて口が開いたままになっている。
「今日は何人も殺してすごく満たされた気分だしな。そもそも女を抱きたい気持ちなんか湧いてこないし」
この言葉には、オリガもカーシャも引いた。
二人が落ち着くのを待ってから、一二三は思いつく限りの質問をしていった。
・硬貨は銅貨・銀貨・金貨があり、金貨は銀貨100枚、銀貨は銅貨100枚と同価値。
・魔物は獣型や不死型などがあり、獣型は地球の動物が凶暴化したり特殊な性質を持ったもの、不死型はゾンビやゴーストといった種類がいる。魔物同士でも縄張りや捕食の関係があり、都市や街道を離れるほど、遭遇率が増える。
・魔法は火・水・風・土・光・闇の属性があり、魔法が使える人間は多いが、特に体系化されているわけでもなく、個人のイメージや師匠からの教えで大分使い方が違うらしい。一般的には杖を使って魔力とイメージをまとめるが、ごく一部の熟練者であれば、使い慣れた魔法は杖を使わなくても発動できる。
・この国オーソングランデは、人間が治める国としては最大規模で人口も多いが、獣人族や他の人族国家との諍いが絶えず、農村などは徴用で若い男が連れて行かれるなど、人的な部分で無理が出てきている。
・冒険者というのは、各都市に支部が存在する“ギルド”に登録した者を指す言葉で、主に町や村などからギルドに委託された魔物の討伐や盗賊の捕縛、殺害をこなして報酬を得ている。オリガとカーシャも、2年前からこの王都のギルドに登録し、先日ある失敗をするまでは、中堅どころの冒険者として活動していたそうだ。
「ギルドか、やっぱりそういうのもあるんだな。ということは、例えば商人のためのギルドとかもあるのか?」
「斡旋所なあらあるけど、アタシが知る限りは冒険者以外のギルドは知らないね」
どうやら、この世界のギルドはいわゆる何でも屋的な労働力斡旋所ではなく、戦闘関係の依頼に特化した機関らしい。
「それで良く国やら貴族やらと対立しないな」
「以前聞いた話では、魔物の対応に兵士を常時使うよりも、冒険者に依頼をかけた方が安上がりだという事でした」
オリガの説明に、この世界にもアウトソーシングの考えがある事を知った一二三だった。
色々と聞いている間に、夜も大分遅くなったようだ。食堂からうっすら聞こえていた喧騒も止み、大分静かになった。
「じゃあ、遅いから今日はここまでだ。また色々と教えてもらうから、よろしくな」
立ち上がった一二三に、オリガが腰を浮かせた。
「うん?」
「私、ご主人様に抱かれるのは、別に嫌では......」
「何をそんなに焦っているのか知らんが、せめて震えずに言えるようになってからだな」
優しい笑みを浮かべてから、一二三は部屋を出ていった。
「オリガ、どうしてそこまで......」
心配そうにカーシャがオリガの肩を抱いた時、オリガは静かに泣いていた。
部屋を出て、ため息一つ。
一二三とて可愛い女性に迫られて、悪い気はしない。彼も若い男で女性は好きだし、彼女がいた事もある。短い期間付き合っただけで、なんとなく別れてしまったが。
今後もこの世界で生きていくなら、オリガやカーシャに限らず、誰かとそういう関係になる可能性もあるのだ。だが今は、自分がこれからどうするかも今ひとつ定まっていないし、ようやく叶った人を殺せる環境にいる充足感もある。今は後回しにしよう、と一二三は結論づけた。
「さて......」
意識を集中して、建物周囲の気配を探る。
道路に面した側、建物の角のあたりに不自然に動きが少ない人物の気配がある。
一二三は部屋に戻らず、2階の奥にある共同のトイレの窓からそっと外へ飛び降りた。
そのまま、音を立てずに道路側に立っている人物の背後から近づいた。
立っていたのは女性だった。美しいブロンドの髪はゆるくウェーブがかかり、夜だというのに艶があるのが良くわかる。見事なプロポーションを、透けて見えそうな薄い布一枚のドレスで際立たせている。
一見するだけだと、客待ちの娼婦だが......。
背後から近づいた一二三は、ギリギリ相手に聞こえる程度の大きさで声をかけた。
「動くな」
わざとらしい崩した話し方をしているが、違和感が拭えない。
「下手な芝居はやめろ。お前も騎士隊の人間だろう」
静かな夜に、息を飲む音が聞こえた。
「なぜ......」
「第一に、腰周りの筋肉の付き方や手首の太さが娼婦をやっている女のそれじゃない。日常的に動き回り、何かを振り回している者の特徴が出ている。第二に、こんな人通りの少ない道路で客引きはしないだろう。もっと歓楽街か、そこに近い場所でやるはずだ。第三に、その髪だな」
「髪?」
「そんなに艶が出るような高い整髪剤なり洗髪剤なんて、貴族くらいしか買えないだろう。街の連中と髪質がまるで違うから、すぐ分かるぞ」
あっさり見破られて、女はミダスの報告が誇張だと考えていた自分に今更後悔していた。
「振り向くなよ。そのまま道路の方を向いたままでいい。まず名前を言え。それと、昼間にミダスに任せた連中の正体はわかったか?」
観念した女は、ミダスと同じ第三騎士隊所属のパジョーと名乗った。
「ミダスが回収した死体は、どれも身体のどこかに同じマークの刺青があったわ」
「刺青......奴隷か?」
「魔法の反応は無かったし、形も違う。おそらくは裏の仕事を請け負う地下組織の連中ね。同じ刺青をした身元不明の死体は過去に数度記録があったけど、今回の件から、刺青が組織の構成員の証として使われていると考えられるわね」
「そういう連中の情報は掴んでいないのか?」
「正直、数が多すぎて把握しきれないわ。潰しあいや摘発でどんどん組織が出来ては消えて行くし」
そういうものかと一二三は思った。この世界の情報収集レベルだと、地下社会の把握は難しいのかもしれない。
「パジョーと言ったな」
「向かいの建物からお前を見ているのも、騎士隊の連中か?」
どうしてわかるのかと、ついパジョーの目線がその部屋へ向く。少しだけ木戸が開けられた窓がある。
「......そうよ。二人の同僚が監視しているわ」
「では、建物裏にいる二人組は?」
今度は何を言っているのか、パジョーにはわからない。今回は出入り口を監視して、
「やはり騎士隊の連中ではないようだな。向かいの仲間に伝達はできるな? 手柄をやるからついてこい」
「あ、待って!」
パジョーは正面の建物に向かって手振りで対象者との接触のサインを送ると、慌てて一二三を追った。
建物側面の闇に紛れている一二三の横にパジョーが到着すると、一二三は静かに説明を始めた。
「二人の男がいる。昼間に始末した連中の仲間の可能性が高い。おそらくは次の襲撃のための監視要員だろう」
「捕まえるの?」
「捕まえたとして、情報を吐かせることができるか?」
拷問をしたとして、確実性はあまり期待できない。技術が進歩していない時代の拷問は、情報を聞き出す前に殺してしまう可能性が高いと一二三は読んでいた。パジョーの反応から、自白のための魔法や薬も無いらしい。
「一人は殺す。一人は傷をつけるだけにして、跡を追う」
言いながら、一二三は懐から2cm角の鉄の塊を二つ取り出した。全ての角が少しだけ鋭利に削られている。
「これは、俺の国の武器だよ。名前は色々あるが、俺たちの流派は“
するりと角から半身だけを出し、素早く二つの礫を飛ばした。
突然の衝撃に、二階の客室の窓を見上げていた男たちが倒れる。
一人がなんとか立ち上がり、もう一人を見てから慌てて離れていく。礫が掠ったらしく、脇腹を押さえながらで、速度も遅い。
「行くぞ」
一二三の先導で逃げる男の跡を追いながら、倒れたままの男を通り過ぎざまに確認したパジョーは、その首筋に穴が空き、血を流して死んでいるのを見た。
あの小さな鉄の粒が、致命的な武器になる......。おそらく男は自分が何でやられたかわからなかっただろう。もし一二三と敵対したら、堂々と剣を合わせるどころか、いつの間にか死んでいるという結果もありうるのだと、パジョーは目の前を行く一二三の背中を見て戦慄した。
突然の攻撃と仲間の死に、逃げた男は混乱していたのだろう。ろくに周囲の警戒もせず、貴族街へと入り、城にほど近い、大きな館の裏口に消えた。
男がその敷地へ入ったのを遠巻きに確認した一二三は、ついてきたパジョーを見た。
「あそこは......ラグライン侯爵家の屋敷ね」
「侯爵か。そいつは大物だな」
「ええ、それに......謁見の間で貴方に殺された騎士の一人は、ラグライン侯爵家当主の次男坊よ」
言ってから、失敗したとパジョーは思った。
に償わせた。では、敵対した者の父親の屋敷を知った一二三はどうするだろうか?
どこからか取り出した刀を腰に差し、楽しそうに笑みを浮かべる一二三に、その答えを見てしまった。
「そうかい。それは良いことを聞いた」
パジョーは後悔した。自分ではなく、他の騎士について行ってもらえば良かったと。
「じゃあ、俺に迷惑をかけるなと、警告をしてやらないとな」
警告だけで済むとはとても思えない、とドレスの女騎士は首を振った。 | In the residential area neighbouring the shopping area, they were able to get a room safely. Though not a high-class hotel, neither was it a hotel that the poorest segment of the population uses. Adventurers and peddlers seem to frequent it.
「 Since I cannot sleep with another person nearby, you two will be in another room. 」
There are no hotels that are cheaper for slaves, some allow camping out in the stables, but since there is the matter of meals and equipment, the two slaves accepted.
Since they were wearing tidy equipment, the slave tattoo was not visible, so the landlady did not say anything either.
「 Put your luggage away and gather in the dining room. 」
While Hifumi paid the landlady the lodging expenses of the three, the two went up to the upper rooms quickly.
「 Good grief, he’s not gentle, nor somewhat concerned. 」 (Origa)
「 Perhaps he is not interested. As far as master is concerned, a man is either an enemy or not one, does he find anyone other than an opponent interesting? 」
To Origa’s muttering at Hifumi, Kasha tilted her head.
「 Though he seemed to talk to Thorn from the weapon shop quite easily. 」 (Kasha)
「 That, I think it was because of the topic of weapons. 」 (Origa)
Origa’s words were somewhat dissatisfied.
The hotel in which Hifumi stayed, ‘Matthew Peak’ had the dining room on the first floor, and the guest rooms on the second. It is not very big, and has only two kinds of rooms, single and twin. Once Hifumi confirmed that there was no one inside his room, he stepped inside and looked around. The window was not of glass, it was a simple wooden one. Recalling from memory, none of the shops had any glass, though there was some in the castle lighting. It seems to be a high-quality article.
Worn out bedding spread out over a simple single bed, with a wooden pitcher and cup on a small shelf next to the bed. Other than that, no other furniture.
Storing his katana in the Dark Hole, Hifumi removed his equipment.
He sat on the bed and started planning.
First off, I need to sort things out before leaving this town.
After the meal, Origa and Kasha should be asked, if they don’t know, it will be necessary to investigate tomorrow.
Value of gold and silver coins, about Magic, about Adventurers, about demons, about this country, about this world.....
There are a lot of unknowns, and because of preparations to travel, it is necessary to think about it. How to travel in this world? There cannot possibly be trains and cars, so by foot or a wagon? It seems that travelling between relay stations while fighting demons is likely.
When Hifumi descended to the dining room, Origa and Kasha were already seated. Their food was ready, but still untouched.
Hifumi smiled wryly at the dutiful slaves, sat down and began to eat the prepared food.
Today’s menu: stew mixed with vegetables and meat, along with a potato salad.
「 I’m getting used to the food here. Though the taste is a little thin, it’s delicious enough. 」
「 This is thin...... Master must have been born in a rich family. 」
From the conversation during the meal, it seems that salt and sugar, etc are not very easy to obtain. Especially so for the castle-town they were in, it took ten days or more for the wagons to come in from the sea.
「 Aa, after the meal, I am coming to you room. 」
To this casually delivered sentence, Origa and Kasha react with a twitch.
「 That is.... 」
「 Understood. 」
Though Kasha started to say something, Origa interrupted with an acknowledgement.
The double room which Origa and Kasha were using, it was simply double the size of the single room and had two beds and shelves.
Hifumi sat on one bed, and the two sat opposite him with their arms folded and listening hesitantly.
Suddenly, Kasha lowered herself to the floor and bowed deeply.
「 I have a request. 」
「 So suddenly? Changing your way of speaking, that’s disturbing. 」
「 Di-Disturbing...... Um, please do not lay a hand on Origa... is my request. I will take her place. 」
「 Kasha?! 」
At this unexpected incident, Origa opened her eyes wide in surprise.
「 Origa, that... her body is not so strong, that sort of thing is too early. 」
「 ....Ah. 」
Looking at Kasha’s deeply flushed face and her hurried words, Hifumi understood her explanation and laughed.
「 D-Don’t laugh... Please. When I was bought, I was prepared for such a thing.... 」
「 Kasha, me as well. 」
Origa lowered herself next to Kasha and lowered her head towards Hifumi.
「 Master, I understand my position since I was also bought by master. Therefore... 」
「 Wait a minute. Don’t just advance your delusions by yourselves. 」
Hifumi snorted, ordering the two to sit on the bed as before.
「 Don’t misunderstand. I haven’t particularly thought of sleeping with you. 」
「 B-But purchasing us, two women as slaves.... 」
「 Ah, that kind of implication can’t be helped. For now, because Kasha and Origa are beautiful women, that kind of thinking was to be expected. That is not my purpose. 」
On being called beautiful women, both women looked down with reddened faces. Origa’s gesture was lovely, Kasha’s ears were red. Their aura of Adventurers completely dissolved, becoming that of young women instantly.
「 I do not wish to sleep with an unknown companion, I would rather do so with a consenting partner. Using a situation to do this is something I absolutely dislike. 」
The mental strain suddenly released, Kasha gaped at him with her mouth open.
Therefore, Hifumi did not intend to treat them like slaves, he continued,
「 Today, my feeling of slaughtering was completely satisfied. In the first place, I don’t feel the need to sleep with a woman. 」
To these words, Origa and Kasha were shocked.
After waiting for the two to calm down, Hifumi began his knowledge gathering.
– The various coins are gold, silver and copper. One Gold coin is Silver coins, and one Silver is Copper coins.
– The demons are of two types, the Beast type and the Undead type. The Beast type has particular disposition to the ferocity of animals. The Undead type has Zombies or Ghosts. Due to the territorial nature of the predatory Demon-kin, the chances of encounters rise on leaving towns and highways.
– Magic has the Fire, Water, Wind, Earth, Light, Dark attributes. Though there are many who can practice magic, especially due to systematisation, the usage seems to differ based on the image of the individual, and the teaching of the master. Generally, the magic and image are brought together by the staff, but a skilled person can, with practice use magic without the staff.
– This country, Orsongrande is the largest human-ruled highly-populated country, but young men are conscripted from the rural areas, the humans unreasonable parts emerge.
– The Adventurer refers to a person registered to a ‘Guild’ where a branch exists in each city, and their jobs involve demon subjugation, arrests etc and receive rewards for it. Kasha had registered along with Origa with a guild in this castle-town for two years as active Adventurers till the day of their mistake.
「 Guilds, huh? Then do other kinds exist, like merchant guilds? 」
「 Though there are service offices, as far as I know, other than Adventurer guilds, there are none others. 」 (Kasha)
Apparently all guilds of this world seem to be concentrated on combat related requests, there are no workforce like agencies. Though requests from the country may be received, they are not sent to war. It seems to stick to the stance that whatever the work, payment matters the most.
「 Because of that, there are no conflicts with the nobles in the country. 」
「 Requesting an Adventurer is more inexpensive than making the same request of a soldier. 」
To Origa’s explanation, Hifumi thought about the idea of outsourcing in this world.
While listening to various things, it had become quite late. The clamour from the dining room had also died down.
「 Well then, it is late. Teach me these things tomorrow. My best regards. 」
To Hifumi who stood up, Origa half rose to her feet.
「 I, sleeping with master, is not particularly unpleasant.... 」
「 Though I don’t know why you are in such a hurry, at least say it without trembling next time. 」
Gently smiling, Hifumi left the room.
「 Origa, why go that far..... 」
Kasha held Origa’s shoulder anxiously as Origa quietly cried.
On leaving the room, Hifumi sighed.
Being approached by a lovely young woman does not feel bad. Before, he liked a woman, and she liked him. They dated for a while, but for some reason separated.
From now on, he has to live in this world. Other than Origa and Kasha, there is a possibility of forming such relationships with others as well. However, what to do in the future is undecided, for there is a feeling of satisfaction of finally killing someone. Hifumi decided to put it on the back burner for now.
「 Well.... 」
Concentrating his conciousness, Hifumi scanned the building and its immediate surroundings.
On the side facing the road, there is a sign of an unnaturally still person near one corner of the building. Moreover, the back of the building.magic
Hifumi did not return to his room, and quietly jumped out from the window of the second floor passage to the outside.
He silently approached the back of the unnaturally still person.
It was a woman. Lovely blonde hair in loose waves, glossy in spite of the night. Splendid proportions, wearing a remarkably thin almost see-through dress.
On looking at her, she seemed to be a prostitute.
Hifumi approached from the back, and at the last moment called out.
「 Do not move. 」
Unaffected by the way of speaking, the feeling of incongruity remained.
「 Stop your unskilled drama. You are from the Knight Corps. 」
In the silent night, a gasp is heard.
「 Why.... 」
「 In the first place, no prostitute has muscles those thick at her waist and wrist. That is a characteristic of someone used to wielding something. Secondly, a prostitute is not likely to show herself off at such a scarcely populated street. More likely to earn more money in the red-light area. Thirdly, the hair. 」
「 Hair? 」
「 With lustrous hair like that, only a noble-like person can afford shampoo of such high quality. It is different from those of the people on the street. 」
On being seen through so easily, the woman regretted thinking that Midas’ reports were exaggerated.
「 Do not turn around. First your name. With it, what is the identity of the people left to Midas in the day? 」
Giving up, the woman introduced herself as Pajou from the same Third Knight Corps as Midas.
「 The corpses that Midas examined, there was a particular tattoo on all of the bodies. 」
「 Tattoo.... A slave? 」
「 There was no reaction of magic, the shape was also different. I fear that those guys belonged to an underground organisation which uses these tattoos as identifiers. There are records of them several times in the past, so it is possible that they belong to the same organisation. 」
「 Those sorts of groups, don’t you have any intelligence on them? 」
「 Honestly, they number too many. When we are able to muster enough force to crush them, they disappear. 」
Hifumi considered that. With the intelligence gathering level of this world, grasping the underworld would be quite troublesome.
「 Oy Pajou. 」
「 Yes? 」
「 From the opposite building, are those the Knight group watching you? 」
, lamenting as such , Pajou turned her gaze towards the room where the window was opened just a little.
「 .... That is so. Two colleagues are observing from there. 」
「 Then, the two in the back of the building? 」
What are you saying now
「 As expected, it does not seem to be the Knight Corps. It is not possible to relay this to your companions. Come along. 」
「 Aa, wait! 」
Sending a signal to her colleagues for confirmation of contact with target, Pajou chased after Hifumi hurriedly.
When Pajou arrived next to Hifumi who had slipped into the darkness of the building’s side, he quietly started explaining.
「 There are two men. They are very likely companions of those guys earlier today. Most likely they are planning for the next attack. 」
「 Catching them? 」
「 Assuming they are caught, can you make them talk? 」
Assuming that torture is done, the certainty is not expected. In this age where technology was not that advanced, Hifumi figured that the possibility of being killed before obtaining any information was high. From the reaction of Pajou, there seems to be neither magic nor a medicine used for such purposes.
「 One person will be killed. The other will be wounded, trace that one. 」
While saying so, Hifumi took out two cm masses of iron from his clothes, corners shaved to a point.
「 These are weapons from my country. It has various names, my school calls them ‘Tsubute’. Apparently, throwing weapons are not seen as important. I’ll display an interesting one. 」
Smoothly slipping half out of cover, two ‘Tsubutes’ flew up quickly.
The man who was looking at the second-floor rooms fell to a sudden impact.
The other somehow stood up and left hurriedly on seeing the first one’s demise. Holding his side where the ‘Tsubute’ grazed him, his speed was slow.
「 Lets go. 」
While chasing the man marked by Hifumi, Pajou passed the first one, and saw him dead, bleeding from a hole in his neck.
A small grain of iron becomes a deadly weapon...... Perhaps the victim himself will not know what hit him. Pajou looked at Hifumi’s back and shivered, knowing that if one was hostile to Hifumi, far from clashing with swords in a dignified manner, there will be a result in which one will be dead before realising it.
The man who escaped the sudden attack and death of a friend would be confused. Not paying attention to the surroundings, he entered the aristocratic block, not far off from the castle and disappeared into the back door of a large mansion.
Hifumi verified from a distance that the man had entered the grounds, following him, Pajou also saw it.
「 There... that is Marquis Raghlain’s estate. 」
「 Marquis huh. That guy is a big-shot eh? 」
「 Ee, moreover.... One of the Knights killed by you in the audience room was the second son of the family head, Marquis Raghlain. 」
After saying that, Pajou realised her mistake.
The second son of Raghlain died attacking Hifumi. That time, Hifumi had made the King, the father pay for the princess’ crime. Then, what will Hifumi do in the residence of a hostile person?
Retrieving his katana from his waist, the answer is clear from Hifumi’s smile.
「 Is that so. That’s extremely good to hear. 」
Pajou regretted not having had the other Knights follow her.
「 Well then, I must warn you not to trouble me. 」
Not thinking the warning was necessary, the dress-wearing Knight shook her head. |
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} | 早朝。
王都の外れにあるだだっ広い兵士の訓練場に、治安維持担当以外の騎士たちが集められていた。そこには、近衛騎士隊長サブナク、騎士隊長ロトマゴ、騎士隊副隊長ミダスの姿もある。
いる新人も含め、総勢60名。全盛期の3分の1以下の人数しかいないのが、古株には寂しく感じられるが、これだけ一度に集まる事も珍しい。
彼らの目の前には、いつの間に作られたのか、骨組みだけの平屋と壁とドアが取り付けられた簡素な小屋が建っていた。
その小屋から出てきたのは、今や騎士隊の誰もがその顔、その名を知っている伯爵、だ。
「おはよう」
「おはようございます!」
揃った挨拶に、一一度頷くと、王城の職員に運び込ませた武器を全員に取らせる。
それは木製の短い手槍で、成人男性の胸辺までの長さになっている。
「城内警備で使っている手槍を稽古ように木製で作らせた。重さは無いが、取りあえずは形を覚えるだけだからいいだろう。各自持って帰って次回から訓練の時は持ってくるように」
全員に武器が行き渡ったところで、一二三は骨組みだけの建物を指差した。
「とりあえずは一棟ずつしかできていないが、あと二つは作る予定だ」
「あれは、一体何に使うのですか?」
サブナクの質問に、やって見せたほうが早い、と一二三は三人程を骨組みハウスの部屋の中に入れた。
そして、自分も手槍を持って入る。
「とりあえず、この室内で三人同時にかかって来い。安心しろ。手加減してやる」
この台詞に、ランダムで集められたとはいえエリートを自負する騎士はムッとして槍を構えた。
「どうも、室内戦闘の経験が薄いと思ったんだ。疑問は見せた方が早いからな」
槍を右手に軽く握ったまま、一二三は三人がかかってくるのを待っている。
一人目が槍を突き出すのを、苦もなく避けて足で押し出すように距離を話す。
「折角三人いるんだ。息を合わせろ」
言いながら、さりげなく部屋の中央に移動する。
「まず、この時点で不合格だ。お前、理由はわかるか」
「えっ?」
外から見ていた一人が指さされて、上ずった声が出た。
「あの......部屋の中央にトオノ伯が移動された事、ですか?」
「その分だと理由がわかってないみたいだから、半分正解だ」
説明中に、三人は一二三を囲む。
包囲ができたと踏んだところで、同時に突き込んで行くが、一二三を捕らえることはできない。
騎士たちの間を通過しながら、刃先で脇腹を撫でる。
「ほれ、これで一人やられた」
「やっぱり、たった三人だと......」
「何言ってんだ。狭い室内で5人も6人も居たら、身動きがとれなくなるぞ」
「う......」
それから、一二三は建物の壁や柱、棚などの調度品を利用した防御やクリアリングなどを指導していく。
最初のうちはコソコソと様子を伺うような動きをする事に、特に第二騎士隊出身の騎士たちが不満気ではあったが、3人ごとに別れて対抗戦を繰り返すうちに、その効果が明確になると共に、自然と不満は無くなっていった。
このあたりの素直さは、ある程度実戦を経験している第二騎士隊らしいところでもある。
「しばらくは交代でこの掘っ立て小屋の訓練な。残った班は、槍の使い方を鍛え直してやる」
そうして一二三が手本として見せた技の数々は、騎士隊が知っているそれの数倍であり、突き主体の騎士隊槍術に加えて、斬り払いから絡め取りの技術に石突を使った打撃、最終的には槍を投げて使う事についてまで言及し、さらには実践させる。
これが全て午前中だけに詰め込まれていたものだから、騎士たちはできるできない以前に言われたことを覚えるだけでも精一杯だ。
さらに、
「これは初歩だからな。三日以内に、この動きを覚えて室内戦闘で活かせるように」
そこまで言ってさっさと城に戻っていった一二三に、騎士たちは座り込んで相談を始めた。張り切っていたロトマゴは、身体がついていかずに真っ先に仰向けに転がっている。やけにさっぱりした表情ではあるが。
「......やらないと、まずいんだよな?」
同僚の言葉に、サブナクは首を横に振る。
「やらなくていいとは、言えないな。少なくとも、責任者としては今度の戴冠式を問題なく終わらせるためには必要だと思うし、部下の命を預かる身としても、やるしかないだろう」
その為には率先してやらなくては、とサブナクは膝に力を入れて立ち上がった。
☺☻☺
ホーラント首都アドラメルクを始め、国内は一時的に大変な混乱に陥った。
王城に敵が侵入し、兵力にかなりの損害を出したうえ、他国の軍隊が首都に駐留している。しかもホーラント兵は実質その下について訓練している状態なのだ。
さらに国費で運営されていた魔法具の研究施設も被害を受けており、賠償としてオーソングランデ国内トオノ領へ支払われた金額も、決して低い金額ではない。
当然、地方を収める貴族たちに不満が溜まり、かなり弱体化した王族に対抗する動きも表面化し始めていたが、そのタイミングで
そうして貴族たちが足止めを受けている間に、アリッサ率いるフォカロル領兵からの指導と技術伝達により、アドラメルク駐留の部隊を中心に、ホーラント国軍は減った数を補って余りある程の強化を進めていた。
もし今、どこかの貴族が蜂起したとしても、とても王都を落とすことはかなわないだろう。
「......これは、完全に負けたと言っていいだろうな」
それらの報告書を見ながら、スプランゲルは深々と溜息をついた。
自分が王であるとはいえ、敵国兵を招き入れたに等しいやり方は少なからず反発を産み、実力を以て抗議していくる事もあるかと構えていたが、蓋を開けてみれば首都は栄え、貴族たちは力を弱めて王の権力はより強化されていく。
魔法具の流通経路が増えたため、オーソングランデを出入りする商人も増え、税収は増している。賠償として支払った分もある程度は取り戻せるだろう。
「フォカロルからのお客様たちはどうしている?」
「はっ。オーソングランデの兵たちは、特に問題は起こしておりません。......むしろ、妙に金払いが良いのと、食用の魔物を毎日捕まえては市場に流しておりますので、城下の市民からは受け入れられているようです」
やや苦々しく報告したのは、王の遠縁となる若い男で、ネルガルという。
王孫ヴェルドレに、多くの王族が同調していた事が発覚したため、かなりの王族が追放もしくは処分となった。そこで血は薄くともそれなりにできる若い者を、と後継に据えるつもりで近くに呼び寄せたのだが、まだまだ鍛えてから、とスプランゲルは考えている。
「そう悪く取る事ばかりでもあるまい。民衆が喜び栄えれば、それは国の富となろう。むしろ心配すべきは、彼らフォカロルの兵たちが去ってからの事だな」
「と、申しますと?」
「彼らがいなくなってから、王都の治安や景気に陰りが見えたとなれば、民衆や貴族たちは我々王族が無能だと考えるだろう。以前と同じになったとしても、一度良い状態を知れば、それ以下は許容されぬものだ」
理解できたらしく、ネルガルは頷いたあと、少し視線を落として何かを考え始めた。
王はそれをゆっくりと待つ。
「王よ。ひとつお願いしたい事があるのですが......」
「許す。申してみよ」
「私をフォカロルへ派遣いただきたく存じます。聞くところによりますと、かのフォカロル領には領地運営を含めた勉強のために多くの人々が集まっているとか。お許しいただければ、その内容を学んで置きたいと愚考いたしました次第でございます」
その提案に、思わずスプランゲルも笑みをこぼした。
「なるほどな。あの男が治める地は急速に発展していると聞いた。決して無駄ではないだろう」
「では!」
「ふむ......」
一二三という男の事を考える。
知らない世界からきた男は、この世界で何を壊し、何を造り、どこへ行こうと言うのか。
スプランゲルは傍らに置いた書面を開いた。そこには、オーソングランデに新たな王が即位するという情報が書かれている。
「よかろう。ネルガルをフォカロルへ派遣しよう」
「ありがとうございます!」
「オーソングランデの王都まではわしも同行する。そこで直接新たな王に会い、お前のことを頼むとしよう」
王の出国など、ホーラントでは前代未聞であり、他国でもほとんど無い事だ。
かなりの大事になり、ネルガルは焦り始めた。
「よい。思えばわしも先代から言われた事しか学んでおらんのだ」
ひらひらと先ほどの書類を揺らす。
「このような紙切ればかりを見ていても、何もわからんのだ。実際に自分の目で見て知らなくてはならん。もっとわしが広い視野と見識を持っておれば、ヴェルドレも死なずに済んだかもしれん......」
「王よ......」
「あの男の軍隊には、随分と高位の責任者が付いて来ておったな。オーソングランデ入りに協力を仰ぐとしよう」
互いに広い世界を見て、多くを学ぼうではないか、とスプランゲルは笑った。
☺☻☺
王都の訓練場で騎士隊が一二三のシゴキに汗やら諸々を流していたころ、フォカロルにあるドワーフの作業場、その奥にある試験場でヴァイヤーは土まみれで地面に転がっていた。
「こんな動きがあるとは......」
「私は武器らしい武器を扱ったのはこれが最初ですので、違いについてはご説明できません」
軽く肩で息をしながらも、無表情のままで答えたのはカイムだ。
「初めて......か」
「はい、領主様にご指導いただきましてから、訓練を日課としております」
カイムの手には鎖鎌が握られ、油断なく分銅を握り、鎌を前に出した姿勢を取っている。
「......相手が倒れていても武器を下げないのも、トオノ伯のご指導ですか?」
「はい。無力に見える相手でも、油断せずに相対することは基本だと言われました」
敵わないな、とヴァイヤーは土を落としながら立ち上がり、傍らに置いていた剣を掴んだ。
「騎士としてのプライドは見事に壊されてしまいました」
剣を納め、ヴァイヤーは自分用にと用意してもらった鎖鎌を手にとった。
「不思議な武器です。しかし、私の剣は鎖で絡め取られ、身体を引き寄せられて足を刈られて転ばされた」
初めて相手をする武器とはいえ、ここまで手が出ないとは思わなかった。
おまけに相手は兵士どころか文官で、さほど鍛えているわけでもなさそうだった。
「改めてお願いいたします。この武器の使い方をお教えいただきたい。これは、私たちにとって非常に有用なものだと理解いたしました」
「......理由を、伺ってもよろしいですか?」
「私たちには、剣か槍を使って敵を“殺す”ことで城内の治安を維持することしかできません。ですが、この鎖鎌と手裏剣をうまく活用することができれば、敵を逃がす事も殺す事もなく捕縛することが出来、そこから情報も得られるようになりましょう」
それができれば、危険が起きる前に対応することも可能ではないか、とヴァイヤーは自分の考えを語った。
つい熱く話してしまったことに、やや赤面してしまったが、それでも熱意は伝えたかった。
ふと見たカイムの表情は、流石の鉄面皮ではあったが首は縦に動いた。
「かしこまりました。では、私の知る限りの技術をお教えしましょう」
「で、ではこれから......」
焦るヴァイヤーに、カイムは僅かに目を細めた。
「そうですね、お聞きしました目的のためでしたら、一対一での訓練で、しかも私の相手では物足りませんでしょうから」
そういうや否や、ぞろぞろと30名以上の兵士たちが試験場へと姿を表す。
「おはようございます!」
「はい、おはようございます」
さっと整列した兵士たちは、それぞれ自分の鎖鎌を携え、カイムに向かって背筋を伸ばしている。
自然な仕草でカイムは彼らの前に立つ。
何が起きているかわからないでいるヴァイヤーに、相変わらずの平坦な声でカイムは言う。
「彼らは私と共に領主様より手ほどきを受けた者たちです。まずはヴァイヤー様へ私たちが知る限りの技術を叩き込ませていただきます」
「えっ? 叩き込むというのは......」
ヴァイヤーには、カイムの目が光ったように見えた。
「私たちが領主様より受けました“指導”を、本日より私たちが全力を以て全て叩き込みます。......どうか、死なないようにご注意ください」
「はは......どうか、お手柔らかに......」
ちょっと、頼む相手を間違えたかもしれない、とヴァイヤーは思った。 | Early morning.
On the excessively spacious practise field of the soldiers, located in the outskirts of the capital, the knights, with exception of those on public order duty, gathered. The figures of Royal Knight Order Captain Sabnak, Knight Order Captain Lotomago and Knight Order Vice-Captain Midas are there as well.
All members number , including one part being newcomers. It’s no more than a third or less of the numbers from their golden age, but although the veterans feel lonely, the gathering of this many knights all at once is rare as well.
In front of them, not knowing when it was built, a simple hut, that was only the frame of an one-story house with walls and door installed, was standing.
Coming out from that hut is the Earl, whose name and face is now known by anyone from the knight orders, Hifumi.
“Good morning.” (Hifumi)
“”Good morning, sir!””
Once Hifumi nodded due to completing the greetings, staff members from the royal castle distributed the weapons they brought along.
Those are wooden short spears that have a length of reaching up to the chest of an adult man.
“Those were made out of wood in order to practise using short spears during the patrolling within the castle. They have no weight, however it will probably be fine if you only learn the style for starters. Each of you will take the one you’re holding home and bring it back for the next time we train.” (Hifumi)
Once everyone got a weapon, Hifumi pointed at the frame-only building.
“For now we haven’t been able to make more than one house, but the plan is to build two more of them.” (Hifumi)
“For what the heck will those be used?” (Sabnak)
Due to Sabnak’s question, Hifumi said “It will be faster if I show you” and had three people enter into a room of the frame-only house.
And then he enters holding a short spear himself as well.
“For the time being, the three inside, attack me at the same time. No worries, I will go easy on you.” (Hifumi)
Thanks to that line, the knights, who were pride of being the elite, although they were assembled at random, angrily set up their spears.
“Thank you. I judged that your experience of fighting indoors is small. It’s faster to show you the way to answer your question.” (Hifumi)
Lightly gripping the spear in his right hand, Hifumi is waiting for the three to come attacking.
As on of them stabs with his spear, he lightly avoids that by taking a distance in order to push it away with his foot and then says,
“There are three of you for a reason. Synchronize your breathing.” (Hifumi)
While saying this, he leisurely moves to the centre of the room.
“First off, at this point they fail. Do you know why?” (Hifumi)
“Me?” (Knight)
The singled-out knight, who was observing from the outside, let a nervous voice escape.
“Umm... is it about the situation of Earl Tohno moving to the centre of the room?” (Knight)
“Since it looks like you didn’t understand the entire reason, your answer is only half right.” (Hifumi)
While he is explaining, the three are surrounding Hifumi.
They come stabbing at the same time at the place they estimated they would be able to encircle him, but they can’t seize Hifumi.
As he passes through a gap between the knights, he lightly brushes one’s flanks with the edge of the wooden spear.
“Look, with this, one of you was done in.” (Hifumi)
“As expected, if it’s only three knights...”
“What are you saying! If there were or of them in the confined space, they would lose the ability to move about.” (Hifumi)
“Uh...”
After that Hifumi instructed them in stuff such as defence and clearing an encirclement by using all the furnishings like shelves, the building’s walls and the pillars.
At the beginning especially the knights formerly affiliated with the Second Knight Order were complaining about his sneaky and wait-and-see movements, however after repeatedly doing battles against him in groups of three their dissatisfaction naturally vanished as they saw its distinct effectiveness.
Their honesty about this seems to also be due to the Second Knight Order having actually experienced real combat to some degree.
“For a while you will use this hut for training in turns. The remaining groups will fix their training on how to use a spear.” (Hifumi)
There are several of the many techniques, shown by Hifumi, the knights already knew. In addition to the thrusting techniques of the knight’s spearmanship, they are furthermore training technical strikes by using the spear’s pummel to entangle an opponent and lastly there are even references how to use the spear for throwing it.
As all of that was crammed into them within just the morning, the most the knights could do was to learn the things without being able to say whether they would able to apply it or not.
Furthermore.
“These are the basics. You have to leverage your indoor combat by memorizing these movements within three days.” (Hifumi)
The knights sat down and started to discuss as Hifumi said this much and quickly left towards the castle. The enthusiastic Lotomago is lying on the ground with his head facing up as his body can’t follow up on the movement. He has an extremely relieved facial expression.
“... If we don’t do it, it will be bad, right?” (Lotomago)
Sabnak shakes his head due the words of his colleague.
“You can’t say it’s fine to not do it. At least, I believe it to be necessary for the sake of finishing the upcoming coronation ceremony without problems as person in charge. Also, if you want to take care of your subordinates’ lives, there’s likely no other way but go through with it.” (Sabnak)magic
“For that reason we have no other choice but to take the lead”, Sabnak said as he put strength into his knees and stood up.
☺☻☺
Starting from Horant’s capital Adolamelk, the country fell into a temporary, great chaos.
On top of having an enemy invade the royal castle and significant damage to the military forces occurring, troops from a foreign country have been stationed in the capital. Moreover, the situation is that they are essentially training the soldiers from Horant.
Furthermore, even the magic tool research institution, which was run by the state, has been damaged. The amount of money they had to pay to the Tohno territory, located within Orsongrande, as reparation isn’t a low amount by no means either.
Naturally this caused dissatisfaction among the nobles dedicated to their country. Movements of opposition against the quite weakened royalty started to emerge, but for some reason just at that timing ... the reports of ferocious monsters increased. Together with the appearance of people, who didn’t seem to feel any pain, the nobles had their hands full just dealing with the territories in this confusing state.
And while the nobles had to accept their confinement to indoors, Horant’s national army, whose core units were stationed in Adolamelk, were trained and taught about technologies by the territorial soldiers of Fokalore, led by Alyssa, in order to improve their strength to a certain degree to compensate for the decreased number of soldiers.
Even if some noble somewhere revolted right now, they wouldn’t be able to rival the capital to make it surrender at all.
“... I guess it’s fine to say that we completely lost.” (Suprangel)
While looking at those reports, Suprangel sighed deeply.
Although he himself is the king, his way of inviting soldiers of an enemy nation will give birth to a considerably backlash. Although he had prepared himself for the case of protest coming from someone skilled, the authority of the king was strengthened, the power of the nobles was weakened and the capital was flourishing, if you looked at the results.
In order to increase the distribution channels for magic tools, the number of merchants coming and going from Orsongrande have increased and thus the tax yields grew as well. To some degree they are even able to recover the part, they had to pay as reparation.
“What about the guests from Fokalore?” (Suprangel)
“Haa! The soldiers from Orsongrande haven’t caused any particular problems. ... Rather, since they are distributing the edible parts of monsters, they caught, every day on the market and as they are strangely fine to pay money, they seem to be accepted by the citizens around the castle.”
The young man, who reported this slightly unpleasantly, is a distant relative of the king and calls himself Nelgal
As consequence of uncovering many royals cooperating with the royal grandson Veldore, quite a few of them had been exiled or disposed of.
“There aren’t only bad things about this situation either. If the population is delighted and prospers, it will become the country’s wealth. Rather, what we should be worried about is the soldiers from Fokalore leaving from here.” (Suprangel)
“What do you mean?” (Nelgal)
“If a shadow is cast on the state and public order of the capital after they are gone, the people and nobles will likely consider us royals to be incompetent. Even if it became as it had been before, once they learn about a good state, anything below that won’t be permitted anymore.” (Suprangel)
After Nelgal nodded as he seemed to have understood, he started to ponder about something dropping his line of sight a bit.
The king leisurely waits for him.
“My king, there is a single thing I want to request from you, but...” (Nelgal)
“I shall allow it. Let’s have you try saying it.” (Suprangel)
“I would like you to dispatch me to Fokalore. I have heard in many places of things such as many people gathering in the territory of Fokalore in order to study including the administration of a territory. If you deem it acceptable to approve, my humble opinion is that I’d like to study those subjects as soon as it possible.” (Nelgal)
Due to his suggestion Suprangel unintentionally showed a smile.
“I see. I heard that the land, governed by that man, is growing rapidly. I guess it wouldn’t be pointless by no means.” (Suprangel)
“Then!” (Nelgal)
“Hmm...” (Suprangel)
He thinks about the circumstances of the man called Hifumi.
The man who came to an unknown world. What will he destroy in this world? What will he create? Where will he go to?
Suprangel unsealed the letter that had been placed next to him. Its contents are information about the enthronement of a new king in Orsongrande.
“Very well. I will dispatch you to Fokalore, Nelgal.” (Suprangel)
“Thank you very much!” (Nelgal)
“I will also accompany you up until the capital of Orsongrande. There I will directly meet with the new king and ask them for your sake.” (Suprangel)
Something like the king leaving his country is unprecedented in Horant. Even in foreign countries it’s something that almost never happens.
Nelgal started to fluster as it became quite a serious matter.
“It’s fine. Now that I recall, you could say I took lessons from my predecessor as well.” (Suprangel)
He swings the letter from before causing a fluttering sound.
“Also, if I only look at this scrap of paper, I won’t understand anything. It is necessary to actually check things with my own eyes to comprehend them. If I had a wider outlook and discernment, things might not have led to Veldore dying either...” (Suprangel)
“My king...” (Nelgal)
“The troops of that man were accompanied by a considerably high-ranking officer. Let’s ask for their cooperation in entering Orsongrande.” (Suprangel)
“Let’s learn a lot of things by looking together at this vast world”, Suprangel laughed.
☺☻☺
Around the time the knight orders spilled sweat and other things due to Hifumi’s gruelling training in the practise area of the capital, Vaiya, who was in the testing ground inside the dwarves’ workshop within Fokalore, was tumbling about on the ground while being smeared with dirt.
“There is such kind of motion...” (Vaiya)
“As it is the first time for me to handle this weapon-like arm, I’m not able to explain the difference.” (Caim)
While panting lightly, Caim answered expressionlessly as usual.
“First time... eh?” (Vaiya)
“Yes. After I received guidance by the Lord, I’ve been training on a daily routine.” (Caim)
The kusarigama is clasped in Caim’s hands. Holding the counterweight attentively, he has taken a stance of holding out the sickle in front of him.
“... Is it also the instruction of Earl Tohno to not lower your weapon even if your opponent has fallen?” (Vaiya)
“Yes. Even if the opponent seems to be helpless, I was told that it’s the basic to confront them without being negligent.” (Caim)
“I’m no match for you”, Vaiya stands up while dusting off the dirt. He grabbed the sword which was lying nearby.
“You have splendidly broken my pride as a knight.” (Vaiya)
Sheathing the sword, Vaiya took the kusarigama, he had received for his own use, into his hands.
“It’s a strange weapon. However, on top of entangling my sword with the chains, you knocked my body down by pulling my feet away.” (Vaiya)
Although it was the first time the other party used this weapon, Vaiya didn’t think he would be this helpless.
To make matters worse, his opponent, far from being a soldier, is a civil official. It doesn’t even seem like Caim has been training that much either.
“Once again, please, I want you to teach me how to use this weapon. I did understand that this is something extremely helpful for us.” (Vaiya)
“... May I also ask for the reason?” (Caim)
“There is no other way to maintain order within the castle but to “kill” an enemy by using swords or spears. However, if we are able to efficiently use this kusarigama and the shuriken, we will be able to capture the enemy without having them get away or having to kill them. That will allow us to obtain information from the enemy as well.” (Vaiya)
“If we are able to do that, it won’t be impossible to deal with a situation before it becomes dangerous”, Vaiya talked about his own thoughts.
He ended up blushing as he uncontentiously became passionate talking about it, but he still wanted to convey his enthusiasm.
Caim’s expression, which he saw incidentally, was still arrogant but he moved his head vertically.
“I understand. I will teach you the technique as far as I know.” (Caim)
“W-Well, then after this...” (Vaiya)
Caim slightly squinted due to Vaiya being impatient.
“That’s right, for the sake of your goal, I heard from you, it probably won’t be sufficient to only do one-on one training, and moreover with no one but only me.” (Caim)
No sooner than he said that, more than soldiers in groups showed up on the testing ground.
“Good morning!”
“Yes, good morning.” (Caim)
The soldiers, quickly forming a line, are each carrying their own kusarigama in their hands. They have straightened their backs facing towards Caim.
Caim stands in front of them in a natural manner.
Caim talks in his usual flat voice to Vaiya, who doesn’t understand what is happening.
“These are the people who received instructions from Lord-sama together with me. For starters, we will drive the techniques, we know of, into Vaiya-sama.” (Caim)
“Eh? Drive into me means...” (Vaiya)
To Vaiya it looked like Caim’s eyes sparkled.
“From today onwards we will drive all of the “guidance”, we received from Lord-sama, into you with all our power. ... Please be somehow careful to not die.” (Caim)
“Haha... please don’t be too hard on me...” (Vaiya)
I might have made a slight mistake in my choice of whom to ask for help |
{
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} | 「そういうことであれば、受け入れてあげるわ」
「ありがとうございます」
マルファス、他の獣人たちから身を隠すように森を進み、旧ソードランテへやってきた。
両手を拘束されてはいるが、どうにかウェパルまで取り次いでもらう事に成功し、魔人族の軍へと入る事も了承を得た。
乗っ取った人間の城。そこは少し前、ソードランテの王と獣人族を救うために乗り込んだ熊獣人サルグが戦い、乱入したにまとめて殺された場所だが、ウェパルもマルファスもそんな事は知る由も無い。
謁見の間をそのまま使い、玉座に座るウェパルは、マルファスを見下ろしていた。
「ただ、人間の町に行った時に見たこと、知ったことをあますことなく教えてもらうわよ? それに一いう男についても、情報を貰うわね」
「わかりました」
ウェパルが出した条件に、マルファスは少しも考えるそぶりを見せなかった。
何も考えていないようにもみえるけれど、とウェパルは安易な方向に考えが傾いたが、この時期に転向者が現れたことを、受け入れたとはいえ不用意に信用できない。
「ところで、その獣人族とエルフ......人間もいたのかしらね。彼らはどうしたの?」
この質問には、マルファスも返答をためらった。
「......魔人族には勝てないからと、人間の、一二三を頼ると言っていました」
「私は人間の町を攻略するつもりでいるのだけれど、元の仲間と戦うことになるかもしれないわよ?」
「か、構いません。戦いに出てくるなら......それに、妹は戦場には来ません......多分......」
視線を逸らし、床を見て手かせのついた両手を握りしめたマルファスを見て、ウェパルは彼を素直な子供だと評価した。一二三に対する対抗心もそういう面から来ているのだろう。その分、単純ではあるようだが。
「なら、さっそくだけど実力と気構えを見せてもらうのに、一度戦場にでてもらおうかしら」
顔を上げたマルファスの表情は、しっかりと口を閉じて、ウェパルの言葉を待っていた。
「人間の国で、ヴィシーというところを調査したのよ。そこを本格的に押えるつもりだから、その攻略軍に入ってもらうわ。そこで貴方が私の役に立つということを示しなさい」
「わかりました。では、いつ出発ですか?」
「明日よ。攻撃開始も明日」
「えっ?」
意味が解らず、自分を見つめているマルファスの前で、ウェパルはゆっくりと立ち上がり、大きく両手を上げた。
「我が命に答え、遥かなる彼の地への道を示せ」
小さな黒点が現れたかと思うと、あっという間に直径三メートルはあろうかという巨大な板となり、黒々としてのっぺりとした表面が、ウェパルに向かって広がっていた。
「これは闇魔法の一つ。転移門よ。これでこの拠点から、一気に人間の国まで兵士を送り込むことができるの。だから、明日出発していきなり攻め込むことができるのよ」
腕を組み、自慢げに見下ろすウェパルに、マルファスは真顔で聞いた。
「これがあれば、最初の攻撃の時も......いえ、一二三の町へも直接乗り込んでいけるのでは......」
「うっ......。まあ、色々条件があるのよ。今はヴィシーにしか行けないの」
誤魔化すような口調になってしまったが、ウェパルが言った事は事実だった。死神から闇魔法の伝授を受け、一二三も使えない転移門作成ができるようになった。だが、適正や魔力量の関係上、ウェパルがあらかじめ設定した目印がある場所か、ウェパルが行ったことがある場所へしか移転できなかった。
しかも、今開いている大きさが限界だったりする。身体のサイズにもよるが、一~三人程度が限界の大きさなので、うっかり一二三の目の前に出ようものなら、転移した先で順番に殺されて終わりだろう。
なので、人間の国の近くで準備をするため、まずはヴィシーを攻略することになったのだ。そこまでは、一平卒扱いのマルファスには話すことは無いが。
漆黒の口を開いている転移門に感心しているマルファスの様子に満足していると、その闇から一人の少女が顔を出した。魔人族の軍に所属する、フェレスだ。
「あ。やっぱりウェパル様でしたか。兵舎に急に門ができたんで、みんなびっくりしてますよ」
「あ、そう? ごめんごめん。そうだ。ついでに彼を兵舎に案内してくれない? 手かせは外して良いから」
「は~い。じゃあ、こっちおいで」
するり、と門から出てきたフェレスに連れられ、マルファスもおっかなびっくり門を抜けて行った。
数秒待って、変化がない事を確認してから、ウェパルは門を閉じた。
「ふぅ......」
見栄を張って大きな門を開いたが、維持はさておき開くための魔力方を持って行かれる。軽い眩暈を伴う疲労感に、ウェパルは玉座へと身体を預けた。
「どうやら、使いこなしているようですね」
「死神......それは、皮肉かしら? 疲れ果てて椅子にもたれてかかっているのに」
「なにをおっしゃいますか。ここまで使えるようになっただけでも、大したものです」
燕尾服の痩せた男。死神はニヤニヤと張り付いた笑いを浮かべて、玉座の横に立つ。
「一二三だって使いこなしているのでしょう?」
「彼には彼の才能が有ります。事実、転移は使えませんし」
なぜ一二三が転移を使えないか、それは死神にもわからないらしい。“闇”というものに対するイメージや、本人の素養によって属性もその表現が変わる、と死神は説明したのだが、ウェパルは今一つ納得していなかった。
「それで、何をしに来たの?」
「お別れを申し上げに参りました」
「......そう。次はどこへ行って何をするつもり?」
ウェパルとしては、同じような魔法が使える者が増えるのは好ましくないと考えているが、死神という存在を縛り付ける術を持っていない。
「どこにも、というより、どこにでも行きます。どうやら、世の中が私の理想に近づきつつあるようですので。魔人族と、人間たちの連合が争いを始めるのです。多くの命が奪われるでしょうね」
舌なめずりをして、不気味に笑う死神に、ウェパルは目をあわせようとしない。
「悪趣味ね」
「そう言わないでいただきたい。これも私の仕事ですから」
「礼は言っておくわ。日蔭者だった魔人族が、もうすぐこの世界の主役へと変わる。それは多くの先祖たちの悲願だった......」
だが、それはウェパルの願いではない。
戦いは始めるが、戦いが続く世界を求めてはいない。
「魔人族が世の中を統べることができれば、逆に世界は平和になるのよ。そうすれば、貴方の好む世界ではなくなるけど?」
「なるほど......その時は、また何か考えるとしましょう。それでは、お元気で」
死神の姿が消えて、謁見の間には静寂が広がる。
石造りの壁に、重苦しい影がべったりと張り付いたような空間は、ウェパルの心境を表しているかのように、暗い。
「やってやるわよ。汚名をかぶってでも、戦争狂いどもの好きにさせるものですか」
魔力が少しずつ回復してきた身体に、気合をいれて立ち上がる。
明日から始まる本格的な侵攻。そこから、新たな魔人族の歴史が始まるのだ。
☺☻☺
「稽古を受けるのではなく、こうして見ているというのもまた違った角度から見られて素敵ですね......」
鼻息を荒くして、オリガはオーソングランデ騎士に稽古をつけている一二三を凝視している。
雨が降りそうなどんよりとした天気のため、最初の場所は野外では無く室内となった。本来ダンスホールとして利用される場所で、以前にバールゼフォンら騎士の一部が反乱を起こした際に、一二三によって彼らが血祭りにあげられた場所である。
今は綺麗に清掃されているが、夜な夜な腕や足を無くした幽霊を見たという噂がある。
そんなホールの床には絨毯が敷き詰められており、畳ほどではないが、それなりにはクッションとして役に立っている。
それでも固い床のうえ、午前中いっぱい受け身の練習をさせられた騎士たちは、身体中に痣を作りながらも、午後の稽古にも真剣に取り組んでいた。いつも装備している鎧は外し、厚めのシンプルな服を着て、懸命に汗を流している。
「力をいれすぎだ。お前は腕力だけでこいつを持ち上げられるか? 脱力して力の流れを感じろ。お前の力をコントロールできるのは当然だ。相手の力を思い通りに動かす技術を身に付けろ」
一二三は、指導をするときに怒鳴ることはほとんど無い。淡々と説明をして、場合によっては理詰めで動きを表現し、そのうえで体験させて証明する。
人差し指を掴ませて、指一本で投げ飛ばしたり、肩を撫でただけで転倒させるなど、傍から見たら眉唾ものだが、騎士全員がまず体験しているので、彼らの目は懸命に一二三の動きから何かを学び取るために必死だ。
そんな一二三を見ているオリガがどこにいるかというと、ダンスホールに入る入口のドアに張り付いていた。
何度か侍女や文官が通りかかったが、誰も声をかけようとはせず、オリガも彼らの存在を完全に無視して自分の世界にどっぷりと浸かっていた。
身体を開き、腕を振る一二三の胸元が大きく開いたり、受け身の手本を見せている時に袴がめくれて膝がちらりと見えた時などは、妙な声が出ていた。
運悪くそのタイミングで通りかかった侍女は、なるべく距離を取って早足で通り過ぎた。
「ここにおられましたか」
そんなオリガに声をかけたのは、オーソングランデ女王イメラリアだ。
「あら。女王陛下。どうされましたか?」
「今日は一二三様と共にオリガさんも城へと入られたと聞いて、お話をしたいと思って探していたのです。こちらにいる、と侍女の一人が教えてくれたので、折角なので騎士たちの様子を確認しようと思って来たのですが......何をしているのですか? いえ、それよりも、話をしているのですから、こっちを向いてください」
イメラリアが話している間も、オリガはドアの隙間に貼りついたまま動こうとしなかった。女王直々の注意にも、動くつもりは無いらしい。
「お話でしたら、このままでも可能です。一二三様のお姿を見ているのですから、邪魔をしないでください」
「......わかりました。では、そのまま聞いてください」
言い争いをしても意味が無い、とイメラリアは判断した。余計疲れるだけだろう、と。
「明日の夜、一二三様への“対応”についての話し合いを行います。明日もお稽古がありますから、今日と同じように一二三様とお城に来て、明日はそのまま泊まられると良いでしょう」
「......お覚悟が決まられたのですね」
「ええ、英雄を失う覚悟はできました。ですが、わたくしの命を差し出すつもりはありません。わたくしは卑怯者ですので、二重三重の守りを固めさせていただくつもりです」
オリガの背中に向かって、イメラリアは直立したまま話す。
ここへ来る途中、同行していたサブナクに指示を出し、しばらくは誰も通さないようにしているので、誰かに聞かれる心配は無い。
「具体的なことは、明日改めてご説明いたします。それと、もう一つですが......明日一晩、一二三様をお借りします」
イメラリアの言葉に、オリガは初めて振り返った。
その目は敵意を含む鋭いもので、イメラリアを竦ませるには充分だった。だが、ここ引き下がってはいけない、と話を続ける。
「一二三様自身の許可はまだですが......わたくしには彼の子供が必要だと考えています。今の魔人族対策は、ホーラントとの協力とフォカロルの戦力、プーセさんからの魔法技術の享受で充分でしょう。ですが、将来は? 人間との戦いに魔人族が慣れてきたとき、さらにそれに対応することができるでしょうか?」
「そんなものは将来の人間が考えることでしょう。なによりも、そのような政治的判断で夫の種を提供することに、私が頷くとでも思いましたか?」
「これは、一二三様が望む世界を作る為でもあり......ひっ!?」
気付けば、喉元にオリガの握る鉄扇が突き付けられている。
「続きを。私が納得できる話でなければ、いかな大罪になろうとも、ここで陛下には死んでもらいます」
怖い、とイメラリアは素直に震えていたが、それ以上に怒りが沸々と湧き上がる。
「無礼者! 誰に向かって武器を振るっているのです!」
「わかっていますとも。しっかりと」
それでも、オリガは鉄扇を引こうとはしない。
「いいえ。貴女は何もわかっていません! わたくしが、国の将来のためだけで、男性と一夜を共にする選択をするとでも思っているのですか!」
乾いた音が、廊下に響いた。
左頬を打たれたオリガは、黙ってイメラリアを見ている。
「望む居場所を手に入れた貴女にはわからないでしょうね。わたくしのように、家族を殺した相手を憎み切れずに、重責を負う場所であがき続けなければならない者の気持ちなど」
オリガは、答えない。
泣き出したイメラリアを、ただ見ていた。
「こんな理由を付けてでも、たとえ封印して二度と会えなくなる相手でも、その人がいた証が欲しい。その人との繋がりを実感したい。それすら望むなと言うのですか。何様ですか貴女は! わたくしは......」
そこには、一国の女王などいなかった。最低の行為だと知りながら、好きな相手と結ばれたいと泣いている一人の女性がいた。
「わたくしの負けは認めます! あの方の傍にいるのは最期までオリガさんでしょう。ですが、それでも欲しいものがあるのです」
泣き声がホールへと聞こえないよう、少しだけ開けていたドアを後ろ手に閉じたオリガは、鉄扇を腰の後ろへと納めた。
「......一二三様に聞いてください。私は、何も聞かなかったことにします」
「オリガさん......」
「独り占めするには、あの方の存在が大きすぎるのは重々承知しています。ですが、私にも正妻としての維持があります。一つだけ、約束をしてください」
オリガは、そっと跪く。
「子を成したとき、その父親について誰にも言わないでいただきたく存じます。誰に問われても、決して教えぬようにお願いいたします」
「そっ......!」
深呼吸をして、願いに答える。
「わかりました。もとより、誰にも言えることではありません」
明日、また会いましょう、と別れの挨拶をしたのはイメラリアの方だった。まだ、身体の芯に残っている恐怖と緊張が、膝を震わせる。
廊下の向こうへと消えていくイメラリアを見送り、衣装の乱れを直したオリガは、再び一二三観察へと戻った。
「夫が人気者だと大変ですね......それにしても」
薄く開かれた扉の隙間から除く目が、笑みで歪んだことに、誰一人気付くものはいない。
「一二三様が目指す“新しい世界”は、とてもとても素敵なものになりそうです。永遠に二人きり、封印されているのも素敵ですけれど、もし、誰かが封印を解くことがあれば......ああ、まだ見ぬ未来。戦いと死に彩られた世界。一二三様、もうすぐです。もうすぐ、私と二人で......」
午後の稽古が終わり、騎士の一人が扉を開けた時、そこにオリガの姿は無かった。 | “If that’s how it is, I will accept.”
“Thank you very much.”
Malfas advanced by himself through the forest to hide himself from the other beastmen and finally arrived at the former Swordland.
Both his hand have been bound, but after somehow succeeding in being let through to Vepar, he obtained permission to join the demon army.
The occupied human castle. It’s the place where the bear beastman Salgu, who stormed in to save the beastmen, fought against Swordland’s king a while ago, and where both of them were killed by Hifumi who barged into their fight, but there’s no way for Vepar and Malfas to know about that taking place.
Using the audience hall as is, Vepar, who sat on the throne, looked down upon Malfas.
“However, can I have you tell me the things you learned and saw at the time you went to the human cities without holding back anything? In addition, I will have you give me all the information you own about a man called Hifumi.” (Vepar)
“Understood.” (Malfas)
Malfas didn’t show the slightest hint of pondering over the conditions named by Vepar.
but for a convert to appear at this phase; I can’t carelessly trust him although I did accept him joining us.
“By the way, I think there were also humans with... those beastmen and elves, weren’t there? What happened to them?” (Vepar)
Malfas hesitated to give an answer to this question.
“... They said that they would rely on the human Hifumi since they can’t win against the demons.” (Malfas)
“I have the intention to capture human cities, so you might have to fight against your former comrades, correct?” (Vepar)
“I-I don’t mind. If they come out to fight... besides, my sister won’t appear on the battlefield... probably...” (Malfas)
Watching Malfas who tightly grasped both his handcuffed hands while averting his gaze by looking on the floor, Vepar assessed him to be a honest child.
“In that case, though it’s abrupt, I guess I’d like you to appear on the battlefield once to have you show me your resolve and ability.” (Vepar)
The expression of Malfas, who raised his head, showed him keeping his mouth shut tightly while waiting for Vepar’s words.
“I investigated the state called Vichy among the human countries. I plan to genuinely gain full control of that place, therefore I will have you join the invasion army. Thus, demonstrate your usefulness to me.” (Vepar)
“Understood. So when will I depart?” (Malfas)
“Tomorrow. The start of the invasion is tomorrow as well.” (Vepar)
“Eh?” (Malfas)
In front of Malfas, who stares at her while not understanding what she has said, Vepar slowly stood up and raised her hands in a big manner.
“Answer to my life force and show me a path to that distant place.” (Vepar)
No sooner than her saying that, a small black spot appears and turns into a huge circle with a diameter of possibly three meters in the blink of an eye. Its surface that was flat and deep black spread while heading towards Vepar.
“This is a darkness spell. A transfer gate. With this I can send soldiers from this location to the human country at once. That’s why you will be able to suddenly attack after departing tomorrow.”
With a serious look, Malfas asked Vepar, who proudly looks down on him with her arms folded,
“If you have this, even at the time of the first attack... no, you will be able to directly invade into Hifumi’s city...” (Malfas)
“Ugh... Well, there are various conditions. Currently we can’t transfer anywhere except for Vichy.” (Vepar)
She phrased it in a way that made it apparent that she’s dodging the matter, but what Vepar said were facts. Receiving instructions in dark magic from the death god, she became able to draw up plans that use transfer gates which even Hifumi can’t use. However, on top of being influenced by compatibility and mana, Vepar couldn’t transfer anywhere besides places, which possess landmarks that were set up in advance, or places Vepar already visited once.
Moreover, the current size of its opening was the limit. Given the limit of its size that allowed around ~ people to pass through at once depending on their body sizes, they would likely be killed one after the other at the transfer destination if they thoughtlessly appeared in front of Hifumi.
Therefore she decided to first capture Vichy in order to prepare close to the other human countries. Though that’s nothing she would tell Malfas who is treated as common soldier.
Once she’s satisfied with the look of Malfas, who admires the transfer gate with its jet black opening, a single girl appeared from within that darkness. It’s Pheres who belongs to the demon army.
“Ah, it was you after all, Vepar-sama. Everyone got startled when the gate suddenly appeared in the barracks.” (Pheres)
“Oh, really? Sorry, sorry. Ah right, can you guide him to the barracks on this occasion? You can take off the handcuffs.” (Vepar)
“Yeees~. Come this way then.” (Pheres)
Being led by Pheres who came out of the gate speedily and without delay, Malfas fearfully went through the gate as well.
After waiting for several seconds and making sure that there’s no change, Vepar closed the gate.
“Phew...” (Vepar)
She opened a big gate to put on airs, but it takes % of her mana to open such a gate, leaving aside maintaining it. Vepar entrusted her body into the throne due to her exhaustion that was accompanied by a light dizziness.
“Anyway, it seems like you got a handle on it, doesn’t it?”
“Death god... are you sarcastic? Even though I have to sit on the chair out of exhaustion.” (Vepar)
“What are you saying? Just being able to use it up to this point is already a great achievement.”
A skinny man in a tailcoat. The death god stands next to the throne while showing a creepy grin.
“He has the talent to do so. However, in fact he can’t use gates.”
Even the death god apparently doesn’t understand why Hifumi can’t use transfer gates. “The manifestation of the attribute also changes depending on the person’s elementary attainments and their image to what is called
“So, what did you come here for?” (Vepar)
“I visited you to bid farewell.”
“... I see. Where do plan to go next and what do you intend to do there?” (Vepar)
Vepar believes that it’s not very desirable for the number of people, who can use similar magic, to grow stronger, but she doesn’t possess any means to tie down the existence called death god.
“Everywhere, or rather, I will go anywhere. It appears that the world is in the process of approaching my ideal. A conflict between the demons and an alliance of humans is going to start. Many lives will likely be lost.”
Vepar tries to not match her eyes with the death god who laughs eerily while licking its lips.
“You have a bad taste, you know?” (Vepar)
“I’d like you to not say that. After all this is also my job.”
“I shall give you my gratitude. The demons, who always existed in the shadows, will very soon become the leading actors of this world. That was the dearest wish of many of our ancestors...” (Vepar)
However, that’s not what Vepar wishes for.
She will initiate the battle, but she doesn’t wish for a world full of fighting.
“If the demons manage to control this world, the world will become peaceful in reverse. Once that happens, your preferred world will vanish, won’t it?” (Vepar)
“Indeed... I suppose I will come up with something new at that time. Well then, stay healthy.”
The figure of the death god vanishes and silence spreads throughout the audience hall.
The room, where oppressive shadows seem to stickily cling to the stone walls, is gloomy, as if expressing Vepar’s mental state.
“Let’s get the party started! I guess I will have the battle maniacs do as they please even if I fall into infamy.” (Vepar)
While firing herself up, she stands up as her body was slowly recovering its mana.
The full-blown invasion will start tomorrow. The new history of the demons will begin from there.
☺☻☺
“Being able to watch him like this from a yet another angle while not going through training myself, he’s dreamy...” (Origa)
Origa gazes at Hifumi, who is training the knights of Orsongrande, while breathing roughly through her nose.
Because the weather looked like it would rain, their first training spot wasn’t outside, but indoors. It a place that’s usually used as dance hall and the location where Hifumi caused a bloodbath among the knights around Balzephon when they started a revolt before.
Right now it has been cleaned up prettily, but there are rumours that you can see ghosts, who lost their arms and legs, every night in there.
The floor of that hall has been covered by a carpet, which is useful as cushion to a certain extent, though it’s not to the degree of a tatami.
Even so, the knights, who were forced to do plenty of ukemi training on top of the hard floor this morning, seriously tackled the afternoon’s training even while having bruises from head to toe. Having removed their usual armour and wearing simple, thick clothes, they are working hard and earnestly.
“You are putting too much power into it. Can you lift up this guy with just your physical strength? Relax and feel the flow of power. It’s only natural for you to be able to control your own strength. Master the skill to make use of the opponent’s strength as you like.” (Hifumi)
Hifumi almost never shouts during the times he teaches others. He explains it dispassionately, rectifies the motions with logic depending on the situation, and in addition proves his argumentation by making his students personally experience it.
Things like making them grab his index finger and hurling them with just that one finger or making them fall down with a simple grazing of his shoulders look fake if seen from the sideline, but since all the knights experience it themselves, their eyes are frantically watching Hifumi’s movements to gather any knowledge they can.
If one were to ask where to find Origa, who is watching Hifumi, you would see her clinging to the entrance door of the dance hall.
Maids and civil officials passed by several times, but as none of them tried to call out to her, Origa completely immersed herself in her own world while totally ignoring their existence.
She leaked strange voices at times when she could catch fleeting glances of Hifumi’s knees due to the hakama coming off during the times he was showing ukemi patterns or when his chest widely showed due to him swinging his arms and spreading his body.
A maid, who unluckily happened to pass at one of those moments, went past Origa with a quick pace while taking as much distance as possible.
“So you were here?” (Imeraria)
The one who spoke up to Origa in that state was the queen of Orsongrande, Imeraria.
“Oh my. Your Majesty the Queen, how may I help you?” (Origa)
“I heard that you had entered the castle together with Hifumi-sama today, so I searched for you as I wanted to talk with you. Given that I was told by a maid that you are over here, I planned to check on the state of the knights since it’s a rare chance, but... what are you doing? No, even before that, please turn this way as I’m currently talking to you.” (Imeraria)
Even while Imeraria was talking, Origa clung to the gap in the door and didn’t show any intention to move. It doesn’t look like she has any plans to change that even after being directly cautioned by the queen.magic
“If you want to chat, it’s possible to do it like this as well. Please don’t be a hindrance to my observations of Hifumi-sama.” (Origa)
“... I understand. Well then, please listen to me just like that.” (Imeraria)
‘It’s pointless to even argue with her’, Imeraria judged. ‘It will only tire me out unnecessarily.’
towards Hifumi-sama. Since there will be a training session tomorrow as well, I think it will be fine for you to come to the castle with Hifumi-sama just like today and stay over.” (Imeraria)
“... That means you have made your decision, doesn’t it?” (Origa)
“Yes, I was able to resolve myself to part with the hero. However, I don’t have any intention to offer my life for it. Since I’m a coward, I plan to fortify my protection several fold.” (Imeraria)
Imeraria talks towards Origa’s back while standing upright.
On the way of coming here, she has issued instructions to Sabnak who accompanied her, and since she has made sure that no one will pass through this place for a while, there’s no worry that she will be heard by anyone.
“The exact details I will explain tomorrow. And, there’s one more thing... I will borrow Hifumi-sama tomorrow night.” (Imeraria)
Origa turned around for the first time due to Imeraria’s words.
Her eyes that were sharp and full of hostility were plenty enough to make Imeraria freeze. However, thinking
“I still need permission of Hifumi-sama himself, but... I believe that his child is necessary to me. The current countermeasures against the demons are probably sufficient with the magic skill support from Puuse-san, the combat power of Fokalore and the cooperation with Horant. But, what about the future? Once the demons adapt to the fighting with humans, they will be capable of dealing with us even better, right?” (Imeraria)
“I believe that’s something the future humans have to think about. Above all else, did you really think that I would simply nod to offering my husband’s seed due to such political reasoning?” (Origa)
“This is also for the sake of creating the world Hifumi-sama wishes for... hii!?” (Imeraria)
Before she notices, the iron-ribbed fan of Origa has been thrust in front of her throat.
“Go on. If you fail to persuade me, I will have you die here, without a care what grave crime it might be, Your Majesty.” (Origa)
‘Scary’, Imeraria trembled meekly, but beyond that, her rage surges out.
“What rudeness! At whom do you think you are pointing your weapon!?” (Imeraria)
“I know that, too. I really do.” (Origa)
However, Origa doesn’t show any inclination to withdraw her fan.
“No, you don’t know anything! Do you believe that I’m choosing to spend a night with a man just for the sake of the country’s future!?” (Imeraria)
A short, dry sound echoed through the corridor.
Origa, who struck the left cheek of Imeraria, silently looks at her.
“You, who obtained your desired place where you belong to, likely don’t understand. The feelings of someone like me who has to continue struggling in a position of bearing heavy responsibility while unable to hate the person who killed my family.” (Imeraria)
Origa doesn’t reply.
She simply looked at Imeraria who burst into tears.
“Even if you give me such reason, I’d like to have proof that this person existed even if it’s someone I will never meet again after sealing them. I want to personally experience a relationship with that person. Are you telling me to not even wish for that? Who do you think you are!? I am...” (Imeraria)
The one present there wasn’t the queen of a whole country. It was a single woman who cries as she wants to bond with her beloved partner while being well aware the act in itself is the lowest.
“I approve that it’s my defeat! The one who will stay by that person’s side to the very end will likely be you, Origa-san. But, even so there’s something I want.” (Imeraria)
Closing the the slightly opened door so that Imeraria’s sobbing won’t be heard in the hall with the hands behind her back, Origa stored the fan at the back of her waist.
“... Please ask Hifumi-sama. I will pretend that I never heard any of this.” (Origa)
“Origa-san...” (Imeraria)
“I’m very well aware that his existence is far too big for me to monopolize him. But, even I have my dignity as his legal wife. Please promise me just one thing.” (Origa)
Origa kneels down quietly.
“At the time you bear his child, I’d like you to not tell anyone about the child’s father. I beseech you that you definitely don’t tell anyone even if someone asks you.” (Origa)
“Su...!” (Imeraria)
After taking a deep breath, Imeraria answers Origa’s request,
“Understood. It’s not something I can tell anyone to begin with.” (Imeraria)
“Let’s meet again tomorrow”, were the parting words from Imeraria’s side. The tension and fear, which are still lingering in the core of her body, cause her knees to tremble.
Seeing off Imeraria, who disappears towards the other side of the corridor, Origa fixed he dishevelled dress and returned to observing Hifumi once again.
“It’s a big problem that my husband’s popular, isn’t it...? At any rate...” (Origa)
There’s no one present to notice her eyes that are peeking through a gap in the slightly opened door distorting into a smile.
“It looks like the
Hifumi-sama aims for will become a very lovely place. Being sealed together for eternity is dreamy too, but if someone ever undoes the seal... yeah, a yet unpredictable future. A world dyed by death and battle. Hifumi-sama, it will happen very soon. Very soon the two of us...” (Origa)
Once one of the knights opened the door when the afternoon training finished, Origa wasn’t present anymore. |
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} | ホーラントとの国境警備にあたっていた兵たちからの連絡が無く、遠目から監視していたビロン伯爵領の兵たちによって、国境周辺がすでにホーラント兵で固められているとの状況報告が届いたとき、ビロンの執務室にはイメラリアとサブナクの姿があった。
報告を聞き終わり、ビロンはイメラリアに向き直り、深々と頭を下げた。
「陛下。国境に領を持つ臣として、此度の損害は私の不徳の致すところと痛感しております。いたずらに陛下の兵を失いました事、その責はこのビロンにございます」
「いいえ、それは違います。ビロン伯爵」
面を上げるように促したイメラリアは、ビロンには何ら落ち度は無いと断言した。
「全てはアスピルクエタと彼に協力しと、ホーラントにあります。ビロン伯爵、貴方は自らの兵によってアスピルクエタたちを捕縛したという功績はあれど、責を負うべき点はありません」
「......ありがとう存じます」
「わたくしたちが今やるべきは、ホーラントへの対応です。ビロン伯爵、協力をお願いいたします」
「御意のままに」
状況報告についてさらなる吟味を行うため、ビロン伯爵の館は臨時でイメラリアが滞在する指揮所とされ、国軍はミュンスターの中にある建物に分宿することになった。
そして、当日のうちに肝心のホーラントへの対応に付いての軍議が開かれると、最初に口を開いたのはサブナクだった。
「まず気になる事があります。ホーラントは前回のトオノ伯爵による攻撃によって手酷いダメージを負っています。誰よりも彼の力を知っており、また少数ゆえ対抗することができませんでしたが、彼の持つ領軍の戦闘力についても解っているはずなのですが」
「なぜ、オーソングランデの警備兵やフォカロル教導部隊に対して攻撃をしたのか、ということか」
サブナクの疑問を受け、ビロン伯爵が確かに、と頷いた。
「名分としては“オーソングランデから攻撃を受けた”というところですか」
「あるいは、フォカロル領教導部隊を“侵入者”として扱うという事も考えられます。我が方に目撃者がいるというわけではありませんので、ホーラント側でどうとでも言えることですね。おそらくは、さん......トオノ伯に対抗しうる何かの準備ができたのでしょう」
ビロンが用意した軍議の場にいるのは、イメラリアとサブナク、ビロンだ。一人の侍女が飲み物を用意するために待機しているが、他の護衛たちは全て部屋の外に待機している。
紅茶を傾けたサブナクに、イメラリアは首を傾げた。
「対抗しうる何か、というと強力な魔法や武器、といったところでしょうか」
「中途半端な話で申し訳ありませんが、ホーラントといえば魔法でしょう。あるいは何かしらの魔法具の開発ができたのかもしれません」
当然ながら決定的な資料もない状態では有効な対策も立てられず、あれこれと言葉を交わしながら時間だけが過ぎていく。
一時間程経ち、埒があかないので現状の見直しをしましょう、とイメラリアが発言した時、サブナクが手をあげた。
「よろしいですか」
「何か思いつきましたか?」
「状況がわからないのであれば、見に行きましょう」
サブナクの発言に、イメラリアもビロンもキョトンとしている。
「ええっと......サブナクさん、見に行くというのは?」
「そのままの意味です、陛下。情報が無ければ現場を見に行くのが一番手っ取り早いのです。これは一二三さんからの受け売りですが、あれこれ考え込んでいても答えはでません。わからないならそこへ行く。それが一番早くて正確です」
「言うのは簡単だけれどね」
ビロンは眉間を抑えながら言う。
「誰がそれをするんだね? トオノ伯のように個人として強力な人物なら、怖いものなしでどこへでも入っていけるだろうけれど」
「それはもちろん、ぼくが行きますよ」
言い出した責任がある、とサブナクは立ち上がる。
「ご存知の通り、ぼくは第三騎士隊の隊員として捜査関係は慣れています。連れてきた中にも第三騎士隊出身が何人かいます。多少は一二三さんから教わったこともありますし、ちょっと遠くから自分の目で確認しに行くだけですよ」
だから大丈夫です、と笑うサブナクを見て、イメラリアも立ち上がる。
乗馬用のぴったりとした服を着て、胸を張っても凹凸の感じられないスレンダーな体つきは相変わらずだが、ビロンはそれでもどこか大人びた自信のようなものを感じられた。
(こんな顔をするようになったのか)
イメラリアが生まれた頃から、何度か王城で見てきたビロンは、まだまだ小さかった頃の彼女を思い出していた。懸命に周りの人々のために何かしなければと焦っては、空回りしている子供の印象だった。
それが、今は国を背負う女王となって、誰かのためではなく、国を動かし何かを成すために立ち上がっている。
だが、イメラリアの発言はそんなビロンすら頭を抱えた。
「わたくしも行きます」
「ちょ......」
「わたくし自身が自ら確認する事が大切なのです。何も知らないまま、兵たちを死地に向かわせるような真似を、わたくしにせよと言うのですか?」
「き、危険です、陛下!」
「あら?」
顔の前にかかった髪をさらりと払い、イメラリアは不敵に笑う。
「遠くから確認するだけなのでしょう? 警備をお願いするのは心苦しいのですが、馬上で確認してそのまま撤退すれば問題無いでしょう。サブナクさん、人選をお願いいたしますね。明朝、出立して国境の状況を確認します」
命令として断言されては、サブナクもそれ以上は反対できない。
そのまま軍議は終了し、準備のためにサブナクがいち早く退室する。
「イメラリア陛下」
「なんでしょう、ビロン伯爵」
「私は、陛下が偵察に向かわれるのは反対です」
面と向かって反対されたイメラリアは、目を丸くして硬直し、返事ができずに座ったまま、ビロンの顔を見ている。
しばらく顔を見合わせたあと、ビロンはいつもの柔和な笑みに戻った。
「ですが、陛下がそうしたいと言われるのであれば、それを支えるのが臣たる者の
ほっとした顔を見せたイメラリアに、ビロンは侍女に命じて砂糖入りの暖かい紅茶を用意するように命じる。
「陛下。私の放った伝令から状況を聞かれたという事ですが、彼はどうしました?」
「なんでも、フォカロル教導部隊の方との約束があるとか。その情報がフォカロルに届けば、一二三様やアリッサさんがここへ来るでしょうね」
ふぅ、と紅茶に息を吹きかけ、紅茶の甘い香りを愉しむ。
「そうなる前に、わたくしの力......と言っても、皆さんにご協力いただいてのことなのは承知のうえですが、わたくしのやり方で、わたくしの指揮で結果を出さねばなりません」
「わかりませんな。何をそんなに焦っていらっしゃるのです。私などは、トオノ伯が片付けてくれるなら、それで良いと思うのですが」
「理由は二つです」
カップを置いて、イメラリアは小さな焼き菓子を一つ、優雅な手つきで口に入れた。
「一つは、一二三様だけに戦果が集中するのを避けるためです。今の時点で彼が陞爵するのは早すぎますし、民衆の人気が集中しすぎると、国内のバランスが崩れてしまいます」
と、頷いてはいるものの、ビロンにもそれくらいは想像がつく。
「二つ目は個人的なものですわ」
「それは、教えていただけないので?」
クスリと笑い、イメラリアは薄い口紅をひいた唇をカップにつけ、甘い紅茶で湿らせた。
「あまり、レディの秘密を探るのは感心しませんよ、ビロン伯」
「これはこれは、失礼いたしました」
「そうですね......わたくしが一人前の敵に成れるのだと示すためですわ」
「敵、ですか......」
紅茶の礼を言い、イメラリアが退室するのをビロンは立ち上がって見送った。
「これは、一度話をしておいた方が良いかもな......」
いずれ来るであろう一二三に聞くべき事がある、とビロンは王都の方面を見つめた。
「やれやれ、モテる男は罪だということか」
☺☻☺
「暇だ」
宿の一室で、ベッドに座ったまま一二三はポツリと呟いた。
ビロン伯爵嶺ミュンスターまであと一日もあれば着く距離にある町にいるのだが、一二三たちはここでフォカロル領軍と合流するつもりでいた。
オリガとアリッサは兵たちが野営するための場所を確保するために町の代官に話をつけに出ている。
本来であれば、一人でもさっさとホーラントに乗り込んで、状況を引っ掻き回し、隙あらば人を殺して回るのだが、自分でアリッサに任せると言ってしまった手前、それもできずにいた。
「よく考えたら、本も流通していないし、これといった娯楽というのが無いわけだ。人を殺すのが楽しくて気がつかなかった」
失敗した、と今更ながら一二三は肩を落とし、仕方ないと言いながら、刀を取り出して柄糸を解いていく。
しばらくやっていなかった刀の手入れをして、オリガたちが帰ってきたら何か食べにでも行こうかと考えたのだ。
「何やら、すっかり落ち着かれたようですね」
「死神か。何の用だ?」
不意に声をかけられても、一二三は少しも動じずに目釘を抜きにかかる。
「いやいや、計画が順調に行っているようで、少しご挨拶をと思いましてね」
「順調......といえばそうだな。おかげでこんな所で留守番させられているわけだが」
「より大きな果実を得るためには、育つのを待つことも必要なのですよ」
それで、と一二三は慣れた手つきで刀身に打込を当てていく。
「暇をしている俺に、説教をしに来たのか。暇な奴だな」
「仕事を押し付けておいて、それはないでしょう」
すっかり復活した全身を揺らして笑い、燕尾服の襟を指先でつまんで整えると、死神は一二三の向いにある椅子に腰を下ろした。
「魔人族は準備が出来次第、荒野に覇権を広げるつもりのようですね。新しい魔人族の王は、人間とやりあうかどうかは未定のようです。今は、ソードランテに対してどうするかを考えておられるようで」
「ウェパルか......変に安全を選んで引き込まれても困る。獣人連中には勝てるだろう。エルフにもな。レニあたりがやってるような融和政策に巻き込まれる可能性が多少はあるが、それはあいつら次第だろう」
だがなぁ、と一二三は頭を捻りながら、打込を拭った刀をじっくりと見ている。当然だが、傷一つない美しい刀身は、小窓から入る光を反射して妖しく光っていた。
「獣人が平和的解決を模索し、人間は相争う状況とは。人々が亜人を蔑むというのも、こうして見ると皮肉が効いて愉快ですね」
痩せた顔をぐにゃりと歪めて笑う死神に、一二三は目もくれない。
「しかしながら、貴方にしてみればもっと争いが起きて欲しいのでは? 私としても、人間以外も殺し合ってくれた方が良いのですがね」
「そうか」
「そうですよ」
刀身に油を薄く塗りつけ、再び柄を取り付ける。
「それなら、いい方法があるぞ」
「窺いましょう」
「ウェパルのところに行って、魔人族の神でも名乗って色々と知恵をくれてやれば良い。そういう、言葉で人を弄するのは得意だろう」
「頭脳派と言ってくださいよ」
目釘を打ち、柄糸を丁寧に巻いていく。
「評判なんざ他人が決めるもんだ。好きにできると思うな」
「これでも、神様なんですけどね」
「神でもそうだろう。ある場所で良い神と言われても他のところでは祟り神扱いされる」
手入れの終わった刀を右手で軽く振り、ぐらつきが無い事を確認すると、鞘に納める。
「別にソードランテを潰しても良いし、協力して人間と戦うなら、それはそれで良い」
道具を収納に放り込むと、立ち上がって刀を腰に差す。
「とにかく、真剣に戦う事に頭を使う連中を増やすことだ。それでなくては、お前の言う収穫の時に腹いっぱいに貪る事ができん。量が多くても、味が悪ければ意味が無い」
「おやおや、贅沢なことで。では、ご提案の通りにいたしましょう」
死神が姿を消すと同時にノックの音が響き、満面の笑みを浮かべたオリガが入ってきた。
「よろしいですか、あなた」
「用は済んだのか?」
「ええ、あとはアリッサがやるそうです。それで、その......」
頬を染めてもじもじと言いづらそうに両手の指を絡ませ、オリガはちらちらと一二三の顔を見る。
「町のギルドを覗いてきたのですけれど、近くに盗賊団の住処があるそうです。それで、良かったら、その、一緒に......」
ごくり、と唾を飲み込み、オリガは拳を握った。
「今晩、一緒に盗賊を殺しに行きませんか?」
「お前は俺をなんだと思っているんだ」
と言いながら、一二三はあっという間にドアノブに手をかけていた。
「詳しい場所と盗賊団の規模を聞きに行くぞ。ギルドまで案内してくれ」
もちろん、オリガは大喜びで頷いた。 | Imeraria and Sabnak were in the office of Biron at the time a situation report about Horant’s soldiers having already reinforced the border’s vicinity arrived from the soldiers of Biron Earldom, who are observing the circumstances from afar as there are no messages from the soldiers serving as border security against Horant.
After finishing listening to the report, Biron turned around to Imeraria and bowed his head very deeply.
“Your Majesty. As retainer possessing a territory at the border, I fully realize that the losses at this occasion have been brought about by my lack of virtue. The responsibility for having uselessly lost Your Majesty’s soldiers lies with this Biron.” (Biron)
“No, that’s wrong, Earl Biron.” (Imeraria)
Imeraria, who prompted him to lift his face, declared that there’s no kind of mistake from Biron’s side.
“All of it is due to Aspilketa, the group who cooperated with him and Horant. Earl Biron, you obtained the achievement of having captured Aspilketa’s group with your own soldiers and there’s nothing for which you should take responsibility.” (Imeraria)
“... I feel very thankful.” (Biron)
“What we should currently do is to deal with Horant. Earl Biron, please lend us your assistance.” (Imeraria)
“At your will.” (Biron)
For the sake of carrying out further careful investigations of the situation report, the mansion of Earl Biron was assigned as command post, where Imeraria will be temporarily staying, and the royal army was billeted in buildings located in Münster.
And, the very day they opened a war council in regards to coping with Horant, the one who opened his mouth first was Sabnak.
“First there’s something I’m worried about. Horant received severe damage by the previous attack of Earl Tohno. Knowing that man’s power better than anyone, they couldn’t oppose him because of their still few numbers and they should be also aware of the fighting strength of the feudal army that man possesses.” (Sabnak)
“Why did they attack Orsongrande’s guards and the instruction unit from Fokalore, is what you are asking?” (Biron)
Agreeing with Sabnak’s doubts, Earl Biron nodded and said “Certainly.”
“As justification it can be described as “we suffered an attack from Orsongrande?”
“Or it’s also possible to consider the situation as them treating the instruction unit of Fokalore as “invaders.” Since it’s not like it was witnessed by our side, Horant’s side can phrase it either way. It’s likely that they were able to prepare something enabling them to oppose Hifumi-san... Earl Tohno.” (Sabnak)
The ones present at the site of the war council prepared by Biron are Imeraria, Sabnak and Biron. A single maid is on standby in order to provide beverage, but all of the other guards are waiting for orders in another room.
Imeraria tilted her head to the side due to Sabnak who drank a black tea.
“Something that’s capable of opposing him, that means something such as powerful magic or weapons?” (Imeraria)
“Excuse me for leaving the argument unfinished, but if we are speaking of Horant, it’s likely magic. Or it might be that they were able to develop some magic tool.” (Sabnak)
Of course, as they are unable to find effective countermeasures in this state where there’s no definite data, they are just spending their time while exchanging words about this or that.
At the moment Imeraria stated, “Let’s review the current situation since we haven’t made any progress after around one hour passed”, Sabnak raised his hand.
“May I?” (Sabnak)
“Did you come up with something?” (Imeraria)
“If we don’t understand the circumstances, let’s go have a look.” (Sabnak)
Imeraria and Biron stare blankly due to Sabnak’s remark.
“Umm... Sabnak-san, go and have a look means?” (Imeraria)
“It means just what I said, Your Majesty. If one lacks information, it’s easiest to go and have a look at the actual site. This is a second-hand opinion from Hifumi-san, but we won’t reach an answer even if we ponder about one thing or another. If you don’t comprehend, then go there. That’s the fastest and most accurate ((solution)).” (Sabnak)
“That’s easy to say.” (Biron)
Biron says while curbing his brows,
“Who will do it? If it’s an individually strong person like Earl Tohno, they are likely capable of going anywhere without fearing anything.” (Biron)
“Of course I will go.” (Sabnak)
“Having proposed it, it’s my duty”, Sabnak stands up.
“As you might know, I’m familiar with investigations as ((former)) member of the Third Knight Order. There are several originating from the Third Knight Order among those we brought along. I have also been taught a bit by Hifumi-san. I will just go to check ((the situation)) with my own eyes from a little distance.” (Sabnak)
Seeing Sabnak smiling while saying “thus it will be alright”, Imeraria stands up.magic
Wearing clothes that fit perfectly for horse riding, her slender figure, where you can’t experience any unevenness even if she throws out her chest, is the same as usual, but even so Biron was able to feel something like matured self-confidence in some respects.
(She reached the point that she can make such a face, huh?)
Biron, who saw Imeraria several times in the royal castle since her birth, remembered her at the time she was still much smaller. She gave the impression of being a child that was spinning her wheels in impatience if she couldn’t earnestly do something for the people in her surroundings.
Now she has become a queen who is responsible for a country and she is taking action no longer for the sake of someone but to accomplish something by changing the country.
However, even Biron was at his wit’s end due to Imeraria statement.
“I will go as well.” (Imeraria)
“Wai...” (Biron)
“It’s important for me myself to personally confirm the situation. Or are you telling me to send the soldiers to their death while not knowing anything?” (Imeraria)
“I-It’s dangerous, Your Majesty!” (Sabnak)
“Oh?” (Imeraria)
Smoothly wiping away the hair which shifted in front of her face, Imeraria smiles daringly.
“It’s just confirmation from a distance, right? Though I feel sorry for requesting guards, it probably won’t be any problem if we withdraw by horse after checking. Sabnak-san, please select the personnel. We will depart tomorrow morning to check the state of affairs at the national border.” (Imeraria)
Having stated it as an order, Sabnak is unable to object any further.
After ending the war council as is, Sabnak quickly exits the room to prepare.
“Your Majesty Imeraria.” (Biron)
“What is it, Earl Biron?” (Imeraria)
“I’m against Your Majesty heading out for reconnaissance.” (Biron)
Imeraria, who received the objection face to face, stiffens while staring in wonder at Biron’s face and sat down unable to give an answer.
After looking at each other’s face for a little while, Biron turned back to his usual, gentle smile.
“However, if Your Majesty tells me that you want to do so anyway, I will carry out my role as retainer by supporting you in that. Because I will accompany you tomorrow as well, it will be fine for you to observe the enemy’s movement’s until you are satisfied.” (Biron)
Due to Imeraria showing an expression of relief, Biron orders the maid to prepare warm black tea with sugar.
“Your Majesty. It’s about the situation I’ve been told by the messenger I sent out, but how did he do?” (Biron)
“I understand that he has a promise with a person from Fokalore’s instruction unit or such. Once those news reach Fokalore, Hifumi-sama and Alyssa will probably come here.” (Imeraria)
Cooling down her black tea by blowing with a “fuu~”, she enjoys the black tea’s fragrant aroma.
“Before that happens, with my power... or better said, although it’s based on the knowledge that I will receive the assistance of everyone, we have to produce results under my command with my way of doing thing.” (Imeraria)
“I don’t understand. What’s making you hurry that much? If it’s cleaning up after Earl Tohno, someone like me believes that’s fine as well.” (Biron)
“There are two reasons.” (Imeraria)
Putting down the cup, Imeraria put one small baked sweet in her mouth in a graceful manner.
“First, it’s in order to avoid the military gains concentrating on just Hifumi-sama. At the current point in time he is far too quick in his rising of peerage. If he gathers too much of the populace’s popularity, the internal balance of the kingdom will end up thrown into disarray.” (Imeraria)
Although he is nodding while saying that, even Biron can imagine at least this much.
“The second reason is a private one.” (Imeraria)
“It’s not possible to tell me?” (Biron)
Slipping a chuckle, Imeraria placed her lips, which had a thin layer of lipstick applied, on the cup and wetted them with the fragrant black tea.
“Probing too much into the secrets of a lady isn’t very well-received, Earl Biron.” (Imeraria)
“My, my, I’m very sorry.” (Biron)
“Let’s see... it’s for the sake of demonstrating him that I can become a fully-fledged enemy for him.” (Imeraria)
“Enemy, it is...?” (Biron)
Biron stood up and saw Imeraria, who exited the room after thanking for the tea, off.
“It might be better to talk about this once...” (Biron)
The are things I should ask Hifumi who is likely coming here sooner or later
“Good grief, is being a popular man a crime?” (Biron)
☺☻☺
“I’m bored.” (Hifumi)
Hifumi muttered a few words while sitting on a bed in a room of an inn.
He is in a city which has a distance from Münster, which is at the upper part of Biron Earldom, where one will arrive after one more day, but Hifumi, Origa and Alyssa intended to join up with Fokalore’s feudal army at this place.
Origa and Alyssa have left to talk with the city’s governor to secure a camp-ground for the soldiers.
Originally he wanted to quickly enter Horant by himself, stir up the situation and go around killing people if there’s a chance for that, but as he ended up telling Alyssa that he’s leaving it to her, he wasn’t able to do even that.
“If I properly think it over, books aren’t circulating either. That means that there’s no special amusement. I didn’t realize how enjoyable it is to kill people.” (Hifumi)
Dropping his shoulders while realizing too late that he messed up, Hifumi takes out the katana, while saying “it can’t helped”, and unties the hilt’s string.
Performing maintenance of the katana which he hasn’t done for a while now, he pondered whether they would go eat something once Origa and Alyssa came back.
“For some reason it looks like you calmed down completely.”
“Shinigami, huh? What’s your business?” (Hifumi)
Even when he was addressed all of a sudden, Hifumi works on extracting the rivet on the katana’s hilt without being agitated one bit.
“No, no, as it seems like your plan is going well, I wanted to give you a little greeting.”
“Going well... if you say so, then it has to be. Thanks to that, I have to stay in an inn like this though.” (Hifumi)
“In order to obtain a large fruit, it’s necessary to wait for it to grow.”
“So”, Hifumi hits the lower stopper to release the sword blade with familiar movements.
“Did you come to give me, who has free time, a sermon? You are a guy with a lot spare time then.” (Hifumi)
“Being forced to work, that’s certainly not the case, right?”
Laughing while shaking with his whole body, which had restored completely, the shinigami arranged the collar of his tailcoat by picking it up with his fingers and sat down in a chair on the opposite of Hifumi.
“It appears that the demons plan to extend their hegemony to the wastelands as soon as they complete their preparations. The new demon king apparently hasn’t yet decided whether to fight against the humans. It looks like she is currently pondering what to do about Swordland.”
“Vepar, huh...? It will be troublesome if they are won over by choosing a weird safety. The beastmen lot will likely win. Even against the elves. There’s more or less the possibility that they will be dragged into harmonious political measures like they are enacted around Reni, but that probably depends on them.” (Hifumi)
“But, you know”, while Hifumi wrecks his brain, he carefully examines the katana which had its lower stopper removed. Although it’s natural, the beautiful blade, which has not a single chip, bewitchingly shone by reflecting the light coming through a small window.
“The situation is that the beastmen are groping for a peaceful resolution and the humans are fighting amongst each other. Because everyone despises demi-humans, it’s ironic and funny if you look at it like this.”
Hifumi takes no notice of the shinigami who has a softly warped smile on his skinny face.
“However, if that is the case for you, do you wish for more conflict to occur? For me it would be better if they killed each other as well, except for the humans.”
“Is that so?” (Hifumi)
“Yes.”
Smearing a thin layer of oil on the blade, he reattaches the hilt once again.
“In that case there’s a nice method.” (Hifumi)
“Let’s hear it.”
“Go to Vepar’s place, name yourself as god of the demons and it will be fine if you hand down various wisdom to them. It’s probably your forte to use people with such words anyway.” (Hifumi)
“Please phrase it as me using my intellect.”
Hitting the rivet on the katana’s hilt, he carefully affixes the hilt’s string.
“Reputation and such is decided by others. Don’t expect that you can act as you like.” (Hifumi)
“Even though things may appear this way, I’m a god though.”
“That’s probably the same even for gods. Even if you are referred as good god in certain places, you will be treated as cursed god in other places.” (Hifumi)
Lightly swinging the katana with his right hand after he finished the maintenance, he sheathes it in the scabbard once he confirms that it isn’t loose anywhere.
“It doesn’t particularly matter even if Swordland is crushed. It will be great if they fight against the humans by cooperating.” (Hifumi)
Once he tosses the tools into his storage, he stands up and affixes the katana to his waist.
“Anyway, it’s about increasing the guys who earnestly use their heads in battles. Without that, I won’t be able to greedily devour them to my heart’s content at the time of harvesting you talked about. Even if there’s a lot of it, there’s no meaning in it if the taste’s bad.” (Hifumi)
“Oh dear, what a gourmet. Well then, I shall act according to your esteemed suggestion.”
At the same time as the shinigami vanishes, the sound of knocking resounded and Origa came entering while showing a full-faced smile.
“Are you alright, dear?” (Origa)
“Did you finish your task?” (Hifumi)
“Yes, it seems like Alyssa will do the rest. So, umm...” (Origa)
Entangling the fingers of both hands while having difficulties to voice it out and fidgeting while blushing, Origa glances repeatedly at Hifumi’s face.
“I went peeking into the city’s guild, however it looks like there’s a dwelling of a thieves group nearby. So, if you are alright with that, umm, together...” (Origa)
Swallowing down her saliva with a gulp, Origa clenched her fists.
“Will you go together with me to kill the thieves tonight?” (Origa)
“What do you think I am?” (Hifumi)
With these words, Hifumi placed a hand on the doorknob in the blink of an eye.
“I will go to ask about the scale of the thieves group and their exact location. Please guide me to the guild.” (Hifumi)
“Of course”, Origa nodded in great joy. |
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} | ギルドでは落ち着いて話ができないので、ミダスとパジョーを連れて、レストランで食事をすることにした。
貴族街にほど近い場所にあるレストラン『プルトン』は、流石に街の定食屋とは違い、シンプルながら洗練されたデザインの外観で、パリッとした服を着こなすウェイターが部屋まで案内してくれる。
店の名前を聞いてミダスは腰が引けていた奢ると言って納得させた。
「騎士隊のベテランが、この程度のレストランで支払いを渋らないでくださいよ。騎士としても貴族としても恥ずかしいですよ」
のパジョーさんには、貧乏貴族出で妻子持ちの苦労はわからんさ」
部屋へ入りながら、騎士たちはお互いに益体もない牽制をしている。
「同僚と仲が良いのはいいが、腹減ったからさっさと入ろう。ウェイター、この店は何が美味い?」
部屋に入るなり、ウェイターへチップとして銀貨を数枚握らせたは、奴隷を両脇に座らせて、メニューを見るふりをしながら訪ねた。
思いがけない収入を得たウェイターは、来店時より三割増しの笑顔だ。
「本日はビッグホーンの肉の良い部分を仕入れておりますので、オランソースのステーキとソードランテ風の煮込みがお薦めです。よく合う赤ワインもございます」
「じゃあ、両方もらうよ。ワインもね」
オリガやカーシャはこのレベルのレストランは慣れていないようで、メニューを興味深そうに眺めてから、それぞれ注文していた。パジョーは慣れた様子で色々とウェイターに尋ねて決めている。ミダスはパジョーと同じでいいと言った。
「ご主人様、大分慣れた仕草でしたが、こういう高級料理店は良く利用されるのですか?」
「こっち来てからは始めてだし、故郷でも数える程度だよ。わからないなら聞く。プロが薦めるなら素直に受ける。それだけだ」
第一、メニューが読めないんだから仕方ないだろうと開き直る様子を、オリガは何故か尊敬の目線で見てくる。
(弟弟子とかにこういう目で見てくる奴がたまにいるな。大人しい性格だから、俺みたいなのが羨ましいのかもな)
あまり気にしない事にした一二三を、パジョーはニヤニヤと見てくるが、面倒なのでこれも無視した。
ビッグホーンの肉は、牛肉と同じ味だった。ウェイターが言った通り、ステーキはほどよく噛みごたえが有り、そのくせホロッと崩れる柔らかさ。やや酸味のあるソースに負けない肉の甘味が美味しい、大当たりの料理だった。煮込みもサラッとしたスープに丁度いい塩梅で脂が絡み、肉も美味いが肉の旨みを含んだ野菜がとても複雑で良い味だった。
カーシャは、あまりの美味さに一二三におかわりを頼んでいた。
快く了承してやると、喜んでウェイターを呼ぶ。今度は一二三と同じステーキを注文するらしい。
「奴隷に優しいのね」
パジョーは、眩しいものを見るような顔で聞いてくる。
「奴隷でも貴族でも、人として生きる以上は同じだ。顔が違う。性別が違う。強さが違う。身分が違う。何が違っても、叩き斬れば同じものだとわかる」
ミダスはそれを聞いて驚いているが、パジョーは動じていない。
「私も、今の騎士隊に入って平民に紛れて行動するようになってから色々と考えが変わったわ。貴族の中で特別な存在だと教えられて育てられ、民はただ守るべき存在だと言われて騎士になった。でも、何にも変わらないのよね。ちょっとした幸運に喜んだり、理不尽な事に怒ったり、突然の不幸に泣いたり。そうよね、よく考えたら、奴隷だって同じなのよね」
「だが、気をつけて欲しい。侯爵の件である程度はわかったと思うが、貴族の特権意識に凝り固まった連中は多い......というより、大多数がそうだと思う。俺のような名ばかりの貴族や、平民との距離が近い小規模な領地の貴族はまだしも、貴族社会しか知らない連中はな」
「優越感というやつは、たまになら良い気分転換だが、浸りきったら毒になる。だからこそ、俺のように思い上がりを叩きのめす刺激が必要なのさ」
冗談だよ、と続けた一二三だが、二人の騎士は黙り込んでしまった。
「ご主人様は、貴族と戦うのを望まれているのですか?」
騎士たちが言いにくい事を、オリガが聞いてくる。
「貴族だからじゃない。貴族だからと敵対するのは、奴隷だからと蔑むのと何も変わらない。俺にとっては、俺の邪魔かどうかだけが判断基準だ」
安心していいのかどうかわからない返事を聞いて、騎士たちは何も言えなかったが、少なくとも自分たちと積極的に敵対はしないらしいという部分だけは安心した。
食事が終わり、紅茶が配られたところで、一二三が切り出した。
「じゃあ、イメラリアが用意したものについて聞こうか」
「ええ、まずは報奨金ね」
目配せを受けて、緊張したようすでミダスが懐から小さな袋を出した。
袋を受け取った一二三が中身を確認すると、銀貨が数枚入っている。
「......この国はひょっとして貧しいのか?」
「自分の胸に聞いて頂戴」
パジョーが我慢できずにツッコミを入れたが、一二三は気にした様子は見せず、ミダスはホッとした。
「金がないから爵位で形だけは“褒美を与えた”という事にしたわけか。まあ、別にいいけどな」
「準騎士爵と言えば、年金も無く、ほとんど平民と変わり無いと聞きましたが......」
オリガの言葉に、一二三はなんとなく理由を察した。
「要するに、自分たちの懐に入れるのは怖いが、他国に付かれて敵対されるのも困る。だから自由は保証しながら、端役すら無い貴族の一員とすることで、この国の所属だと対外的に示すことにした、と」
一二三の分析を聞いて、ミダスはゴクリと喉を鳴らした。負担にならない程度に名誉ある地位を与えたと言えばよく聞こえるが、受け取り方によっては、オーソングランデの都合で報奨をケチったと取られかねない。というより、その通りだからだ。
「それと、これがイメラリア王女から特別なお礼として下賜されたわ」
パジョーが懐から取り出したのは、赤い紐で筒状に留められた一枚の紙だった。羊皮紙ではなく、妙に分厚いながらもちゃんとした紙だ。
「......俺はこの国の字は読めん」
開くこともなく渡されたその紙を、オリガは丁寧に開いて読み始めた。
「......自由通行許可証。オーソングランデ王家は、ヒフミ・トオノとその随行者の、国内の自由通行及び、オーソングランデからの出国及び同国への入国を許可する。認可の署名はイメラリア・トリエ・オーソングランデ......」
読み上げたオリガも、一二三の隣で聞いていたカーシャも絶句していた。
各地に貴族の領がある以上、それぞれの領や街への立ち入りはある程度の制限があり、行商人や冒険者でも厳しい検査を受ける必要がある。他国への出入国となれば尚更だ。農民などは、ほとんど移動することなく、生まれた町や村で一生を過ごすことが普通とされている。
ところが、王家の許可証があれば、それは王家の指示での移動であり、何人たりともそれを妨げることは許されない。最上位の通行証だ。
「しかし、それはあくまでこの国の影響範囲内での話だろう。敵対する国であれば、これを持っているだけで入国できないどころか、攻撃される可能性もあるだろ」
冷めた様子で言い放った一二三の言葉に、オリガたちもあっと声を上げた。
対面の騎士たちは渋い表情だ。
「つまるところ、自由を与えるように見せかけた鎖だな、これは。自分たちの目の届く範囲内に居ろということだ、な?」
じっと見据える一二三の視線に、ミダスもパジョーも目線を合わせられない。どっと冷や汗をかいて、ワインを飲んだ心地よい酔いも一気に醒めてしまった。
「その......イメラリア様がそこまでの事をお考えかどうかはわからないわ。ただ、貴方が旅をするのに都合がいいと思って......」
「ふふっ」
「? ご主人様?」
「あっはっは! まあ、誰か入れ知恵をした奴がいるんだろうが、昨日見たときはあれほど純粋で騙されやすそうな女はいないと思ったが、こういう事ができるのか。面白いもんだ」
突然破顔した一二三に、誰もが戸惑っている。
「イメラリアは、政治の才能があるじゃないか。見た目とは違うなぁ」
紅茶を飲みながら、しみじみと言う一二三に、ミダスが恐る恐る訂正する。
「イメラリア様は、元々は聖女や姫巫女様と呼ばれるような純粋な方だ。権謀術数とは本来無縁で、自らの指示で我々第三騎士隊を動かされたのも、今回が初めてだ」
「当然だけど、あの事件はイメラリア様に大きな影響を与えてしまったようね。王妃様も王子様もまだ立ち直られていないけれど、イメラリア様だけは、現状を何とかしようと懸命に動いてらっしゃるわ」
自分を刺激する事を恐れつつも、イメラリアの印象だけは訂正しようとする二人の騎士のありようにも、一二三は心地よさを感じた。
「いいだろう。姫様からの報奨はありがたく受け取ろう。二人の働き者の騎士に免じて、今回の事は素直に褒美として受け止めることにする」
安堵した様子のパジョーから、準騎士爵の称号を表すメダルを渡され、一二三は素直に受け取った。
「貴方と話していると、気が休まる時間がないわ」
「全くだ。遠巻きに見ているだけの方が、ずっと楽だな」
「退屈しなくていいだろう。な?」
一二三に同意を求められ、素直に頷くオリガと、引きつった笑顔を浮かべるカーシャに、パジョーは笑みをこぼした。が、次の一二三の言葉でその笑顔が凍りつく。
「それに、この程度の手段では、どうせ俺は止められん」
店を出て、ミダスとパジョーは一二三たちと別れた。宿と城は逆方向だからだ。店の前で待機していたのだろう。別の騎士と思しき気配がある。
「ミダス、パジョー」
騎士たちを呼び止めた一二三は、真剣な目をしていた。
「イメラリアに伝えておけ。物事を自分の都合で動かそうと思うな。何事も誰もが考えもしない方へ向かうもんだ。だから、可能な限り人を動かせ。人を使って集められるだけ情報を集めて、その情報の真贋を自分の頭で判断し、物事が誰に都合よく動いているか。それを良く見極めろ......とな」
すっかり陽は落ちて、真っ暗になった道をオリガが魔法で灯した光を頼りに進む。
「ご主人様、先ほどの言葉、どういう意味でしょうか?」
不意にかけられたオリガの疑問に、何にでも興味を持つ奴だとつぶやいて、一二三は答える。
「戦の相手がどう動くか、見えるものや聞こえるものを使ってあらゆる情報から予想する。様々な可能性を考えておけば、そうそう失敗はしない。戦いも政も同じさ。自分は無条件に偉いとか強いとか勘違いして、周りがどうなっているか見なくなった時が、そいつの終わりの時だ」
何か思い当たることでもあるのか、オリガは考え込んでいる。
「なんというか、あんなに強いご主人が言うには、謙虚な考えかただよね」
「馬鹿言え。俺だって普通の人間なんだ。油断をすれば攻撃を受けるし、斬られれば死ぬ。俺もお前も、何も変わらん。ただただ、努力の成果を油断なく発揮しているかどうかだ」
そう言われても、一二三は本当に斬られたら死ぬのだろうか、怪我をすることすら想像できないと、カーシャは仕切りに首を捻っていた。
「今日はトルンの所に寄ってから街を出たが、明日は朝から街を出て稽古をするからな。しばらくお前たちの動きと成長を見てから、色々と指導してやる」
「はい、ありがとうございます」
うんざりした顔のカーシャの横で嬉しそうにお辞儀をするオリガだった。
夜も更けた宿の部屋の中で、一二三は昼間にできなかった闇魔法の訓練をしていた。
ベッドをまるごと収納してみたり、手を触れずに取り出したりと、まずは収納を色々と試してみる。
(生き物はダメか)
たまたま飛んでいたハエを収納しようとしたが、壁に当たったように闇魔法の暗い穴にぶつかってしまった。試しに一二三が入ってみようとしてもダメだった。見えないガラスに手を当てているような感触がする。
発想を変えて、腕を闇魔法の魔力で包むイメージをしてみると、今度は腕がすっぽりと夜の闇に紛れて見えなくなった。そのまま全身を包む。
視界や聴覚が遮断される事なく、全身を闇に潜めたつもりだが、自分以外に誰もいないので確認のしようがない。
実験をくり返しながら、用途を考えているうちに、他の魔法を使ってみようと思ったが、適性がないのかやり方が違うのか、火を灯したり水を出したりはできなかった。
(そういえば、オリガは杖を、侯爵の所にいたストラスは剣を使って魔法を発生させていたな)
魔法についても、勉強しないといけないようだと、改めて一二三は思った。
(やることは多いが、楽しいな。楽しい人生だ)
満足した様子で魔法練習を切り上げ、元の位置に戻したベッドに潜り込む。
「しばらくは、あの二人をしっかり鍛えてやろう」
弟子がいるというのも良いものだと、一二三は胸を躍らせながら眠りについた。 | Since it was impossible to calmly talk in the guild, Midas and Pajou led Hifumi and the others to a restaurant to eat. Pajou could use the private room, everyone went there.
The restaurant near the aristocratic area, “Pluton” was indeed different, waiters wearing simple yet elegant clothes led them to the room.
Hearing the name of the restaurant, Midas got cold feet, but Hifumi assented to pay.magic
「 Veteran of the Knight Corps, do not hesitate to pay in a restaurant of this degree. As a Knight, it is shameful. 」
「 Pajou, as a single daughter of a count, you will not understand the hardships of having a wife and children. 」
Entering the room, the Knights took verbal jabs at each other.
「 Though its good that you two are getting along well, I’m hungry. Waiter, what is delicious in this restaurant? 」
Entering the room, Hifumi passed several silver coins to the waiter, the slaves sitting at his sides pretended to read the menu.
Unexpectedly gaining money, the waiter smiled widely.
「 Today, the stock of Bighorn meat is good. It is recommended to have it cooked with Oran sauce and stew of the Sodorant style. Red wine is also available. 」
「 Well then, get both, wine as well. 」
Origa and Kasha were unaccustomed to restaurants of this level, but after looking at the menu interestedly, they gave their respective orders. Pajou seemed accustomed, and asking the waiter various things, decided her order. Midas ordered the same things as Pajou.
「 Master, from your behaviour just now, are you used to fine dining? 」(Origa)
「 If you’re coming for the first time and cannot decide, get the professional’s recommendation, that’s how it is. 」 (Hifumi)
First off, though unable to read the menu, watching Hifumi maintain a serious attitude, Origa felt some respect towards him.
So young, but has the character of an adult. I’m a little envious. (Pajou)
Hifumi ignored Pajou’s smirking, as it would be bothersome.
Bighorn meat tasted the same as beef. As the waiter said, the steak was moderately chewy, yet softly melted in the mouth. The sourness of the sauce went well with the meat’s delicious sweetness, the dish was a big hit. As for the stew, which contained both vegetables and meat, had a very delicious and complex flavour to it.
Kasha, overwhelmed by the delicious food, asked Hifumi for seconds.
Pleasantly acknowledging her, Hifumi hailed a waiter. This time the same steak as Hifumi’s was ordered.
「 Kind to the slaves, isn’t he? 」(Midas)
Pajou had a surprised look on her face on hearing that.
「 Be they slaves or nobles, living as a person is same for everyone. Faces are different, genders are different, strength is different, social standings are different. Even with so many differences, they’re all the same when sliced up. 」(Hifumi)
Though Midas was surprised to hear it, Pajou was unperturbed.
「 I too, on joining the Knight Corps and slipping into the mannerisms of the commoners, my way of thinking changed. Brought up being taught that nobles are special existences, and protecting the ordinary people is what it means to be a Knight. But nothing changes. Being delighted at some trifling good fortune, getting unreasonably angry at something, crying at unexpected misfortune. Thinking about it, slaves are the same. 」(Pajou)
「 However, please be careful about the matter regarding the Marquis. There are many fanatical people out there who consider being a noble as a special privilege.... The majority of them, I think. Nobles in name like me, have smaller territories where the gap between the us and the commoners is small. 」(Pajou)
「 Though people with superiority complexes are occasionally good diversions, they are harmful when left to themselves. For that reason, I think that stimulus like me is necessary to knock down their conceit. 」
It was a joke, Hifumi continued, but the two Knights fell silent.
「 Master, do you wish to fight with the nobles? 」
Origa asked the difficult-to-ask question for the Knights.
「 Not quite. It’s nothing to me if they look down on slaves. As far as I’m concerned, it’s only a matter of whether they get in my way or not. 」
Getting an answer that did nothing to reassure them, the two Knights were unable to say anything and were just relieved to know there was no hostility towards them.
Finishing the meal and drinking black tea, Hifumi got to the point.
「 Then, let me hear what Imeraria has prepared. 」
「 Ee, first is the monetary reward. 」
Midas tensely pulled out a small bag from his uniform.
Hifumi checked the contents, there were several silver coins in it.
「 ...... By any chance, is this country poor? 」
「 You should know the answer to that! 」
Unable to endure, Pajou retorted but since Hifumi did not seem to mind, Midas felt relieved.
「 It seems that the “reward being given” is a peerage just to keep up appearances. Ah well, not that it matters. 」
「 Speaking of Associate Knights, their stipend is nonexistent, and there’s hardly any change from a commoner’s standing.... 」
From Origa’s words, Hifumi guessed the reason for this action.
「 In short, keeping me in your pocket is scary, but so is me allying with foreign hostile country. Therefore, while guaranteeing personal liberty, giving me an unimportant peerage among nobles will show that I am affiliated with this country. 」
Midas gulped loudly on hearing Hifumi’s precise analysis. True, the peerage existed as an honorary title. Depending on the interpretation, it may be seen as Orsongrande being miserly.
「 With it, this is to be given as a special favour from Princess Imeraria. 」
Pajou took out a rolled-up paper bound with a red string from her uniform. Not parchment, it was proper paper, though strangely thick.
「 ...... I cannot read the characters of this country. 」
Opening the paper passed to her, Origa carefully began to read it.
「 ...... A Free Travel permit. From the Orsongrande royalty, travel of Touno Hifumi and his servants within and outside the country is permitted. Signature of authorisation, Imeraria Torie Orsongrande. 」
Aside from Origa who was reading, Kasha too was speechless.
Since there are noble’s territories in various places, entering and leaving such places had some restrictions, even peddlers and adventurers were strictly scrutinised. Even more so if travelling to another country. It’s usually said that farmers and the like spend their entire lives in the towns and villages in which they were born without travelling.
However, anyone with the Royal Family’s permit cannot be stopped, regardless the number of people travelling. It’s an extremely high-level protection.
「 However, it is only useful within this country. In a hostile country, far from not being able to enter, there’s the possibility of being attacked. 」
To Hifumi coolly declaring the state of affairs, Kasha and Origa stared at him in surprise.
The two Knights had on bitter expressions.
「 After all, this is a chain feigning freedom. Telling us to be within range of your sight isn’t it? 」
Midas and Pajou did not meet Hifumi’s intent gaze. They broke out in a cold sweat and their wine-induced comfortable intoxication vanished as well.
「 That.......what Princess Imeraria is thinking, we do not know. But I think it is convenient for your travels...... 」
「 Haha..」
「 Ee? Master? 」
「 Ahaha ! Well, though there might be someone who suggested this, the woman I saw yesterday seemed to be quite pure and naive, is she capable of something like this? Interesting, truly interesting! 」
Everyone was bewildered at Hifumi’s sudden laughter.
「 Imeraria, does she have talent for politics? Different from her appearance indeed. 」(Hifumi)
Midas timidly corrected Hifumi while drinking tea.
「 Imeraria-sama is originally pure, our people call her the princess shrine maiden. Unrelated to trickery, this is the first time we Third Knight Corps have been personally instructed. 」
「 But it is understandable, the event in the castle may have had a large influence on Imeraria-sama. Neither the Prince nor the Queen have recovered, only Imeraria-sama is working hard to manage the current conditions. 」(Pajou)
Seeing the two Knights trying to correct his impression of Imeraria, even though they were afraid of offending him, Hifumi felt at ease.
「 Very well then. I accept the compensation from the princess out of respect for her loyal and hardworking Knights. 」
Saying so, Hifumi received the medal indicating his Associate Knight’s title from Pajou.
「 Talking to you, there is no time to relax. 」 (Pajou)
「 Seriously. Watching from a distance is much easier. 」(Midas)
「 You won’t be bored. Right? 」(Pajou)
Requesting agreement from Hifumi, Pajou smiled watching Origa nodd docilely, Kasha was wearing a cramped smile. Pajou’s smile froze at Hifumi’s next words.
「 However, methods like these won’t stop me. 」
Leaving the shop, Midas and Pajou separated from Hifumi, since the hotel and castle were in opposite directions. Outside the restaurant, there was another presence that seemed to be another Knight.
「 Midas, Pajou. 」
Hifumi, who called out to the Knights had a serious gaze.
「 Tell Imeraria to give up. Don’t even think about manipulating me. Make a move only after considering everything. Move your people as much as possible, and after collecting information, analyse it well. 」 (TN: I modified this line. Again, pinch of salt.)
Turning away from the two nodding Knights, Hifumi began to walk towards the hotel with the two slaves. The sun had completely set, relying on Origa’s magic to form a light, they advanced along the dark road.
「 Master, what is the significance of your words some time ago? 」
, thinking such, Hifumi answered Origa’s question.
「 Obtain information from everywhere, watch the enemy’s patterns and think of various possibilities to avoid defeat. Politics and fighting are very similar. Misunderstanding my own strength may lead to everything ending in an instant. 」
Suddenly understanding something, Origa was lost in thought.
「 What? With master’s strength, a thought like that is just too modest. 」(Kasha)
「 Fool. I’m also a normal human being. Attacked unawares, anyone will die when cut. You or me, nothing is different. Only the results of great effort can be shown without carelessness. 」
Even if that is the case, will Hifumi really die on being cut? Even injuring him is unimaginable.
「 We will go out of the town tomorrow morning and practice. I will continue coaching you two after seeing your movements and growth. 」
「 Yes, thank you very much. 」
Origa bowed happily, while Kasha wore a tired expression.
In his room at the hotel, Hifumi was experimenting with his Darkness Magic.
First testing the storage, the bed was completely stored and then retrieved.
Are living things no good?
Trying to store a fly on the wall, it hit the Dark Hole like an obstacle. Hifumi’s attempt to enter it was also a failure. It felt like there was an invisible glass wall preventing entry.
Changing the idea and thinking of an image in which his arm was wrapped by the Darkness Magic, his arm disappeared from sight.
Wrapping his whole body in the Darkness Magic, isolated from sight and sound, he could not confirm he was completely hidden, since there was no one else present.
Repeating the experiment while thinking of any possible uses, thinking of using other magic, were the methods and aptitude different?
Come to think of it, Origa has her staff, and that Strauss in the Marquis’ place generated magic with a knife.
It seemed necessary to properly study magic, thought Hifumi.
A lot of enjoyable things to do. A fun life.
Satisfied, Hifumi finished up his practice, and crawled into the bed.
「 For a while, I will firmly train those two. 」
Excited with the prospect of having pupils, Hifumi went to sleep. |
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} | 敵の大将と思しき人物が落馬し、周囲の兵たちも我先にとホーラント方面から撤退していくのを確認すると、マ・カルメはたっぷりと息を吸い込んで、ため息をついた。
「はぁあ。やぁっと終わったか」
伝令も同じように肩の力を抜きながら、周りの兵士たちも安堵の表情を見せていることに気付いた。
彼らも、戦場に多少慣れているというだけで、戦いが怖いことには変わりないのだ。
間、ここにとどまって警戒を行うから、各自交代で休息をとれ。一時間経ったらホーラントに入って状況を報告するぞ」
言うが早いか、マ・カルメは地面に横になった。
「あぁ、疲れた。領主様がいないところで戦争なんて、怖くてやってらんねぇな」
へらへらと笑ったマ・カルメの横に、伝令も腰を下ろした。
「トオノ伯爵様は、それほどお強いのですか?」
「強いとか、そんな段階じゃねぇよ。あの人は一人で一つの軍隊と同じさ。もし敵側にあの人の顔が見えたら、何もかも放って逃げるのが正解だと思うぜ」
つくづく、国軍からの異動要請に応じて正解だった、とマ・カルメは語る。
「そんなに......」
「対ヴィシーの戦闘はお前も聞いたことあるだろ? そりゃ、多少は誇張されて伝わってる部分もあるだろうが、基本的には事実だ」
でもな、とマ・カルメは身体を起こしてあぐらをかくと、腰の鎖鎌を叩いて大笑いした。
「ホーラントに来る途中に寄った王都の酒場で、黒髪の麗しい騎士様の物語を詩人が弾き語りしてるのを聞いた時には、笑いがこらえられなかったぜ!」
ポン、と伝令の肩に手を置いたマ・カルメは、やれやれと首を横に振った。
「本当の殺し合いなんて、そんなきれいなもんじゃあないのにな」
なにも答えを返せなかった伝令を放って、マ・カルメは周囲の隊員たちに声をかけ、怪我人がいないことを確認する。
そうするうちに一時間が経ち、マ・カルメたちはさっさとホーラント国境を超える。
「やれやれ、数日休ませてもらったら、一度フォカロルに戻ろうや。そろそろアリッサ長官の顔も見たいよな」
マ・カルメと隊員たちが、最後まで見届けると言ってついてきた伝令を伴い、国境を越えた。
そこに待っていたのは、完全武装をしたホーラントの歩兵たちと、ホーラント自慢の魔法兵たちだ。
訓練用にマ・カルメたちが持ち込んだ数台の投槍器が、明らかにこちらを狙っているのを見て、マ・カルメは目を細めた。
「......とりあえず聞くが、何のつもりだ、これは?」
見れば、投槍器についている兵士たちは、マ・カルメたちが指導していた兵士たちで、マ・カルメとは視線を合わせようとせず、おどおどとした様子を見せている。
対して、魔法兵たちはいつでも魔法が放てるよう、殺気立った様子で短剣を構えていた。
「いやはや、ご苦労だった」
一人の中年が、でっぷりと太った腹を抱えて、歩兵と魔法兵の間から進み出る。
「この投槍器の威力は素晴らしいもののようだ。まさか、たった十名であれほどの大軍を崩壊せしめるとはな......。ありがたい武器をもらったものだ」
「なんか勘違いをしているようだが、それは俺たち教導部隊が指導のために持ち込んだもので、置いて帰るつもりはないぞ。ほしけりゃ、自分で作ればいいだろうが」
「勘違いしているのは貴様らの方だ」
わざとらしい咳払いをした中年は、腕を腰の後ろに回し、胸を張ったつもりだろうが、どうみても腹を突き出したようにしか見えない姿勢でマ・カルメたちを見回した。
「オーソングランデの兵が、我がホーラントへ攻めてきたのだ。使えるものを使うのは当然であり、それを使って自衛するのも当然のことであろう? これも
ふふん、と見下すような目線に、マ・カルメは苛立ちを覚えながらも、冷静に周囲を見回す。
「私はこの国、ホーラントの宰相を務めるクゼムだ。覚えておく必要は無いがな」
文字通り半包囲状態であることを確認し、ちらりと後ろに視線を向けるが、オーソングランデ側の兵士たちはこちらが見える程近くにはいない。だが、邪魔になるホーラント兵もいない。投槍器や魔法の誤射を恐れて、完全な包囲はしていないようだ。
「いや、勘違いはしているだろうが。俺たちはホーラントに攻めてきた連中を水際で食い止めた。お前も知っているだろう。もう迎撃態勢をとる必要も無い」
マ・カルメの言葉に、投槍器に取り付いている歩兵たちはクゼムに視線を向けた。
だが、クゼムは鼻で笑った。
「侵略なら、今現在も行われている。我が国の主権を無視してオーソングランデの兵士が我が物顔でホーラント王都を闊歩し、あまつさえホーラント兵をまるで部下のように扱っている。そして」
クゼムは、マ・カルメの足元を指差した。
「今もまた、我が国にオーソングランデの兵が不躾にも足を踏み入れているではないか」
「待て!」
薄笑いを浮かべるクゼムに、一人の大柄な中年男が兵士たちをかき分けて声をかけた。
高い地位にあるであろうことが、金糸がちりばめられた豪奢な服装からも見て取れる。立派な口ひげを蓄えた強面が、怒りをあらわにして怒鳴っている。
「これはどういうことか、クゼム殿! 王の許可なく兵を動かし、あまつさえ協力者であるフォカロルの兵を脅すなど......」
「王が不在であるからこそ、宰相として私が国のためにこうして動いておるのです」
「兵を動かす権限は、軍務大臣であるわしだぞ!」
「軍務大臣は“時の王が指名する”とされております。宰相である私と違い、前王スプランゲル様が亡くなられた今、貴方の肩書は無役です」
「では、後継者として指名されているネルガル様のご指示があるまでは......」
愕然として、言葉が続かない元軍務大臣に、クゼムが言葉をつないだ。
「そうです。ネルガル様がお戻りになられ、ご指示があるまでは、私が代理を務めることになっております」
「そ、そんなこと......」
「そういう法なのです」
クゼルが大臣と言い合いをしている間、マ・カルメは伝令の男に小声で話しかけた。
「合図をしたら、馬に飛び乗って急いで国境を越えてビロン伯爵に状況を伝えろ。国境の兵士にのんびり話している暇はないだろうから、無視して街道を突っ走れ」
「え、そ、それは......」
「余計なことは考えるな。お前は、伝令としての自分の仕事を全うすることだけを考えろ」
伝令の反論を許さず、びしりと伝えてしまうと、マ・カルメは他の隊員たちに目配せをした。
隊員たちは、笑って頷く。
「ちゃんと俺たちの活躍を伝えてくれよ」
「アリッサ長官に、勇敢さを褒めてもらわないとな」
口々に言う言葉に、悲壮感は無い。
「聞いたな? お前は俺たちの格好よさを伝える大切な伝令でもあるんだ。ビロン伯爵の許可が取れたら、フォカロルへ行ってくれ。アリッサ長官に「あなたの部下は最高だ」と言ってくれたら、それでいい」
行け、と尻を蹴飛ばされた伝令は、泣きながら馬に飛び乗る。
「逃がすな!」
「止せ! 大問題になるぞ!」
動きに気付いたクゼムが声を荒げ、大臣はさらに大きな声を出した。
戸惑う兵たちの中から、槍が一本だけ発射され、いくつかの魔法が飛ぶ。
「おらぁ!」
一筋の槍は伝令の背中を狙っていたのだが、マ・カルメの振るう鎌に叩き落された。
とっさにフォカロル兵たちが台車を蹴倒して壁にして、魔法を防ぐ。
「ぐぁっ」
「うおっ?」
それでも、防ぎきれずが風魔法で引き裂かれ、血を噴いて倒れた。
さらに、火球で燃えた台車から離れた一人が、石つぶてで頭を撃たれて昏倒する。
「さあさあ、遠慮なくかかって来い! 領主様ほどじゃあねぇが、俺だって格好よく戦えるところを見せてやろうじゃあねぇか! アリッサ長官の前なら最高だったけどな、ここが戦場ってんなら、仕方ねぇ!」
鎖鎌を構え、分銅を回しながら啖呵を切ったマ・カルメは、多勢に無勢をまるで知らぬかのように笑って見せた。
☺☻☺
「使い時が来るまで、これを1階の受付にでも飾っておこうかと思うんだが」
「いやいや、一ん。これは、ちょっと......」
口をパクパクと動かし、声にならない恨み言を語り続けるバールゼフォンの生首を見せられたアリッサは、うぇ、と呟いてから、一二三の提案を止める言葉を探していた。
「動力も無くて動き続けるんだ。順番待ちの暇つぶしに見ているにはちょうどいいと思うだろ?」
「思わないよ! みんな怖がって来なくなっちゃうと思うよ?」
領主館の前で、生首を前に話あっている二人には色々な意味で近づきにくい状態だった。一つはその得体の知れない魔物のような生首の存在と、領主というこの土地での最高位にある人物、そして、アリッサが一二三の腕にしがみついているという姿勢も。
「それを了承するのは、オリガさんくらいだよ」
「そうか。なら仕方ないな」
首から下は死体として魔法収納ができたものの、どうやら首はまだ“生き物”扱いらしく収納できなかったので、一二三は頭をつかんでむき出しのままぶら下げてきたのだが、議論が終わるとアリッサは職員に頼んでさっさと布に包んでしまった。
たまたまやり取りを見ていた受付担当職員は、あとでアリッサにお礼を言わなくては、と固く誓った。
「とにかく、これで魔物退治も終わりだな。帰っても大した動きは無かったようだし、また待ちぼうけか」
「いいじゃない。一二三さんは働きすぎなんだから、少しゆっくりするくらいで丁度いいんだよ。この前、町で新しいお菓子のお店が......」
言いかけて、何かに気付いたアリッサは、抱きしめるようにつかんでいた一二三の腕から離れると、一メートルほどの距離をとった。
同時に、知っている気配に一二三が顔を街の方へ向けると、轟音をあげて領主館に突っ込んでくる馬車がいる。
「ああ、オリガ、か」
「お、帰って来たか。思ったより遅かったな」
領主館の前に砂煙を上げて止まった馬車から、オリガは一切の躊躇なく一二三の胸へとダイレクトに飛び込んだ。
勢いを殺しながら、くるりと回って受け止めた一二三は、オリガの熱い抱擁を気にしたようすもなく、汗だくで馬を走らせて追いかけてきたミダスに視線を向けた。
「おう、久しぶり」
「お、お久しぶりです。トオノ伯爵」
上位貴族の前では必ずそうするように、ミダスは馬を下りてしっかりと頭を下げて挨拶をした。肩が上下しているのは、どうしようもない。
「なんだ、オリガの護衛をしたのか?」
「そんなもの必要な......いえ、それもありますが、ネルガル様をお迎えする任務も仰せつかっております」
「ああ、そう」
適当な返事をする一二三に、オリガは身体ごと一二三に張り付いたまま、次々に王都で一二三がいない生活がいかに色あせて寂しいものだったかと語り、見事に聞き流されていた。
「それで、一二三様にお使いいただこうと思いまして、美しい陶器のお皿やお椀を買い求めたのですが、道中の馬鹿どもに割られてしましまして、一枚だけしか残りませんでした......」
メソメソと一二三の道着に顔をうずめたオリガは、さりげなく匂いを確認し、一二三に見えないようにギラリとアリッサを見た。
「ぅひっ!?」
「アリッサ、後でお話があります。私のお部屋で、ゆっくり語り合う必要がありそうですね」
女どうしの会話が進む間、ミダスは一二三に尋ねたいことがある、と話を切り出した。
「我が国の一部の貴族が、ホーラントへの侵攻を企てたことはご存知ですか?」
「ふぅん。初めて知った」
「左様でしたか。実は、トオノ伯に対抗して、王が斃れたホーラントへ攻め込み、戦果を上げようとしているようで......」
「なんだそりゃ」
嘲笑を浮かべた一二三は、そのままミダスを見据えている。
「それで、俺の真似をした阿呆がいるから、俺に責任をとれ、と」
「めめ、滅相も無い! 女王陛下はこの件に関して、トオノ伯に一切の援助を乞うことを良しとされておりません。全ては女王陛下の差配によって解決すると明言されております」
「当然だな。見た目だけ真似する奴がいたとして、いちいち構ってられるか。それより、その戦いの規模はどの程度だ?」
「おそらくは、ビロン伯爵を含めた国内の女王派貴族と騎士隊によってほどなく終息するかと。問題は、ホーラント側に被害が及んだ場合ですが......」
横で話を聞いていたアリッサが、慌てて一二三の腕をつかんだ。
「ホーラントには、マ・カルメさんたちがいるはずだよ!」
どうしよう、と一二三を見上げるアリッサの額に、一二三は手袋をした左手で軽くでこぴんを当てた。
「俺に聞く必要なんかあるか。お前が敵だと思うなら、お前の意志で殺せよ」
「そうですよ、アリッサ」
オリガは先ほどまでの威嚇するような視線はどこへやら、一二三の胸に手を置いたまま、まるで聖母のような慈しむ微笑みをアリッサへ向けた。
「貴女の敵は貴女が決めるのです。そして、敵と決めたなら躊躇なく殺すことです。それが私たちのやり方でしょう?」
アリッサは、一二三とオリガを交互に見てから、ぺこり、と頭を下げて走って行った。
あまり戦場を広げて欲しくはないミダスは、苦々しい思いでそれを見ていたが、目の前の重大事を解決する方が先だった。
「我々はネルガル様を護衛して無事にホーラントまで送り届けるのが任務なのです。ネルガル様にお会いしたいのですが」
「ん? 途中で会わなかったのか?」
一二三の口から、ネルガルがすでにフォカロルを発っていることを知り、ミダスはかつてないほどに焦りを覚えた。
「しかし、途中の町では一定以上のランクの宿は全て確認したのですが......」
「おそらく、それが原因でしょう」
ミダスの言葉に応えたのは、馬車の音を聞いて領主館から出てきたカイムだった。
「お帰りなさいませ、領主様、奥様」
「カイムさん、馬車にみなさんへのお土産がありますから、札がついている通りに配っていただけますか?」
「お気遣い、ありがとうございます」
「待ってください、それが原因とは、一体?」
カイムは居住まいを正し、能面のような顔でミダスを見た。
「ネルガル様は、質素な生活をお好みで、贅沢をするよりも勉学のための資料を購入することに予算を割いていらっしゃいました。当地での滞在も、謝礼を考えなければならない領主館は避け、町の下宿を選ばれるほどに」
「では......」
「おそらくは、道中も護衛の皆様と共に安い宿をお選びになられたでしょう。もしミダス様が、貴族の方々や豪商が選ぶような宿のみをご確認されていたとすれば、そこで行き違いになったとしても、不思議ではありません」
失敗した、とミダスは頭を殴られたような衝撃を覚えていた。
周囲にいる騎士たちも落ち着きを失い、顔を見合わせている。
「幸い、ネルガル様が出発されてからさほどの日数は経っておりません。ネルガル様は乗馬を得意とされておりませんから、馬車を伴わず、騎馬のみで追えば、まだ十分に王都前でも追いつけるでしょう」
混乱していたミダスは、カイムの言葉にハッと顔を上げると、カイムに礼を言い、一二三に頭を下げ、慌てて馬に乗って部下の騎士たちと共に去って行った。
一二三は、ミダスが走っていくのを見届けると、ふむ、と考え込んだ。
「何か気になることでもありましたか、あなた?」
「ホーラントな。爺さんが死んで面倒事が起きているだけだと思っていたが、これは......」
にやりと笑う一二三の顔を見上げて、オリガはうっとりとした表情を浮かべる。
「殺し合いの匂いがするな」
それも、大量の血が流れる騒動の匂いがする、と一二三はこのまま魔人族が動き出すのを待つよりも、そっちを引っ掻き回した方が楽しそうだと考えていた。
「ちょうど、イメラリアに持っていくのに良い土産物があるからな。久しぶりに王都に顔を出してみるか」
その言葉に、カイムは一礼し、オリガは今度こそ行動を共にする事を固く決意した。 | Once he confirmed the soldiers in the surroundings scrambling to retreat from the direction of Horant with the person appearing to be the general of the enemy having fallen off the horse, Ma Carme took a deep breath and sighed.
“Haaa. It’s fiiiinally over.” (Ma)
While the messenger let the tension escape from his shoulders in the same way, he noticed that the soldiers around them also showed expressions of relief.
Just because they are more or less accustomed to the battlefield, it doesn’t change the fact that they are afraid of fighting as well.
“Since we will stay here for one hour and stand on guard, each of you, take some rest in turns. Once one hour has passed, we will enter Horant and give our report.” (Ma)
No sooner than he had said that, Ma Carme lied down on the ground.
“Ah, I’m worn-out. I dun’ wanna do somethin’ as scary as war in a place where Lord-sama ain’t present.” (Ma)
The messenger also said down next to Ma Carme who laughed frivolously.
“Is Earl Tohno-sama that powerful?”
“It ain’t at the level of bein’ powerful or such. That man is the same as a military force. If ya see that man on the enemy’s side, I believe it will be the correct choice to leave alone anything and everything to run away.” (Ma)
“It would be completely proper to apply for a transfer request at the national army”, Ma Carme mentions.
“That much...”
“Ya probably also heard about the battle against Vichy, didn’t you? There are likely some parts that were somewhat exaggerated in the circulated rumours, but basically they are true.” (Ma)
“But”, once Ma Carme rose his body and sat cross-legged, he hit the kusarigama at his waist and burst into laughter.
“At the time I heard a bard singing a tale of a beautiful black-haired knight-sama in a bar of the capital, which I visited en route towards Horant, I couldn’t resist laughing.” (Ma)
Ma Carme, who placed his hand on the messenger’s shoulder with a *pon*, shook his head in disbelief.
“The real killing of other people ain’t somethin’ that pretty.” (Ma)
Leaving the messenger, who couldn’t return any answer, alone, Ma Carme calls out to his soldiers in the surroundings and confirms that there are no injured.
Once an hour passes while doing that, Ma Carme and the others quickly cross Horant’s national border.
“Good grief, if I’m allowed to take a few days off, I will temporarily return to Fokalore. I wanna see Director Alyssa’s face soon.” (Ma)
Accompanied by the messenger, who followed them while making sure to be the last one, Ma Carme and his soldiers passed through the border.
The ones who waited there are completely armed infantrymen of Horant and Horant’s prided magic soldiers.
Seeing several spear throwers, which were brought in by Ma Carme’s group for training purposes, obviously aiming at them, Ma Carme squinted.
“... Let me ask for the time being, but what’s the purpose of these?” (Ma)
Once seen, the soldiers, who manned the spear throwers, show a cowering appearance without matching Ma Carme’s line of sight as they are all soldiers who were trained by Ma Carme’s unit.
In contrast to that the magic soldiers prepared their daggers in a state of frenzy in order to release magic at any time.
“Oh my, thanks for your troubles.”
A single, corpulent middle-aged man steps forth from in-between the infantrymen and the magic soldiers while holding his sides with laughter.
“It looks like the strength of those spear throwers is magnificent. By no means, to have that kind of a large army cave in with just soldiers... We appreciate having received such weapon.”
“It seems you are misunderstanding something, but as those are tools we brought along for the sake of our teaching unit, we have no intention to go home while leaving them here. If you want them, it will be just fine if you make them yourself, won’t it?” (Ma)
“The ones misunderstanding are you bastards.”
The middle-aged man, who cleared his throat unnaturally, puts his arms behind his back with an intention to throw out his chest, however Ma Carme’s group’s sight it can’t be seen as anything but him pushing out his belly no matter how they looked at it.
“Orsongrande’s soldiers came to attack our Horant. As it’s only natural to use what’s usable, it’s just a matter of course to use these here for self-defence, isn’t it? Let’s call this an emulation of a battlefield, shall we?”
Even while feeling irritated due to the gaze as if looking down on them with a “Fufu”, Ma Carme calmly surveys the vicinity.
“I’m called Kuzemu and am serving as prime minister of this country, Horant. It’s unnecessary for you to remember it though.” (Kuzemu)
Affirming that they are literally in a situation of being partially surrounded, he turns a fleeting glance towards his back, but there are no soldiers of Orsongrande who are looking this way. However, there are no soldiers from Horant that will become a nuisance either. It seems they haven’t surrounded them completely out of fear of accidentally shooting each other with magic or the spear throwers.
“Well, I guess it’s a misunderstanding. We held back the lot, who came attacking Horant, at the border. You probably know that as well. There’s no need to take a stance of intercepting anymore either.” (Ma)
The infantry soldiers, who were manning the spear throwers, turned their looks at Kuzemu due to Ma Carme’s words.
But, Kuzemu laughed scornfully.
“If it’s about an invasion, it has happened already. Ignoring the sovereignty of our country, soldiers of Orsongrande have thrown their weights around in Horant’s capital while looking as if they owned the place and in addition treated our soldiers completely like their subordinates. And.” (Kuzemu)
Kuzemu pointed below Ma Carme’s feet.
“Aren’t even now soldiers of Orsongrande rudely setting their feet on the soil of our country?” (Kuzemu)
“Wait!” (Ma)
Due to Kuzemu floating a faint smile, one largely built middle-aged man called out while pushing his way through the soldiers.
He has likely a high status, but that can also be perceived from his luxurious attire, which had golden threads inlays. The scary face, which harboured an imposing moustache, exposes his anger as he yells.
“What’s this about, Kuzemu-dono!? Moving the soldiers without the permission of the king and moreover threatening the soldiers of Fokalore, who are cooperating with us...”
“The king is absent, therefore I have moved them like this on behalf of our country as prime minister.” (Kuzemu)
“The authority to move the soldiers lies with me, the Minister of Military and Naval Affairs!”
“The Minister of Military and Naval Affairs is appointed for the “time when a king’s designated.” Differing from me who is the prime minister, your title holds no meaning now that the previous king, Suprangel, has passed away.” (Kuzemu)
“Then, until there’s an order from Nelgal-sama, who is nominated as his successor...”
Due to the former Minister of Military and Naval Affairs being unable to continue his words as he is shocked, Kuzemu finished them for him.
“That’s right. Until there’s an order from Nelgal-sama who is on his way back, I will work as his representative.” (Kuzemu)
“S-Such a thing...”
“That’s how the law is.” (Kuzemu)
During the time Kuzemu quarrelled with the minister, Ma Carme addressed the messenger in a whisper.
“Once I give you the signal, jump on your horse, pass the border and inform Earl Biron about the state of affairs. Since you likely won’t have the spare time to care-freely chat with the border guards, dash along the highway while ignoring them.” (Ma)
“Eh, t-that is...”
“Don’t say anything unnecessary. Only think about accomplishing your job as messenger.” (Ma)
Once he told him sternly without allowing any opposition from the messenger, Ma Carme made an eye signal to the other unit members.
The soldiers nod while smiling.
“Convey our great efforts properly.”
“You have to praise our bravery in front of Director Alyssa.”
There’s no tragic feeling in the words spoken by several.
“Did you hear? You are also an important messenger who will report our virtuous appearance. Once you got Earl Biron’s permission, go to Fokalore. And once you told 「Your subordinates are the best」 to Director Alyssa, it will be fine.” (Ma)
The messenger, who was kicked in the butt with a “go”, jumps on his horse while crying.
“Don’t let him get away!” (Kuzemu)
“Stop him! It will become a big problem!”
Noticing the movements, Kuzemu raised his voice and the minister spoke up even louder.
Only one spear is shot from among the bewildered soldiers and a few spells come flying.
“Oraa!” (Ma)
The single spear was aimed at the back of the messenger, but it dropped down after being hit by the sickle swung by Ma Carme.
Fokalore’s soldiers kicked over the the platform wagon at once turning it into a wall to protect them against the spells.
“Guaah”
“Uooh?”
Even so, two soldiers, who couldn’t get behind the protection in time, were cut by wind magic and collapsed while spouting blood.
Moreover, one person, who got away from the wagon which was burned by a fireball, faints being hit by a pellet against his head.
“Come on, attack us without holding back! It ain’t to the degree of Lord-sama, even I will show you how stylishly I can fight! It would be the best if it were in front of Director Alyssa but as this place is a battlefield, it can’t be helped!” (Ma)
Ma Carme, who spoke sharply while rotating the weight after setting up the kusarigama, laughed as if completely not noticing them being outnumbered.
☺☻☺
“I wonder whether I shall let this decorate the reception at the first floor until the time to use it comes.” (Hifumi)
“No, no, Hifumi-san. That is, a bit...” (Alyssa)
Alyssa, who looked at the freshly severed head of Balzephon which continues to spill soundless grudges while flapping its mouth open and shut, searched for words to prevent Hifumi’s suggestion after murmuring an “Ueeh.”
“It continues to move even without any motive power. I think it’s just right for watching it while wasting time waiting on one’s turn, isn’t it?” (Hifumi)
“I don’t think so! Don’t you think that everyone will end up not approaching this place out of fear?” (Alyssa)
The two people, who are talking in front of the freshly severed head at the entrance of the lord’s mansion, were unapproachable in various meanings. One of those is the existence of that suspicious, monster-like freshly severed head, second is the person, who is the top-ranking man in this region hailed as feudal lord, and lastly the posture of Alyssa clinging to an arm of Hifumi.
“Only Origa-san would accept that.” (Alyssa)
“I see. Then it can’t be helped.” (Hifumi)
Since he was apparently unable to store the head away as it was still treated as “living thing” albeit being able to toss the corpse from below the head into the magic storage, Hifumi had grabbed the head and was carrying it around in the open as is. But Alyssa, who closed the argument, called for a staff member and quickly wrapped the head in a cloth.
The staff member in charge of the reception, who accidentally saw their exchange, fiercely vowed to thank Alyssa afterwards.
“Anyway, with this the monster subjugation has finished, too. It looks like there were no significant movements even after coming back. I have to wait around again, huh?” (Hifumi)
“Isn’t that fine? Hifumi-san, you are working too much, thus it’s just right for you to rest a bit at least. Lately there are new sweets stores in the city...” (Alyssa)
Alyssa, who noticed something just when she was about to continue her words, separates from Hifumi’s arm, which she had seized as if embracing it, and took a distance of around one meter.
At the same time, when Hifumi turns his face in the direction of the city due to a presence he knows, a carriage plunges towards the lord’s mansion raising a thunderous roar.
“Ah, Origa, eh?” (Hifumi)
“Oh, you came back? You took more time than expected.” (Hifumi)
After the carriage stopped in front of the lord’s mansion while raising a cloud of dust, Origa directly leaped into Hifumi’s chest without any hesitation.
Hifumi, who caught her and turned around while killing the momentum, turned his gaze towards Midas, who chased after her while making his horse gallop until it was drenched in sweat, without minding the enthusiastic embrace of Origa.
“Oh, it’s been a while.” (Hifumi)
“I-It has been a while, Earl Tohno.” (Midas)
Obviously doing that always in front of a higher-ranking noble, Midas dismounted his horse and gave his greeting with a proper bow. It can’t be helped that his shoulders are heaving up and down.
“What, did you act as Origa’s escort?” (Hifumi)
“Such things are necessary... no, there’s that as well, but I have been appointed to the task of receiving Nelgal-sama as well.” (Midas)
“Ah, yea.” (Hifumi)
As Hifumi gave a vague answer, he splendidly ignored Origa who was talking about her loneliness and how dull her life without Hifumi in the capital was one after the other while clinging to Hifumi’s body.
“And, considering that it could be used by you, Hifumi-sama, I bought beautiful porcelain plates and bowls, but as they were broken by idiots along the way, there is no more than only one piece remaining...” (Origa)
Burying her face in Hifumi’s dougi while sobbing uncontrollably, Origa confirmed his smell in a casual manner and glared at Alyssa in a way that it couldn’t be seen by Hifumi.
“Uhii!?” (Alyssa)
“Alyssa, we will have a chat later. It looks like it’s necessary for us to slowly talk with each other in my room.” (Origa)
During the time the chat between the women unfolded, Midas started to talk with Hifumi about something he wanted to ask.
“Are you aware that a part of our country’s nobles plot to invade Horant?” (Midas)
“Hmm. That’s the first time I heard about it.” (Hifumi)
“That’s right, isn’t it? As a matter of fact, in order to oppose you, Earl Tohno, they are trying to obtain war achievements by attacking Horant whose king died...” (Midas)
“What’s that about?” (Hifumi)
Hifumi, who sneered, stares at Midas.
“So you are saying that you want me to take responsibility since there are idiots who are mimicking me.” (Hifumi)
“T-Th-That’s out of the question! Her Majesty, the Queen, won’t approve of any begging towards you, Earl Tohno, for assistance regarding this case. Her Majesty has declared that she will resolve everything on her own.” (Midas)
“That’s only natural. I can’t be bothered about each and every fellow who copies me in appearance only, can I? Rather than that, what kind of scale will that battle have?” (Hifumi)
“It’s very likely that it will be ended by the knight order and the nobles of the queen’s faction, including Earl Biron, before long. The problem is the case if damages spread towards Horant, but...” (Midas)
Alyssa, who listened to the talk at his side, grabbed Hifumi’s arm in panic.
“Ma Carme’s unit should be in Horant!” (Alyssa)
Due to Alyssa’s forehead looking up at Hifumi while asking “What shall I do?”, Hifumi gave her a forehead flick with his left hand which was covered by a glove.
“Is there any need to ask me? If you consider them your enemies, then kill them out of your own will.” (Hifumi)
“That’s how it is, Alyssa.” (Origa)
Far from the gaze similar to threatening her until just now, Origa turned towards Alyssa with an affectionate smile completely similar to the Virgin Mary while placing her hands on the chest of Hifumi.
“You decide your enemy. And once you decided your enemy, it’s about killing them without hesitation. That’s our way of doing things, right?” (Origa)
After looking alternatively at Hifumi and Origa, Alyssa quickly bowed and ran off.
Midas, who doesn’t wish for the battlefield to spread too much, watched that with unpleasant memories, but he had another important matter to settle in front of him.
“Our task is to safely escort Nelgal-sama until Horant while guarding him. I’d like to meet with Nelgal-sama.” (Midas)
“Mmh? Didn’t you meet him along the road?” (Hifumi)
Hearing about Nelgal having already departed Fokalore from Hifumi’s mouth, Midas felt an impatience to a degree he had never experienced.
“But, along the way we checked all the inns above a certain rank...” (Midas)
“That’s very likely the reason.” (Caim)
The one who replied towards Midas’ statement was Caim who left the lord’s mansion after hearing the sound of the carriage.magic
“Welcome back, Lord-sama, Madam.” (Caim)
“Caim-san, since there are souvenirs for everyone in the carriage, could you distribute them according to the notes attached on them?” (Origa)
“Thank you very much for your concerns.” (Caim)
“Please wait, “that’s the reason”, what the heck do you mean with that?” (Midas)
Correcting his posture, Caim looked at Midas with an expressionless white face.
“As Nelgal-sama prefers a simple lifestyle, he used part of his budget for buying materials for the sake of his studies rather than living in luxury. Even during his stay at this place he avoided the lord’s mansion, which he couldn’t consider as anything but a reward, and chose one of the city’s lodgings.” (Caim)
“Then...” (Midas)
“It’s very likely that he chooses to stay in cheap inns together with all of his guards along the way as well. If you, Midas-sama, checked only the inns which would be selected by nobility and wealthy merchants, it wouldn’t be a miracle even if you ended up missing each other.” (Caim)
Midas felt a shock as if he was hit against his head.
Loosing their calmness, the knights in the surroundings exchange looks with each other as well.
“Luckily it’s no more than a few days since Nelgal-sama departed. As Nelgal-sama isn’t very proficient at riding a horse and since he hasn’t taken a carriage along either, you can catch up with him even still quite a bit before the capital, if you chase after him on horse.” (Caim)
Midas, who was in chaos, suddenly raised his head due to Caim’s words and after thanking Caim and bowing towards Hifumi, he left together with his subordinate knights once they mounted their horses in a hurry.
Once he ascertains Midas galloping away, Hifumi pondered with a “Hmm.”
“Is there something bothering you, dear?” (Origa)
“It’s Horant. I thought that only troublesome things will happen after the old man died, but this is...” (Hifumi)
Observing the face of Hifumi who grins broadly, Origa displays an entranced expression.
“The smell of people killing each other is drifting about.” (Hifumi)
, rather than waiting for the demons to make their move, Hifumi considered throwing the state over there into confusion while looking happy.
“I have just the right, great present to take to Imeraria. Let’s try showing my face in the capital after quite a while, huh?” (Hifumi)
Due to those words Caim bowed and Origa was firmly determined to act together with him this time for sure. |
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} | 三の特徴である黒目黒髪は、オーソングランデ国内では誰もが知る事となっているようで、巷では髪を黒く染めることが流行っているという。
同時に、貴族の間では決して敵対してはいけない相手として虚実入り混じった噂話が万延している。
おかげで、全ての街で誰にも止められる事も無く、行く先々で最上級の宿を用意され、街を出る際には領主や責任者などが、どんなに朝が早くても見送りに出てきた。
その姿を見て、民衆たちは「やはりトオノ伯爵は誰もが認める英雄なのだ」と評判が加速していく。
ともあれ、大量に闇魔法収納に放り込んでおいた食料などにほとんど手をつける事なく、街道の終点まで来ることができた。
荒野へと向かう街道の終わりには砦があり、獣人が攻めてこないかと兵士たちが警戒をしており、を止める言葉を一応はかけたものの、それ以上無理に止めようとはしなかった。
「面倒がなくていい」
あまり地位には興味が無かったが、こういう形で楽になるのは大歓迎だ。
意気揚々と馬に乗って荒野を駆ける。
荒野にはヒリつくような太陽の光が降り注ぎ、街にいるよりもずっと暑いが空気が乾燥しているのか、それほど汗もかかない。
しばらくは小石がゴロゴロしているだけの開けた土地が続いたが、一度の野宿を挟んだ二日目から、大きな岩やちょっとした林のようなものも見かけるようになった。
そこまで行くと、小さな生き物や魔物をチラホラと見かけるようになる。
飛びかかってくる魔物を片手間に斬り殺しつつ進み、監視されているような視線を感じるようになったのは昼を過ぎたあたりだ。
「さて、最初に見るのはどんな奴かな?」
右手はすぐに剣を抜けるように空けたまま、左手でオリガ特製のサンドイッチを頬張る。
出発直前に大量に渡されたので、まだまだたくさん残っているので、気にせず次々と口に放り込むと、水筒から水を飲む。
たてがみに落ちたパンくずが気になるのか、馬が首を振るのを、「悪い悪い」と笑って払い落としてやる。
そんなふうにのんびり進んでいるうちに、左右両方にある気配のうち右手の方から、近くの木々の間を縫うようにゆっくり距離を詰めてきた。
太い木々が並ぶ林からの距離は10mほど。
満腹になった一、ワクワクしながら馬を降りた。
腰の刀の位置を調整し、ブラブラと気配のする方へ向かってゆっくり歩く。
「わざわざこんなところまで来たんだ。楽しませてくれよ」
口の中でそっとつぶやくと、一二三はひっそりと笑った。
☺☻☺
荒野と呼ばれているが、全域が荒れ果てた乾いた大地というわけではない。いくつもの種族がそれぞれに集落を作って暮らしていける程度には恵みを与えてくれる森もあり、いくつかの大きな河とそこからの支流もある。
虎族や獅子族など、個々の戦闘力が高く好戦的な種族同士は度々小競り合いをくり返し、犬族や鳥族などのそこそこに戦える者たちは、彼らの戦闘に巻き込まれないように自衛をしつつ暮らしている。
そして、荒野にいながら特段の戦闘力を持っていない種族もいる。
その代表が兎族と羊族だ。
彼らは異種族ながら同じ集団で暮らし、攻撃的な敵種族から隠れるように移動しながら森の恵みを得て生活していた。
「ねぇねぇ、ヘレン。人間がいるよ。大丈夫かな......」
ふわふわとした白い髪の毛に、くるりと巻いた黒い角を持つ少女が不安げに話しかけたのは、隣で同じように隠れて様子を見ている兎耳の少女だった。
彼女の視線の先には、自分たちと反対側の林に向かって歩いていく一二三が見えていた。
「アンタなんで人間を心配してるのよ。見つかったらわたしたちも殺されちゃうのよ?」
つり目気味の鳶色の瞳を向けて非難するが、タレ目な羊少女はでもでも、と煮え切らない表情で一二三から目を離せない様子だった。
「はぁ......とにかく様子を見ましょう。死体が残るなら、得られる物もあるでしょうし」
「怖いこと言わないで......」
話しているうちに、遠くに見える人間が迷うことなく林へと進む。
「馬鹿ね。無防備に林に近づくなんて。魔物か虎族辺りに襲われて終わりよ」
「ウチ、なんだか怖くなってきちゃった......」
「レニは本当に臆病なんだから。......来た!」
ヘレンの耳に、一二三の足音と別に、何度も聞いたことがある小さな足音が聞こえてきた。
これが聞こえてきたら一目散に逃げ出していたから今まで生き残れたのだ。
「あいつ、もうダメね。虎族の足音がする」
「そんな......」
「いいから静かにしてなさい。わたしたちまで虎族に見つかったら、殺されるだけじゃ済まないんだから」
ヘレンに叱責され、グッと口をつぐんだレニは、怯えながらも一二三を目で追っている。
「荷物と馬を残して行ってくれたら、儲けものね」
小さく呟いたヘレンも、じっと一二三の動きを見ていた。
☺☻☺
一二三の視線が一瞬、足元を通った小さな爬虫類に向いた瞬間だった。
茂みから飛び上がった影が一二三に向かって覆いかぶさるように突っ込んで来る。
一瞬で刀を抜く程でも無いと判断し、首に向かって伸ばされた爪をかわした一二三は、そのまま手首を掴んで背中から地面へと落とす。
敵は地面に叩きつけられる寸前に手首をひねって拘束から逃れ、くるりと身を翻しながら距離を取って止まった。
「......虎の獣人か」
独特の模様がある毛を全身に生やし、他の動物の皮で作ったらしい簡素な衣服を身にまとった虎獣人の男は、悔しげに一二三を睨みつけた。
「どうした、終わりか?」
「クソッ! チョロい獲物かと思ったが、面倒かけやがって!」
左右から鋭い爪を持つ腕を振り回し、執拗に一二三の顔や喉を狙うが、どの攻撃もカスリすらしない。
「後ろの連中は手伝わないのか?」
「なんだと!?」
腕が止まった瞬間、腹をひと蹴りして虎獣人を転がすと、彼が出てきた林に感じる気配に向かって出てこい、と声をかけた。
気配を交互に見ていると、男と同じ虎の獣人らしい男女が出てきた。
「......まさか、人間に感づかれるとは思わなかったわ」
女の方はスラリとした身体で音もなく歩き、腕を組んで一二三を見た。距離を十分に保ち、背後には木が来ないようにして、すぐに逃げられるようにとしている。
対して、男の方は明らかに苛立っていた。牙を剥き、倒れた男に向かって叫ぶ。
「おい、ガーファン! 何を人間ごときに転がされてんだ! さっさと立ち上がって殺せ!」
「わ、わかってる!」
「ふぅん」
一二三はスラリと刀を抜き、だらりと下げた。
「手伝わないのか?」
「馬鹿にするな! 人間一人に助けなんかいらねぇ!」
立ち上がり、再び爪を振り回す。気持ち速度が上がっているものの、一二三の見切りを超えるには足りない。
ひょいひょいと避けられ、ジレてきたガーファンと呼ばれた男は、雄叫びを上げて掴みかかってきた。
「なんでだよ」
文句を言いつつ、左脇の下をくぐり抜けながら胴を一閃。
上下に分かたれたガーファンは、信じられないという目をしたまま息絶えた。
「なんで二つ目の攻撃手段が掴みなんだよ。そんな牙があるんだから噛み付きとあるだろ。フットワークを活かして翻弄するとかしろよ」
「が、ガーファンが......」
「ちぃっ!」
ガーファンの死を目の当たりにした二人の虎獣人は、動揺しながらも鋭い爪を出して構えた。
「お、やる気になったか」
「ああ、殺してやるぜ!」
先に走ってきたのは男の方だ。
一二三の目の前に来るやいなや、上半身全体を振って右手を叩きつけてくる。
当たれば肉を削り取られそうな勢いだったが、一二三は更に加速して踏み込み、くるりと回転しながらやり過ごす。
「え......? この!」
そのまま目の前に迫ってきた一二三に、女獣人は慌てて両手の爪を振り下ろした。
タイミングは完璧で、顔面にいくつも縦筋の傷をつけたと確信した時、その両腕が滑り落ちた。
「ああああああっ!」
痛みに転がって血を振りまく女獣人は、首を斬られて絶命した。
「必ずしも同じ速度で突っ込んでくるとは限らない」
一二三は突然減速し、振り下ろされた腕を斬っただけだが、誰にも見抜けなかった。
「野郎......!」
無視された男の獣人は怒りに震え、握り締めた拳からは血が溢れる。
「お前らにも街や村があるのか? それとも、少人数で独立して暮らしているのか?」
のんきに質問を投げかけた一二三に、馬鹿にされたと思った獣人は答えることもなく踊りかかった。
先ほどと同じように右腕を振り回してくるのを、一二三は飽きた、とつぶやいて右腕を斬り飛ばした。
「があああ!」
倒れはしないものの、切断された右腕を押さえた獣人は、息を荒げて膝をついた。
それを見下ろす一二三の目には、興味が失せたという色が浮かぶ。
「ま、待ってくれ! あんたの実力ならうちのボスといい勝負ができるはずだ! 俺が手伝うから......」
言葉は最後まで続かず、口をパクパクと動かす首が地面に落ちると、遅れて身体の方が土煙を上げて倒れた。
「ボス、か」
そっちはそのうち会いに行こうと決めて、一二三の視線は反対側の茂みから自分を見ていると思われる気配の方を向いた。
「す、すごい......」
羊獣人のレニは素直に一二三の力を賞賛したが、隣にいるヘレンは、兎耳を震わせながら汗をびっしょりとかいていた。
「ヤバイかも。レニ、早く逃げるよ!」
「えっ?」
「早く!」
レニの手を引いて立ち上がると、いつの間にか人間はこちらへ向かって進み始めている。
鼓動が早まるのを抑えつつ、冷静にと自分に言い聞かせながら、レニの手を強く握った。
なるべく足音を立てないように。
直線的にならないように。
自分たちの姿が木立の影に隠れるように。
「はぁ......はぁ......」
今までに覚えてきたやり方を懸命に思い出しながら走る。
レニの息が荒くなってくるのがわかるが、引っ張ってでも逃げなくては。虎獣人があんなにあっさりと殺された。自分たちが敵うわけがない。
邪魔な枝を潜り、草を踏みしめて小川を飛び越える。
「へ、ヘレン......」
肩で息をしながらレニが指差した方向から、猛然と追いかけてくる人影が見えた。
「そんな! わたしたちに人間が追いつくなんて!」
戦うのは無理でも、逃げ足には自信があったのだが、それも崩れ去った。
「......あれ?」
木々の間をぐるぐると回っているうちに、一二三の姿が見えなくなった。
「に、逃げ切ったの......?」
「そういう時には、もっと距離を稼ぐもんだ」
木の上から目の前に降りてきた一二三の声を聞いて、緊張がピークに達したヘレンは、糸が切れたように倒れた。
「気絶した、か。うん?」
別に怖がられるような事は無いと思うんだが、と思っている一二三の目の前に、レニが立ちはだかった。
「へ、ヘレンに手を出さないでください!」
涙を浮かべ、身体は震えているが、レニの目はしっかりと一二三を見据えている。
やれやれ、と溜息をついた一二三は、レニの柔らかな髪を撫でた。
「別に戦うつもりで追いかけたんじゃないぞ。俺に敵対しないなら、別に殺しはしない」
「でも、虎の人たちを殺してました......」
「ああ、あれはあいつらが手を出してきたからだ」
俺の技術は力弱い人間が、自分の身を守るために編み出した技術だぞ、と一二三は自慢げに語る。
その雰囲気が先ほどまでの鋭い刃物のような冷たい雰囲気ではなく、楽しい話をする自分の兄たちと重なって見えた。
「本当......ですか?」
「別に信じなくてもいい。ただ、ちょっと話を聞きたいだけだ。それよりも、まずそいつをどうにかした方がいいんじゃないか?」
一二三が指差した方を見ると、ヘレンの下半身が湿って、アンモニアの匂いが漂ってきた。
「へ、ヘレン!」
気絶した身体を抱えようとするが、非力なレニではどうにもならない。
かと言って、放置していけば魔物や他の獣人に殺されてしまうかもしれない。
「大変そうだな。なんなら、手伝ってもいいぞ?」
その提案に嬉しそうな顔をしたレニは、一二三の顔を見て思い直した。
「でも、人間を連れて行くわけには......」
「なら、途中まででいい。近くに行けば、誰か呼べるだろう。代わりに、この荒野について色々教えてもらう」
一二三とヘレンを交互に見ていたレニだったが、他に良い選択肢が思いつかなかったらしい。涙を浮かべて一二三に頭を下げた。
「そんなに怖がるなよ。別に取って食ったりするわけじゃないんだ。それどころか、ほれ」
一二三は収納から取り出した焼き菓子をレニに投げ渡すと、馬を引っ張ってくるから待ってろと言い、あっという間に見えなくなった。
焼き菓子を見つめていたレニは、甘い匂いに我慢できずに一口だけかじった。サクっと音を立て、口の中でほろりとほどけて広がった甘さに、思わず微笑みがこぼれる。
「良かった。人間だけど、いい人みたい」
レニは幸運に感謝して、残りはヘレンにあげよう、と焼き菓子を布に包んでポケットに押し込んだ。 | It has become common knowledge within Orsongrande that black pupils and black hair are Hifumi’s characteristics. On the streets it’s popular to dye the hair black.
At the same time, there is gossip, mixed with lies and truths, between nobles that he is an opponent they must never oppose (causing a Man’nen era)*
Thanks to that, without him being stopped by anyone at all the cities he passed and having only the best inns being prepared for him at his destinations, he was seen off, at the time he left, by the feudal lords and people in charge no matter how early it was in the morning.
Seeing these scenes, his fame among the populace was increasing with 「Earl Tohno is a hero recognised by everybody after all」.
In any case, without having to do any work, he could toss things like food into his darkness storage in large quantities enabling him to reach the last stop of the highway.
There is a fortress at the end of the highway facing towards the wastelands, where the soldiers are watching whether the beastmen are coming to attack. Although they gave Hifumi warnings to stop just in case, they didn’t attempt to unreasonably hinder him any further than that.
“No trouble is always better.” (Hifumi)
They weren’t interested in his rank overly much, but this was also very welcome and comfortable to him.
He galloped through the wastelands in high spirits.
The sun light in the wastelands is piercing. Though the air is dry it’s much hotter than being in a city? I’m not sweating that much though.
For a while he continued in the open area, where only pebbles were scattered around, but after taking a break on the second day to sleep outdoors for a bit, he caught sight of something like a simple forest and a big boulder.
Once he got there, he sporadically noticed small animals and monsters.
Advancing while slaying the monsters, swooping down on him, in his spare time, he felt an observing gaze at the place he passed through at noon.
“Well then, I wonder what kind of fellow I will get to see first?” (Hifumi)
Opening his right hand as if he wants to draw his katana right away, he stuffs his cheeks with the sandwiches specially made by Origa using his left hand.
Since she gave him a large amount just before he departed and given that there are still plenty remaining, he throws them one after the other into his mouth without care and drinks water from the flask.
As the horse shakes its head, he brushes off the crumbs while laughing with a 「Sorry, sorry」.
While advancing care-freely in that manner, there are presences at both sides, left and right, on his right hand side. Those slowly shortened the distance by weaving between the many trees close-by.
There’s around meter distance to the forest, where many trees are densely lined up.
Hifumi, who filled his stomach, got off the horse while being excited.
Adjusting the position of his katana at his waist, he faces towards the direction of the presences lazily and walks there slowly.
“I expressly came to this place. Let’s have some fun.” (Hifumi)
Hifumi softly muttered under his breath and silently laughed.
☺☻☺
Although they are called wastelands, it’s not like the whole area has desolated, parched earth. There are also forest granting blessings at the level that each of the countless tribes can make a living by building settlements. Likewise there are branches of several large rivers.
Tribes like those of the tiger and lion clans often clash in skirmishes with their fellow warlike tribes, which have high individual fighting strength. Those, who can fight more or less like the dog and the bird clans, are living while defending themselves in order to not get swallowed up by these battles.
And there are also tribes, which don’t possess any special fighting strength while being in the wastelands.
Their representatives are the rabbit and sheep clans.
They live in the same group while being of different species. While travelling in order to hide from aggressive clans, they lived by obtaining the blessings of the forest.
“Nee, nee, Helen. There’s a human being. I wonder, will it be alright... ?”
The little girl, possessing dark horns, which were completely wrapped up in white, fluffy hair, talked anxiously to the little girl with rabbit ears, who is watching the situation next to her similarly hidden.
Ahead of her view she saw Hifumi walking towards the forest on the opposite side of them.
“Why are you worrying about a human? Won’t he kill us as well, if he discovers us?” (Helen)
Although she turns her reddish-brown, almond-shaped eyes and blames her, the sheep girl with her drooping eyes went “But, but” with a half-hearted expression and appeared to not take her eyes off Hifumi.
“Haa... anyway, let’s observe the situation. If there’s a corpse remaining, we might be even able to get something.”
“Don’t say such scary things...”
While they are talking, the human, visible at a distance, heads into the woods without hesitation.
“What a fool. Something like approaching the woods defencelessly. It will end with him being attacked by the monsters or the tiger clan nearby.”
“I’m somewhat scared...” (Reni)
“It’s because Reni is a coward. ... They came!” (Helen)
Due to Helen’s ears, she heard small footsteps, she had heard many times before, apart from Hifumi’s footsteps.
They survived so far because they escaped at full speed once they heard those.
“That guy is already done for. It’s the footsteps of the tiger clan.” (Helen)
“Such a...” (Reni)
“Listen, be quiet. If we are found by the tiger clan as well, it won’t finish with us only getting killed.” (Helen)
Reprimanded by Helen, Reni, who held her tongue with a gulp, follows Hifumi with her eyes even while being frightened.
“If they leave the luggage and horse, it will be a great haul.” (Helen)
Even Helen, who murmured that in a small voice, motionlessly watched Hifumi’s movements.
☺☻☺
In an instant Hifumi’s sight spotted the small reptiles, who passed under his feet.
The shadow, which jumped out of the thicket, headed towards Hifumi and came lunging in order to prey upon him.
In an instant judging that the attack’s not the degree of him having to draw his katana, Hifumi dodged the extended claw aiming at his neck, caught the wrist and used the momentum to let the attacker fall towards the ground on its back.
The enemy, on the verge of being slammed into the ground, escaped from the restraint by twisting its wrist and while quickly dodging, it stopped after having taken some distance.
“... A tiger beastman, huh?” (Hifumi)
The male tiger beastman, who wore simple clothes apparently made out of skin of other animals, grew fur, which has a characteristic pattern, on its entire body. He glared at Hifumi in absolute mortification.
“What’s up? Are you finished?” (Hifumi)
“Fuck! I thought it would be easy prey, but it became troublesome!”
Wielding his arms, possessing sharp claws left and right, he persistently aims at Hifumi’s face and throat, but none of his attacks even graze its target.
“Won’t the lot in the back assist you?” (Hifumi)
“What was that!?”
The moment he stopped his arms, the tiger is sent flying with a single kick into its belly and Hifumi told the presences, he felt in the forest, to come out.
Once he looked at the mutual presences, man and woman, apparently the same as the tiger male, came out.
“... Never did I expect to get sensed by a human.”
A woman type with a long, slender and well-proportioned body walked out silently and looked at Hifumi with her arms folded. Keeping plenty of distance and making sure to not have a tree in the back, she takes care to be able to escape at once.
In contrast, the male type was obviously irritated. Baring his fangs, he shouted at the fallen beastman.
“Oy, Gafan! What are you rolling around in front of a human. Get up and kill him!”
“I-I know!” (Gafan)
“Humph.”
Hifumi smoothly drew his katana and held it loosely.
“Are you going to help him?” (Hifumi)
“Don’t look down on me! I dun’ need any help for a single human!” (Gafan)
Standing up, he once again brandishes his claws. Although he has raised the speed a little bit, it’s not enough to surpass Hifumi’s vision.
Avoiding them with agility, the man called Gafan got impatient and raising a roar, he came grabbing.
“What for?” (Hifumi)
While complaining, he passes under the left armpit while striking at the torso in a flash.
Gafan, who was split in top and bottom, died while looking as if he couldn’t believe it.
“Why is the second way of attack a grab? I was certain he would bite since you have your fangs. Lead your enemy around by making use of your footwork.” (Hifumi)
“Ga-Gafan is...”
“Tsk!”
The two tiger beastmen, who saw Gafan’s death right before their eyes, prepared by extending their sharp claws while feeling shaken.
“Oh, you feel up to it?” (Hifumi)
“Yea, I will kill you!”
It’s the male type, who came running earlier.
No sooner than him coming in front of Hifumi, the entire upper half of his body shakes and his right hand come striking.
It was a force that would shave off the flesh, if it hit, but Hifumi, stepping into his bosom by speeding up even more, lets him go past while quickly rotating.
“Eh... ? This!”
Due to Hifumi, who approached her from the front as is, the beastwoman swung down the claws of both her hands in a panic.
At the time she was convinced of having caused many injuries in a vertical line on his face due to the perfect timing, both her arms slipped off.
“Aaaaaaaah!”
The beastwoman, rolling around in pain and scattering blood, had her life ended by her neck being sliced.
“It’s not always true that they will come thrusting at the same speed.” (Hifumi)
Hifumi, suddenly decelerating, only cut the downward-swung arms, but none of them was able to see through that.
“You bastard...!”
The ignored beastman trembles in anger and drips blood from his tightly grasped fists.
“Do you guys have a village or town as well? Or are you living independently with a small number of people?” (Hifumi)
Due to Hifumi raising questions nonchalantly, the beastman, who believed to be made fun of, leaped without answering.
Hifumi lost interest in the way of him brandishing the right arm just as the ones before and muttering that he cut off the beastman’s right arm sending it flying.
“Gaaaah!”
Although not falling to the ground, the beastman, who pinned down the stump of his right arm, fell to his knee’s and breathed heavily.
Hifumi’s eyes, looking down on him, showed the colour of disinterest.magic
“P-Please wait! With your ability, you should be a good match for our boss! As I will help you...”
Without being able to finish his words, his head dropped to the ground while still flapping its mouth and with a slight delay his body collapsed as well raising a cloud of dust.
“Boss, huh?” (Hifumi)
Deciding to move in order to meet that person soon, Hifumi’s look faced in the direction of the presences watching him from the thicket on the opposite side.
“A-Amazing...” (Reni)
The sheep beastwoman, Reni, frankly admired Hifumi’s strength, but Helen, being next to her, was drenched in sweat while her rabbit ears quivered.
“This may be dangerous! Reni, let’s escape quickly!” (Helen)
“Eh?” (Reni)
“Hurry!” (Helen)
As she got up leading Reni by the hand, the human has begun to move towards their location before she became aware of it.
While suppressing the urge to act rashly, she strongly grabbed Reni’s hand while persuading herself to stay calm.
She takes care to not make any noise with her feet as much as possible.
She watches to not advance in a straight line.
She makes sure to hide their figures in the shadows of the grove of trees.
“Haa... Haa...” (Reni)
She runs while eagerly remembering the methods of movement, she learned until now.
Although she knows that Reni’s breath is going wildly, she must escape even if she has to drag her along.
Diving under branches hindering their way, she firmly treads through the grass and jumps over stream-lets.
“He-Helen...” (Reni)
After looking in the direction, Reni was pointing at, while breathing heavily, she saw the figure of a person fiercely chasing after them.
“What! A human is catching up with us!” (Helen)
Even if it’s impossible to fight for her, she had confidence in her ability to run on foot, but even that confidence crumbled apart.
“... Huh?”
While circling around between the many trees, she lost sight of Hifumi’s figure.
“D-Did we get away... ?”
“At such time you have to earn more distance.” (Hifumi)
Hearing the voice of Hifumi, who descended in front of them from atop a tree, Helen, whose tension reached a peak, collapsed as if a thread was cut.
“Fainted, eh? Yes?” (Hifumi)
I believe there’s no particular need to be afraid of me though
“P-Please don’t raise your hand against Helen!” (Reni)
Spilling tears and with her body shivering, Reni’s eyes are firmly staring at Hifumi.
Hifumi, sighing a “Good grief”, stroke Reni’s soft hair.
“I didn’t particularly chase you to fight against you. If you aren’t hostile towards me, I won’t kill you.” (Hifumi)
“But, you killed the tiger people...” (Reni)
“Ah, that’s because they started a fight with me.” (Hifumi)
“It’s my own technique I thought up in order to defend myself as weak human”, Hifumi brags.
With his air not being the same cold air like a sharp blade as until now, the sight of him happily talking overlapped with her elder brothers.
“Really... is that so?” (Reni)
“You don’t have to believe me. However, I only want you to tell me a little something. Leaving that aside, isn’t it better to do something about that person first?” (Hifumi)
Looking the way Hifumi was pointing at, Helen’s lower body part was wet and the smell of ammonia was drifting about.
“He-Helen!” (Reni)
She tries to carry the fainted body, but she’s helpless due to her powerlessness.
Having said that, if she went away leaving Helen as is, she might end up getting killed by monsters or other beastmen.
“It appears to be difficult. If you like, I can help you?” (Hifumi)
Reni, who displayed a delightful face upon his proposal, changed her mind once she saw Hifumi’s face.
“But, bringing a human along...” (Reni)
“If that’s case, it will be fine not going all the way. If we get close, you will probably be able to call for someone. In exchange, I will have you teach me various things about these wastelands.” (Hifumi)
Reni looked at both, Helen and Hifumi, but apparently she couldn’t come up with another good option. Spilling tears, she bowed towards Hifumi.
“Don’t be so afraid. It’s not like I want to eat you. On the contrary, here!” (Hifumi)
Hifumi passed her baked sweets, he took out from his storage, with a toss and vanished from her sight in the blink of an eye after telling her to wait so that he could get the horse.
Reni, who stared at the baked sweets, nibbled only a mouthful unable to resist the sweet fragrance. Making sounds of crunching, an involuntary smile leaks out due to the deliciousness spreading within her mouth causing her face to slacken.
“It was great. Although a human, he seems to be a good person.” (Reni)
Thanking her good fortune, she wrapped the remaining sweets in a cloth for Helen and stuffed them into her pocket. |
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} | 爽やかな朝の日差しに包まれて、薄汚れが手持ち無沙汰に屯していた。ビフロンの呼びかけに応じてスラムから出てきた者たちだ。
スラムの中では実力が認められていたビフロンの呼びかけと、証拠として晒されたトルケマダの死体の効果は上々で、150人弱がゴミ通りを通ってスラムから街へ出てきている。男も多いが、女子供はほぼ全員が出てきていた。領主に逆らえる力も意思も持っていないのだ。
徹夜でスラムを駆け回ったビフロンと仲間たちは疲労困憊だったが、これから先どうなるのかを考えると、緊張で眠気を感じることもできない。
「おはようございまーす!」
ざわざわと不安げに話し合っているところへ、快活な挨拶が飛んできた。
ビフロンが見ると、少女が手を振りながらにこにこと歩いてくる。その後ろには如何にも役人という格好の男女や、数名の兵士がついてきている。
「おじさんたちが、スラムから出る人たちだね?」
「僕はこの街の軍務長官のアリッサだよ。さんから言われて、おじさんたちの受け入れをするから、男の人はこっち、女の人はこっち、子供がいるお母さんは子供と一緒にこっちね」
担当であるカイムやオリガを指差してさっさと話を進めようとすると、ビフロンの後ろから男が進み出てきた。
「お前みたいなちびガキに指図されるなんざ冗談にしても笑えねぇよ! 俺らがスラムの人間だからって、ナメんじゃねーぞ!」
一トルケマダを殺したときにも、最初に声を上げて激高した男だ。
「えっ、でも......」
「ビフロンさんの顔に免じて、大人しく出てきてやったけどな。ガキの遊びに付き合わされるいわれはねぇぞ!」
詰め寄られ、アリッサがおどおどと後ろを見ると、腕を組み仁王立ちのオリガが頷いているのが目に入った。
「うぅ......えい!」
オリガの視線の圧力に、意を決したアリッサが振り抜いたのは、飛び口というピッケルのような形の道具だ。
目を瞑って振り抜いた割には、飛び口の尖った先端は的確に脳天の中央に突き刺さった。
「このように」
オリガがアリッサに並び立ち、怯える住民たちにゆっくり語る。
「私たちの主である一二三様の意向に逆らう者は処分します。余計なお荷物を抱えるつもりはありませんから、そのつもりで。わかったらさっさと言われた通りに動きなさい」
有無を言わなさぬ雰囲気で、ビフロンすらも黙って男性が集められた場所へと向かった。
「アリッサ、良くやりました。ああいう輩の話など聞いてあげる必要はありません」
「本当に良かったのかな......」
未だに自信が持てない様子のアリッサに、オリガは優しく微笑みかける。
「自信を持つのです。一二三様の敵を一人、始末できたのですから」
「そ、そうだよね!」
和気あいあいとした空気を醸し出しているが、集まる視線は畏怖を含んでいる。
そこに、今更一二三がのんきに歩いてきた。
「お、もう話が進んでるな」
「遅いですわよ、領主様」
アリッサについて来ていたミュカレが言うと、一二三は大きなあくびをする。
「昨夜プルフラスと話してたら盛り上がって遅くなってな。寝坊くらいでそんなに睨むなよ」
「一二三様、こちらは私どもにお任せ下さい」
「ああ、任せた。それじゃ、俺は残りを片付けるから、アリッサ、後始末の人手を夕方くらいに寄越してくれ」
「わかった!」
あれが領主様かと、口々に話し合うスラム住民たちだが、アリッサが手を叩いて注目を集めて改めて指示すると、そそくさと残った全員が移動した。
「オリガ、予定通り男連中はプルフラスの手伝い。女連中は職員の手伝い。子供たちはお前が教育な」
「かしこまりました。一二三様もお気を付けて」
上品にお辞儀をするオリガに軽く手を振って、一二三はスラムへの道を進んで行った。
「一二三さん、プルフラスさんと何を話してたんだろうね?」
「新しい武器と戦争の道具のお話よ」
アリッサがポツリと呟いた質問にオリガは即答した。
「今から使う武器を急いで作ってもらったのと、スラム住人の仕事として作成、敷設をする戦争準備のお話だったそうよ」
朝一から一緒に行動しているのに、なぜ知っているのか疑問に思ったアリッサだったが、嫌な予感がしてそれ以上は突っ込んで聞くのはやめた。
オリガが何故か知っていた通り、一二三の闇魔法収納には、新調したいくつかの武器が放り込まれていた。
ゴミの道を抜けながら取り出したのもその一つだった。
三尺程度ある鉄製の棒を三本、鎖で繋いだいわゆる『三節棍』だ。一本の棒になるギミックを付ける案も検討したが、同様に仕掛けがある契り木があっさり壊れたのが悲しかったので、今回はシンプルに作ってもらった。殺傷力を上げるために金属製にして両端を尖らせている。
鼻息混じりにスラムに入り、燦々と輝く朝日に目を細めながら、気配を探りつつウロウロとスラムの汚れた道を歩く。
ふと、一件の古い家屋の前で立ちどまり、前蹴り一発でドアを打ち抜いた。
踏み込むと、暗がりに髭面の親爺が寝転がっており、酒の臭いが充満している。
「あ、なんだ?」
酔っているのか寝ぼけているのか、目を瞬かせている親爺の喉に、一二三は三節棍の先端を押し込んだ。
音とも声ともつかないモノが聞こえて、親爺は死んだ。
首の骨に当たったが、棍の先端は潰れていない事を確認した一二三は、満足げに次の家へと向かう。
同じ様に三節棍の使い心地を確認しながら何人かを処分したところで、道に屯する男たちの姿が見えてきた。一二三の姿に気づいた彼らは、徐ろに武器を持って叫び声を上げた。
「お前が俺たちを始末するとか抜かしてるガキかぁ!」
「変な棒切れ振り回して、何様のつもりなんだよ!」
まんま田舎の不良みたいだと思うと、ぷふっと、口から笑いが漏れる。
「領主様だ。憶えなくていいけどな」
真ん中で最初に声を出した奴に駆け寄った一二三は、ゴルフスイングのように振り回した三節棍を股間に叩き込んだ。
グチャリと何かが潰れて、男はショック死する。
「ひっ......」
隣で目撃した男が悲鳴をあげた。腰が引けて顔が前に出ていたので、手元側の先端を眼球に突き立てた。
そのまま三節棍を手放し、十手を懐から取り出す。十字になったタイプではなく、江戸期の同心が持っていたような、一尺ほどの長さの鉄棒に鈎が付いた形状をしている。丁度いい材料がなかったので、房はついていないのが一二三には残念だった。
右手で順手に持った十手を突きつけて、一番近くにいた奴を威嚇する。
「そ、そんな短い棒で何を......」
言っている間に膝の皿を十手で突き割られ、悲鳴も出せずに倒れこんだところで首を踏み折られた。
横から剣が迫るが、十手で引っ掛けて逸らし、左の拳でハンマーのように胸を打ち据える。
鈍い振動が響き、剣を落とした男は力無く沈んだ。
恐怖で後ずさった奴にはひと飛びで迫って左目に十手を突き刺し、左手で柄を殴りつけて後頭部から飛び出す程に押し込んだ。
「あと3人か」
「ま、待ってくれ! 俺はこんな事には反た......ひぃ!」
怯える男に素手のまま近づいた一二三は、相手の腕を取ってうつ伏せに引き倒し、後頭部を強烈に踏み潰した。
硬い地面で顔面を潰されて動かなくなった男の手を離し、次に取り出したのは愛用の鎖鎌だ。
「ち、畜生!」
「誰が畜生だ」
やぶれかぶれに斬りかかってきた男は、立ち位置をずらしながら足をかけて転ばせ、倒れた男は無視。剣を構えて躊躇しているもう一人にしがみつくように押し倒す。
「ぐぇ」
倒れた瞬間、一二三の体重で鎌が心臓にめり込み、絶命する。
返り血で顔を赤く染めてゆっくり立ち上がる一二三を見て、転ばされた男はもう立ち上がることもできない。
「う、うぁ......」
ゆっくりと近づいた一二三に、血濡れの鎌を喉にあてられても、恐怖ですくむ身体は動かない。
ザッと草を刈るように振り抜くと、最後の一人も死んだ。
「ふむ......」
離した武器を拾いながら、順番に確かめていく。
「あ~、ひん曲がってら」
眼窩を貫いて頭蓋骨を突き抜けた十手は、こびりついた脳漿を懐紙で拭ってよく見てみると、殴った時の衝撃のせいか、ほんの少し“くの字”に曲がってしまっていた。
「やっちまったなぁ......テストのつもりだったし、こういう事もあるか」
使った武器をさっさと拭きあげて収納に放り込んだ一二三は、腹が減ってきたので一度街へ戻って適当な屋台で買い食いをしてからスラムへ戻り、夕方までウロウロと歩きながらさらに30人程を始末した。
ほとんどが跳ねっ返りの若い男たちで、自分の腕に自信があったようだが、誰も彼もが一二三に傷一つ付けることもできなかった。
血を浴びながら殺人散歩を続ける間、壊れてしまった十手以外に、三節棍も何度か試し、基本の刀、突きの基本から、脛斬りや剃り上げなど、まるで普段の稽古メニューのように淡々とこなしていく。
そろそろスラム全域を周り終わるかというところで、強い殺気を感じた一二三は軽やかに一歩だけ横にずれた。
風切り音が通り過ぎて行き、奥のあばら家に矢が刺さった。
振り向くと、こちらに向かって次の矢を構えている男がいる。身長は2mはあろうという巨漢で、大きな弓をギリギリと引き絞っている。
不意打ちが嬉しかった一二三は、笑みをこぼして刀を抜いた。
「お前が最後のようだな。でかい図体をしているが、弓だけが能じゃないだろう?」
男が腰に提げた棍棒を見ての挑発には乗ってこず、二射目が一二三を狙う。
一二三は刀を逆手に持ち、身体を半身に構えて刀の後ろに身体が重なるように構えた。随分前に師匠から教わった、古流剣術の矢に対する構えだ。実戦で使うのは初めてだが。
(当たる範囲を制限して、刀で払って落とすらしいが......)
実際にやってみると中々緊張感があるな、と一二三は意識的に腕の力を緩めた。
ヒュッと音がして、直感で刀を振ると、折れた矢が足元に落ちた。
「なんだと!?」
まさか矢を叩き落とされるとは思わなかったのか、次の矢も取らずに目を見開いている。
その間に距離を詰めた一二三は、逆手に持ったままの刀を股下から刷り上げるように斬りつけたが、男は弓を投げつけながら転がって回避した。
その間に、腰に提げていた1メートル程の木製の棍棒を掴んで油断なく構えるあたり、一二三にとって嬉しい相手だった。
「いいね、いいね。他のボンクラとは違うなぁ」
「......化け物が」
刀をくるりと順手に持ち替え、カラカラと笑う一二三に対し、男は苦い顔をしている。
「俺はとっても努力して鍛えた普通の人だっての」
一二三を知る10人に聞いたら15人が否定しそうな事を
った。
男は無言で棍棒を振り下ろしてくるが、一二三は気負い無くどんどん下がって避けていく。
男が大上段に振りかぶったところで、相手の腹の下に潜り込んだ一二三は、そのまま腰の上に担いで頭から落とした。
鈍い音がしたが、男はそれでもフラフラと起き上がる。
「頑丈な奴だな」
「妙な動きしやがって......」
紅潮した顔で首をゴキゴキと鳴らしながら、男は再び棍棒を構えた。
「弓はまあまあだったけど、棍棒の振り方は単調でつまらないな。それ以外に何かないか?」
「うぬぅ!」
肯定するのも嫌だと猛烈な勢いで迫って来るの男に、一二三は飽き始めていた。
そこで、他にもプルフラスに用意させた物があったことを思い出し、収納から取り出したそれを足元に撒く。
「いっ!? ぐぁあ!」
「これは流石に我慢できないか」
ちょっと広範囲に巻きすぎた鉄菱を避けつつ、悶絶する男の横に立った一二三は、刀でさっくりと心臓を刺して殺す。
「初めて使ったけど、たまにはいいかもな。緊張感は削がれるけど」
撒き散らした鉄菱を拾い集める。
「......回収が面倒くさいなぁ」
拾い集めた鉄菱を闇魔法の収納に放り込んだ時に、ローヌでやったように地面に直接穴を開けて回収すれば良かった事に気づいた一二三は、悲しみを抱いて領主館へと戻った。
こうして、有史以来延々と掃き溜めとなっていたフォカロルの街のスラムは、たった一日で無人となった。
スラムから回収できた労働力を最大限に利用したオリガと5人の奴隷文官によって、フォカロルの街は急速に変化していった。
トロッコのレールはスラムからの労働力によってすでにアロセールまでの往復路線を延伸済みで、人や物を乗せた試験的な運用も始まっている。
街の外壁も増強され、王都側もアロセール側も門を改修し、スカスカの格子だったものから鉄板の門扉に変更された。
スラム出の女たちも、最初は街の住民に冷たい扱いを受けていたが、街の清掃や家庭ごみの収集などに従事させるうちに、概ね受け入れられつつあった。
こういった事業の適当な草案だけ作って文官たちに丸投げしただけの領主一二三は、たまに進捗を確認する程度だったし、アリッサも「よく判らない」の一言で極力政治関係には近寄らず、領軍から手伝いに人数を出すことも減り、ミュカレと共に一二三の指示による戦闘の訓練に忙殺されていた。
自然と、オリガが一二三からの指示を受けて仕事を割り振る形が定着し、住民の中にはオリガを領主の妻と勘違いしたり、領主が女だと思っている者もいる。
一二三自身は、最低限の決済書類にサインをするだけで、基本的には朝の稽古を終わらせて、湯を浴びているかと思うといつの間にか居なくなるというのが日常になっていた。
今日も今日とて、アロセールへ到達したトロッコの試運転という名目で遊びに行き、ついでに街道沿いの魔物退治をしてくると言って、一二三は執務室から姿を消していた。
「今日もご不在ですか」
職員たちの間で“鉄面皮”の悪名高い文官奴隷のカイムは、留守番として一二三の執務室に居たカーシャを見て、無表情のまま呟いた。
「カイムさんか。アタシがこの部屋に来た時に、丁度ご出陣の時間だったよ」
「少し、引き止めてくだされば助かるのですか」
「無茶言わないでよ」
笑ったり泣いたりした事がないんじゃないかという顔で、しばらくカーシャを見ていたカイムは、無言のまま執務室を去った。
入れ替わりに入ってきたのは、オリガだ。
室内がカーシャのみだと気づいたオリガは、そのまま部屋を出ていこうとするが、カーシャが声をかけて引き止めた。
「オリガ、一二三さんに何か用なら、アタシが聞いておくよ」
足を止めたオリガはカーシャを見つめる。その顔はカイムとは違って言いたいことを押さえているように見えた。
「......いいえ。一二三様がお帰りになられてから、直接お伝えするわ」
では、と退室しようとしたオリガは、再び立ち止まった。
「カーシャ、貴女名目だけとはいえ護衛なのだから、少しは訓練をしたらどう? 斥候からの情報から、もうすぐヴィシーとの大規模な戦闘が予想されるのだから、領軍がどう動くのか、アリッサと打ち合わせをして、訓練に参加してきなさい」
言いたいことを一気に吐き出してから、オリガはさっさと出て行く。
「戦闘か......」
カーシャが腰に下げたポーチに、小さな魔法具が入っている。
叩き割ると対になっているもう一つも割れるというシンプルな物だが、かなり高価な緊急用の連絡道具だ。
パジョーからの依頼は、一二三が大怪我なり危機的状況になった時に割って、パジョーに知らせる事になっている。一応、追求された時用に表向きの理由は一二三の危機に駆けつけるためだとしているが、実際は、戦闘時のゴタゴタの中で一二三を暗殺したいという王女とパジョーの意向によるものは明らかだった。
これを使う状況になった時、死ぬのは一二三だけだろうか?
長い時間、カーシャはオリガが出ていったドアを見つめていた。 | Wrapped in the refreshing morning sunlight, a huge group of slightly dirty people were restlessly gathered. They were those who listened to Bifron’s call and exited the slums.
Listening to Bifron, whose strength was recognized within the slums, and seeing his proof in the form of Torkemada’s corpse, a little less than people had gathered and followed the trash-filled street, and exited the slums. Although there were a lot of men as well, almost all the women and kids had come out. They didn’t have either the power or the intention to go against the lord.
Bifron and his comrades who had been running around the slums for the whole night, were completely exhausted. But once they thought about what would happen from now on, their tension and sleepiness was blown away.
“Good morning!” (Alyssa)
Amidst the noisy conversations expressing their uneasiness, a loud cheerful greeting was heard.
As he looked over, Bifron could see a young lady walking over, waving her hands. Behind her were many men and women looking like government officials, as well as several soldiers.
“Old man, you and the rest of the people are those who exited the slums, right?” (Alyssa)
“I’m the military director in this city, Alyssa. Hifumi told me that I’ll be here to receive you. I want the men over there, the women over there, and the kids, along with their mothers, over there.” (Alyssa)
As she was giving instructions to Caim, Origa, and the other responsible people in order to quickly move along, a man stepped out from behind Bifron.
“If this is a joke, listening to a small kid like you, I’m not laughing! Don’t make fun of us just because we’re from the slums!”
It was the same man who first raised his voice in rage when Hifumi killed Torkemada.
“Eh... But...” (Alyssa)
“Considering Bifron’s face, just obediently get out of here. We don’t have any reason to get along with some kid’s play.”
Drawing closer, Alyssa hesitantly looked behind her, and saw Origa give her a nod, as she stood with her arms crossed, with a daunting pose.
“Uhh... There!” (Alyssa)
Under the pressure of Origa’s gaze, Alyssa resolved herself and swung the tobiguchi she held in her hand.
Swinging down, with her eyes relatively closed, the pointy end of the tobiguchi accurately pierced the middle of the head.
“Like that.” (Alyssa)
Standing aside Alyssa, Origa slowly talked to the frightened citizens.
“The people going against our lord Hifumi’s intentions will be dealt with. As we aren’t planning on keeping unnecessary baggage, we need to deal with it. If you understand, then quickly move as we told you to.” (Origa)
Within the ambiance not expressing either consent or refusal, even Bifron remained silent, while the men went towards their gathering place.
“Alyssa, you did that well. There’s no need to listen to what guys like him are saying.” (Origa)
“I wonder if that really was a good thing ...” (Alyssa)
Origa gave a kind smile to Alyssa, who still didn’t have any self-confidence.
“Have some self-confidence. You just dealt with one of Hifumi’s enemies, after all.” (Origa)
“T-that’s right!” (Alyssa)
They brought about a peaceful atmosphere, but the people around them looked at them with fear in their gazes.
At this point, Hifumi came walking completely relaxed.
“Oh, you’ve already started talking?” (Hifumi)
“You’re slow, Lord.” (Myukare)
As Myukare, who came with Alyssa, said that, Hifumi let out a big yawn.
“I was talking with Pruflas last night and we got a bit excited, so it ended up being quite late. Don’t glare at me just because I overslept a bit.” (Hifumi)
“Hifumi, leave this to us.” (Origa)
“Yeah, I’ll leave it to you. Well then, I’ll be tidying up the rest. Alyssa, send some people to clean up around dusk.” (Hifumi)
“Understood!” (Alyssa)
So that’s the Lord? The residents from the slum were talking to each other. After Alyssa clapped her hands to get their attention and once again gave them directions, the remaining people quickly began to move.
“Origa, as planned, the men will help Pruflas. The women will help the staff members, and you’ll be educating the kids.” (Hifumi)
“Understood. You take care as well.” (Origa)
Lightly waving his hand towards towards Origa who was doing an elegant bow, Hifumi went towards the road to the slums.
“Hifumi, what exactly did you talk to Pruflas about?” (Alyssa)
“About new weapons and war devices.” (Hifumi)
Origa promptly replied to the question Alyssa muttered.
“Weapons to use we have to make in a hurry and planning the work for the inhabitants of the slums. It was a talk about what has to be constructed in preparation for the war.” (Origa)
We left together the first thing this morning, so why do you know this? Alyssa thought to herself. But except having a bad feeling about it, she didn’t ask anything more.
Just like what Origa for some reason knew, Hifumi had thrown a few new weapons into his dark magic storage.
While walking down the trashy street, he withdrew one of them.
It was three, centimeter long iron rods, connected with chains. A so called three-section staff. Just like the chigiriki, it could be connected to become one long staff. But sadly, the mechanism in the chigiriki had quickly broken, so it was made simpler in this weapon. In order to raise the deadliness of the staff, the metal ends were sharpened.
Breathing through his nose, and squinting his eyes because of the bright sun, Hifumi entered the slums, aimlessly wandering around its dirty streets, searching for any anyone’s presence.
Suddenly, he stopped in front of an old house and kicked down the front door.
Stepping inside, he found a bearded old man lying down in the dark. The smell of alcohol filled the air.
“Ah, what’s this?”
Whether he was drunk or just half-asleep, the old man’s eyes were flickering around before Hifumi thrust the pointy end of his staff into the old man’s throat.
“Ghue.”
The old man died without making any sound.
Confirming that the staff’s pointy end didn’t break after hitting the neck bone, Hifumi was satisfied, as he went towards the next house.
As he disposed of a few more people in a similar way, making sure that the staff was easy to use, he saw a group of men gathered on the road. Upon sighting Hifumi, the men raised their weapons and started shouting.
“Did you say you were going to deal with us, brat!?”
“Swinging around that weird stick, who do you think you are!?”
They look just like some countryside delinquents, Hifumi thought, as he let out a chuckle.
“I’m the Lord. It’s fine if you don’t remember that, though.” (Hifumi)
There were of them.
Hifumi rushed over to the guy who spoke first, in the middle. With a swing like he was playing golf, he drove the staff into the other guy’s crotch.
With a sound like something was crushed, the guy died in shock.
“Hii....”
The man next to him let out a scream as he witnessed the scene.
Letting his hands go of the staff, Hifumi withdrew a jitte from his within his breast pocket. It wasn’t the cross kind, but rather the kind the policemen during the Edo period used. It was an about centimeters long rod of iron, with a pointy end. As they didn’t have the right materials, there was no tassel, to Hifumi’s disappointment.
Thrusting the jitte in his right hand with an overhand grip, he intimidated the nearest guy.
“W-what will you do with such a short...”
While he was saying that, Hifumi stabbed the jitte into his kneecap, not given a chance to scream before his neck was snapped with a foot.
Hifumi deflected a sword incoming from the side with his right hand, before hitting the attacker’s chest like a hammer.
A dull vibrating sound was heard as the man dropped the sword, and feebly fell down on the ground.
Jumping towards one of the men who stepped back in fear, Hifumi thrust the jitte into his left eye, then using the handle in the left hand to send him flying with a hit to the back of the head.
“3 guys left, huh?” (Hifumi)
“W-wait a second! I was opposed to this kind of... Hiii!”
Closing in on the frightened man barehanded, Hifumi snatched his arm and pulled him down on the ground with his face down, before before strongly trampling down on the back of his head, crushing it.
As the man stopped moving after having his head crushed on the hard ground, Hifumi let go of his hand and pulled out his favourite kusarigama.
“Y-you beast!”
“Who’s a beast?” (Hifumi)
Shifting his position, Hifumi knocked down the desperately attacking man with his leg, ignoring him as he fell. Another person hesitatingly poising with a sword attacked, clinging to Hifumi, pushing him down.
The moment he was pushed down, Hifumi used his body weight to drive the sickle into the man’s heart, ending his life.
Looking at Hifumi slowly standing up having his face dyed red with blood stains, the fallen man wasn’t able to get up any more.
“W-waah...”
Being affected by the blood-soaked sickle held by Hifumi as he slowly approached, the man was frozen in fear.
Like he was cutting grass, Hifumi slashed with the sickle, and the last person died.
“Hmm....” (Hifumi)
Picking up the dropped weapons, Hifumi checked them all.
“Aah, it’s bent.” (Hifumi)
The jitte he had thrust through into an eye socket, piercing the cranium has some brain matter stuck to it, which he wiped off with some paper. Looking at it closely, it was slightly bent due to the impact when he struck with it.
“It really bent ... It was meant as a test, but I guess stuff like this happens.” (Hifumi)
Cleaning the weapons he used, and putting them away into the storage, Hifumi was hungry, so he left the slums to find a food stall to get some food. After eating, he returned to the slums, he aimlessly walked around until dusk, disposing of another 30 or so people.
They were mostly rash young men who had confidence in their skills, but none of them managed to even wound Hifumi.
In the time he continued the stroll of slaughtering while being bathed in blood, with the exception of the already broken jitte, he also tested out the three-section staff several times. Since the basics of thrusting and also the basics of the katana’s hassou, for such things as cutting at the lower leg and shaving off, were entirely on his regular practice menu, it flowed gently and was easy to use. (
Having almost finished moving through the whole area of the slum, Hifumi felt a strong thirst for blood, as he took a step to the side.
With a sound of cutting through the air, an arrow lodged into the inside of a run-down house.
Turning around, a man was preparing to shoot another arrow. He was two meters tall, holding a huge bow that he was drawing to the very limit.
Feeling happy about being ambushed, Hifumi displayed a smile as he drew his katana.
“So you’re the last one. With your huge frame, archery isn’t the only thing you’re good at, right?” (Hifumi)
The man looked at the club hanging on his waist, but without responding to the provocation, he aimed a second arrow at Hifumi.
With the katana in an underhand grip, Hifumi put the katana in front of him as he lowered his body. It was an old stance he was taught a long time ago by his master, which was used against arrows. It was the first time he used it in actual combat, however.
(It’s a stance limiting the area he can hit, then defending with the katana) (Hifumi)
Trying it out in reality, Hifumi was quite tense, so he deliberately relaxed his arm a bit.
Moving the katana on reflex, a broken arrow fell down by his feet with a dull sound.
“What!?”
As the man didn’t think Hifumi would be able to knock down the arrow, he opened his eyes wide, not drawing another arrow.
Hifumi used that moment to shorten the distance, and just as if making a paint stroke, he slashed at the man with the katana. The man threw down his bow and made an evasive roll.
Doing that, the man grasped the one meter long wooden club at his waist and alertly put himself into position. As far as Hifumi was concerned, this was a satisfying opponent.
“Nice, nice. You’re different from those other idiots.” (Hifumi)
“... You’re a monster.”
Facing the loudly laughing Hifumi as he quickly changed the underhand grip on the katana to an overhand one, the man made a bitter face.
“I’m just a normal person who put forth a great amount of effort.” (Hifumi)
If you asked 10 people who knew Hifumi, 15 would tell you otherwise.
The man was silent as he swung down the club, but Hifumi steadily retreated, avoiding the blow.magic
While the man was brandishing the club above his head, Hifumi slipped in below his stomach, and tackled the man with the shoulder, making him fall.
It made a dull sound, but the man still unsteadily stood up.
“You’re quite sturdy, aren’t you?” (Hifumi)
“You and your strange movements......”
Cracking his neck with a flushed face, the man once again readied his club.
“You were alright with the bow, but the way you’re swinging the club is dull and boring. Don’t you have anything else?” (Hifumi)
“You!”
As the man approached with vehement vigor without affirming nor disagreeing, Hifumi started to get tired of him.
Hifumi then remembered something else Pruflas had prepared, and withdrew it from his storage, sprinkling it on the ground.
“Huh!? Aaaah!”
“As expected, you couldn’t bear this.” (Hifumi)
Avoiding the caltrops covering the ground, Hifumi gently thrust the katana into the heart of the man, as he had fainted in agony.
“It was the first time I’ve used it, but it could be nice to use once in a while. It reduces the tension, though.” (Hifumi)
He gathered the scattered caltrops.
“... Gathering them is a pain ...” (Hifumi)
After collecting all of the caltrops and returning them to his dark magic storage, he realized he could’ve just opened a hole on the ground and directly collected them into his storage, and felt a bit sad about it, as he returned to the Lord’s mansion.
Thus, the slums that had been a garbage heap in Fokalore since forever, had been emptied of inhabitants in just one day.
Because Origa and the five slave civil officials put the gathered manpower from the slum to their best use, Fokalore quickly underwent a change.
Thanks to the manpower from the slums, the rails reaching Arosel had been finished, so they started testing it by sending goods and people.
The city’s outer wall was also reinforced, and the entrances facing both royal capital, and the one facing Arosel were improved.
The women from the slums initially received a cold shoulder from the city’s residents, but as they worked hard with cleaning up the city and collecting household garbage, the inhabitants generally came to accept them.
Just being the feudal lord, Hifumi left all the decision making to the civil officials only making a rough draft for this project and occasionally confirming the progress. Alyssa also didn’t approach the governmental operations excusing herself with the words 「I don’t quite understand.」 The number provided to help out from the territorial army decreased as well as they were worked to death at combat training according to Hifumi’s and Miyukare’s instructions.
Naturally, as the style of receiving the instructions from Hifumi and assigning the work following those became established for Origa, some amongst the residents misunderstood Origa to be Hifumi’s wife. But there were also some thinking the feudal lord is a woman.
With Hifumi himself doing only the minimum of necessary document signing, his daily life basically started with finishing the morning practise and no sooner than after taking a hot bath he went missing without anyone noticing.
Today being the same, Hifumi vanished from his office going on a trip under the pretext of test running the arrival of the rail car at Arosel and eliminating the monsters along the highway on the occasion.
“Today he is absent as well?” (Caim)
The civil official slave Caim, known for his notorious “impudence” amongst the staff members, muttered without a change in his expression seeing Kasha house-sitting in Hifumi’s office.
“Caim-san, huh? I came to this room right at the moment when he departed.” (Kasha)
“Can you do me favor of detaining him a bit? It would be a great help.” (Caim)
“Don’t ask the impossible.” (Kasha)
With a face where you didn’t know whether he was laughing or crying, Caim left the office silently after looking at Kasha for a short while.
As if replacing him, Origa entered.
Origa noticing there was no one but Kasha inside the room, she tried to leave the room right away, but Kasha stopped her by calling out to her.
“Origa, if it’s Hifumi-san you want to speak with, I can hear you out.” (Kasha)
In difference to Caim, her face showed that she suppressed something she wanted to say.
“... No. After Hifumi-sama has returned, I will tell him directly.” (Origa)
Then, Origa, who was about exit the room, once again stopped.
“Kasha, since you are a guard, even if only in name, how about doing a little bit of training? Because we can expect a large-scale battle with Vichy very soon going by the reports from the scouts, come and participate in the training to see how Alyssa has arranged the territorial army to move.” (Origa)
After spitting out in one go what she wanted to say, Origa left without delay.
“Battle, huh?” (Kasha)
There was a small magic tool within the pouch hanging on Kasha’s waist.
Although it was something simple, broken into two pieces and being separated from the other half, it was a quite expensive tool used for the purpose of communication in emergency.
For the time being it was something with the purpose of come running in case Hifumi was in danger with the ostensible reason of being able to search for him, but in reality it was obvious that the princess and Pajou intended to assassinate Hifumi in the confusion of the battle.
But, will it be only Hifumi that will die in the situation after using this?
Kasha stared at the door through which Origa left for a long time. |
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} | 「そんなのは、俺がやる事じゃあないな」
オリガを連れて訪れた王城にて、イメラリアとの昼餐を腹いっぱい楽し、食後の紅茶を傾けながら依頼を聞いて、あっさりと断った。
「指導する立場の奴が、本番まで出張ってどうすんだ。それに、俺が今教えているのは個人の技であって、連携して護衛をする方法は騎士連中の方が経験は多いだろうが」
「う......」
理屈を出されて、イメラリアは説得の言葉を続けることができなかった。
その様子を見たオリガが、薄く笑みを浮かべたのを、イメラリアは見逃さなかった。
「自前の軍だけで不足だと思うなら、フォカロルから兵を出させれば良い。わざわざ迎えに王都から大人数を動かす必要も無いだろう」
「ですが、相手国の人物を迎えるにあたって、王城からの使いがいないと言うのは......」
「国境にフィリニオンがいるだろう。あいつの護衛として何人か騎士とお前が書いた書簡なりを送れば恰好はつくだろ」
控えている侍女に紅茶のおかわりを頼み、そっと出されたケーキにフォークを差し込む。
「では、トオノ伯爵領から兵を出していただける、と」
フィリニオンに指示を出すついでに交渉させれば良いだろう、と一切れのケーキで食べてしまう。
「ご心配はいりませんよ、陛下。アリッサも断ることは無いでしょう。特に報酬を求めるようなことも無いかと」
困惑しているイメラリアに、助け舟のようにオリガが声をかけた。
「ただ、よろしければ王国貴族に馴染めるように、多少でもアリッサを気にかけていただければ......」
「ええ、もちろんです」
アリッサは本来、ヴィシーの人間で外国人だ。国境を越えて商人が出入りするのも珍しくないとはいえ、一兵士が所属する国を変えて、しかも貴族の後継となるのは異例だった。今はまだ一二三の影響が強いので表立った反発は無いが、一二三の引退後で影響が薄れた時、アリッサが何か失策を犯せば、市民からも貴族からも強い反発は免れない。
「アリッサさんはわたくしと歳も近いですから、友人として王城に来ていただきたいと思います。オーソングランデの作法も、教えてさしあげますね」
「お気遣いいただきまして、ありがとうございます」
オリガがアリッサのことを頼む、その本心についてイメラリアはすぐに理解していた。計画がうまくいけば、一二三はオリガと共に封印される。その後には優秀な文官たちが残っているとはいえ、不安があるのだろう。
表情に出ないように注意しながら、イメラリアが魔人族との交渉という大仕事を前に緊張していると、一二三が口を開いた。
「アリッサの宿は気にしなくていい。こっちに泊める。ウェパルが来たら呼んでくれ。知らない仲じゃないからな」
「魔人族の所で、一体何をやらかしたのですか......」
「ちょっとした観光だな。フォカロルに手紙を送るなら、ヴィーネを使えば良い」
ヴィーネは朝からプーセと共に王都見物に出かけている。昼食を外で採ると言っていたので、午後に戻ってくるつもりなのだろう。
「わかりました。さっそく指示書などを用意することにします。騎士たちの仕上がりはいかがですか?」
「身体はできていたから、素人を教えるよりは楽だな。オリガの時は苦労したな」
「そ、その話はやめてください。あの時の事は、私も恥ずかしいので......」
顔を真っ赤にして俯くオリガの声は、いつものような圧力は無く、か細く弱弱しい。
一二三がこの世界に来た直後の時期、オリガが一二三から指導を受けていたということは騎士隊からの報告で知っていた。その時は何とも思わなかったが、今目の前でやり取りを見せられると、無性に腹が立つ。
誤魔化すように咳払いをして、イメラリアはすっかり冷めた紅茶を一口飲む。砂糖を入れ忘れていた。苦い。
「一二三様。一つ伺ってもよろしいですか?」
一二三はいつも通り、考えの読めない薄笑いを浮かべた表情だが、隣のオリガはやや緊張気味にイメラリアを見つめている。
「一二三様の......いえ、一二三様が考える、理想の世界とはどのようなものですか?」
「わたくしはまだ為政者としては未熟です。それは自覚があります。王族ではありますけれど、そのための勉強をしてきたわけではありません。......正直に言ってしまえば、場当たり的なことばかりやっていて、どのような国を目指すのかすら決めていないのです」
戦争が起きたから対応する。ホーラントで問題が起きたから対応する。魔人族が攻めてきたから対応する。そして、一二三の存在が王族による支配を脅かす可能性を感じて対応する。
では、その先に何をするのか。
一二三を排除し、魔人族の脅威を押え、その後にどのように国を治めるのか。
多忙な日々に流されて、後回しにしてきた。
戴冠式では“豊かで住みよい国にする義務があります。守った甲斐があったと、そう思える国にする使命があります”などと民衆に向かって放言した。嘘ではないが、今にして思えば中身など何もない、赤面するような内容だ。
「理想の世界か。そりゃ、簡単だな。誰もが自分のやりたいようにできる世界だ」
その言葉に、イメラリアは最初、意外と普通の答えだ、と思った。だが、すぐに間違いに気づいた。
「誰もが、というのは不可能な話ではありませんか?」
簡単に言えば、イメラリアの願いと一二三の願いは相反する。平和で争いの無い世界を望む彼女と、争いによって進化し続ける世界を望む一二三では、どちらかしか成立しない。
「だろうな。それくらい、お前がやろうとしてることは意味が無い」
お代わりの紅茶も飲みほし、美味い昼飯だった、と一二三は立ち上がり、さっさと出て行く。
同様に立ち上がったオリガは、混乱しているイメラリアに向けて声をかけた。
「陛下。貴女のように何もかもを望むのは愚か、という事です。“二兎を追う者一兎も得ず”という言葉を教わりました」
テーブルを回りこんで、オリガは女王を見下ろした。
「貴女は一二三様を捨てて国の安寧を取ろうとしているのです。すでに切り捨てることを選んでいるのですから、それだけの覚悟を見せてください。でなければ、何もかもを失う結果になりますよ」
一二三を追って、足早に部屋を出ていくオリガ。
残された女王は一人、しばらく考えに耽ったあと、書類を作る為に執務室へと向かった。その時の雰囲気は、他人を寄せ付けない厳しいものだった。
☺☻☺
「こんな大役、退役騎士の仕事じゃないと思わない?」
ヴィーネからカイム。カイムからフィリニオンという流れでイメラリアから書簡が届いたとき、それが任務の証明書類としても使えるように頑丈な分厚い羊皮紙を使用された、重要任務に使われる指示書だと気付いて、フィリニオンは胃のあたりが重たくなってきた。
「そんなに重要なお仕事なのですか? 流石はお嬢......奥様。退役されても女王陛下からの信頼が厚いということですね」
「単に居場所が悪かっただけよ」
指示書を読み進めているうちに、鳩尾の不快感は痛みに変わる。
フィリニオンへの指示は大きく二つ。魔人族の王の監視と王都への案内だ。同封のメモに、アリッサに協力を要請しているので、調整はそちらで行うように、と記載されている。
「なんだか、いつもと違う感じね」
文面というより、書かれている内容にフィリニオンは違和感を感じていた。
サインは間違いないし、封蝋も女王のみが扱える物だったので、偽造という可能性は低い。
「違う感じ、ですか?」
「むむ......。なんというか、しっかり“命じている”感じ、かしら? 即位なされる前はお願いみたいな言い方だったからかしらね」
ちょっとした変化よね、とクリノラに向けて笑って見せたフィリニオンだったが、内心では別の発見に気付いて、恐怖していた。
(退役騎士を使えば、万一魔人族が暴れても王城の戦力は削られずに済む。さらに言えば、国内で王城よりも高い戦力を誇るトオノ伯爵領の戦力低下すら狙えるってこと......? これ絶対陛下のアイデアじゃないでしょ)
王への手紙を持ち込んだ魔人族と思しき人物は、戦闘を選ばずに撤退したという。戦闘力を持たないという可能性もあるが、誰も傷つけようとせずにただ逃げを選んだというあたり、本当に話し合いを望んでいるのではないか。
「......希望が入った予想でしかないけどね。クリノラ」
宿の椅子から立ち上がり、書簡を丸める。
「アリッサ・トオノ辺境伯と相談してくるわね。その間に、魔人族の女王様を迎えるための服とアクセサリーを見繕っておいてくれる?」
「ま、魔人族ですか?!」
「そうよ。光栄と思うしかないけれど、私が世話役になるのだから、クリノラにも負担をかけるけれど、御願いね。ドレスとアクセサリーは、良いのが無ければフォカロルで買ってきてね」
護衛は全部連れて行って、ついでにみんなで息抜きをしてくるように、と言い置いて、フィリニオンはローヌ臨時役場へと向かった。
「カイムさんは、どう思う?」
「女王陛下からのご依頼です。断るのは難しいでしょう。また、魔人族とまともに対応したのはフォカロル兵と一部の国境警備兵のみです。他に引き受けられる勢力もありませんから、アリッサ様の代替わり直後の実績づくりとしても適当かと」
フィリニオンの訪問を受けて、アリッサは会議室を使って話し合いをすることにした。フィリニオンとアリッサの他には、カイムとミュカレが同席している。
(ローヌに来ていたのね......)
フォカロルに残っていたはずのカイムがいたことで、フィリニオンは少し居心地が悪かった。
「時には領地の状況を直接確認する必要もあります。部下に任せるのは憚られるのです」
「......何も言ってないわよ」
心を読まれたかのように、突然カイムが説明をする。
フィリニオンは、このカイムの雰囲気が非常に苦手だった。真面目と言えば自分の夫も同じだが、カイムは優秀なのは理解できても、得体の知れない部分が多すぎる。
以前、体重が落ちるほど勉強させられた恨みも多少加味した印象ではあるが。
「罠ということもあるでしょう? 護衛の方にあまり人数を裂いて欲しくないんだけど」
軍務担当のミュカレとしては、女王と称した別人を捨て駒にして、守りが薄れたところから攻め込んでくることを懸念せざるを得ない。
「陛下からの依頼では、人数の指定はありませんね。魔人族を迎え入れるにあたっての打ち合わせはどのように行われるのですか?」
「陛下は基本的に私が調整をして、王城へ報告するようにとのことだったわ。こちらで迎える予定を立てて、魔人族の方へ知らせる形にしたいのだけれど......伝える方法、あるかしら?」
「それについては考えがあります。大奥様がいらっしゃれば楽なのですが......では、護衛の人員選定はミュカレに任せましょう」
「三十人くらいでどうかしら? 移動方法はどうするの?」
「魔人族は馬に乗っていたという情報があります。今回も馬でくる可能性が高いでしょう。こちらの兵士については、物資は台車。人員は馬と台車に分乗ですね」
サクサクと決まっていく内容に、アリッサは黙ってうんうん頷いている。兵士たちについてはミュカレ、総合的な対応についてはカイムに任せておけば良い。どうせ決裁するのは自分だし、本当に重要なことは、カイムから聞いてくる。
「僕は一緒に行っていいの?」
「逆に、行かないという選択肢はありません。女王陛下からの勅命も同然の任務です。貴族として当主が先頭に立たなくては、他の貴族に示しがつきません」
「そうなんだ」
納得した、とアリッサが頷いているのを見て、ミュカレが勢いよく立ち上がった。
「じゃ、じゃあサポート役として私も......」
「ミュカレは残留してください」
「なんでよ!」
「領主様が不在の間、警備の兵たちを纏めるのは誰ですか? そのための貴女でしょう」
納得いかないという顔で歯を食いしばる様は、淑やかという言葉の対義語を体現している。
「ミュカレさん、お願いね」
「わかりました......」
アリッサに言われたら何も言えない、と力なく椅子に座る。
「では、フィリニオン様とアリッサ様を中心に、それぞれの侍従と兵士、合計人弱と言ったところですか。職員も何人か同行させましょう。王都を見ておくのは悪い事ではありません。それとフィリニオン様、一つ提案があるのですが」
「え? あ、なにかしら?」
目の前でどんどん話がまとまっていくのを、呆然と見ていたフィリニオンは、不意に話を向けられて、慌てて頭を切り替えた。
「この際ですから、エルフや獣人族の代表も数名同行させてはいかがでしょうか。この地に住むにあたって、陛下へ挨拶くらいはさせておくべきでしょう」
「貴方、とんでもないことをさらりと......」
カイムは、暗にエルフや獣人族たちに護衛の手伝いをさせろと言っているのだ。国の手伝いをして、女王に会うための口実もつくり、この国の物として手伝いもしていますよ、とアピールするために。
「聞けば、エルフは獣人族と戦ってきた歴史があるとか。獣人族も荒野で種族間の争いをしてきたのでしょう。良いアドバイスをくれるのではありませんか?」
「カイム......貴方も前領主と変わらないくらい危ない事を考えるわね」
「すごいよね。ほんとに助かる!」
カイムに対するフィリニオンの言は、言うこまでも無く皮肉だったのだが、アリッサは純粋に褒め言葉だと受け取ったらしい。
また、フィリニオンの胃がストレスにさらされる。
「とにかく、この件は陛下にお伺いを立てるわ。それで、魔人族への連絡はどうするの?」
「簡単な事です。どうせ国境の向こうには魔人族がこちらを監視するための人員を伏せているでしょうから。重りを付けて投げつけてやれば良いのです」
その場にいた人物で、フィリニオン以外は「なるほど」と頷いていた。
国同士の親書の扱い方について思い悩む元騎士は、どうやらこの場では少数派らしい。 | “That’s not my job.” (Hifumi)
Having enjoyed to his heart’s content the luncheon with Imeraria in the royal castle he visited together with Origa, Hifumi listened to her request while drinking an after-meal black tea and quickly refused it.
“What’s the deal with the coach standing out even at the real deal? Besides, what I’m currently teaching them are techniques for interpersonal combat. I think that the knight folks have plenty of experience with methods of escorting others while cooperating with each other.” (Hifumi)
“Uuh...” (Imeraria)
Having logic thrust at her, Imeraria was unable to go on with her persuasion.
Imeraria didn’t overlook how Origa, who watched the situation, revealed a faint smile.
“If you believe your own army to be lacking, you just have to make Fokalore send soldiers. There’s also no need to especially move a large number of people from the capital.” (Hifumi)
“But, an envoy from the capital not being present at the time of welcoming people from another country is...” (Imeraria)
“Phyrinion is at the border, isn’t she? If you send a letter or something written by yourself and some knights as guards for her, it will keep up appearances, right?” (Hifumi)
He requests a refill of black tea from the maid being in waiting and gently stabs the fork into the cake that had been provided.
“Can you possibly dispatch soldiers from the Tohno Earldom then?” (Imeraria)magic
“It will probably be fine if you give instructions to Phyrinion and while at it, have her negotiate,” he eats a slice of cake.
“There’s no need to worry, Your Majesty. It’s not something Alyssa would decline. And it’s probably nothing that demands a particular reward either.” (Origa)
As if throwing a lifeline, Origa spoke up to Imeraria who’s in confusion.
“But, if you could concern yourself with Alyssa a bit so that she’s allowed to get used to the kingdom’s nobility...” (Origa)
“Yes, that’s no problem.” (Imeraria)
Originally Alyssa is a foreigner as person from Vichy. Although it’s not unusual for merchants to pass back and forth between countries, it was unprecedented for a single soldier to convert to another country and to even become a noble heir. Since Hifumi’s influence is still going strong, there’s no public opposition, but as soon as Hifumi’s influence fades after his retirement, Alyssa won’t be able to elude a strong backlash by the citizens and nobility if she makes some kind of blunder.
“Since Alyssa-san is close to me in age, I’d like her to come to the royal castle as friend. I will also provide education in Orsongrande’s etiquette to her.” (Imeraria)
“Thank you very much for your kind consideration.” (Origa)
Imeraria immediately understood Origa’s true motive behind relying on her in regards to Alyssa. If their plan goes smoothly, Origa will be sealed together with Hifumi. Even though excellent civil officials will still be left afterwards, she’s probably anxious.
While being careful to not show it on her face, Imeraria is nervous in front of the big task of negotiating with the demons. Hifumi opens his mouth,
“You don’t have to worry about Alyssa’s lodging. I will stay here. Once Vepar arrives, call me. After all we are no strangers.” (Hifumi)
“Just what did you do in the demon’s country...?” (Imeraria)
“Just a little sightseeing tour. You can employ Viine if you are going to send a letter to Fokalore.” (Hifumi)
Viine has gone out to sightsee the capital together with Puuse since the morning. Since she said that she’s going to grab lunch outside, she likely intends to return in the afternoon.
“Understood. I will immediately prepare the necessary documents. How is the progress of the knights?” (Imeraria)
“Because their bodies were trained, it’s easier than teaching amateurs. I was really troubled with training Origa.” (Hifumi)
“P-Please don’t talk about that. Even I’m embarrassed about the events back then, so...” (Origa)
The voice of Origa, who casts her eyes down with a bright red face, is frail and delicate, lacking its usual pressure.
Imeraria was aware of Origa receiving training from Hifumi right after he came to this world due to the reports from the Third Knight Order. She didn’t feel anything at all back then, but being now shown that exchange in front of her eyes makes her quite angry.
After clearing her throat to gloss over that emotion, Imeraria takes a sip of the completely cold black tea.
“Hifumi-sama, is it alright for me to ask a question, too?” (Imeraria)
As usual Hifumi’s expression had a faint smile making reading his mind impossible, but Origa, who’s next to him, stares at Imeraria with a somewhat tense feeling.
“Hifumi-sama’s...no, what kind of world is the ideal world you are imagining, Hifumi-sama?” (Imeraria)
“I’m still inexperienced as statesman. I’m well aware of that. I’m royalty, but it’s not like I received education in that direction. ...Honestly spoken, I’m only doing things ad hoc as I haven’t even decided the shape I’m planning for Orsongrande.” (Imeraria)
Since a war started, I dealt with it. Since a problem with Horant occurred, I dealt with it. Since the demons attacked, I dealt with it. And, after sensing the possibility of Hifumi’s existence jeopardizing the reign by royalty, I will deal with it.
So what am I going to do beyond that?
What kind of country am I going to rule after eliminating Hifumi and restraining the demons’ threat?
She had postponed that while being swept away by her busy days.
At the coronation ceremony she carelessly stated, “I have the obligation to create a good country, where everyone can live in abundance. It’s my mission to build a country that allows them to believe that protecting it was worth it,” to the population. That’s no lie, but if she thinks back on it now, those are empty and embarrassing words.
“The ideal world, huh? That’s really simple. A world where everyone can do whatever they want to do.” (Hifumi)
Upon those words, Imeraria at first considered it to be an unexpectedly normal answer. But she immediately realized her own error.
“Everyone, that’s impossible, isn’t it?” (Imeraria)
Simply put, Imeraria’s wish and Hifumi’s wish run counter to each other. A peaceful, world with no disputes as desired by her and a world that keeps evolving through dispute as desired by Hifumi; neither of those two can come into existence.
“I guess. That’s how meaningless it is what you are trying to accomplish.” (Hifumi)
Draining the refilled tea, Hifumi stands up with the words “The lunch was delicious,” and quickly leaves.
Origa, who stood up likewise, called out to the bewildered Imeraria.
“Your Majesty. Desiring anything and everything like you do is foolish. That’s what he meant. I was taught the expression
Circling around the table, Origa looked down on the queen.
“You are trying to achieve peace for the country by abandoning Hifumi-sama. Since you have already decided to cut him off, demonstrate a resolve befitting that, please. Otherwise it will result in you losing everything.” (Origa)
Origa exits the room at a quick pace, chasing after Hifumi.
Being left behind, the queen was lost in thoughts for a while by herself. Then she headed to her office in order to prepare the documents. Her aura at that time was so intense that it didn’t let anyone get close to her.
☺☻☺
“Don’t you think that such important task isn’t the job of a retired knight?” (Phyrinion)
At the time the letter from Imeraria reached Phyrinion, being passed on from Caim who received it from Viine, it had been copied on a sturdy, thick parchment, obviously usable even as a document certifying a mission. Comprehending the instructions to be used for that important task, Phyrinion felt her stomach getting heavy like lead.
“It’s such an important job? As expected of you, miss...madam. Even after having retired, the trust in you by Her Majesty is still running deep.”
“The location was simply bad.” (Phyrinion)
As she keeps on reading the instructions, the discomfort in her stomach transforms into pain.
There are two major orders for Phyrinion. Monitoring the ruler of the demons and guiding them to the capital. In an enclosed memo was written, “Given that I’m requesting Alyssa’s cooperation, coordinate your actions with her.”
“Somehow it feels different from usual.” (Phyrinion)
Phyrinion felt uneasy towards the written details rather than the content of the letter.
The signature is definitely authentic, and since the sealing is something that can only be used by the queen, the possibility of it being a fake is low.
“Different, you say?”
“Hmm...how to express it? It has the feeling of
“It’s a trifle change, isn’t it?” Phyrinion smiled at Clinora, but in her mind she was scared as she became aware of a different observation.
(If she uses a retired knight, the royal castle’s forces won’t be whittled down, even if the demons go on a rampage in worst case. Taking it a step further, she can even aim for a decline among the forces of the Tohno Earldom that boasts a higher military power than the royal castle...? This is definitely not the idea of Her Majesty.)
It’s said that the person appearing to be a demon, who brought the letter, withdrew without entering combat. There’s also the possibility of them lacking combat power, but the act of them simply choosing to escape without trying to hurt anyone means they are truly desiring a discussion, doesn’t it?
“...Though that’s no more than expectation based on hope. Clinora.” (Phyrinion)
She stands up from the chair and curls up the letter.
“I will go consult with Margrave Alyssa Tohno. Can you choose my clothes and accessories for the sake of welcoming the demons’ queen-sama at your own discretion?” (Phyrinion)
“D-Demons?” (Clinora)
“Indeed. Although I think that it’s no more than a honorific task, I will become a mediator, so I beg you as it will also place a burden on you, Clinora. If there are no good dresses and accessories among my things, go and buy them in Fokalore.” (Phyrinion)
Leaving the words, “Take all the guards along and make sure to take a breather with everyone while you’re at it,” Phyrinion headed toward Rhone’s temporary town hall.
“Caim-san, what do you think?” (Alyssa)
“It’s a request by Her Majesty. I think it will be difficult to decline it. Also, only Fokalore’s soldiers and a part of the border guards directly dealt with the demons. Since there are no other forces that can take over that task either, I think it’s adequate to assume you taking charge will be connected to obtaining an immediate achievement, Alyssa-sama.” (Caim)
Following Phyrinion’s visit, Alyssa decided to hold a discussion using the council room. Caim and Miyukare are attending in addition to Phyrinion and Alyssa.
(For him to have come to Rhone...)
Phyrinion felt slightly uncomfortable due to Caim, who should have stayed back in Fokalore, being present.
“Sometimes it’s necessary to personally check the territory’s state of affairs. I have scruples to leave it all to my subordinates.” (Caim)
“...I haven’t said anything!” (Phyrinion)
Caim suddenly explains as if having read her mind.
If I’m completely honest, it’s the same with my husband too, but even if I can comprehend that Caim’s excellent, he has too many shady parts.
Though it’s an impression slightly influenced by the grudge of having been previously forced to study to the extent of her losing weight.
“It could also be a trap, right? Though I don’t want to split up the guards too much.” (Miyukare)
As the one in charge of military affairs, Miyukare cannot avoid feeling anxious about there being an attack when the defenses have been thinned out due to them acting as sacrificial pawns for someone that called herself queen.
“There’s no specification about the numbers in the request by Her Majesty. What kind of previous arrangements are to be used when welcoming the demons?” (Caim)
“Basically Her Majesty told to me to do the fine-tuning myself and to report it to the royal castle. I wholeheartedly want to let the demons know about our schedule of welcoming them, but...I wonder if there’s any means to get in contact with them?” (Alyssa)
“As for that, I have an idea. It would be easier if the madam was present, but...let’s leave the selection of the guards to Miyukare then.” (Caim)
“How about limiting it to soldiers? What are we going to do about the traveling method?” (Miyukare)
“There are sightings of demons riding horses. It’s very likely that they will arrive on horse this time. For our soldiers, it’s the platform wagons. The personnel will be split into horse riders and platform wagon passengers.” (Caim)
It’s best to leave the soldiers to Miyukare and the comprehensive support to Caim. It’s me who has to approve it anyway. I will hear about the truly important matters from Caim.
“Is it okay for me to go with them?” (Alyssa)
“On the contrary, the option to not go doesn’t exist for you. It’s a mission similar to having received a royal command from Her Majesty the Queen. The family head not leading the forces as noble will set a bad example to other nobles.” (Caim)
“I see.” (Alyssa)
Looking at Alyssa nodding while saying, “I got it,” Miyukare stood up full of vigor.
“T-Then, as support, I will also...” (Miyukare)
“Miyukare, please stay back here.” (Caim)
“Why!?” (Miyukare)
“Who’s going to put the guarding soldiers in order during the absence of Lord-sama? You are here for that reason, right?” (Caim)
Her state of gritting her teeth with an expression that made it all too obvious that she can’t agree with whats being said is the impersonation of the antonym of the word
“Miyukare-san, please.” (Alyssa)
“Understood...” (Miyukare)
As she’s unable to say anything else after being told so by Alyssa, she feebly sinks back down on her chair.
“That means it’s going to be a little less than in total with all the soldiers and chamberlains centered around Alyssa-sama and Phyrinion-sama? Let’s have several staff members accompany them as well. It’s not a bad thing for them to see the royal capital. And, I have a suggestion, Phyrinion-sama.” (Caim)
“Eh? Ah, what might it be?” (Phyrinion)
Phyrinion, who dumbfoundedly stared at things being rapidly settled in front of her eyes, reset her brain in a hurry after the conversation suddenly turned her way.
“Since it’s such an occasion, how about having several elves and beastmen come along as representatives? As they are going to live on this land, they should probably be allowed to at least greet Her Majesty.” (Caim)
“For you to say something so outrageous without hesitation...”
Caim is implicitly saying to make the elves and beastmen help with the escorting. Having them help the country and creating an excuse to meet with the queen is for the sake of showing off their usefulness as subjects of this country.
“According to what I heard, the elves have a history of having fought against the beastmen. Even the beastmen had disputes among the tribes in the wastelands. Won’t that serve as good advice?” (Caim)
“Caim...you are coming up with dangerous ideas that are no different from the previous Lord.” (Phyrinion)
“That’s amazing, isn’t it? It’s a really big help!” (Alyssa)
Phyrinion’s remark towards Caim was unnecessarily cynic, but Alyssa apparently took it as genuine compliment.
Once again Phyrinion’s stomach is exposed to stress.
“Anyway, I will ask for Her Majesty’s opinion on this matter. So, what shall we do about the communication with the demons?” (Alyssa)
“That’s simple. The demons have likely soldiers hiding to watch our movements on the other side of the border anyway. It will be fine if we throw a message with a weight attached at them.”
Except for Phyrinion, all those present nodded with an “I see.”
The former knight, who was worried about the way of treatment for letters between countries, seems to be in the minority in this place. |
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} | 食事を終えたところでの若い男がたちに近づいてきた。商人風の仕立ての良い服を着て、爽やかな笑顔を振りまいている。
「やあ、お久しぶりです! いつこちらに?」
フレンドリーな挨拶と共に一隣に座った男は、周りから見えない位置で一二三にメモを渡してきた。
「もう食事はお済みみたいですね。近くにいいカフェがあるんですが、いかがです?」
「いや、あのさ......」
男のテンションに一切付き合わず、一二三はメモをテーブルの上に置いた。
「お前が何をやりたいのかわかるんだけどな、周りに怪しい奴はいないから、こういうやり取りは要らないぞ。それに、俺は字が読めないから意味がない。お前、第三騎士隊の奴だろ?」
「確かに、メモには第三騎士隊の者だと書いてありますね」
テーブルに乗せられたメモをオリガが読み上げる。
男は、一二三の丁寧なダメ出しに笑顔が消えた。
「うっ、まさか字が読めないとは......。では何故私が騎士だと気づかれたので?」
「騎士の誰かにも言ったような気がするが、一般人とお前たちのように行軍の訓練を受けた騎士は歩き方が違うんだよ」
パジョーたちで見慣れているから、すぐわかると一二三は紅茶を飲んだ。
「で、要件はなんだ? 王都を出てすぐにお前らの気配がなくなったら、王都以外は監視をしないのかと思ったんだが」
「そう、その事です」
居住まいを正した騎士は、サブナクと名乗った。まだ経験の浅い騎士で、一人でここフォカロルに見習い商人という触れ込みで潜伏しているという。
「まあ、例の侯爵の件でハーゲンティ子爵も重要な監視対象になりましたからね。情報収集の為の連絡要員というやつです。で、先ほど王都から鳥を使った連絡があって、貴方が王都から出たけれど、途中で追いつけなくなったから、ここで監視を再開・継続しろ、と」
どうやら追跡担当者は、一二三たちが馬車を用意させた事から、一般的な馬車による移動を選ぶと考え同様に馬車を使って商人の振りをしてついて行くつもりだったらしい。
ところが、王都から少し離れたら直ぐに馬車を収納して全員が馬で駆けて行ってしまったので、完全に置いていかれたらしい。
サブナクもそうだが、追跡者も一人行動だったようで、ツーマンセルやスリーマンセルで状況に対応するという考え方は無いらしい。パジョーの時も、武器を持っていないから監視を別に付けていただけで、通常は一人行動になるのだろうか。
「人数が足りないんですよ。地味な第三騎士隊は入隊希望者が少なくて、優秀な人は城内勤務の第一騎士隊を希望しますし、力自慢の人は第二騎士隊に取られちゃうし」
原則、騎士隊は貴族しか入隊できないので、平民に混じって行動したり、場合によっては根気よく潜伏したりする仕事もある第三騎士隊は不人気らしい。
「......で?」
いい加減鬱陶しくなってきたので、一二三は一言でサブナクを黙らせた。
「何の用だ? お前の仕事は俺の監視であって、接触して第三騎士隊の宣伝をすることじゃないだろう」
「あっ、すみません......」
自分がヒートアップしていたのに気づいたサブナクは、顔を赤らめて頭を下げた。
騎士らしくない態度のミダスやパジョーを思いだし、一二三の中で“第三騎士隊は変な奴の集まり”という評価が固まりつつあった。
王都からの指示書を受け取ったサブナクは、急いで王都方面の出入口へ向かったが、既にそこは地獄絵図以外の何ものでもない光景が広がっていた。
見覚えのある兵士たちの無残な死体が転がる様をまともに見てしまったサブナクは、胃液も出ないほど吐いてから、気を取り直して一二三たちを探していたという。
「正直に言うと、ハーゲンティ子爵は生きたまま捕えたいのです。侯爵の自供もありますが、侯爵は指示を出して利益を吸い上げるだけで、具体的に誰がどのように動いていたのかがわかっていません」
実際に事件が起きた街の領主で侯爵の派閥の一因であるハーゲンティ子爵から、有益な情報が得られるとサブナクは考えた。
騎士隊としては、イメラリア王女の指示通り、一二三の行動は束縛せずに無関係に調査を進める方針なので、これはサブナクのスタンドプレーでしかない。そこまで、彼は正直に話した。
「貴方を邪魔するつもりも敵対するつもりもありませんが、この件を解明して、イメラリア王女が心安らかにこの国を治められるためにも、どうかご協力をいただきたい」
立ち上がったサブナクは、深々と頭を下げた。
サブナクの脳裏に、先ほど見てきた兵士たちの死体が思い出される。王都から回ってきた一二三に関する報告書にも、信じられない記載が数多くあった。曰く、王や貴族でも敵対すれば容赦なく殺す。ものの数秒で裏組織のメンバー10人を殺害した。武器がなくとも素手で騎士を手玉に取れる等。
自分の言葉が一二三を怒らせてしまえば、ここで自分は死ぬだろう。しかし、騎士としてこの国を良くする為には、この件は絶対に解明して王族の周りを掃除する事がだと、サブナクは一二三に賭けた。
「......俺は、別にそれでも構わない」
一二三の言葉に、サブナクは顔を上げた。
「俺にとっては子爵はどうでもいいが、オリガとカーシャにとっては仇討ちの相手だからな。後はこいつらと話して決めてくれ」
言うや否や、一二三は立ち上がって何処かへ行ってしまった。
突然に判断を任された二人の奴隷と、急に説得相手が変わってしまったサブナクは、お互いにどうしていいか分からずに困惑してしまった。
「あ~......とりあえず、お茶でも飲む?」
言ってから「ナンパか!」と心の中で自分にツッコミを入れてから、また赤くなった顔を誤魔化すように店員を呼ぶサブナク。
カーシャは思わず吹き出してしまった。
「ぷっ......ゴメンね、なんだか最初に声をかけて来たときと全然ちがうからさ」
「いや、いいよ。メモを渡そうとした時は、建物の裏で何度か練習して、気合入れてやったからね。小さい時からあがり症で、急な物事に対応するのが下手だから」
初対面の相手と話すのは苦手なんだ、とサブナクは言った。ここに配属されたのも、一人で慣れない土地で生活することで、少しでも諜報員としてのスキルを磨きたかったからだという。
「ごめんね、ぼくの話ばかりで。それで、子爵の件なんだけど......」
「その前に、騎士団が把握している侯爵派閥の情報を教えていただけますか? もし子爵を逃しても、それ以上の仇を殺せるのであれば私としては納得できるかもしれません」
オリガの言葉をサブナクは少し考えた。“納得できるかも”ということは“納得できないかも”ということか、と。
立場で言えば貴族と奴隷。比べるべくも無いし、こうして同じテーブルに座ることすらほとんど無いだろう。しかし、オリガとカーシャはあの細剣騎士の奴隷なのだと、サブナクは改めて認識する。若い女性とも思えない威圧感を、カーシャよりもむしろオリガの方から感じるのだ。
「......わかった。まずどこから説明しようか」
紅茶が置かれるのを待ってから、サブナクは話し始めた。
その頃、一二三はぶらぶらと街を歩いていた。
さりげなく腰には刀を帯びている。
「あれがそうかな?」
誰に聞くでもなく、街の中心と思しき方へ向かっていると、周辺の家々と比べても一際大きな屋敷を見つけた。
ゆっくりと近づいて行くと、金属製の頑丈そうな門が開いて、数人の兵が駆け出して来るのが見えた。
兵たちは鬼気迫る形相で、一二三の脇を通り過ぎるとそのまま街の入口へと走っていった。どうやら、今になって先行部隊の全滅が伝わったらしい。
「......遅いな。離れて見ている奴も居なかったようだし、やはり情報の伝達とかもあまり意識されていないのかもしれないな」
誰に言うでも無くつぶやきながら、一二三は先ほど兵たちが飛び出してきた門に近づいて行く。
「......見張りがいない」
どうやら、戦力を根こそぎ向かわせたらしい。
呆れながら一二三は堂々と正面から入り、館の玄関に手をかけようとした刹那、違和感に突き動かされてドアの正面から脇に飛び退いた。
大きな音がして、木製のドアがバラバラに切断された。
風通しの良くなった出入り口から覗き込むと、見たことがある顔がある。
「王都の侯爵邸に居た奴だな。確かストラスと言ったか」
「覚えていたか......やはり始末しておかねばならんようだ」
玄関から中は広いホールになっていて、奥には侯爵の屋敷で逃げたストラスが、短剣を突き出して次の魔法を準備している。
さらりと身を翻した一二三は一度顔を引っ込め、足音と気配を消して建物側面へ回り込む。
「逃すか!」
ストラスのしゃがれ声が聞こえるが、無視して走る。
(建物内の気配は10人分。一人はストラスで一人は子爵か? 残りは使用人か......いや、2階の気配は......タムズだったな。なんでここにいる?)
同僚に殺されかけ、その死に様を見て立ち尽くしていた若い兵士を思いだす。
嫌な予感がした一二三が見上げると、メイドが空気の入れ替えの為か、木戸を開いた瞬間が目に入った。
飛び上がり、窓の縁に左手をかけると、そのまま窓の中に体をすべり込ませる。
驚いて固まっているメイドに近づき、にっこり笑って見せてからそっと首筋に手を当てて優しく気を失わせた。
(床で申し訳ないが)
メイドの身体をそっと横たえ、廊下に誰もいないことを確認してからタムズがいるらしい部屋へと向かう。
板張りの廊下をかなりの速度で走っているが、僅かな衣擦れの音だけが聞こえる。
(ここだな)
並ぶドアの中でも特に重厚な造りの一枚の前で立ち止まる。
中にはタムズともう一人の気配がある。
音が聞こえないので、そっとドアを開いて隙間から様子を伺う。
「......報告は分かった。残っていた者たちは出ていったのだな?」
「はい。副隊長が残っていた全員を連れて現場へ向かいました。私は子爵様へご報告をするようにと」
タムズと話しているのは、渋い声をした男性のようだ。隙間から見えるの姿は40代の紳士で、貴族とひと目でわかるような刺繍の入った真新しい服を着て、タムズの前で棚から何かを取り出しながらタムズの報告を聞いていた。
(あれがハーゲンティ子爵だな)
「それにしても......隊長までグザファンとグルだったなんて、残念です」
「残念......そうだな、残念だ」
ハーゲンティが取り出したのは剣だった。
70cmの刃渡りを持つ直剣で、儀礼用の様な装飾が施されている。
子爵はタムズに背を向けたまま、剣を抜いて刀身をじっくりと眺めている。
「重大な犯罪です。多くの兵が失われました。ここは騎士団の調査を依頼すべきでは......」
どうやらタムズは、兵隊長が悪事の元凶で、それをハーゲンティに告発しているらしい。しかも、国の介入を進言している。
(あいつ、馬鹿だな)
ハーゲンティの指示かもしれないという考えは浮かばなかったらしい。その前に、自領の失態を国に知らせようとする貴族がいるだろうか。
「君が」
ハーゲンティは低い声をさらに低くしてつぶやく。
「黙っているなら、必要ないと思うがね」
振り向きざま、持ってきた剣を突き出したハーゲンティの動きにタムズは反応できなかった。
腹に刺さった剣とハーゲンティの顔を交互に見てから、タムズは声も出せずに崩れ落ちた。
倒れたタムズにハーゲンティの視線が向いている隙に、一二三はするりと部屋に入り込んだ。
ハーゲンティが一二三の侵入に気づいたときには、すでにその姿は目の前にあった。
「うおぉっ!」
とっさに手に持った剣で斬りつけてくるハーゲンティだが、遅かった。
振りかぶったところでみぞおちに拳を打ち込まれたハーゲンティーは、白目を向いて気絶した。
と、ここで一二三は倒れたタムズを見やったが、既に事切れていた。
近づいてくる気配の正体に気づいた一二三は、ハーゲンティを文机の裏に隠し、自分もその横に伏せた。
一拍置いて、頭上の壁に掛かった絵が切り裂かれた。
中央に切り傷が入った油絵の周りを、散乱した書類が舞い散る。
その様子を見ていた一二三は、ある確信を持って頷いた。
「ようやく見つけたぞ」
部屋に入ってきたのはストラスだった。
「遅かったな。こっちの用は終わったから、お前の相手をしてやれるぞ」
机の影に隠れたまま、一二三は刀を収納して鎖鎌に持ち帰る。
「終わった、だと? ハーゲンティを殺したのか」
「いいや」
鎌を持ち、鎖をぶらぶらと揺らしながら一二三は立ち上がる。
「ちょいと揉めていてな。今はまだ生かしている」
「......であれば、まだ退くわけにはいかんな。まさかこんなところでまで邪魔されるとは思わなかった。あの時殺しておくべきだった」
ストラスは短剣を一二三に向け、またボソボソと詠唱をしている。
一二三は相変わらず分銅を揺らしながら、特に構えもせずに立っている。
「......ついに覚悟したか? 死ねぃ!」
風の刃が一二三を襲うが、ひと振りされた分銅に風の刃はかき乱され、風は辺りを吹き荒らして消えた。
「なにっ!?」
風刃魔法に絶対の自信を持っていたストラスは、造作もなく消されてしまった魔法に驚きを隠せなかった。
「貴様、何をした!」
「見ての通り、武器を振っただけさ。こう、ブーンとな」
再現するように分銅の付いた鎖を振り回す。
「さすがに何度も見せられたら、対策もできる。自信があったんだろう? 修練も積んだんだろう。だが、それしかないなら、それで終わりだ」
分銅だけでなく、鎌の部分も丸ごと投げ付けられた鎖鎌は、動揺するストラスの腕に絡みつき、鎌が右肩に刺さる。
たまらず短剣を落としたストラスに、一二三はゆっくり、しかし油断なく近づいた。
「風が吹いて色々と吹き飛ばすのは所詮演出で、実際に切れる範囲は狭い。侯爵の屋敷でパジョーは肩を浅く切られた程度だった。さっきも、絵に傷はつけても切断まではいかない。吹き荒れる風はいかにも恐ろしげに見えるかもしれないが、その実態は首にでも当てないと相手を殺すこともできない」
魔法の正体を完全に見破られたストラスは、慌てて左手で短剣をつかみ直し、また詠唱を始めたが、すでに一二三は目の前だ。
「遅い」
顔面に蹴りを受けた、ストラスは廊下まで転がり出た。
鼻血を出して悶絶する姿を見られたのか、女性の悲鳴が聞こえる。
「うちのオリガの魔法なら、机を抉って攻撃できただろうな。打ち出す速度ももっと早い」
「身のこなしは中々見所があるとは思うが、俺の前に立つには、無理があったな」
一二三の抜き打ちの一撃が、立ち上がろうとするストラスを襲う。
滑るように踏み出した右足が床を踏みしめる音が聞こえた時には、ストラスの首は胴から落ち始めていた。
廊下の先に目を向けると、人殺しの瞬間を目撃したショックで腰を抜かしたメイドがいた。
「ひっ!」
一二三が近づくと怯え切った目で後ずさろうとするが、とても逃げられる速さではない。
「悪かったな。立てるか?」
触れるとまた怖がらせるだろうと、適当な距離をとって立ち止まる。
「俺はこういう者だ。君以外の使用人全員をホールに集めてくれ」
「これは......。はい、か、かしこまりました!」
ヨロヨロと立ち上がったメイドは、一二三の指示を実行すべく駆けて行った。
気絶したハーゲンティを担いだ一二三が、オリガたちがいる食堂まで戻ってきたのは、一二三が席を外してから30分弱経ってからの事だった。
一人でさっさと片付けてしまった事に、何か言ってくるだろうと予想してはいたものの、
「女の匂いがします。何をされていたのですか?」
というオリガの第一声を聞いて、力が抜けてしまった。 | Nearby where they were eating, a young man approached Hifumi and co. He sported clothing resembling a merchant’s, with a refreshing smile on his face.
「 Heeey, long time no see! When did you get here? 」
Sitting down next to Hifumi in a friendly manner, he passed him a note unseen by others around.
「 The meal has already ended, huh. There’s a cafe nearby, how about it? 」
「 No, that is... 」
Not going along with the man’s tension, Hifumi placed the note on the table.
「 There’s no need for a performance. There are no suspicious people in the vicinity, so this kind of communication is unnecessary. Moreover, it’s meaningless since I can’t read. You’re from the Third Knight Corps yes? 」
「 Certainly, the memo says he is from the Third Knight Corps. 」
Origa read the memo placed on the table.
As for the man, his smile slipped off, his precautions unnecessary.
「 Uu~, unable to read...... Then how did you notice I was a Knight? 」
「 Knights who receive training in marching walk in a manner different from normal people. 」
He was used to seeing it after Pajou and the others, and understood it immediately.
「 Then, what’s the important matter? You fellows disappeared after leaving the capital. It seems that you guys operate only within the royal capital, huh... 」
「 Th-This is the matter. 」
The Knight straightened up and introduced himself as Sabnak. As of now still an inexperienced Knight, concealed in Fukaroru on his own as an apprentice merchant.
「 Well, in the matter of Marquis, the target of my observation is Viscount Hagenti. Since you disappeared, there was a report distributed via messenger bird from the capital, to continue watching from here. 」
From the fact that a carriage was prepared for them, the person in charge of the tracking was going to have them followed while pretending to be a merchant in a mercantile caravan.
However, since the carriage was immediately stored, and horses were used in leaving the capital, the trackers were left in the dust.
Sabnak followed them, he acted as a lone pursuer since the concept of acting in a or person cell didn’t seem to exist here. Like the incident with Pajou, she wasn’t carrying weapons during surveillance. Was it normal for them to operate alone?
「We don’t have enough personnel. There are few applicants who wish to join the rd knights’ corps, all the excellent applicants aimed for the Castle duty of the First Knight Corps, and any applicants who boast their strength picked the Second Knight Corps.」
「Generally only nobles can enlist for the Knight Corps. Being patient and stealthily mingling with the commoners makes the Third Knight Corps’s job unpopular with the nobles. But, the Second Knight Corps only takes action in the event of a crisis, and the First Knight Corps doesn’t actually experience field work, so it is believed that the Third Knights Corps is the most useful in protecting the citizens. 」
「......So?」
Sounding considerably annoyed, Hifumi shut Sabnak up with a single word.
「What do you want? Your work is to monitor me, you’re not supposed to make contact with me, else the Third Knight Corps’ involvement will be revealed. 」
「Ah, please excuse me......」
Sabnak just realized that he was heated up, he bowed down while blushing.
Remembering the un-knightly attitude of Midas and Pajou, Hifumi’s evaluation of them was “The Third Knight Corps is a gathering of strange fellows”.
Sabnak who received instructions from the capital, turned towards the entrance in a hurry, but already in its place was spread a scene nothing short of a picture of a hell.
Sabnak who looked directly at the familiar tragically scattered corpses, threw up gastric juices, he then pulled himself together and started searching for Hifumi.
「Honestly speaking, I want to capture Viscount Hagenti alive. There’s also the confession from the Marquis. The Marquis issued instructions only to suck up profits. Specifically, we still don’t know who’s moving them and how.」
In reality, the one who caused the incident in the feudal town was Viscount Hagenti, who was part of the Marquis’ faction.
As for the knight corps, according to princess Imeraria’s instructions, thanks to Hifumi’s actions they can push forward with an investigation unrelated to him, without restriction. He spoke honestly.
「I don’t intend to bother or be hostile to you. To solve this matter and for Princess Imeraria to peacefully govern this country, we would like to receive your cooperation.」
Sabnak stood up and deeply bowed his head.
Sabnak recalled the corpses of the soldier he saw earlier. There are also an unbelievable number of reports related to Hifumi circulating from the capital. Its said that, anyone hostile to him, be they a king or noble will be killed without mercy. members of the inner organisation were killed in a matter of seconds. Even without a weapon, he can lead knights by the nose bare-handed.
If one’s words angers Hifumi, they will die where they stand. However, in order to improve this country as a knight, they absolutely had to deal with this matter and to sweep the surroundings of the royal family, he gambled on Hifumi.
「 ...... I don’t particularly mind. 」
At Hifumi’s words, Sabnak raised his head.
「 The Viscount does not particularly matter to me, but to Origa and Kasha, he is someone they want to take revenge against. I will talk to them and decide later. 」
Immediately after saying that, Hifumi stood up and left.
The persuasion target having changed, Sabnak was completely bewildered, not to mention the two slaves that were abruptly entrusted with the decision.
「 Ah-..... For now, could I have some tea? 」
Sabnak called the shop assistant to gloss over his red face while thinking 「 derailed! 」embarrassedly.
Kasha could not help laughing.
「 Puu~.... Sorry, it’s completely different from when you first called out to us. 」
「 No, it’s fine. I practiced passing over the note several times at the back of the building while fired up. I had a small illness when I was younger, so I am a little unskilled at these sudden things. 」(TN: due to his illness when he was young, Sabnak can’t easily cope up with sudden changes in a situation and gets flustered easily.)
Sabnak said he was not good at meeting others for the first time. Being assigned here was also because few spies wanted to polish their skills alone in a different land.
「 I’m sorry, I’m rambling. Well, about the matter with the Viscount..... 」
「 Before that, could you tell me what information the Knight Order has on the Marquis’ faction? In case the Viscount is let free, if any other enemy can be killed, I may consent. 」
Sabnak thought about Origa’s words a little. 「To agree」or 「 To not agree 」.
The positions of nobles and slaves, leaving aside comparing them, the chances of them sitting at the same table were virtually nonexistent. However, Sabnak reminded himself that Origa and Kasha were slaves of the “Slender sword Knight”. He felt an overpowering intimidation from Origa and Kasha, unthinkable of ordinary young women.
「 ...... I understand. Where shall I start explaining? 」
After waiting for his tea, Sabnak began to speak.
At that time, Hifumi was aimlessly wandering the streets of the town.
His katana casually hung on his waist.
「 I wonder what that is? 」
Towards the center of the town, there was a residence much larger than the ones surrounding it.
Slowly drawing near, several soldiers ran out of the strong looking metal gate.
The soldiers had ghastly appearances. Passing by Hifumi, they ran towards the town gate. Apparently, they were the response to the previous completely annihilated unit.
「 ...... So late. The guys watching were quite some distance away. As I thought, there’s probably another mode of information delivery. 」
Muttering to no one in particular, Hifumi approached the gate the soldiers had run out of.
「 ....... There’s no guards on watch. 」
It appeared that all military personnel had completely left for the scene.
Hifumi entered in a stately manner, in spite of his amazement. The moment he placed his hand on the door of the mansion, he suddenly felt a sense of unease and jumped back from the door.
A loud sound rang out, the wooden door fell to pieces.
Looking into the doorway that was suddenly well-ventilated, a face was seen.
「 The guy in the Marquis’ mansion in the capital. If I recall correctly, your name was Strauss. 」
「 You remembered huh.... As I thought, I should have gotten rid of you back then... 」
There was a big hole from within the entranceway, Strauss fled back into the Marquis’ Mansion while holding out a dagger followed by preparing to use magic.
Hifumi dodged without hesitation, and pulling back momentarily, ran around towards the side of the building while silencing his footsteps.
「Getting away?!」
He ignored Strauss’ husky voice and continued to run.
I could sense people inside the building. Since Strauss is out here alone, is one of them the Viscount? So the remainder are the servants?...... No, I could sense someone on the second floor...... It’s Tamuzu. Why is he here?
He remembered the young soldier that stood still as he watched all manners of death, the young soldier that was about to be killed by his colleagues.
Hifumi had an unpleasant hunch so he looked up. At that instant, a maid who had opened the window to air the room saw him.
He jumped up, grabbed the edge of the window with his left hand, and slipped his body into the window at the last minute.
The maid was surprised and froze when he approached, she cracked a smile so he only gently hit the nape of her neck, knocking her unconscious.
I’m sorry that there are no beds.
He softly laid the maid’s body down, and after confirming there was nobody else in the hallway he went into the room Tamuzu was located in.
He ran across the wooden floored hallway with considerable speed, you could only hear slight rustling of the clothes.
It’s here.
Among the doors that lined the corridor, he stopped in front of the one that was particularly significant.
He could sense Tamuzu and another person behind it.
Unable to hear anything, he silently opened the door and peeked through the gap.
「......I understand the report. All of the remaining personnel went out?」
「Yes. The Vice Captain lead all the remaining personnel and went towards the scene.」
Speaking to Tamuzu was a gentleman-like person with a refined voice. Peeking through the gap, the gentleman seemed to be in his 0’s, wearing brand new clothes with embroidery that identified with the aristocracy. He took something off of the shelves in front of Tamuzu after hearing Tamuzu’s report.magic
That’s Viscount Hagenti over there huh..
「However...... Commanding officer Guzafan was an accomplice, it is deplorable.」
「Regrettable...... That’s right, it’s regrettable」
Hagenti took out a sword.
Holding the sword straight, it was 70cm long and had decorations for some kind of ceremony.
The Viscount having turned his back towards Tamuzu, gazed at the blade of the sword carefully while drawing it out.
「It’s a serious crime. Many soldiers were lost. Well then, we should request a Knight’s investigation here...... 」
Apparently, it seems Tamuzu is complaining to Hagenti because the ringleader of the evil deeds was the lead soldier. Moreover, he proposed getting the country to intervene.
That guy is a fool.
The idea that they were Hagenti’s instructions did not come to mind. That aside, would any noble inform the country of any blunder in their own territory?
「You」
Hagenti muttered in a low voice and further lowering it said
「If you’d stayed silent, this wouldn’t have been necessary.」
Turning around, Hagenti thrust the sword. Tamuzu couldn’t react in time.
Tamuzu collapsed after the sword struck his stomach and looked up at Hagenti without being able to make a sound.
Hifumi slipped into the room while Hagenti was occupied with the collapsed Tamuzu.
When Hagenti noticed Hifumi’s intrusion, that figure was already in front of him.
「Uoo!」
Hagenti slashed with the sword that he was holding in the spur of the moment, but it was too late.
A fist drove into the sword-brandishing Hagenti’s solar plexus, his eyes turned white and fainted.
Hifumi looked at the fallen Tamuzu, however it was too late. He was dead.
Hifumi noticed indications of something hidden behind Hagenti’s writing desk, so he turned it over.
In a single beat, the painting that hung on the wall above was sliced.
Falling from the gash in the painting, scattering documents fell down.
Looking at the state of affairs, Hifumi nodded to himself.
「 Found it at last 」
Strauss had entered the room.
「 You’re slow. The task here is done, you can entertain me. 」
Hidden in the shadow of the desk, Hifumi put away his katana and brought out his kusarigama.
「 It’s over is it? Is Hagenti dead? 」
「 No. 」
Hifumi rose, leisurely swinging the chain, sickle in one hand.
「 We can still fight a little bit more. I’m letting him live for now 」
「 ...... It is regrettable that I withdrew before. By no means did I think you’d be a hindrance here. I should have killed you at that time 」(Strauss)
Strauss pointed his dagger at Hifumi and began to chant quietly.
Hifumi continued swinging the fundou, the same as ever, without taking up any particular stance.
「 ....... Are you finally prepared? Die! 」
Though the wind blades attacked Hifumi, a gust of wind produced by the fundou dispersed their destructive force and disappeared.
「 What!!?? 」
Strauss had absolute confidence in his wind blade magic, he was unable to hide his surprise at seeing it so easily erased.
「 You bastard, what did you do! 」
「 As you can see, I waved my weapon. Like this, swoosh. 」
The chain was flourished as to show the fundou at the end of the chain.
「 As expected, if shown often, countermeasures can be prepared. Was I overconfident? However, there was no choice, it had to end. 」
Not just the fundou, the sickle section of the kusarigama was thrown, twining around Strauss’s shaking arm, the sickle section embedded itself at the right shoulder.
Strauss lowered the dagger, Hifumi approached slowly and cautiously.
「 The wind can be blown in various directions, but the practical scope of using it is quite narrow. In the Marquis’s estate, Pajou’s shoulder had a shallow cut. Some time ago as well, not even the painting was sliced completely. Though the wind blades blowing may look frightening, the reality is that the opponent cannot be killed unless cut at the neck. 」
The true nature of Strauss’ magic was seen through he was panicking while holding the dagger in his left hand. In addition he began to chant, but Hifumi was already in front of him.
「Too slow. 」
Strauss got kicked in the face and rolled over to the hallway.
You could see he had a nosebleed and was fainting in agony, then a woman’s scream was heard.
「The magic my Origa uses can attack and carve out a desk from the floor. The speed of the attack is much faster」
「 I think there is some good prospects in your body movement, but it is still impossible for you to stand before me.」
Hifumi slashed Strauss with a quickdraw while he was trying to get up.
Stepping forward firmly with his right foot, a sound was heard as Strauss’s head began to fall from the torso.
In the hallway, there was a housemaid who witnessed the instance of murder, unable to move out of shock.
「 Hii-! 」
Frightened at seeing Hifumi approaching, she moved back, trying to escape unsuccessfully.
Sorry about that. Can you stand? 」
Afraid of being touched again, stopping at a suitable distance.
「 Gather everyone else in the hall. 」
「 This...... Yes, Un-Understood! 」
Standing up, the maid unsteadily ran to carry out Hifumi’s instructions.
Shouldering the unconscious Hagenti and returning to his seat in the dining room, a little less than 30 minutes has lapsed since he’d left.
Though he had settled the entire matter alone, he anticipated what they were going to say.
「 There’s the scent of a woman on you. What were you doing? 」
Hearing Origa’s first words, he slipped . |
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} | 王城を抜け出した士隊長リベザルは、50名程の部下と共にホーラント方面へ向かっていた。目指しているのはホーラント方面軍として士隊が駐留している都市ミュンスターだ。
馬に乗り街道を駆けるリベザルは、はやる気持ちを抑えながら道を急ぐ。
30絡みの小男で、日焼けしたその男は両手を大きく振ってこちらへ合図を出しているが、リベザルは応じるつもりはない。
大声で叫ぶものの、男は道を開けるつもりは無いようだ。そしてその男の言葉に、リベザルは驚いた。
「第一騎士隊長のリベザル様ですね」
「なに?」
思わず馬を止めたところで、リベザルはしまったと思った。ここで止まれば認めたのと同じだ。
じっと男を見る。目の色がわからないくらい細い目をしてヘラヘラと笑う男の顔には見覚えがない。
「へい、ワタシはベイレヴラという者です。実はヴィシーで工作員をやっておりまして......」
腰の剣に手を添えたところで、ベイレヴラが慌てて手を振った。
「ま、待って下せぇ! ワタシはリベザル様の手助けをしたくてお待ちしておりましたのです!」
「待っていただと? なぜ俺がここへ来るとわかった! しかもお前はヴィシーの工作員だと言うが、こっちはホーラント側、真逆ではないか」
「それがですな、ワタシは一かいう奴に狙われておりまして、国にも売られそうになりましたんで、伝手もあるホーラントへ向かっておりまして......」
ヴィシーの軍が敗北した時点で、国を売って偽名を使ってオーソングランデを通りぬけて、ホーラントを目指していたらしい。
「それで、王都を抜けようとしたところで一二三が王城へ来ているという話を聞きまして。王城の誰かがホーラント側にいる第二騎士隊の方へ向かって出てこないかと思って、先に王都を出て待っておりました次第で」
まさか、第一騎士隊長にお会いできるとは思いませんでした、と下手くそなゴマをする。
「それで、何が目的だ?」
「へい。ワタシを仲間に入れていただけないかと思いやして」
頭を掻きながら、照れくさそうに話すベイレヴラに、騎士全員が怪訝な顔をする。
「話にならんな。俺に何もメリットがない」
「おや、きっとお役にたちますぜ? 何しろ、ホーラントの魔法具をご用意できるんですから」
「魔法具? それが何の役に立つというのだ」
「それは、ミュンスターで第二騎士隊がどうなったかをご確認いただければお分かりいただけるかと」
「なに......」
自分が何を言っているのかわかっているのかいないのか、相変わらずヘラヘラと笑っているベイレヴラを捕らえるよう、リベザルは命じた。
「お前が何を狙っているかは知らんが、状況を確認してからお前の処遇を決める」
何かが引っかかるリベラルは、今のところはこの小男を生かしておくことにした。
特に抵抗もせず縄を打たれたベイレヴラは、そのままリベラルに連れられてミュンスターへと向かった。
一二三もオリガも、馬に揺られながら上機嫌で街道をフォカロル方面へと進む。
二人の機嫌が良い理由は違ったが、暖かな気候のなか、ゆったりのんびりと時間が流れる。
「一二三様、エコーロケーションに反応があります。10分程進んだところに20人。武器を持っているようです」
一瞬、一二三は何の事かわからなかったが、探索用の風魔法に自分が名前を付けてやったのをなんとか思い出した。
そういえばそんなこともあったと思いだし、地道に努力して大分精度が上がったらしいオリガに感心する。
「武器か。野盗でもいるのか?」
「おそらくそうでしょう。街道に近いと魔物も少なくなりますので」
話しながらも、馬を止めることはしない。
「なんでしょう?」
「ベイレヴラを追う約束だけどな。ちょっと難しいかも知れないな。ヴィシーから反応がなかったあたり、ヴィシーの中央委員会に処分されたか、何処かへ逃げたかもしれない」
「それは......」
オリガは顔を伏せた。
正直に言って、ベイレヴラを殺すことが一二三と共にいる理由だったが、いつの間にか一二三の側にいるためにベイレヴラの存在を利用していた。このままベイレヴラが見つからなければ、ずっと一緒に居られるのではないかと思ったことは一度や二度ではない。
「......私は、一二三様と共に世界を回る事で、いつかあの男を捕まえられると信じています」
一言で了承した一二三に対し、オリガは情けない気持ちになった。一二三の気遣いを無にした事と結論を先延ばしにして自分の居場所を確保したこと。どちらも自分で自分を納得させられない。
馬が逃げるとこの先歩きになって面倒なので、馬を置いて野党を殺そうと考えているらしい。
「迷うことはない。殺すべきと思ったら殺せばいい。理由なんてそれで充分だ」
一二三はポツリとつぶやいて、鎖鎌の分銅を振り回しながらさっさと歩いて行ってしまった。
どうもオリガが気落ちしている理由を勘違いしているようだが、それよりも何よりも、あの一二三が自分を気遣ってくれたことが嬉しかった。
「はい!」
返事を返したオリガは、手裏剣を右手に掴んで一二三に駆け寄った。
「いつからオーソングランデの兵はここまで弱体化したのだ!」
手元へと届いた戦況報告書を握りつぶし、スティフェルスは机を殴りつけた。
「それが、ホーラントの兵は我々と同数以下ではありますが、魔法や矢の攻撃に正面から突撃したり、腕を切り落とされても攻撃してくるなど、一言でいって異常です」
第二騎士隊の面々は、アロセールやローヌで使われていた魔法具について知らなかった。ただただ命令通りに突き進んでくるホーラント兵に対し、オーソングランデの兵たちは心理的に完全に押されていた。
「しかも、敵の魔法使いは数が多く味方ごと炎の魔法に巻き込むなど、非人道的な行為を易易と行っています。こちらの兵士たちが怯えてしまって、士気はガタ落ちです」
苦虫を噛み潰した顔で報告してくる副隊長に、スティフェルスは乱暴に椅子に座った。
「とにかく、今はアイペロス王子が本陣にいる。このまま戦果を上げないまま王都へ戻るわけにはいかん。多少なり敵に損害を与えないうちは、退くに退けん」
カップに酒を注ぎ、一気に飲み干す。
「元はといえば、ホーラントが急に国境を侵害してきたのが問題なのだ! 正式な布告もない完全な奇襲など......野盗のような真似をするとは、魔法国とも言われたホーラントも落ちたものだ」
愚痴をこぼすスティフェルスだが、今彼に求められているのは現実に起きている事態をどうするかという具体的な指示だ。
「隊長......」
命令を待つ副隊長をジロリとにらみ、舌打ち。
「仕方ない。ビロン伯爵に領軍の兵を借り受ける。人数を増やして一気に押し返す」
誰か使いを出せと言う前に、アイペロス王子がやってきた。
「スティフェルス。戦況はいかがかね?」
まだ十代になったばかりというアイペロスは、侍従を何人も引き連れて精一杯の威厳を見せつけるように言う。
「はっ。ホーラントの兵の抵抗が想定より激しいので一時状況は拮抗いたしましたが、これからの作戦で押し返してみせます」
「そうか。決着がつく頃に僕に声をかけてくれたまえ」
勝ちが決まったら将として現場に顔だけ出すということだ。
楽しみにしていると言って去っていくアイペロスを、スティフェルスは苦々しく見送った。
「後から出てきて......」
第二騎士隊の実績作りのための行動に名分を持たせるためだけに利用するつもりだったのだが、必要以上にしゃしゃり出てくるようになった王子を持て余していた。
どうやら国政に積極的に参加し、民衆の支持を集める姉イメラリアを見て、焦りを覚えたらしい。このままでは王の座を奪われるとでも思ったのか、先に陣を作っていたスティフェルスの元へ、先触れもそこそこに、多くの侍従と私兵を連れてやってきた。
しかし私兵を戦に参加させる事なく護衛としてのみ使い、たくさんの人員を引き連れてきた事で、ミュンスターの街はパンク寸前だ。助けどころか迷惑以外の何者でもない。
「とにかく、兵を増やして圧倒的な戦力で敵を叩く! ビロン伯に使いを出せ」
一二三はたった今人間の命を奪った鎌をじっくりと見て、ため息を漏らした。
「大分傷んで来たな。フォカロルに戻ったら作り直すか」
既に人数が半減している野盗たちは、粗末な武器を手に一二三を睨みつけながらも、殺されて倒れている仲間たちを見ると足が前に進まない。
「今は別の武器にしておくか」
鎖鎌の代わりにトビ口を取り出し、軽く降る。
「こっちはまだ大丈夫だな」
一二三がチラリと後ろを見ると、笑顔のオリガが見えた。その足元には、三人の野盗の死体が転がっている。人質に取ろうとして返り討ちにあったのだ。
「全員で一斉にかかるぞ!」
「おお!」
頭らしい男の号令で、残った10名が一度に迫ってくる。
「最初からそうしろよ」
一人の首にトビ口を突き刺して引き倒す。
それに目もくれずに次の相手は首を掴んで仰向けに転がし、心臓に突き立てた。
迫る棍棒にトビ口を引っ掛けて逸らし、股間を思い切り蹴り上げる。
「もう少し工夫しろよ。つまらん」
トビ口を仕舞い、リベザルから奪ってそのまま自分の物にした槍を取り出す。
「あと7人。何秒持つかな?」
「ふざけやがってぇ!」
大剣を振り回す頭の両足を切り裂いて、手首を返して首を刎ねる。
頭を失った野盗たちは、武器を投げ捨てて蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。
だが、せっかくの獲物を逃す一二三ではない。片っ端から死体に変えていく。
「いい天気......。フォカロルまで天気がもてばいいのだけれど」
嬉々として人を殺していく一二三を眺めながら、何気ない日常の幸せを噛み締めるオリガだった。
「お断りします」
援軍の要請のため、領主館を訪れた第二騎士隊の副隊長に、領主であるビロン伯爵はにべもなく断った。
「なぜでしょう。この街を守るための協力をお願いしているのですが......」
「私もこの街を守るために考えて、そしてお断りしているのです。戦況は私の部下も確認しておりますが、ホーラントの兵の様子は異常です」
それは貴方もわかっているでしょう、とビロンは副隊長を見つめたまま静かに語る。
「まともじゃない相手で、消耗を気にする様子もなく遮二無二突撃してくる連中なんて、正面からぶつかってどうこうしようなんて思ってはいけませんよ。街の防御力を使って相手側だけ消耗させて、こちらは援軍を待つべきです」
「援軍ですか」
「ええ、すでに使者を送っています。距離はありますが、防壁が破られる前には来てくれるでしょう」
そののんびりとした物言いに、副隊長は苛立ちを隠せない。
「そんな落ち着いている場合ですか!」
「おや? アイペロス王子には“拮抗している”と報告されたのでしょう? であれば、さらに防御に重きを置いて行動すれば、充分守りきれるのでは?」
「ぐ......」
もちろん、ホーラント方面軍の苦境を知っているビロンの皮肉だが、実際にスティフェルスがそう報告したのは事実なので、副隊長はなんとも言えなかった。
「そ、それで王都へはどの程度の援軍を依頼されたのですか?」
こうなったら、援軍が来ることを計算にいれた作戦を立てようと考え、副隊長は援軍の内容を確認することにした。
「たしか、まだ王都と周辺地域から4000は集められる状態だったかと思いますが」
「援軍の依頼をしたのは王都ではありませんよ?」
「は? ではどこへ......」
ビロンは紅茶が入ったカップを優雅に傾け、香りを楽しんでから微笑む。
「頼むなら強い人がいいでしょう。フォカロルの領主、一二三殿に依頼しましたよ。彼が噂通りの強さならば、ホーラント相手でも活躍してくれるでしょう」
開いた口がふさがらない副隊長の顔を見て、ビロンは少し気が晴れた。 | After sneaking out of the royal castle, the First Knight Unit’s Ribezal brought around subordinates with him and went towards Horant. His goal was the city of Münster, where the Second Knight Unit was stationed.
Ribezal was impatiently rushing his horse along the highway, but suddenly, a person could be seen standing on the road.
It was a suntanned small man around the age of , who was signaling by swinging both of his arms in a big motion, but Ribezal had no intention to respond.
“Out of the way!”
Although he shouted with a loud voice, the man didn’t seem to have the intention to make way for them. Ribezal was then surprised by the man’s next words.
“You’re Ribezal of the First Knight Unit, right?”
“What?”
Ribezal damned himself inwardly as he unintentionally halted his horse. Stopping here means he recognized the man’s existence.
He looked closely at the man, but his eye color couldn’t be seen as he was smiling so much that his eyes turned thin. But it was not a man he had any recollection of.
“Yes, I’m known as Beirevra, and honestly, I’m a spy from Vichy...”
The words of the man called Beirevra immediately put Ribezal and his men on guard. As they put their hands on the swords by the waists, Beirevra flusteredly shook his hands.
“P-Please wait! I was waiting here because I wanted to help you!”
“You said you were waiting here? How did you know I was coming this way!? Furthermore, you say you’re a spy from Vichy, but this is the border of Horant. This is on the opposite side.”
“Well, you see, a guy named Hifumi was looking for me and it seemed as if the country would sell me out. So with the help of an intermediary, I went over to Horant...”
It seems that by the time Vichy’s army was defeated, he had betrayed his country and used a fake name to cross Orsongrande in order to reach Horant.
“And then as I was about to leave the capital, I heard that Hifumi had arrived at the royal castle. I thought someone from the castle should hurry over towards the Second Knight Unit over by Horant, so I left the capital early in order to wait here.”
But never did I think I’d meet the captain of the First Knight Unit, he clumsily flattered.
“So, what’s your objective?”
“Yes. I thought that perhaps you’d like to become colleagues.”
Seemingly embarrassed, Beirevra scratched his head, as all the knights made suspicious faces.
“There are no advantages for me, so there’s no need to talk about it.”
“Oh? I’d certainly be of some help, right? Because I can arrange some of Horant’s magic tools, you see.”
“Magic tools? What use would they be?”
“Well, if you were to check what happened to the Second Knight Unit over at Münster, you’ll know.”
“What...”
Not understanding what he’s implying, Ribezal ordered his men to capture the still smiling Beirevra.
“I don’t know what your goal is, but I’ll decide what to do with you after seeing the circumstances.”
Being pulled into something, Ribezal felt that it was best to keep the small man alive for now.
Beirevra was bound without any particular resistance, and was brought with Ribezal as they continued towards Münster.
Hifumi and Origa were riding their horses along the highway towards Fokalore in a good mood.
The reasons for their good moods were different, but the time was spent in a comfortable and carefree manner in the warm weather.
“Hifumi, there’s a response from the echolocation. There are people minutes ahead of us. They seem to be carrying weapons.”
For a moment, Hifumi didn’t know what she was talking about, but then he recalled the wind magic used for searching, that he named himself.
, Hifumi thought, admiring Origa as she put forth great effort to increase the accuracy.
“Weapons, huh. Are they bandits?”
“Most likely. It’s close to the highway, and there are few monsters, after all.”
They didn’t stop the horses as they spoke.
“What is it?”
“About the promise to pursue Beirevra – it might be somewhat hard. Since we didn’t get an answer from Vichy, by the time we finish dealing with the central committee, he might’ve escaped somewhere.”
“That...”
Origa covered her face.
Truthfully speaking, killing Beirevra was the reason she was initially together with Hifumi, but before she noticed, she started using Beirevra as an excuse to stay beside him. She had thought more than once or twice, that if they don’t find Beirevra, they’d stay together like this forever. But of course, the desire for revenge on Beirevra had still yet to disappear.
“... I believe that as long as I journey the world together with you, we’ll be able to catch him at some point.”
In response to Hifumi’s short answer, Origa felt miserable. Wasting the consideration of Hifumi, as well as delaying the conclusion of the matter, in order to ensure a place she could call her own. Origa felt she was dishonest.
Aside from her dispiritedly worrying, Hifumi quickly jumped off his horse and tied it to a suitable tree. It’d be troublesome if the horses escaped, so he thought about leaving the horses here before killing the opposite party.
“There’s no need to hesitate. If you think you should kill, just kill. That’s reason enough.”
Hifumi muttered a few words before he left, swinging the counterweight of the kusarigama in his hands.
It seems like he misunderstood the reason Origa was feeling down, but more than anything else, that Hifumi showed concern for her made her happy.
“Yes!”
Responding to Hifumi, Origa grasped a shuriken in her right hand, before running to catch up with him.
“Since when did the Orsongrande soldiers deteriorate this much!?”
Crushing the war report in his hand, Stifels struck his desk.
“Well, Horant may have a fewer amount of soldiers than us, but even if we assault them with arrows and magic, or cut off their arms, they still charge right at us. Truthfully speaking, it’s abnormal.”
No one in the Second Knight Unit had any knowledge of the magic tools used in Arosel or Rhone. Just that as they were following orders to push against the Horant soldiers, they were completely suppressed mentally. In addition to the knights they had around 3000 soldiers, but they had already lost about a tenth of them.
“Moreover, their magicians seem to easily perform inhuman acts, like getting their own allies caught in their flame spells. It frightens our soldiers, so the morale is plummeting.”
As the reporting vice captain made a bitter face, Stifels violently sat down in his chair.
“Anyhow, Ayperos is currently at the headquarters. If we keep this up and fail to rise any military achievements, we can’t return to the capital. We need to inflict at least some damage to the enemy, so we can’t retreat.”
He filled his cup with alcohol, and drained it all at once.
“In the first place, Horant suddenly trespassing the national border is the problem! With no official statement, this is a complete surprise attack... Behaving like bandits, the magic country Horant sure has fallen.”
Stifels complained, but what he wanted now was a concrete plan as to how to deal with the current situation.
“Captain...”
Glaring at the vice captain, Stifels smacked his lips.
“It can’t be helped, we need to borrow Earl Biron’s territorial forces. We’ll increase our numbers and push them back in one go.”
But before he could send someone, prince Ayperos arrived.
“Stifels. How is the war progressing?”
Ayperos, still in his teens, had brought with him several of his chamberlains, doing his best to make a dignified display.
“Yes. Horant’s resistance is stronger than we expected so we’re currently struggling for supremacy. The strategy we have now is to force them back.”
“I see. Tell me when it’s about to be decided.”
When they are about to win, Ayperos needed to come out to take the helm.
Aiperos said he looked forward to it, before taking his leave, as Stifels unpleasantly saw him off.
“Coming out afterwards...”
This was all done in order to give the Second Knight Unit some achievements, but Stifels didn’t know what to do with the prince who were butting in more than necessary.
It seems like witnessing his sister Imeraria actively participating in the national politics, and getting the support of the people, had made him somewhat impatient. Maybe the throne would be snatched away like this, so that’s why he made that previous announcement to Stifels, as well as bringing with him a huge number of chamberlains and his private army.
But he didn’t let that private army participate in the battle, and only used them as an escort. A lot of people were brought with him, so the city of Münster was about to burst. Far from being a help, they were rather a nuisance.
“At any rate, we’ll increase our soldiers and strike the enemy with overwhelming power! Send a messenger to Earl Biron.”
Hifumi let out a sigh as he looked at the sickle he had just reaped several human lives with.
“It’s quite damaged. I’ll need to reforge it when I get back to Fokalore.”
The bandits, whose numbers had already been halved, were glaring at Hifumi with their crude weapons in their hands but when they saw their dead comrades on the ground, their legs didn’t let them step forward.
“I’ll need to use another weapon for now.”
Instead of the kusarigama, Hifumi fetched his pick and swung it lightly.
“This one is still okay.”
Hifumi glanced behind him and saw Origa smiling. Beneath her feet were the bodies of three bandits, who seemed to have wanted to take her hostage.
All at once, attack!”
“Yeah!”
At the words of the man who looked like the leader, the remaining 10 men all attacked.
“Do that from the beginning instead.”
One person got his throat pierced by the pick.
Before his eyes got dark, the next person had already had his neck grabbed and thrown down on the ground, before getting his heart pierced.
Averting an incoming club, Hifumi kicked the person in the crotch with all his strength.
“Scheme a little bit at least. This is dull.”
Finishing with the pick, he retrieved the spear he took from Ribezal.
“7 left. I wonder how many seconds you can hold out for.”
The head of the bandits, who was brandishing a longsword, got both of his legs cut off, after which Hifumi decapitated him.
The bandits who lost their leader threw their weapons on the ground and began to scatter in all directions.
But if he were to let away his precious prey, he wouldn’t be Hifumi. He thoroughly transformed them all into corpses.
“Nice weather... I hope it’ll stay like this all the way until Fokalore.”
Origa felt some ordinary everyday happiness looking at Hifumi merrily killing people.
“I refuse.”
Earl Biron curtly refused the request for reinforcements the Second Knight Unit’s vice captain brought with him with his visit to the Earl’s mansion.
“But why? We’re asking you in order to cooperate to protect this city...”
“I also took the protection of the city into consideration before I refused. My subordinates also confirmed the war situation, and the soldiers from Horant are behaving strangely.”
‘That’s something you should also know about’, Biron said as he stared at the vice captain.
“With an abnormal opponent who don’t feel exhaustion and just keeps relentlessly attacking, I don’t think you can just meet them head on. It’d be better to exhaust them by defending, while waiting for reinforcements.”
“Reinforcements?”
“Yes. I’ve already sent a messenger. It’s quite a distance away, but they should arrive before the defensive wall collapse.”
The vice captain couldn’t hide his irritation at that carefree manner of speaking.
“Is this really the time to stay calm!?”
“Oh? Didn’t prince Ayperos say that you were ‘struggling for supremacy’? Furthermore, if we put importance on the walls, don’t we have enough defense?”
“Ugh...”
Of course, Biron was sarcastic, as he knew about the crisis with the army over by Horant. But as it was virtually the same thing Stifels had said, as well as being the truth, there was nothing the vice captain could say.
“So, what size of reinforcement did you request from the capital?”
If he could calculate the reinforcements coming, he could integrate them into the plan they had.magic
“I believe it was around 4000 men from an outskirts region of the capital.”
“You didn’t request reinforcements from the capital?”
“Huh? Then where from...”
Biron elegantly tipped his cup of tea a little, enjoying the smell of tea, before smiling.
“If requesting something, a strong person is preferable, right? So I requested the lord of Fokalore, Hifumi. If he’s as strong as the rumors say, he should be able to play a significant role in the fight against Horant.”
Seeing the vice captain not being able to close his mouth after hearing that, Biron felt a little better. |
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} | 昼下がりの街道を、豪華な馬車を中心にした軍の隊列が進む。
述名を越える集団は、オーソングランデ女王イメラリアが率いる反乱貴族討伐軍だ。
「女王陛下。ビロン伯爵からの伝令と接触いたしました」
「では、直接お会いします。こちらへ。進行を止める必要はありません」
先頭にいの騎士が、イメラリアが乗る馬車の隣にまで騎乗のまま下がってきた。
イメラリアは乗馬のためのパンツルックに長靴という姿だったが、出発一日目になれない遠征で尻が痛くなったのに耐え切れず、二日目以降はたっぷりのクッションを敷いて馬車の中で大人しくしていた。
服を変えないのは、何かあればすぐに騎乗できるとの意気込みを表していたのだが、側仕えの面々としては、荒事は騎士に任せて大人しくしていて欲しいというのが本心だった。
ほどなく、ビロン伯爵からの伝令と称した青年が、騎士と共に馬を並べてやって来た。
「えっと......お、お初にお目にかかり、光栄です、女王陛下。馬上からのご挨拶、失礼いたします」
「構いません。わざわざ歩みを止めるには、少し人が多すぎますから。それよりも、ビロン伯爵は何と?」
本来であれば、一兵卒に過ぎない伝令が、女王と直接言葉を交わす事はあまり無い。だが、イメラリアにとって今は準戦時という認識であり、一ら以前に言われた、“自分で情報を吟味しろ”との言葉を実践するため、極力当事者から話を聞くことを基本としていた。
それが城内に勤める者たちからの好感をいや増しているのだが、必死になっているイメラリアには、そこまで汲み取る事は難しい。
「ビロン伯爵からは、陛下に現状の全てをお伝えするように、と」
「聞きましょう。あ、サブナクさんにも聞いてもらいましょう。誰か呼んできてくださいませんか」
隊列前方で指揮をしていたサブナクがやってくると、改めてイメラリアは伝令の青年に話を促した。
そこで、伝令はアスピルクエタ伯爵以下造反貴族の捕縛、ホーラント国境でのマ・カルメ達フォカロル教導部隊の戦いとホーラント側の攻撃について、仔細に説明した。
すでに何度か話している内容だったので、語り口は慣れた調子ではあったが、マ・カルメのくだりでは、まだ涙が溢れそうになる。
「......これは、大問題ではないでしょうか」
サブナクが青い顔をしてイメラリアに視線を向けると、彼女はしっかりと伝令の顔を見据えたまま頷いた。
「状況は、わかりました。貴方は、これからビロン伯爵のところへ戻るのですか?」
「いえ......。私は、マ・カルメ殿との約束があります。伯爵様の許可もいただいておりますので、このままフォカロルへ向かいます」
「そうですか」
しっかりとした言葉で答えた伝令に、イメラリアは優しく微笑む。
「その情報をトオノ伯が知った場合の事を考えれば、わたくしは為政者としては問題を抑えるために、貴方の足止めをするべきかもしれません」
「そ、それは......」
困る、と伝令は言おうとしたが、女王に言われればどうしようもない。
「ですが、貴方が貴方とその方の約束を果たす事を止めるなど、わたくし自身が許せそうにありません。サブナクさん」
「はっ!」
「彼に護衛を二人ほどつけて差し上げてください。路銀も多少は」
「そ、そこまでは! これは私の個人的な約束に過ぎませんので!」
慌てる伝令に、イメラリアはピシャリと言い渡す。
「では、これはわたくしが個人的に良いと思ってやることです。それに、伝言相手のアリッサさんは、わたくしの個人的な知り合いと言っても良い相手です。それを断るのですか?」
「う......ありがたく、お受けいたします」
よろしい、と頷いたイメラリアに馬上で一礼した伝令は、やってきた二人の騎士と共に後方へと向かっていった。
「......イメラリア様」
「身勝手な事をいたしました」
苦笑いを浮かべたイメラリアに、サブナクは頭を垂れた。
「いえ。陛下のお心遣いに、感服いたしました」
「ありがとうございます。それでは、少し相談に乗っていただけますか?」
「ぼくの浅知恵でお役に立てるのであれば」
サブナクは、貴族を相手にするよりもずっと胃もたれしそうな未来図に、ため息を殺して再び頭を下げた。
☺☻☺
「こんな真似をして! ホーラントを滅ぼすつもりか!」
謁見の間に於いて、玉座の横に涼しい顔をして立っている宰相クゼムに向かって、元大臣を含め城内の上位者達がそれぞれ紅潮した顔で抗議を叫ぶ。
すでに城内の兵士たちの掌握は済ませているクゼムにとって、役を追われた要人たちは、貴族と言っても何らの脅威も感じない。
「おやおや、私はホーラントに敵国が攻めて来たのを追い返した、言わば戦功を上げた忠臣なんですがね」
「ふざけるな! ネルガル様ご不在の間に、国政を壟断するような貴様のどこが忠臣だ!」
「おや、自画自賛が過ぎましたかな。しかしながら、陛下の国葬で忙しいこの時期に、わざわざつまらない抗議のためにお集まりになられたので?」
お役御免になったとはいえ、暇なことですな、とクゼムは吐き捨て、同じく壇上にいた一人の兵士に、何かを指示する。
「言うに事欠いて暇だと? 陛下がお隠れあそばされた事に対し、貴様のように毛ほども哀悼の意を見せず、ただ自らのために権力を振りかざして遊んでいるような奴に、言われたくはない!」
第一、とさらに大臣たちから声が上がる。
男の部下を殺したと聞いたぞ! たった一人相手でも城への侵入を許し、本来の王太子まで殺されたというのに......。間違い無く報復がある! 一体どうするつもりだ!」
この言葉を聞いた瞬間、余裕の笑みを浮かべていたクゼムが、急に眉間にしわを寄せて怒りの表情を見せた。
「それが!」
クゼムが指差したのは、一二三の報復について言及した男だ。
「その負け犬根性が駄目だというのだ! あの敗戦のあと、この国にはフォカロルの軍人が我が物顔で居座って、いつの間にか我が軍よりも上位のような振る舞いをしている! これが正常な国の在り方であると言えるか!」
「だ、だがそれがこの国のためだと、前王は......」
「国というのは、ただ存在すれば良いというものではない。その国その国民が自らの力で立ち、守るものだ。他国の技術をそのまま模倣したところで、その国家の存在意義はどこにある?」
語る間に落ち着きを取り戻したクゼムは、次第に穏やかだが卑下するような口調に変わる。
「しかし、現に正面から戦うには相手が......」
「私が、何ら準備をしていないとでも?」
そして、謁見の間に僅かな振動が響き始める。
「なんだ、この音は?」
「ようやく来たようだな。......さて、皆様」
次第に大きくなる振動を感じながら、クゼムは両手を広げた。
「先ほどの話に戻りますがね、この国らしい戦い方といえば、何かはご存知でしょう?」
「ま、魔法や魔道具の事か?」
「正解です! さらに言えば魔法薬なども、我々の専売特許だ」
振動はさらに大きくなる。
「実を言うと、あの戦いの時点で我が国の防衛力は充分な基礎ができていた。混乱の中で研究成果を失い、実験体も失ったが、資料は残っていたのだよ」
後方から顔を出したのは、魔道具と魔法薬で身体を改造され、身長ートルを越えるほど巨大化した身体を持つ兵士だった。
専用の分厚い鎧を着、太い指で長大な槍を掴んでいる。
この場所で一二三に殺されたヴェルドレと酷似しているが、その目は真っ白に濁っているものの、クゼムの指示を大人しく聞いている。
そんな巨大な兵士が、五体、足音を響かせて入って来た。
「な、なんだこれは......」
「亡き王太子の遺産ですな。ようやく実用化にこぎつけたのですが......」
ぎらり、と見下ろすクゼムの瞳が怪しく光った。
「何しろ順応する適当な素体が足りませんでね。軍団というにはまだ数が足りんのです」
クゼムは、元大臣たちを取り囲んだ改造強化兵たちに命令を下す。
「殺さず、逃げられないように手足を折って研究所へお連れしろ」
「や、やめ......」
巨大な手は大の大人の身体を片手で悠々と掴むと、小枝をへし折るように簡単にその手足を捻り折っていく。
悲鳴が響く中、クゼムは一人、ほくそ笑んだ。
「さて、細剣の騎士とやらの武器が、我が改造兵に通じるかな?」
数体の改造兵で囲めば、嬲り殺しにできるだろう、と笑う。そうすれば、大手を振って報復としてオーソングランデを攻める事ができる。
ホーラントの技術でそこまで達成してこそ国は蘇るのだ、とクゼムは固く信じていた。
☺☻☺
地方の混乱は地方のものとして、オーソングランデ王都は活況の最中にあった。
軍が動いた事は知れ渡っていたが、それについて悲観的な雰囲気は無く、どちらかといえば王城からまとまった資金が市場に流入したという受け止め方をされており、目ざとい商人などは追加の兵糧の依頼が来るのではないかと期待し、人々は新たな武勇伝を今か今かと待ち構えていた。
そんな中に一二三が女性二人を連れて王都へ訪れたのだから、民衆の耳目は自然と集中する。
とはいえ、今更そんな視線を気にするような三人でも無かった。
町の入口で兵士に馬を預けると、徒歩でブラブラと街を散策する。一二三の右手には、バールゼフォンの首を包んだ“お土産”が提げられている。
「腹が減ったな。確かうまい定食屋があったな。ここに来て最初に食った店が」
「『踊るクルード亭』ですね。こちらです、一二三様」
「王都も賑やかだよね」
迷いそう、とアリッサは一二三の道着の右袖をつかみ、左腕にはオリガが絡みついている。
変わった服ではあるが華美ではなく、気楽に街を歩き回る姿を王都でも見せているので、街の人々もあまり緊張せずに見守っている。
緊張しているのは、たまたま見かけた警ら中の兵士たちだ。慌てて王城や騎士団詰所へ知らせに走る者、それとなく追いかけてトラブルに備える者。中には一二三が街中で刺客十人を惨殺した時に後片付けをさせられた兵士もおり、あれはもう嫌だと顔色を悪くしていた。
食事を済ませ、店を冷やかしながら街を歩く。
王都の繁華街にはオリガの顔も売れているため、あちこちから声がかかるのを適当にあしらいながら城へと向かう。
「......それで、本日はどのようなご用件で?」
「イメラリアに土産でもやろうかと思って、な」
「陛下は今、ホーラント方面で発生した造反貴族の鎮圧のため、自ら軍を率いて戦いに赴かれております」
留守役を任されている宰相アドルが疲れきった顔で出迎える。
「ふぅん。じゃあ、ちょっとバルコニー借りるわ」
「え?」
「失礼しますね」
「いいのかな......」
勝手知ったるという様子で城内を歩き回る一二三を、アドルは慌てて追いかけた。
スイスイと廊下を進む間、文官や侍女たちが廊下の脇に寄り、会釈をする。
「これはトオノ伯! ご無沙汰しております!」
「また是非、妙技をお見せください!」
と、騎士たちに至っては顔を上気させて声をかけてくる。
一二三は軽い調子で挨拶を交わし、ずんずんと進む。
「あ、トオノ伯爵! また色々教えてくださ......ひぇ!?」
女性騎士が声をかけた時は、一二三の背後から射殺すようなオリガの視線が向けられるのだが。
十分弱歩くと、城の前の広場に向けて作られた大きなバルコニーにたどり着く。
ここはイメラリアが戴冠の際に民衆に向けて語りかけた場所であり、何かの告知があれば広場や街の入口への掲示以外に、ここで大臣なり宰相から発表される事は珍しくない。
逆に言えば、そう言った発表がある以外は、あまり人が立ち寄らない場所でもある。
「と、トオノ伯、一体何をする気ですか?」
「ああ、せっかくの土産だから、他の連中にも知らせておこうかと思って、な」
バールゼフォンの首の包を乱暴に剥ぎ取る。
「う、うわわっ?」
驚いたアドルが尻餅を付いているのを放って、一二三はバルコニーの手すりに飛び乗り、大音声で呼びかけた。
対象は、街を警らする兵士や騎士たちだ。
「王都を守る騎士と兵士! あと戦いたい奴がいれば、そいつも聞け!」
頭を掴み、高々と掲げた生首を見て、悲鳴を上げる人もいる。
声をかけられた兵士たちはバルコニーを見上げ、見覚えのある黒髪の男に視線を集中させた。
「こいつは荒野の土産だ! 見ろ! 首だけになってもまだ生きている! これが人間の新しい敵、“魔人族”だ!」
ざわざわと人々が顔を見合わせて口々に魔人族という言葉について意見を交わしている。
多くの民衆は首をかしげているが、騎士のほとんどと、兵士の多くは眉を顰めた。魔人族の存在そのものが、あまり一般的ではないらしい。
その反応の薄さに少しがっかりしながら、一二三は言葉を続ける。
「荒野で大人しくしていた魔人族だが、新たな魔王の誕生と共に組織化されている! こんな化物が徒党を組んで攻めてくるのも、時間の問題かもしれないな!」
首の正体が魔人族ではないことを知っているアリッサも、一二三の目的を知らされているので黙っている。
オリガに至っては、朗々と語る一二三に鼻息を荒くしながら釘付けになっていた。
バルコニーで最も取り乱しているのは、間違い無く宰相だろう。
「トオノ伯、その話は一体......」
「だから!」
大声でアドルの声をかき消した一二三は、首を振りながら嗤う。
「この街を、国を守りたいと思うなら、必死で強くなれ!」
「応!」という声があちこちから届く。
大仰に頷いた一二三がバルコニーから飛び降りると、アドルが恐る恐るバールゼフォンの首を指差した。
「そ、その魔人族の首というのは......」
「これか?」
くるりと回してアドルに向けると、バールゼフォンが苦しげに口を開いた。
「うわっ......うん?」
「見覚えがあるだろう? この城で騒動を起こした阿呆の顔だ」
「で、では魔人族が攻めてくるというのは、嘘なのですか?」
オリガに首を渡し、再び丁寧に包装されるのを見ながら、一二三は刀の柄を叩いた。
「魔人族の王が新しくなって、閉じ込められていた場所から解き放たれたのは本当だぞ。まあ、攻めてくるかはそいつら次第だな」
「その、あまり民を不安にさせるようなことは控えていただければ......」
一二三がグリッと左目を見開き、アドルの右目を覗き込む。息がかかるほどの距離にある黒い瞳から、アドルは視線を外せない。
小さい声でオリガが「羨ましい」と呟いたのを、アリッサは聞き流した。
「それじゃあ駄目なんだ。誰がいつ攻めてきても良いように鍛えて覚悟をしておけ、と俺は俺のところの兵士連中には言っている。これからは、敵が見えてから「さあ戦いの準備をしよう」なんて間抜けじゃあついて行けないような戦いが始まるんだよ」
顔を話した一二三は、アドルに生首はイメラリアに土産として渡すように言うと、バルコニーから城内へ戻ろうとする。
その背中に、アドルは腰を抜かしたままで声をかけた。
「こ、これからどこへ向かうのですか?」
一二三は、チラリとアリッサを見る。
ジッと見上げているアリッサと視線が合うと、一二三はフフッと笑いをこぼした。
「箱入り娘がどれくらい成長したか、見に行ってみようかね」
良い敵がいるなら横取りするかも知れんが、と袴についた埃をバシっと左手で払い、一二三は王城を後にした。 | Early afternoon on the highway, ranks of troops are advancing with a luxurious carriage in their midst.
The group, which expressly exceeds a number of , is the punitive force against the rebelling nobles led by Orsongrande’s queen, Imeraria.
“Your Majesty, we got in touch with a messenger from Earl Biron.”
“Well, then let’s meet directly with them. Over here. There’s no necessity to stop the advance.” (Imeraria)
A single knight, who was in the vanguard, withdrew with his horse until he was next to the carriage with Imeraria on board.
Imeraria had an appearance of wearing long boots with trousers for the sake of riding a horse, but unable to endure her sore butt on an unfamiliar expedition on the first day of departure, she obediently remained in the carriage, which has plenty of cushions laid out, from the second day onwards.
Not changing her clothes showed her enthusiasm of being able to mount a horse right away if something happens, but the true feelings of all her maids was for her to stay docile and leave the fighting scene to the knights.
Before long the young man, who named himself as messenger from Earl Biron, turned up an lined up his horse alongside the knight.
“Err... i-it’s a great honour- to meet you, Your Majesty. E-Excuse my rudeness of addressing your from atop a horse.”
“It doesn’t matter. We are a bit too many people to especially stop the advance. Rather than that, what about Earl Biron?” (Imeraria)
As a messenger is originally nothing more than a single common soldier, it doesn’t happen often for them to directly exchange words with a queen. However as the current time is regarded as war time by Imeraria, she handled it in the basic way of listening to the information from the related parties to the best of her abilities in order to implement the phrase
That has increased the favourable impressions of her by those working in the castle, but for the desperate Imeraria it’s difficult to take matters that far into consideration.
“I have been told by Earl Biron to report the entirety of the current situation to you, Your Majesty.”
“Let’s hear it. Ah, let’s have Sabnak-san listen as well. Won’t someone please go call him?” (Imeraria)
Once Sabnak, who was commanding the ranks at the front, arrived, Imeraria urged the young male messenger to talk once again.
Accordingly the messenger explained the details regarding the arrest of the rebelling nobles under Earl Aspilketa as well as the attack of Horant’s side and the resulting battle against Ma Carme’s instruction unit from Fokalore at Horant’s national border.
Since those were details he had already explained several times, his way of reciting had a practised tune, but he still spills tears at the passages about Ma Carme.
“... This, won’t it turn into a big problem?” (Sabnak)
Once Sabnak turned his look at Imeraria with a pale face, she nodded while firmly staring at the face of the messenger.
“I understood the situation. Will you return to Earl Biron’s place after this?” (Imeraria)
“No... I have a promise with Ma Carme-dono. As I already got Earl-sama’s permission as well, I will head towards Fokalore as it is.”
“Really?” (Imeraria)
Imeraria smiles gently at the messenger who answered with determined words.
“If I consider the situation of Earl Tohno getting to know such information, it might be that I should confine you for the sake of avoiding problems as stateswoman.” (Imeraria)
“T-That will...”
“Be troublesome”, the messenger tried to say, but there’s no way to say such a thing to the queen.
“However, I won’t be able to forgive myself for something like preventing you from accomplishing the promise between you and that person. Sabnak-san.” (Imeraria)
“Ha!” (Sabnak)
“Please give him two guards that will escort him. And also a little bit for his travelling expenses.” (Imeraria)
“T-This much! This is too excessive as it’s my own personal promise!”
Imeraria flatly tells the panicking messenger,
“Then this is something I consider as my private good deed. Besides, the receiver of the verbal message, Alyssa-san, can be called my personal acquaintance. Will you still decline it?” (Imeraria)
“Uuh... I shall accept it thankfully.”
The messenger, who bowed towards Imeraria as she nodded with an “Alright”, while on horse, headed towards the rear with two knights, who turned up, in tow.
“... Imeraria-sama.” (Sabnak)
“I did something selfish.” (Imeraria)
Sabnak bowed his head towards Imeraria who was showing a bitter smile.
“No. Your Majesty’s consideration was admirable.” (Sabnak)
“Thank you very much. Can you give me a bit advice then?” (Imeraria)
“If my shallow thinking will be of use to you.” (Sabnak)
Sabnak bowed his head once again while holding his breath as result of his future prospect that looks like it will be lying much more heavy on his stomach than any association with nobles.
☺☻☺
“Doing such a thing! Do you plan to ruin Horant!?”
Facing Prime Minister Kuzemu who is standing next to the throne in the audience hall with a nonchalant expression, each of the higher ranking people of the castle, including the former ministers, yell their objections with flushed faces.
For Kuzemu, who has already finished the seizure of the castle’s soldiers, the important people, who were driven out of their posts, don’t feel like any threat although they are nobles.
“Oh dear, I’m a loyal retainer who, so to speak, showed distinguished war service by turning away the enemy nation that came attacking Horant.” (Kuzemu)
“Don’t screw around! How is a bastard like you, who monopolizes the national politics during the absence of Nelgal-sama, a loyal retainer!”
“Oh, did I praise myself too much, I wonder? Nevertheless, did you gather here to expressly state your trivial protests at this time where we are busy with the state funeral of His Majesty?” (Kuzemu)
“You certainly have free time now that you were relieved from your posts”, Kuzemu spits out and gives some order to a soldier who was on the same platform.
“Free time you say, that’s a nasty way to phrase it! I don’t want to be told that by a fucker, who is messing around by wielding his authority merely for his own sake without even showing a shred of condolences towards His Majesty having passed away, like you bastard!”
“In the first place”, another minister raises his voice.
“I heard you killed the subordinates of t-h-a-t man! Him having invaded the castle just by himself, even the proper crown prince was killed... There will be retribution without a doubt! What the hell are you planning to do about that!?”
The instant he heard those words, Kuzemu, who floated a carefree smile, suddenly furrowed his brows and showed an expression of rage.
“That’s it!” (Kuzemu)
The one Kuzemu pointed at was the man who referred to Hifumi’s revenge.
“Such loser mentality is no good! After that defeat, Fokalore’s soldiers have remained in this country while acting as if they own the place and have behaved as if they are more superior than our troops before we realized! Do you want to tell me that this is the way it ought to be in a normal country!?” (Kuzemu)
“B-But, as that was for the sake of this country, the late king has...”
“It isn’t all fine to just exist because it’s a country. This country and its people have to stand with their own power and also protect themselves. Where’s the meaning in the state’s existence even if we copied the technology of another country?” (Kuzemu)
Kuzemu, who regained his composure while talking, changes his tone as if humiliating himself quietly.
“However, for actually fighting him from the front, the opponent is...”
“Do you think that I haven’t prepared nothing whatsoever?” (Kuzemu)
And a slight vibration begins to resound during the audience.
“What’s this sound?”
“It looks like they finally arrived. ... Well then, everyone.” (Kuzemu)
While feeling the vibrations which have gradually become larger, Kuzemu spread both his hands.
“Returning to the previous conversation, I wonder if you will understand anything if I am to speak about this country’s fitting way of fighting?” (Kuzemu)
“T-The matter of magic and magic tools?”
“Correct! If you take it even further, there are things like magic potions. That’s our speciality.” (Kuzemu)
The vibrations have become even bigger.
“As a matter of fact, our country’s defence capability had built plenty of foundation at the time of that battle. Losing the research results in the chaos, even the experimental subjects were lost, but the data was left behind.” (Kuzemu)
The ones who turned up from behind were subjects which were restructured with magic tools and potions. They were soldiers possessing bodies which were changed into gigantic builds with heights surpassing five meters.
Wearing exclusive thick armours, they are grasping very long spears with their fat fingers.
They are resembling Veldore who was killed by Hifumi at this location, but although their eyes are clouded with a pure white, they are obediently listening to Kuzemu’s orders.
Such huge soldiers came entering while making a stir with their footsteps, their whole bodies.
“W-What on earth is this...?”
“It’s the inheritance of the late crown prince. We finally manage to make them useful, but...” (Kuzemu)
The eyes of Kuzemu, who looks down on them with a glare, shone dangerously.
“At any rate, they still haven’t adapted properly as elementary subjects. Their numbers are also too lacking to call them an army corps.” (Kuzemu)
Kuzemu orders the restructured, enhanced soldiers, who surrounded the former ministers.
“Break their limbs so that they can’t escape while not killing them and take them to the research institute.” (Kuzemu)
“S-Stop...”
The huge hands easily seize grown men with one hand and break their limbs by twisting them completely as if they are breaking twigs.
Only Kuzemu chuckled among the reverberating screams.
“Well then, I wonder if the weapons of the Knight of the Slender Sword or whatever will be understood by our restructured soldiers?” (Kuzemu)
When that happens, we will be able to brazenly attack Orsongrande in retaliation.
By achieving this much with Horant’s technology, the country will certainly be restored
☺☻☺
As the provinces disorder was a matter of the central government, Orsongrande’s capital was at a height of activity.
The fact that the army made a move was well-known, but there’s no pessimistic atmosphere regarding that. If anything, it is taken as funds, which were gathered by the royal castle, flowing into the market and sharp-sighted merchants were wondering whether additional supply request would come in anticipation. The people were eagerly waiting for new tales of heroic deeds.
After Hifumi arrived at the capital in such circumstances with the two women in tow, the attention of the populace naturally focusses on them.
Be that as it may, the three people weren’t ones to mind such stares this late in the game.
Once they entrusted the horses to the soldiers at the city’s entrance, they leisurely stroll the city on foot. The
“I got hungry. If I remember correctly, there was a good set meal restaurant. It’s the shop where I ate first after coming here.” (Hifumi)
“It’s the 『Dancing Cludo Pavillion』, right? This way, Hifumi-sama.” (Origa)
“The capital’s lively as well, isn’t it?” (Alyssa)
“I will get lost”, Alyssa grabs the right sleeve of Hifumi’s dougi and Origa twines her arms around his left arm.
Although he wears unusual clothes, they aren’t gaudy. Since he is showing himself in the capital by walking in the city care-freely, the city’s people watch them without too much nervousness.
The nervous ones are the soldiers among the patrols which they saw occasionally. Those hurrying to notify the office of the knight order and the royal castle in panic and those chasing after them indirectly in preparation for troubles. Among them there’s also a soldier, who was made to clean up at the time when ten assassins were slaughtered by Hifumi down-town. That person was already in denial and had a poor complexion.
Having finished their meal, they walk through the city while browsing the shops.
Because Origa’s face is popular in the capital’s shopping district, they head towards the castle while suitably dealing with the overlapping voices from all over.
“... So, what’s your business today?” (Adol)
“I thought that I should give a present to Imeraria.” (Hifumi)
“Aiming to suppress the rebelling nobles who headed towards Horant, Her Majesty is currently proceeding towards battle while leading the troops herself.” (Adol)
Prime Minister Adol, who has been entrusted with the role of house-sitting, greets them with an exhausted expression.
“Hmmm. Then I will borrow the balcony for a bit.” (Hifumi)
“Huh?” (Adol)
“Excuse me.”
“I wonder whether it’s alright...”
Adol hurriedly chased after Hifumi who walks through the castle in a manner of being familiar with it.
While he advances through the hallways unhindered, the civil officials and maids step to the side of the hallways and bow.
“This is Earl Tohno! Please excuse me for not contacting you for a while!”
“Please show us your wonderful skill once again by all means!”
Arriving at the knights, they call out to him with flushed faces.
Hifumi exchanges greetings in a light manner and advances rapidly.
“Ah, Earl Tohno! Teach me various things once again, plea... Hiie!?”
At the moment a female knight called out to him, Origa’s look, which is similar to being shot to death, is turned at her from Hifumi’s back.
Once they walked for a little less than minutes, they arrived at the large balcony which was constructed towards the plaza in front of the castle.
This is the place where Imeraria addressed the populace at the time of her coronation. It’s not rare for the prime minister and the ministers to publicize something here, with the exception of the notice boards at the city’s entrance and the plaza, if there’s something to announce.
If you put it the other way, it’s also a place where not many people stop by unless there’s such announcement.
“E-Earl Tohno, what the heck are you intending to do?” (Adol)
“Ah, it’s a valuable present, therefore I wondered whether I should inform other people as well.” (Hifumi)
He roughly tears off the wrapping of Balzephon’s head.
“U-Uwawa?” (Adol)
Ignoring the surprised Adol who has fallen on his backside, Hifumi jumped upon the railing of the balcony and called out in a very loud voice.
His targets are the soldiers and knights patrolling the city.
“Soldiers and knights who are protecting the capital! If there are fellows who want to fight, listen as well!” (Hifumi)
There are people who scream as they see the freshly severed head, which was held up very high, while holding their heads.
The called-out soldiers look up at the balcony and concentrated their gazes on the black-haired man whom they remember.
“This guy is the wasteland’s souvenir! Look! He is still alive even though he is no more than a head! This is the humans’ new enemy, a
The people look at each other while talking noisily and exchange their opinions regarding the word demon severally.
Most of the population is puzzled, but the majority of the knights and many soldiers knitted their brows.
While feeling slightly disappointed about the shallowness of their reaction, Hifumi continues his words.
“The demons obediently stayed in the wastelands, but they have organized themselves alongside the birth of a new demon king! Even such monsters coming to attack after gathering might be only a matter of time!” (Hifumi)
Even though Alyssa knows about the true identity of the head not being a demon, she stays silent as she knows Hifumi’s aim.
As for Origa, she was unable to take her eyes off Hifumi, who is talking sonorously, while wildly breathing through her nose.
The one who is shaken up the most on the balcony is without a doubt the prime minister.
“Earl Tohno, that story, just what the...” (Adol)
“Therefore!” (Hifumi)
Hifumi, who drowned out Adol’s voice with his loud voice, smiles while shaking his head.
“If you believe that you want to protect your country and this city, struggle desperately to become stronger!” (Hifumi)
「Yea!」, such voices reach him from all around.
Once Hifumi, who nodded in an exaggerated manner, jumped off the balcony, Adol timidly pointed at Balzephon’s head.
“T-That demon head, that is to say...” (Adol)
“This, eh?” (Hifumi)
Once it faced Adol after turning it around, Balzephon opened his mouth in agony.
“Uwaah... eh?” (Adol)
“I guess you remember him. It’s the face of the idiot who caused a rebellion in this castle.” (Hifumi)
“T-Then it’s a lie that the demons will come to attack?” (Adol)
Giving the head to Origa, Hifumi tapped the hilt of his katana while watching her carefully wrapping it up once again.
“It’s the truth that the demons were released from the place, where they were imprisoned, and that there’s a new demon king. Well, whether they will come attacking depends on them.” (Hifumi)
“That is, if possible, I’d like you to refrain from making the people too anxious...” (Adol)
Hifumi suddenly opens his left eye widely and stares into Adol’s right eye. Adol can’t avert his sight from the black pupil which is at a distance of a breath’s range.
Alyssa ignored Origa’s small-voiced muttering of 「How enviable」.
is what I’m telling the bunch of soldiers at my place. From now on they will begin to fight without following such stupidity as 「Now, let’s get ready for combat」 after the enemy is visible.” (Hifumi)
Hifumi, who talked with dignity, tells Adol to pass the freshly severed head as present to Imeraria and tries to return into the castle from the balcony.
Adol called out to him from behind while being unable to stand up due to fear.
“W-Where are you heading from here on?” (Adol)
Hifumi looks fleetingly at Alyssa.
When he met the sight of Alyssa, who is looking up to him fixedly, Hifumi spilled a laughter with a “Fufufu.”
“Let’s go and see how much the sheltered girl has grown, shall we?” (Hifumi)
“I don’t know if might snatch them away if there’s a nice enemy though”, brushing off the dust on his hakama with a smack of his left hand, Hifumi left the royal castle. |
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} | 「......どうしましたか、そのお顔は」
兵が天幕の外から発したサブナクの到着を告げる言葉が、妙に困惑気味だった理由を、イメラリアは入ってきたサブナクの顔を見て理解した。両頬を真っ赤に腫らしている。
これが攻撃を受けている最中であれば、敵の侵入を許したと勘違いしたかもしれない。
「ひや、これは......」
「オリガさんに怒られたんだよ」
「口は災いの元ってやつだ」
言いよどむサブナクの後ろから、アリッ顔を見せた。
「来られていたのですか」
オリガは兵たちに休息を取らせるために隊と一緒にいるという。
「ずいぶんと早かったですね」
天幕内に用意された簡易のテーブルセットに促し、イメラリアは侍女に紅茶を淹れるようにと伝える。
「元々はイメラリアに土産を持ってくるつもりで王都に向かってたんだがな。ビロンの伝令からフォカロルの兵士がやられたって話を聞いたわけだ」
土産は王都に置いてきたから後で見に行くと良い、とは笑っているが、イメラリアには土産が何かよりも気になることがある。
「......ホーラントへ、報復をなさるおつもりですか?」
頬を流れる汗を拭うこともせず、イメラリアは上目使いで見上げるようにして一二三を見る。
真剣に答えを待つイメラリアと笑顔のままで視線を受け止める一二三を、アリッサは黙って待っている。
「あぢっ。く、口の中の傷にしみるぅ......あっ」
運ばれてきた紅茶に口をつけ、涙目でつぶやいたサブナクは、全員の視線を集めていることに気づいた。
「はぁ......サブナクさん、後で連絡をいたしますから、今は治療を受けてきてください」
すごすごと出ていくサブナクを見送り、一二三はニヤニヤと笑う。
「相変わらず、面白い奴だな。あれは多分、一生女に振り回されるぞ」
「そういえば、ビロン伯爵に嫁がれた彼の姉も......いえ、今はそんな話は良いのです。一二三様、わたくしは今しばらく様子を見てから、国境までの支配地は取り戻し、ネルガル殿との協議を進める予定です」
「邪魔するな、と言いたいのか?」
威圧する視線が向けられ、イメラリアはつい喉を鳴らしてしまったものの、視線だけは外さない。
「......その通りです。ここはわたくしの指揮する戦場です」
「ふふ......あっはっは!」
こらえきれずに笑いだした一二三は、隣に座っているアリッサの頭をポンポンと叩いた。
「アリッサ。女王陛下はこのように仰せだがね。お前はどうするよ」
「むむむ......」
腕を組み、それらしく悩んで見せてはいるものの、アリッサの身長の低さと口の端に付いた焼き菓子の欠片が、緊張感をゼロにしている。
「どういうことでしょうか?」
「ああ。今回の件はアリッサに任せた。俺は、そうだな、保護者ってところだな。後ろから見ててやるだけだ。予定としては、な」
「では......」
「決めた!」
イメラリアが何か言いかけたところで、アリッサが声を上げる。
「お姫様! 僕と競争しよう!」
「きょ、競争? それとわたくしはお姫様ではなくて......」
「とりあえず、国境を取り戻すまでどっちが先にできるか! でどうかな?」
勝手に話を進めるアリッサに、イメラリアは視線で一二三に助けを求めるが、彼はニヤニヤと笑っていた。
「俺は手を出さないと言っただろう? お前らで話し合えよ」
「ぐ......アリッサさん! わたくしの話を聞きなさい!」
首をかしげるアリッサに、イメラリアは精一杯視線で圧力をかける。
「競争など、できるわけがないでしょう」
「えっ? じゃあ、僕たちだけでやるけど」
「許可できません」
すっぱりと断言したものの、アリッサは理解できない様子。
「......? 僕たちだけでやるから、別に手伝いとかはいらないよ?」
「一二三様、何とかしてください」
威圧も威厳も通じないアリッサに、イメラリアはいよいよ涙目になって一二三に助けを求めた。
「俺は知らん」
「僕は明日の朝、陽が昇る前に出るよ。今ならまだ、マ・カルメさんたちを助けられるかもしれない。お姫様、これは僕の復讐だから、止めないでね」
「復讐......一二三様、貴方は......」
愕然としているイメラリアに、一二三は自慢げに鼻を鳴らした。
「ちゃんと成長しているだろう?」
「なんということを......」
眉間を押さえたイメラリアは、呻きながらも最善手は何かを考える。
アリッサ率いるフォカロル領軍を止めるのは難しいだろう。手を出さないといいながら、実質は一二三が後押しをしているのは明白だ。論理的にも物理的にも阻止できそうにない。
では、どうするか。
このままアリッサが出て行って何かしらの戦果をあげたとして、それに乗っかる形で停戦交渉を進めるという手もある。
だが、とイメラリアは薄目をあけて一二三の顔を見た。
「......わかりました。ではアリッサさん。明日の早朝にわたくしも兵を率いて国境の奪還に加わります」
「あれ、お姫様も?」
「女王様です!」
つい声を荒げた事とその内容に赤面しながら、こほん、と咳払いをして、イメラリアは立ち上がる。
一二三がそれを見て笑い転げているのをなるべく視界に入れないようにしつつ、イメラリアはアリッサの顔をまじまじと見つめた。
自分よりも幼く純朴に見える顔をして、今まで一二三と共に行動し、どれほどの人を殺めてきたのだろうか、想像もつかないが、一人や二人ではないだろうとイメラリアは想像している。
「競争ではなく、協力いたしましょう。その方が救出にしてもうまく行くでしょうから」
「そうだね。ありがとう」
どうしてこの人は、こんな状況で笑っていられるのだろうか、とイメラリアは聞いてみたくなったが、そこに必ず一二三の名前が出てくるだろうことを予想して、やめておくことにした。
「では、具体的な方法を話し合いましょう。誰か、ビロン伯爵とサブナクさんを呼んでください」
そうして、“一二三に頼らずに国境を奪還する方法”について、イメラリアとアリッサを中心とした会議は、遅くまで続けられた。
☺☻☺
「つまり、魔人族だけの力では、あの一二三さんを倒すのはとても難しいでしょう、と私は言いたいわけです。貴方方魔人族は、それはそれは魔法が得意でしょうし、身体能力も獣人族並みに優れてもいる」
ですが、と死神は笑いながら続ける。
「数が少ない。そして世界を知らない。閉じ込められてから世代も移り、外から戻ってくる者も限定的な情報しか持たない。それで、多くの種族を全て敵にして戦えますか?」
ガランとした謁見の間で、一人考えに耽っていたウェパルの前に突然現れたかと思えば、挨拶もそこそこに延々と話続ける死神に対し、玉座に座り話を聞いているウェパルは、目を閉じたままだった。
ウェパルの様子を気にすることもなく、死神の口からは言葉が溢れ続ける。
「ですから、荒野の勢力を潰していくのではなく、吸収していくのです。大きな勢力となれば、一二三さんも無視できず、簡単に魔人族や獣人族を潰すこともできません。ただし、獣人族やエルフに対しては支配という形で吸収すべきでしょうね。対等な付き合いをしてしまっては、どこかの勢力が犠牲になるような作戦はできません。あの一二三さん相手なのですから、一種族くらいは捨て駒にする必要はあるでしょうね」
ここまでの話で、死神はソードランテのレニに対して敵対するように話をした事は伏せている。泥沼の戦いになるには、どちらも同様に準備をした状態でぶつかり合ってもらうのが良いと考えたのだ。
「......長々とお話してくださったけれど、結局は私たちに荒野を征服しろって話でしょ」
ため息混じりのウェパルの言葉を聞いて、死神はうんうんと嬉しそうに頷く。
「お話が早くて助かります」
「一二三という男が脅威だというのはわかるわ。私自身も目の前で見てよく知ってる。けれど、わざわざ私たちが犠牲を覚悟してまで彼の前に立つ必要も無いでしょう? 荒野を手に入れるのは規定路線よ。そうしなければ魔人族の鬱屈を晴らす事は不可能でしょうからね。その準備も調査も始めてるし」
だから、とウェパルは足を組み直し、死神を睨む。
「貴方は単に危険を犯せと言っているだけにしか聞こえないのよ。荒野を手に入れたからと言って、人間と対立する必要を感じないわ。人間がもっと少なくて弱ければ考えたわ。でも、とんでもない手札が向こうにあって、そうでなくても数の上ではこちらの方がとても少ないのでしょう?」
「人間たちは、国同士で争っていますよ?」
「共通の敵があらわれたとき、それらが協力体制をとる可能性もあるわ。むしろ、自分たちだけで喧嘩をしているところに横入りされるんだもの。“人間同士”で別種族に対抗するという言葉の方が、余程士気が上がるでしょうね」
数は脅威で、しかも自分たち魔人族は永く閉じ込められていた事もあって情報が少ない。それをウェパルは良く理解していた。
「この前出会った片耳兎の子の方が、余程私たちより世の中を知っているわ。獣人族ながら人を知りエルフを知る。この前の事で魔人族についても多少は理解をしたでしょう。対して、私を含めた多くの魔人族が他種族を知らない。エルフについては憎悪に基づく伝承があり、獣人族に対しては格下として見ている。人間に至っては、私すら一人しか見てないもの」
正直に言えば怖い、とウェパルは語る。
「では、人間と事を構えるつもりは無い、と?」
いかにも残念そうに、大げさな身振りで首を振った死神に、ウェパルはにやりと笑った。
「いいえ。条件さえ揃えば、貴方が言う通りにしなくもないわよ」
「条件......とは?」
「貴方、自分が神だと名乗るなら、それだけ力があるのでしょう?」
ウェパルの質問に、死神は片目を見開いた。
「まあ、一応は闇属性に精通し、死に関する力を持つ神ではありますよ」
厳密に言えば、この世界の神ではありませんが、と聞こえないようにこぼす。
「条件は二つ。私たちと敵対する勢力についての情報。それと......」
ウェパルの細い人差し指が、死神に向けられた。
「貴方の力を私に貸しなさい。何かを頼むなら、何かを寄越すのが取引というものよ」
死神は一瞬呆気にとられて、口をパクパクさせていたが、咳払いをして髪を整えると、慇懃に頭を下げた。
「よろこんでご提供させていただきましょう」
日の出を待たずして、二つの軍が国境へと迫る。
アリッサ率いるフォカロル領軍が予備部隊を残して百名。イメラリアとサブナクが指揮するオーソングランデ王国軍も同数の百名。
「作戦らしい作戦は無く、遠距離から投槍器で集中攻撃。その後に突撃して国境奪還......ですか。こう言ってはなんですが、ひねりもなにもありませんね」
「まあ、混成軍隊で細かい取り決めをしてもコントロールできんだろ。それくらい適当で丁度いい」
二つの軍が進む後ろを、一二三とオリガはそれぞれ馬に乗ってついて行く。一二三は完全にやじうまであり、オリガは一二三が行くからついて行く。
「......そろそろ、ですね」
軍の進行がゆるくなり、遠方に国境が見えてきた。
先頭集団はすでに投槍器の準備を始めている。さすがにフォカロル領兵の方が手際が良い。
「じゃあ、この国の戦いを見せてもらおうかね」
「あ、紅茶を水筒に入れてきました。カイムさんの焼き菓子も持ってきたんですよ」
木製のカップに注がれた、まだ湯気を立てている紅茶を受け取り、一二三は焼き菓子を口に放り込んだ。たてがみにこぼれた欠片を手で払うと、馬がくすぐったそうに首を振る。
「お、始まったな」
紅茶を口に含んだあたりで、前線で展開していた兵たちが、アリッサやイメラリアの声に合わせて射撃を開始した。
そして、同時にアリッサが十名程の騎兵を率いて、大きく迂回しながら国境へと側面から迫る。
突然の攻撃に浮き足立っているホーラント兵たちは全く対応できず、ようやく槍が収まった所で横から襲いかかるアリッサたちにいいようになぎ倒されていった。
イメラリアも同じように突撃をしようとしたようだが、さすがにサブナクが必死で止めているのが後方から見ている一二三に見えた。
「ここまではうまくできているな。さて、ホーラントはこのまま潰されて終わりとなると、つまらんが......うん?」
遠目に何かを見つけた一二三の口が、三日月のように曲がる。
オリガは一二三の嬉しそうな顔を見ながら、返されたカップでこっそりと自分も紅茶を飲んでいた。
「......意外と脆いね。もう一回......あ、あれって......」
敵陣向かって右から左へと突き抜けつつ、身体を低くして脇差で器用に敵の首筋を裂いていく形のホーラント兵を始末したアリッサは、距離を取って敵陣に向き直りつつ、味方に損害が出ていない事を確認した。
ちなみに、他の兵士ではそこまで器用な真似はできないので、大剣を振り回しながら敵陣突破をしてきている。
国境の砦、その屋上から何かが降ろされ、ぶら下げられているのを見つけたアリッサは、敵がまだ混乱しているのを確認し、屋上を注視した。
「そんな......」
ホーラント側がまるで何かの印のようにぶら下げて見せたのは、首に縄をかけられた十体の死体。
一つとして五体満足なものは無く、手足のどれかが欠損していたり、中には頭部が割れてしまっているものもある。だが、アリッサはそんなことはどうでもよかった。
「マ・カルメさん......」
「な、なんてことをしやがる!」
絶句するアリッサの周りで、フォカロル兵たちも死体を見上げて歯を剥いて怒りを露わにしている。
「と、とにかくなんとか......」
混乱するアリッサが、視線を敵陣に戻した瞬間だった。
地響きとともに影が差し、雲が出てきたかと思ったアリッサが見上げると、そこにいたのは身長5メートルはあろうかという巨人。
周りにいる兵士ごと、アリッサは巨人の腕のひと振りで弾かれるように馬上から叩き落とされた。
土煙を上げて転がるアリッサは、素早く態勢を立て直し、立ち上がった。
「あれ?」
だが、身体がいうことを聞かず、尻餅をついてしまう。
簡素な鎧で身体は無事ではあるが、右足が完全に折れていることが見ただけでも判るくらいに曲がっていた。
周りでは兵士たちがうめき声を上げていて、五人ほど無事だった兵士たちが立ち上がり、アリッサを守るように巨人の前に立ち塞がった。
「い、いやだ......嫌だ! みんな逃げて!」
アリッサの声をかき消すような轟音を上げて、巨人が唸り声を上げて背中に背負っていた長大な槍を手に掴んだ。 | “... What happened, with that face?” (Imeraria)
A soldier announced the arrival of Sabnak who entered from outside, but Imeraria understood the reason for the soldier looking strangely baffled after seeing Sabnak who came in. Both his cheeks are swelling in bright red.
If they were in the middle of receiving an attack, she might have misunderstood this as sign that they permitted an enemy invasion.
“Nyo, thiw is...” (Sabnak)
“He was scolded by Origa.” (Hifumi)
“The cause of his misfortune lies with his own mouth.” (Alyssa)
Alyssa and Hifumi showed their faces from behind Sabnak who faltered to talk about it.
“Was she able to get here?”
Origa is together with the troops so that she can take a rest together with the soldiers.
“You were quite fast.” (Imeraria)
Urging them to a simple table set which was prepared inside the tent, Imeraria orders the maid to brew some black tea.
“To begin with we were heading to the capital with the intention of bringing you a souvenir, Imeraria. But, we heard the story about soldiers of Fokalore having been done in from Biron’s messenger.” (Hifumi)
“It’s alright to go see the souvenir later since it arrived in the capital”, Hifumi smiles, but there’s something that worries Imeraria more than what the souvenir is about.
“... Do you intend to take revenge against Horant?” (Imeraria)
Without wiping away the sweat which is streaming down her cheeks, Imeraria watches Hifumi making sure to look up at him with upturned eyes.
Alyssa waits silently for Hifumi who accepts her gaze with a smile as Imeraria is seriously waiting for a reply.
“Ah, ouwch, t-therz’s a wuund in my mouwh... ah.” (Sabnak)
Tasting the black tea which was poured in, Sabnak, who muttered that with teary eyes, realized that the looks of everyone are focussed on him.magic
“Haa... Sabnak-san, since you have to communicate later on, please go now to receive medical treatment.” (Imeraria)
Seeing off Sabnak who leaves in low spirits, Hifumi grins broadly.
“As usual he is an amusing guy. That man will probably be manipulated by women for the rest of his life.” (Hifumi)
“Which reminds me, even his elder sister who was married to Earl Biron... no, for now such talk is sufficient. Hifumi-sama, after I go to check the situation for a bit now, I plan to advance negotiations with Nelgal-dono once we have recovered the occupied ground up to the national border.” (Imeraria)
“Don’t become a hindrance, is what you want to say?” (Hifumi)
Having a daunting gaze turned at her, Imeraria just doesn’t avert her gaze although she ended up unintentionally making a sound with her throat.
“... It’s as you say. This place is a battlefield under my command.” (Imeraria)
“Fufu... ahahaha!” (Hifumi)
Hifumi, who burst into laughter unable to stand it any longer, tapped the head of Alyssa who is sitting next to him.
“Alyssa, Her Majesty the Queen has made a statement like this. But, what will you do?” (Alyssa)
“Mmmmmh...” (Alyssa)
Although she looks like she is troubled by that while folding her arms, the low height of Alyssa and the pieces of baked sweets clinging to her mouth cause the feeling of tension to be zero.
“What’s this about?” (Imeraria)
“Ah, I entrusted this time’s case to Alyssa. I’m acting as, let’s see, guardian. I will simply watch from behind. As planned, that is.” (Hifumi)
“Then...” (Imeraria)
“I decided!” (Alyssa)
At the moment Imeraria started to say something, Alyssa raised her voice.
“Princess-sama. Let’s compete.” (Alyssa)
“C-Compete? And, I’m not a princess-sama...” (Imeraria)
“For starters it will be about who will be able to retake the border first! So, how about it?” (Alyssa)
Due to Alyssa selfishly advancing the conversation, Imeraria asked for help from Hifumi with her eyes, but he grinned broadly.
“I told you that I won’t get involved, right? Discuss it among each other.” (Hifumi)
“Gu... Alyssa-san! Listen to my part of the story!” (Imeraria)
With Alyssa tilting her head to the side, Imeraria applies pressure into her gaze to her best ability.
“There’s no way that we will be able to have something like a competition.” (Imeraria)
“Eh? Then we will just do it with the two of us.” (Alyssa)
“I can’t allow that.” (Imeraria)
Although Imeraria declared it without hesitation, Alyssa looks like she’s unable to comprehend.
“...? Since we will just do it with the two of us, we won’t receive any particular help or such?” (Alyssa)
“Hifumi-sama, please ((do something about this)) one way or the other.” (Imeraria)
As Alyssa didn’t understand coercion or dignity, Imeraria requested help from Hifumi after becoming more and more teary eyed.
“I don’t care.” (Hifumi)
“I will depart tomorrow morning before the sun rises. If it’s now, I might be able to still save Ma Calme’s unit. Princess-sama, as that’s my revenge, don’t stop me.” (Alyssa)
“Revenge... Hifumi-sama, you are...” (Imeraria)
Hifumi proudly snorted at Imeraria who is shocked.
“She has grown up properly, right?” (Hifumi)
“How to call it...?” (Imeraria)
Imeraria, who curbed her brows, ponders about the best move even while groaning.
It’s probably difficult to stop Fokalore’s feudal army led by Alyssa. Even while he says that he won’t get involved, it’s clear that the one essentially pushing her is Hifumi. It doesn’t look like I will be able to prevent it physically or logically.
Then, what shall I do about it?
There’s also the option of advancing the ceasefire negotiations in the style of getting on with Alyssa raising some military gains after leaving.
, Imeraria looked at Hifumi’s face with half-open eyes.
“... Got it. Then, Alyssa, I will join the retake of the border by leading my soldiers tomorrow early in the morning.” (Imeraria)
“Huh? Princess-sama as well?” (Alyssa)
“It’s queen-sama!” (Imeraria)
While being embarrassed by the matter of having raised her voice against her better judgement, Imeraria clears her throat with a “ahem” and stands up.
Imeraria took a hard and long look at Alyssa’s face while making sure to not put Hifumi, who is rolling about in laughter after seeing that, in her field of vision as much as possible.
It’s a face that’s more childish and naive than mine. Until now she has acted together with Hifumi. I can’t even imagine just how many people she murdered, but it’s likely not one or two
“Let’s not have a competition but a cooperation. That way even the rescue might go smoothly.” (Imeraria)
“That’s true. Thank you.” (Alyssa)
Imeraria wanted to ask that, but expecting that Hifumi’s name will appear there without fail, she decided to drop the matter.
“Then, let’s talk about the concrete method. Someone, please call Earl Biron and Sabnak-san.” (Imeraria)
Thus the meeting, where Imeraria and Alyssa played a central part, regarding “the method to retake the border without relying on Hifumi” continued until very late.
☺☻☺
“In other words, with the power of just the demons it might be very difficult to defeat that Hifumi-san, is what I wanted to say. You demons are quite strong at magic. Even your physical strength is excelling to the level of beastmen.”
“However”, the shinigami continues while smiling.
“Your numbers are low. And you aren’t acquainted with the world. The world has changed since you have been locked up. Even those, who have returned from outside, didn’t possess anything but limited information. So, you want to wage war by making all of the many races into your enemies?”
If you consider how he suddenly appeared in front of Vepar, who was absorbed in thoughts by herself in the deserted audience hall, the shinigami continued to talk endlessly after giving a hurried greeting. Vepar, who listened to his talk while sitting on the throne, had her eyes closed.
Without minding the state of Vepar, words continue to overflow from within the shinigami‘s mouth.
“Therefore, you can’t just crush the wasteland’s powers but you have to absorb them. If it turns into a large power, Hifumi-san won’t be able to ignore it either. He will be unable to simply crush the demons and beastmen. However, you should absorb the beastmen and elves in the shape of ruling them. If you ended up associating with them on equal terms, you wouldn’t be able to create strategies like sacrificing some of your power. Since that Hifumi-san will be your opponent, it will likely be necessary to make some of the races into sacrificial pawns.”
In the explanation up to this point, the shinigami has avoided talking about being hostile towards Reni of Swordland. He thought it to be fine for both sides to clash with each other in a state of being equally prepared as it will become a muddy battle then.
“... You gave me a long explanation, but in the end you are telling us to conquer the wastelands, aren’t you?” (Vepar)
Listening to Vepar’s remark which is mixed with sighs, the shinigami happily nods with an “Uh huh.”
“It’s a big help for the talking to be quick.”
“I know about the threat of the man called Hifumi. I remember him well after seeing him in front of myself. However, is it even necessary for us to stand in front of him going as far as especially resolving ourselves for sacrifices? Obtaining the wastelands is a pre-scripted route. If we don’t do that, it will likely be impossible to dispel the demons’ depression. The investigations and preparations for that have already begun.” (Vepar)
“Therefore”, Vepar fixes her crossed legs and glares at the shinigami.
“I can’t hear anything from you but telling us to merely plunge into danger. While it may be true that we will obtain the wastelands, I don’t feel any necessity to confront the humans. I would think ((it to be different)) if the humans were a lot weaker and less. However, the other side has an outrageous ace. And even without that, our side has far too few numbers against their superiority in numbers, right?” (Vepar)
“The humans are fighting amongst fellow countries?”
“It’s also possible that they will set up a collaboration at the time when a common enemy appears. Rather, they will jump the queue at that time to just fight with us. The words of opposing another race as “mankind” will probably raise their morale quite a bit.” (Vepar)
There’s the threat of numbers and moreover there’s little information as us demons were locked in for a long time
“The one-eared rabbit child I met some time ago understands the world far better than us. She knows of elves and humans even while being a beastman. She probably understood more or less about the demons in the recent events as well. In contrast to that, many of the demons, including me, don’t know about other races. There are legends based on the hate towards the elves. Beastmen are seen as low ranked ((existences)). As for humans, even I don’t have seen more than one.” (Vepar)
“If I’m honest, I’m scared”, Vepar says.
“Then you don’t have any intention to take an aggressive stance towards humans, you say?”
Vepar broadly grinned at the shinigami who shook his head in an exaggerated manner while looking really disappointed.
“No, once all the conditions are met, I will do as you say.” (Vepar)
“Conditions... you say?”
“If you call yourself my god, you have according power for that, right?” (Vepar)
The shinigami opened one of his eyes widely due to Vepar’s question.
“Well, I’m pretty much well versed in dark magic. I’m a god who holds power related to death.”
“Strictly speaking, I’m not a god of this world”, he spills so that it can’t be heard.
“There are two conditions. Intelligence about the powers who are hostile towards us. And...” (Vepar)
Vepar’s slender index finger pointed at the shinigami.
“Lend your power to me. If you ask for something, you have to hand over something. That’s called a deal.” (Vepar)
The shinigami was taken aback for an instant. His mouth flapped open and closed, but once he arranged his hair and cleared his throat, he bowed courteously.
“Let me offer it to you with pleasure.”
Without waiting for sunrise, the two armies approach the border.
Fokalore’s feudal army led by Alyssa left a reserve unit of soldiers behind. Orsongrande’s royal army led by Imeraria and Sabnak did the same.
“There’s no strategy-like strategy. They will do a concentrated attack with spear throwers from long distance. After that they will retake the border by charging... is it? I’m describing it like that, but it’s nothing sophisticated or anything like that.” (Origa)
“Well, even if they decide upon finer details with mixed military forces, they won’t be able to control those, right? Around this much is suitable and just right.” (Hifumi)
Hifumi and Origa follow on their respective horses behind the two advancing armies. Hifumi is completely a curious onlooker. Origa follows because Hifumi is going.
“... It’s soon, isn’t it?” (Origa)
The armies’ advance slowed down and the the border became visible in the distance.
The leading group has already begun to set up the spear throwers. As expected of Fokalore’s feudal army, they are quite dexterous.
“Well, then let’s have them show us this country’s battle.” (Hifumi)
“Ah, I put black tea into a canteen. I brought along Caim-san’s baked sweets as well.” (Origa)
Receiving the black tea which was still steaming after it was poured into a wooden cup, Hifumi tossed the baked sweets into his mouth. Once he brushes away the crumbles, which fell into the horse’s mane, with his hand, the horse shakes its head seeming to be ticklish.
“Oh, it started.” (Hifumi)
The soldiers, which spread out at the front-line at the moment he had black tea in his mouth, began the firing after matching it with the voices of Imeraria and Alyssa.
And, at the same time, Alyssa, leading around cavalry units, approaches the flank of the border while taking a large detour.
Horant’s soldiers, which became restless due to the sudden attack, aren’t able to cope with it at all. They were mowed down nicely by Alyssa’s group which swooped down on the side where the spear rain calmed down.
It looked like Imeraria attempted to do a similar attack as well, but being frantically stopped by Sabnak as expected, Hifumi saw her observing from the rear.
“It has gone smoothly up to this point. Well, it will be boring if it finishes with Horant being crushed like that, but... hmm?” (Hifumi)
The mouth of Hifumi, who discovered something in the far distance, curves like a crescent moon.
While watching Hifumi’s happy face, Origa secretly drank her own black tea in the cup returned by him.
“... They are surprisingly brittle. Once more... Ah, that’s...”
While breaking through without further ado after heading towards the enemy line, Alyssa, who lowered her body and got rid of five soldiers of Horant by tearing the enemy’s neck skilfully with her wakizashi, faced about towards the enemy line, which has taken some distance, and confirmed that there were no casualties among her allies.
By the way, since the other soldiers are unable to act this skilfully, they are breaking through the enemy lines while wielding long swords.
Discovering that something was lowered from the rooftop of the border fortress while being suspended, Alyssa affirmed that the enemy was still in chaos and gazed steadily at the rooftop.
“Such a...” (Alyssa)
What was shown to be hanging completely like some flag by Horant’s side are the corpses of ten people which had a rope around their necks.
Without a single one of them being in a flawless state, they lacked some of their limbs and some among them had their heads smashed in. However, Alyssa didn’t care about such a thing at all.
“Ma Calme-san...”
“Holy shit, what have they done!”
Even the soldiers of Fokalore, who are around the speechless Alyssa, are revealing their anger by baring their teeth while looking up to the corpses.
“A-Anyway, somehow...”
It was the moment when the confused Alyssa returned her sight to the enemy line.
What was there once Alyssa, who wondered whether some cloud appeared after manifesting alongside an earth tremor, raised her eyes was a giant which might be five meters in height.
Together with the soldiers around her, Alyssa was knocked off the horse visibly being flicked off by the swing of the giant’s arm.
Alyssa, who rolls over while raising a cloud of dust, stood up and quickly fixed her stance.
“Huh?” (Alyssa)
However, with her body not listening to her, she falls on her backside.
Her body is alright in the simple armour, but her right foot was bent to an extent that makes it easy to grasp that it’s completely broken just by looking.
The soldiers in the surroundings raised groans. Five soldiers, who were fine, got up and stood in front of the giant to protect Alyssa.
“N-No... no! Everyone, run away!” (Alyssa)
Raising a roaring sound that seems to drown out Alyssa’s voice, the giant grabbed the very long spear, which he carried on his back, with his hand. |
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} | 「平和が怖い」
「何を言っているんですか、あなた」
サブナクのデスクに紅茶を置きながら、シビュラは呆れた声で言う。
んが王都を離れて何日経ったかな。聞けば荒野に入ったそうじゃないか。この国にあの人が居ないと思うと、トラブルの心配が無いのはいいけれど、国外で何をやっているかと考えると不安になる」
紅茶に口をつけながら遠い目をするサブナク。
「そんな事より、書類が溜まっていますよ。早く目を通してしまってください。ヴァイヤーさんが新婚旅行から帰って来る前に片付けないと、隊長交代になりますよ?」
「......どうしてぼくより先にヴァイヤーが休みを取れるのかな」
「あなたが求婚するのが遅かったからです」
バッサリと切って捨てられたサブナクは、渋々書類に視線を落とした。
シビュラを相手に口で勝てた試しがないのだ。
「それに、いい加減親衛騎士隊長としての自覚を持ってください。騎士食堂で食事をしたり、街の飲み屋に出かけるのは控えてください」
「ま、待ってくれ! 仲間たちとの触れ合いや、市井の人々との交流は重要な役割で......」
「あなたが他の貴族たちとの交流をきちんとこなしてくれるなら、こんな事言いたくありませんけどね。せめて5日に1度くらいはパーティーなりお茶会なりに参加してください。このままだと、私たちの子供が貴族社会に入りづらくなります」
でもなあ、と渋るサブナクを、シビュラがキッと睨みつけた。
「あなたは多分、トオノ伯のように自由を気取りたいんでしょうけれど、そうしたいなら周りに有無を言わせない程の実力と実績を見せてください」
目の前に書類を積み上げ、サブナクは悲鳴をあげた。
「余裕ぶって紅茶を飲んでらっしゃいますけれど、この書類は午前中に片付けないと、午後からは女王陛下のお供をされる予定でしょう? あなたのサインはあなたにしかできないんですから、夢を見てないでさっさとやってください」
「はぁ......わかりました」
溜息をついてサラサラと書類にペンを走らせながら、サブナクはまたの事に思考が逸れた。
(荒野でもソードランテでも、あの人が怪我をする事はないだろうし、あの人に絡んで命を落とすのも、まあ自業自得といえばそれまでだ)
処理済みのトレーに書類を放り込み、次の書類を掴む。
(問題は、あの人に“付いて行く”事を選ぶ人が出た場合だよなぁ。ぼくやミダスさんみたいにそれなりに距離を置いていても巻き込まれてエライ目にあったんだ。もし彼のすぐ近くで共に戦うなんて選択をしたら......)
サブナクの脳裏にオリガの顔が浮かぶ。
あんな子が増えたら大変だ、と身震いして、書類にサインを書き付けた。
☺☻☺
ソードランテの金貨を手に入れた一二三は、道々で出ている屋台で適当に買い食いしながら道を歩いていた。
レニやヘレンにも本人たちが気になる食べ物を適当に買い与え、三人並んで肉や魚の串焼き、パンや切り売りの果物を食べつつ宿を目指す。
「人間って、食べ物を色々といじくるのが好きなのね」
串に刺さった肉から上がる湯気を見ながら、ヘレンが関心したような呆れたような声を出した。
「すごいよね。こんなのどうやって作るんだろう。ふわふわで美味しい!」
蒸しパンを大事に少しずつちぎって食べているレニは、ちぎる時の感触が楽しいらしい。
「美味い食い物は元気が出るしな。それに人間は飽きっぽいんだ。同じ物ばかりを食べ続けるのに耐えられない」
「確かに、こんな色々な美味しいものがあったら、ずっと果物だけとかは嫌になるかも」
ヘレンは串焼きの肉を噛み締めて、じわりと広がる肉汁に思わず顔をほころばせる。
レニは蒸しパンの最後の一口を名残惜しそうに見つめてから、えいっと口に入れていた。
「ここだな」
辿り着いた建物は、4階建ての立派な建物で、出入り口は両開きの頑丈なドアが付いている。
白い壁は綺麗に洗っているらしく、古さは見えるが外観から清潔感があった。
大きな建物を呆然と見上げる獣人娘たちを気にもせず、一二三はさっさと扉を開いて中に踏み込んで行った。
「いらっしゃいませ」
痩せた男が白いシャツとスラックスという姿で一二三に頭を下げた。
きっちり測ったように45度。顔を上げてスマイルを見せる。
「ご宿泊ですか?」
「ああ、三人だ。一人部屋と二人部屋を一つずつ」
「かしこまりました。こちらへ記帳を......」
一二三に遅れて宿に入って来た二人の獣人を見て、男の言葉が止まり、スマイルが凍った。
「あの......そちらの獣人はどちらへ......」
「あっちは二人部屋。俺が一人部屋だ」
「そ、そうではなくてですね、獣人を宿に泊まらせるというのはあまり聞いたことがありませんので......」
ふーん、とつまらなそうに一二三が男を見た。
「街にも獣人の奴隷を連れている奴が居たが、アイツ等が宿を使うときはどうするんだ?」
「通常は、裏の馬小屋か倉庫にでも入れておくように言われますので......」
一二三が振り向くと、レニは倉庫の意味がわからないらしく、ヘレンは馬と一緒なんて、と頬をふくらませていた。
「わかった」
一二三の言葉に、ホッと息をついた男は、にこやかな笑みを取り戻して一二三にペンを差し出そうとしたが、その前に一二三がカウンターに金貨を積み上げた。
「この宿で一番高い部屋にあいつらを入れろ。俺はその隣だ」
笑顔のまま痙攣したように口の端をピクピクと動かす男からペンを取った一二三は、宿帳にしっかりと“オーソングランデ伯爵”と肩書きまで書いてペンを返した。
「どうした、さっさと部屋に案内しろよ。高級宿なんだろう?」
男は一二三が書いた伯爵という言葉に一瞬だけ目を見開いて、観念したように肩を落としてか細い声で「こちらへどうぞ」と部屋へと案内した。
「食事は一番高いコースを食堂で摂るぞ。もちろん三人分だ」
と一二三に付け加えられ、男は泣きそうな顔を見せ、一二三はニヤリと笑った。
サルグは正面の門からではなく、ぐるりと回った場所の塀に近づいていた。
しばらく塀の周囲を調べていると、一部崩れた箇所を見つけた。以前にサルグが偶然見つけた破損箇所だ。高い草に覆われて見えにくいせいか、サルグがくぐれる程の穴があいているが、長い間放置されている。
ひとしきり辺りを見回して誰も見ていないのを確認してから、サルグは大きな身体を精一杯縮めて穴をくぐる。
分厚い壁の中を進み、土と石にまみれて顔を出した場所は、朽ちた家が並ぶ、放置されたような地区だった。
穴を抜け、油断なく周囲を見回しながら崩れかけた家の影に隠れる。
「ここは一体......」
穴を抜けたのは初めてで、もちろん人間の街に入るのも初めてだったサルグは、土地勘が全くない。そっと耳をそばだてて、人の話し声がうっすら聞こえる方へと近づいて行く。
できるだけ音を立てないように歩き、声の主を見るために、物陰からこっそり覗き込む。
そこには、羊や犬など種族がバラバラな獣人の集団が輪になって会話しているのが見えた。
「これはひどいな......」
暗い顔を付き合わせて、他愛もない会話をポツポツと続けている獣人たちの中で、怪我をしていない者は一人もいなかった。
腕や足が無い者、片目が無い者、背骨がいびつに曲がってしまった者などが、汚れ切った布を身体に巻きつけて座っている。
その中に人間がいないことを確認したサルグは、意を決して彼らの前に姿を見せた。
「少し、話を聞きたいんだが」
「うん? なんだ、見かけない顔だな......」
「荒野から来たんだ。向こうの壁に穴があいていて、そこから入った」
サルグが指差した方向を見て、返事をした犬獣人が鼻で笑う。
「はん、あの崩れた場所から、わざわざ入ってきたのか。ご苦労なこった」
「熊の兄さん、こんなスラムの掃き溜めに何の用だい?」
羊の老婆が顔をクシャりと歪めて笑う。
「いや......。なぜ、あそこに出られる穴があるのに君たちはここに残っているんだ? 荒野へ戻ることができるのに」
サルグが問うと、スラムの獣人たちは顔を見合わせ、どっと笑い声が上がった。
「お前みたいな能天気な奴ばっかりだったら、スラムももう少し平和だろうな」
「なに?」
犬獣人の言葉にぴくりと耳を動かしたサルグに、怒るなよ、と犬獣人が笑う。
「俺たちの姿を見てみろよ。こんな状態で荒野に出たって狩りもできずに飢え死にするだけだ。逆に他の獣人に嬲られて死ぬのがオチだな」
「街の中にいれば、人間のおこぼれもあるからねぇ。生きていくだけなら、こっちの方が楽なのさ」
ケラケラと笑う羊の老人は、欠けた歯を見せていた。
「なんと......」
捕まっている獣人を助けるつもりでいたサルグは、いきなり突きつけられた想定外の現実に、言葉を失ってしまった。
「大方、人間に捕まった獣人を助けようなんて考えてここに入ったんだろう?」
「なぜ、そう思う?」
「たまにいるんだよ、そういう正義感で突っ走る奴が」
「そうそう、そして人間に歯向かってアッサリ死んじまう。関わりあいになった獣人も巻き込まれて処分されるんだから、迷惑極まりないぜ」
「そういう事だ」
片腕で器用にバランスを取りながら、犬獣人が立ち上がってサルグの前に立った。
頭一つどころか1m以上の身長差があるが、犬獣人の目は完全にサルグを軽く見ている。
「人間相手に暴れるのは勝手だが、他所でやってくれ。はっきり行って、お前みたいのが一番迷惑なんだよ」
サルグは反論できなかった。
「なんで別の部屋なのよ」
「一人じゃないと寝られん。同室にする意味もないだろう」
そう言うと、一二三は獣人娘たちを部屋に放り込み、自分はさっさと隣の部屋に入っていった。ドアが閉まり、鍵のかかる音もした。
「ヘレン、見て見て!」
プリプリと怒っているヘレンを尻目に、レニは柔らかなベッドでゴロゴロ転がっていた。
「気持ちいいねぇ。人間はこんな寝床で寝ているんだね」
レニはふにゃっとした顔をして、枕に顔をうずめている。
それを見ていたヘレンも、我慢できずにベッドに飛び込んだ。
「ほんとだ、柔らかい」
ヘレンとレニは、部屋に入る前に暖かいお湯で身体を洗い、着ているものも一二三が宿の従業員に用意させた真新しいワンピースに変わっていた。
かし、暖かくなった身体で布団に潜り込んだヘレンは、人間の街にいるという緊張がほぐれたのか、ついウトウトし始めた。
「ヘレン、寝ちゃダメだよ。ご飯の時間がすぐだって、一二三さん言ってたよ?」
「う~......」
まさかレニに注意される時が来るとは、と思いながらも、布団の魔力に抗いきれない。
「えいっ!」
「きゃっ!?」
掛け布団をいきなり剥ぎ取られ、ヘレンは思わず膝を抱えて小さくなった。
「ほら、一二三さんの部屋に行こうよ」
「わかったわよ。もう、似合わない真似して、どうしたのよ」
「なんだかワクワクしてきちゃって。人間の食べ物も楽しみだし」
軽い足取りで先に部屋を出て行くレニを見て、ヘレンは肩をすくめた。
生まれた時から一緒だった幼馴染が、こんなに楽しそうにしている姿は初めて見る。荒野の林の中で音に怯えて過ごしている時とは、表情も行動も変わって見えた。
「本当にもう、ここは人間の街だっていうのに......」
そうは言いつつも、ヘレンも自分も状況を楽しんでいる事を自覚しつつあった。
「人間のご飯ね。屋台? のお肉は美味しかったし、お魚も美味しかったなぁ」
お腹から可愛らしい音がして、顔を真っ赤にしたヘレンは、レニを追いかけて行った。
廊下に出ると、既に一二三も出てきていた。
三人揃って食堂へ姿を現すと、従業員が慌てた様子で近づいてきた。
「お部屋に食事をお運びすることもできますので、ゆっくりとおくつろぎいただいて......」
「いや、部屋に食べ物の匂いをつけたくない。ここでいい。色々食ってみたいから、種類を多めに適当に見繕って出してくれ」
一二三は、料理代とは別だと言いつつ金貨を握らせた。
従業員は手の中に光るコインの色を見て驚き、ヘラヘラと笑ってテーブルへと案内した。
「別に、わたしたちは部屋でもいいんだけど......」
「どんなご飯かな? 楽しみだね、ヘレン」
ヘレンの小声の主張は、レニの声でかき消された。
まあいいか、とヘレンは諦め、大人しく食事を待つことにする。
食堂にいる他の客からの奇異の視線が集中するが、昼間に街中でずっと視線を浴びていたレニもヘレンも、然程気にしていない。
一二三は他人の視線を“殺意や敵意が無ければ”元から気にする性格ではない。
「屋台の食い物もいいが、こういうところで食べる物には盛り付けや彩りなんかの見た目も気を使ったりする」
「なんで? 美味しければいいじゃない」
「そういう“余計なこと”を楽しむのも、人間だからだな」
「そうなんだ......」
しきりに首をかしげるヘレンと、感心するレニ。
そこへウェイターが最初の料理を運んできた。
「わぁ......」
皿に盛られて湯気をあげているのは、鳥肉の蒸し料理だった。
一二三がフォークとナイフの使い方を簡単に説明すると、二人はもどかしい手つきで肉をほぐして口へ運ぶ。
「お肉ってこんなに柔らかいのもあるんだ」
「柔らかくなるように料理するんだ。そのまま焼いてもこうなるわけじゃない」
一二三も次々に肉を頬張りながら、適当な説明をする。
和気あいあいと食事をする人間と獣人の様子に、周りの客たちも次第に気にしなくなってきた。
最初は獣人が入って来たことで、匂いやマナーで文句をつけようとしていた客もいたが、湯を使って身奇麗にしている二人が楽しそうに食事をしているのを見て、声をかけづらくなったらしい。
女性客の中には、微笑ましい光景だと感じた者も居て、次々に運ばれてくる料理に目を輝かせている獣人娘たちを笑顔で見ている。
そんな周りの様子に気づいたレニが戸惑った様子を見せると、一二三は食事の手を止めた。
「気づいたか?」
「あ、はい」
「これが人間の愉快なところのひとつだ。対象が同じでも状況で対応が変わる」
一二三はフォークを肉に突き立てた。
「殺す対象と愛でる対象が同じでも、自分自身はちっとも不思議に思わない。複雑なようで単純だな」
「なんだか訳がわからない。何が言いたいの?」
ヘレンが口を尖らせ、耳を振る。
「そういう“人間”を見るのが楽しいと思えるなら、これからお前らと一緒に面白い事をしようかと思ったんだよ」
「面白い事、ですか?」
サラダに入っていたきゅうりのような細長い野菜をコリコリ齧りながら、レニは興味深いと言った。
「ああ、面白いぞ。俺の出身国ではごく一般的な遊びだ」
遊びと聞いて、ヘレンも興味がわいたらしい。
「遊びなの?」
「ああ、楽しい遊びだ。国盗りという名前のな」 | “Peace is scary.” (Sabnak)
“Dear, what are you saying?” (Shibyura)
While placing black tea on Sabnak’s desk, Shibyura says in a fed up voice.
“How many days passed since Hifumi-san left the capital? Doesn’t it seem like he entered the wastelands, as far as I’ve heard? Though it’s great to not have to worry about troubles, if I think about that person not being in this country, I become uneasy wondering what he’s doing outside the country.” (Sabnak)
Sabnak has a distant look while tasting the black tea.
“Rather than such things, gather the documents. Please hurry up and check them. If you don’t finish before Vaiya-san returns from his honeymoon, won’t it result in a change of captain?” (Shibyura)
“... Why is Vaiya able to take a holiday before me, I wonder?” (Sabnak)
“It’s because you were too slow with your marriage proposal, dear.” (Shibyura)
Sabnak, who gave up to dismiss it resolutely, reluctantly cast his sight on the documents.
Him being able to win against Shibyura in an argument has never happened.
“Besides, get a grip and please have self-awareness as Royal Knight Commander. Please abstain from hitting the city’s bars after eating at the knight’s dining hall.” (Shibyura)
“P-Please wait! I have to stay in touch with my comrades and the mingling with the townspeople is an important duty...” (Sabnak)
“If you properly interact with the other nobles, I won’t have to talk about such things though. At least participate a tea party or banquet once every days, please. If it goes on as it is now, it will become difficult for our children to enter the noble’s society.” (Shibyura)
“But, you know”, Sabnak faltered, but Shibyura glared at him sternly.
“Dear, you probably want to experience freedom similar to Earl Tohno, but if you want to do so, please show achievements and a level of ability, which can’t be called ambiguous by your surroundings.” (Shibyura)
Piling up the documents in front of him, Sabnak grumbled.
“Although you are behaving like you have spare-time and are nonchalantly drinking black tea, don’t you have to straighten up these documents throughout the morning since it is scheduled for you to act as Her Majesty’s, the Queen’s, attendant in the afternoon? Please get it done quickly without dreaming around because no one but you is able to put your signature on them.” (Shibyura)
“Haa... understood.” (Sabnak)
Sighing while running his pen across the documents in a fluent motion, Sabnak thoughts got lost in Hifumi’s situation once again.
(Be it the wastelands or even Swordland, that person likely won’t receive an injury. Even picking a fight with that person and losing one’s life due to that can be simply called reaping what you sow. That’s all there is to it.)
Tossing a document into the “Processed” tray, he grabs the next document.
(The problem is the case, where people, who choose to “accompany” that person, appear. If their situation resembled Midas-san and me, they would have a hard time by getting dragged into things, even if they stayed at distance. If they chose something like fighting besides him, then...)
Origa’s face surfaces within Sabnak’s mind.
It would be a disaster, if the number of such children increased
☺☻☺
Hifumi, who got his hands on gold coins of Swordland, walked along the road while irresponsibly spending his money on sweets at the stalls lining up along the way.
Buying suitable foodstuff, they took fancy in, as gift for Reni and Helen, the three side-by-side aim towards the inn while eating pieces of fruits, bread and grilled fish and meat skewers.
“Say, humans like to tamper with various kinds of food, right?” (Helen)
While watching the steam rising from the meat stuck on the skewer, Helen spoke as if being astonished and interested.
“It’s amazing, right!? I wonder how they create such things. It’s delicious and fluffy!” (Reni)
Reni, who is eating steamed buns by carefully tearing it off bit by bit, seems to enjoy the sensation at the moment of ripping it off.
“Tasty food will cheer you up. Besides, humans are fickle. They aren’t able to stand eating the same thing all the time.” (Hifumi)
“Certainly, if there were such various, delicious things, I might get fed up with just the same fruit the whole time too.”
Chewing the meat on the skewer thoroughly, Helen’s face reflexively breaks into a broad smile due to the meat juices spreading and seeping in.
After Reni looked as if regretting the last bite of her steamed bun, she was able to toss it into her mouth with a “There you go!”
“It’s this place.” (Hifumi)
The building, they arrived at, is an imposing -storey building with a firm double door as entrance.
The white wall seems to have been washed clean. By its appearance it had a feel of cleanliness although its old age is visible.
Without any intention the beastgirls look up at the large building in blank amazement. Hifumi quickly opened the door and stepped inside.
“Welcome.”
A skinny man in white shirt and slacks bowed towards Hifumi.
It’s a ° bow as if it had accurately been measured. Lifting his face, he shows a smile.
“Are you staying over?”
“Yes, there’s three of us. One single room and a double room.” (Hifumi)
“Certainly! The registry is this way...”
Seeing the two beastmen entering the inn a little after Hifumi, the man stopped his words and his smile froze.
“Say... the beastmen over there belong to...?”
“They get the double room. The single room is for me.” (Hifumi)
“T-That can’t be right, can it? I’ve never heard of beastmen staying at an inn before...”
“Humph”, Hifumi looked at the man disinterestedly.
“As there were fellows leading beastmen slaves around in the city as well, what do they do at the time of using an inn?” (Hifumi)
“Normally the slaves are told to get into the storage or stable in the back...”
Once Hifumi turned around Helen’s cheek was puffed up due to be told something like staying together with the horses and Reni didn’t seem to understand the meaning of storage.
“Understood.” (Hifumi)
The man, who took a breath out of relief due to Hifumi’s words, regained his smile and tried to hand a pen to Hifumi but before he could do that, Hifumi stacked up gold coins on the counter.magic
“Give those two the most expensive room of this inn. And the one next door to me.” (Hifumi)
Hifumi, who took the pen from the man, whose mouth twitched as if cramping while keeping up the smile, returned the pen after going as far even properly writing the title “Earl of Orsongrande” in the registry.
“What’s wrong? Hurry up and guide us to our rooms. It’s a high-class inn, right?” (Hifumi)
Opening his eyes widely only for an instant due to the word “Earl” written by Hifumi, the man dropped his shoulders as if he had given up and guided them to their rooms saying 「Please follow me this way」 with a feeble voice.
“As meal we will have the most expensive course in the dining room. Three shares, of course.” (Hifumi)
The man had an expression as if close to crying due to Hifumi adding one thing after the other. Hifumi laughed while smiling broadly.
Not approaching the main gate, Salgu went around in a circle and drew near to a spot of the wall.
Once he checks the surroundings of the wall for a short while, he discovered a partly crumbled part. Salgu found that part previously by coincidence. It may be because it is difficult to spot as it is hidden by tall weeds. Although there’s a hole to the degree that Salgu can pass through it, the place has been neglected for quite some time.
After confirming that no one is visible in the vicinity for some time, Salgu goes through the narrow hole using his utmost effort for his large body.
Advancing through the interior of the thick wall, the place, he turned up, being smeared in soil and stones, was a section, obviously abandoned, with decaying houses lining up.
Escaping from the hole, he conceals himself in the shadow of a collapsed house while warily surveying his surroundings.
“What the hell is this place...?” (Salgu)
Of course Salgu, for whom it also was the first time to enter a human city only after he left the hole, isn’t familiar with the locality at all. Pricking up his ears quietly, he hears faint talking voices of people drifting his way.
Walking while making sure to not make any sounds as much as possible, he secretly peers out from his cover in order to see the voices’ owners.
There he saw a group circle of scattered races like sheep and dogs conversing.
“That is cruel...” (Salgu)
Among the beastmen continuing to hold pieces of silly conversations while facing each other gloomily, there wasn’t a single person having no injuries.
Those without a leg or arm, those with only one eye, those, whose spine ended up crooked and twisted, and similar are sitting in a circle with filthy clothes twined around their bodies.
Salgu, who confirmed that there wasn’t any human among them, resolved himself to appear in front of them.
“There’s a little something I want to talk about.” (Salgu)
“Yea? What is it? It’s a face I don’t know...”
“I came from the wastelands. The other side of the wall has a hole. I entered from there.” (Salgu)
Looking at the direction Salgu points at, the dog beastman, who answered him, laughs scornfully.
“Hah, you expressly entered through that broken place? You went through troubles.”
“Bear-niisan, what kind of business do you have in this garbage dump of a slum?”
The old sheep woman’s face contorts into a twisted smile.
“No... Why are all of you remaining here although there’s a hole from where you can leave over there? You should be able to go back to the wastelands.” (Salgu)
Upon Salgu’s question the beastmen of the slum exchanged glances and suddenly broke into laughter.
“If there only were optimistic guys like you here, the slums would likely be a little more peaceful as well.”
“What?”
Due to Salgu moving his ears with a twitch upon the dog beastman’s statement, the dog beastman laughs and tells him “Don’t get angry”.
“Try looking at our appearances. If we left towards the wasteland in such state, we would only starve due to being unable to even hunt. On the contrary, it will result in us dying while being persecuted by other beastmen.”
“If we stay in the city, there will also be the leftovers of the humans. If it’s only about staying alive, this side is comfortable.”
The aged sheep beastwoman, who laughs with a giggle, showed her chipped teeth.
“What a...” (Salgu)
Salgu, who was here with the plan to rescue the beastmen, who have been caught, ended up lacking the words due to the not-foreseen reality, which was thrust at him all of a sudden.
“Did you possibly enter here planning something like saving the beastmen, who were caught by humans?”
“Why do you think so?” (Salgu)
“Occasionally there are those. Fellows, who dash ahead with such sense of justice.”
“That’s right, and they quickly pass away after a counter-attack by the humans. Since even the beastmen, who have something to do with it, are disposed of for being involved in it, it’s extremely annoying.”
“That’s how it is.”
While skilfully keeping balance with one arm, the dog beastman got up and stood in front of Salgu.
The difference in height, far from being one head, is more than m, but the dog beastman’s eyes are easily capturing all of Salgu.
“It’s your own business if you want to struggle against human opponents, but please do it elsewhere. I will tell you clearly, people like you are the most annoying ones.”
Salgu wasn’t able to object.
“Why are we in a different room?”
“I can’t sleep if I’m not by myself. There’s no meaning in staying in the same room either, I think.” (Hifumi)
Once he said so, Hifumi threw the beastgirls into their room and quickly entered his own room next door. Closing the door, the sound of the lock could be heard as well.
“Helen, look, look!” (Reni)
As Helen, who is getting angry in a huff, took a sidelong glance, Reni was rolling around all over the soft bed.
“That feels great~. Humans are sleeping in such beds.” (Reni)
Reni is stuffing her face in the pillow with a limp expression.
Even Helen, seeing that, leaped onto the bed unable to endure.
“It’s really soft.” (Helen)
Before entering the room, Reni and Helen washed their bodies in a mildly hot bath and changed into the brand new one-pieces, which were prepared by the the inn’s employee and which is the same attire Hifumi is wearing as well.
For the first time they did such things like washing in a hot bath and neatly combing their hair. Helen, who crawled into the futon with a heated-up body, loosened her tension of being in a human city and began to doze off.
“Helen, it’s no good to go sleep. Soon it will be time to eat. Hifumi-san said so, didn’t he?” (Reni)
“Uh~” (Helen)
I never expected that the time for Reni to caution me will come
“Ei!” (Reni)
“Kyaa!?” (Helen)
Abruptly tearing off the bed cover, Helen instinctively shrunk down into a ball holding her knees.
“Hey, let’s go to Hifumi-san’s room.” (Reni)
“I got it. Jeez, what’s with your unusual behaviour?” (Helen)
“I have become somewhat excited. I’m also looking forward to the humans’ food.” (Reni)
Watching Reni, who leaves the room ahead with a nimble stride, Helen shrugged her shoulders.
Although they are childhood friends, who were together from the time they were born, it’s the first time she sees her state being so delightful. She displayed different behaviours and expressions than in the period, they have passed being scared of sounds in the woods of the wastelands.
“Really now, although I’ve even told you that this is a human city...” (Helen)
Even while saying so, Helen was aware that she was enjoying the situation herself as well.
“Human cooking, eh? The stall’s ? meat was delicious. The fish was delicious as well.” (Helen)
Helen, whose faced turned bright red due to the sound coming from her stomach, chased after Reni.
At the time she entered the hallway, Hifumi had already entered it, too.
When the three showed up at the dining room together, an employee approached in a flustered state.
“Since it’s possible to carry the meal to your rooms, you will be able to slowly and comfortably...”
“No, I don’t want the smell of food to stick around in the room. Here’s fine. As I want to eat various things, serve us appropriately large portions of different kinds at your own discretion.” (Hifumi)
Hifumi slipped a gold coin into the employee’s hand while saying that it’s additional to the meal expenses.
The employee, being surprised by seeing a glittering coin within his hands, laughed foolishly and lead them to a table.
“It’s no particular problem for us to eat in the room though...” (Helen)
“I wonder what kind of food it will be? I’m looking forward to it, Helen.” (Reni)
Helen’s whispered opinion was drowned out by Reni’s voice.
“Well, whatever”, Helen gives up and decides to obediently wait for the meal.
Although the looks of the other customers, being at the dining room, gather on them, Helen and Reni, who were showered with gazes all over the town during the day, don’t particularly mind it either.
Hifumi has a character to not care about other people’s looks “if there’s no killing intent and hostility” emanating from them.
“The food from stalls is nice as well, but at such place they also pay attention to the appearance of colouring and arrangement of the things to eat.” (Hifumi)
“Why? Isn’t it fine, if it’s tasty?”
“Humans also enjoy such “pointless things.””
“Is that so...?”
Helen is repeatedly puzzled and Reni feels admiration.
Then the waiter came carrying the first dish.
“Waah...”
Steam is rising from the served dish. It was steamed chicken meat.
Once Hifumi briefly explains the way to use fork and knife, the two, feeling irritated, break the meat into small pieces with their hands and stuff it into their mouths.
“There’s is such tender meat as well.”
“It’s the cooking which makes it tender. There’s no way it will become like this, even if you roast it as it is.” (Hifumi)
While Hifumi also fills his mouth with one piece of meat after the other, he gives a proper explanation.
Due to the appearance of a human and beastmen peacefully eating their meal, the surrounding customers also gradually lost interest.
There was even a customer, who wanted to complain about manner and smell at the time when they came entering in the beginning, but seeing the two, who have a neat appearance having taken a bath, eating the food with delight, it apparently became difficult for them to raise their voice.
There are even some among the female customers, who feel that it is a pleasant scene. They are watching the smiling faces of the beastgirls, who are able to eat the dishes, which are brought one after the other, with sparkling eyes.
Once Reni, who noticed the state of such surrounding, showed a bewildered look, Hifumi stopped his hands.
“Did you realize?” (Hifumi)
“Ah, yes.” (Reni)
“This is the sole pleasant aspect of humans. Their treatment will change with the circumstances, even if the target is the same.” (Hifumi)
Hifumi stabbed the meat with his fork.
“Even killing targets and targets of admiration are the same. I, myself, don’t believe it to be strange at all. It’s a simplicity that appears to be complicated.” (Hifumi)
“That’s somehow incomprehensible. What do you want to say?” (Helen)
Helen pouts and shakes her ears.
“If you consider it fun to watch such “humans”, I wonder whether you want to do interesting stuff together with me from now on.” (Hifumi)
“Interesting stuff?” (Reni)
While biting in a crisp, long and narrow vegetable, similar to cucumber, which was put into the salad, Reni showed great curiosity.
“Yea, it will be interesting. In the country, I come from, it’s a very popular game.” (Hifumi)
Hearing of a game, Helen apparently got curious as well.
“The game is?” (Helen)
“Ah, it’s an enjoyable game. It’s name is Take the nation.” (Hifumi) |
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} | 「オリガさん、結局あの人と結婚したんだ......」
カウンターに肘をついて、オーソングランデ王都のギルド職員であるヘラはむふーっと鼻から息を吹いた。
歳を過ぎつつある彼女は、自分の目の前で冒険者を惨殺した青年と、いつの間にか奴隷になったかと思ったら、伯爵となった青年と結婚したオリガの事を思い出していた。
「カーシャさんも......」
いつも二人で魔物退治をしていて、奴隷になってからも同じ主人に仕えていた二人。よく知っているコンビが片割れと死別したというのはどんな気持ちだろう、とヘラは赤い髪を指先でくるくると触りながら考えて居た。
ヘラが聞いた話では、カーシャはヴィシーとの戦闘中に命を落としたという。充分に強いと思っていた彼女も、戦争という狂乱の中に飲み込まれてしまったのだろうか。
友として、オリガはどう思っただろうか。
「なんて、考えてもどうしようもないんだけれどね」
冒険者のギルド職員として、判断ミスや不調によって命を落とした者を何人も知っている。死体だけでも戻れば良い方で、魔物に食われてしまったのか、戻ってこないから死んだという判断をされた者も数え切れない程いる。
仲の良かった者やよく知らない者、流れて来て去った者など、ヘラが知る限りでは冒険者として出会い、今は顔を見る事も無い人物は思い出せない数がいる。
「それにしても、今日は暇ね」
王都は人口が多いので、冒険者も多いと思われがちだが、意外とそうでもない。
人が多い分、近郊には魔物が少ないので、中堅の冒険者にとっては存外実入りが少ないエリアでもある。
生活の利便性を確保しておきたい者か、高価な装備や道具を揃えて遠征するベテラン連中、単に都会に憧れて出てきたおのぼりさんが大半なのだ。
魔物の凶暴化について情報は入っているが、王都にまでは然程影響が出ていない。
「あら、暇ならちょうど良かった」
「うえ!? お、オリガさ......様!?」
ついウトウトとしていたところで、声をかけてきたのは先ほどまで脳裏に浮かんでいたうちだった。高級そうな生地を使って丁寧に縫製されたドレスを着ているあたりは、想像よりもずっと貴族らしい身なりだったが。
いたずらっぽい笑みを浮かべて、オリガはヘラに挨拶をする。
「久しぶりですね、ヘラ。変わらないようで安心しました。それに、別に様付けは必要ありません。私自身が貴族というわけではないのだから」
「あ、ありがとうございます」
そう言われても、一般的に貴族に嫁いだ時点で貴族並みの扱いになるのが通例で、愛妾ですらそれなりに礼節を以て扱われる以上は、ヘラとしても友達のように話すわけにはいかなかった。
それがなくても、オリガが王城へと頻繁に訪れ、時には数日間の滞在をしており、女王イメラリアと親しくしているという話は、王都では多くの者が知る話だった。
英雄の妻であり、女王と昵懇であるオリガが、重要人物扱いされないはずがない。実力と権力がバックに付いているのだから。
「そそ、それでオリガ......さんは、何の御用でしょうか?」
まさか、今になって冒険者の真似事をするわけでもないでしょう、とヘラは喉まで出かかった軽口を押しとどめた。
「情報集めですよ。魔物が凶暴化しているのは、貴女も知っているでしょう?」
「ああ、その事ですか」
よいしょ、と傍らに積まれた書類を取って、カウンターに広げる。
それらの羊皮紙には色々な字体で報告が書き込まれている。職員が目を通しておくための資料らしい。
「王都近辺だとあまり聞かないんですよね。遠征した冒険者がたまに見かけたくらいで。おかげでこの辺りではそんなに深刻な話にはなってませんよ」
「そうですか......」
一枚一枚に目を通しながら、オリガは真剣な顔で答えた。
「なにか、気になることでもあるんですか?」
「魔物の凶暴化、誰かが裏で糸を引いているかもしれない、という話があるのです」
「まさかぁ」
ヘラは笑った。
魔物というのは、野生動物と同じで群れは作れど統制とは無縁なものだというのが一般的な認識で、間接的とは言え魔物に深く関わってきたギルド職員でもその認識には変わりがない。
「笑い事ではないかもしれませんよ。例えば、これはどう説明しますか?」
書類の束から抜き出した一枚を、オリガはそっとヘラに差し出した。
「え......」
そこには、“ある冒険者グループが王都からヴィシー方面へ向かう途中、人型で魔物のような何かに襲われ、冒険者二名が死亡し、生き残った者も引退を余儀なくされた”という報告が書かれている。
同じような報告が重なる中で、ヘラが見流してしまっていた書類だった。
「魔人族か、新たなタイプの魔物か。いずれにせよ、冒険者ギルドの仕事は今まで通りの魔物退治だけというわけにはいかなくなるのではないかと思うのですけれど」
変わった情報には留意して、何かあれば城へ連絡をするように、とオリガはヘラを通じて王都のギルド職員に伝えてもらうように要請した。
「......オリガさんは、何か知っているんですか?」
「まだ状況はつかめていませんけれど、大丈夫ですよ」
冷や汗をかいたヘラが問うと、オリガは笑顔を見せた。
「この世界には、勇者様がいるんですから」
☺☻☺
魔人族たちは、魔物との攻防を続けながら、強固な防壁に囲まれたこの町を作り上げ、戦闘技術や各々が持つ魔法や特殊技能を磨きながら、いつかこの小さな世界から飛び出すことを夢見ていた。
そのために、この地で仲間たちとの結束を強め、王政により強固な体制を作り上げた。魔物との戦いは、その先にあるエルフたちへの復讐のための訓練でもある。
本来であれば、人間や獣人族とも敵対していた魔人族だったが、長い期間結界に閉じ込められ、世代が交代するにつれて、接触の機会が極端に少ない人間や獣人に対する敵対心は薄れ、全ての恨みはエルフに向けられるようになった。
結界によって作られた、円筒状の空間は、狩猟や採集による食料の確保には充分な広さであり、多くの魔物が住み着き、さらにそれを捕まえて喰らう魔人族としても生きていくだけならば問題は無かった。
だが、明確な壁の存在は、確かに魔人族たちの心にストレスを与えていたのだった。
「と、いうのが今の魔人族の現状ね」
「なるほど、良くわかった。ありがとう」
道すがら、ウェパルの説明で魔人族の状況がある程度つかめた一、素直にウェパルに礼を言った。
最初の方は、魔人族の窮状をさらけ出されているようで、フェゴールもあまり気分が良くなかったが、一二三が素直に内容を受け止め、魔人族を下に見るような反応をしなかったこともあり、注意するような真似はしなかった。
予備知識として知っていてもらうほうが良いかも知れない、と考えたのだ。
「貴方って不思議ね。凶暴な魔物よりも危ない目をしているかと思ったら、さらりとお礼を言ってくるんだもの。どんな頭の中身をしているのかしら」
「俺はそこらへんの奴と何も変わらん。あまりこっちをジロジロ見るなよ、気色悪い」
「まあ、辛辣ね」
何がおかしいのか、コロコロと笑いながら歩くウェパルに、フェゴールはいい加減にしろ、と注意する。
「城に着いたんだ。お前を慕っている連中もいるのだから、少しは周りの目を意識しろ」
「馬鹿ね。取り繕った外面を慕われても面倒なだけじゃない。自分の良い様に過ごして、それでも慕ってくれるから友人になれるんじゃないの」
「相変わらず、口の減らない......」
辿り着いたのは白亜の城とでも言うべき、あたたかみのある白い石造りの建物だった。
オーソングランデの王城に比べると大分小さく、高さも4階建てくらいではあるものの、姫路城のような清潔感のある印象で、一二三としては魔人族の城というには正反対の印象だな、という感想だった。
「我々はあまり大仰な物や華美なものは好まないのでな。だが、それでもこの城は充分に美しいと思うのだ」
フェゴールは自慢げに話し、ウェパルはあくびをする。
「華美にしようにも、材料も土地も無いだけでしょうに。さあ、行きましょう人間さん」
さりげなく一二三の手を取ろうとしたウェパルだったが、一二三は伸ばされた手をするりと避けて、勝手に城門へと進んでいった。
「話があるならさっさと済ませるぞ。腹が減ってきた」
拳を振って悔しがるウェパルを放置して、フェゴールも城門へと進んだ。
「では、王との話の後で食事をご馳走しよう。城の食堂の料理も、ぜひ味わってもらいたい。さあ、こちらへ」
王の補佐官という職は、やはりかなりの上位者らしい。人間である一二三を連れているにも関わらず、フェゴールの顔を見た門番たちは、何も言わずに両開きの重そうな門を開いた。
城門を抜けると石畳が敷かれた道がまっすぐと伸び、解放された状態になった城の正面入口へと続く。
周囲には巡回中の兵士らしき魔人族たちがおり、フェゴールを見ては立ち止まり、小さく会釈をしている。
「私、城に来たのは久しぶりかも」
追いついてきたウェパルが呟いた。
普段は魔物という外敵への対応のために街の待機所や軍のための施設にいることが多く、普段は特に用事も無いので城には近づかないらしい。
そういった、一二三にとっては割とどうでもいい情報を垂れ流しているウェパルを引き連れたフェゴールは、迷いなく階段を上がり、一つの部屋へと一二三を案内した。
「ここで待っていてもらえるだろうか。王へ話を通してくる」
「わかった。何か食えるもんがあれば尚良い」
フェゴールはクスリと笑い、誰かに軽食を持ってこさせると約束し、部屋を後にした。
「で、なんでお前はここに残るんだ? 仕事しろよ」
「あら、大事なお客様を放っておくわけにいかないでしょう?」
一二三がソファに座ると、すかさずその隣に腰を下ろしたウェパルは、にっこりと笑う。
「そういえば、この部屋にはちょっとした飲み物が用意できるキッチンがあるのよ」
そう言うと、ウェパルは手早く用意したコーヒーのような香りの飲み物を一二三の前に置き、自分の分のカップを両手に抱えるように持って再び隣に座る。
「どうぞ?」
一二三は左手を伸ばして、木製のカップを手にした。ほっこりと上がる湯気を吸い込むと、コーヒーの香りと乾いた薪のような匂いが混じる、不思議な匂いが鼻腔をくすぐる。
「人間はあまり飲んだことがないかしら。このあたりで取れる香りの良い木を乾燥させて、真っ黒になるまで煎ってからお湯を通して作るの。苦手な人もいるけれど、落ち着く香りがするから、私は大好きなの」
ウェパルが語る間に、一二三は一口目を飲んだ。
味はそのままコーヒーだが、香りが違うせいか、大分違う飲み物のように感じる。
「やっぱり、貴方って変わってるわね」
自分も一口飲んだウェパルは、カップを置いて笑った。
「普通なら、もっと警戒して飲み物を出されても口をつけないわよ。それを、何のためらいもなく飲むくせに......」
ウェパルの視線が、一二三と自分との間に向かう。
そこには、一二三の右手がしっかりと寸鉄を握っているのが見えた。鋭利な先端が、明らかにウェパルを狙っている。
「私が妙な動きをしたら、その小さな武器で攻撃するつもりなのね? 全く、信用されているんだか警戒されているんだか、わからなくなっちゃうわ」
「違うな」
「えっ?」
もう一口飲み込んだ一二三は、熱さを逃がすようにふぅっと息を吹いた。
「攻撃するつもりじゃない。殺すつもりだ」
一二三の視線が、しっかりとウェパルの目を捉える。
「食べ物や飲み物に警戒して過ごすなんて、息苦しくてやってられん。悪意があれば大体わかるし、万一見逃して毒にやられたとしたら、それまでだったという事だ」
「じゃあ、これは?」
寸鉄を指差し、ウェパルは首をかしげる。
「もし敵対してくれるなら、きっちり殺してやりたいだろう? 時間をかけて嬲るのは好きじゃない。俺を害しようと思った瞬間に俺に殺されているくらいが、そいつも一番幸せだろう。そのための努力は惜しまない。死ぬことよりも、殺せないことの方が怖い」
そして、もし毒にやられたとしても、一瞬で復讐できれば本望だ、と一二三は語り、カップの残りを呷った。
ウェパルは、自分を抱きしめるように腕を抱え、ソファの背もたれに身体を預けた。そして、子供のように足をばたつかせて愉悦の表情を浮かべる。
「人を殺すのに、自分が敵だと認識できれば躊躇いなんて微塵も無いのね! 自分でいうのもなんだけど、私は自分の容姿が魅力的なのは理解しているつもりだけれど、若い女でも殺せるのかしら?」
「別に関係ない」
その言い方だけで、ウェパルは一二三がすでに若い女をすら殺したことがあるのだと確信した。
「素晴らしいわ、貴方! 是非、貴方が誰かと戦う姿が見てみたいものね」
ウェパルが魔物ではなく“誰か”という表現をしたことに気づいたが、一二三は別に何も言わなかった。
そこで、フェゴールが戻ってきた。
「お待たせした。王が時間を作ってくださったので、来てもらいたいのだが......ウェパル、何をニヤついている?」
「なんでもないわ。それより、彼のお世話は私がするわね。この町に来たのは初めてでしょうから、いろいろと案内させてもらうわ」
「それは、助かるな」
「ええ、任せて!」
ウェパルがやたらと一二三に近づくのが気になったフェゴールだが、一二三の反応が悪くないようなので、そのまま任せる事にした。
そして、フェゴールの先導で更に上階へ進み、一際大きな扉を抜けて、ホールのような部屋に踏み込んだ一二三の目の前に、玉座から立ち上がり、両手を広げた少年の姿があった。
「ようこそ人間! 僕の名はアガチオン。この魔人族の町を治める王だ!」
程の階段をさっさと降りてきたアガチオンは、魔人族特有のグレーの肌をした顔に満面の笑みを浮かべ、ためらいなく一二三の目の前まで歩いてきた。
室内には数名の兵士らしい者たちがいたが、誰ひとりそれを止めようとはしない。
「フェゴールに聞いたよ、まさか結界を抜けて人間がこの町へやってくるなんて! きっとこれは魔人族の歴史に残る重要な出会いだよ! 一先ず歓迎するよ!」
「そんなふうに無警戒でいいのか? 俺はまだ協力するとも言っていないし、敵になるかも知れないんだぞ」
「いいんだ」
表情に僅かに陰りを見せたアガチオンは、視線を落とした。
「君が味方でも敵でもいいんだ。どちらに転んだとしても、それは僕たちが望む“変化”なのだから」
想定外の話に、一二三は口を引き結んでアガチオンを見据えた。 | “Origa-san, you married that man after all...” (Hela)
Putting her elbow on the counter, the Orsongrande’s capital’s guild staff member Hela exhaled from her nose with a puff.
Doing this job for more than years, she remembered about Origa, who became a slave before Hela realized it and the young man, who had slaughtered adventurers in front of her eyes. That Origa married the young man who had now become an Earl.
“Even Kasha-san...” (Hela)
The two who had always hunted monsters together and who even served the same master after becoming slaves.
The story Hela heard was that Kasha lost her life in the battle with Vichy.
What does Origa feel as her friend?
“Whatever, even if I think about it, I can’t help it anyway.” (Hela)
As staff member of the adventurer guild she knows many people who lost their lives due to an error in judgement or being in a slump.
People who were close to her, people who she didn’t know too well and people who leave or come wandering in, as far as Hela knows she has met them as adventurers. There’s also plenty people where she can’t even remember their faces anymore.
“Be that as it may, today I have spare time.” (Hela)
Since the capital has many people, one might consider that there’s many adventurers as well, but unexpectedly that’s not the case.
Given that there’s few monsters in the suburbs where the most people live, those are areas where, against expectations, the main body of the adventurers doesn’t earn much.
The majority of them are country bumpkins who were merely attracted by the big city, veteran fellows who are gathering expensive equipment and tools to go on an expedition and people who want to secure a certain level of convenient life.
The information about the brutalization of the monsters has come in, but that incident hasn’t spread its influence as far as the capital yet.
“Ara, it fits well that you are free right now.” (Origa)
“Ue!? O-Origa-sa... sama!?” (Hela)
The one who came calling out to her who was just about to doze off was the person who had come to her mind a bit earlier. The dress she is wearing and which was carefully sewn by using a high-quality-looking fabric was an attire far more noble-like than one could imagine.
Showing an impish smile, Origa greets Hela.
“It’s been a while. I’m relieved that you don’t seem to have changed. Besides, there’s no necessity to attach -sama to my name. It’s not like I’m a noble.” (Origa)
“T-Thank you.” (Hela)
Even if she says so, generally, if you marry a noble, it’s a custom to treat them the same like a noble. Seeing that even beloved concubines are treated with quite the politeness, it wasn’t like Hela could talk to her like a friend.
And even without that, with Origa regularly visiting the royal palace and occasionally staying there for several days, the story, that she is close to Queen Imeraria, was something many people in the capital knew of.
Being the wife of the hero and being on friendly terms with the queen, she cannot afford to not treat Origa as important person. She has ability and authority at her back after all.
“Ah, right, so Origa... -san, what kind of business do you have with me?” (Hela)
By no means you plan to act like a fake adventurer this late in the game, do you?
“It’s information gathering. You know about the monsters’ transformation towards ferocity, right?” (Origa)
“Ah, so it’s about that?” (Hela)
Grabbing the documents which were piled up nearby with a “Heave-ho!”, she spreads those out on the counter.
Reports of various types are written on the parchments. They seem to be documents for the staff members to look through.
“I haven’t heard of it much in the vicinity of the capital. It’s at a level of adventurers who have gone on an expedition having seen those occasionally. Thanks to that it hasn’t become such a grave matter around this area.” (Hela)
“Is that so...?” (Origa)
Origa replied with a serious face while looking through one after the other document.
“Is there something bothering you?” (Hela)
“Someone might have orchestrated the brutalization of the monsters behind the scenes. There’s such a talk as well.” (Origa)
“No way.” (Hela)
Hela laughed.
The general understanding of monsters is that they form groups in the same way as wild animals and that this behaviour is something unrelated to being controlled. Even guild staff members, who are deeply involved with monsters albeit indirectly, have no differing knowledge.
“It might not be a laughing matter. For example, how do you explain this?” (Origa)
Extracting one paper from the bundle of documents, Origa quietly held it out to Hela.
“Eh...” (Hela)
The following is written on the report: “En route heading towards the direction of Vichy from the capital, a certain adventurer group was attacked by something similar to a human-shaped monster and two adventurers died. The survivors were forced to retire as well.”
It was a document which Hela saw and ended up putting to the pile of similar reports.
“Are those demons or new types of monster? At any rate, I believe that the work of the adventurer guild won’t proceed with the usual monster subjugation.” (Origa)
“Paying attention to peculiar information, contact the castle if something happens”, Origa requested Hela to pass that message on to the capital’s guild staff members.
“... Origa-san, do you know something?” (Hela)
“I haven’t yet grasped the circumstances, but it will be alright.” (Origa)
Once Hela asked while having cold sweat, Origa showed a smile.
“There’s a hero-sama in this world after all.” (Origa)
☺☻☺
While the demons were continuing the offence and defence with the monsters, they constructed this city which was enclosed by a strong wall. As they polished their combat techniques, the magic each of them possesses and their special skills, they dreamed of some day leaving this small world.
For that reason, they emphasized on their unity with their friends in this area and built a stable system of monarchic rule. The battle with the monsters also serves as training for their revenge against the elves who are just beyond the barrier.
Originally the demons were hostile towards humans and beastmen, but being imprisoned in the barrier for a long time and as the generations changed, their hostile spirit towards humans and beastmen faded as there were extremely few opportunities to get in contact with either. All of their resentment was turned onto the elves.
The cylindrical space, which was created by the barrier, is plenty large to ensure food by hunting and gathering. Many monsters settled in here and the demons, catching those and eating them, had no issues if it was only about surviving.
However, the definite existence of a barrier certainly inflicted stress upon the hearts of the demons.
“Saying all that, this is the current situation of the demon race.” (Phegor)
“I see, I understood it properly. Thanks.” (Hifumi)
Along the way, Hifumi, who grasped the demons’ situation to a certain extent due to Phegor’s explanation, thanked Phegor honestly.
At first Phegor didn’t feel overly comfortable with disclosing the distress of the demons, however Hifumi, accepting the details as they were, didn’t react as if looking down on the demons nor did he behave cautiously.
It might be good for him to know about it as background information
“You are a strange one. Just when I wondered whether you have a more dangerous gaze than ferocious monsters, you express your thanks without hesitation. I wonder what’s going on in that head of yours.” (Vepar)
“I ain’t strange in that regard at all. Don’t stare this way too much. It’s sickening.” (Hifumi)
“Wow, how sharp-tongued.” (Vepar)
Due to Vepar walking while laughing with a pleasant, high-pitched tone and asking “What’s weird?”, Phegor reprimands her to cut it out.
“We have reached the castle. Since there are fellows who idolize you, have a bit awareness of the looks in the surroundings.” (Phegor)
“How foolish. Even if they yearn for my smoothed outward appearance, it’s only troublesome. Overdoing it with their own niceties, they are yet unable to become my friends because they yearn for me.” (Vepar)
“As usual, you always have something to say...” (Phegor)
The place they reached could be called a white castle. It was a building made out of warm, solid, white stone.
It’s much smaller if compared to the royal castle of Orsongrande. Although it also has a height of around a -storey building and with it having the impression of being clean like the Himeji Castle, it gives an exactly opposite impression for being called the castle of the demons for Hifumi. Those were his thoughts.
“We don’t like overly exaggerated and gaudy things. However, I believe this castle is adequately beautiful.” (Phegor)
Phegor explains proudly while Vepar yawns.
“Even if we wanted to be pompous, there’s simply not enough materials and space. Well then, let’s go, human-san.” (Phegor)
Vepar tried to nonchalantly take Hifumi’s hand, but smoothly evading the outstretched hand, Hifumi advanced towards the castle gate on his own accord.
“If there’s something to talk, let’s finish it quickly. I’ve become hungry.” (Hifumi)
Neglecting Vepar who was swinging her fist in frustration, Phegor also headed towards the castle gate.
“Then let me treat you to a meal after the talk with the king. I definitely want you to savour the cooking of the castle’s dining hall. Come on, this way.” (Phegor)
In spite of him guiding Hifumi who’s a human, the gatekeepers, who saw Phegor’s face, opened the heavy-looking double-door gate without saying anything.
Once passing through the castle gate, a path, with a stone paving laid out, is stretching out directly ahead. It continues straight to the entrance of the castle which was wide open.magic
There are demons who seem to be soldiers on patrol in the surroundings. Seeing Phegor, they stop and give a small bow.
“It’s been a while since I came to the castle.” (Vepar)
Vepar, who caught up, muttered.
Generally there are many facilities for the army and standby areas in the city for the sake of dealing with the outside invaders, the monsters. It appears that she won’t approach the castle usually as she has no particular business here either.
Phegor, taking along Vepar who is spouting information Hifumi couldn’t care less about, climbed the stairways without hesitation and led Hifumi to a single room.
“Could you wait here? I will come back once I talked with the king.” (Phegor)
“Got it. It will be even better if there’s something to eat.” (Hifumi)
Laughing unintentionally, Phegor promised to have someone bring a light meal and left the room.
“So, why are you remaining here? Go and do your job.” (Hifumi)
“Ara, isn’t it bad to leave our important guest alone?” (Vepar)
Once Hifumi sits down on a sofa, Vepar, who sat down next to him without leaving any space between them, smiles sweetly.
“Which reminds me, there’s a kitchen in this room where simple drinks can be prepared.” (Vepar)
Saying that, Vepar swiftly prepared a drink, which has an aroma similar to coffee, and placed it in front of Hifumi. Holding a cup with her own share in both hands, she once again sits down next to him.
“There you go?” (Vepar)
Extending his left hand, Hifumi took the wooden cup. Once he breathes in the rising, hot steam, he senses a mixture of a coffee aroma and a smell similar to dried firewood. The mysterious scent is tickling his nasal cavities.
“I wonder whether humans don’t drink it much. Drying a tree with a nice aroma which can be harvested around here, it is made by pouring hot water onto it after roasting the wood until it turns pitch black. Although there are people who dislike it, I like it very much since it has a soothing aroma.” (Vepar)
While Vepar is talking, Hifumi drinks a mouthful.
The taste is just like coffee, but because its aroma is different, it feels like a completely different drink.
“You are quite unusual after all.” (Vepar)
Vepar, who has drunk a mouthful as well, put down the cup and laughed.
“Usually one would be more cautious and wouldn’t drink something even if offered. In spite of drinking that without any hesitation...” (Vepar)
Vepar’s sight turns towards between her and Hifumi.
There she saw Hifumi firmly grasping the suntetsu with his right hand. Its sharp, pointed end is obviously aimed at Vepar.
“Do you plan to attack me with this small weapon if I make some odd move? Good grief, I’m not even sure if you are simply cautious of me or if you have faith in me.” (Vepar)
“It’s different.” (Hifumi)
“Eh?” (Vepar)
Hifumi, who gulped down another mouthful, exhaled with a “Fuu~” to let the heat flow out.
“I have no intention to attack you. I plan to kill you.” (Hifumi)
Hifumi’s gaze firmly captures Vepar’s eyes.
“Something like being too cautions of food and drinks is oppressive and I won’t do that. I generally realize if there’s ill will in play. If by some chance I was done in by poison I missed to notice, that would just mean it was my limit up to there.” (Hifumi)
“Then, this is?” (Vepar)
Pointing at the suntetsu, Vepar tilts her head to the side.
“If you are hostile, I want to kill you without fail, I guess? It’s not my hobby to spend time on tormenting someone. Although it’s at a level of you getting killed by me in the instant you consider harming me, that will also be my biggest pleasure. I won’t spare any effort for that cause. I’m more afraid of being unable to kill than dying.” (Hifumi)
“And, even if you did me in with poison, I would be able to savour the satisfaction of getting my revenge in an instant”, Hifumi said and drunk the rest remaining in the cup.
Vepar held her arms as if embracing herself and entrusted her body into the back of the sofa. And, flapping her feet like a child, she displays a joyful expression.
“Though it’s about killing someone else, you haven’t a shred of hesitation if you deem them as your enemy! Although it’s me saying this, I do believe that I understand the charm of my own appearance. Are you able to even kill such a young woman, I wonder?” (Vepar)
“I don’t particularly care.” (Hifumi)
With only those words, Vepar was convinced that Hifumi had already killed a young woman.
“You are wonderful! I want to see your appearance as you are fighting with someone by all means.” (Vepar)
He noticed that Vepar used the word “someone” and not monster, but Hifumi didn’t go out of his way to say anything about that.
At that point Phegor returned.
“Thank you for waiting. Since the king was as gracious to grant us some time, I’d like you to come, but... Vepar, why are you grinning broadly?” (Phegor)
“It’s nothing. Leaving that aside, I will take care of him. Since it’s probably the first time he came to this city, I will show him around various places.” (Vepar)
“That will save me the trouble.” (Phegor)
“Yes, leave it to me!” (Vepar)
Phegor felt uneasy about Vepar recklessly getting close to Hifumi, but since Hifumi’s reaction doesn’t seem to be unfavourable, he decided to leave it to her.
And, advancing to the floor further above by Phegor’s guidance, they entered through a remarkably large door. In front of Hifumi, who stepped into the hall-like room, there was the figure of a boy who spread both hands and stood up from the throne.
“Welcome, human! My name is Agathion. I’m the king ruling this city of the demons.” (Agathion)
Agathion, who swiftly descended the -ary stairs, had a whole-faced smile on his face which had a grey skin tone characteristic for demons. He walked up to in front of Hifumi without any hesitation.
There were several soldier-like people within the room, but none of them tries to stop him.
“I heard from Phegor. I never expected a human to pass through the barrier and to arrive at this city! This will certainly be a momentous meeting which will remain recorded in the history of the demons. For the present I shall welcome you!” (Agathion)
“Is it good to have absolutely no vigilance like that? I still haven’t said that I will cooperate with you. I might become your enemy.” (Hifumi)
“That’s fine.” (Agathion)
Agathion, who showed a slight darkening on his face, lowered his gaze.
“It’s alright for you to be our ally or enemy. No matter which way you choose, it will cause the “change” desired by me.” (Agathion)
Due to the unforeseen development, Hifumi pursed his lips and stared at Agathion. |
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} | 目が無事と言える程度の消耗具合で正気を取り戻したあとは、立て続けにホーラント兵士たちが魔法薬の影響から抜け出していった。
総勢252名。全員が意識を取り戻した時には、騎士隊の面々は疲労困憊だった。
「とりあえず、宿を一件借り切って監視をつけた軟禁状態にしていますが......」
サブナクは、ビロンの館を訪れて報告をしていた。彼も一人目の回復から今まで駆けずり回っていたので、すっかり目にクマができている。
「お疲れ様。さて、彼らの扱いだけど、ここで勝手に奴隷にしたり開放したりすると、彼が怖いからね」
「ぼくが報告に行ってきますよ。なるべく穏便に済ませてくれるといいんですが」
「大丈夫だよ。なにせ、彼らホーラント兵士はトオノ伯にとっては新しい領民候補らしいから」
ひどい真似どころか、厚遇して自領へと送るだろうとビロンは語った。微笑みの視線はどこか遠くを見ている。
「......確かに、さんの領地では、民衆の生活は豊かになっているそうです。領民の人気が高く、細剣の騎士の人気はますます上がっているようですね」
さらに、多くの職員や文官によって、経営的にも安定していると、サブナクは騎士隊に上がって来ていた報告の内容を説明した。
「人口がまた増えるし、さらに他領から移ってくる民も増えるだろうね。合法・非合法に関わらず。貴族としては、ある意味理想だよね、彼は」
「理想......ですか?」
理解できないという顔をするサブナクに、ビロンは思わず吹き出した。
「あっはは! 私も彼のように人を殺してまわりたいってわけじゃないよ。領民を豊かにして財政を潤しつつ、自分の好きなことに没頭できる事が羨ましいって話さ」
どの貴族だって、自分の取り分を増やしたり、苦しい財政を何とかしようと、必死で領地を経営しているのに、一実務のほとんどを部下に丸投げして、領地にすら居着かないくせに、誰よりも民衆にとって魅力ある領地経営をし、尚且つ黒字で運営できている、とビロンは指摘した。
本人の奇癖さえ見なければ、良い領主なのかもしれない。
「まあでも、良い領主かもしれないけれど、良い貴族とは言えないかもね」
「なぜですか?」
「良い貴族なら、まず自国を危機に晒す真似はしないし、自国の王族を殺したりしないよ」
苦笑いで首を振るビロンに、サブナクは自分が一二三に結構な毒され方をしていることを自覚した。
☺☻☺
ホーラント王城、王であるスプランゲルは老いて痩せた身体を玉座にあずけたまま、怒りの表情を隠そうともしない。
「一応、お前の話を聞いておこうか......」
玉座の前、跪くのは王孫ヴェルドレである。
その顔には苦渋が満ち満ちており、歯を食いしばる様はとても王族とは思えぬ荒々しさだった。
「......オーソングランデへ差し向けた工作員は2名は戻らず、魔法薬エルリクにて調整済みの兵500名も、戦死するか敵に囚われました......」
ここまでの話は、すでに王も聞いている内容だった。
「それで、失敗の原因は何か......」
しわがれ声で紡がれた質問は、ヴェルドレに最大限のプレッシャーを与える。
「それは......」
つばを飲み込み、言葉を続ける。
「第二騎士隊を兵力で圧倒し、ヴィシーからの転向者を利用して第一騎士隊を魔法具による傀儡としたまでは順調でした。敵国領まで進行し、ミュンスターの街まで辿りつきましたところで、工作員が倒され、兵が無効化されまして......」
「誰に倒されたのだ?」
「......トオノという、オーソングランデの新興貴族です」
か細い声で絞り出された名前に、王は深い溜息をついた。
「それは、お前が言っていたヴィシーと事を構えていた貴族ではないか? お前は、その男はヴィシーとの戦争にあたっているという話ではなかったか?」
王の質問に、ヴェルドレは答えを返せない。頭の中には見たこともないトオノという貴族への憎悪が渦巻いている。
「要するに、お前は時期を見誤ったということだ......。あの時、ヴィシーとの二正面作戦を避けるためにオーソングランデはこちらへ侵攻する事は無いと言っていたが......どうやら、ヴィシーはすでに敗北したようだから、この予測もどうなるかわからんな。聞くところによると、トオノという男は細剣の騎士と呼ばれ、武功で並ぶものは無いという事だが......」
「まさか! 情報によればトオノという男は少人数でミュンスターに来ており、しかも第一・第二騎士隊は共に壊滅したとの情報も得ております! この上逆侵攻してくる可能性は......」
思わず立ち上がって反論するヴェルドレに、王はまた渋い顔を見せる。
「その少人数の援軍に良いようにやられたのであろう?」
「う......し、しかし兵と言っても民衆からかき集めた者共で、使い捨てにしたところで大して影響は......」
「民衆が無限に湧いて出るものなら、どこの国の為政者も苦労すまい。民が減れば労働力も税収も減る。それが分からぬお前ではあるまい......」
たしなめるような王の言葉に、ヴェルドレは口を噤む。
「王座を譲る話は無期限に延期する。今は時期尚早であろう。今は、防衛の準備をせよ」
下がるように言われ、ヴェルドレは無言で謁見の間から出て行く。
「これで多少は勉強するだろう。何もかもが自分の思い通りにはいかぬということを」
静かな謁見の間に王の独り言が響いたが、侍従も文官も一言も発さなかった。
☺☻☺
「じゃあ、この中でホーラントの魔法具とかに詳しい奴は手を挙げろ」
宿の食堂にも入りきれなかったので、広場に集められた元ホーラント兵たちは、急ごしらえの壇上に上がって、前置きもなく質問をした若い男に困惑していた。
「お前は誰だ? なぜ俺たちはここにいるのか説明しろ!」
「あーそうか。お前らがなぜここにいるかは、面倒だから後で誰かに説明させる。俺は一二三という。一応、オーソングランデの伯爵だ。あと、今から余計な事言ったら殺すから」
さらっと殺害警告をされた事に頭がついていかない兵たちだが、一二三の目は本気だと、何故か誰もが信じた。
一二三と揃って壇上に上がったサブナクが、殺伐とした空気をどうにかしようと笑顔を振りまく。
「あのですね、この方の提案で貴方がたを魔法薬の影響から救う事ができたのですよ。ホーラントは兵士を魔法薬で傀儡状態にして使い潰しているみたいで、戦闘の結果生き残りを保護できたので、この一二三さんが考案した方法で何とか救い出す事ができたわけです」
サブナクの説明に、兵たちは顔を見合わせている。
いまいち信じられないが、現状を説明するには適当な理由だと多くの者が思っているらしい。
ちなみに、サブナクの説明はある程度一二三から強制的に言わされている部分も多く含んでいる。
「そういうわけだから、さっさと質問に答えろ。ホーラントの魔法具や魔法薬について何か知っている奴は手を挙げろ」
ポツポツと数人の手が見えて、その全員が宿の食堂へと入るように言われる。
「残りはコイツに話を聞いてくれ」
用は済んだと一二三も宿の食堂へさっさと行ってしまい、取り残された兵達の前に、今度は少女と言える位の年の女性が壇上へと上がった。
「一二三様の侍従、オリガです。皆様の回復を主共々お喜び申し上げます」
丁寧な挨拶ではあるが、主はあれで喜んでいるのかと、何人もが首をかしげた。
「皆様には三つの選択肢があります。ひとつは自由の身になってどこへなりと行かれること。ひとつは一二三様の領地にて新生活を始めること。ひとつはホーラントへ戻ること」
恐る恐る挙げられた手を見つけたたオリガは、優しく微笑む。
「なにかご質問ですか?」
「あの......俺たちは敵兵という扱いだと思うのですが、開放やまして国に帰ってもよろしいのですか?」
「もちろんです。しかし......」
こほん、と咳払いをしてから、オリガは語る。
「開放をしてもその後の生活については当然、何も保証いたしません。皆さんが身につけていた物には手をつけておりませんが、支度金などをお渡しすることはありません。そして、ホーラントへ戻る選択肢を選ばれた場合は......」
笑顔だった可愛らしい顔から、するりと表情が抜け落ちた。
「ひっ......」
誰かが怯えた声をあげた。
「私たちの敵になりますので、国境を越えてから何日生き延びられるかは保証しません。一二三様の手によって、ホーラントは数日中には無くなりますし、その際には基本的に邪魔する者は皆殺しにいたします。おそらく、皆様が戻られたところで再び薬を盛られて兵として戦場へ戻ってこられるでしょうから、その時にはすぐに死体になりますでしょう」
その覚悟で、帰国したければそうしてください、とオリガは言う。
誰もが息を飲み、隣で聞いていたサブナクも固まっている。
「じゃ、じゃあ一二三......様の領地ではどんな扱いになるのでしょうか。やっぱり、奴隷にされるのですか?」
様をつけ忘れそうになったところで睨みつけられつつ、何とか質問を言い切った若い兵士に、オリガは笑顔を見せた。先ほどの迫力が無ければ、とても魅力的に見えたかもしれない。
「そんな事はありません。ちゃんと住民として登録し、できるだけご希望に沿った職場をご紹介します。しばらくは官営の宿泊施設を使っていただいて構いませんし、ご希望があれば職員や兵士として雇用もいたします」
この発言に、一気にざわつき始めた。
待遇が良すぎる、罠ではないか、と。
しかし、他に選択肢はない。
(まあ、そうなるよね)
サブナクも同情を含んで彼らの様子を見ていたが、どうやら強制的に徴兵された者がほとんどで、家族がいないか、居ても同時に徴兵されたという境遇の者ばかりらしい。
ほとんど人体実験に近い兵の運用だったので、わざとそういう“苦情が出にくい”立場の者を選んだのであろうと、サブナクは思った。
結局、全員がフォカロルへと向かうことになり、しばらくミュンスターに滞在した後、フォカロル領軍が戻る際に同行させるという手はずになった。
「フォカロルの領兵がホーラントから戻らなかったらどうなるのか」
という質問をした者は、身体が硬直する程の圧力でオリガに睨みつけられ、三時間ほど説教に織り交ぜた一二三の素晴らしさと如何に無敵の強さを誇っているかの話を聞かされ、別の形でのマインドコントロールを受ける羽目になった。
それからは、元ホーラント兵たちは皆、オリガには従順になった。
「......わかった。お前たちはもう他の連中と合流していいぞ。今後の説明は誰かに適当に聞いてくれ」
広場でオリガの公開説教が行われている頃、一二三は食堂にてホーラント兵たちから魔法具についての説明を聴き終えていた。
ホーラントの首都アドラメルクでは、城の周辺に魔法研究関連の施設が集中し、優秀な魔法使いが集められている事。彼らは軍務や研究に従事し、その成果は全て王城へと集められる構造になっているらしい。
商品化される物は全て王城からホーラントの商人や一部ヴィシーの商人へと技術が下賜される形で世に出回るため、常に王城が魔法技術の上位を維持する形となっている。
「つまり、他は無視して王都へ向かえばいいわけだ」
面倒がなくていい、と一二三は笑う。
「魔法を使う兵が集まっているというのは面倒かもしれないが、まあなんとかなるだろう。ついでに王を始末して国としては無くしてしまおう。中央の政体が崩れてしまった場合に群雄割拠できるかどうかも見ておきたいからな」
ヴィシーは思ったほど混乱しなかったと、不満げに一人ぼやきながら、一二三は宿の従業員に食事を頼んだ。
ここは一二三が投宿している宿ではないが、中年女性の従業員も一二三が何者で、どういう扱いが必要かを第三騎士隊からキッチリと言い含められていたので、一二三の要望に素早く用意してくれる。
最初に出された根菜がゴロゴロ入ったポトフのような煮込み料理は、この街の名物らしい。
「ふむふむ、ちょっと薄味だけど、野菜の味が濃いなぁ」
にこにこと満足げに野菜をほおばる姿を見て、従業員はこれがそんなに怖い人には見えないと困惑していた。
聞えよがしに語られていた先ほどの話の血なまぐささとは印象が合わない。
探しましたよ、と一二三に声を駆けてきたのは、第二騎士隊所属の騎士だった。ホーラント兵が集団で停止した時、一二三に声をかけた男で、今は第三騎士隊の手伝いをしている。名をヴァイヤーといった。
「ああ、お前か」
「伯爵様の軍が到着いたしました。ただその......軍務長官を名乗っているのが......」
どうやら、アリッサが若すぎて信用していいかどうか迷っているらしい。
「あれはあれで、俺の指導で鍛えているからそこそこ強くはあるんだけどな。まあ見た目はな」
「では......」
「ああ、アリッサには確かに領軍を任せている。そうだな、兵たちは適当に休む場所に案内して、アリッサはここに案内してくれ」
「了解いたしました」
疑問が晴れたヴァイヤーは、爽やかな返答を返した。
「俺の部下でもないのに、使って悪いな」
「お気になさらないでください。おかげさまで、首がつながったのですから。精一杯の恩返しはさせていただきます」
アリッサを呼ぶためにヴァイヤーが出て行く。
一二三はアリッサのために追加の煮込みを注文すると、自分の分も他の料理を追加で頼んだ。
「さて、ようやく準備が整いそうだな」
ホーラント国侵入に向けて、一二三の気持ちは高揚していた。 | Cover of the original from After they regained their consciousness and entered a state of exhaustion where it was possible to tell that they were safe with a single glance, the soldiers from Horant escaped the effect of the magic portion successively.
They numbered . When all of them regained their consciousness, all the knights were totally exhausted.
“For the time being they will be put under house arrest with added monitoring in a reserved inn, but...” (Sabnak)
Sabnak visited Biron’s mansion and gave a report. Since he ran around after the first soldier’s recovery, his eyes are showing thorough dark circles.
“Thanks for your work. As for their treatment, if we liberate them or arbitrarily enslave them here, they will be afraid.” (Biron)
“I’m off to give a report. It would be great if we could finish it as peaceful as possible.” (Sabnak)
“It will be alright. At any rate, they seem to be new candidates to join the fief’s population as far as Earl Tohno is concerned about the soldiers from Horant.” (Biron)
Biron talked about the possibility of sending them to the aforementioned territory, where they, far from being treated terribly, will be welcomed heartily. With a smiling expression he is looking somewhere far away.
“... Certainly, if it’s Hifumi’s territory, it appears that the livelihood of the populace has become abundant. Having a high popularity amongst the fief’s population, the fame of the Knight of the Thin Sword is apparently continuously rising.” (Sabnak)
“Moreover, because of the many staff members and civil officials, things related to the administration are also stable,” Sabnak explained the details of the report that came from the knight order.
“He will increase his population once again. Furthermore, the people coming from other fiefs might increase as well. Regardless of it being legal or illegal. As noble he is ideal in a certain way, isn’t he?” (Biron)
“Ideal... it is?” (Sabnak)
Biron unintentionally burst into laughter due to Sabnak showing a face of not understanding.
“Ahhaha! That doesn’t mean that I want to go around killing people like that either. I’m envious of him being able to immerse himself in something he likes while enriching the public finances and the fief’s population. That’s what I mean.” (Biron)
“After all, any kind of noble, if they somehow struggle with a tight financial budget, would want to increase their own share. Although they are frantically managing their territory, Hifumi practically leaves almost all of the decision-making to his subordinates. And yet, without him even settling down in his territory, his territory’s administration fascinates the people more than that any other fief. On top of that they are operating with their balances in the black”, Biron pointed out.
If one doesn’t only keep an eye on the strange habit of the person himself, one might see him as an excellent feudal lord.
“Well, even if he might be an excellent feudal lord, you can’t really say that he is a good noble.” (Biron)
“Why?” (Sabnak)
“If he were a good noble, first he wouldn’t act in a way of exposing his own country to danger and next he wouldn’t kill royalty of his own country.” (Biron)
As Biron shook his head with a bitter smile, Sabnak became aware that he had been splendidly corrupted by Hifumi.
☺☻☺
In Horant’s royal castle the king, Suprangel, in a state of entrusting his aged, skinny body to the throne, can’t conceal his face burning with anger.
“For the time being, let’s listen to your story... ?” (Suprangel)
Kneeling in front of the throne is the royal grandson, Veldone.
With a face full of mortification and an appearance of clenching his teeth, one wouldn’t consider this gruff man as royalty at all.
“... of the covert operatives sent to Orsongrande haven’t returned. Even the 500 soldiers, having finished the adjustment to the magic potion, Elrik, were killed in action or taken prisoner by the enemy...” (Veldone)
The king had already heard the details of the story up to here.
“So, what’s the cause of the failure... ?” (Suprangel)
The question, spoken with a hoarse voice, puts a maximum pressure on Veldone.
“That is...” (Veldone)
Swallowing his spit, he continues his words.
“The military forces overwhelmed the Second Knight Order. All was fine until they decided to turn the First Knight Order into puppets with magic tools using the convert from Vichy. They advanced to the enemy nation’s territory. Once they finally arrived at the city of Münster, the covert operatives were defeated reducing the soldiers to lifeless dolls...” (Veldone)
“Who defeated them?” (Suprangel)
“... A rising noble of Orsongrande called Tohno.” (Veldone)
The king sighed deeply as Veldone squeezed out the name with a feeble voice.
“Isn’t that the noble you said stirred up trouble with Vichy? Wasn’t it you, who talked about this man going to war against Vichy?” (Suprangel)
Veldone can’t return an answer towards the king’s inquiry. A yet unseen hatred is surging within his heart against this noble called Tohno.
“In short, it appears as if you misread the stage... At that time you said Orsongrande would never invade here for the sake of avoiding military operations on two fronts, including Vichy, but... since Vichy apparently already lost, I don’t know what will happen with you estimation. According to the part I’ve heard, the man called Tohno is referred as Knight of the Thin Sword. Although you can’t call him someone having a line up of military exploits...” (Suprangel)
“Never! According to the information, the man called Tohno has arrived at Münster with a small number of people. Furthermore, I have also obtained the news that the First and Second Knight Order have been destroyed! Besides, the possibility of them coming to invade in reverse is...” (Veldone)
The king once again shows a grim face due to Veldone spontaneously standing up and objecting.
“We have obviously been deceived well by the small reinforcement, don’t you agree?” (Suprangel)
“Uh... B-But, although being called soldiers, they were gathered from within the population. So they won’t have much of an impact even if they were used and then thrown away...” (Veldone)
“If people infinitely gushed forth from the populace, no statesman of any nation would have any hardships either. If the people decrease, the tax yields of their labor will decrease as well. For you to not grasp this...” (Suprangel)
Veldone holds his tongue due to the rebuking words of the king.
“The talk about handing over the throne to you has been postponed indefinitely. It is currently too early for that. Work on preparing the defenses now.” (Suprangel)
Being told to withdraw, Veldone leaves the audience room in silence.
“He will probably learn something from this. That not anything and everything moves as he wants.” (Suprangel)
As the king’s monologue resounded in the quiet audience room, the chamberlains and civil officials didn’t utter even a single word.
☺☻☺
“Well then, those of you, who are informed about the magic tools of Horant, raise your hand.” (Hifumi)
Since they didn’t even fit in the dining hall of the inn, the former soldiers from Horant, gathered in a plaza, were baffled by the young man, standing on a hastily made platform, telling them this order without even introducing himself.
“Who are you? Tell us why we are here!” (Soldier)
“Ah, I see. Someone else will explain to you why you are here afterwards since it’s too troublesome. I’m called Hifumi. More or less I’m a noble of Orsongrande. Also, I will kill you, if you talk about unnecessary things from now on.” (Hifumi)
Although the soldiers couldn’t process the forthright killing warning with their brains, for some reason all of them believed him seeing the seriousness in Hifumi’s eyes.
Sabnak, who had climbed the platform together with Hifumi, one way or another spreads a smile in that bloodthirsty atmosphere.
“Well you know, due to the suggested method of him we were able to free you from the effects of the magic potion. It looks like Horant turned you into puppets with the magic potion, used you and killed many of you. Given that we were able to shelter those surviving the battle, we could save you with a method designed by this Hifumi-san.” (Sabnak)
The soldiers are looking at each others faces due to Sabnak’s explanation.
Although they are not quite believing it, many are apparently thinking that it’s a fitting reason explaining their present state.
By the way, Sabnak’s explanation is containing many parts he has been forced to say to a certain degree by Hifumi.
“That’s how it is. Therefore, hurry up and comply with my order. Those of you, who know something about the magic tools from Horant, raise your hand.” (Hifumi)
Bit by bit several hands can be seen. All of them are told to go into the dining hall of the inn.
“Those of you remaining ask this fellow about the story.” (Hifumi)
Having finished his business, Hifumi ends up quickly heading into the dining hall of the inn. A woman, with an age you would consider to be the one of a girl, went up on the platform in front of the remaining soldiers next.
“I’m Hifumi-sama’s chamberlain, Origa. Let me, together with my master, express our joy for all of you to recover.” (Origa)
It is a polite greeting, but will your master be pleased with that?
“Everyone has three choices. First, becoming a free man allowing you to go wherever you want. Second, starting a new life in the territory of Hifumi-sama. Third, returning to Horant.” (Origa)
Origa, discovering a timidly raised hand, gently smiles.
“Do you have any question?” (Origa)
“Umm... I thought we would be treated as enemies, but is it alright to free us, not to mention even allowing us to return to our country?” (Soldier)
“Of course, it is. However...” (Origa)
After clearing her throat with an ahem, Origa speaks.
“Naturally we won’t guarantee you anything concerning your life afterwards even if you are released. Although we haven’t laid our hands on the things you wore, we won’t give you anything like money to cover the costs of preparations and such. And in the case you picked the choice of returning to Horant, ...” (Origa)
Her lovely smiling facial expression collapsed in an instant.
“Hii...” (Soldier)
Someone raised a frightened shriek.
“Since you will become our enemy, I can’t guarantee how many of you will survive after crossing the border. Horant will disappear within a few days by Hifumi-sama’s hands. During that period people, who are basically a nuisance, will be massacred. Since everyone, who returned there, will likely once again receive the drug and come back to the battlefield, they will immediately be turned into corpses then and there.” (Origa)
“If you have the resolve for that, please go ahead and return home,” Origa says.
Everyone has their breath taken away. Even Sabnak, who listened next to her, is stiffening.
“W-Well, if it’s Hifumi... -sama’s territory, how will we be treated there? Will we be made into slaves after all?” (Soldier)
While being glared at for almost forgetting to attach -sama, the young soldier somehow managed to finish his question. Origa showed a smile. If the previous intensity didn’t exist, they might even have regarded her as very charming.
“Nothing like that will happen. Once you properly registered as citizen, you will be referred to a workplace that fits you as much as possible. It’s no problem for you to use the lodging house of the government administration for a while. If you have the aspiration, we will even hire you as soldiers and staff members.” (Origa)
In one go it began to get noisy due to that proposal.
A far too nice treatment, isn’t it a trap?
However, there is no other choice.
(Well, that’s how it will turn out, right?)
Sabnak looked at their state harboring sympathy, but there were mostly people, who were apparently forcefully enlisted.
Since they mostly made use of close-by soldiers for their human experiments, they probably chose people in a position of “There won’t be any complaints” on purpose
In the end all of them decided to move to Fokalore after staying in Münster for a short while. It was arranged that they would accompany the Fokalore territorial soldiers once they returned.
“What will happen if the territorial soldiers from Fokalore don’t return from Horant?” (Soldier)magic
Someone asked that question. Origa glared at him with a degree of pressure causing the soldier’s body to petrify. For around 3 hours they had to listen to a speech about Hifumi’s magnificence and what unrivaled strength he is boasting of. They got stuck receiving another kind of mind-control.
After that, all of the former soldiers from Horant became submissive towards Origa.
“... Understood. It’s fine for you guys to join the other guys now. Ask someone suitable to tell you the story.” (Hifumi)
At the time Origa’s public preaching took place on the plaza, Hifumi finished listening to the explanation about the magic tools from the soldiers of Horant in the dining hall.
In the capital city of Horant, Adolamelk, the institutions related to magic research are concentrated in the vicinity of the castle. Excellent magicians are gathering there. It seems that it has turned into an organisation of collecting all of their results, in their pursuit in military arts and research, at the royal castle.
As consequence, the commercialized products, after passing a certain time, are published and granted to Horant’s merchants and a part of Vichy’s merchants by the royal castle. It has taken a shape of constantly preserving the superiority of the royal castle in magic technology.
“In other words, it’s best if I ignore the others and head to the capital.” (Hifumi)
“It’s fine, if it isn’t too problematic,” Hifumi laughs.
“There might be difficulties because soldiers, using magic, are gathered there, but, well, I will somehow deal with it, I guess. Let’s have the nation disappear by getting rid of the king while I’m at it. I want to see whether it would develop into a fight between local warlords in case the system of the central government ended up collapsing.” (Hifumi)
While complaining dissatisfied by himself that Vichy didn’t succumb to the degree of chaos he planned, Hifumi ordered a meal from the inn’s employee.
This inn isn’t the one Hifumi is staying at, but since the middle-aged female employee was given detailed and precise instructions about what kind of person Hifumi is and how to deal with him by the Third Knight Order, she quickly lays out Hifumi’s order.
First she served a stew dish similar to pot-au-feu containing root crops all over which apparently is a specialty of this city.
“I see, I see. It’s slightly bland but the taste of the vegetables is deep.” (Hifumi)
Looking at his state of stuffing the vegetables into his mouth with a satisfied and friendly smile, the employee was baffled by this as she couldn’t see him as such a scary person.
Her impression doesn’t match with the bloody story she was told in a way of bad-mouthing him not long ago.
“I looked for you,” it was a knight affiliated with the Third Knight Order whose voice reached Hifumi. It was the man who called out to Hifumi at the time the group of soldiers from Horant came to a standstill. Currently he was helping out at the Third Knight Order. His name was Vaiya.
“Ah, it’s you, eh?” (Hifumi)
“The troops of Earl-sama have arrived. Just, that... the person calling herself military director...” (Vaiya)
Somehow it seems he is hesitating whether he should say that he believes Alyssa to be too young.
“That person, despite appearance, is reasonably powerful since she has been forged under my guidance. Hmm, well I guess her appearance is a bit odd though.” (Hifumi)
“Then...” (Vaiya)
“Ah, I have certainly entrusted Alyssa with the territorial army. That’s right, lead the soldiers to a suitable place where they can rest and bring Alyssa here.” (Hifumi)
“Understood.” (Vaiya)
Having his doubts cleared up, Vaiya returned an invigorated reply.
“Sorry for using you although you aren’t even my subordinate.” (Hifumi)
“Please don’t mind it. Thanks to you my head is still connected to the neck. I will do my utmost to return this favor.” (Vaiya)
Vaiya leaves in order to call Alyssa.
Hifumi ordered another serving of stew for Alyssa and other additional dishes for himself.
“Now then, at last it looks like the preparations have been put in order.” (Hifumi)
With the goal of invading the country of Horant, Hifumi’s mood was uplifted. |
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} | 女が乗った二頭立ての馬車と、その後ろに若い男を乗せの馬がついてくる、変則的な一団が王都の検問所へ近づいてきた。
検問所の兵士たちは、馬車の荷を改めるべく、馬車の後ろに回り込む。
「おい」
後ろの馬に乗った男が声をかけてきた。
騎乗のままで声をかけてきたことにムッとする兵士だが、うっかり貴族のボンボンだったりすると面倒なので、我慢する。
「何か?」
「この書類にもここの確認が必要なんだろう?」
馬上から見せびらかすように広げられた用紙は、検問所では稀にしか見ないが、その重要性は認識している。
「アクアサファイアの流通確認証......」
「馬車の木箱がそれだ。確認してくれ」
「り、了解した」
兵が明けた木箱には、間違いなく木屑の緩衝材に包まれた、見事なカット施されたアクアサファイアが収められていた。これまで彼が見てきたアクアサファイアの中でも、特に高級品だとひと目でわかる。
書類に記載されているサイズや形と相違ないことを確認して、木箱は金具をかけてしっかりと閉じられた。
「確認完了。他の荷物も旅の用意だけだな。念のため聞くが、行き先は?」
筆記用の炭で確認者のサインを入れ、書類を返しながらの質問に、馬上の男はニヤリと笑って新たな書類を取り出して見せた。
「ちょっと隣の国までな。許可はある」
兵が見せられたのは、この国を自由に出入りできる事を示す書類で、イメラリア王女の署名もはっきりと見えた。貴族位を示すメダルも添えている。
「失礼いたしました! どうぞお通りください」
「気にしなくていい。丁寧な仕事だった」
「ありがとうございます!」
兵達が姿勢を正して見送る前を、馬車が進み出し、若い男もあとを追って出て行く。
馬車の姿が見えなくなってから、検問所の男たちは息を吐きだした。
「......あんな貴族様がいたかな?」
「イメラリア様が署名なされた書類で、ヒフミ・トオノとかいう変わった名前だった。ひょっとしたら、あれが噂の“細剣騎士”じゃないか?」
「なるほど、イメラリア様お気に入りという噂の新参者か」
兵士たちが話している“細剣騎士”というのは一指す二つ名で、尊大な態度の馬上の男は確かに一二三だったのだが、二つ名の存在も何故そう呼ばれているかも、本人は知らない。
ギルドのとある女性職員が気まぐれにつけただけなのだが、一二三の狩りのペースと最初の事件のインパクトのせいで、瞬く間に広まった。
二つ名が広がり始める前に、一二三自身が旅の準備に追われてしまってギルドに顔を出さなくなったため、一二三たちの耳に入ることはなかった。
後々一二三がそれを知った時には完全に定着してしまっているのだが、それは余談だ。
「貴族の立ち居振る舞いをやってみたんだが、めんどくさいな」
「その割には、随分堂に入った感じだったけど?」
完全に王都が見えなくなるくらい離れてから、一二三はさっさと馬車を闇魔法収納へ片付けてしまった。
今は全員がそれぞれ馬を駆って軽く走っている。
「いや、あんな尊大な態度であれこれ言うのは苦手なんだよ。貴族は大体そんな感じらしいから真似してみたけど、あんま気分がいいもんじゃないな」
「ご主人、アンタ何を今更......」
一二三にとっては、貴族のやっていることは血筋という何らの努力もせずに得たものをひけらかす事であって、理屈・根拠のある指導や指示とはまったく違うものだと考えているが、その微妙なさじ加減はカーシャには伝わらない。
「ご主人様、街道の先に気配があるのですが......」
両手に手綱ごと杖を握っているオリガが、不意に一二三たちに声をかけた。
オリガがずっと話していなかったのは、魔法に集中していたためで、一二三と共に開発した新しい魔法を使うのにまだ慣れていないので、街を出て馬車から馬に乗り換えてから、ずっと杖を手に集中していた。
訓練中に魔法の自由度を知った一二三は、風の魔法が使えるオリガに、音が空気の振動で伝わる事を教えて、可聴域外の音波を使って周囲、特に前方の障害物を探知する魔法を開発することに成功した。
音波を出すのも感知するのもオリガしかできないので、どのように感じられるかは具体的な事は一二三にはわからないが、簡単な糸電話を使って、音が伝わる仕組みを説明する一二三に、オリガはアレコレと質問したあと、訓練時間の半分はこの魔法の開発に没頭した。
オリガがやりたい事を聞いて、一二三はアドバイスをしただけだが、まだまだ発展途上な魔法ながら、対象物との距離や数、大きさなどをかなり正確に図ることができる。
「おそらく人です。街道の路上に......10人です」
「丁度いい」
距離を聞くと、1分も進めば接触するという。まだあまり遠くまでは計測できないので、まだまだオリガはこの魔法を練習する事を決めている。ちなみに、オリガに命名を求められたので、散々悩んでから『エコーロケーション』の名前をつけた。確かコウモリがやっている音波感知方法だったと思うが、よく覚えていないので元ネタは言わなかった。
一旦馬を止めた一二三は、カーシャとオリガには武器を用意して馬を降りるよう指示した。
「まずは俺が接触する。十盗賊だろうし、こんな街の近くで待ち伏せするようなアホどもだから、大した連中でもないだろう」
一二三は馬から降りずに刀を抜いた。大太刀と違って馬上で振るうには短いが、盗賊相手なら問題ない。
「俺が適当に数を減らすから、後ろから追ってこい。訓練の延長として対人戦の実戦をやろう。カーシャは必ず一人に対して二度までの攻撃で殺すこと。オリガは手裏剣を使ってみろ」
「わかりました」
二人が自信を持って返事をしたのを聞いてから、一二三は上体を低く伏せて馬を走らせた。
「止まれ!」
一二三が走る前方、街道の上には5人の汚い格好をした男たちが、武器を手にして立ちふさがっていた。ひどい話だが、一二三はその格好と殺気だけで相手を盗賊と判断した。
気配からすると、街道の両脇に数人が隠れているようだ。
「金目のモノを置いていけば命は......ぶっ!?」
悠長に口上を述べる盗賊を無視。少しも速度を落とさないまま盗賊たちの間を駆け抜けた一二三は、すれ違いざまに刀を奮った。
口を断ち割るように盗賊の頬を裂き、そのまま滑らせて頚動脈を絶った。
血しぶきに倒れる仲間の姿にうろたえる盗賊たちに、引き返してきた一二三が怒涛の勢いで接近する。
慌てて武器を構えるも、遅かった。
今度は走る勢いそのままに馬から飛び降りた一二三は、盗賊の一人の首を抱え込み、地面を転がる受身を取った。一二三の回転に巻き込まれた盗賊の首は、完全に破壊されている。
あっという間に二人を殺され、及び腰になった盗賊。残り三人。
ここでようやく、隠れていた街道脇から左右3人ずつ駆け寄ってくるのが見えた。
冷静にオリガの新魔法の成果を確認しながら、一二三は刀を収納し、新たな武器を取り出した。
それは内側に刃が付いた30cm程の刀身を持つ、鎖鎌だった。
作成したトルンに「どう使うのか見当もつかん」と言わしめた一品だが、一二三の評価としては実によくできていた。しっかり手になじむ柄と程よいサイズの刃、鎖の長さと分銅の重さも指定通りだ。
鎌を右手に、分銅をぐるぐると回す姿は、この世界の住人からすると異様だ。
武器かどうかも判断がつかない奇妙な物を振り回す若い男を相手に、盗賊たちは手を出せないでいた。
「ぐあっ!」
不意に、一人の盗賊が倒れる。
見ると、首の後ろに見覚えのある手裏剣がつきたっていた。
(オリガか)
よく練習していると感心する一二三をよそに、さらに混乱が深まる盗賊がまた一人斬り倒された。カーシャが一刀で首を刎ね切ったのだ。彼女の動きも以前より洗練され、大振りは無くなり、自分の手の内でしっかりと剣をコントロールできている。
そんな二人の成長ぶりを見ながら、一二三は自分から目を離した盗賊の一人に向かって分銅を振り下ろし、頭蓋を叩き割った。
オリガの魔法で腕を切られ、カーシャの剣で止めを刺されるなど、流石にうまく連携が取れている。
二人が討ち漏らした盗賊を始末しつつ、今後の指導方針に思いを馳せる一二三だった。
瞬く間に盗賊は全員殺され、街道の一角が血に染った。
「上出来だ。短期間で叩き込んだ割には、うまく動けていた」
「ありがとうございます」
「だが」
一二三は倒れた一人の盗賊を指差した。粗末な革鎧の背中部分に手裏剣が刺さっている。
「こいつは俺が止めをさしたんだが......オリガ、何が悪いかわかるか?」
「刃が通らない鎧の部分に当ててしまったこと......です」
褒められて喜んだのも束の間、失敗を見つかった生徒のようにうつむいてしまったオリガに、一二三は「そうじゃない」と言う。
「どこに当たってもいいんだよ。元々手裏剣は致命傷になることは珍しい。最初の奴がたまたまうまくいっただけだ。問題は、こいつが革鎧に手裏剣が刺さったことに気づかなかったことだ」
一二三はしっかりと観察していた。パニックになっていたこの男は、一二三の動きに対応するのに頭がいっぱいになっていて、いつの間にか背中に手裏剣が刺さったことに気付かなかった。
「これは無駄な一手だった。革鎧に当てるにしても、目の前で正面部分に当てるのはいい。恐怖心を煽ったり、隙ができるから他の誰かが止めを指すこともできる」
「なるほど......精進します」
「次はカーシャだ」
「え、アタシ?」
あの乱戦でよくそこまで見ていたと、他人事のように感心していたカーシャだったが、次はカーシャが注意を受ける番だった。
自分ではうまくやれたと思っていたので、急に声をかけられてびっくりした。
「剣を見てみろ。右手に持っていた方だ。少し欠けているだろう」
「えっウソ! ......本当だ。小さな欠けがある。いつの間に?」
まったく気づいていなかった事実に、仕切りに首をかしげるカーシャに、一二三は別の男の死体を差した。
「あいつに突きを入れた時だ。無理に突っ込んだ感触があっただろう。骨に当たったな」
刃の部分はどうしても薄くなるため意外と脆く、対して人間の骨は意外と硬い。滑らせるように当てればまだしも、おかしな角度で当たると剣の方もダメージを受ける。
「突きの時はしっかり剣を寝かせて、肋骨に当たらないように、中心は避けて胸骨や背骨に当たらないようにと教えただろう」
「う......だって、相手が変に身体を丸めてたから......」
「それなら、体じゃなくて顔を斬れ。止めはそれからでも充分だ」
言い訳をぴしゃりとはねつけられて、カーシャもオリガ同様肩を落とした。
その後の一二三の行動は、カーシャにもオリガにとっても、後々のトラウマになった。
「よし、教材ができたから、ちょっとここで人体の構造について説明してやろう」
「えっ? 人体の、こうぞうって?」
「教材......ですか? まさか......」
「よいせっと。胴体の正面はこの胸骨と背骨を左右から肋骨が......」
「うっ......うぶっ......」
「うげっ! ちょっ......」
いきなり盗賊の死体の体を刀で割いて、骨格の説明から始めた一二三に、オリガもカーシャもまともに話を聞く前に吐いていた。
ハーゲンティ子爵が治める街フォカロル。
以前にオリガとカーシャが罠にかけられた苦い思い出のある街だ。
その街の入口に、一台の二頭立ての馬車が街道を近づいてくる。馬車の後ろには一頭の馬に乗った若い男。
フォカロルに近づいた一二三は、再び馬車を出して馭者席にオリガとカーシャを並んで座らせた。オリガとカーシャはマントを付けてフードを目深に被っている。日差しを避けるために女性の馭者がよくやる格好なので、フォカロルの検問役の兵達も、不自然とは思わなかった。
「いろんな意味で、あの後にもう盗賊がでなくて良かったよ......」
「思い出させないでカーシャ。できれば頭じゃなくて心で整理できてからの話題にしたいの......」
胃液も出ないほど吐いている二人を見て、慣れてないなら触りだけという一二三の微妙な気遣いもあり、胴体部分の骨格の説明だけで終わった青空教室は、二人に重大なダメージを与えていた。主に精神的に。
フードが無ければ、二人が真っ青な顔に涙をうっすら浮かべて馬を操っているのが見えただろう。
もう少し気持ちに余裕があれば、最初の目的地に着いた事で気持ちを引き締めたりもしたかも知れないが、気合を入れたらまた吐きそうで、何も起きて欲しくない気持ちが強かった。
街の入口前に到着したところで、門の前にいた二人の兵のうち、一人が近づいてくる。
オリガとカーシャには見覚えのある男でなければ咳払いをして、見覚えがあれば黙っているように一二三は言っておいたが......咳は出ない。
「止まれ。馬車の荷物を確認する」
「わかった。積荷は旅の道具がほとんどだが、木箱の中にアクアサファイアがあるから、これに確認のサインを頼む」
王都の時と違って、馬を降りた一二三は、懐からアクアサファイアの流通確認証を取り出した。
「アクアサファイアか。よし、この木箱だな」
妙に慣れた手つきで箱を開ける男は、わざとらしく頷いてから木箱を閉め、許可証にサインを入れた。
その瞬間、一二三は男の腹を蹴り飛ばした。
「ぐっ!? な、何をする!」
地面に転がった兵に素早く近づき、起き上がる前に腕をひねり上げてうつ伏せに押さえつけた。
突然の暴行に、門に残っていた兵士が慌てて剣を抜いて走ってくる。
オリガとカーシャの咳払いが聞こえた。
「貴様! 何をしている!」
「落ち着け。俺はこういう者だ」
王都で見せた許可証と準騎士爵位のコインを見せて駆け寄ってきた兵士を止め、うつぶせで呻いている兵士の懐を探るように指示する一二三。
渋々と従うと、懐からは蒼く輝くアクアサファイアが出てきた。
「こ、これは......。グザファン、お前!」
一二三に取り押さえられたままの男は、グザファンという名前らしい。突然の同僚の犯罪発覚に、どうしていいかわからないという表情の兵士。
さらに力を入れて腕をひねり上げた一二三は、グザファンに低い声で尋ねた。
「その宝石の特徴を示した流通許可証があり、箱は閉じられ、こいつのサインがある。なのにこいつの懐からアクアサファイアが出てきた......さて、説明をしてもらおうか。それで“俺たち”が納得させられるかどうか、試してみるといい」
グザファンが顔を上げると、フードを取ったオリガとカーシャが立っていた。見覚えのある二人の女は、怒りに満ち満ちた顔をしていた。武器を持つ手には、力が入っている。
「お、お前ら! 奴隷に堕ちたはずじゃ......」
「さあ、さっさと話せ。ふざけた言い訳やごまかしをしたら、心優しい俺はさておき、怖い女どもが何をするかわからんぞ?」
奴隷達の怒りとは裏腹に、一二三はカラカラと笑った。 | Two women rode on a -horse drawn carriage, while a young man trailed behind them on a large horse. This irregular group approached a checkpoint in the Imperial Capital.
The stationed soldiers went around to the rear of the carriage in order to check its contents.
「Hey.」
The horse mounted man called out to them.
The soldier was indignant at being casually called out by the mounted man. But on the off chance that he was an arrogant noble, it may become troublesome, so he endured it.
「What is it?」
「Is it still necessary to verify even with this official document?」
The mounted man unfurled and displayed a piece of paper rarely seen at a checkpoint. Thus the soldier realized the gravity of the situation.
「Proof of Trade of Aqua Sapphire...... 」
「It’s in the crate inside the carriage. Confirm it.」
「Un, understood」
The soldier opened the crate, finding an aqua sapphire clearly packed in a cushion of wood shavings, with a magnificent cut for a finishing touch. Of all the aqua sapphires he’d seen up until now, he’d understood just by glancing at it, that this was a particularly high class item.
He confirmed that it does not differ in size or shape from what is described in the document, he then closed the crate and secured the lock tightly.
「Confirmation complete. Other luggage is only provisions for travel. I need to hear it just to be sure, what’s your destination?」
The soldier jotted down his signature on the memo using charcoal. questioning them while returning the official document. The man on the horse smiled from ear to ear as he took out a new document to show to him.
「Just the neighboring country. Here is the permission.」
A document indicating free ingoing and outgoing passage from this country was shown to the soldier, it clearly shows the signature of Princess Imeraria. Also attached is a medal indicating a noble rank.
「Please forgive me! By all means please pass.」
「 You don’t have to mind it. Its a thorough job anyway. 」
「Thank you very much! 」
As soldiers stood at attention to send the party off, the carriage began to advance while the young man continued following behind it.
After the carriage left their sight, the men let out a breath of relief.
「......Was there such a noble?」
「That document has Imeraria-sama’s signature, and the name Hifumi Touno is rather unusual. By chance is he the rumored “Slender Sword Knight” ? 」
「I see, the rumored newcomer that Imeraria-sama favors. 」
The “Slender Sword Knight” which the soldiers were talking about was Hifumi’s nickname, the man riding on the horse with haughty attitude was definitely Hifumi, how the nickname came to be, he hadn’t the foggiest.
A certain female guild staff member whimsically coined it, and due to the speed of Hifumi’s hunting and the impact of that first event, it had spread in the blink of an eye.
Before the nickname started spreading, Hifumi was busy preparing for the journey, so he hadn’t returned to the guild. Thus the nickname never reached his ears.
In the future Hifumi will become aware of it and it will become an established fact, but that’s a story for another time.
「Trying to behave and act like a noble sure is troublesome. 」
「Considering all that, why do I feel that you’ve already mastered it? 」
Having completely left the vicinity of the Royal Capital, Hifumi quickly stowed the carriage into the Dark Hole’s Storage.
Now everyone is riding their own horses and are galloping like the wind.
「 No, this kind of haughty attitude, roughly speaking, I dislike it. Though I pretended to have the nobles’ attitude, it doesn’t feel too good.」
「 Master, what are you saying this late in the game..... 」
As far as Hifumi was concerned, nobles seemed to be showing off what they had without making any effort solely due to their lineage. The reason for this seemed to be the wildly different leadership and instruction. The subtle differences were not conveyed to Kasha.
「Master, the road sign ahead on the highway...... 」
Origa who was holding a staff and the reins in both hands suddenly called out to Hifumi. All of them slowed down.
Origa didn’t talk much all the while because she was concentrating her magic, she was still not used to using the new magic the she and Hifumi developed together. After they left the Royal Capital and change from carriage to horses, her concentration was always on the staff in her hands.
Being aware of the degree of freedom in practising magic, Hifumi introduced the wind magic capable Origa to the concept of sound being transmitted by air vibrations, using it to detect movements in their surroundings. It was particularly successful in detecting obstacles ahead.
Since only Origa could use the sound wave perception skill, Hifumi did not know precisely how it felt, but by using a simple string telephone, he roughly explained the mechanics of sound transmittance. Half of the practice time was devoted to the development of this magic.
In spite of it being a still-developing magic, distance, number of obstacles, size, etc. can be determined fairly accurately.
「 There are probably people ahead. Further on the highway......... There are people. 」
「 Just right. 」
The detection wave advances forward for up to one minute making contact with everything within that range. Since Origa was still incapable of exercising it to such a degree, she decided to practice it more. Incidentally, since Origa requested it to be named, after worrying a lot, it was named as “Echolocation”. Thinking about it, it may be because it was inspired by the sound wave perception that bats use.
Reigning in his horse, Hifumi told Origa and Kasha to dismount and prepare their weapons.
「 First, I will meet them. This close to town, in all probability, those fools are thieves waiting to perform an ambush. There are a considerable number of them. 」
Hifumi drew his katana without descending from his horse. Though different from a longsword, on horseback, it will not be a problem with thieves as opponents.
「 I will suitably thin their numbers, follow from the back. Lets use this opportunity to refine your close combat skills. Kasha, without fail kill a person with no more than strikes. Origa, you must use the shuriken. 」
「 Understood. 」
Hearing their highly confident responses, Hifumi bent low over his horse and made it gallop.
「Stop!」
Five men with weapons in dirty, ill-fitting clothes blocked the highway on which Hifumi advanced. From their appearance and bloodthirst, he judged them to be thieves.
There seem to be hidden presences on both sides of the highway.
「 Leave your valuables for your life....... Buh?! 」
Leisurely ignoring the speaker, Hifumi rode past the thieves without reducing his speed.
The thief’s face split open, as did his carotid artery.
As the thieves uncomprehendingly stared at their companion falling in a spray of blood, Hifumi turned around and charged towards them.
Flusteredly they raised their weapons, too slowly.
This time Hifumi jumped down from the galloping horse while maintaining his momentum, beheaded one of the thieves, as he rolled safely to the ground. The thief’s head was completely destroyed during Hifumi’s rolling fall.
Two people were killed in a blink of an eye, the remaining three thieves got indecisive.
It was then that people on each side of the highway came to flank them on both sides. people in total huh. unaccounted person was cleverly hidden, did she overlook it?
While calmly confirming the result of Origa’s new magic, Hifumi stowed his sword, and took out a new weapon.
The blade of about 30cm was attached perpendicular to the handle of the weapon, (attached to the other end is a chain with a heavy weight called the fundo at the end of it). It was a Kusarigama .
While Thorn was creating the weapon, a remark of 「I can’t imagine how to use this」was made. Hifumi appraised the weapon as very well done. The handle and the size of the blade was good. The length of the chain and the weight of the fundo was per the specifications.
The sickle was held in the right hand, while the fundo was being spun in the other. This appeared bizarre to the inhabitants of this world.
The thieves weren’t able to judge on what kind of weapon the young man was holding because it was strange, because of that they were not able to attack immediately.
「GUA!」
Suddenly, one thief fell down.
Looking at it, you could recognize a shuriken was stuck behind the head.
Origa
Hifumi felt admiration that she practiced skillfully, in addition the thieves were even more confused as another one was cut down. Kasha had sliced off a head in one strike. Also her movements had became more refined that before, her large swings were gone, and her swords were tightly controlled by her skills.
While seeing such growth from the two of them, Hifumi threw the fundo towards one of the thieves who looked away from him and it smashed his skull to pieces.
An arm was cut by Origa’s magic and Kasha’s sword gave the finishing blow, their coordination was splendid as expected.
The two of them cleaned up the remaining thieves, from here on out Hifumi needed to think about some guidelines.
All the thieves were killed instantly, the section of the highway was dyed with blood.
「This is well done. Although I hammered it into you in a short time, you moved pretty well.」
「Thank you very much.」
「But.」
Hifumi pointed at one thief who collapsed. There stuck a shuriken in the back of the shabby leather armor.
「I have dealt a fatal blow to him...... Origa, do you know why this is bad? 」
「I hit a section of the armor that the blade of the shuriken wasn’t able to penetrate...... I think. 」
Although they were praised and rejoiced for a moment, for Origa their mistake was to be ashamed of, but Hifumi said 「It is not so 」.
「You can hit anywhere. Originally, shuriken rarely deal fatal blows. That first piece of shit was just a fluke(where she got a headshot). The problem is, this dickhead wasn’t aware a shuriken was stuck to his leather armor」
Hifumi was observing firmly. This guy was supposed to be panicking, but his mind was occupied with dealing with Hifumi’s movement, so he wasn’t able to notice it immediately.
「This was a useless move. Even if you hit the armor, you should hit the front section where they could see. It incites fear, you create an opening for the other person to deal the finishing blow. 」
「I see...... I shall devote myself to it.」
「Next is Kasha.」
「Eh, me?」
That excellent fight was thoroughly analyzed, Kasha admired how the others fought, but it was now Kasha’s turn to receive some advice.
She thought that she had performed well, but she was surprised that she was called out suddenly.
「Look at your sword. The one you’re holding on your right hand. It seems a little bit was chipped off. 」
「That’s not true! ...... Oh its true. It’s chipped a little bit. When was it? 」
The fact is she didn’t notice at all, Kasha tilted her head to the side while being baffled, Hifumi pointed at another male corpse.
「It was when you stabbed that guy. I can sense that you stabbed him while hitting the bone with too much force. 」
The thinnest section of the blade is certainly fragile compared to a human bone which is really hard. If you force it to attack at an odd angle, the sword will receive some damage.
「During stabbing firmly hold the sword sideways , Do not strike the ribs, you need to learn to avoid the middle where the sternum and the spine is located.」
「Oh...... but, but my opponent has this odd round body, that’s why...... 」
「If that’s the case, cut the face and not the body. That’s enough to stop him. 」
The excuse was flatly rejected, Kasha’s shoulders drooped, just like Origa’s.
Hifumi’s actions afterward, as far as Kasha and Origa were concerned, would become their trauma in the future.
「Good, now that we have teaching materials here, I will explain a little bit about the structure of the human body. 」
「Eh? Human body’s... structure? 」
「Teaching materials...... Is it? Don’t tell me...... 」magic
「Here we go. At the front of the body is the sternum and here is the spine, these ones here on the sides are the ribs...... 」
「Ulp...... Blegh...... 」
「Uegh!...... Retch...... 」
Hifumi suddenly cut open the body of the thief with a sword, then began to explain the skeletal system. Origa and Kasha started vomiting even before they’d heard the explanation.
Fukaroru, the town that Viscount Hagenti governs.
The town filled with Origa and Kasha’s bitter memories.
A horse-drawn carriage approached the entryway from the highway. A young man riding a large horse trailed behind it.
Drawing nearer to the town, Kasha and Origa were made to sit on the coachman’s seat of the carriage. They were wearing mantles, hoods low over their eyes, concealing them. Since they they had the appearance of female drivers who do that to avoid sunlight, the soldiers on Fukaroru’s checkpost did not think it was unnatural.
「 In various ways, it’s good the thieves were already dead..... 」
「 Don’t remind me Kasha. I’m putting my mind and heart in order, please talk about something else. 」
Watching their bile rise, as they were still unused to that feeling, Hifumi was subtly worried. While concluding the open air classroom with an explanation of body parts and the skeletal structure, the two had received serious damage. Primarily the mental kind.
If not for the hoods, two ghastly pale and tearful faces would have been seen while driving the carriage.
If there was a little more flexibility in their attitudes, maybe they would have been able to brace themselves while arriving at their first destination. They felt like vomiting again if they got fired up, and their feelings of not wanting to get up were strong.
Arriving at the entrance of the town, of the two soldiers at the gate, one approached.
If it is not the man that Origa and Kasha recognised, a cough was supposed to be given, Hifumi told them to remain silent if it is the one they remembered........ The cough did not come.
「 Stop. The contents of the carriage are to be verified. 」
「 Understood. Since the cargo of this trip is a wooden box containing an Aqua Sapphire, a signature of confirmation is necessary. 」
Unlike the time at the castle town, Hifumi dismounted, and took out a proof of trade for the Aqua Sapphire.
「 Is this the Aqua Sapphire? Yosh, here’s the box. 」
The man opened the box with a strangely practiced hand, unnaturally nodded, closed the wooden box, and signed on the permit.
At that instant, Hifumi kicked the man’s abdomen and sent him flying.
「 GUH!? Wh-What are you doing! 」
Quickly approaching the soldier on the ground, Hifumi flipped him while twisting his arm upwards and pinned him to the ground facedown.
To the sudden assault, the other soldier at the gate pulled out his sword in a hurry and ran forwards.
A cough was heard from Origa and Kasha.
「 You bastard! What are you doing! 」
「 Calm down. This is who I am. 」
The soldier running forward was shown the same permit and coin indicating his rank. Hifumi directed his gaze at the soldier on the ground and inspected his torso.
Reluctantly following his gaze, the Aqua Sapphire shone on the soldier’s chest.
「 Th-This is...... Guzafan, you! 」
The man caught by Hifumi seemed to be called Guzafan. The other soldier had an expression of not knowing what to do after the sudden exposure of his colleague’s crime.
Putting more power into twisting the soldier’s arm, Hifumi asked him in a low voice
「 There was a circulation permit verifying this jewel, the box is closed, there is this fellow’s signature. Nevertheless, the Aqua Sapphire has appeared from this fellow’s chest...... Well, let’s have the explanation. And whether or not “we” understand, let us see... 」
When Guzafan looked up, Origa and Kasha had taken off their hoods. Their faces brimming with anger, he recognised them. Wielding weapons, filled with strength.
「 Y-You fellows! You were supposed to have fallen into slavery... 」
「 Come now, speak quickly. What’s your excuse for deceiving and turning the tender-hearted me into a scary woman? What could it be, I wonder? 」(Kasha)
In contrast to the slaves’ anger, Hifumi laughed loudly. |
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} | 「撃て。手前の敵と、あの馬上で叫んでる奴を狙え」
オクシオンら造反軍が背を向け、十分に距離が取れたと判断したところで、マ・カルメは静かに指示を下した。
「しかし、ずいぶん離れてしまったようですが......」
恐る恐る話す伝令に、マ・カルメは視線を向けず伝えた。
「本来の投槍器の飛距離は、さっきの倍はある」
「なんと......」
マ・カルメが断言した通り、弓では狙いをつけるのも難しいような距離まで離れた敵に対して、次々と発射された槍は正確に敵を射抜く。
後方から想定外の攻撃を受けた敵軍は、攻勢に出たときの勢い以上に算を乱して逃げ出し始めた。
「ちょいと混乱させすぎたか。連中の捕縛を任せたビロン伯爵には迷惑をかけちまったな」
固く太い指で頭をぼりぼりとかきながら、マ・カルメは苦笑した。
「すごい......たった十人の敵を追い返すとは」
「おっと、勘違いするなよ?」
ちっちっ、とマ・カルメは指を振る。
「普通に考えたら、人数の差はそのまま勝敗につながる重要な要素だ。今回はたまたま、連絡が早くて準備する時間が取れたことと、連中が素人の集まりで戦いの雰囲気に慣れていなかっただけさ」
「しかし、結果を見れば貴殿の功績の大きさは計り知れぬものでは?」
「バカ言え。こっちは追いやっただけで、主に兵を出して戦ったのはビロン伯爵だ。功績なら、ビロン伯爵だ」
それよりも、とマ・カルメは敵軍が総崩れになり、逃げるように街道を戻っていく様子を見送り、隊員たちに投槍器ごと後退して国境ぎりぎりでの防衛態勢をとるように指示を出した。
「こっちに流れてくる奴がいなくなれば、とりあえずは終わりだ」
さっさとフォカロルに帰ってアリッサ長官の顔が見たいぜ、とマ・カルメはボヤいた。
「終わったらホーラントの連中に状況を伝えて、一度撤収するとするか」
ガラガラと台車に乗せられて後ろ向きに運ばれていく投槍器に並んで、伝令とマ・カルメはホーラント国境へと向かった。
☺☻☺
オクシオンがホーラント方面の敵から充分に距離が取れたと判断した時点で、彼らの意識は完全に後方からのビロン軍に向いていた。
「先ほどまでの敵はもはや射程の外だ! 気にせず後方の敵を殲滅する!」
馬の向きを変え、剣を抜いて突撃の号令をかけようとした瞬間だった。
マ・カルメの指示で撃ち出された槍が、オクシオンの背中から腹を突き破った。
飛び散った血が、周りを歩いていた兵士に降り注ぎ、悲鳴が上がる。
「しょ、将軍!?」
ちょうど後方から戻ってきていた副官が、目の前で串刺しにされたオクシオンに向かって馬を進める。
周囲の兵士は逃げるようにオクシオンから距離をとったのが幸いし、落馬したオクシオンへとすぐに近づくことができた。だが、兵士たちが恐怖でパニックになり、将軍が倒れたことに一切気を向けていないことに、副官は奥歯を噛みしめた。
「将軍!」
副官が倒れ伏したオクシオンから槍を抜き、あおむけに抱え上げたとき、すでにオクシオンの顔からは血の気が失せて、青白くなった唇が喘ぐように開閉していた。
槍を抜いたことで、さらに出血が増えている。どろりとこぼれた血の中には、内臓も混じっていた。
「あ......ここで、こんな、ところで......」
「しっかりしてください! すぐに後方にて手当を!」
言いながら、副官もオクシオンが死ぬだろうことには気づいていた。第一前も後ろも敵に挟まれた今、後方とはどこを指すのか。自分の言葉にすら腹が立つ。
「にげ、ろ......げぶっ!」
焦点の合わない視線を宙に泳がせながら最期の指示を出したオクシオンは、激しく血を吐いて絶命した。
その間にも、周囲では槍に貫かれてバタバタと兵士たちが倒れている。
恐怖に耐えきれず気を失った者や、死んだふりをしてやりすごそうとする者まであらわれ、立っているだけで的にされそうだ。
「......全員、ビロン伯爵領方面へ全速で退避しろ! 槍が届かない場所まで走れ! 死にたくなければ、走れぇ!」
誰へともなく叫びながら副官は再び馬に飛び乗り、槍のふる地獄から退避した。
もちろん、その方向にも敵がおり、ホーラント国境より数がはるかに多くなるのは承知の上だった。小数を突破して敵国になだれ込んだとして、大将を失った烏合の衆に何ができるだろうか。本拠地を守る強固な敵を破るどころか、すり減らされて終わり、逃げ場もなくなる。
ならば、まだ国内で活路を見出したほうが兵たちの気持ちも多少なり楽だろう、と副官は判断した。
「それにしても......」
と、副官はちらりと背後を見た。
涙や鼻水をたらし、必死の形相で走る味方の兵士たちの向こう、小さく見える十名ほどの兵士たち。
「ホーラント兵は魔法が得意と聞いていたが、一体何があったのだ?」
考えても仕方が無いとは思いつつも、思考の片隅に妙な据わりの悪さを覚えていた。
の目の前で立ち上がったバールゼフォンは、苛立ちを雄叫びに変えて街道が震えるほどの振動を引き起こした。
魔人族のあいつよりもマシだが、と一へらへら笑いながら刀を握る。
「腹が立つなら目の前の奴を殺せよ。思い通りにならないなら邪魔な奴を消せよ。泣きわめいて状況が変わるのを待つのが許されるのは、赤ん坊だけだぞ」
だから俺を殺せ、と一二三は嘯く。
「ウゥウウウゥウウ......」
「睨み付けるだけで敵が殺せるなら楽だろうなぁ。でも、それじゃあつまらないだろう」
切っ先を向けて右足を前に出し、正眼に構えた一二三。
叩き割られた頭部がつながり、血が固まり始めたバールゼフォンは、長い両腕をだらりと下げたまま、一二三を睨んでいる。
「俺は、お前を殺したいから殺す。さて、お互いの名分も確認できたことだし、お前の傷も治っただろう。再開しようか」
右足を半歩だけ前にすべり出したところで、バールゼフォンが両腕で大上段から一二三を叩き潰しにかかった。
「おう、豪快だな」
落ちてくる腕を切り払おうとするが、その両腕がぴたりと止まり、一二三の刀も合わせて止まった。
すぐさま、バールゼフォンの前蹴りが打ち出された杭のように一二三の腹にめり込む。
一二三は息を吐きながら体を浮かせ、蹴られるままに後ろに下がる。
目の前にある脛に、柄頭で強烈な打ち込みを入れると、骨が折れる確かな感触が手に伝わってきた。
折れた足ではバランスが取れず、バールゼフォンは転倒するが、一二三も五メートルほど後ろに飛ばされてしまった。
咳払いをして呼吸を整え、一二三はジンジンと痛むが、骨は折れていないと自己診断を行い、刀を構えなおした。
その間に、折れた足が治ったバールゼフォンはのそのそと立ち上がる。
「基本的な身体のつくりは同じだな。さっき切ってわかった。出てきた内臓も人と変わらん」
無防備に近づいてくる一二三に、バールゼフォンは、右手をふるうが、軽く身を低くした一二三の頭上で空しく空を切る。
通り過ぎた腕、その肘を一二三が外から思い切り蹴飛ばすと、バールゼフォンは錐もみして背中を向ける。
「よっ」
背後から水平斬りに首を叩き落としにかかる。
発達した肩から盛り上がった筋肉を断ち、首の半分まで斬り裂いたところで、バールゼフォンは左手で無理やり刀を掴んで止めにかかる。
無理やり後ろでに回したせいで無理な体勢になってはいるが、それでも刀の動きを制しているあたり、馬鹿力もいいところだ、と一二三は楽しくなってきた。
切れ味の鈍いはばき近くを掴んでいるせいか、手ごと斬り落とすこともできない。
「うおっ!?」
はじめバールゼフォンは刀を奪い取ろうとしたが敵わず、仕方なく身体の方を刀から引き抜き、嫌がるように一二三の身体を突き放した。
距離をとり、再び睨みあいを続けながら、一二三はあることに気がついた。
「おお、そうだ。あれを試すのにちょうどいいな」
刀を右手一本に持ち直した一二三は、左手だけに付けている手袋の中指に噛みついた。
そのまま左手をぐい、と引き抜く。
「うぅう......」
沈みかけた太陽は、その左手を赤く染めているはずだったが、まるで縁取りをして切り取ったかのように、暗闇をさらに塗り重ねたように、一二三の左手は真っ黒だった。
その異様さはバールゼフォンにもわかるのか、左手に視線を奪われたまま、低く唸り続けている。
「これな。まだ色々できそうなんだが、中々試す機会がなくてな。安心しろよ、毒とかじゃあないから」
カラカラと笑った一二三は、右手の刀を身体の後ろに隠すようにして構え、左手を前に突き出した。
しばし逡巡していたバールゼフォンだったが、攻撃が来ないことを知ると、再び自ら一二三に向かって襲い掛かる。
大振りの攻撃は避けられると知ったバールゼフォンは、両手の爪を使い、鋭い突きを放つ。
「っ?」
バールゼフォンは、驚いて目を丸く見開いた。
人間の身体くらいは簡単に貫くはずの自分の爪が、目の前の小さな人間に、素手で止められたのだ。
「驚いたろ?」
いたずらっぽく笑い、一二三は黒い左手でバールゼフォンの両手を殴りつけた。
ほとんどの指がぐしゃぐしゃに折れ、バールゼフォンは両手を抱えて転がり、喚いた。
左手を握ったり開いたりしながら、一二三は満足そうにうなずいた。
の痛みを感じないのが残念だが、固さは問題ないな」
倒れたまま、一二三の足元に蹴りを入れてくるバールゼフォンに対し、一二三は右手の刀を地面に突き立てた。
迫る右足に向けて刃筋を立てるようにして。
「ギャアッ!」
自らの力で脛から先を切り飛ばし、バールゼフォンは再び地面を無様に転げまわる羽目になった。
うめき声をあげながら顔をあげ、飛んで行ったはずの自分の右足を探すが、見当たらない。
「探しているのは、これだろう?」
声をかけた一二三の黒い左手には、バールゼフォンの足が握られている。
「残念だが、これは没収な」
ずぶ、と血をしたたらせる切り口が左手の平に吸い込まれると、そのままずるずるとつま先までが呑み込まれてく。
唖然としてそれを見ていたバールゼフォンだが、傷口がふさがったところ地面に手をつき、両手と片足で猛然と一二三に迫った。
「収納魔法と同じで、な」
再び突きを左手で止め、柄頭で左手の肘を壊す。
折れた腕の先を黒い左手で握るが、今度は吸収されない。
「生き物はだめなんだわ。......切り離さないとな」
するり、と刀を滑らせると、あっさりと切り離されたバールゼフォンの左手。今度は指先から、めきめきと音を立てて一二三の左手の中に呑み込まれた。
「生きていない、たんなる“物”ならこの通りだ。で、俺はこれからお前を殺すのにどうすれば良いと思う?」
左手と右足を失いつつも、ゆらゆらと立って一二三を見下ろすバールゼフォンは、右手を握りしめて自分の爪で自らを傷つけている。
「グゥウウウ......」
ぼたぼたと落ちる血が、地面に落ちて広がった。
「血は赤い、か。魔法しかり亜人しかり、俺のような他所から来た普通の人間からすれば、魔物も人間も然程変わらんように見えるな」
刀を鞘に戻し、右手も自由にすると、一二三は舌打ちをした。
「面白くはあるが、どいつもこいつも、どうかしているな」
片足で跳躍するという器用な真似をして、バールゼフォンが体重を乗せて振り下ろした右手は、逆に一二三に手首を掴まれ、背負投げの餌食になる。
投げた腕を掴んだまま、バールゼフォンの腹の上を転がった一二三は、そのまま腕を捻り上げて極め、胸を踏みつけた。
「そういう力があるから、工夫がなくなるのかも知れんな」
一切の遠慮なく、肩と肘の関節を壊す。
足をばたつかせて抵抗するが、さらに力が入った一二三の足の圧力に、胸の骨が悲鳴をあげ始めた。
「武器がある事、得意な動きなり技があるのは良いことだ。魔法も、お前の爪も身体能力も同じだろう」
壊した右手を離し、さらに前傾姿勢になってバールゼフォンの顔を覗き込む。
「でもな、そこで終わったからお前はここに死ぬことになるんだ。道具なり能力があるなら、それを使って人を殺す方法を必死で、沢山考えないとな」
一二三は刀を抜くと、仰向けに倒れたまま睨みつけるバールゼフォンの首の下に刃を上にして差し込む。
「倒れた相手の首を斬る方法は、何も上から刀を振り下ろすだけじゃないんだぞ」
呻くバールゼフォンの頭を掴み、一二三は手前に引き寄せるようにしてバールゼフォンの首を刃の上ですべらせた。
「ギ......」
断末魔は途中から泡の吹き出す音に代わり、切断された身体は再び地面へと落ちた。
首だけとなったあとでも、バールゼフォンは口を開閉させながら一二三を恨めしそうに見ている。
「ふむ、大した生命力だな。......殺せないのは非常に残念だが、そういうことならありがたく利用させてもらおう」
闇魔法収納を展開し、首無し死体を回収すると、一二三は片手にぶら下げたバールゼフォンの首と向かい合った。
「お前を新しい魔王が放った刺客という事にしよう」
収納から適当な布を取り出して手早く包むと、離れて待っていた馬を探し、いいお土産ができた、と上機嫌でフォカロルへと帰って行った。 | “Fire. Aim for that mounted fellow as your target.” (Ma)
At the moment Okshion’s rebelling army decided that they had taken enough distance and turned their backs onto them, Ma Carme calmly gave that order.
“However, it looks they ended up getting away quite a bit...”
Ma Carme told the timidly talking messenger without turning his look towards him,
“Originally the range of the spear throwers is twice that of just now.” (Ma)
“What...?”
Just as declared by Ma Carme, the spears, which were fired one after the other, accurately pierce the enemy who was at a distance where it would be difficult to take proper aim with arrows.
Receiving the unexpected attack from their rear, the enemy army began to escape in total disorder with a vigour that was even higher than at the time they came to attack.
“Was the confusion a bit too much? We ended up causing troubles to Earl Biron who was entrusted with arresting that lot.” (Ma)
Ma Carme smiled wryly while scratching his head with a tough and thick finger.
“Amazing... you sent away an enemy numbers strong with just soldiers.”
“Uh-oh, aren’t you misunderstanding something?” (Ma)
“Tss tss”, Ma Carme shakes his finger.
“If you plan it normally, the difference in numbers will be an essential component connecting to victory or defeat. This time we just had time to prepare due to the early contact and that this lot was a gathering of amateurs who had no familiarity with the atmosphere of battles.” (Ma)
“But, if you look at the outcome, isn’t the size of your achievement something unmeasurable?”
“That’s foolish. With our side just chasing them away, the one who fought them after having sent most of the soldiers is Earl Biron. If it’s about achievements, the most should go to Earl Biron.” (Ma)
“Rather than that”, Ma Carme observed the routed enemy army returning to the highway in order to flee and ordered his soldiers to take a bare minimum of a defensive stance and to retreat to the national border together with the spear throwers.
“If the fellows, who came streaming our way, are gone, it will be the end for now.” (Ma)
“I want to quickly return to Foklore and see Director Alyssa’s face”, Ma Carme complained.
“Shall we try withdrawing temporarily once we finished conveying the situation to the lot from Horant?”
Lining up with the spear throwers, which were transported while placed on the rattling platform wagon, with their backs facing each other, Ma Carme and the messenger headed towards Horant’s border.
☺☻☺
At the moment Okshion judged that they had taken enough distance from the enemy in the direction of Horant, their awareness completely shifted to Biron’s army in the back.magic
“We are already outside the range of the enemy from just before! Annihilate the enemy in the back without minding them!” (Okshion)
It was at the instant he drew his sword and gave the order to attack after changing the direction of his horse.
A spear, which was fired upon Ma Carme’s command, penetrated Okshion’s stomach from behind.
The scattered blood pours down on a soldier walking next to him making him raise a scream.
“G-General!”
His adjutant, who came back from the rear just then, advances his horse towards Okshion who was skewered in front of his eyes.
The surrounding soldiers getting away from Okshion to escape proved to be fortunate and the adjutant was immediately able to get close to Okshion, who fell from his horse. Due to the soldiers, who panicked in fear, not having an ounce of intention to face their fallen general, the adjutant ground his molars.
“General!”
At the time the adjutant took out the spear from the fallen Okshion and lifted him around so that he was facing upwards, the blood was already drained from Okshion’s face and he was opening and closing his bluish-white lips in order to breath in gasps.
When he took out the spear, the bleeding increased even more. Intestines were also mixed in the spilling thick blood.
“Ah... here, at, such place...” (Okshion)
“Please stay firm! I will get you treated in the rear right away!”
While saying that, even the adjutant noticed that Okshion will likely die.
“R-Run, away... gebuuh!” (Okshion)
Okshion, who gave his final order while his gaze was vacantly staring into empty space unable to focus any longer, violently coughed up blood and passed away.
Even during that time, panicking soldiers, who are pierced by spears, collapse in the surroundings.
There are even some who fainted while being unable to bear the dread and those who try pretending that they have died. It looks like only the enemy is still standing.
“... Everyone, evacuate in the direction of Biron Earldom at full speed! Run until the spears can’t reach you anymore! Get running if you don’t want to die!”
While shouting to no one in particular, the adjutant jumped on his horse once again and retreated from this spear-raining hell. [Owned by Infinite Novel Translations!]
Of course he was well aware that the number of enemies being in that direction was far higher than at Horant’s border.
In that case it will probably be somewhat easier for the feelings of the soldiers to find a means of escape within their own nation
“Even so...”
The adjutant turned a fleeting glance towards the back.
On the other side of his allied soldiers, who are running with a frantic look while spilling tears and nasal mucus, he can slightly see around ten soldiers.
“I heard that the soldiers of Horant are strong at magic, but what the hell happened here?”
Even though he considered it inevitable after thinking about it, a strange, mean mischief was stuck in a corner of his mind.
Balzephon, who stood up in front of Hifumi, caused a vibration, that made the highway tremble, with his irritation which was changed into a war cry.
“Although it was more powerful than the shout of that demon”, Hifumi grasps his katana while laughing frivolously.
“Kill the guy in front of you if you are going to get angry. Get rid of the annoying guy if you can’t do as you want. Only a baby is allowed to stay in a state of bawling.” (Hifumi)
“Thus kill me”, Hifumi roars.
“Uuuuuuuuh...” (Balzephon)
“It would probably be easy if you could kill an enemy by just glaring at them. However, that would be boring, wouldn’t it?” (Hifumi)
Hifumi got into a stance of aiming at the eyes while placing his right foot in the direction the the katana’s point.
Balzephon who began to gather his blood and to reconnect the smashed head, glares at Hifumi while letting his long arms dangle loosely.
“I will kill you because I want to. Well then, both of us were able to affirm our justifications. Your injury has probably healed as well. Shall we resume?” (Hifumi)
At the moment he slid his left foot forward by just a half step, Balzephon brought down both his arms from overhead to crush Hifumi.
“Aye, how exciting.” (Hifumi)
Higumi tried to lop off an arm coming downwards, but Balzephon suddenly halted both his arms and Hifumi’s katana stopped at the same time as well.
“Gaaah!” (Hifumi)
Immediately Balzephon’s front kick sinks into Hifumi’s belly like a hammered stake.
Hifumi falls down to the back due to being kicked and half-rises his body while breathing out.
The certain feeling of having broken bones was transmitted to his hand when he strongly drove in the pommel into the lower leg that was in front of his eyes.
Unable to keep his balance due to the the broken leg, Balzephon tumbles, but even Hifumi ended up getting sent flying around five meters to the back.
Fixing his breathing with a cough, Hifumi felt a stabbing pain, but after diagnosing himself that no bones were broken, he corrected the hold of his katana.
Balzephon, who’s foot healed during that time, stands up slowly.
“The structure of your body is basically the same. I realized that from cutting you earlier. Even the intestines, which came out, are no different of those of a person.” (Hifumi)
Balzephon swings his right hand at Hifumi who approaches defencelessly, but lowering himself slightly, Hifumi cuts at empty space from overhead.
Once Hifumi kicks away the elbow of the passing-by arm with all his strength, Balzephon spins around and turns his back towards Hifumi.
“Yo.”
He cuts at the neck by slicing it horizontally from behind.
At the moment he reached the point of having cleaved open the neck halfway after severing the muscles swelling on Balzephon’s grown shoulders, Balzephon forcibly grabs the katana with his left hand and stops it.
“Although you ended up in an unnatural stance due to turning around towards the back forcibly, your strong point is your great physical power enabling you to rein in the motion of the katana despite it”, Hifumi became delighted. [Read this at Infinite Novel Translations!]
Because he has grabbed close to the metal collar mounted between the blade and the hand guard where the sharpness is dull, Hifumi is unable to lose the grip by cutting through it alongside the hand.
“Uoh!?”
Although Balzephon tried to snatch the katana first, it didn’t work out and reluctantly pulling out the katana from his body he thrust away Hifumi’s body as if loathing it.
While continuing to glare at each other after picking up some distance, Hifumi noticed something.
“Ooh, that’s right. That is just right to test it out.” (Hifumi)
Hifumi, took the katana into just his right hand, bit at the middle finger of the glove covering only his left hand.
He pulls it off his left hand just like that.
“Uuuh...” (Balzephon)
The sun, which started to sink, should have dyed that left hand in red, but as if having been repeatedly been painted in black or as if it was cut out of a frame, Hifumi’s left had was pitch black.
Does Balzephon realize its bizarreness? He continues to groan lowly while having his gaze stolen by that left hand.
“This seems to still be able to do various things, but I had no opportunity to test it out properly. Be relieved, it’s no poison.” (Hifumi)
Raising a loud laughter, Hifumi took a stance of hiding the katana in his right hand behind his body and stuck out his left hand in front.
Balzephon hesitated for a short while, but once he grasps that no attack is coming, he rushes towards Hifumi by himself once again.
Balzephon, who knew that a largely-swung attack will be avoided, makes use of his nails on both hands and releases a sharp thrust.
“??”
Balzephon’s eyes opened widely and became round due to surprise.
His own nails, which should have easily pierced something at the level of a human body, were stopped with a bare hand by the small human in front of him.
“Surprised, right?” (Hifumi)
Smiling impishly, Hifumi struck both hands of Balzephon with his black left hand.
With his fingers becoming mostly mush, Balzephon screamed while rolling around on the ground holding both his hands.
Hifumi nodded satisfied while opening and clutching his left hand.
“It’s a shame that I can’t feel the pain of the hitting fist, but there’s no problem with its toughness.” (Hifumi)
Hifumi stabbed the katana into the ground against Balzephon who tries to sink in a kick against Hifumi’s feet while on the floor.
The blade’s edge digs into the approaching right leg.
Having his own lower leg being sent flying after being cut from the shin, Balzephon once again ended up tumbling around on the ground in an unsightly manner.
Raising his face while groaning, he searches for his right foot which should have been sent flying, but he can’t find it.
“This is what you are looking for, right?” (Hifumi)
The black left hand of Hifumi, who called out to him, is grasping Balzephon’s foot.
“It’s regrettable, but this is confiscated.” (Hifumi)
The dripping blood of the cut end is completely absorbed into the palm of his left hand and the foot is slowly swallowed up to the toes just like that.
Balzephon watched that dumbfoundedly, but placing both hands on the ground after the wounds were healed, he approached Hifumi savagely with both arms and one leg.
“It’s the same as storage magic, just so that you know.” (Hifumi)
Stopping a thrust with his left hand again, he breaks the elbow of Balzephon’s left arm with the katana’s pommel.
He grasps the end of the broken arm with his left hand, however this time it doesn’t get absorbed.
“Living things are no good. ... If you don’t dismember them, that is.” (Hifumi)
Once he shifted the katana in a smooth, quick motion, Balzephon’s left hand was easily cut off. This time it was swallowed by Hifumi’s left hand starting with the fingertips while causing conspicuous sounds.
“If it’s simple “things” that aren’t alive, it goes like this. So, even though I will kill you from here on out, what method do you prefer?” (Hifumi) [Copyright by Infinite Novel Translations!]
Even though he had lost his left hand and right leg, Balzephon, who is looked down upon by Hifumi, wobbly stands up and injures himself with his own nails by grasping his right hand tightly.
“Guuuuu...” (Balzephon)
The blood, which drops down, spread out on the ground.
“Your blood is red, eh? If you look at magic and demi-humans from the standpoint of a normal human who came from somewhere else like me, it looks like monsters and human aren’t that different from each other.” (Hifumi)
Returning the katana into its scabbard, Hifumi smacked his lips as his right hand became free as well.
“Although it’s amusing, every last of them is crazy.” (Hifumi)
Doing the skilful act of leaping with one leg, the right hand of Balzephon, which was swung down while placing all his body’s weight behind it, had its wrist caught by Hifumi in reverse and Balzephon fell victim to him being thrown over Hifumi’s shoulder.
While holding onto the thrown arm, Hifumi, who rolled over on top of Balzephon belly, decided to twist the arm and trampled down on Balzephon’s chest.
“Since you have this much strength, you might not be knowledgeable of losing to scheming.” (Hifumi)
He breaks the joints of the shoulder and elbow without any reservation.
Balzephon resisted by flapping his leg, but due to being pressured by Hifumi’s foot which was filled with even more strength, the bones of his chest began to creak.
“Having a weapon, a special move or technique is something good. The same applies to magic, your nails and your physical ability, I guess.” (Hifumi)
Separating the broken right arm, Hifumi peers into the face of Balzephon whose posture has bent forward even more.
“But you know, since you stopped at that point, you will die here. If they have abilities or tools, you have to frantically come up with plenty of methods to kill a person who uses those.” (Hifumi)
Hifumi draws out his katana and thrusts the blade underneath the neck of Balzephon who glares at him while having collapsed looking upwards.
“The method of cutting the neck of a fallen opponent isn’t just swinging the katana downwards from above at all.” (Hifumi)
Grabbing the head of the groaning Balzephon, Hifumi slid the blade across the neck of Balzephon while drawing Balzephon towards himself.
“Gii...” (Balzephon)
Switching to a sound of death agony and spouting out foam from his mouth halfway through, his severed body once again fell to the ground.
Even after just the head was left, Balzephon opens and closes his mouth while staring at Hifumi as if cursing him.
“I see, you’ve got quite the life force. It’s extremely regrettable that I can’t kill you, but let me use you gratefully in that case.” (Hifumi) [Owned by Infinite Novel Translations!]
Deploying his darkness storage, Hifumi recovered the headless corpse and faced Balzephon’s head which he carried in one hand.
“Let’s pretend that you were an assassin sent by the new demon king.” (Hifumi)
Once he nimbly wrapped the head in a suitable amount of cloth from his storage, he looked for the horse which waited at a distance and returned towards Fokalore with a good mood while thinking |
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} | 10人の騎士を斬殺し、満足げに刀を鞘に納めて背後。ベッドの影から恐る恐る顔を出したのは、イメラリアだった。
見られているのに気づいているはずなのに、どうでもいいとばかりにはイメラリアを見ようともしない。
視線をずらすと、部屋の隅には先ほど一二三に蹴り飛ばされた母である王妃の死体があった。
恨めしそうな表情のまま息絶えている母を見て、イメラリアは悲しんでいいのか安堵していいのか混乱していた。
血で装飾された自分の寝室を見て、どうしてこうなったのかと思い返してみる。
一二三と共に民衆の目の前で王位継承の意思を示す形となってしまったイメラリアは、その日は早々に仕事を切り上げて寝室へと戻っていた。
「どうしてこんなことに......」
薄い赤の夜着に着替え、ベッドへ腰掛けたイメラリアは長いため息をついた。
酷く疲れた気持ちで、肩が重たく感じる。
「一体、あの方は何を考えいるのでしょう」
イメラリアには、一二三の考えがまだ理解できない。
王になりたいというわけでも無いようで、騎士隊からの話では領地の運営もある程度の方針だけを出して文官たちに任せてしまっているらしい。しかも、税も整理され全体的には軽減され、領兵たちも民衆と親しくするようになり、概ね民衆からの評判は良いらしい。
武器などの開発には資金を多く使っているが、特に贅沢をするわけでもなく、暇さえあればブラブラと街を見て回ったり、剣の修行をしていたりという行動を、多くの者に目撃されている。
“民衆に優しく公平であり、民を守る為の努力を欠かさない領主”
というのが、一二三に対する評価の大勢を占めているらしい。
イメラリアが見て聞いてきた評価とは全く違う内容に、同一人物の評価だとは俄かに信じられないほどだ。
「王族や貴族が嫌いなのでしょうか?」
とも思ったが、報告ではスラムの住人も相当数殺しているとあった。単純に、身分や役職は関係なく、邪魔かどうかでしか判断していないようだと結論付けた。
頭を抱えて考える。
民衆を支持を得た狂人ほど扱いづらいものはない。下手に排除しようとすると、こちらが悪者にされてしまうのだ。
思い悩むイメラリアの耳に、ノックが聞こえる。
寝室の前で待機していた侍女が、おずおずと入ってくる。
「それが......トオノ伯爵がお越しなのですが......」
困惑している侍女に、イメラリアは本日何度目かのため息をついた。
「夜間、未婚の女性の部屋に訪ねてくるとは......。構いません、通してください」
「ですが......」
侍女は男性が王女の寝室へ入る事の、風聞や危険を気にしているのだろうが、イメラリアにとってはもう一二三の非常識さを気にしていられない。
「構いませんから。無理やり入ってこなかっただけまだ良かったというものです」
「随分な言い草だな」
侍女を押しのけるように、一二三が入ってきた。
その方に、何か大きな荷物を担いでいる。
「不躾に対して、せめてもの抵抗というものです。それで、それはなんでしょう?」
「その前に」
イメラリアの言葉を遮って、一二三は侍女に向き直った。
「第三騎士隊に連絡してここに来るように伝えてくれ。そうだな......ミダスあたりに声をかけて、警備のために武装して来いってな」
突然命令されて目を白黒させている侍女に、イメラリアは言うとおりにするようにと命じた。
侍女が一礼して出ていったところで、一二三は抱えていた荷物をベッドの上に放り投げると、細長い荷物はベッドの上で激しく動いた。
「......!」
「お、起きたな」
「これ......生き物なのですか?」
思わずベッドから飛び退いたイメラリアは、つい一二三の影に隠れた。
「そう怯えてやるなよ。お前の母親なんだろう?」
被せていた布を剥ぎ取ると、髪を振り乱した王妃が、後ろ手に縛られ、猿轡を噛まされた状態で一二三を睨みつけていた。
「お、お母様!?」
一二三が猿轡をはずしてやると、堰を切ったように叫びだす。
「わたくしにこのような真似をして、無事で済むと思っているのですか!」
「ひ、一二三様、なぜこのようなことを......」
イメラリアが一二三の腕を掴んだのを、王妃はどう思ったのか口撃の対象を娘へと向けた。
「イメラリア! まさか貴方がこのような手を使うとは思いませんでした! 男を誑かして母を拘束させるなど......やはり王座を狙うというのは本心の現れだったのですね!」
「お母様......」
鬼気迫る表情で自分を睨みつけて来る母親に、イメラリアは言葉もない。
「そういう事だ。どうもこいつはイメラリアよりなんとか王子の方に王を継いで欲しいみたいだな」
他人事のように言う一二三に、再び王妃が噛み付いた。
「黙りなさい! 王を弑した大罪人、王の正式な叙爵もなく貴族を僭称する痴れ者が!」
「そうなのか?」
「......法では、王族であれば貴族の地位を与えることは問題ありません。慣習として、王のみがそうしてきましたが......」
「つまり、的はずれな非難をされたわけだ」
王殺しは的外れじゃないだろうとイメラリアは思ったが、一二三の中では単なる“仕返し”なので、それも罪だとは思っていないらしい。
一二三の話では、今回の王位継承問題で王子派閥に動きがあるだろうと思って城内に潜伏していたところ、王妃が第一騎士隊にイメラリアの殺害を命じるのを見たという。そこで、騎士隊の面々が退室したところで、王妃を拘束したらしい。
その話を信じられず、イメラリアは王妃を見るが、王妃は否定しなかった。
「アイペロスこそが王位を継ぐに相応しいのです。イメラリア、この国を危機に陥れる者を城へ招き寄せたうえ、この国そのものを狙うあなたの企みは許すことができません!」
イメラリアは目の前が真っ暗になったように感じた。
自分は必死でこの国の平和を守るために、王が失われた国がバラバラにならないように、必死で考え、行動をしてきたはずなのに。
母が倒れてから、まだ若く頼りない弟のためにと、うまくいかないながらもなんとかここまでやってきたのに。
「で、どうする?」
一二三の質問に、イメラリアは我に返った。
「どう、とは......?」
「今のところ、こいつは俺の敵というよりお前の敵になった感じだからな。横取りして文句を言われても困るから、一応持ってきたんだよ」
自分の気遣いに胸をはる一二三に、怒りよりも呆れる。
「敵だなんて......」
「こいつはお前を殺そうとしている。それを敵と言わずに何という」
「それは......」
ぐいっと顔を近づけられて、イメラリアは言葉が続かない。
「このまま生かしておいても、城内でお前と王子派で内乱になるだろうな。表も裏も対立が続く。その影響を受けるのは侍女や下男で、つまり民衆だ」
一二三の都合で言えば、国を動かす人物は少ないほうがコントロールも楽だという一言に尽きるのだが、あえて言わずにおいた。
「こいつが生きていれば、なんとか王子の後ろ盾になって、俺の邪魔をするだろう。こいつがいなければ、王子も大人しくしているかもな。そうすれば、お前の望む安定した政治体制ができるだろうな」
下唇を噛み締め、血が滲む程考えたイメラリアは、逃避しそうになる思考をまとめて、声を絞り出した。
「わたくしには、できません......」
当然だという顔をした王妃だったが、続く言葉には顔を青ざめた。
「ですから、一二三様にお任せしたいのですが......」
「は、母を見捨てるのですか!」
先に命を狙ったのはどっちだとイメラリアは思った。苦渋の決断だったが、今の言葉で自分を納得させる事ができた。
「では、遠慮なく」
ベッドに横たわる王妃の細い首に、一二三は刀を抜いて峰打ちで叩きつけた。
首の骨が折れ、王妃は目を見開いて絶命した。
「本当に、これでよかったのでしょうか......」
「それを決めるのは、まだ早いだろうな」
一二三はイメラリアの腰を抱え上げ、ベッドの向こう側へと転がした。
「きゃっ」
王妃の死体に布団をかけ、天蓋のカーテンを閉じる。
「しばらく隠れてろ。数人がこっちへ向かって来ている。多分、第一騎士隊の連中がお前を殺しに来たんだろう」
ミダスたちは間に合わなかったか、と一二三は呟いた。
「そんな......」
本来なら自分を守るはずの騎士隊が、自分を殺そうとしているという事に、まだイメラリアの心は納得できていなかった。
「とりあえずは守ってやるから、自分の周りがどう変わっていくか、これからどうすればいいか必死で考えろ。パジョーをけしかけたこと、策は拙かったがそうしようという意志は良かった」
急に褒められて、イメラリアは怪訝な表情を浮かべた。
「あのくらいの気概でなければ、これから始まる戦乱で生き残ることはできないぞ。いつか俺に復讐をするんだろう? であれば、こんなところで躓くな。俺に刃が届くまで、必死に生き抜いてみせろ」
ギリギリと歯を食いしばり、イメラリアは一二三を見つめた。
「そう、それでいい。怒りでも何でも、意志ある者どうしがぶつかってこそ、殺し合いは意味があるんだ。楽しいんだ」
イメラリアに背を向けた一二三は、刀を抜いてうっとりと刃紋を見ていた。
数人分の足音が、部屋の前で止まる。
ミダスとサブナクがイメラリアの寝室へたどり着いたとき、ちょうど一二三が部屋を出てきたところだった。
多少なり手応えがある敵とやりあった一二三は、夜だというのに実に清々しい表情だった。
「遅い。獲物は全部俺がもらったぞ」
「イメラリア様は?」
「中にいる。死体が転がっているから、足元に気をつけろよ」
なんだその優しさはと思いながらミダスが部屋へ入ると、シンプルながら高級な調度品が設えられた寝室には、血みどろの死体がいくつも転がっていた。
その中には、王妃の無残な姿もある。
「状況はイメラリアに聞け。俺は行く」
「行くって、どこへ?」
刀を担いで悠々と廊下を征く一二三を見送って、サブナクは呆れた顔で首を横に振った。
「こりゃ、今日で騎士隊は半分位に減るんじゃないですか? いや、第二が留守だから減るのは三分の一だけか」
「冗談を言っている場合か。イメラリア様を予備の寝室にご案内する。私たちはそのまま朝まで警備だ」
「......冗談で済むなら、いいんですけどね」
廊下の向こうから、誰かの悲鳴が聞こえてきた。
「というわけで、これから一二三様が王城内の掃除をいたしますので、ゴミどもが逃げ出さないように警備をしていただきます」
突然詰所に来て、当直以外の帰ろうとしている者も無理やり引き止め、第三騎士隊の騎士たちを集めてオリガは説明という名の命令をしていた。
全員、目の前の少女がどういう立場なのかを知っていたので、不満に思いながらも逆らうのはまずいと、大人しく従っていた。
「その......私はもう帰る時間......」
「ダメです」
諦めろ、と同僚に慰められ、女性騎士は諦めて座った。
「今、城内では王子派と王女派に別れています。第一騎士隊は王子派のようです。一二三様のお話では、今夜にも第一騎士隊が王女の暗殺に動く可能性が高いそうです」
「なにっ!」
「馬鹿な、信じられん。仮にも王城を守護する立場だぞ」
困惑する騎士たちを、オリガは手を叩いて鎮める。
「いずれにせよ、一二三様がイメラリア様を王とすると決めた以上は、敵対するならば死ぬだけです。第三騎士隊には、第一騎士隊が守る城門の更に外側にて、城から逃げようとする者を拘束する役目が与えられました」
懐から取り出した鉄扇を開き、ゆらゆらと顔を扇ぎながらオリガは言う。
「し、しかし......」
「いくらトオノ卿のご指示とはいえ、騎士隊どうしが敵対するような真似は......」
もごもごと反論する言葉を、オリガは鉄扇を閉じる音で遮った。
「敵対するような、ではなく、すでに敵対しているのです。それとも、貴方は王子派なのですか? つまりは、一二三様の敵となると......」
見るからに鉄扇を握る手に力が入るのを見て、年かさの騎士が前に出た。
「待ってくれ! 我々はイメラリア様のご意志に従う。ミダスたちも、その為に呼ばれたのだろう?」
「その通りです。別に戦う必要はありません。一二三様が城内を掃除されている間、人の出入りが無ければそれでいいのです。あとは、明日の朝には片付けをお願いいたしますね」
にっこり笑ったオリガの笑顔は、可愛らしいがそれ以上に恐ろしいと騎士たちは思った。
「一二三様のおかげで、第三騎士隊は王城内でイメラリア様に最も近く、最も有力な戦力として扱われるようになるでしょう」
それに、とオリガは続ける。
「ここで協力的な態度でしっかりとお仕事に励んでいただければ、先日の第三騎士隊の行為について、一二三様は見逃してくださるそうですよ?」
私は、許したくはありませんがと、オリガの目は言っていた。
こうして、翌朝まで第三騎士隊は一睡もせずに王城を見張る羽目になった。 | Having put knights to the sword, Hifumi is sheathing the katana in the scabbard on his back very contentedly. Imeraria timidly made an appearance from within the shadows of the bed.
Although he senses her movements, Hifumi doesn’t even look at Imeraria as if not caring about her existence at all.
As she shifts her line of sight to the corner of the room, where Hifumi had sent her mother flying before, she saw the queen’s corpse.
Observing her mother having died while displaying a reproachful facial expression, Imeraria was confused whether it was fine to mourn or to rejoice.
Looking at her own room ornamented with splatters of blood, she is re-thinking how it came to this.
Together with Hifumi, Imeraria ended up announcing her intention of inheriting the crown in front of the populace. The very same day, after quickly finishing her work, she returned to her bedroom.
“Why has such thing... ?” (Imeraria)
Changing into a light red night-gown, Imeraria sat down on the bed and heaved a long sigh.
With a terribly worn-out mood, she feels her heavy shoulders.
“I wonder what the hell he is thinking?” (Imeraria)
Imeraria still can’t comprehend Hifumi’s thought process.
Obviously the reason isn’t that he wants to become the king. Going by the information from the Knight Unit, it seems that he has ended up entrusting the administration of his territory, with only a few policies, to the civil officials. Furthermore, even reducing the overall tax rate and reaching the point that the territorial soldiers are close to the masses, his reputation amongst the majority of the populace appears to be good.
Although he is using a lot of funds for the development of weapons and such, it isn’t like he is particularly living in luxury. If he has spare time, he will look around strolling through the city. Many people have witnessed him doing such things as practicing his swordsmanship.
“He is a feudal lord who is fair and kind towards the populace and doesn’t shirk away from putting in effort for the sake of protecting the people.”
That seems to be the evaluation being held by many people about Hifumi.
As that assessment is totally different from the one she came to see and hear about, Imeraria can’t suddenly believe that this is the same person they are talking about.
“Do you hate the royalty and nobles?” (Imeraria)
Even though she pondered about that, she had also received a report stating that he had killed a considerable number of the slum’s inhabitants. Simply put, without concerning himself about social status and official position, there doesn’t seem to be any deciding factor but only whether or not one is hindering him. That summed it up entirely.
Having obtained the support of the masses, there is no one else as difficult to deal with as that lunatic. If she removes him unskillfully, she will end up being viewed as villain here.
The lost Imeraria’s ears pick up the sound of knocking.
“What’s the matter?” (Imeraria)
There was a maid waiting for orders in front of the bedroom, but she entered nervously.
“That is... Earl Tohno has come...” (Maid)
Towards the baffled maid, Imeraria sighed for the umpteenth time today.
“Visiting the room of an unmarried woman at night-time... It doesn’t matter, please let him through.” (Imeraria)
“However...” (Maid)
The maid seems to be worrying about the danger and rumors of letting a man enter the princess’ bedroom, but Imeraria doesn’t care about Hifumi’s lack of common sense anymore.
“There is no problem. It still can be called good that he didn’t just come and enter forcibly.” (Imeraria)
“That’s a reprehensible way of talking about someone.” (Hifumi)
Pushing the maid aside, Hifumi entered.
He is carrying some large package on his shoulders.
“Receiving my ill manners is something called minimal resistance. And? What might that be?” (Imeraria)
“Before that.” (Hifumi)
Interrupting Imeraria’s words, Hifumi turned around to the maid.
“Get in touch with the Third Knight Unit and tell them to come here. Let’s see... Call out to the nearby Midas and tell him to come here armed for the sake of guarding.” (Hifumi)
As the maid is darting her eye’s about due to suddenly receiving orders, Imeraria commanded her to do as she was told.
With the maid leaving the place after bowing, Hifumi tosses the package, he was carrying, on top of the bed. The long and narrow object was thrashing around on the bed.
“...!”
“Oh, it woke up.” (Hifumi)
“This... is it a living creature?” (Imeraria)
Imeraria instinctively jumped back from the bed and hid herself in Hifumi’s shadow.
“There isn’t any need to be so scared. It’s your mother after all, I guess?” (Hifumi)
Although the queen’s hair was disheveled and her clothes were stripped off, she was glaring at Hifumi in a condition of having her hands tied behind her back and a gag forced into her mouth.
“M-Mother?!” (Imeraria)
As Hifumi removed the gag, a scream burst out from her.
“Behaving in such manner towards me, do you really think this will finish peacefully!” (Queen)
“Hi-Hifumi-sama, why did you do such a... ?” (Imeraria)
Imeraria grabbed Hifumi’s arm. The queen changed the target of her verbal attack, of what she thought about this treatment, towards her daughter.
“Imeraria! I never expected you to use such a sort of way! To seduce a man into doing something like binding your mother... Finally you showed your true feelings because you are aiming for the crown!” (Queen)
“Mother...” (Imeraria)
Due to her mother scowling at her with a bloodcurdling facial expression, even Imeraria lacks any words.
“That’s how it is. Somehow this fellow wants the prince to succeed the crown one way or another rather than Imeraria.” (Hifumi)
The queen snapped once again at Hifumi, saying this as if it is someone else’s problem.
“Be quiet! You king-slaying, seriously criminal, person! You are a fool pretending to be a noble without even having officially been conferred the title by the king!” (Queen)
“Is that so?” (Hifumi)
“... If it’s the kingdom’s law, then there will be no problem with being appointed to the rank of a territorial noble. As for the usual procedure, only the king would be able to do that, but...” (Imeraria)
“In other words, her criticism is irrelevant.” (Hifumi)
, since it simply was “revenge” for Hifumi, he apparently doesn’t believe this to be a wrongdoing.
Well then, Hifumi’s story is: while considering how to deal with the current problem for the succession of the throne, the prince faction was in the process of setting up an ambush within the castle. He found out that the queen had ordered the First Knight Unit to assassinate Imeraria. Therefore, once the entire knight unit exited the room, he restrained the queen.
Without believing in this story, Imeraria looked at the queen, but the queen didn’t deny it.
“It is only appropriate for Ayperos to succeed the throne. Imeraria, above inviting someone, who plunged this country into a crisis, to come into the castle, you are unforgivably scheming to usurp the country itself!” (Queen)
Imeraria felt as if she had been plunged into darkness.
For the sake of protecting the peace of this country, she is desperate. So that the country doesn’t scatter into pieces due to losing its king, she is frantically thinking. Even though she should have acted.
After her mother had collapsed, for the sake of her yet youthful and helpless brother, she somehow got until here while also struggling.
“So, what will you do?” (Hifumi)
Imeraria came to her senses due to Hifumi’s question.
“What, as in... ?” (Imeraria)
“At present it feels like she is your enemy rather than mine. Since it will also be troublesome if she keeps yapping about usurpation, I brought her here for the time being.” (Hifumi)
Rather than getting angry she is astonished about Hifumi pridefully being concerned about her.
“Such thing like being an enemy...” (Imeraria)
“This fellow wants to kill you. How can you not call her an enemy?” (Hifumi)
“That is...” (Imeraria)
Suddenly and forcefully drawing his face close, Imeraria can’t continue talking.
“Also, if you keep her alive as is, I am certain it will turn into a domestic conflict between your and the prince’s faction within the castle. The confrontation will continue on the surface and behind the scenes. The ones receiving the brunt of that will be the maids and menservants, or in other words, the populace.” (Hifumi) (
Speaking towards Hifumi’s conveniences, if there are fewer operating the country, it will also become easy to control the law, to sum it up in a sentence. But he purposely left that unsaid.
“If this fellow survives, she will become the prince’s supporter one way or the other and be a hindrance to me, I am sure. If this fellow doesn’t exist, it might be possible that the prince becomes obedient as well. In that situation, I am confident that you will be able to establish the stable political system you desire.” (Hifumi)
Imeraria pondered about it while chewing her lower lip to degree of blood running down. It becomes an escape in that way and after consolidating her thoughts, she squeezed out her voice.
“It is impossible for me...” (Imeraria)
The queen’s expression displayed that this was only natural, but before long her face turned pale due to the following words.
“Therefore, I want to leave the decision to Hifumi, but...” (Imeraria)
“A-Are you abandoning your mother!” (Queen)
Imeraria thought. It was a mortifying decision, but she was able to consent with her current words.
“Then I won’t hold back.” (Hifumi)
Hifumi drew his katana and struck the thin neck of the queen, laying on the bed, with the back of his katana.
Having her neck broken, the queen died with wide opened eyes.
“I wonder if that really was a good thing... ?” (Imeraria)
“I think it is still too early for you to decide that.” (Hifumi)
Hifumi lifted Imeraria at her waist and threw her down on the opposite side of the bed.
“Kyaa!” (Imeraria)
Hiding the queen’s corpse within the futon, he shuts the canopy’s curtains.
“Stay hidden for a while. There are several people coming this way here. Probably it is the lot from the First Knight Unit, coming to kill you.” (Hifumi)
“Midas’ group didn’t make it in time, huh?” Hifumi grumbled.
“Such...” (Imeraria)
Usually the knight unit is bound to protect her, having been told about them coming to kill her was something she couldn’t yet comprehend within her mind.
“Because I will be protecting you for now, desperately think about how you want to change your surroundings and what would be fine to do after this. The matter about inciting Pajou; the intention was good but the plan to execute it was inept.” (Hifumi)
Being abruptly praised, Imeraria floated a facial expression of suspicion.
“Without that the degree of backbone, it will be impossible for you to survive the wars starting after this. I wonder whether you want to exact your revenge upon me one day? If that’s the case, don’t trip at this place. I want you to show your desperate will to survive until your blade reaches me.” (Hifumi)
Clenching her teeth with a grinding sound, Imeraria fixed her eyes on Hifumi.
“Yes, that’s fine. Anything’s fine, even anger. A like-minded person, having a volition, will certainly clash with me. There has to be a meaning in killing each other. It has to be enjoyable.” (Hifumi)
Hifumi, pretending to not see Imeraria, drew his katana and ecstatically looked at the hamon. (
The footsteps of several people stop in front of the room.
When Midas and Sabnak arrived at Imeraria’s bedroom, after struggling along the way, it was the exact moment when Hifumi left the room.
Hifumi, fighting with an enemy that gave some kind of resistance, had a truly refreshed facial expression even though it was night.
“Too late. I already took care of all the prey.” (Hifumi)magic
“She’s inside. Watch your steps as there are corpses scattered all over.” (Hifumi)
While wondering what his kindness was about, Midas entered the room. Though simple, the bedroom was provided with high-class furnishing. A great number of blood-stained corpses were spread on the floor.
Even the miserable figure of the queen is amongst those.
“Hear about the circumstances from Imeraria. I am off.” (Hifumi)
“You are off, you say? Where to?” (Sabnak)
Seeing off Hifumi, who was passing through the corridor while leisurely shouldering the katana, Sabnak shook his head with a face full of astonishment.
“Haven’t the knight units been decreased around half with today? No, wait, the Second is absent, so the decrement is only one-third.” (Sabnak)
“Are you joking around in this situation? Please guide Imeraria-sama to the spare bedroom. We will keep guarding without change until morning.” (Midas)
“... Though it would be nice if it were just joking around.” (Sabnak)
Someone’s scream could be heard from the other side of the corridor.
“Thus, since Hifumi-sama will be cleaning the trash out within the king’s castle after this, please make you rounds so that the trash doesn’t escape.” (Origa)
Suddenly coming to their office and even detaining those, with the exception of the knights on duty, wanting to go back, against their will, Origa gave the gathered knights of the Third Knight Unit an order under the pretense of it being an explanation.
Because all of them were aware what kind of standing the girl in front of them has, they abide obediently, as resisting it would be unwise, while having disgruntled thoughts.
“That... it is already time for me to go home...” (Female Knight)
“Not allowed.” (Origa)
With her colleagues consoling her to give up, the female knight sat down in resignation.
“Currently the castle is divided into the prince faction and the princess faction. It looks like the First Knight Unit is part of the prince faction. Going by Hifumi-sama’s explanation, it seems to be very likely that the First Knight Unit will move tonight in order to assassinate the princess.” (Origa)
“Whaat!”
“I don’t believe such foolishness. Not even as a joke. They are in the position of protecting the royal castle.”
Origa claps her hands in order to calm down the bewildered knights.
“At any rate, seeing that Hifumi-sama decided to make Imeraria-sama the queen, they will simply die if they turn hostile. As for the Third Knight Unit, you were given the role of restraining those trying to flee from the castle. Your location will be even further outside than the castle’s gate, which is guarded by the First Knight Unit.” (Origa)
Opening the iron-ribbed fan, she had retrieved from within her bosom, Origa is slowly swinging it for the sake of fanning the face while talking.
“B-But...”
“Even if it is Lord Tohno’s instruction, behaving as if hostile to a fellow knight unit...”
Origa interrupted the mumbling words of refusal with the closing of her iron-ribbed fan.
“As if hostile, that’s not it, you already are hostile to them. Or are you one of the prince’s faction? In short, as far as Hifumi-sama is concerned, you already are an enemy...” (Origa)
Seeing the hand holding the iron-ribbed fan being filled with strength at a glance, the elder knights went out ahead.
“Please wait! I will follow Imeraria-sama’s will. Haven’t you called Midas’ group for that sake as well?”
“That’s right. Besides, there isn’t any need to fight. During the time Hifumi-sama cleans the castle’s interior, it will be alright as long as no people enter or leave the castle. Also, please tidy up tomorrow morning.” (Origa)
Any more sweetness dripping out from Origa’s cheerful smiling will be dreadful,
the knights thought.
“Thanks to Hifumi-sama, the Third Knight Unit will take care of Imeraria very closely within the king’s castle. You will likely reach the point of being treated as very influential war potential.” (Origa)
“In addition,” Origa continues.
“If you are able to accept making an effort here in doing your job properly with a mindset of cooperation, then Hifumi-sama will kindly overlook the actions of the Third Knight Unit the other day, understand?” (Origa)
‘Though I won’t forgive you’, Origa’s eyes told them.
In this way the Third Knight Unit got stuck with standing watch at the royal castle without a wink of sleep until the next morning. |
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} | オリガたちの気持ちを汲んだのか汲んでないのか、よくわからないまま準備と称して旅の道具を次々に購入しては、闇魔法収納へ放り込んで、また次の店へと突き オリガとカーシャはさっきまでの悲壮な空気はどこへやら、この世界の旅についての知識を持たないから矢継ぎ早に繰り出される質問に答えながら、あれこれと商品を選ぶのに大わらわだった。
「テントや薪、調理道具と......一応松明も持っていくか」
「ご主人様が闇魔法属性というのは伺っておりましたが、収納魔法の容量は大丈夫なのでしょうか......」
一般的に闇系統が得意と言われるレベルでも、3m3程度を収められれば優秀と言われているが、今日買い込んだだけでも、すでに超えている。
「ああ、感覚でいえばまだかなり余裕があるな」
「剣だけじゃなくて、魔法もすごいんだねご主人は」
「闇魔法だけしか使えないけどな。考えてみろ、城の金庫にあった金貨・銀貨の半分が俺の収納の中に入ってるんだ。それでもまだ10分の1も埋まってない。馬車丸ごと入るぞ。馬はダメだが」
「馬車ごと......」
もはや得意とかいうレベルではない話に、オリガの持つ常識ではついていけない。
カーシャはあまり魔法に詳しくないせいか、「すごいね」の一言だが。
「そうだ、馬車を買おう。馬もだな。お前たち、馬は乗れるか?」
「アタシ、馭者はできるよ」
「私も、多少は操れますが......」
答える二人に、違うと一二三は首を振った。
「馬車じゃなくて、一人で馬に乗れるかという話だよ。馬車はちょっとしたお遊びに使うだけだから」
「お遊び......ですか?」
「ああ、お前たちに聞いた話から考えついた。ま、楽しみにしてるといい。それより馬だ。のんびり馬車で旅なんかしたくないし、荷物は気にしなくていいからな。みんなそれぞれ馬に乗って旅をしよう」
馬屋はどこかとスタスタ歩いていく一二三に追いすがりながら、カーシャは必死で止めた。
「ちょっとまってご主人、アタシもオリガも馬に乗ったことはないよ! それに馬車用の駄馬より人を乗せて走れる乗用馬の方がずっと高いんだよ?」
カーシャの言葉に、あからさまにがっかりする一二三。
「え~......じゃあ、明日から午前中は対人戦の稽古で、午後は乗馬の訓練な」
「ほ、本気で......」
絶句するカーシャの肩に手を置いた一二三は、稽古の時の厳しい目で言った。
「騎馬戦は戦の基本だ。矢が尽きて、馬が疲れて槍が折れ、刀が折れて無手(素手)になっても戦えるように、一通りの武芸を治めるのは当然だろう」
「戦? ご主人様は戦争を見据えて訓練をされてきたのですか?」
「ん......戦争に巻き込まれても大丈夫なように訓練をしたんだよ。お前たちも、何があっても自分を守れるように鍛えてやるよ」
そう言うと、一二三は収納から金貨を十枚ほど取り出すと、カーシャに渡した。
「こ、こんな大金どうするのさ!」
「食料品を買っておいてくれ。塩と砂糖は多めにな。全体で30日は三食楽に作れる程度の量で。腐る心配はしなくていいぞ、収納に放り込むから」
「ご主人様、ヴィシーの国境までは馬車でですが......」
「それに、そんな量はご主人しか運べないよ?」
「量は多めでいい。自分たちで食うだけが食料の使い方じゃない。荷物は宿に運んでもらうように多めに払えばいいだろう」
俺は馬と馬車を調達してくる、と一二三は二人から離れて言った。
向かう方に城が見えるのが、カーシャの不安を掻き立てる。
「さ、カーシャ。指示された買い物にいきましょう」
「オリガは不安じゃないの?」
「不安がないと言えば嘘になるけど、なんとなくだけど、悪いことにはならないと思うの。それに、今は信じてついて行くしかないでしょう?」
「それもそうだね......」
穏やかな雰囲気で紅茶を楽しんでいる騎士たちは、詰所のドアが音もなく開いたことに全く気付かなかった。
「よお」
「ぶほっ! ......ゲホッゲホッ......」
急に目の前に座った一二三を見て、パジョーは紅茶を盛大に吹き出した。
「......きたねぇな」
「驚かせる方が悪いと思うんだけど? まったく、レディになんてことさせるのよ......」
むせて涙目のパジョーは、ささっと汚れたテーブルを拭いて、澄ました顔で座り直した。
「貴方に敵対心を持った派閥もあるから、できればこちらには来て欲しくなかったのだけれど」
「敵対するなら始末するだけだから、大丈夫だ」
それは大丈夫とは言わないと、ため息をついたパジョーは、詰所で騎士たちの世話をする侍女に紅茶を二つ持ってくるように言うと、中身がほとんど無くなったティーカップを脇へ寄せた。他の騎士たちは、遠巻きに聞いている。
「で、突然訪ねてきたのは何の用?」
「馬と馬車。お前が持ってきた依頼の件で、国が用意するという話だったろう? 馬は乗用馬を三頭欲しい。自分の目で選ぼうと思って、ここに来た」
「......馬車はいらないの?」
「いや、基本は馬に乗って行くが、何度かは普通の馬車のように使うから。二頭引きの幌付き馬車を用意してくれ」
パジョーが理解できないという顔をしているのに、一二三はにやりと口の端を釣り上げる。
すっと目の前に置かれた紅茶に口を湿らせ、一二三は語る。
「ちょっとした仕掛けをしてやろうと思ってな。例の侯爵の派閥の子爵、なんつったかな?」
「ハーゲンティ子爵よ」
侯爵と子爵のつながりは、“社交界の公然の秘密”というもので、裏では何かしらの取引があるのかもしれないが、表立ってつながりは見られない。その為、ラグライン侯爵捕縛後もハーゲンティ子爵は罪には問われていない。
ハーゲンティ子爵はヴィシーとの国境近くの領地を治める血筋で、武張った所は無いが、抜け目のない男だと言われている。
「例の事件が起きた街の名は?」
「フォカロルの街。ヴィシーへ行く途中に寄ることになると思うけど......一体何をするつもり?」
「まあ、お楽しみは取っておくもんだ」
眉をひそめて聞いてくるパジョーに、一二三は答えない。
「......疑問は尽きないけれど、希望はわかった。馬車は出発までに手配して、宿の停車場に用意しておく。馬場は別の場所だから、今から案内ということでいいかしら?」
「頼む」
一二三の返事を受けて立ち上がったパジョーに、脇から声をかけてきたのは、騎士隊の鎧を着た偉丈夫だった。
「こいつが例の敵対禁止令が出ている王女様のお気に入りか?」
「ゴデスラス。何の用かしら?」
「お前には用はねーよ。そこの小僧に用がある」
身長は180cm程ながら、鍛え上げた筋肉が鎧を着ていてもはっきりわかる。ヒゲをたくわえた顔にニタニタとした笑いを貼り付けて、一二三を無遠慮に睨みつけてくる。
「待ちなさい。自分で言っていたでしょう? イメラリア様から指示が出ていると」
「敵対はしねーよ。ちょっとどんな奴か見に来ただけだ、こんなヒョロいガキに何の価値があるってんだ? お前ら第三騎士隊は弱い奴らの集まりだから、こんな奴でも強く見えるんだろ?」
あからさまな侮蔑に、パジョーは第三騎士隊への侮辱よりも、一二三が個人ではなく騎士隊そのもの、ひいてはこの国を敵と見なす可能性えの恐怖の方が先に立つ。
詰所内にいた騎士たちも、さらに距離を置いて状況を見守っている。その表情は緊張していて、武器に手をかけるかどうか迷っていた。
第二騎士隊は治安維持隊兵士の上位に置かれている部隊で、城詰めが基本の第一騎士隊や諜報が基本でどこにでも一定数配備される第三騎士隊と違い、現場一辺倒になる。どちらかと血の気の多い人間が多く、ゴデスラスもその部類だ。
しかも、城や文官系の貴族よりも武官・現場寄りな事が悪い方に影響する者も多く、強さや功績と関係なく特別扱いされる者を嫌う傾向があった。
「......見た目でしか判断できない無能が、囀ったところで何の役に立つんだ。こんな無能を飼い殺しにできるほど、この国の財政は余裕があるのか?」
一二三の質問は、ゴデスラスを無視してパジョーに向けられた。
ちなみに、オーソングランデの財務状況は、宰相が駆け回って国家の資産を整理し、いくつかの美術品を売りさばいて、なんとか一息ついたというところだったりする。
「無能だと? ガキが特別扱いされて増長しやがって。王女様のお気に......」
ゴデスラスの言葉は最後まで続かず、不意に膝をついて首を振っている。
「この程度の攻撃も避けられない。何をされたかもわからない。弱すぎるし頭が悪すぎる」
掌底打ちで顎を横から叩いただけだが、軽い一発でも目眩を起こして立っていられない程度には効いている。
何が起きたかわからない他の騎士たちは、すっかり狼狽して何もできずにいる。
「行くぞ、パジョー」
「え、ええ......」
「待て!」
背を向けた一二三に向かって、よろよろと立ち上がったゴデスラスが、ずるずると覚束無い手つきで剣を抜いた。
「パジョー」
「は、はい!」
「あいつ、剣を抜いたぞ? お前たちはどうする?」
一瞬混乱したパジョーだったが、これは一二三の助け舟だと判断。すぐに周りに居る騎士を見回して叫んだ。
「全員抜剣!」
そういう訓練もしているのだろう。パジョーの声を聞いた全員が、剣を抜いて構えた。
「そうだパジョー。俺たち騎士が舐められたままにしてちゃいけねー。こいつにはしっかり立場の違いを教えてやらねーとな」
ニヤリと笑ったゴデスラスだが、パジョーは彼の思惑と真逆の命令を下す。
「全員、ゴデスラスを包囲しなさい! 彼をイメラリア様からの命令違反により捕縛します!」
「なにー!?」
ようやく目眩から立ち直ったのか、目を見開いて周りの騎士を睨みつけるゴデスラスだが、すでに周囲はぐるりと囲まれているとわかると、パジョーを射殺すような目で睨んだ。
「裏切り者め!」
「裏切り者は貴方よ、ゴデスラス。身勝手な判断で王族の指示を無視する者は騎士隊にふさわしくありません。大人しく武器を捨てて縛につきなさい」
歯を食いしばって怒りに震えていたゴデスラスが、パジョーではなく一二三を睨むと、遮二無二襲いかかってきた。
「ゴデスラス!」
「こいつが何だって言うんだ!」
パジョーの制止を振り切った一撃は、一二三の目の前を素通りして床を叩いた。
「あ? なんで当たらん!」
一二三は踏み込むように見せて身体を引いたのだ。そのためゴデスラスは距離感を狂わされて、斬りつけたはず軌道が空ぶった。
足元にある剣を踏みつけ、一二三は握りこんだ寸鉄で筋肉の薄い肘の内側を突いた。
たまらず剣を落とし、腕を押さえるゴデスラスのこめかみにまた寸鉄を打ち込む。
白目を向いて倒れたゴデスラスを、騎士たちは素早く縄で縛り上げた。
「......始末はそっちに任せる」
「感謝します」
寸鉄を懐へ戻した一二三の言葉に、パジョーは優雅に頭を下げた。
「ああ、それと......」
「はい」
頭を下げたまま、パジョーは何を言われるのかと戦々恐々だった。もし怒りをぶつけられるなら、イメラリアへ向かう前に自分が押しとどめなければと、自らを叱咤する。
「俺の奴隷のオリガとカーシャに、明日から馬の乗り方を教えてやってくれ」
「はぁ......い、いえ、喜んでご指導させていただきます」
「快諾してもらえてよかった。あいつら結構頑丈だから、多少無茶してもいいか間の間に、騎乗で旅が出来る程度に仕上げてくれ」
これも仕事のうちかと思いつつ、パジョーは安堵に肩を落とした。
それから七日間の間、オリガとカーシャにとっては非常に厳しい日々だった。午前中は一二三から人間の骨格から筋肉の付き方をレクチャーされつつ実践で痛めつけられ、午後はパジョーからの馬術指導で股が痛くなるほど馬に乗ることになった。
特にパジョーの気合の入り方が尋常ではなく、七日間の期限になんとしても間に合わせるべく、騎士訓練所で1ヶ月かける訓練メニューを、馬を変えながら強行した。
午後がまるまる空き時間になった一二三は、あれこれと買い物をしたり、トルンに新たな武器を依頼して過ごしていた。
「道具も食料もいい。馬も選んだし......あ、そうだ」
荷物の確認をしながら街を歩く一二三は、不意に立ち止まって振り返り、一人の若い男に声をかけた。
「なあ、パジョーかミダスに伝言を頼みたいんだけど」
「うぇ!? な、なんで......」
「騎士の歩き方の癖はすぐわかるぞ。行軍訓練をしっかりやるのは良い事だが、偽装に響くようならもうちょっと考えたほうがいいだろうな」
泣き笑いのような顔をしながら、若い騎士はミダスから「どうせバレてるから気楽にやれ」と言われたのを思い出していた。
「わかりました。何を伝えればよろしいんですか?」
「金は払うから、用意してもらいたいものがある」
騎士は懐から羊皮紙を取り出すと、炭のかけらを布で包んだ筆記具で聞き取りの用意をしている。
「アクアサファイアを一つ。多く出回っているサイズのものがいい。正式に国の認可を得て俺が買ったという証明も付けてな」
「なんでそんなもの......」
「相手を騙すことで利益を得た奴は、一度成功したやり口に固執するものさ」
だから、考えるのをやめた奴からダメになるんだ。と一二三は城の方を見た。 | Hifumi doesn’t sympathize with Origa and Kasha’s feelings. Regardless he bought the stuff they needed for the trip one after another without, just putting it into the Dark Hole storage as he went onto the next shop. Origa and Kasha seemed to have been in a bad mood, answering Hifumi’s question about traveling in this world in rapid succession, while busily choosing different merchandise.magic
“Tent, firewood, cooking utensils and......maybe a torch just in case.”
“Master, I have a question about your Dark Hole storage, does it have enough capacity......”
Generally, one is said to have a good level in the darkness system if one’s storage space is m, though that level has already been exceeded.
「 Aa, there’s still a considerable amount of space, if I sensed it correctly. 」
「 Not just the sword, master is amazing at magic as well. 」
「 I can use only Dark magic. Come to think of it, half of the castle’s treasury is in my storage. Even so, not even /th is filled. The entire carriage will fit, but the horse is no good. 」
「 Entire carriage..... 」
Already unable to take pride in her level, Origa’s common sense no longer mattered.
Kasha, not knowing the details, simply commented 「 Amazing 」.
「 Well then, let’s buy the carriage and horses. You two, can you ride horses? 」
「 I can drive a carriage. 」
「 Me too, I can handle it a little bit...... 」
Answering the two, Hifumi shook his head.
「 Not a carriage, I’m talking about riding a horse. The carriage can only be used to play for a while. 」
「 To play........? 」
「 Aa, I thought of it after listening to your story. Well, look forward to it. Leaving that aside, horses it is then. I don’t want a leisurely trip by carriage, worrying about the luggage. Everyone will make the trip on horseback. 」
While they were walking towards the stables, Kasha frantically stopped Hifumi.
「 Wait a minute master, neither Origa nor I have ridden a horse before! Moreover, wouldn’t it be more expensive in the long run to have to change horses at intervals? 」
Hifumi was clearly disappointed at Kasha’s words.
「 Eh~...... Well then, after the tomorrow morning’s fighting practice, the afternoon will consist of horse riding practice. 」
「 S-Seriously..... 」
Hifumi looked sternly at the speechless Kasha.
「 It is the basics of cavalry battles. Once arrows are spent, horses are tired, spears snap, swords break, you are left empty-handed. Subduing martial arts is a matter of course. 」
「 Battle? Has master been training in order to see battle? 」
「 Nn..... train so that if caught up in a war, you have the ability to protect yourselves, no matter what happens.」
Saying so, Hifumi took out gold coins from the Dark Hole and passed them to Kasha.
「 Wh-What do I do with so much money! 」
「 Buy groceries. Also get somewhat large quantities of salt and sugar. Enough to last for 0 days with three meals a day. Don’t worry about it rotting, I’ll be putting it in storage. 」
「 Master, even with a carriage, it is 5 days to the Vichy border.... 」
「 Moreover, can master carry such an amount? 」
「 The quantity is large. The food is not just for eating. Getting someone to carry the luggage to the inn will also cost money. 」
Saying he would get the horses and carriage, Hifumi separated from the two.
Facing the castle, Kasha felt somewhat anxious.
「 Kasha, let’s go and buy the required goods. 」
「 Isn’t Origa uneasy? 」
「 I’d be lying if I said I wasn’t uneasy, but somehow I feel that it’s not that bad. Moreover, I have faith in him and can do nothing but follow for now. 」
「 Is that so... 」
The Knights were enjoying their tea and did not notice the station door opening soundlessly.
「 Yo. 」
「 Buho !.....Geho, geho.... 」
Seeing Hifumi suddenly sit down in front of her eyes, Pajou performed a magnificent spit take.
「 ......You came here.」(Pajou)
「 Is it that astonishing? Really, for a lady to do something like this...... 」
Quickly cleaning the table dirtied by her choking, the teary-eyed Pajou regained her composure while sitting back down.
「 Since there are factions that are hostile to you, I did not want you to come here. 」
「 I only remove those who get in my way, so it’s fine. 」
Hearing him say it’s fine, Pajou sighed, telling the lady attendant of the station to bring two cups of tea, since the contents of her own cup was gone. The other Knights listened at a distance.
「 So, why the sudden visit? 」
「 Horses and a carriage. Regarding the request you brought, regarding the country making the preparations? Three horses, I’d like to choose them. 」
「 ......Is the carriage unnecessary? 」
「 No, though we will be primarily riding the horses, we’ll use the carriage occasionally. Prepare a carriage with a canopy, drawn by two horses. 」
Seeing Pajou’s dumbfounded face, Hifumi smirked, the corners of his mouth rising slightly.
Wetting his throat with the tea, Hifumi spoke.
「 Though trifling, for example, the Viscount in the Marquis’ faction, what about him? 」
「 Viscount Hagenti. 」
The relationship between the Viscount and Marquis was said to be an “Open secret of High society”, though there were some business dealings, there was no public connection. Therefore, after Marquis Raghlain was arrested, Viscount Hagenti was not charged with any crimes.
Viscount Hagenti governs the territory near Vichy, though his martial prowess is nonexistent, he was said to be shrewd man.
「What is the name of the town where the incident happened?」
「The town of Fukaroru. It’s halfway to Vinchy...... What do you intend to do there?」
「Maa, I just want to play around and have some fun」
「Pajou scowled when Hifumi didn’t answer her directly 」
「...... I doubt that’s the end of it, however, I understand your request. I will make preparations for the carriage. It will be placed in the inn’s depot. Since the horse track is at a different location, do you want me to guide you there?」
「Please do」
Pajou stood up at Hifumi’s answer, a big guy near her side wearing an armor of the Knights Corps called out to her.
「Is that the guy that the announcement said we’re forbidden from antagonizing? The one favored by the princess?」
「What do you want Gothras?」
「I don’t have any business with you. I do have business with that kid」
His height is around 180cm, even with the armor you can see the trained muscles. Having a beard on his face, he was grinning while glaring at Hifumi.
「Wait. Do you have anything to say to him? Imeria-sama instructed us not to do so」
「I’m not going to be hostile. I just want to see a little bit what kind of guy he is. What’s so good about a gangly brat like him? This will make Third Knight Corps lose face, does he look that strong to you? 」
Blatantly insulting, for Pajou it was an insult to the Third Knight Corps, not to Hifumi personally but to the Knight Corps itself. An act that can potentially make you a traitor to this country.
As for the other Knights who were inside the station, they were keeping their distance and watching the situation. They all look tense, contemplating whether or not to pull out their weapons
The Second Knight Corps is an elite military unit who deals with maintaining security and public order. The First Knight Corps stationed in the castle are also an intelligence unit, but are deployed anywhere, unlike the Third Knights Corps. They’re all dedicated to their jobs and many of them are hot-headed, Gothras included.
Besides, the Nobles in the Castle, the civil service employees and the military officers tend to dislike anyone given special treatment regardless of strength and or achievements.
「......Such an incompetent person judging by their appearance, you’d be more useful singing. Is there enough money in the kingdom’s budget to be able to employ such an incompetent man? 」
Hifumi’s question was directed towards Pajou, completely ignoring Gothras.
By the way, regarding the financial situation of Orson Grande, the prime minister has taken control of the national assets and a few works of art were sold.
「Incompetent you say? This brat got arrogant from having a preferential treatment. Princess’ pet...... 」
Gothras wasn’t able to finish his sentence as he fell down in one knee while shaking his head.
「You can’t even avoid an attack of this level. You might not even understand it. You’re weak and stupid.」
A light blow of striking under the chin with a thrust of the palm is enough to make someone dizzy and unable to stand.
The other knights didn’t understand what just happened, they’re completely confused and don’t know what to do.
「Let’s go Pajou」
「Wha, What......」
「Wait!!」
Facing Hifumi who turned around, Gothras stood up unsteadily while drawing his sword out with his shaky hands
「Pajou」
「Ye- Yes!」
「Did that guy pull out a sword? What would you do?」
Pajou was momentarily confused, but she realised that it was Hifumi’s timely assist. She shouted out to all the surrounding knights.
「Everyone, draw you sword!」
It seems they are trained properly. Everyone who heard Pajou’s voice pulled out their sword and took a stance.
「That’s right Pajou. Us knights must not be underestimated.We have to teach this guy the difference in our positions」
Gothras grinned but, Pajou gave an order that is opposite of what he expected.
「Everyone, surround Gothras! Arrest him in violation of the order given by Imeraria-sama」
「What!?」
Barely recovered from his dizziness, Gothras opened his eye wide and glared at the nearby knights but it’s already too late as he was already surrounded, He stared at Pajou with killing intent.
「You traitor!」
「It’s you who is the traitor, Gothras. Those who defy the order from the royal family for selfish reasons are not suitable to be Knights. Obediently drop your weapon and let your hands be tied down.」
Clenching his teeth as he trembles in anger towards Hifumi rather than Pajou, Gothras recklessly attacked.
「Gothras!」
「What did you say bastard!」
He was able to shake free from Pajou’s restraint in one blow, went passed by Hifumi’s front but was knocked down to the floor.
「Ah? What are you doing!」
Hifumi visibly trampled on the body as he went down. This messed up Gothras sense of distance, he slashed towards him hitting nothing but empty air.
Hifumi stepped on the sword, grasped a small blade and thrust it to into Gothras’ elbow pit, through the thin muscle.
With his arm incapacitated he dropped the sword, then the pommel of the small blade was driven through Gothras’ forehead.
Gothra’s eyes turned white as he fell down, the Knights tied him up immediately
「......I entrust the cleanup to you」
「You have our gratitude」
Pajou bowed down elegantly at Hifumi’s remark while he returned the small blade to his breast pocket
「Aa, and so...... 」
「Yes」
While still bowing down, Pajou was nervous at what he was going to say. If he is going to vent his anger, she can’t stop him from meeting Imeraria to personally scold her.
「Please teach my slaves, Origa and Kasha, how to ride a horse tomorrow 」
「Waa~...... a, um, it’s my pleasure to instruct them 」
「It’s good that you willingly assent. Because those girls are quite strong, you might as well be strict to them for a week」
Thinking that it was all about work, Pajou dropped her shoulders in relief.
Then during these seven days, it is very harsh for Origa and Kasha. During morning, Hifumi lectures them on the on how muscles are connected to the human skeletal system, while tormenting them during practice.
Particularly, Pajou’s fighting spirit was unusual. While constantly changing horses, she was able to force the knights horse riding training course (which usually takes 30 days) onto them in only 7 days.
Thus, the afternoons became completely free time for Hifumi, so he went shopping, and requested new weapons from Thorn.
「Tools and food are ok. Now to select a horse...... Ah, I know」
Hifumi walks around town while confirming the contents of their luggage, he suddenly stopped and turned around, he called out a young man.
「Hey, I want you to relay a message to Pajou or Midas」
「Eh!? How, how did you...... 」
「I immediately knew based on how the Knights walk. It’s good for me if you’re trained in marching, but you have to think about it a little more if you want to blend in」
While wearing the expression of smiling while crying, the young knight remembered what Midas said to him 「If you are exposed, be at ease」
「I understand. What is it that I need to relay?」
「Since I was already paid, there is something I want you to prepare 」
The knight took out a piece of parchment from his breast pocket, prepared his writing materials, which were pieces of charcoal wrapped in cloth, and got ready to write.
「One Aqua Sapphire. Many have appeared on the market so the size must be excellent. Certificate of Purchase under my name with Authorization Letter from the Kingdom 」
「Why these things......」
「The person who profited by swindling the partner, he’s quite the one trick pony」
That’s why those who stop thinking are useless. Hifumi looked towards the castle. |
{
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} | 「痛い、痛い!」
鞭の痛みに台車の上で転げまわるサブナクを無視して、イメラリアは近くにアリッサを呼び寄せた。
「なに?」
「もはや丁寧な言葉づかいを覚える気はないようですね......まあ、いいでしょから、何か聞いていますか?」
「なんにも」
ぶんぶんと首を横に振るアリッサ。
クゼム誘拐の際に置いてけぼりにされて、帰されてきただけらしい。
「......では、様は何をされたいのでしょう?」
「それはハッキリ言ってたよね。命がけで攻略する場所を用意したから、頑張れってことでしょ?」
何を言っているのか、と首をかしげるアリッサに、鞭がU字になるほど握りしめたイメラリアは、椅子に座りなおした。
「質問を変えましょう。あの城の中はどうなっていると思われますか?」
「さあ。行けばわかると思うけど......誰か斥候に出そうか?」
イメラリアが、近くにいるネルガルに視線を送ると、ため息交じりに首をふるネルガルの姿が見えた。
「......お願いします」
本来であれば、ホーラント側で斥候するべきだろうが、そういう技能を持った者は、現状フォカロルにしかいない。
オリガがいればエコーロケーションで調査することもできたかも知れないが、そのような特殊な魔法はオリガ以外に使い手は存在しない。
「二人ついてきて!」
台車から飛び降りたアリッサが、早い者勝ちとばかりに飛んできた兵士二人を連れ、さっと城の正面から姿を消した。別の場所から監視でもするつもりらしい。
「さすがに行動が早いですね」
感心するネルガルに対し、イメラリアは頭を抱えた。
「優秀なのは良いのですけれどね......必ずしも味方であるとは限らないというのが......」
ネルガルは呻くだけで答えられず、再び城を見上げた。
相変わらずクゼムがつるされているが、もう叫ぶ元気は残っていないようだ。うなだれるように首をがっくりと下げている。
「アリッサさんが戻るまでに、打ち合わせをいたしましょう。ここはホーラントなのです。ネルガル様はどのようにお考えなのですか?」
サブナクがよろよろと立ち上がるのを確認したイメラリアは、ネルガルを見つめて問う。
ネルガルは息を飲んだ。それは表面だけを見れば“現状”についての質問に聞こえるかも知れないが、彼の耳には“国”としての立場を明確にせよ、という質問に聞こえたからだ。
(なんという事を考えるのか......)
ひょっとすると穿った見方かも知れないが、ネルガルは拭いきれない緊張感を覚えていた。
イメラリアは、ホーラントの問題に介入しているオーソングランデを、どのように扱うつもりかと問うている、とネルガルは確信していた。
迷いを隠すこともできず、しばらく考え込んだネルガルは、はっきりと言った。
「引き続き、貴国のご協力をお願いいたします。私が戴冠したのちに、必ずお礼をさせていただきます。......私は今の時点で、女王陛下と同格にお話しする権限を持っておりません。全ては陛下の御心のままに」
「聞きましたね、サブナク」
「はい、陛下」
恭しく頭を下げるサブナクに、イメラリアは平坦な声で指示を出した。
「投槍器と、可能な限り遠距離攻撃の得意な兵士を。フォカロルの手を借りても構いません。......あのクゼムとか言う男は邪魔です。始末いたしましょう」
ネルガルは何かを言いかけたが、ぐっと飲み込んだ。
☺☻☺
「お城の門の向こうには、兵士を入れていたあの箱があったよ。建物の中まではわかんなかった」
投槍器の用意ができたあたりで、アリッサたちが戻ってきた。
城内の兵士たちが逃げ出してきたあと、開いたままの城門から踏み込むと、方法はわからないが不死兵が箱から飛び出してくるのでは無いだろうか。
「一二三様やオリガさん、兎獣人さんの居場所はわかりますか?」
「ぜんぜん。建物の見えるところにはいなかったよ」
「なるほど、わかりました」
すっと立ち上がり、イメラリアはアリッサの肩に右手を置く。
「今から、わたくしとアリッサさんの指示で、この場を解決しなければなりません。それができれば、一二三様も多少は大人しくなるでしょう」
「多分、そうだろうね」
アリッサは内心、終わりじゃないだろうけど、と付け加えた。
「じゃあ、みんなで突撃してお城を制圧する?」
「ええ。そのように見せることはいたします」
良くわからない、という様子のアリッサに、イメラリアは大丈夫、と呟いた。
「お城にはある物が必ずあります。幸いにも、この城について知っている人もこちらにいます。......何も、一二三様の狙い通りに動いて差し上げる必要もありませんから」
内容の説明は済んでいるらしく、ネルガルもサブナクも、口をはさむことはしない。
「アリッサさん。案内役にネルガル様とホーラント兵を二人、それと立会人としてわたくし。わたくしの護衛としてサブナクさんとヴァイヤーさん。こを連れて城へ潜入いたします」
「一二三さんに見つかるんじゃない?」
フフッ、とイメラリアは笑う。
「一二三様がわたくしたちを見つけたところで、手出しはして来ないでしょう。元より、あの方自身が手を出すことはしないはずです。そんなことをすれば、あっという間に一二三様の勝ちで終わってしまいますもの」
同様に、オリガも直接の手出しをしてくるとは考えにくい、とイメラリアは推察する。試練の準備は終えており、それをイメラリアとアリッサがどのように対処するかを見ているはず。
「作戦を説明いたします」
イメラリアは、今度こそ一二三を驚かせてやる、と息巻いていた。
城での騒動が始まったあたりで、タンニーンは密かに首都へと戻ってきていた。
「やれやれ、あっという間にここまで押し込まれたか。逃げて正解だったね、こりゃ」
町の入口近くで馬を隠し、人目を避けるように城の近くにある自らの邸宅へと近づく。
本来であれば貴族の邸宅が多いエリアには多くの兵士が巡回しているのだが、城の騒動の影響で、近隣の住人を遠ざけるために動員されているらしい。
「使用人も逃げたか......都合がいいっちゃあいいんだけどね」
荷物を自分でまとめるのが面倒だな、と考えながら、正面ではなく裏口から入る。
「......誰もいないか」
「タンニーン様」
「うわっ!?」
不意に声をかけられ、タンニーンは飛び跳ねて声から離れた。
「あ、き、君は......レヴィじゃないか」
「驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
タンニーンに話かけたのは、城内で彼に口説かれていた侍女だった。
城にいた時と同じ使用人服を着たまま、どこから入ったのか建物の奥からしずしずと歩いてくる。
「お待ちしておりました。ご無事でお帰りになられましたこと、うれしく思います」
「あ、ああ。ありがとう。それはいいんだが、どうしてここに?」
「使用人は全員お城から退去するように命じられまして......。私も明日までは城に立ち入ることを禁じられてしまいました」
しゅん、と視線を落とすレヴィに、タンニーンはいつも通り小さく壊れそうで、華奢な印象を受ける。だが、それ以外に何か引っかかるものがあった。
「よくここへ入れたね」
「はい。事情をお話ししたところ、入れていただけました」
「事情?」
レヴィは笑顔で語る。
「タンニーン様に貰っていただくお話になっておりましたので、その事を......」
「そ、それは......」
タンニーンとしては、体の良い愛人を一人捕まえた程度の感覚でしかなかったのだが、レヴィにとっては嫁として望まれたと理解していた。
むしろ、タンニーンはそう誤解させることで女性を手に入れてきたという悪癖があり、彼女もまた騙された一人に過ぎないのだが。
「でも、ひどいんですよ。留守をされていた使用人の女性の方が、私を“騙されたかわいそうな子”なんて言うし」
レヴィの笑顔は崩れない。いや、笑い声は大きくなる。
「違いますよね? 私のためにお家まで用意していただくお話まであったんですから。それで、このお屋敷の荷物を先にある程度まとめておくのにいい機会だと思って、来たんですけれど」
まさか家まで来られると思っていなかったタンニーンは、レヴィの両肩に手を置いて、顔を近くに寄せた。
「いいかい。まだ俺たちの仲はそこまで進んでいなかったじゃないか。もっとゆっくり......」
「そんな! 戦いが終わったら、迎えに来てくれるんじゃなかったんですか?」
「戦いはまだ終わってないよ。だから、城から出るように言われたんだろう?」
「では、なぜタンニーン様はここへ?」
逃げてきた、と言うわけにはいかないタンニーンは口ごもった。
「えっと......ほら、あれだ。城にはあの一二三とかいう悪い奴がいるだろう? あいつは人気がある俺の事を嫌っているんだ。だから、俺は念のためここで待機することになったのさ」
自分でも苦しい言い訳だと感じながら、口からこぼれるままに話す。
実際は、嫌っているのはタンニーンが一二三を、であって、一二三からしてみれば顔も覚えていない程度の扱いでしかない。
「そうなのですか......」
「ああ、まったく嘆かわしいことだけれど、この戦いが終わるまでは油断ができない。せめて、彼が城から出ていけば、多少はマシになるし、大手を振って君を迎え入れることができるだろう」
うまい具合に信じてくれそうな反応を示したレヴィに、タンニーンは畳みかけるように話すと、レヴィの唇にキスを落とす。
「かわいそうなレヴィ。でも、もう少しだけ我慢してくれないか? 彼が卑劣にもここを目指してくるかもしれないからね。君はしばらく身を隠しておいて欲しい。君のその美しい顔、素晴らしい身体に傷をつけないためにも」
「タンニーン様......私のためにそこまで......」
うっとりとする表情を見て、タンニーンは取り合えずの危機は去ったと判断した。
「では、当座の資金をあげよう」
手持ちの金貨を一枚、レヴィの白く小さな手に握らせ、その上から両手でしっかりと包み込む。
「周りが落ち着いたら、また城で会おう。その時は、君から熱い接吻をもらえたら最高だ」
再びキスをして、レヴィの肩を抱いたタンニーンは、自分が入ってきた裏口へと誘導し、そこで別れた。
軽い足取りで去っていくレヴィを見送り、屋敷の中に入ったタンニーンは、エントランスの光景を見て愕然とした。
「どういう、ことだ......?」
腹から血を流し、苦悶の表情でこと切れている古参の侍女が倒れていた。
「籠城戦となれば、本当なら門を閉めて石や煮えた油を上からかぶせたりするのがセオリーだな」
一二三とオリガ、そしてヴィーネはホーラント城内にいた使用人たちを追い出し、ガアプに指示をだし、すべての兵たちを使って敵を迎え撃つ準備をさせた。
イメラリアが予想した通り、一二三にとってはあくまで“試験”なので、本気で籠城戦をするつもりはない。だが、油断すれば死ぬだろう程度のトラップは仕掛けた。
イメラリアたちに宣言をした一二三は、ガアプを伴って食堂でのんびりと食事をすることにした。
今は、城にある食材を使ってオリガとヴィーネが調理場で腕を振るっているのを、今か今かと待っている。
「煮えた油、ですか......」
「液体の利点は、どんな鎧や服でも隙間から入りこむことだ。まともな神経をしていれば、痛みで立っていられないだろう。たとえ飲み込んでも即死はしないから、悶絶して狂い死ぬか、後遺症を抱えて生きることになる」
もっとも、死にさえしなければ、金さえあれば回復する機会はあるのがこの世界だが、と一二三は笑いながら紅茶のカップを傾けた。
青い顔をして聞いているガアプも、その利点は理解しながらも、自分がそれを実行したり命令するのは怖くてできそうもなかった。
「城に入られた場合は、隠し部屋から奇襲をしたり......そうだな、魔人族の城でやられたことがあるが、天井を落とすってやり方もある」
「天井を、ですか?」
「仕掛けまでは良くわからんが、俺のいたところでも同じような罠はあったぞ。部屋の中に誘い込み、その部屋の石造りの天井を落とす。うまく逃げ場を塞げば、敵はまとめてぺちゃんこだ」
ぺち、と天井に見立てた手のひらをテーブルに当てる。
「え。あの......やられた、とは?」
「その罠にひっかかった。まさかそんな仕組みを作ってるとは考えてなかったからな。あの時は楽しかった」
魔人族の王が強かったことや、魔人族の中には色々考えている奴がいた、と楽しげに話していると、料理を抱えたオリガとヴィーネがやってきた。
「お待たせいたしました」
「おう、ありがとうな」
一二三に礼を言われ、頬を赤らめたオリガを、ヴィーネは微笑ましいものを見る目で見つめた。
テーブルには何かの肉を焼いた物や、貝がごろごろ入ったスープ、山盛りのサラダに、チーズとバターを挟んで窯で温めなおしたパンが並べられ、良い匂いが広がる。
「さて、食うか」
一二三の両隣にオリガとヴィーネが座り、正面にガアプが座る。うらやましい気もするが、ガアプはどことなく二人の女性が持つ勢いに気後れしていた。
「それで、一二三さん。これからどうするのですか?」
「決まってる」
分厚い肉にフォークを刺し、したたる肉汁に嬉しそうな顔を見せた。
「準備は終わった。後はあいつらが苦労してどうにかするのを、高見の見物さ」
噛みしめた肉は、香辛料が程よく効いて、溶け出すような脂も甘く口の中に広がる。
「この肉いいな。帰りに貰って行こう」
それは困る、という言葉がガアプの喉まで出かかったが、パンと一緒に飲み込んだ。 | “Ouch, ouch!” (Sabnak)
Ignoring Sabnak who rolls around on top of the platform wagon due to the pain caused by the lash, Imeraria sent for the nearby Alyssa.
“What is it?” (Alyssa)
“It seems like you don’t have any longer intention to learn polite speech... well, I guess that’s fine. Have you heard anything from Hifumi-sama?” (Imeraria)
“No, nothing.” (Alyssa)
Alyssa shakes her head.
It appears that she was just left behind at the time of Kuzemu’s abduction and sent back here.
“... Then, what does Hifumi-sama want us to do?” (Imeraria)
“He explained that clearly, didn’t he? He told us to do our best since he prepared a location which we have to capture while risking our lives, right?” (Alyssa)
Due to Alyssa tilting her head and asking “What are you talking about?”, Imeraria, who grasped the lash tightly to a degree that it changed into the shape of the character U, corrected her sitting on the chair.
“Let me change the question. What do you think will happen inside that castle?” (Imeraria)
“Who knows. I think we will understand once we go there, but... let’s send someone as scout?” (Alyssa)
When Imeraria shifted her look to Nelgal who is nearby, she could see Nelgal shaking his head with a sigh mixed in.
“... Please, I leave it to you.” (Nelgal)
Originally it should probably be Horant’s side’s task to send scouts, but those, who possess such skills, currently don’t exist anywhere but Fokalore.
If Origa was here, it might have been possible to investigate with echolocation, but an user, who can use such particular magic except Origa, doesn’t exist.
“Two people, follow me!” (Alyssa)
Alyssa, who jumped off the platform wagon, took two soldiers, who jumped up as if it was first come, first served, along and quickly disappeared from in front of the castle. It seems that she plans to observe the castle from another platform wagon.
“As expected, she acts promptly.” (Nelgal)
Imeraria was greatly perplexed at Nelgal who admires Alyssa.
“Her excellence is nice, but... her not necessarily being our ally is not so advantageous...” (Imeraria)
Nelgal looked up at the castle once again while answering with nothing more but a groan.
Kuzemu is still hanging there just as before, but it seems that he has already no strength left to scream. As if hanging his head, his head is lowered in a crestfallen manner.
“Let’s have a preparatory meeting until Alyssa-san returns. This place is Horant. What kind of plans do you have, Nelgal-sama?” (Imeraria)
Imeraria, who confirmed that Sabnak stood up unsteadily on his feet, asks while staring at Nelgal.
Nelgal gulped. It might be called a question regarding “the current situation” if only examined superficially, but in his ears it sounded like a demand to clarify their standpoint as “nation.”
(What is she thinking about...?)
It might be a keen viewpoint, but Nelgal felt a tension he couldn’t erase.
Imeraria is asking how I plan to deal with Orsongrande which has intervened in Horant’s internal affairs
Unable to conceal his hesitation, Nelgal, who brooded over it for a short while, clearly stated,
“Please, let me continue the cooperation with your country. After my coronation, I will have the privilege to express my gratitude without fail. ... I don’t possess the authority to talk at equal rank with Your Majesty the Queen at the current point in time. All shall follow Your Majesty’s heart’s desires.” (Nelgal)
“You heard him, didn’t you, Sabnak?” (Imeraria)
“Yes, Your Majesty.” (Sabnak)
Imeraria gave instructions to Sabnak, who bowed his head respectfully, in a flat voice.
“Arrange for spear throwers and soldiers who are strong at long distance attacks. I don’t mind if you borrow Fokalore’s help either. That man called Kuzemu or such is a nuisance. Let’s get rid of him.” (Imeraria)
Nelgal attempted to say something, but gulped it down at once.
☺☻☺
“We found that box on the other side of the castle’s gate where the soldiers enter. We didn’t realize it until we got inside the building.”
Just when they were able to prepare the spear throwers, Alyssa’s group returned.
Though we don’t know how once we step through the castle gate, which is still open after the soldiers within the castle ran away, won’t immortal soldiers jump out from that box?
“Do you know the whereabouts of Hifumi-sama, Origa-san and rabbitwoman-san?” (Imeraria)
“Not at all. They were in a place where they can’t be seen inside the building.” (Alyssa)
“I see. Got it.” (Imeraria)
Imeraria stands up quietly and places her right hand on Alyssa’s shoulder.
“From now on it’s necessary to resolve this situation under mine and Alyssa’s orders. If we are able to do that, Hifumi-sama might become a bit more obedient as well.” (Imeraria)
“That might be the case.” (Alyssa)
Alyssa added
“Well, then will we gain control of the castle by having everyone charge?”
“Yes, we will show them something like that.” (Imeraria)
Due to Alyssa not understanding well, Imeraria muttered “it will be alright” to her.
“Without a doubt certain people are inside the castle. Fortunately there are people here who are knowledgeable about this castle, too. There’s absolutely no necessity for us to move according to Hifumi-sama’s plans either.” (Imeraria)
The explanation of the details seems to have finished. Neither Nelgal nor Sabnak are interrupting her speech.
“Alyssa-san, you will act as guide together with the two soldiers of Horant and Nelgal-sama and I will come along as observer. Sabnak-san and Vaiya-san will serve as my guards. We will infiltrate the castle with these six people.” (Imeraria)
“Won’t we be discovered by Hifumi-san?” (Alyssa)
Imeraria laughs with a “Fufu.”
“Even if we are discovered by Hifumi-sama, he probably won’t come to interfere with us. To begin with, that gentleman shouldn’t make a move. If he did something like that, it would end with Hifumi-sama’s victory in the blink of an eye.” (Imeraria)
“In the same way it’s hard to believe that Origa will come to meddle with us”, Imeraria guesses. After finishing the preparations of the ordeal, they are expected to watch how Imeraria and Alyssa deal with it.
“I will explain the strategy.” (Imeraria)
Imeraria got worked up and said “This time we will definitely cause Hifumi to be surprised.”
At the time when the uproar in the castle began, Tannin came back to the capital city in secret.
“Good grief, they rushed until this place in the twinkling of an eye, didn’t they? See, it was correct to run away.” (Tannin)
Hiding his horse close to the entrance of the city, he approaches his own mansion, which is located close to the castle, while making sure to avoid public attention.
Originally there are many soldiers patrolling the area with its many noble mansions, but influenced by the turmoil at the castle, they have apparently been mobilized to keep away the neighbourhood’s residents.
“The servants ran away, too...? Though that’s fine since it’s convenient.” (Tannin)
gathering the luggage by myself is troublesome
“... Is there no one here?” (Tannin)
“Uwaah!?” (Tannin)
Being suddenly greeted, Tannin released a jumpy voice.
“Ah, y-you are... Levi, aren’t you?” (Tannin)
“Excuse me for surprising you.” (Levi)
The one who spoke to him was the maid who was seduced by him inside the castle.
She wore the same clothes as the time when she was in the castle. While he wonders from where she entered, she slowly walks up to him from inside the building.magic
“I have awaited you. I feel happy that you came back safely.” (Levi)
“Ah, yea. Thank you. That’s great, but why are you here?” (Tannin)
“All the servants were ordered to evacuate from the castle... I’m also prohibited to enter the castle until tomorrow.” (Levi)
Due to Levi lowering her look, Tannin is struck by her usual impression of frailty that she might be easily broken. However, he noticed that there was something else besides that.
“You did well to come here.” (Tannin)
“Yes, I was able to come here after being told about the circumstances.” (Levi)
“Circumstances?” (Tannin)
Levi talks with a smile.
“Given that that there was talk about me being received by you, Tannin-sama, that matter is...” (Levi)
“T-That is...” (Tannin)
For Tannin it was no more than a feeling at the level of being caught by one of his lovers, if said diplomatically, but Levi understood it as him wishing her to be his wife.
Rather, it’s Tannin’s bad habit to obtain women by causing a misunderstanding like that. She is merely yet another one who was deceived by him.
“However, it’s cruel. I was called a “pitiful child who was tricked” by the female servant who was house-sitting.” (Levi)
Levi’s smile doesn’t falter. No, her laughter becomes louder.
“It’s different, isn’t it? There was even the talk of preparing a home for me. Thus, thinking that it’s a good opportunity to gather the luggage of this mansion to some extent, I came here.” (Levi)
Tannin, who by no means did expect her to be able to come to his home, placed his hands on both her shoulders and brought his face close.
“Listen, our relationship didn’t advance this far yet, did it? We will go at it much slower...” (Tannin)
“Such a! Didn’t you tell me that you would come to pick me up once the battle ended?” (Levi)
“The battle hasn’t ended yet. That’s why you were told to leave the castle, right?” (Tannin)
“Then, why are you here, Tannin-sama?” (Levi)
There was no way for Tannin to tell her that he ran away and thus he hesitated to speak.
“Umm... look, it’s that. There’s that bad guy called Hifumi or such in the castle, right? He hates me who draws the attention of others. Therefore it was decided that I will wait for orders here for caution’s sake.” (Tannin)
While even he feels that it’s a lame excuse, he talks as if it spills out from his mouth.
In reality it’s Tannin who hates Hifumi. From Hifumi’s point of view, Tannin’s level of treatment is that Hifumi can’t even remember his face.
“Really...?” (Levi)
“Yea, it’s a really deplorable matter, but I can’t be negligent until this battle ends. At least, once he leaves the castle, it will become a bit better. I will likely be able to welcome you with open arms.” (Tannin)
Tannin speaks to Levi, who showed a response of apparently believing his skilful persuasion, as if showering her with promises and presses a kiss on Levi’s lips.
“You poor Levi. Can’t you endure for just a bit longer? He might target this place here even if it’s cowardly. I’d like you to hide yourself for a little while. It’s also for the sake of your beautiful face and wonderful body not getting injured.” (Tannin)
“Tannin-sama... to go that far for me...” (Levi)
Seeing her entranced expression, Tannin judged that the immediate danger passed.
“I will give you some funds for the time being then.” (Tannin)
He slips one gold coin he has on hand into Levi’s white, small hand and firmly grasps her hand with both his hands.
“Let’s meet in the castle again once the surroundings settle down. It would be the greatest if I received a passionate kiss from you at that time.” (Tannin)
Tannin, who hugged Levi’s shoulder and kissed her once more, guided her to the back-door, which he used himself before, and bid her farewell there.
“See you soon.” (Tannin)
Seeing off Levi who leaves with a light stride, Tannin entered the mansion and became shocked after seeing the spectacle at the entrance.
“What’s this, about...?” (Tannin)
The senior maid, who has been cut, had collapsed with an expression of anguish and was bleeding from her abdomen.
“If it comes to a castle defence battle, it’s actually the theory to close the gates and pour boiling oil and stones from above.”
Hifumi, Origa and Viine chased out the servants, who were inside Horant’s castle, and gave the instruction to Gaap to prepare for attacking the enemy by using all of the soldiers.
Given that it was an “examination” to the bitter end for Hifumi, just as Imeraria expected, he has no intention to do a real castle defence battle. However, he prepared traps of the level that they will likely die if they are careless.
Hifumi, who did the proclamation to Imeraria and the others, decided to care-freely eat a meal in the dining hall while being accompanied by Gaap.
Currently Origa and Viine are displaying their talents in the kitchen while using the ingredients in the castle as Hifumi eagerly waits for his meal.
“Boiling oil, you say...?” (Gaap)
“The advantage of liquid is that it will enter any gap no matter what armour or clothes the attackers wear. If it directly hits the nerves, they will likely be unable to endure the pain. Since it won’t be an instant death even if they swallow it, for example, they will die after fainting in agony or going mad. Or they will survive while suffering after-effects.” (Hifumi)
“But then again, even if they don’t die, this world offers the chance to heal it as long as they have money”, Hifumi drank from the cup with black tea while smiling.
Even Gaap, who listens while having a pale face, understands the advantages of that. He himself didn’t seem to be capable of giving the order to actually implement that since it’s scary for him though.
“In case the enemy entered the castle, you can enact surprise attacks from hidden rooms or... ah, that’s right, it’s something that was done in the castle of the demons: there’s also the method of dropping the ceiling.” (Hifumi)
“The ceiling?” (Gaap)
“I don’t understand the mechanism too well, but there was a similar trap at the time I was there. Luring me into a room, they dropped the stone ceiling of that room. If you skilfully block the escape routes, the enemy will be crushed flat in one go.” (Hifumi)
He hits the table with his palm with a *clap* to imitate the ceiling.
“Eh? That... was done, you say?” (Gaap)
“I got caught in that trap. I never expected them to set up such a trick. That time was fun.” (Hifumi)
When he happily talked about the demons’ king being powerful and there being some among the demons who come up with various things, Origa and Viine turned up while carrying the dishes.
“Sorry for having kept you waiting.” (Origa)
“Yea, thank you.” (Hifumi)
Viine stared at Origa, who blushed after being thanked by Hifumi, with pleasant eyes.
Dishes with some grilled meat, a soup with shellfish all over, a pile of salad and bread, which was heated in an oven, with cheese and butter in-between are lined up on the table and a nice aroma spreads.
“Well then, let’s eat?”
Origa and Viine sit down on both sides of Hifumi. Gaap sits in front of Hifumi. Gaap felt envious, but he was somewhat nervous due to the force emitted by the two women.
“So, Hifumi-san, what will we do from now on?”
“It’s decided.” (Hifumi)
Stabbing the thick meat with a fork, he looked delightful due to the overflowing meat juice.
“The preparations are finished. The rest is them being troubled one way or the other while we watch as unconcerned spectators.” (Hifumi)
The spices influence the meat, he chewed, nicely and the deliciousness of the fat, which seems to start melting, spreads inside his mouth.
“This meat is great. Let’s take some for our return home.” (Hifumi)
“That will be troublesome”, those words were on the tip of Gaap’s tongue, but he swallowed them down together with the bread. |
{
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} | 「どうしようかねぇ......」
小さな声で呟いたザンガーは、方法はともかく死ぬつもりではあったので、自分がどうなろうとあまり気にはしていないが、追放を宣言されたプーセの方は憔悴しきっているようだった。
ラボラスが出て行ってしばらくたち、室内からは見張りがいなくなったが、家の外にはいるだろう。
そっと背中を撫でているうちに、プーセは泣き疲れて眠ってしまった。
頬を腫らしたまま眠る顔を見て、ザンガーは自分が治癒魔法が得意であれば良かったのに、と自分の無力さに呆れていた。
「本当に、名ばかりの指導者とはこのことだねぇ」
ラボラスが出ていったドアを見る。
間も無く、完全に夜が明ける。
遠くで、何かがぶつかる音や、悲鳴が聞こえてくる。
「やってるね......。あの人間は、大丈夫だろうかね?」
そう言えば、彼の名前を聞いていなかった、とザンガーは笑った。どれだけ、自分が変質して死んでしまうことを恐れていたのか。
「ん......んぅ?」
「起きたかい。悪いけれど、傷の治療は自分でやってもらえるかい?」
涙の跡も痛々しいプーセは、無言で頷き、腫れ上がった頬に向けて治癒魔法をかけた。
ゆっくりと腫れがひき、本来の細い顎と白い肌を取り戻したあとも、プーセの表情は晴れない。
「プーセ。あんたを迎えに行かせたあたしの判断が悪かったねぇ。人間だから、荒野で傷を負っているかと思ったんだけれどね......」
そのために、治癒魔法が得意なプーセを指名したのがいけなかった、とザンガーは頭を下げた。
「それは、もういいんです......。私は助かりましたけれど、他の人はあの人間に殺されてしまいましたから、それに比べれば」
無理に笑う表情が痛々しく、ザンガーは見ていられない、と視線をそらした。
「今、あの人間の男は襲われているみたいだね。さて、その結果次第で、この村やあたしたちもどうなるか......」
そう言いながらも、ザンガーは大人数に襲われては、いくら荒野を抜けて来られる実力があるとはいえ、攻撃魔法で袋叩きにされて終わりだろうと考えている。
「その......」
プーセが、遠慮がちに顔を上げた。
「どっちが勝ったとしても、あまり状況が好転するとは思えないのですが......それより、シクは大丈夫でしょうか?」
「なんとも言えないねぇ......ラボラスはあの子をどうこうするとは思えないけれど。プーセのことが知られたら、きっとびっくりするだろうね」
それにしても、とザンガーは改めて思う。
「あたしが人間ひとりを招き入れただけで、とんだことになってしまったね」
プーセが本当に追放になるなら、自分も共に森を出よう、とザンガーは心に決めた。
獣人に襲われた時、攻撃魔法が苦手なプーセでもが犠牲になっていれば逃げるくらいはできるだろう。
「そのくらいは、させてもらわないとね......」
「ザンガー様?」
「なんでもないよ。とにもかくにも、今は待つしかないね」
いつの間にか絶えそうになっている囲炉裏の火に、ザンガーは小枝を放り込んだ。
☺☻☺
「どういうことだ、これは!」
数名の取り巻きを従えたラボラスは、プーセ弾劾のためにの行いを詳しく聞こうとシクを探していたが、家にいないので仕方なく一殺害しに向かった。
そこで目にしたものは、一二三によって細々と解体されている同胞たちの姿だった。
「うわ......」
「うぐ、げぇええ......」
連れてきた取り巻きたちも、とんでもない光景と濃厚な血の匂いに、口を抑えたり耐え切れずに吐いたりしている。
しばし呆然としていたラボラスは、彼を無視して作業を続けている一二三に向かって大声を上げた。
「貴様が、ザンガーが引き入れた人間だな! 同胞に、我らの仲間になんということを!」
「あ?」
振り向いた一二三は、両手を再び赤く染めている。
「人間とは......」
ここまで残酷なものなのか、と取り巻きの誰かがつぶやき、全員が戦慄している。
「お前らも、こいつらと同じように俺を狙ってきたのか?」
だとしたら大歓迎だ、と一二三は闇魔法収納から水の入った瓶を取り出して、のんきに腕を洗い始めた。
「いったい、同胞に何をした......!」
怒りを押さえたように低い声で問うラボラスに、一二三は視線も向けない。
「いい感じに材料が揃ったからな。この連中の身体を調べてみた。ほれ」
一二三が投げたのは、小指の先ほどの小さな白い塊だった。
一二三が指差す先には、手足を無残に細切れにされたエルフの姿。
一瞬、ラボラスは視線を泳がせたが、すぐに一二三へと視線を戻す。
「足と手の指先に計3つ、同じような白い塊が入っていた。言っとくが骨じゃないぞ。手も足も骨の数はそれ以外でちゃんと他の奴らと同じだった」
「それがどうしたというのだ!」
「おまえらが、年をとったら次第に変質していく原因を調べてるんだよ。興味ないのか? 自分がどうやって死ぬのか、どんな死に様を晒すことになるのか」
一二三は、転がる死体を指差す。
「戦いに身を投じるなら、ああなって死ぬのが定めかもしれんな。俺もそうだろう。だが、戦いと無縁ならどうだ。運良く生き抜くことができたら?」
「我々は、森へ還ることができる! 森の民として、森の一部へと戻るのだ! お前ら人間とは違う!」
「ああ、そう」
ラボラスの必死の反論を、一二三は無感動に流した。
「それより、これを見てみろよ」
さっさと歩き始めた一二三が立ち止まったのは、木の根元にある血だまりのそばだった。
もちろん、これも一二三がせっせと死体を運んできて作ったものだ。
「木の幹に近い部分だけ、うっすら白くなっているのがわかるか?」
「白い......なんだこれ?」
首をかしげるエルフの前で、一二三が拾った木の枝を血だまりに突き刺して引き上げると、蜘蛛の巣のような白い糸が絡まる。
「最初は、元々お前らエルフの血の中にある成分かと思ったが、そうでもないらしい。あっちの血だまりは変化が無いだろう?」
そう言って一二三が差した広場側に作られた同様の血だまりは、赤黒くはなっているものの、特に白色化するような変化は見られない。
ここまで学校の科学実験を思い出しながら、意気揚々と対照実験の用意をしていた一二三だが、大体の状況がわかって満足げに頷いていた。
「仮説でしかないが」
と、前置きしつつ語り始めた一二三に、エルフたちの視線が集まる。
「エルフのエリアに入ったあたりから、生えている木の種類や空気が変わったのも理由の一つだが。村の周辺の森を構成しているこの木が原因だろうな」
一二三は、血だまり横に立つ大木の幹をペシペシと叩く。
「幹からか葉からかはわからんが、この木々からの成分が身体に溜まっていくと、体内で固形化して木のような性質に変化するんだろう。それが、元々肉体を構成していた血肉を侵食していくんだろうな」
自分自身に言い聞かせるように語り終えると、一二三はぐるりと周りを見渡した。
「で、どう思う? お前らは木になって死ぬ事を選ぶか? ここで武器を抜いて魔法を打って、この連中と同じように単なる肉塊になって終わるか? それとも、今のうちにこの木の呪縛から逃げるか?」
一二三の言葉には、誰も返事は返せない。
互いに顔を見合わせて、ざわざわと語り合うだけだ。
「貴様は......」
討伐対象であるはずの人間の言葉に狼狽える同胞たちに、そして無残な同胞の死に様と、その死体を弄ぶ一二三に、ラボラスが一人、怒りに震える。
「わけのわからん理屈を並べて、自分の罪を糊塗するつもりか!」
「理解できない......いや、したくない、の間違いじゃないか?」
ケラケラと笑いながら、一二三は持っていた枝を投げ捨てた。
「死ぬことから目をそらすなよ。誰もが必ず経験することだ、怯える事は無い」
刀を抜いた一二三は、大きく一度、深呼吸をする。
「ほら、選べ。ここで戦って意地を通すか、冷静に自分たちの環境を見直すか」
その言葉に、数名のエルフがそっと距離をとった。
そのことも、ラボラスの癇に障る。
「貴様らには、森の民としての誇りは無いのか!」
「馬鹿な事を言うな」
激昂するラボラスに対し、一二三は冷静かつ不機嫌をあらわに言い放つ。
「誇りとか理想が人を死に近づける。お前らのくだらない“掟”とやらが、結果としてエルフから死に向き合う機会を奪った」
艶のある刃紋を見つめながら、一二三は恍惚の表情を浮かべた。
「死ぬというのは、その人物を完結させることだ。生き方に沿ったものか、それとも不満に満ちたものか、何かを達成したか志半ばの非業の死なのか」
つと、エルフらしからぬ筋肉質な身体に力を込めて睨んでくるラボラスに目を向ける。
「思いも、目標も、未来も、死ねば終わりだ。そこにあるのは完成された人生。殺すことはその人生を完成させることだ」
だから、と刀を正眼に構える。
「望むなら、その終わりをくれてやろう」
「この人間は......」
取り巻きのエルフが半数はジリジリと下がって行き、半数はラボラスの判断を待っている。
仲間たちの視線を集めたラボラスは、そっと腰のナイフに手をかけた。
一二三が、笑う。
☺☻☺
シクが木陰から、そっとザンガーの家の様子を見ると、出入り口前に二人のエルフが気だるそうに立っていた。
眉を潜めて口をモニュモニュと動かしたシクは、必死で口の中で詠唱を行う。
「ね、眠れぇ......」
催眠魔法は、シクが辛うじて使えると言ってもいいかもしれない程度の魔法だ。エルフとしてはあくびが出るほどの詠唱時間を必要とするうえ、完全に覚醒している相手にはあまり効果がないが、ぼんやり立っているだけの相手にはなんとか通じる。
「や、やった」
壁に背中を預けて、ずるずると座り込んだ二人の見張りを確認したシクは、そっと建物の中へ入る。
そこには、並んで座る指導者ザンガーとプーセの姿があった。
「シク? 無事だったのね」
「ぷ、プーセ姉ちゃん......」
膝の力が抜けたシクは、へなへなと座り込む。
「ごめんなさい、ラボラスに聞かれて人間のことを教えたせいで......」
ポロポロと涙をこぼすシクに、プーセが慌てて寄り添う。
「大丈夫よ。傷は自分で治したから、ね?」
「で、でもラボラスがプーセ姉ちゃんを追放するって言ってた......」
顔を青くしているシクが震えていることに気づいたプーセは、力強く抱きしめる事で慰めた。
だが、言葉がうまく出てこない。
追放が怖いのは、本当のことだからだ。
「シク、あの人間は今、どうしているのか知っているかい?」
「はい......」
ザンガーの質問に、シクは座り直した。
「良くわからないけれど、エルフが樹木と同化する理由がわかったとか言ってて、でもたくさんの大人が殺されて......」
珍しく大声を出したザンガー。
目を丸くして驚いた二人に、ザンガーは浮かせた腰を落とし、囲炉裏の小さな火を見つめた。
その視線は遠くを見ているようだ。
「あの人間の考えている事は、あたしにもよくわからなかったけれどね。まさかそんな話に......それで、その理由は聞いたのかい?」
「あの、本当かどうかわからないんですけれど、森の木から身体に入るのが悪いとか、なんとか......」
正直、半分も理解していなかったシクの説明はあやふやで、隣で聞いているプーセは首をひねっているばかりだったが、ザンガーには理解できた。
「なるほどね。あたしが長生きするわけさね」
ひゃっひゃっと笑うザンガーは、プーセたちにゆっくりと語る。
「あたしはね、小さい頃に森で怖い思いをして、家からほとんど出なくなったんだよ」
「私が聞いた理由は、多くの村人からの話をいつでも聞けるように、居場所を決めていると聞いておりましたが......」
「それは、まあ体面上の言い訳、取り繕っただけの話さ。本当は、単に森が怖くなっただけだったんだよ」
エルフのくせに、と自嘲する。
「森が怖いって、どういうことですか?」
シクの質問に、ザンガーは小さく「話しておこうかね」と呟いた。
「あんたたちも、森で見たんだろう? エルフの死に様はどんなものなのか」
言われて、プーセは一二三に死を乞うた老人を思い出し、息を飲んだ。
シクは半覚醒状態で朧気であったが、かすかな記憶はある。
「あたしもね、今のシクより小さいころに、森で見たのさ。死にゆくエルフの老人の姿をね。......それも、あたしの祖母の死に様を」
ふぅ、と息を吐いた。
「祖母はね、苦しい、痛いと言って、あたしに助けを求めたけれどね......小さな子供でしかないあたしには、なんにもできなくて、結局、あたしの名前を呼び続ける祖母から逃げたよ」
それから、森への恐怖が拭えず、エルフでいること自体にも嫌悪を感じるようになったという。
「でも、もし人間が言うことが本当なら、あたしも少しは救われるね。エルフだからじゃなくて、本当に森のせいなら......」
また息を吐いたザンガーは、火を見ていた視線をプーセとシクへ向けた。
「あの人間には、生きていて欲しいねぇ。もう一度、話がしたいよ」
それはつまり、同胞の死を願うも同然の言葉でもあった。 | “I wonder, what shall I do...” (Zanga)
Muttering that in a small voice, Zanga has no real care about what happens to her as, putting the method aside, she had planned to die anyway, but Puuse who was declared to be exiled was completely haggard.
The guards had disappeared from the room a little while after Laboras left, though they were likely waiting outside.
While having her back gently caressed, Puuse got exhausted from crying and fell asleep.
Watching her sleeping face with its swollen face, Zanga was disgusted at her own powerlessness while thinking
“Really, in these matters I’m only a leader in name ~nee.” (Zanga)
She looks at the door where Laboras exited.
Before long the day will dawn.
In a distant place she can hear screams and the sounds of things clashing.
“They are at it, eh...? Will that human be alright?” (Zanga)
Which reminds me, I didn’t hear his name
“N... nh?” (Puuse)
“You woke up? Sorry, but can you handle the treatment of your wounds by yourself?” (Zanga)
Puuse, who was painful to look at with the traces of her tears, silently nodded and cast healing magic targeting her swollen face.
Even after the swelling slowly subsided and her originally slender chin and white skin returned, Puuse’s facial expression didn’t clear up.
“Puuse. It was my bad judgement for having you go meet him ~nee. I considered that he might have been injured in the wastelands since he’s a human, but...” (Zanga)
“For that reason there was no other choice but to send Puuse who is good at healing magic”, Zanga apologized.
“That’s already in the past... Besides, if you look at it differently, I survived while the others got killed by that human.” (Puuse)
Zanga averted her look as it was painful for her to see Puuse’s expression of forcing a smile.
“It looks like that human man is currently getting attacked. Now then, I wonder what will happen to this village and us as result of that...” (Zanga)
Even while saying that, Zanga believes that no matter of him having the strength to come here while surviving the wastelands, he will likely end up getting ganged up with offensive magic while being attacked by a large number of people.
“That...” (Puuse)
Puuse lifted her head shyly.
“Even if he won, I don’t think the situation will change for the better, however... rather than that, is Shiku alright?” (Puuse)
“I can’t really say ~nee... I don’t think that Laboras is together with that child though. He will most likely be surprised once he gets to know about your situation, Puuse.” (Zanga)
“Even so”, Zanga revises her thinking.
“With me just inviting a single human, it has turned into such an unfathomable situation.” (Zanga)
If Puuse really gets banished, I will also leave the forest together with her
Even Puuse who is bad at offensive magic will probably be able to escape if I sacrifice myself when we get attacked by beastmen.
“If I’m not allowed to do at least this much...” (Zanga)
“Zanga-sama?” (Puuse)
“It’s nothing. Anyway, for now we can’t do anything but wait.” (Zanga)
As the fire of the sunken hearth was about to die out before she realized, Zanga tossed in a twig.
☺☻☺
“What happened here!?” (Laboras)
Laboras, accompanied by several of his followers, searched for Shiku to ask him about Hifumi’s deeds for the sake of Puuse’s denunciation, but since he wasn’t at home, he reluctantly headed out to kill Hifumi.
What he witnessed there were the figures of his comrades who had been minutely dissected by Hifumi.
“Uwaa...”
“Ugu-gueee...”
Even the followers he brought along are vomiting unable to bear it or are holding their mouths shut due to the dense stench of blood and the terrible scene.magic
Being dumbfounded for a short while, Laboras raised a loud voice at Hifumi who is continuing his work while ignoring Laboras.
“You bastard are the human who was dragged in by Zanga! What are you doing to our brethren, to our friends!?” (Laboras)
“Ah?” (Hifumi)
Turning around, Hifumi’s hands are once again dyed red.
“Human...”
“What a cruel thing to go this far”, as one of the followers mutters that, all of them shiver.
“Did you guys also came aiming for my life just like these fellows?” (Hifumi)
“If that’s the case, you are very welcome”, Hifumi took out a bottle filled with water from his darkness storage and started to care-freely wash his arm.
“What the hell did you do to our brethren...!?” (Laboras)
Hifumi doesn’t even turn his look at Laboras who says that in a low voice as if suppressing his anger.
“I assembled the parts in a good mood. I tried to examine those guys’ bodies. Look!” (Hifumi)
What Hifumi threw was the small white lump of the pinky from before.
“What’s this?” (Laboras)
Ahead of where Hifumi is pointing at is the figure of an elf which had its hands and feet cruelly chopped into small pieces.
Laboras’s sight swam for an instant, but his look immediately returned to Hifumi.
“There was a similar white lump in feet and fingers before. You can’t call it bones. Besides, the number of bones in the hands and feet was the same as the other guys.” (Hifumi)
“I’m investigating the cause for you guys gradually changing once you got old. You not interested in it? How you will die? To what manner of dying you will be exposed?” (Hifumi)
Hifumi points at the scattered corpses.
“It might be your fate to die like that if you throw yourself into combat. It’s like that for me, I guess. But, how about if it isn’t related to combat? If you were lucky enough to survive?” (Hifumi)
“We can return to the forest! We will become a part of the forest as people of the forest! It’s different from you humans!” (Laboras)
“Yea, true.” (Hifumi)
Hifumi discarded Laboras’s frantic objection indifferently.
“Rather than that, try looking at this.” (Hifumi)
Hifumi began to walk quickly and stopped next to a pool of blood which was located at the root of a tree.
Of course it was created by Hifumi diligently carrying over corpses.
“Do you see that only the part close to the trunk of the tree has become slightly white?” (Hifumi)
“White... what’s this?” (Laboras)
Once Hifumi stabs a tree branch he picked up into the blood pool and pulls it back up in front of the elf who is tilting his head to the side, the branch is entwined by white strings, similar to a spider web.
“At first I wondered whether it originally was a component that exists within the blood of you elves, but it doesn’t seem to be the case. The blood pool over there hasn’t changed, right?” (Hifumi)
As Hifumi says, an identical pool of blood had been created in vicinity while leaving some open space in-between. It’s a puddle giving off a dark red colour where one can’t see a change similar to turning white in particular.
As Hifumi prepared a controlled experiment in high spirits while recalling the scientific experiments at school so far, he nodded in satisfaction as he got the main gist of the situation.
“It’s nothing but a hypothesis.” (Hifumi)
The elves’ looks gathered on Hifumi who began to talk while giving such preface.
“One of the reasons is that after you entered the area of the elves the kinds of trees growing here and the atmosphere is unusual. But the cause is this tree which is composing the forest in the vicinity of the village, I guess.” (Hifumi)
Hifumi slaps the trunk of a large tree standing next to the pool of blood.
“I don’t know whether it’s from the trunk or the leaves, but if you accumulate components of this tree in your body, it will likely change your bodies’ composition to something similar to a tree by becoming solid within your body. I guess the flesh and blood which composed your body originally gets corroded by it.” (Hifumi)
Once he finished talking in a way of obviously persuading himself, Hifumi surveyed his surroundings by turning around.
“So, what do you think? Do you guys choose to die by turning into a tree? Will you end your lives and become mere lumps of meat just like these fellows by clashing with magic and drawing your weapons here? Or, will you run away from the curse of this tree before it’s too late?” (Hifumi)
No one is able to return an answer to Hifumi’s words.
Looking at each others’ faces, they are simply talking with each other noisily.
“You bastard are...” (Laboras)
Only Laboras trembles in fury due to his brethren being flustered by the words of the human who was to be their subjugation target, due to the cruel manner of his brethren’ deaths and due to Hifumi toying with their corpses.
“Do you intend to cover up your crimes by lining up incomprehensible theories!?” (Laboras)
“Are you unable to... no, unwilling to understand your mistake?” (Hifumi)
While giggling, Hifumi tossed away the branch he was holding.
“Don’t avert your eyes from death. It’s something everyone, without fail, will experience. There’s no need to be scared of it.” (Hifumi)
Drawing his katana, Hifumi takes one large breath.
“Hey, choose. Will you persist in your obstinacy to fight here? Will you calmly review your own circumstances?” (Hifumi)
Several elves quietly took a distance due to those words.
That matter is irritating Laboras as well.
“Don’t you weaklings have no pride as people of the forest!?” (Laboras)
“Don’t talk such rubbish.” (Hifumi)
Hifumi bluntly tells the enraged Laboras while baring his displeasure and composure.
“Pride or such is a dream bringing people close to death. Thanks to your guys’ stupid ‘
Hifumi showed an expression of ecstasy while gazing at the charm of the hamon.
“Dying is something that completes one’s character. Did they follow their way of life? Or, was it filled with unhappiness? Was it an unnatural death in the middle of their aspirations or did they achieve something?” (Hifumi)
He calmly shifts his attention to Laboras who glares at him and puts strength into his muscled body which is unlike that of normal elves.
“Your desires, your objectives and your future comes to an end once you die. What’s left is a completed life. Being killed is something that completes that life.” (Hifumi)
“Therefore”, he prepares the katana by aiming at Laboras’ eyes.
“Let me bestow that end upon you, if you so desire.” (Hifumi)
“This human is...”
Half of the followers are gradually withdrawing while the other half is waiting for Laboras’s judgment.
Laboras who had the looks of his comrades gathered on him quietly took the knife at his waist into his hands.
Hifumi laughs.
☺☻☺
When Shiku observed the state of Zanga’s house from the shades of a tree, the two elves in front of the entrance stood there listlessly.
Shiku who moved his lips with a *monyumonyu* while lowering his eyebrows frantically performs a chant within his mouth.
“S-Sleep...” (Shiku)
His magic is at a level where Shiku might be able to barely use hypnotism magic. On top of requiring a chanting time to the degree of making an elf yawn, it hasn’t much of an effect on a completely awake opponent, however it will somehow work on opponents who are only standing around absent-mindedly.
“I-I did it.” (Shiku)
Confirming the two guards sliding down to the ground after leaning their backs against the wall, he quietly enters the building.
There he found the figures of the leader Zanga and Puuse sitting next to each other.
“Shiku? You were safe?” (Puuse)
“Puuse-neechan...” (Shiku)
Shiku who lost strength in his knees sits down weakly.
“Excuse me for telling Laboras about the human after he asked about it...” (Shiku)
Puuse snuggles up to Shiku who sheds large drops of tears in a rush.
“It’s alright. I healed the injuries by myself, okay?” (Puuse)
“B-But, I was told that Laboras will banish you, Puuse-neechan...” (Shiku)
Noticing Shiku who has a pale face quivering, Puuse comforted him by hugging him reassuringly.
However, her words aren’t coming out smoothly.
It’s because she’s truly scared of being banished.
“Shiku, do you know what that human is currently doing?” (Zanga)
“Yes...” (Shiku)
Shiku corrected his posture upon Zanga’s question.
“I don’t quite understand, but he spoke about comprehending the reason why elves get absorbed and arbour or something like that. However, many adults were killed...” (Shiku)
Zanga raised her voice which was unusual for her.
Due to the two staring at her in surprise, Zanga dropped her half-risen hips and gazed at the small fire in the sunken hearth.
That gaze seems to be looking in the far distance.
“The things that human is pondering about is something I didn’t understand well either. Don’t tell me, it’s because of our conversation... So, did you hear that reason?” (Zanga)
“Umm, I don’t know whether it’s really true or not, but bad stuff is entering one’s body from the forest’s trees or something like that...” (Shiku)
The explanation of Shiku who honestly didn’t understand half of it either is ambiguous. Puuse who was listening next to him was only cocking her head in puzzlement, but Zanga was able to grasp it.
“I see. It’s because I lived for a long time.” (Zanga)
Zanga who laughs with a *hi hi* slowly speaks to Puuse and Shiku.
“You know, as child I was afraid of the forest. I practically never left the house.” (Zanga)
“The reason I heard is that you complied with the location which was decided in order to listen to the stories of many villagers at all times, but...” (Puuse)
“That is, well, an excuse in concern of my dignity. It’s story which was used to cover it up. In truth I had only become afraid of the forest.” (Zanga)
“In spite of being an elf”, she laughs at herself.
“Being afraid of the forest, you say. What’s this about?” (Shiku)
Zanga muttered a small 「Will they let me speak, I wonder?」 due to Shiku’s question.
“You guys also saw it in the forest, right? The manner of an elf’s death, that is.” (Zanga)
Once being told, Puuse recalled the elder elf who begged Hifumi to kill him and gulped.
For Shiku it was faint due to his half-awake state, but he has vague memories of it.
“Me too. When I was younger than Shiku is now, I saw it in the forest. The figure of an elder elf heading towards death. ... And in addition to that it was my grandmother’s death.” (Zanga)
“Fuu~”, she exhaled.
“My grandmother, you know, told me that it was painful and agonizing and that she wanted me to give her relief, but... the me who was nothing more than a small child couldn’t do anything. In the end I ran away from grandmother while she continued to call my name.” (Zanga)
“And then it reached the point of even feeling disgust towards being an elf, unable to get rid of my dread of the forest”, she says.
“However, if what the human has said is really true, I will be saved a little bit as well. If it’s really because of the forest’s nature and not because I’m an elf...” (Zanga)
Breathing out once again, Zanga turned her look which was fixed on the fire towards Puuse and Shiku.
“I wish for that human to survive. I want to talk with him once more.” (Zanga)
Those were, in short, the same words as if desiring the death of her brethren. |
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} | ホーラント王スプランゲルは、城内及び城下の騒動が沈静化したのを見計らって、オーソングランデ内フォカロル領領主ヒフミ・トオノとの交渉による和解と和平を宣言した。
その内容は、
“ホーラントからの損害に対する金銭での賠償”
“ヴィシーを通さないホーラント王家とオーソングランデ及びフォカロルとの魔法具の直接売買の開始”
“フォカロル領兵のホーラント国内への駐留許可”
特に三つ目は、他国による外国軍の駐留という前代未聞の内容だけに、スプランゲルに対して国内貴族からの反対の声も大きかったが、王はこれを黙殺した。
オーソングランデの良いようにされた、とホーラント貴族たちは歯噛みしたが、ヴェルドレは死に、他の王族も王に対抗するには能力的に問題があった。
もちろん、スプランゲルとて嬉々としてこの条件を飲んだわけではない。
未だに「僭越ながら」と諌言と称した反対意見をチクチク言い立てる貴族の話を聞きながら三との会話を思い出していた。
「国内にその方の軍を置けというのか......」
謁見の間は荒れ果て、死体が転がる惨状を晒していたのでの交渉は別室を用意して行われた。
通常であれば、一貴族と王の会談であるからには、席次などの格式が重要視されるのだが、今回は同じ椅子に座って同等の目線での会話となった。
「当然だろう。戦い方を教えてやるのに、一人二人ではどうにもならん」
「賠償も直接の通商も致し方ないとは思うが......」
「最初は」
歯切れの悪い王に対し、一二三は背もたれに身体を預け、天井を見上げながら呟いた。
「ホーラントの政治中枢を破壊して根無し草の民衆を大量に作れば、貴族領事に細分化された群雄割拠の状況が作り出せるんじゃないかと思って、実験をしようかと思ったんだが......」
真顔でとんでもないことを言う。
「それで魔法具の技術が失われるのは勿体ないからな。痛覚や自我が失われるのは問題だが、身体強化は良かった。ああいうのがもっと普及すれば、殺し合いも楽しくなるし、戦争ももっと頭を捻って色々やるようになるはずだ」
「結局は、そこへ行き着くのだな」
当然だ、と一二三は笑う。
「俺はオーソングランデの馬鹿どもに、無理やり他の世界からここへ飛ばされてきたからな。折角だからちょっと暴れてやろうと思ったんだが、想像以上に手応えが無くてなぁ」
「他の世界とは......?」
「イメラリアは、召喚魔法とか言っていたな。古代の技術らしいが、良くは知らん。俺はその魔法で他の国から無理やり呼び出されたわけだ。気が向いたなら、そこをつついてオーソングランデ王家とやり取りしてみたらいい」
「それは......やめておこう。今何か言っても、負け犬の遠吠え以上にはならぬからな。しかし、ホーラントがオーソングランデと戦争になる可能性を否定せぬのか?」
「いや、逆に推奨する立場だな。戦いが長く激しくなるだけ、人間は頭を使うようになる。俺がオーソングランデへの不可侵を条文に入れろと言わなかったのは何故か。そういうことだ」
スプランゲルは、もう何も言うことはなかった。早くこの会談を終わらせて、国内を何とかまとめなくては、いつこの男に再び国を食い荒らされるかわからない。
文官に書き取りをさせながら詳細を詰めて書類を作成し、それぞれ署名をしてお互いに2部ずつを保管する。
これで、前代未聞の一国対一貴族領との和平は締結された。
☺☻☺
「なんか、すごい勢いで歓迎されたんだけど」
「王の差金だろうな。随分兵も減っただろうし、立て直すまではどことも戦争どころか小競り合いすらやりたくないだろうよ」
城を出たところで、追いついてきたアリッサと合流する。
街道をそれなりの速度で進んで来たものの、目立つ抵抗もされないどころか敵兵ともほとんど遭遇せず、王都へ接近すると逆に使者が来て歓迎するとまで言われる始末だ。
接敵したら即交戦のつもりだったアリッサたちはすっかり気が抜けてしまった。
「例の作戦で、既にオリガは動き出した。とりあえずこの国の兵士も鍛えることになったから、連れてきた連中と一緒に、ここに残って訓練してやれ。期間は半年な」
「半年も!?」
「それくらいで次にかかるつもりだからな」
書類に何やら走り書きをしながら言う一二三に、アリッサは首をかしげた。
「次?」
「そう、次。半年のうちにホーラント、オーソングランデ、ヴィシーがいい感じに煮詰まるようにするから、その間に各地の兵を鍛えておこう。そこに俺がどうにかして火種を投げ込んでやろう」
無邪気に笑う一二三に、アリッサはそっと溜息をついた。
「鍛え方は任せる。アリッサはたまに領に戻ってくるようにな。ついでにここに駐留する連中も入れ替えるし、他の領地やヴィシーでも同じように訓練する必要もあるし」
「忙しくなるね」
「ああ、だがそれ以上に楽しいな。......アリッサ」
「なに?」
「別に無理して続ける必要はないぞ。恩なんて感じる必要は無い。ヴィシーでは充分楽しめたからな」
そんなに疲れて見えたかな、とアリッサは首をかしげてから、目を細めて笑う。
「恩ね。僕も最初は恩返しのつもりで一二三さんについてきたけど、今はそれだけじゃなくて、いろんな国のいろんな街を見て、知らなかった世界を見て、仲良くしてくれる仲間がいて、楽しいんだ」
いつの間にか、アリッサの目には涙があった。
「だから、僕は一二三さんと一緒にいるよ。ヴィシーではひどい目にあって、あの時にもう死んじゃうんだと思ったけど、それでも今がこんなに楽しいから、僕はこれで良かったと思ってる」
よろしくお願いします、とアリッサが頭を下げると、一二三も笑って肩を叩いた。
「そうか。楽しいなら好きにするといい。お前の人生だからな」
「うん。好きなことができるって、幸せだね」
「ああ、そうだな......うわっ」
一二三が視線を上げると、アリッサの後ろではフォカロル領兵たちがハンカチを噛みながら感涙していた。地獄の入口から聞こえてくるかのような咽び泣きの声が響く。
「長官! 俺らも一生ついていきます!」
「何でも言ってくだせぇ! 一生懸命やらせていただきます!」
「うん、これからもよろしくね!」
アリッサの呼びかけに、声を揃えて返事する領兵立ちを見て、こいつらはいつの間にこんなに気持ち悪くなったんだろう、と一二三はこっそりとその場を後にした。
次の戦いの場を作るため、急いで戻りたかった。
☺☻☺
新たに近衛騎士副隊長となったヴァイヤーは、最初の仕事としてフォカロルへ赴き、フィリニオンを巻き込んでの事前交渉を行うこととなった。
内容は、騎士隊及び国軍に対する教導依頼だ。
発案者であることと、一二三との面識があること、サブナクが王城へ戻る前であり、フォカロルへ向かう元ホーラント兵の護衛を手伝い、その到着を国として見届けるという任務も兼ねている。
道中では、同行させた国軍兵たちと共に、フォカロル兵の訓練にも参加していた。
何度か参加したヴァイヤーを除き、国軍兵たちは慣れない訓練に効果があるのかと首をかしげるばかりだった。
しかし、道中での狩りの手際の良さに加え、偶然遭遇した盗賊団に対して国軍兵たちがまごついている間にフォカロル領兵だけで一人残らず殺害するなど、際立った戦闘力を見せつけていくうちに、国軍兵たちも進んで訓練を真似するようになっていた。
そして、フォカロルへ到着する。
「随分と随行員が増えているうえに、責任者は不在とは......」
カイムが無表情のまま呆れたように一言だけつぶやき、さっさと兵士たちは解散させ、ホーラントからの移住組は班分けして宿泊施設を割り当て、職員たちに案内させた。
さっさと指示される事になれている職員や領兵たちは、特に混乱無く移動を始めた。ミュカレへ状況説明をするようにと指名された兵士は、アリッサが戻らないと聞いてミュカレが不機嫌になるのが目に見えているからか、貧乏くじを引いたと肩を落として歩いて行ったが。
その手際の良さに下を巻いていたヴァイヤーは、ブロクラがフィリニオンの所へ案内する。
先導されて領主館へ入ったヴァイヤーは、まずその構造に興味がわいた。
綺麗に清掃された1階は完全に公共のスペースとされ、わかりやすい案内板に案内係が待機し、各種届け出なども窓口が綺麗に整理されてズラリと並べられている。待合スペースでは住民たちが和やかに語り合い、新婚らしい夫婦同士の情報交換や、親類を亡くした者同士の思い出話など、中々賑やかになっている。
「これはすごいな......」
ヴァイヤーが呆気にとられていると、ブロクラが一つ一つ説明をしてくれた。
「これらは全て領主様の指導によるものです。私たち5人の奴隷文官以外の職員は、完全に役割分担がなされており、書式も決まったものを使うようにと定められています。全ての住民は住所と家族構成、職業などを管理しております」
「住所?」
聞きなれない言葉に、ヴァイヤーは疑問を発した。
「この街を始め、領主様が管理されております街や村はブロックごとに名称と責任者が居ります。そして建物全てに番号を振っていますので、ブロック名と番号で、どの建物かがわかるようになっているのです。それを利用した配送サービスも、民間ではありますが開始されました」
「なんと......」
王都ですら導入できていない人とモノの整理ができていることに、ヴァイヤーは驚愕を隠せない。この時点で、軍事以外でも学ぶべきことが多かったと気づき、もっと他の騎士も連れてくるべきだったと後悔していた。
フィリニオンが利用している執務室は館の2階にある。引切り無しに人が出入りしているが、今は王城からの使者が来ているということで、一時的に出入りを差し止めていた。
ブロクラがノックをすると、クリノラがドアを開けてくれた。
中に入ると、フィリニオンが立ち上がって歓迎する。
「ようこそ。王城からの使者だと伺っておりますが、代理で対応させていただきます、フィリニオン・エル・アマゼロトです」
少し疲れの見える顔で微笑むフィリニオンを見た瞬間から、ヴァイヤーはフィリニオンから目が離せなくなった。緑色の柔らかで豊かにウェーブのかかった髪、明るく輝くオレンジ色の瞳。微笑む唇に注視していることに気づいたヴァイヤーは、慌てて視線をそらした。
「どうかされましたか?」
「い、いえ! 失礼いたしました!」
つい大きな声を出してしまい、ヴァイヤーは赤面しつつ促されるままに応接へ座った。ブロクラはここで次の仕事があるといって退出している。
「私は、新たに創設されました、近衛騎士隊の副隊長ヴァイヤー・ツェーレンです」
顔を見ると顔が熱くなるので、少しだけ目線を下へ向けつつ挨拶したが、騎士隊の制服に包まれた身体に目がいって、余計に顔が上気する。
「近衛騎士隊?」
耳慣れない言葉に、フィリニオンが思わず眉をひそめた。
「恥ずかしながら、先日生まれたばかりのまだまだ組織としては不完全な騎士隊です。隊長は、貴女と同じ第三騎士隊出身のサブナク殿ですよ。おそらくは私と入れ替わるくらいのタイミングで王都へお戻りでしょう」
「彼が......。ところで、私が第三騎士隊所属だというのは?」
「ミュンスターを出る前に、サブナク殿から色々と聞かされました。自分の代わりにフォカロルで苦労しているだろうから、機会があれば助けて欲しいと」
サブナクからの伝言に、一瞬怒りの表情が浮かんだのを、ヴァイヤーは見なかった事にした。それよりも、どうにも気が急いて、いつになく口数が多くなってしまうのが恥ずかしい。
「何か王城では色々起きているようですね」
「ええ、第一第二両方の騎士隊が解体されましたし、トオノ伯は大活躍されておりますし」
ヴァイヤーは自分が知る限りの事を、フィリニオンに説明した。
これから色々と教えてもらいたいというのもあるが、フィリニオンのために、機密に関わらない情報は全て教えたいと思った。
ホーラントの戦争、一二三がホーラントへ乗り込んだ事、王子の死と王城の決定。その話題すべてを、フィリニオンは静かに聞いていた。
「......ありがとうございます。世の中がとんでもない速度で変化していることと、この領地の本来の領主に常識が通じない事も、改めて認識できました」
タイミングを見計らって、すっかり冷めてしまった紅茶をクリノラが交換してくれた。カップを置く際に、クリノラはチラリとヴァイヤーの顔を盗み見て、思わず吹き出しそうになった。どうして自分の主人は、目の前の男性の状況に気づかないのだろう。
「それで、今回は情勢のご連絡のために、態々敗残兵の移動に同行されたわけではありませんでしょう?」
「ええ、もちろんです。ホーラントからの移住者の見届けもありますが、本題は王城からの依頼をお伝えするために参ったのです」
「王城から? それは私が伺って良い内容ですか?」
一二三が戻ってからが良いのではないか、とフィリニオンは念を押したが、これはあくまで事前交渉でしかないとヴァイヤーは続ける。
「もちろん、最終的な決定は領主に委ねられるのは重々承知しております。ですが、トオノ伯の性格からして、できるとなれば即決。その前に、可能かどうかの検討を先にお願いできればと思ったのです」
もちろん、王城に一二三が立ち寄って、その間で決定される可能性もあるが、いずれにせよ準備期間があると無いとでは違うだろう。
「そういう事でしたら、お話を伺いましょう」
「無敗のフォカロル領軍。その強さの秘訣が訓練内容にあると私たちは考えました。それで、領軍から数名でかまいませんので、国軍に指導をお願いしたいと思いまして」
「そういうお話でしたら、文官たちとお話をすると良いでしょう。彼らほど、この領地のことを熟知しているものはおりませんでしょうから」
それこそ、領主以上に知っていますよ、と笑うフィリニオンの笑顔に、ヴァイヤーの視線は釘付けになっていた。
さすがのフィリニオンも、顔を真っ赤にして見つめられていれば気がつく。が、この時点では何か怒らせるようなことを言ったかしらという気持ちだった。
声をかけられて、ようやく自分がフィリニオンに見とれていた事に気付いて、ヴァイヤーは慌てて頬を撫でさすりながら視線を外した。
「す、すみません! ついその、美しいと、思っ......て......」
言ってしまってから言葉の内容に気づいて、ヴァイヤーはもうフィリニオンと目を合わせられない。
フィリニオンの方も、想定外の言葉に顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「あの......ありがとうございます......」
なんどか言葉を絞り出してお礼をしてからは、お互いに赤い顔で下を向いたまま、黙ってしまった。
そっと部屋を出たクリノラは、これはフィリニオンの実家であるアマゼロト家へ報告しなくてはと息巻いていた。 | The king of Horant, Suprangel, chose to calm down the uproar outside and within the castle. He declared peace and reconciliation because of the negotiations with the feudal lord Hifumi Tohno of the Fokalore territory within Orsongrande.
The details of those negotiations were:
“Monetary reparations concerning the damages done by Horant.”
“Initiation of direct magic tools trade with Fokalore as well as Orsongrande by Horant’s royal family without passing through Vichy.”
“The permission of Fokalore’s soldiers to be stationed within the domain of Horant.”
Especially the third point, not only was it unheard-of in history for a foreign army to be stationed within another country, but the opposing voices of the domestic nobles against Suprangel were strong. However, the king disregarded those.
“It will only be beneficial to Orsongrande”, Horant’s nobles ground their teeth out of vexation, but there was a problem of the other royal family members not having enough ability to oppose the king after Veldore’s death.
Of course that didn’t mean that Suprangel happily swallowed those terms.
Even now, while listening to the talks of the nobles, who insisted in their stinging dissenting views in the name of remonstrating him with 「What insolence」, he recalled the conversation with Hifumi.
“You are asking me to place your troops in my country... ?” (Suprangel)
With the audience hall being in a desolate state because of the terrible scene of corpses being scattered all over, the two carried out their negotiations in another room that had been prepared.
In normal cases, there is a lot of importance attached to formality such as seating order, but since it was a discussion between the king and a single noble it became a conversation of both sitting on an equal level this time.
“That’s only natural. Though we will teach you how to fight, it will be pointless if it’s only or soldiers.” (Hifumi)
“Though I think that the compensation and the direct trade can’t be avoided...” (Suprangel)
“At the beginning.” (Hifumi)
Not making himself quite clear, Hifumi muttered towards the king while entrusting his back to the chair and looking up to the ceiling.
“I’m curious, won’t it create a situation of different small warlords rivalling with each other within the noble’s consul, if the political centre of Horant is destroyed and a large amount of the populace becomes rootless? I wondered whether I should do such experiment, but...” (Hifumi)
He says an outrageous thing with a serious look.
“However it would be too wasteful to lose the technology of magic tools due to that. There is the problem with the sense of pain and ego vanishing, but the body enhancement was good. If that sort of technology spreads even more, the killing will become a lot more enjoyable. It should also cause an effect of thinking about war more deeply in various ways.” (Hifumi)
“We will arrive at that place in the end.” (Suprangel)
“Of course”, Hifumi laughs.
“I was transferred here from another world against my will by the idiots of Orsongrande. I planned to go on a rampage a little bit as I had to hold back so long, but there was a lot less resistance than I imagined.” (Hifumi)
“Another world... ?” (Suprangel)
“Imeraria called it summoning magic. It seems to be an ancient technique, however I don’t know about it quite well. I was forcibly summoned from another country by that spell. If you feel like it, it’s alright to exchange blows with the royal family of Orsongrande due to that.” (Hifumi)
“That is... I will pass on that. Even if I said something now, it wouldn’t amount to much more than a loser’s whining. However, aren’t you denying the possibility of Horant going to war against Orsongrande?” (Suprangel)
“No, it’s a standpoint of recommending the opposite. If it reaches the point that people use their heads, the battles will become as long and violent as possible. I didn’t tell you add the provision of being non-aggressive towards Orsongrade for a reason. That’s how it is.” (Hifumi)
There was no need for Suprangel to say anything else anymore. He doesn’t know how soon that man would devour the country once again if he doesn’t finish the conference quickly and settle down the internal affairs somehow.
While making a civil official take notes, they worked out the details of the drawn up official document. Both of them signed two versions each and kept one for themselves.
With this they concluded the unprecedented peace between a single noble’s territory and a whole country.
☺☻☺
“Somehow we were welcomed with an amazing vigour.” (Alyssa)
“It’s likely the king’s instigation. His soldiers probably decreased considerably. They might not want to risk even skirmishes, to say nothing of a war, until they have reorganised their army to some extent.” (Hifumi)
Incidentally, as he left the castle, he was joined by Alyssa who caught up.magic
Although the negotiations advanced at a considerable speed within their limitations, they mostly haven’t encountered any enemies, let alone even an outstanding opposition. On the contrary, once they got closer to the capital, a messenger welcomed them and told them the end result.
Alyssa’s group, which had intended to open hostilities upon coming into contact with the enemy, got completely discouraged.
“Origa already started the aforementioned strategy. As it had been decided that we will train the soldiers of this country for the time being, I will have you, together with the lot you brought along, stay here and drill them. The period is half a year.” (Hifumi)
“For half a year!?” (Alyssa)
“I plan to start the next step in around that time.” (Hifumi)
Hifumi says while scribbling on some kind of document. Alyssa tilted her head to the side.
“Next?” (Alyssa)
“Right, next. Because I will make sure to have Horant, Orsongrande and Vichy approach a pleasant standstill, soldiers of various places will be trained during that time. After that I will somehow give them a trigger.” (Hifumi)
Alyssa quietly sighed due to Hifumi laughing innocently.
“I leave the methods of drilling to you. Alyssa will occasionally return to the territory. While at it, we will also replace the lot stationed here. It’s also necessary to have similar training in Vichy and the other territories.” (Hifumi)
“It will become busy, eh?” (Alyssa)
“Yea, but it will also become a lot more fun. ... Alyssa.” (Hifumi)
“What?” (Alyssa)
“There’s no particular necessity to continue doing the unreasonable. It’s also unnecessary to feel gratitude. I was able to enjoy Vichy plentifully.” (Hifumi)
“Do I seem to be that worn out?” After Alyssa inclines her head to the side, she laughs with her whole face.
“Gratitude, eh? I also followed Hifumi-san intending to repay the favour at the beginning, but now that’s not it. Seeing various cities in various countries, looking at an unknown world and talking with companions I’m getting along with is fun.” (Alyssa)
Alyssa’s eyes were suddenly filled with tears.
“That’s why I’m together with Hifumi-san. At the time of going through a bitter experience in Vichy, I thought about wanting to die, but since it’s this much fun right now, I consider it to be fine as it is.” (Alyssa)
“Please treat me well”, when Alyssa bowed, Hifumi tapped her shoulder while smiling as well.
“I see. It’s fine to do what you like as long as you enjoy it. It’s your life after all.” (Hifumi)
“Uh huh. It’s a blessing if you can do what you like.” (Alyssa)
“Yes, that’s right... Eep.” (Hifumi)
Once Hifumi raised his look, he saw the soldiers of Fokalore chewing their handkerchiefs behind Alyssa while spilling tears of gratitude. Their resounding, sobbing voices were similar to the wails reputed to be heard from the entrance to hell.
“Director! I will accompany you for the rest of my life as well!” (Soldier)
“Please tell us anything! We will do our utmost to fulfil your wishes!” (Soldier)
“Yea, best regards from now on too!” (Alyssa)
Watching the soldiers answer in one voice to call of Alyssa, Hifumi secretly left the place wondering since when those guys had become this disgusting.
He hastened his return for the sake of creating the next place of conflict.
☺☻☺
The first task of Vaiya, who became the vice-captain of the new Royal Knight Order, was to proceed towards Fokalore. It had been decided he would carry out negotiations before involving Phyrinion.
It’s about a request to instruct the knight order as well as the national armed forces.
Being the initiator and an acquaintance of Hifumi, Sabnak has assisted in the guarding of the former soldiers of Horant on their travel to Fokalore before returning to the royal castle. He also had the national task to make sure they arrive with his own eyes.
Along the way he, alongside the accompanying soldier of the national army, participated in the training of Fokalore’s soldiers.
Excluding Vaiya, who participated several times, the soldiers of the national army only inclined their heads to the side in doubt whether the unfamiliar training regime had any effect.
However, in addition to the merit of hunting during journeys, the Fokalore soldiers killed a bandit group, they encountered by chance, by themselves while the national army was confused. Due to them displaying conspicuous fighting strength, the national army’s soldiers improved by imitating their training.
And before long they arrived at Fokalore.
“On top of the attendants having increased considerably, the person in charge is absent...” (Caim)
Caim expressionlessly muttered a few words as if being fed up. Splitting the soldiers, who came from Horant to immigrate, into groups and assigning accommodations, he quickly broke up the soldiers and had staff members guide them.
The staff and territorial soldiers, who were instructed without delay, began to move without any particular disorder. The soldier, who was chosen to explain the state of affairs to Miyukare, dropped his shoulders, feeling to have drawn the short end of the stick as it was apparent that Miyukare would be displeased about Alyssa not returning, and walked away.
Vaiya, who was rolled up in that skilled performance, is guided to Phyrinion by Brokkra.
Being guided and entering the feudal lord’s mansion, Vaiya showed interest in its structure.
The neatly cleaned-up first floor is completely a public space. There is a clerk on standby at the information desk to give easy-to-understand guidance. A row of counters is lining up in a clear order for all kinds of reports. The residents are quietly talking in the meeting space. It’s rather busy with people like apparently newly-wed who are exchanging information with fellow couples and people, who are reminiscing with others that lost their relatives as well.
“This is amazing...” (Vaiya)
Brokkra explained in detail as Vaiya was taken aback.
“All of this is following the teachings of Lord-sama. Each of the staff members, with the exception of us civil official slaves, has their own individual role and it had been established that they use the pre-set format as well. They are managing everything like the occupation, family structure and address of the inhabitants.” (Brokkra)
“Address?” (Vaiya)
Vaiya posed a question hearing an unknown word.
“Beginning with this city, there is a manager and a name for each block of the cities and villages Lord-sama controls. And since all buildings have a number added to them, it has reached the point that any building is defined by its block’s name and number. The delivery service, that begun as private organisation, is using that as well.” (Brokkra)
“What a...” (Vaiya)
Vaiya can’t hide his shock due to them being able to organise things and people in a way even the capital can’t. At the time of realising that there were a lot of things he should study besides military affairs, he regretted to not have brought along even more of the other knights as well.
The office, used by Phyrinion, is on the second floor of the mansion. Usually there are people coming and going without interruption, but now that a envoy of the royal castle has come, the flow of people had been stopped temporarily.
Once Brokkra knocked on the door, Krinola came over and opened it.
As they enter, Phyrinion stands up to welcome them.
“Welcome. Although we’ve heard about the envoy from the royal castle, I hope you can accept me, Phyrinion el Amazelotto, as representative.” (Phyrinion)
Since the moment he looked at the slightly tired expression of the smiling Phyrinion, Vaiya couldn’t avert his eyes from Phyrinion. Her soft, green and lush wavy hair and her brightly glittering orange pupils. Noticing his own leering at her smiling lips, Vaiya turned away his look in a fluster.
“Is anything wrong?” (Phyrinion)
“N-No! Please excuse me!” (Vaiya)
Vaiya, who unintentionally ends up using a loud voice, sits down urged by they reception while blushing. Brokkra tells them that his next official duty is waiting for him and leaves.
“I’m the vice-captain of the newly established Royal Knight Order, Vaiya Zuellen. (
Given that his face heated up once he looked at her face, he greeted her while looking slightly downwards, but as he was wearing the uniform of the knight order which attracts attention, his face flushed all the more.
“Royal Knight Order?” (Phyrinion)
Phyrinion involuntarily knitted her brows due to the unfamiliar expression.
“Though it is disgraceful, it’s an incomplete knight order that still has a bit work left to do as organisation as it was just founded the other day. The captain is Sabnak-dono, who hails from the Third Knight Order just like you. It’s likely that he is just about now returning to the capital almost as if replacing me.” (Vaiya)
“He is... By the way, you know about me belonging to the Third Knight Order?” (Phyrinion)
“I was told various things by Sabnak-dono before leaving Münster. Since you are probably experiencing hardships as his replacement, he wants to help you if he gets a chance to do so.” (Vaiya)
Vaiya pretended to not notice her instantaneous angry expression due to Sabnak’s verbal message. Rather than that, he is embarrassed to have become more talkative than usual without hurrying up the talks at all.
“Looks like various things have happened in the royal castle.” (Phyrinion)
“Yes, both, the First and Second, Knight Orders have been dissolved. Earl Tohno has played a great part in that.” (Vaiya)
Vaiya explained the situation as far as he knew himself to Phyrinion.
Although there were various things he wanted to be taught from now on, he planned to tell Phyrinion all of the news without being concerned about them being highly classified information.
The war with Horant, the matter of Hifumi marching into Horant, the prince’s death and the princess’ decision. Phyrinion silently listened to all of the topics.
“... Thank you very much. The world is changing at an outrageous speed. Even the incomprehensible common sense of the original lord of this territory, I was able to realise it once again.” (Phyrinion)
Choosing this timing, Krinola exchanged the completely cooled-down black tea. Stealing a fleeting glance at Vaiya’s face during the time of placing the cups, she almost unintentionally burst into laughter. She is wondering why her own master doesn’t realise the state of the male in front of her.
“And? You surely haven’t expressly accompanied the travel of the defeated soldiers from Horant for the sake of reporting the state of things this time, right?” (Phyrinion)
“Yes, of course not. Though I also ascertained the immigrants from Horant with my own eyes, the real issue for me to come here is to convey a request from the royal castle.” (Vaiya)
“From the royal castle? Are the contents intended for my ears?” (Phyrinion)
Phyrinion made sure whether it was fine to not wait for Hifumi to return, but even grasping that, Vaiya does nothing more but continuing the prior discussion.
“Of course I’m well aware that the final decision will rest with the feudal lord. However, judging from Earl Tohno’s character, he makes prompt decisions if possible. Before that I planned to request a prior examination whether or not it will be possible.” (Vaiya)
Certainly there is also the possibility of Hifumi deciding during his stay at the royal castle, but at any rate it might be different if there is or isn’t a preparatory phase.
“If that’s what this is about, I will listen to your story.” (Phyrinion)
“Fokalore’s feudal army’s state of being undefeated, we came to the conclusion that the secret of their strength lies in the content of their training regimen. Therefore, because there won’t be a problem in borrowing a few soldiers from the feudal army, we are planning to request them to coach the national army.” (Vaiya)
“With such kind of talk, it’s even fine to talk to the civil official slaves about it. There’s probably no one as well-informed about this territory as them.” (Phyrinion)
“It’s to the degree of them knowing more than the feudal lord”, Vaiya gaze was glued to Phyrinion’s smile as she said that while laughing.
As expected, even Phyrinion would notice it if she was stared at with a bright right face. Though, in her case it was a feeling of wondering whether she had said anything offending in this situation.
At last noticing that he was watching her in fascination due to being called, Vaiya averted his gaze while stroking his cheeks in panic.
“E-Excuse me! Just, seeing... your beaut... y...” (Vaiya)
Vaiya doesn’t make eye contact wit Phyrinion realising the meaning of those words after finishing them.
Even Phyrinion ended up hanging her head in shame with a bright red face thanks to the unforeseen words.
“Umm... thank you very much...” (Phyrinion)
After squeezing out words of thanks a few times, both of them ended up silently looking downwards with red faces.
Krinola, who left the room quietly, got enthusiastic about reporting this to Phyrinion’s family’s home, the Amazelotto household. |
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} | ミュンスターの防衛陣地では、特に被害を受けずにホーラントからの攻撃を防ぎ切り、敵の姿が見えなくなっていた。
兵たちは交代で休憩と防衛のための道具の確認と補修を進めており、イメラリアはビロンと共に後方に下がり、それぞれの為に設置された天幕内で休憩を取っている。
そんな中、現場責任者であるサブナクは、忙しく指示を出していた。
「状況を教えて」
不意に声をかけられたサブナクが振り向くとだけ誰もいないのかと思ったが、視線を落とすとアリッサが自分を見上げているのを見つけた。
「ああ、アリッサ......さん」
呼び捨てにしようとすると、彼女の後ろにいるフォカロル兵士たちから謎の圧力を受け、あわててさん付けに変更する。
「フォカロルからの応援か......ありがたい」
内心では想像以上に早い到着に驚き、なるべく戦場をひっかき回さないで欲しいと思っていたが、引きつりながらも笑顔を作った。
「それで、さんたちは......」
「もうすぐ来るよ。オリガさんも一緒」
一縷の期待を込めた質問に、アリッサが即答する。
現実はかくも厳しいのか、と泣きたくなったサブナクだが、肩書きがある以上はこの場を取りまとめなくてはならない。
「一度だけ、ホーラントからこの防衛陣地に攻撃があったけど、跳ね返すことができたよ。向こうの出方がどうなるかは予想できないけれど、国境周辺は完全にホーラントに抑えられてるね」
監視した兵から受けた情報を伝えたサブナクは、とにかく今は状況を見極めたいと話した。
「そうなんだ......陣地の隅を借りてもいい?」
「もちろん構わないよ......一んが来たら、どうする予定だい?」
サブナクの質問に、アリッサは違う、と首を振った。
「今回の件は、僕の部下がホーラントで被害を受けたから、僕が責任者として救出に行く。一二三さんは見てるだけだって」
「......え? あの一二三さんが戦いに参加せずに見てるだけ?」
まさか、とつぶやくサブナクに、アリッサは頬を膨らませて怒った。
「本当だよ! これは僕の復讐だから、僕がやる!」
へらへらと笑っていたサブナクだったが、“復讐”という言葉で顔を曇らせた。
「復讐......なのか」
それは、忘れもしないアロセールでサブナクが初めて一二三と出会った時のこと。その時はまだ奴隷だったオリガとカーシャのため、一二三は自らの武器を貸してまで復讐を果たさせる手伝いをした。
「ということは、君は......いや、フォカロル領の軍はホーラントへ攻め込むということかい?」
「もちろん」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 今はぼくがここで指示を出しているけれど、この陣地も作戦も、イメラリア陛下の指揮でやってるんだ! ただでさえ面倒な状況なのに、ここで許可なく侵攻されたら困るよ!」
「でも、一二三さんが良いって」
「よく考えてくれたまえ!」
背中を丸めてアリッサに懇願するように肩に手を置いて、サブナクは泣きそうな顔をする。
「女王陛下と伯爵と、どっちが偉い人で、そういう重要な事を偉い人の許可なしに勝手に決められるものじゃないだろう?」
「......そう、かな?」
「そうなんだよ。......アリッサさんがあの夫婦みたいに強引で非常識じゃなくて良かった。とりあえずは陛下やビロン伯爵に相談しよう。そうしよう」
半分くらいは納得しているらしい様子のアリッサを見て、サブナクは安堵の溜息をついた。
もしアリッサが無茶な攻勢に出たりしたら、ホーラントから大規模な反撃を受けた時にこの陣地で受けきれなくなる可能性もある。
何とかして落ち着いてもらって、あわよくば国境までの押し戻しだけ協力してもらおうと考えてサブナクが顔を上げる。
「よう。出世してずいぶん偉くなったんだな」
「サブナクさんの私たちに対する評価はそうなのですね」
馬を並べ、笑顔の一二三と無表情でサブナクを睨むオリガがそこにいた。
☺☻☺
「止まってください。ミダスさん」
「......ヴァイヤーか。これはどういう事だ?」
ネルガルたちと共に王都に入る直前だったミダスは、目の前に立ちふさがったのが盗賊や造反貴族の手先ではなく、近衛騎士隊副隊長のヴァイヤーだということに気づき、目を細めた。
「陛下やサブナク隊長が留守の間、私が責任者ということになっております」
「そんなことを聞きたいんじゃない。なぜ私たちの前を塞ぐ必要があるのか、と聞いている」
二人は所属は違えど面識はある。ヴァイヤーの方が貴族の階級としては上だが、ミダスの方が先輩であり、近衛騎士隊と一般の騎士隊の違いはあれど、副隊長としては同格とされている。
「そちらの馬車には」
ヴァイヤーが指差したのは、ネルガルが乗っている。
馭者も馬車の周囲を固める兵たちもホーラント所属の者で、突然のことに緊張の面持ちで剣の鞘を掴んでいる。
「ホーラント次期王殿下がおいでですね?」
「だとしたらどうする。お前のやっていることは外交上の重大な非礼にあたるぞ」
「女王陛下からの通達です。ネルガル殿下をお出迎えし、王都にて状況が落ち着くまでお待ちいただくようにとの事です」
状況が変化したのです、とヴァイヤーが取り出した命令書は、確かにイメラリアの署名が入っていた。
言葉を返すこともできずにじっと命令書を睨みながら、ミダスは迷っていた。
ヴァイヤーが造反貴族なりホーラントなりの傀儡になっている可能性もあるが、基本的には信用できる人物であるという評価はしている。
沈黙を破ったのは、ホーラント兵が先だった。
「味方みたいな面して、今になって裏切るのか!」
「い、いや......」
狼狽えるミダスに向かい、激高したホーラント兵がいよいよ剣に手をかけた。
ミダスたちにも、正面に並ぶヴァイヤーたちにも緊張が走る。ここで剣を抜かれたら、問答無用で斬り捨てざるを得ない。
「待ってください」
ホーラント兵たちを止めたのは、馬車を降りてきたネルガルだった。
心労でいささか痩せたように見える彼がそばに来たところで、ミダスが馬を降りる。
「ミダスさん。彼が持っている命令書は本物ですか?」
「......間違いないでしょう」
ミダスの答えを聞いて、ホーラント兵からは悲痛な声が上がるが、ネルガルは落ち着いてヴァイヤーの方へと向き直った。
「そのような命令が出ているということは、我が国で何か起きたという事ですね?」
「左様です。ネルガル殿下」
「殿下はやめてください。跡継ぎに指名されたとはいえ、私はまだ勉強中の身であり、スプランゲル陛下の遠い遠い血縁というだけの若造です」
はにかむネルガルに、こわばった顔で額に汗を浮かべているヴァイヤーは、命令書を丁寧に折りたたむ。
「貴国ホーラントから、オーソングランデへ侵略行為が認められました」
これに、ホーラントの兵たちは絶句したが、ミダスたちも同様だった。
「侵略とは......状況を教えていただけませんか」
青い顔をして質問を続けたネルガルに、ヴァイヤーは頷く。
「我が国からホーラントへの侵入を図った賊どもは、国境に近い町ミュンスター周辺を治めるビロン伯爵の軍と、ホーラントへ駐留していたフォカロル領トオノ伯爵の軍により食い止められ、ホーラントへの侵入は未然に防がれました」
ですが、とヴァイヤーが軽く足を開いて姿勢を正すと、腰に下げた鎖鎌の鎖が音を立てる。
「貴国を守ったフォカロル領軍の兵士たちは貴国の軍に殺され、国境周辺は今やホーラント兵によって占拠された状態にあります」
ホーラント兵の誰かが息をのむ。
その内容の真偽は別としても、今はっきりとオーソングランデ所属の兵がホーラントの兵に殺された、と告げられたのだ。この時点で、敵国どうしに戻ったと同然である。
「だ、だがそれはネルガル様の指示ではない! それはわかるだろう!」
兵の一人が声を上げたが、ネルガルが手をあげて止めた。
「私の指示であろうと無かろうと、国の代表である以上は、その責任から免れることはない......という事ですね」
ネルガルの言葉に、目を閉じて間を置いたヴァイヤーは、息を吸い込む。
「死亡したとされるフォカロルからの教導部隊にいた者は、私と同じ武器を使い。わずかな期間ではありますが、共に汗を流して修練をした者です」
鎖を握りしめたヴァイヤーは、深呼吸を繰り返し、手を放した。
当たりなのは承知ですが本心を申せば、貴方方ホーラントの勢力を叩きのめしたい」
ヴァイヤーは、また別の羊皮紙を取り出し、ネルガルへと開いて見せた。
「......ですが、ネルガル様は先ほど自ら申されました通り、未だ戴冠を済まされていないうえ、亡くなられたスプランゲル王の子息というわけでもありません」
広げられたのは、先ほどの命令書に対する追記だった。
「王都にいていただくのはどうしようもありませんが、丁重にお迎えし、不自由なくお過ごし頂けるようにとのご命令を受けております。護衛の方も同様です。どうか、我が国の女王からのお願いをお受けいただきたいのですが」
「軽々しく言えることではありませんが、心中お察しします」
頭を下げたヴァイヤーに、ネルガルは沈痛な面持ちで答えた。
「私の身柄を貴国に預けます。護衛の兵たちにも、可能な限り配慮をお願いいたします」
「お約束いたします」
「良かった。あとできれば、イメラリア陛下へお手紙をお送りさせていただきたいのですが」
顔を上げたヴァイヤーは、首をかしげた。
「手紙、ですか? 構いませんが......どのような内容か、確認させていただきますが?」
「構いません。助命嘆願書ですから」
「い、イメラリア陛下は決してネルガル殿を処刑しようなどとは思っておりませんでしょう!」
慌てるミダスに、ネルガルはクスリと笑みをこぼした。
「私のことじゃありませんよ。できるだけ、我が国の兵や城で働く者たちの命を助けてもらいたいと思うだけです。私が怖いのは、故郷で暴走しているらしい者たちが、イメラリア陛下の懐刀。彼の逆鱗に触れないか、それだけです」
一二三のことをよく知らないホーラントの兵たちは顔を見合わせていたが、ミダスやヴァイヤーたちは先ほどまでとは違った種類の冷や汗を流していた。
☺☻☺
「では、本日の議題は彼女たちの扱いについてですが......」
「その前にさ、彼女たちが何者なのかを教えてくれよ。獣人族とエルフなのはわかるぞ。それがどうしてフォカロルに来ているのかが知りたいんだがよ」
フォカロルの領主館の一室。文官たちが会議の為に使っている部屋で、文字通りの会議を始めようとしたカイムに、デュエルガルが疑問を投げた。
カイムが集まった文官たちを見渡すと、フォカロルへやってきたプーセたちの世話役となったパリュ以外、ミュカレとブロクラが同意するように頷いている。
「では、パリュから話してもらいましょう」
さっさと指名すると、カイムは無表情のままで着席し、素早く書き取りの準備を終えた。「えっ、私?」
最年少のパリュは、の視線を浴びて緊張しながらも、多少はプーセたちと話したことを全員に伝えた。
「えっと、エルフの女の人がプーセさん。兎獣人の人がヴィーネさん、犬獣人の人がゲングさん、虎獣人の子がマルファス君です」
荒野に面した町で保護された彼女たちは、大急ぎで台車に乗せられて昨日の時点でフォカロルまで運ばれ、今は館に近い位置にある宿に泊まっている。
宿の手配などはカイムによる指示だったが、女性もいる事と敵意が無いのが確認できた事で、一時的に手が空いていたパリュが世話係となった。
他の職員に任せなかったのは、彼女たちが一二三に会いに来たということを知ったカイムの判断による。
「荒野の向こうにある、ソードランテという国で、獣人と人間、それにエルフが一緒に暮らす町があって、そこからやってきたそうです」
「なるほど」
素直に納得して頷いたのは、カイムのみ。
「荒野の向こうの国か。噂には知ってたが、実在したんだなぁ」
「エルフとか初めて見たわ。それも驚きよ」
「獣人やエルフが同じ町に住んでいるなんて、想像つきませんね」
口々に意見を交わすミュカレたちの話にカイムはしばらく聞き入っていたのだが、特に結論らしいものが出ないと判断すると、パリュに視線を向けた。
「パリュ。彼女たちの目的は、領主様にお会いすることだと聞きましたが、詳しい内容はわかりましたか?」
「あ、はい」
雑談はぴたりと止まり、再び視線にさらされたパリュは、手元のメモを懸命に読み上げる。
「兎獣人のヴィーネさんは、領主様に買われた奴隷だそうです。しばらく勉強をしてから、すぐに自由にしていいと言われたそうですが......私たちと同じですね」
「俺たちはとても自由とは言えないんじゃないか?」
忙しくて死にそうだぜ、とこぼすデュエルガルに、ミュカレが「従軍するよりましでしょ」と睨みつけた。男所帯の軍隊と行動を共にするのは、アリッサと一緒でもかなりストレスだったらしい。
カイムに睨まれて二人が黙ると、パリュが続ける。
「そのヴィーネさんが、その......」
「何か言いにくい内容?」
顔を赤らめたパリュを気遣い、ブロクラがメモを受け取る。
「あら......。ヴィーネさんという兎獣人は、領主様と一緒になりたくて来たみたいですね。他の人たちはその付添い。虎獣人の子だけは、領主様の弟子になる希望もあるみたいです」
「あらあら、可愛らしいわね。恋にまっすぐなのね」
「ミュカレはスレすぎだろ。パリュはもうろが。これくらいで恥ずかしがるなよ」
なんだか恥ずかしくて、と頬を両手で押さえたパリュ。
それら全ての雑談を無視して、カイムはぴしゃりと言った。
「では、本格的に意見をお願いいたします」
全員が首をかしげる。
「とても大きな問題が起きているのがわかりませんか? 領主様とお近づきになるためにやってきた。つまり奥様に恋敵が現れたということなのですが」
さて、どうします? とカイムが一同の顔を順番に見ていったが、誰も視線を合わせようとはしなかった。 | At the end of defending against the attacks from Horant without suffering any particular damage, the enemies disappeared from Münster’s defensive encampment.
The soldiers are taking turns between resting and maintaining as well as checking the tools used for defending. Imeraria has withdrawn to the rear together with Biron and they are taking a break in their respective tents.
Inside one of those, Sabnak, who is the one in charge on-site, busily gave orders.
“Inform me about the situation.” (Alyssa)
Once Sabnak, who was suddenly addressed, looked over his shoulders, he wondered for just an instant whether there was no one there, but when he lowered his line of sight, he discovered Alyssa looking up at him.
“Ah, Alyssa-... san.” (Sabnak)
Receiving a mysterious pressure from the soldiers of Fokalore, who are behind her, once he uses her name without an honorific, he adds a “-san” to her name in panic.
“Reinforcements from Fokalore, huh...? That’s welcome.” (Sabnak)
Surprised by their fast arrival that exceeded the expectations in his mind, he thought that he’d like them to not ransack the battlefield as much as possible, but he produced a smile even while his face was twitching.
“So, Hifumi-san and the others are...” (Sabnak)
“They will be here very soon. Origa is with him as well.” (Alyssa)
Alyssa immediately answers the question which had a thread of hope put into it.
, Sabnak wanted to cry, but since he owns a title he has to keep it together at this place.
“We were attacked in this defensive encampment only once by Horant, but we were able to repel them. I can’t predict how the other side will move, however the surroundings of the national border have been completely occupied by Horant.” (Sabnak)
Sabnak, who told her the information he received from the observing soldiers, mentioned that he wanted to ascertain the state of affairs now anyway.
“I see... is it fine for us to borrow a corner in the encampment?” (Alyssa)
“I don’t mind, of course... what do you plan to do once Hifumi-san arrives?” (Sabnak)
Alyssa shook her head saying “it’s different” towards Sabnak’s question.
“Since my subordinates suffered losses by Horant in this time’s case, I will go rescue them as the one responsible for them. Hifumi-san will just watch.” (Alyssa)
“... Eh? That Hifumi-san will just watch without participating in the battle?” (Sabnak)
Due to Sabnak muttering “no way”, Alyssa got angry and puffed up her cheeks.
“It’s the truth! This is my revenge, so I will be the one to execute it!” (Alyssa)
Sabnak smiled foolishly, but his face became dark at the mention of the word “revenge.”
“Revenge... it is?” (Sabnak)
Sabnak hasn’t forgotten the time when he met Hifumi for the first time in Arosel. At that time Hifumi helped Origa and Kasha, who were still slaves, to accomplish their revenge going even as far as lending them his own weapons.
“So that means, you... no, the Fokalore feudal army will invade Horant?” (Sabnak)
“Of course.” (Alyssa)
“P-Please wait a moment! Currently I’m the one giving the orders in this place, but this encampment and military operation is under the command of Her Majesty Imeraria! Even though it’s already a difficult situation even at the best of times, it will be troublesome if you invade without permission.” (Sabnak)
“However, Hifumi-san has said it’s fine.” (Alyssa)
“That’s before thinking it over properly!” (Sabnak)
Placing his hand on her shoulder to plead to Alyssa while bending his back, Sabnak shows a face that looks like he is sobbing.
“Her Majesty the Queen and an Earl, both of them are people in high positions. You can’t decide something on your own accord without getting the permission from such people in high positions regarding such important matter, right?” (Sabnak)
“... I guess so?” (Alyssa)
“That’s how it is. ... It would be great if you didn’t display high-handed absurdity like that couple, Alyssa-san. For starters, let’s discuss it with Her Majesty and Earl Biron. Come on, let’s just do that.” (Sabnak)
Seeing the state of Alyssa who seems to be agreeing with him at least partially, Sabnak sighed in relief.
If Alyssa went out for an unreasonable offensive, it would be also possible for this encampment to be broken through when it received a large-scaled counter-attack from Horant.
I’d like them to calm down somewhat and cooperate with us by just pushing back them back to the national border if possible
“Yo. You became quite the big boy after climbing the ranks.” (Hifumi)
“Sabnak-san’s evaluation of us seems to be such.” (Origa)
With their horses lined up, Origa, who glares at Sabnak, and a smiling Hifumi were there.
☺☻☺
“Please stop, Midas-san.” (Vaiya)
“... Vaiya, huh? What’s this about?” (Midas)
The one who stood before Midas, who was about to enter the capital together with Nelgal’s group, weren’t the underlings of the rebelling nobles or thieves, but the Vice-Captain of the Royal Knight Order, Vaiya, Midas realized after squinting.
“It has been decided that I’m the one in charge during the absence of Her Majesty and Captain Sabnak.” (Vaiya)
“That’s not what I want to hear. What I want to know is why it’s necessary for you to stand in our way.” (Midas)
The two of them are acquaintances despite having different affiliations. Vaiya is superior as he has a rank of nobility, but Midas is his senpai*. Being in different units, namely the Royal Knight Order and the ordinary knight order, they possess the same ranks as Vice-Captains.
“It’s because of the carriage over there.” (Vaiya)
The one Vaiya pointed at is the one with Nelgal on board.
As the coachman and the soldiers, who are securing the vicinity of the carriage, belong to Horant, they are grasping the scabbards of their swords with tensed expressions due to the sudden situation.
“Is His Highness, the next king of Horant, boarding it?” (Vaiya)
“What will you do, if that is the case? What you are doing is equivalent to a grave, diplomatic affront.” (Midas)
“It’s an order by Her Majesty. I was told to welcome His Highness, Nelgal, and have him wait in the capital until the situation has settled down.” (Vaiya)
The decree, which Vaiya took out after saying “the circumstances have changed”, was definitely signed by Imeraria.
Midas hesitated while fixedly staring at the decree without returning any words either.
There’s the possibility of Vaiya having become a puppet of Horant or the rebelling nobles, but basically he is known for his high evaluation as being a trustable person.
The one who broke the silence was a soldier from Horant.
“Are you betraying us at this point after regarding us like allies!?”
“N-No...” (Midas)
Facing the flustered Midas, the enraged soldier of Horant at last took a sword in his hand.
Tension travels across Midas’ group and Vaiya’s group, which is lining up right in front of them. If they draw their swords here, there won’t be any choice but to cut them down without questions asked.
“Please wait.” (Nelgal)
The one who stopped the soldier from Horant was Nelgal who disembarked from the carriage.
At the moment he, who looks somewhat thin due to his anxiety, came close, Midas dismounted.
“Midas-san, is the decree, he possesses, the real thing?” (Nelgal)
“... There’s probably no mistake in that.” (Sabnak)
Hearing Midas’ reply, a grieving voice is raised by the soldiers of Horant, but after having calmed them down, Nelgal faced Vaiya.
“For such a decree to appear means that something happened in our country, right?” (Nelgal)
“That’s right, Your Highness, Nelgal.” (Vaiya)
“Please stop with the “Your Highness.” Although I have been designated as heir, I’m still a child in the middle of studying. I’m a youngster who merely has a distant, distant blood relation with His Majesty, Suprangel.” (Nelgal)
Vaiya, who has sweat gathering on the forehead of his stiff face due to the shy Nelgal, carefully folds the decree.
“We have observed an act of aggression towards Orsongrande by your country, Horant.” (Vaiya)
The soldiers from Horant became speechless due to that and same applied to Midas’ group.
“Aggression... could you inform me of the situation please?” (Nelgal)
Vaiya nods towards Nelgal who continued his question while having a pale face.
“The enemies from your country, who plotted an invasion into Orsongrande, have been held back by the troops of Earl Biron, who is governing the area of Münster, a city close to the national border and Fokalore’s territorial troops of Tohno Earldom, which have been stationed in Horant. They prevented the invasion by Horant.” (Vaiya)
“However”, once Vaiya straightens himself by spreading his feet lightly, the chain of the kusarigama, which hung at his waist, makes a sound.
“The soldiers of Fokalore’s feudal army, which protected your country, were killed by the troops of your country. The area of the national border has been at present occupied by soldiers from Horant.” (Vaiya)
One of the soldiers from Horant gulps.
Even if the authenticity of those details are a different matter, it’s currently clear that soldiers affiliated to Orsongrande were killed by soldiers from Horant, is what they have been told. At this point in time it’s similar as to ((both countries)) having returned to being fellow enemy nations.
“H-However, those aren’t Nelgal-sama’s instructions! You know that, right!?”
A single soldier raised his voice, but Nelgal stopped him by raising his hand.
“Even if it might not be my order, I can’t escape from taking responsibility for it seeing as I’m the country’s representative... is what you are saying, right?” (Nelgal)
Due to Nelgal’s remark, Vaiya, who paused while closing his eyes, breathes in.
“The people, who were in the instruction unit from Fokalore and who are assumed to be dead, use the same weapon as me. Although it’s been only for a short while, they are people with whom I trained while sweating together.” (Vaiya)
Grasping the chain tightly, Vaiya repeatedly took deep breaths and released his hand.
“Although I’m aware that I’m venting my anger, I want to beat down the power of your Horant, if I voice out my real feelings.” (Vaiya)
Vaiya took out yet another parchment and showed it to Nelgal after opening it.
“... However, on top of not having yet finished the coronation, as Nelgal-sama himself said before, it’s not like he is the son of the deceased King Suprangel.”
What was unfolded was a postscript to the previous decree.
“There is nothing I can do about having you stay in the capital, but I have received an order to welcome you politely and to make sure that you can rest there without any inconveniences. It’s the same for your guards as well. Please, I’d like you to accept the request from our country’s queen.” (Vaiya)
“It’s not something I can say carelessly, but I will keep it in mind.” (Nelgal)
Nelgal replied with a sad expression to the bowing Vaiya.
“I shall entrust myself to your country. Please take my escorting soldiers into your consideration as much as possible, too.” (Nelgal)
“I shall promise you that.” (Vaiya)
“Great. Furthermore, if possible, I’d like to have the privilege of sending a letter to Her Majesty, Imeraria.” (Nelgal)
Vaiya, who lifted his head, was puzzled.
“Letter, you say? I don’t mind, but... may I confirm what kind of content it’s about?” (Vaiya)
“No problem. It’s a petition for clemency.” (Nelgal)
“H-Her Majesty, Imeraria, will never consider something like executing you, Nelgal-dono.” (Midas)
Nelgal unintentionally spilled a smile due to the flustering Midas.
“It’s not for me. I’m merely feeling that I want her to spare the lives of the people, who are working in the castle, and the soldiers of my country if at all possible. What I’m afraid of is that those, who will apparently rampage in my birthplace, will be Her Majesty’s, Imeraria’s, confidants. Do not provoke the wrath of a superior? It’s just that.” (Nelgal)
The soldiers of Horant, who aren’t quite aware of Hifumi, looked at each other, but Midas, Vaiya and their men had a cold sweat different from the one before.
☺☻☺
“Well then, today’s agenda is about the treatment of the girls, but...”
“Before that, please tell us who those girls are. I grasp that they are elves and beastmen. But what I want to know is why they have come to Fokalore.”
In a room within the feudal lord’s mansion. Doelgar threw that question at Caim who tried to literally start a meeting in the room that has been used by the civil officials for meetings.
Once Caim surveys the civil officials that gathered, there are Miyukare and Brokra, who are nodding in agreement, besides Paryu, who has become the mediator of Puuse’s group who arrived in Fokalore.
“Well then, let’s have Paryu explain.” (Caim)
After nominating her indifferently, Caim sat down while being expressionless and quickly finished his preparations to take notes.
Paryu, who is the youngest, conveyed more or less what she had been told by Puuse’s group to everyone even while being tense due being pierced by the gazes of the other four.
“Umm, the elven woman is Puuse-san. The rabbit beastman is Viine-san, the dog beastman is Gengu-san and the tiger beastboy is Malfas-kun.” (Paryu)
The group, which had been sheltered in a city facing the wastelands, has been put on a platform wagon and has been transported until Fokalore yesterday around this time. Currently they are staying in an inn which is close-by.
The arrangement of an inn and such were Caim’s instructions, but as they were able to confirm that they have no hostility and that there are women among them too, Paryu, who was available to help, had temporarily taken over the duty of looking after them.
It was due to the judgement of Caim, who knew that they came to meet Hifumi, that there weren’t entrusted to other staff members.
“Located on the other side of the wastelands there’s a city where beastmen, humans and elves live together in a county called Swordland. It seems they came from there.” (Paryu)
“I see.” (Caim)
The one who obediently nodded while agreeing is only Caim.
“A country on the other side of the wastelands, huh? I knew of the rumours, but it really existed, eh?”
“It’s the first time I’ve seen an elf or such. That’s also a surprise.”
“I can’t imagine something like beastmen and elves living in the same city.”
Caim listened to the chats between Miyukare and the others, who exchanged their opinions, for a while, but once he judged that there won’t be anything similar to a conclusion, he turned his look towards Paryu.
“Paryu, I heard that their objective is to meet with Lord-sama, but did you learn the full details?” (Caim)
“Ah, yes.” (Paryu)
Paryu, who was once again exposed to their looks after they suddenly stopped their chatting, earnestly reads out the memo in her hand.
“It seems that the rabbit beastman Viine-san is a slave bought by Lord-sama. I was told that she was immediately set free after studying for a while, but... she is similar to us.” (Paryu)
“Though we aren’t completely free at all, are we?”
Due to Doelgar leaking “We are about to die due to work”, Miyukare glared at him and said 「It’s still better than going on campaigns」. The one who participated in the mobilisation of the all-male military forces was apparently quite stressed despite having been together with Alyssa.
Once the two become silent after being glared at by Caim, Paryu continues.
“That Viine-san is, umm....” (Paryu)
“Is it something difficult to mention?” (Brokra)
Noticing that Paryu was blushing, Brokra took the memo.
“Oh... The rabbit beastman called Viine-san apparently came here to be together with Lord-sama. The other people are her escort. Only the tiger beastboy apparently has the wish to become Lord-sama’s pupil.” (Brokra)
“Oh my, oh my, how lovely. She’s honestly in love.”
“Miyukare, you are too sly, right? Paryu, you are already years old, aren’t you? Don’t get bashful over this much.”
Being somewhat embarrassed, Paryu held her cheeks with both hands.
Ignoring all of that chatting, Caim flatly said,
“Well then, please tell me your real opinion.” (Caim)
Everyone tilts their heads to the side.
“Don’t you understand that a very huge problem cropped up? She came here in order to get close to Lord-sama. In other words, it’s about a rival in love for the madam having appeared.” (Caim)
“So, what will we do?” Caim said while looking at the faces of everyone present one after the other, but none of them met his gaze. |
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} | 睨み合い。という言葉は、互いに微笑んでいる今の状況には適さない。はオリガの強さを認めているし、先ほど左腕に傷を入れられたことに対して、負の感情は少しも無い。それどころか、喜んでいた。
血が流れる手首を一瞥し、一笑う。風の刃は全て防いだが、最初の傷からの出血は増えていた。
「......魔法薬を、使われないのですか?」
「あと二本しかない。それに、お前を相手にそんな悠長に構えていられないからな」
「あ......こ、光栄です」
オリガは多少誇張した表現だと思っていたが、一二三としては割と真剣な評価だった。
不可視の刃を操り、小柄な体躯で素早く動きながら相手を牽制し、なおかつ近接でも鉄扇を使って斬撃と打撃の両方を行える。
組技・投げ技をほとんど教えていないのだが、できないとも限らない。少なくとも、魔人族兵を数百人相手にするよりも、オリガ一人を相手にする方が面倒だ、と一二三は考えている。
「良く鍛えている。これは......楽しめそうだ」
「ええ、たっぷりと味わってください!」
オリガの声が終わる前に、一二三は背後に向かって左手を振るった。力なく揺れる黒い手が、大きく回り込んで飛来してきた風魔法を打ち消す。
同時に真正面から歩くよりも早く、走るよりも遅い速度で距離を詰めたオリガは、奇襲が失敗した事にも動揺を見せることなく、鉄扇を一二三の膝へと向かって袈裟懸けに振り抜いた。
軽く足を引いて避けた一二三は、その足で鉄扇を踏みつけにかかる。
だが、オリガは無理やり蹴りを出して一二三の足を逸らした。
防御のために開かれた鉄扇の上を刃が滑り、火花が飛ぶ。
互いに相手の武器を押し込むようにして、距離を取った。
オリガは少しだけ肩を上下させ、深呼吸を二度行い、心臓を落ち着ける。
刀は下げたまま、先ほどのオリガと同じように、まっすぐ突き進む。だが、その勢いは段違いだ。
暴風すらも凌駕する、圧倒的な力が押し寄せるプレッシャーに、オリガは思わず足が後ろへ向かって出るところだった。
だが、ここで逃げに転ずることは許されない。情けない姿を見せて、愛想をつかされたら......もし、それが原因で共に眠る事を拒否されたら?
恐ろしいにも程がある未来予想図を脳裏から掻き消し、オリガは前に出た。しかも、風魔法で自らの背中を押して。
削れた鉄扇の破片が飛び、何故か全て一二三の方へと流れ飛ぶ。一つの欠片が、一二三の頬を裂いた。
「風魔法、か。器用なもんだ」
「一二三様にご教授頂いた賜物です」
「嬉しい事を言ってくれる」
片手で刀を押えつけてくる一二三に対し、オリガは両手で鉄扇を支えながら、魔法で牽制を行う。
手数としては勝っているオリガは、再び魔法で一二三の気を逸らそうとしたが、先に一二三が動いた。
「きゃっ?」
不意に膝から力が抜けたように視線が落ちていく中、足払いを受けた事に気づいて、オリガは素早く身体を丸めて刀が届く範囲から離れつつ、歯噛みした。相手の注意を逸らす事に集中して、自らの足元が疎かになっていた。
このままでは、終われない。
容赦なく踏込み、突きを入れてくる一二三に向かって魔法で作った水を飛ばし、その間にさらに距離を取る。
オリガは長く一二三と訓練していく中で、彼の間合いを自然と憶えていた以上の距離を取って対峙すれば、攻撃が来る前にオリガの魔法で対処できる。
しっかりと構え直し、鉄扇を開く。
目の前に立つ夫は、右手に刀を下げ、左手から血を流し、それでも悠然とした態度で、妻を見ていた。その表情には疲れや戸惑いは見えない。ただまっすぐに相手を見据えている。いや、一二三から学んだオリガは知っている。一二三は相手だけでなく、周囲の後継や空気の流れも同時に見て、感じている。
ならば、とオリガは風を操り始めた。腕に固定した魔法杖代わりのナイフに魔力を流し、現象へと変える。
周囲の空気が変わったことに、一二三が敏感に気付いたらしい。
一二三が、オリガに注視している。彼女の動きからは動きが読めていないからだ。視線が絡み合う状況を、オリガはもっと長く楽しみたかったが、急がねばならない。
「色々とお話させていただきました」
「そうだな。まあ当たり前と言えばそうだが、何よりお前は俺を求めた。そして俺はお前に強くなる事を求めた」
「訓練もお仕事も、夜の時間も。離れている間のお話も色々と聞かせてくださいました。そんな何にも代えがたい時を過ごす中で、一二三様は一つだけ失敗なさいました」
そして、オリガは大きく息を吸い込む。
瞬間、一二三は攻撃の正体に気付き、刀を捨てて耳を塞いだ。だが、左手に力が入らず、左耳は完全に塞げない。
一二三の耳を、風魔法で増幅され、音と言うより衝撃へと変化した声が一二三を襲う。多少の指向性はあるものの、周囲の魔物たちや騎士たちは昏倒し、当事者であるオリガですら、鼓膜が破れて両耳から血を流していた。
だが、攻撃はそれだけでは無い。
「......くっ!」
左耳から血を流し、多少ふらつきを見せているもののしっかり立っている一二三に向かい、オリガは猛然と駆け出す。
それでもオリガは止まらない。鉄扇を構え、速度を落とさずに、いや、さらに踏み込みを強くする。
音も聞こえない、静寂が支配した戦場の中で、右手に掴んだ鉄扇が奔る。
狙うは左手。
一二三は万全ではない。斬られる可能性は高いが、いつもの速度よりは遅いはずだ。
臆するな、と自分に言い聞かせ、できうる限りの速さを持って、一二三の左手首へと、横なぎに鉄扇を振るう。
ふと、オリガの視界の端にヴィーネが見えた。
と、叫んでいるようだが、オリガには聞こえない。おそらく、一二三にも聞こえていないだろう。
同時に、オリガの鉄扇が一二三の左手首を切断した。
「うおっ、と」
そのまま、勢い付いてしがみついて来た二人の女性に巻き込まれる形で、一二三は転倒する。
周囲に、分厚い魔法障壁が発生するまで、ほんの数秒だった。
☺☻☺
「......なぜ、殺さなかったのですか?」
だが、答えは返ってこない。それどころか、自分の耳も聞こえない。
苦笑したオリガが身体を起こすと、同時に一二三が刀を引き抜いた。痛い、というより熱いという感触が身体の芯まで震わせる。
オリガが顔を赤らめながら、胸を押さるように座り込んでいると、同じように身体を起こした一二三。その腰のあたりにしがみついたまま、ヴィーネが目を回して気を失っていた。
オリガには聞こえなかったが、一二三が何かを呟き、魔法薬の瓶を二つ取り出したかと思うと、開封してヴィーネの口へ突っ込んだ。
半分程減ったところで一二三が瓶を引き抜くと、ヴィーネはむせて鼻や口から液体を撒き散らしながら転がり、障壁に激突した。
その間に、残った魔法薬を一二三が飲み干す。顔や腕の傷はふさがったようだが、左手首から先は再生しなかった。だが、一二三はそれを気にした素振りも見せない。
そして、残った一本をオリガへと差し出した。
耳が聞こえ無いせいでうまく話せないようだが、どうやら敗北した自分には、一二三と共にいる資格が無いというような事を、オリガは心身の痛みに顔を歪めながらポツポツ話している。
オリガの脇の下へと左腕を差し入れた一二三は、力任せに引き上げ、抱きしめるような形で顔を近づけると、片手で魔法薬の蓋を飛ばし、中身を口に含む。
突然の口づけに、オリガは一瞬だけ身体を強張らせたが、すぐに受け入れた。
肩や背中の傷も塞がり、音も聞こえるようになると、二人の間に聞こえる水音が恥ずかしく感じたのか、オリガは口を離しかけた。が、思いとどまってそのまま一二三にしがみつく。
「ご、ご主人様、大丈夫ですか!?」
どうやら復活したらしいヴィーネが一二三にしがみつくと、ようやく口づけが終わる。
「折角の戦いを邪魔しやがって......ああ、始まったか」
「きゃあ! 何ですかこれ!?」
再び抱きついてきたヴィーネに、ため息交じりで一二三が答える。
言葉とは裏腹に、一二三は笑っている。
三人とも、ゆっくりと足元から石化が始まっている。
一二三を挟んでオリガとヴィーネが寄り添うようにして立っている。
すでにその膝あたりまでは白く輝く石へと変化していた。
「だ、大丈夫なんでしょうか......」
不安に怯えているヴィーネを、一二三は笑い飛ばし、オリガが不満を顔に出す。
「ヴィーネ、今さら怖気づいたか? オリガ、その顔で固まるつもりか?」
二人の女性があれこれと話しているところへ、サブナクを伴ったイメラリアと、アリッサがやって来た。
「もういいのか?」
「ええ。すでに魔法は発動しています。誰にも止められません。......たとえ、わたくしを殺したとしても」
一二三の目の前に立ち、挑発するように微笑むイメラリアに、一二三は右手を伸ばした。
「まあ、お前にしては良くやった」
「......え?」
「人材がいなかったからな。魔人族を巻き込んだのは良い選択だった。お前らだけじゃ、ここまで時間を稼ぐのは無理だったはずだからな」
「なぜ......」
イメラリアが突然の評価に驚いていると、横からアリッサが身を乗り出してきた。
「一二三さん! やっぱりもう一回お話したい!」
「時間がもうあまりないからな。何だ?」
「僕、しっかり領地を守るよ! 一二三さんが戻ってきたら、またあの館に戻れるようにしておくから!」
「ああ、任せた」
次の言葉を探しているアリッサの後ろから、イメラリアが悲鳴にも似た声を上げた。
「どうして、今この時になってそんな、そんな......」
「この世界が俺好みになるよう蒔いた種が芽吹いたような気がした。その中心にいたのがお前だった。そういう事だ。お前は良くやってくれた。情報を集め、下準備をして、必要な駒を揃えて、勝てる見込みを立てて行動に移した。この世界の誰もがやらなかった、できなかった事だ」
厳しい評価をすれば、まだまだ落第点だが、と一二三は言う。
すでに、腰のあたりまでが石化しているようだ。身体が上手く動かせない違和感に、一二三は眉を顰めた。
「お前は俺に対して復讐をする気持ちがあった。それがお前を成長させた。そしてこれから先、人間・獣人・エルフ・魔人が入り乱れるこの世界で、人間が生き延びるために必要な事は、お前やアリッサが学んだ」
一二三が語る間、イメラリアは俯いて拳を振るわせている。
「いずれ俺は復活するだろう。何十年、何百年先になるかわからんし、その時にどんな世界になっているかわからん。だが、願わくば腑抜けで戦い方を知らない奴ばかりになっていないことを祈るばかりだ。......そうじゃなくちゃ、殺し甲斐も無い」
一二三は、それを避けずに甘んじて受けた。非力な彼女の攻撃など、大した痛みではないが。
「そうだ。それでいい。いつか憎む相手が復活する、と肝に銘じておけ。そして子供に伝え、戦いの準備を怠るな......ん?」
一二三の言葉に、再び震えていたイメラリア。だが、一二三を見上げたその顔は、笑っていた。
「一二三様の一番大きな欠点は、女性の気持ちを理解できないことですわ」
そう言うと、イメラリアは一二三の首に腕を回し、顔を寄せた。
「憎しみだけでここまでする女がいるわけないでしょう」
一二三の反論が出る前に、強引に口づけを交わす。
「んむ......はふぅ......」
「僕も!」
イメラリアが離れた瞬間、アリッサも飛びついて、乱暴に唇を重ねる。キスと言うよりは、ペットが飼い主の顔を舐めているような無邪気さで。
「ああもう、いい加減にしろ!」
「うぎゃつ!」
頭突きでアリッサを引きはがした一二三は、再びイメラリアを見る。
「とにかく、俺たちをどう後世に伝えるかは勝手にすれば良い。アリッサも、お前が領主なんだから、好きにすれば良い」
「ええ。一二三様の悪口をたっぷり遺しておきますわ」
「僕は、ちゃんと領地を発展させる!」
はいはい、と適当に答える一二三に、二人は不満を漏らしているが、一二三はもう聞いていない。
すぐそばにいるオリガが、腰に手を回してくれと頼み、ヴィーネも同じことをねだったからだ。二人を両手に抱くようにすると、オリガが顔を寄せてきた。
「一二三様......いえ、あなた。何故私を殺さなかったのですか? あの時、もう少し左を突かれていれば、私は死んでいました。......あなたが、そのような失敗をするとは思えません」
「俺は、分別が付かない子供は殺さない。お前の腹の中にも、子供の気配を感じた。そういうことだ」
「え、何それ本当ですか? おめでとうございます、奥様!」
顔を赤らめて一二三を見上げたまま固まっているオリガの代わりに、ヴィーネが一人、盛り上がっている。
「オリガ、そんな顔のままで石になるつもりか? 笑えよ。俺の妻には、それが一番似合っている」
ゆっくりと、首から顎へと石化は進み、微笑みながら見つめ合った二人と、満面の笑顔で抱きついている一人は、完全に石像と化した。
イメラリアが解読した文献の通りであれば、彼らの時間は既に停止している。何も考えることなく、次に意識が戻るのは、誰かが封印を解いたその時になるだろう。
「う......うあああ......」
すがるように一二三の足元へと頽れたイメラリアは、顔を伏せて泣き出した。
サブナクはそれを止めることもせず、ただ待っていた。いや、彼も涙を流している。悲しみかどうかはわからないが、少なくとも共に在った人物との別れだ。遠慮せず、言葉を交わしておけば良かった、と今さら後悔していた。
その日、陽が落ちるまで広場では泣き声が止むことは無かった。
未曾有の災害とも、阿鼻叫喚の戦闘とも言われた王城前の乱闘は、多くの魔人族が死に、人間側にも死者を出した。挙句、最後まで残っていた兵も騎士も、まとめて気絶して終了するという結果となった。
だが、これは王城の禁書庫に眠る記録にのみ記載された事実であり、民衆へと齎された情報は違う。
“細剣の勇者、魔人族との死闘を見事に制するも、呪いによって妻や従者と共に封印さる”
広場の中央に新たな台座が設けられ、そこに一二三たちの像は安置された。台座へ嵌め込まれた石版には、『勇者の肖像』とだけ記され、詳しい事は何一つ書かれていない。全ては民衆の噂話によって紡がれるに任せる事になった。
ただ、石版を外した部分に、イメラリアが彫らせた一文がある。
『イメラリアによって呼び出された殺戮者 ここに眠る 災厄を起こすこと | A standoff. That word was ill-fitted and lacking for the current situation of both smiling. Hifumi recognized Origa’s strength. He didn’t harbor the slightest negative feelings towards her having wounded his left wrist just now. On the contrary, he was delighted.
He had blocked all the wind blades, but the bleeding from his first wound had increased.
“...Are you not going to use a magic potion?” (Origa)
“I have only two left. Besides, I can’t leisurely take care of it with you as my opponent.” (Hifumi)
“Ah...i-it’s an honor.” (Origa)
Origa believed that to be a slightly exaggerated assessment, but for Hifumi that was a relatively serious evaluation.
She restrained her opponent by manipulating invisible blades while nimbly moving with her small body. On top of that, she could even handle close combat by striking and slashing an enemy with her iron-ribbed fan.
I haven’t taught her group combat and throwing techniques almost at all, but even without her being able to use those, it doesn’t limit her. At the very least it’s much more troublesome to take on Origa alone than fighting several hundreds of demon soldiers
“You have forged yourself well. This seems...to be something to look forward to.” (Hifumi)
“Please savor it to your heart’s content.” (Origa)
Before Origa finished speaking, Hifumi swung his left hand towards behind him. The black hand, which swayed feebly, erased a wind spell that had flown at him after taking a big detour.
Origa, who closed the distance faster than walking but slower than running from the front at the same time, slashed her fan diagonally from the shoulder at Hifumi’s knee without showing any discomposure at the surprise attack having failed.
Avoiding the slash by nimbly pulling back his leg, Hifumi then attempted to step down on the fan with that foot.
However, Origa forced a kick, averting Hifumi’s foot. Having trampled down on the ground as a result, Hifumi slashed with the katana, which had dangled in his right hand, as if scooping up.
Origa let the blade slide off the top part of her opened fan, causing sparks to scatter.
Pushing each other’s weapons, both took some distance. Hifumi exhaled deeply through his faintly opened mouth.
Origa heaved her shoulders a bit, and took two deep breaths, calming her heart.
This time it was Hifumi who attacked. With his katana lowered, he plunged straight at Origa as she had done moment’s ago. But, there was a remarkable difference in their force.
Due to the pressure approaching her with an overwhelming strength that excelled even a gale, Origa was reflexively on the verge of escaping backwards.
However, at this point she wouldn’t be allowed to turn around and run away. If she were to hurt his fondness for her by acting pathetic here...what if she were to be denied to sleep together with him for that very reason?
Wiping that frightening image of a possible future from her mind, Origa stepped forward. Moreover, she pushed her own back with wind magic.
Both clashed silently. The katana and the fan exchanged blows once again. Chipped-off fragments of the fan were sent flying. But for some reason all of them flew towards Hifumi. One fragment cut Hifumi’s cheek open.
“Wind magic, huh? That’s quite skilful.” (Hifumi)
“It’s a result of your kind teaching, Hifumi-sama.” (Origa)
“Hearing that makes me happy.” (Hifumi)
Contrary to Hifumi who had been suppressing her with his katana in one hand, Origa held him at bay with her fan in both hands while performing feints with magic.magic
Origa, who had the advantage in regards to the number of moves at hand, was about to distract Hifumi with magic once more, but Hifumi moved first.
“Kyaa?” (Origa)
Noticing that she had been tripped up after lowering her eyes as she had apparently lost her strength in her knees all of a sudden, Origa curled up her body swiftly, and ground her teeth while getting out of the katana’s range. Focusing on distracting her opponent, she had neglected to watch out what was happening at her feet.
At this rate I can’t bring it to a close.
She splashed water, which she had created with magic, at Hifumi, who mercilessly stepped in and thrust his katana at her, and took some distance in the meantime.
During the long training sessions with Hifumi, Origa had naturally been able to learn of his combat distance. If she confronted him while keeping a distance of more than four steps, she could use magic before any approaching attack.
Properly fixing her stance, she opened the fan. Breathing out such a hot breath that it seemed as though her innards were on fire, she fixedly stared at Hifumi.
Her husband in front of her had lowered the katana in his right hand and was shedding blood from his left, and yet he looked at his wife with a calm expression. No hesitation or fatigue was visible on his face. He was simply staring directly at his opponent. No, Origa knew after being taught by Hifumi. Hifumi sensed and saw the air flow and the happenings around him, and not just his opponent.
, Origa began to manipulate the wind. She poured mana into the magic-wand substitute, her knife, which was affixed to her arm, and transformed it into a phenomenon.
Hifumi seemed to have sensitively noticed that the air around him had changed. He lowered his waist slightly, getting ready to move at any time.
Hifumi was closely observing Origa. It’s because he couldn’t read the changes from her movements. Origa wanted to enjoy the state of their looks entwining with each other much longer, but she had to hurry.
“I had the privilege to talk about various things with you.” (Origa)
“That’s true. Well, if you say that it’s only natural, you’re correct, but above all, you wanted me. And I wanted you to become stronger.” (Hifumi)
“Our training, our work, and our nightlife. And I was even allowed to hear various things about the time when we were separated. While spending such an irreplaceable time, you made only one mistake, Hifumi-sama.” (Origa)
And then Origa breathed in very deeply, opened her mouth, turned it forward, and caused her throat to tremble strongly.
In an instant, Hifumi noticed the true nature of the attack. He threw away his katana and blocked his ears. But, he couldn’t put any strength into his left hand, resulting in his left ear not being plugged completely.
The voice, which had turned into a shock wave rather than a sound, was amplified by wind magic as it assailed Hifumi’s ear. Although it had a certain extent of directionality, the surrounding knights and monsters fainted, and even Origa, the source, shed blood from both ears as her eardrums had been torn.
However, that wasn’t the end of the attack.
“...Kuh!”
Origa started to fiercely run towards Hifumi who was firmly standing despite shedding blood from his left ear and looking somewhat lightheaded.
Origa could see him picking up his katana and raising it overhead. However, she didn’t stop. She readied her fan, and stepped in without dropping her speed, no, while putting even more power into it.
Within the battlefield ruled by silence, the fan in her right hand took flight.
The aim was his left hand.
Hifumi wasn’t in a perfect state. The possibility of her being cut was high, but he should be slower than usual.
While warning herself to not hesitate, she mowed her fan sideways, targeting Hifumi’s left wrist with a speed being as fast as she could muster.
Suddenly Viine appeared at the edge of Origa’s field of vision. As visible from her long ear’s bleeding, she had apparently been hit by the shockwave. And yet, with a somewhat unsteady gait, she earnestly came running while shedding tears.
“Stop!”, seemed to be what she was shouting, but Origa couldn’t hear it. Very likely Hifumi hadn’t heard it either.
Viine jumped like that, trying to cling to Hifumi. At the same time, Origa’s fan severed Hifumi’s left wrist. And Hifumi’s katana pierced through Origa’s collar into her back.
“Uooh.”
Just like that Hifumi tumbled over in the shape of two women clinging to him at full force.
It took mere seconds until a thick magic barrier sprung forth around them.
☺☻☺
“...Why didn’t you kill me?” Origa asked while sticking to Hifumi with her ear pressed against his chest.
However, no answer came back. On the contrary, she couldn’t hear with her ears either.
Once Origa raised her body while smiling bitterly, Hifumi pulled out his katana at the same time. A feeling of passion rather than the pain made the core of her body tremble.
Origa sat down in order to suppress her agitation while blushing, and just like her, Hifumi raised his body. Viine had fainted while clinging to his waist.
Origa didn’t hear him, but Hifumi murmured something, and no sooner than taking out two magic potions, he opened one and thrust it into Viine’s mouth.
Once he pulled it out when it had decreased by around half, Viine choked and had the liquid run out of her nose and mouth while rolling around, just to clash against the magic barrier.
Meanwhile Hifumi drained down the remaining liquid in the magic potion. It apparently healed the wounds at his face and arm, but it didn’t regrow his left hand. However, Hifumi didn’t show an inkling of minding that.
And then he offered the remaining potion to Origa.
She couldn’t talk well because her ears weren’t working, but Origa was bit by bit talking about something along the lines of having no qualification to be together with Hifumi as the one who lost while twisting her face because of the pain of her body and heart.
Hifumi, who inserted his left arm beneath Origa’s armpit, pulled her up with all his strength, brought his face close in a pose as if hugging her, unplugged the magic potion with one hand, and poured the contents into his mouth.
“Eh...?”
Due to the sudden kiss, Origa’s body froze for an instant, but she immediately accepted him.
As her shoulder and back wounds got healed and once she became able to hear again, Origa tried to separate her mouth, seemingly feeling embarrassed by the wet sounds audible between the two. But, she gave up on it and clung to Hifumi just like that.
“M-Master, are you alright?” (Viine)
When Viine, who had apparently revived, clung to Hifumi, the kiss finally came to an end. And then Hifumi lowered his fist on Viine’s head.
“Stupid rabbit, you interrupted our precious fight...oh, it started, huh?” (Hifumi)
“Kyaa! What’s this!?” (Viine)
While sighing, Hifumi answered to Viine, who was embracing him once again, “It’s the sealing. That damn Imeraria had fully aimed for that moment.”
Contrary to his words, Hifumi was laughing.
Slowly the petrification started at the feet of the three.
They were standing with Origa and Viine snuggling up to Hifumi from both his sides.
At this point, their legs up to their knees had already transformed into white, shining stone.
“A-Are we going to be okay...?” (Viine)
Hifumi laughed off Viine who was frightened and anxious. Origa’s face was tinged with dissatisfaction.
“Viine, did you get cold feet at this point in time? Origa, do you plan to turn into a statue with such an expression?” (Hifumi)
As he was talking about this and that with the two women, Imeraria, accompanied by Sabnak, and Alyssa showed up.
“Is it fine now?”
“Yes, the magic has been already invoked. No one can stop it. ...Even if I were to be killed.” (Imeraria)
Hifumi extended his right hand towards Imeraria who was smiling as if to provoke him while standing in front of him. He gently placed his hand on the head of Imeraria, whose body became stiff.
“Well, considering it’s you, you did well.” (Hifumi)
“You didn’t have any capable personnel. It was a good choice to get involved with the demons. If it had been just you and your retainers, it should have been impossible to gain enough time.” (Hifumi)
“Why...?” (Imeraria)
Imeraria was surprised by the sudden evaluation. Alyssa bent herself forward from the side.
“Hifumi-san! I want to talk with you once more, after all!” (Alyssa)
“There’s not much time left anymore. What is it?” (Hifumi)
“I will properly protect the territory! So that you can return to that mansion again if you come back, Hifumi-san!” (Alyssa)
“Okay, I leave it to you.” (Hifumi)
“Why!?” Imeraria raised a scream-like voice from behind Alyssa who was searching for her next words.
“Why, now that it has come to this, such, such...” (Imeraria)
“I felt like the seeds I sowed so that this world would come to my liking had budded. The one in the center of it all was you. That’s it. You worked well for me. Gathering information, doing the spade work, assembling the necessary pawns, and changing your actions while forming an estimate how you can win. All of it are things no one in this world did or could do.” (Hifumi)
“If I were to assess you sternly, it would still be a failing grade for a long time to come, though,” Hifumi added.
He had already petrified up to his waist. Hifumi knitted his eyebrows due to the uncomfortable feeling of being unable to move his body freely.
“You had the preparedness to get your revenge against me. That made you grow. And I taught Alyssa and you what will be necessary for the humans to survive in this world, where humans, elves, dwarves, and demons are all jumbled together, from now on.” (Hifumi)
Imeraria looked down and swung her fists while Hifumi was talking.
“I will likely come back sooner or later. I don’t know whether it will be several tens or hundreds of years in the future. I don’t know what kind of world it will be at that time. But if there’s a wish, I only pray that it won’t be filled with fools who don’t know how to fight. ...Otherwise, there won’t be any fun in killin’ them.” (Hifumi)
Hifumi resigned himself and received it without dodging. Something like a powerless attack of her didn’t cause any significant pain, though.
“That’s it. It’s fine like that. Bear in mind that your hated opponent will revive one day. And tell the child to not shirk on its preparations for the coming battles...mmh?” (Hifumi)
Imeraria trembled once more due to Hifumi’s words. However, her face as she looked up at him was smiling.
“Hifumi-sama, your biggest flaw is that you can’t understand the feelings of women.” (Imeraria)
Saying so, she put her arms around his neck and brought her face close.
“There’s no way that a woman would go this far on hatred alone, is there?” (Imeraria)
Before Hifumi could object, she forcibly kissed him.
“Nmu...hafuu...”
“Me too!” (Alyssa)
The instant Imeraria separated from him, Alyssa jumped at him as well, and roughly pressed her lips on his. Rather than kissing, it was an innocent act similar to a pet licking her owner.
“Ah, geez! Cut it out!”
“Ugyaaa!”
Hifumi, who got rid of Alyssa with a headbutt, looked at Imeraria once more.
“Anyway, feel free to tell the future generations about us what you like. Alyssa, you can also do as you like since you’re the feudal lord now.” (Hifumi)
“Yes, I shall leave plenty of slander about you behind, Hifumi-sama.” (Imeraria)
“I will develop the territory properly!” (Alyssa)
The two expressed their discontent at Hifumi irresponsibly replying with “Yeah, yeah,” but Hifumi didn’t listen to them anymore.
It’s because Origa, who was close to him, asked him to put his hand around her waist, and Viine demanded the same as well. As he made sure to hug the two with both arms, Origa brought her face close.
“Hifumi-sama...no, dear. Why didn’t you kill me? If you had stabbed a little bit to the left at that time, I would have died. ...I can’t believe that you’d make such a blunder, dear.” (Origa)
Hifumi shook his head at Origa, who looked up to him with a serious look, “I don’t kill unborn children. I felt the presence of a baby in your belly. That’s all.”
“Eh? What’s with that? Is that true? Congratulations, madam!” (Viine)
In exchange for Origa, who blushed and froze while looking up to Hifumi, Viine got all excited by herself.
“Origa, do you intend to become stone with such an expression? Laugh. That’s what suits my wife the most.” (Hifumi)
The petrification slowly advanced from their neck to their chin. The two, who stared at him while smiling, and the one, who was embracing them while brightly smiling, fully turned into stone statues.
According to the books which Imeraria had deciphered, their time had already stopped. Without thinking anything, their consciousness would likely return next when someone removed the seal.
“U...Uuuuaaaa...”
Imeraria, who had crumbled down at Hifumi’s feet as if clinging to them, hid her face and burst into tears.
Without being able to stop that, Sabnak simply waited. No, he also shed tears. He didn’t know whether it was out of sadness or not, but at the very least this spelled a parting with people with whom he shared some time together.
And, Alyssa also cried loudly while standing stock still. Her crying voice didn’t cease echoing across the plaza until the sun went down on that day.
The scuffle in front of the royal castle, which was called pandemonium and an unprecedented calamity, took the lives of many demons, and even the human side had to pay a heavy toll. In the end, the soldiers and knights, who had survived, all fainted, spelling the end of the battle.
However, this was a fact which was recorded only in the documents sleeping in the forbidden treasury of the royal castle. The news, which were spread to the populace, were different.
“The Hero of the Slender Sword magnificently held back the demons in a struggle to the death, and got sealed together with his wife and attendant due to a curse.”
A new pedestal was built in the center of the plaza, and the statue of Hifumi and the others was enshrined there. Only 『Portrait of the Hero』 was inscribed on a lithograph embedded in the pedestal without mentioning any details about him. It was decided to entrust the rest to the people spinning their gossip.
However, Imeraria had one sentence carved into a part that was separate from the lithograph.
『The slaughterer summoned by Imeraria sleeps here. You must not wake the calamity.』 |
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"source": "superScraper-fanfic"
} | 「おっ」
プーセの案内で森を歩く見つけたのは先ほど見たのと同様に、大木に背中を預けたエルフの姿だった。
最初に見た者とは違い、まだ完全に木像と化してはいない。
プーセの遠慮がちな制止を聞かずにが近づくと、座っている老エルフは左目を見開いた。
「意識はあるのか?」
「......人間か。死の間際に、珍しいものを、見られたな......」
か細い声で話す老エルフは男性だった。布を巻きつけるような簡素な服を着て、あぐらをかいた姿勢で座っている。
目に見える大部分が変質しており、顔も右目と口の右三分の一程までが苔むした樹皮となっていた。
小さく開かれた口の隙間から漏れる声は、いかにも苦しそうだ。
「苦しいか? ちゃんと見えているか?」
「質問攻めだな」
ふふっと空気を漏らすような笑い声をこぼした老エルフは、一二三の後ろに立つプーセに目を向けた。
「プーセか......。人間を、連れて来たのは、お前か」
「ご、ごめんなさい」
「謝ることは、ない。最期の瞬間に、面白い出会いができた。人間よ、何か聞きたいのだろう?」
視線を一二三に戻したエルフは、時間はあまり無い、と呟いた。
「身体が、次第に動かなくなる。木になった部分は、濡れても割れても、何も感じない」
感じていた空腹も、いつの間にか消え失せた、と老エルフは語る。
「穏やかな死、か」
「ふふふ......人間、それは、違う」
老エルフは眼球をぐるりと回し、見える範囲の全てに視線を向けた。
「こうして、見えるのが、目玉が動く範囲だけになって、どれくらいになるだろう」
ふぅふぅ、と息を会える。
「じわじわと、呼吸が、苦しくなる。穏やかな気持ちなど、無い。あるのは、じわじわと来る死への。恐怖だけだ......。きっと、このままならば、完全に動けなくなっても、しばらくは、生きているのだろう。見えず、聞こえず、動けない」
これが、怖くないわけが無いだろう、と言う。
「もはや涙も流れない。自分で死ぬことも出来ない絶望で、気が狂いそうだ」
「そんな......」
プーセは、初めて聞いた死への恐怖に、青ざめた顔で絶句している。
「知らなかったのは、お前だけではない。誰かが作った、死へ向かうものに、近づかない掟が、あれがいけないのだ」
誰もかもが、真実を知ることなく、穏やかな死が訪れると信じて森へと消えていく。
「その結果がこれだ。だから、誰かに話せたこと、感謝しているよ。そして、人間よ」
「なんだ?」
「私を、殺してくれ。これ以上、自分が生き物で無くなっていく、恐怖を味わいたくはない......」
「なるほどな。良いだろう」
一二三は、その願いをあっさりと受け入れ、腰の刀を抜いた。
「ま、待ってください! 彼を殺すなんて......」
「お前は残酷な奴だな」
「えっ?」
想定外の事を言われた、とプーセは驚きの声を上げた。
「人間の言うとおりだ、プーセ。今の私にとって、死は救いだよ」
「死体は調べさせてもらうぞ」
刀を構えた一二三の言葉に、老エルフは表情を変えられる範囲で微笑んだ。
「死ねるなら、あとは好きにするといい。人間よ、お前の名は?」
「そうか、一二三か......。感謝するよ」
大上段、真っ向から打ち下ろされた刀は、驚異的な切れ味で首までを縦に真っ二つに分けた。
さらに、横には横一閃にて首を落とす。
二つに別れた頭部が、ひと呼吸置いて首から転がり落ちた。
「酷いのは、体の中の状態だ」
一二三は刀の切っ先を使って、地面に落ちた頭部の切り口を上向きにした。
「うっ......」
凄惨な光景に、喉の奥からこみ上げるものをなんとか我慢しながら、プーセは恐る恐る視線を向ける。
一二三は、しゃがみこんで至近距離からじっくりと観察していた。
「頭の中身も、大分変質しているな。で、これはなんだ?」
何度も人間の中身を見てきた一二三は、まるで一部のパーツを木に置き換えて作ったかのような人体に眉を顰めた。
さらにもう一点、一二三がわからない部分がある。
「この白いやつ、何かわかるか?」
「わかりません。初めて見ましたけれど......」
一二三が差したのは、頭の中身、木になりかけている部分にべっとりと貼り付いた、ネバネバした白い何かだ。
軽く指ですくい取ってみると、糸を引いてとろりと垂れて流れていく。
「わからんな。エルフ特有のやつかもしれん」
懐紙で指を拭った一二三は、立ち上がって小さな声で呟いた。
「まだ無事な奴の中身が見れたら、それが一番いいんだが」
聞き取れなかった様子のプーセを見た一二三は、黙ったままじっとプーセの頭部を睨みつけている。
「どうかされましたか......?」
視線に何か恐ろしいものを感じたプーセが、怖々と尋ねる。
「いや、いい。それより先を急ぐぞ」
☺☻☺
プーセの説明によると、魔人族を森の奥へ押し込めるための結界は、村を通り過ぎた先にある魔法陣が描かれた特殊な場所でエルフたちの魔力によって生成されているらしい。
「結局、村を通らないといけないわけか」
「どうか、村では穏便にお話をお願いします」
「それは、お前たちの態度次第だ。敵対する奴と仲良くしようとするようなトチ狂った頭は持っていない」
対して、一二三からは質問がどんどん浴びせられる。一二三がエルフの森に入った事がわかったのも、結界に近い防衛のための感知魔法が設定されており、それがエルフか獣人か、人間かくらいまでは分かるのだという。
シクは巡回中にたまたま出会っただけで、ザンガーの指示を受けて迎えにきたのが、プーセたちだったのだ。
そんな会話をしているうちに、村が見えてきた。
簡素な木の門の前には、二人のエルフが弓を持って立っている。
「あぁ、着いちゃった......」
そのまま案内したら揉め事になると考えていたプーセだったが、結局は何も思いつかないまま到着してしまった。
「待て! 止まれ!」
門番をしていた二人のエルフが声をかける。
「人間、か。来るのは聞いていたが、何故プーセと......背中にいるのはシクか。何があった?」
「えっと......説明すると長くなるから、まずは彼をザンガー様の所へ案内したいのだけれど」
「そうか。シクは俺が家まで運んでおくから、人間を連れて行ってくれ」
未だ気を失ったままのシクを抱え上げ、一人のエルフが離れていく。
「そ、それじゃ、こっちへ」
何の解決にもなっていない事を承知の上で、少なくとも一触即発の状況だけは避ける事ができた、と安堵しながらプーセは先導を続ける。
見渡す限りの家すべてが、木製の板と何かの蔦や枝で作られた平屋の建物だ。ドアらしいものはなく、暖簾のように薄汚れた布が入口に垂らされている。
「ザンガー様の家は、あそこにあるわ」
プーセが指差した建物は、他に比べて2倍ほどの大きさがあり、出入りには暖簾ではなく板で作られた簡素な扉がついていた。
何か違和感があると、しばらく立ち止まって見ていた一二三は、その建物に窓がないことに気づいた。他の建物には、くり抜いただけではあるが、明かり採りのための開口はあるのだが、その建物には一切見られない。
その様子に気づくことなく、プーセは扉の前に立ち、建物の中に向かって声をかけた。
「ザンガー様、プーセです。人間をお連れしました」
「ああ、ありがとうね。入っておいで」
中からはしわがれた老婆の声がする。
「許可が出ましたので、どうぞ」
板をまるごと取り外すように入口を開けたプーセに促され、一二三はためらう事なく中へと踏み込む。
建物はひと部屋だけらしく、乾燥させた草を積んだ上に布をかけた寝具や、木製の低いテーブルが見える。
窓が無いのは建物全体のようで、ただ部屋の中央にある囲炉裏のような場所で仄かに揺れている小さな炎だけが、室内を朧気に照らしている。
「よう来たね、人間さん。ほら、そこへ座るといいよ」
部屋の中央に座る老婆は、自分と囲炉裏を挟んだ向かい側を指差し、細い枝を右手だけで器用にへし折り、新たに火にくべた。
指定された場所には、干し草が積まれ、寝具と同様に布がかぶせられている。
遠慮なく腰を下ろした一二三は、真っ直ぐに老婆を見た。森で見た、樹木へと成り果てたエルフたちと同様、整った顔立ちではあるものの、深いシワが刻み込まれたその顔は、長い年月を思わせる年輪のようにも見える。
「プーセ。あんたはもういいよ。お客人と話があるから、他の仕事に戻りな」
「はい。それじゃ、失礼します」
プーセが出て行くと、老婆は溜息をつき、また右手に持った小さな枝を火へと放り込む。右膝を出してぐいっと火に近づくと、揺れる炎がより鮮明に、ザンガーの老いた顔を照らした。
「いい年のようだが、まだ身体が動くのか」
「......その口ぶりだと、エルフが最期はどうなるかを知っていなさるね?」
確認するために一二三が知っている内容を話すと、ザンガーはそれであっている、と頷いた。
「エルフはね、大昔からこの森に住み、この森で死んでいった......いや、大樹へと同化していったんだよ......。人間から見て、これをどう思いなさるね?」
「異常だな」
「ふふっ......ひっひっひっ」
真正面から否定する言葉に、ザンガーは愉快だね、と笑った。
「異常か。そうだろうね。自分が自分じゃ無くなっていくのを、どうしようもなく待つしか無いなんて、異常だね」
「わざわざ俺を呼んだのは、それを聞くためか?」
「いやいや、これはちょっとあたしが気になったから、聞いてみただけさね」
それ、とザンガーは一二三が脇に置いた刀を指差した。
「さっきエルフを死なせてくれたのは、その剣なのだろう? あたしも同じように、殺して欲しいのさ。同じエルフ相手じゃ、こんなお願いは聞いてもらえないからね」
エルフは、絶対に同胞を傷つけるような事はしない。事故や病気で死ぬ以外では、みんなが森で死ぬべきだという考えが定着しているらしい。
「見るかぎりは、まだ変質は始まっていないようだが......いや、足と左手か」
「慧眼だねぇ......」
お察しの通り、左足首までと左手首までが、すでに硬質化し、動かせなくなっている、とザンガーは語る。
「アタシは、昔から身体が弱かったんだけれどね、家に篭って大人しくしているうちに、いつの間にかズルズルと長生きしてしまったよ。でも、もう少しこれが進行したら、森へ出て死ななくちゃいけないかと考えたらね......恥ずかしながら、怖くなってしまったのさ」
自嘲気味に笑ったザンガーだったが、直ぐにその笑いは収まった。
「だからね、人間のお客人。そうなる前に死にたいのさ。死ぬのが怖いんじゃないんだよ。何もできないまま死を待つのが怖いんだ」
「まあ、それはいいだろう。だが、その為に村人が死んでも良いのか?」
「......どういう意味だね?」
わからないのか、と一二三はザンガーを睨みつけた。
「お前を斬るのは別にいい。どうとも思わん。だが、それを知った他のエルフは俺に復讐しようとするだろうな。それにむざむざやられるような、自己犠牲の精神は持っていない、と言っている」
「......一晩だけ、待ってくれないかね。村人には、あたしから説明するよ」
しばしの逡巡のあと、ザンガーはそう言って一二三に害がないようにする、と約束した。そのうえで、一二三に危害を加える者がいたとして、それが返り討ちにあったとしても、仕方がない、とも口にする。
「寝床は用意しよう。それより、頼みを聞いてくれる代わりに、何かできる事は無いかね?」
「なぜ、エルフの中でお前だけが森へ入る事を恐れている?」
一二三の質問に、ザンガーはさっと視線を外した。
「まあ、聞いても意味が無いことだな。死ぬまで黙っているなら、そうすればいい。俺がお前に頼むようなことはない。聞きたいことは、あの女エルフに全て聞いた」
「そうかね......ありがとうよ。ここを出て、右へ進むと小さな家がある。その隣にプーセの家があるから、声をかけてくれたらいいよ。食事も用意しよう」
「いや、食物はあるから、不要だ」
「そうかい。なら、また明日、ここへ来ておくれ」
死ぬ覚悟を決めておくからね、とザンガーは再び笑顔を取り戻した。
☺☻☺
指定された小屋で、干し草の上に横になっていた一二三が目を覚ましたのは、小屋に踏み込もうとする気配を感じた故であった。
時間はまだ、夜明け前。
「誰だ」
素早く刀を引き寄せ、抜き打ちの構えを取った一二三の視界に飛び込んで来たのは、あの若いエルフ、シクだった。
「に、人間!」
怯えながら声をかけてくるシクに、一二三は構えを崩さないままだ。
「寝込みを襲うのは利口なやり方だが、気配を消すのが下手すぎだ」
「ち、違うんだよ! プーセ姉ちゃんが、大変なんだ!」
「プーセ? ああ、あの女エルフか。......どうでもいいな」
刀を腰に差し、一二三は草のベッドに座り込んだ。
「そんな! お願いだから、プーセ姉ちゃんを助けてよ!」
「それより、伏せた方がいいんじゃないか?」
「へっ? ......あうっ!?」
シクの背後から飛来した石礫は、一二三に当たらずにシクの肩を掠めた。
次々と飛んでくる大小様々な石に交じり、風の刃もあるようだ。小屋の入口に垂れ下がった布が切り裂かれている。
傷を負った瞬間に倒れたのが功を奏し、肩を浅く切った以外には、シクはこれといって傷を負っていない。
だが、次々とダメージを受けている建物は、もう持ちそうもない。
壁は穴だらけになり、柱も大きく揺れている。
「う、うわぁ!」
とうとう屋根が落ちて来たのを見て、シクは一二三にしがみついた。
完全に潰れ、土埃に包まれる小屋を見て、魔法を放っていたエルフたちは笑い声を上げていた。
「へっ、人間風情が。同胞を殺した罪は、命で償うがいい」
ヘラヘラと笑うエルフたちの耳に、誰かの声が聞こえる。
「罪か......。お前たちの復讐ごっこに付き合うつもりはないんだがな」
潰れた小屋の上、大きな黒い円盤がぐるりと回転すると、土埃は一瞬で消えた。
そして、そこに立っていたのは一二三だった。
腰には、シクがしがみついている。
「そうするつもりも無かったが」
一二三は、屋根と土埃を吸収した闇魔法の円に手を突っ込むと、鎖鎌を取り出した。
「殺して欲しいなら、大サービスで応えてやろうじゃないか」
分銅付きの鎖をくるくると回しながら、右手に鎌を握り締める。
「どんどん魔法を使ってこい。ファンタジーと武術と、楽しい力比べだ」
一二三は、ゆっくりと一歩目を踏み出した。 | “Oh.” (Hifumi)
While walking through the forest following Puuse’s guidance, Hifumi discovered the same thing he saw not long ago. It was the figure of an elf entrusting their back to a large tree.
It’s a different person from the one he saw first. The elf still hasn’t completely changed into a wooden figure.
Once Hifumi got close without listening to Puuse’s shy restraint, the left eye of the sitting elder elf opened.
“You are conscious?” (Hifumi)
“... Human, eh? I was able to see something unusual just before my death...”
The elder elf, who talks in a fragile voice, was a male. Wearing a plain attire as if he has wrapped himself in a cloth, he is sitting in a cross-legged posture.
Most of the visible part have transformed. Around one third of the mouth on the right and the right eye in the face had turned into moss-covered bark.
The voice, which leaks from a gap in the slightly opened mouth, seems to be really strained.
“Is it painful? Are you seeing properly?” (Hifumi)
“What a barrage of questions.”
The elder elf, who spilled a laughter as if leaking air with a “fufu”, shifted his attention to Puuse, who is standing behind Hifumi.
“Puuse, huh...? The one who brought along a human is you?”
“E-Excuse me.” (Puuse)
“There’s nothing to apologize. I was able to have an interesting encounter in my last moments. Human, do you want to ask something?”
Returning his sight onto Hifumi, the elf muttered “I don’t have much time left.”
“My body will gradually stop to move. The tree-turned parts don’t feel anything, be it getting wet or cracking.”
“Even my hunger vanished before I realized it”, the elder elf explains.
“A gentle death, huh?” (Hifumi)
“Fufufu... Human, it’s different.”
The elder elf turns his eyeball in a circle. His gaze turned towards everything in visible range.
“I can watch like this, but it’s only in the range of my eyeball’s movement. I wonder how far it will become.”
“Fuufuu”, his breathing goes roughly.
“My breathing- is slowly- getting painful. It’s not- a gentle sensation. What is certain- is me gradually heading towards the approaching death. Undoubtedly, if it’s like this and even if I stop moving completely, I will probably survive- for a while. Without seeing, without hearing and unable to move.”
“That probably doesn’t mean that it’s not scary”, he says.
“Even my tears aren’t flowing anymore. It seems I’m going mad due to the despair of being unable to handle my own death.”
“Such a...” (Puuse)
Puuse has become speechless with a pale face due to his fear towards death, she heard of for the first time.
“The ones, who were unaware of it, isn’t only you. It’s an unapproachable law, created by someone, for anyone facing death, but that’s wrong.”
Without anyone knowing the truth, they vanish into the forest believing to be visited by a gentle death.
“The result of that is this. Therefore, I’m grateful- for being able to talk to someone. And, human.”
“What is it?” (Hifumi)
“Please- kill me. Any more and I will cease being a living creature. I don’t want to taste dread...”
“I see. It’s fine, I guess.” (Hifumi)
Hifumi readily accepted his request and drew the katana from his waist.
“P-Please wait! Something like killing him...” (Puuse)
“You are a cruel fellow.” (Hifumi)
“Eh?” (Puuse)
“I was told something unexpected”, Puuse raised a voice of surprise.
“It’s as the human says, Puuse. For the current me death is a salvation.”
“I want to examine the corpse.” (Hifumi)
The elder elf smiled within the range of being unable to change his expression due to the words of Hifumi, who prepared his katana.
“If I can die, it’s fine for you to do as you like afterwards. Human, your name is?”
“I see, Hifumi, huh...? You have my gratitude.”
Holding the katana above his head, the katana, which was brought down head-on, divided him into two separate halves up to the head with its marvellous sharpness.
Moreover, the head drops sideways due to a horizontal slash.
The head, which was split into two parts, tumbled down from the neck stopping its breathing.
“What’s cruel is the state inside his body.” (Hifumi)
Using the point of the katana, Hifumi pointed at the cut end of the head, which fell to ground, up.
“Uuh...” (Puuse)
While somehow enduring the stuff swelling up from within her throat due to the gruesome view, Puuse timidly turns her sight.
Hifumi examined it carefully from point-blank range while squatting.
“Even the head’s contents have mostly transformed. So, what’s this?” (Hifumi)
Hifumi, who had seen the interior of humans many times, knitted his brows due to the appearance as if an entire part of the components was created to be replaced by wood.
Moreover, there’s another part Hifumi doesn’t understand.
“Do you know what this white thing is?” (Hifumi)
“I don’t know. It’s the first time that I saw this, but...” (Puuse)
What Hifumi saw was a sticky white something, which clung thickly to a part which was on the verge of changing to wood within the head.
Once he tries to lightly scoop it up with his finger, there are sticky strings drooping.
“I don’t know this. It might be something characteristic to elves.” (Hifumi)
Wiping his finger with a paper, Hifumi stood up and muttered in a small voice,
“It would be best, if I could see the contents of a still safe fellow though.” (Hifumi)
Hifumi, who saw Puuse’s look of not having heard it, is intently glaring at Puuse’s head while staying silent.
“Did something happen...?” (Puuse)
Feeling something frightening from his gaze, Puuse asks nervously.
“No, it’s nothing. Rather than that, let’s hurry up.” (Hifumi)
☺☻☺
According to Puuse’s explanation, the barrier for imprisoning the demon race deep within the forest is apparently created with the elves’ mana in a special location, where a magic square was drawn, just past the village.
“In the end it won’t work unless we pass through the village?” (Hifumi)
“Please, I’d like you to have peaceful talks in the village.” (Puuse)
“That depends on you guys’ behaviour. I don’t have a playful mind to attempt being on good terms with hostile fellows.” (Hifumi)
On the contrary, questions are rapidly released by Hifumi. Even though Hifumi knew about it once he entered the elven forest, perception magic for the sake of protection has been set up close to the barrier. He realizes that it’s unclear whether it has been done by elves, beastmen or humans.
As he only met accidentally with Shiku in the midst of his patrol, it was Puuse’s group, who came to welcome him upon Zanga’s order.
While having such conversation, the village came in sight.
Two elves, holding bows, are standing in front of the simple wooden gate.
“Ah, we arrived...” (Puuse)
Puuse believed that it would turn into a quarrel, if she guided him there just like that, but they ended up arriving without her coming up with any idea in the end.
“Wait! Stop!”
The two elves, who stood watch at the gate, call out to them.
“Human, huh? We were told you would be coming, but why Puuse... and on her back Shiku? What happened?”
“Let me see... Since it will be too long to explain, I want to lead him to Zanga-sama’s place first.” (Puuse)
“Is that so? Please take the human along since I will carry Shiku to his house.”
Lifting up Shiku, who was still unconscious, one of the elves leaves.
“W-Well then, it’s this way.” (Puuse)
While being relieved that she was at least able to avoid a critical situation without resolving the unacceptable circumstances in any way on purpose, Puuse continues to guide him.
All of the houses as far as the eyes can see are one-story houses, which were build with wooden planks and some ivy and twigs. Without having anything door-like, slightly dirty clothes are hanging at the entrances similar to a sign curtain hung at shop entrances.
“Zanga-sama’s house is over there.” (Puuse)
The building, pointed at by Puuse, is two times bigger than the other ones. A simple door, which was made with a board and not a cloth, was installed at the entrance.
Hifumi, who stopped and watched it for a short while as he had some feeling of discomfort, noticed that building to not have any windows. The other buildings have openings, although those are merely hollowed out, for the sake of letting skylight in, but those can’t be seen in that build at all.
Without realizing that peculiarity, Puuse stood in front of the door and called out towards the building’s interior.
“Zanga-sama, it’s Puuse. I have brought the human.” (Puuse)
“Ah, thank you. Come and enter.” (Zanga)
A hoarse voice of an old woman resounded from inside.
“Since we got permission, please go ahead.” (Puuse)
Being urged on by Puuse, who opened the entrance by detaching the whole board, Hifumi steps inside without hesitation.
The building seems to have only one room. A bed, which was a cloth covering a pile of dried grass, and a low wooden table are visible.
With the entire building having no windows, only a small flame, faintly swaying in a place, similar to a sunken hearth, in the middle of the one room, is dimly illuminating the inside.
“So you came, human-san. Look, it’s fine for you to sit down over there.” (Zanga)
Sitting in the centre of the room, the old woman points at the opposite side of her across the sunken hearth. Skilfully breaking a thin branch with only her right hand, she fed it to the fire.
A cloth, similar to the bedding, is covering a pile of dried grass at the designated spot.
Hifumi, who sat down without reservation, looked straight at the old woman. Equal to the elves, who were reduced to arbour and whom he saw in the forest, she has well-regulated features. Her face, carved by deep wrinkles, can be even regarded as similar to annual tree rings giving her the impression of having lived for many years.
“Puuse, you can go now. Since I will talk with our guest, return to your other work.” (Zanga)
“Yes. Then, excuse me.” (Puuse)
Once Puuse leave, the old woman sighs and throws a small branch, she held in her right hand, into the fire again. Suddenly approaching the fire by getting on her right knee, the aged face of Zanga shines more vividly than the swaying flame.
“Although you seem to be quite old, your body still moves?” (Hifumi)
“... By that way of speaking, it looks like you know what will happen to an elf at their final moments, eh?” (Zanga)
With her talking about the details, Hifumi knows, in order to confirm, he nodded indicating that Zanga was correct.
“The elves, you know, live in this forest since long ago. They died in this forest... no, were absorbed into large trees... Seen from a human’s standpoint, what do you think about this?” (Zanga)
“It’s abnormal.” (Hifumi)
“Fufu... Hihihi.” (Zanga)
Zanga was happy and laughed due to his direct and denying words.
“Abnormal, huh? I guess that’s true. Something like there being no other way but to only wait for oneself becoming unable to move is strange.” (Zanga)
“Did you especially invite me to ask me that?” (Hifumi)
“No, not at all. I only tried asking you because I was worried about this a bit.” (Zanga)
“That”, Zanga pointed at the katana, Hifumi laid aside.
“What made the elf pass on some time ago was that sword, right? I want to be killed in the same way, too. I can’t make such request to another elf.” (Zanga)
Elves absolutely won’t do anything like injuring their brethren. They seem to have established the concept that all of them should die in the forest, with the exception being death by sickness or accident.
“By the looks your transformation hasn’t yet started, though... no, your foot and the left hand, huh?” (Hifumi)
“Keen insight, eh...” (Zanga)
“As you surmised, my left foot and left hand have already stiffened and I have lost the ability to move them”, Zanga says.
“I had a weak body since back then though. While obediently secluding myself within my house, I ended up dragging on my long life before I realized so myself. However, I wondered whether I should disappear into death by leaving to the forest, if this progressed a bit more... even though it’s shameful, I got scared.” (Zanga)
Zanga laughed with a feeling of self-mockery, but that laughter settled down before long.
“Therefore, human guest, I want to die before that happens. Death isn’t scary. Waiting for death while unable to do anything, that’s scary.” (Zanga)
“Well, it’s fine, I guess. However, is it fine, even if the villagers die as result of that?” (Hifumi)
“... What do you mean by that?” (Zanga)
“You don’t know?” Hifumi glared at Zanga.magic
“I don’t particularly mind killing you. I don’t care either way. But, the other elves, who would become aware of it, will probably try to avenge you. I don’t have a spirit of self-sacrifice to be done in easily due to that, is what I’m saying.” (Hifumi)
“... I wonder if you can’t wait for one night. I will explain to the villagers.” (Zanga)
After hesitating for a short while, Zanga said that and promised Hifumi to make sure that no harm comes his way. Even if there was someone causing harm to Hifumi and if that someone had the tables turned on them, it would be up to Hifumi to do as he likes, she says.
“I will prepare a bed. Apart from that, as exchange for listening to my request, isn’t there something I can do for you, I wonder?” (Zanga)
“Why are only you among the elves scared to enter the forest?” (Hifumi)
Zanga quickly averted her look due to Hifumi’s question.
“Well, there’s no point even if I hear it. It will be fine, if you stay silent until your death. There is nothing I want to request from you. I heard everything I wanted to hear from that elven woman.” (Hifumi)
“Is that so...? Thank you. If you head right after leaving this place, there will be a small house. Since Puuse’s home is next to it, it would be good, if you greeted her. I will arrange for a meal as well.” (Zanga)
“No, it’s unnecessary because I have food.” (Hifumi)
“I see. If that’s the case, see you tomorrow. Please come to this place tomorrow.” (Zanga)
“Since I have to resolve myself for death”, Zanga regained her smile once again.
☺☻☺
Inn the appointed hut, Hifumi, who rested on dry grass, woke up after sensing a presence stepping inside.
The time is still before dawn.
“Who is it?” (Hifumi)
What came leaping into the sight of Hifumi, who pulled the katana towards himself swiftly and took a stance of nukiuchi, was that young elf Shiku.
“H-Human!” (Shiku)
Due to him awkwardly calling out while being afraid, Hifumi doesn’t release his stance.
“It’s a smart move to attack someone while they are asleep, but you are fare too unskilled at erasing your presence.” (Hifumi)
“I-It’s different! Puuse-neechan is in great trouble!” (Shiku)
“Puuse? Ah, that elven woman, huh? ... I don’t care.” (Hifumi)
Hanging the katana at his waist, Hifumi sat down on the grass bed.
“Such a thing! I beg you, please save Puuse-neechan!” (Shiku)
“Putting that aside, wouldn’t it be better to hide?” (Hifumi)
“Eh? ... Au!?” (Shiku)
The pellet, which came flying from behind Shiku, grazed Shiku’s shoulder without hitting Hifumi.
Wind blades, mixed with stones of various sizes, come flying one after the other. The cloth, hanging at the entrance of the hut, has been torn to pieces.
Him having fallen down at the moment of receiving an injury bears results. With the exception of the shallow cut on his shoulder, Shiku has sustained no injury worth mentioning.
However, the building, which has suffered damage in succession, is very unlikely to last any longer.
The walls are riddled with holes and the pillars are shaking grandly as well.
“U-Uwah!” (Shiku)
Watching the roof collapsing at last, Shiku clung to Hifumi.
Seeing the hut collapsing completely and getting enveloped in a cloud of dust, the elves, who cast the spells, raised laughters.
“Hee, the likes of humans. You will pay for the crime of having killed our brethren with your life.”
Laughing foolishly, the elves can hear someone’s voice with their ears.
“Crime, eh...? I don’t have any intention to go along with your revenge game.”
The cloud of dust vanished in an instant and above the collapsed hut a large, dark disk was rotating.
And, the one who stood on top of it was Hifumi.
Shiku is clinging to his waist.
“Though I didn’t have any intention to do this either.” (Hifumi)
Hifumi thrust his hand into the round dark magic, which absorbed the roof and the dust, and took out the kusarigama.
“Let’s reply with a big service, if you want to kill me.” (Hifumi)
While whirling around the counterweight attached at the end of the chain, he tightly grasps the sickle with his right hand.
“Use you magic steadily. It’s going to be an enjoyable contest of strength between fantasy and martial arts.” (Hifumi)
Hifumi slowly took one step forwards. |
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} | 三へ憎悪を改めて燃え上がらせながらも、ゲングに説得された虎獣人のマルファスはフォカロルの兵に案内されて荒野への出口まで戻っていた。
「ありがとうございやした。ここまで送っていただいたうえ、お土産まで......」
フォカロルの兵士に頭を下げているゲングの背中には、オーソングランデ国内からお土産にと渡された食料品や日用品などが入った包みが背負われている。
となりでムッツリと黙っているマルファスの背にも、大きな荷物が乗っていた。
「気にしなくていいよ。領主様は元々何考えているかわからないし、いい人だけど悪い人だから、せめてものお詫びだよ」
「どうか、ヴィーネさんとプーセさんをお願いします」
「ああ、ヴィーネさんはフォカロルに来るだろうし、うちの連中なら大歓迎だと思うから、気にする事無いと思うよ。プーセさんなら、エルフで魔法が得意で、しかもあれだけ美人だから、どこでも引っ張りだこじゃないかな?」
そりゃ安心だ、とゲングが兵士と一緒に笑っていると、マルファスがゲングの服を引っ張る。
「ああ、じゃあそろそろ行くとしやすか」
「それじゃ、元気で。気が向いたら、また来てくれよ」
「きっとまた来やすよ」
大きく手を振って別れを告げた兵士たちに、頭をさげてゲングは歩き始めた。
マルファスは、ゲングの少し前を早足で歩いていく。
間ほども歩くと、人の町の名残は見えなくなり、すっかり荒野と森のエリアへと環境が変わる。
人の町から離れて、懐かしいはずの荒野と森を見ても、ゲングとしては正直心が落ち着かない。これからしばらく野宿での旅が続く。それを思うと、足取りも重くなる。
「あっしもすっかり人間の町に慣れきっちまってるんだなぁ。なるべく池が多いところを通って行くとしやすか。魔人族とまたバッタリであったりしても......ん?」
耳をぴくぴくと振るわせるゲング。聞こえてくるのは沢山の足音だ。
「マルファス! 大勢の足音が近づいてくる! 隠れるぞ!」
言いながら、ゲングはマルファスの手を引いて、近くの岩陰に身を隠した。
いざという時には身一つで逃げられるように、荷物も背中から降ろす。
「獣人が集団で移動しているんじゃないか?」
「にしては、足が遅いし、ガチャガチャと鎧の音もする。十、魔人族だな」
「戦わないのか? 獣人族なら......」
言いかけたマルファスは、ゲングの視線を受けて押し黙る。
「マルファス......それ以上言うなら、お前をここに置いていく」
まだ足音は遠い、疲労しているようで、魔人族にしても足跡は遅く、バラバラだ。
ゲングは岩に背を預けて座り込んだ。
「獣人族が、なんで森の中でバラバラに暮らしていたのか、マルファスは考えたことは無いか?」
「そ、それは種族ごとにまとまっているからで......」
「違うな」
荷物に手を突っ込み、取り出したパンには肉がたっぷりと挟まっている。
それを二つに千切り、片方をマルファスに手渡し、片方に齧り付いた。
「虎や狼......おいらやお前と同じ種族だって、いくつもの集落に分かれてた。逆に言えば、スラムじゃバラバラの獣人どころか、人間やエルフまで一緒に暮らしてた」
マルファスもパンを齧り、香ばしいソースをなじませた肉の味を堪能する。ふと、こんなふうに調理された料理を、森で暮らしていたころには食べたことが無いのを思い出し、複雑な思いでパンを見つめる。
「結局な、さっきお前さんが言った通り、別の種族と見れば戦って、その日その日を生きていることだけで満足している奴ばかりだから、獣人族は進歩しなかったんだ。......本当なら、スラムにいる間にもっとそれを考えるべきだったんだな。人間の町......というより、一んの町を見て、初めて本当の意味で気付かされたぜ」
「でも、獣人だって強いから、荒野で生活できてたわけだし、人間だって撃退してたし......」
マルファスの反論に、ゲングはフン、と鼻で笑った。
「今までは、な。ずっと変わらないことなんてねぇんだ。獣人の奴隷は少なくなって、俺たちだって町を作ってやっていく方法を知った。他の種族と生活できることもしった。悪いこともある。魔人族って連中が自由になって、エルフを憎んでいるのは間違いない。人間も、一二三さんの教えで戦い方を色々と知った。俺たちも教わったが、うまくできているかと言われたら、まだまだだろうな」
残りのパンを揺らして見せる。
「俺たちにはまだまだ覚えなくちゃいけない、できるようにならなくちゃいけないことが沢山ある。美味い物を作れるようにするのも一つだけどよ......」
残ったパンを口に放り込み、水筒の水を飲む。
「多分、今までのように集落単位で生活している連中は、魔人族に潰されるか、人間にやられるだろうな。獣人族でも罠や集団戦闘ができるようにしたり、エルフに魔法を習ったりするようにしたのは、レニさんも外敵がソードランテの人間だけじゃないのをわかってるからだろうよ......おいらが、どうしてレニさんについていこうと決めたかわかるか?」
マルファスは、首を横に振った。
一瞬、ゲングがレニに負けたのかとも考えた。それが獣人どうしの関係を決める一番手っ取り早くて基本的な方法だからだ。だが、羊獣人と狼獣人では、基本的な力量が違いすぎる。
ゲングは、鋭い爪がある手を翳し、眉間にしわを寄せた。
「獣人は、速さや力の強さが自慢で、それで全てが決まると思ってる奴ばっかりだ。自分より強い奴がいたら、逃げるか諦めるか。それしかない」
だが、レニやヘレンは違った、とゲングはレニと出会ったころを思い出す。
「レニさんは、仲間を増やすことで、敵を減らした。味方にして、もっと良い暮らしを作ろうとした。戦う事ではなくて、仲良くすることで得をする方法を示したんだ」
「......それは、あの男にそう教わったからじゃないか」
「馬鹿たれ。良く考えねぇか」
もう一口だけ水を飲み、水筒を荷物の包みに押し込む。
「一二三さんほど、“戦闘力を使って物事を進める人”はいねぇだろうが。人間だろうが獣人だろうが、敵なら殺し、味方なら餌をやる。レニさんがすげぇのは、そういう人に教わったのに、いい部分だけ利用したんだ。普通じゃねぇよ。良い意味でな」
ゲングにとっては、一二三に対する獣人族の女として反応はレニよりもヴィーネの方がしっくりくる。強い雄がいれば、その子供を欲しいと思うのは獣人族としては自然な反応であり、子孫を残すのに必要な本能だ。
「スラムに帰ったら、レニさんの事をもうちょっと良く見て見な。そして、周りがどんな感じでレニさんに接しているかも、だな。生き抜くってことが、敵と戦うって事とは必ずしも同じじゃないってこと、わかると思うぜ」
そっと、岩陰から音が近づく方を見た。
魔人族の集団が、這う這うの体で荒野を歩いていく。
戦闘を、一人だけ馬に乗った片腕の魔人族が進み、腕の傷を塞ぐためか、多くの包帯で胸をぐるぐると締め付けていた。
その表情は痛みと怒りが入り混じる。
兵士たちは誰もが疲れた顔をしており、重たい荷物に押しつぶされそうな姿勢で、誰もが無言だった。
「......人間は、魔人族の兵士をも撃退した......か」
レニに伝えなければならないことが増えた。
ゲングはこれから先、荒野でどれほどの血が流れるのか、予想するのも嫌になる未来を思って、牙をむき出しにして唸った。
☺☻☺
「トオノ伯爵に置かれましては、ご機嫌麗しく......」
「そういう挨拶はいい。顔も知っているわけだからな」
一応は女王からの親書を携えてやってきた使者である元女性騎士フィリニオンは、相変わらず貴族の習慣を完全に無視する一二三に、笑顔で諦めた。
「それに、お前は嫁に行って騎士を辞めたと思ってたんだが、まだ国に仕えてるんだな」
「正確には、わたしの家の方が夫であるヴァイヤーの家よりも家格が上で、一人娘のわたしのところに婿養子に来てもらいました。......領地はわたしが運営して、夫には引き続き騎士として出仕させております」
フィリニオンの領地であるアマゼロト子爵領はフォカロルと王都の間、途中から街道を別れた場所にある。肥沃で広大な土地があり、オーソングランデが国家になる前から麦の生産地として名高い場所だ。
「そうか。で、その領主代理が、なぜここへ?」
「一つはお礼です。ここで学ばせていただいた事は、領地でも大変役に立っております。当時はそれはそれは大変でしたけれど、今思えば良い経験をさせていただきました」
騎士で無くなったフィリニオンは、隊服ではなくドレスを着ており、裾を軽くつまんで礼をする。
話した内容は本心ではある。領地の人口調査などを一から行うのは大変だったが、取りまとめが済んでみれば、雇っていた役人の不正や癒着も見つかり、領民たちの生活も多少は楽になったらしい。
無駄な出費も無くなったので、財政的にも余裕ができた。両親の隠居後の生活も充分に楽をさせてやれる、と安堵していた。
「もう一つは、女王陛下からのお手紙をお届けに......」
「イメラリアが?」
見せてくれ、と手を伸ばす一二三に、形式などは強者の前ではかくも無意味か、とフィリニオンは伸ばされた左手に書簡を載せた。
通されたのは一二三の執務室だったのだが、本来であれば領主が客人を迎える場所としては不適当だ。会見のための部屋が本来であれば存在するはずなのだが、潰して職員たちの休憩所になっていることをフィリニオンも知っている。
そんな事を考えながら、手紙に目を通す一二三を見る。特徴ある黒目黒髪。どこの国のものでもない変わった衣装。“細剣の騎士”の異名を生み出した片刃の剣。
黙って見ている分には、多少目つきが鋭い、年下の男の子だ。
だが、その実国内外で多くの人を殺し、オーソングランデでは王ですらも手にかけた。というより、彼が歴史上に姿を現した、その最初に王を殺した。
(そんな人がどうして、この国の貴族に加わったのかしら......)
ヴァイヤーは詳しくは知らないようだったが、所属していた第三騎士隊の資料には、イメラリアの命令によって、接触不可対象とされたのち、派手な功績をあげた一二三を他国に取られず、かつなだめるための方策だったとされている。
それが成功だったかどうかは、まだ結論が出ていない。
ふと、一二三の視線がフィリニオンを捉える。
「長々と、取ってつけたような理由が書かれているが、要するに王都に来い、ということだな」
机の上に書簡を放った一二三は、そのままカップを掴んで紅茶に口を付けた。
「ホーラントでもご活躍されたのでしょう? わたしは内容を存じませんが、何かの褒賞があるのでは?」
「無いな」
フィリニオンの予想を、一二三はあっさりと否定した。
「ホーラントはイメラリアとネルガルが、必死になって馬鹿のやらかしたことの後始末をやっただけだ。俺は腹が立って暴れたに過ぎん。第一、そうならそうと書くだろう」
一二三の予想では、魔人族や獣人族についての情報が欲しいのだろうというのが一番可能性が高い。すでに魔人族が攻めてきているとまでは知らないはずだが。
ひょっとしたら、エルフであるプーセの扱いに困っているのかもしれない。
「あれは優等生ちゃんだから、まず無いだろう」
「何のことでしょうか?」
こっちの話だ、と一二三は手袋をつけた手をひらひらと揺らした。
「その手は......怪我でもされたのですか?」
ありえないと思いつつ、フィリニオンは尋ねる。
「ああ、これは自分で斬り落とした結果だ。大したことはない」
「切り......」
「で、これを貰った俺にどうしろと?」
フィリニオンが驚いて崩れた姿勢をただし、淑女としての顔を取り繕うが、化粧が変わっても、どこか騎士時代の精悍な印象もあった。
「書かれている通りです。王都へ行って、女王陛下とお会いください。詳しくはそこでお話されるでしょう」
「やれやれ、帰ってきたばっかりなんだがな......で、フィリニオンは帰りの護衛でもするのか?」
「ご冗談を......わたしは領地へ戻ります。その前に、トオノ伯爵領へしばらく滞在させていただきたいのですが、ご許可いただけますか?」
「好きにすればいい。また何か勉強でもしていくのか」
「いえ、ヴィシーの動き......それに、道中でも耳にしましたが、魔人族の動きについて、知っておきたいと思いまして」
「ふぅん」
一二三は興味なさげな反応をしたが、内心では感心していた。それだけ重要な動きがある場所をしっかり把握し、なおかつ情報を集めることを重要視している。
こういう人物が、もっと沢山出てくればいい。そうすれば、世の中の戦いはもっと複雑で意外性が出てくる。
「そういう事なら、国境の町ローヌへ行くといい。臨時の役所を作っている。ミュカレやパリュは知っているだろう。そいつらに話を聞けば、色々わかるだろう。魔人族やらのこともな。ドゥエルガルもいるが、あれは物はわかっても人がわからんタイプだ、話を聞くならパリュが良いぞ」
どうせなら、交代要員の兵士たちと一緒に行くと良い、とカイムを呼び出す一二三に、フィリニオンは自分が何かの罠にはめられたような気がして、落ち着かなかった。
「俺は、そうだな......三日後くらいに出かけるとするか」
手紙の配達、ご苦労さん、とフィリニオンの肩をたたき、一二三はやってきたカイムへ用事を伝えると、さっさと部屋を出て行った。 | Even while having his hatred towards Hifumi flaring up once again, the tiger beastman Malfas, who was persuaded by Gengu, returned to the beginning of the wastelands after being led by a soldier of Fokalore.
“Thank you very much ~ssu. On top of accompanying us until here, even souvenirs...” (Gengu)
A bundle with daily necessities and foodstuff given to him as souvenirs from Orsongrande is tied on the back of Gengu who bowed his head to the soldier of Fokalore.
Even the back of the gloomily silent Malfas next to him had a large baggage affixed to it.
“Don’t mind it. By nature we don’t know what Lord-sama is thinking. It’s a little apology because he acts like a bad person though he is a good-natured fellow.”
“Please take care of Viine-san and Puuse-san.” (Gengu)
“Yeah, Viine-san has probably arrived in Fokalore by now. Since she will be warmly welcomed if it’s our guys, I don’t think there’s anything to worry about. If it’s Puuse-san, won’t she be popular anywhere, seeing that elves are strong at magic and that she is such a beauty to boot?”
“Then I’m relieved”, Gengu laughs alongside the soldier of Fokalore and pulls Malfas’ clothes.
“Ah, well then we will head out now ~ssu.” (Gengu)
“Well then, stay healthy. Come visit once again if you ever feel like it.”
“We will definitely come back one day ~ssu.” (Gengu)
Gengu lowered his head to the soldier of Fokalore who bid him farewell while waving his hand strongly and began to walk.magic
Malfas walks at a slightly quicker pace in front of Gengu.
After walking for around two hours, the environment completely changes into that of forests and wastelands with no traces of a human city visible.
Even though he sees the forests and wasteland which should be dear to him, after leaving the human city, Gengu can’t settle down his mind in all honesty.
“I guess I got completely used to the human city as well. Do we have to go to a place with as many ponds as possible ~ssu? Even if we do meet unexpectedly with the demons again... mmh?” (Gengu)
Gengu moves his ears with a twitch. What they picked up is a great number of footsteps.
“Malfas! A great number of footsteps is approaching! We have to hide!” (Gengu)
While saying that, Gengu grabbed Malfas hand and hid in the shade of a nearby rock.
He also lowers the baggage from his back for the sake of being able to escape without any burden when push comes to shove.
“Aren’t those beastmen moving in a group?” (Malfas)
“They are too slow-footed for that to be the case. There’s also the clanking sounds of armours. In all probability, it’s the demons.” (Gengu)
“We won’t fight? If it’s beastmen...” (Malfas)
Malfas breaks off and keeps silent after receiving Gengu’s stare.
“Malfas... if you speak any further, I will leave you behind here.” (Gengu)
The footsteps are still far away and they seem to be exhausted. Even for demons, the footsteps are too slow and too disconnected.
Gengu sat down and leaned against the rock.
“Why did the beastmen live inside the forest scattered all over? Malfas, did you never consider that?” (Gengu)
“T-That’s because they settled according to their tribes...” (Malfas)
“No, it’s different.” (Gengu)
Thrusting a hand in his luggage, he took our a sandwich with plenty of meat put in-between.
Splitting that into two pieces, he handed one piece to Malfas and bit into the other one.
“Tigers and wolves... us and you, even those of the same tribe split up into several settlements. Putting it the other way, even humans and elves lived together, not to speak of the dispersed beastmen in the slums.” (Gengu)
Malfas also bites into the sandwich and enjoys the taste of the meat which was blended with a fragrant sauce. Suddenly he remembers that he never ate food, that was prepared like this, when he lived in the forest. He stares at the sandwich with complicated feelings.
“In the end it’s just as you said before, fight if you see another tribe and be simply satisfied with surviving from day to day. And that’s why the beastmen never progressed. ... In reality I should have thought about that a lot more during my time in the slums. Seeing the humans’ cities... or rather, Hifumi-san’s city, I was forced to realize the real meaning for the first time.” (Gengu)
“However, since beastmen are strong, they can live in the wastelands. We even repelled the humans...” (Malfas)
Gengu laughed scornfully with a “Humph” at Malfas objection.
“Until now, that is. There’s nothing that never changes. Beastmen slaves decreased in number and we learned how to create a city and live in it. We also comprehended that it’s possible to live together with other races. Of course there are bad things. The demons, the lot that became free; there’s no doubt that they hate the elves. Even the humans learned various ways of fighting after being taught by Hifumi-san. We were taught as well, but if you ask me whether we are able to use that knowledge skilfully, I guess there’s still a long way to go for that to happen.” (Gengu)
He shows the remaining sandwich and swings it around.
“For us there are very likely many things that we haven’t learned yet and if we did, are unable to do. Being able to make delicious food is one of them...” (Gengu)
He tosses the remaining sandwich in his mouth and drinks some water from his flask.
“Probably the guys, who have been living in separate settlements until now, have been crushed by the demons or killed by the humans. Trying to enable the beastmen to use traps and group combat or having them take lessons in magic from the elves shows that Reni-san probably understands that not only the humans of Swordland are our enemies... Do you know why I decided to follow Reni-san?” (Gengu)
Malfas shook his head.
For an instant he wondered whether Gengu lost to Reni. That’s after all the most simple and basic means of deciding the relationship between fellow beastmen. However, the abilities between a sheep beastman and a wolf beastman are fundamentally too different.
Gengu held up his hand with its sharp claws and furrowed his brows.
“Beastmen are proud of their speed and strength, and thus there are only guys who think that everything can be decided by that. If there’s a guy who’s stronger than me, I either run away or succumb to them. Only those two options.” (Gengu)
“However, Reni and Helen are different”, Gengu remembers the time when he met those two for the first time.
“Reni-san lowered the amount of enemies by increasing her friends. Turning them into allies, she tried to create an even better livelihood. She showed us a method to get benefits by making friends without fighting.” (Gengu)
“... That is, wasn’t she taught that by that man?” (Malfas)
“You idiot. Don’t you use your head properly?” (Gengu)
Drinking one more sip of water, he puts the flask back into the bundle of luggages.
to the degree of Hifumi-san exists. Whether it’s humans or beastmen, he will kill them if they become his enemies and he will use them as bait if they are his allies. What makes Reni-san amazing is that she only used the good parts of what she was taught by such guy. That ain’t normal. In a good meaning.” (Gengu)
Even Gengu thinks that Viine’s reaction towards Hifumi as female beastman is more befitting than Reni’s. Thinking that she wants his children if he’s a strong male is a natural response for a female beastman. It’s her instinct telling her that it’s necessary to leave behind descendants.
“Once we return to the slums, try to look a bit more precisely at the things Reni-san does. And, maybe with what feelings the surroundings get in contact with Reni-san, I guess. Surviving and fighting one’s enemy aren’t necessarily the same thing. I think you know that.” (Gengu)
He quietly looked in the direction of the approaching sound from within the shade of the rock.
A group of demons is walking through the wastelands while scuttling.
A single one-armed demon, who was the only one on a mount, was advancing in the lead. Apparently for the sake of closing the arm’s injury, many bandages were tightly wrapped around his chest.
His expression is a mixture of pain and rage.
All of the soldiers had tired expressions. They were silent while having postures looking as if they were being crushed by heavy baggages.
“... The humans repelled even the demon soldiers... eh?” (Gengu)
The things which he had to tell Reni increased.
Pondering about that sickening future even if it’s just a prediction, Gengu growled while baring his fangs.
☺☻☺
“Being appointed to Earl Tohno, I’m glad to see you in good health...” (Hifumi)
“Such a greetings is good. It also means that you remember my face.” (Phyrinion)
The former female knight Phyrinion, who’s the messenger that brought the handwritten letter of the queen, gave up on Hifumi, who completely ignores the customs of nobles as usual, with a smile.
“Besides, I thought that you stopped being a knight after getting married, but I guess you are still serving the country.” (Hifumi)
“To be precise, as the family status of my household is higher than that of my husband Vaiya’s, it took the shape of him being adopted into my family, that has only a daughter, as son-in-law. With me managing the territory, my husband has kept serving as knight.” (Phyrinion)
Phyrinion’s territory, the Viscount Amazelt territory, is in-between the capital and Fokalore, in a place midway separated from the highway. Having a vast, fertile soil, it’s a famous place for being a wheat producing area from before Orsongrande became a nation.
“I see. So, why did you come here as representative of the feudal lord?” (Hifumi)
“One reason is gratitude. The things I was made to study here have been very helpful for my territory. At that time it was very difficult, but if I think back on it now, I had the privilege of indulging in a good experience.” (Phyrinion)
Phyrinion, who stopped being a knight, doesn’t wear a squad’s uniform but a dress. Lightly pinching its hem, she bows.
What she said are her true feelings. It was hard to carry out the territory’s census from the scratch, but once she finished its collation, she discovered the fraud and collusive relationships of the employed civil officials and the fief’s population’s livelihood became a bit easier as well.
Given that the pointless expenses vanished, she was able to get some financial surplus.
“The other one is me bringing a letter from Her Majesty the Queen...” (Phyrinion)
“From Imeraria?” (Hifumi)
Due to Hifumi holding out his hand while saying “Please show it to me,” Phyrinion placed the letter in his stretched out left hand while wondering
Although it was Hifumi’s office where she was shown in, it’s originally inadequate for a feudal lord as place to receive guests. Normally there should be a room for audiences, but Phyrinion also knows that it had been shut down and turned into a rest area for the staff members.
His characteristic black hair and eyes. His attire that was different from any other country. The single-edged sword which gave birth to his nickname “Knight of the Slender Sword.”
Going by the parts she sees while being silent, he’s a younger boy with a somewhat piercing look.
However, in fact he killed many people inside and outside the country and even killed the king in Orsongrande with his own hands. Or rather, he killed the king in the beginning when he made his appearance in history.
I wonder, why was such person added as noble of this country...?
It seemed like Vaiya didn’t know the full details, but from the documents of the Third Knight Order he belonged to and going by Imeraria’s decrees, it had been a plan to win over Hifumi, who obtained flashy achievements after he apparently came in contact with the wrong target, so that he wouldn’t be taken by another country.
Whether that was successful or not; the conclusion of that hasn’t become apparent yet.
Suddenly Hifumi’s gaze seizes Phyrinion.
“She has written a drawn-out, forced reason, but in short she tells me to come to the capital.” (Hifumi)
Throwing the letter on the desk, Hifumi grabbed a cup and drank the tea in it.
“It might be about your activities in Horant? I don’t know the details, but there might be some kind of reward?” (Phyrinion)
“No chance.” (Hifumi)
Hifumi easily rejected Phyrinion’s assumption.
“In Horant, Imeraria and Nelgal just frantically cleaned up the mess caused by an idiot. I passed my time by rampaging around after getting angry. In the first place, she would have probably written it, if that was the case.” (Hifumi)
According to Hifumi’s prediction, the most likely reason is that she wants information about the demons and beastmen. Although she shouldn’t be aware that he has already gone to attack the demons.
“She might be troubled over her treatment of the elf Puuse. ” (Phyrinion)
“That one is a honour student-chan, so that will hardly be the case.” (Hifumi)
“What’s that about?” (Phyrinion)
“It’s something private”, Hifumi shook the hand with the glove on it.
“That hand... did it get injured?” (Phyrinion)
Even though she believes that to be improbable, Phyrinion still asks.
“Ah, this is the result of me cutting it off myself. It’s no big deal.” (Hifumi)
“Cut...” (Phyrinion)
“So, what will you do with me who received this?” (Hifumi)
Phyrinion fixed her posture which fell apart due to her getting surprised and glossed it over with the expression of a lady, but even if she changed her make-up, she still had some masculine traces of her time as knight remaining.
“As it’s written. Please go to the capital and meet with Her Majesty the Queen. You will be probably told the full details over there.” (Phyrinion)
“Good grief, even though I just came back... so, will you serve as my escort on the trip, Phyrinion?” (Hifumi)
“You jest... I will return to my territory. Before that, I’d like you to allow me to stay in the Tohno Earldom for a while. Do I have your permission?” (Phyrinion)
“Do as you like. Do you want to study something again?” (Hifumi)
“No, I planned to learn about Vichy’s movements... and in addition to that, about the movements of the demons I heard about on the way here.” (Phyrinion)
“Hmm.” (Hifumi)
Hifumi reacted disinterestedly, but in his mind he praised her. He highly regards those gathering intelligence, and on top of that properly grasping the place where the important movements happen.
It will be great if a lot more of such people appear. Once that happens, this world’s battles will become even more complex and unpredictable.
“If it’s about that, it’s best to go to the border city Rhone. A temporary public office has been set up there. You probably know Miyukare and Paryu. If you listen to their story, you will probably find out various things. About the demons as well. Doelgar is there as well, but that one is a guy people won’t understand even if they understand the matter at hand. If it’s about hearing the story, Paryu would be the best.” (Hifumi)
“It might as well be fine for you to go together with the relief soldiers”, due to Hifumi calling Caim, Phyrinion couldn’t calm down as she felt like she was entrapped in some snare.
“I will, right... depart in around three days.” (Hifumi)
“I appreciate your efforts on delivering the letter”, tapping Phyrinion’s shoulder, Hifumi informed Caim, who finally arrived, about his task and quickly left the room. |
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"source": "superScraper-fanfic"
} | ヴィシーからの独立を宣言し、街から国へと変わったピュルサンの中央には、街の代表から国家元首へと肩書きを変えたミノソンの屋敷がある。
屋敷はあくまで私邸であり、庁舎はすぐ近所にある。彼は毎朝自宅で朝食を摂り、短い距離でも馬車で通勤するのが習慣となっていた。街の代表となって以降、国家元首となってからも時間に遅れる事たりとも無かった彼だが、今日に限っては数分遅れて玄関から表れた。
心配そうに待っていた馭者は、ようやく顔を見せた雇い主の姿に一瞬笑顔を見せたが、ひと目でわかる程にやせ衰えた顔つきに、心配を通り越して狼狽してしまう。
報告書を持ち込んだ秘書も、青い顔をしている。
「詳しい説明を......」
「はい。旧ヴィシーからは現状我々ピュルサン陣営に参加したのは3つの街とそれに付随する村のみで、残りのうち半分はフォカロルへ恭順し、残りは連合を組んでヴィシーの政体を存続させるようです」
「中央委員会はどうなっている」
「一人だけフォカロルへ恭順するために離脱。残り3名で中央を維持しておりますが、自分たちの街の防備を優先するあまり、他の街の代表からの支持が得られず、このままでは分解する可能性もあるかと」
戦争だけ、命のやり取りだけであれば、ヴィシーはここまでバラバラになることはなかったかもしれない、とミノソンは思う。
いち早く抜け出した自分が言うのも可笑しな話だとは思うが、単なる戦争であれば、お互いの戦力をある程度削った時点で手打ちとなって、負けた方が金銭的にも労働力的にも痛い目を見て、数年ほど立て直しに必死になるだけで終わっただろう。
だが、今回は違った。
ミノソンは、という男の恐ろしさは戦力とは違うところにあると思っている。
ヴィシーの連合軍がオーソングランデ領へと誘い込まれ、散々に討ち減らされたあの戦いのあと、削り取られた領地は搾取さえる事なく、一指導によって公平な統治が行われ、大多数の住民にとってはむしろ住みやすくなったと言える。実力を示せば、街の代表ですら免職される事なく町長や文官として採用されるとさえ聞いた。
これでは、ヴィシー側の住民たちは何のために中央委員会の指導に従っていたのかという疑問を覚えても仕方がないだろう。事実、そのせいで多くの街がフォカロルへと寝返り、ヴィシー側に残った街の中でも、代表が残留の意思を見せても民衆は反対しているというところも少なくない。
「つまるところ、戦闘でも政治でも負けたのだ。早晩、ヴィシーという名前は無くなるかもしれんな......」
ポツリと呟いた言葉に、秘書が顔を上げるが、気にしないでくれと手を振った。
今は、この国を守る事を考えねばならない。
「再度、フォカロルへ使者を立ててくれ。産声をあげたばかりの、弱々しいこの国の危機を救って欲しいと」
地理的に孤立するのは仕方ないが、かと言ってヴィシーに残って徹底抗戦をするならば、今度こそ滅ぼされてしまいかねない。
今を耐え抜き、友好国としての振る舞いに終始することを、ミノソンは選んだ。
☺☻☺
オーソングランデ王城では、隊長を中心とした第三騎士隊居残り組による、王子派閥の排除が進んでいた。城内にいる騎士は全て第三騎士隊所属の騎士へと代わり、政治の場でも王子派に属する貴族の発言力は見るからに落ちている。
ロトマゴという名の第三騎士隊長は、武勲ではなく諜報など情報戦での成果を認められて昇進した男だった。さほど裕福ではない子爵家の三男坊の出だった彼は、厚ぼったいまぶたで眠たげな顔つきの冴えない風貌で、とにかく目立たないのが特徴の、基本的に派手な舞台には顔を見せないタイプの人物だ。
今は珍しく現場に出て指揮をとってはいるが、それでも執務室から出ることはほとんど無かった。
そのロトマゴは今、一二三よりも王子派よりも、宰相であるアドルを注視していた。
王女派の動きには、宰相アドルも大きく関わっている。多くの貴族たちをまとめあげるのに、その肩書きとこれまでの堅実な働きは高く評価されており、理性的な説得で貴族を引き込むのに大きな役割を果たしている。
その宰相が、最近は夜な夜な城内の資料保管室に篭っているという噂があり、ロトマゴも部下を使ってそれが事実であるというところまでは掴んでいた。
それが何のためであるかまではわからなかったが......。
「......本当に、そんな魔法があるんだろうな」
薄暗い資料室にて、薄い石版に刻み付ける形で保管されている魔法関連の記録を漁りながら、宰相アドルは呟いた。
「ええ、もちろん。お姫様が成功させた召喚魔法があるんです。送還だってできますよ。過去に記録があるはずです」
何がおかしいのか、笑いを含んだ声が、アドルの背後から聞こえてくる。
「......まさか私が、悪霊の話に乗ることになる日が来るとは思わなかった」
「悪霊だなんて人聞きが悪いですねぇ」
振り向いたアドルの目の前には、黒い霧に包まれた青白い顔だけが浮かんでいる。ニタニタと貼り付いた笑いを浮かべたその顔は、半分が闇に包まれていた。
「私は死神だと言ったでしょう」
死神の言い草に、アドルは不機嫌に鼻を鳴らした。
「悪霊が神を名乗るなどおこがましい。それより、貴様も探すのを手伝え。この調子で続けていたら、記録があったとしてもいつ見つかるか見当もつかん」
「残念ながら、まだ顔までしか復活できていないのですよ。最初にお話したでしょう? 一二三さんにあの刀で斬り殺されてから、力の一部を一二三さんに貼り付けてこちらへ着て、ようやくここまで力が戻ったのです」
やれやれ、とわざとらしく眉を寄せて顔を振った。
「神を名乗る割には、随分と復活に時間がかかっているな」
「あの刀がいけないんですよ。なんというか、戦いの神様の加護がついていますからねぇ。流石の私でも、危うく消滅するところでした。それに......」
笑顔から一変、口を尖らせ、いじけるような口調に変わった。
「せっかく私が差し上げた闇魔法の力をあんまり使ってくれないものですから、私の力の源が少ないんですよねぇ。便利な収納くらいにしか思われてないみたいで、このままじゃいつまでたっても私の存在力が上がりませんよ」
困ったものです、と死神は語った。
「存在力か......」
「ええ、私たち神は人々に信仰されたり頼られたりという形で認識されることで、世界に顕現する力を得るのです。ですから、私が与えた力を使ってくれたら、それだけ私にも力が与えられるわけですよ」
「なら、この世界で一二三殿が戦い続けた方が、都合がいいんじゃないか?」
アドルの質問に、死神は「チッチッ」と舌を鳴らす。人差し指があれば横に振っていただろう。
「これでも、元の世界ではメジャーな神様なのですよ。神様そのものの新興が薄いこちらより、元の世界がずっと居心地が良いのです。そのためには、送還魔法で送り返される誰かについて行く必要がありますから」
利害が一致するでしょう、と死神が言うのに、アドルは渋い顔ながら納得する。
「さあ、頑張って探して、お姫様に希望を与えましょう。絶望の方はすでに予定が決まっているのですから」
アイペロス王子死亡の知らせという名の絶望は、宰相のところで止められていたのだった。
ミュンスターへ到着したフォカロル領軍は、一晩の休息を挟んでから二つに分けられた。
オリガが率いる魔法具奪取の為の特別任務部隊と、正面からホーラントを落としていく本隊である。
一二三は最初、オリガと共に特別任務部隊を率いるが、魔法具発見後は一人でホーラントの王城を目指すことになる。本体は1日の間隔を開けてホーラントへ正面から侵攻する予定だ。
選抜された10名の兵を率いた一二三とオリガは、トロッコを改造した台車でのんびりとホーラント国境を目指して出発した。
空は青くどこまでも晴れている。
「一二三様、良い天気に恵まれましたね」
「ああ、そうだな」
暖かな日差しを浴びながら、台車にどっかりと座り込んだ一二三は、まどろみながら適当な返事を返す。
軽自動車程度の広さがある台車の上には、一二三たちの他、運転役の兵が二名同情している。他の台車も二名ずつが乗り込み、二台は武器と食料以外は基本的に開けている。魔法具を積むためだ。
まだ荷物が少なく、重さも無い台車は、ガタゴトと音を立てながら、軽快に街道を進む。
すでに国境近くの村も通過し、間も無く国境の砦へとたどり着く予定だ。
「国境が近づいたら速度を落とせ。俺が降りて道を開く」
「はっ! かしこまりました!」
風に紛れる一二三の声を何とか聞き取った兵は、大声で返事をした。
ほどなく、目の前に見えてきた砦の手前側には、数十名の兵士たちが立っている。すでに一度全滅した国境警備隊に変わって、一時的に第二騎士隊が率いていた兵士たちの一部が代理で警備を行っている。
砦の向こうには、ホーラントの警備隊がいるのだろう。ピリピリとした空気が流れているのが、遠目からもわかる。
走行中の台車から飛び降りた一二三は、国境に立つ二人の兵の元へと進む。
「ご苦労さん。ちょっと通るぜ。あ、後ろの連中もな」
「あ、はい。どうぞ」
一二三の顔を知っていたらしい兵士は、緊張の面持ちで道を開けた。
「そう緊張しなくていい。あっちの連中はすぐに片付けるから」
刀を抜きながら微笑んだ。
砦の通路の先を見ると、3人のホーラント兵がこちらを見て剣を構えている。
「へぇ。流石に国境警備には木偶は置かないか」
誰に言うでもなくつぶやきながら、刀を右手に提げ、ゆらゆらと揺らしながら国境を越えてくる一二三に、ホーラント兵もいよいよ緊張の顔を見せた。
「オーソングランデの伯爵一二三だ。お前たちの王とかに用がある。押し通るから、死にたければ邪魔をすればいい」
選択の時間を与えるかのように、ゆっくりと歩を進める一二三に、ホーラント兵は困惑したが、誰も逃げようとはしなかった。
「上出来だ」
相手との距離が5メートルを切った瞬間、弾けるように駆け出した一二三は、三人の兵の首を瞬く間に裂いた。骨には一切触れず、柔らかな喉の肉だけを綺麗に断ち切る。
血の噴水を作り、その中を悠々とホーラント側へと出てきた一二三を待っていたのは、凡そ50名程のホーラント兵の姿だった。
「おう、出迎えご苦労。それに、木偶じゃなくて良かった。さあ考えろ。逃げるか死ぬか、二つに一つだ」
一二三の挑発に、現場責任者と思われる50歳程の兵士が雄叫びを上げると、兵たちは順番も隊列も策も無いまま、一斉に殺到してきた。
「悪手だねぇ」
敵味方が入り乱れるならまだしも、敵が一人なのに雑然と殺到したら、味方が邪魔になるだろうに、と一二三は苦笑した。だが、末端の兵士とはいえ臆せず突っ込んでくる根性は気に入ったらしく、上機嫌ではある。
身を低くして兵士たちの間に潜り込み、敵が集中する中心地から外れる。
これだけで、すでに兵の大半は相手を見失った状態になってしまった。
悠々と敵集団をすり抜けた一二三は、そのまま責任者の男に近づき、音もなく首を刎ねた。
上司の声が聞こえなくなったことに、最後尾の兵士が疑問を持って振り向いた時には、地面に首の無い上司の死体が転がり、目の前にはいるはずのない敵の姿が。
「ぅひっ......」
悲鳴を上げかけたところで、一二三の左手が頬を掴み、千切れんばかりに引き倒され、刺殺される。
そのまま、敵集団の背後からザクザクと突き殺していき、全員が異常に気づいて芋洗いの状態から広がった時には、一二三の手によって10名以上、同士打ちで5名ほどが死んでいた。
再び一二三を包囲するものの、今度は距離を取って近づけずにいる兵達に、一二三は刀を納めて手を叩いた。
「やあやあ、中々暑苦しい戦いぶりだったな。で、熱狂の挙句に味方を殺した気分はどうだ? 集団の中心にいた奴には、自分の武器に手応えを感じた奴もいただろう?」
嘲りたっぷりの一二三の言葉に、何人かが思わず目を伏せる。
「よし、それじゃ......」
一二三は闇魔法収納から、シンプルな金属棒を取り出した。
「続きをやろうか」
取り出されたのは、実は契り木の棒部分だけになってしまったもので、自主稽古で木を殴りつけていたら壊れてしまったが、そのまま
慌てて構え直した兵のうち、反応が一番遅かった者がまず犠牲となった。
一二三が頭上で回転させた勢いのまま側頭部に打ち付けられた杖は、簡素な兜ごと頭蓋骨を砕いて敵を即死させた。
振り抜いた杖は、引き戻す勢いでさらに別の兵を襲い、殺す。
「そら、さっさと反撃しないと一方的に殺されるだけだぞ」
一人の背後に周り、首に杖をかけて背中合わせになって背負い投げる。
喉を潰されたまま引き上げられた兵は、首をおられて死んだ。
刃物ですらないただの棒を使っている、しかも一人だけの相手に次々に殺され、生き残った兵たちはすでに逃げ腰になっている。
「うぅ......」
しかし、ホーラントで戦場からの逃亡は間違いなく死刑となる。
逃げても逃げなくても、結果は同じなのだ。今死ぬか、後で捕まって拷問を受けて死ぬかの違いしかない。
そうして次々と殺されていくホーラント兵たちを、遠くから眺めている者たちがいた。
一二三に続いて国境を越えてきたオリガとフォカロル領兵たちだ。
「......手伝わなくていいんでしょうか?」
傷一つ負っていないとはいえ多勢に無勢の状況に、一人の兵がつい口に出してしまったが、すぐに後悔した。
オリガの目が一気に氷点下になって兵を向く。
「貴方は一二三様のお楽しみを邪魔するというのですか? そしてそれを抑えられたなかった私に、また叱責を受けろと?」
「い、いえ......すみませんでした......」
「黙って見ていなさい。そして、できるなら一二三様の技を覚えるのです。あの御方はこの世界の住人がもっと戦える人間である事をお望みです。あの御方と共に戦うのではなく、あの御方を相手に戦う事を目指しなさい」
ここにいるフォカロル領兵は全員、ローヌでの一二三の戦いを見た者たちだ。今も目の前で一方的な虐殺が繰り広げられているというのに、それを相手に戦うのは無理だろうと皆が思っていた。
そんな兵士たちをよそにうっとりと見つめるオリガの視線の先には、嬉々として杖を振るい、敵を殴殺する一二三の姿があった。 | from a city to a nation. The mansion of Minosol, who turned from being the city’s representative into having the title of head of a state, is located there.
To the very end the mansion is a private residence. The government’s office building is in its immediate neighbourhood. Every day he takes his breakfast at home and has a habit of commuting to work by carriage albeit the short distance. From the time he became the city’s representative, it never even once happened for him to be late, even after becoming the head of a state, but just today he appeared from the entrance to his home being several minutes overdue.
The coachman, who waited anxiously, showed a smile for an instant when the figure of his employer at last made an appearance. But, understanding with a glance, he goes beyond worry and is clearly panicking due the weakened countenance of his employer.”A-Are you alright? Today you should rest...” (Coachman)”Ah, I don’t have such time... I haven’t taken responsibility for my choice...” (Minosol)Minosol, who boarded the carriage finally after being supported by a maid, seemed to have fainted due to the reports he looked over right after he arrived at the government’s office building.
Even the secretary, who brought in the report, has a pale face.
“It’s a detailed explanation...” (Minosol)
“Yes. With no more than cities and their affiliated villages of the former Vichy participating in our Pearson faction, it seems half of the remaining cities have sworn allegiance to Fokalore and the others have formed an alliance continuing Vichy’s system of government.” (Secretary)
“What has happened with the central committee?” (Minosol)
“Only one has withdrawn for the sake of swearing allegiance to Fokalore. The remaining are preserving the central government, but because they give too much priority to the defense of their own cities, they can’t secure any backing from the other city representatives. If it goes on like this, it might also be possible that the committee will fall apart.” (Secretary)
If war alone is the only exchange of lives, it might be not necessary for Vichy to break in pieces this far
Though I guess that’s a strange thing to say for me, who dropped out first. But, if it’s mere war, you can mutually shave off the war potential of each other to some extent and at some point in time come to an agreement. Even if the defeated side has a painful experience in its finances and workers, it will probably end for them with just desperately reorganizing for a few years.
However, this time it was different.
Minosol considers the dreadful nature of the man called Hifumi to be a different aspect than his war potential.
Luring Vichy’s allied forces into Orsongrande’s territory, he severely defeated and cut down their numbers. After that battle, the shaved off territories came under a just rule due to Hifumi’s leadership, clearly without exploiting them. The majority of the population says that it has rather become easier to live. If they prove their abilities, I heard that they can even be employed as town mayors and civil officials and even city representatives can be dismissed uneventfully.
With this, for what reason should the inhabitants on Vichy’s side follow the leadership of the central committee? I guess it’s even inevitable that they harbor such doubts. In reality, many cities have changed sides to Fokalore because of that. Even among the cities remaining on Vichy’s side, there aren’t few places where the masses are revolting due to the representative showing an intention to remain.
“To sum it up, we have been defeated in battle as well as politics. Sooner or later, the name Vichy might disappear...” (Minosol)
The secretary lifted his head due to the muttering of just a few words, but Minosol waved his hand to not mind it.
Currently they have to think about how to protect this country.
“Please send a messenger to Fokalore once again. Just having raised its first cry, I want them to save this frail, infant country from danger.” (Minosol)
The geographical isolation can’t be helped, but on the other hand, if we stay in Vichy and resist to the bitter end, it’s not unlikely that we will be completely destroyed this time for sure.
Sticking out until the end now, Minosol chose to conduct themselves as friendly nation from the beginning to the end.
☺☻☺
Because of the commanding officer of the Third Knight Order’s group, that stayed behind at the royal castle of Orsongrande, playing a central part, the removal of the prince’s faction made progress. All of the knights staying within the castle have been substituted by knights affiliated with the Third Knight Order. Even within the political sphere, the influence of the nobles belonging to the prince faction has obviously fallen.
Lotomago is the name of the Third Knight Order’s commanding officer. He was a man who was promoted in recognition of his accomplishments, not for distinguished military service but for his intelligence in the information warfare. He, who was born as third son of a not very prospering Viscount household, has an unattractive appearance giving of a feeling of constantly being sleepy with heavy eyelids. In any case, his features don’t stand out. Basically he is a type of character that doesn’t make an appearance on a flashy stage.
Currently he has come to the actual site, which is rare for him, to give directions, notwithstanding that it almost never happened that he left his office.
That Lotomago was now maintaining a watch over the Prime Minister Adol, even more so than over Hifumi and the prince faction.
The movements of the prince faction are largely influenced by Prime Minister Adol as well. Despite bringing many nobles together, he has had a high evaluation for his reliable work befitting his title until now. He is playing a big part in winning over the nobles with rational persuasion.
There is a rumor that this prime minister is secluding himself within the castle’s document room every night recently. Using a subordinate, Lotomago grasped it to the point of knowing that it is a fact.
Though he didn’t yet know for what reason he is dong this...
“... Really, there is such magic, isn’t that right?” (Adol)
Prime Minister Adol grumbled while rummaging through documents related to magic, that are being kept in the form of thin, engraved lithographs, in the dim reference room.magic
“Yes, of course. There is the summoning magic that Princess-sama successfully used. Even sending home is possible. There should be past records of that.”
“What’s so funny?” A voice filled with laughter can be heard from the back of Adol.
“... By no means I believed that the day, I would follow the talk of an evil spirit, would ever come.” (Adol)
“An evil spirit has such an evil reputation, riight~?” (Evil Spirit)
In front of Adol, who turned around, only a dark, pale face, shrouded in mist, is floating. That face, laughing with a clinging broad grin, was halfway wrapped in darkness.
“I told you that I’m a death god.” (Shinigami)
Adol snorted in displeasure due to the death god’s way of talking.
“It’s presumptuous for an evil spirit to call itself something like a god. Leaving that aside, help me search as well, you bastard. If we continue at this rate, there is no knowing when we will find it even if there was a record.” (Adol)
“I’m sorry to say, I still can’t restore anything but the face. Haven’t I told you at the beginning? Since I was slain by that katana of Hifumi-san, a part of my power is clinging to Hifumi-san and he wears it. At least I recovered my strength up to this point.” (Shinigami)
“Good grief”, it shook the unnaturally frowning face.
“Doesn’t your restoration take rather much time for something calling itself god?” (Adol)
“That katana is dangerous. How to tell you? It’s blessed with the divine protection of a War God, okaay~ ? As expected, even I was on the verge of extinction. Besides...” (Shinigami)
Completely changing from a smiling face, it changed its tone as if loosing its nerve and pouting.
“Since the person, who I kindly offered my darkness magic, isn’t using its power, the source of my power is scarce, you knoow~ ? With him believing that nothing but the darkness storage is useful, the force of my existence won’t rise no matter how much time passes in the current state.” (Shinigami)
“It’s a disturbing situation”, the death god complained.
“Force of existence, huh... ?” (Adol)
“Yea, we gods realize our form by relying on the faith of the people and thus obtain the power to manifestate in the world. Therefore, if he uses the power bestowed by me, the same power will be given to me as well.” (Shinigami)
“If that’s the case, wouldn’t it be quite convenient for you, if Hifumi-dono continued to fight in this world?” (Adol)
Due to Adol’s question, the death god’s tongue makes a sound of 「Tsk tsk」. If there was an index finger, it would probably swing it sideways.
“Even though I may appear this way, I’m a major god in my original world. Since the gods and the rising of their believers are weak here, my original world is far more comfortable. Hence it is necessary to go with someone if they are sent back with return magic.” (Shinigami)
“Our interests match”, despite the death god saying this, Adol has a grim face while consenting.
“Well then, do your best at searching. Let’s bestow hope upon Princess-sama. Because the program of despair has already been decided.” (Shinigami)
The pretext of despair called the notification of Prince Ayperos’ death was stopped by the prime minister.
Fokalore’s territorial forces, arriving at Münster, were split into two groups after having rested for one night.
A special task force with the goal of taking back the magic tools led by Origa and the main force that invades Horant from the front.
It has been decided that Hifumi will enter first and head toward the royal castle of Horant by himself after discovering the magic tools and leading the special task force together with Origa there. The schedule for the main force is to invade the cleared out Horant from the front with a delay of day.
Hifumi and Origa, who led chosen soldiers each, departed carefree toward the national border of Horant with a rail car remodeled into a wagon.
The clear, blue sky is spreading endlessly.
“Hifumi-sama, we were blessed with good weather.” (Origa)
“Ah, that’s right.” (Hifumi)
While basking in the warm sunlight, Hifumi, who sat down with a flump on the wagon, dozes off while returning a suitable answer.
The surface of the wagon has a size to the degree of a K-car. The others of Hifumi’s group are sympathizing with the two soldiers on driving duty. The other wagons are also manned by two soldiers each. The two wagons are basically vacant except for the weapons and food. Their purpose is to be loaded with magic tools.
The wagons, which aren’t heavy yet as there is only little baggage, make clattering sounds while nimbly advancing on the highway.
They have already passed through the village close to the border too. It is estimated that they will arrive at the border fortress soon.
“Once we get close to the border, lower the speed. I will get off to clear the path.” (Hifumi)
“Ha! By your command!” (Soldier)
The soldier, who somehow managed to catch Hifumi voice that was swallowed by the wind, answered in a loud voice.
Before long, there are dozens of soldiers standing close to Orsongrande’s side’s fortress that became visible in front of them. The once completely defeated border patrol has already been changed. A part of the soldiers, that have been dispatched as substitutes for the defense, were commanded by the Second Knight Order temporarily.
On the other side of the fortress there are Horant’s guards, I guess. A tingling air is adrift, but I can also see this with my far-sightedness.
Hifumi, who jumped off the moving wagon, advances towards the position of the two soldiers standing at the border.
“Thanks for your work. Let me pass for a minute. Ah, the lot in the rear as well.” (Hifumi)
“Ah, yes. Please go ahead.” (Guard)
The soldier, who apparently knew Hifumi’s face, opened the path with a nervous face.
“It’s fine if you aren’t this tense. I will dispose of the guys over there right away.” (Hifumi)
He smiled while drawing his katana.
When he looks at the end of the pathway of the fortress, he can see three soldiers from Horant preparing their swords.
“Ohh, as expected, the dolls won’t be deployed as border security, huh?” (Hifumi)
While murmuring without speaking to anyone specific, he lowers the katana in his right hand. As he swings it with a slow swaying, the soldier’s from Horant also showed an increasingly tense face due to Hifumi crossing the border.
“I’m Hifumi, an Earl of Orsongrande. I have some business or something like that with your king. Since I will force my way through, it’s fine to be a hindrance if you want to die.” (Hifumi)
Hifumi is slowly stepping forward as if giving them the time to choose. The soldiers of Horant were bewildered, but none of them tried to run away.
“Well done.” (Hifumi)
The second the distance to his opponents decreased to meters, Hifumi broke into a run as if bursting open. The heads of the three soldiers were cleaved off in a flash. Without touching their bones at all, he cleanly severed only the soft flesh of the throat.
Waiting for Hifumi, who calmly went out from within the fountain of blood he had created, on Horant’s side, were the figures of roughly around soldiers from Horant.
“Aye, thanks for the trouble to come meet me. Besides, it’s nice that you aren’t puppets. Now, decide. Run away or die, it’s one of those two.” (Hifumi)
Once the person in charge on site, thought to be a soldier of around 50 years, raises a roar due to Hifumi’s provocation, the soldiers came rushing all at once without order, ranks or plan.
“That’s a bad move, you know~?” (Hifumi)
“It’s better for me if enemies and allies are jumbled together. If you rush in disorder because there is only one enemy, you will probably hinder your allies”, Hifumi smiled bitterly. But he seems to be pleased with their will-power to plunge into it without hesitation though they are soldiers on the verge of death He is in a good mood.
Lowering his body, he slips in between the soldiers, deviating from the center where the enemies are concentrated.
With only this much the majority of the soldiers ended up losing sight of him.
Hifumi, easily slipping through the enemy group, approached the man in charge and soundlessly beheaded him.
At the time the soldier at the edge of the group turned his head around being doubtful as the voice of his superior couldn’t be heard anymore, the corpse of his superior, no longer having his head, fell to the ground. In front of him was the figure of the enemy who shouldn’t be there.
“Uhii...” (Soldier)
Even as he screamed, Hifumi’s left hand grabbed his face, pulled it down as if tearing it off and stabbed him to death.
In that manner he killed the soldiers from the back of the enemy group by cutting them up roughly. When all of them noticed and inquired into the abnormality of the situation, around 10 had died by Hifumi’s hands and further 5 were accidentally killed by their own colleagues.
Although they once again surrounded Hifumi, he sheathed the katana and clapped his hands towards the soldiers, who now kept their distance without closing in.
“Yo yo! It was quite a sweltering fighting style. So, how do you feel about killing your friends after going crazy earlier? For the fellows in the center of your group there were probably some who felt the feedback of their own weapons, right?” (Hifumi)
Some of them reflexively cast down their eyes due to Hifumi’s fully ridiculing words.
“Good, in that case...” (Hifumi)
Hifumi took out a simple metal staff from within his darkness storage.
“Shall we continue then?” (Hifumi)
In fact it is only the staff part of the chigiriki he took out. It ended up broken when he hit a tree during his own practice. Thus he decided to use it as staff.
Among the soldiers, who fixed their stance in panic, the soldier, who reacted the slowest, became the first victim.
The staff knocked into his temporal region with the force of Hifumi rotating it overhead. Including the simple helmet, his skull was smashed and the enemy died instantly.
Pulling back the swung staff, he uses the force of withdrawing it to attack a different soldier and kills him.
“Look, if you don’t counter-attack quickly, you will only be killed one-sidedly.” (Hifumi)
Circling around to the back of a soldier, Hifumi locks his neck with the staff and, standing back to back, he throws him over his shoulders.
The soldier, who was lifted up in a state of having his throat crushed, broke his neck and died.
Just using a stick without even a blade, he kills his opponents one after the other while even being only one person. It is already making the surviving soldiers getting ready to flee.
“Uu...” (Soldier)
However, escaping from the battlefield will definitely lead to the death penalty in Horant.
Running away or not, the result is the same. Dying now or dying after being caught and tortured, that’s the only difference.
There were people who were viewing from a distance as the soldiers from Horant were killed one by one like that.
It was Origa and the Fokalore territorial soldiers who had crossed the border following Hifumi.
“... Is it alright to not help him?” (Soldier)
Due to the situation of being outnumbered albeit not having a single injury, a single soldier ended up unintentionally expressing this, but regretted it right away.
Origa’s eyes went below freezing point in an instant as they turned towards the soldier.
“Do you want to interrupt Hifumi-sama’s amusement? And, do you want me to receive a scolding once again because I couldn’t hold you back from that?” (Origa)
“N-No... I’m very sorry...” (Soldier)
“Shut up and watch. And, if you are able, learn Hifumi-sama’s techniques. That gentleman wishes for there to be more fighters among the inhabitants of this world. Not to fight together as allies, but to fight as opponents of that gentleman.” (Origa)
All of the Fokalore territorial soldiers being there are people who saw Hifumi’s battle in Rhone. As there is currently an one-sided massacre unfolding in front of their eyes, it’s probably impossible to fight that as opponent, everyone judged.
Ceasing to watch such soldiers, Origa ecstatically turned her gaze ahead where Hifumi was joyfully wielding his staff and striking his enemies dead. |
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} | カーシャは、オリガが泣き止むのを待ってから、ゆっくりと語りかけた。
「抱かれてもいいなんて......どうしてあんな事を言ったんだい?」
「......心配かけてごめんなさい。どうしても、あの方の気持ちを引きつけておかないといけないと思ったの......」
指先で涙を払いながら、オリガはぽつぽつと話し始めた。
「私たちが騙されて借金奴隷にされたあの事......」
「ああ、忘れはしないさ! ヴィシーの商人......ベイレヴラとか言ったね。もし見かけることがあったら、絶対に殺してやる!」
恨みが湧き上がってきて歯を食いしばって唸るカーシャを、今度はオリガがなだめることになった。
「ふぅ......ごめんよ、オリガ。思い出したら我慢できなかった」
「大丈夫。私も同じ気持ちだから」
オリガとカーシャは、冒険者の頃にベイレヴラを名乗る商人の護衛依頼を受け、騙されて高額の借金を負わされてしまった過去がある。その後も必死で返済しようとしたが、中堅程度の冒険者の稼ぎでは追いつかず、焦って稼ごうとしてオリガが怪我を負い、稼ぐこともできなくなって奴隷となったのだ。
「でも、奴隷になってしまったら復讐どころじゃないよね......」
興奮がすっかり抜けて、大人しくなってしまったカーシャの肩に手を置いて、オリガははっきりと言った。
「私は、復讐を諦めてない」
いつもと違う、激しい感情を含んだ言葉に、カーシャはオリガに視線が惹きつけられた。
ん......ご主人様は強いわ。昼間の戦いもそうだし、ご主人様の話が本当なら、勇者としてこの世界に呼び出された異世界人で、城の騎士......しかも王族付きのエリート数人を一度に相手どって返り討ちにしている」
「でも、アタシたちの仇だからって、ご主人が手伝ってくれるかどうかは......」
「その為に、ご主人様の気持ちを私に向けてもらえるように頑張るの」
今日のオリガの妙な積極性の理由を知って、カーシャは腑に落ちた。
「それであんな事まで言ったんだね......。ごめんねオリガ、アンタがそんな覚悟を持ってご主人と向き合っていたなんて気づかなかった」
「いいの。私もカーシャに相談もせずに気が急いていたし。ご主人様にあっさり断られて、泣いちゃって、ちょっと冷静になれた」
クスッと笑って、オリガは少し恥ずかしそうに言った。
「それに、その......ご主人様の事、ちょっとだけ、いいなって、思うし......。買われた事も、今じゃあまり悪い気持ちはしてないし......」
「え......?」
「さあ、明日もあるし、そろそろ寝ましょう」
ごまかすように立ち上がって、オリガは向かいのベッドに潜り込んでしまった。
オリガの爆弾発言に、何故かカーシャまでドキドキしてしまい、なかなか眠れなかった。
宿近くの通りまでラグライン侯爵を運び、後の事をパジョーに託したは、さっさと部屋に戻って寝てしまった。ちなみに、正面玄関はかんぬきで施錠されていたので、出てきたトイレの窓までよじ登って戻る羽目になった。
翌朝、一二三は日の出前に起きて刀の手入れをしてから、日課としている入念なストレッチを終え、床に正座して瞑想をしていた。
(思えば、丁度一日前の瞑想中に、神様から声をかけられたんだったな)
あれから、随分色々とあった。何人も殺し、今までの抑圧から解放され、積み重ねてきた技術を存分に振るうことができた。現代に生きる武術家として、これほどの幸運に恵まれた者はいないだろう、と一二三は思う。
戦国の世ならいざ知らず、現代社会で武術はイコール暴力という扱いになる。どんな理由があろうとも、武の道にいる者がその技を振るうことは許されない。まして、殺してしまえばどんな理由があろうと責められるのだ。
そんな状況に歯噛みをしていたのは、自分だけではないだろう。
ふと、ノックの音が聞こえた。
「ご主人様、朝食の用意ができたそうです」
オリガの控えめな声が、ドアの向こうから届く。
「わかった。先に食堂へ行ってくれ」
「かしこまりました。お待ちしています」
別に待っていてくれなくてもいいのだが、と思いながら、一二三は袴の乱れを直し、自分の服装を見る。
「服屋を探して、同じものを作ってもらうか......」
異世界の服を着ようとは、何故か思わない一二三だった。
朝食を終え、一応今日までの分の宿代を払った一二三は、オリガ達を連れて再び街へと出てきた。
「今日はギルドに行こう。時間があれば服屋にも行きたいけどな。冒険者ギルドは登録は誰でもできるんだろう?」
「はい。銀貨5枚の登録料が必要ですが、犯罪歴が無ければ......」
「じゃあ、大丈夫だな」
城での件は、一二三にとってはまったくの正当防衛として処理されている。
カーシャが先導し、ギルドへと向かう間、一二三は街の様子を観察していた。相変わらず看板などの文字は読めないが、識字率は大して高くないのだろう、どの看板も文字よりも絵や記号を書き込んだり彫ったりして、わかりやすい工夫をしていた。
(とはいえ、これからの事を考えると文字は早いうちに覚えたいな。本屋とかはあるのかな?)
ギルドまでの道中、本屋は見つけられなかった。
「着いたよ......どうしたんだい?」
「いや、本を売っている店とかは無いかと思ってな」
「本なんて、貴族様か学者くらいしか読まないからね、余程大きな商会じゃないと、扱ってないんじゃない?」
本好きとしてはショックな話だが、それだけ識字率は低いのだろう。一般市民には、読書の習慣は無いらしい。
(はぁ、これだけ識字率が低いのと、羊皮紙が現役で使われているのを見ると、本は高級品で、図書館なんかも期待できないな。大きな情報収集手段が一つ減ったか)
気を取り直して、一二三は先頭に立ってギルドへと踏み込んだ。
小説でよくある酒場兼用というわけではないようだ。
奥にいくつかのカウンターがあり、左手の壁に沿って打ち合わせ用のテーブルが並び、右手の壁にはボードにずらりと羊皮紙が並べられている。
テーブルにはいくつかのグループが座り、見慣れない顔が見たことある女二人組を連れて入ってきたのを、興味深そうに見ている。
「奥のカウンター、どこに行っても受付できます」
勝手知ったるというか、慣れた感じでオリガが示すカウンターに近づき、座っている女性に声をかける。
「ちょっといいか?」
「はい。何かご用ですか?」
若い女性で、後ろでまとめた赤くて長い髪が目を引く職員は、スマイルで答えた。
「新規で登録をしたい。......お前たちはどうする?」
「アタシたちは登録証を取り上げられちゃったし、奴隷になったら冒険者としての扱いはされないと思うけど」
首を振って答えるカーシャの言葉に、ギルド内がざわめいた。カーシャが奴隷になったことは、それなりに衝撃だったらしい。
「か、カーシャさんが奴隷......ですか?」
「オリガもな。で、奴隷は冒険者から外されるのか?」
オリガも奴隷だという言葉を聞いて、周辺のざわつきは大きくなった。悔しそうに、恨めしそうに一二三を見てくる男もいる。オリガは人気があるようだ。
もちろん、そういう視線を気にする一二三ではない。
「ええと......冒険者として登録したり、登録証を再発行することはできます。持ち主の変わりに仕事をこなしている奴隷もいますから。再発行には一回金貨1枚が必要です。あ、新規登録は銀貨5枚です」
どうしますか? との職員からの質問に対して、一二三はオリガたちと“お金が勿体無い”とか“身分証が無いと不便だ”とか話し合っている。
「ああもう、金は気にしなくていいから。お前たちだけで依頼をこなす事もあるだろうし、二人分再発行な」
一方的に決めてしまった一二三だが、オリガたちの表情は柔らかい。その様子が男たちからは嫉妬の篭った視線で見られている。
数少ない女性の冒険者たちもチラチラと視線を向けながら、何やら噂話を膨らませるのに夢中になっている。
「では、こちらの用紙に記入をお願いいたします」
「あ、私が代筆します。ご主人様のお名前はヒフミ様で良かったですか?」
オリガが“ご主人様”と呼んだことにもざわつくのを、流石に鬱陶しいと思いながら、一二三は少し考えた。
「フルネームならヒフミ・トオノだな」
「家名があるなんて、ご主人は貴族様だったのかい?」
「俺の故郷では大体の奴に家名があるぞ」
「ふぅん」
年齢や武器(刀という名称が通じず、説明の結果、剣と書かれた)、魔法の属性を記入してもらっている間に、一人の大男が一二三に近づいてきた。
「おう、そんな細い腕で冒険者なんか勤まらねぇよ。その棒切れみたいな細いのは剣か? そんなんじゃゴブリンだって斬れねぇよ」
威圧感たっぷりに言ったつもりだろうが、一二三は完全に無視している。
「お前ら二人共俺より年下か。カーシャは俺より年上かと思ってた。買うとき年齢は聞かなかったしな」
「アタシが老けて見えるってことかい?」
「お前の体つきが17に見えねぇってんだよ。オリガは16か。小柄だから、もっと若いと思ってた」
「うぅ......」
カーシャやオリガも一二三に釣られて、大男を無視してしまった。
それが我慢ならないらしく、顔を真っ赤にして身体に見合った巨大な剣の柄に手をかけた。
「てめぇ、無視してんじゃねぇ!」
叫ぶ男をまた無視して、一二三はカウンターの職員に笑みを向けた。彼女の事はカーシャたちも知っていて、ヘラという名前だそうだ。
「確認しておきたいんだが」
「はい、なんでしょう」
「武器を抜いて襲ってきた相手を殺したらどうなる?」
問われたヘラは思わず大男をチラッと見てしまい、慌てて視線を戻して答えた。
「明らかに先に武器を向けてきた場合は、防衛の為として罪には問われませんし、ギルドとしても特に問題にはしませんが......」
何をするつもりかと、ハラハラしながら答えたヘラに、にっこり笑って礼を言った一二三は、ここで始めて大男に向き直った。
を抜いたら殺すぞ。そのつもりで選べ。大人しく働くか、死ぬか」
「てめぇ......!」
完全に挑発にしか聞こえないセリフを吐く一二三に、さっきとは違う意味でギルド内がざわついた。
大男の名はオック。見た目通りの怪力で、短気で粗暴な所はあるが実力は認められていた。素直な相手にはアドバイスをしたりする事もあり、仲良くしている若手もいる。
大物の魔物も仕留めたことがあるオックを挑発する若い男に、遠巻きに見ている冒険者たちは、自分の力を過信した愚か者を見る目で見ている。
しかし、彼らにとって腑に落ちない点があった。
オックの力を知っているはずのオリガとカーシャが、一二三と名乗る男を止めようともしないのだ。
「ちょっと厳しい現実を教えてやろうと思ったが、てめぇはしばらく動けない程度にはシメてやらねぇといけねえようだな!」
言いながら、オックが大剣を抜いて両手で握り締めた瞬間だった。
鞘走った刀が、下から上へと振り抜かれた。
誰もが過去形でしか語れない程の速度を見せた刀は、オックの頭上で止まる。
静寂はどれくらいだっただろう。長くも短くも感じる時間が経ち、変化は起こる。
うめき声を上げたオックは、それが最後の声となった。
右手は手首が切断され、股間から頭まで、背骨を残して断ち割られた。
大剣が落ち、前のめりに崩れたオックの身体の下から、血と臓物が広がる。
「お、オック!」
仲間だろう男たちが数人、物言わぬオックに駆け寄るが、誰一人、一二三に向かってくる者はいない。ヘラの説明の通り、挑発されたとはいえ先に声をかけ、先に剣を抜いたのはオックなのだ。
純粋に、一二三の力が怖いというのもある。
「久しぶりに思い切り斬った気がする。......いや、昨日の道場破壊以来か。やはり良い切れ味だな」
殺した相手の事は毛ほども気にした様子を見せず、一二三は刀の様子を見てから血振りをして納刀する。
くるりと振り向き、再び職員に笑顔を見せた一二三は、いつの間にか収納から取り出した金貨と銀貨をカウンターに置いた。
「待たせたな。金はこれでいいか?」
後にも先にも、笑顔を向けられてこんなに怖いと思ったことは無いと、後ほどヘラは同僚にこぼしたという。 | After waiting for Origa to finish crying, Kasha slowly spoke.
「 Something like sleeping together..... Why did you say such a thing? 」
「 ..... I’m sorry for worrying you. At any cost, I thought that I had to attract ... 」
Wiping away her tears, Origa gradually began to speak.
「 The affair that cheated us and turned us into debt-slaves.. 」
「 Ah, I’ll never forget! The merchant of Vichy.... Beirevura. If I see him, I will absolutely kill him! 」
Resentment welling up, Kasha gnashed her teeth and growled, now Origa calmed her down.
「 Fuu..... sorry Origa. I could not endure it on remembering. 」
「 It’s all right. I feel the same way. 」
In the past, when Origa and Kasha were adventurers, they had accepted an escort commission from a trader called Beirevura, who cheated them into owing a large amount of money. Though they tried desperately to repay it, Origa suffered from an injury, became unable to earn, and they were subsequently made debt-slaves.
「 But it is not possible to take revenge now that we are slaves. 」
Excitement subsiding, Kasha quieted down. Origa placed her hand on Kasha;s shoulder and clearly said,
「 I have not given up on revenge. 」
Different from usual, the intense emotion-laden words made Kasha look at Origa.
「 Hifumi san..... Master is powerful. The fight earlier today, and if master’s story is true, called as a hero from a different world, the Knights in the castle..... Moreover, making an enemy of elites of the royalty.. 」
「 But, our enemies, whether master will help or not.... 」
「 Therefore, I will persist in making master’s feelings turn towards me. 」
The reason for Origa’s strange aggressiveness today, Kasha finally understood.
「 So that is the reason..... I’m sorry Origa, I didn’t notice your resolution in facing master. 」
「 It’s all right. I too did not consult with Kasha either under pressure. When master quickly refused, after I cried, I became calm for a moment. 」
Abruptly smiling, Origa said slightly ashamedly.
「 Besides.... Master isn’t bad I think.... The bought items also, now don’t feel too bad. 」(TN: This sentence has a possible double meaning. She says “it doesn’t feel so bad”, where ‘it’ can be the master or the items. I think. )
「 Ee.......? 」
「 Now then, it’s late, let’s sleep soon. 」
They stood up, and Origa crawled into the opposite bed.
Origa’s explosive statement for some reason made Kasha go *dokidoki*, and she did not sleep easily.
Marquis Raghlain was carried to the street of the hotel, then Hifumi entrusted everything to Pajou and quickly went back to his room and slept. Incidentally, since the main entrance was locked and bolted, he climbed in from the window he had left from.
The next morning, Hifumi woke up before sunrise, tended to his katana, finished his daily routine of stretches, and then sat in seiza and meditated.
Come to think of it, exactly one day ago I met those Gods.
Since then, various things have come about. Freed from the restraints of killing people, able to practice techniques to the extreme. Hifumi thought he was truly blessed, living as a martial artist in the modern age was quite hard.
It may be possible in a country at war, but in peaceful modern society, martial arts equalled violence. It was frowned upon for any martial artist to use techniques. Moreover, in case of death, they were blamed.
Such a situation was indeed very vexing.
Suddenly, a knocking sound was heard.
「 Master, breakfast is ready. 」
Origa’s humble voice reached the other side of the door.
「 Got it. Go on to the dining room before me. 」
「 Certainly. We will wait. 」
It’s not particularly necessary to wait though, Hifumi thought as he adjusted his hakama and looked at his attire. He was still wearing his martial arts dougi and hakama from yesterday.
「 I should look for a clothes shop, get the same thing made. 」
Somehow, Hifumi did not want to wear the clothes from this world.
Finishing breakfast, for the time being Hifumi paid the hotel fees for the day, and took Origa and Kasha to town again.
「 We’ll go to the guild today. If there is time, I want to go to a clothes shop. As for the Adventurer’s Guild can anyone register? 」
「 Yes. Though the registration fee is silver coins, as long as there is no criminal record.... 」
「 Well, it’s all right then. 」
The matter in the castle is treated as legitimate self-defense.
With Kasha as the guide, Hifumi was observing the town. As usual, the signboards could not be read, the literacy reate does not seem to be high. The signboards also had symbols and paintings carved in an easy-to-understand way.
Be that as it may, I should quickly learn the characters to avoid problems in the future. Is there a bookstore here?
On the way to the guild, there was no bookstore.
「 We arrived.... what’s wrong? 」 (Kasha)
「 It doesn’t seem that there are shops selling books here. 」 (Hifumi)
「 Books! Only nobles or scholars read them. 」
The conversation would shock a bibliophile, just how low was the literacy rate? There seems to be no habit of reading for normal citizens.
Haa, with the literacy rate this low, books can be seen as high-quality goods, and the chances of libraries existing is very low. A great method of information-gathering is gone.
Pulling himself together, Hifumi stepped into the guild.magic
Unlike in novels, the bar and room is not combined as one.
There were some counters in the back, tables for meeting were lined up along the left-side wall. The notices were placed on a board on the right-side wall.
Several groups seated on the tables, looked curiously at the unfamiliar face leading two women.
「 The back counter, that treated as the reception. 」 (Origa)
Approaching the counter Origa indicated Hifumi spoke to the woman sitting behind the counter.
「 Have a minute? 」
「 Yes. What can I help you with? 」
The young woman who had long red, eye-catching hair answered with a smile.
「 I want to register as a newcomer..... How is that done? 」
「 Our registration document was taken from us, when we became slaves I don’t think we get the same treatment as adventurers. 」
To Kasha’s words while shaking her head, the guild became noisy. Kasha having become a slave, seemed to be shocking in its own way.
「 Kasha is a slave... is it? 」
「 Origa too, has become a slave from an adventurer? 」
Hearing that Origa too was a slave, the surroundings became even noisier. A man was staring at Hifumi with a bitter gaze. Origa seems to be popular.
Of course, Hifumi was unconcerned with such gazes.
「 Err... Once registered as an adventurer, the registration card can be reissued. Since the slaves are doing the jobs, the owner has to pay a charge. One gold coin is necessary for reissue. A new registration is silver coins. 」
What do you want to do? On being asked this by the staff, Hifumi thought it was inconvenient without identification papers.
「 Ah, whatever, do not worry about the money. Reissue for two. 」
Though Hifumi one-sidedly decided it, Kasha and Origa’s expressions softened. Watching them, the men’s gazes became those full of jealousy.
The few female adventurers repeatedly glanced at him, somehow rumours about him started getting inflated.
「 Then, please fill out this form. 」
「 Aa, I will fill it. Is master’s name as Hifumi-sama agreeable? 」(Origa)
Hearing Origa call him ‘master’, as expected was slightly gloomy, thought Hifumi.
「 Full name is Hifumi Touno. 」
「 To have a family name, was master a noble? 」
「 In my hometown, generally everyone had a family name. 」
「 Fuun.. 」
While filling in the age and weapons used (the name ‘katana’ did not exist, so it was written as ‘sword’), a large man drew near to Hifumi.
「 Oh, with those thin arms, you are not fit to be an adventurer. That stick-like thin sword? Such a thing, can it won’t even kill a goblin. 」
Even though it was said with a heavy intimidating air, Hifumi completely ignored the man.
「 You two are younger than me? I thought Kasha was older than me. Though I did not hear your ages when I bought you two. 」
「 You mean to say I look old?! 」(Kasha)
「 Your build seemed as though you were . Origa is ? Because she is smaller, I thought she was younger. 」
「 Uuu... 」
The large man was disregarded, Kasha and Origa’s attention was on Hifumi.
Seemingly unable to endure it, the man’s face was flushed and grabbed the hilt of a huge sword corresponding to his huge body.
「 You bastard, don’t ignore me! 」
Ignoring the man yet again, Hifumi turned towards the smiling staff member. Kasha and Origa seemed to know her too, her name was Hera.
「 I want to confirm something. 」
「 Yes, what is it? 」
「 What happens if I kill someone who pulls out their weapon and assaults me? 」
Asked as such, Hera reflexively looked at the large man, and returning her gaze to Hifumi answered in a fluster.
「 With regards to weapons, it is not a crime if used in self-defence, the guild does not particularly question it either.... 」
What will you do?, To Hera who answered on tenterhooks, Hifumi smiled, thanked her, and turned towards the large man.
「 Is that so? If you draw your weapon, I will kill. Choose. Obediently withdraw, or die. 」
「 You bastard......! 」
Spitting out lines that seemed perfectly provocative, the guild became noisier in a very different way from before.
The large man’s name was Okku. In accordance with his appearance he was strong, short tempered, uncouth, and was recognised as competent. He got along with young men and gave out honest advice as well.
The other adventurers thought the young man was a fool for having provoked the big-shot Okku, and was overconfident in his power.
However, one thing did not make sense to them.
Origa and Kasha, who knew Okku’s power, did not even try to stop the man who called himself Hifumi.
「 Though I thought I’d teach you about the harsh reality, in a little while, I’ll make it so that you won’t be able to move~~! 」
Saying so, Okku pulled out his greatsword and grasped it with both hands in an instant.
Slipping out of it’s sheath, the katana was swung, from bottom to top.
The katana that moved faster than anyone’s words stopped above Okku’s head.
Silence fell. Though it felt like an eternity, a short time later, changes happened.
Okku groaned, the last sound he ever made.
His right hand was severed at the wrist, leaving the spine intact, he was cut open from groin to head.
The greatsword fell, body pitching forward and collapsing, Okku’s blood and entrails spilled out.
「 O..Okku! 」
Several men who seemed to be companions of Okku ran upto him, but no one faced Hifumi. According to Hera’s explanation, though provoked, Okku was the first to draw his weapon.
They are purely scared of Hifumi’s power.
「 It’s been a while since I had this feeling of wanting to kill..... No, since yesterday’s interruption at the dojo. Still quite sharp. 」
Not caring even a little bit about the opponent’s state, Hifumi looked over his katana and returned it to its scabbard.
Turning around, Hifumi smiled at the staff member, unnoticed put away his sword in the Dark Hole, retrieved gold and silver coins and placed them on the counter.
「 I kept you waiting. Is this enough? 」
Later on, Hera told a co-worker, that never before had she seen such a frightening smiling face. |
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} | 何か大きなイベントがあるのではないか、という予感は、民衆の中にもあった。配置変えのあった兵士や、王城を出入りする商人が連れている見習いなど、情報が漏れる箇所はいくらでもある。
ただ、魔人族が関わっていることは、王城内でも直前までごの者しか知らされなかったため、突然首都の中央を走る大きな道路が中央部分だけ封鎖され、魔人族や獣人族の一団が女王へ謁見するために登城すると発表された時、町は一時騒然となった。
だが、意図して“謁見する”と魔人族側を一段下げて表現したことと、相手側から訪問するという形式が人間側の優位を示している、という認識が広まると、民衆の動揺はかなり治まったように見える。
士隊出身者が意図的に流布した情報が、効果を上げているのは否めない。
「だが、一番大きな影響はあれだな」
王城近くで道路警備を行っていた兵士は、同僚の兵士との会話の中で、王城前広場の入口にいる人物へ視線を向けた。
「トオノ伯爵、か。魔人族や獣人族の国にも行ったんだって?」
「隠居したって聞いたけどな。少なくとも、“細剣の騎士”様がいれば、王都は大丈夫ってのが、民衆の気持ちだろうさ」
そういう兵士たちも、の姿が見えている安心感からか、私語が多くなっている。
つい今しがた、ヴィシー方面の入口から走ってきた兵士が、再び門の方へと駆けて行った。
間もなく、魔人族たちがこの城へやってくる。
広場への入口。刀を腰にぶち込み、悠然と仁王立ちしている一二三は、先ほど町の商人から差し入れられた果物を齧った。リンゴのような触感だが、甘みは桃に近い。
口の端からこぼれた、一筋の果汁を拭っていると、ミダスが近づいてくる。
「城内でお待ちになられませんか」
「俺は、今回の会談には招かれていないからな。ちょいと旧知の面を見にきただけの一般人だ。気にするな」
「わかりました......間もなく、エルフと獣人が先に到着します。それから少し距離を開けて、魔人族を迎え入れる予定です」
「ふぅん......レニは先に来てるからな。エルフと一緒に来てるのは、ザンガーか?」
乱暴に果物を齧り、あっという間に腹に収めてしまう。
「そこまでは、気かされていません」
「ああ、そう。で、お前はいつまでここにいるんだ?」
「ここで、出迎えをして、城門まで案内するのが私の役割です」
この場所で、護衛の役割をフォカロル領兵及び国軍兵から騎士隊が主となる王城内外の守隊へと変更されるのだという。
ミダスが説明している間に、遠くから聞こえていたざわめきが、次第に近づいてきた。
「到着されたようです」
見ればわかることをわざわざ口に出したあたり、ミダスも緊張しているのかもしれない。
集団の先頭は馬に乗ったアリッサが進み、その後ろに馬車が続いている。
「一二三さん!」
大きく手を振るアリッサは、馬車を置いて馬を進めてくると、一二三の目の前で馬から飛び降りた。
「そうだな。領地の方はどうだ?」
「カイムさんやミュカレさんが助けてくれるから、なんとか......」
話をしていると、追いついた馬車から数名の男女が降りてくる。
周囲で遠巻きに見ていた民衆から、ざわめく声が上がった。
「久しぶりだねぇ」
「ザンガーか。まだ生きていたか」
「御蔭さんでね。あれの進行も止まったし、この歳で色々と環境も変わって、楽しく過ごしているよ。まだまだ、あと百年は生きるつもりさね」
じゃあ行ってくるよ、と数名のエルフと獣人族を引き連れて、ザンガーは一二三の横を抜けて行った。
「なんかやらかすなら、あたしたちが逃げてからにして欲しいんだけどねぇ」
「巻き込まれたくないなら、気を付けて周りを見ることだな」
通り過ぎる瞬間、小声で交わされた会話は、周りの誰にも聞こえなかった。
ザンガーたち一向が通り過ぎ、アリッサも護衛として共に王城へと入っていく。
フォカロル兵たちは広場に待機することとなっていた。彼らはやや緊張した面持ちではいたものの、国軍の兵たちに比べれば笑顔の者が多く、多少の疲れはある者の、まだまだ元気が残っている様子だ。付いてきていた職員が指示を出して食事などの手配をしている。
広場の隅に座り、交代で食事を始めたフォカロル兵たち。一二三と目があって、会釈をしてくる者もいた。
鷹揚に手を振って応えている一二三に、先ほどより大きなざわめきが聞こえる。
「来たな」
魔人族の兵士に護衛されたオーソングランデの馬車が、ゆっくりとやってくる。
青い馬と灰色の人。民衆には刺激が強かろうが、驚く声に反応することなく、護衛の兵たちはしっかりと周囲を警戒していた。
ミダスが歩き出て、魔人族たちを止めた。
「申し訳ありませんが、ここから城までは徒歩でお願いいたします。馬はお預かりいたします」
「......少し、お待ちいただきたい」
むっつりとした魔人族の兵が、馬の向きを変え、馬車の横へとつけた。中の人物に何かを確認すると、素早く馬を降り、手綱を掴んで戻ってくる。
「ウェパル様の確認が取れた。馬をお願いする」
ミダスが部下を呼び、それぞれの兵から馬の手綱を受け取り、広場の隅へと連れて行く。
「世話について教えていただければ......」
「では、我らが連れて来ている者にやらせましょう」
「助かります」
馬たちが手綱を引かれ、立派な身体に似合わぬつぶらな瞳を主人たちへと向けながら、世話役の魔人族と共に広場のフォカロル兵たちとは反対側へと誘導されていく。
徒歩となった兵士たちに囲まれ、最初に馬車からおりてきたのはフィリニオンだった。貴族らしい細やかな刺繍をあしらいつつも、控えめな印象のあるドレス。その裾を摘み、慎重にステップを降りていく。
その後ろから、ウェパルが姿を見せた。
「......久しぶりね」
「女王稼業は楽しいか?」
「押し付けた本人から言われたら、皮肉にしか聞こえないわよ」
横で聞いているミダスには理解できない会話だったが、彼らに何かしらの因縁があることはわかる。
「では、陛下......」
「あれ、見てみ」
話しかけようとしたミダスを押え、一二三が広場の中央を指差した。
そこには、細長い台座が据え付けられ、布がかぶせられている。
「あれは魔人族からの預かりものだ。帰りにでも見ていくと良い」
「......返す、とは言わないのね」
「欲しけりゃ実力でやると良い」
「はぁ......後で話があるから、時間を頂戴」
「そんな暇があれば、な」
雰囲気が変わる。
慌ててミダスが二人の間に身体を滑り込ませた。
「陛下、私が先導させていただきますので、どうぞ、こちらへ!」
「あら、そう。よろしくお願いするわね」
ミダスの隣にフィリニオンがつき、その後ろをウェパルたち魔人族が進む。
最後の一人が通過すると、広場への入口は兵たちによって封鎖された。
何気なく、一二三は封鎖の内側にいる。兵たちは彼をしきりに気にしてはいたものの、誰も声をかけることは無かった。フォカロルの兵たちが広場にいる以上、出て行けと言うのは問題になりそうだ、と誰もが考えたからだ。
「さて、どういう形で来るのかね?」
うずうずとする心を押さえつけ、指先で柄頭を叩く。
「ここが大一番だぞ。つまらない結果を見せるなよ」
☺☻☺
「単刀直入に言って、戦争を続ける気は私にも無いのよ」
到着後、挨拶のみで会談は明日、とする予定だったが、ウェパルの希望で最初の会談を早々に始めることとなった。
出席者はイメラリア、ウェパル、レニ、ザンガー。そして、何故かオリガが同席している。それぞれに補佐と護衛がいるが、オリガだけはたった一人で、当然のことのように座っている。
それぞれに挨拶をして、オリガが一二三の配偶者であることに、それぞれ驚いてみせたあと、最初に口を開いたのはウェパルだった。
「魔人族は充分な居場所を得たわ。為政者として愚痴を言わせてもらえば、広すぎてどこから手を付けていいかわからないくらいよ」
コロコロと笑うウェパルに、イメラリアは微笑みを向けた。
「大変そうですね。必要であれば、アドバイスさせていただきますわ」
ウェパルは戦争を終わらせたいと言ったが、その場の誰もがその裏にある“充分利益は出たから、勝ち逃げする”という意思を見抜いていた。
その上で、イメラリアが軽く流したのだ。ヴィシーという国が魔人族に占領されたことは、気にしていないと言っているのも同様だ。
「......可愛らしい顔をして、冷たいのね」
「もうすぐ母親になるのです。優しいばかりでは、母として、為政者としての姿を子供に見せるのが恥ずかしくなりますわ」
お腹を撫でて笑っているイメラリアに、オリガ以外の全員が、どう反応して良いか困った顔をしている。オリガの表情は、言うまでもない。
「わたくし......つまりオーソングランデとしては、ヴィシーを魔人族が占拠したことについては、はっきり言えば停戦という目的に比べればどうでも良いことですわ。わたくしには、他の何を犠牲にしてもこの国を守る義務があります」
「参った。参ったわよ。降参だわ。ここで約束しても良いわよ。魔人族はオーソングランデに侵攻しないし、国境の軍も撤退させるわよ」
「賢明なご判断をくだされたこと、感謝いたします」
イメラリアがにっこりと笑い、ここに一つの戦争が終わりました、と締めくくる。
では、とイメラリアは、まだ会話に入れていないレニとザンガーへと視線を向けた。
「獣人族やエルフの方々はどうされるおつもりですか?」
「ウチたち獣人族としては、希望する者を集めてどこかに町を作りたいと考えています。今までは荒野の国の一部に住んでいましたが、追い出されちゃいましたから......」
ちら、とレニがウェパルを見ると、ウェパルは素早く目を逸らす。
「では、オーソングランデ国内での開拓を許可します。王国直轄地か、場合によってはフォカロルの一部を使うように、アリッサさんに話しておきましょう」
「ありがとうございます」
名前が出たアリッサだが、会談の内容を聞いて、自分が寝ずに耐えられるわけがない、とさっさと逃げ出していた。今頃は、城内の食堂あたりで食事でもしているだろう。
「あたしたちは、バラバラに生活するよ。レニちゃんたちと一緒に行くのもいれば、ローヌに残るのもいる。この国で生活する許可さえもらえれば、どうとでもするさ」
「そうですか......」
ザンガー自身はレニと共に行くか、プーセと共に王都に残るか迷っているという。魔人族封印という種族総出の仕事が無くなった今、まとまって行動する意義がない、とザンガーはぼやくように言った。
「わかりました。それも許可しましょう」
「ありがたいねぇ......」
拍子抜けするほど、淡々と進んで行く話し合い。
イメラリアの後ろで、護衛として立っていたサブナクは、このまま穏やかに解散となってくれれば、どれほど楽かと考えていた。
だが、そうはならない予定になっている。
「ところで、オーソングランデの女王陛下に、お願いしたいことがあるんだけど」
その言葉は、ウェパルからの合図だった。
イメラリアとウェパルが交わした親書の中で、最高機密として扱われたものの中に、ウェパルから驚愕の提案があり、イメラリアは内々で了承をしていたのだ。
「人間との戦いで、片腕を取られて怒ってるのがいるのよね......その相手、あの一二三なのよ。悪いけど、彼にちょっと相手させてもらえるかしら?」
この願い。ここまでは既にイメラリアは許可している。“好きにすれば良い”と。
サブナクは、ウェパルにこれを許可することで、一二三の力を削ぐか、うまくいけば行動不能になった一二三を封印する、と女王が考えていると思っていた。
だが、イメラリアの狙いはそこには無い。
この時、オリガは顔を伏せていたが、斜め横にいたサブナクが注意深く彼女を見ていれば、笑っていることに気付いただろう。
「女王様。ウチたちは退席します。これ以上は、ウチたちが関わらない方が良いでしょ? ザンガーさんも」
「そうだねぇ。年寄りにはちょいと刺激が強すぎる話になりそうだしね」
一礼して、護衛たちを連れて早々に部屋を出ていくレニとザンガーを、イメラリアは止めなかった。聞かせる必要が無かったからだ。
「ウェパルさん。その復讐者はここに着ているのですか?」
「いいえ。でも、場所さえ決めて貰ったら、すぐに呼び出せるわよ」
「まあ! 魔法でしょうか? 魔人族というのはすばらしい技術を持っているのですね」
ウェパルの言葉に、イメラリアは大げさに驚いて見せた。
悪い気がしないウェパルは、得意げに胸を張って見せたが、次は彼女が驚く番だった。
「では、さっそく城の前で始められればよろしいですわ。広場には多少の兵がいますが、広く空いておりますし、丁度一二三様もおられますわ!」
「王城前の広場で勝負とは、素晴らしい発案です、陛下!」
同調するように、オリガも大きな声を出した。
「......えぇ? ほ、本気で言ってるの?」
ウェパルにとっては、渡りに船の提案だった。一二三に恨みを持っているバシムが、たとえ多少の部下を引き連れて行ったとしても、簡単に返り討ちにされてしまうのは目に見えている。
「で、でも、民衆の前で一二三を攻撃したら、私達の立場が悪くなるでしょう? 名分ができたあなた達と、また戦いになるわよ?」
「大丈夫ですわ」
興奮しているウェパルに歩み寄り、イメラリアはそっと手を重ねた。
「一部の部下が暴走し、一二三様がそれを押える。もし一二三様が負けたとしても、やる事は同じです。貴女は部下の暴走を止め、素直に部下の失態を詫び、わたくしが許す。それを民衆の前で披露すれば、魔人族に対する恐怖も薄れ、今後の国交にもつながると思いませんか?」
そっと、囁くように提案された内容に、ウェパルはわずかに拒否感を感じていた。女王としてやって来た自分が、他国に詫びる形を取る。
ウェパルの逡巡を読み取ったかのように、イメラリアが口を開いた。
「あら、わたくしとしたことが......ウェパルさんが謝るのはよろしくありませんね。では、こういう形は如何でしょうか?」
きゅ、とウェパルの指を握り、イメラリアは提案を修正する。
「わたくしたちも兵を出しますわ。見せかけでひと当てして、その間に一二三様を存分に狙われれば良いですわ。人が増える分、民衆からも状況はわかりにくくなるでしょう。そして、適当なところでわたくしたち二人が両軍に呼びかけて止めれば良いのです。不幸なぶつかり合いもあったが、互いのトップは理解しあっている。戦う必要は無い、と堂々宣言してしまいましょう」
同じ立場になった。原因も“不幸なぶつかり合い”としてうやむやにして、双方の意思で戦いは終わったとする。
「わ、わかった。でも、それで良いの?」
「何人か、運の悪い兵士がいるかも知れませんわね。でも......」
イメラリアが握る指に力が入る。
ウェパルは少し痛いと思っていたが、それはイメラリアの覚悟を示す痛みだと思っていた。
「これは大切なことなのです。やらなければならないことでしょう?」
「そう、なのね? わかった......その、よろしくね」
手を離し、改めて握手をする。
「詳しいお話をしましょう。今すぐに」
プーセを呼んでくるように命じられた時、サブナクは顔を真っ青にしていた。 | The premonition that there might be some big event circulated among the population. Countless leaks of information, such as the soldiers, whose deployment had changed, and the apprentices, who lead the merchants visiting and leaving the royal castle, were whispering about it ahead of time.
However, if it’s related to the demons, only a small fraction of the people in the castle had been informed about their arrival in advance, and thus the city became uproarious for a while when the central area of the big street running through the middle of the capital was suddenly closed off and it was announced that a group of demons and beastmen had arrived for the sake of having an audience with the queen.
But, once it became obvious to the people that the human side was the superior one with the other side being the one visiting, and as the demons’ side was intentionally verbally lowered in their standing by calling it “having an audience,” the population’s unrest evidently calmed down quite a bit.
The high efficiency of the information deliberately spread by the former members of the Third Knight Order couldn’t be denied.
“But, the biggest impact has that man, I’m sure.”
A soldier, who guarded the road close to the palace, turned his eyes towards the person standing at the entrance of the plaza in front of the castle during the conversation with his colleague.
“Earl Tohno, eh? He’s been to the demon and beastment countries, no?”
“I heard he retired, though. Well, I think the people feel like the capital will be alright as long as the
Seemingly because they feel safe seeing Hifumi, there are many soldiers whispering such things.
A soldier, who came running from the entrance in Vichy’s direction just moment’s ago, dashed off in the direction of the gate once again.
Very soon the demons will arrive at this castle.
At the entrance to the plaza. Hifumi, who boldly stands there with a calm demeanor while wearing the katana at his waist, gnawed on a fruit he had bought from a merchant a while ago. It has a touch of being like an apple, but its sweetness is close to that of a peach.
Just as he’s wiping the long line of fruit juice running down from the corner of his mouth, Midas approaches.
“Can’t you wait inside the castle?” (Midas)
“I haven’t been invited to this time’s conference. I’m an ordinary person who just came to see the face of a few old acquaintances for a short moment. Don’t mind me.” (Hifumi)
“Got it...any moment the elves and bestmen will arrive. After them, with a little distance between both parties, it’s planned to welcome the demons.” (Midas)
“Hmm...Reni came here ahead of them. I guess the one coming together with the elves will be Zanga?” (Hifumi)
He quickly bites through the fruit with the end result that it ends up in his stomach in a flash.
“I haven’t been told as much.” (Midas)
“Ah, I see. So, how long are you going to stay here?” (Hifumi)
“Meeting them here and guiding them to the castle gate is my duty.” (Midas)
He explains that the escort duty will shift from Fokalore’s soldiers and the royal army to the safekeeping unit in charge of the royal castle centered around the knight order at this point.
While Midas was explaining, the commotion, which could be heard in the distance, got gradually closer.
“It looks like they are about to arrive.” (Midas)
Based on him expressly voicing out something that’s obvious to anyone, Midas might be nervous as well.
Alyssa comes in sight on top of a horse at the head of the group with a carriage following her from behind.
“Hifumi-san!” (Alyssa)
Alyssa, who waves her hand grandly, made her horse advance while leaving the carriage behind, and jumped off its back in front of Hifumi.
“Indeed. How’s the territory doing?” (Hifumi)
“Since Caim-san and Miyukare-san are helping me out, I manage somehow...” (Alyssa)
Several men and women exit the the carriage that caught up as they are chatting.
A stir ran through the residents who were watching from a distance.
“It’s really been a while.” (Zanga)
“Zanga, huh? You were still alive?” (Hifumi)
stopped as well. I’ve been spending a happy time with the various changing environments in this year. As of yet I still plan to live another another century.” (Zanga)
“Well then, I’m off.” Saying so, Zanga took several elves and beastmen along and passed next to Hifumi.
“If you’re going to start some mess, I’d like you to let us run away though, okay?” (Zanga)
“If you don’t want to get involved, you just have to pay attention and watch your vicinity.” (Hifumi)
No one around them heard the words they exchanged in whispers at the moment of passing each other.
Passing as part of Zanga’s group, Alyssa also enters the castle as guard.
It had been decided for Fokalore’s soldiers to be on standby at the plaza. Although they had somewhat nervous expressions, there are many smiling soldiers among them compared to the royal army’s troops. They are somewhat tired, but they look as if they still have a lot energy left in them. The supply members, who accompanied them, start preparing meals and other miscellaneous things.
Fokalore’s soldiers start eating in shifts while sitting in a corner of the plaza. There were also some who saluted Hifumi after meeting eyes with him.
As Hifumi answers by coolly waving his hand, a commotion even bigger than before becomes audible.
“They arrived, eh?” (Hifumi)
Orsongrande’s carriage, which was escorted by demon soldiers, slowly approaches.
Blue horses and gray people. They were a strong stimulus for the residents, but without acting surprised, the guarding soldiers watched the vicinity warily.
Once Midas stepped forward, the demons stopped.
“I’m sorry, but I’d like to ask you to go by foot to the castle from here on. We will take care of the horses.” (Midas)
“...Please give us a short moment.”
A taciturnly demon soldier turned his horse around and led it next to the carriage. After confirming something with the people inside, he swiftly turns his horse and returns while grasping his reins.
“I checked back with Vepar-sama. Please take care of the horses.”
Midas calls his subordinates. Each of them receives the reins of the soldiers’ horses and leads them away to a corner of the plaza.
“If we could have someone to teach us how to look after them...” (Midas)
“Then please allow us to send someone along.”
“That will be a big help.” (Midas)
While the horses with their imposing bodies and round, cute eyes look in the direction of their masters as they are being pulled away by the reins, they are guided to a place opposite to Fokalore’s soldiers together with the care-taking demon.
The first who got off the carriage, which was surrounded by soldiers, was Phyrinion. She wears a noble-like, conservative, impressive dress with a modest amount of embroidery. Grabbing its hem, she’s carefully descending with the help of the step.
Behind her, Vepar showed up.
“...Long time no see.” (Vepar)
“Do you enjoy your role as queen?” (Hifumi)
“Being asked that by the person who pushed it onto me sounds like nothing but sarcasm to me.” (Vepar)
It was a talk not understandable for Midas who listened from the side, but he grasped that they have some kind of connection.
“Well then, Your Majesty...” (Midas)
“Have a look at that.” (Hifumi)
Holding back Midas who tried to speak to Vepar, Hifumi pointed at the center of the plaza.
A long and narrow pedestal has been installed over there and then covered with a cloth.
“That’s something which was entrusted to the kingdom by the demons. It’s better you take a look before going home.” (Hifumi)
“...Going home, that’s not what I would call it.” (Vepar)
“If you want something, you should just take it by force.” (Hifumi)
“Haa...We have to talk later, so please give me some of your time.” (Vepar)
“If there will be such spare time, sure.” (Hifumi)
The atmosphere changes.
In a hurry Midas wedged his body in-between the two.
“Your Majesty, I have been given the honor to guide you, so please, come this way!” (Midas)
“Oh my, I see. Please take care of me then.” (Vepar)
Phyrinion walks right next to Midas with Vepar and her demons following behind.
Once the last of them passed, the entrance to the plaza was closed off by soldiers.
Unintentionally Hifumi is inside the locked area. Although the soldiers pay constant attention to him, no one calls out to him either. Seeing as Fokalore’s soldiers are on the plaza, it looks like it will become a problem for him to leave. That’s what everyone thought.
“Now then, I wonder, in what way are they going to make their move?” (Hifumi)
Suppressing his itching heart, he taps the pommel of his katana with a finger.
“This is the decisive battle. Don’t make me bored.” (Hifumi)
☺☻☺
“Going straight to the point, I have no intention to continue the war.” (Vepar)
After the arrival it was planned to hold only a meet n’ greet and then start the conference on the next day, but upon Vepar’s wish it was decided to have an early meeting ahead of schedule.
The attendees are Vepar, Imeraria, Reni, Zanga, and for some reason Origa. Each of them has advisors and escorts, but only Origa is sitting there all by herself as if it’s a matter of course.
After a round of greetings and everyone besides Imeraria and Reni showing their surprise at the fact of Origa being Hifumi’s wife, the first to speak up was Vepar.
“The demons obtained enough territory. If you allow me to complain as statesmen, it’s so much that we don’t know where to put our hands first as the territory is far too big.” (Vepar)
Imeraria faced Vepar, who laughs pleasantly with a high-pitched tone, with a smile.
“That certainly sounds difficult. We can provide you some advice if necessary.” (Imeraria)
Verpar said that she wants to stop the war, but everyone present saw through the underlying intention of “quitting while ahead since they had enough gains.”
Yet, Imeraria casually played that down. That’s equal to her saying that she doesn’t mind the demons occupying the country called Vichy.
“...You have such a lovely face and yet you’re so cold-hearted.”
“I’m going to become a mother soon. Showing my child an appearance as mother and statesmen that’s only gentle will be a disgrace.” (Imeraria)
Everyone except for Origa dons troubled expressions, not knowing how to react, due to Imeraria laughing while stroking her belly. Origa’s expression is obvious even without saying anything.
“To put it bluntly, if compared to the objective of a ceasefire, the occupation of Vichy by the demons doesn’t matter at all to me...in other words, to Orsongrande. It’s my duty to protect this country, no matter what else I have to sacrifice for that sake.” (Imeraria)
“I give up. You got me there. I surrender. I don’t mind making an agreement right here and now. The demons won’t invade Orsongrande, and I will also have the troops at the border withdraw.” (Vepar)
“You have my gratitude for making a wise decision.” (Imeraria)
Imeraria smiles sweetly and brings it to a close with “The war has come to an end with this.”
“Well then,” with that Imeraria turned her eyes towards Reni and Zanga who still haven’t said anything during the conversation.
“What do the elves and beastmen intend to do?” (Imeraria)
“We want to gather the people with aspirations and build a city somewhere as beastmen race. Until now we lived in a part of the wastelands’ country, but since we were driven out...” (Reni)
Once Reni throws a quick glance at Vepar, she quickly averts her eyes.
“Then I shall allow you to reclaim land inside Orsongrande. An area under the direct control of the kingdom, or, depending on the circumstance, I will talk with Alyssa-san so that you can use a part of Fokalore.” (Imeraria)
“Thank you very much.” (Reni)
The name Alyssa popped up, but after hearing about the details of the meeting, she quickly ran away while saying that there’s no way for her to be able to stay awake throughout the meeting. About this time she’s probably eating a meal in the castle’s dining hall.
“Our people will live all over the place. Some will go together with Reni-chan’s group, others will stay in Rhone. As long as you give us your permission to live in this country, we will handle it one way or the other.” (Zanga)
“Is that so...?” (Imeraria)
Zanga herself is uncertain whether to go with Reni or to stay in the capital together with Puuse. Now that the entire race lost their task of sealing the demons, there’s no point in acting together, Zanga said as if complaining.
“Understood. I will permit that as well.” (Imeraria)
“I’m grateful...” (Zanga)
The discussion advances so dispassionately that it’s almost a disappointment.
Sabnak, who stood behind Imeraria as guard, imagined how relaxing it would be if the dissolution of the meeting could take place in the same manner.
But, it’s scheduled for that to definitely not happen.
“By the way, there’s something I’d like to request of you, queen of Orsongrande.” (Vepar)
Those words were the signal from Vepar.
Inside the handwritten letters between Vepar and Imeraria there was a shocking suggestion by Vepar that was treated as top secret. Imeraria personally had already accepted it.
“In the battle with the humans, there was someone who stole an arm and pissed off one of ours...it’s that Hifumi. I’m sorry, but can I have your permission to let us fight against that Hifumi for a bit?”
This request. Imeraria has already allowed it up to this point with “Do as you see fit.”
Sabnak thought that the queen is planning to seal Hifumi if things go as smoothly as him becoming unable to defend himself, or at least shave off some of Hifumi’s strength by giving Vepar this permission.
But, that’s not Imeraria’s aim.
At that time Origa’s face was hidden, but once Sabnak, who was standing diagonally across her, carefully looked at her, he realized that she was laughing.
“Your Majesty, we are going to leave. It would be better for us to not get involved any further, right? Zanga-san, you too.” (Reni)
“You’re surely right. For an elderly like me, it looks like it’s become a little too exciting talk.” (Zanga)
Imeraria didn’t stop Zanga and Reni who bowed and then left the room quickly while taking their guards along. After all there was no need for her to persuade them otherwise.
“Vepar-san, is that avenger going to come here?” (Imeraria)
“No, but, as soon as the location has been decided, I will be able to call him over right away.” (Vepar)
“Oh dear! Magic? The demons possess truly magnificent techniques.” (Imeraria)
Imeraria acted exaggeratedly surprised towards Vepar’s remark.
Vepar, who doesn’t suspect any bad intention behind it, proudly pushed out her chest, but next it was Vepar’s turn to be surprised.
“Then it will be alright if we can have it quickly settled in front of the castle. There are some soldiers on the plaza, but it’s wide and open. Hifumi-sama has been there just moments ago, too!” (Imeraria)
“A match on the plaza in front of the castle, what wonderful idea, Your Majesty!” (Origa)
Obviously agreeing, Origa raised a loud voice, too.
“...Eh? Are you really saying that?” (Vepar)
For Vepar it was a godsend suggestion. Even if Bashim, who harbors a bitter grudge towards Hifumi, took along some subordinates, it’s apparent that he will easily have the tables turned on him.
“B-But, if Hifumi is attacked in front of the residents, our position will become worse, won’t it? Will it once again turn into a battle with you under the premise of a just cause?” (Vepar)
“It’s fine.” (Imeraria)magic
Imeraria gently put her hand on top of Vepar’s who’s agitated.
“If a part of your subordinates go on a rampage, Hifumi-sama will suppress them. Even if Hifumi-sama were to lose, the things we have to do are the same. You will stop your subordinates, honestly apologize for their misbehavior and I will pardon it. If we announce that in front of the people, their fear towards the demons will fade, and it will connect to our diplomatic relations from now on. Don’t you think?” (Imeraria)
Due to the contents which were proposed quietly, like a whisper, Vepar felt a faint urge to deny. After all it would take the shape of her, who finally became a queen, apologizing to another country.
As if having predicted Vepar’s hesitation, Imeraria spoke up,
“Oh my, it’s not right for Vepar-san to apologize for something done by me after all. Then, how about doing it in the following manner?” (Imeraria)
Imeraria tightly grasps Vepar’s fingers and revises her suggestion.
“I will send out my soldiers as well. While pretending to be humans, your side can aim for Hifumi-sama’s head to your heart’s content. The more people there are, the more incomprehensible will the situation become for the residents. And then, at a suitable time, we just have to stop our soldiers by calling out to them. There will be accidental collisions as well, but both leaders will jointly accept those as tragic accidents and we will boldly declare that there’s no need to fight.” (Imeraria)
With that they would be on the same level. With the vague reasoning of “accidental collisions” both sides are going to intend to stop the fighting.
“U-Understood. But, is that fine with you?” (Vepar)
“I suppose there might be several unlucky soldiers. But...” (Imeraria)
Imeraria fills the grasping fingers with strength.
Vepar felt a slight pain, but she believed it to be a pain demonstrating Imeraria’s resolve.
“This is an important matter. It’s something we have to do, right?” (Imeraria)
“Is...that so? Understood...umm, best regards.” (Vepar)
They separate their hands and then shake hands once again.
“Let’s talk about the details. Right now.” (Imeraria)
At the time when he was ordered to go summon Puuse, Sabnak had a ghastly pale face. |
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} | 魔人族によるフォカロル侵攻は、完全に足踏み状態だった。ウェパルが人員を分散させてヴィシー領の統治と運営に関して、本格的に手を付け始めると、ただでさえ不足気味な人員がさらに分散していく。
魔物が多い居住区で身を寄せ合って生きていた魔人族たちにとって、広い町々、しかも異民族が暮らす複数の町を運営するのは、不慣れを超えて未知の部分が大半だった。
「もっと準備してからにすれば良かった......」
ウェパルは、新たに拠点とした場所に執務室を用意し、そこで次々に指示を仰ぐ書類を決裁しながら、毎日頭を抱えていた。
ヴィシーの中で新たに居城としたのは、国内中心部にあ大きな町にあった、元は中央委員会と呼ばれた為政者たちが使っていた宿を兼ねた建物だ。委員会のメンバーは、全て捕縛して死体を曝すことで、人間たちを押える道具として使った。
ウェパルの趣味ではなかったが、少ない人数で多数の人間を縛るには、力を見せつけて恐怖で縛り上げるのが一番手っ取り早いと判断した。強化兵や最初の魔人族侵攻でかなり兵数を削られていたヴィシーの各都市にとっては、少数でも魔人族の強さは充分に脅威だったので、その狙いは一応成功したと言って良い。
だが、デメリットもある。
平和的な主権移譲では無かったため、多くの町で為政者側の者たちが死ぬか逃げ出してしまった。魔人族におびえる民衆は扱いやすくなったが、町の運営に関しては下っ端しか町に残っておらず、手探りで都市運営を引き継がなくてはならなくなったのだ。
都市制圧の責任者に任じられた魔人族の中には、早々に横暴な振る舞いをして民衆を必要以上に怖がらせ、暴動が発生したり大規模な逃散を引き起こして、都市機能をマヒさせてしまった者もいる。
「せ、戦争どころじゃないじゃない」
「陛下ぁ、追加の書類です」
どちゃり、とウェパルの目の前へと一抱えはあろうかという書類を置いたのは、相棒であるフェレスと共に王の補佐官となったニャールだった。出世ではあるが、今の女王ウェパルの周辺はあまりに多忙で、喜ばしい地位とは言えない。
「失礼します」
「あ、フェレス」
「あ、じゃないでしょ。陛下の前で気を抜き過ぎよ......陛下、戦況の報告ですが」
「読んで。文字を見たくないわ」
目の前に追加された書類をうんざりした顔で見ていたウェパルは、フェレスに読み上げを頼んだ。
「え~っと......“損害軽微。なれど目標達成への道は遠く、敵の防備は強固”以上です」
「昨日と一緒じゃない」
「昨日は“損害無し”で始まりましたよ」
真顔でさらりと訂正したフェレスに、ウェパルは頭痛を覚えていた。つまるところ、ヴィシーと違ってホーラントやオーソングランデに対しては、攻めあぐねているばかりか、損害すら出ている、ということだ。
ヴィシーへ集団転移してきて最初に国境の町ローヌという場所を狙ったのだが、やたらと頑丈な塀が構築されていた上に、エルフによるものと思しき魔法障壁、さらには塀に作られていた謎の小さな穴から槍を撃ち出すという攻撃を受け、結構な損害を出している。
その後は慎重に攻略を続けているのだが、時間が経てば経つほど、塀は強固になっていき、攻撃も苛烈になってきている。完全に足踏み状態と言って良い。
「かと言って、今は援軍を送るような余裕は無いわよ......」
現場の指揮官ですら、兵数に余裕がない事を把握しているの。一方面の軍を任された矜持もあって、書面に援軍の要請は無い。
そういった事情も相まって、変化が無さ過ぎて、報告書に書くことも無くなってきているようだ。
「どうします?」
「......停戦したいのはやまやまなんだけどね」
今は、魔人族の中でも攻撃的な意見を持つものが主流派を占めている。ヴィシーの攻略で多少は収まるかと思っていたウェパルだったが、片腕を奪われて怒り狂っているバシムを初め、未だ戦争へと向かう動きは収まる様子が無い。
ウェパルとしては戦いを一旦収束させて、ソードランテとヴィシーという、新たに手に入れた領地の安定を目指したいところだった。時間はかかるが基盤を作り、人的資源を育てなければ、戦争に勝てない。勝てたとしても、統治ができない。
「破壊と戦争しか考えてない、あの大馬鹿と違って、私は将来のことまで考えないといけないのよ。それに、魔人族の馬鹿な女王なんて歴史に残されたくないわ」
「でも、このままだとこっちの数が減るだけでは?」
「すっごい魔法とか無いんですか? 敵の防壁を敗れるような」
フェレスの冷静な突っ込みに続けて、ニャールはむちゃくちゃな事を言ってくる。
参謀とかどこかに落ちてないかしら、と若干意識が現実から離れるのを何とか抑えつつ、先日から検討していた策について再度検討する。
「方法は考えているけど......失敗したら、間違いなく私は味方から殺されるわね」
不穏な言葉に、ニャールもフェレスも黙ってウェパルを見ていた。
「......人間に化けるのが得意なのがいたわよね。ちょっと前に人間の町から戻ってきたと思うけど、彼を呼んでもらえる?」
ほどなく、執務室へやってきた一人の魔人族に、ウェパルは急いで書き上げた書簡を渡した。
「難民を装ってローヌへ入り、この書面を密かに届けなさい。魔人族に雇われて持ってきた、商人だとでも名乗ってね」
「ご命令、承知いたしました」
恭しく書簡を受け取り、さっそく出発するという男が執務室を後にした。
「......あとは、人間の為政者が、みたいなのばっかりじゃないことを祈るばかりだわ」
☺☻☺
一王都に滞在し、騎士たちへ訓練をつけるようになってから二ヶ月が経過した。身体がしっかりとできていた、騎士隊の中でも特に優秀な人員ばかりが選定されていたこともあり、一二三としてはまずまず悪くないペースで指導が進んでいると思っていた。
王城には住まず、ほど歩く距離にある中古の屋敷を購入し、数名の使用人を入れてオリガと暮らしている。
朝早くから自分の柔軟と黙想を行い、軽く走って王城へ向かう。午前中いっぱいを指導に使い、午後からはオリガと訓練をするか、適当に魔物を狩ってギルドに売るという穏やかな生活をしていた。
「身体は動かしておられるようですが、以前を知る者としては、なんだか引退した兵士のような生活に感じますね」
と、城内で顔を合わせたイメラリアに言われたが、実際に家督を譲って隠居しているわけなので、一二三としてはこれ以上仕事やら付き合いやら、面倒を増やすつもりは毛頭なかった。
オリガも忙しい領地運営から解放され、一二三のために家事を行い、共に訓練し、狩りに出るという生活にこれ以上ないほど満足しており、時折登城してイメラリアと対面している間も、ずっと笑顔で通しているほどだった。
国境では戦争中であるが、一二三はそれに関わろうとすることも無く「もう子供じゃないんだから、アリッサにやらせておけ」と素っ気ない。
イメラリアをはじめ、サブナクや監視の騎士など、一二三の周囲にいる人々は、いつ魔人族との戦いに飛び出していくのか、と戦々恐々としていたのだが。
「ご主人様。ご報告です」
「ああ、ヴィーネか」
昼食を終えた頃、陽の当たるリビングで刀に油を塗っている一二三の所へ、片耳兎のヴィーネが駆け寄ってきた。数日ごとに王都の館にいる一二三を訪ねては、フォカロルからの報告を持ってきていた。数日滞在し、またフォカロルへ戻る、という行動を繰り返している。
数名の兵士を護衛に連れて、台車でひたすら往復しているらしい。一二三の館には泊まるが、フォカロルには一泊もしないことがあるほど、とんぼ返りをしている、と護衛の兵士がこぼしていたことがある。
刀を戻し、渡された書類に目を通しながら、一二三は何かを考えているような表情で、紅茶に口をつけた。
報告では、魔人族の動きや遠野伯爵領内の経済的な動き、主な事件などが記載されており、ヴィーネが留守にしている数日分、日付ごとに数枚ずつ束ねられていた。
「大量の兵士が短期間で、か」
流入してくる難民からの情報で、ヴィシーという国はもはや完全に魔人族に乗っ取られているとみて間違いない、とカイムが記録していた。さらに、魔人族から接触があったという。
書類と共に封筒に放り込まれていた書簡は、オーソングランデとホーラントの国主当てにと届けられたものだという。王城へ送るかどうかは、一二三に任せるとアリッサの字で書かれていた。
「判断を丸投げするなよ」
封筒から取り出し、日差しが入る窓に向かって透かして見る。
封書は「魔人族から渡された」というヴィシー難民の商人から届けられたという。商人そのものが怪しかったのだが、適当な理由を思いつけなかったアリッサが「なんとなく」という理由だけで捕縛しようとしたため、兵士たちが困惑して初動が遅れたこともあり、件の商人には逃げられてしまったらしい。
「やれやれ......」
まだまだ、アリッサが領主としてしっかり振る舞えるようになるには時間がかかりそうだ。
「ウェパルも、急にフィールドが広がって混乱しているようだな」
封書と、フォカロルからの報告書もまとめてヴィーネに返す。
「オリガと一緒にこれをイメラリアに届けてくれ。ついでにプーセと話でもしてくると良い」
「はい。ありがとうございます」
夕食の仕込みをしているだろう、と一二三に言われ、ヴィーネは書類を胸に抱えて厨房へと駆けていく。
ぴょこぴょこと片方だけの長い耳を揺らしながら走るヴィーネの後ろ姿は、奴隷であった以前よりもずっと身体がしっかりしている。フォカロルと王都との往復を続けている間に、人間の町にも慣れてきたらしい。
同時に、王都とフォカロルの間にある町や、警備をしている兵たちも次第に獣人族やエルフに慣れてきた。食事や感情なども自分たちと変わらないということが、浸透してきたと言っていいかもしれない。
今では、エルフのプーセがイメラリアと共に度々公式の場に登場する。最初にプーセの相談役就任の発表があった際は、王城前の広場ではそれなりに懸念の声もあったようだが。
「......それにしても、死神」
「お呼びですかね?」
「お前、ウェパルに何かしたな?」
一二三が目の前にあるローテーブルから視線を逸らさないまま、背後に現れた死神に静かに声をかけた。
「さて、何のことでしょうか」
ヘラヘラと張り付いた笑いを浮かべ、見えていないのを承知で死神は肩をすくめた。
「まあ、いいだろう。......ところで、聞きたいことがあったんだが」
「私ごときでお答えできるものであれば」
大仰に、貴族のようにひらりと右手を添えて首を垂れる。
「同じ闇の魔法でも、俺のように物だけ動かせる奴と生き物も通せる奴がいるんだな」
「魔法は使う方の観念や知識が大きく影響しますから。属性が同じでも、効果などは人によって変わりますよ」
「なるほどな。概念、か」
闇の力を使えばこうなる、というイメージがどの程度明確にできるかどうか、と言うのが大きくかかわってくる、と死神は補足として説明した。一二三が開いた穴に生き物が入れられないのは、一二三がそうなるのが普通、と考えているか、以前にそういう創作物でも読んだから、という可能性が高いらしい。
とすると、こと闇魔法に関していえば、ウェパルの方がイメージ力は高いのかもしれない。
皮手袋に包まれた左手を見る。戦いの場で、大して魔法に頼るつもりは無いが、この魔力がなければ、この手は失われていただろう。実際にはもう無いのだが、擬似的にでも使えるのは助かる。
する、と手袋を外す。
「おお、闇の魔力が凝縮されているようですね。しかも素晴らしい安定性を保っている。闇魔法で作られた擬似生物などよりも、遥かに確かな物質化を成し遂げていますね」
感服いたしました、と死神が空虚な褒め言葉を並べる。
それを聞きながら、一二三はそっと立ち上がった。
「魔法生物か。お前は違うのか」
「私は闇の魔力......神力と言っても良いですね。元々は人間ですが、何万年も前に生物を辞めてしまいましたから、端的に私の存在を語るとすれば、闇の力そのものでしょう」
死、とそれをもたらす超現実的な存在を信じる者がいることで、死神はその存在する力を得ている。理不尽で夜を呪うような死が量産されることで、より強い力を得られるのだ。
「丁寧な説明ありがとよ。理解ができた」
死神の前にたち、左手の眺めながら一二三が礼を言うと、死神もにっこりと笑う。
「それはようございました。......えっ?」
「元人間で、その基本構造から離れることはできなかったみたいだな。頭蓋骨の形は普通の人間と同じだ」
一二三の黒い左手が、死神の顔面を掴んだ。その速さに避けることができず、親指と薬指がしっかりとこめかみを押えていた。
「な、何をするのですか......」
「役目が終わった道具は、始末するに限る。それに、お前みたいなジョーカーは誰かに使われると迷惑だからな」
「始末って、そんなこと......」
「できるんだろう? 魔法は概念なのだから」
ずぶ、と一二三の指が死神の頭に食い込む。力で埋まったのではない。真っ黒な指が触れている個所から死神の身体を吸収しているのだ。
自分の身体が減っていく感触に、死神は初めて表情を崩して慌てだした。
「そんな馬鹿な!」
「自己申告しただろう。お前は闇の魔力そのものだ、と。魔力なら、魔法と同様に吸収できる」
断言した。それが自身のイメージを補足すると信じて。
「や、やめてくださいよ......私は貴方に力を与え、他にも色々協力したじゃないですか......」
無視して、一二三は手のひらをべったりと死神の額に当て、すでに頭部の半分は吸収し終えている。
目玉も消えているが、死神はそれでも口を開いている。
「私が消えれば、貴方の魂もどこへ行くかわかりませんよ? 地獄どころか、無限の闇を彷徨うことになるかも! 私という案内役がいれば......」
一気に腰のあたりまで手を押し付け、一気に身体を削りとる。
「俺は、死んだ後の事なんぞどうでも良い。生きている間にどれだけ殺し、どのように殺されるかだけしか興味が無い。それに、そろそろお前ごときに利用されているのも飽きた」
残った死神の両手両足が攻撃を加えようと動き始めたが、平手でぶっ叩くように動いた一二三の左手で、あっさりと消された。
念入りに、欠片も残さぬように。
「......ふむ。確かに魔力が補充できたような感触がある。最期に役に立ったか。良かったな」
ソファに戻り、鈴を鳴らす。
リビングへ急ぎやってきた侍女に、新しい紅茶を頼んだ。 | The demons’ invasion into Fokalore came to a complete standstill. Once Vepar began to genuinely work on the administration and government of Vichy’s territory by dispatching personnel all across the country, her subordinates, which were lacking in numbers even under normal circumstances, were scattered even further.
For the demons, who originally survived in a region with many monsters, managing vast cities and moreover several cities where different races live went beyond being unfamiliar with it, going straight into the realm of the unknown.
“It would have been better if we had done this after more preparations...” (Vepar)
Vepar had prepared an office at her new residence. While approving one document after the other asking for instructions, she was at her wits’ end everyday.
Her new castle in Vichy was in a remarkably huge city located in the central area of Vichy and is a building that also served as inn used by the politicians formerly referred to as central committee. All of the committee members had been caught and publicly executed as an example to suppress the humans.
It wasn’t Vepar’s personal taste to do so, but to hold down the great numbers of humans with their few numbers, she decided that it would be the easiest way to rule them with fear by demonstrating their power. Since the strength of the demons, albeit being only few, was plenty of a threat for all the cities of Vichy, which had lost quite a lot soldiers against the reinforced soldiers and the first demon invasion, one might say that she more or less succeeded in her objective.
But, there were also demerits to it.
Because sovereignty wasn’t transferred peacefully, the peers of the committee members in many cities died or ran away. The populace that is scared of the demons had become easy to deal with, but the cities’ administrations had lost most of its staff with only the underlings remaining, forcing the demons to take over the city management, using trial and error methods.
Among the demons, who were appointed as the ones in charge for the cities’ control, there were also some who quickly managed to paralyze their city’s functions by making the population more afraid than necessary through their tyrannical behavior, causing large-scale migrations and riots.
“I-I don’t have any time for war right now.” (Vepar)
“Majestyyy, here are some additional documents.” (Nyarl)
The one who placed a huge pile of documents in of front of Vepar’s eyes with a thump was Nyarl who had become an aide of the king together with her partner Pheres. She managed to get ahead in her career, but with the surroundings of the current queen Vepar being too pressured with work, you can’t really describe her position as a fortunate one.
“Excuse me.” (Pheres)
“Ah, Pheres.” (Nyarl)
“Don’t “Ah” me, okay? You are losing focus too much in front of Her Majesty...here’s a report of the war’s progress.” (Pheres)
“Read it out loud. I don’t want to look at any more characters.” (Vepar)
Looking at the document that was added in front of her with a fed-up expression, Vepar ordered Pheres to read it.
“Uuummm...”Losses, insignificant. But, achieving our goals is still far off. The enemy’s defense is strong.” That’s all.” (Pheres)
“Isn’t that the same as yesterday?” (Vepar)
“Yesterday began with “Losses, none,” though.” (Pheres)
Vepar felt a headache coming up upon Pheres correcting her smoothly with a serious look. ‘In short, that means not only are they at a loss how to continue against Orsongrande and Horant in contrast to Vichy, but they are even suffering losses.
The group that got transferred to Vichy at first aimed for a border city called Rhone, but on top of an excessively firm wall having been built there, it had a magic barrier that appeared to be cast by the elves, and the demons received spear-shooting attacks through small, mysterious holes that had been prepared in the wall, causing considerable losses among them.
After that they have been continuing their approach cautiously, but the more time passed, the stronger the wall became and the attacks became more severe as well. At this point in time it has developed into a complete standstill.
“Having said that, right now we don’t have any leeway to send reinforcements...”
Even the commanding officers on-site understand that we don’t have any surplus in the numbers of our soldiers. On the other hand, they also have their pride in having been entrusted with the war’s aspects, thus not appealing for reinforcements in the letters.
Coupled with those circumstances, they apparently ceased writing about things in their reports as the situation keeps staying the same.
“What’s wrong?”
“... It’s just that I really want to tie a ceasefire.”
Right now the demons, who hold an aggressive stance, represent the majority. Vepar had hoped that they might settle down after the occupation of Vichy, but beginning with Bashim, who is raging after having one of his arms taken away from him, there’s no indication that he movement towards war is lessening yet.
It will take time, but unless we build a foundation and foster manpower, we won’t be able to win in a war. And even if we were to win, we won’t be able to rule those new areas.
“In contrast to those utter fools, who don’t think of anything but battles and destruction, I have to also consider the future. Besides, I don’t want to go down in history as foolish demon queen.” (Vepar)
“But, at this rate our numbers will only keep decreasing, won’t they?”
“Isn’t there something like a reaaally amazing magic? Allowing us to destroy the enemy’s defense wall or such.”
Continuing after Pheres’ calm retort, Nyarl bubbles about something ridiculous.
While managing to hold back her consciousness separating from reality to some extent as she wonders,
“I have come up with a method, but...if it fails, I will definitely get killed by the other demons.” (Vepar)
Due to her turbulent words, Pheres and Nyarl stayed silent and looked at Vepar.
“... There was a guy good at transforming into a human, wasn’t there? I believe he returned from a human city a little while ago. Can I have you summon him?” (Vepar)
Vepar handed a hurriedly written document to the demon who arrived in her office shortly thereafter.
“Enter Rhone disguised as refugee and secretly deliver this letter. You can claim to be a merchant who brought it with him after being employed by the demons to do so.” (Vepar)
“I shall do as you order.”
Respectfully receiving the letter, the man says that he will depart at once and leaves the office.
“... All that’s left is to only pray that there aren’t just people like Hifumi among the human rulers.” (Vepar)
☺☻☺
Two months had passed since Hifumi started to train the knights while staying in the capital. It looked like the knight’s bodies had toughened up a bit. Only the most excelled among the knight order were chosen. As for Hifumi, he thought that the training is proceeding at an adequately reasonable pace.
Not wanting to live in the royal castle, Hifumi had purchased an old mansion located around minutes away. He’s living there with Origa and several servants.
Early in the mornings he meditates to relax his body, then he heads to the castle while jogging. All of his morning is used for training. After that, in the afternoon, he enjoys a slow life of training with Origa or hunting monsters on a whim to sell their materials to the guild.
“It looks like you are still moving your body, but as person, who knows the you from before, I somehow feel like you are currently living the life of a retired soldier.” (Imeraria)
He was told by Imeraria whom he met inside the castle, but since it’s a fact that he has actually retired after passing on his peerage to Alyssa, Hifumi didn’t have the slightest interest or intention to increase the troublesome burdens such as work or socializing any further.
After being released from the hectic territory administration, Origa is fully satisfied with taking care of the housework for Hifumi as well as training and going hunting together with him. Even during the times when she occasionally ran into Imeraria while inside the castle, she always kept smiling.
The national border is enveloped in a war, but Hifumi bluntly declared, “Alyssa is no little child anymore, so I will leave it to her”, without trying to get involved any further.
Beginning with Imeraria, the people around Hifumi, such as Sabnak and the knights on surveillance duty, were full of worry wondering when Hifumi would rush out to battle against the demons.
“Master, here’s your regular report.” (Viine)
“Ah, Viine, huh? (Hifumi)
The one-eared rabbit woman ran up to Hifumi who was oiling his katana in the living room while being bathed by sunlight after lunch had come to an end. Visiting Hifumi every few days in his mansion in the capital, she brought back information from Fokalore, stayed for a few days and then returned to Fokalore again. That was her usual routine.
It seems she’s earnestly coming and going in a platform wagon while being accompanied by several soldiers. She stays at Hifumi’s mansion, but as for Fokalore, she make a round trip going even as far as not staying there overnight, according to the guards’ grumblings.
While putting his katana away and scanning through the documents he was handed, Hifumi tasted the black tea with an expression as if he was pondering about something.
The movements of the demons, the economic developments in Tohno Earldom and major events have been recorded in the report. Several sheets depicting each day during Viine’s absence were tied up into a bundle.
“A large number of soldier in a short time, eh?” (Hifumi)
“According to the information from the refugees flowing into Orsongrande, there’s no mistake that the country called Vichy has already fallen into the hands of the demons,” Caim had noted down. “Moreover, there had been a contact towards our side from the demons.”
In a note put into the envelope together with the official documents to be delivered to the rulers of Horant and Orsongrande Alyssa wrote, “I leave it to you to you whether to pass it on the royal castle.”
“Don’t push the decision on me.” (Hifumi)
Taking the official document out of its envelope, he heads to a window, holds it up against the light and looks at it.
It’s said that the sealed letter arrived through a merchant, who escaped from Vichy, together with the words “I was given that by the demons.” The merchant himself was suspicious, but as result of Alyssa, who couldn’t come up with a proper reason, trying to arrest him with just a vague reasoning, the soldiers were bewildered and thus started to act belatedly, resulting in the merchant in question managing to run away.
“Boy, oh boy...” (Hifumi)
It looks like it will still take quite some time for Alyssa to act like a proper feudal lord.
“Vepar also appears to be confused by the battlefield suddenly expanding.” (Hifumi)
He returns the sealed document and the report from Fokalore to Viine.
“Please deliver this to Imeraria together with Origa. While you are at it, you might as well go talk with Puuse.” (Hifumi)
“Yes. Thank you very much.” (Viine)
Being told by Hifumi, “She’s probably in the middle of preparing dinner”, Viine runs into the kitchen while holding the documents at her chest.
Viine’s appearance from behind as she runs while her one long ear jolts up and down is a lot more confident than before when she was still a slave. While continuing to make round trips between the capital and Fokalore, she has apparently gotten used to human cities.
At the same time, the cities in-between the capital and Fokalore as well as the soldiers acting as guards were gradually growing accustomed to beastmen and elves. That might be boosted by the fact that they are no different to humans in what they eat and how they feel slowly becoming well-known.
Nowadays Puuse often appears at official occasions together with Imeraria. At first, when Puuse’s inauguration as Imeraria’s advisor was announced, there were apparently a considerable number of people voicing their concerns on the square in front of the royal castle though.
“... At any rate, shinigami.” (Hifumi)
“You have called for me?”
“You did something to Vepar, didn’t you?” (Hifumi)
While not averting his eyes from the low table in front of him, Hifumi quietly called out to the shinigami who appeared behind him.
“Well, I wonder what you might be speaking of?”
Releasing an insincere, frivolous smile, the shinigami shrugged its shoulders, well-aware that it won’t be seen by Hifumi.
“Fair enough. ...By the way, there’s something I want to know.” (Hifumi)
“If it’s something the likes of me is capable of answering.”
It bows its head accompanied by a nimble movement of its right hand, just like the polite bow of a noble, in an exaggerated manner.
“Even though it’s the same dark magic, I suppose there are people who can allow living creatures to pass through it and others, like me, who can only manipulate things.” (Hifumi)
“Magic is largely influenced by knowledge and concrete visualisation. Even if it’s the same attribute, the effect will change depending on its user.”
“I see. Visualisation, huh?” (Hifumi)
“If you use dark magic, there will be a great difference in the outcome depending on whether one is capable of clearly imagining what form it should take,” the shinigami explained in addition. For living creatures being unable to pass through the hole opened by Hifumi is very likely owed to him having read literary works in the past that doubted whether it would be normal for that to be possible.
Meaning, Vepar’s imagination power might be quite high in regards to dark magic.
I have no intention to rely much on magic on the battlefield, but if this mana were to be gone, I would likely lose this hand. As a matter of fact it’s not there anymore, but it’s a big help that I can still use it as fake.
He smoothly removes the glove.
“Ooh, it looks like you have been condensing dark mana. Moreover, it’s in a wonderfully stable state. Rather than something like the pseudo-living objects created with dark magic, you have accomplished a materialization that’s by far more reliable.”
“You have my admiration,” the shinigami lines up empty words of praise.
While listening to that, Hifumi stood up quietly.
“A magical living object, huh? Are you any different?” (Hifumi)
“You might refer to me as dark mana...divine power. Originally I was a human, but after I stopped being a living creature tens of thousand years ago, you can regard me as power of darkness, if you try to directly define my existence.”
As there are people believing in a surrealistic being that brings about death, the shinigami has obtained the power allowing it to exist. By causing a huge number of deaths full of outrageous curses towards the world, the shinigami is capable of obtaining even stronger powers.
“Thank you for the thorough explanation. It allowed me to understand things.” (Hifumi)
As Hifumi thanks the shinigami while standing in front of it and staring at his left hand, the shinigami smiles broadly.
“That’s wonderful then. ...Eh?”
“It appears that you weren’t capable of escaping your basic structure as former human, doesn’t it? The shape of your skull is the same as that of a normal human.” (Hifumi)
Hifumi’s dark left hand had seized the shinigami‘s face. Unable to dodge the attack due to its swiftness, Hifumi’s thumb and ring finger tightly held onto the shinigami‘s temples.
“W-What are you doing...?”
“Only disposal awaits a tool that served its duty. Besides, it would be a nuisance if someone were to use a joker like you, don’t you think?” (Hifumi)
“Disposal, you say. Something like that...”
“Is possible, right? After all magic depends on visualisation.” (Hifumi)
Hifumi’s pitch-black fingers completely penetrate into the shinigami‘s head. They are no filled with power. They are simply absorbing the shinigami‘s body through the places where they touch.
Due to the sensation of its own body diminishing, the shinigami started to panic with its calm expression falling apart for the first time.
“No way!”
“You said so yourself, didn’t you? You are dark mana in itself. If it’s mana, it can be absorbed just like a spell.” (Hifumi)
He declared and placed his trust in the imagination that supplemented his belief.
“P-Please stop... I granted you power and cooperated with you in other matters as well, didn’t I...?”
Ignoring the shinigami‘s words, Hifumi places his palm all over the shinigami‘s forehead, having already finished absorbing half of its head.
Its eyeballs have vanished as well, but despite that the shinigami opens its mouth,
“Don’t you understand where your own soul will go once I vanish? Let alone hell, it might roam the infinite darkness! If there’s a guide like me...”magic
Pushing his hand down to around the area of the shinigami‘s waist in one go, Hifumi scrapes off its body in one breath.
“I don’t give a damn what happens to me after my death. I have no interest in anything besides how many I kill and in what way I will be killed while I’m still alive. Besides, I have gotten gradually fed up with being used by you.” (Hifumi)
The remaining hands and feet of the shinigami started to move, trying to launch an attack, but they were easily erased by relentless palm strikes delivered by Hifumi’s left hand.
Thoroughly, in order to not leave behind even the slightest fragments.
“... Hmm. Certainly, it feels like I was able to replenish my mana. I guess it was useful at the very end. That’s nice.” (Hifumi)
He returns to the sofa and rings a bell.
Then he requested a new tea from the maid that quickly arrived in the living room. |
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} | アドル宰相の部屋にも騎士隊が現れたが、戦力となる可能性が低いと見られていたせいか、騎士隊の目標としては後回しになった。
そのため、ロトマゴの部屋の制圧を終えた騎士たちが踏み込んだ時には、すでにフォカロル兵による警備体制が整った後だった。
「な......」
剣や槍、中には鎖鎌を持った者もいるフォカロル兵が、総勢10名ほど部屋の中にひしめいているのを見て、5人体制で勢い良く部屋へと入り込んだ騎士たちは声を失った。
その代わり、フォカロル兵たちから口々に文句が飛んできた。
「おせーよ」
「そんな動きだとフォカロル領軍だと見習い扱いだな」
「剣も抜かずに入ってきたぞ。馬鹿じゃねーの」
「というか、狭い部屋に割り振り多すぎだよな」
「お前それはアリッサ長官を馬鹿にしてるのか?」
「それはないわー」
わいわいと無秩序に話しているフォカロル兵たちに、騎士は自分たちが虚仮にされた思い、黙れ、と叫んだ。
「貴様らどこから入って来た! 兵士は城外の警備担当だろうが!」
柄に手を掛けながら、戦闘の騎士が吐き出した言葉への返答は、顔面への分銅だった。
鼻血と前歯を吹き出しながら昏倒する騎士を見て、その同僚たちは唖然として、フォカロル兵たちは顔を見合わせて苦笑い。
「騎士様の言葉を邪魔したらまずくね?」
「どうせ倒すように言われてるし、いいんじゃないか?」
「さっさと片付けて次行こうぜ」
緊張感が無く、自分たち騎士に対する敬意がかけらも見られない兵士たちの言動に、残った騎士たちは次々に剣を抜いた。
「貴様ら、兵士の分際で騎士に手を挙げるか!」
威圧するつもりの言葉だったが、フォカロル兵たちはまったく萎縮する事なく、武器を持って踊りかかった。
フォカロル兵たちは、領主館内などを想定した訓練の甲斐あって、室内での戦闘はお手のものだ。剣は振らずに突きを主体として集団で騎士を囲い込みが対応する間に他の兵たちが背後や左右から斬りつける。
対して、士隊出身の騎士たちは、基本が野外戦闘担当であり、剣をおお振りしては柱に当てたりと、思うように動けなかった。
結果として、騎士たちは5人全員が数分と持たずして、なます斬りにされた。
「うっ......なんというか、凄絶だな......。君たちは、フォカロル領でもこういう戦いをしているのかね?」
戦いが終わったところで、隠れていた宰相がそっと出てきた。無残な死体となった騎士たちを見て、軽くえづく。
「戦争が終わってから、そうそうありませんよ。フォカロルで暴れる奴は滅多にいませんし」
おかげで遠征が無いとなまるよな、と口々に言う。
「それで、さっき聞いた話では、私は君たちをロトマゴ騎士隊長の所へ案内すれば良いのかね?」
「はい、お願いします。俺たちは城の内部に詳しくないんで......」
「では、急ぐとしよう」
足早に部屋を出て行くアドルに、ゾロゾロとフォカロル兵たちが付いていく。
「それにしても」
一人の兵が呟いた。
「あっちの班じゃなくて良かったぜ」
フォカロル兵で別部隊となった同僚たちを思い出し、全員が同意した。
「まったくだ。狭くて暗い所を走るなんて、怖くてチビりそうだ」
背後で起きた笑い声に、アドルは注意するべきか迷って、やめた。
(彼らも国軍兵士出身が中心のはずだが)
朱に交われば赤くなる、ということわざを知っていれば、アドルもすぐに納得できたかもしれない。
☺☻☺
「ふぇっ......くしょん!」
同僚に哀れみと笑いを提供したフォカロル兵の一人が、盛大に唾を撒き散らした。
「汚ねぇな」
「悪い悪い」
「静かにしろ。そろそろだ」
組になった彼らが進んでいるのは、城内の隠し通路だ。班分けされて一二三から指示を受けて、ずっと頭に叩き込んできた地図通りに早足で進んでいる。
彼らが割り振られたのは、城の3階の一部エリアだ。
鎧をつけず、音を立てないように金属は剣を腰に下げただけで、金属パーツはつけていない。
「例の玉は持ってるな?」
「俺が持ってる」
一人の兵士が、右手に持った小さなボールを見せた。
薄暗い通路の中で、はっきりと赤く見えるボールは柔らかく、つままれた指の間で少しだけ潰れていた。
「おいおい、ここで潰すなよ」
「わかってるよ」
「しっ......この先にいるな」
三人とも押し黙って、そっと足音を立てないように道を進むと、明かりを持って立っている二人の騎士が見えた。
向かい合って話をしているようで、フォカロル兵たちには気づいていない。
「......近衛騎士の連中は、この辺りにはいないようだな」
「何人かは斬ったらしいが、こっちも被害がでているらしい」
「チッ......バールゼフォンの計画は大丈夫か? 被害が多くなると、城内を掌握できなくなるぞ」
「もう始まってしまった作戦だ。なんとかするしかない」
会話の内容から反乱部隊だと判断。お互いに顔を見合わせて頷き、先ほど見せた玉を騎士に投げつけた。
「うわっ?!」
ビチャ、と音を立てて、鎧に当たった玉は弾け、赤い液体を撒き散らした。
「うっ、おええ!?」
液体からは卵が腐ったような匂いが広がり、混乱した騎士たちは驚きながらげえげえ唾を吐いた。
投げつけられたのは、熟した実を潰すと酷い匂いを出す植物の実だった。味は甘いらしいが、匂いのせいで誰も食べようとは思わず、子供がいたずらに使うので有名だった。
「国に剣を向けるようなクズ騎士には、腐った木の実がお似合いだ」
「まともに戦ってやるのも馬鹿らしい阿呆ども」
散々挑発してやると、涙目の騎士たちは剣を抜いて追いかけてきた。
「のろまども、お前らの剣なんかあたるわけないだろ」
フォカロル兵たちは息を合わせて駆け出した。
鎧を着た騎士たちは遅い。追いつけそうで追いつけない距離をうまく調整しながら、敵を惹きつけて目的地へ走る兵士たち。
「こりゃ大変だ」
「こけたら死ぬな」
「変に引き離してもダメだ。目的地はどこだったっけ?」
「忘れるなよ」
薄暗い裏通路をひた走る。
他の場所でも、同様に騎士たちを釣り出してかけているフォカロル兵たちがいた。全員が同じ場所を目指している。
城の中央にある、この建物で最も広い場所。ダンスホールへ。
「宰相を始末しに行った連中はどうした! ロトマゴを押さえた奴らからの連絡も無い!」
怒りの声をあげるバールゼフォンに、仲間の騎士たちは顔を見合わせる他ない。
「......返り討ちにでもあっているのでしょう? なぜ貴方がたの方が強いなどと根拠も無く言えるのですか」
冷静に語るイメラリアを、バールゼフォンは憎らしげに睨みつけた。
「諜報などというコソコソと動き回るしか能がない第三騎士隊の連中に、戦いを続けてきた俺たちが負ける訳が無いだろう!」
「そう思うなら、貴方の目で確かめてくればいいのです。......今、この城の中にいる最も強い者が誰なのか、嫌でもわかるでしょう」
涼しい顔をして言い放ったイメラリア。
「......良いだろう。この戦いの盟主たる俺が言って、直々に反抗する者を叩き潰してやる」
イメラリアの横で剣を握ったままの騎士に見張りを任せ、バールゼフォンは腰の剣を抜き、残りの騎士たちを連れて行くと言った。侍女たちは、イメラリアの側にまとめて座らせる。
「待っていろ。全てが終わった時には、名ばかりの女王として国民の前に立たせてやる」
大人しく待っていろ、と言い残し、バールゼフォンは出ていった。
ドアが閉まり、見張りに残った騎士が改めてイメラリアとその横に並んで座る三人の侍女たちを見据えた。
「おかしな事を考えるなよ。問題が起きるくらいなら、切り捨てるつもりだ」
低い声で脅すように言った瞬間、その首を背後から横なぎに剣が襲った。
首の半ばまでを切り裂き、頚椎にあたって硬い音を鳴らす。
血を撒き散らして倒れた騎士の後ろに立っていたのは、ミダスだった。
「イメラリア様、遅くなりまして申し訳ございません」
剣を納め、ミダスは跪いてイメラリアに詫びた。
「頭を上げてください、騎士ミダス。貴方の働きを大いに評価いたします。......一体、どこから現れたのですか?」
「はっ。実はトオノ伯の依頼を受けまして、隠し通路から状況を監視しておりました。敵が減りましたので、好機とえました」
たれた時点で出てこなかったことを恥じているらしい。それに気づいたイメラリアは、くすりと笑った。
「良く我慢してくださいました。もしあの時に飛び出していたら、貴方が殺されて助かる機会は訪れなかったでしょう。改めてお礼を言います。それにしても、この状況を一二三様は予想していたのでしょうか?」
「数名が反乱を企てている事には気づいていたようです。誘われて断れば殺されるだろうから、護衛ついでに隠れているようにと言われまして......」
「現状、どうなっているかわかりますか?」
イメラリアの質問に、ミダスは視線を落としたまま首を振った。
「申し訳ありません。私は早い段階で現場から離れましたもので」
しばらく考えたイメラリアは、ミダスを立たせた。
「ミダスさん、わたくしたちはこのままこの部屋におります。万一誰か反乱側の騎士が来たとして、そうそう殺される事は無いでしょう。それよりも、サブナクさんたちと合流してください」
イメラリアは立ち上がる。
「戴冠式を行います。準備をしてください」
「えっ?」
「間も無く、反乱部隊は一二三様が片付けてくれますでしょう。気にする事はありません」
きっぱりと言い切ったイメラリアに、ミダスは従う以外に無かった。
「まったく、せめてわたくしを颯爽と助けてくだされば、多少は評価いたしましたのに」
ポツリと呟いた言葉はミダスにも聞こえたが、すぐに忘れることにした。首を突っ込んでもろくな目に遭いそうにないからだ。
「貴様は......」
ロトマゴもアドルも、執務室には数名の騎士の死体が転がっているだけで、肝心の部屋の主が見当たらず、バールゼフォンの苛立ちはいや増すばかりだった。
どすどすと足音を立てながら、次にサブナクの部屋を目指して歩いていたバールゼフォンの目の前に、小柄な女の子が立っていた。
「むほんの代表者?」
首をかしげて訪ねたのは、アリッサだ。
「無礼な小娘だな。斬り殺されたくなければ、そこをどけ......いや」
抜き身のまま持っていた剣を、振りかぶった。
「騎士に軽口を叩いた罪を償ってもらおう」
思い切り振り下ろした剣は、バールゼフォンの予想を大きく外れ、床を叩いただけだった。
アリッサが、逆手に持った脇差で軌道を逸らしたのだ。
「その剣は......」
片刃で少しだけ反りがある剣。その特徴は、バールゼフォンが聞いたことがある、一二三が持つカタナという名前の剣と同じだった。
「一二三さん......じゃわからないかな。トオノ伯から伝言だよ」
斬りかかられたというのに、少しも動じていないアリッサは、懐からゴソゴソとメモを取り出して読み上げた。
「馬鹿騎士はダンスホールへ集合。以上」
わざわざメモまで出して、たったそれだけの事を言われたことがバールゼフォンの神経を逆なでした。
「ふざけるな!」
風を切って振り回される剣を、二度三度と軽く避けたアリッサは、軽い身のこなしで飛び下がった。
「昔から、避けるのは得意なんだよね。それじゃ、お爺ちゃんの護衛の仕事があるから」
「待て!」
バールゼフォンが呼び止めた時には、アリッサは既に窓の外へと飛び出していた。
「......くそっ!」
しばらくはウロウロと歩きながら迷っていたバールゼフォンだが、ここまで死体以外の仲間の姿を見ていない。少なくとも40人前後は仲間が残っているはずなのに、誰にも会っていない。
舌打ちをして、城の中央にあるダンスホールへとノシノシと足早に進む。
ほどなく、ダンスホールへと入る大きな扉の前へとたどり着く。
足で乱暴に蹴り開くと、そこに見えたのは、十数名ほどの死体に囲まれ、更にその外側にぐるりといる騎士に剣を向けられている、一二三の姿だった。
大きな音を立てて開かれた扉の音に、その場の全員の視線がバールゼフォンへと集まる。
「ば、バールゼフォン! この男を何とかしろ! 既にかなりの人数がやられた!」
汗だくで叫んでいるのは、先ほど木の実をぶつけられ、ダンスホールまで誘い出された騎士だった。
「お、首謀者がやっと来たか」
一二三がそう言った瞬間、部屋に入ったバールゼフォンの背後で、ドアが閉められた。
「さあ、まだ残りは30人以上いるじゃないか。頭を使え。気を張ってしっかり周りを見ろ。今まで練習した事を思い出せ。それでようやく俺とまともに戦える」
呵呵と笑った一二三に、バールゼフォンは剣を強く握りしめ、怒りに震えた。
ざっと見ただけでも、反乱側についた騎士のほとんどがここに集められている。要するに、どいつもこいつも誘い込まれて、あげく短時間で十名以上が殺されている。
自分も誘い出された事も忘れ、バールゼフォンは叫ぶ。
「貴様ら、どいつもこいつも持ち場を放棄して誘い出されやがって! しかも一人相手になんてザマだ! 恥を知れ!」
その言葉に、視線を落とす騎士もいたが、反感を覚える者もいる。
「バールゼフォン! お前もここに来ているじゃないか!」
「そうだ! 大体、作戦がうまくいかないのはお前のせいだろう!」
状況を忘れたかのように言い争いを始めた騎士たちに、一二三は呆れた顔を見せた。
「仲良くしろよ。今から頑張って殺し合いをするんだから」
刀を大上段に構え、一二三は嗤う。
「さあ、続きを始めようか」
バールゼフォンも剣を構えた。
とにかく、ここで目の前の男を殺せば全てはうまくいくのだ、と血走った目を見開いて走り出した。 | A knight unit appeared in Prime Minister Adol’s room as well, but because they believed him to become an unlikely combat potential, he was postponed as target of the knight unit.
For that reason, at the time the knights broke into Lotomago’s room and concluded gaining total control, it was already after the guard system of the Fokalore soldiers was put in place.
“Wh...”
Seeing the about in total Fokalore soldiers, with some among them even holding kusarigama‘s, swords and spears, crowding the room, the knight unit, which consisted of knights, lost their speech when they vigorously charged into the room.magic
On the other hand, the Fokalore soldiers jumped into complaining severally.
“Slo~w.”
“You will be treated as apprentices in the Fokalore territorial army with such movements.”
“You came entering without even drawing your swords. Are you morons?”
“Rather, too many have been assigned to this small room, right?”
“Are you making fun of Military Director Alyssa?”
“Of course not.”
Due to the Fokalore soldiers chaotically clamouring about, the knights believed to be made fools of and shouted “Shut up!”
“From where did you bastards enter!? The soldiers are in charge of guarding outside the castle, aren’t they!?”
While laying his hand on his sword’s hilt, the leading knight spit out these words. A counterweight sunk into his face.
Watching the swooning knight, who is spewing out his front teeth and bleeding from the nose, his colleagues have become dumbfounded. The Fokalore soldiers look at each other with bitter smiles.
“Is it inopportune for me to interrupt the words of Knight-sama?”
“Isn’t it fine as we were told to kill them anyway?”
“Let’s hurry up with getting rid of them and go to the next place.”
The remaining knights drew their swords due to the speech and conduct of the soldiers, which didn’t try to show a splinter of respect towards the knights and had absolutely no tension.
“You lowlifes are raising your hands against knights as inferior soldiers?”
Those were words intended to daunt them, but without even caring at all, the Fokalore soldiers started to let the weapons, they held, dance.
As result of the anticipatory training the Fokalore soldiers received in buildings like the Lord’s mansion, they are experienced in indoor combat as well. Enclosing the knights as group thrusting without swinging the sword as core of his attacks, a single soldier is dealing with the knights at front while the other soldiers slash away from left, right and the back.
In contrast, the knights originating from the Second Knight Order are basically in charge of fighting outdoors. As they were hitting pillars with their large sword swings, they couldn’t move as they wanted.
In the end, all of the five knights didn’t last more than a few minutes and were sliced apart like Kuai.
“Uh... how to say it, it’s extremely gruesome... Are you fighting like this even in the territory of Fokalore?” (Adol)
Once the battle finished, the hidden prime minister quietly came out. Looking at the knights having been turned into miserable corpses, he feels slightly nauseated.
“Not so often after the war has ended. There’s rarely anyone acting violently in Fokalore.”
“Thanks to that we will grow dull if we don’t go on expeditions”, several of them say.
“So, about the talk from just now, it will be fine, if I guide you to the place of Knight Captain Lotomago, correct?” (Adol)
“Yes, please. With us not being well-accustomed to the interior of the castle...”
“Then let’s hurry.” (Adol)
The Fokalore soldiers follow Adol, who has left the room at a quick pace, one after the other.
“All things considered,”
A single soldier muttered.
“I’m glad I wasn’t in the other group.”
Remembering their colleagues, who were assigned to another unit, all of them agreed.
“Good grief. Something like running in a narrow, dark places is ideal for scary midgets.”
Due to the laughter occurring in the rear, Adol was puzzled whether he should caution the soldier, but decided against it.
(He should also be in the core of the soldiers belonging to the national armed forces though.)
If he knew of the proverb ‘One rotten apple spoils the barrel’, even Adol might’ve agreed right away.
☺☻☺
“Fuee... *sneezes*.”
A single Fokalore soldier was offered smiles of pity by his colleagues, as he had magnificently scattered his spit.
“Ugh, how filthy.”
“Bad, bad boy.”
“Be quiet. We are almost there.”
Having received the order from Hifumi to split into groups, they are proceeding in a quick march according to the map, they had driven into their heads for a long time.
The area, they had been assigned to, is a section of the castle’s third floor.
Not wearing any armour and with a sword affixed to their waists being the only metal in order to not make any sounds, no metallic parts are attached to them.
“Do we have the aforementioned ball?”
“I’m holding onto it.”
One of the soldiers held out a small ball in his right hand.
Within the dim pathway its red colour could be clearly seen. Being soft, the ball was crushed between the fingers holding it.
“Whoa, don’t smash it here.”
“I know.”
“Shh! ... don’t go beyond this point.”
As the three advanced silently along the path taking care to not make any sounds with their feet, two knights, holding lights, could be seen standing.
With them chatting while facing the other way, they haven’t noticed the Fokalore soldiers.
“... It doesn’t seem like the lot of the Royal Knight Order is around here.”
“Looks like some people were killed, but apparently we have suffered some losses as well.”
“Damn it... is Balzephon’s plan really going to work? If the losses become too large, it will be impossible to seize the castle.”
“The operation has already started. We have no choice but to follow through now.”
The Fokalore soldiers judged the two knights to belong to the rebelling forces by the contents of their conversation. Looking at each other’s faces and nodding, the previously shown ball was tossed at the knights.
“Uwah!?”
With a splashing sound the ball hit the armour, burst open and scattered a red fluid.
“Ugh, blegh!?”
A smell similar to rotten eggs spread from the liquid. While being confused by the surprise, the knights spit out with sounds of vomiting.
The thrown ball was a plant’s fruit that gives off a terrible stench once the ripe fruit is crushed. Apparently its taste is delicious, but due to the smell no one intends to eat it. It was famous because it was used by children to play pranks.
“For trashy knights, who turn their blades against the nation, a rotten fruit is only befitting.”
“Only stupid simpletons would fight from the front.”
As they thoroughly provoked them, the teary-eyed knights drew their swords and approached in pursuit.
“You blockheads, there’s no way your swords will hit anything.”
The soldiers from Fokalore matched their breathing and broke into a run.
The knights, who wore armour, are too slow. While skilfully adjusting the distance so that they think they can catch up though they won’t, the soldiers are running to their target location while pulling the enemies along.
“This is difficult.”
“Don’t die if you fall over.”
“It’s also no good to unexpectedly separate them. Where was the target location again?”
“Don’t forget that.”
They are running and running through the gloomy, hidden paths.
Even at other places, there were Fokalore soldiers luring knights in the same way. All of them are heading for the same location.
Towards the largest place in this building. Towards the dance hall.
“What happened to the group that went to get rid of the prime minister? There isn’t any contact from the guys, who were restraining Lotomago, either.” (Balzephon)
Due to Balzephon raising an angry voice, his knight colleagues look at each other’s face and nothing else.
“... They likely also had the tables turned on them? Why are you saying something like you being strong without any basis?” (Imeraria)
Balzephon turned a scornful glare at Imeraria talking calmly.
“There is no way for us, who have continued to fight, to lose to the lot of the incompetent Third Knight Order, who only move around in secret for things like intelligence!” (Balzephon)
“If you believe that, it’s fine if you go checking it with your own eyes. ... It will likely be unpleasant to realize who is the strongest person within this castle currently.” (Imeraria)
Imeraria declared that in a nonchalant air.
“... I guess that’s fine. I, who is the leading power of this battle, tell you, I will personally defeat those resisting crushingly!” (Balzephon)
Entrusting the guarding to the knight, who continues to hold his sword at Imeraria’s side, Balzephon draws his sword at his waist and takes the remaining knights along. The maids are sitting in a huddle next to Imeraria.
“Look forward to it. Once everything’s finished, I will have you stand in front of the people as queen in name only.” (Balzephon)
“Just wait for that obediently”, Balzephon left with these words.
Once the door closed, the knight, who remained to keep watch, stared at Imeraria and the three maids, who were sitting lined up side-by-side, again.
“Don’t get any strange ideas. If any problems occur, I plan to cut you down.”
In the instant he told his threat in a low voice, his neck was attacked by a sword sweeping sideways from his back.
Cutting as far as half through the neck, a hard sound rings as the cervical vertebrae is hit.
It was Midas, who stood in the back of the knight, who collapsed while scattering blood.
“I’m very sorry for getting here this late, Imeraria-sama.” (Midas)
Lowering his sword, Midas kneeled in front of Imeraria and apologised.
“Please raise your head, Knight Midas. I’m valuing your work very highly. ... Just where the heck did you appear from?” (Imeraria)
“Ha! As a matter of fact, receiving a request from Earl Tohno, I was observing the situation from a hidden passage. Because the number of enemies decreased, I used the opportunity.” (Midas)
It seems like he is feeling ashamed for him not coming out at the time when Imeraria was hit a dozen times. Imeraria, who realized that, laughed unintentionally.
“You endured it well. If you had rushed out at that moment, you would have likely been killed and the chance to rescue me wouldn’t have appeared. Once again, you have my thanks. At any rate, did Hifumi-sama foresee this state of affairs?” (Imeraria)
“It looks like he was aware of several people plotting a rebellion. Because I would probably have been killed if I had declined the invitation, he told me to take the opportunity to conceal myself as guard...” (Midas)
“Do you know what is currently happening?” (Imeraria)
Midas lowered his head and shook it in reply to Imeraria’s question.
“I’m sorry. I left the scene at an early stage.” (Midas)
Imeraria, who thought for a little while, made Midas stand up.
“We will stay in this room as is, Midas-san. If by some chance some knights of the rebelling forces came, they wouldn’t kill us quickly. Leaving that aside, please join up with Sabnak’s group.” (Imeraria)
Imeraria gets up.
“The coronation ceremony will be held. Please prepare for that.” (Imeraria)
“Eh?” (Midas)
“The rebelling forces will be cleaned up by Hifumi-sama before long. It’s not a matter to worry about.” (Imeraria)
Midas had no choice but to abide to what Imeraria clearly declared.
“Good grief, if you at least helped me gallantly, it would raise my evaluation of you a little.” (Imeraria)
Although Midas also heard the words she muttered, he decided to forget them right away. It’s because it extremely unlikely for him to do something crude as sticking his nose into the affair of others.
“You bastards are...”
With only discovering several corpses of knights scattered in the offices and without finding the crucial masters of the rooms, Lotomago and Adol, Balzephon’s irritation only increased.
Before the eyes of Balzephon, who next headed towards Sabnak’s room while making stomping sounds with his feet, stood a small girl.
“The representative of the rebels?” (Alyssa)
Visiting with her head inclined to the side, it is Alyssa.
“You rude lass. If you don’t want to be slain, get out of the way... no.” (Balzephon)
He brandished the sword with its blade blank.
“I will have you atone for the sin of having made fun of a knight.” (Balzephon)
The sword, swung downward with all his strength, only hit the floor causing Balzephon stance to grandly fall apart.
Alyssa had averted its trajectory with the wakizashi she held in a backhand grip.
“That sword is...” (Balzephon)
It’s a sword with only a slight curve having a single edge. Its characteristic, as Balzephon had heard before, was similar to the sword with the name katana, which Hifumi possesses.
“Hifumi-san’s... I wonder if you don’t get it. It’s a verbal message from Earl Tohno.” (Alyssa)
Even though she was assaulted with a sword, Alyssa, who wasn’t perturbed in the least, retrieved a memo from her pocket with a rustling sound and read it out loud.
“The stupid knights are gathering in the dance hall. End.” (Alyssa)
It totally rubbed Balzephon the wrong way that she even went as far as especially taking out a memo just to say only this much.
Alyssa, who easily avoided again and again the fast-moving, swung sword, jumped around with nimble movement.
“Since olden days my speciality is to evade, you know. That’s because I have officially worked as ojii-chan’s guard.” (Alyssa)
“Wait!” (Balzephon)
At the moment Balzephon called her to stop, Alyssa immediately jumped out of the window.
“... Fuck!” (Balzephon)
Balzephon wavered while wandering around aimlessly for a while, but he doesn’t see any figures except the corpses of his colleagues up until here. Although there should at least be of his colleagues remaining, he doesn’t meet anybody.
Clicking his tongue, he advances towards the dancing hall located at the centre of the castle with heavy feet at a quick pace.
Soon he arrives in front of a large door leading into the dance hall.
Once he opened it with a violent kick, he saw Hifumi’s figure there, surrounded by ten-odd corpses and furthermore encircled by knights beyond the circle of corpses turning their swords at him.
Due to the loud sound of the door opening, the gazes of everyone present gather on Balzephon.
“Ba-Balzephon! Do something about this man! He has already done in quite a few of us!”
Yelling while dripping in sweat, it was a knight, who had been earlier hit with the fruit and was lured up to the dance hall.
“Oh, at last the ringleader came?” (Hifumi)
The instant Hifumi said that, the door in the back of Balzephon, who entered the room, closed.
“Well then, aren’t there still around of you remaining? Use your head. Brace yourselves and properly look at your surroundings. Recall the things you have practised until now. With this it will be possible for you to finally fight me decently.” (Hifumi)
Due to Hifumi’s laughter, Balzephon grasped his sword strongly and trembled with rage.
Even if he only looked roughly at it, almost all of the remaining knights of the rebelling side have been gathered here. To put it simply, every last of them has been lured here and in the end more than 0 have been killed in a short amount of time.
“Don’t screw with me!” (Balzephon)
Forgetting about himself being led here as well, he shouts.
“You idiots, all of you have been lured here abandoning your own stations! Furthermore, what’s this sorry state with only a single opponent! You should be ashamed!” (Balzephon)
There also were knights, who lowered their sight due to his words, but there are also those feeling antipathy.
“Balzephon! Haven’t you come here as well!?”
“Right! In the first place, it is likely your fault for the operation going badly!”
Due to the knights, who started to quarrel among themselves as if forgetting the situation, Hifumi made an astonished expression.
“Get along with each other. After all we will do our best to kill each other from now on.” (Hifumi)
Holding the katana above his head, Hifumi laughs.
“Well, then let’s start now, okay?” (Hifumi)
Balzephon readied his sword as well.
At any rate, if we kill the man in front of my eyes here, all will turn out well |
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} | 落下してくるいくつかの石塊を見上げて、エルフの村で襲われた時と同じように闇魔法で吸収してしまおうか、と一瞬だけ考えた。
だが、前回のような板と棒ではない。文字通り押しつぶす勢いで迫る石を見上げているうちに“勿体無い”と思った。せっかく自分の命を狙うために使ってくれた大掛かりな罠を、ただ闇に放り込んでしまうのは勿体無い、と。
そして、無意識のうちにの身体は跳躍する。
地面の次は結界を蹴飛ばし、落下のタイミングでできた石と石の隙間を狙って身体を滑り込ませる。
石より先に舞い落ちてくる砂埃で視界は全くのゼロだが、カンと手探りで身体を動かす。
ざらついた岩肌で袴はさらに裂け、腕にも擦過傷が増えるが、痛みも感じないほどに興奮していた。
「ちっ!」
抱きかかえるように掴んだ石に、袖口が引っかかった。
当然、後戻りして外す時間など無い。
無理やりな体勢で石の上から足を叩き付け、石の向きを変えてようやく、石の上に転がるようにして乗り上げる事に成功した。
死の淵をかすめて心臓がうるさいほどに鳴っているが、まだ戦いは終わっていない。
石とともに落下し、その衝撃を全身で石に張り付くように受身をとって流した一二三は、立ち込める埃の中で息を潜めた。
「王よ。念のため、私が死体を検めます」
「任せる」
玉座に座ったアガチオンは、大仰に頷いてウェゴールの進言に許可を出した。
「では......」
フェゴールが結界を解くと、閉じ込められていた瓦礫が砂や土埃と共に溢れた。
万一生きていたとしても、虫の息であろうと踏んでいるフェゴールは、常に身につけているナイフを抜く程度には用心しているものの、その歩みに迷いはない。
「さて、瓦礫を退かさねば......」
まさか城内で爆発を起こすような魔法を使うわけにもいかない。ウェパルであれば水流で押し流せるのだろうが、とフェゴールはあまり得意ではない土魔法で瓦礫を押し上げる方法を取ることにした。
石の下を覗いて無残に潰れた人間の死体を確認するだけだ。後の片付けは誰かにやらせれば良い。
飛散する土埃が多少は収まったかというところで、フェゴールはナイフを握ったまま、魔法を使おうと意識を正面に向けて集中する。
「よお」
突き出されたのは、目を瞑った一二三の顔と、その輝きを少しも失っていない刀の切っ先だった。
「なにっ!?」
砂埃で目が見えないはずなのに、一二三の突きは正確にフェゴールの心臓を狙う。
だが、驚きはしたもののフェゴールも反応できた。
ナイフを振り、一直線に迫る切っ先に辛うじて触れることに成功した。
だが、完全に勢いを殺すことはできない。
冷たい刃はフェゴールの右胸へ、ぞぶりと突き刺さった。
「ぐ......」
肺を貫かれたフェゴールは、歯を食いしばった口の端から夥しい血を吐き出しながらも、むき出しの刃を握る。
「油断したが......これだけは押さえさせてもらうぞ......」
「むっ?」
未だに目が開けられない一二三だが、先ほどと同じ結界の空気を感じた。狙いはわからなかったが、一度距離を取ることにしたのだが、刀が抜けない。
突き飛ばすように前蹴りを入れたものの、肋骨を砕かれてもフェゴールは刀を離さない。それどころか、身体を丸めて刀を抱きしめ、ナイフも捨てて鍔を掴んでいる。
フェゴールは、笑った。
「私はすぐに死ぬだろうが、この剣が無ければ、お前が王に対抗するなど不可能だろう。王に逆らう愚かな人間よ、お前はここで死ぬ。その姿を見定めるまで、剣は預かっておく」
目を細めたフェゴールの周りを、いつの間にか結界が囲む。
刀を手放し、距離を取った一二三は、鼻から息を吐いた。
「見事だ、フェゴール」
アガチオンは満足げに頷く。
「お前の覚悟は全ての魔人族へと伝わるだろう。エルフと、そして人間に対する攻勢と魔人族再興の立役者として、僕がしっかりと覚えておく」
もはや言葉を放つ余裕も無いらしいフェゴールだが、アガチオンの言葉に笑顔を浮かべ、頭を垂れた。
主従が感動的なやりとりをしている間、一二三は闇魔法の収納から水筒を取り出して、頭からバシャバシャと水を浴びた。
目も洗い、ようやく視界を取り戻す。
「で、話は終わったか?」
「はは、大した余裕だね、人間」
笑いを装っているものの、アガチオンの顔は引きつっている。
「余裕? 止めがさせずに中途半端に終わったんだ。腹が立って仕方がない」
フェゴールが閉じこもる結界を恨めしげに見遣った一二三は、袴を叩いて埃を払った。
濡れた髪をかきあげる。
「敵がいつの間にか死んでいるなんて最悪だぞ。命を奪った瞬間をこの手で感じる事が無いなんて、戦った相手として屈辱だ。この世界で戦ってきて、戦った後でこんなに嫌な気分になったのは初めてだ」
それに、と一二三はアガチオンを指差して、右目を見開いた。
「高見の見物も結構だが、お前は戦う覚悟は出来ているか? 中途半端な真似はするなよ。今度こそ、命の奪い合いをやりたいからな」
「ふん、奪い合いにはならないよ。一方的に嬲って終わりさ」
言い終わる前に、アガチオンが放ったのは氷の槍と火球だった。
「おう、速いな」
しかし、先ほどくぐり抜けた石塊の隙間に比べれば、温い。
半身に構えたまま、髪をかすめる氷塊は首を振って躱し、火球は歩くことで避ける。
「流石に身体能力も高いね。でも、これならどうかな?」
アガチオンの頭上に、無数の石礫が浮かび上がった。
一つ一つは拳ほどの大きさで、まるで金属のような硬質さを思わせる光沢を帯びている。
「僕は魔人族の中でも飛び抜けて魔法が得意でね。特に土魔法は一番上手なんだよ」
一二三は寸鉄を取り出し、右手に握り締める。
「それが俺に通用するかどうかが重要だ。そうだろ?」
「その通りだね。その答えは直ぐに出るよ!」
石礫は弾丸の如き勢いで迫る。
数は十。規則性の無い配置で速度それぞれ緩急に差があった。
一つでも直撃すれば大怪我は免れない。当たり所が悪ければ即死するだろう魔法攻撃が一二三を襲う。
だが、一二三は猛然と走り始めた。
「いいね! こんなに強い魔法があるんだな! これこそ異世界! これぞファンタジーって感じだ!」
最初に飛来した三つのうち、二つは避け、一つは寸鉄を叩きつける。
砕くつもりだったが、一二三の想像以上に硬い礫は勢いを減じただけで壁に当たる。
寸鉄を握る手が痺れる。
そこに、半瞬遅れて飛来した礫が寸鉄を持つ手の小指にあたり、指先の骨を砕いた。
大げさに痛がる声を上げるが、寸鉄は離さない。
「これだ! こういう戦いがしたかった!」
さらに襲い来る石礫を躱し、寸鉄を叩きつけてそらす。
砕けた指先から血を流しながら高笑いをする一二三を見て、アガチオンは気が触れたかと顔をしかめた。
フェゴールも長くはもたない。アガチオンは目の前の狂人を早く始末してしまおうと、さらに石礫を産み出した。
それでも、更に一二三は足を進める。
一つ、二つと避けきれずに被弾するが、大きなダメージは受けない。
一二三が、アガチオンが立つ壇上まで階段を駆け上がる。
石礫が額に当たるが、首を振って勢いを流す。だが、直撃は避けても額を大きく切った。
夥しい血を流した一二三が、アガチオンを見下ろす。
凄絶な攻撃に、攻撃を忘れたように呆けるアガチオンの首筋を狙い、横薙ぎに寸鉄を振るった。
「あぁ?」
おかしな手応えを感じた一二三は、血が吹き出しているはずのアガチオンを見た。
そこには、首の全面半分を抉り取られた少年が、ケラケラと笑いながら一二三を見上げている。
「残念だったね」
喉が無くなっているのに、アガチオンは先ほどまでと変わらず話す。
骨や肉がむき出しになっているはずの断面は、白い砂のような物が見えているだけで、血の一滴すら流れていなかった。
「僕の身体は、君たち普通の生き物とは違うんだよ」
一二三の顔の前に差し出されたアガチオンの左手が、弾けた。
☺☻☺
「どういうことですか!」
イメラリアは目を通した書簡を握り締めた。
傍らに立つサブナクは、何も言わない。
イメラリアに答えたのは、跪いているアドル宰相だった。
「名目としては“凶悪化した魔物の掃討と住民の保護”という事ですが......」
「宰相、貴方名もの人員が、魔物退治に必要だと考えますか? いえ、貴方が考えなくても、ヴィシーの為政者たちや住民は、間違い無く軍事的な圧力をかけてきていると受け取るでしょう」
玉座に座り、頭を抱えたイメラリアが、溜息を吐く。
「この場で誰かを責めるのはおかしいのはわかっています。誰が失敗したかと言われたら、間違い無くわたくしですもの。一二三様が荒野へ向かって不在で、オリガさんも王都にいるという事で油断してしまいましたわ」
「......あの二人がいない今、一体誰が指揮を執っているのですか?
サブナクの疑問に、アドルが答える。
「騎士隊からの情報では、軍務長官という地位にある女の子だということだが......知っているかね?」
当然、サブナクもイメラリアもその人物を知っている。
「アリッサちゃんか......元気だけど、あんまり無茶する子じゃなかったはずですけど。なにを睨んでるんですか、義父上」
「まさか、以前に手を出したなどとは......」
「あ、あるわけないでしょう」
両手をブンブンと振って否定するサブナクを睨みつけていたアドルだが、イメラリアの視線が厳しくなっているのに気づき、慌てて頭を垂れた。
「全く......それより、サブナクさんが言われる通り、陣頭指揮をとっているのはアリッサさんで間違いないでしょう。あまり想像できませんが」
「一二三さんの事ですから、前々から指示を出していたという可能性もありますね。彼女だけではなく、文官たちも奴隷から開放されてもあの領地に残っているそうですから、あの領地における一二三さんの政治的な基盤は強固ですよ」
およそ国内だけでなく他の国を含めても、安定した経済力に支えられ、指揮系統がはっきりしていて政治的な混乱も見られない。
「国内の領地がそれだけ好調であることは、本来ならば喜ぶべきなのでしょうけれど。わたくしとしては諸手を上げて喜ぶという気分にはなれませんわ」
それに、とイメラリアは握りつぶしてしまった書簡を手のひらで伸ばす。
「各国に出向している教導部隊やフォカロルで学んで領地へ戻る文官たちとのつながりがあるせいで、国内の多くの領地が軍事的・経済的な情報をフォカロルに知られていると考えて良いでしょう」
そういう部分はきっちり文官にやらせているでしょう、とイメラリアは呟いた。
「一二三様は、戦闘にのめり込む性格ですけれど、そういう部分もしっかり抜け目なく押さえている方ですから」
一二三を褒めているのか危険視しているのか、区別が曖昧な顔を見せたイメラリアに、サブナクとアドルは顔を見合わせ、慌てて話題を変えた。
「それにしても、領主不在のまま軍事行動とは。一体何を狙っておるのでしょうな」
「全くです。せっかくヴィシーとの交流が増えて、周辺が安定しているのに」
アドルの質問にサブナクが首をひねる。
「簡単ですわ。その“安定”や“平和”が、一二三様にとって好ましくない状況なのです」
二人の視線が、イメラリアに注がれる。
「一二三様は、きっとこの世界を滅茶苦茶に混乱させて、あちこちで血みどろの戦いが起きるまで満足しないでしょう。そして、その状況からわたくしや他国の指導者たちがどのように立ち回るのかを楽しむつもりなのですわ」
「それは、なんというか......」
「あの方にとって、この世界はとても退屈なのでしょう。ですから、あちこちかき回して、殺して、不安定にして、世の中を自分にとって面白い形に変えようとしているのでしょうね」
サブナクもアドルも、イメラリアの推察に耳を傾けながら、真剣な顔で頷いている。
「......そう遠くないうちに、激しい戦いが起きるでしょう。アドルさん、大変だとは思いますが、予算の捻出をお願いいたします。サブナクさんは、騎士隊と合同で兵たちの準備と訓練をお願いします」
「かしこまりました」
「女王陛下。ヴィシーが戦場になるということですか?」
サブナクの疑問に、イメラリアはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。きっと一二三様はもっと強力で面倒な相手を連れてくるでしょう。荒野か......あるいは、その向こうから」
イメラリアが目を向けたその方向には荒野がある。
今そこで、あの男は何を見て、何を感じ、誰を殺しているのだろうか。
「荒野に接している領地全てに王都からの強制指示を発します。それら全ての領地に国軍を駐留させてください。どこから戦いが始まるのか、わたくしにもわかりません。できる限りの準備は、やっておきましょう」
凛とした声で告げられた命令に、サブナクは深々と頭を下げた。 | shall I absorb those with darkness magic just like at the time of the attack in the elven village?
However there are no poles and boards like last time. While looking at the stones approaching with a speed that will literally squash him, he thought
And unconsciously Hifumi’s body leaps.
Kicking off the barrier next to the ground, his body slips through the rocks aiming for the gaps in-between them by matching the timing of their fall.
Rather than the rocks, his visual field is completely zero due to the previously fluttered-down cloud of dust, but he moves his body by groping around with his intuition.
Due to the rough surfaces of the the rocks his hakama got torn even more and the scratches on his arms increased as well, however he was aroused to a degree that he didn’t feel any pain.
His cuff was caught by a rock he grabbed to hold onto it.
Naturally he has no time to release it and retrace his steps.
Finally changing the direction of the stone by hitting it with his foot from atop in a forced stance, he succeeded in running aground by making sure to lie down on top of the stone.
His heart is beating loudly due to the quick appearance and disappearance of death’s abyss, but his fight still hasn’t ended.
Crushing down together with the stone, Hifumi, who circulated the impact by taking a defensive stance while clinging to the stone with his whole body, held his breath within the risen dust.
“My king. For caution’s sake, I shall examine the corpse.” (Phegor)
“I leave it to you.” (Agathion)
Sitting on the throne, Agathion gave his permission to Phegor’s proposal with an exaggerated nod.
“Then...” (Phegor)
Once Phegor released the barrier, the rubble, which was locked up within, spilled out alongside sand and a cloud of dust.
Phegor, who is estimating that Hifumi is likely at death’s door even at the faint chance that he survived somehow, puts up his guard and draws the knife he always carries around, however his pace shows no wavering.
“Well then, once I move the debris out of the way...” (Phegor)
By no means is it a good thing to use magic that causes an explosion within the castle. If it’s Vepar, she will likely wash it away with a water current, but Phegor, who isn’t overly strong at that, decided to choose the method of pushing up the debris with earth magic.
It’s just to confirm the cruelly smashed corpse of the human by looking below the stone. It’s fine to leave the clean up to someone else later.
At the time most of the scattered dust had calmed down, Phegor concentrated his consciousness to the front to use magic while grasping his knife.
“Yoo.” (Hifumi)
What was thrust out was the face of Hifumi, who had closed his eyes, and the point of the katana, which didn’t loose any of its brightness.
“What!?” (Phegor)
Although he shouldn’t be able to see within the cloud of dust, Hifumi’s thrust accurately aims at Phegor’s heart.
However, even while being surprised, Phegor was able to react.
Swinging his knife, he was barely successful at grazing the katana’s point which lunged at him in a straight line.
Even so he isn’t able to completely kill its momentum.
The cold blade pierced into Phegor’s right breast.
“Gu...” (Phegor)
Phegor, whose lung got penetrated, grasps the bare blade even while enduring the pain and spitting out a vast amount of blood from his mouth.
“I was careless, but... I will suppress you at least this much...” (Phegor)
“Mu?” (Hifumi)
Although Hifumi still hasn’t opened his eyes, he felt the presence of the same barrier as before. He didn’t understand the aim, but although he decided to take some distance temporarily, he can’t pull out the katana.
Even while having a rib broken by taking a frontal kick in order to thrust him away, Phegor doesn’t release the katana. On the contrary, he curls up his body and embraces the katana. Tossing away the knife as well, he grabs the katana’s guard.
Phegor laughed.
“I will likely die very soon, but it will probably be impossible for you to confront the king if you don’t have this sword. Oh foolish human who goes against the king, you will die in this place. I will look after this sword until I have confirmed that.” (Phegor)
Unnoticed the vicinity of Phegor, who closed his eyes, is enveloped in a barrier.
Hifumi, who took some distance after letting go of the katana, breathed out through his nose.
“Splendidly done, Phegor.” (Agathion)
Agathion nods in satisfaction.
“I shall convey your resolve to all demons. As central figure of the demon races’ revival and the attack against the humans and elves, I shall remember you properly.” (Agathion)
Phegor doesn’t seem to have the leeway to return any words anymore, but receiving Agathion’s words with a smile, he bows his head.
While the lord and his retainer were having this passionate exchange, Hifumi took out a water bottle from his darkness storage and completely basked himself in water.
Having washed his eyes as well, he finally regains his sight.
“So, did you finish your little chat?” (Hifumi)
“Haha, you are quite composed, human.” (Agathion)
Although he is feigning laughter, Agathion’s face has a cramp.
“Composure? It ended incompletely without me giving the finishing blow. It can’t be helped that I’m angry.” (Hifumi)
Hifumi, who hatefully stared at the barrier that is secluding Phegor, brushed off the dust off his hakama.
He brushes up his wet hair.
“Something like the enemy dying unnoticed is the worst. Not feeling the moment a life is stolen with these hands is a disgrace as opponent who fought them. It’s the first time for me to have such unpleasant feeling after a battle while fighting in this world.” (Hifumi)
“Besides”, pointing his finger at Agathion, Hifumi opened his right eye widely.
“Although it’s nice to be an unconcerned spectator as well, are you able to resolve yourself to fight? Don’t act half-heartedly. This time I definitely want you to struggle for your life.” (Hifumi)
“Humph, it won’t become a struggle. It will finish with an one-sided torture.” (Agathion)
Before finishing speaking, Agathion fired an ice spear and a fireball.
“Oh, how fast.” (Hifumi)
However, compared to the gaps between the rocks he passed before, it was slow.
While taking a stance with his legs in a L-shape, Hifumi dodges the lump of ice, which grazes his hair, with a sway of his head and avoids the fireball by walking.
“As expected, your physical ability his high as well. But, how about this?” (Agathion)
Agathion made numerous pellets appear above his head.
With each of them having the size of a fist, those are giving off a lustre making one believe that their hardness is completely like metal.
“I’m outstanding among the demons for my strength in magic. I’m especially skilled at earth magic.” (Agathion)
Hifumi takes out a suntetsu and grasps it tightly within his right hand.
“What’s important is whether it will reach me. Isn’t that right?” (Hifumi)
“As you said. The answer to that will appear right away!” (Agathion)
The pellets approach with a speed similar to bullets.
They number ten. With no regular arrangement, there were differences in each of their speeds.
If he is hit by even one of those, he won’t escape a serious injury. A magic attack, which will likely instantly kill him if one of them hits in a bad spot, assaults Hifumi.
However, Hifumi began to run fiercely.
“Great! There is such strong magic! This is definitely a different world! It gives the feeling that this is fantasy indeed!” (Hifumi)
From the three pellets which came flying first, he avoids two and hits the last with the suntetsu.
He intended to break it, but the pellet, which was harder than Hifumi imagined, hit the wall with just its momentum reduced.magic
His hand, holding the suntetsu, has become numb.
At that moment a partially delayed pellet hit the pinky of his hand holding the suntetsu and broke the bone at the fingertip.
“Ouch!” (Hifumi)
Although he exaggeratedly raises his voice in pain, he doesn’t release the suntetsu.
“That’s it! This is the kind of battle I wanted!” (Hifumi)
Dodging another attacking pellet, he bends backwards and strikes it with the suntetsu.
Looking at Hifumi who is laughing loudly while shedding blood from his broken finger, Agathion frowned wondering whether Hifumi had gone mad.
In order to get quickly rid of the lunatic in front of his eyes. Agathion created even more pellets.
Even so, Hifumi keeps on advancing with his feet.
He is shot without collapsing while avoiding one or two, but he doesn’t take any large damage.
Hifumi runs up to the stairway leading up to the platform where Agathion is standing.
A pellet hits his forehead, but shaking his head, he dampens its force. However, even if he avoided a direct hit, he was largely cut at his forehead.
“I reached you.” (Hifumi)
Although Hifumi was shedding blood at many places, he looked down on Agathion.
He swung his suntetsu sideways aiming at the scruff of the neck of Agathion, who was befuddled as if having forgotten to attack, due to the violent strike.
“Aah?” (Hifumi)
Hifumi, who felt a weird feedback, looked at Agathion who should be spouting blood.
The boy who had half of his entire neck gouged out looks up at Hifumi while giggling.
“How regrettable.” (Agathion)
Even though he is missing his throat, Agathion talks without any change to before.
The cross-section, which should have laid bare the bones and flesh, just showed something like a white sand without even a single drop of blood flowing.
“My body is different to you normal living beings.” (Agathion)
Agathion’s left hand, which was held out in front of Hifumi’s face, burst open.
☺☻☺
“What’s this!?” (Imeraria)
Imeraria tightly grasped the letter she had read.
Sabnak, standing next to her, doesn’t say anything.
The one who gave Imeraria an answer was the kneeling Prime Minister Adol.
“In title it’s “the protection of the citizens and the cleaning up of the monsters who became atrocious”, but...” (Adol)
“Prime Minister, do you believe that soldiers are necessary to exterminate the monsters? No, even if you don’t believe it, the statesmen and citizens of Vichy will doubtlessly take it as an application of military pressure.” (Imeraria)
Imeraria, who was at the end of her wit’s while sitting on the throne, breathes a sigh.
“I understand that it’s strange to blame anyone in this case. If I were to ask whether someone made a mistake, it would definitely be me. With the absence of Hifumi-sama who headed to the wastelands and with Origa-san being in the capital as well, I ended up being careless.” (Imeraria)
“... With those two currently not being present, just who the hell is handing out the instructions?” (Sabnak)
Adol replies to Sabnak’s question,
“According to the intelligence of the knight order, it looks to be the girl holding the position called Military Director, but... do you know her?” (Adol)
Of course Sabnak as well as Imeraria know that person.
“Alyssa-chan, eh...? She is energetic, but she shouldn’t be a child who does too unreasonable things. Why are you glaring at me, father-in-law-sama?” (Sabnak)
“Don’t say you made a move on her before or something like that...” (Adol)
“T-There’s no way I did that.” (Sabnak)
Adol glared at Sabnak who is denying while shaking both his hands, but noticing how Imeraria’s look became stern, he hung his head in a panic.
“Good grief... Rather than that, there’s no doubt that Alyssa-san is commanding the army, as Sabnak-san has said. Though I can’t really imagine that.” (Imeraria)
“As we are talking about Hifumi-san here, it’s also possible that he issued the orders far in advance. It’s not only her either. Since it looks like the civil officials, who were released from slavery, have remained in that territory as well, Hifumi-san’s political foundation in that territory is firm.” (Adol)
Not just within the kingdom but even including other nations, Fokalore is supported by stable economic strength and there isn’t any political disorder due to the distinct chain of command.
“A territory within our kingdom being this good in shape should originally be something to be delighted over. But, as for me, I don’t feel like raising both my hands in joy.” (Imeraria)
“Besides”, Imeraria smooths out the letter, she ended up crushing, with her palm.
“With the fact of them having a connection to the civil officials, who will return to their territories after having learned in Fokalore, and the soldiers, who are transferred to all nations, it’s probably fine to think that Fokalore is aware of the military and economical information of many territories within our kingdom.” (Imeraria)
“Such aspects are always researched by civil officials after all”, Imeraria murmured.
“Hifumi-sama has a character of getting completely absorbed in battle, but it looks like he is cleverly and cunningly controlling those apsects as well.” (Imeraria)
Due to Imeraria showing a vague expression making it difficult to distinct whether she is praising Hifumi or labelling him as dangerous person, Sabnak and Adol looked at each other and changed the topic in a hurry.
“At any rate, what are they aiming for with the military movements during the absence of their feudal lord, I wonder?”
“Good grief. Although the exchange with Vichy has finally increased and the vicinity has become stable.”
Sabnak cocks his head in puzzlement due to Adol’s question. However, for some reason Imeraria showed an expression understanding all of it.
“It’s simple. “That “stability” and “peace” are states not desired by Hifumi-sama.” (Imeraria)
The looks of the two men focus on Imeraria.
“Hifumi-sama undoubtedly wants to throw this world into chaos and disorder. He likely won’t be satisfied until blood-stained battles occur all over. And he intends to enjoy how me and the leaders of the other nations cope with that state of affairs.” (Imeraria)
“That is, how to call it...?”
“For that gentleman this world is likely very boring. Therefore, by stirring up things here and there, killing and causing instability, he is trying to change this world into an interesting shape for him.” (Imeraria)
While Sabnak and Adol carefully listen to Imeraria’s conjecture, they nod with serious expressions.
“... He will likely trigger a fierce war in a not so distant future. Adol-san, I think it will be difficult, but please work out the budget. Sabnak-san, please work on the training and preparations of the soldiers jointly with the knight order.” (Imeraria)
“Her Majesty the Queen, do you mean that Vichy will turn into a battlefield?” (Sabnak)
Imeraria slowly shook her head in answer to Sabnak’s question.
“No. Most likely Hifumi-sama will bring a far more powerful and troublesome opponent along. From the wastelands or... from the other side.” (Imeraria)
In the direction, where Imeraria shifted her focus at, lies the wastelands.
Just what is that man currently seeing, what is he experiencing and whom is he killing?
“Send a compulsory order from the capital to all the territories bordering the wastelands. Please station the royal army at all of those territories. I don’t know where the fight will start. Let’s get ready as much as we can.” (Imeraria)
Sabnak bowed deeply towards the order which was announced with a dignified voice. |
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} | フィリニオンがヴィシーとの国境であるローヌの町へと到着し、馬車を降りた時、難民としてやってきた人々は、数日の間に大分町に慣れて、商売を始めている者もいた。
「トオノ伯個人が目立つせいで見落とされがちだけど、行政の処理速度に関しても、伯爵領は他とは段違いなのよね......」
カイムから聞いて、ローヌが難民受け入れのために利用されている事は知っていたが、想像以上に町が町らしく機能し始めているのを自らの目で確認して、フィリニオンは目を見開いて呟いた。
「お嬢様、これからどちらへ向かわれますか?」
結婚してからも、侍女としてついてきてくれているクリノラが、貴重品が入った鞄を抱えて降りてきた。
その後ろでは、下男たちが馬車から荷物を下ろすかどうか、指示を待っている。
「臨時の役場ができているそうだから、挨拶もかねてまずはそこを訪ねましょう。そこで宿も紹介してもらえるでしょうから、荷物はそこへ」
「では、そこまで馬車で......」
「いえ、街の様子を見ながら歩いていきましょう。馬車はここで待機しておいて。宿が決まったら、そこへ呼ぶから」
街へ到着する前にヒールの低い歩きやすい靴に履きかえていたフィリニオンは、クリノラだけを連れて、雑多だが活気が出始めた雰囲気の町を歩く。
「簡単な屋台が出てるわね。軽く食べていきましょう」
「お、お嬢様が屋台の食べ物を、ですか?」
クリノラが驚くのも当然のことで、貴族令嬢が屋台の粗野な食事を食べるのは珍しいというより、ほとんどありえない事だ。だが、例外はある。
「わたしが元士隊の騎士だって知っているでしょう。町の中で普通に生活して、屋台とか飲み屋とか回ったりは日常だったわよ。シェフが作ったものとは違うけど、ああいうものは違ったおいしさがあるのよ」
肉を焼いているようだから、あれにしましょう、とフィリニオンはさっさと歩き、クリノラが慌てて追いかける。
広場になっている町の中心部で、香ばしい香りをさせているのは肉の串焼きだった。
旅のためにシンプルな作りのものを選んだとはいえ、ドレス姿である貴族の令嬢が、屋台へと迷いなく歩いていくのは非常に目立つ。これがフォカロルであれば、「そういう貴族もいるよね」で終わりなのだが、この町を構成するのは、ほとんどがヴィシーからの難民である。
多くの視線を集めながら、それでもフィリニオンは臆することなく屋台へとたどり着いた。
「おじさん、それはなに?」
「おお......おお?」
焼きに集中していて、声をかけられて威勢よく答えた屋台の親爺も、目の前にドレスをきた女性が立っていたことに驚いた。
「その串の肉はなに?」
「あ、ああ。これはフォカロル兵が取ってきた“シシ肉”の串焼きだ......です」
「わたしはトオノ伯爵の知り合いで、言葉づかいは気にしないから」
トオノ伯爵の名前を出すと、親爺はぱあっと明るい表情を見せた。
「そ、そうか! で、このシシ肉ってのは、伯爵様の兵士が定期的に狩ってくる魔物で、これがうまいんだ!」
「そう。じゃあそれもらえる?」
「待ってくれよ。もうすぐ良い具合に焼けるから!」
ヴィシーでも屋台をやっていたという親爺は嬉しそうに、この町へ来てからの数日間を語る。住んでいた町を追われ、受け入れの噂を聞いて最低限の荷物だけを荷車で引いて、家族と共にこの町へやってきたという。
「そしたら、家だけじゃなくて、この屋台や仕入れの手配までやってくれてよぅ......」
いつの間にか、親爺が涙ぐんでいる。
それを聞いているフィリニオンは、騎士時代に鍛えた微笑みと言う名のポーカーフェイスで、適度に相槌を打ちながら聞いていた。
「これはフォカロルって町でも売ってるらしいんだ。やり方も丁寧に教えてもらってな、俺も最初に食べたけど、うまいんだ、これが」
小さく切った肉を軽く焼いてから、じっくりと煮込み、それを串に刺して表面がパリッとなるまで焼くらしい。
「さあ焼けた。二本だね」
長い串にたっぷりの肉が刺さっておりでも百グラムは軽く超えていて、充分お腹に溜まりそうな量がある。
「いくらかしら?」
「いやいや、そのまま受け取ってくれ! 伯爵様に恩返しもできねえ身の上だ。せめてお友達には、それくらいさせてくれ!」
押し切られた形で、フィリニオンはお礼を言って串焼きを受け取った。
一本をクリノラへ渡し、おっかなびっくり小さな口で齧っているクリノラを放って、フィリニオンは思い切り口の中に入れてみた。屋台で普通に売られている食べ物が危ない物であるわけでなし、と割り切っていけるあたり、感覚が庶民に近いのは第三騎士隊出身者に共通のものである。
最初はカリッとした歯触りのあと、煮込む時にしっかりと染みこんでいる野菜の風味を含んだ肉の脂が、焼いた時の香ばしい香りに閉じ込められた状態から、じゅじゅっと溢れだしてくる。
「おいしいわね......」
変にこだわった貴族の料理よりも、ある意味ではストレートにおいしいと感じられる。王都で売っている、焼いただけの肉の串よりも数段おいしいのが、ちょっと納得できない。
気付けば、クリノラも鼻息を荒くしてどんどん口に放り込んでいる。
「とにかく」
串を親爺に渡したフィリニオンは、そっと口元を拭った。
「トオノ伯爵の治政には問題はなさそうですね。ここでも勉強ができそうです。休憩はここまでにして、役場へ向かいましょう」
役場でフィリニオンが名乗ると、二階から降りてきたパリュが出迎えた。
疲れた様子を見せてはいるが、久しぶりに見るフィリニオンに、可愛らしい笑顔を見せた。
「フィリニオン様。お久しぶりです。素敵なドレスですね」
「ありがとう。この町はとても良い状態のようね。とても一度壊滅した町とは思えないわ」
「あはは......大変、でした」
暗い目をして床へと視線を落とすパリュの肩に、そっと手を置く。
「そ、それで、フィリニオン様は国境の視察ですか?」
「そうね。夫の役に立つかと思って、折角だから魔人族やヴィシーの状況も確認しておこうと思ったのだけど......」
「それでしたら、難民のみなさんからの聞き取り情報をまとめていますよ。お渡しはできませんけれど、書き写すのは構いません。見られますか?」
さすがに、情報については指示が行き届いている、とフィリニオンは感じた。これが他の町の領主であれば、難民の取り扱いに追われて、そういった情報収集まで頭が回らないだろう。
「そう。助かります。それで、パリュが見て気になる所はあった? 魔人族の動きとか......」
フィリニオンの質問に、パリュは首をかしげた。
「魔人族なら、もう領主様が撃退しましたけど......?」
なぜ知らないの? という反応だ。
「はあ?」
詳しく聞くと、一二三はとっくにヴィシーへと迫っていた魔人族へ攻撃を加え、しかもその将軍の腕を奪い取って、たっぷり挑発してきたという。
「と、トオノ伯はそんなこと、一言も......」
「重要だと思わなかったのではないでしょうか? 大して手ごたえが無かったというような話を聞きましたから」
「そういう問題?」
詳しい話を聞いて、さらにパリュが用意した資料を見て、フィリニオンは頭を抱えた。
「これは......陛下が知らないうちに、この国を含めた人間は魔人族に宣戦布告しているってことじゃないかしら?」
正確に言えば、威力偵察に来た軍隊を叩き返したついでに挑発したのだが、結果は変わらない。
魔人族は明確に人間の敵になった。
「......夫を通じて陛下へご報告いたしましょう」
簡単な情報を送るだけのつもりだったが、冒険者を雇ってでも、可能な限り短い日数で報告しなければならない。
「騎士は辞めたけど、この国の貴族として無視するわけにもいかないし......。はぁ、今日は徹夜ね」
クリノラにも付き合ってもらって、今夜いっぱいで資料を作り、明日朝イチで送ろう、とパリュが用意した部屋から出たフィリニオンは、隣の部屋で荷物を解いているクリノラに、冒険者の手配と紅茶を頼むため、資料を置いて部屋を出た。
☺☻☺
「一二三様の現状の情報を可能な限り集めてください。正確には、今だけでなく、今の状態を予想することができるようなものであれば、以前の動きについての話でも構いません」
イメラリアの元へ、一二三がフォカロルを出発したという情報が入った時点で、彼女は数名の信頼できると思える人物を集めた。
宰相アドル、近衛騎士隊長サブナク、副隊長ヴァイヤー、騎士隊長ミダス。そして相談役として正式に城で雇い入れたエルフのプーセもいる。イメラリアとしては、ここに元騎士隊長のロトマゴにもいて欲しかったが、引退したものを巻き込むのは気が引けた。
「さらには、彼の能力についても改めてまとめ、検証したいと考えています」
「その......陛下が何を狙っておられるのか、教えていただきたいのですが......」
「わかりませんか?」
余人に聞かせる話ではない、ということで、場所は会議のための部屋を使い、侍女たちですら部屋から追い出している。
そんな状況で、イメラリアは隣にプーセを座らせ、男たちの目を一人ずつ見ていく。
「一二三さんの人となりを知りたい......というのは、今さらですしね」
「そう。今さらなのです。あの方のやる事なす事に振り回されて、あの方自身がどういう人物なのかを知ることを忘れていました。......それに、一二三様の戦い方についても、です」
「トオノ伯の考案された戦法に関しましては、国内に留まらず、ヴィシーやホーラントへも教導部隊が派遣され、広く公開されておりますが......」
畏れながら、と進言したヴァイヤーに、イメラリアは質問を浴びせた。
「その“戦法”と、一二三様が使っている“戦闘技術”には、大きな違いがあるのではありませんか?」
ヴァイヤーは言葉に詰まる。
「先日のホーラントでの騒動に参加して気付いたのです。フォカロルからの派遣部隊に指導を受けたホーラントの守りがあの程度であり、また、亡くなられた教導部隊の方々はそれなりに長く一二三様の指導を受けたと聞きましたが、それでもホーラントの攻撃で亡くなられています。一二三様や、その指導を直接受けたオリガさんの強さも見ましたが、そこには大きな差があるように感じるのですが?」
イメラリアの意見に大きく頷いたのは、ミダスだった。
「確かに、トオノ伯の動きは独特で、その比類ない強さは誰かと比較できるようなものではありませんでした。兵士たちを大人数で動かして遂行するものとは、毛色が違います。表現するのは難しいですが、彼が教えているのは軍隊の運用であり、自らが行うのは一人で戦う事を前提とした動きではないかと」
「なるほど。確かにミダスさんの言うとおりですね。あの人は一人で戦うのが好きですし、誰かに敵を取られるのを嫌がっていましたから」
サブナクが納得し、ヴァイヤーも同意する。
「では、陛下はその個人としてのトオノ伯の動きについて研究をしたいと申されるのですか?」
旧第三騎士隊をはじめ、軍閥から基盤を固めてきたイメラリアといえど、女王としての研究対象としてはどうか、とアドルが心配していたが、彼女の狙いは単なる研究ではない。
「目的は、トオノ伯爵という人物への“対策”です」
一気に、重臣たちの空気が緊張する。
目を見開いてはいるものの、誰もが口は開こうとしない。そこにあるのは怯えでもあるし、心配でもある。ここにいるもので、プーセ以外の誰もが、一二三に敵対して命を落としてきた者を知らぬ者はいない。
この反応を、イメラリアは予想していた。
「みなさんが考えている通り、危険なことではあります。事は慎重に慎重を重ねて行うべきであり、そのための研究、準備なのです」
「その......よろしいのですか?」
不安げに問うのは、サブナクだ。彼の立場としては、イメラリアが危機へ近づく真似は止めたい。止めたいが、彼女の意思であれば、そうはいかない。
自ら翻意してもらうのが一番なのだが、イメラリアの視線には迷いが無い。
「わたくしは、もう決めたのです。この国、ひいてはこの世界を守る為には、もうあの方の存在は必要ありません」
身勝手な事を言っているのは重々承知している、とイメラリアは説明する。
「あの方が存在する限り、この国もこの世界も振り回され続けるでしょう。多くの血が流れ、無数の不幸が生み出されます。......私怨がある事も、否定しません」
一二三に殺害された家族について、イメラリアは多くは語らなかった。ただ、許したわけではない、とだけ呟く。
「方法については、アドルさんが探し出し、わたくしが研究していた封印術式を使用することで考えています。それに、プーセさんにも協力をいただいて、封印を成功させるための前段階としての結界魔法も使用します」
この協力を得るために、イメラリアはプーセにエルフとその仲間となった獣人たちに対する保護と協力を約束したのだが、これはオーソングランデにとってもメリットがあるので、ほとんど無償の協力に近い。
「そして、もう一人、計画を確実に成功させるためにある方に協力を仰ぎ、すでに約束を取り付けています」
いつになく長く話していたイメラリアは、ふと喉の渇きを感じ、いつの間にか自分も緊張している事に気付いた。
一口だけ、紅茶を口に運び、喉を湿らせる。
「......一二三様の妻、オリガさんです」 | At the time when Phyrinion arrived at the city of Rhone at the border with Vichy and got off the carriage, some among the people, who arrived as refugees, got quite used to the city during those few days and started to do business.
“Although it tends to be overlooked due to Earl Tohno standing out, even the processing speed of the administration in the earldom is wide apart from other territories, isn’t it...?” (Phyrinion)
Hearing it from Caim, she knew about Rhone being used for the sake of receiving the refugees, but confirming with her own eyes that the city has started to function just like a city faster than she imagined, she could only mutter with her eyes opened widely.
“Ojou-sama, where will you be headed next?” (Krinola)
Krinola, who has been following her as maid even after she got married, descended off the carriage while carrying a bag with Phyrinion’s valuables in it.
Behind her menservants are waiting for instructions whether they should unload the luggage from the carriage.
“As it seems that they have been able to finish the temporary town hall, let’s visit that place first to give our greetings. Because it will likely be possible for us to get introduced to an inn there as well, take the luggage there.” (Phyrinion)
“Then, with the carriage until then...” (Krinola)
“No, let’s walk while examining the state of the city. We will leave the carriage here on standby. Once the inn has been decided, we will call the carriage over.” (Phyrinion)
Having put on boots with low heels that are easy to walk in before arriving at the city, she strolls through the city that’s enveloped in an atmosphere which is starting to get lively, despite still being chaotic, while only taking Krinola along.
“Simple stalls have been set up. Let’s grab something light to eat.” (Phyrinion)
“O-Ojou-sama, eating food from stalls, you say?” (Krinola)
It’s only to be expected for Krinola to be surprised. A noble’s daughter eating the rustic food of stalls is rare, or rather it’s something that’s almost impossible to happen. However, there are exceptions.
“You should know that I’m also a former knight of the Third Knight Order. Living normally inside a city and visiting bars and stalls was ordinary. It’s different from food made by our chefs, but such things do possess a different kind of deliciousness.” (Phyrinion)
“It seems they are grilling meat, so let’s get that”, Phyrinion walks swiftly and Krinola chases after her in a rush.
What was spreading an savoury aroma in the central part of the city that has turned into a plaza was spit-roasted meat.
Even though she chose a simple appearance for the sake of travelling, a noble daughter in a dress walking without any hesitation towards the stalls is something extremely conspicuous. If this was Fokalore, it would have ended with 「Such nobles exist as well, don’t they?」, but the ones organizing this city are mostly refugees from Vichy.
While gathering many stares, Phyrinion still arrived at the stalls without feeling timid.
“Mister, what’s that?” (Phyrinion)
“Oh... ah?”
Even the old man at the stall, who answered cheerfully after being addressed while focussing on the roasting, was surprised due to a woman in a dress standing in front of him.
“What’s that meat on the skewers?” (Phyrinion)
, which was caught by the soldiers of Fokalore, on a skewer... ma’am*.”
“As I’m an acquaintance of Earl Tohno, you don’t have to mind your language.” (Phyrinion)
Once she mentioned the name of Earl Tohno, the old man showed an enthusiastic, bright expression.
“R-Really!? So, as for this lion meat, it’s a monster which the soldiers of Earl-sama hunt regularly. It’s delicious!”
“I see. Can you give me two of that then?” (Phyrinion)
“Wait a moment. They will be roasted well very soon!”
The old man, who explains that he ran a stall in Vichy as well, looks happy and talks about the period of several days after he came to this city. Being chased out of the city where he lived, he pulled a wagon with just a minimum of luggage after hearing the rumours of being accepted here and finally arrived in this city together with his family.
“After that, not only a home, but even this stall and the arrangements for stocking up were provided to me...”
Before anyone realizing, the old man is moved to tears.
Phyrinion listened to him while throwing in agreeable responses at suitable times with the her smiling poker-face she trained during her time as knight.
“It appears that these are also sold at the city called Fokalore. You know, they even politely taught me the way of preparing these. It was my first time eating those as well, but they are delicious.”
After lightly grilling the finely cut meat, it gets thoroughly cooked. The cooked meat is pierced on skewers and gets roasted until its surface becomes crispy.
“Well, it’s finished. Here’s your two skewers.”
Plenty of meat is stuck on the long skewers. Even one skewer easily exceeds grams. It’s an amount that looks like it will fill ones stomach sufficiently.
“How much do I owe you?” (Phyrinion)
“No, no, please take it for free! Seeing as I won’t be able to repay the kindness to Earl Tohno-sama in my life, please let me at least offer this to his friend!”magic
Due to his oppressive manner, Phyrinion accepted the grilled-meat-on-skewer and thanked him.
Handing one skewer to Krinola, Phyrinion heartily put hers into her mouth while leaving Krinola, who is biting at hers timidly with her small mouth, alone. “There’s no way that dangerous food is normally sold at stalls”, she accepts that as fact. It’s a common attitude among the former members of the Third Knight Order that was emotionally close to the common people.
After the first crunchy texture, the fat of the meat, which contained the flavour of the vegetables that penetrated it thoroughly during the time of cooking, is overflowing with piping hot steam as it had locked up the savoury aroma during the time of getting roasted.
“It’s delicious...” (Phyrinion)
Rather than the strangely fussy noble cuisine, it allows her to experience a straightforward tastiness to an extent. It being several times tastier than the only-roasted meat skewers sold in the capital is something she slightly can’t agree with.
Once she realizes it, even Krinola is rapidly stuffing her mouth while roughly breathing through her nose.
“Anyway.” (Phyrinion)
Passing the skewer to the old man, Phyrinion gently wiped her mouth.
“There don’t seem to be any problems with Earl Tohno’s reign. It appears that you can even study here. Let’s stop the break at this point and head to the town hall.” (Phyrinion)
Once Phyrinion introduced herself at the town hall, Paryu came down from the second floor to greet her.
Although she looked exhausted, she showed a lovely smile thanks to seeing Phyrinion after a long time.
“Phyrinion-sama, it’s been a while. You are wearing a beautiful dress.” (Paryu)
“Thanks. This city seems to be in a very good state. I can’t believe at all that this city had been destroyed once.” (Phyrinion)
“Hahaha... it was difficult.” (Paryu)
Phyrinion gently places a hand on the shoulder of Paryu who casts her eyes down with a dispirited look.
“S-So, are you inspecting the national border, Phyrinion-sama?” (Paryu)
“Let’s see. Wondering whether I could be helpful to my husband, I planned to confirm the situation with Vichy and the demons since it’s a rare chance, but...” (Phyrinion)
“In that case, we have gathered the information we heard from all the refugees. I can’t give it to you, but there’s no problem if you transcribe it. Do you wish to look over it?” (Paryu)
If this was a feudal lord from another city, they would have been pressed with handling the refugees and wouldn’t even be able to think of gathering information like this.
“Yes, that will be a help. So, was there some aspect that caught your fancy, Paryu? Such as the movements of the demons...” (Phyrinion)
Paryu inclined her head to the side due to Phyrinion’s question.
“If it’s the demons, they have already been repelled by Lord-sama though...?” (Paryu)
Why don’t you know that?
“What?” (Phyrinion)
Once she listens to the details, she learned that Hifumi had long ago attacked the demons who attacked Vichy and moreover snatched the arm of their general after provoking him plentifully.
“E-Earl Tohno didn’t mention that with even a single word...” (Phyrinion)
“It’s probably because he didn’t consider it as important? I heard that he talked about it as if there wasn’t much of a resistance.” (Paryu)
“That’s the problem?” (Phyrinion)
Listening to the detailed account and furthermore looking at the documents prepared by Paryu, Phyrinion was at her wits’ end.
“This is... doesn’t that mean that the humans, including this country, have declared war against the demons without Her Majesty knowing about it?” (Phyrinion)
If one says it accurately, it was a provocation on the occasion of sending back the military forces that came to scout the humans’ power after beating them up, but it doesn’t change the result.
The demons had definitely turned into the enemies of humans.
“... I have to report this to Her Majesty through my husband.” (Phyrinion)
I intended to send only simple information, but even if I have to employ adventurers, I must report this in as few days as possible.
“I resigned as knight, but that doesn’t mean that I will ignore it as noble of this country... Haa, today will be an all-nighter.” (Phyrinion)
“I will have Krinola keep me company as well. Tonight I will draw up a lot of documents and then send them first thing in the morning”, with that Phyrinion left the room prepared by Paryu. She did so while leaving the documents behind in order to request black tea and the arrangement of adventurers from Krinola who is unpacking the luggage in the adjacent room.
☺☻☺
“Please collect as much information about Hifumi-sama’s current status as possible. To be precise, it’s not just his current status. I don’t mind if it’s information regarding his previous movements as long as it’s something that allows us to predict the situation now.” (Imeraria)
At the moment the intelligence that Hifumi departed from Fokalore reached Imeraria, she gathered several people she believes she can trust.
Prime Minister Adol, Royal Guard Captain Sabnak, Vice-Captain Vaiya and Knight Captain Midas. And there’s also the elf Puuse who had been officially employed as counsellor in the castle. As for Imeraria, she wanted to have the former Knight Captain Lotomago with her as well, but she felt awkward to involve someone who retired already.
“Moreover I want his abilities to be summarized and inspected once again.” (Imeraria)
“That is... what is your objective, Your Majesty? If possible I’d like you to tell us...”
“You don’t understand?” (Imeraria)
Due to the fact that it’s a talk that mustn’t be heard by others, they use the room for conferences as venue and even the maids have been kept out of the room.
In such circumstances Imeraria made Puuse sit next to her and is looking into the eyes of each of the men.
“You want to know Hifumi-san’s character... is what you are saying, after such a long time?”
“Right. It’s now after such long time. Having been manipulated by the things that man accomplished and did, I forgot to learn what kind of person that man is. ... Besides, it’s also about Hifumi-sama’s way of fighting.” (Imeraria)
“Concerning the tactics invented by Earl Tohno, it’s not limited to our country, but also has been widely and openly made available to Vichy and Horant by him sending instruction units...”
Imeraria countered Vaiya, who advised her with all due respect, with a question.
combat technique
Vaiya is at a loss for words.
“I realized after participating in the dispute with Horant the other day. The protection of Horant, which was trained by a unit dispatched from Fokalore, is at that level and also I heard that everyone of the instruction unit that got killed had received Hifumi-sama’s guidance for a long time, but even so they still died due to Horant’s attacks. I saw the strength of Hifumi and Origa-san who directly received his guidance, but do you feel as if there’s a great difference between those?”
The one who deeply nodded at Imeraria’s opinion was Midas.
“Certainly. Earl Tohno’s movements are unique. There’s no one who can compare to his unmatched strength. The character of someone that accomplishes moving with a large number of soldiers is different. It’s difficult for me to express it, but isn’t making use of troops as he has been teaching a motion so that one doesn’t have to fight by themselves?” (Midas)
“I see. It’s surely as you say, Midas-san. That man likes to fight by himself. He hates someone else stealing his enemies.”
Sabnak agrees and Vaiya consents as well.
“Are you saying then that you wish to investigate the movements of Earl Tohno as individual, Your Majesty?”
Starting with the former Third Knight Order, Imeraria solidified her foundation through the military faction. Having said that, I wonder about him being a research subject for her as queen
against the person called Earl Tohno.” (Imeraria)
The atmosphere of her major vassals becomes tense straight away.
Although they open their eyes widely, no one tries to open their mouth. What’s filling them is fright and worry. None of those present at this place except Puuse knows someone who lived after after opposing Hifumi.
Imeraria predicted that reaction.
“As everyone thinks, it’s a dangerous objective. It’s something that should be carried out carefully and discreetly. Hence, the investigation is a preparation for that.” (Imeraria)
“Umm... is that all right with you?” (Sabnak)
The one asking uneasily is Sabnak. According to his position he wants to prevent Imeraria approaching danger. He wants to stop it, but if it’s her will, that’s not going to happen.
Him getting her to change her mind by herself would be the best solution, but there’s no hesitation in Imeraria’s look.
“I have already decided. For the sake of protecting not only this country but also this world, that man’s existence isn’t necessary anymore.” (Imeraria)
“I’m well aware that I’m saying something selfish”, Imeraria explains.
“As long as that man exists, he will likely continue to manipulate this country and this world. A lot of blood will flow and countless disasters will be brought forth. ... I also won’t deny that I have a personal grudge.” (Imeraria)
Imeraria didn’t talk much about her family that had been killed by Hifumi. “That doesn’t mean that I forgave him”, she simply mutters.
“As for the method; I’m planning to use the magic sealing formula which I researched after it was discovered by Adol-san. Besides, I will have Puuse-san cooperate with us as well. As first step in order to make the sealing a success, we will use barrier magic.” (Imeraria)
For the sake of obtaining this assistance, Imeraria promised Puuse protection and cooperation with the elves and the beastmen who became their friends, but since that also has merits for Orsongrande, it’s close to an assistance without any compensation.
“And I have asked for the assistance of another certain person in order for the plan to definitely succeed. I have already gotten their agreement.” (Imeraria)
Imeraria, who had talked for an unusually long time, suddenly felt a her throat being dry. She noticed that she had become tense without realizing it before.
She wets her throats with no more than a mouthful black tea.
“... It’s Hifumi-sama’s wife, Origa-san.” (Imeraria) |
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} | ビロンが放った使者は、馬を使ってはいたもの人の格好をしていた。貴重な調味料の包みを背負い、何かあれば商人だというようにと命じられている。
騎士や兵士、貴族などに会ったとして、相手が王子派か王女派かわからない状態では迂闊に援護を求めることはできない。兵や騎士を見かけても無視し、とにかくフォカロルのに直訴するようにと言い含められていた。
「王都へ来た目的は?」
「フォカロルまで香辛料を売りに行くので、その途中です」
今の王都では出入りが制限はされないまでも検問が設置されており、国境と同様の確認がなされていた。担当するのは士隊の騎士たちであり、他の騎士隊の動向を警戒しての事だった。
「へえ、それは注文があっての事かい?」
質問をしていた女性騎士の後ろから、サブナクが首を突っ込んできた。
踏み込んだ質問をされ、使者は一瞬息を飲んだが、ビロンに指示されていた内容を思い出す。
「ええ、フォカロル領主のトオノ様より、王都の商会を通じて注文がありまして......」
「嘘だね」
「一二三さんはそこまで食事にこだわってないし、王都に来た時に武器屋と奴隷屋と宿屋以外は屋台くらいしか利用してないんだ。香辛料なんて発注したりしてないよ。はい拘束」
サブナクに言われ、周りの兵たちが使者を手早く拘束して縛り上げる。
「な、なぜ......」
「多分、ぼくたち第三騎士隊ほど一二三さんに詳しい人はいな......オリガさんを除いたら、いないよ」
残念でした、と笑うサブナクに、使者はこのまま拘束されて時間を食うよりも、第三騎士隊だという相手に賭けてみることにした。主であるビロンの目的を考えれば、罰を受けたとしてもそれが今できる最善の策だと思えたのだ。
「じ、実は......」
「うん?」
使者は自分の懐にある一二三宛の書状をサブナクに見てもらうよう伝え、ミュンスターの戦況を説明した。
書状にあるビロンのサインを確認したサブナクは、使者の拘束を解き、すぐに王城へと着いてくるように言った。
フォカロルは今、武官や兵士は暇で、文官は目が回るような忙しさの只中にあった。これといった戦闘も無く、魔物は冒険者たちで充分に対処できている。一二三に殺されて多少冒険者の数が減ったアロセールも、フォカロルから何人かの冒険者が移動して、数としては問題無いらしい。
結果として、領軍の兵たちは交代で訓練を行いながら、一二三に指導された集団戦についてアレコレと討論したり、ドワーフのプルフラスと協力して、一二三が考案していた武器のテストを行ったりしている。
文官は新領地からの文官候補への教育準備や新たな領民の戸籍調査、数が増えた職員や兵士の世話など、誰ひとり余裕がある者はいない。
鉄面皮カイムも、表情はそのままで歩く速さは通常の2倍になっている。余計に声をかけにくくなったので、代わりに担当がかぶるブロクラに職員からの報告が集中し、こちらもパンク寸前になっている。
軍が暇ならと応援に呼ばれていたミュカレも、忙しく働いている。そこへ、領軍と共に街の外で訓練をしていたはずのアリッサが走ってきた。
「ミュカレさん!」
「アリッサさま、相変わらず可愛らしいですが、どうされました?」
極上の笑顔で迎えるミュカレに、通りかかったカイムも近づいてきた。
「貴女はもう少し欲を隠す努力をしなさい。軍務長官どの、何か緊急事態ですか?」
「あ、うん。ヴィシーの中央委員会? とかいうところから来たって人がいて、1階の待合室に待ってもらってるんだけど......」
ヴィシーの体制に詳しくないアリッサは、中央委員会と言われてもよくわからなかったらしい。門の前で整列しているところに声をかけられ、どうしていいか分からずに連れてきたという。
「国境からは連絡がありませんでしたが......わかりました。後は私とミュカレで対応いたしますので、お任せください」
「うん、よろしくね」
巻き込まれたミュカレは、走り去るアリッサに虚しく手を伸ばした。
「ああ、仕事が一段落したら影から観察しようと思ってたのに......」
「そんな暇があるなら、仕事をしてください。私は館に近い宿を用意しますから、貴女は領主不在の説明をして、滞在されるなら宿へ案内し、帰られるなら要件を伺っておいてください」
さっさと行ってしまったカイムの背中に、あんたと違って潤いが必要なのよとつぶやいて、ミュカレが一階へ向かおうとしたところで、一人の兵士がやってきた。
「ミュカレさん、国境から連絡があり、ヴィシーからの使者がこちらに向かっていると......」
「さっき聞いたわよ。中央委員会から来て、一階で待ってもらってるから」
「あれ? 中央委員会の一人であるミノソンという人物の個人的な使者ということで、今街の入口で待機していただいているんですが......」
兵士の言葉に、ミュカレは頭を抱えた。
「ヴィシーの内輪揉めをこっちに持ち込まないでよ......。取り敢えず、今は領主が不在だと伝えて、待つつもりなら門に近い宿に逗留してもらって」
これは、早く一二三に帰ってきてもらわないといけないとミュカレは思った。
「迎えでも出そうかしら」
とにかく、一二三の判断が下るまでは、使者たちが鉢合わせするのだけは阻止しなければと、他の文官たちとの会議をする事を決めた。
今までは亡き王や次期王たる王子に遠慮して使用を控えていた謁見の間を、イメラリアは先日の戴冠宣言から利用するようになった。宰相からの提言ではあるが、弟を守るために自分の基盤を固めると決めた手前、必要な措置だとは思う。
流石に玉座には座らず、立ったままでいるイメラリアの前には、サブナクとビロンの使者が跪いている。サブナクが前で、使者がやや下がった位置にいるのは、身分の違いによるものだった。
「では、第二騎士隊とビロン伯爵の領軍は危機的な状況にあるということですか」
直言を許された使者の報告に、イメラリアは顔をしかめた。ヴィシー側の戦争もまだ終わっていないところで、あまり聞きたくない報告だった。
「私が出発しました時点では、まだ街を直接攻撃されるほどではありませんでした。ですが、ビロン伯爵は第二騎士隊の損耗を見て、危機は近いと判断し、私を使者として援軍を請うことを選択いたしました」
「その要請が王城ではなく、一二三伯爵に対してというのはなぜでしょう?」
イメラリアの疑問に、使者は顔いっぱいに汗をかいて口ごもった。下手に答えれば自分はもとより、ビロン伯爵が王家を軽視したと取られる。領地が近いとか窮地の間柄だからという理由は使えない。
何も言えずにいる使者に、サブナクが助け舟を出した。
「イメラリア様、これはビロン伯爵が王城の混乱に巻き込まれるのを避けた結果かと」
それを言っていいのかと使者は思ったが、もう黙っているしかない。
「失礼ながら、我々騎士隊を含め、王城に関わる者は王女派と王子派に別れており、イメラリア様が宣言されましたその以前から、水面下では勢力争いはございました。その中で、ビロン伯爵は立ち位置を保留されていましたので、王城にいる者の誰に話をしても、どちらかの派閥に頼ることになります」
「それがどうして、一二三様へ話が行くことになるのですか?」
「おそらく、ビロン伯爵はイメラリア様にお味方する事を選ばれたのでしょう。ですが、ビロン伯にはまだ、先日のイメラリア様の宣言や第一騎士隊の脱出の話は伝わっていないはずです。ですから、派閥が絡み合う王城へ接触するのは避け、今の国内の最大戦力とも言えるうえ、外聞的には王女派の筆頭である一二三さんへ直接要請する事を選んだのでしょう」
「なるほど......。サブナクさんは、ビロン伯爵の事をよくご存知のようですね」
「姉の嫁ぎ先ですので。ビロン伯の事はある程度わかります」
そういえばと、イメラリアは随分前に顔を合わせたビロン伯爵の妻を思い出していた。当時まだサブナクは騎士になっておらず、幼い自分相手にもちゃんと話をしてくれた可愛らしい感じの女性だった。
「サブナクさん。すぐに兵を率いて......と思いましたが、一二三様の領地運営のお手伝いに行かなければならないのでしたね」
「ええ。そろそろ王都を出る予定です」
義兄の危機ですから、本当はぼくが引き受けたいのですが、とサブナクは頭をかいた。
パジョーから聞いていた評判もあったので、できればサブナクに成果を上げさせて第三騎士隊の中心に据えておきたいイメラリアは、考え込む。
「......そういえば、第三騎士隊には変わった経歴を持った女性がおられましたね」
ふと、一人の騎士の事を思い出したイメラリアだが、名前を覚えていなかった。
「フィリニオンのことでしょうか」
「ええ、お会いしたことはありませんが、若い頃から父親の手伝いで領地運営を手伝っていたとか。父親のアマゼロト子爵の希望もあって騎士をなさっておいでですが、本来は文官としての能力が優秀だとか。彼女に任せましょう」
「一二三様の領地運営の手伝いは、彼女にお任せすると言ったのです。フィリニオンさんにはわたくしからお話しますから、サブナクさんは兵をまとめてすぐにでもミュンスターへ向かってください」
「し、しかし......」
困惑するサブナクに、イメラリアはピシャリと言った。
「構いません。フィリニオンさんには事情を書いた書状を渡しますし、領地の事より戦場がある情報の方に興味がありますでしょう。ビロン伯の使者の方」
「ははっ」
「ビロン伯から任されたお役目に、フィリニオンとその侍従を同行させます。時間を取らせて、申し訳ありませんね」
にっこりと笑った笑顔に、使者はしばし見とれてしまい、慌てて頭を下げた。
「とんでもございません! 私のような一兵卒にまでお気遣いいただきまして、感謝の言葉もございません!」
(免疫無いと、イメラリア様の笑顔は効果あるなぁ)
そんな感想を持ちながら、肩の荷が降りたような、少しさみしいような、騎士としての活躍の場が与えられた喜びもあって、複雑な心境のサブナクだった。
「......で?」
フォカロルに戻ってきた一二三は、早速執務室へ入ってきたカイムとミュカレの説明を聞いてから、面倒くさそうに呟いた。
「おそらく、ヴィシー中央委員会が分裂し始めているのでしょう。情報では、ミノソンという人物は中央委員会でも古株で、代表を務める街もオーソングランデ側から最も遠いようです」
一二三は顎に手を当てて考えた。
どうすれば一番混乱し、戦いが激しくなるだろうか、混乱が大きくなるだろうか、と。
数秒考え、一二三は指示を出す。
「両方、使者もついてきたのも全員、部屋に集めてくれ。直接話をする」
「何をされるおつもりですか?」
「和やかにお話をしようってだけだよ」
カイムの質問に軽く答える一二三を見て、ミュカレは絶対に嘘だと思った。
人数が多く、会議室へ全員が入るとギュウギュウ詰めになる。
そこで、中央委員会の使者たちから、ミノソンの使者たちは睨みつけられて小さくなっている。
「まったく、ミノソン代表は何をお考えか」
「委員会をないがしろにしているとしか思えませんな」
ある程度の地位がある者が来ているのだろう。肥えた二人組がお互いに言い合っている後ろでは、武装した護衛が仁王立ちしている。
ちなみに、領主館に入るのに武装解除はされない。冒険者なども立ち寄るからというのが表向きの理由だが、実際は一二三が“暴れるならそれはそれで”という言葉によるもので、各階に一定量の警備兵が配置される事で職員たちを守っている。
急にドアが開いて、黙って入ってきた一二三が上座の席に座った。その後ろには、オリガが立つ。
「それで、お前らの希望はなんだ?」
いきなり本題を聞かれ、一瞬たじろいだ使者たちだが、委員会からの使者が汗を拭いて話し始めた。
「そ、それは今回の戦争について、和平の交渉をしたいと......」
「それはイメラリアに言え。俺は知らん」
「で、では一時停戦について」
「だから」
一二三は使者を睨みつけて、口をへの字に曲げた。
「そういう面倒な話し合いは王城の仕事なんだよ。いちいちこっちに持ってくるな。和平とか話し合いとかは俺は応じない。戦うなら受けるけどな。そっちは?」
不機嫌もいいところの一二三の視線が自分を向き、ミノソンの使者は肩を震わせた。
おずおずと書面を取り出し、オリガを通じて一二三へ渡す。
「この書面を私たちの代表より預かり、お届けに伺いました。よろしければ、ご返答をいただきたいのですが......」
書面に目を通した一二三は、ニタリと笑ってミノソンの使者を見た。
使者自身も書面の内容を知らされておらず、一二三の反応が理解不能だったが、とにかく機嫌が良くなったらしいことに安心した。
「面白い話が書いてある。この話は全面的に受け入れようじゃないか。内容は王城にも伝えるから、俺だけじゃなく国でも認めることになるだろうな」
「ミノソンとやらには、この話が本当なら、協力は惜しまないと伝えろ」
早速戻って伝えますと言って出て行く使者に、国境までトロッコを使って移動すると良いと伝えた一二三は、話は終わったと退室しようとした。
「ま、待ってください! いったいミノソンは何を......!」
椅子を倒す勢いで立ち上がった中央委員会からの使者たちも、一二三の豹変に内容がきになったらしい。
「ああ、ミノソンが代表の街の、えーっと......」
「ピュルサンです」
「そこ。ピュルサンと周辺の村はヴィシーを抜けて独立した国家になるから、俺に認めて欲しいとさ」
「な、なんと......」
これは裏切りだ、すぐに中央に知らせねば、いやまずはオーソングランデ王城へ向かうべきだとと言い合う使者たちに、一二三は冷たく言い放った。
「ここは俺の家だ。戻るも進も自由だが、俺の用事は済んだから、さっさと出て行け」
「わかりました、直ぐに出ていきますので、どうか和平の交渉については......」
「知らんと言っただろう」
不機嫌に鼻を鳴らす。
「敵なら殺す。それだけだ」
今度は何を言われても立ち止まらずに出ていった一二三を見て、使者たちはすごすごと宿へと戻っていった。 | The messenger, dispatched by Biron, used a horse although he donned the appearance of an ordinary citizen. Burdened with a bundle of valuable seasonings, he has been ordered to say he is a merchant if something were to happen.
As he met nobles, knights and soldiers, without knowing whether they belong to the prince or princess faction, he wasn’t able to request their protection. Even if he saw a soldier or a knight, he ignored them. He was given detailed instructions to appeal directly to Hifumi of Fokalore anyway.
「What’s your purpose in coming from the capital?」
「It’s on the way since I want to go until Fokalore to sell the spices.」 (Messenger)magic
Even if the coming and going to the current capital hasn’t been restricted yet, inspections, doing check ups similar to the ones at the national border, have been set up. The knights of the Third Knight Unit being in charge of that, looked out for the movements of the other knight units.
「Hee, is this something that has been ordered?」 (Sabnak )
Sabnak poked his nose into this affair from behind the asking female knight.
The messenger had his breath taken away for an instant due to the meddling questioning, but he recalled the details of the instructions he had received from Biron.
「Yes, it is an order from the Lord of Fokalore, Tohno-sama, I received through a company in the capital...」 (Messenger)
「That’s a lie.」 (Sabnak)
「Hifumi-san isn’t this fussy over his meals. Since the time he arrived at the capital he used nothing but food carts with the exceptions of his inn, the slave shop and the weapons dealer. He hasn’t ordered anything like spices. OK, restrain him.」 (Sabnak)
Upon Sabnak’s words, the surrounding soldiers quickly restraint the messenger by tying him up.
「W-Why... ?」 (Messenger)
「Probably there is no one who knows Hifumi-san as well as us, the Third Knight Unit... excluding Origa-san.」 (Sabnak)
“Bad luck,” Sabnak laughs. The messenger decided to try betting on the other party, called Third Knight Unit, rather than wasting time and lets himself get restrained. Considering the main goal or Biron, he judged this to be the best he could do currently even if he were to be punished later on.
「A-Actually...」 (Messenger)
The messenger lets Sabnak see the letter directed at Hifumi-san situated in his breast pocket that explained the progress of the battle at Münster.
Sabnak, having confirmed the signature of Biron on the letter, released the restraints of the messenger and told him to immediately go to the royal castle.
In Fokalore the civil officials currently were in the middle of their hectic work close to feeling faint whereas the officers and soldiers had free time. The adventurers are plenty in dealing with the monsters without it even being any significant combat. Even in Arosel, where Hifumi had decreased the number of adventurers by killing some, there doesn’t seem to be any problem in regards to the numbers as some of the adventurers have moved over from Fokalore.
As a result, while the territorial army’s soldiers are practicing in turns, the group of forces, Hifumi had coached, are debating about this and that. The weapons, invented by Hifumi in cooperation with the dwarf Pruflas, are undertaking tests.
The civil officials are preparing to educate the civil official candidates from the new territories and are making a new family register of the territory’s population.The increased number of staff members and soldiers are helping out. Not a single person has time.
Even the impudent Caim, with his usual facial expression, has increased his normal walking speed by two times. Since it became difficult for him to call out to the too many staff members, their reports are concentrated at Brokra, who assumed responsibility instead. But even he is on the verge of bursting.
Miyukare has also summoned the vacating army forces as assistance, getting them engaged in work. Right then, Alyssa, who should be training together with the territorial troops outside the city, came running.
「Alyssa-sama, although you are as lovely as ever, what has happened?」 (Miyukare)
As Miyukare welcomed her with her best smile, Caim, who happened to pass by, approached as well.
「Put more effort into concealing your desire a bit better. Director of Military Affairs-sama, is there some emergency?」 (Caim)
「Ah, un, the central committee of Vichy? or called something like that, a person has told me they came from there. Have them wait at the waiting room on the first floor, but...」 (Alyssa)
Alyssa, not quite informed about the system in Vichy, didn’t understand well the thing called central committee either. Being called out at the place, where people line up in front of the gate, she brought him along without comprehending what would be good.
「Even though there was no contact from the national border... Understood. Please leave it to us since Miyukare and I will deal with it.」 (Caim)
「That’s a...」 (Miyukare)
「Un, please take care of it.」 (Alyssa)
Miyukare, being dragged into it, reached out her hand towards the running-away Alyssa in vain.
「Ah, despite me looking forward to observe her from the shadows after reaching a point where I can take a break from work...」 (Miyukare)
「If you have this kind of free time, then please do your work. Since I am arranging for inns close to the mansion, you will explain the Lord’s absence. If they want to stay, lead them to an inn. If they want to go back, ask them about the reason of their visit, please.」 (Caim)
Murmuring ‘Unlike you , I need some warmth,’ towards the back of Caim, who put an end to his instructions by quickly leaving, Miyukare went towards the location of the first floor. A single soldier came around.
「Miyukare-san, there is a message from the national border. A messenger is heading towards here from Vichy...」 (Soldier)
「I heard that already. He hails from the central committee. We have him waiting on the first floor.」 (Miyukare)
「Huh? It’s the personal messenger of a person called Minoson, being one of the central committee. We are currently having him waiting for further instructions at the entrance of the city...」 (Soldier)
Miyukare was at her wit’s end due to the words of the soldier.
「Don’t bring Vichy’s internal troubles over here... For now I have to inform them about the Lord’s current absence. If the messenger intends to wait, have him stay at an inn close to the gate.」 (Miyukare)
‘This will be hopeless, if Hifumi doesn’t come back soon’, Miyukare thought.
「Let’s start by greeting them.」 (Miyukare)
At any rate, until Hifumi’s makes his decision, the messengers will only bump heads, if they aren’t kept in check. She decided to discuss this matter at the meeting with the other civil officials.
Until now Imeraria restrained herself from excessively using the deceased king and the next-to-be king as political arguments. But it had reached the point where she made use of them in the coronation announcement the other day. Although it had been a recommendation from the prime minister, she decided beforehand to strengthen her own foundation for the sake of protecting her younger brother. She considered this to be a necessary step.
Without sitting on the throne as one would expect, Imeraria stood in front of the kneeling Sabnak and the messenger from Biron. With Sabnak in front, the messenger was in a place of having moved back a bit as he was someone with a different social status.
「Then you are saying that the Second Knight Unit and the territorial army of Earl Biron are in a dangerous predicament?」 (Imeraria)
Due to the report of the messenger, who had been allowed to speak directly to her, Imeraria frowned. With the war on Vichy’s side not having yet finished either, it was an information she didn’t really want to hear about.
「At the time of my departure the city still hadn’t been directly attacked. But, observing the losses of the Second Knight Unit and judging the danger to be imminent, Earl Biron chose me to request for reinforcements as messenger.」 (Messenger)
「Why is it that this request hasn’t been sent towards the royal castle but instead towards Earl Hifumi?」 (Imeraria)
The messenger, with a face full of sweat, hesitated to answer Imeraria’s question. If he answered poorly, rather than him being the cause, it would be taken as if Earl Biron was making light of the royal family. A reason, along the lines of ‘the territory is close thus they are in the same dilemma’, can’t be used.
As the messenger wasn’t able to say anything, Sabnak threw him a life line.
「Imeraria-sama, isn’t this the result of Earl Biron avoiding to be dragged into the chaos at the royal castle?」 (Sabnak)
The messenger wondered whether it was fine to say this, but he had no longer any other choice but to remain silent.
「With all due respect, including my Knight Unit, the people, concerned with the royal castle, have been divided into princess faction and prince faction. There was a strife over influence behind the scenes because Imeraria-sama’s declaration from before. Given that Earl Biron’s standing in this situation was still pending, it would come to him having to rely on either faction for even talking to anyone within the castle.」 (Sabnak)
「So how did this talk resulted in flowing to Hifumi-sama?」 (Imeraria)
「Most likely Earl Biron chose this method in order to support Imeraria-sama. But the news of Imeraria-sama’s announcement a few days ago and the prolapse with the First Knight Unit shouldn’t have circulated to the Biron earldom as of yet. Therefore, avoiding to contact the royal castle, entangled in its factions, he selected to directly appeal towards Hifumi-san, who is reputed to be the head of the princess faction and also can be called the strongest internal war potential currently.」 (Sabnak)
「I see... It seems that Sabnak-san is well aware of Earl Biron’s circumstances.」 (Imeraria)
「Since his family is the one my elder sister has married into, I am grasping the circumstances of the Biron earldom to a certain extent.」 (Sabnak)
On that subject, Imeraria recalled that she met the wife of Earl Biron very long ago. In those days Sabnak hasn’t become a knight yet. She was a woman who gave her a lovely impression as she even seriously talked to the other party, who was a lot younger than herself.
「Sabnak-san. Immediately lead the soldiers... though I considered this, it won’t do, if you don’t help with the management of Hifumi-sama’s territory.」 (Imeraria)
「Yes. I have planned to leave the capital any time now.」 (Sabnak)
‘Since my brother-in-law is in danger, I really want to take her up on this’, perspired within Sabnak’s mind.
Because she heard from Pajou about Sabnak’s popularity, Imeraria brooded over her wish to fix him as the core of the Third Knight Unit by raising some accomplishments if possible.
「... Which reminds me, there was a woman within the Third Knight Unit who owned a peculiar personal history.」 (Imeraria)
Imeraria suddenly remembered the situation of a single knight, but she couldn’t recall her name.
「Is this about Phyrinion?」 (Sabnak) (
「Yes, though I haven’t met her yet, she contributed to the administration of a territory with her father’s help since her youth. Following the wish of her father, Viscount Amazerto, she even became a knight, but originally her ability as civil official is excellent. Let’s entrust this task to her.」 (Imeraria)
「Eh?」 (Sabnak)
「I said to leave the assistance in managing Hifumi-sama’s territory to her. Please gather the soldiers and head right away towards Münster, Sabnak, since I will explain things to Phyrinion.」 (Imeraria)
「B-But...」 (Sabnak)
Imeraria told the baffled Sabnak flatly.
「It doesn’t matter. I will give Phyrinion-san a letter explaining the reasons... Rather than the matters of the territory, they will be more interested in the information about the battlefield. Messenger of Biron earldom.」 (Imeraria)
「Ha ha」 (Messenger)
「As for your duty entrusted to you by Earl Biron, you will accompany Phyrinion and that chamberlain. I’m sorry that it will take some time.」 (Imeraria)
The messenger was completely charmed by her lovely smiling face and bowed in a panic.
「Far from it! I am very grateful for receiving your words of consideration towards a single soldier like me!」 (Messenger)
(The smile of Imeraria-sama has an effect as he has no immunity to it.) (Sabnak)
While holding such thoughts, Sabnak had complicated mental state as to whether he should feel relieved of his burden, feel a bit lonely or even be delighted to have been given a chance to play an active role as a knight.
「... So?」 (Hifumi)
After Hifumi, who came back to Fokalore, hears the explanation of Miyukare and Caim, who immediately came entering his office, he grumbled as if it was a bother.
「Most likely the central committee of Vichy is beginning to break up. The person calling himself Minoson is an old-timer within the central committee as well. It seems that the city, where he is working as representative, is the one most distant from Orsongrande.」 (Miyukare)
Hifumi pondered while placing his hand on his chin.
‘What to do to cause the greatest chaos? Should the war become more violent? Or should the scale of the chaos be increased?
After thinking for a few seconds, Hifumi gives his directions.
「Gather everyone from both sides, the messengers as well as those accompanying them. I will talk to them directly.」 (Hifumi)
「What are you planning to do?」 (Caim)
「Merely some harmonious chatting.」 (Hifumi)
Seeing Hifumi easily answering Caim’s question, Miyukare judged it to be a definite lie.
The conference room has become jam-packed when everyone entered as there is a large number of people.
Accordingly it has become a small glaring contest between the messengers from Minoson and the messengers from the central committee.
「Good grief, what is Representative Minoson thinking?」
「We can’t consider this as anything but slighting the committee.」
People, who have a status to some degree, have come. As the two fat men are quarreling with each other, their armed guards are taking an imposing stance.
Incidentally they haven’t been disarmed even though they have entered the Lord’s mansion. The ostensible reason of saying it is because they are dropping in for a short visit as adventurers is used here, but in reality, because of Hifumi’s words “If you want to act violently, then that’s how it is,” a fixed amount of guards has been stationed on each floor for protecting the staff members.
Swiftly opening the door, Hifumi silently entered and sat down on the chair at the head of the table. Origa was standing at his back.
「And, what is your guy’s wish?」 (Hifumi)
Suddenly inquiring about the real issue at hand, the messengers faltered for a moment, but the messenger from the committee, wiping his sweat, began to speak.
「I-It’s concerning the current war. We want to hold peace negotiations...」 (Messenger C)
「Tell this to Imeraria. I don’t care.」 (Hifumi)
「We-Well then, regarding a temporary ceasefire.」 (Messenger C)
「Therefore-」 (Messenger C)
Hifumi glared at the messenger with his mouth crooked in the shape of へ.
「Such bothersome discussion is the job of the royal castle. Do not bring every single matter to me. I won’t accept any peace or discussions. However, if you are looking for a fight, you will get one. That person is?」 (Hifumi)
The shoulders of the messenger from Minoson shook as the gaze of Hifumi, whose displeasure is at the peak, turns towards him.
He takes out a letter while trembling with fear. He passes it to Hifumi through Origa.
「I have been entrusted with this letter by our representative who implored me to deliver it. If it’s alright with you, I wish to receive your reply, but...」 (Messenger M)
Hifumi scanned the letter and looked at Minoson’s messenger laughing smugly.
Without being aware of the contents of the letter himself, it was impossible for the messenger to understand Hifumi’s reaction, but he was relieved that Hifumi at least seemed to be in a good mood.
「There is an interesting story written here. Let’s agree to the entirety of the story. Since I am going to convey the contents to the royal castle, it will also result in being approved by the country and not only me.」 (Hifumi)
「Tell Minoson that he won’t regret the cooperation, if this story is the truth.」 (Hifumi)
「U-Understood!」 (Messenger M)
Hifumi told the messenger, who was leaving in order to quickly return and convey Hifumi’s reply, that it would be fine to use the rail cars for movement until the national border. As the talks had ended, Hifumi decided to exit the room.
「P-Please wait! What the heck has Minoson...」 (Messenger C)
Even the messengers from the committee, standing up with such a force that the chairs were knocked over, felt uneasy about the details that caused Hifumi’s sudden change.
「Ah, the city Minoson represents, eーto....」 (Hifumi)
「It’s Pursang」 (Messenger C) (
「That place. Since Pursang and the surrounding villages have become an independent nation defecting from Vichy, they apparently want me to recognize them.」 (Hifumi)
“This is a betrayal. We have to notify the central government at once!” “No, first we should head towards Orsongrande’s royal castle!” The messengers were disputing. Hifumi bluntly told them in a freezing tone,
「This is my residence. You are free to return or go forward, but since my business with you has finished, get the hell out of here right away.」 (Hifumi)
「Understood, since we will immediately leave, please, concerning the peace negotiations...」 (Messenger C)
「I told you that I don’t care.」 (Hifumi)
He snorts in ill-humor.
「If you are an enemy, I will kill you. That’s all.」 (Hifumi)
Watching Hifumi leaving without stopping this time no matter what they even say, the messengers dejectedly returned to their inn. |
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} | 「彼らは何を考えているのですか!」
珍しく、イメラリアはデスクを叩いた。
状況を伝えにきたサブナクも、口を引き結んでイメラリア同様に怒りの表情を見せている。
ホーラント王スプランゲル崩御の報が届くと同時に、アスピルクエタ伯爵が率いる貴族連合軍が、挙兵してホーラント方面へ向かったとの連絡が届いたのだ。
「ホーラントとの戦争は終わりましたが我が国を狙って攻勢を進めていた王太子を倒した事で、終了したのです!」
乱暴に椅子へ腰を下ろし、紅茶を一口のみ、息を整えた。
「フォカロルへ留学生を送り、ホーラントへもフォカロルから教導兵が行っています。しかも相手国の国王が亡くなった直後......」
「大問題ですね」
「他人事のように言わないでください、サブナクさん」
もう、とイメラリアは手元の紙に向かい、インク壺にペン先をつけた。
「アスピルクエタ伯爵に同調した貴族は.....もいるのですか......」
報告書にある参加貴族の名前と参戦兵数を見ながら、兵数を合計する。
実名もの兵力を動員し、その十分の一程の“お付き”をゾロゾロと引き連れて国境へ向かったらしい。
頭痛を感じたイメラリアは眉間を押さえて、細い指で強く挟んだ。
「この人数、領地の兵士殆どを動員していませんか?」
「おそらくは。狙いは完全にホーラントの占領でしょう。
「以前の士隊の悪夢が、規模を拡大して再現されるかもしれませんね」
サブナクの予測に頷いて返したイメラリアは、コツコツとペン先を紙に当てる。黒いシミが、じわりと広がった。
「......違いますね。今回は一二三様がおられません」
「戦争が起きるのです。駆けつけて参戦されるのでは?」
「それを期待するほど、楽観的にはなれません。それに、あの方を頼る形で解決しても、また同じような事が起きるでしょう」
イメラリアの言葉に、サブナクは疑問を感じた。
「と、申されますと?」
「このリストに並ぶ名前に見覚えがありましたので、ずっと考えていたのですが、ようやく思い出せました」
書類から顔を上げたイメラリアの目は、悲しみを湛えていた。
「お母様の......以前の王妃派の方々です。お母様が亡くなられた後は、事あるごとにわたくしと一二三様に苦言を呈されておられましたね」
影響力と言われると、無きに等しいものでしたけれど、とイメラリアは溜息をついた。議場などで嫌味を言うのが関の山ではあるものの、その嫌味が地味にストレスだった。
「おそらくは」
ペンを置いたイメラリアは、天井を仰いだ。
「一二三様に対抗しようとしているのでしょう。武勲を上げれば発言力を取り戻せるとでも思っているのではありませんか? わたくしが一二三様を扱いきれていないことはわかっているでしょうから、その一二三様を上回る武功があれば、わたくしを押さえつけることもできるだろう、と」
そして、自分たちの傀儡になる人物をわたくしの王配に充てるといったところが狙いでしょう、とイメラリアは言う。
「何というか......失礼ながら、浅知恵としか言い様がありませんね」
呆れた、とサブナクが首を振った。
「その浅知恵が、他の貴族を刺激することもあるのです」
「......して、どのように処しましょう」
「只今を持って、アスピルクエタ伯爵と彼に同調し出兵した貴族たちの地位を剥奪いたします。その家族は全て拘禁してください。処遇は後ほど決定いたします。当主であるアスピルクエタ伯爵他、参加貴族の当主は全て我が国の公敵に指定します。全ての貴族家に対し、彼らを匿うことを禁じ、従わぬ者も罰すると通達を」
「はっ! 承知いたしました」
踵を鳴らし、姿勢を正したサブナクに、イメラリアはさらに言葉を続けた。
「サブナクさん、近衛を含め、造反者を追撃し、ホーラントへの被害を食い止める部隊の編成をお願いいたします。速度を重視し、道中領地を通る貴族からも人数を出してもらうようにお話いたしましょう」
「御意」
「そして、その追撃戦はわたくしが指揮を執ります」
「......はっ?」
サブナクの戸惑いも気にせず、イメラリアは立ち上がった。
「わたくしを女だと思って甘く見ているから、このような行動をする輩が現れるのです。わたくしにも戦えるということをお見せいたしましょう」
きっと見せつけたい相手は造反貴族では無いのだろう、とサブナクは内心でイメラリアの年相応の一面を見たような気がして、少しだけ和んだ。
が、そうも言っていられない。
「わたくしの軍服というものはありませんから、そうですね......乗馬服で良いでしょう。馬上から指揮をすることができますし。用意ができましたら、隊列を組んで出発いたします」
完全にやる気のイメラリアを止める事ができず、サブナクは大慌てで精鋭を選んで護衛隊を編成する羽目になった。
「......そういえば」
イメラリアが何かを思い出し、ポツリとつぶやいた。
「スプランゲル王の後継者とされるネルガルさんが、フォカロルへ留学中でしたわね......」
かなり重要なことを思い出し、イメラリアは退室しようとしていたサブナクを呼び止めた。
「他の貴族たちが、ネルガルさんの所在や立場について知っている可能性はありますか?」
「そうですね......特に秘匿しているわけではありませんから、例えばフォカロルに身内が留学なり出向なりしている貴族であれば、知っているかもしれません」
その言葉に、イメラリアは先ほど見ていた造反者リストに目を落とした。
「......もしわたくしが事を起こすのであれば、ホーラントを取りまとめる旗頭になりそうな人物は最低でも足止めをしようと考えます」
頷くサブナクに、顔を上げたイメラリアが続ける。
「それに、一二三様に対しても、何かしらの足止めをするでしょう。それも、直接本人を相手にするのが無理であれば、近しい誰かを利用して......」
ほんの数秒間、思考を巡らせたイメラリアは、机の上にあるリストを叩いた。
「ミダスさんに連絡してください。彼に十名程の騎士だけの騎馬部隊を率い、すぐにフォカロル方面へ向かうようにと。途中でオリガさんと合流できれば、彼女の護衛もお願いします。ミダスさんであれば、一二三様ともオリガさんとも面識がありますし、柔軟な対応ができる騎士だと聞いておりますから、適任でしょう」
「了解いたしました」
とはいえ、二人共オリガが誘拐や殺害されるとは本気で思っていなかった。ただ、あまり刺激したくない部分をむやみに触られる事が心配だったのだ。
☺☻☺
ホーラント王スプランゲルの最期は、誰にも看取られることのない、しかし穏やかなものだった。
夕食の際に、フォカロルへ留学中のネルガルから届いたオーソングランデ産のワインを愉しみ、赤ら顔で寝室へと入っていくのを侍従たちが見送った。
すでに老齢であったスプランゲルは、気分次第では寵姫と共に眠る事もしばしばあったが、基本的には一人でゆっくりと眠る事を好んだ。
この日も、数名いる寵姫の誰にも声はかからず、一人眠りについた。
そして、二度と目覚める事はなかった。
翌朝、王を起こしに来た侍女の悲鳴から、騒ぎは瞬く間に広まる。
タイミングが悪かったのは、城内にこれといった有力者がおらず、後継であるネルガルも不在。しかも、侍女の叫び声の中を出入りしている民間の商人が聞いてしまった。
王の死は止める者がいないままに城下に広がり、出入りする商人からあっという間に国外へと広まった。
国政に携わる者たちは主導権を握る為に城内での工作に血眼になり、民間に流れる王の崩御の噂は、誰にも止められる事なく、事実として流出した。
当然、オーソングランデから潜入していた者たちから、情報は流れる。
そして、誰もが何もできない状態でいるところへ、オーソングランデが出兵したとの情報が城へと届いた。
「さて、貴兄らをここへ呼んだのは、他でもない。貴兄らの故国から我が国に兵が向かっているという話があった。その事について、だ」
主がいない王城で、政務大臣という地位にあるというスプランゲルと同年代の老人が、呼び出した相手に向かってゆっくりと話し始めた。
「我が国は貴国との......貴兄らの主君との不幸な衝突を経て、平和的で進歩的な交流が叶ったと私は考えておる」
殊更に一二三とその所領たるフォカロルとの近しい関係を強調するあまり、牽制を狙ったような言い回しになっているが、本人は気づいていない。
それだけ、余裕がない。
「大臣様のおっしゃるとおりですな」
対して、答えを返したのはホーラントに派遣された教導隊の隊長を任されたマ・カルメという妙な名前の男だった。一二三からカルメが名字かと聞かれ、家名などない平民で、どっちも名前だと答え、すぐに名前を覚えられたという。
兵士としては軽装で、革の胸当てだけを付け、城に入る時に預かられてしまったが、いつもは腰に大ぶりのナイフと鎖鎌をジャラジャラとぶら下げている。
無精ひげが目立つ、粗野なイメージの風貌だが、何かと周囲をよく観察していて行動の選択も早いので、誰かの指導をするのも少数の部隊を率いるのもソツなくこなす。
「だからこそ、うちの大将......トオノ伯爵様は俺たちをここへ派遣したんでしょうな。......で、それがどうかしましたか?」
「ぐ......」
真正面から問われ、大臣は奥歯を噛み締めた。
ここで選択を間違えば、教導隊がそのまま侵略部隊になりかねない。
「しょ、正直に言おう。貴兄らの国から送られてくる兵士たちを説得し、戦闘を回避することに強力して欲しい」
「はぁ。説得ですか......」
短く刈り込んだ髪をぐしぐしと掻き、マ・カルメは唸った。
「そいつぁ、オーソングランデ国境のビロン伯爵がされるでしょうよ。どう考えても姫様の、おっと、女王陛下のお考えでの行動ではないでしょうからね」
マ・カルメの言葉に、大臣は安堵の表情を見せた。
だが、マ・カルメは続ける。
「まあ、無駄でしょうがね。うちの大将みたいに派手な戦果でも上げない限り、単なる馬鹿扱いですから。無理矢理にでも押し通って、一定の戦果を上げるまでは引くに引けないでしょうな」
何か、勝機があってのことでしょうから、それの結果が出るまでは諦めることは無いでしょう、とマ・カルメは続けた。
「それでは......では、貴兄らは......」
怯えたような顔をする大臣に、マ・カルメは顎をザラリと撫でて笑った。
「説得なんぞはできませんが、俺たちは戦う事はできますんでね」
懐から一枚の羊皮紙を取り出したマ・カルメは、右手でつまむようにぶら下げて見せた。
「ビロン伯爵から救援要請が来ておりますんでね。“ビロン伯爵領、ひいてはオーソングランデに不利益をもたらさんとする輩に対応するため、助力を乞う”と来ましたわ。わはは、こういう言い回しをされると、俺たちは断れませんわな」
いやぁ、参った参ったと笑う。
「それにですな」
笑顔ではあるものの、その目は鋭く光を放った。
「俺たちが頑張ってホーラントの兵を訓練したのは、こんな名誉欲なんぞに目が眩んだ阿呆どもとくだらん戦闘をするためじゃないんだよ」
クソが、と吐き捨てると、元の笑顔に戻った。
「国境あたりの場所をお借りしますんでね、あんたがたは俺たちがやられた時の為に準備でもしておいてくださいな。まあ、そうならないように努力はしますがね」
久々の実戦で腕が鳴りますわ、と高笑いをあげて出ていったマ・カルメを、大臣は呆然と見ているだけだった。
☺☻☺
「ほう、あの爺さんが死んだのか」
「正式な報告は来ておりませんが、おそらくは間違いないでしょう。続報をただ待つわけにはまいりませんので、一度帰郷したいと思いました次第で......」
スプランゲルの死の知らせを受けたネルガルは、真っ先に一二三がいる領主館を訪ねた。
急ぎ帰国したいのはやまやまだが、国策として留学している以上、当地の代表者に断りなく土地を出るわけにも行かない。
「幸い、ホーラントから連れてきている護衛たちもおり、馬や馬車もあります。まずは急ぎ戻ってみようかと考えております」
本来であれば、王を継ぐ立場であるネルガルは、オーソングランデのいち貴族に過ぎない一二三よりも上位者のはずであるが、互の態度は全く逆転している。
一二三一人にこてんぱんにやられたという恐怖もあったが、フォカロルで学び取ることができた内容に心服したため、という一面もある。
「ご迷惑をお掛けしないように努力いたしますが、ここで学んだ事を生かし、ホーラントを良い方向へ導くことができれば、と」
一通りの挨拶を済ませたネルガルは「またお会いしましょう」と挨拶をして、フォカロルを出て行った。
「真面目な奴だな。別に気にせず帰れば良いのに」
自分の影響力をいまいち正確に把握していない一二三は、ソファの背もたれに身体を預けて、腕を思い切り上に上げて背筋を伸ばした。
「んん~......ヴィシー側も動かないからな。これは騒ぎが起きるまでしばらく待たされるかもな」
焼き菓子を紅茶で流し込み、一二三はあくびを隠そうともしなかった。
「平和だなぁ、つまらん。かと言って、俺から動いてもしょうがないんだよな......ちょっとプルフラスの工房にでも行ってみるか」
身体を動かさないと落ち着かないな、と散歩がてらの武器開発に勤しむことにした一二三は、刀を腰にぶち込み、悠々と出て行った。
だが、その夕方にはフォカロル中が騒がしくなる事になる。
アリッサが、負傷した状態で領主館へ運び込まれたのだ。 | “What are they thinking!?” (Imeraria)
Totally unusual of her, Imeraria hit the desk.
Even Sabnak, who came to tell her the news, shows an enraged expression while pursing his lips just like Imeraria.
At the same time as the the information about the death of Suprangel, Horant’s king, reached them, they got a message that an alliance of nobles led by Earl Aspilketa
“The war with Horant was over! It was finished with Hifumi-sama defeating the crown prince who started an offensive against our country!” (Imeraria)
Sitting down on her chair violently, she calmed her breath while sipping some black tea.
“They have sent exchange students to Fokalore and there are also soldiers who have gone to Horant from Fokalore to instruct over there. Moreover, right after the king of an allied country passed away...” (Imeraria)
“It’s a big problem.” (Sabnak)
“Please don’t talk as if it’s someone else’s problem, Sabnak-san.” (Imeraria)
“Good grief”, Imeraria faces a paper close at hand and dibbled the pen in the inkwell.
“The households supporting Earl Aspilketa... there’s even eight houses involved...?” (Imeraria)
While looking at the report listing the names of the participating nobles and the amount of soldiers they provided, she adds up the total number of soldiers.
Actually mobilizing military forces of around , they have apparently departed towards the border in groups by each group taking a th of the total amount as “escorts.”
Feeling a headache, Imeraria placed her slender finger strongly on her brow and curbed it.
“Haven’t they mobilized almost all of their territorial soldiers with these numbers?” (Imeraria)
“I fear that it’s likely so. Their aim is probably to completely take over Horant. I guess brother-in-law is... no, Earl Biron will confine them, but... likely they will cut their way through due to the numerical difference.” (Sabnak)
“The nightmare of the former Second Knight Order might be re-enacted on a larger scale.” (Sabnak)
Imeraria, who returned a nod towards Sabnak’s prediction, drums on the paper with the pen nib. A black stain spread slowly.
“... It’s different. This time Hifumi-sama won’t be there.” (Imeraria)
“A war will occur. Won’t he come running to participate in it?” (Sabnak)
“Expecting that to some degree, we can’t get too optimistic. Besides, even if it’s settled by relying on that gentleman, something similar will probably occur again.” (Imeraria)
Sabnak felt a doubt due to Imeraria’s words.
“So, you are saying?” (Sabnak)
Since I had a memory about the names lined up in this list, I pondered about it for the whole time, but finally I recalled it.” (Imeraria)
The eyes of Imeraria, who lifted her face from the document, were filled with sadness.
“They are all members of mother’s... the previous queen’s faction. After mother had died, they offered candid advice to me and Hifumi-sama at every opportunity.” (Imeraria)
Although the most they could do was spouting sarcastic remarks in the assembly hall, that sarcasm was plainly stressful.
“Perhaps,” (Imeraria)
Putting down the pen, Imeraria looked up to the ceiling.
“They are trying to oppose Hfumi-sama. Aren’t they believing that they can regain their influence if they raise deeds of arms? Since they likely know that I won’t stop treating Hifumi-sama the way I do, they think that they will be able to suppress me if they achieve deeds of arms exceeding those of Hifumi-sama.” (Imeraria)
“And they are probably planning to assign a puppet of theirs as my prince consort”, Imeraria says.
“What to say...? With all due respect, I can’t call that anything but shallow thinking.” (Sabnak)magic
“I’m shocked”, Sabnak shook his head.
“That shallow thinking is something that will incite the other nobles as well.” (Imeraria)
“... Thus, how will you deal with it?” (Sabnak)
“Right now I’m revoking the status of Earl Aspilketa and the nobles who dispatched their troops together with him as support. Please arrest all of their family members. I will decide their fate later on. Designate Earl Aspilketa, who is the household’s head, and all the other family heads of the participating nobles as our country’s public enemy. Notify all noble households that those, who don’t abide to the prohibition of sheltering them, will be punished.” (Imeraria)
“Ha! At your command!” (Sabnak)
Imeraria continued to speak to Sabnak who straightened himself with his heels clinking together.
“Sabnak-san, I want you to form a unit including the royal guards to pursuit the rebels and restrain the damage to Horant. Put emphasize on speed. I will convey to the nobles, who are along your way, that I want them to dispatch soldiers.” (Imeraria)
“At your will.” (Sabnak)
“And, I will take command in this pursuit battle.” (Imeraria)
“... Ha?” (Sabnak)
Not minding Sabnak’s bewilderment, Imeraria stood up.
“Since I’m not taken seriously considering that I’m a woman, fellows, who do things like that pop up. Let me show them that I’m able to fight as well.” (Imeraria)
Undoubtedly, the one she wants to show that aren’t the rebelling nobles,
Though, it’s not like he can voice it out either.
“Since there’s nothing like a military uniform for me, let’s see... it will be alright with a riding habit. I will be able to give out commands from atop a horse. We will depart together with the troops once the preparations are in order.” (Imeraria)
Unable to stop the completely motivated Imeraria, Sabnak ended up with quickly organizing guard unit by choosing the elites.
“... Which reminds me...” (Imeraria)
“I have remembered something”, Imeraria muttered a few words.
“Nelgal-san, who is supposed to be the successor of King Suprangel, is studying abroad in Fokalore...” (Imeraria)
Recalling something quite important, Imeraria stopped Sabnak who was about to leave the room.
“Is it possible that the other nobles are aware of Nelgal-san’s whereabouts and situation?” (Imeraria)
“Let’s see... as we haven’t particularly hidden the facts, they might know about it if there are for example nobles who have their relatives study in Fokalore.” (Sabnak)
Upon those words Imeraria lowered her eyes on the list of rebels she had checked previously.
“... I think we have to at least confine those who look like they could become leaders to gather Horant if I cause a disturbance.” (Imeraria)
Due to Sabnak agreeing, Imeraria raised her face and continued,
“Besides, regarding Hifumi-sama, I guess we will keep him away some way or another. Even so, if it proves impossible to deal with the person himself directly, we will use someone close to him...” (Imeraria)
Imeraria, who came up with those thoughts in a mere few seconds, hit the list laying on the desk.
“Please contact Midas-san. Tell him to immediately head towards Fokalore while leading a mounted unit of knights. If he’s able to join up with Origa-san on the way, have him act as her escort, please. If it’s Midas-san, he is acquainted with Hifumi-sama as well as Origa-san. As I have heard that he is a knight who is able to deal with them flexibly, he is suitable for the task, I think.” (Imeraria)
“Understood.” (Sabnak)
Be that as it may, neither of them really considered that Origa would actually get kidnapped or killed. However they were worried about recklessly stirring up matters at parts they didn’t want to get overly much provoked.
☺☻☺
The last moments of the King of Horant, Suprangel, were gentle although no one took care of him.
Enjoying a wine produced in Orsongrande, which arrived from Nelgal who is studying in Fokalore, during his dinner, he was seen off by the chamberlains as he entered his bedroom with a red face.
Suprangel, who was already at an advanced age, often slept together with one of his favourite mistresses depending on the mood of the moment, but he basically liked to go sleep at ease by himself.
On this day he also fell asleep alone without calling out to one of his several favourite mistresses.
And, he never woke up again.
The next morning an uproar spread in the blinking of an eye due to the scream of the maid who came to wake the king up.
What made the timing bad was the absence of the heir, Nelgal, and for there being no influential person within the castle at that time either. Moreover, the civilian merchants, who were coming and going, heard the maid’s scream inside.
Spreading the news of the king’s death to the vicinity of the castle without there being anyone stopping it, the coming and going merchants spread it outside the country in a flash.
Going into a frenzy to manoeuvre within the castle to seize the initiative, the people, who engage in the national politics, circulated the rumour of the king’s death to the civilians as truth without being stopped by anyone.
Naturally the news are circulated by those who infiltrated from Orsongrande.
And, in that situation where no one can do anything, the information of Orsongrande dispatching its troops reached the castle.
“Well then, there’s no one else but those of you I called here. There are talks that soldiers are heading to our country from your own country. It’s about that.”
In the royal castle, which misses its lord, an old man, who hails from the same generation as Suprangel and who possesses the position of Minister of Government Affairs, began to speak slowly while facing the other party he had called.
“I have thought that our country realised a peaceful, progressive exchange after experiencing a disastrous clash with your country... with you guys’ lord.”
Deliberately stressing the close relationship with Hifumi and Fokalore, which is his territory, it turns into a wording aiming to restraint them, but the people themselves haven’t noticed.
They don’t have that much leeway.
“It’s just as you say, Minister-sama.”
In response, a man with the strange name Ma Kalme, who was entrusted with the task of being the captain of the instruction unit which was dispatched to Horant, gave an answer. Being asked whether his family name is Kalme by Hifumi, as commoner, who has no family name, he answered that both of them are his name and that name was memorable right away.
Only wearing a leather breastplate as light armour for a soldier, he ended up handing over his weapons at the time they entered the castle, but usually a large knife and a kusarigama are hanging at his waist while clinking.
Although his appearance gives a rustic impression with the conspicuous unshaven face, he handles leading a small unit flawlessly even if he is led by someone since he chooses his next action swiftly after properly observing his surroundings one way or the other.
“That’s why our boss... Earl-Tohno-sama dispatched us to this place. ... So, what’s wrong with that?” (Ma)
“Gu...”
Being asked directly, the minister gritted his molars.
If he makes a mistake in his choice here, the instruction unit might change into an aggressive unit just like that.
“L-Let’s talk honestly. I’d like to borrow your strength to avoid a battle by you persuading the soldiers who have been dispatched by your country.”
“Haa. Persuade, you say...” (Ma)
Scratching his shortly cut hair while grumbling, Ma Kalme groaned.
“That lot will likely be held back by Earl Biron at Orsongrande’s national border. No matter how I think about it, it’s probably not an action intended by the princess, ooops, Her Majesty, the Queen.” (Ma)
The minister showed a relieved expression due to Ma Kalme’s words.
However, Ma Kalme keeps going.
“Well, it’s probably pointless. As long as they don’t raise flashy military gains like our boss, they will be treated as simple idiots. Forcing their way through, they probably won’t pull back until they obtain a certain amount of military gains.” (Ma)
“As there’s likely some way for them to have a chance for winning, they won’t give up until they can realize results with that”, Ma Kalme continued.
“Well then... then, you guys...”
Ma Kalme laughed while stroking his chin roughly due to the minister having a frightened face.
“We won’t be able to persuade them, but we are able to fight them.” (Ma)
Ma Kalme, who took out a single parchment from his pocket, swung it around after picking it up with his right hand.
“A support demand has arrived from from Earl Biron stating “I request assistance in order to deal with the fellows who are trying to not only cause disadvantages to Biron Earldom but also to Orsongrande” came. Wahaha, if he phrases it like that, we won’t be able to refuse.” (Ma)
“Weelll, I give up, I give up”, he laughed.
“In addition to that.” (Ma)
Although he smiled, his eyes had a sharp glint.
“The soldiers of Horant who we did our best to train aren’t for the sake of fighting such retarded battle with idiots, who got lost in greed and prestige.” (Ma)
“Shit!”, he spit out and his former smile returned.
“We will borrow a location close to the border. Please also get ready in case we get done in by the other group. Well, we will do our best so that it doesn’t happen though.” (Ma)
“I’m itching for a real battle as it’s been a while”, the minister just looked dumbfound at Ma Kalme who left while laughing loudly.
☺☻☺
“Hoo, that old man died, huh?” (Hifumi)
“The official report hasn’t arrived yet, but there’s likely no mistake in that. Since there’s no point in simply waiting for the follow-up report, I immediately wanted to return home once...” (Nelgal)
Nelgal, who received the notification of Suprangel’s death, first visited the feudal lord’s mansion where Hifumi is located.
He really wants to return to his own country in a hurry, but seeing that he is studying abroad upon a national policy, it won’t do if he leaves the area without notifying the representative of this place either.
“Luckily there are also the guards I have brought along from Horant. And we have horses and a carriage, too. I’m pondering whether I should return quickly first.” (Nelgal)
By all rights, Nelgal, who has the status of succeeding as king, should be someone above Hifumi, who is no more than single noble of Orsongrande, but the attitudes of both are completely reversed.
He was afraid that he would be beaten black and blue by Hifumi himself, but there’s also a part of him that admired the material he was able to learn in Fokalore.
“I will do my utmost to not cause you any kind of troubles, but I will be able to lead Horant in a good direction with the things I studied here.” (Nelgal)
Nelgal, who finished his brief farewell, said 「Let’s meet once again」 and left Fokalore.
“He is a diligent fellow. Although it’s alright for him to return without minding me in particular.” (Hifumi)
Hifumi, who doesn’t quite grasp his own influence, entrusted his back to the sofa and raised his arm with all his might while straightening his back.
“Mmh~... Vichy’s side hasn’t moved. This might have to wait for a while until they cause an uproar.” (Hifumi)
Washing down the baked sweets with black tea, Hifumi didn’t hide his yawn.
“What a boring peacefulness. Having said that, it can’t be helped even if I make a move...shall I try going to the workshop of Pruflas for a bit?” (Hifumi)
, Hifumi, who decided to work hard at weapon development and at the same time to take a stroll, knocked the katana at his waist and left leisurely.
However, on that evening it became noisy in Fokalore.
Alyssa was carried into the feudal lord’s mansion while being wounded. |
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} | 「そんなのうまくいくわけないだろ」
「うぅ......」
あっさりと否定され、レニはがっくりと肩を落とした。自分専用の塒にしている小屋でたっぷりと睡眠をとり、敵を殺した充足感と快眠の爽快感を味わいながら、獣人が経営する食堂で遅い朝食を摂っていた。
そこに来たのが、住民たちから認められ、スラムの代表となったレニと副代表のヘレンだ。
「でも、あんたは否定しても、実際にスラムじゃいろんな獣人が一緒に暮らしてるじゃない」
「そうだな。だがそれがおかしな状態だと言うことに気付かないなら、話は進まん」
レニの提案は、荒野の獣人たちを説得して、スラムの規模を拡張しようというものだった。
王が討たれ、騎士のうちかなりの人数を失ったとはいえ、全体的な数的不利は否めないスラム獣人街は、今後も継続的な脅威を抱えていく事になる。
平民のエリアとは現在でも細々と交流を続けているものの、城内の立て直しができた時点で、新たな王や貴族たちを中心に、人間から獣人の討伐論が噴出するのは想像に難くない。
レニとしては、それまで一定の人数を揃えて防衛の準備を進め、なんとか拮抗した勢力としてバランスをとりたかったが故の提案だった。
それを、は真っ向から否定した。
「お前ら、何故荒野で木陰をコソコソ移動して生活していたのかを忘れたのか?」
「あ......」
「で、でもここならご飯も安定して手に入るし、住むところもあるし」
なんとか反論を試みるレニだったが、シャキシャキのレタスのような葉野菜をもりもり口に突っ込む一二三は、無感動に答えた。
「何も知らない獣人は、それを言葉で聞いただけで信用するアホばっかりか?」
「実際に見てもらえれば......」
「見ないと信じないような奴が、声をかけられただけで人間がいる街にはいるか?」
「うぅ......」
提案を尽く潰されたレニは、涙目になって膝の上で手を握り締めた。
食後の紅茶を飲みながら、一二三はレニの方を見ずに、店の外、獣人と人が行き交うスラムのメインストリートを眺めていた。
こころなしか、武装をした獣人の比率が高い。巡回をしている自警団の人数が増えたのだろう。
「放っておいても、この街が住みやすければ人間も獣人も増えるだろ。荒野とこの街を出入りする奴を増やせよ。外で獣人が畑なり作っていれば、気になって話しかけてくる奴もいるだろ」
紅茶を飲み干し、レニとヘレンを見た一二三は、つまらなそうに呟いた。
「中途半端ではあるが、国の一部を奪って新しい場所は作った。後はお前ら次第だな。戦って奪うばかりが国盗りじゃない。価値を作って大きくなれ。国を守るにも金がいる。人がいる。組織がいる」
空になった木製のカップをくるくると回す。
「器は出来たから、あとは中身を作れってところだな」
立ち上がり、店の外へと出た一二三は、振り返って笑う。
「じゃあ、後は頑張れ」
「ちょっと待ってよ! もう少し色々教えてくれてもいいじゃない!」
一二三に身体をぶつけるほどの勢いで駆け寄ったヘレンが、耳を折って見上げてくる。
「わたしたちじゃ、まだ何にもわからないんだから!」
「あのな、ウサっ子」
耳を掴み、触れるほどに顔を近づけた一二三に、ヘレンは思わず顔を赤くして黙った。
「なんでもかんでも人に聞くんじゃない。自分の目で見ろ。でかい耳があるなら他の連中の話もよく聞け。どう逃げるか考えてきた頭があるなら、どう生きるか考えることもできるだろ」
手を離した一二三は、街道へとのんびり歩きながら手を振った。
「この街で俺はイレギュラーだ。奴隷として買った連中にも好きにしろと言ってある。ここは獣人の街でもなければ人間の街でもない。“お前らの街”だ。どうしたらいいか、じゃなくて、どうしたいか、を考えろ」
好きにやれよ、これからの世界を戦っていくのに、楽しまないと損だ、と一二三は街の喧騒の中に消えた。
「......行っちゃった」
「“ウチたちの街”かあ......。ねえ、ヘレン」
「なに?」
また何か変な影響受けたんじゃないか、と心配そうに親友を見たヘレンは、レニが珍しく大口を開けて笑っているのを見た。
「何がそんなにおかしいのよ」
「だって、一二三さんが楽しめって言ったじゃない。一二三さんみたいに笑って、ウチたちの好き勝手にやってみたら、いつの間にかうまくいくんじゃないかな?」
何かを言おうとしたヘレンだが、レニが楽しそうにわっはっはと笑っているのを見て、どうでも良くなってきた。
「そうね。わたしも好きにやらせてもらおうかな。問題は山積みだけれど、気にしてたらキリがないもの」
素人運営によるスラムの街の発展は、まだ始まったばかりだ。
☺☻☺
オリガが再び王都へ姿を表したとき、イメラリアはまだ迷いの
にあった。
送還魔法ではなく、封印魔法を発見したと知られれば、最悪はオリガがイメラリアやアドルに対して何らかの妨害か、ともすれば実力行使に出る可能性もある。
(わたくしとしては、あまり刺激したくない相手なのですが......)
まだ、封印魔法を使うと決めたわけではない。
一二三に対してそれが有効かどうかもわからない状態ではあるが、元の世界へ戻すのではなく、この世界で封印してしまうというのが、この世界に呼び出した張本人である自分が一二三に対しての行為としては最低のことのようにすら思える。
だが......。
「それが国を生かすというのならば、わたくしは選択する義務があります」
オリガの到着を知らせる侍女の声に、入室を許可する返答をする。
静々と僅かなヒールの音だけを聞かせながら入ってくるオリガの姿は、不思議と以前から貴族令嬢の教育を受けていたかのような印象すら与える。
以前よりもドレスに近づいたデザインの、薄いブルーのドレス姿で、清潔感のあるケープのような短いマントをつけている。
「ご無沙汰しております。女王陛下」
ドレスの裾をつまみ、優雅に挨拶をしたオリガは、イメラリアに薦められるままにソファへと腰を下ろした。
膝を揃えて座る姿は、王族であるイメラリアから見ても、余裕のある堂々としたものだ。口さがない貴族の中には、奴隷出身のオリガをあからさまに見下す発言をする者もいると聞いているが、むしろオリガの方が貴族らしい振る舞いをしているようにすら思える。
「オリガさん、何かお話があるということですが」
「ええ、主人を、一二三様を封印する魔法についてのお話です」
にっこり笑って爆弾発言を投下したオリガに、イメラリアは口をパクパクさせている。
「陛下、もう少し表情を隠す練習をなさるべきですよ。私の主人などは、自ら怪我をしてまで迫真の演技を......」
「ちょ、ちょっとよろしいですか、オリガさん」
「なにか?」
折角の自慢話を遮られ、不機嫌に聞き返したオリガに、呼吸を整えたイメラリアは汗をかきながら訪ねた。
「その、封印する魔法......とは?
「あら、すでに宰相からお聞きになられているかと思いましたが」
「......どこまで、ご存知なのですか?」
「古代魔法である封印魔法が発見されたということは存じております。それで、陛下のお心はどちらを向いてらっしゃるのか、今日はそれをお聞きしたいと思いまして」
用意された紅茶で、軽く喉を湿らせたオリガは、再び声を出せずにいるイメラリアを見据えて言う。
「主人は、陛下がどんな手段を使ってでも“一二三様に頼らない国づくり”に舵を切る事を望んでおられます」
「しかし、それは一二三様に敵対することになるのでは?」
「怖いですか?」
オリガの翠の瞳が、まっすぐイメラリアを見つめている。その瞳の奥から、一二三自身が自分を見ているような気がして、イメラリアは落ち着かない。
だが、女王として居住いを正し、真っ直ぐに見つめ返す。
「怖い、に決まっています。しかし、それがこの国の為になることであり、実現可能なことであれば、王としてそれを選択する事を避ける事はいたしません。感情で物事を決められる立場ではないのです」
しばらく見つめ合っていたが、オリガが耐え切れずに笑いだした。
「ふふふ......良いお返事が聞けました。国の為、民の為に強敵でも戦う。しかし無理はしない。素晴らしいですね」
こほん、とわざとらしい咳払いをしたオリガは、笑顔を消して真面目な表情を作ると、イメラリアにゆっくりと噛み締めるように語った。
「一二三様は、それをこそお望みです。戦闘力的な意味ではなく、心と策略の面で強くなることを。あのお方は、貴女の成長をずっと見ておられました。それこそ、嫉妬を覚えるほどに」
冗談ではないのだろう。想い人であり、夫である人物が、自分と同年代の女性の成長を見守っているというのだから。
「ですから、私は貴女に協力すると言ったのです」
オリガは、右腕を撫でていた。
「陛下と私、そしてこの国を動かす人々が、もはや英雄や勇者など必要とせずとも、強く歩んでいけると証明するため、敢えて一二三様と戦う......それこそが、あのお方のお望みです」
「そんな......オリガさんは、それで良いのですか?」
「当然です」
間髪いれずに、オリガは答えた。
「一二三様が喜ばれるならば、私は何でもいたします。それに、私が望んでいることでもあるのです」
クスっと笑うオリガは、年相応に可愛らしい。いたずらっぽい笑みには、何らの疚しさもないようだ。
「大好きな方と共に、永遠に等しい時間を過ごすことができるのです」
「そ、それは、つまり......」
「私がしっかりと一二三様を捕まえますから、私ごと封印していただきたい、と言っているのです」
イメラリアは、めまいがしてくるのを感じた。
ソードランテの城内では、数名いる王の子供たちの誰が後継者となるかで論争となり、一部では貴族どうしで刃傷沙汰にまでなった。
全くの健康体であった王ブエルは、遺言らしいものも一切残しておらず、5人の妻の誰かを格別大事にしていたわけでもなく、もっぱら獣人相手に発散しており、3人の王子に対しても、声をかけることすら稀だった程の放任ぶりだった。
どの王子も特に武勇に優れているというわけでもなかったので、自然と後ろ盾となった貴族どうしの派閥争いとなり、城内ですら血を見る日がある。
一部富裕層も混乱に巻き込まれる事を恐れてスラムへと移動した者が出始めるなど、人間たちの体制が整うには、まだまだ時間がかかりそうだった。
「つまらんなぁ」
こんなふうになるならまとめて城内でぶちのめしてやればよかった、と人間の生活エリアで噂を聞いた一二三は溜息をついた。
絶対王政なのだからもっとドラスティックに話が進み、敵対する勢力に対しての攻勢ももっと早く進むものだと思っていたのが、期待はずれだと思ったのだ。
最も、その分スラムの防衛態勢が整う猶予があるわけで、戦力としてはバランスよく対立する事ができるかもしれない。
期待した形になりつつはあるが、一二三は少し後悔した。
「人任せは駄目だな。ストレスが溜まって仕方がない」
「あら、ご主人様」
ブツブツ言いながらスラムへと戻った一二三に、声をかけてきたのは兎獣人の女性だった。一二三にまとめて購入された奴隷の一人であり、食堂で勉強中に、レニたちと同席していた人物だ。
「どこかお加減でも悪いんですか?」
「ああ、お前か。ご主人様と呼ぶ必要は無い。もうお前らは自由だからな」
「では、ご主人様と呼ぶのも私の自由ですわ」
さらりと言い返され、一二三は好きにすればいい、と返した。
「そう言えば、お前はエルフがいる森の位置を知っているか?」
「ええ、私のいた集落でも、余り近づかないように言い伝えられていましたから」
兎獣人の返答に、一二三は首をかしげた。
「近づかないように? エルフと獣人は対立でもしてるのか」
「対立というか何というか......エルフは森から出てきませんけれど、代わりに森に入る者を許しません。人間でも獣人でも、構わず攻撃してきますわ」
うまく説明できないけれど、と困ったような顔で話す間、片方だけの長い耳がピコピコと揺れている。
「とにかく、他の種族とかとは一切交流していないみたいですから、詳しくはわかりません。魔人族の住処がさらに森の先にあると言われていますけれど、たまに何人かの魔人族が出てきて、人間の国で争ったり、獣人を殺したりするような話は聞きますけれど......」
「ふぅん......」
好戦的な連中なのか、と呟く一二三は、知らず口の端が上がってきている。思えば、ゼブルを騙って騎士をやっていた魔人族も、中々挑発的な事を言っていた、と思い出していた。
「このままソードランテに居てもつまらんからな。......よし。そのうちに、と思っていたが、早速行くことにしよう」
「どこかへ、お出かけされるのですか?」
「ちょっとエルフと魔人を見てくる」
しばらく留守にするから馬を頼む、と兎獣人に過剰な金額を握らせ、まるで近所の店に行くかのような足取りで一二三はソードランテを出ていった。
取り残された兎獣人は、みんなにどう説明しよう、と遠くなる一二三の背中を見ながら、同じくらい気が遠くなるのを感じた。 | “It’s not like it will go that well, right?” (Hifumi)
“Uuh...” (Reni)
Getting plenty of sleep in the hut, he has been using as his personal hideout, Hifumi enjoyed the refreshing sensation of having slept and the satisfying feeling of having killed his enemies while he took a late breakfast in a restaurant managed by beastmen.
The ones who arrived there are the slums’ representative, Reni, and the vice-representative, Helen, who had these posts approved by the beastmen.
“However, even if you disagree, it’s a fact that various beastmen are living together in the slums, isn’t it?” (Helen)
“That’s right. But, if you don’t realize that this can be called an odd situation, the conversation won’t make any progress.” (Hifumi)
Reni’s suggestion was to persuade the wastelands’ beastmen and to expand the scale of the slums.
Although the king was defeated and the knights suffered quite a loss in numbers, the slums’ beastmen city, whose overall numerical disadvantage can’t be denied, will be in continuous danger from now on as well.
In spite of barely continuing the exchange with the commoner’s area, even if it’s just for now, it’s easy to imagine that a debate over the subjugation of the beastmen would gush forth centred around the new king and the nobles, once the humans were able to reorganize the castle’s matters.
As for Reni, it was a reasonable suggestion, which gathered the rivalling powers and kept them in balance, while pushing the preparations of the defences, made up of a fixed number of people, forward until then.
Hifumi downright denied it.
“You guys, did you forget why you were living by sneakily moving from one shade of a tree to the next in the wastelands?” (Hifumi)
“Ah...” (Helen)
“B-But, if it’s here, we can obtain food regularly and there’s a location to live as well.” (Reni)
It was Reni, who tries to somehow object him, but Hifumi, who is stuffing his swelling mouth with vegetable leaves, similar to lettuce, answered while being unimpressed,
“Are beastmen, who don’t know anything about that, simple idiots, who will believe you after they listened to your words?” (Hifumi)
“If they are able to actually see it...” (Reni)
“Will fellows, who don’t believe unless they see it with their own eyes, enter a city, where there are humans, just because they were invited to do so?” (Hifumi)
“Uuh...” (Reni)
Getting her suggestion completely crushed, Reni tightly grasped her hands, which were on top of her knees, becoming teary eyed.
While drinking an after-meal black tea, Hifumi, without looking at Reni’s state, gazed at the slums’ main street outside the restaurant, where beastmen and humans are going back and forth.
The ratio of armed beastmen is somewhat high. I guess they increased the numbers of the vigilante corps going on patrol.
“Even if you leave it as it is, the number of humans and beastmen will increase, if it’s easy to live in this city, right? You will be able to raise the number of fellows coming and going between this city and the wastelands. If beastmen create fields outside, there will also be fellows, who get curious and come to talk, right?” (Hifumi)
Drinking up the black tea, Hifumi, who observed Helen and Reni, muttered in a bored manner.
“It’s half-baked, however you have stolen a part of the country and created a new place. The future depends on you guys. “Take the Nation” isn’t only about stealing and fighting. It’s also about becoming big and producing value. There’s money to protect the country. There are people. There is organization.” (Hifumi)
He spins around the empty wooden cup.
“As you were able to obtain a vessel, you have to create its contents now, that’s the point.” (Hifumi)
Standing up and heading towards outside the restaurant, Hifumi looks over his shoulders and laughs.
“Well then, do your best in the future.” (Hifumi)
“Wait a bit! Isn’t it fine for you to teach us various things for a bit longer!?” (Helen)
Helen, who rushed over with a force at the level of crashing her body into Hifumi, folds her ears and looks up to him.
“We still don’t understand anything!” (Helen)magic
“You know, rabbit-chan*.”
Due to Hifumi grabbing her ears and bringing his face so close to hers that it was almost touching, Helen became silent while her face got spontaneously red.
“Don’t learn anything and everything from people. Observe with your own eyes. As you have big ears, listen well to what other guys are talking about. If you got a brain, which was able to ponder how to run away, it’s probably capable of thinking how to survive as well, right?” (Hifumi)
Hifumi, who released his hands, walked care-freely towards the highway while waving with his hand.
“I’m an irregular in this city. I have also told the lot, who I bought as slaves, to do what they like. This place isn’t the city of beastmen and it isn’t the city of humans either. It’s “your city.” Think about what’s the best thing to do, or no, rather what you want to do.” (Hifumi)
“Do what you like. Although you will have to struggle in the future world, you will loose out, if you don’t enjoy it”, with those words Hifumi vanished into the clattering of the city.
“... He’s gone.” (Helen)
“”Our city”, huh...? Hey, Helen.” (Reni)
“What?” (Helen)
Helen, who looked at her best friend with a worrying face saying “Were you influenced in a strange way again?”, looked at Reni laughing and opening her mouth widely in an unusual manner.
“What’s so funny?” (Helen)
“Well, weren’t we told by Hifumi-san to enjoy it? Laughing like Hifumi-san and trying to do what we like, haven’t we become good at that before we realized?” (Reni)
Helen tried to say something, but looking at Reni laughing with a “Wahaha” as if she’s enjoying it, she judged it to be better to let her do what she wants.
“Oh well. I will do what I like too, I guess? Although there’s a pile of problems ahead, it will be endless, if I worry about them.” (Helen)
The growth of the slums’ city, managed by amateurs, had still only begun.
☺☻☺
At the time Origa once gain showed up in the capital, Imeraria was still in the middle of hesitating.
If she noticed that they discovered a sealing spell and not a return spell, at worst Origa might hinder Imeraria and Adol in some way or resort to force, if she’s prone to it.
(For me she’s an opponent that I don’t want to provoke overly much, but...)
That doesn’t mean that she decided to use the sealing spell yet.
She is in a state, where she doesn’t know whether it’s valid to be used against Hifumi, but to say that she will seal him in this world without returning him to his original world; she can’t think of that as anything but being the worst act against Hifumi, who was summoned into this world by her, who is also the perpetrator.
However...
“If that keeps the nation alive, I have the duty to make that choice.” (Imeraria)
Being notified about Origa’s arrival by the voice of a maid, she replies that she’s allowed to enter the room.
The figure of Origa, who comes entering while making only graceful and quiet heel sounds, gives a mysterious impression as if she had received the education of a noble’s daughter in comparison to before.
With her appearance of wearing a light blue dress with a design, that approached the dress from before, she is clad in a short mantle, similar to a cape, which has a sense of freshness to it.
“Please excuse me for not contacting you for a while, Your Majesty.” (Origa)
Pinching the hem of her dress and performing an elegant curtsy, Origa sat down on the sofa, which was offered to her by Imeraria.
Her form of sitting down and arranging her knees was dignified and had composure, even seen from Imeraria’s point of view as royalty. She has heard that there are people, who make blatant, abusive remarks about Origa, who was a slave, among the gossipy nobles, however she can only think that Origa’s side is behaving more noble-like than them.
“Origa-san, there are some things we have to talk about.” (Imeraria)
“Yes, it’s about the the magic, which will seal my husband, Hifumi-sama.” (Origa)
Due to Origa dropping a bombshell while smiling cheerfully, Imeraria’s mouth is flapping open and closed.
“Your Majesty, you should practise hiding your expression a bit more. Someone like my husband acted in a realistic manner, even going as far as injuring himself...” (Origa)
“A-Aren’t you accepting it too easily, Origa-san?” (Imeraria)
“Accept what?” (Origa)
Due to Origa asking her a question in return while being displeased to be interrupted in her precious boasting, Imeraria, who got her breathing in order, asked while sweating,
“That is, the spell to seal him... you know?” (Imeraria)
“Ara, I thought you had already been told by the prime minister.” (Origa)
“... How much do you know about it?” (Imeraria)
“I think it’s as much as discovering a sealing spell, which is ancient magic. So, which direction is Your Majesty’s heart taking? I want to hear that from you today.” (Origa)
Origa, who slightly wetted her throat with the prepared black tea, is gazing at Imeraria, who’s lost for words once again.
“My husband wishes for Your Majesty to lead the country “without relying on Hifumi-sama in the nation building,” no matter what methods you have to use.” (Origa)
“However, won’t this count as being hostile towards Hifumi-sama?” (Imeraria)
“Are you scared?” (Origa)
Origa’s green pupils look directly at Imeraria. Imeraria can’t calm down as she is feeling as if Hifumi himself is looking at her from within those eyes.
However, fixing her sitting posture as queen, she directly returns the look.
“I’m always scared. However, if it’s something beneficial for this country and if it’s possible to realize it, I won’t avoid choosing that as sovereign. I’m not in a position, where I can decide everything following my own feelings.” (Imeraria)
They stared at each other for a while, but unable to stand it, Origa burst into laughter.
“Fufufu... I heard a nice answer. You will even fight a strong enemy for the sake of your people and for the sake of your country. However, you won’t do the impossible. Truly wonderful.” (Origa)
Origa, who cleared her throat forcefully with a cough, erases her smile and shows a serious expression. She spoke to Imeraria as if slowly chewing on her words,
“That’s certainly Hifumi-sama’s desire. Not in the meaning of fighting strength, but becoming strong by scheming in your mind. That gentleman has always observed your growth. It’s to a degree that I feel jealous.” (Origa)
That’s probably not a joke. Although he’s a man, who is a husband and who has a lover, he has been watching over the growth of a woman of the same generation.
“That’s why I told you that I would cooperate with you.” (Origa)
Origa stroke her right arm.
“Your Majesty, me and the people, who move this country, for the sake of proving that we can walk strongly without needing something like a hero or brave anymore, will deliberately fight with Hifumi-sama... although it’s to this extent, it’s that gentleman’s wish.” (Origa)
“Such a... Origa-san, is that fine with you?” (Imeraria)
“Of course.” (Origa)
Origa replied in no time.
“If it pleases Hifumi-sama, I will do anything. Besides, there’s also something I’m desiring.” (Origa)
Letting out a giggle, Origa seems to be lovely as appropriate for her age. Her impish smile hasn’t a hint of guilt feeling either.
“I will be able to spend the same time as the person I love for eternity.” (Origa)
“T-That is, in other words...” (Imeraria)
“After I have firmly seized Hifumi-sama, I want to be included in the seal, is what I’m saying.” (Origa)
Imeraria felt dizziness befalling her.
In the castle of Swordland it has turned into a dispute over who should become the successor of the several children of the king. At one part it went even as far as turning into a bloodshed between fellow nobles.
King Buell, who had a perfectly healthy body, hasn’t left something close to a testament behind at all. It’s not like he particularly cherished one of his wives. Mostly venting out on beastmen partners, he had a style of neglecting to the degree that he even rarely called out to the princes.
Since it wasn’t like any of the princes was especially outstanding in military prowess, it naturally turned into a factional dispute between fellow nobles, who backed one of them. Even within the castle there are days where you can see blood.
With a part of the wealthy also moving to the slums in fear of being mixed up in the chaos, it appeared that putting the humans’ system in order would still take quite a while.
“How foolish.” (Hifumi)
“It would have been better, if I had beat up the entire castle altogether, if it was to turn into something like this”, Hifumi, who heard the rumours about the area, where the humans live, sighed.
I believed they would progress faster into an aggressive stance towards hostile powers, if I advanced the story in a more drastic manner since it’s an absolute monarchy, but they disappointed me more than I expected.
In the first place, because there’s an extension in preparing the slums’ defensive stance to that extent, they might be able to properly oppose the balance as war potential.
While it has taken the anticipated shape, Hifumi regretted it a bit.
“It’s no good to leave things to others. It will be inevitable to pile up stress.” (Hifumi)
“Ara, master.”
It was a rabbitwoman, who called out to Hifumi, who returned to the slums while grumbling. Being one of the slaves, Hifumi had bought in one go, it’s the person, who was sitting together with Reni and Helen while they were studying in the dining room.
“Is your condition bad in some way?”
“Ah, you, eh? It’s unnecessary to call me master. You guys are already free.” (Hifumi)
“Well, then it’s my freedom to call you master.”
As she was retorting without hesitation, Hifumi returned “Do as you wish.”
“On that subject, do you know of the forest, where the elves live?” (Hifumi)
“Yes, I was told to not get too close to it, even in the settlement, I lived at before.”
Hifumi tilted his head to the side due to the rabbitwoman’s answer.
“To not get close? Is there antagonism between elves and beastmen?” (Hifumi)
“Rather than calling it antagonism, how to say it...? The elves don’t leave the forest, but in exchange they don’t allow people to enter the forest. They will come attacking without caring whether it’s humans or beastmen.”
While she talks with a troubled face saying “Though I’m not able to explain it properly,” her sole long ear is jolting with a *ping ping*
“Anyway, since it looks like they aren’t mingling with other races or such at all, I’m not too sure on the details. Although I’ve been told that the demon race’s dwelling is deeper into the forest, I’ve heard that some demons occasionally come out and fight against the humans’ country or kill beastmen, however...”
“Hmm...” (Hifumi)
If I remember correctly, even Zebul of the demon race, who pretended to be a knight, said something quite provocative
, he recalled.
“It’s pointless to stay in Swordland at this rate... alright. Although I believed it to happen sooner or later, let’s head out right away.” (Hifumi)
“Where do you plan to go?”
“I’m going to check out the elves and demons for a bit.” (Hifumi)
Passing an excessive amount of money to the rabbitwoman and entrusting the horse to her since he will leave for a while, Hifumi left Swordland walking as if he is going to hit a store in the neighbourhood.
The rabbitwoman, who was left behind, felt close to fainting while watching Hifumi’s back, which grew more and more distant, wondering how she should explain it to everyone. |
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} | 「文官教育......ですか」
フォカロルの領主館、文官奴隷たちの為の会議・研修室として用意されている部屋には、ヴィシーからオーソングランデへと所属を変えた街の代表たちが集められていた。
彼らの目の前では、文官奴隷のカイムがむっつりとした顔のまま、淡々と説明を続けている。隣にはブロクラが書記として座っていた。
「そうです。領主であるトオノ伯爵は、それぞれの街から数名ずつ選出し、我々が受けたものと同じ内容の教育をするように、と申されておりましたりの勉学と実務についてをお教えします。ああ、今集まっていただいている方々は町長として引き続き街ごとの取りまとめをお願いいたしますので、選出していただいた文官候補と共に、同様の教育を受けていただきます」
新たな権力者からの呼び出しに、命も危ういかと内心恐怖していた街の代表たちは、自分たちの立場がある程度守られるという説明に安堵していた。
だが、表情を変えずに続いたカイムの言葉は、そんな安心感を吹き飛ばした。
「ちなみに、成績が悪い方は問答無用で役を解きます。無役になった方に代わりの役職等は用意いたしませんから、予めご了承ください」
代表の中には、単なる相続で代表を受け継いだ者が相当数いる。もちろん、しっかりと役割をこなしていた者もいるが、地位にあぐらをかいていた者もいる。
心当たりがあるのだろう、数名は汗をびっしょりとかいて青ざめていた。
「1ヶ月の間、フォカロルへ滞在していただきます。期間中はフォカロルより職員と領兵を派遣して現地調査及び募兵、代表代理をいたしますのでご安心ください。宿泊施設はこちらで用意いたします。自分で宿を選定する方は予め申請してください。申請用紙は後ほどお配りします」
書き付けたメモを読みながら、カイムはすらすらと読み上げる。
「ここまでで、何かご質問は?」
「一度持ち帰って、検討したいのだが......」
おずおずと発言したのは、先ほど成績の話で青ざめていた者の一人だ。
彼の質問を受けて、カイムは無表情のままその男をまっすぐ見つめる。
(あ、これはまずい)
ブロクラはカイムのこの癖が出たのを見た事がある。
「あの......」
じっと見つめられた男が、居心地悪そうに言うと、カイムが口を開いた。
「検討とはどういうことでしょうか。私は今、私の主であり貴女の主でもある領主からの“命令”であり“方針”を伝えているのです。持ち帰って何を検討するのでしょうか。従うか拒否するかということですか。つまり、貴方と貴方の街はトオノ伯爵、ひいてはオーソングランデに対してまだ完全な恭順を選んではいないということですね」
「この事は、様へしっかりとお伝えいたします。私にはあの方がどのような形で貴方がたの忠誠心を確認されるかはわかりませんが......街の規模が半分になるくらいは覚悟の上での言葉だと私は認識しました」
くどくどと一本調子で語られる内容に、見られている男だけでなく、周囲の代表たちもすっかり怯えている。
「わ、私が勘違いしておりました! どうか、平にご容赦を!」
「勘違いですか。その程度の状況認識能力しかないというのは、しっかり記録させていただきます。もちろん総合評価としてはマイナスの要因として扱います。そして今後も、貴方には一定の注意を払って対応いたしますので、今後何をなさるにしても、全て私どもには伝わるものとご理解ください」
床にこすりつけんばかりに頭を下げる男に、カイムはつらつらと宣言し、ブロクラをチラリと見た。記録をつけろという意味だ。
「みなさんも、よくよく考えて言葉を使うように。私どもは寛容かつ誠実に対応させていただく所存ではありますが、決して敵対を許すわけではありませんし、領地の運営を邪魔する事を許容するものではありません。そして、貴方がたが選んだ新たな領主は、忠実なる部下には非常に寛容ですが、敵対者は絶対に許しません。たった一言のために命を失ったとしても、不思議では無いということは、肝に銘じておいてください」
他に質問がある方は? というカイムに、誰ひとり口を開くことはなかった。
第一騎士隊の隊長であるリベザルは、城内にある自らの執務室にてイメラリア殺害に向かったデウムスを待っていた。傍らにはデウムスと並ぶ副隊長のラングルが控えている。
「遅いな......」
同じ城内の一室へ向かって小娘一人を殺害するだけだ。多少の抵抗や逡巡があったとしても、とっくに終わっているはずの時間が経っている。
さらに気になるのは、侍従を向かわせた部屋に王妃の姿が見えず、今も探させているが見つかっていないことだ。
「何か問題でも起きているのでしょうか?」
しばしの思考。隣には第一騎士隊の騎士が十名程詰めているが、半分は確認に行かせてもいいだろう。
「かもしれん。何人か連れて見てきてくれ」
ラングルが返事をしようとしたところで、ノックの音がする。
「来たか」
しかし、待っていてもドアは開かない。
「どうしたのでしょう?」
ラングルがドアへ近づき、ノブへ手をかけた瞬間、木製のドアを貫いた刃が、ラングルの首を貫いた。
刃を引き抜かれ、ビュッと音か声か判別できないものが聞こえて、ラングルはドアにすがりつくようにして倒れた。
そしてラングルの死体ごと、ドアを蹴り破って入ってきたのは一った。
「貴様か......!」
リベザルは一二三の顔を知っている。王を殺害したあの時、謁見の間に居合わせていたのだ。
「起きている気配が固まってるから来てみたが、ここは何の部屋だ?」
一二三は部屋を見回して、のんきに質問してきた。
「第一騎士隊隊長であるこの私の部屋だ。貴様がなぜここにいる」
槍を持ち、一二三へと向けて油断なく構える。
「大掃除だ。雑音が多いと物事がうまく進まなくなる」
「そう簡単にいくと思うな!」
リベザルが吠えると、物陰から飛び出してきた二人の魔法使いが、同じタイミングで火の玉を飛ばしてきた。
「おお、火のやつは初めて見た!」
嬉しそうに言いながら、一二三は前に進んで火の玉をやり過ごした。
そこへ、リベザルの槍が突き出される。
「ぬぅ!」
「いい突きだ」
槍先は一二三の肩をかすめて道着を裂いたが、体までは届いていない。
対して、横凪に振るわれた刀も、リベザルが素早く引いたことで空を切る。
更に槍を突いてくるのを無視して、一二三は跳躍して一人の魔法使いを斬り倒した。
「室内で火を使うなよ。非常識だろ」
肩口からバッサリと斬られた魔法使いは、即死している。
「くそっ!」
もう一人の魔法使いが、再び飛ばしてきた火球を、振り向きざまに一刀両断する。
「お、試しにやってみたがやっぱり斬れるのか」
もうこれ刀とはちょっと言えなくないかと思いながら、怯える魔法使いの心臓を貫く。
横に倒した刃が骨を避けて突き刺さる瞬間、絶好のタイミングで横合いから槍が迫る。
「おおっと」
突き刺す手応えを名残惜しく感じながら、一二三は刀から手を離して転がった。
さらに二度三度と床を転がる一二三を、リベザルの槍が襲う。
素早く膝立ちになった一二三は、槍を掴んで逆に石突でリベザルの腹を突いた。
槍を手放してリベザルが倒れこむ。
咳き込みながらも素早く起き上がると、目の前では一二三が自分の槍を振り回している。
「いい槍だ。バランスがよくて重さも丁度いい」
自らの槍を突きつけられ、リベザルは後ずさる。
「無手の相手を殺すか」
「何を言ってるんだお前は」
一二三が呆れた声を出したところで、数名の騎士が部屋へなだれ込んできた。
「今の音は!」
「ご無事ですか隊長!」
騎士たちは、副隊長たちの死体と、槍を持った一二三を見て一瞬呆気にとられたものの、素早く構えて一二三に対峙したあたりは流石と言える。
「貴様、ここで何をしている!」
一二三は答えず、槍を回して石突でリベザルの顎を強かに叩いて転がしてから、先頭に立っていた騎士の目、喉、両足と鎧のない部分所、瞬きの間に突いた。
全身から血を吹き出して死んだ騎士も、周りの騎士も何が起きたか分かっていないうちに、さらにその横に居た騎士も穂先で喉を刎ね切られた。
「何を突っ立ってるんだ。槍の使い方を教えてやるから、さっさとかかってこい」
いきり立って力いっぱい突いてくる騎士たちの槍を、穂先どうしを合わせて器用に逸らしながら、ひとり、またひとりと血を吹き出して倒れていく。
「槍技は突くだけじゃないぞお!」
一人の突きを避けつつ懐に入り、石突を相手の足元に差込みながら肩を押して転ばせると、そのまま槍を回して首を刈る。
さらに次の相手の攻撃は、槍を回して絡め取り、武器を失って呆然とする相手を一突きで殺した。
血みどろの惨劇が繰り広げられる中、顎を叩かれたリベザルは、目の前で星がチカチカするのを顔を振って振り払いながら、よろよろと部屋の隅へと進んでいった。
そのまま壁の一部に手をかけると、人一人がやっと通れるような穴があき、リベザルはその中へと潜り込んだ。
気配でリベザルが逃げて行くのを感じながらも、更にどこからか増援がきた第一騎士隊の面々の槍衾を打ち払いながら、まあいいかと放っておいた。このまま第二騎士隊なり王子なりと合流して、今の状況を伝えてくれるならわざわざ呼び戻す手間が省ける。
逃げながらここにいない第一騎士隊の連中を糾合してくれれば、数が少ないが城という拠点を守る立場の第三騎士隊中心の王女派と、数は多いが拠点攻略から始めないといけない第一・第二騎士隊中心の王子派とに分かれることになる。
そうなれば、お互いに死力を尽くして戦ってくれるだろう。
「そんじゃ、そろそろ掃除を終わらせるか!」
返り血を浴びたまま、良い笑顔で気合を入れた一二三に、騎士たちは訳が分からず恐怖した。
この夜、第一騎士隊は三分の一の人員を失い、残った者の半数は投降して王女派へ恭順を誓い、残り半数はリベザルを追って王都を後にした。
「これじゃ、王子派も王女派も騎士だけで言えばほぼ同数じゃないか。城攻め側が多くないとバランスが悪いなぁ」
と翌日になって一二三が漏らした不満には、オリガ以外は賛同しなかった。
朝が来て、出仕してきた住み込みではない文官や貴族たちは、城内の物々しい雰囲気に首をかしげた。
誰ひとり例外なく騎士隊が何者であるか確認をしており、別の出入り口からは次々と担架に乗せられた何かが運び出されていた。
「何かあったのですか?」
通いで勤めている女性文官の一人が、検問をしている騎士に訪ねた。声をかけられた騎士は、濃いクマを作った目で、うつろに答えた。
「ちょっと、夜のあいだに殺し合いがあってね」
「ええっ?!」
「ああ、もう大丈夫だから。トオノ卿が全部終わらせたから」
ただ、うかつな事を言っちゃうと、文字通り首になるから気をつけろと騎士が言う。
不意に悲鳴があがり、そちらを見ると布をかぶせた担架から、人間の首が転がり落ちたところが見えた。
「首って......」
真っ青になった文官はどうにか相対する理由を考えようとしたが、混乱の事後処理で忙殺されて、血の臭いがあちこちに残る城内で残業をする羽目になるのだが。
「それで、イメラリア様はご無事なのですか?」
「もちろん、細剣の騎士様がついているから、傷一つないよ」
それは良かったと安心する文官を見ながら、騎士は心の中で“身体的にはね”と付け加えた。
一夜の惨劇を通じて、オーソングランデはイメラリア体制が出来上がり、貴族たちも主流派は王子派から王女派へと移り、多くの貴族が慌ててイメラリアにご機嫌伺いと称して恭順を誓うために訪れた。
うんざりする気持ちを押し殺して、力になりますと今更言いに来る貴族たちをあしらうイメラリア。その背後には、艶々と満足げに笑っている一二三の姿があった。
数名の貴族の面会が終わったところで、一二三はそろそろ城を出ると言った。
「一通りはお膳立てができたな。後は自分で頑張れ」
「......今度は、どちらへ?」
「ヴィシーに行ってくる。その後は......その時に決めるか。じゃあな」
一二三たちを見送ってから、椅子に深く背を預けて目を閉じる。
「ここからが、本番なのですね......」
宰相と相談しながら、近日中に戴冠式を行うことになっている。弟に報が伝わるのはその前後だろう。アイペロス王子が王都へ戻る前に、正式な後継者として、新たな女王としての基盤を作ってしまいたかった。
圧倒的な権力を持てば、逆にアイペロスを守ることもできるだろうとイメラリアは踏んでいる。その為に、泥沼の内戦状態は避けたかった。
「そのためには、わたくし自身がまず強くあらねば......」
死んでいった者たちを思い、謝罪は全てが終わってからだとイメラリアは自分に言い聞かせた。 | “Civil official instructional education... you say?” (Representative)
In the room arranged for the purpose of training and meetings for the civil official slaves at the mansion of the Lord of Fokalore, the representatives of the cities, that had changed allegiance from Vichy to Orsongrande, gathered.
In front of their eyes the civil official slave Caim, with a sullen looking face, was continuing to explain indifferently. Next to him Brokra sat acting as a clerk.
“That’s right. The territorial principal Earl Tohno has said to gather from each city a selected few in order for them to receive the same education we received. They will be taught in general subjects and practical application. Ah, all of you gentlemen, the town mayors, who are participating at today’s assembly, please organize a gathering at each respective city after this and together with the civil official candidates, that will be elected, you will receive the same education alongside.” (Caim)
As they were summoned by a new influential person, the city representatives were scared within their mind whether their life would be in danger. They were relieved to hear that their own position would be preserved to a certain extent.
But, with the continuing words of Caim, whose facial expression didn’t change, that sense of security was blown away.
“By the way, if your grades are bad, you will be removed from your post without any useless discussions. Since we have prepared something like replacements of your posts in case you are lacking the ability for your duty, I’d like you to give me your acknowledgement in advance, please.” (Caim)
There is a considerable number amongst the representatives, who took over the post of representative by mere succession. Of course there are also some who managed their assignment properly, but likewise there are those who rested on their laurels coming with the status.
Seemingly having an idea, there were several amongst them drenched in sweat turning pale.
“Please stay in Fokalore for the duration of one month. You can be relieved because the representative proxies will dispatch personnel and soldiers for field work as well as recruitment during your time in Fokalore. We have prepared appropriate accommodations for you on our side. Please hand in an application beforehand, if you wish to stay in an inn of your choice. We will distribute the blank application form later.” (Caim)
While reading the written down notes, Caim spoke in a smooth and clear voice.
“Are there any inquiries up until this point?” (Caim)
“I wanted to take it home and examine it temporarily, but...” (Representative)
A single person, who became pale earlier during the talk about the grading, nervously made such proposal.
Hearing that question, Caim looks directly into they eyes of that man expressionlessly.
(Ah, this is bad.)
Brokra saw the occasions when Caim’s habit came out.
“Ano...” (Representative)
As the man says uncomfortably due to Caim’s motionless staring, Caim opened his mouth.
from your feudal lord, who is also your Lord and my master. If you take it home, what will you examine there? Will you abide or reject it? In other words, you and your city have no other choice but to swear absolute allegiance towards not only Orsongrande but also Earl Tohno.” (Caim)
“I will fully convey this matter to Hifumi-sama. Although I don’t know in what kind of manner that gentleman will confirm your loyalty... I am well aware that if it was his words, you should be resolved for your city’s scale to decrease by around half.” (Caim)
As he is speaking of the details monotonously and boringly, not only the man he is looking at, but even the representatives in the surrounding are trembling in fear.
“Yo-You’ve misunderstood me! Please forgive my humble self!” (Representative)
“Misunderstanding, it is? I will use my privilege of properly record that you have no more than this level of situation perception ability. Naturally, it will be treated as primary factor for the minus points for the over-all judgement. And also, please do understand that from now on all of your interactions and actions hereafter will definitely be transmitted to us and we will pay attention to them.” (Caim)
Brokra threw a fleeting glance at Caim giving a profound proclamation while the man is bowing, almost about to rub his head on the floor. He knew this was also going to be his record.
“Everyone, I hope that you very carefully choose the words you use as well. Our intention is to have honest and open-minded interactions, but you won’t be forgiven if you decide to antagonize us. You are not permitted to obstruct the administration of the territory. And, although the new Lord you have chosen is very tolerant towards loyal subordinates, he is absolutely unforgiving towards his opponents. Please bear in mind that a single word can cause you to lose your life, and that is no exaggeration either.” (Caim)
There wasn’t a single person opening their mouth when Caim asked “Are there any other questions to be addressed?”
. He waited for Deumus, who went to kill Imeraria, in his personal office within the castle. Vice-Captain Rangul
“So late...” (Ribezal)
It is only the assassination of a single girl who lives in a room inside the same castle. Even if Deumus had some reluctance and hesitation, the time, by when he should have finished it, had passed a long time ago.
What worries him even more is that the chamberlain couldn’t find the figure of the queen in her room when he went there. Even though they are currently searching for her, they haven’t found her yet.
“Maybe some kind problem is occurring?” (Rangul)
Although around ten knights of the First Knight Unit are assigned for duty next, it will be fine for half of them going to check, I guess.
“Possibly. Take some people and go have a look.” (Ribezal)
Just when Rangul wanted to try to do something in reply, there is the sound of knocking.
“Did he come?” (Ribezal)
However, even as they are waiting, the door isn’t opening.
“What’s the matter?” (Rangul)
Approaching the door, in the moment Rangul’s hand grabbed the knob, a blade penetrated the wooden door. It pierced Rangul’s head.
Extracting the blade, a *byu*, indistinguishable whether voice or sound, could be heard. Rangul, trying to cling to the door, collapsed.
And then, Hifumi entered by destroying the door with a kick sending the door and the corpse of Rangul flying.
“It’s you, bastard... !” (Ribezal)
Ribezal is recognizing Hifumi’s face. He happened to be present during the audience when the king was killed.
“Although I came to see since I was certain there was a presence here, what room is this?” (Hifumi)
Surveying the room, Hifumi heedlessly asked.
“This is my, the First Knight Unit’s captain’s, room. Why are you here, bastard?” (Ribezal)
Holding a spear, he vigilantly sets up his stance facing Hifumi.
“It is a major cleanup. Things don’t progress too well, if there is too much noise.” (Hifumi)
“Don’t think it will be that easy!” (Ribezal)
Following Ribezal’s roar, two magicians jumped out from their hiding. With the same timing they shot a fireball.
“Oh, it is the first time I have seen fire users!” (Hifumi)
While saying those words in delight, Hifumi advanced forward and let the fireballs fly by.
Ribezal’s spear is thrust out at that place.
“Nuu!” (Ribezal)
“It’s a nice thrust.” (Hifumi)
The spearhead grazed Hifumi’s shoulder and ripped up his dougi, but it hadn’t reached his body.
In correspondence, the katana was calmly swung horizontally as well. Ribezal swiftly drew back and the katana only cut air.
Ignoring another spear thrust, Hifumi leaped and chopped down one of the magicians.
“Don’t play with fire indoors. That’s thoughtless.” (Hifumi)
The magician, cut with a single stroke from the top of his shoulders, has died instantly.
As the other let loose a second fireball, Hifumi, turning around, cut the fireball in two.
“Oh, I took a chance and tested it and see there, I can slice it apart after all.” (Hifumi)
While wondering somewhat whether you can still call this a katana any more, he stabs the heart of the frightened magician.
The moment he brings down the blade sideways, avoiding getting it stuck in a bone, the spear approaches from the flank with an ideal timing.
“Uuh-oh” (Hifumi)
While feeling reluctant to respond to the thrust, Hifumi fell over parting with the katana in his hand.
Furthermore, as Hifumi is tumbling on the rolling over again and again, Ribezal assaults him with the spear.
Hifumi, who quickly rose to a crouch on his knee, grabbed the spear and drove its pummel into the abdomen of Ribezal in reverse.
“Gufuu!” (Ribezal)
Letting go of his spear, Ribezal collapses.
When he rises quickly to his feet in spite of coughing violently, Hifumi is wielding his spear in front of his eyes.
“It is a nice spear. The balance is great and its weight is just right as well.” (Hifumi)
Having his personal spear thrust at him, Ribezal backs off.
“Do you kill unarmed opponents?” (Ribezal)
“What are you saying?” (Hifumi)
Just as Hifumi spoke in astonishment, several knights rushed into the room.
“The noise from just now!” (Knight A)
“Are you safe, Captain?” (Knight B)
Although the knights were taken aback the second they saw the Vice-Captain’s corpse and Hifumi holding the spear, they immediately set up and confronted Hifumi. You could say, as one would have predicted.
“You bastard, what are you doing here?!” (Knight C)
Without replying, after Hifumi spun the spear and determinedly knocked the jaw of Ribezal with the pummel making him fall over, he struck the leading knight’s eyes, throat and both feet, the four places with no armor, in a flash.
Even as the knight died, gushing forth blood from his entire body, the surrounding knights didn’t understand what had happened. Moreover, Hifumi even ran the spearhead into the knight’s throat, standing cross-ways, and cut it open.
“Why are you standing around doing nothing? Since you were taught you how to use a spear, get over here quickly.” (Hifumi)
Losing their temper, the knights thrust their spears with all their strength. While skilfully averting the united spearheads, one after another is falling down spurting blood out.
“There aren’t only thrusts in the spear art!!” (Hifumi)
Closing in onto his opponent while repelling a single stab, Hifumi rams the pummel into his opponent’s foot as he pushes his shoulder toppling him over. Rotating the spear, Hifumi reaps through his neck.
Moreover, as the next opponent attacks, Hifumi turns his spear, entangles the approaching weapon and disarms him. The opponent, being dumbfounded of having lost his weapon, died with a single lunge.
Within the unfolding blood-stained tragedy, Ribezal, whose jaw had been struck, shook off the twinkling stars in front of his eyes by swinging his head while he advanced to a corner of the room on unsteady feet.
As he presses his hand on one part of the wall, a hole, barely wide enough for a single person, opens. Ribezal crawled into it.
Though he feels the presence of Ribezal escaping, Hifumi brushes away the all the spears held at the ready of the First Knight Unit’s reinforcements that had come from somewhere while deciding
If he rallies his colleagues of the First Knight Unit that aren’t here during his escape, the result will be that it will be split into: the princess faction, centering on the Third Knight Unit, will take a defending stance with the castle as base, if the numbers of the First Knight Unit are few, or the prince faction, centering on the First and Second Knight Unit, will have to start by capturing the base, if the numbers of the First Knight Unit are many.
If that’s how it turns out, they will make frantic efforts to fight with each other, I guess.
“Well now, it’s time to finish the cleaning soon, right?” (Hifumi)
As Hifumi motivated himself with a nice smile in a state of being soaked in the blood of his victims, the knights didn’t understand the reason and panicked.
Parting with one-third of the First Knight Unit’s personnel this night, half of the remaining people surrendered and swore allegiance to the princess faction and the other half chased after Ribezal who left the capital behind.
“With this, can’t you say that only the number of knights in the prince faction and the princess faction roughly balances out? If there aren’t many on the side attacking the castle, the balance will be bad.” (Hifumi)
Hifumi leaked out his dissatisfaction as it became the next day. No one except Origa approved.
Morning has come. The civil officials and nobles, who attended as they aren’t live-ins, were puzzled over the heavy mood within the castle.
Confirming to which Knight Unit each knight belongs without making a single exception, stretchers were carried in from a separate entrance one by one and something was carried out.
“Did something happen?” (Official)
A single female civil official, commuting to work, visited a knight doing inspections. The greeted knight, with darkly shadowed eyes, replied blankly,
“Just a little. They were killing each other during the night.” (Knight)magic
“Eeh?!” (Official)
“Ah, it’s safe already. Lord Tohno finished it all.” (Knight)
“But, take care to not utter thoughtless things.” The knight warns her to pay attention since she could literally be beheaded.
Raising a sudden shriek after seeing a stretcher covered with a cloth over there, she could see the head of a person tumbling down at that place.
“A head...” (Official)
The civil official, who had become ghastly pale, tried to think one way or another about the reason for the confrontation. Being worked to death with the after-disposal of the mayhem, the knights are stuck with doing overtime within the castle, that had a smell of blood drifting all over.
“And, is Imeraria-sama safe?” (Official)
“Of course, she has the Knight-sama with the slender sword at her side, she hasn’t a single scratch.” (Knight)
While the civil official looks relieved and says “That’s good”, the knight added in his mind “At least not on her body.”
Getting through the overnight tragedy, Imeraria completes the organisation of Orsongrande. The main part of the nobles also move from the prince faction to the princess faction. Many of the nobles rushed, pretending to do courtesy calls, to visit Imeraria for the sake of pledging their allegiance to her.
Subduing the feeling of boredom, Imeraria handles the nobles coming to tell her that she can depend on them from now on. In her back Hifumi’s figure was visible brightly smiling in absolute satisfaction.
After several meetings with the nobles ended, Hifumi told her that he will leave the castle soon.
“The basic preparations have been completed. Do your best in forming your own future.” (Hifumi)
“... Where are you off to this time?” (Imeraria)
“I will go visit Vichy. After that... you will be the one deciding that, no? See ya.” (Hifumi)
After seeing off Hifumi’s group, she entrusts her back to the deep chair and shuts her eyes.
“It’s the real deal from here on out...” (Imeraria)
During the consultation with the prime minister, we have decided to hold the enthronement in the near future. The consequence will be that the news will be circulated to my brother, I guess. I wanted to lay the foundation as new queen, as official successor, before Prince Ayperos returns to the capital.
If I possess overwhelming authority, I will conversely be able to protect Ayperos, I hope
“For that reason, I have to get strong myself first...” (Imeraria)
Thinking of the people who had died, Imeraria persuaded herself to apologize after everything ends. |
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} | 魔人族の再侵攻についての情報は、フォカロルがヴィシーと荒野の境界へ放っていた斥候からではなく、逃げてきたヴィシー難民から齎された。
初めはタイミングの問題かと思われたが、定期報告にも魔人族襲来の話は無かった。
「つまり、荒野からではなく、魔人族の軍はすでにヴィシー内にいた、ということですね」
パリュが作成した報告書を確認したカイム使っていた執務室を譲り受け、書類の山に埋もれているアリッサへ口頭で報告した。つまり、すぐに動けとカイムは言いたいわけだ。
「どれくらいいるのかな?」
「規模についてはまだ不明ですが、流入してくる難民の兆候から、オーソングランデとホーラントと接する国境と反対側から、着実に町を落としていると見られます。最も、暴走したピュルサンの兵も魔人族が片付けているようなので、対応が楽にはなりました」
魔人族が強化兵を排除しているところを目撃した避難民もいたらしい。
綺麗にまとめられた報告書は、カイムをして修正を求めるところが無いもので、パリュの能力をいかんなく発揮した素晴らしいものだった。合わせて送られてきた人員と物資の増量を要請する書類には、もっとどす黒い感情が込められていたが、そういった物が一切見当たらない、そのまま資料として職員に回すことができるものだ。
事実、カイムは一切の変更や補足を入れずに複製し、アリッサとヴィーネへ渡した。報告書の読み取りをする練習に丁度良いと思ったのだ。
「難民の増加もありますので、パリュは物資と合わせて、防衛のための人員を求めております。彼女の予測では、少なくとも十日以内には魔人族から接触があるのではないか、とのことで、私も同じ意見です」
もはやヴィシーは都市国家群としての機能はマヒしているらしく、中央委員会からではなく、フォカロルに近い各都市からは悲鳴のような援助要請が届き始めていた。だが、の指示により“国が静観を指示しているうえ、まず頼るべきは中央委員会であろう”という理由を表に出していて、その態度をアリッサも継承している。
「いかがいたしますか?」
カイムは無表情で淡々と問うているが、国境の向こうでは一つの国が魔人族に蹂躙されているのだ。フォカロルにしてみれば、領地存亡の危機である。
ヴィーネにもそれがわかるので、報告書を見ながら震えていた。
「増員......というより、全軍であたるよ。僕も行くし、プルフラスさんたちドワーフも全員連れて行く。防御陣地の設営に使えるものは全部使うから、トロッコでピストン輸送をする準備を」
指示を素早くメモに取るカイムに書類を返すと、アリッサは続ける。
「この領地も貴族の地位も、僕は“預かった”つもりなんだ。いつか一二三さんに返すときがくるだろうし、その時に領地が減ってたり、誰かに負けてたりしたら、怒られちゃうよ」
そして、ヴィーネにも一緒に来てほしいと頼む。
「もう少しだけ、僕に付き合ってくれる? 一二三さんの所に行く時に、僕が頑張ってるって伝えて欲しいから」
「わかりました」
内心は怖かったが、ヴィーネはアリッサの頼みを快く受け入れた。ヴィーネは、一通りの教育が終わった時点で、一二三と領地の間を行き来する役職へと配置が決まっている。その役割を果たすためにも、アリッサについて行くのは当然だという気持ちもあった。
「カイムさん、どのくらいで出発できるかな?」
「すでに物資の用意は進めております。明朝には、第一陣が出発できるでしょう。軌道にトロッコを用意しておりますので、一日で到着できます」
翌日、カイムとブロクラを領主代行としてフォカロルへ残して、アリッサは補佐役としてヴィーネを伴って、国境の町ローヌへと向かった。
突貫工事で防壁の強化と投槍器などの兵器の設置を進めること三日目、想定していなかった来訪者たちがやってきた。
「あっ! ヴィーネさん、久しぶり!」
「レニさん!? 他のみんなも......!」
国境の警備兵たちに呼ばれて駆け付けたヴィーネに向かって、レニやゲングが手を振っている。その後ろには、ザンガーなどエルフたちもいた。
「ど、どうしたんですか?」
「うん。ここに住みたいと思って。ダメ?」
ヴィーネは頭がくらくらするのを感じて、額を押えながらなんとか膝に力を入れた。
「わ、わたしには決定権が無いので......」
「いいよ~」
国境を出てすぐの場所へ、たたた、と走ってやってきたのは、領主アリッサだった。難民たちの手前、威厳が欲しいという理由で、ミュカレが提案した真っ赤なマントを付けているのだが、駆けまわって翻す様子は、子供が遊んでいるようにしか見えない。
「あ、アリッサ様......」
首をかしげているレニに、ヴィーネがアリッサのことを説明すると、レニはアリッサに頭を下げた。
「みんな、人間と同じように生活したいんです。お願いします!」
「じゃあ、とりあえずこの町で生活してね。ヴィーネさん、宿かどこか、空いてる建物をパリュに聞いて誘導と、戸籍の登録もお願い。それと、みんなには色々話を聞かせてもらいから、よろしくね」
がっしりと握手をしたアリッサとレニは、お互いにふにゃっとした笑みを見せて別れた。
ヴィーネがパリュを探して臨時役場へ走り、アリッサは別の仕事があるから、と工事中の防壁へと向かった。
「......なんだか、あっさり決まっちまいましたね。一二三さんの後継者ってことですが......こう言っちゃなんですが、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫じゃないかなぁ?」
ゲングの不安を、レニはすぐに否定した。
「多分、あの子......じゃないや、領主様は、ここにウチたち獣人やエルフがいる方が、都合が良いって思ったんじゃないかな? 色んな人が壁を補強したり武器を用意したりしているし、兵士もすごく多い。多分、魔人族が攻めてくると思ってる」
「それで、どうしてあっしらの存在があって、都合が良いので?」
「一二三さんに、戦は相手の予定を狂わせるのが基本だって教わったことがある。ウチたちが人間の町にいるなんて、魔人族は知らない......と、領主様は思ってるだろうし」
「それじゃあ、あっしらは......」
「盾にするつもりはないと思うけど......罠の一つ、かな? 人間と戦うつもりで来て、獣人とかいたら、現場の人はどうしていいかわからないと思うし。いずれにせよ、マルファス君の事があるから、ウチたちの動きは向こうに知れてる可能性もある」
ふと見ると、ヴィーネが走ってこちらへ向かってくるのが見えた。
「とにかく、ウチたちも役に立つところを見せて、守ってもらおうよ。ほら、なんだか良い匂いもするし、とりあえずは休もう。もうクタクタだよ」
ここまで歩き詰めだった人々は、レニの言葉で疲れを自覚すると、ヴィーネが用意した部屋まで何とかたどり着き、それぞれが深い眠りについた。
☺☻☺
「何言ってんだ。馬鹿かお前は」
オリガを含めた一二三への対応に関する会議の終了後、イメラリアは城内に宿泊している一二三を自室へと呼び出していた。
侍女も含めて全員に私室へ近寄らぬように言い含めているが、その事自体が一二三の警戒心を刺激していることに気付いていない。
そして、話を聞いてみれば、イメラリアは自分の子供が欲しいと言う。艶事なり睦言なりを聞かれるのが恥ずかしくて使用人を遠ざけただけかと考えると、一二三は力が抜けてソファにもたれかかった。
「そういえば、オリガが妙な視線を向けて来てたな。こういう事か」
「おおお、オリガさんには、一二三様の奥様ですから、先に許可を......」
「俺はお前たちの玩具じゃないぞ。貸し借りされるなんぞ不愉快だ」
立ち上がった一二三に、イメラリアが慌てて駆け寄り、袴の裾を掴む。
「お、お待ちください! これは別に、貴方を取り合ってとか、共有するとか、そういう話しではありません!」
口に出してみると、確かに一二三が怒るのも仕方がないな、と不思議と冷静に見えてくる。だが、今はそれどころではない。
声にしようとしている言葉は、輪にかけて最低な思考から出てきた発想だが、それが一二三の興味を引くはずだ。
「......これは、貴方を殺すための準備でもあるのです」
イメラリアの軽い身体はずるずると引き摺られていたが、その言葉でぴたりと止まった。
「どういう意味だ?」
振り向き、イメラリアを見下ろす一二三。
目を逸らさないように、しっかりとイメラリアも見上げ、一二三の目を見る。黒い瞳は、最初に出会った時よりもずっと黒みが深くなった気がする。
「貴方を、貴方の子どもに討たせようというのです。そのために、貴方の子を欲しいと言っているのです」
言ってしまった、と思うと、後悔よりも先に次々と言葉が出てくる。
「わたくしは、貴方が嫌いです。憎いです。わたくしの家族は、貴方を呼び出した、そのために貴方に殺された。父も母も、弟も、決して良い人物では無かったかもしれません。ですが、だからと言って、家族が殺されても良いと思えるほど、わたくしは割り切ることのできる人間ではないのです......」
一二三が言葉を発さず、自分をただ見ていることを確認し、イメラリアは夜着を脱いだ。まだ発展途上の身体を、わずかな衣擦れの音を立てて、薄い布が滑り落ちる。
「貴方に復讐ができるのであれば、わたくしはなんでもやるつもりです。それが人倫にもとる行為であろうと、貴方を殺すことができるのであれば、どんな危険なことでもやりましょう」
ゆっくりと、一二三が逃げないことを確認しながら、身を寄せる。
不意に浮遊感。
「えっ? きゃああ!」
両脇から抱え上げられ、ベッドの上に放り捨てられた。
細い身体は尻から落ちて、足を崩して座っている格好になる。なんとなく気恥ずかしくなり、薄いシーツを引き寄せて胸元を隠した。
その間に、一二三はソファへ戻ってどっかりと座り、冷めた紅茶を飲む。
「それだけだと、お前の貧相な身体を抱く気にはならん。俺を殺すためというのは良い。遠回り過ぎて、その思考は理解しがたいが、悪くは無いな。まだ身内を殺した事は無いから、想像することもできんが」
「女と言うのは、一つ思いを抱えたら死ぬまで忘れることはありません。一二三様のように、女心を理解しない朴念仁には、それこそ最期まで理解はできないでしょう」
「酷い言われようだな。俺はお前に呼び出されてこの世界へ来た。身勝手な理由で呼ばれたから、身勝手に振る舞ったにすぎん。それを非難されようが恨まれようが、俺がそれに応える義理は無い。違うか?」
「ええ、違いません。貴方の人生を狂わせたのはわたくしであり、その罪を負うべきは、父では無くわたくしであるべきです」
イメラリアは、枕元に置いていたナイフを掴んだ。
「わたくしに力があれば、これを貴方に刺して終わらせたでしょう。貴方がこの世界に戦いの火種を広める前に、貴方がこの世界で平和に暮らすのであれば、わたくしの方がこれで死ぬことも一つの決着のつけ方だったかもしれません」
ナイフを放り捨てる。
イメラリアと一二三の間、分厚い絨毯の上へ、ナイフは跳ねることなく落ちた。
「でも、最早それで済む状況ではなくなりました。貴方を退場させ、なおかつ貴方が引っ掻き回したこの世界を治める力を得る必要があるのです」
「その力が、俺との子供というわけか......。わからんな、そのために好きでもない男に抱かれるか」
「好きですよ。愛しております。一目見た時から、貴方が勇者様だと確信しておりました。次の瞬間には、武器を向けられていましたけれど」
くすくすと笑いながら、イメラリアは裸体のままでベッドから降りた。
目の前に立っている裸の女王を、一二三はいぶかしむ目で見つめていた。
「さっきは憎んでいると言っただろう」
「その二つの感情は、同居できるのですよ。女心は奇妙で気まぐれで、矛盾に満ちているのです」
そろりそろりと近づき、ふとナイフを拾い上げる。
一瞬の躊躇いを見せ、イメラリアはナイフを振り降ろした。
銀色に光る刃が一二三に触れることは無かった。
思い切り振り降ろされた手を一二三の左手が掴み、右手がイメラリアの首を掴む。
「うっ......」
ナイフを落としたイメラリアは、首を引き寄せられて目の前に近づいた一二三の顔を見て、自分がどんな表情をしているのかわからなかった。恥じらいか、怒りか、それとも見とれているような、甘い表情をしているかも知れない。
「何を考えている?」
「わたくし一人のものにしたくなった、と言えば理解していただけますか?」
「わかるわけがないだろう。お前、どこかオリガに似てきたな。大丈夫か?」
「し、失礼なこと言わないでください。それに、女の前で別の女の名前を出すなど、それも失礼です」
息がかかるほどの至近距離での会話。
息苦しいが、嫌では無かった。
「俺の子ができたとして、俺のように強くなるとは限らんぞ」
「教育係は、今貴方が育てているでしょう? それに、魔法を教える教師もそろえる伝手ができました。うまくいけば、一二三様よりもずっと強くなるでしょう」
「あいつらが、か。用意周到なことだな」
一二三が呆れた声を出した瞬間、首をつかむ力が緩んだ。
その瞬間、一二三の頭を掴み、イメラリアが唇を押し付けた。
「わたくしを抱きなさい。貴方が望む世界はその先にあります。そして、その終焉もそこにあります。わたくしがその歴史を作ります」
一二三には、懸命に言葉を並べるイメラリアの目が、すでに狂人のそれになっていると感じられた。
同時に、それが自分の妻と重なったことも否めない。
「俺は、何とも女性運が悪いのだな」
鼻息を荒くしてしがみついてくるイメラリアを抱え、ベッドへと運ぶ。
夜が明けた時、イメラリアの隣に一二三はいなかった。
鈍い痛みを抱えながら、彼女は作戦の成功と恥ずかしさで興奮し、変な悲鳴を上げてしまった。 | The news about the new invasion by the demons came not from one of the Fokalore patrols dispatched at the borders with Vichy and the Wastelands, but was brought in by Vichy’s refugees who managed to escape.
At first it was considered to be outdated news due to refugees having been on the run all the time, especially as any mention of a demon invasion was also missing in the regular reports.
“In other words, that means the demon army didn’t come from the Wastelands, but suddenly appeared inside Vichy.” (Caim)
Caim, who checked the report drawn up by Paryuu, orally reported to Alyssa who is buried under a mountain of documents after having taken over the office formerly used by Hifumi. In short, what he wanted to tell her was to make a move immediately.
“How many troops do they have?” (Alyssa)
“Their scale is still unknown, but going by the number of refugees flowing in, it’s likely that they are steadily occupying cities opposite of the border touching with Orsongrande and Horant. Since it looks like the demons are also eliminating the rampaging soldiers of Pyursang, it became easier to deal with that side.” (Caim)
Apparently there were refugees who witnessed the demons killing reinforced soldiers.
The neatly summarized report was a splendid writing that had no places that required corrections by Caim and amply showed the abilities of Paryu. In addition, usually such documents, which appealed for an increased number of goods and personnel to be sent, had a lot darker emotions put into them, but in Paryu’s report something like that couldn’t be found at all, allowing for it to be passed around to staff members as material list without any changes.
And as matter of fact, Caim reproduced it without a single adjustment or supplement, and handed it over to Alyssa. He considered it to be just the right document to practise how to read reports.
“Since there’s an increase in the number of refugees, Paryu has requested goods and in addition personnel for defense duties. According to her estimation, there will probably be contact with the demons in less than days. I share the same opinion.” (Caim)
It seemed that Vichy as group of city-states had already ceased to function. Loud requests for assistance started to flow in not from the central committee, but from the various cities close to Fokalore. But, in accordance with Hifumi’s order, they officially gave the reason “On top of instructing them to calmly watch the country, they should rely on the central committee first.” Alyssa adopted that stance as well.
“What shall we do?” (Caim)
Although Caim inquired expressionlessly and indifferently, one country on the other side of the border is being overrun by demons. Considering Fokalore, it was a danger affecting the existence of the territory.
Given that Viine understood that as well, she trembled while looking at the report.
“Increase the number of personnel... or rather, we will send the entire army. I will go as well. I will also take Pruflas-san and the other dwarves along. Prepare a shuttle service with rail cars since we will use all those who are useful for the construction of a defense base.” (Alyssa)
Once she returned the document to Caim, who was swiftly noting down her instructions, Alyssa continued,
this territory and noble title. Someday the time will come when Hifumi will come back, and then I will be scolded if the territory has shrunk or if I lost to someone.” (Alyssa)
And then she asked Viine to come with her as well.
“Can you keep me company for just a bit longer? I’d like you to tell Hifumi that I’m doing my best when you go to him.” (Alyssa)
“Understood.” (Viine)
In her heart she was scared, but Viine willingly accepted Alyssa’s request. It had been decided that Viine would be stationed at an official position that allows her to travel between Hifumi and the territory once she finished the basic education. She felt it to be natural for her to accompany Alyssa for the sake of playing that role.
“Caim-san, how long until we can depart?” (Alyssa)
“The preparation of goods is already making progress. Probably it will be possible for the first group to depart tomorrow morning. Since the rail cars and railroad tracks are ready, they will be able to arrive there in a day.” (Caim)
The next day Caim and Brokra stayed behind in Fokalore as representatives of the feudal lord, and Alyssa headed towards the border city Rhone while being accompanied by Viine as assistant.
On the third day of them setting up weaponry such as spear throwers and reinforcing the walls at high speed, unexpected visitors showed up.
“Ah! Viine-san, it’s been a while!” (Reni)
“Reni-san!? The others as well...!” (Viine)
Going towards Viine, who rushed over after being called by the border guards, Reni and Gengu approached her while waving their hands. The elves such as Zanga were present behind them as well.
“W-What’s wrong?” (Viine)
“Yeah, we want to live here. That’s okay?” (Reni)
Viine felt dizzy. She somehow managed to put strength into her knees while holding her head.
“I-I don’t have the authority to decide that, so...” (Viine)
“Sure~.” (Alyssa)
The one who came running to the place right before crossing the border at a light pace was the feudal lord Alyssa. She was additionally wearing a red mantle upon Miyukare’s suggestion, who said that she’d like Alyssa to be dignified in front of the refugees, but with her running around causing the mantle to fly in the wind, it only looked as if a child was playing around.
“A-Alyssa-sama...” (Viine)
After Viine explained to the puzzled Reni about Alyssa, Reni bowed her head towards Alyssa.
“Everybody wants to lead lives similar to humans. Please!” (Reni)
“Then, for starters you will live in this city. Viine-san, please ask Paryu whether there are any free buildings or inns and guide them there. Also please register them in the census, too. And, I’d like to listen to everyone’s stories, so please treat me well at that time.” (Alyssa)
Alyssa and Reni, who exchanged a firm handshake, smiled at each other faintly and separated.
Viine ran to the temporary town hall to look for Paryu. Alyssa told her that she has another task and headed to the wall that was still under construction.
“... Somehow it was decided all too easily. Although you said that she’s Hifumi’s successor...I’m sorry to say that, but will it be alright?” (Gengu)
“Isn’t it fine?” (Reni)
Reni immediately rejected Gengu’s concerns.
“Maybe that child... ah, wrong, Lord-sama thought that it would be convenient for us elves and beastmen to be here? Various people are reinforcing the walls and preparing the weapons. There are also very many soldiers present. They are probably expecting the demons to attack.” (Reni)
“So, why would be our existence be convenient to them then?” (Gengu)
“I was taught by Hifumi that it’s the basics to make your opponents plans go haywire in a battle. The demons don’t know that we are in a human city... that’s likely what Lord-sama is thinking.” (Reni)
“That means we are...” (Gengu)
“I don’t think that they plan to use us as shields, but... as one of the traps, maybe? I think the commanders-on-site won’t know what they should do if they run into beastmen after coming here with the intention to fight against humans. At any rate, since there’s also the matter with Malfas, it’s possible that our movements have been leaked to the other side.” (Reni)
Reni casually looked around and saw Viine running in her direction.
“Either way, let’s have them protect us by showing them our usefulness. Hey, something smells nice. For starters I will take a break. I’m already exhausted.” (Reni)
The people, who continued to walk until here, realized their own exhaustion due to Reni’s words and fell into a deep slumber after somehow arriving at the rooms prepared by Viine.
☺☻☺
“What are you saying. You, are you an idiot?”
“Uhh...”
After the meeting in regards how to deal with Hifumi, which also included Origa, Imeraria summoned Hifumi, who’s lodging in the castle, to her own room.
She had given detailed instructions to everyone, including the maids, to not get close to her room, but didn’t notice that this act in itself had provoked Hifumi’s wariness.
And when he confronted her about it, Imeraria told him that she wants his child. Once he concluded that she probably kept the servants away out of shyness that her love affair or whispered intimacies would be overheard, Hifumi lost all strength and fell back into the sofa.
“Which reminds me, Origa sent a weird look my way. So it’s about this, huh?” (Hifumi)
“Yeah, Origa-san is your wife, Hifumi-sama, I got her permission first...” (Origa)
“I’m not a toy to be used by you guys. Being lent out feels unpleasant.” (Hifumi)
Imeraria rushed over in a hurry to Hifumi, who got up, and grabbed the hem of his hakama.
“P-Please wait! This isn’t really about something like sharing or competing.” (Imeraria)
Certainly it’s inevitable for Hifumi to be angry about this.
The words she was trying to voice out should attract Hifumi’s curiosity, although they were based on a thought that had appeared after her having considered the lowest possible ideas in circles.
“... This is also a preparation to kill you.” (Imeraria)
He was dragging Imeraria’s light body after him, but suddenly stopped upon hearing those words.
“What do you mean by that?” (Hifumi)
He turned around and looked down on Imeraria.
Imeraria also firmly looked up directly into the eyes of Hifumi in order to not avert her eyes. She felt like his black pupils became even blacker in comparison to the time when she met him for the first time.
“It means that you will be defeated by your own child. That’s why I’m telling you that I want your child.” (Imeraria)
and I will keep talking before I regret it.
“I hate you. You are detestable. My family summoned you and was killed by you because of that. My father, mother and younger brother might not have been good people by any means, but while that may be true, I’m not a person who can come to terms with it to the degree of considering it as fine for my family to be murdered...” (Imeraria)
Imeraria made sure that Hifumi was simply looking at her without saying anything and took off her night-clothes. The thin cloth slips off with a faint rustling, exposing her still developing body.
“I intend to do whatever I must if it allows me to get my vengeance. I will do anything, no matter how dangerous it might, if it enables me to kill you, even if that might be acts going against human nature.” (Imeraria)magic
She slowly leaned in close while confirming that Hifumi wasn’t escaping.
Suddenly she felt a sensation of floating.
“Eh? Kyaaa!” (Imeraria)
She was lifted up from both sides and tossed on top of the bed.
Her slender body fell on its butt while assuming a posture of sitting at ease. Feeling somehow embarrassed, she pulled the thin bed sheet towards herself and covered her chest.
During that time Hifumi returned to the sofa, sat down with a flump and drank his cold black tea.
“If it’s only that, I won’t have any motivation to embrace your seedy-looking body. Saying that it’s for the sake of killing me is nice and all. Your thinking is difficult to understand as it’s too roundabout, but it’s not bad. Since I never killed my own family yet, I can’t understand your emotions either.” (Hifumi)
“If a woman harbors a single desire, she won’t forget it until her death. A blockhead, who doesn’t understand the heart of women like you, Hifumi-sama, will definitely be unable to comprehend until their death.” (Imeraria)
“It sure seems like I’m being called heartless here. I came to this world after being summoned by you. Because I was called here for a selfish reason, I passed my time by acting selfishly. Although you might resent or blame me for that, I don’t have any obligation to humor you in that. Or am I wrong?” (Hifumi)
“No, you are not wrong. The one who threw your life out of order was me. The one who should bear that crime wasn’t father but me.” (Imeraria)
Imeraria grabbed the knife placed near her pillow.
“If I had the power, I could have put an end to all of it by stabbing you with this. Me dying through this might have been another conclusion, if you had lived peacefully in this world, before you spread the triggers of battle all over the world.” (Imeraria)
She threw the knife away.
The knife fell on the thick carpet between Imeraria and Hifumi without bouncing.
“But, the option to finish it in such way has already disappeared. It’s necessary to have you exit the stage and moreover to obtain the power to subdue this world that was thrown into chaos by you.” (Imeraria)
“So you’re saying that my child will become that power, huh...? I don’t understand. You are going to sleep with a man you don’t even like for that sake?” (Hifumi)
“I like you. I have been in love with you. Since the time I took a look at you for the first time, I was always convinced that you are hero-sama. Though you pointed a weapon at me in the next instant.” (Imeraria)
While giggling, Imeraria let her naked body fall on the bed.
Hifumi stared at the nude queen in front of him suspiciously.
“Just now you told me that you hate me, didn’t you?” (Hifumi)
“Those two emotions can coexist. A woman’s heart is strange, whimsy and full of contradictions.” (Imeraria)
Drawing slowly and quietly near, she suddenly picked up the knife again.
Imeraria showed an instant of hesitation and then swung the knife downwards.
The silver-shining blade didn’t touch Hifumi.
Hifumi’s left hand grabbed her hand that was swung down with all her strength, and his right hand seized Imeraria’s neck.
Imeraria, who lowered the knife, looked at Hifumi’s face that was approaching in front of her eyes as her neck was drawn towards him. She didn’t know what kind of face she was making. It might be one full of shame, one of anger or even a charming, sweet one.
“What are you thinking?” (Hifumi)
“I didn’t want to be left alone by myself. If I told you that, would you understand?” (Imeraria)
“There’s no way I would, is there? You are certainly similar to Origa in some respects. Are you fine with that?” (Hifumi)
“P-Please don’t say something so rude. Besides, bringing up the name of another woman in front of a woman is impolite.” (Imeraria)
It was a conversation at a range where they could feel each others breaths.
It’s suffocating, but not detestable.
“Apart from it being my child, that doesn’t necessarily mean that it will become as strong as me.” (Hifumi)
“Right now you can raise it and be in charge of its education, can’t you? Besides, I managed to prepare someone trustable who will teach it magic. If all goes well, it will likely become far stronger than you, Hifumi-sama.” (Imeraria)
“Those guys, huh? You sure prepared things thoroughly.” (Hifumi)
At the instant Hifumi spoke in astonishment, the the strength constricting her neck relaxed.
Using that chance, Imeraria grabbed Hifumi’s head and pressed her lips on his.
“Make love with me. The world you desire is ahead of that. And its demise is to be found there as well. I will shape that history.” (Imeraria)
They eyes of Imeraria, who earnestly lined up word after word, felt to Hifumi as if they had already become that of a lunatic.
At the same time he couldn’t deny that they overlapped with the eyes of his wife.
“I really have bad luck with women, don’t I?” (Hifumi)
Holding Imeraria, who was clinging to him while roughly breathing through her nose, he carried her to the bed.
At the time when dawn broke, Hifumi wasn’t at Imeraria’s side anymore.
While feeling a dull pain, she ended up releasing a weird scream due to the success of her strategy and her excitement out of embarrassment. |
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} | 結局、エルフの大半は森を捨てて出ていき、残った者たちでは結界を維持することができなくなりつつあった。
魔力の高い者は総じてザンガーに従って早い段階で集落からの退去を決定していたのだ。
残った者たちも、次第に貧弱になっていく結界を見ながら、お互いに様子を見るようにして相互監視をしているような状況だった。
結界を維持する事が正義だと持論を振りかざし、熱い気持ちで賛同した者たちは、自分だけが「やはり出て行く」とは言い出せず、誰かが言い出した時に追従しようと内心でタイミングを測りながら、ずるずると日を過ごしていた。
結界が消えたとしても、実は魔人族は自分たちの居住地から出てくることは無いのではないか、自分たちエルフと同じように、安住の地としてその場所に残る事を選ぶのではないか、と何の根拠もない希望的観測がじわじわと広がり始めた。
だが、そんな夢物語は長くは続かない。
「おい、あれ......」
森で採集をしていた男が指差した先は、魔人族の集落がある方角だった。
切り開かれた道が続く先は、森の木々に挟まれて先は仄暗い。
「あれは......ま、魔人族か!?」
道の先から何者かが歩いてくるのが、うっすらと見えてきた。
その歩みは遅く、待ち構えるエルフ、魔法を放つ構えをとった。
「......あれ?」
初めは余裕ぶった動きに見えていたのが、実は足を引きずり、ゆっくりとしか歩けない状態にあるせいだとエルフたちが気づくのに時間はかからなかった。
やって来たのは、グレーの肌を持つ魔人族の男には違いなかったが、その姿は無残だった。
左目は潰れ、涙のように頬を血が伝い、引きずる右足は大きな傷を負っている。脇腹にも血をにじませて、額には大きな汗を滲ませて、必死に足を進めている。
満身創痍の魔人族が、ようやくエルフたちの姿に気づいた。
何かを掴むように右手を伸ばした。
「た、助けて......」
見開かれたのは右目だけでなく、見る影もなく潰された左目も同時だったせいか、エルフたちにはそれが単なる魔人族ではなく、得体の知れない化け物にしか見えなかった。
言葉は聞こえていたが、その意味を考える余裕はない。
「人間が......」
「弱っているようだ! 一気に畳み掛けるぞ!」
魔人族の呟きは、興奮したエルフの声にかき消された。
二人のエルフは、それぞれ風と土の魔法を放った。
歩くのがやっとの魔人族にそれを避ける余裕などあるはずもなく、風の刃はその身を切り裂き、石礫が全身を打つ。
ぼろ布のようになった魔人族は、吹き飛ぶように後方へと転がり、そのまま動かなくなった。
「やった......」
「でも、どうしてあんなに傷だらけだったんだ?」
「そんなことより、みんなに伝えないと! とうとう結界が消えたんだろう! 思ったより魔人族も弱いようだから、全員で当たればなんとかなるかもしれない!」
一人は首をかしげているが、もう一人は仇敵を倒したことで興奮しているらしい。集落へ向かって駆け出した。
「あ、おい!」
残された一人が声をかけようとしたが、すでに仲間は遠く離れた場所だった。
「......魔人族が弱いなんて、そんな都合良い状況なんてあるのか?」
そして、魔人族があれほどの怪我を負っていた原因は何か。懸命に頭を捻って考えたが、それを推察するには、目の前の死体一つでは足りなかった。
☺☻☺
魔人族の町が混乱にかき乱される発端を作ったのは、真夜中の訪問者だった。
一投宿したのは魔人族の町の中でも、繁華街に近い場所にある建物の一つだった。人の出入りがほとんどなく、宿は一軒だけしかない。
郊外に館を持つような、魔人族の中でも地位の高い者が仕事などで遅くなった場合などに利用する宿であり、民間ではない国の施設の一つだ。
腹も満たされていた一二三は、身体を拭いただけでベッドに横になった。
「......意外と早かったな」
誰もが寝静まった真夜中。ふと目を開いた一二三は、口の中で呟いた。
肌をピリピリと刺すような殺意が、自分の身に迫っているのを一二三は感じていた。
傍らの刀を引き寄せながら、ふぅっと小さく息を吐く。
「あの女を使うかと思ったが、予想が外れたな」
苦笑いを浮かべ、上半身を起こす。
気配はドアの向こうに二人分。
だが、踏み込む気配が無い。
じっとドアを見る一二三は、ベッドの上に座したまま腰に刀を差した。
敵は室内の様子を窺っているのだろう、しばらく扉を挟んで沈黙が流れる。
「どきなさい!」
聞いたことがあるような声が聞こえて、ドアが弾け飛んだ。
真っ二つになったドアが自分に向かって飛んできたので、一二三はベッドから落ちるように転がって避けた。
「一二三、大丈夫!?」
開いた、というよりドアがなくなった場所から顔を出したのは、汗だくで水色の髪を少しだけ乱れさせたウェパルだった。
「お前の魔法は発動が早いのか? 他の奴らの魔法なら大体発生がわかるが、ウェパルの魔法は実際にドアが吹き飛ぶまで気づかなかった」
「それが私の特性だけれど、そんなのんきな事言ってる場合じゃないのよ」
呆れたという顔で一二三の腕を取ったウェパルは、そのまま廊下へ出た。
通路は水浸しになっており、水流で壁に叩きつけられた二人の魔人族が気を失っている。
「殺さないのか」
「......勘弁してよ。これでも相当危ない橋渡ってるんだから」
暗い廊下を走るウェパルは、苦い顔をした。
「説明は後でするから、とにかくついてきて」
町のはずれに、ウェパルの部下たちが待っているらしい。
「王は、貴方を人間が送ってきた尖兵として扱うことで魔人族が外征する契機を作るつもりみたい」
「まあ、良い案だと思うぞ。人間への敵対心は無いわけではなくて薄れただけなんだろう? それなら、呼び水としてはその程度で充分だろう」
「貴方ね......自分の命が狙われている自覚は無いの?」
「まだ無いな」
袴を翻しながら走る一二三は、鯉口を指で撫でた。
「ビリビリするような戦いがまだ無い。命を狙うのに命をぶつけてくる奴がまだ来ていない。あの程度で命を狙っていますなんて冗談だろう」
むしろ不満を漏らす一二三に、ウェパルはもう何も言わなかった。
ひょっとして、助けなくても良かったかな、という考えが頭を
ぎるが、そういうわけにもいかない。
「貴方を殺すことで、確かに魔人族は力を合わせて人間との戦いに乗り出すでしょうね。でも、それは私たち魔人族が生きるために必要な戦いとは言えない。消えかけの憎悪をわざわざ掘り起こしてまで、多くの同胞の命を危険に晒すのは愚考だわ」
辿り着いたのは、町の出入り口の一つだった。
門の前には、程の女性の魔人族が待っていた。
「隊長、こちらです」
手を上げてウェパルを誘導したのはベンニーアだ。
「ベンニーア、状況は?」
「問題ありません。予定通りです」
「予定?」
ウェパルは首を傾げた。
今回の動きは急遽ウェパルの声掛けで部下に動いてもらったもので、予定や計画などという言葉とは無縁な、突発的なものなのだ。
「ええ、予定通りです。隊長が人間を庇う動きを起こすのは、王やフェゴール様が予想されていた通りです」
「ベンニーア!?」
問い詰めようとしたウェパルは、不意に横から突き出された拳に殴りつけられ、土埃をあげながら地面を転がった。
「ったく、人間なんぞに肩入れするとはな。フェゴールの奴は気に入らねぇが、こういう鼻のきくところは認めねぇとな」
握り締めた拳を振り回しながら、ウェパルを見下ろしたベレトが言う。
ウェパルは気を失ったわけではなかったが、脳震盪を起こして立ち上がることすらできなかった。
「べ、ベレトが、なんでここに......」
「まだわからないのですか」
答えを返したのはベンニーアだ。
「隊長、貴女には人間に殺された被害者という役に選ばれたのですよ。魔人族が一体となるための礎になれるのですから、光栄でしょう」
常々、戦闘力の無い民の事を考えておられる隊長ですから、彼らですら貴女の仇討ちのために戦ってくれますよ、とベンニーアは真顔のままで言い放った。
「まあ、ウェパルも人間も、殺すのは俺たちだけどな」
大剣を抜いたベレトが、一二三の方を向いた。
彼らの話を聞いていた一二三は、満面の笑みだ。
「......何を笑っているのですか」
命乞いをする場面ですよ、と言うベンニーアに、一二三は馬鹿言え、と返した。
「願ってもない状況だ。割と魔人族が強いようだから、どこかで調整しようと思っていたところだったからな」
「調整だと?」
「言い変えようか? 間引きだ」
刀を抜くこともなく、ヘラヘラと言い放った一二三に、ベレトは一瞬で頭に血が上った。
「俺を間引くってのか?」
「お、良くわかったな。褒めてやろう」
一二三が、懐から出した銀貨を指で弾く。
放物線を描いたコインが、ベレトの鍛えられた胸板に当たった。
「おう、殺してみろ!」
腰を断ち割ろうと豪快に振り回された大剣は、一二三に当たる事なく空振った。
飛び上がった一二三の蹴りが、ベレトの顔面を捉えるが、ホンの少しぐらりと揺れたベレトは、踏ん張って剣を叩きつけてきた。
「があああ!」
「頑丈な奴だな」
トントンと後ろに飛び下がった一二三は、それでも刀を抜かない。
「お前の戦いは見たことがある。強いな」
「当然だ! 俺はこの魔人族を勝者とするためにここにいる! 人間ごときに評価される必要はない!」
足を引いたベレトは、大剣を思い切り投げつけてきた。
ぐるぐると回転しながら飛来する大剣を避けるために、一二三は大きく横へ飛ぶ。
そこへ飛びかかったベレトの拳が、一二三の頬を捉えた。
ウェパルと同じように一二三の身体が飛ぶ。
しかし、一二三は地面を一回転すると、平然と立ち上がった。
血の混じった唾を吐き、一二三は首をグキグキとひねった。
「......何をした?」
「お前の拳を顔で受け止めてそのまま素直に飛ばされただけだ」
むち打ちになるのは身体が硬直するからだぞ、と一二三が力学と身体の構造をグチグチと話すのを聞き流し、ベレトもベンニーアも唖然としていた。
「さて、講義はこのへんでいいだろう。どうせもう使うことはないからな」
刀を抜いた。
一二三が声を上げた瞬間、ベレトは身構えた。
だが、一二三が放ったのは刀での攻撃ではなく、懐から出した
「ああっ!?」
周りを囲んでいた魔人族の女、その中の一人が悲鳴を上げた。
「な、なにをしたのですか......」
「金属の小さな塊をぶつけただけだ。魔法を使おうとしていたからな」
その言葉に、ベンニーアを含め魔人族の女性陣が後ずさる。
「俺を目の前にして周りを気にするなんざ、余裕だな」
血が滲むほど拳を握り締めたベレトが、引き攣る笑顔を向けてくる。
「余裕が無くなるくらい、必死で攻めて来い」
もはや挑発に対して言葉を返す事もなく、ベレトは拳を次々と繰り出す。
一二三は刀を当てて外らしながら、円を描くように下がって受け流した。
「この速度について来られるか!」
さらに手数を増やしたベレトの拳が、一二三の肩や脇腹をかすめるようになった。
刀の刃があたっているはずだが、ベレトの筋肉には薄く傷が入る程度だ。
「本当に頑丈な奴だ」
「そんな細い剣では俺の筋肉を貫く事はできん!」
目の前の人間は上手く避けているが、間も無く押し切れると確信したベレトは、さらに速度を上げるために右足を力強く踏み出した。
その膝の裏に引っ掛けるように左手を当てた一二三は、「ほい」と気の抜けるような掛け声と共に膝を引き寄せた。
「うおっ!?」
ガクン、とバランスを崩したベレトの左の拳が空を切る。
瞬間、刀の切っ先ががら空きの脇から突っ込まれ、首の横へと貫通した。
「筋肉がダメなら、それが無いところを狙うのは当然......っと、死んだか」
ズルリと崩折れたベレトの身体は、驚きに目を見開いたまま、自らが噴き上げる血の海に沈んだ。
「そんな......」
「ベレトさんが......」
ベレトの強さはそれだけの信頼をおけるものだったらしく、魔人族の女性たちは驚きを隠せない。
「......くっ!」
その中でも、ベンニーアだけは冷静に動き始めた。
直接やりあっても勝てない事がわかっている彼女は、思い切り息を吸い込んだ。
何かに気づき、ウェパルが叫んだ。
「耳を塞いで!」
直後、小さな顔に不釣り合いな程に口を開いたベンニーアが、声とも音波ともつかないような、振動を伴う叫びを上げた。
周囲にいる者が全員耳を押さえて悶絶し、耳を抑えそこねた者の中には、耳から血を流して気絶している者もいる。
「これはキツいな......」
刀を放って、人差し指を耳に突っ込んでいた一二三が漏らす。
直撃は避けたものの、脳みそをかき回すような振動で視界が歪む。
「死になさい!」
その声は一二三にはよく聞こえなかったが、駆け寄ってきたベンニーアが、鋭い爪で一二三の喉を狙うのは見えた。
視界の揺れに苛立った一二三は、目を閉じて自ら前に出た。
「えっ?」
予想外に距離が縮まった事に、ベンニーアは対応できず、そのまま振り下ろされた一二三の頭突きで額を切り、膝が震えた。
何とか倒れずにいるベンニーアの腹を、一二三の前蹴りが勢いよく突き飛ばした。
その先には、ベレトが投げた大剣が地面に突き立っている。
鈍い刃が腰の骨に食い込み、身体が二つ折りになったベンニーアは、血と呻き声を口から同時に噴き出して、死んだ。
「あ~......音ってのは厄介だな。完全な防ぎ方が無い」
首を振るった一二三が、刀を拾い上げた。
「さて、残りを片付けないといけないな」
無いと知りつつも刀の刃こぼれを確認しつつ、一二三が呟いた言葉を聞き、周囲の女たちは全員が冷や汗をびっしょりと流しながら、足が竦んで動けなかった。 | In the end, after the majority of the elves abandoned and left the forest, the remaining elves lost the ability to keep up the barrier.
Those with a high amount of mana decided altogether to depart from the village at an early stage following Zanga.
While watching the barrier growing gradually insubstantial, the remaining elves were in a situation of observing one another to check each other’s state.
Proclaiming their pet theory that upholding the barrier is an act of justice, those, who approved of it with a passionate attitude, are unable to state 「I will also leave」 just by themselves. While gauging the timing when they should comply once someone starts to talk about it in their minds, they passed their days loosely.
Even if the barrier vanished, the demons wouldn’t leave their own dwelling, would they? Won’t they choose to remain in their place as it’s peaceful location?
However, that pipe dream didn’t last long.
“Oy, that is...”
At the place where the man who was collecting in the forest pointed was the direction of the demons’ settlement.
Ahead, where the opened up path leads to, a gloomy place with forest trees on either side can be seen.
“Those are... d-demons?”
Someone, who came walking down the path, was faintly visible.
With their walking pace being slow, the two elves lying in wait prepared to release their magic.
“... Huh?”
It didn’t take much time for the elves to notice that the one, whom they saw moving leisurely at the beginning, was close to being unable to walk and thus only moved slowly.
There was no mistake that the one who turned up was a male demon with a grey skin, but his condition could only be described as a misery.
With his left eye crushed, blood flows down his cheek similar to tears and he drags along his right leg which has a large wound on it. His flanks are soaked with blood as well and while sweating profoundly on his forehead, he desperately takes one step after the other.
The demon with his whole body covered in wounds finally noticed the elves.
He held out his right hand as if grabbing for something.
“H-Help...”
With not only his right eye being opened widely, but also his left eye, which was crushed missing even a visible shadow, the elves didn’t see him as anything but a strange monster and not a demon.
Although they heard his word, they hadn’t the composure to think about its meaning.
“The human is...”
“He seems weakened! Let’s get rid of him right away!”
The demon’s muttering was drowned out by the voice of the agitated elf.
Both elves cast wind and earth spells each.
As the demon, who was barely able to walk, shouldn’t have any leeway to avoid those, his body was cut up by the wind blades and his whole body was hit by pellets.
The demon, who was turned into an old rag, rolled back being blown away and stopped moving just like that.
“We did it...”
“But, why was he covered in so many wounds?”
“Rather than such a thing, we have to inform everybody! At last the barrier vanished! Since it seems that the demons are weaker than we thought, we might be able to hold out somehow if we face them together!”
One of them is inclining his head to the side, but the other one appears to be excited by having killed an enemy. He ran off towards the village.
“Ah, oy!”
Although the one who was left behind tried to call out to him, his friend was already too far away.
“... Something like the demons being weak, could it be such too convenient state of affairs?”
And something was the reason for the demon to be injured this much. He eagerly wrecked his brain over it, but the corpse in front of him couldn’t provide the answer he was looking for.
☺☻☺
The one who created the origin by stirring up a chaos in the city of demons were visitors in the dead of the night.
There was a single building close to the business district where Hifumi lodged at in the demon’s city. With almost no people coming and going, it’s nothing but an inn.
As if having an inn in the outskirts, it’s a lodging used by some demons with high social standing in case work got late or such. It’s not a private but a state facility.
Having filled his stomach, Hifumi lied down on the bed after he had simply wiped his body.
“... They are unexpectedly fast.” (Hifumi)
In the dead of the night when everyone was asleep Hifumi abruptly opened his eyes and muttered this.
Hifumi sensed an intent to kill as if tingling on his skin approaching himself.
While pulling the katana to his side, he slightly breathes out with a “Fuu~.”
“I wondered whether I could use that woman, but this was out of my expectations.” (Hifumi)
Showing a wry smile, he sits up.
The presences of two people are on the other side of the door.
However, there’s no sign of them charging in.
Hifumi, who patiently watches the door, sat on the bed while wearing the katana at his waist.
The enemy is likely checking the situation inside the room.
“Step aside!”
Hearing a voice Hifumi recognised, the door flew open.
Since the door, which was split right in halves, came flying towards him, Hifumi evaded it by rolling off the bed.
“Hifumi, are you alright!?” (Vepar)
The one who called out to him from the opened, or rather vanished door was Vepar whose light blue hair was dripping with sweat and slightly disordered.
“Is your invocation of magic fast? I mostly know the invocation if it’s the magic from other folks, but I didn’t actually realize that your magic goes as far as blowing away a door, Vepar.” (Hifumi)
“That’s because of my special trait, but this isn’t a situation to have such carefree chat.” (Vepar)
Vepar, who grabbed Hifumi’s arm with an astonished face, left towards the hallway as is.
The pathway has become flooded with water. Two demons have lost their consciousness after getting hit by a wall of water.
“You haven’t killed them?” (Hifumi)
“... Forgive me. Even with this I’m crossing quite the risky bridge here.” (Vepar)
Vepar, who is running through the dark hallway, had a bitter expression.
“As I will explain later, follow me for now.” (Vepar)
Vepar’s subordinates seem to be waiting at the edge of the city.
“It looks like the king intends to create an opportunity for the demons to go on a foreign campaign by treating you as advance detachment sent by the humans.” (Vepar)
“Well, I think that’s a good idea. It’s not like the hostile opinion towards humans became weak, right? That being the case, this would likely be plenty to stimulate such situation.” (Hifumi)
“You know... aren’t you aware that he is aiming for your life here?” (Vepar)
“As of yet, no.” (Hifumi)
Hifumi, who runs while his hakama waves, stroke the mouth of the sheath gently with his fingers.
“It’s still not a battle that makes me tingling all over. Even though he is aiming for my life, there still hasn’t come anyone to wager their life. Aiming for my life with such an attitude, that’s a joke.” (Hifumi)
Vepar wasn’t able to say anything else to Hifumi, who leaked such complaints instead, anymore.
By chance, would it have been fine even if I didn’t rescue him?
Such thought was swirling in her head, but it’s not like she wouldn’t go if that was the case.
“With having you killed, the demons certainly will join hands and set out to fight with the humans. However, you can’t say that this will be a battle necessary for us demons to survive. Going as far as expressly digging up hatred that has almost disappeared, in my humble opinion that’s exposure of many of my brethren to danger.” (Vepar)
The place they finally arrived at was one of the entrances of the city.
In front of the gate around female demons waited.
“Captain, this way.” (Bennia)
The one guiding Vepar by raising her hands is Bennia.
“Bennia, how’s the situation?” (Vepar)
“There are no problems. Just as planned.” (Bennia)
“Planned?” (Vepar)
Vepar was puzzled.magic
The movement this time was hurried. With Vepar having only moved the subordinates she could call out to, it’s unrelated to such words as planned or scheduled, it’s something unforeseen.
“Yes, just as planned. For you to move in order to protect the human is just as it was expected by the king and Phegor-sama, Captain.” (Bennia)
“Bennia!?” (Vepar)
Vepar, who tried to interrogate her, was suddenly hit hard by a fist which came flying from her side and rolled on the ground while raising a cloud of dust.
“Good grief, for you to support the likes of a human. I don’t like that Phegor fellow, but I won’t approve such bad smelling acts.” (Beleth)
Beleth, who looked down on Vepar, says while swinging his tightly grasped fist.
It wasn’t like Vepar lost consciousness, but she wasn’t able to stand up as she had a cerebral concussion.
“B-Beleth, why are you here...?” (Vepar)
“You still don’t get it?” (Bennia)
The one who returned an answer was Bennia.
“Captain, you were chosen as victim who was killed by the human. Since you will be able to become the cornerstone to unify the demons, it will be a honour.” (Bennia)
“You have always thought about the people who don’t have any fighting strength, Captain, therefore even they will fight for your revenge”, Bennia declared with a serious look.
“Well, it will be us who kill you, Vepar, and the human though.” (Beleth)
Beleth, who drew his large sword, turned towards Hifumi.
Having listened to their talk, Hifumi is smiling all over his face.
“... What are you smiling for?” (Bennia)
Due to Bennia saying “this is the scene where you should beg for your life”, Hifumi returned “Foolish talk.”
“The situation is the best I could ask for. The demons are relatively powerful, thus I was thinking that I should adjust you in some respects.” (Hifumi)
“Adjust, you say?” (Beleth)
“Want me to rephrase it? It’s thinning out.” (Hifumi)
Due to Hifumi stating that frivolously without even drawing his katana, Beleth lost his cool in an instant.
“You will thin me out, you say!?” (Beleth)
“Oh, you got it properly. Let me praise you for that.” (Hifumi)
Hifumi plays with a silver coin he took out from his pocket.
Though the coin drew a parabola, it hit Beleth’s trained chest.
“I will kill you!” (Beleth)
The large sword, which was brandished heartily to cut open his waist, hit air without touching Hifumi.
The kick of Hifumi who jumped up caught Beleth’s face. Beleth, who shook and swayed only a small bit, braced his legs and hit with his sword.
“Gaaaa!”
“You are a sturdy fellow.” (Hifumi)
Hifumi, who smoothly jumped into Belth’s back, still hasn’t drawn the katana.
“I have seen your battle. You are strong.” (Hifumi)
“Of course! I’m here for the demons to become the winners. There’s no need to be acknowledged by someone like a human.” (Beleth)
Drawing back his foot, Beleth threw his large sword with all his strength.
In order to evade the large sword which came flying while rotating in circles, Hifumi largely leaps to the side.
Beleth’s fist, which swooped down there, hit Hifumi’s cheek.
Just like Vepar, Hifumi’s body flies away.
However, Hifumi made one revolution on the ground and stood up calmly.
Spitting out saliva with blood mixed in, Hifumi twisted his neck jerkily.
“... What did you do?” (Beleth)
“I was simply sent flying while taking your fist directly to the face.” (Hifumi)
Ignoring Hifumi’s mumbling “The reason for it to become like a whip is because the body stiffens” to explain the structure of the body and its mechanics, Beleth and Bennia were dumbfounded.
“Well then, I guess the lecture is done around this point. You won’t use it anymore anyway.” (Hifumi)
He drew the katana.
The instant Hifumi raised his voice, Beleth put himself on guard.
However, what Hifumi attacked with wasn’t a throw of the katana but the throw of a stone he took out from his pocket.
“Aah!?”
One of the female demons encircling him in the surroundings screamed.
“W-What have you done...?”
“I only hit her with a small piece of metal. She tried to use magic after all.” (Hifumi)
Due to those words, Bennia and the female demon unit step back.
“I pay attention to the surroundings in front of me. I have that leeway.” (Hifumi)
Beleth, who grasped his fist to the degree of blood seeping through, faces him with a stiff smile.
“At least make me loose that leeway. Come attacking desperately.” (Hifumi)
Without even returning any words towards that provocation anymore, Beleth unleashes a series of fist swings.
While it seems for others that he is hitting the katana, Hifumi warded them off and fell back in a circle.
“Can’t you get close at this speed!?” (Beleth)
The fists of Beleth, who increases the number of hits even more, reached the point of grazing Hifumi’s sides and shoulders.
They should be hitting the katana’s blade, but it’s at a level that Beleth’s muscles are injured only lightly.
“You are a truly sturdy fellow.” (Hifumi)
“You won’t be able to pierce through my muscles with such thin sword!” (Beleth)
, Beleth, who is convinced of that, stepped forward powerfully to raise the speed even more.
Hifumi, who placed his left hand on the backside of Beleth’s knee in order to catch him, drew the knee towards himself alongside a yell of 「Heave-ho」 in order to boost his spirit.
“Uo!?” (Beleth)
With a wobble, Beleth loses his balance and his left fist hits air.
In that moment the katana’s point was thrust from the defenceless side and pierced into the side of the neck.
“If the muscles are no good, it’s only natural to aim for places where there are no muscles... oops, he died, huh?” (Hifumi)
The body of Beleth, who collapses, sank into the pool of blood he had created himself while having his eyes open widely in surprise.
“Such a...”
“Beleth-san is...”
It seems that Beleth’s strength was something they put in that much of trust. The female demons can’t hide their surprise.
“... ku!”
Among them only Bennia began to move calmly.
Understanding that she would have no chance to win in a direct confrontation, she inhaled her breath with all her might.
Noticing something, Vepar shouted.
“Close your ears!” (Vepar)
Immediately following, Bennia, who opened her mouth to a degree mismatching for her small face, triggered a scream accompanied by a vibration which hasn’t any sound wave or voice attached to it.
All the people in the surroundings have covered their ears. Some among those who closed the ears are in agony and there are also people who have fainted after shedding blood from their ears.
“This was intense...”
Hifumi, who discarded the katana and plugged his index fingers into the ears, leaks.
Although he avoided a direct hit, his vision is distorted due to the vibration as it looks like his brain has been affected.
“Die!”
Hifumi didn’t hear that voice well, but he saw Bennia rushing over and aiming her sharp claws at his throat.
Getting annoyed with the shaky field of vision, Hifumi closed his eyes and took a step forward by himself.
“Eh?”
Due to him closing the distance unexpectedly, Bennia is unable to cope with it. Getting hit with Hifumi’s head-butt on her forehead as is, her knees trembled.
The body of Bennia which somehow doesn’t collapse was vigorously thrust away by a front kick of Hifumi.
After that he pierces her to the ground with the large sword which was thrown by Beleth.
As the dull blade bites into the bones of her waist, Bennia, whose body was folded in half, spurt out blood and groans from her mouth at the same time and died.
“Ah~... It’s troublesome if it’s sound. There’s no way to defend against it completely.” (Hifumi)
Hifumi, who shook his neck, picked up the katana.
“Well then, I have to clean up the rest.” (Hifumi)
Listening to the words muttered by Hifumi while he was confirming whether there’s a chip in his katana’s blade, though he knows there won’t be any, all of the women in the surroundings were frozen stiff and unable to move while being drenched in cold sweat. |
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"source": "superScraper-fanfic"
} | 「あっはは! どうだい、びっくりしただろう!?」
アガチオンは肘から先が消失した左腕を振り回す。千切れてボロボロの断面は、首と同様に白い砂壁のようにざらついている。
左の前腕を破裂させたということもわかったが、理屈はわからなかった。
は弾けた瞬間に両腕を前に出して顔と喉を守りながら後ろへと飛び下がった。だが、受けたダメージは深刻だった。
「魔法か......?」
「そうさ。人間の君には想像も付かない、純粋な魔力の爆発はどうだった? 両腕をズタボロに壊されて、どんな気分かな?」
アガチオンが嘲笑混じりに言う通り、一二三の両腕は肘から先が血まみれになっている。
道着の袖は無理やり引きちぎったように短くなり、腕はかばうために前に出した前腕外側が、骨は無事でも皮は裂け、筋肉が弾けて肘から先は動かない。
「初めてだな。ここまでやられたのは」
「おや、案外冷静だね。もっともっと泣き喚くかと思ったんだけど」
残念、とアガチオンが首を振った。
そのあいだに抉れた喉は修復され、左腕も少しずつ伸び始めている。
当然だが、一二三の方は自然に治るものではない。流れる血は、止まらない。
「呼吸をしているように見えたんだがな」
「しているよ?」
擬似的にだけどね、とアガチオンは笑う。
魔力を物質化した素材の集合体で、擬似的に人型を保っているだけだけれど、それでも呼吸や鼓動は再現しているという。
「これでもね、以前は普通の魔人族だったんだよ」
独自の魔力操作による魔法の失敗で、全身が物質化した魔法と置き換わってしまったのだが、どうせ説明してもわかるまい、とアガチオンはそれ以上語らなかった。
「まあ、僕が普通じゃ殺せない事がわかったなら......終わりにしようか」
フェゴールももうすぐ死ぬだろう、とアガチオンは視線をそらした。
その瞬間、一二三は痛みも感じないかのように再び猛然とアガチオンに駆け寄った。
面白くないよ、と石礫を次々に撃ち出すアガチオン。
その石塊を身体を傾けて無理やり受け流した一二三は、右腕から漆黒の刃を伸ばした。
「うぇっ?!」
思わず声を上ずらせたアガチオンは、わけがわからないままに黒い刃に再生しかけた左腕を肩から切り取られた。
「試しにやってみたが、うまくいくもんだな」
黒い刃の正体は、闇魔法で作った単なる収納の取り出し口の形を変えたものだった。
横から見ると視認できない程に薄く、生物は通さないので、うまくやれば物理的な武器として使えるのでは、と考えたのだ。
「使えるなら、丁度いい」
グイグイと力押しに迫りながら、一二三の奇妙な剣撃が続く。
斜め下から舐め上げるように叩きつける刃を、アガチオンは右腕で押さえつけようとしたが、右前腕を縦に裂かれた。
さらに、一二三が袈裟懸けに切り下ろす斬撃を、一歩下がって躱す。
「おや?」
血を失って、肩で息をしている一二三は妙な事に気づいた。
「なぜ、避ける必要がある? どうせ物質化した魔力でできた身体なら、斬られても問題無いだろう」
「な、なんとなくだよ! 妙な魔法を使ってきたから、びっくりしただけだ!」
更に襲ってくる礫を、一二三は冷静に見切って斬り捨てた。
アガチオンの攻撃速度と弾道に、慣れてきている。
さらに踏み込み、一二三は手足から顔面、そして胴へと刃を向ける。
目の斬りつけの時だった。
アガチオンが声を上げてのけぞり、斬撃を躱した。
そこで、一二三の動きが止まる。
「......どうしたんだい、人間? そろそろ限界かな?」
アガチオンが一二三を挑発するように嘲るが、一二三は肩を震わせている。
「......?」
「ふくくく......ひぁっはっはっは!」
首を傾げたアガチオンが、再び石礫を十ほど宙に浮かべた瞬間、爆発したように一二三が笑い出した。
ぴたりと笑いを止めた一二三が、真剣な目でアガチオンを見据えた。
「今から、お前を殺す。その前に俺を殺せればお前の勝ちだ」
何を今更、とアガチオンが眉を顰めた瞬間、再び一二三の猛攻が始まる。ただし、先ほどまでと違い、執拗に胸部を狙って刃が振るわれている。
何度も胸を狙って飛んで来る突きや斬り払いを、アガチオンは腕を犠牲にして辛うじてそらしていく。
一二三は無言のまま、刃と化した右腕を振るう。
何合目かの打ち合いの中で、一二三の刃がアガチオンの胸を横一文字に斬り裂いた。だが、アガチオンは笑みを浮かべた。
「残念でした。胸を切られたくらいじゃ、ね」
だが、一二三はそれに答えない。
反撃として飛来した石礫を真正面から受けた一二三は、両肩の関節を砕かれ、右手の刃もだらりと垂れ下がった腕の先から消えた。
「ほら見ろ、僕の勝ち......」
それでも止まらない一二三は、アガチオンの左足を踏みつけて押さえ、まだ残っている左腕の脇に頭を突っ込んだ。
「え、何を......」
「おおおおおっ!」
雄叫びを上げた一二三が身体を起こすと、アガチオンの左腕が強制的に跳ね上げられた。
本来は身体ごと相手の脇を開いて、鎧の無い脇の部分に短刀を突き立てるための動きだが、今回の狙いは別にある。
「わわっ!?」
先に一二三が斬りつけた胸の傷。それが無理やり開かれる。
そこには、まるで砂に埋もれた宝石のように、直径十センチ程の赤い何かが脈打っている。
それが露わになっていることに気づいたアガチオンは、青ざめながらも余裕ぶった口ぶりだった。
「おっと! 僕の心臓見られちゃったね、恥ずかしいなぁ」
「見つけたぞ。この鼓動が、俺が探していたものだ。お前が必死に庇っていたものだ」
「ぅぐっ......でももう、君は両手が動かないだろう。惜しかったね」
「別に、問題ない」
踏んでいた足を払い、仰向けに転ばせたアガチオンの胸に、一二三は顔を突っ込んだ。
「ま、まさか......やめ......」
懇願を無視して、大きく開いた一二三の口が、その心臓に齧り付く。
魔法を使うのも忘れ、一二三の肩や背中を左手で叩く。
だが、それも長くは続かない。
硬い表面を噛み砕くと、中は柔らかく、一二三の前歯は無残に心臓を齧りとった。
口に含んだ物を吐き捨てると、赤い液体にまみれた欠片が床に叩きつけられた。
残った心臓から、ドロドロと粘つく赤い液体が流れ出し、砂状になっている周囲へと染み込んでいく。
アガチオンは、恐怖に目を見開いたまま、死んでいた。
「......ようやく血を流したか」
そう言う一二三も、大分血を失っている。
膝の力が抜け、どすんと床に座り込んだ。
「ああ、やっとだ」
アガチオンと戦っているあいだ、喉を抉っても腕を飛ばしても、命を奪っているという実感は持てなかった。
それが今、脈打つものに齧り付き、香り立つ液体を浴びた事で、ようやく充足感を得られたのだ。
「うん。言葉を話す生き物の命を奪うのは、やはり良い心持ちだ」
朦朧とする意識の中、しみじみと、呟いた。
☺☻☺
「......あれ、死んでるのかな?」
「フェレス、見てきなよ」
「やだよ。ニャールが行って来てよ」
中央に瓦礫が積み上がり、小石や砂が広がり、荘厳とも言えたはずのホールが見る影も無くなっている。
その入口の左右から顔を出して様子を窺っているのは、ウェパルについてきて正門前で盛大に嘔吐していた二人の魔人族少女だ。
ホール手前には、刀に貫かれて前のめりに膝をついているフェゴールの姿があり、奥に見える壇上には、胸から真っ赤な血を流し、仰向けに倒れた王の姿。その傍らには、まるで王を見守るかのように座っている人間の姿があった。
そして、その誰もが微動だにしない。
「ウェパル隊長を待っていた方がいいんじゃ......」
「でも、助かるのに助けなかったら、もっと怒られるんじゃない?」
治癒魔法が使える二人の少女を、ウェパルは重宝していた。訓練中の事故や戦闘中に出た怪我人を助けるため、彼女たちは事あるごとに駆り出されている。
副隊長であるベンニーアが襲撃現場に二人を呼びつけていたのは、反撃されて怪我人が出て余計な証拠が現場に残るのを恐れたためだったが、ウェパルは純粋に怪我人や死人が出ないならそれが一番だと思っていた。
そのせいか、彼女たちは戦闘面などではまったく成長せず、回復する間もない前線や、怪我人が居ない場面では、はっきり言って役立たずだった。
「......ちょっとだけ、近づいてみようか」
「わかった」
彼女たちは、城内の混乱を収める事に尽力しているウェパルに命じられ、城内で隠れて監視している者から聞いて、一二三が向かったと思われるホールへと状況の確認と必要があれば生き残りの傷を癒す事を命じられていた。
一歳だけ年上のフェレスが、恐る恐るフェゴールに近づき、その後ろをニャールがついていく。
二人共、フレアスカートにケープを羽織った姿で、申し訳程度の武装としてナイフを持たされている。だが、使い方はよくわからない。
とにかくナイフを両手で握りしめ、ヒールがあるブーツだが、つま先立ちになって気持ち足音を殺して歩く。
「うわぁ......」
乾いた血だまりの中で、刀にしがみつくようにして事切れているフェゴールは、顔を伏せており、その表情は見えない。
「フェゴール様、治すとかいう状態じゃないよね」
さすがに、どれだけ治癒魔法が得意でも死者を蘇らせることは不可能だ。
「ねえ、この剣って......」
ニャールが指差したのは、フェゴールの身体を貫通している一二三の刀だ。
「あの人間が持っていたものだよね」
フェレスが指差したのは、こちらに背中を向けて座り込んでいる一二三の姿だ。
「うん。わたしも見た。それにしても、これってすごい武器なんだね......」
ニャールがそっと刀に手を伸ばしたとき、血走った目を見開いたフェゴールが、血の気を失った顔を上げた。
「貴様がぁ......」
もはや目も見えていないのだろう。目の前に立つニャールを一二三だと錯覚したのか、鍔を掴んでいた手を開き、ニャールに向けて伸ばしてきた。
「ひぎゃああああ!」
死者が動き出したかのような状況を前にして、ニャールは叫び声を上げ、フェレスも硬直して動けない。
だが、伸ばされたフェゴールの手は横合いからの蹴りに弾かれ、ニャールには届かない。
「ようやく結界が解けたか」
蹴りを入れた一二三は、力なく倒れたフェゴールを見下ろした。
「に、人間?」
「生きていたの......」
少女たちの声には耳を貸さず、一二三はフェゴールの胸に突き出た刀の柄を握り締め、一気に引き抜いた。
「ぅあああ......」
まだ痛みを感じるのか、刀の抜けた傷を押さえ、フェゴールは低く呻いた。
「まあ、生きていて良かった。止めはやはり自分の手で、だな」
引き抜いた勢いで振り上げた刀を、一二三は右手一本ですとん、と振り下ろす。
すでに多くの血を失っていたらしく、首が切断されても、さほどの血は流れなかった。
ニャールの足元に転がってきたフェゴールの生首、その怨嗟の念を思わせる凄絶な表情に、彼女は腰を抜かして座り込んだ。
その際に膝があたり、フェゴールの首はあさっての方向に転がっていった。
ニャールが見上げると、刀を懐紙で拭う一二三の姿があった。
助けられたと思ったニャールが、なんとか声を振り絞ってお礼を言おうとした瞬間、その眼前に刀が突きつけられた。
まるで研いだばかりのように美しく光を帯びた刀が、先ほどあっさりと首を刎ねたことを思い出したニャールは、震えながら唾を飲んだ。
「で、次の相手はお前か?」
助けられたと思ったが、どうやら違うらしい。
ニャールも、すぐそばで何も言えずに状況を見ているしかできないフェレスも、ベンニーアからの出動命令なんて無視すれば良かった、と今更後悔していた。 | “Ahaha! How about it? You were surprised, right?” (Agathion)
Agathion swings the left arm which previously vanished up to the elbow. The torn and tattered cross-section has a rough feeling similar to the white sand wall at the neck.
Hifumi even saw the left forearm bursting open, but he didn’t understand the theory behind it.
While protecting his throat and face by placing both arms in front at the moment he was repelled, he went flying to the back. However, the damage he received was serious.
“Magic, huh...?” (Hifumi)
“Yes, that’s right. It’s beyond the imagination of the human you. How was the explosion of pure mana? I wonder how it feels to have both arms broken and in tatters?” (Agathion)
As Agathion says with sneer mixed within, both arms of Hifumi are bloodstained from the tips up to the elbows.
The sleeves of the dougi have become short as if they had been forcibly torn off. The exterior of the forearms, which he had put in front of him to protect himself, has the skin ripped up even though the bones themselves are fine. With the muscles having snapped, he can’t move the arms up to the elbows.
“It’s the first time. For me to get done in this far.” (Hifumi)
“Oh, you are unexpectedly calm about it. I believed you would cry about it a lot more though.” (Agathion)
“How regrettable”, Agathion shook his head.
While repairing the gouged out throat, the left arm begins to grow little by little as well.
It’s only natural, but Hifumi’s state isn’t something that can be fixed spontaneously. The dripping blood doesn’t stop.
“It looked like you were breathing though.” (Hifumi)
“Am I?” (Agathion)
“It’s fake though”, Agathion laughs.
With an assembly of raw materials transformed into a substance of mana, he is just maintaining a fake human shape, but nevertheless he is reproducing breathing and palpitation.
“Even if things may appear this way, I was a normal demon once before.” (Agathion)
“Due to a magic failure caused by me manipulating my unique magic, my entire body ended up getting rearranged by that magic and transformed me into a substance, but you won’t understand anyway even if I explained”, Agathion talks about the further details.
“Well, if you knew about me not being able to get killed in a normal way... let’s finish this, shall we?” (Agathion)
Phegor will likely die any time now, too
In that moment Hifumi once again fiercely ran up to Agathion as if not feeling any pain.
“That’s no fun”, Agathion shoots pellet after pellet.
Hifumi, who eluded those rocks by forcibly bending his body, held out a jet black blade from his right arm.
“Ue!?” (Agathion)
Agathion, who unintentionally made a shrill and nervous voice, had the regenerated left arm cut at the shoulder by the black blade while still not comprehending the state of affairs.
“I wanted to test it out, but it seems to have gone smoothly.” (Hifumi)
The true identity of the black blade was something changed into the shape of the darkness storage’s outlet simply created with darkness magic.
It’s thin to a degree that one won’t be able to see it if looking from the side. And since it doesn’t penetrate living creatures it’s possible to use it as physical weapon if it works properly
“Just right if it’s usable.” (Hifumi)
While pressing on with a brute force approach, the strange sword attacks of Hifumi continue.
Agathion tried to pin down the blade, which struck him diagonally from below upwards, but had his right forearm cleaved arbitrarily.
Moreover Agathion evades the diagonally downward-swung slash of Hifumi by taking a half step back.
“Oh?” (Hifumi)
Hifumi, who is heaving heavily while losing blood, noticed something odd.
“Why is there are need to avoid? If it’s a body changed into a substance by mana anyway, there’s no problem even if it’s cut, right?” (Hifumi)
“F-For some reason or another! I just got startled since you used strange magic!” (Agathion)
Hifumi calmly observed the attacking pellets and cut them down.
He has become used to the speed and trajectory of Agathion’s attacks.
Stepping even further in, Hifumi points the blade at the torso and face after the limbs.
It was at the time he slashed for the th time.
“Uh-oh!” (Agathion)
Agathion raised his voice and dodged the slashing attack by bending his body.
Accordingly Hifumi’s movements come to a halt.
“... What happened, human? Are you gradually hitting your limit?” (Agathion)
Agathion ridicules Hifumi in order to provoke him, however Hifumi’s shoulders are trembling.
“...?” (Agation)
“Fukukuku... Hahahahaha!” (Hifumi)
Although Agathion was puzzled, he once again placed around pellets in mid-air, but at that moment Hifumi burst into laughter.
Suddenly ceasing his laughter, Hifumi stared at Agathion with a serious look.
“From now on I’m going to kill you. If you can kill me before that, it will be your win.” (Hifumi)
At the moment Agathion knitted his eyebrows asking “what are you saying this late in the game?”, Hifumi’s fierce attack began once again. However, unlike before, he is persistently wielding the blade while aiming at the chest.
Agathion barely averts the the slashes and thrusts, which are approaching him many times over while aiming at his chest, by sacrificing his arms.
While staying silent, Hifumi swings his right hand which had transformed into a blade.
Within the long exchange of blows, Hifumi’s blade cleaved open Agathion’s chest in a straight horizontal line. However, Agathion showed a smile.
“What bad luck. At least my chest was cut.” (Agathion)
However, Hifumi doesn’t reply to that.
Hifumi, who was struck by pellets hurled at him from the front as counter-attack, had the joints of both his shoulders broken and even his right hand blade vanished from the tip of his arm which dangled loosely.
“See, it’s my win...” (Agathion)
Hifumi, who doesn’t stop even then, pins down Agathion left foot by stepping on it and thrust his head into the armpit of the still remaining left arm.
“Eh? What are...” (Agathion)
Hifumi, who roared a war cry, raised his body and was able to forcibly throw up Agathion’s left arm.
Originally it’s a move to stab a dagger into the part which has no armour by opening up the flank of the opponent with the body, but the aim this time is another.
“Wh-Wha!?” (Agathion)
The chest wound, Hifumi had caused before, opens up by force.
In there something red with a diameter of around cm, just like a gem buried in sand, is pulsating.
Agathion, who noticed that it had become exposed, spoke in a way of behaving as if he had the leeway even while becoming pale.
“Oops! You got to see my heart, how embarrassing.” (Agathion)
“I found it. This pulsation was what I was looking for. It’s also what you frantically protected.” (Hifumi)
“Uguu... But, well, you likely can’t move both hands anymore. How regrettable.” (Agathion)
“That’s not really a problem.” (Hifumi)
Sweeping the foot he stepped on, Hifumi thrust his face into the chest of Agathion who toppled over while facing upwards.
“N-No way... stop...” (Agathion)
Ignoring the pleading, Hifumi opens his mouth widely and his teeth sink into the heart.
“Aaaaaahhh...” (Agathion)
Forgetting to use magic, he beats Hifumi’s shoulder and back with his left hand.
However that doesn’t last for long either.
Crunching on the hard surface and the soft inside, Hifumi’s front teeth bit into the heart mercilessly.
Once he spit out the objects he held in his mouth, fragments smeared with a red fluid were thrown onto the ground.
A syrupy and sticky red fluid spills our from the remaining heart and is absorbed by the surroundings which has taken the shape of sand.
Agathion died while his eyes were wide open in terror.
“... At last he shed blood, eh?” (Hifumi)
Hifumi has also lost a considerable amount of blood.
Losing strength in his knees, he sat down on the ground with a thump.
“Ah, it was close.” (Hifumi)
Even while sending the arms flying and gouging out the throat at the time he fought with Agathion, he didn’t have the actual feeling of stealing life.
But now, with him having been basked in the fragrant liquid after biting into the pounding object, he finally obtained a sufficient amount of that sensation.
“Yea. Stealing the lives of living creatures which can use words is a good feeling after all.” (Hifumi)
He earnestly muttered within his dimming consciousness.
☺☻☺
“... Huh? Has he died, I wonder?” (Pheres)
“Pheres, have a look.” (Njal)
“No way. You go, Nyal.” (Pheres)
With pebbles and sand spreading and a pile of debris rising in the centre, that, which ought to be a hall you could even call impressive, has lost its shadows.
The ones peeking at the situation from the left and right side of the entrance are the two demon girls who magnificently barfed in front of the gate after following Vepar.
In the hall itself, there is Phegor, who has fallen to his knees and is pitching forward as if about to fall while being pierced by the katana, and the figure of the king, who collapsed with a pale face and red blood shedding from his chest on a platform visible inside the hall. Next to him was the figure of the human who was sitting as if watching over the king.
And, none of them even twitches.
“Wouldn’t it be better to wait for Captain Vepar...?”
“But, won’t she be even more upset if we didn’t save them although we could?”
Vepar valued the two girls, who are able to use healing magic, highly. They are brought along at every opportunity for the sake of rescuing wounded people who appeared during battles and in accidents during practise.
Bennia, who was the vice captain, summoned those two to the attack site because she feared there would be too much evidence left behind at the actual site if injured people emerged in a counter-attack, but Vepar truly thought that it would be the best if there are no wounded or casualties.
As result of that, the two girls haven’t grown in regards to combat at all. Stating it bluntly, they were useless on scenes with no wounded and at the front-lines where there’s no time to heal.
“... Let’s try to get close, just a bit?”
“Got it.”
They have been ordered to assist in bringing the chaos within the castle to a close by Vepar. Listening to people, who have watched the situation while hiding within the castle, they were ordered to heal the survivors’ injuries if necessary and to check the state of affairs in the hall where Hifumi was supposed to have headed.
Pheres, who is only one year older, timidly approaches Phegor and Nyal follows behind her.
Both of them are holding knives as an excuse of arms and are wearing capes with a flare skirt. However, they don’t really know how to use either.
Grasping the knives tightly with both hands anyway, they walk forward while somewhat silencing their footsteps by standing on their tiptoes although they wear boots with heels.
“Uwaaa...”
Phegor, who has died while clinging to the katana within a puddle of dried blood, has his face hidden and his expression can’t be seen.
“Phegor-sama isn’t in a state that he can be healed or such, is he?”
As one would expect, no matter how good one is with healing magic, it’s impossible to resurrect the dead.
“Hey, if it’s this sword...” (Njal)
What Njal pointed at is Hifumi’s katana which has penetrated into Phegor’s body.
“It’s the sword that human had, right?” (Pheres)
What Pheres pointed at is the figure of Hifumi who is sitting down with his back turned towards them.
“Yea. I saw it as well. At any rate, this is an amazing weapon...”
At the time when Njal quietly extended her hand towards the katana, Phegor, who opened his bloodshot eyes widely, lifted his face which had lost all its blood.
“You bastard are...” (Phegor)
Did he hallucinate that Njal, who is standing in front of him, is Hifumi? Opening the hand which grabbed the guard of the sword, he stretched it out towards Njal.
“Higyaaaa!” (Njal)
In front of a situation similar to a dead having started to move, Njal raises her voice into a scream and Pheres isn’t able to move either as she has become stiff.
However, repelling the stretched out hand of Phegor by kicking it from the side, it doesn’t reach Njal.
“The barrier was finally broken, huh?” (Hifumi)
Hifumi, who was the one kicking, looked down on Phegor who feebly collapsed.
“H-Human?”
“You were alive...”
Without listening to the girls, Hifumi grabbed the hilt of the katana which was stuck in Phegor’s chest and pulled it out in one go.
Holding down the wound from the extraction of the katana, Phegor groaned deeply.
“Well, it’s great that you survived. I’m able to finish you with my own hands after all.” (Hifumi)
Hifumi swings down the katana, he had raised overhead with the force of pulling it out, with his right hand.
As he had apparently already lost a lot of blood, not much of blood flowed even when the head was cut off.
Phegor’s freshly severed head rolled up to the feet of Njal and she sat down while unable to stand up out of fear due to his extremely gruesome expression that gives one an impression of his feelings of resentment.
Being hit by her knee when she did so, Phegor’s head rolled in the direction of the day after tomorrow.
Once Njal raised her eyes, there was the figure of Hifumi who is cleaning the katana with a paper.
At the moment Njal, who thought that she had been saved, tried to somehow muster her voice to thank him, the katana was thrust before her eyes.
Remembering the katana, which had a beautiful lustre as if just having been washed, easily beheading Phegor before, Njal gulped down her spit while trembling.
“So, you are the next opponent?” (Hifumi)
She thought that she had been rescued, but it seems to be somehow different.
it would have been alright even if we had simply ignored the dispatch order by Bennia. |
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} | 国境のホーラント側の警備部隊がきれいに壊滅したあと、ゴロゴロと転がる死体の処理はオーソングランデの国境警備隊された。
警備隊にいた責任者は、許可なく国境を超えることに渋ったが、
「俺が許可するから大丈夫。というか、すでにここはオーソングランデ領だぞ」
という一言でねじ伏せられ、さらに死体の持ち物や敵宿舎の物品は好きにしていいという条件を乗せられ、兵士たちは我先にと国境とホーラント側へとなだれ込んで行った。
人を使うのは面倒だとつぶやき、は先を目指す。
急ぐでもなく、かと言ってゆっくりでもなく、一乗せた台車は進む。
相変わらずの快晴だが、街道には旅人や商人が行き来する姿はほとんどなく、たまに見える畑で農夫が作業を行っているのが遠目に見える程度だ。
「人が少ないな」
「以前にホーラント出身の冒険者から、あまり国内の移動が自由にできないという話を聞いたことがあります。それに、人口は王都にかなり集中しているとか」
さらに、魔法使いとそれ以外では扱いにかなり差があるらしい。
極端な魔法至上主義をとり、新しい魔法や魔法具を開発すれば、王族から声がかかり、重用されるという。
「ふぅん」
街道はそれなりに整備されてはいるが、オーソングランデやヴィシーに比べると、補修されないままになっている箇所が多く、草や石が多い。
夕方まで街道を進み、適当な場所で野営をしたが、朝まで誰も通りかからなかった。
のんびりたっぷりと朝食を摂ってから更に街道を進むと、昼前には街が見えてきた。
「街だな」
「どういたしますか?」
「食料を買おう。敵の兵士が邪魔してきたら殺せばいい」
台車は速度を落としながら、門番が立つ街の入口へと近づいていった。
☺☻☺
ホーラント王城へは、まだ一二三侵入の知らせは届いていない。
あの国境警備の責任者は、本来なら誰かを連絡に走らせるべきだったのだろうが、そうする前に殺され、誰ひとり国境の状況を知らせることができなかった。
王は一二三たちオーソングランデの軍勢が国境を侵す事を予想していたが、王孫ヴェルドレはそこまで予想できなかった。そのため、防衛の準備をしろという命令を“余計なことをせずに大人しくしていろ”という意味にとった。
「クソッ! 今頃は戴冠の準備をしていたはずが......オーソングランデの野蛮人どもめ! それに......」
口に出すことはなかったが、王への不満も喉までこみ上げた。
長い在位の間に、王子であった父は死に、叔父たちも継承を諦めて国政の重役のまま一生を終えようとしている。言葉にすることはなかったが、父は不満気であったし、あまりに長く変化しない王城の顔ぶれに、王城内には倦怠感すら漂っている。
ここ10年は目立った魔法技術の進歩もなく、王もこれといった手を打てていない。
自分ならうまくやれるという気持ちは日に日に高まっていた。
自らの研究兼執務室へと戻ったヴェルドレは、陶器の壺から注いだ酒をあおり、音を立てて椅子へと腰を下ろした。
そこへ、ノックをして入ってきた一人の男がいる。
30絡みの年齢で、キザったらしい燕尾服を着て丁寧に整えたらしい口ひげをたくわえている。
「ヴェルドレ様」
「......ユーグか」
ユーグと呼ばれた男は、ヴェルドレのカップに酒を注ぎ、自分にもカップを用意した。一言も断らず、まるで当然のようにそうするユーグに、ヴェルドレも特に何も言わない。数年来続く付き合いの間に、半ば習慣となっていた。
「王と、何かありましたかな?」
「なんでもない......いや、俺が失敗しただけだ。新型の魔法具を使って用意した兵士の半分を失い、残りをオーソングランデに持っていかれた」
一口、酒に口をつけたユーグは、その香りにニンマリと笑った。
「良い酒ですね。さすがは王孫。いや、次期王というべきですな」
「茶化すな。それに、この失敗で王位もお預けだ」
深いため息をつき、カップの酒を見つめる。
挫折感のせいか、飲んでも味を感じない。
「すぐに王位に就く方法があるではありませんか」
「何を馬鹿なことを......まさか! 冗談にしても悪ふざけがすぎるぞ」
睨みつけられたユーグは、動じることなく肩をすくめて見せた。
「冗談なんかじゃありませんよ。早く貴方が玉座に座ることを望んでいる者は少なくありません。王城で働く者の大半と言っていい。その気になれば、協力者だっていくらでも集まりますよ?」
「だが......」
「弱気なことを言ってはいけませんよ。至尊の座に就くのに、これくらいの試練を乗り越えられなくてどうするのです」
ユーグがゆっくりと噛み砕くように言い聞かせる言葉に、ヴェルドレは次第に引き込まれていった。
王であり祖父である人物を思い浮かべ、頭を抱えて唸っていたヴェルドレの耳に、更にユーグの声が響く。
「王位を力で奪うのも、また実力を示す方法ではありませんか?」
先程まで渦巻いていた王への不満が、またヴェルドレの心を支配していく。
「......どういう方法がある?」
顔を上げたヴェルドレの問いに、ユーグは「素晴らしい、英断です」と笑った。
☺☻☺
「はーい! ちゅうもーく!」
再びミュンスターの広場に集められた元ホーラント兵たちは、虐待をされることもなく良い食事を与えられ、ゆっくり休めたことで皆が大分元気になっていた。
精神的にはまだまだ不安が強いが、それでもまだ生きていく希望はあるとお互いを励ましている。
そして今、彼らの目の前には先日説教をしていた少女よりも更に若く見える女の子が立っている。
「僕はフォカロル領軍の軍務長官アリッサ! よろしく!」
「ぐ、軍務長官......?」
誰かが信じられないとこぼしたのに、アリッサの両脇に並んだフォカロル兵たちが睨みつけた。
「こら! 長官閣下のお話中だぞ!」
「す、すみません」
「それじゃ、これからの事を説明す、します!」
「長官がついに丁寧語を!」
「長官、がんばって!」
えーっと、と言いながら手元のメモをチラチラ確認するアリッサを、周りの兵士たちが懸命に応援している。
見ている側は理解が追いついていない。
「みんなには、僕たちの軍と一緒にフォカロルへ行ってもらいます。一二三さんの許可済みなので、全員街のどこかに泊まる所を用意するし、希望があれば仕事の斡旋もするから安心してね。僕はホーラント行きの軍を指揮するから、着いていけないけど、ちゃんとフォカロルの文官には連絡するから大丈夫」
「長官と一緒じゃなくて残念だったな!」
「まあ新入りじゃ当然だな!」
フォカロル兵たちのテンションに、ホーラント兵たちはどう反応していいかわからないが、とにかくフォカロルに行くらしいことは辛うじて理解する。
フォカロル領兵のテンションはいつものことらしく、アリッサは懸命にメモの内容を説明していった。
フォカロルに着いたら名前と年齢を登録して、一旦宿に入り、それから希望する者には教育して職場を紹介するという。
教育という聞きなれない言葉に困惑していたホーラント兵たちだが、アリッサの様子を見て、そんなに悪い扱いじゃないのだろうと口々に相談している。
「フォカロル領軍に入りたい人がいたら、街に着いた時に文官の誰かに申請してね。僕たちフォカロル領軍は、みんなを歓迎するよ!」
にっこりと笑って説明を終えたアリッサに、領兵たちから歓声が上がる。
「お疲れ様です長官!」
「お飲み物を用意いたしました!」
「お疲れでしょう。私の背中にお乗りください!」
壇上から降りたアリッサに群がり、口々に労いやよくわからないことを言う領兵たちを見て、ホーラント兵たちは領軍に入るのだけはやめておこうと決めた。
「......なんだこれ」
たまたま様子を見ていたサブナクが、温度差のある二つの集団を遠目に見てつぶやいた。
「待て、妙な乗り物だな......これは何だ? この街へ何の用だ?」
近づいてきた一二三たちを見て、門番らしい二人のホーラントの兵が細い槍を握って
「これは俺が作らせた乗り物だ。別に名前はつけてない。王都に向かう途中で食料を買いに立ち寄っただけだ」
立ち止まる事なく、質問に答えながらさっさと街へ入ろうとする一二三を、番兵たちが慌てて槍を突き出して止めた。
「ま、待て! まだこちらの質問は終わっていない!」
「止まれ! 身分を証明するものと、国内の移動許可を見せろ!」
「移動許可? この国じゃそんなものまでいるのか」
「そのようですね。やはり国内でも移動が制限されているのでしょう」
のんきに話している二人の後ろでも、兵たちが不便だとか出入りの確認が大変だとか雑談をしているあたり、この緊張感のない空気は国を出ても変わっていない。
「許可証を持っていないのか? まさか脱走か!」
さらに槍を近づけてきた番兵に、一二三は懐からコインを出して見せた。
「これが何か知ってるか?」
問われても、番兵は顔をしかめるだけで答えない。
「知らないみたいだな。国内でしか通用しないか」
では教えてやろう、と一二三はコインをくるりと回して視線を集める。
「オーソングランデでの貴族位を表す物だ。一二三という敵国の伯爵様だよ、俺は」
一瞬あっけにとられた番兵は、オーソングランデという言葉をようやく認識したらしく、慌てて一人が街の中へと駆けて行った。
「応援を呼ぶのか」
一二三の質問をどういう意味にとったのか、残った番兵は鼻で笑った。
「今更ビビっても遅い。騙りでも敵国の貴族なんか名乗ったらどうなるか、たっぷり牢屋で反省するんだな」
「何勘違いしてるんだ。応援を呼ぶなら沢山呼べよ。すぐ終わったらつまらん」
完全に小馬鹿にされた番兵は、槍先を一二三の眼前に近づけた。
「いい加減に黙れ! 虚勢を張るのもいい加減に......」
不意に一二三がずいっと顔を近づける。
その左の瞳に槍先が触れそうになると、番兵は思わず槍を引いた。
「槍を引いたな」
「う......」
「虚勢でもなんでも、やると決めたら途中で引くな」
まっすぐに見つめてくる一二三の視線に、番兵が視線を逸らした時、10人程のホーラント兵が駆けて来るのが見えた。
「き、来た! これで......」
応援の到着にに胸をなでおろしたのも束の間、番兵は胸から刀を生やしていた。
「敵を前に視線を逸らすなら、これくらい見ずによけろよ」
信じられないことをする、と目で訴えた番兵はそのまま息絶えた。
「なっ......貴様!」
目の前で仲間を殺された兵士たちは、顔色を変えて殺到してくる。
彼らの到着を待ちながら刀を収納し、鎖鎌へ持ち替える。
「オリガたちは手を出すなよ」
スススッと距離を取ったオリガたちを見た一二三は、おもむろに分銅を回し始める。
「さて、どうやら今回は魔法使いが混じっているみたいだな」
集団の後方、体力的に劣るのか遅れ気味に三人の魔法使いらしき地味なローブ姿の人物が来ているのが一二三の視界に映った。
待ちきれないかのように、一二三から街中へと踏み込む。
分銅の一投目が先頭にいた男の顔面を潰し、衝撃で頚椎までダメージを受けた男は歯を散らしながらもんどりうって倒れた。
二投目は別の男の首に巻き付き、一二三の元へと獲物を引き寄せる。
近くに来た敵兵に笑いかけた一二三は、鎌で太ももの動脈をざっくりと斬った。
あっという間に血の海になったところで、近くにいた住民たちが異常に気づいたらしく、悲鳴を上げて逃げていく。
三人目に狙いを定めたところで、何かが飛来する気配に気づいた一二三が素早く体一つ分横へ移動する。
一抱え程の大きさの岩が通り過ぎ、背後にいたオリガたちの前に落下した。
「一二三様! 土の魔法を使う者がいます! お気を付けください!」
「土の魔法というより、岩の魔法だな」
どうやら魔法使い三人とも同じ属性使いのようで、さらに二つの岩が飛来する。
勝ちを確信したのか、魔法使いたちを見ると、フードの下から除く口元は笑っている。
「さて、こういうやり方も“アリ”かな?」
言いながら、闇魔法の収納を目の前に展開する。
黒く広がった収納に、音もなくすっぽりと岩が収まると、何事もなかったかのように閉じた。
「ふむ。使い勝手は良いな」
一人納得する一二三に、敵の魔法使いは唖然としている。
それだけではなく、杖も短剣も無く魔法を行使した一二三に、兵たちも足が止まっていた。
「おいおい、まだ終わってないぞ」
唸りを上げる分銅が、また一人の側頭部を痛打して殺害。
兵たちが我に帰る前にさらに一人が、鎌で首を切り裂かれた。
「い、一旦下がれ! まとまってかかるぞ!」
慌てた兵たちは一度下がり、集団で隊列を整えている。
もたもたと並ぶ兵たちを、一二三はあくびをしながら待っている。
「終わったか? 頭を使って戦うならいいんだが、もうちょっと素早く動けるように訓練しておけよ。俺のところの兵なら数秒かからず隊列変更できるぞ」
一二三の言葉に、フォカロル領兵たちは誇らしげに頷いている。
「かかれぇ!」
兵の誰かが叫ぶと、全員で一斉に駆けだした。その後方から、また岩が三つほど飛んでくる。
一二三は鎖鎌を収納して素手になると、並んで槍や剣で斬りかかってくる相手の隙間を縫うように、すいすい通り抜けて行った。
そのまま最後尾にいた兵の前に立つ。
「えっ?」
なぜ自分の目の前に敵がいるのか理解できないでいる兵士を、一二三は子供を抱えるように両脇を抱えてやった。
走ってきた勢いのまま上に持ち上げられた兵士の後頭部に、飛来した岩が当たる。
グシャリ、と水気を帯びた嫌な音がした。
死体を投げ捨てた一二三は、魔法使いへ駆け寄り、立て続けに刀の錆に変える。
「もう少し使い方を考えればいいと思うけどな」
魔法使いを全滅させた一二三が、生き残った兵に視線を向けたとき、すでに戦意を維持しているものは一人もいなかった。
だが、一二三は誰ひとり生かしておくつもりはなく、その通りの結果となった。 | After the guard unit on Horant’s side of the national border had been completely destroyed, the disposal of the corpses, which were scattered all over, was entrusted to the border guards of Orsongrande.
The person responsible for the guards hesitated to cross the border without permission.
“It’s alright since I’m giving you permission. Or rather, this is already territory of Orsongrande.” (Hifumi)
Making him yield with a few words and furthermore placing the condition that it was fine to do as they like with the goods in the enemy’s lodging house and the personal properties of the corpses, the soldiers surged into Horant’s side of the border striving to be first.
Murmuring how difficult it is to handle them, Hifumi goes ahead.
Without haste and on the other hand without being slow either, Hifumi advances on the wagons they took along.
The weather is clear as usual, but there are almost no figures of merchants and travelers coming and going on the highway. Occasionally seeing farmers working on the fields is something he can only see in a distant place.
“There’s few people.” (Hifumi)
“I heard a story that they aren’t able to freely move too much within the country because of the previous adventurers originating from Horant. Besides, the population is quite concentrated on the capital.” (Origa)
Moreover, there seems to be quite a difference in treatment with the exception of magicians.
They have adopted an extreme doctrine of magic supremacy. If you develop new spells or magic tools, depending on the opinion of royalty, you will be appointed to a responsible post.
“Huuumph.” (Hifumi)
Although they are maintaining the highway quite a bit, compared to Orsongrande and Vichy, there are many points, with weeds and stones, that are in a state of not being repaired.
Proceeding on the highway until evening, they set up camp at a suitable spot. But no one happened to pass by until morning.
They advanced once again along the highway after having taken a carefree and ample breakfast. Just before noon they could see a city.
“It’s a city.” (Soldier)
“What will you do?” (Origa)
“Let’s buy food. It’s alright to kill the enemy soldiers if they come interfering.” (Hifumi)
While lowering the speed of the wagons, they approached the city’s entrance with its gatekeepers standing guard.
☺☻☺
The information of Hifumi’s invasion hasn’t yet reached the royal castle of Horant.
That person in charge of border security should likely dispatch someone to contact them originally, but he should have done that before getting killed. Therefore no one knew about the situation at the national border.
The king expected Hifumi’s group and Orsongrande’s military forces to invade the frontier district, however the royal grandson, Veldore, hadn’t predicted that. For that reason, the order insisting on him preparing the defenses carried the meaning of “Behave yourself without doing anything unnecessary” for him.
“Shit! About now I should be preparing the coronation, but... those savages from Orsongrande! Besides...” (Veldore)
There wasn’t any need to put it into words, but his dissatisfaction with the king welled up from within his stomach up to his throat.
During the long reign, my father, being the prince, died and my uncles, who tried to give up on the succession as well, are finishing their whole lives as high executives of the national politics. They never put it into words, but they were discontent with father. A sense of fatigue is seeping through the castle due to the too long time of no changes in the staff within the royal castle.
Without even outstanding progress in magic engineering for the last years here, the king didn’t take any special measures either.
Day by day his feeling that he would be more successful than the king is rising.
Veldore, who returned to his office and personal laboratory, sat down in his chair and made a sound as he gulped down the sake he poured into his cup from a porcelain jar.
A man came entering then after having knocked.
With an age of about years, he has a mustache, which is carefully put in order and wears a seemingly pompous tail coat.
“Veldore-sama.” (Yugu)
“... Yugu, huh?” (Veldore)
The man called Yugu poured sake into Veldore’s cup and prepared his own cup as well. Without even a single word of permission, Yugu does this as if it was the most natural thing in the world. Veldore doesn’t particularly say anything to that either. During the continuous years of associating with each other it had partly become a habit.
“Did something happen with the king, I wonder?” (Yugu)
“It’s of no concern... no, it’s simply my failure. Half of the soldiers, who used the new type of magic tool, were lost. The remaining were captured by Orsongrande.” (Veldore)
Yugu, tasting a sip of sake, laughed with a complacent smile due to its aroma.
“It’s an excellent sake. As expected of the royal grandson. No, it should be, as expected of the next king.” (Yugu)
“Don’t make fun of me. Besides, this failure also means the postponement of the crown.” (Veldore)
With a deep sigh he stares at the sake cup.
As result of his feelings of frustration, he doesn’t even sense the taste of what he’s drinking.
“Isn’t there a method to take the throne right away?” (Yugu)
“What foolish thing are you saying... Never! That’s too much of a prank even as joke!” (Veldore)
Yugu, who had Veldore’s glare pointed at him, shrugged his shoulders without being perturbed.
“It’s no joke or such. There aren’t few people who are desiring for you to sit on the throne as soon as possible. It’s fine because it’s the majority of those working in the castle. If you felt like it, I could gather as many cooperators as you wish.” (Yugu)
“But...” (Veldore)
“Don’t say such weak things. What will you do if you can’t surpass an ordeal of such level in order to ascent to the rank of emperor.” (Yugu)
Veldore was gradually drawn in by Yugu’s words of slow and simplified persuasion.
Being reminded of the character of his grandfather who is the king, the voice of Yugu resounds even more in the ears of Veldore, who groaned being at his wit’s end.
“Isn’t it a method to prove your competency once again if you steal the crown with force?” (Yugo)
The discontent with the king, which was all jumbled together just a moment ago, is once again dominating Veldore’s mind.
“... What’s the method?” (Veldore)
Yugu laughed with a 「Magnificent resolution」 due to the question of Veldore, who raised his face.
☺☻☺
“Yeees! Liiiine up in order!”
The former soldiers of Horant, who were once again gathered in the plaza of Münster, were given a good meal without suffering abuse. After having taken a rest at ease, all of them became very lively.
Their mentality is still quite insecure, but even so they are encouraging each other by ascertaining their hopes of survival.
And now, in front of them is an even younger looking girl than the one, who gave them a preaching the other day, standing.
“I’m the military director of the Fokalore territorial army, Alyssa! Best regards!” (Alyssa)
“M-Military director... ?” (Soldier)
As someone let his feelings of disbelief show, the soldiers from Fokalore, lined up on both sides from Alyssa, glared at him.
“Hey! Your Excellency, the director, is talking!” (Soldier)
“I-I’m sorry.”
“Well then, I will explain what you wil- shall do from now on!” (Alyssa)
“At last the director is using polite language!”
“Director, go for it!”
Alyssa, confirming from time to time with a glance the memo in her hand while saying “Ummm,” gets earnestly cheered on by the soldiers in her neighborhood.
The watching side can’t catch up with their comprehension.
“I will have all of you go to Fokalore together with my troops. Because Hifumi-san has given his approval, we will prepare a place in the city where everyone can stay at. You can be relieved since even work will be mediated for you if you have an aspiration. Since I will command the troops going to Horant, I won’t be able to go with you, but it’s okay because I will properly contact the officials from Fokalore.” (Alyssa)
“It’s regrettable that we can go together with director!”
“Well, it’s only natural for newcomers!”
The soldiers from Horant don’t know how they should react due to the high tension of the soldiers from Fokalore, but at any rate, they have barely understood that they will apparently head to Fokalore.
The tension of the Fokalore territorial soldiers seems to be the usual. Alyssa eagerly explained the contents of her memo.
Once they enter Fokalore, their name and age will be registered. They will enter an inn temporarily. After that, those people with aspirations will be educated and introduced to a workplace.
The soldiers from Horant were baffled by the unfamiliar word they heard, education, but seeing Alyssa’s appearance, they are consulting among each other that it probably won’t be such bad treatment.
“If there are people who want to enter the army of Fokalore, apply to one of the civil officials once you arrived at the city. Our Fokalore territorial army will welcome any of you!” (Alyssa)
A cheer from the territorial soldiers resounds due to Alyssa finishing her explanation laughing with a smile.
“Thank you for your effort, director!”
“Beverage has been prepared!”
“You are probably worn out. Please get on my back!”
Alyssa, who gets down from the platform, is swarmed. Seeing several of the territorial soldiers expressing their appreciation and saying things they don’t quite understand, Horant’s soldiers decided to give only the entering of the territorial army a miss.
“... What’s this?” (Sabnak)
Sabnak, who saw the commotion by accident, mumbled while looking at the difference in enthusiasm between the two groups from far away.
“Wait, the strange vehicle over there... what’s this? What kind of business do you have with this city?” (Guard)
Seeing the approaching group of Hifumi, the two soldiers from Horant, seemingly the gatekeepers, grabbed their slender spears and asked for their identity.
“This is a vehicle I built. It has no particular name. We are only stopping by to purchase food on our way to the capital.” (Hifumi)
Without stopping, Hifumi answers their question while trying to enter the city quickly. The guards stopped them by projecting out their spears in a hurry.
“Wa-Wait! We haven’t yet finished our questioning!” (Guard)
“Stop! Show us a permission for you to travel within the country and something proving your social status!” (Guard)
“Travel permit? There’s still something like that in this country?”`(Hifumi)
“It seems so. The travelling within the country is probably being restricted.” (Origa)
The two are carefreely chatting in the back guessing whether to pity the soldiers or whether confirming the coming and going is difficult. This mood of having no tension at all is an unusual occurrence in this country.
“Don’t you have a permit? Certainly you are not deserting, are you!?” (Guard)
Hifumi showed a coin, he took out from his pocket, due to the guards approaching even further with their spears.magic
“Do you know what this is?” (Hifumi)
Even as he asks, the guards don’t reply while only frowning.
“You don’t seem to know. Is it only circulating within my country?” (Hifumi)
“Well, then I will teach you,” Hifumi gathers their attention by rotating the coin with a flip.
“It’s something signifying my rank as noble of Orsongrande. I’m an Earl of your enemy’s nation called Hifumi. That’s me.” (Hifumi)
The guards, taken aback for an instant, seem to finally recognize the word called Orsongrande. One of them ran into the city in a hurry.
“Calling for reinforcements, huh?” (Hifumi)
What meaning did he pick up from Hifumi’s question? The remaining guard laughed scornfully.
“It’s too late to even get cold feet now. How come you are calling yourself something like a noble of an enemy nation, even if it is a fraud? You will repent about this plenty in the jail.” (Guard)
“Aren’t you misunderstanding something? If you are calling for reinforcements, call many of them. It would be boring if it ended right way.” (Hifumi)
The guard, who was completely taken for a fool, approached with his spearhead in front of Hifumi’s eyes.
“Shut up your lukewarm prattling! Even if you irresponsibly bluff...” (Guard)
Suddenly Hifumi brings his face close without hesitation.
When it seemed as if the spearhead is touching his left eye, the guard withdrew the spear reflexively.
“You pulled back the spear.” (Hifumi)
“U...” (Guard)
“Bluffing or whatever, if you decide to do something, don’t stop in the middle of it.” (Hifumi)
At the time the guard turned his sight away due to Hifumi’s gaze being fixed on him straightforwardly, around soldiers from Horant could be seen running over here.
“T-They came! With this...” (Guard)
In the moment he was relieved due to the arrival of the reinforcements, a katana protruded from within the guard’s chest.
“If you avert your sight from the enemy in front, at least avoid this without looking.” (Hifumi)
The guard complained with his eyes “What an unbelievable thing did you do” and then died as it is.
“Wh... bastard!” (Guard)
The complexion of the soldiers, who saw their companion getting killed in front of their eyes, changes and they come rushing.
Storing away the katana while waiting for their arrival, he substitutes it with the kusarigama.
“Origa and you lot, don’t make a move.” (Hifumi)
Hifumi, who looked at Origa’s group standing silently at a distance, suddenly begins to rotate the counterweights.
“Well then, it seems that magicians are mixed in this time.” (Hifumi)
In the rear of the group, the figures of three magicians, who seem to be late or have inferior stamina, in plain robes are approaching entering Hifumi’s sight.
As if being too much of a wait, Hifumi steps into the city.
One of the counterweights smashed the face of a man, who was the vanguard. Receiving damage up until his cervical vertebrae due to the impact, the man was forced into a somersault while scattering his teeth.
The second counterweight twines itself around the neck of another man and Hifumi draws his prey to his place.
Hifumi, who smiled at the enemy who came close, deeply cut the artery of the thigh with the sickle.
With the place turning into a sea of blood just like that, the residents, who are close-by, realize the strangeness of the situation and run away while screaming.
Hifumi, noticing some presence come flying at the place, where he decided to aim at the third person, quickly moved a part of his body aside.
A rock of a size of around an armful passed by and fell in front of Origa’s group standing in the back.
“Hifumi-sama! There is someone using earth magic! Please be careful!” (Origa)
“Rather than earth magic, it is rock magic.” (Hifumi)
Somehow it seems the three magicians use the same attribute. Another two rocks come flying.
Did they believe in their victory? If you look at the magicians, their mouths, which peek out from under the hood, are smiling.
“Well, there “is” such a way of doing things as well, I think?” (Hifumi)
With these words the darkness storage expands in front of his eyes.
The rocks are soundlessly and completely swallowed by the dark, expanded storage and then it closed itself as if there wasn’t anything to begin with.
“Hmm. The user-friendliness is great.” (Hifumi)
The enemy magicians are dumbfounded due to Hifumi’s lone consent.
The soldiers stopped their feet as Hifumi cast magic without as much as a wand or dagger.
“Oi oi, we aren’t done yet!” (Hifumi)
As the launched counterweight howls, it once again delivers a hard blow to the temporal region of a soldier killing him in the process.
Another soldier was beheaded by the sickle before he could return to the soldiers.
“Te-temporary retreat! Stay in order!”
The panicking soldiers are falling back temporarily and put the file and ranks of the group in order.
Hifumi yawns while waiting for the soldiers to line up slowly.
“Are you done? It’s fine if you use your head in combat, but practice moving slightly faster. If it were the soldiers from my place, they would be able to change formations without taking several seconds.” (Hifumi)
Fokalore’s territorial soldiers are proudly nodding due to Hifumi’s words.
“Get him!”
Once someone among the soldiers shouted that, all of them came dashing simultaneously. And once again three rocks came flying from the rear.
As Hifumi stored away the kusarigama and became unarmed, he smoothly passed through his opponents, who were stabbing their spears and swords at him side-by-side as if weaving through their gaps.
Like that, he ends up standing in front of the soldier at the end of the line.
“Eh?” (Soldier)
The soldier wasn’t able to comprehend why the enemy was standing in front of him. Hifumi grabbed him under the arms on both sides as if holding a child.
The back of the head of the soldier, who was lifted upwards with the momentum of running, was hit by the rocks that came flying.
He gave off an unpleasant sound of crushing tinged with dampness.
Hifumi, throwing away the corpse, rushes over to the magicians and turns them into rust on his katana successively.
“I think it would be better if you thought a bit more about how to use your magic.” (Hifumi)
Hifumi annihilated the magicians, but once he turned his look towards the surviving soldiers, they already hadn’t a single speck of fighting spirit left.
However, without Hifumi intending to let a single one of them live, the result followed in accordance to that. |
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} | イメラリアがいるオーソングランデ側陣地からは、巨人が国境の砦を迂回して塀を乗り越えて出てくるのが見えており、アリッサたちが砦の上部に吊り下げられた何かに気を取られて、巨人に気づいていないことまでわかった。
「サブナクさん!」
「投槍器は巨人に向かっ射撃! 騎兵は僕についてこい! 右から迂回して巨人の注意を引く! フォカロル兵は左から回って彼女たちの救出を!」
声を張り上げ、サブナクはフォカロル兵からの返事も聞かずに馬に飛び乗った。
躊躇いなく囮になることを選んだサブナクに礼を言い、フォカロル兵たちは素早く台車を走らせる。
騎兵たちが駆け出した瞬間、オーソングランデ兵たちが槍を射出。
数本の槍が刺さり、叩き落されたアリッサに迫る巨人が悶絶する。
混乱に紛れ、イメラリアも馬に飛び乗り、サブナクではなくフォカロルの兵たちと共にアリッサの元へと向かう。
護衛の兵たちから諌める声が聞こえたが、今のイメラリアには窮地に陥ったアリッサしか見えていない。
さらに、馬上から叩き落されたアリッサに巨人が迫り、焦燥感を掻き立てられる。
「嫌だ! みんな逃げて!」
「アリッサさん!」
落馬しながらも、仲間に声をかけるアリッサは、後ろから迫るイメラリアたちに気づいていない。
「アリッサさん! 手を!」
叫び声に振り向いたアリッサ。その瞬間、救援に来たフォカロル兵から一斉に槍が放たれ、巨人は握っていた槍を取り落した。
馬に乗って自分に手を伸ばしているイメラリアの姿が目に入っても、それが何か一瞬わからなかった。
「お、お姫様?」
「女王様です! 早く手を!」
呆然として言われるままに差し出された右手を、イメラリアはしっかりと掴んだ、が、鍛え挙げた兵士ならともかく、相手が少女とはいえ武装をした一人の人間を引き上げられるような腕力はない。
「きゃっ!」
アリッサの手を握ったまま、イメラリアが落馬する。
その間にも、フォカロルの兵たちが同僚を台車に回収していく。
「今だ! 全員台車に乗れ! 長官も早く!」
気を失ったイメラリアを抱えて、アリッサは右膝をついて無事な左足を踏みしめた。
さらに槍を受けて暴れている巨人の向こうでは、サブナクが率いるオーソングランデの騎士たちがホーラントの兵たちに足止めを受けている。だが、そのお蔭で巨人以外の敵勢力がこちらに来ていないのは確かだ。
台車が自分の横に来たところで、イメラリアを先にと兵士に託したアリッサは、痛みをこらえて片足立ちになり、横たえられたイメラリアの横にと座る。
「では......危ない!」
兵士が叫び、その視線の先を見る。
暴れる巨人が、太い腕をめちゃくちゃに振り回しながら、アリッサたちがいる方面へと迫っていた。
体中を槍に刺されてハリネズミのようになった巨人は、何かを見ているわけではなく、ただただあばれている。しかし、その腕が一振りされるごとに人間がはじき飛ばされていく。
そして、一歩ートルは進む巨体が、すでにアリッサを見下ろすほどに迫っていた。
「ううっ!」
逃げる時間は無い、と判断したアリッサは、せめてイメラリアだけでも守るため、その細い身体を隠すように覆いかぶさった。
情けないと思いつつも、自分の中で一番頼りになる人物の名前が口をついて出た。
助けてほしいとは思っていなかった。ただ申し訳ないと思った。偉そうに自信満々に、自分が仲間を救うと宣言しながらも、間に合わず、さらにはついてきてくれた兵士たちさえも敵の手に蹂躙され、自らの命も今、失おうとしている。
もし、一二三に何かを伝えるならば、伝えたいことは一つだった。
「ごめんなさい! 一二三さん!」
「そうだな。海よりも深く反省しろ」
「......うぇ?」
聞こえるはずのない声と共に、地響きが聞こえる。
「こうやってな、踏み出した足を少しそらしてやるだけで、人間の体は簡単に倒れるわけだ」
「なるほど。勉強になります、一二三様」
アリッサが顔を上げると、そこには横倒しになり、槍が深々と刺さって苦しんでいる巨人と、その前でオリガに向かってのんきにレクチャーをしている一二三の姿だった。
「二本の足で立っている人間のバランスは基本的に悪い。片足を踏み外したり、重心の位置が両足の間から外れたりするだけで、簡単に転ぶ」
「ひ、一二三さん!?」
「うるさい。さっさとあっちに戻れよ。とりあえず今回のお前の指揮と行動は不合格な。......そこでのんきに気絶してる阿呆もだ」
イメラリアを指差した一二三は、巨人に向き直って刀を抜いた。
隣に立つオリガは、三歩だけ下がって、一二三を凝視している。
感動の救出シーンのはずが、イメラリアとそろって不合格と言われて、アリッサは半べそで肩を落とした。
「と、とにかく長官。ここは領主様にお任せして、陣地まで退きましょう」
「うん。お願い......」
怪我人を含めたフォカロル兵たちは、台車に分乗して陣地へと去っていく。
サブナクたちも、状況を見て撤退を始めていた。
「ほら、立てよ。まだ生きてるだろうが」
台車の車輪から響く轟音の向こうで、一二三が巨人を蹴り飛ばしながら冷たく言い放つのが聞こえて、ようやくアリッサは自分が助かったという実感が沸いた。
と同時に、今回の失態を思い返して気が重くなる。
「お、怒られる......」
どんな罰が待っているのか、巨人と対峙しているときよりも身体が震えるアリッサだった。
☺☻☺
“エルフと獣人を王都へ送ろう”と言い出したのは、他の誰でもないカイムだった。
首をかしげる他の文官たちにカイムが説明した理由としては、このままフォカロルに滞在しても、いつ領主である一二三が戻るかわからないこと。立ち位置のわからないゲストに対してどう接していいか解らず、職員のストレスがたまると懸念されること。敵意の無いエルフや獣人に対してどのように扱うのか、オーソングランデ自体に規定が存在しないため、その判断を王都で直接女王にしてもらうのが早いこと。
最後は詭弁にしか聞こえないが、すべて王都の連中に押し付けてしまおうという意見には、誰もがもろ手をあげて賛成した。
さらにダメ押しになったのが、
「奥様とあの兎獣人が争うことになったとき、領地に被害が及ぶのは避けたいと思います」
という、カイムの冷静かつ誰もが口に出すのを憚った言葉だった。
方針が決まれば動きが早いのがフォカロル領主館の職員たちだ。
あれよあれよとカイムが予算を組み、ブロクラによって旅の準備が行われ、ミュカレが護衛の兵士を選抜し、二日後には旅に出る準備ができた。
三日目の朝には馬車の中だったプーセたちは、あまりの展開の速さに頭がついていっていない。
「......ええっと、どこへ向かっているんでしたっけ?」
プーセの質問に兎獣人のヴィーネがおぼろげな記憶を掘り起こしていると、馭者と並んで座っていた文官のパリュが「そうですよ」と声をかけた。
「王がいる都と書いて“王都”。この国の中心地です。王もその都市におられますし、領主様である一二三様も、そこに滞在されているか、少なくとも通られています」
「そこも、フォカロルみたいに人間が沢山住んでるの?」
「フォカロルよりも、今のところは人口も多いですよ」
ほえー、と口をあけて想像つかない人間の数に、怖いやら興味が掻き立てられるやら、複雑な顔をするマルファスの頭をぐりぐりと撫でまわしながら、ゲングがパリュを見た。
「するってぇと、王様は一二三さんより強いんですかい?」
すげぇや、と感心するゲングに、パリュは困惑した。
「今の王様は私と同じくらいの年齢の女性ですよ。お会いしたことはありませんが......たぶん、領主様より強いということはないかと」
「へぇ。てぇこたぁ、その女の王様は一二三さんより知恵があるってことでやすな。てぇしたお人がいるもんだ」
そういうわけでもないだろう、とパリュは思ったが、いちいち訂正するのも面倒になってきたので、そういうことにしておく。
「ご主人様は、どうして王都に行かれたのですか?」
ヴィーネの質問に、パリュはどこまで説明していいか迷った。自分自身もそこまで詳しくも無いので、当たり障りのない説明をしておく。
「隣の国から攻撃されたので、国境の町に応援に......」
「応援?」
獣人たちやプーセが、顔を見合わせて困惑している。
「こういっちゃなんですが、あの一二三さんが誰かを応援に行くなんてこたぁ、ちょっと想像つきやせんぜ」
「ああ、そういう......」
ゲングの言葉で、一二三が荒野でも相変わらずの行状であった事を理解したパリュは、訂正することにした。
「言い方を変えれば、戦いがあるからそこへ行かれたわけです」
「なるほど。そういうことですね」
プーセが頷き、他の獣人たちも納得の顔をする。
「あの、出発してから言うのも変ですが、こんなに良くしていただいて良いのでしょうか?」
荒野の旅路も、獣人たちの自慢の脚力で踏破してきた彼らにとっても、馬車という乗り物は楽で快適だった。
エルフであるプーセにしても、森を歩き回っていたので脚力には自信があり、こっそり魔法で疲労回復をしていたのだが、歩かずに済むならそれに越したことはない。
ヴィーネとしては、こんな楽ができるのは地位の高い者だけではないかと、内心気が気でなかった。
「大丈夫ですよ。貴方方は私たちの領主である一二三・遠野伯爵のお客様です。これくらいの事は当然ですから、何も気にすることはありません」
「一二三さんって、すごい人なんだね」
マルファスが素直に感心しているのを、パリュは内心で(いろんな意味でね)と付け足して、笑顔の中に冷や汗を隠した。
「とにかく、王都まではまだ数日かかります。荒野を抜けてお疲れでしょうから、ゆっくりお過ごしくださいね」
「ありがとうございます」
お礼を言って、ヴィーネはいよいよ一二三に会えるかも知れない、と期待を抱きながら、後ろ向きに流れていく石畳の街道を見つめながら、主人の面影を脳裏に思い浮かべていた。
巨人との戦いは何度目だろうか、と一二三は槍の刺さった足が横から迫ってくるのを見ながら考えていた。
伏せて回し蹴りを掻い潜りつつ、サンダル履きで露出している軸足親指を思い切り踏みつけた。
爪が割れて血があふれるが、巨人は気にすることもなく今度は踏みつけてくる。
「ふん。やはり痛覚が麻痺しているか」
くるりと体を翻し、踏みつけを避けた一二三は、足の甲に突き立っている槍を思い切り上から殴りつけた。
鈍い音を立てて足を貫通した槍は、地面にまで刺さり、巨人の左足を固定する。
それすらも無視して、巨人は右足を振り上げた。
迫る巨大な足に向かい、一二三は右へと身体を滑らせながら、刀を振るう。
踏み出された足、そのすべての指が滑り落ち、踏みつけた勢いのまま、巨人は倒れた。
「指が無いと踏ん張れないのは、痛みが有ろうが無かろうが同じよな」
巨人の耳から刀を刺し、そのまま延髄まで斬り裂く。
びくん、と全身を痙攣させると、巨人は永遠に動かなくなった。
「デカいだけじゃなぁ」
一二三が懐紙で刀を拭いながら視線を向けると、巨人が倒されたことに驚いたホーラント兵たちが、サブナクやアリッサたちにやられた兵の身体を引きずりながら、国境の向こうへと撤退していく。
見上げると、マ・カルメたちの死体が風に揺れていた。
「どうやら、お前らが敬愛するアリッサによる復讐は、もうちょっと時間がかかりそうだぞ」
「......一二三様。お疲れ様でした」
そばに来たオリガに、一二三は刀を鞘へと差し入れながら向き直った。小柄な彼女の向こうから、台車が再びやってくるのが見えた。
「マ・カルメたちを下ろしてやれ。台車に載せていけばいい」
オリガが投げた手裏剣がロープを切り、十の死体が地面へと落ちる。
陣地へと戻る一二三の横を通り過ぎた台車が、それらを回収するためにガラガラと音を立てて走っていく。
「さて」
陣地へ戻った一二三は、アリッサに回復薬の小瓶を放り投げながら一同を見まわした。
イメラリアも意識を取り戻しており、半べそで肩を落として座っている。
「どいつもこいつもやらかしてくれたな。あ?」
部隊を整理し終えたサブナクがやってくると、一二三は彼にも座るように指示する。
「サブナクにも言いたいことがある。とりあえず座れ」
「えっ......あ、はい」
咳払いをした一二三は、懐から羊皮紙を取り出した。
「後ろから戦いぶりを見せてもらった。それを踏まえて今から反省会な」
反省会という名の小言の嵐は、昼になって一二三が空腹を覚えるまで続いた。 | What Imeraria has seen from Orsongrande’s encampment, where she is currently staying, is a giant taking a detour from the border’s fortress and overtaking the soldiers. Alyssa’s group having their attention attracted by something that’s hanging from the roof of the fortress, she understood that they haven’t even noticed the giant.
“Sabnak-san!” (Imeraria)
“The spear throwers will volley fire at the giant! The cavalry will follow me! We will attract the giant’s attention by detouring from the right! Fokalore’s soldiers will circle around from the right and rescue her unit!” (Sabnak)
Raising his voice, Sabnak jumped on his horse without even listening to the answer of Fokalore troops.
Thanking Sabnak, who chose to become a decoy without hesitation, a platform wagon is swiftly dispatched by the soldiers of Fokalore.
The moment the cavalry breaks into a gallop, Orsongrande’s soldiers fire the spears.
With several spears piercing him, the giant, who has approached Alyssa who had fallen in a dire situation due to the beating, is beyond agony.
Under the cover of the chaos, Imeraria jumps on a horse and heads towards Alyssa’s location together with the soldiers of Fokalore and not Sabnak.
She heard the warning voices of her guards, but Imeraria can’t see anything but Alyssa being caught in a dilemma.
A feeling of uneasiness is stirred up within her due to Alyssa, who was flicked off the horse, being approached by the giant again.
“No! Everyone, get away!” (Alyssa)
“Alyssa-san!” (Imeraria)
Alyssa, who calls out to her colleagues even though having fallen off the horse, doesn’t notice Imeraria’s group approaching from behind.
“Alyssa-san! Your hand!” (Imeraria)
“... Eh?” (Alyssa)
Alyssa turned around due to the yell. At that instant, spears are simultaneously fired by the soldiers of Fokalore who came to rescue her. The giant dropped the spear he was grasping.
Even as the figure of Imeraria, who extended her hand towards her from atop a horse, came into her sight, she didn’t comprehend for some moments.
“P-Princess-sama?” (Alyssa)
“I’m a queen! Quick, your hand!” (Imeraria)
Imeraria firmly grasped Alyssa’s right hand, which she held out as told while being dumbfounded, but different from a properly trained soldier, the other party hasn’t the arm strength to pull up an armed human even if it’s a girl.
“Kyaa!” (Imeraria)
Imeraria falls off the horse while grasping Alyssa’s hand
Even during that time, the soldiers of Fokalore are collecting their colleagues on the platform wagon.
“Now! Everyone get on the platform wagon! Director, you hurry as well!”
Carrying the fainted Imeraria, Alyssa stepped firmly on her healthy left foot while dragging her right knee.
On the other side of the giant, who is thrashing around after receiving further spears, the knights of Orsongrande, led by Sabnak, are confronting Horant’s soldiers. However, thanks to that no other enemy forces besides the giant are coming this way.
At the moment the platform wagon came next to her, Alyssa, who entrusted Imeraria to a soldier first, stands up on one leg while bearing the pain and sits down next to Imeraria who was lain down.
“Then... watch out!”
As the soldier shouts, she looks ahead of his line of sight.
While recklessly swinging his big arms, the rampaging giant approached the direction of Alyssa and the others.
The giant, who turned into a hedgehog after being pierced by spears all over his body, hasn’t seen anything but is simply raging around. However, with each of his arm-swing, a human is sent flying.
And, the large build, which advances two meters with one step, had already approached to a distance where he can look down on Alyssa.
“Uuh!”
Alyssa, who judged that there’s no time to escape, leaned forward to cover Imeraria’s slender body in order to at least her protect if not anyone else.
Even while believing it to be pathetic, the name of the most reliable person rushed out from within her.
She didn’t think about wanting to be saved. She merely felt regretful. Even while declaring that she will rescue her friends, she wasn’t in time and moreover the soldiers, who followed her, have also been violated by the enemy’s hands. Even her own life is about to be lost now.
If there was something she could tell Hifumi, there was one thing she wanted to convey to him.
“Excuse me, Hifumi-san!” (Alyssa)
“That’s right. Reflect deeper than the ocean.” (Hifumi)
She hears an earth tremor alongside a voice that shouldn’t be here.
“By just bending the foot, which stepped forward, a bit like this, a human’s body will easily collapse.” (Hifumi)
“I see, that’s educational, Hifumi-sama.” (Origa)
Once Alyssa lifted her face, the one who has toppled sideways over there is the giant who is suffering due to being deeply pierced by spears. And in front of that giant was the figure of Hifumi who was carelessly giving a lecture to Origa.
“The balance of humans, who are standing on two legs, is fundamentally bad. By just disturbing the centre of gravity between the two legs, they will easily fall over.” (Hifumi)
“Hi-Hifumi-san!?” (Alyssa)
“Shut up. Come back this way quickly. For the time being, this time your command and conduct is a failure. ... It’s the same for the idiot who has fainted in an easygoing manner over there.” (Hifumi)
Hifumi, who pointed at Imeraria, drew his katana and turned around to the giant.
Standing next to him, Origa falls back merely three steps and stares at Hifumi.
The rescue scene should have been deeply emotional, but Alyssa dropped her shoulders while on the verge of tears after being called a failure together in one lump with Imeraria.
“A-Anyway, director, let’s withdraw to the encampment leaving this place to Lord-sama.”
“Yea, please...” (Alyssa)
The soldiers of Fokalore, including the wounded, leave towards the encampment while riding on the platform wagon.
Seeing the situation, Sabnak’s group started retreating as well.
“Hey, stand up. You are still alive, aren’t you?” (Hifumi)
What’s audible through the roaring sounds from the platform wagon’s wheels is Hifumi coldly addressing the giant while kicking him flying. Finally the actual feeling of having been rescued, erupted within Alyssa.
At the same time she has become depressed and is thinking back upon this time’s disgrace.
“H-He got angry...” (Alyssa)
As she wonders what kind of punishment is waiting for her, Alyssa’s body trembles more than at the time she confronted the giant.
☺☻☺
The one who started talking about “let’s send the elf and beastmen to the capital” was no one else but Caim.
As for the reasons explained to the other civil officials, who were puzzled, by Caim; they don’t know when Hifumi, who’s the feudal lord, will return even if they stay in Fokalore as is. Not knowing how to handle the guests of unknown status, he is worried about the stress of the staff piling up. Because there’s no rule in Orsongrande itself how to treat elves and beastmen, who aren’t enemies, it’s a judgement that has to be made directly by the queen in the capital as fast as possible.
The last argument couldn’t be interpreted as anything but sophistry, but the opinion of forcing the entire matter onto the lot of the capital was approved with everyone raising their hands.
Moreover, to make doubly sure,
“At the time it turns into a fight between the madam and that rabbit beastman, the damage reaching the territory is what we want to avoid, I believe.” (Caim)
Saying that, Caim calmly voiced out the words everyone was afraid to mention.
Once they make a decision, the movements of the staff members of Fokalore’s feudal lord mansion are quick.
Caim put together a budget of this and that, the travel preparations were prepared by Brokra and Miyukare chose the escorting soldiers. The preparations were completed and they left on their travel two days later.
Puuse’s group, who was in a carriage on the morning of the third day, can’t catch up with the excessive speed of development in their brains.
“... Umm, where are we heading to, they said?” (Puuse)
Once the rabbit beastman, Viine, dug up her faint memories due to Puuse’s question, the civil official, Paryu, who sat with them in the carriage, said 「That’s right」.
“The “royal capital” is written as capital where the sovereign resides. It’s the centre of this country. The sovereign is also in that city. Even Hifumi-sama, who is our Lord-sama, is staying or has passed through that place.” (Paryu)
“Are there also many people living like in Fokalore?” (Gengu)
“The population there is at present higher than Fokalore.” (Paryu)
Gengu looked at Paryu while roughly rustling the hair of Malfas, who had a complicated expression that is possibly caused by fright or curiosity and who opened his mouth with a “Whoa” due to the unimaginable number of humans.
“You are saying, umm, sovereign-sama is more powerful than Hifumi-san?” (Gengu)
Paryu was baffled due to Gengu admiring that with a “That’s amazin’.”
“The current sovereign-sama is a woman who is at around the same age as me. I haven’t met her myself yet, but... there’s no way for her to be stronger than Lord-sama, probably.” (Paryu)
“Hoo. That means, that female sovereign-sama is about having more wisdom than Hifumi-san ~yasu. So there exists such a person.” (Gengu)
, Paryu thought, but since it became troublesome to correct each and every little thing, she let it stand as is.
“Why did master-sama go to the capital?” (Viine)
Paryu hesitated how far she should explain towards Viine’s question. Since she herself isn’t that well-informed about it either, she goes for a harmless and inoffensive explanation.
“Since we were attacked by a neighbouring country, ((he went)) as reinforcement to a city at the border...” (Paryu)
“Reinforcement?” (Puuse)
The beastmen and Puuse exchange looks and are bewildered.
“You are saying that, but for that Hifumi-san to go reinforcing someone, I can’t quite imagine that to happen.” (Gengu)
“Yea, that sort of...”
Paryu, who understood from Gengu’s words that Hifumi acted as usual even in the wastelands, decided to correct herself.
“If you change the way of describing it, he went because there’s a battle is to be found.” (Paryu)
“I see. That’s how it is.” (Puuse)
Puuse nods and the other beastmen also have an expression of comprehension.
“Umm, it’s odd to say that after departing, but is it fine for us to receive such good treatment?”
For them, who travelled on foot with their prided leg strength as beastmen even on their journey through the wastelands, the vehicle called carriage was comfortable and pleasant.
Even Puuse who is an elf has confidence in her leg strength as she walked through the forest. Although she cured her exhaustion with magic secretly, there’s nothing better than finishing it without having to walk.
For Viine, her inner nature made her wonder whether being able to enjoy such comfort isn’t only for those of high social standing.
“It’s alright. You are guests of Earl Hifumi Tohno who is our feudal lord. You don’t have to worry about anything as a matter of this level is only natural.” (Paryu)
“Hifumi-san, he is an amazing person.” (Malfas)
Paryu added in her heart (in various meanings) to Malfa’s honest praise and hid her cold sweat with a smile.
“Anyway, it will still take several days until we reach the capital. Please spend your time at ease since you are probably worn-out from going through the wastelands.” (Paryu)
“Thank you very much.”
While harbouring the hope that she might be able to meet with Hifumi at last after thanking her, Viine stared at the stone paving of the highway flowing by backwards and recalled the face of her master within her mind.
Hifumi pondered while looking at the spear-pierced feet approaching from the side.
While slipping through a roundhouse kick by bending down, he stepped with all his might on the pivot legs thumb which is exposed by wearing sandals.
The nail breaks and blood overflows, but the giant tramples down at him next without caring about it at all.
“Hmm, is his sense of pain numbed after all?” (Hifumi)
Hifumi, who avoided being trampled by turning his body around completely, hit a spear, which is piercing through the top of the foot, with all his might from above.
The spear, which penetrated the food with a dull sound, fixates the giant’s left foot by sticking into the ground.
Ignoring even that, the giant raised his right foot.
Facing the approaching, huge foot, Hifumi swings his katana while shifting his body to the right.
The foot, which advanced, had all of its toes cut off and the giant collapsed with the momentum of trampling down.
“One won’t be able to brace their legs if they don’t have toes, no matter whether they feel pain or not.” (Hifumi)
Stabbing the katana from the giant’s ear until his medulla oblongata as is, he cleaves it open.
Once the entire body convulsed with a short twitch, the giant stopped moving for eternity.
“He’s only big, isn’t he.” (Hifumi)
Once they turn their faces at Hifumi while he wipes the katana with a paper, the soldiers of Horant, who were surprised by the giant having been defeated, retreat to the other side of the border while dragging along the bodies of the soldiers who were done in by Sabnak’s and Alyssa’s units.
Once he looked up, there were the corpses of Ma Carme and his unit swaying in the wind.
“It seems the revenge by Alyssa to show you guys respect and affection will take a bit more time.” (Hifumi)
“... Hifumi-sama, thank you for your hard work.” (Origa)
Hifumi turned towards Origa, who came next to him, while sheathing the katana into its scabbard. On the other side of her small body, he saw the platform wagon coming around once again.
“Let Ma Carme and the others down. It’s fine if they are put on the platform wagon.” (Hifumi)
The shurikens, which were thrown by Origa, cut the ropes and the ten corpses fall to the ground.
The platform wagon, which passed by at the side of Hifumi who is returning to the encampment, advances with rattling sounds in order to recover the corpses.
“Well then.” (Hifumi)
Hifumi, who returned to the encampment, surveyed all present while tossing a small bottle of recovery medicine to Alyssa.
Imeraria has regained her consciousness and is sitting with dropped shoulders while on the verge of crying.
“Every one of you gave me trouble. Ah?” (Hifumi)
Once Sabnak, who finished arranging the forces, finally arrives, Hifumi orders him to sit down as well.magic
“There are things I want to say to you as well, Sabnak. For the time being, sit down.” (Hifumi)
“Huh...? Ah, yes.” (Sabnak)
Hifumi, who cleared his throat, took out a parchment from his pocket.
“From now on it’s a meeting for reviewing based on how your battle appeared from behind.” (Hifumi)
The scolding storm with the name “meeting for reviewing” continued until Hifumi felt hungry when it became noon. |
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} | イメラリアの狙いはアリッサどころかサブナクにすら秘匿されたままである。
シビュラを通じてヴァイヤーが受け取った命令書にも、単に軍を編成して急ぎ援護に送るように、としか書かれていない。
突然ではあったし、何も聞かされていなかったが、ホーラントの兵力に対抗するためとされれば、サブナクたち軍上層にとって反論のしようがない。
アリッサが戻ってきたことで開かれた軍議の場でイメラリアが援軍を送るように指示を出したことを説明した際、サブナクとビロンは顔を見合わせたがとも悪手とは思えなかったため、特に口をはさむことは無かった。
「わたくしからは以上です。アリッサさん、昨夜はご苦労さまでした。お疲れのところ申し訳ありませんが、報告をお願いできますか?」
イメラリアはそう言ったが、すでに夕刻である。夜襲を終えて戻ってきたアリッサとフォカロル領兵たちは、しっかりと睡眠をとっていた。
「うん。えっと......」
アリッサは手元にまとめていた書類に視線を落とし、仲間たちが回収した資料が見てきた内容を説明していく。
回収した資料の中に巨人兵が“強化兵”と称されて首都の軍事施設内にまだ数体が残っていると思しき記載があったこと。
その強化兵への対応策として実行した投網による封じ込めの成功を見たこと。
概ね、強化兵以外にはこれといった脅威となるものは存在せず、投槍器と強化兵、そしてホーラント本来の強みである魔法使いの層の厚さ。こへの対応が必要となること。
そして、魔法使いの数は国境には少なく、おそらく首都において強化兵の調整や魔法薬の作成といった部分に集中していると思われること。
アリッサがつっかえながらも語っていくのを、誰もが沈黙して聞き入っていた。
「とりあえず、分かったのはこれだけ」
「今、国境の向こうはどうなってるんだい?」
サブナクの質問に、アリッサは「今朝の時点では」と前置きをする。
「建物はだいぶ焼けたけど、一棟は無傷で、兵士や魔法使いもいるよたぶん三十人もいないと思うけど」
「今のうちに、国境の向こうまでを押さえてしまうという手もありますな」
ビロンの言葉を、イメラリアは瞼を閉じたまま聞いている。
「拠点を失えばそうそうに大人数を動かすことはできますまい。近くの町を拠点とするにも準備が必要でしょうから、おのずとこちら側へ攻め込むことが難しくなります」
「なるほど。三十名程度が相手であれば、今の兵力でも狭い地域を占領するのはそう難しくはないでしょうね」
ビロンの意見に、サブナクは同意する。
「アリッサさん」
「なに?」
目を開いたイメラリアがアリッサに視線を向ける。
「一二三様の姿が見えないようですが、彼はどちらへ?」
「知らないよ?」
ごくごくシンプルな答えを返される。
「......では、オリガさんは?」
「冷めてもおいしい献立がどうとか言って、朝からミュンスターに行ったみたい」
「......そうですか」
オリガはさておき、一二三が何をしているのかが色々な意味で気になるイメラリアだったが、あまり気にしていても仕方がないと頭の隅に追いやることにした。
が、ふと気づく。
「サブナクさん。たしか、一二三様はアリッサさんの戦いを観察すると言われていましたね?」
「え、ええ、そのように聞きました」
「アリッサさん。ホーラントに入られてから、一二三様にはお会いされましたか?」
アリッサは首をかしげた。
「見てないよ? 国境の向こうに行った時も会ってない。どこかで見てたんだろうと思うけど、わかんなかった」
「ということは......」
イメラリアは頭を抱えた。
「一二三様は、単身ホーラントの中心部に向かわれた可能性がありますね」
「えっ。な、なんのために......」
サブナクが驚き、ビロンも目を見開きながらも、顎を撫でて考えた。領地と陣地を忙しく出入りする間に髭が伸びてきている。
「下見......ですかね」
ぽつりとつぶやいたビロンに、全員の視線が集まった。
「今回の件、トオノ伯はアリッサさんに任せるという話だったのでしょう? であれば、今後ホーラントとの戦闘が進むにあたって、もっと深い部分の敵情視察に向かったのではありませんか?」
「本当に、そう思われますか?」
イメラリアは、疑うような目をしている。
「いやいや、はっはっは......正直に申しまして、よくわかりませんな。彼の性質や考えがちゃんと理解できている可能性があるのは、この場にいる者の中ではアリッサさんだけではないでしょうか」
その言葉が、イメラリアの心情にチクリと針を刺した。まだ一二三のことが解っていないのだろうと言われたようなものだからか。
「二、三日後に、ホーラントの首謀者の首を持ってひょっこり帰って来ても、おかしくはないと思いますがね」
「それはないと思うよ」
木炭で報告書の裏に何かをぐりぐりと書きながら、アリッサはビロンの予想を否定した。
「一二三さんは僕に任せると“自分で言った”以上は、昨日の朝みたいな失敗でもしない限りは、助けようなんて思わないよ」
「で、でも一二三さんだったら、以前そうしたようにホーラントの王城に入り込んで強化兵や魔法使いを殺そうとするんじゃない?」
顔を上げたアリッサは、サブナクに向かって首をぶんぶんと横に振る。
「そんなはずないよ」
右手の下が木炭で黒くなってしまったのを左手の袖でゴシゴシこすりながら、アリッサはつぶやいた。
「一二三さんがやりたいのは“戦争がずっと続くこと”だから。終わらせるとかはしないはず」
袖が真っ黒になり、そのわりに手がきれいにならないのに顔をしかめるアリッサに、侍女が見かねて濡れた布巾を渡した。
のんきに手を拭いているアリッサに、一同唖然としている。
「では、一二三様はどこへ行かれたのだと思いますか?」
「ん~......たぶん、ホーラントのお城とかに行ってるのは間違いないと思う。そこで、荒野の獣人さんたちとかと同じようにするつもりじゃないかな」
言いながら、アリッサは布巾を侍女に返した。
「きっとこう言うんだよ“もっと頑張れ”って」
だから、こっちも頑張って攻めないといけないんだよ、と書いていた紙をテーブルの中央に押し出す。
そこには、アリッサが撤退前に確認してきた時点でのホーラント側の建物の配置と襲撃内容が書かれている。
「僕たちも頑張って、ホーラントと戦わないと、ね」
「へ、陛下......」
アリッサの顔と差し出された用紙に描かれた内容を見比べながら、どうしていいかわからないという表情のサブナクは、情けない声でイメラリアに呼びかけた。
しばし呆然とした表情を浮かべていたイメラリアは、首を振り、ゆっくりと立ち上がった。
「良いでしょう。元々、一二三様を驚かせるだけのことをしてみせなければならないと思っていたのです。昨日はやり方を間違えてしまいましたが......すでにその準備は進めています。アリッサさん」
「なに?」
「貴女と貴女の兵士たちの力をお借りしたいのです。一二三さんをあっと言わせるために、協力してくださいませんか? ......きっと、成功すれば一二三さんのアリッサさんに対する評価は急上昇しますよ」
「何をするの?」
間髪入れずにアリッサが食いついてきたことに、イメラリアはあやうく悪い笑みを浮かべるところだった。
「わたくしたちの手で戦争を終わらせましょう。一二三様を出し抜いて、完璧に騒動を終わらせましょう。その方法は決めています」
援軍が到着してからの計画をイメラリアが語ると、サブナクやビロンは反対したが、アリッサが「大賛成!」と声を上げ、そのままイメラリアが押し切った。
軍議が終わると、青い顔をしたサブナクとビロンが天幕から現れ、イメラリアとアリッサが笑顔で会話しながら並んで出てきたのを、兵士たちは不思議そうに眺めていた。
☺☻☺
王都までヴィーネたちを送ってきたパリュは、騎士隊へ獣人たちを託したところでお役御免となった。彼女にも領地での仕事があったので、ヴァイヤーが一二三へと繋ぎを引き受けてくれたことに甘えさせてもらうことにしたのだ。
フォカロルのドワーフであるプルフラスたちが作った高性能な馬車を使ったとはいえ、なかなかの強行軍であったことには変わりない。護衛としてついてきていたフォカロル兵もだが、ヴァイヤーと共にヴィーネたちが出発するのを見送った時点で、パリュも両肩に疲れを感じた。
その場で護衛たちに丸一日休暇にする事を伝え、明日の昼に出発することにする。
想定外のお休みに、嬉しそうに町へと消えていく兵士を見送り、パリュも街道へと抜ける門から街中へと戻る。
彼女は王都まで徒歩一日の場所にある村で生まれ育ったので、王都へは収穫物を運んだり日用品を買ったりと、何度も訪れたことがある。
風土病が流行って両親が亡くなり、一人っ子のパリュは離散する村人について王都まで来たが、引き取り手も無く、文字の読み書き以外には特に学も無かった彼女は、手元にあった僅かな金銭でお腹一杯食べてから、自らウーラルの店を訪ね、奴隷となった。
読み書きができる若い女性だったのもあり、奴隷としても割と良い扱いをしてもらったと思っているが、まさかその後、自分が貴族に購入されて文官になるとは全く予想していなかった。
奴隷になる前に、食べおさめのつもりでお店を厳選して味わった食事も、フォカロルの領主館の食堂で出てくる食事の方がおいしい。
当時のことを思い出しながら賑わう商店通りを歩くと、もう何年も遠い昔のような気さえしてくる。
「そうだ。みんなにおみやげを買っていこうかな」
同じ女性であるブロクラやミュカレにはアクセサリーを。ドゥエルガルにはお酒でいいかな、と決めて町を歩く。
「カイムさんは......」
思いつかないので、店を眺めながら決めることにした。
そして、色々と食べてから帰ろう、とパリュは決めた。
領主様の目標がうまく行ったら、もう食べられないものもあるだろうから。
☺☻☺
ヴィーネたち荒野組は、ヴァイヤーと共に援軍の先遣部隊として本体より一日先行して十名ほどの騎士と共にホーラントへ向かう。
騎士たちはそれぞれの馬に乗り、ヴィーネたちが乗る馬車と、騎士たちの侍従や、食料などの物資を乗せた馬車が並ぶ。
ヴィーネたちは馬車を操れないので、馭者は城に使える下働きの男がやっている。
「だいぶ遠くまで来てしまいましたね」
しみじみとプーセがこぼすのに、ゲングは笑って頷く。
「そうですねぇ。でも、帰ったら仲間に自慢できますぜ。きっとこんなところまで来たのは、獣人ではあっしらだけ。エルフならプーセさんだけでやしょ?」
「それは間違いないでしょうね」
微笑むヴィーネに、マルファスが「でも」と口を開いた。
「その一二三さんって人と一緒に、誰か荒野からこっちに来てたりしないのかな?」
馬車の中の全員の動きが止まる。
だが、マルファスはそれに気づかない。
「ヴィーネねえちゃんとかも、一二三さんって人に奴隷から助けてもらったんでしょ? だったら、他のところでも......」
「マルファス君」
あわてて話をさえぎったのはプーセだった。
暗い顔をするヴィーネをちらりと見てから、マルファスに向かって人差し指を立てる。
「えっと、町の人たちを見ても、エルフや獣人を見るのは初めてって人が多かったでしょう? きっと私たち以外で一二三さんに会いに行ってる人はいないはずよ。ね?」
マルファスは素直に納得し、ヴィーネもホッとした表情だった。
「それにしても、人間同士でも縄張り争いってのをやってるんですねぇ。荒野にいる連中もそうですがね、人間も獣人も大して変わらないって事ですかねぇ」
ゲングが話題を変えようとしたらしく、鼻でため息を漏らしながら、馬車の後ろに見える鎧を着た騎士たちを見やった。
「そうですね。でも、そういう“同じところ”があるから、レニさんのようにみんな一緒に町を作ったりする人がいて、協力することができるんじゃないでしょうか」
「なるほどねぇ」
うんうん、とゲングは頷き、ヴィーネに水を向ける。
「ってこたぁ、ヴィーネさんがうまくやって一二三さんと“つがい”になれたら、それこそレニさんが目指す事の第一歩ってこってすな!」
ゲングが笑い、ヴィーネは顔を真っ赤にしている。
「つ、つがいだなんて......とにかく私は、ご主人様の近くにいられたら、って......」
「そうね。まずそこからですよね。一二三さんは、今は戦場に赴いているようですから、待つことになるでしょうし」
プーセの話に、ヴィーネはそれはしたくない、と言った。
「一二三さんが戦っているなら、私もお手伝いします。そのために魔法も練習していますから。ただ待っているだけで、何の役にも立てないでいるなんて、耐えられません」
「そん時は、あっしも手伝いますぜ! 恩返しの機会があるなら、願ってもねぇ!」
調子に乗って宣言するゲングに、マルファスも一緒になって意気込んでいる。
プーセは彼らの様子を見て、ひょっとするとエルフと魔人族の間にも、友好な関係が結ばれる可能性があるのだろうか、と考えていた。
それはきっと素敵な未来だと言えるのだろう。
だが、血を流して戦った先祖のエルフたちからすれば裏切りになるのかもしれない。いや、戦った末に平和になるのなら、歓迎するのではないか。
パリュと共に王都まで乗っていたものよりも、幾分揺れが激しい馬車の上で、プーセは馭者の向こうへと続く街道を見ながら、魔人族の話を一二三に聞いてみようと思っていた。 | Imeraria’s aim was hidden, even from Sabnak let alone Alyssa.
Even in the decree given to Vaiya through Shibyura, there wasn’t anything written but merely to organize the troops and dispatch them as reinforcements as quickly as possible.
That was unexpected. Although they weren’t informed about anything, there was no reason for the army’s upper military stratum around Sabnak to object if it’s for the sake of opposing the military forces of Horant.
When Imeraria revealed to the opened war council after Alyssa came back, that she had ordered for reinforcements to be dispatched, Sabnak and Biron looked at each other’s faces, but because neither considered it to be a bad move, there wasn’t anything in particular to refute.
“That’s all from me. Alyssa-san, I appreciate your efforts last night. I’m sorry for doing this at a time when you are tired, but may I ask for your report?” (Imeraria)
Though Imeraria said it like that, it is evening already. Alyssa and the soldier from Fokalore, who returned after finishing the night attack had slept properly.
“Yea. Um...” (Alyssa)
Lowering her eyes to the documents gathered in her hands, Alyssa explains the details which she had read in the material recovered by her comrades.
It was recorded that the giant soldiers are referred to as “reinforced soldiers” in the documents which were collected, and that there are apparently still several bodies remaining in a military installation in the capital city.
She regarded the containment of the reinforced soldier with the casting net, implemented as countermeasure as satisfactory.
Generally there isn’t anything special that might become a threat except the reinforced soldiers. The spear throwers, the reinforced soldiers and the thick layer of magicians, which is Horant’s original forte. Those three elements have to be dealt with.
And with the number of magicians being low, it might be considered as very likely that some of them are concentrating on creating magic potions and adjusting the reinforced soldiers in the capital city.
Everyone listened to Alyssa who was talking even while stuttering, silently and attentively.
“For the time being, this is the extent we learned.” (Alyssa)
“How is the situation on the other side of the national border currently?” (Sabnak)
Alyssa starts off with 「It’s at the time of today morning」 towards Sabnak’s question.
“Most of the buildings have been burnt down, one building is still okay and that’s where the soldiers and magicians are gathered as well. I think there aren’t more than of them either.” (Alyssa)
“That means there’s also the option of suppressing them on the other side of the border for now.” (Biron)
Imeraria listens to Biron’s words with her eyes closed.
“If they lose their base, they won’t be able to move a large number of troops in a hurry. Since it’s probably necessary to prepare even if they are based in a nearby town, it will naturally become difficult for them to invade our side.” (Biron)
“I see. If the other side has around people, it’s likely not that hard to occupy an enclosed position even with their current military forces.” (Sabnak)
Sabnak agrees to Biron’s opinion.
“Alyssa-san.” (Imeraria)
“What is it?” (Alyssa)
Having opened her eyes, Imeraria faces Alyssa.
“It seems you haven’t seen Hifumi-sama, but where did he go?” (Imeraria)
“I don’t know?” (Alyssa)
An extremely simple answer is returned.
“... Then, how about Origa-san?” (Imeraria)
“Saying something like how about eating a cold and delicious menu or such, she apparently went to Münster this morning.” (Alyssa)
“... Is that so?” (Imeraria)
Setting Origa aside, Imeraria was worried in various meanings what Hifumi is doing, but as it is no use minding it too much, she decided to push it into a corner of her mind.
However, she suddenly realized.
“Sabnak-san, if I remember correctly, we were told that Hifumi-sama will observe Alyssa-san’s battle, weren’t we?” (Imeraria)
“Y-Yes, I heard something along those lines.” (Sabnak)
“Alyssa-san, did you encounter Hifumi-sama after entering Horant?” (Imeraria)
Alyssa tilted her head to the side.
“I haven’t seen him? I didn’t meet him at the time when I went to other side of the border either. Though I think that he probably watched from somewhere, I didn’t know about it.” (Alyssa)
“That means...” (Imeraria)
Imeraria was at her wits’ end.
“There is the possibility that Hifumi-sama went into the heart of Horant by himself.” (Biron)
“Eh, w-what for...?” (Sabnak)
Sabnak is surprised. Even though Biron opened his eyes widely, he pondered while stroking her chin. His beard has grown during the hectic coming and going in his territory and encampment.
“A preliminary inspection... I think?” (Biron)
Everyone’s gazes focussed on Biron who mutter this brief comment.
“In the matter this time, Earl Tohno talked about leaving it to Alyssa-san, right? Since that’s the case, didn’t he head to observe the deeper parts of the enemy’s movements as the battle with Horant will take a new step next?” (Biron)
“Do you really believe that?” (Imeraria)
Imeraria’s eyes are filled with doubts.
“No, not at all, ha ha ha... honestly said, I don’t understand it well either. There probably isn’t anyone among the people here apart from Alyssa-san who has the possibility of properly understanding the thoughts and nature of that man?” (Biron)
Those words pierced Imeraria’s heard like a stinging needle. That’s because she was apparently told that she probably still doesn’t understand Hifumi.
“Even if he came back two or three days later while holding the heads of Horant’s leaders, I wouldn’t consider that to be odd though.” (Biron)
“I don’t think that will happen.” (Alyssa)
While writing something at the bottom of the report with charcoal with a scratching sound, Alyssa denied Biron’s prediction.
“Seeing that Hifumi-san “himself said” that he will leave it to me, I don’t believe he will do something like helping me as long as I don’t make a blunder like yesterday morning.” (Alyssa)
“H-However, if it’s Hifumi-san, won’t he try to kill the magicians and reinforced soldiers by raiding the royal castle in Horant like he did previously?” (Sabnak)
Alyssa, who lifted her face, shakes her head side to side while facing Sabnak.
“That shouldn’t be so.” (Alyssa)
Alyssa muttered while scrubbing her right hand, which ended up becoming black due to the charcoal, with the sleeve of her left hand.
“That’s because what Hifumi-san wants to achieve is for the “war to continue endlessly.” I don’t expect him to do something like ending it.” (Alyssa)
Due to Alyssa frowning as her hand won’t become clean though her sleeve was turning pitch black, a maid who was unable to just watch, gave her a wet dish cloth.
As Alyssa thoughtlessly wipes her hand, all present are dumbfounded.
“Then, where do you think Hifumi-sama has gone?” (Imeraria)
“Mmh~... I believe there’s no mistake that he has probably gone to the castle in Horant or such. Doesn’t he intend to do the same as he did to the beastmen of the wastelands there?” (Alyssa)
While saying that, Alyssa returned the dish cloth to the maid.
“He is certainly telling them “work harder” or such.”
“That’s why we have to attack while doing our best as well”, she says and pushes a filled paper into the centre of the table.
On it are the positions of Horant’s buildings Alyssa checked out before withdrawing, and the attack details noted down.
“We have to to fight with Horant while going for it, okay?” (Alyssa)
“Y-Your Majesty...” (Sabnak)
While comparing the particulars described on the submitted paper and the expression on Alyssa’s face, Sabnak whose expression shows that he doesn’t know what’s best to do next, called out to Imeraria with a miserable voice.
Imeraria, who showed a dazed expression for a short while, shook her head and stood up slowly.
“I guess it’s fine. I thought that it wouldn’t do unless I just showed something that can surprise Hifumi-sama. Yesterday my way of doing things ended up being wrong, however... we will hasten the preparations right away. Alyssa-san.” (Imeraria)
“What?” (Alyssa)
“I want to borrow you and your soldier’s power. Won’t you please cooperate with me in order to startle Hifumi-san? ... Mostly like Hifumi-san’s evaluation of you, Alyssa-san, will climb higher if we succeed.” (Imeraria)
“What do you want to do?” (Alyssa)
Due to Alyssa latching on in an instant, Imeraria almost revealed an evil smile.
“Let’s end the war with our hands. Let’s finish the dispute perfectly by stealing a march on Hifumi-sama. I have decided on the means for that.” (Imeraria)
When Imeraria talked about her plan after the reinforcements have arrived, Sabnak and Biron were against it, but Alyssa raised her voice with a 「I fully agree!」 and Imeraria pushed her own way through with that.
When the war council finished, the soldiers gazed in a strange manner at Sabnak and Biron, who appeared from the tent with pale faces and Imeraria and Alyssa who came out side-by-side while chatting with smiles.
☺☻☺magic
Paryu, who had escorted Viine’s group to the capital, was relieved of that burden once she entrusted the beastmen to the knight order. Since there was also the matter of her being an official in a territory, she decided to take advantage of the situation by having Vaiya take care of their transfer to Hifumi.
Although they used a highly efficient carriage, which was created by Pruflas’ team who are the dwarves of Fokalore, it doesn’t change the fact that it was quite the forced travel. At the moment she saw off Viine’s group together with Vaiya at their departure, although there were also soldiers of Fokalore attached to her as guards, Paryu felt the accumulated fatigue in both her shoulders.
She tells her escort that the whole day will be a holiday and decides to depart tomorrow at noon.
Watching the soldiers vanish into the city while looking happy due to the unexpected holiday, Paryu returns downtown through the gate and heads towards the highway.
Given that she was born in a village that is located one day by foot from the capital, she visited the capital many times to purchase daily necessities and to transport the harvest.
Her parents died due a widely spread endemic disease. The only child Paryu came to the capital with the villagers, who have scattered but she, who didn’t have any particular education besides being able to read and write the letters and who had no one to take care of her either, visited the Ular Shop by herself after eating to the limits of her stomach with the little money she had on hand and became a slave.
She believed that she would get a relatively good treatment even as slave as she was a young woman who was able to read and write, however by no means did she expect to become a civil official after being bought by a noble afterwards.
Even the meal she savoured after careful selection in a restaurant as her final meal before becoming a slave was as delicious as the kind of food that appears in the dining hall of the lord’s mansion in Fokalore.
When she walks along the flourishing shops while remembering the events at that time, she has a feeling like that’s a remote past from a distant time already.
“Ah yea, I guess I should buy everyone souvenirs?” (Paryu)
Accessories for Brokra and Miyukare who are women like me. I think alcohol is excellent for Doelgar?
“Caim-san is...” (Paryu)
Since she didn’t hit upon an idea, she decided to make a choice while looking at the store.
And then let’s return after eating various dishes
After all there probably won’t be any things that can be eaten anymore once Lord-sama achieves his target.
☺☻☺
Viine’s wastelands group heads towards Horant together with knights who had gone one day ahead of the main army as an advance unit of reinforcements alongside Vaiya.
Each of the knights is riding a horse. The carriage with Viine and the others on board, the chamberlains of the Knights, and the wagons where materials such as food and similar are loaded, are lined up.
Since no one of Viine’s group can steer a carriage, the coachman is a male servant from the castle.
“We ended up coming quite the long way.” (Puuse)
Even though Puuse lets her feelings show fully, Gengu nods while smiling.
“That’s right, ain’t it? But, we once we return can boast to our friends. Certainly it’s only us who have come to such place among the beastmen. As for the elves, it’s only you, Puuse-san, right?” (Gengu)
“That’s probably true.” (Viine)
Malfas opened his mouth with a 「But」 towards the smiling Viine.
“Hasn’t someone come this way from the wastelands together with the person called Hifumi-san, I wonder?” (Malfas)
Everyone within the carriage freezes.
However, Malfas doesn’t notice that.
“Viine-nee, you have been properly saved from slavery by that Hifumi-san, right? In that case, even at other places...” (Malfas)
“Malfas-kun.” (Puuse)
The one who interrupted Malfas’ speech in panic was Puuse.
After sending a fleeting glance at Viine who makes a gloomy face, she points her index finger at Malfas.
“Umm, even if you looked at the city’s people, there were many people who had seen elves and beastmen for the first time, right? There shouldn’t be any others besides us who met with Hifumi-san. Okay?” (Puuse)
Malfas agreed obediently and Viine had a relieved expression as well.
“At any rate, even humankind is engaging in turf wars, aren’t they? The guys in the wastelands are like that as well though. I guess it’s something that doesn’t change much in regards to humans and beastmen?” (Gengu)
Apparently trying to change the topic, Gengu leaked a sigh through his nose while staring at the Knights in Armour who were visible behind the carriage.
“I guess so. But, since it’s a “similar place” like this, won’t it be possible to cooperate as there will be people who build cities together with everyone like Reni-san?”
“I see.” (Gengu)
“Yea yea”, Gengu nods and hands the baton to Viine.
“That means if you are successful at becoming a “couple” with Hifumi-san, Viine-san, that will become the very first step towards the goal Reni-san is aiming for. ~ssu” (Gengu)
Viine’s face becomes bright red as Gengu laughs.
“S-So-Something like a couple... anyway, if I can be close to master...” (Viine)
“Oh well. Things start from there, don’t they? It looks like Hifumi-san is heading towards the battlefield currently, thus that will likely have to wait, right?”
Due to Puuse’s argument, Viine said that she doesn’t want to do that.
“If Hifumi-san is fighting, I will help as well. That’s why I have practised magic. I couldn’t bear to just wait without having any kind of role.” (Gengu)
“At such time I will help, too! If it’s an opportunity to return the favour, that’s also what I’m aiming for!” (Malfas)
Due to Gengu declaring that in excitement, Malfas is enthusiastic about joining in as well.
Watching their state, Puuse wondered whether there might possibly be a chance to tie a relationship of friendship between humans and elves.
One might say that this would certainly be a wonderful future.
However, from the point of view of the elves’ ancestors, who fought while shedding blood, this might become a betrayal. No, won’t they welcome it if it results in peace after all that fighting?
While watching the highway beyond the coachman on the carriage that shook more violently than the one they boarded together with Paryu when they headed to the capital, she considered trying to ask Hifumi about the story of the demons. |
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} | 「どこかで見た顔ですね」
「ウゥウ......」
風魔法の刃で首に切れ目を入れた魔人族の側頭部を鉄扇で思い切り殴りつけ、その首を千切り飛ばしたオリガ。
ふと近くに、自らと同様に魔人族を相手に戦い、力まかせに無骨な剣を振り回し、手に掴んだ魔人族の頭を石畳へと叩きつけるバールゼフォンの姿を見つけた。
同時に、バールゼフォンもオリガを視認したらしく、互いの間の緊張が走る。
「何かと思えば、広場のお飾りですか。こんなところで仲間割れをしていて良いのですか?」
槍を繰り出しててきた魔人族の攻撃を斜めに歩いて躱し、額が陥没する程、鉄扇の柄で殴る。昏倒した魔人族は、混乱の中で味方に踏まれていずれ絶命するだろう。
と違い、オリガは殺すことを最上の目的とはしていない、殺すことを戸惑いはしないが、それは手段でしかない。手段は目的のために。今の目的は、一封印できる状況を作り、なおかつその時点で一二三の一番近くにいること。
「貴方は、お飾りの割には戦えるようです。一二三様と私の記念すべき時に、余計な邪魔が入るのは看過できません。先に始末しておきましょう」
魔導具で魔物化した時点のバールゼフォンをオリガは見たことがあり、一度撃退しているのだが、彼女にとって些細な情報だったせいか、すっかりそのことは忘れているようだ。
「一二三様の狙い......魔人族が異形を引き連れて城を襲おうとした、いえ、襲ったという事実はできました。もう、貴方は不要です」
倒れた魔人族を蹴り飛ばし、別の魔人族兵の男にわざと踏ませる。味方を踏みつけ、驚きも合わせてバランスを崩して前のめりになった男は、オリガに襟首を掴まれて引き倒され、畳んだ鉄扇で鉄兜を付けた後頭部を殴られた。
石畳に広がる血を確認することもなく、オリガはバールゼフォンへ迫る。
「ウゥアアア!」
迫るオリガに向けて、近くにいた魔人兵を蹴りで押し付けたバールゼフォンは、魔人兵ごと貫くように剣を突き出した。
だが、手ごたえは一体分。
「ある程度は知能はありますか。限界はあるようですが」
こえはすぐ横から。剣を抜く時間は無いと判断したバールゼフォンは、剣を手放して薙ぐように裏拳を放つ。
だが、それは虚しく空を切るのみ。
「存在を感知させる“気配”。それは空気の流れ、匂い、音、命の圧力......」
今度は背後からの声。
苛立ちを叫び声に変えて、バールゼフォンは足元に落ちていた魔人族の剣を拾いざまに振るった。
だが、そこにもオリガの姿は無い。
「わずかなヒントだけを探ることができれば、明らかな誘いに惑わされることも無い......。やはり、凡人には難しいということでしょうね」
今度は自分の耳元から声が聞こえる。すぐに目玉を動かして敵を捉えようとするが、そこには誰もいない。
その時に気付く。視界の端に映る、背中に剣を生やしたまま立っている魔人族の男の姿に。男は死んでいる。それは間違いない。だが、何故立っている?
「一二三様なら、私がここから動いていないことなどすぐに見抜いたでしょう。......いえ、風魔法で送った声に惑わされる以前に、この死体ごと改めて両断したでしょうに」
オリガは鉄扇で支えていた死体を払いのけると、血を払うようにして鉄扇を開き、嘲笑を浮かべた顔を隠した。
「思い出しました。貴方は混ぜ物、紛い物。力も速さもあるけれど、全部が全部、貰い物。今となっては身体ですら借り物ですね」
シャキ、と音を立てて鉄扇を畳む。
「一二三様の相手としては不足も良いところ。やはりここで始末しましょう」
踏み込むオリガ。魔法の詠唱をしてはいるが、攻撃は鉄扇によるもの。
剣を振るい、迎撃を狙うバールゼフォンは、高速で狭まった間合いに剣を割り込ませるのを諦め、鉄扇の攻撃は腕を犠牲にして防ぎ、オリガの頭部へ剣を叩きつけることを選ぶ。
「咄嗟の判断はできるようですね。ですが、それだけです」
剣は空を切る。
オリガが振るった鉄扇は、バールゼフォン本体ではなく、剣を持つ腕へと添えられて軌道を逸らしていた。
攻撃の本命は魔法だった。
「ゴバッ......!」
突然、大量の水がバールゼフォンの頭部を包み込む。魔法で作られた水は、オリガが維持する魔力によって重力を無視し、顔の正面に貼りついて離れない。
狙いは窒息では無い。頭部だけでも生きていられるバールゼフォンが呼吸を必要とするとはオリガも考えていなかった。考えていたのは、バールゼフォンを変質させた魔法薬と魔導具の効果を知悉する一部の者だけが知る方法。
突き刺すようにして鉄扇がバールゼフォンの首を抉り、バシムの身体から頭部が引きはがされる。
地面へと落ちた頭部に、しつこく水がまとわりついていた。表面に見える水の量が減っているのは、鼻や口、目を通じて内部へと水が入り込んでいるからだ。
「強化兵や巨人兵が持つ不死性は、その“血液”に入り込んだ魔法薬の効果が大きい、と私は色々と実験したので知っています」
だから、と石畳に転がるバールゼフォンの頭部を風魔法で斬り裂く。
飛び散る血が、水で薄まって石畳を広がっていく。
「薄めて広げてしまえば、大した効果も出なくなる。
小分けにされながらも動いていたバールゼフォンの目や舌も、流れる血の色が薄まっていくと、次第に力強さを失い、やがて洗い流された肉の色を晒すのみになったころ、完全に停止した。
「そろそろ......ですか」
ふと周囲を見る。広場の出入り口はアリッサ率いるフォカロル兵によって完全に固められ、どこから運んできたのか、戸板や手押し車でバリケードが構築されている。
魔人族の数は減っている。まだ広場全体で彼らが人数的には多いが、損耗の速度は人間側の比では無い。主に先ほど死んだバールゼフォンと一二三が原因ではあるが。
転移がある以上、オーソングランデの主力が存在し、魔人族たちの王がいる王城方面が主な攻撃対象である。町の方へと突破する理由が無い魔人族たちは、それに気づかない一部の愚か者がフォカロル兵に悉く射殺され、今や一二三を包囲する者たちと騎士隊と乱戦をしているかどちらかだ。
そして、騎士たちは騎士たちで、ミダス率いる騎士隊の戦力と、ヴァイヤー率いる近衛騎士隊の戦力が、魔人族との戦闘を続けながら押し合いをするという状態に陥っている。
冷静に戦力配置を見ていたオリガは、その中に彼女の瞳には輝いて見える人物を見つけていた。
今も一人の魔人族兵を串刺しにし、敵も味方もわからぬような乱戦を続ける中、悠々と笑みを浮かべて刀を振るう。
状況は整った。
乱入したらしい虎獣人の少年と向かい合っている一二三の元へと、軽やかに、まるでステップを踏むかのように走り出したオリガは、一瞬だけ鋭い視線をバルコニーの上に送ると、再び満面の笑みを浮かべて、最愛の人へと向かう。
鉄扇を握りしめる手が、彼を見つめる顔が、その腕に抱かれた感触を思い出す胸が、身体のあちこちが熱い。
「今、参ります!」
鉄扇の一振りで二人の魔人族兵を薙ぎ払ったオリガは、最短距離で一二三を目指す。
☺☻☺
「ミダスさん! これは女王陛下の命令ですよ、なぜ邪魔をするのです!」
「如何な命令とて、自国の民を攻撃するのはおかしい! 私たちの剣はは守る為に振るわれるものではないのか!」
「綺麗ごとを!」
ヴァイヤーはミダスの剣を弾いたが、剣を飛ばすには至らなかったことに歯噛みした。ミダスを殺すつもりは無いので手加減をしているのもあるが、ミダスの技量が思ったより高いのと、騎士たちの戦いよりも冒険者のやり方に近い戦い方に、ヴァイヤー自身が上手く対応できない。
今や、魔人族を出しにして一二三を押えるという作戦は崩壊しつつあった。魔人族が王城側に集中したために圧力が増したことと、ミダスたち町側の騎士が一二三を守る為の防御ラインを作ってしまったためだ。
あちこちで魔人族を放って騎士同士が剣を交えている光景が広がっていた。
「なんたる無様な姿か! 騎士として作戦遂行を邪魔するのはおかしいでしょう!」
「作戦そのものに問題があると言っている!」
ミダスの前蹴りを鎧の腹に受け、たたらを踏んで下がったヴァイヤーは、それでも剣を下げるようなことはしない。
一瞬ぶれた視線をミダスに戻すと、彼は割り込んできた魔人族を叩き斬っているところだった。
「今やるべきは魔人族どもを撃退することだろう!」
さらに魔人族の兵が剣を叩きつけ、ミダスは両手で剣を支えて受け止めた。
その魔人族の背中を、ヴァイヤーが斬り裂いた。
「今攻めてきている魔人族は......」
捨て駒だ、と言おうとして、ヴァイヤーは口を噤む。
それを周りの魔人族に聞かれた時、この状況はさらに混乱し、怒り狂った魔人族たちの攻勢がさらに王城へ迫るのではないだろうか。
「とにかく、一二三殿の封印を成功させるためには、彼の動きを多少なり制限しなければ!」
三合ほど剣を打ち合わせた二人は、息をつくために距離をとった。
「どういうことだ? イメラリア様は、彼を封印するつもりなのか!?」
「その通りです。この広場のどこかで一二三殿の足を止めさせ、結界へ閉じ込め、封印をする。その最初の条件を作る為、魔人族の攻撃を利用するのです」
ヴァイヤーの説明に、ミダスは声も出せない程に驚いていた。
目の前や周囲に敵がいることを忘れ、兜を脱ぎ捨て、バルコニーを見上げる。
そこで戦場を見下ろす女王の表情は陰で見えなかったが、動揺は見えなかった。
「何を考えておられるのか......」
ミダスには、イメラリアの決定を受け入れられなかった。騎士として、命令に従うべきだという事は頭では理解しているつもりだが、心がついていかない。彼の中にあるイメラリア像は、懸命に人々のために考え、失敗を重ねながらも良い国へとするために奔走する少女だった。
誰かを使い捨てにするような決定をするとは、ミダスには俄かに信じられなかった。
呆然と見上げていたミダスの背中に、叩きつけるような衝撃が走る。
「ミダスさん!」
どうやら背中を切られたらしいことを、ミダスは石畳の感触で頬を殴られた時点で気付いた。鎧を貫通したあたり、斧あたりだろうか、と妙に冷静な頭で考える。
ヴァイヤーの掛け声と、魔人族のものらしい悲鳴が聞こえる。
「ミダスさん、しっかりしてください!」
ヴァイヤーの呼びかけに、ミダスは口を開いた。だが、言葉を紡ぐことができない。小さく開いた口からは、空気が漏れるような呻き声だけが流れた。
「隊長!」
「しっかりしてください!」
部下たちが走り寄ってくる足音を聞きながら、ミダスは「みっともなく狼狽えるな」と怒鳴りつけてやりたいと思いながら、気を失った。
「お前たちは、ミダスさんを抱えて城へ行け。その程度の怪我なら、プーセ相談役であれば治療ができるはずだ」
彼女はバルコニーにいる、とヴァイヤーはミダスを囲んだ騎士たちに指示を出した。
だが、彼らはすぐには動かず、ヴァイヤーを睨むように見つめる。
「......文句があるなら、後で聞く。それよりもミダスさんを早く連れて行け! 時間を無駄に過ごして、お前たちの隊長を失うつもりか!」
怒りを叩きつけるように、近寄ってきた魔人族を叩き斬る。
お互いの顔を見て頷いた騎士たちは、三人がかりで鎧姿のミダスを抱え上げ、城へと歩き始めた。
「後送している者たちを援護しろ! 道を作ってやれ!」
命令を受けて、数名の騎士が運ばれていくミダスの周りを囲む。
「......貴方の言いたい事もわかる。でも、これも王として成長した、と考えましょう」
ヴァイヤーは、以前からイメラリアを知っている者ほど、今回の作戦に戸惑い、乗り気ではないことを知っている。宰相も一二三を危険視する立場ではあるが、イメラリアの在り様に戸惑っている。
「優しい人たちだ。良い国だと思う。私は、この国を誇りに思いますよ」
だからこそ、ヴァイヤーはイメラリアの目指す形に命をかけて協力するつもりになっていた。それでこそ騎士の姿だ、とヴァイヤーは信じているからだ。
「広場中央へ向けて突撃する! 援護しろ!」
一瞬だけ動揺を見せた部下たちだったが、すぐに彼の左右について道を開くように魔人族たちを押し返してくれた。
人数で押し込んでくる魔人族たちの向こうに、一瞬だが敵を蹴散らしつつ一二三の元へと向かうオリガの姿を見つけた。
「おおおおおおお!」
ヴァイヤーも、彼女に遅れまいと剣を振るう。魔人族からの攻撃が、鎧を叩き、や腕に傷をつけた。だが、止まるわけにはいかない。
オリガが動けば、イメラリアの策が発動する。その策を確実にするために、成功を間近で確認するために、ヴァイヤーは進む。 | “It’s a face I have seen somewhere before.” (Origa)
“Uuh...” (Balzephon)
Striking the temporal region of a demon, whose neck had been cut by her wind blades, Origa tore off their head and sent it flying.
In close proximity she discovered Balzephon who’s bashing the head of a demon he had grabbed into the stone paving while clumsily swinging his sword with full power as he fights against demons just like her.
Apparently at the same time as Balzephon and Origa confirm each other by sight, a certain amount of tension travels between them.
“If I recall, you were the plaza’s decoration? Is it fine for you to have a falling out with your friends at a place like this?” (Origa)
Dodging the attack of a demon, who thrust his spear at her, by stepping sideways, she counters so strongly with the hilt of her iron-ribbed fan that the demon’s forehead caves in. The demon, who fainted, is being stepped on by his allies and will likely lose his life sooner or later.
Unlike Hifumi, Origa’s priority objective isn’t killing, and although she’s not shy to kill her enemies, it’s no more than a means. A means for the sake of her own objective. Her current goal is to create a situation where Hifumi can be sealed. And on top of that, being as close to Hifumi as possible at the moment of the sealing.
“It looks like you can fight rather well for a decoration. I can’t shut my eyes to unnecessary hindrances getting in the way when it should be a commemoration for Hifumi-sama and me. I shall get rid of you first.” (Origa)
Origa happened to watch the moment when Balzephon transformed into a monster due to the magic tool, and she repelled him once already, but probably because it was a trivial matter to her, she had totally forgotten about it.
“Hifumi-sama’s aim...the reality of the demons trying to attack, no, having attacked the castle while bringing along grotesque-looking monsters has been accomplished. You’re not needed any longer.” (Origa)
She kicks away a fallen demon, making another male demon soldier deliberately step on his comrade. The man, who pitched forward after losing his balance in combination of getting surprised due to treading upon his ally, had his nape grasped by Origa and was pulled down. Next the back of his head that was covered by a steel helmet was struck by her folded fan.
Without even confirming the blood that spreads on the stone paving, Origa approaches Balzephon.
“Uuaaaah!”
Balzephon pushed a nearby demon soldier with a kick towards the approaching Origa, and thrust out his sword in order to pierce her alongside the demon.
However, he only got feedback from one body.
“I guess you do possess a certain degree of intelligence. It seems to be limited, though.” (Origa)
Her voice comes from right next to Balzephon. Judging that he doesn’t have the time to pull back his sword, Balzephon lets go of it and releases a backhand blow to mow her down.
But, that attack fruitlessly cuts through empty space.
that allows one to sense someone consists of the air flow, smell, sound and the pressure of life...” (Origa)
This time her voice comes from behind.
Changing his voice into a scream of irritation, Balzephon picked up the sword of a demon that was lying at his feet and swung it right away.
However, Origa is no longer there.
“If you can search for the faint hints, you won’t be misled by obvious lures... As expected, I guess it’s too difficult for an ordinary man.” (Origa)
This time he can hear her voice right next to his ear. Balzephon immediately tries to seize the enemy by moving his eyeball, but there’s no one there.
At that moment he notices, reflected at the edge of his sight; the male demon who’s still standing while a sword grows out of his back. The man has died. There’s no mistake in that. But, why is he standing?
“If it had been Hifumi-sama, he would have immediately perceived that I haven’t moved from here... No, before I could even mislead him with a voice transmitted through wind magic, he would have bisected me alongside this corpse.” (Origa)
Once Origa flings away the corpse she had propped up with her fan, she unfolds it to clear away the blood, and conceals her face that reflected her sneering.
“Now I remember. You are that hybrid, that fake. You possess power and speed, but all of has been given to you. Even the body you’re using right now is borrowed, isn’t it?” (Origa)
She folds the fan with a metallic click.
“You have too many shortages to serve as opponent for Hifumi-sama. I will get rid of you here, after all.” (Origa)
Origa steps forward. She’s casting magic, but the attack is performed with her fan.
Balzephon, who intends to intercept her by swinging his sword, gives up on trying to wedge the sword between as their distance shrunk very quickly, choosing to block the fan attack by sacrificing his arm and slash the sword towards Origa’s head.
“It appears you’re capable of making decisions on the spot. But, that’s all.” (Origa)
The sword cuts air.
The fan swung by Origa didn’t aim at Balzephon’s body, but the arm holding the sword, and made its trajectory go amiss.
Her real attack was magic.
“Gobaah...!”
Suddenly Balzephon’s head is wrapped up by a large amount of water. The water, which had been created by magic, ignores gravity due to the mana provided by Origa, and doesn’t stop clinging to the front of his face.
The aim is not suffocation. Origa didn’t consider if Balzephon, who can survive by just being a head, needs to breathe. What she considered is a method known to only a few people who possess full knowledge of the magic tool and potion effects that caused Balzephon to transform.
Stabbing with the fan, she gouges out Balzephon’s neck, causing his head to be torn off Bashim’s torso.
The water persistently clung to the head that fell to the ground. The amount of water visible on the surface decreasing is owed to it having permeated inside the head through the openings such as nose, mouth, and eyes.
“The trait of immortality possessed by the reinforced soldiers and giant soldiers has to be greatly accounted to the magic potion that entered the “blood flow.” I’m aware of it since I experimented with it in various ways.” (Origa)
“That’s why,” she cuts Balzephon’s head that’s rolling around on the stone paving apart with wind magic.
The scattered blood has been diluted by water and spreads on the ground.
“If you dilute and scatter it, it won’t be able to show any significant effect either. It’s a scene that I observed many times.” (Origa)
Balzephon’s eyes and tongue, which moved even while having been divided, gradually lose their strength once the color of the flowing blood thinned out. Before long they completely ceased moving once they only exposed a washed-out flesh color.
“Any time soon now...I guess?” (Origa)
She casually looks around her. The plaza’s entrance area has been barricaded with handcarts and doors, seemingly carried in from somewhere, and was completely manned by Fokalore’s soldiers under Alyssa’s command.
The number of demons has decreased. They still have big number if looking at the whole plaza, but the speed of their losses is faster than that the humans. The main reasons being Hifumi and Balzephon, who died moments ago.
Seeing as she possesses the gate magic, the demons’ main target lies in the direction of the royal palace with the demon ruler and Orsongrande’s main force being situated there. The demons are either in a melee combat with the knight order and the people surrounding Hifumi now, or some foolish ones among them, who haven’t realized that there’s no reason for them to break through towards the city, are shot to death by Fokalore’s soldiers.
And the knights, or in other words the knight forces led by Midas and the royal knight forces led by Vaiya, have fallen into a state of jostling with each other while continuing their battle against the demons.
Origa, who calmly observed the deployment of the combat forces, discovered the person among them who shone brightly in her eyes.
Even now turning a single demon soldier into a skewer while continuing a melee combat as if not knowing enemy and ally, he calmly swings his katana with a smile on his lips.
The stage was set.
Origa, who started to run towards Hifumi, who is facing a tiger beastboy who apparently barged into the battle, as if performing light dance steps, sends a sharp gaze towards the balcony for just an instant, and heads towards her beloved while smiling all over her face again.magic
Her hand grasping the iron-ribbed fan, her face staring at him, and her chest that remembers the sensation when she was held in his arms; her entire body is on fire.
“I’m coming to you right now!” (Origa)
Origa, who mowed down two demon soldiers with one swing of her fan, heads towards Hifumi using the shortest distance.
☺☻☺
“Midas-san! This is His Majesty’s order! Why are you standing in our way!?” (Vaiya)
“No matter what order it might be, it’s strange to attack one’s own countryman! Aren’t our swords wielded for the sake of protection!?” (Midas)
“Stop with the pretty words!”
Vaiya repelled Midas’ sword, but gritted his teeth in vexation as he didn’t manage to send the sword flying. Since he has no intention to kill Midas, he has to go easy on him, but with Midas’ ability being higher than expected and his way of fighting being closer to that of adventurers than that of knights, Vaiya himself had a hard time.
At present the strategy of suppressing Hifumi while using the demons as pretext was in the process of falling apart. The pressure had increased because the demons were focusing on the royal castle and because Midas’ knights in the direction of the city had created a defense line to protect Hifumi.
The sight of fellow knights crossing swords while ignoring the demons was unfolding all around.
“What an unsightly state! It’s ridiculous to hinder the success of the strategy as knight, isn’t it!?” (Vaiya)
“I’m telling you that the strategy itself poses the problem here!” (Midas)
Receiving Midas’ front kick to his armored abdomen, Vaiya stumbled back. Even so he doesn’t lower his sword.
Once he returns his look, which got blurred for an instant, to Midas, he was in the midst of fighting a demon who had cut in-between them.
“What we should do right now is to repel the demons, right!?” (Midas)
As the demon soldier slashed at him more and more, Midas stopped the blows by supporting his sword with both hands.
Vaiya cut open the back of that demon.
“The demon that has attacked just now is...” (Vaiya)
As he’s about to say, “a sacrificial pawn,” Vaiya holds his tongue.
If the surrounding demons were to hear that, this situation would become even more chaotic. The enraged demons’ offensive would press even stronger towards the castle, wouldn’t it?
“Anyway, in order to make Hifumi-dono’s sealing a success, we must restrain his movements a bit!” (Vaiya)
The two, who rallied their swords for three rounds, took some distance to catch their breaths.
“What do you mean by that? Does Imeraria-sama intend to seal him!?” (Midas)
“It’s as you’ve heard. We are going to detain Hifumi-dono’s movements somewhere on this plaza, lock him up in a barrier, and seal him. We’re using the demons’ attack in order to meet the first condition.” (Vaiya)
Upon Vaiya’s explanation, Midas was surprised to the extent of becoming speechless.
Forgetting that there are enemies around and in front of him, he flings off his helmet and looks up to the balcony.
The queen’s expression as she looks down on the battleground from there couldn’t be seen in the shadows, but she didn’t seem agitated.
“What have you been thinking...?” (Midas)
To Midas Imeraria’s decision was unacceptable. He believes to logically understand that he should obey orders as a knight, but his heart doesn’t follow on that. The image of Imeraria within him was that of a girl who runs about for the sake of building a good country even while piling up on errors and who earnestly considers the well-being of her people.
To Midas it was unexpected and unbelievable that she would decide to dispose of someone.
An impact as if having been slashed travels across Midas’ back who was looking up at Imeraria in a daze.
“Midas-san!” (Vaiya)
His back having apparently been cut was something Midas noticed at the point when his face was hit by the sensation of stone. In a strangely calm manner he considered whether his armored had been pierced or whether he had been hit by an ax.
He can hear the scream of what seems to be a demon, and Vaiya’s battle roar.
“Midas-san, please keep it together!” (Vaiya)
Midas opened his mouth upon Vaiya’s appeal. However, he’s unable to form any words. Only groaning escaped through his slightly opened mouth as if leaking air.
“Captain!”
“Please stay with us!”
As he heard the footsteps of his subordinates that rushed over, Midas fainted while wanting to yell at them, “Don’t get all flustered up in such a disgraceful manner!”
“You guys, go and carry Midas-san to the castle. If it’s an injury at this level, Advisor Puuse should be able to heal it.” (Vaiya)
“She’s on the balcony,” Vaiya ordered the knights surrounding Midas.
However, they don’t move immediately, and only glare at Vaiya.
“...If you have any complaints, I will listen to them later. Rather than that, quickly take Midas-san away! Do you intend to lose your captain by pointlessly wasting your time here!?” (Vaiya)
He cuts apart a demon that had closed in as if venting his anger.
The knights, who looked at each other and nodded, lifted up Midas in his armor with three people, and started to run towards the castle.
“Cover the knights who are sending back their wounded captain! Create a path for them!” (Vaiya)
Hearing his order, several knights surround the group around Midas who’s being transported.
“...I also know what you wanted to say. But, let’s consider it as her having grown up as a queen.” (Vaiya)
Vaiya knows that the more someone knows the Imeraria from before, the less eager and the more bewildered they are by this time’s strategy. The prime minister also holds the standpoint of regarding Hifumi as dangerous, but he’s perplexed by Imeraria’s way of handling this matter.
“They are all kind people. I think that this is a fine country. I feel proud of it.” (Vaiya)
That’s exactly the reason why Vaiya intended to cooperate with Imeraria’s objective while putting his life on the line. It’s because Vaiya believes,
“I will charge the plaza’s center! Cover me!” (Vaiya)
His subordinates showed unrest for just an instant, but at once they lined up left and right of him, and forced back the demons in order in order to open a path.
On the other side of the demons, who were pushing with their numbers, he discovered Origa heading towards Hifumi while kicking an enemy, but he only could see her for a moment.
“Ooooooooh!” (Vaiya)
Vaiya swings his words in order to not fall behind. The attacks from the demons hit his armor and wounded his arms, but he cannot afford to stop.
Once Origa makes her move, Imeraria’s plan will be put in operation. In order for that plan to definitely succeed, for the sake of confirming its success from nearby, Vaiya advances. |
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} | 戦いは奇襲から始まった。
「後方から襲撃!」
名の兵士が作る長い隊列の中央にいたアリッサは、幌付き馬車の中で脇差の手入れをしており、ちょうど仕上がったところだった。
声が聞こえた瞬間、アリッサは音も無く立ち上がり、後方へと視線を向ける。
「ミュカレさんは、ここにいて」
に緊迫した空気に、戦闘慣れしていないミュカレは、身体を低くして馬車の奥へと入っていく。
同時に、アリッサは馬車を飛び出した。
「長官、こちらです!」
馬車と並走していた台車の兵士に声をかけられ、その後ろにひらりと飛び乗る。
「急いで!」
改良に改良を重ねたフォカロル領軍の台車は、一抱えはある大きな車輪と音を抑えるクッション材の採用など、当初とは見た目も性能も格段に上がっている。
一台に5人は楽に乗れる大きさになり、アリッサ一人ぐらい増えてもなんともない。
魔物の皮で作った緩衝材と車軸が擦れるシュルシュルという独特の音を立てて、台車が走る。
兵士たちは先ほどの声に素早く反応し、非戦闘員は隊列を外れて前に向かい、兵士たちは後方を向いて武器を構えていた。
「左右からの襲撃にも警戒して! 後の一の人数で対応!」
大声で指示を出しているうちに、隊列後方へと到着する。
「人型の魔物?!」
台車を操る兵士の一人が叫んだ。
アリッサにも、その異様な姿は見えた。
両手足が普通の人間よりも異様に長く、全ての爪が鋭く、分厚い。
身長はゆうに三メートルはあり、辛うじて衣服が残った身体は、毛深く、筋量が増大して醜く膨れ上がっていた。
頭部だけは人間の面影を色濃く残しており、アリッサはその顔に見覚えがあった。
「あれは......たしか王城で......」
他でもない、騎士であったバールゼフォンを城内で挑発し、が待つダンスホールまでおびき寄せたのがアリッサだった。
怒りに震える表情を、まだ憶えていた。
「バールゼフォン......人型の魔物って、あの人のことだったんだ」
待っている間は遭遇せず、撤退時に出会うという運の悪さに、アリッサは苦い顔をした。
現場を見回すと、何人かが負傷して血を流しており、いくつかの台車を横倒しにして壁を作り、バールゼフォンを狙って槍を撃ち込んでいた。
「僕が注意を引くから、怪我人を台車で隊列前方へ送って!」
叫びながら、台車からアリッサが弾かれたように飛び出す。
「長官、危険です!」
台車の影で投槍器を動かしていた兵士が止めようとするが、その手をすり抜けて走った。
「久しぶりだね!」
アリッサの声に、バールゼフォンは虚ろに見開かれた目を向けた。
そこに意志があるようにはとても見えず、アリッサの事もわかっていないようだ。
バールゼフォンは自分の半分以下の身長しかない相手が近づいて来るのを、ただ攻撃するために腕を振り上げる。
「特に反応なしかぁ。それなら」
長い腕が振り下ろされ、爪が顔を狙って迫るのを、脇差で辛うじて受け流す。ぐらりとバランスを崩してしまう程の衝撃を、前転して移動の力に使った。
それでも、無傷とは行かなかった、頬をざっくりと切られ、血が溢れる。
「ぐっ......」
見ていた兵士から悲痛な叫びが上がるが、反応する暇はない。
転がりながらバールゼフォンの足元に近づき、脇差を振るってふくらはぎを斬り裂いた。
叫び声を上げ、しゃがみこんだその背中に、二本、三本と槍が突き立つ。
「ぐぅぅうう......!」
足元をくぐり抜けたアリッサが追撃を入れようとした瞬間、信じられないものが見えた。
確かに筋肉を切り裂き、傷は足首の腱を傷つけたはずなのに、もう血が止まりかけ、傷は端からふさがりかかっている。
アリッサの動きが一瞬だけ、止まる。
その瞬間を狙い、バールゼフォンは自分に痛みをあたえる槍を抜き、無造作にアリッサに叩きつけた。
投槍器用に先端を尖らせただけの、刃が無い槍だった事は幸運だった。
殴られた肩は鎖骨を折られ、脇差で庇おうとした右腕も巻き込まれて前腕を叩きおられた。
何とか脇差は左手に持ち替えたものの、衝撃で倒れこんでしまったアリッサは、立ち上がるのも難しい程のダメージを受けている。
「長官! 全員、あるだけの槍をぶち込め! 長官を助けるぞ!」
三名の兵士が命懸けでバールゼフォンの前に飛び込み、追いかけるようにして後方部隊が一斉に槍を打ち掛け、中には手で投げつけている者もいる。
槍がアリッサに当たらないよう三人の兵士は彼女に覆い被さり、どんどんと打ち込まれる槍の雨の中、時折鎧に当たる槍に肝を冷やしながらも、ただただアリッサを守ることだけを考えていた。
「あああああああ!」
腕を振るい、槍を叩き落としていたバールゼフォンも、流石にその量に捌ききれなくなると、いくつかの槍を身体に生やしたまま、街道の外へと逃げ去っていった。
兵士の誰もがそれを追いかけようとはせず、一斉にアリッサへと駆け寄る。
「長官! ご無事ですか!」
大粒の汗を流し、呻くアリッサはそれでも目を開けて周囲を見回す。
いくつもの顔が自分を心配そうに覗き込んでいる。
身体を張って守ってくれた兵士たちも、二人が膝をついて土まみれになった顔をぬぐいもせずに、アリッサの首を支え、担架に乗せるための態勢をとっている。
残り一人は、アリッサの足元で仰向け寝かされて、ピクリとも動かない。
アリッサが動かない一人を呆然と見つめているのに気づいた兵士たちは、固く目を閉じた。
「長官......」
「あいつは、魔物が振り回した槍に当たって......」
絞り出すような声で、兵士たちが状況を報告する。
「......そんな......」
これが、フォカロル領軍が一二三の指導により発足してからの、戦闘による初の死者となる。
訓練中の事故や、軍とは無関係な病死や罹災はあり、兵との死別は初めてではなかったが、戦闘で、しかも目の前で自分を守る為に命を投げ出したということに、アリッサは傷の痛みも忘れる程に心がかき乱された。
「アリッサ様!」
狂乱に陥りかけたところで、兵士たちをかき分けてミュカレがアリッサの前に滑り込んできた。
汚れるのも構わず、横になっているアリッサの前に膝をつき、切れた頬に清潔な布をあてる。
明らかな腕の骨折に一瞬だけ驚いた顔を見せ、直ぐに周囲の状態を見てとったミュカレは、腕になるべく触れないように注意しながら、そっとアリッサを抱きしめた。
「まずは、お怪我を治しましょう。それが守られた者の仕事です」
そのまま気を失ったアリッサを、ミュカレの指示で兵士たちが担架に載せ、馬車へと運んでいった。
「遺体も余裕のある馬車か台車へ」
アリッサに何かあった場合の取り決めとして、指揮はミュカレへと移る。
「近くの町に寄りますか? 戻った方が町は近いのですが」
運ばれていくアリッサへ視線を向けながら、小隊を纏める兵士が発した質問に、ミュカレは目を瞑って考えた。
「......予定通りにフォカロルへ向かいましょう。領主様にお願いして、魔法薬で治療をしていただいた方が確実です」
なるほど、と頷いた兵士が見たミュカレの表情は、まるで鬼神のそれであった。
アリッサを抱きしめた時に顔から胸にかけて血まみれになり、心配と怒りのあまり、人が殺せそうな程に厳しい目つきになっている。
「全速力でフォカロルへ戻ります。長官と遺体を含めて三十名で台車を使って全速で移動します。休憩をしなければ一日でたどり着けるはずです」
「了解いたしました!」
編成の為に兵士たちが離れていく中、布に包まれて担架に乗せられる兵士に向かい、ミュカレは頭を下げた。
担架の周りにいた兵士たちも、直立不動でその死を悼む。
「ありがとうございます。貴方の命懸けの行動により、私の、そしてみんなにとって大切な人は助かりました。貴方が守った人は、必ずフォカロルへお送りしますから、どうか見守ってください」
もう一度、ありがとうという言葉をミュカレが紡いだとき、彼女の耳に誰かが嗚咽を漏らすのが聞こえた。
☺☻☺
「......それで?」
領主館、戻ってきたアリッサは治療室で手当を受け、そのまま館内の自室へと寝かされている。
そして今、執務室にいる一二三の目の前には、小隊長ランクの兵士数名とミュカレが並び立ち、腰度曲げて頭を下げている。
一二三の質問に答えたのは、ミュカレだった。
「人型の魔物を撃退した後、アリッサ長官を連れて急ぎ戻って参りました次第です。損耗を出した上、戦果も無い無能の勝手なお願いであることは重々承知の上でお願いいたします。どうか、領主様がお持ちの魔法薬でアリッサ長官の傷を癒していただけませんでしょうか」
お願いします、と兵士たちもミュカレの言葉に続けて声を揃えた。
ふぅ、と一二三はため息をついた。
「俺は別に、損耗だとか誰かの戦果とかは気にもしていない。アリッサも、本人が希望するなら薬をやるのは別に構わん」
「ありがとうございます」
「だが、その前に一つ聞きたい」
頭を上げたミュカレたちは、一二三が笑っている事に気づいた。
一二三は手袋に覆われた左手で、兵士を指差す。
「その人型の魔物とやらは、強かったか?」
ミュカレは戦闘を見ていないので、兵士の一人が答える。
「強かったです。槍で殴られた長官が一撃であれほどの重症を負ったことも、その前の攻撃を、あの器用な長官が受け流しきれませんでした。また、槍が刺さっても斬りつけても、傷が見る間に治っていくのを確認しています」
真剣な眼差しで話す兵士を、一二三は微笑みのままでジッと見ている。
「傷が治るのか。切り傷はどうなった? 肉が盛り上がって塞がるのか、傷の端から塞がるのか、治り方も色々あるだろう。それに、治る速度はどうだった?」
興奮気味に聞いてくる一二三に、兵士はできるだけ細かく説明する。
それを、一二三は異様な程の上機嫌で聞いていた。
「領主様。どうか我々に再戦の、復讐の機会を!」
「だめ」
熱い気合の入った兵士の懇願を、一二三はバッサリと断る。
「今のアリッサが一方的にやられるような相手だろう? ホーラントのゴタゴタより、そっちが余程面白いじゃないか。魔人族連中もまだまだこっちまでは来れないだろうからな。そいつは、俺がもらう。第一、お前たちに対処できるのか?」
「う......よろしく、お願いいたします」
正直に言えば確実に仕留められるかは自信が無かった兵士は、大人しく引き下がった。悔しさで握り締めた拳は、血が滲むほどに力が入っている。
「そう嘆くなよ。そいつは多分、新しく魔人族に誕生した魔王が放った魔物だ。他にも魔王の手下は来るだろうから、そん時に腹いっぱい仕返ししてやればいい」
「魔王......」
信じていないミュカレは苦い顔をしていたが、一二三の狙いを知っているので黙っていた。ただ、ここでそれを言い出すか、という気持ちではあった。
「ああ、荒野にいるときに魔人族の様子もちょいと覗いてきたんだが、新しい魔王が誕生していたんだ。いずれ魔人族との戦いが始まるから、そこで腹いっぱい、アリッサなり死んだ奴なりの復讐をするといい。それまで、しっかり戦えるように鍛えておけ」
「はっ! その時には是非、我々にも敵を屠る機会をお願いいたします!」
揃って頭を下げ、兵士たちが出て行ったが、ミュカレだけは部屋に残った。
「......嘘ですよね?」
「新しい魔王が誕生したのは本当だぞ? 魔物との関係は、知らん」
「呆れた......魔人族が攻勢に出る可能性があるなんて、大問題じゃないですか、そんな簡単に......」
「いいんだよ、こういうのは単純に考えて」
立ち上がった一二三は、刀を腰に差した。
「敵が来るから殺す。負けたら死ぬ。ある程度調整はしてきたから、死ぬ気で頑張れば負けることは無いだろう」
カラカラと笑いながら、アリッサを見てくると言い、一二三も出て行く。
一人残されたミュカレは、首をかしげていた。
「何かひっかかるわね......」
違和感を感じていたミュカレだったが、ここで考え事をしていられる程暇ではなかった。
大人数がこれから帰還するうえ、初の戦死者を出したのだ。軍務担当の文官として、忙殺される未来しか見えない。
「みんなに手伝ってもらおう」
アリッサが心配ではあったが、悔しいとは思いつつも一二三に任せる事にして、ミュカレは足早に他の文官たちの所へと向かった。
一二三が部屋に入ると、ベッドで横になっているアリッサは、顔に包帯を巻かれた状態で視線を向けて来た。
固定されて肩を動かせないので、目だけを何とか動かしている。
「あ、一二三さん......。恥ずかしいなぁ、こんな格好で」
力無く笑うアリッサに、一二三は気にするなと言いながら適当な椅子を持ってきて、ベッドの横に座った。
「もっとボロボロになったところも見たんだ。今更だろう」
「もう......あの時とは色々違うのに......」
無事な左手で、毛布を顔まで引き上げたアリッサに、一二三はいつもの調子で話しかけた。
「人型の魔物とやりあったそうだな。どうだった?」
「魔物......かなぁ? あれは多分、王城のダンスホールから逃げたあの騎士だと思うよ」
「どういうことだ?」
アリッサの説明を聞いて、一二三は考え込んだ。
「まあ、どうでもいいか。人型なら魔王の手下って事に信ぴょう性があるからな。王都やら騎士やらの目に触れそうなら、顔を潰すなり焼くなりしておけばいい。......おっと、さっさと済ませておくか」
突然、かぶっていた毛布を引き剥がされ、アリッサの包帯を巻かれた姿が露わになった。
細くしなやかで鍛えられた小柄な身体は、今は薬と消毒薬替わりのアルコールが塗りたくられ、下半身に薄いズボンを一枚履いただけの姿だった。
「ちょ、ちょっと......」
「じっとしてろ。初めてじゃないんだから」
闇魔法収納から魔法薬を取り出した一二三は、蓋を取りながらアリッサの身体をさっと確認した。
「傷は肩と腕、あとは頬だな。他には無いか?」
「......うん、大丈夫」
一二三はアリッサの右腕と肩から胸までを覆った包帯と固定具を外し、起伏の少ないつるりとした上半身に、無造作に魔法薬をかけた。
冷たさに一瞬身体をこわばらせたアリッサだったが、傷が治って痛みが収まっていくと、次第に力が抜けていく。
「ねぇ、一二三さん......」
「なんだ?」
「僕を守る為に、兵士さんが一人、死んじゃったよ......」
「ああ、そうだな」
程を使い、身体の傷が癒えた事を確認した一二三は、顔の包帯に手をかけた。
「一二三さんに付いてきて、なんだかんだで長官なんてなったけど、こんなことじゃ、駄目だよね......」
「いや別に」
残った魔法薬をアリッサの頬にそっと流し落とす。
「駄目とか良いなんてのは、お前が自分で決めろよ。指揮官なんて、味方の損耗より敵の損耗が多ければ良しとする奴なんて沢山いるだろ」
顔の傷もすっかり治ったことを確認するように、一二三の右手がアリッサの頬を撫で、頭の上にぽんと置かれた。
「お前がいないと困る。好きなようにやっていいから、あの暑苦しい連中を適当にまとめておいてくれ」
じわりと涙を浮かべ、頭に乗せられた右手に、アリッサは自分の両手を乗せた。
ぬくもりが伝わってくると、余計に悲しさが胸にこみ上げてくる。
涙が溢れだし、顔をくしゃくしゃにして、アリッサは一二三の腹に顔を押し付ける。治ったばかりの腕でしっかりと背中に手を回して、力いっぱい抱きしめた。
くぐもった泣き声は、アリッサが泣き疲れて眠るまで、部屋の中に響いていた。 | The battle began with a surprise attack.
“An attack from behind!”
It was just at the moment when Alyssa, who was in the centre of the long file created by soldiers, finished the maintenance of her wakizashi in the canopied carriage.
The instant she heard the voice, Alyssa stood up soundlessly and turned her look towards the rear.
“Miyukare-san, stay here.” (Alyssa)
“G-Got it!” (Miyukare)
Being inexperienced with battle, Miyukare steps into the carriage while lowering her body in this suddenly strained atmosphere.
At the same time, Alyssa jumped off the carriage.
“Director, it’s this way!”
Being called out by a soldier on the platform wagon which was travelling parallel to the carriage, she nimbly jumps onto the rear side of the wagon.
“Hurry!” (Alyssa)
The platform wagon of Fokalore’s feudal army, which had experienced one improvement after the other, adopts things like cushion materials to suppress the sounds of the many large wheels rising its appearance and performance remarkably.
Becoming as big to let easily people board one wagon, there’s no problem even with Alyssa herself joining.
The platform wagon advances as it makes an unique sound of *shuru shuru* due to the axles and cushioning, made out of monster hides, rubbing against each other.
Responding swiftly to the previous voice, the soldiers went ahead by separating from the ranks of the non-combatants and prepared their weapons while facing towards the rear.
“Be cautious of attacks coming from left or right! One third of our numbers will deal with the rear!” (Alyssa)
While giving orders in a loud voice, they arrive at the end of the file.
“A human-shaped monster!?”
One of the soldiers steering the platform wagon screamed.
Alyssa also saw that bizarre figure.
Both its arms and legs are oddly longer than those of a normal human. All of its nails are sharp and thick.
It easily possesses a height of three meters. Its body, which had barely any clothes remaining, was hairy and had an amount of ugly, swelled-up and enlarged muscles.
Only its head had a face strongly tending towards that of a human. Alyssa had memories about that face.
“That is... if I remember correctly, in the capital...” (Alyssa)
It was no one else but the knight Balzephon which Alyssa had provoked in the castle and lured to the dance hall where Hifumi was waiting.
She still recalled his expression of trembling in rage.
“The human-shaped monster... Balzephon, it was him.” (Alyssa)
Alyssa had a bitter expression due to their misfortune of not encountering it while waiting but coming across it while withdrawing.
Once she surveyed the site, she saw several soldiers being injured and shedding blood. Creating a wall by toppling over a few wagons, they shot spears at Balzephon.
“Send the injured to the ranks in front after I attract its attention!” (Alyssa)
Alyssa jumps out using a wagon as foothold while shouting.
“That’s dangerous, director!”
The soldier, who operated a spear thrower in the shadow a wagon, tried to stop her, but she quickly slipped through his hands.
“It’s been a while!” (Alyssa)
Balzephon shifted his focus and opened his hollow eyes widely due to Alyssa’s voice.
It totally doesn’t look like there’s consciousness dwelling in them. It seems like he doesn’t even recognise Alyssa.
Towards an opponent that has merely half the size of himself, Balzephon simply raises his arms overhead to attack.
“Without any particular reaction, eh? In that case.” (Alyssa)
As he swings down his long arms she barely wards off the long nails aiming at her face with her wakizashi. She used the impact on the level of destroying her balance violently towards the momentum of moving forward with a somersault.magic
And yet she didn’t come out of it unhurt. Her cheek was cut deeply and blood was pouring out.
“Gu...”
A heartbreaking cry is raised by the soldier who saw that, but she has no leeway to react to that.
Closing in underfoot of Balzephon while rolling forward, she swung her wakizashi and cut open a calf.
Two, three spears pierce into his back as he squats down while raising a scream.
“Guuuuu...!”
The moment Alyssa, who passed through underfoot, tried to pursue him, she saw something unbelievable.
Although she should have definitely cut up the muscles and caused an injury to the tendon of his ankle, he has already stopped bleeding and the wound is on the verge of being completely closed.
Alyssa movements stop albeit only for an instant.
Aiming for that moment, Balzephon drew out a spear, which caused pain to him, and casually threw it at Alyssa.
It was good luck for her that the spear had no blade and was only sharpened at its tip to be used by the spear throwers.
Having the collarbone of the hit shoulder broken, even her right arm, which she tried to protect with the wakizashi, got dragged into it and the forearm was fractured by the strike.
Although she somehow managed to switch the wakizashi into her left hand, Alyssa, who ended up collapsing due to the impact, has received damage at the level of making it difficult for her to stand up.
“Director! Everyone, shower it with all the spears we got! We will save the director!”
Three soldiers risk their lives by leaping in front of Balzephon and at the same time the rear unit makes sure to pursuit by firing the spears simultaneously. There are also some among them who throw the spears with their own hands.
Covering Alyssa so that the spears won’t hit her, the three soldiers thought of only protecting Alyssa even while they were scared to death by occasional spears hitting their armours within this rain of spears that was falling down steadily.
“Aaaaaaaaaa!”
Even Balzephon, who knocked down spears while displaying his own ability, was naturally unable to handle such an amount and took flight away from the highway with several spears pierced into his body.
None of the soldiers try to chase him and they all rush over to Alyssa at once.
“Director! Are you alright!?”
Sweating profoundly, the groaning Alyssa opens her eyes and surveys the vicinity.
Countless soldiers are peering worriedly at her face.
Even the soldiers, who risked their bodies to protect her, two of them get down on their knees getting ready to place her on a stretcher by supporting Alyssa’s neck without even wiping their faces which were smeared with dirt.
The remaining soldier is laying at Alyssa’s feet while facing upwards without moving with a twitch.
The soldiers, who noticed Alyssa staring dumbfoundedly at the unmoving man, strongly closed their eyes.
“Director...”
“That guy, at the time the monster swung its spear...”
The soldiers report the circumstances with squeezed-out voices.
“... Such a...” (Alyssa)
He has become the first casualty in combat after establishing the Fokalore feudal army trained by Hifumi.
There were also accidents during training and deaths from diseases and afflictions unrelated to the military. It wasn’t the first time they bereaved a soldier, but the matter of him abandoning his life in order to protect her, even more so in front of her, in combat, stirred up Alyssa’s heart to the extent of making her forget the pain of her own injuries.
“Alyssa-sama!” (Miyukare)
At the time she fell into a frenzy, Miyukare, who made her way through the soldiers, slid in front of Alyssa.
Without minding getting dirty, she kneels down in front of the lying Alyssa and applies a clean cloth on Alyssa’s cut cheek.
Showing surprise only for an instant due to the obviously fractured arm, Miyukare, who immediately assessed the situation of the surroundings, gently hugged Alyssa while being cautious of not touching her arm as much as possible.
“Let’s get your injuries healed first. That’s the job of the person who was protected.” (Miyukare)
The soldiers placed Alyssa, who lost consciousness just like that, on a stretcher and carried her to the carriage upon Miyukare’s orders.
“Carry the corpse to a carriage or wagon that has space left, too.” (Miyukare)
As they agreed upon the case something happened to Alyssa, the command is transferred to Miyukare.
“Are we close to a nearby city? There’s a city close-by in the direction we returned from though.”
While pointing her look at Alyssa, who’s being carried, Miyukare thought about the question posed by a soldier leading a platoon with closed eyes.
“... Let’s head towards Fokalore as planned. I’m certain she will get treated with magic potions if I request it from Lord-sama.” (Miyukare)
The expression of Miyukare, who saw the soldier nod while saying “I see”, was completely like that of a fierce god.
Becoming bloodstained from her face to her chest at the time she hugged Alyssa, she is overwhelmed by anxiety as well as rage and dons a harsh gaze at the level of being able to kill people with it.
“You will return to Fokalore at full speed. You will move at maximum speed using a platform wagon with people on it, including the director and the corpse. You should arrive within once day if you don’t rest.” (Miyukare)
While separating from the soldiers in order to organise things, Miyukare bowed her head facing the soldier who was placed on a stretcher with a cloth covering him.
Even the soldiers, who were in the vicinity of the stretcher, mourn over his death while standing at attention.
“Thank you very much. Because of you risking your life, a precious person for me and everyone was saved. Please watch over us as we will definitely deliver the person you protected with your life to Fokalore.” (Miyukare)
At the time Miyukare voiced out words of thankfulness once again, she could hear sobs leaking from someone with her ears.
☺☻☺
“... So?” (Hifumi)
Alyssa, who returned to the feudal lord’s mansion, receives treatment in the medical room and is put to sleep within her own room in the building.
And currently, in front of Hifumi, who is in his office, several soldiers with the rank of platoon leader and Miyukare are standing in a line. They are bowing their backs with an angle of °.
It was Miyukare who answered Hifumi’s question.
“After repelling the human-shaped monster, we took Director Alyssa and hurried to return as fast as possible. Please take properly into account that it was the selfish wish of an incompetent person who has no military gains after we suffered losses. Could you please heal the wounds of Director Alyssa with the magic potions you possess, Lord-sama?” (Miyukare)
“Please”, the soldiers matched up their voices following up on Miyukare’s words.
Hifumi sighed with a “fuu.”
“I don’t particularly care about someone’s military gains or whether there were any losses. I don’t mind in any way to apply the magic potion if it’s Alyssa’s own wish.” (Hifumi)
“Thank you very much.” (Miyukare)
“However, before that I’d like to ask you one thing.” (Hifumi)
Miyukare and the soldiers, who raised their heads, noticed Hifumi smiling.
A soldier points at Hifumi’s left hand which was covered by a glove.
“Was that human-shaped monster or whatever strong?” (Hifumi)
One of the soldiers answers as Miyukare hasn’t seen the battle.
“It was strong. It caused such a serious injury with one blow of a spear at the director and it warded off the previous attack of that skilled director, too. Also, we confirmed that its injuries quickly healed even when it was cut and pierced by spears.”
Hifumi is staring at the soldier, who talks with a serious look, while smiling.
“Its wounds were healed? How about the cuts? Were those closed up by bulging flesh? Or was it closed up from the wound’s edges? There are likely various manners of recovery. Besides, how about the healing speed?” (Hifumi)
The soldier explains as many details as he can to Hifumi who is asking in a somewhat excited manner.
Hifumi listened to that with a strange degree of good mood.
“Lord-sama, please give us the chance to have our revenge with a rematch!”
“Nope.” (Hifumi)
Hifumi flatly declines the petition of the soldier who was filled with intense fighting spirit.
“It’s an opponent that has done in the current Alyssa one-sidedly, right? Isn’t that one far more interesting than the troubles in Horant? There’s probably still quite some time left until the demon bunch gets here. I will take care of that fellow. In the first place, can you guys deal with it anyway?” (Hifumi)
“Uuh... Please take care of it.”
The soldier, who hadn’t the confidence to bring it down definitely if speaking honestly, withdrew obediently. The fist, he tightly grasped in frustration, is filled with a strength to cause blood oozing out.
“Don’t be so discouraged. That guy is probably a monster released by the newly crowned demon king. Since there will likely come other underlings of the demon king, it will be fine for you to get your revenge to your heart’s content at that time.” (Hifumi)
“Demon king...” (Miyukare)
Miyukare, who doesn’t believe in that, made a bitter face, but she remained silent as knows Hifumi’s aim.
“Ah, I went to check out the state of the demons for a bit at the time when I was in the wastelands, but a new demon king was born. Since the battle with the demons will start sooner or later, you will be able to fully enjoy your revenge for Alyssa and the guy who died. Train in order to be properly ready for the battle until then.” (Hifumi)
“Ha! At that time, please give us the chance to slaughter the enemies by all means!”
After bowing all together, the soldiers left. Only Miyukare remained in the room.
“... It’s a lie, isn’t it?” (Miyukare)
“The birth of a new demon king is the truth though? I don’t know whether it’s related to the monster.” (Hifumi)
“I’m shocked... isn’t something like the possibility of the demons starting an offensive a big problem? So easily...” (Miyukare)
“It’s fine. Such people think simply.” (Hifumi)
Standing up, Hifumi affixed the katana to his waist.
“Since the enemy will come, we are going to kill them. We will die if we lose. Since I have adjusted it to some degree, we likely won’t be defeated if we go at it with the intention to die.” (Hifumi)
While laughing loudly, Hifumi tells her that he is going to see Alyssa and also leaves.
Being left all alone, Miyukare tilted her head to the side.
“Somehow I feel uneasy...” (Miyukare)
Miyukare felt a sense of discomfort, but she didn’t have the spare time to calmly think about it in this place.
On top of a large number of people returning soon, there was also the first battle casualty. She can’t see anything but a future of being worked to death as civil official in charge of military affairs.
“Let’s get everyone help out.” (Miyukare)
She was worried about Alyssa, but deciding to leave it to Hifumi albeit feeling frustrated, Miyukare headed towards the other civil officials at a quick pace.
Alyssa, who was lying on the bed at the time when Hifumi entered her room, turned her look towards him with her face being wrapped up in bandages.
Given that she can’t move her fixated shoulder, she can only move her eyes somewhat.
“Ah, Hifumi-san... it’s disgraceful, this appearance.” (Alyssa)
While saying “Don’t worry about it” due to the feeble laughter of Alyssa, Hifumi brought a fitting chair close and sat down next to her bed.
“I saw you at the time you were far more tattered. It doesn’t matter by now.” (Hifumi)
“Good grief... it’s different in various ways from that time...” (Alyssa)
Hifumi addressed Alyssa, who pulled up the blanket up to her face with her healthy left hand, in his usual manner.
“It seems you fought against a human-shaped monster. How was it?” (Hifumi)
“Monster... is it? That is probably that knight who escaped from the royal palace’s dance hall, I think.” (Alyssa)
“What’s this about?” (Hifumi)
Hearing Alyssa explanation, Hifumi pondered about it.
“Well, it’s fine either way, I guess? The matter of him being an underling of the demon king if he has a human shape has credibility. If he catches the eyes of the capital or the knights, it will be fine as long he makes them lose face or grills them. ... Oops, will you be able to get over it quickly?” (Hifumi)
Having suddenly torn off the blanket, Alyssa’s figure being wrapped up in bandages became exposed.
The slender, flexible, trained, small body had currently medicine and alcohol as disinfectant substitute applied to it and she was only wearing thin trousers on the lower party of her body.
“W-Wait a moment...” (Alyssa)
“Stay still. It’s not the first time for you anyway.” (Hifumi)
Taking out a magic potion from his darkness storage, Hifumi quickly checked Alyssa’s body while removing the lid.
“The injuries are the shoulder and arm as well as the cheek. Is there anything else?” (Hifumi)
“... No, the rest’s fine.” (Alyssa)
Taking off the bandages and fixations which covered Alyssa’s body from her right arm and shoulder up to her breasts, Hifumi casually applied the magic potion on her upper body half with its smooth and insufficient ups and downs.
Alyssa stiffened her body for an instant to due to the coldness, but once her wounds heal and her pain decreases, she gradually loses strength.
“Hey, Hifumi-san...” (Alyssa)
“What’s up?” (Hifumi)
“A single soldier died in order to protect me...” (Alyssa)
“Yea, that’s right.” (Hifumi)
Hifumi, who confirmed her body to be healed after using around 70%, put his hand on the bandage on her face.
“Following you, Hifumi-san, I became a director one way or the other, but such a situation is, well, no good, right...?” (Alyssa)
“No, not particularly.” (Hifumi)
He gently spills the remaining magic potion on Alyssa’s cheek.
“You yourself decide whether something’s fine or no good. Among commanders there’s likely many who deem it acceptable if there are a lot more casualties among the enemy than among their allies.” (Hifumi)
In order to check whether the injury on her cheek had fully healed, Hifumi stroke Alyssa’s cheek with his right hand and placed it on top of her head with a *pon*
“I will be troubled if you aren’t there. As it’s fine to do it your way, please consolidate that passionate lot.” (Hifumi)
Floating tears with a *sniff*, Alyssa held both her hands due to the right hand which was placed on her head.
Its heat is transmitted to her and an excessive grief fills her chest.
Alyssa pushes her face into Hifumi’s belly as her tears begin to overflow and her expression crumples. Placing her arms, including the one which was healed just now, strongly around his back, she hugged him with all her might.
Her mumbled crying voice continued to resound in the room until Alyssa fell asleep after getting worn out from crying. |
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} | 「このまま、閉ざされた世界で滅びて行くなんて未来より、戦いのなかで魔人族の将来を勝ち取る努力をする方が、ずっと健全だと思わないか?」
アガチオンは玉座ではな向かい合って座れる応接セットがある別室を選んだ。
は家臣どころか魔人族ですらないという理由で、玉座から見下ろして話すことをアガチオンが良しとしなかった事もあるが、多くの家臣たちの前で話すべきでない内容もあるという理由もある。
そして、第一声からフェゴールが勢いよく立ち上がる程の爆弾発言だった。
「お、王よ! それは......」
「いいから落ち着けフェゴール。お客様の前だぞ?」
爽やかな笑顔を振りまいたアガチオンは、足を組んで天井を見上げた。
「結局、箱庭の中で鬱憤を溜めている状態が正常であるはずが無いんだよ。諦めて朽ちていくのはあまりにも寂しいから、何かやってみて上手くいくなら上々、失敗したら魔人族はお仕舞い。それでいいと僕は思うんだ」
座り直したアガチオンは、カップのコーヒーをy一気に半分程飲み込んだ。
「ふぅ。人間さん、君は何という名前だい?」
一二三も、本日二杯目に口をつけている。
「人間の国で、一応貴族にはなった。だが、この世界を見て回っているところだ」
「良いね。とても羨ましいし、とても素敵な話だ」
近くにいた侍女に、お菓子を持ってくるように言うと、アガチオンは一二三に微笑む。
「僕は直接には見たことがないけれど、人間やエルフの他にも、ドワーフや獣人なんてのもいるんだろう? 一二三は会ったことがあるかい?」
「会った。ここに来る前に獣人の何人かと会ったし、その前に知り合った連中の中にドワーフもいるし、エルフもいる」
「あら、エルフにも会ったことがあるのね......言われて見れば、エルフのいる所を通って来たのはずだから、当然よね」
当然のように一二三の隣に座っているウェパル。
人間の国ならば家臣としてありえない状況だが、アガチオンは気にしないらしい。
「エルフは、どんな感じだった? やっぱり、魔人族を憎んでいたかい?」
興奮気味なアガチオンに対して、一二三は真顔のまま話した。
「お前ら魔人族が解放される事を恐れている感じだったな。なんというか“世界の敵”扱いってやつだ」
「なんと! 我らが一体何をしたというのか!」
アガチオンは無言で頷くだけだったが、フェゴールが憤慨していた。
彼らの話によると、魔人族はエルフや人間と対立状態だった時期が長く続き、最終的に魔人族がエルフに押し込まれる形でこの地に封印されたという。
それも数世代前の話なので、魔人族としては身に覚えのない過去の影響で不当に閉じ込められているという鬱憤が溜まり、逆に封印している側のエルフは“正義の行い”として結界の維持を受け継いで来たようだ。
「やはり、エルフだけは何としても倒さねば! 王よ、ここは一二三殿の協力を仰ぎ、我らが復讐を果たすべきではないでしょうか!」
熱く吠えるフェゴールに、ウェパルはうんざりという顔をしている。
そして、アガチオンも乗り気で無いという様子だ。
「ん~......一二三、君はどう思う?」
立ち上がったフェゴールを見て、口をもにょもにょと動かしながら考えたアガチオンの問いに、一二三は微笑んだ。
「戦うのは良い事だ。敵がはっきりしているのも、その先に希望を見ているのも健全だと思う。でもなぁ......」
「なにか、気になることがあるの? エルフがものすごく強い、とか?」
ウェパルが初めて真剣な目をする。普段はフラフラしている彼女だが、多くの兵士の命を預かる立場でもある。無為に部下を危険に晒すつもりも無い。
「エルフは何人か殺したが、別にそこまで強くもない。魔人族がでかい剣を振り回して魔物と戦うのを見たが、俺の知る限りでは魔人族の方が戦闘力では上だろうな」
個人個人の能力は知らん、と一二三はばっさり話題を変えた。
「結界は、しばらくしたら弱くなるか消えるかするんじゃないか?」
「おや、どうしてそう思う?」
アガチオンが身を乗り出してきた。
「エルフは大半が森から出て行くだろうな。行き先は知らんが、あの森に居たら悲惨な死に方をすると知った。もう、あいつらにとって森は恐怖の対象にしかならんだろう」
エルフが樹木へと変質して死んでいく事と、その原因と思われる森の特性について、一二三は包み隠さず語った。その際、エルフの解剖をした話をすると、フェゴールもアガチオンもグレーの顔を青ざめていたが、ウェパルだけは興味深く聞いていた。
「なるほどね......いつの間にか、敵はいなくなっていた、というわけかぁ。拳を振り下ろすどころか、振りかぶる以前に目標がいなくなるかもしれない、ってことか」
ソファーをゴロゴロと転がりながら、アガチオンは呻く。
「あ~参った! 何とかして戦いになれば、魔人族のストレスも一時的に発散できて、結束も固まると思ったのになぁ」
「戦いたいなら、やればいいだろうが」
「......どういう意味かな?」
クッションを抱えてうつぶせになっていたアガチオンが、片目で一二三に視線を向けた。
「簡単だ。エルフ以外を狙えばいい。他にもいる、とお前自身が言ったじゃないか。獣人もドワーフも、人間もいる。何も、エルフだけが他種族じゃないだろ」
「に、人間との戦いを人間がすすめるというのか......」
「驚くことじゃないだろう」
口の端を釣り上げた一二三。
「人間同士、しょっちゅうやりあってるぞ? ただ、それだと戦いの内容も決まりきった形になってしまって、成長しないからな」
一二三は立ち上がり、フェゴールの肩を叩いた。
「どうせ暴れるなら、もっと広い世界に出る事を考えろよ。魔人族の名を知らしめるなら、エルフ相手じゃなくて、この世界中を対象にするくらいで丁度いい」
「どうせ嫌われてるなら、誰に遠慮することもないだろう。エルフの居留地に住めないなら、ここに残るかさらに遠くに
一二三は刀を腰に差し、袴に指を当てて折り目を整えた。
「どこへ行くんだい?」
アガチオンの問いかけに、ドアを開けながら振り向いた一二三が答えた。
「お前らの答え次第で、協力するかどうかを決める。しばらく街をぶらつくつもりだから、決まったらまた呼べばいい」
「あっ、じゃあ私が街を案内してあげる!」
出ていった一二三を追って、ウェパルが素早く立ち上がって駆け出した。
「王様、失礼しま~す!」
「ああ、魔人族の街も楽しめる事を教えてくれたまえ」
小さな音を立てて扉が閉まる。
立っていたフェゴールは、アガチオンに向かって跪いた。
「王よ、あの者を連れてきたことは、軽率であったやもしれません」
「いや、やはり外の者の話を聞けたのは良かった。よく見つけてきてくれた」
アガチオンが大仰に頷くと、フェゴールは身体をすくませて恐縮の意を述べた。
「エルフの土地は危険か。しかし、結界が無くなるのが本当だとすると......あまり、のんびり考えている時間は残されていないようだな。どうやら、大きな決断を下さねばならないようだな、フェゴール」
「王は偉大であり、その決定には全ての魔人族が従うでしょう」
全くの澄んだ瞳で答えたフェゴールに、アガチオンは天を仰いだ。
「プレッシャーかけてるだけじゃないか、それ」
まあいい、と溜息をついたアガチオンは、フェゴールにも聞こえないほどに小さな声で、自分の考えを口に出してみた。
「人間や獣人との戦い、か。どうせなら、たった一人が相手でも景気良く勝利から始めたいものだ」
☺☻☺
オリガに半死半生の怪我を終わされ、強化された魔物を命からがら倒したバールゼフォン。
魔物に埋め込まれていた魔法具を取り外し、意を決して自らの胸部に押し付けたところから、長く気を失っていた。
眩しい。
うっすらと目を開いた時、最初にそう呟いたつもりだったが、バールゼフォンの口から出たのは、言葉ではなくうめき声だけだった。
自分が、どこでどのような状態にいるのか判らない。
思考が混乱する中で、ようやく視界がはっきりしてきた。
息を吐きながら、のっそりと身体を起こす。
どうやら周囲を木々に囲まれているようだ。
青い葉が茂った枝からこぼれた日差しが、バールゼフォンを目覚めさせたらしい。
「......?」
気を失うまでの事を懸命に思い出す。
身体中が傷だらけだったはずなのに、どこも痛みを感じない。
視界が不自然に高いことに気づき、バールゼフォンは恐る恐る、自分の身体を見下ろした。
思わず、うめき声が漏れた。
しっかりと鍛え上げ、引き締まった体躯だったはずが、筋肉質ではあるが身体全体がふた回り以上は巨大化している。全身にうっすらと毛が生え、着ていた服もボロボロに破れていた。
混乱しながら、手足を順に見る。
腕も足も、丸太のように太くなり、岩のようにガチガチの筋肉で覆われていた。爪は分厚く、かつ鋭く伸びて小さなナイフが並んでいるようだ。
「ま、魔物なのか?!」
突然聞こえてきた声に振り向くと、鎧を着た剣士らしい男が二人と、魔法使いらしいローブの女が一人、バールゼフォンを見て驚いた顔をしていた。
「あんなやつ、見たことないよ!?」
二歩、三歩と後ずさりながら、魔法使いが二人の男に逃げよう、と話している。
「いや、新種ならギルドに売れば金になる。人型なのは厄介だが、一体ならばなんとかなる」
一人の剣士が剣を抜くと、もう一人も黙って同じように武器を構えた。
「もう! ちゃんと守ってよ!?」
悪態をつきながら杖を構えた女を置いて、剣士二人がジリジリとバールゼフォンとの距離を詰めてくる。
冒険者たちが話しているあいだ、バールゼフォンは犬歯が伸びて上手く閉じることができない口から、熱い吐息と呻きを漏らしながら、冷静に目の前の人間たちを観察していた。
頭が働かない。ただただ、暴力的な衝動が脳裏を支配している。
「へっ、怖がっているみたいだな。人間を見るのは初めてか?」
一人の剣士がヘラヘラと笑いながら近づいてくる。
バールゼフォンは、鋭く伸びた爪を震わせた。
(殺したい)
はっきりと、聞いたことがあるような声が頭に響いた。
その瞬間、バールゼフォンは自分の身体が何かに操られているような気がして、ふと気づくと、剣士の一人が喉から血を吹き出しながらのたうち回っていた。
「マーデン! クソッ!」
もう一人の剣士が、剣を振り上げて襲ってくる。
「ガァッ!」
まるでケモノのような声を上げ、バールゼフォンの腕が伸びる。
鋭い爪が、剣が振り下ろされるよりも早く、剣士の眼球を貫いた。
衝撃と傷みに、声もあげられずに剣を取り落とした剣士は、さらに爪で首をかき切られてあっさりと殺された。
魔法の詠唱も忘れ、女は杖を抱きしめて震えていた。
彼女にとって幸運だったのは、バールゼフォンを攻撃しなかった事と、バールゼフォン自身が自らの行動に戸惑って、血まみれの両手を見つめて立ち尽くしていた事だった。
そろそろとその場を離れた女は、仲間の死で混乱する心を抱えたまま、必死で逃げた。
命からがら町へ戻った女がギルドへ報告して以降、オーソングランデとヴィシーの周辺で時折“凶悪な人型の魔物”が見かけられ、多くの被害を出していく。
被害者の多くが冒険者だったこともあり、オーソングランデのヴィシー方面にある数箇所のギルドは、とうとうフォカロルへ応援を求める事になった。
☺☻☺
「やれやれ、老骨に苦労を押し付けおって」
アロセールから馬車を使い、ようやくフォカロルへと到着したアロセールのギルド長レシは、長く座ったせいかピリピリと痛む腰をさすった。
「しかし、フォカロルへ来たのは数年ぶりじゃが、随分と変わったもんだのう」
若い頃、冒険者として国境を超えてフォカロルへ来たことが数回あった彼は、当時とは全く違う、”王都よりも都会”とまで評されるフォカロルの発展ぶりに驚いていた。
道は広く整備され、中央に敷設されたレールを、猛スピードで台車が駆け抜けていく。
歩いている人数も多く、年齢の割には元気だと自負しているレシでも、人ごみに酔ってしまうほどだ。
時折休憩を挟みながら、ようやく辿り着いた領主館の前で、レシはしばらく立ち止まっていた。
「さて、どうするかのう......」
以前、アロセールのギルドを訪れた少女は、自らを軍務長官と名乗ったことを思い出した。
自分の数分の一の年齢しかない女の子に、荒事の要請をするのは気が引ける。
だが、ギルドとして決定したことである。
「もし、わしはアロセールのギルドで責任者をしておりますレシというのじゃが、軍務長官殿とお会いできるじゃろうか」
「ああ、それなら中に入って受付に聞いてみてください」
館の出入り口脇にいる兵士は、いつもの事だというように室内を指差した。
言われるままに中に入ると、そこはフォカロルの住人たちに対して、バタバタと忙しそうに対応している職員たちの姿があった。
申し訳ないとは思いつつ、レシは一人に声をかけた。
しばらく待つように言われほどで案内されたのは、二階の一室だった。
「お待たせして申し訳ありません」
室内で待つこと数十秒。レシの目の前にあらわれたのは、一人の男性だった。
「トオノ伯爵領にて文官として働いております、カイムと申します。軍務長官は外出中ですので、私が代わりにご用件をお聞きします」
静かな声で話し、会釈をしてはいるものの、その表情は感情が抜け落ちて、マスクでもつけているかのように無表情だ。
「アロセールのギルド長、レシと申します。この度は、突然の訪問で申し訳ない」
「それで、フォカロルまでお越しになられた理由とは?」
レシと向かい合って座ったカイムは、最初から本題に入った。
「以前、軍務長官殿にご訪問いただきましてな。その際に話をさせていただいた中で、人型の魔物についての事もあったのじゃが、ここ数日は冒険者を中心に被害が出ておりますので、何卒お力添えをいただければ、と思って参上いたしました次第で」
「人型の魔物ですか。なるほど......」
「退治に動きたいのはやまやまなのですが、件の魔物は非常に強く、恥ずかしながら今の冒険者では対応ができておりませぬ」
語る間、真顔で真っ直ぐに見つめてくるカイムの視線に戸惑いつつも、レシは魔物からの被害について全てを包み隠さず話した。
「状況はわかりました」
「では......」
「商隊や重要人物の移動には、更に多くの護衛をつけましょう。その分、フォカロルからも兵士を派遣して、街道での護衛任務に付けましょう」
しかし、カイムは魔物そのものへの対応には言及しない。
「で、ですがそのまま放置しては更に被害が......」
「我が主であるトオノ伯爵は、自らや自らのものを良いように利用される事を、殊の他嫌われます。問題を解決するためのお手伝いはいたしましょう。ですが、ギルドへの協力という形で兵を出すわけには参りません」
言い切ったカイムの顔は、何の感情も浮かべていない。
次の言葉を探しているレシに、カイムがさらに続けた。
「......ですが、ギルドとは無関係に、我々が独自の判断で動く事はできます」
「し、失礼ですが、その方が危険ではないかと思うのじゃが......」
ヴィシーとの国境に近いエリアである事を踏まえ、レシは軍が行動すると、いらぬ刺激をしてしまうのではにないか、と懸念をつたえた。
「あくまで周辺ギルドの要請と伝えれば良いのではないかと思うのじゃが......」
だが、カイムの返答はレシにとっては理解の範疇を超えていた。
「敵軍を牽制しつつ凶悪な魔物に対する二正面作戦。良い訓練になりそうです」
「そ、それではまた争いが起きてしまうやも......」
「戦争になるのであればそれでも問題はありません。むしろ、我が主はそれをこそ望んでおります。そして当然、我々はそれに従うものです。強力な魔物、結構な事です。戦争になる、それも結構です」
レシは目の前の男が怖くなってきた。
あの時、一二三が現れて冒険者たちを次々と葬った時と同じだ。
「ありがとうございます」
突然頭を下げたカイムに、レシは意味がわからなかった。
「あなたが持ち込んだ情報により、我々はさらなる戦いに向かうことができます。そして、さらなる成長をして、領主の帰りを待つことができるでしょう」
レシは、もはや何も話せなかった。 | “Don’t you think that it’s far more sound to put in great effort and gain a future for the demons on the battlefield rather than a destiny of perishing in a closed world like this?” (Agathion)
Agathion chose a separate room with a lounge suit, and not the throne room, making it possible for him to sit opposite of Hifumi.
With the reasoning that Hifumi isn’t even a demon, let alone a retainer, there are matters which Agathion deemed acceptable to discuss while sitting on the throne, but there are also matters which shouldn’t be talked about in front of many retainers.
And, his first statement was a bombshell announcement at the level of making Phegor jump up vigorously.
“K-King! That is...” (Phegor)
“Calm down and listen up, Phegor. Aren’t you in front of a guest?” (Agathion)
Beaming with a refreshing smile, Agathion crossed his legs and raised his eyes to the ceiling.
“After all, the state of resentment accumulating in this miniature garden can’t be expected to be normal. Since it’s too lonely for us to give up and rot away, it would be best if it goes smoothly after trying to do something about it, otherwise it’ll be the end of the demon race. And I think that’s fine.” (Agathion)
Correcting his posture, Agathion suddenly gulped down around half of the coffee in the cup.
“Pheew. Human-san, what is your name?” (Agathion)
Hifumi is drinking his second cup today as well.
“More or less I became a noble in a human country. However, I’m in the process of touring this world.” (Hifumi)
“That’s great. I’m very envious. It’s a very fantastic story.” (Agathion)
Once he tells the maid, who was nearby, to bring some sweets, Agathion smiles at Hifumi.
“Although I’ve never seen them personally, there are dwarves and beastmen in addition to humans and elves as well, aren’t there? Did you happen to meet them, Hifumi?” (Agathion)
“I did. I met with many beastmen before coming here. There are dwarves amongst the bunch I got to know before that. There are the elves, too.” (Hifumi)
“Oh, you encountered the elves as well... but that’s only natural since you should have passed through the place of the elves if I go by what you’ve said.” (Agathion)
Vepar is sitting next to Hifumi as if it was the usual.
Though it’s an impossible situation for a retainer if it was a human country, Agathion doesn’t seem to mind it.
“What were your impressions of the elves? They hate the demons after all, don’t they?” (Agathion)
Hifumi addressed Agathion, who is somewhat excited, with a serious look.
“I had the impression that they feared the release of you demons. Somehow they treat you as “enemy of the world.”” (Hifumi)
“What! Just what the heck did we do!?” (Phegor)
Agathion only nodded in silence, but Phegor got indignant.
According to their story, the time where the demons confronted the humans and elves continued for a long time and finally the demons were sealed in this place after being pushed into it by the elves.
Since that’s a story from several generations ago, the demons were amassing resentment for being imprisoned undeservedly as result of a past they have no knowledge of. On the other hand, the elves’s side, which is the one doing the sealing, was able to succeed in maintaining the barrier as “act of justice.”
“After all, just the elves have to be defeated by any means necessary! King, shouldn’t we accomplish our revenge by seeking Hifumi-dono’s cooperation here?” (Phegor)
Vepar makes a face as if being fed up with it due to Phegor roaring intensely.
And, Agathion also has a look of not being too enthusiastic about it.
“Mmh~ ... What do you think, Hifumi?” (Agathion)
Watching Phegor who stood up, Hifumi smiled due to the question of Agathion who pondered while moving his mouth with a *monyo monyo*.
“Fighting is a good thing. Even if you clearly know your enemy, I believe it to be proper to also regard your further ambitions. But you know...” (Hifumi)
“Is there something bothering you? Are the elves incredibly powerful or such?” (Vepar)
For the first time Vepar has a seriousness reflected in her eyes. Usually she is absentminded, but she is also in a position of having to look after the lives of many soldiers. Even she has no intention to expose her subordinates to danger pointlessly.
“I killed several elves, but they weren’t that particularly strong either. I saw the battle with the monsters and the demon wielding a large sword, thus as far as I know the demons are superior in regards to fighting strength, I guess.” (Hifumi)
“I don’t know your individual abilities though”, Hifumi changed the topic completely.
“Won’t the barrier vanish or become weaker in a while?” (Hifumi)
“Oh? Why do you think so?” (Agathion)
Agathion bent himself forward.
“The majority of elves will leave the forest. I don’t know about their destination, but they became aware of meeting tragic deaths if they stayed in that forest. For them the forest is nothing more but a target of fear, I suppose.” (Hifumi)
Hifumi talked about the forests’ characteristic of being the cause of the elves dying by changing into arbour without concealing anything. Once he mentioned that he dissected elves in the process, Phegor’s and Agathion’s grey faces became pale, though Vepar listened closely.
“I see... our enemies will be gone before we realize it, is what you mean, eh? Far from swinging our fists at them, our targets might be gone before we can even clutch them, right?” (Agathion)
While rolling about on the sofa, Agathion groans.
“Ah~ I give up! I thought we would be able to solidify the unity of the demons one way or the other by having them vent their stress if it’s a battle.” (Agathion)
“If you want to fight, it’s fine to do so though.” (Hifumi)
“... What do you mean?” (Agathion)
Agathion was laying face-down while clinging on the cushion, but he turned one eye towards Hifumi.
“That’s simple. It’s fine if you aim for someone else than the elves. There are others as well, you said so yourself, didn’t you? There are dwarves, beastmen and humans as well. Aren’t there other races, not just the elves?” (Hifumi)
“D-Does a human propose to fight with humans...?” (Agathion)
“I don’t think that something to be surprised about.” (Hifumi)
Hifumi lifted the edges of his mouth.
“Humans are constantly fighting amongst each other, aren’t they? However, as the details of the battles had a fixed style, they haven’t grown up.” (Hifumi)
Hifumi stood up and clapped Agathion’s shoulder.
“If you are going to rampage anyway, think about doing it on a larger stage. If you want to make the name of the demons known, it’s just right to at least target the whole world and not only the elves.” (Hifumi)
“If you are going to be hated anyway, you don’t have to hold back against anyone, right? If you are unable to live in the elven concession, you have only two choices: remain here or search for a dwelling in a distant place.” (Hifumi)
Placing the katana at his waist, Hifumi put his finger on his hakama and fixed a crease.
“Where are you going?” (Agathion)
Hifumi, who turned around while opening the door answered Agathion’s question,
“Depending on your guys’ answer, I will decide whether I will cooperate with you or not. I plan to stroll around the city for a while, therefore it’s alright if you call me again once you came to a conclusion.” (Hifumi)
“Ah, then let me guide you through the city!” (Vepar)
Chasing Hifumi who left the room, Vepar swiftly stood up and ran off.
“King-sama, please excuse me~” (Vepar)
“Yea, teach him about the things which can be enjoyed in the demons’ city.” (Agathion)
The door is closed with a small sound.
The standing Phegor faced Agathion and kneeled.
“My king, it was obviously careless of me to have brought that person along.” (Phegor)
“No, it was good that I heard the stories from an outsider after all. You did well to find him.” (Agathion)
Once Agathion made an exaggerated nod, Phegor stated his feelings of being sorry while unable to move his body.
“The elves’ place is dangerous, huh? If we assume that it’s really true that the barrier will vanish... it doesn’t look like we have overly much time left to care-freely ponder about things. It appears I have to make a large decision, Phegor.” (Agathion)
“Oh king, you are great. All of the demons will follow that decision.” (Phegor)
Agathion looked up to the sky due to Phegor who answered with completely clear eyes.magic
“Aren’t you just putting me under pressure with that?” (Agathion)
Agathion, who sighed “Well, it’s fine”, expressed his own thought in a small voice that couldn’t be heard by Phegor.
“Fighting with humans and beastmen, eh? Anyway, even if it’s only a single opponent, it’s something I want to begin with a proper victory.” (Agathion)
☺☻☺
Having suffered a close to a half dead injury by Origa, Balzephon defeated the strengthened monster while barely escaping alive.
Dismantling the magic tool which was embedded in the monster, he lost consciousness for a long time after forcing it into his own chest resolutely.
How dazzling.
He intended to mutter that at the beginning when he opened his eyes faintly, but what came out from Balzephon’s mouth weren’t words but only groans.
He doesn’t know in what kind of state he is.
While his mind was confused, his sight finally became clear.
He rises his body sluggishly while exhaling.
Apparently I’m surrounded by trees.
The sunlight, which spilled through the branches with their thickly grown green leaves, seems to have woken up Balzephon.
“...?” (Balzephon)
He eagerly recalls the situation until the point he lost consciousness.
Although he should be covered in wounds all over his body, he doesn’t feel any pain.
Realizing that his field of vision is unnaturally high, Balzephon timidly looked down at his body.
He unintentionally leaked a moan.
Having trained properly, he should have a firm physique, but on top of his body being covered in muscles all over he has changed into a giant. Hair grew thinly on his whole body and his clothes were tattered and torn.
While being confused, he looks at his limbs one after the other.
His feet and arms have become as thick as logs and were wrapped in muscles which were as hard as rock. His nails are massive and sharp, matching small knives.
“A-A monster?”
Once he turns around due to the voice he heard all of a sudden, there were two men, who appear to be swordsmen wearing armour, and a robed woman, who seems to be a magician. They looked at Balzephon with surprised faces.
“Have you ever seen such a monster!?”
While retreating - steps, the magician tells the two men to escape.
“No, it will be lucrative if we can sell it to the guild as it is a new species. A human type is troublesome, but we will be able to manage one way or the other if it’s only one.”
Once one of the swordsmen drew his sword, the other became silent and prepared his weapon likewise.
“Geeze! Protect me properly, will you!?”
As the woman set up her wand while cursing, the two swordsmen are slowly closing the distance to Balzephon.
In the time the adventurers talked amongst each other, Balzephon calmly observed the humans in front of him while leaking a groan and hot long breath since he wasn’t able to properly close his mouth due to the grown canines.
His brain doesn’t work. His mind is simply dominated by a violent urge.
“Hee, it looks to be afraid. Is it the first time it saw humans?”
One of the swordsmen laughs foolishly while closing in.
Balzephon shook his sharp, grown nails.
(I want to kill.)
A voice as if he had clearly heard that reverberated in his mind.
At that moment Balzephon had a feeling as if his body was controlled by something. When he suddenly noticed that, one swordsman sprouted blood from his throat while writhing.
“Maden! Fuck!”
The other swordsman comes attacking with his sword raised overhead.
“Gaah!”
Raising his voice completely like a beast, Balzephon’s arm stretches out.
The sharp nail was faster than the sword which came swinging down. The swordman’s eyeball was pierced.
The swordsman, who dropped his sword without even raising his voice due to the pain and impact, had his head cut by the nails even more and was killed quickly.
Forgetting even her spell chanting, the woman closely hugged her wand and trembled.
What was fortunate for her was that Balzephon didn’t attack. Balzephon himself was bewildered by his own actions. Staring at his bloodstained hands, he stood stock still.
The woman, who left the scene slowly, desperately ran away while carrying the deaths of her companions in her confused mind.
Afterwards the woman, who returned to the city while barely escaping alive, reported to the guild. Catching sight of the “fiendish human type monster” which sometimes appears in Orsongrande and the vicinity of Vichy, it causes many victims.
As many of the victims were adventurers, several guilds, which are located in the Vichy direction of Orsongrande, finally requested support from Fokalore.
☺☻☺
“Good grief, they are forcing troubles onto an old man.” (Reshi)
Arosel’s guildmaster, Reshi, who arrived in Fokalore at last by using a carriage from Arosel, rubbed his waist which had a tingling pain because of the long sitting in the carriage.
“It’s been several years since I came to Fokalore, but it changed quite a bit.” (Reshi)
He, who came several times to Fokalore, which was past the national border, as adventurer in his early days, was surprised by the rate of growth of Fokalore which has been evaluated as “more of a city than the capital” and was completely different from the past.
Establishing wide roads and laying out rails in the middle of them, rail wagons blaze through at great speeds.
There are also many people walking. Even Reshi, who is proud about his vigour in relation to his age, is feeling sick by the crowd of people.
While taking a rest sometimes, Reshi stopped for a bit in front of the feudal lord’s mansion he finally reached.
“Well then, what to do...?” (Reshi)
He remembered that the girl, who previously visited Arosel’s guild, called herself military director.
He has felt awkward to request a fight from a girl who has no more than a fraction of his age.
However, it was something they decided as guild.
“If I name myself Reshi who is the one in charge of Arosel’s guild, will I be able to meet with Military Director-dono.” (Reshi)
“Yea, if that’s the case, please try asking at the reception after entering inside.”
A soldier, who is at the side of the mansion’s entrance, pointed inside as if it was something usual.
Once he entered inside as he was told, he saw the figures of staff members who are noisily and busily dealing with the inhabitants of Fokalore.
, Reshi called out to one of them.
Being told to wait for a moment, he was led to a room on the second floor after around minutes.
“Thank you very much for waiting.”
He waited in the room for several seconds. Then a single man appeared in front of Reshi.
“I’m called Caim and I’m working as civil official in Earldom Tohno. Since the Military Director is out of office currently, I shall listen to your business in her stead.” (Caim)
Talking in a calm voice, his expression lacks any emotions as he makes his greetings. He is expressionless as if he had a mask on his face.
“I’m called Reshi, the guildmaster of Arosel’s guild. Please let me excuse myself at this occasion for suddenly visiting.” (Reshi)
“So, what’s your reason for deciding to come to Fokalore?” (Caim)
Caim, who sat across of Reshi, got straight to the point from the start.
“I was previously visited by the Military Director. There was mention about the human type monster in our conversation at that time, but since the victims are centred around adventurers in the last few days, I came immediately visiting thinking that I might ask you kindly for assistance.” (Reshi)
“A human type monster? I see...” (Caim)
“I really want to move towards its extermination, but this monsters is extremely powerful. While it’s disgraceful, there are currently no adventurers who can deal with it.” (Reshi)
Even while being bewildered by Caim’s looking directly at him with a serious look during his statement, Reshi explained everything about the damage caused by the monster without hiding anything.
“I grasped the situation.” (Caim)
“Then...” (Reshi)
“Let’s attach a large number of guards to merchant groups and the travelling of important people. By dispatching soldiers from Fokalore as well, we shall increase the guard duty on the highway.” (Caim)
However, Caim doesn’t mention the coping with the monster itself at all.
“B-But, if we leave it alone as is, the damage will further...” (Reshi)
“Our Lord, Earl Tohno exceedingly hates himself and his own things being used in a beneficial way. Let us help in order to solve the problem. However, we won’t do it in the shape of sending soldiers to cooperate with the guild.” (Caim)
No emotions are shown on Caim’s face who stated that.
As Reshi is looking for his next words, Caim continued further,
“... But, if it’s unrelated to the guild, we will be able to move upon our own judgement.” (Caim)
“E-Excuse me, but I wonder if this method doesn’t have dangerous aspects...” (Reshi)
Based on the incidents occurring in an area close to the national border of Vichy, Reshi conveyed his worries that if they mobilized their troops, it might end up triggering an unwanted stimulus.
“I wonder if it isn’t fine if we simply convey the request to the guilds in the surroundings, but...” (Reshi)
However, Caim’s answer surpassed the category of Reshi’s understanding.
“While keeping the enemy army in check, we will deal with the fiendish monster. It’s a two-fronts strategy. It should become a good exercise.” (Caim)
“I-In that case, a conflict will occur once again and also...” (Reshi)
“There’s no problem even if it turns into a war. Rather, our Lord wishes for that. And, naturally we abide to his wishes. A vicious monster is a wonderful thing. If it turns into a war, it will be even more wonderful.” (Caim)
Reshi became afraid of the man in front of him.
This time is similar to the time when Hifumi showed up and sent one adventurer after the other into their oblivion.
“Thank you.” (Caim)
Due to Caim bowing abruptly, Reshi didn’t get the meaning.
“Because of the information you brought, we will be able to head into even more battles. And we will be able to wait for our feudal lord’s return while growing even further.” (Caim)
Reshi wasn’t able to say anything else anymore. |
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} | 「お帰りなさいませ」
「ああ、久しぶりだな」
頭を下げたカイム左手をひらひら揺らして応えた。
その左手が薄い革手袋に包まれている事に気づいたカイムだったが、気づかぬふりをした。
の部屋を訪ねたパリュが、頼まれて革手袋を左手分だけ買ってきたのはカイムも知っていたが、パリュが理由を聞かされていないのに、自分が踏み込んで聞く理由は無いと考えたのだ。
「お食事をご用意いたしましょうか?」
「外で適当に食ってくるから、気にしなくていい。帰ったら、今までの話を聞こう」
「そうだ。お前も一緒に行こう。まだ昼は食べてないだろう?」
多くの職員に見送られ、一二三はカイムを連れてブラブラと館を出た。
「どっかいい店を知っているか?」
「いえ。いつもは自室か館の食堂を利用いたしますので」
真新しい道着で、まだ硬さが気になるらしく、一二三は歩きながら懐に手を突っ込んで脇のあたりをしきりに動かしている。
商店が建ち並ぶエリアに来ると、一二三に多くの民衆の注目が集まる。
「領主様! おかえりなさい!」
「いつもありがとうございます! また寄ってください!」
商店から声をかけてくるのは、多くが中年の商店主たちだった。貴族としては異例なほど、一二三は街に出かけて主に食べ物を買い、珍しい道具などがあれば気まぐれに購入したりするので、フォカロルの商店主たちは皆が領主の顔を知っている。
中には、直接一二三の前に出てくる物もいた。フォカロルに学びに来ている学生たちだ。
「伯爵様。よろければお話を聞かせていただければ......」
先頭に立っていた、まだ十代も半ばに見える少女が、胸に抱えていた書類を一二三に見せてきた。
そこには、いつか一二三がカイムたちにやらせた計算問題が書き写されている。それを見て、一二三は吹き出しそうになった。
「ふはっ、この問題ずっと使ってるのか。......っと、計算だったな」
そこに記載されたのは円柱錐などの体積を求める計算問題だった。
当然ながら高校を卒業寸前だった一二三にとっては鼻歌交じりで解ける。
筆記具として利用されている、布で包んだ木炭を受け取り、一二三はさらさらと計算方法を書き込んだ。
「これで解けるだろ」
「あ、ありがとうございます!」
頬を染めた少女が頭を下げると、その後ろから同じ年頃の男子学生がずいっと前に出た。
その表情は、少女とは違い、どこか憮然としている。
「伯爵様。質問ですが」
「なんだ?」
「ちょっと......」
女子学生が止めようとするが、男子学生は無視して一二三に視線を合わせた。
「トオノ様は今でこそ伯爵の地位にあられ、多くの武勲をお持ちですが、元は平民であったと聞いております」
出し抜けに身分の話を始めた事に、一二三はニヤニヤと笑いを浮かべ、その斜め後ろに控えているカイムは無表情のまま目を光らせた。
「それで?」
「僕の家は古来より多くの偉人を輩出してきた伝統ある伯爵家です。今は父の言いつけにより、フォカロルで学んでおりますが......一体、これらの計算がどのように役に立つのでしょうか? 正直に申しまして、僕には何の意味があるのかわかりません」
フン、と鼻を鳴らした学生は、言ってやったと得意満面だが、後ろにいる女子学生はすっかり青くなってしまっている。
さらに、その女子学生を差して続ける。
「彼女も僕の家よりは格下ではありますが、子爵家の立派な令嬢です。このようなくだらない計算よりも、もっと学ぶべきことがあるべきです!」
攻め時だと思ったのか、先ほどよりも強い調子で続けた学生の言葉を、一二三は一言も発さずに全て聞いた。
聞いたうえで、笑みを崩さずに返す。
「無駄だと思うなら、やめればいいだろ」
「えっ?」
必死で必要性を説いてくると構えていた学生は、目と口を開いて呆けた顔を見せた。
女子学生も驚きの表情だ。
「別にこっちは強要してない。何をするべきかなんざ、自分で判断しろよ」
「で、ではこの学問は無駄だとお認めになるのですか!?」
「お前にとっては無駄かもな」
一二三の返答に、勝ったと言いたげな顔を見せた学生だったが、次の言葉に再び呆然とする。
「何しろ、勉強した意味が解ってないどころか、使い方を考えようともしてないもんな。点数が欲しいだけなら別のところに行けばいいだろ。馬鹿に教えても時間と紙の無駄だしな」
「は、伯爵家の正当な後継である僕を侮辱するのですか!」
「俺は本当の事しか言ってない」
それに、と一二三は続けた。
「お前の家がどうとか、こいつの家がどうとか、何のまじないだ? 俺とお前が戦って、お前の親父が伯爵だったら、俺の刀はお前に刺さらないのか? なんなら、今から試してやってもいいが」
腰の刀に手をかけたところで、男子学生は脱兎の如く逃げ出した。
「これは領主様への侮辱と言って差し支えないでしょう。在籍は直ぐにわかりますので、後ほど処罰を」
「いらん、いらん。まだガキだ。これで逆恨みして俺の命を狙うなり、伯爵だかの親父に泣きついて兵の百人でも連れて来てくれるなら、その方が楽しいからな」
主従のやりとりを聞いていた女子学生は、青い顔でふらつきながらも頭を下げた。
「も、申し訳ありませんでした、伯爵様」
「お前も、今の勉強に疑問があるか?」
疲れた顔をして、男子学生が去っていった先を見遣ってから、首を振る。
「領地の運営も軍の運用も、数字で管理できる事はここで学びました。私はどこかの貴族へ嫁ぐ事になるのでしょうけれど、少なくともそこで領民たちの暮らしを見て取る程度の事はできるようになりたいと思っております」
一二三は、その答えに頷くと、まあ頑張って“強い領地”を作ってくれ、と肩に右手を置いて励ますと、カイムを連れて去っていった。
強い領地というのは、文字通り経済的に安定しており、強い兵を持つことなのだろう、とカイムは思ったが、頬を染めて一二三を見送る女子学生には、何も伝えずに一二三に続いた。
☺☻☺
ソードランテの町では、すっかり勢力図が書き変わってしまっていた。
数からして圧倒的劣勢だった獣人族と人間が暮らす元スラムだが、エルフたちが加わる事で人数も増え、街はすっかり建物が整えられてスラムの面影はほとんど残っていない。
さらに、レニが提案した“獣人族に魔法を”というアイデアも、希望者を集めた講習が始まって一週間ほど過ぎた時点で、ようやく進展を見せた。
「......できた!」
簡素な杖を持ち、その先端にある魔力操作を補助するための安い濁った水晶から、小さな水流が出た。
ほんの拳一つ分程度の量ではあったが、壁に立てかけた板がたわむ程度には勢いがあった。
「すごい! 獣人でも魔法が使えるのね!」
杖を抱えてはしゃいでいるのは、片耳を失った兎獣人の女性だ。
一二三に買われ、勉強を叩き込まれて以来、ずっと街の中で経理関係の仕事をやっていたが、魔法講習の話を聞いて興味本位で参加していた。
ところが、戦闘に役立てたい一心で、青筋を立てながら歯茎から血を流さんばかりに牙を噛み締めて集中している男たちよりも早く、彼女が魔法の発動に成功した。
周りの獣人たちは、驚くやら嫉妬するやら表情は様々であったが、獣人が魔法を使える事が立証された瞬間に立会ったことで、より一層集中し始めた。
「おやおや、もう成功したのかい」
杖を握り締めた獣人たちを見守るように座っていたザンガーは、ひゃっひゃっと笑った
指導を行っていたプーセも、笑顔を見せている。
「杖の補助は必要ですが、これほど早く発動できるとは思いませんでした。魔法の適正によっては、もっと強い威力の魔法も使えるかもしれません」
そんな話が聞こえているのかいないのか、男達に混じって必死で杖を握り締めている少女がいる。
羊獣人のレニだった。
「うぅ~......火ぃ、火よでろ~......」
「水か風にしたら?」
「駄目なの! 火が出したいの!」
ヘレンの言葉に、目も向けずに返事をすると、再び精神集中に励む。
「真面目なのはいいんだけれど......さすがに、勉強できるからって魔法が使えるわけじゃないんだね」
こういったじっと集中する作業が苦手なヘレンは、早々に諦めていた。
水の他に風も出せるようになった自分と同じ兎獣人の女性を見ると、自分にもできそうな気はするが、数日いくらやっても何にも起きないと、流石に心が折れる。
「うぬぬ......」
可愛い顔を歪めて必死になっているレニには悪いと思うものの、魔法が使えても杖が無いとどうしようもないなら、もっと一二三が教えてくれたような道具や作戦を考えたほうがいいんじゃないか、とも思う。
溜息を吐いた。
すると、レニがくるりと振り向いて、ヘレンに笑いかける。
「......何を考えているかわかるけど、魔法が使えたら便利だけれど、それができるからえらいってわけじゃないよね。両方使えたら便利だし、魔法が得意な人と罠とか作るのが得意な人、直接戦うのが得意な人、色々いないといけないんだよ」
「うん。わかってる」
再び、ぐぎぎぎ、と歯を食いしばって出るかどうかわからない魔法のための集中に戻ったレニの後ろ姿を見て、ヘレンは先ほどとは違う溜息をついた。
「大変だ! れ、レニさんは!?」
講習を行っていた広場に、ゲングが土埃を巻き上げて駆け込んできた。
「ウチはここです。ゲングさん、どうしました?」
「人間が、人間に追われて逃げ込んできました!」
「......どういうこと?」
ヘレンが耳を垂らして首を傾げた。
「ああ、こりゃすいやせん。どうにも慌てちまって......つまり、街の人間たちが他の人間たちに攻撃されたらしくて、一部がスラムに入れて欲しいと騒いでいるんです」
レニとヘレンは顔を見合わせた。
「身内でやりあってるのかい? 人間ってのは、戦うのが好きなんだねぇ」
「とにかく、街の入口へ行きます」
「アタシも、連れて行っておくれよ、レニさん」
「え......」
ザンガーに呼び止められたレニは、困った顔をした。
「ザンガーさん、戦いになるかもしれないので......」
「それなら、余計にアタシたちが役に立つよ」
立ち上がったザンガーを支えるように立つプーセも、集まってきたエルフたちも、しっかりと頷いた。
「ここはもう、アタシたちの居場所でもあるのさ。だから、この街を守る手伝いなら、是非やらせてもらいたいんだけれどね」
「エルフさんたち......」
ザンガーの言葉を聞き、ゲングはポロポロと涙を流し、鼻を啜っている。
しばらく悩んでいたレニだったが、顔を上げてザンガーを見る。
「お願いします、ザンガーさん。ウチたちと一緒に、この街を守りましょう」
差し出された小さな手を、しわくちゃの手で握り、ザンガーは頷いた。
「まあ、エルフの魔法をしっかり見てもらういい機会さね」
「二人分、適当に持ってきてくれ。あ、奥の個室使わせてもらうから」
ふらりと入ってきた一二三を見て、なんとか冷静を保ちながら個室へ案内した店員は、全速力で厨房へと飛んでいった。
一二三の言う二人前は四人前に等しい。そうでなくても、伯爵である領主に提供する料理なのだから、万が一にも不味いものを出すわけにも行かない。厨房に状況を事細かに伝えた店員は、ほっと一息ついたところで、今日の売上を想像して口の端が自然と上がった。
カイムを連れた一二三は、向かい合ってテーブルに座る。
上も下も無い。まるで友人のように向かい合う。
「......何か、お話があるのですか?」
「そう構えなくていい。なんとなく、思いついたことがあるだけだ」
まずは食おう、と言い、一二三は運ばれてきた野菜がゴロゴロ入ったスープを右手に持ったスプーンで食べる。
甘い人参とホクホクとしたじゃがいもが美味しい、さらっとした舌触りの黄味がかったポタージュスープだ。
「ここは結構うまいし、個室もあるからゆっくり食えるんだ。文官同士で食べに来るのにも良いと思うぞ」
「なるほど」
食べながら、材料や調理法はどうなのかという方向にカイムの思考がそれかけたとき、一二三が口を開いた。
「カイム。しばらくしてオリガとアリッサが戻ったら、また王都へ行く。その間の事は頼む」
目的は聞かない。
それでいい、と一二三もカイムも思っている。
「それと、前にも言ったが、もうすぐ大きな戦いが始まる。いや、そうなるようにしたいと思っている」
カイムは、無言で頷いた。
「もう少し準備をしたいんだが、人間同士のことだからな。どこでどう転ぶかわからん。俺が留守の間にここが戦場になる可能性もある」
一二三の言葉に、カイムは表情を変えない。
「カイムは、どこが動くと思う?」
「アリッサ様の動きがヴィシーを刺激したのは間違いありません。おそらくは、ヴィシーの内輪もめが飛び火するかと」
一二三は楽しそうに頷いた。
「俺は、獣人族と魔人族と、それぞれちょっと遊んで来たからな。どっちかが、もしくは両方が、こっちに遊びに来てくれると期待しているんだ」
それから、一時間ほどかけてゆっくりと食事をしながら、カイムは一二三不在の間の状況を伝え、一二三はポツポツと思いついたように政策についての話をした。
そして、二人の予想とは違い、最初に動きがあったのはホーラントだった。
一二三とカイムの会食が行われた一週間後、ホーラントの王スプランゲルが崩御したという連絡があった。
さらに数日を待たずして、オーソングランデの一部貴族が集結し、イメラリアの承認を得ること無く、ホーラントへと侵攻を開始したのだ。 | “Please, welcome home.” (Caim)
“Yea, it’s been a while.” (Hifumi)
Hifumi answered Caim’s greeting by waving his left hand.
Caim noticed that Hifumi’s left hand had been wrapped up in thin leather gloves, but he pretended to not have done so.
Caim knew that it was Paryu who bought the leather gloves for a part of Hifumi’s left hand as he requested from her after she visited his room, but while he hasn’t heard the reason from Paryu, he believed that there was no reason for him to ask himself.
“Shall I prepare your meal?” (Caim)
“Since I’m going to eat something suitable outside, don’t care about it. Let’s hear the current matters once I return.” (Hifumi)
“Ah, right. Let’s have you come with me. You haven’t eaten lunch yet, have you?” (Hifumi)
Being seen off by many staff members, Hifumi left the mansion to stroll around while taking Caim along.
“Do you know some good restaurant?” (Hifumi)
“No. I’m always using my own room or the dining hall of the mansion.” (Caim)
Hifumi, who seems to be bothered by the yet stiff brand new dougi, walks while constantly shifting the area around his armpit by thrusting his hand into his pocket.
Once they arrive at an area where shops are lining up, the attention of many people gathers on Hifumi.
“Lord-sama! Welcome home!”
“Thank you as usual! Please drop by any time!”
The ones who called out to him from the shops were many middle-aged shopkeepers. Since Hifumi buys mainly food after departing to the city and occasionally purchases unusual dougi’s and such on a whim, unlike normal nobles, all of the storekeepers of Fokalore know the face of their feudal lord.
There were also some among them who appeared personally in front of Hifumi. It’s the students who have come to Fokalore in order to study.
“Earl-sama, if you don’t mind reading something we stumbled upon...”
Standing at the front, the little girl, who looks to still be in the middle of her teens, showed the documents, she held at her breast, to Hifumi.
Those were the transcriptions of the numerical calculations Hifumi had Caim’s group do some time ago. Seeing those, Hifumi almost burst into laughter.
“Fuha, have you always used these problems? ... ah, it was calculations.” (Hifumi)
What was described there were numerical calculations asking for the volume of things like cylinders and quadrangular pyramids.
Naturally, Hifumi, who was just about to graduate from high school, can solve those while humming a tune.
Receiving a charcoal wrapped in a cloth, which is used as writing tool, Hifumi fluently filled out the calculation methods.
“It’s solved with this, right?” (Hifumi)
“T-Thank you very much!”
Once the blushing girl bowed, the male student with the same age readily came out in front from behind.
Differing from the girl, his expression is somewhat disappointed.
“Earl-sama, I have a question.”
“What is it?” (Hifumi)
“Just a moment...”
The female student tries to stop him, but ignoring her, the male student met Hifumi’s look.
“Tohno-sama, you have now the status of Earl and possess many deeds of arms, but I have heard that you have originally been a commoner.”
Hifumi shows a smirk due to the matter of him having suddenly started to talk about social status. Caim, who is restraining himself diagonally behind him, kept a watchful eye on the situation expressionlessly.
“So?” (Hifumi)
“My family is an Earl household which has the tradition of great men appearing one after the other since times immemorial. I have now come to study in Fokalore following the order of my father, but... how the hell are these calculations useful in any way? Speaking honestly, I don’t understand what meaning they have.”
The student, who snorted with a “hmph”, was smug about having finished saying what he wanted to say, but the female student behind him has ended up becoming completely pale.
That female student continues to get even further pale.
“Her home is of a lower rank than mine, but she is an elegant lady of a Viscount household. There are other things than these worthless calculations we should learn!”
Did he believe that it was time to attack? Hifumi listened to all of the statements of the student, who continued in a far more coercing manner than before, without saying a single word.
Once he heard them, he returns, without his smile crumbling,
“If you believe it to be pointless, it’s fine for you to stop, isn’t it?” (Hifumi)
“Huh?”
The student, who prepared to advocate the necessities frantically, opened his mouth and eyes and showed a blank expression.
The female student has a face full of surprise as well.
“We aren’t particularly forcing you to come here. You have to decide by yourself what you should do.” (Hifumi)
“S-So, are you then admitting that this studying is useless?”
“It might be pointless for you.” (Hifumi)
The student looked like he wanted to give his outweighing opinion due to Hifumi’s reply, but he was dumbfounded by the following words,
“In any case, let alone not understanding the significance of what you learned, the problem lies within you not wanting to think about how to use it. It’s fine for you to go to somewhere else if all that you are wishing for are good marks. Even if you learn something stupid, it will just be a waste of time and paper.” (Hifumi)
“Are you insulting me who is the legitimate heir of an Earl household?”
“I haven’t told you anything but the truth.” (Hifumi)
“Besides”, Hifumi continued.
“What kind of charm does your household or her household hold? If you and me fought, do you think that my katana won’t pierce you if your father’s an Earl? If you like, we can test it right here and now though.” (Hifumi)
At the time he placed his hand on the katana at his waist, the male student ran away as fast as he could.
“This might be called an insult to the feudal lord. Since I will know him right away from the enrolment list, I will punish him later on.” (Caim)
“No, not necessary. He is still a brat. If he brings along soldiers after whining to his Earl father to aim for my life due to an unjustified resentment with this, I will be able to enjoy it.” (Hifumi)
The female student, who listened to the exchange between lord and retainer, bowed her head while staggering with a pale face.
“I-I’m very sorry, Earl-sama.”
“Do you also have doubts about the current study contents?” (Hifumi)
“No...”
After making a worn-out face and looking in the direction where the male student left, she shakes her head.
“I learned in this place the ability to control the territory’s administration as well as the army’s operation with numerical figures. I will likely be married to some noble, but I believe that I want at least to be able to grasp the circumstances of the residents living there.”
Once he heard that answer, Hifumi placed his right hand on her shoulder, encouraged her with “well, please do your best at creating a “powerful territory”” and left while taking Caim along.
Powerful territory means literally a stable economy and possessing strong soldiers, I guess
☺☻☺
The power chart in Swordland ended up getting completely rewritten.
Humans and beastmen, who were in an overwhelmingly inferior position due to their numbers, lived in the original slums, but with the addition of the elves, their numbers have increased and there’s almost no trace left of a slum once they put the buildings of the city completely in order.
Furthermore, even the idea of “magic by beastmen” proposed by Reni, at last showed progress at the time one week had elapsed after having gathered candidates and started training.
“... I did it!”
Holding a plain wand, a small water current appeared from the cheap, impure crystal, which served as support to manipulate the mana at the wand’s tip.
It was only an amount of around a single fist, but it had a force at the level of bending a board which leaned against a wall.
“Amazing! Even beastmen are able to use magic!”
The one frolicking around while holding a wand is the rabbitwoman who lost one ear.
Since she was purchased by Hifumi and had studies driven into her, she always carried out jobs related to accounting in the city, but after hearing about the magic training course, she participated out of interest.
Even so, she succeeded at invoking magic faster than the men who are chewing their fangs in a manner of causing bleeding from their gums while their veins are popping up in their desire to be useful in battle.
The surrounding beastmen had various expressions such as surprise and jealousy, but as they witnessed the moment of establishing proof that beastmen can use magic, they started to concentrate even deeper.
“Oh my, you succeeded at it already?” (Zanga)
Zanga, who sat so that she could watch the beastmen grasping their wands tightly, laughed with a “Hya Hya.”
Even Puuse, who is coaching them, shows a smile.
“The support of a wand is necessary, however I didn’t consider them to be able invoking it this fast. Those suitable for magic might be able to use spells with a lot more power.” (Puuse)
Unknown whether she has heard that chat or not, there’s a little girl grasping her wand desperately while being blended into the group of rough men.
It was the sheepgirl Reni.
“Uu~... Fiiiire, fire, appear~” (Reni)
“How about using water or wind?” (Helen)
“That’s no good! I want to produce fire!” (Reni)
Once she answers to Helen’s remark without facing her, she once again strives to focus her mind.
“It’s fine to be diligent, but... as expected, it doesn’t mean that you can use magic just because you are able to study it.” (Helen)
Helen, who is weak at such patient tasks requiring concentration, gave up rather quickly.
When she looks at the woman, who’s a rabbit just like her and is able to produce water and also wind, even she has a feeling that she will be able to do it if she tries, but as nothing happened even after trying for several days, he motivation is gone after all.
Although I think it’s evil towards Reni who is desperately warping her cute face, wouldn’t it be better for her to think more about strategies and tools like the ones taught by Hifumi since we will be helpless without a wand even if we can use magic with it?
She sighed.
Just then Reni turns around by spinning and smiles at Helen.
“... I know what you are thinking about, but although it will be convenient if we can use magic, it’s not like it will be remarkable just because we are able to do so, right? It will be convenient if both can be used. It’s indispensable to have various people like those who are strong in magic, those who are strong at making traps and those who are strong at fighting directly.” (Reni)
“Yea, I understand.” (Helen)
Watching the the back of Reni who once again concentrated on the spell unbeknownst whether it will come out while clenching her teeth with a “Gugigi”, Helen sighed in different manner from before.
“It’s a disaster! R-Reni-san is!?” (Gengu)
Gengu came rushing in, while raising a cloud of dust, at the plaza where they carried out the training course.
“I’m here. Gengu-san, what happened?” (Reni)
“Humans came to take refugee while being chased by humans!” (Gengu)
“... What’s this about?” (Helen)
Helen was puzzled with her ears dangling down.
“Ah, sorry ’bout this. I ended up panicking somewhat... in short, it seems like the city’s humans are under attack by other humans. A part of them is making a fuss that they wish to enter the slums.” (Gengu)
Reni and Helen looked at each others faces.
“Is it a quarrel between those of the same race? The ones called humans are fond of fighting after all.” (Zanga)
“Anyway, I will go to the entrance of the city.” (Reni)
“Take us along as well, Reni-san.” (Zanga)
“Eh...” (Reni)
Reni, who was stopped by Zanga, had a troubled expression.
“Zanga-san, since it might turn into a battle...” (Reni)
“If that happens, we will be even more useful.” (Zanga)
Puuse, who stood up in order to prop up the getting-up Zanga, and the gathered elves nodded firmly.
“This is already our home as well. Therefore, if we can help protecting this city, I’d like you to let us do so by all means.” (Zanga)
“Elf-san’s...” (Gengu)
Hearing Zanga’s words, Gengu sniffles while shedding big drops of tears.
Although Reni hesitated for a little while, she looks at Zanga by lifting her face.
“Please help us, Zanga-san. Let’s protect this city together.” (Reni)
Zanga nodded while clasping the small, held-out hand with her wrinkled hand.
“Well, it’s a good chance to have you properly observe the elven magic.” (Zanga)
“Please bring a suitable amount of food for two people. Ah, we’d like to use the private room inside.” (Hifumi)
Seeing Hifumi who came entering unexpectedly, the clerk, who guided them to the private room while somehow keeping their calm, sprinted to the kitchen at full speed.
The share for two people mentioned by Hifumi will be similar to four portions. Even without that, since the cooking will be provided to the feudal lord who is an Earl, there’s no way for them to serve something unbecoming by any chance. Once he took a breath in relief, the corners of the lips of the clerk, who reported the details of the situation to the kitchen, raised when he imagined today’s sale.magic
Hifumi, who brought Caim along, sits at the opposite side of the table.
There’s no superiority or inferiority. They are facing each other just like friends.
“... Is there something you want to talk about?” (Caim)
“It’s fine for you to not worry about stuff like that. There’s just something I came up with.” (Hifumi)
“Let’s eat first”, saying that, Hifumi eats the served soup, which had vegetables all over in it, with the spoon held in his right hand.
It’s a cream-coloured potage soup with a smooth food texture and the sweet carrots and soft potatoes are delicious.
“This place is fairly delicious. You can eat slowly since there are also private rooms. It think it’s fine even if you come here to eat with your civil official colleagues.” (Hifumi)
“Indeed.” (Caim)
At the moment Caim’s thoughts took the direction of how it was cooked and what ingredients were used while eating, Hifumi opened his mouth.
“Caim, once Origa and Alyssa have returned in a short while, I will go to the capital once again. I will leave matters to you during that time.” (Hifumi)
He doesn’t ask about the objective.
, both, Hifumi and Caim, judge.
“And, I told you before, but very soon a large battle will start. No, I plan on making sure that it happens.” (Hifumi)
Caim nodded silently.
“I wanted to get ready for a bit longer, but this is about mankind. I don’t know where and how I will fall over. There’s also the possibility that this place will turn into a battlefield during my absence.” (Hifumi)
Caim’s expression doesn’t change due to Hifumi’s words.
“What place do you think will move, Caim?” (Hifumi)
“There’s no mistake that Vichy had been stirred up by Alyssa-sama’s moves. It’s likely that the internal dissension of Vichy will cause a spark by spilling over.” (Caim)
Hifumi nodded delightfully.
“I went to play a bit with the beastmen and demons. I’m expecting that one of them or both come this way to drop by.” (Hifumi)
After that, Caim reported the state of affairs during his absence to Hifumi and Hifumi talked about political measures he thought of bit-by-bit while they slowly ate for around an hour.
And, different from both’s forecast, the first change happened in Horant.
After one week of Hifumi and Caim dinning together, they received a message that the king of Horant, Suprangel, died.
Moreover, without waiting a few days, a part of Orsongrande’s nobles gathered and started an invasion into Horant without obtaining approval from Imeraria. |
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} | 都市国家連合であるヴィシーから独立を宣言したピュルサン。
その初代国家元首となったミノソンは、国家成立時点から常に追い詰められていた。独立はしたものの、崩壊すると考えていたヴィシーは未だ健在で、敵対していたはずのフォカロルとの交流すら始めている。
対して、ピュルサンは友好的関係を結ぶべきフォカロルとは距離が離れており、人も物も、多くが遅れて入ってくる。頼りにしていたフォカロルのは、友好的な交流どころか自らの領地をすら長く留守にしているという。
そんな中で、状況を打開する策を求めたミノソンは、情報は頻繁に入るように腐心していた。今日もフォカロル方面に派遣している者からの伝令が執務室を訪ねてきている。
「......ヴィシーとオーソングランデの国境に、フォカロルの領兵が展開している、だと?」
すっかり痩けた頬をさすり、ミノソンは情報を持ち帰った伝令に視線を向けた。その目の周囲にはどす黒く隈が刻まれている。
「正確には、駐留していると言うべきかと。ヴィシーに対して陣を敷いているというわけではありません。その目的は、凶暴化した魔物に即応し、領地を守るためだとしています」
鬼気迫る表情のミノソンの顔だが、見慣れてしまった伝令は淡々と状況を説明する。
「実際、凶暴な人型の魔物が同地域で確認されており、当該地域のギルドでも被害が出ており、今回の行動はギルドからの要請でもあるようです」
「ギルドが、か。普通なら、兵士の手に負えない魔物を、ギルドに依頼するものだが、まったく、逆転しているな」
はは、とぎこちなく笑い、ミノソンは調査員からの書類をデスクに置いた。
「考えてみれば、“普通”とか“通常”などと言う言葉が通じる相手なら、こんなにヴィシーを滅茶苦茶にされることも無かった、か......」
椅子に背を預けたミノソンは、濁った目を床に落とした。
ため息が、もれる。
「.....人程の部隊を設定し、フォカロル領軍と合流させろ。地域の平和の為に協力するとでも言って、多少強引にでも帯同させるように」
「はぁ......」
その意図するところがわからず、伝令は半端な返答を返した。
「フォカロルの領主が、常識が通用しない、何をするかわからない相手なら、せめてヴィシーに対して近しく見えるように共同作戦を無理やりにでもやっておく。フォカロルがどういうつもりで動いたにしても、ヴィシーから見てピュルサンとフォカロルが友好的だと判断されれば、それでいい」
せめてそれくらいは利用させてもらわねば、と誰に対するでもなく、ミノソンは小さな言葉を呟いた。
その姿を見て、伝令の男は我らが国家元首は衰えた、と感じた。
まだピュルサンが都市国家だった頃であれば、ミノソンはもっと長い目で見た計画を立てていただろうし、およそ一地方にすぎないフォカロルなど、その計画の中で封じ込めるための動きをしていただろう。
政治を無視する横暴さによってフォカロルが躍進した事で、それが自らの予測を裏切る結果となった事で、ミノソンは壊れてしまったのかもしれない。
「時間が無い。編成が出来次第すぐに出発するように」
「では、軍部へお伝えして参ります」
「失礼します」
退室し、軍の司令部がある建物へと歩きながら、伝令は思いを巡らせていた。
「どうせ合流したところで、ピュルサンとフォカロルでは技術的にも練度でも戦力的には雲泥の差なのだから、厄介者か無駄飯喰らいの扱いにしかなるまい。平和のための助力と言えば聞こえは良いが、果たしてそれをヴィシーの狸どもがまともに受け止めるだろうか?」
流通が鈍った結果、物価が上がり、繁華街であった通りも閉めたままの店が目立つようになった。
客引きの声は小さく、強い風に煽られて道行く人々の耳に届いているかどうか。
人々の表情は暗い。独立したばかりとは思えないほど、先の見えない国の状況に心身ともに疲れきっている。
「軍がどうとか、印象がどうとか言っている場合か? 今実際に民は飢えの可能性に怯えている。まずはこれをどうにかすべきではないのか......」
立ち止まった男は、人々の顔を見て思考に耽る。
「......よし、決めた」
再び歩き出した男は、再び軍の司令部へと歩き始めた。
だが、やがて司令部へ辿りついた男が軍上層部の相手に話したのは、ミノソンの言葉とは全く違うものだった。
「国家元首からの指令です。十名程の部隊を編成し、オーソングランデへと向かい、女王へ謁見を求めるように、と。私も大使として同行します」
常識が通じない相手とやり取りするのが大変だと言うなら、話が通じそうな相手と交渉すればいい。伝令の男は、大胆にも無断でピュルサンの大使をやってみる事にした。
「急ぎましょう。おそらく、余裕は然程ありません」
国家元首に発覚するまでの時間か、ピュルサン崩壊までの時間か、余裕がないのはどちらの事なのか、言葉を発した伝令自身にもわからなかった。
☺☻☺
「よお」
「え、あれ......りょ、領主様!?」
「馬を休ませてやってくれ。長旅に付き合ってくれたからな、何か美味いものも食わせてやると良い」
フォカロルの入口、検問前に突然騎乗で現れたは、ひらりと馬から飛び降りると、困惑する兵士に手綱を渡してさっさと町へ入っていった。
ブルブルと鼻を鳴らす馬の顔を見て、次に去っていく領主の後ろ姿を見た兵士は、最後に同僚の顔を見た。
すぐに、顔をそらされたが。
「......えっ?」
「ここはいいから、領主様の言われた通りに馬を連れていけ」
「あっ、はい!」
手綱を手に困惑している兵士は、上司に言われて恐る恐る馬を連れて城の厩舎へと向けて歩いて行く。
何かの拍子で馬に傷でも付けようものなら、何をされるかわかったものではない。
馬の方は疲れているせいか大人しく、見慣れた街の風景を懐かしそうに見ながら、兵士に合わせてゆっくりと歩いて行った。
「やれやれ、ここしばらくは平和だったのだがな。また何か騒動でも起きるんじゃあないか? 押さえ役のアリッサ長官がご不在の今、もし戦闘になれば領主様が直接指揮をなさるのか......」
町の警備にあたるこの兵士は、フォカロル領兵として王都から選抜されてやって来た最古参の兵士で、現在は小隊長の肩書きを持っている。
アロセールでの戦闘にも参加し、一二三に嬲り殺される敵兵を目の当たりにしている。
「いや、違うな。あれは指揮とかそういうのじゃなかったな。あれは単に虐殺を見せられただけだったな」
自分がやったのは後片付けだけだった、と乾いた笑いを浮かべる小隊長を見た兵士たちは、何がおかしいのだろうと首をかしげていた。
一二三が向かった方向から歓声が聞こえてくる。
街の人々が、領主の無事な帰還に湧いているのだろう。街は急激に人口が増えたせいか、一二三の戦いぶりを知る者の比率は非常に少ない。語り草となって、街の酒場などで語られる話を小隊長も耳にしたことがあるが、ほとんどが美化されたものだった。
「領主様の帰還、か」
怖い反面、またあの狂騒の最中に放り込まれるのかと思うと、小隊長は心がそわそわする気持ちを覚えていた。ヴィシー進攻もホーラント遠征も、大変だったが楽しかった。
今は平和ではあるが、またあの無茶苦茶な戦いを間近で見られるかもしれないのは、少し楽しみでもある。
「さて、仕事に勤しみますか」
次は何が起きるのだろう、と小隊長は状況を楽しみ始めていた。
☺☻☺
「お帰りなさいませ」
「ああ、しばらく寝てるから、放っておいてくれ」
「承知いたしました」
何でもない日常のように話す一二三とカイムを、周りの職員たちは目を丸くして見ている。
前触れもなく帰ってきた領主にも驚いたが、まるで日課から戻ったかのように迎えるカイムにも驚いていた。
領主館は内も外もざわめいており、館の中は一二三が休む事を知った職員たちの説明で最低限の騒音で済んではいたが、領主館前から街へいたる通り沿いでは人々が口々に領主の帰還を伝達しながら、喜びに湧いていた。
「大騒ぎになりましたね」
「そりゃそうだろう。俺だって騒ぎたい気持ちはわかる」
右往左往する職員を見ていたパリュの言葉に、ドゥエルガルが眉をしかめて応えた。
荒野に単身入り込んで戻ってくるなど、前人未到の事なのだ。一二三の戦果があったにせよ、住民のいくらかは荒野からは流石に無事では帰れないだろうと思っていただろうし、他の何割かは荒野へ向かったという話自体を信じていなかったかもしれない。
「その割には、ドゥエルガルさんは冷静ですね」
「......周りが浮ついていると、逆に冷静になれるってもんだ」
二人が話している間にも、カイムの指示を受けた職員たちが住民たちを落ち着かせていた。
どうやら、明日にでも状況を発表するので、今日は領主を静かに休ませるようにと言って回っているらしい。さらに、帰還祝いは盛大にやるので、それまで仕事に励むようにとの言葉も付いているようだ。
「いいのかね、あんな事を勝手に決めて」
「良いのではないですか? 誰が発表するとは言っていませんから、カイムさんが領主様の話を聞いて発表すればいいわけですし。お祝いに領主様が出てくるなんて職員の口からは一言も言われていませんからね」
何かの書類を書き付けながら、職員たちの話の内容を拾い上げたパリュの言葉に、ドゥエルガルは頭を掻いて笑った。
「パリュ、お前も中々強くなったな」
きますから、特に嗜好品については商品の準備を怠らないように伝達してください」
そして、とパリュはデュエルガルを見上げてニコリと笑った。
「その準備に人手が必要ですよね? まだまだ新規の流入はありますから、どんどんポストを作ってくださいね?」
さらにパリュは手紙を出さなくては、と続けた。
「手紙?」
「奥様にですよ」
パリュが言う奥様とはオリガの事だ。
「なんでまた」
「怒られたくないからですよ。領主様が帰還された事を、私たちが黙っていたと奥様に知られたらと思うと......」
「良し、軍から馬と人手を出してもらおう。速度最優先で、帰りは奥様を連れて帰れるように手配しておく。手紙の用意を頼む!」
何かから逃げるように走って出ていったドゥエルガルの後ろ姿を見て、パリュはクスッと笑った。
「アリッサ長官にも出さないといけませんね」
忙しいことです、とパリュは軽い足取りで自分の執務室へと戻っていった。
一二三帰還の報は、あっという間に町中に広まった。
増え続けた街の人々はかなりの割合で一二三の顔を知らず、その姿は黒目黒髪の青年で、細い剣を巧みに操り、敵を華麗に討ち果たすというような話ばかりが広まっている。
英雄の帰還は街の活性化に直結し、その日は深夜になっても街のあちこちの酒場から灯りが消えることは無かった。
ところが、期待された領主の言葉は翌日になっても翌々日になっても発表される事は無く、不穏な噂が街に流れ始めた。
実は、その頃になってようやく一二三は長い眠りから目を覚ましていた。
ベッドにあぐらをかいて座った一二三は、自分の左手を見つめて、右手で頭を掻いていた。
視線の先にある左手の全ての指先が、第二関節まで固く変質していたのだ。
まるで、硬い樹木のように。 | Pursang which declared its independence from Vichy which is a combination of city-states.
Minoson, who became its very first head of state, was constantly driven to the wall since the time the nation was established. Although they became independent, Vichy, he considered to collapse soon, is still going strong and has even begun to interact with Fokalore which should have been hostile to them.
On the other hand Pursang, which ought to have a friendly relationship, is far away from Fokalore and thus people and goods come largely delayed. Hifumi, the feudal lord of Fokalore on whom he relied, has even decided to take a long absence from his own territory, to say nothing about keeping up the friendly exchange.
Looking for a plan to break the deadlock of the state of affairs in such circumstances, Minoson did his best to frequently gather new information. Even today one of the messengers, who has been sent in the direction of Fokalore, has come visiting his office.
“... The territorial forces of Fokalore have been deployed at the border between Orsongrande and Vichy, you say?” (Minoson)
Scraping his thoroughly thinned-out cheek, Minoson turned his look at the messenger who brought in the news. The area around his eyes is tinged with a darkish shade.
“To be precise it should be “stationed” I guess? It’s not like they have taken up a position against Vichy. Their objective is to protect the territory in response to the monsters who turned ferocious, I assume.”
The countenance of Minoson’s face is ghastly, but the messenger, who got used to that, reports the intelligence indifferently.
“In reality ferocious human-shaped monsters have been confirmed to linger in said area and there have been victims even at the guilds of the concerned areas. It looks like the current mobilization has happened upon a request from the guild.”magic
“The guild it is, huh? Usually the guild is requested to deal with monsters which can’t be managed by soldiers, however that’s a complete turn-around.” (Minoson)
“Haha”, with an awkward laugh Minoson placed the documents of the investigator on his desk.
“Come to think of it, if the other party comprehended such words like “commonly” or “usually”, they wouldn’t plunge Vichy into such a mess, eh...?” (Minoson)
Entrusting his back to the chair, Minoson lowered his dull eyes towards the floor.
He leaks a sigh.
“... Create a unit of around people and have them join up with Fokalore’s feudal army. Tell them that it’s a cooperation for the sake of protecting the peace of the area and make sure they are taken along even if you use a slightly high-handed manner.” (Minoson)
“Haa...”
Without understanding Minoson’s aim, the messenger gave an unenthusiastic reply.
“Common sense doesn’t apply to the feudal lord of Fokalore. If the other party is someone you don’t know what they will do next, let’s at least make a joint operation in order to be seen as close by Vichy, even if it’s forcibly. It will be fine if Vichy judges Pursang and Fokalore to be friendly with each other.” (Minoson)
“If they let me at least use them to such an extent”, Minoson muttered in a small voice without addressing anyone in particular.
Seeing his state, the male messenger felt
If it was the time when Pursang was still a city-state, Minoson would probably make more plans while looking at the long term benefits. He would have likely moved in order confine something like Fokalore, that is nothing more than just one district, in his own plans.
Minoson might have ended up broken by the situation of Fokalore rushing ahead by oppressing and ignoring politics and thus betraying Minoson’s expectations.
“There’s no time. Depart immediately as soon as the formation has been completed.” (Minoson)
“Then I shall go to convey this to the military authorities.”
“Excuse me.”
Exiting the room, the messenger was deeply in thought while walking towards the building where the army’s headquarters is located.
“Since there’s a world of difference in war potential and practical experience between Pursang and Fokalore, even if we joined up with them, no matter what, it won’t become anything but us being treated as burden or parasites. It gives a nice ring if you speak of it as support for the sake of peace, but will the sly foxes of Vichy really accept that at its head value?”
As result of the circulation of money and good weakening, the cost-of-living had risen and the closed shops, even in the streets of the shopping district, were standing out.
It’s uncertain whether the small voices of the barkers are reaching the ears of the people walking down the streets stirring them up in a coercing manner.
The expressions of the people are dispirited. Even their bodies and minds are exhausted by the situation in the country, which doesn’t seem to have a future, to a degree that one wouldn’t believe that we got independent just recently.
“In that case, what about the army? What about the impressions? I’m currently scared of the possibility of the citizens actually starving. Shouldn’t we first do something about this one way or another..?”
The man, who stopped, is lost in his thoughts while looking at the faces of the people.
“... Alright, I decided.”
Beginning to walk once more, the man set out to the army’s headquarters once again.
However, what the man, who finally reached the headquarters before long, told to the party of the army’s top brass was something totally different from what Minoson had told him.
“It’s an order from the head of the state. Organising a unit of around soldiers, head towards Orsongrande and request an audience with the queen. I will also accompany them as ambassador.”
If you say that it’s difficult to deal with a party that doesn’t abide to common sense, it’s better to negotiate with a party that looks like they understand said common sense.
“Let’s hurry. It’s likely that we don’t have much time left.”
Whether it was the time left until the head of state discovered his lie or whether it was the time left until the collapse of Pursang; the messenger, who declared those words, didn’t know himself which of the two situations had no time left.
☺☻☺
“Yoo.” (Hifumi)
“Eh? Huh...? L-Lord-sama!?”
“Please have the horse take a rest. It will be fine to feed it something delicious since it kept me company on my long trip.” (Hifumi)
Hifumi, who suddenly appeared mounted in front of the inspection at the entrance of Fokalore, nimbly jumped off the horse, passed the reins to a baffled soldier and promptly entered the city.
The soldier watched the retreating figure of the feudal lord leaving, then he looked at the expression of the horse snorting and trembling and lastly checked the face of his colleague.
That soldier turned away his face right away though.
“... Eh?”
“Since this place’s fine, take the horse along as Lord-sama told you.”
“Ah, yes!”
The soldier, who is bewildered with the reins in his hand, walks towards the stable of the castle while timidly taking along the horse as told by his superior.
There’s no one who knew what would be done to him if he caused an injury to the horse by some chance.
As result of the horse being tired it was docile and walked slowly together with the soldier while observing the dearly missed view of the city it got used to.
“Good grief, this place has been peaceful for a while. Won’t some turmoil occur once again? With Military Director Alyssa being currently absent for the suppression campaign, Lord-sama will take direct command if it comes to a battle, won’t he...?”
This soldier, who was successful at the defence of the city, is currently holding the title of platoon leader as one of the longest-serving soldiers who had been picked from the capital as Fokalore’s territorial soldier.
Participating in the battle of Arosel, he had been personally present when the enemy was killed and made fun of by Hifumi.
“No, it’s different. That wasn’t something you’d call commanding or such. It was merely a display of slaughter.”
The soldiers, who saw the platoon leader making a dry laugh, were puzzled wondering what might be so ridiculous.
Shouts of joy can be heard from the direction where Hifumi went.
As result of the city’s population radically increasing the ratio of people knowledgeable of Hifumi’s fighting style are very few. The platoon leader also happened to hear the stories which are told in the city’s bars with Hifumi as topic, but most of them were glorifications.
“The return of Lord-sama, huh?”
Although the invasion of Vichy and the expedition to Horant were difficult, those were definitely fun.
Currently it’s peaceful, however being able to observe those absurd battles from close-by once again is also something I’m looking forward to.
“Well then, I got to do my work diligently, eh?”
, the platoon leader began to rejoice at his expectations.
☺☻☺
“Welcome home.” (Caim)
“Ah, please leave me alone since I’m going to rest for a while.” (Hifumi)
The surrounding staff members stare in wonder at the talk between Caim and Hifumi which is similar to a trivial everyday occurrence.
They were also surprised about the feudal lord returning without prior notice, but likewise they were astonished of Caim who welcomed him as if the feudal lord had simply returned from his daily routine.
With the inside and outside of the lord’s mansion being astir, the explanation of the staff members, who knew about Hifumi taking a rest within the mansion, finished with a minimum of noise, but the people, who came to know of the feudal lord’s return from the city’s soldier in front of the lord’s mansion, expressed their joy.
“It became an uproar.” (Paryu)
“That’s only natural. Even I understand their feeling of wanting to make a fuss.” (Doelgar)
Doelgar replied to the words of Paryu, who looked at the staff members going right and left, while knitting his brows.
Something like coming back after entering the wastelands alone is an unprecedented event. Even if considering Hifumi’s military gains, some of the residents have likely believed that he won’t be able to return safely from the wastelands to some extent. An unknown ratio of the others probably didn’t believe in the story that he had gone to the wastelands in itself.
“Considering all that, you are quite calm, Doelgar-san.” (Paryu)
“... I’m able to cool down myself if my surroundings are restless.” (Doelgar)
“I see.” (Paryu)
Even while those two were talking, the staff members received instructions from Caim to calm down the citizens.
Given that the state of affairs will be made known tomorrow, he is apparently going around telling them so that the feudal lord can peacefully rest today. Moreover, since there will be a grand celebration of the lord’s return, he asks them to strive in their work until then.
“I wonder if it’s alright for him to selfishly decide such a matter.” (Doelgar)
“Isn’t it fine? Since we haven’t been told who will make the announcement, it will be a good excuse if Caim-san announces it after listening to Lord-sama’s story. Not a single word has escaped from the staff members’ mouth that Lord-sama will appear at the celebration.” (Paryu)
Doelgar smiled at the words of Paryu, who picked up the contents of the staff members’ chats while writing something down in the documents, while scratching his head.
“Paryu, you have become quite strong, too.” (Doelgar)
“Is that so? Rather than that, please pass on the communication to not be negligent in preparing the goods particularly in regards to luxury grocery items since the city will sink in emergency demands for a while from now on.” (Paryu)
“And”, Paryu looked up to Doelgar and smiled brightly,
“Manpower is necessary for those preparations, right? Please create post’s steadily since there’s still much more of fresh influx to come.” (Paryu)
“Moreover I haven’t sent a letter”, Paryu continued.
“Letter?” (Doelgar)
“To his wife-sama, that is.” (Paryu)
The wife Paryu is talking about is Origa.
“Why again?” (Doelgar)
“It’s because I don’t want her to get angry. If I consider what will happen if his wife-sama gets to know that we stayed silent about the return of Lord-sama...” (Paryu)
“Alright, let’s procure men and horses from the army. I will arrange their return so that they can take his wife-sama and come back with speed as maximum priority. I leave the letter to you!” (Doelgar)
Looking at the retreating figure of Doelgar, who left running as if he was escaping from something, Paryu slipped a chuckle.
“It won’t do if I don’t send one to Military Director Alyssa, too.” (Paryu)
“It’s a hectic situation”, Paryu returned to her own office with a light pace.
The news of Hifumi’s return spread within the city in the blink of an eye.
Quite the percentage of the people in the continuously increasing population of the city doesn’t know the face of Hifumi. Only stories of him having the appearance of a young man with black pupils and hair, him using a thin sword and him splendidly slaying his enemies are circulating.
The hero’s return is directly connected to the invigoration of the city. Even when it became late at night on that day, the lights within the bars all over the city stayed on.
However, as there was no announcement of the feudal lord’s anticipated statement once it was the next day and then even the day after, an unresting rumour began to spread in the city.
As a matter of fact, it was at that time when Hifumi finally woke up from his long sleep.
Hifumi, who sat on the bed cross-legged, stared at his left hand and scratched his head with his right hand.
All of the fingers of his left hand in front of him became stiff down to the second joint.
It’s completely as if they have turned into solid wood. |
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} | 目の前にジャラジャラと見たことの無い金貨を積み上げられ、ソードランテの奴隷商は反応に困っていた。
金貨の山を取り出したのは、奇妙な服を着てマントを羽織り、頭からすっぽりとフードをかぶった男だった。口元だけが見えており月のように口を釣り上げて笑う声から、まだかなり若い男だろう、と奴隷商は判断した。
男の後ろには、小柄組が並び、これもフードをかぶっているが、見える範囲から獣人だと思われる。男の奴隷たちだろう。
「どうした? 俺の注文が聞こえなかったか?」
「ま、待ってくれ! いきなり店の獣人を全部買い取ると言われても......」
「なんだ、金が足りないのか?」
「そういうわけじゃなくて......」
どこから取り出したのか、更に金貨を上乗せしていく男は、もちろ三だ。
「なら、どういうわけだよ」
「奴隷と言っても色々いるから、ちゃんと選んでもらわないと、後で文句言われても困るんだ。城から払い下げの怪我で労働に使えない奴もいるし......」
「は?」
「怪我している奴でも問題のある奴でも構わん。全部引っ括めて引き取ってやるから、さっさと用意しろ」
強引すぎる言い草に、「後で文句は言わないでくれよ」とブツブツ言いながら、奴隷商は奥から総勢30名以上の獣人を連れてきた。
その全員が疲れ果てた表情でぼんやりと立っており、鎖で手足を繋がれていた。
奴隷商が言ったとおり、中には腕や足を欠損した者も混じっており、他の奴隷に支えられてやっと歩いている程に消耗した様子を見せている者もいる。
「これで全員だ」
「よしよし、じゃあ全員ついてこい」
用は済んだ、とさっさと外へ出ていこうとする一二三を、奴隷商は慌てて引き止めた。
「いや、奴隷の刺青に登録をしないと......」
「ああ、あれか」
一二三はオリガとカーシャを購入した時の事を思い出した。
あの時は、魔法は不思議なものだと感心していたが、こちらでの生活にも慣れ、すっかり魔法の存在を受け入れている事に、自分で苦笑する。
「別にいらないな」
「し、しかしだな、奴隷紋に登録しないと奴隷が逆らうのを止められないぞ」
奴隷に殺された主人の例もたくさんある、と奴隷商は息巻いているが、右手でそれを制した一二三は、涼しい顔をしている。
「不意打ちも寝首を掻きに来るのも大歓迎だ。それくらいの緊張感が無いと、生きている実感も無い。こいつらに殺されるなら、俺はそこまでだったというだけだ」
唖然としている獣人たちに向き直った一二三は、全員の顔を見回した。
「聞いたな。お前らがやりたいなら、いくらでも俺の命を狙ってくるといい。ただし......」
一二三は刀を抜いて、美しい刃紋をうっとりと眺めて呟く。
「生半可な覚悟で来たなら殺す。甘い考えでやったなら殺す。半端な事をしたら殺す」
刃に反射する光が、一二三の左目を光らせたように見えた。
「つまり、失敗したら死ぬ、ということだけは覚えておけ」
全員が息を飲み、弱々しく頷いた。
「良し。じゃあ行くか」
「ありがとうございました」
一二三に付いて奴隷商の店を出て行く奴隷達の最後尾、黙って待っていたレニが奴隷商に笑いかけた。
「あ、ああ......」
「行くわよ、レニ」
獣人に笑顔を向けられるという初めての経験に戸惑う奴隷商を残し、ヘレンに手を引かれ、レニも店を後にした。
☺☻☺
獣人奴隷達が連れてこられたのは、一二三達が宿泊している高級宿だった。
遠慮する素振りなど一切見せずに、獣人たちを引き連れて建物に入り込み、従業員たちはもはや作り笑いすら無理だった。
「ちょ、ちょっとお客様!」
「そうだな、お客様だ。こいつらに部屋を用意してくれ。身体を洗うための湯もな。食事は当然食堂に行くから、昨日のようにたっぷりと用意してくれ」
宿代だ、と大量の金を渡した一二三は、従業員の一人に更に金を渡し、奴隷達のために充分な量の服と靴を買ってくるように言いつけた。
「言っておくが、適当な扱いをするなよ。ちゃんと金を払った客だからな。それと、お前らも」
連れてきた獣人たちに視線を向ける。
一二三が怖いのか、視線を合わせようとせずに怯えて顔を俯かせる。
「暴力や暴言は一切禁止だ。大人しく身体を洗って服を着て飯を食え。それから今日はもう寝てしまえ。やることはたくさんあるが、全ては明日からだ」
「ちょっと、待ってよ!」
さっさと上階の部屋へ向かう一二三を、ヘレンが慌てて追いかけた。
レニは一二三たちを追いかけようとして立ち止まると、奴隷達の方を向いて、かぶっていたフードを取る。
くるりと回った角を生やした、柔らかな白い髪をふわっと揺らしたレニは、にっこりと微笑む。
「大丈夫ですよ。ウチは一二三さんに出会ってから色々教えてもらったんです。今まで大変だったと思いますけど、きっとこれから楽しい事がありますよ」
「き、君もあの人間の奴隷なのかい? それにしては、その......」
レニが着ているのは、一二三が買い与えた白いワンピースだ。
「ウチは荒野で出会った一二三さんについてきて、人間の勉強をしているんです。それで、“クニトリ”? とかいう遊びのためには、たくさん仲間がいたほうが楽しいらしいので、みんなを迎えに来たんです」
行きましょう、きっと楽しいですよ、とレニは笑い、奴隷たちはわけがわからないまま、従業員たちの指示に従って順番に身体を洗い、真新しい服に着替えた。
人数が多いせいか、ほとんど貸切状態だ。
食堂もほぼ全席が獣人たちで占められ、運ばれてくる料理は次々と消えていく。
「うまいな......」
奴隷の誰かがポツリとこぼすと、呼応するようにあちこちのテーブルに別れていた奴隷達からうまい、うまいと声が上がり、誰ともなく涙を流していた。
久しぶりにありついたまともな食事であり、肉を焼く程度がせいぜいだった荒野の食事とも違う、手の込んだ様々な味付けの料理を味わい、奴隷達は初めて自分たちが生きている事を噛み締めていた。
そのうち、奴隷達は順番に一二三の席へ近づいてお礼を言い、よろしくお願いします、と頭を下げていく。
別に恩を着せるつもりもなく、なんとなく部下がいると便利だろうなという考えで、薄汚れた臭い連中と食事したくないから身体を洗うように命じただけだった一二三は、苦い顔をしている。
「......鬱陶しい」
愚痴をこぼす一二三に対して、同席しているレニは笑顔だ。
「でも、みんな嬉しそうです」
「そうね。わたしも知ったから言えるんだろうけれど、人間が作ったご飯を食べたら、今まで食べてたお肉で満足していたのが不思議なくらいだもん」
果物は、切ったものを食べるより、齧り付くのが好きだけれど、とヘレンも笑う。
次第に食堂には笑い声が聞こえるようになり、奴隷どうしの会話も弾み、異種族でも笑顔で苦労話などを語り合っている。
騒がしくなってきて顔をしかめていた一二三に、レニが声をかけた。
「これが“クニトリ”なんですか? みんな楽しそうですよね。一二三さんの言うとおりでした」
無垢な笑顔を向けてくるレニを見て、一二三はそうだな、と微笑んだ。
「これがこういう国での国盗りの第一歩としても良いだろうな。“自由と平等”という実に素晴らしい考えを、お前たちに教えてやろう。それが理解できれば、うまい料理も頑丈な家も、人間に頼らずお前たち獣人で作る事ができるだろうな」
「そうなんですか! クニトリって楽しいだけじゃなくて、そんなすごい事になるんですね!」
「え~......」
素直に受け取るレニの横で、ヘレンは疑いの目を一二三に向けているが、彼女もよく理解できてないので、反論まではいかない。
一二三が話している事に気づき、獣人たちは静かになって聞き耳を立てている。
「だがな、そこまで行くにはお前らが協力する必要がある」
「ウチ、頑張ります! お父さんたちにも美味しいもの食べさせたい!」
「まあ、そういう理由なら、わかるかな......」
一人の犬の獣人が立ち上がり、一二三の席に向かって両膝をついた。
「犬獣人のゲングと言いやす。ご主人様の情け深いお話に感じ入りやした。自由と平等、なんて良い言葉でしょうか! あっし、ご主人がなさろうとされておりやす事を全力でお手伝いさせていただきやす」
芝居ががった口上を述べたゲングに、他の獣人たちも次々と一二三に群がってきて、できる事はなんでもすると言い出した。
「わかった、わかった」
やたらと暑苦しい情熱的な獣人たちに辟易してきた一二三は、一旦落ち着け、と全員を黙らせる。
「頑張るも何も、お前ら奴隷だろうが。ちゃんとやることやれば飯も寝床も用意するから落ち着け」
一二三はレニとヘレンに立つように言い、二人が言われた通りにすると、獣人奴隷達の視線が一気に集まる。
「羊の方がレニで、兎の方がヘレンだ」
そこで、お前らに楽しい楽しいお仕事をしてもらう、と一二三は全員に向かって良く通る声で話した。
「この二人をこの国の王にしてみようと思う。お前たちはその家臣という事にして、試しにこの国を盗ってみるぞ。獣人がどこまで頑張れるか、見せてもらおう」
やり方は教えるから心配するな、という一二三の一言まで聞いて、食堂は驚きや笑い声、やる気で吠える者など、一気に混乱に陥った。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 王って、人間の国のボスでしょ? 獣人のわたしたちができるわけないじゃない!」
「ヘレン、どうしよう......」
困惑する二人をよそに、一二三はこれからの動きについて考えていた。
「もうちょっと人数が欲しいな」
「それでしたら、良い場所がありやす」
一二三のつぶやきを聞き取った犬獣人のゲングが、すすっと一二三に近づいた。
「この街の外れに、スラムと呼ばれている場所がありやして、そこには人間に捨てられた獣人がかなり居ると聞きやした」
「スラムか、なるほどな」
「ですが、怪我をした者も多いらしいんで、使えるかどうかは......」
「そんなもん、気にすることはない」
一二三はゲングを見て、手の中でくるくると寸鉄を回したかと思うと、一瞬のうちにゲングの眼球の前に突き出した。
目には自信があったゲングだったが、その動きが追えなかった事に驚愕する。
「腕一本でもあれば、やり方次第で人も殺せるんだよ。お前らも含めて、問題はそれを“知らない”という事だ。俺がそれを教えるから、必死になって、やれ」
敵わない、とゲングは改めて一二三に平伏して見せた。
(さて、これで駒は揃ったか。陣取りゲームは自分だけじゃできないのが面倒なところだな)
後はせめて、相手がせいぜいあがいて懸命に戦ってくれれば良いんだが、と一二三は淡い期待を胸に、残っていた肉の塊を食いちぎった。
スラムの獣人たちの説得に失敗したサルグだが、まだ諦めたわけではなかった。
サルグは自分の力を示し、人間に対抗できる可能性があると知れば、そして仲間が増えれば考えも変わるのではないか、と考えた結果、人間の住む場所へと入り込んだ。
夜間を狙って行動し、多くの人間の家や店を確認する。
獣人の奴隷を使っている家を特定し、家人が寝静まったところで忍び込み、獣人の奴隷達を連れ出していった。
最初の夜はうまく行かず、二日目に一人、三日目、四日目に、と順調に連れ出す人数が増え、質の悪い鎖を叩き壊して自由にしていく。
連れ出した獣人たちはスラムへ案内する。まとめて荒野に連れ出すためだ。
ところが、サルグの考えは思わぬところから破綻していった。
「俺は、荒野には戻りたくない」
一人の奴隷が脱出を拒否し、スラムに残る事を選んだのだ。
「何故だ? 自由が懐かしくないのか?」
「その自由とやらがどれだけ大変か知ったんだよ。俺は人間に買われた最初のうちはムカついてたけどよ。街中は荒野と違って命を狙われる心配もねぇし、食い物も苦労して捕まえなくても用意してもらえるからな」
この話を聞いて、サルグは愕然とした。
その後も救い出したつもりだった獣人のうち、何人かは朝になる前に元の人間の家へと帰り、残った獣人たちもスラムに残った。
誰ひとり、荒野へ帰りたいとは言わなかったのだ。
「どういう事だ! 俺たちは荒野で狩りをして生きてきた! どこまでも広がる荒野で自由に生きていただろ!」
うまくいかない焦りから、サルグの言葉は次第に荒っぽくなっていく。
「そりゃ、お前みたいに強けりゃな。若い虎獣人や狡猾な鳥獣人も怖くなかったろうさ。でも、俺たちはもう、命の危険がある場所でビクついて生きるのは嫌になったんだ」
以前も声をかけてきた犬の獣人が、サルグを見て笑っていた。
「言っただろう。能天気な奴だと。本質が見えていない、自分勝手な正義を押し付けられても、迷惑なだけだ」
スラムから失せろ、と冷たく犬獣人が言うと、他の獣人たちも同意するように頷いた。
「そんな......クソッ!」
サルグは以前からのスラムの獣人たちを一瞥すると、足早にスラムを出ていく。
「どうしてこんなことになった......。人間か。人間に毒されて獣人は自由を失ったのか......」
血がにじむほど拳を握り占めているサルグの瞳には、確かに狂気の色が漂い始めていた。 | Having an amount of gold coins, he hadn’t seen yet, being piled up in front of his eyes with a jingling sound, Swordland’s slave trader was stumped.
The person, who produced that mountain of gold, was a man, who had a hood pulled over his entire face, wore a mantle and strange clothes from the beginning. Only the mouth can be seen.
There’s a petite pair lining up in the back of the man, but although these two are also wearing hoods, they seem to be beastmen going by what can be seen. They are probably the man’s slaves.
“What’s up? Didn’t you hear my order?”
“P-Please wait! Even if you tell me that you are going to buy all of this shop’s beastmen...”
“What is it? Isn’t it enough money?”
“That’s not what I mean...”
The person adding even more gold coins is of course Hifumi.
“If that’s the case, what do you mean?” (Hifumi)
“Although they might be called slaves, there are various ones. I will also be troubled by getting complaints afterwards, if you don’t choose them properly. There are even those, you can’t use for manual labour due them being sold as disposable waste by the castle due to their wounds...”
“I don’t care.” (Hifumi)
“Hah?”
“I don’t give a damn whether they have injuries or other problems. Hurry up and get them ready since I will buy the entire bunch.” (Hifumi)
Due to the far too pushy way of talking, the slave trader brought out more than slaves from within the store while grumbling 「Don’t come complaining to me afterwards」.
All of those, who were brought out, were standing with an absent-minded facial expression having their hands and feet bound with chains.
As the slave dealer had said, there are some, missing legs and arms, mixed in-between and there are also those, who are showing an exhausted state to the degree of barely walking being supported by other slaves.
“These are all I have.”
“Fine, fine. Well then, everyone follow me.” (Hifumi)
Hifumi, who tries to hurry up and go outside having finished his business, was stopped by the slave trader in panic.
“No, if you aren’t registered in the slave tattoo...”
“Ah, that, huh?” (Hifumi)
Hifumi recalled the situation at the time he purchased Origa and Kasha.
He admired magic being something mysterious at that time, however having gotten used to life over here, he bitterly smiles to himself due to the fact of having completely accepted the existence of magic.
“There’s no particular need for that.” (Hifumi)
“B-But, customer, if you don’t register in the slave crest, you won’t be able to stop the slaves opposing you.”
“There are many precedents of owners being killed by their slaves as well”, the slave trader says while getting worked up, but Hifumi, stopping him with his right hand, has a nonchalant air.
“It will be very welcome, if they come assassinating me while I’m asleep or launch a surprise attack. If there isn’t at least this much tension, there won’t be an actual feeling of being alive either. If I get killed by these guys, that will only mean that this was my limit.” (Hifumi)
Hifumi, who turned around to the dumbfounded beastmen, checked the faces of all of them.
“You heard it. If you are up to it, it will be fine for you to aim at my life any time. But...” (Hifumi)
Hifumi draws the katana and mutters, while ecstatically gazing at the beautiful hamon,
“I will kill you, if you attack me with a half-hearted resolution. I will kill you, if you do it with a naive plan. I will kill you, if you do it half-assedly.” (Hifumi)
The light being reflected by the blade appeared to shine on Hifumi’s left eye.
“In short, you will die, if you fail. Do remember only that.” (Hifumi)
Everyone gulped and nodded weakly.
“Alright. Let’s go then?” (Hifumi)
“Thank you very much.”
At the end of the line of slaves leaving the slave trader’s shop to follow Hifumi, Reni, who waited silently, smiled at the slave trader.
“A-Ah...”
“Let’s go, Reni”
Leaving behind the bewildered slave trader, for whom it was the first time to have a beastman’s smile turned upon him, Reni left the store with Helen leading her by the hand.
☺☻☺
The place, the slaves were brought to, was the high-class inn lodging Hifumi’s group.
Without showing absolutely any manner of restraint or such, the beastmen are brought along and step into the building. Even the employees’ forced smiles were unreasonable by now.
“J-Just a second, guest-sama!”
“That’s right, they are guest-sama’s. Please prepare rooms for these guys. Also hot baths in order to wash their bodies. Since we will naturally go to the dining room to eat our meals, prepare plenty of food just like yesterday, please.” (Hifumi)
Hifumi, who handed over a large amount of money saying “It’s the inn fee”, passed further money to a single employee and told them to go buy a plenty amount of clothes and footwear for the slaves.
“Although I don’t have to tell you, but treat them properly. They are guests, who properly paid the money. And, you guys as well.” (Hifumi)
He turns his look towards the beastmen, he brought along.
Are they scared of Hifumi? Without matching his look, they cast their eyes down with terror in their faces.
“Violence and abusive language is absolutely forbidden. Wash your bodies obediently, wear your clothes and grab your meal. And then go sleep for today. There are plenty of things we will do, but all of those can wait until tomorrow.” (Hifumi)
“Hey, wait!” (Helen)
Helen chased after Hifumi, who quickly heads towards his room upstairs, in a rush.
Reni, trying to follow after Hifumi and Reni, stops, turns in the direction of the slaves and takes off the hood.
Reni, who lightly shook her soft, white hair and the grown, twirled horns, smiles sweetly.
“It will be alright. I was taught various things after I met Hifumi-san. I’m sure it was difficult for you until now, but undoubtedly it will be fun from now on.” (Reni)
“A-Are you a slave of that human? Considering that, umm...”
What Reni is wearing is the white one-piece, Hifumi bought for her.
“Following Hifumi-san, whom I met in the wastelands, I’m studying humans. And, for the sake of playing something called “Take the nation”?, we picked up all of you since it seems to be the type of game, which is more fun with many companions.” (Reni)
“Let’s do it! Surely it will be fun”, Reni says laughing. The slaves, in a state of not comprehending, washed their bodies in turns following the instructions of the employees and changed into the brand new clothes.
It may be because of the large number of people, but the inn is in a state of being close to booked out.
Even the dining room has almost all seats taken by beastmen. The dishes, being carried over, vanish one after the other.
“It’s delicious...”
Once one of the slaves showed their feelings by murmuring just those few words, the slaves, separated at the tables all over, raised their voices to a “Delicious, it’s delicious” as if in concord and not few were shedding tears.
Having obtained a decent meal after a long while and it even being different from the food in the wastelands, which was at best meat roasted to some degree, the slaves tasted intricately and variously seasoned dishes and digested being alive for the first time.
Eventually the slaves approach Hifumi’s seat in turns to express their gratitude with a “Please treat me well” and bowing their head.
. Hifumi, who only ordered them to wash their bodies because he wanted to eat a meal with that filthy-smelling lot, has a bitter expression.
“... How irritating.” (Hifumi)
Reni, being with him, smiles at the griping Hifumi.
“But, all of them are happy.” (Reni)
“Oh well. I can probably tell because I knew of it as well, but once you eat food made by humans, you will find it strange that you were satisfied with the meat you ate up until now.” (Helen)
“Though, rather than eating something cut up, I like to sink my teeth into a fruit”, Helen laughs, too.
Gradually it reaches the point that laughter can be heard in the dining room. With the stimulus from their fellow slaves, even different races talk together about their hardships and similar with a smile.
Reni called out to Hifumi, who frowned due to it having become noisy.
“Is this “Take the nation”? Everyone’s enjoying it, right? It’s as Hifumi-san said.” (Reni)
Looking at Reni facing him with a pure smile, Hifumi smiled and said “That’s right.”
“It will probably be alright, even if this is just the first step of taking the nation with such kind of nation being the target. Let me teach you guys the absolutely magnificent concept of “Freedom and Equality.” If you are able to comprehend it, you beastmen will likely be able to create delicious dishes and sturdy homes without having to rely on humans.” (Hifumi)
“Is that so!? Not only is “Take the nation” this much fun, but it will even become such an amazing thing!” (Reni)
“Yea~” (Hifumi)
At the side of Reni, who accepts his words upfront, Helen is looking at Hifumi with eyes full of doubt, but since she isn’t able to properly understand it either, she doesn’t go as far as objecting him.
Noticing the matter Hifumi is talking about, the beastmen turn silent and prick their ears to listen attentively.
“But you know, to get this far, your cooperation will be necessary as well.” (Hifumi)
“I, I will do my best! I want our fathers to eat something delicious, too!” (Reni)
“Well, if it’s for such reason, I wonder whether you know...” (Hifumi)
A single dog beastman stood up and got down on both his knees facing Hifumi’s seat.
“I’m a dog beastman called Gengu ~ssu. I was greatly impressed by master’s compassionate story ~ssu. Freedom and equality, aren’t those nice words? I will use all my strength to help with what master is trying to accomplish ~ssu.” (Gengu)
The other beastmen also swarmed to Hifumi one after the other due to Gengu, who made such drama-like speech. They told him that they will do whatever they can as well.
“I got it, I got it.” (Hifumi)
Hifumi, who shrank back from the beastmen with their excessive and sweltering enthusiasm, has everyone shut up by telling them “Calm down for a moment.”
“Doing your best or whatever, you guys are slaves though. Settle down since I will prepare a bed and food for you, if you properly do the things that have to be done.” (Hifumi)
Hifumi tells Reni and Helen to stand up. Once the two do as told, the gazes of the beastmen slaves focus on them.
“The sheep type is Reni and the rabbit type is Helen.” (Hifumi)
“Now then, I want you guys to do something very, very fun”, is what Hifumi told everyone with a well-carrying voice.
“I plan to make these two the rulers of this country. Being their vassals, you guys will attempt to take this country. How far will the beastmen be able to hold out? I want you to show me.” (Hifumi)
Listening until Hifumi’s final comment “Don’t worry. I will teach you the method”, the dining room abruptly falls into chaos with some roaring with motivation, laughter or astonishment.
“W-W-Wait a moment! If you say ruler, isn’t that the human country’s boss? It isn’t that simple for us beastmen to do that!” (Helen)
“H-Helen, what do we do...?” (Reni)
Ignoring the bewildered pair, Hifumi considered the movements from here on out.
“I want a little bit more numbers.” (Hifumi)
“If that’s the case, there’s a great place for that ~ssu.” (Gengu)
The dogman Gengu, who caught Hifumi’s murmur, got close to Hifumi while sliding.
“In the outskirts of this city there’s a place commonly referred to as slums ~ssu. There’s a rumour that there are quite a few beastmen, who were thrown away by the humans, there ~ssu.” (Gengu)
“Slums? I see.” (Hifumi)
“But, as it seems that many of them are injured as well, it’s uncertain whether they will be usable or not...” (Gengu)
While looking at Gengu, Hifumi spinned around a suntetsu in his hand and thrust it in front of Gengu’s eyeball within an instant.
Gengu had confidence in his eyesight, but he was shocked due to his inability to follow that motion.
“If they have at least a single hand, they will also be able to kill a person depending on the way of doing it. Including you guys as well, the problem is that it’s “unknown” to you. After I teach you that, I will have you execute it for your dear life.” (Hifumi)
“I’m no match for you”, Gengu prostrated himself in front of Hifumi once again.
(Now then, with this I gathered the pieces, huh? The troublesome aspect of the jindori game is that I won’t be able to play it by myself.)
It will be fine if the opponent will eagerly fight to the utmost, at least in the future, though
Salgu failed to convince the beastmen of the slum, but that didn’t mean that he had already given up.magic
won’t they also change their way of thinking if our companions increase and if they get to know that it’s possible to oppose the humans
Aiming to act at night, he confirms the houses and stores of many humans.
He creeped into the places where the owners had fallen asleep, in particular those which are employing beastmen slaves, and took out the beastmen slaves.
With the first night not going well, on the second night it’s one, on the third it’s four and on the fourth night it is five beastmen. The numbers taken out are increasing well. Shattering the poor quality chains, he gives them their freedom.
He leads the released slaves to the slums in order to take them all to the wastelands in one go.
Even so, Salgu’s plan failed at an unexpected place.
“I don’t want to return to the wastelands.”
A single slave refused the escape and opted to remain in the slums.
“Why? Don’t you miss the freedom?” (Salgu)
“Did you know how difficult that freedom is? I felt angry in the beginning to have been bought by humans. But I don’t have to even worry about aiming for a life different from the wastelands in the city. It’s a life with no hardships and food being prepared for you, too.”
Salgu was shocked hearing this argument.
Afterwards, some people of those, he planned to free, returned to the human houses, they had originally been at, and the remaining ones stayed in the slums.
Not a single one of them told him that they wanted to return to the wastelands.
“What’s this about!? We survived by hunting in the wastelands! We freely lived in the wastelands, that are spreading in all directions!” (Salgu)
After getting impatient as it’s not going well, Salgu’s words are gradually becoming rude.
“Well, that’s for someone as strong as you are. Young tiger beastmen and cunning wildlife people might not have been scared. But, we were already fed up with surviving in fright at a place, which is dangerous to our lives.”
The dog beastman, who called out to him previously as well, looked at Salgu and laughed.
“Didn’t I tell you? He is a reckless guy. Without looking at reality, he forces his own egoistical justice onto others. It’s simply annoying.”
“Get out of the slums”, is what the cold-hearted dog beastmen told him and the other beastmen also nodded in order to agree with his opinion.
“Such a... damn!” (Salgu)
Once Salgu gives the beastmen of the slums a glance, he leaves the slums at a quick pace.
“Why did something like this happen...? It’s the humans, eh? The beastmen were corrupted by humans and lost their freedom...?” (Salgu)
In the eyes of Salgu, who has been clenching his fists to the degree of blood coming out, the colour of insanity definitely began to manifest itself. |
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} | フォカロルで物資の補充を兼ねを過ごすたち遠征軍から、深夜のうちに20人程度のグループが密かに街を出て行く。
アリッサが率い隊だ。
一部を国境への移動中における警戒任務の為に残し、先行する。
「で、夜のうちにぼんやりしている国境の連中を殺すわけだ」
何故か、軍を率いるはずの一二三が三番隊の先頭を走っている。
「普通は、お互いの数が揃ってから始まるものだと思うんだけど......」
一二三の真後ろをついてくるのはアリッサだ。さらに三列に並んで21人の三番隊隊員が続く。彼らを含め遠征軍の全員が、一二三の指示で
「普通とか言う考えを捨てろ。別に約束をした組手じゃないんだ。戦争は何をやってでも勝った方が正義で、負けた方は全てを失う事を忘れるな」
「ご、ごめん......」
音を押さえる為、全員が徒歩である。
一二三はこの世界で特注で作らせた草履のような物を履いており、他の全員は靴底に綿を仕込んで足音を押さえる工夫をしたブーツを履いている。
それでも、隊員たちの足音はそれなりに聞こえるが、一二三からはほとんど聞こえない。
「全員、聞け」
休憩を挟みながら歩き、明け方近くにはもも走れば国境という所までたどり着いた。全員が肩で息をしているが、一二三だけは軽く呼吸を整えたあとは平然としている。
「これから、夜が明けるまでにヴィシー側の戦力を消す。敵に感づかれるより早く、確実に仕留める事。全員ナイフを抜け」
号令にためらいなく腰のナイフを抜く隊員たち。逆手に持ったナイフは特注品で、この世界では珍しい片刃になっている。もちろん、アリッサも同じものを抜いている。
「教えたとおりだ。相手の視界を読め。狙うのは喉だけだ。音を立てるな。声を上げさせるな」
指を立てながら話す一二三に、全員が無言で頷く。
「作戦は出発前に説明した通り、変更はない。行け」
隊員たちは明かりもつけないまま、三人ずつ順番に国境方面へと消えて行く。
全員を見届けた後、一二三はアリッサを連れて国境へ向かう。
他の隊員と違い、堂々と正面から。
国境の砦、その中を潜る通路のオーソングランデ側には二人の兵士が立っているのが、ゆらゆらと揺れる松明に照らされて見えた。戦争があるかもしれないという話がここまで届いているらしく、仕切りにヴィシー側を気にしながら、やや緊張しているようだ。
特に動きが無いあたり、先に行かせた隊員たちは、無事気づかれる事なく国境を越えたようだ。
「ご苦労」
そこに、不意に声をかけられたものだから同様するのも仕方がない。
彼らの目の前に明かりも持たずに現れたのは、アリッサを連れた一二三だ。
「こんな夜中に......?」
「まあ、事情があるからな」
言いながら、一二三は通行許可証を取り出して見せた。子爵扱いである事が明記された新しい書類だ。
「これは......! 失礼いたしました!」
背筋を伸ばして謝罪する兵に、一二三は軽く手を振って応える。
「気にしなくてい。所で、こちらは二人だけのようだが、あちらさんもそうかな?」
一二三が指を差して示したのは、砦の通路の向こう、ヴィシーの方だ。
「は? はい、夜間は両国ともに二人ずつが慣習となっていると聞いております」
基本的に夜間は閉鎖となっているので、人数は最小限にしてるらしい。
「そうか。アリッサ、二人共俺がやるぞ」
「わかった」
一二三たちの会話に訝しむ兵達を尻目に、どんどんとヴィシー側へ近づく。
いつの間にか、一二三の腰には刀が提げられていた。
「ん? こんな夜中に誰だ?」
と、ヴィシー側の兵が振り向いた時には、その首は胴から離れている。
「誰かと問われれば、今の俺は侵略者だな」
刀を振り抜く前に見つけていたもう一人も、何かしらの反応を見せる前に殺された。
背後の通路では、先ほど話した兵が驚愕の表情で見ていた。
振り返り、刀を納めながら一二三は笑った。
「今から戦争を開始する。国境を越えようとする奴全員に伝えろ。巻き込まれて死んでも知らんとな」
一二三がのんびりと国境を侵犯している間に、ヴィシー側の兵舎では一人ずつ静かに殺されていた。
建物周りを巡回していた三人の兵は真っ先に喉を裂かれて打ち捨てられ、残りの兵たちは眠りから覚めることなく死んだ。
夜が明けて、国境へと遠征軍本体が到着する頃には全て片付いており、国境の砦に背中を預けて一二三が待っていた。他の隊員たちは、豪胆にもヴィシー側の砦で仮眠を取っている。初めて夜襲を経験した彼らは一様に興奮しており、今後の作戦行動への影響を考えて、今は寝ていろと一二三が命じたのだ。
一二三の姿が見えると、オリガが馬車を降りて駆け寄ってきた。
「ご主人様! 遠征軍本隊は特に問題ありません!」
「わかった。では国境の向こう側、ヴィシーの兵舎を拠点として作戦行動の準備だ。昼を食ったら出るぞ」
「かしこまりました」
オリガは急いで隊員たちの元へ戻り、カーシャと共に指示を出して国境を越えていった。
「さて......俺も一眠りするか」
隊員たちだけではなく、一二三も内心興奮を覚えていた。だが、兵達と違うのは、さっきの殺人ではなく、これからの戦いに対してという部分だ。
思う様暴れるための準備はできている。簡単だが計画も立てた。相手が思い通りに動かなくても、それはそれで面白いと思うので、なるべく計画はシンプルにと考えている。
そんな事を考えていると、パジョーが近づいてくる。
「戦況を教えてもらえないかしら」
「国境に居たヴィシーの兵が何十人か死んだ。こっちは被害なし」
筆記具を手に尋ねてくる彼女に、一二三はさらりと答える。
「眠っている所を襲ったと聞いたのだけれど......」
「その為に夜襲を選んだんだ。当たり前だろう」
当然のことだと言い捨てた一二三に、パジョーはそれ以上何も言えなかった。おそらく、これから先、この戦争は自分の理解を越えた事がまだまだ起こるのだろう。いちいち反応していては疲れるだけだと、疲れるだけならまだしも、一つ間違えば自分は簡単に“処分”されてしまうだろう。
「......わかったわ。私も少し休ませてもらうわね」
国境近くの街、アロセールの最後の日は、一人の若い男が、街の代表の館を訪れた事から始まった。
「この街の今の代表はいるか?」
突然やってきて、いきなり代表を出せと言い出した男に、対応に出た女性の職員は怒りを覚えた。ただでさえ、オーソングランデから届いた恭順を迫る書類への対応のため、対策の検討と防衛の準備に大わらわなのだ。
「お約束はございますか?」
どうせ約束もなしに何か売りつけにでも来たのだろうと決めつけた職員は、不機嫌も顕に言う。
「約束か。数日前に手紙を送ったんだがな」
「お手紙、ですか?」
この世界、魔物や交通網の事情もあり、手紙を送るのはそれなりに裕福な人物だけだ。実は目の前の若い男はキチンとアポを取った客で、対応を誤ったかと不安になった職員だが、実際はそれどころではなかった。
「ああ、俺たちと仲間になるか、戦うかを手紙で送っておいたんだ。その返事を聞きに来た」
懐から取り出して見せた書類は、間違いなくオーソングランデで正式に発行された通行許可証で、目の前の男は子爵だという。
「しょ、少々お待ちくださいぃ!」
予想外にも程がある来客に、職員は上ずった声で叫びながら、代表の執務室へと駆け込んだ。
その報告を聞いた代表以下の職員たちは、全員が大慌てで出迎えの準備をした。どんな返答をするにしても、共も連れずに単身やってきた貴族に対して、敵意は無かろうと判断し、まずは丁寧な対応をしなければならないと代表が指示したのだ。
その間に、一二三が以前の代表オティスを誘拐した際に、情報を聞き出して首を絞めて気絶させられた線の細い職員が、一二三を遠目に確認して本人だと確認した。顔を見た瞬間に、一二三の視線が職員を向いて笑顔が向けられた事で、職員は震えが止まらなくなって医務室へと連れて行かれる羽目になったが。
とにもかくにも応接室へと一二三を招き入れ、対面へと座ったのは、オティスが居なくなってから直ぐに代表に就任したキュルソンという男だった。40代半ばという年齢であり、一つの商会を一代で大手の仲間入りをさせた叩き上げの商人でもある。
キュルソンの後ろには、最初に一二三の対応をした女性職員が立っている。どうやら、彼の秘書のような立場らしい。
「一二三様のお噂はかねがね......」
「回りくどい挨拶は要らない。まずは返事をもらおう。話はそれからだ」
まずは下手に出て挨拶から入ろうとした所を遮られ、キュルソンは鼻白らんだ。ヴィシーに貴族はいないが、オーソングランデを始めとした他国の貴族との商談は何度もこなしてきたが、こういう相手は居なかった。
一二三の若さから、キュルソンは結果を急ぐ経験の少ない貴族だと判断した。
「申し訳ありませんが、オーソングランデより届きました文書に関しては、まだ内容の精査中でございまして、返答はお待ちいただきたいのですが」
当たり障りの無い所で言葉を濁しておいて、一旦は帰らせようと返事をしたキュルソンを、一二三は鼻で笑った。
「フッ、ここの行政機関はずいぶんのんびりしているんだな。代表を連れ去られて、抵抗して滅ぼされるか併合されるかを問われているというのに、数日かけても対応が決まっていないとは」
「......その犯人に言われるとは思いませんでしたがね......。あのな小僧、貴族だから多少は下手に出てやろうと思ったが、こっちはお前を犯罪者として捕まえてもいいんだぞ? 多少の無礼は目を瞑ってやるから、今は帰れ」
一二三の対応に、キュルソンは目つきも口調も変わった。
「若いから結果を急ぐのはわかるが、国と国のやりとりに首を突っ込むのは10年早い。第一、オーソングランデからの文書は常軌を逸した脅迫文だ。国政に首を突っ込んで、たまたま多少の戦果という犯罪をやったガキがいたから、トチ狂ってこんな文書を出したんだろう? 政治を馬鹿にするといずれ痛い目を見るぞ」
「なるほど、つまりこちらの要求を呑む事はできない、と」
「当然だ。だがオーソングランデの兵力でヴィシーに攻め込むなど考えるなよ? 兵力的にも資金力を考えても、まともにぶつかり合ってオーソングランデが勝てるわけがないだろう。この街だけでもそうだ。充分に防衛ができる用意はあるからな」
どうやら、キュルソンはオティスが無能なだけだと判断し、一二三の実力に対してはさほど評価をしていないようだった。
そう考えた一二三は、ため息をつきながら背もたれに寄りかかって天井を見上げた。
「よくよく考えて見ろ。俺は何故一人でここに来たと思う? 自分の力を過信した馬鹿だと思ったか? 攻撃される事は無いと高を括った阿呆だと?」
「......何を言っている?」
「国同士のやり取りを甘く見ているのはどっちだと言っているんだ。どいつもこいつも、何故相手が真正面から分かりやすく攻めてくると考えるんだ」
語りながら、薄笑いを浮かべていた一二三の顔が、次第に怒りに強ばっていく。
「キュルソンと言ったな。ここで自分が殺される可能性は考えていないのか? 例えば、密かに入り込んだ俺の手の者が各所の兵士詰所を襲撃している可能性は? 戦いになる前にお前の手駒が無くなっているとしたら、どうする?」
「ま、まさか......しかし、まだ返答はしていない!」
キュルソンは顔中を汗で濡らし、そわそわと腰が浮いている。
「その文書自体が、お前ら為政者を縛り付ける策だとは、最期まで気付けなかったか。信用は大切だが、そこまで行くと立派なお花畑だな」
立ち上がり、ごく自然な仕草で刀を抜いて、突き出した。
「! ......!?」
切っ先はキュルソンの肺を貫いた。痛みと呼吸不全で血反吐をまき散らしなする様を見て、呆然としていた女性職員は、尻餅をついて、訳も分からずただ泣いていた。
「お前たちの代表は、もうすぐ死ぬが、お前はどうする?」
「こ、殺さないでください......。お願いします......まだ死にたくない......」
床に這いつくばって命乞いをする職員に、気勢が削がれた一二三は、納刀してキュルソンの方を見たが、いつの間にか、事切れていた。目を見開いて苦悶に満ちた表情のまま死んでいる。
「戦いを選ばないなら、すぐに街全体に宣伝しろ。この街は今日からオーソングランデに編入されたと」
そこまで言った所で、三番隊の隊員が数名、応接室へなだれ込んできた。
「子爵、ご無事ですか?」
「当たり前だ。お前たちの方はどうなった?」
「全ての兵士詰所は問題なく処理が完了いたしました!」
一二三が会談を行っている間に、アリッサから聞き出していた兵士詰所に、密かに街へ侵入した三番隊が分散してあたり、ほぼ同時に強襲したのだ。数人が抵抗された際に軽い怪我を負った程度で、兵は全員殺害している。
未だ立ち上がれない女性職員は、信じられない内容を聞いたという顔だ。
「聞いたな」
「は、はい!」
「兵は使えなくなった。この館の職員だけで住民に伝達しろ。すぐにだ。文句がある奴はここに来るように言え。殺すから」
躊躇していたものの早く行けと一二三に言われて、這うように部屋を出て行く職員を、報告した兵は敵国ながら可哀想にと見ていた。
「一番隊、二番隊はどうしている?」
「予定通り、街の全ての出入り口を封鎖しております」
「よし、状況を見に行く。2組はここに残って、妙な動きをする奴がいたら殺せ」
残りの隊員を引き連れて、一二三は意気揚々と館を出ていった。
こうして、この世界で初めて行われた一方的な侵略によって、アロセールは小規模な都市国家としての歴史を終え、単なる一地方の街へと変わった。
この事実は、周辺の都市だけでなく、中央まで瞬く間に伝わった。そこで初めてヴィシーは気づかされた事になる。
オーソングランデは本気でヴィシーと戦う気なのだと。 | Because Hifumi’s expeditionary force had to replenish their supplies at Fokalore, they used the time to spend a night there. Deep in the night a group of about people secretly left the city.
It was the third unit led by Alyssa.
For the sake of an advance mission, they went ahead and moved towards the national border.
“So, the reason is to kill the careless border company under cover of the night.” (Hifumi)
For some reason the commander of the forces, Hifumi, was running as vanguard ahead of the third unit.
“I think usually you would wait with starting until both sides gathered their troops, but ...” (Alyssa)
Moreover, three rows side-by-side consisting of the troops of the third unit came after them.
“Discard the usual way of thinking. It’s not like we have to particularly watch out for some promise. No matter what you do while at war, the victorious side is justified. Don’t forget that the losing side has to yield everything to the winner.” (Hifumi)
“I-I’m sorry ...” (Alyssa)
Aiming to suppress any sound, all of them were walking.
Hifumi wore something similar to order-made zouri produced in this world as footwear. For all of the others he came up with the ingenious idea to attach cotton to the shoe sole of their boots in order to restrain the sound of foot steps.
Even so, although the foot steps of the troops were audible in their own way, Hifumi’s practically couldn’t be heard.
“Everybody, listen.” (Hifumi)
Inserting a break during the walking, they had only half of the way left before arriving at the national border as dawn was closing in.
“After this we will extinguish Vichy’s war potential until dawn breaks. Before you are noticed by the enemy, kill them swiftly and in a reliable way. Everybody, take out your knives.” (Hifumi)
The backhand grip of the knives was a custom made article and had a single edge which was new to this world.
“Just as you were taught. Predict the visual field of your opponent. Only aim at the throat. Don’t make any sound. Don’t raise your voice.” (Hifumi)
While speaking Hifumi raised for each point a finger. Everyone nodded in silence.
“You were told the strategy before departure, there won’t be any changes. Go!” (Hifumi)
Without using any light, they vanished in turn, soldiers each, in the direction of the border.
“I am off.” (Hifumi)
After making sure everyone left, Hifumi took Alyssa and went towards the border.
Different from the other troops, he boldly charged in from the front.
At the border fortress, there was a pathway going through on the Orsongrande’s side. Two soldiers were standing guard. The shining of the flickering and swaying torchlight could be seen.
There was no particular movement on the other side. The previously passing troops obviously had crossed the border without being noticed.
“Good work.” (Hifumi)
When they were suddenly greeted, they couldn’t help it but turn around.
In front of their eyes, Alyssa led by Hifumi appeared without holding any kind of light source.
“In the dead of the night ... ?” (Soldier A)
“Maa, there are some circumstances.” (Hifumi)
It was a new document specifying him to be treated as viscount.
“This is ... ! Excuse our impoliteness!” (Soldier A)
Straightening up his back, the soldier apologized. Hifumi lightly waved his hands in response.
“Don’t mind it. By the way, it looks like there is only two of you here, however, is it the same over there too?” (Hifumi)
Hifumi rose his finger pointing at the side of Vichy’s on the other side of the passage through the fortress.
“Huh? Yes, I heard that it is the custom for both countries to place a couple of guards at night-time.” (Soldier A, formal tone)
Given that the border was basically closed during the night, apparently the number of soldiers stationed was at its minimum.
“Is that so? Alyssa, I will take both of them down.” (Hifumi)
“Understood” (Alyssa)
Being doubtful of Hifumi’s and Alyssa’s conversation, the soldiers gave each other a sidelong glance. Steadily they were approaching Vichy’s side.
Before anyone noticed, there was a katana hanging on Hifumi’s waist.
“N? At such late time, who is it?” (Vichy Soldier A)
When the Vichy soldier turned around, his head was separated from his torso.
“If asked by anyone, currently I am an invader.” (Hifumi)
Swinging the katana before the other soldier was able to detect the drawing, he was slain before he was able to show any kind of reaction.
The soldiers, who Hifumi’s group conversed with in the back of the passage just now, watched with a shocked facial expression.
Looking back, Hifumi stored the katana while laughing.
“From this moment on the war has started. Convey this to everyone trying to cross the border. They should be aware that they will be dragged into it and die, too.” (Hifumi)
While Hifumi was violating the national border at leisure, the soldiers in the barracks on Vichy’s side were killed silently.
The three soldiers patrolling the surrounding of the buildings had their throats sliced open and were abandoned just like that. The remaining soldiers died never waking up from their slumber.
At dawn, when the main part of the expeditionary force arrived at the border, everything was finished. Hifumi was leaning with his back on the border fortress and waited for them. (
Seeing Hifumi’s figure, Origa descended from the carriage and came over in a rush.
“Master! There are no particular problems with the main body of the expeditionary force to report!” (Origa)
“Understood. Well then, prepare for the military maneuvers on the Vichy’s side of the border using the barracks as base. I will leave after eating lunch.” (Hifumi)
Origa hurried back to her original position among the troops. Together with Kasha, they issued instructions to cross the border.
“Now then ... I should take a nap, too, huh?” (Hifumi)
However, different from the soldiers, it wasn’t due to the murdering a while ago, but due to the part of the coming battles.
Even if his opponent didn’t move as he wanted, in that case he expected it to become interesting and thus came up with a plan that was as simple as possible.
As he was thinking about such things, Pajou approached.
“I wondered whether you couldn’t give me some information on the progress of the war.” (Pajou)
“The soldiers of Vichy who were at the border, several tens of them, died. Our side incurred no damage.” (Hifumi)
Hifumi answered her question smoothly as she was holding writing materials in her hands.
“I heard they were assaulted at the place they slept, but ...” (Pajou)
“That’s the reason why I chose a night attack. Quite obviously.” (Hifumi)
Likely, in the future, I think there will be much more happening in this war that exceeds my own comprehension.
“... I understand. I will also take a small break.” (Pajou)
It all started in the city near the border, Arosel, with the incident of a single young man visiting the mansion of the city’s representative on the last day.
“Is the representative of this city currently in?” (-)
Even under normal circumstances, for the sake of dealing with the document arriving from Orsongrande compelling them to allegiance, it was a strenuous effort to prepare the defense and consider the counter-measurements.
“Do you have an appointment?” (Servant)
, the servant arbitrarily decided for herself exposing her displeasure in her words as well.
“Appointment, huh? I sent a letter a few days ago.” (-)
“A letter, huh?” (Servant)
In this world where there were monsters to consider in regards to the transportation network, the sending of letters was limited to only prosperous figures.
“Ah, I asked whether he would become our companion and fight alongside us in the letter. I came here to listen to the reply to that.” (-)
Taking it out from his breast pocket, he showed a document to her. It was unmistakably an officially issued passport from Orsongrande declaring the man in front of her as an Viscount.
“Pl-Please wait a moment, Your Excellency.” (Servant)
Due to the totally unforeseen rank of the visitor, the servant shrieked with a shrill and nervous voice while rushing towards the office of the representative.
No matter on what kind of reply he would decide, towards a noble, who didn’t take along anyone and came here by himself, the representative judged him to not be hostile and instructed that he should be handled courteously for starters.
In the meanwhile it was confirmed by a thin shaped servant from a distance, that Hifumi was the person, who had kidnapped the previous city representative Ortis and strangled him until fainting in order to obtain information out of him.
Somehow or other Hifumi was invited to the reception room and sat down on the opposite side of a man called Kyulson, who immediately was inaugurated as city representative after Ortis passed away.
Behind Kyulson was standing the female servant who had dealt with Hifumi at the beginning.
“I have heard a little bit of rumor about Hifumi-sama already ...” (Kyulson)
“I don’t need any roundabout greetings. First, let’s hear your answer. Then we can proceed the conversation from there.” (Hifumi)
Although he wasn’t a noble in Vichy, he had often negotiated with nobles coming from foreign countries, including Orsongrande, in the past. Yet he didn’t meet such a noble until now.
Judging Hifumi’s youth, Kiyulson concluded him to be a noble rushing for results due to his scarce experience.
“I am very sorry. Related to the document delivered from Orsongrande, we unfortunately weren’t able to carefully examine it yet. Please wait for the reply until then.” (Kyulson)
Towards the harmless and inoffensive reply of not committing himself in any way while at the same time asking him to temporarily return until Kyulson could come up with his answer, Hifumi laughed scornfully.
“Fu, the local administration here takes it obviously quite easy. The representative was kidnapped and even though questioned whether they want to resist their ruin or join the other side, they weren’t able to come up with a decision on how to deal with it within a few days either.” (Hifumi)
“... I can’t believe this was said by the criminal himself, honestly ... Hey youngster, I think you should behave more modestly even if you are a noble. You do realize that it would be fine to arrest you as a criminal here, right? Since I will close my eyes towards the amount of rudeness you showed here, go back now.” (Kyulson)
Dealing with Hifumi, Kyulson’s look and tone changed.
“I understand that you want to rush the results due to your youth, but you are 10 years too early to stick your nose into the exchanges between nations. In the first place, the documents from Orsongrande are an aberrant threatening letter. Meddling in our national politics just because of some brat who managed to somehow get some military gains due to committing crimes, is this document supposed to be a joke? Looking down on our government will sooner or later cause you a painful experience.” (Kyulson)
“I see, in other words you don’t intend to accept our demands.” (Hifumi)
“Of course not. Do you think that Orsongrande has the necessary military forces to invade into Vichy? Just considering the financial clout to fund the military forces, there is no way for Orsongrande to win a war in a direct confrontation. That already applies to only this city. We have plenty of defensive forces to deploy.” (Kyulson
Apparently Kyulson had judged Ortis to be the only incompetent person. He didn’t seem to acknowledge the value of Hifumi’s ability overly much either.
Pondering about this, Hifumi sighed while leaning back on his chair and staring at the ceiling.
“I see that you haven’t thought about it carefully. Do you know why I came here by myself? Did you believe that I am a fool who trusts too much in his own strength? Did you make light of me as a idiot that wouldn’t consider to be attacked?” (Hifumi)
“... What are you talking about?” (Kiyulson)
“I wonder which of us two isn’t taking the exchange between nations seriously. Every last of you, why do you conclude your opponent would attack in an easily understandable way from the front?” (Hifumi)
While talking the faint smile floating upon Hifumi’s face slowly stiffened due to his anger.
“You said you are called Kyulson. Didn’t you consider the possibility of me killing you here? For example, did you think of the possibility of my subordinates secretly infiltrating and raiding the soldier posts in each place? Supposing that you lose all your pawns before the actual fighting begins, what will you do?” (Hifumi)
“I-Im-Impossible ... But you haven’t heard my reply yet!” (Kyulson)
Kyulson’s face was soaked all over in sweat. He was nervous and his back became unsteady.
“This document itself was a plan to restrain your statesmen. You didn’t notice until the end, huh? Although trust is important, going this far is like a splendid flower field.2” (Hifumi)
While talking, he stood up and took out the katana in a very natural behaviour and then thrust it.
“! ... !?” (Kyulson)
Watching him painfully breathing and scattering bloody vomit while thrashing about in agony on the ground, the female servant was dumbfounded. Falling on her bottom without grasping the reason for it, she just wept.
“Your representative will die very soon, what will you do?” (Hifumi)
“Pl-Please don’t kill me ... pl-please ... I-I don’t want to die yet ...” (Servant)
Grovelling on the ground as the servant begged for her life, Hifumi’s ardor was dampened and he returned his katana into its scabbard as he watched Kyulson’s state, who had died unnoticed.
“If you choose to not fight, announce it immediately in the entire city. This city has been annexed into Orsongrande from today onward.” (Hifumi)
Going to the extent of declaring this much, incidentally several troops of the third unit burst into the reception room.
“Viscount, are you fine?” (Trooper A)
“Obviously. How did it go on your side?” (Hifumi)
“The disposal of all soldier posts has been completed without any problems, Sir!” (Trooper B)
While Hifumi had gone to the meeting with the representative, Alyssa, after gathering information on the soldiers posts, had secretly infiltrated the city alongside the third unit, which had dispersed in the vicinity. They assaulted the soldier posts almost simultaneously.
The female servant, who still didn’t manage to get up, wore a face of disbelief listening to the contents of the talk.
“You heard it.” (Hifumi)
“The possibility of using soldiers has vanished. Relay this news to the citizens with only the staff of this mansion. Do it right away. Tell anyone who wants to complain, to come here. So I can kill them.” (Hifumi)
Although being hesitant, she quickly moved upon hearing Hifumi’s words. To leave the room, the servant crawled on the floor in order to spread the information about the soldiers of the enemy nation while looking pathetic at the same time.
“What about the first and second unit?” (Hifumi)
“As planned, they are blockading all of the city’s exits, Sir.” (Trooper A)
“Good. I will go check the situation. 2 teams will remain here. In case the servants show unusual movements, kill them.” (Hifumi)
“Yes, Sir!” (Troopers)
Taking the other troops along, Hifumi left the mansion in high spirits.
In this way, they had performed the world’s first one-sided invasion. The history of Arosel as small-scale city-state ended and it changed into a simple district city.
This truth wasn’t only circulated amongst the surrounding cities but also reached the central government in no time.
It became a fact that Orsongrande really intended to go to war with Vichy. |
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} | 「話が長くて、腹が減った」
結局、城での飯も食いそこねたブツブツ言っているのを聞いて、ウェパルは賑やかな街の方を指差した。
「あっち、美味しいお店があるのよ。私たちみたいなそれなりに稼いでいる人向けで個室が取れるから、ゆっくりご飯が食べられるわよ。私もお腹空いたし、ご馳走してあげる!」
「じゃあ、遠慮なく」
ウェパルの先導で入ったレストランでは、流石というか顔パスで最奥の広い個室へ通された。
個室には十席あるというのに、さりげないふりでの隣に座ってきたウェパルは、一二三に苦手なものがないかを確認すると、てきぱきといくつかの聞いたことのない名前の料理を注文した。
「こんな感じでいいかしら?」
「どうせ量も内容も、聞いてもわからん」
「それもそうね。足りなかったら、また頼めばいいし」
店員が部屋を出て行くと、ウェパルは隣にいる一二三に視線を向けた。
「どうして、魔人族とエルフの戦いに、人間を巻き込もうと思ったの?」
「違うな」
「えっ?」
「“人間を巻き込む”のが目的じゃない。“全ての人種が巻き込まれる”のが目的だ。この世界全体が戦乱に巻き込まれるのが目標だな」
料理の前に運ばれてきた水で、軽く口を湿らせる。
「この世界は、もっと必死でぶつかり合うべきだ。もっと真剣に命のやり取りをやるべきだ、と俺は思った。だから、そうなるように動いている」
一二三の言葉が終わると、個室にはしばらく沈黙が流れた。
「そ、それってこの世界を壊したいってこと?」
恐る恐るウェパルが聞いてきたのに対し、一二三は微笑みで返した。
「それも違うな。戦乱は人々の“本気”を作る。戦うため、生き残るため、取り戻すため、復讐や保身、野望や復興......色々あるが、みんな真剣になるだろう。それこそが、この世界を前進させる」
「こう言うのもなんだけれど......頭おかしいって、言われたことない?」
ノック音が響き、入って来たウェイターが次々と料理を並べていく。
何かのソースがかかった肉の塊が湯気を立てているのを、ウェイターがさっと切り分けて一二三とウェパルの前に置き、サラダや何かの練り物を焼いた物が、テーブルの上に所狭しと並ぶ。
「おお、なかなかうまそうだ」
ナイフとフォークを取り、一二三は早速肉を頬張った。
甘酸っぱいソースが、濃い味の油と合わさって口の中に広がる。肉は固めだったが、一二三は気にせずもりもりと口に突っ込んでいく。
「素晴らしい食べっぷりね」
言いながら、ウェパルも小さく切った肉を美味しそうに食べる。
「いい店だな。味も量も充分だ」
テーブルの上を半分以上食べたあたりで、飲み物を持ってきたウェイターに一二三が声をかけた。
「えっ。あ、ありがとうございます」
人間に話しかけられた事に一瞬驚いたウェイターだったが、さらりと笑顔で伝えられた褒め言葉に、戸惑いながらも礼で返した。
「やっぱり、貴方は魔人族も人間も関係ないのね。戦争を広めるような話ばかりだから、人間が嫌いなのかとも思ったけれど......」
「人間も魔人族も、自分の役割に対して真摯に努力している奴が居れば、好感を持つのは当たり前だろう」
重ねて置かれていた布で、ぐいっと口を拭う。
「敵か味方かは別にして、何かを良くする努力をする奴は好きだな。俺の領地の連中も俺の妻も、領地だけでなく国を、世界を良くするために努力しているしな」
「あら、結婚していたのね。こんなところでディナーなんてしていていいのかしら?」
茶化すような言葉に、一二三は真剣な目でウェパルを見た。
「世界を動かすんだ。自分が動かずに指示だけ出してもな。それに、楽しい部分は他の奴に譲ってやる必要は無い。それに」
コーヒーもどきを飲み干した。
「俺が動けば、余計な事を考える奴が多くなるらしいからな。あの子供王のように」
「......アガチオン様は、歴代随一の賢王と呼ばれているのよ? エルフの森への対応は前々から決まっていたことだし今更......まさか、貴方に何かするかもしれないってこと?」
あれほど仲良く話していたのに、ありえないと言うウェパルを、一二三はせせら笑う。
「為政者というのは、“名目”にこだわる。それがあれば、民衆は付いていくる......と思っているからな。大義名分があれば、大胆に行動することが暴走ではなく果断と言われる」
「大義名分?」
「例えば、人間とエルフが結託して、魔人族を滅ぼそうとしている証拠がでたから、積年の恨みを晴らすために打って出る、とかな」
結界が解かれれば、それを自分たちの努力の結果としても良いし、人間とエルフが自分たちを滅ぼす前段階だと説明しても良い、と一二三は語る。
「証拠って......」
「閉ざされているはずの魔人族の町に人間族の死体があれば、充分だと思うが?」
その死体候補が一二三なのだということは、ウェパルにも判る。
偽装が得意な魔人族でも、死ねば元の姿に戻るから、明らかな死体であれば説得力は充分だ。
死体候補は笑う。
「さて、あの賢王とやらはどうするだろうな?」
一二三の視線が、ウェパルに問いかけている。
その時、お前はどうする、と。
☺☻☺
ウェパルが率いているのは女性を中心とした魔法を得意とする部隊で、結婚などで増減はするものの、およそ百名が在籍している魔人族随一の魔法使いの集団だ。
ベレトが率いる近接戦闘中心の部隊は男性中心で、その性質は正反対であり、ウェパルが隊長に就任するずっと前から対立関係を続けている。
だが、ウェパルはその暑苦しい構造に嫌気が差し、基本的にベレトとその部下たちの相手はしないようにしていた。面倒臭い、と周りには常にこぼしている。
「む~......」
ウェパルの仕事場は、町の外壁近くにあり、ベレトの仕事場とは城を挟んで正反対の場所にある。
一二三を宿に案内し、同室で話し込もうとして追い出されたウェパルは、城へと報告をした後、大人しく自分の机に座っていた。
「珍しく真面目に仕事をしているかと思ったら......書類の処理を放って何を悩んでいるんですか?」
声をかけてきたのは、ウェパルと同じくらいの背丈だが、豊満なウェパルに比べてスレンダーな体つきの若い女性だった。鮮やかなグリーンのワンピースの上に、灰色のフード付きマントをつけている。
眠たげな藍色の瞳が、デスクに突っ伏しているウェパルを無感動に見つめる。
「たまには真面目に仕事してくださいよ。最近はほとんどの書類がわたしのサインになっているせいで、隊長が交代したなんて噂まで流れていますよ」
「ベンニーア、やりたいなら代わるわよ、こんな面倒臭い肩書き、別に好きでなったわけじゃないし」
「推薦されたんですから、その人たちの顔を立てる努力をしましょうって話ですよ」
恨めしげに見てくるウェパルに、ベンニーアと呼ばれた女性はきっぱりと言い返した。
「......ベンニーアは、この町の中で、味方同士で戦いが起きたらどうする?」
「いきなり何の話ですか。反乱でも起こすつもりですか?」
「いいから、教えて」
先ほどとは違う、真面目な視線をするウェパルに、何かを感じとったベンニーア。一つ咳払いをする。
「隊長は、不真面目ですが間違った事はしない、とわたしは考えています。隊長がどちらかにつくというのであれば、わたしも、他の隊員たちも隊長に従うでしょう」
「......それが、仲間と殺し合う事になるとしても?」
「そうするに足る充分な理由がある、と信じますよ」
それにしても、とても不穏な質問ですよ、とベンニーアは眉を顰めた。
「何を考えているのか、わたしに話してくださいよ」
「人間がこの町にいるんだけれど......アガチオン様から、彼を戦争の生贄にするかもしれないって話が出たのよ」
ため息混じりに、ウェパルは城へ報告した際の事を話した。
その話を聞いて、ベンニーアは首をかしげる。
「妙ですね。命令ではなく“かも”なんて不明確な話を、あの王様がするなんて」
常ならばトップダウンで指令が下る。誰かと相談するにしても、せいぜいフェゴールを相手に二、三言交わして決める程度というのが、魔人族の軍人全体が持っている王への印象だった。
もちろん、それが悪いとは誰も考えていない。
「私の反応が見たかったみたいね。柄にもなく、背中に汗かいちゃったわよ」
「なんでそんな......まさか、その人間に惚れたんですか?」
「ん~......そういうつもりはなかったんだけどね。惹かれたのは否定しないわね。でも、それが理由じゃないわよ」
ベンニーアが淹れてくれたコーヒーを飲み、ウェパルは熱い息を吐く。
「人間の彼......一二三っていうんだけどね。彼って魔人族にも人間に対しても、態度が変わらないみたいなのよね。まだ実際に目の前で見たわけじゃないんだけれど。この世界を良くするために、魔人族もエルフも人間も獣人も、みんな一生懸命戦うべきだなんて言うのよ。まったく、どうかしてるわよね」
次第に早口になりつつ、ウェパルはケラケラと笑った。
ベンニーアの表情は、呆れと不安が混ざった言いようのないものだ。
「そんな狂人のために、王を裏切るというのですか?」
「裏切るわけないでしょ。でも、彼を単純に殺すのは間違いだと思うのよ。エルフとの戦いは避けられないと思うけど、彼や彼に影響を受けた人間なら、戦いを経ることなく仲良くなれるんじゃないかと思ったのよ」
戦争を推進する人に頼ることが、最終的には敵を減らす手段になるかもしれないなんて、バカみたいな話でしょう、とウェパルは首を振った。
「それを、王に伝えたのですか?」
「言えるわけないじゃない」
王に報告した際、その隣には補佐官であるフェゴールが立ち、王の提案に対して口を開こうとしたウェパルを睨みつけていた。
「左遷やクビは怖くないけれどね。フェゴールが王の敵だと認識したら、命を失うだけじゃ済まないわよ」
「では?」
「それとなく、一二三に近づいて仲良くなるしかないかもね。ベレトも彼を敵視しているようだし、一人で頑張ってみるわ。余計な戦いが避けられれば、死ぬ人は減るんだもの」
帰る、と言って立ち上がったウェパルに、ベンニーアは頭を垂れた。
「どうか、遠慮なくわたしたちに指示を出してください。わたしたちは王の家臣ではありますが、隊長の判断に従うという言葉に、嘘はありません」
「そう、ありがとう」
おやすみ、と言って去っていった時、マントのフードに隠れていた表情をもちろんウェパルは知らない。
その後、ベンニーアが城へ向かった事も。
ザンガーの旅は当初想定したよりも、ずっと賑やかなものになった。
プーセやシクだけでなく、結界の維持に従事していた魔法が得意な者たち、普段からザンガーと親しくしていた者たちなど、多くの者が列を成して森を進んでいく。すでにエルフの居住地となっている森は出ており、まばらになって時折視界に入る荒野や地平線などに、エルフたちはいちいち感動していた。
「ザンガー様」
「なんだい?」
杖をつきながらではあるものの、着実に歩を進めるザンガー。
その背中に手を起き、大きな荷物を背負って歩くプーセが、不意にザンガーに声を欠けた。
「森を抜けるのはわかるのですが、その後、どこへ向かわれるつもりなのですか?」
「ああ、そういえばその話の時、あんたは準備でいなかったねぇ」
ごめんね、とザンガーは集落の者たちに話した内容を思い出しながら話した。
「あの人間、いやさ一二三さんが教えてくれた“獣人と人間が協力して作った町”とやらに行ってみようかと思ってねぇ。そんなふうにできた町なら、エルフも入れてくれるかもしれないだろう?」
ヒャッヒャッと笑うザンガーに、プーセは首を傾げた。
「そんなに簡単に行くでしょうか?」
ザンガーは、羽織ったマントの裏から何かを取り出した。
「......手紙、ですか?」
「まあ、紹介状みたいなもんかねぇ。一二三さんはね、その町の成り立ちに関わったそうだよ。絶対とは言えないだろけれど、ちょっとは希望が出てきたとは思わないかい?」
「そ、そうですね......あら?」
プーセは正直、一二三の事が苦手だったので、彼が関わった町と言われると、逆に不安になった。
そんなプーセは、道の先に何者かがいるのを見つけた。素早く手信号で後ろからついてきてくる仲間たちに指示を出す。
手はず通り、簡単な手振りだけで全体が緩やかに止まる。
「どうしたんだい?」
「道の先に誰かがいるようです。三人ほどですね」
確かめてきます、とプーセは背負った荷物を置いて、ゆっくりと人影に近づく。
顔が見える程度に近づいたところで、二人が立ち上がって何かを相談しているように見える。もう一人は、座り込んだままだ。
「おまえは、人間だな! ......じゃない? なんか違う......」
「じゅ、獣人......」
首をかしげてこちらを見ている相手が獣人だとわかり、プーセは一瞬だけたじろいだが、子供だけの三人組だと判ると、逆に心配になった。
「私たちはエルフです。貴方は、虎の獣人と、熊の獣人ね」
「エルフ、初めて見た......」
呆然としている熊獣人は、一二三に殺されたサルグの娘オルラだったが、父親がすでに死んだ事は、まだ知らない。
「私はエルフのプーセ。みんなと旅をしているのよ。それで、こんなところで子供だけで何をしているの?」
「あ、俺はマルファスといいます。リーデルが......妹が怪我をしてしまって......」
プーセが視線をもう一人の虎獣人の女の子へ向ける。
座り込んだままだと思っていた少女は、膝のあたりを何かでざっくりと切ってしまったようで、血の滲んだ布を巻いただけの簡単な処置だけを施され、痛みに涙を浮かべていた。
「大変! ちょっと待っててね」
プーセはリーデルに駆け寄ると、その傍らにしゃがみこみ、リーデルと視線を合わせた。
「こんにちは」
「こんにちは......お姉さん、誰?」
「自己紹介は後でゆっくりするから。今はジッとして」
短い詠唱の後、傷口にかざしたプーセの手を伝って降り注いだ魔力は、暖かくてじんわりとした熱を帯び、リーデルの傷を少しずつ塞いでいく。
「すごい......」
キラキラした目をして、リーデルが痛みを忘れ興奮している間に、傷はすっかりふさがってしまった。
「これで大丈夫。流れた血までは回復してないから、ゆっくり休んでね」
「お姉さん、ありがとう!」
リーデルに続いて、マルファスやオルラもお礼を言った。
「貴方たち、種族が違うのに一緒にいるのね」
「俺たち、オルラのお父さんに助けてもらったんです。人間の町に行くと言って帰ってこないから......」
「わたしたちから迎えに行こうって言って、移動している途中だったんです」
「そうなんだ......あ、ひょっとしたら、私たちの目的地にお父さんがいるかもしれないね」
プーセは、ザンガーから聞いた話を思い出した。
「どういうことですか?」
「なんでも、獣人と人間が仲良く暮らしている町があるらしいんだ。私たちはそこに向かう途中なのよ」
「そういうことじゃ。なんなら、お前さんたちも一緒に来るかえ?」
いつの間にか様子を見に来るためにそばに来ていたザンガーの誘いに、獣人の子供たちは顔を合わせた。
短い相談のあと、三人揃って頭を下げる。
「正直、道がわからなくなって迷っていたところでした。よろしくお願いします」
マルファスが言うと、ザンガーは頷いた。
「いいとも、いいとも。誰かさんの受け売りじゃないけれど、エルフも獣人も関係ないよ。子供は大人が守らなくちゃね」
こうして、獣人族の子供たちは、エルフに連れられてソードランテへ向かうことになった。 | “With such long talks, I’ve become hungry.” (Hifumi)
Listening to Hifumi grumbling “In the end I missed out on eating something at the castle”, Vepar pointed in the direction of the bustling city.
“Over there’s a delicious restaurant. Since you can get there private rooms which are intended for people like me, who are earning adequate money, we will be able to eat some food at ease there. My stomach’s empty as well. Let me treat you!” (Vepar)
“Well, then I will take you up on that.” (Hifumi)
At the restaurant he entered after following Vepar’s lead they were shown into a big private room located furthest inside as she was well known or rather as could be expected.
Vepar, who sat down right next to Hifumi in a casual manner even though there are ten seats in the private room, confirmed whether there was anything he didn’t like and quickly ordered several dishes he had never heard of.
“Is this kind of order fine with you, I wonder?” (Vepar)
“Even if I hear about the details and portions, I won’t know them anyway.” (Vepar)
“Well, I guess that’s true as well. It’s fine for you to get a second serving if it’s not enough.” (Vepar)
Once the waiter left the room, Vepar turned her look at Hifumi who is next to her.
“Why did you think of getting the humans involved in the fight between demons and elves?” (Vepar)
“Eh?” (Vepar)
is my goal. My target is to drag this entire world into wars.” (Hifumi)
As water was carried in before the meals, he is able to moisten his mouth lightly.
“This world’s people should clash with each other far more desperately. They should give and take lives far more earnestly. That’s what I believe. Thus I’m moving in order to make that happen.” (Hifumi)
Once Hifumi’s words ended, silence protruded the private room for a while.
“T-That means, you want to destroy this world?” (Vepar)
Hifumi returned a smile in response to Vepar who asked that timidly.
“That’s not it either. Wars will make everybody get “serious.” For the sake of fighting. For the sake of surviving. For the sake of regaining. Revenge and self-preservation, ambitions and restoration... there are many aspects, but probably everyone will become serious about it. Only that will allow this world to advance.” (Hifumi)
“It’s not like I’m saying it, but... weren’t you told that your head’s messed up?” (Vepar)
“Not really.” (Hifumi)
With the sound of knocking resounding, the waiter enters the room and lines up one dish after the other.
The waiter cuts up a lump of meat, which was covered by some sauce and has steam rising from it, with a swoosh and places the slices in front of Hifumi and Vepar. Something which was roasted with salad and some paste product gets lined up on top of the table making it cramped.
“Ooh, it looks quite appetizing.” (Hifumi)
Picking up a knife and fork, Hifumi immediately stuffed his cheeks with meat.
The taste of the sweet and sour sauce and the deeply flavoured oil mixes and spreads within his mouth. The meat was tough but Hifumi stuffed it into his mouth with gusto without minding that.
“It’s a wonderful manner of eating.” (Vepar)
While saying that, Vepar also eats small-cut pieces of meat enjoying its deliciousness.
“It’s a nice restaurant. The taste and the quantity are satisfactory.” (Hifumi)
Hifumi called out to the waiter who brought drinks once they had eaten around half of the dishes on top of the table.
“Eh? T-Thank you very much.”
The waiter was surprised for an instant due to being addressed by a human, but even while being bewildered, he returned his gratitude to the compliment which was given with a thin smile.
“You are unrelated to demons and humans after all. With only talks like spreading wars, I wondered whether you would be hated by humans, but...” (Vepar)
“For humans and demons it’s probably only natural to have a favourable impression of a guy if he puts in earnest efforts into his own role.” (Hifumi)
He wipes his mouth in one go with the clothes which were provided in a stack.
“I like fellows who put in great effort into improving somehow, unrelated whether they are my enemies or allies. The folks in my territory and my wife are putting in great efforts to improve the society in the country and not just in the territory.” (Hifumi)
“Oh, you are married. I wonder whether it’s fine to have dinner in such place then?” (Vepar)
Hifumi looked with serious eyes at Vepar due to her teasing words.
“They stir the world. I only give instructions without moving myself. Besides, it’s not necessary for me to yield the fun parts to someone else like that.” (Hifumi)
He drank up the pseudo-coffee.
“If I were the one to move, there would be too many fellows who would scheme unnecessary things. Just like that child king.” (Hifumi)
“... Agathion-sama is called the smartest king within the successive generations? The matter of dealing with the elven forest had been decided for a long time, this late in the game... no way, is it possible that you will do something?” (Vepar)
Hifumi sneers at Vepar who says “Impossible, you talked in such friendly way with him.”
“The ones called statesmen fuss over “titles.” If they have those, the people will follow them... is what they are believing. If it’s for a just cause, they will be called resolute and not running wild albeit they are doing something daring.” (Hifumi)
“A just cause?” (Vepar)
“For example, since there was evidence that the humans and elves were collaborating and trying to destroy the demon race, he will make a move in order to avenge the long-lasting grudge, or such.” (Hifumi)
“If the barrier falls, he will sell it as outcome of his own efforts and explain it as first step of him destroying the humans and elves”, Hifumi explains.
“Evidence, you say...” (Vepar)
“If there’s a corpse of a human in the demon’s city which should be isolated, that’ll be plenty, I think?” (Hifumi)
Even Vepar grasps that Hifumi is the candidate for that corpse.
Since even demons, who are strong at disguising themselves, return to their original forms once they die, there will be plenty persuasive power if it’s an obvious corpse.
The corpse candidate laughs.
“Well, I wonder what that smart king or whatever will do?” (Hifumi)
Hifumi’s glance asks Vepar
And what will you do at that time?
☺☻☺
Although there are fluctuations due to things like marriages and such in the unit, where women who are good at magic play a central role, led by Vepar, it’s a group of the best demonic magicians with around members in it.magic
With the adjoining combat-orientated unit led by Beleth being centred around men, the antagonism triggered by their bipolar dispositions has been continuing from long before Vepar was inaugurated as captain.
However, being sick of that sweltering structure, Vepar basically made sure to not oppose Beleth and his subordinates. She is always leaking to the surroundings that it’s bothersome to do so.
“Unh~...” (Vepar)
Vepar’s working place is close to the city’s outer wall. Beleth’ working place is in the completely opposite direction with the castle being between them.
Vepar, who was chased out after she tried to have a deep talk with Hifumi in the same room once she led him to the inn, quietly sat at her own desk after having reported to the castle.
“Just when I pondered whether you are doing your work properly for a change... you have abandoned processing the documents. What are you worried about?”
The one who called out to her had approximately the same stature as Vepar, but compared to Vepar’s voluptuous body, she was a young woman with a slender build. On top of her vividly green one piece she is wearing a grey mantle with a hood attached.
Her indigo blue, sleepy eyes are staring indifferently at Vepar who is prostrating on the desk.
“Please do you work seriously once in a while. With most of the documents carrying my signature recently, there are rumours swirling around that there had been a change in commanding officers.”
“Bennia, take my place if you want to. It’s not like I particularly like such tiresome title.” (Vepar)
“Since you were recommended, put in some effort to show deference to those people who referred you.” (Bennia)
The woman called Bennia flatly retorted to Vepar who is looking at her bitterly.
“... What will you do if there’s battle between fellow comrades within this city, Bennia?” (Vepar)
“What are you talking about all of a sudden? Do you plan to cause a rebellion?” (Bennia)
“Just tell me.” (Vepar)
Bennia felt something due to Vepar having a serious look, unlike before. She clears her throat once.
“Although you lack sincerity, you won’t do something mistaken, Captain, is what I believe. If you side with either party, me and the other unit members will follow you, Captain.” (Bennia)
“... That is, even if you will have to kill you own comrades?” (Vepar)
“There will be plenty of reason to do so, I believe.” (Bennia)
“Even so, it’s a very unsettling question”, Bennia knitted her eyebrows.
“Please tell me what you are planning to do.” (Bennia)
“There’s a human in this city, but... stories appeared that Agathion-sama might use him as sacrifice for the war.” (Vepar)
With a sigh blended in Vepar talked about the situation at the time she reported to the castle.
Hearing that story, Bennia tilts her head to the side.
“It’s strange. For that king-sama to talk about something vague like “might” and not an order.” (Bennia)
The order always descends from the top. Even if he consults with someone, at the most the decision changes in around two to three aspects with the other party being Phegor. That was the impression which all of the demons’ soldier held of their king.
Of course none of them think that it’s wrong.
“It looks like he wanted to see my reaction. Totally out of character my back ended up sweating.” (Vepar)
“Why such... no way, did you fall in love with that human?” (Bennia)
“Mm~ ... though I didn’t intend to. I won’t deny that I was charmed by him. However, that’s not the reason.” (Vepar)
Drinking the coffee made by Bennia, Vepar exhales a hot breath.
“The human... he is called Hifumi. It looks like his attitude doesn’t differ towards demons and humans, you know. Though it’s not like I have seen it actually in front of my eyes. But he says that the demons, elves, humans and beastmen should fight for their lives to improve this world. Good grief, it’s crazy, isn’t it?” (Vepar)
While her talking became gradually rapid, Vepar giggled.
Even Bennia can’t tell from her expression whether it was tinged with amazement or anxiety.
“You want to betray the king for such a madman, you say?” (Bennia)
“It’s not that I want to betray him. However, I believe that it’s a mistake to simply kill him. Though I think that we can’t avoid fighting with the elves, I wondered whether it isn’t possible to get along with him and the people under his influence without having to fight them.” (Vepar)
“War depends on the people furthering it, but something like the possibility of war eventually becoming a way to decrease the enemies is just stupid”, Vepar shook her head.
“Did you tell the king that?” (Bennia)
“There’s no way I can say that to him.” (Vepar)
At the time she reported to the king, his aide, Phegor, was standing next to him. He glared at Vepar who tried to open her mouth regarding the king’s suggestion.
“I’m not afraid of demotions and getting fired. However, if I was recognised as enemy of the king by Phegor, it wouldn’t end with me simply loosing my life.” (Vepar)
“So?” (Bennia)
“There might be no other choice but get along with and approach Hifumi indirectly. It seems that Beleth sees him as his enemy as well. I will try to do my best by myself. If I can avoid unnecessary fighting, the number of deaths will decrease.” (Vepar)
Bennia bowed her head due to Vepar standing up and telling her that she is going home.
“Please order us as you like without holding back. We are the king’s retainers, but the words that we will follow your judgement are no lies, captain.” (Bennia)
“I see. Thanks.” (Vepar)
Of course Vepar doesn’t know about her expression hidden within the mantle’s hood at the time she said “Good Night” and left.
And also not about Bennia heading towards the castle afterwards.
Zanga’s journey was far more lively and successful than she assumed at first.
Not just Puuse and Shiku, people like those who were usually close to Zanga and those who were good at magic and who engaged in the maintenance of the barrier; many people are advancing through the forest in a line. They have already left the forest which is next to the elves’ village. The elves were very excited by the things like the horizon and the wastelands which entered their visions once the trees became sparse.
“Zanga-sama.”
“What?” (Zanga)
Zanga is making steady progress although she is supported by her wand.
Puuse, who is burdened with large luggages, places her hand on Zanga’s back and suddenly turned her voice at Zanga.
“I get that we have to leave the forest, but where do you plan to go?” (Puuse)
“Ah, which reminds me, at the time of talking about that you weren’t there due to the preparations.” (Zanga)
“Sorry”, Zanga talked while recalling the details she told the villagers.
“I thought of trying to go to “that city where beastmen and humans work together” I was told by that human, no, by Hifumi. If they were able to make a city like that, they might let in elves as well, right?” (Zanga)
Puuse inclined her head to the side due to Zanga laughing with a “Hya hya.”
“Will it go that easily?” (Puuse)
Zanga took out something from the back of the mantle she wore.
“... A letter, is it?” (Puuse)
“Well, it looks like a letter of introduction, I guess. It seems that Hifumi-san changed the structure of that city. I guess you can’t call it definite, but don’t you think that a little bit of hope has appeared?” (Zanga)
“I-I guess so... oh?” (Puuse)
Since Puuse had truly difficulty to deal with Hifumi, she became worried instead when she was told that it was a city changed by him.
That Puuse discovered someone being there on the road ahead. She gives quick instructions to her comrades behind her with hand signals.
According to the arrangements, all of them slowly came to a halt with simple hand gestures.
“What happened?” (Zanga)
“It looks like someone is ahead in front of the road. It’s around people.” (Puuse)
“I will go make sure”, leaving the heavy luggages behind, Puuse slowly approaches the figures.
At the moment she got close enough to identify them, she sees two of them standing up and discussing something. The other one stays sitting.
“You are, humans! ... Aren’t you? You are somehow different...”
“B-Beastmen...” (Puuse)
Realizing that it’s beastmen looking this way with their heads tilted to the side, Puuse faltered for just a moment, but once she became aware that all three of them are children, she became concerned in reverse.
“We are elves. You are, tiger beastmen and a bear beastman.” (Puuse)
“Elves, it’s the first time...” (Olra)
The beargirl, who is dumbfounded, was Olra, the daughter of Salgu who was killed by Hifumi, but she still doesn’t know that her father had already been killed.
“I’m the elf, Puuse. All of us are on a journey. So, what are you doing at such place with just you children?” (Puuse)
“Ah, I’m called Malfas. Riedel... my younger sister has been injured...” (Malfas)
Puuse turns her look at the other tigergirl.
The girl, she thought to be sitting, was apparently cut roughly by something around the area of her knee. Having been given only simple treatment by just wrapping it with a blood-soaked cloth, her eyes were filled with tears due to the pain.
“How terrible! Wait a moment.” (Puuse)
Once Puuse rushed over to her, she squatted next to her and matched her eyesight with Riedel.
“Hello.” (Puuse)
“Hello... onee-san, who are you?” (Riedel)
“I will introduce myself properly afterwards. Stay still for now.” (Puuse)
After a short chant, the mana, which was poured down along Puuse’s hands which she held over the wound, is tinged with a heat which got gradually warm and Riedel’s wound closes up little by little.
“Amazing...” (Riedel)
While Riedel was getting excited with sparkling eyes forgetting about the pain, the wound finished closing up completely.
“With this, it’ll be alright. Since the recovery doesn’t go as far as recovering the lost blood, take it easy.” (Puuse)
“Onee-san, thank you!” (Riedel)
Following Riedel, Malfas and Olra thanked her as well.
“You guys, you are travelling together although you are from different tribes, eh?” (Puuse)
“We want to rescue Olra’s father. Although he has gone to the humans’ city, he hasn’t returned yet...” (Malfas)
“We were in the middle of travelling as we said that we would meet up with him.” (Olra)
“I see... Ah, perhaps your father might be at our destination.” (Puuse)
Puuse remembered the story she heard from Zanga.
“What destination is it?”
“I was told that it is a city where humans and beastmen leave peacefully together. We are en route heading there.” (Puuse)
“That’s how it was. If that’s the case, do you want to go together with us?” (Zanga)
Due to the invitation by Zanga who came close-by to check the situation unnoticed, the beastchildren faced her.
After a short discussion, the three of them bow their heads together.
“Honestly, we got lost as we don’t know the way. Please take care of us.” (Malfas)
When Malfas said so, Zanga nodded.
“Sure thing, no problem. Although it’s not the influence of a certain somebody, it’s irrelevant whether you are elves or beastmen. Children are to be protected by adults.” (Zanga)
Like this, the children of the beastmen race decided to head towards Swordland led by the elves. |
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} | 片腕の兵士が首都の出入口を見つけて、少しだけ安堵したのは30分ほど懸命に走った頃だった。
街道を必死の形相で駆けてくる男を見つけて、ホーラント首都アドラメルクの番兵たちは大慌てだった。
「と、止まれ! 止まれ!」
「助けてくれ! 敵に追われてる!」
番兵にしがみつくようにして叫んだ兵は、明らかにホーラントの正規兵の装備だった事もあり、番兵たちはすぐに詰所へ案内しようとした。
だが、片腕の兵はそれどころではないと叫ぶ。
「オーソングランデから入ってきた奴らがすぐ近くまで迫っている! すぐに城におられるユーグ様へ連絡を!」
鬼気迫る表情にの兵が慌てて城へと走った。
とにかく連絡はできたと片腕の兵が安心した瞬間。背後から聞こえる、聞こえて欲しくなかった声。
「お疲れさん。結構足が早いじゃないか」
油の切れた機械のような動きで恐る恐る振り返ると、後ろにはニコニコと笑うの姿があった。
腰を抜かした拍子に周りの景色が視界に入る。
一両脇には番兵たちが倒れている。じわじわと血だまりを広げつつ、ピクリともしない。
「逃げられるわけないだろ。こんなに近くて一本道なのに」
手に持った刀を振ると、ピシャッと音を立てて地面に血が振りまかれた。
「うわ......」
驚きの声は、喉を切り裂かれた事で中断された。
「さて、あとは城へ行けばいいんだが......おっ」
門からも見える城の尖塔を確認していると、城の方面から10人程の魔法使いたちがこちらへ向かって来るのが見えた。
「今度は魔法使いだけの部隊か」
言いながら、一二三はすでに彼らに向かって駆け出している。
目標が向かって来ていることに気づき、魔法使いたちは慌てて詠唱している。一二三の攻撃範囲に入る前に辛うじて間に合わせることができた魔法は、風と火が入り混じり、一抱えの風をまとった火球となり、高温を振りまきながら一二三へ迫ってくる。
それでも走る速度を緩めず、不敵に笑っている一二三。
いよいよ目の前まで火球が迫った瞬間、一二三はぐっと身を低くして熱く燃え盛る火球の下をくぐり抜けた。
数本の髪が焼け焦げ、同じ量が風の刃に切り裂かれる。
それでも顔色一つ変えず、一二三は大きく踏み込んで魔法使いたちの間を駆け抜けた。
瞬間、容赦なく振り抜かれた刀がの首を一気に刈り取った。
驚愕に目を見開いた魔法使いたちが時間差を付けてポロポロと首を落とす。
そしてその間にも、近距離に詰められて何もできないまま、残りの魔法使いたちが次々と刀の錆になった。
「よし、次は城だな」
抜き身の刀を下げたまま、たった一人の攻城戦を行うために一二三は走る。
☺☻☺
今、ユーグの目の前には重厚な鎧を付けた5人の兵士が並んでいる。
ここは城内にある兵の待機室だ。
整列している兵たちは全員があらぬ方向を見つめ、半開きにした口からは何本か足りずに隙間を開けた黄色く濁った歯が見える。
ヴェルドレ主導で研究された魔法具・魔法薬の実験体として使われ、無理やり強化された兵士たちだ。
ほとんどが“壊れて”しまっていたが、何とか5体は集め、命令を聞くように調整ができた。
「ふむ。まあ城内ですから、これだけあれば足るでしょう」
強化兵は10人程度の兵を相手にしても戦える程度の力を持ち、普通の人間が着たら動けない重量がある、分厚い金属鎧を纏っている。
策がうまく進めば、充分な人数のはずだった。
「とりあえずは、王が押さえられれば済むわけですしねぇ」
ユーグがヴェルドレへ提案した内容は、王城へわざと敵を侵入させ、侵入者の排除と同時に王を弑してしまうという単純なものだった。
王の元へ侵入者が到達しなくても、侵入者が城に入ったという事実さえあれば、あとはどうとでもできると考えていた。
そこへ、ユーグ子飼いの兵が駆け込んでいた。
「ユーグ様! 敵が城門を突破しつつあります!」
「......随分早いですね」
ユーグの予測では、接敵は早くても今日の夜。おそらくは明日の日中だろうと読んでいた。
今の城内にはユーグが作った王子派閥以外の無関係な者も多く残っており、強化兵が見られる可能性が高い。
「仕方がありません。今いる魔法使いを総動員して対応しながら、避難と称して使用人や派閥の連中も含めた貴族を裏から追い出しなさい」
一定時間が過ぎたら強化兵を動かすと宣言すると、伝令に来た兵は命令を実行するために部屋を出て行く。
「まあ、もし見られたら戦闘中に消えてもらいましょう」
状況をヴェルドレへ伝えるため、強化兵は待機させたままで、ユーグも部屋を後にした。
ここで、ユーグが確認せず、伝令も言わなかったことがあった。
侵入者がたった一人であり、そのたった一人に街の兵が壊滅させられつつということを。
そして本来十人程度だったはずの敵、その残りの行き先を知らなかったことで、ヴェルドレとユーグの狙いは大きく外れていく。
☺☻☺
城の方面から悲鳴が聞こえてくるようになると、アドラメルクの住人たちはすっかり怯えてしまい、逃げ出す者や自宅へと向かう者で、一二三が通り過ぎたあとの方がより混乱の様相を見せていた。
王都は住人の数も多く、暗い顔をしていた住民ばかりだった他の街に比べて格段に富裕層が多いのだろう。多くの家財をまとめていたり、護衛に守られて移動する者も見える。
馬車や荷車が行き交い、通りは大変な混雑状況だったが、オリガたちにとっては目立たずに移動できるのでむしろ楽だった。
「さあ、一二三様が聞き出した情報では、王城のすぐ手前に研究施設があるはずです。急ぎますよ」
一二三に任された大仕事に、鼻息荒くずんずんと進むオリガを、フォカロル領兵たちは台車を引きながら必死に追いかけていた。
王城へ近づくほど人はまばらになり、研究施設の前にたどり着いた頃には、周りには誰も見当たらなくなった。
城の方では一二三が存分に暴れているらしく、まだ時折悲鳴が聞こえてくる。
応援に向かったのか、いるはずの警備も見当たらない。
敷地へ入る木製の門は閉ざされているが、軽く押すとゆっくり開いた。
僅かに扉の隙間が空いたところで、オリガは中の様子を風魔法で伺う。
すっかり使い慣れたエコーロケーションを使い、敷地に入ったところで2人の人間が武器を持って立っている事を探りあてる。
丁度よく並んで立っているようなので、迷いなく風の刃を飛ばして喉を掻き切った。
「一二三様から与えられた命令を邪魔する者には死んでもらいます」
素早く敷地へ踏み込み、二人だけ見張りに残したオリガたちは、こちらも頑丈そうな扉で、外から閂をかけられた建物を見つける。
「これはどういうことでしょうか?」
オリガの疑問に、フォカロル兵の一人が呟いた。
「外からってことは、中に誰かを閉じ込めてるってことですかね? あるいは倉庫だから外からしか塞げないようになってるとか」
「確かめなければなりませんね。倉庫なら目的の物があるかもしれません」
慎重に閂を外し、扉の正面には立たないようにしてそっと開く。
中からは複数の唸り声が聞こえてきた。
「......魔物?」
誰かがつぶやいたが、答えは見なければわからない。
ためらう事なく中を覗き込んだオリガは、目の前に広がる光景に一瞬ビクッと肩を震わせた。
「......オリガさん?」
「中に入りましょう。ここは牢獄のようです」
さっと屋内へ入ったオリガに、牢獄ならば用はないのでは、と兵たちは思ったが、反論するのも怖いので後に続く。
「うわっ!」
建物の中は仕切りのないワンフロアになっていて、壁にはズラリと鎖につながれた人間が並べられていた。
その誰もが、理性を失った目をして涎を垂らし、歯を向いて目の前の兵たちを威嚇している。手足を固定されているものの、ガシャガシャと音を立てて拘束から逃れようとする様は、猛獣が暴れているのと変わらない。
全員が全裸で、胸には特徴的な魔法具が取り付けられている。
「これは、魔法具で凶暴化した人間ですね」
こうなった人間に、オリガは見覚えがあった。
「では......」
「他の建物に魔法具があるのでしょう。ここは実験に使われた者を捉えておく場所のようですね」
冷静に考察しているオリガに対して、兵士たちはこれが元人間なのかと青ざめた顔で実験体たちを見ていた。
ふと、オリガはいくつかの空きの鎖がある事に気づいた。
近づいて見てみると、腕輪の部分にはまだ湿っている人の血液が付着している。
「数名がどこかへ連れて行かれたようですが......」
オリガは思考に没頭し、暴れまわる実験体を移動させる方法についてぐるぐると回る。
ふと何かに思い至ったオリガは、腕に固定した魔法の短剣を一人の実験体に向けて詠唱を始めた。
数秒後、バケツ一杯分の水が実験体の顔を覆う。
一層激しく暴れるものの、一分と持たずにぐったりと拘束具にぶら下がった。
水を消し、実験体の様子を見るオリガの目には冷徹さが光り、辛うじて死んでいないことを確認する。
「なるほど。窒息はするわけですね」
すっかり怯えているフォカロル兵に向き直ったオリガは、爽やかな微笑みに乗せて指示を出した。
「彼ら実験体も利用しましょう。一二三様のために」
フォカロル兵たちは頷く他に選択肢は無い。
「王よ、城へ賊が侵入いたしました」
ユーグと巨大な剣を装備させた強化兵を連れたヴェルドレは、謁見の間で玉座に座る王を仰いだ。
ヴェルドレの言葉に、謁見に立ち会った貴族や兵たちに動揺が広がるが、王が手を上げて制した。
「......それで、警備を任せていたはずのお前がなぜここにいる。そして、お前の後ろに並ぶ化け物どもは何なのだ」
王の言葉に、ヴェルドレは笑みを隠そうともしない。
「私の自慢の魔法具を使った強化兵どもです。これ一体で一般の兵10人分、いや、20人分に匹敵する戦力となりましょう」
「ならば、なぜここに連れてきた。城の防衛に使うのが筋であろう」
「フフフ......」
「何がおかしい」
白い歯を見せて、不敵に笑うヴェルドレに、王は不快感を隠そうともしない。
「まだわかりませんか。すっかり老いて耄碌してしまったようですね......」
「ヴェルドレ様、それはあまりに......」
「黙れ」
一人の貴族がヴェルドレを諌めようとするが、ひと睨みされて黙ってしまった。
「今からここで王位を退いていただきます。そして私が新たな王となり、この危機を乗り越えて見せましょう」
ヴェルドレが言うや否や、ユーグの指示で出入り口近くにいた一般の兵がドアの前に立ちふさがり、尚且つ取っ手に棒を差込んだ。
「......血迷ったか」
「とんでもない。多くの者が現王の在位が長すぎて倦んでいるのです。私はその声に応え、ホーラントをより良くしようとしているだけです」
「あくまでも、私欲では無いと言い張るか」
良かろう、と王が立ち上がったのを見て、ヴェルドレはすんなりと退くかと期待したが、王が発した言葉は正反対だった。
「兵たちよ、ヴェルドレを捕らえよ。こやつは反逆者である」
落胆して首を振るヴェルドレに、室内にいた護衛兵たちがジリジリと近寄ろうとするが、その前に強化兵たちが立ちふさがる。
正気ではないとひと目でわかる顔を見て、一瞬護衛兵たちがひるんだ瞬間、大きな音を立てて振り回された大剣にまとめて薙ぎ払われた。
「ついでに、邪魔になる目撃者も消してしまいましょう」
ユーグが命じると、護衛兵を皆殺しにした強化兵たちは、大剣を振り回して室内の貴族や文官に襲いかかった。
狭い室内を逃げ惑うものの、さほど時間もかからずに死体が量産されていく。
技術も何もない、ただ剣を棒切れのように振り回す姿は、ヴェルドレには爽快に見えて愉悦に口の端を釣り上げていたが、王は渋い顔で目の前の惨状を眺めていた。
(この国も終わったか......)
いずれ自分も惨たらしく殺されるであろう事を考えながら、どこで教育を間違えたのか、と溜息をつき、何十年と座り続けてきた玉座へと腰を下ろした。
思えば、若い頃に王位に就いた当初は実績を作らねばと必死になっていたものだ、と王は何故か冷静に考えていた。若いうちは直接的な発想しかできず、実績といえば戦果だと考え、今にしてみれば無茶な戦いもしたことがあった。
結果として国の財産は減り、今でも民に多くの負担を強いる国になっている。
自分が王として正しかったかどうかはわからないが、最期が裏切りによるものだというあたり、どこかで大きな間違いを犯していたのだろう。
気づけば、貴族たちも文官たちも全員がまるで魔物に食い荒らされたかのような死体をさらしていた。
血の匂いが立ち込めるなか、ヴェルドレがえづいているのが見える。
ポツリと呟いた王に、まだ回復しないヴェルドレに代わり、ユーグがハンカチを口に当てて近づいた。
「王よ。お覚悟を」
ユーグの言葉に答えず、ただじっとヴェルドレの姿を見ていると、塞がれていたはずの扉が激しい音を立てて弾け飛んだ。開閉方向と反対に無理やり破られたドアが、金具を飛ばしながら謁見の間にいたヴェルドレに命中し、あっさりと気を失った。
「あ、これ外開きか」
そんな事を言いながら入ってきたのは、全身を返り血で赤く染め、右手に刀、左手に小太刀を掴んだ一二三だった。
道着は乱れ、大きく胸をはだけているものの、これといった怪我はしていない。
「おっ、こいつらはあの魔法具を使われた奴らだな。よしよし、多少はマシになったか試してやろう」
城の兵士も大したことなかったからな、と一二三は不満をこぼし、次の標的に狙いを定めた。 | The one-armed soldier, discovering the entrance to the capital city, was only slightly relieved after running for around minutes.
Spotting the man, dashing along the highway with a frantic look, the guards of Adolamelk were flustered.
“S-Stop! Stop!” (Guard)
“Help me! I’m being chased by an enemy!” (Soldier)
Crying while clinging to the guard, the soldier obviously wore the uniform of regular soldiers from Horant. The guards immediately tried to lead him to the guardroom.
However, the soldier with the one arm exclaims this to be out of the question.
“Those guys, who came from Orsongrande, will soon be here! I have to contact Yugu-sama at the castle at once!” (Soldier)
A single soldier, with a ghastly facial expression, hurried towards the castle.
The moment the one-armed soldier became relieved that he was at least able to pass on the message, he heard the voice from his back he didn’t want to hear the most.
“Thanks for your hard work. Aren’t you splendidly fast at running?” (Hifumi)
As the soldier timidly turned his head around in a motion similar to a robot with no oil in its joints, he saw the figure of the laughing and smiling Hifumi approaching from his back.
During the time he was unable to stand up due to fear, the surrounding scenery enters his field of vision.
On both sides of Hifumi the guards lay in their own blood. While the pools of blood are gradually spreading, the guards aren’t even twitching anymore.
“I guess it isn’t that easy to run away. Although you have been so close to it.” (Hifumi)
As he swung the katana he held in his hands, blood was scattered on the ground with a sound of splatting.
“Uwa...” (Soldier)
His voice of surprise was interrupted by the cutting of his throat.
“Well then, it’s fine if I go to the castle next... oh!” (Hifumi)
When he confirmed the spires of the castle visible from the gate, he saw around magicians heading towards his location from the direction of the castle.
“This time it’s a magician-only unit, huh?” (Hifumi)
While saying this, Hifumi had already started dashing towards them.
Noticing their target approaching itself, the magicians are chanting in a hurry. They barely managed to finish with the casting of the spells before they have entered Hifumi’s attack range. Mixing fire and wind, they become fireballs clad in gathered wind blades. The fireballs approach Hifumi while emitting high temperature.
Hifumi laughs daringly without even easing up on his running speed at all.
At the last moment, just when the fireballs were looming right in front of him, Hifumi lowered his body with a jerk and passed under the hot and blazing fireballs.
Merely a few strains of his hair were burned and the same amount was cut off by wind blades.
Even so, without changing his expression, Hifumi, taking a large step, ran through the space between the magicians.
In an instant, as he swung his drawn katana mercilessly, he reaped four heads.
The magicians, who opened their eyes in shock, hesitated for a moment as their comrade’s heads fell off like rain.
And even during that time, being completely unable to do anything at short-range, the remaining magicians turned one-by-one into rust on the blade of the katana.
“Alright, next is the castle.” (Hifumi)
As he lowers the drawn katana, Hifumi runs in order to start his one-man castle siege.
☺☻☺
Currently fully armoured soldiers are standing in front of Yugu.
This is the room for the soldiers on standby within the castle.
All of the soldiers, lining up, are looking in a different direction. Their yellow, dirty sets of teeth, which had spaces in-between, where you didn’t know just how many teeth there were left, are visible through the partly opened mouths.
They are the soldiers, who were enhanced against their will using them as experimental bodies for the magic tools and magic potions under the leadership of Veldore.
Most of the experimental bodies ended up “broken”, but somehow bodies, which could be adjusted to listen to orders, have been gathered.
“I see. It would seem they’re already within the castle. If it’s this many, it will likely be enough to deal with them.” (Yugu)
An enhanced soldier possesses a strength that can fight against around soldiers. They have been clad in a heavy, metal armour, which had such a weight that a normal person wouldn’t be able to move if they put it on.
If the plan proceeded smoothly, their number should be plenty.
“For the time being, don’t die until it reaches a conclusion once the king is seized.” (Yugu)
The contents of Yugu’s suggestion to Veldore was the simple idea to let the enemies invade on purpose and have them killed alongside the king.
Even if the invaders don’t reach the king, with just the fact that enemies invaded the castle, we will be able to handle it in some way
At that moment, a soldier under Yugu rushed into the room.
“Yugu-sama! The enemy is breaking though the castle gate!” (Soldier)
“... Quite fast, aren’t they?” (Yugu)
Going by Yugu’s estimation, they would come into contact with the enemy at earliest today evening. Though he predicted that it would likely be during the day tomorrow.
Currently there are also many unrelated parties besides the prince faction, created by Yugu, remaining. It’s very probable that they would see the enhanced soldiers.
“There’s no other way. While dealing with the general mobilisation of the currently available magicians, have the servants and the nobles, including the folks of our faction as well, exit from the back under the name of evacuation.” (Yugu)
When hearing the announcement that the enhanced soldiers would move once a fixed period of time passed, the soldier, who came as messenger, leaves the room to execute the command.
“Well, if they were to be seen, we will have the witnesses disappear during the battle.” (Yugu)
For the sake of telling Veldore the state of affairs, Yugu also left the room while the enhanced soldiers remained there on standby.
There was something Yugu hadn’t confirmed and the messenger didn’t tell him either.
It’s that there’s only one intruder and that this intruder had annihilated the city’s soldiers all by himself.
And, that the location of the remaining enemies, who should originally be around 10, was unknown. Veldore’s and Yugu’s aim greatly derailed.
☺☻☺
Once it reached the point that screams from the direction of the castle were audible, the citizens of Adolamelk ended up completely frightened. The fleeing people and the people headed for their homes showed a look of confusion as Hifumi passed them headed in the opposite direction.
There are many citizens in the capital with most of them showing a gloomy expression. Compared to other cities, there are likely especially many wealthy people. Those, who had gathered large family fortunes, can even be seen moving while being protected by guards.
The situation of the coming and going carriages and wagons evolved into a serious congestion on the streets, but that made it rather easy for Origa’s group to move without standing out.
“Now then, going by the information obtained by Hifumi-sama, the research institute should be right next to the royal castle. Let’s hurry.” (Origa)
The Fokalore territorial soldiers desperately chased after Origa, who was advancing with visibly wild excitement due to the having been entrusted a great task by Hifumi, while pulling the wagons.
As they approached the royal castle, the number of people became sparse. At the time they finally arrived in front of the research institute, no one could be found in the vicinity.
From the direction of the castle, where Hifumi apparently raged to his heart’s content, screams were still occasionally audible.
Even the guards, who were expected to be here, are nowhere to be found.
Although the wooden gate, that leads onto the grounds, was closed, it easily opened after being pushed lightly.
Origa checked out the interior with wind magic through a slight gap of the opened door.
Having completely gotten accustomed to use echolocation, she located the two people, within the grounds holding weapons, with her probing.
Given that they were lined up in just the right way, she slit their throats by deploying wind blades without the slightest hint of hesitation.
“I will have the people, who are a hindrance to the orders I received from Hifumi-sama, die.” (Origa)
Quickly stepping into the grounds, Origa’s group, who left the only two lookouts behind, discovered a building with sturdy-looking gate that was secured by a bolt from the outside.
“What’s this about?” (Origa)
One of the soldier from Fokalore murmured due to Origa’s question,
“The circumstances that it is secured from the outside means that someone has been locked up inside? Or it has been only closed from the outside as it is a storehouse?” (Soldier)
“We won’t know unless we make sure, right? If it’s a storehouse, it’s possible that we might find our objective there.” (Origa)
Cautiously unfastening the bolt, she quietly opens the door making sure to not stand in front of it.
Multiple groans are audible from within.
“... Monsters?”
As someone muttered that, they wouldn’t know the answer without examining the interior.
Origa, peering inside at once, shook her shoulders with a start for an instant due to the scene spreading in front of her eyes.
“... Origa-san?” (Soldier)
“Let’s go inside. This place appears to be a prison.” (Origa)
The soldiers thought they had no business here if it was a prison, but due to Origa entering inside quickly, they followed after here since they were also too scared to object.
“Uwaa!” (Soldier)
The interior of the building consisted of a single floor with no partitions. Rows of people were tied to the walls with chains.
All of them, drooling with eyes having lost any kind of reasoning, are threatening the soldiers in front of them with their teeth. Although their limbs have been fixed by the chains, they are trying to escape from their constraints while making clattering sounds, being no different from struggling, wild beasts.
Each of them, being nude, has the characteristic magic tool embedded within their chest.
“These are the people who turned ferocious through the magic tools, aren’t they?” (Origa)
Origa remembered people who became like this.
“Then...” (Soldier)
“The magic tools are probably in another building. This place seems to be the location where the people, who were used as experiments, are imprisoned.” (Origa)
In contrast to Origa, who calmly studied them, the soldiers looked at the experimental bodies with pale faces wondering whether those have originally been humans.
Suddenly Origa noticed that some of the chains were opened.
Once taking a closer look, the bracelet parts were still damp with blood of people clinging to them.
“It looks like several were taken somewhere, but...” (Origa)
Origa, immersing herself in her consideration, passes time with her thoughts going in circles on how to move the violently struggling experimental bodies.
Abruptly hitting upon something, Origa began to cast a spell, targeting one of the experimental bodies with the arm where her magic dagger was affixed.
After several seconds the experimental body’s face is covered with a bucket-load of water.
Although it struggled even more vigorously at the beginning, it completely hung limply in the chains after less than a minute.
Getting rid of the water, the eyes of Origa, looking at the state of the experimental body, shine with cool-headedness as they confirm that it is barely alive.
“I see. It’s because it had been suffocating.” (Origa)
Origa, turning around to the totally frightened soldiers from Fokalore, gave them orders with a refreshing smile.
“Let’s use those experimental bodies as well. For the sake of Hifumi-sama.” (Origa)
The Fokalore soldier had no other choice but to nod.
“My king, an enemy has invaded the castle.” (Veldore)
Veldore, leading Yugu and an enhanced soldier equipped with a huge sword, looked up to the king sitting on the throne in the audience hall.
Commotion spread among the nobles and soldiers present at the audience due to Veldore’s words, but the king controlled them by raising his hand.
“... So? Why are you, who should leave this matter to the guards, here? And, what’s that monster standing behind you?” (Suprangel)
Veldore isn’t even able to conceal his smile due to the king’s words.
“This is my prided, magic-tool-using, enhanced soldier. This one unit has a strength rivalling that of 10, no, 20 ordinary soldiers.” (Veldore)
“If that’s the case, why did you bring it to this place? It’s probably more reasonable to use it for the defence of the castle.” (Suprangel)
“Fufufu...” (Veldore)
“What’s so funny?” (Suprangel)
The king can’t hide his discomfort caused by Veldore boldly laughing while showing his white teeth.
“You still don’t understand? It looks like you’ve grown old and senile...” (Veldore)
“Veldore-sama, this is too much...” (Noble)
“Shut up.” (Veldore)
One of the nobles tries to remonstrate Veldore, however he ended up being silenced quickly.
“I will have you abdicate the throne from here on out. And, becoming the new king, I will show you how to deal with this crisis.” (Veldore)
No sooner than Veldore saying this, an ordinary soldier, who stood close to the exit, inserted a stick into the door’s handle upon Yugu’s order.
“... You lost your mind, huh?” (Suprangel)
“Not at all! Many people have become tired of the far too long reign of the present king. Answering those voices, I’m only trying to improve Horant.” (Veldore)
“Are you insisting to the last that it isn’t out of selfish desire?” (Suprangel)
Seeing the king rising with a “Very well”, Veldore expected the king to resign without resistance, but the next words of the king were the exact opposite.
“Soldiers, arrest Veldore! This person is a rebel!” (Suprangel)
As Veldore shakes his head in disappointment, the royal guards within the room approach him slowly, however the enhanced soldier has positioned itself in their way.
The instant the royal guards flinched, seeing its face and understanding with a glance that it isn’t sane, they were mowed down all at once as it brandished the large sword.
“While you are at it, get rid of the bothersome witnesses as well.” (Yugu)
Upon Yugu’s command the enhanced soldier, who had massacred the royal guards, attacked the nobles and civil officials inside the room wielding its large sword.
Although they try to run away within the confined room, a pile of corpses is produced without even much time passing.
The figure, swinging its sword just like a stick without any kind of technique, made Veldore lift the corners of his mouth in visible exhilaration and joy, but the king gazed at the terrible spectacle in front of his eyes with a grim face.
(This country is finished as well, huh... ?)
While thinking about the matter of him also getting gruesomely killed eventually, he sighed wondering where he went wrong in Veldore’s education. He sat down on the throne he had been continuously sitting on for several dozen years.
Unable to think of anything but going straight ahead during my youth I considered military gains as long as it brought achievements. If I consider this now, it even caused unreasonable wars.
As a result of that, the country’s assets decreased. Even now the people are forcibly burdened with a lot by the country.
I don’t know whether I had been correct as king, but I can tell that if it’s someone nearby betraying me in the end, I likely committed large mistakes in some respects.
Once he realised this, everyone, the nobles as well as the civil officials, turned into corpses that completely looked as if they had been devoured by a monster.
Within the enveloping stench of blood, Veldore looks as if feeling sick.magic
As the king muttered that single word, Yugu drew close, holding a handkerchief against his mouth in exchange for Veldore, who still hadn’t recovered yet.
“My king. Get ready.” (Yugu)
As he was just fixedly looking at Veldore’s figure, without replying to Yugu, the door, which should have been blocked, burst open with a fierce sound. As the door was forcibly smashed to the extent that the opening and shutting direction being reversed, the metal fixtures were sent flying and hit Veldore in the audience hall making him easily black out.
“Ah, this is opened the other way?” (Hifumi)
Entering while saying such a thing, being entirely dyed in red from spurts of blood and holding the katana in his right hand and the kodachi in his left was Hifumi.
Although his dougi is disarranged with his chest being exposed, he has no mentionable injuries.
“Oh, this guy is one of those fellows using that magic tool. How nice, let me see whether he became somewhat better.” (Hifumi)
Expressing his displeasure since the castle’s soldiers weren’t anything significant, he decided the next target to aim at. |
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} | コロコロと転がっていくシクを一瞥することも無く、鎖鎌を持ったは再び進み始めた。
その足取りはゆっくりだが力強く、何者にも止められない圧力を発している。
「闇魔法だと......」
「狼狽えるな! 弓と魔法で畳み掛けろ!」
声がかかったと同時に、石や風の刃に加え、圧縮された水流までもが一二三を狙う。
「おおっと。こいつは激しいな」
軽いステップを踏むように、一二三は飛んでくる魔法を避けていく。
10名程が半円状に囲むように立っている中、鎖鎌を振り回しながら右へ左へと動く一二三に、エルフたちは苛立ちを隠せない。
「周りとタイミングを合わせろ!」
「遅い!」
一二三が放ったのは、分銅の方ではなく鎌の方だ。
「ぎゃっ!」
一人のエルフの首筋、鎖骨に引っかかるように鎌がざっくりと刺さる。
驚愕に目を見開いたエルフは、引き抜く間も無く一二三の方に引き寄せられた。
軽い掛け声で、鎌を抜きつつ首を切り裂く。
手足をばたつかせたエルフは、風魔法に対する盾にされて全身をズタズタにされて絶命する。
くたり、と力を失った身体を、一二三は一人のエルフに向かって投げつけた。
「うわっ?」
騒ぐエルフに突っ込む一二三に、今度は矢も含めて魔法が次々に飛んで来る。
隙間なく打ち出される弓と魔法を正面から迎え撃った一二三は、流石に全てを避ける事はできず、腕や頬に少しずつ切り傷が増えていく。
だが、一二三は笑っている。
「そうだ、そうだそうだ! 必死で抗え! 俺の命を狙え! 自分の命を守るために! 誰かの命を守るために!」
ザッ! と砂を撒き散らして滑り込むように一人のエルフに肉薄し、分銅を握り締めた拳で思い切り顔面を殴りつける。
振り向きざまに握った分銅を投げつけ、もう一人の顔も潰した。
「ふふっ......ふふふふ......」
頬に指を滑らせ、指先に絡みつく熱い血を感じる。
「死ぬ事を想像しろ。それでこそ生きている実感が味わえる。最も......」
鎖鎌を収納し、一二三は腰の刀を抜く。
僅かに顔を覗かせた太陽の光が、木々の隙間からほんのりと刀を照らした。
「死ぬことから目をそらした時点で、お前らはろくな死に方はしないだろうな」
自分とエルフの血に両腕を肘まで染めながら呵呵と笑う一二三に、エルフたちは魔法を放つことも忘れて戦慄した。
「おや?」
残ったエルフたちに、一二三が切っ先を向けた。
「諦めて死を受け入れることにしたのか? 木偶を斬ってもつまらんのだがな」
ピリピリと痛みが走る傷の感触を愉しみながら、刀を左肩に背負うように構える。
「ふざけるな!」
残ったエルフは7人。充分に圧倒できると判断したエルフが叫んだ。
再び、魔法の一斉射撃が行われる。
人間たちが使っていた魔法よりも遥かに早い発動と弾速は、一二三にとっても見切れはしても全ては躱すことができない。
姿勢を低くして、滑るように前に出る一二三は、肩を切られ、石を腹に受けながらも、速度を落とす事は無い。
「ぎゃぁっ!」
走り抜けた勢いそのままに、指示を出していたエルフを袈裟懸けに両断する。
短い悲鳴を上げ、エルフは二つに別れた身体を地面に落とした。
見た目には既に満身創痍だが、その顔は晴れ晴れとしている。
「あの人間、不死身か......」
誰かが呟いた言葉に、一二三は口を尖らせた。
「失礼な。不死身なんてつまらないだろう。死ぬかもしれないから、戦いは心を震わせるんだ」
柄頭を左の腰に当てるように構えた一二三は、一足飛びに次のエルフへ近づき、撃ち出すような勢いの突きで殺す。
刀を引き抜き、別のエルフが土魔法で無数の礫を打ち出して来るのを背中で受けながら近づき、振り向きざまに首を刎ねた。
刀を振り、血を払う。
「他の魔法は無いのか? もっと見せてくれ」
「くっ......この!」
一人のエルフが放ったのは、炎の矢だった。
「お前!?」
他のエルフが驚いたのを、一二三は視界の端に捉えた。
森の中で生活しているということもあり、火魔法はほとんど使われない、というより、使えないのだろう。
「それでいい」
敢えて火の矢をギリギリで避ける。
右脇を灼熱の火が焦がし、道着が黒く焼ける。
「必死で生きた。そんな実感がするだろう?」
一二三が突き出した刀は、エルフの胸を貫き、背中から切っ先が顔を出している。
かすれた声に血が混じり、倒れた拍子に刀が抜ける。
切っ先から滴る血が、地面に落ちる。
「あと3人」
その呟きは小さい。だが、全員の耳に死刑宣告として正しく聞こえていた。
☺☻☺
一二三襲撃の前に、動きがあったのは指導者ザンガーの家だった。
「邪魔するぞ」
夜明け前、一言だけ形ばかりの断りを入れて踏み込んで来たのは、村の男衆をまとめるラボラスという男だった。
エルフというイメージとはかけ離れた、背が高く筋肉質で、ナイフの扱いが得意な大男だが、見た目に反して魔法も得意だった。
「なんだいラボラス。突然だねぇ」
「突然なのはどっちだ」
勝手知ったるという雰囲気で、囲炉裏を挟んだザンガーの向かいに座ったラボラスは、全身から剣呑な空気を漂わせていた。
「人間を、この村に入れたと聞いたが」
「ああ、入れたね。というより、来てもらったと言ったほうがいいかもねぇ」
「......なぜ、そんなことをしたのか、聞かせてもらおう」
「個人的なことだよ」
火が弱まった囲炉裏に、ザンガーは小枝を放り込む。
「あんたにゃ、関係ないことさ」
「人間が必要な事とはなんだ? しかも、村の空家を貸してまで泊める必要がある事とは?」
次第にラボラスの声が低くなっていく。
「......何をそんなに必死になっているんだい」
「俺は、な」
ラボラスは、自分の膝を掴んでいる指に力を込めた。
「指導者としてのあんたは尊敬しているつもりだ。村人を良くまとめていると思うし、あんたの言葉なら、と聞く奴も多い。だが......」
言葉を切ったラボラスが右手を上げると、外から二人の男性エルフに両腕を掴まれたプーセが入って来た。
「掟を破ったというなら、それを許すつもりはない」
たれたようで、左の頬を腫らし、両目からポロポロと涙を流していた。両腕を掴まれているのは、魔法で癒さないようにするためだ。
「プーセ......! あんた、同胞に手を出すなんて、何を考えているんだい!」
「掟を破る者を、同胞とは呼ばない」
男たちが手を離すと、プーセはヨロヨロと歩きながら崩れ落ち、ザンガーの横で膝をついた。
「プーセ、大丈夫かい?」
「も、申し訳ありません、ザンガー様......」
何を謝ることがあるのか、と思うザンガーに、ラボラスが怒りを滲ませた声を上げた。
「プーセと共に人間を迎えに出た者たちが、死体で見つかった」
ラボラスは、目を覚ましたシクから状況を聞いて、荒野側の結界の近くを捜索したという。そこで、動物に食い荒らされた同胞の死体を発見した。
「それは、あたしの指示を無視して、手荒な扱いをしようとした結果だろうに。残念だとは思うけれど、それが掟に反したとは言えないんじゃないかねぇ」
「相手が、人間で無ければな」
目を見開いたラボラスは、ザンガーを睨めつけた。
「問題はそれだけでは無い」
ラボラスは状況を知る人物としてプーセを呼びつけ、事情を話させる事にした。そこで、ラボラスはプーセに聞いたという。
「シクが朧気に話し声を聞いていた。掟を破り、死にゆく同胞に話しかけ、あろうことか穏やかな死を迎える前に殺したというではないか! 俺はその話を聞くためにプーセを呼んだのだがな」
そのことについて、怯えて口を割らないプーセを殴りつけ、ラボラスは無理やり聞き出した。
「......指導者ザンガーよ。あんたが呼び寄せた人間が、同胞を殺し、この村の重要な掟すら傷つけた。これでも、“個人的な事”で済ませられると、本当にそう思うか?」
ラボラスは、口を引き結んだザンガーから視線を外し、泣き崩れているプーセを睨みつけた。
「少なくとも、同胞の死を汚した罪はプーセにもある。こいつは村の掟に従って、森へ追放するべきだろう」
「......たまたま、人間がやった事に居合わせただけだろうに。それはあんまりじゃないかね」
プーセの背中を右手でさすりながら、ザンガーは擁護の言葉を並べた。
だが、そのどれもがラボラスを納得させることはできなかった。
「残念だが、俺はあんたの言葉を聞く気は無い。明日の朝には村人たちに事態を説明し、あんたを指導者から外すことになるだろう。......人間の死体を見せて村人を安心させ、プーセを追放して掟の厳しさを示すことも必要だろう」
「あんた、あの人間を殺すつもりかね」
「当然だ。あれは異物であり、災厄だ。さっさと処分する以外に無い」
「できるかね」
「俺の下で動いている者たちも、掟の重要さをしっかり理解している。そのために、人間を始末することも納得している」
言葉に自信を滲ませたラボラスだが、ザンガーの返答は皮肉な笑みだった。
「そういう意味じゃあないよ。村の男どもで、あの人間に勝てるのか、と言っているのさ」
「俺たちが、人間一人に遅れを取るというのか?」
「遅れを取ったから、迎えに行った連中は死んだんだろうよ」
しばらく、沈黙が室内を包んでいたが、ラボラスがやおら立ち上がった。
「とにかく、朝には村人の総意としてあんたの解任とプーセの追放を行う。それまで、二人ともこの家から出ることを許さん」
プーセを連れてきた二人の男を見張りとして残し、ラボラスは出ていった。
「......相変わらず、口で負けるとすぐ逃げるね、あいつは」
「ザンガー様......」
「ほら、涙をお拭き。あんたは可愛い顔をしているんだから、そんなふうに涙でくちゃくちゃにしていたら、勿体無いじゃないか」
傍らに積んでいた布を一枚掴むと、プーセの顔をそっと拭う。
「あたしは今更、指導者なんて地位に興味は無いんだけれどねぇ。プーセや、あの人間に、とんだとばっちりが行ってしまったね......」
本当にごめんね、とザンガーはまだ動かせる右手で、そっとプーセを撫でた。
ザンガーの家の前で聞き耳を立てていたシクは、プーセが追放されると知り、慌てて助けを求めようと一二三の所へ走ったのだ。
自分がラボラスへ話したせいなのだが、まさかプーセが責めを負うとまでは考えが回らなかった。村の誰に話しても、掟を破ったとラボラスが言えば、プーセが許されることはないだろう。
あれほどの強さを持った人間なら、プーセを救い出してどこか安全な場所まで連れて行ってくれるかもしれない、と考えたのだ。
あの恐ろしい人間に会うのは怖かったし、同胞を殺したときの笑顔を思い出すと膝が震えるのを抑えられないが、他に良い方法が思いつかなかった。自分だけでは、番として残った男たちに勝てるとも思えない。
そうして、助けを求めたシクと、ラボラスが放った刺客がほぼ同時に一二三が止まっている小屋に着いたのだ。
そして今、再び気を失う羽目になったシクがようやく目を覚ました。
「......あれ?」
ぼんやりと見えてきた視界は、天地が逆さまだ。
「あう、いたたた......」
逆さまになった状態で木の幹にぶつかって気絶していたらしい。
もぞもぞと身体をひねって、ようやく座った体勢に戻ったシクは、自分が気を失う前の状況を思い出した。
「あ、あの人間は......っ!?」
目の前には完全に潰れた空家があり、その向こうにはいくつもの死体が転がっている。
「うぅぶっ......うぇええ......」
身体が二つに別れた死体からはみ出たものを直視してしまったシクは、胃が空になるまで吐いた。
気を取り直して、死体を見ないように一二三の姿を探したが、まさにその死体に囲まれて、しゃがみこんで何かをやっている後ろ姿が見えた。
綺麗な紺色だった奇妙は衣服はあちこちに穴が空き、何か赤黒いシミで染められていた。
「な、何やってるの?」
意を決して近づいたシクは、一二三が握っているのが誰かの腕だけだと気づいて、白い顔を青くする。
「......お前らエルフが樹木と同化する理由な。やっぱりこれだ」
死体の指先を二つに切り割った一二三は、その断面に指を這わせてから、シクの目の前に突きつけた。
一二三の指先に、白く粘つく何かが張り付いている。
「なに、これ......」
「知らん。何人かを割って調べてみてわかったのは、足や手の指先から少しずつ溜まっていくということだけだ」
一二三は、ここまでの解剖で仮説を立てたが、ほぼ間違いないと確信した。
「食い物なり飲み物なり、あるいはこの森に漂う空気の中の何かが、体内に溜まって変質を促すのだろうな。死にかけの方は首まで粘液が来ていたから、手足からで身体に溜まり、最期は頭の中まで入る。いや、溜まる」
末端から変質し、頭部が最後に侵食されるため、意識がはっきりしたまま身体が変質していくのだ。まるで恐怖を与えるためにそうしているかのような悪質さである。
「じゃ、じゃあ、森で樹木と同化した人って......」
「身体の機能がじわじわ止まって死ぬんだ。相当苦しいだろうな」
「そんな......」
良いことだと信じきっていた風習が、180度違ったと肩を落としたシクは、ようやくプーセとザンガーの事を思い出した。
がばっと顔を上げたシクは、一二三に向かって叫んだ。
「助けて! このままじゃプーセ姉ちゃんが追放されちゃう!」
死体を触っていた両手を懐紙でゴシゴシと拭った一二三は、両手両足を失った死体を掴み、潰れた家の方へ放り捨てた。
「別に興味ないな」
一二三はあっさりと、シクからの涙の願いを断った。 | Without a single glance at Shiku who’s rolling on the ground, Hifumi who held the kusarigama, began to advance again.
His stride is slow but powerful releasing a pressure of it being unstoppable by anyone.
“If it is Darkness magic...”
“Don’t falter! Shower him with spells and arrows!”
At the same time as the voice resounded, stones, wind blades and even compressed water currents are aimed at Hifumi.
“Uuh-oh. Those are intense.” (Hifumi)
Hifumi avoids the spells, which come flying, as if performing a light dance.
The elves can’t conceal their irritation due to Hifumi moving left and right and brandishing his kusarigama while being surrounded by of them in a semicircle.
“Match your timings with your companions!”
“Too slow!” (Hifumi)
What Hifumi threw wasn’t the counterweight but the sickle part.
“Gyaa!”
The sickle deeply pierces into the nape of an elf’s neck getting only stopped by the collarbone.
The elf, who widely opened his eyes in shock, without time to pull it out, was dragged towards Hifumi.
While pulling out the sickle with a light yell of encouragement, he tears the neck.
The elf whose limbs were flapping about, dies having his entire body shredded by wind magic while getting used as shield.
Hifumi threw the body, which lost its strength, at another elf.
“Uwaah?”
Next, spells with arrows mixed in-between come flying at Hifumi who plunges towards the clamouring elves.
Hifumi who was directly assaulted by spells and arrows being hammered out without a single break, is naturally unable to dodge all of them. The cuts on his cheeks and arms are slowly increasing.
However, Hifumi is laughing.
“Yes, that’s right, good! Resist me desperately! Aim for my life! For the sake of protecting your own lives! For the sake of protecting someone else’s life!” (Hifumi)
Closing in upon a single elf as if sliding upon scattered sand with a *thud*, he drives his fist which tightly grasped the counterweight, into the elf’s face with all his power.
Throwing the grasped counterweight over his shoulders, he crushed the face of another elf as well.
“Fufu... fufufufu...” (Hifumi)
Wiping his cheek with a finger, he feels hot blood wetting his fingertip.
“Imagine the instance of your deaths and you will be definitely able to savour the actual feeling of being alive. To begin with...” (Hifumi)
Storing away the kusarigama, Hifumi draws the katana at his waist.
The light of the sun slightly peeked through the gaps between the trees and faintly shone onto the katana.
“At the time you avert your eyes from death, you guys likely won’t die in a decent way.” (Hifumi)
Due to Hifumi laughing while dyeing the elbows of both his arms with the blood of the elves and himself, the elves shuddered to the degree of even forgetting to release their spells.
“Oh?” (Hifumi)
Hifumi turned the point of his katana towards the remaining elves.
“Did you decide to surrender and accept your own deaths? Killing wooden dolls is boring as well though.” (Hifumi)
While enjoying the tingling feeling originating from the pain of his wounds, he takes a stance with the katana being carried on his left shoulder.
“Don’t screw around!”
There are elves remaining. An elf who concluded that it was plenty to overwhelm him, shouted.
Once again a volley of spells is fired.
Even for Hifumi it’s impossible to avoid all the fast bullets which are invoked far quicker than any spell used by humans, and thus he gives up on that.
Lowering his stance, Hifumi who moves forward as if sliding, doesn’t decrease his speed even while getting struck in the stomach by stones and cut at the shoulders.
“Giyaaa!”
Using the momentum of running through, he bisects the elf who gave directions, with a slash diagonally from the shoulder.
With a short scream the elf’s body split in two parts and dropped to the ground.
He’s already covered in wounds all over, but his expression is cheerful.
“Is that human... invincible...?”
Hifumi pouted due to the words muttered by someone.
“How rude. I will be at a loss with something like invincibility. Battles make my heart tremble since I might die.” (Hifumi)
Hifumi who took a stance of holding the pommel against the left side of his hips, approaches the next elf in one bound and kills them with the force of a thrust similar to shooting it out.
Pulling out the katana, he closed in on another elf while receiving a barrage of countless pebbles, made with Earth magic, with his back and chopped off the elf’s head while turning around.
Swinging the katana, he clears away the blood on it.
“Don’t you have any other magic? Please show me some more.” (Hifumi)
“Kuu... This!”
What one of the elves released was a fire arrow.
“You!?”
Hifumi perceived the other eves’ surprise in a corner of his sight.
Being people who live within the forest, they mostly don’t use fire magic, or rather, they probably can’t use it.
“That’s good.” (Hifumi)
He deliberately evades the fire arrow at the last second.
The scorching heat of the arrow chars his right side and the dougi turns black.
. It’s such a feeling, right?” (Hifumi)
The katana which Hifumi thrust out, pierces the chest of the elf and its point stabs through the elf’s back.
The elf’s hoarse voice is blended with blood. The katana slides out at the moment the elf collapsed.
The blood, which is dripping from the point, falls to the ground.
“ more to go.” (Hifumi)
His murmur is small. However, all of their ear’s have surely heard it as death sentence.
☺☻☺
Before the attack on Hifumi there was movement at the house of the leader Zanga.
“I’m going to intrude.”
The one who came entering with a brief comment as warning for form’s sake before dawn was a man called Laboras
He was quite different from the image of an elf. With a tall and muscled body build, he was a giant who’s good at handling knives, however, contrary to his appearance, he was also good at using magic.
“What is it Laboras? It’s quite sudden, you know.” (Zanga)
“Who of us is sudden?” (Laboras)
Laboras who sat down opposite of Zanga with the sunken hearth between them with an air of familiarity, emitted a dangerous aura from his entire body.
“I heard you allowed a human to enter this village.” (Laboras)
“Indeed, I did. Or rather, it might be better to say that I had him come here.” (Zanga)
“... I want you to tell me why you did such thing.” (Laboras)
“It’s something personal.” (Zanga)
Zanga throws a twig into the sunken hearth as the fire grew weak.
“It’s something that has nothing to do with you.” (Zanga)
“What do you need a human for? Moreover, is it something that requires to give him shelter to the point of lending him the village’s vacant house?” (Laboras)
Laboras’ voice gradually becomes lower.
“... What’s making you so frantic?” (Zanga)
“I’m... not.” (Laboras)
Laboras put strength into his fingers, which are grabbing his own knees.
“I intend to respect you as our leader. I believe that you are keeping the villagers together well. If it’s your words, there are many who will listen to them, too. But...” (Laboras)
Laboras, who paused, raised his right hand and two male elves who seized Puuse’s both arms, came entering from outside.
“If you broke a law, I don’t intend to forgive that.” (Laboras)
Puuse was apparently hit badly a dozen times, her left cheek was swollen and large drops of tears ran down from both her eyes. Seizing both her arms is in order to make sure that she doesn’t heal herself with magic.
“Puuse...! You, what are you thinking to raise your hand at your own brethren!?” (Zanga)
“I don’t call someone who has violated the laws, a brethren.” (Laboras)
Once released by the hands of the men, Puuse walked unsteadily and crumbled down on her knees next to Zanga.
“Puuse, are you alright?” (Zanga)
“I-I’m very sorry, Zanga-sama...” (Puuse)
As Zanga wondered what she was apologizing about, Laboras raised his voice which was blurred by his rage.
“We found the corpses of the people who left to greet the human together with Puuse.” (Laboras)
Hearing the situation from Shiku who woke up, Laboras investigated close to the barrier on the wastelands’ side. There he discovered the corpses of his brethren who were devoured by wild animals.
“That’s probably the result of them attempting to treat him violently while ignoring my instructions. I believe that to be regrettable, but isn’t that fine as you can say that they acted against the law?” (Zanga)
“If the opponent isn’t a human, that is.” (Laboras)
Laboras opened his eyes widely and glared at Zanga.
“That alone isn’t the issue.” (Laboras)
Summoning Puuse as the person who’s aware of the circumstances, Laboras had her explain the situation. What he then heard from Puuse is,
“Shiku heard vague talking voices. Breaking the law, they started a conversation with a brethren heading towards death and of all things killed him before he could welcome a gentle death! I called Puuse for the sake of asking her about that!” (Laboras)
Beating Puuse who didn’t reveal the matter in question out of fright, Laboras forcibly extracted the information out of her.
“... Leader Zanga. The human, you invited, killed our brethren and even broke an important law of this village. Do you really think that even this will be finished with ‘it’s a personal matter’?” (Laboras)
Laboras removed his gaze from Zanga who pursed her mouth, and glared at Puuse who has broken down crying.
“At least Puuse has committed the crime of having dishonoured the death of her brethren. In accordance to the laws of the village, this person should be banished into the forest.” (Laboras)
“... She likely only happened to be present at the incident caused by the human by chance. Isn’t that a bit too much?” (Zanga)
While placing her right hand on Puuse’s back, Zanga lined up words in Puuse’s defense.
However, Laboras was unable to agree to either of them.
“It’s regrettable, but I have no intention to listen to your words. Tomorrow morning I will explain the circumstances to the villagers and that will likely result in you being removed as leader. ... Soothing the villagers by showing them the human’s corpse, it will probably be also necessary to demonstrate the strictness of the laws by banishing Puuse.” (Laboras)
“You, do you plan to kill that human?” (Zanga)
“Of course. That being a foreign body, it’s a disaster. There’s nothing else left but disposing of it quickly.” (Laboras)
“I wonder, if you will be able to.” (Zanga)
“Even the people moving under my leadership understand the importance of the laws. For that reason they have also agreed to get rid of the human.” (Laboras)
As Laboras’ words revealed his confidence, Zanga answered with a sarcastic smile.
“That’s not what I mean. I’ve asked you whether you can win against that human with the village’s men.” (Zanga)
“Are you telling me that we are falling behind against a single human?” (Laboras)
“T guess the lot who went to greet him, died because they fell behind.” (Zanga)
For a short while the room was wrapped in silence, however Laboras suddenly stood up.
“Anyway, in the morning we will carry out Puuse’s banishment and your dismissal upon the consensus of the villagers. Until then both of you aren’t allowed to leave this house either.” (Laboras)
Leaving he two men who brought Puuse, behind as guards, Laboras went away.
“... As usual, he immediately escapes once he gets defeated by arguments, that guy.” (Zanga)
“Zanga-sama...” (Puuse)
“Look, I will wipe away your tears. Since you have such a cute face, isn’t it a waste to mess it up with tears?” (Zanga)
She grabs one sheet of cloth off the pile nearby and gently wipes Puuse’s face.
“By now I have no interest in the status of something like leader but unexpectedly I ended up getting Puuse and that human involved...” (Zanga)
“I’m really sorry”, Zanga gently brushed Puuse with her still movable right hand.
Shiku, who pricked up his ears in front of Zanga’s house, learned of Puuse being banished and ran in panic to Hifumi’s place to request his assistance.
It was himself who told Laboras the truth, but by no means did his thinking reach the conclusion of even Puuse having to take the blame. Even if he talks to someone from the village, they likely won’t forgive Puuse, once Laboras tells them that she broke the law.
If it’s a human who possesses that much strength, he might be able to rescue Puuse and take her to somewhere safe
He was scared of meeting that dreadful human. He wasn’t able to suppress the trembling of his knees as he recalled Hifumi’s smile at the time he killed Shiku’s brethren, however no other good idea came to his mind. He doesn’t believe that he can win against the men who remained as guards, if it’s only himself.
And, Shiku who sought his assistance, and the assassins who were sent by Laboras, arrived at the hut where Hifumi is staying in, at the same time.
And now, Shiku who once again ended up fainting, came to his senses at last.
“... Huh?” (Shiku)
In the visual field, he saw in his absent-minded state, heaven and earth were upside down.
“Agh, ooouuch...” (Shiku)
As the current situation was inverted, he apparently fainted being hit by a trunk of a tree.
Twisting his body in a squirming motion, Shiku who finally returned to a sitting posture, recalled the situation before he lost his consciousness.
“T-That human is....!?” (Shiku)
In front of his eyes there’s the completely broken hut. On the opposite of that there are several corpses being scattered about.
“Uubuh... Ueeeh...” (Shiku)
Shiku who ended up looking directly at something sticking out from a corpse, which had its body cut in two, threw up until his stomach became empty.
Pulling himself together, he searched for the figure of Hifumi in order to not look at the corpse, but he saw the back of someone doing something while crouching down while being in fact surrounded by those corpses.
The strange attire which had a beautiful deep blue colour, was riddled with holes all over and was dyed by some deep red stains.
“W-What are you doing?” (Shiku)
Resolving himself and getting close, Shiku notices that Hifumi is holding an arm of someone and his white face becomes blue.
“... The reason why you elves get assimilated and turn into arbour is this after all.” (Hifumi)
Hifumi who cut a corpse’s finger into two, thrust his finger in front of Shiku after running it across the cross-section.
A white sticky something is clinging to Hifumi’s fingertip.
“What’s... this...?” (Shiku)
“Don’t know. What I understood from examining some of the people who were cut apart is only that it’s little-by-little accumulating at the ends of the fingers and feet.” (Hifumi)
Hifumi built a hypothesis upon the autopsies up until this point, but he believed in it with almost no doubt.
“There’s something in your food, your drinks or possibly in the air drifting through this forest, however it probably quickens the transformation by accumulating within the body. Since the way of dying is by the mucus arriving at the head, it piles up in the body starting with the limbs and at the time of your death’s it even enters the head. No, it accumulates there.” (Hifumi)
As result of transforming from the tips of the limbs and having the head encroached last, the body changes while the senses are still clear. It’s a viciousness as if it is for the sake of causing complete dread.
“Th-Then, the people, who turn into arbour and are absorbed by the forest, will...” (Shiku)
“Their bodies’ functions will slowly cease and they will die. It’s probably quite painful.” (Hifumi)
“Such a...” (Shiku)
Shiku who dropped his shoulders as it was ° different from the custom which formed a belief that it was a nice thing, finally remembered Puuse’s and Zanga’s situation.
Quickly raising his face, Shiku faced Hifumi and exclaimed,
“Help! At this rate Puuse-neechan will get banished!” (Shiku)
Hifumi who scrubbed both his hands which touched the corpses with a paper, grabbed a corpse which lost both hands and feet, and tossed it into the broken house.
“I’m not particularly interested.” (Hifumi)
Hifumi easily refused Shiku’s teary request. |
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} | 戴冠式を3日後に控え、城内は部署を問わず全員が小走りに移動している状況だった。宰相を始め、オーソングランデの国政に携わる者がギリギリまで式の内容を明かさなかったせいでもある。
こ指示で、相手に綿密な計画を立てさせず、準備の時間を持たせないためだと説明されている。逆に、防衛側は早い段階からは護衛の為の技術を教えたり、必要な工事についても指示を出している。
城下で出店等の祭りの準備もあるため、式の開催日だけは先に触れが出てはいたものの、時間や式の内容については、三日前の現在でもまだ告知されていない。
「それで、なぜわたくしまでが仲間はずれになっているのでしょうか」
執務室で憮然としているのは、イメラリアだった。
同室で書類をさばいているサブナクは、イメラリアの呟きに顔を上げる。
「どうかご理解ください。主役はイメラリア様なのですから、儀式に集中いただきたいのです」
「どうせ、その言い訳も一二三様の入れ知恵でしょう」
「う......」
おもしろくない、と正直にイメラリアは考えた。もはや一二三の影響を云々言ってもどうしようもないだろうが、彼の作った土台に支えられて王になるというのも妙な気分だ。
何も言えず、逃げるように書類の処理に戻るサブナクをチラリと見てから溜息をついた。
この数日、イメラリアはすっかり実務から離れていた。本格的にサブナクが護衛として付いて回るようになったが、いつの間にか重要な決済以外はさっさとサブナクが処理するようになっていた。
もちろん最終的な確認はイメラリアがやるのだが、全て文句のつけようも無い状態で上がってくるので、目を通してサインをする作業だけ。業務は随分早く処理されるようになり、文官たちも喜んでいるらしい。
さすがの処理能力とは認めるが、領地経営に声をかけるあたり、サブナクの能力にいち早く気づいていたらしい一二三の事まで頭に浮かび、ちょっと面白くない。
「失礼します」
執務室へ入って来たのは、宰相のアドルだった。
彼はサブナクがイメラリア付きとなった時点から、助言や処理についての手伝い等を徐々に減らしている。イメラリアには詳しい理由は知らされていないが、何か目的があるのだろう。
ちらり、とサブナクの仕事ぶりに視線をやってから、イメラリアの前で臣下の礼をとったアドルは、恭しく挨拶をしてから、イメラリアあての書簡を持ってきたと言う。
「どなたからでしょう?」
「ビロン伯爵からでございます」
「......拝見いたしましょうか」
ビロンからの書簡と聞いて、サブナクも手を止めてアドルに並ぶ。
書面に目を通す間、誰も言葉を発さない。
「サブナクさん」
「はっ」
「ホーラント王が此度行われるわたくしの戴冠式に是非出席したいと、自らミュンスターを訪れてビロンさんに交渉を持ちかけられているようですわ」
「た、他国の王が、戴冠式にとは......」
「前代未聞ですな」
三人ともが考え込むのも仕方が無い。基本的に王など国家元首同士が会うというのはこの世界ではまず考えられない。王が国体そのものである以上、国が滅びでもしない限りは王が国土を出る事すら珍しいのだから。
「何が目的でしょう?」
「ビロンさんが聞いた話では、わたくしと今後の交流や戦後処理についてのお話がしたいのと、一二三様を通じて技術交流をお願いしたい、との事のようですが......」
技術交流とはどういうことでしょうか、とイメラリアが首をかしげるのに、サブナクは右手で額を叩いた。
「あぁ~......。一二三さん、ホーラントに入る時に遅れて自領の軍を装備付きでホーラントに入れたんですよ。多分、ヴァイヤーと同じ部分に目をつけられたのではないでしょうか」
「......とにかく、お断りするわけにはいかないでしょう。サブナクさん、宰相と協力して警備も含めた受け入れの準備とビロンさんへの連絡をお願いいたします。一二三様にも伝えておきましょう」
そういえば、とイメラリアは気づいた。
「一二三様は王城に出入りされているというお話ですけれど、お姿を見ませんわ。心なしか、城内にいる騎士の数も減ったような......」
「ああ、一二三さんと訓練当番の騎士が使用人通路や隠し通路を使って訓練しているからですね。城内にあんな通路があるのを見抜くなんて、流石は歴史あるオーソングランデの王城ですね」
「......隠し通路なんて存在、わたくしも初めて聞きましたけれど?」
「えっ?」
お互いに驚いているイメラリアとサブナクを置いて、アドルはそそくさと執務室を抜け出した。
☺☻☺
一二三は王城を何度か訪れているうちに、不自然な空間を何箇所か見つけていた。
使用人が使う裏通路があるのだが、それを踏まえても床下や天井、壁と壁の間に奇妙なデッドペースがある。
契り木の先でコツコツ叩いて調べるうちに、使用人通路意外にもホールや謁見の間、イメラリアの執務室や王族の寝室などからつながる脱出のためと思しき通路や隠し部屋があるのを発見した。
折角なので、この通路を城内護衛に使えば良い、と一部通路をつなげたり新たな出入り口をカムフラージュ込みで新設したりして、オーソングランデ王城にはその主も知らない秘密の通路網が完成した。
各所には明かり採りを兼ねた覗き穴を儲け、通路から息を潜めて室内や廊下を見張ることができる。また、通路の途中途中には手槍や手裏剣を入れた棚を起き、緊急時にはここで武器を調達することもできるようにしている。
「で、怪しいと思う奴がいるならば、こういう所から言動を確認して、必要があればここへ引きずり込んで処分するわけだ」
数名の訓練当番になっている騎士を引き連れて、一二三は何度目かの同じ内容の説明をしている。すでにここまでの訓練で一二三の実力に疑問を持つ者はいなくなっているので、反発はない。
「表に出ずに裏で標的を消す事に、何か意味があるのでしょうか? しっかりと不穏分子が消えた事を証明するのであれば、堂々と倒すのが良いのでは?」
「それは目的によるだろうな。ある種のパフォーマンスも兼ねて、例えば民衆に悪が始末されたと安心感を与えたければそうするべきかもな。しかし......」
薄暗い通路の覗き穴を指差し、一二三は全員に外の様子を探るように指示する。
見えるのは、パーティーなどで利用される城内では中規模のホールだ。
「こういう場所で何かの式典なりの最中だったと仮定して考えてみろ。紛れ込んだネズミ一匹始末するのに式典を中止するか? 例えば今度の戴冠式でイメラリアの邪魔をして敵を一人倒したとして、そこで王女を差し置いて功を誇るのは騎士として正解だと思うか?」
「それは......」
もちろん、王女が女王となる重要な式典である。それを自分の功績を上げる為の踏み台にするような真似は考えられない。
「あくまで警備は裏方の仕事だと考えろ。“何も起きなかった”と、表向きには役に立つ機会が無かった、と思われるくらいで丁度いいんだよ。それに、どう死んだか表沙汰にならない方が良い時もあるだろう」
そんな説明を延々と続けながら、裏通路を把握するために端から端まで移動する。
ただ歩くのではなく、走ったり這ったりしながら、音を立てずに隣接する部屋や廊下の人物に気づかれないように動く訓練も兼ねている。
こういう部分に関しては、第二騎士隊出身よりも第三騎士隊出身の方が思い切りが良くて飲み込みも早い。最初に指導したグループに入っていたサブナクも、ためらうことなく這いつくばって移動する方法を覚えたほどだ。
「全員、声を出すなよ。今この部屋にいる連中の話を聞いてみろ」
一二三に言われて、さっと通路の壁に耳をあてる騎士たち。彼らの耳に、二人の男の会話が聞こえてきた。
「それで、戴冠式の計画はどうなっている?」
「わからん。まだ式の内容がほんの一部の者にしか伝わっていない。それどころか、王女ですら知らされておらんようだ」
覗き穴から見た騎士の目に映ったのは、小さな会議室で密談をする貴族出の文官らしい二人の中年だった。
「第一騎士隊が壊滅してから、行事の運営が完全に王女に握られてしまった。このままでは他の貴族たちに約束したポストを用意することができなくなる!」
「焦るな。それより何か考えろ」
「焦るなだと? お前こそもう少し緊張しろよ! もう金はもらってしまった。このままだと俺たちは依頼者に潰されるぞ」
「声を抑えろ。料理や会場の準備を考えれば、今日中には告知があってもおかしくない。騎士の人数も減っているから、警備をするのに騎士の数はまだ足りないはずだ。そこに臨時の警備として潜り込ませる事もできるだろう」
一人は冷静を装って話してはいるが、声がやや震えている。
「......だが、警備にはあのトオノ伯爵が関わっていると聞いたぞ」
「一人で何ができるものか。潜り込ませた貴族の子息なりには、仕込みのゴロツキでも退治させれば箔も付くだろう」
ここまで聞いたところで、騎士たちはお互いに顔を見合わせた。完全にクロだと見ていい会話をはっきりと聞いた。
そして、全員の目線が一二三を見る。
「聞いたな。じゃあ、仮にあいつらを秘密裏に処理して、依頼人を吐かせたらその依頼人たちも城内で仕留めてしまうとするか」
では手本を見せると言って、まだ二人の密談が続く部屋に、一二三は音もなく隠し扉から侵入する。
「それで、最低何人を潜り込ませないといけないんだ?」
「結構多かったと思う。ちょっと待ってくれ......」
問われた男が視線を落とし、懐のメモを取り出そうとした隙に、もう一人の男の口と鼻を片手で塞ぐ一二三。素早く机の下に潜り込みながら、空いた手で頚動脈を押さえて素早く気絶させる。
「おい、どこに行った?」
顔を上げると姿が見えない相手を探してキョロキョロとしている男も、足元を抜けて背後から襲いかかった一二三にあっさりと気絶させられた。
「出てきていいぞ」
ゾロゾロと出てきた騎士たちは、一様に青ざめた顔をしている。
相手が武官では無いとは言え、素手で軽々と二人を絞め落とす姿は衝撃が強かったらしい。
「重要なのは鼻までしっかり塞ぐことだ。それだけで“音”はかなり抑えられる。隠れるのは簡単に考えていい。相手が二人ならば最初の奴を落とす瞬間まで気づかれなければ上等だ」
一二三の指示により、気を失った男は薄暗い裏通路へと引きずり込まれていく。
「ああいう動きを三人ひと組で協力してできるように練習しろ。うまくできるグループに、こいつらの“依頼人”を捕まえる功績をやろう」
その言葉に、騎士たちは目に見えてやる気を出した。やはり騎士として手柄をあげたいという気持ちは少なからずあるらしい。
(うまく進めば、こいつらと戦う事になっても楽しくなりそうだ)
今のうちにたっぷり経験を積んでもらおう、と一二三も気合を入れた。
アドルの娘、シビュラ・ヴィンジャーは優秀な侍女として城内では割と有名だった。それ以上に、表情に乏しく同性に人気が無い女として、侍女たちの間ではかなり有名だった。
それでも城内勤務を続けられたのは、彼女が周りの評価など気にせず、自分の成果のみに固執する究極の個人主義者であるからで、父親が宰相であることはあまり関係が無かった。
「......清掃完了」
今日も今日とて誰の手も借りず、一人でサブナクの執務室の掃除を完了させた。
最近は王女の執務室へいる時間が長いこの部屋の主人だが、その事で掃除がしやすいとシビュラは考えていた。
ハタキがけから始まる清掃は、調度品の手入れや絨毯のブラシがけまで全て完了し、あとはまとめたゴミを捨てるだけである。
彼女の掃除の目標は“使っている人が気づかないまま綺麗な状態で利用できる”ことを理想としている。
処理の速さの反面、意外と整理が苦手なサブナクの机の上には、ペンや書類などが散乱しているのだが、机を拭きあげつつも書類の内容は見ずに位置は完璧に元の状態をキープしている。
掃除する前と後で、綺麗になってはいるが何も変わっていないという、この状態を完璧にできた時に満足するのだ。
「今日も帰ってこられませんでしたね」
執務室の端にある簡素な炊事スペースで今日も使われる事が無かったティーセットを洗い、棚へと戻す。
砂糖とお茶の残量を確認し、明日の朝に厨房から貰ってくる追加分を頭に入れておく。
これで、彼女の一日の仕事は終わりだが、時間はたっぷり余っている。彼女のように一定の地位の人物の専属となると、仕事の割り振りは自由に決められるのだが、朝一から黙々とやるタイプだと、ほぼ毎日1時間は時間が余る。
「......よし」
おもむろに毛足の長い絨毯に転がったシビュラは、両腕をまっすぐ伸ばし、右に左に転がって、こしょこしょと顔や手足をくすぐる感触を楽しむ。
それでも服は汚れないと自信を持って言えるほど清掃したのだ。
不意に声をかけられ、シビュラは仰向けでビタァッと止まった。
恐る恐る目を向けると、食器棚の影から顔を出していたのは、サブナクだった。
「ご、ごめん。見るつもりは無かったんだけど、裏から来て観察の練習をしていたら、出るに出られなくて......」
そろそろ止めた方が良いかと思って声をかけたサブナクだが、彼女が帰る迄隠れていた方が良かったと後悔していた。
「お帰りなさいませ」
絨毯に横になったまま、お辞儀をする。
「紅茶をお入れしますか?」
「あ、ああ......お願いします」
何事もなかったかのように紅茶を入れ始めるシビュラを見て、ホッとしたサブナクは机の書類を処理し始めた。
そこへ差し出された紅茶は、相変わらず見事な腕前だ。
「先ほどの事はご内密にお願いいたします。もし誰かへお話になられたなら......」
「だ、大丈夫! 誰にも言わないし、君のような優秀な侍女がそういう事をするなんて誰も信じないよ!」
「わかりました。では私も覗かれた事は秘密にいたします」
「人聞きが悪すぎる!」
やはり彼は面白い人だ、とシビュラは心の中で笑った。 | After preparing for days for the coronation ceremony, everyone was in a state of hurrying along regardless of their posts within the castle. The people, taking part in Orsongrande’s national politics, didn’t reveal the details of the ceremony until the very last moment either.
This is due to Hifumi’s instruction. He has explained that it’s for the sake of not giving the enemies time to prepare hindering them to make thorough plans. On the other hand the side of the defence has been drilled in the techniques required for their guard duty at a fast pace by Hifumi and he has also given the necessary directions for the construction works.
Although only the date of the ceremony has been officially announced, so that things like food stalls etc. could be prepared for the festival on the land near the castle, the time and the details of the ceremony, even now three days before the actual event, still haven’t been released.
“So, why have even I been left out from the circle of the privy?” (Imeraria)
Imeraria asked in astonishment within her office.
Sabnak, handling paper work in the same room, raises his face due to Imeraria’s muttering.
“Please do understand. Since you are the leading actor, we want you to solely focus on the ceremony itself, Imeraria-sama.” (Sabnak)
“That excuse has been provided to you by Hifumi-sama anyway.” (Imeraria)magic
, Imeraria honestly thought.
By now it can’t be helped anymore that he says such things due to Hifumi’s influence, but the pillars of supporting me to become the ruler give off a strange vibe.
After giving a fleeting glance at Sabnak, who turned his back and sorted the documents without saying anything as if running away, she sighed heavily.
These last days Imeraria had been completely disconnected from any practical work. As it reached the point that Sabnak followed her around as bodyguard all the time, he quickly dealt with any official work before she became aware of it with the important financial affairs being the only exception.
Of course Imeraria has been doing the final checks, however since he finishes all of it in a way that leaves nothing to complain about, her only work is to look the documents over and sign them. As he handles all the work very quickly, the civil officials have apparently been delighted as well.
Although I have to admit his efficiency all the same, I’m slightly not amused that it has been Hifumi, who recognised Sabnak’s abilities first and called him into the administration of his territory.
“Excuse me.” (Adol)
It was Prime Minister Adol who came entering the office.
Since the time Sabnak is shadowing Imeraria, his help in dealing with the work and his hints have been gradually decreasing. He hasn’t informed Imeraria of the exact reason for that, but he likely has some other goal in mind.
After giving a glance at the way Sabnak works, Adol made a retainer’s bow in front of Imeraria. Finishing a respectful greeting, he brought out a letter addressed to Imeraria.
“From whom is it?” (Imeraria)
“It’s from Earl Biron, your Majesty.” (Adol)
“... Let me have a look.” (Imeraria)
Listening to the letter from Biron, Sabnak also stops his hands and lines up next to Adol.
During the time she read through the letter, no one said anything.
“Sabnak-san.” (Imeraria)
“Ha!” (Sabnak)
“The king of Horant has personally visited Biron-san in Münster to propose negotiations and wants to attend my coronation ceremony without fail on this occasion.” (Imeraria)
“A-A foreign king, t-the coronation ceremony...” (Sabnak)
“It’s unprecedented.” (Adol)
It’s inevitable that the three people are brooding over it. Basically it’s unthinkable for a king to meet a fellow head of state in this world in the first place. Above a king being the national polity himself, it’s even rare for a king to leave his country as long as his country isn’t ruined.
“What’s his aim?” (Sabnak)
“Going by what Biron told me, he wants to interact with me from now on and talk about the post-war procedures. It seems he asked to pass on a message that he wants to request an exchange of technology through Hifumi-sama.” (Imeraria)
Although Imeraria tilted her head to the side asking “What kind of technology exchange is this about?”, Sabnak stroke his forehead with his right hand.
“Ah~ ... At the time Hifumi-san entered Horant, the equipment of the troops of his own territory were delayed in getting into the country. Isn’t it likely that he is aiming for the same parts as Vaiya?” (Sabnak)
“... At any rate, I probably can’t afford to refuse him. Sabnak-san, please contact Biron-san and prepare to receive the king together with the prime minister and the collaborating guards. Let’s report this to Hifumi as well.” (Imeraria)
“Even though Hifumi-sama is coming and going to the royal castle every day, I don’t see him. Somehow the number of knights being within the castle decreased too...” (Imeraria)
“Ah, that’s because he has the knights practising being on duty using the hidden pathways and the servant’s passages. Seeing that there are such passages within the castle, the royal castle of Orsongrande has a deep history as expected.” (Sabnak)
“... Though it’s the first time I heard about something like hidden pathways existing?” (Imeraria)
“Eh?” (Sabnak)
Imeraria and Sabnak were both surprised, while Adol hurriedly sneaked out of the office.
☺☻☺
While Hifumi visited the royal castle several times, he discovered a number of passages with an unnatural air.
There are the sideways used by the servants, but those are located in the ceiling and under the floor. There is a strange dead space between the walls.
While examining those by knocking on the wood used as cover, he found pathways and secret chambers, even apart from the servant’s passages, apparently intended as connected escape routes in places such as the hall, the audience hall, Imeraria’s office, the bedrooms of royalty, etc.
Since he found those at great troubles, it would be fine for the guards to use these pathways and he even established new camouflaged exits and entrances to a part of the pathways. He completed a network of secret pathways that even the master of Orsongrande’s royal castle didn’t know of.
Each place has a dormer window that also serves as peeking hole, which can’t be spotted from the hallways and rooms if one holds his breath in the pathways. Also, he put short spears and shurikens in shelves, which were placed midway, making sure that weapons are available in times of emergency at those places.
“So, if there’s some guy who can be considered suspicious, you can check his words and behaviour like this and, if necessary, drag them in here and dispose of them.” (Hifumi)
Taking along several of the knights practising to be on duty, Hifumi is explaining the details for the nth time. Given that there are already no knight here who are holding doubts towards Hifumi’s abilities, there isn’t any refusal either.
“Do you believe it to have some meaning to erase a target behind the scenes without uncovering them in public? Isn’t it alright to openly defeat them, if we can prove the disturbing elements to have properly disappeared?”
“This depends on the objective. Excluding some sorts of performances, if, for example, you dealt with the masses badly, you might end up failing to give them a sense of security. However...” (Hifumi)
Pointing at the peeking hole in the gloomy pathway, Hifumi instructs all of them to look at the situation outside.
What can be seen is a mid-sized hall within the castle used for such things like parties.
“Try to think there was some kind of ceremony going on in this kind of place. Will you interrupt the ceremony just because one rat has evaded the observation? Do you believe it to be right as knights to boast your accomplishments while neglecting the princess just because you defeated a single enemy, who obstructed the upcoming coronation ceremony?” (Hifumi)
“That is...”
Of course there will be important ceremonies once the princess becomes the queen. It’s unthinkable for them to use these as stepping stones for the sake of raising achievements for themselves.
“To the very end, consider being a guard as job of working behind the scenes. Believe it to be just right, if there is no opportunity of publicly announce that “nothing happened.” Besides, it would be probably better if you didn’t go public on how they died at that time either.” (Hifumi)
While endlessly continuing such explanations, they are moving around from one end to the other in order to fully grasp the hidden paths.
It’s not just walking. While crawling around, they are training to move to not be noticed by anyone in the adjoining rooms and hallways by not producing any sounds.
Related to these things, the knights hailing from the former Third Knight Order are grasping the concepts a lot faster than those from the former Second Knight Order, too. Even Sabnak, who joined the first group to be guided, has learned the method of moving by grovelling on the ground without hesitation.
“All of you, don’t talk. Let’s now try to listen to the talks of the lot in this room.” (Hifumi)
Upon Hifumi’s words, the knights held their ears against the wall of the pathway quickly. The conversation of two men was audible to their ears.
“So, how’s the coronation ceremony project going?”
“Don’t know. The details of the ceremony still haven’t been passed down to anyone but a selected few. On the contrary, even the princess doesn’t seem to have been informed.”
What the knights could see through the peeking hole were two middle-aged civil officials, appearing to be nobles, having a private chat in a small conference room.
“As the Second Knight Order was destroyed, the management of the event ended up being completely handled by the princess. As it is now, we will loose the ability to arrange the agreed positions for the other nobles.”
“Don’t be impatient. Rather than that, let’s think about something else.”
“Don’t be impatient? You should be a bit more tense! We already received the money. At this rate we will be killed by our client.”
“Restrain your voice. If you consider the preparations of the venue and cooking, it won’t be strange for them to announce it by today either. Since the number of knights has decreased, the number of knights on guard duty shouldn’t yet be sufficient. It’s probably possible to slip in as temporary guards there.”
Although one person is pretending to be talking with composure, their voice is gradually trembling.
“... But, I heard the guards have been influenced by that Earl Tohno.”
“What can a single person do anyway? Those sons of nobles, who bought their way in, will be defeated by trained rogues, even if they are accompanied by prestige.”
Having listened up until there, the knights looked at each other’s faces. They heard a conversation that could be regarded as completely wicked.
And everyone’s view converged on Hifumi.
“You heard them. Well, if you deal with them secretly for argument’s sake, do you think you will be able to kill their clients within the castle as well, if they gave away their client?” (Hifumi)
Showing them a demonstration, Hifumi quietly intrudes the room, where the two are still continuing their private talk, by entering through a hidden door.
“So, how many people have to infiltrate the castle at the very least?”
“It would be reasonably for many to be there. Please wait for a moment...”
The man, who was being asked, dropped his sight. In the moment he tried to take out a memo from his pocket, Hifumi plugged up the nose and mouth of the other man. While quickly dragging him below the desk, he pressed down on his carotid artery with his free hand and made him faint that way.
“Oy, where did you go?”
As the man is looking around restlessly trying to find his companion, who can’t be seen anywhere, after raising his face, he was easily made to faint by Hifumi, who attacked from the back after getting up on his feet.
“It’s fine to come out.” (Hifumi)
The knights, coming out in groups, had their faces turn pale evenly.
Although the opponents weren’t military officers, it apparently caused a big shock to them how easily Hifumi strangled and defeated those two.
“It’s plenty even if you only cover up the nose properly. With only that you will suppress “sounds” quite well. It can be considered good, if you stay completely hidden. It’s very good if you aren’t discovered until the instant you defeat the first guy, if there are two opponents.” (Hifumi)
Following Hifumi’s instruction, they dragged the two blacked-out men into the dim hidden pathway.
“Train to be able to do these kinds of movements with a group of three. The group, who is able to do this smoothly, will arrest the “client” of these guys.” (Hifumi)
The knights showed a distinct determination due to these words. It looks like there is a considerable attitude of wanting to raise achievements as knight after all.
(If they improve well, it will become fun to fight these guys, too.)
I will have them accumulate plenty of experience for now
Adol’s daughter, Shibyura Winger, was fairly famous as being an excellent maid within the castle. Above that, she was famous among the other maids for being a woman indifferent to people of the same sex and having scarce facial expressions.
Even so, she was continuing her work within the castle without minding the assessment of her surroundings. Accordingly she was an extreme individualist adhering only to her own accomplishments. The matter of her father being the prime minister didn’t have much of an influence on that.
“... Cleaning complete.” (Shibyura)
She finished cleaning Sabnak’s office by herself, without borrowing the help of anyone today just as every day.
Recently the times of the master of this room being in the office of the princess have become long, but Shibyura considered this to make the cleaning easier.
The cleaning, that started with dusting off, was completed by even tending the furnishings and brushing the carpets. All that is left now is to throw away the trash.
The objective of her cleaning is the ideal of “the person being able to use it in a clean state without noticing it.”
There are pens and documents scattering about on top of Sabnak’s desk, that are unexpectedly difficult to sort in contrast to the speed of disposing of them. But even while wiping the desk, she perfectly keeps the things in the original state without having a single look into the documents.
She was satisfied the moment she was able to to keep the current state of before and after the sweeping without changing anything while cleaning it.
“He didn’t come back today either.” (Shibyura)
She puts back the washed tea set, which wasn’t used today either, into the shelf in the plain cooking space, which takes up a small part of the office.
Checking the remaining quantity of tea and sugar, she memorizes the amount she has to take from the kitchen tomorrow morning.
With this her first job of the day finishes, but there is still plenty of time left. As far as people, who have a fixed and exclusive role attached to them like her, are concerned, they can freely decide the allocation of tasks, but as a type, who stays silent starting first in the morning, she has almost one hour time left every day.
“... Alright.” (Shibyura)
Shibyura, who suddenly rolled around on the carpet with its long hairs, extends both arms straight ahead and rolls around to the right and left side. She enjoys the feeling of the carpet’s hairs tickling her face and limbs.
And yet, her cleaning was to the degree that one can say she can keep up her appearance without getting the clothes dirty.
“Umm...”
Being called upon suddenly, Shibyura came to a halt as she looked upwards.
Once she shifted her sight timidly, it was Sabnak, who turned up from within the shadows of the cupboard.
“S-Sorry. I didn’t intend to look at you, but once I observed you from the back, leaving or staying...” (Sabnak)
Although Sabnak slowly believed it to have been better to stay silent, he regretted that he didn’t stay hidden until she left.
“Welcome back.” (Shibyura)
She bows while laying on top of the carpet.
“Do you want to drink some tea?” (Shibyura)
“A-Ah... please.” (Sabnak)
Watching Shibyura, who starts to prepare tea as if nothing has happened, Sabnak began to deal with the documents on his desk in relief.
The serving of tea, she did, was as splendid as usual.
“Please keep the matter from before secret. If you told this to anyone, it would...” (Shibyura)
“I-It’s fine! I won’t tell anyone. No one will believe that an excellent maid such as yourself is doing something like that anyway!” (Sabnak)
“Understood. Then I will keep it a secret that you peeped at me as well.” (Shibyura)
“That’s far too scandalous!” (Sabnak)
, Shibyura laughed within her mind. |
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} | 自分に向かって走ってきた部下の兵士が目の前のもとに両断され、バシムは狼狽えた。
「なんだこれは? なんだというのだ!」
「敵襲だよ。総大将なら、そんなに怯えるなよ」
青い馬とは珍しいな、と刀を提げたが、ゆらゆらと近付いていく。
必死で逃げていた魔人族の兵は、二人揃って上半身と下半身が泣き別れになり、助けを求めるようにバシムに手を伸ばし、死んだ。
「人間......だと?」
「良いことを教えてやろう。お前の部下は、何人か死んだぞ」
馬上から一見下ろすバシムは、汗を流しながら奥歯を噛みしめた。
「人間、貴様が殺したのか?」
「俺がやったのは片手で足る程度だな。あとは、ヴィシー......この国な。名前くらいは調べて攻めてるだろ? ヴィシーの中で、内乱......というか、一部の暴走だな。それに巻き込まれて死んだみたいだな」
「それを信じろというのか」
「別に。好きにすればいい」
話している間に、一二三の周りを魔人族の兵たちが囲んでいく。
をぐるりと囲まれても、平然と話し続ける一二三を見て、バシムは狂人の類かと考えた。
「でもな、情報をちゃんと集めるのがウェパルの指示じゃないのか?」
王の名を出されて、バシムは押し包んで殺す指示を出すことを一旦やめた。
「人数が少なすぎるもんな。本気で国一つ落とそうと思ったら、攻めるだけじゃなくて統治するための人員がいる。皆殺しなら別だけどな。それくらい、ウェパルはわかるはずだ」
「......我々は強い。監視など、町に一人二人いれば充分だ」
「一人か二人? うふ、あっはっは!」
腹いっぱい高笑いを堪能した一二三は、バシムへ心底ガッカリした、と呟いた。
「誤魔化すならもっとうまくやれ。すぐばれる嘘をつくと、お前の底まで見えるぞ」
バシムが一喝すると、その眼前に大剣の刀身が中空から生み出され、同時に弾丸のように撃ち出された。
彼我の距離は十メートルも無い。
敵の腹に刃が突き立つ様子を想像し、すぐに再現したと考えたバシムの表情が歪むのに、時間はかからなかった。
「そんな遠くから、刃が届くわけないだろ」
バシムが飛ばした剣は、腰にぶち込んでいる鞘を握った一二三の、斜め後ろで地面に突き立っている。
「な、ど、どうやったのだ......」
「腹を狙ったろ? だから、こうやって弾いただけだ」
鞘の鯉口を左右に振る。
「そんな馬鹿なことがあるか!」
二度目の剣は、柄頭で叩き落とされた
「目の前で、正面から、まっすぐ飛ばすとか、防いでくださいと言っているようなもんだろうが......ったく、ベンニーアやらフェゴールやらは、もっと色々やってたぞ?」
知っている名前と比べられて、バシムはまた奥歯を噛みしめる。
「王の補佐であったフェゴールならまだしも、小隊程度しか統率していなかったベンニーアよりも吾輩が下だと言うのか!」
激高するバシムに、一二三はヘラヘラと嗤って答えた。
「ちょっと違うな。剣を飛ばす程度しかできないなら“かなり下”だ」
怒りが頂点に達したのか、意味の分からない咆哮をあげたバシムは、すぐに右手を振りかぶり、兵士たちに大音声で命令を下した。
「全員、一斉に魔法で攻撃せよ! 属性は問わぬ! 傲慢な人間を、チリ一つ残さず消し去れ!」
命令が届くと同時に、一二三を取り囲んでいた兵士たちから、炎や氷、岩や水など、バラバラな属性の攻撃が飛んでくる。
水蒸気と砂が舞い踊り、一二三が立っていた場所には白と茶色が入り混じった煙が踊る。
誰かが魔法で水を撒くと、そこにはえぐり取られた地面だけが残っていた。
「......ふん。所詮は人間か。脆い存在だ」
「当たればな」
呟いたバシムの背後から、独り言に返事が聞こえた。
「貴様......」
冷たい感触が首筋に当たっているのを知って、バシムは視線だけを向けたが、一二三の顔までは見えない。冷や汗を流す自分の顔を映す、冷たい刀身だけが視界に入った。
「敵が見えなくなるような攻撃はやめておけ。相手が何をやったかわからないのは、不利だぞ?」
「吾輩を殺したところで、ここにはまだ二十名の兵がおる。逃げられると思うなよ......」
「腹が立つだろう? それでいい」
一二三が首に刀をぴたりと当てたまま、バシムの左腕を掴み、ねじ上げた。
馬の上だというのに、一二三は少しもバランスを崩すことはない。逆に、バシムの方がバランスを崩し、
周囲にいる魔人族たちも、バシムへの誤射を恐れて遠巻きに見ているしかない。
その彼らに向かって、一二三は声を発した。
「今、お前たちが攻めているヴィシー。その隣にオーソングランデという国がある。俺はそこにいる。もっと人数を集めて来い。そうしたらまともに相手してやるよ」
刀がバシムの首から離れたが、手首を決められたバシムは動けない。
「自分たちが強い。人間は弱いと思っていた結果がこれだ。ムカつくだろう? ちょっと馬鹿なら、理不尽だと思ってる奴もいるかもな。で、俺は荒野のように広い心を持っている領主様だから、復讐の機会を作ってやろうと思ったわけだ」
する、と絹が擦れるような音がする。
誰もが気付かないうちに、一二三が持つ刀が、下から上へと振り抜かれた。
「ぐあああああああ!」
左腕を肩口から切断され、バシムはとうとう落馬してしまった。
左手で掴んだままの腕を掲げ、一二三は周囲を睥睨する。
「俺の前まで来れたら、この腕は返してやるよ」
唖然とする魔人族たちの前で、闇魔法の収納へ腕を放り込み、幾重にも重ねた懐紙で刀を拭う。
撒き散らされた懐紙が舞い落ちる中、悶絶するバシムの声を背中に聞きながら、一二三は悠々と帰っていく。
その前を塞ごうとする者は、今この場には存在しなかった。
☺☻☺
一二三たちに遅れること三日。アリッサは疲れ切った兵士たちを連れてフォカロルへと帰ってきた。
「ただいま~......」
「おかえりなさいませ」
部隊を解散させ、兵士たちに休暇とその後の配置についての説明を済ませたアリッサは、自身もすっかり疲れ果てた顔をしていた。
領主館に帰ってきたアリッサは、報告のために一二三を探していたのだが、ヴィシーへとちょっかいを出してあっさり帰ってきて、またどこかへぶらりと出かけてしまったらしく、会うことができなかった。
代わりに、カイムとブロクラが出迎える。
「お疲れ様でした、長官」
会議室の椅子に座り、ブロクラが入れてくれた冷たいお茶を一気に飲み干すと、アリッサはテーブルにぐったりともたれかかった。
「結局、大した訓練にもなんなかった。オーソングランデとホーラントが仲良くなっておしまい」
「今回の件で、ホーラントに対してオーソングランデは優位な立場を得られるでしょう。それに、各領地で加勢をしたのはフォカロルとミュンスターだけです。前回のホーラントでの騒動もあって、国内における発言力は二つの伯爵家が非常に強くなりました」
まるで教師のような口ぶりで説明するカイムに違和感を覚えつつ、ブロクラからお代わりを受け取ったアリッサは嘆息した。
「一二三さんの発言力、というか、影響が強いのは、今に始まったことじゃないんじゃない? 今回の件でも、お姫様......じゃなかった、女王様もあっちの王様も振り回されてたし」
自分がその行動に参加したことは忘れたかのように喋るアリッサに、カイムは眉ひとつ動かさずに「左様ですか」と答えた。
一二三と共に帰還した兵士たちから聞き取りを終えているので、顛末は全て頭に入っているカイムにとって、アリッサの感想は聞き流しても問題無いらしい。
「ですが」
座っているアリッサの目の前に、カイムが分厚い書類の束を置いた。
「領主様の影響。ではなく、この領地及びトオノ伯爵家の影響を把握していただく必要があります。幸い、現在の領主様が源流となりますので、覚えなければならない歴史は少なくて済みますが、国内外の情勢については、基礎的なところからやらねばなりません」
アリッサが恐る恐る手を伸ばし、一枚目の紙に目を通すと、『オーソングランデの始まりと歴史』と題し、時折絵図を交えた長い長い論文が書かれていた。
「お、おお......?」
どう反応していいかわからずにいるアリッサに、今度はブロクラが近づく。
手にはドレスを持って。
「歴史や政治のお勉強も大事ですけれど、淑女としては礼儀作法とかダンスのお稽古も必要ですよね。長官の年齢だと、まだまだ綺麗より可愛いデザインの方が似合うと思うんですけれど、こういうのはどうですか?」
「ブロクラさんが何を言っているのかわからない」
目を点にして、ドレスをひらひらと見せてくるブロクラに、横からカイムが無表情に良く似合う平坦な声で待ったをかけた。
「中身の無い淑女というのは問題でしょう。まずはしっかりと勉強をしてからが効率が良いかと」
「カイムさんと違って、一日文字を追いかけて平気な女の子なんていませんよ。楽しめる内容も織り交ぜないと、長官が可哀そうでしょう?」
「しっかりとした政治的感覚が無いままでは困ります。外交と社交は比較できません」
「比較できないから、バランスを考えるのよ」
「ちょ、ちょっと待って」
何やら教育談義を始めた二人を、アリッサが両手を伸ばして止めた。
「話についていけないんだけど。なんで僕がその......歴史とか政治とか、ダンス? とか勉強しないといけないの?」
ブロクラがキョトン、とした表情でアリッサを見つめる。
「......なるほど、どうやら話が伝わっていなかったようですね」
「あー......そういうことかぁ」
ブロクラが額を押えて天井を仰ぐと、不意に会議室のドアが開いた。
素早くカイムが頭を下げ、ブロクラも倣う。
「帰ってきたのか。お疲れ......なんだこりゃ?」
入ってきた一二三が書類を摘み上げて目を通す。
「急に勉強の話をされて、訳わかんなくて......」
「あー」
ぺち、と一二三は右手で自分の頬を叩いた。
「言うのを忘れてた。アリッサ。お前、俺の娘になってくれ」
「は?」
「養子になってくれって話。フォカロルとか諸々、領地をやるから」
何秒固まっていたのかアリッサには自覚できなかったが、たっぷり時間をおいて、悲鳴にも似た声を上げた。
☺☻☺
「......最近、良く気絶しているような気がします」
ベッドから起き上がり、侍女が用意したオートミールを掬いながらイメラリアは呟いた。
「その、陛下のせいではなく、色々とご身辺が騒がしいせいかと......」
泣きそうな顔をしているイメラリアを慰めようと、必死で言葉を探しているのは、ホーラントの戦闘にもついて来た侍女だった。
彼女は帰国した直後、城の前の広場でさらし首になっている変わり果てたバールゼフォンの生首を見てイメラリアが卒倒したところにも立ち会っている。彼女も一瞬気が遠くなったが、なんとかイメラリアを支えることに成功した。
一晩でなんとか回復したところで、フォカロルから送られてきた養子の申告書類だ。
本調子ではなかったところに、一二三が養子をとるという書面での連絡を受けて、再び気が遠くなったイメラリアは、夕方になってようやく起き上がることができた。
「これも王の勤めと言われたら、それまででしょうけれど......あの方をこの世界に呼んだのは、確かにわたくしですけれど......もう!」
皿の半分ほどを食べたイメラリアは、改めてフォカロルから送られてきた養子についての書類を見つめる。
貴族が家督を継がせる養子を取るのに、特に王の許可は必要ない。当主なり遺族なりが納得して申請すればよいという事になっている。
一二三本人の字ではないと思われる、判で押したように整った字に、これまたそのままお手本になりそうな文面で綴られた書面だったが、サインだけはしっかり一二三の文字と思しき妙に下手な文字が並んでいる。
アリッサが領地を継ぐことそのものに対して、イメラリアとしては特に反対するつもりは無かった。一方的なものかもしれないが、共に戦ったことで生まれた親しみも多少はある。
できれば、数少ない女領主として、男社会である上流社会で存在感を表してもらえたら、女性を侮る男たちに対して良い牽制にもなるだろうとも思う。
「失礼します。お加減はいかがでしょうか」
イメラリアが目覚めたという報告を受けたのだろう、ノックをして入ってきたサブナクに、イメラリアはフォカロルからの書類を無言で手渡した。
「?......これは......」
「狙いはなんだと思われますか?」
おそらく一二三の事を城内で最も知っているのはサブナクだろう。感覚も近くなりつつあるのがイメラリアには気になるが、相談役としては適当だと判断した。
「あー......なんというか......」
「何か言いにくい内容なのですか?」
「これはぼくの想像でしかない、ということを前提でお話しさせていただければ」
オートミールの皿を脇にずらし、指をからめた両手をテーブルに置いたイメラリアは、一呼吸置いた。
「かまいません。聞かせてください」
「多分、自由に動くために隠居するつもりじゃないでしょうか......。貴族をやるのに飽きたのかもしれません」
「今でも自由に動き回っているではありませんか」
「ぼくには、何か大きなことの準備を始めるために、役割をアリッサに押し付けたように見えるのですが......」
サブナクの言葉に、イメラリアは焦りを覚えた。
「......直接、本人から話を聞かねばなりませんね」
立ち上がり、サブナクから書類を受け取ったイメラリアは、眉間にしわを寄せて命じた。
「トオノ伯爵へ召喚状を送ってください。......名目は、ヴィシーの戦乱に関して、としておきましょう」
だが、そんな事は当然ついでの用に過ぎない。
イメラリアが本当に聞きたいのは、一つだった。
「わたくしたちの世界を、どうしようというおつもりですか......」
何が起きるにしても、一つの国を背負った者として、呼び出した責任を負う者として、復讐心を脇に置いてでも、やらねばならない事がある。
死ぬかもしれないが、それは確かに自分の役割だ、とイメラリアは決意した。 | Having his own subordinate soldiers, who came running towards him, being bisected in a single stroke made Bashim flustered.
“What the hell is this? Someone tell me what’s this about!” (Bashim)
“It’s an enemy attack, Don’t be so frightened if you are the supreme commander here.” (Hifumi)
“A blue horse is unusual”, carrying the katana in his hand, Hifumi approaches with a slow swaying.
The demon soldiers, who desperately ran away, had been altogether split into upper and lower body halves and died while stretching their hands towards Bashim as if asking for help.
“A human... it is?” (Bashim)
“Let me tell you something nice. Some of your subordinates died.” (Hifumi)
Bashim, who looks down at Hifumi from atop his mount, bit his back teeth while sweating.
“Human, did you bastard kill them?” (Hifumi)
“The ones I finished off were at a level that I could deal with them with one hand. The others were killed by Vichy... this country. If you are going to attack a place, you should at least know its name, don’t you think so? Within Vichy there’s a civil war... or rather it’s a partial rampage. It looks like your soldiers died after getting dragged into that.” (Hifumi)
“Are you telling me to believe that?” (Bashim)
“Not really. Do as you like.” (Hifumi)
While talking, Hifumi’s vicinity gets surrounded by demon soldiers.
Seeing Hifumi calmly continuing to talk even while being encircled from all sides, Bashim wondered whether Hifumi is some kind of lunatic.
“But you know, to properly gather information is Vepar’s order, isn’t it?” (Hifumi)
With the name of the sovereign mentioned, Bashim temporarily refrained from giving the order to wrap things once and for all up by killing Hifumi.
“Your numbers are too lacking. If one really considered taking down a country, there would be personnel in order to reign it and not just soldiers to attack it. Though it’s different if it’s plain annihilation, I guess. Vepar should know at least this much.” (Hifumi)
“... We are strong. If we observe one or two cities, that will be plenty.” (Bashim)
“One or two? Ufu, ahahahaha!” (Hifumi)
Hifumi, who had his fill of a bellyful loud laughter, muttered “What an utter let down” towards Bashim.
“You have to do much better if you are going to deceive someone. If you tell a lie and it’s immediately exposed, one will be able to see your true nature.” (Hifumi)
Once he roared, the blade of a longsword was created by Bashim from thin air in front of his eyes and at the same time it was shot like a bullet.
There isn’t even meters distance between the two.
Bashim imagined the sight of the blade piercing the enemy’s belly, and thinking how that would be reproduced in reality right away, his expression warped, but it never came to pass.
“There’s no way for the blade to reach from this far away, is there?” (Hifumi)
The sword, which Bashim released, is piercing the ground diagonally behind Hifumi who was grasping the scabbard he is wearing at his waist.
“W-Wh-What happened...?” (Bashim)
“You aimed at my belly, right? That’s why I repelled it like this.” (Hifumi)
He swings the mouth of the scabbard left and right.
“As if such foolishness is possible!?” (Bashim)
The second sword was knocked down with the pommel.
“Something like firing it directly at me from ahead in front of my eyes is like telling me “Please defend against it”, right...? Good grief, Bennia and Phelgor were capable of doing a lot more different things.” (Hifumi)
Being compared to names he knows, Bashim tightly bites his back teeth once again.
“Putting aside Phegol who was the king’s aide, you are telling me that I’m worse than Bennia who didn’t command anything above a platoon?” (Bashim)
Hifumi replied to the enraged Bashim by laughing frivolously.
“It’s slightly different. If you can’t do anything but sending swords flying, it should be corrected to
Did he reach the peak of his rage? Raising a roar with unknown meaning, Bashim held up his right hand immediately and ordered the soldiers with a very loud voice,
“Everyone, attack him with magic all at once! The attribute doesn’t matter! Erase the insolent human so that not even a speck of dust remains of him!” (Bashim)
At the same time as the order reaches them, a variety of magic attacks, such as ice, flames, rocks and water, comes flying from the soldiers who were surrounding Hifumi.
Steam and sand swirls about, and a smoke, mixed with the colours of white and light brown, rises up at the place where Hifumi stood.
Once someone extinguished it with a water spell, only the hollowed-out ground was left there.
“... Humph. He was a human after all, huh? A fragile being.” (Bashim)
“If they hit, that is.” (Hifumi)
A sole answer was audible from behind the muttering Bashim.
“You bastard...” (Bashim)
Knowing the cold sensation at the nape of his neck, Bashim only turned his eyes, but his field of vision didn’t reach Hifumi’s face. Only the cold blade, which reflected his face wet with cold sweat, entered his sight.
“Cut it out with the attacks where you lose sight of your enemy. Not knowing what you opponent did is disadvantageous, right?” (Hifumi)
“Even if you kill me, there are still soldiers here. Don’t believe that you will be able to get away...” (Bashim)
“You are furious, aren’t you? That’s good.” (Hifumi)
While keeping the katana closely at his neck, Hifumi grabbed the left arm of Bashim and twisted it.
Despite being on top of a horse, Hifumi doesn’t lose his balance at all. On the other hand, Bashim’s balance crumbles and he is a situation where he supports his stance somehow with the stirrup.
Even the surrounding demon soldiers have no other choice but to watch from a distance out of fear that they would accidentally shoot Bashim if they attacked.
Hifumi spoke up towards them.
“Currently you are attacking Vichy. Next to it, there’s a country called Orsongrande. I’m staying there. Come after gathering bigger numbers. If you do that, I will face you directly.” (Hifumi)
He removed the katana from Bashim’s neck, but Bashim can’t move due to his wrist being immobilized.
“The thinking that you are strong and the humans are weak resulted in this. You feel offended, don’t you? There might also be some fellows who are considering it as unreasonable, if they are a slightly stupid. So, since I’m a feudal lord-sama who possesses a heart as wide as the wastelands, I thought that I will give you an opportunity for revenge.” (Hifumi)
He makes a sound as if rubbing silk.
Without anyone noticing, the katana, held by Hifumi, was swung up from below.
“Guaaaaaaaaah!” (Bashim)
Having his left arm severed from the tip of the shoulder, Bashim finally ended up falling off his horse.
Holding up the arm while grabbing it with his left hand, Hifumi glares at the surroundings.
“I will return this arm if you come in front of me.” (Hifumi)
In front of the dumbfounded demon soldiers, he tosses the arm into his darkness storage and wipes his katana with repeatedly stacked papers.
While hearing the voice of Bashim, who has fainted in agony, from behind as the discarded papers flutter down, Hifumi leisurely goes home.
A person, who would try to stop him, currently didn’t exist in this place.
☺☻☺
Three days later than Hifumi’s party, Alyssa returned to Fokalore while leading the exhausted soldiers.
“I’m home~...” (Alyssa)
“Welcome back.”
Alyssa, who finished the explanation about their holidays and their assignments afterwards, had the unit disperse while having a completely exhausted expression herself as well.
Returning to the feudal lord’s mansion, Alyssa searched for Hifumi in order to give her report, but as he apparently left to meddle with Vichy right after returning and had departed casually to some place once again, she wasn’t able to meet him.
In exchange, she’s greeted by Caim and Brokra.
“Thanks for your hard work, director.”
Once she gulps down the cold tea, Brokra poured in her cup, in one go while sitting in a chair of the conference room, Alyssa prostrated limply on the table.
“In the end it didn’t become much of a training. Orsongrande and Horant became friends, and that was it.” (Alyssa)
“In this time’s matter Orsongrande has probably acquired a superior position in regards to Horant. And in addition, it’s only Fokalore and Münster who supported the royal army at all places. Together with the previous uproar in Horant, the two Earl households have become extremely powerful and influential voices within the country.” (Caim)
While feeling a sense of discomfort towards Caim who explains it with a tone completely like that of a teacher, Alyssa received another cup of tea from Brokra and sighed.
“Hifumi-san’s influential voice, or rather, his powerful influence isn’t something that started just now, is it? Even in the matter this time, he manipulated the princess... err, queen-sama and the king over there.” (Alyssa)
Due to Alyssa chatting as if she had forgotten that she participated in that expedition as well, Caim answered 「Is that so?」 without moving even one eyebrow.
Since he has finished listening to the reports from the soldiers who returned together with Hifumi, for Caim, who had all the fact stored in his head, it’s apparently no problem to ignore Alyssa’s impressions.
“However.” (Caim)
Caim placed a thick bundle of documents in front of the sitting Alyssa.
“It’s Lord-sama’s influence. And not only that. it’s necessary for you to grasp the influence of the Earl Tohno household and this territory. Since the current Lord-sama is fortunately the source of it all, there is little history that you have to remember, but regarding the circumstances inside and outside the country, you have to do it down to the basics.” (Caim)
Alyssa timidly extends a hand and looks at one paper titled 『History and the Beginning of Orsongrande』. A long, long essay with illustrations put in-between sometimes was written there.
“Y-Yeeaa...?” (Alyssa)
Next Brokra approaches Alyssa who doesn’t know how she should react.
She holds a dress in her hands.
“The study of history and politics is important, but for a lady it’s also necessary to practise dancing and etiquette, right? If it’s your age, director, I believe that a cute design still suits you much more than a beautiful one, but what do you think about this one?” (Brokra)magic
“I don’t understand what you are saying, Brokra-san.” (Caim)
Caim retorted from the side with a flat voice, that suited his expressionless face well, towards Brokra, who presents a frilly dress, making her eyes change into dots.
“It’s very likely a problem to be called a lady with an unsubstantial character. If she studies properly first, her performance will be great, right?”
“Different from you, Caim-san, there are no cool girls burying their noses in books all day long. If you don’t weave in some enjoyable content, the director will be pitiable, won’t she?” (Brokra)
“It will be embarassing as long as she doesn’t possess a proper political sense. You can’t compare social life with diplomacy.” (Caim)
“Since you can’t compare them, you have to consider their balance.” (Brokra)
“W-Wait a bit.” (Alyssa)
Alyssa stopped the two, who started a discussion about her training for some reason, by stretching out both hands.
“I can’t follow your discussion. But, why do I have, umm... to learn history, politics or dance? Or do I have to study such things?” (Alyssa)
“Huh?”
Brokra looks at Alyssa with a startled expression.
“... I see, it seems she didn’t hear about it.” (Caim)
“Ah... so that’s how it is?” (Brokra)
When Brokra was looking at the ceiling while curbing her eyebrows, the door of the conference room suddenly opened.
Caim swiftly lowers his head and Brokra follows up on him as well.
“Did you return? Good wor-... what’s going on here?”
Hifumi, who entered the room, picks up a document, lifts it up and scans over it.
“Being suddenly told to study, I’m totally lost...” (Alyssa)
“Ah.” (Hifumi)
Hifumi slaps his own cheek with his right hand.
“I forgot to tell you. Alyssa, please become my daughter.” (Hifumi)
“I’m asking you to become my adopted daughter, is what I mean. Since I will give you the territory such as Fokalore and various other.” (Hifumi)
Alyssa wasn’t aware herself for how many seconds she froze, but after plenty of time, she raised a voice that resembled a scream.
☺☻☺
“... Recently I feel like I’m fainting often.” (Imeraria)
Imeraria muttered while getting up from the bed and scooping up the oatmeal prepared by her maid.
“Umm, that’s not because of Your Majesty. It’s because you are troubled over various matters regarding a certain person...”
It was the maid who accompanied her to the battle with Horant that is frantically searching for words to comfort Imeraria who has an expression that seems to be on the verge of crying.
Directly after returning to the capital , She was also present at the place where Imeraria fainted due to seeing the severed head of the completely changed Balzephon put on display at the plaza right in front of the castle. The maid lost conciousness for an instant as well, but somehow managed to support Imeraria.
When she recovered more or less after a good night’s sleep, there was a document sent by Fokalore notifying her about an adopted child.
Due to not being in a normal condition, Imeraria fainted once again after she read the message of Hifumi taking an adopted child in the document. After that she was finally able to get up once it became evening.
“If I’m told that this is also the duty of a ruler, it will probably end with this, but... the one who summoned that gentleman into this world is defintely me... geez.” (Imeraria)
Imeraria, who ate around half of the dish, once again picks up and examines the document regarding the adopted child which was sent from Fokalore.
A noble taking an adopted child so that they can have the child succeed the family headship doesn’t really need the king’s permission. It’s been arranged that it will be fine as long as they at least request consent if it’s a current family head or a bereaved family.
This was once again a document composed with a content that might serve as role model due to its regular and well-ordered characters which can be considered to not be Hifumi’s own writing, only the signature lines up strangely poor characters which appear to really be Hifumi’s.
Imeraria didn’t particularly intend to object about the matter of Alyssa succeeding the territory. It might be something one-sided, but Imeraria feels some intimacy toward her born from the fact that they fought together.
If I can have her show presence in the upper class, which is a male society, as one of the few female feudal lords, it might become a good restraint towards the men who make light of a queen
“Excuse me. How’s your condition?” (Sabnak)
Imeraria silently handed over the document she received from Fokalore to Sabnak who entered after knocking as he probably received a report that Imeraria had woken up.
“?... This is...” (Sabnak)
“What do you think is his aim?” (Imeraria)
The one who probably knows the most about Hifumi inside the castle is Sabnak. Imeraria felt uneasy about him being too close feeling-wise to Hifumi’s side, but she judged that he’s appropriate as advisor.
“Ah... how to say it...?” (Sabnak)
“Is it something difficult to say?” (Imeraria)
“Not as long as I can state it with the premise that it’s nothing but my own guess.” (Sabnak)
Shifting the plate with the oatmeal to the side, Imeraria placed both her hands, with the fingers entangled, on the table and made a short pause.
“I don’t mind. Please let me hear it.” (Imeraria)
“Isn’t he planning to retire so that he can move about freely...? He might have lost interest in being a noble.” (Sabnak)
“Hasn’t he been moving around freely until now?” (Imeraria)
“To me it looks like he’s pushing his duties on Alyssa in order to begin preparing something big, but...” (Sabnak)
Imeraria felt impatient due to Sabnak words.
“... I guess I have to directly hear about it from the person himself.” (Imeraria)
Imeraria, who accepted the document from Sabnak after standing up, ordered while furrowing her eyebrows,
“Please send a summons to Earl Tohno. ... Let’s use the war in Vichy as pretext.” (Imeraria)
However, that matter is naturally no more than a side business.
What Imeraria wanted to hear was just one thing.
“What do you intend to do to our world...?” (Imeraria)
Even if something happens, as person responsible for a country, as person bearing the responsibility of having summoned him and even after putting her desire for revenge aside, there’s something she has to do.
I might die, but it’s definitely my duty |
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} | 「ご機嫌麗しゅう。女王陛下」
「お堅い挨拶は不要ですわ、オリガさん」
数名の侍従を引き連れて王城を訪れたオリガの衣装は、戦闘要員も兼侍従として付き従っていた頃とは違い、貴族の女性が着るようなドレスに似た、少し袖のサイズに余裕がある高価な生地を使った青い装束だった。
手には鉄扇を持ち、背筋を伸ばして楚々とした雰囲気を醸し出すオリガは、王城内でも注目の的だった。
その美貌に声をかけようとした貴族も居たが、同僚から彼女の立場を知らされ青ざめた。
そして今、女王イメラリアの執務室にて面会をしている。
本来であれば貴族の妻になっただけの平民でしかないオリガが許される状況ではないのだが、彼女の夫が特別過ぎたのと、何を目的としているかわからない以上は、他の貴族たちの目に入る可能性が高い謁見の形式よりも、私的な会合とすることを選んだという理由もある。
「まずは、ご結婚おめでとうございます。貴族としての生活には慣れましたか? 元々冒険者をなさっていたということですから、今までとは勝手が違いますでしょう」
「そうですね。フォカロルでは貴族だからとか平民だからとかはあまり関係ありませんので、然程気にもしておりません。どちらかといえば、夫に擦り寄ってくる方へ“対応”する方が大変です」
「あら。今や様はオーソングランデ内でも指折りの広い領地と高い名声を誇る大貴族の一人なのです。一人でも優秀な人員を囲っておくのも、大切なことですわ」
「そうですね。小姑のように口出しをしてくる方もいらっしゃいますから、対応のための人員は必要ですね。いちいち相手していたら、神経が磨り減ってしまいますから」
オリガはあえてイメラリアと距離を置くつもりであり、自分を除けば最も近しい女性は彼女であると認識しているのも手伝っての言葉だが、イメラリアの方は意図しないうちに刺のある台詞が口をついて出ていた。オリガが妻で良いのだろうか、という不安があるのは自覚しているが、それが“国内の貴族”に対してなのか“一二三という人物”に対してなのかは、結論は出せない。
ひとしきり口撃し合ってから、お互い紅茶に口を付ける。
オリガもイメラリアも、微笑みを浮かべたままなので、傍目から見れば和やかなお茶会という雰囲気だろう。
同席している宰相アドルは、あらゆる方面への心配事で胃に穴が開きそうな思いで、飲んだ紅茶も味がしなかった。
「そ、それでトオノ夫人。今回、イメラリア様だけでなく私にも同席をというご連絡をいただいたのだが、一体どのような要件なのかね?」
早くこの場から開放されたい一心で、アドルは早々に本題を切り出した。
「......アドル様、最近資料室で色々とお調べのようですね」
「な、何を......」
「調べはついておりますので、否定は意味がありません。......そこで、古代魔法について資料をお探しされているそうですね。目的はなんでしょうか?」
オリガが淡々と話すうちに、アドルはびっしょりと汗をかいている。膝の上に置いた拳を握り、良い言い訳は無いかと頭をひねるが、何も浮かんでこない事にさらに焦る。
「宰相、貴方......」
その様子に、イメラリアも不審に思った。
「熱心に調べ物をしていたのは知っていました。宰相には以前より苦労をかけていましたし、その知識や経験に助けられたことは一度や二度ではありません。ですが、古代魔法を調べていたとはどういうことでしょう。宰相には、魔法は使えないとわたくしは聞いておりましたが?」
イメラリアからも質問を浴びせられ、観念したアドルは、一二三を元の世界へと戻す“送還魔法”を探している事を正直に話した。
武力では、たとえ大人数でも騙し討ちでも難しいことは既に証明済みなので、謝罪として元の世界へ戻す手があると提案しようと考えている、と宰相は初めて自分の考えを人に話すことになった。
「一二三様を元の世界へ......そんなことが、可能なのでしょうか?」
謝罪の方法だと聞いて一瞬、明るい表情を見せたイメラリアだが、何か思うところがあるらしく、少し暗い顔で問うた。
その事も不安なアドルは、つい口から出た言葉を引っ込めることができなかった。
「......実は、その魔法の記録は発見いたしました。ここから先は、魔法使いでなければわからない部分が多いので、解析を進めなければなんとも言えませんが」
「そうなのですか。では、わたくしもそれに協力いたしましょう。一二三様には色々と思うところもありますが、お戻りいただくのが一番......」
イメラリアは、はっとしてオリガの顔を見た。
彼女が一二三を狂信的に愛している事はイメラリアも知っているので、自分の発言がオリガの逆鱗に触れるのではないかと遅まきながら気づいたのだ。
だが、オリガはニコニコとした笑みを崩さない。
「オリガさん、この件は......」
「私も、その計画に協力させていただきます」
慌てて声をかけたイメラリアに、オリガはきっぱりと言い切った。
「オーソングランデを救い、戦闘だけでなく世界の技術を一気に進めた異世界からの勇者様は、その役目を終えて異世界へと帰っていった......素晴らしい英雄譚の完成ですね」
「よ、よろしいのですか?」
声を震わせてイメラリアが尋ねるのを、当然です、と紅茶を一口飲んでオリガは答えた。
「私の夫である一二三様はこの世界だけで終わるような小さな存在ではありません。私も魔法を使えますから、その研究には最大限協力させていただきます。ただし......」
カップを置いたイメラリアは、アドルを見据える。
「送還と称して一二三様を害するような素振りを見せるようでしたら、フォカロルは直ちに独立し、オーソングランデ全土に対して戦争を開始いたします」
「そ、それは女王陛下へ対する脅しとも取れる発言だ! それに、いくらフォカロルの兵が強くとも、国中の兵士を相手取るなど......」
「全ての兵を相手にする必要などありません。私たちにとっては、城に忍び込んで重要な人物のみを始末するなど、容易いことです」
「ですが、一二三様は......」
「女王陛下。あまり私の夫の名前を親しく呼ばれるのは良い気分ではありません」
王の言葉を遮ってまでの言葉がそれか、とイメラリアは流石に苛立った。
「一二三様は、敵対しなければわたくちたちへ攻撃する事はなさいません。是非ご協力をお願いいたします。それで、オリガさんはなぜ協力いただけるのですか?」
あえて呼び方を変えなかったイメラリアに、オリガは目を見開いた。思っているよりも、一二三に対するイメラリアの気持ちは強いのかもしれない、と心の中で注意対象のランクを上げる。
「私が願っているのは、あの方がこの世界から去っていくその時も、共にあることです。ですから、送還する時のお手伝いもできます」
ほら、役に立つでしょう、とオリガは言った。
☺☻☺
「人間の国が見てみたいです」
と、唐突にレニが言い出したのは、朝食を摂っている時の事だった。
「な、何を言い出すのよ」
食後のデザートであるボダンを齧っていたヘレンは、驚いて真っ赤な果汁を口の端からこぼした。
一二三は黙って話を聞いている。
「昨日の一二三さんのお話で、人間にも戦う人ばかりじゃなくて、違う暮らしをしている人がいるんだと思いました。それに、ウチは一二三さんみたいに強くないし、ヘレンみたいに音で色々聞き分けられるような技術も経験も無いから、もっと色々知らないといけないと思うんです」
レニの表情は真剣だ。眠る前によくよく考えた結果だといい、ヘレンにも頭を下げて、わかって欲しいと言った。
「一二三さん、足手まといなのは承知の上です。人間の街に入るのに、ウチも連れて行ってもらえませんか?」
「無茶だよレニ! 人間の国で獣人が見つかったら、殺されるか奴隷にされちゃうよ!」
「一二三さんが一緒なら大丈夫。だから、これが最初で最後の機会だと思うんだ」
腕を組んで黙っていた一二三は、レニに向かって無表情に言い放った。
「それで、人間の生活を見てどうするつもりだ?」
「それは、ウチにもまだわかりません。......でも、このままいつ殺されるかわからない荒野で何も知らずにコソコソと生きていくよりも、もっと違う何かがあるんじゃないかと思ったんです」
「俺は行き先の国の事を何も知らん。案内はできないし、争いに巻き込まれる可能性もあるぞ」
「これまで荒野で逃げて隠れて生きてきました。戦いのときは、何とか殺されないように頑張って隠れます。国の案内はいりません。人間がどんな生活をしているのか、この目で見たいと思ったんです」
しばらく視線を交わしていた一二三とレニ。
ハラハラと心配そうに見ていたヘレンの前で、一二三はレニの頭に手を置いた。
「わかった。子供が色々と見て勉強するのは良いことだ。その上で、自分がどうしたいか判断するといい。ただし、ソードランテではお前は俺の奴隷という扱いにしておくぞ」
「わかりました。よろしくお願いします」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 奴隷扱いって......」
心配するな、と一二三はヘレンに向かって誇らしげに言う。
「奴隷の扱いなら慣れたもんだぞ。それに、単なる見せかけだけのことだ」
「いいんだよ」
レニは、ヘレンにそっと抱きついた。
「わがまま言って、本当にゴメンネ。色々と見てきたら、ヘレンにもどんな人がいたか教えてあげるね。ひょっとしたらウチ、集落を変えるような大発見とかしちゃうかもしれないよ」
「集落というと、羊や兎が集まっているお前らの村か......」
指先で膝をトントンと叩きながら、一二三は何かを思いついたようで、頭の中を整理する。
「お前らの集落を変えるような事な。あってもおかしくないな」
一二三がニヤリと笑ったのを見て、ヘレンは慌てて立ち上がった。
「わ、わたしも付いて行く!」
ヘレンの申し出も了承され、三人は予定を変更し、別れずにそのままソードランテを目指して進む事となった。
騎士の国と呼ばれるソードランテ当代の王は名をブエルと言った。
初代王の生き写しとも言われる筋骨隆々の騎士でもある彼は、政務もそこそこに鍛錬に打ち込み、国内の騎士の誰よりも強いと言われている。
「獣人狩りに出た騎士が戻っていない、だと?」
短く刈り込んだ金髪を揺らし、城の裏庭にて剣の素振りをしながら、報告に対して「原因はわからんのか」と問いただした。
「はっ! 出入りの記録では、あまり荒野の奥へは行っていないと見られておりますが、目下、捜索中であります」
「捨て置け」
「はっ?」
剣を置いたブエルは、流れる汗を拭った。
「捨て置けと言ったのだ。そいつが我が国の誇りある騎士ならば、何日かかっても戻ってくるだろうから、その時は迎え入れてやればいい。だが、獣人ごときにやられてしまうようなら、そんな騎士はこの国には必要ない」
「しかし......」
反論は許されず、報告に来た騎士は王の手振りだけで庭を追い出された。
代わりに王の近くへと進み出たのは、王に常に付き従っている侍従の一人だった。
侍従は王が汗を拭った布を受け取り、冷たい水を差し出した。
「獣人の準備ができております」
「なら、すぐに連れてこい」
一礼してその場をさった侍従が戻ってきたとき、彼の後ろには兵士二人によって鎖でがんじがらめにされた豹の獣人が引き出されていた。
「ふむ。今日は豹が相手か」
剣を掴み、豹獣人の前に立ったブエルは、剣を突きつけて言う。
「薄汚い獣人だが、お前は強いのか?」
顔を上げた豹の獣人は、王を無言で睨みつける。
「王よ。この者はうるさく叫ぶので、喉を焼き潰しております。声は出せません」
「なんだそうか。おい獣人。今からお前を縛る鎖を解いてやる。そして俺に傷一つでも付けられたなら、荒野に放ってやろう」
王が指示すると、兵たちは鎖の留め具を外し、素早く獣人から離れた。
突然拘束から解放された獣人は、一瞬膝を付きはしたものの、素早く後ろに飛び下がり、爪をむき出しにして構えた。
ギラギラした目を向けてくる豹の獣人に対し、王は不敵に笑う。
「そうだ。そうやって必死に生きるためにもがくといい。だが」
両手に掴んだ剣を斜め上に突き出すような独特の構えをとる。
「所詮は獣人だ。騎士の剣技によって死ぬ事を光栄に思うがいい」
声にならない叫びを上げて、豹が猛然と迫る。
地面に這うようにして足元から潜り込んできた豹獣人は、身体を起こすと同時に両手を突き出して王の首を狙った。
剣を引き、柄を振って突き出された指を叩き落とすと、猛然と横なぎに振り抜く。
再び身を低くして、辛うじて避けることに成功したと豹獣人が判断した瞬間、王は身をひねり、独楽のように回ると再び剣を振るう。
「ふんっ!」
斬るというより叩きつけるに近い音がして、豹の頭が上下に断ち割られた。
脳漿を撒き散らして倒れた豹の獣人に目もくれず、王は侍従に剣を突き出し、刀身を拭わせる。
「最初の動きは良かったが、とっさの対応ができておらんな」
「お見事でございました、王よ」
侍従の褒め言葉に、王は鼻を鳴らして不機嫌を表した。
「この程度の奴に手こずるようでは、騎士の国の王とは言えん。始祖のように強くあらねばならん。すぐにもっと強い獣人を探して連れて来い」
「はっ! 了解いたしました!」
獣人を連れてきた兵士たちが王へ敬礼し、死体を引きずって離れていく。
「王よ。そろそろ城へ戻る時間でございます」
侍従の言葉を聞いた王は、首を横に振った。
「誰かに任せておけ。俺はメスの部屋に行ってくる。戦いの後は滾るからな」
城内地下にある、獣人の女性を監禁した部屋へと向かう王を、侍従たちは頭を下げて見送った。 | “I hope you are in splendid health, Your Majesty, the Queen.” (Origa)
“Such stiff greeting is unnecessary, Origa-san.” (Imeraria)
The dress of Origa, who brought several chamberlains along to the royal castle, was different from the time she accompanied Hifumi as chamberlain while also serving as combat personnel. It resembled a dress worn by noble women. It had a bit leeway in regards to the size of the sleeves and was a blue costume, which used high-priced fabric.
Holding the iron-ribbed fan in her hand, Origa, who keeps her head high and engenders a graceful ambience, was the centre of attention even within the ruler’s castle.
There also was a noble, who tried to praise her beauty, but he turned pale after his colleague informed him of her status.
And currently she is attending a meeting with Queen Imeraria in her office.
Originally Origa, who is no more than a commoner that only became the wife of a noble, isn’t permitted to attend in this situation, but with her husband being far too special and, on top, it being unknown what her purpose is, it was chosen to carry out a private meeting rather than a formal audience, where she very likely would have been seen by other nobles.
“First off, congratulations on your marriage. Did you get used to life as a noble? Because you were working as adventurer originally, it’s probably a different environment from before.” (Imeraria)
“Let me see. Since there isn’t much difference whether you are a commoner or noble in Fokalore, I don’t even particularly have such feelings. If pushed to say, then it’s harder to “deal” with snuggling up to my husband.” (Origa)
“Ara. Currently Hifumi-sama is the sole large noble boasting high fame and leading in vastness of territory within Orsongrande. Surrounding yourself with excellent personnel is also an important matter.” (Imeraria)
“That’s right, isn’t it? Since I’m also welcoming ladies coming to meddle as if they are sister-in-laws, it’s essential to have personnel in order to support me. If I handled each and every party, my nerves will end up getting worn down.” (Origa)
Origa deliberately intends to put Imeraria at distance. Even though Imeraria uses words of assistance, Origa has recognised her as the woman being the most intimate with Hifumi, if she excludes herself. Thus biting words rushed out of her mouth towards Imeraria, although not intentional. Origa is aware of her own anxiety whether she is really a good wife, however she can’t reach a conclusion whether that’s in regards to “the person called Hifumi” or “the domestic nobles.”
After having verbal attacks for a while, both of them taste some black tea.
Given that Origa and Imeraria are showing smiles, it might look like a harmonious tea party from the perspective of an outsider.
Prime Minister Adol, who is present, didn’t even savour the black tea’s taste he drank as he has recollections similar to having his stomach pierced with worries from all directions.
“S-So, Mrs. Tohno, this time you not only requested Imeraria-sama’s presence but mine as well in your message. But, what sort of important business is it?” (Adol)
Wholeheartedly wanting to be freed from being at this place, Adol quickly cut at the real issue at hand.
“... Adol-sama, it seems that you have investigated various things in the reference room recently.” (Origa)
“Wh-What are...” (Adol)
“Given that I have attached the investigation, there’s no meaning in denying it. ... Accordingly, it appears you have been searching for documents about ancient magic, right? What’s the purpose of that?” (Origa)
While Origa indifferently talks about it, Adol is drenched in sweat. Clenching his fists placed on top his knees, he wrecks his brain over whether there is a good excuse, but as nothing comes to mind, he gets even more flustered.
“Prime Minister, you...” (Imeraria)
Even Imeraria considered his state as suspicious.
“I was aware that you were enthusiastically investigating some matters. You were burdened with more troubles than before, Prime Minister. It’s not only once or twice I relied on your knowledge and experience either. But, what’s this about you investigating ancient magic? Though I heard that you aren’t able to use magic, Prime Minister?” (Imeraria)
As the questions poured on even from Imeraria’s side, Adol, who had an idea, frankly talked about the “return spell” for returning Hifumi to his former world.
Given that it has already been proven that Hifumi has military power, which is difficult to handle even with sneak attacks and large numbers, he has been considering to propose it as apology, if there is a way to return him to his previous world, is what the prime minister decided to begin to explain to people about his own plan.
“Hifumi-sama to his previous world... such a thing is possible?” (Imeraria)
The instant she hears about it as method of apology, Imeraria displayed a cheerful expression, however she asked with a slightly gloomy face after she apparently has thought about something.
Adol, who is worried about that matter as well, wasn’t able to take back the words, which left his mouth next.
“... As a matter of fact I discovered records of that magic. Since there are many parts, which are incomprehensible if you aren’t a magician, I can’t really say if the analysis will proceed in the future from now on.” (Adol)
“Is that so? Then let me help you with that as well. Although there are various parts to consider with Hifumi, having him return is the best...” (Imeraria)
Imeraria was startled looking at Origa’s face.
Since Imeraria has known about her fanatic love towards Hifumi, she belatedly realized that her remark likely would infuriate Origa.
But, Origa’s smile hasn’t crumbled.
“Origa-san, this matter is...” (Imeraria)
“I will also help you with that project.” (Origa)
Due to Imeraria calling out to her in panic, Origa clearly declared,
“Rescuing Orsongrande, the hero-sama from another world, who not only advanced the combat but also the craftsmanship of this world in one go, finished his duty and went back to his own world... It’s a splendid, complete epic, right?” (Origa)
“I-Is that alright with you?” (Imeraria)
Towards Imeraria, asking with a trembling voice, Origa, drinking a sip of black tea, replied “Of course.”
“Hifumi-sama, who is my husband, isn’t a small existence, that will be done with only this world. As I’m also able to use magic, I will give my maximum cooperation for that research. However...” (Origa)
Imeraria, who put down her cup, gazes at Adol.
“If you were to look like you are pretending the return of Hifumi-sama, Fokalore will immediately announce its independence and begin a war with all of Orsongrande.” (Origa)
“T-That is a remark that can even be interpreted as threat directed at Her Majesty, the Queen! Besides, no matter how powerful the soldiers of Fokalore might be, something like challenging the soldiers of the entire nation is...” (Adol)magic
“There’s isn’t any necessity or such to take on all soldiers. For us something like getting rid of only the important people crawling in the castle is a simple matter.” (Origa)
“But, Hifumi-sama is...” (Imeraria)
“Your Majesty, it isn’t a nice feeling for you to call my husband’s name in an overly personal manner.” (Origa)
“Aren’t those words to merely interrupt the words of the sovereign?” As one would expect, even Imeraria had lost her patience.
“Hifumi-sama won’t attack us, if we don’t oppose him. Please cooperate with us without fail. So, Origa-san, why is it acceptable for you to cooperate with us?” (Imeraria)
, causing Origa to raise up Imeraria’s rank as target to be cautious about within her mind.
“What I’m desiring is to be together with him even at the time he is sent away from this world. Therefore, I’m even ready to help you at the time of return.” (Origa)
“Hey, I will probably be useful”, is what Origa said.
☺☻☺
“I want to try seeing a human country.” (Reni)
Is what Reni suddenly blurted out during the time of them having breakfast.
“W-What are you saying?” (Helen)
Helen, who chewed an after-meal dessert bodan, was surprised and spilled bright red fruit juice from her mouth.
Hifumi is silently listening to their talk.
“In yesterday’s story of Hifumi-san, humans weren’t people, who only wage war. I wondered, if there are people living a different life. Besides, we aren’t as strong as Hifumi-san. Since I don’t have the experience and skill like you, Helen, who can hear various sounds, I think it’s wrong if I don’t get to know a lot more different things.” (Reni)
Reni’s facial expression is serious. She said it was the result of carefully thinking before sleep and wished for Helen to understand it as she bowed to her.
“Hifumi-san, forgive me for being a burden ahead of time. Although we will enter a human city, would you take me along as well?” (Reni)
“You are unreasonable, Reni! If a beastman is discovered in a human country, they will be killed or turned into slaves!” (Helen)
“It will be fine as long as I’m together with Hifumi-san. Therefore I believe that this is the first and last chance.” (Reni)
Hifumi, who remained mute while having his arms folded, expressionlessly turned towards Reni and bluntly said,
“So, what do you plan to do after seeing the life of humans?” (Hifumi)
“That is, even I still don’t know that. ... But, rather than living secretly, without knowing anything, in the wastelands, where I don’t know when I might get killed, I wondered whether there isn’t something a lot more different.” (Reni)
“I don’t know anything about the destination country. I’m unable to show you around. There is also the possibility of you getting involved in strife.” (Hifumi)
“So far I lived by hiding and running away in the wastelands. At the time of battle I will be able to preserve by hiding in order to somehow not get killed. You don’t have to show me around the country. I thought I want to see how humans are living their lives.” (Reni)
Hifumi and Reni locked their gazes onto each other for a short while.
In front of Helen, who looked as if worrying with her heart going pit-a-pat, Hifumi placed his hand on Reni’s head.
“Got you. It’s a good thing for a child to study by observing various things. Moreover, it’s fine if you have decided that you want to do so by yourself. However, in Swordland you will let me treat you as my slave.” (Hifumi)
“Understood. Please treat me well.” (Reni)
“W-Wait a bit! Treat as slave, you say...” (Helen)
“Don’t worry”, Hifumi proudly says facing Helen.
“If it’s the treatment of slaves, that’s something I’m familiar with. Besides, it’s merely a pretence.” (Hifumi)
“It’s fine.” (Reni)
Reni gently hugged Helen.
“I’m truly sorry for being selfish. Once I’ve seen various things, I will tell you how the humans been, Helen, okay? Perchance I might discover a great breakthrough to change the village.” (Reni)
“Speaking of village, it’s your village, where the sheep and rabbits are gathered, huh...?” (Hifumi)
While tapping his knee with a fingertip, Hifumi was apparently struck by some idea. He organizes it in his head.
“It won’t be strange to encounter something that might change your village, too.” (Hifumi)
Looking at Hifumi broadly grinning, Helen stood up in a fluster.
“I-I will come along as well!” (Helen)
Acknowledging Helen’s request as well, the three changed their plans and it became a situation of them heading towards Swordland without parting from each other.
The name of the current king of the Knight Country, Swordland, was Buell.
He, who is a muscular knight you can even call an exact resemblance of the founding king, devotes himself to training immediately after dealing with the governmental affairs. He is referred as being stronger than any of the knights within the country.
“A Knight, who left to hunt beastmen, hasn’t returned, you say?” (Buell)
Shaking his short-cut blonde hair while practising sword swings in the back yard of the castle, he questioned the report with 「The reason is unknown?」
“Haa! Going by the records of entry and departure, it is believed that he hasn’t gone too far into the wastelands, but at present it is under investigation.”
“Ignore it.” (Buell)
“Ha?”
Putting down his sword, Buell wiped of the flowing sweat.
“I told you to ignore it. If that person is a knight, who embraces our country’s pride, it will be fine to receive him at that time, since he will likely return even if he hunts for several days. However, if it looks like he had been done in by the likes of beastmen, this knight won’t be needed in this country.” (Buell)
“However...”
Without being tolerated to object, the knight, who came to report, was driven away with a mere gesture of the king.
In exchange it was a single chamberlain, who is constantly following the king, that stepped forward close to the king.
The chamberlain accepted the cloth, which the king used to wipe off his sweat, and took out cooled water.
“A beastman can be arranged.”
“If that’s the case, bring it here right away.” (Buell)
At the time the chamberlain, who left that place with a bow, returned, there were two soldiers, dragging a leopard beastman, having its hands and feet bound by chains, in his back.
“Hmm. Today the opponent is a leopard, eh?” (Buell)
Grasping the sword, Buell, who stood in front of the leopard beastman, points his sword at it and says,
“Though being a filthy beastman, are you strong?” (Buell)
The leopard beastman, lifting its head, glares at the king in silence.
“My king. Since this thing was persistently shouting, we have crushed and burned its throat. It won’t be able to raise its voice.”
“What, is that so? Oy, beastman. I will have the chains binding you removed now. And, if you are able to cause even a single scratch on me, I will release you in the wastelands.” (Buell)
With the instruction of the king, the soldiers unfastened the clasps and quickly got away from the beastman.
The beastman, who was suddenly liberated from the restraints, looked below his knee for no more than an instant, nimbly leapt back and set up its bare claws.
The king daringly laughs at the leopard beastman, who put more attention into glaring.
“That’s right. It’s good to also do that in order to desperately cling to life like that. But.” (Buell)
He takes a peculiar stance of pushing out the sword, which he held with both hands, diagonally above.
“After all you are a beastman. Consider it a honour to die by a knight’s sword technique.” (Buell)
Soundlessly raising a roar, the leopard approaches fiercely.
The leopard beastman, who slipped underfoot by making sure to crawl on the ground, aimed at the kings neck as it stuck out both arms while at the same time raising its body.
Drawing the sword, he knocks down the fingers sticking out by wielding the hilt and sweeps the blade sideways savagely.
The moment the leopard beastman judged that its narrow evasion was successful by lowering its body once again, the king twists his body and swings the sword once more by rotating as if a spinning top.
“Humph!” (Buell)
With a sound closer to slapping into something rather than slicing something, the leopards head was split open into top and bottom.
Without giving an eye to the leopard beastman, who collapsed and scattered brain matter, the king thrusts out the sword towards the chamberlain for them to wipe the blade.
“It’s first movement was great, but I was able to deal with it in an instant.” (Buell)
“It was magnificent, my king.”
The king expressed his displeasure by snorting due to to the chamberlain’s compliment.
“If I have a hard time with a fellow of this level, I can’t be called the Knight Country’s king. I ought to be as strong as the founder. Go search a stronger beastman at once and bring it here.” (Buell)
The soldiers, who brought the beastman, bow to the king and leave while dragging the corpse along.
“My king. It’s time to slowly return to the castle.”
Hearing the words of the chamberlain, the king shook his head.
“I will leave it to someone. I’m off to the female’s* room. It’s welling up after a fight after all.” (Buell)
“Certainly!”
The king, who heads towards the room, where the beastwomen are confined, in the castle’s basement, was seen off by the bowing chamberlains. |
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} | 街を進む間に刀をしっかりと腰に差し、懐から取り出した寸鉄を手の上でくるくると回しながら住宅街を抜けていく。
館から商店エリア、住宅街と順に抜けると、職人たちが集まる
エリアがあ呼び寄せたドワーフも、このエリアに用意された作業場でが依頼した物品を作成するか、街のあちこちで防御のための設備作りに勤しんでいる。
スラムへ向かうついでに作業場を覗いてみると、プルフラスを中心に、投槍器とトロッコ、それにトロッコ用のレールを作っていた。
工場の隅には完成済みのそれらがずらりと並ぶ。
軽く手を上げて挨拶しながら工場に入った一二三は、投槍器の数を数えてから、プルフラスに消耗部品以外の生産を止めて良いと言った。
「武器の方の作成を止めるのか? こういう誰にでも使える強力な武器は、数を沢山揃えれば沢山の敵を倒せるんじゃないか?」
「誰にでも使えるなら、別に兵士が使う必要もないだろう。これは街を守るのに俺たちがいなくても大丈夫なように用意させたんだよ。狭間の数だけあれば充分だ」
「領主様はつかわんのか?」
「馬鹿言え。自分の手で殺さないなら、戦う意味がないだろう。ただ勝てば良いなら、とっくにヴィシーは無くなってるぞ」
ごくごく真剣な表情で一二三が語る内容に、プルフラスは黙ってしまった。領土を広げるために戦争をしたがる王や貴族は過去に何人も居たというが、人を殺すために戦争をする狂人は初めてだ。
「次の戦場は、ローヌ、アロセール、フォカロルと移動する予定だからな。レールをどんどん作って、ローヌを目指してどんどん敷設してくれ」
「わかった。人員の配置を変更する。できれば、人手も増やしてほしいが......」
「そんならオリガに文官奴隷の誰かに言ってくれ。職員から何人か回すだろう。じゃあ、俺は掃除に行ってくる」
「掃除?」
「領主として、暮らしやすい街を作る努力をするんだよ」
「はぁ」
よく判らないまま一二三を見送ったプルフラスは、先ほど言われたことを頭の中で整理して人員の配置を考えているうちに、ある事に気がついた。
「ローヌからアロセール、フォカロルだと? どんどん押される予定というのはどういう事だ? 領主様は今度の戦争は負けると思っておるのか?」
最終的にフォカロルの防御と投槍器で敵を足止めして援軍を待つのだろうか。
考えても判らないので、どうせ自分には物を作る能しかないのだからと、依頼されたレールの作成に取り掛かることにした。
工場エリアを過ぎると、多くのゴミが打ち捨てられた廃棄場がある。木材や布の残骸がほとんどで、金属は価値があるらしく、ほとんど見当たらない。中には動物の骨や、一部人骨と思しきものも見える。
悪臭を放つその場所は、時々職人やどこかの使用人がゴミを捨てにくる以外には誰も近づかない。
ゴミの山の間に、細い通路が通されており、そこを抜けるとスラムとなる。
「道着に臭いがついたな、こりゃ。帰ったら念入りに洗わんとな」
道着はぬるま湯手洗い陰干しが必須だと熱く信じている一二三は、領主になっても衣類は自分で洗っていた。オリガが侍女に任せるようにやんわりと言った事もあるが、譲らなかった。
トルンに作ってもらった篭手も、手入れはしているが大分くたびれてきたと思いながら、のんびり歩く一二三の感覚に、道の先に二人隠れているのがわかった。さらに、その先に二人が立っている。
(挟み撃ちにしたいんだろうが、ゴミの中に隠れるか......)
ため息混じりに刀を抜いた一二三は、ゴミの中にある二つの気配に向かって、順に突き刺した。
手応えはあった。声も出なかったのは二人共即死だったのだろう。
引き抜いた刀の先に赤い液体が流れている。
「な、なんてことしやがる!」
一二三の突然の行動に、道の先に立っていた二人が走り寄ってきた。二人して必死にゴミの山をかき分け、ぐったりとした死体を見つけて驚いていた。
「何もしてねぇのにいきなり刺すなんて......」
走ってきたのも死んでいるのも、十代後半くらいだろうか。死んでいる方の一人は女性だったようだ。
責めるような視線を浴びても、一二三はどこ吹く風だ。
「何かしようとしたんだろうが。反撃された程度で被害者ぶるなよ」
「なんだと! 脅すだけにしてやろうと思ったが、殺すぞ!?」
「馬鹿が」
激昂して一二三に食ってかかってきた青年は、心臓を一突きされて倒れた。
「殺すという言葉で脅すなら、それだけの力か状況を作れよ。もうすぐ死ぬ奴が言っても滑稽なだけだぞ」
死体に向かって説教をした一二三が、生き残った一人に視線を向けると、腰を抜かして震えていた。
「こ、こんなに簡単に......」
「簡単に殺せるように必死で稽古してきたんだよ。それより聞きたい。この先のスラムには何人住んでいる?」
「し、知らねぇ! 死ぬ奴もいつの間にか入ってきてる奴もいるから......」
声が上ずっており、失禁もしているらしい。
「じゃあ、スラムをまとめてる顔役みたいな奴はいるか?」
「と、トルケマダさんの事か? アイツなら教会跡を根城にしている! た、頼むからいの......」
最後まで聞くことなく、一二三は青年の首を刎ねた。
「教会跡......か」
ゴミの山を抜けると、ボロボロに朽ちた家々が並ぶ街が見えた。
屋根も落ちて無くなってしまったようなあばら家がほとんどだが、気配からするとそれなりの人数が住んでいるらしい。外に出て歩いている者はほとんどいないが。
警戒の視線を感じながら、涼しい顔で歩いていると、道の先に少し他とは造りの違う建物が見えてきた。三角の内側に丸く切り抜きがあるオブジェが屋根の上で腐っている。
「ひょっとして、あれが教会か? そう言えば、この世界の宗教とかは聞いたことが無いな。こんどオリガに聞いてみるか」
相変わらず、この世界についての知識はオリガ頼りな一二三だが、質問するとオリガはむしろ喜ぶので、まあいいかと思っていた。
教会らしい建物に近づくと、十数人の男たちがゾロゾロと一二三を取り囲んだ。誰も彼もがサビの浮いた武器を持ち、荒んだ目をして睨みつけてくる。
「出迎えご苦労。トルケマダとか言うのはどいつだ?」
刀に手もかけずに問う。
「トルケマダさんに何の用だ? 妙な服を着やがって、てめぇは誰だ?」
「それが教会跡だな?」
つばを飛ばして質問してくる男を無視して、一二三は目の前の建物を指差す。
「それが知りたかっただけだ」
指差した右手をクルッとひねると、寸鉄の丸く尖った先が男の方を向いた。
「は?」
反応するより早く、顎に打ち込まれた鉄の楔は、顎関節を外したのみならず、下顎を二つに叩き割った。
顔を押さえて悶絶する暇もなく、今度は頭蓋を叩き割って、殺す。
「殺せ! こいつはあぶねぇ!」
「危ないとか......失礼な」
口を尖らせて文句を言いつつ懐に寸鉄を放り込み、抜き打ちで二人分まとめて喉を斬る。
血しぶきを上げる二人の間を抜け、また一人、背後から首を貫く。
武器を捨てて逃げ出そうとする男の足を蹴り、転んだところを踵で目の部分を踏みつけて顔面ごと頭蓋骨を砕く。
後ろから近づいてきた男の剣をかわすと、相手は後ろへ向けた切っ先に勝手に突っ込んできて死ぬ。
引き抜いた勢いでもう一人も斬り殺した。
一方的に殺されていく仲間を見て、残った者たちは無意識に足が後ろへ下がっていく。
「そら、まだ9人もいるじゃないか」
爽やかな笑顔で踏み込み、また一人の首を刎ねた。
剣を振りかぶる男の手首を掴み、ひねり上げて自分の首を斬らせる。
その死体を蹴り飛ばしてよろけた者は、顔を上げたところで眼球ごと脳を刺された。
「もういい、やめてくれ!」
「ダメだ。死ね」
命乞いは一言で拒否。哀れな男は頭蓋を鼻まで断ち割られて死んだ。
斬撃の勢いに両方の目玉をこぼした男が倒れた時、教会から誰かが出てきた。
「そこまでだ!」
上背のある鍛え上げた身体をした40歳前後に見える男だ。手入れがされた大きな剣を担いで、死体が転がる教会前に駆けてくる。
男が制止の声を上げたとき、油断して動きが止まったために狙われたのだが、今更どうしようもない。血の海に沈んで失血死を待つばかりとなっている。
「この! なんて奴だ!」
制止も聞かずにさらに殺していく一二三に、割り込んだ男は剣を抜いて一二三の前に回り込み、振り下ろされた刀を受け止めた。
「ほう......」
ほかの連中のボロボロの剣であれば、無視して断ち切ったであろう斬撃は、分厚い刀身の剣に半ばまで食い込みつつも止められた。
「細いくせになんて力してやがる!」
尋常ではない圧力に必死で耐え、歯を食いしばっている男の腹を蹴り飛ばして転がす。
素早く立ち上がって剣を構え直した男に、一二三は少し興味がわいた。
「他のゴミと違って、少しできる奴が混じってたか」
「スラムの人間じゃないな? 一体ここに何の用だ?」
「ここのまとめ役に会いに来た。そこでこいつらが喧嘩腰で取り囲んで来たから殺した」
シンプルだろう、と笑いながらも、刀を押さえ込む力は毛ほども緩まない。
生き残った男たちも、遠巻きに見ているしかない。
「あのビフロンさんが......」
つぶやきから目の前の男の名前が知れる。
「ま、待て! 要件があるなら聞こう。手下たちが迷惑をかけた事は謝る!」
ビフロンの言葉に、一二三はすっと刀を引いた。肩で息をしているビフロンに対し、一二三は汗一つかいていない。
実力的にも、精神的にも化物だとビフロンは思った。周りに倒れる仲間たちの死体は、余計な傷は無く、殺すための攻撃ばかりを受けている。迷いが見えない。
「ここのまとめ役に会わせろ」
「......わかった。付いてこい」
目の前の男をトルケマダの元へ連れていくかどうか、ビフロンは迷ったが選択肢は無かった。ここで全員が殺されてからトルケマダの所に行かれるよりは良いと判断したのだ。
死体を片付けるように生き残った連中に言って、ビフロンは一二三を連れて教会跡へと踏み込んでいった。
イメラリアの命により、王城では第三騎士隊を中心とした軍の編成計画が進められていた。名目としては、攻勢に出ると思われるヴィシーに対して、新領地及び一二三の領を支える為の援軍である。
数は5000程が用意できる見込みで、パジョーやミダスにそれぞれ部隊を任せて進軍する。
イメラリアは政務を熟しながらも軍への口出しも積極的に行った。本来なら一般の兵達の統率を行う第二騎士隊はそれが面白くない。王女とは言え、女に軍務について口出しされるのが、第二騎士隊上層部の気に食わなかった。
「本来なら我々第二騎士隊こそが、戦いの主導者となるべきはずなのだ」
王城内にある自らの執務室で静かに語る初老の男性は、伯爵家当主であり第二騎士隊隊長を務めるスティフェルスだ。彼の話を直立不動で聞いているのは、二人いる副隊長たちである。
「隊長のおっしゃる通りです。本来ならば王の号令の元、我々が率いる兵たちが戦いに赴くのが筋でありましょう!」
「王が亡くなり、王子がまだ正式な戴冠を終えていないとは言え、これは越権行為ではありませんか?」
二人の副隊長もスティフェルスと同様らしく、聞えよがしに王女の批判をする。
越権行為とはいうものの、実は騎士隊の役割分担にも王族の指揮系統にも明文化された決まりはない。王妃が憔悴しており、王子も年若いという理由もあり、イメラリアが中心となって政務を行っていても特に問題なく王城が機能しているのはそのためだ。
文官たちなどはそれをわかっているため、素直に王女の指示で動いている。
だが、武官となると慣例に対して頑なになりやすいらしく、元々王女派閥と言ってよかった第三騎士隊が柔軟に対応しているのに対し、第一、第二騎士隊は自分たちの扱いが日毎に悪くなっているような鬱憤があった。
「なに、小娘が粋がって惚れた男のために兵を集めておるだけだろう。第三騎士隊の腰抜け共と仲良く遠征ごっこでもしておれば良いのだ」
「しかし、このままではまた第三騎士隊が手柄を上げるのでは......」
第二騎士隊の焦りは、侯爵の密貿易事件などで手柄を上げ、王女とのつながりと評価を磐石にしつつある第三騎士隊に比べて、特に手柄が無いことにあった。
第一騎士隊は王を守れなかった事で大きく評価を落としていたが、第二騎士隊に関してはゴデスラスという問題児が処分された事もあるが、そもそも活躍の場そのものが与えられていないという不満がある。
「領軍と援軍をあわせて5000程度。ヴィシーは総力を上げて奪還に来るだろう。負けはせんかもしれんが、圧倒的な勝利など不可能だ。案ずることはない。それよりも、我々は勝利を上げることができる舞台に立つべきだ」
「勝利の為の舞台......ですか?」
手元の命令書にサインをし、スティフェルスは立ち上がって二人の副隊長に渡した。
「丁度、ホーラントとの国境では睨み合いになっている。我々の手でも国土を広げてみせようじゃないか。何もあの若造だけにできる事ではないと、証明してみせるのだ」
「なるほど!」
「さすがですな閣下! 我々とは視点が違う!」
二人の副隊長が口々に誉めそやすのに、頷いて応えると、スティフェルスは堂々とした態度で言った。
「兵を集めたまえ! 我々第二騎士隊の実力を、オーソングランデ中、いや、世界に響かせるのだ!」
高揚した表情で部隊編成に走る部下の姿を見て、スティフェルスは満足げに頷いた。 | While advancing through the city, he firmly affixed the katana to his waist. From his breast pocket he took out a small blade, while spinning it around in a rotating motion on top of his hand, he leaves the residential area.
In order to leave the residential area he passed the buildings of the shopping area arriving at the workshop factory area where the craftsmen were gathered.
Likewise the dwarves, which Hifumi had summoned, were producing the items Hifumi had requested in the arranged workshops in this area. They worked hard to build the devices aiming to defend the entire city.
Taking the opportunity of going to the slums, he decided to take a peek at the workshops. With Pruflas in the center, they were producing spear throwers, rail cars and the rails used by the rail cars.
Those items finished completely were lined up in a row in the corner of the workshop.
Hifumi entered the workshop while lightly raising his hand in greeting. After counting the number of spear throwers, he told Pruflas that it was fine to stop the manufacturing except for the consumption parts.
“Shall we stop the production of weapon parts? If we amass a great number of these powerful weapons that can be used by anyone, we will be able to kill many enemies, won’t we?” (Pruflas)
“If they can be used by anyone, I think there is no particular necessity for the soldiers to use them. This was arranged in order for the city to be safe even if we weren’t here to protect the city. Just that many is already plenty.” (Hifumi)
“Will Lord-sama use one of those?” (Pruflas)
“Saying such a stupid thing. If possible, I want to kill them with my own hands, otherwise there is no point in fighting, don’t you agree? However, if it’s only about winning, Vichy has already lost.” (Hifumi)
Although it was said by everyone that wars were desired by the kings and the nobles for the sake of expanding their territories, it was the first time that there was a lunatic starting a war in order to kill people.
“I plan to move the next battleground to Rhone, Arosel and Fokalore. Steadily producing the rails, I aim to lay the rails rapidly towards Rhone.” (Hifumi)
“Roger. I will alter the placement of personnel. If possible, I’d like you to increase the manpower as well ...” (Pruflas)
“If that’s the case, please say that to Origa and the civil official slaves. They shall send some people from their staff. Well then, I am off to do some cleaning.” (Hifumi)
“Cleaning?” (Pruflas)
“As the feudal lord I have to endeavor in making the life in the city comfortable.” (Hifumi)
“Haa” (Pruflas)
Pruflas saw Hifumi off without quite understanding what he meant. Organizing the things said just now within his head and thinking about the placement of personnel, he realized something.
“Arosel after Rhone, Fokalore was it? What kind of situation causes him to push his plans this rapidly? Does Feudal Lord-sama consider losing the current war?” (Pruflas)
Is Fokalore the final defense line that will stall the enemy with spear throwers waiting for reinforcements?
Since he didn’t comprehend even if he thought about it and there was no other choice but to rely on his talent in producing things anyway, he decided to start the production of the requested rails.
Most of the remains were clothes and wood. As it seems that metal was valuable, it couldn’t be found there.
As that place gave off a stench, no one approached it except for the the workers and servants from some place to throw away trash occasionally.
Between the mountains of garbage a narrow pathway ran through coming out next to the slums.
“I guess the smell will stick to the dougi. When I get back I will have to thoroughly wash it.” (Hifumi)
Hifumi fervently believed it to be indispensable drying the dougi in the shade after hand-washing it in lukewarm water. Even as he became the feudal lord, he still washed the clothes himself.
Even the gauntlet produced by Thorn, he thought it to be considerably exhausting to maintenance it. While care-freely walking Hifumi knew through his senses of the two people concealing themselves ahead of the path.
<Although I guess it is fine to decide on a pincer attack, but hiding themselves within the trash? ...>
Hifumi drew the katana heaving a sigh. Going towards the presence of the two hidden in the trash, he stabbed them one by one.
I think it was instant death for both of them as they didn’t even leak a voice.
After pulling out the katana, it was covered with a red liquid.
“Wh-What have you done!”
Frantically pushing the mountain of trash aside, the two were surprised to find the limp corpses.
“Despite doing nothing, they were stabbed without warning ...”
It seems one of the dead was a woman.
Even as he is showered in accusing gazes, Hifumi isn’t concerned in the least.
“They tried to do something. Don’t play the victims if you get counter-attacked.” (Hifumi)
“What was that! Although they only planned to threaten you a bit, I will kill you?!”
“Baka” (Hifumi)
The youth, who flared up at Hifumi in rage, died having his heart pierced.
“If you threaten with words saying you will kill someone, be prepared to the extent of resolving the situation with force. It is only ridiculous if a person soon to die says such things.” (Hifumi)
As he was preaching facing the corpses, Hifumi turned his gaze towards the sole survivor. He was unable to stand trembling in fear.
“Th-This easily...” (Young man)
“I have trained desperately to be able to kill this easily. Leaving that aside, I want you to tell me. How many people live in the slums ahead from here?” (Hifumi)
“I-I don’t know! Because there are as many entering as there are those dying before anyone knows...” (Young man)
Using a shrill and nervous voice, it seems he also became incontinent.
“Well then, is there a guy similar to a boss who brings the slum together?” (Hifumi)
, you mean? If it’s that guy, his stronghold is in the church ruins! I-I beg you, don’t ki...” (Young man)
Without listening to the end, Hifumi decapitates the young man.
“The church ruins, huh?” (Hifumi)
Exiting the trash mountains, a city with worn-out, decaying houses lined up came into view.
Although almost all of them were miserable shacks having their roofs collapsed or completely missing, judging by the presences, it seemed as if a limited amount of people was living there.
While feeling the vigilant looks, a building with a different structure became apparent as he nonchalantly walked the the little rest of the path ahead.
“Is this the church by any chance? Which reminds me, I haven’t heard about something like the religion of this world. I will try to ask Origa next time, huh?” (Hifumi)
As usual, Hifumi relied on Origa for the knowledge concerning this world, but since Origa will likely be delighted about the question,
Approaching the building appearing to be the church, a group of ten-odd men came out surrounding Hifumi.
“Thank you for the trouble of receiving me. Who of you is called something like ‘Torkemada’?” (Hifumi)
He asked without even putting his hand on the katana.
“What’s your business with Torkemada-san? You are wearing strange clothes. Who are you bastard?” (Mob Character A)
“Are those the church ruins?” (Hifumi)
Ignoring the man who asked the questions with saliva flying all over, Hifumi pointed at the building in front of him.
“I just wanted to know.” (Hifumi)
He turned into the direction of the previous man twisting and turning around a round small sharp blade.
“Ha?” (Mob character A)
Faster than he could react, the iron wedge was driven into his chin. Besides ripping off the jaw joint, it broke the lower jaw into two pieces.
Without even time for fainting in agony, Hifumi seized his face and crushed the skull, killing him the process.
“Kill him! This fellow is dangerous!” (Mob Character C)
“Something like being dangerous... excuse me for that.” (Hifumi)
Saying this while pouting and complaining, he threw the small blades at their bosom. Drawing the katana and attacking in the same stroke, he sliced the throats of two people in one go.
Pulling it back in the time the two created a fountain of blood, he pierced the neck from behind of yet another person.
Kicking the feet of a man throwing down his weapon and trying to flee, he tread on the face around the part of the eyes and broke the skull of the man having fallen down on the spot.
He dodged the sword of the man approaching from his rear causing him to involuntarily thrust the point of his sword into his companion who had his back turned towards him causing his companion to die.
Likewise another person was slain as he put his back into pulling out the sword.
Watching their companions getting killed one-sidedly, the remaining people unconsciously took a step back into the rear.
“Look! There are still another people left, isn’t that right?” (Hifumi)
Breaking into a refreshing smile, he decapitated one more person.
Catching the wrist of a man brandishing his sword, he twisted it and used the man’s own blade to slice his neck.
The person, who was made stumbling by kicking the dead body at him, had his brain stabbed through the eyeballs on the spot when he raised his face.
“It’s enough already, please stop!” (Mob Characer E)
“Not happening. Die.” (Hifumi)
The pitiful man passed away having his skull cut apart down to the nose.
At the time that man collapsed with his eyeballs spilling out on both sides due to the impact of the slashing attack, someone came out of the church.
“That’s enough!”
Carrying a large, well-maintained sword on his shoulders, he advanced to the front of the church which was scattered with dead bodies.
At the moment the man raised his voice in order to restrain him, Hifumi aimed at the carelessness of that other man ceasing his movement and now that man was helpless.
“This! What are you!”
As Hifumi continued to kill even more without even listening to the restraint, the disturbing man drew his sword and went around in front of Hifumi, parrying Hifumi’s downward swung katana.
“Hou ...” (Hifumi)
In the case of the other guys tattered swords those were cut apart disregarding the slashing attacks. But, while the katana penetrated halfway into the thick sword blade of this sword, it was also stopped.
“In spite of being this thin, what a strength!”
Desperately enduring the unusual pressure, the man gritting his teeth was sent flying with a kick into his abdomen making him tumbling on the ground.
Hifumi’s curiosity was slightly piqued by the man who quickly stood up and fixed his sword stance.
“You are different from the other trash. This bunch has a slightly capable fellow mixed in, huh?” (Hifumi)
“You aren’t someone from the slum? What the hell is your business here?”
“I came here to meet the manager. Then, since these belligerent guys came and surrounded me, I killed them.” (Hifumi)
‘It’s simple.’ Although he was laughing, Hifumi didn’t relax his force to pin him down with the katana even a tiny bit.
Even the surviving men had no other choice but to observe from the distance.
“That Bifron-san
From their mutterings Hifumi learned the name of the man in front of him.
“Wa-Wait! If you have conditions, I will listen to them. I am sorry for our underlings causing you trouble!” (Bifron)
In contrast to Bifron, who was breathing heavily, Hifumi didn’t have a single pearl of sweat.
The fallen corpses of his companions in the vicinity had no needless injuries, there were merely the attacks necessary to kill them visible.
“Let me meet the manager of this place.” (Hifumi)
“... I understand. Follow me.” (Bifron)
Bifron had no choice to waver on whether to take the man in front of his eyes to Torkemada’s place or not.
Telling the surviving bunch to clean up the corpses, Bifron stepped into the church ruins leading Hifumi.
Those were reinforcements readied under the pretext of supporting Hifumi’s territory as well as the new territories against Vichy who was thought to start an offensive.
In anticipation a number of around soldiers was prepared and they began their march after having been assigned in units to each, Pajou and Midas.
Although Imeraria had to handle the governmental affairs, she also actively interfered with the army.magic
“By all rights, we of the Second Knight Unit should be expected to become the bellwethers of the battle.” (Captain)
An elderly man, having his own personal office with the King’s castle, calmly said this. It is Stifels
“It is as the captain says. Originally, if it was by the king’s order, it would be a logical move for us to lead the soldiers as they head into battle!” (Vice-Captain A)
“Be that as it may, as the king has passed away and the prince still hasn’t finished the coronation yet, isn’t she abusing her authority with this?” (Vice-Captain B)
Same as Stifels, both vice-captains also seemed to obviously bad-mouth the Princess’ judgement.
With the queen wasting away and the prince also being too young, there was likewise a valid reason for Imeraria taking a leading role in carrying out the governmental affairs. Especially for that reason the royal castle also kept functioning without problems.
Due to the civil officials and their-likes understanding this, they followed the Princess’ instructions obediently.
But, military and naval officers seemed to have a tendency to be obstinate where customs were concerned. While the Third Knight Unit, who originally belonged to the Princess faction, was fine with the pliable support, the First and Second Knight Unit, whose treatment became worse by each day passing, bore resentment in opposition.
“You-know-what, I think the lass only gathered the soldiers for the sake of looking cool in front of the guy she fell in love with. It is even fine for her to get along with the cowards from the Third Knight Unit in that game of fake campaign.” (Vice-Captain A)
“However, as things are going, since the Third Knight Unit will increase their achievements once again...” (Vice-Captain B)
The Second Knight Unit was impatient. The Third Knight Unit’s achievements rose with such things like the smuggling affair of the Marquis solidifying their high estimation and connection with the Princess. In comparison to that, the Second Knight Unit wouldn’t be able to obtain any achievements this time either.
As the Second Knight Unit’s reputation took a huge blow with not being able to protect the king and as there was also the matter of disposing the problem child called Gothras who was affiliated with the Second Knight Unit, they were disgruntled as they weren’t given any place to participate actively in the first place.
“The reinforcements together with the military forces of the territories amounts to about 000 troops. Vichy will come to recapture the territories using all its strength. Although it might be possible to stop a defeat, something like an overwhelming victory will be impossible. This isn’t anything to be anxious about. Also, apart from that, we should be able to appear on the stage to earn the victory.” (Stifels)
“The stage aiming for victory, is it?” (Vice Captain A)
Passing the two vice-captains a signed decree close at hand, Stifels stood up.
“Right now it has become a standoff with Horant at the national border. Let’s show them that we can handle enlarging the realm as well, shall we not? It isn’t something that can only be done by that greenhorn, I will show the proof of that.” (Stifels)
“That’s right!” (Vice-Captain A)
“As one would expect of Your Excellency! You have a totally different point of view than us!” (Vice-Captain B)
While the two vice-captains were severally praising him, Stifels nodded in response and declared with a bold attitude,
“Gather the soldiers! The true strength of the Second Knight Unit shall resound within Orsongrande, no, in the whole world!” (Stifels)
Watching the figures of his subordinates hurrying to organize the troops with exalted facial expressions, Stifels nodded in absolute satisfaction. |
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} | 「アスピルクエタ伯爵他、主だった貴族は捕えましたは、死亡してしまいましたが......」
「いいさ。乱戦だったのだのだろう?」
「それが......」
ビロン伯爵が治めるミュンスターの町。自らの執務室で柔らかな椅子に深く腰掛け、まるで眠っているかのように目を閉じてじっとしていたビロンの元に、自軍からの伝令が訪れたのは、もう陽も落ちかけた夕方の事だった。
おおむね満足すべき結果を聞いたビロンは、自軍の被害が思ったよりも少なかった事に胸を撫で下ろしていた。あくまで相手が国内の他領からの兵であったので、損害が多ければ領民の不満から国内での流通に影響が出かねない。
これが他国相手ならば、まだガス抜きの方法もあるが、とビロンは懸念が一つクリアされた事を喜んだ。
伝令はあくまで状況を伝えるために存在するものであり、私的な意見は許されない。というより、それら状況を見取る能力が無い。
だが、それでも目の前に来た伝令は何かに気づいたらしい。こういった細々とした部分で“自ら考える”兵士が増えてきたのは、フォカロルの教導部隊が来てからだ。
「いいよ。君の意見を聞こう」
微笑みを向けたビロンは、お茶を飲んで、落ち着いて話すといい、と応接に座らせ、少し冷ました紅茶を侍女に頼んだ。
最初は恐縮して緊張していた伝令も、甘い香りの紅茶を一口飲むと、少しだけ肩の力が抜けたようだ。
目の前に座ったビロンに視線を合わせることはできなかったが。
「自分は、当初の予定通り出て行ったアスピルクエタ卿の軍を背後から確認し、適当な位置まで出るのを見届けた後、仲間にそれを伝えて戦況を離れて確認しておりました」
街道へ出たアスピルクエタ率いる貴族連合軍は、ぞろぞろと街道を進み、その人数の多さ以上に不慣れな行軍もあって遅々として進まず、伝令がやや近い場所で監視をしていても、誰にも見つからなかったらしい。
「ホーラント国境近くで、貴族連合軍の前方が接敵しました。......いえ、接敵しようとしました」
「それは、どういう意味かね?」
「自分はその表現が正しいのかわかりませんが、貴族連合軍は接敵できたといえる状況ではありませんでした」
追い詰めたように見えて罠に嵌り、ホーラント方面で陣を張っていた一部隊から良いように数を減らされた時点で、彼は自隊へ舞い戻って状況を伝え、すぐにビロン領軍は貴族連合軍の背後を衝いた。
「ふむ。ホーラント側に陣を張っていたのは、おそらくトオノ伯が送った教導隊だろうね。流石という他ないな」
「同感です。その方法を習った自分でも、あそこまでうまくできるかは自信がありません」
「予定では、我が軍は背後からアスピルクエタたちを狙って半包囲して、降伏を呼びかける予定だったね?」
「はい。ですが......」
伝令が言いづらそうにしているのを、ビロンは軽く笑い飛ばした。
「気にせず、ありのままに教えてくれ。必要なのは正しい情報なのだよ」
物事が全て自分の思うように動くと考えるほど傲慢ではないつもりだ、とビロンは自分の紅茶に口をつけた。
「我が軍が敵の後背を衝いたとき......貴族連合軍は、もはや軍と呼べる状態ではありませんでした」
「うん?」
「おそらくは、前方の戦況がうまく伝わらず、前衛部隊が我先に逃げ出したことだけが兵たちに広がったのでしょう。兵たちは散り散りに逃げ出し、アスピルクエタ伯爵他、貴族たちも状況を確認しようとはせず、とにかく逃げるためにミュンスター方面......自分たちが包囲の準備をしているところに殺到いたしました」
この時、ビロン伯爵軍は包囲のためにトオノ伯爵領から伝わり、自領でも生産を始めていた槍投器台ほど並べていた。まだ現地で組み立てなければならない試作段階のものではあるが、その脅威的な威力は兵たちの誰もが知っている。
そして、誰が最初かはわからないが、ビロン伯爵軍から次々に槍が撃ち込まれた。
「それからは、言ってしまえば地獄絵図でした。半狂乱で逃げ出してくる貴族軍に、恐怖のあまり次々に槍を打ち込む自軍......。ご命令は捕縛でしたが、実に百名以上がその際に死亡しています」
「そ、それほどにあの投槍器は強力だったのか......」
「それもありますが、貴族連合側が出した死者の半数以上は、倒れたところを味方に踏みつけられたり、貴族の前を塞いだことで斬られたりしたことによるものです」
想像以上の惨劇に、ビロンは苦い顔をして歯を食いしばった。
「それで......その後はどうやって収集をつけた?」
「......フォカロルからの教導隊の方々が大声で後退の指示を出され、我々と貴族連合軍の間にロープを何本も張って転ばせて動きを止め、それからようやく我々の手によって捕縛が始まりました」
以上です、と伝令が言うと、ビロンはソファの背もたれに身体を預けた。
「つまるところ、私たちはトオノ伯の戦力に助けられたわけだ」
借りが増えていくばかりだな、とビロンは笑うしかない。
「とにかく」
ビロンは居住まいを正すと、先ほどとは違う鋭い視線を向けた。
「全軍に通達。捕縛した者のうち、貴族とその死体は丁重に扱い、王都へ護送する準備を。それ以外の兵は、この戦のために徴用された者は解放し、それ以外は適当に分けて留置するように」
「了解いたしました」
「ホーラントとの戦争は避けられた。まずはそれを喜ぼうじゃないか」
ビロンが微笑むと、伝令もぎこちなく笑顔を浮かべた。
「失礼します」
命令を伝えます、と伝令が立ち上がったところで、一人の侍女がビロンに声をかけた。
「ホーラントからの伝令が戻られたということで、領軍の方がお見えです」
「おや? どうしたんだろうね」
ビロンが入室を許可すると、今回の戦いで小隊長を務めていたという兵士が、一人の若い男性を連れて入ってきた。
「......用件を聞こうか」
先に来ていた伝令も含め、三人は横並びに整列し、ビロンに向かって背筋を伸ばし、かかとを揃えた。
「ホーラントへ伝令に出ていた者が戻り、新たに状況が判明いたしましたので、お伝えに伺いました」
小隊長という男は、日焼けした皺の目立つ顔を緊張にこわばらせながら、低い声を響かせた。普段は、その声で兵士たちを叱咤しているのだろう。
「本来であれば、上位の者がお伝えするべき件ではありますが、内容の重要性を鑑み、大隊長より直接お伝えするようにとの指示を受けて参上いたしました」
「わかった。聞こう」
ビロンが発言を許可すると、小隊長は連れてきた若い伝令に目配せをした。
若い伝令は、涙の跡が残る顔で、まっすぐにビロンを見て、口を開く。
「ホーラントへ入っていたフォカロルの教導部隊、マ・カルメ殿他十名の方々が、ホーラントの軍によって攻撃を受けました」
「なんだと!」
珍しく大声を上げたビロンは、咳払いをして先を促す。
「それで、その教導部隊は?」
「......その場にいた私を逃がすため、その場に残って戦うことを選ばれました。おそらくは、もう......」
再び泣き出した伝令。
ビロンは声をかける余裕も無く、こぶしを握り締めて唸った。
「なんということをしてくれたんだ......」
☺☻☺
馬を走らせるが取り出した棒は、簡単に言えば“鉄の棒”だった。
契り木の、鎖を出し入れする機構が壊れてしまった一二三は、プルフラスに依頼していわゆる“杖術”で使われる百二ンチメートルのシンプルな杖を作ってもらった。
「単なる棒を、どうするんだ?」
と訝しむプルフラスに、一二三は訓練場に立てられた丸太を相手に、様々な打撃を見せ、さらには訓練場に居合わせた兵士たちを相手に組技や投げ技を披露して見せた。
くるくると生き物のように動く杖に誰も対応することができず、訓練場にはものの数分でダウンした兵士たちと感心するプルフラス、高笑いする一二三という光景が広がっていた。
もちろん、盗賊たちがすぐ鉄杖に対応ができるはずもない。
「おい、金を......」
街道を塞ぐように立っている盗賊のうち、金を要求するお決まりの台詞を吐こうとした男が、言い終わる前に杖で頭を砕かれて死んだ。
「うわっ!?」
「てめぇ!」
いきなり攻撃されるとは思っていなかった盗賊たちだが、血は見慣れた連中らしく、すぐに手入れの悪い剣を手に、一二三を睨みつけた。
「おうおう、やる気は充分だな。ちょっと人数は少ないが、肩慣らしには丁度いいな」
馬を飛び下りると、一二三は軽く尻を叩いて先へと逃がした。
「しっかり囲んで隙を探せよ。ちゃんと頭を使って、仲間と連携しながらだぞ」
「何を言ってやがる!」
一二三が指を立ててレクチャーし始めたところに、一人が剣を横から振り回して斬りかかってきた。
「それがダメだって言ってるんだろうが」
跳ね上げた杖で相手の剣を打ち上げると、がら空きになった胸に両手でしっかり掴んだ杖を突きこむ。
「ぐぇっ」
口から肺の空気をすべて吐き出したところで、一二三の杖で足をからめ取られて転ばされ、最後の一突きを喉に受けて男は死んだ。
「味方が多いときに、武器を横に振り回す奴がいるか」
さらに迫る盗賊の目に突きを入れ、そのまま肩に背負って投げ飛ばす。
脛を叩き折り、首を踏み折る。
こめかみを強打され、昏倒した男を踏み越えて、ナイフを構えて飛び出した男を避けて背後に回り込み、首に杖をひっかけて頭を押さえて捻り折った。
「な? 色々できるだろう?」
「素晴らしい技術です!」
「叩くだけじゃなくて、投げたりもできるんだね」
会話が始まったことで、盗賊たちはオリガたち後続が来たことに気付いた。
「お、女連れのガキに......」
「連れが誰かで強さは変わらないと思うが?」
一二三が冷静に答えると、顔を紅潮させた盗賊たちは、さらに猛烈に襲いかかってきた。
剣を持った腕に杖をさしこまれ、肩関節を極められて押さえられた男は、味方の剣戟を受けて血しぶきを飛ばした。
「ねえ、アリッサ」
「なに?」
惨劇を遠巻きに見ている二人は、視線は一二三の動きを追ったままだ。
「アリッサは、一二三様のどこが好き?」
「き、急に何を......」
「いいから。一二三様の好きなところ、あるでしょう?」
「う......やっぱり、強いところ、かな......」
その瞬間、一二三の杖がまた一人の盗賊の頭を叩き割って殺す。
脳漿が散るのを見届けてから、耳まで赤くなるアリッサをちらりと見たオリガは、いたずら心が膨らむ。
「あら。強い人なら、他にもいるんじゃない?」
「うん。でも、あれくらい近くにいて安心できる人って、今までいなかった、かな......」
「安心感ね。なるほど」
わかる、とうなずくオリガ。
少し離れた場所では、一二三が「残り半分だ、動きやすくなっただろう?」と笑っている。そしてまた一人、股間に杖を受けて、失禁しながら泡を吹いているところを喉を突き破られた。
「私は、逆かな」
「逆?」
オリガは、うまく言えないけれど、と頬に手を当てた。
「一二三様のお顔やお姿を見ると、なんだかドキドキしてくるのよ。それに、あの方と一緒に過ごすようになってから、自分が今まで知らなかった世界がずっと広がったのを感じた。本当なら、荒野にだって一緒に行きたかったけれど」
ねえ、とオリガは一二三から視線を離さないまま、アリッサの肩に手を置いた。
「一二三様の目標を、貴女も聞いたでしょう?」
「う、うん......」
「“その時”貴女はどうする?」
アリッサは、自分の立ち位置をまだ決めかねている。
トオノ伯爵領では、自分の生まれでは考えられないくらい高い地位をもらい、多くの仲間に囲まれて、きっと幸せだと自分を見て、思う。
だが、一人の人間として、一二三に対してはどうだろうか。
部下ではある。友達だと言っても、許してもらえそうな気はする。
恋人ではない。命の恩人ではある。できることがあるなら、一二三のために何かを惜しむつもりは毛頭ない。
「まだ、迷っているみたいね」
「うん。でも」
アリッサは、肩に置かれたオリガの手にそっと自分の手を重ねた。
「この旅で、ちゃんと一二三さんの事を見て、決めるよ。少なくとも、一二三さんとどうなりたいか。それはちゃんと決めるから」
オリガは、アリッサの顔を見て微笑んだ。
「応援するからね。私の事は気にせず、正直に考えて良いのだから」
でも、とオリガは釘を刺す。
「ライバルは多いからね。特にイメラリア様とか」
「女王様が!?」
アリッサが声を上げたとき、最後の盗賊が頭だけ後ろ向きにされて、絶命した。 | “Other than Earl Aspilketa, most of the nobles were arrested. A part of them ended up dying, but...”
“That’s fine. It was during the melee, wasn’t it?”
“That is...”
The city of Münster governed by Earl Biron. The day had already descended into dusk when a messenger of his own army arrived at the place of Biron who had motionlessly closed his eyes, completely as if being asleep, while sitting deeply in the soft chair of his own office.
Biron, who listened to the outcome which should be mostly satisfying, was relieved that the losses of his own army were lower than he expected. Given that the opponents were soldiers from another fief in the kingdom, it might have an effect on the circulation of goods within the country because of the people’s anxiety if the losses were great.
If this was an opponent from another country, there would still be the method of letting off steam though
As a messenger is, to the bitter end, a being who relays the state of affairs, they aren’t allowed a personal opinion. Or rather, they don’t have the ability to understand the whole situation.
However, the messenger, who came in front of him, apparently realized something. Such kind of soldiers, who “think by themselves” in various parts, increased after the instruction unit of Fokalore arrived.
“It’s alright. Let me hear your opinion.” (Biron)
Biron, who faced him with a smile, made him sit down at the reception telling him that it will be fine to talk once he has calmed down after drinking some tea and requested a slightly cool tea from a maid.
The messenger, who was nervous and felt sorry at the beginning, took a sip of the tea with its fine aroma and his shoulders lost their tension, albeit only a little.
He wasn’t able to match the look of Biron who sat in front of him though.
“After I ascertained that Lord Aspilketa’s army, which left first just as planned, would come out at an advantageous spot while making sure of it from behind I told that to my companions and confirmed them leaving the battlefield.”
The nobles’ allied forces, which were led by Aspilketa who left towards the highway, advanced on the highway in groups. On top of their huge numbers, they were even unversed at marching and thus made only slow progress. Even when the messenger monitored them from a fairly close place, no one discovered him.
“Close to the border to Horant the nobles’ allied forces’ vanguard came into contact with the enemy. ... No, they tried coming into contact with them.”
“What do you mean by that?” (Biron)
“I don’t know whether that expression is correct, but it wasn’t a situation where you could say that the nobles’ allied forces were allowed to approach.”magic
At the point in time when their numbers were decreased greatly by a single unit who set up camp in the direction of Horant deceiving the allied forces with a trap that made it look as if they had been cornered, the messenger returned to his own unit and relayed the state of affairs. Biron’s feudal army immediately attacked the rear of the nobles’ allied forces.
“I see. The ones who set up their camp near Horant’s side was likely the instruction unit sent by Earl Tohno, I guess. As one would expect, such is impossible for others.” (Biron)
“That’s my opinion, too. Even I, who was taught those techniques, don’t have any confidence whether I would be able to act it out that skilfully up to that point.”
“Didn’t we plan to demand their surrender after our army encircled them partially and aimed at Aspilketa’s group from the rear?” (Biron)
“Yes. But...”
Biron easily laughed off the messenger having difficulty to speak.
“Don’t worry about it, please tell me the facts. What’s necessary is correct information.” (Biron)
“I believe that I’m not as haughty to think that everything moves as I expect it”, Biron tasted his own tea.
“At the time our army attacked the rear of the enemy... the nobles’ allied forces weren’t in a state to be called an army anymore.”
“Uh huh?” (Biron)
“Most likely the fact of the battle situation at the front not progressing smoothly spread to the soldiers just by the vanguard unit scrambling to run away. The soldiers got scattered and escaped. Without confirming the circumstances the nobles in addition to Earl Aspilketa flooded the place where we set up for encirclement... in the direction of Münster for the sake of fleeing one way or the other.”
This time the Biron feudal army lined up spear throwers, which they began to produce in their own territory after being introduced to them in the Tohno Earldom for the sake of sieges. Although those are devices at the level of being prototypes that still have to be assembled on-site, all of the soldiers know their menacing power.
And, although they didn’t know who was the first, spears were fired by the Biron feudal army one after the other.
“After that it was a picture of Hell if you want to give it a name. Our army successively fired spears out of fear due to the nobles’ troops approaching while running away in a half-crazed manner... Your esteemed order was to arrest them, but actually more than people have died during that period.”
“T-The spear throwers where that strong...?” (Biron)
“There’s that, however more than half of the casualties among the nobles’ allied forces were trampled down by their allies after falling down or were killed for standing in the way of the nobles.”
Biron held his temper while wearing a bitter expression due to the tragedy that was far beyond his imaginations.
“So... how did the gathering work out after that?” (Biron)
“... Being instructed to retreat with a loud voice from the location of the instruction unit from Fokalore, they were stopped in their movements by falling down due to the countless ropes stretching out between us and the nobles’ allied forces. After that we finally began to arrest them with out own hands.”
Once the messenger said “That’s all”, Biron leaned back his body into the sofa.
“In short that means that we were saved by Earl Tohno’s troops.” (Biron)
“My debts only keep increasing”, Biron can’t help but laugh.
“Anyway.” (Biron)
When Biron fixed his seating posture, his look took a sharp glint, different from before.
“Notify the whole army. Treat the nobles and their corpses among those arrested politely and prepare to escort them to the capital. As for the other soldiers, release those who were drafted for this battle and imprison the rest after dividing them properly.” (Biron)
“A war with Horant was avoided. Let’s be first happy about that, shall we not?” (Biron)
Once Biron smiled, the messenger showed an awkward smile as well.
“Excuse me.”
At the time the messenger stood up while saying “I have to pass on the order”, a maid called out to Biron.
“Going by the looks of the feudal army, it seems that a messenger from Horant has returned.”
“Oh? I wonder what happened?” (Biron)
Once Biron gave permission for him to enter the room, a soldier, who served as platoon leader in this time’s battle, entered while bringing a young messenger along.
“... What’s your business?” (Biron)
Including the messenger who came earlier, the three people stand in a row in an equal manner. They straightened their backs while facing Biron and put their heels together.
“The person, who has left towards Horant as messenger, has returned. As he brought along new information, I asked him to convey it.”
The man, who is called platoon leader, stiffens his sunburned face with its conspicuous wrinkles due to nervousness while saying that in a low voice. Usually that voice is for reprimanding the soldiers.
“By all rights it’s a matter that should be told to my superior, but taking into the account the gravity of its content, we visited you, Sir, after receiving the instruction to tell you directly rather than through the battalion commander.”
“Got it. Let’s hear it.” (Biron)
Once Biron gives his authorization, the platoon leader made an eye signal to the young messenger he brought along.
The young messenger looks directly at Biron with his face, which has traces of tears remaining, and opens his mouth,
“Fokalore’s instruction unit, which entered Horant, Ma Carme-dono and the other members, suffered an attack by Horant’s army.”
“What was that!?” (Biron)
Raising a loud voice which is unusual for him, Biron urges him on to continue after clearing his throat.
“So, what about the instruction unit?” (Biron)
“... For the sake of letting me, who was at the scene, escape, they chose to remain there and fight. Most likely, they are already...”
The messenger burst into tears once again.
Without the leeway to call out to him, Biron grasped his fists tightly and groaned.
“How could they do such a thing...” (Biron)
☺☻☺
The pole, Hifumi took out while being mounted on a horse, was simply put an
Hifumi, who ended up breaking the mechanism for releasing the chain of the chigiriki, had Pruflas make a simple staff with a length 27 centimetres which is used in
“What will you do with a simple pole?” (Pruflas)
Due to Pruflas being doubtful of that, Hifumi showed various blows against a log, which was in the training area, as opponent. Moreover he showed and performed techniques versus many and throwing techniques against the soldiers who happened to be present there.
No one was able to cope with the whirling staff which moved as if it was alive. In front of Pruflas, who felt admiration towards the soldiers who were downed after a few minutes, the scenery of Hifumi laughing loudly spread in the training area.
Of course the bandits shouldn’t be able to deal with the iron pole right away either.
“Oi, give me...”
Among the bandits, who are standing in order to blockade the highway, there was a man who tried to spit out the standard line for demanding money, but before he finished speaking, he died after having his head crushed by the staff.
“Uwaash!?”
“You bastard!”
The bandits didn’t expect to be attacked all of a sudden, however as they were apparently a bunch used to seeing blood, they immediately glared at Hifumi while holding badly maintained swords in their hands.
“Oh, oh, you are urging to have a go. The numbers are a bit lacking, but it will be just right as warm-up.” (Hifumi)
Once he jumped off the horse, Hifumi gave it a light spank and let it go ahead.
“It’s possible to look for gaps after you have surrounded me properly. Cooperate with your mates while using your head well.” (Hifumi)
“What the fuck are you saying!?”
When Hifumi began to give a lecture while raising his finger, one of them came slashing at him by swinging his sword from his side.
“That’s no good, is what I’m telling you.” (Hifumi)
Once he launches his opponent’s sword upwards with the staff which hit the sword from below, he thrusts the staff, which he tightly held with both hands, into the defenceless chest of his opponent.
“Guee.”
At the moment the bandit spit out all air from his lungs through his mouth, he was tripped by having his feet entangled by Hifumi’s staff and the man, who received a final stab into his throat, died.
“Are there any fellows who swing their weapons sideways at the time when there are many allies around?” (Hifumi)
Sinking a thrust into an eye of a bandit who approaches once more, he tosses him down with his shoulder.
He breaks the lower leg and then steps on the head.
Stepping over the man who fainted after being hit at the temple of the head, he avoided a man who struck out his prepared knife, circled behind him, caught his neck with the pole, restrained the head and twisted it.
“See? There are many ways to kill, right?” (Hifumi)
“What magnificent technique!” (Origa)
“It’s not only about hitting but also about being able to throw.” (Hifumi)
At the moment they began their conversation, the bandits noticed Origa and Alyssa trailing behind him.
“A-Against a brat who is accompanied by women...”
“I believe the strength of someone doesn’t change due to their company though?” (Hifumi)
The bandits, whose faces blushed when Hifumi answered calmly, came attacking even more violently.
A man, who was pinned down by having his shoulder joint immobilized due to having the staff thrust at the arm which held the sword, suffered a sword attack by his ally and sprayed blood.
“Hey, Alyssa.” (Origa)
“What is it?” (Alyssa)
The two, who are watching the tragedy unfolding from a distance, followed the movements of Hifumi with their eyes.
“What do you like about Hifumi-sama, Alyssa?” (Origa)
“W-Wh-What are you so suddenly...?” (Alyssa)
“It’s fine. The part about Hifumi-sama you like, there is one, right?” (Origa)
“Uuh... After all, it’s his strength, I think...?” (Alyssa)
At that instant Hifumi’s staff kills another bandit by smashing their head.
Origa, who cast a fleeting glance at Alyssa, who has become red up to her ears, after ascertaining that the spinal fluid has scattered, harbours a teasing mind.
“Oh my. If it’s a strong person, there are others as well, aren’t there?” (Origa)
“Yea. But, there wasn’t anyone I was able to have a peace of mind getting this close to until now, I think...?” (Alyssa)
“Sense of security, eh? I see.” (Origa)
“I understand”, Origa nods.
In a slightly distant place Hifumi laughs while saying 「It’s the remaining half. It became easier to move, right?」. And once again another person received the staff with their nether region, spouted foam while becoming incontinent and had their throat pierced.
“For me it’s the opposite, I guess?” (Origa)
“Opposite?” (Alyssa)
Origa put her hand on her cheek and said “though I can’t explain it skilfully.”
“If I look at Hifumi-sama’s face and figure, my heart begins to beat fast somehow. In addition, after spending time together with him, I felt that a world, which I didn’t know until then, continued to expand in front of me. To be honest, I wanted to go to the wastelands with him, too.” (Origa)
“Hey”, while not taking her gaze off Hifumi, Origa placed her hand on Alyssa’s shoulder.
“You also heard about Hifumi-sama’s goal, right?” (Origa)
“Y-Yea...” (Alyssa)
“What will you do at
Alyssa still hasn’t decided her position.
Receiving a high status, that is unthinkable with my birthplace, in Fokalore, I’m surrounded by many friends and definitely regard myself as happy
However, how is my position towards Hifumi as simple human?
I’m his subordinate. Even if I were to say that I’m his friend, it feels like I would be allowed to do so.
He isn’t my lover. He is my lifesaver. If it’s something I’m able to do, there’s absolutely nothing I would be unwilling to do for the sake of Hifumi.
“It looks like you are still hesitating.” (Origa)
“Yea. But.” (Alyssa)
Alyssa gently placed her own hand on the hand of Origa which was put on her shoulder.
“I will properly watch Hifumi-san on this trip and then decide. At least what I want to become for Hifumi. I will definitely make up my mind on that.” (Alyssa)
“I see.” (Origa)
Origa smiled after seeing Alyssa’s expression.
“I’m supporting you, okay? It’s fine to ponder about it honestly without worrying about me.” (Origa)
“But”, Origa gives a warning.
“There are many rivals. Especially Imeraria-sama.” (Origa)
“Queen-sama is!?” (Alyssa)
At the time Alyssa raised her voice, the last bandit had just his face facing backwards and passed away. |
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} | 何が起きている! タンニーンはどうした!」
馬車から前方の混乱を確認したクゼムは、周囲の兵たちに叫ぶ。
だが、隊列中腹で安全をむさぼっていた者たちには、急激な前線の変化を知るすべは無い。
ここでクゼムが自ら指示を出して状況の確認と報告をさせていれば、あるいはもっと違った結果になったかも知れない。だが、そのためには確認役の兵が“度を越して”優秀である必要があっただろう。
何しろ、前線での混乱を説明出来るものなど、クゼム側には誰もいなかったのだから。
「ぎゃあっ!」
前線へと押し出されていた不死兵を運ぶ馬車の周囲にいた兵士も、逃げることを選択する前にたちによって殺害されていく。
不死兵のほとんどを失い、残りもオリガたちが処理をしている。
猛然とクゼムの軍の中央に突っ込み、押しに押していく一、兵士たちの半分は止めにかかり、残り半分は逃げていく。
逃げ出した者たちは、運悪くオリガたちがいる方へと向かった者を除いて、近くの町に逃げ込み身を隠すなり、その町を仕切る貴族の軍に投降するなどして命は長らえた。
地獄を見たのは、一二三の前に立ちはだかることを選択した兵士たちだ。
「止めろ! あいつを止めろ!」
「魔法兵を呼べ!」
部隊長が叫ぶ間にも、部下たちは損耗を続けていく。
鋭い切っ先が兜で守られていない目や喉を的確に突き刺し、脳や動脈を破壊していく。
マ・カルメらの指導を受けた者たちは、その中でも多少は良い動きができているようだ。
左右から殴りつけるように飛んでくるホーラント兵たちが投げた剣を一二三がしゃがんで躱している隙に、三人の兵士が肉薄する。
上段からの振り下ろしと横なぎに腰と足を狙う三本の剣。しかも三方向から。
「ほう?」
感心するような声を出しながら、一二三は腰を狙って斬ってきた兵士の腕をつかみ、勢いよくぐるりと身体の向きを変えた。
「うわっ!」
一二三の回転に巻き込まれるようにしてたたらを踏んだ兵士は、味方の斬撃の前に飛び出す恰好になった。
「待っ......!」
重い大剣の振り下ろしを頭に受けた兵士は昏倒する。
敵と入れ替わりになって斬撃を避けた一二三は、その勢いで振り向きざまに残り二人を斬り伏せた。
三体重なった死体、一番下になった兵士に息があることに気付いた一二三は、その目の前に立つ。
「お前らの首魁はどこだ?」
「......もっと後方、だと、思う......」
「そいつの名は?」
「......タンニーン......」
息も絶え絶えに答えた兵士に、さくりと止めを刺した。
三人同時の攻撃を苦も無く処理した一二三を見て、周囲にいた兵士たちは距離を円を描くように距離を取っている。
「......あれか?」
有象無象を無視し、敵軍の先に見える馬車を確認する。
物資を運ぶ輜重隊を組織するフォカロルのやり方が浸透したオーソングランデと違い、ホーラントは未だに自分の荷物は自分で運ぶという方式をとっているため、馬車があるとかなり目立つ。
「そぅら! 道を開けろ!」
明らかに馬車を目指して走り始めた一二三の前から、兵士たちが怯えて後退する。
だが、遅い。
背を向けた兵士が、首の後ろを突き刺され、喉から飛び出した切っ先を驚愕の表情で見つめる。
「逃げる時間はくれてやったろ? それはもう終わったんだ。頑張って戦うか、頑張って逃げろよ。単に背を向けて走ったら、そりゃ死ぬに決まってるだろ」
刀をずるりと引き抜き、懐紙で拭う。
まき散らされた紙がひらひらと舞う中、残った兵士たちはもはや戦う気力を失い、じわじわと後退していく。
☺☻☺
クゼムが状況を把握したのは、一二三の顔を見た時だった。
馬車のドアがはじけ飛ぶように内側に蹴り破られ、中に一二三が乗り込んで来たとき、クゼムの顔は驚きで顎が外れんばかりに口を開いた悲惨な表情を見せた。
「お、お前は......」
はなんだ? 大切に箱詰めして運んできたプレゼントにしては、壊れやすすぎておもちゃとしては失格だぞ」
腰の刀をトントンと叩きながら、クゼムを睨みつける。
「大量にいればいけるとでも? 数がいる怖さというのはな、手数が増えて対応の選択肢が増えることを指すんだよ。順番にやってくる連中がいくら集まったところで、何の意味も無い」
俺はな、と一二三は刀を抜き、クゼムの目の前に突き付ける。
「人形劇が見たいんじゃないんだ。言ったはずだ。“人が沢山死ぬ戦争をやろう”と」
じわじわと近づく切っ先から目を離せず、クゼムはガタガタと震えだした。
「だ、誰かいないか......!」
震える声は、小さくて、騒がしい馬車の外まで届いたとは思えない。
それに、今は馬車の周りにはオリガたち三人がいる。
近づくどころか、離れていても飛んでくる魔法と手裏剣に、全員が馬車から離れはじめているのだ。
「せっかく、お前のところまで行って忠告も指導もしたのに、この体たらく。俺はこの憤りをどう解消したらいいのかね」
「わ、私に言われても、何とも......」
刀を引き、鞘へ納めた。
それを見たクゼムは、ようやく息ができたとでもいうように、肩を上下させて荒い息をついた。
だが、それも一瞬のことだった。
柄を離した右手で、クゼムの喉を掴む。
親指と人差し指で頸動脈を圧迫され、クゼムは抵抗する間もなくあっさりと気を失ってしまった。
クゼムを馬車の床に転がし、馬車を出る。
そこにはいくつもの死体があり、血の匂いがした。
「お疲れ様です。一二三様」
すっと近づいてきたのはオリガだった。
「今からホーラント首都に行く。この馬車を使って行くから......」
「お供致します」
間髪入れずにオリガが答えると、一二三は「まあ、いいか」と呟いて許可した。
「あの、私もついていきます!」
必死で食いついてきたのだろう。ぜえぜえと息を切らしていたヴィーネも、同行を決めた。
「じゃあ、僕も」
「お前はダメ」
「なんで?!」
アリッサも同行を希望したが、あっさりと却下。
「これはお前とイメラリアの課題だろうが。俺は先に城に行くから、さっさと兵士のところに戻って指揮をしろ」
「え~......」
不貞腐れるアリッサを置いて、馬車をオリガとヴィーネに任せ、まだ状況がつかめずに右往左往しながら残っている兵士たちの前に立つ。
「さあ、お前らのトップは捕まえたぞ。頑張って取り戻せよ」
刀を抜いた一二三に、ホーラント兵たちはざわめく。状況がわかっていないので、目の前の男が敵であることは理解できても、少数で乗り込んできて、さらに自分たち多数に向かって来ようとしているのが理解できないのだ。
「た、叩き潰せ! クゼム閣下をお救いするのだ!」
部隊長か誰かだろう声がすると、一二三は笑った。
「そう、それでいい......。オリガ! 馬車でついてこい!」
叫ぶや否や、一二三は破裂するような音を立てて飛び出した。
真正面にいた兵士は突きを喉にもろに受け、一瞬で死ぬ。
すかさず側面から繰り出された槍を、一二三は腰を捻って鞘で受け流し、両腕を斬り落とす。
「ああっ!」
言葉にならない悲鳴を上げた兵士は、口に刀を突っ込まれて絶命した。
「ヴィーネさん。馭者をお願いしますね」
「はい。わかりました」
ヴィーネが手綱を握り、一二三の後ろから追うように馬を進め始めると、オリガは馬車の屋根へと上り、仁王立ち。
「この馬車には貴方方の上司がいますよ。巻き込まれて死んでも良ければ、攻撃してきなさい」
シャリ、と音を立てて開かれた鉄扇で口元を隠しながら、静かに笑う。
「もっとも、そんな元気があるならば、今も前で戦っている主人の方に行った方が“楽しめます”よ?」
話している間に、馬車ににじり寄っていた兵士の首が落ちた。
オリガの右手から、魔法媒体用のナイフが除いている。
「そうそう。折角ですから、魔法が得意なホーラントの方々に発表させていただきますね」
硬質な音色を響かせて、鉄扇を閉じる。
「私の魔法は、ナイフを向けなくても自在に飛ばせるのですよ」
何人かの耳に風切り音が届き、次の瞬間には首筋に血があふれ、ずるりと頭部を落とした。
☺☻☺
サブナクの指示により、網と死体が粗方撤去されたのだが、その時点で一二三たちの姿は遠く先へと消えていた。
「思っていた以上に、ペースが速い......」
ネルガルは、クゼム側から逃げてくる兵士たちを保護するように命じ、同時に一二三が切り開いた場所から強引に突破することを宣言すると、大声でクゼム側に呼びかけを行いつつ、馬を進めた。
サブナクが伝えてきたイメラリアの案に乗ったネルガルは、一二三が進んで行ったと思しき場所を見る。
先ほど撤去された場所以上に死体が転がり、街道の外へ逃げた兵士が数名、おびえた表情で様子を窺っている。
「合流しなさい! あなたは私の敵ではなく、ホーラントの兵でしょう! こちらに来て、本来の役目を果たしなさい!」
不死兵だけで無く、一般の兵たちの死体も夥しい。
「ひどいな......」
果たしてここまでする必要があったのか、とネルガルには一二三に対する疑問が生じるが、今はそれについて頭を使っている余裕は無い。
死体を脇へどけつつ、大軍が進む。
先頭集団はホーラント兵たちだが、すぐ後ろにはオーソングランデの兵たちが、イメラリアに率いられて追随している。
網と死体をある程度片付けたところで、アリッサが徒歩でぶらぶらと戻ってきた。
「あれ? アリッサさん?」
馬上から声をかけたネルガルに、アリッサは手を振って応えた。
「自分の仕事をしろって、戻されちゃった。今からどうするの?」
網片付けたんだね、とのんきに話しているが、アリッサも一二三と共に敵陣に躍り込んだ一人だ。返り血を大量に浴びているし、纏う空気には口調の軽さに似合わない重たい物が感じられる。
「このまま一二三さんが開けた穴を突っ切って、首都まで戻ります。協力してもらえますか?」
「ん。わかった」
なんでもない事のように頷いて、再びてくてくと歩いて後方へと向かうアリッサに、ネルガルは慌てて声をかけた。
「一二三さんは、どうされたのですか?」
「首都に行くって言ってた」
さらりと答えて、再び歩き始めたアリッサを見送りながら、ネルガルはとにかく急がなくては、と焦燥に駆られた。
「あの方は何を考えておられるのですか......」
頭を抱えたイメラリアは、脱力のあまり椅子から落ちかけて、隣にいたプーセに支えられていた。
クゼムの用意した軍は、タンニーンの不在とクゼムの誘拐による指導者喪失、不死兵の壊滅を含む一二三から受けた損害によって、もはや組織としての体裁が保てる状態になく、ネルガルが想像した以上に簡単に恭順させることに成功した。
休むことなく街道をひた走り、首都の入口も半ば強引に突破したホーラント・オーソングランデ連合軍は、城を前にして広場を利用した陣を構えていた。
いや、陣を構えるということにして、一度停止せざるを得なかった。
「た、助けてくれぇ!」
大通りへ続く広場に面したバルコニー。そこに、縛り上げられたクゼムが縄一本で吊り下げられていた。
「誰か! 誰かぁ!」
あまりにも悲惨な光景を見せられて、思わずネルガルが停止命令を出したところで、バルコニーから一二三がひょっこりと顔を出した。
その隣には、ガアプの姿が見える。
「やっと来たか」
一二三の声は良く通る。ネルガルやイメラリアの耳にも届いた。
「イメラリア、アリッサ! さっきはこの阿呆が残念兵器でガッカリさせてくれたからな。代わりにお遊びを用意した。命はかかっているが、楽しむと良い」
それだけ言うと、さっさと引っ込んでしまった。
残ったガアプが一二三に何か言っているようだが、下から見ているイメラリアたちにまでは聞こえない。
「えーと......というわけで、みなさん、頑張ってクゼム閣下をお救いください」
メモを読みながらのガアプの声は、本来ならば聞こえないはずなのだが、イメラリアやネルガル達には良く聞こえていた。
「これは......オリガさんの魔法ですわね」
イメラリアがこぼしたのを聞いたサブナクが、城のあちこちを見回すが、オリガの姿は見当たらない。
ガアプの説明が続く。
「城内の非戦闘員は全て退出させましたので、ご安心ください。その代り、多くの罠と不死兵が立ちはだかります。制限は日暮れまで。日が沈むと同時に、クゼム閣下をぶら下げているロープは切ります。また、町の中に不死兵を放ちますので、頑張って攻略してください......これでいいのかな」
最後のつぶやきまで聞こえてきたところで、魔法が止められたらしく、ガアプの声はそれ以上届くことは無かった。
そして、正面の門がゆっくりと開くと、三十人ほどの兵士たちが逃げるように飛び出してくる。
彼らはネルガルと仲間の兵たちの姿を見つけると、ネルガルの前に滑り込むようにして平伏した。
「ね、ネルガル様! お許しを! 城が、城がっ......!」
困り顔でなだめているネルガルを見てから、再び視線をあげたサブナクが呟く。
「囚われてるのが美少女じゃなくて中年男性だと、やる気が起きないものなんですね。いやあ、世の中の英雄物語がどうしてお姫様を助ける話なのか、良くわかります」
そのとぼけた物言いに、イメラリアは立ち上がって乗馬用の鞭で太ももを引っ叩いた。 | “What the hell is happening? What happened to Tannin!?” (Kuzemu)
Kuzemu, who confirmed the disorder at the front from his carriage, shouts at the surrounding soldiers.
However, those, who indulged in the safety of being in the centre of the ranks, had no means to know about the sudden changes at the front line.
If Kuzemu himself ordered them to check the situation and report to him at this point, the outcome might have been quite different. However, it was likely necessary for the soldier with the duty of checking to be “exceedingly” excellent for that to happen.
In any case, there wasn’t anyone at Kuzemu’s side who was able to explain the chaos at the front line.
“Gyaah!!”
Even the soldier, who was in the vicinity of the carriage transporting the immortal soldiers that were deployed to the front, has been killed by Hifumi’s party before being allowed to choose the option of running away.
With the majority of immortal soldiers lost, the rest is handled by Origa and the other girls.
Half of the soldiers engages Hifumi, who applies pressure on them by attacking after plunging deeply into the centre of Kuzemu’s army, to finish him off while the other half escapes.
Excluding those who unluckily headed in the direction of Origa’s group, the escapees hid themselves by taking refuge in a nearby cities and prolonged their lives by surrendering to the troops of the nobles governing those cities.
The ones who saw hell were the soldiers who chose to stand in Hifumi’s way.
“Stop him! Stop that guy!”
“Call the magic soldiers!”
Even during the commanding officers’ yells, the losses amongst their subordinates continued to spread.
Precisely stabbing eyes and throats, which aren’t protected by the helmets, with the sharp point of the katana, the brains and arteries are destroyed.
Among them, a small number of those, who received Ma Calme’s unit’s teaching, are apparently able to move properly.
Three soldiers use the opportunity to close in on Hifumi when he squats down to avoid swords thrown by soldiers from Horant who have jumped up to strike from left and right.
Two swords aim at his feet and waist by sweeping sideways and one sword is swung downwards from an overhead stance. Moreover they are approaching from three different directions.
“Hou?” (Hifumi)
While releasing a voice similar to admiration, Hifumi grabbed the arm of the soldier, who came to attack his waist, and changed the location of the soldier by vigorously turning his own body around.
“Uwaah!”
The soldier, who stumbled a step or two forward due to being dragged into Hifumi’s rotation, suddenly appeared in front of the slashing attack of his ally.
“Wai....!”
Receiving the heavy long sword on his head, the soldier faints.
Hifumi, who evaded the slash by switching with his enemy, cut down the remaining two while in the process of turning around due to the momentum of that.
Noticing that the soldier, who was at the very bottom of the three piled-up bodies, is still breathing, Hifumi stands in front of his eyes.
“Where’s your guys’ ringleader?” (Hifumi)
“... Further behind, is, I think...”
“What his name?” (Hifumi)
“... Tannin...”
Hifumi delivered the final blow to the soldier, who answered while gasping, with a *pierce*.
Watching Hifumi who easily dealt with the simultaneous attack by three soldiers, the surrounding soldiers take a distance and form a circle around him.
“... Over there, huh?” (Hifumi)
Ignoring the mob, he confirms the carriage visible ahead of the enemy army.
Different from Orsongrande that absorbed Fokalore’s way of organizing a military supply unit to transport goods, something like a carriage stands out on Horant’s side as they are still using the system of everyone carrying their own supplies.
“Move it! Clear the way!” (Hifumi)
The soldiers retreat in fright from in front of Hifumi who began to run towards the distinct carriage.
However, they are too slow.
A soldier, who turned his back on him, stares with an expression of surprise due to the katana’s point protruding out from his throat after it has been stabbed into the back of his neck.
“Did you think that you would have the time to retreat? The time for that has already passed. Do your best while fighting or strive to escape. If you retreat while simply showing your back, that will settle your death, won’t it?” (Hifumi)
Hifumi pulls out his katana with a short *slurp* and wipes it with a paper.
While the paper, which was tossed away, dances in the wind, the remaining soldiers have already lost the willpower to fight and are gradually backing away.
☺☻☺
The moment when Kuzemu grasped the state of affairs was the time when he saw Hifumi’s face.
When Hifumi entered the carriage by smashing the carriage’s door with a kick as if bursting it open, Kuzemu’s face was about to have its jaw dislocated due to surprise and he wore a miserable expression with his mouth open.
“Y-You are...” (Kuzemu)
“Let me ask one thing? What are those puppets? They disqualify as toys as they break far too easily for a present which was carried after carefully packing it into a box.” (Hifumi)
While tapping the katana at his waist, he glares at Kuzemu.
“You thought it will go well if there’s a large amount of them? Having the scariness of numbers on your side means an increase in the number of moves and choices of possible reactions. Even if you had gathered countless of those dolls that turn up one after the other, there wouldn’t be any kind of meaning to it.”
“You know, I”, Hifumi draws his katana and thrusts it in front of Kuzemu’s eyes.
“don’t want to see a puppet show. I’m sure I told you.
Unable to take his eyes off the gradually approaching tip of the katana, Kuzemu started to quiver.
“I-Isn’t there anyone...?” (Kuzemu)
It doesn’t seem likely that his small, trembling voice reached the noisy outside of the carriage.
Besides, currently there are the three members of Origa’s group around the carriage.
Far from getting close, everyone has started to back off from the carriage due to the shuriken and spells which are hurled at them even as they leave.
“Even though I gave you teaching advices after expressly coming to your place, you are in this situation. I wonder how I’m supposed to release this seething anger?” (Hifumi)
“E-Even if you tell me, nothing...” (Kuzemu)
He withdrew the katana and sheathed it into its scabbard.
Seeing that, Kuzemu took deep breaths making his shoulders go up and down as if he was finally able to breathe.
However, it was also a momentary relief.
He seizes Kuzemu’s throat with the right hand that separated from the hilt.
With his carotid artery being pressured by Hifumi’s thumb and index finger, Kuzemu ended up fainting quickly after a short interval of struggling.
Throwing down Kuzemu on the ground of the carriage, Hifumi leaves.
Countless corpses are piled up outside and the stench of blood drifted about.
“Thanks for your hard work, Hifumi-sama.” (Origa)
The one who approached him directly was Origa.
“I will go to Horant’s capital next. Since I will be using this carriage to go there...” (Hifumi)
“I shall accompany you.” (Origa)
When Origa replied in a flash, Hifumi gave his permission by muttering 「Well, it’s fine I guess」.
“Umm, I will follow you as well!” (Viine)
She probably hung on frantically. Viine, who was gasping for breath, decided to follow them, too.
“Then me as well.” (Alyssa)
“You are not allowed.” (Hifumi)
“Why!?” (Alyssa)
Alyssa had hoped to accompany them , but was quickly rejected.
“This is your’s and Imeraria’s assignment, isn’t it? Since we will go to the castle in advance, quickly return to your soldiers and command them.” (Hifumi)
“Eh~...” (Alyssa)
Leaving Alyssa who has become sullen, he entrusts the carriage to Origa and Viine and stands in front of the remaining soldiers while they are moving about in confusion due to still being unable to grasp the situation.
“Alright, I caught your guys’ leader. Do your best to get him back.” (Hifumi)
The soldiers are astir due to Hifumi who drew his katana. Since they aren’t aware of the situation, they can’t understand him boarding the carriage with a few and moreover having them approach him with a great number even if they understand that the man in front of them is their enemy.
“B-Beat them up! We have to rescue His Excellency Kuzemu!”
Hifumi smiled once someone who might be a commanding officer raised his voice.
“Yes, it will be fine like that... Origa! Follow with the carriage!” (Hifumi)
No sooner than shouting that, Hifumi caused a sound similar to an explosion.
The soldier, who was right in front of him, received a thrust to his throat and died in an instant.
Hifumi wards off a spear, which was unleashed from his side without a moment’s delay, with the scabbard by twisting his waist and cuts off both of the the soldier’s arms letting them fall.
“Aah!!”
The soldier, who screamed something inarticulate, died by having the katana stabbed into his mouth.
“Viine-san, please be the driver.” (Origa)
“Yes, understood.” (Viine)
As Viine grasps the reins and begins to spur on the horse in order to chase after Hifumi’s back, Origa climbs the roof of the carriage and makes a daunting pose.
“Your gentlemen’ superior is on this carriage. Attack it if you don’t mind dying after getting involved.” (Origa)
While concealing her mouth with the iron-ribbed fan which was opened with an unfolding sound, she smiles gently.
“But then again, if you are that high-spirited, can you
During the time she was talking, the head of a soldier, who sidled up to the carriage, dropped to the ground.
It had been removed by the knife, which serves her as medium for magic, in Origa’s right hand.
“That’s right. It’s been long-awaited thus I shall announce it to you all from Horant who are strong at magic.” (Origa)
She closes the iron-ribbed fan making a hard clanking resound.
“My magic can be released freely even without me pointing the knife at my target.” (Origa)
A wind-cutting sound reached the ears of some soldiers and in the next instant blood overflew from their napes and their heads fell.
☺☻☺
Thanks to Sabnak’s orders, the nets and corpses were mostly removed, but at that time the figures of Hifumi’s group had already vanished far ahead.
“Their pace is faster than expected...” (Nelgal)
Once Nelgal ordered to shelter the soldiers who escaped from Kuzemu’s side while at the same time announcing to forcibly break through the spot where Hifumi cut through, he advanced his horse while calling out to Kuzemu’s side in a loud voice.
Nelgal, who joined in on Imeraria’s plan he was told about by Sabnak, looks at the location where Hifumi apparently went ahead to.
There are far more corpses scattered around there than at the place which was cleaned just now. Several soldiers, who escaped away from the highway, are observing the situation with frightened expressions.
“Join us! You aren’t my enemies. You are soldiers of Horant! Accomplish your original duty by coming to our side!” (Nelgal)
It’s not just corpses of immortal soldiers but also a large number of corpses of common soldiers. have died according to what’s just reflected in his line of sight.
“How awful...” (Nelgal)
Nelgal harbours such doubt towards Hifumi, but currently he hasn’t the leeway to use his head to think about this.
While moving the corpses to the sides, the large army advances.
The leading group consists of soldiers from Horant, but right behind them the soldiers of Orsongrande are following while being led by Imeraria.
At the moment when the nets and corpses were cleared away to a certain extent, Alyssa came back with heavy feet.
“Huh? Alyssa-san?” (Nelgal)
Alyssa replied to Nelgal, who called out to her from atop his horse, by waving her hand.
“Being told to do my job, I ended up returning. What should I do from now on?” (Alyssa)
“You were able to dispose of the nets, weren’t you?” She mentions care-freely, but Alyssa is also someone who rushed into the enemy’s camp alongside Hifumi. She is covered by a large amount of blood spurts. Nelgal can feel something heavy hanging in the air around her that doesn’t suit the lightness of her tone.
“We will pass through the hole opened by Hifumi-san. We will even recover the capital. Can you help us with that?” (Nelgal)
“Mmh, got it.” (Alyssa)
Nelgal called out to Alyssa, who heads to the rear while trudging once again after nodding as if it’s a trifling matter, in a panic.
“What will Hifumi-san do?” (Nelgal)
“I will go to the capital, he said.” (Alyssa)
While seeing off Alyssa who begins to walk again after answering without hesitation, Nelgal was spurred on by the uneasiness
“What is that gentleman planning...?” (Imeraria)
The greatly perplexed Imeraria was caught by Puuse, who was next to her, after she slid off the chair due to an excessive drain of strength.
The army, which was prepared by Kuzemu, lost its leaders thanks to Tannin’s absences and Kuzemu’s abduction. Because of the losses they suffered from Hifumi including the annihilation of the immortal soldiers, the matter of having them join was more successful and simple than expected by Nelgal as they had already diverted from maintaining a structure as organization.
Running swiftly along the highway without taking a break, the allied forces of Horant and Orsongrande, which forcibly broke through the capital’s gates and the centre, set up camp making use of the plaza in front of the castle.
No, deciding to set up camp, they couldn’t avoid stopping for a moment to do so.
“P-Please save meee!”
The tied-up Kuzemu was suspended from the balcony, which faced the plaza that continued into the main street, with a single long rope.
“Someone! Anyoneee!” (Kuzemu)
At the moment when Nelgal reflexively gave the order to stop after being shown the far too pitiful view, Hifumi suddenly showed up on the balcony.
Gaap is visible next to him.
“You finally came?” (Hifumi)
Hifumi’s voice carried well. It reached even Nelgal’s and Imeraria’s ears.
“Imeraria, Alyssa! Some time ago you were let down by the disappointing weapons of this fool. Instead of those, I prepared a game. Although you will be betting your lives, it’s fine to have some fun.” (Hifumi)
Once he said that much, he quickly withdrew.
It seems like the remaining Gaap has been told something by Hifumi, but it’s not audible for Imeraria’s group who is watching from below.
“Umm... that means, everyone, please do your best to rescue His Excellency Kuzemu.” (Gaap)
Originally the voice of Gaap while reading from a memo shouldn’t be audible, but Imeraria, Nelgal and the others could hear it well.
“This is... Origa-san’s magic, isn’t it?” (Imeraria)
Sabnak heard what Imeraria grumbled, but when he looked all over the castle, he didn’t find Origa.
Gaap’s explanation continued.
“Please feel relieved as we made all non-combatants leave the castle. Instead, many traps and immortal soldiers will stand in your way. The time limit is until sunset. At the same time as the sun goes down, the rope, which holds His Excellency Kuzemu, will be severed. Also, given that we have released immortal soldiers inside the city, please do your best to capture them... I guess it’s fine with this.” (Gaap)
At the moment the last murmuring could be heard, the spell was apparently cancelled. Gaap’s voice didn’t reach them any longer.
And, once the front gate slowly opened, around thirty soldiers rushed out as if escaping.
Once they discovered the figures of their colleagues and Nelgal, they prostrated themselves by sliding in front of Nelgal.
“N-Nelgal-sama! Please forgive us! The castle has, the castle has...!”
After looking at Nelgal who is soothing them with a troubled expression, Sabnak, who once again lifted his gaze, mutters,
“If the one who has been captured is a middle-aged man and not a beautiful girl, that’s a person who won’t trigger any motivation. Well, I understand plentifully why the world’s hero stories tell about saving princesses.” (Sabnak)
Due to his objection by playing a fool, Imeraria stood up and spanked his butt with a whip used for horse riding. |
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} | ザンガーと共に会議室を出たレニは、案内兼護衛役の名目でついてきているオーソングランデの騎士に「外へ行きたい」と伝えた。
「では、こちらへ」
増築を繰り返した城内は複雑で、出入り口までは案内が必要になる。
騎士の後ろについて、レニとザンガーを先頭に、数名がぞろぞろと歩く姿は、城内勤務の者たちから無遠慮な視線を受けるのに充分なほど、珍しい光景だった。
「......それで、羊の嬢ちゃんは何か考えているんだろう?」
小さな声で、ザンガーがレニに話しかける。
「お城を出てからお話します。ウチの話に納得できたら、手伝ってもらえれば助かるんですけど......」
「そうかい。じゃあ、さっさと出ようかね。石の建物は、エルフにはちょいと居心地が悪いよ」
柔らかい椅子は悪くないけどね、とザンガーは笑う。
ほど歩き、城門の場所でレニは騎士に声をかけた。
「ここまでで大丈夫です。宿までの道はわかりますから」
「そうですか。では、何か御用があれば城までお越しください」
「はい。ありがとうございます」
騎士は歩いていくレニたちを見送ったが、当然監視はついている。レニの想定では、広場を抜けたあたりで、町の人間に扮した誰かが付いてくるはずだ。
「今のうちに説明をしておきます」
「お願いするよ。女王様はああ言ってくれたけど、安心して寝ているわけにはいかないものねぇ」
ザンガーの言い草に、レニは相好を崩した。祖父母の顔を知らないレニは、ザンガーの飄々とした存在感に、不思議とリラックスできる雰囲気を感じていた。
緩んだ顔のまま、レニはザンガーが驚くことを話す。
「女王様は、お城の前で騒動を起こすつもりです。....んを、魔法で封印するつもりみたいです。理由はわかりませんけれど、プーセさんも協力する、と」
思い切り目を見開いているザンガーに向けて、レニは言葉を続けた。
「魔人族の女王との話もある程度終わっている、という事でした。間もなくそれは始まります」
「それじゃあ、さっさと逃げるべきかねぇ」
「逃げるべきだけど、折角だからこれを獣人族の立場向上に利用します」
「立場向上? 何をする気だい?」
首をかしげるザンガーに、レニは声を絞って答えた。
「あのさんが集団相手に戦うことになる......その時に付近の民間人を逃がす手助けをしましょう。獣人族のフットワークを大いにアピールできます。......エルフの人もどうですか? エルフが持つ魔法による防御の腕前を見せる機会です。きっと、人間がみんなびっくりして、エルフに感謝してくれますよ」
ザンガーはしばらく声が出なかった。年若い獣人の少女が、まるで“やらせ”に等しい人心掌握をやろうとしていることに。
しかし、こと種族の将来という点に関して言えば、“それとこれとは別”である。
「......協力するよ。というより、羊の嬢ちゃんの指示で動くとしようかね」
☺☻☺
王城のバルコニー。
そこには今、二人の女王が立っていた。護衛も従者もいない、立った二人で。
能面のように、白い顔に無表情を張り付けているイメラリアに対し、ウェパルは緊張で灰色の顔に汗をにじませている。
「あそこに一二三様がいます」
イメラリアが指差した先、城に背を向けた一二三が、ミダスと話しているのが見える。
位置関係としては、城の前の広場があり、出入り口に近い場所に一二三がいる。さらに向こう、入口前に少し余裕を持ってオーソングランデの兵士たちが並び、城に背を向けて警備をしている。
広場には、フォカロルの兵士と魔人族が乗ってきた馬、その世話約が数名。
「一二三さんの向こう側に兵士を呼び出していただければ、こちら側からは防衛の為と偽って騎士が出撃します。挟み撃ちにして、プーセさんが一二三様を結界魔法に閉じ込め、同時にわたくしが封印魔法を起動します」
「......簡単に言ってくれるわね」
ウェパルは、ヴィシーの拠点に五十名程度の軍団を編成して待機させている。それはイメラリアとの密約のために揃えた、バシム率いる使い捨ての部隊だ。バシムが一二三を殺しても、他国で勝手に戦闘を行った罪で処刑とする。ウェパルは、勝てるなどと毛ほども考えていないが。
「こちら側は騎士隊がおり、広場には精強なフォカロルの兵がいます。町の方にも警備の兵や騎士がおり、指揮官もいます。馬は......もし被害が出たら、補填させていただきますわ」
だから存分にやると良い、とイメラリアは微笑む。
ウェパルは、今すぐ帰りたかった。一二三もこの女王も、人間は大概頭がおかしい。占拠したヴィシーの国民を御する自信も無くなりつつある。
だが、ここで断ることで、何が起きるだろうか。
イメラリアという女は、一二三を疲弊させるために魔人族に向けて彼をけしかけるかもしれない。そうなれば、折角世に出ることができた魔人族が、今度は永遠に歴史から消えてしまうかも知れない。
ウェパルは、大きな野心は無いが、愚王として名を残す気は無かった。
「わかったわ。......少し遠いから、集中させてくれる?」
「ええ。では、わたくしたちも用意をさせていただきますわ」
イメラリアが振り向くと、二つの杖を持った、エルフのプーセがしずしずとバルコニーへ出てくる。
豪奢な装飾を施された一本の杖を受け取ったイメラリアは、ウェパルの隣に並び、プーセもその横へと杖を握りしめて立った。
「始めましょう」
内心で、イメラリアはウェパルやプーセ、そして騎士や兵士たちに詫びていた。これはイメラリアとその父親の失敗の為の尻拭いなのだ。本来であれば、イメラリアが自分だけでやらなければならない始末に、国どころか多くの多種族を巻き込んだ。
自然と、腹部に手が伸びる。
子に、この国を無事に引き継ぐと決めた。
泣いたり謝ったりは、最後の最後でいい。
「始めるわよ」
ウェパルの声を聞いて、知らず俯いていた顔を上げた。
「一二三さん、ウチたちは一度町に戻るね」
軽く声をかけて、一二三の横を通り過ぎようとしてレニは、後ろから首を掴まれて無理やり停止させられた。
驚きで声が出ないレニの代わりに、ヘレンが抗議する。
「ちょっと、何するのよ!」
「くっついている虫を取ってやるだけだ」
空いている左手の指先を噛むようにして手袋を外した一二三は、レニの背中から何かを引き出すような仕草を見せた。
「ほれ、行け。足が遅いからと人より先に行くのは良いが、馬鹿の言う事に唆されて行き先を間違うへまをするなよ」
ぽいっ、と放り捨てるように開放されたレニは、首をさすって笑った。
「やっぱり、一二三さんには敵わないや」
「さっさと行け。邪魔だ」
何よ、とヘレンたちとザンガーは先を急いだが、レニだけはじっと一二三の顔を見ていた。
「なんだ?」
「ありがとうございました!」
頭を下げたレニに、一二三は右手を追い払うように振る。
「感謝するなら、面白い世界を作って見せろ。それ以外にお前にしてほしい事なんざ無い」
「わかりました!」
手を振ってレニは駆けて行く。
その間も、一二三の左手に捕まれた何かは、黒い霧のような物を散らしながら、痩せた男の顔に変形し、暴れていた。
「それは何ですか?」
「俺が人を殺すことを利用しようとした、阿呆の欠片だ」
ミダスの質問に答えながら、一二三の黒い手は死神の顔を握りつぶした。
「......始まったか」
最初に出現したのは、バレーボール程度の黒い円。
十秒立たずに直ートルほどの半円になった“門”の表面は、風一つ無い湖面のように穏やかだった。
「これは......」
「敵が来るぞ」
「......えっ?」
「町側にいる兵士のところへ行け。魔人族の軍が入って来るぞ」
突拍子も無い話だが、一二三の顔を見ていたミダスは、信じることにして走り出した。
「やれやれ......やっと始まったか」
手袋を懐へ突っ込み、首と肩を回してほぐした一二三は、刀の位置を整えた。
まず一人。魔人族の男が闇の中から現れた。
「ようやく出番かと思ったら......幸先が良いな。人間どもを蹂躙するのに、まず貴様からとは」
片手の魔人族、バシムは一二三の顔を見るなり、歯をむき出して野蛮な笑みを浮かべた。
「なんだ、お前か。ウェパルも大した部下がいないのか。せめてもうちょっと歯ごたえある奴を期待したんだが......まあ、いいか」
「貴様!」
激高したバシムが、能力を行使してナイフ状の刃物を二つ、宙に浮かばせた。その間に、暗い門からは次々と魔人族の兵たちが現れる。
広場にいたフォカロルの兵たちは素早く立ち上がって武器を取り、複数ある荷車を蹴り倒して防御壁とする。出入り口ではミダスの声が響き、騎士も兵士も回れ右をして城の方を向いて剣を抜いた。
さらに遠くからは、レニやヘレンが住民たちに避難を呼びかける声が聞こえてくる。
そんな中、一二三は柄に手を触れようとすらしない。
「ほれ、お前の腕はあそこにあるぞ」
「何ぃ!?」
一二三が指差した先は、広場の中央に据え付けられた台座だった。布をかぶせられたそれは、ポツンと放置されたように立っている。
「ちゃあんとケースに入れて保管してある。ほら、自分の手で取りに行くといい」
からかうような言い草に、奥歯をギシギシ軋ませながらも、バシムはゆっくりと一二三から距離を取りながら台座へと向かう。
視線を一二三へ向けたまま、伸ばした右手が台座に触れると、浮かせたままの刃を使い、逸る気持ちを押えながら覆いを斬り裂いた。
その間も魔人族の兵士たちはゾロゾロと一二三の前に現れ、狭いスペースからあふれるように広場の中を左右に広がっていく。
国軍もフォカロルの兵士たちも、その様子を緊張気味に見つめており、城からはいよいよ完全武装の騎士隊が列を成して現れた。数は四十人ほど。
周囲を囲まれている事を知ったバシムは、ふん、と鼻で笑う。
「数に頼って押しつぶすつもりか......だがな」
門から吐き出される魔人族が止まらない。すでに五十人をとうに超えているのだが、途切れることなく武装した兵士たちが出てくる。
自分をぐるりと取り囲むようにひしめいている魔人族たちを見て、一二三は初めて刀に触れた。抜かずに、そっと手を添えただけだが。
「なんだ、これは......」
バシムの驚愕する声が聞こえると、一二三は口の端をぐい、と上げた。瞬間、走り出す。
生首のまま、睨みつけてくる変わり果てたバールゼフォンを見て、バシムは勢いよく首を回して一二三を見た。
そして、見えたのは一二三の膝。
「始めるぞ! 遠慮なくかかって来い!」
叫びながら軽やかに跳ね飛んだ一二三は、バシムの顔面に膝を入れ、その後頭部でバールゼフォンを封じる魔方陣が描かれた台座に罅を入れた。
「お前も参加しろ、バールなんとか! 身体はコイツので我慢しろよ」
一二三から、後頭部を割られたバシムを見たバールゼフォンは、首の下から糸のような血を流し、バシムへと触れた。
それを見届けた一二三は、台座を踏み越えた。
あえて大きな音を立てて着地すると、バルコニーで見下ろしているイメラリアたちを見上げる。
そして、刀を抜いた。
「人数が増えている? 一体どうなっているの!」
バシムに命じて控えさせていた人数を明らかに超過した兵士の数に、ウェパルは声を上げて驚きと怒りを交えた感情をぶちまけた。
このまま人数に任せて、万一城まで魔人族の兵が押し込むような事になれば、泥沼の戦いは避けられなくなる。
混乱しそうになる頭を必死で回転させ、まずは門を閉じる。
あっという間に掻き消えた門に、二人ほどの兵士が身体を千切られたようだが、勝手な真似をする部下たちへの怒りが、その参上から目を逸らさせた。
「申し訳ないけれど、すぐに下へ降りて兵たちを止めてくるわ。このままじゃ......」
「このまま、ここに居てください」
イメラリアは、落ちついた調子でウェパルの言葉を遮った。
「人数が多いのは、この際良い事です。あれらは......」
杖を抱えたイメラリアが、広場を占領するようにじりじりと広がっていく魔人族たちを指差す。
「死兵扱いで良いのでしょう? であれば、良いではありませんか。ここで見ていてください......今になって退くなんて、言わないでくださいね?」
ウェパルは答えるべき言葉を見つけられず、釘付けになっていたイメラリアの整った白い顔から、眼下の一二三へと視線を移した。
一二三は、こちらを見上げていた。
「事は既に動き出しました。戦いはもう始まっています。わたくしは騎士たち兵士たちに状況を押えるように命じますが......一部の騎士たちは、兵を伴って一二三様の助力をするように見せかけて、その動きを封じます」
ある程度の範囲に抑えることができれば、プーセが魔法防壁を使って一二三を閉じ込める事になっている、とイメラリアが淡々と説明する。
「い、言ったら悪いけど、いくら乱戦に乗じてと言っても、人間が束になってかかったところで、あの男の動きを制限できるとは思えないわ」
「そうですね。兵たちだけならそうでしょう。ですが、助力のために城から飛び出していく予定の人物は、我が国の兵士だけではありません」
話している間、広場では魔人族の兵たちが、一部バシムを助けに動いた連中を除き、こぞって一二三に群がっていく。
「兵士以外?」
「ええ。彼の事を、一番知っている方にお願いしました」
不意に、バルコニーの後方から突風が吹いた。
小柄で軽いイメラリアがよろけ、その脇を一人の女性が駆け抜け、バルコニーから文字通り飛び出した。
風の魔法によるものだろう。青いローブいっぱいに風を受け、広場に向かって吸い込まれるように飛んでいく。
「一二三様の妻、オリガさんです」
絶句しているウェパルに、イメラリアは風で乱れたドレスを整えながら微笑む。
「良く見ていてください。一人の愚かな王女に異世界から呼び出された殺戮者は、身内に裏切られて、非道な女王によって封印されるのです」 | Reni, who left the meeting room together with Zanga, told the knight of Orsongrande, who was accompanying them under the pretext of being a guide and an escort, “I want to go outside.”
“Then, this way, please.”
The interior of the castle, which had repeatedly parts added to it, is complicated, making a guide necessary for even leaving and entering.
The figures of several people walking in groups with Reni and Zanga in the lead right behind the knight was such a rare sight in the castle that they received plenty of rude looks from the people serving in the castle.
“...So, sheep-jou-chan, you’re planning something, aren’t you?” (Zanga)
Zanga says to Reni with a whisper.
“We will talk after leaving the castle. If you can agree with my points, it will be a big help if we can get your assistance, but...” (Reni)
“I see. Then let’s get quickly out of her. Stone buildings are somewhat uncomfortable for elves.” (Zanga)
“Though a soft chair isn’t all that bad,” Zanga laughs.
After walking for around minutes, Reni called out to the knight at the castle gate.
“Until here is fine. We know the way to the inn.” (Reni)
“Is that so? Then, if you have any business, come to the castle please.”
“Okay. Thank you.” (Reni)
The knight saw of Reni’s group, but or course they are under surveillance. Going by Reni’s assumption, someone dressed as city resident should follow them once they leave the plaza.
“I will explain to you now.” (Reni)
“Please. The queen-sama said all that, but there’s no way that we can sleep peacefully with just that.” (Zanga)
Reni grinned widely at Zanga’s way of talking. Reni, who doesn’t know the faces of her grandparents, felt a strangely relaxing atmosphere from Zanga’s aloof presence.
With a slack expression Reni explains something surprising to Zanga.
“The queen-sama plans to cause an uproar in front of the castle. ...It looks like she plans to seal Hifumi-san with magic. I don’t know the reason, but I hear Puuse-san is cooperating with her as well.” (Reni)
Reni continued speaking to Zanga who looks at her with widened, resolved eyes.
“It means that the talks with the demon queen have finished to some extent. It will start very soon.” (Reni)
“In that case we should get out of here as fast as possible.” (Zanga)
“We should do so, but since it’s a rare chance, we will use this to raise the beastmen’s standing.” (Reni)
“Raise your standing? What do you plan to do?” (Zanga)
Reni answered with a strained voice to Zanga who tilts her head in confusion,
“It will result in that Hifumi-san fighting a group...during that time we will help the residents in the surroundings to escape. We will be able to wonderfully show off the footwork of beastmen. ...How about the elves doing so as well? It’s a chance to demonstrate the defensive magic skills owned by you. I’m sure all the humans will be startled and give the elves their thanks.” (Reni)
The young beastgirl is trying to grasp the hearts of the humans as if it’s similar to a “prearranged performance.”
But, if it’s related to the future of our race
“...We will cooperate. Or rather, I think we will try to move by your instructions, sheep-jou-chan.” (Zanga)
☺☻☺
The balcony of the royal castle.
Two queens stood there right now. Without any guards or servants, just the two of them.
Contrary to Imeraria, whose white face is completely expressionless like that of a Noh mask, Vepar is tense with sweat running down her gray face.
“Hifumi-sama is over there.” (Imeraria)
Ahead of where Imeraria was pointing, Hifumi, who had turned his back on the castle, was talking with Midas.
As for the location, it’s the plaza in front of the castle with Hifumi being close to the exit. Moreover, on the other side of the entrance the soldiers of Orsongrande are lining up with their backs likewise turned on the castle, guarding the area in a loose formation.
On the plaza, several people are taking care of the horses which Fokalore’s soldiers and the demons used to get here.
“Once you summon your soldiers on the other side of Hifumi-san, I will have the knights sortie under the pretense of it being for the sake of defense. While carrying out a pincer attack, Puuse-san will imprison Hifumi-sama with barrier magic, and at the same time I will activate the sealing magic.” (Imeraria)
“...You sure make it sound easy.” (Vepar)
Vepar has formed an army corps of soldiers at their base in Vichy and has them wait on standby. It’s a disposable unit led by Bashim, gathered on behalf of the secret agreement with Imeraria. Even if Bashim kills Hifumi, he will be executed for the sin of having arbitrarily started a battle in another country. Though Vepar doesn’t believe that he has the slightest chance to win.
“On our side we have the knight order and the powerful soldiers of Fokalore, who are resting on the plaza. There are guards and knights in the city as well. There’s a commander as well. The horses...if there are losses among them, I will have them compensated.” (Imeraria)
“Therefore it’s fine to go all out,” Imeraria smiles.
Hifumi and this queen; the humans are insane. I’m gradually losing my confidence in my ability to control the citizens of Vichy.
But, I wonder what would happen if I refused here?
The woman called Imeraria might spur on Hifumi to fight the demons in order to wear him out. If that happens, us demons, who finally managed to go out into the world, might vanish from history for eternity this time.
Vepar doesn’t have any big ambitions, but she doesn’t want to go down in history as foolish queen.
“Understood...since it’s slightly far, will you allow me to focus?” (Vepar)
“Yes. I shall get ready myself as well then.” (Imeraria)
Once Imeraria turns around, the elf Puuse gracefully appears on the balcony while holding two wands.
Imeraria, who received one of the wands with extravagant ornaments applied to it, lines up next to Vepar and Puuse stood next to her while tightly grasping her wand.
“Let’s begin.” (Imeraria)
In her heart Imeraria apologized to Vepar, Puuse, the knights and soldiers. This is a cleaning up of the mess caused by Imeraria and her father. Originally it’s something she has to do by herself and not get various other races besides her country involved in this.
She naturally extends her hand to her abdomen.
She had decided to hand over this country in a good state to her child.
Crying and apologizing has to wait for the bitter end.
“I’m starting.” (Vepar)
Hearing Vepar’s voice, Imeraria lifter her face which she had lowered unconsciously.
“Hifumi-san, we will return to the city for the moment.” (Reni)
Reni, who is about to pass next to Hifumi while casually calling out to him, was forced to stop against her will by having her neck grabbed from behind.
Instead of Reni, who can’t speak up out of surprise, Helen protests,
“Hey, what are you doing!?” (Helen)
“I have just caught a bug sticking to her.” (Hifumi)
Hifumi, who removes the glove from his free left hand by using his mouth, acts as if he’s pulling out something from Reni’s back.
“There you go, now off with you. It’s a good idea to go ahead of the others since you’re slow-footed, but don’t make the blunder of mistaking your destination after being tempted into doing something stupid.” (Hifumi)
Reni, who was released by being tossed away, rubbed her neck and laughed.
“As expected, I’m no match for you, Hifumi-san.” (Reni)
“Get lost quickly. You’re a nuisance.” (Hifumi)
Helen and Zanga hurried up, but only Reni closely stared at Hifumi’s face.
“What is it?” (Hifumi)
“Thank you very much!” (Reni)
Hifumi waves his right hand to drive away Reni, who had bowed her head.
“If you want to thank me, then create an interesting world. There’s nothing else that I wish from you besides that.” (Hifumi)
“Understood!” (Reni)
Reni runs off while waving a hand.
Meanwhile the something, which was grasped in Hifumi’s left hand transformed into the face of a skinny man and struggled while scattering something similar to black fog.
“What’s that?” (Midas)
“The fragment of an idiot who tried to use others to kill me.” (Hifumi)
While answering Midas’ question, Hifumi crushed the shinigami‘s face with his black hand.
“...I guess it has started.” (Hifumi)
What appeared first was a black circle with the size of a volleyball.
The “surface” of the gate, which became four meters in diameter within less than seconds, was calm like the surface of a lake with not a single breeze going.
“This is...” (Midas)
“The enemy is coming.” (Hifumi)
“...Eh?” (Midas)
“Go to the soldiers on the city’s side. The demons’ troops are coming.” (Hifumi)
It’s a crazy story, but seeing Hifumi’s expression, Midas decided to believe him and started to run.
“Good god...finally it’s starting, eh?” (Hifumi)
Plunging the glove into his pocket, Hifumi loosened his neck and shoulders up by rotating them, and then adjusted the location of his katana.
First a single one. A male demon emerged from within the darkness.
“Just when I wondered whether it’s finally our turn...what a great omen. For you bastard to be the first target in our trampling of the humans.” (Bashim)
The one-handed demon, Bashim looks at Hifumi’s face, revealing a savage smile while baring his teeth.
“What, it’s you? Doesn’t Vepar have any powerful subordinates? I expected an at least a bit more bulky fellow, but...well, whatever.” (Hifumi)
“Asshole!” (Bashim)
In rage Bashim used his ability, causing two knife blades to float in midair. Meanwhile one demon soldier after the other appears from the black gate.
Fokalore’s soldiers, who were on the plaza, quickly stand up while holding their weapons, and build a defensive wall by toppling over several carts. The voice of Midas reverberates at the plaza’s entrance. The knights and soldiers face about right, and draw the swords while facing the castle.
Moreover the voices of Reni and Helen telling the citizens to take refuge can be heard in the distance.
During all that time, Hifumi doesn’t do anything, not even touching the hilt of his katana.
“Look, your arm is over there.” (Hifumi)
“Whaaa!?” (Bashim)
What Hifumi pointed at was the pedestal that had been installed in the center of the plaza. Being covered by a cloth, it’s standing all alone there, as if having been abandoned.
“It’s being kept veeeery safely by having been placed into a case. Hey! It’s fine to go there to take it back with your own hands.” (Hifumi)
Even while grating his back teeth with grinding sounds due to Hifumi’s ridiculing speaking style, Bashim slowly distances himself from Hifumi and heads over to the pedestal.
While keeping his eyes on Hifumi, he touches the pedestal with his stretched out right hand and uses one of the still floating blades to tear up the cover as he suppresses his impatience.
During that time the demon soldiers appear in groups in front of Hifumi, and spread out left and right on the plaza that seems to run out of space.
The royal army and Fokalore’s soldiers watch the situation with tension. At last the completely armed knight order appeared from within the castle and lined up. They number close to .
Bashim, who knew that they were surrounded, laughs scornfully.
“Do you intend to crush us by relying on numbers...? But you know...” (Bashim)
The stream of demons popping out of the gate doesn’t cease. Their numbers have long ago passed 0, but without interruption, armed soldiers keep spilling out.
Watching the demons as they crowded around him, Hifumi touched the katana for the first time. Without drawing it, he just placed his hand gently on it, though.
“What, this is...” (Bashim)
Once he heard Bashim’s shocked voice, the corners of Hifumi’s move suddenly rose, and in an instant he starts to run.
Looking at Balzephon, who had completely changed into a glaring, freshly severed head, Bashim saw Hifumi quickly circle around the head.
And what he saw next was Hifumi’s knee.
“Let’s start! Come at me without any reservations!” (Hifumi)
Hifumi, who easily jumped upward while shouting that, drives his knee into Bashim’s face and cracked the pedestal that had a magic circle to seal Balzephon drawn on it with Bashim’s head.
“You participate as well. Bal-something! Endure with this guy as body.” (Hifumi)
Balzephon, who saw Bashim who had the back of his head split open by Hifumi, spilled a thread-like stream of blood from the base of his neck and made it touch Bashim.
After confirming that, Hifumi stepped over the pedestal.
Once he lands with a deliberately loud thump, he looks up to Imeraria and the other two who are looking down from the balcony.
And then he drew his katana.
“The number of people has increased? Just what the heck is going on?” (Vepar)
Due to the number of soldiers being obviously far higher than those prepared under Bashim’s command, Vepar raised her voice, letting her emotions, a mixture of surprise and anger, free reign.
At this rate, if it results in the demon soldiers rushing the castle in the worst case while fully relying on their numbers, a messy and dire battle won’t be avoidable.
Frantically wracking her brain that has turned into a mess, she fist closes the gate.
Upon the gate disappearing in the twinkling of an eye, two soldiers had their bodies apparently cut apart, but her rage towards her subordinates, who did whatever they like, made her look away from that tragedy.
“I’m very sorry, I will go down right away and stop the soldiers. At this rate...” (Vepar)
“Please stay here as you are.” (Imeraria)
Imeraria interrupted Vepar in a calm manner.
“There being a big number of people is a good thing on this occasion. They are...” (Imeraria)
Carrying the wand under her arm, Imeraria pointed at the demons gradually filling the plaza as if occupying it.
“It’s fine to regard them as death soldiers, right? If it is, isn’t that great? Please watch from here...please don’t say that you are going back out at this point, okay?” (Imeraria)
Unable to find any words to reply with, Vepar shifted her eyes from Imeraria’s well-featured, white face, which is fixated on a single point, Hifumi, who is below them.
Hifumi looked up to them.
“The situation has already started to move. The battle has begun now. I will order the knights and soldiers to put the situation under control, but...a part of the knights will pretend to support Hifumi-sama while accompanied by soldiers. That will seal off his movements.” (Imeraria)
“If we are able to restrain him to a certain range, Puuse will imprison Hifumi-sama using a magic wall,” Imeraria indifferently explains.
“I-I’m sorry to to tell you, but no matter how much advantage you gain from a melee, I don’t consider that man to be someone whose movement you can restrain even if you have humans flock around him in a group.” (Vepar)
“You’re right. It probably won’t work if it’s just the soldiers. But, the people scheduled to rush out of the castle to assist him are not only our country’s soldiers.” (Imeraria)
While they are talking, the demon soldiers on the plaza all together swarm Hifumi, except for a group that moved in order to save Bashim.
“Who else then?” (Vepar)
“Yes, I asked the person who knows him the best.” (Imeraria)
Suddenly a gust blew from the rear of the balcony.
The small and light Imeraria staggers. A single woman ran past her and literally jumped off the balcony.
It’s likely thanks to wind magic. The blue robe fully absorbs the wind, making her soar towards the plaza.
“It’s Hifumi-sama’s wife, Origa-san.” (Imeraria)magic
Due to Vepar being speechless, Imeraria smiles while fixing her dress that had become disheveled by the wind.
“Please look closely. The slaughterer summoned from a different world by a foolish princess will be betrayed by his family and sealed by an inhuman queen.” (Imeraria) |
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} | ソードランテのスラムへと入ったエルフたちは、それぞれの家族単位で家を割り当てられた。数日のうちに、レニたちの判断や本人たちの希望によって仕事が割り振られる予定になっている。
エルフに対しては、人間たちはおっかなびっくりといった雰囲気だったが、獣人たちは“いるのは知っているけど見たことがない”という者ばかりだったせいか、誰もが新たな移住者たちに興味津々だった。
ザンガーは、プーセやシクと共に大きめの平屋を割り当てられ、エルフたちのまとめ役となるようにレニから正式に依頼を受けた。
その依頼は、レニの仕事場に呼ばれたザンガーたちが、お茶を飲みながら今後について打ち合わせをしている時に初めて話された。
「魔法をウチたち獣人にも教えて欲しいんです」
「魔法を?」
「そうです。人間の中には魔法を使える人がいて、エルフさんたちはもっと上手に魔法が使えると聞きました」
ザンガーは、目を閉じてしばらく考えてから、レニを真っ直ぐに見た。
「......魔法を覚えて、どうするつもりだい?」
「この町のみんなを守る力にしたいです」
即答したレニの顔に迷いは見えない。
「ふふっ......ああ、わかった、わかった」
吹き出したザンガーは、傍らにいたプーセに顔を向けた。
「プーセ、あんたと何人か、力仕事が出来ない女衆で魔法を教えなさいな」
そのやりとりに「やった」と小躍りしているレニに、ザンガーは厳しい視線を向ける。
「でもね、羊さん。あたしも長く生きているけれど、獣人が魔法を使えるなんて聞いたこともないんだよ。教えたところでできるかどうか、わからないんだよ? 無駄な努力になるかもしれない。それでも、やるのかい?」
「もちろん」
大きく頷いたレニは、近くにいたヘレンの手を握った。
んに出会ってから、ヘレンで色々教えてもらって、勉強して、今はなんとか町をやっていけてます。でも、まだウチたちと仲の悪い人間も獣人も多いし、お母さんたちも呼びたいけれど、まだ難しいと思っています」
でも、とレニは鼻息を荒くして続ける。
「この小さな町の中だけでも、獣人と人間が仲良く暮らしていける場所ができました。これからは、エルフさんたちも一緒です。その町を守るために何ができるのか......ウチはあんまり頭も良くないから、やってみないとわからないから、とにかくやってみるんです」
「今思えば、一二三にやらされた勉強とかも、役には立っているのよね」
照れくさそうにレニの手を握り返したヘレンは、宿に篭って他の獣人たちとみんなで勉強させられた時の事を思い出した。責任ある立場に祭り上げられた今、文字の読み書きやある程度の計算の知識は非常に重宝した。
スラム出身ではなく、一二三に購入される形でこの町へと入った獣人たちは、概ね読み書きが出来、レニなど一部の獣人は計算もできる。ある点では、人間中心の町よりも行政の処理能力は上になっていた。だが、比較対象を知らないレニたちは、それでも問題は多いと思っていた。
「できるかどうかは、やってみたらわかります」
ここには、レニが冷静に計算した内容も含まれている。
獣人の中には虐待の結果、まともに歩けない程の傷を負っている者も少なくない。彼らは町の発展に寄与できていないという点で忸怩たる思いを抱えていた。それはレニの事務仕事を手伝っている者や、動かずにすむような商店の店番などをしている者たちからの言葉を聞いて、レニの中でもどうして良いかわからずに悩んでいるところだった。
もし、獣人が魔法を使えるならば、治癒魔法で戦場の怪我人を癒し、遠距離攻撃で支援することもできるだろう。多少でも町を守る戦いに貢献できるという自信があれば、彼らの心を慰められるのではないか、とレニは思っている。
「羊さんは......いや、レニさんと呼ばなくちゃ、いけないね」
居住まいを正したザンガーは、レニに向かってしっかりと頭を下げた。
「住処を失ったあたしたちエルフに、居場所と役割をくださって、どうもありがとう。魔法以外でも、色々と役に立つから、よろしくお願いするよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
レニの柔らかくて小さな手と握手をしたザンガーは、笑顔を見せながらも内心では不安が膨らんでいた。
(こんなに愛らしい小さな子に、一二三さんは何をやらせているのやら......。あの人は何を考えているのかわからないけれど、この子達は守ってあげたいねぇ......)
集落を捨てた自分が言うと虚しいものがあるが、とザンガーは自虐に内心苦笑しながら、深いシワが刻まれた手でしっかりとレニの手を掴んだ。
☺☻☺
一二三と対峙する羽目になった魔人族は、その身分に関わらず、一二三に近い場所にいた者から次々に惨殺されていく。
風切り音を伴って振るわれる短刀は、魔人族たちの喉や腿の動脈を切り、目に突き立てられ、心臓を抉る。
魔人族の町からエルフの集落がある方面へ向かい、点々とというには夥しい量の血痕が残る。
先頭を走る魔人族の兵士は、すでに三人にまで減らされている。
彼らは所属はバラバラで、仲間たちがやられている間になりふり構わず逃げ出したために、最後まで残っていた。
だが、一二三の追撃は彼らを見逃さない。
「あっ!」
誰かが短い悲鳴を上げて、前のめりに倒れた。
走っている勢いのまま、顔から地面に身体を投げ出した兵士は、首の後ろから短刀を生やしており、倒れた時にはすでに事切れていた。
駆け抜けつつ短刀を引き抜いて回収した一二三は、残った二人を視界に捉えつつ、短刀の刃に視線を流した。
「まあ、普通はそうだよな」
いくつかの小さな刃こぼれを見つけて、一二三は小さく呟く。
加護を受けたわけでもない短刀は、その切れ味を出すために刃は鋭い。その分脆いので、いくら柔らかな喉や眼球を多く狙ったとしても、何十人も殺せば刃も欠けて脂が付いて斬れなくなる。
「刺せば使えるだろうが......まあ、いいだろう」
闇魔法収納へ短刀を放り込み、素手になった一二三がさらに速度を上げる。
残った二人は、この先がエルフが結界を張っている場所だという事は知っていた。このまま行けば行き止まりになるという事を。
だが、左右バラバラに逃げたとして、自分の方に人間が来たらと思うと、二人はお互いを視線で牽制しながらも、ここまで真っ直ぐに走っているしかなかったというのが現状だった。
「はぁ、はぁ......あの人間、武器を捨てたようだぞ。もう手に何も持っていない」
チラリと背後を見た魔人族が言うと、もう一人も一瞬だけ後ろを向いて、一二三の姿を確認した。
「確かに......」
「あの武器が無ければ、二人がかりなら何とかなるんじゃないか?」
その提案に、走りながら兵士は考えた。
先ほどチラリと見た人間の姿は、冷静に考えてみれば自分たち職業軍人に比べれば体つきが一回りは小さい。
恐ろしいまでに切れる武器も放棄しているとするなら、どちらかが押さえつける事に成功すれば、それだけで勝ちは確定するだろう。
「......わかった。タイミングを合わせて止まろう。俺が奴を抑えるから、どうにか無力化してくれ」
「了解した」
体力が残っている今のうちに仕掛けよう、と兵士たちは直ぐに考えを実行する。
「いくぞ......今だ!」
振り向きざまに剣を抜いた兵士の横で、迎撃を提案した兵士は火球の魔法を放った。
「なにっ!?」
「遅い!」
飛び上がるようにして火球を避けた一二三は、そのまま呆然とする兵士二人の顔を両手でそれぞれ叩いた。
くぐもった音がして、二人の眼球が片目ずつ衝撃で破裂する。
「ぎゃああ!」
「ぐぅっ!」
魔法を放った兵士は、さらに着地の瞬間に蹴りを受け、右足をざっくりと切り裂かれた。
辛うじて剣を離さずにこらえた兵士が、狭い視界のなかで必死に剣を振るう。
「おう、戦えるなら始めからそうすれば良かったのに」
縦横とくり返し振るわれる剣を左右に揺れるような動きで避けながら、一二三は少し嬉しそうに微笑んだ。
兵士は目の痛みはとりあえず無視することにして、今は眼前の危機への対処に集中していた。
走った疲れはあるものの、足腰はまだしっかりと踏ん張れる。硬い地面を蹴って、さらに力で圧倒しようと踏み出した。
その間、もう一人の兵士は足を引きずって痛みに呻きながら逃げ出したが、一二三はそちらには目もくれず、戦う意思と実力を示した兵士の前に立つ。
頭ひとつは背が高い魔人族兵士は、大上段に構えた剣を思い切り振り下ろし、避けられてもさらに横薙ぎに振り抜く。
それを姿勢を低くしてやりすごした一二三は、身体を起こしながら剣を持つ手の甲を追いかけるように叩いた。
「うぬっ?」
振り抜いた剣の速度を上げさせられ、剣を止め損ねた兵士の身体はぐるりと回る。
露わになった首筋を掴んだ一二三は、そのまま仰向けになるように引き倒した。
ちょうど石が埋まった場所に頭があるのを見てとった一二三は、魔人族の額を思い切り踏みつけて頭部を叩き割った。
脳漿を撒いた兵士は、数度の痙攣のあと、事切れた。
「さて、あと一人だが......ん?」
まだ生きているかな、と生き残りを探しに行こうとした一二三の耳に、馬の蹄が地面を叩く音が聞こえてきた。
「はあ、良かった。追いついた......」
馬に乗り慣れていないのか、疲れた顔をしたフェレスと、その腰にしがみついて馬に乗っていたのは、先ほど一二三に刀を突きつけられたニャールだった。
「ほら、降りるよ」
「お尻いたい~......」
文句たらたらで馬から降りたニャールに続き、フェレスも馬を降り、一二三に頭を下げた。
「隊長......ウェパル様からの伝言をお伝えに参りました」
「こ、これを......」
ニャールが恐る恐る差し出した羊皮紙を受け取り、一二三はその場で中身を確認した。
そこには、ニャールやフェレスなどウェパルに一度敵対する形になった部下たちを殺さなかったことと、自分が王位に就くに際して協力をした事に対しての皮肉混じりの礼が書かれていた。
そして、その後に続く文章には、魔人族の領域からの退去を求める勧告が続いている。
「はっ。感謝状と退去勧告が一緒くたになってるな」
一二三が読み終わるのを、二人の少女は怯えながらもじっと待っていた。
書類を畳み、闇魔法収納へ放り込む。
魔法の発動の速さと珍しい闇属性に、少女たちが目を丸くしている。
「ウェパルの言い分はわかった。どうせ出て行くつもりだったからな、別に問題は無い」
一二三の台詞に、ニャールがわかりやすい安堵の表情を浮かべて、フェレスはまだ緊張した表情で一二三を見ていた。
「いいことを教えてやろう。もう、お前たちを閉じ込める結界は存在しない」
素直な性格なのだろう、ニャールは喜びを顔いっぱいに浮かべたが、フェレスはまだこわばった顔をしている。
「なぜ、それがわかるのですか?」
「エルフの村で聞いた。まともに考えたら、結界を維持する連中もつれて逃げただろうからな。......森から風が吹いてきている。すでに結界が機能していないんだろう」
「貴方は、エルフの仲間なのですか? エルフの手先だから、魔人族をこんなに殺して......」
フェレスの視線は、先ほど殺された魔人族の兵士を見ている。
「関係ないな。魔人族もエルフも獣人族も人間も、俺の敵になった奴は殺した。お前も、俺の前で武器を抜くか? 治癒以外の魔法が使えるなら、魔法で俺の命を狙うか?」
「......やめておきます。世界を敵に回しても笑っているような人と対峙したくはありません。ただ、ウェパル様を助けていただいた事には、お礼を申し上げます。ありがとうございました」
「お前も、あいつを迎え撃つ集団にいただろうが」
「標的は知らされていませんでした。あの時はなにもできませんでしたが、今後はしっかりとウェパル様にお仕えしていく所存です」
一度だけ頭を下げ、フェレスは一二三と視線を合わせた。
「私には治癒魔法しか能がありません。ですから、貴方と戦う事はできません。でも、仲間を助ける事はできます」
「なるほど、それは有能なことだ。頑張って、ウェパルを助けるといい」
「それが、私にはわからないのです。王を殺し、魔人族をこれだけ殺しておきながら、ウェパル様の栄達を手助けする理由はなんですか?」
疑問を口にしたフェレスは、よく見ると少しだけ震えている。
その後ろでは、ニャールが明らかに怯えた顔でフェレスの服を掴んでいた。
「調整だな」
「調整?」
「アガチオンと言ったか。あいつは強かった。部下が命を賭けるような策にも顔色一つ変えずに許可が出せる奴だった。あれが表に出てきたら、エルフも人間も獣人も一方的にやられただろうな。だが、仲間への気遣いをするウェパルなら、本人の戦闘力も含めて、今の人間なら数で、獣人連中なら手段の多さで、エルフは知らんけどな。獣人と組むのが一番バランスが良いんだが......とにかく、これで長く戦うための調整ができたわけだ」
大変だったなぁ、と遠い目をする一二三に、フェレスは違う理由で震え始めていた。
「長く戦う、とは? まさか......」
「戦える奴らで戦争をしてもらおうと思ってな。あまりに一方的に戦力が偏るといけない。どこかが全部を占領して終わり、じゃつまらない」
収納から取り出した刀を腰に差し、位置を調整する。
「魔人族は、結界が無くなったと知れば外へ出たいという欲望を押さえきれまいよ。人間は魔人族やエルフ、獣人族に対して本能的に拒否感や恐怖感があるようだし、獣人族は元々戦いが好きで、エルフと獣人の町がまだあるなら、その脆いつながりを保つために、対外的には戦って勝たねばならん」
お膳立てはできた、と一二三は満足げに頷いた。
「な、なぜそのようなことを......」
「うん? 理由は別にないぞ。ただ、そうなれば戦いが楽しくなるから、だな。誰もが戦う事に一生懸命になれば、結果としてこの世界も発展する。発展すれば戦いももっと激しくなる。良い感じだろう?」
一二三の答えに、フェレスはもう何も言えない。
「今後どこかで火種が弾ければ、そこからズルズルと戦いは広がるだろう。そうならなければ、そうなるように動くまでだ。というわけで、ここからは準備期間だ。いつまでかはわからないけどな」
ゴクリ、と音を立てて唾を飲んだフェレスは、あいさつもそこそこに、慌てて馬に乗り、ニャールを引き上げるようにして後ろに乗せると、城へと馬を走らせた。
「さて、俺も準備をしようかね」
フェレスが向かった先とは逆。エルフたちの居住地に向かって、一二三は歩き始めた。 | Entering the slums of Swordland, the elves were each assigned a house for their families. It has been scheduled for them to be given a job according to Reni’s group’s decision as well as the wishes of the people themselves after a few days.
The humans harboured feelings of fearfulness towards the elves, but as they were simply existences “whom they know of but had never seen before” for the beastmen, everyone had a keen interest in the new immigrants.
Having been assigned a slightly larger one-story house together with Puuse and Shiku, Zanga officially accepted the role of being the mediator of the elves from Reni.
Zanga’s group, who had been called to the workplace of Reni, was told about that role for the first time when they had a preparatory meeting about the future from now on while enjoying some tea.
“I’d like you to teach magic to us beastmen as well.” (Reni)
“Magic, you say?” (Zanga)
“Yes. There are people among the humans who can use magic. I heard that elf-san’s group is able to use magic even more skilfully.” (Reni)
After pondering for a while while having her eyes closed, Zanga looked directly into the eyes of Reni.
“... What do you plan to do by learning magic?” (Zanga)
“I want us to have the power to protect everyone in this city.” (Reni)
No hesitation can be seen in Reni’s expression as she gives that immediate reply.
“Fufu... okay, I got it, I got it.” (Zanga)
Bursting into laughter, Zanga faced Puuse who was sitting next to her.
“Puuse, teach them magic together with the women who can’t do manual labour.” (Zanga)
“Understood.” (Puuse)
Zanga turns a strict look at Reni who is jumping for joy with a 「Hooray」 due to that exchange.
“But, you know, sheep-san. I have been living for a long time, but I never heard something like a beastman being able to use magic. You don’t know whether you will be able to learn it or not, do you? It might become a fruitless effort. Do you still want to do it even then?” (Zanga)
“Of course.” (Reni)
Nodding strongly, Reni grabbed the hand of Helen who was close-by.
“After meeting with Hifumi-san, the two of use have been taught many various things, studied and are now able to live in the city somehow. However, there are still many beastmen and humans who are on bad terms with us. Although I want to invite our mothers as well, I think that it’s still difficult to do so.” (Reni)
“But”, Reni continues while breathing roughly through her nose.
“Even if it’s only in this small city, we were able to create a place where beastmen and humans can live together peacefully. From now on it will be together with elf-san’s group as well. Am I able to do anything to protect this city... since I won’t know if I don’t attempt as I’m not overly smart either, I will give it at least a try.” (Reni)
“Now that I remember, even the stuff like studying, Hifumi made us do, has its use, right?” (Helen)
Helen, who squeezed back the hand of Reni while looking embarrassed, recalled the time when she could study with they other beastmen and everyone while being confined in the inn. Now that she has risen to a position with responsibility the reading and writing of characters as well as the partial knowledge about calculation was a very priceless treasure.
The beastmen, who flowed into this city from being purchased by Hifumi and who haven’t originally lived in the slums, are generally able to read and write while a part of the beastmen like Reni is also able to calculate. At certain points their administrative throughput became even better than the city centred around the humans. However, not knowing of someone to compare with, Reni’s group believed that there are still many problems.
“We will know whether it’s possible or not once we try it.” (Reni)
Reni has included that detail in her calm calculations as well.
As result of abuse among beastmen, there are even quite a few injured people who can’t properly walk. They harboured emotions of shame for not being able to contribute to the growth of the city. Hearing the words from those, who are helping with Reni’s official work, and those, who are doing things like tending to stores where they can work without having to move around, it was a worrisome aspect for Reni in particular as she didn’t know what would be good to do about it.
If beastmen are able to use magic, it will probably become possible for them to play a support role with long-distance attacks and healing the injured on the battlefield with healing magic. If they gain a little confidence by being able to contribute to the city by fighting to protect it, won’t that calm their hearts?
“Sheep-san... no, it’s wrong if I don’t call you Reni-san.” (Zanga)
Fixing her seating posture, Zanga bowed fully while facing Reni.
“Thank you very much for giving us elves, who lost their home, roles and a place to stay at. Please take care of us as we will be useful for various things besides magic.” (Zanga)
Zanga, who shook Reni’s small and soft hand, got anxious in her mind while showing a smile.
(What has Hifumi-san done to such a charming, little child... I don’t understand what that man is thinking, but I want to protect these children...)
, while smiling bitterly in her heart in self-mockery, Zanga firmly grasped the hand of Reni with her deeply wrinkled hand.
☺☻☺
The demons, who ended up confronting Hifumi, have been slaughtered one after the other starting from those, who were close to Hifumi, regardless of their status.
The dagger, which is wielded along a sound of cutting wind, slashes through the demons’ throats and thigh arteries, pierces their eyes and gouges out their hearts.
A vast amount of bloodstains remain here and there on the way towards the elven village from the demons’ city.
The demon soldiers, who are running away in the lead, have already diminished to only three people.
With them being split apart from their own groups, they remained to the bitter end in order to escape without minding their own appearances while their comrades were done in.
However, they haven’t failed to notice Hifumi’s pursuit.
“Ah!”
Someone fell by pitching forward while voicing a short scream.
The soldier, who crashed into the ground starting with his face due to the momentum of running, has the dagger sticking out from the back of his head. At the time of falling he had already died.
Recovering the dagger by pulling it out while running past, Hifumi examined the blade of the dagger while keeping the remaining two in his field of vision.
“Well, I guess that’s normal.” (Hifumi)
Discovering several small nicks in the blade, Hifumi grumbles quietly.
The dagger, which hasn’t received a divine protection, has a sharp blade to bring out its cutting ability. Given that this part is brittle, the clinging grease will kill its edge and the blade will be damaged as well if one kills several tens of people, even if he mostly aimed at the soft throats and eyeballs.
“I guess it’s still usable for piercing, but... oh well, it will probably be fine.” (Hifumi)
Tossing the dagger into his darkness storage, Hifumi, who became unarmed, raised his speed even more.
The remaining two knew that beyond this point the elven barrier would stretch out. If they went in that direction, it would turn into a dead end for them.
However, the current situation was that they couldn’t do anything but run away straight ahead until here. Even while checking each other with a look, they wondered whether the human would come their way if they escaped by dispersing left and right.
“Haa, haa... It looks like that human threw away his weapon. He isn’t holding anything in his hands anymore.”
Once one of the demons said so after having looked behind with a glance, the other also turned back for just an instant and confirmed Hifumi’s state.
“You are right...”
“Won’t the two of us be able to somehow manage if that weapon is gone?”
The other soldier thought about that suggestion while running.
The figure of the human, I had seen with a glance before, has a small size compared to career soldiers like us if I think about it calmly.
If he has decided to abandon even his weapon which is able to cut to a terrifying degree and if it’s successful for either of us to pin him down, the victory will be likely decided with only that much.
“... Got it. Let’s stop while matching our timing. Please dispose of him somehow after I have restrained that guy.”
“Let’s start right away as long as we have stamina remaining”, the soldiers implement their idea immediately.
“Let’s go... now!”
The soldier next to him drew his sword while turning around while the soldier, who made the suggestion to intercept, released a fireball.
“What!?”
“Too slow.” (Hifumi)
Avoiding the fireball by jumping, Hifumi hit each of the two’s faces, who are dumbfounded, with both hands.
Making a muffled sound, one each of both’s eyeballs rupture due to the impact.
“Gyaaa!”
“Guu!”
The soldier, who cast the magic, moreover received a kick at the moment of landing and his right leg was roughly torn to pieces.
The soldier, who barely resisted by not releasing his sword, desperately swings his sword within his narrow field of vision.
“Okay, it would have been great if you had done so from the beginning if you are able to fight.” (Hifumi)
While avoiding the sword, which is repeatedly swung vertically and horizontally, with movements similar to swaying left and right, Hifumi smiled slightly delightfully.
Deciding to ignore the pain of his eye for the time being, the soldier focussed on dealing with the danger currently in front of his eye.
Although he is tired from having run, he still plants his legs and loins firmly. Kicking off the hard ground, he stepped forward to overpower Hifumi with strength.
During that time the other soldier ran away while moaning in pain and limping, but without turning his eyes that way, Hifumi stands in front of the soldier who displayed his ability and intent to fight.
The demon soldier, who is one head taller, swings down the sword he held over his head with all his might and moreover wields it sideways even when his previous strike has been avoided.
Letting that slash go past by lowering his stance, Hifumi chased the hand holding the sword while straightening his body and struck it.
“Unu?”
With the brandished sword’s speed being raised, the body of the soldier, who missed his chance to stop the sword, makes a full turn.
Grabbing the exposed back of his neck, Hifumi pulled him with the soldier being in a state of looking up.
“See you.” (Hifumi)
Hifumi, who just saw that the soldier’s head was at a place littered with stones, trampled down on the demon’s forehead with all his strength and smashed his head.
Scattering grey matter, the soldier died after several convulsions.
“Well then, there’s one left, but... mm?” (Hifumi)
The ears of Hifumi, who tried to go searching for the survivor while wondering whether he is still alive, heard the sound of a horse’s hooves hitting the ground.
“Haa, that was nice. They caught up...” (Hifumi)
It was Pheres, who had a worn-out expression, and the one who was riding while clinging to her hips was Nyal who had the katana thrust in front of her eyes before by Hifumi.
“Hey, get off.” (Pheres)
“My butt hurts~...” (Njal)
Continuing after Nyal who descended from the horse while complaining incessantly, Pheres got off the horse as well and bowed her head towards Hifumi.
“We came to deliver a message from Captain... Vepar-sama.” (Pheres)
“T-This...” (Njal)
Receiving the parchment timidly held out by Njal, Hifumi checked its contents on the spot.
It contained thanks mixed with sarcasm for the matter of him having cooperated at the time of her ascension to the throne and for the situation where she was going to be killed by her subordinates who had temporarily become hostile towards Vepar, like Pheres and Njal.
And it continues with her recommendation for him to depart from the demons’ territory in the following sentence.
“*Sigh* A thank-you-letter and a recommendation for departure has been lumped together.” (Hifumi)
The two girls waited patiently even while being scared until Hifumi finished reading.magic
Folding the document, he tosses it into his darkness storage.
The girls stare in wonder due to the rare darkness attribute and his speed in invoking the spell.
“I understood Vepar’s point. Since I planned to leave anyway, there’s no particular problem with that.” (Hifumi)
Nyal showed an easily understandable expression of relief due to Hifumi’s words while Pheres assessed Hifumi with a yet still tense expression.
“Let me tell you something nice. The barrier imprisoning you lot doesn’t exist anymore.” (Hifumi)
As she has a honest nature, Njal floats an expression full of joy, but Pheres’ is still stiff.
“Why do you know that?” (Pheres)
“I heard it in the elven village. If you ponder about it normally, it’s probably because they have escaped while taking the lot, who maintains the barrier, along... The wind is blowing from the forest. The barrier likely doesn’t function anymore.” (Hifumi)
“Are you a friend of the elves? Because you are a pawn of the elves, you have killed this many demons...” (Pheres)
Pheres gaze is restinng on the demon soldier who had been killed before.
“I have nothing to do with them. Demons, elves, beastmen and humans, if they become my enemies, they will be killed. You too, will you also draw your weapons in front of me? Will you aim for my life with magic if you are able to use magic besides healing magic?” (Hifumi)
“... I will pass on that. I don’t want to square off against a person who seems to be laughing even while making an enemy out of the world. However, I will express my gratitude for the matter of you having rescued Vepar-sama. Thank you very much.” (Pheres)
“You were also in the group who ambushed her though.” (Hifumi)
“I wasn’t aware that she was the target. Although I was unable to do anything at that time, I have the intention to properly serve Vepar-sama from now on.” (Pheres)
Bowing once, Pheres matched her sight with Hifumi’s.
“I have no other talent but healing magic. Thus I’m unable to fight with you. However, I’m capable of saving my comrades.” (Pheres)
“I see, that’s something valuable. Go for it, it will be fine if you help Vepar.” (Hifumi)
“There’s something I don’t understand. What’s your reason for assisting the rise of Vepar-sama while having killed the king and this many demons?” (Pheres)
Voicing out her question, Pheres looks at him properly and trembles only a bit.
In her back Njal clutched Pheres clothes with an obviously frightened expression.
“It’s tuning.” (Hifumi)
“Tuning?” (Pheres)
“The one called Agathion? That guy was strong. He was a fellow who was able to give permission to a plan, which put the life of his subordinate at risk, without a single change in his expression. If that person appeared on the world’s stage, he would probably finish off the elves, beastmen and humans one-sidedly. But, if it’s Vepar, who considers her comrades, including her own strength as well, it will become the best balance if she forms an alliance with the beastmen considering the number if it’s the humans, the size of the group if it’s the beastmen lot and the wisdom of the elves, but... anyway, I was able to tune things for the sake of a long battle with this.” (Hifumi)
“It was difficult, you know”, with Hifumi looking in the far distance, Pheres began to tremble for a different reason.
“Long battle, you say? You don’t mean...” (Pheres)
“I thought that I’d like you to go to war with the guys who are able to fight. It’s no good if the fighting strength is too overwhelmingly biased. It will somehow finish with all of it being occupied and that’s boring.” (Hifumi)
He places the katana, he took out from his storage, at his waist and adjusts its position.
“The demons won’t be able to suppress their desire of wanting to leave once they learn that the barrier vanished. Humans seem to instinctively have feelings of fear and rejection towards demons, elves and beastmen. Beastmen like to fight to begin with. If there are still cities of elves and beastmen, they have to fight the foreign enemies and win to keep that fragile relationship.” (Hifumi)
“I was able to prepare the stage”, Hifumi nodded in satisfaction.
“W-Why are you doing such thing...?” (Pheres)
“Hmm? I have no particular reason. However, it’s because I will be able to enjoy the battles if it turns out like this. If everyone is fighting for dear life, this world will develop as result, too. If it develops, the battles will become even fiercer. That feels pleasant, right?” (Hifumi)
Pheres can’t say anything anymore due to Hifumi’s reply.
“If someone somewhere pulls the trigger hereafter, the battles will probably spread slowly from there. I have moved in order for it to turn out like this. That means, from here on it’s the preparatory phase. I don’t know how long it will last though.” (Hifumi)
Swallowing her saliva with a gulping sound, Pheres bid farewell in a hurry, mounted the horse in panic, pulled up Njal placing her in the back and galloped towards the castle.
“Well then, let’s get ready myself as well, I guess?” (Hifumi)
He headed in the opposite direction of Pheres. Facing the residence of the elves, Hifumi set out. |
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} | 反省会で槍玉に上がったのはアリッサとイメラリア、そしてサブナクだった。
「アリッサは状況確認をするのに安全圏まで離れるべきだったな。そうすればあのデカブツが出てきたことにも気づいただろう。サブナクは槍を撃ってから突っ込むのは良かったが、速度を求めて歩兵を残したのは失敗だったな。あれは正面から全員で圧力をかけるべきだった」
と、だいたいこういった内容を、実例や地面に線を引きながら説明した。
イメラリアに対しては、最後の最後になってから、
「自分にできることとできないことを把握してから動けよ」
とだけ言われ、アドバイスは何も無い。
解散後、昼食を終え三が適当なスペースで寝転がっていると、アリッサがフォカロルからの兵たちを連れてやってきた。
オリガはに膝枕をしながら、黙って様子を見ている。
「どうした?」
「こ、今夜あたりにホーラントに入ろうと思って......許可を、ください」
アリッサが頭を下げると、後ろに並んでいる兵たちも一斉に「お願いします!」と声をそろえた。
「アリッサ。貴女あれだけの失敗をしておきながら......」
「まあ、待て」
怒りに震える声で注意しようとするオリガを、一二三は手袋をつけた左手を上げて制した。
ひょいと身体を起こした一二三は、座ったままアリッサを見る。
「策は?」
「暗いうちに国境を越えて静かに潜入して、敵の施設を焼いていく。その際に、あの大きな敵が他にいないか、敵の人数とか武器がどれくらいあるのかも確認する」
「それだけか?」
一二三の言葉に、アリッサは躊躇う素振りも見せずに頷いた。
「そのまま戦っても、何をして良くて何がダメかはわからないから。まず情報を集めようと思う」
元々フォカロル領の軍隊を一二三が発足させた時、アリッサは偵察のための部隊を任されている。そのための訓練も受けているし、その結果として王城でのバールゼフォン釣り上げなどの作戦も成功させてきた。
三時間ほど一二三に説教されている間に、どうすれば復讐を果たせるかを考えており、イメラリアが言われた自分にできることをやれという言葉を横で聞いていて、まずは相手を把握することが重要で、潜入工作ならばフォカロル領軍もヴィシー切り崩しの際に何度もやっている。
「で、火を放つのは何故だ?」
「ええっと、書類とかが無くなっていることを知られないようにするためと、敵の武器を多少なり減らすため。後は火災でいぶりだされる人数とか内容を確認したい、です」
指を折りながら説明したアリッサに、一二三は優しく微笑む。
「そうか。なら好きにやるといい。だが、今度は助けは来ないぞ」
「大丈夫! ちゃんとやるから!」
それにしても、と立ち上がった一二三は並ぶ兵士たちを見渡す。
「お前ら、アロセール攻めの頃は夜襲やら潜入やらを卑怯な事だとか考えて青い顔してただろう?」
男たちの中でも特に古参の兵たちは、一二三の言葉に苦笑いを浮かべている。
「領主様、あの頃のことはご容赦ください」
「長官や仲間たちとここまでやってきて、すっかり考えが変わりましたよ。無駄死になんざしたくないし、何より......どんな方法を使ってでも仲間の敵討ちをしなくちゃいけねぇ!」
なあ、と仲間たちに檄を飛ばすと、全員が一斉に野太い声で応えた。
「それに、さっきは長官まで危険な目にあわされましたからね。あいつらは絶対にゆるせねぇんですよ!」
兵たちが口々に話している内容は、最初はマ・カルメたちの復讐だったが、次第にアリッサを怪我させたことへの復讐についての怒りが増えてきている。
一二三の後ろで聞いていたオリガの目はすっかり冷めきっていた。
「ま、本気で殺しに行く気概があるならいいさ。それで、またデカイのが出てきたらどうするつもりだ? 仕返しにぶん殴って、その仕返しに踏みつぶされるのか?」
「おっと。領主様、俺たちだってバカじゃあないんです。ちゃんと対策は決めてますよ。ちょいと道具をお借りしていくつもりなんですがね」
ニヤリと笑った兵士が指差したのは、オーソングランデ兵たちが構築した、防御陣地の一角だった。
「なるほどな」
一二三も、同じような笑みを浮かべて作戦を許可した。
☺☻☺
「このままではいけませんわ!」
と、しがみついていたクッションから涙の跡を残した顔を上げ、イメラリアが大声を上げたのは一二三の説教から生還して二時間経ってからのことだった。
「へ、陛下。その......おかげんは......」
そばに控えていた侍女がびっくりしながらも声をかける。
「あ。ご、ごめんなさいね。驚かせてしまったかしら」
「いえ。それよりもお化粧をいたしましょう。それと、お昼をご用意しております」
言われてみれば、昼も過ぎてお腹が空いていると思ったイメラリアは、自分が泣いていたことを思い出し、薄いながらもしっかりやってもらっていた化粧もすっかり流れてしまっているだろうと赤面した。
「じゃあ、お願いします。恥ずかしいところを見せてしまって、ごめんなさい」
天幕に置かれた折り畳み式の長椅子の上から立ち上がり、クッションを置いたイメラリア。彼女に返事をしたのは、目の前の侍女ではなく、食事の乗ったお盆を抱えて入ってきた女性だった。
「陛下の泣き顔を見られましたので、それで充分です」
「......シビュラさん。どうして貴女がここにいるのでしょうか?」
困惑するイメラリアをよそに、テーブルに盆を置いてポットから紅茶を注いでいるのは、サブナクの妻であり宰相アドルの娘、シビュラである。エプロンドレスをまとった姿は、城で侍女として働いているそのままの格好だ。
「夫へお弁当を届けに来ました」
「わざわざ戦場まで、ですか?」
侍女から受け取った綺麗なハンカチで涙の跡をぬぐい、イメラリアは呆れ顔で席についた。
「ええ、ついでに夫が浮気していないかを確認に。先ほど会って来ましたが、久しぶりに凹んでいる姿が見られて満足です。ご存知でしたか? 夫は失敗してしょんぼりしている時の顔が一番かわいいんですよ」
「真顔で酷いことを言いますわね......。それに、サブナクさんは、浮気なんかする方じゃないでしょう」
戦場ということもあり、イメラリアの食事も簡素ではあった。これも彼女自身が指示してそうさせているというのもある。それでも、兵たちに比べればかなり良い物ではあったが。
ローストされた肉を挟んだパンを一口かじり、ゆっくりと噛んで飲み込む。
「それで、何か用事があって来られたのでしょう?」
「一二三様に陛下が泣かされたと耳にしましたので、痴情のもつれかと思ってお話を伺いに」
「いい加減にしないと、サブナクさんに第二夫人をあてがいますわよ」
「親書をお持ちしました」
スカートのポケットから出てきた書簡を手渡され、イメラリアは頭が痛くなってきた。
「親書の扱いじゃないでしょう......第一、こういう物は誰か騎士が運ぶものではありませんか?」
「たまたま、夫の職場を掃除しているときにヴァイヤーさんがこれを運ぶ騎士をお探しでしたので、いい口実になるから脅しとっ......お願いしてお預かりさせていただきました。馬車は一番速いものを父が用意してくれました」
「親書をそんなふうに......ヴァイヤーさんは減給しましょう」
「あら、可哀そうに」
誰が原因だと思いつつ、イメラリアは行儀が悪いとは知りつつも食事をしながら親書を開いた。
「......ネルガル様の保護に成功したようですわね。嘆願書......ですか。これはわたくしではなく、一二三様やアリッサさんにお渡しするべきでしょうね」
「あら、恋文ではないのですね」
「何を言っているのですか......」
紅茶を飲みながら、イメラリアは深いため息をついた。
「ですよね。陛下のお心はトオノ伯に向いておられるのですから、妙な横槍はご法度ですわ」
イメラリアの腕が震え、カップの半分ほどに減っていた紅茶が揺れる。
「そ、そんな根も葉もない話、どこから......」
「あら、王城の侍女の間ではまことしやかに噂されておりますよ」
トオノ伯に良いところを見せようと思って、戦場まで出てこられたという話は有名ですよ、とシビュラは涼しい顔をして話す。
「だ、誰がそんな話を......」
「もちろん、私です」
「ブフッ!」
断言したシビュラに、侍女が思わず噴き出した。
震える手でかろうじて紅茶をこぼすことなくテーブルへと置いたイメラリアは、目の前のシビュラをにらみつけた。
「ま、まったくもって不愉快ですわ。とにかくもう、用事が終わられたなら早く王都へお帰りなさい。ここは戦場です。色恋沙汰の話など不要です」
「陛下。アピールは何も殿方と同じ土俵である必要はありません。むしろ、狙いの殿方ができないことで目立つのです。殿方は自分に無い物を持っている異性に惹かれる、という話が......」
「出てけ!」
では、夫をもう少しからかってから帰ります、とシビュラは平然と天幕を後にした。
「......なんだか、どっと疲れましたわ」
その後、今後について考えているところにアリッサから夜襲をするという連絡が入り、さらに疲れた顔を見せたイメラリアだった。
☺☻☺
国境のホーラント側は、朝の敗戦の影響か、陽が落ちてもかなり混乱している様子で、 それを一二三はホーラント側にある建物の屋根の上からぼんやり見下ろしていた。
ホーラント側国境警備兵のための宿舎で、屋根のうえにも数名の歩哨が行き来しているが、隅の暗がりで闇魔法を応用して作った影に隠れている一二三に気づく様子は無い。
(ちょっと早く来すぎたな。暇だ)
オリガに持たされた野菜とあぶり焼きにした何かの肉を挟んだサンドイッチを食べながら、アリッサたちが攻めてくるのをただ待つ。
アリッサが通知した夜襲は、最初はイメラリアからもサブナクからも反対された。
朝のうちにやった戦闘でホーラント側にはまだ強力な武器が存在する可能性もあり、夜襲だからと言ってうまく奇襲できるとは限らないからだ。
しかし、アリッサはすでにそうすることを決めていたうえ、その“可能性”を調査するための作戦だと言って譲らなかった。
結局、イメラリアは最終的に許可をした。
あくまで攪乱と調査を目的とすること、ホーラント内へ深く進攻したりしないこと、情報はすべてイメラリアおよびサブナクと共有することを条件とした。
「卑怯だと思われるかもしれませんが、お願いいたします。わたくしたちも情報が欲しいというのが正直なところなのです。本当ならば、もっと安全な方法をとりたいのですが」
代案も出せない以上あまり強く反対はできない、とイメラリアはこぼした。
「わたくしはわたくしなりにできることを考えます。今すぐには何とも言えませんが、アリッサさんの情報から、わかることもたくさんあるでしょう。失敗したわたくしが言うのも妙ですが、どうか、無事に戻ってきてくださいね」
イメラリアはアリッサの手を取ってしっかりと握手をすると、ぞろぞろと兵たちを引き連れて準備のために離れていくアリッサを天幕の外に出て見送った。
その様子を黙って見ていた一二三に、サブナクがそっと近づいた。
「一二三さん、アリッサさんが何かとても張り切ってますけど、何かあったんですか?」
「あれはあれで必死なんだろ。仲間がやられた分を、なぁんにもやり返してないからな」
それより、と一二三はサブナクをにらみつけた。
「お前の嫁がオリガに何か話しかけてたんだが、何を吹き込んだんだ?」
「え、シビュラが?」
ぶわっと顔に汗が噴き出したサブナクは、何も知らないと言う。
「き、急にこんな所まで来たと思ったら、今日の失敗をさんざん笑われたんですよ......オリガさんが、何か言ってたんですか?」
「知らん。やれ食事は自分が作ったとか、道着を繕いましょうとか、肩がこってないかとか、変にまとわりついてくる」
「何それうらやましい......じゃなくて、それならいいじゃないですか」
「いや、流石に鬱陶しい。それより、俺は夜に備えて寝るから、天幕を一つ借りるぞ」
手をひらひらと揺らしながら、資材を置いている場所へと向かう一二三に、サブナクは笑いかけた。
「アリッサさんについていくんですか?」
「いや、見るだけだ」
振り向いた一二三もまた、笑顔を浮かべていたが、サブナクのそれとは性質が違う。
「あいつは俺が拾って鍛えてみた奴だからな。成功にせよ失敗にせよ、確認しておきたい」
今後の戦いが楽しくなるかどうか、アリッサの作戦遂行を見て判断するつもりだ、と一二三は去っていく。
「一二三さん......」
サブナクには何となく想像していることがある。一二三は、作り上げたものが派手に壊れていくのを見たいのではないかという予想だ。
その時、壊れていくのはなんだろうか。フォカロルの兵士たち、この国、この世界。
どこまで破壊されれば、一二三は満足するのだろう。
壊してしまった後、一二三はどうするのだろう。
「考えても、仕方のないことだけれど......」
サブナクの思考は、怖い想像ばかりを勝手に生み出しては、自分自身を不安にさせていった。 | The ones, who were ridiculed at the reviewing meeting were Alyssa, Imeraria and Sabnak.
“Alyssa, you should have left the safety zone to confirm the situation. If you had done that, you would likely have noticed that big one appearing as well. Sabnak, it was good of you to rush in after having the spears fired, but leaving behind the infantry in your desire for speed was a mistake. You should have applied frontal pressure over there with everyone.” (Hifumi)
Those were the general outlines. He explained while drawing lines on the ground and giving examples.
Matters regarding Imeraria were last.
“Move after you have grasped what you can and cannot do yourself.” (Hifumi)
Being told only that, there was no further advice for her.
After the dissolution of the meeting, when Hifumi, who finished his lunch, lied down at a suitable space, Alyssa came while bringing along the soldiers from Fokalore.
Origa looks at the situation silently while having Hifumi rest his head on her lap.
“What’s up?” (Hifumi)
“T-Tonight I plan to enter Horant... please, give me your permission.” (Alyssa)
Once Alyssa bowed her head, the soldiers, who were lined up behind her, also raised their voices with a 「Please!」 all at once.
“Alyssa, even though you have failed to that extent...” (Origa)
“Well, wait a moment.” (Hifumi)
Hifumi held back Origa, who tried to warn her with a voice trembling with anger, while raising his left hand which was covered by a glove.
Hifumi, who lifted his own body all of a sudden, looks at Alyssa while sitting.
“What’s your plan?” (Hifumi)
“We will silently infiltrate by passing the border in darkness and burn the enemies’ facilities. On this occasion we will confirm whether there are others of those huge enemies, the total number of enemies and how many weapons they possess.” (Alyssa)
“Only that?” (Hifumi)
Alyssa nodded at Hifumi’s words without showing any hesitation.
“Even if we fight as is, we won’t know what’s beneficial and what’s no good. First we have to gather intelligence, I believe.” (Alyssa)
Originally, at the time when the armed forces of Fokalore were founded by Hifumi, Alyssa had been entrusted with an unit for the sake of reconnaissance. She had also received training with that in mind. As result of that, she succeeded in operations such as luring in Balzephon at the royal castle.
While being scolded by Hifumi for around hours, she has pondered how to accomplish her revenge. Hearing the words told to Imeraria, that she ought to do the things she can do, from the side, she put stress on grasping the opponent first. If it was infiltration operations, Fokalore’s feudal army had done those many times at the time of breaking into Vichy.
“So, why set fire then?” (Hifumi)
“Uumm, it’s in order to make sure that they won’t realize that documents and such have disappeared and to decrease the number of the enemies’ weapons a bit. Afterwards I want to confirm the contents ((of those documents)), such as their number of people, by smoking them out with a fire.” (Alyssa)
Hifumi gently smiles at Alyssa who explained while counting the points on her fingers.
“I see. In that case it’s fine for you to do as you like. However, this time I won’t come to rescue you.” (Hifumi)
“Alright! I will do it properly!” (Alyssa)
“Be that as it may”, Hifumi, who stood up, surveys the lined-up soldiers.
“You lot had a pale face thinking that it’s unfair to infiltrate or attack during the night at the assault on Arosel, right?” (Hifumi)
Especially the senior soldiers among the men are showing a bitter smile due to Hifumi’s words.
“Lord-sama, please forgive us for those days.”
“After coming here with director and my friends, I changed my thinking completely. I don’t want to die in vain. Above all... I won’t die until I have avenged my friends no matter what method I have to use!”
“Right?”, once he appeals to his colleagues, all of them simultaneously replied in throaty voices.
“Besides, some time ago even director went through danger. I will never forgive them for that!”
The contents, mentioned by several soldiers, were in the beginning about the revenge for Ma Calme’s unit, but gradually their anger towards revenge for injuring Alyssa is increasing.
They eyes of Origa, who listened behind Hifumi, became completely freezing.
“Well, it’s fine if you have the backbone to actually go for the kill. So, what do you intend to do if that big one appears again? Hitting in revenge and being trampled down by that revenge?” (Hifumi)
“Uh-oh, Lord-sama, we ain’t idiots. We have decided on reliable countermeasures. We intend to go borrowing just a little tool though.”
What the soldier, who grinned broadly, pointed at was something the soldiers of Orsongrande had built in a corner of the defence encampment.
“I see.” (Hifumi)
Even Hifumi gave his permission while floating a similar grin.
☺☻☺
“The way things are going it’s hopeless!” (Imeraria)
Lifting her face, which had traces of tears remaining, from the cushion she clung to, it was Imeraria, who raised a loud voice, after two hours had passed which were used by her to recover from being scolded by Hifumi.
“Y-Your Majesty, that... blunt way of talking...”
The maid, who was waiting on her at the side, calls out to Imeraria while being startled.
“Ah, s-sorry. Did I surprise you, I wonder?” (Imeraria)
“No, rather than that, let’s fix your make-up. And, lunch has been prepared.”
, recalled the event of her crying and blushed as that probably completely messed up the make-up which had been applied on her properly albeit only thinly.
“Then, please, go ahead. Sorry for showing you my disgraceful side.” (Imeraria)
Standing up from the the collapsible-style couch, which was placed in the tent, Imeraria left behind the cushion. The one who gave her an answer wasn’t the maid in front of her but a woman who entered while bringing a tray with a meal on it.
“As I was able to see the tear-stained face of Her Majesty, that’s plenty for me.”
“... Shibyura-san. Why are you here?” (Imeraria)
The one who pours tea from a pot for the bewildered Imeraria after placing the tray on the table in an aloof manner is Shibyura who is the daughter of Prime Minister Adol and Sabnak’s wife. Her appearance of being clad in an apron dress indicates her working in the castle as maid without change.
“I came to deliver a bento to my husband.” (Shibyura)
“Expressly to a battlefield, you mean?” (Imeraria)
Wiping the traces of her tears with a clean handkerchief she received from the maid, Imeraria sat down with a stunned expression.
“Yes, at the same time it’s for the sake of checking whether my husband is unfaithful. I met him just now, but I’m satisfied after seeing his depressed look after a long time. Did you know? The time when my husband is downhearted after failing is when his face is the cutest.” (Shibyura)
“You are saying something heartless with a serious look... Besides, Sabnak isn’t the kind of man to be unfaithful.” (Imeraria)
This being a place called battlefield, Imeraria’s meals were simple as well. This is also something she has instructed to be handled in this way. Even so, compared to the soldiers, her meals were quite decent.
Biting off a mouthful of bread with roasted meat in-between, she chews it slowly and gulps it down.
“So, you came here as you have some kind of business, didn’t you?” (Imeraria)
“Since I heard by chance that Hifumi-sama made Your Majesty cry, I have visited for a chat while wondering whether you are troubled by your unrequited love.” (Shibyura)
“If you don’t put an end to it, I will assign a second wife to Sabnak-san.” (Imeraria)
“I brought a handwritten letter.” (Shibyura)
Being given the letter which appeared from within a pocket of her skirt, Imeraria had a headache.
“That’s not how you treat a handwritten letter, now is it...? In the first place, isn’t this the sort of thing that is delivered by some knight?” (Imeraria)
“Since Vaiya-san was incidentally searching for a knight to deliver this at the time I was cleaning the workplace of my husband, I threa... asked him to have the privilege to keep it in my custody as it will turn into a great excuse. Father prepared the fastest carriage for me.” (Shibyura)
“A handwritten letter in such way... let’s cut Vaiya-san’s pay.” (Imeraria)
“Oh my, how pitiable.” (Shibyura)
, Imeraria opened the handwritten letter while eating even though she was aware of that being bad manners.
“... It looks like Nelgal-sama’s sheltering was a success. A petition... it is? This isn’t for me but something that should be handed over to Hifumi-sama and Alyssa-san.” (Imeraria)
“Oh my, it’s not a love letter then.” (Shibyura)
“What are you talking about...?” (Imeraria)
Imeraria sighed deeply while drinking black tea.
“I guess so. After all Your Majesty’s heart belongs to Earl Tohno. Strange interference is strictly forbidden.” (Shibyura)
Imeraria’s arms tremble shaking the black tea, which decreased to around half of the cup.
“F-From where did you hear s-such completely u-untrue story...” (Imeraria)
“Oh my, it’s being rumoured among the maids of the royal castle as being plausible.” (Shibyura)
“It’s a famous story that you left to the front planning to show your good side to Earl Tohno”, Shibyura nonchalantly explains.
“W-Who ((spreads)) such a story...?” (Imeraria)
“Of course that’s me.” (Shibyura)
“Bufu!”
The maid unintentionally spouted out due to Shibyura who declared that.
Imeraria, who barely placed the cup on top of the table without spilling any black tea with her trembling hands, glared at Shibyura in front of her.
“T-That’s truly unpleasant. At any rate, if you already finished your business here, return to the capital at once. This place is a battlefield. Stories of love affairs and such are unnecessary.” (Imeraria)
“Your Majesty, there’s no necessity for being in the same arena as the gentleman. Rather, the things the gentleman, you aim for, can’t do will stand out. Being attracted by the opposite gender, who possesses something the gentleman himself doesn’t have, such kind of story is...” (Shibyura)
“Leave!” (Imeraria)
“Well then, I will go back after teasing my husband for a bit longer”, Shibyura calmly said and left the tent.
“... Somehow I got very tired all of a sudden.” (Imeraria)
After that, at the time when she was pondering about the future steps, a message from Alyssa, which stated that she would do a night attack, arrived and Imeraria showed an even more worn-out expression.
☺☻☺
Horant’s side of the border is in quite the chaotic state even as the day comes to an end. Is that the impact of this morning’s defeat?
Several sentries are coming and going even on top of the roof at the lodging house for the border guard of Horant’s side, but it doesn’t look like they notice Hifumi who is hiding in a shadow created with the practical application of darkness magic in a dark corner.
(I came a bit too fast here. I’m bored.)
While eating a sandwich with some grilled meat and vegetables in-between he was made to bring along by Origa, he simply waits for Alyssa’s group to come attacking.
The night attack, which was reported by Alyssa, was at first rejected by Sabnak and Imeraria.
There’s also the possibility that a powerful weapon existing on Horant’s side with whom they battled during the morning. Just because it’s a night attack, that doesn’t mean that they will be able to launch a surprise attack successfully.
However, on top of Alyssa having already decided to do so, she didn’t yield while stating that it’s an operation for the sake of investigating that “possibility.”
In the end Imeraria eventually gave her permission.
The conditions were that the objectives would be purely investigation and disturbance, that they wouldn’t invade deeply into Horant and that they would share all of the information with Imeraria and Sabnak.
“It might be considered to be cowardice, but please ((stick to those conditions)). In all honesty, we want information as well. Originally we would want to choose a safer method though.” (Imeraria)
“Seeing that I can’t even provide an alternate plan, I’m not able to oppose yours too strongly either”, Imeraria spilled.
“I will ponder about the things I can do myself. Right now I can’t formulate anything concrete, but it will be plenty with the things we can comprehend from your information, Alyssa-san. Although it’s strange for me, who failed, to say so, but please return safely.” (Imeraria)
Once Imeraria grasped Alyssa’s hand and shook it firmly, she saw off Alyssa leaving the tent and going away to prepare the soldiers, she will take along, in succession.
Sabnak quietly approached Hifumi who silently watched that situation.
“Hifumi-san, Alyssa is in quite the high spirits somehow, but did something happen?” (Sabnak)
“Despite appearances that person is desperate, I guess. She couldn’t even return aanny of the pain inflicted to her colleagues.” (Hifumi)
“Rather than that,” Hifumi glared at Sabnak.
“Your wife told Origa something, so what did you whisper into her ears?” (Hifumi)
“Eh? Shibyura did?” (Sabnak)
Sabnak, who sweated heavily with a shocked* face, says that he doesn’t know anything.
“N-No sooner than her coming to such place all of a sudden, I was thoroughly ridiculed for today’s blunder... Did Origa-san say anything?” (Sabnak)
“Don’t know. She strangely follows me about while saying
“What are those enviable... no, isn’t it fine in that case then?” (Sabnak)
“No, as expected it’s irritating. Leaving that aside, I will borrow a tent since I’m going to sleep in preparation for the night.” (Hifumi)
Sabnak smiled at Hifumi who headed to the place where the materials are stored while waving his hand lightly.
“Will you accompany Alyssa-san?” (Sabnak)
“No, I’m just going to watch.” (Hifumi)
Hifumi, who even turned around once again, showed a smile, but it contained a different meaning from Sabnak’s smile.
“She is a fellow I tried to train after picking her up. I want to confirm whether she has turned into a success or a failure.” (Hifumi)
“Whether the battle from now on becomes enjoyable; I intend to judge that by watching the execution of Alyssa’s operation”, Hifumi goes away.
“Hifumi-san...” (Sabnak)
There’s something Sabnak can imagine vaguely. It’s the expectation that Hifumi likely wants to watch whether the thing, he created himself, is broken flashily.
I wonder what will be broken at that time? Fokalore’s soldiers, this country or this world?
How far has the destruction to spread for Hifumi to be satisfied?
What will Hifumi do after he ended up breaking it?
“Even if I ponder about it, it’s something inevitable, but...” (Sabnak)
Sabnak’s thinking arbitrarily producing only frightening imaginations made himself anxious. |
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} | フォカロルの領主館でフィリニオンが目にしたのは、必死に机にしがみついて勉強をしている老若男女の姿だった。
領主館の中でも特に広いパーティー用のホールに、大量の椅子と机が運び込まれている。そこでヴィシーからオーソングランデへ転属した街の代表や文官候補、さらには改めて募集したトオノ領として雇う予定の職員たちが、渡されたテキストの内容を懸命に理解しようと奮闘し、時々手を挙げて担当の職員に質問をしていた。
「うわ......」
騎士隊や王城勤めの文官は、試験などではなく紹介や縁故採用ばかりなので、こういった光景を初めて目にするフィリニオンには、違和感しかなかった。
その隣では、案内役の文官としてブロクラが付き添っている。カイムが多忙で手が離せないため、彼女が代理で世話係となったのだ。
「わたしたちが最に購入された時に、勉強しておくようにと言われた内容と、本領地における運営方針について勉強してもらっています。身分や出自は関係なく採用いたしますので、ここで勉強したことを理解したと採用試験で示す事ができれば、合格となります」
「身分が関係ない、ということは......」
「ええ、孤児やスラム出身でも、希望者には文字から教えますので、そこで能力を示すことができれば採用されます。学に自信が無ければ、軍に入るという手段もあります。第一、わたしたち文官の筆頭が奴隷なのですよ?」
ブロクラは目を細めて笑う。
フィリニオンは、彼女たちが王城で勉強させられていたことは知っていたし、の奴隷であることも把握している。だが、街の状況や財政状況を見るに、他領の貴族出身の文官よりもよほど優秀なのではと評価している。
「わたしたちの仕事は、効率よく領地を運営し、領主が自由に過ごせるような環境を整えることだと理解しております。それを、フィリニオン様にもご理解いただきたいと思うのですが」
「ええ、私もトオノ伯爵の事は多少なりわかっているつもりですので」
「それは良かった。では、こちらへ」
「えっ?」
勉強開場の一角、他より少しだけ立派な机が用意された場所へ、ブロクラはフィリニオンを誘う。
「では、まずはこの書類の内容を覚えてください。本領地の基本的な経営方針と税制についてまとめた書類と、現在までの収支報告書です」
「こちらの羊皮紙は自由にお使いください。足りなければ、あちらに積まれた分から取っていただいて構いません。インクの補充もそこでできます。書けば覚えるという一二三様の方針ですので、どんどん筆写して覚えてください」
あれよあれよと言う間に座らされ、目の前にどんどんと積まれていく書類に、何を言っていいかわからないフィリニオンに、ブロクラは優しく微笑む。
「一二三様より、他の文官程度のことができないならお帰りいただくように指示を受けておりますので、頑張ってください。途中で放棄される際は、会場に交代で誰かがおりますので、お声をかけてくださいね」
呆然とするフィリニオンを置いて、ブロクラは自分は他の仕事に行くと言って、さっさと出ていってしまった。
「......クリノラ」
「はい、お嬢様」
状況について行けなくなっていたのはクリノラも同じだったようで、声をかけられてハッとした顔をする。
「お茶をいれて頂戴」
「わかりました。お湯をいただいてきますので、その......」
「やるしかないわよ。ここで帰ったらいい笑いものだわ」
覚悟を決めて書類に向かうフィリニオンに、クリノラは頭を下げた。
☺☻☺
第二騎士隊長スティフェルスは、一人軍議場に残り、現状の整理を行っていた。
先ほど第一騎士隊長リベザルが乱入してきたあと、軍議は一時中断となり、現状はホーラントの動きを注視して対応するという当たり障りのないものとなった。
「だが、このままホーラントが動かなければ......」
どうやら、第一騎士隊の持ってきた情報によると、ヴィシー方面の戦争はほぼ沈静化し、一二三の活躍と第三騎士隊の助力により、オーソングランデの圧勝という形でかなり有利な終戦協定が結ばれるだろうと見られている。
そうなれば、ヴィシーに協力するという名分で戦っているホーラントは軍を引き上げるだろうし、当然の如く第二騎士隊も引き上げなければならなくなるだろう。
結果として、何の戦果も無いままに。
「このままでは、あの男と王女だけが結果を残す形になる。王子が支持を集めるなど難しくなるだろう。貴族も日和見な連中はすでに王女派へと鞍替えを始めていてもおかしくはない......」
何としても、“ヴィシー方面は一二三の活躍”で、“ホーラント方面は第二騎士隊の活躍”で事が収まったという状況に持って行きたい。だが、グズグズしていればホーラントが退くか、一二三がここへやってくるだろう。
「誰も彼もが、邪魔ばかりする」
愚痴りながら酒を煽る。
アルコールが喉を通った時、ふと閃いた。
「そうか......何も第二騎士隊ばかりが消耗する必要はない。それに、成果というなら防御より奪還の方がずっと評価は高いな......」
これが冷静な心理状態であれば、他の策も考えついたかもしれない。他の誰かとの協議であれば、もっと穏便な方面に思考が行ったかもしれない。
しかし、追い詰められた心理は極端な方向に舵をきった。
「誰かいるか! 副隊長を呼んでこい!」
スティフェルスの頭の中には、民衆から感謝される自分の姿と、屍を晒すビロン伯爵の姿が浮かんでいた。
「やあやあ、我こそはカモス子爵家の......」
名乗りを上げる鎧姿の若い貴族の台詞を、一二三は手を振って遮った。
「う、うるさい!?」
「邪魔するのか用があるのかはっきりしろ」
今、一二三は軍を置いて先行している。ついてきているのはオリガのみで、アリッサに指揮を丸投げして後から追いかけてくるようにと命じている。
早くホーラント国境へ行かないと戦争が終わってしまうからだ。
急いでいる一二三は、街道上に30人程の兵を連れて待機していた男に、苛立ちを隠そうともしない。
「わ、わたしは第二騎士隊長と縁のある者だ。ホーラント方面は第二騎士隊の舞台である! 王女のお気に入りとはいえ、他者の手柄まで浅ましく横取りするものではない。見ればたった二人で向かっているようだ。まさか力づくで押し通ろうとは思わないだろうが......って、ちょ、ちょっと......!」
長い口上に嫌気が差した一二三は、馬を走らせカモス子爵に肉迫せんとする。
子爵の両脇にいた護衛の兵二人が慌てて進路を塞ぐが、一二三が抜いた刀によって一太刀で一気に殺害された。
「ひ、ひぃ、なんで......」
涙を流しながら怯える子爵を睨んで、一二三は冷たく言い捨てた。
「邪魔だからだ」
「ぎゃあっ!」
言い終わるより早く振り下ろされた刀は、カモス子爵の顔面を斜めに断ち割った。血と肉をこぼしながら馬から落下した死体は、両腕を可笑しな方向に曲げてピクリとも動かない。
「ぐわっ!」
何のためらいもなく子爵を殺した一二三に驚愕する兵士たちを、さらに凶悪な風の刃が襲う。
オリガが右腕を向けた先で、さらに二人、三人と風に切られて倒れる。
「生き残りたければ走れ。走って逃げろ。俺に追いつかれたら死ぬ。簡単だろう?」
そらスタートだ、と一二三が言うと、兵たちは武器を捨てて逃げ出した。
「オリガ、先を急ぐぞ」
「はい、わかりました」
街道沿いに逃げていた数名を馬上から斬殺しながら、一二三は戦場を目指す。
り分が減る!)
ある意味で、一二三も焦っていた。
「こちらです」
密かに村を離れ、国境のそばへとリベザルを連れてきたベイレヴラは、切り立った崖がある場所を差した。
「単に崖があるだけではないか。こんなところで......」
「まあ、見ててくださいよ」
ベイレヴラが短い口笛を鳴らすと、崖の一部が動き、中から一人の魔法使いが出てきた。濃紺のローブは質が良いように見え、フードに隠れた顔は見えない。
「誰かと思えば、ベイレヴラか......」
魔法使いの声が意外に若い事に、リベザルは思わず気が緩む。おそらくさほど高い地位ものではないのだろう。
「へい、先にお送りしました報告の通り、ヴィシーはもはや勝ち目が無いと思われますので、脱出してまいりました次第で......」
ペコペコと頭を下げるベイレヴラ。
「で、その男が......」
「第一騎士隊長のリベザル様です」
「ホーラントの者か? 魔法具について話が......うっ?!」
リベザルがベイレヴラを押しのけて前に出て、魔法使いに話しかけたが、言葉は最後まで続かなかった。
ベイレヴラの手に握られた魔法具で、意識を刈り取られたのだ。
「ベイレヴラ、なぜ最初から気絶させていなかった」
「勘弁してくださいよ。鎧をきた大人を抱えてここまでなんてとてもとても。それに、村の中でこの人を抱えてたら間違いなくつかまりますよ」
苦笑いでリベザルの腕を縛り上げたベイレヴラは、周りを見回した。
「ところで、他の方々はどうされましたので?」
「今は別件で全員出ている。それよりもお前をホーラントに受け入れるからには、次の指令にも従ってもらうぞ」
魔法使いが投げ渡した命令書には、魔法具で傀儡にしたリベザルを使ってミュンスターに攻め入る為の計画が書かれている。
「もちろん、拾っていただいたからには、精一杯ホーラントに尽くしてみせますとも」
「......まあいい。裏切るなら切り捨てるまでだ。それより、こいつが起きる前に魔法具の取り付けを終わらせたい。鎧をはぎ取れ」
「へい」
気絶したリベザルを仰向けに転がし、手際よく鎧を外していくベイレヴラを見ながら、魔法使いは懐から魔法具を取り出した。
それは、一二三が殺した暴走者がつけていた魔法具によく似ていた。
「それが例の改良型ですか......」
「ああ、これを付ければ肉体が強化され、人の感情を失う人形になる。暴走する欠点も克服した。先に魔道具に血を塗っておけば、その血の持ち主の言うことは聞く」
「そりゃすごい」
「お前の血も塗っておけ。こいつを使えるのは俺とお前の二人だけだ」
ナイフと魔道具を受け取り、ベイレヴラは困惑した。
「よろしいので?」
「お前とこいつでミュンスターへ戻って作戦を遂行しろ。俺は監視者だ」
「わかりました」
結局、魔法具をつけられるまで、リベザルは目を覚ますことはなかった。
「お前の名前で書面を撒け、今すぐに」
「突然やってきて何を言っているのですか」
ミュンスターへの途上、王城へと立ち寄った一二三は、遠慮など一切せずにイメラリアの執務室を訪ねた。
そして、入室して一言目から命令だった。
「フォカロルからここまでに4回、王子派の貴族やらその領の兵やらに襲撃を受けた。しかも弱い奴ばかりだ」
「その程度、一二三様にとっては大した障害になりませんでしょうに」
「ちまちま出てきて数だけはいるから面倒なんだよ。殺しても全然気分が良くならない」
「普通はそうでしょう。で、何の書面を作れとおっしゃるのです」
まったく同情できない一二三の言い分に、イメラリアは諦めて話題を進めた。
「お前の戴冠が決まって、ホーラント側が落ち着いたら戴冠式を行うと広めろ。貴族に向けた書面を大量に作って、城へ来て恭順の意を示せと伝えるんだ」
「なぜそんなに急ぐのですか。それにそんな事をすれば、余計に一二三様の邪魔をする者が増えるのではありませんか?」
「既にお前についている貴族連中の署名を入れろ。俺の名前も使っていい。賛同しなければ領地を没収するとでも書いておけ。それでも反発するなら、どこの誰かわかった方が潰しやすい。それと、お前の弟は病気で表舞台から退くとでも入れておけばいい」
「......わかりました。それであの子が理解して退いてくれたら、あの子の命は......」
言いたい放題言って出ていこうとする一二三に、イメラリアはすがるような目を向ける。
「お前の弟が、そこまで馬鹿じゃないことを祈っておけ」
出ていった一二三と入れ違いに、紅茶を運んできた侍女が入ってくる。
「申し訳ありません、紅茶が間に合いませんでした」
頭を下げる侍女に、自分の分だけでも入れて欲しいと伝え、戻るついでに頼みたいことがあると、イメラリアは疲れた笑顔を向けた。
「今から手紙を書きます。騎士の誰かに運んでもらうようにお願いしますから、呼んできてもらえますか」
精一杯の言葉を尽くして、弟への手紙を書こうとイメラリアは思っている。あの子も王族としての教育を受けたのだから、自分の立場が全く理解できないという事はないはずだと信じて。 | Phyrinion saw women and men of all ages frantically studying at the Lord’s mansion in Fokalore while clinging to their desks.
They brought in a large amount of desks and chairs into one of the particularly large party halls within the Lord’s mansion. There you could find the city representatives, who changed their allegiance from Vichy to Orsongrande, as well as their civil official candidates. Furthermore there were the staff members expected to be employed by the Tohno territory, which held formal recruitments. All of them eagerly struggled hard to comprehend the details of the texts they were given, sometimes raising their hands to have the staff in charge explain it to them.
“Uwa...” (Phyrinion)
The civil officials serving the royal castle and the knight orders were simply employed by referral without having to do something like examinations. Therefore it was the first time Phyrinion witnessed such a sight and she couldn’t help but feel out-of-place here.
Next to her is Brokra, who has accompanied her as guiding civil official. Due to Caim being busy continuing the work at hand, he had been assigned as substitute in charge of looking after her.
“At the beginning, when we were purchased by Hifumi, we were told to study the subjects concerning the planned administration of the fief’s land. Since we were employed without minding our blood-lines and social ranks, they will succeed, if they are able to show that they understood the things they studied here by passing the employment examinations.” (Brokra)
“It has nothing to do with social status, so that means...” (Phyrinion)
“Yes, even orphans and former residents of the slums will be employed if they are capable to show their abilities after having been taught writing as applicants. If one doesn’t have confidence in learning, there is also the choice of entering the army. To begin with, aren’t our leading civil officials slaves?” (Brokra)
Brokra laughs smiling with his whole face.
But, looking at the city’s state of affairs and the financial affairs, they are far superior than civil officials of other nobles
“Please understand that our work is to manage the territory quite efficiently and to prepare an environment, where our Lord can take his liberties. I’d like you to comprehend this as well, Phyrinion.” (Brokra)
“Yes, I also intend to more or less grasp the situation concerning the Tohno earldom.” (Phyrinion)
“That would be great. Then, this way, please.” (Brokra)
Brokra invites Phyrinion to a place in the corner of the study hall with splendid desks prepared and only few others being there.
“Well, first memorize the contents of these documents, please. This is a document summarizing the fundamental management policies and tax systems of the fief’s territory and this is a report of the incomes and expenditures up until now.” (Brokra)magic
“Please freely use the parchment over here. If it isn’t sufficient, feel free to take some more from the stacked pile over there. It’s also possible to refill the ink there. Since it is Hifumi-sama’s policy to learn by writing, go ahead with memorizing by copying them, please.” (Brokra)
“What?” (Phyrinion)
Sitting while gazing at it in shock, Brokra smiles gently as Phyrinion doesn’t know what would be good to say with the documents being stacked up rapidly in front of her eyes.
“Please do your best because I have been instructed by Hifumi-sama to have you return if you aren’t as capable as the other civil officials. Please call out to one of the staff members being alternately in charge of the venue at the moment you want to resign midway, okay?” (Brokra)
Brokra quickly left the dumbfounded Phyrinion as he has to attend to other work.
“... Krinola.” (Phyrinion)
“Yes, ojou-sama.” (Krinola)
Just as her, Krinola seemed to also be unable to follow the situation and was showing a face filled with surprise when Phyrinion called out to her.
“Please make some tea for me.” (Phyrinion)
“Understood. Because I have to go get hot water, um...” (Krinola)
“There is no other choice but to do it. If I run from here, I will become quite the laughingstock.” (Phyrinion)
Krinola bowed towards Phyrinion, who faced the prepared documents.
☺☻☺
The Second Knight Order’s captain, Stiffels, remained alone in the troop’s assembly hall and considered the current situation.
After the First Knight Order’s captain, Ribezal, came intruding earlier and caused a suspension of the war council, the present state turned into a harmless and inoffensive situation of observing the movements of Horant closely.
“But, if Horant doesn’t make a move as it is...” (Stiffels)
According to the information brought by the First Knight Order the war in the Vichy area has more or less mostly calmed down. They are expecting that it will be possible to make quite the advantageous post-war agreements due to the complete victory of Orsongrande or rather by Hifumi’s activities and the Third Knight Order’s assistance.
If it’s like this, Horant’s army, who draws their justification from the cooperation with Vichy, will withdraw. Naturally the Second Knight Order will have to withdraw as well since they will lose their reason to be here.
As result, there won’t be any military gains either.
“If it stays like this, only that man and the princess will be able to obtain results. It will probably become difficult to gather support for the prince. It isn’t even funny that the nobles, waiting and seeing how the wind blows, have already started to change their loyalties to the princess’ faction...” (Stiffels)
No matter what it takes, I want to cause a concluded situation of “The Vichy area was settled by Hifumi’s great efforts” and “The Horant area was settled by the Second Knight Order’s great effort.” But, if Horant retreats slowly, Hifumi will show up here.
“All of them are just nuisances.” (Stiffels)
He agitates the sake while complaining.
At the time the alcohol scorched his throat, he suddenly hit on a good idea.
“Ah that’s how it is... There is no need to have only the Second Knight Order shoulder everything. Besides, the evaluation of recapturing is always higher than defending if it’s about accomplishments...” (Stiffels)
If he were in a calm state of mind, he might have considered other plans as well. If he had consulted with someone else, he might have come up with an even more simple strategy.
However his cornered mind steered the rudder onto an extreme course.
“Anyone there? Go and call the vice-captains!” (Stiffels)
Within Stiffels’ head scenes of himself being thanked by the populace and Earl Biron dying on the battlefield took shape.
“Yo! yo! I am the Viscount Kamoss household’s...” (Kamoss)
Hifumi interrupted the introductory words of the young noble, clad in armor, by waving his hand.
“S-Shut up?!” (Kamoss)
“Make it clear whether you have some business with me or whether you are hindering me.” (Hifumi)
Currently Hifumi has gone ahead leaving the troops behind. With only Origa following him, he has ordered the troops to pursue after him leaving all command to Alyssa.
If he doesn’t hurry to Horant, the war will end.
The hurrying Hifumi isn’t even able to conceal his irritation towards the man, leading around soldiers on the highway, who are now on alert.
“I-I am a person related to the Second Knight Order’s captain. The Horant area is the Second Knight Order’s stage! Although you are the princess’ favorite, don’t try to do something despicable as snatching the achievements of others. As far as I can see there is only the two of you heading there. Certainly you don’t believe that you will be able to push your way through by sheer force... Hey, w-wait... !” (Kamoss)
Hifumi, tired of the long speech, challenges Viscount Kamoss to battle by galloping on his horse.
Although the route was obstructed by the two confused guards on both sides of the viscount, Hifumi drew his katana and killed them in one go.
“Hi, Hii, why...” (Kamoss)
While glaring at the frightened viscount who was shedding tears, Hifumi cold-heartedly said over his shoulders,
“Because they were a hindrance.” (Hifumi)
“Gyaa!” (Kamoss)
Swinging down the katana faster than he finished to speak, he diagonally split open Viscount Kamoss’ face. While spilling blood and flesh, the corpse fell down from the horse. Both his hands are bent into a ridiculous direction without him even twitching anymore.
The shocked soldiers, seeing how Hifumi killed the viscount without even a shred of hesitation, are furthermore assaulted by brutal wind blades.
With Origa having her right arm pointing towards them, further two, three people die being cut through in the same manner.
“If you want to survive, run. Escape by running. Those I manage to catch up with, will die. Simple, ain’t it?” (Hifumi)
“Now, let’s start”, as Hifumi said this, the soldiers discarded their weapons and started to run away.
“Origa, hurry up!” (Hifumi)
“Yes, I understood.” (Origa)
While putting several of the escapees to the sword by riding alongside the highway, Hifumi heads towards the battlefield.
(If I don’t hurry, my share of killing will decrease!)
In a sense, even Hifumi became impatient.
“This way.” (Beirevra)
Secretly leaving the village, Ribezal was brought close to the border by Beirevra. A place with a steep cliff became visible.
“Isn’t there just a cliff here? At such location...” (Ribezal)
“Well, please watch.” (Beirevra)
As Beirevra wheezed with a short whistle, one part of the cliff moved and a single magician came out from within. He wore a fine dark blue robe. His face couldn’t be seen as it was concealed by the hood.
“As I pondered who it might be, Beirevra, huh?” (Magician)
Ribezal unintentionally relaxes his mind due to the unexpectedly young voice of the magician.
“Aye, going by the report previously dispatched, Vichy has absolutely no chance at winning by now. As soon as they were defeated, they escaped...” (Beirevra)
Beirevra bows his head repeatedly.
“So, that man is...” (Magician)
“He seems to be the First Knight Order’s captain, Ribezal.” (Beirevra)
“Are you someone from Horant? The talks concerning the magic tools... oof?!” (Ribezal)
Ribezal stepped up brushing Beirevra aside. He began to talk to the magician, but was unable to continue his word till the end.
With Beirevra grasping a magic tool in his hands, his consciousness faded away.
“Beirevra, why didn’t you make him faint from the beginning?” (Magician)
“Please forgive me. I simply wouldn’t have been able to carry an adult clad in armor up to here. Also, if I carried this man within the village, I would be arrested without a doubt.” (Beirevra)
Smiling bitterly, Beirevra bound Ribezal’s hands and surveyed the vicinity.
“By the way, are the others done?” (Magician)
“Currently all of them have left for another matter. Leaving that aside, as long as you accept me in Horant, I will also obey your next order.” (Beirevra)
The magician passed the decree by throwing it on the ground. It was containing a plan of invading Münster by using Ribezal as puppet caused by the effect of the magic tool.
“Of course, now that you picked it up, you are to show your utmost effort in serving Horant.” (Magician)
“... Well, fine. If I betray you, you will simply kill me. Apart from that, I want to finish installing the magic tool before this guy wakes up. Let’s strip off the armor.” (Beirevra)
“Aye.” (Magician)
Rolling the fainted Ribezal over so that he faced upwards, Beirevra skilfully removed the armour while the magician took out a magic tool from within his pocket.
It resembled the magic tool that was used by the rampaging person, who Hifumi killed, quite a lot.
“Is this the aforementioned improved version... ?” (Beirevra)
“Ah, if you use this, it will strengthen the body. He will become a puppet devoid of any human emotions. We already brought the drawback of going on a rampage under control. If you smear this magic tool in blood beforehand, he will listen to what the owner of that blood says.” (Magician)
“That’s amazing.” (Beirevra)
“Spread your blood on it. Only the two of us, you and me, will be able to use this guy.” (Magician)
Receiving a knife and the magic tool, Beirevra was bewildered.
“Is that really alright?” (Beirevra)
“Accomplish the plan by returning to Münster with this guy. I will be the guardian.” (Magician)
“Understood.” (Beirevra)
In the end Ribzal didn’t wake up until the magic tool was attached.
“Put your name under the document, right away.” (Hifumi)
“What are you talking about after suddenly turning up here?” (Imeraria)
Hifumi, who dropped by at the royal castle for a short visit en route to Münster, visited Imeraria’s office without any kind of tact.
And, entering the room, the only words he uttered were an order.
“We received attacks by soldiers dispatched from nobles of the prince faction times from Fokalore to here. Furthermore it was only weak scum.” (Hifumi)
“Such a degree, it doesn’t sound like significant hindrance to deal with for someone like Hifumi.” (Imeraria)
“It’s troublesome since they only come out in small numbers. I can’t even feel good killing all of them.” (Hifumi)
“That’s how it usually is. So, what kind of document are you asking me to draw up?” (Imeraria)
Imeraria, resigning herself, advanced the subject of the complaining Hifumi, with whom she couldn’t sympathize at all.
“Propagate that you have decided to hold your coronation once Horan’t side has calmed down. Make a large quantity of letters aimed at the nobles. Tell them to come to the castle and demonstrate their feelings of allegiance.” (Hifumi)
“Why are you in such a hurry? Furthermore, if I do such thing, won’t there be an unnecessary increase in people hindering Hifumi-sama?” (Imeraria)
“Have the nobles, who are already attached to you, sign it. It’s also fine if you use my name. Also write that their territories will be confiscated, if they don’t approve. In case they still refuse, it will be easy to crush them as we would be able to distinguish by where they are from. And, it will also be good, if you put in that your younger brother steps back from the center stage of politics due to sickness.” (Hifumi)
“... Understood, if that kid understands and steps back because of that, that kid’s life will be...” (Imeraria)
Imeraria turns her eyes towards Hifumi, who tries to leave having said all that he had to say, as if cling onto him.
“As he is your brother, let’s pray that he isn’t that much of a fool.” (Hifumi)
The maid entered carrying the black tea crossing paths with the leaving Hifumi.
“I’m very sorry. The black tea wasn’t in time.” (Maid)
Turning towards the bowing maid, Imeraria, with a worn-out smile, told the maid that she wanted only her own share and asked her that she wanted her to come back.
“I will write letters from now on. Since I want to request some of the knights to carry them, would you please summon them?” (Imeraria)
“Certainly!” (Maid)
There should be no way for him to not comprehend his own position since that kid also received education as royalty |
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} | 死神というものでいえば“人が死ぬ”ことでエネルギーを得るのと、神様らしくその存在を認知され、畏れられることで存在の力を得る。
というわけで、死神はに言われてウェパルのところに行く前に、レニとヘレンが住んでいる部屋にあらわれた。寝付いて一時間くらいの深夜で、ヘレンは微妙に不機嫌な顔をしている。
「というわけで、一んとしてはあなた方獣人が、しっかりこの街を運営して、人間たちも含めたソードランテ全てを含めた防衛対策を進めて欲しいとお思いですよ」
「本当かしら......」
虚空から突然現れた死神に、レニたちは最初警戒していたが、一二三の名前を出されると、こんな知り合いがいてもおかしくないか、と理由もなく納得してしまう。
そうして二人は眠い目をこすりながら死神の説明を聞いていたのだが、死神の口から出るのはレニやヘレンへの美辞麗句と、一二三がいかに彼女たちを評価しているのか、これから先、その知恵を発揮して残りの人間エリアも制圧し、本当の意味での自分たちの国を作り上げるべきだという内容だった。
「簡単に言うけど、人間はまだ数が多いし、わたしたち自身の暮らしだってまだまだ安定してないのに無茶いわないでよ」
「何をおっしゃいますやら。エルフの加入で人手も増え、さらには獣人の中で魔法が使える者も出てきているというではありませんか」
「だからって、すぐに人間と戦ったところで勝てるとは限らないでしょ。お母さんたちを呼ぶのだってうまくいっていないのに......」
自分の発言だが、ヘレンはついうつむいてしまった。
旧スラムに住む獣人たちは、旧知の獣人たちを招待しようとしているのだが、人間の町に近づくことすら忌避している者が多く、レニとヘレンも使者を送ってはいるものの、警戒されて家族を呼び寄せるのに難儀していた。いずれ、機会を見て自分たちで説得に行かなければ、と二人は今夜も寝る前に相談をしていたのだ。
「逆に考えましょう。人間の脅威が無くなれば、大手を振って他の獣人族を迎えに行けるのでは? スラム側の人々も、親戚同士分断されている方々がおられるのでしょう?」
「それは、そうだけど......」
「ですから、ここで頑張って平和な町を作れば、後はうまくいくわけです。魔人族の復活も囁かれる今、しっかりした防衛体制を作るのは、この街の代表であるお二人の仕事でもあるのではありませんか?」
すらすらと流れる言葉に、ヘレンは言葉を返せずに黙ってしまった。
聞けば聞くほど、死神を名乗るこの痩せた男の言い分は正しいように思える。だが、それに反して何か得体のしれない危機感がヘレンの胸中にはあった。
ふと、ヘレンは先ほどからレニが一言も発していないことに気付いた。
「レニ、あんたはどう......」
「く~......」
ヘレンがレニを見ると、ベッドの端に座り、枕を抱いたままのレニは完全に眠りこけていた。
軽く頭を叩くと、びっくりして目を開く。
「あうっ!?」
「のん気に寝てるんじゃないわよ」
目を擦って何とか覚醒したレニに、ヘレンはため息をついた。
「あんたはどう思う?」
「ん~......死神さん、一二三さんは元気ですか?」
「えっ? ええ、とてもお元気ですよ。今は人間同士の争いが起きるということで、とてもイキイキしておられます」
不意に明後日の方向に飛んだ質問に、死神は一瞬目を見開いたが、笑顔で答える。
「人間って、いっつも争ってばかりよね。それで良くあんなにたくさん人数を保てるものよね」
「それで、死神さんはどうしてここに?」
「ですから、一二三さんからの依頼を受けて、お二人に助言をしに来たわけですよ」
「ふ~ん」
大きなあくびをして、レニは分かったとつぶやいた。
「一二三さんがそう言うなら、頑張ってみるね」
「レニ......いいの?」
不安げなヘレンに、レニはふにゃっとした笑みで返した。
「素晴らしい! お二人のご活躍、私も期待しておりますよ」
では、と言い残し、まるで煙のように死神は姿を消した。
「レニ......」
「寝ようか、ヘレン。明日もまた忙しいよ」
「人間と戦う準備をするの?」
「なんで?」
「なんで......って、さっきそういう話をしたじゃない」
「ウチが言ったのは、“一二三さんがそう言うなら”って話だよ? あの死神さんが言っただけなら、別に従う気はないよ?」
「えぇ?」
枕を置いて、真ん中をポンポン叩いて凹みを作ったレニは、眠たげな目でヘレンの顔を見た。
「だって、一二三さんがウチらに“こうして欲しい”なんて言うわけないよ。今までだって、ウチたちがやりたいことをやらせてもらっただけだし、それに何か注文されたこと、あった?」
「言われてみれば......」
「だから」
枕に頭を乗せて、レニは再び薄い布団をかぶった。
「ウチたちはみんなと好きなようにすればいいんじゃないかな。あ、でも魔人族っていうのはちょっと気になる」
明日になったら、エルフさんたちと相談しよう、とレニはあくび交じりに言う。
「対策しないといけないものね」
「そうだよ。魔人族さんが何を食べるのか、調べておかないと」
歓迎の準備は大変だよね、とレニはあっという間に眠りについてしまった。
すっかり目が冴えてしまったヘレンは、水を飲みに行こうと立ち上がる。
「頭いいのに、のん気なんだから」
もう寝息を立てているレニを見て、ヘレンは彼女と頑張ろうと改めて思った。大切な友達を支えたい、と。
☺☻☺
兵士から話を聞いたイメラリアの指示により、ミュンスターと国境の間に、防衛陣地が敷かれる事となったのは、敵状視察を行った夜の事だった。
指示を受け、旅の疲れが抜けきらない身体に鞭打ちながら、夜間のうちに陣地の設営について立案し、指示書を作成していたサブナクは、サボって翌日に回さなくて良かったと心からのため息をついた。
丸二日かけた陣地構築直後に、ホーラントからの侵攻が始まったからだ。
「良かった......とは言えないが、陛下のご判断が早かったのは素晴らしいと言うべきか」
「......隊長、ずいぶん余裕ですね」
兜を脱いで汗を拭った若い騎士は、サブナクに尊敬の眼差しを向けた。
「焦っても仕方ないさ。できる準備はしたんだから」
国境を常時監視していた兵たちからの連絡では、相手は歩兵だけで約二百。魔法使いやそれ以外の姿は見えないが、投槍器を数台引いているのが確認されている。
それに対してサブナクが敷いた陣は、馬を止めるための浅い穴と、歩兵を止めるために敷き詰めた網、百名ずつ常駐させた歩兵と、ビロン伯爵領で一部生産を開始していた投槍器を三十台並べている。
「よくこれだけ準備していたものだと思うよ。我が義兄ながら、大した人だ」
「急いで編成した部隊で、しかも貴族相手しか想定していませんでしたからね。助かりました」
「今を時めく近衛騎士隊長にそう言ってもらえると、鼻が高いね」
敵が来るはずの方向を見つめながら語るサブナクたちに、後ろからビロンが声をかけた。
「に、義兄さん? ミュンスターに残られる予定じゃ......」
「その予定だったんだけどね。陛下が前線にて臣下の戦いぶりをご照覧なさるというのに、臣たる私が領地に引っ込んでいるわけにもいくまいよ」
「え。陛下が......」
サブナクが錆びついたからくりのような動きで首を回すと、ビロンの肩越しに、馬上で国境方面をみているイメラリアの姿が見えた。
「へ、陛下! どうか後方へお下がりください!」
「嫌です。皆が必死で戦うというのに、安穏としていられるわけがありません。それに、今回の件でわたくしは気付かされたことがあるのです」
望遠の為の筒を腰のポーチに戻したイメラリアは、馬上からサブナクを見る。
その表情は、十代とは思えないほどに凛々しく、精悍だった。
「わたくしは一二三様ばかりを見て、兵士や騎士のみなさんがどのように努力をされているのか、どれくらい戦えるのかを知ろうともしませんでした。だからこそ、アスピルクエタのような者にまで軽く見られているのでしょう」
「そ、そのようなことは......」
うろたえるサブナクを、手をあげて制したイメラリアは、馬上から陣地を見回した。
そこでは、騎士の指示で支柱が立てられ、大きな網が張られている。
「あれはなんですか?」
指差された方を見て、サブナクが答える。
「あれは、投槍器の槍を止める幕でございます。陛下」
「......網のようになっているけれど、大丈夫なのですか? それに、ピンと張らずに少し下がっているように見えるのですが」
不安げなイメラリアの様子を見て、サブナクは自分が初めて見たときと同じ反応だったと思い出していた。
「網でなければ破れてしまう可能性が高く、あまりしっかり伸ばしておくと、それもまた槍が貫通する可能性が高くなる......そうです」
話しながら、まるで自分が考えたかのように聞こえるな、と思ったサブナクの言葉は最後に尻すぼみになった。
「つまり、それも一二三様の入れ知恵、と?」
「......左様にございます。陛下」
深いため息をついたイメラリアは、仕方ありませんね、と呟いた。
「敵方にだけ知識があるのではなく、お互いに知識があり、多少なりこちらが先達であるという事を幸運と考えるようにいたしましょう」
後は自分で見て回るので、準備を進めるように言い置いて、イメラリアは馬を進めていった。
「義兄......ビロン伯爵」
「戦闘が始まったら、無理にでも陛下を連れて後方にさがってくださいよ」
「善処するよ」
苦笑いするビロンとサブナクは、顔を合わせて肩を竦めた。
戦闘はその日の午後、サブナクの予想通りに投槍器による打ち合いから始まった。
ミュンスターに一二三たちとフォカロル領兵が到着したのは、戦闘が一段落した夕方の事だった。
町の中に漂う、どこかそわそわとした空気に、手綱を引いて歩く一二三は目を細める。
「どうやら、もう戦いが始まっているようだな」
番兵に断りを入れ、多くの兵が町へと入ってくると、住民たちは期待と不安をない交ぜにした視線を向けてくる。
援軍は助かる。だが、戦線が拡大するのは歓迎できない。
「それじゃ、アリッサ」
「うん」
真正面から一二三の顔を見上げたアリッサは、腰の後ろにある脇差を撫でた。
「好きにやるといい。見ててやるから」
「わかった」
アリッサは、号令一つで兵たちの隊列を変更させると、駆け足で国境方面へと向かった。
土煙を上げて進む軍は、多くの道具を引きながらもペースを落とすこと無く町を抜けていく。
その様子を呆然と見送った住人達は、馬に乗り、その後ろを悠々と進む黒髪の青年を見て納得する。あのトオノ伯爵の軍が応援に駆け付けたのだ、と。
国の反対側にも関わらず、国軍の次にやってきたフォカロルの軍に、民衆は期待を込めた。
「よろしいのですか?」
「何がだ?」
馬を並べて歩くオリガの質問に、一二三は視線だけを向けた。
「あなたも、戦いたいのではありませんか?」
不安げな視線を向けてくるオリガに、一二三は笑い声を上げた。
「あっはは! そんなことが心配だったのか」
「わ、笑わないでください。あなたが心配で......」
馬を寄せ、手袋をした左手でオリガの頭をポンポンと撫でながら、一二三は馬の振動で少しずれた刀の位置を右手で器用に正した。
「そうだな。お前には本音を話そう」
一二三の言葉に、オリガは息をのみ、一二三の顔を凝視する。
「全て一切の、生きている者を殺してまわることができるなら、そうしたいとは思う。何も気にせず、ただ目の前にいる者を殺せるなら、どれだけ幸せだろうな」
だが、と一二三は前へと視線を戻した。
「それだと、その後が無い。もちろん俺が死ねば終わりだが、全て殺してしまったら、どうなる?」
「それは......」
「俺はな。さみしがり屋なんだよ」
陽が沈み始めた町は、茜色に染まっていく。
「だから、どんどん戦える奴が増えて、楽しく命のやり取りをしたい。それでなければ、生きている実感が無い」
「わ、私は!」
急に大声を上げたオリガに、一二三は馬を止めた。
「私は、最期まで一二三様のお側におります! どうしても、殺す敵がいなくなった時は、私と戦ってください。私は強くなりました。もっと強くなるように努力します。ですから......」
再び馬を進めながら、一二三はオリガの頬を撫でた。
「じゃあ、その時は頼む。殺し甲斐のある敵になってくれよ」
「お任せください。わ、私も最期はあなたの手で......うふふ......」
撫でられた頬の温もりに、思わず顔がほころぶオリガに、一二三は言葉を続けた。
「それにな、今回も俺は戦うことになるだろうから、心配はいらないぞ」
「女王陛下とアリッサでは、ホーラントに負けるということですか?」
「ああ」
パシッと音を立てて、一二三は鞘を叩いた。
「まぁ、半分は期待に過ぎないが、おそらくな」
「なるほど。それはようございました」
二人は、日暮れの町を悠々と進んでいく。
その姿は、傍から見れば仲睦まじい恋人同士に見えるかもしれない。たとえ、目指しているのが戦場だとしても。 | If you describe a shinigami in a few words, it gains its power of existence by being feared and it’s recognised as god-like damned being which gathers its energy from “people dying.”
As such the shinigami appeared in the room, where Reni and Helen are living, before going to Vepar’s place as told by Hifumi.
“That means for Hifumi-san you beastmen are completely managing this city and I believe that he wants you to take defensive measures within all of Swordland, including the humans as well.”
“I see.”
“Is that true, I wonder...?”
Reni and Helen were cautious of the shinigami, who suddenly appeared out of thin air, in the beginning, but once Hifumi’s name is mentioned, they agree groundlessly while thinking
Thus the two listened to the shinigami‘s explanation while rubbing their sleepy eyes, but what came out of the shinigami‘s mouth were flowery words towards Reni and Helen, how Hifumi is evaluating them, to gain total control of the remaining human area by demonstrating their intelligence and that they should make their own country in its true meaning.
“You say that easily, but there are still many humans. Don’t ask for something impossible while even our own livelihood hasn’t yet stabilized.”
“What are you talking about. Haven’t you increased your manpower with the joining of the elves and moreover haven’t there appeared even people who can use magic among the beastmen?”
“Even so, that doesn’t mean we will be able to win if we fight the humans immediately, right? Inviting our mothers isn’t working out well either...”
It’s her own statement, but Helen inadvertently ended up hanging her head in shame.
The beastmen, who are living in the old slums have tried to invite their old beastmen friends, but there are many who avoid to be even close to the city of man. Although Reni and Helen dispatched messengers, it was difficult to summon their family who were on guard. “If we find an opportunity, sooner or later, it won’t do if we don’t persuade them by ourselves”, the two discussed before going to bed tonight.
“Let’s consider it the other way around. If the threat of humans vanishes, won’t you be able to brazenly go meet the other beastmen? Even the people on the slums’ side are mostly separated from their fellow relatives, right?”
“That is, true, however...”
“Therefore, if you create a peaceful city by trying your best here, the rest will work out as well. The establishing of a tight defence system now that the come-back of the demons is rumoured is also part of your both’s task as representatives of this city, isn’t it?”
Helen ended up silent without returning any remarks due to the smooth stream of words.
The more she listens to it the more she can believe the point of this skinny man, who calls himself a shinigami, to be correct. However, in Helen’s mind there was a sense of impeding danger of some unknown nature that rebelled against it.
Suddenly Helen noticed that Reni hadn’t uttered a single word since some time ago.
“Reni, what do you...” (Helen)
“Ku~” (Reni)
Once Helen looked at Reni, she was sleeping completely like a log while hugging her pillow and loosely sitting on the bed.
When she lightly hits her head, Reni opens her eyes in surprise.
“Oww!?” (Reni)
“Don’t go sleeping care-freely.” (Helen)
Helen sighed towards Reni who was somehow awakening while rubbing her eyes.
“What do you think?” (Helen)
“Mm~... shinigami-san, is Hifumi-san well?” (Reni)
“Huh? Yes, he doing very well. He is currently extremely lively due to the matter of causing disputes amongst fellow humans.”
Due to the question which suddenly came flying from out of the field, the shinigami opened its eyes widely for an instant but then answers with a smile.
“Humans, they usually do nothing but fighting each other, don’t they? And yet they are able to retain such large numbers well.”
“So, why are you here, shinigami-san?” (Reni)
“As I said, receiving a request from Hifumi-san, I came to give the two of you some advices.”
“I se~~e.”
Releasing a big yawn, Reni muttered that she understood.
“If Hifumi-san has said so, I will try doing my best.” (Reni)
“Reni... is that fine?” (Helen)
Reni returned a limp smile towards the uneasy Helen.
“Splendid! I’m also looking forward to your great efforts, you two!”
“Well then”, leaving those words behind, the shinigami completely disappeared like smoke.
“Reni...” (Helen)
“Let’s sleep, Helen? Tomorrow will be busy again.” (Reni)
“To prepare for fighting the humans?” (Helen)
“Why?” (Reni)
“Why... you say, didn’t we talk about that just now.” (Helen)
If it is only that shinigami-san saying it, I have no particular intention to follow it?” (Reni)
“Eeh?” (Helen)
Reni, who put down the pillow and created a depression by hitting its centre with a *tap-tap*, looked at Helen’s face with drowsy eyes.
to us. Until now he had us only do what we wanted to do ourselves. Besides, did he ever order anything?” (Reni)
“Now that you mention it...” (Helen)
“Therefore.”
Playing her head on the pillow, Reni once again covered herself with the thin futon.
“Isn’t it alright if we try to do things as we like with everyone? Ah, I’m slightly worried about what he said in regards to the demons.” (Reni)
“Let’s consult with the elves tomorrow”, Reni says with a yawn blended in.
“We have to make plans.” (Helen)
“That’s right. We have to investigate what demon-san’s are eating.” (Reni)
“The preparation of the welcome will be difficult, won’t it?” Just like that Reni fell asleep in the blink of an eye.
Helen, who ended up completely wide awake, stands up to get some water to drink.
“Even though you are intelligent, you are quite carefree.” (Helen)
Watching Reni who’s already sleeping peacefully, Helen renewed her intention to do her best together with Reni. She wants to support her important friend.
☺☻☺
It was about night after they went to observe the enemy’s movements when it resulted in a defence encampment being set up between Münster and the border due to the order of Imeraria who heard the story from a soldier.
After receiving that order, Sabnak, who wrote down orders to draft up the construction of the encampment at night spurring on his body, which hasn’t recovered from the fatigue of the travel, sighed from the bottom of his heart that it was agreeable for him to not turn up the next day and to play hooky.
Immediately following the construction of the encampment which took two full days, the invasion from Horant began.
“Great... you can’t say that, but should I say that it’s wonderful that Her Majesty’s decision was quick?”
“... Captain, you are very composed.”
The young knight, who took off his helmet and wiped away the sweat, looked at Sabnak with a gaze filled with respect.
“Even if I were to be impatient, it can’t be helped anyway. We finished all possible preparations.” (Sabnak)
The report from the soldiers who continuously monitored the border stated that their opponent has only around infantrymen. Although the figures of magicians and anyone else can’t be seen, it has been confirmed that they are pulling several spear throwers.
The encampment, which was laid out by Sabnak against those, has shallow holes to stop horses, nets which were spread all over to hinder the infantry, groups of permanently stationed infantrymen and thirty spear throwers of which the production partially started in the Biron Earldom.
“I believe he did well to prepare this many. While being your brother-in-law, he is a great person.”
“It was a unit we formed up in a hurry and moreover it wasn’t supposed to be used against anyone but the nobles as opponents. It saved me trouble.” (Sabnak)
“He’s proud that he can make the Captain of the Royal Knights at the the peak of his popularity say so.” (Biron)
Biron called out to Sabnak’s group, which is talking while staring in the direction from where the enemy is supposed to come, from behind.
“B-Brother-in-law-san? It’s planned for you to stay behind in Münster...” (Sabnak)
“That was the plan. Because Her Majesty will clearly see her retainers’ manner of fighting at the front, it’s wrong for me, who is her retainer, to stay behind in the territory.” (Biron)
“Eh? Her Majesty is...” (Sabnak)
Once Sabnak turns around his head with a motion like a rusted mechanical doll, he saw the figure of Imeraria, who is looking in the direction of the border on horse, over Biron’s shoulder.
“Y-Your Majesty! Please, retire to the rear!” (Sabnak)
“No. There’s no way I can have peace despite everyone fighting desperately. Besides, there’s something I noticed in this time’s case.” (Imeraria)
Imeraria, who returned the pipe for seeing at a distance to the pouch at her waist, looks at Sabnak from atop the horse.
Her expression was virile and imposing to a degree one would expect from a teenager.
“Only watching Hifumi-sama, I wasn’t even aware what kind of effort everyone from the knights and soldiers invested or how much you can fight. That’s why I was looking at a person like Aspilketa lightly.” (Imeraria)
“T-That sort of thing is...” (Sabnak)
Imeraria, who held back the flustered Sabnak by raising one hand, surveyed the encampment from the horse’s back.
A fulcrum is set up there according to the instructions of a knight and a large net has been affixed to it.
“What’s that?” (Imeraria)
Looking in the direction she pointed at, Sabnak replies,
“That’s a curtain to stop the spears of spear throwers, Your Majesty.” (Sabnak)
“... Is it alright although it looks like a net? Besides, it looks like it’s dangling a bit without being tightened.” (Imeraria)
Seeing the look of the uneasy Imeraria, Sabnak remembered that he had the same reaction when he saw it for the first time.
“It’s very likely to be torn if it’s not a net. If it’s stretched out too firmly, it’s also very probably that it will be pierced by the spears... It seems.” (Sabnak)
, the words of Sabnak, who thought so while talking, became anticlimactic at the end.
“In other words, this is also a suggestion from Hifumi-sama, you are saying?” (Imeraria)
“... Indeed, Your Majesty.” (Sabnak)
Imeraria, who sighed deeply, muttered “It can’t be helped, I guess.”
“Let’s consider it good luck that both sides have that knowledge and not only the enemy’s side and that our side is somewhat ahead in regards to that.” (Imeraria)
Given that she surveys the rest by herself, Imeraria advanced with her horse while telling them to hasten their preparations.
“Brother-in-law... Earl Biron.” (Sabnak)
“Once the battle starts, please withdraw to the rear while taking Her Majesty along even if it’s by force.” (Sabnak)
“I will handle it carefully.” (Biron)
The wryly smiling Biron and Sabnak shrug their shoulders wile facing each other.
The battle began with an exchange of fire between the spear throwers, just as expected by Sabnak, in the afternoon of that day.
It was about evening and the battled had finished its first stage when Hifumi’s group and Fokalore’s territorial soldiers arrived in Münster.
Due to the somewhat restless air swirling about within the city, Hifumi, who walks while pulling the reins, closes his eyes partly.
“It seems like the fighting has already begun.” (Hifumi)
Once many soldiers enter the city after getting permission from the guards, the residents face them with looks filled with a mix of expectations and anxieties.
Reinforcements are a help. But, they cannot welcome an expansion of the front line.magic
“Well then, Alyssa.” (Hifumi)
“Yea.” (Alyssa)
Alyssa, who looked up at Hifumi’s face directly from the front, gently caressed the wakizashi located in the back on her waist.
“It’s fine to do as you like. I will watch.” (Hifumi)
Alyssa made changes to the ranks of the soldiers with a single order and headed towards the direction of the border by running fast.
The army, which advances while raising clouds of dust, leaves the city without lowering its pace while pulling many tools.
The residents, who saw their figures off in blank amazement, understand after seeing the black-haired young man calmly following from behind while mounted on a horse. The army of that Earl Tohno came rushing as reinforcement.
The populace was filled with hope due to the army of Fokalore which arrived right after the royal army in spite of originating from the opposite side of the country.
“Is that alright?” (Origa)
“What is?” (Hifumi)
Due to the question of Origa, who lined up her horse next to him, Hifumi turned only his look at her.
“Don’t you want to fight as well, dear?” (Origa)
Hifumi raised his voice in laughter at Origa who watches him with an uneasy look.
“Ahaha! You were worried about such stuff?” (Hifumi)
“P-Please don’t laugh. You are concer...” (Origa)
While stroking Origa’s head with his left hand, which was covered by a glove, after bringing his horse close, Hifumi skilfully fixed the position of the katana which shifted slightly due to the vibrations of the horse.
“Let’s see. I will talk about my real intentions to you.” (Hifumi)
Due to Hifumi’s remark, Origa gulps and stares at Hifumi’s face.
“I think, if I can go around killing each and every living person, I want to do that. If I can simply kill those in front of me without having to care about anything, I wonder how happy I will be.” (Hifumi)
“But”, Hifumi returned his sight to the front.
“In that case there will be no future. Of course it will end if I die, but if I ended up killing everyone, what will happen afterwards?” (Hifumi)
“That is...” (Origa)
“You know, I will be a loner.” (Hifumi)
The city, where the sun began to sink, is dyed in madder red.
“Therefore, by rapidly increasing those who can fight, I want an enjoyable wagering of lives. Without that I’m not actually feeling alive.” (Hifumi)
“I-I am!” (Origa)
Hifumi stopped his horse due to Origa suddenly raising her voice.
“I will be right next to you until the very end, Hifumi-sama! By all means, please fight with me at the time when all enemies to be killed have vanished. I became strong. I will put in great efforts to get even stronger. Therefore...” (Origa)
While making the horse advance again, Hifumi gently stroke Origa’s cheek.
“Well, then I will leave it to you at that time. Please become an enemy that’s worth to be killed.” (Hifumi)
“Please leave it to me. E-Even I, at the end by your hand... ufufu...” (Origa)
Due to Origa spontaneously breaking into a smile thanks to the warmth of the caressed cheek, Hifumi continued his words.
“Besides, as I likely won’t fight this time, it’s unnecessary to worry about me.” (Hifumi)
“How about if Her Majesty the Queen and Alyssa lose to Horant?” (Origa)
“Ah.” (Hifumi)
Hifumi hit the scabbard with a sound of a whack.
“Well, half of it is no more than anticipation, but maybe it will happen.” (Hifumi)
“I see. That’s good.” (Origa)
The two leisurely advance through the city at twilight.
Their figures might appear as intimate pair of lovers if seen from the side. Even if the place they are heading for is a battlefield. |
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} | 王都に戻り、イメラリアへの献策を終えたあとも、パジョーには休む暇もなく仕事が山積みだった。多くの報告書を王城の管理部門へ提出せねばならなかったし、士隊の他の騎士たちとのすり合わせも必要だったためだ。
王城傍にある第三騎士隊詰所。以前パジョーがティータイムを楽しんでいるところ三が乗り込んできた、死んだゴデスラスがに絡んできた場所だ。
今はパジョーの他にサブナクやミダスなど、一二三を多少なり知る隊員が集まっていた。
「危険な賭けだと俺は思う。少なくともヴィシーが一万や二万の兵を集められなければ成立しないし、よしんば数は揃ったとして、あの男を抑え込めるかどうかは未知数だ」
パジョーが提案し、イメラリアが採用した策を聞いたミダスは、腕を組んでしばらく考え込んでから、はっきりと危険だと言った。
「ミダス先輩の不安もわかりますが、ぼくは良い策だと思いますよ。フォカロルの兵力なんて、住民から募兵しても二百いきません。いくら個人が強くても数の差はどうしようもないでしょう。それに、ヴィシーと戦う事自体は最初の既定路線から外れていませんから、一二三さんと敵対したことにはならないという部分が良いですね」
ミダスの意見に反論するのはサブナクだった。
一二三に言われた通り、一二三が侵略した通称“新領地”の担当となることが内定しているが、それは今回の戦争が落ち着いてからという事になり、丸一日の休暇を夢の住人として過ごした為、今はすっかり元気になっていた。
二人の意見に賛否両論、意見は百出したものの、これといって全員が納得できる意見は出ず、結局はイメラリアが採用したのだから、それに従うのが我々の役目だという事で状況を見守る事になった。
「というか、既に動き出した事に関してここで色々言っても仕方がないだろう」
「そうでもありませんよ。それに、ここに集まっていただいたのはこれからの事を相談したかったからです」
「これから?」
一通り状況が理解されたと見て、パジョーはこの集まりの目的を語り始めた。
「これはまだ未定であり予測ではありますが、イメラリア様とヴィシー代表による講和の舞台は、おそらくフォカロルもしくはアロセールになると思われます」
パジョーの予測は、騎士隊員たちに概ね理解された。
まさかどちらかの王都近くまで行くわけにも行かず、多少優位の状況での講話である以上は、国境近くの勝者側が会談場所となるのが慣習だからだ。今回の場合は、新しい国境か旧国境かの違いであり、戦後の状況によってどちらかになるだろうことは、誰でも納得できた。
「今回の講和に護衛としてついて行くのは第一騎士隊ではなくわたしたち第三騎士隊になる見込みです」
「第一でも第二でもなく、ぼくたちが?」
「そう。第一騎士隊は一二三さんに忌避感があるし、余計な刺激を与えかねない。それに王子殿下を含めて王城の警備から離れられない......という言い訳をしてくるだろうということね。第二騎士隊は王都警備があるし、こういう会談の警備は民衆に紛れてやる部分もあるから、苦手な分野でしょうしね」
なるほど、と全員に納得の雰囲気と、大舞台が用意された興奮が湧き上がってくる。陰ながら王都王城を守護してきた自負があるが、大仕事をおおっぴらにやれる機会は少なく、実力を見せるチャンスだと意気込む気持ちがあるのも仕方がない。
だが、その跡に続くパジョーの言葉で、全員が一気に興奮から冷めた。
「国境での王族による会談だから、念のためということで数千の戦力は連れて行くことになるわ。そして、状況によっては......一二三さんを討つことになる」
「なっ......どういう事だ?」
「もちろんこの場にいる者以外には他言無用よ。これはイメラリア様のお考えだからね。もし、うまくヴィシーの攻撃で彼が怪我などで危機的状況にでも陥った状況にあれば、国内側からわたしたちが率いる兵力が援軍と称して彼を背後から攻撃する」
黙り込んでしまった室内で、パジョーは湿らせる程度、紅茶に口をつけた。
「彼のところに乗り込むのはここにいる隊員だけで、全てが終わったあとは、彼は追い詰められて自害したという形を取ることになるでしょうね」
「む、無茶を言うな。数人程度で彼を殺せるわけがないだろう」
ミダスは一二三が十人の刺客を簡単に返り討ちにした姿を見ているだけに、その目の前に立つ事は想像すらできなかった。
「もちろん、彼がそれほどの状態で無ければ、表向きの理由通りに和平の為の会談をしてから、一二三さんは国境近くの領地を安堵されて終わりだけれど。もし機会があれば、彼をどうにかしたいとイメラリア様はお考えだし、わたしもそれに賛成だわ」
助けられた事もあるし、何日も行動を共にした、同じ国の貴族ではあるものの、イメラリアもパジョーも、仲間意識以上に一二三を危険視していた。
「そんな......」
「......それがイメラリア様のお考えなら従おう。私としては、彼には子爵領で落ち着いてくれる結果になることを祈るしかないな」
少なからず一二三に魅力を感じていたサブナクは絶句し、ミダスは淡々と受け入れることを選択した。
「だが、彼がどのような状況にあるかをどうやって知るんだ? 見える距離に近づく前に察知されてしまうのがオチだろう」
「それには、一人協力してもらおうと思っている人物がいるの。彼女なら、一二三さんの傍に居ても問題ないはず」
「それって......」
思い当たる人物がいるのか、サブナクは信じられないという目でパジョーを見た。
る行為だという事は重々承知しているから、そんな目で見ないで。でも、これ以上の策はわたしも思いつかなかった」
誰も、パジョーに賛同することも反論することもできないまま、第三騎士隊のミーティングは終わった。
一二三と彼の軍勢が新国境となったローヌへ到着してから、10日程が経った。
この間に、ローヌは新設された国境の砦と兵たちの宿舎を残して街中は大改造がされていった。住民は全滅しており、建物はほぼ無傷なので何かを作るには資材は山ほどあるし、数名連れてきたドワーフと、工兵隊他人手は充分ある。
これを活かさない手は無いと、一二三は王都から派遣された国境警備兵の訝しむ視線を無視して、あちこちの造り変えを指示していった。
いくつもの家が解体され、ドワーフたちも兵たちも、不明瞭な説明で良くわからないものをアレコレと作り続ける日々だった。
その日常が十一日目で終わる。
ボロボロに汚れたデボルドが馬にしがみつくようにしてローヌへ逃げ込んできたのだ。
国境警備兵に保護され、街にいる最上位の者である一二三へ即時報告が舞い込んできた。
「おう、帰ってこられたか」
見送った時の予測は外れたか、と笑いながら、報告に来た兵の肩を叩いた。
「確か、デボルドは和平の講和準備に派遣されたはずでは?」
「和平か。ヴィシー中央委員会が、自分たちの国にかけらも愛着が無ければ、和平の講和が進められたかもな」
デボルドが持っていた親書を透かして見たとき、内容の一部を盗み読む事ができた一二三は、その中身がヴィシーへの挑発と言ってもまだ表現が柔らかいと判断できるような内容だった事を知っている。
「あの書面を受け取っても仲良くしようと思うなら、そいつは破滅願望でもあるんだろう」
疑問顔のオリガを従え、アリッサには兵への準戦時配備令を出すように伝えた一二三は、
報告に来た兵について足早に部屋を出た。
砦そばの民家を接収して詰所として利用している建物で、デボルドは治療を受けていた。と言っても、疲労はあるものの目立った傷は無く、ちょっとした傷程度にわめき散らすので、治療のフリをして簡単に布を巻く程度だが。
ベッドの上で腕に包帯を巻かれていたデボルドは、入ってきた一二三の顔を見るなり食って掛かってきた。
「き、貴様のせいだ! 貴様のせいで俺はこんな目にあったのだ!」
掴みかかってくるデボルドの腹を蹴飛ばしてベッドに戻した一二三は、冷静な声で言った。
「報告は順を追って簡潔に。対応するにも状況がわからんではな。ヴィシーで何があった。ぞろぞろついていった護衛はどうした」
渋々とデボルドが語るには、護衛はどうやら全滅したらしい。
使者として堂々とヴィシー中央委員会が集まる都市エピナルへと入ったデボルド一行は、その日のうちに委員会と会う約束を取り付け、翌日には委員会の面々と会談を行うことができた。
委員会の一人に親書を渡し、委員が読んでいる間、如何にオーソングランデのイメラリア王女が慈悲深い人物であるか、そのあり方に心酔している自分が忠臣として赴いたのは必然であると語っていると、無礼にも親書を投げ返され、会場にいた兵達に襲われたという。
「ヴィシーの委員たちは、貴様がこの街で行った虐殺を非難し、貴様を討つかオーソングランデで処刑されない限りは戦いを続けると言っていた! 王女殿下のお気持ちを踏みにじり......がっ?!」
一二三は、鼻息荒くしゃべり続けるデボルドの頭を掴んで壁に押し付けた。
「別にこの街が滅んだのを俺のせいにするのは勝手だけどな。護衛は全部死んだんだろう。侍従たちはどうした?」
「わ、わからん......。宿に待たせて、そのまま委員会に会いに行ったから......。それより、は、離せ!」
ジタバタと暴れようとするが、一二三の親指と小指がギリギリとこめかみに食い込み、痛みで力が入らない。
その間に、デボルドの懐からはみ出していた書類を抜き取る。それは投げ返されたというクシャクシャになった親書だった。片手でさっと開いて確認すると、間違いなくイメラリアの署名が入っており、内容は透かし見た時の文面もあった。
「これは今から利用価値があるかもな。俺がもらっておこう」
「貴様、それは王女殿下からお預かりした、ああぁぁぁ......」
「お前の役目は終わったんだよ。俺は今からお前がおびき寄せたヴィシーの連中と遊ぶから、出番が終わった役者はさっさと舞台を降りないとな」
言いながら、一二三が手に込める力はどんどんあがり、既に指先はこめかみを割ってめり込んでいる。
「まさか......や、やめろ、いやだっ、やめてくださ......ぐぎっ」
ぐしゅっと湿った音がして、デボルドは永遠に黙り込んだ。
「オリガ。間もなく敵は来る。アリッサのところに言って作戦開始を伝えて持ち場につけ」
デボルドの死に様を冷静に見届けたオリガは、素早く部屋を出ていった。
一二三が後から部屋を出たときには、既に国境警備の兵も一二三の兵に指示されて、砦から退避していた。
「さあ、イメラリア。どうやらヴィシーにいる間だけ、あの馬鹿には幸運の女神がついていたらしいぞ。計算が狂ったのか、ここまで見越していたのか。少なくとも、親書がここにあるのは予定外だろう」
親書を懐に納めながら、一二三は笑った。
デボルドを追ってきたヴィシー兵は300人に達する。
これは工作員からの情報で一二三の私兵が100人程度である事を知っていたからの数字であり、直ぐに動かせる兵力としては最大だったためだ。
委員たちが私兵を集めて組織した軍であり、統率は今ひとつではあったが、一人の敵を追うには充分すぎる数だった。
「間もなく、ローヌの街です」
副官の言葉に、隊長として軍を率いる男は無言で頷いた。
馬を進めながら、男はこの機会にローヌの街を取り戻す事を狙っていた。命令としてはオーソングランデの逃げた使者の追跡と捕縛だったが、獲物がローヌへ逃げ込んだとしたら、致し方ないという言い訳もできる。
その言い訳のために、多少追跡速度が遅くなったのも、デボルドがローヌまでは生還できた理由だった。
「街が見えてきましたが......見張りがいないようですね」
「国境と言い張っている場所だ。あの門を抜けた向こうにいるんだろう。全員、剣を抜いて戦闘準備! 門を一気に抜けて敵を屠る!」
掛け声に兵たちが呼応するのを聞きながら、ここでローヌ奪還に成功すれば、自分もどこかの都市国家の代表になれるかもしれないという期待が膨らむ。
期待は、男の背中を押した。
先頭部隊を先頭に、300名は列をなしてローヌへ突入していく。
半分ほどが駆け出したところで、隊長も馬を進めようとしたが、先頭集団から悲鳴があがり始めた。
「どうした!」
前方から伝令が駆け寄り、通路にロープが張られ、足を取られた数名が後続に踏まれて犠牲が出ていると言ってきた。
「馬鹿どもが! 足元もろくに見えんのか! 速度を落として侵入しろと伝えろ!」
怒声を張り上げながら、隊長は自分が先陣を切らずに良かったと思っていた。馬の足を取られて落馬したら、恥どころか大怪我、下手すると死にかねない。
出鼻をくじかれ、もたもたと大人数を街へ入れたところで、ヴィシー兵達は街の様子をみて呆気にとられた。
遅れて入場した隊長も、目の前の異様な光景に呆然としている。
街は入口から真っ直ぐに大通りが続いており、街に人がいた頃は多くの店が並んで賑わっていただろう。そこに人がおらず、閑散としているところまでは理解できた。しかし、建物全ての出入り口が板を打ち付けられており、建物のあいだの通路にも、腰の高さまで木材で封鎖されていた。
まるで、道は目の前の一本のみだというように。
そしてその道の向こう、先頭部隊から500mほど先に一人立つ異装の男。
男は剣にしては細い武器を右手に持ち、適度にリラックスした自然体で佇む男は、ゆっくりと手招きをした。
「よく来たな追跡者諸君。名乗りは無用だ。さっさとかかって来い。殺してやるから」
たった一人で無謀にも300の兵を挑発する男を、隊長は鼻で笑って号令をかけた。
「大馬鹿者が一人いるだけだ! さっさと殺して我が国の反撃の契機とする! かかれ!」
先頭集団が剣を構えて駆け出した。
これが、ローヌで行われた第二の虐殺の始まりだった。 | Returning to the capital and also after completing Imeria’s proposal, there was a huge pile of work waiting for Pajou without giving her the chance to take a day off.
It was the place where Hifumi had come previously to enjoy teatime with Pajou and where the dead Gothras had picked a fight with Hifumi.
Currently, besides Sabnak and Midas, Pajou had assembled the unit members who more or less knew about Hifumi.
“I think that it is a dangerous gamble. At least Vichy hasn’t managed to gather . to .00 soldiers. If they assemble such an amount, it will be unknown whether that man would be able to stop them.” (Midas)
Midas listened to the Imeria’s adopted plan following Pajou’s suggestion. After folding his arms and brooding over it for a short while, he clearly stated that it would be dangerous.
“Although I understand your anxiety, Midas-senpai, I believe it is a good plan. Even if the military of Fokalore did such a thing like recruiting from the citizens, they won’t surpass 200 either way. No matter how powerful the individual may be, it is pointless with the difference in numbers. Besides, because it isn’t wrong to say that the war was established by Vichy to begin with, it can be said that the part of not particularly antagonizing Hifumi-san is good.” (Sabnak)
Sabnak rebutted Midas’ opinion.
Going by what was talked about Hifumi, even though the area Hifumi had invaded became unofficially known as “New Territory”, it was decided to call it like that until the current war was settled. As consequence of fulfilling the inhabitants dream of a full day of holiday, they had now become completely full of spirit.
Since the plan had been accepted by Imeria in the end, in addition to us having to abide to our duty, it could be said that due to our work we have to watch over the state of affairs.
“Rather, I guess no matter the various things said here in relation to the situation, since the plan has already started it’s now too late anyway.” (Sabnak)
“That’s not quite so. Besides, we have gathered here to discuss about the work from here on.” (Pajou)
“From here on?” (Midas)
Seeing that they understood the general state of affairs, Pajou began to talk about the purpose of this gathering.
“Although this a not yet fixed prediction, I think that the stage of the peace talks between Imeria-sama and the Vichy representative will likely become Fokalore or Arosel.” (Pajou)
The knight unit’s members mostly understood Pajou’s prediction.
In the current situation, the only difference would be whether it was the new border or the old border. Everyone could agree that it could become either one depending on the postwar circumstances.
“This time the Knight Unit planned to accompany as guards for the peace talks isn’t the First Knight Unit, but us, the Third Knight Unit.” (Pajou)
“Us? Not the First or Second?”
“Yes. The First Knight Unit feels like challenging Hifumi. We don’t want to unnecessarily provoke him. Furthermore they can’t leave from guarding the royal castle which harbors His Highness the prince... something like that will likely put forth as excuse. The Second Knight Unit has the duty of defending the capital. Since there are also some people among the populace using the cover of guarding such conference to incite something, I think the realm would be weakened if they left.” (Pajou)
Even though they were all proud of protecting the royal capital and castle from the shadows, there were only few chances to openly partake in such a big job. Thus it couldn’t be helped that they felt enthusiastic about the chance to display their competency either.
But, due to the Pajou’s words following afterwards, everyone’s excitement instantly subsided.
“Because royalty will join the conference held by the border, it has been decided that a war potential of several thousands will be taken along, as precaution so to say. And, depending on the circumstances... Hifumi-san will be subjugated.” (Pajou)
“Na... what kind of circumstances?”
“Of course you are not to tell a word about this to anyone except those gathered in this place. Those are the plans of Imeria-sama. If he is in a situation of having fallen or a critical condition due to being injured after having successfully attacked Vichy, we are to pretend leading military forces from our side as reinforcements and attack him from the rear.” (Pajou)
In the room that ended up sinking into silence, Pajou tasted some black tea to moisten her mouth.
“Only those members present here will march to that area. After everything is finished, it will be announced that he committed suicide due to being driven into a corner.” (Pajou)
“D-Don’t say such absurd things. There is no way that an amount of several people will be able to kill him.” (Midas)
Only Midas had seen his appearance as he simply turned the tables on 10 assassins. Even in his imagination he couldn’t see himself standing up to that in front of his eyes.
“Of course, if he isn’t in a condition to that degree, since the conference is held for the sake of peace according to the ostensible reason, it will come to a close with the recognition of right to own the territory close to the national border for Hifumi-san. But if the chance presents itself to somehow deal with him as intended by Imeria-sama’s plan, I will also support it.” (Pajou)
Although having also been helped during crisis, having participated in joint operations for several days and being nobles of the same country, Imeria and Pajou, rather than seeing him as companion, they regarded Hifumi as dangerous.
“Such a...” (Sabnak)
“... If that’s Imeria-sama’s wish, then I will obey to it. As for myself, I can only pray that the result will be him settling down in the Viscount territory.” (Midas)
Sabnak became speechless due to his considerable feeling of fascination towards Hifumi. Whereas Midas chose to indifferently accept matters.
“But, how will you know in what kind of situation he is? We will end up being sensed before we can approach a visible distance, don’t you agree?” (Midas)
“As for that, there is a person I thought of asking for cooperation. If it’s her, I don’t expect any problems for her being close to Hifumi-san.” (Pajou)
“That is...” (Sabnak)
As if he suddenly understood who that person was, Sabnak looked at Pajou with eyes of disbelief.
“Because I am quite aware of something like this being called an act going against humanity, don’t look at me with such eyes. But, there was no other plan I could think of either.” (Pajou)
No one was able to agree or disagree with Pajou in this situation. The meeting of the Third Knight Unit ended.
After Hifumi and the troops arrived at the new border close to Rhone, ten days had passed.
During that time large parts of the city Rhone had been restructured leaving only the lodging for the soldiers and the fortress at the newly established border.
There was no way that he wouldn’t make use of that. Disregarding the border guards dispatched by the capital with a look of suspicion, Hifumi instructed to make changes all over.
No matter how many houses they dismantled, the dwarves and soldiers continued to produce one thing after the other every day even though they didn’t quite understand the unclear explanations.
This daily life came to an end on the eleventh day.
Worn-out and sullied Debold came to take refuge in Rhone making sure to cling to his horse.magic
As he was sheltered by the border guard, immediately a report came in to the person with the highest rank in town, Hifumi.
“Ou, you made it back, huh?” (Hifumi)
While laughing he clapped the shoulders of the soldier who came to report.
“If I remember correctly, wasn’t Debold dispatched to prepare the peace talks?”
“Peace? As the central committee of Vichy has no attachment to their fragmented country either, it may be possible to advance the peace talks.” (Hifumi)
At the time he held up the the handwritten letter Debold possessed against the sun, Hifumi managed to steal a peek at a part of the contents. He understood that the contents in this situation could be still judged as lukewarm even though one might call them a provocation towards Vichy.
“If you thought of that letter being received as means to get along with, I guess that person would have their aspirations being destroyed now.” (Hifumi)
Accompanied by Origa, who wore a face full of questions, Hifumi conveyed to Alyssa to start deploying the soldiers for a quasi-war.
The soldier who came to report departed the room at a quick pace.
In a building, which was formerly a private house being confiscated to be utilized as office, Debold received medical treatment.
Debold, whose arms were coiled in bandages, rested on top of a bed. He flared up as soon as he saw the face of Hifumi entering the room.
“I-It’s your fault! Because of you I had to suffer like that!” (Debold)
Returning Debold to the bed after having grabbed him and kicking him in the belly, Hifumi said in a calm voice.
“Concisely report from the start to the end. Since we have to deal with the situation on this side as well. What happened in Vichy? What about the guards that accompanied you?” (Hifumi)
Relucantly Debold began to talk. Apparently the guards had been completely annihilated.
Debold boldly entered the city Epinaru, where the central committee of Vichy assembled, as messenger. The very same day he obtained the permission to meet with the committee. The next day he was able to talk with each and every member of the committee.
He passed the handwritten letter to a member of the committee. During the time while the committee members read it, he talked about what a deeply benevolent person Princess Imeria of Orsongrande was making it inevitable for him to obey as loyal retainer bearing such adoration for her. Rudely throwing back the handwritten letter, they were attacked by the soldiers in the assembly hall, he said.
“The committee members of Vichy blamed you, bastard, for coming to this town and slaughtering everyone. No matter whether it was you, son of a bitch, who attacked this town or not, the war will continue as long as Orsongrande doesn’t execute you! You trampled on the kindness of Her Highness... ga?!” (Debold)
Hifumi grabbed the head of Debold, who continued running his mouth in wild agitation, and pressed it against the wall.
“It is particularly convenient for them to lay the blame on me for destroying this town. I guess all of the guards have been killed. What happened to the chamberlains?” (Hifumi)
“I-I don’t know... They remained waiting at the inn because I went to meet the committee... Leaving that aside, r-release me!” (Debold)
As he tried to act violently by struggling, Hifumi’s thumb and little finger dug into the temple of the forehead making a grinding sound. Debold didn’t have any strength left due to the pain.
Quickly opening it with one hand and checking it, it contained Imeria’s signature without a doubt. Looking through the content it matched with what he had seen when he held it against the sun.
“This may have usable value from now on. I will keep it.” (Hifumi)
“Bastard, this was entrusted to me by Her Highness... ah... aaahhh!” (Debold)
“Your role has come to an end. Since I will play with the guys you lured in from Vichy from now on, an actor who has finished his turn has to promptly leave the stage.” (Hifumi)
While saying this, Hifumi steadily raised the strength he put into his hand. His fingers already broke the temple and sank in.
“Never! ... St-Stop it, don’t, please sto... gu gi” (Debold)
Releasing a wet sound of *gushu* Debold sank into eternal silence.
“Origa. The enemy will be here soon. Go to Alyssa’s place and tell her to begin the military operations and to take their stations.” (Hifumi)
Origa, who watched Debold’s manner of death calmly, left the room quickly.
At the time Hifumi turned his back on the room and left, the soldiers of the border security had already been instructed by Hifumi’s soldiers to take refuge in the fortress.
“Well then, Imeria. It appears that during the time I was in Vichy, Lady Luck has visited that fool. Did my calculations go amiss? Or did you foresee until here? At least, the handwritten letter being here must have been unexpected, I guess.” (Hifumi)
While storing the handwritten letter in his breast pocket, Hifumi laughed.
The Vichy soldiers chasing after Debold reached a number of 300.
Knowing the numerical figures of Hifumi’s private army being around 100 soldiers, as they had received the intelligence from a spy, the objective was to move the maximum amount of military forces available to immediately move out.
The troops organised and assembled from the committee member’s private armies, although they were lacking leadership, the amount of them was quite excessive for chasing a single enemy.
“Soon we will be at the town Rhone.”
To the adjutant’s words, the man leading the troops as commanding officer silently nodded.
Even though his order was to chase and arrest the fleeing messenger from Orsongrande, if it happens that his prey takes refuge in Rhone, it was also possible to give the excuse that there was no other way but to retake it.
For the sake of this excuse, he also kept the speed of the pursuit low, which was the reason why Debold was able to return to Rhone alive.
“Though the town has come into view, there don’t seem to be any guards on watch...”
“It’s the place they insist on being their national border. I guess they will come out from the other side of that gate. Everyone, draw your swords in preparation for combat! We will slaughter the enemies coming out of the gate in one go!”
While listening to the shouts of the soldiers agreeing to his instructions, his expectations got big as he imagined the possibility of him becoming the feudal lord of some city-state if he were to successfully recapture Rhone here.
Those expectations pushed the man’s back.
The 300 soldiers formed a line and the first of the vanguard rushed into Rhone.
When about half of them started running, just as the commanding officer decided to advance on his horse, screams began to arise from the leading group.
“What is it!”
A messenger ran up from the front. Because of a rope being stretched across the pathway, several soldiers were tripped up and tread on by those following them resulting in casualties.
“What foolishness! Don’t they watch what’s below their feet! Tell them to drop the speed of invasion!”
Falling from the horse to get buried beneath the horse’s feet, letting alone the disgrace, he would receive serious injuries and in worst case it wouldn’t be unlikely to be killed.
Having the wind taken out of their sails, as they slowly advanced into the city with a large number of people, the Vichy soldiers were dumbfounded when they saw the state of the town.
Even the commanding officer, who was late in entering, was overcome with surprise seeing the strange scene in front of him.
Continuing straight on the main street from the town’s gate, there should have been many flourishing stores when the town was filled with people.
It was almost as if telling them that there was only one road in front of them to take.
And, far down the road a single man in unusual clothing was standing about 500 meters ahead of the vanguard.
The man held a thin weapon you could consider to be a sword in his right hand. The man, standing in a relatively relaxed posture, slowly beckoned them.
“Gentlemen of the pursuit party, it’s nice of you to arrive here. It is unnecessary for you to introduce yourselves. Hurry up and come. Since you will be killed anyway.” (Hifumi)
Merely a single man recklessly provoking 300 soldiers, the commanding officer gave the order to advance as he laughed scornfully.
“There is only a single great utter fool! Kill him immediately and use it as chance for our country to counterattack! Go!”
The leading group set up their swords and broke into a run.
This was the beginning of the second massacre carried out at the town of Rhone. |
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} | フォカロルの領主館周辺は、前線から退避させられた民衆と、誘導の為にいる領兵や職員、さらに士隊と彼らが率いる援軍の兵たちでごった返していた。
職員たちが民衆へ食事を振舞ったり、具合が悪くなった者を救護したりと、次第にお祭りのような雰囲気へと変わっていく。
商魂たくましい者たちは、いつの間にか屋台を出しており、職員たちも出店場所だけ整理して、後は自由にさせているようだ。
「戦争中のはずだが、なんだこの状況は」
馬を進めて民衆をかき分け、ミダスたちはようやく混雑するエリアを抜けつつあった。
「戦場になっている門から民衆を遠ざけたようです」
職員から状況を聞いた若い騎士からの報告を聞いて、ミダスはため息をついた。
「民衆のことを慮ってなのか、単に邪魔だからか......」
かなり高確率で後者だろうとは思うが、口には出さずに急いで戦場へと馬を進める。
全員に直ぐに剣を抜けるようにと指示を出しつつも、違和感に眉を寄せる。
「おかしいな......」
「何がです?」
「戦闘中のはずなのに、妙に静かだと思わないか? むしろ領主館の方が騒々しい」
そういえば、と若い騎士は同意するが、とにかく現場へ向かおうと、人が少なくなった道で馬を進める。
やがて街の出入り口にある立派な鉄の門が見えてきたが、扉は大きく開かれていた。
「!......突破されたのか? しかし、敵は......?」
急いで近寄ってみると、門の外では領兵たちが談笑しながら敵の死体を片付けていた。和やかに語り合いながら、魔法や薙刀で刻まれた死体を集めて穴へ放り込み、油をかけてひと山ごとに焼いていた。
タンパク質が焼ける強烈な悪臭が漂い、ミダスは鼻を押さえるほどだったが、領兵たちは顔に布を巻いただけで平然としていた。
死体の山を前に、リラックスした様子の領兵たちを見てから、後ろについてきている第三騎士隊の面々を見るとに青ざめた顔をしており、中には堪えきれずに吐いている者もいた。
情けないとは思うが、もはや実践経験の差は王都の騎士や兵とフォカロルのトオノ領兵たちとでは覆し難い差があるようだ。
見回してみると、どこかで見た気がする一人の女性が兵達に指示を出しているのが見えた。
ミダスが馬を降りて、剣から手を離して近づくと、彼女も気づいたようだ。
「第三騎士隊のミダスだ。援軍として派遣されてきたのだが......」
「トオノ領で軍務関係の担当をしている文官奴隷のミュカレです。ようこそおいでくださいました」
にっこりと笑って応じたミュカレに、ミダスは彼女を含むの奴隷達を思い出した。王城で一二三に何やら色々と叩き込まれているところを見かけた事がある。
「状況を教えて欲しいのだが」
「ヴィシーの将は死に、敗残兵は今ごろ、軍務長官たちに追われて逃げておりますわ」
フォカロルは戦場ではなくなり、既に今回の戦いは敗残兵狩りを残すばかりなのだという。
「敵の将は?」
「さあ? 穴だらけだったと聞いていますし、今頃はどこかの穴の中で灰になっているでしょう」
ミダスは眉間を押さえて唸った。
一二三同様、彼らトオノ領兵や文官達にとって、敵が誰でどんな地位かなど関係が無いらしい。死んだから処理した、で全て終わりなのだ。
「ところで」
状況に頭を抱えるミダスに、ミュカレがにっこりと笑う。
「そろそろ終わった頃でしょうから、館へ向かわれた方がよろしいのでは?」
「終わったとは......何の事だ?」
「一二三様の悪趣味なお遊びが、ですわ」
一瞬思考が止まったミダスは、何も言わずに馬に飛び乗って領主館へ向かった。
手裏剣を構えたオリガは、痛む足を堪えて壁に背中を預けた。
「カーシャ、あなたを許さない......」
「落ち着きなよ! もう騎士隊が踏み込んでくるし、そうなったら一二三さんはもう......」
言いかけたところで、オリガが放っ手裏剣がカーシャの肩を裂いた。とっさに避けたため、傷は浅い。
「オリガ、なんで......」
「それ以上は許さない。騎士隊が来るならなおさら、私は一二三様の側に行かなくては」
次の手裏剣を構えるオリガに、カーシャは仕方ないと剣を掴み、鞘をつけたまま構えた。
「力づくでやるよ」
「やってみなさい。私は貴女のように弱い女じゃないこと、見せてあげる」
じりじりと距離を詰めてくるカーシャに、足が使えないオリガは壁に背をつけたままズルズルと横へ動くしかない。
カーシャはなるべく怪我をさせないようにと、打ち込む場所を迷っていた。
「杖も無い状態で、アタシに勝てるわけないよ」
「そうやって相手の能力を過小評価するのが、貴女の悪い癖だと何度も注意した事があるはずだけど?」
再び放たれた手裏剣は、カーシャの足を狙う。
カーシャは飛び退きつつ剣を振るって手裏剣の軌道を逸らし、逆に踏み込んで脇腹を打つ。
オリガは倒れるようにして受け流したつもりだったが身体が思うように動かず、完全には勢いを殺しきれなかった。
うつぶせに倒れ、荒い息をつくオリガに、カーシャは剣を下ろした。
「これでわかったよね。一緒に行こうよ......アタシはオリガと本気でやりあうなんて嫌だよ」
ゴロリとオリガは仰向けになって、右手をそっと、カーシャへ差し出してきた。
「よかった。それじゃ、これから一緒に......」
草を刈るような音がして、カーシャの脇腹を風の刃がえぐった。
コップを倒したような量の血が、床に落ちる。
「......は?」
目に映る自分の体の状況がよく飲み込めないまま、急激に血を失ったカーシャは膝をついた。
さらに、血がこぼれる。
「杖も無いのに、どうして......」
かすむ目でオリガを見ると、突き出された彼女のローブは腕まわりが裂けており、むき出しになった細い前腕には、皮のベルトで固定されたナイフがあった。
「一二三様の提案で、ホーラントの魔法使いを真似て作った隠しナイフよ。魔法使い相手に、詠唱の時間を与えたのは甘かったわね」
言い終わると、オリガもカーシャも床に倒れた。
一二三が部屋に踏み入った時点で、カーシャは虫の息だった。
とりあえず、と一二三に頭から魔法薬をどぼどぼとかけられたオリガが目覚めたとき、目の前に無傷の一二三がいることで、自分が死んだのかと勘違いした。
しかし、横を見るとカーシャが血だまりに倒れている。
「おう、目が覚めたが」
「ご、ご無事ですか!? ......そうでした、カーシャがこの館に騎士団を呼んだと......!」
飛び上がるように起きたオリガは、一二三にしがみついてまくしたてるが、簡単に引きはがされて床に転がった。
「落ち着け馬鹿たれ。襲ってきた騎士隊は全部始末した。今はドゥエルガルたちに片付けさせている」
良かった、と安心したオリガは、ぽろぽろと涙をこぼした。
オリガの嗚咽に、死の淵にいるカーシャはぼんやりとした意識のままつぶやいた。
「ひふみさん......あぁ、パジョーさんは......」
彼女は、自分にオリガとの仲直りの機会をくれたあの騎士は、失敗して死んだのだと悟ったカーシャは、もう何もかもがどうでも良くなっていた。
「カーシャ、今からでも一二三様に謝罪しなさい。まだ間に合うから......」
オリガは一二三とカーシャを交互に見て、以前のような優しい声で言ってくれた。そのことが、カーシャにはたまらなく悲しくなった。
「オリガ、ごめんね......。一二三さんも、ごめんね......。アタシは、馬鹿だったなぁ......」
「一二三様、彼女も反省しているので......」
いざカーシャの死にゆく姿を見てしまうと、オリガも動揺を隠せない。
だが、一二三は黙ってカーシャを見ている。
「もう......何も、かも、変わっていたんだよ、ね......アタシは気付けなかっただけで、パジョーさんも認められなかっただけで......」
カーシャは一二三を見て、苦しげに笑う。
「一二三さん、奴隷だったアタシたちを助けてくれて、ありがとう......。よかったら、このまま、死なせてほしい......馬鹿なアタシには、勿体ないくらい、恵まれた死に様だと、思うから......」
一二三は無表情で頷く。
「ありがとう......」
「カーシャ!」
そっと閉じられたカーシャの瞼は、もう開かなかった。
苦しげに一度だけ胸が上下してから、呼吸が止まる。
「ほんとうに、ばかなんだから......」
親友の横に座り込み、強がっても止められない涙を落とした。
一二三は、腰に手を当てて息を吐いた。
その脳裏には、多少の憐憫はあるが悔恨は無い。多くを占めるのは、憤怒だった。
人込みをかき分け、館に到着したミダスを出迎えたのは、無傷のまま、憤怒の表情を浮かべる一二三と、それ以上に怒りを燃やすオリガだった。
一人、執務室へ通されたミダスは、状況が最悪の結果を迎えている事を悟っていた。この後の自分の運命を思うと、足が重くなる。
「......で?」
一二三は、目の前で視線を合わせることもできずに立ち尽くすミダスに、短く声をかけた。
「え、援軍が間に合わず、お役にたてなくて申し訳ない......」
「あくまで私たちを助けるためにここまで来たと、そうおっしゃられるわけですね?」
「む、無論だ」
オリガの方にも目を向けることができない。
「援軍は、剣を抜いたまま執務室に踏み込んでくるのがこの国の常識なのか?」
「知人を使って内情を探らせるのも、騎士隊の、いえ、王城の常識ですか?」
「うぐ......」
「それに、おかしいんだよなぁ。イメラリアはヴィシーが結構な戦力を用意して国境へ攻めてくるのはわかっていたはず。というより、そう仕向けていたんだから、援軍を送るならもっと早くできたはずだけどな?」
「いや、そんなはずは......。事実、侯爵家次男のデボルド様を和平の使者としてヴィシーへ派遣されました」
「そうか。この世界の和平の使者というのは、こんな挑発文を送るものなのか」
投げわたされた書簡は、一二三がデボルドの懐から抜いたものだ。
「これは......!」
イメラリアの署名が入ったそれは、ヴィシーへ無理難題を突き付けた、どう好意的に解釈しても敵意しか見えない内容だった。
「さて、今回の件はミダスからしっかりとイメラリアに伝えてくれよ。俺がいくら優しいといっても限度がある、と」
どこが優しいのかと思ったのが顔に出たのか、オリガがぞっとするほど冷たい視線をミダスに向けてきた。
「本当なら、今すぐ貴方と王女の首を貰うところです。一二三様の寛大な処置に感謝するべきではありませんか」
「も、申し訳ない......」
頭を下げながら、今のオリガの言葉に「おや?」とミダスは疑問を持った。今の言い方だと、自分も王女も助かるように聞こえる。
「手ごたえがなさすぎるんだよなぁ......」
「は?」
「パジョーですら少し工夫をした程度だったし、ヴィシーの兵も馬鹿正直に正面から突っ込んできて、こっちの予測からちっとも外れない。オリガはよくやったようだが、カーシャは教えたことが全然できていなかった」
急に何を言い出したのか、ミダスはついていけない。
「俺の世界は、俺の国は、長い長い戦い歴史の中で、鎧を着た相手や馬に乗った相手、離れた相手や素早い相手を、いかに効率よく殺すか、多くの研鑽を重ねて技術を作り上げていった。その結果、様々な武術や武器が現れては消え、文字通り生き残りをかけて戦ってきたんだ」
まあ、最近はそんなことはすっかり忘れ去られてしまったけれど、愚痴を挟む。
「ところが、こっちへ来てから相対する相手が手ぬるい奴ばかりだ。この国だけかと思ったが、他の国もどうやら変わらないらしい。冒険者をやって為政者をやって、ずっと考えていたが、ようやく結論が出た」
「け、結論とは......」
ミダスは、何か途轍もない事を聞かされるのではないかと、すぐにここから逃げ出したい気持ちに突き動かされそうになったが、一二三が何を語るのか、ミダスが王女へ伝えなければならない。
「この世界には戦いが足りない。人と人が、命を削って戦う必死さが足りない。だから、俺が動くことにした」
「いったい、何をするつもりですか......」
聞きたくはないが、聞かなければならない。
そして案の定、ミダスは聞いたことを後悔した。
「世界を回って、この世の中の人間が自覚するように、目覚めるように戦いのやり方を広めてくる。なぁに、何千人か鍛えて世界中に散らばったら、自然とそうなるんじゃないか?」
「つまり、鍛え上げた人間を育てて、世界中で戦わせるという事ですか?」
「素晴らしいお考えです。もちろん私もお手伝いさせていただきます」
オリガが当然のように言うのに、これは何を言ってもついてくるだろうと一二三は諦めていた。
「あ、領地はそのまま使うから。たまに帰ってくるし、いろいろ実験する場所も欲しいしな」
“将来オーソングランデにダメージを与えるかもしれない人間”を育てる人間の領地を抱えることになるというのだ。正気の沙汰ではない。
(しかし、これを断ることはできない......)
おそらくイメラリアも断れないだろう。これで二度、彼女は命を救われたことになる。不利な証拠も握られている。
楽しみだな、と笑う一二三に、ミダスは胃の痛みが強くなるのを必死で堪えていた。 | The vicinity of the Fokalore’s Lord’s mansion was crowded with the populace taking refuge from the front lines, the territorial soldiers, and staff members guiding them on top of the Third Knight Unit who lead the soldiers of the reinforcements.
The staff distributed meals to the populace and aided those with deteriorating health. Gradually the mood changed into it being something along the lines of a festival.
Those with a strong business sense erected stalls before anyone noticed. The staff members only arranged the locations of the food stalls and let them freely do business afterwards.
“This ought to be a time of war, but what’s with this situation?” (Midas)
Advancing on his horse while pushing his way through the masses, Midas’ group finally left the jammed area.
“The populace seems to have been kept away from the gate where the battle occurred.” (Young knight)
Listening to the report from a young knight who had heard the current state of affairs from the staff members, Midas breathed a sigh.
“Did they carefully consider the circumstances of the populace? Or is it because they would simply become a nuisance ... ?” (Midas)
, he assessed, but didn’t voice out this thought as he had to hurry going forward on his horse towards the battlefield.
While also issuing instructions to all members to draw their swords, he scowled feeling a sense of discomfort.
“That’s odd...” (Midas)
“What is?” (Young knight)
“Don’t you think it’s strangely silent although they should be in combat? Rather, the noise coming from the direction of the Lord’s mansion is a lot more boisterous.” (Midas)
“Now that you mention it.” the young knight agreed to Midas’ remark. As they headed towards the actual scene, the horses advanced on the road that had at least a lesser amount of people travelling it.
Before long they could see an imposing iron gate at the exit of the city, but the door was widely opened.
“! ... Did they break through? However, the enemies are ...” (Young knight)
As they were calmly talking with each other, they chopped up the corpses with magic and halberds, gathered them and tossed them into a hole. Drenching them in oil, each pile was burned.
Although the intense stench of the burning proteins was to such a degree that Midas had to pinch his nose, the territorial soldiers did it calmly having nothing but a cloth wrapped around the lower part of their faces.
Because they observed the relaxed state of the territorial soldiers in front of the mountain of dead bodies, all of the Third Knight Unit following from behind looked at them. All of them uniformly turned blue and some amongst them, not being able to bear the sight, even broke down vomiting.
Midas considered it to be pathetic, but it appears that the soldiers and knights from the capital can’t overturn the difference in actual combat experience of the Touno territorial soldiers anymore.
When surveying the area, Midas saw a single women, he felt having seen somewhere before, issuing orders to the soldiers.
As Midas dismounted from his horse and withdrew his hand from his sword, she apparently noticed him as well.
“I am Midas of the Third Knight Unit. We were dispatched as reinforcements, but ...” (Midas)
“I am the civil official slave called Miyukare in charge of matters related to military affairs of the Touno territory. Welcome, I am glad that you have come to assist us.” (Miyukare)
As Miyukare responded with a bright smile, Midas recalled her to be included in Hifumi’s group of civil official slaves.
“I’d like you to inform me about the state of affairs.” (Midas)
“The Vichy general is dead. Right about now the remnants of the defeated army are fleeing from the chasing group led by the director of military affairs.” (Miyukare)
The battle at Fokalore has ended. All that was now left was simply hunting the remnants of the Vichy army.
“Where’s the enemy’s general?” (Midas)
“Who knows? I heard he was in some hole. About now he should have been cremated within one of them.” (Miyukare)
Midas groaned while curbing the area between his eyebrows.
Just like Hifumi, it seems that they, the Touno territorial soldiers and the civil official slaves, don’t care about who and what rank the enemy has in the least.
“By the way.” (Miyukare)
Miyukare smiled brightly at Midas who was greatly troubled with the situation.
“Since it’s about time to finish soon, shouldn’t you rather head towards the mansion?” (Miyukare)
“Finish soon? ... What matter is?” (Midas)
“Hifumi-sama’s disgusting play, that is.” (Miyukare)
Midas’ thoughts froze for an instant. Without saying anything in return, he jumped on top of his horse and rushed towards the Lord’s mansion.
Preparing the shuriken, Origa entrusted her back to the wall enduring the pain in her foot.
“Kasha, I won’t forgive you ...” (Origa)
“Calm down! The Knight Unit has already broken into the mansion. Now that this has happened, Hifumi is already ...” (Kasha)
Just as she started to talk, Origa threw her four-sided shuriken tearing Kasha’s shoulder.
“Origa, why ... ?” (Kasha)
“I won’t bear it anymore. All the more if a Knight Unit had come, I must got to Hifumi-sama’s side.” (Origa)
As Origa prepared the next shuriken, Kasha, giving up, grasped the sword’s grip, withdrew it from its scabbard and took her stance.
“I will suppress you with sheer strength.” (Kasha)
“Give your best trying to do so. I will show you that I am not such a weak woman as you are.” (Origa)
Kasha closed the distance bit-by-bit. Origa, having her back against the wall as she couldn’t use her foot, had no other choice but move horizontally along the wall by slithering.
Taking care to not cause injuries as much as possible, Kasha wavered which spot she should attack.
“Without even having your wand, there is no way for you to defeat me.” (Kasha)
“Underestimating the abilities of your opponent like that is a bad habit of yours. Shouldn’t I have warned you many times to not do so?” (Origa)
Firing off the second shuriken, she aimed at Kasha’s feet.
Kasha jumped to the side while wielding the sword in order to avert the trajectory of the shuriken. In reverse she charged and hit Origa’s flank.
“Kuu ...” (Origa)
Origa had planned to elude the attack by falling down but her body didn’t move as she thought it would. She wasn’t able to kill the force completely.
She collapsed lying upside-down and as Origa was breathing roughly, Kasha lowered her sword.
“With this you understand, right? Let’s go together ... I don’t want to do such detestable thing like seriously fighting with Origa.” (Kasha)
Origa heavily rotated turning her position facing upwards and silently held out her right hand towards Kasha.
“I am glad. Well then, after this, together ...” (Kasha)
A sound like grass being cut reverberated. Kasha’s flank has been gouged open by a wind blade.
An amount of blood, which would overrun a glass, dropped on the floor.
“... Ha?” (Kasha)
Because she doesn’t quite understand the visible condition of her own body, Kasha falls to her knees due to the sudden blood loss.
Spilling even more blood this way.
“Although you don’t even have your wand, why ...?” (Kasha)
Looking at Origa with hazy eyes, she saw that the area of the robe around her arms was torn. Around the naked slender forearm leather belt with a fixed knife was coiled.
“Following Hifumi’s suggestion, I prepared a hidden knife copying the magicians of Horant. Giving your magician opponent the time to cast a spell was naive.” (Origa)
As they finished talking, both, Origa and Kasha, had collapsed on the floor.
At the point in time Hifumi stepped into the room entering it, Kasha was at death’s door.
with this Hifumi poured a magic potion, with the bottle making a *glug glug* sound, on Origa in order to wake her up. Seeing the unhurt Hifumi in front of her eyes, she misunderstood herself to have died.
But, once she looked closely, she could see Kasha lying in a pool of blood.
“Ou, you finally woke up.” (Hifumi)
“I-I am glad you are healthy?! ... Ah right, Kasha has called a Knight Unit to this mansion ... !” (Origa)
Getting up as if she were a spring, Origa kept on talking while clinging to Hifumi. But Hifumi quickly tore her off causing her to fall on the floor.
“Calm down, moron. I got rid of the entire attacking Knight Unit. Currently Doelgar’s group is cleaning up the mess.” (Hifumi)
With a “That’s great” Origa was relieved spilling large drops of tears.
As Origa was sobbing, Kasha, slipping into the abyss of death, murmured with her consciousness being vacant,
“Hifumi-san ... Ah, Pajou-san has ...” (Kasha)
That knight had given her and Origa a chance to reconcile. Realising that she had failed and died, Kasha didn’t give a damn about everything and anything anymore.
“Kasha, apologise to Hifumi now. It isn’t too late yet ...” (Origa)
Looking at Hifumi and Kasha alternately, Origa said so in her former gentle voice.
“Origa, sorry ... Hifumi-san too, I am sorry ... I have been a fool ...” (Kasha)
“Hifumi-sama, since she is also repenting ...” (Origa)
Watching Kasha heading towards her death now, Origa couldn’t even hide her trembling.
But Hifumi watched Kasha without saying a single word.
“By now ... everything and anything has changed, hey ... not only I didn’t notice that, I wasn’t even approved by Pajou-san either ...” (Kasha)
Looking at Hifumi, Kasha laughed bitterly.
“Hifumi-san, thank you for saving us when we were slaves ... If you are fine with it, I want you to let me pass on as is ... I think this manner of death is a blessing, to the extent that it is more than a fool like me deserves ...” (Kasha)
Hifumi nodded expressionlessly.
“Thank you ...” (Kasha)
“Kasha!” (Origa)
Kasha slowly closed her eyelids to never open them again.
Painfully raising her breast up and down only once, her breathing ceased.
“Really, you have been such a fool ...” (Origa)
Sitting down at the side of her close friend, she shed tears as she also stopped to pretend being tough.
Hifumi took a breath and placed his hands on his waist.magic
In his mind he hosted a little bit of compassion but no regret.
Pushing his way through the crowd, Midas finally arrived at the mansion. He was greeted by an unhurt Hifumi, donning an expression of anger and Origa, being even more angry burning with fury.
Being guided to the office by himself, Midas discerned that the situation had turned out in the worst possible way.
“... So?” (Hifumi)
As Midas stood stock still without being able to look at Hifumi in front of his eyes, a short inquiry was thrown at him.
“T-The reinforcements weren’t in time. It’s inexcusable that we weren’t able to fulfill the role given to us ...” (Midas)
“To the very end you insist that you came up until here to assist us? Is that what you are saying?” (Origa)
“O-Of course” (Midas)
He couldn’t even shift his gaze towards Origa.
“Is it common for the reinforcements to storm the Lord’s office with drawn swords in this country?” (Hifumi)
“Is it common for a Knight Unit, no, the royal castle to even use a friend to spy on the internal affairs?” (Hifumi)
“Besides, it’s strange, isn’t it? Imeraria should have known that Vichy would attack the national border having prepared a sufficient war potential. Or rather, since she has induced this, shouldn’t she have sent reinforcements a lot earlier?” (Hifumi)
“No, such expectations ... In reality the second son of a Marquis household, Debold-sama, had been dispatched as envoy of peace to Vichy.” (Midas)
“Is that so? That means an envoy of peace delivers such a provocative letter in this world?” (Hifumi)
The letter that was thrown at Midas was the on Hifumi had taken out from Debold’s breast pocket.
“This is ... !” (Midas)
It had Imeraria’s signature. Thrusting unreasonable demands at Vichy, no matter how you looked at it, the contents couldn’t be called anything but hostile.
“Well then, I want you to properly convey to Imeraria that she has overstepped her bounds this time. Now matter how kind I may be, even I have my limits.” (Hifumi)
Were his thought reflected on his face? Origa pointed an icy gaze at Midas to the degree of making him shiver.
“It came to a point where it would be proper for me to receive yours and the princess’ heads. Shouldn’t you be grateful for the generous treatment of Hifumi-sama?” (Origa)
“I-I am very sorry ...” (Midas)
While bowing his head in apology, Midas raised an 「Oya?」 having a question towards Origa’s just spoken words.
“There was far too little resistance, I guess ...” (Hifumi)
“Ha?” (Midas)
“The degree of the scheme was too little, even for Pajou. Also, the soldiers of Vichy attacking straight from the front like idiots, didn’t divert from our predictions in the least. Although Origa seems to be able handling it well, Kasha wasn’t able to implement what she had been taught at all.” (Hifumi)
Midas suddenly couldn’t follow what Hifumi was talking about.
“Due to the long, long history of wars in my country and world, there are many substantial studies repeatedly refining the art of efficiently killing your enemies, such as those heavily armored, those riding a horse, those being separated from their allies and those being swift, no matter the circumstances. As a result of that, many created military strategies and weapons vanished, making it literally a struggle to survive for those.” (Hifumi)
Maa, though I ended up completely forgetting those things recently
“However, after coming here, the opponents I faced were only luke-warm opponents at best. I first thought that it was only this country, but it seems the other countries aren’t any different in that regard either. As I worked as adventurer and statesman, I always pondered about it and at last I reached a conclusion.” (Hifumi)
“Th-The conclusion is ...” (Midas)
As Midas feared he would hear something absurd and his desire to escape from this place right away was almost stirred up, he resisted those up-welling feelings as he had to convey what Hifumi was going to say to the princess.
“There isn’t enough fighting in this world. There isn’t enough desperation to stake their life on fighting between people. Therefore I decided to make my move.” (Hifumi)
“What the hell are you planning to do ...?” (Midas)
Although he didn’t want to hear it, he couldn’t help but listen to it.
And just as he thought, Midas regretted hearing about it.
“I will spread the methods of fighting in order for the human society to become self-aware and come to their senses all around the world. Oh well, if I drill thousands of people scattered throughout the world in the ways of war, my intent will naturally come true, don’t you think?” (Hifumi)
“In other words, you will raise well-trained people to pit them against each other all around the world? Is that what you are saying?”
“It’s a magnificent idea. Of course I will also do my very best to help you.” (Origa)
Even though Origa said this as if it was natural, Hifumi gave up while thinking
“Ah! I will use this territory as is. Once in a while I will return here. I want a place where I can run various experiments as well.” (Hifumi)
As result the people brought up in this territory will become ‘people who might cause damage to Orsongrande in the future’.
(However, there is no way to decline this ...) (Midas)
Most likely even Imeraria won’t be able to refuse.
As Hifumi laughed joyfully, Midas frantically endured strong stomach pains. |
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} | 三は派手な動きや技を好まない。
必要があれば大きな動きもするし、大上段から打ち込むような真似をするが、あくまで人を殺す為ならば、急所を一ヶ所、必要な分だけ傷つければ良いのだと考えている。痛覚を刺激したり関節技をかけたりと、相手を“崩す”動きと止めの動きで、効率よく殺すことができる事を、前の世界では実践の機会は無かったものの、学び、身体に覚え込ませてきた。
いかに“無駄なく殺せたか”が重要であり、誰かに見せる為とか、見栄えが良いからとかで技を選ぶことはない。
しかし、そうやって磨き上げた技は、危険な香りを放ちながらも魅入らせるに充分な美しさを持っていた。
「すごい......」
初めての動きを目にしたオリガは、今までの冒険者生活でも見たことがない技の数々にすっかり見惚れてしまっていた。
「確かにすごいけど、これは......」
対してカーシャの方は、近接戦闘をこなしてきた剣士職なだけあって、一技が効率よく人間を殺すためのものだと気づいてしまった。
「ご主人、アンタ何者なのよ......」
カーシャがこれだけ一二三の技に違和感を感じるのは理由がある。
この世界には、あちこちで戦争や犯罪がらみの殺し合いがあちこちにあるが、それよりも魔物との戦いの方が身近だ。
魔法による攻撃や補助もあり、この世界の武器での戦いは、いかに強い打撃・斬撃を叩き込むかという点に集中している。やたらと重いメイスやロングソード、切れ味より頑丈さを求めて作成された武器がほとんどで、城内の騎士が装備していた槍のように、対人を前提とした武器の方が少ない。
弓もあるが、主に狩猟のために使用されており、戦争で最初に一、二度斉射されて終わりだ。
生き物を殺すためには身体を鍛え、力を付けて、武器は重く、固くする事が基本であり、“効率よく命を奪う技術”としての武術は、この世界には生まれていない。
そういう世界において、一二三の技はどこまでも異質だ。
(アタシたちは、とんでもなく危険な男に買われたみたいだね......)
正直に言って、身長170cm程度の一二三は、この世界の特に戦闘職の男性としては小柄な部類に入る。筋骨隆々というわけでもないので、カーシャは自分の主人の戦闘力に関しては半信半疑だった。城での出来事もかなり誇張されたものだと思っていた。
だが、目の前で行われている殺戮を目にして、初めて気づかされてしまったのだ。自分を買った男の話は決して誇張ではない。奴隷に対して同じ席で同じレベルの食事を振舞う、気安い男と見ていたが、見た目ではわからない怖さを秘めた男だったと。
怖いが、目が離せない。冒険者時代に様々な男が戦う姿を見てきたが、一二三のような怖さを感じる男は初めてだった。
(これは、気を引き締めていないと危ないね。抜き身の刃が隣をついてまわるような気分だよ......)
思いながら、カーシャの瞳に映るのは、恐怖だけではなかった。危ないと思いつつも、強い人物への尊敬の気持ちもあった。
残っの敵の内二人が懐から取り出した小型のナイフを投擲する。
タイミングを合わせて残りの二人が突っ込んできた。
「ほっ」
一二三が息を吐きながら突っ込んできた一人の胸に左手を当てると、身を低くしていた男の体がすぅっと直立させられ、背中に二本のナイフが刺さる。一度痙攣した男は、力なく崩れた。
迫るもう一人の脇をすり抜けた一二三は、猛然とナイフを投げた二人に向かって走る。
突然迫り来る一二三に、男たちは素早くナイフを構えたが、相手が悪かった。
すべり込ませるように振るわれた刀が、一人の喉を刎ね斬り、そのままもう一人の頚動脈を引き斬った。
刀を手元へ引き戻しつつ、跳ね返ってくる鞠のように先ほど無視した相手に迫り、音もさせずにその首の中央に切っ先を差し込む。
相手の手元から溢れたナイフを掴み、肘から先のスナップで投擲。恐ろしい速さで飛んだナイフは、物陰に隠れて見ていた10人目の眼球から後頭部まで届くほどに深々と刺さった。
「やっぱり10人いたな」
接敵から数十秒、相手は全て死んだ。
「ふぅ......中々楽しめた。感謝する」
「ああ、しまったな」
返り血が道着に付いていない事を確認し、刀を納めた一二三が頭をかきながら呟いた。
「全員殺してしまった。これじゃ、誰の差金かわからないな」
「この件については騎士団で調べさせてもらえないだろうか。私たちとしても、この連中の正体は気になる」
ミダスの提案に、一二三は表情を消した。
「そうして、念入りに騎士団とのつながりを示す証拠を消す......か?」
「ま、待ってくれ! 本当にこんな連中は私たちの騎士隊には存在しない! 勇者殿に手を出す危険を私たちはよく知っているつもりだ!」
不意に向けられた威圧に、ミダスは思わず取り乱した。
「ふ......まあいいさ。どうせ俺には調べようもない。好きにすればいい」
「か、感謝する」
応援を待つというミダスを置いて、一二三たちは再び商店エリアへ戻ってきた。
(俺の監視はいいのか? まあ、俺が気にすることじゃないか)
「さて、楽しいイベントが終わったところで、予定していた買い物に行こうか」
「ね、ねえ」
歩き出そうとしたところで、カーシャが声をかけてきた。
「なんだ?」
「さっきのご主人の戦い方だけど、あんなの初めて見たよ。一体どこで習ったの?」
「あー......あれな。俺の故郷だと、ああいう戦い方は珍しくないんだよ。俺自身もそうだけど、俺が生まれ育った国の人間は、体格に恵まれた奴は多くないんだ。そのくせ、一時期は国をいくつにも分けて戦を続けてた。そういう環境からだな。力の差を技で克服したり、鎧を着た相手でも効率よく殺したりな」
「力の差を技で......」
何か思うところがあるのか、オリガの方が反応する。
「あと、戦場では敵を討ち取った印として首を刈り取る風習があったからな。相手のバランスを崩して押さえ込む技も色々あるぞ」
「く、首を?」
カーシャもオリガも、恐ろしい部族のイメージが浮かんでいるようだが、一二三は特に訂正しない。
「そうだ。敵兵や大将首を腰に提げて持ち帰ってな。それで武功を示すんだ」
まあ、大昔の戦の話だけどな、とついでのように付け加えて歩き出した一二三の後ろを、二人の奴隷は顔を青くしてついていった。
たどり着いた武具店は、食事をした店の近くだった。コンビニエンスストア位の店の中に、武器や鎧が所狭しと並べられている。
さらに奥があり、工房がついているようだが、衝立があって見えないようになっている。
「ここなら、大体の武器は揃うよ。鎧もね。専門外だけど、魔法使い用の装備もあるし」
お買い物ができる高揚感からか、カーシャのテンションが少し高い。こういう女性らしさもあるんだな、と一二三は思ったが、ここは武器の店だ。本人はさておき、周りの景色は可愛らしさとは無縁だった。
店の奥、衝立の横に髭面で背の低い親爺が、不機嫌そうな顔で座っていた。
「お前たちか」
親爺はむっつりした表情のまま、カーシャとオリガを見た。
「しばらく見ないと思ったら、いつの間に奴隷になんぞなっとったんだ」
貫頭衣の肩口から見える刺青を見て、親爺はため息混じりに言う。
「ああ、色々あってね。今はこの人がご主人だよ。ご主人、彼がこの店の主、ドワーフ族のトルンだよ」
カーシャに紹介され、親爺は睨むような目線を一二三に向けた。
(おおっ、こいつはいわゆるドワーフか? 本物は初めて見た!)
初めてのファンタジー種族に、一二三も興奮する。
そこで、ふと疑問が浮かんだ。
「あれ? 人間と亜人族は敵対しているんじゃなかったか?」
「ふん、何も知らん小童が。人間族とやりあっとるのは魔人族と獣人族の連中だ。わしらドワーフは世界中に散らばって腕を磨いておるし、エルフの連中はそもそも自分たちのテリトリーから出て来ん」
「そうか。なんか複雑なんだな」
相変わらず睨みつけてくるトルンだが、元々そういう顔つきなのかもしれない。
「まあ、武器を使わん魔人族どもはともかく、獣人族も人間族も、わしらドワーフにしてみれば金づるでしかないがな」
商魂たくましい種族でもあるらしい。
「どういう武器がいいかなんて自分でわかるだろう。金額は気にしなくていいから、好きに選んでくれ」
武器を買うならさっさと選べとトルンに言われ、一二三はオリガたちに太っ腹な事を言う。実際、金は山ほど残っている。
「よろしいのですか? 普通は奴隷に武装はさせませんし、あっても安物を渡しておく程度なのですが」
オリガは一瞬喜びを顔に浮かべたあと、不安そうに尋ねてきた。
「武装をしないと戦えないだろう? 金額はどうでもいいが、使いやすい物や質がいい物をしっかり使い込んでいく方がいい。それに、戦闘中に武器が壊れる可能性は極力避けるべきだ」
主人たる一二三の言葉に、カーシャも隣でうんうんとうなづいた。
「ご主人が言うとおりだ。流石によくわかっているね。じゃあ、遠慮なく選ばせてもらうよ。さあ、オリガ。アンタは杖を選びなよ。魔法が使えないんじゃ、戦えないだろう?」
カーシャの言葉が、一二三に引っかかる。
(杖がないと魔法が使えない? それがこの世界の常識なのか? 俺は普通に闇の魔法を使っているが......)
ただ、屋台の店主や奴隷屋の門番は闇から出した事には反応がなかったはずだ。ひょっとするとオリガの特性かもしれないが、それだと、いかにも魔法使いが使うような形の、水晶や宝石のようなものが組み込まれた杖が何本も展示されている理由がわからない。
(まだまだ、この世界について確かめないといけないことがあるな)
改めて、自分が異世界に飛ばされてきた事を実感しながら、一二三も商品を見て回った。
「これなんか、オリガに似合うんじゃない?」
「カーシャは手足が長いから、このくらいでも着こなせると思う」
どうも、武具店というより服屋で買い物をしているような会話が聞こえるが、そんなもんだろうと一二三は放っておくことにした。
なんとなく、女性の買い物に巻き込まれたら面倒な気がしたのだ。
「それにしても、ナイフ・片手剣・両手剣・斧・メイスの5種類しかないな。防具も革か金属の違いだけで、全身ガッチガチに固めるパーツばっかりだな」
一二三のボヤキに、トルンが反応する。
「何を言っとるんだお前は。しっかり防御を固めないと危ないだろうが。それに、ここに無い武器は槍くらいだ。あんなのは騎士くらいしか使わん」
どうやら、軽装で身軽にするには金属ではなくて革にする位の選択肢のみで、武器に関しては本当に他に種類が存在しないらしい。
「例えば、オーダーメイドは頼めるか? いくつか作って欲しいものがあるんだが」
最初は言葉で伝えようとしたものの、中々理解してもらえないので、最終的には羊皮紙とインク壺を用意させて、いくつかの図面を書くハメになった。
「これとこれは武器だから、この部分はちゃんと鉄を鍛えて頑丈に作ってくれよ。あとこれはここがこういうふうに動くものだから、固定しないように......」
「これが武器だと? 初めて見るが、どういう使い方をするんだ?」
「あー......。言葉で説明するのは難しいから、作ってくれたら、実演してやるよ」
しきりに首を捻っているトルンに注意点をいくつか伝えると、一二三は金貨を20枚ほど渡した。
「前金だ。残りはモノができたら渡す」
「まあ、金がもらえるなら作ろう。そうだな......三日くれ。それで一通りは作っておこう」
さすがドワーフ、驚異的な作業スピードだと一二三は満足だった。
さて次へ行こうとオリガたちに目を向けると、どうやら一通り選び終わったらしい。
「決まったか?」
「ああ、結構いい金額になりそうだけど、大丈夫かい?」
申し訳なさそうに商品を抱える二人に、一二三は朗らかに笑った。
「城から分捕った金がまだまだあるから大丈夫だ」
「......ほんとに大丈夫かい?」
違う意味で不安になったカーシャだが、背に腹は変えられないと、一二三に金属鎧と直剣をふた振り頼んだ。鎧下に着るシンプルな服もある。
オリガが選んだのは、小柄な身体をすっぽり包むようなローブと、瞳と同じ翠色の石が先端に取り付けられた木製の杖だった。
しめて金貨22枚。半分は魔法杖の金額だ。
「申し訳ありません......」
負担をかけたと、しきりに恐縮するオリガに、気にするなと適当な言葉をかけて支払いを済ませた。
「ご主人は何か買わないのかい? その変わった服は魔物の革でも無い普通の布だろう? せめて革鎧でも身につけないと危ないよ」
「おや、心配してくれるのか?」
「な、何を言ってんだよご主人......」
茶化すように一二三が言うと、カーシャは顔を赤らめてうつむいてしまった。どうやらこういう会話を軽く流せるほどの経験は無いらしい。
顔もスタイルもいいし、冒険者稼業は男社会だったろうに、随分純粋なもんだと妙な関心をしてしまう。
「重りになるから鎧はいらん。武器はこれがある」
腰にさした刀をに触れる。
「ただ、武器に関しては俺もちょっとうるさいからな。いくつかオーダーしておいた」
「! それは、ご主人様の世界の武器ですか?」
またオリガが食いついてきた。
「興味があるのか?」
「はい。ご主人様は先ほど、力が無い者でも戦う術があるとお話されました。できれば、その技術を教えていただきたいのです」
オリガはまっすぐ一二三を見つめて頼み込んできた。
「そうか」
長年日本の武道のみならず、海外の武術もかじって腕を磨いてきた一二三は、その技術を教わりたいと言われて嬉しくなってしまった。
「あ、アタシも習いたい!」
カーシャも慌てて参加を表明し、すっかり一二三は上機嫌だ。
「よしよし、それなら一度お前たちの実力を見せてもらおう。それから指導をしてやるよ。オリガは魔法使いなんだろう? 近接戦闘もやるのか?」
「私は、今はまだ魔法でしか戦う事ができません。でも、どんな状況でも戦えるようにならないと、後悔すると知ったのです......」
「オリガ......」
どうやら、奴隷に堕ちた理由につながりそうだと一二三は思ったが、触れないことにした。そんなもの、知ったところでどうなるという考えしか浮かばない。
「決まりだな。俺の指導は厳しいからな、覚悟しろよ」
「はい、よろしくお願いいたします」
「ご主人、少し......いや、かなり手加減をお願いしたいんだけどね」
すっかり気分が良くなった一二三に、買ったばかりの装備を着込んだオリガとカーシャがついて行く。
意気揚々と店を出ると、陽が落ちかけていた。
一二三も他の二人も、買い物に浮かれて結構な時間を過ごしてしまったらしい。
「......とりあえずは、宿だな」
「......そうですね」
一二三の指導は、明日からということになった。 | Hifumi did not like flashy movements and skills.
Large movements are done if necessary, as a pretence of high-handedness, but ultimately, to kill a person aiming at the vital spots is just as important. Stimulating the sense of pain by using a kansetsu waza (joint locking technique in judo) and ‘destroying’ the opponent in a move, killing can be done efficiently. Though there were no opportunities to use them in the other world, those points on the body had been memorised.
Though ‘Killing efficiently’ is very important, showing it to someone is unnecessary.
However, polishing the technique like this had an entrancing allure about it, even though it gave off a dangerous feel.
「 Wow... 」
Origa, who saw Hifumi’s technique for the first time, even though an adventurer, had never seen such an admirable skill.
「 Certainly amazing, but this..... 」
Kasha, breaking down and digesting the battle, as expected of a swordswoman, noticed Hifumi’s techniques designed to kill efficiently.
「 Master, just what kind of person are you.... 」
There is a reason that Kasha feels a sense of incongruity in Hifumi’s skill.
In this world, there are crime and war-related killings everywhere, but fighting with a demon is more familiar. There are various types of demons, their vital points similar to animals , blows and slashes do not have much effect.
There are attacks assisted by magic, fighting with the weapons of this world places emphasis on the point of contact(of the weapon) to drive in a strong shock or slash. As a result, maces or longswords are all made heavy and sharp, and weapons like the short spears equipped by the Knights of the castle are fewer.
Though bows exist as well, they are mainly used to hunt, and fire the first few volleys of arrows in an infantry battle, after which they are not used.
To kill a living thing here, forge the body, acquire power and use heavy weapons, strengthen the basic foundations. ‘Killing efficiently’ techniques never evolved in this world.
In such a world, Hifumi’s techniques are alien, unknown.
We seem to have been bought by an unexpectedly dangerous man.
To be frank, Hifumi had a height of about cm, small for a male to be employed in combat in this world. Because of his not being muscular, Kasha was half in doubt about her master’s fighting power. Events in the castle were thought to be considerably exaggerated.
However, seeing the slaughter carried out in front of their eyes, it seemed that the story of the man who bought them was not an exaggeration at all. Sitting with slaves, and having meals at the same level, this relaxed man seemed to be truly terrifying inside.
Though Kasha had fought many men in her adventurer years, this scary Hifumi was something else entirely. Though scary, she had to keep an eye on him.
This, dangerous and focused feeling from the sword...
While thinking such, fear was reflected in Kasha’s pupils. Though there was a feeling of respect for a strong person as well.
Two people of the four remaining enemies throw small knives.
Matching their timing, the other two thrust forward.
「 Hoh... 」
Exhaling, Hifumi thrust his left hand forward, hitting one man’s torso and bringing him down, while doing so, the two knives struck his back. Convulsing once, the fellow collapsed powerlessly.
Slipping under the other approaching attacker, Hifumi savagely threw knives at the remaining two attackers.
Towards the abruptly approaching Hifumi, the men blocked with their own knives, but they were just too unlucky.
As though gliding, the katana cut lopped off the first person’s head, continuing on, sliced through the second person’s carotid artery.
Moving the katana back, approaching the previously disregarded opponent, the katana point soundlessly pierced through the centre of the torso.
Snatching the knife from the dead opponent’s hand, Hifumi threw it with a quick snap of his elbow. The knife flew a frightening speed striking the hiding and watching th man, entering his eye and exiting from the back of his head.
「 I knew there were people. 」
Mere seconds after encountering Hifumi, they were all dead.
「 Fuu... That was truly enjoyable. My thanks. 」
「 Ah, dammit 」
Looking at the state of his uniform stained with blood, Hifumi cursed while sheathing his katana.
「 All members are dead. Well, lets see who instigated them. 」
「 May I investigate as a member of the Knights? To be honest, we Knights are somewhat uneasy about the real nature of these people. 」 (Midas)
To Midas’ proposal, Hifumi had a cold expression.
「 Like that, carefully erasing evidence of any links to your Knight Corps..... is that it? 」
「 W-Wait please! Really people like these do not exist in our Knight Corps, we know the dangers of starting a fight with Hero-sama! 」
Abruptly coerced, Midas instinctively panicked.
「 Fuu.... All right. In any case, I don’t really want to spend time investigating. Do as you like. 」
「 Th-Thank you. 」
Leaving Midas waiting for assistance, Hifumi and company returned to the shop area.
Is my observation okay? Well, no worries.
「 Well, now that the enjoyable event is over, we should schedule shopping as next on the list. 」
「 Ne, ne 」
While walking, Kasha called out.
「 What? 」
「 Some time ago, master’s fighting methods, I saw something like that for the first time. Where in the world did master learn that? 」
「 Ah.... That, huh. In my hometown, such a way of fighting is not unusual. Like me, in the country where I was born and grew up, there were not a lot of people with heavily built physiques. Nevertheless, a certain period of fighting divided the country into pieces, and it was from such an environment that the gaps in power can be overcome by technique. Even if a person wears armour, they can be efficiently killed. 」
「 Power gap by technique.... 」
Thinking about something, Origa ponders.
「 On the battlefield, on killing an enemy it was a custom to harvest the heads. Also there were various other techniques used to destroy an opponent’s mental balance. 」 (Hifumi)
「 H-Heads? 」
A frightening image seemed to float in front of Origa and Kasha, Hifumi didn’t particularly feel like correcting them.
「 Indeed. The heads of the enemies were tied around the waist of the general, to show off their military exploits. 」
While discussing the finer points of old battles, Hifumi walked onwards, accompanied by two slaves who seemed slightly green-faced.
They reached the armourer’s shop at last, near the shop they had eaten in. Like a convenience store, it was completely crammed with various equipment.
Further in, there seems to be a workshop attached, it’s entrance covered by a screen of sorts. This too seems to be a shop that Kasha is acquainted with.
「 If it’s here, weapons can be made, armour too. Though not their area of expertise, there is equipment for magicians as well. 」
The elation from shopping aside, Kasha was quite tense.
Inside the shop,a short elderly man was sitting next to the screen wearing an unpleasant expression.
「 You two huh. 」
The old man looked at Kasha and Origa with a sullen expression.
「 I look away from you, and you’re slaves. 」
Looking at the tattoos on their shoulders, the old man says with a sigh.
「 Aa, there were a number of reasons. Right now, this man is the master. Master, this is the owner of the shop, Thorn of the Dwarf race. 」
Introduced by Kasha, the old man turned his scowl to Hifumi.
Ooh, this fellow is a dwarf? It’s my first time seeing the real thing!
Meeting a fantasy race for the first time, Hifumi was excited.
Then, a question arose in his mind.
「 Huh? Weren’t humans and demi-humans hostile to each other? 」
「 Fuun, a brat that knows nothing. The humans are quarrelling with the beast race. Us dwarves are scattered throughout the world, polishing our skills, and elves don’t come out of their territories in the first place. 」
「 Is that so. Not complex at all. 」
Though Thorn was scowling throughout the explanation, his face might originally be like that.
「 Well, aside from the Demon race, the beast people and humans are the only sources of revenue for weapons. 」
They seem to be a business-minded race.
「 You know the weapons suited for yourselves. Do not mind the amount of money, you like it, buy it. 」
Telling them to promptly choose their weapons, Hifumi says magnanimously. Actually, a lot of money remains.
「 Is that fine? Slaves are usually not allowed to carry weapons, and if they are, usually cheap ones. 」
After having joy fill her face for an instant, Origa asked uneasily.
「 Will you be able to fight if not wielding weapons? Though the cost is trivial, you should choose an easy to use and durable weapon. It is necessary to avoid the possibility of the weapons breaking in combat. 」
Next to Hifumi, Kasha nodded with an ‘un un’. (TL: I dunno how else to phrase this.)
「 It is as master says. As expected, master understands. So, I can choose without reservation. Now Origa, you need to chose a staff. Using magic without it is not possible, how will you fight? 」
Hifumi heard Kasha’s words.
Magic cannot be used without a staff? Is this the general practice of this world? Though I can use my Dark Magic normally without one....
However, neither the slave-shop owner nor the doorkeeper had any different reaction when I used it to bring out the money. Though it may be a peculiarity of Origa, various staffs on display are embedded with crystals and jewels, why they are used is unknown.
Still, I need to know more about this world.
Looking at the various products, Hifumi reaffirmed once again that he was really in a different world.
「 Origa does not look good in this. 」
「 Kasha’s arms and legs are long, many dresses suit you very well. 」
Though the conversation started resembling one that would not be out of place in a clothing store, Hifumi decided to ignore it.
It would be troublesome for Hifumi if he got entangled in women’s shopping.
「 Nevertheless, Knife, one-handed sword, two-handed sword, axe, mace, there are only kinds. Full body leather armour differs from it’s metal counterpart only in hardness. 」
To Hifumi’s grumbling, Thorn retorts,
「 What are you saying. It is dangerous if defence is not tightened, yes? Besides, the only weapons not here are the spears used by the Knights. 」
It seems that leather armour is the norm here, metal armour is primarily used by officials and other ranking people, and there are truly very few varieties of weapons.
「 For instance, can I order some custom work? There is something I want you to make. 」
At first trying to explain with words and failing, because it is not possible to understand it that easily, finally parchment and ink was prepared and some drawings were made.
「 Because this and this are weapons, forge this properly. Also, this moves like this, do not make it fixed.... 」
「 What kind of weapon is this? I’m seeing such a thing for the first time, how to use it? 」
「 Aa..... Words won’t suffice to explain, it’s better if I show you. 」
Hifumi handed over about 20 gold coins to Thorn who was constantly tilting his head.
「 The advance. The rest will be paid upon completion. 」
「 Well, if I can earn money, I’ll make it. Lets see...... 3 days, it will be done. 」
As expected of a dwarf, the work speed was upto Hifumi’s satisfaction.
During their discussion, it seems that Origa and Kasha were finished with their selections.
「 Have you decided? 」
「 Yes, though it seems to cost a lot of money, is it fine? 」
Hifumi laughed cheerfully at the two who had an apologetic air.
「 It’s allright, there is still plenty more money I took from the castle. 」
「 ....Is that really allright? 」
Though Kasha twisted uneasily for a different reason, she asked Hifumi directly for two one-handed swords and metallic armour. Beneath the armour were simple clothes.
Origa chose a robe that snugly wrapped around her small body, and a staff with a tip embedded with a stone of the same emerald green colour as her eyes.
In all 22 gold coins. Half of it was the cost of the magic staff.
「 I’m sorry... 」
To Origa who was feeling like a burden, Hifumi paid while telling her it was fine.
「 Master is not buying anything? Even though master’s clothes are uncommon, it is dangerous without a leather armour at least... 」 (Kasha)
「 Oh? Worried about me? 」
「 Wh-What is master saying... 」 (Kasha)
On Hifumi teasing her, Kasha blushed and looked down. It seems like she has no experience in banter like this.
Since her face and figure are easy on the eye, seeing as the Adventurer profession is mainly a man’s, her pure reactions are quite strange.
「 Armour is unnecessary because it is heavy. As for a weapon, there’s this. 」
Hifumi said as he touched the katana at his waist.
「 However, I just placed an order for a weapon. 」
「 ! Is it a weapon from master’s world? 」magic
Origa jumped into the conversation.
「 Are you interested? 」
「 Yes. Just some time ago, master fought using an unknown technique. If possible, I would like to learn that technique. 」
Origa looked at Hifumi frankly and asked.
「 Is that so. 」
Hifumi had practised in not just Japanese martial arts, but also overseas martial arts for many years, he was glad to be asked to teach it.
「 I, I want to learn as well! 」
On Kasha declaring her participation in a hurry, Hifumi was in a good mood.
「 Yosh, if that is the case, then display your abilities once. After seeing that, I will guide you. Origa is a magician, yes? Do you do close combat? 」
「 I could only fight with magic till now. But, I got into this situation, and I regret not learning it.... 」
「 Origa.... 」(Kasha)
Though Hifumi noticed that it was related to how she became a slave, he decided not to broach the topic.
「 There is a rule. My guidance is severe, resolve yourself. 」
「 Yes, thank you very much. 」(Origa)
「 Master, a little..... No, please go easy on us. 」(Kasha)
Following Hifumi who was feeling quite good, Origa and Kasha followed wearing their newly-purchased equipment.
Leaving the store in high spirits, the daylight had started fading.
A lot of time seems to have passed while Hifumi and the other two were on a shopping spree. Absorbed in the selection and discussion of equipment, all tension had fallen from them.
「 ..... For now, a hotel. 」
「 ..... Yes. 」
Hifumi’s guidance would start the next day. |
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} | アリッサの追撃によって、ヴィシー軍はさらに数を減らしながらもローヌを抜けて敗走していった。
数日かけた攻撃とローヌでの国境警備の再開手配、アロセールの住民への説明及び片付けで、アリッサは疲れ果てた顔をしてフォカロルへと帰ってきた。
「......寝る」
「ええ、お疲れ様。おやすみなさい」
報告を受けたオリガは、フラフラと領主館内の自室へ戻るアリッサを笑顔で見送った。
オリガ自身は避難をさせていた住民たちを自宅へ戻したり、フォカロルに残留していた兵たちを指揮して街の片付けなどを行っていた。怪我は魔法薬ですっかり治っており、これまで以上に精力的に活動している。
そして今は、自分との分の旅支度をしている。
ミダスとの打ち合わせ......内容的には一らの一方的な指示でしかなかったが、そこでパジョー他、一二三に殺された第三騎士隊の騎士たちは、記録としてはヴィシーとの戦闘で戦死したという事にされた。
イメラリアの指示で貴族が狙われたという事実が広まれば王族への大きなダメージとなるので、ミダスは想像よりも穏便に事が収まりそうだと喜んだ。パジョーには悪いが、これ以上王女への影響がでなければそれに越したことはないと思わざるを得ない。
だが、その話の後で一二三が言った言葉で緊張がぶり返す。
「一度王城へ行く。イメラリアと話をしないとな」
「は、話を......?」
「これでもオーソングランデ貴族だからな。戦勝の報告と凱旋は必要だろ」
こうして、兵は連れて行かずに一二三とオリガのみで、第三騎士隊の生き残りと共に王都へ向かう事となった。領兵は防衛の為に全員領に残していく。
「俺たちだけだから、別に旅の途中で襲ってきても構わんぞ?」
「お戯れを......」
いたずらっぽく笑う一二三に、ミダスは絞り出すような声で辛うじて返事ができた。
ホーラントの政治中枢は、首都ルーダンにある。
ルーダン城と呼ばれるこの王城には、ホーラントを治める老王スプランゲル・ゲング・ホーラントがおり、50年の長きに渡り王座についていた。
しかし、実質的な政治手腕を振るっているのは、彼の直系の孫であるヴェルドレだった。
老齢の王は、自分の子ではなくヴェルドレへ王位を譲ることを明言しており、ヴィシーを利用した魔法具の実験も、ヴェルドレが適度な実績を作るためにと進められているものだった。
王の力が非常に強く、貴族も少ないホーラントでは王族の命令は絶対であり、一般の兵を含む市民の立場はかなり弱い。だが、王の指示で資金を集中している魔法具の開発・発展は目覚しいものがあり、それら魔法具によってもたらされる豊かさが、民衆からの批判を抑えていた。
「状況はどうなっておる」
「順調ですよ」
かすれた声で王が問うと、ヴェルドレは直立のまま答えた。
「攻撃性を向上させる魔法具“ガンガ”も、感情を押さえる魔法具“エルリク”もほぼ完成しております」
「だが、欠点もあろう」
「ガンガを取り付けると、暴走して言う事を効かなくなりますし、エルリクの影響を受けると、行動がやや緩慢になりますし、判断力も大きく低下します。ですが、運用の方法でどうとでもなりますし、兵達にのみ使用し、指揮官で判断を下して道具として兵に指示を出すようにすれば問題にはなりますまい」
自信があるのか胸を張って答えるヴェルドレに、スプランゲル王は頷いた。
「よい。そのままお前の成果とするが良い。研究員たちにも褒美を与え、お前の度量を示すのだぞ」
王は、さらに他国との情勢についてもヴェルドレの意見を聞くことにした。
「......なにやら、ヴィシーやオーソングランデが騒々しいようだが......」
「オーソングランデの若い貴族が、王女の信を得て無作法に暴れているようですな。ヴィシーとの国境を含む領地を与えられ、ヴィシーの領をいくばくか削り取ったと聞いています。今も、戦闘を継続中かと」
「我が国とオーソングランデの国境でも、動きがあるようだが」
「表向きヴィシー側に協力する事になりましたから、我が国も兵を国境へと進めておりますので、それに対応する為の兵を差し向けてきたようです。接触まではしないでしょう」
ここで本格的に戦争になれば、オーソングランデは二正面作戦となる。ヴィシーとの戦争が継続中であるうちは、オーソングランデ側から仕掛けてくることは無いというのが、王と孫の共通する見解だった。ヴィシーとの戦争が終われば、ホーラントも兵を展開する理由も無くなる。
ヴィシー側が譲歩して終わるでしょうが、多少は抵抗するでしょう。ヴィシーの兵は、質はともかく数は用意できるでしょうから」
その報告にしばらく黙考した後、王はゆっくりと噛み締めるように伝えた。
「では......オーソングランデの国境へ出している兵を引き上げられる程度に状況が落ち着いた時に、わしはこの地位を退くとしよう」
「それは......」
「お前が次代の王となり、この国を治めるがよい。ただし、国境の兵を使って魔法具“ガンガ”と“エルリク”の効果を証明してみせよ。それを王としてのお前の最初の成果としよう」
「はっ。直ちに動きます」
「うむ、吉報を待っている」
ヴィシーの軍勢が一二三率いる寡兵のフォカロル領軍相手に撃退されたという情報がホーラントへ伝わるには、まだまだ日数が必要だった。
オーソングランデのホーラント側国境に最も近いのは、ミュンスターという街だ。
フォカロルと同程度の規模であるこの街は、周囲の複数の農村を含めて、ビロンという伯爵が治めている。
ビロンは王子にも王女にもさほど近しくしておらず、領地が反対側ということも有り、フォカロルを中心としたヴィシー側の情勢についてはさほど詳しくなかった。今回の第二騎士隊からの駐留要請も、王子の署名もあって渋々受け入れたようなもので、騎士隊とのやりとりも、最初に第二騎士隊長のスティフェルスが訪ねてきた時に挨拶をかわしたのみで、“あとは勝手にしろ”というスタンスだった。
「何だってこっちにまで騎士隊が来るんだ」
不満を隠せないビロンは、ソファにぐったりと腰掛けて、傍らに立つ執事に愚痴をこぼした。
彼は30歳とまだ若い当主だった。父親が5年前に病死し、王都で官僚として働いていたところを呼び戻されて伯爵を継いだ。
今回の状況も、情報は少ないながらもヴィシーとホーラントのつながりは理解しており、ホーラントを刺激しても意味がないこともわかっていた。もちろん、万一の事を考えて、通常よりも多くの兵を国境付近で巡回させて、緊急の出兵がある可能性も周知していた。
とにかく、外へ出した兵が多くなり、街中の治安維持に穴があきつつあるので、顔も知らない一二三という新興貴族には、勝っても負けても、さっさと事態を収めて欲しいとだけ願っていた。
それだけに、やたらと気負いこんでやってきた第二騎士隊に対して、ビロンは強く警戒していた。
妙なことをしてホーラントとの戦端が開かれれば、負ける気は無いが、ミュンスターの街も無事ではすまないだろうし、自分の領兵も消耗するだろう。
しかも、第二騎士隊がミュンスターと国境の中間で簡易的な砦を作り、そこへアイペロス王子が激励に訪れるという話まで出ている。元々、王女の人気の影響から存在感が薄かったアイペロス王子の露骨な実績稼ぎに、ビロンはため息しか出ない。
「女王の入れ知恵だろうが、これで戦争になれば評価を落とすのがわからないのか?」
それとも、何か必勝の作や道具でもあるのだろうか。とも思ったが、そんなものがあるなら、あの尊大で自信家のスティフェルスが黙っているはずがない。
「一二三とかいう新興子爵が、早い段階でヴィシーを叩きのめしてくれれば......」
中立を保ってはいたが、王子と第二騎士隊の動きに巻き込まれて、イメラリア王女を推す側につこうとビロンは考えるようになっていた。
ミダスたち第三騎士隊とともに王城へと入った一二三は、登城してすぐに謁見の間へと通された。何やら報奨を与えるということらしい。ミダスが早馬で伝えておいた状況に、必死で取り繕うような浮ついた空気が部屋を支配していた。
(慰謝料のつもりだろう。宰相あたりの案かな)
まあどうでもいいかと思いながら、形だけは跪いた一二三。
その姿に、膝が震えるのを押さえて、イメラリアは立ったまま謁見の間で慰労の言葉をかけた。
声が震えそうだったが、他の貴族たちの目もあるので、必死でお腹に力をいれる。
「この度の戦果は非常に素晴らしいものでした。寡兵による大軍の撃破は、この国で後後まで語り継がれることでしょう。第三騎士隊から犠牲がでたのは非常に残念ですが......」
悔しさで目の奥が熱くなるのを感じるが、顔に微笑みを貼り付けて続ける。
「......この度の功績の褒美として、ヒフミ・トオノを伯爵とし、現在の領地に加えて此度の戦果である新領地を与えるものとします。意義のあるものはおりませんね?」
謁見の間、両脇に並んだ貴族たちは黙ったままだった。
積極的に賛成はしていないようだが、これほどの戦功をあげた者へ褒美を出さないわけにはいかない。それに、他国と一二三の領地に挟まれた土地など、誰も欲しいとは思わなかったということもある。
「異論はないようですね。では、亡き父王に代わり、わたくしイメラリア・トリエ・オーソングランデの名において、ヒフミ・トオノをオーソングランデ王国伯爵といたします」
まばらな拍手が聞こえてきて、一二三は無言のまま立ち上がり、ちらりとイメラリアに視線を向けてから謁見の間を出ていった。
それを見送った貴族たちは、小声で無礼だと言いつつも、イメラリアから先に退室するよう促されて出ていった。
「イメラリア様」
他の貴族たちが退室していったのを見計らい、宰相が進み出た。
「なにか」
「その......よろしかったのでしょうか?」
「他にどうしろというのです。もはやこのままこの国の防衛戦力として扱うしかないでしょう。ミダスから何やら不穏な計画の話も聞きましたが、それでも一二三様がこの国の所属であることを利用するしかないでしょう。今、彼を排除するのは不可能です」
王の玉座をチラリと見遣ってから、イメラリアは口を引き結んだ。
「わたくしを殺さずにおく理由を確認します。そしてこれから彼が何をしようとしているのかを直接聞かねばなりません。後ほど、わたくしの執務室へ来るように伝えてください」
「それは、危険なのでは......」
「どんな策でもどんな護衛が居ても、意味をなさないなら気にするだけ無駄です」
信頼する部下を失った報を聞いて、しばらく動揺していたイメラリアだったが、少しだけ落ち着いていた。自分に課された責務は、立ち止まって泣いている事を許さない。
「アイペロスはどうしたのです?」
「オーラントへ戦場視察をすると言って、今朝旅立たれました」
「勝手な事を......」
次期王としてどっしり構えていれば良いのに、とイメラリアは思った。アイペロス王子が自分に実績が無いことを母である女王に相談した事を、イメラリアは知らないし、王を継ぐのに実績が必要だという考えも無かった。
とにかく、アイペロスが戴冠をするために事態を落ち着かせることだけが、今のイメラリアの目標だったのだ。
控えの間として用意された部屋に一二三が戻ると、侍従として待っていたオリガが立ち上がって迎えた。
そこには、第三騎士隊のサブナクもいる。一二三に呼ばれた彼は、困惑の表情を浮かべていた。
「早かったな、サブナク。とりあえず座れよ」
「ぼくに何かご用ですか......?」
パジョーの最期について、サブナクはミダスの報告を聞いていた。その時は生き残りに対して害意は無いと聞いていたが、それでも裏切り者の同僚である以上、殺されるかもしれないという恐怖は払拭できない。
「そう身構えなくていい。今さっき、アロセールからローヌまでの旧ヴィシー領も俺のものになった。肩書きも伯爵だとさ」
オリガが用意した紅茶を飲む。
「おめでとうございます。一二三様を害そうとした慰謝料としては少ない気もしますが」
オリガの褒め言葉に、ああうんと適当な返事をする。真剣に聞くと止まらないからだ。
「ぼくからも、おめでとうございます。これで名実ともにオーソングランデの大貴族の一員ですね」
「肩書きはどうでもいいが、これで活動資金を稼ぐ目処が立った。だが人手が足りん」
「人手、ですか?」
サブナクは、もはや遠い昔の記憶かのように朧げにしか思い出せない、フォカロル臨時領主という事務処理地獄を思い出して、背筋に汗をかいた。
「俺の代理を任せられる奴が必要なんだよ。しばらく領地を留守にするから」
サブナクの鼓膜に、ドキドキと心音が身体の内側から聞こえてくる。
「ある程度は文官奴隷がやるから、決済と顔役だな。準備もあるし、10日くらいのうちにフォカロルへ来てくれたらいい」
すでにサブナクが呼ばれることは確定していたらしい。
パジョーの件やミダスや自分を含め、騎士隊を見逃してくれた事を考えると、とてもじゃないが断る事ができなかった。
「......わかりました......」
今回は職員もいるから以前のような地獄にはならないだろうと自分に言い聞かせ、サブナクは準備をすると言って出ていった。
「さて、後はイメラリアだな」
一二三が呟いたところで、城の侍女がイメラリアからの呼び出しだと伝えに来た。
「オリガ、第三騎士隊に手伝わせて民衆を城の前に集めてくれ。例のバルコニーが見える位置にな。そうだな、“王女から民衆へ決意表明がある”とでも言ってくれ」
「決意表明ということは......」
「ついでだから、城の中もスッキリしてやろうと思ってな」
一二三の言葉に、オリガはニッコリと笑って応じた。 | Because of Alyssa’s pursuit the numbers of the Vichy army dwindled even more though they took flight escaping Rhone.
The offensive lasted for a few days and the activity of the border security in Rhone was arranged to resume. All was explained to the citizens of Arosel and the tidying up began. Alyssa returned to Arosel wearing a tired facial expression.
“... Sleepy” (Alyssa)
“Yes, thanks for your hard work. Sleep well.” (Origa)
Having received the report from Alyssa, Origa saw her off unsteadily returning to her own room within the building of the Lord.
Origa herself had to commit herself to such things as returning the temporarily refuging citizens back to their own homes and giving orders to the soldiers left behind to clean up the city. Having her injury completely healed by the magic potion, she acted more vigorously than before.
And now she is handling her own and Hifumi’s share of travel preparations.
In the briefing session with Midas, Midas had no other choice but to accept the one-sided instructions in regards to the report contents from Hifumi. The result was a report stating Pajou and the other knights of the Third Knight Unit, which Hifumi had killed, had been killed in action in the battle with Vichy.
Because it would cause a huge loss of face for the royalty, if the truth of Imeraria giving the order to assassinate another noble were to be spread, Midas gladly accepted that kind of conclusion as it was far more amicable than he had imagined it to be. Although it was wrong towards Pajou, there was no better solution without this whole situation having a dramatic impact on the princess.
But Midas’ tension recurred once he heard Hifumi’s words after this topic was settled.
“I will go to the royal castle soon as I have to talk with Imeraria.” (Hifumi)
“Yo-You have to talk... ?” (Midas)
“No matter how you look at it, I am a noble of Orsongrande, so it is necessary to return triumphantly and give a report of the victory, I think.” (Hifumi)
Like this it became a matter of Hifumi heading towards the royal capital, alongside the surviving members of the Third Knight Unit, by himself without taking any soldiers along. In order to protect the territory, all of the territorial soldiers will be left behind.
“It will be only us, so I won’t particularly mind if you attack me during the trip, okay?” (Hifumi)
“You must be joking...” (Midas)
As Hifumi laughed impishly, Midas barely managed to squeeze out an answer.
The political centre of Horant is the capital city, Ludan.
The Ludan castle, where the aged king Suprangel Geng Horant
However, the one having substantial ability in the ways of politics, being his directly descending grandchild, was Belldore.
The elder king had declared to pass the crown to Belldore, who had no children of his own. Even the experiment with the magic tool, orchestrated by Vichy, was something pushed forward by Belldore for the sake of gaining moderate accomplishments.
With the authority of the king being very powerful, the order of royalty is an absolute for the few nobles of Horant as well. The standing of regular soldiers drafted from the common folk is quite low. But the gathering of funds upon the king’s order for the sake of developing the magic tool had been remarkable. With the wealth that was brought about due to the magic tools, criticism from the masses was suppressed.
“How is the situation developing?” (Suprangel)
“It’s going well.” (Belldore)
When the king inquired with a hoarse voice, Belldore answered standing upright.
“The aggression-rising magic tool
“However, there are flaws as well...” (Suprangel)
causes the actions of the target to become sluggish. Also, the target’s judgement declines sharply. Still, there are ways for practical use either way. There won’t be any problems if we use it only on soldiers and make sure to have the commander make the judgments and give out directions to the soldiers.” (Belldore)
As Belldore answered confidently puffing up with pride, King Suprangel nodded his head.
“Very well. It is fine to go with your results as they are. You will also give the researchers a reward to show them your generosity.” (Suprangel)
Furthermore the king decided to listen to the opinion of Belldore concerning the situation in the other countries.
“... For some reason Vichy and Orsongrande seem to be noisy...” (Suprangel)
“It appears that there is a young noble of Orsongrande, having obtained the trust of the princess, acting violently and rudely. He has been bestowed the territory including the national border to Vichy. I hear he shaved off an unknown size of territory of Vichy. Isn’t the battle continuing even now?” (Belldore)
“Even at the border of our country to Orsongrande there seems to be movement.” (Suprangel)
“Since we have officially sided with Vichy and because even our country’s soldiers are heading towards the border, they have apparently deployed their soldiers in response. They won’t attempt to make contact though.” (Belldore)
If they start an all-out war on this side, it will become a war at two fronts for Orsongrande. It means that while continuing the war with Vichy, Orsongrande won’t start something right way. That was the common opinion shared by King and grandchild. Once the war with with Vichy ends, the reason for Horant to deploy its soldiers will vanish as well.
“Orsongrande’s side has raised a set amount of military gains. Although the general outline is that it will end with Vichy’s side compromising, they are more or less resisting the outcome. Putting aside their quality, Vichy has prepared a great number of soldiers.” (Belldore)
After contemplating for a while about this information, the king said slowly as if chewing it thoroughly,
“Well then ... Once the state of affairs has calmed down and the soldiers deployed at the border to Orsongrande can be withdrawn, I will use the opportunity to retire from this position.” (Suprangel)
“That is...” (Belldore)
“You will become the next king. It will be good for governing this country. But, show me the proof of the magic tools,
“Ha, I will make my move at once.” (Belldore)
“Umu, I am waiting for the good news.” (Suprangel)
For the news, of Hifumi leading the small force of Fokalore’s territorial troops against the military forces of Vichy and repelling them, to circulate in Horant, a few more days were still necessary.
extremely close to the national border to Horant on Orsongrande’s side.
This town has the same scale as Fokalore and, including several farm villages in its circumference, an earl called Biron is governing it.
Biron isn’t particularly close to either the prince or the princess. He wasn’t very well-informed about the situation taking place close to Vichy where Fokalore played a central role as his territory could also be said to be on the opposite side. Even the the request for stationing the troops of the Second Knight Unit this time was something he only reluctantly accepted due to the documents having the signature of the prince. The communication with the knight unit also only started at the time the Second Knight Unit’s captain, Stifels, came to visit in order to exchange greetings. Biron’s stance was “Just do whatever you want.”
“Why has a knight unit come all the way to this place?” (Biron)
Without trying to conceal his dissatisfaction, Biron complained to his butler, standing close-by, as he was sitting dead tired on a sofa.
He was a still young head of a household at the age of years. With the death due to illness of his father years ago, he was called back home to succeed the Earlship although he had been working as bureaucrat in the capital.
Even the current circumstances, he understands that Vichy and Horant have a connection notwithstanding the lack of information. He also knew that there wasn’t even any point in provoking Horant. Of course, anticipating an emergency situation, a lot more soldiers are patrolling the area close to the border than usual. He also knew well that he might have to to dispatch troops on short call.
At any rate, since quite many soldiers were deployed to another place, the maintanence of public order in the whole town started to show holes. His only wish was for the whole situation to quickly finish not caring whether the rising noble Hifumi, whose face he doesn’t even know, wins or loses.
Not only that, in regards to the Second Knight Unit, turning up here recklessly and in a fighting mood, Biron was highly vigilant.
If something strange happens and hostilities with Horant unfold, he doesn’t have the intention to lose, but he will feel unease about the safety of the town of Münster. His own territorial soldiers will be depleted as well.
Moreover, the Second Knight Unit is building a simple fortress in the middle between Münster and the national border. It goes even as far that they are talking about inviting Prince Ayperos there for encouragement. To begin with, due to the influence of the princess’ popularity, Prince Ayperos has a thin presence with the plain achievements he has earned. Biron can do nothing but sigh.
“I guess it is a suggestion by the queen, but doesn’t she understand that starting a war here will cause his evaluation to pummel even more?” (Biron)
Or, do they have some certain plan for victory or tools able to make it happen, I wonder? Biron pondered about that. But if there were such things, it would be impossible for that haughty, over-confident Stifels to stay silent about it.
“If that new viscount called Hifumi or something like that is able to defeat Vichy at an early stage, then...” (Biron)
It reached the point that Biron thought to join Princess Imeraria’s faction, if he gets involved in the movements of the prince and the Second Knight Unit, although he kept a neutral stance before.
Hifumi, entering the royal castle together with Midas’s group of the Third Knight Unit, was immediately allowed to have an audience in the audience room. It seems to be about the matter of being conferred some kind of reward. Because of Midas using a fast to report the state of affairs, the room was dominated by an air of restlessness as if something had to be frantically smoothed over.
I guess they plan to pay reparations. I think that’s an idea the prime minister came up with.
While thinking
Suppressing the quivering of her legs seeing that figure, Imeraria talked about the recognition of his services while standing in the audience room.
Her voice seemed to shake, but since the eyes of the other nobles rested on her, she desperately put strength into her stomach.
“Your military gains on this occasion were very splendid. Crushing a large army with such a small force is something that will be handed down to future generation in this country. It is extremely regrettable that the Third Knight Unit suffered such victims, but...” (Imeraria)
Although she senses how the inner part of her eyes is heating up due to bitterness, she keeps pasting a smile on her face.
“... As reward for his achievements this time, Hifumi Touno shall become an earl and be given new territory in addition to the territory gained as result of the war. Does anyone have an objection to this decree?” (Imeraria)
The nobles, lined up on both sides of the audience hall, remained silent.
It doesn’t look like they are giving their active support to this decree, but there is no way to not confer any reward in light of this much distinguished war service. Besides they didn’t think anyone would want something like a region placed in-between Hifumi’s territory and a foreign country.
“It doesn’t seem that there is an objection. So be it. As replacement for my deceased father, the king, I, in my name as Imeraria Torie Orsongrande, grant Hifumi Touno the title of earl of the Orsongrande kingdom.” (Imeraria)
Sporadic applause could be heard. Hifumi got up remaining silent and left the audience hall after turning a fleeting glance at Imeraria.
While seeing him off and whispering in low voices about this impoliteness, the nobles left the hall before being prompted to do so by Imeraria.
“Imeraria-sama.” (Prime Minister)
Choosing the time when the other nobles had departed the hall, the prime minister stepped forward.
“What is it?” (Imeraria)
“That is... was it alright to do that?” (Prime Minister)magic
“What else did you expect me to do? There is no way that this country’s defense war potential can deal with him anymore. I have also heard about Hifumi’s turbulent kind of plan from Midas, but nevertheless there is no other choice but to use the fact that Hifumi-sama is affiliated to this country. Currently it is impossible to eliminate him.” (Imeraria)
After looking fleetingly at the king’s throne Imeraria tugged her pursed lips.
“Confirm the reason why he isn’t killing me. And then don’t fail to ask him directly what he is planning to do from now on. Please come to my office later on and give me a report.” (Imeraria)
“That is, because it is dangerous...” (Prime Minister)
“It will be futile to worry about plans or guards if it is meaningless.” (Imeraria)
Hearing about the news of having lost a trusted subordinate, Imeraria felt shaken for a short while, calming down only slightly. It would be intolerable for her to stop her own assigned duty for something like weeping.
“What is Ayperos doing?” (Imeraria)
“I was told he departed this morning to observe the battlefield at Horant.” (Prime Minister)
“Such a selfish thing...” (Imeraria)
, Imeraria thought. Prince Ayperos, having no accomplishments of his own, had consulted with his mother, the queen, without Imeraria knowing about it. She didn’t consider it to be necessary for the next king to be accomplished either.
Anyways, as the situation had to only settle down for the sake of crowning Ayperos, this was Imeraria’s current goal.
With Hifumi returning to the antechamber of the room prepared for him, Origa, waiting as chamberlain, stood up and greeted him.
Sabnak of the Third Knight Unit is present there as well. Having been summoned by Hifumi, he wore a bewildered facial expression.
“You are early, Sabnak. Take a seat for the time being.” (Hifumi)
“What business do you have with me... ?” (Sabnak)
Sabnak had been informed by Midas about Pajou’s final moments. On that occasion he was told that there is no malice regarding his survival, but as he still has betrayed his colleagues, he can’t sweep away his dread of possibly being killed.
“It’s fine to not have such formal posture. Just now I have also taken hold of the old Vichy territory ranging from Rhone to Arosel. I have also obtained the rank of earl.” (Hifumi)
He drank the tea Origa had prepared.
“Congratulations. Though it feels lacking as compensation for trying to harm Hifumi-sama.” (Origa)
Towards Origa’s words of praise, Hifumi gives an appropriate answer with “Ah, yes.” He has stopped listening to her seriously.
“From me likewise, congratulations. With this you are in name and reality a member of the greater nobles of Orsongrande.” (Sabnak)
“I don’t give a damn about the title, but there is hope that we can earn the necessary funds for our activities with this. But there aren’t enough helping hands.” (Hifumi)
“Helping hands?” (Sabnak)
Sabnak, not wanting to recall the only vague memories of an already remote past, remembers the hell of paperwork called temporary feudal lord of Fokalore and cold sweat runs down his spine.
“It is necessary to entrust the acting of a proxy for me to someone since I will be absent from the territory for a while.” (Hifumi)
In his eardrums Sabnak can hear the *doki doki* of his heart from within his body.
“Since the civil official slaves can handle it to a certain degree, it will be settled by acting as boss. Everything has been prepared as well, so it will be good if you come to Fokalore for around days.” (Hifumi)
It has already been decided to designate Sabnak.
Including the case with Pajou, Midas, and himself, and considering the matter of turning a blind eye towards the Knight Unit, Sabnak simply wasn’t able to refuse.
“... Understood...” (Sabnak)
Convincing himself that it won’t turn into such a hell like previously this time around as there are even staff members, Sabnak told them that he had to prepare and left.
“Well then, all that is left now is Imeraria.” (Hifumi)
Just as Hifumi muttered this, a white maid enters and tells him that he has been called by Imeraria.
“Origa, gather the populace in front of the castle by having the Third Knight Unit assist you. It has to be a place where they can see the balcony we talked about before. Ah, yea, also tell them “There is an important announcement for the people from the princess.”” (Hifumi)
“Important announcement is it...” (Origa)
“While we are at it, I think it will be refreshing for those in the castle as well.” (Hifumi)
Origa responded to Hifumi’s words with a smile and laughter. |
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} | ヴィシーから独立したピュルサンを出発した伝令は、実際に受けた“フォカロル領軍と接触せよ”という指示を隠したままフォカロルまで辿り着いていた。
その時点おろか領軍から名ほどがホーラント方面へ友軍救出のために出発していた。
だが、これはピュルサンの伝令にとっては好都合だった。本来であれば領主であるもしくは軍のトップであるアリッサに話をつけるというのが指示であり、その二人がオーソングランデ王都に向かったということであれば、直接女王に助けを求めたとしてもピュルサン国王であるミノソンへ説明もしやすい。
フォカロル領軍からかなりの人数がホーラント方面へ出発したという情報も、ピュルサンとしては有利に働く。今は国を安定させるのに必死で、騒動を起こしてほしくはないミノソンとしては、少なくともフォカロルの戦力が減っているのは良い知らせだろう。
ところが、集団で進むフォカロル領軍を追い抜き、急ぎ向かった彼らが王都にたどりついた時点で耳にしたのは、新たな敵だという“魔人族”の情報だった。
「......それは、いったいどういう......」
王城で女王の不在を知った伝令は、責任者不在との一言で誰にも話ができず、仕方なく王都で情報を収集することにした。
その一環として、酒場の客から最近の情報を聞いていた伝令は、魔人族という耳慣れない言葉を聞いた。
「なんでも、荒野に住んでる亜人らしいぜ。俺も良くは知らねぇが、新しい魔人族の王がいて、それが人間の町を襲うってんだから、たまったもんじゃねぇな」
それがわかってから、騎士も兵士もピリピリした様子で訓練してやがる、と大工だという酔っ払いは、へっへっと笑っている。
「その割には、ずいぶん余裕そうだな」
酒をおごって充分滑らかになった口は、伝令が一言尋ねると堰を切ったように話してくれた。
「どんな奴が相手でも、あの細剣の騎士様が何とかしてくれるって。なんつっても、一人で荒野を走破してきたなんつぅ、とんでもないお方だ。しかも、その魔人族を一匹仕留めてきたってんだから、大したもんだ」
「仕留めた?」
「ああ、王城近くの広場に飾ってあるぜ。人間みてぇな面ァしてるが、首だけになっても生きてるんだから、ありゃ本当に人間とは違うんだな」
「首だけで......」
翌日になって、酔っ払いから聞いた場所を探してみると、確かに魔人族の首が飾られている。
触れられないように高い台がすえつけられ、その上にロープで固定された首が忌々しげに人々を見下ろし、声にならない声を上げるように口をあけている。
「これは、すごいな......。オーソングランデは、こんなものとも戦う気なのか」
独り言を呟いてから、違うな、と考え直す。
もし荒野から出てくるならば、ヴィシーが巻き込まれる。荒野とは離れていると言っても、ピュルサンも巻き込まれないとも限らない。
「我々に、こんな化け物と戦う戦力も技術も無いんだがな」
オーソングランデに協力を乞う理由が増えたな、と伝令は小さく舌打ちをした。
「ちょっと、よろしいですか?」
禍々しいとさえいえる生首を見上げていると、伝令に話しかけてくる男がいた。
やせ気味で、ごくごく一般的な麻の服をきた若い男は、まるで線を引いたかのように目を細めてニコニコと笑っている。
「はあ、なんでしょうか?」
「ひょっとして、ヴィシーの方から来られました?」
「......それが、どうかしましたか?」
訝しむ伝令に、男はやだなぁ、と言いながら手を振る。
「そんなに警戒しないでくださいよ」
そっと顔を近づけた男は、周りに聞こえない声で言う。
「僕も貴方と同じ所から来ているんです」
「えっ」
「というより、連絡役としてもう長いことここに住んでいるんですけれどね。良かったらちょっと話しませんか。僕も
「なるほど。私もできればオーソングランデの状況が知りたいので、むしろ助かります」
男が行きつけだという料理屋に入り、個室を取る。
「ここならゆっくり話せますし、従業員も口が堅いので気にせず話せますよ」
「それは助かります」
「それで、国の状況はどうですか?」
飲み物と簡単な食事を頼むと、さっそく男は話を振ってきた。
一口、薄めたワインを飲んだ伝令は、自分がピュルサンを出てきたときの状況を説明しましょう、と語る。
「ピュルサン自体は安定に向かっています。ミノソン代表......国王は、まだ安心できない状況であるとは言われていました。ひとまずフォカロル、ひいてはオーソングランデと友好的な関係が結べれば、ヴィシーに対してもけん制になる、と」
「なるほど。その使者として、この町まで来られたわけですね」
「まあ、そうですね」
まさか命令を無視する形でここまで来たとは言えない。
「では、オーソングランデの状況ですが、ホーラントとの戦闘に向かっているようですね。一部貴族がホーラントへ侵攻を企て、それを女王自らが率いる軍が抑えに向かったようです」
しかも、と二股のフォークに突き刺した蒸し芋を顔の前で揺らしながら、男が言う。
「トオノ伯爵が、側近を連れてホーラントへ先行し、軍の本体が追いかけているそうで」
「ああ、その話なら知っています。私もここへ来る途中でフォカロルの軍を追い抜いてきましたから」
「なるほど、では......」
不意に表情に影を落とした男に、伝令は眉をひそめた。
「何か、気になることでも?」
「先ほど見られていた、魔人族のことです」
ぐいっとカップのワインを飲み干し、カツン、と音を立ててテーブルへ置く。
「あれらの軍勢がもしフォカロルないしヴィシー方面へ侵攻してきた場合、トオノ伯爵不在でどの程度抵抗できるでしょう。いや、それでなくてもヴィシーが我々ピュルサンに向かって攻勢に出た場合、責任者がいないフォカロルやオーソングランデは動いてくれますかね?」
「うっ......しかし、ヴィシーはフォカロルと事を構えるつもりはないでしょう」
「ホーラントも、動かないと考えられていましたよ?」
誰かが勝算有りと考えたなら、その前提は簡単に崩れるでしょう、と男は首を振る。
「実は、声をかけたのはある物を郷里まで届けていただきたいと思ったからです。本来なら、僕のような潜伏担当者が予定外に自分から接触したりはしません」
「ある物?」
藁にもすがるような思いで問うてきた伝令に、男は優しく微笑む。
「ホーラントから手に入れた、兵士を強化する魔道具があります。これがあれば、少なくともヴィシー相手に簡単に潰されるということはないでしょう」
「そんな物があるのですか」
「ひょんなことで手に入れたのですが、物が物だけに輸送を依頼する相手もおらず、途方に暮れていたのですよ。女王との接触が叶わなかったのは残念ですが、これで充分な成果になるのではありませんか? すぐにここにお持ちしますから、ぜひお願いできれば」
この時の男の笑みは、先ほどとは少し違うものだったが、伝令は気づくことができなかった。
荷車に乗せられた魔道具と魔法薬一式を曳きながら、何度も礼を言いながら街中へ消えていった伝令を見送ると、男はその顔から笑顔を消した。
「......どうやら、うまくいったようで」
店員と称して料理を運んできていた中年の男が声をかけた。
「ふん。ヴィシーの中央委員会がらみならもっと良かったが、まあうまく行った方だろう。こちらから一言も町の名前を出さなかったというのに、自分からペラペラしゃべってくれて助かった。楽な仕事だったな」
店内へ戻った男たちは、客席ではなく奥の従業員のための休憩室に入ると、慣れた手つきで椅子を引き寄せ、どっかりと座る。
「種は撒いた、とクゼム宰相へ連絡を。これでヴィシーからのちょっかいを気にすることなく、オーソングランデとの戦いに、専念できるというわけだ。宰相閣下も、なかなか気のまわる人だね」
手ずからワインをカップに注ぎ、半分ほど一気に呷る。
「はてさて、後は宰相閣下の思惑通り、細剣の騎士様を仕留めることができれば、俺も国に帰って出世できるってもんだが。どうだろうね」
「うまく行きますよ、きっと」
☺☻☺
一二三は適当な事を言ったり嘘をつくことも平気だが、基本的に顔を隠すことも無ければ身分を偽ったりは面倒だという理由でしないので、伝令が王都近くで正面から馬にのってやってくる黒髪の人物が、トオノ伯爵であることに気付くのは難しくなかった。
フォカロルまで行くつもりだった伝令は、想定外の場所で見かけた重要人物の姿に焦ってしまい、馬を操るのに失敗してもたついてしまったが、なんとか声をかけることには成功した。
「と、トオノ伯爵様でありますか?」
「誰だお前?」
首を振る馬を必死でなだめながら話しかけてきた若い男性に、一二三は呆れたような顔で返した。
一二三の後ろにいたオリガがくすくすと笑う声が聞こえて、伝令は恥ずかしさで耳まで赤くなる。
「と、突然ですが、失礼します!」
馬から飛び降り、伝令は手綱をつかんだまま片膝をついた。
「私はビロン伯爵領から伝令として使わされました、オセと申します。ホーラント方面での戦況と......マ・カルメ様の最期についてお伝えに参りました」
「そうか。そりゃご苦労。アリッサ、お前も聞いておけ」
「う、うん。マ・カルメさんの最期って、まさか......」
馬に乗って進み出たアリッサを見て、伝令は固まっている。
「い、いえ。その......軍務長官のアリッサ様というのは......」
「僕だけど?」
絶句しているオセに、アリッサは首をかしげているが、オリガは鋭い視線を向けていた。
「オセさん、とおっしゃいましたね?」
「は、はい!」
マ・カルメの話から絶世の美女のような印象を持っていたオセは、かわいらしいとは思うものの、まだ少女と言っていい見た目のアリッサを見て混乱していたのだが、圧迫されるようなオリガの声で、我に返った。
「アリッサが今の地位にいるのは、もちろん夫との縁もありますが、偏に彼女の努力と実力があってのこと。妙な疑念を抱くようなまねは......」
ほとんど土下座するような勢いで頭を下げたオセに、なるほど、とアリッサは納得していた。
「確かに、同じ歳の連中と比べても、アリッサは小さいしな」
「一二三さん、ひどい!」
結婚してぐっと女性らしい艶が出たオリガを見て、アリッサはひそかに自分の見た目にため息をついたことがあった。
「それより、さっさと話をしてくれ。マ・カルメは死んだのか?」
なら、その状況を聞いておこう、と一二三は言った。
「本当に命を落とされたかはわかりませんが、状況から見て、絶望的かと......」
オセが涙ながらに語ったマ・カルメの勇姿を、一二三は馬上で腕を組んで聞いていた。
アリッサはオリガにすがりついて泣いている。
「......は?」
思わず顔をあげたオセの視界に、笑顔の一二三が映った。
「マ・カルメもなかなかやるな。ホーラントにやられたのはいただけないが、そこまでの動きは悪くない。少ない人数で、可能な限りたくさん殺すことができている」
機嫌よく馬のたてがみを撫でる。
「ホーラントの連中も大したもんだ。魔法と投槍器を使って、大勢で小数を囲むのは確実な方法だな。お前を逃がしたのは失敗だが、きっちりと戦うための準備をして、実行できている」
いったい何を言っているのか、とオセが混乱していると、オリガが一オクターブ高い声で言う。
「これも、一二三様のご指導の賜物。素晴らしいですね」
「え......」
オセは、自分が持ってきた情報は悲報だと思っていたのだが、目の前の英雄は笑っている。
そのことが理解できず、泣いているはずのアリッサに、助けを求めるように視線を向けた。
そこには、怒りの表情で涙を流す少女がいた。
「おう、どうした?」
「お願いがあります」
アリッサは、馬を下りて手綱をオリガに渡すと、一二三の前で深々と頭を下げた。
「ホーラントとの戦いは復讐戦ということになった......なりました。これは僕の復讐でもあります」
馬上から見下ろす一二三は、薄い笑みを絶やさない。
「そうだな。お前がマ・カルメたちの復讐をしたいと思うなら、これは復讐戦だ。誰のものでもない。お前の復讐だ」
「だから、僕がやる。やらせてください。オリガさんが復讐を果たしたように、僕にもその機会をください」
この願いは、通るかどうかアリッサにはわからなかった。一二三の性格を考えれば、自分が前に出て戦うと言う可能性は高かったし、自分の敵を横取りするつもりだと言われてもおかしくはなかった。
だが、まだまだアリッサは一二三の性格を正確にはわかっていない。
不安に曇るアリッサとは対照的に、オリガはにこやかにほほ笑んでいた。
「面白い!」
一二三が両手を打つ音が街道に響く。
「ホーラントもフォカロルの軍も、しっかり成長しているし、この分ならイメラリアの軍もそれなりには戦えるだろう。アリッサ」
「お前の復讐とは、何をすれば完遂になる?」
一二三とアリッサの視線が交錯する。
「......マ・カルメさんたちを殺すことを命令した人と、実際に殺した人を、殺すこと......」
「よしよし、それで良い。それで良いんだ」
腕を伸ばし、アリッサの髪をくしゃくしゃに撫でた一二三は、上機嫌に笑う。
「お前に任せる。軍を使って腹いっぱいやるといい。イメラリアと競争だからな。負けるなよ?」
「うん!」
「俺が後ろで見ていてやろう」
「うん! ありがとう、一二三さん!」
完全に蚊帳の外だったオセは、突然一二三の視線が自分に向いたことで、思わず肩を震わせた。
「お前に頼みたいことがある」
「な、なんでしょう!」
「このままフォカロル方面へ進んで、フォカロル領軍に今の話を伝えてくれ」
これは駄賃だ、と一二三が闇魔法収納から一振りの脇差を取り出し、オセに投げ渡した。
「こ、これは?」
「マ・カルメが欲しがっていた、アリッサと同じ装飾の脇差だ。それを見れば、軍の連中も俺からの依頼だとわかるだろう」
「このような貴重なもの......」
「持って行け。受け取る奴がいなくなったんだ。もしマ・カルメが生きていたなら、たっぷり吹っ掛けて売りつければいい。あいつのことだから、有り金全部渡すだろうな」
高笑いする一二三に、オセは脇差を頭上に掲げて「ありがたく、頂戴いたします」と声を振り絞った。
視界が揺れてはっきりとは見えなかったが、オセの視界には、アリッサとオリガが泣いているのが見えた。 | The messenger, who departed Pursang, which got independent from Vichy, arrived at Fokalore while actually hiding the order
At that point in time not only Hifumi but also soldiers from the feudal army departed in the direction of Horant in order to rescue their friendly troops.
However, this was convenient for the messenger from Pursang. His order is to talk with Hifumi, who’s the feudal lord, or Alyssa, who’s the military’s top. If those two headed to the capital of Orsongrande, it would be easier to explain to the king of Pursang, Minoson, if he directly requested help from the queen as well.
Even the news that quite the number of soldiers from Fokalore’s feudal army had departed towards Horant, will be advantageous to Pursang. For Minoson, who doesn’t want a riot currently occurring and is frantic in stabilizing the country, it’s at least good information that the war potential of Fokalore has decreased.
Even so, after overtaking Fokalore’s feudal army, which was advancing in a group, what he heard when he arrived at the capital, where he headed in a hurry, was the news of a new enemy called
“... What the hell does that...”
The messenger, who got to know about the queen’s absence at the royal castle, was unable to exchange brief words with anyone as the person in charge was away and thus decided to gather information in the capital as last resort.
Hearing the most recent news from a bar’s guest as part of that, the messenger heard the unfamiliar term demons.
“They say that demons are apparently demi-humans living in the wastelands. I ain’t getting it quite well either, but having a new demon king, they gathered up because they gonna attack human cities, aren’t they?”
“After that has become known, the knights and soldiers are training with a tense atmosphere”, says the drunkard, who calls himself a carpenter, and laughs with a “Hehe.”
“Considering all that, you seem to be quite carefree.”
The drunkard’s mouth, which became plenty talkative after being treated to booze, gushed forth one word after the other once asked briefly by the messenger.
“No matter what kind of opponent it is, that Knight of the Slender Sword-sama will handle it in one way or the other. Anyway, he is an outrageous man who covered the whole wastelands by himself. Moreover, as he brought down one of those demons, it won’t be a great problem.”
“Brought down?”
“Yea, it’s decorating the plaza close to the royal castle. It has a face resembling humans, but since it’s alive even though it’s just a head, it’s really different from a human.”
“Just as head...”
On the next day he tries to find the place he heard about from the drunkard and it’s certainly decorated with a demon’s head.
Having been installed on a high stand so that it doesn’t get touched, the head, which was affixed by a rope on top of it, looks down on the people in a provoking manner and opens its mouth to raise a mute voice.
“This is, amazing... Orsongrande intends to fight such things as well?”
After he mutters to himself, he rethinks with a
If they come out from the wastelands, Vichy will be dragged into it. Although we are apart from the wastelands, it won’t be limited to them, even if Pursang won’t get involved.
“We don’t have the combat potential and technology to fight such monsters though.”
“The reasons to ask Orsongrande for its cooperation increased”, the messenger clicked his tongue quietly.
“Is it fine to take a little moment of your time?”
When he looked up at the freshly severed head, which can be even called ominous, there was a man who addressed the messenger.
The young man, who wore an extremely typical linen clothes while looking like a lean person, smiles friendly with his whole face as if it was completely drawn onto his face like that.
“Haa, what is it?”
“Did you come from Vichy’s direction by any chance?”
“... What’s wrong with that?”
The man waves his hands while saying “Nothing, nothing” to the messenger who is suspicious of him.
“Please don’t be on such alertness towards me.”
The man, who brought his face close quietly, says in a voice that can’t be heard by the surroundings,
“You and me have come from the same place.”
“Huh?”
“Or rather, I’m living in this place for a long time already in my role as liaison. If you like, won’t you chat with me for a little while? I want to hear news about my home country.”
“I see. Given that I want to know about Orsongrande’s circumstances as well, if possible, it will be helpful to me instead.”
Entering a restaurant which is his favourite one according to the man’s words, they take a private room.
“If it’s this place, we will be able to talk at ease. As the employees are tight-lipped as well, we can talk without worry.”
“So, how’s the country’s situation?”
Once he ordered simple meals and drinks, he breeched the topic at once.
The messenger, who drank a mouthful of diluted wine, talks to explain the circumstances at the time he left Pursang.
“Pursang itself is heading towards stability. Representative.... King Minoson has said that it’s still not a situation where one can feel relieved. If we can tie friendly relationships with not only Orsongrande but Fokalore as well for the present, that will turn into a restraint for Vichy, he said.”
“I see. That means you came to this city as his envoy.”
“Well, that’s how it is.”
By no means can he say that he came to this place after ignoring his orders.
“Well then, it’s about Orsongrande’s situation, but that side seems to be heading towards a war with Horant. A part of the nobles plotted to invade Horant and it looks like the queen headed out to suppress them while leading the troops herself.”
“Furthermore”, while swinging the steamed potato, which he stabbed with his two-forked fork, in front of his face, the man says,
“It seems that Earl Tohno is preceding towards Horant with his close aides while the army’s main unit is trailing after him.”
“Yea, if it’s about that, I know that. On the way of getting here I passed Fokalore’s troops as well.”magic
“I see, then...”
The messenger frowned due to the man casting a shadow on his face all of a sudden.
“Is there something bothering you?”
“It’s about the demon we have seen not long ago.”
Downing the cup of wine in one go, he place it on the table with a *clonk*.
“If those ((demon)) troops came invading towards the direction of Fokalore or Vichy, it might be possible to oppose them to some degree with Earl Tohno absent. Even without that, I wonder whether Fokalore or Orsongrande would make a move with their leaders absent, if Vichy started an offensive against our Pursang?”
“Uuh... however, Vichy has no intention to take an aggressive stance against Fokalore.”
“Wasn’t it inconceivable that Horant would make such a move either?”
“If someone thought that they might have the prospects for victory, that assumption would likely crumble easily”, the man shakes his head.
“As a matter of fact I called out to you because I want you to deliver certain objects to our home country. Originally, someone like me, who is expected to stay hidden, won’t get in touch with others willingly.”
“Certain objects?”
The man gently smiles at the messenger who asked with a feeling like grasping at straws.
“It’s magic tools that strengthen soldiers which I obtained from Horant. If it’s this, it might at least be possible to not get easily crushed by Vichy.”
“There’s such a thing?”
“Although it’s something I got my hands on by chance, I was at a loss without a partner whom I can trust to transport it as the objects are what they are. It’s disappointing that you couldn’t get in touch with the queen, but won’t it be a sufficient accomplishment with this? Since I have it at hand right here, I’d like to request it from you by all means, if possible.”
The smile of the man at that time was slight different from some time ago, but the messenger was unable to notice that.
Once he saw off the messenger who vanished into the city while thanking him many times over and pulling a cart with all the magic tools and potions placed on it, the man erased the smile from his face.
“... It seems to have gone smoothly.”
A middle-aged man, who carried the dishes and called himself clerk, called out to him.
“Humph. It would have been even better if he was related to the central committee of Vichy, but well, I guess it turned out well. Even though you didn’t mention the city’s name with a single word from your side, it saved us trouble that he flapped his mouth on his own accord. It was an easy job.”
The men, who returned to the store’s interior, enter an empty resting room for employees inside, pull the chairs to themselves with familiar motions and sit down on them with a *flump*.
“The seed has been sown. Tell that to Prime Minister Kuzemu. With this we can put out undivided attention on the fight with Orsongrande without having to worry about Vichy meddling. His Excellency, the Prime Minister, is a person quite attentive of the small details, too.”
Pouring wine into a cup by himself, he gulps down around half in one go.
“Let’s see, if it’s later possible to kill the Knight of the Slender Sword-sama according to the predictions of His Excellency, even I will get promoted once I return to the country. What do you think?”
“If it goes smoothly, certainly.”
“That would be nice.”
☺☻☺
Hifumi stays composed even if it’s about telling a suitable lie, but since he basically doesn’t do it with the reason that it’s troublesome to falsify one’s social status if one doesn’t hide their face as well, the messenger had no difficulty to recognise the black-haired person, who turns up while mounted on horse from the front close to the capital, as being Earl Tohno.
The messenger, who intended to go as far as Fokalore, ends up flustered due to seeing an important person in an unexpected place. As Hifumi ended up making no progress due to failing in handling his horse, the messenger was somehow successful at calling out to him.
“A-Are you Earl Tohno-sama?”
“Who are you?” (Hifumi)
Hifumi returned with an amazed expression to the young messenger, who came talking to him, while frantically soothing the horse which shook its head.
After hearing the giggling voice of Origa, who was behind Hifumi, the messenger becomes red up to his ears out of embarrassment.
“I-It’s sudden, but excuse me!”
Jumping off the horse, the messenger kneeled down on one knee while holding the reins.
“I was dispatched as messenger from Biron Earldom. I’m called Ose. I came to tell you the war progress in Horant’s direction... and about the final moments of Ma Carme-sama.” (Ose)
“I see. Thanks for your troubles. Alyssa, listen to it as well.” (Hifumi)
“Y-Yea. Ma Carme’s final moment, you say, you don’t mean...” (Alyssa)
Looking at Alyssa, who stepped forward while mounted on horse, the messenger stiffens.
“N-Nothing. That is... because Military Director Alyssa-sama...” (Ose)
“Me?” (Alyssa)
Due to Ose being lost for words, Alyssa tilted her head to the side, but Origa turned a sharp gaze at him.
“You are Ose-san, aren’t you?” (Origa)
“Y-Yes!” (Ose)
Ose, who held an impression of her being a peerlessly beautiful woman from Ma Carme’s stories, was confused seeing Alyssa’s appearance one might still call that of a little girl, although he thinks that she’s cute, but he came to his senses thanks to the voice of Origa who put pressure on him.
“The position Alyssa currently has is naturally related to my husband as well, but she solely owes everything to her efforts and abilities. Acting like you are harbouring strange suspicions is...” (Origa)
Alyssa said “I see” in understanding due to Ose bowing his head with a force as if he was prostrating himself on the ground.
“Certainly, if compared to those at the same age, Alyssa is small.” (Hifumi)
“How cruel of you, Hifumi-san!” (Alyssa)
Looking at Origa, who released a charm appropriate for a woman who suddenly got married, Alyssa secretly sighed at her own appearance.
“Leaving that aside, please hurry up and talk. Did Ma Carme die?” (Hifumi)
“If that’s the case, let’s hear the circumstances”, Hifumi said.
“I don’t know whether he really lost his life, but going by the situation, it was hopeless, I guess...?” (Ose)
Hifumi listened with his arms folded on top of his horse about the gallant figure of Ma Carme told by Ose who was in tears.
Alyssa is weeping while clinging to Origa.
“... Ha?” (Ose)
Hifumi’s smile was reflected in the eyes of Ose who raised his face.
“Ma Carme performed quite well, too. Although I didn’t expect him to get done in by Horant, the developments so far aren’t bad. He was able to kill as many as possible with low numbers.” (Hifumi)
Hifumi strokes the mane of his horse in a good mood.
“The lot from Horant is great, too. It’s a reliable method to surround low numbers with many while using spear throwers and magic. Letting you get away was a mistake, but they are able to execute ((such strategy)) due to properly preparing for the sake of fighting.” (Hifumi)
, Ose is confused and Origa says with an one-octave-higher voice,
“This is also the result of Hifumi-sama’s esteemed guidance. How magnificent.” (Origa)
“Eh...?” (Ose)
Ose thought that the news, he brought back, were sad ones, however the hero in front of him is smiling.
Unable to comprehend that, he turned his look towards Alyssa, who should be crying, to look for some assistance.
What he found was a girl who sheds tears with an expression filled with rage.
“Yea, what’s up?” (Hifumi)
“I have a request.” (Alyssa)
Once Alyssa dismounted and handed the horse’s reins over to Origa, she bowed very deeply in front of Hifumi.
“The battle with Horant changed into... became a return match. This will also be my revenge.” (Alyssa)
Hifumi, who looks down on her from atop his horse, doesn’t eradicate his thin smile.
“That’s right. If you want to get revenge for Ma Carme and the others, this will be a return match. It’s no one else’s either. It your revenge.” (Hifumi)
“That’s why I will do it. Please let me do so. As Origa accomplished her revenge, please give me a chance for that as well.” (Alyssa)
If one considers Hifumi’s character, the possibility was high for him to go ahead by himself to fight. It wouldn’t be funny either if he plans to snatch away my enemies.
However, Alyssa is still far from precisely understanding Hifumi’s character.
In contrast to Alyssa, who is shrouded in anxiety, Origa was smiling.
“How interesting!” (Hifumi)
The sound of Hifumi clapping both his hands together reverberates on the highway.
The armies of Horant and Fokalore have grown up properly. At this rate they will likely become quite the struggle for Imeraria’s forces as well. Alyssa.” (Hifumi)
“What will successfully conclude your revenge?” (Hifumi)
Hifumi’s and Alyssa’s gazes cross each other.
“... Killing those, who ordered the death of Ma Carme and the others, and those, who actually killed them...” (Alyssa)
“There, there. That’s fine. It’s good with that.” (Hifumi)
Stretching out his arm, Hifumi, who gently caressed Alyssa’s hair, smiles in a good mood.
“I will leave it to you. It’s fine to use the army to your heart’s content. It will be a contest with Imeraria. So, don’t lose, okay?” (Hifumi)
“Yea!” (Alyssa)
“I will watch from behind.” (Hifumi)
“Yea! Thank you, Hifumi-san!” (Alyssa)
Ose, who was completely treated as an outsider, unintentionally trembled with his shoulders when Hifumi’s gaze suddenly turned on him.
“There’s something I want to request from you.” (Hifumi)
“W-What is it!?” (Ose)
“Please go in the direction of Fokalore and convey the conversation just now to the Fokalore feudal army.” (Hifumi)
“That’s your reward”, retrieving one wakizashi from his darkness storage, Hifumi handed it over by tossing it to Ose.
“T-This is?” (Ose)
“It’s a wakizashi with the same ornament as Alyssa, the one Ma Carme wished for. If they see that, those guys from the army will likely realize that it’s a request from me.” (Hifumi)
“Such precious item...” (Ose)
“Take it. The fellow to get it died. If Ma Carme is still alive, it’s fine for you to palm it off by overcharging him plentifully. Because it’s this, he will probably fork over all of his money.” (Hifumi)
Ose strained his voice and said 「I have gratefully received it」 to Hifumi, who is laughing loudly, while hoisting the wakizashi above his head.
Although he didn’t see it properly as his sight was swaying, Alyssa and Origa appeared to be sobbing in Ose’s field of vision. |
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"source": "superScraper-fanfic"
} | 「わあ、久しぶりですね。忙しくしているみたいだけれど、大丈夫?」
「プーセさんこそ、お元気でしたか? あ、これザンガー様からお届け物です」
王城を訪れたオリガとヴィーネを入口で迎えたプーセは、オリガするとヴィーネとかしましく話あっていた。
オリガを迎えた相手は、イメラリアである。
「国境からの報告書、並びに魔人族の長と名乗る人物からの手紙をお届けに参りました」
「魔人族からの手紙ですか。夫君の領地は話題に事欠きませんね」
「ええ。おかげさまで退屈せずに済みます」
にこり、と整った顔をした美少が笑顔で言葉を交わしている様を見て、城内を警備している騎士たちは微笑ましいものを見たような、穏やかな顔をしていた。一めぐる二人の争いを知らなければ、表面上は親しい貴族階級の付き合いにしか見えない。
「わたくしとオリガさんは、少し相談事があります。プーセさんはヴィーネさんと積るお話もありましょうから、お二人でゆっくりされると良いでしょう」
「ありがとうございます、陛下」
嬉しそうに頭を下げたプーセと、合わせて礼をしたヴィーネを見送り、イメラリアは近くにいた騎士に彼女たちの部屋へお菓子とお茶を運ばせるように指示を出す。その姿はずいぶんと落ち着いて、自然な振る舞いになっている。
「主人の使用人にまでご配慮いただきまして、ありがとうございます」
「構いませんよ。その程度は雇い主の務めです」
プーセの役職は『相談役』なのだが、家臣では無く、客分として扱われている。エルフが長命であり、家臣として高い地位に付けると後年問題になるかも知れない。かと言って、王の相談を受ける立場の者が下級の貴族や官吏というのもおかしい、と宰相たちが頭を捻って考え、“一時的にエルフの集落からお招きした相談役”という
で扱うことになった。
城内に執務室と居室を与えられ、専用の侍女を付けられた。自給自足に近い生活をしていたプーセは、突如として変化した生活に、最近になってようやく慣れてきたところだった。まだ、侍女に対して指示を出す事には慣れていないのだが。
「城にも複数の魔法使いがいますし、魔法が使えなくても魔法を使う相手との戦いを訓練したいという希望もあり、最近では騎士隊の訓練にもお手伝いいただいています」
「なるほど。それは良いことですね」
イメラリアの執務室へと場所を移し、侍女たちに部屋から出るように告げると、向き合う二人の顔から笑顔が抜け落ちた。
「それで、その手紙を見せていただけますか?」
「どうぞ」
そっけなく渡された手紙を見て、封蝋がそのままになっていることを、イメラリアは意外に思った。
「一二三様は中を確認しておられないのですか?」
「主人からすれば、すでに引退した身だから興味が無い、ということのようですね」
素直に頷きながらも、イメラリアは鵜呑みにするつもりは毛頭なかった。何らかの方法で中身を確認したか、あるいは魔法を使って確認したかのどちらかだろう、と仮定する。
イメラリアは慎重にナイフで封を解き、内容にしっかりと目を通した。
そこには、女王ウェパルの署名付きで、停戦のための話し合いを行いたい旨が書かれていた。女王自らイメラリアの居城へ赴く用意がある、と記されている。
「......なるほど」
文面だけで判断するのは危険だが、被害軽微な小競り合いで終わっていても、国軍の兵士を国境へ手中させ、駐留部隊を養うだけでも経費がかかる。終わらせられるならそうしたいのが為政者としての本音だ。
魔人族がいるエリアに来い、ということであれば罠を疑うところだが、来ると言うのであれば用意はできるだろう。
考え込んでいたイメラリアが、ふと視線を感じて顔を上げる。そこには、無表情で見つめているオリガの姿があった。
「何か?」
「魔人族の王という方から、停戦の申し込みです。実現されれば良いのですが......」
「停戦ですか。良い知らせです。あまり戦いが長引くと、アリッサの負担にもなります。向こうも攻めあぐねているようですから、良い頃合いでしょう」
オリガの言葉には、当然停戦を受け入れますね、という意味合いが強く含まれている。それが彼女の考えからなのか、一二三に言い含められてのことなのかは不明だが、イメラリアにこれを受けない理由は無い。
「そうですね。このお話は受けるべきでしょう」
ふと、イメラリアの脳裏に、今の状況を利用できないかという考えが浮かんだ。
「......オリガさん。明日の昼食、ご予定は?」
「主人と過ごす予定です」
当然の事と言わんばかりなオリガの言葉に、イメラリアは内心の苛立ちを笑顔で包み隠す。
「良かったら、一二三様も交えて、打ち合わせも兼ねて城で昼餐としませんか? 正式な内容はその時に詰めたいと思いますが、国境からここまで、魔人族の女王をエスコートしていただきたいのです」
「......それは、国軍で行うべきではありませんか?」
「今、一二三様に鍛えていただいている騎士の訓練も兼ねて、という形でお願いいたします。それに、魔人族の精鋭が万一国内で暴れたとき、一二三様ならば確実に押さえつけることができます」
依頼料や行動スケジュールなどについて、一二三本人を含めて相談したい、と繰り返したイメラリアに、オリガは保留の態度を取った。
「主人に相談してから、今日のうちにはご連絡させていただきます」
「わかりました。よろしくお伝えください」
簡単なあいさつを交わし、オリガは城を後にする。
入れ替わりに室内へ入り、二人分のティーセットを片付け始めた侍女に、イメラリアは「急ぎでお願いします」と声をかけた。
「サブナクさんと宰相に、すぐここへ来るように伝えてください」
「畏まりました、陛下」
手早く茶器を盆にまとめ、侍女は足早に出て行った。
「......明日の敵は今日の友......。いえ、友とは言えませんね」
政治に関わると、思考がどんどん黒くなる、とうんざりしながらイメラリアは自らのお腹を撫でた。まだ確定の診断は出ていないが、なんとなく、そこに命がある気がする。
「......友ならば、利用しようとは思わないでしょうからね」
☺☻☺
「そう。ご苦労様」
ウェパルは報告に訪れた男に、優しく声をかけた。
ヴィシー中央委員会の執務室をそのまま使っている女王の為の執務室は、次第に書類で埋まりつつあった。部屋の隅で、ニャールとフェレスの二人が、ひぃひぃ言いながら書類の仕分けをしている。書類が増えて面倒になってきたウェパルが、二人に緊急性の高い順に分けるように命じたのだ。
ブツブツと泣き言を言いながら書類を捌くニャールへ、男はちらりと視線を向けたが、言及はしなかった。そこに触れたら自分も巻き込まれるかもしれない。
「偽装は完璧だったのですが、まさか見破られそうになるとは思いませんでした。不覚です」
「しっかりと親書を渡してくれて、報告に戻ってきてくれたのだから、あまり気にすることはないわよ。また潜入をお願いするかもしれないから、その時は気を付けてね」
「はっ。次の機会がいただけましたら、より完璧に任務を達成して御覧に入れたいと思います」
男が持ち帰った情報で、一二三が領主から退いてオーソングランデという国の首都に滞在している事、ホーラントという国とオーソングランデが連携を取っている可能性があることが分かった。
「まさか引退していて、しかも首都にいるとはね」
褒美については後日、と伝えて男を下がらせてから、想定外だった、とウェパルは天井を仰ぎ、両手で顔を覆った。
「そういう事なら首都に行くなんて書かなかったわよ。勘弁してほしいわね。下手したら人間と魔人族がいるところで余計な事されかねないわ。停戦どころじゃなくなるかもしれない」
仕方ない、とウェパルは送ってしまった手紙の内容について、今になって愚図るのはやめた。自分が所属する国の首都でまで、騒ぎを起こすような真似はするまい、と考えた。
「そんな真似したら、お城を舞台に魔人族と人間の両方を敵に回すことになるわよ」
わざとらしく大声で笑い飛ばし、不安をかき消す。
ニャールとフェレスが気の毒そうな顔で見てくるが、今さら部下にどう見られようが知ったことか、という気分だ。
ひとしきり笑って、ようやく気持ちが落ち着いて来た頃に、バシムが足早に入室してきた。魔人族の将としてヴィシー攻めを指揮し、一二三に片腕を奪われた男だ。
金属鎧を着た片腕の男は、乱暴な足取りウェパルの前まで進み、ドン、と音を立てて跪いた。
「人間の町に使者を送ったと伺いましたが!」
「使者というより、手紙を送っただけよ。それがどうしたの?」
ウェパルは、気持ち突き放すような言葉になった。彼女は、粗暴で出世欲を剥き出しにしているバシムの事を好きになれなかった。尊敬しろとまでは言わないが、国家と言う組織として他の国家とやり取りをしていくことを考えれば、形だけでも女王に対する敬意を見せられるようにするべきだ。
それができそうにないバシムを、ウェパルは今の地位以上に上げる気は毛頭無かった。
「一体、どのような内容をお送りされたのです。よもや、降伏勧告などではありますまいな」
バシムの言い草に、ウェパルは心底呆れた。自らも含めて人間に対して敗北している状況なのだ。攻め手に欠けるなどと言い訳で塗り重ねているうちに、自分たちが圧倒的に優位だと自己催眠にでもかかってしまったのではないか、とウェパルは内心で皮肉る。
戦況をどこからどう見ても、降伏を勧めるような状況ではないのだが、バシムにとっては敵に送る書状と言えば、降伏勧告か挑発文くらいなのだろう。
書状の内容を教えてやる必要など無い。ウェパルにとってこういう無礼な奴は組織運営の邪魔なので、早々に排除したいところだったが、戦場に置いておく数合わせとしては使える程度に実力があるのが問題だった。
それに、オーソングランデとの接触は、こういった主戦派への偽装も兼ねている。
「文面だけを見れば、停戦のための講和を結ぶ話し合いの打診よ」
「停戦だと!? ......失礼しました。しかし、現状我々は負けているわけではありません。まして、一国を陥落させ、今も二正面作戦を大きな損害も無く推敲しております。今この段階で停戦を、しかも我々から申し入れる必要は無いのでは、と愚行いたしますが」
なるほど、とここに至って、魔人族の領土に来た一二三が、すぐに暴れることなくフェゴールに連れられるままに町へ入って、魔人族との会話から入った理由に納得した。情報を知らないと、これほど人は間抜けに見えるのだ。
「落ち着きなさい」
「しかし......」
「停戦は方便です。バシム、私の新たな転移魔法の制限を知っているでしょう」
転移先は“ウェパルの魔力を込めた目印”を置くか、彼女自身が訪れたことがある場所に限定される。
魔人族の主戦派が妙な提案を持って来る可能性を考え、ウェパルは早々に自らの魔法についての弱点を公表していた。
「なるほど! つまり陛下は恩自らが敵地の中心部へ赴くことで、一気呵成に敵の本拠地を叩き潰す準備をなさるわけですな!」
興奮気味に話すバシムに対して、ウェパルはニヤリと笑った。“うまく乗ってくれた”と。「わかったなら、兵たちとの調練を勧めなさい。万一、首都で私を害する動きがあれば、戦いはそこで始まるのだから」
満面の笑みで出て行ったバシムは、きっと兵たちに向かって、今の会話で出た作戦について嬉々として喧伝してくれるだろう。そして、士気の高い兵士たちを以て、号令一つで突撃してくれるはずだ。
「もし、一二三があの剣を握るようなら、その時点で呼んであげようかしらね」
そして、見事に盾となって女王を逃がすための時間を稼いでもらおう。バシムの後任は、もう少し女王の意を汲んでくれる者を選ぼう。
ふと、部屋の中で相変わらず書類と格闘していた二人に声をかけた。
「ニャール、フェレス。将軍とかやってみたくない?」
「絶対嫌です」
即答したフェレスに、ニャールも同意するように何度も頷いていた。 | “Wow, it’s been a while, hasn’t it? It looks like you are busy, but is everything alright?” (Puuse)
“You too, Puuse-san, are you holding up well? Ah, this is a present from Zanga-sama.” (Viine)
Greeting Origa and Viine, who visited the royal castle, at the entrance, Puuse bowed towards Origa and then noisily chatted with Viine.
The one welcoming Origa is Imeraria.
“A report from the border and a letter from a person calling themselves the leader of the demons have been delivered.” (Origa)
“A letter from the demons? The territory of your husband does not lack excitement, does it?” (Imeraria)
“Yes. Fortunately it does not get boring.” (Origa)
Seeing the two young beauties exchanging words while smiling sweetly, the guards patrolling the castle looked warmly at them as if seeing a pleasant scene. As long as one doesn’t know about their rivalry revolving around Hifumi, they simply look like close noble associates on the surface.
“There is something Origa and I have to talk about. Puuse-san, I am sure you have plenty of things you want to tell Viine-san, so it is probably a good idea for you to slowly catch up with each other.” (Imeraria)
“Thank you very much, Your Majesty.” (Puuse)
Seeing off Puuse and Viine, who delightfully bowed their heads and then left, Imeraria orders a nearby knight to have sweets and tea brought to their room. She’s conducting herself very calmly and naturally.
“Thank you very much for taking even my husband’s servant into consideration.” (Origa)
“Do not mind it. That much is the duty of an employer.” (Imeraria)
Puuse’s official position is 『Advisor』, but she has been treated as guest and not as retainer. As elves are long-lived, it might turn into a problem in later years if she’s given a high position as retainer. Having said that, the prime ministers and his subordinates pondered and racked their brains over the whole matter, as it would be weird for a person with the position to consult the ruler to be a low-ranking noble or a government official, and decided to handle her as “Advisor who had been temporarily invited from the elven village.”
She was granted a living room and an office within the castle, and an exclusive maid was assigned to her. Recently Puuse, who had always lived providing for herself, was finally at the point of getting used to the suddenly changed lifestyle. Though she still hasn’t accustomed herself to giving orders to her maid.
“There are several magicians in the castle, so I have the ambition of wanting to train fighting against magic users even if I can’t use magic myself. Recently I have been even helping out in the training of the knight order.” (Imeraria)
“I see. That is nice.” (Origa)
They changed location to Imeraria’s office. And then, once Imeraria had told the maids to leave the room, any smiles vanished from the two’s faces as they sat across each other.
“So, can I have you show me that letter?” (Imeraria)
“Here you go.” (Origa)
Seeing the letter that had been handed to her curtly, Imeraria considered it unexpected for the sealing wax having been left untouched.
“Hifumi-sama has not checked the contents?” (Origa)
“In the eyes of my husband, he has already retired, so he does not have any interest in it. Those were his words.” (Origa)
He probably confirmed the contents with some kind of method or used magic to do so
Imeraria carefully undid the seal with a knife and thoroughly scanned through the content.
It was signed by Queen Vepar and basically requested to hold armistice negotiations. It also mentioned that the queen herself is preparing to head towards Imeraria’s royal castle.
“...Hmm.” (Imeraria)
It’s dangerous to use only the contents of the letter to make a judgment, but just supporting the garrisoned forces, who were left in charge of the royal army’s soldiers at the border, costs money even if the whole battle finished with a skirmish with insignificant damage. Wanting to make something like that to end as soon as possible is the true wish of any statesman.
Being told to come to area where the demons are would resulted in me suspecting a trap, but if she says that she will visit, I think I will be able to arrange a meeting.
Imeraria was brooding over it, but suddenly feeling a gaze on her, she lifts her head. The one expressionlessly staring at her was Origa.
“Anything the matter?” (Origa)
“It is a proposal for a ceasefire from a person calling herself queen of the demons. If it is actually implemented, that will be great, but...” (Imeraria)
“A ceasefire? Those are good news. If the battle drags on for too long, it will also become a burden for Alyssa. As the other side seems to also be at a loss how to continue, I guess it is just the right time.” (Origa)
Origa’s words strongly contain implications that it’s only natural to accept the ceasefire. It’s unknown whether those are her own thoughts or something she was told by Hifumi, but Imeraria has no reason to not go along with this.
“I guess you are right there. I probably should accept to hold those talks.” (Imeraria)
Suddenly the idea whether she can’t make use of this situation crossed Imeraria’s mind.
“...Origa-san, do you have any plans for tomorrow’s lunch?” (Imeraria)
“I plan to spend time with my husband.” (Origa)
Imeraria conceals her irritation at Origa saying it is as if it was just natural to do so with a smile.
“If you like, Hifumi-sama can join us as well. How about a luncheon in the castle that at the same time serves as preparatory meeting? I want to wrap up the official details at that time, but I would like you to escort the queen of the demons from the border to this place.” (Imeraria)
“...Is that not something which should be carried out by the royal army?” (Origa)
“I would like it to take the shape of it serving as training for the knights who are currently being trained by Hifumi-sama. Besides, in worst case if the demon elites started to act up within Orsongrande, Hifumi-sama would definitely be capable of suppressing them.” (Imeraria)
“I would like to discuss the request fee and the schedule when Hifumi-sama himself is with us,” Imeraria added. Because of that, Origa put the decision it on hold.
“As I have to consult with my husband, I would like you to allow me to contact you at a later time today.” (Origa)
“Understood. Please take care of passing on my request.” (Origa)
After exchanging simple words of parting, Origa leaves the castle.
Imeraria told the maid, who entered the office in exchange and started to clean up both women’s tea sets, “Please hurry.”
“Also, please tell Sabnak and the prime minister to come here right away.” (Imeraria)
“As you order, Your Majesty.”
The maid swiftly placed the tea utensils on a tray, and left at a quick pace.
“...Yesterday’s enemy is today’s friend...no, I can’t call them friends, now can I?” (Imeraria)
While becoming fed up with her thoughts steadily becoming dark as she deals with politics, Imeraria gently caressed her belly. A definite medical diagnosis still hasn’t come up, but somehow she has a hunch that there’s a life dwelling in there.
“...After all one wouldn’t consider to make use of one’s friend.” (Imeraria)
☺☻☺
“Yes. Thank you for your efforts.” (Vepar)
Vepar gently thanked the man who visited her to make a report.
The office of Vichy’s central committee that’s being used as the queen’s office as is was gradually getting buried in documents. In a corner of the room Nyarl and Pheres are sorting documents while breathing heavily. Vepar, who had become troubled by the increasing amount of documents, ordered the two to sort the documents by their level of urgency.
The man threw a fleeting glance at Nyarl who is processing documents while continuously grumbling, but he didn’t address her.
“The disguise was perfect, so I certainly didn’t expect them to see through it. It’s my blunder.”
“Since you came back to report after properly passing on the signed letter, you don’t have to worry over it too much. As I might ask you to infiltrate them once more, you just have to be careful at that time.” (Vepar)
“Yes, Your Majesty. If you allow me another opportunity, I’d like to show you that I can accomplish my mission even more perfectly.”
According to the information brought back by him, Hifumi has resigned as feudal lord and is staying in the capital of the country called Orsongrande. Also, it’s possible for the country called Horant and Orsongrande to have formed a cooperative alliance.
“Certainly I didn’t expect him to retire, much less to say about him staying in the capital.” (Vepar)
After telling the man that they would talk about the reward on another day and having him withdraw, Vepar looks up to the ceiling while saying, “That was a surprise,” and covered her face with both hands.
“If I had known about that, I wouldn’t have written about going to their capital! Please give me a break. If I’m careless, it’s not unlikely that something unnecessary might happen between the demons and humans. Not just the ceasefire might be a lost case then.” (Vepar)
He won’t go as far as causing a disturbance in the capital of the country he belongs to
“If he did something like that, it would only result in him turning both sides, humans and demons, into enemies with the castle as stage.” (Vepar)
She drowns out her anxiety by deliberately laughing it off loudly.
Nyarl and Pheres look at her with faces full of pity, but at this point she felt as if she knows how she’s regarded by her subordinates.
When her emotions finally settled down after laughing for a while, Bashim entered the room hurriedly. He’s the man who commanded the attack on Vichy as general of the demons and who had one of his arms stolen by Hifumi.
The man, who wore a metallic armor, proceeded towards Vepar with rough steps and knelt down with a thump.
“I heard that you sent an envoy to the human city!” (Bashim)
“Rather than an envoy, I only sent a letter to them. What about it?” (Vepar)magic
I won’t go as far as telling him to show some respect, but if I plan to go to another country to have an exchange with them as an organization that’s called a state, I should make sure that he can show respect towards his queen, even if it’s only for form’s sake.
Vepar didn’t have the slightest intention to raise Bashim, who doesn’t look as if he would be able to do that, above his current position.
“Just what have you written in the letter you sent? Certainly it’s something like a recommendation to surrender, right?” (Bashim)
We are in a situation where we are losing against the humans, which includes you yourself as well. Haven’t you guys been continuously telling yourself that you are overwhelmingly superior while repeatedly covering up the reality with excuses such as missing the means to attack?
No matter how you look at it, the war progress isn’t in any situation to recommend surrender, but for Bashim sending a letter to the enemy probably is limited to using it as provocation or as capitulation recommendation.
. Since such a rude fellow is nothing more than a hindrance for Vepar in her management of the organization, she was at the point of wanting to get rid of him as soon as possible, but it was a problem that he has so much power that he can be used to make up for numbers if placed on a battlefield.
Besides, the contact with Orsongrande at the same time also serves as camouflage towards the hawks in the demon army.
“If you only look at the content of the letter it looks as if we are sounding them out about a discussion to conclude peace through a ceasefire.” (Vepar)
“Ceasefire, you said!? ... Excuse me. However, in the current situation there’s no way for us to lose. Not to mention that we made a whole country surrender. Even now we are polishing a two-front-strategy without any big losses. At the current stage a ceasefire, moreover one proposed by us, is unnecessary and a foolish move.” (Bashim)
, reaching that point, she understood the reason why Hifumi, who came to the demon territory, started a conversation with the demons without going on a rampage right away after entering the city while being led by Phegor.
“Calm yourself.” (Vepar)
“But...” (Bashim)
“The armistice is just a means. Bashim, you know about my restrictions for new transfer destinations, don’t you?” (Vepar)
The transfer destinations are limited to set-up “marks filled with Vepar’s mana” or places she herself had visited.
Considering the possibility of the demon army’s hawks coming up with strange proposals, Vepar quickly announced the flaw of her own magic.
“Ooh! In other words, the favor of you, Your Majesty, personally heading into the center of the enemy territory is a preparation to smash the enemy headquarter in one swipe!” (Bashim)
I skillfully managed to deceive him
. “If you understand, have the soldiers train. At worst, if it develops into me being injured in the capital, the battle will start there.”
Bashim, who left with his face being all smiles, is certainly heading to the soldiers and gleefully spreading the strategy he heard in the conversation just now. And then he should come attacking with the highly-spirited soldiers under one command.
“I think I will call them at the moment when it seems that Hifumi is holding that sword.” (Vepar)
And then I will have him become a splendid shield to buy time for allowing his queen to escape. Let’s choose someone, who can guess what their queen thinks a bit better, as Bashim’s successor.
All of a sudden she called out to the two who still grappled with the documents inside the room.
“Nyarl, Pheres, don’t you want to have try on becoming a general?” (Vepar)
“Absolutely not.” (Pheres)
Pheres replied immediately and Nyarl also kept nodding her head repeatedly in agreement. |
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} | 獣人による獣人の殺人事件の発生は、スラムの住人に動揺を与えた。
スラムとは言え、よほどの無法者でなければ互いに不干渉であり、最近は街が良くなっているのを皆が実感し始めた時期でもあったので、目撃した人々を中心に、犯人探しは熱を帯びた。
「それで、スラムでも見回りが必要なんじゃないか、という話が出ておりやしてね」
ゲングは同じ獣人族が殺されたという事もあり、率先して犯人と言われている熊獣人を探し回っていた。
「俺も頑張って探しているんですが、これがなかなか難しくて」
「それはわかるんだけど、どうしてウチに言うんですか......」
へへっと舌を出したゲングに、レニは困り顔で答えた。
「ウチなんかよりも、犬獣人のゲングさんの方がそういうの得意なんじゃないですか?」
「ですんの奴隷獣人の筆頭はレニさんとヘレンさんですから。まずお伺いを立てておかないといけないと思いやしてね」
「いつわたしたちが筆頭になったのよ......。まさか、が怖いから直接相談するのに腰が引けてるとかじゃないでしょうね」
ヘレンの冗談交じりの言葉に、ゲングは思わず視線を泳がせる。
「図星なの?! 虎程じゃなくても犬獣人なら充分強いでしょ?」
「あの人は別格! 虎とか狼でも無理無理。人間とかそういうのは無関係に強いんですよ、あの方は。んで、あの方のお気に入りのお二人にちょっと口添えをお願いできればと思いやしてね」
「ちょっと、誰が一二三のお気に入りなのよ」
ヘレンの反論に、ゲングはアレ、と首をかしげた。
「最初にこの国に入った時から一緒だったと聞きやしたけど。一二三さんとは良い仲なんでしょ?」
「良い仲ってなに?」
ヘレンは顔を赤くして絶句しているが、レニはゲングの言葉の意味がわからなかったらしく、キョトンとしている。
ゲングはそこまで子供だったか、と逆に驚いていた。
「これは、俺としたことが、とんだ勘違いを......」
「まったくよ! 変な勘違いしないでよね!」
ヘレンがプリプリと怒って、耳をピンと尖らせて何処かへ行ってしまった。
「あちゃ~......」
「大丈夫だよ、ゲングさん。ヘレンには後でウチから言っておくから。それよりも人が殺されたり何か盗まれたりしたときは、人間の街だと兵士さんが調べたり悪い奴を捕まえたりするらしいよ」
「兵士ですか。こればっかりは、人間の兵士に頼むわけには......」
「じゃあ、人間じゃなかったらいいんじゃないかな」
「は?」
「ウチたち獣人で人間みたいにお店や畑ができるなら、兵士さんと同じ仕事もできるんじゃないかな」
肩を落としていたゲングは、飛び跳ねるように頭を跳ね上げると、仲間を集めてくると言って走り去って行く。
「行っちゃった......」
あっという間に姿が見えなくなったゲングを見送り、レニは勉強の続きに取りかかった。今、彼女が読んでいるのはフォカロルの文官になるための試験に使われる教材だ。カイムはともかく、デュエルガルやパリュは相当苦労して覚えた内容だが、先入観も何も無い素直なレニはスイスイ覚えていく。
「ふぅ......人間の勉強って、大変だなぁ」
☺☻☺
レニの一言で結成された獣人の団体は、腕自慢が集まった厳つく、むさい男たちの集団ではあったが、自警団としては非常に優秀だった。
彼らは自らの仕事の合間にスラムを巡回し、犯罪やそれ未満の問題を片付けて行く。迷子になった子供を保護したり、酔っ払いや新たに人間から逃れてきた獣人などの保護などにも積極的に活動し、人間の兵士よりも多くの分野での信頼を集める組織となっていく。
うまく適性のある職を見つける事ができなかった獣人の受け皿としても機能し、ゲングを中心として加速度的に人数が増えていく。
度々人間の兵士の死体がスラムの入口で見つかるなど、血生臭い事件もあるので、自然とスラムに出入りする人間も自警団を頼るようになっていた。
そして、そこに目をつけたのが一二三だった。
「ほうほう、なかなか面白い事を考えるな」
「ひ、一二三さん!?」
自警団の本部として使用している古い家屋に突然顔を出した一二三に、ゲングは慌てて立ち上がると、一番綺麗な状態の椅子を運んできた。
「ああ、気を遣わなくていい。それより、自警団を始めるなんて、なかなか気がまわるじゃないか」
「いやいや、レニさんからヒントをもらったおかげでやす。元々不器用で戦うしか能の無い奴も多いんで、人集めは楽なもんでしたよ」
聞けば、専従で20名程が在籍し、他の仕事をしながら巡回を手伝う予備隊扱いの獣人は50人程いるという。
基本的に獣人の店からの寄付で活動しているが、一部は人間からの寄付もあるという。
「今のところは何とかやっています。......ですが、例の獣人殺しの奴は未だに見つけられやせん......」
声を落として、悔しそうに牙を剥いて見せたゲングに、一二三は優しく声をかけた。
「まあ、気を落とすな。それより、この狭いスラムでそれだけの人数を使っても見つけられないなら、もうスラムにはいないんじゃないか?」
「つまり、荒野に出ちまってるって事ですかい?」
「違うな」
一二三は首を横に振る。
「他の奴にも聞いたが、その犯人は前にもスラムで人間に対する敵愾心を口にしていたんだろう? そして、数人がそいつに人間から救い出された。そんな奴が、コソコソ荒野に戻ると思うか?」
「じゃあ、人間の住む方へ行った、と?」
「その可能性も考えるべきだろうな」
「そんな......それじゃ、もう俺たちじゃ追いかけられねぇ......」
落胆するゲングを、一二三は拳で軽く小突いた。
「簡単に諦めすぎだ、馬鹿野郎」
「え、何か方法があるんで......いてぇ!?」
拳骨をゲングの頭に落とした一二三は、馬鹿たれ、と息を吐いた。
「少しは自分たちで考えろ。それより、もっと真剣に準備すべき事があるみたいだから、俺はそれを伝えに来たんだよ」
「何かありやしたか?」
頭をさすりながら聞いてくるゲングに、一二三は腕組をして説明を続ける。
「ああ。ここ数日、夜中にちょいちょい兵士がスラムに入ろうとしていてな、“偶然”俺が通りかかって、俺は何もしていないのに、向こうが剣を抜いて攻撃してきたから、毎回ぶち殺して路上に転がしていたんだが......」
「あの兵士たちの死体は一二三さんが原因でしたか......」
すわ、あの熊獣人の仕業か、と気を張り詰めていたゲングは自分が悲しくなってくる。偶然とか絶対嘘だと思うが、命が惜しいので口には出さない。
「どうやら、兵士が帰って来ないせいか、騎士連中で徒党を組んでスラムに来るみたいだぞ」
「そんな! でも、どうしてそれが分かるんですかい?」
「街中を見て回って、食料をまとめて城が買い入れたり、貴族が使う武器屋に手入れや新規の発注が増えているのを掴んだ。馬具の調整なんかも注文が増えているという話だからな。ここの兵士は馬を使わないから、動くのは騎士だろう。騎士の訓練が増えたという噂もある。今の時期に騎士がわざわざ動く理由なぞ、他に考えられんから、おそらく狙いはここだろうな」
さあさあ、どうする? と一二三が問うが、ゲングは唖然として答えられる状態になかった。
「た、大変だ......!」
「落ち着け」
ゲングは濡れた鼻先に一二三のデコピンを受けて、床を転げまわって悶絶する。
「騎士の対処なんて簡単だ。第一、人間は弱いぞ。馬を使ってようやくお前ら獣人の足に追いつき、剣を使ってなんとかお前らに傷をつけられるんだ」
「えっ? じゃあ一二三さんはやっぱり人間じゃないんじゃ......」
再び拳骨を落とされたゲング。
「話をそらすな。つまり、同じように道具や頭を使えって戦えば、騎士なんぞ怖くもなんとも無いって事だ」
立ち上がった一二三は、腰の刀の位置を直しながら、床に転がって腹を見せているゲングを見下ろした。
「暇な奴を集めろ。俺が戦い方を教えてやろう」
☺☻☺
サルグは既に正気とは言えない状況にあり、自分でもそれを自覚してはいた。
獣人が人間に使役されているのを見ると、後をつけて家を特定し、寝静まるのを待ってその家の人間を殺す。
そして、奴隷となっている獣人を救うのだが......。
「ここで助けられて、おれにどうしろってんだよ」
両手の爪を全て失った狼の獣人は、厩舎の隅で立ち上がろうとすらしない。
「おれだって、最初のうちは人間が憎かったさ。でもな、荒野で暮らすより人間の奴隷の方が、よっぽど安全で楽に飯が食えるって知ったら、危険以外には何も無い荒野には戻れねぇよ」
「......そう、なのか......」
「おれが使えなくなったとしても、殺される事は無いんだとさ。スラムに放り込まれるらしいが、そこはそこで人間のおこぼれが結構もらえるから、ちまちま食いつなぐ分には生きていけるそうだ」
主人が死んじまった以上は、おれもそこに行くしかないんだろう、とこぼした狼獣人は、薄く笑っていた。
それを見下ろすサルグの表情は、暗闇に紛れて狼獣人からは見えない。
「荒野に帰りたいとは、思わないのか?」
「あん? 荒野な。懐かしくはあるが......」
ヘラヘラと笑って、狼獣人は首を振る。その仕草は何か嫌な記憶を振り切っているかのようだ。
「あそこは地獄だ。羊や兎のように逃げ回るか、殺すか殺されるかの日常をゆっくり寝る間も無く繰り返すしかない。ここのように安心して眠る環境も無い。苦労して食物を探すうちに募る空腹感は、もう味わいたくないぜ」
「そうか。わかった」
サルグが打ち下ろした拳は、彼を見上げていた狼獣人の顔面に叩き込まれ、水っぽい音を立てて血肉にめり込んだ。
ヌチャリと音を立てて顔面から引き抜いた拳を見つめ、サルグは考えた。
頭の中が雑音のような思考で掻き回されて酷く痛むが、それでも考えた。
「この街そのものに、獣人は毒されている......」
人間が与えた食べ物が、建物が、生活が、全て獣人の本来あるべき魂を失わせた、とサルグは結論づけた。
酷く痛む頭で、くり返し対策をひねる。
血の匂い立ち込める厩舎の中で、倒れている狼獣人の死体の横に座る。
「落ち着け。人間を叩き潰せば、全て終わるはずだ」
サルグの視線は、死んだ狼獣人の顔を見ている。まるで話しかけるように。
「そうだ。頭を潰せば人間も、人間の街も終わる」
立ち上がったサルグの頭は非常にクリアに物事が考えられるようになっていた。
クリアに、シンプルに、決めた事を達成する為に歩きだす。
「人間のボスは、どこだ......」
夜の街を、狂った熊獣人が歩いていく。 | The murder of a beastman by another beastman caused a disturbance among the beastmen of the slums.
Although it was the slums, they didn’t interfere with each other unless one was a great outlaw. Since it was right now also a phase, where everyone was actually experiencing the city improving, the search for the culprit, mainly by the people who witnessed it, was tinged with a mania.
“So now it has come to the talk whether it’s not necessary to patrol the slums as well ~ssu.” (Gengu)
For Gengu there’s also the situation of one of his own tribe getting killed. Taking the initiative, he was looking everywhere for the bearman, who has been named as culprit.
“I’m doing my best at searching too, but it is quite difficult.” (Reni)
“I do know that, but why are you telling this to me...?” (Gengu)
Reni answered with a troubled expression to Gengu, who stuck out his tongue with a laugh.
“Rather than someone like me, isn’t such a thing a speciality for a dogman like Gengu-san?” (Reni)
“However, Hifumi-san’s leading slaves are Reni-san and Helen-san. I believe it to be wrong, if I don’t ask about your opinion first ~ssu.” (Gengu)
“Since when did we become leaders...? Surely it’s not because you have cold feet to directly consult with Hifumi-san due to being scared or such, is it?” (Helen)
Gengu unintentionally lets his look swim due to the partially teasing words of Helen.
“Bull’s-eye!? Even if it isn’t at the level of a tiger, a dogman should be plenty powerful, no?”
“That man is special! Impossible, it’s impossible even for tigers or wolves. That man’s strength is unrelated to being a human or such. Therefore, I thought it would be possible to request the favourite people of that man to put in a bit of a good word ~ssu.” (Gengu)
“Just a second, who is Hifumi-san’s favourite?” (Helen)
Due to Helen’s objection, Gengu tilted his head with a “Huh?”
“I hear that you were together with him from the beginning, when you entered this country, though ~ssu. You have a good relationship with Hifumi-san, right?” (Gengu)
“What good relationship?” (Helen)
Helen has become speechless with a red face, however Reni didn’t understand the meaning of Gengu’s words and is staring at him in puzzlement.
In reverse Gengu was surprised that they were still children to such an extent.
“This is, I of all people, have made a terrible misunderstanding...” (Gengu)
“Really! Don’t get such weird ideas, okay!?” (Helen)
Being angry with a huff, Helen’s ears stood on end and she ended up going somewhere.
“Oops~” (Gengu)
“It’s alright, Gengu-san. I will talk with Helen later. Leaving that aside, at the time something is stolen or people get killed, it seems that soldiers will investigate and arrest the bad person in the human’s city.” (Reni)
“Soldiers, it is? About this, to leave it to human soldiers is...” (Gengu)
“Well, then isn’t it fine if it’s not humans?” (Reni)
“Ha?” (Gengu)
“If we beastmen are able to cultivate land and run stores like humans, won’t we be able to do the same job like the soldier-san’s as well?” (Reni)
Gengu, who had dropped his shoulders, raises his head as if jumping up and runs away to gather his friends.
“Off he went...” (Reni)
Seeing off Gengu, whose figure vanished from sight within the blink of an eye, Reni began the continuation of her studies. What she is currently reading are the teaching materials used as examination to become a civil official of Fokalore. It’s content, which, putting Caim aside, took Doelgar and Paryu quite the troubles to remember, but Reni smoothly and obediently learns them as she has absolutely no prejudices either.
“Phew... the human’s studying, it’s quite hard.” (Reni)
☺☻☺
The beastmen association, which was formed with a few words of Reni, was a filthy, grim group of men proud of their strength, but they were extremely superior as vigilante corps.
Patrolling the slums during the breaks of their own work, they solve crimes and lesser problems. They also actively move for things like sheltering new beastmen, who escaped from the humans, take care of drunkards and protect lost children. They have become an organisation, that gathers trust, with many more tasks than human soldiers.
Facilitating even the acceptance of beastmen, who weren’t able to find good work for the aptitude they possess, the increase of their numbers accelerated with Gengu playing a leading role.
Discovering the corpses of human soldiers at the entrance of the slums again and again, it naturally even reached the point of the vigilante corps relying on the humans, entering and leaving, since those were bloody incidents, too.
And, the one, they had their eyes on, was Hifumi.
“Ho ho, aren’t you planning something quite interesting.” (Hifumi)
“H-Hifumi-san!?” (Gengu)
Due to Hifumi suddenly making an appearance at the old building, which is serving as headquarters of the vigilante corps, Gengu stood up in a hurry and brought the chair with the cleanest state.
“Ah, don’t mind me. Rather than that, something like establishing a vigilante corps, aren’t you passing your time in a wonderful way?” (Hifumi)
“No, not at all! It’s thanks to having received a hint from Reni-san ~ssu. As they are originally clumsy guys, who have no brains and are only good at fighting, this is a comfortable gathering of people.” (Gengu)
Once asked, there are around guys working full-time and around beastmen, who are treated as reserve corps helping on the patrols while doing other jobs.
Basically they are operating with the donations of beastmen stores, but there is also a part of donations coming from humans.
“At present we are somehow able to handle it. ... But, we haven’t been able to find that beast murderer yet...” (Gengu)
Hifumi gently called out to Gengu, who lowered his voice and showed is fangs looking frustrated.
“Well, don’t give up. However, if you can’t even find him in these confined slums while using such a number of people, isn’t it likely that he’s not in the slums anymore?” (Hifumi)
“In other words, he left towards the wastelands, is what you are saying?” (Gengu)
“No, it’s something else.” (Hifumi)
Hifumi shakes his head.
“I heard it from other guys too, but that criminal spoke with hostility towards the slums’ people before, right? And, that guy freed several beastmen from the humans. Do you believe such fellow will sneakily return to the wastelands?” (Hifumi)
“Then, did he go to where the humans live?” (Gengu)
“You should consider that possibility too, right?” (Hifumi)
“Such a... Well, then we won’t be able to pursue him anymore, eh...” (Gengu)
Hifumi lightly hit the discouraged Gengu with his fist.
“You give up far too easily, idiot.” (Hifumi)
“Eh? Is there some... way?” (Gengu)
Hifumi, who dropped his fist on Gengu’s head, breathed out a “You moron.”
“Ponder about it with your group a bit. Putting that aside, it seems like you should prepare more seriously, I came to tell you that.” (Hifumi)
“Is there something going on ~ssu?” (Gengu)
Due to Gengu asking while rubbing his head, Hifumi folds his arms and continues to explain.
“Yea, for the last few days soldiers have frequently tried to enter the slums here during the night. “By accident” I happened to pass by and since the other side attacked me by drawing their swords, although I haven’t done anything, they rolled around on the road being beaten and killed every time, but...” (Hifumi)
“So Hifumi-san was the cause of those soldier’s corpses, huh...?” (Gengu)
Gengu, who tensed his mind with “Good gracious, it’s the bearman’s doing, eh?”, becomes bitter at himself. He believes that “by accident” or such to be a lie, however since he values his life, he doesn’t voice that out.
“It seems, as result of the soldiers not coming back, they will team up with a knight group and come to the slums.” (Hifumi)
“Such a thing! But, why do you know about that?” (Gengu)
“Touring down-town, I grasped the castle buying food up, the nobles employing weapon shops for maintenance and increasingly ordering new weapons. There are talks about the increase of requests regarding something like harness adjustment. Since the soldiers here don’t use horses, the ones moving are likely the knights. There are also rumours that the knight’s training increased. Because I’m unable to think of any other reason for the knights to expressly move at this point in time, I dare say that their aim is likely this place here.” (Hifumi)
“So, what will you do?” Hifumi asked, but Gengu wasn’t in a state of being able to answer due to the shock.
“I-It’s a disaster...” (Gengu)
“Calm down.” (Hifumi)
Receiving Hifumi’s poke in the forehead due to his nose running, Gengu drops to the floor, rolls over a few times and faints in agony.
“The way to deal with the knights is simple. First, humans are weak. Using horses, they barely manage to catch up with your beastmen feet. Using swords, they are somehow able to cause injuries to you guys.” (Hifumi)
“Eh? Then you are no human after all, are you, Hifumi-san...?” (Gengu)
Gengu had a fist lowered at him once again.
“Don’t change the subject. In other words, if you fight using your head and the same weapons, it will be a situation where you don’t have to be afraid of knight and their likes at all.” (Hifumi)
While Hifumi, who stood up, corrected the position of the katana at his waist, he looked down on Gengu, who has been showing his belly having fallen to the ground.
“Gather the guys, who have spare time. I will teach them the way of fighting.” (Hifumi)
☺☻☺
Salgu himself was aware of being in a state you couldn’t call sane anymore.
He looks at the beastmen, who are enslaved by humans, specifies the house, they are attached to, for later and waits for them to fall asleep to kill the family during that time.
And he saves the beastmen, who have become slaves, but...
“What do you want me to do by saving me here?”
The wolf beastman, who lost all its claws on both paws, doesn’t even get up from the corner of the stable.
“Even I hated the humans at the beginning. But you know, if you get to know that, rather than living in the wastelands, the way of being the human’s slave is quite safe, comfortable and that you are able to eat food, there’s nothing to return to in the wastelands except danger.”
“...Is, that so...?” (Salgu)
“Even if I lost my usefulness, I won’t be killed, you know. It seems I will be thrown into the slums, but since I will receive sufficient of the human’s leftovers there, it appears I will be able to survive with small* rationed portions.”
“Seeing that my masters died, I guess there’s nothing left for me but to go there too”, the grumbling wolf beastman laughed weakly.
The expression of Salgu, who looks down on him, can’t be seen by the wolf beastman under the cover of the dark night.
“Don’t you feel the wish to return to the wastelands?” (Salgu)magic
“Eh? The wastelands, I miss them, but...”
Laughing foolishly, the wolf beastman shakes its head. It seems that he is shaking off some unpleasant memory with that gesture.
“That place is a hell. You run from place to place like the rabbits and sheep or you have no choice but to continuously repeat a daily life of killing or being killed without even the time to sleep restfully. It’s not a place where you can sleep with a peace of mind like this place either. I don’t want to experience the sensation of hunger, which grows violent due to the hardships to look for food, anymore.”
“Is that so? Got it.” (Salgu)
Salgu brought down his fist, drove it into the face of the wolf beastman, who looked up at him, and sunk it it into flesh and blood with a soggy sound.
Staring at the fist, he extracted from the face with a wet sound, Salgu pondered.
There’s intense pain within his head, which has stirred up his thoughts like noise, but even so, he pondered.
“This city in itself has been a bad influence on the beastmen...” (Salgu)
The food, given by humans, the buildings, the livelihood, all of that caused the beastmen to lose the spirit, they should originally have
He repeatedly puzzles over countermeasure with his head hurting strongly.
He sits down besides the fallen corpse of the wolf beastman in the stable, which is filled with the smell of blood.
“Calm down. If I smash up the humans, everything should come to an end.” (Salgu)
Salgu’s eyes are looking at the face of the dead wolf beastman. It’s completely as if he’s talking to him.
“That’s right. If I’m able to crush the boss of the humans too, the human city will be finished as well.” (Salgu)
Standing up, Salgu reached the point of being able to believe that things have become extremely clear in his head.
He walks forth in order to accomplish the clear, simple, decided matter.
“The human’s boss, where is he...?” (Salgu)
An insane bearman walks through the city’s night. |
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} | 三の脅威に触れて一もにもなく逃げ出したホーラントの兵士たちは、夜が明けないうちに混乱が続く国境から逃げ出すように首都方面へと向かった。
一応は脱走とされないように別の兵士に“首都へ報告のため”と上長への言伝を頼んでのことではあるが、命令を受けてではないので、厳密に言えば脱走扱いになるだろう。
だが、逃げている本人たちはそれどころではなさそうだ。
混乱に乗じて先ほどと同じような理由を言って馬車を一台調達すると、勢いよく街道へ飛び出した。
そこまでを見届けたは、火事の際に一旦厩舎から放された軍馬を一頭捕まえて、視認できない程度に距離を置いて馬車を追う。
馬具はつけていないが、右足の甲を左ひざに乗せた半跏の恰好で、器用にバランスをとっている。
「遅いな」
どうしても馬車と単騎では速度が違う。
つい追いついてしまいそうになるのを調節するのが面倒になってきた一、馬車の兵士たちが野営をしている間に追い抜いてしまった。
見覚えのあるルートだったので、彼らが首都方面へ向かうと予想し、先回りすることにする。
「どうせ話をするなら上の奴がいいだろうしな」
直感で選んだ馬だったが、当たりだったらしい。鹿毛の駿馬は素晴らしい脚力を発揮し、三日後には首都が見える場所までたどり着いた。
近隣の村に寄った一二三は、そこにいた農夫に金を渡し、馬を預けておくことにする。
そのまま農夫が使っている小屋を借りて横になり、夜を待った。
ホーラント首都アドラメルク。
今は正当な主のいない国ではあるものの、宰相クゼムによる城内勢力掌握による混乱は民衆や下っ端の兵士たちには影響が出ていないようで、町は比較的穏やかではあった。
もちろん、オーソングランデとの対立は民衆に不安を抱かせており、クゼムがあえて“オーソングランデに囚われていると思われる”と発表した後継者ネルガルのこともあり、町には取締りや警備のためとして兵士の姿が多くみられるようになり、首都への入り口も警備が厳重になっている。
だが、厳重というのは彼らの感覚であって、一二三にしてみれば「薄い」の一言だった。
槍を持って閉じた門の前にぼんやり立っている人数が十人程度で、国境から離れていることで油断しているのか、やる気なくぶらぶらと歩いている歩哨が数名見える程度だ。
夜闇に乗じて近づいていく一二三の姿に気づく者もおらず、すいすいと塀をよじ登って侵入するまで、誰にも見咎められることはなかった。
国境のホーラント兵に続き、首都ですらこの程度の監視体制でしかないことに再び腹を立てた一二三は、それでも足音を殺して静かに城を目指す。
「以前来たときは、兵士を殺して回ったんだったか。あれは楽しかった。王子とやらもやり方はさておき頑張って戦ってくれたな。だが、同じことばっかりやられてもつまらん」
口の中でブツブツといいながら、一二三の姿は建物の陰に混じり、城へ向かってとけるように消えていった。
☺☻☺
ヴィーネたちを連れたヴァイヤーら先遣隊が、イメラリアが待つ防御陣地へ到着したのは、ちょうど一二三が首都を目前にした村で馬を預けていた頃だった。
陽が傾き始め、空に薄く張ったどんよりとした雲が、小雨を降らせている。
「騎士ヴァイヤー、ただいま到着いたしました」
イメラリアがいる天幕へ、到着の報告に訪れたヴァイヤーが雨に濡れているのを見て、侍女がそっと布巾を手渡した。
「ヴァイヤーさん、急いで来ていただいて申し訳ありません」
「陛下の御為ならばこそ。お褒めや労いは戦果をあげてから頂戴したく存じます」
ヴァイヤーが滑稽に見えるほど大げさに恐縮して見せたのは、戦場に身を置いている自分の緊張をほぐすためだとイメラリアは理解している。クスリと笑い、応接のソファへ促す。
まだ第二騎士隊にいたころは生真面目が服を着ているようなタイプだったのが、フォカロルでの研修と結婚をした後から、人物的に丸くなってきた、といつかサブナクが言っていたのを思い出す。
ふと見ると、着席せずにヴァイヤーが立ったままでいる。
「どうかされましたか?」
「実は、私に同行している者たちがおりまして......」
「同行ですか?」
「ええ、トオノ伯のお知り合いということで、彼に会いに行きたいというお話でしたので、フォカロルの文官パリュさんから引き受けてお連れしております。その同行者たちが特殊でした、一度陛下にご紹介させていただければと愚考いたします」
イメラリアは考えたが、ヴァイヤーが曲者を連れてくるはずもない。
「その方たちはどちらに?」
「今はサブナク隊長とお話し中です」
サブナクが問題無いと判断するならば大丈夫だろう、とイメラリアはサブナクと共に入室するように、と侍女に連絡に行かせた。
「王都の状況はいかがですか?」
「特にこれと言った問題は起きておりません。治安に関しても、ミダスさんにお願いしてまいりましたので、問題ないかと。ヴィシー方面も、特にこれと言って動きは無いようです」
あえてヴィシー“方面”としたのは、そこにフォカロルも含めているからだ。
「陛下。この度の戦力補強、何かホーラントからの動きがあったのですか?」
不安げに語るヴァイヤーに、イメラリアはゆったりとほほ笑む。
「動くのは、わたくしたちの方からです。詳しくは、次の軍議の際に説明いたしますわ」
「サブナクです。えっと、お客様? をお連れしました」
天幕の外から、サブナクの声が聞こえたが、歯切れの悪さにイメラリアは眉をひそめた。
「どうぞ。お入りください」
「失礼します」
最初に入室したのはサブナクだった。
そして、後に続を見て、イメラリアは絶句していた。
「陛下。こちらが荒野からトオノ伯に会うためにはるばる来られたという方々です」
「エルフのプーセです」
「ヴィーネです」
「ゲング、と申しやす」
「ま、マルファス、です!」
「......陛下?」
「......はっ!」
獣人たちを見て口をあけたままだったイメラリアが、サブナクの呼びかけに覚醒し、ハンカチでエレガントに口の端を拭う。
「わたくしはオーソングランデ王国の女王、イメラリアです。荒野から長い旅だったそうですね。エルフや獣人の方とは初めてお会いしましたが......言葉はわかりますか?」
お互いの顔を見合わせて、プーセが一歩進み出る。
「女王様。私たちも同じ言葉を使っています。会話は問題ないかと」
「なるほど。それで、貴女方は一二三様に会いに来られたということですが......」
いくつかの質問をして、イメラリアはプーセたちに男女それぞれ天幕を使えるように手配し、陣地で一二三を待てるようにと配慮した。
手厚い待遇に感謝しながら、プーセたちが案内の侍女たちに連れられて出ていくと、イメラリアは眉間を抑えながらソファに背中を預けた。
「......一二三様は荒野で何をしておられたのですか。まさか獣人族の女性がここまで追いかけてくるなんて」
深いため息とともに、冷めた紅茶を飲む。
「とにかく、オリガさんがいなくて助かりました。サブナクさん、一二三様が戻られるまでは、彼女たちがオリガさんと接触しないようにお願いします」
「それは考えすぎではありませんか? 同じ一二三さんに想いを寄せる人なんですから、仲よくなったり......」
「サブナクさん、甘いです」
いつになく鋭い視線がサブナクを刺す。
「先ほどの兎獣人さん......ヴィーネさんは側にいるだけでも、と殊勝なことを言っておいででしたが、それをオリガさんが許すと思いますか?」
「うっ......」
「そして彼女たちの間に諍いが起きた時、サブナクさんは彼女たちを諌めて丸く収めることができますか?」
「ぼ、ぼくの能力を超えた任務かと......」
イメラリアの視線が、サブナクからヴァイヤーに移る。
「私にもその状況をどうこうするのは、ちょっと......」
気弱な大人二人の答えを聞いて、イメラリアは深いため息をついた。
「往年の敵であった獣人族や、強力な魔法を操るといわれるエルフとのつながりができること。それ自体はとても良いことです。彼女たちと交誼を結ぶことは、オーソングランデのためになるでしょう」
そのためには、とイメラリアは一呼吸置いた。
「余計なトラブルは極力避けるべきです。一二三様の前では、オリガさんも大人しいでしょう。アリッサさんにも、十分な根回しをお願いします」
「承知いたしました」
声を揃えた二人に、イメラリアはもう一つの用件を告げた。
「本体到着前にわたくしが立案した作戦を説明いたします。夕食を共にいたしましょう。お二人とアリッサさん。それと先ほどの獣人さんたちもお招きしましょう。現状を説明して、ここに残るか、一度ミュンスターへ滞在してもらうか決めてもらいます」
早くても応援の本隊が到着するまで丸二日はかかるとみている。本隊と共にやってくるネルガルにも説明が必要だが、基本的には脅してでもこの作戦を推し進めるつもりだった。
すべては、女王として胸を張って一二三と対峙するために。
☺☻☺
「きさ......」
護衛の兵士が何かを言い終わる前に、一二三が一振りした刀の切っ先がその喉笛を少しだけ切り裂いて、空気が漏れる音とともに魂が抜けた身体は倒れた。
「これだよ。俺はこれに不満を言いに来たんだ」
抜き身を下げたまま、一二三はデスクに座るホーラント宰相の前に立つ。
「だ、誰だ貴様は......」
「フォカロルの主、一二三だ。ここの王子を殺した男だよ」
「なにっ......」
汗だくで青ざめているクゼムは、目の前に立つ男をじっくりと上から下まで見る。
クゼム自身、一二三を見たことはないが、城内での騒動についてと一二三という人物については知っていた。
「馬鹿な。単身でここまで......」
「それだよ、それ」
一二三は、今し方自分が殺害した兵士の死体を指さす。
「こいつもそうだが、油断しすぎだ。国に入るのも町に入るのも城に入るのも、簡単すぎてあくびが出るくらいだぞ。人間がぶらぶら歩いているだけで、他に何の警戒もない。入ってくれと言わんばかりじゃねぇか」
例えば、と一二三は闇魔法収納から灯りの魔道具を取り出した。
「俺は闇魔法しか使えないが、ホーラントは魔法の研究が進んでいるんだろう? このランプもホーラントで作られたと聞いたぞ。だったら、侵入者を感知するとか、誰かが敵を発見したらすぐに全体に警報が行くとか、色々できるだろ」
「うぅ、だが、そういう戦闘向け以外は民間の商人たちが開発していて......ぶっ!?」
言い訳を並べ始めた途端、一二三が刀を床に刺して平手でクゼムの頬を打った。
視界がちかちかするのか、瞬きを繰り返すクゼムに、一二三は顔を近づける。
「お前、戦闘向け即ち攻撃手段だと思ってないか?」
刀を取り、その刃紋が見えるようにクゼムの目の前に差し出す。
刃が下を向き、持ち手も左手にして、一二三としては見せつけているだけのつもりだが、クゼムは脅されている以外には考えられなかった。妖しい光を放つ刀身が、護衛と同じようにいつ自分の喉を切り裂くか気が気でない。
「武器は武器でいい。人の命を奪うものとして磨き上げられれば、それは美しく昇華される」
刀を引き、納刀する。
「でもな、攻撃が強いからと言って勝てるというわけじゃない。お互い向き合ってやりあうばかりじゃない。どれだけ武器が強くても、使う隙もあたえられないんじゃ、意味がないだろう」
一二三が指さしたのは、死体の腰に下げられた剣だった。侵入者を認識して、声をかけようとしてなお、柄にすら触れていない。
「な、何が言いたい」
「わからんか?」
クゼムの前から離れ、一二三は腰から刀をはずし、ソファにどっかりと腰を下ろした。
「魔法を使えよ。この世界に折角生まれついたなら。土魔法を使えば偽装が完璧な罠が作れるだろう、風魔法を使えばちょっとした広範囲の監視ができる。火魔法があれば道具を使わずに狼煙があげられる。ちょっと考えただけでも、これだけ応用できるぞ」
「貴様の、オーソングランデの軍はそこまで進んでいるというのか」
「いいや?」
一二三が笑いながら首を振るのを、クゼムは汗を拭きながら見ていた。
「ちょっとオーソングランデが有利になりすぎかと思ってな。ホーラントはちょっとばかし大きなおもちゃを作ったようだが、あれじゃダメだ。俺が送った教導部隊が伝えた技術も、どうも表面だけ真似てるような節がある」
そこで、と一二三は刀の鞘をぽん、と叩いた。
「ホーラントの持ち味である魔法について色々ヒントをやることにした」
「り、利敵行為ではないか! 何を考えている!?」
「馬鹿言え。今のお前らじゃ敵にもならん。だから利敵行為じゃあない」
「き、詭弁だ!」
「詭弁でもいいんだよ。知っているか? 詭弁というのは弱い奴は取り繕うのに使うが、強い奴は我儘を押し通すのに使うんだぞ」
「それで、どうしろと言うのだ」
もはや言葉でこの場を収めるのは難しい、とクゼムは一二三に問う。
「国境はもうオーソングランデ側の攻撃で崩れているだろうから、奪還なり防衛なりするのに、お前たちに俺が考えた魔法技術を伝授してやろう。俺は属性が闇だけだから、理論だけになるがな。ほれ、さっさと魔法使いの担当なり研究者なりを呼べよ。のんびりしている時間はないぞ。オーソングランデの魔の手が、すぐそこまで迫っているかもしれんのだから」
言いながら、一二三はソファの前にあるローテーブル上の鈴を鳴らした。
すぐに侍女が入室する。
うつむきがちに入ってきた侍女は、兵士の死体を見つけて悲鳴をあげた。
「紅茶を頼む。あと何かつまめる物が欲しい」
怯える侍女に一二三が注文をする。
知らない人物の言葉に、侍女が助けを求めるようにクゼムを見た。
「......言われた通り、用意するんだ。それと、城内の魔法研究員の誰かを呼んでくれないか」
逃げるように侍女が退室すると、一二三はクゼムの目を見る。
その表情には、愉悦がありありと見える。
「頑張れよ。イメラリアは素人だが、フォカロルの兵はそれなりに強いぞ。お前が最終的に何をしたいかしらんが、夢をかなえるために、ここは踏ん張りどころだ」
立ち上がった一二三は、クゼムの肩を叩いた。
「ちゃんと沢山人が死ぬ、本当の戦争をやろうぜ。な?」
クゼムは、震えるばかりで返事はできなかった。 | The soldiers of Horant, who escaped without even a single one experiencing Hifumi’s threat, headed in the direction of the capital city to run away from the border where the mayhem continues while dawn hasn’t broken.
More or less they have entrusted the message “it’s for the sake of informing the capital’ for their superiors to another soldier so that it isn’t considered as fleeing, but since they haven’t received an order, they will likely be treated as deserters, strictly speaking.
However, that much doesn’t seem to be apparent to those running away themselves.
They took advantage of the chaos, procured a carriage by giving the same reason from before and vigorously rushed out towards the highway.
Hifumi, who made sure of that up to that point, seizes a warhorse, which was set free from the stable temporarily due to the fire, and follows the carriage at a distance where he can’t be confirmed by sight.
Although there isn’t any harness attached, he skilfully keeps balance with a half-lotus position where he placed the top of his right foot on his left knee.
“They are slow.” (Hifumi)
In the long run the speed between a carriage and a single rider will be different.
Hifumi, who felt troubled by having to regulate so that he doesn’t suddenly overtake them, ended up going too far while the carriage’s soldiers made camp.
Because it was a route he remembered, he decides to go ahead while expecting them to head in the direction of the capital city.
“If I’m going to have a chat anyway, I guess the guys at the top are better.” (Hifumi)
Though it was a horse he chose by intuition, it was apparently a winner. Exhibiting its splendid leg strength of a swift, fawn-coloured horse, he reached a location where he could see the capital city after three days.
Hifumi, who approached a village in the vicinity, decides to give the horse into custody to a farmer, who was there, after handing him some money.
Lying down after borrowing a shed the farmer uses, he waited for the night.
The capital city of Horant, Adolameruk.
Although it’s a country that currently has no legitimate ruler, the confusion of Prime Minister Kuzemu grasping the power within the castle has no effect on the populace and lower soldiers. The city was relatively calm.
Of course the confrontation with Orsongrande has raised unease amongst the people. There’s also the matter of Kuzemu deliberately announcing that the successor, Nelgal, “is deemed to be taken prisoner by Orsongrande.” It has reached the point that many soldiers can be seen controlling and guarding the city and the security at the entrance to the city has become strict as well.
However, compared to what they felt to be strict, it was in a word, 「weak」, in Hifumi’s case.
With the number of soldiers, who are standing absent-mindedly in front of the closed gate while holding their spears, being , are they careless because they are far from the border? Several sentries, who are lazily walking around without any motivation, are visible.
Without there being even a single of them who realized Hifumi’s figure closing in while taking advantage of the night’s blackness, there was no one questioning him even when he invaded by scaling the wall smoothly.
Hifumi, who got angry once again, continuing after the soldiers at the national border, due to there being no more than this level of surveillance even in the capital city, heads silently to the castle while killing his footsteps nevertheless.
“I did go around killing the soldiers the last time I came here, didn’t I? That was fun. Setting aside the crown prince’s way of doing things, they fought while doing their best. However, even if I just did the same thing, it would be boring.” (Hifumi)
While muttering under his breath, the figure of Hifumi blended with the buildings’ shades and he vanished as if melting away and went towards the castle.
☺☻☺
When Vaiya’s vanguard unit, which took Viine and the others along, arrived at the defence encampment where Imeraria waits it was just the time of Hifumi leaving the horse in the village with the capital city right in front of his eyes.
The sun is starting to sink, there are heavy clouds, which are thinly sticking to the sky, and a light rain is falling.
“The Knight Vaiya has arrived just now.” (Vaiya)
Seeing Vaiya, who visited the tent with Imeraria in it to report his arrival, being wet due to the rain, a maid quietly handed him a towel.
“Vaiya-san, I’m sorry for having you come here in hurry.” (Imeraria)
“It’s for Your esteemed Majesty. I feel that I want to receive your appreciation and praises after I obtained military results.” (Vaiya)
Vaiya showing a feeling of being obliged in an exaggerated manner to a degree that it can be regarded as ridiculous is for the sake of him easing his own tension of having entered the battlefield
“Although he was the type who wears clothes as too serious person since the time when he was still in the Second Knight Order, his character mellowed out after the training in Fokalore and getting married”, she recalls Sabnak having mentioned that at some time.
Once she looks casually, Vaiya is still in the state of standing without sitting down.
“What’s wrong?” (Imeraria)
“As a matter of fact, there are people accompanying me...” (Vaiya)
“Accompanying, you say?” (Imeraria)
“Yes, as they named themselves as acquaintances of Earl Tohno, they told me that they want to meet with him. They have joined me after I took over from Fokalore’s civil official, Paryu-san. Those fellow travellers are unique. It’s my humble wish to have them introduced to Your Majesty on this occasion.” (Vaiya)
Imeraria pondered, but Vaiya shouldn’t have brought along anyone suspicious either.
“Where are those people?” (Imeraria)
“Currently they are in the middle of talking with Captain Sabnak.” (Vaiya)
, Imeraria made a maid go contact Sabnak so that they will enter the tent together with him.
“How’s the situation in the capital?” (Imeraria)
“There haven’t been any particular problems. Even as for the public order, since I requested Midas-san to handle it, there won’t be any issues, I think? There don’t seem to be any particular moves in Vichy’s direction either.” (Vaiya)
Intentionally mentioning it as in the “direction” of Vichy includes Fokalore as well.
“Your Majesty, for you to reinforce our war potential at this time, were there some movements by Horant?” (Vaiya)
Due to Vaiya talking uneasily, Imeraria smiles calmly.
“The ones moving will be our side. The full details will be explained at the next war council.” (Imeraria)
“It’s Sabnak. Umm, I brought the, guests?” (Sabnak)
Sabnak’s voice was audible from outside the tent, but Imeraria knitted her eyebrows due to his evasive manner of speech.
“Please enter.” (Imeraria)
“Excuse me.” (Sabnak)
The one who entered the tent first was Sabnak.
And, seeing the four who followed after him, Imeraria became speechless.
“Your Majesty, these are the gentlemen and ladies from the wastelands who crossed a great distance to meet with Earl Tohno.” (Sabnak)
“I’m the elf Puuse.”
“I’m Viine.”
“I’m called Gengu ~ssu.”
“I-I am, M-Malfas!”
“... Your Majesty?”
“... Ha!” (Imeraria)
Imeraria was in a state of having her mouth opened while looking at the beastmen, but recovering due to Sabnak’s call, she elegantly wipes the edges of her mouth with a handkerchief.
“I’m the queen of Orsongrande Kingdom, Imeraria. It looks like it was a long trip from the wastelands. It’s the first time for me to encounter elves and beastmen, but... do you understand my words?” (Imeraria)
Looking at each other’s faces, Puuse takes one step forward.
“Queen-sama, we are using the same language. I think a conversation won’t be a problem?” (Puuse)
“So, about the matter of having come to meet with Hifumi-sama...” (Imeraria)
After asking several questions, Imeraria arranged for Puuse’s group to be allowed using separate tents for men and women out of consideration that they can wait for Hifumi in the encampment.
Once Puuse and the others, who are grateful for the warm reception, left while being led by maids, Imeraria sank her back into the sofa while curbing her brows.
“... What did Hifumi-sama do in the wastelands? Really, something like a beastwoman chasing him up to here.” (Imeraria)
Alongside a deep sigh, she drinks her cold black tea.
“Anyway, it was a saving grace that Origa-san wasn’t here. Sabnak-san, I leave it to you that they and Origa-san don’t run into each other until Hifumi-sama returns.” (Imeraria)
“Aren’t you imagining too much there? They are people who have likewise fallen in love with Hifumi-san, so if they get along well...” (Sabnak)
“Sabnak-san, you are naive.” (Imeraria)
She stabs Sabnak with an unusually sharp gaze.
“The rabbit beastman-san just now... Viine-san came here while saying an admirable thing like she just wants to be at his side, however do you believe that Origa-san will allow that?” (Imeraria)
“Uuh...” (Sabnak)
“And, the moment a quarrel occurs between them, will you be able to remonstrate them to be nice to each other, Sabnak-san?” (Imeraria)
“I-Isn’t that a task that exceeds my abilities...?” (Sabnak)
Imeraria’s gaze switches from Sabnak to Vaiya.
“Even for me, to barge in on such situation is a bit...” (Vaiya)
Hearing the timid answers of the two adults, Imeraria sighed deeply.
“We will be able to form a relationship with the elves, who are said to wield powerful magic, and the beastmen who were our former enemy. That in itself is something great. The matter of creating a friendship with them will likely be of benefit for Orsongrande.” (Imeraria)
“For that reason”, Imeraria made a short pause.
“We should avoid unnecessary troubles to the best of our abilities. Even Origa-san will be obedient in front of Hifumi-sama. I will also request Alyssa-san to lay the groundwork thoroughly.” (Imeraria)
“”Acknowledged.”” (Sabnak & Vaiya)
Imeraria informed the two, who matched their voices, about another matter.
“I will explain the strategy, I drew up, before the arrival of the main force. Let’s have dinner together. You two and Alyssa-san. And let’s invite those beastmen from before as well. I will have them decide whether they want to stay at Münster temporarily or remain here after explaining the current state.” (Imeraria)
It looks like it will take a full two days for the main force of the reinforcements to arrive even if they are quick. It will also be necessary to explain things to Nelgal who will arrive together with the main army, but I will push this strategy forth even if I have to basically threaten him,
All of it is for the sake of her squaring off against Hifumi while keeping her pride as queen.
☺☻☺
“Bast-...”
Before the guarding soldier finished speaking, Hifumi cut his windpipe just slightly with the tip of his katana in one go and the body, which had lost its soul, collapsed alongside a sound of air leaking out.
“It’s this. I came here to complain about this.” (Hifumi)
While lowering the drawn katana, Hifumi stands in front of Horant’s prime minster who was sitting at his desk.
“W-Who are you bastard...?” (Kuzemu)
“The lord of Fokalore, Hifumi. The man who killed this place’s crown prince.” (Hifumi)
“What...” (Kuzemu)
Kuzemu, who has become pale while drenched in sweat, carefully examines the man standing in front of him from top to bottom.
Kuzemu himself never saw Hifumi, but he was aware about the person called Hifumi and about the uproar within the castle.
“How foolish. To reach this place all by yourself...” (Kuzemu)
“That’s it. That.” (Hifumi)
Hifumi points at the corpse of the soldier he killed himself a moment ago.
“It’s the same for this guy as well, but you are far too careless. Entering the country, entering the city and entering the castle, all of it was at a level of being extremely easy to degree of making me yawn. Your men are just walking around leisurely and don’t have any kind of vigilance in addition to that either. Isn’t that as if you are telling me to break in?” (Hifumi)
“For example”, Hifumi retrieved a light magic tool from his darkness storage.
“I can’t use anything but darkness magic, but research in magic has advanced in Horant, right? I heard that even this lamp was created in Horant. In that case, noticing an intruder, sounding a general alert once someone discovered an enemy or doing various things is possible, isn’t it?” (Hifumi)
“Uuh, but such things, except for those intended for battle, are developed by private merchants... buh!?” (Kuzemu)
Just as he began to line up excuses, Hifumi slapped Kuzemu’s cheek with his palm after stabbing the katana into the floor.
Is his field of vision flickering? Hifumi brings his face close to Kuzemu who is repeatedly blinking.
“You, don’t you think that a method for attacking means it is intended for battle?” (Hifumi)
Picking up the katana, he holds it out in front of Kuzemu’s eyes so that he can see its hamon.
Hifumi, who turns the blade towards below and shifts the handle into his left hand, intended to show it, but Kuzemu was unable to consider it as anything else but threatening. He feels uneasy whether the ominously shining blade will cut his own throat in the same manner as the guard’s.
“A weapon is fine as weapon. If it’s polished up as item that steals a person’s life, it is beautifully sublimed.” (Hifumi)
Drawing back the katana, he returns it into its scabbard.
“But you know, while it may be strong at attacking that doesn’t mean that one can win. It isn’t just a mutual competition and confrontation. Now matter how strong a weapon might be, it will be meaningless if you aren’t able to find a gap to use it.” (Hifumi)
What Hifumi pointed at was the sword which hung at the waist of the corpse. Recognising him as intruder, the soldier tried to call out and yet he didn’t even touch the hilt.
“W-What do you want to tell me?” (Kuzemu)
“You don’t understand?” (Hifumi)
Going away from in front of Kuzemu, Hifumi removed the katana from his waist and sat down on a sofa with a flump.
“You are able to use magic. You were born into this world at great pains. If you are able to use earth magic, you will probably be able to camouflage a trap perfectly. If you can use wind magic, it’s possible to survey a somewhat wide range. If it’s fire magic, one can light a signal fire without using tools. Even by thinking about it for a bit, there are this many possible applications.” (Hifumi)
“Are you asshole telling me that Orsongrande’s military has advanced this far?” (Kuzemu)
“No?” (Hifumi)
Kuzemu looked at Hifumi, who shook his head as he smiled, while wiping away the sweat.
“I wonder whether I gave Orsongrande a bit too much of an advantage. Although it looks like you created a slightly big toy in Horant, those are no good. Even the techniques taught to you by the instruction unit sent by me have parts similar to imitating just the upper surface.” (Hifumi)
“Therefore”, Hifumi tapped the scabbard of his katana.
“I decided to give you various hints regarding magic which is the distinctive characteristic of Horant.” (Hifumi)
“I-Isn’t that an act that serves the interests of your enemy!? What are you planning!?” (Kuzemu)
“What a foolish thing to say. The current you doesn’t even amount to being an enemy for me. Thus it isn’t an act that serves the interests of my enemy.” (Hifumi)
“T-That’s sophistry!” (Kuzemu)
“Even if it’s sophistry, that’s fine. Do you know? A weakling uses sophistry to gloss over, but the strong one uses it while persisting with their egoism.” (Hifumi)
“So, what are you telling me to do?” (Kuzemu)
Finding it already difficult to bring it to a close with words in this situation, Kuzemu asks Hifumi that.
“Since the border probably has already broken down due to the attacks of Orsongrande’s side, I shall instruct you magic techniques I came up with in order for you to retake the border or to defend. I have only the darkness attribute, thus it will just be the theory though. Hey! Hurry up and summon the magicians in charge or the researchers. I don’t have the time to idle around here. The evil hand of Orsongrande might be reaching for this place soon.” (Hifumi)
While saying that, Hifumi rung the bell on top of a low table which is located in front of the sofa.magic
A maid immediately enters the room.
The maid, who entered while looking down, screamed when she discovered the soldier’s corpse.
“Black tea, please. Also, I’d like something I can take out.” (Hifumi)
Hifumi tells the frightened maid his order.
Due to the words of an unknown person, the maid looked at Kuzemu in her search for help.
“... Prepare it as you were told. And, can you call someone of the castle’s magic researchers?” (Kuzemu)
Once the maid leaves the room as if running away, Hifumi looks into Kuzemu’s eyes.
Joy is clearly visible on his face.
“Do your best. Imeraria is an amateur, but Fokalore’s soldiers are considerably powerful. I don’t care what you want to do in the end, but you have to persist here for the sake of achieving your dreams.” (Hifumi)
Standing up, Hifumi hit Kuzemu’s shoulder.
“Let’s have a real war with a properly large number of people dying. Okay?” (Hifumi)
Kuzemu was unable to reply as he was merely trembling. |
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} | パジョーたちオーソングランデ側の騎士たちとヴィシー兵アリッサが沈黙してしまっているのを完全に無視して、はオリガたちに声をかけた。
「それじゃ、さっさと行こうか」
言いながら、自分の馬を回収に向かう一、慌ててアリッサが止めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! このまま放置していくの?」
「あ? 俺には関係無い話だしな。襲ってきたから殺した。それだけだ」
「ああいう人なんです。気にしない方がいいですよ。......貴女はヴィシー側の方ですね。私はオーソングランデの騎士パジョーと言います。貴女は?」
「あ、僕はアリッサです。その、特に肩書きの無い兵士です......」
パジョーはクスリと上品に笑って、右手を差し出した。
「今は、貴女が生き残れた事を喜びましょう」
握手をして、アリッサは少し落ち着いた気がした。
(なんだか、大人の女の人って感じだなぁ......)
「では、これからの話ですが。我が国としては早急に体制を整え、これまで通りの出入国管理を行います。我が国の犯罪者も関わっておりますので、犯人と我が国の兵たちの死体は、こちらで回収させていただきます」
「あ、は、はい」
流れるように続けられたパジョーの言葉に、アリッサはつい了承してしまった。
本来ならば、ヴィシーの方にも被害が出ている以上、捜査の為にヴィシー側も犯人の死体は重要な資料となるはずだ。しかも、実は少しだけヴィシー側に入った場所が主な犯行現場になっているので、厳密にいえばヴィシー国内の事件である。
アリッサは、この事だけでも確実に叱責なりペナルティなりは免れない。
(かわいそうに......)
一二三を待つ間、二人の会話を聞いていたオリガは、アリッサに憐憫の目を向けたが、アリッサ自身は気づいていないようだ。
対して、パジョーは上手くごまかして捜査資料を独占する事ができたと、内心ほくそ笑んでいた。
(完全にヴィシー内に入ってから事件にならなくて良かったわ。向こうで暴れてから、元騎士だとバレたら大問題になるところだった)
とにかく、発生しかけた問題が想定以上にややこしくならずに済んだ事に、パジョーは安堵していた。
「それで、アリッサさんは......ヴィシー側は応援を呼ばれなくても良いのですか?」
「そうだった! あ、でも......ここのヴィシー側に誰もいなくなるわけにはいきませんよね」
商人や旅人がここを通過するには、両国の担当者のサイン等と許可の印が必要になる。もしどちらか一方でも抜けた通行許可証を持っていると、密入国と見なされる。
もちろん国防の面もあり、どちらか一方でもこの場を空にするのは問題となる。
ヴィシー側は全滅しており、連絡手段もない。どうするかとアリッサが悩んでいる所に、一二三が馬に乗って戻ってきた。
「パジョー、出国の手続きをしてくれ」
一二三が書類を渡しながら言うと、パジョーは書類を受け取ってオーソングランデ側の受付に、印を押しに向かった。その間に、連れてきた兵に死体の回収を支持する。
「ね、ねぇ」
パジョーを待つ一二三に、アリッサがためらいなく声をかける。
「なんだ?」
「ちょっと、お願いがあるんだけど......」
アリッサは、ヴィシーに入って街道沿いに最初に行き当たる街の兵士詰所に、伝言をお願いしたいと一二三に頼み込んだ。
「今のこの状況を伝えて、僕が応援を依頼したって伝えてくれるだけでいいんだけど」
一二三はしばらく考えてから、了承した。
「ただ、ヴィシーの街の配置について教えてもらうぞ」
「いいよ! ありがとう!」
適当に大きな街を渡り歩いて見物したいと、適当に一二三がでっち上げた理由を完全に信じ込んだアリッサは、街道沿いの首都までの街を楽しそうに説明する。
「では、馬車で10日もあれば、首都まで辿り着けるのですね」
オリガの質問に、アリッサは笑顔で答える。
「そうだよ。ここから首都まで行って、ホーラントの国境まで、大きなカーブを描いて街道が通ってるんだ」
「へぇ、ホーラント産の魔道具は、その道を通ってくるんだね」
カーシャが感心していると、一二三が疑問を口にする。
「ん? オーソングランデとホーラントも国境を接してるだろう。わざわざ遠回りするのか?」
この質問には、戻ってきたパジョーが解説をした。
元々、ホーラントが一人の天才魔法使いにより独立した国家として成立した際に、オーソングランデの国土をかなり侵食したという。そこで幾度かの戦闘があり、現在では多少の交流はあるものの、ほとんど直接の行き来は無いという。
「アリッサさん、これをお願いします」
「あ、わかりました!」
一二三たちの通行許可証を受け取ったアリッサが、充分に離れた所まで行ったのを見届けてから、パジョーは続ける。
「ですから、ホーラントの魔法使いが“合法的に”入国したとしたら、ヴィシーの正式な出国許可を得ている可能性もあります」
ヴィシーから誰かの手引きで出国し、受け入れ側のハーゲンティ子爵も正式な入国許可を出せば、オーソングランデで自由に行動できる。
だから、どのレベルまでかはわかりませんが、ヴィシー内部にも少なからずホーラントとつながる勢力がいるだろうと、パジョーは推測する。
「それが、ベイレヴラとその背後にいる誰かの可能性が高いわけだ」
色々とややこしくなってくる内容に、一二三はだんだん面倒になってきたが、一度受けた依頼を国も出もしないで断る程無責任でもない。
「それじゃ、とにかくヴィシーに入って、色々見てみようか」
戻ってきたアリッサから許可証を受け取った一二三は、オリガとカーシャに出発を告げた。
アリッサが言うには、街道沿いに進んで馬車で2時間程でアロセールという街に着くという。
馬車引いてゆっくり進むこと数時間、アリッサの説明通りに、塀に囲まれた街が見えてきた。国境に近い街であるせいか、オーソングランデ側のフォカロル同様、いざという時には防衛戦もできるようにと作られてるようだ。
「なんだか、見た目はウチの国の街と大差ないね」
一二三もカーシャと同じような感想だった。近い場所だからか、さほど文化的に違いは無いらしい。正直、オーソングランデでは大丈夫だった食べ物が、ヴィシーではどうかが心配だったが、フォカロルともそう離れていないので、多分問題ないだろうと思った。
街の入口で許可証を見せながら、ここの兵の責任者に用があると伝えると、詰所の場所を教えてくれた。
「ずいぶんザル警備だなぁ。というか、門番が妙に機械的な対応だったな」
「キカイテキ?」
「あんまり感情の起伏が見られなくて、決まった事を繰り返しているだけのようだって事だよ」
「ああ、でも真面目な兵士ってあんな感じじゃないの?」
気にしても仕方ないと、一二三は説明された詰所に入り、オーソングランデの準騎士爵だとコインを見せて伝えると、責任者が出てきた。
シンプルな鎧を着た中肉中背の特徴の無い男が奥から出てきて、一二三の目をまっすぐ見ながら、何の用かと聞いてきた。
その目は、どこか焦点が合っていない。
「アリッサという女兵士が所属しているだろう。そいつからの伝言だ」
詰所の兵士がアリッサ以外殺された事を説明し、応援要請を伝えるよう依頼されたと一二三が説明すると、男は「ご協力感謝する」と、全く感謝の気持ちが感じられない、抑揚の少ない平坦な声で言う。
「今日はここへ泊まるのか? 一応宿を聞いておこう」
「泊まるつもりだが、宿は決めていない」
「では、さらに街の奥へ通り沿いに行けば、部屋が綺麗な宿があるから、そこにするといい。他は貴族が泊まるには向かないだろう」
「そうか、ではそうしよう」
あからさまな誘導だと思いつつも、この男の様子が気になった一二三は、敢えてそれに従って見ることにした。
「では、我々は国境へ向かうので、これで失礼する」
男は、一二三におざなりな礼をしてから、部下を連れて出ていった。
「何だか、門の兵といいさっきの責任者といい、妙な反応ですね」
貴族であるご主人様に対して、ひどく無礼です。と、オリガは不満を口にした。
「ああいう状態になった奴を、以前どこかで見た事があるんだが......どこだったかなぁ」
「やっぱり、フォカロルの連中みたいに、ここの奴らも何か悪さをしてるのかね?」
そんな話をしながら馬を引いて歩いていると、宿に付いた。教わった単語にあった、宿の文字があったので、一二三にもわかった。
「ここか」
表に馬を繋ぎ、木製のドアを押し開いて入ると、小さなカウンターと食堂と思しき広い部屋が広がっていた。
「いらっしゃい。一泊一人部屋銀貨10枚、二人部屋は17枚。三人以上入れる部屋は無いよ。馬を連れてきたようだな。一頭銀貨3枚だ。裏の厩舎には俺が移してやる」
カウンターに居た無愛想な親爺が、顔を見るなり金額を言ってきた。
「俺が一人部屋、連れは二人部屋だ」
カウンターに銀貨を積み上げると、親爺はカウンターの下から二つの鍵を取り出した。
「こっちが一人部屋用、こっちが二人部屋用だ。客室は全部2階だ。日暮れ前に夕食を用意するから、この部屋に来い」
番号は鍵に書いてあると言うと、必要な事は伝えたとばかりに、親爺は黙ってしまった。
礼も言わずに鍵を受け取り、一二三たちは2階へ上がる。
「夕食前に少し寝ておけ。夜から動くことになるかもしれない」
「何かあるのですか?」
「真っ当に考えるなら、国境へ向かった連中が現地を確認してから、何人かは中央へ報告するために戻ってくる。時間的には夜になるだろう。動きがあるとしたら、最初のタイミングはそこだ」
近所の適当な食堂で今から昼を食べてから休んで、夕食後はオリガたちの部屋から通りの監視をすると決めた。
「アリッサは敵じゃないだろうあんなアホだと謀略には向かないし、仲間にもできないだろう。戻ってきた連中がどう動くかを見ておくべきだろうな」
本人が聞いたら怒りそうな事を躊躇なく口にして、一二三は一度自分の部屋に入って言った。
「また何か騒動になりそうだね」
カーシャがやれやれと首を振ると、オリガはニコリと笑う。
「でも、闇雲にベイレヴラを探すよりも、ちょっとでも足取りが掴めるなら良いと思うわ」
オリガに続いて部屋に入りながら、カーシャはそれもそうかと思った。
「......わかりやすい奴らだな」
宿の2階、薄く開いた木戸から通りの様子を伺っていた一二三は、小さく呟いた。光が漏れて注意をひかないよう、明かりはつけていないので、部屋は真っ暗だ。
陽が落ちてからしばらくは、人通りも途絶えて居た道を、鎧を着た数人の男たちが通り過ぎて行った。
その頃にはすっかり夜に目を慣らしていた一二三は、男たちの間に、後ろ手に縛り上げられ、ヨロヨロと歩く小柄な人影がはっきりと見えた。宿の正面を通った時には、それがアリッサだというのも確認した。
酷く殴られたのか、左頬を腫らして、口から流れた血は拭うこともできずに乾いている。
長い距離を歩かされたようで、時折足が止まりそうになるが、その度に後ろから蹴り上げられ、強制的に進まされている。
見えた状況を聞かされたオリガとカーシャは、二人共“ひどい”と呟いた。
「この前を通るという事は、昼に行った詰所とは別の場所に連れて行かれたようだな。さて、どうするか......」
「ご主人様はわかりやすいと言われましたが、なぜアリッサは捕まったのでしょうか? 自国の兵なのに......」
顔が見えないが、声と話し方でオリガだとわかる。
「あいつがあの現場を見た上で、生き残ったからじゃないか?」
「じゃあ、何で生かして連れてきたんだい? 目撃者を消すって言うなら、国境からここへ来るまでの間にいくらでも機会はあったんじゃない?」
「知られては困る事を知った奴を生かして置く理由は一つだ。その秘密を他に誰がどこまで知ったかを確認するためだな。拷問か、薬か......薬?」
一二三の脳裏に、昼にあったこの街の兵が思い出される。
「そうだ薬だ、思い出した! 確か精神安定系の薬物の中毒になると、あんな感じで感情が抜けたようになる例があったと思う。とすると、あの元騎士と同じような魔法具の影響を受けている可能性があるってことか......来たな」
憶測を言葉にして整理していた一二三だったが、不意に顔を上げた。
「装備は着ているな? どうやら俺たちも捕まえておこうという腹らしい。宿に向かって10人程の気配が近づいて来ている」
「ここで戦うのかい? 明かりの魔法具を出さないと......」
「いや、一旦引いてやりすごす。先にアリッサを探して助けてやろう。気配からして、そう遠くには行っていないようだし」
「ええっ!?」
「カーシャ、なんでそんなに驚く?」
「いや、女の子を助けるとか、敵が来てるのに一旦引くとか、ご主人らしくないと思ってさ......」
本気で驚いているらしいカーシャに、一二三は自分の印象が本気で悪い事に心外だと言った。
「俺は殺人狂じゃないと前にも言っただろう。アリッサは兵士たちから何か聞いたかもしれないし、こちら側に引き込む事で、これからの調査に利用価値があるだろう。それに、10人程度じゃ準備運動にもならないし、お前たちに夜間戦闘のやり方はまだ教えてないからな。どうせ連中とはまたぶつかることになる。その時にしっかり殺せばいい」
結局殺すつもりなんだと、カーシャは逆に安心した。
どうやらオリガもホッとした様子で「さすがはご主人様です」などと言っている。
(こいつは本当は俺を馬鹿にしてないか?)
などと疑惑を抱きつつ、鎖鎌を取り出した一二三は木戸を静かに全開にする。
ゆらゆらと揺れる鎖を前に、カーシャたちが戸惑っていると、上から一二三の声がした。
「登れないなら引き上げてやるから、鎖を掴んでぶら下がれ。一人ずつな」
怯えながらもどうにかこうにか屋根にあがり終えてからさほど間を置かず、部屋のドアが開けられた。どうやら宿の主人が鍵を渡したらしい。
「......逃げたか」
昼間に会った責任者だという男の声がして、部屋の中をあちこち探し回る音がしてから、踏み込んできた連中は立ち去った。
夜の闇の中、再びアリッサが連れて行かれた方角へと去っていく兵士たちを見ながら、屋根の上に立つ一二三は、新たな獲物を見つけたと、静かに悦んでいた。 | Completely disregarding the silent Pajou and the Orsongrande Knights, and the equally silent Alyssa from Vichy, Hifumi called out to Origa and Kasha.
「 Well then, let’s get a move on. 」
Saying so, Hifumi turned towards the horses, only to be stopped by a panicking Alyssa.
「 W-wait a minute! You’re leaving just like that? 」
「 Aa? I really don’t care about discussions. I was attacked, I responded. That’s it. 」
「 Don’t mind him, he’s just like that.... You’re from Vichy, yes? I am a Knight from Orsongrande, Pajou. And you? 」
「 Ah, I am Alyssa. That is, I don’t particularly have a title.... 」 [TN: she uses the male informal ‘boku’ here] Noting the difference in status between them, Alyssa unintentionally shrank and spoke timidly.
Pajou laughed elegantly, extending her right hand.
「 I’m pleased you were able to survive the incident. 」
As they shook hands, Alyssa composed herself.
Somehow, she gives off the feeling of an adult woman... (Alyssa)
「 Well then, let us speak of what to do after this. We will be acting as immigration control for our country until order is restored. Since the criminal was related to our country, please let us collect his and our soldier’s bodies. 」
「 Aah, y-yes. 」
Alyssa inadvertently agreed to Pajou’s smooth and flowing speech.
Originally, the Vichy side should be documenting the bodies and damage, becoming important in their investigations. Moreover, the scene of the crime was on the Vichy side, thereby falling under Vichy’s jurisdiction, no matter the involved parties.
Alyssa was definitely not going to avoid a penalty for this.
While waiting for Hifumi, Origa overheard the conversation. She gazed at Alyssa with pity in her gaze, Alyssa seemed to not have noticed the predicament she was in.
Seeing that Pajou had skilfully monopolized the investigation with some underhanded methods, she chuckled to herself.
Entering Vichy would not be a nice event. The other side’s Knights would be the source of plenty of problems.
In any case, Pajou was relieved that no more complex situations would crop up.
「 Anyway, Alyssa-san, isn’t there going to be assistance from Vichy? 」
「 That’s right! Ah, but...... it’s impossible, there’s no one on the Vichy side but me. 」
Seals and signatures of approval are necessary from both sides for merchants and travellers to cross boundaries. In case either of them are missing, it is considered as an illegal entry into the country.
Of course, there is the aspect of national defence too, evacuating the place is a problem.
The Vichy side had been completely annihilated, leaving no available means of communication. Hifumi returned on horseback to where Alyssa was contemplating further actions.
「 Pajou, take care of the departure formalities. 」
Hifumi passed her the documents; Pajou took them and affixed the necessary seals and signatures on it. Meanwhile, the corpse of the soldier had been dragged over.
「 Ne, ne~.. 」
Alyssa called out to the waiting Hifumi without hesitation.
「 What? 」
「 I have a small request... 」
Alyssa asked Hifumi to relay a message to the first guardroom they saw on the highway after entering Vichy.
「 Please convey the current situation and inform that I am requesting reinforcements. 」
Hifumi considered for a moment, then nodded.
「 However, you will have to tell me about the town in Vichy. 」
「 Great! Thank you! 」
Entirely believing Hifumi’s made-up reason of sightseeing a large town, Alyssa happily gave them a detailed explanation.
「 So the capital city can be reached in about days via carriage? 」
Alyssa replied to Origa’s question with a smile.
「 That’s right. From here, you can go to the capital, the highway passes near the Horant border in a wide curve. 」
「 Hee, the road passes by Horant, the place from where those evil magic tools came from. 」
While Kasha was smirking, Hifumi voiced a question.magic
「 Hm? Orsongrande and Horant’s borders also touch, did you take a deliberate detour? 」
To his question, Pajou explained.
Originally, when the genius magician established Horant as independent, a considerable part of Orsongrande was invaded. As a result, there were a few skirmishes and now there is little interaction between the two.
「 Alyssa-san, I have a request. 」
「 Ah, I understand. 」
Alyssa received and cleared Hifumi’s travel pass and Pajou continued,
「 Therefore, if a magician from Horant ‘lawfully’ enters, there is a possibility of obtaining formal permission to leave Vishy as well. 」
With someone from Vichy as a guide, and with the formal approval of Viscount Hagenti, it is possible to enter Orsongrande freely.
Therefore, though unable to discern at what level, there might be someone with power in Vichy connected to Horant in no small way, Pajou surmised.
「 Now that you mention it, it is highly likely that someone is behind Beirevra. 」
Though complicated in various ways, Hifumi is troublesome, but not irresponsible so as to decline the request that requires leaving the country.
「 Well then, in any case he’s entering Vichy to take in various sights. 」
Hifumi, who had collected the permit from Alyssa announced their departure to Origa and Kasha.
They advanced along the highway, reaching the town called Aroseru by carriage in about hours.
As per Alyssa’s explanation, a town enclosed by a wall came into view. Being close to the border, it seemed to be made in a similar fashion as Fukaroru in Orsongrande.
「 Somehow, it does not look too different from our country 」 (Kasha)
Hifumi had a similar impression to Kasha. Was it because they were close by? Culturally there seemed to be no difference. To be frank, the food in Orsongrande was all right, but he had concerns about the food in Vichy. Then again, being close to Fukaroru, it would probably not be a problem.
While showing the permit at the entrance of the town, the soldiers there directed him to their in-charge in the guardroom.
「 Surprisingly undefended. Or, how should I put it, the gatekeeper had a strangely mechanical vibe. 」
「 Mechanical? 」
「 No emotional ups or downs are visible. Just like repeating a fixed motion. 」
「 Ah, but aren’t serious soldiers supposed to be like that? 」
Though somewhat cautious, it couldn’t be helped so Hifumi entered the guardroom. He displayed the coin denoting his peerage to the person in-charge.
A man in simple armour of medium height and build came out of the interior, and looking straight at Hifumi asked what business he had.
His eyes were unfocused.
「 A soldier called Alyssa asked me to pass on a message. 」
Hifumi explained that all the soldiers at the border post have been killed, apart from Alyssa. When he explained that immediate assistance was required, the man thanked him for his cooperation in a smooth voice without looking the slightest bit thankful.
「 Are you staying here today? Have you decided on a hotel? 」
「 We are staying here, yes, but the hotel has not been decided. 」
「 Then if you head towards the interior of the town, there is a hotel with nice and clean rooms. There isn’t another suitable for a noble to live in. 」
「 Is that so? We’ll do that then. 」
Though slightly wary of the man’s appearance, Hifumi decided to go along with it.
「 Then, we must be going to the border post, please excuse me. 」
With a perfunctory bow to Hifumi, the man left along with a subordinate.
「 Somehow the reaction of the in-charge and the soldiers at the gate seemed a little strange. 」
Origa peevishly stated that she thought they were quite impolite to her master, a noble.
「 I’ve seen someone in a similar state before..... where was it? 」 (Hifumi)
「 After all, like in Fukaroru, are the people here planning a dirty trick too? 」(Origa)
While they were taking, they reached the hotel. Since Hifumi had learnt the written characters, he could recognise the name.
「 Here? 」
The horses were tethered outside,they pushed open the wooden door and went in. There was a small counter in what appeared to be a spacious dining hall.
「 Welcome! silver coins for one room for a night. There are double rooms. There is no room to put or more people in one. 3 silver coins per horse. They will be moved to the stable in the back. 」
There was an old man with an unsociable expression on his face sitting at the counter.
「 One single room, my companions will take a double room. 」
After depositing a pile of silver coins on the counter, the old man took out 2 keys from under the counter.
「 This is for the single room, this one is for the double room. The second floor is entirely guest rooms. Dinner will be prepared before nightfall, and served in this hall. 」
The old man fell silent after telling them the necessary information and writing down the key numbers.
Taking the key, the trio went up to the 2nd floor.
「 Lie down a bit before dinner. We may have to move at night. 」
「 Is something going to happen? 」
「 After the group confirms the situation at the border, some will return to report. By that time it will most likely be night. If we have to move, it will be then. 」
After a light lunch, it was decided that they would rest and after dinner, observe the street from their rooms.
「 Our opponents will not be simpletons without strategies like Alyssa. 」
Hifumi entered his room immediately after saying that.
Kasha shook her head resignedly while Origa laughed.
「 But I think it’s a good thing that we can even randomly look a little for Beirevra. 」
Origa entered the room while Kasha followed, lost in thought.
「 ....... Those fellows are easy to understand. 」
On the second floor of the hotel, Hifumi murmured, lying in wait. The room was pitch-dark.
Several armoured men passed by on the street after darkness fell and pedestrian traffic declined.
Hifumi, who had completely acclimated his sight to the darkness saw it clearly. With hands bound behind the back, a diminutive shadow was visible walking unsteadily between two men. When they passed by the front of the hotel, it was clear the person was Alyssa.
Badly beaten up, left cheek swelled and dried streams of blood coming from the mouth.
It seems they have been walking for a long time, and occasionally her foot slowed, only to receive a kick from behind every time to forcibly advance.
Watching the sorry situation, Origa and Kasha both murmured “How cruel”.
「 Taking her to a spot different from this afternoon’s guardroom. Well now, what to do, I wonder... 」
「 Why was Alyssa arrested? A soldier from their own country.... 」
Though her face was not visible, the speech pattern and voice identified the speaker as Origa.
「 She was the only one who survived the scene of the crime, could that be it? 」(Hifumi)
「 But why not make the most of it? Or could it be a chance to bump off the eyewitness who knows what happened? 」
「 It would be to confirm what the witness knows and to keep secrets that may get someone else into trouble. Torture, drugs.... Drugs? 」(Hifumi)
Hifumi remembered the state of the soldier when they came into the town.
「 That’s it, drugs! If I remember correctly, there were drugs to stabilise the mind and if addicted, it leads to a state of losing emotions. Similar to the fellow who had that magic tool attached to him... 」
Guessing and putting his thoughts in order, Hifumi suddenly raised his head.
「 Is something the matter? 」
「 Do you need to wear armour? It seems that they are also attempting to capture us. Around 10 people are coming towards the hotel. 」
「 Fight here? I’ll pull out the lighting magic tool.... 」
「 No, no need. Before that, I’ll need to find Alyssa, she does not seem to be too far. 」
「 Eeh!? 」
「 Kasha, why are you so surprised? 」
「 No, saving a girl while enemies are coming, it does not sound like master.... 」
Seeing Kasha honestly surprised, Hifumi thought it quite vexing that his reputation was that bad.
「 I said a while ago that I was not a homicidal maniac. What Alyssa knows and may hear in the future may be valuable information. Besides, 10 people isn’t bad for a warm-up, and you two have not been instructed on how to fight in the dark. In any case, we’ll meet guys like these again. At that time, kill them well. 」
Kasha was relieved when Hifumi mentioned killing.
Apparently Origa too, from her relieved expression and a quietly muttered 「 As expected from master. 」
They aren’t making fun of me are they?
(Hifumi)
Mulling over those doubts, Hifumi quickly pulled out his kusarigama, stuck it in the roof and quietly climbed up.
While Kasha and Origa were staring at the swinging chain, they heard Hifumi’s voice from above.
「 Grab the chain and climb up. One at a time. 」
Though scared, they somehow managed to get onto the roof. The door of the room opened. It seemed that the landlord had a key.
「 ..... Escaped huh. 」
It was the voice of the person in-charge at the town gate. After noises that indicated searching for a while, they left.
In the dark of the night, the soldiers left in the same direction Alyssa was taken. |
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} | フォカロル兵に先導されたオーソングランデの兵たちは、今度は城の壁をよじ登る羽目になり、再び落下地獄を味わっていた。ホーラント兵に突入しているので、彼らへ直接侵入するのだ。
突入訓練をアスレチック気分で繰り返していたフォカロル兵たちにとっては、二階までならよじ登るのは朝飯前だ。
戦闘を行く兵士が少ない突起を頼りにするすると登り、窓から顔を覗かせる。
「あっ」
「えっ」
窓の向こうは通路になっており、二階を巡回中のクゼム側ホーラント兵と目があった。
両手で体をささえいたフォカロル兵はすぐに対応できず、ホーラント兵は背中を向けて逃げていく。
「見つかった。逃げて行ったから今のうちに侵入する!」
言いながら、窓から室内へと飛び込む。
仲間のためのスペースをつくり、廊下の隅へと張り付くようにして立ったフォカロル兵は、素早く構造を確認する。
「廊下に各執務室が並び、中央に階段......教わった通りの構造だな」
広く長い廊下、中央の階段より手前に並ぶドアは城内に執務室を持つ高級文官が使う部屋となっている。階段の向こう側には、会議等のための大部屋が並ぶ。
「無人、か?」
仲間のフォカロル兵たちが次々に廊下へと飛び込んでくるのを待ちながら、注意深く警戒をしていたが、誰かが来る様子はない。
階段のあたり、おそらく下からだろうが、大勢の人間の叫び声が聞こえる。
「どうだ?」
「なんだか臭いな......一階は苦戦しているようだな。二階は......来た!」
階段の先にあるドアの一つから、ホーラントの兵たちがぞろぞろと出てくる。それぞれ手に桶のようなものを持ち、ゆっくりと出てくるのが不気味に感じられる。
「なんだ?」
フォカロル兵が困惑しつつ観察している前で、ホーラント兵たちは手に持った桶を振り回し、廊下に液体をぶちまける。
次々に流される大量の液体は、あっという間に波を作って廊下を流れ、フォカロル兵たちの足元まで流れてきた。
それぞれが窓枠や開けたドアの上に避難すると、液体がいきわたったとみたホーラント兵の一人が、紙片を見ながら大声で叫ぶ。
「あー。我々はこの城を守る警備兵だ。警備の立場としては、不法侵入者を排除せねばならん。といわけで、邪魔をさせてもらう」
メモを読み終え、丁寧に畳んだホーラント兵。ジャリ、と何かを巻きつけた足を液体の広がる床に躊躇なく踏み出し、満足そうに佇むが、それ以上は何もしない。
「......で?」
思わず声をかけたフォカロル兵に、ホーラントの兵士は仁王立ちのままうなずく。
「以上だ。そのまま小虫のようにしがみついていても良いが、貴様らも兵士としての矜持があるなら、かかって来るが良い」
「なんだと!」
フォカロル兵の一人が激昂するが、周りの仲間に止められた。液体の正体がわからないうちは、動かない方が良いと判断したのだ。
だが、答えはホーラントの方から教えてくれた。
大量の液体が階段の下へと流れていくと、慌てた声が聞こえる。
「ちょ、油がここまで!?」
「あ、俺滑り止め忘れて......あー!」
階段のあたりから、遠ざかる叫び声と共に誰かが転がり落ちていく音がする。
「油、か......」
フォカロルの兵士が先ほど宣言を読み上げたホーラント兵を見ると、相手はつつ、と視線を逸らした。
「......べ、別に油だと知れたところで対応の使用があるまい」
顔を赤らめて強がるホーラント兵を見て、フォカロル兵たちは顔を見合わせた。
「やるしかないな。火気厳禁ってことで、火花も怖い。刃物は禁止。ぶん殴ってやろう」
バシャ、と音を立てて床に降り、全員が転んだ。
大笑いするホーラント兵に向かって、怒り狂ったフォカロル兵たちがこけつまろびつホーラント兵に突撃し、凄絶な殴り合いが始まる。
棘のある草を干した、この国特有の滑り止めを巻いていたホーラント兵も、動き回って棘を踏み潰してしまうと、状況は同じになっていく。
中には、もみ合って腐臭ただよう一階へと転げ落ちていく者もいた。
「.....へ続く階段にもたっぷり油を流した。お前らはここでストップだ」
もみ合いの最中、にやりと笑うホーラント兵に、フォカロル兵も嘲笑で返す。
「俺たちの目的は突破じゃねぇんだよ」
掌底を顎に叩き込みながら、フォカロル兵は油で転びながら笑う。
「このままやりあってれば、任務は成功かな? あとは頼みますぜ長官」
☺☻☺
「......下が騒がしいですね」
三階にある高級官僚向け執務室の一室、クゼムの部屋で書類に目を通していたオリガが呟く。
同じ部屋で書類を漁っていたヴィーネが、片耳をぴくぴくと動かしてオリガに向き直った。
「一階と二階で騒動......一階は悲鳴が多いみたいですけど、たくさんの人がいるみたいです。外から侵入されたみたいですよ?」
逃げた方が良いのでは、と不安を吐露するヴィーネに、オリガは真顔のままで再び処理に目を落とした。
「気にする必要はありません。攻めてきているのはオーソングランデとホーラントの兵。トチ狂って私たちに攻撃してきたとしても、有象無象に過ぎません。それより、何か見つかりましたか?」
彼女たちがここにいるのは、クゼムの狙いを知るためだった。巨人兵や不死兵という、リスクの大きな兵を動かすには、それなりの理由があったはずだと一二三が考え、オリガが自ら調査役を引き受けたのだ。ヴィーネはそれに巻き込まれた。
「文字を読むのはまだ慣れてなくて......あっ」
ヴィーネが棚に入っていた一枚の書類をオリガの前に置いた。
「これ、誰かからの報告書ですよね。“不死兵のための魔道具をヴィシーから独立したピュルサンの使者へと手渡した”って書いてあります」
差し出された書類に視線を落とし、オリガは目を細めた。
「ピュルサン......一二三様にすり寄るつもりで独立したような都市国家でしたね。それがホーラントとつながりがある......と」
オリガの周囲の空気が冷たくなったような気がして、ヴィーネは後ずさる。
「うふ」
息が漏れたような笑い声。
「うふ、うふふふ......」
「お、奥様?」
「良く見つけてくれました。これで一二三様に新しい敵を提供できます。そして新しい戦場が生まれますね」
この書類は接収します、とオリガは三つ折りにした書類を懐に差し入れ、広げた書類もそのままに、ヴィーネを伴って廊下へと歩き出した。
「......何か
オリガにはわずかにしか感じられなかったが、ヴィーネは人間より鼻が利くのか、涙目で鼻を押さえていた。
「下から上がってきてるみたいです」
「ではさっさと上に行きましょう。一二三様にお伝えしなければ」
カツ、カツ、とブーツの靴底から音を響かせながら、背筋を伸ばして歩くオリガに、鼻をつまんだままのヴィーネが付き従う。
それはまるでキャリアウーマンの上司についていく、新入社員のOLのようだった。迷いなく歩くオリガを、ヴィーネがちらちらと気にしていた。
「ヴィーネさん」
「は、はい!」
「魔法も使えて、獣人族として身体能力もある......それなりに戦えるようですけれど、この先一二三様についていくにはまだ不安です。段取りはしておきますから、フォカロルへ戻ったら訓練すると良いでしょう。......貴女は」
言いかけて、少しためらった。
オリガは一呼吸おいて、後ろのヴィーネに振り向いた。
「戦う一二三様を見て、味方に試練を与えるあの方を見て、それでも一二三様を好きだと断言できますか?」
突然の質問に、ヴィーネは面食らって耳をピンと立てた。
オリガの意図はわからなかったが、答えは変わらない。
「もちろんです。わたしに生きる素晴らしさを与えてくださったときに知った愛情は、ご主人様の魅力はこの程度のことで......いえ、たとえご主人様がすべての獣人族を敵に回したとしても、消えるものではありません」
ヴィーネの答えを聞いて、オリガはくるりと元の方向を向いて歩き始めた。
「そういうことでしたら、厳しい訓練も耐えられるでしょう。私が一二三様から教わったこと、教えてさしあげます」
「あ、ありがとうございます!」
喜色満面でお礼を言うヴィーネに、「ただし」とオリガは歩みを止めることなく語る。
「一つ訂正すべきです。獣人族に限らず、人間や魔人、魔物を含めありとあらゆる生きとし生けるもの。その全てを敵に回しても尚、笑っておられるところこそ、一二三様の魅力なのです」
どう返答して良いのかわからず、ヴィーネが一言も発せずにいると、オリガは優しい声音で続けた。
「心配いりません。一二三様のお側でお仕えしていれば、すぐにわかりますよ」
階段を上がりの特に重厚な扉を押し開く。
そこは王のための部屋。一階にある、一二三が王太子と戦った謁見の間とは違い、さほど広くは無い。だが、見事な調度品が並び、奥に設えられた玉座は、謁見の間にあるものとはまた違った意匠をこらした芸術品であった。
そして今、そこに一二三が座っていた。
「なんで王の椅子って背もたれが垂直なんだろうな。落ち着かない」
横で「いいのかな」と青い顔をしているガアプを無視して、楽な姿勢を探してもぞもぞとしている一二三に、オリガはまっすぐ近づき、跪く。
ヴィーネが慌てて真似しようとすると、一二三が手を振ってやめさせた。
「やめろ、やめろ。俺は王様ごっこなんぞやりたくない。用事があるなら、ちゃんとこっち見て話せ」
「失礼しました」
クスッと笑って、オリガはさらに一二三に近づくと、懐から先ほどの書類を取り出し、内容を説明した。
話を聞いた一二三は、傍らに置いた刀を掴み、ひょいと立ちあがる。
「次の戦場はあっちか。やれやれ、大変だな」
そう言いながらも、顔に浮かぶのは笑み。
刀を腰に差し、収納から取り出した筆記具でさらさらと二枚の羊皮紙に何かを書きつけた一二三は、オリガとヴィーネに問う。
「一度フォカロルに戻って、それからヴィシーに行く。お前らはどうする?」
散歩に誘うかのような気軽な言葉。
オリガはしっとりと微笑む。
「もちろんついていきます。食料は持ち出せるように準備しておりますから、すぐにでも出られます。お弁当も作っていますよ。ヴィーネと一緒にご用意いたしました」
後は任せた、と言われ、紙を押し付けられて戸惑っているガアプを尻目に、三人は途中の町にある名産や温泉の話をしながら、部屋を出て行った。
「もうすぐ、出口、です!」
ネルガルが弾む息を織り交ぜながら声を張る。
階段を駆け上がるイメラリア一行。
秘匿されている脱出路は、城の敷地内に入ったところで階段へと変わり、城の背面を上がっていく。
「何階まであがるの?」
明かり採りのための小窓から高さを確認しながら、アリッサがネルガルに尋ねる。彼女だけが、ほとんど息が上がっていない。
ホーラントの兵士たちは信じられない物を見るような視線を向けていたが、アリッサと目が合いそうになって、慌てて逸らした。不死兵たちとの戦いも見ていた彼らにとって、アリッサはもはや少女ではなく畏怖の対象ですらある。
「四階、です。そこにある、玉座の、後ろまで、通路は、つながって、います」
「ふぅん。じゃあ、すぐだね」
対して、最も余裕がないのがイメラリアだ。
一応は騎士として訓練をしていたサブナクも、鎧の重さを呪いながら肩で息をしていたが、呼吸すら苦しげな女王陛下よりはマシだ。
現場仕事が多いヴァイヤーは、サブナクよりもまだ余裕がある。
目を見開いて、意地だけで足を動かすイメラリアに、誰も声をかけようとはしなかった。
彼らが目的地にたどりついたのは、一階に突入したホーラント兵が全員気絶して、二階で戦っていたフォカロル兵とホーラント兵が、互いに半数以上疲労で動けなくなった頃だった。
ちなみに、二階に侵入しようと頑張っていたオーソングランデ兵たちはだけ壁登りに成功して殴りあいに参加し、残りは落下した際の怪我で呻いている。
「ぜはっ......ぜ、ぜぇ、ぜっ」
狭い通路から広い部屋に出たイメラリアは、バクバクとかつてない程飛び跳ねる心臓を押さえながら、懸命に酸素を取り込みつつネルガルに視線を向けた。
「はぁ、はぁ......ここが、目的地、です」
その言葉を聞いたイメラリアが床にへたり込んだ瞬間、アリッサが弾かれたように前にでる。
「ひっ!?」
「誰?」
アリッサに脇差をのど元に押し付けられ、悲鳴を上げたのはガアプだった。
一二三が出て行ったあと、やることも無く呆然と部屋にいたのだが、急に現れたネルガルに驚いていたところを、アリッサに捕まった。
「が、ガアプさんではありませんか」
「陛下......」
「話は後で聞きます。今は、先にやるべきことがありますから」
ネルガルは怯えるガアプをおいて、玉座の後ろ、避難路の横にある壁を押した。
ズル、と見た目よりも軽い音を立てて壁の一部がずれ、金属の小さな扉が露出する。
「イメラリア陛下。これより戴冠を行います。どうか、立会をお願いいたします」
「ふぅー......。ええ、もちろん構いません」
「ありがとうございます」
ネルガルが金属扉にある小さなくぼみに指輪を押し当てると、小さな音がして少しだけ扉が開く。
ゆっくりと開かれたその中には、煌びやかな宝石がちりばめられ、中央には短剣を象った金細工があり、大きなダイヤがはめ込まれている。
「これが、この国の王冠です」
イメラリアの手に王冠が渡され、その前にネルガルが跪く。
「ホーラントを治める王として、お認めいただけるのであれば、その王冠を私に。もし、そうでなければ......」
「その先は必要ありません」
イメラリアが、ずっしりと重みを感じる王冠を、その細い腕でネルガルの頭上へと運ぶ。
「良き王とおなりなさい。民の信頼に拠って立つ、立派な王に」
「誓いましょう。全ては民を守り、その人生を支えるために」
玉座へと座り、その両脇には護衛としてついてきていたホーラント兵が控えた。
イメラリアやサブナク、ヴァイヤーはネルガルの正面を避けて立つ。
王となったネルガルの前には、アリッサに脇差を突き付けられ、跪くガアプ。
「では、話をききましょうか、ガアプ」
ガアプに託された二枚の紙は、それぞれイメラリアとネルガルに宛てたものだった。
「やれやれ......即位して最初の命令が掃除とは......」
罠の内容についての説明と、“掃除がんばれ”と書かれた紙を読み終え、ネルガルは苦笑いを浮かべた。ガアプからも、およそ戦闘というには穏やかで、あくまで訓練と実験を兼ねたものだったと聞いたネルガルは、脱力しかけた身体に鞭打って姿勢を維持した。
ガアプについては謹慎を言い渡し、城内の兵士たちには戦闘行為の停止を命じ、避難していた使用人たちも呼び戻す。そして、彼らの仕事は油と腐臭にまみれた城内の掃除から始まる。
「まあ、訓練もできて警備のレベルも上がったと思えば、まだマシでしょう。奸臣も成敗できたことですし。わたしよりも......」
部屋の横を見ると、気を失ってサブナクに抱えられているイメラリアの姿がある。
“がんばったで賞”と“ヴィシー行ってくる”とだけ書かれた紙を見たイメラリアは、魂が抜けたようにぱったりと倒れたのだ。
「えーと、ネルガル国王陛下。大変申し訳ないのですが、ご覧の状況ですので......」
ヴァイヤーが申し訳なさそうに声をかけると、ネルガルはひきつった笑顔で答えた。
「城内......いえ、近くの宿を用意いたしましょう。イメラリア陛下がお目覚めになられたら、一度お話をさせていただきたいとは思いますが、今はゆっくりとお休みください。貴国兵士のための宿泊場所も用意します」
「ありがたきお言葉。きっとイメラリア女王へお伝えいたします」
アリッサも含めて退室するサブナクたちを見送ったネルガルは、そろそろ限界だ、と息を吐いた。
「次はヴィシーですか。遠いですが、巻き込まれないとも限らないですね。準備をしなければ......それにしても、背もたれとしては垂直すぎますね、これ」
少し後ろに倒せれば、もっと楽なのに、と思考が現実逃避を始めているのに自覚が無いネルガルだった。 | The soldiers of Orsongrande, who were guided by Fokalore’s soldiers, ended up scaling the castle’s walls and tasted now the hell of getting down. Since Horant’s soldiers have rushed into the first floor, they are directly invading the second floor.
For the soldiers of Fokalore, who repeatedly practised storming in with a feeling of an athletic event, climbing up to the second floor is a peace of cake.
Climbing while relying on the few protuberances, the soldier, who is the vanguard, sneaks a view from a window.
“Ah.”
“Eh?”
His eyes met with the ones of a patrolling soldier from Kuzemu’s camp who is on the other side of the window in a corridor on the second floor.
The soldier from Fokalore, who propped up his body with both his hands, is unable to correspond right away and the soldier of Horant turns his back and runs away.
“We were discovered. Storm in immediately since he ran away.”
While saying that, he leaps inside from the window.
Creating a space for his colleagues, the Fokalore soldier, who stood while making sure to cling to the corner of the corridor, swiftly checks the structure.
“Offices are lined up in the corridor, a stairway in the centre... the structure is as we were taught.”
From the stairs in the middle there are doors of rooms, which are used by high-ranking civil officials who possess an own office in the castle, lining up side-by-side in the long, spacious corridor. On the other side of the stairway there are large room for the sake of meetings and such lined up.
“There’s no one here, huh?”
While waiting for his fellow soldiers of Fokalore jumping into the corridor one after the other, he cautiously watched out, but it didn’t seem like anyone would come.
From the vicinity of the stairway, likely from below, the screams of many humans can be heard.
“How does it look?”
“Somehow, going by the smell... it seems to be a tough battle on the first floor. The second floor is... they came!”
Groups of soldiers from Horant are appearing from one of the doors that’s beyond the stairway. Each of them holds something like a bucket in their hands and the way of them coming out leisurely gives it all an eerie feeling.
“What are those?”
As the soldier of Fokalore observes the spectacle in front of him while being bewildered, the soldiers of Horant swing the buckets in their hands and plaster the corridor with a liquid.
The large quantity of liquid, which was distributed in succession, streamed down the corridor while creating a wave in the blink of an eye and flowed up to the feet of the soldiers from Fokalore.
“Uh-oh.”
Once each of them took shelter on top of an opened door or a window frame, one of the soldiers of Horant, who watched as the fluid spread out, shouts loudly while looking at a scrap of paper,
“Ah. We are the guards who protect this castle. As our position as guards requires, we have to remove trespassers. For that reason, allow us to hinder you.”
Finishing to read the memo, the soldier of Horant folded it carefully. Stepping without hesitation on the floor, where the liquid has spread out, with a crunching sound with his feet being wrapped in something, he stands still while looking satisfied, but doesn’t do anything beyond that.
“... So?”
Due to the Fokalore soldier who calls out to him reflexively, the soldier of Horant nods while keeping his daunting pose.
“That’s all. It’s fine for you to keep clinging like small insects, but if you bastards have any pride as soldiers, you may come at us.”
“What was that!?”
One of Fokalore’s soldiers is enraged, but got stopped by his friends in the vicinity. Being surrounded by a liquid of unknown identity, they judged that it would be best to not move.
However, they were taught the answer by Horant’s side.
Once a large amount of the fluid streams down to the first floor, panicked voices are audible.
“Wai-, the oil has spread until here!?”
“Ah, I have forgotten about the anti-skid measurements... aah!”
There are sounds of screams alongside someone tumbling down from the vicinity of the stairway.
“Oil, eh...?”
Once the soldier of Fokalore looked at the soldier of Horant who had read out the declaration previously, the other party turned away their look.
“... E-Even if you knew that it was oil, there’s no way to deal with it.”
Watching the soldier of Horant who pretends to be tough while blushing, the soldiers of Fokalore exchanged glances with each other.
“There’s no other option but to do it. Any source of ignition is banned, even sparks will be dreadful. Blades are prohibited. Let’s give them a beating.”
Descending to the floor with a sound of *splash*, all of them fell over.
The soldier of Fokalore, who were in a fit of anger at the soldiers of Horant who burst into laughter, attack Horant’s soldiers while falling and stumbling. An extremely gruesome fist fight begins.
Even the soldiers of Horant who covered their feet with a dried, thorny weed as unique anti-skid measure of this country, are thrown into the same conditions once the thorns end up crushed underfoot by them moving around.
Among them there were also some who tumbled down to the first floor with its rotten smell drifting about while struggling with one another.
“... There was plenty of oil spread on the stairway leading to the third floor as well. We will stop you lot here.”
A soldier of Fokalore returns a sneer to the soldier of Horant who grins broadly in the middle of showing and pushing.
“Our objective ain’t breaking through.”
While driving a palm heel into his chin, the soldier of Fokalore laughs while falling over due to the oil.
“If we continue to compete like this, the mission is a success, I guess? We will leave the rest to the director.”
☺☻☺
“... It’s noisy below, isn’t it?” (Origa)
In one office intended for high-ranking civil officials on the third floor, Origa, who sieved through the documents in Kuzemu’s room, mutters.
Rummaging through documents in the same room, Viine turned around to Origa while making her one ear move with a twitch.
“The uproar on the first and second floor... it looks like there are many screams on the first floor, however it seems there’s plenty of people there. Doesn’t it look like they have invaded from outside?” (Viine)
Origa lowered her sight on the documents with a serious look as Viine expresses her uneasiness with “Then it would be best if we escaped.”
“It’s unnecessary to worry. The ones who are attacking are the soldiers of Horant and Orsongrande. Even if they came attacking us as a joke, they won’t pass through the mob. Rather than that, did you find anything?” (Origa)
The reason for them being here was to learn of Kuzemu’s objective. Making the risky large soldiers move, namely the giant soldiers and the immortal soldiers, should have had an according reason, is what Hifumi thinks and had Origa take over as his own assistant. Viine was dragged into that.
“I still haven’t got used to reading the characters... ah.” (Viine)
Viine put one document, which was placed on a shelf, in front of Origa.
“This, it’s a report from someone, isn’t it? “The magic tool to create immortal soldiers was handed over to a messenger of Pearsan which went independent from Vichy” is written there.” (Origa)
Dropping her line of sight on the document which was presented to her, Origa squinted.
“Pearsan... that’s the city-state which went independent with the intention to get close to Hifumi-sama. Them having a connection with Horant... oh.” (Viine)
Sensing that the air around Origa has become freezing, Viine steps back.
A laughter like a breath leaking out.
“Ufu, ufufufu....” (Origa)
“M-Madam?” (Viine)
“You did well to find this. With this I will be able to offer a new enemy to Hifumi-sama. And a new battlefield will be born.” (Origa)
“I will confiscate this document”, Origa put it into her pocket after folding it three times and then started to walk towards the hallway with Viine in tow while leaving the unfolded documents as is.
“... Something stinks.” (Viine)
Origa couldn’t sense any more than a faint whiff of it, but Viine’s nose is better than the one of humans. She held down her nose with teary eyes.
“It looks like it has risen up from below.” (Origa)
“Let’s go to the top quickly then. We have to inform Hifumi-sama.” (Viine)
Viine, who still pinches her nose, follows Origa who walks with her head held high while a sound of *clonk *clonk* resounds from the shoe soles of her boots.
She seemed to completely fit the image of a new OL hire accompanying her career woman superior. Viine paid fleeting attention at Origa who walks without any hesitation.
“Viine-san.” (Origa)
“Y-Yes!” (Viine)
“You have your physical ability as beastman and can also use magic... it seems that you will be able able to fight accordingly, however I’m still uneasy about you following Hifumi-sama beyond this point. Since there has been a plan established, it might be best if you train once we return to Fokalore. ... You are.” (Origa)
Starting to say it, she hesitated a bit.
Origa made a short pause and then turned around to Viine behind her.
“Watching Hifumi-sama fight, seeing him giving an ordeal to his allies, are you still able to declare that you like Hifumi-sama?” (Origa)
Due to the sudden question, Viine was confused and her ear stood up tensely.
She didn’t comprehend Origa’s intention, but it didn’t change her answer.
“Of course. The affection, which I experienced at the time of being bestowed the beauty of survival, is the level of master’s charm... no, even if master turns all beastmen into his enemy for example, I won’t disappear from his side.” (Viine)
Hearing Viine’s reply, Origa turned around and started to walk while facing downwards.
“If that’s how it is, you might be able to even endure relentless training. I will teach you the things I was taught by Hifumi-sama.” (Origa)
“T-Thank you very much!” (Viine)
Due to Viine thanking her while being all smiles, Origa says 「However」 without ceasing to walk.
“I should make one correction. Hifumi-sama’s charm lies in the aspect of him laughing while making enemies out of not only the beastmen but also humans, demons and all living creatures including monsters.” (Origa)
When Viine didn’t mutter even a single word as she didn’t know how it would be best to answer, Origa continued with a gentle tone.
“There’s no need to worry. If you serve close to Hifumi-sama, you will understand it before long.” (Origa)
Climbing a stairway, she pushes open the especially massive door of the fourth floor.
There’s the room for the king. Different from the audience hall, where Hifumi fought with the crown prince, located on the first floor, it isn’t that spacious. However, with magnificent furnishings lining up, the throne, which was installed inside, was a work of art that applied a yet different design from the one in the audience hall.
And, currently Hifumi was sitting on it.
“I wonder why the back of the king’s chair is vertical. One won’t calm down on it.” (Hifumi)
Ignoring Gaap, who has a pale face while asking 「I wonder if that’s alright?」 from the side, Origa directly approaches Hifumi, who is trying to search for the most comfortable seating posture, and kneels.
Once Viine tried to imitate her in a hurry, Hifumi made her stop by waving his hand.
“Stop, stop. I don’t want to play being a king or such. If you have some business, talk to me while properly looking at me.” (Hifumi)
“Excuse me.” (Origa)
Slipping out a chuckle, Origa got even closer to Hifumi, took out the previous document from her pocket and explained its contents.
Hearing her talk, Hifumi grabs the katana, which was placed next to him, and stands up all of a sudden.
“The next battlefield is over there, huh? Good grief, that’s terrible.” (Hifumi)
Even while saying so, only a smile is showing on his face.
Affixing the katana to his waist, Hifumi fluently wrote down something on two sheets of parchments which he took out from his storage and asks Origa as well as Viine,
“After returning to Fokalore once, I will go to Vichy from there. What will you two do?” (Hifumi)
Carefree words as if he is inviting them on a walk.
Origa smiles gently.
“Of course we will follow you. We will be able to leave immediately since the food has been prepared to be taken out. We will even make a bento. I will prepare it together with Viine.” (Origa)
With a backward glance towards Gaap who is perplexed due to being forced to take the papers and being told that the rest is left to him, the three left the room while chatting about hot springs and local specialities in the cities along the way.
“Very soon, the exit.” (Nelgal)
Nelgal fills his voice while it’s intermingled with his rough breathing.
Imeraria runs up the stairs in a line.
The hidden escape path changed into stairs once they entered the castle’s grounds and rose towards the castle’s back.
“How many floors will we ascend?” (Alyssa)
While checking the height from a small window with the task of providing skylight, Alyssa asks Nelgal. Only her breathing rate hasn’t increased much.
The soldiers of Horant turned their looks at her as if seeing something they can’t believe, but once their eyes met with the ones of Alyssa, they hurriedly averted theirs. For them, who also saw the battle with the immortal soldiers, Alyssa isn’t a little girl anymore but a target of fright.
“It’s, the fourth floor. The pathway, is connected, to behind the, throne, there.” (Nelgal)
“Hmm. Then it’s close.” (Alyssa)
In contrast, the one who has the least leeway is Imeraria.
Even Sabnak, who practised as knight more or less, breathed heavily while cursing the weight of his armour, but even though his breathing was painful, it was still better than the queen’s.
Vaiya, who has a lot jobs on-site, has even more surplus than Sabnak.
No one tried to call out to Imeraria who made her feet move by sheer will power while having her eyes widely open.
When they arrived at their destination was the time when all soldiers of Horant, who stormed the first floor, had fainted and when more than half the number of the soldiers of Fokalore and Horant, who fought on the second floor, couldn’t move anymore due to fatigue.
By the way, of the soldiers of Orsongrande, who did their best to invade the second floor, only five people joined the battle after climbing the wall. The rest is groaning due to injuries they suffered at the time of dropping down.
“Zeha... ze, zee, ze!” (Imeraia)
Imeraria, who entered the vast room from the narrow pathway, turned her sight towards Nelgal as she eagerly absorbed oxygen while holding her heart which is pounding to an extent she has never experienced.
“Haa, haa... this, place is, our destination.” (Nelgal)
The instant Imeraria sank down to the floor after hearing those words, Alyssa goes in front as if repelling something.
“Hii!?”
“Who are you?” (Alyssa)
Having a wakizashi pressed at his throat, the one who screamed was Gaap.
After Hifumi left, he stayed dumbfoundedly in the room without doing anything, but due to being surprised by the suddenly appearance of Nelgal, he was caught by Alyssa.
“A-Aren’t you Gaap-san?” (Nelgal)
“Your Majesty...” (Gaap)
“I will listen to your story later. Currently there’s something I should do first.” (Nelgal)
Without paying attention to the frightened Gaap, Nelgal pushed the wall next to the escape route behind the throne.
A part of the wall shifts with a lighter sound of sliding than assumable by its appearance and a small metal door gets exposed.
“Your Highness, Imeraria, we will perform the coronation from now on. Please act as witness.” (Nelgal)
“Pheew~... Yes, of course I don’t mind.” (Imeraria)
“Thank you very much.” (Nelgal)
Once Nelgal pushes his ring against a small cavity which is located on the door, the door opens just a bit with a small sound.
Being opened slowly, there’s a crown with gorgeous jewels embedded, a golden craftsmanship that represented a dagger in the centre and with a large diamond inserted.
“This is this country’s crown.” (Nelgal)
Having passed the crown into Imeraria’s hands. Nelgal kneels in front of her.
“If you can approve of me as king who will govern Horant, bestow that crown upon me. If that’s not the case...” (Nelgal)
“Anything further is not necessary.” (Imeraria)
Imeraria moves the crown with its heavy sense of dignity above the head of Nelgal with her slender arms.
“Become a good king. A splendid king who rises according to the faith of his people.” (Imeraria)
“I swear. It’s all for the sake of supporting their lives by protecting my people.” (Nelgal)
Sitting down on the throne, the soldiers of Horant, who followed him as guards, were at the ready on both his sides.
Imeraria, Sabnak and Vaiya stand while avoiding being in front of Nelgal.
Before Nelgal, who became king, Gaap kneels while having the wakizashi thrust at him by Alyssa.
“Well then, let’s hear your story, Gaap?” (Nelgal)
The two sheets of paper, which were entrusted to Gaap, were respectively addressed to Imeraria and Nelgal.
“Good grief... for my first decree after the enthronement to be cleaning...” (Nelgal)
Finishing to read the paper which explained the details of the traps and told him “Do your best at cleaning up,” Nelgal showed a bitter smile. Nelgal, who heard even from Gaap that it was something like an experiment and at the same time training with the battle in general being gentle, maintained his posture by spurring on his body which suffered from exhaustion.
Sentencing a penitence for Gaap and ordering a stop of all combat to the soldiers within the castle, he calls back the servants who were evacuated. And their work starts from cleaning the castle’s interior of the oil and the rotten smell.
“Well, if I consider that we were able to raise the level of the guards due to being able to practise, it might also be less objectionable. We were also able to punish a treacherous subject. Rather than me...” (Nelgal)
Once he looks to the side of the room, there’s the unconscious Imeraria who is carried by Sabnak.
Imeraria, who looked on the paper that had only written “A prize for doing your best” and “I’m off to Vichy,” collapsed unexpectedly as if her soul had been sucked out.
“Umm, Your Majesty, King Nelgal, I’m terribly sorry, but since there are circumstances I have to attend to...” (Vaiya)
Once being called out by Vaiya apologetically, Nelgal answered with a stiff smile.magic
“I shall prepare a room inside the castle... no, in a close-by inn. Once Her Majesty Imeraria awakens, I’d like to have the privilege of having a talk with her once, but for now let her please rest comfortably. I will also arrange for a location for your nation’s soldiers to lodge.” (Nelgal)
“That’s a very kind offer. I will definitely inform Queen Imeraria about it.” (Vaiya)
Nelgal, who saw off Sabnak’s group, including Alyssa, leaving the room, exhaled while saying “Soon I will hit my limit.”
“The next is Vichy? That’s far, but even if I won’t get dragged into it, it’s not limited to that. If I don’t make arrangements... at any rate, it’s too vertical as back of a chair, this.” (Nelgal)
Nelgal had no self-awareness while starting to escape reality in his thoughts with |
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} | が突き出した刀の切っ先は、目の前の少女の喉元にぴったりとそえられていた。ほっそりとした首筋を震わせて、涙を浮かべながら刀を見つめる少女は一言も発せずにいる。
日本刀は美しい武器だ。『匂いたつような』と言われる刃紋は、単なる曲面ではない、人の息吹を感じさせる個性を持っていて、鋭利な本性を美に昇華していた。
そして、
(美しい少女だ)
と、素早く少女に視線を走らせたは思う。
綺麗な長い銀髪を持ち、今は涙に濡れているものの蒼く澄んだ瞳には一切の悪意が見えない。視線が合う。怯えがありありと浮かぶ瞳は、動揺に揺れて、涙が蒼白になった頬を伝う。
少女は到底悪人には見えない。一二三は疑問を感じる。
視線を外さないまま、視野を広げて周囲を伺う。常人には難しい事だが、一二三には容易い。生死の境を行き来するような稽古の中でも、ひときわ無茶だった一対多の訓練の成果である。
古風だが豪奢な作りの部屋で、20帖ほどの広さがある。石造りの壁に窓はなく、いくつかの松明の灯りだけが瞬く。出入り口は、少女の向こう側に、大きな両開きのドアが見えるだけだ。一二三と少女が立つ場所だけ、30センチほど高くなっていた。
「姫から離れろ!」
騎士の一人からの怒声に、一二三は毛ほども反応を示さない。冷静に周囲を伺い、全員の装備が同じもので、人数が6人であることを確認する。背後は見えないが、気配と音が人数を教えてくれる。
鎧は実に硬そうな金属鎧で、兜も頬当てまでしっかりついた一見隙の無いものだったが、ひと目見たのみで、一二三は刀を突き込む箇所をいくつか目星をつけることができた。
(さて、これからどうしたもんかね)
立ち居振る舞いから、自分に敵う技量の者がいないことを感じながら、この状況に陥った経緯を思い出していた......。
その日、一二三は日課の朝稽古を越えて、道場正面に向かい、座して瞑想をしていた。
異常ともいえる厳しい稽古を物心つく頃からやってきた一二三にとって、道場にて気を鎮めることは何よりもリラックスできる時間でもある。18歳という年齢の割に落ち着いて見えるが、年相応というか、アニメやマンガ、小説なども人並みに楽しむことができる。武の才能以外は、ごく普通の青年なのだ。
隣には、愛用の居合刀がある。余分な装飾がない、シンプルな黒拵えの刀だ。高価なものではないが、師から譲り受け、大事に大事に扱ってきた、無二の愛刀である。
ふと、突然背後に気配を見つけた。
二つ。しかし、悪意は感じない。
「......誰だ?」
「ほっほ、わしらの気配を感じられるか」
一二三の問いに、しわがれた男性の声が答えた。
振り向いた一二三の前には、ギリシャ神話に出てくるゼウスそのものの老翁と、飾り気の無い、武骨な長刀を腰に提げた戦国時代の武人そのままの偉丈夫が立っていた。
思わず眉をひそめる。
(なんつぅミスマッチなコンビだよ。それに......)
「......人ではないな?」
人間がもつ『生活感』とでもいうべきもの、言わば『生きている』という感じがしない。
「我は、元は人だがな」
今度は偉丈夫が答えた。
その立居振舞いは、相当の達人であることを伝えてくる。一二三は脇に置いていた刀をすでに手元に引き寄せ、いつでも抜刀できるように構えている。
「そう緊張するな。悪い知らせではあるが、我らがお前に何かするというわけではない」
「悪い知らせ?」
「それを説明する前に、ちょいと自己紹介をしておこうかの」
老翁がひげをなでながら言う。
「わしは神じゃよ。まあ、いろんな宗教でいろんな神の話がでておるが、おおざっぱに言えば、この世界を管轄している神の代表みたいなもんじゃな。そして、こっちにいる侍が、この世界で武を司る神じゃな」
武を司る神だと紹介された男が、腕を組んでにっこりと笑った。
「お前のことは時々見ていたぞ。武人が少なくなった今の時代、お前ほどしっかりと稽古を積んだものもいない。天賦の才もあるが、なにより努力で積み重ね、人の限界を超えるに至ったこと、武の神として実に喜ばしい」
「じゃがの、お主がそこまでする理由がわからん。過去を見ても、放任気味ではあるが普通の家庭に育っておるし、とくにこれといって武術に打ち込むことになるエピソードが見当たらん」
武の神がいう通り、一二三の戦闘力はもはや自力でチートレベルである。冗談で書かれたんじゃないかとも思える、流派の始祖が残した技を全て体得し、まともにやりあえば道場の門下生全員と同時に立ち会っても簡単に勝てる。
そこまでして戦う力を手に入れたのには、ある欲求によるものだったが、神を自称する目の前の二人には、それは見抜けないらしい。
「神と言っても、人の心を読んだりすることはできないんだな」
「わしらは万能ではないし、それなりに制限も受けておるよ。本来なら、こうして目の前に顕現するのも難しい。わしらの仕事は、この世界という舞台をつくるだけで、直接手をくだしたりはできんのだよ」
自称神の代表者は、嘆息交じりに首を振る。
「まあいい」武の神が言う。「時間もあまりないことだし、さっさと要件を伝えるべきだろう」
「そうじゃな......その『悪い知らせ』じゃが、もうすぐ、お主は違う世界へ飛ばされるのじゃ。そう、お主の部屋にいくつかあるファンタジー小説にあるような、異世界召喚というやつで、この世界から別の世界へな」
一二三がふっと眉をひそめると、武の神がたしなめるように言った。
「ああ、我らがそうするわけではないぞ。勘違いするなよ」
「では、なぜそうなる?」
神だと信じたわけではないが、嘘ではなさそうだと、一二三は感じていた。
「向こうの世界の誰かがな、無理に両世界をつなぐ『歪み』を作ってしまったのじゃ。さらに、召喚のための目印がお主についてしまっておる。お主が向こうへ行かねば、歪みは元に戻らず、世界に様々な影響を及ぼすのじゃ」
なるほど、と一二三は思った。あらゆるジャンルを読む読書家で、中でもそういう小説は割と好きで何冊か読んだ。ようするに、この二人の自称神様は、一二三が混乱しないように説明をしに来たのだろう。
(お優しいことで。さすがは神様というべきか)
「それでな、問答無用で歪みに放り込んでも良いのだが、自分の世界の人間だからな、多少は何かしらしてやりたいと思ってな」
「あっちはいわゆる剣と魔法の世界というやつだ。危険な世界である分、お前が鍛えた武の力も、存分に活かせるだろう」
一二三は眼を閉じて、しばし考えにふけった。
「まあ、話はわかった」一二三は、とりあえずその話を信じてみることにした。「それで、俺は異世界へ行って何をすればいいんだ?」
「なに、別に向こうで魔王を倒せとか、勇者になれとかは言わんよ」
一二三の質問に、老翁が笑顔で答えた。
「というより、我らとしては、お前に向こうでどう過ごしてもらってもかまわんのだ。言わば、こちらの世界から無理矢理誘拐するようなことだからな。あちらで何か頼まれるだろうが、別に聞いても聞かなくても良い」
武の神は、口をへの字に曲げて怒っている。自分たちが管理する世界を荒らされて、気分が良いはずがないのだ。
「それにな、あちらはこの世界と違い、凶悪な魔物や魔法があり、エルフやドワーフなどの亜人が存在する。そういう世界にいきなり放り込まれても、お主とて困るじゃろう」
「だから、お前が困惑しないように、我らがあらかじめ説明をして、また、あちらの世界でも戦える力をやろうと思ってな」
「ちから? たとえば、魔法が使えるようになったりするのか?」
一二三は魔法を使うイメージをしてみたが、どうも思い浮かばない。呪文なぞを詠唱している間に、切りつけた方が早い気がする。仮に詠唱がいらなくても、火や水が飛んでくるくらいなら、簡単によけられるだろう。目隠しをして矢を避けられる一二三には造作もない。
「いやいや、魔法というのはあちらの世界にだけある、人のイメージの力なのじゃ。だから、わしからはこういうふうにな」
老翁が何気なく手をかざした瞬間、一二三が持つ刀が熱を帯びた気がした。
「神としての力を、その刀に少しだけ分けてやったのじゃよ。切れ味を最大限に高め、折れず曲がらず、錆ぬし欠けぬ。生き物に与えることはできんが、無力な神のせめてもの贈り物じゃ」
「そして我からは、武神の加護をやろう。いずれお前が立派に道場でも立ち上げるときにでもと思ったのだが、まあいい。今のお前の武の能力を飛躍的に伸ばす効果がある。実力がものをいう世界らしいからな。役に立つだろう」
「なるほど......」
説明を受け、武人の加護とやらを得た一二三はふと、立ち上がって道場の隅にある居合の的になる巻き藁の前に進んだ。
一閃。
腰から抜き放った刀は、巻き藁を切るに留まらず、道場の壁を裂く。木板の壁が弾け、鉄骨にも傷が入っているのが見える。
「......これはひどい」
巻藁のみを断つつもりが、刃に触れてもいない部分までがざっくりと割れてしまった。
「まあ、使っているうちに慣れるじゃろう」
「そろそろ、召喚の影響が出るはずだが......」
武の神がつぶやくと同時に、一二三の足元に幾何学模様が浮かび上がった。
「これが......」
「来よったな......。一二三よ、これから大変だろうが、なんとか頑張ってくれ。お主はお主の生きたいように生きればいい」
「武の神としては、是非お前の武を、あちらの世界で広げて欲しいところだが、まあ、無理にとは言わん」
“感動的なお別れのシーンですね”
不意に、笑いをこらえたような軽い声が聞こえた。
「......死神か。貴様を呼んだ覚えはないぞ」
武の神が渋い顔をする。
“呼ばれて来たわけじゃありませんよ”
一二三の背後に、燕尾服の痩せた男が現れた。薄ら笑いの顔は、過度に青白く、まるで死体が話しているようだ。
“私はね、この方をずっと見ていたんですよ。これほどの死の匂いを放つ人間はそうはいません”死神と呼ばれた男は、手を打ち合わせて笑った。“人を殺すことを望む者は多くおりますが、それがここまで色濃く魂にからみついた人間は初めてです”
一二三は死神に目線だけを向けて、無表情で黙っている。肯定でも否定でもなく、ただ死神の言葉を聞いている。
「殺伐を好むか......。それがお主の武への熱意の源だと?」
武の神の問いかけに、一二三は答えない。
“それがめでたくも、異世界への招待を得たとなれば、これほど喜ばしいことはありません! さあ、剣と魔法の世界で、思う様その力を示すのです。貴方の前に立つもの全て、その刀で切り捨てることができるでしょう、そう、かの世界の神ですら!”
いちいち芝居がかった仕草で、死神は一二三の前に文字通り躍り出た。
“微力ながら、私からもプレゼントを”
死神が大げさな身振りで手のひらを向けると、一二三の体に黒い霧が染み込んでいく。
“私が最も得意とする闇の属性を差し上げました。向こうでは貴方のイメージ次第で闇魔法が使えるでしょう。それも、人知を超えたレベルで”
「もらえるものはもらっておこう」
“快く受け取ってもらえたようでなにより。魔素の無いこの世界では発現しませんが、あちらで試してみると良いでしょう”
一二三の言葉に、にっこりと笑みを浮かべた死神は、残る二人の神にウインクをする。
「俺からも礼をしておこう」
“え?”
死神が視線を戻す前に、一二三の刀は死神を袈裟懸けに切り裂いていた。滑り落ちた上半身が、見た目より重たい音を立てて床に落ちた。
驚愕に目を見開いていた死神がぱくぱくと口を開いて、そのまま砂になって崩れる。
「ほう、本当に神も斬れたか。こいつが神かどうかはわからんけどな。だが、誰であろうと、俺を利用しようとしたことは許せん」
一二三は無表情のまま、刃こぼれどころか曇りもみられない刀をじっと見ている。
「この刀のことは感謝しよう。俺はこれで存分に殺せる」
まるでスイッチが切り替わったかのように一瞬前とはまるで別の人間のような、凄絶な笑みで一二三は呟いた。 | Tono Hifumi pointed the tip of his katana at a young girl’s throat. Her slender neck trembling in fear, the girl made no sounds while staring tearfully at the katana pointed at her throat.
The Japanese sword is a beautiful weapon. A blade crest which is said to be the “Scent of determination” is not a simple curved surface and has a personality that carries a sharpness that sublimates the real nature of the blade.
And now,
It’s a beautiful girl.
Hifumi, glancing at the girl thought.
She had beautiful silvery grey hair, now slightly blue because of the tears falling from her clear greenish-blue pupils devoid of malice. Their eyes met. Her eyes clearly showing fear. Shaking, tears streaked down her pale cheeks.
The girl does not seem like a villain. Hifumi felt doubt. Without breaking eye contact, Hifumi expanded his field of vision to encompass his surroundings. This was very difficult for ordinary people, however it was but a simple matter for Hifumi
Visiting the boundary of life and death many times during his insane training has led to this result.
It was an old fashioned, but luxurious, room of about tatami (EN: For a rough estimation, imagine or so twin sized beds, that’s how big the floor is). The walls were made of stone, and without windows, the only light came from the flickering torches on the walls. On the opposite side of the girl, a great double-door exit was visible. Only a foot away from the place where Hifumi and the girl stood, covered completely in armour, a Knight holding a short spear for indoor use pointed it at Hifumi with an expression of anger and shouted
「Get away from the Princess!」
He could not see behind him, but the sounds behind him gave away the number of people.
At a glance, he saw that the armour was of a really tough metal. The helmets were also tight against their cheeks, having almost no weak points. He made an educated guess and thrust the point of his katana at a certain spot.
Well, I guess you do now
From their behavior, while feeling that there were no enemies of a comparable skill level, he recalled the circumstances that led to this situation...
That day, Hifumi had finished his daily morning practice and was sitting in meditation in front of the dojo. Slowly inhaling the crisp and cold morning air, and feeling something within him stir. A slight quiver passed through him while suppressing that feeling.
For Hifumi, this abnormal and severe practice of mind and matter was also a time for him to relax more than anything else. Once he reached , it seemed to have settled down, or rather, he’s acting more his age and enjoying anime, manga and novels relaxedly.
Next to him lay his favorite Iaido katana. Without excessive decoration, a black sword of simple make. Although inexpensive, he’d inherited it from his master and treated it with great respect, a peerless sword.
Suddenly, he sensed presences behind him.
However, no malice could be felt from them.
「...Who’s there?」
「 Ho~ , to be able to sense our presences. 」
A man’s hoarse voice responded to Hifumi’s question.
Turning around, Hifumi saw an old man, resembling the legendary Zeus from Greece’s mythology, and a great warrior from the Warring States era with a bone naginata hanging from his waist.
Hifumi involuntarily frowns.
What a mismatched duo. And...
「They’re not ..... Human? 」
Humans have a ‘feeling of life’, but that feeling of ‘life’ cannot be felt from him.
「Me, I am a real human 」
This time, the great warrior answered.
Hifumi was already in a stance allowing him to draw the katana at his side instantly.
「 No need to be so nervous. Although we have some bad news, we mean you no ill-will. 」
「 Bad news?」
「 Wait a minute, before explaining, I will introduce myself. 」
The old main said while stroking his beard.
「 Well, I am a God. You might say different gods belong to different religions, as a rule of thumb, this world’s jurisdiction is under me, who is like a representative of god. And thus, those that control the military arts, the samurai, are gods. 」(TN: This confused me a little.)
The man that introduced himself as the god of martial arts, folded his arms while laughing.
「 I saw something in you. Warriors have become scarce in this era, also very few practice diligently like you. With your genius abilities, with great efforts, you have broken through the limits of humans and greatly pleased the god of martial arts. 」
「 Well, I don’t know why. Even looking at the past, I was brought up in an ordinary household, with a non-interference policy. An episode that provided input to martial arts doesn’t exist. 」
As the god of martial arts said, Hifumi’s fighting power had already reached a cheat-like level. He acquired all the skills that the founder of the school left behind solely from experience, as such, it was possible to easily win against all the pupils of the dojo simultaneously in a straight-up fight, it wasn’t even funny.
Though having obtained the power and desire to fight, the two presences that called themselves “God” were unable to see through it.
「 Although I say god, sensing a person’s thoughts is not possible. 」
「 We are not almighty, and as such, have some limitations. Normally, it is troublesome to manifest in this form. Our work; this world that we may call a stage, cannot be personally interfered with. We are forbidden from doing so. 」
Shaking his head, the self-styled God’s representative sighed.
「 There is no too much time, we should tell him the necessary conditions quickly, yes? 」
「 Anyway, this “Bad news” is that very soon, you will be sent to a different world. So, like the fantasy novels in your room, people from a different world have summoned you into their world. 」
When Hifumi knitted his brows, the god of martial arts corrected him.
「 Aa, that is not the case. Please do not misunderstand. 」
「 Well then, why? 」
Not believing that this person was a god, yet Hifumi sensed it was not a lie.magic
「 Someone in that world has wished for it, forcibly connecting the two worlds by 『 Distortion 』. Moreover, the mark of summoning suits you well. Unless you cross over, the distortion will not fade, causing various effects on this current world. 」
Being a bookworm who read all kinds of genres, such a situation seemed comparatively interesting to him. Simply put, these two self-styled gods had come to explain the situation, so as to clear any confusion in Hifumi’s mind.
In all fairness, should they really be called gods?
「 Because of that, questions about the distortion can be freely asked, since you are a man of my world, I wish to do a little something for you. 」
「 That place is a so called world of “swords and magic”. It is a dangerous world, you can temper your martial arts to your heart’s content, without any reserve. 」
Hifumi shut his eyes and indulged in the idea for a while. Previously smouldering feelings in Hifumi were simulated.
「 Well, our discussion had been understood. 」, Hifumi, for the time being, decided to believe the story.
「 What, just defeat the Demon King on the other side, being called the hero, what else? 」
The old man answered Hifumi smilingly.
「 Rather, we don’t really care how you spend your time in that world. That world is forcibly kidnapping you, so to speak. You do not need to listen, even if you are asked for something there. 」
「 The world that we manage is messed up, it doesn’t feel right. 」
「 Moreover, that world is much different from this world, there are brutal demons and dangerous magic, various species like elves and dwarves exist. To be thrown suddenly into such a world would be very troublesome too. 」
「 We are explaining this to you beforehand so that you are not be perplexed, also you have the power to fight in that world. 」
「 For example, you can use magic... 」
Though Hifumi managed to get an image, nothing happened.
「 No, no, no, magic exists only in that world, as the image of power for a person. So, let me. 」
The old man nonchalantly raised a hand, and the katana Hifumi was holding heated up a little.
「 Apart from a god’s power, almost nothing can break this katana. Sharpness has been boosted, it won’t bend or break, and all traces of rust are removed. This is the only gift this powerless god can give you. 」
「 And from me, the divine protection of the god of martial arts. Though you stand at the top in your dojo, and might take over sometime soon, ah well.. Now, your martial arts can power up more effectively. It seems it will be useful in the other world, where it’s considerably important. 」
「 I see... 」
On receiving the explanation, Hifumi, who had obtained the divine protection suddenly got up and headed towards the straw post used for Iai strikes.
A single flash.
Drawn from the waist, the katana cut through the straw post, not stopping there, also damaged the wall of the dojo.
「 .... This is bad 」
I only intended to cut the straw post, but even the part not touched by the blade is broken.
「 Well, you’ll get used to handling it. 」
「 The effects of the summoning will begin soon enough.... 」
At the same time the god of martial arts mutters this, a geometrical formation appeared at Hifumi’s feet.
「 This is.... 」
「 Haa... It’s here... Hifumi, in the future, it may be difficult, but please persevere. If you wish to live, you must grow.」
「 As the god of martial arts, I wish for your martial arts to improve in that world, but do not force yourself. 」
「A moving scene, isn’t it? 」
Unexpectedly, a light voice suppressing laughter was heard.
「 .... A Death god? I do not recall having called you. 」
The god of martial arts said with a sour expression.
「 It is not because of being called 」, said a thin man wearing a tailcoat, appearing behind Hifumi.
Wearing a faint smile, the pale faced, corpse-like thing spoke.
「 I have been watching him for a while. This fragrance of death he gives off is not human. 」 the Death god said and laughed.
Hifumi only silently glanced at the Death god, remaining expressionless. Listening to the Death god’s words, neither affirming nor denying.
「 Do you crave for bloodletting? Now that you mention it, what is the source of your zeal for martial arts? 」
Hifumi didn’t answer the god of martial arts’ question.
「 Even the god of that world does not have such a happy thing! In that world of magic and swords, you can show your power to your heart’s content! If anything stands before you, you can cut it down with your sword! 」
Excitedly, the Death god appeared in front of Hifumi.
「 Despite the poor ability, accept this gift from me! 」
The Death god grandly gestured towards Hifumi, a black mist permeated Hifumi’s body.
「 I gave you the darkness attribute that I excel at, and you will be able to use dark magic depending on your image there, and it is at a level that exceeds human knowledge. 」
「 I will use it well. 」
「 You seem to have received it willingly. Naturally, it will not work here, but you should try it out in that world. 」
To Hifumi’s words, the Death god replied smilingly, winking at the other two gods.
「 I thank you. 」
「 Eh? 」
The upper body fell onto the floor, making a much heavier noise than expected.
The Death god, his eyes filled with astonishment, opened his mouth soundlessly before collapsing and turning into sand.
「 Huh, was the god really cut that easily? I don’t know whether or not this person is a god. However, I don’t like anyone trying to use me. 」
Hifumi stared expressionlessly at the sword which reflected nothing, not even the edge was nicked.
「 Thank you for this sword. I can use this to kill without reserve. 」
As if a switch had flipped, Hifumi muttered with a ferocious smile. |
{
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} | 「行くぞ!」
街の出口が近づいてきたところで、鋭く声をか、刀を手にして馬を駆けさせた。
「ちょっと!」
馭者をしていたカーシャが、慌てて馬車の速度を上げるが、到底追いつける速度ではない。
みるみるうちに引き離され、暗闇の先まで消えたは、門の前に居る三人の兵士の一人の首を、すれ違いざまに斬り飛ばした。
勢いを殺しながら振り向いた一二三は、再度馬を走らせ、馬上からの刀のひと振りでさらに一人を殺す。
たった一人残された兵が、ようやく剣を抜いたあたりで、馬車が到着した。
「アリッサ、降りてこい」
馬を降り、刀を向けて兵を牽制しながら、目を向けずに呼びかける。
すぐにアリッサは馬車から飛び降りてきた。回復薬で無理やり復帰させた直後だが、動きは問題ないようだ。
「これを貸す」
近づいてきたアリッサに、一二三は持っていた刀を渡した。
「えっ......」
兵が斬りつけて来るが、危なげなく前蹴りで押し返して転がした。
「これでこいつを殺せ」
「そ、それは......」
アリッサは刀を受け取りはしたものの、殺せという言葉には躊躇した。知っている顔なのかもしれない。
さらに兵が飛びかかってくるが、剣を持つ手首の内側に寸鉄を叩き込んで剣を落とさせ、首筋を掴んで引き倒す。直ぐに起き上がろうとするが、一二三が肘をしっかりと踏みつけているので、人間の構造上、身体を起こせない。
「これから先、お前は多くの相手を殺すことになる。昨日話した相手を今日殺す事もあるだろう。まずはこいつを殺せ。お前を殺そうとした相手を殺して、ここからの離別を果たせ」
淀みなく語られた一二三の言葉に、息を飲んだアリッサだったが、そう時間もかからずに刀を構えた。
「それでいい。今朝まではお前の同僚でも、お前を裏切って殺そうとした時点で敵だ。殺さなければ、殺される」
陳腐なセリフだが、実体験を持つアリッサには効果的だった。
顔を上げた彼女の目には、もう迷いがない。
「この剣、借りるね」
未だにあがき続ける兵に、アリッサは刀を突き刺した。
研ぎ澄まされた切っ先は、首の後ろからするりと入り込み、その命を容易く断ち切る。
「......やっちゃった」
「よくやった。次は国境だ」
アリッサの手からそっと刀を抜き取り、死んだ兵士の剣を渡した一二三は背を向けて馬へと近づく。
「一二三さん、僕、これでよかったの?」
「......良いも悪いもない。俺がそうすべきだと言って、お前がそう決めた。それだけだ」
よく判らないという顔をして、アリッサは剣を片手にトボトボと馬車へ戻る。
第一段階はうまくいったと、一二三は思った。
アリッサがヴィシーの人間を初めて殺した時、どう反応するかでこれからを決めようと思っていた。これで心が壊れるようなら、適当な所に預けてしまおうと。しかし、想像以上にアリッサのヴィシー兵に対する敵対心は強かったらしい。内心に葛藤はあるだろうが、先に襲ってきたのはあっちだと、自己正当化で心のバランスをとるだろう。殺した相手から奪った剣を手放さなかったのは、まだ戦うことを放棄していない証明だ。
最終的には自分に牙を剥く可能性もあるだろうが、それはそれで楽しいだろうと笑いながら馬上へと戻った一二三は、無人の門を抜けて街を後にした。
国境。オーソングランデ側もヴィシー側も、何とか数日は持たせる程度の兵の割り当てができていた。今後、増員が来たらそのままここへ残るものと、本来の隊へ戻る者とに分かれるだろう。
その国境、オーソングランデ側には兵士の他に一人の騎士が居た。パジョーだ。彼女は異常事態の捜査の為に、数日はここに逗まるつもりでいる。
今は、最初にここで死んでいた犯罪者の死体と一二三に殺されたゴデスラスの死体を検めて、報告書を書き上げたところだ。
「やはりヴィシーはホーラントと組んでいるのではなくて、単に利用されているのかしら。こちらと同様に国境周辺の人員を篭絡して、あの魔法具の実験をしている? でもなぜ、二国を同時に敵に回すような真似を......」
疲れた頭では考えがまとまりそうにないと、そろそろ休もうかと思っていたパジョーの耳に、遠くから叫び声が聞こえてきた。
どうやら、国境の向こう側で誰かが戦っているらしい。
「まったく、休む暇もないとはこのことね」
悪態をつきながら、鎧と剣を手早く装備したパジョーは、自室から飛び出していった。
仄暗い松明の明かりは、最低限必要な場所だけ照らすようにできていた。
基本的に夜間は国境を通すことはない。暗いと見落としが出る可能性があるし、判断力も鈍る。
稀に来る、計算を間違えて夜に到着してしまった商人などは、少し離れて野営をして過ごし、朝になってから国境を通過する事とされている。
今日は、そういう間抜けな商人はいなかったが、襲撃者はいた。
「いいか! ヴィシー側の兵は皆殺しにしろ! 一人として残すなよ!」
馬を走らせながら、一二三は鎖鎌の分銅を振り回している。
「馬車のまま砦まで突っ込め! 直ぐに降りて周りの連中を殺せ!」
「わかりました!」
砦に近づくと、大きな盾を構えた兵が街道に二人ならんで立ちふさがる。
「止まれ!」
馬は見事な跳躍で二人の兵を飛び越え、一二三はがら空きになった兵の頭上から、二人まとめて首に鎖を巻きつけて引き倒した。
10mほど引き摺ってから兵を放り捨てるが、二人共引き倒した時点で首の骨を折って死んでいる。
兵が落とした盾を、馬車を引く馬たちはさっとかわして走っていが、馬車本体の車輪が乗り上げて激しく揺れた。
「きゃっ!」
バランスを崩したオリガを、アリッサがとっさに抱きとめた。
「あ、ありがとう」
お礼を言いながら、オリガは自分に触れているアリッサの手が震えている事に気づいた。
「大丈夫。ご主人様がいるし、私たちも結構強いんですよ?」
だから大丈夫と、オリガは優しく笑いながら、自分の魔法杖をしっかりと掴んで馬車から飛び出すタイミングを図っていた。
不意に、馬車の速度が落ちる。
「邪魔だぁ!」
カーシャは正面の敵に対応するようだ。
声を聞いたオリガは直ぐに飛び出し、アリッサはためらいながらも続く。
馬車の後方から降りた二人は、左右に別れて敵に向かった。
馬車が突っ込んで来るタイミングを見て一度砦から離れて馬を降りてきた一二三は、カーシャと対峙している兵の背後から近づき、その頭を掴んで、無造作に砦の壁に叩きつけた。
それだけで兵は死んだ。
さらに向かってきた敵を右手に持った刀の柄で殴り、昏倒したところを目を貫いて殺す。
「ぎっ!」
「ご主人......」
「アリッサのフォローに回れ」
何か言いたげなカーシャは無視して、一二三は死体を増やしながら国境へ近づく。
「オーソングランデの兵よ! 聞け!」
大音声
一二三のその声は、国境にはまだ距離があったパジョーにも聞こえた。
「この声は......」
「俺はオーソングランデ貴族の一二三という者だ! ここに居る兵士諸君なら知っているだろう! 我が国のハーゲンティ子爵は捕縛された! その理由を知っているか?!」
一二三の声はよく通る。国境の向こう側で状況を確認していたオーソングランデ兵にしっかりと聞こえていた。
「ハーゲンティ子爵は、ヴィシーの傀儡であった! 俺はイメラリア王女より密命を帯びてヴィシーに潜入し、かの子爵がヴィシーに操られ、非道な魔法具によって操られた兵を、我が国へと迎え入れようと画策していた事を突き止めた! そしてさらには、その魔法具の秘密を知ったうら若き女性をも殺そうとするヴィシーの行いを知ったのだ!」
語りながら、一二三はさらに二人を殺している。
その腕前を見せつけられているオーソングランデ兵の中には、彼が王女の密命を受けていてもおかしくないと信じはじめる者もいる。
「危険ではあったが、俺は彼女を救い出す事に成功した! だが、その際に俺の事が知られてしまった! 何とか追っ手は倒したが、ここを通らぬわけにもいかん!」
兵たちが視線を向けると、オリガとカーシャに助けられながら、懸命に戦う少女の姿があった。アリッサのことだ。
「オーソングランデ兵諸君! 国境はそこにあるが、それは乗り越えられない巨大な岩壁ではない! 俺たちは構わないが、彼女を助ける為に力を貸してくれ! 彼女を救うために、君たちの正義を見せて欲しい!」
一二三の呼びかけに、兵たちはお互いの顔を見合わせながら迷っていた。
(......どういうつもり......?)
間もなく砦へ着くという所で、パジョーは迷っていた。
一二三に救援が必要などと、端から信じてはいない。それでは、何故一二三はオーソングランデ兵たちに“国境を越えさせようとしている”のだろう。それはたとえ国境を守る兵にとっても重罪だ。むしろ、一般人がそうするよりも重大な意味を持つ。
だが、それが判らない一二三ではないはずだと、パジョーは考える。自分が砦へ着けば、そこでどうするかの判断をする事になるだろう。
冷静に考えれば、騎士や兵士が国境を越えて相手国へ侵入するのはまずい。さらに、向こうの国で犯罪を犯したとされる者を助けるのだ。問題にならないはずがない。
しかし、ここで助けに入らない選択をした場合、女性を助けなかった事と“自国の人間を助けなかった”事の二つの事実が残る。騎士であればまだしも、一般の兵からすれば国に対する信用を落とすことになりかねないし、この事実は一般市民に広がるだろう。
原則を守って士気を落とすか、人命を優先したとするか......。
パジョーが砦にたどり着き、一二三が指す少女がアリッサである事に驚き、さらに国境線の向こうに死体がいくつも倒れているのを見た瞬間、一二三の先ほどの言葉を思い出した。
『俺の事が知られたが、追っ手は倒した』
これが本当なら、“犯罪者をかばってオーソングランデ方面へ逃走する途中でヴィシーの兵を殺した”という事だ。すでにオーソングランデによる干渉が成立してしまっている。
相手方がどこまで知っているかはわからないが、すでに越境を控える意味が失われてしまっているのだ。
(こうなったら、何としてもアリッサを引き入れて、美談にでも仕立てあげる必要がある)
オーソングランデに正義があり、ヴィシーの非を鳴らして有耶無耶にするしかないと、パジョーは判断した。
「全員、剣を抜いて彼らの応援に行きなさい!」
自らも武器を手に、先陣を切って走り出すパジョーに、他の兵も続いた。責任者が判断したのだ。それで簡単に彼らの戒めは解かれた。
圧倒的な人数となったオーソングランデ側の猛攻に、ヴィシー兵はあっという間に数を減らしていった。
全てのヴィシー兵を殺し、国境を超えた一二三は、これ見よがしにパジョーへ礼を言った。
「勇気ある行動だった。感謝する」
「いや、気にしないでください。それより、詳しいお話を聞きたいので、こちらへ」
パジョーの先導に、素直に従う一二三たち。
一二三はもちろん無傷で、奴隷達とアリッサも、気にならない程度のカスリ傷で済んでいた。
砦近くの兵舎に併設された広い会議室に入り、見張りの兵にしばらく誰も入れないように告げると、パジョーは一二三たちに座るように促す。
一二三たちが座るのを確認してから自分も椅子に座り、大きなため息をついた。
「どうした、疲れているようだな」
「誰のせいだと......で、説明をしていただきたいのだけれど......」
一二三は、収納から取り出した書類を無造作にパジョーに放りやった。
さっと目を通したパジョーが、目尻を押さえて俯く。
「ところどころ読めなかったが、ヴィシーの中央政府の連中は、ホーラントの魔法具を使って兵の強化をしているらしいな。この二国が協力してあたるとしたら、地理的にオーソングランデだと思うが?」
「これが本物なら、そうかもしれないわね......」
絞り出すように声を出すパジョーに、一二三が追い討ちをかける。
「で、それを受け取ったアロセールの街の代表も捕まえた。ちゃんと生きてるぞ。馬車の中に転がしてある」
「誘拐じゃないの!」
机を叩いて立ち上がったパジョーに、顔色一つ変えずに一二三は言った。
「わざわざ大声出して聞こえるように言っただろう? これは危うく殺されるところだった彼女を救うための正義の行いだ。これだけの証拠が合って、その書類の事を証言できる奴がこちらに居る。何を言われても先に動いたのは
「それを判断するのは王族と高位の貴族たちで、現場じゃないわ」
「いやいや、お前はさっき現場で判断しただろう。もう状況は始まっている。手遅れだと」
一二三の言葉に、パジョーは黙って彼の顔を見ているしか無かった。一二三と並んで座っているオリガ達も、自分たちの行動から大きな話に発展している事に気づかされ、黙って息を飲んだ。
「......とにかく、今日は兵舎に泊まってください。王都へ報告を入れておきます」
「あ、鳥とかの伝達手段があるんだったな。じゃあ、ついでに王都まで連絡をして、イメラリアに会う約束を取り付けてくれ。そうだな、『密命を果たすも少女を救うために法を破ってしまった男が、王女殿下へ謝罪に参上したいと言っている』と」
パジョーは訝しげな顔で一二三の顔を見ている。何を考えているのかを読み取ろうとしているのかもしれないが、彼は薄笑いを浮かべたまま、視線を受け止めていた。 | “Let’s go!” (Hifumi)
Approaching the town’s exit, Hifumi called out sharply while holding his katana and galloping on his horse.
“Just a moment!” (Kasha)
Kasha, who was the coachman, raised the speed of the carriage in a hurry but it wasn’t a speed that could catch up to Hifumi no matter how.
In an instant they were separated. Hifumi vanished into the darkness in front. One of the heads of the three soldiers in front of the gate was severed. In the act of passing each other, it was cut and sent flying.
While using the momentum of killing him, Hifumi turned around and once again hurried on his horse. Slashing his katana from atop of the horseback, he killed yet another person.
Just one single soldier was left now. As the carriage arrived, the soldier was at last being successful in drawing his sword, the carriage arrived.
“Alyssa, get off.” (Hifumi)
Hifumi dismounted from the horse and pointed his katana into the direction of the soldier to keep him in check. Without shifting his attention he addressed Alyssa.
Immediately following after the forceful healing with restorative medicines, she didn’t seem to have any problems with movement.
“I am lending this to you.” (Hifumi)
Coming close to Alyssa, Hifumi passed on his katana to her.
“Huh? ...” (Alyssa)
Though the soldier came slashing at them, he was easily forced back with a front kick causing him to be thrown down.
“Kill this guy with this.” (Hifumi)
“Th-that is ...” (Alyssa)
Although Alyssa received the katana, she was hesitating upon being told to kill the soldier.
Once more throwing himself upon them, the soldier approached. Having a short blade driven into the inner side of his sword arm’s wrist, the soldier dropped his sword. Hifumi grabbed the back of his neck and pulled him down.
“From now on you will kill a lot of opponents. The person you just yesterday had a friendly chat with, might have to be killed today. First off, kill this guy. Kill the opponent that tried to kill you, in order to completely separate from this place.” (Hifumi)
Without any hesitation, Hifumi spoke those words. Catching her breath, Alyssa set up the katana without losing any time.
“That’s fine. Up until this morning he was your colleague, but now that he betrayed and tried to kill you he is an enemy. If you won’t kill him, he will kill you.” (Hifumi)
Although those were clichéd words, they were effective on Alyssa who had experienced it by herself.
Upon lifting her head, there was no trace of indecision left within Alyssa’s eyes.
“I am borrowing this sword.” (Alyssa)
Alyssa thrust the katana at the soldier who was still continuing to struggle.
The sharpened point of the katana penetrated with a smooth, unhindered motion into the back of his head ending his life simply like that.
“... I have done it.” (Alyssa)
“You did well. Next we move to the national border.” (Hifumi)
Hifumi gently took the katana from Alyssa’s hands and replaced it with the sword of the dead soldier. Turning his back on her, he went towards the horse.
“Hifumi-san, I, did I do something good with this?” (Alyssa)
“... There is no good or bad. I told you what you should do and you decided yourself to do so. That’s all there is to it.” (Hifumi)
Wearing an expression that showed she didn’t quite understand, Alyssa went back to the carriage trudging with the sword in her hand.
The first step went smoothly
Only after killing a person from Vichy for the first time, I was going to decide the future depending on Alyssa’s reaction.
Although there was a chance that she might bare his fangs at him, that in itself would be enjoyable as well. While laughing to himself, Hifumi returned atop the horse and they left the town behind by passing through the unmanned gate.
On Orsongrande’s side and Vichy’s side, both somehow managed to allocate soldiers taking charge to a certain degree within a few days.
On the Orsongrande’s border side, besides soldiers coming there was one more person, a knight.
Currently, the corpse of the criminal who made his appearance here first and the corpse of Gothras, who was slain by Hifumi, were to be examined, as she was in the process of writing down the report.
“After all Vichy hasn’t formed an alliance with Horant yet, I wonder if they are not simply being used? The number of personnel loitering on their side of the border is identical to ours, was it only to experiment on the magic tool? But why? Acting in such way would make them enemies of two countries at the same time ...”(Pajou)
, Pajou thought, just as a scream reached her ears from a distance.
It seemed like there was someone fighting on the other side of the border.
“Good grief, there is no time to take a rest at all.” (Pajou)
While cursing, Pajou quickly equipped her armor and sword and rushed out of her own room.
The light of the dim torch only illuminated the necessary minimum of the location.
Basically the border wasn’t passed at night.
Rarely there were merchants and such who arrived at night due to ending up making a mistake in their planning. They pass the time by camping a little bit away before devoting themselves to passing through the border in the morning.
Today it wasn’t such a idiotic merchant but an assailant appearing.
“Listen! Annihilate the soldiers on the Vichy side! Do not leave one person alive!” (Hifumi)
While riding the horse, Hifumi swung the fundou of the kusarigama (
“Plunge deeply up to the fortress with the carriage as it is! Immediately after disembarking, kill the group in the vicinity!” (Hifumi)
“””Understood!”””
Approaching the fortress, the two soldiers were setting up large shields side-by-side blocking the road.
“Stop!” (Guard)
Magnificently jumping with his horse over the two soldiers, Hifumi wrapped the chain around the necks of the two defenseless soldiers in one go from overhead and dragged them down.
After about meters of pulling them along, they were discarded. At the time of dragging them down, both of them had died by having their necks broken already.
The horses pulling the carriage quickly evaded the shields the soldiers dropped as they were hurrying on. The wheels of the main part of the carriage ran aground causing it to violently shake.
“Kya!” (Origa)
Origa having been thrown off balance was right away caught by Alyssa.
“T-Thank you.” (Origa)
While expressing her thanks, Origa noticed the quivering of Alyssa’s hand as she was touching her.
“It’s alright. Master is here and were are quite strong, too, okay?” (Origa)
Therefore it was fine, while gently smiling, Origa tightly held her magic staff as she was aiming for the right timing to jump off the carriage.
Suddenly the velocity of the carriage dropped.
“You are a hindrance!” (Kasha)
Apparently Kasha dealt with the enemy in front.
Hearing the voice, Origa immediately jumped off and although hesitating, Alyssa followed right after.
Disembarking from the back of the carriage, the pair faced the enemies separated to the left and right.
Having seen the moment arriving when the carriage plunged into the fortress, Hifumi left the horse after dismounting from it. He grabbed the head of a soldier, who was confronting Kasha, approaching him from the back and casually threw him at the fortress wall.
With only that, the soldier died.
Furthermore, he hit the soldier coming from his right side with the hilt of the katana causing him to become dizzy and then penetrated the blade through the eyes thus killing him.
“Gi!”
“Master ...” (Kasha)
“Follow Alyssa.” (Hifumi)
Ignoring Kasha, who wanted to say something, Hifumi increased the corpse count while approaching the border.
“Orsongrande’s soldiers! Listen!” (Hifumi)
In a very very loud voice.
That voice of Hifumi, albeit yet quite a distance off the border, was heard by Pajou.
“This voice ...” (Pajou)
“I am an Orsongrande noble called by the name Hifumi! Some of you soldiers should already know of me! Our country’s Viscount Hagenti was arrested! Do you know the reason for that?!” (Hifumi)
Confirming the situation on the other side of the border, Orsongrande’s soldiers had heard it properly.
“Viscount Hagenti is a puppet of Vichy! Upon Princess Imeria’s decree I secretly infiltrated Vichy while risking my life. Viscount Kano was manipulated by Vichy. Again and again soldiers, who were manipulated by inhuman magic, showed up in our country and I was able to obtain evidence of their schemes! And furthermore Vichy tried to kill a young woman, who learnt of the secret behind the magic tool performance, too!” (Hifumi)
While talking, Hifumi killed two more soldiers.
Having displayed his abilities to some of the Orsongrande’s soldiers, there were some amongst them starting to believe that him having received the Princess’ secret decree wasn’t strange at all either.
“Although it was dangerous, I succeeded in rescuing her from the crisis! But, in doing so my circumstances ended up being revealed! Though I somehow managed to defeat the pursuers, it is regrettable that I can’t pass here!” (Hifumi)
As the soldiers turned their line of sight, there was a figure of a young woman desperately fighting while helping Origa and Kasha.
“Soldiers of Orsongrande! Even though the national border is right ahead, there is no way to climb over the huge rock cliff! Don’t mind us, but at the very least lend us your assistance to rescue this young woman! For the sake of saving her, I want all of you to display your righteousness!” (Hifumi)
As they were addressed by Hifumi, the soldiers looked at each others faces while wavering.
... What is he planning? ...
As she would before long arrive at the fortress, Pajou was perplexed on the way.
Then, why is Hifumi trying to have Orsongrande’s soldiers cross the border?
Having arrived at the fortress myself, what would I decide to do in this situation?
If you think calmly about it, it will be unwise for knights and soldiers to cross the border of another country and thus invade it.
However, choosing to not save them in this situation, the matter of not helping women and the matter of “not helping one’s own country’s citizens,” these two matters will still remain as facts.
Protecting the rules and thus disheartening the retainers or deciding to put the priority on saving lives, huh? ...
Finally arriving at the fortress, Pajou was surprised to find out that the young woman Hifumi had specified was no other than Alyssa. Furthermore a great number of corpses could be instantly seen having fallen on the other side of the border. She recalled Hifumi’s speech he gave just now.
『Although my circumstances became known, I managed to defeat the pursuers.』
If that was true, it was a matter of “Protecting a fleeing criminal who, while heading in the direction of Orsongrande, killed Vichy’s soldiers en route.”
Though I am not certain to what extent the other party is aware of matters, the significance to refrain from transgressing the border has already been lost.
Since it has come to this, we have to retrieve them no matter what it takes. It has also become necessary to tailor a beautiful tale about this.
Orsongrande is in the right. There is no other choice but vaguely denounce Vichy publicly, Pajou judged.
“All hands, draw your swords and assist them!” (Pajou)
Naturally holding a weapon too, Pajou started to run as vanguard. The other soldiers followed as well.
Due to the fierce attack by the Orsongrande’s side with their overwhelming numbers, the number of Vichy soldiers decreased in a blink of an eye.
After all Vichy soldiers had been killed, Hifumi, who crossed the border, expressively showed his thanks towards Pajou.
“It was a very courageous behavior. I wish to express my gratitude.” (Hifumi)
“No, please don’t worry about it. Leaving that aside, because I want to listen to the detailed report, come this way please.” (Pajou)
To Pajou’s guidance, Hifumi’s group obediently followed.
Of course Hifumi was unhurt, the slaves and Alyssa too, to the degree of settling with a few scratched which hadn’t to be minded.
Entering a vast conference room in the barracks close to the fortress, the soldiers standing guard were told to not let anyone enter for a while. Pajou urged on Hifumi’s group to sit down.
After confirming that Hifumi’s group had sat down, she sat down on a chair herself too while breathing a heavy sigh.
“Somehow you seem to be quite worn out.” (Hifumi)
“Who’s fault do you think that is? ... So, usually I would expect you to explain right away, but ...” (Pajou)
Retrieving a document from his darkness storage, Hifumi casually tossed it to Pajou.
After quickly looking through it, Pajou hung her head in shame and looked down from the corner of her eyes.
“Though it was impossible to read some parts, it seems that the lot at the central government of Vichy have used a magic tool from Horant to strengthen their soldiers. If those two countries succeed in cooperating, they are geographically the same as Orsongrande?” (Hifumi)
“In case this is real, you could say that ...” (Pajou)
As Pajou was visibly squeezing out those words, Hifumi delivered the final blow.
“So, the representative of the town Aroseru, who received this as well, was arrested. He is still alive. He was left within the carriage.” (Hifumi)
“Isn’t that kidnapping!” (Pajou)
As Pajou slammed on the desk and stood up, Hifumi said without changing his expression.
“Did you have to expressively raise your voice so it could be heard by others? This was done rightly in order to completely save her from almost being killed at that place. With having this much evidence, the guy who can testify the validity of the document is here. What do you want to say before making a move? Vichy will reject everything like that.” (Hifumi)
“This judgement will be made by the royalty and the high ranking nobles, not by those on site.” (Pajou)
“No, not at all, you have decided on site just a little while ago. The situation has already started to develop. It’s too late now.” (Hifumi)
Olga’s group, who were sitting lined up next to Hifumi, likewise were silent having their breath taken away after becoming aware of how their actions had developed into such serious affair.
“... Anyway, please stay at the barracks today. I will submit a report to the royal capital.” (Pajou)
“Ah, there was the option to use birds as means of communication. Well then, while you are contacting the capital, please arrange for us to meet Imeria. Let’s see, 『The man, who accomplished the secret decree while also ending up breaking the law in order to save a maiden, wishes to visit Her Highness in order to express his apology』.” (Hifumi)
Pajou tried to possibly read his mind. He was floating a faint smile without change as he caught her gaze. |
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} | 森に残ったエルフたちが、それぞれ武装をして魔人族との接触地点に戻ってきたとき、そこにあるはずの魔人族の死体が消えていた。
「おい、魔人族なんてどこにもいないじゃないか」
魔人族が現れ、しかもたっで倒したという話を聞いて、勢い込んでやってきたエルフたちは、先に接触した二人を睨みつけた。
「いやいや、本当なんだよ! なあ?」
「ああ、間違い無く魔人だったし、俺たちの魔法で殺した。場所も間違いない。見ろ、血の跡もあるだろう?」
指差された場所、適当に均されただけの路地の上には、確かに血痕と思われる黒い跡が残っている。
よく見ると、血の跡がかすかに引きずられたように、脇の森へと向かってうっすらと伸びていた。
「......あっちに、続いているな」
「確かめよう。魔人族がまだ生きているなら、逃げられたら厄介だ。重傷なのは間違い無いのだから、見つけたら全員で魔法を撃ち込んで止めをさそう」
その提案に、その場に来ていのエルフは全員が同意した。
まとまって互いに周囲を警戒しつつ歩を進める。
残った者たちはどちらかといえば魔法は得意な方で、魔人族が来ても戦える自信を持っていた。だが、実際に戦ったという経験があるものは居ない。エルフたちが魔人族を追い詰め、彼の地に追いやったのは、彼らの生まれるずっと前の話なのだ。
「あれは......!」
ほど進んだところ、森の木々の間隔が大分狭くなり、薄暗くなってくるあたりで、誰かが指差した。
そこには、誰かがしゃがみこんでもぞもぞと何かの作業をしている後ろ姿が見えた。
「いや、ちが......」
先導したエルフは、自分が見た魔人族とは違う、と言おうとしたが、接敵と勘違いしのエルフに魔法を発動した。
「くらえ!」
「魔人族め! 外に出てくるな!」
口々に悪態を吐きながら、放たれたのは風の刃と電撃、そして石礫の魔法だった。
全ての攻撃が、何かに当たり、弾け、激しい音を放つ。
「よし!」
誰かが、拳を握って叫んだ。
次の瞬間、仲間とは違う声が全員の耳に聞こえる。
「何が“良し”だ。馬鹿野郎」
声が終わるやいなや、魔法を発したエルフの首がぽとりと落ちた。
切られた本人は、突然くるくると回ったことに不思議そうな表情をしたまま、絶命した。
「う、うわあああ!」
突然の仲間の死に驚き、叫び声を上げたのは、首を切り落とされたエルフと同様に、魔法を放ったエルフの青年だ。
転がる首を見ている青年の胸に、刀が吸い込まれるように突き刺さる。
「うぇ......?」
ズルリ、と刀が抜かれ、ポッカリと空いた胸を青年が手で押さえてるが、ドロドロと流れ出す大量の血は指の隙間から溢れる。
青年が血の気を失って倒れると、残っは慌てて距離を取った。
「に、人間......?!」
エルフたちが攻撃したのは、魔人族ではなく一二三だった。
刀を懐紙で拭った一二三は、不機嫌を露わに立っている。
「人の実験を邪魔したうえ、実験体まで壊しやがって」
一二三が刀で差したのは、魔法攻撃の盾にされて、ボロ雑巾のようになった魔人族の死体だった。
「実験だと?」
道端で魔人族の新しい死体を見つけた一二三は、周辺の木々が魔人族の居住地とは違う、エルフの森独特の物になっている事に気づいて、エルフと祖先を同じにしていると思われる魔人族の血液にもこの樹の影響はあるのかと試してみる気になったらしい。
死体を引きずり、樹が密集している場所に転がした。
しゃがみ込んで作業をしていたのは、血がもうあまり出なかったので、身体の前面を切り開いて変化がわかりやすくなるようにしようとしていたのだ。
ところが、数人連れでやってきたエルフがいきなり魔法を撃ってきたので、反射的に盾にするために放り投げてしまった。
「せっかく切開までできたところで、これだ。風やら石やらならまだしも、雷撃で焦がしやがって。これじゃ使えないだろうが」
エルフたちが魔人族の死体をよく見ると、胸は皮膚が裂かれて胸骨が折り取られ、腹部も十文字に切り裂かれて、内臓が雷撃に焼かれてブスブスと煙を上げていた。
「おげぇえええええ!」
誰かが耐え切れずに吐き、二人ほどそれにつられて胃の中身をぶちまけた。
「なんて事を......」
「魔法は三つだった。もう一人は、誰だ?」
殺気の方向からして、お前かお前だろう、と順番に指差す。
残ったエルフたちの視線が、雷撃を放った一人の男に集まった。
「お前か」
「待ってくれ! ち、違う、俺じゃない!」
男の言葉は、一二三の動きを止めることはできなかった。
怒りに任せ、大上段から稲妻のように打ち下ろされた刀は、眉間から鼻、唇と順番に切り裂いて、胸骨を滑り、腹を縦一文字に斬り裂いた。
「あああ......」
血まみれの顔で溢れ落ちる腸を懸命に拾い上げるものの、ヌルヌルと腕の間を滑り抜ける内臓を絶望に満ちた顔で見ている男の目の前で、一二三は冷たい瞳で見下ろす。
「お前らエルフでの実験は終わっているんだった。無駄な時間だな」
男の喉に刀の切っ先だけを突き入れ、気管と頚動脈を断ち割ると、一二三は刀を拭った懐紙を放り捨てた。
残ったエルフたちも、この瞬間に森を捨てる事を決めた。
☺☻☺
英雄の妻、ということで、王都に滞在しているオリガに会いたいという人物は意外と多く、滞在している宿には毎日のように商家や貴族たちから夜会などの招待状が届いていた。
一応は全てに返事を出してはいるものの、オリガはその全てを断っていた。唯一、王城にて行われた夜会に顔を出し、ダンスにも参加せず挨拶のみで済ませ、中途で退場した程度だ。
生粋の貴族たちからすれば、平民出の成り上がり貴族と元奴隷の妻という事で侮蔑の対象でもあったが、女王と近しくしていることとこれまでの戦果、断りの理由も「夫が無事帰国するまでは、極力参加を控えたい」で通していたので、貴族の中でも妻としての姿勢を評価する者も一定数存在した。
「正直に言えば、面倒なだけというのもありますが」
「......随分と、あけすけにお話されますね」
イメラリアと向かい合って座り、紅茶の入ったカップを傾けているオリガは、薄いブルーのドレスを纏い、見た目で言えば王国の貴族として充分な気品を身につけていた。彼女が何者かを知らない貴族の後継が、どこの貴族家の令嬢かと声をかけようとして周りに止められるという事も二度、三度とあった。
「私の時間は夫の為に使うものと決めております。そこらの貴族との深いつながりなど、夫は望んでおりません。それに、いやらしい目をして私を見てくる不快な輩も多いようですし」
「その割には、王城での夜会には来ていただけたようですね」
「あら、夫がお世話になった相手ですもの。夫が動けない今、代わりに義理を果たすのは妻の務めです」
カップを置いたオリガは、にっこりと笑った。
「女王陛下には、とても感謝しております。陛下のおかげで、私は一二三様と出会う事ができましたし、どうしようもない状況から抜け出し、復讐を果たすための力を得ました」
「あら? オリガさんを騙した相手はもう......」
「ええ、殺しました」
殺したという言葉に、お茶のおかわりを用意していた侍女がビクッと震えたが、何も聞こえなかったというふうに作業を続けるのが視界の端に映り、後で労っておこうとイメラリアは決めた。
「ですが、それを指示した者は生きています」
「......その言葉が指すのがハーゲンティ子爵でしたら、刑場の露と消えました」
イメラリアの言葉に、オリガの方が目を見開いた。
「陛下が指示なされたのですか?」
「ええ、もちろんですわ」
意外だ、とオリガは内心驚いていた。
王都で冒険者をしていた頃から、イメラリアに対する評価はよく言えば優しい、悪く言えば為政者として甘い、というイメージだった。
平民と気安く接し、貧しい者に施しをする。
持つ者としては立派なのかもしれないが、王族としてはいささか“夢見がち”と評されても仕方がないと考えていたのだが。
「何ら責任の無い、どこかへ嫁ぐのを待つばかりの王女ではなく、この国を背負う女王となった時点で、取捨選択を国の利益優先で行うのは当然です。......まだ、どこかで違和感はありますが、そうせねばならぬ立場にいることは自覚しているつもりです」
「素晴らしい事です」
驚きの表情を笑顔に隠したオリガは、胸の前で細い指を合わせるように手を合わせて褒め称えた。
「ですが、私の言う復讐相手はたかが子爵程度の男一人ではありませんよ」
フフ、と口を抑えて笑うオリガの姿は、女性であるイメラリアから見ても可愛らしいと思える。
その正体を知らなければ、貴族の若い男たちが声をかけたくなるのも解るというものだ。
「ヴィシーそのものです。一二三様に対して戦端を開いた事も許しがたいことですが、オーソングランデの腐敗貴族に裏から働きかけたのがヴィシーであることは明白です。私の最終的な目標は、ヴィシーの中央委員会の連中が、皆死体となることなのです」
まるで少女が夢を語るように、オリガはドス黒い復讐心を言の葉に変える。
「では、今アリッサさんたちが軍を率いてヴィシー国境にいるのは、オリガさんが指示を?」
対して、笑顔でいられないイメラリア。
怪訝な視線を向けられ、オリガはまた笑った。
「あれは、夫が指示した事です。魔物が強くなってきたので、準備ができれば退治の為に大規模な駆逐作戦を行うように、と言われていたようですね」
「では、ヴィシーへの復讐というのは......」
「夫に聞いたことがあります。国というのは意外としぶといもので、単純に外部からの攻撃で滅亡させるのは難しい、と」
歴史を学んだことがあるイメラリアも、その言葉にはなるほど、と頷いた。
「国が無くなる原因は、多くが内部での問題です。対立や疫病など、国が疲弊してまとまりが無くなったところを、吸収されたり攻め滅ぼされたりするのです」
実際、オーソングランデも過去の歴史でいくつかの小国を併呑した歴史がある。そのいくつかは、残っていればヴィシーを形成する都市国家の一つになったかもしれないが、王国の記録によれば飢饉や為政者の乱脈経営による金銭的な崩壊をきっかけとしたものだとイメラリアも思い出していた。
「ですが、今のヴィシーはフォカロルと友好的に交流を進め、概ね都市国家群としての安定は保たれていると思うのですが......」
「あら、一箇所だけ、国家というのもどうかと思う程度の規模で対立を続けていらっしゃる、奇特なところもありますよ」
「......何をなさるおつもりですか?」
オリガが言う対立国家に心当たりを思い出したイメラリアは、苦い顔をして質問をする。
「お手紙を一通だけお送りしました。もちろん、これも夫の許可を取って、アドバイスを頂いてのことです。あとは、封印魔法の研究を続けながら、高見の見物をさせていただこうかと」
では研究に戻ります、と立ち上がったオリガに、イメラリアは結局手紙の中身を聞くことはできなかった。 | When the elves who remained in the forest returned with arms to the site where the demon was, the corpse of the demon, which should have been there, had vanished.
“Oy, there’s nothing like a demon around here, is there?”
Hearing the story that a demon appeared and moreover that it was defeated by merely two elves, the elves, who braced themselves and came along, glared at the two who previously met it.
“No, no! It’s the truth! Right?”
“Yeah, it was without a doubt a demon. We killed it with our magic. There’s no mistake in the location either. Look, there are still bloodstains remaining, right?”
At the place, he pointed at, black remains, which can certainly be considered bloodstains, were scattered on the path which was evened roughly.
If one looked closely, the bloodstains indistinctly extended towards the forest as if the corpse had been dragged along.
“... It’s continuing over there.”
“Let’s check it out. It will spell troubles if the demon is still alive and has escaped. Since there’s no doubt that it’s wounded seriously, we will finish it off with everyone launching their magic at it once we find it.”
The eight elves who were at this place agreed to that suggestion.
They advance while being cautious of the surroundings and covering for each other.
With the remaining elves being specialised in magic, they had confidence in being able to resist even if the demon came. However, there’s actually none among them who has real experience in fighting. Cornering the demons, the elves locked them up in that place is a story from long before they had been born.
“That is...!”
When they advanced for around minutes, one of them pointed at the dim vicinity where the space between the forest’s trees became fairly narrow.
There they saw the back of someone doing something while squatting and squirming.
“No, the blood has...”
The leading elf tried to tell them that it was different from the demon he had seen for himself, but three elves immediately invoked magic misunderstanding it as enemy approach.
“Take this!”
“Demon! Come out!”magic
While throwing abusive language at it, they released wind blades, a lightning attack and a stone pellet spell.
All of the spells hit something and burst with a fierce sound.
“Alright!”
One of them yells while clenching their fists.
In the next moment they hear a voice different from their comrades.
“What’s “alright”? Idiot.”
No sooner than the voice finished, the head of one of the elves, who released the spells, fell down with a “plop.”
The cut elf himself had his life ended while wearing a surprised expression wondering about his sight suddenly spinning around.
“U-Uwaaah!”
Surprised by the abrupt death of his comrade, the one who raised his voice into a scream is a young elf who released a spell just like the beheaded and fallen elf.
A katana pierces the chest of the young man, who looks at the tumbling head, as if being sucked into it.
“Ue...?”
As the katana is pulled out with a short sliding sound, the young elf presses his hands on his gaping wide chest, however large amounts of blood ooze out between his fingers.
Once the young man collapsed due to blood loss, the remaining six took distance in panic.
“A-A human...?”
The one who attacked wasn’t a demon but Hifumi.
Wiping his katana with a paper, Hifumi stands up openly while being displeased.
“On top of interrupting someone’s experiment, you even destroy the experiment’s body.” (Hifumi)
What was held up by the katana was the corpse of the demon which had turned into a ragged dust cloth due to serving as shield against the magic attacks.
“Experiment, you say?”
Hifumi, who discovered a fresh demon corpse at the wayside, noticed that the trees in the surroundings were different from the demon’s area as they had the peculiarity of the elven forest and apparently decided to test whether there’s an influence by those trees on the blood of the demon whose ancestors are similar to the elves.
Pulling the corpse along, he threw it down at a place dense with trees.
Since the one he was working on while squatting hadn’t much blood remaining anymore, he tried to cut open the body’s front in order to make the change easier to understand.
However, since the elves, who turned up in a group, suddenly fired spells at him, he ended up throwing the corpse as shield out of reflex.
“Even though I went as far as operating on it at great troubles, this happened. The wind blades and stone pellet were still alright but the lightning attack burned it. Like this it ain’t usable anymore.” (Hifumi)
Once the elves looked properly at the corpse, they saw that the skin had been cut open, the breastbones had been snapped off and the abdomen had also been cut open crosswise as the internal organs were smoldering and raising smoke due to being burnt by the lightning attack.
“Uegeeeeeehh!”
Someone vomited unable to endure it any longer and triggered two more to spurt out the contents of their stomachs.
“Something like that...”
“There had been three spells. Who’s the last one?” (Hifumi)
“Judging by the direction of bloodthirst, it’s either you or you”, he points at them one after the other.
The gazes of the remaining elves gathered on the man who released the lightning attack.
“You, eh?” (Hifumi)
“Please wait! I-It wasn’t me but someone else!”
The man’s words weren’t able to stop Hifumi’s motion.
Entrusting himself to his anger, the katana, which swooped down like lightning from a stance of being held above his head, cleaved open the lips and nose starting from the middle forehead, slid through the breastbones and tore open the abdomen in a single vertical stroke.
“Aaah...”
Although he has a bloody face and eagerly picks up the spilling intestines, Hifumi looks down on the man in front of him, who is looking with a face full of desperation as his guts are slipping out between his arm, with cold eyes.
“The experiment has ended due to you elves. You wasted my time pointlessly.” (Hifumi)
Once he cut apart the trachea and carotid artery by thrusting only the point of his katana into the throat of the man, Hifumi wiped the katana with a paper and threw that paper away.
Even the remaining elves decided to abandon the forest at this moment.
☺☻☺
There are unexpectedly many people who want to meet with Origa, who is staying in the capital, as she is called the wife of the hero. Every day written invitations to evening parties and such arrived at the inn she is staying at from nobles and merchants.
Although she has sent a reply to pretty much all of them, each and every one was refused by Origa. Just showing up at the evening parties carried out by the royal palace, she finished the greetings without dancing and left in the middle of those.
From the standpoints of genuine nobles they were targets of contempt as noble, who had risen from commoner status, and his wife, who was formerly a slave, but with them being close to the queen and having this many military achievements, there existed a definite number of people who highly evaluated her stance as wife even amongst the nobles, since she stuck to her reason for refusing which was 「I want to refrain from participating until my husband returns safely」.
“Honestly said, it’s just because it will be annoying.” (Origa)
“... You have described it quite frankly.” (Imeraria)
Sitting opposite of Imeraria, Origa, who was tilting her cup with tea in it, wore a light blue dress which carried plenty of elegance for a noble of the kingdom if going by appearance. It even happened twice, thrice that she had been stopped by the surroundings as they greeted her wondering whether she was the daughter of some noble household or the heir of some unknown noble.
“I have decided to use my time for the sake of my husband. Something like forming deep connections with nobles all around isn’t what my husband wishes for. Besides, it looks like there are also many unpleasant fellows who look at me with filthy eyes.” (Origa)
“Considering all that, you were apparently able to attend the evening parties at the royal castle.” (Imeraria)
“Ah, there are people to whom my husband was indebted. As my husband can’t do it himself currently, it is the task of his wife to carry out his social obligations instead.” (Origa)
Putting down the cup, Origa smiled sweetly.
“I’m very thankful to you, Your Majesty, the Queen. I was able to meet Hifumi-sama thanks to Your Majesty. I gained the power to exact my revenge after breaking out from a helpless situation.” (Origa)
“Oh? The other party, who deceived you, Origa-san, has already...” (Imeraria)
“Yes, I killed him.” (Origa)
The maid, who prepared a second serving of tea shivered with a start due to the word “killed”, but as she continued her task in a manner as if she hadn’t heard anything, Imeraria decided to console her afterwards as she caught on the maid’s startling at the edge of her view.
“However, the people who ordered that are still alive.” (Origa)
“... If the one your words are pointing at is Viscount Hagenti, he disappeared to the public execution ground.” (Imeraria)
Origa opened her eyes widely due to Imeraria’s remark.
“Did you give the order for that, Your Majesty?” (Origa)
“Yes, of course.” (Imeraria)
, Origa was surprised within her mind.
Since the time Origa acted as adventurer in the capital, the evaluation towards Imeraria had the image of her being naive as statesman, if one traduced her, and gentle, if one said it elegantly.
She familiarly gets in touch with commoners and carries out charity for the poor.
She might be splendid for a person who possesses wealth, but it’s inevitable for her to be evaluated as somewhat “dreamy” as royalty
“It’s only natural to put priority on the country’s interests in my decisions once I turned into a queen being responsible for this country while losing my status as princess who simply waited to be married off somewhere without holding any responsibilities whatsoever... I still feel somewhat out of place, however I believe that I’m aware of being in a position I ought to accomplish.” (Imeraria)
“That’s something wonderful.” (Origa)
Origa, who hid her surprised expression with a smile, praised her while putting together her hands in front of her chest and placing her thin fingers onto each other.
“However, it’s not only a single man at the rank of Viscount who is the other party for the revenge mentioned by me.” (Origa)
The figure of Origa, who restrained her mouth with a “Fufu”, seems to be lovely even seen from they eyes of Imeraria who is a woman, too.
She understands the young noble men who want to call out to her as they don’t know her true nature.
“It’s Vichy itself. Even the matter of them taking up arms against Hifumi-sama is inexcusable, but it’s obvious that it’s Vichy who influenced the corrupt nobles of Orsongrande from behind the scenes. My final objective is for everyone from Vichy’s Central Committee to be turned into corpses.” (Origa)
From completely talking like a dreaming maiden, Origa changes her words into a murky, dark desire for revenge.
“Then it’s your order for the army led by Alyssa-san to be currently at the border to Vichy, Origa-san?” (Imeraria)
In contrast to Origa, Imeraria doesn’t feel like smiling.
Having a dubious look turned at her, Origa smiled once again.
“That was ordered by my husband. Given that the monsters became powerful, he apparently told them to carry out a large-scale extermination operation to eradicate them once the preparations have finished.” (Origa)
“Then revenge towards Vichy means...” (Imeraria)
“You have heard from my husband. As the country is unexpectedly tenacious it’s difficult to cause its downfall with a simple attack from outside.” (Origa)
Even Imeraria, who has studied history, nodded while saying “Indeed” towards that statement.
“The reasons for a country to perish is the great number of internal problems. The country will be attacked and overthrown or absorbed at the point it lost its unity due to exhaustion from things like antagonism and epidemics.” (Origa)
In fact Orsongrande has a history of having annexed several small countries in its past as well. Several of those left behind became city-states forming Vichy, however Imeraria recalled that there were some people who used the occasion of financial collapse due to famines and statesmen mismanaging according to the kingdom’s records.
“But, the current Vichy is heading towards a friendly exchange with Fokalore. I believe they are on the whole doing that to maintain their stability as group of city-states, however...” (Imeraria)
“Ah, only one place is continuing to be against it as they consider the entire structure as faulty since it’s a nation. That’s a commendable aspect as well.” (Origa)
“... What are you planning to do?” (Imeraria)
Imeraria, who recalled having some knowledge about the nation which is opposing according to Origa, asks while having a bitter smile.
“I simply sent a letter. Of course I also got the permission to do so from my husband while receiving advice from him. Let’s have the privilege of watching as spectators while continuing our research on sealing magic?” (Origa)
“I will return to the research then”, in the end Imeraria wasn’t able to ask about the contents of the letter due to Origa standing up. |
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} | 三が結婚相手を探しているらしいという噂は、アリッサや文官奴隷たちの懸命の努力にもかかわらず、オーソングランデ国内を駆け巡り、ヴィシーやホーラントにまで伝わった。
街々をめぐる商人たちや国内を移動する兵士たちが話す噂は、ほどなくイメラリアの耳にも入る。
「......あの様が、誰かと結婚を?」
「単なる噂でではありますが、優秀な文官たちがついていますから、トオノ伯爵家の維持のために進言した可能性は否定できませんな」
アドルの言葉に納得はしたものの、一誰か女性を隣に立たせて、しかも結婚の誓いを述べている姿が想像できない。
眉を顰めて黙ってしまったイメラリアを見て、アドルは慌てた様子を見せた。
「ま、まさか女王陛下、トオノ伯の事を......」
「へっ?」
言われて初めてイメージを浮かべた、一二三の隣に立つ自分。
イメラリアは首を大きく振って否定した。
「何を言っているのですか。女王として、選ぶべき人の条件は心得ているつもりです。それに、一二三様はわたくしの仇でもあるのですよ?」
否定しながらも、頬を染めているイメラリアに、アドルは不安を隠せない。
「そ、そんな話よりも、今は国政の話でしょう」
「はい。そのトオノ伯の領地から取り入れる政策に関してですが、税制を取り入れるのは王都や直轄地の規模を考えると、中々難しいものがあります。遠隔地で試験的に導入し、職員が慣れてからにするべきでしょう。ですが......」
手元の書類をめくり、挟んでいた一枚の紙をイメラリアへ手渡す。
「これはフォカロル領から書き写してきました“戸籍”の写しです」
「すごいですね。居住地や家族、同居していない縁者や簡単な出生地、出身地まで調べているのですか」
「付属資料として、勤務内容なども調査して記載しているようです」
書類をじっと見つめながら、例として無作為に抜き出されたものであろう記載内容を見ていく。
「税制の改革もこういった領民の情報の蓄積があってこそ、というわけですな。これらの情報を元に、婚姻や出生、死亡などを管理しているようです」
今、フォカロルはこの世界のどこよりも人口推移や予算編成が正確に行える地域となっている。これらの住民情報は、仕事の斡旋や在籍確認によるスラム化の防止や犯罪の追跡・予防などにも役立てられている、とアドルは続ける。
そこまでの説明を聞いて、イメラリアは書類を返しながら、肩を落とした。
「政治的な意味では、一二三様は充分英雄的な働きをされたというわけですね。お父様もわたくしも、出会い方さえ間違わなければ一二三様のお力を充分に国のために活かしていただく事ができたかもしれませんね」
イメラリアの表情には、寂しさが浮かぶ。
確かに、出会いから問題だらけではあった。思い描いていたのは、正義感にあふれ、強く素敵な勇者様との出会いであり、年頃の少女らしい色鮮やかな恋愛への憧れもあった。
間違ったとは思いたくないが、何が間違って自分は女王になってしまったのか、これは夢ではないか、と今でも思う事がある。
「陛下は困難を乗り越え、オーソングランデを立派に守られています。少なくとも、私はそう思います。様々な危機があり、失われた物も多くありますが、結果として国は存続し、国土は増え、今も発展を続けています」
アドルの言葉は嘘ではない。
事実を使って励ましてくれるのが、イメラリアには嬉しかった。
「ありがとう。さあ、気を取り直して話を進めましょう。戸籍作成の試験導入地を決めましょう」
改めて、頑張ろう、とイメラリアは思った。いつか、「あの時は大変だった」と笑える日が来るまで。
☺☻☺
全身傷だらけで、バールゼフォンは血の海に沈んでいた。
辛うじて意識を取り戻したとき、全身が痛くて身体がバラバラになったかと思ったが、ぼんやりと戻ってきた視界に映る身体は、何と満足なままである。
「生きていた......か」
周囲に広がる血は、バールゼフォンと魔物の物が混ざっている。大きな図体を横倒しにして息絶えている魔物からは、既に出血は止まっており、バールゼフォンは粘つく水たまりから這い出そうとしたが、体がうまく動かない。
「あの女......あの武器は、ヴァイヤーが近衛騎士の連中に渡していた手裏剣とか言う物と同じだったな」
首は何とか動く。ぐるりと見回すと、木の根に突き刺さる薄い金属が見えた。
「ち......結局は一二三とかいう、あの男の関係者か。どこまで行っても祟ってくれるな」
無我夢中で戦って、何とか魔物の喉に剣を突き立て、前足を振り回されて叩き潰されたところまでは覚えている。
踏み潰される前に魔物が力尽き、辛うじて助かったのだろう。剣は魔物に刺さったまま、目の前で血濡れになって赤く染まっている。
「......うん?」
横倒しになっている魔物の胸部、剣が刺さった場所のすぐ近くに、不自然な膨らみを見つけた。
何気なく手を触れると、毛皮の下に何か硬いものが埋め込まれているのがわかる。そのまま感触を確かめているうちに、縫い合わされた跡も見つけた。
残った力を奮って剣を抜き、縫い目を切り裂いて手を突っ込む。
引きずり出した物は、明らかな人工物だった。
何かの管が伸び、体内へと続いているあたり、寄生しているようにも見える。
「あの女の仕業か? もしかして......」
見たことも無い巨体を持つ虎の魔物だと思ったが、冷静に見れば、もう少し牙が短い、似たような魔物は見たことがある。騎士隊の訓練中に遭遇した虎の魔物だったが、あの時はもっと小さくて弱かった。
もし、あの時と同じ魔物がこの道具で強化された結果が、この巨体を持つ獰猛な魔物だとしたら?
そして、それが人間にも使えるとしたら?
「......このまま、ここで倒れていても死ぬばかり、か」
仰向けに転がり、どんよりと曇った空を見上げる。
ここで死ぬくらいなら、化物になってでも復讐を遂げるべきではないか。
「騎士じゃなくなった挙句、人間ですらなくなるかもしれないとは。笑い話にもならんな」
独り言で自分を鼓舞し、残った力を振り絞って身体を起こしたバールゼフォンは、魔物につながる管を一本ずつ丁寧に抜き始めた。
☺☻☺
バールゼフォンを打ち捨てて森を後にしたオリガは、補給のために立ち寄った小さな街で、一二三の結婚に関する噂に触れた。
「その話、もっと詳しく教えてもらえませんか?」
丁寧な口調で銀貨を押し付けてくるオリガの目は、力が入りすぎて血走っている。目深にかぶったフードの下から見える翠の瞳は、心なしか鈍く光っているようにすら見える。
銀貨の型がつくほど手のひらに押し付けられた商店の親爺は、涙目で許しを乞うた。
「や、やめてくれ。おれも仕入れの時に行商から聞いただけなんだよ」
「では、その行商はどこへいったのですか」
教えたら行商が酷い目に遭いそうな気がしたが、親爺はあっさりと行商がいつも利用している宿の事を吐いた。
「情報、感謝します」
銀貨一枚で仕事仲間を売ってしまった、と嘆いている親爺を放って、オリガは足早に宿へと突入した。
金を握らせて行商に吐き出させた話から、オリガはフォカロルに一二三が戻り、本格的に領地運営に乗り出した事実を知った。
どうやら、その際に領地存続のために誰かと結婚するのではないかという話が、他ならぬフォカロルからの噂として流れているらしい。
「一二三様が......」
ついてきている兵士たちに、魔法具の残量を確認する。
100以上あった魔法具は、オリガたちの熱心な活動により、ホーラントからオーソングランデ全域にかけて強そうな素体へと移植を続けた結果、残りは5つとなっていた。
「......これからフォカロルへ戻りながらでも、充分消化できる残量ですね......」
やや願望に引きずられた感のある予測を立て、そのまま突入した宿で一泊してからフォカロルへと向かう事を決めたオリガに、兵士たちもようやく帰れると喜んだ。
「フォカロルまでは強行軍です。街道近くを中心に速度重視で進みますから、今日はゆっくりと休むように」
オリガたちが同じ宿に泊まると知った行商は、慌てて宿を払って次の目的地へと逃げるように出ていった。
そんなことは気にも留めないオリガたちフォカロル特務部隊は、翌朝早く、陽が昇ると共に街を後にする。
いくつかの街を経由しつつ、熊やワニのような元から戦闘力が高い魔物を選び、魔法と武器で弱らせては拘束し、魔法具を埋め込んで解き放つという、幾度となく繰り返した作業を行う。
魔法具が全て無くなってからは、台車を使って街道をひた走る。
「もうすぐ、一二三様に会える......」
オリガの脳裏には、一二三との思い出が多少美化されて駆け巡っていた。
与えられた任務を、それなりに問題はあったものの隠蔽しつつ、しっかりとこなしたという自負はある。きっと褒めてくれるだろうという期待もある。だが、それ以上を求めても良いのかと思うと、はっきり言って自信は無い。
一度は断られた想いだが、それでもオリガが一二三に一番近い場所にいる女性なのは事実であり、その場所は誰にも譲るつもりはない。
「一二三様、オリガはもうすぐ、貴方の元へと帰ります。長い長い別行動に、私は耐えてきました。ですから......」
風に流された言葉には、想い以上の何かが込められていた。
アリッサは、軍務長官などという大層な肩書きを持ってはいるものの、基本的に書類仕事はミュカレに任せきりで、大概は現場に出ている。
兵士たちが訓練をしたり、何かの作業をしているのに積極的に参加して時に兵たちを労う姿は、兵士たちのみならず、それを見かける領民たちにとっても微笑ましいものと受け取られていた。
ふわふわとした赤いショートヘアを揺らしながら、小柄なアリッサが商店通りを歩いていると、りんごのような果物をくれる商店主や、ほの甘い焼きたてのパンを味見させてくれるパン屋など、彼女が行く先々は和やかでほのぼのとした雰囲気が生まれる。
果物を齧りながら辿り着いたのは、街への入口だった。
街の出入りは兵の検査を受ける決まりとなっている。他領であれば貴族や豪商は免除されたりする慣習がまかり通っているが、フォカロルでは一切許されない。
身分に関係なく到着順に並ぶ必要があり、徹底したマニュアル主義で運営されているが、他の街に比べて格段に平民に対する兵の対応が柔らかく、出入りする商人たちには好評だった。
アリッサの姿を見つけた兵士が、嬉しそうに敬礼をする。
「長官、お疲れ様です!」
「お疲れ様。どんな感じ?」
「今日は街へ入ろうとする人が少ないですね。そろそろ移民も落ち着いてきたようです」
街へ入る際に確認する氏名や身分、目的が記録された書類を受け取り、アリッサはパラパラとめくった。
字が書けない兵士は多いが、フォカロルの領兵の識字率は100%だ。まず文字の読み書きができないと軍へ入れない。これも、一二三が決めたことだった。
正直、フォカロルへ来た時点ではアリッサも読めはするが書くのはかなり怪しいという状態だったが、ミュカレがつきっきりで教えたおかげもあり、かなり綺麗な字が書けるようになっていた。
サラサラと確認済みを示すサインを書き込み、アリッサは書類を戻した。
「問題があったらすぐに領主館に報告を......」
目の前にいる兵士の向こう側、遠く伸びている街道を、何かが異常な速度で近づいてくるのがアリッサの目に映った。
「何か来る! 魔物かもしれないから、全員戦闘準備! 誰か一二三さんを呼んできて!」
「はっ!」
指示を受けて駆け出した兵士は、門にいる全員に指令を伝え、街道に向かって横並びになった。一人の若い兵士が、領主館へ向かって走っていった。
アリッサは、その兵士たちの前に立ち、脇差を抜く。
「......あれ? あれ台車だよね」
この場で一番視力の良いアリッサは、土煙を上げて迫りくる何かが、よく知っている乗り物であることに気づいた。
乗っているのは誰だろう、と脇差を納めて目を凝らすと、見覚えのある薄い青色の髪が風に翻っているのが見えた。
ぞわっ、とアリッサの背中を緊張が走った。慌てて振り向き、その場に居た兵士に向かって叫ぶ。
「すぐに一二三さんに連絡して、領主館で待っているように連絡! ここで鉢合わせなんかしたら大変なことになるから!」
血相を変えたアリッサの様子に、兵士はこれまでにないほどの反応速度で走り出した。
そうこうしているうちに、オリガを乗せた台車は門の前へとたどり着き、大きな音を立てて止まった。
「久しぶりね、アリッサ」
「お帰りなさい、オリガさん」
「それじゃ、通してもらうわね」
台車を降りて足早に進もうとするオリガに、アリッサは飛びついて腰にしがみついた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「離しなさい。私は今から人生をかけた勝負をするのです」
「その勝負をする前に、やることがあると思う!」
アリッサを引きずって歩いていたオリガだったが、その言葉に足を止めた。
「やること? まさか、一二三様を取り合う勝負をしようとでも言うのかしら?」
閉じた鉄扇を握り締めたオリガに睨みつけられても、アリッサは怯まない。本当に怒っているオリガは、言葉より先に手が出ることを知っているのだ。
「違う違う! 一二三さんのところに行く前に、勝負のための準備が必要でしょ? 今のオリガさん、髪がボサボサで顔に砂埃が付いてるし、服も......」
言われて初めて思い出したのか、土に汚れたローブを見下ろしたオリガは、自分の失敗に気づいて勢い良く頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 教えてくれてありがとう!」
「いいよ、僕も女子だから、オリガさんの気持ち、わからなくもないし」
何とか一二三が領主館へ戻る時間が稼げた、とアリッサは心の中でグッと拳を握った。
「私がうまく一二三様のお嫁さんになれたら、貴方の事も一二三様に薦めておくわ。それじゃ、一二三様に見られる前に、部屋に戻らなくちゃ」
「うん。慌てないでゆっくり行ってね。一二三さんは、自分の執務室にいるはずだから」
色々とありがとう、とオリガは上機嫌で歩いて行った。
後に残された、オリガと共に帰還した兵士たちは、疲れが出たのか街の中に入ってすぐの場所で座り込んでいる。
「え~っと......。とにかくお疲れ様。しばらくはお休みしていいから、ゆっくり休んでね」
「あ、ありがとうございます」
何か救われた気がした兵士たちは、涙を流してアリッサに感謝の言葉を並べていく。
治安維持って大変だ、とアリッサは大きな溜息をついた。 | The gossip, that Hifumi is apparently looking for a marriage partner, spread within Orsongrande and was even circulated in Horant and Vichy, despite Alyssa’s and the civil official slave’s eager efforts.
The rumours, recounted by soldiers moving within the country and merchants going around the streets, has even reached Imeraria’s ears before long.
“... Someone will marry that Hifumi-sama?” (Imeraria)
“It’s a mere rumour, but since he has excellent civil officials at his side, I can’t deny the possibility of them proposing it for the sake of preserving the Earl Tohno household.” (Adol)
Although she agreed with Adol’s remark, she isn’t able to imagine some woman standing next to Hifumi and even less exchanging the vows of marriage with him.
Looking at Imeraria, who ended up silent while knitting her brows, Adol displayed a state of panic.
“N-No way, Your Excellency the Queen, about Earl Tohno...” (Adol)
“Huh?” (Imeraria)
Only after she started talking about it, the image of herself standing next to Hifumi appeared in front of her eyes.
Imeraria shook here head vigorously in denial.
“What are you saying? As queen I believe to know the requirements of the person I choose. Also, isn’t Hifumi-sama my enemy?” (Imeraria)
Adol can’t conceal his concerns in regards to Imeraria, who is blushing albeit denying it.
“R-Rather than such talk, I think we are to speak about the national politics now.” (Imeraria)
“Yes. However, regarding the policies introduced by the territory of that Earl Tohno, if you consider the scale of the capital and its surrounding areas for adopting the tax system, it will become something very troublesome. We probably should start with the staff getting used to it by experimentally introducing it in a distant province. However...” (Adol)
Flipping through the documents nearby, he hands over a piece of paper, that was inserted in-between, to Imeraria.
“This is a copy of the “family register” which had been transcribed from the territory of Fokalore.” (Adol)
“It’s amazing. They have investigated as far as birthplace*, their home-town*, relatives, who don’t live with them, the family members and their address?” (Imeraria)
“As you can see by the attached materials, they have investigated things like the work details and recorded them.” (Adol)
While staring intently at the documents, she examines the record contents of one, she likely selected at random, as example.
“The reformation of the tax system also profits from this sort of accumulated information about the residents. That’s how it is. On grounds of these information, they have apparently been managing things such as marriages, births and deaths.” (Adol)
“Currently Fokalore has become the area with a more accurate budget compilation and population transition than anywhere else in the world. These data of the residents is even useful for stuff like the tracking and prevention of crimes and the prevention of slums being created by mediating work and confirming the enrolment,” Adol continues.
Listening to his explanation this far, Imeraria dropped her shoulders while putting back the documents.
“In a political meaning, you are saying that Hifumi-sama has gained plenty of heroic achievements. If only father and me didn’t make a mistake in the way of meeting with him, it might have been possible to make adequate use of Hifumi-sama’s power for the sake of the country.” (Imeraria)
Loneliness overshadows the expression of Imeraria.
Certainly, since our first meeting, there were only problems. In my imagination I yearned for a maiden-like bright love by meeting with a powerful, great brave-sama*, who is over overflowing with justice
I don’t want to think I made a mistake, but didn’t I end up becoming a queen by some mistake? Isn’t this a dream?
“Overcoming the difficulties, Your Majesty has splendidly protected Orsongrande. There have been various dangers and many precious things were lost as well, however as result the country continues to exists, the realm has expanded and even now its growth is continuing.” (Adol)
Adol’s words are no lie.
Encouraging her by using facts, made Imeraria happy.
“Thank you. Well, then let’s pull ourselves together and proceed with the talks. Let’s decide on a place, where we will introduce the family register as trial for making a draft.” (Imeraria)
Someday there will even come a day, where I can laugh at it while saying 「It was really difficult at that time」
☺☻☺
Being riddled with wounds all over, Balzephon sank in a pool of blood.
At the time he barely regained his consciousness, he wondered whether his body, which was hurting everywhere, was in pieces, however his body, which is reflected in his faint, returned field of vision, is somehow in perfect, good health.
“Survived... huh?” (Balzephon)
The blood, spread in the surroundings, is a mix of the monster’s and Balzephon’s. As the bleeding of the monster, which has died with its huge frame having toppled sideways, has already stopped, Balzephon tried to crawl out of the sticky puddle, but his body isn’t moving properly.
“That woman... that weapon was the same thing called shuriken or something, which Vaiya gave the Royal Knight Order.” (Balzephon)
Somehow he shifts his neck. Once he surveys his surroundings, he saw a thin metal stuck in the roots of a tree.
“Tsk... in the end she is someone affiliated with that man called Hifumi or something, huh? Don’t haunt me wherever I go.” (Balzephon)
Fighting the deliriousness, he is remembering up to the point of being smashed by the swung forepaw and having somehow stabbed his sword in the throat of the monster.
Using up all his strength before being crushed underfoot the monster, he probably just managed to survive. The sword in front of him, being stuck in the monster as is, has been stained red by being drenched in blood.
“... Eh?” (Balzephon)
In the chest of the fallen monster he discovered an unnatural bulge right next to the place the sword was stuck.
Once he casually touched it with his hand, he knew that something hard was buried underneath the fur. As he was checking it by feeling around, he also found traces of stitched together sewing.
Mustering his remaining strength, he draws the sword, cuts the seams and thrusts his hand into the opened hole.
The dragged-out item was clearly man-made.
Tubes are growing out of it and continue into the body’s interior. It appears to be parasitic.
“It’s that woman’s doing, eh? Probably...” (Balzephon)
He believed it was a tiger possessing a large build he hadn’t seen until now, but once he looked a bit closer, he found that it was similar to a monster with a bit shorter fangs. Although it was a tiger he encountered during the training of the knight order, it was a lot smaller and weaker at that time.
If the same tiger was under the effect of enhancement with the magic tool then, would it have been a ferocious monster possessing this large build?
And what would happen if it was used on humans as well?
“... As it is, even if I collapse here, I will simply die, huh?” (Balzephon)
Turning over so that he faces upwards, he raises his eyes towards the dull and cloudy sky.
Rather than dying here, shouldn’t I achieve my revenge even if I have to become a monster?
“I lost my knighthood and in the end I might even cease to be a human. That isn’t even a funny story.” (Balzephon)
Encouraging himself with his monologue, Balzephon, sitting up his body by straining himself with the last ounce of energy he possessed, began to carefully extract each pipe connected to the monster.
☺☻☺
Origa, who left behind the forest where they abandoned Balzephon, came in contact with the rumour related to Hifumi’s marriage in a small town, where they stopped for resupplying.
“Would you tell me more details about this story?” (Origa)
The eyes of Origa, who passed a silver coin in a polite tone, are filled with strength and have become far too bloodshot. The green pupils, looking from underneath the hood, which she wore low over her eyes, can be seen as somehow shining in a dim light.
The shop’s old man, having the silver coin pressed into his palm with a strength that its shape embedded itself there, begged with nothing but teary eyes,
“P-Please stop. I also only heard it from a peddler at the time of stocking up.”
“Where did that peddler go then?” (Origa)
He had a feeling that the peddler, who told him about it, would go through a bitter experience, but the old man easily spit out the regularly used inn of the peddler.
“I thank you for the information.” (Origa)
, the old man was grieving after being released. Origa rushed to the inn at a quick pace.
From the story, spit out by the peddler after passing some money, Origa became aware of the facts that Hifumi had returned to Fokalore and started the territorial administration in full scale.
Somehow or other it’s a talk about whether he won’t marry someone in order to continue the territory on that occasion, but it seems to be spreading as rumour from nowhere else but Fokalore.
“Hifumi-sama is...” (Origa)
She tells the soldiers, who are following her, to check the remaining amount of magic tools.
As a result of continuing to implant them into powerful prime fields* all throughout the area from Horant to Orsongrande with a zealous effort, Origa’s group managed to quickly lower the amount of over magic tools, they had at the beginning, down to remaining.
“... Even during our return to Fokalore, this remaining number can be easily dealt with...” (Origa)
Giving a prediction, which has a feeling of being strongly influenced by her desire, Origa decided to head towards Fokalore after staying one night in the inn she had rushed into. The soldiers were also happy that they would be able to return at long last.
“It will be a forced march until Fokalore. As we will advance close to the highway putting the core of our attention on our speed, take care to sleep restfully tonight.” (Origa)
The peddler, aware of Origa’s group staying in the same inn, paid the inn’s fee in a hurry and left in order to escape towards his next destination.
The Fokalore special unit, Origa’s group, pays no heed to such matters, rises early next morning and leaves the city behind alongside the rising sun.
While passing through several cities, they select monsters, which have a high fighting strength as their bases are bears and alligators, restrain them by weakening them with magic and weapons, embed the magic tool and release them. They perform this work many times over.
After all the magic tools have been used up, they run along the highway at full speed using a platform wagon.
“Very soon I will meet with Hifumi...” (Origa)
In Origa’s mind somewhat beautified memories of Hifumi were swirling about.
While the concealment caused some troubles, she is conceited about properly finishing her assigned mission. She also expects to be praised most likely. However, beyond that, at the thought of appealing for more, she has no confidence that she will be able to voice it out.
For a moment she considers to be rejected, even so it’s also a fact that Origa is the woman closest to Hifumi. She doesn’t plan to yield this spot to anyone else.magic
“Hifumi-sama, Origa will very soon return to your side. I continued to act separately from you for a long, long time. Therefore...” (Origa)
The words scattered into the wind were packed with desires leading somewhere beyond.
Although she is holding an exaggerated title called Military Director, Alyssa has been generally active at the actual site while leaving the majority of paperwork to Miyukare.
Her figure of training the soldiers and rewarding them for actively taking part while performing some tasks, without becoming a soldier herself, was received well even by the the fief’s population noticing that.
While shaking her red, short hair lightly, the small-built Alyssa is walking on the shopping street, eating a fruit similar to an apple and tasting the slightly sweet, freshly baked bread from a bakery. She produces a gentle and heart-warming mood wherever she goes.
While chewing on the fruit she arrived at last at the entrance of the city.
It’s a rule for those entering and leaving the city to be inspected by soldiers. Although it is an established custom to exempt nobles and wealthy merchants from another fief, Fokalore doesn’t permit that at all.
It is necessary to line up in order upon arrival without social status playing any role. It has been thoroughly followed according to the rules of the manual, but if you compare it with other cities, the soldiers’ treatment of remarkable commoners is soft. It was very popular with merchants, that are coming and going.
The soldier, spotting Alyssa’s figure, salutes delightfully.
“Director, thanks for your work!”
“Thank you. What’s your impression?” (Alyssa)
“Today the number of people trying to enter the city is small. It seems like the immigration drive is gradually calming down as well.”
Wanting to confirm the names and social positions of those having entered the city this time, Alyssa takes the documents, which recorded their objectives, and flipped through the pages.
There are many soldiers, who can’t write characters, but the literacy rate of Fokalore’s soldiers is %. In the first place, they won’t be allowed to enter the army unless they are able to read and write characters. This was also something decided by Hifumi.
Honestly, at the time she arrived at Fokalore, Alyssa was in a state of being able to read but her writing was quite disastrous. But thanks to Miyukare teaching her with constant attendance, she reached the point of being able to write quite the beautiful characters.
Finishing the check smoothly and signing it to show that, Alyssa returned the documents.
“If there is a problem, report it at once to the Lord’s mansion...” (Alyssa)
Past the soldier, opposite her, Alyssa saw something approaching at an abnormal speed on the highway stretching into the far distance.
“Something’s coming! Since it might be a monster, everyone get ready for battle! Someone go calling Hifumi-san!” (Alyssa)
“Ha!”
The soldier, who dashed away after receiving the order, conveyed the instructions to everyone at the gate and they lined up facing towards the highway. A single, young soldier hurried towards the Lord’s mansion.
Alyssa, standing in front of those soldiers, draws her short sword.
“... Eh? That’s a platform wagon, right?” (Alyssa)
Alyssa, who has the best eyesight in this place, noticed the something, approaching while raising a cloud of dust, to be a well-known vehicle.
, sheathing her short sword, she strained her eyes and saw light blue hair fluttering in the wind, of which she had some recollection.
Tension travelled through Alyssa’s back with a shiver. Turning around in a hurry, she yells at the soldiers at this place,
“Contact Hifumi-san right away to wait in the Lord’s mansion for further messages! If they encounter each other in this place, it will turn into a disaster!” (Alyssa)
Due to Alyssa’s face’s colour changing, the soldiers began to run with a speed never seen before.
Meanwhile the platform wagon ridden by Origa arrived in front of the gate and stopped with a loud sound.
“Long time no see, Alyssa.” (Origa)
“Welcome home, Origa-san.” (Alyssa)
“Well then, I want you to let me through now.” (Origa)
Alyssa jumped and clung to the waist of Origa, who got off the platform wagon and tried to go ahead at a quick pace.
“W-Wait a moment!” (Alyssa)
“Get away. From now on I will have a match* betting my life.” (Origa)
“Before you have that match, I think there’s something you have to do!” (Alyssa)
Origa, who was dragging along Alyssa as she walked, stopped her feet at those words.
“Something to do? Certainly you don’t want to tell me to have a match competing over Hifumi-sama, do you?” (Origa)
Alyssa doesn’t falter even as she is glared at by Origa, who is grasping the closed iron-ribbed fan tightly. The truly angry Origa is known for letting violence, instead of words, speak.
“No, no, it’s something else! Before you go to Hifumi-san’s place, isn’t it necessary to prepare for the sake of your battle? The current Origa has her hair unkempt and ruffled and her face covered in dust. Even your clothes...” (Alyssa)
Origa, looking down on her robe covered in dirt, vigorously apologized noticing her own mistake.
“E-Excuse me! Thank you for telling me!” (Origa)
“It’s fine. I’m a woman as well. It’s not like I don’t understand Origa-san’s feelings either.” (Alyssa)
, Alyssa clenched her fist imposingly within her mind.
“If I successfully become Hifumi-sama’s bride, I will recommend your case to Hifumi as well. Well then, before appearing in front of Hifumi, I will go back to my room.” (Origa)
“Yea. Don’t be in a hurry and take it easy. Hifumi-san should be in his own office.” (Alyssa)
“Many thanks”, Origa went away in good humour.
The soldiers, who returned together with Origa and were left behind afterwards, are sitting down in some place right after entering into the city feeling worn-out.
“U~~mm... Anyway, good work. Since you will have holidays for a while, rest up slowly, okay?” (Alyssa)
“T-Thank you very much.”
The soldiers, who felt like having been rescued from something, shed tears and line up words of gratitude towards Alyssa.
Maintaining the public order is difficult |
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} | 往々にして、人の行動が他人の想像や願望の通りになることは少ない。成るべきは成らず成らざるべきが成るのは、所詮は誰かの願望が外れたに過ぎない。
多くの物事と同様、イメラリアの指示(あるいは願い)も空しく無駄に終わった。
「何やら騒がしくなりましたね。何かあったのですか、サブナクさん」
「うっ、オリガさん......」
後から到着予定の援軍本隊の受け入れ準備で忙しいヴァイヤーに代わり、サブナクがヴィーネたちの案内役を務めていた。
予備に用意していた来客用の天幕へと先導する途中、ミュンスターで購入した荷物を抱えたオリガとばったり出会ってしまった。
オリガのことを知らないヴィーネたちは、目の前に現れた美少女が誰かわからずに、サブナクに説明を求めるように視線を向ける。だが、サブナクはそれに応えられるような状況にない。
「何か作戦が決まったのでしょうか? それと、そちらの方は......まあ、獣人族に、エルフですか。初めて見ましたけれど、どうしたのですか?」
もしオリガと獣人族たちが接触した場合の説明について、サブナクは少しも考えていなかった。後でゆっくり考えてから、イメラリアとすりあわせをしようとしか決めていない。
青ざめて汗だくになっているサブナクを放って、ヴィーネたちは頭を下げた。
「はじめまして。兎獣人のヴィーネです。荒野の向こう、ソードランテのスラムから来ました」
「まあ、ご丁寧に。私はフォカロル領主トオノ妻、オリガです」
「あっ、貴女はご主人様の奥様なのですね! わたし、ご主人様のところへ行きたくて、ここまで来たんです!」
見つめあうオリガとヴィーネを見て、サブナクは平騎士の頃だったら、とっくに逃げ出していただろうな、遠い空を見上げた。
右足が、一歩だけ逃げていたことに、本人も気づいていなかった。
「なるほど、荒野で夫に購入されたのですか」
「ええ、それからすぐに解放していただき、しかも学を与えてもらったうえ、安全に生きる環境まで......何か恩返しをしたくて、ご主人様にお会いしようと思ったのです」
ゲストのための天幕の中で、オリガが手ずからいれた紅茶とカイム特性の焼き菓子をお茶うけに、和やかな雰囲気で会話は始まった。
獣人族男性陣はの妻というオリガの美しさに感心し、プーセとヴィーネがこれまでのことを話す。サブナクはイメラリアへ報告に行くべきかとも考えたが、先にこの会談の結果を確認してのこととした。話の流れ次第では、身体を張って獣人たちを守らねばならないかもしれない。
(これも一つの戦場、なのかな? 色恋沙汰に他人が割って入るのも変な話だけれど。ああ、シビュラが居たら相談できるのに。早く帰りたい)
泣きたい気分で紅茶を一口飲む。ミュンスターでよい茶葉を見つけたとオリガが言った通り、爽やかな甘みがある。
「そ、それで、私はヴィーネさんを一二三さんに会わせるのに同行して来たのです。私自身、お話したいこともありましたし」
「できれば、ご主人様の側でお仕えしたいと思っています。頑張って魔法も使えるようになりましたし、万一の時はこの身を盾にしてでもお守りします」
紅茶の味を確かめるようにゆっくりとカップを傾けたオリガは、ヴィーネが必死に頼み込む姿を見てにっこりとほほ笑んだ。
「主人の、一二三様のお手伝いをしていただけるというのであれば、歓迎します。ですが、一つだけ知っておくべき事と、守ってほしい条件があります」
「知っておくべきことは、一二三様が目指すものです。......貴女は、一二三様のために誰かを殺す覚悟はありますか?」
微笑みを絶やすことなく囁かれたそれは、まるで趣味を聞くかのように軽い調子でありながら、最終審問のような重みを持っている。
「ころ......」
その雰囲気。飄々として軽妙に、命を奪うことを毛ほども躊躇しない雰囲気。
一二三に感じるそれをオリガに重ねて感じ取ったプーセは絶句した。
だが、ヴィーネの覚悟は固い。
「問題ありません。そのために、訓練してきました」
オリガからの圧力が幾分か和らいだのを感じて、男性陣も緊張していた肩を落とした。
「その、もう一つの条件というのは、なんでしょうか?」
「簡単なことです。ヴィーネさんは今、身を挺してでも一二三様をお守りすると言いましたね?」
「ええ、もちろんです」
「それは私の役目です。それをするのであれば、私の命が一二三様のために消えてなくなってからにしてください」
オリガは返事を聞く気も無いようで、言い切ってしまうとサブナクに向き直った。
「サブナクさん」
「は、はいっ!」
「それで、この陣地が騒がしくなっている理由について、教えていただけますね?」
「うっ......わかりました......」
その後、アリッサとも顔合わせが済んだ獣人たちは、イメラリアではなくフォカロルでの身柄預かりとなった。
☺☻☺
何よりも重要なことは、敵よりも先に“知る”ことである、と一二三は語る。
聞き入っているのはホーラントの魔法研究者の一人、ガアプという若手の男だ。ホーラント宰相クゼムの部屋に呼ばれ、連れてきた助手と共にそのまま宰相の執務室で話を聞いている。
「相手がどこからどうやって入ってきたか、近づいてきたか、どういう装備をしているか、それが先にわかるだけでも有利なのはわかるだろう」
「はい。ですがそのために番兵や巡回がおり、灯りの魔道具で周囲を確認しながら警備をしています」
「で、そいつがやられたら終わりなわけだ。今の状況みたいにな」
「それは......個人の能力というものです。襲撃者がもっと弱かったり、番兵が強ければ問題ないわけで」
「馬鹿野郎」
ガアプの言葉を遮った一二三の声に、離れてデスクで作業しているクゼムも震えた。
「個人の強いかどうかは、もっと上のレベルになってから考えるもんだ。有象無象なら“馬鹿でもできる”を基本に考えろ」
たとえば、とクゼムのデスクから適当な羊皮紙を抜き取り、裏返しにする。
二つの円を描き、指ではじいた。
「一つが割れたらもう一個も割れる魔道具があったろ? それをもっと脆くして2組用意して、当番の奴が身体の前と後に付けておく。そうすれば、何かで合図を出す前に倒されても、もう一つが割れて建物の中の奴に異常が伝わるだろ」
片方の円に斜線を引き、もう片方に×をつけた。
「物理的な防御もだな。この城の塀くらいなら、俺は素手で登れる」
「普通は無理ですよ」
「だが、魔法を使えば簡単にできるんじゃないか?」
「しかし、破壊するとなると大きな音が......」
「違う。お前たちの中で土魔法を使えるのは?」
一二三の質問に、助手の一人が手を挙げる。
その男に向かって一二三センチほどの幅を手で作って見せた。
「じゃあ、一掴みの石をこれくらいの間隔で塀に作るのにどれくらいかかる?」
「ひ、一つあたり三十秒もあれば」
「なら、ここの塀くらいは数分時間があれば手がかりはできるだろ」
言い切られた言葉に、助手たちはひそひそとお互いに話し合っている。
「ですが、その程度の握りでは、僕にはとても......」
「誰がお前ら自身に登れって言ったよ。そこは兵士がやればいいだろ」
あ、という顔をするガアプに、一二三は真剣に頭を抱えた。
「本気で応用とか用途の拡大とかそういうことに頭が回っていないんだな」
そこから、一二三が水流による掘削や風魔法による遠方への伝達などの魔法応用、果ては伝声管を使った建物内の物理的な連絡方法や、センサーの概念などにまで話は及ぶ。
突然ではあるものの、興味深い技術や理論に対して、ガアプと助手たちは話を聞き取りながら多くの質問をし、一二三がぐりぐりと描く落書きを食い入るように見つめていた。
「あの......今更なんですが、どうしてこのような事を教えていただけるのですか?」
深夜まで続けられた講義が一段落したところで、ガアプは恐る恐る聞いた。
「ああ、もう数日でここまでオーソングランデ軍がくるだろうからな。準備しておかないと、一方的になるだろ。それじゃ面白くないんだよ」
錆びついた機械のように、ガアプが振り向くと、クゼムは諦めたように頷いた。
それから、数時間後に国境の状況を知らせる伝令が到着し、アドラメルクは夜を徹しての防衛準備へと突入する。
ガアプの指示のもと、多くの人々が準備に追われる中で、いつの間にか一二三の姿は消えていた。
「ネルガル様。今回の作戦で、わたくしは貴方を盾として使わせていただきます」
軍議の場には、イメラリア、ネルガル、サブナク、ビロン、ヴァイヤー、アリッサ、そしてオリガと獣人たちの姿があった。オリガはもちろん、獣人たちも本来は参加予定にはなかったが、オリガが「私もついていきます」と宣言したので、アリッサよりも上位である以上は、参加させないわけにはいかなくなり、その彼女が連れてきたので、誰も席を外すように言うことが敵わなかった。
イレギュラーなメンバーになったことで、しばらくは挨拶を交えつつの様子見ではあったが、本題に入っていきなりイメラリアがネルガルに言い放った言葉で、誰もが驚いた。
「......イメラリア陛下のお考え、詳しくお聞かせいただきたいのですが」
後ろに立っていた護衛が抗議を言おうとするのを止め、ネルガルはイメラリアに問う。
「此度のホーラント侵入の際、一気に首都アドラメルクまで兵を進めます。最低限の休憩のみを行い、尚且つ今動かせる最大戦力を以て」
「それでは、貴国も我が国も、甚大な被害を受けるのではありませんか? 私がホーラントへ入れば、それで兵たちへの抑えが効きます。たったそれだけで解決するのではありませんか」
ネルガルの意見に、サブナクたちは頷くことで賛成の意を表した。
だが、オリガは沈黙し、アリッサもそれに倣う。
「そうして、王都へ行く途中でネルガル様が行方不明になったとしたら、どうしますか」
「ふむ......」
「今のホーラントを動かしている人物について、わたくしは詳しくはありませんが、ネルガル様が戻って来ない方が、その人物にとっては有益ではないでしょうか。たとえ王城に戻られたとしても、多くの者がそれを知る前に“貴方がいなくなったら”、まだお戻りでないとするだけで、今のまま権力を握っていられますもの」
イメラリアの話を聞いて、ネルガルは参った、とつぶやいた。
「陛下の仰られる通りですね。恥ずかしながら、自国の軍の中でどれだけ今の権力者......おそらくは宰相のクゼムでしょう。彼が紛れ込ませた間者が存在するかはわかりません」
「ですから、これは王城までネルガル様が戻られたことを大衆に広く知らせるための方法でもあります。堂々と、派手に貴方の帰着を知らせることは、耳目を集めることを嫌う暗殺者を阻止する手立てでもあり、多くの防衛戦力を帯同させる事もそのためです」
「戦力としてではなく、目立つために大軍を......ですか。こう言ってはなんですが、お姿に似合わず、大胆な策をお考えになられる」
「......小娘が失点を取り返すのに必死なだけです」
イメラリアの呟きは、誰の耳にも聞こえていたが、それに反応する者はいない。
「しかし、非常に危険な策でもあります」
ビロンが口を開いた。
「敵方......とさせていただきますが、こちらにネルガル様がいることをあえて無視して、実力で潰しにくる可能性も考えられます」
「それに、そこまで急ぐ必要もないのではありませんか?」
ビロンに同調し、サブナクからも慎重論が出たが、イメラリアは頑として首を縦に振らない。
「急ぐ必要はあります。一つは、長引けばそれだけホーラントを操る人物に余裕ができること。それと、一二三様の動向です」
ちらり、とオリガを見るが、何ら反応せずに微笑みを浮かべている。
それだけなのが、逆にイメラリアの気になる部分なのだが。
「あの方がホーラント方面にいる可能性は非常に高いようです。あの方が動けば一で済む犠牲が十にも百にもなりかねません」
「......ですがそれは、我がホーラント側の犠牲ではありませんか?」
陛下が気にすることはないのでは、とネルガルが不安げに語る。
「残念ですが」
イメラリアは、ネルガルの不安に首を振った。
「わたくしはそこまで楽観視できませんわ」
そんな馬鹿な、とネルガルは周囲に同意を求めたが、サブナクもヴァイヤーもビロンも、誰もが“一二三によってオーソングランデ側に犠牲がでる可能性”を否定できない。
「と、トオノ伯爵夫人であるオリガ様もおられるのですよ?」
「あら、お気遣いありがとうございます」
ネルガルから水を向けられ、オリガは笑顔で答えた。
「ですが、主人の寛容や助力を初めから期待されるようでは、残念ながら切り捨ての対象としか受け取れません。これは主人も同じ考えだと思います。その点、陛下のお考えは素晴らしいですね。攻守どちらとも有利になる方法。そして勇敢にもその隊列を自ら率いられるのでしょう?」
「ええっ?」
「もちろんです。ネルガル様の命を危険に晒すのに、一人安全な場所で寛いでいるような者が、一二三様の求める相手になれるはずもありません」
反対意見が続出したが、イメラリアは抑え込んだ。
「ネルガル様、いかがですか?」
「......私には反対の仕様がありません。今の私には何もありませんが、此度の件、落着いたしましたら最大級の御礼をお送りいたしましょう」
立ち上がり、恭しく礼をするネルガルに、イメラリアは鷹揚に頷いて見せた。
その姿に正しく王の姿を見たサブナクたちも、自然と立ち上がって礼をする。
「そして、オリガさん、アリッサさん。フォカロルの兵たちにもご協力をいただきたいのです」
「御冗談を。多くの国軍兵がここに集まっておられるではありませんか。寡兵に過ぎない私たちでは、何のお役にも立てないかと思いますが?」
冷笑と言っていい、冷たい視線を送るオリガに、イメラリアは一歩も引かずに微笑みで返す。
「冗談ではありません。これも一二三様から教わったことです。一二三様のことをよく知っているオリガさんやアリッサさん、そして一二三様が兵士に指導をした場合の対応ができるフォカロルの兵士たち。数ではありません。知識をお借りしたいのです。知ること。それがどれだけ大切かをわたくしは一二三様から“直接”教わったのですよ」
「そ、それって一二三さんと敵対するってことですか?」
プーセが震える声で尋ねると、イメラリアは「いいえ」ときっぱり否定した。
「これは命をかけた“宿題”なのです。他人の命を削ってでも証明しなければならない、わたくしの答えなのです」
「わたしも行きます!」
ヴィーネが立ち上がり宣言すると、ゲングやマルファスも同調する。
その言葉に、イメラリアは答えず、オリガを見る。彼らの事についてはフォカロルに判断を任せているからだ。
「そういう事でしたら、獣人の方々もお連れして、陛下に最大限のお手伝いを約束させていただきます。......戦争の素人が、どこまでできるか近くで見せていただきますね」
「ただ殺すだけが戦争の終わらせ方では無いということを、王として逆に教えてさしあげますよ」
ピリピリとした空気のなか、一人だけアリッサが口を尖らせてぶぅぶぅ言っていた。
「僕が軍の責任者なんだけどな」
その後、出発を翌日と定め、オーソングランデ歴史上、初めて女王が直接指揮をする戦いが、女王個人の意地によって始められることとなった。 | From time to time a person’s actions are incapable of being in line with the aspirations and imaginations of another person. What should or should not happen in the end goes no further than being disconnected from someone’s wishes.
It’s the same with many things. Imeraria’s order (or wish) also ended up being futile and in vain.
“It became somewhat noisy. Did something happen, Sabnak-san?” (Imeraria)
“Uuh, Origa-san...” (Sabnak)
Sabnak served as host of Viine and the others instead of Vaiya who was busy with the preparations for the planned arrival of the reinforcement’s main forces from behind.
On the way leading them to the tents for visitors, which were prepared from the spares, they ended up suddenly coming across Origa who carried baggage she bought in Münster.
Viine’s group, who doesn’t know about Origa, turns their looks towards Sabnak in search of an explanation as no one understands the beautiful girl who appeared in front of their eyes. However, Sabnak isn’t in a situation where he can respond to that.
“U-Umm...”
“Did you decide on some strategy? And, the people over there are... well, beastmen and an elf? It’s the first time I’m seeing either, but what’s wrong?” (Origa)
Sabnak had not come up with even a bit of explanation in the case that Origa got in touch with the beastmen. Since he had wanted to ponder on it slowly later on, he had yet to determine if he will try to bounce opinions off of Imeraria to obtain a fine-tuned integrated whole
Being abandoned by Sabnak who became pale while dripping sweat, Viine’s group bowed.
“Nice to meet you. I’m the rabbit beastman Viine. I came from the slums of Swordland on the other side of the wastelands.”
“Oh, how very polite. I’m the wife of Fokalore’s feudal lord Earl Tohno, Origa.”
“Ah, you are master’s madam! Wanting to go to master’s place, I came to this place!” (Viine)
Watching Origa and Viine staring at each other, Sabnak looked up to the distant sky while thinking
The person himself didn’t realize that his own right foot had started escaping by one step.
“I see, you were bought by my husband in the wastelands?” (Origa)
“Yes, I was immediately released after that, in addition to that I received education and an environment where I could live safely... wanting to return this favour somehow, I thought that I should meet with master.” (Viine)
Inside a guest tent a conversation began in a harmonious atmosphere by the guests receiving black tea personally served by Origa, and Caim’s special baked sweets.
The males of the beastmen admire Hifumi’s wife, Origa, as a beauty. Puuse and Viine talk about the events up till now. Sabnak pondered whether he should go inform Imeraria, but decided to confirm the outcome of this conversation first.
(This is another battlefield, I guess? Though it’s also a strange matter to interfere with the love affairs of others. Ah, if Shibyura was here, I could have consulted with her. I want to go home soon.)
He takes a sip of black tea while feeling like crying. Just as said by Origa, who discovered the fine tea leaves in Münster, it has a refreshing sweetness.
“S-So, I accompanied Viine-san to make it possible for her to meet with Hifumi-san. There’s something I want to talk about as well.”
“I believe that I want to serve at master’s side, if possible. I also reached the point of being able to use magic after keeping at it. I will take care of him and even use this body as a shield in an emergency.” (Viine)
Origa, who emptied the cup slowly in order to make sure of the black tea’s flavour, watched Viine pleading desperately and smiled sweetly.
“If you are saying that you will be able to serve as maid of my husband, of Hifumi-sama, I will welcome that. However, there’s one thing you should know. And that’s a condition I want you to honour.” (Origa)
“What you should know is what Hifumi-sama is aiming for. ... You, do you have the resolve to kill someone else for Hifumi-sama?” (Origa)
Whispering that while still smiling, it’s said in a light tune completely as if asking someone about their hobby while bearing a weight similar to a final trial.
“Kil-...” (Puuse)
That mood. The mood of not hesitating even a little about stealing life, lightly and easily as if fluttering in the wind.
Puuse, who sensed in Origa once more what she had felt in Hifumi, became speechless.
However, Viine’s resolve is firm.
“There’s no problem. I decided to practise for that reason.” (Viine)
Feeling that the pressure from Origa has calmed down somewhat, even the male group, who was tense, dropped their shoulders.
“Umm, What’s this one other condition?” (Viine)
“That’s simple. Viine-san, you just said that you will take care of Hifumi-sama by even sacrificing your body, didn’t you?” (Origa)
“Yes, of course.” (Viine)
“That’s my duty. Please do so once my life has been extinguished for the sake of Hifumi-sama, if you are going to do it.” (Origa)
With Origa showing any signs of listening to a reply, she faced Sabnak once she finished declaring that.
“Sabnak-san.” (Origa)
“Y-Yes!” (Sabnak)
“So, can I have you tell me the reason why this encampment has become this noisy?” (Origa)
“Uuh... I got it...” (Sabnak)
After that, the beastmen, who finished meeting with Alyssa as well, were taken charge of by a person from Fokalore and not from Imeraria’s side.
☺☻☺
faster than your enemy does”, Hifumi explains.
The one who listens attentively is a magic researcher of Horant, a young man called Gaap. Having been summoned to the room of Horant’s Prime Minister Kuzemu, he listens to the conversation in the prime ministers office alongside assistants he brought along.
“How and where will the opponent enter? Did they get close? What equipment are they using? You probably understand that it’s advantageous even if you only know those things in advance.” (Hifumi)
“Yes. However, there are sentries and patrols for that reason. They are guarding while checking the vicinity with a magic light tool.” (Gaap)
“Then that means it will be over once they are done in. Just like the current situation.” (Hifumi)
“That is... something called individual ability. There won’t be any problem if the sentries are stronger or if the assailant is a lot weaker.” (Gaap)
“You idiot.” (Hifumi)
Due to the voice of Hifumi, who interrupted Gaap’s words, even Kuzemu, who is working at a separate desk, trembled.
“You have to consider it from much higher level than individual strength. Basically think of it as “something even an idiot can do” in case of the masses.” (Hifumi)
“For example”, he pulls out a suitable parchment from Kuzemu’s desk and flips it over.
Drawing two circles, he flicked it with a finger.
“There were magic tools where one is broken if its counterpart is destroyed, right? Making it more fragile and preparing two of them, You install one of them at the front of the body of the guy on duty. By doing that, even if the wearer got defeated by something before sending a signal, those inside the building would be informed of the abnormality by the counterpart breaking.” (Hifumi)
Drawing a diagonal line through one of the circles, he added an X-mark to the other one.
“It’s the same with physical defence. If it’s the walls of this castle, I can climb them barehanded.” (Hifumi)
“Normally that’s impossible.” (Gaap)
“But, aren’t you able to accomplish that easily if magic is used?” (Hifumi)
“Nevertheless, if it’s disrupted, a loud sound will...” (Gaap)
“It’s something else. Is there anyone amongst you who can use earth magic?” (Hifumi)
One of the assistants raises their hand due to Hifumi’s question.
Facing that man, Hifumi made a gap of around cm with his hands and showed him.
“Then, how long will it take for a soldier to create a hand-sized stone of this size?” (Hifumi)
“I-If it’s one per soldier, as much as seconds.”
“In that case, at least the soldiers of this place will be able to have them on hand if they have several minutes of time, right?” (Hifumi)
Due to the words he finished saying, the assistants whisper amongst themselves.
“However, to hold one of that level, for me that’s very...”
“Who told you guys to go up there yourselves? It will be fine if that’s done by the soldiers, won’t it?” (Hifumi)
“Ah”, due to Gaap having such expression, Hifumi was seriously troubled.
“Do you really don’t think about such things as application or amplification of utility?” (Hifumi)
From then on Hifumi extends his explanation to things like magic application for long distance communication with wind magic and excavation with water currents, on top of that physical communication methods inside a building which used speaking tubes and the general concept of sensors.
Although it was sudden, Gaap and his assistants asked many questions while trying to comprehend the very interesting theories and techniques. They stared with high concentration at the scribbles drawn with by Hifumi.
“Umm... I know it’s kind of late for that, but why is it acceptable for you to teach us these things?” (Gaap)
At the moment the lecture, which had continued until late at night, reached a point where they could take a pause, Gaap asked that timidly.
“Ah, so, in a few days, Orsongrande’s army will probably come here. If aren’t prepared, it will be one-sided, I guess. Then it won’t very interesting.” (Hifumi)
Just like a rust-eaten machine, Gaap turned around and Kuzemu nodded as if having given up.
And then, a few hours later, a messenger letting them know about the situation at the border arrives. Adolameruk rushes into all-night defence preparations.
While many people were driven into preparing under Gaap’s instructions, Hifumi vanished before they realized.
“Nelgal-sama, I will make use of you as a shield in the operation this time.” (Imeraria)
Imeraria, Nelgal, Sabnak, Biron, Vaiya, Alyssa, Origa and the beastmen came together at the war council’s location. Origa and of course the beastmen as well weren’t originally scheduled to participate, but since Origa declared 「I will come along, too」 and seeing that she is Alyssa’s superior, the reason for not having the rest join vanished. It was beyond their power to tell anyone to take their leave as Origa brought them along.
Due to them becoming irregular council members, it turned into a wait-and-see situation while everyone greeted and mingled with each other for a while, however due to the declaration of Imeraria who suddenly got down to business everyone was surprised.
“... I’d like to be told about Your Majesty’s intention in detail.” (Nelgal)
Stopping a guard, who stood in the back trying to file a protest, Nelgal asks Imeraria.
“On the occasion of the current invasion of Horant, we will advance the troops towards the capital city Adolameruk in one go. We will have them take only a minimum amount of breaks and on top of that take the largest war potential we can currently move.” (Imeraria)
“Won’t it turn into serious damage for your and my country in that case? If I enter Horant, it will possible to use me as a restraint against the soldiers. Won’t it be possible to solve the situation with only that much?” (Nelgal)
Sabnak and the others expressed their thoughts of approval by nodding towards Nelgal’s opinion.
However, Origa stays silent and Alyssa follows her in that as well.
“And what will we do if you went missing on the way towards the capital, Nelgal-sama?” (Imeraria)magic
“I’m not well-informed about the person who is steering the current Horant, but is your return beneficial for that person, Nelgal-sama? Even if you returned to the royal castle for argument’s sake, he will be able to seize the power just like they have now by just acting as if you haven’t returned yet and spreading “he has gone missing” before many people become aware of your arrival.” (Imeraria)
Listening to Imeraria’s argument’s Nelgal muttered “I give up.”
“It’s just as said by Her Majesty. While it’s disgraceful, the current man in power within the military of my country... is very likely Prime Minister Kuzemu. I don’t know whether there are spies who were slipped in by him.” (Nelgal)
“Therefore this is also a method to widely spread the news to the masses that you returned before reaching the capital, Nelgal-sama. Being informed boldly and flashily about your return is also a means to hinder assassins who dislike public attention. That’s also the reason for taking many defensive forces along.” (Imeraria)
“A large army for standing out and not as war potential... you say? Though that’s what you are saying, it can be considered as daring strategy that doesn’t suit its appearance.”
“... It’s just a young girl being desperate to recover her lost points.” (Imeraria)
Imeraria’s murmuring wasn’t even heard by anyone, but there was no one who would react to that either.
“However it’s also an extremely dangerous plan, too.” (Biron)
Biron opened his mouth.
“The enemy side... although they would be the ones doing it, we have to also consider the possibility of them coming to crush us with force while deliberately ignoring Nelgal-sama being on our side.” (Biron)
“Besides, is it necessary to hurry this much?”
Agreeing with Biron, Sabnak proposed a conservative theory, but Imeraria doesn’t nod her head stubbornly.
“It’s indispensable to make haste. For one the person, who is pulling the strings in Horant, will be allowed some margin accordingly if we drag it out. And then there are Hifumi-sama’s movements.” (Imeraria)
She sends a fleeting glance at Origa, however she shows a smile without reacting in any way whatsoever.
Although it’s no more than that, there are parts which worry Imeraria in reverse though.
“The probability for that gentleman to be in Horant is very high. If that man makes a move, the sacrifices, which usually would finish with one, will end up turning into or 0.”
“... However, aren’t those victims on our Horant’s side?” (Nelgal)
“It’s not something Your Majesty has to mind”, Nelgal says uneasily.
“I have to disappoint you though.” (Imeraria)
Imeraria shook her head towards Nelgal’s anxiety.
“I’m unable to regard it this optimistically.” (Imeraria)
“Such foolishness”, Nelgal searched for approval in the surroundings, but Sabnak, Vaiya, Biron and no one else denies the “possibility of victims appearing on Orsongrande’s side due to Hifumi.”
“I-Isn’t Origa-sama, who is Earl Tohno’s wife, here as well?” (Nelgal)
“Oh my, thank you for worrying about me.” (Origa)
Being addressed by Nelgal, Origa replied with a smile.
“However, I’m afraid to tell you that from the beginning of my husband’s generosity and support I haven’t accepted anything except being a target for elimination as apparently expected. I believe my husband harbours the same thoughts as well. In that aspect Her Majesty’s thinking is splendid. It’s a method that is beneficial towards both, offence and defence. And she will be able to lead the files and ranks heroically by herself as well, right?” (Origa)
“Eeh?”
“Of course. A person who relaxes in a safe place by herself while exposing Nelgal-sama’s life to danger, shouldn’t be able to become an opponent as desired by Hifumi-sama either.” (Imeraria)
Dissenting opinions appeared one after the other, but Imeraria shut up her opponents.
“How about it, Nelgal-sama?” (Imeraria)
“... It can’t be helped that I’m against it. The current me is nothing, but in the current matter I shall give you my highest gratitude once things settled down.” (Nelgal)
Due to Nelgal bowing respectfully after standing up, Imeraria nodded generously.
Sabnak, who regarded this as correct behaviour of a ruler, naturally bows after standing up as well.
“And, Origa-san and Alyssa-san, I’d like to ask you for the cooperation of Fokalore’s soldiers.” (Imeraria)
“You are jesting. Haven’t many of the royal army’s forces been gathered here? What kind of role do you plan to assign to us who are no more than a small army force?” (Origa)
Imeraria returns a smile, without retreating even a bit, towards Origa who looks at her coldly and says that while laughing scornfully.
“It’s no joke. This is also something I was taught by Hifumi-sama. Origa-san and Alyss-san, you, who understand Hifumi-sama well, and the soldiers of Fokalore who are able to deal with situation after being coached by Hifumi-sama as soldiers. It’s not about numbers. I want to borrow your knowledge. The things you know. How important that is, I was taught
“I-Is that something to oppose Hifumi-san?” (Puuse)
When Puuse asked with a trembling voice, Imeraria clearly denied that with a 「No」.
“This is the “homework” I risked my life to obtain. Even if cut down the lives of other, I have to prove it. That’s my answer.” (Imeraria)
“I will go as well!” (Viine)
Once Viine declares that after standing up, Gengu and Malfas agree with her, too.
Due to those words, Imeraria looks at Origa without answering. That’s because she has entrusted the decisions about them to Fokalore.
“If it’s about this, I will have all of you beastmen promise to help Her Majesty to the best of your abilities. You are amateurs at war, but I’d like you to show me how much you are able to do nearby.” (Origa)
“However, as sovereign, I will conversely teach you that you can not end a war just by killing.” (Imeraria)
In the middle of the tingling mood, only Alyssa said “Buu buu” while pouting.
“I’m the one in charge of the forces though.” (Alyssa)
After deciding that the departure would be the next day, the battle, which will be the first directly led by a queen in Orsongrande’s history, was triggered by obstinacy of the queen herself. |
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} | スティフェルスの眼前、どんどん近づくミュンスターの入口は、大門が開け放たれて街の中もよく見える。
そしてそこには、人がいない。門の外も、中も、街の通りにもどこにも。
それに最初に気づいたのは、先頭にいたスティフェルスだった。
続いて、周囲にいた騎士たちも街の異常に気付く。
「た、隊長!」
「どういたしましょう!?」
背後からは猛烈な勢いでホーラント兵が追い立ててくる。土煙を上げ、武器を手に迫ってくる真顔の集団が、スティフェルスにはよ恐ろしく見えてきた。
スティフェルスは考える。
このまま街へ踏み込むのは悪手だ。街が荒れればその時点で自分の失点は覆し難いものとなる。ここから追い返したとしても、被害は無視できるものではないだろう。
となれば......。
「兵は全員、街にたどり着き次第、予定通り左右に別れて敵を挟撃する! 騎士隊は街の門を閉じ、挟撃作戦の間、門を使って敵を足止めする!」
「り、了解しました!」
話している間に、街の門はすぐ目の前だ。
兵を指揮する役目を追った騎士が左右へと別れ、それに兵たちがついて行く。
いくらかのホーラント兵がそれに釣られてついていくが、大多数はまっすぐミュンスターへと迫る。
「閉めろ! 早く!」
怒鳴りつけるスティフェルス。
騎士隊は転げ落ちるように馬を降り、必死に門を閉め、閂をかける。
数瞬の後、分厚い木製の門を叩く音が響き、更に向こうから、挟撃する兵たちの声と、武器が叩きつけられる音が響く。
一枚の扉の向こうにある狂騒を聞きながら、スティフェルスは馬を降りた。
(街を放棄するとは、ビロンは何を考えている!)
策が成らず、怒りに震えるスティフェルスが見る先は、王都側の出入り口方面。
霞んで見える道の先にも、街の住人は見当たらない。
「絶対に殺してやるぞ! ホーラントの連中をすり潰した次は、貴様の番だ!」
☺☻☺
ミュンスター、王都方面出口近く。避難する住民たちの最後尾にビロン伯爵は居た。
サブナクは、危険なので集団の中央付近にいるか、最初に脱出をするようにとビロンを説得しようとしたが、これだけは譲らず、妻と子供だけを先に行かせ、ビロン自身はサブナクたち士隊と共に殿を務める。
「久しぶりに鎧を着ると、違和感があるね」
馬に乗るのも久しぶりだし、とビロン自身はのんきな様子だが。
一人の兵が馬上のサブナクに駆け寄り、何かを報告する。
「......伝令がきました。義兄さん、ミュンスターに敵軍が来たようです」
「ああ、敵軍ね。まとめてそう呼べば楽だね」
命を奪い合う音が遠くから聞こえるような気がして、ビロンは空を見上げて思案する。
「これから王都方面へ向かう路上で、うまくトオノ伯爵と合流できれば、楽なんだけどね」
街の住民たちは先にある街に疎開し、戦闘が終わり次第戻す事になっている。国境に近い街だからと、ビロンは日頃から逃げ出す準備を徹底させるようにとしていたが、まさか本当にこの策を使う日が来るとは思っていなかった。
住民にはかなり負担をかけたが、命を失うよりは良いだろうと割り切るしかない。
「確かに、さんが到着すれば、こっちの勝ちは確定でしょう」
ちゃんと味方になってくれれば......と、サブナクは心の中で付け足した。
「サブナク、誰か近づいてくる!」
一人の同僚騎士が、声を上げながら馬を降りて剣を抜いた。
「義兄さん、下がってください。敵か味方かわかりません」
サブナクも馬を降り、剣を抜く。
(剣術はあまり得意じゃないんだけど、仕方ない)
ため息を隠しながら、注意深く構えたサブナクが見たのは、槍を掴み、歩いてくる第一騎士隊リベザル。そして彼に率いられた第一騎士隊の隊員たちと、王子アイペロスの姿だった。さらに見慣れない男が一人、王子の横にいるのが見えた。
「リベザル隊長に......アイペロス王子?!」
第三騎士隊の誰かが驚きの声を上げた。
だが、サブナクは違和感を覚えていた。王子に侍従も専用の護衛もおらず、何やら様子がおかしい。そして、こんな雰囲気の人間をどこかで見た覚えがある。
数秒、記憶を辿り、一二三と出会ったフォカロルでの出来事を思い出した。
「全員、構えを解くな! こいつら、魔法具で操られている!」
「えっ?」
一瞬判断が遅れた騎士の一人を、リベザルの槍が貫いた。
「ぐえっ......」
途端に乱戦となる。
互いの騎士隊はほぼ同数であり、他の第三騎士隊員やビロンの領兵が応援に駆けつけるまで持ち堪えれば良いと思っていたサブナクたちだが、想定外の苦戦を強いられた。
「こいつら、片腕が無くなっても攻撃してきやがる!」
「報告書にあった通りだ、落ち着いて致命傷を与えろ!」
魔法具の影響で若干動きが鈍っている第一騎士隊だが、戦闘に慣れていない第三騎士隊にとっては強敵であることには変わりがない。
「そしてぼくの相手は貴方ですか......」
剣を構えるサブナクの前に立つのは、槍を突き出したリベザルだ。
その目は視点が定まっていない狂人のそれだが、威圧感は尋常ではない。
(これは、ここで死ぬのかな......)
不意に悲観的な考えが浮かぶも、風を切る音で我に帰る。
次々と繰り出される槍は、以前に見た技量よりも多少劣っては見えたが、サブナクにとってはかわすのがやっとの速度だった。
膂力も尋常ではなく、突きを剣の腹で止めても、たたらを踏むほど押し込まれる。
あっという間に肩で息をし始めたサブナクに対し、リベザルは平然と構えている。
「これをあっさり撃退したのか、やっぱり一二三さんは化物......うわっ!」
突然背中を押されたサブナクは、リベザルに向かって二歩、三歩と前に出る。
目の前にリベザルが迫り、慌てて横に転がったサブナクのすぐ横を、槍の一撃が通りすぎた。
「あぶっあぶっ......」
這々の体でリベザルから距離をとったサブナクに、不満げな声がかけられた。
「誰が化物だ。それと、槍相手にやたらと距離を取ろうとするな。前に出ろ、前に」
サブナクが声の主を見ると、見覚えのある黒髪黒目で目つきの鋭い青年が、相変わらずの奇妙な服を着て、腰に刀を差して立っていた。
手に持った鎖鎌の分銅をくるくると回しながら、ずいっと一二三が前に出る。
「ひ、一二三さん? いくらなんでも、早すぎ......」
「こいつは俺の獲物だ。チンタラやってて取り逃したら......ありゃ?」
リベザルの様子に、一二三は眉をひそめて見回してから、ため息をついた。
「こいつも正気じゃないのか。つまらん状態になったなぁ」
首を振る一二三に、構わずリベザルの槍が迫る。
「あ、危ない!」
サブナクが叫ぶまでもなく、一二三は体を横に向けて半身の形で避ける。槍の引き際に斬りつけようとしてくる刃も、鎖を使って体に触れさせない。
更に突き込んでくるリベザルの腹を前蹴りで押し込んで距離を取った一二三は、再び分銅を振り回し、相手の顔面に分銅を打ち付けた。
鼻ごと顔面の中心を叩き潰されながらも、リベザルは槍を繰り出す事をやめない。
片目は眼窩から飛び出し、目と鼻と口から夥しい血を流す。
それでも、リベザルは止まらない。
「虚しいなぁ。戦う理由を持たない奴の攻撃なんぞ、機械が振り回す棒きれとなんら変わりない」
言葉の通りに、危なげなく穂先を避ける一二三は、その間にも左手に握る鎌でザクザクとリベザルの腕を傷つける。
「一二三さん、こいつらは痛覚が無いうえ、恐怖などの感情がないんです。傷をつけても......あれ?」
次第に動きが緩慢になるリベザルに、サブナクは首をかしげた。
「生き物ってのは、一定以上の血が流れると身体の自由が効かなくなるんだよ。痛みとか恐怖とかは関係ない」
そのくらい知ってるだろう、と一二三が話す間に腕も上げられなくなったリベザルは、ついに膝を付いた。
鎖鎌を収納し、素早く腰の刀を抜いた一二三は、リベザルの鎧の前面を叩き斬った。
「見ぃつけた」
むき出しになった魔法具を、一二三は左手で鷲掴みにして、無理やり引き剥がした。
身体に埋まっていた管が引き伸ばされ、ブチブチと音を立てて千切れる。
痙攣するリベザルは、管が全て切れてしまったところで、大の字になって仰向けに倒れた。
「う......」
「正気に戻ったか」
意識を取り戻したリベザルは、動かない自分の身体に困惑する。
「き、貴様は......! か、身体が動かん......一体どうなって......」
「知らん。わかっているのは、お前が今から死ぬという事実だけだ」
むき出しの胸部に刀を突きたてた一二三は、右手に伝わる心臓を貫いた感触に口の端を引き上げた。
「うむ。殺すなら、人形ではなく、ヒトが良い」
血が減っているせいか、刀を抜いてもあまり血が出ないのを興味深く見ながら、懐紙で刀を拭い、鞘へと納める。
「ひ、一二三さん、さっきリベザル隊長は正気に戻っていたんじゃ......」
恐る恐る近づいてきたサブナクに、一二三はそうだな、と答えた。
「試しにやってみたら、意外としっかり意識が戻ったな。死ぬことを自覚されないと、こっちもつまらないからな。良い発見だった」
この上なく良い顔をする一二三に、サブナクとその後ろで一部始終を見ていたビロンは、しばらく声を出せなかった。
「さて、まだ獲物がいるな」
次の武器にと契り木を取り出し、ぐっと握りこんだ一二三は、気負いのない軽やかな足取りで、乱戦が続く第一対第二の騎士隊同士の戦場へと向かう。
それを見たサブナクは慌てて叫んだ。
「だ、第三騎士隊! 全員逃げろぉおお!」
戦いが始まったところで、少し距離を置いていたベイレヴラは、リベザルが殺害されるのを見て腰を抜かして驚いた。
魔法具の影響を受けて、恐怖を感じない殺人人形と化していたリベザルを軽くあしらっただけでなく、態々正気に戻してから殺したのだ。
異常としか思えない行動に、強さよりも一二三という人間の狂気に対して、ベイレヴラは恐怖した。
誰も見ていないのをいいことに、這うように戦場から離れようとしたところで、ふくらはぎに激痛が走った。
「いぎゃぁ!」
突然の痛みに転がりながら、涙目で足を見ると、見たこともないような十字型の金属が突き刺さっていた。
「な、なんだこりゃ」
あまりの痛みに触れることもできずにいるベイレブラに一人の少女が近づいてきた。
「一二三様にようやく追いついたと思ったら......この幸運、一二三様に感謝しなくては」
手裏剣を右手に、ゆっくりと歩いてくるのはオリガだ。
色白の顔は無表情ながら、緑の瞳は強い殺意を以てベイレヴラを睨み据えている。
「あら、覚えていたようね」
光栄でもなんでもないけれど、とオリガは二つ目の手裏剣を放ち、無傷の方の足にも傷を付ける。
もはや痛みに声もあげられず、歯を食いしばるベイレヴラは、必死で手裏剣を引き抜き、切り裂いた服で傷を縛り上げた。それでも、血は止まらない。
「た、助けてくれねぇか......こんな足になっちまったら、もう野垂れ死ぬしかねぇけどよ。せめてもっと穏やかに死にてぇよ......」
みっともなく泣きべそをかいて見せるベイレヴラは、内心でホーラントの工作員からの助けを待っていた。
追撃が来ない事に、さらに時間を稼ごうと言葉を続ける。
「だから......」
「黙れ」
ベイレヴラが泣いて許しを乞う間に詠唱を済ませていたオリガは、風の刃で無慈悲に片腕を切り飛ばした。
「ぎゃぁああああああ!」
ひぃひぃと泣き喚きながら、肩の綺麗な切断面から血を撒き散らしてもんどり打つベイレヴラを見ても、オリガは少しも表情を崩さない。
「お前は、そうやって地べたを這いつくばって、必死に生きることを望みながら死んでいくのが相応しい。みっともなく、無様に、惨たらしく死になさい。そうして初めて、お前の行為を許す気になる可能性が出てくるかもしれないから」
もはや、まともに話もできず、傷ついた足をもぞもぞと動かして逃げようとするベイレヴラは、助けてとうわ言のように繰り返すが、オリガは聞かない。
「私たちが受けた屈辱は、お前にはわからないでしょう。わかって欲しくもありません。一二三様に拾われるという幸運が無ければ、今頃は......」
もがくベイレヴラに近づき、腹を踏みつけて動きを止める。
出血で意識が朦朧とし始めていたベイレヴラは、霞む視界に映るオリガが、手首に固定していた短剣を外し、右手に握り締めたのを見た。
「一二三様、感謝いたします。この手で復讐を果たすことができることを。そしてカーシャ、見ていなさい。私たちの仇が死にゆく様を」
ポツポツとまるで誰かと会話しているように呟いたオリガは、短剣を力いっぱいベイレヴラの胸に振り下ろした。
心臓を突き刺されたベイレヴラは、即死した。
引き抜いた短剣を抱えたオリガは、いつの間にか自分が泣いていた事に気づいた。
その涙のわけは自分にも判らないが、ひとつの復讐が終わり、自分の心が解放されていく感覚は、彼女の胸の中に確かにあった。 | As they are steadily getting closer to Münster’s gate, before Stiffels’ eyes the large front gate is left open allowing anyone to see quite well into the city.
And in there are no people at all, not outside the gate, not inside and not even on the streets of the city.
The first to realize this was Stiffels who was at the head of the troops.
Following after him, the knights noticed the abnormality of the city as well.
“C-Captain!” (Knight)
“What will we do now!?” (Knight)
They are pressed with intense force by the soldiers from Horant from the back. As it is a serious looking mass urging closer with their weapons in their hands, Stiffels appeared to be even more frightened.
Stiffels takes the situation into consideration.
It is a bad move to step into the city as it is now. If the city falls into ruin, it will become difficult to disprove it being my blunder. Even if we turned away from here, it wouldn’t be possible to disregard the damages.
If it’s like that...
“All soldiers, as soon as we finally reach the city, we will divide to the left and right and pincer attack the enemy, just as planned! During the pincer operation we will use the gate to confine the enemy!” (Stiffels)
“U-Understood!” (Soldiers)
While he is explaining, the city gate draws nearer.
Commanding the soldiers, the knights following their duty, split up left and right accompanied by the soldiers.
A few of Horant’s soldiers are lured by that and follow them, but the great majority advances directly towards Münster.
“Close it! Hurry!” (Stiffels)
Stiffels shouts.
The knight order, dismounting their horses as if falling off, desperately shuts the gate and affixes the bolt.
After a few moments sounds of knocking against the thick wooden gate reverberate. Furthermore, from the other side, the voices of the pincer attacking soldiers and the sounds of weapons clashing arise.
While listening to the frenzied uproar on the opposite side of the door, Stiffels dismounted.
“(What is Biron thinking to abandon the city!?)” (Stiffels)
Failing his plan, Stiffels looks ahead in the direction of the side facing the royal capital trembling in rage.
Even as he watches the road in front until it gets blurry, he can’t see the city’s residents.
“I will definitely kill you! After pulverizing the lot from Horant, it will be your turn, you son of a bitch!” (Stiffels)
☺☻☺
Earl Biron was at the end of the line of the escaping residents in Münster, close to the exit towards the royal capital.
At the beginning of the escape Sabnak asked Biron to be in the centre of the group because of the danger, but without yielding even a bit, Biron himself works alongside the rear guard of Sabnak’s Third Knight Order with only his wife and children having gone ahead.
“It’s been a while since I wore an armor. It feels uncomfortable.” (Biron)
Though it even has been a while since he last mounted a horse, Biron is carefree.
A single soldier rushes over to the mounted Sabnak and reports something.
“... The messenger came. Brother-in-law-san, it seems the enemy army arrived at Münster.” (Sabnak)
“Ah, the enemy army, eh? It is nice if they gather all together like this.” (Biron)
Feeling like he can hear the sounds of the death struggle in the far distance, Biron looks up to the sky while pondering.
“It will become easy if we can successfully meet up with Earl Tohno on the road leading to the capital after this.” (Biron)
The city’s residents have evacuated from the city beforehand. It has been decided that they will return once the battle finishes. As it is a city close to the national border, Biron naturally had plans for fleeing prepared, but he didn’t really believe that the day he would use those plans would ever come.
Although it was quite the burden on the residents, they had no choice but to make a clear decision of moving rather than loosing their lives.
“Certainly, if Hifumi-san arrives, it will probably decide the victory here.” (Sabnak)
Sabnak added within his mind.
“Sabnak, someone is approaching!” (Biron)
It was a single associated knight, but as he dismounted the horse he drew his sword while raising his voice to a roar.
“Brother-in-law-san, please stand back. We don’t know whether he is an ally or an enemy.” (Sabnak)
Descending from his horse, Sabnak draws his sword.
(Swordsmanship isn’t really my strong point, but whatever.)
While hiding his sigh, Sabnak set up his stance cautiously and saw the First Knight Order’s Ribezal walking over gripping his spear. And as he lead the First Knight Order’s members, the figure of Prince Ayperos could be seen. Furthermore there was a single unknown man besides the prince.
“Captain Ribezal... Prince Ayperos!?” (Knight)
Someone from the Third Knight Order raised their voice in surprise.
But Sabnak had a bad feeling about this.
Searching his mind for a few seconds, he recalled the incident Hifumi encountered in Fokalore.
“All hands, don’t lower your guard! These guys are controlled by a magic tool!” (Sabnak)
“Eh?” (Knight)
A single knight, being late in his decision for an instant, was pierced by Ribezal’s spear.
At once it turned into a melee.
The number of knights on either side is almost the same. Sabnak’s group thought it would be fine if they endured until the other members of the Third Knight Order and Biron’s territorial soldiers came running, but they were forced into hard fight exceeding their assumptions.
“These fellows keep on fighting even if they lose an arm!” (Knight)
“It is just as it was written in the report! Calm down and deliver fatal wounds!” (Sabnak)
The first Knight Order’s moves have become a little bit dull due to the influence of the magic tool, however that doesn’t particularly change the fact that they are formidable opponents for the Third Knight Order, who isn’t accustomed to combat.
“And now you are my opponent... ?” (Sabnak)
In front of Sabnak, who has his sword at the ready, stands Ribezal pushing out his spear.
Although Ribezal’s eyes are unfocused like the ones of a madman, he has an uncommonly intimidating air.
(I see, this is where I die, I guess...)
As pessimistic thoughts rise to the surface of his mind suddenly, he returns to reality due to the sound of wind being cut.magic
“Ooops, that was dangerous!” (Sabnak)
The spear lunges at him successively and although he could see that it was inferior to Ribezal’s ability he had seen before, it was barely at a speed Sabnak could evade.
Ribezal’s physical strength isn’t common either. Even stopping the thrusts with the sword’s core, he is pushed to the degree of tottering.
In contrast to Sabnak, who began to breathe heavily in the blink of an eye, Ribezal is calmly setting up his stance.
“He repelled these thrusts easily? Hifumi-san is a monster after all... uwa!” (Sabnak)
Suddenly being pushed from the back, Sabnak walks , steps towards Ribezal.
Having Ribezal approach in front, Sabnak jumped to the side in a hurry rolling over on the ground and avoided the spear’s attack that way.
“Phew phew...” (Sabnak)
Scurrying away from Ribezal’s range, Sabnak stood up leaking a disgruntled voice.
“Who is a monster? And also, don’t try to recklessly compete with the range of a spear wielding opponent. Go ahead, forward with you.” (Hifumi)
Looking at the owner of that voice, Sabnak saw a youth with his sharp eyes with their dark pupils and his black hair and recognised him. As usual he wore weird clothes and the katana was affixed to his waist.
While holding the counterweight of the kusarigama in his hand and spinning it around in circles, Hifumi appears at the front without hesitation.
“H-Hifumi-san? No matter how you look at it, you are here too fast...” (Sabnak)
“This guy is my prey. You have missed your chance, slowpoke... ah?” (Hifumi)
Hifumi frowned due to Ribezal’s state and after looking around he sighed.
“He isn’t even conscious, huh? He became boring.” (Hifumi)
Shaking his head, Hifumi doesn’t care about Ribezal’s spear approaching him.
Without even minding Sabnak’s shout, Hifumi avoids the thrust by having half his body turn sideways. He also slashes at the blade of the spear the moment its forward movement stopped and using the chains it doesn’t touch his body.
Hifumi, taking some distance by pushing the continuously thrusting Ribezal away with a front kick into his stomach, swung the counterweight once again and nailed it into the face of his opponent.
Although he has his nose in the center of the face smashed, Ribezal doesn’t cease to lunge at Hifumi with his spear.
One of Ribezal’s eyes leaps out of its socket and a large amount of blood flows from his eyes, nose and mouth.
Even so, Ribezal doesn’t stop.
“What a lifeless doll. Without having a reason to fight, his attacks etc. are no different from some kind of broken machine.” (Hifumi)
During the time he utters those words, Hifumi, avoiding the spearhead safely, roughly cuts at Ribezal’s arms injuring them in the process with the sickle (kama) held in his left hand.
“Hifumi-san, on top of not feeling any pain, those guys don’t feel anything like fear. Even if you plaster them with wounds... Huh?” (Sabnak)
As Ribezal’s movements gradually became sluggish, Sabnak tilted his head to the side in confusion.
“If it’s a living thing, it will have its body restricted after loosing a fixed amount of blood. It has nothing to do with pain or fear.” (Hifumi)
“I think you should know at least this much”, Hifumi said while Ribezal lost the strength to raise his arms and finally dropped to his knees.
Hifumi, storing away the kusarigama and quickly drawing the katana from his waist, assaulted the front of Ribezal’s armour.
“Found it~~” (Hifumi)
Hifumi tightly grabbed the magic tool, exposed to the air, with his left hand and forcibly tore it off.
Stretching the pipes embedded in Ribezal’s body, they are plucked out making a sound of *ripping*.
The spasming Ribezal, having all of the pipes torn off, collapsed lying spread-eagle while facing up.
“U...” (Ribezal)
“His consciousness has returned, eh?” (Hifumi)
Ribezal, having regained his senses, is bewildered at his own unmovable body.
“You b-bastard are... ! M-My body, what did you... ? What the heck happened... ?” (Ribezal)
“Don’t know. As far as I know, the only thing now waiting for you is death.” (Hifumi)
Hifumi standing up and piercing the bare chest with the katana, lifted up the corners of his mouth as he sensed the feeling of the katana penetrating the heart being transmitted to his right hand.
“Umu. If you kill it has to be a human and not a doll.” (Hifumi)
While looking with great interest at the katana, which hasn’t much blood on it due to the blood having dwindled before, he wipes it with a paper and stores it in the scabbard.
“H-Hifumi-san, if Captain Ribezal’s consciousness has returned before, then...” (Sabnak)
Hifumi answered “That’s right” to the timidly approaching Sabnak.
“I took a chance and tested it out. Unexpectedly his consciousness returned completely. Dying without being aware of it is even for me stupid. It was a good discovery.” (Hifumi)
Sabnak and Biron, watching the whole thing from the start to the end, didn’t say anything to Hifumi, who showed an extremely pleased face, for a while.
“Well then, I am still not finished with my prey yet.” (Hifumi)
Taking out the chigiriki* as his next weapon and grasping it firmly, Hifumi, with a light stride without any fervour, heads towards the battlefield where the melee between the First and Third Knight Order continues.
Watching this, Sabnak yelled in a hurry,
“T-Third Knight Order. All members run awaaaaay!” (Sabnak)
When the fight begun, Beirevra distanced himself a bit. Watching the death of Ribezal, he was stricken by fright.
Being under the influence of the magic tool, Ribezal, being a murdering doll without feeling any dread, wasn’t just lightly dealt with but also expressly had his consciousness returned before getting killed.
Due to the act which can’t be called anything but abnormal, Beirevra trembled in horror in regards of the man called Hifumi, not because of his strength but rather because of his madness.
When he tried to leave the battlefield by crawling as it was a good thing no one saw him, an intense pain traveled through his calf.
“Gyaaa!” (Beirevra)
While rolling around due to the sudden pain, he looked teary-eyed at his foot and saw some cross-shaped metal stuck there.
“W-What on earth is this?” (Beirevra)
A single girl approached Beirevra who couldn’t feel his foot due to the intense pain.
“Just when I caught up with Hifumi at last... I haven’t shown my gratitude to Hifumi for this good luck.” (Origa)
It is Origa slowly walking over with a shuriken in her right hand.
While her fair-skinned face is expressionless, he green pupils are leaking a powerful killing intent as she fixes her glare at Beirevra.
“Ara, it seems you remembered.” (Origa)
Although it is just a trifling honor, she throws a second shuriken in the same way and also inflicts a wound on the yet unhurt foot.
“Guu...” (Beirevra)
Without being able to raise his voice already due to the pain, Beirevra clenches his teeth, frantically pulls out the shuriken and binds up the wound with a piece of ripped off cloth. Nevertheless, the blood doesn’t stop to spill.
“Won’t you help me... ? With my feet like this, there is nothing but death in the wild awaiting me by now. At least I want to die more calmly...” (Beirevra)
Beirevra, showing a disgraceful lamenting, anticipated help from the spy of Horant within his mind.
He continues his speech to gain further time as the pursuit isn’t coming.
“Therefore...” (Beirevra)
“Shut up.” (Origa)
Origa finished the casting during the time Beirevra wept and begged. The wind blades mercilessly sent one arm flying.
“Gyaaaaaaaaaaaaa!” (Beirevra)
Origa’s facial expression doesn’t even change a bit seeing Beirevra turning a somersault scattering his blood after having his arm cleanly cut off at the root of his shoulder while bawling with a *giddy laughter*.
“For you it is an appropriate way to die while grovelling on the ground like this frantically trying to survive. Have a disgraceful, uncouth and gruesome death. And only after that the possibility of me forgiving your deeds might appear.” (Origa)
By now, he isn’t capable to even talk anymore. Beirevra, restlessly stirring his injured feet and trying to move to escape the predicament, repeats his talking about help as if in delirium. Origa doesn’t listen to him.
“You probably don’t understand the humiliation we suffered. I don’t want you to understand it either. If we didn’t have the luck to be picked up by Hifumi, by now we would...” (Origa)
Drawing near to the struggling Beirevra, she tramples down on his abdomen and his movement ceases.
Beginning to have a hazy consciousness due to the blood loss, Origa is reflected in Beirevra’s blurry field of vision. He watched her taking off the dagger fixed to her wrist and grasping it tightly in her right hand.
“Hifumi-sama, I wish to express my gratitude. I am able to carry out my revenge with this. And, look Kasha, at the way our foe heads towards his death.” (Origa)
Origa, murmuring as if she is holding a conversation with someone bit by bit, swung down the dagger with all her strength towards Beirevra’s chest.
Being stabbed in the heart, it was an instant death for Beirevra.
Having pulled out the dagger, Origa noticed herself sobbing.
She doesn’t understand the reason for those tears either, but just by finishing her revenge, she could definitely feel the liberation of her own heart within her chest. |
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} | 「ひとつ、聞いておこう」
ラボラスは、ナイフの柄を握りしめたまま、抜かずに問いかける。
「なぜ、この森へ来た?」
「魔人族がこの森の奥にいる、と聞いた。そいつらを見に来た」
「魔人族に会うつもりか」
「そう言った」返答を聞いて、ラボラスは素早くナイフを抜く。
は正眼の構えのまま、動かない。
「魔人族は危険だ。何をするつもりかは知らんが、我らがこの世界のために奴らを閉じ込めているというのに、無用の騒動を持ち込む事は許さん」
ナイフ逆手に持ち、左手は魔法を放つ為にフリーにしたラボラス。
その動きを見た5人のエルフが、同様に弓やナイフを構える。
「逃げたい軟弱者は、さっさと失せろ! ここに残るのは、この森、そして世界を守る覚悟があるエルフだけでいい」
ジリジリと逃げ始めていたエルフたちの足が止まった。
一二三も、彼らがどちらを選ぶかを待っている。
「俺は......無理だ」
「俺もだ」
立て続けに二人のエルフが逃げ出したが、残った三人の若者は、意を決して武器を手にとった。
「役者は揃ったな。始めようか」
初手はラボラスの魔法攻撃だった。
鋭く先が尖ったこぶし大の石礫が、立て続けに何十発も弾けるような速度で一二三を襲う。
そのまま猛進して突きを見舞うが、ラボラスは乱暴にナイフで弾いた。
ナイフを振った勢いで、素手の左手が一二三の腹に叩き込まれる。
当たる瞬間に地面を蹴り、身体を浮かせた一二三は、殴られた勢いをそのまま距離を取るのに利用した。
再び、同じ距離で対峙する。
突然の接近戦に、周囲のエルフたちは援護も何もできず、魔法や弓の構えをとりつつ見守るしかない。
「速いな。打撃もできるのか」
一二三は、再び刀を構え直した。
殴られた腹は、内臓までは問題なさそうだが痣くらいは付いているだろうと思えるくらいには痛い。
「魔法一辺倒の無能では、男衆のまとめ役は務まらん。今のはうまく避けたようだが、次はそうはいかん」
ナイフを順手に持ち替え、ラボラスが背中を丸めるようにして構える。
右手に持ったナイフを突き出し、左手はすぐに魔法を放てる形で添えている。
「変わった構えだな。だが、馴染んでいるようだ」
「そうだ。これがこの森で培われた我らエルフの技。貴様ら人間とは、魔法も武器も、技量のレベルが違うのだ」
足を滑らせるようにして、ラボラスがジリジリ距離を詰めてくる。
一瞬、ラボラスが視線を外した事を一二三は見逃さない。
一二三が一歩だけ身体をずらしたところで、風の魔法が足元ではじけた。
「......避けたか」
「わかりやすい合図はやめろ。興ざめする」
「ふん......やれ!」
ラボラスの号令で、矢と魔法が一斉に一二三を襲う。
その速度は先ほど一二三を襲ったエルフたちよりも一段と早く、威力も高い。
一二三は刀で弾き、身体を振って避けるが、飽和攻撃に合わせる形で、絶妙なタイミングでラボラスのナイフやくさび型の石で攻撃を加えてくる。
「避けているだけではな!」
さらに速度を上げて攻撃を重ねてくるラボラス。
そのうちの一撃、突き出されたナイフを素手で払った一二三は、背を向けて駆け出した。
「逃げるか!」
「違うな」
ナイフで傷ついた腕を振り、一人のエルフの視界を血で塞ぐ。
「うっ?」
矢を放とうとしていたエルフは、急に赤く染まった視界に一瞬だけたじろいだ。それがその男の最期の瞬間となった。
握られた木製の弓ごと、腰の部分で一閃して身体を両断する。
「なんとなく、だが」
飽和攻撃を加えた相手に仲間が殺されたせいか、ふと、攻撃が止む。
「魔法より矢の方がわかりにくい。いや、逆だな。魔法はなんとなくわかるようになってきた」
言いながら、背後から迫っていた風魔法を刀の柄で叩き散らした。
「......貴様、本当に人間か......」
一筋の汗をこぼしたラボラスの、押し殺したような声に、一二三は笑顔で答えた。
「あたりまえだ。俺もお前も、お前らも、斬られれば死ぬ、普通の人間だ。あんなふうに」
身体を二つに分かたれた死体を指差す。
「だから、やり直しの効かない殺し合いにワクワクするんだろうが」
傷ついた左手を気にすることなく、両手でしっかりと刀を握りに構えた一二三。
「お前は、どうしてもここで殺さねばならん」
「そうか、頑張れよ」
他人事のように呟いた一二三に、再び魔法の攻撃が集中した。
先ほどまでと違い、一二三は縦横に駆け回りながら魔法をやり過ごし、並ぶエルフたちの間を
「あぅっ!」
「ぐああっ?!」
方々から悲鳴が上がり、血煙を噴き上げて倒れるエルフたち。
同胞が邪魔で狙いをつけられずにいるうちに、さらに三人が殺された。
ふと、何かに気づいた一二三が、一人のエルフの背中を押した。
「えっ?......え......」
一瞬、何をされたかわからなかったエルフだったが、激しい衝撃に視線を落とすと、自分の胸に突き立つ大きな石の楔が見える。
「なんで......」
理由もわからないまま絶命したエルフが倒れると、魔法を放ったラボラスの視界に、笑顔の一二三が映った。
「ら、ラボラスさん!?」
同士打ちに驚いたエルフは、一二三からラボラスへと目を向けたところで刀に心臓を突かれ、即死した。
ラボラスは串刺しになった仲間ごと魔法で一二三に次々と石を飛ばす。
刀を引きつつ、死体を蹴り飛ばして盾にした一二三は、膝の力を抜いて倒れるような極端な前傾姿勢で駆けた。
ラボラスではなく、別のエルフに向かって。
「く、来るな!」
驚愕し、慌てて魔法を向けようとするが、遅い。
一二三が逆袈裟に切り上げようとして、今度は後ろに転がった。
助かった、とエルフが安堵したのは一瞬で、ラボラスが放った細かく、先の尖った弾丸のような石弾が全身を穿った。
「チッ」
「俺の獲物を横からさらうなよ」
散弾を避けられ舌打ちするラボラスに、一二三は口を尖らせた。
ラボラスは答えない。
足が止まった一二三に向け、ナイフを手に轟然と迫る。
エルフのイメージとはそぐわないその強靭な肉体と同様、愛用のナイフも肉厚で重厚だ。
対して、その攻撃は繊細で隙がない。
「いい腕をしている」
的確に急所を狙う突きと、逃げ道を塞ぐように振られる斬りつけが混じると、周囲からの魔法を捌きながら対応する一二三は、ジリジリと下がりながら小さな切り傷を増やしていく。
だが、一二三は手を出さない。
そして、余裕の表情をしているのは一二三の方だ。
「速い。だが、素直すぎる」
その瞬間、ラボラスを含めたエルフたちは、信じられないものを見た。
一二三が構えた刀が、ナイフの突き全てに切っ先を当てていく。突きで突きを迎え撃っている。
無数の火花が、二人の間に暴れまわっていた。
「信じられんことを、する!」
必死で突きの速度を上げるが、一二三はそれに余裕で付いて行く。
「読みやすいのがいかん」
ギシギシと金属音が、テンポを速める。
「ぐ、この!」
しびれを切らしたラボラスが、防御を突き破る勢いで体ごと突きを繰り出す。
だが、一二三はそれを迎え撃つ事なく、前のめりになったラボラスの脇を通りすぎる。
「あ?」
想像していた衝撃が無く、前に向かってたたらを踏んだラボラス。その膝を一二三は横から踏みつけた。
バランスを崩したラボラスは、素直に倒れず、無理に身体をひねってナイフを振るった。
だが、伸ばした腕は刀に切り飛ばされる。
「クソがぁああ!」
腕を失い、叫び声を上げたラボラスの喉を、するりと入り込んだ刃が切り裂く。
熱い血液を喉と口から溢れさせたラボラスは、一二三を睨みつけたまま、死んだ。
「ら、ラボラスさんが......」
未だ生き残っているのは一人の若い男のエルフのみ。
「え、えっと......」
手に持った弓を捨てたエルフは、頭を下げて許しを乞うべきか、どのような言葉を並べるべきか、迷い、口から息を吐くばかりだ。
膝をついたエルフに、一二三は刀を提げたままで近づく。
「選択の機会はあった」
だから、これはその結果でしかない、と一二三は刀を振り下ろした。
☺☻☺
ザンガーが木戸の外れる音に顔を上げると、血まみれの一二三が立っていた。
「......あたしを、殺しに来たのかい?」
プーセとシクは、ザンガーの両脇に寄り添う。
「まだ死にたいと思うなら、それはそれで構わんが」
一二三が放ったナイフが、囲炉裏の灰に突き立つ。
「これは......ラボラスのナイフだね」
時折、丁寧に手入れをしたナイフをじっと見つめているのを、ザンガーも何度か見ていた。
「ラボラスは、死んだんだね......それで、あんたに敵対したエルフに、報復をしたいと思うかね?」
プーセとシクが、身体をこわばらせた。
「......怒っているんじゃないのかい? この村のエルフは、あんたを襲ったんだよ?」
「戦いたいなら殺す。そうじゃないならわざわざ弱い奴を殺しても楽しくもなんとも無い。それより、魔人族を見に行く方が優先だ。俺は一眠りしてくるから、昼には案内してもらうぞ」
一二三が踵を返すと、ザンガーが慌てて手を伸ばした。
「ま、待っておくれ」
勢いよく腰を上げたザンガーを、プーセが支える。
「シクに聞いたよ。エルフの最期について、何かを見つけた、と」
一二三は、先ほどのエルフたちに話した事を説明した。
体内に入った何かが溜まり、身体の末端からじわじわと固まって変質する様を説明され、プーセは青い顔をしているが、ザンガーは頷きながら聞いていた。
「......ようやく、納得できたよ。あたしが妙に長生きできた理由が」
ふぅ、と息を吐き、ザンガーは消えかけた囲炉裏の火に枝を放る。いつもより丁寧に、そっと落ちるように。
「あたしはね、小さい時からあまり外に出なかったんだよ。森も、怖くてあまり近づかなかった。森の木々からの“何か”が理由なら、あたしが変質するのが遅いのもわかるよ。思えば、よく森で過ごした者ほど、早く死んでいった気もするけれどね。今更言っても、どうしようもないけれど」
話ながら、ザンガーは涙をこぼしていた。
顔をくしゃくしゃにして、歯を食いしばりながら、ただただ泣く。
「森の民と言いながら、森の恵みで生きながら、あたしたちは森に殺されていたんだね......。こんなに虚しいことはないよ......おばあちゃん......」
幼い日、見捨ててしまったあの祖母は、どんな気持ちだっただろうか。
死の瞬間が安寧ではなかったという絶望に、見捨てられたという絶望が重なった心境は、どれだけ悲痛だったか、想像することすら出来ない。
「ザンガー様......」
不安げに声をかけてくれるプーセやシクを見て、ザンガーは傍らの布で乱暴に涙を拭った。
「ひっひ......恥ずかしいところを見せてしまったね。......人間さん、一つ、お願いがあるんだがね」
立ち上がり、無表情に見下ろす一二三に、ザンガーは頭を下げた。
「あたしを始め、この村から出て行く者を募るから、どこか別の土地へ連れていってくれないかね?」
「ざ、ザンガー様?」
驚いたプーセが声を上げるが、ザンガーは頭を下げたままだ。
「この村の、エルフの指導者として、この挑戦だけはやっておきたいのさ。この森に、いつかエルフは取り込まれる。いや、もう取り込まれているんだろうね」
「俺は、魔人族の所へ行くと言ったはずだが?」
「そこから戻ってからでいいのさ。村の希望者をまとめるにも、時間がかかるからね。無茶なお願いだというのはわかっているけれど、あたしにできる事はなんでもするよ」
それが、指導者としての義務だ、とザンガーは一二三を見た。
「エルフは、魔法が得意なようだが」
唐突な質問に、ザンガーはひゃっひゃっと笑った。
「そうだねえ。あたしも得意だし、このプーセも治療魔法はたいしたもんだよ」
「それを、異種族に教えたことはあるか?」
「無いね。でも、できるかもしれないよ......いや、やるしかないんだろうね。それが人間さんの願いなら」
返答を聞いた一二三は、顎に手を当てて唸った。
「......なら、やってもらおう」
話は戻ってからだ、と言い残し、一二三は出ていった。
「ザンガー様、私はついて行きます。......私も、あの森の光景が怖くなりました......」
「いいのかい? あんたはまだ若いから、無理に森を出ることはないんだよ?」
プーセは、微笑みながらそっと首を横に振った。
「ザンガー様は私に魔法を教えてくださった方です。その方が何かに挑戦されようというのに、お手伝いしないなんてありえません」
「ぼ、ぼくも手伝うよ! ......魔法は、難しいけれど......」
シクの頭を撫で、ザンガーはありがとう、と呟いた。
「なんだか、ワクワクしてきたねぇ」
同胞が殺されたというのに、自分は本当に残酷なんだろうね、とザンガーは内心で思っていた。 | “I want to ask you one thing.” (Laboras)
While grasping the haft of the knife tightly, Laboras asks without drawing the blade out.
“Why did you come to this forest?” (Laboras)
“I heard that the demon race is deep within this forest. I came to visit them.” (Hifumi)
“You plan to meet the demons, huh?” (Laboras)
Hearing Hifumi’s reply, Laboras swiftly draws his knife.
While having a stance of aiming at the eyes with his katana, Hifumi doesn’t move.
“The demons are dangerous. I don’t know what you intend to do, but even though we are imprisoning them on behalf of this world, you are only bringing unnecessary turmoil.” (Laboras)
Laboras kept his left hand free to use magic while holding the knife in a backhand grip in his right hand.
The five elves who saw that change, similarly set up their bows and knives.
“Get out of my sight, you weakling who want to escape! The ones who are to stay here are only the elves who have the resolve to protect this forest and world.” (Laboras)
Having started to retreat bit-by-bit, the elves stopped their feet.
Hifumi is also waiting to see which choice they will make.
“For me... impossible.”
“For me as well.”
One after the other two elves ran away, however the remaining three elven youths readied their weapons.
“The actors have assembled. Let’s begin?” (Hifumi)
The beginning was a magic attack by Laboras.
Several tens of fist-sized pellets which had sharpened points assault Hifumi in succession at a speed similar to a machine-gun.
Although Hifumi dashed forward swiftly and greeted with a thrust, Laboras roughly repelled it with his knife.
Laboras drives his free left hand into Hifumi’s abdomen with the momentum of the swung knife.
Kicking the ground at the moment of being hit, Hifumi who became unsteady used the force of being struck to take some distance.
Once again they face each other at the same distance.
Due to the sudden close combat, the surrounding elves are unable to give cover or to do anything else. Even though they have readied their spells and arrows, they have no choice but to watch attentively.
“You are quick and you are even able to hit me, huh?” (Hifumi)
Hifumi fixed his stance once again.
The hit abdomen is painful to the extent that I can at least expect a bruise though it’s unlikely to have reached as far as my internal organs.
“An incompetent person who completely relies on magic isn’t fit to act as mediator between men. It seems that you avoided it skilfully just now, but next time that won’t work.” (Laboras)
Changing his hold of the knife to an overhand grip, Laboras takes a stance of curling up his back.
Holding out the knife he held in his right hand, his left hand supports in a style of enabling him to release magic at any time.
“It’s a different stance. However, it looks like you are familiar with it.” (Hifumi)
“Indeed. This is an elven technique we have fostered in this forest. It’s at a different level in skill, weaponry and magic in comparison to you lowly humans.” (Laboras)
Making sure to slide his feet, Laboras slowly closes the distance.
Hifumi doesn’t miss the instant Laboras shifted his sight.
A wind spell burst open underfoot the spot where Hifumi moved away from with a single step.
“... Avoided, huh?” (Laboras)
“Don’t leak such easily detectable signs. It’s a kill-joy.” (Hifumi)
“Humph... do it!” (Laboras)
Upon Laboras’ command arrows and spells attack Hifumi all at once.
Their speed is much faster than that of the elves who attacked Hifumi a while ago. The power is higher as well.
Hifumi avoids them by shifting his body and repelling them with his katana, but in a style of matching the saturation attack, Laboras adds attacks with his knife and wedge-shaped stones with a perfect timing.
“You are doing nothing but avoiding!” (Laboras)
Laboras increases the speed by stacking up even more attacks.
Hifumi, who knocked aside the thrust out knife among those blows with his bare hand, turned around and ran off.
“Are you running away?” (Laboras)
Swinging his arm which was wounded by the knife, Hifumi steals the sight of an elf with his blood.
“Ugh?”
The elf, who tried to fire an arrow, faltered only for an instant due to his abruptly dyed red field of vision. That became this man’s final moment.
Alongside the wooden bow he grasped in his hands, his body was was bisected into two parts at the waist in a flash.
“It’s only vaguely, but...” (Hifumi)
As result of their companion being killed by the opponent who was showered with a saturation attack, they unintentionally cease their attacks.
“The style of the archery is harder to grasp than the magic. No, it’s the other way around. I reached the point where I can somehow understand the magic.” (Hifumi)
While saying that, he struck the wind spell approaching from behind with the hilt of the katana and scattered it.
“... You bastard, are you really a human...?” (Laboras)
Due to the subdued voice of Laboras who spilled drops of sweat, Hifumi answered with a smile,
“That’s obvious. You, me, you guys will die if we are cut by a blade. We are normal people. Just like him.” (Hifumi)
He points at the corpse which had its body split in two.
“That’s probably why we get thrilled by killing each other, because starting over is not possible.” (Hifumi)
Without minding his injured left hand, Hifumi grasps the katana tightly with both hands and assumes a hachisou* stance.
“I will kill you here by all means.” (Laboras)
“I see. Do your best.” (Hifumi)
Once again the magic attacks concentrated on Hifumi who muttered that as if it was someone else’s problem.
Different to before, Hifumi lets the spells go past while running around as he pleases. He slips through the spaces between the lined-up elves just like a whirlwind.
“Auu!”
“Guaaa?”
The elves in all directions raise screams and collapse in fountains of blood.
While being hindered by their brethren making them unable to take aim, three more got killed.
Suddenly noticing something, Hifumi pushed the back of an elf.
“Eh...? Eh...”
The elf didn’t comprehend what was done to him for an instant, but once he lowered his look due to an intense impact, he saw a large wedged stone piercing into his own chest.
“Why...?”
Once the dead elf collapsed without even understanding the reason, Hifumi’s smiling face was reflected in the sight of Laboras who released the spell.
“L-Laboras-san!?”
An elf, surprised by the friendly fire, shifted his attention from Hifumi to Laboras and was instantly killed by the katana stabbing directly into his heart.
Laboras fires one stone after the other at Hifumi with magic while including his companion, who got skewered, in the line of fire.
While pulling out the katana, Hifumi, who decided to use the corpse as shield and kicked it flying, dashed in an extremely forward-bent posture, as if falling, by drawing out the power of his knees.
He doesn’t head towards Laboras, but to another elf.
“D-Don’t come!”
Although he tries to face Hifumi with magic in panic and fright, he is too slow.
As he tried to finish him with a reversed diagonal shoulder slash, Hifumi fell onto his back this time.
At the moment the elf felt relieved with a “I’m saved,” his entire body was riddled with holes by the stone bullets, similar to finely sharpened shells, fired by Laboras.magic
“Tsk.” (Laboras)
“Don’t sweep away my prey from the side.” (Hifumi)
Hifumi pouted at Laboras who clicked his tongue due to Hifumi avoiding his shots.
Laboras doesn’t reply.
Facing Hifumi who stopped his feet, he approaches him with the knife in his hand while roaring.
Similar to his strong body, which doesn’t suit the image of elves, his knife is also thick and solid.
In contrast to that, his attacks are precise without any gaps.
“You are quite skilled.” (Hifumi)
The thrusts are accurately aiming at the vital spots and the blended-in slashes are swung in order to close possible escape routes. Hifumi, who deals with those while handling the spells from the surroundings, is slowly retreating while getting more and more small gashes.
However, Hifumi doesn’t take the initiative.
And, Hifumi has a composed expression.
“Fast. But, those attacks are too straightforward.” (Hifumi)
At that moment, the elves including Laboras saw something unbelievable.
The katana wielded by Hifumi counters all of the knife thrusts with its point. The thrust are met with thrusts.
Countless sparks violently revolved between those two.
“I can’t believe that you are doing this!” (Laboras)
Although Laboras frantically raises the speed of his thrusts, Hifumi calmly follows up on that.
“Easily readable attacks won’t work.” (Hifumi)
The tempo accelerates accompanied by creaking metallic sounds.
“Guh, this!” (Laboras)
Laboras, who grew impatient, unleashes a thrust entrusting the weight of his entire body into it with a force to break through Hifumi’s defence.
However, Hifumi passes alongside the flank of Laboras who pitched forward without meeting the attack.
“Ah?” (Laboras)
Laboras stumbled a step or two forwards as the impact he expected was missing. His knee was stepped on by Hifumi from the side.
Losing his balance, Laboras forcibly twisted his body without collapsing obediently and swung his knife.
But, his outstretched arm is sent flying after getting cut by the katana.
“Damn iiitt!” (Laboras)
The throat of Laboras, who raised a scream after having lost an arm, is torn open by the blade which pierced into it in a smooth and unhindered motion.
Laboras, who spilled hot blood from his mouth and throat, died while glaring at Hifumi.
“L-Laboras-san is...”
There still one young elven man alive.
“U-Umm...”
Throwing away the bow he held in his hands, the elf just bows while only breathing out from his mouth as he is puzzled whether he should beg and what kind of words he should use.
Hifumi approaches the elf, who fell to his knees, while holding the katana in his hand.
“You had a chance to choose.” (Hifumi)
“Therefore this is nothing but the outcome of your choice”, Hifumi swung his katana downwards.
☺☻☺
Once Zanga raised her face due to the sound of the sound of the wooden door being lifted, the bloodstained Hifumi stood there.
“... Did you come to kill me?” (Zanga)
Puuse and Shiku are nestling close to Zanga on both her sides.
“If you still believe that you want to die, I won’t mind.” (Hifumi)
The knife, thrown by Hifumi, pierces into the ashes of the sunken hearth.
“This is... Laboras’ knife.” (Zanga)
Intently staring at the knife which she had sometimes carefully maintained, Zanga had seen it several times in the past.
“Laboras is dead... so, do you yearn to exact your revenge upon the elves who were hostile towards you?” (Zanga)
Puuse’s and Shiku’s bodies stiffened.
“Not really.” (Hifumi)
“... You aren’t angry? This elf village attacked you, didn’t it?” (Zanga)
“I will kill if I’m challenged. If that doesn’t happen, I have no hobby of going out of my way to kill weaklings either. Rather than that, I prefer to go visit the demon race. I will have you guide me there at noon after I got some sleep.” (Hifumi)
When Hifumi turned on his heel, Zanga extended a hand in panic.
“P-Please wait.” (Zanga)
Zanga, who got up vigorously, is supported by Puuse.
“I heard from Shiku. He told me that you discovered something about the final moment’s of an elf.” (Zanga)
Hifumi explained what he told the elves from before.
Explaining the accumulation of something that entered their bodies and the way it changes by slowly hardening from the extremities of the body, Puuse’s face turns pale. But, Zanga listened while nodding.
“... Finally I’m able to understand, the reason for my strangely long life.” (Zanga)
Zanga tosses a twig into the fire of the sunken hearth which was about to vanish and blows at it with a “Fuu~” Politer than usual, she lowers her body softly.
“I didn’t go outside much since I was small. I didn’t get too close to the forest either because I was scared. If that “something” from the forests’ trees is the reason, then I can understand why my transformation has been slow. Now that I think about it, I have a feeling that those, who spent a lot of time in the forest, died early as well. However, even if I say that now, it cannot be helped anymore.” (Zanga)
Zanga shed tears while talking.
She only weeps while enduring the pain with a dishevelled expression.
“While living with the blessing of the forest and being called the people of the forest, we were getting killed by that very forest... It can’t be something that empty... Grandma...” (Zanga)
What kind of emotions did her grandmother, she ended up abandoning in her childhood, bear, I wonder?
Her mental state, which was burdened with the despair of having abandoned her and the despair of her grandmother not having had a peaceful death; just how heartbreaking was it? I’m not even able to imagine it.
“Zanga-sama...” (Puuse)
Looking at Shiku and Puuse who is uneasily calling out to her, Zanga roughly wiped away her tears with a cloth at her side.
“Hii hi... I ended up showing you something embarrassing. Human-san, I have a single request.” (Zanga)
Standing up, Zanga bowed towards Hifumi who is looking down on her expressionlessly.
“Since I will recruit those who want to leave this village, can you please take us, including me as well, to some other place?” (Zanga)
“Za-Zanga-sama?” (Puuse)
The shocked Puuse raises her voice, but Zanga remains in a state of bowing.
“As leader of the elves of this village I only want to popularize this attempt. One day the elves will be imprisoned by this forest. No, they already are, I think.” (Zanga)
“Didn’t I tell you that I’m going to the demons?” (Hifumi)
“It’s fine if it’s after you come back from there. Also, gathering the interested people of the village will take time. I know that I’m making an unreasonable request, but I will do anything for it.” (Zanga)
“That’s my duty as leader”, Zanga looked at Hifumi.
“Aren’t elves good at magic though?” (Hifumi)
Zanga laughed with a “Hya Hya” due to the sudden question.
“They are. It’s my strong point. Puuse is quite skilled at healing magic, too.” (Zanga)
“Is that something which you were taught by another race?” (Hifumi)
“I don’t think so. It might be possible... No, I guess there’s no other choice but to do it, if that’s your wish, human-san.” (Zanga)
Hearing her answer, Hifumi placed a hand on his chin and groaned.
“... If that’s the case, I will have you do it.” (Hifumi)
“Further talks are after I come back”, leaving those words behind, Hifumi went away.
“Zanga-sama, I will accompany you. ... I have also become scared of this forest’s scenery...” (Puuse)
“Are you sure? It’s not like you have to force yourself to leave the forest since you are still young.” (Zanga)
Puuse softly shook her head while smiling.
“It’s my way of thanking you for teaching me magic, Zanga-sama. Even though that method will be some kind of challenge, something like not helping you is impossible for me.” (Puuse)
“I-I will help as well! ... Magic is difficult, but...” (Shiku)
Stroking Shiku’s head, Zanga murmured a “Thank you.”
“Somehow it got exciting, didn’t it?” (Zanga)
Although my brethren got killed, I guess I’m truly cruel |
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} | 街にどこへともなくゆるゆると歩いていく。
城を出て、貴族たちのものと思われる大きな屋敷が立ち並ぶエリアを抜けると、2階や3階建ての家が並び、商店や屋台が集まる商店区画にたどり着いた。
何かの肉や魚を焼いて売っている屋台からは良い匂いがする。
野菜を大量に積み上げた店では、いかにも庶民らしい人たちが楽しそうに井戸端会議に花を咲かせている。
レストランは道端までテーブルが出ていて、老人たちがパイプを加えて何やら語り合っていた。
老若男女、たくさんの人々が行き来し、何かの客引きの声があちこちで響き、喧騒をさらに一層騒がしくしていた。
服装は様々だが、あまり綺麗とは言えない。服飾産業はあまり発展していないのかもしれないと、は思った。
ちなみに、一二三の格好は古武道の濃紺の道着に袴、足にはスニーカーというスタイルだ。他には見ない格好なので、何人かがチラチラと見てくるが、日本にいる時から道着で出歩く癖があったので、特に気にならない。
(王が無能でも、街の奴らはたくましく活きているというやつか。王が誰であろうと、自分の人生を謳歌しているようだな)
闇魔法収納から銀貨を取り出し、適当な屋台で串焼きをいくつか買ってみた。銅貨5枚の串焼きを買うのに銀貨を出したら嫌がられたが、釣りはいらないと言うと、頼んだ量の倍を差し出された。
食べながら歩いていると、ふと見慣れない雰囲気の店を見かけた。
何かの商品を並べるわけでもなく、これといって呼び込みをしているわけでもない。暖簾のように黒い布を垂らした入口に、いかつい男が腕組をして立っていた。
看板はあるが......一二三には読めない。
気になったので、声をかけてみることにした。
「あぁ......なんだ?」
急に話しかけられて、男は眉をひそめて応じた。
「ここは何かの店なのか?」
「看板に書いてあるだろう。ここは奴隷屋だ。お前みたいな奴には関係ない店だ」
「関係ない? 紹介でもいるのか?」
「......そんなもんはいらんが、ウチの奴隷は安くても金貨50枚からだ。お前みたいな若造に払える金額じゃないだろう」
話は終わったと、男はまた視線を通りに向けた。
(奴隷か......)
一二三は、歩きながら考えていた今後の事について、再び考えを向ける。
(まずはこの世界を回ってみようと思ったが......)
さっきの会話の中でも、文字が読めない、金銭の価値がわからない、商取引のルールを知らないなど、必要な知識がまるで足りていない事が露呈してしまった。屋台で買い物はしたものの、釣りをもらっていないので、銀貨と銅貨の交換比率もわからない。
奴隷がいれば、そういう知識も得られるし、この世界で自由にやっていくのに何かと便利かもしれない。金はたっぷりある。城の金庫の半分の量をもらったのだ。多少高い奴隷を買っても、足りないということはないだろう。
裏切ったりするならば、始末すればいい。
「金貨というのはこれか?」
闇魔法収納から金貨と思われるコインを1枚出して、男に放り投げた。
「あ? ......ああ、だが一枚や二枚じゃ......」
「手を出せ」
男の手首を掴んで手のひらを無理やり上に向けさせる。見た目からは想像できない一二三の腕力に驚く男の手の上に、さらに収納から金貨を30枚ほどぶちまけた。
半分以上がこぼれて散らばるが、一二三は気にも留めない。
「うおっ!?」
「これは親切に教えてくれた礼だ。商品を見せてもらいたいんだが、いいな?」
呆然としていた男は、慌てて金貨を拾い集めてから、態度を180度変えて一二三を店内へ促した。
「こ、こちらでお待ちください! だ、旦那様~!」
応接へ一二三を座らせた男は、店の奥に走って引っ込んで行ってしまった。どうやら、応対は別の人物が来るらしい。
ほとんど待たさせることなく、地味ながら質の良さそうな服を着た男がやってきた。
「お待たせして申し訳ありません。この店を経営させていただいております、商人のウーラルと申します。門番風情のミドの奴に、大変な大盤振る舞いをしていただいたとか......」
笑顔ではあるが、その視線は初めて見る一二三を値踏みしているのが明らかだ。
「あれくらいは大したことじゃない。それよりも、ここで奴隷が買えると聞いたんだが」
「これは太っ腹で。当店は確かに奴隷を商っております。お客様は、奴隷を購入されるのは初めてでしょうか? よろしければ、奴隷についてご説明をさせていただければと思うのですが」
「ああ、恥ずかしながら何も知らない田舎者でね。こちらからお願いしたいところだ」
「では......」
ウーラルの説明は要点をしっかり押さえて簡潔でわかりやすかった。
・奴隷は犯罪奴隷や借金奴隷、家族や村の為に売られた換金奴隷などがいる。
・犯罪奴隷はほぼ全員が国の奴隷となり、鉱山等で強制労働を強いられ、一般に出回ることは無い。
・一般に売りに出ているのは借金奴隷か換金奴隷で、この店にもこの2種しかいない。
・誘拐されて奴隷にされた者もいるが、誘拐はもちろん、そういった出自の奴隷を取り扱うだけで極刑に処されるので、まずまともな商人なら取り扱うことはない。
・奴隷は特殊な魔法による刺青でその行動を制限され、持ち主に反抗することはできなくなっている。
・奴隷は一切の権利が認められないが、理由なく殺すことは犯罪である。
「理由なくということは、理由があればいいのか?」
「その通りです。刺青による制限で主人やその家族に直接危害を加えることはできませんが、主人の物を盗んだり、主人の友人に害を及ぼした等の理由があれば、罪には問われません」
「正当な理由があると証明する必要は?」
「主人の証言があれば十分です」
なんとも穴だらけの法もあったものだと、一二三はため息をついた。
だが、都合が良い事ではある。
しばし目を閉じて考えていた一二三は、ウーラルに注文をつけた。
「今からいう条件に見合う奴隷はいるか? 金額は気にしなくていい」
ウーラルは質の悪そうな羊皮紙を懐から取り出し、応接のテーブルにあった羽ペンにインクをつけて、次の言葉を待つ。
「充分な体力があり、旅に耐えられること。文字の読み書きができること。自分の身を守る程度には戦えること」
ささっと走り書きをしたウーラルが、ふと目線を上げてきた。
「男性か女性か、どちらがよろしいでしょうか?」
「どちらでも良い。問題は能力だ」
「かしこまりました。では準備をさせていただきますので、少々お待ちください」
ややあって、応接室へ戻ってきたウーラルに促され、さらに店の奥へと進む。
「こちらが、ご希望に会う商品でございます。どうぞご自由にお選びください」
「話しかけても?」
「もちろん構いません」
連れて行かれた部屋は広く、10人ほどの男女が手枷をつけられた状態で並ばされていた。シンプルな貫頭衣は茶色く汚れ、その表情は暗く、おどおどと一二三を見ている。どんな相手に買われるかで、彼らの運命が決まってしまうのだ。
奴隷の目に、自分はどう映るのか一二三は想像してみた。
とても金を稼いでいるような年には見えないだろう。商人か貴族のボンボンにでも見えるか......と思ったが、自分の格好を振り返ると、そうは見えないだろうと苦笑する。
ふと、並んだ奴隷達の中で、端に隣り合って立つ二人の女が一二三の目にとまった。
一人は小柄で、一二三の首くらいまでの背丈。薄い青の髪に、翠色の瞳をしている。
もう一人は一二三と同じくらいの身長で、よく鍛えられた身体をしていた。こちらは茶色の髪に赤みがかった瞳をしている。
(街でも見かけたが、こういう髪や目の色を見ると、文字通り隔世の感というか......。二人共整った顔をしているな。本当なら、娼館の経営者が買取りそうな見た目だが)
「お前とお前、名は?」
「......オリガ」
小柄な方が、消え入りそうな声で答えた。茶髪は答えない。
生意気に睨んでくる茶髪は無視して、オリガに話しかける。
「ではオリガ、お前は何ができる?」
「......風と水の魔法が使える。それに......」
少しの逡巡を見せたあと、ぐっと息を飲んでから続きを話した。
「夜の相手もできます......」
「オリガ!」
オリガのつぶやきに、茶髪が声を荒げる。
ウーラルがムチを手に近づいてきたが、一二三は片手を上げて制した。
「カーシャ、私たちは彼に買ってもらうべきだと思う。どこかの変態貴族に買われるなんて、嫌......」
「そんな事! こいつだってどんな奴かわからないじゃないか!」
茶髪はカーシャという名前らしい。
自分はそんな変な性癖があるように見えるだろうかと、ちょっとヘコむ。18歳の一二三は人並みに性欲もあるし、女性が嫌いというわけでもない。
ただ今は、幾人もの命を奪った満足感が性欲を抑えているが......。
それが異常だと気づかない一二三は、さりげなくカーシャの両手に視線を走らせる。
「カーシャと言ったか。お前は両手で剣を使うんだな。それも両手剣じゃなくて片手剣二刀持ちか」
「な、なんで......」
「手の平と親指、人差し指を見たら大体わかる。筋肉のつき方と今の動きで大体の実力もわかる」
突然の指摘にカーシャだけでなく、オリガやウーラルも絶句している。それが当たっていると知っているのだ。
「た、確かにこのカーシャは剣をつかえます。私は実際には見ておりませんが、冒険者としてある程度稼いでいたようですので、腕の方も確かでしょう。オリガはカーシャと二人で仕事をしていましたので、こちらの魔法の実力も中々のものです。二人共、仕事の失敗で多額の借金を抱えて奴隷堕ちしています」
ウーラルが補足をしてくれた。
オリガもサーシャも、その説明を苦々しい表情で聞いている。
(冒険者か......多分、多くのファンタジー小説で登場するような、採取や討伐を生業とする連中だろう。魔物が存在する世界という話だから、そういう職業もあるか)
「よし。ではお前たちに選ばせようか」
言い放った一二三の表情は、イメラリア王女に向けた冷徹な笑みだった。
「俺はこれから旅をする予定だ。体力もいるし、戦いにもなるだろう。その変わり、俺を裏切らずについて来ることができるなら、楽しい人生を約束する」
「何を言ってるんだか。奴隷になったアタシたちに楽しい人生なんて......」
「私はついていきます」
オリガは小さな声で、しかしはっきりと一二三を選んだ。翠の瞳はしっかりと一二三を見据えている。少しだけ怯えているのだろう。うっすらと涙で揺れているのが見えた。
(やれやれ、こっちに来てから女性に怯えられてばかりだな)
自業自得を棚に上げ、「どうする?」とカーシャの方を見る。
カーシャは動揺していた。
この男は何を訳のわからないことを行っているのだろう?
なぜオリガはこいつについて行く気なのだろう?
目の前の男の顔を見る。
笑顔ではあるが、見れば見るほど背筋が凍る。
こいつは危ない奴だ。とびきり危険な事を何のためらいもなくやる奴だと、直感がガンガンと警鐘を鳴らす。言葉よりもより直接的に、一二三の瞳の奥にある何かが、カーシャの心の中に不安の闇を広げていく。
だが......オリガの事を思うと、カーシャに選択肢は無かった。
「......わかった。どうなるかわからないけれど、アタシもオリガと一緒に連れて行って欲しい......」
「決まりだ!」
一二三には全くもってどういう仕組みかはわからなかったが、オリガとカーシャの肩の後ろにある刺青に、一二三の血を触れさせて契約が完了した。
金額は二人合わせて金貨600枚。
即金で支払った事もウーラルやオリガたちを驚かせたが、珍しい闇魔法の使い手だという事も驚愕の対象だった。
「なんとも不思議な方ですね。お召し物からどこか遠い所からのご来訪だとは思いましたが......」
初めは一二三を見定めようとしていたウーラルだが、今ではすっかり上客としてもてなしていた。応接室では良い香りの茶に添えて、焼き菓子まで用意されていた。
ソファに座る一二三の後ろには、手枷を外されたオリガとカーシャが立っていた。着ているものは貫頭衣のままだが。
「良い商いをさせていただきました。また奴隷がご入用でしたら、ぜひ当店をご利用ください。ご希望にお答えできる商品を揃えておきますので」
「ああ、俺も良い買い物ができたよ」
手をつけずにいた焼き菓子を白い布に包んで手渡され、一二三は奴隷二人を連れて店を出た。
街の喧騒に迎えられ、太陽を見上げて時間は昼を少し過ぎたくらいかと一二三は思った。この世界でも、日の高さで朝昼夜と言うのなら。
「腹が減ったな」
朝稽古中に飛ばされて、軽く屋台で食べたくらいだったので、ちゃんとした食事がしたかった。
「どこか適当な食事ができる店を知らないか?」
「それなら、少し行ったところにうまい店がある......あります」
一二三の問いにカーシャが答えた。
「慣れないなら、無理に敬語で話す必要はないぞ」
さっきとは違う、穏やかな笑みで一二三は言う。
彼は傍若無人で自分勝手な基準で動く、はた迷惑な正確ではあるものの、自分の身内には優しい。敵になると人間扱いしなくなるが。
「じゃあ、そのオススメの店に行ってみるとしようか。ああ、それと......」
続く一二三の言葉を、オリガもカーシャもすぐには理解できなかった。
「俺はこの国の王族に追われているから、一応そのつもりでな」 | Hifumi walked leisurely into the town, disappearing into the crowd.
Leaving the castle, Hifumi passed by an area lined with very large mansions that seemed to belong to nobles, arriving at an area lined with -storey and -storey houses, various shops, stalls and some food carts.
An enticing smell wafts from the stall grilling and selling some kind of meat and fish.
In a shop storing large amounts of vegetables, common people are happily gossiping.
On a roadside table attached to a restaurant, some old men with pipes were discussing something.
Men and women of all ages came and went, voices of merchants resounded here and there, adding to the hustle and bustle.
The clothes varied, but could not be called beautiful. The clothing industry was quite possibly not too advanced, thought Hifumi.
Incidentally, Hifumi was clad in a martial arts uniform, a dark blue hakama, on his feet were a style of sneakers. Besides, some people were glancing at Hifumi, but he wasn’t worried, since it was a habit to go for a stroll wearing his hakama in Japan.
Even though the King was incompetent, these fellows in town are quite well-built. That King was living quite extravagantly.
Taking a silver coin out of the Dark Hole, Hifumi bought some skewers from a stall. He was looked at unkindly for taking out a silver coin for skewers that cost copper coins, but was presented with twice the skewers when he said the change was unnecessary.
As he ate while walking, he noticed a shop with a strange atmosphere.
He did not see any products on display, nothing special drawing him in. A black cloth was hanging over the entrance, and a stern faced man standing near it with folded arms.
Though there was a signboard, Hifumi could not read it.
Because he was interested, he decided to call out.
「 Aa..... what? 」
Suddenly talked to, the man responded with his eyebrows raised.
「 What kind of shop is this? 」
「 It is written on the signboard. It is a slave shop and has nothing to do with a guy like you. 」
「 Nothing to do? Without even an introduction? 」
「 ....Such a thing, the cheapest of our slaves cost gold coins, it is not an amount a youngster like you can pay. 」
Finishing his speech, the man turned his eyes to the street again.
A slave, huh...
Thinking about the future, while walking, Hifumi thought about it again.
Though I intended to travel around the world first...
In the previous events, he could not read the characters, did not understand the values of the coins, and realised that he did not have enough knowledge at all. Though he shopped at the stalls, he did not get the change, so he didn’t know about the conversion rate.
If he had a slave, he would be able to obtain that knowledge, and it would be convenient in the future. He had enough money, after all, he had half the contents of the castle treasury. Even if it was a somewhat high-class slave, it would be sufficient.
In case of betrayal, he would ‘deal with the problem’.
「 A gold coin, like this? 」
Pulling out a gold coin from the Dark Hole, Hifumi threw it at the stern man.
「 Ah? .... Yes, but one or two coins.... 」
「 Put out your hands. 」
Hifumi grabbed the man’s wrist and forced it upwards. He threw out approximately gold coins from the storage into the hands of the man who was surprised at Hifumi’s strength.
Though more than half spilled and scattered, Hifumi was unconcerned.
「 Huh?? 」
「 Thank you for telling me this so kindly, but I want to see the commodities, get it? 」
Dumbfounded, the man quickly picked up the gold coins, his attitude did a complete 80 and urged Hifumi inside the shop.
「 W-Wait here please! M-Masterrrr ! 」
The man disappeared into the depths of the shop, and another person came out.
Without letting Hifumi wait too long, a man dressed in subdued, yet high quality clothes received him.
「 I am sorry for keeping you waiting. I am this shop’s manager. Dealing with the gatekeeper must have left a bad taste in your mouth..... 」
Although smiling, the man appraised Hifumi on seeing him.
「 Not a big deal. Though I heard it is possible to buy slaves here. 」
「 That is generous of you. This shop certainly trades in slaves. Honoured customer, shall we begin the slave purchasing? Of course, I can explain a little about this for a first-time buyer. 」
「 Ah, though embarrassing, I am from the countryside, so please explain everything. 」
「 Well then... 」
The manager explained concisely, holding to the main points.
There are Crime slaves and Debt slaves, slaves sold for the sake of their families or villages called Realisation slaves.
For Crime slaves, all of them belong to the country and are forced to work in the mines, etc, they are generally not sold.
In general, there are only 2 kinds of slaves sold here : Debt and Realisation slaves.
Though there are people who are kidnapped and enslaved, because there is a very high penalty for handling such slaves, most merchants don’t deal in them.
The slave’s actions are limited by a tattoo imbued with special magic, it is impossible to rebel against the owner.
Though slaves don’t have rights, it is a crime to kill one without cause.
「 Is it necessary for there to be a reason? 」
「 I’m afraid so. Though the master or their family cannot harm the slave directly due to the limitation set into the tattoo, if the master’s belonging is stolen, or if an associate of the master is harmed, it is not a crime. 」
「 Is there a need to prove it? 」
「 The master’s testimony is enough. 」
Seeing that the law was full of holes, Hifumi sighed.
However, it is convenient.
Shutting his eyes and thinking for a while, he asked the manager
「 Is there a slave that meets my conditions now? Money is not an issue. 」
The manager takes out a sheaf of parchment from his breast pocket, dips a quill in ink from a nearby table, and waits for the next words.
「 Has to have enough strength, should be able to endure long travel, should be able to read and write. Also powerful enough to protect me in a fight. 」
Quickly scribbling the data, the manager suddenly looked up.
「 A man or a woman, which is preferred? 」
「 Either one is fine. The problem is ability. 」
「 Certainly. We will prepare it, please wait for a while. 」
The manager ushers Hifumi to the interior of the shop.
「 Here, the merchandise that meet your requirements. Please choose freely. 」
「 Talk to them? 」
「 Of course, no problem. 」
The room Hifumi was taken to was wide, and ten men and women lined up against the walls in handcuffs. Wearing simple, dirty tunics, they looked hesitatingly at Hifumi. What kind of person buys them, their fate is in that party’s hands.
Hifumi imagined what he looked like in the eyes of the slaves.
Hifumi hardly looked old enough to be earning money. Did he even look like a merchant, noble or well-to-do young man.... Recalling his appearance, he smiled wryly, realising that was not the case.
Suddenly, among the slaves that had lined up, two women next to each other caught Hifumi’s eye.
One was of small build, height came upto Hifumi’s neck, thin blue hair and emerald green eyes.
The other was almost the same height as Hifumi, had a tempered and hard body. She had reddish eyes and brown hair.
I saw it in town, hair and eyes like this are poles apart..... Both had well featured faces. Truly, an appearance such that a brothel owner will immediately buy them.
「 You and you. Name? 」
「 ....Origa」
The smaller one answered in a fading voice. The brown haired one did not answer.
Ignoring the audaciously staring brunette, Hifumi asked Origa.
「 Then, Origa, what can you do? 」
「 .... I can use wind and water magic. Besides.... 」
After hesitating a little, catching her breath, she continued jerkily
「 At night, can also keep company... 」
「 Origa! 」
To Origa’s murmur, the brunette raised her voice.
「 To be bought by such a person! A perverted noble buying us, how unpleasant... 」
「 Such a thing! Do you not understand what kind of fellow this guy is? 」 (Manager)
The manager raised a whip he was holding and drew near, but Hifumi raised a hand to stop him.
The brunette seems to be called Kasha.
Hifumi admitted he did have a strange air about him. 18 year old Hifumi had a sexual desire like anyone else, and he did not dislike women.
Though currently, the satisfaction of depriving people of their lives suppressed his desires....
Not noticing the abnormality, Hifumi casually ran his eyes over Kasha’s hands.
「 Kasha, is it. You use both hands to wield a saber. In addition, you can wield swords in both hands at the same time. 」
「 H-How... 」
「 Generally, I can understand the rough ability from the muscle movements of your palm, forefinger and thumb. 」(TN: Huh? How?)
Not just Kasha, but even Origa and the manager are at a loss for words.
「 Certainly, this Kasha uses swords in both hands, her ability as an adventurer is quite good. Origa worked alongside Kasha, her magical ability is quite high. Both of them have become Debt slaves due to a large sum of money. 」
The manager supplemented.
Origa and Kasha listened with unpleasant expressions.
Adventurer, huh.... Perhaps such an occupation exists in fantasy novels, forming parties whose task is subjugation and collection of demons and monsters. But in this world, what kind of occupation is this?
「 Okay. Now you two decide. 」
Hifumi’s expression had a cold smile.
「 I plan to travel in the future. Physical strength is necessary, fights are very likely. If you can follow without betraying me, I promise a fun life. 」
「 What do you say? Being slaves to a fun life... 」
「 I will follow. 」
Origa answered Hifumi in a low voice. Her emerald green eyes stared firmly at him. A little frightened, her eyes shook with tears.
Man, I’ve been scaring women since I came here.
Turning a blind eye to his faults, he wondered (What should I do about Kasha?)
Kasha trembled.
Why is this man doing such an incomprehensible thing?
Why is Origa following this fellow?
She looked at the man in front of her.
Though he is smiling, her spine freezes.
This guy is dangerous. Her instinct sounds an alarm, this guy won’t hesitate to jump into dangerous things. Rather than that, the darkness in the depths of his eyes brings anxiety to Kasha’s heart.
However, Kasha had no choice when it came to Origa.
「 ....Understood. Though I do not understand how, I want you to take me with Origa.... 」
「 It is decided! 」(Manager)
Though Hifumi did not quite understand the mechanism of the tattoo, he smeared some blood on the tattoos on Origa and Kasha’s shoulders, completing the contract.magic
The amount of money paid for both of them was 600 gold coins.
Paying the full amount in cash surprised the manager, Origa et al, but it was more surprising that the customer was a user of the rare Dark magic.
「 An extremely mysterious person. Though it is obvious that he is from a far off place based on his clothes..... 」
At first, the manager was trying to analyse Hifumi, but now treated him like a guest of honour, as evidenced by the tea and sweets in the drawing room.
Behind Hifumi who was sitting on the sofa, Kasha and Origa stood with their handcuffs removed, both wearing simple tunics.
「 This was good business. By all means, please visit our shop again when more slaves are needed. 」
「 Ah, I too was able to do some good shopping. 」
Wrapping the sweets in a cloth, Hifumi left the shop with his slaves.
Greeted by the hustle an bustle of the city, Hifumi looked up at the sun. If morning and night were the same in this world, it would be noon.
「 I’m hungry. 」
Time flew during his morning practice, and he had only eaten a snack at the stall. He wanted a proper meal.
「 Do you know any place that serves good food? 」
「 In that case, there is a good store where I went a little.... There it is. 」
Kasha answered Hifumi’s question.
「 It is not necessary to force yourself to use honorifics. 」
Hifumi says with a calm smile, different from a while ago.
Though he has an arrogant and self-centred standard that inconveniences others, he is kind to his family. If someone is not an enemy, he treats them humanely.
「 Then, let us try out the recommended shop. Ah, that’s right.... 」
Neither Origa nor Kasha understood what he said, he continued,
「 I am being chased by this kingdom’s royalty, we need to leave. 」 |
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} | 早朝の街道を、猛烈なスピードでトロッコが走る。
の兵士が向かい合って、無言のまま汗だくでハンドルを漕いでいる。
アロセールをでて、フォカロル目前の現在位置まで休まずに走らせてきたので、二人共疲労困憊だったがも早く領主の元へたどり着かねばならないという義務感に押されて、速度を落とさない。
そのまま終点のフォカロルへ突っ込んだトロッコは、レールの終わりで派手に脱線。兵士たちは事故時の緩衝材として積みあげられた藁の山に頭から突っ込んだ。
一人は気を失ったが、もう一人がガサガサと藁をかき分けて這い出てくる。
「中の方の藁、腐ってるじゃねぇか......」
口に入った藁を吐き出しながら、ふらりと立ち上がった所に、門番の兵が駆け寄ってきた。
「どうした!?」
「ああ、俺は斥候部隊の伝令だ。もう走る気力も無いから、一に伝えてくれ。......ヴィシーの軍勢がローヌに迫っている。数はおよそ13,000、うち魔法使いは500は居ると思われる、と」
「とうとう来たか!」
「よし、俺が館まで行ってくる!」
緊張感よりも高揚感の方が先に出るあたり、ここの領軍の雰囲気がわかる。接する時間は多くなくとも、トップの性質は伝わるらしい。
気絶した兵に水を浴びせて起こし、手が空いている兵は他の連中に話を広めに行った。
ヴィシー挙兵からの、一二三領軍の長い一日は軽い雰囲気で始まった。
オリガが執務室の扉をノックすると、間延びした返答が聞こえた。
中に入ると、一二三が机の上にあぐらをかいて何事かを悩んでいた。カーシャの姿は見えない。
「お呼びとの事ですが、どうかされましたか?」
「オリガか。伝令からヴィシー挙兵の報があった」
「いよいよですか」
「結局、ベイレヴラの事は無視されたな」
オリガはそっと首を振った。
「せっかくお気遣いいただきましたが、ヴィシーの者たちはこれで虎の尾を踏みました。ベイレヴラの事は、ヴィシーが無くなってからでも遅くはありません」
「そうか」
一二三はずっと手元の紙を睨んでいる。
「先程から、何をお悩みですか?」
「随分前から、領にも付ける為の正式な家名を作れと言われててな。出兵の時までに決めないと、とは思っていたんだが」
面倒くさいからもうこれでいいや、と書類に“トオノ”と書きなぐった。別に思い入れも無いが、他に思い浮かばなかったらしい。
この時から、旧ハーゲンティ子爵領はトオノ子爵領となった。
「よし。それじゃ、予定通り先発隊を送って国境警備の連中を退かせるように。例の仕掛けも準備させろ」
「かしこまりました。アリッサに直ぐにご命令をお伝えします。私もお手伝いさせていただき、一二三様の勝利の為に尽くします」
「違うだろう」
今回はローヌを空にして敗走に見せかけて退きつつ、罠にかけて相手の数を減らす作戦を使うと決め、その為の訓練をしている。一二三は別行動だが。
オリガとしては、負けたふりをするのは一二三の印象を悪化させるので相応しくないと、正直に言えば反対したかったが、一二三自身が華々しい勝利などに興味が無かったので、強くは言えなかった。
多くを殺す機会があるから戦争をするのであって、勝てばまた戦えるから勝つように頭をひねるし工夫もするが、勝利そのものはどうでもいいらしい。
「ヴィシーが攻めてきたって聞いたんだけど!」
ドバンと勢いよく駆け込んで来たのは、カーシャだった。
「なんでそんなに落ち着いてるのさ! 早く準備しないと!」
「落ち着きなさい。貴女の役割は決まっているでしょう。ここで喚いている暇があるなら、さっさと一二三様の移動の用意をしてきなさい」
「そ、そうだけどさ......やっぱり、オリガも参加するのかい?」
不安を滲ませた顔で見るが、オリガの顔には動揺も焦りも無い。
「今になって何を言っているの。貴女には貴女の役目が有るように、私にもするべきことがあるの」
「一二三さんもさ、あんまりオリガが前線に出るのは嫌じゃないのかい?」
頑ななオリガではなく、一縷の望みをかけて一二三に話を振ったが、反応は冷淡だった。
「別に。本人の好きにすればいい。別にもう俺の奴隷でも無いんだし」
「私は、一二三様と共に戦います」
言葉での説得は無理だと思ったカーシャは、肩を落とした。
「......準備してくる」
「本当に良かったのですか?」
「あれも大切な舞台装置だ。俺好みの状況を作るには必要なんだよ」
刀を腰に差した一二三は、先に行くと言って出ていった。
「カーシャ......本当に馬鹿なんだから......」
小さなつぶやきは誰にも聞かれなかった。
トロッコによるピストン輸送により、翌日にはフォカロルからアロセールへの軍の移動と展開がほぼ完了していた。この世界では異常と言える速度だ。
「平和だなぁ......」
曇り空だが、気温はさほど低くない。
袴の帯を巻き直しながら、一二三はローヌ方面の街道をぼんやりと見つめていた。街道脇には片道だけだが線路が敷設されている。背後のアロセールの街の中では、避難する住民と装備や道具を整える兵たちで混乱している。
予測では、明日か明後日にはヴィシー軍の先頭がこの街へと到達すると見られる。
「準備できたよ」
アリッサが、二人の兵士を連れてやってきた。
兵士たちは担いできたトロッコをレールに据付け、進行方向を確認する。
「いよいよ始まるね......一二三さんはやっぱり戦争は怖くないの?」
「おおっぴらに人が殺せる機会だ。逃したら勿体無い」
「殺されるかも知れないとか思わないの?」
アリッサの疑問に、一二三はトロッコに乗り込みながら答えた。
「思わないわけないだろ。殺す気があって殺されたくないなんて贅沢だ」
「えっ?」
「よし、出発」
号令に反応して、二人の兵士がトロッコを進め始めた。
グングンと速度を上げるトロッコは、あっという間に見えなくなる。
「一二三さんも、死ぬかもしれないって思うんだ......」
自分が殺されかけた時の事を思い出し、アリッサは一二三がズタズタになる姿を想像しようとしたが、どうにも思い浮かばなかった。
国境があるローヌは無人になっており、以前の戦訓から警戒された罠も無かった。
多くの人数が街道に並び突き進んで来たヴィシー軍は、緊張から一時解放され、ローヌの街を使って野営を行おう事にした。屋根のある場所で寝られる分、兵達の慰労にもなるだろうと判断したためだ。
オーソングランデによる占領後、ほとんど使用されていない家々にはホコリが積もっていたが、硬い地面に寝転ぶよりはマシだと兵たちは喜んだ。
ワイワイと騒がしく食事を取り、適当な建物に入っていく兵たちを、一二三は物陰から観察していた。
ヴィシーの兵たちは装備がばらばらで、数人いる隊長だか将軍だかの指示でグループ単位で動いている所を見なければ、正規兵には見えない。
行動に慣れが見られず、規律らしい規律も見えないあたり、寄せ集めの印象がある。
兵達の行動を観察しているうちに、数百から千程の集団に別れており、それぞれにトップがいるらしい。トップ同士で何やら打ち合わせを行い、言い争いになっている。どうも年かさで髭の濃い、いかにも武将然とした男が野営に反対しているらしい。
一刻も早くオーソングランデに攻め入るべきだと声を張り上げているが、他の全員が休息を望んでいたので、最終的に不満ながら受け入れたらしい。
合議が終わったトップたちが、それぞれ別の建物に入って行くところまで確認する。
(街ごとに編成された軍をまとめて派遣したんだな)
するすると建物裏の影に潜むと、一二三は陽が落ちるまでの時間、眠りについた。
ヴィシーの軍が動き出したという報は、早馬によってオーソングランデ王城へも伝えられた。
「......パジョー、予定通りに」
「はっ!」
知らせを受けたイメラリアは、パジョーを呼んで援軍を編成し、急ぎフォカロルへ向かわせるという、従来の計画を指示した。
退室するパジョーを見送るイメラリアに、宰相が声をかける。彼も、イメラリアの狙いは知っていた。
「イメラリア様、その......よろしいのですか?」
「わたくしの覚悟はできています。パジョーも納得してくれました......確かに、わたくしのせいで一二三様はこの世界に呼ばれて、望まぬ苦労をされたでしょう」
イメラリアの目は、フォカロルの方を見つめている。
「しかし、だからと言ってこの世界を蹂躙していいとは思いません。個人的な恨みもありますが......。獣人たちと戦うなら、それはわたくしたちにとっても利益となったかもしれません。ですが、同じ人間同士の戦いを助長するようなことは許されません」
「イメラリア様......」
「卑怯な手段ではありますが、一二三様が窮地に陥る事無く今回の戦争を乗り切れるほどの常軌を逸した人物であれば、わたくしも諦めますし、誰にもあの方を止められないでしょう。ですが、報告によればヴィシーの兵は1万を優に超える数とのこと。少数でこれに勝利することは不可能です」
涙が、こぼれる。
「わたくしには力がありません。お父様の仇を討つにも、卑怯で回りくどい手段を選ぶしか可能性が見出せませんでした。失敗すれば、わたくしも死ぬでしょう。その時は、弟の事を頼みます」
宰相は語らず、ただ礼のみをした。
夜になったローヌの町は、ひっそりと静まり返っている。
片手で足る程度の数しかない篝火は、眠たげに立っている見張りの顔をうすぼんやりと照らしていた。
(そろそろだな)
するすると物陰から出てきた一二三は、影から影へと渡るように移動する。
目標は、軍のトップたちがそれぞれ選んだ建物だ。
一番手近な建物に近づき、試しに木戸を開いてみると鍵もかかっていなかったので、そのまま侵入する。
建物内に感じる気配。部屋ごとに分かれて眠っているらしい。
手近な部屋に入り、眠っている男の首を切断。
さらに次の部屋へ入り、同様に殺害する。
(はいはい次、次)
同様に建物を渡り歩き、昼間見たトップと思しき連中と、同じ建物にいる人物を殺していく。
女を抱いている者もいたが、合わせて串刺しにして殺した。
(なんかこんな映画あったな)
ホラーは嫌いなのでうろ覚えの映像が頭に浮かぶ。
一太刀で苦しまずに殺してやるだけ、自分は優しいもんだと勝手な感想をつぶやいた。
確かにさくりと刀を突きいれて殺しているが、頸動脈だったり斬首だったり心臓を一突きだったり、果ては顔面から脳を貫いたり胴体を真っ二つにするなど、寝ている相手の反応はどうかという実験を兼ねたやり方を選んでいた。
二時間ほどかけて、目をつけていた連中は皆殺しにする。誰一人として一二三の存在に気付かず、無抵抗な相手を殺すだけの作業に一二三は後半にはすっかり飽きてしまっていた。何人かは抵抗や反撃をしてくるかと期待していたのに、と一二三の不満は溜まっていく。
食料も時々見かけたが、飢えて元気がない相手を殺しても面白くなさそうなので、手を付けずにおく。
最後に、合議で一人息巻いていた男が選んだ建物へと侵入する。
大いびきをかいている髭オヤジの部屋はすぐに分かった。
見たくもない寝顔を観察しながら、一二三は刀ではなく携帯用の羽ペンとインク壺を取り出した。
額に『騒音公害野郎』と漢字で書きつけられたのは、ブエルという名のヴィシーきっての猛将と恐れられている男だった。兵を率いて敵へ突撃する時の苛烈さは右に出るものがいないとされており、その性格の荒さもまた有名だった。
目覚めたブエルが侍従に指摘されて落書きに気付いた時、その怒りは一瞬で沸騰した。
さらに自分以外の将たちがほとんど殺害されている事を知った時、誰もが彼の近くに行けないほどに怒り狂う。
「卑怯にも寝入ったところを狙い、しかも俺を生かしておくとはどういう意味だ!」
当り散らされた侍従は、小さくなって黙る以外にない。
「俺が他の連中に比べて脅威じゃないというのか! 俺など生きていても役に立たないだろうと馬鹿にしているのか!」
ご丁寧に、一二三はローヌを去る前に起きている門番に顔を見せてから気絶させており、その事で外部の者が犯人だという認識がブエルに植え付けられてた。そしてそれが、オーソングランデの者だろうと決めつけている。
猛るブエルは、将を失った兵を束ねて進軍をすることを決め、早朝から兵に準備をさせた。一部の兵は想定外の原因でトップを失ったことで恐慌に陥り、逃げ出してしまったが。
逃げそびれた者たちを大音声で脅しつけたブエルは、兵の消耗も考えない速度で軍を進める。
「おのれオーソングランデめ! 俺が街へたどり着いた時がお前たちの最期だ! 目に物を見せてくれるわ!」
収まらない憤りを怒声に変えながら、ヴィシーの兵たちは昨日よりも疲れた顔をしてアロセールを目指してゆく。 | Along the road illuminated by the morning sun runs a handcar at neck-breaking speed.
Two soldiers are silently pumping the car down the rail, drenched in sweat.
Since leaving Arosel they have gone non-stop towards Folkalore, and though are much exhausted they do not stop; their duty to their lord motivates them to return even a second sooner.
And upon reaching their destination, the hand car passed beyond the end of the rail, crashing and sending the soldiers into a mountain of straw, which was there to break their fall.
Even so, one of them fainted from the impact, while the other hurried out from the straw.
「Blegh... it’s rotten, isn’t it」
He said, spitting out straw from his mouth. Soldiers from the gate run up to him,
「Who goes there?!」
「Ah, I am a messenger from the scout division. I can no longer run, so pass my words to Lord Hifumi... Vichy troops have been spotted approaching Rhone. A host of about , men. of them may be magic casters.」
「So they have come!」
「Alright, I’m heading off to the castle!」
More than tension the soldiers felt exhilaration, and this atmosphere spread through the army. They spoke with the scout for but a brief moment, but had already understood the crux of the report.
The passed out soldier was awoken with a bucket of water, and the soldiers who were otherwise unoccupied went around telling the others the news.
This day began with the lightest mood the soldiers have felt since Vichy began preparing their forces,
Origa knocked on the door to the lord’s office, and waited to be permitted to enter.
Upon entering, she saw Hifumi with his legs crossed on the table, pondering something. Kasha was nowhere to be seen.
「You have called for me, how can I be of service?」
「Origa? A messenger reported incoming Vichy force」
「So it’s finally time?」
「In the end, they completely ignored the matter with Beirevra」
Origa gently shook her head.
「I am grateful for the concern, but the fault lies with Vichy for stepping on the tiger’s tail. The matter of Beirevra can be solved when Vichy is no more」
Hifumi said whilst holding onto the paper in his hand.
「What has been on your mind, my lord?」
「Since a while back, I’ve been told to settle on a formal Family name for my domain. I hadn’t thought to do it until the next expedition, though」
He didn’t want to think about it, so he used to write “Tohno” on the documents. He wasn’t particularly attached to the name, but couldn’t think of anything else.
And since then, the region was known as Vagenti’s Domain no longer. It was now Tohno’s Domain.
「Alright. Just as we planned, have the garrison forces return. Have the prototypes prepared as well」
「Understood. I will pass the order along to Alyssa. I am honored to be allowed to assist you my lord on your path towards victory」
「That’s wrong」
「I apologize. We shall show Hifumi-sama how we wonderfully crush the enemy」Currently the plan was to empty Rhone, set traps, and decrease the number of enemies that way. Hifumi, however, would move on his own.
Origa saw is inappropriate to allow Hifumi’s image to deteriorate because of a loss, and thus rejected this kind of tactic, but because Hifumi himself did not care much for victory, she didn’t object too strongly.
After all, he started the war to kill a lot of people; if he won, he would have to plan another battle, and devise schemes to win the next one. Victory itself mattered little to Hifumi.
「I hear that Vichy has invaded!」
The door opened with a bang, and Kasha ran in.
「Yes」
「Why are you so relaxed! We have to prepare」
「Calm down. You have a task you must carry out. There’s no use shouting around in our Lord’s room. Prepare for Hifumi-sama’s departure.」
「Y-yes, but... Origa is also going to fight?」
Kasha’s face was dyed in worry, while Origa carried a cool expression.magic
「What are you saying now? You have your mission, I have mine」
「Hifumi-san, surely you can’t possibly let Origa out onto the front lines?!」
Obstinately, Kasha directed the conversation at Hifumi, but his cool response crushed her hopes.
「Not really. She should do as she will. She is not my slave, you see」
「I will fight together with Hifumi-sama」
Seeing that no further words could convince either of them, Kasha’s shoulders dropped and,
「... I will make preparations」
「Would that be fine?」
「She is a part of the larger play. She’s necessary to set the stage as I will it」
Hifumi wore his katana on his hip, and left.
「Kasha is just a fool, after all...」
A whisper that no one could have heard.
By the rail and shuttle one could reach Arosel from Folkare by the following day, and thus in a day the forces were assembled there. This was a speed never before seen in this world.
「How peaceful...」
Though it was cloudy, it was not cold.
Tying the obi of his hakama, Hifumi looked down the road in the direction of Rhone. On one side of the road lay the tracks. Behind Hifumi, in the city of Arosel, the hoi polloi were taking shelter while the soldiers were busily getting ready for war.
By their predictions, the vanguard of the Vichy forces was set to come into view by tomorrow.
「We have finished preparations」
Alyssa stated, having arrived with two soldiers.
The soldiers were on the handcart, choosing the direction it would move in.
「’Tis finally time... Hifumi-san truly does not fear war?」
「It’s an opportunity to kill people in broad daylight. Missing it would be a shame」
「You never think that you will be the one to be killed?」
Hifumi answered Alyssa’s question while as he got onto the handcart.
「Of course I do. When you kill, it’s a privilege to not be killed」
「Huh?」
「Alright, let’s go」
The soldiers set the cart into motion upon his order.
The cart accelerated and soon it was out of sight.
「So Hifumi-san also thinks about dying...」
Remembering her own close brush with death, Alyssa tried imaging a mortally wounded Hifumi, but could conjure no such image in her mind.
Rhone, on the border, had no garrison and no traps to welcome the invaders.
The Vichy vanguard were able to relax only after a few hours, and came to use Rhone as a rest area. Probably to attempt to reward their soldiers as much as they could.
As Orsongrande forces never used the houses in Rhone, a thick layer of dust was present in every building, but it was still better than sleeping on grass and stones.
And observing these boisterous soldiers who were partaking in a meal, was none other than Hifumi.
Vichy soldiers were shabbily dressed, and outside of the captains and generals giving out orders, none looked like a part of the regular army.
The way they moved showed an attempt at discipline but a complete lack of thereof as well, a truly shabby scene.
Observing this horde and separating them into groups of hundreds and thousands, were the captains and the generals. These men came together and started bickering angrily. The eldest among them, a man with a dark mustache, was clearly in disagreement with the rest.
He was demanding that they immediately attack Orsongrande, while the others were demanding a break, leading to discontent and disagreement between them.
When their “meeting” concluded, each commander went into a different building.
(They are probably planning on rearranging the troops after they all have gathered in the city)
Gliding into the shadows created by buildings, Hifumi slept there until it was dark.
Upon hearing that Vichy troops were advancing, an individual took the fastest horse to Orsongrande Castle.
「...Pajo, as expected」
「Ay!」
Upon learning of the news Imeraria called Pajo and ordered her dispatch reinforcements to Folkalore, as they have previously schemed.
When Pajo had left, Imeraria called in the Prime Minister. He, too, knew of her intentions.
「Imeraria-sama... are you certain this is what you wish for?」
「I have made up my mind. Pajo, too, is satisfied... Yes, it is my fault that Hifumi-sama was brought into this world and subjected to unpleasant happenings」
Imeraria’s gaze was towards Folkalore.
「That, however, does not give him a right to trample on this world. I can’t say I am not motivated by a personal grudge, though... Had he fought the beast-men there may have been use of him, but fighting fellow humans is unforgivable」
「Imeraria-sama...」
「’Tis an underhanded trick, but should Hifumi-sama overcome the predicament before him, should he be such an aberrant of a man, then no one under the heavens could stop him. But I have been told Vichy forces number more than ten thousand. Victory with a handful of men is impossible.」
And as her tears spilled out,
「I am powerless. I can’t even strike down my father’s foe without resorting to cheap tricks. Should I fail I too will die. When that happens, please take care of my brother」
The Prime Minister, without saying anything, bowed and left.
Night had fallen on the city of Rhone shrouding it in darkness and silence.
Some still stood around campfires, their sleepy faces illuminated by its light.
(I guess it’s time)
Hifumi slipped out from his hiding spot and traveled from shadow to shadow.
His targeted the buildings he demarcated as belonging to commanders.
He approached the first building and tried the lock on the wooden door—it was unlocked so he went in.
There were five people inside the house. One in each room, sleeping.
He entered a room and slit the throat of a sleeping enemy.
Then to the next, and the next, murdering as he went.
(Yup, yup, next, next)
Hifumi then moved to the next housing, dispatching of the men he remembered seeing that day and any who were in the house.
Some were embracing a woman, so he skewered both of them.
(Wasn’t there a movie with a similar plot?)
Hifumi was not a fan of horror, so he didn’t remember the movie all too well.
Picking methods that would dispose of his enemies quickly, Hifumi felt like he was being a kind person to them.
But he did indeed pick methods like cutting the carotid artery, decapitating, stabbing in the heart, stabbing the brain, cutting a body in half—methods were such that a sleeping person could not react.
Within two hours he had planned to dispose of every commander. Not a single had learned of Hifumi’s presence, nor put up any resistance, causing Hifumi to quickly grow bored. He desperately hoped that some would counterattack, but all disappointed.
He also saw food, but found it boring to kill starving enemies, so decided not to tamper with it.
At last he entered the building where the mustache-commander was.
The mustache-geezer was soundly snoring in his room.
After observing his sleeping face, Hifumi took out not his katana, but a quill and wrote.
Buer, the man feared as the strictest general, awoke with the phrase『Noisy Bastard』written on his forehead. Buer was known as the strongest, most violent general, and his anger was likewise famous.
Thus when he saw the phrase written on his forehead he exploded in anger.
Yet even that anger was incomparable to his rage when he heard that every other commander was killed.
「Such cowardly tricks! And why leave me alive?!」
His poor chamberlain could only remain silent through his anger.
「Is he saying that I’m not a threat?! That my presence wouldn’t change anything?!」
Hifumi was kind enough upon leaving Rhone to show himself to a patrolling soldier and then knock him out. This way he meant to convey that the slaughter was carried out by someone from the outside. Buer, of course, figured that Orsongrande must have done it.
A few soldiers were so afraid of the sudden demise of their commanders that they fled.
Buer berated these individuals, threatening them with the greatest of punishment, and failed to consider his troops when forcing the march.
「Orsongrande bastards! I will reach your gates and end you! Just come before me!」
The soldiers drowning in his constant litany of anger and hatred, were marching towards Folkalore even more exhausted than they were yesterday. |
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} | 「油をしみこませた槍に火をつけて打ち込むのです!」
「狙いは不死兵だ! 箱から出てくる前に焼き尽くすつもりでやれ!」
イメラリアとネルガルの指示が飛び、オーソングランデとホーラントの連合軍が次々に火矢よろしく燃え盛る槍を城に向かって打ち込む。
時折投槍器本体を燃やしてしまう兵がいるのはご愛嬌というものか。
「......その、いいんですか? お城に向かって火を点けるなんて......」
臨時相談役という適当すぎる役職を与えられたプーセが、肩書に似合わない落ち着かなさを見せながら、イメラリアに話しかけた。
「構いません。本来、城というものは火事になりにくいように基本的に石で作られていますし、外壁付近には燃える物を置かないのは基本です。ネルガル様に確認もいたしましたので、周囲の小屋などは焼けるでしょうけれど、城そのものは問題ありません」
「そ、そうなんですか。お詳しいのですね」
プーセの感想が、イメラリアは可笑しくて仕方なかった。
「うふっ。わたくしはオーソングランデ女として生まれ育ったのです。お城が自宅だったのですよ」
「あっ」
自分が話している相手が何者かを再認識して、プーセは赤面する。
「良いのです。わからないことがあれば教えてさしあげますから、何でも聞いてくださいね。それに、わたくしからも色々と聞きたいと思っておりますから」
イメラリアが視線を戻すと、城門の向こうで炎が上がり、うめき声が次々に上がっては消えていく。
「不死兵の無力化は順調のようですね。もう少し打ち込めば、完全に押え込めるでしょう」
ネルガルの言葉にうなずいたイメラリアは、サブナクに視線を移す。
目があったサブナクは無言で頷いた。
「では、ネルガル様。予定通りに」
「わかりました。作戦開始!」
ネルガルの号令と共に、火がついていない槍が数本、ホーラント兵から射出された。
槍が狙うのは、晒し者然として吊り下げられたクゼム宰相その人だ。
「ええっ!?」
声は聞こえないが、燃え盛る前庭を呆然と見ていたクゼムは、自分のすぐ脇の壁に槍が当たり、石の破片を飛ばしたのを目撃して、再びもがき始めた。
だが、縄で完全に縛り上げられた体は、芋虫よりも動ける範囲が少ない。
数本の槍が貫通した時点で縄はかなり解けたが、その時点でクゼムは血を流して死んでいる。
一本の槍が、無惨な死体を吊るしていた縄を偶然切断し、外壁の突起に当たって跳ねた死体は、燃える前庭へと落ちていった。
「落下を確認。おそらく、生きてはいないでしょう」
「ああ、見えていた」
ネルガルに従っていた将兵たちの会話は、騒音の中にかき消された。
兵たちにとっては、自分たちを私利私欲のために操ろうとした奸臣を成敗したという達成感を充分に味わうことができ、その機会を譲ってくれたオーソングランデ側に感謝もしていた。
だが、一部の将官たちの感想は違う。
「......オーソングランデの手でホーラントの高官が殺害されたという記録を残さないために、自分たちで始末とつけろというわけか。あのエルフの進言があったかどうかはわからんが、少女だと甘く見ていると、いつの間にか国号が変更されていても不思議ではない」
「すみません。良く聞こえませんでした」
騒音に紛れた苦々しい言葉。
そばにいた兵が、指示を聞きそびれたと感じて聞き返してきたのを、咳払いをして言い直した。
「ネルガル様の指示は、火が収まり次第とつげきというものである。時間も惜しい。魔法兵で水魔法が使えるものは消火を開始せよ。歩兵は状況確認と魔法兵の護衛を行うように。不死兵がまだ残っているとも限らん」
「承知しました!」
後方に下がって待機していた魔法兵が、命令を受けて燃える城を目指してじりじりと前進する。水魔法の使い手を前に、念のため他の魔法兵も追随させるようだ。
「正面からは我々ホーラント軍。側面からオーソングランデ軍が突入する、か。しかしどうするつもりだ? 側面に門は無いのだが......」
気にしても仕方がない、と一人の将は雑念を振りほどく。
「消火が完了し次第突撃する! ここまで来たのだ! オーソングランデの兵たちに我らの実力を見せるのだ!」
声を揃えて応えた兵たちに、将は笑顔を見せた。
これら全てが囮だとは口が裂けても言えないな、という苦笑だったのだが。
☺☻☺
城内には、不死兵以外にホーラントのクゼム側の兵士たち名ほど残されていた。
彼らは戦闘要員というわけではなく、に指導を受けたガアプの指示で罠を設置したり、敵が突入してからの罠や相手の状況を確認するため、雑用のような役目を負わされている。
本来が城内警備の兵たちで、城の構造については熟知している。
「あんなに燃えてても大丈夫なのか?」
休憩室として詰め込まれていた二階の部屋。城の西端にあるその部屋からは、燃え盛る前庭が見渡せた。
「多分、問題ない。城の本体には火がついてないし、延焼するような物もないだろう」
「不死兵だっけ? あっさりやられちまったな」
待機命令を受けて、見回りに出た者たち以外は手持無沙汰で、雑談に精を出す。これも、彼らにとっては不安を紛らせるための大切なコミュニケーションだった。
「正面の守りがやられたんだ。そろそろ一階に突入されるんじゃないか?」
「ああ、確か一階の罠の状況は五人で確認するんだったな」
あらかじめ役割が決まっていた五人が立ち上がり、道具を持って一階へ向かう廊下へと歩いていく。
「うまくいけば、部隊長とかを仕留められるかもな」
「どこからそんな自信が出てくるんだ......」
話しながら待機室を出ていくのを見送り、残った兵士たちも立ち上がる。
「じゃあ、突破されて二階に来られた時のための準備をするか」
「......なあ、やっぱりやらないとダメかな」
用意された道具を見て、一人の兵士が呟く。
「いい加減あきらめろ。俺たちには、やれと言われたことをやるしかない」
同じ道具を抱えた兵士は、これが運命だ、と語った。
「マジか......」
城の東側、そびえたつ塀を見上げたオーソングランデの兵はートルはある塀に長い縄を付けた鎖鎌をひっかけ、するすると上っていくフォカロル兵たちを呆然と見上げていた。
塀の上に立ったフォカロル兵が、下にいる二十名ほどの選抜されたオーソングランデ兵を見下ろす。
「鎖鎌はそのままにしておくから。もう鎮火し始めてるみたいだから、急ごう」
さらりと伝えると、向こう側へ飛び降りてしまった。
十名ほどいたフォカロル兵すべてが、同様に縄を伝って登り、次々と向こうへと飛び降りる。
そこからがオーソングランデ兵にとってこの戦い最大の修羅場だった。
軽装で精々革製の胸当てていどの装備しかしていないフォカロル兵と違い、オーソングランデ兵の多くが金属の鎧や兜をつけている。重量差は言うまでもない。
「なんのこれしき!」
とロープにしがみつく者もいるが、ほとんどが半分も到達せずに落下する。
あきらめて装備を外し、塀の上まで到達。さらにその高さから全員が飛び降りる勇気を振り絞るまで、たっぷり二十分を要した。
消火が完了し、一階に突入したホーラント歩兵たちは、広々として何も置かれていないエントランスへと入っていく。
「うわわっ!?」
痛みを訴えながら、次々と転がって悶絶する兵士たち。
遅れて入ってきた部隊長がよく見ると、エントランスの床一面に糸がついた釣り針が敷き詰められていた。
明るいエントランスでも小さな釣り針は見えづらい。サンダル状の履物をしていた兵士が針の痛みに座り、転がると、後続がそれに引っかかって転倒し、小さな針を全身に受けた。
「落ち着け! 冷静にならないと......あつっ」
床に転がる彼らを踏み越えた部隊長は、肩に液体が入った小さな陶器瓶をぶつけられて、思わずよろめいた。
「な、なんだ?」
肩を見ると、得も言われぬ色をした液体がべったりとついている。
怪我をするような攻撃でないことを確認し、少しだけホッとして息を吸い込む。
「臭っ!」
卵が腐ったような刺激臭が、部隊長を襲う。
至近距離で思い切り吸い込んだ部隊長は昏倒寸前で身もだえし、周囲の兵士たちもそこから離れようとする。
しかし、部隊長だけでなく動きが止まった兵士たちに次々と投げつけられた液体は、エントランスを瞬時に腐臭の地獄絵図に変えた。
糸と針に絡まれて、小さな痛みを全身に受けながら、息を止めても鼻の奥を刺激するほどの悪臭に包まれ、少なくない兵士が嘔吐している。
「これは訓練だから、命は取らなくても良いと言われている!」
ややくぐもったその声は、エントランスから二階へ上がる大階段の上にたつ警備兵のものだった。
手持ちの瓶を投げ終わった警備兵は、声が出にくい、と顔にマスクのように巻いていた布を外す。
「罠にはまり、攻撃を受けた! 同国人だからこれ以上攻撃はしないから、て、撤退を、おえええええ......」
一緒に瓶を投げていた警備兵が、その様子を見て眉をひそめた。
「なんで布を取るんだよ......」
マスク越しでも涙目になるような状況で、無鉄砲な真似をした同僚から警備兵は目をそらした。まともに見たら、つられてしまいそうだったから。
「負けた、か......」
部隊長はこみ上げるものを必死で抑えながらつぶやいた。
「だが、ここでの負けは別に問題ない」
彼らはあくまで陽動に過ぎない。城内を制圧するのは見せかけの目標であり、城へと侵入したのがホーラントとオーソングランデの兵士たちだと錯覚させるためでしかない。
もちろん、彼の本心を言えば、何かしらの戦果は欲しかったのだが。
「ネルガル様、ご武運を......」
祈りの言葉を紡ぎ、部隊長はそっと目を閉じて、吐いた。
「こちらが隠し通路の入り口です。本来であれば、緊急事態のみ、王族とその侍従のみが利用できるとされているのですが......」
ネルガルが、城内へとつながる隠し通路は、城の真裏、木々が生い茂る中にある石碑にあった。
石碑の前に立ったネルガルが振り向き、同行者を確認する。
護衛のホーラント兵二名、イメラリア、サブナク、ヴァイヤー、そしてアリッサに、プーセも同行している。
「ここを他国の方が通る......しかもエルフの方が我が城へ来られるのは初めてですよ」
緊張をごまかすように話すネルガルに、イメラリアは会釈をする。
「光栄でございますわ。......ネルガル様、急ぎましょう。時間はあまりないのでしょうから」
遠く、城の向こう側からはホーラント兵士たちが突入する雄叫びが聞こえる。
逆に、東側から侵入しているはずのオーソングランデ兵たちの声がいまいち聞こえてこない。
「アリッサさん。侵入方法は斥候をされた貴女にお任せいたしましたけれど、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。簡単な方法でやるように言っておいたから」
それより、早く行こうと急かすアリッサに、イメラリアは不安ではあったが、今はやることがあるのだ、と気持ちを切り替えた。
「では、参りましょう」
「はい。兵士たちに犠牲が出る前に、終わらせてしまいたいですからね」
石碑の中ほど、楔のように撃ち込まれた小さな石のパーツを叩き落とすと、ネルガルは石碑本体に肩を当て、ぐっと力を入れた。
すると、ゆっくりと石碑が台座の上を滑っていく。
そして、階段が露わになった。
「この通路にはこれといって罠などはありませんし、一本道です。二人が並んで精一杯の幅しかありませんので、気を付けてください」
ホーラント兵たちが先に入り、ネルガルが続く。
ヴァイヤーの後にイメラリアとプーセが続き、サブナク、アリッサと続いた。
中は暗く、先頭の二人と、騎士二人が持っているホーラント製の魔法具の明かりが頼りだ。
石造りの床、壁、天井は飾り気もなく、延々と先へ続く通路が、不安を掻き立てる。
だが、明かりの向こうに仄かに見える上り階段が、少しだけ希望を与えてくれた。
「ちょっと暗いですね......」
「ネルガル様」
ゆっくりと歩いていたネルガルに、イメラリアが声をかけた。
「走りましょう。時間が惜しいのです」
「ですが、イメラリア様を走らせるわけには......」
「わたくしが何者であろうと関係ありません」
乗馬服のイメラリアは、置き場所に困って持ってきていた鞭を握る。
「一が、我が国の騎士に言われたことがあります。身分や種族が違えど、人は全ておなじである、と。走るべき時に身分や性別を言い訳にして、目的を
ろにするような愚か者にはなりたくありません」
「......わかりました。二人とも、ペースを上げよう。一本道だから、後ろは気にしなくて良い」
「はっ」
ホーラント兵が走りだし、全員が続く。
「はっ、はっ、一二三様を、絶対、驚かせて、やるのでくぴっ!?」
「しゃべりながら走るとベロ噛んじゃうよ?」
息を切らして走るイメラリアは、思い切り舌を噛んでしまったらしい。
口を押え、鼻息をふぅふぅ吹いているイメラリアに、アリッサが余裕の顔で声をかける。
基本の体力がまるで違うのはイメラリアも承知の上だが、無性に腹が立つ。
文句の一つも言いたかったが、想像以上に舌が痛くて、声が出せない。
「ぷぷっ......」
涙目でアリッサを睨むイメラリアを見て、思わずサブナクが噴き出す。
通路を抜けたらもう一度鞭で打っておこう、と固く誓うイメラリアだった。 | “Set the spears, which were soaked with oil, on fire and launch them.”
“The targets are the immortal soldiers! Do it with the intention to burn them to nothing before they can crawl out from the box!”
Imeraria’s and Nelgal’s instructions are flying around. Brightly burning spears and of course fire arrows are shot towards the castle one after the other by the allied forces of Orsongrande and Horant.
Is it an amusement for the present soldiers that sometimes the main body of a spear thrower ends up catching fire?
“... That, is that fine? To set fire to the castle...” (Puuse)
Puuse, who was assigned the overly ambiguous position of temporary advisor, addressed Imeraria while showing an unsettled expression that doesn’t fit her post.
“No problem. Originally something like a castle is made out of stone which makes setting it on fire basically difficult. Not placing burnable things in the vicinity of the outer walls is the standard. Given that Nelgal-sama confirmed it as well, the surrounding pens and such will probably get burned, but there’s no problem for the castle itself.” (Imeraria)
“I-Is that so? You are quite knowledgeable.” (Puuse)
It was inevitable that Puuse’s thoughts were funny for Imeraria.
“*chuckles* I was born and raised as First Princess of Orsongrande. A castle was my home.” (Imeraria)
“Ah.” (Puuse)
Seeing the person she is talking with in a new light, Puuse blushes.
“It’s fine. Please ask me anything as I shall teach you if there’s something you don’t understand. Besides, I believe that there are various things you want to hear from me as well.” (Imeraria)
Once Imeraria returns her sight ((to the castle)), flames are rising on the other side of the castle gate and the groans, which rose successively, are vanishing.
“The disabling of the immortal soldiers seems to be going well. If we fire for a bit longer, they will probably be immobilized completely.” (Nelgal)
Imeraria, who nodded at Nelgal’s words, shifts her look towards Sabnak.
Meeting her eyes, Sabnak nodded silently.
“Well then, Nelgal-sama, just as planned.” (Imeraria)
“Got it. Start the operation!” (Nelgal)
Alongside Nelgal’s order, several spears, which haven’t been ignited, were shot by Horant’s soldiers.
The aim of the spears is Prime Minister Kuzemu who was suspended by a rope outside the castle just like a pilloried criminal exposed to public view.
“Eeh!?”
His voice can’t be heard, but Kuzemu, who watched the brightly burning front yard in a daze, began to squirm again after witnessing a spear hitting the wall right next to him and stone splinters hurling about.
However, his body, which was completely bound by a rope, had less flexibility to move than a caterpillar.
The rope came apart quite a bit when several spears pierced it, but at that time Kuzemu had already died to blood loss.
One spear severed the rope with the tragic corpses hanging onto it by chance. The corpse, which bumped about as it hit the protuberances on the outer wall, fell into the burning front yard.
“His fall has been confirmed. He is likely not alive anymore.”
“Yea, I saw.”
The conversation of the officers accompanying Nelgal was drowned out by the noise.
The soldiers are able to fully savour a sense of accomplishment for punishing a treacherous retainer who tried to manipulate them for his own selfish desires. They were grateful towards Orsongrande’s side for conceding them the opportunity for that.
However, the thoughts of a part of the generals are different.
“... Does that mean that we’ve been told to get rid of him by ourselves in order to not leave behind records that a high official of Horant was killed by the hands of Orsongrande? I don’t know whether it was according to the counsel of that elf, but if you take her lightly because she
“Sorry, I didn’t hear you properly.”
The scandalous words were lost in the noise.
When the soldier, who was next to him, asked again feeling that he failed to hear an order, he corrected himself after clearing his throat.
“Nelgal-sama’s instruction is to charge as soon as the fire abates. Time is valuable, too. Begin extinguishing the fire with the magic soldiers who can use water magic. Have the infantry check the situation and act as guards of the magic soldiers. We will limit the fire’s range to the still remaining immortal soldiers.”
“Acknowledged.”
The magic soldiers, who moved back to the rear and were on standby, slowly advance towards the burning castle after receiving the order. With the water magic users in front, the other magic soldiers are made to follow as well just for caution’s sake.
“Orsongrande’s forces will storm in from the sides and our Horant forces from the front, huh? However, what is the plan? There are no gates at the sides, but...”
, a single general shakes off his idle thoughts.
“Attack as soon as the fire fighting has finished! We came this far! We will show our true strength to the soldiers of Orsongrande.”
The general showed a smile to the soldiers who answered with an uniform voice.
No matter what, I won’t tell them that everything of this is just a decoy
☺☻☺
Inside the castle there were around soldiers of Horant’s Kuzemu camp left besides the immortal soldiers.
Their duty is to carry out miscellaneous chores like setting up traps under the instructions of Gaap, who received training from Hifumi, or checking the situation of the opponents and traps after the enemy storms in, but that doesn’t mean that they are combat personnel.
They are familiar with the structure of the castle as soldiers originally defending inside the castle.
“Will it be alright if it burns this much?”
The room on the second floor, which was made into a break room, was crowded. The brightly burning front yard was visible from that room which is located on the west side of the castle.
“Probably it’s no problem. The castle’s main part hasn’t caught fire and something like the fire spreading won’t happen either, I guess.”
“And the immortal soldiers? They were finished off easily.”
Having received a standby order, except for those who left on patrol, they are bored and put their energy into chatting. For them this was also an important communication for the sake of distracting themselves from their worries.
“The defence at the front was done in. Won’t the first floor be stormed any time now?”
“Yea, if I remember correctly five people have to check the state of the traps on the first floor.”
Five people, whose role had been decided beforehand, get up, take their tools and walk towards the corridor leading to the first floor.
“If it goes smoothly, they might be able to kill a commanding officer or such.”
“From where are you getting such confidence...?”
Staying on standby while talking, they see off those leaving the room and the remaining soldiers stand up as well.
“Well then, shall we prepare for the time when the enemy will reach the second floor after breaking through?”
“... Hey, isn’t it fine if we don’t do it after all?”
Looking at the arranged tools, one of the soldiers mutters.
“Just give it up already. We have no other choice but to do what we were told to do.”
A soldier, who carried the same tool, said “This is our fate.”
“For real...?”
A soldier of Orsongrande, who looked up the wall towering high over the surroundings on the east side of the castle dumbfoundedly, respected the soldiers of Fokalore who were climbing the four-meter-high wall swiftly while hanging onto kusarigama‘s with long ropes attached.
A soldier of Fokalore who stood on top of the wall, looks down on the chosen soldier of Orsongrande below.
“Leave the kusarigama as it is. It looks like they have already started to put out the fire. Let’s hurry.”
Once he told them without delay, he jumped off the wall on the other side.
All of the present soldiers of Fokalore climb up the same rope and jump down towards the other side one after the other.
From there on it was this battle’s worst scene of carnage for the soldiers of Orsongrande.
Different from the soldiers of Fokalore, who were at the most equipped with leather breastplate as lightweight armour, many of Orsongrande’s soldiers are wearing metal armours and helmets. It goes without saying, but those are slightly different in weight.
“What a trifle!”
There are also those who cling to the rope, but the majority falls without even holding on for half a minute.
Giving up and removing their equipment, they arrive on top of the wall. Furthermore it took a full minutes until all of them mustered the courage to jump down from that height.
Horant’s infantrymen, who rushed into the first floor after the fire fighting finished, entered an entrance hall where nothing has been placed apart from spaciousness.
“Uwawa!?”
While complaining about the pain, the soldiers fall over one after the other and faint in agony.
Once the commanding officer, who entered late, looked properly, the surface of the entrance hall’s floor was covered by fish hooks with strings attached.
It’s difficult to see the small fish hooks even in the bright entrance hall. A soldier, who wore a type of sandal footwear, sat down due to the pain of the hooks. Once he rolls around the one following behind tumbled after getting caught in that and suffered from the small hooks on his whole body.
“Calm down! If you don’t collect yourself... Ack!”
The commanding officer, who stepped over those rolling around on the ground, was hit by a small earthenware jar and a liquid got onto his shoulder. He staggered unintentionally.
“W-What?”
Once he looks on his shoulder, a liquid with an indescribable colour sticks to it.
Ascertaining that it’s not an attack that will cause an injury, he feels slightly relieved and breathes in.
“It stinks!”
An irritating stench, similar to rotten eggs, assaults the commanding officer.
The commanding officer, who inhaled it with all his might at point-blank range, writhes while on the verge of fainting. The surrounding soldiers also try to get away from him.
However, the liquid which was successively thrown at the soldiers, and not only the commanding officer who stopped moving, changed the entrance into a hell of rotten smell in an instant.
Getting entangled by the strings and hooks, they are enveloped by a stench to the degree of provoking their noses’ insides even if they stop breathing while receiving small injuries on their entire bodies. Quite a lot of soldiers are vomiting.
“We’ve been told that this is training, thus it’s fine as their lives won’t be stolen!”
That voice, which slowly mumbled this, was that of a guard who stood on top of a large stairway leading from the entrance hall to the second floor.
The guard, who finished throwing the jars on hand, removes the cloth which he wore like a mask on his face, as it’s difficult to use his voice.
“You suffered attacks after getting caught by traps! I won’t attack you any further since you are fellow countrymen, r-retreat, buueeeehhhhhh...”
The guard, who threw jars together with him, looked at his condition and knit his eyebrows.
“Why did you remove the cloth...?”
The guard averted his eyes from his colleague, who acted recklessly, in a state similar to becoming teary eyed across his mask. It was apparently because he would be lured in if he looked directly at him.
“We lost, eh...?”
The commanding officer muttered while frantically suppressing the feeling of something welling up.
“However, a defeat in this place is not a particular problem.”
They are no more than a diversion to the bitter end. Gaining control of the castle is a fake objective. It’s nothing but causing the illusion that the soldiers of Horant and Orsongrande invaded the castle.
Of course, if he talked about his true feelings, he wanted to get some kind of military gains though.
“Nelgal-sama, may the fortune of war...”
Spinning words of a prayer, the commanding officer quietly closed his eyes and barfed.
“This way is the entrance to a hidden passage. Originally it has been decided that it can only be used by royalty and their chamberlains and only is a state of emergency, but...” (Nelgal)
Nelgal was at a stone monument located inside thickly growing trees just behind the castle where the hidden passage, connecting inside the castle, lies.
Standing in front of the stone monument, Nelgal turns around and confirms his fellow party members.
Two guarding soldiers of Horant, Imeraria, Sabnak, Vaiya, Alyssa and Puuse are accompanying him.
“For people from another country to pass through here... and moreover for an elf to be able to come to our castle, that’s a first.” (Nelgal)
Imeraria nods towards Nelgal who talks in order to gloss over his tension.
“It’s a honour. ... Nelgal-sama, let’s hurry. We don’t have overly much time.” (Imeraria)
From far away, on the other side of the castle, the war cries of Horant’s soldiers charging in can be heard.
Conversely, not a single voice can be heard from the soldiers of Orsongrande who should be invading from the east side.
“Alyssa-san, I left the means of invasion to you who went scouting, but is it really alright?” (Imeraria)
“It’s fine, it’s fine. I told them to do it in a simple manner.” (Alyssa)
Imeraria was uneasy about Alyssa who urged on with “Rather than that, let’s go quickly,” but she switched her feelings with
“Then let’s go.” (Imeraria)
“Yes, I want to put an end to it before victims appear among the soldiers.” (Nelgal)
Once he knocked down a small stone part which was lodged into the stone monument like a wedge, Nelgal pressed against the stone monument’s main body with his shoulder putting quite a bit of strength into it.
Doing that, the stone monument slowly slides on top of its pedestal.
And a stairway became exposed.
“There are no special traps in this passage. It’s a straight path. Please be careful since it has a width allowing at most two people passing through it side by side.” (Nelgal)
The soldiers of Horant head in first and Nelgal follows them.
After Vaiya, Imeraria and Puuse went in, then Sabnak and after him Alyssa.
The inside is dark. The two in the lead and the two knights rely on the light of the magic tools made by Horant which they are holding.
The passage, which continues endlessly ahead without even any decorations on the stone floor, walls and ceiling, stirs up one’s anxiety.
However, the ascending stairs, which are faintly visible on the other side of the lights, were able to bestow hope albeit just a bit.
“It’s a bit dark...”
“Nelgal-sama.” (Imeraria)
Imeraria called out to Nelgal who walked slowly.
“Let’s run. Time is precious.” (Imeraria)
“However, to make you run, Imeraria-sama...”
“It’s unrelated what person I might be.” (Imeraria)
Imeraria in her rider’s suit grasps the lash which she brought along after being trouble with leaving it in her house-room.
Social status and race might be different, but all people are equal
. I don’t want to become a fool who ignores our objective using the excuse of gender and social status at a time when we should run.” (Imeraria)
“... Got it, you two, let’s raise the pace. It’s fine to not care about the rear since it’s a straight path.” (Nelgal)
“Ha!”
The soldiers of Horant begin to run and everyone follows.
“Ha! Ha! I will, definitely, surprise Hifumi, thu-!?” (Imeraria)
“If you talk while running, you will end up biting your tongue, you know?” (Alyssa)
Imeraria, who runs while being out of breath, apparently ended up biting her tongue with all her strength.
Alyssa calls out to Imeraria, who is breathing through her nose with a *fuufuu* while holding her mouth, with a calm face.
Even Imeraria is well aware that their basic stamina values are completely different, but she still gets very angry.
She wanted to make just one complaint, but as her tongue hurt more than she imagined, she couldn’t use her voice.
“Pupupu...” (Sabnak)
Seeing Imeraria glaring at Alyssa with teary eyes, Sabnak spontaneously bursts into laughter.
Let’s hit him with the lash once more once we get out of the passage |
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} | イメラリアは届けられた報告書を読み終えると、力なく椅子へと腰を下ろした。
「い、イメラリア様?!」
側に控えていた侍女が慌てて駆け寄るのを、軽く手を上げて制した。
「大丈夫です。少し疲れただけですから」
弱々しく微笑むと、宰相を呼ぶようにと命じ、再び報告書を読み直した。
「国と貴族領で条約を結ぶなんて......。これでは我が国をないがしろにしているようなもの。本来ならば懲罰対象ではあるのでしょうけれど......」
凡の人々にしてみれば、敵を倒して尚且つ魔法具が安くなり流通も増えるようになる。何がいけないのか理解されない可能性が高い、とイメラリアは踏んだ。
宰相にも報告が行っていたのだろう。想定よりも早く、執務室のドアがノックされた。
「入りなさい」
「ご命令により、参上いたしました」
「聞いていると思いますが、ホーラントの件です」
イメラリアの許可を得て立ったままの姿勢を許された宰相アドルは、報告は私にも届いております、と語った。
イメラリアは頷く。
「トオノ伯を処罰するべきかとも考えましたが、現実的には不可能でしょう。無理にやろうとしても、オーソングランデ対フォカロルに......いえ、実際には様へつく貴族も少なくないでしょう。旧ヴィシー領は全てフォカロルに組み込まれている状況ですし」
「イメラリア様のお考えに、私も賛同する者でございます」
「では、静観するのが良い、と?」
「私は、これは良い機会なのではないかと考えておりました」
良い機会? とイメラリアが問うと、アドルは僭越ながらと断りを入れた。
「折角ですから、トオノ伯の戦果を祝い、同時にイメラリア様の即位式を執り行うのです。トオノ伯が近くにいる状況であれば、反対派の貴族たちもおいそれとは手出しができますまい」
この提案を、最初は良い考えだと承服しようとしたイメラリアだが、よくよく一性格を考えると、危惧すべき点があることに気づいた。
「これは、あの方が最も嫌う”利用する”ことにはなりませんか?」
「事前の説明と了解が必要でしょうな。トオノ伯が喜ぶ物も用意しておけば、なお良いでしょう」
胸を張って答えるアドルに、イメラリアは眉を潜めた。
「一体何を考えているのです? わたくしはもう、浅慮で誰かを失うような事はしたくないのですが......」
「ご安心を。トオノ伯に対しては正当な依頼としてご相談をすればよろしいかと愚考いたします。要するに、自身のあずかり知らぬ所で利用される事が不愉快なのであって、真正面から誠意を以て依頼をすれば良いのです」
丁度、国軍の兵に対する指導の依頼もせねばなりませんから、とアドルは言った。
「敵対するつもりで考えると、なるほど恐ろしい相手ですが、頼む相手とすれば、これ以上頼りになる方もおりますまい」
アドルの言葉を受け、イメラリアは目を閉じて考えた。
「......わかりました。宰相の案を採用いたします。ただし、一二三様への依頼はわたくしから直接お話いたします。騎士隊に、一二三様が王都へ入られたらこちらへお呼びするようにと伝えてください」
深く頭を垂れたアドルは、瞳を潤ませていた。
「そして、イメラリア様の王位継承につきまして、心からお祝い申し上げます」
声が震えている事にイメラリアも気づき、ふっと、微笑む。
「何かと心配をかけましたね。どうか、これからもわたくしを支えてくださいね」
しばらくの間、アドルは顔を上げる事ができなかった。
☺☻☺
ホーラントでのアレコレを手早く片付けた一二三は、スプランゲルから譲ってもらった馬を駆って、既にホーラントとオーソングランデの国境まで戻ってきていた。
フォカロルへ戻る領軍には“適当に観光でもしながら帰ってくればいい”と言い残して。
当初は街道を気ままに駆け抜けていたのだが、オーソングランデへ近づくにつれて街道を移動する人の数が増えて来て、仕方なく舗装されていない街道脇を走る羽目になった。
「何があった?」
街道を進む人の流れは、そのほとんどが一二三同様オーソングランデ方面を目指しており、荷車や馬車を使い、家族総出で移動している者が多く見える。何かの商品を積載した馬車に乗った、商人らしい者もチラホラ見かけるが。
「なあ、随分と街道が混んでいるが、何があったんだ?」
目線の高さが近いという理由だけで、近くを通った馬車に乗った商人に声をかけた。
「ああ、ホーラントのお城で何か大変な戦いがあって、たくさん兵が死んだという話が聞こえて来たんですよ。聞けば、オーソングランデには誰でも受け入れてくれる豊かな領地があるらしいので、皆さんそこを目指しているのでしょう」
声をかけた商人は、人が多く移動しているのに着いて行って、道々で民衆に食料や日用品を売っているのだという。
「私はホーラント国内を移動して商品を売っていますので、丁度いい商機が来た、というやつです」
国境へ近づくほど人口密度が上がるので、商売は順調なのだろう。ホクホク顔で答えてくれた。
「そうか。ありがとう」
商人へ金貨を一枚投げて、一二三は更に先を目指した。
さらに二時間程街道を進み、国境まで間も無くという所で、やたらと渋滞している場所がある。
馬車や荷車は舗装の外では進めなくなる危険があるので、全員が仕方ないという顔で進むのを待っているようだ。
「お、これは?」
ほんのわずかだが、前方から血の匂いが漂ってきた。
思わず、一二三の口角が上がる。
街道の外を急いで進みながら、腰に差した刀の位置を調整する。
ほどなく、渋滞の原因が見えてきた。
「並べ! 順番にだぞ!」
ホーラントの一般兵の装備をした男が、がなり声を上げている。
他に数名が並び、一人一人に尋問だか検問だかをしているらしい。
馬上のまま近づいた一二三の前にも、一人の兵士が立ちはだかった。
「妙な格好をしているな。ここを通る理由を言え」
「その前に聞くが、俺が先日ここを通過した時にはお前らみたいのはいなかったが、一体何をやっている?」
舌打ちをして、兵士は剣を抜いた。
周囲にいた一般人たちからざわめきが起き、距離を取る者もいる。
「つべこべ言わずに質問に答えろ!」
叫ぶ兵士を無視して、先頭集団のやり取りを見ていた一二三は、そこで民衆から金を受け取っているのを見つけた。
「通行料......か」
「そうだ! ここを通るなら銀貨一枚を払っていけ!」
もはや包み隠そうともしない兵士の言葉に、一二三は一人の子連れの女性を指差した。
「なぁ、あんた。ちょっと聞くが」
「は、はいっ」
「この国では馬鹿な兵士に施しをする制度でもあるのか?」
「えっ? あの、その......」
兵士と一二三を交互に見ながら、女性はどう言っていいかと迷っている。兵士も怖いが、一二三の目も怖いらしい。
「お前は! 俺を馬鹿にしているのか!」
激昂して左足を踏み出し、剣を振り上げたところで、兵士の動きはピタリと止まった。
左手で逆手に抜いた刀が、兵士の左目を貫いている。
「言ったろう? 馬鹿な兵士、と」
人の話はよく聞け、と言いながら、血振りで抜き取った眼球を飛ばす。
絶命した兵士が倒れると同時に、周囲から悲鳴が上がった。
「うるさい!」
一二三が一喝すると、逃げ出そうとした民衆も足を止めた。
そこへ、他の兵士たちも駆け寄ってきた。誰もが同じ様な見たことのある革鎧を着ていることから、全員がホーラントの兵士らしい事がわかる。
うち一人が進み出て、倒れた兵士を見やった。
「......これは一体どういう事だ?」
「剣を抜いて斬りかかってきたから殺した」
刀は、抜いたままで右手に提げている。
「改めて聞くが、何をやっている? 見たところ、金を取って通すか追い返すかの二択のようだが」
「王や領主の許可を得ない勝手な移動は禁じられている! 許可を得て費用を払ったものだけが通れるのだ!」
威圧するように胸を張り、馬上の一二三を見据える兵士は、さりげなく腰の剣に手をかけている。
「許可ねぇ......」
一二三は、不安げに見ている民衆たちをぐるりと見渡した。
「そんな書類を提出している奴なんかいないようだが? 要するに袖の下を渡すかどうかって話だろう? もっと堂々としろよ」
ふっと鼻で笑った一二三は、さらに続ける。
「で、こいつらはさておいても、俺からも金を取ろうってのか?」
「ちっ。貴様の目的と名前を言え! 金額次第で通してやる」
ホーラント国民であるならば、国のために働いている我々に報謝するのは当然であろうと続けた兵士の言葉を聞いて、一二三は我慢できずに高笑いしてしまった。
「あっはっはっは! 残念だが、俺はホーラント国民じゃあない」
懐から取り出したのは、イメラリアの署名が入った通行許可証だ。
「俺はオーソングランデの貴族だよ。領地に帰るから、さっさと道を開けろ」
その書類をマジマジと見ていた兵士は、怒りか焦りか、震えながら道を開けた。
丁度兵士たちに囲まれるような位置に来たところで、馬を止めた一二三は街道にいた民衆たちへ視線を向けた。
「ああ、そういえば俺も一領主なんだわ。フォカロルという街を中心にしたトオノ領というところなんだが......」
トオノ領フォカロルという名前を聞いた民衆たちが、にわかにザワつき始めた。商人の話が本当なら、彼らが目指しているのはそこなのだ。
「そこに来るなら、歓迎しよう。オーソングランデ所属の貴族、ヒフミ・トオノ伯爵として、希望者の通行を許可する。もちろん、無料でな」
突然勝手なことを言い出した一二三に、民衆は喜びの声を上げそうになったが、先に声を上げたのは兵士の方だった。
「ふざけるな! 外国の貴族が何を勝手なことを!」
「だが、お前はどこの貴族ともどこの領主とも言わなかっただろ?」
完全な屁理屈だが、目的が挑発なら逆に丁度いい、と一二三は笑っている。
「全員剣を抜け! こいつは貴族を語る犯罪者だ!」
その言葉で、この場にいた兵士全員が剣を抜いた。
「抜いたな?」
ぐるりと見回して、兵士全員が剣を構えるのを見届けた一二三は、一言、呟いた。
すぐさま馬上から飛び上がり、一人の兵士を頭から両断する。
立ち上がりながらもに刀を摺りあげて一人を斬る。
二人が倒れて空いた包囲網から、馬を逃がしてやった。
「ほら、抜いたなら斬れ。武器を取ったなら殺せ」
「ぐぐぐ......かかれ!」
顔を真っ赤にした兵士は、自分も含めて全員で同時に斬りかかることを選んだが、結果は惨憺たるものだった。
首を落とされる者、腹を割られて呆然と自分の内蔵が流れ出す様を見ている者、手足を失って悶絶している者......。
最後に残った兵士は、もはや破れかぶれで斬りかかってきたが、剣の腹を左手で叩き落されて剣を取り落とし、一二三がくるりと一回転させた刀で右手を二股に斬り割られた。
「あぐぅ......」
腕から夥しい量の血を流しながら膝をついた兵士は、間も無く失血で死ぬだろう。
一部始終を見ていた民衆たちは、すっかり一二三に対して怯えの表情を向けている。
懐紙で拭った刀を鞘へと納めたところで、腕を斬られた兵士が死んだ。
「何日か遅れて俺のところの領兵が来るから、気が向いたら話しかけてみるといい。こいつらよりはちゃんと対応するだろうさ。多分な」
馬が戻ってきたのを見つけた一二三は、嬉しそうに馬に駆け寄って撫でてやり、ひらりと飛び乗ると、さっさと行ってしまった。
金を払わずに済んだ民衆は、何が起きたのか理解できないまま、気を取りなおして歩みを進めて行く。
☺☻☺
「どこに行っても、仕事に追われるのは宿命なのか......」
こんなことなら、もう少し義兄の所でゆっくりしていれば良かった、と王城内に新たに与えられた執務室でサブナクは嘆いていた。
サブナクが王都へ戻ると同時に、イメラリアの戴冠に先駆けて近衛騎士隊の創設が正式に執り行われた。隊長をサブナク、副隊長をヴァイヤーとし、第二騎士隊と第三騎士隊から数名ずつが選出された。
残った騎士たちは全てまとめて、単に騎士隊と呼ばれる組織へと再編成された。騎士隊長として元第三騎士隊長のロトマゴ、副隊長にはミダスを含め三名が任命された。
両騎士隊に上下関係は無く、近衛騎士隊は城内及び王族の護衛を主任務とし、騎士隊は兵を率いての治安維持や軍事活動を行う。
慌ただしく叙任が行われ、イメラリア自ら手渡された新しい隊服に身を包んだサブナク。彼が与えられた最初の仕事は、来る戴冠式の警備計画の立案と訓練という、おお仕事であった。
「なんでこんなに仕事が多いんだ」
自分の代わりにフィリニオンがフォカロル領へと派遣されて、内心ホッとしていたのだが、これなら引き受けていた方がマシだったかもしれないとさえ思う。
何しろ、編成されたばかりの出来立て部隊なので、連携どころか隊員どうしの顔合わせがようやく終わった程度なのだ。いくら護衛対象がイメラリア一人とはいえ、この広い王城とその周辺が対象では、頭を捻って考えた計画も、穴があるような気がしてならない。
「失礼します」
執務室へ入って来たのは、新たにサブナク付きとなった侍女だった。
「近衛騎士隊副隊長のヴァイヤー様より、書簡が届いております」
「ああ、ありがとう」
渡された書簡は羊皮紙を丸めた物で、丁寧に蝋で封印されている。
「なんだってこんな大仰な......」
蝋を剥がして中身を読み進めているうちに、サブナクは涙が溢れてきた。
ヴァイヤーからの手紙には、イメラリアからの指示でフォカロル領で一二三を待つ間に、他領からも兵を鍛えたり文官を育てたりという依頼が殺到している事。旧ヴィシー領もフォカロル同様の政治体制に移行しつつあることが分かりやうすく書かれ、最後に、“フィリニオンさんと婚約しました”と上司であるサブナクへの報告が書かれていた。
「なんだよそれ。ぼくは振り回されて忙しくて、女性と食事すらままならないというのに......」
「隊長様」
「その呼び方おかしくない? で、何かな?」
ハンカチで目を抑えながら尋ねると、侍女は無表情のまま言う。
「よろしければ、夕食をご一緒しますか?」
「......同情ならやめてくれないか」
「いいえ」
侍女はとんでもない、と首を振った。
「玉の輿の機会かと思いましたので」
サブナクは泣いた。 | Once Imeraria finished reading the delivered report, she sat down on a nearby chair.
“I-Imeraria-sama!?” (Maid)
She raised her hand to rein in the maid who rushed over from the side, she was standing at the ready, in a panic.
“I’m alright. I only felt a bit tired.” (Imeraria)
With a frail smile she ordered the prime minister to be summoned and read over the report once again.
“Something like forming a treaty between a nation and noble’s territory... This is something like slighting our country. Originally this would probably make him a target of disciplinary actions, but...” (Imeraria)
If I consider the citizens as a whole, for them it will mean the opportunity to obtain cheap magic tools on top of him having defeated the enemy nation. It’s very likely they won’t comprehend what’s wrong with that
Faster than she expected, there was knocking on the door to her office.
“Enter.” (Imeraria)
“As you have ordered, I have come.” (Adol)
“Though I think you’ve heard about it, it’s about Horant’s matter.” (Imeraria)
Prime Minister Adol, having obtained Imeraria’s permission to stand at ease, told her that the report has reached him as well.
Imeraria nods.
“I also considered whether we should punish Earl Tohno, but realistically it’s probably impossible. Assuming we do something reckless, Fokalore might oppose Orsongrande... no, there might also be a not so small number of nobles supporting Hifumi-sama. The situation is that all the former Vichy territories have been annexed by Fokalore.” (Imeraria)
“I’m also agreeing with Imeraria-sama’s view.” (Adol)
“Then, it’s fine to carefully watch the situation?” (Imeraria)
“I considered whether this isn’t a good opportunity.” (Adol)
As Imeraria asked “Good opportunity?”, Adol excused himself for being presumptuous.
“It’s the long-awaited chance to hold Imeraria-sama’s coronation ceremony while at the same time celebrating Earl Tohno’s military gains. The opposing nobles won’t be able to meddle at a moment’s notice, if Earl Tohno is close by.” (Adol)
Imeraria decided to agree with this suggestion of the prime minister as good idea, but once she carefully considered Hifumi’s character, she noticed a point that should cause apprehensions.
“Won’t this turn into a situation of “being used” which he hates the most?” (Imeraria)
“It’s probably necessary to explain it in advance and get his consent. If we also prepare something to please Earl Tohno, it will be even better.” (Adol)
Due to Adol answering pridefully, Imeraria lowered her eyebrows.
“What in the world are you planning? I already don’t want to lose anyone else thanks to thoughtlessness, however...” (Imeraria)
“You may be relieved. In my humble opinion it will be alright as long as we discuss about a proper request for Earl Tohno. To put it simple, he will participate by himself without knowing that he is being used in a disagreeable way. It will be fine if we just directly request it from him sincerely.” (Adol)
“Because it’s just at the right time where we are also asking him to coach the soldiers of the national army”, Adol said.
“If you consider him with the intention to become hostile against him, he is indeed a terrifying opponent, but if you rely on him as an ally, there won’t be anyone more reliable either.” (Adol)
Imeraria closed her eyes to think about Adol’s words.
“... Understood. We will use your plan, prime minister. However, I will be the one to directly talk with Hifumi-sama about the request. Please tell the knight order to invite Hifumi to this place once he enters the capital.” (Imeraria)
Adol, who hang his head deeply, got teary eyes.
“And, I congratulate Imeraria-sama from the bottom of my heart for the succession of the throne.” (Adol)
Even though Imeraria realises his trembling voice, she shows a whiff of a smile.
“In one way or another it caused you to worry, eh? Please support me from now on as well, okay?” (Imeraria)
For a short while Adol wasn’t able to raise his face.
☺☻☺
Hifumi, who swiftly finished up this and that in Horant, mounted the horse, he had Suprangel concede to him, and already came back as far as the national border of Orsongrande to Horant.
He left the territorial army heading towards Fokalore with the words “It’s fine if you return while also properly doing some sightseeing.”
At first he freely travelled on the highway, but as the amount of people moving on the highway increased the closer he got to Orsongrande, he reluctantly got stuck with travelling besides the highway where it wasn’t paved.
“What happened?” (Hifumi)
Almost the entire flow of people advancing on the highway is heading in the direction of Orsongrande, just like Hifumi. Using carriages and wagons, there are many people moving together with their entire families visible. Sporadically he catches sight of merchant-like people who embarked on carriages loaded with some goods.
“Say, the highway is awfully crowded. Did something happen?” (Hifumi)magic
He called out to a merchant riding on a carriage close-by with the only reason for his choice being the proximity in the height of his view.
“Ah, there is some very grave battle going on in the royal castle of Horant. I heard many soldiers have died. Since there seems to be a rich territory accepting anyone in Orsongrande, everyone is aiming to go there.” (Merchant)
Hifumi arrives at the called-out merchant even though there are many people moving around them. He is selling food and daily necessities to the masses along the road.
“Given that I’m selling my goods by moving within Horant, the right business opportunity popped up. That’s the kind of guy I am.” (Merchant)
As the density of people increases the closer it is to the border, it might be profitable for business.
“I see. Thanks.” (Hifumi)
Throwing a gold coin to the merchant, Hifumi headed on.
Advancing on the highway for another two hours, there is an excessive congestion of carriages right before the border.
Because there is the danger of losing carriages or wagons if proceeding off the pavement, everyone is waiting to go ahead with a resigned expression.
“Oh, this is?” (Hifumi)
Albeit a small amount, the scent of blood came drifting from further ahead.
Instinctively the corners of Hifumi’s mouth rise.
While advancing in a hurry offside the highway, he adjusts the location of his katana hanging at his waist.
Soon the source of the congestion came in sight.
“Line up! Stand in a row!”
A man, wearing the equipment of a common soldier from Horant, is raising his voice quite loudly.
Several other people are lined up. It seems he is doing an inspection or interrogation of them one by one.
A single soldier blocked the way of Hifumi approaching on top of the horse.
“Don’t you have a strange appearance. Tell me your reason for coming here.” (Soldier)
“Before that, listen, when I passed through here a few days ago a lot like you wasn’t here, but what the hell are you doing?” (Hifumi)
Clicking his tongue, the soldier drew his sword.
It causes a commotion among the commoners, who were in the vicinity. Some also take a distance.
“Answer the question without nitpicking!” (Soldier)
Ignoring the yelling soldier, Hifumi watched the exchange of the group at the front. He discovered the soldier receiving money from the people there.
“Toll... eh?” (Hifumi)
“That’s right! You have to pay one silver coin if you want to pass here!” (Soldier)
Due to the soldier’s words, who doesn’t even try to hide it anymore, Hifumi pointed at a single woman with her children.
“Hey, you. Listen to me for just a minute.” (Hifumi)
“Y-Yes.” (Woman)
“Is there a system of giving charity to dumb soldiers in this country?” (Hifumi)
“Eh? Umm, that...” (Woman)
While alternating her look between the soldier and Hifumi, the woman is puzzled what kind of answer would be good. The soldier is scary, but it seems Hifumi’s eyes are scary as well.
“You! Are you taking me for a fool!?” (Soldier)
Taking a step forward with his left foot in rage, he raised his sword overhead, but the soldier’s movement suddenly stopped.
The katana, drawn and held with the left hand in a backhand grip, is piercing the soldier’s left eye.
“Didn’t I tell you? A dumb soldier.” (Hifumi)
While saying “You should listen more closely to what people tell you”, the eyeball flies off due to Hifumi pulling out the katana and shaking the blood off it.
At the same time as the dead soldier fell, screams rose from the surroundings.
“Shut up!” (Hifumi)
Due to Hifumi’s roar, the people, who tried to escape, stopped their feet as well.
The other soldiers came rushing over as well. From the fact that all of them are wearing a similar-looking leather armour, Hifumi understands that apparently are soldiers of Horant.
A single one among them stepped forward and looked at the collapsed soldier.
“... What the heck is this about?” (Soldier)
“I killed him because he came slashing at me with his drawn sword.” (Hifumi)
He is holding the drawn katana in his right hand.
“I will ask once again, what are you doing? Though, judging by appearance, it seems there are two choices to pay money to pass through or otherwise be sent away.” (Hifumi)
“We are prohibiting the travel that hasn’t been approved by either the king or a feudal lord. Only those paying the price to obtain permission can go on!” (Soldier)
Throwing out his chest as if trying to daunt him, the soldier stares at Hifumi atop his horse. In a casual manner he puts his hand on the sword at his waist.
“Permission, eeh... ?” (Hifumi)
Hifumi surveyed the uneasy looking commoners in a circle.
“However, doesn’t it seem like there isn’t any guy handing over such official papers? In short, I wonder if it’s a story of giving a bribe? Do it more boldly.” (Hifumi)
Hifumi, who laughed scornfully without warning, continues further on,
“So, even setting those guys aside, are you going to take money from me as well?” (Hifumi)
“Tsk. Bastard, tell me your name and aim! Whether you pass through depends on the amount of money.” (Soldier)
“If you are a citizen of Horant, it is only natural to repay us for working for the sake of the country.” Continuing to listen to the words of the soldier, Hifumi ended up being unable to contain a loud laughter.
“Ahahahaha! What bad luck! I’m not a citizen of Horant.” (Hifumi)
He took out the traffic permit signed by Imeraria from his pocket.
“I’m a noble of Orsongrande. Since I want to return to my territory, hurry up and open the way.” (Hifumi)
The soldier, who took a long hard look at the document, opened the path while shivering in anger or fluster.
Just as he reached a position, where he was surrounded by the soldier, Hifumi stopped his horse and turned his sight towards the people, who were on the highway.
“Ah, which reminds me, I’m one of the feudal lords as well. The place is known as Tohno territory which has the city Fokalore as its core, but...” (Hifumi)
The people, who heard the name Fokalore of the Tohno territory, began to suddenly get noisy. If the story of the merchant was true, they were headed towards that place.
“If you are going there, you will be welcome. As Earl Hifumi Tohno, a noble affiliated with Orsongrande, I’m approving your passage as applicants. Of course, free of charge.” (Hifumi)
The people almost raised their voices in joy due to Hifumi, who unexpectedly proposed this matter on his own accord, however a soldier was the first to raise his voice.
“Don’t screw around! What are you pulling here as noble of a foreign country!?” (Soldier)
“However, didn’t you say any noble and any feudal lord before?” (Hifumi)
Though it is completely a sophism, it will be perfectly fitting if the goal is to provoke them
“All of you, draw your swords! This guy is a criminal who only calls himself a noble!” (Soldier)
Upon those words every soldier present drew their sword.
“You drew them, eh?” (Hifumi)
Looking around by turning in a circle, Hifumi made sure that all soldiers set up their swords and muttered a single question.
Promptly jumping off the horse, he bisects a single soldier without hesitation.
While standing up, he wards off another’s sword to the side and slices him with a reverse hassou stance.
As the encirclement was broken by two soldiers having collapsed, he let the horse get away.
“Hey, if you draw, you have to slash. If you hold your weapons, you have to kill.” (Hifumi)
“Gugugu... get him!” (Soldier)
The soldier, with a deep red face, chose to have them, including himself as well, slash at Hifumi at the same time, but the outcome was something tragic.
Some have their heads sent flying, some are dumbfounded at having their bellies sliced and are staring at the sight of their own organs spilling out and some have fainted in agony due to losing their limbs...
The last remaining soldier came assaulting with his sword in total desperation, however having him drop the sword by striking its middle part with the left hand, Hifumi makes a full revolution holding the katana and cuts off the lower part of the soldier’s right arm.
“Aguu...” (Soldier)
While shedding large quantities of blood from his arms, the fallen soldier before long dies of blood loss.
The people, who saw the entire spectacle unfold, are looking at Hifumi with completely frightened facial expressions.
At the time he put his katana back into its scabbard after wiping it with a paper, the soldier, who had his arm loped off, died.
“Because my area’s territorial soldiers will come here a few days later, it’s fine for you talk to them if you feel like it. Rather than those fellows, they will treat you properly, probably.” (Hifumi)
Hifumi, who found the horse that had come back, ran up to the horse in joy and gently brushed it. Once he nimbly mounted it, he quickly went his way.
While the people, ending up not having to pay any money, don’t comprehend what has just happened, they pull themselves together and continue walking.
☺☻☺
“Am I fated to be chased by work no matter where I go... ?” (Sabnak)
If it was to be like this, it would have been alright to rest at the place of brother-in-law for a bit longer
At the same time as Sabnak returned to the capital, an official ceremony was held for the first founding of the Royal Knight Order due to Imeraria’s coronation. The captain was Sabnak and the vice-captain was Vaiya. Several people were chosen from each, the Second and Third Knight Order.
Consolidating all the remaining knights, those were reshuffled into an organisation that was merely called knight order. The former captain of the Third Knight Order, Lotomago, was appointed as its captain and there were three vice-captains including Midas.
There is no hierarchical relationship between the two knight orders. The main duty of the Royal Knight Order is the protection of the royalty as well as the castle. The knight order leads the army to maintain the public order and for military activities.
Having been appointed in a hurry, Sabnak was dressed in the new order’s uniform that was handed to him by Imeraria herself. The first assigned task for him is to draft and practise the security protocol of the coming coronation ceremony. It was major task.
“Why is there so much work?” (Sabnak)
Having dispatched Phyrinion to the Fokalore territory as my replacement, I feel relieved in my heart, but being responsible for that side might have been better if it’s like this
At any rate, since it is a fresh unit that has been formed just recently, let alone cooperation, the order’s members just finished meeting their comrades. No matter how much Imeraria is the only protection subject, I can’t help but feel there will security holes in this wide royal castle and its surroundings even if I wrack my brain devising a plan.
“Excuse me.” (Maid)
The one to enter the office was the new maid, who was assigned to Sabnak.
“A letter has arrived from Royal Knight Order Vice-Captain Vaiya.” (Maid)
“Ah, thanks.” (Sabnak)
The given letter was a rolled up parchment having a thorough wax seal.
“What!? Such exaggeration...” (Sabnak)
While tearing off the wax and reading the contents, Sabnak spilled tears.
The letter from Vaiya states that while waiting for Hifumi in Fokalore following Imeraria’s instruction, there are requests from other fiefs flooding in to train their soldiers and educate their civil officials. He lightly and in a comprehensible way writes that even the former Vichy territories are in the process of switching over to the same political system as Fokalore. At the end he wrote to report about the “Engagement to Phyrinion-san” to report about it to his superior officer, Sabnak.
“What the hell is this? Though I’m not able to enjoy food and women as I’m busily running about...” (Sabnak)
“Captain-sama.” (Maid)
“Isn’t this way of calling me weird? So, what is it?” (Sabnak)
As he asks while holding a handkerchief to his eyes, the maid says expressionlessly,
“If you like, you can join me for dinner?” (Maid)
“... Won’t you stop it, if it’s out of pity?” (Sabnak)
“No, it isn’t.” (Maid)
, he shook his head.
“I just wondered whether this was a chance to gain money and power by marrying a rich and powerful man.” (Maid)
Sabnak cried. |
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} | サブナクを含むの騎士と、同様に護衛を連れたビロン伯爵を従えたイメラリアが国境が見える位置までたどり着いた時には、朝日がしっかりと視界を確保してくれていた。
街道から外れた茂みの中、爽やかに冷えた朝の空気を吸い込みながらも、イメラリアは不満顔である。
「どうしてこんなものを被らないといけないのですか」
草や葉を張り付けた布に包まれて、細い指でつまんで前を合わせているイメラリアは、同様の格好で隣にいるサブナクに非難の視線を向けた。
「我慢してください。これも相手から見つかりにくくするためです。それより、あれを見てください」
サブナクが指差した先では、国境の手前、オーソングランデ側の兵士詰所や宿舎周辺でで忙しそうに立ち回る兵士たちと、彼らに交じって何かの作業をしている市民の姿が見えた。
「何をやっているのでしょう?」
「おそらくは、こちら側の施設を接収し、大工なりに改装をさせているのでしょうな」
ビロンが冷静に答える。
ガラスの加工が未熟で、レンズというものが存在しない世界だが、簡素な筒で遠方を見やすくするやり方はある。ビロンが使っているのも、木製の単なる筒ではあったが、無いよりはましだった。
手渡された筒を覗き込んだイメラリアは、宿舎周辺にいる兵士たちの装備を確認し、魔法使いはいないようだと判断する。
「大した人数はいないようですね。兵士だけな人くらいでしょうか」
「ええ、こちら側にいる分だけならそうですね」
両手を筒状にして覗き込んでいるサブナクは、問題は塀の向こうだと言った。
「ここから見える分には、変わった設備等は見えません。あるいは、これから作るのかもしれませんが。義兄......ビロン伯が言われるように改装をしているのであれば、何かしらの設備を運び込もうとしている可能性もありますね」
「建物を使う程の大規模な魔法装置だとすれば、大問題です。まだ解明できていない古代魔法の中には、大規模な殲滅魔法もあると聞きます。もし同様の物をホーラントが発見なり開発したとすれば......」
イメラリアは、じっと国境を凝視したまま考える。
こういうらどうするだろうか。
(正面から突撃されるような気もしますが......)
内心苦笑しながら、以前に言われた事を思い出す。
「サブナクさん、ビロン伯、協力して国境周辺を常時監視する体制を整えてください。何か動きがあればすぐに知らせるように。そして......」
指示するかどうか躊躇われたが、そうしなければならない、とわかっている以上、人を動かして結果を得るのも自らの仕事だとお腹に力を入れて、声を絞り出した。
「夜間、可能な限り国境へ近づいて偵察をさせてください。できれば、塀の向こうまで確認するように」
それは危険な任務であり、見つかれば命の保証はない。
それでも、国を危険に晒よりは良い。
そう思わなければ、やりきれない。
「陛下」
ビロンは、被っている布の隙間から白い歯を見せて笑った。
「そのご決断を無にしないために、兵たちは訓練しているのですよ」
「そうですよ。必要だとお考えであれば、どんどんやるべきです。ぼくも、そのご命令は当然の事だと思います。むしろ、ぼくが出すべき指示でした」
全てわれわれにお任せください、と両方から言われ、イメラリアは少しだけ心が軽くなった。
ゆっくりと後退し、サブナクとビロンはそれぞれの兵に指示を出す。
イメラリアは被っていた偽装のための布を取り、乗馬服に張り付いた草を払い落とした。
「ところで、このちょっと間抜......変わった格好は、どなたの考案ですか?」
布を兵士に返したイメラリアの質問に、兵士たちは顔を見合わせた。まさかイメラリアが知らないとは思わなかったらしい。
「あの......トオノ伯爵領からの兵士に教わりました。遠目から見えにくくすることで、ゆっくり監視できるようになるから、と」
「......そうですか」
想像以上に一二三の薫陶が行き届いていることに、喜んでいいのか恐怖するべきか迷いつつも、イメラリアはかなり冷静に思考できるようになっていた。
「興味がありますわね。一二三様の兵士から、他には何か教わりましたか?」
「はい。個人戦から集団戦闘、陣地攻めや、逆に防衛の方法も......」
女王から直接質問を受けた兵士は、ガチガチに緊張しながらも、懸命に訓練を思い出し、内容を羅列する。
その中で、イメラリアには気になることがあった。
「......その方法は、他の教導部隊からも各領地に指導がされているのでしょうか?」
「恐らくはその通りかと。教本のようなものもありましたので」
「なるほど。ありがとうございます」
「い、いえ! 恐縮であります!」
女王直々に礼を言われた兵士は、カクカクと強張った動きを仲間に笑われながら受け取った布を大事に抱えて後退した。
「ホーラント側も、同様のやり方を知っている可能性が高いということですね......」
やっかいな種を蒔いてくださったものです、とイメラリアは嘆息した。
頭の中の冷静な部分では一二三に助けを求める考えもあったが、それが正解だとは、どうしても思えなかった。
☺☻☺
「......どうしましょうか?」
「そこまで考えてませんでしたけど......話しかけるのはダメですか?」
プーセが悩む姿を見て、片耳兎のヴィーネが素直に答えた。
長い日数をかけて荒野を抜けてきた彼女たちは、ようやく見えてきた人間たちの町へ続く街道の入り口を前に、どう接触するかを迷っていた。
彼女たちにはわからなかったが、ちょうどフォカロルとアロセールの中間地点あたりに位置する街道途中にある小さな町のすぐ近くだった。
「あっしらは獣人族ですからねぇ。顔を出したとたん、攻撃されてもおかしくありやせんぜ」
「笑ってる場合じゃないよ」
いや参った、と頭をかいているゲングに、マルファスは首を横に振る。
「プーセさん。とにかく話をしに行きましょう。ここで色々考えても仕方ありません」
「......そうですね。わかりました」
恋する乙女は強いですね、とからかいつつ、プーセはゲングたちにいざとなったらプーセとヴィーネが魔法でけん制してから、さっさと逃げましょうと伝えた。
「わかりやした。なぁに、レニさんがいつも言ってるように、とにかく話をしてみましょうや」
「じゅ、獣人族!?」
「それに......あれは人族じゃない、エルフか? 初めて見た!」
突然現れた獣人族とエルフのグループに、警備をしていた兵士たちは浮足立った。
本来であれば急いで応援を呼ばなければならないところだが、あまりに予想外の状況にそれすらも忘れてしまった兵士たちは、どんどん近づいてくる獣人たちをじっと見ているしかできなかった。
「あの......よろしいですか?」
話しかけたのはプーセだ。
耳以外の容姿は一番人間に近いということで、最初に彼女が話すことになった。
「は、はい!」
近くでみると、エルフ独特の整った容姿に、話しかけられた兵士も思わず上ずった声で返事をする。
「私たちは荒野の向こうにある町から来ました。何分、こちらへ来たのは初めてなもので、教えていただきたいのですが」
恐る恐る、自分より背の高い兵士に上目使いで話しかけるプーセは、初対面であればどこか可憐なお嬢様にも見えたかもしれない。
「ええっと......」
兵士はドキドキと鼓動を早めつつも、プーセの後ろで待っている獣人たちを見る。
犬の獣人はいかにも強そうで怖いが、他はなぜか片耳しかない兎の獣人女性と、虎獣人とはいえ、子供にしか見えない。
「彼らは私の連れです。ある人に会うために旅をしているのです」
「ある人、とは?」
もしご存じであれば助かるのですが、と前置きをする。
「一二三さんという人です。黒い髪の、ちょっと変わった」
何が変わっているかは言わない。
「ひふみ? ひふみ......あぁ!」
声をあげ、隣の同僚を見ると、同じように目を真ん丸に見開いている。
「りょ、領主様じゃないか!?」
「間違いない......どうしよう......と、とにかく詰所に来てもらって」
「馬鹿野郎!」
彼らが使っている詰所は、男所帯の多くがそうであるように、掃除が行き届いているとはお世辞にも言えず、来客など全く想定していない。不審な人物を連れて話を聞くための小さなテーブルとイスがある程度だ。
怒鳴り声をあげた兵士は、へらへらとした笑顔でプーセに「少々お待ちを」と伝え、同僚の腕を引っ張って少し離れた場所に移動する。
「なんでダメなんだよ」
「よく考えろ。あんな上玉なんだ。ひょっとしたら領主様が荒野で見つけてきたコレかもしれん」
「えっ」
言いながら小指を立てて見せた兵士に、同僚の顔が青ざめた。
「それをあんな狭苦しい詰所に入れたなんて、領主様に知れてみろ。文字通り首だけにされるぞ」
「じゃ、じゃあどうしたら......」
「とにかく待ってもらえ。急いで隊長に知らせてくるから」
と、言うなり全力疾走で責任者に報告を届けると、聞かされた方も思わず立ち上がり、少なくとも自分の立場ではどうにもできない。というより、そんな判断をしたくもない。
「急いでフォカロルへ護送......いや、丁寧に、気を使って丁寧に、細心の注意を払ってお送りするのだ!」
その命令は、もはや悲鳴に近かった。
☺☻☺
盗賊を殺しながら、一二三はふと考えた。
「大規模な戦争ってのは、この世界ではほとんどやってないんじゃないか?」
「ぎゃあああ......は、離せぇ!」
足元で、手首を極められてうつ伏せになっている盗賊の声が聞こえる。
「大規模というと、どの程度でしょう?」
オリガは、鉄扇で別の盗賊の首を叩き折りながら、一二三に笑顔を向けた。
「そうだな。例えば十万とか二十万とかの軍勢どうしがぶつかるような。何万人も殺されるような戦闘だな」
一二三が振り向いたはずみで肩の関節が外れた盗賊は、大きな悲鳴を上げたところで首を踏み折られた。
「それは無いかと。オーソングランデの全兵力を集めても、五万いかないでしょうから」
「そうか。大体の戦闘は平地でぶつかり合うという形だったな。運用を考えても、その辺が限界か」
「そうですね。兵をきちんと組織化して役割を決めて運用するという方法が、一二三様のご提案より前にはありませんでしたから。せいぜい、魔法使いか歩兵かの区別程度でした」
一二三は次の盗賊が振り下ろした剣を避け、軽く拳を当てて鼻を折る。
「ぶぎゃっ!」
鼻を押さえるために持ち上げた左手は、一二三に掴まれて手首を捻り折られた。
「何がです?」
オリガの風魔法が、逃げようとした盗賊の首を後ろから切断する。
「ヴィシーとの戦闘の時も、他での模擬戦をやっても、何のためらいもなく敵地に飛び込む奴が多かったからな」
自分が今やっていることを完全に棚に上げた発言に、オリガはクスリと笑った。
「誰もが一二三様のようにお強ければ良いのでしょうけれど......。私も以前はそうでしたが、誰も彼もが、腕っぷしと武器の強さが一番大事だという考えですから」
ですが、これからは変わります、とオリガはもう一人を風魔法で殺した。
その間に、一二三も二人の盗賊の首を折る。
「戦争に道具が持ち込まれました。魔法もただ攻撃するだけではなく、魔道具が使われ、魔法薬も。罠が一般的になり、防衛も兵が出て行って戦うのではなくなります。それはそれは多くの方法があり、攻める側も守る側も、たくさん考える必要が出てきましたね」
外にいた盗賊が全員死に、二人がそろって盗賊が隠れ家にしている洞窟の前に立つと、オリガは鉄扇を腰に提げ、魔法で中にいる人物を探す。
「こんどのホーラントでの戦闘で、それが見られるならいいんだが」
「少なくとも、アリッサはしっかりとやってくれますよ」
「問題はホーラントと、イメラリアか」
中の調査を終えたオリガは、再び鉄扇を手にする。
「イメラリア様にはサブナクさんが付いて行っているようですし、ホーラントも一二三様の兵士がしっかり指導したでしょう。それに、ホーラントには魔法や魔道具もありますから。......中にはいます。うち三人は動いていませんし、女性のようですね。まだ息はあるようです」
その女性たちがなぜ盗賊のいる洞窟にいるのかは、お互いにわかりきっているため言及しなかった。
「特に変わった物の感触はありません」
「じゃあ、入るか。女は任せた」
「わかりました」
刀は腰に差したまま、無手でぐんぐん入っていく一二三の後ろを、オリガは鉄扇を構えたままついていく。
「もし」
一二三がぽつりとつぶやくのを、オリガは聞き逃さない。
「もし、世界が一斉に戦いに巻き込まれたとしたら」
「はい」
「地理的に王都が主戦場になるかもな。人間対亜人ということになれば、そうだな......一番可能性が高いのは、俺の領地か」
一人の盗賊の両目を、出会い頭に両手の親指で潰した一二三は、そのまま固い岩壁に後頭部を叩きつけて殺した。
「魔人族は俺を殺しに来る。うまく事が運べば、イメラリアもそうするだろう。獣人はどうだろうな。あまり関わろうとしないかもな。俺が囲まれた状態になれば、ヴィシーあたりもまた攻めてくるかもな」
「それはそれは、楽しい未来図ですね」
死体を通路の隅に蹴とばした一二三は、それにしても、と呟く。
「領軍はまだ到着しないのか」
「彼らも一二三様の兵です。きっとすぐに追いつきますよ」
二日後、フォカロル領兵が軍の進行速度としては異常な速さで追いついたのだが、その頃には、町の周囲にいた盗賊や凶悪な魔物は綺麗に片づけられていた。 | At the time Imeraria, who was accompanied by fifteen knights including Sabnak and the same number of guards led by Earl Biron, arrived at a spot from where the border could be seen, the morning sun already guaranteed a clear visibility.
Even while inhaling the fresh, chilly morning air within the thickets off the highway, Imeraria dons an expression of dissatisfaction.
“Why would it be wrong if I didn’t wear this thing?” (Imeraria)
Wrapped up in a cloth that had grass and leaves attached to it, Imeraria, who is facing the front while pinching the cloth with her thin fingers, turned a criticizing look towards Sabnak who is next to her in the same attire.
“Please endure it. These are for the sake of making it difficult for our opponents to find us. Rather than that, please look at that.” (Sabnak)
Ahead, where Sabnak pointed at, there were soldiers walking around busily in the vicinity of Orsongrande’s military station and barracks in front of the border and there were also citizens, who were carrying out some task while mingling with the soldiers, visible there.
“I wonder what they are doing?” (Imeraria)
“I fear that it’s likely that after confiscating the facilities on our side, they are having carpenters and such remodel them.” (Biron)
Biron answers calmly.
It’s a world where such things such as lenses don’t exist as the civilization is inexperienced in processing glass, but there’s the method of easily looking at a distant place with a plain pipe. Even the one Biron is using was a plain pipe made out of wood, however it was still better than having nothing.
Imeraria, who peered into the pipe she was handed, confirms the equipment of the soldiers located in the area of the barracks and judges that there aren’t any magicians.
“It doesn’t seem like they are boasting a considerable amount of people. If it’s just the soldiers, there’s around of them, isn’t there?” (Imeraria)
“Yes, that’s right if you just count those on this side ((of the border)).” (Sabnak)
Sabnak, who is peering through both his hands which he has arranged in a tubular shape, said “the problem are the soldiers on the other side.”
“The parts which can be seen from here; they don’t seem to be unusual devices. Possibly they might construct them from now on though. If they are remodelling like mentioned by Brother-in-law... Earl Biron, there’s also the possibility of them bringing in some devices.” (Sabnak)
“If it’s a large-scale magic device to the degree of using an entire building, it will become a big problem. Among the ancient magic, which hasn’t been classified yet, there are also spells for large-scaled annihilation, I’ve heard. If Horant has discovered and developed something identical...” (Biron)
Imeraria ponders while fixedly staring at the border.
I wonder what Hifumi would do in such situation?
(I have a feeling that he would attack them from the front...)
While smiling wryly within her mind, she remembers something she was told before.
“Sabnak-san, Earl Biron, please set up a system of continuous observation of the vicinity of the border by cooperating with each other. Inform me at once if there are any changes. And...” (Imeraria)magic
She hesitated whether to give them the order or not, however, since she understood that she had to do so, she squeezed out her voice by putting strength into her stomach ((persuading herself)) that it was her task to obtain results by moving people.
“Please carry out reconnaissance by closing in on the border as far as possible during the night. If possible, confirm even the soldiers on the other side ((of the border)).” (Imeraria)
This being a dangerous mission, their lives won’t be guaranteed if they are found.
Even so, it’s still better than putting the country at risk.
It will be unbearable if I don’t think about it in such way.
“Your Majesty.” (Biron)
Biron smiled while showing his white teeth through a gap in the cloth covering him.
“The soldiers have been training for the sake of not bringing your determination to naught.” (Biron)
“That’s right. If you think that it’s necessary, you should do it steadily. Even I believe that that order is to be expected. Rather, it was an order that should be given by me.” (Sabnak)
“Please leave everything to us”, being told that from both sides, Imeraria’s heart became lighter albeit only a bit.
Retreating slowly, Sabnak and Biron issue instructions to their respective soldiers.
Taking off the cloth used for camouflage that covered her, Imeraria brushed off the grasses which clung to her riding habit.
“By the way, this slightly, well... unique attire is whose idea?” (Imeraria)
The soldiers exchanged glances due to the question of Imeraria who returned the cloth to a soldier. They apparently didn’t want to believe that Imeraria isn’t aware at all.
“Umm... it was taught to us by the soldiers from Earl Tohno’s territory. Since it’s easy to observe while being difficult to be spotted from a distance, they said.”
“... Is that so?” (Imeraria)
Even while wavering whether she should be scared or delighted due to Hifumi’s education being thorough beyond her imagination, Imeraria had reached the point of being able to consider it quite calmly.
“Now I’m curious. Were you taught something else by Hifumi-sama’s soldiers?” (Imeraria)
“Yes. From individual to group combat, attacking an encampment and in reverse, the methods of defending one, also...”
The soldier, who received a direct question from his queen, eagerly recalls the training and lists its contents even while being stiff due to nervousness.
Among those there was something that bothers Imeraria.
“... Have those methods been taught in each territory by other instruction units?” (Imeraria)
“It’s likely just as you said? There existed something like a textbook.”
“I see. Thank you.” (Imeraria)
“N-No! I’m sorry!”
The soldier, who was thanked personally by the queen, retreated holding the cloth, he received, dearly while being ridiculed by his comrades for his stiff, overly ceremonious movements.
“That means that it’s very likely for Horant’s side to also know the same methods...” (Imeraria)
“Troublesome seeds have been sown”, Imeraria grieved.
There was also the notion of asking Hifumi for help in the composed part of her mind, but she wasn’t able to consider that as being correct no matter what.
☺☻☺
“... What shall we do?” (Puuse)
“I didn’t consider it this far ahead, but... is it pointless to start a conversation?” (Viine)
Seeing the figure of the worried Puuse, the one-eared rabbit, Viine, answered frankly.
The girls, who left the wastelands after experiencing a number of long days, hesitated how to get in contact in front of the entrance to the highway leading to the city of humans that could be seen at last.
The girls didn’t know, but they were right next to a small town located en route the highway and positioned around the half point between Fokalore and Arosel.
“It’s because we are of the beastmen race. Just showing our faces, it wouldn’t be odd for us getting attacked either ~ssu.” (Gengu)
“This isn’t a situation to laugh about.” (Malfas)
Due to Gengu scratching his head while say “Well, I give up”, Malfas shakes his head.
“Puuse-san, let’s go to have a talk at least. Even if we consider various things in this place, it won’t change anything.” (Viine)
“... That’s so, isn’t it? Got it.” (Puuse)
While teasing her with a “Maidens in love are powerful”, Puuse told Gengu and the others to run away immediately since she herself and Viine will restraint ((the attackers)) with magic if push comes to shove.
“Understood ~ssu. Say, let’s try having a talk with them at least just like always said by Reni-san.” (Gengu)
“B-Beastmen!?”
“Moreover, that’s not a human but an elf? It’s the first time I’ve seen one!”
The guarding soldiers became agitated due to the group of beastmen and elves appearing all of a sudden.
Originally it’s a situation where they should call for reinforcements in a hurry, but the soldiers, who ended up forgetting even that due to the overly unexpected circumstances, didn’t do anything but staring at the beastmen who were steadily getting closer.
“Umm... is it alright?” (Puuse)
The one who addressed them is Puuse.
It was decided for her to talk first as her appearance, except the ears, is the closest to humans.
“Y-Yes!”
The soldier, who was addressed, gives an answer with an unintentionally excited voice due to her well-featured appearance unique to elves once he sees her from close-by.
“We came from a city that is located on the other side of the wastelands. As it’s the first time for us to have come here after all, I’d like you to instruct us.” (Puuse)
Puuse, who timidly talks to the soldier, who is taller than her, with upturned eyes, might be regarded as cute ojou-sama from somewhere if met for the first time.
“Umm...”
Even while the soldier’s heartbeat accelerates with a throbbing sound, he looks at the beastmen waiting behind Puuse.
The dog beastman is scary as he seems to be really strong, but the others are a rabbitwoman, who has no more than one ear for some reason, and a tiger beastman, though that one can’t be seen as anything but a child.
“They are my companions. We are travelling in order to meet a certain person.” (Puuse)
“A certain person, you say?”
“It will be a help if you know him”, she says as preface.
“It’s a man called Hifumi-san. He has black hair and is a bit unusual.” (Puuse)
She doesn’t mention what’s unusual.
“Hifumi? Hifumi... aah!”
Once he looks at his colleague next to him after raising his voice, that one’s eyes are likewise opened widely and form a perfect circle.
“I-Isn’t that Lord-sama!?”
“There’s no mistake... what to do... a-anyway, have them come to the guard office.”
“Moron!”
The guard office, they are using, isn’t prepared for something like visitors at all as you can’t say that they are attentive to cleaning by any standard, just like it’s the case with many all-male households. To a certain extent there is a small table and chairs for the sake of listening to the story of the suspicious people they brought in.
The soldier, who raised an angry voice, tells Puuse 「Please wait for a minute」 with a frivolous smile and moves to a slightly separate place while pulling an arm of his colleague.
“Why is it no good?”
“Think properly. There’s such a pretty woman. Perhaps Lord-sama might have found her in the wastelands.”
“Huh?”
Due to the soldiers rising his pinky while saying that, the face of his colleague became pale.
“Try imagining Lord-sama ((finding out)) us having her enter such cramped guard office. We will be literally changed into being just heads.”
“T-Then, what shall we do...?”
“At any rate, have them wait. I will hurry to notify the captain.”
Saying that, he dashes away with all his strength and once the soldier delivers the report to the person in charge, even the person, who was informed, stands up unintentionally and isn’t able to do anything, at least in his own position. Or rather, he doesn’t want to make such decision either.
“Escort them to Fokalore swiftly... no, politely, pay attention to being courteous, escort them while paying meticulous attention!”
His order was already close to being a scream.
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Hifumi suddenly pondered while killing the bandits.
“A large-scaled war; practically there hasn’t been one in this world, has there?” (Hifumi)
“Gyaaaa... r-release me!”
The voice of a bandit, who is lying face down while his wrists are immobilized under Hifumi’s feet, is audible.
“Talking about large-scale, I wonder what’s the extent?” (Origa)
While hitting the head of another bandit with her iron-ribbed fan, Origa turned a smile towards Hifumi.
“Let’s see. For example military forces of . or 200.000 clashing against each other. It’s a battle where several 10.000 of people will be killed.” (Hifumi)
The bandit, whose shoulder joints were disconnected by the momentum of Hifumi turning around, had his neck stepped on and broken at the time he raised a loud scream.
“There wasn’t such thing? Even if you assemble all military forces of Orsongrande, it likely won’t go past 50.000.” (Origa)
“I see. The general battle was in the form of the troops clashing with each other on a plain. Even if you consider the practical use, that is the limit, huh?” (Hifumi)
“That’s right. There’s the method of managing it by deciding the soldier’s roles and and organization accurately, but that didn’t exist before your esteemed suggestion, Hifumi-sama. At most they classified ((the troops)) by magicians or infantry.” (Origa)
Avoiding the sword swung down by the next bandit, Hifumi hits them lightly with his fist and breaks their nose.
“Bugyaa!”
The left hand, which the bandit raised to hold his nose, was caught by Hifumi, its wrist was twisted and then broken.
“What is?” (Origa)
Origa’s wind magic severs the head of a bandit, who tried to escape, from behind.
“Even at the time of the war with Vichy and when we did sham battles with others, there were many fellows who would leap into enemy territory without any kind of hesitation.”
Origa slipped a chuckle due to his statement which was completely blind to his own shortcomings in the situation he was currently in.
“It will be fine if everyone is as strong as you, Hifumi-sama, but... I was also like that before, but everyone has the opinion that the power of their physical strength and weapons is the most important.” (Origa)
“However, this will change in the future”, Origa killed yet another with wind magic.
During that time Hifumi broke the necks of two bandits.
“Tools will be introduced by wars. Even magic won’t be simply for attacking but will be used for magic tools and magic potions, too. Traps will become popular, defences will also vanish since the soldiers will go out to fight. There’s many, many ways. For the attacking side as well as the defending side the necessity to consider it plentifully will appear.” (Hifumi)
With all the bandits besides them dead, the two are standing together in front of the cave which has been made into their hiding place by the bandits. Origa affixes her iron-ribbed fan to her waist and searches the inside for people with magic.
“It’s fine if we can observe that in the battle with the current Horant.”
“At least Alyssa will do it properly.”
“The problems are Horant and Imeraria, huh?”
Origa, who finished the investigation of the interior, takes the iron-ribbed fan into her hand once again.
“It seems Imeraria-sama is accompanied by Sabnak-san. Horant was also sufficiently trained by your soldiers, Hifumi-sama. Besides, Horant also has magic and magic tools. ... There’s 16 people inside. Three among them can’t move. They appear to be women. They still seem to be breathing.” (Origa)
She didn’t say anything further as both of them understand why those women are within a cave where there’s bandits.
“There’s isn’t any particular sensation of something unusual.” (Origa)
“Then, shall we go? I leave the women to you.” (Hifumi)
“Understood.” (Origa)
Origa follows behind Hifumi, who steadily enters unarmed with his katana affixed to his waist, while preparing her iron-ribbed fan.
“If.” (Hifumi)
Origa doesn’t fail to hear Hifumi muttering a single word.
“If the world was involved by fighting all at once.” (Hifumi)
“Yes.” (Origa)
“Geographically the capital might turn into the main battlefield. If it turns into a war of humans versus demi-humans, let’s see... the place with the highest probability ((to become the main battlefield)) is my territory, huh?” (Hifumi)
Hifumi, who crushed both eyes of a bandit with the thumbs of both his hands in passing, killed him by slapping the bandit’s back of the head against the wall of rock just like that.
“The demons will come to kill me. If she proceeds matters cleverly, Imeraria will likely do that as well. I wonder how about the beastmen. They might try to not get involved overly much. If I’m in a state of being surrounded, even Vichy’s neighbourhood might come attacking again.” (Hifumi)
“My goodness, that’s an enjoyable future outlook.” (Origa)
Hifumi, who kicked away the corpse into a corner of the passage, mutters “Be that as it may.”
“The feudal army still hasn’t arrived?” (Hifumi)
“They are also your soldiers, Hifumi-sama. Undoubtedly they will catch up right away.” (Origa)
Two days later Fokalore’s territorial soldiers caught up with an abnormal quickness for the marching speed of an army, but at that time the bandits and ferocious monsters, which were in the vicinity of the city, had been completely disposed of. |